「届かない紙飛行機」「8ブックマーク」
僕は彼と友達になりたかったから、下手な紙飛行機を作った。
僕が紙飛行機を作り続けたから、友達は僕の元から去ってしまった。
以来、僕も友達も1人ぼっちになってしまった。それから僕は、友達を思って紙飛行機を飛ばさず折るだけにしていた。
さて、僕が友達と再び顔を合わせた時のこと。対面した直後、僕は悲しみと怒りに身を震わせた。
一体何故なのか?
これを踏まえて物語を解き明かしてください!
何行目(1〜4行目)かを指定して質問して頂ければ、細かく返答します!
質問で出た情報は整理した上で、まとメモに随時更新します!参考にしてください!
Special thanks to 藤井さん!
様々な御助言、感謝してもしきれません!ありがとうございました!
僕が紙飛行機を作り続けたから、友達は僕の元から去ってしまった。
以来、僕も友達も1人ぼっちになってしまった。それから僕は、友達を思って紙飛行機を飛ばさず折るだけにしていた。
さて、僕が友達と再び顔を合わせた時のこと。対面した直後、僕は悲しみと怒りに身を震わせた。
一体何故なのか?
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何行目(1〜4行目)かを指定して質問して頂ければ、細かく返答します!
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Special thanks to 藤井さん!
様々な御助言、感謝してもしきれません!ありがとうございました!
18年08月10日 20:09
【ウミガメのスープ】 [吊られる男]
【ウミガメのスープ】 [吊られる男]

長い長い物語の幕が降ろされました。参加者、観戦者の皆様方、御来店ありがとうございました!
解説を見る
【本解説】
きっと神さまなんていやしないんだ。
高校最後の夏をふいにさせるなんて。
まぁ自分の落ち度がないわけではないんだが。
良い年頃のくせに、空を行く飛行機を眺めてたら、
自動車にぶつかられるなんて恥ずかしくて言えやしない。
お陰様で、ほぼ全身複雑骨折。
幸運にも左手だけは無事だった。
僕の利き手は右手だけど。
救急車で運ばれて病院でそのまま入院。
あまり裕福な家庭でもないから、僕は病院で相部屋に押し込まれた。
全くもってツイてない。
僕の部屋は4人部屋、その中の窓側の一つになった。
隣と斜め向かいのオッさん達は親切で聞いてもないことまで何でもかんでも教えてくれた。
対して目の前のヤツは、一日中ボーっと窓を見てる。
オッさん達が教えてくれた話によると、
目の前のヤツは僕が来る随分と前に病院に来たらしい。
年は俺と同じ18歳。
階段から落ちたことによる骨折と聞いたが、
オッさん達の見立てだとアザの多さなどから虐待とかも受けてたんじゃないかと推測していた。
そのためか彼は積極的にリハビリをしようとはしないのだそうだ。
また、同じ病室になっても全く口を利かないらしい。
そんな目の前の彼に、何不自由なく暮らしてきた僕は強い興味を持った。
同年代だったというのも強い要因だったのかもしれない。
話をしてみたい。
喋ることも歩くこともままならない状態で、どうコミュニケーションを取るか。
ここで僕は妙案を思いついた。
ちょうど僕は利き手でない左手でも文字を書けるように練習している。
用意された大量の紙。
これで紙飛行機を飛ばそう。
紙に自己紹介の挨拶を添えて降り始める。
作ろうとするとこれがなかなか難しい。
片手で紙を綺麗に合わせるところが特に。
やっとの思いで作り上げた不恰好な紙飛行機。
手に取って投げてみる。
ふわりと浮いた紙飛行機は、急遽バランスを崩して僕の足元に墜落した。
まだまだ改良の余地がありそうだ。
僕が飛ばした23機目の紙飛行機が彼に当たるのはもう少し後の話だ。
最初は無反応だった彼も57機目の紙飛行機で中身を読み始めた。
相変わらずコミュニケーションを取ってくれそうな気配はしない。
めげずに61機目の紙飛行機を折ってる時だった。
僕の身体の上に一機の紙飛行機が着陸した。
驚いて顔を上げると、そこには僕のことをじっと見据える彼の顔があった。
どうやら彼が投げてきたらしい。
急いで紙飛行機を広げるとこう書いてあった。
