みんなのGood

良質:18票トリック:1票物語:10票納得感:3票
『20代後半になってからの私といえば、人生に絶望してばかりだった。

借金、不安定、何より、孤独。こんな生活を続けていくなんてとても耐えられない。ついこの間まで輝かしい大学生活を送っていた日々すら、懐かしく思い起こしてしまう。

死んでもいい。死にたい。毒薬片手に物騒にも考えつつ、幾度も死にきれなかった。私は心が弱い。死の世界へ旅立つのは、辛い生活よりも怖いことだった。生きているだけ、まだマシに思えた。

そんな私に、やっと光が訪れた。

ここのところ、資力を尽くして探していたものがついに見つかったのである。ずっと欲しかったものを手に入れて幸甚に打ち震える私は、{今まで飲む気が起きなかった毒薬をついに飲んだのだった。}』


文中の「もの」の概要を特定しつつ、「私」が飲んだ毒薬が{遅効性}だった理由を当ててください。

——————

この問題は100問出題を記念したBS問題です。

出題後30分が経過・または正解が出た時点から、何でもOKな1時間の質問タイム「BSタイム」に移行します。

BSタイム終了後は、何事もなかったかのように問題を解決する作業に戻ってください。

れーっつ、スタート〜!!
23年11月03日 21:00
【ウミガメのスープ】 [さなめ。]

かけがえのない、第100問




解説を見る
要約:
「私」は本当は20歳の大学生・美里。あるとき、20代後半の女性・理沙子に{身体を入れ替えられてしまっていた}。
そこで元の身体に戻るため、理沙子に使われたのであろう{人と入れ替わることができるアイテム}をずっと探し求めていた。
それを見つけると、それを用いて{元に戻ったあとに理沙子が理沙子の体内の毒で死に至る}ことを望んで、あらかじめ理沙子の身体で{遅効性}の毒薬を飲んだのである。

遅効性だった理由は、時間差がないと即座に{自分が死んでしまう}から。
そもそも毒薬を飲んだ、即ち理沙子を死に追いやった理由は、身体を奪われた怨恨による復讐や、元に戻った自分に理沙子からの危難が再び及ぶことのないようにすることなど。

——————

{※}解説の前に、良ければ以下の二作を読んでいただけると嬉しいです(この問題の解説にそのネタバレがあります)。
『人と入れ替わることができる口紅(理沙子・美里)』
https://late-late.jp/mondai/show/18298
https://late-late.jp/mondai/show/18299
この問題の前日譚(あるいは、この問題が後日譚)。どちらもジシン作です。

(もちろん、お読み頂かなくても楽しめる問題になっています。)
(そして長いです。ご了承ください。)


解説:

薄明かりの中、ゆっくりと目を覚ます。今は一体何時だろう。すっかり昼夜は逆転して、夢と現との区別はつかなくなっていた。

霞んだ視界に、挙げた手を映す。失望によって程なく墜落した手は、そのまま枕にかかる髪に触れる。目覚めの勢いに、思わず呻くような声が出た。

爪の形。乱れた髪の硬さ。少し低めの声。何もかも、未だに「他人のもの」だと認識できる。それだけは少し、安心できた。

朝起きたら元に戻っているなんて都合の良い空想を抱いたのは、これで何度目か。今度は小さく、しかしはっきりと「私は、有坂 美里。」と呟いた。それは蓮見 理沙子の声だった。


『{蓮見 理沙子と身体が入れ替わり、}20代後半{の女性・理沙子}になってからの私といえば、人生に絶望してばかりだった。

{理沙子の作った}借金、{日を凌ぐために自分で探したアルバイトで生きる}不安定、何より、{誰も私のことを美里だと気づいてくれない}孤独。こんな生活を{バトンタッチして}続けていくなんてとても耐えられない。ついこの間{、そう、ほんの4ヶ月前}まで{正真正銘の美里として}輝かしい大学生活を送っていた日々すら、懐かしく思い起こしてしまう。

