「SCARLET ROT」「8ブックマーク」
甘い香りを放つ「ラテハーブ」と呼ばれる赤い草は、
今やウミガメ国の一般家庭で見られる、メジャーなハーブの一種である。
そんなラテハーブブームの真っ只中、
カメコはカメオの元を訪れていた。
久しぶりに再会したカメオは、かなり痩せており、
ひと目で病気であることがわかるほどに顔色も悪い。
カメコは彼を元気づけようと「ラテハーブ」の包みを持ってきた。
彼女の記憶が確かなら、
彼は自分と同じく、このハーブが大好きなはずだ。
「…ああ、それはラテハーブ…。」
彼は鼻先に差し出された包みに顔を近づけると、眉をひそめて言葉を続けた。
「いつ嗅いでも嫌な香りだ…果実が腐ったような甘い香り…。
そうだよ…。俺は昔からずっとラテハーブの香りが大嫌いだったんだ。」
・・・
さて、カメコが『カメオはラテハーブが大好きだ』
と誤解していたのは、一体なぜ?
今やウミガメ国の一般家庭で見られる、メジャーなハーブの一種である。
そんなラテハーブブームの真っ只中、
カメコはカメオの元を訪れていた。
久しぶりに再会したカメオは、かなり痩せており、
ひと目で病気であることがわかるほどに顔色も悪い。
カメコは彼を元気づけようと「ラテハーブ」の包みを持ってきた。
彼女の記憶が確かなら、
彼は自分と同じく、このハーブが大好きなはずだ。
「…ああ、それはラテハーブ…。」
彼は鼻先に差し出された包みに顔を近づけると、眉をひそめて言葉を続けた。
「いつ嗅いでも嫌な香りだ…果実が腐ったような甘い香り…。
そうだよ…。俺は昔からずっとラテハーブの香りが大嫌いだったんだ。」
・・・
さて、カメコが『カメオはラテハーブが大好きだ』
と誤解していたのは、一体なぜ?
22年06月29日 22:00
【ウミガメのスープ】 [るょ]
【ウミガメのスープ】 [るょ]
解説を見る
ウミガメ国では麻薬密売の横行により、
今や一般家庭にまで、麻薬というものが浸透しつつある。
元刑事・カメオといえば、
かつて麻薬を憎み、取り締まりに心血を注いでいた熱血刑事である。
彼が今や、麻薬中毒者に成り果てている…。
真偽を確かめるべく、我々は抜き打ちで彼の家宅捜索に向かう。
捜査にあたったのは、彼の意志を継ぐ後輩の私と、
彼の元相棒・カメコ。
「元相棒を逮捕させるのは心苦しいが、
お前より優秀な麻薬探知犬がいないんだ。」
・・・
当日。
数人の警察官でカメオ宅を訪れ、彼を抑えている間に、
カメコに麻薬の匂いを探知させる。
その甘い香りを頼りに、
彼の荷物からあっさりと麻薬の包みを見つけ出した彼女は、
私が制止するより早く、急いで包みを彼の元へ咥えて走っていった。
…嬉しそうに、尻尾をブンブンと振り回しながら。
麻薬を見つけてカメオに報告すれば、
彼も嬉しそうに笑い、自分を褒めてくれる。
彼女にとっては、その程度の認識だったのだろう。
・・・
大粒の涙を流しながら、カメオは言った。
「いつ嗅いでも嫌な香りだ…果実が腐ったような甘い香り…。
そうだよ…。俺は昔からずっとラテハーブの香りが大嫌いだったんだ。」
…それなのに、いつから道を間違えたんだろうな。
そう独白しながら、カメコの頭を撫でるカメオ。
事情を知っている周りの警察官は、
何も言えず、黙ってその光景を見守っていた。
【答え:】
かつて、麻薬探知犬であるカメコのパートナーだったカメオ。
ラテハーブを見つけるといつも彼に褒めてもらえる。
そして、彼もいつも嬉しそうに笑ってくれる。
きっと彼も、自分と同じでラテハーブの香りが好きなのだろう。
彼女はそう思っていたのだった。
(問題文の詳細な状況は長い解説参照)
今や一般家庭にまで、麻薬というものが浸透しつつある。
元刑事・カメオといえば、
