「甘いテーブルマナー」「21Good」
良質:3票トリック:11票納得感:7票
初対面の女から、正しい箸の動かし方を教わっている男の子。
つい先程まで箸を上手に使って焼きそばを食べていた彼が、次に食べようとしているものは何だろう?
つい先程まで箸を上手に使って焼きそばを食べていた彼が、次に食べようとしているものは何だろう?
20年08月26日 23:12
【20の扉】 [あおがめ]
【20の扉】 [あおがめ]
解説を見る
ここは、とある小さな夏祭りの会場。
ずらっと立ち並ぶ屋台の一角で、女は{わたあめ}を売っていた。
「おねえさん、わたあめ下さい!」
「はいはーい。200円になります。」
元気いっぱいの男の子が、ポーチの中から小銭を2枚取り出す。
つい先程まで、ベンチに座って焼きそばを食べていた彼。食後のデザートを買いにきたのだろうか。
「毎度あり!……そうだ。せっかくだから、自分でわたあめ作ってみない?」
「え、いいの?やったー!」
屋台に並んでいるのは、この男の子ただ一人。貴重なお客さんだ。
他の客を待たせる心配が要らない今、せっかく来てくれた彼にわたあめ作りを体験させてあげたい。それが彼女の思いだった。
女は用意してあった{割り箸}を2本手に取ると、そのうち1本を男の子に手渡した。
「これを、こんな風にグルグル回すとできるからね。」
「うん、わかった!」
それから数分後…
ちょっと歪なわたあめ片手に、彼は満面の笑みを浮かべながら帰っていった。
ずらっと立ち並ぶ屋台の一角で、女は{わたあめ}を売っていた。
「おねえさん、わたあめ下さい!」
「はいはーい。200円になります。」
元気いっぱいの男の子が、ポーチの中から小銭を2枚取り出す。
つい先程まで、ベンチに座って焼きそばを食べていた彼。食後のデザートを買いにきたのだろうか。
「毎度あり!……そうだ。せっかくだから、自分でわたあめ作ってみない?」
「え、いいの?やったー!」
屋台に並んでいるのは、この男の子ただ一人。貴重なお客さんだ。
他の客を待たせる心配が要らない今、せっかく来てくれた彼にわたあめ作りを体験させてあげたい。それが彼女の思いだった。
女は用意してあった{割り箸}を2本手に取ると、そのうち1本を男の子に手渡した。
「これを、こんな風にグルグル回すとできるからね。」
「うん、わかった!」
それから数分後…
ちょっと歪なわたあめ片手に、彼は満面の笑みを浮かべながら帰っていった。
「アルテミスの紅涙」「21Good」
良質:9票物語:6票納得感:6票
二児の母である五十嵐詩織は、内気な性格である長女の美月が初めて自宅に連れて来た、クラスメイトの池崎みゆきを歓迎した。
挨拶もそこそこに二人が美月の自室に入ったのを確認すると、詩織は堪えていた涙を流しはじめた。
詩織の次女(=美月の妹)の名前は何か?
※最終解答は漢字表記でお願いします。
※出題者として積極的には推奨しませんが、名前の構成要素を総当たり的に特定しようしても構いません。
(この場合、[良い質問]マークは付けません。)
※ヒントを希望される場合は質問欄でお伝えください。
挨拶もそこそこに二人が美月の自室に入ったのを確認すると、詩織は堪えていた涙を流しはじめた。
詩織の次女(=美月の妹)の名前は何か?
