みんなのGood

9回目のお願い「33Good」
良質:12票トリック:5票物語:2票納得感:14票
以上は、喧嘩別れした親友への返信にあたり、花穂が記した記号のすべてである。
○に入るものは何か。
22年05月20日 19:42
【20の扉】 [こはいち]



解説を見る
<A.欠席>

花穂が返信したものは、結婚式の招待状である。必要最低限の二重線と丸のみを記入して返信したのだ。
HAPPY DEATH DAY DEAR「33Good」
良質:18票トリック:4票物語:10票納得感:1票
家族に心が病んでいるのではと心配されている田中は精神病院に通っている。

しかし田中本人は自分が病気だとは思っていない。

病気じゃないと思いながらも田中が病院に通う理由。

それは大好きな看護師さんに会う為である。

しかしある日突然彼女はあの世に行ってしまった。

彼女の死因は自殺。

院長の執拗なるハラスメントを苦にして自らの命を絶ったのだった。

もう二度と彼女とは会えなくなってしまった。

田中は涙を流して喜んだ。

一体なぜ?
22年09月20日 23:51
【ウミガメのスープ】 [ダニー]



解説を見る
短い解説
自殺して幽霊となった大好きな彼女に会うために廃病院に通っていた田中。
幾度の田中との逢瀬でこの世の未練が消え去り、成仏できた彼女。
田中の前でさよならを告げて突然あの世に行ってしまった。
田中は悲しみの涙を流しながらも、彼女が現世での苦しみから解放されたことを喜んだのであった。


長い解説
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」

それ以降更新が止まってしまった沢渡からのLINEを見つめる田中。

沢渡若菜は自殺した。

勤め先の精神病院、その院長からの執拗なハラスメントに耐えられず、自らの命を絶った。

フリーのジャーナリストとして活動している田中が、沢渡からの相談を受けて、院長のハラスメントの実態を記事にし告発する準備をしている最中のことだった。

中学生の時に1年間だけ付き合っていた沢渡からLINEが届いたのは2年前。
「まだ電話番号変わってないんだね」
そんな突然のメッセージから二人のやりとりが始まり、割と頻繁に連絡を取り合っていた。
上京して活動している田中と地元に就職した沢渡。
距離を言い訳にして二人は2年間一度も会うことはなかった。
今の関係性がとても心地良い。
会ってしまえばそれが変わってしまうのではないか、と二人ともうっすらと感じており、それをなんとなくおそれていたのだった。

しかし沢渡自殺の報を受けて田中は彼女に会いに行かなかったことを激しく後悔した。
もし会って話していれば、もし自分と彼女の関係性が変わっていれば、彼女は死ぬことはなかったかもしれない、と。

「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」

一日一回は時の止まってしまったLINEを見つめる。
そのたび押し寄せる慚愧の念に押し潰されそうになるが、田中はその習慣をやめなかった。
そして田中は彼女のことを誰にも相談しなかった。
誰かに話してしまうと自分の罪が水に落としたインクのように薄くなってしまう気がしたからだ。

田中なりの不器用なやり方で彼女の死と向き合い続けて、さらに2年が経った頃、田中の耳にある噂が入る。

「地元にある閉院となった精神病院に幽霊がでる」

地元の友人との酒の席で聞いた話は田中の耳から離れなくなってしまった。

彼女が勤めていた精神病院は田中が告発するまでもなく、彼女の自殺を発端に院長へのバッシングが集まり、閉院にまで追い込まれた。
今は廃病院となってしまったそこに幽霊が出るというのだ。

居ても立っても居られなくなってしまった田中は久しぶりに帰郷することにした。

実家に戻り、両親には事情は一切説明せず、ある程度の準備を整えて田中は夜中にその病院に忍び込んだ。

当たり前だが門扉には鍵が掛かっており、侵入できる場所は一階の割れた窓からのみだった。

真夏の深夜、日が落ちても蒸し暑い気温でうっすらと汗をかくぐらいなのだが、病院の中はなぜか少し肌寒い。

田中はホラー系が苦手で、本来なら「幽霊が出る廃病院」など絶対に入ることなどできないのだが「沢渡に会える一縷の望み」のせいなのか、今の田中には全く恐怖心がなかった。

