「SFミステリー(現実)」「7ブックマーク」
カメオはウミオを鈍器で撲殺した
咄嗟の犯行 捕まるわけにはいけなかったカメオは〇〇を手にした――
*****
上の文はあるドラマが現代へリバイバルされたときの脚本の一文である
Q.〇〇の部分が正反対のものに置き換えられたという。それは一体何だろうか?
25年08月24日 23:05
【20の扉】 [とまと]
【20の扉】 [とまと]

初出題です 8/31,0時に締めました ご参加いただいた皆さまに感謝申し上げます
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A.ヒーター(暖房)→クーラー(冷房)
『カメオはウミオを撲殺する。だが、一時の言わば気の迷いで人を殺してしまったカメオ。動転する最中、アリバイ作りをするためリモコンを取り、暖房をつけて死亡時刻を撹乱することにした』
……この脚本に待ったをかけたのは新人ADのカメコであった。
「…………え、この暑さの中で暖房を使うんですか?」
……たしかに昭和や平成ならともかく、40℃を超える日が珍しくもない現代だ。
このうだるような暑さ。暖房を使ったらアリバイ作りすら出来ぬままに腐る方が先だろう。
そんなことを思いながら監督であるラテオはこの作品の根本である暖房で死亡時刻を早めるトリックではなく冷房で死亡時刻を遅くするトリックへ変更を余儀なくされた。
――XX年後。
令和の時代にリバイバルされた本ドラマが人気を博し、あらためてリバイバルされることとなった。
だが『冷房をつけて時間を撹乱する』というアリバイ作りの部分にまたもや待ったがかかった。
「この暑さで室内に遺体を置いといたら、冷房をつけてもすぐにウジが湧きますよ! いっそのことボンネットで焼いて身元不明にしませんか?」
……ただの時間操作のトリックだったのがとんでもないトリックに変わっていくのも、そう遠くない未来かもしれない…………?
『カメオはウミオを撲殺する。だが、一時の言わば気の迷いで人を殺してしまったカメオ。動転する最中、アリバイ作りをするためリモコンを取り、暖房をつけて死亡時刻を撹乱することにした』
……この脚本に待ったをかけたのは新人ADのカメコであった。
「…………え、この暑さの中で暖房を使うんですか?」
……たしかに昭和や平成ならともかく、40℃を超える日が珍しくもない現代だ。
このうだるような暑さ。暖房を使ったらアリバイ作りすら出来ぬままに腐る方が先だろう。
そんなことを思いながら監督であるラテオはこの作品の根本である暖房で死亡時刻を早めるトリックではなく冷房で死亡時刻を遅くするトリックへ変更を余儀なくされた。
――XX年後。
令和の時代にリバイバルされた本ドラマが人気を博し、あらためてリバイバルされることとなった。
だが『冷房をつけて時間を撹乱する』というアリバイ作りの部分にまたもや待ったがかかった。
「この暑さで室内に遺体を置いといたら、冷房をつけてもすぐにウジが湧きますよ! いっそのことボンネットで焼いて身元不明にしませんか?」
……ただの時間操作のトリックだったのがとんでもないトリックに変わっていくのも、そう遠くない未来かもしれない…………?
「シナリオ:惜別の夜に温もりを」「7ブックマーク」
※あらすじ
ここは羅寺町。
あなたと助手のだだだだはこの街で、心霊絡みの事案を専門的に取り扱う「オカルト探偵」を生業をしています。
あなたの仕事は、依頼人から寄せられる心霊案件に対し解決策を提示することです。
今日もまた、あなたの事務所に誰かがやってきました。
───どうやら、新たな依頼のようです。
******
「あの…幽霊絡みの相談を聞いてくれる探偵事務所ってここで合ってますか…?」
恐る恐るといった様子の男性の問いに、あなたは笑顔で肯定をすると来客用の椅子へと案内をしました。
あなたが用件を訊ねると、男性は静かに、その奇妙な話を語り始めました。
あなたはいつものように、手元のPCに依頼内容の記録をします…。
※記録
依頼人:神田信也(35)
・概要
旧梅神病院の206病室にて、女性の幽霊が現れるという噂がある。
206病室には医療用ベッド等の基本的な設備の他、窓側には見舞い客用のパイプ椅子が放置されている。
・噂
深夜に206病室を訪れると、医療用ベッドに窓の方を向いて腰掛ける入院着姿の女が現れる。女は黙ったまま、じっと窓の方を見つめており、暫くすると煙のように消える。
・依頼内容
206病室は、かつて依頼人の大学生時代の恋人・志村美優が入院していた部屋であり、彼女はその後亡くなってしまったそうだ。
梅神病院が移転(・補遺を参照)する前、最後に206病室に入院していたのは志村美優氏であり、彼女の幽霊である可能性は高いと依頼人は考えている。
彼女の幽霊であるならば、成仏させてあげたいとのこと。
・経緯
依頼人はかつて地元である羅寺町の大学に通っていたが、卒業後は県外の企業に就職した。最近仕事を辞め、その折に羅寺町に帰ってきたところ、地元の友人から旧梅神病院の噂を聞いた。
・補遺
羅寺町郊外にある旧梅神病院は、14年ほど前に別所に移転した梅神病院のかつての建物であり、現在は廃墟となっている。
※ルール
①本問題のFA条件は、206病室にいる美優の幽霊が成仏する手順を信也に提示することです。
②あなたの取れる行動は、「信也に話しかける(質問する)」または「だだだだに相談する」ことです。
「信也に話しかける(質問する)」場合、質問はYESかNOで答えられるものでなくても構いません。質問でなくても良いです。
「だだだだに相談する」場合、質問欄で「だだだだに相談する」ことを明記の上、次の行動や今の状況、あなたの考えについて相談しましょう。だだだだはあまり推理力がありませんが、オカルト知識が豊富であり、意外な視点からのヒントを示してくれます。
特に解決策に関しては、信也に提示する前にだだだだに確認してもらうのが良いでしょう。
また、だだだだにはインターネットを用いた情報収集を頼むこともできます。その場合は「何について調べるのか」を伝えましょう。
※注意
①「あなた」はあくまで相談を受け、解決策を示す存在であり、実際に旧梅神病院を訪れることはできません。解決策の実行は信也の役目なので、彼に任せましょう。
②概略を問うような質問に対しては、大まかな回答が返ってくる傾向があります。まずある程度の事情を聞き出した後は、気になる点についてより具体的な質問を行い、深掘りをすることを奨めます。
③本問題はフィクションです。
大学三年生の秋。
恋人の美優が交通事故にあった。
幸いにも一命は取り留めたが、事故の際に両手首から先が「よくない巻き込まれ方」をしたらしく、切断するしかなかったそうだ。
そのせいで美優は、小さい頃からやってたピアノが弾けなくなった。
最初に俺がお見舞いに行ったとき、美優はふいに窓の外の景色を見たり、少し俯いたりしたままであまり目を合わせてくれなかった。
その行動が泣き腫らした目に気づかれないようにするためだと気づいた俺は、かける言葉が見つからず、それこそ腫れ物に触るような調子でくだらない世間話をするのがやっとだった。
