みんなのGood

良質:27票トリック:12票
秋の作文コンクールに2つの作品が投稿された。
投稿者は全くの別人なのに、内容はおろか表現まで完全に一致しており、片方が盗作であることは明らかだった。
投稿者もこの作品も全く知らず、当然、最初は後に投稿された方が盗作だと思った審査委員達だったが、実はこちらがオリジナルで、一週間も先に投稿された方が盗作であることを速やかに見破った。

一体何故だろうか?





※ラテクエ0本戦ディダムズさんの問題文のオマージュです。
※ディダムズさん、オマージュ許可ありがとうございました。
19年09月22日 02:55
【ウミガメのスープ】 [オリオン]

本選の問題文の一部改変です。霜ばしらさんテストプレイ諸々感謝。




解説を見る
当オマージュの成否は、ラテクエ本選の内容に大きく左右されることだろう。
直前のラテクエ本戦において、
「なるほど!その方法なら確かにどちらが盗作が見破ることができる!」
「そんな証拠ががあったなんて!」
と参加者を唸らせるような、素晴らしい見破り方が出題されればされるほど、当オマージュの問題文に対して{どうやって審査員達が盗作を見破ったのかという手段=HOW}を突き止めるのが目的だという{先入観}を持つ人が(多分)増えるはずだからだ。



敢えてどちらとも取れる書き方をしているが、実は本問題において問うているのはHOWではない。
{何故先に送られてきた方が盗作だと見破ったのかという経緯=理由=WHY}の方だ。
つまりこの問題の問いかけは、
【投稿者もこの作品も全く知らず、当然、最初は後に投稿された方が盗作だと思った審査委員達だったが、実はこちらがオリジナルで、一週間も先に投稿された方が盗作だということを速やかに見破った。一体何故{先に投稿されたほうが盗作だと見破ることができたの}だろうか?】
ではなく、
【投稿者もこの作品も全く知らず、当然、最初は後に投稿された方が盗作だと思った審査委員達だったが、実はこちらがオリジナルで、一週間も先に投稿された方が盗作だということを速やかに見破った。一体何故{審査委員達は後から届いた方が盗作だろうというところで思考をストップせず、わざわざ先に届いた方が盗作だと速やかに見破ったの}だろうか?】
という意味なのである。
審査委員達が盗作を見破った手段は何でもいい。『よく見たら作文用紙に不審な点があった』でも、『原稿の封筒に証拠が残っていたから』でも、本当に何でもいい。突き止めてもらいたいのは『何故作文用紙をよく観察しようと思ったのか』そして『何故わざわざ封筒を調べたりしたのか』という部分なのだ。



{一体何故、審査委員達は盗作疑惑の作品に対して速やかな調査を行ったのか?}
問題文にもあるように、審査委員達は最初は「後から送られてきたほうが盗作に決まっている」と考えている。その時点で納得して、後から届いた作品の方が盗作だと決めつけて捨て置くこともできたし、「まぁたくさん応募作があれば一人くらいは盗作をする奴がいてもおかしくないさ」程度に軽く捉えてそのまま目をつぶることだってできたはずだ。
にも関わらず、わざわざ、しかも速やかに、数多くの応募作の中の一作品の盗作調査に注力したのは何故だろうか?
答えは単純明快。
盗作疑惑が浮上した作品が、{どちらが盗作でも構わない作品}【ではなかったから】に他ならない。



『解説』
秋の作文コンクールはいよいよ応募〆切を1週間後に控え、審査委員達は、選考に向けて、届いた作品の読み進めを毎日着々と進めていた。その中にひと際目を引く作品があった。内容の申し分のなさもさることながら、ユニークな表現や言い回しも印象的で素晴らしく、{これは最優秀賞の最有力候補だ}というのが審査委員達の満場一致の意見だった。
ところがその1週間後、〆切当日になって事件が起こった。
その最有力候補とまったく同じ作文が届き、どちらか一方の作品は確実に盗作だと判明したのだ。
当然審査委員達は、最初は、後に投稿された方が盗作だと思った。これが数多くの応募作の中の「取るに足らない一作品」への疑惑だったら、状況だけを証拠に後から届いた方を盗作だと決めつけることも、盗作に目をつぶることもできただろう。しかし最優秀賞の候補作となると無視するわけにはいかない。{万が一にも受賞作が盗作であったと後から判明したら大問題になる。}運営側としては結果発表の前に、できるだけ速やかに、何としてでも真偽をはっきりさせる必要があったのだ。



