「献身の真実」「5Good」
物語:4票納得感:1票
「この{お守り}はね、僕のおじいさんの代からずっとずっと僕たちの身を守ってきてくれたすんごい{お守り}なんだ!僕の心臓を銃弾から僕を守ってくれたりもしたんだよ」
だから僕は大丈夫!謙二はそう言って笑いながらひしゃげた銃弾と共にボロボロの{お守り}を陽子に見せた。
その10年後、謙二の{お守り}の話が作り話だったこと、そして謙二から譲り受けた{お守り}は陽子のために謙二がわざと置いていったものであること。
その二つを知った陽子は謙二への感謝の涙を流し{お守り}を後生大事にすることにした。
一体何故?
だから僕は大丈夫!謙二はそう言って笑いながらひしゃげた銃弾と共にボロボロの{お守り}を陽子に見せた。
その10年後、謙二の{お守り}の話が作り話だったこと、そして謙二から譲り受けた{お守り}は陽子のために謙二がわざと置いていったものであること。
その二つを知った陽子は謙二への感謝の涙を流し{お守り}を後生大事にすることにした。
一体何故?
22年05月31日 20:37
【ウミガメのスープ】 [松神]
【ウミガメのスープ】 [松神]

珍しくベール厚々スープです
解説を見る
【簡易解説】
当時の先進医療でも治療が困難な病気を抱えてしまっていた謙二の娘の陽子、そんな{陽子の治療費は莫大}で普通の給料では決して払えるものではなかった。
陽子の治療費を賄うため戦場、しかも死亡率が高い戦線の最前線へ{戦死時の特別恩給を目的として}出向く謙二だったが、その前に謙二は娘の陽子が自分のせいで父が死んだと思わないように問題文のように一芝居打ち、敢えて玄関にお守りを置いていき。娘の病気のことも妻に頼んで大したものではないと嘘を教えるようにした。
謙二の目論見通り陽子はその玄関に置いていかれたお守りを見て{「父はお守りを忘れたせいで死んだのだ」}と嘆き悲しみ、自分のために死んだとは思いもしなかった。そして戦争が終わり父への特別恩給、報奨で陽子は無事病気を治療することに成功した。
10年後、ことの真相を知ったカメコは父への感謝の念とともに、そのお守りを父の献身の形見として後生大事にすることにした。
【長めの解説】
「陽子が、そんな病気に?」
聞いたことも無い病名、聞いたことも無い額の医療費。まだ5歳の娘に、どうしてそのような災いが降りかかるのか。
頭の中に靄がかかったようだ、目の前が真っ暗になる。高額な医療費を払える見込みなど無い。陽子は死ぬしかないとでも言うのだろうか?
「良い方法が、あるぞ」
居酒屋で同僚に愚痴を漏らす僕に語り掛けてきたのは、上司の松上という男だった。彼はとかく優秀で誰からも頼りにされる男だが、僕は眼前で薄ら笑いを浮かべるこの男が嫌いだった。
何を考えているのかわからない、ではなく。何を考えているのか、どのような方法を考えているのかこの男はその顔を見れば大体のことが丸わかりだったからだ。
「陸軍の将校に知り合いがいる。彼は次の侵攻作戦に必要な人材を探していてね、謙二君。確か君は徴兵による軍事訓練は受けていたね?」
僕はそれに、静かに頷くしかなかった。彼の言いたいこと、それはもう大体わかっていた。
簡単な取引だ、将校と国からの手厚い恩給を手に入れるために決死の作戦に身を投じろ……金勘定は既に済ませた、後は交渉だけだと言わんばかりの顔でこちらの様子を伺う松上の話に、僕はただ黙って頷くしかなかった。
「おとーさん!あそんでー!」
「おー、良いぞー!今日は何する?」
「ご本!ご本読んで!」
娘の陽子に病気のことは伝えなかった、伝えられなかった。今はただ取り敢えず症状を抑える薬だけを服用している状態だ。その薬代ですら家計をかなり圧迫している状況。
娘に病気のことを詳しく言ってしまったら、賢い娘だ……それで両親を困らせてしまっていると悟ってしまうだろう。何の罪も無い娘には何も知らせず、何も悟らせず、元気に過ごして欲しい。だから今後も娘に病気の詳細は伝えないように妻と二人で決めた。
覚悟は、とっくに決まっていた。