「紙飛行機ってそんなに面白い?」
それからの僕らの交流の中心には紙飛行機があった。
初めは当たり障りのない応答ばかりだった。
しかし、しばらくして彼はこう提案してきた。
「紙飛行機で競争しない?」
僕が読み終わったのを見計らって、彼は紙飛行機を窓に向かって飛ばした。
負けじと僕も紙飛行機を折って飛ばす。
スーッと伸びていく僕の飛行機が、彼のを追い越した。
ほくそ笑みながら彼を見ると、黙々と次の紙飛行機を折り始めていた。
それからの日々はずっとこんな感じだった。
彼は勉強家で、折り方や紙の大きさを変えて少しずつ飛距離を伸ばしていった。
きっと学校に行く環境さえあれば、彼は成績優秀者の仲間入りをするだろうと思わせるほどの熱心ぶりだった。
日中は窓の外に向かって、日が落ちたらお互いのベッドに向かって僕らは紙飛行機を飛ばした。
時折看護師さんに怒られることもあったけど構わず続けた。
そんな中、徐々に彼も変わっていった。
次第に自分の口から話しかけてくるようになり、自分の身の上の話を聞かせてくれた。
元々彼は仲の良い一人っ子の家族だったそうだ。
けれども中学の時に母親が急死して以来、父親も仕事を辞め、荒れるようになってしまったらしい。
彼を父親は学校にも行かせてくれず働かせ続けていたのだそう。
言うことを聞かなければ蹴る殴るの暴行。
今回の怪我は、稼ぎが低いと言った父親に階段から落とされたことによってできたものらしい。
彼は父親は悪い人ではないんだと言った。
いつかは優しい頃のように戻ってくれると。
しかし、リハビリに乗り気でないところを見ると、
父親の元に帰りたくないという意識があるのではないかと想像するのは難しいことではない。
それが僕はどうしても納得できなかった。
早くリハビリを始めて、一人暮らしをしてみたらどうか。
そんな親の呪縛からは逃れるべきだ。
大丈夫、君なら1人でもやっていける。
そういった励ましと説得の言葉を書いては何回も紙飛行機を彼に飛ばした。
説得をし続けた甲斐あってか、彼は少しずつリハビリを始めるようになった。
僕よりしばらく前から入院していたこともあり、
精力的にリハビリも行っていた彼が完治するのに時間はいらなかった。
彼が病院を出る時、新しい住所を渡してくれた。
どうやら一人暮らしを始めることに決めたらしい。
「自分のために生きることを決めたんだ。」
振り向いて手を振る彼は笑っていた。
彼が病院を出ていってから、病室は風の音がよく聞こえるようになった。
他のオッさん達も彼のすぐ後に退院して、病室には僕1人が残っていた。
そこで暇になった僕は彼に手紙を送ってみることにした。
内容は一人暮らしの調子はどうだいといったところにしよう。
手紙を送った一週間後、彼から封筒が届いた。
その封筒を開いて僕は驚いた。
手紙が紙飛行機に折られていたのだ。
なんとも粋なことをしやがる。
そう思って僕も返事の手紙を紙飛行機の形に折ってだした。
それ以来、僕らの手紙は紙飛行機に折ってから出すのが習慣になった。
彼が出て行ってから一年が経つ。
僕は大学に進み、彼も働きながら夜間学校に通い大学を目指しているそうだ。
だが最近、嫌な予感がする。
というのも手紙が返ってこないのだ。
いつもきっかり一週間で手紙を返してきてた彼から手紙が来ないのだ。
多少の誤差はあるだろうし、神経質になりすぎだと自分も思っているが、
彼の手紙に書いてあった言葉が強く記憶に残る。
二週間前に彼から届いた手紙には、こう書いてあった。
「この前父親から連絡があったんだ。
金をよこせって言われたから、あんたとはもう縁を切るって言ってやったよ。」
この後の手紙が来ないのだ。
大きな不安に駆られた僕は大学を欠席し、彼の家に向かった。
彼の家は古いアパートの二階の一番奥だった。
バス停から離れていて、近くに川があり、
あまり人気のないところに建っていた。
階段を上ると錆びているのかギシギシと音が鳴る。
隣の部屋のポストには大量の広告と新聞が積もっている。
どうやら長い間留守のようだ。
彼の部屋の前に立ち、声をかけてみる。
返答はない。
思い切ってドアノブに手をかけてみた。
手をひねってみれば簡単にその扉は開いてしまった。
そこからの記憶は曖昧だ。
はじめに感じたのは、その強烈な匂いだ。