かつて麻薬を憎み、取り締まりに心血を注いでいた熱血刑事である。
彼が今や、麻薬中毒者に成り果てている…。
真偽を確かめるべく、我々は抜き打ちで彼の家宅捜索に向かう。
捜査にあたったのは、彼の意志を継ぐ後輩の私と、
彼の元相棒・カメコ。
「元相棒を逮捕させるのは心苦しいが、
お前より優秀な麻薬探知犬がいないんだ。」
・・・
当日。
数人の警察官でカメオ宅を訪れ、彼を抑えている間に、
カメコに麻薬の匂いを探知させる。
その甘い香りを頼りに、
彼の荷物からあっさりと麻薬の包みを見つけ出した彼女は、
私が制止するより早く、急いで包みを彼の元へ咥えて走っていった。
…嬉しそうに、尻尾をブンブンと振り回しながら。
麻薬を見つけてカメオに報告すれば、
彼も嬉しそうに笑い、自分を褒めてくれる。
彼女にとっては、その程度の認識だったのだろう。
・・・
大粒の涙を流しながら、カメオは言った。
「いつ嗅いでも嫌な香りだ…果実が腐ったような甘い香り…。
そうだよ…。俺は昔からずっとラテハーブの香りが大嫌いだったんだ。」
…それなのに、いつから道を間違えたんだろうな。
そう独白しながら、カメコの頭を撫でるカメオ。
事情を知っている周りの警察官は、
何も言えず、黙ってその光景を見守っていた。
【答え:】
かつて、麻薬探知犬であるカメコのパートナーだったカメオ。
ラテハーブを見つけるといつも彼に褒めてもらえる。
そして、彼もいつも嬉しそうに笑ってくれる。
きっと彼も、自分と同じでラテハーブの香りが好きなのだろう。
彼女はそう思っていたのだった。
(問題文の詳細な状況は長い解説参照)
「大惨事世界大戦」「8ブックマーク」
第三次世界大戦が起こった結果、人類の大半が大きな窓のある家に住むようになったのはなぜ?
22年09月02日 22:14
【ウミガメのスープ】 [ベルン]
【ウミガメのスープ】 [ベルン]
BSの一案だった問題です。 デバッグ:うつまさん含む他界隈の人 ありがとうございました
解説を見る
外から、中に住んでいる人々の様子を観察しやすくするため
人類の大半が滅亡し、その一方で新種の知的生命体「わにゃん」が人類の作ったインフラなどを基に生活し始めた。
そして人類はわにゃんにより絶滅危惧種に指定され、人間保護センターや動物園で住まわされることになった(人間達にストレスをなるべく与えないよう、窓を大きく作る以外は人間の住む家を模して作られた)。
人類の大半が滅亡し、その一方で新種の知的生命体「わにゃん」が人類の作ったインフラなどを基に生活し始めた。
そして人類はわにゃんにより絶滅危惧種に指定され、人間保護センターや動物園で住まわされることになった(人間達にストレスをなるべく与えないよう、窓を大きく作る以外は人間の住む家を模して作られた)。
「HAPPY DEATH DAY DEAR」「8ブックマーク」
家族に心が病んでいるのではと心配されている田中は精神病院に通っている。
しかし田中本人は自分が病気だとは思っていない。
病気じゃないと思いながらも田中が病院に通う理由。
それは大好きな看護師さんに会う為である。
しかしある日突然彼女はあの世に行ってしまった。
彼女の死因は自殺。
院長の執拗なるハラスメントを苦にして自らの命を絶ったのだった。
もう二度と彼女とは会えなくなってしまった。
田中は涙を流して喜んだ。
一体なぜ?
しかし田中本人は自分が病気だとは思っていない。
病気じゃないと思いながらも田中が病院に通う理由。
それは大好きな看護師さんに会う為である。
しかしある日突然彼女はあの世に行ってしまった。
彼女の死因は自殺。
院長の執拗なるハラスメントを苦にして自らの命を絶ったのだった。
もう二度と彼女とは会えなくなってしまった。
田中は涙を流して喜んだ。
一体なぜ?