※最終解答は漢字表記でお願いします。
※出題者として積極的には推奨しませんが、名前の構成要素を総当たり的に特定しようしても構いません。
(この場合、[良い質問]マークは付けません。)
※ヒントを希望される場合は質問欄でお伝えください。
21年06月05日 19:04
【20の扉】 [炎帝]
【20の扉】 [炎帝]
6/8(火) 20:00までの出題を予定しています。
解説を見る
答: 美花
初冬。詩織が初めて授かった命は、生まれてくる前に散ってしまった。
悲しみを乗り越えるために、詩織はその子に「美雪(みゆき)」と名付けて水子供養をしていた。
その後、二人の子宝に恵まれた詩織は、二人の娘にそれぞれ「美月」「美花」と名付けた。
「美雪はこの世に生まれてくることができなかったが、それでも美月と美花のお姉ちゃんなのだ」という想いを、{雪月花}に託したものだった。
月日は流れ、十数年後のとある朝。
「ねぇお母さん。今日、友達を家に連れてきてもいい?」
美月からそんな申し出を受けた詩織は驚いた。美月は内気な性格で、今まで友達を家に呼んだことなんてなかったからだ。
「池崎さんって言うんだけど、その子も本好きなんだ。だから、私の本棚を見せてほしいって・・・」
たどたどしく話す美月の顔は、しかしとても嬉しそうだったので、詩織も快諾した。
その日の午後、美月が連れて来た快活そうな女の子は、「お邪魔します」と丁寧にお辞儀をしてからこう続けた。
「はじめまして!美月さんの友達の、池崎みゆきと申します!」
美月からは「池崎さん」とだけ聞いていたクラスメイトの下の名前が「みゆき」であることに、詩織は不意を突かれた。
美雪が生きていたらこんな風に成長していただろうかと、無意識のうちにみゆきと美雪を重ね合わせてしまう。
悲しいわけじゃないはずなのに。つらいわけじゃないはずなのに。どうしても目頭が熱くなる。
しかし、ここで涙を流したら美月にもみゆきにも不審に思われてしまうだろう。込み上げる感情を押し殺しながら、詩織も精一杯の笑顔で挨拶を返した。
なんとか表情を崩さないまま挨拶を済ませた詩織だったが、美月とみゆきが部屋に入ったのを見届けると、もはや涙が頬を伝うに任せるしかなかった。
初冬。詩織が初めて授かった命は、生まれてくる前に散ってしまった。
悲しみを乗り越えるために、詩織はその子に「美雪(みゆき)」と名付けて水子供養をしていた。
その後、二人の子宝に恵まれた詩織は、二人の娘にそれぞれ「美月」「美花」と名付けた。
「美雪はこの世に生まれてくることができなかったが、それでも美月と美花のお姉ちゃんなのだ」という想いを、{雪月花}に託したものだった。
月日は流れ、十数年後のとある朝。
「ねぇお母さん。今日、友達を家に連れてきてもいい?」
美月からそんな申し出を受けた詩織は驚いた。美月は内気な性格で、今まで友達を家に呼んだことなんてなかったからだ。
「池崎さんって言うんだけど、その子も本好きなんだ。だから、私の本棚を見せてほしいって・・・」
たどたどしく話す美月の顔は、しかしとても嬉しそうだったので、詩織も快諾した。
その日の午後、美月が連れて来た快活そうな女の子は、「お邪魔します」と丁寧にお辞儀をしてからこう続けた。
「はじめまして!美月さんの友達の、池崎みゆきと申します!」
美月からは「池崎さん」とだけ聞いていたクラスメイトの下の名前が「みゆき」であることに、詩織は不意を突かれた。
美雪が生きていたらこんな風に成長していただろうかと、無意識のうちにみゆきと美雪を重ね合わせてしまう。
悲しいわけじゃないはずなのに。つらいわけじゃないはずなのに。どうしても目頭が熱くなる。
しかし、ここで涙を流したら美月にもみゆきにも不審に思われてしまうだろう。込み上げる感情を押し殺しながら、詩織も精一杯の笑顔で挨拶を返した。
なんとか表情を崩さないまま挨拶を済ませた詩織だったが、美月とみゆきが部屋に入ったのを見届けると、もはや涙が頬を伝うに任せるしかなかった。
「自分の気持ちに正直に」「21Good」
良質:15票トリック:6票
海亀高校に通うカメ子は、学園でも人気の美少女だ。
一方で気弱なウミ太は、今年に入ってカメ子と隣同士になってからというもの、彼女のことが非常に気になっている。
「もういっそ、自分の気持ちに正直になろう。」
これまで全く自分に自信が持てず、何一つ行動を起こせなかった彼が、ある日そう決心したのは、彼女宛の大量のラブレターを目撃したためだった。
しかしながら、ウミ太はカメ子に告白することはなかった。
いったいなぜ?
一方で気弱なウミ太は、今年に入ってカメ子と隣同士になってからというもの、彼女のことが非常に気になっている。
「もういっそ、自分の気持ちに正直になろう。」
これまで全く自分に自信が持てず、何一つ行動を起こせなかった彼が、ある日そう決心したのは、彼女宛の大量のラブレターを目撃したためだった。
しかしながら、ウミ太はカメ子に告白することはなかった。
いったいなぜ?