死んでもいい。死にたい。毒薬片手に物騒にも考えつつ、幾度も死にきれなかった。私は心が弱い。死の世界へ旅立つのは、辛い生活よりも怖いことだった。{自分の身体でなくても、自分の人生でなくても、理沙子として}生きているだけ、まだマシに思えた。』

——————

ある時、私の大学に変質者が現れた。自分のことを「私は有坂 美里だ」と言うおかしな女性。後から知ったことだが、「その人」は私のサークルの先輩らしい。
噂を聞いた私は、漠然とした恐怖に襲われながらも、友達の支えあって穏やかに日々を過ごした。変質者といっても、ストーカーじみた被害に遭った訳でもない。たまたま私の名前を知っただけなんだろう、と甘く考えていた。今では激しく、後悔している。

その女性こそ、理沙子だった。
私はそんな騒動から二週間。帰り道に理沙子に殴られて気絶した。それはあまりに突然のことで、私が「自分を失った」瞬間だった。
私は、その日から「蓮見 理沙子になって」しまった。

大学に行っても誰にも信じてもらえない。サークルの友達どころか、もっと仲の良い親友にも。果ては、私を産み育ててくれた親にだって。私が美里だってこと。

絶望的な孤独の中。何が起こったのか、極彩の内のようにわからなかった中。私は逮捕された。
私は、「美里を殴った」罪で連行された。

幸い、「相手」の怪我の程度が軽く、淡々と対応したこともあって、少し長めの勾留のみで放たれた。
しかしその勾留期間は、私の魂の奥底を憔悴させ、今の立場を体感するのには過剰で残酷な時の流れだった。

私は何度も、「蓮見」と呼ばれた。「有坂」という苗字は、出席番号が早くてすぐに名前を呼ばれていた。小学校の頃は、出席の返事を元気いっぱいにするのが大好きで、早くに呼ばれるその苗字が好きだった。中高の頃は、好きな漫画のキャラクター「アリス」に名前が似ているなんてくだらないことに、小さくも確かな喜びを感じていた。大学になったら、いつか訪れるこの苗字とのお別れの日を、寂しくも楽しみに空想した。

警察組織の人と話すときは、少し低めの声で呟くように話すようになった。小学校の頃、私は元気な声をよく先生に褒めてもらっていた。中学、そして高校でも入部した放送部では、先輩に綺麗な声だねって褒められたことはいつまで経っても忘れられなかった。大学では声変わりした男の子の低い声を羨むこともあったけど、自分の声は好きだった。

他にもたくさん。自分のものでない身体。謂れのない経歴・罪。これからのこと。こんなことになった原因。いくら心が大声で叫んでも、それに答える由縁はどこにもなかった。
やがて拘置所を出て、訳のわからぬままアルバイトを始めた。「美里」だった時もやっていた、カフェのバイト。「理沙子」の身分やお金の在処なんて知らないから、それも自分で探るしかなかった。そうして毎日毎日手探りで、自分でない人の人生を生きていく日々を過ごした。

SNSも、やる気力が起きなかった。当然ながら、私は理沙子の身体でも美里のアカウントにログインできる。入れ替わってすぐは、そんなところに孤独のしまいどころを見たりもした。私は確かに、有坂 美里なんだって。幻覚でも思い込みでも、二重人格でもないんだって。でも、もうそれもやめた。残酷な現実との乖離が苦しくなって、ログアウトで止まっている。インターネットの向こう側にしか見られない私のリアルな親友は、どんな関係性の人間よりも遠くに感じられた。

こんな空想もした。私の立場になった理沙子が何かおかしなことをして、大学のみんなが、家族が、それを疑う。それで最後の最後に私の親友が、あなたは美里じゃないって暴いてくれる。その瞬間、この悪夢が晴れやかな空のように綺麗にいなくなる、なんてハッピーエンド。
そのハッピーエンドの行方は知れない。私は拘置所で耳にした。怪我の程度が軽いといっても、降り積もった精神的なショックで「被害者の美里さんが記憶障害になった」というのは見過ごせない。私は錆び切った心で漠然と理解した。理沙子は記憶喪失のふりをして、私に成りすましている。身体が入れ替わったのは、理沙子の計画のうちだったんだ、と。