『簡易解説+正解条件』
Q:後に投稿された方が盗作かと思うのが当然の状況で、審査員たちがわざわざ一作品の不正の調査を速やかに行い、一週間も先に投稿された方が盗作であることを見破るに至った理由とは一体何か?
A:盗作疑惑が浮かんだ作品は何かの賞を受賞予定の優秀な作品で、万が一にも受賞後に盗作だと分かって騒ぎになるとまずいので速やかな調査をせざるを得なかったから。
正解条件:問題文が理由=WHYを問うものであることが分かった後、盗作疑惑の作品がただの作品ではなく、受賞予定の優秀な作品であったことを指摘すること。


百害あって一流あり「38Good」
良質:27票トリック:8票物語:2票納得感:1票
煙草が吸えなくてイライラしていた男は、仕事の途中にもかかわらず、たまらず外に飛び出した。

少しして、満足げな顔で戻ってきた男。

「やっぱり煙草はやめられん」と彼が言うと、周りは皆ウンザリするどころか拍手を贈ったという。

煙草のせいで間違いなく仕事に支障が出ているのに、なぜだろう?
19年01月25日 20:28
【ウミガメのスープ】 [おしゃけさん]



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「真相が分かったぜ。
犯人は…お前だッエエッホゲェッホッ!!」

「カーット!カメオさん!!大丈夫ですか!?」

「ああ、すまない…煙草はどうしても慣れなくて…こんなもん吸えたもんじゃねえ…クソッタレ…」

「無理はしないでください、そこまでして煙草にこだわらなくても…」

「馬鹿野郎…俺の演じる探偵は原作から煙草がトレードマークなんだッ!

映像化を待ち望むファンの気持ちに、完璧に応えてやらなきゃあ、役者失格ってもん…ゲホッエッホッゲェ!

…すまん、ちょっと外の空気を吸ってくる」

「これは煙草をプロットから外すのも考えなきゃな…」

ーーーーー

「待たせた…外の空気を吸って大分楽になったぜ。
…色々考えたが、

やっぱり煙草はやめられん!!!

紫煙くゆらすハードボイルドな探偵を。煙のゆらめきで密室のトリックを見破ったあの名シーンを!ファンは望んでるんだ!

血反吐吐いてでもやりきってやらあッ!!
…長丁場になるかもしらんが、皆、よろしく頼むぜ」

「ウオオオオ!それでこそカメオさんだ!!」

【解説】
役者の男は、煙草がトレードマークの探偵を演じたが男は煙草をうまく吸うことができず苛立っていた。
煙にむせてたまらず外に飛び出した男だったが、
ファンを想い、原作を忠実に再現することを第一に考えた男は煙草を吸うことを決意。