「すごーい!そんなお守りなら、お父さんけがなんてしないで帰ってこれるね!」
陽子の病気のことを知ってから一年、とうとう例の侵攻作戦が始まった。だが、僕は戦争とは縁遠い職の人間だ。このまま戦線に向かえばある程度知恵がついた年頃になったら陽子は気付くだろう。父は自分のために死んだのだ、と。
徴兵だったという嘘だけで偽り続けるのも難しい、娘の目を逸らす必要がある。娘の記憶の中で、父はわざと死にに行ったのではなく別の要因で死んだことにする必要が。
だから一芝居打つことにした。代々伝わるすんごいご利益のあるお守り。その話を陽子にし、そして戦争に出向く日になってそれを玄関の見つかりにくい場所に置いていけば、きっと陽子は数日後にそれを見付けてこう思うはずだ。
「このお守りが無かったら、父は死ぬかもしれない」と。
気付かなければ妻の手で気付かせれば良い。妻には辛い役目を背負わせることになるが。
気付いた頃にはもう遅い、急いで郵送してもらおうが僕の手元に届く頃には……。
目論見通りにいけば父はお守りを忘れたせいで死んだと、陽子はそう記憶に刻み込んでくれる。まだ幼い陽子に重荷は背負わせたくない、ましてや自分のために親が死ぬだなんてそんなのは重すぎる。
陽子、どうか幸せに。
「どう……して、忘れて」
父の形見、例の「すんごいお守り」を私はいつも通り鞄の中に忍ばせていた。
が、流石に100年近い歴史のあるお守りだ。外装が破けてしまって、中身が飛び出てしまっていた。
慌てて鞄の中のお守りを取り出した私は目を見張った。中身が新しすぎる。これは一体どういうことだろうか?
頭の中で情報がカチリ、カチリと段々と繋がっていく、そんな音が聞こえた。
中身が新しすぎるお守り。父が玄関の隅に忘れていった、今思えば荒唐無稽すぎる歴史を持つお守り。外身だけどうしてこんなにボロボロになってしまっているのか、それもまるでわざとらしくボロボロに見えるように作られたかのような……
あの頃のことを、私は必死に思い出していた。何かとても、大事なことを忘れているような気がしたから。とても優しかったあの人のことを、今なら鮮明に思い出せる気がしたから。
「お母さん」
「どうしたの、陽子?……あら」
私が手に持ったお守りの中身を見て、母が身体をこわばらせたのを見てああ、やっぱりそうだ。と思った。
騙されていた。全ては私の心を守るために用意された、優しい嘘だった。
父は私に三つの嘘をついた。私の病気が大したものじゃないってこと、戦争へ行った理由は徴兵だってこと……そして、お守りに凄い効果があるってこと。
だから今度は私が、父の嘘を守り通すことにした。
「すんごいお守りの袋が破けちゃって。直してくれないかな?」
だって、私にとってこれは本当に効果のあったすんごいお守りなのだから。
当時の先進医療でも治療が困難な病気を抱えてしまっていた謙二の娘の陽子、そんな{陽子の治療費は莫大}で普通の給料では決して払えるものではなかった。
陽子の治療費を賄うため戦場、しかも死亡率が高い戦線の最前線へ{戦死時の特別恩給を目的として}出向く謙二だったが、その前に謙二は娘の陽子が自分のせいで父が死んだと思わないように問題文のように一芝居打ち、敢えて玄関にお守りを置いていき。娘の病気のことも妻に頼んで大したものではないと嘘を教えるようにした。
謙二の目論見通り陽子はその玄関に置いていかれたお守りを見て{「父はお守りを忘れたせいで死んだのだ」}と嘆き悲しみ、自分のために死んだとは思いもしなかった。そして戦争が終わり父への特別恩給、報奨で陽子は無事病気を治療することに成功した。
10年後、ことの真相を知ったカメコは父への感謝の念とともに、そのお守りを父の献身の形見として後生大事にすることにした。
【長めの解説】
「陽子が、そんな病気に?」
聞いたことも無い病名、聞いたことも無い額の医療費。まだ5歳の娘に、どうしてそのような災いが降りかかるのか。
頭の中に靄がかかったようだ、目の前が真っ暗になる。高額な医療費を払える見込みなど無い。陽子は死ぬしかないとでも言うのだろうか?