その日から、諦めにも似た全ての感情に一滴、怒りが混じっていった。私という人格は、彼女に奪われてしまった。私が私であるために一番大事な、いや、そんな言葉を使うまでもなく、尊厳の大前提にある唯一のものを、私は彼女に奪われたのである。それをどうにもすることができない悔しさが、泡沫のように現れては消え、現れては消えた。

消えた怒りは、たちまち途方に暮れる方へと私を誘う。私はこれから、どう生きれば良いんだろう。積み上げてきた積み木を崩され、粗悪な木片をもらったような。読んでいた本のページの先を破られ、適当な別作品をツギハギしたかのような。そんな状態で、私は何をすれば良いのか。ほとんど何もしないままの生活に湧いたのは、死への渇望だった。

私は毒薬を手に入れた。しかし、それを飲む勇気はなかった。誰にも知られず死ぬのが怖かった。手に入れた毒が遅効性であるというのも、情けないなけなしの絶望を彫って形にした虚仮だった。


そんな日々を続けながらも、一つだけ諦めなかったことがある。一縷よりも僅かな可能性で、それぞ至る希望には見出していなかったが、元に戻る方法についてだ。それだけは、何より必死に調べた。

理沙子があの日、私を殴った後。彼女は確かに、何か決定的な方法を用いて計画的に私と入れ替わったんだ。その前に私の名前を大学中で叫んでいたあの変質行為も、今思えばその準備だったんだと思う。そんな非現実的なアイテムがあるのか、幾度となく疑いの念に攫われたが、己という最も確かな証左を頼りに、砂を掴むような探究を行なっていた。

それがついに、実った。

巷に溢れていたらしい、『人と入れ替わることができる口紅』の都市伝説。

曰く、『人と入れ替わることができる口紅』は、使用者が自身の唇に付着させた上で任意の相手とキスをすると、その相手と身体を入れ替えられるというもの。

ついに私は、そんな口紅を手に入れたのだった。

——————

スマホのカメラを起動する。理沙子のスマホといえど指紋認証で起動できるという不可思議さは、今更気にかけることではなかった。録画モードのボタンを押すと、内カメに「私」が映った。
切れ長な瞳に収まる、私の心。少し大きめの口元も、なで気味の肩も、サラサラと流れない硬い髪も、全ては鏡に映る他人。今まで、よく耐えてきたと自分で思う。4ヶ月もの間、こんな光景を見続けてもなお心が音を立てて崩れることはなかった。小さい頃から持っていたなけなしのガッツは、母親譲りだった。

私はカメラに向けて、ラベルをまじまじと見せる。そして「今まで、ありがとう」と淡々と呟くと、毒薬を少し残して飲み干した。
これで、リミットはあと1時間足らず。

カメラを止めて少しして、インターホンが鳴り響く。彼女が来ていたことは。アパートの窓から見えていた。彼女にとっては「久々の帰宅」だろう。

私はゆっくりとドアを開けた。その先には、「私がいた」。

改めて近くで見ると、思わず息がむせ返るような、心臓が爆発するかのような、そんな感覚があった。久々に見た私の顔は、4ヶ月前と何ら変わっていなかった。

口紅を手に入れてから、私は「美里」の電話に連絡をした。自分の悲痛な現状を伝え、せめて一度だけでも会ってほしいと言った。これも一縷の望みに賭けていたことだが、理沙子は不用意にもこれに応じてくれた。

「…で、話って何ですか。『{理沙子さん}』。」

放送部の先輩に、カラオケに行った友達に、大好きな親友に、褒められてきた声が響いた。その不機嫌そうな発言を聞いて、私の迷いは消え去った。

私はそれまで少しだけ、迷っていた。本当に毒薬を飲んで良いのか。飲んで良かったのか。

私はこれから、毒を飲んだ身体を捨てて元に戻る。{私は自分を亡き者にするためではなく、理沙子を消滅させるために}毒薬を飲んだ。遅効性の毒を飲んだまま理沙子と入れ替わって、元に戻った理沙子はそのまま息を引き取るということだ。