彼女はロッカールームで首を吊って自殺したという情報を得ていた田中は、そのロッカールームへと足を進めた。

そしてそのロッカールーム前。

中から女性の啜り泣く声が聞こえてくる。

田中は全く恐れもせずその扉を開いた。



いる。

全く光が差さない室内なのにそれだけはくっきりと視認することができる。

それは、紛れもなく、沢渡若菜だった。

さて会えるという希望を持ちながら、どこかでそれを信じていなかった田中は目の前の現実にどう対応してよいのか大層戸惑った。

そんな田中の存在に気づいた彼女。

「誰?」

沢渡の声だった。
以前に酔っ払って何度か電話をかけたことがある。
その時の声とまったく変わっていない。

その声で今までの戸惑いが消え、心がスッと落ち着いた。

「俺だ、田中だ。覚えているか?」
彼女の問いにそう応じた。

「誰? わからない」
「わからないわからないわからないワカラナイワカラナイ!」

突然彼女が叫び出した。
ロッカールームがガタガタと揺れ出す。

「落ち着け沢渡! 俺だ!同じ中学だった田中!」
「ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!」

彼女の叫び声とシンクロするように揺れだしたロッカールーム。
その叫び声を聞きながら田中の意識は徐々に遠のいていき、そして気を失った。

目を覚ましたのは早朝。病院の前だった。
急いでロッカールームへと向かったが、あれほど揺れていたのにその形跡は全くなく、そして彼女もいなくなっていた。

その日から毎夜病院に忍び込むようになった田中。
彼女はいつもあの場所に居た。
しかし何度アプローチしても、最初の出会いと同じく、彼女に自分のことを認識してもらうことができず、毎回病院の前で朝を迎えることになった。

そんな田中を家族は訝しんだ。
弟に尾行され、深夜廃病院に忍び込む様子を目撃されてからは「心が病んでしまったのか?」と疑われる始末。

田中はそれでも家族に事情を話そうとはしなかった。

そんなある日。
田中は自室で懐かしいものを見つけた。

沢渡と付き合っていた中学3年の時。
インフルエンザになった田中を看病しに来てくれた彼女に、病気をうつしてはいけないと部屋に入ることを拒んだことがあった。

彼女は一旦自分の家に戻り、そして糸電話を作って持ってきたのだった。

それを見て、そこまでするかと笑ってしまった田中に彼女はむくれてしまう。
そんな彼女を宥めるのに糸電話を使って謝り倒すと、彼女もゲラゲラと笑い出した。
そして親に怒られるまで彼女とたわいもない会話をしたのだった。

紙コップで作られた簡素な糸電話。
自分はこれを大事にしまっていたんだな。

「よし!」
今度こそ沢渡にわかってもらえる気がする。
確信めいたものを感じ、田中は廃病院のロッカールームへと向かった。


「誰?」
最初の出会いと変わらない彼女の問い。

田中はそれには応じ返さず、そっと彼女の近くに糸電話の片割れを置いた。
そしてもう片方を持ち、ロッカールームから出て彼女が見えない位置にまできた田中は、その糸電話で彼女に語りかけた。
もちろん糸が垂れ下がった状態では声が届くわけはない。
それでも田中は、自分のことや中学の時の思い出などをひとり語りした。

そして気がついたら、いつのまにか垂れ下がっていた糸が彼女に向かってピンと伸びていた。

「田中?」
「ああ俺だ。田中。思い出したか?」
「インフルエンザ、辛くない?」
「いつの話をしてんだよ」
「田中」
「そう、田中だ」
「田中、ごめんね。ごめんなさい」

彼女の謝罪の言葉を聞いた田中はついに涙腺に溜まっていたものを堪えきれなくなってしまった。

「ご、ごめんって何に、だよ。あ、謝んのは俺だ。本当は、本当はずっと会いに行きたかった。で、でもなんか怖くて。盛り上がってんのは自分だけなんじゃないのかな、とか。なに会いにきてんだこいつって思われたりしないかな、とか、さ。本当は辛い目にあっている沢渡にあって直接話を聞きたかったんだ。い、いや、俺が沢渡を慰められるって自信があった訳じゃ、ないん、だけど」
「落ち着け田中」
「・・・はい」
「私もたぶん田中と同じ気持ちだった」
「同じ気持ちって・・・俺を好きだったってこと?」
「ち、違っ!・・・いや違わないか。なんか変にカッコつけて会わないようにしてた。うん。きっとそれは田中のことが好きだったから。会って失望されたり、それで今の関係が壊れたりするのが怖かった」
「一緒、だったのかあ」
「一緒だったのね」
「・・・」
「田中」
「ん?」
「こっちにきてよ。幽霊になっちゃったけど、私に会いにきてよ」
「うん」