言いようのない汗臭さを発酵させたのような匂い。
この匂いを嗅いで僕は一瞬気が飛んでしまった。
しかし、その異常な空間に不安が的中したことを察し奥に向かった。
そこにはよく知る彼に似た何かが吊るされていた。
理解を拒もうとする頭が、思わず反射的に目をそらす。
目を逸らした先に飛び込んできたのは、
倒れてしまっている椅子。
荒らされている部屋。
そして机の上に置かれた白い紙だ。
胃から込み上げてくる吐き気を噛み殺して、たどたどしい足運びで机に向かう。
このように紙には書いてあった。
「生きるのに疲れてしまいました。先立つ不孝をお許しください。」
読んだ瞬間に抱いた感情は悲しみ。
次にやってきたのは怒りだった。
彼の文字は長いこと読んできた。
この文字には彼の字が持つ優しさを一つも持ち合わせてはいなかった。
彼は未来に希望を持っていた。
この文章には彼が抱いた夢のかけらを一つも持ち合わせていなかった。
そしてあるものを見つけた。
それは封筒の上の作りかけの紙飛行機だった。
僕の推測は確固たるものとなった。
間違いない彼は殺されたんだ。
そう思った瞬間、僕は机の上にあった紙を持って部屋を飛び出した。
河原に座ってひとしきり泣いた。
泣き終わって、冷静になった頭で警察に通報しなければと考えついた。
けれども、その考えは手に持った紙を見て取りやめた。
警察に通報するのは、もう少し後だ。
そう思って、紙を半分に折る。
この遺書まがいの文章はきっと彼の父親が書いたんだろう。部屋が荒れていたのは金を探したからに違いない。
右隅と左隅を中心に持ってきて折る、
そしてもう一度右辺と左辺を中心に持ってきて折る。
きっと警察なら真実を暴いてくれるはずと信じてる。
だけど僕はこの紙を処分する。
万が一でも、彼の自殺だとされたくないからだ。
それに少しでもこの文章が彼の遺書だと思われることが、苦しくて仕方ない。
右と左を綺麗に合わせて、それぞれを逆折にする。
すると見事な紙飛行機の完成だ。
苦しんで死んだ彼の助けに少しはなるだろうか。
そう思って立ち上がり紙飛行機を飛ばす。
紙飛行機は風に乗って川の方に飛んでいった。
きっと神さまなんていやしないんだ。
でなきゃ彼を見殺しにはしないはずだ。
夢に向かって走り出していた彼を。
そう呟いて、僕は川面に落ちていく紙飛行機を眺めていた。
【圧縮解説】
僕は事故によってほぼ全身複雑骨折していた。
入院した病室のベッドの向かいにいた彼と友達になるべく思いついた手段が紙飛行機だった。
不自由な身体故に下手な紙飛行機しか作れなかったが、それがきっかけで彼は僕に興味を持ってくれた。
紙飛行機を通じて仲良くなった僕と彼。
僕の強い励まし・説得などもあり彼は、より積極的にリハビリを行うようになり、無事退院することとなった。
その後、僕が手紙を送った返答として来た封筒の中の手紙は紙飛行機の形に折ってあった。
それ以来、僕と彼との手紙は紙飛行機に折ってから出していた。
その後退院した僕は、
彼からの手紙が届かないことに不安感を抱き、彼の家に向かった。
そこには彼が首を吊っている死体があった。
そして置いてある遺書を一読して、僕はこれは彼のものではないと確信した。
元々彼は父による虐待が原因で入院していた。
父親の虐待を恐れ、リハビリに彼は消極的だった。
そんな彼を僕は励まし自立することを提案した。
そして彼は父親から離れるべく、退院後は一人暮らしをしていた。
そんな中、その父と縁を切ったという内容が最後の手紙に書いてあったこと。
また、筆跡・内容ともに彼が書くものではないと考えたこと。
これらの要素から彼が殺されたと推測するのは難しいことではなかった。
友達は父親に殺されたであろうと考えた僕は、悲しみと怒りに震えるのであった。
きっと神さまなんていやしないんだ。
高校最後の夏をふいにさせるなんて。
まぁ自分の落ち度がないわけではないんだが。
良い年頃のくせに、空を行く飛行機を眺めてたら、
自動車にぶつかられるなんて恥ずかしくて言えやしない。
お陰様で、ほぼ全身複雑骨折。
幸運にも左手だけは無事だった。
僕の利き手は右手だけど。
救急車で運ばれて病院でそのまま入院。
あまり裕福な家庭でもないから、僕は病院で相部屋に押し込まれた。
全くもってツイてない。
僕の部屋は4人部屋、その中の窓側の一つになった。