毒薬を飲んだ理由はいくつかあった。もちろん、{理沙子への怨恨}がその一つ。私はどうしても許せなかった。私が私であることの根っこの部分を、万引きのような、強盗のような信念で奪った理沙子のこと。私の人格をこうも弄んだ理沙子のこと。「人を盗んだ」理沙子のことが、許せるはずがなかった。
それに、私は怖かった。元に戻れたとして、理沙子がもしこの口紅を未だどこかに隠し持っていたとしたら。その所有は「私に移る」ことにはなるが、再び終わらない危難が続くことを恐れ、理沙子の存在を消滅させておきたかった。{また身体が奪われるのが嫌}だった。

でも、大きな理由はきっと、そんなんじゃない。

私は、清算がしたかったんだと思う。この4ヶ月の気が狂いそうな生活の数々を、終わらせたかったんだと思う。
もし私がこのまま元の身体に戻れたとしても、今の「私」はずっと続いていく。私の絶望に満ちていた人生の一部の時が、私の預かり知らない、知りたくもないところでずっと続いていく。そんな「理沙子」という得体の知れない存在に、私は嫌悪感を覚えた。そんな現状を自分で変えることができるのなら、何をしてでも変えたかった。それは多分、自分が「死にたい」と思う感情と大して変わりはない。ただこの4ヶ月間だけの歪な「自分」に対して、死にたいと思ったというだけ。

それに、手に入れた口紅がうまく働く保証はどこにもない。こんなファンタジーのアイテムを試用もせず使うなんて、私はどこかおかしいと思う。
もし口紅が機能しなくて私が理沙子のまま死んでも、それで良い。私が過ごした4ヶ月がなくなるのなら、そしてもう元の自分に戻れないことが確かになった後に死ぬなら、それで良い。とにかく、まるでサブアカウントを消すみたいに「理沙子」を消せるなら、何でも良かったんだと思う。

目の前の、一番見慣れた外見、一番憎い魂。全てを元に戻す口付けを。

私は理沙子にかわされるより前に早く。

しかし、ゆっくりと。

交わしていく。

——————

電車に揺られる私が読んでいたのは、過去の授業のレジュメ。

この4ヶ月。あまり忙しくない2年生だから、何とか追いつけはしそうだと思う。「私が取ったノート」はないから、今度友達に見せてもらおう。


あれから、願う通りに私は元の私に戻れた。口付けを交わした途端に理沙子は、毒薬とは別に飲んでいた睡眠薬で眠ってしまい、おそらくそのまま、消えた。

もし、将来に口紅の存在が科学的に証明されたら、私は殺人の罪に問われるのだろうか。自殺はそれ自体が重い罪だと、刑法学の先生が言っていた気がする。

それでも確かに、私は「理沙子を」「私を」消したはずだった。それは私が今ここにいることに判る、確かなことだった。

少し四角い自分の爪。大学生になってから思い切って少しだけ明るい色に染めた、手入れもちゃんとしてある髪。レジュメを映すタブレットの電源を落とすと、自分の大きくて丸っこい瞳と小さめの口が反射する。


私は、元の私に戻った。戻ったはずなのに。

渦巻く心の霧は晴れなかった。それは毒薬を飲んだ罪悪感なんかでは、決して片付けられないこと。

4ヶ月の間に溜まったノート。これは、「理沙子」が書いたもの。字は、案外私と少し似ている。
スマホに残るLINEの履歴。親友の早苗との会話も記録が残っている。どうやら体調を心配されていたみたいだ。
財布の中には、つい一週間前のレシート。大学の学食で、私の好きなきのこ炒めを食べたらしい。