22年09月20日 23:51
【ウミガメのスープ】 [ダニー]
【ウミガメのスープ】 [ダニー]
解説を見る
短い解説
自殺して幽霊となった大好きな彼女に会うために廃病院に通っていた田中。
幾度の田中との逢瀬でこの世の未練が消え去り、成仏できた彼女。
田中の前でさよならを告げて突然あの世に行ってしまった。
田中は悲しみの涙を流しながらも、彼女が現世での苦しみから解放されたことを喜んだのであった。
長い解説
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」
それ以降更新が止まってしまった沢渡からのLINEを見つめる田中。
沢渡若菜は自殺した。
勤め先の精神病院、その院長からの執拗なハラスメントに耐えられず、自らの命を絶った。
フリーのジャーナリストとして活動している田中が、沢渡からの相談を受けて、院長のハラスメントの実態を記事にし告発する準備をしている最中のことだった。
中学生の時に1年間だけ付き合っていた沢渡からLINEが届いたのは2年前。
「まだ電話番号変わってないんだね」
そんな突然のメッセージから二人のやりとりが始まり、割と頻繁に連絡を取り合っていた。
上京して活動している田中と地元に就職した沢渡。
距離を言い訳にして二人は2年間一度も会うことはなかった。
今の関係性がとても心地良い。
会ってしまえばそれが変わってしまうのではないか、と二人ともうっすらと感じており、それをなんとなくおそれていたのだった。
しかし沢渡自殺の報を受けて田中は彼女に会いに行かなかったことを激しく後悔した。
もし会って話していれば、もし自分と彼女の関係性が変わっていれば、彼女は死ぬことはなかったかもしれない、と。
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」
一日一回は時の止まってしまったLINEを見つめる。
そのたび押し寄せる慚愧の念に押し潰されそうになるが、田中はその習慣をやめなかった。
そして田中は彼女のことを誰にも相談しなかった。
誰かに話してしまうと自分の罪が水に落としたインクのように薄くなってしまう気がしたからだ。
田中なりの不器用なやり方で彼女の死と向き合い続けて、さらに2年が経った頃、田中の耳にある噂が入る。
「地元にある閉院となった精神病院に幽霊がでる」
地元の友人との酒の席で聞いた話は田中の耳から離れなくなってしまった。
彼女が勤めていた精神病院は田中が告発するまでもなく、彼女の自殺を発端に院長へのバッシングが集まり、閉院にまで追い込まれた。
今は廃病院となってしまったそこに幽霊が出るというのだ。
居ても立っても居られなくなってしまった田中は久しぶりに帰郷することにした。
実家に戻り、両親には事情は一切説明せず、ある程度の準備を整えて田中は夜中にその病院に忍び込んだ。
当たり前だが門扉には鍵が掛かっており、侵入できる場所は一階の割れた窓からのみだった。
真夏の深夜、日が落ちても蒸し暑い気温でうっすらと汗をかくぐらいなのだが、病院の中はなぜか少し肌寒い。
田中はホラー系が苦手で、本来なら「幽霊が出る廃病院」など絶対に入ることなどできないのだが「沢渡に会える一縷の望み」のせいなのか、今の田中には全く恐怖心がなかった。
彼女はロッカールームで首を吊って自殺したという情報を得ていた田中は、そのロッカールームへと足を進めた。
そしてそのロッカールーム前。
中から女性の啜り泣く声が聞こえてくる。
田中は全く恐れもせずその扉を開いた。
いる。
全く光が差さない室内なのにそれだけはくっきりと視認することができる。
それは、紛れもなく、沢渡若菜だった。
さて会えるという希望を持ちながら、どこかでそれを信じていなかった田中は目の前の現実にどう対応してよいのか大層戸惑った。
そんな田中の存在に気づいた彼女。
「誰?」
沢渡の声だった。
以前に酔っ払って何度か電話をかけたことがある。
その時の声とまったく変わっていない。
その声で今までの戸惑いが消え、心がスッと落ち着いた。
「俺だ、田中だ。覚えているか?」
彼女の問いにそう応じた。
「誰? わからない」
「わからないわからないわからないワカラナイワカラナイ!」
突然彼女が叫び出した。
ロッカールームがガタガタと揺れ出す。
「落ち着け沢渡! 俺だ!同じ中学だった田中!」
「ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!」