隣と斜め向かいのオッさん達は親切で聞いてもないことまで何でもかんでも教えてくれた。
対して目の前のヤツは、一日中ボーっと窓を見てる。
オッさん達が教えてくれた話によると、
目の前のヤツは僕が来る随分と前に病院に来たらしい。
年は俺と同じ18歳。
階段から落ちたことによる骨折と聞いたが、
オッさん達の見立てだとアザの多さなどから虐待とかも受けてたんじゃないかと推測していた。
そのためか彼は積極的にリハビリをしようとはしないのだそうだ。
また、同じ病室になっても全く口を利かないらしい。
そんな目の前の彼に、何不自由なく暮らしてきた僕は強い興味を持った。
同年代だったというのも強い要因だったのかもしれない。
話をしてみたい。
喋ることも歩くこともままならない状態で、どうコミュニケーションを取るか。
ここで僕は妙案を思いついた。
ちょうど僕は利き手でない左手でも文字を書けるように練習している。
用意された大量の紙。
これで紙飛行機を飛ばそう。
紙に自己紹介の挨拶を添えて降り始める。
作ろうとするとこれがなかなか難しい。
片手で紙を綺麗に合わせるところが特に。
やっとの思いで作り上げた不恰好な紙飛行機。
手に取って投げてみる。
ふわりと浮いた紙飛行機は、急遽バランスを崩して僕の足元に墜落した。
まだまだ改良の余地がありそうだ。
僕が飛ばした23機目の紙飛行機が彼に当たるのはもう少し後の話だ。
最初は無反応だった彼も57機目の紙飛行機で中身を読み始めた。
相変わらずコミュニケーションを取ってくれそうな気配はしない。
めげずに61機目の紙飛行機を折ってる時だった。
僕の身体の上に一機の紙飛行機が着陸した。
驚いて顔を上げると、そこには僕のことをじっと見据える彼の顔があった。
どうやら彼が投げてきたらしい。
急いで紙飛行機を広げるとこう書いてあった。
「紙飛行機ってそんなに面白い?」
それからの僕らの交流の中心には紙飛行機があった。
初めは当たり障りのない応答ばかりだった。
しかし、しばらくして彼はこう提案してきた。
「紙飛行機で競争しない?」
僕が読み終わったのを見計らって、彼は紙飛行機を窓に向かって飛ばした。
負けじと僕も紙飛行機を折って飛ばす。
スーッと伸びていく僕の飛行機が、彼のを追い越した。
ほくそ笑みながら彼を見ると、黙々と次の紙飛行機を折り始めていた。
それからの日々はずっとこんな感じだった。
彼は勉強家で、折り方や紙の大きさを変えて少しずつ飛距離を伸ばしていった。
きっと学校に行く環境さえあれば、彼は成績優秀者の仲間入りをするだろうと思わせるほどの熱心ぶりだった。
日中は窓の外に向かって、日が落ちたらお互いのベッドに向かって僕らは紙飛行機を飛ばした。
時折看護師さんに怒られることもあったけど構わず続けた。
そんな中、徐々に彼も変わっていった。
次第に自分の口から話しかけてくるようになり、自分の身の上の話を聞かせてくれた。
元々彼は仲の良い一人っ子の家族だったそうだ。
けれども中学の時に母親が急死して以来、父親も仕事を辞め、荒れるようになってしまったらしい。
彼を父親は学校にも行かせてくれず働かせ続けていたのだそう。
言うことを聞かなければ蹴る殴るの暴行。
今回の怪我は、稼ぎが低いと言った父親に階段から落とされたことによってできたものらしい。
彼は父親は悪い人ではないんだと言った。
いつかは優しい頃のように戻ってくれると。
しかし、リハビリに乗り気でないところを見ると、
父親の元に帰りたくないという意識があるのではないかと想像するのは難しいことではない。
それが僕はどうしても納得できなかった。
早くリハビリを始めて、一人暮らしをしてみたらどうか。
そんな親の呪縛からは逃れるべきだ。
大丈夫、君なら1人でもやっていける。
そういった励ましと説得の言葉を書いては何回も紙飛行機を彼に飛ばした。
説得をし続けた甲斐あってか、彼は少しずつリハビリを始めるようになった。
僕よりしばらく前から入院していたこともあり、
精力的にリハビリも行っていた彼が完治するのに時間はいらなかった。
彼が病院を出る時、新しい住所を渡してくれた。
どうやら一人暮らしを始めることに決めたらしい。
「自分のために生きることを決めたんだ。」
振り向いて手を振る彼は笑っていた。