「私の」4ヶ月の時間は、無くなっていたわけでも、消せたわけでもなかった。

私の4ヶ月は、「私」が確かに動かしていた。過ごしていた。

だからこの4ヶ月は、私の中では孤独の記憶として一生残っていくことになるんだと思う。
例えば、友達から2ヶ月前の会話の内容を出されたら。「そういえば美里、この前〇〇って言ってなかった?」その責は、私ではない。
例えば、最近の日常を聞かれたら。「美里ちゃん、最近なんか面白いことあった?」あのとき絶望の渦にあったのは、「私」ではない。

その期間「私」が完全な他人の人格にあった事実は、もう変えようのないことなんだ。
魚を食べて刺さった小骨のような。清水に混じる一滴の泥水のような。言いようのない小さなズレ。
なのに、それを誰かに説明なんてできない。「その期間私は入れ替わっていた」なんて、言えるわけがない。誰にも共有できない孤独が、そこにはあった。

全てが戻って、完璧なハッピーエンドになんて、なることはない。
私が感じた極彩の絶望は、一滴を心に残したまま。


電車を降りると、改札外で後ろから肩を叩かれた。

「よ〜っ。美里。」

そこにいたのは、親友の早苗。高校も大学も同じの、気を許せる女の子。

「えっと、おはよう。」

久しぶり、という言葉を飲み込んで、私は自分の声で返事した。すると、彼女は二の句を告げた。

「なんか、今日は元気そうだね。良かった良かった。」
「え、元気、かなあ?」
「う〜ん、なんか{通常運転の美里}って感じ。」







「ふ〜ん。」





「…ねえ、早苗。」
「何?」
「今日さ、授業終わったらカフェ行かない?それか、カラオケでも本屋さんでも、サークルでも何でも。」
「良いよん。三ヶ谷にできたカフェとかどうよ。」
「うん、じゃあそうしよう。」








「え、ちょっとなになに!急にくっついてきて。」
「…。ごめん。ちょっと。」




私の大きくて丸っこい瞳から一滴だけ、流れた小さな雨。
それは、嬉しさの涙か。切なさの涙か。

いずれにしたって、今日くらいは、一秒でも多く、早苗を、親しい誰かを、近くに感じていたかった。
冗談めかして私を振り払おうとする彼女に、私はほんの少しだけぎこちなく、しかし晴れやかに笑いかけた。


[{B}itter end {S}tory] 万代不易のさだめ。

終わり。

——————

BSにご参加下さったみなさん、あるいは後から見てくださっているみなさん、本当にありがとうございました!
2019年に始めた当初は、100問なんて私みたいなちんちくりんには出せるはずがない、と10問でも記念とか喜んでいた記憶があります。あの頃の私がこのタイトルを見たら、マジかってびっくりすると思います。
それから4年と少しですが、こうして無事100問の出題に至ることができました。企画やリメイクを抜いても、100問は出していると思います。
ここまで来れたのも、解いてくださる皆さん・ご評価をくださる皆さん・すなわち私と関わってくださった皆さんのおかげです。
いつも本当にありがとうございます。
その感謝を少しでも示すように、これからも皆さんの心に刺さる一問を目指して、精進いたします。
これからもよろしくしていただければ幸いです。
それでは改めて、本日は本当にありがとうございました。

さなめ。(みさこ)
良質:6票トリック:6票物語:14票納得感:5票
ラテラ王国の王子であるレオンは、生まれたときから箱入り息子として甘やかされてきた。
そんな王子が10歳になり、隣国ボーノの王宮を初めて訪れたときのこと。

ボーノにはダジャカルデという名物料理があり、シェフたちはこの料理で王子をもてなそうとしていた。

しかし王子は「おいしくなさそうだからいらない」と言って口をつけようとしない。

それを見たシェフたちは一度彼の皿を下げると、ダジャカルデを超大盛りにして提供し直した。

一体なぜ?


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この問題は100問出題を記念したBS問題です。

出題後30分が経過、または正解が出た時点から、
ボケて良し雑談して良し、良識とモラルの範囲内で何でもアリな1時間の「BSタイム」に移行します。

BSタイム終了後は、何事もなかったかのように問題を解決する作業に戻ってください。
皆さんで一緒に楽しみましょう!
23年02月10日 21:00
【ウミガメのスープ】 [「マクガフィン」]

ハッピーラテシンバースデー!