美優と付き合い始めたのは大学に入学してすぐのことだった。
小さな頃からピアノをやっていたらしく、本人曰く「長くやっているだけの教養」「趣味みたいなもの」とのことだったが、彼女がピアノについて話すときの熱の入りようから、ただの趣味で片付けられるようなものじゃないことは俺にも分かった。
美優は快活な性格で、イタズラ交じりのスキンシップが多い賑やかな女の子だった。
特に、こっそりと俺の後ろから目を覆い隠して、「だーれだ?」と聞くイタズラがお気に入りのようだった。
気になって、理由を聞いたことがあった。
名前を呼んでもらうのが好きだからと、子供のように笑ったその表情を、今でも鮮明に覚えている。
******
探偵さんに教えて貰った解決策を実行するため、俺は一人で旧梅神病院を訪れていた。
時刻は1時40分。早めにしたのは、心の準備という意味でも少し余裕が欲しかったからだ。
懐中電灯を片手に玄関前に立つ。
玄関のガラス扉はまるごと撤去されており、気休め程度に数本のバリケードテープが横断しているだけだった。これでは獣でも誰でも入り放題だろう。
ふーっと深呼吸をした俺は、左手でテープを持ち上げながら右手に持った懐中電灯で足元を照らしつつ、病院内へと侵入した。
内部は侵入者たちが捨てた空きペットボトルなどのゴミ、足元にガラスの破片や剥がれ落ちた壁面材が散らばっていたが、落書きもそこまで多くなく綺麗なものだった。
俺は足元に気を付けつつ、受付ロビーの奥にある階段に足をかけた。誰もいない病院内で、自分の足音だけが響く。
階段を昇りきって2階の廊下に出ると、否応なしに恐怖心が心を塗りつぶした。
無理もない。深夜に心霊スポットで独りきり。
何も不安にならない方が異常と言うものだ。
───本当に?
───怖いのは、心霊スポットに独りでいるから?
誰かが、そう言った気がした。
******
見舞いに行く度に、美優との会話は弾まなくなっていった。
入院中、ずっと美優は塞ぎ込んでいた。表面上は明るく取り繕っているのだが、笑顔はどこかぎこちなく、無理をして話題を紡いでいるのは明らかだった。
最初は俺も合わせて、大学であったこととか、最近読んだ本のこととか、とにかく美優が退屈しないように色々な話をした。
今思えば、あれは退屈しないようにじゃなくて、話を途切れさせたら見たくもない現実が視界を塞いでしまうと思ったからだ。
でも、そんな痩せ我慢がいつまでも続くわけもなく。
美優は少しずつ口数が減っていったし、時折思い詰めたように自分の手を見つめることが多くなった。俺もそんな姿を見るのに耐えられなくなって、次第に窓の外の景色を見て話すことが増えた。そんな風になってもさっさと帰る選択をしなかったのは、美優を独りにすることに良心の呵責があったからかもしれない。
そういえば、一度だけ美優が妙な様子を見せることがあった。
窓の外を見ながら他愛の無い話をする途中、不意に背後に気配を感じて振り返ると、美優はこちらを向いたままベッドに腰掛けていた。
俺と目が合った美優はそのまま、気まずそうにテレビのワイドショーへと視線を逸らした。
今になって思い返せば、あれはいつものイタズラをしようとして、手首から先が無いことに改めて戸惑っていたのだろう。
…あそこで即座に意を汲んでやれていれば結末は違ったかもしれないのに。
当時の俺と来たら気まずさに押し黙るばかりで、美優の気持ちに何一つ応えてやれなかったのだった。
******
懐中電灯を掲げながら、真っ暗な廊下を進んでいく。
旧梅神病院は受付ロビー部分を対象に左右対称の建物で、今自分がいる西側が病棟になっている。
病棟はロの字型の廊下が一周する構造になっており、206病室はロの字の角、つまり、この廊下の一番奥にある部屋だった。
突き当たりに着いた俺は、懐中電灯を掲げ病室の名札を照らした。
当然そこには誰の名もなく、「様」という敬称のみがポツンと残されていた。
その上部に黒のゴシック体でしっかりと、「206」という数字が刻印されている。
時刻は1時50分。ちょうど良い時間だ。
何度目かわからない深呼吸をして、俺は病室の扉に手をかけた。
探偵さんの見立てでは、美優が現れるのは2時から2時半…丑三つ時の間だ。まだこの部屋の中には、誰もいないはず。
意を決した俺はゆっくりと扉を開ける。廃墟となって十数年が経っていることから、もしかして開かないかも、なんて思っていたのだが。
…十数年ぶりに入った206病室は、あの頃と変わらない面影を残しながらも、物が少なくなったせいか少し寂しい印象を受けた。医療用ベッドは残っているものの、コールボタンや医療機器は撤去されているし、シーツも剥がされている。元々テレビが備え付けられていた木棚は空になっており、クモの巣だらけになっていた。
ただ、カーテンレールのみが残る天井と、板材が剥き出しのベッド、傍らに置かれたパイプ椅子と残された基本的な設備のみが、ここが病室であった頃の名残をたたえている。
室内は窓から差し込む淡い月明かりに照らされていて、光源が無くとも部屋の様子を捉えることができた。
俺はそっと窓辺のパイプ椅子に近づく。
あの頃と変わらぬ場所に捨て置かれたそれは、青色の座面に分厚い埃が積もっていた。埃が極力舞わないように右手で丁寧に払うと、俺はベッドに背を向ける形でパイプ椅子に腰掛けた。
スマホを取り出して時刻を確認する。
1時55分。2時になったらアラームが鳴るから、それまではじっと座って待つことになる。
窓の外の景色を見ながら、ゆっくりとあの頃のことを思い出す。
相変わらず、拭いきれぬ恐怖心が胸を押さえつけるような感覚があった。
今、なんとなく分かった。
俺が怖いのは心霊スポットに独りでいることでも、これから幽霊が現れるかもしれないからでもない。
もう一度、美優に会うこと。
それがどうしようもなく恐ろしいのだ。
******
冬になって、美優は退院することになった。
俺は無事に退院できたことを心から喜ぶ半面、あの2人だけの気まずい時間が終わることに安堵していた。
退院の時は俺も立ち会いつつ、4年生にあがる前に一度2人で遊びに行く約束をした。
気晴らしに2人で楽しく遊べば、美優もまた以前のように明るい性格に戻るかもしれないと、何の根拠も無い期待があったのが半分。
もう半分は、入院中の気まずい時間を経て崩れた2人の関係を、さっさと新しい思い出で塗り潰してしまいたかったという自分の我儘だった。
結局、その約束が果たされることはなかった。
退院から1週間ほど経ったある日、美優は住んでいるアパートの屋上から飛び降りて亡くなった。
遺書こそ見つからなかったものの、事故の件と入院時の様子から、両手首から先を失ったことを苦にした自殺ということでカタがついた。
…そうだ。
美優はピアノが大好きで、事故で弾けなくなったから…それで絶望して死んだ。それは事実だろう。
───だから、俺にできたことなんて、何もなかった筈なんだ。
卒業後、俺は逃げるように県外の企業に就職した。
大して志望度は高くなかったが、この町から出ていけるならなんだって良かった。
******
ヴーッ、ヴーッ