「良い方法が、あるぞ」
居酒屋で同僚に愚痴を漏らす僕に語り掛けてきたのは、上司の松上という男だった。彼はとかく優秀で誰からも頼りにされる男だが、僕は眼前で薄ら笑いを浮かべるこの男が嫌いだった。
何を考えているのかわからない、ではなく。何を考えているのか、どのような方法を考えているのかこの男はその顔を見れば大体のことが丸わかりだったからだ。
「陸軍の将校に知り合いがいる。彼は次の侵攻作戦に必要な人材を探していてね、謙二君。確か君は徴兵による軍事訓練は受けていたね?」
僕はそれに、静かに頷くしかなかった。彼の言いたいこと、それはもう大体わかっていた。
簡単な取引だ、将校と国からの手厚い恩給を手に入れるために決死の作戦に身を投じろ……金勘定は既に済ませた、後は交渉だけだと言わんばかりの顔でこちらの様子を伺う松上の話に、僕はただ黙って頷くしかなかった。
「おとーさん!あそんでー!」
「おー、良いぞー!今日は何する?」
「ご本!ご本読んで!」
娘の陽子に病気のことは伝えなかった、伝えられなかった。今はただ取り敢えず症状を抑える薬だけを服用している状態だ。その薬代ですら家計をかなり圧迫している状況。
娘に病気のことを詳しく言ってしまったら、賢い娘だ……それで両親を困らせてしまっていると悟ってしまうだろう。何の罪も無い娘には何も知らせず、何も悟らせず、元気に過ごして欲しい。だから今後も娘に病気の詳細は伝えないように妻と二人で決めた。
覚悟は、とっくに決まっていた。
「すごーい!そんなお守りなら、お父さんけがなんてしないで帰ってこれるね!」
陽子の病気のことを知ってから一年、とうとう例の侵攻作戦が始まった。だが、僕は戦争とは縁遠い職の人間だ。このまま戦線に向かえばある程度知恵がついた年頃になったら陽子は気付くだろう。父は自分のために死んだのだ、と。
徴兵だったという嘘だけで偽り続けるのも難しい、娘の目を逸らす必要がある。娘の記憶の中で、父はわざと死にに行ったのではなく別の要因で死んだことにする必要が。
だから一芝居打つことにした。代々伝わるすんごいご利益のあるお守り。その話を陽子にし、そして戦争に出向く日になってそれを玄関の見つかりにくい場所に置いていけば、きっと陽子は数日後にそれを見付けてこう思うはずだ。
「このお守りが無かったら、父は死ぬかもしれない」と。
気付かなければ妻の手で気付かせれば良い。妻には辛い役目を背負わせることになるが。
気付いた頃にはもう遅い、急いで郵送してもらおうが僕の手元に届く頃には……。
目論見通りにいけば父はお守りを忘れたせいで死んだと、陽子はそう記憶に刻み込んでくれる。まだ幼い陽子に重荷は背負わせたくない、ましてや自分のために親が死ぬだなんてそんなのは重すぎる。
陽子、どうか幸せに。
「どう……して、忘れて」
父の形見、例の「すんごいお守り」を私はいつも通り鞄の中に忍ばせていた。
が、流石に100年近い歴史のあるお守りだ。外装が破けてしまって、中身が飛び出てしまっていた。
慌てて鞄の中のお守りを取り出した私は目を見張った。中身が新しすぎる。これは一体どういうことだろうか?