外の空気を吸ってリフレッシュした彼は、煙草の演技を続けることを宣言した。

その役者根性に仕事仲間が心打たれたのは言うまでもない。


余談だが、男が吸っていたのはラッキーストライク。根性の甲斐あってか、映画も未曾有のラッキーストライクだったという。
ああとがよろしいようで。

良質:18票トリック:16票物語:4票
タクシー会社の「水平タクシー社」に勤める運転手たちの間では、最近「{幽霊が出るらしい}」と専らの噂である。

その幽霊は若い女性の霊で、大雨が降っている夜にのみ出没し、「水平タクシー社」のタクシーを停車させる。女性はどことなく暗い雰囲気を纏っており、目的地に関する会話以外は何も話そうとせず、話し掛けても全く反応しない。そして目的地に到着して女性の方を確認すると、まだ料金を支払っていないのに、いつの間にか女性は座席から忽然と姿を消している。もちろん、タクシーのドアや窓が開けられた形跡はない。そして女性が座っていたはずの座席をよく見てみると、まるでそこだけ雨が降っていたかのようにずぶ濡れになっているのであった…。
上記の現象により人が亡くなったりといった深刻な被害こそないようだが、単純に売上が減るので「水平タクシー社」の運転手たちはこの幽霊を迷惑に感じていた。

カメオは「水平タクシー社」に勤めるタクシー運転手であり、今日も業務を行っている。今日の天気は大雨で時刻も22時を回ったところであり、カメオはタクシーを走らせながら「件の幽霊が出るかもしれないな」と身構えていた。するとカメオは、前方で若い女性が手を挙げていることに気付いたため、タクシーを停めて乗車させた。女性はどことなく暗い雰囲気を纏っており、簡潔に目的地をカメオに伝えると俯いて口を閉ざしてしまった。
{この時カメオは、目的地に向かってタクシーを走らせながら心の中で「これでよし」と喜んでいる}のだが、それは一体なぜだろうか。
21年01月04日 20:18
【ウミガメのスープ】 [ブラダマンテ]



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【タクシー運転手の幽霊より先に利用客を確保することが出来たから】

「水平タクシー社」に勤める運転手たちの間では、最近「{かつて「水平タクシー社」に勤めていた女性の幽霊が、タクシーに客を乗せて送迎を行っている}」と専らの噂である。

その女性は昔からタクシーの運転手になるのが夢だったらしく、約3年前に「水平タクシー社」に就職してから、毎日楽しそうにタクシーを運転していたのだそうだ。ところが半年前に大雨の降った日の夜のこと、女性は利用客をタクシーで家まで送迎した後、そこからタクシーの停留所に戻るまでの間にスリップにより電柱に激突するという自損事故を起こし、そのまま亡くなってしまった。事故によりフロントガラスは割れ、そこから雨が入り込んできており、女性の身体や運転席はずぶ濡れになっていたのだという。

しかし女性はまるで自分が死んだことに気付いていないかのように、事故の時のような大雨の日の夜に今でもタクシーを運転しているらしい。生前のように「水平タクシー社」のタクシーを運転し、{タクシーを待つ利用客の前に停車させる}(特に問題文と比較していただきたい部分なので赤字)。幽霊だからかどことなく暗い雰囲気を纏った女性は、利用客に「…どちらまで?」と問い掛ける以外には押し黙ったままであり、利用客が話し掛けても全く反応しない。利用客は多少不審に思うものの、大雨の中でタクシーを捕まえたことへの安心感が勝り、静かに目的地に到着するのを待つ。しかし目的地に到着して利用客が料金を支払おうとしたところで、なんと運転手の女性がいつの間にか運転席から忽然と姿を消していることに気付くのである。一体どうやって運転していたというのだろうか?さらに車内をよく見てみると、さっきまでは普通のタクシーのように見えていたのだが、今はまるで事故にでも遭ったかのように前方のフロントガラスは割れ、ボンネットは凹み、そして女性がいたはずの運転席には、そこだけ雨が降っていたかのようにやけにずぶ濡れになっているのである。怖くなった利用客は料金を支払うことも忘れてタクシーを逃げるように降りて自宅に引きこもり、その間にいつの間にかタクシーも何処かへ消えてしまうのだという…。