どこか遠く離れかけていた俺の意識を、携帯のバイブ音が現実に引き戻した。
大慌てでスマホを取り出し、自分でセットしたアラームを止める。
当たり前だが、時刻はちょうど2時を回ったところだった。
──ふと。
背後の空気が揺らいだ気がした。
背中越しに伝わってくる、生き物の、いや、生きてはいない何かの気配。
それでもどこか懐かしさを感じるのは、俺が"そう"信じたいからだろうか。
鼓動が浅く、早くなり、息苦しさで喉がつまる。落ち着け。探偵さんに言われた通りに。
俺は指示された通り、後ろを振り返らずに目を閉じた。
すると、背後から微かに衣擦れの音がして、俺の頭の左右に、ヒヤリとした感覚が触れた。
いや、実際には触れたわけではないのだろう。ただ、温もりの無い鉄管のようなものが傍らにある、その感覚だけがあった。
「だーれだ?」
「…………美優」
そう答えると、傍らにあった冷たい何かがすっと戻っていくような気がした。
静かに目を開き、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、ベッドに腰掛け、穏やかな笑顔でこちらを見つめる入院着姿の美優がいた。
少し痩せた頬も。
白くなった肌も。
痛々しい傷跡が残る、手首から先の無い腕も。
少し芝居がかった口調で問う、その声も。
何から何まで、退院した当時の美優のままだった。
「………美優」
続く言葉を探している内に、いつの間にか涙が溢れていた。
それと同時に、ずっと心に残っていた様々なことが一気に脳内に散らかってしまって、何も言えなくなってしまう。
それでも無意識のうちに、口をついて出ていたのは───
「ごめん…ごめんよ…」
「俺のせいだ…俺がきみを…」
「俺は…気付けなかった…俺のせいで…」
「…ごめん ごめんなさい…」
子供のように泣きじゃくりながら、ひたすら謝り続ける俺の言葉を美優は黙って聞いていた。
そのうち、ひとしきり吐き出し終わった俺がえずいていると、美優はおもむろに口を開いた。
「…信也」
「大丈夫、謝らないで」
その声にゆっくりと顔を上げると、美優もまた泣いていた。
「私こそごめんね、あんなお別れになってしまったから」
「信也を酷く傷つけてしまった」
そんなことない、と言おうとした俺を、美優は視線で制止した。
「…ピアノは大好きだったよ」
「だから、もう二度と弾けない身体になって、死ぬほど辛かった」
「…だけど」
今度は俺が黙って聞く番だった。ただ、美優が俺に何を伝えようとしているのかは、この時点でなんとなく分かっていた。
「それでも入院中は、ぎりぎり何とか踏みとどまれたの」
「信也がいつもお見舞いに来てくれたから」
「ピアノも大事だったけど、信也が一緒にいてくれればきっと大丈夫だって」
「そう思えたの」
じゃあなんで、とは聞かなかった。
探偵さんとの話を通して、俺はもうその答えを知っていた、いや"思い出していた"からだ。
「…でもあの日、病室で信也の後ろ姿に手を伸ばした時」
「ああ二度と、一番好きな人と一番好きなやり取りができないんだなぁって」
「習慣だった"これ"を思い出す度に辛い記憶が甦っちゃうのかなぁって」
それでも、やはり幽霊とはいえ本人の口から聞くのはどうしようもなく堪える。結局は俺の弱さが、美優の心にとどめをさすことになってしまった。
美優を殺したのは俺だったのだ。
だが、続いて美優の口から出たのは、予想外のものだった。
「…だからね、私が弱かったせいなの」
「信也との繋がりはそれだけじゃなかったのに、私が勝手に諦めてしまった」
「だから、信也には謝らないで欲しい」
「私は何も恨んでないよ」
その話す美優の口調はいつの間にか、かつての溌剌とした声色に戻っていた。
「───でも、俺は」
「逃げたんだ」
恨まないと言う相手の前で、言い訳のように自分の非を主張する。傍だけ見れば、まるで拗ねた子供みたいに見えたことだろう。
この期に及んで、まだ俺は赦されようとしていた。
「美優が死んだあと、県外で働くことにしたんだよ」
「もうこの町にいたくなかったから」
「…本当は分かってた。あの時美優がどんな思いだったか」
「何も気付けなかった自分の罪を認めるのが怖くて、全部放って逃げ出したんだ」
少しだけ美優の目が見開いた。自分が死んだ後の事は初耳だったからかもしれない。幽霊もそういうものなのかは知らないけれど。
「俺がもっと早く来ていれば、十年以上もこんなところに────」
「…でも」
俺の話は今度は視線ではなく、言葉で遮られた。
「また来てくれた」
「…私は、それで十分だよ」
******
随分長い時間が経ったようだった。
その後俺たちは、昔みたいに他愛の無い話をした。途中、泣き止んでまた思い出しては泣いてと、ひたすらに目元が忙しかった。
卒業後のこと、初めて会ったときのこと。
お互いの好きだったところ。
…と、俺が仕事を辞めたこと。
これに関しては美優も驚いていた。幽霊を驚かせる体験なんて後にも先にもこれっきりだと思う。
そんな話の終わりを告げたのは、自分のスマホのバイブ音だった。
美優は丑三つ時…つまり2時から2時半までの30分しかこちらに居られない。
未練を解いてしまった今、この病室に美優が現れることは二度と無いだろう。
1回目のアラームは、2時半の少し前に鳴るように設定していた。
「もう時間だね」
アラームの意味を察したのだろう。美優からそれとなく切り出した。
「あのさ、一個お願いがあるの」
そう言った美優は、また少し見開いた真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「もし"次"があったらさ、また恋人になってくれる?」
彼女の言う「次」が、気が遠くなるほど未来の話かもしれないことは分かっていた。
それでも俺の口は、ひとりでに身勝手な約束を交わした。
「ああ、勿論だ」
それを聞いた美優はまた弾けるような笑顔になって、手首から先の無い腕をこちらに差し出してきた。
俺は美優の手首を包むように握りしめると、そこにはある筈の無い、微かな温もりがあった。
「────信也」
・・
「またね」
・・
「ああ、またな」
2回目のアラームが鳴ったとき、もうそこに美優の姿はなかった。
いつの間にか空になった手のひらには、幻のような熱だけが遺っていた。
******
後日、探偵事務所にて。
「あなた」は珈琲を啜りながら、神田信也氏からの丁寧なお礼のメールと、受け取った報酬が入った茶封筒を眺めています。
やや厚みのある茶封筒から察するに、あなたの提示した額よりかなり色をつけてくれたようです。仕事辞めたって言ってたけど大丈夫なのかな、と少し心配になりますが、貰えるものは貰っておくことにしました。
「生きた人間の未練の方が厄介なことってありますよねぇ」
あなたが依頼人について考えていることに気づいたのか、あるいはいつもの能天気な世間話か、助手のだだだだが他人事のように呟きました。
あなたはそれを半ば無視しつつ、事務所のPCで依頼窓口をチェックします。今回は自力で解決できたためにしっかりと報酬を得ることができましたが、もっと厄介な依頼もあります。