彼が病院を出ていってから、病室は風の音がよく聞こえるようになった。
他のオッさん達も彼のすぐ後に退院して、病室には僕1人が残っていた。
そこで暇になった僕は彼に手紙を送ってみることにした。
内容は一人暮らしの調子はどうだいといったところにしよう。
手紙を送った一週間後、彼から封筒が届いた。
その封筒を開いて僕は驚いた。
手紙が紙飛行機に折られていたのだ。
なんとも粋なことをしやがる。
そう思って僕も返事の手紙を紙飛行機の形に折ってだした。
それ以来、僕らの手紙は紙飛行機に折ってから出すのが習慣になった。
彼が出て行ってから一年が経つ。
僕は大学に進み、彼も働きながら夜間学校に通い大学を目指しているそうだ。
だが最近、嫌な予感がする。
というのも手紙が返ってこないのだ。
いつもきっかり一週間で手紙を返してきてた彼から手紙が来ないのだ。
多少の誤差はあるだろうし、神経質になりすぎだと自分も思っているが、
彼の手紙に書いてあった言葉が強く記憶に残る。
二週間前に彼から届いた手紙には、こう書いてあった。
「この前父親から連絡があったんだ。
金をよこせって言われたから、あんたとはもう縁を切るって言ってやったよ。」
この後の手紙が来ないのだ。
大きな不安に駆られた僕は大学を欠席し、彼の家に向かった。
彼の家は古いアパートの二階の一番奥だった。
バス停から離れていて、近くに川があり、
あまり人気のないところに建っていた。
階段を上ると錆びているのかギシギシと音が鳴る。
隣の部屋のポストには大量の広告と新聞が積もっている。
どうやら長い間留守のようだ。
彼の部屋の前に立ち、声をかけてみる。
返答はない。
思い切ってドアノブに手をかけてみた。
手をひねってみれば簡単にその扉は開いてしまった。
そこからの記憶は曖昧だ。
はじめに感じたのは、その強烈な匂いだ。
言いようのない汗臭さを発酵させたのような匂い。
この匂いを嗅いで僕は一瞬気が飛んでしまった。
しかし、その異常な空間に不安が的中したことを察し奥に向かった。
そこにはよく知る彼に似た何かが吊るされていた。
理解を拒もうとする頭が、思わず反射的に目をそらす。
目を逸らした先に飛び込んできたのは、
倒れてしまっている椅子。
荒らされている部屋。
そして机の上に置かれた白い紙だ。
胃から込み上げてくる吐き気を噛み殺して、たどたどしい足運びで机に向かう。
このように紙には書いてあった。
「生きるのに疲れてしまいました。先立つ不孝をお許しください。」
読んだ瞬間に抱いた感情は悲しみ。
次にやってきたのは怒りだった。
彼の文字は長いこと読んできた。
この文字には彼の字が持つ優しさを一つも持ち合わせてはいなかった。
彼は未来に希望を持っていた。
この文章には彼が抱いた夢のかけらを一つも持ち合わせていなかった。
そしてあるものを見つけた。
それは封筒の上の作りかけの紙飛行機だった。
僕の推測は確固たるものとなった。
間違いない彼は殺されたんだ。
そう思った瞬間、僕は机の上にあった紙を持って部屋を飛び出した。
河原に座ってひとしきり泣いた。
泣き終わって、冷静になった頭で警察に通報しなければと考えついた。
けれども、その考えは手に持った紙を見て取りやめた。
警察に通報するのは、もう少し後だ。
そう思って、紙を半分に折る。
この遺書まがいの文章はきっと彼の父親が書いたんだろう。部屋が荒れていたのは金を探したからに違いない。
右隅と左隅を中心に持ってきて折る、
そしてもう一度右辺と左辺を中心に持ってきて折る。
きっと警察なら真実を暴いてくれるはずと信じてる。
だけど僕はこの紙を処分する。
万が一でも、彼の自殺だとされたくないからだ。
それに少しでもこの文章が彼の遺書だと思われることが、苦しくて仕方ない。
右と左を綺麗に合わせて、それぞれを逆折にする。
すると見事な紙飛行機の完成だ。
苦しんで死んだ彼の助けに少しはなるだろうか。
そう思って立ち上がり紙飛行機を飛ばす。
紙飛行機は風に乗って川の方に飛んでいった。
きっと神さまなんていやしないんだ。
でなきゃ彼を見殺しにはしないはずだ。
夢に向かって走り出していた彼を。
そう呟いて、僕は川面に落ちていく紙飛行機を眺めていた。
【圧縮解説】
僕は事故によってほぼ全身複雑骨折していた。