「水平タクシー社」は、数名の利用客から苦情?のような電話があったことでこの幽霊の存在を知った。一応この女性はあくまでタクシー運転手の幽霊であり客の送迎はきっちりと行っているようで、客が死亡するなどの深刻な被害の報告は今のところない。しかし「水平タクシー社」の運転手からしてみればこの「幽霊タクシー」に客を奪われている訳なので、その分の売上が落ちいい迷惑である。そこで{「水平タクシー社」の運転手たちは、大雨の降る夜は「幽霊タクシーにお客さんを奪われてなるものか」と躍起になって客を乗せる}のだという。そのためカメオも、幽霊タクシーより先に女性を自分のタクシーに乗せることが出来て「これでよし、売上を確保したぞ」と心の中で喜んでいたのだった。
…なんか雰囲気も暗いし口数も少ないお客さんだけど、まま、えやろ。


カメオ「お客さん、言われたところ着きましたよ。…あれ?ここ、確か墓地の近くですよね?お客さん、まさか今からお墓参りなんて…お客さん?え、そんな…何処へ、行ったんだ…?…あ、座席が、濡れてる…?……う、うわああああああああ!!」
良質:21票トリック:2票物語:12票納得感:3票
――百年生きた猫は尻尾が二又に分かれ猫又となる。

そんな猫又伝説を含め様々な妖怪の伝説が残る港町、亀江村。


あなたには、手がかりから亀江村で起こった死体損壊・遺棄事件の謎を考察して欲しい。


事件概要:
1946年9月、女性の腰から上の部分のみが発見された。被害者の身元は不明であったが、容姿から20代と推定された。
警察は殺人事件として捜査したが、必死の捜索も虚しく被害者の残りの体の行方は杳として知れない……。

手がかり:
・{猫又伝説}の噂が最近再び囁かれている。
・死因はナイフによる出血性ショック死と見られる。
・死体はノコギリで切断されている。
・{犯人は生きている。}

TIPS:
・一般的に{カニバリズム}は忌避される傾向にある。

事件の謎:
・なぜ事件の犯人は死体を切断したのか。
・死体の残りの体の行方はどこか。
22年04月29日 21:00
【ウミガメのスープ】 [春雨]

一部要知識




解説を見る
簡易解説:
この地に伝わる様々な妖怪伝説のうちの一つである「人魚伝説」。被害者は人魚であり人魚の血肉を喰らうことで不老不死になろうとした犯人だったが、人間部分を食すのには抵抗があり、上半身と下半身に切り分けた。魚部分を食した犯人は無事不老不死となり、今も生き続けている……。なお一部魚の骨と肉を近所の野良猫が食べ、スーパーネコチャンが誕生したとかしていないとか……。

・なぜ事件の犯人は死体を切断したのか。 →人魚の人間部分を食すのに抵抗が有ったため。
・死体の残りの体の行方はどこか。 →犯人及び猫又疑いのある野良猫の腹の中。



解説:
やあ。俺は猫だよ。名前はまだない、なんちって。
よくバケネコとかネコマタとか呼ばれてるんだ。

まあ俺の事は良いのさ。
昔のご主人の話だよ。

ご主人って言っても俺は野良だから、よくエサをくれる人間の一人ってだけだったんだけどね。
まあ彼はさ、初めて会った時……もう何十年も前だなあ……虚ろな目をして夜道を彷徨ってたんだ。
近づくと「何故人は死ぬんだろうか」なんて呟きながらシシャモをくれたんだ。

兎にも角にも彼は死を恐れ、生に執着していたみたいだ。何があったかは知らないけどね。

近所に住んでるみたいでさ、エサをくれては「猫は良いよな」って語り掛けてくるんだ。
猫も大変だぜ? ってにゃーって返すと諦めたように笑ったんだ。


でも実際は諦めてなかったみたいでさ。


怪しげな東洋医学の本やら西洋のオカルティックな魔術書なんかを読み漁ってはああでもないこうでもないって唸っては狂ったようにペンを走らせてさ。
宗教・哲学・文化人類学、そして……「民俗学」に辿り着いた。
何がそこまでハマったのか分からないけどさ。故郷の伝承に運命でも感じたのかな。