頭の中で情報がカチリ、カチリと段々と繋がっていく、そんな音が聞こえた。
中身が新しすぎるお守り。父が玄関の隅に忘れていった、今思えば荒唐無稽すぎる歴史を持つお守り。外身だけどうしてこんなにボロボロになってしまっているのか、それもまるでわざとらしくボロボロに見えるように作られたかのような……
あの頃のことを、私は必死に思い出していた。何かとても、大事なことを忘れているような気がしたから。とても優しかったあの人のことを、今なら鮮明に思い出せる気がしたから。
「お母さん」
「どうしたの、陽子?……あら」
私が手に持ったお守りの中身を見て、母が身体をこわばらせたのを見てああ、やっぱりそうだ。と思った。
騙されていた。全ては私の心を守るために用意された、優しい嘘だった。
父は私に三つの嘘をついた。私の病気が大したものじゃないってこと、戦争へ行った理由は徴兵だってこと……そして、お守りに凄い効果があるってこと。
だから今度は私が、父の嘘を守り通すことにした。
「すんごいお守りの袋が破けちゃって。直してくれないかな?」
だって、私にとってこれは本当に効果のあったすんごいお守りなのだから。
「ささやかなオーダーミス」「5Good」
物語:5票
ここは海にほど近いレストラン『蒼の海』。
美咲はシェフの笹井に、家族全員に同じメニューを出すように頼んだ。
しかし、テーブルに並んだ料理のうち、一人分だけ他の皆とは少し違う料理が出されている。
結局その一人分の料理は一切手がつけられないままに下げられていくのだった。
このことを知った美咲はシェフの笹井に心から感謝するのだが――
では、美咲が家族全員に同じメニューを出すように頼んだ理由とは?
美咲はシェフの笹井に、家族全員に同じメニューを出すように頼んだ。
しかし、テーブルに並んだ料理のうち、一人分だけ他の皆とは少し違う料理が出されている。
結局その一人分の料理は一切手がつけられないままに下げられていくのだった。
このことを知った美咲はシェフの笹井に心から感謝するのだが――
では、美咲が家族全員に同じメニューを出すように頼んだ理由とは?
22年06月29日 01:20
【ウミガメのスープ】 [藤井]
【ウミガメのスープ】 [藤井]
解説を見る
【解答】
結婚式の披露宴の料理について、シェフの笹井に相談していた美咲。
当初は、高齢の祖母の料理を柔らかく食べやすいものにして欲しいと頼んでいたのだが、その数ヶ月に祖母は他界。
花嫁姿を見せることは叶わなくなってしまったが、祖母への思いから、当日祖母の席を設けて同じように料理も出してもらうことに。
しかし実際に食べてもらうことは出来ないので、「柔らかく食べやすいもの」である必要はないと思い、皆と同じメニューを出してもらうように頼んだのだ。
【解説】
「あの……私の祖母、歯が弱くて固いものが食べにくいんです。祖母のお料理だけ、細かく刻んだりペースト状にして頂くことは可能でしょうか?」
「はい、もちろん出来ますよ」
美咲の遠慮がちな問いかけに、シェフの笹井は快く頷いた。
ここは海にほど近いレストラン『蒼の海』。同じ敷地内には緑豊かなガーデンと小さなチャペルを設けている。
年明けに結婚を控えている美咲は、婚約者の大輝と式場見学に来ている。ひと通り会場を見て回ったあと、披露宴の料理について相談をしている最中だ。
「ご高齢の方がご来場される事は多いですから、専用のメニューも御座いますよ。通常メニューと同じ食材を使いつつ、調理法を工夫して柔らかく食べやすくしております」
笹井の差し出すパンフレットを覗き込む美咲と大輝の表情はぱぁっと明るくなった。
「これならおばあちゃんも喜んでくれるね!」
華やかな料理の写真に、二人は式への期待を膨らませた。
しかし数ヶ月後、美咲の祖母は老衰によりこの世を去ることとなってしまった。
花嫁姿を見せることが叶わぬままに訪れた突然の別れ。深い悲しみに、美咲は泣き崩れた。