彼女の叫び声とシンクロするように揺れだしたロッカールーム。
その叫び声を聞きながら田中の意識は徐々に遠のいていき、そして気を失った。
目を覚ましたのは早朝。病院の前だった。
急いでロッカールームへと向かったが、あれほど揺れていたのにその形跡は全くなく、そして彼女もいなくなっていた。
その日から毎夜病院に忍び込むようになった田中。
彼女はいつもあの場所に居た。
しかし何度アプローチしても、最初の出会いと同じく、彼女に自分のことを認識してもらうことができず、毎回病院の前で朝を迎えることになった。
そんな田中を家族は訝しんだ。
弟に尾行され、深夜廃病院に忍び込む様子を目撃されてからは「心が病んでしまったのか?」と疑われる始末。
田中はそれでも家族に事情を話そうとはしなかった。
そんなある日。
田中は自室で懐かしいものを見つけた。
沢渡と付き合っていた中学3年の時。
インフルエンザになった田中を看病しに来てくれた彼女に、病気をうつしてはいけないと部屋に入ることを拒んだことがあった。
彼女は一旦自分の家に戻り、そして糸電話を作って持ってきたのだった。
それを見て、そこまでするかと笑ってしまった田中に彼女はむくれてしまう。
そんな彼女を宥めるのに糸電話を使って謝り倒すと、彼女もゲラゲラと笑い出した。
そして親に怒られるまで彼女とたわいもない会話をしたのだった。
紙コップで作られた簡素な糸電話。
自分はこれを大事にしまっていたんだな。
「よし!」
今度こそ沢渡にわかってもらえる気がする。
確信めいたものを感じ、田中は廃病院のロッカールームへと向かった。
「誰?」
最初の出会いと変わらない彼女の問い。
田中はそれには応じ返さず、そっと彼女の近くに糸電話の片割れを置いた。
そしてもう片方を持ち、ロッカールームから出て彼女が見えない位置にまできた田中は、その糸電話で彼女に語りかけた。
もちろん糸が垂れ下がった状態では声が届くわけはない。
それでも田中は、自分のことや中学の時の思い出などをひとり語りした。
そして気がついたら、いつのまにか垂れ下がっていた糸が彼女に向かってピンと伸びていた。
「田中?」
「ああ俺だ。田中。思い出したか?」
「インフルエンザ、辛くない?」
「いつの話をしてんだよ」
「田中」
「そう、田中だ」
「田中、ごめんね。ごめんなさい」
彼女の謝罪の言葉を聞いた田中はついに涙腺に溜まっていたものを堪えきれなくなってしまった。
「ご、ごめんって何に、だよ。あ、謝んのは俺だ。本当は、本当はずっと会いに行きたかった。で、でもなんか怖くて。盛り上がってんのは自分だけなんじゃないのかな、とか。なに会いにきてんだこいつって思われたりしないかな、とか、さ。本当は辛い目にあっている沢渡にあって直接話を聞きたかったんだ。い、いや、俺が沢渡を慰められるって自信があった訳じゃ、ないん、だけど」
「落ち着け田中」
「・・・はい」
「私もたぶん田中と同じ気持ちだった」
「同じ気持ちって・・・俺を好きだったってこと?」
「ち、違っ!・・・いや違わないか。なんか変にカッコつけて会わないようにしてた。うん。きっとそれは田中のことが好きだったから。会って失望されたり、それで今の関係が壊れたりするのが怖かった」
「一緒、だったのかあ」
「一緒だったのね」
「・・・」
「田中」
「ん?」
「こっちにきてよ。幽霊になっちゃったけど、私に会いにきてよ」
「うん」
今まで真っ暗だったロッカールーム。
今は眩しいくらいに月明かりが差し込んでいる。
その中に佇む彼女。
とても幻想的で、そしてとても美しかった。
その美しさに呆けている田中に彼女は話しだす。
「私、ずっと溺れていたの」
「溺れる?」
「実際に溺れていたわけじゃないんだけど、溺れて息ができない苦しみみたいなのがずっと続いていたの」
「・・・」
「今はとても気持ちがいい。これって田中のおかげなんだね」
「うん、恩着せがましいけど、たぶん俺のおかげ」
「田中」
「ん?」
「たぶんもうお別れだ」
「そ、か」
「会えてよかった」
「俺もだ」
「好きだよ田中」
「俺も・・・グスッ、だ」
「さよなら」
「ざよ、な"ら」
そして月の明かりの中で彼女の輪郭がどんどんと曖昧になり。
彼女は消えた。
やっと会えたのにもう二度と会えなくなってしまった。
でも。
彼女を救うことができた。
俺だからできたんだ。
田中は涙と鼻水まみれの顔で月を見上げて、ガッツポーズを取った。
「さよなら沢渡。また何十年か後に会おうな」
自殺して幽霊となった大好きな彼女に会うために廃病院に通っていた田中。