そういった仕事はあなたの手には負えないので、伝手のある霊能者を紹介し、紹介料+相談料という形で報酬を貰うことになります。
当然その場合は自力で解決した場合よりも報酬が少なくなりますから、とにかく数をこなすのが重要です。世間話に付き合っている暇はないのです。
「そういえば知ってます?町外れに寂れたトンネルあるじゃないですか。"梅神トンネル"だかなんとか」
気にせずだだだだは世間話を続けます。有事以外はほぼ仕事をしない彼にも、雇用主である以上給与を払わなければなりません。なんだか頭が痛くなってきました。
「あそこになんか、めっちゃ足速い爺さんが出るって噂あるらしいんですよ。なんか依頼来るかもしれないですね~」
それはただの元気なお爺さんの不審者じゃないかな、とあなたは思いましたが、付き合ったら負けなのでやはり無視することにしました。
今日も町並みは変わらず、いつもと同じ日常が流れます。
しかしそんな日常の、誰も気付かない僅かな隙間から、この世ならざる者たちがあなたを見つめているのかもしれません。
ここは羅寺町オカルト探偵事務所。
ご縁があれば、またどこかで。
~Fin~
A、丑三つ時(2時)になる前に見舞い客用のパイプ椅子にベッドに背を向けた状態で座る。その後美優の幽霊が現れたら目を閉じ、最後に一番好きだったイタズラをさせてあげる。きちんと名前を呼ぶことを忘れずに。
※想定ルート
①信也への質問やインターネットによる情報収集を使って、以下の事柄を明らかにする(抜粋)。※はインターネット情報
・美優は事故で両腕を失い、入院していた。
・美優はイタズラ好きな明るい女の子だった。
・入院中は見舞い客用の椅子に座った信也と2人で話すことが多かった。
・信也が仕事を辞めたのは、元々志望度の低い会社で、働いている内にしんどくなってしまったから。
・美優が亡くなった原因は自殺。
・美優の幽霊は丑三つ時に現れる。※
②以上の情報から気になる点を深掘りする。
・自殺の原因
→ピアノが弾けなくなったことを苦にして自殺したという信也の考えを聞く。
・イタズラの内容
→特に背後から目隠しして「だーれだ?」と聞くのが好きだったということを聞く。
このタイミングでだだだだに相談すると、「自殺した霊は自殺の原因が未練と関係していることが多い」、「未練を残した霊は未練に関係する場所に現れるのが普通である」ことを教えてくれる。
③信也に「本当の自殺の原因」について心当たりが無いか聞く。
②のだだだだのヒントから、「ピアノが弾けないことが原因で自殺したのならピアノが未練になる筈だが、だとすれば病室に現れることはおかしい」という推理をする。
つまり、美優の未練は病室での出来事にある。
なお、この点は「信也がわざわざ県外の志望度の低い会社に就職したこと」や、「自殺の原因について聞いた際にやや歯切れの悪い様子」をしていることから、「信也が美優の自殺に後ろめたさを感じている」と推理できることもフレーバーになっている。
上記の矛盾を突きつけて信也を問いつめると、「一度だけ、お見舞い中に窓の外を見ていたとき、美優が目隠しのイタズラをしようとしていたかもしれない」ということを聞ける。
④③の内容と、美優の幽霊が向いている方向(問題文から、美優は窓際=パイプ椅子がある方を向いていることが推理できる)から、美優の未練は「信也にもう一度お決まりのイタズラをし、名前を呼んで貰うこと」だと推理。
なお、この解決策をだだだだにチェックさせると、「美優の幽霊が現れる丑三つ時になる前に入室し、ベッドに背中をむけて座っておくこと」や「美優は目隠しができないため自分で目を瞑っておくこと」などの細かい手順のヒントをくれる。
あとは信也に手順を提示してFA。
ここは羅寺町。
あなたと助手のだだだだはこの街で、心霊絡みの事案を専門的に取り扱う「オカルト探偵」を生業をしています。
あなたの仕事は、依頼人から寄せられる心霊案件に対し解決策を提示することです。
今日もまた、あなたの事務所に誰かがやってきました。
───どうやら、新たな依頼のようです。
******
「あの…幽霊絡みの相談を聞いてくれる探偵事務所ってここで合ってますか…?」
恐る恐るといった様子の男性の問いに、あなたは笑顔で肯定をすると来客用の椅子へと案内をしました。
あなたが用件を訊ねると、男性は静かに、その奇妙な話を語り始めました。
あなたはいつものように、手元のPCに依頼内容の記録をします…。
※記録
依頼人:神田信也(35)
・概要
旧梅神病院の206病室にて、女性の幽霊が現れるという噂がある。
206病室には医療用ベッド等の基本的な設備の他、窓側には見舞い客用のパイプ椅子が放置されている。
・噂
深夜に206病室を訪れると、医療用ベッドに窓の方を向いて腰掛ける入院着姿の女が現れる。女は黙ったまま、じっと窓の方を見つめており、暫くすると煙のように消える。
・依頼内容
206病室は、かつて依頼人の大学生時代の恋人・志村美優が入院していた部屋であり、彼女はその後亡くなってしまったそうだ。
梅神病院が移転(・補遺を参照)する前、最後に206病室に入院していたのは志村美優氏であり、彼女の幽霊である可能性は高いと依頼人は考えている。
彼女の幽霊であるならば、成仏させてあげたいとのこと。
・経緯
依頼人はかつて地元である羅寺町の大学に通っていたが、卒業後は県外の企業に就職した。最近仕事を辞め、その折に羅寺町に帰ってきたところ、地元の友人から旧梅神病院の噂を聞いた。
・補遺
羅寺町郊外にある旧梅神病院は、14年ほど前に別所に移転した梅神病院のかつての建物であり、現在は廃墟となっている。
※ルール
①本問題のFA条件は、206病室にいる美優の幽霊が成仏する手順を信也に提示することです。
②あなたの取れる行動は、「信也に話しかける(質問する)」または「だだだだに相談する」ことです。
「信也に話しかける(質問する)」場合、質問はYESかNOで答えられるものでなくても構いません。質問でなくても良いです。
「だだだだに相談する」場合、質問欄で「だだだだに相談する」ことを明記の上、次の行動や今の状況、あなたの考えについて相談しましょう。だだだだはあまり推理力がありませんが、オカルト知識が豊富であり、意外な視点からのヒントを示してくれます。
特に解決策に関しては、信也に提示する前にだだだだに確認してもらうのが良いでしょう。
また、だだだだにはインターネットを用いた情報収集を頼むこともできます。その場合は「何について調べるのか」を伝えましょう。
※注意
①「あなた」はあくまで相談を受け、解決策を示す存在であり、実際に旧梅神病院を訪れることはできません。解決策の実行は信也の役目なので、彼に任せましょう。
②概略を問うような質問に対しては、大まかな回答が返ってくる傾向があります。まずある程度の事情を聞き出した後は、気になる点についてより具体的な質問を行い、深掘りをすることを奨めます。
③本問題はフィクションです。
25年09月13日 21:00
【新・形式】 [だだだだ3号機]
【新・形式】 [だだだだ3号機]

新形式です!参加前にルールを及び注意点をよくお読み下さい!