まあ、あれだ、要するにさ。「人魚」って奴にお熱になった訳だよ。

知ってるかい? 人魚の血肉を喰らうと不老不死になれるんだとさ。
他のオカルトと何が違うのか俺には分からなかったが、彼は死に場所を求めてるんじゃないか、と直観的に思ったほど末期的に見えたね。

そうして俺に言ったのさ。

「人魚に会う為の方法を知っているか? まず海の底へ行くんだ。そこに留まって彼女の為なら死んでも良い覚悟を見せるんだ! 彼女への愛が確かめられるんだ!」

――精神異常者の入水自殺だ。

痩せこけながら目を輝かせる、そんな彼を止める術を俺は持たなかった。
諦めたものは仕方がない。ただ少しだけ、もうエサがもらえない事だけが悲しかったのさ。


ところでお前さんは愛って何だと思う?
愛って、つまるところ、執着なんだってさ。
そういった意味ではそう、彼は、ご主人は人魚を心の底から愛していたんだ。
何が言いたいかって言うと、まあ、会えたらしいね。うん。人魚。


でも人魚もさぞ驚いただろうね。
自分を心から愛する男が海の底に現れたかと思えばさ。

そいつに殺されちゃうなんてね。



一刻も早く「それ」を喰らいたい彼はまず血を啜ったみたいだ。
するとどうだろう。みるみる生気を取り戻した彼は、嘔吐したね。

狂気と正気の狭間に居たみたいだ。
でもやっちゃったものは仕方ないからね。食べようって話になるんだけどさ。
取り戻した僅かな正気がさ、「魚」を食べようって言うわけだよね。


「これが最後だ」って言ってさ。俺にも「魚」をくれたんだ。
そんなものは要らんってにゃーって返すと困ったように笑ったんだ。

それが俺が見たご主人の最後さ。
今もどこかで……元気にやってるんじゃないかな。きっとね。



????:
皆様ご参加ありがとうございました。春雨と申します。以後お見知りおきを。ところで私の故郷である新潟県上越市には猫又伝説と人魚伝説が残っているそうです。私の年齢ですか? ……もう、忘れてしまいました。おしゃべりが過ぎましたね。それでは、ごきげんよう。
HAPPY DEATH DAY DEAR「38Good」
良質:21票トリック:5票物語:11票納得感:1票
家族に心が病んでいるのではと心配されている田中は精神病院に通っている。

しかし田中本人は自分が病気だとは思っていない。

病気じゃないと思いながらも田中が病院に通う理由。

それは大好きな看護師さんに会う為である。

しかしある日突然彼女はあの世に行ってしまった。

彼女の死因は自殺。

院長の執拗なるハラスメントを苦にして自らの命を絶ったのだった。

もう二度と彼女とは会えなくなってしまった。

田中は涙を流して喜んだ。

一体なぜ?
22年09月20日 23:51
【ウミガメのスープ】 [ダニー]



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短い解説
自殺して幽霊となった大好きな彼女に会うために廃病院に通っていた田中。
幾度の田中との逢瀬でこの世の未練が消え去り、成仏できた彼女。
田中の前でさよならを告げて突然あの世に行ってしまった。
田中は悲しみの涙を流しながらも、彼女が現世での苦しみから解放されたことを喜んだのであった。


長い解説
「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」

それ以降更新が止まってしまった沢渡からのLINEを見つめる田中。

沢渡若菜は自殺した。

勤め先の精神病院、その院長からの執拗なハラスメントに耐えられず、自らの命を絶った。

フリーのジャーナリストとして活動している田中が、沢渡からの相談を受けて、院長のハラスメントの実態を記事にし告発する準備をしている最中のことだった。

中学生の時に1年間だけ付き合っていた沢渡からLINEが届いたのは2年前。
「まだ電話番号変わってないんだね」
そんな突然のメッセージから二人のやりとりが始まり、割と頻繁に連絡を取り合っていた。
上京して活動している田中と地元に就職した沢渡。
距離を言い訳にして二人は2年間一度も会うことはなかった。
今の関係性がとても心地良い。
会ってしまえばそれが変わってしまうのではないか、と二人ともうっすらと感じており、それをなんとなくおそれていたのだった。