幾度の田中との逢瀬でこの世の未練が消え去り、成仏できた彼女。
田中の前でさよならを告げて突然あの世に行ってしまった。
田中は悲しみの涙を流しながらも、彼女が現世での苦しみから解放されたことを喜んだのであった。
長い解説
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」
それ以降更新が止まってしまった沢渡からのLINEを見つめる田中。
沢渡若菜は自殺した。
勤め先の精神病院、その院長からの執拗なハラスメントに耐えられず、自らの命を絶った。
フリーのジャーナリストとして活動している田中が、沢渡からの相談を受けて、院長のハラスメントの実態を記事にし告発する準備をしている最中のことだった。
中学生の時に1年間だけ付き合っていた沢渡からLINEが届いたのは2年前。
「まだ電話番号変わってないんだね」
そんな突然のメッセージから二人のやりとりが始まり、割と頻繁に連絡を取り合っていた。
上京して活動している田中と地元に就職した沢渡。
距離を言い訳にして二人は2年間一度も会うことはなかった。
今の関係性がとても心地良い。
会ってしまえばそれが変わってしまうのではないか、と二人ともうっすらと感じており、それをなんとなくおそれていたのだった。
しかし沢渡自殺の報を受けて田中は彼女に会いに行かなかったことを激しく後悔した。
もし会って話していれば、もし自分と彼女の関係性が変わっていれば、彼女は死ぬことはなかったかもしれない、と。
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」
一日一回は時の止まってしまったLINEを見つめる。
そのたび押し寄せる慚愧の念に押し潰されそうになるが、田中はその習慣をやめなかった。
そして田中は彼女のことを誰にも相談しなかった。
誰かに話してしまうと自分の罪が水に落としたインクのように薄くなってしまう気がしたからだ。
田中なりの不器用なやり方で彼女の死と向き合い続けて、さらに2年が経った頃、田中の耳にある噂が入る。
「地元にある閉院となった精神病院に幽霊がでる」
地元の友人との酒の席で聞いた話は田中の耳から離れなくなってしまった。
彼女が勤めていた精神病院は田中が告発するまでもなく、彼女の自殺を発端に院長へのバッシングが集まり、閉院にまで追い込まれた。
今は廃病院となってしまったそこに幽霊が出るというのだ。
居ても立っても居られなくなってしまった田中は久しぶりに帰郷することにした。
実家に戻り、両親には事情は一切説明せず、ある程度の準備を整えて田中は夜中にその病院に忍び込んだ。
当たり前だが門扉には鍵が掛かっており、侵入できる場所は一階の割れた窓からのみだった。
真夏の深夜、日が落ちても蒸し暑い気温でうっすらと汗をかくぐらいなのだが、病院の中はなぜか少し肌寒い。
田中はホラー系が苦手で、本来なら「幽霊が出る廃病院」など絶対に入ることなどできないのだが「沢渡に会える一縷の望み」のせいなのか、今の田中には全く恐怖心がなかった。
彼女はロッカールームで首を吊って自殺したという情報を得ていた田中は、そのロッカールームへと足を進めた。
そしてそのロッカールーム前。
中から女性の啜り泣く声が聞こえてくる。
田中は全く恐れもせずその扉を開いた。
いる。
全く光が差さない室内なのにそれだけはくっきりと視認することができる。
それは、紛れもなく、沢渡若菜だった。
さて会えるという希望を持ちながら、どこかでそれを信じていなかった田中は目の前の現実にどう対応してよいのか大層戸惑った。
そんな田中の存在に気づいた彼女。
「誰?」
沢渡の声だった。
以前に酔っ払って何度か電話をかけたことがある。
その時の声とまったく変わっていない。
その声で今までの戸惑いが消え、心がスッと落ち着いた。
「俺だ、田中だ。覚えているか?」
彼女の問いにそう応じた。
「誰? わからない」
「わからないわからないわからないワカラナイワカラナイ!」
突然彼女が叫び出した。
ロッカールームがガタガタと揺れ出す。
「落ち着け沢渡! 俺だ!同じ中学だった田中!」
「ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!」
彼女の叫び声とシンクロするように揺れだしたロッカールーム。
その叫び声を聞きながら田中の意識は徐々に遠のいていき、そして気を失った。
目を覚ましたのは早朝。病院の前だった。