解説を見る
『簡易解説』
ラテラ王国の捕虜として独りボーノの王宮に連れてこられた王子。
王子がダジャカルデへの毒の混入を警戒して口をつけないことに気づいたシェフたちは、一つの皿に盛られた料理を大勢で食べる方式にすることで、毒の心配をなくし、同時に王子との親睦を深めて安心させてあげたいと考えた。






長く続いた戦争は、ラテラ王国の和平受諾宣言によって終わりを迎えた。

それは事実上の敗北であり、王国は隣国ボーノの属国かのような扱いを甘んじて受け入れるしかなかった。

ボーノはラテラ王国の裏切りを警戒し、王位継承者である王子を{人質}として差し出すよう求めた。

たった一人の王子として、戦火にさらされぬよう極力城から出さずに育てられてきたレオンが、国境を跨いだ瞬間であった。



ラテラ王国とのさらなる敵対は本意ではないボーノは、レオン王子を丁重に迎え入れ、もてなした。

世話を任された王宮の使用人やシェフたちは、王子にボーノ国の魅力を伝えるべく、夕食に名物料理のダジャカルデを振る舞うことにした。


しかし、レオン王子は口をつけようとはしなかった。

無理もない。彼が生まれたとき、すでにボーノは敵国であった。
年端もいかない王子にとって、彼らは国民たちから家族や住む場所を奪ってきた非道な存在であり、またそう教えられてきた。

そんなボーノ国に囚われている身として、王子は自分がいつ殺されてもおかしくないと感じていた。

そう、たとえば{料理に入れられた毒}で。


初めて目にする料理、ダジャカルデ。その珍妙な見た目と形容しがたい香りを前にしたレオン王子は咄嗟に、「おいしくなさそうだからいらない」と嘘をついた。
毒が怖いなどと言おうものなら、すぐに殺されてしまう気がして。


そんな彼の様子を見たシェフは、しかしその恐怖をすぐに見抜いた。
いきなり慣れ親しんだ人々や土地から引き離され、憎んできた敵国に連れてこられた王子。周囲の誰も信じられないであろうその心中は、想像するに余りある。

自分が毒見代わりに一口食べてみせるのは簡単だ。私たちが王子を殺す気ならもうとっくに殺していると説明することもできる。
だが・・・

シェフは無言のまま王子の皿を持って厨房に向かうと、{およそ3人前になるように}ダジャカルデを盛り直して王子の前に置いた。


「私たちと一緒に食べましょう、レオン王子。」


傍らに佇むお付きの使用人にも手招きし、3人で皿を囲む。

「こうしてみんなで同じ皿から食べれば、何倍も美味しく感じるものです。」

そう言ってスプーンに乗り切らんばかりのダジャカルデを掬い、大きく口を開けて流し込む。それを見た使用人も後に続いた。
その意味を理解しながらも躊躇う王子に、シェフは柔らかな眼差しを向けて呼びかけた。

「王子、突然ご家族から引き離されてさぞお辛いでしょう。ですがいつかまた会える日が必ず来ます。それまでは、いいえ、これからずっと、私たちはあなたの味方です。」

その言葉に意を決した王子は、ゆっくりと料理を口に運ぶ。

「…おいしい」

湯気を立てる温かな料理は、王子の強がりをはがすには十分だった。思わず漏れた言葉とともに、横に家族のいない寂しさが溢れ出してくる。

「父様…母様…」

目を潤ませる王子の背中をさすりながら、シェフは「頑張りましょう、一緒に頑張りましょう」と声をかけ続けた。


その夜王子が流した涙は、幼くかすかな、しかし確かな、平和への祈りだった。

良質:18票トリック:6票物語:6票納得感:1票
South West East Northの4枚で構成される4枚謎を作成したカメオ。上記の画像は4枚謎_完成版_最新であり、これは4枚謎_完成版と比べて一ヵ所加筆が加えられている。