入院した病室のベッドの向かいにいた彼と友達になるべく思いついた手段が紙飛行機だった。
不自由な身体故に下手な紙飛行機しか作れなかったが、それがきっかけで彼は僕に興味を持ってくれた。
紙飛行機を通じて仲良くなった僕と彼。
僕の強い励まし・説得などもあり彼は、より積極的にリハビリを行うようになり、無事退院することとなった。
その後、僕が手紙を送った返答として来た封筒の中の手紙は紙飛行機の形に折ってあった。
それ以来、僕と彼との手紙は紙飛行機に折ってから出していた。
その後退院した僕は、
彼からの手紙が届かないことに不安感を抱き、彼の家に向かった。
そこには彼が首を吊っている死体があった。
そして置いてある遺書を一読して、僕はこれは彼のものではないと確信した。
元々彼は父による虐待が原因で入院していた。
父親の虐待を恐れ、リハビリに彼は消極的だった。
そんな彼を僕は励まし自立することを提案した。
そして彼は父親から離れるべく、退院後は一人暮らしをしていた。
そんな中、その父と縁を切ったという内容が最後の手紙に書いてあったこと。
また、筆跡・内容ともに彼が書くものではないと考えたこと。
これらの要素から彼が殺されたと推測するのは難しいことではなかった。
友達は父親に殺されたであろうと考えた僕は、悲しみと怒りに震えるのであった。
「七分の二」「8ブックマーク」
新品の道路標識の『隣町まで10分』という文字を見て、この道はよく混雑すると理解した男。
いったいなぜ?
いったいなぜ?
18年08月05日 23:39
【ウミガメのスープ】 [Ailis]
【ウミガメのスープ】 [Ailis]
解説を見る
『隣町まで10分』の表記のうち、『10』の部分のみが電光掲示板であった。
それは、時間が変わるような出来事がよく起こるということ。
つまりはよくここが混雑するということなのだ。
それは、時間が変わるような出来事がよく起こるということ。
つまりはよくここが混雑するということなのだ。
「◯◯ノート」「8ブックマーク」
名を書かれた人間が死ぬノート というものを、あなたはご存知だろうか。
一体どういう仕組みなのだろう?
一体どういう仕組みなのだろう?
18年07月17日 18:57
【ウミガメのスープ】 [木枯らしちゃん]
【ウミガメのスープ】 [木枯らしちゃん]
解説を見る
彼は人を愛さなかった。愛したものは「毒薬」のみ。
その魅力に取り憑かれた彼にとって、人間はモルモットに過ぎなかった。
まず彼は手近な人間をリストアップした。職場の同僚はもちろん、
友人や家族に至るまで、とにかく観察しやすい人間が対象となった。
そして彼は毎日、分量を調節しながら対象に毒を与えた。日に日に衰弱してゆく様、
毒の効果の出方や種類による違い、その個人差、そして死に至るまでの期間。
その詳細をこと細かく「毒殺日記」として、研究成果をノートに記していたのだった。
※このスープは、実在した毒殺魔グレアム・ヤングを元に作りました。
その魅力に取り憑かれた彼にとって、人間はモルモットに過ぎなかった。
まず彼は手近な人間をリストアップした。職場の同僚はもちろん、
友人や家族に至るまで、とにかく観察しやすい人間が対象となった。
そして彼は毎日、分量を調節しながら対象に毒を与えた。日に日に衰弱してゆく様、
毒の効果の出方や種類による違い、その個人差、そして死に至るまでの期間。
その詳細をこと細かく「毒殺日記」として、研究成果をノートに記していたのだった。
※このスープは、実在した毒殺魔グレアム・ヤングを元に作りました。
「沈黙のコーヒー」「8ブックマーク」
とある街の一角にある海亀珈琲店は、カウンター6席のみの小さな店だ。
マスターの関谷は寡黙な人物で、自ら話題を振ることはそうそう無い。しかし彼は聞き上手で、客の愚痴や他愛もない話に静かに耳を傾け、決して言葉を遮ることなく緩やかな相槌を打つ。そんな彼の人柄と確かな味が保証されたコーヒーは多くのファンを呼び、そのほとんどが常連客だった。
ある日、海亀珈琲店に無口な客が訪れた。
関谷は困り果ててしまう。
その無口な客が来店した日には、どうか他にも客が来るように……そんなことを願っていた。
関谷はべつに、沈黙に耐えられないような人物ではない。
だとしたら何故そんなことを願ったのだろう?