しかし沢渡自殺の報を受けて田中は彼女に会いに行かなかったことを激しく後悔した。
もし会って話していれば、もし自分と彼女の関係性が変わっていれば、彼女は死ぬことはなかったかもしれない、と。

「田中、今までありがとう。そしてごめんなさい」

一日一回は時の止まってしまったLINEを見つめる。
そのたび押し寄せる慚愧の念に押し潰されそうになるが、田中はその習慣をやめなかった。
そして田中は彼女のことを誰にも相談しなかった。
誰かに話してしまうと自分の罪が水に落としたインクのように薄くなってしまう気がしたからだ。

田中なりの不器用なやり方で彼女の死と向き合い続けて、さらに2年が経った頃、田中の耳にある噂が入る。

「地元にある閉院となった精神病院に幽霊がでる」

地元の友人との酒の席で聞いた話は田中の耳から離れなくなってしまった。

彼女が勤めていた精神病院は田中が告発するまでもなく、彼女の自殺を発端に院長へのバッシングが集まり、閉院にまで追い込まれた。
今は廃病院となってしまったそこに幽霊が出るというのだ。

居ても立っても居られなくなってしまった田中は久しぶりに帰郷することにした。

実家に戻り、両親には事情は一切説明せず、ある程度の準備を整えて田中は夜中にその病院に忍び込んだ。

当たり前だが門扉には鍵が掛かっており、侵入できる場所は一階の割れた窓からのみだった。

真夏の深夜、日が落ちても蒸し暑い気温でうっすらと汗をかくぐらいなのだが、病院の中はなぜか少し肌寒い。

田中はホラー系が苦手で、本来なら「幽霊が出る廃病院」など絶対に入ることなどできないのだが「沢渡に会える一縷の望み」のせいなのか、今の田中には全く恐怖心がなかった。

彼女はロッカールームで首を吊って自殺したという情報を得ていた田中は、そのロッカールームへと足を進めた。

そしてそのロッカールーム前。

中から女性の啜り泣く声が聞こえてくる。

田中は全く恐れもせずその扉を開いた。



いる。

全く光が差さない室内なのにそれだけはくっきりと視認することができる。

それは、紛れもなく、沢渡若菜だった。

さて会えるという希望を持ちながら、どこかでそれを信じていなかった田中は目の前の現実にどう対応してよいのか大層戸惑った。

そんな田中の存在に気づいた彼女。

「誰?」

沢渡の声だった。
以前に酔っ払って何度か電話をかけたことがある。
その時の声とまったく変わっていない。

その声で今までの戸惑いが消え、心がスッと落ち着いた。

「俺だ、田中だ。覚えているか?」
彼女の問いにそう応じた。

「誰? わからない」
「わからないわからないわからないワカラナイワカラナイ!」

突然彼女が叫び出した。
ロッカールームがガタガタと揺れ出す。

「落ち着け沢渡! 俺だ!同じ中学だった田中!」
「ワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ!」

彼女の叫び声とシンクロするように揺れだしたロッカールーム。
その叫び声を聞きながら田中の意識は徐々に遠のいていき、そして気を失った。

目を覚ましたのは早朝。病院の前だった。
急いでロッカールームへと向かったが、あれほど揺れていたのにその形跡は全くなく、そして彼女もいなくなっていた。

その日から毎夜病院に忍び込むようになった田中。
彼女はいつもあの場所に居た。
しかし何度アプローチしても、最初の出会いと同じく、彼女に自分のことを認識してもらうことができず、毎回病院の前で朝を迎えることになった。