今まで真っ暗だったロッカールーム。
今は眩しいくらいに月明かりが差し込んでいる。
その中に佇む彼女。
とても幻想的で、そしてとても美しかった。

その美しさに呆けている田中に彼女は話しだす。

「私、ずっと溺れていたの」
「溺れる?」
「実際に溺れていたわけじゃないんだけど、溺れて息ができない苦しみみたいなのがずっと続いていたの」
「・・・」
「今はとても気持ちがいい。これって田中のおかげなんだね」
「うん、恩着せがましいけど、たぶん俺のおかげ」
「田中」
「ん?」
「たぶんもうお別れだ」
「そ、か」
「会えてよかった」
「俺もだ」
「好きだよ田中」
「俺も・・・グスッ、だ」
「さよなら」
「ざよ、な"ら」

そして月の明かりの中で彼女の輪郭がどんどんと曖昧になり。

彼女は消えた。


やっと会えたのにもう二度と会えなくなってしまった。

でも。

彼女を救うことができた。

俺だからできたんだ。

田中は涙と鼻水まみれの顔で月を見上げて、ガッツポーズを取った。

「さよなら沢渡。また何十年か後に会おうな」


LIKE FATHER「33Good」
良質:12票トリック:16票納得感:5票
父親が男女交際も一人暮らしにも反対しているので、鼠屋敷さんは一人暮らしを始めるために、付き合っている彼氏を父親に見せようとした。

一体なぜ?

※Cindyにて出題済み問題。知っている方はこんなとこで油売ってないで月らてに投票だ!
23年12月13日 20:56
【ウミガメのスープ】 [ダニー]



解説を見る
「もう我慢できない!こんな家出ていく!」
自分に対して厳しい父親に嫌気がさした鼠屋敷さんは、高校卒業のタイミングで前々から計画していた一人暮らしを始めることを決意した。

「ということで私は一人暮らしをします!」
「まあ応援はするけどさ。本当は親父さんと仲良くしてもらいたいなあ」
「無理無理無理!ユウ君と付き合ってることも教えたらたぶん別れさせられるよ!考え方が昭和なのよ」
「うーん、一人暮らしかー。でもチュー子は未成年だからアパート借りるにも親の承諾が必要だよ?」
「だから今ユウ君のところに来たんじゃない。父親役よろしく!」
「え?俺32歳だよ?ちょっと無理じゃね?」
「全然イケる!老けてる!」
「え?ヒドくね?」

鼠屋敷さんは年上でそこそこの老け顔の彼氏を不動産屋に連れて行き、彼を父親に見せて(自分の父親と偽り)部屋を契約しようとしたのであった。
推してだめなら「32Good」
良質:18票トリック:3票物語:7票納得感:4票
人気YouTuberグループ『らてらるず』の一人、幕雅府院ハヤトに本気で恋をしてしまったヒトミ。
叶わぬ恋だろうと思いながらも日に日に募る気持ちを抑えられなくなった彼女は、家にある中で最も思い入れのないぬいぐるみを、自宅のリビングに飾ることにした。

一体なぜ?
23年07月23日 21:45
【ウミガメのスープ】 [「マクガフィン」]



解説を見る
『要約』
ハヤトと同じく{『らてらるず』の一員である}ヒトミ。
告白が成功すれば良いが、もし振られてしまった場合には、今まで通りの関係を続けるために{「この告白はドッキリである」}という嘘をつくことに決めた。
その嘘の整合性をとるために、ヒトミ宅での告白をぬいぐるみに仕込んだ{隠しカメラで撮影}する準備をした。