4枚謎を全て解いた上で、カメオが何を書き加えたのか1文字で答えてほしい。
23年12月25日 19:09
【20の扉】 [うつま]

‪☆




解説を見る
    4枚謎_完成版_解説


解説

この4枚謎の答えはもともと、「{だいす}」「{きあい}」「{してい}」「{くりすます}」であった。枠線が薄くなっている文字を除いて繋げると、「{だいすきあいしています}」と読むことができる。
この謎は、カメオが妻に愛を伝えるために作った謎解きだったのだ。
しかし、いざ妻に解かせようとした直前、カメオは急に気恥ずかしくなってしまった。こんな方法で愛を伝えるなんて、子供じみていると思われないだろうか、と。カメオは応急処置としてSouthの謎の答えのマスの数を変え、潜ませていた愛のメッセージを消した。

よって、カメオが最後に書き加えたのは、【コ】である。




きっかけは、些細な喧嘩だった。日常の中にある、本当にどうでもいいようなことで妻と{言い合い}になって、怒った妻はその日一日口をきいてくれなくなった。
その翌日にはお互いにごめんと謝って、何事もなかったかのように日々は再開した。
でも、あの日から、ほんの少しだけ。妻と私の間の距離が遠くなった気がした。
私の愛が冷めた訳ではない。今でも妻のことは一番に愛している。でも、妻はもしかしたら、そうは思っていないのかもしれない。もう愛が冷めてしまったのだと妻には思われているのかもしれない。
もしそうだとしたら、私はちゃんと、妻に愛を伝えなければならない。その手段として思いついたのが、高校生の頃から趣味にしていた謎解きだった。
「{だいすきあいしています}」が現れる謎解きを作ったのは、そんな次第だった。

12/25クリスマス。もともとクリスマス用に買っていた小物をプレゼントしたあと、「そういえば、もうひとつプレゼントがあるんだ」と準備していた4枚謎について妻に話した。
「最近忙しそうにしてると思ったら、そんなもの作ってたなんて。好きな物に一途なところ、昔から変わんないね」
そう笑う妻の姿は、私が妻に初めて出会ったあの頃と何も変わっていなかった。その姿を見て私は、変わらない日常に不安を感じてしまった自分を恥じた。確かにそこにあった幸せを、つまらない妄想で見失ってしまっていたことを恥じた。
そして何より冷静になって考えてみると、謎解きで愛を伝えるなんていう子供でも思いつかないような作戦を、大の大人が本気になって実行しているというこの状況が、呆れるほど恥ずかしく思えてきた。
「ちょっと今から謎を印刷してくるよ」
私はそう言って書斎に走り、「{だいす}」が答えになる謎が「{さいころ}」が答えに変わるように、一箇所修正を加えてから謎を印刷して妻に渡した。

妻は私が想定していたより遥かに早いスピードで4枚の謎を解き終わり、「答えはクリスマスでしょ」と笑って私に伝えた。
なぜだか恥ずかしそうに笑う妻が可愛くて、愛してるの言葉はちゃんと言葉にして言おう。そう決めた。
しかしその愛の言葉が私の口から出る前に、私は思わぬ不意打ちを受けた。
「私も愛してるよ」
「えっ?」
驚く私に、妻はSouthの答えの4マス目にバツを書いて潰し、答えを「{だいす}」にして埋めた紙を私に見せた。

そういえば、昔から妻は私よりもずっと謎解きが得意だった。



━━━━━━━━━━━━━━━

あとがき

私にとっての2023年は、{謎解き}の年でした。
ウミガメのスープを布教するために謎解きサークルに入ったのがきっかけで、月に6回くらい謎解き公演に行ったり、いくつか謎解き制作に関わらせてもらったり、気づけば謎解きまみれの日々です。
ウミガメのスープと謎解き、その両方に魅せられた人間として、両者の魅力を最大限に表現できる問題を作ってみたい。そう思って作ったのがこの問題です。皆さんの口には合ったでしょうか。
これを機に、謎解きの楽しさに気づいていただけたら幸いです。
それでは皆さん、【{メリークリスマス}】
問題文に潜む罠「31Good」
良質:9票トリック:11票物語:1票納得感:10票
いま田中の目の前にある大きめのどんぶりの中には米と鳥が入っている。

食べ物にありつけて喜んでいる田中の手に握られているものは何か?