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大学三年生の秋。
恋人の美優が交通事故にあった。
幸いにも一命は取り留めたが、事故の際に両手首から先が「よくない巻き込まれ方」をしたらしく、切断するしかなかったそうだ。
そのせいで美優は、小さい頃からやってたピアノが弾けなくなった。
最初に俺がお見舞いに行ったとき、美優はふいに窓の外の景色を見たり、少し俯いたりしたままであまり目を合わせてくれなかった。
その行動が泣き腫らした目に気づかれないようにするためだと気づいた俺は、かける言葉が見つからず、それこそ腫れ物に触るような調子でくだらない世間話をするのがやっとだった。
美優と付き合い始めたのは大学に入学してすぐのことだった。
小さな頃からピアノをやっていたらしく、本人曰く「長くやっているだけの教養」「趣味みたいなもの」とのことだったが、彼女がピアノについて話すときの熱の入りようから、ただの趣味で片付けられるようなものじゃないことは俺にも分かった。
美優は快活な性格で、イタズラ交じりのスキンシップが多い賑やかな女の子だった。
特に、こっそりと俺の後ろから目を覆い隠して、「だーれだ?」と聞くイタズラがお気に入りのようだった。
気になって、理由を聞いたことがあった。
名前を呼んでもらうのが好きだからと、子供のように笑ったその表情を、今でも鮮明に覚えている。
******
探偵さんに教えて貰った解決策を実行するため、俺は一人で旧梅神病院を訪れていた。
時刻は1時40分。早めにしたのは、心の準備という意味でも少し余裕が欲しかったからだ。
懐中電灯を片手に玄関前に立つ。
玄関のガラス扉はまるごと撤去されており、気休め程度に数本のバリケードテープが横断しているだけだった。これでは獣でも誰でも入り放題だろう。
ふーっと深呼吸をした俺は、左手でテープを持ち上げながら右手に持った懐中電灯で足元を照らしつつ、病院内へと侵入した。
内部は侵入者たちが捨てた空きペットボトルなどのゴミ、足元にガラスの破片や剥がれ落ちた壁面材が散らばっていたが、落書きもそこまで多くなく綺麗なものだった。
俺は足元に気を付けつつ、受付ロビーの奥にある階段に足をかけた。誰もいない病院内で、自分の足音だけが響く。
階段を昇りきって2階の廊下に出ると、否応なしに恐怖心が心を塗りつぶした。
無理もない。深夜に心霊スポットで独りきり。
何も不安にならない方が異常と言うものだ。
───本当に?
───怖いのは、心霊スポットに独りでいるから?
誰かが、そう言った気がした。
******
見舞いに行く度に、美優との会話は弾まなくなっていった。
入院中、ずっと美優は塞ぎ込んでいた。表面上は明るく取り繕っているのだが、笑顔はどこかぎこちなく、無理をして話題を紡いでいるのは明らかだった。
最初は俺も合わせて、大学であったこととか、最近読んだ本のこととか、とにかく美優が退屈しないように色々な話をした。
今思えば、あれは退屈しないようにじゃなくて、話を途切れさせたら見たくもない現実が視界を塞いでしまうと思ったからだ。
でも、そんな痩せ我慢がいつまでも続くわけもなく。
美優は少しずつ口数が減っていったし、時折思い詰めたように自分の手を見つめることが多くなった。俺もそんな姿を見るのに耐えられなくなって、次第に窓の外の景色を見て話すことが増えた。そんな風になってもさっさと帰る選択をしなかったのは、美優を独りにすることに良心の呵責があったからかもしれない。
そういえば、一度だけ美優が妙な様子を見せることがあった。
窓の外を見ながら他愛の無い話をする途中、不意に背後に気配を感じて振り返ると、美優はこちらを向いたままベッドに腰掛けていた。
俺と目が合った美優はそのまま、気まずそうにテレビのワイドショーへと視線を逸らした。
今になって思い返せば、あれはいつものイタズラをしようとして、手首から先が無いことに改めて戸惑っていたのだろう。
…あそこで即座に意を汲んでやれていれば結末は違ったかもしれないのに。
当時の俺と来たら気まずさに押し黙るばかりで、美優の気持ちに何一つ応えてやれなかったのだった。
******
懐中電灯を掲げながら、真っ暗な廊下を進んでいく。
旧梅神病院は受付ロビー部分を対象に左右対称の建物で、今自分がいる西側が病棟になっている。
病棟はロの字型の廊下が一周する構造になっており、206病室はロの字の角、つまり、この廊下の一番奥にある部屋だった。
突き当たりに着いた俺は、懐中電灯を掲げ病室の名札を照らした。
当然そこには誰の名もなく、「様」という敬称のみがポツンと残されていた。
その上部に黒のゴシック体でしっかりと、「206」という数字が刻印されている。
時刻は1時50分。ちょうど良い時間だ。
何度目かわからない深呼吸をして、俺は病室の扉に手をかけた。
探偵さんの見立てでは、美優が現れるのは2時から2時半…丑三つ時の間だ。まだこの部屋の中には、誰もいないはず。
意を決した俺はゆっくりと扉を開ける。廃墟となって十数年が経っていることから、もしかして開かないかも、なんて思っていたのだが。
…十数年ぶりに入った206病室は、あの頃と変わらない面影を残しながらも、物が少なくなったせいか少し寂しい印象を受けた。医療用ベッドは残っているものの、コールボタンや医療機器は撤去されているし、シーツも剥がされている。元々テレビが備え付けられていた木棚は空になっており、クモの巣だらけになっていた。
ただ、カーテンレールのみが残る天井と、板材が剥き出しのベッド、傍らに置かれたパイプ椅子と残された基本的な設備のみが、ここが病室であった頃の名残をたたえている。
室内は窓から差し込む淡い月明かりに照らされていて、光源が無くとも部屋の様子を捉えることができた。
俺はそっと窓辺のパイプ椅子に近づく。
あの頃と変わらぬ場所に捨て置かれたそれは、青色の座面に分厚い埃が積もっていた。埃が極力舞わないように右手で丁寧に払うと、俺はベッドに背を向ける形でパイプ椅子に腰掛けた。
スマホを取り出して時刻を確認する。
1時55分。2時になったらアラームが鳴るから、それまではじっと座って待つことになる。
窓の外の景色を見ながら、ゆっくりとあの頃のことを思い出す。
相変わらず、拭いきれぬ恐怖心が胸を押さえつけるような感覚があった。
今、なんとなく分かった。