※思い入れのないものを選んだのは、カメラを仕込む関係上、手を加える必要があったからである。







ハヤトと同じく『らてらるず』の一員である水平坂ヒトミ。
5人組としてずっと対等に切磋琢磨してきた仲であり、これから頑張らなくてはいけない時期にグループ内恋愛など認められない。
みんな、特にリーダーのハヤトはそう考えているのだろうと、彼女は気持ちを伝えられずにいた。
しかし誰よりも近くでハヤトを見つめる時間はあまりにも長く濃密で、残酷だった。
次第に恋心が抑えられなくなった彼女は、自宅にハヤトを呼んで想いを告白することに決めた。


告白がうまくいけばいい、ヒトミは心からそう思った。
だがそう楽観視できない状況であることもわかっている。下手をすればこれまで積み上げてきた信頼が崩れるかもしれない。

もし断られたとしても今まで通りの関係を続けていくためにはどうすればいいか、悩んだ末にヒトミが出した結論は、「この告白は『らてらるず』のドッキリ企画である」という嘘を保険として準備しておくことであった。

自宅にハヤトを呼び、告白する。
受け入れてもらえればそれでよし。晴れてこの想いが報われる。
受け入れられなければ、彼女は涙を流すだろう。彼は謝罪をするだろう。わかってくれると嬉しいと、そう優しく言うだろう。
そして彼女は無理に笑って告げるだろう。

{『ドッキリ大成功』}、と。




さて、この嘘を真実にするためには、告白の一部始終を撮影しておき、いざという時に実際に動画として公開できるように準備しておかなければならない。

押し入れからいつ買ったかも覚えていないクマのぬいぐるみを取り出したヒトミは、その体を切り開くと、内部に隠しカメラを仕込み、リビングの隅の棚の上に飾った。
ちょうど部屋のソファで話す2人が捉えられる角度にぬいぐるみを調整すると、録画開始のボタンをそっと押した。




彼女は今、独り静かに彼を待っている。

用意してきた愛の言葉を、頭で何度も繰り返しながら。

この不恰好な思いの丈を耳にするのが、ハヤトだけになることを願いながら。



















「ねぇ、こないだのらてらるず観た?」


「肝試しのやつでしょ?最近ドッキリ系多いよねー。」


「あ、また新しい動画でたみたいだよ。」


「ほんとだ。なになに、




『ご報告』?」
良質:18票トリック:1票物語:10票納得感:3票
『20代後半になってからの私といえば、人生に絶望してばかりだった。

借金、不安定、何より、孤独。こんな生活を続けていくなんてとても耐えられない。ついこの間まで輝かしい大学生活を送っていた日々すら、懐かしく思い起こしてしまう。

死んでもいい。死にたい。毒薬片手に物騒にも考えつつ、幾度も死にきれなかった。私は心が弱い。死の世界へ旅立つのは、辛い生活よりも怖いことだった。生きているだけ、まだマシに思えた。

そんな私に、やっと光が訪れた。

ここのところ、資力を尽くして探していたものがついに見つかったのである。ずっと欲しかったものを手に入れて幸甚に打ち震える私は、{今まで飲む気が起きなかった毒薬をついに飲んだのだった。}』


文中の「もの」の概要を特定しつつ、「私」が飲んだ毒薬が{遅効性}だった理由を当ててください。

——————

この問題は100問出題を記念したBS問題です。

出題後30分が経過・または正解が出た時点から、何でもOKな1時間の質問タイム「BSタイム」に移行します。

BSタイム終了後は、何事もなかったかのように問題を解決する作業に戻ってください。

れーっつ、スタート〜!!
23年11月03日 21:00
【ウミガメのスープ】 [さなめ。]

かけがえのない、第100問




解説を見る
要約:
「私」は本当は20歳の大学生・美里。あるとき、20代後半の女性・理沙子に{身体を入れ替えられてしまっていた}。
そこで元の身体に戻るため、理沙子に使われたのであろう{人と入れ替わることができるアイテム}をずっと探し求めていた。
それを見つけると、それを用いて{元に戻ったあとに理沙子が理沙子の体内の毒で死に至る}ことを望んで、あらかじめ理沙子の身体で{遅効性}の毒薬を飲んだのである。

遅効性だった理由は、時間差がないと即座に{自分が死んでしまう}から。
そもそも毒薬を飲んだ、即ち理沙子を死に追いやった理由は、身体を奪われた怨恨による復讐や、元に戻った自分に理沙子からの危難が再び及ぶことのないようにすることなど。