大輝は悲痛な表情で、美咲の小さな肩を支えることしかできなかった。
「――当日は、祖母の席を作りたいんです。お料理も出していただけますか?皆と同じメニューを……皆と同じように」
年が明けて結婚式を数週間後に迎えたある日、美咲と大輝はふたたび式場に来ていた。レストランのシェフ笹井と最終打ち合わせをする。
「かしこまりました。おばあさまもきっと喜ばれますよ」
祖母の死を知った笹井は、美咲の気持ちに寄り添うように、静かに優しく頷いた。
そして迎えた式当日。
純白のウエディングドレスに身を包んではにかむ美咲を愛おしげに見つめる大輝。
二人はたくさんの笑顔と拍手に囲まれて幸せそうに微笑んだ。
挙式を終え、チャペルから披露宴会場のレストランへと移動する。ほどなくして、それぞれのテーブルへ料理が運ばれ始めた。
美咲の家族が座るテーブルには空席がひとつ。祖母の名前が書いた札が立てられている。椅子には、額に収められた祖母の写真が立て掛けられていた。
そこに置かれた料理を見て、隣の席に座っていた美咲の母・洋子はハッとした。
「あなた、見て。これ……」
洋子に肩をつつかれ、父・隆平も目を見開く。
祖母の席に置かれた華やかで美しいその料理は、皆の目の前に置かれたものとは少し違う。なめらかな魚介のペースト、細かく刻まれ綺麗に盛られた肉、くたくたに茹でられた色鮮やかな温野菜……ひと目見て、それは祖母のために作られたものだとわかった。
祖母の席を作ることについて、美咲は両親にも相談していた。祖母がそこに座ることは叶わないが、同じように料理を出してもらいたいと。
しかし、柔らかく食べやすくしてもらう必要はなくなった。実際に祖母が食べるわけではないのだから、皆と同じように通常メニューを出してもらおう、と。誰もがその意見に納得していた。
手をつけられないままに下げられていく料理。そのひと皿ひと皿に、想いがこもっていた。
「……レストラン側の心遣いだなぁ、きっと」
ぽつりと呟く隆平。洋子は静かに天を仰いだ。
新婦席に座っていた美咲はそのことを知らない。
披露宴の終盤、各テーブルを回っていた際に母の洋子からそのことを聞いた。
美咲は心底感激し、シェフの笹井を呼んで礼を述べた。
「笹井さん、本当にありがとうございます。本当に……お忙しい中でこんな心遣いを……祖母も美味しく食べてくれたことと思います」
「こちらこそ、お料理を作らせていただけて幸せです。間違いなくおばあさまはあの席にいらっしゃいますから……ぜひじっくりと、花嫁姿を見せてあげてくださいね」
「はい……!」
カメラマンの声を合図に、祖母の写真を胸に抱いて大輝と頬を寄せ合う美咲。
そんな二人……いや、三人を、笹井は遠くから幸せそうに見つめた。
結婚式の披露宴の料理について、シェフの笹井に相談していた美咲。
当初は、高齢の祖母の料理を柔らかく食べやすいものにして欲しいと頼んでいたのだが、その数ヶ月に祖母は他界。
花嫁姿を見せることは叶わなくなってしまったが、祖母への思いから、当日祖母の席を設けて同じように料理も出してもらうことに。
しかし実際に食べてもらうことは出来ないので、「柔らかく食べやすいもの」である必要はないと思い、皆と同じメニューを出してもらうように頼んだのだ。
【解説】
「あの……私の祖母、歯が弱くて固いものが食べにくいんです。祖母のお料理だけ、細かく刻んだりペースト状にして頂くことは可能でしょうか?」
「はい、もちろん出来ますよ」
美咲の遠慮がちな問いかけに、シェフの笹井は快く頷いた。
ここは海にほど近いレストラン『蒼の海』。同じ敷地内には緑豊かなガーデンと小さなチャペルを設けている。
年明けに結婚を控えている美咲は、婚約者の大輝と式場見学に来ている。ひと通り会場を見て回ったあと、披露宴の料理について相談をしている最中だ。
「ご高齢の方がご来場される事は多いですから、専用のメニューも御座いますよ。通常メニューと同じ食材を使いつつ、調理法を工夫して柔らかく食べやすくしております」