俺が怖いのは心霊スポットに独りでいることでも、これから幽霊が現れるかもしれないからでもない。
もう一度、美優に会うこと。
それがどうしようもなく恐ろしいのだ。
******
冬になって、美優は退院することになった。
俺は無事に退院できたことを心から喜ぶ半面、あの2人だけの気まずい時間が終わることに安堵していた。
退院の時は俺も立ち会いつつ、4年生にあがる前に一度2人で遊びに行く約束をした。
気晴らしに2人で楽しく遊べば、美優もまた以前のように明るい性格に戻るかもしれないと、何の根拠も無い期待があったのが半分。
もう半分は、入院中の気まずい時間を経て崩れた2人の関係を、さっさと新しい思い出で塗り潰してしまいたかったという自分の我儘だった。
結局、その約束が果たされることはなかった。
退院から1週間ほど経ったある日、美優は住んでいるアパートの屋上から飛び降りて亡くなった。
遺書こそ見つからなかったものの、事故の件と入院時の様子から、両手首から先を失ったことを苦にした自殺ということでカタがついた。
…そうだ。
美優はピアノが大好きで、事故で弾けなくなったから…それで絶望して死んだ。それは事実だろう。
───だから、俺にできたことなんて、何もなかった筈なんだ。
卒業後、俺は逃げるように県外の企業に就職した。
大して志望度は高くなかったが、この町から出ていけるならなんだって良かった。
******
ヴーッ、ヴーッ
どこか遠く離れかけていた俺の意識を、携帯のバイブ音が現実に引き戻した。
大慌てでスマホを取り出し、自分でセットしたアラームを止める。
当たり前だが、時刻はちょうど2時を回ったところだった。
──ふと。
背後の空気が揺らいだ気がした。
背中越しに伝わってくる、生き物の、いや、生きてはいない何かの気配。
それでもどこか懐かしさを感じるのは、俺が"そう"信じたいからだろうか。
鼓動が浅く、早くなり、息苦しさで喉がつまる。落ち着け。探偵さんに言われた通りに。
俺は指示された通り、後ろを振り返らずに目を閉じた。
すると、背後から微かに衣擦れの音がして、俺の頭の左右に、ヒヤリとした感覚が触れた。
いや、実際には触れたわけではないのだろう。ただ、温もりの無い鉄管のようなものが傍らにある、その感覚だけがあった。
「だーれだ?」
「…………美優」
そう答えると、傍らにあった冷たい何かがすっと戻っていくような気がした。
静かに目を開き、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、ベッドに腰掛け、穏やかな笑顔でこちらを見つめる入院着姿の美優がいた。
少し痩せた頬も。
白くなった肌も。
痛々しい傷跡が残る、手首から先の無い腕も。
少し芝居がかった口調で問う、その声も。
何から何まで、退院した当時の美優のままだった。
「………美優」
続く言葉を探している内に、いつの間にか涙が溢れていた。
それと同時に、ずっと心に残っていた様々なことが一気に脳内に散らかってしまって、何も言えなくなってしまう。
それでも無意識のうちに、口をついて出ていたのは───
「ごめん…ごめんよ…」
「俺のせいだ…俺がきみを…」
「俺は…気付けなかった…俺のせいで…」
「…ごめん ごめんなさい…」
子供のように泣きじゃくりながら、ひたすら謝り続ける俺の言葉を美優は黙って聞いていた。
そのうち、ひとしきり吐き出し終わった俺がえずいていると、美優はおもむろに口を開いた。
「…信也」
「大丈夫、謝らないで」
その声にゆっくりと顔を上げると、美優もまた泣いていた。
「私こそごめんね、あんなお別れになってしまったから」
「信也を酷く傷つけてしまった」
そんなことない、と言おうとした俺を、美優は視線で制止した。
「…ピアノは大好きだったよ」
「だから、もう二度と弾けない身体になって、死ぬほど辛かった」
「…だけど」
今度は俺が黙って聞く番だった。ただ、美優が俺に何を伝えようとしているのかは、この時点でなんとなく分かっていた。
「それでも入院中は、ぎりぎり何とか踏みとどまれたの」
「信也がいつもお見舞いに来てくれたから」
「ピアノも大事だったけど、信也が一緒にいてくれればきっと大丈夫だって」
「そう思えたの」
じゃあなんで、とは聞かなかった。
探偵さんとの話を通して、俺はもうその答えを知っていた、いや"思い出していた"からだ。
「…でもあの日、病室で信也の後ろ姿に手を伸ばした時」
「ああ二度と、一番好きな人と一番好きなやり取りができないんだなぁって」
「習慣だった"これ"を思い出す度に辛い記憶が甦っちゃうのかなぁって」
それでも、やはり幽霊とはいえ本人の口から聞くのはどうしようもなく堪える。結局は俺の弱さが、美優の心にとどめをさすことになってしまった。
美優を殺したのは俺だったのだ。
だが、続いて美優の口から出たのは、予想外のものだった。
「…だからね、私が弱かったせいなの」
「信也との繋がりはそれだけじゃなかったのに、私が勝手に諦めてしまった」
「だから、信也には謝らないで欲しい」
「私は何も恨んでないよ」
その話す美優の口調はいつの間にか、かつての溌剌とした声色に戻っていた。
「───でも、俺は」
「逃げたんだ」
恨まないと言う相手の前で、言い訳のように自分の非を主張する。傍だけ見れば、まるで拗ねた子供みたいに見えたことだろう。
この期に及んで、まだ俺は赦されようとしていた。
「美優が死んだあと、県外で働くことにしたんだよ」
「もうこの町にいたくなかったから」
「…本当は分かってた。あの時美優がどんな思いだったか」
「何も気付けなかった自分の罪を認めるのが怖くて、全部放って逃げ出したんだ」
少しだけ美優の目が見開いた。自分が死んだ後の事は初耳だったからかもしれない。幽霊もそういうものなのかは知らないけれど。
「俺がもっと早く来ていれば、十年以上もこんなところに────」
「…でも」
俺の話は今度は視線ではなく、言葉で遮られた。
「また来てくれた」
「…私は、それで十分だよ」
******
随分長い時間が経ったようだった。
その後俺たちは、昔みたいに他愛の無い話をした。途中、泣き止んでまた思い出しては泣いてと、ひたすらに目元が忙しかった。
卒業後のこと、初めて会ったときのこと。
お互いの好きだったところ。
…と、俺が仕事を辞めたこと。
これに関しては美優も驚いていた。幽霊を驚かせる体験なんて後にも先にもこれっきりだと思う。