——————

{※}解説の前に、良ければ以下の二作を読んでいただけると嬉しいです(この問題の解説にそのネタバレがあります)。
『人と入れ替わることができる口紅(理沙子・美里)』
https://late-late.jp/mondai/show/18298
https://late-late.jp/mondai/show/18299
この問題の前日譚(あるいは、この問題が後日譚)。どちらもジシン作です。

(もちろん、お読み頂かなくても楽しめる問題になっています。)
(そして長いです。ご了承ください。)


解説:

薄明かりの中、ゆっくりと目を覚ます。今は一体何時だろう。すっかり昼夜は逆転して、夢と現との区別はつかなくなっていた。

霞んだ視界に、挙げた手を映す。失望によって程なく墜落した手は、そのまま枕にかかる髪に触れる。目覚めの勢いに、思わず呻くような声が出た。

爪の形。乱れた髪の硬さ。少し低めの声。何もかも、未だに「他人のもの」だと認識できる。それだけは少し、安心できた。

朝起きたら元に戻っているなんて都合の良い空想を抱いたのは、これで何度目か。今度は小さく、しかしはっきりと「私は、有坂 美里。」と呟いた。それは蓮見 理沙子の声だった。


『{蓮見 理沙子と身体が入れ替わり、}20代後半{の女性・理沙子}になってからの私といえば、人生に絶望してばかりだった。

{理沙子の作った}借金、{日を凌ぐために自分で探したアルバイトで生きる}不安定、何より、{誰も私のことを美里だと気づいてくれない}孤独。こんな生活を{バトンタッチして}続けていくなんてとても耐えられない。ついこの間{、そう、ほんの4ヶ月前}まで{正真正銘の美里として}輝かしい大学生活を送っていた日々すら、懐かしく思い起こしてしまう。

死んでもいい。死にたい。毒薬片手に物騒にも考えつつ、幾度も死にきれなかった。私は心が弱い。死の世界へ旅立つのは、辛い生活よりも怖いことだった。{自分の身体でなくても、自分の人生でなくても、理沙子として}生きているだけ、まだマシに思えた。』

——————

ある時、私の大学に変質者が現れた。自分のことを「私は有坂 美里だ」と言うおかしな女性。後から知ったことだが、「その人」は私のサークルの先輩らしい。
噂を聞いた私は、漠然とした恐怖に襲われながらも、友達の支えあって穏やかに日々を過ごした。変質者といっても、ストーカーじみた被害に遭った訳でもない。たまたま私の名前を知っただけなんだろう、と甘く考えていた。今では激しく、後悔している。

その女性こそ、理沙子だった。
私はそんな騒動から二週間。帰り道に理沙子に殴られて気絶した。それはあまりに突然のことで、私が「自分を失った」瞬間だった。
私は、その日から「蓮見 理沙子になって」しまった。

大学に行っても誰にも信じてもらえない。サークルの友達どころか、もっと仲の良い親友にも。果ては、私を産み育ててくれた親にだって。私が美里だってこと。

絶望的な孤独の中。何が起こったのか、極彩の内のようにわからなかった中。私は逮捕された。
私は、「美里を殴った」罪で連行された。

幸い、「相手」の怪我の程度が軽く、淡々と対応したこともあって、少し長めの勾留のみで放たれた。
しかしその勾留期間は、私の魂の奥底を憔悴させ、今の立場を体感するのには過剰で残酷な時の流れだった。

私は何度も、「蓮見」と呼ばれた。「有坂」という苗字は、出席番号が早くてすぐに名前を呼ばれていた。小学校の頃は、出席の返事を元気いっぱいにするのが大好きで、早くに呼ばれるその苗字が好きだった。中高の頃は、好きな漫画のキャラクター「アリス」に名前が似ているなんてくだらないことに、小さくも確かな喜びを感じていた。大学になったら、いつか訪れるこの苗字とのお別れの日を、寂しくも楽しみに空想した。

警察組織の人と話すときは、少し低めの声で呟くように話すようになった。小学校の頃、私は元気な声をよく先生に褒めてもらっていた。中学、そして高校でも入部した放送部では、先輩に綺麗な声だねって褒められたことはいつまで経っても忘れられなかった。大学では声変わりした男の子の低い声を羨むこともあったけど、自分の声は好きだった。