急いでロッカールームへと向かったが、あれほど揺れていたのにその形跡は全くなく、そして彼女もいなくなっていた。
その日から毎夜病院に忍び込むようになった田中。
彼女はいつもあの場所に居た。
しかし何度アプローチしても、最初の出会いと同じく、彼女に自分のことを認識してもらうことができず、毎回病院の前で朝を迎えることになった。
そんな田中を家族は訝しんだ。
弟に尾行され、深夜廃病院に忍び込む様子を目撃されてからは「心が病んでしまったのか?」と疑われる始末。
田中はそれでも家族に事情を話そうとはしなかった。
そんなある日。
田中は自室で懐かしいものを見つけた。
沢渡と付き合っていた中学3年の時。
インフルエンザになった田中を看病しに来てくれた彼女に、病気をうつしてはいけないと部屋に入ることを拒んだことがあった。
彼女は一旦自分の家に戻り、そして糸電話を作って持ってきたのだった。
それを見て、そこまでするかと笑ってしまった田中に彼女はむくれてしまう。
そんな彼女を宥めるのに糸電話を使って謝り倒すと、彼女もゲラゲラと笑い出した。
そして親に怒られるまで彼女とたわいもない会話をしたのだった。
紙コップで作られた簡素な糸電話。
自分はこれを大事にしまっていたんだな。
「よし!」
今度こそ沢渡にわかってもらえる気がする。
確信めいたものを感じ、田中は廃病院のロッカールームへと向かった。
「誰?」
最初の出会いと変わらない彼女の問い。
田中はそれには応じ返さず、そっと彼女の近くに糸電話の片割れを置いた。
そしてもう片方を持ち、ロッカールームから出て彼女が見えない位置にまできた田中は、その糸電話で彼女に語りかけた。
もちろん糸が垂れ下がった状態では声が届くわけはない。
それでも田中は、自分のことや中学の時の思い出などをひとり語りした。
そして気がついたら、いつのまにか垂れ下がっていた糸が彼女に向かってピンと伸びていた。
「田中?」
「ああ俺だ。田中。思い出したか?」
「インフルエンザ、辛くない?」
「いつの話をしてんだよ」
「田中」
「そう、田中だ」
「田中、ごめんね。ごめんなさい」
彼女の謝罪の言葉を聞いた田中はついに涙腺に溜まっていたものを堪えきれなくなってしまった。
「ご、ごめんって何に、だよ。あ、謝んのは俺だ。本当は、本当はずっと会いに行きたかった。で、でもなんか怖くて。盛り上がってんのは自分だけなんじゃないのかな、とか。なに会いにきてんだこいつって思われたりしないかな、とか、さ。本当は辛い目にあっている沢渡にあって直接話を聞きたかったんだ。い、いや、俺が沢渡を慰められるって自信があった訳じゃ、ないん、だけど」
「落ち着け田中」
「・・・はい」
「私もたぶん田中と同じ気持ちだった」
「同じ気持ちって・・・俺を好きだったってこと?」
「ち、違っ!・・・いや違わないか。なんか変にカッコつけて会わないようにしてた。うん。きっとそれは田中のことが好きだったから。会って失望されたり、それで今の関係が壊れたりするのが怖かった」
「一緒、だったのかあ」
「一緒だったのね」
「・・・」
「田中」
「ん?」
「こっちにきてよ。幽霊になっちゃったけど、私に会いにきてよ」
「うん」
今まで真っ暗だったロッカールーム。
今は眩しいくらいに月明かりが差し込んでいる。
その中に佇む彼女。
とても幻想的で、そしてとても美しかった。
その美しさに呆けている田中に彼女は話しだす。
「私、ずっと溺れていたの」
「溺れる?」
「実際に溺れていたわけじゃないんだけど、溺れて息ができない苦しみみたいなのがずっと続いていたの」
「・・・」
「今はとても気持ちがいい。これって田中のおかげなんだね」
「うん、恩着せがましいけど、たぶん俺のおかげ」
「田中」
「ん?」
「たぶんもうお別れだ」
「そ、か」
「会えてよかった」
「俺もだ」
「好きだよ田中」
「俺も・・・グスッ、だ」
「さよなら」
「ざよ、な"ら」
そして月の明かりの中で彼女の輪郭がどんどんと曖昧になり。
彼女は消えた。
やっと会えたのにもう二度と会えなくなってしまった。
でも。
彼女を救うことができた。
俺だからできたんだ。
田中は涙と鼻水まみれの顔で月を見上げて、ガッツポーズを取った。
「さよなら沢渡。また何十年か後に会おうな」
「春一番と食いしん坊」「8ブックマーク」
春一番が吹いたので、カメオの母は(そういえば、カメオは食いしん坊だったわね)と思った。
カメオの好物が麩菓子であるとき、母がその思考をする直前にしていた行動は何だろう?