22年01月31日 18:18
【ウミガメのスープ】 [北大路]
【ウミガメのスープ】 [北大路]
初出題です。本日21時ごろ回答締め切りです。よろしくお願いします。
解説を見る
会社が倒産して職を失い、妻子にも逃げられたウミ太は極貧生活を送っていた。
借金返済の期限が近いのにも関わらず、目処は立っていなかった。
「何とかして金を用意しないと…」
そんなウミ太の脳裡に、あるアイディアが浮かぶ。
ーーー
今年、隣に引っ越してきた家庭は相当な金持ちらしい。
空き巣に入ればかなりの金品を手に入れられるはず…
ーーー
空き巣を画策したウミ太は、いつも一番早くに帰ってくるカメ子を隣の自室から観察し、帰宅時間を調べていた。
そして帰宅時間を徹底的に調べ挙げ、綿密に計画を練ったウミ太であったが、決行直前になって
「その日に限って早く帰ってくるんじゃないか?」
「ヘマをせずに計画を遂行できるのか?」
と不安が押し寄せてきて、結局踏ん切りがつかずにいた。
しかしある日、お隣の郵便受けを見ると大量のラブレターが投函されたままになっているではないか。
どうやら家族旅行にでも出かけたようだ。
「千載一遇のチャンス、やるしかない。自分の気持ちに正直になろう。」
ウミ太は、そう決心した。
簡易解説:ウミ太はカメ子の隣のアパートに住む男。カメ子の家の郵便受けに大量のラブレターが投函されたままになっていることから、留守であることを確信し、かねてから計画していた空き巣を実行に移すのだった。
借金返済の期限が近いのにも関わらず、目処は立っていなかった。
「何とかして金を用意しないと…」
そんなウミ太の脳裡に、あるアイディアが浮かぶ。
ーーー
今年、隣に引っ越してきた家庭は相当な金持ちらしい。
空き巣に入ればかなりの金品を手に入れられるはず…
ーーー
空き巣を画策したウミ太は、いつも一番早くに帰ってくるカメ子を隣の自室から観察し、帰宅時間を調べていた。
そして帰宅時間を徹底的に調べ挙げ、綿密に計画を練ったウミ太であったが、決行直前になって
「その日に限って早く帰ってくるんじゃないか?」
「ヘマをせずに計画を遂行できるのか?」
と不安が押し寄せてきて、結局踏ん切りがつかずにいた。
しかしある日、お隣の郵便受けを見ると大量のラブレターが投函されたままになっているではないか。
どうやら家族旅行にでも出かけたようだ。
「千載一遇のチャンス、やるしかない。自分の気持ちに正直になろう。」
ウミ太は、そう決心した。
簡易解説:ウミ太はカメ子の隣のアパートに住む男。カメ子の家の郵便受けに大量のラブレターが投函されたままになっていることから、留守であることを確信し、かねてから計画していた空き巣を実行に移すのだった。
「Hip! Step! Jump!」「21Good」
良質:6票トリック:3票物語:2票納得感:10票
スリが多いことで有名な大都市「ラテライツ」に住むカメオ。
彼は人混みを往来する時、絶対に財布を尻ポケットに入れないようにしている。死角になる上に盗られても気付きにくいため、スリに狙われやすいからだ。
そんなカメオだが、{あるもの}を失くして以来、人混みを往来する時は財布を尻ポケットに入れることにしたのだという。
{あるもの}とは何だろうか?
理由も含めて答えて欲しい。
彼は人混みを往来する時、絶対に財布を尻ポケットに入れないようにしている。死角になる上に盗られても気付きにくいため、スリに狙われやすいからだ。
そんなカメオだが、{あるもの}を失くして以来、人混みを往来する時は財布を尻ポケットに入れることにしたのだという。
{あるもの}とは何だろうか?
理由も含めて答えて欲しい。
22年10月14日 20:13
【20の扉】 [だだだだ3号機]
【20の扉】 [だだだだ3号機]
17日(月)23:00までに延長しました!