そんな話の終わりを告げたのは、自分のスマホのバイブ音だった。
美優は丑三つ時…つまり2時から2時半までの30分しかこちらに居られない。
未練を解いてしまった今、この病室に美優が現れることは二度と無いだろう。
1回目のアラームは、2時半の少し前に鳴るように設定していた。
「もう時間だね」
アラームの意味を察したのだろう。美優からそれとなく切り出した。
「あのさ、一個お願いがあるの」
そう言った美優は、また少し見開いた真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「もし"次"があったらさ、また恋人になってくれる?」
彼女の言う「次」が、気が遠くなるほど未来の話かもしれないことは分かっていた。
それでも俺の口は、ひとりでに身勝手な約束を交わした。
「ああ、勿論だ」
それを聞いた美優はまた弾けるような笑顔になって、手首から先の無い腕をこちらに差し出してきた。
俺は美優の手首を包むように握りしめると、そこにはある筈の無い、微かな温もりがあった。
「────信也」
・・
「またね」
・・
「ああ、またな」
2回目のアラームが鳴ったとき、もうそこに美優の姿はなかった。
いつの間にか空になった手のひらには、幻のような熱だけが遺っていた。
******
後日、探偵事務所にて。
「あなた」は珈琲を啜りながら、神田信也氏からの丁寧なお礼のメールと、受け取った報酬が入った茶封筒を眺めています。
やや厚みのある茶封筒から察するに、あなたの提示した額よりかなり色をつけてくれたようです。仕事辞めたって言ってたけど大丈夫なのかな、と少し心配になりますが、貰えるものは貰っておくことにしました。
「生きた人間の未練の方が厄介なことってありますよねぇ」
あなたが依頼人について考えていることに気づいたのか、あるいはいつもの能天気な世間話か、助手のだだだだが他人事のように呟きました。
あなたはそれを半ば無視しつつ、事務所のPCで依頼窓口をチェックします。今回は自力で解決できたためにしっかりと報酬を得ることができましたが、もっと厄介な依頼もあります。
そういった仕事はあなたの手には負えないので、伝手のある霊能者を紹介し、紹介料+相談料という形で報酬を貰うことになります。
当然その場合は自力で解決した場合よりも報酬が少なくなりますから、とにかく数をこなすのが重要です。世間話に付き合っている暇はないのです。
「そういえば知ってます?町外れに寂れたトンネルあるじゃないですか。"梅神トンネル"だかなんとか」
気にせずだだだだは世間話を続けます。有事以外はほぼ仕事をしない彼にも、雇用主である以上給与を払わなければなりません。なんだか頭が痛くなってきました。
「あそこになんか、めっちゃ足速い爺さんが出るって噂あるらしいんですよ。なんか依頼来るかもしれないですね~」
それはただの元気なお爺さんの不審者じゃないかな、とあなたは思いましたが、付き合ったら負けなのでやはり無視することにしました。
今日も町並みは変わらず、いつもと同じ日常が流れます。
しかしそんな日常の、誰も気付かない僅かな隙間から、この世ならざる者たちがあなたを見つめているのかもしれません。
ここは羅寺町オカルト探偵事務所。
ご縁があれば、またどこかで。
~Fin~
A、丑三つ時(2時)になる前に見舞い客用のパイプ椅子にベッドに背を向けた状態で座る。その後美優の幽霊が現れたら目を閉じ、最後に一番好きだったイタズラをさせてあげる。きちんと名前を呼ぶことを忘れずに。
※想定ルート
①信也への質問やインターネットによる情報収集を使って、以下の事柄を明らかにする(抜粋)。※はインターネット情報
・美優は事故で両腕を失い、入院していた。
・美優はイタズラ好きな明るい女の子だった。
・入院中は見舞い客用の椅子に座った信也と2人で話すことが多かった。
・信也が仕事を辞めたのは、元々志望度の低い会社で、働いている内にしんどくなってしまったから。
・美優が亡くなった原因は自殺。
・美優の幽霊は丑三つ時に現れる。※
②以上の情報から気になる点を深掘りする。
・自殺の原因
→ピアノが弾けなくなったことを苦にして自殺したという信也の考えを聞く。
・イタズラの内容
→特に背後から目隠しして「だーれだ?」と聞くのが好きだったということを聞く。
このタイミングでだだだだに相談すると、「自殺した霊は自殺の原因が未練と関係していることが多い」、「未練を残した霊は未練に関係する場所に現れるのが普通である」ことを教えてくれる。
③信也に「本当の自殺の原因」について心当たりが無いか聞く。
②のだだだだのヒントから、「ピアノが弾けないことが原因で自殺したのならピアノが未練になる筈だが、だとすれば病室に現れることはおかしい」という推理をする。
つまり、美優の未練は病室での出来事にある。
なお、この点は「信也がわざわざ県外の志望度の低い会社に就職したこと」や、「自殺の原因について聞いた際にやや歯切れの悪い様子」をしていることから、「信也が美優の自殺に後ろめたさを感じている」と推理できることもフレーバーになっている。
上記の矛盾を突きつけて信也を問いつめると、「一度だけ、お見舞い中に窓の外を見ていたとき、美優が目隠しのイタズラをしようとしていたかもしれない」ということを聞ける。
④③の内容と、美優の幽霊が向いている方向(問題文から、美優は窓際=パイプ椅子がある方を向いていることが推理できる)から、美優の未練は「信也にもう一度お決まりのイタズラをし、名前を呼んで貰うこと」だと推理。
なお、この解決策をだだだだにチェックさせると、「美優の幽霊が現れる丑三つ時になる前に入室し、ベッドに背中をむけて座っておくこと」や「美優は目隠しができないため自分で目を瞑っておくこと」などの細かい手順のヒントをくれる。
あとは信也に手順を提示してFA。
「【 交際一年記念の扉 】海鮮丼 a.k.a. ???」「7ブックマーク」
カメオとカメコの、付き合って一年記念日。
赤身をふんだんに使った海鮮丼の他に、海鮮丼に使わなかった白身でもう一品作ったカメコ。
作った料理をテーブルに並べたカメコは、海鮮丼のことを「◯丼」という名前で呼んだ。
そうすればカメオが、海鮮丼のいつもと違うところを褒めてくれるという確信があったからである。
それは、カメオにしか満たせない欲求からくる言動だったのだが、◯に当てはまるワードは、一体何だろうか?