マスターの関谷は寡黙な人物で、自ら話題を振ることはそうそう無い。しかし彼は聞き上手で、客の愚痴や他愛もない話に静かに耳を傾け、決して言葉を遮ることなく緩やかな相槌を打つ。そんな彼の人柄と確かな味が保証されたコーヒーは多くのファンを呼び、そのほとんどが常連客だった。
ある日、海亀珈琲店に無口な客が訪れた。
関谷は困り果ててしまう。
その無口な客が来店した日には、どうか他にも客が来るように……そんなことを願っていた。
関谷はべつに、沈黙に耐えられないような人物ではない。
だとしたら何故そんなことを願ったのだろう?
18年09月02日 23:47
【ウミガメのスープ】 [藤井]
【ウミガメのスープ】 [藤井]
解説を見る
それはほとんど一目惚れだったと言えるだろう。
夏が過ぎ去り木の葉が色付く頃、彼女はこの店を訪れた。
さらりと揺れる短い髪、色素の薄い瞳、注文を告げる時のやや低めの落ち着いた声。そして鞄から取り出し読み始めた文庫本は、関谷の好きな作家の作品だった。しかも一番好きなタイトルだ。
彼女の纏う空気感が関谷には妙に心地よく感じられた。理由は分からないが『合う』という直感。これまで経験したことのない感覚に、関谷は困り果てた。きっとこれが恋なんだろう。
関谷はほとんど無口ではあるが、客の話にはひとつひとつ丁寧に耳を傾けていたし、一人一人と向き合おうと努力していた。それは関谷が店を開いた時からずっと変わらず貫いてきた信念だ。
その日客と交わした何気ない話を、毎晩ルーズリーフに書き留めてファイルにまとめていくのが関谷の日課だった。名前を知らない客も沢山いるが、特徴などを書き残し、どの情報が誰のものであるかを丁寧に振り分けていった。
そして問題の彼女のページだが……ほとんど真っ白だ。注文内容、読んでいた小説のタイトル……書ける情報と言えばそれくらいしかない。関谷が自ら話題を振らないように、彼女もまた、自ら口を開くことはなかった。しかし関谷は彼女に興味を抱いていた。彼女のことを知りたい、その思いばかり募っていく。しかし二人の間には形式的なやりとりしか生まれなかった。
関谷はまた困り果てた。彼女の話を聞きたいが……どう話しかけたら良いものか、そもそも話しかけて良いものか、わからない。
数日後。店を訪れた彼女がコーヒーを飲んでいる中、別の客が来店した。彼はわりによく喋る方で、初対面の彼女に対しても構わず話しかけた。
「君、あまり見かけない顔だな。新規のお客さん?」
「あ、はい。最近ここを知って、気に入って通うようになりました」
「へ~、そうなんだ!本が好きなの?」
「ええ、よく読みますね。父が読書好きなので、その影響もあって」
ぽつりぽつりと溢れ出す彼女の情報。関谷は平然を装いながらも、興味津々で耳を傾けていた。何だか盗み聞きしているようで罪悪感が無いわけでもないが……。
カウンター6席、その狭いスペースで生まれる会話。彼女が他の客と何らかの言葉を交わした日には、彼女のページに少しずつ情報が書き足されていった。
知れば知るほど、また知りたくなる。そして自分のことを知ってほしくなる。人間の欲求には果てがないな…と関谷は苦笑し、ルーズリーフを閉じる。
そして数日後。
「……あの、実は僕もその本、すごく好きなんですよ」
情けなくも震える声で関谷が一歩踏み出すのは、また別の話ーー。
【要約】
無口な客に恋心を抱いた関谷。
彼女のことを知りたいと思うが自身から話題を振ることが出来ず、また彼女も自ら話そうとしないため、彼女のことを知るきっかけが無かった。
しかし別の客が彼女に話しかけて彼女がそれに答えると、間接的に彼女の話が聞けるため、他の客に同席してほしいと思った。
夏が過ぎ去り木の葉が色付く頃、彼女はこの店を訪れた。
さらりと揺れる短い髪、色素の薄い瞳、注文を告げる時のやや低めの落ち着いた声。そして鞄から取り出し読み始めた文庫本は、関谷の好きな作家の作品だった。しかも一番好きなタイトルだ。
彼女の纏う空気感が関谷には妙に心地よく感じられた。理由は分からないが『合う』という直感。これまで経験したことのない感覚に、関谷は困り果てた。きっとこれが恋なんだろう。