解説を見る
【解説】
A.{両足}
事故で両足を失くし、車椅子で生活するようになったカメオ。
人混みを往来する時は、体重をかけるため盗まれにくく、一番安全であろう尻ポケットに財布を入れるようになった。
【ストーリー】({読まなくていいです})
国内有数の大都市『ラテライツ』。
人口が多く、時間帯によって道路が人や車で大変混雑するこの街は、有名な観光地である一方、スリが大変多いことでも知られている。
そんなラテライツに住むサラリーマン、カメオ。
高校時代に運動部だった彼は、その持ち前と体力と人柄の良さから職場では大いに慕われている。
その上昔から困っている人を見過ごせない性分で、近所でも有名な好青年というやつだった。
そんなカメオも当然スリへの警戒は怠っておらず、人混みを往来する時は、彼は絶対に財布を尻ポケットに入れないようにしている。死角になる上盗られても気付きにくく、スリにとって格好の的だからだ。
その日は、酷い雨だった。
通勤中、いつものように人混みを歩いていたカメオは、その日の夜に病院で目を覚ましていた。
困惑しながらも、曖昧な記憶を辿っていくカメオ。
人混み、横断歩道、女の子、赤信号───。
(そうだ、俺は…)
トラックに轢かれそうになった女の子を庇って、そのまま…
事の顛末を全て悟ったカメオが身体を起こす。
鈍い痛みが残る全身に気をやりながらも、自然と自分の足先に目を向ける形になった。
目覚めた時から、漠然と感じていた下半身の違和感。その正体が解った。
「両の膝から下」が、無かった。
カメオが目覚めたことを聞きつけ病室までやって来た医師は、なんともばつの悪そうな顔をしながら、ゆっくりと仔細を説明した。
カメオはそれを黙って聞いていた。
ただ、女の子が無事だったことを告げられた時だけ、小さな声で「ありがとうございます」と、そう言ったきりだった。
入院中、助けた女の子とその母親がお見舞いに来て、主に金銭面で援助をしてもらうことになった。
最初は「勝手にやったことだから」と断っていたのだが、承諾するまで帰ってくれそうになかった上、仕舞いには娘のいる前で土下座までしようとしたので、最終的にはカメオが折れた。
帰り際、二人が病室を出た後、女の子だけがこっそり病室に戻ってきた。カメオが「どうしたの?忘れ物?」と尋ねると、心配しているのか、申し訳ないのか、なんとも言えない表情で此方を見つめた。
少ししてから、女の子は二つ折の小さな紙切れをカメオに渡して、何も言わず駆け足で病室を出てってしまった。
渡されたのは、ピンク色のメッセージカードだった。
まず間違いなく女の子の字だろう。「たすけてくれて ありがとう」という言葉と共に、名前と小さな押し花が添えられていた。
きっと彼女は幼い子供ながらに、後ろめたさを感じていたのだろう。あるいは、元々恥ずかしがり屋な子なのかもしれない。
それでも彼女なりに、心からの感謝を伝えようとしてくれたのだ。
カメオは暫く一人でメッセージカードを見つめた後、それを丁寧に畳んで仕舞った。
それからも、女の子は母親に連れられて何度もお見舞いに来た。
最初は母親の後ろでモジモジしていた女の子だったが、日を重ねるごとに少しずつ心を開いてくれるようになった。
カメオの退院の日程が決まる頃には二人はすっかり仲良くなり、病室でよく絵を描いたりして遊んでいた。
「すみませんカメオさん…怪我もまだ治りきっていないのに。」
ある日、女の子の母親が申し訳なさそうに言った。
「いや良いですよ全然!どうせ暇ですし。こちらこそいつもわざわざお見舞いに来てもらってすみませんね。」
「いえ、娘の命の恩人ですから…それに、最近は娘がお見舞いに行きたいと言って聞かないんですよ。」
え、とカメオは声を上げた。母親は話を続ける。
「旦那はこの子が産まれてすぐに亡くなりました。それからは私も必死で、あまり構ってあげられなかったんです。ですから、カメオさんに遊んで貰うのが本当に嬉しいんだと思います。」
「そう…なんですか。」
カメオはしばらく考え込んだ後、女の子に向かって言った。
「もし良かったらさ、退院した後もまた遊ぼうか。今度は外で。」
「…いいの?」
「もちろん。何がしたい?」
それを聞いた女の子は物凄く悩ましい顔をして、口をつぐんでしまった。カメオが「なんでも、正直に言って良いよ。」と言うと、女の子は目を伏せながら呟いた。