他にもたくさん。自分のものでない身体。謂れのない経歴・罪。これからのこと。こんなことになった原因。いくら心が大声で叫んでも、それに答える由縁はどこにもなかった。
やがて拘置所を出て、訳のわからぬままアルバイトを始めた。「美里」だった時もやっていた、カフェのバイト。「理沙子」の身分やお金の在処なんて知らないから、それも自分で探るしかなかった。そうして毎日毎日手探りで、自分でない人の人生を生きていく日々を過ごした。

SNSも、やる気力が起きなかった。当然ながら、私は理沙子の身体でも美里のアカウントにログインできる。入れ替わってすぐは、そんなところに孤独のしまいどころを見たりもした。私は確かに、有坂 美里なんだって。幻覚でも思い込みでも、二重人格でもないんだって。でも、もうそれもやめた。残酷な現実との乖離が苦しくなって、ログアウトで止まっている。インターネットの向こう側にしか見られない私のリアルな親友は、どんな関係性の人間よりも遠くに感じられた。

こんな空想もした。私の立場になった理沙子が何かおかしなことをして、大学のみんなが、家族が、それを疑う。それで最後の最後に私の親友が、あなたは美里じゃないって暴いてくれる。その瞬間、この悪夢が晴れやかな空のように綺麗にいなくなる、なんてハッピーエンド。
そのハッピーエンドの行方は知れない。私は拘置所で耳にした。怪我の程度が軽いといっても、降り積もった精神的なショックで「被害者の美里さんが記憶障害になった」というのは見過ごせない。私は錆び切った心で漠然と理解した。理沙子は記憶喪失のふりをして、私に成りすましている。身体が入れ替わったのは、理沙子の計画のうちだったんだ、と。

その日から、諦めにも似た全ての感情に一滴、怒りが混じっていった。私という人格は、彼女に奪われてしまった。私が私であるために一番大事な、いや、そんな言葉を使うまでもなく、尊厳の大前提にある唯一のものを、私は彼女に奪われたのである。それをどうにもすることができない悔しさが、泡沫のように現れては消え、現れては消えた。

消えた怒りは、たちまち途方に暮れる方へと私を誘う。私はこれから、どう生きれば良いんだろう。積み上げてきた積み木を崩され、粗悪な木片をもらったような。読んでいた本のページの先を破られ、適当な別作品をツギハギしたかのような。そんな状態で、私は何をすれば良いのか。ほとんど何もしないままの生活に湧いたのは、死への渇望だった。

私は毒薬を手に入れた。しかし、それを飲む勇気はなかった。誰にも知られず死ぬのが怖かった。手に入れた毒が遅効性であるというのも、情けないなけなしの絶望を彫って形にした虚仮だった。


そんな日々を続けながらも、一つだけ諦めなかったことがある。一縷よりも僅かな可能性で、それぞ至る希望には見出していなかったが、元に戻る方法についてだ。それだけは、何より必死に調べた。

理沙子があの日、私を殴った後。彼女は確かに、何か決定的な方法を用いて計画的に私と入れ替わったんだ。その前に私の名前を大学中で叫んでいたあの変質行為も、今思えばその準備だったんだと思う。そんな非現実的なアイテムがあるのか、幾度となく疑いの念に攫われたが、己という最も確かな証左を頼りに、砂を掴むような探究を行なっていた。

それがついに、実った。

巷に溢れていたらしい、『人と入れ替わることができる口紅』の都市伝説。

曰く、『人と入れ替わることができる口紅』は、使用者が自身の唇に付着させた上で任意の相手とキスをすると、その相手と身体を入れ替えられるというもの。

ついに私は、そんな口紅を手に入れたのだった。

——————

スマホのカメラを起動する。理沙子のスマホといえど指紋認証で起動できるという不可思議さは、今更気にかけることではなかった。録画モードのボタンを押すと、内カメに「私」が映った。
切れ長な瞳に収まる、私の心。少し大きめの口元も、なで気味の肩も、サラサラと流れない硬い髪も、全ては鏡に映る他人。今まで、よく耐えてきたと自分で思う。4ヶ月もの間、こんな光景を見続けてもなお心が音を立てて崩れることはなかった。小さい頃から持っていたなけなしのガッツは、母親譲りだった。