カメオの好物が麩菓子であるとき、母がその思考をする直前にしていた行動は何だろう?
22年09月22日 23:40
【ウミガメのスープ】 [ひゅー]
【ウミガメのスープ】 [ひゅー]
解説を見る
答え:カメオへの黙祷
今日はカメオの命日。
春一番だなんて天気予報で言っていたけど、私の心は晴れなかった。
強い風の中、お墓を掃除して、大好きだった麩菓子をお供えする。
手を合わせて、じっと拝む。
……………………………………………………………………………………
目を開けると、お供えした麩菓子がなくなっていた。
そういえば、カメオは食いしん坊だったわね。
もう食べちゃったのかしら。
本当は風で飛ばされたって分かってる。
でも、カメオがいたような気がして、ほんの少し嬉しかった。
今日はカメオの命日。
春一番だなんて天気予報で言っていたけど、私の心は晴れなかった。
強い風の中、お墓を掃除して、大好きだった麩菓子をお供えする。
手を合わせて、じっと拝む。
……………………………………………………………………………………
目を開けると、お供えした麩菓子がなくなっていた。
そういえば、カメオは食いしん坊だったわね。
もう食べちゃったのかしら。
本当は風で飛ばされたって分かってる。
でも、カメオがいたような気がして、ほんの少し嬉しかった。
「照準」「8ブックマーク」
【{一 十一}】
これは人名であり「ニノマエ ジュウイチ」と読む。
難読苗字のため、初見で読まれたことは今まで一度もない。
ある日のこと。
ジュウイチは初対面のサヤとタケルから声を掛けられた。
サヤ「きみ、ニノマエ君だよね?」
タケル「一と書いてニノマエと読むなんて初見殺しだな」
サヤ・タケルともに漢字の知識は中学生に毛が生えた程度のレベルである。
「一」という苗字を二人がいきなり読めたのはいったいなぜ?
これは人名であり「ニノマエ ジュウイチ」と読む。
難読苗字のため、初見で読まれたことは今まで一度もない。
ある日のこと。
ジュウイチは初対面のサヤとタケルから声を掛けられた。
サヤ「きみ、ニノマエ君だよね?」
タケル「一と書いてニノマエと読むなんて初見殺しだな」
サヤ・タケルともに漢字の知識は中学生に毛が生えた程度のレベルである。
「一」という苗字を二人がいきなり読めたのはいったいなぜ?
23年02月02日 01:45
【ウミガメのスープ】 [山椒家]
【ウミガメのスープ】 [山椒家]
舞台は日本
解説を見る
私立・スペック高等学校の入学式。
双子の兄妹である「二乃前(ニノマエ) サヤ・タケル」は揃って同じクラスになった。
クラスごとに生徒が50音順に着席する中、サヤとタケルの間には一人の男子が座っている。
名簿には漢字で「一 十一」と書いてある。
一瞬なんと読むのか戸惑ったが、「ニノマエ」と「ニノマエ」に挟まれてる以上、彼の苗字は「ニノマエ」である。
二乃前兄妹は確信を持ってジュウイチに話しかけた。
・簡易解説
名簿(50音・昇順)
二乃前 紗綾
一 十一
二乃前 焚流
双子の兄妹である「二乃前(ニノマエ) サヤ・タケル」は揃って同じクラスになった。
クラスごとに生徒が50音順に着席する中、サヤとタケルの間には一人の男子が座っている。
名簿には漢字で「一 十一」と書いてある。
一瞬なんと読むのか戸惑ったが、「ニノマエ」と「ニノマエ」に挟まれてる以上、彼の苗字は「ニノマエ」である。
二乃前兄妹は確信を持ってジュウイチに話しかけた。
・簡易解説
名簿(50音・昇順)
二乃前 紗綾
一 十一
二乃前 焚流