「…鬼ごっこ。」
母親はしまった、という顔をしたが、カメオは真っ直ぐな瞳で
「わかった。約束ね。」
と返した。
嬉しそうに笑う女の子を見て、カメオは思わず口元が緩んでしまった。
きっと母親は、カメオの足の話もしているはずだ。でもまだ幼い女の子には、失った足が二度と戻らないことまでは分からなかったのだろう。あるいは、なんとなく分かっていて、それで口をつぐんだのかもしれない。
ただ、そんなことはカメオにはどうでも良かった。
お見舞いも鬼ごっこのことも、恥ずかしがり屋のあの子がやっと溢したわがままなら。
母子家庭で、一人で遊ぶことが多かったあの子が初めて誰かと交わした約束なら。
カメオの中には、確かな決意があった。
…それから少し時が経って。
退院し、車椅子での生活にも慣れてきたカメオ。
当たり前と言えば当たり前だが、カメオの生活は随分と様変わりしていた。仕事も辞めたし、住居は車椅子でも過ごしやすい段差の無い家に引っ越した。
細かいところでは、財布の持ち歩き方も変わった。
最近、カメオは以前と異なり、財布を尻ポケットに入れるようにしている。
車椅子の身だろうと、スリは警戒しなければならない。
無理はできない身体であるため、用事の時にはできるだけ人混みを避けているのだが、人口飽和気味のラテライツではいつでもそうとはいかない。
どうしても、人通りの多い時間帯に被る時がある。
他のポケットや鞄に入れても安全性は高いが、この身体では、力ずくで盗られるリスクもあるだろう。そうなれば、きっと抵抗すらままならない。
しかし、しかしである。
かつてなら盗まれないよう尻ポケットは避けるが、車椅子を使う場合は話は別だ。
体重をかけて座っている以上、取り出すときは大変だが、その分盗まれる危険は限りなく低い。
そう考えたカメオは、人混みを往く時は財布を尻ポケットに入れるようになった。
…財布という生活の切れ端からすら、「足が無い」という事実を実感する日々。
もちろん、財布の持ち方一つに懊悩できるほど、気持ちに余裕ができたとも言えるのだが。
「最近特に物騒ですからね~。良いアイデアだと思いますよ。」
「でしょ?まあ、財布を取り出すと体温でものすごく温いんですけど。」
あれから、カメオはリハビリのため病院に通い詰めていた。
彼のために用意された、義足による歩行訓練。
ひたむきな努力が実を結んだのか、少しずつ歩ける距離は増えていった。
医師曰く、早ければ半年もすれば歩いて生活できるようになるだろう、と。
きっとまだ、たくさん不安はあるけれど。
「アハハ…良いじゃないですか。お財布が温かいのは、カメオさんが元気な証拠ですよ。」
すっかり顔馴染みの看護師がそう返すと、ほんの少しの沈黙が流れた後、噛み締めるようにカメオが呟いた。
「元気な証拠、かぁ…。」
看護師の手を借りながら、休憩用の椅子に腰を降ろしたカメオは、自身の温もりを確かめるように腿を擦る。
そして財布を取り出すと、その中から丁寧に折り畳まれたメッセージカードを手に取った。
その様子を見た看護師が尋ねる。
「かわいいメッセージカードですね~。彼女さんからですか?」
「…いいえ。ただ、大切な約束なんです。リハビリを頑張れるのも、これのお陰ですから。」
そう言うと、カメオは開いたメッセージカードを見つめた。
何も知らない看護師は最初は不思議そうな顔をしていたが、何かを察したのだろう、途中で穏やかな表情になった。
「じゃあ尚更、盗られるわけにはいかないですね。」
「…そうですね。」
そう返事をしながら、カメオはメッセージカードを丁寧に折り畳むと、財布の中に入れた。
いつか果たされる日まで、二人の約束を胸に仕舞い込むように、そっと。
END
A.{両足}
事故で両足を失くし、車椅子で生活するようになったカメオ。
人混みを往来する時は、体重をかけるため盗まれにくく、一番安全であろう尻ポケットに財布を入れるようになった。
【ストーリー】({読まなくていいです})
国内有数の大都市『ラテライツ』。
人口が多く、時間帯によって道路が人や車で大変混雑するこの街は、有名な観光地である一方、スリが大変多いことでも知られている。
そんなラテライツに住むサラリーマン、カメオ。
高校時代に運動部だった彼は、その持ち前と体力と人柄の良さから職場では大いに慕われている。