関谷はほとんど無口ではあるが、客の話にはひとつひとつ丁寧に耳を傾けていたし、一人一人と向き合おうと努力していた。それは関谷が店を開いた時からずっと変わらず貫いてきた信念だ。
その日客と交わした何気ない話を、毎晩ルーズリーフに書き留めてファイルにまとめていくのが関谷の日課だった。名前を知らない客も沢山いるが、特徴などを書き残し、どの情報が誰のものであるかを丁寧に振り分けていった。
そして問題の彼女のページだが……ほとんど真っ白だ。注文内容、読んでいた小説のタイトル……書ける情報と言えばそれくらいしかない。関谷が自ら話題を振らないように、彼女もまた、自ら口を開くことはなかった。しかし関谷は彼女に興味を抱いていた。彼女のことを知りたい、その思いばかり募っていく。しかし二人の間には形式的なやりとりしか生まれなかった。
関谷はまた困り果てた。彼女の話を聞きたいが……どう話しかけたら良いものか、そもそも話しかけて良いものか、わからない。
数日後。店を訪れた彼女がコーヒーを飲んでいる中、別の客が来店した。彼はわりによく喋る方で、初対面の彼女に対しても構わず話しかけた。
「君、あまり見かけない顔だな。新規のお客さん?」
「あ、はい。最近ここを知って、気に入って通うようになりました」
「へ~、そうなんだ!本が好きなの?」
「ええ、よく読みますね。父が読書好きなので、その影響もあって」
ぽつりぽつりと溢れ出す彼女の情報。関谷は平然を装いながらも、興味津々で耳を傾けていた。何だか盗み聞きしているようで罪悪感が無いわけでもないが……。
カウンター6席、その狭いスペースで生まれる会話。彼女が他の客と何らかの言葉を交わした日には、彼女のページに少しずつ情報が書き足されていった。
知れば知るほど、また知りたくなる。そして自分のことを知ってほしくなる。人間の欲求には果てがないな…と関谷は苦笑し、ルーズリーフを閉じる。
そして数日後。
「……あの、実は僕もその本、すごく好きなんですよ」
情けなくも震える声で関谷が一歩踏み出すのは、また別の話ーー。
【要約】
無口な客に恋心を抱いた関谷。
彼女のことを知りたいと思うが自身から話題を振ることが出来ず、また彼女も自ら話そうとしないため、彼女のことを知るきっかけが無かった。
しかし別の客が彼女に話しかけて彼女がそれに答えると、間接的に彼女の話が聞けるため、他の客に同席してほしいと思った。
「『ウミガメのスープ』」「8ブックマーク」
ある男が、とある海の見えるレストランでウミガメのスープを注文しました。
しかし、彼はそのウミガメのスープを一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。そしてあなたは死ぬことになります。」
男は笑いました。
何故でしょう?
しかし、彼はそのウミガメのスープを一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。そしてあなたは死ぬことになります。」
男は笑いました。
何故でしょう?
18年06月22日 01:55
【ウミガメのスープ】 [カラシラ]
【ウミガメのスープ】 [カラシラ]
解説を見る
(偶然入ったレストランだったが、ウミガメのスープを実際に食べることができるとは……)
男は水平思考パズルの代表作と言える「ウミガメのスープ」を知っていた。
そしてそれと同じ状況を与えられたとき、男が同じ行動を取りたいと思ったのは自然なことだ。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。そしてあなたは死ぬことになります。」
シェフも「ウミガメのスープ」を知っていた。
男は仲間を見つけた喜びとシェフの小気味よい返しに気分を良くして笑みを浮かべたのだった。
男は水平思考パズルの代表作と言える「ウミガメのスープ」を知っていた。
そしてそれと同じ状況を与えられたとき、男が同じ行動を取りたいと思ったのは自然なことだ。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。そしてあなたは死ぬことになります。」
シェフも「ウミガメのスープ」を知っていた。
男は仲間を見つけた喜びとシェフの小気味よい返しに気分を良くして笑みを浮かべたのだった。