笹井の差し出すパンフレットを覗き込む美咲と大輝の表情はぱぁっと明るくなった。
「これならおばあちゃんも喜んでくれるね!」
華やかな料理の写真に、二人は式への期待を膨らませた。
しかし数ヶ月後、美咲の祖母は老衰によりこの世を去ることとなってしまった。
花嫁姿を見せることが叶わぬままに訪れた突然の別れ。深い悲しみに、美咲は泣き崩れた。
大輝は悲痛な表情で、美咲の小さな肩を支えることしかできなかった。
「――当日は、祖母の席を作りたいんです。お料理も出していただけますか?皆と同じメニューを……皆と同じように」
年が明けて結婚式を数週間後に迎えたある日、美咲と大輝はふたたび式場に来ていた。レストランのシェフ笹井と最終打ち合わせをする。
「かしこまりました。おばあさまもきっと喜ばれますよ」
祖母の死を知った笹井は、美咲の気持ちに寄り添うように、静かに優しく頷いた。
そして迎えた式当日。
純白のウエディングドレスに身を包んではにかむ美咲を愛おしげに見つめる大輝。
二人はたくさんの笑顔と拍手に囲まれて幸せそうに微笑んだ。
挙式を終え、チャペルから披露宴会場のレストランへと移動する。ほどなくして、それぞれのテーブルへ料理が運ばれ始めた。
美咲の家族が座るテーブルには空席がひとつ。祖母の名前が書いた札が立てられている。椅子には、額に収められた祖母の写真が立て掛けられていた。
そこに置かれた料理を見て、隣の席に座っていた美咲の母・洋子はハッとした。
「あなた、見て。これ……」
洋子に肩をつつかれ、父・隆平も目を見開く。
祖母の席に置かれた華やかで美しいその料理は、皆の目の前に置かれたものとは少し違う。なめらかな魚介のペースト、細かく刻まれ綺麗に盛られた肉、くたくたに茹でられた色鮮やかな温野菜……ひと目見て、それは祖母のために作られたものだとわかった。
祖母の席を作ることについて、美咲は両親にも相談していた。祖母がそこに座ることは叶わないが、同じように料理を出してもらいたいと。
しかし、柔らかく食べやすくしてもらう必要はなくなった。実際に祖母が食べるわけではないのだから、皆と同じように通常メニューを出してもらおう、と。誰もがその意見に納得していた。
手をつけられないままに下げられていく料理。そのひと皿ひと皿に、想いがこもっていた。
「……レストラン側の心遣いだなぁ、きっと」
ぽつりと呟く隆平。洋子は静かに天を仰いだ。
新婦席に座っていた美咲はそのことを知らない。
披露宴の終盤、各テーブルを回っていた際に母の洋子からそのことを聞いた。
美咲は心底感激し、シェフの笹井を呼んで礼を述べた。
「笹井さん、本当にありがとうございます。本当に……お忙しい中でこんな心遣いを……祖母も美味しく食べてくれたことと思います」
「こちらこそ、お料理を作らせていただけて幸せです。間違いなくおばあさまはあの席にいらっしゃいますから……ぜひじっくりと、花嫁姿を見せてあげてくださいね」
「はい……!」
カメラマンの声を合図に、祖母の写真を胸に抱いて大輝と頬を寄せ合う美咲。
そんな二人……いや、三人を、笹井は遠くから幸せそうに見つめた。
「name・9」「5Good」
トリック:2票納得感:3票
シュークリーム専門店「ナイン」は、お土産や差し入れの定番として名高い有名店である。
「ナイン」では、冬の時期に比べると夏の時期はクリーム使用量が明らかに減少するという。
しかし、そのことにより『味が変わった』『金儲けに走った』などというクレームは特に確認されていない。
クリームの使用量が明らかに減ってるのに、なぜクレームがないのだろうか?
「ナイン」では、冬の時期に比べると夏の時期はクリーム使用量が明らかに減少するという。
しかし、そのことにより『味が変わった』『金儲けに走った』などというクレームは特に確認されていない。
クリームの使用量が明らかに減ってるのに、なぜクレームがないのだろうか?