その上昔から困っている人を見過ごせない性分で、近所でも有名な好青年というやつだった。
そんなカメオも当然スリへの警戒は怠っておらず、人混みを往来する時は、彼は絶対に財布を尻ポケットに入れないようにしている。死角になる上盗られても気付きにくく、スリにとって格好の的だからだ。
その日は、酷い雨だった。
通勤中、いつものように人混みを歩いていたカメオは、その日の夜に病院で目を覚ましていた。
困惑しながらも、曖昧な記憶を辿っていくカメオ。
人混み、横断歩道、女の子、赤信号───。
(そうだ、俺は…)
トラックに轢かれそうになった女の子を庇って、そのまま…
事の顛末を全て悟ったカメオが身体を起こす。
鈍い痛みが残る全身に気をやりながらも、自然と自分の足先に目を向ける形になった。
目覚めた時から、漠然と感じていた下半身の違和感。その正体が解った。
「両の膝から下」が、無かった。
カメオが目覚めたことを聞きつけ病室までやって来た医師は、なんともばつの悪そうな顔をしながら、ゆっくりと仔細を説明した。
カメオはそれを黙って聞いていた。
ただ、女の子が無事だったことを告げられた時だけ、小さな声で「ありがとうございます」と、そう言ったきりだった。
入院中、助けた女の子とその母親がお見舞いに来て、主に金銭面で援助をしてもらうことになった。
最初は「勝手にやったことだから」と断っていたのだが、承諾するまで帰ってくれそうになかった上、仕舞いには娘のいる前で土下座までしようとしたので、最終的にはカメオが折れた。
帰り際、二人が病室を出た後、女の子だけがこっそり病室に戻ってきた。カメオが「どうしたの?忘れ物?」と尋ねると、心配しているのか、申し訳ないのか、なんとも言えない表情で此方を見つめた。
少ししてから、女の子は二つ折の小さな紙切れをカメオに渡して、何も言わず駆け足で病室を出てってしまった。
渡されたのは、ピンク色のメッセージカードだった。
まず間違いなく女の子の字だろう。「たすけてくれて ありがとう」という言葉と共に、名前と小さな押し花が添えられていた。
きっと彼女は幼い子供ながらに、後ろめたさを感じていたのだろう。あるいは、元々恥ずかしがり屋な子なのかもしれない。
それでも彼女なりに、心からの感謝を伝えようとしてくれたのだ。
カメオは暫く一人でメッセージカードを見つめた後、それを丁寧に畳んで仕舞った。
それからも、女の子は母親に連れられて何度もお見舞いに来た。
最初は母親の後ろでモジモジしていた女の子だったが、日を重ねるごとに少しずつ心を開いてくれるようになった。
カメオの退院の日程が決まる頃には二人はすっかり仲良くなり、病室でよく絵を描いたりして遊んでいた。
「すみませんカメオさん…怪我もまだ治りきっていないのに。」
ある日、女の子の母親が申し訳なさそうに言った。
「いや良いですよ全然!どうせ暇ですし。こちらこそいつもわざわざお見舞いに来てもらってすみませんね。」
「いえ、娘の命の恩人ですから…それに、最近は娘がお見舞いに行きたいと言って聞かないんですよ。」
え、とカメオは声を上げた。母親は話を続ける。
「旦那はこの子が産まれてすぐに亡くなりました。それからは私も必死で、あまり構ってあげられなかったんです。ですから、カメオさんに遊んで貰うのが本当に嬉しいんだと思います。」
「そう…なんですか。」
カメオはしばらく考え込んだ後、女の子に向かって言った。
「もし良かったらさ、退院した後もまた遊ぼうか。今度は外で。」
「…いいの?」
「もちろん。何がしたい?」
それを聞いた女の子は物凄く悩ましい顔をして、口をつぐんでしまった。カメオが「なんでも、正直に言って良いよ。」と言うと、女の子は目を伏せながら呟いた。
「…鬼ごっこ。」
母親はしまった、という顔をしたが、カメオは真っ直ぐな瞳で
「わかった。約束ね。」
と返した。
嬉しそうに笑う女の子を見て、カメオは思わず口元が緩んでしまった。
きっと母親は、カメオの足の話もしているはずだ。でもまだ幼い女の子には、失った足が二度と戻らないことまでは分からなかったのだろう。あるいは、なんとなく分かっていて、それで口をつぐんだのかもしれない。
ただ、そんなことはカメオにはどうでも良かった。
お見舞いも鬼ごっこのことも、恥ずかしがり屋のあの子がやっと溢したわがままなら。