※質問制限なし!
※ 箸でも成立するけど箸以外で!
25年04月21日 18:19
【20の扉】 [ダニー]

4/24(木) 22:00ごろに締めます




解説を見る
A.枝に付けられた紐<🪤>
21の天使の蒸留酒「31Good」
良質:21票物語:10票
昔、男は警察の目を盗んで深夜の駅のホームに侵入し、設置されたピアノを演奏する事を日課としていた。

ある日彼は酒場に行くと、一番安い蒸留酒を注文した。

そして一口飲んだところでマスターを呼びつけた。

「すまんが、これはなんて名前だ?」

「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。」

それをきいた男は、グラスを虚空に向かって突き上げた。

一体なぜ?
19年05月05日 13:36
【ウミガメのスープ】 [弥七]

ご参加ありがとうございました!




解説を見る
<解説>
簡易解答:ホームレスの老人は駅のピアノを使って孤児に音楽を教えていた。時を経てピアニストとして大成した少女の曲に出会い、彼女の人生を祝福したのだった。

ーーーーーー
最初は単なる憂さ晴らしだった。

日がな1日迷子を預かったり、ろくでもない紛失届の裏でせっせと五目並べをしている奴らのために、神が仕事を与えてやろうというのだ。(自分の風貌を見れば、誰だって神様と勘違いするだろう)

こんな俺でも、昔は人間に音楽を教えて金をもらったこともあった。そんな俺様がどうして、こんなに落ちぶれたのだろう。

きっと酒が足りないせいだな。

深夜の21番ホームでは、都会の喧騒も、俺を嘲り罵しる世間も全ては無に伏せる。

老人は汚い鹿撃ち帽を外し、それを座布団代わりに椅子へ座った。

すると、今日はおかしなことが起こった。

鍵盤に手を置くと、文字も読めなそうな子供がひとり、ピアノの前に立つではないか。

鬱陶しくも片目で観察していると、なにやら演奏に合わせて指を必死に動かしている。俺の動きを真似しているのか?なんだってそんなことを??

ははあ、さては。

ピアノを買ってもらう親も金もない孤児が、興味本位で俺に付いてきたんだろう。

ふん、勝手にするといい。と俺は思った。

好き勝手に弾いていた男は、いつの間にか少女を椅子に座らせ、しまいにはブルグミュラーの25の練習曲を一通りやる羽目になっていた。

お前は若い、きっと人生をひっくり返せるさ。

そんな言葉が、ポツリと口をついて出た。

それから少女は半年後に姿を消す日まで、毎日のように駅に訪れた。

消えたのは孤児院から離れたのか、捕まって少年院送りか、きっとそのどちらかだろう。

別れから、二度目の春。

胸いっぱいに朝の新鮮な空気を吸いこんだ老人は、ついでにアルコールとタバコの汚い煙も吸いたいと思ったので、近くの酒場に飛び込み、有り金全部使って安い蒸留酒を買った。

ふと、ボトルを空ける手を止めると、まるで荒んだ心の傷を温かい何かで埋めるような、恍惚に似た感覚が彼の中へと侵入してきた。

それは酒の匂いのせいなどではなかった。

店内に響きわたるピアノと天使の歌声。

「…これは、La grâce de Dieu(神様のお恵み)です。いい曲でしょう?最近デビューしたんですよ、まだ若いのに、素敵だねぇ…」

マスターの声は最後まで男に届かなかった。

老人は、虚空に向かってグラスを突き上げた。


乾杯...!


これは、21番ホームの天使に捧げる蒸留酒。

(おしまい)