22年06月27日 16:04
【ウミガメのスープ】 [山椒家]
【ウミガメのスープ】 [山椒家]

人が多い
解説を見る
『スペシャルバニラビーンズカスタードクリーム』を使用した、「ナイン」のシュークリームは絶品である。
ファンも多く、味についてのクレームとはほぼ無縁である。
数年前、「ナイン」には多くのクレームが寄せられていた。
それはレジのスタッフが、指を舐めてからビニール袋を扱うことについてである。
『普通は指を【なめないん】じゃないですか?信じられません』
それ以降、ビニール袋を扱う際、必要ならば【{滑り止めのクリーム}】を使うようになった。
夏は冬と違い、肌も乾燥しにくく手もしっとりしている。
そのため、夏のクリームの使用量は少なめである。
簡易解説・冬は夏と比べて手が荒れるので、ビニールをめくるための【{滑り止めのクリーム}】使用量が多い。
ファンも多く、味についてのクレームとはほぼ無縁である。
数年前、「ナイン」には多くのクレームが寄せられていた。
それはレジのスタッフが、指を舐めてからビニール袋を扱うことについてである。
『普通は指を【なめないん】じゃないですか?信じられません』
それ以降、ビニール袋を扱う際、必要ならば【{滑り止めのクリーム}】を使うようになった。
夏は冬と違い、肌も乾燥しにくく手もしっとりしている。
そのため、夏のクリームの使用量は少なめである。
簡易解説・冬は夏と比べて手が荒れるので、ビニールをめくるための【{滑り止めのクリーム}】使用量が多い。
「ゴミの輝く街」「5Good」
納得感:5票
見知らぬ女から不要なものを渡された男。
これ要らないのにな、と内心嫌がっている男だが、それと同時にここは良いところだと感じているのは一体何故?
これ要らないのにな、と内心嫌がっている男だが、それと同時にここは良いところだと感じているのは一体何故?
22年07月02日 23:00
【ウミガメのスープ】 [ベルン]
【ウミガメのスープ】 [ベルン]
解説を見る
買ってみたもののまずくてあまり飲まなかったペットボトル。
これは要らないなと座っていたベンチに置いてきたのだが、その様子をみていた女が、「忘れ物ですよ」とそのペットボトルを渡してきた。
「ありがとうございます(要らないのに…)」
だが、治安が悪いところから来た男、落としたもの、忘れたものが自分のところに戻ってくるなんてまずない。
(ここはいいところだな)
これは要らないなと座っていたベンチに置いてきたのだが、その様子をみていた女が、「忘れ物ですよ」とそのペットボトルを渡してきた。
「ありがとうございます(要らないのに…)」
だが、治安が悪いところから来た男、落としたもの、忘れたものが自分のところに戻ってくるなんてまずない。
(ここはいいところだな)
「夏色」「5Good」
トリック:2票納得感:3票
太陽燦々、夏の午後。
今日はツイッギーとの初デート。
丘の上のお屋敷まで、彼女を迎えに来たガブリエル。
フランス人形のように可愛らしいガールフレンドを自転車の後ろに乗せ、長い長い坂道をゆっくりと下ってゆく。
麓の公園に咲くピンクの向日葵(きのう偶然見つけたのだ!)を見せてあげる約束だ。
腰に回された彼女の腕の感触に、ガブリエルは胸がドキドキした。
そして、どんどん憂鬱になっていくのだった。
なぜ?
今日はツイッギーとの初デート。
丘の上のお屋敷まで、彼女を迎えに来たガブリエル。
フランス人形のように可愛らしいガールフレンドを自転車の後ろに乗せ、長い長い坂道をゆっくりと下ってゆく。
麓の公園に咲くピンクの向日葵(きのう偶然見つけたのだ!)を見せてあげる約束だ。
腰に回された彼女の腕の感触に、ガブリエルは胸がドキドキした。
そして、どんどん憂鬱になっていくのだった。
なぜ?
22年07月08日 21:53
【ウミガメのスープ】 [きまぐれ夫人]
【ウミガメのスープ】 [きまぐれ夫人]
解説を見る
帰りは長い長い上り坂なんだぜ?太陽燦々だぜ?
トホホのホ〜
トホホのホ〜