母子家庭で、一人で遊ぶことが多かったあの子が初めて誰かと交わした約束なら。
カメオの中には、確かな決意があった。
…それから少し時が経って。
退院し、車椅子での生活にも慣れてきたカメオ。
当たり前と言えば当たり前だが、カメオの生活は随分と様変わりしていた。仕事も辞めたし、住居は車椅子でも過ごしやすい段差の無い家に引っ越した。
細かいところでは、財布の持ち歩き方も変わった。
最近、カメオは以前と異なり、財布を尻ポケットに入れるようにしている。
車椅子の身だろうと、スリは警戒しなければならない。
無理はできない身体であるため、用事の時にはできるだけ人混みを避けているのだが、人口飽和気味のラテライツではいつでもそうとはいかない。
どうしても、人通りの多い時間帯に被る時がある。
他のポケットや鞄に入れても安全性は高いが、この身体では、力ずくで盗られるリスクもあるだろう。そうなれば、きっと抵抗すらままならない。
しかし、しかしである。
かつてなら盗まれないよう尻ポケットは避けるが、車椅子を使う場合は話は別だ。
体重をかけて座っている以上、取り出すときは大変だが、その分盗まれる危険は限りなく低い。
そう考えたカメオは、人混みを往く時は財布を尻ポケットに入れるようになった。
…財布という生活の切れ端からすら、「足が無い」という事実を実感する日々。
もちろん、財布の持ち方一つに懊悩できるほど、気持ちに余裕ができたとも言えるのだが。
「最近特に物騒ですからね~。良いアイデアだと思いますよ。」
「でしょ?まあ、財布を取り出すと体温でものすごく温いんですけど。」
あれから、カメオはリハビリのため病院に通い詰めていた。
彼のために用意された、義足による歩行訓練。
ひたむきな努力が実を結んだのか、少しずつ歩ける距離は増えていった。
医師曰く、早ければ半年もすれば歩いて生活できるようになるだろう、と。
きっとまだ、たくさん不安はあるけれど。
「アハハ…良いじゃないですか。お財布が温かいのは、カメオさんが元気な証拠ですよ。」
すっかり顔馴染みの看護師がそう返すと、ほんの少しの沈黙が流れた後、噛み締めるようにカメオが呟いた。
「元気な証拠、かぁ…。」
看護師の手を借りながら、休憩用の椅子に腰を降ろしたカメオは、自身の温もりを確かめるように腿を擦る。
そして財布を取り出すと、その中から丁寧に折り畳まれたメッセージカードを手に取った。
その様子を見た看護師が尋ねる。
「かわいいメッセージカードですね~。彼女さんからですか?」
「…いいえ。ただ、大切な約束なんです。リハビリを頑張れるのも、これのお陰ですから。」
そう言うと、カメオは開いたメッセージカードを見つめた。
何も知らない看護師は最初は不思議そうな顔をしていたが、何かを察したのだろう、途中で穏やかな表情になった。
「じゃあ尚更、盗られるわけにはいかないですね。」
「…そうですね。」
そう返事をしながら、カメオはメッセージカードを丁寧に折り畳むと、財布の中に入れた。
いつか果たされる日まで、二人の約束を胸に仕舞い込むように、そっと。
END
「【リーガルポイズン】」「21Good」
良質:6票トリック:5票物語:8票納得感:2票
ユズがシホの飲みかけのペットボトルに【ある物】を入れた結果シホは【{死んだ}】。
彼女が使った誰でも合法的に、タダも同然で手に入る【ある物】とは何だろうか。
彼女が使った誰でも合法的に、タダも同然で手に入る【ある物】とは何だろうか。
23年06月27日 00:58
【20の扉】 [OUTIS]
【20の扉】 [OUTIS]
皆様のご参加、心より感謝するヨ
解説を見る
ユズはシホが嫌いだった。
ある日彼女は校庭に生えていた<{花}>を一輪、シホが置きっぱなしにしたペットボトルに入れて花瓶に見立てシホの机の上に置き、皆はそれを見て笑った。
その行為はその日から続き、ついにシホはいじめを苦にして自殺した。
彼女を殺したのは悪意という名の毒なのだった。
正解条件:いじめや自殺を踏まえて花
ある日彼女は校庭に生えていた<{花}>を一輪、シホが置きっぱなしにしたペットボトルに入れて花瓶に見立てシホの机の上に置き、皆はそれを見て笑った。
その行為はその日から続き、ついにシホはいじめを苦にして自殺した。
彼女を殺したのは悪意という名の毒なのだった。
正解条件:いじめや自殺を踏まえて花