私はカメラに向けて、ラベルをまじまじと見せる。そして「今まで、ありがとう」と淡々と呟くと、毒薬を少し残して飲み干した。
これで、リミットはあと1時間足らず。

カメラを止めて少しして、インターホンが鳴り響く。彼女が来ていたことは。アパートの窓から見えていた。彼女にとっては「久々の帰宅」だろう。

私はゆっくりとドアを開けた。その先には、「私がいた」。

改めて近くで見ると、思わず息がむせ返るような、心臓が爆発するかのような、そんな感覚があった。久々に見た私の顔は、4ヶ月前と何ら変わっていなかった。

口紅を手に入れてから、私は「美里」の電話に連絡をした。自分の悲痛な現状を伝え、せめて一度だけでも会ってほしいと言った。これも一縷の望みに賭けていたことだが、理沙子は不用意にもこれに応じてくれた。

「…で、話って何ですか。『{理沙子さん}』。」

放送部の先輩に、カラオケに行った友達に、大好きな親友に、褒められてきた声が響いた。その不機嫌そうな発言を聞いて、私の迷いは消え去った。

私はそれまで少しだけ、迷っていた。本当に毒薬を飲んで良いのか。飲んで良かったのか。

私はこれから、毒を飲んだ身体を捨てて元に戻る。{私は自分を亡き者にするためではなく、理沙子を消滅させるために}毒薬を飲んだ。遅効性の毒を飲んだまま理沙子と入れ替わって、元に戻った理沙子はそのまま息を引き取るということだ。

毒薬を飲んだ理由はいくつかあった。もちろん、{理沙子への怨恨}がその一つ。私はどうしても許せなかった。私が私であることの根っこの部分を、万引きのような、強盗のような信念で奪った理沙子のこと。私の人格をこうも弄んだ理沙子のこと。「人を盗んだ」理沙子のことが、許せるはずがなかった。
それに、私は怖かった。元に戻れたとして、理沙子がもしこの口紅を未だどこかに隠し持っていたとしたら。その所有は「私に移る」ことにはなるが、再び終わらない危難が続くことを恐れ、理沙子の存在を消滅させておきたかった。{また身体が奪われるのが嫌}だった。

でも、大きな理由はきっと、そんなんじゃない。

私は、清算がしたかったんだと思う。この4ヶ月の気が狂いそうな生活の数々を、終わらせたかったんだと思う。
もし私がこのまま元の身体に戻れたとしても、今の「私」はずっと続いていく。私の絶望に満ちていた人生の一部の時が、私の預かり知らない、知りたくもないところでずっと続いていく。そんな「理沙子」という得体の知れない存在に、私は嫌悪感を覚えた。そんな現状を自分で変えることができるのなら、何をしてでも変えたかった。それは多分、自分が「死にたい」と思う感情と大して変わりはない。ただこの4ヶ月間だけの歪な「自分」に対して、死にたいと思ったというだけ。

それに、手に入れた口紅がうまく働く保証はどこにもない。こんなファンタジーのアイテムを試用もせず使うなんて、私はどこかおかしいと思う。
もし口紅が機能しなくて私が理沙子のまま死んでも、それで良い。私が過ごした4ヶ月がなくなるのなら、そしてもう元の自分に戻れないことが確かになった後に死ぬなら、それで良い。とにかく、まるでサブアカウントを消すみたいに「理沙子」を消せるなら、何でも良かったんだと思う。

目の前の、一番見慣れた外見、一番憎い魂。全てを元に戻す口付けを。

私は理沙子にかわされるより前に早く。

しかし、ゆっくりと。

交わしていく。

——————

電車に揺られる私が読んでいたのは、過去の授業のレジュメ。

この4ヶ月。あまり忙しくない2年生だから、何とか追いつけはしそうだと思う。「私が取ったノート」はないから、今度友達に見せてもらおう。


あれから、願う通りに私は元の私に戻れた。口付けを交わした途端に理沙子は、毒薬とは別に飲んでいた睡眠薬で眠ってしまい、おそらくそのまま、消えた。

もし、将来に口紅の存在が科学的に証明されたら、私は殺人の罪に問われるのだろうか。自殺はそれ自体が重い罪だと、刑法学の先生が言っていた気がする。

それでも確かに、私は「理沙子を」「私を」消したはずだった。それは私が今ここにいることに判る、確かなことだった。

少し四角い自分の爪。大学生になってから思い切って少しだけ明るい色に染めた、手入れもちゃんとしてある髪。レジュメを映すタブレットの電源を落とすと、自分の大きくて丸っこい瞳と小さめの口が反射する。