そんな田中を家族は訝しんだ。
弟に尾行され、深夜廃病院に忍び込む様子を目撃されてからは「心が病んでしまったのか?」と疑われる始末。

田中はそれでも家族に事情を話そうとはしなかった。

そんなある日。
田中は自室で懐かしいものを見つけた。

沢渡と付き合っていた中学3年の時。
インフルエンザになった田中を看病しに来てくれた彼女に、病気をうつしてはいけないと部屋に入ることを拒んだことがあった。

彼女は一旦自分の家に戻り、そして糸電話を作って持ってきたのだった。

それを見て、そこまでするかと笑ってしまった田中に彼女はむくれてしまう。
そんな彼女を宥めるのに糸電話を使って謝り倒すと、彼女もゲラゲラと笑い出した。
そして親に怒られるまで彼女とたわいもない会話をしたのだった。

紙コップで作られた簡素な糸電話。
自分はこれを大事にしまっていたんだな。

「よし!」
今度こそ沢渡にわかってもらえる気がする。
確信めいたものを感じ、田中は廃病院のロッカールームへと向かった。


「誰?」
最初の出会いと変わらない彼女の問い。

田中はそれには応じ返さず、そっと彼女の近くに糸電話の片割れを置いた。
そしてもう片方を持ち、ロッカールームから出て彼女が見えない位置にまできた田中は、その糸電話で彼女に語りかけた。
もちろん糸が垂れ下がった状態では声が届くわけはない。
それでも田中は、自分のことや中学の時の思い出などをひとり語りした。

そして気がついたら、いつのまにか垂れ下がっていた糸が彼女に向かってピンと伸びていた。

「田中?」
「ああ俺だ。田中。思い出したか?」
「インフルエンザ、辛くない?」
「いつの話をしてんだよ」
「田中」
「そう、田中だ」
「田中、ごめんね。ごめんなさい」

彼女の謝罪の言葉を聞いた田中はついに涙腺に溜まっていたものを堪えきれなくなってしまった。

「ご、ごめんって何に、だよ。あ、謝んのは俺だ。本当は、本当はずっと会いに行きたかった。で、でもなんか怖くて。盛り上がってんのは自分だけなんじゃないのかな、とか。なに会いにきてんだこいつって思われたりしないかな、とか、さ。本当は辛い目にあっている沢渡にあって直接話を聞きたかったんだ。い、いや、俺が沢渡を慰められるって自信があった訳じゃ、ないん、だけど」
「落ち着け田中」
「・・・はい」
「私もたぶん田中と同じ気持ちだった」
「同じ気持ちって・・・俺を好きだったってこと?」
「ち、違っ!・・・いや違わないか。なんか変にカッコつけて会わないようにしてた。うん。きっとそれは田中のことが好きだったから。会って失望されたり、それで今の関係が壊れたりするのが怖かった」
「一緒、だったのかあ」
「一緒だったのね」
「・・・」
「田中」
「ん?」
「こっちにきてよ。幽霊になっちゃったけど、私に会いにきてよ」
「うん」

今まで真っ暗だったロッカールーム。
今は眩しいくらいに月明かりが差し込んでいる。
その中に佇む彼女。
とても幻想的で、そしてとても美しかった。

その美しさに呆けている田中に彼女は話しだす。

「私、ずっと溺れていたの」
「溺れる?」
「実際に溺れていたわけじゃないんだけど、溺れて息ができない苦しみみたいなのがずっと続いていたの」
「・・・」
「今はとても気持ちがいい。これって田中のおかげなんだね」
「うん、恩着せがましいけど、たぶん俺のおかげ」
「田中」
「ん?」
「たぶんもうお別れだ」
「そ、か」
「会えてよかった」
「俺もだ」
「好きだよ田中」
「俺も・・・グスッ、だ」
「さよなら」
「ざよ、な"ら」

そして月の明かりの中で彼女の輪郭がどんどんと曖昧になり。

彼女は消えた。


やっと会えたのにもう二度と会えなくなってしまった。

でも。

彼女を救うことができた。

俺だからできたんだ。

田中は涙と鼻水まみれの顔で月を見上げて、ガッツポーズを取った。

「さよなら沢渡。また何十年か後に会おうな」