私は、元の私に戻った。戻ったはずなのに。

渦巻く心の霧は晴れなかった。それは毒薬を飲んだ罪悪感なんかでは、決して片付けられないこと。

4ヶ月の間に溜まったノート。これは、「理沙子」が書いたもの。字は、案外私と少し似ている。
スマホに残るLINEの履歴。親友の早苗との会話も記録が残っている。どうやら体調を心配されていたみたいだ。
財布の中には、つい一週間前のレシート。大学の学食で、私の好きなきのこ炒めを食べたらしい。

「私の」4ヶ月の時間は、無くなっていたわけでも、消せたわけでもなかった。

私の4ヶ月は、「私」が確かに動かしていた。過ごしていた。

だからこの4ヶ月は、私の中では孤独の記憶として一生残っていくことになるんだと思う。
例えば、友達から2ヶ月前の会話の内容を出されたら。「そういえば美里、この前〇〇って言ってなかった?」その責は、私ではない。
例えば、最近の日常を聞かれたら。「美里ちゃん、最近なんか面白いことあった?」あのとき絶望の渦にあったのは、「私」ではない。

その期間「私」が完全な他人の人格にあった事実は、もう変えようのないことなんだ。
魚を食べて刺さった小骨のような。清水に混じる一滴の泥水のような。言いようのない小さなズレ。
なのに、それを誰かに説明なんてできない。「その期間私は入れ替わっていた」なんて、言えるわけがない。誰にも共有できない孤独が、そこにはあった。

全てが戻って、完璧なハッピーエンドになんて、なることはない。
私が感じた極彩の絶望は、一滴を心に残したまま。


電車を降りると、改札外で後ろから肩を叩かれた。

「よ〜っ。美里。」

そこにいたのは、親友の早苗。高校も大学も同じの、気を許せる女の子。

「えっと、おはよう。」

久しぶり、という言葉を飲み込んで、私は自分の声で返事した。すると、彼女は二の句を告げた。

「なんか、今日は元気そうだね。良かった良かった。」
「え、元気、かなあ?」
「う〜ん、なんか{通常運転の美里}って感じ。」







「ふ〜ん。」





「…ねえ、早苗。」
「何?」
「今日さ、授業終わったらカフェ行かない?それか、カラオケでも本屋さんでも、サークルでも何でも。」
「良いよん。三ヶ谷にできたカフェとかどうよ。」
「うん、じゃあそうしよう。」








「え、ちょっとなになに!急にくっついてきて。」
「…。ごめん。ちょっと。」




私の大きくて丸っこい瞳から一滴だけ、流れた小さな雨。
それは、嬉しさの涙か。切なさの涙か。

いずれにしたって、今日くらいは、一秒でも多く、早苗を、親しい誰かを、近くに感じていたかった。
冗談めかして私を振り払おうとする彼女に、私はほんの少しだけぎこちなく、しかし晴れやかに笑いかけた。


[{B}itter end {S}tory] 万代不易のさだめ。

終わり。

——————

BSにご参加下さったみなさん、あるいは後から見てくださっているみなさん、本当にありがとうございました!
2019年に始めた当初は、100問なんて私みたいなちんちくりんには出せるはずがない、と10問でも記念とか喜んでいた記憶があります。あの頃の私がこのタイトルを見たら、マジかってびっくりすると思います。
それから4年と少しですが、こうして無事100問の出題に至ることができました。企画やリメイクを抜いても、100問は出していると思います。
ここまで来れたのも、解いてくださる皆さん・ご評価をくださる皆さん・すなわち私と関わってくださった皆さんのおかげです。
いつも本当にありがとうございます。
その感謝を少しでも示すように、これからも皆さんの心に刺さる一問を目指して、精進いたします。
これからもよろしくしていただければ幸いです。
それでは改めて、本日は本当にありがとうございました。

さなめ。(みさこ)