赤身をふんだんに使った海鮮丼の他に、海鮮丼に使わなかった白身でもう一品作ったカメコ。
作った料理をテーブルに並べたカメコは、海鮮丼のことを「◯丼」という名前で呼んだ。
そうすればカメオが、海鮮丼のいつもと違うところを褒めてくれるという確信があったからである。
それは、カメオにしか満たせない欲求からくる言動だったのだが、◯に当てはまるワードは、一体何だろうか?
25年09月08日 22:30
【20の扉】 [霜ばしら]
【20の扉】 [霜ばしら]

9/8(月) 22:30 〜 9/15(月) 22:30頃までの、約1週間の予定🍅
解説を見る
〖 答え 〗 月見(海鮮)丼
記念日に、二人の好きな海鮮丼を作ったカメコ。
そして、一年前にした告白にちなんで、月に見立てた卵の黄身ものせた。
研究の結果、海鮮に合う卵黄の最高に美味しい味付けを見つけたカメコは、早くカメオとこの美味しさを分かち合いたくて、数日前からそわそわしていたのだ。
「今日は月見丼にしてみたんだ」
艶々に輝く卵黄が加わって、鮮やかさの増した海鮮丼。
美しく彩られた丼を見たカメオは、カメコが海鮮丼に込めた想いを感じ取った。
「おおー!月が綺麗ですね」
「ですね!しかも、この月めちゃくちゃ美味しいよ。ね、早く食べてみて!」
「ほんとだ……う、まっ!」
こうして感動を共有する瞬間が、カメコにとって掛け替えのないもので、それはカメオにとっても同じで、今年も二人は、月の綺麗さを再確認したのだった。
ちなみに、一緒に添えられた白いかき玉汁は、余った白身の活用レシピを探して作ったもの。
赤身の海鮮丼と合わせると、紅白になってめでたいね。
↓こちらに、ボツ挿絵や、参考にした白身レシピなどを載せてます。
https://note.com/preview/n7d5d6d1e9616?prev_access_key=9e0cb83985a122e7af972ca9a19c5b89
記念日に、二人の好きな海鮮丼を作ったカメコ。
そして、一年前にした告白にちなんで、月に見立てた卵の黄身ものせた。
研究の結果、海鮮に合う卵黄の最高に美味しい味付けを見つけたカメコは、早くカメオとこの美味しさを分かち合いたくて、数日前からそわそわしていたのだ。
「今日は月見丼にしてみたんだ」
艶々に輝く卵黄が加わって、鮮やかさの増した海鮮丼。
美しく彩られた丼を見たカメオは、カメコが海鮮丼に込めた想いを感じ取った。
「おおー!月が綺麗ですね」
「ですね!しかも、この月めちゃくちゃ美味しいよ。ね、早く食べてみて!」
「ほんとだ……う、まっ!」
こうして感動を共有する瞬間が、カメコにとって掛け替えのないもので、それはカメオにとっても同じで、今年も二人は、月の綺麗さを再確認したのだった。
ちなみに、一緒に添えられた白いかき玉汁は、余った白身の活用レシピを探して作ったもの。
赤身の海鮮丼と合わせると、紅白になってめでたいね。
↓こちらに、ボツ挿絵や、参考にした白身レシピなどを載せてます。
https://note.com/preview/n7d5d6d1e9616?prev_access_key=9e0cb83985a122e7af972ca9a19c5b89
「ジンベエザメは何色の予知夢を見るか?」「7ブックマーク」
臆病で内気な鼠屋敷さん。
「…彼女に、してください」
勇気を出し震える声で離小島君に自分の思いを伝えたのは、離小島君が知らない女性とデートしているのを目撃し、その女性と離小島君が付き合っていると確信を持ったからである。
一体どういうことだろう?
「…彼女に、してください」
勇気を出し震える声で離小島君に自分の思いを伝えたのは、離小島君が知らない女性とデートしているのを目撃し、その女性と離小島君が付き合っていると確信を持ったからである。
一体どういうことだろう?
25年09月14日 22:56
【ウミガメのスープ】 [ダニー]
【ウミガメのスープ】 [ダニー]

10人正解で締めに変更!
解説を見る
「鼠屋敷さんはおとなしいんだね」
そう言いながら鼠屋敷さんの頭を優しく撫でる離小島君。
「そういうことは…彼女に、してください」
勇気を出し震える声でそう伝えて、頭を撫でる手を拒絶した鼠屋敷さん。
「私見たんです。あなたが他の女性と仲良さそうに手を繋いで歩いているのを」
「あ、あれは、えーあれだよあれ!姉貴だよ、昨日は姉貴と一緒にいたんだ」
「あの雰囲気が兄弟間のものでないのは恋愛に疎い私でもわかります」
「ていうか鼠屋敷さん、なんで昨日俺のこと見つけちゃってんの?なんかストーカーっぽくない?」
「・・・なんです」
「え?なになに?聞こえなーい?」
「私、魚人空手黒帯なんです」
「え?ぎょじんからてって…」
「五千枚瓦…」
「な…」
「正拳突き!!!」
「にーーー!!!」
「魚人空手は水中でこそその真価を発揮する… ここが陸でよかったなクズ男よ」
そう言いながら鼠屋敷さんの頭を優しく撫でる離小島君。
「そういうことは…彼女に、してください」
勇気を出し震える声でそう伝えて、頭を撫でる手を拒絶した鼠屋敷さん。
「私見たんです。あなたが他の女性と仲良さそうに手を繋いで歩いているのを」
「あ、あれは、えーあれだよあれ!姉貴だよ、昨日は姉貴と一緒にいたんだ」
「あの雰囲気が兄弟間のものでないのは恋愛に疎い私でもわかります」
「ていうか鼠屋敷さん、なんで昨日俺のこと見つけちゃってんの?なんかストーカーっぽくない?」
「・・・なんです」
「え?なになに?聞こえなーい?」
「私、魚人空手黒帯なんです」
「え?ぎょじんからてって…」
「五千枚瓦…」
「な…」
「正拳突き!!!」
「にーーー!!!」
「魚人空手は水中でこそその真価を発揮する… ここが陸でよかったなクズ男よ」
「揺れるマリーゴールド」「7ブックマーク」
「なんでこんな大事な日に寝坊すんだよ!」
「しょうがないじゃん、目覚まし鳴らなかったんだから」
「そんなんで向こうでちゃんとやってけるのかよ!」
「はいはいお説教はいいからしっかり漕ぐ!いそげー!」
始発の電車で幼馴染の鼠屋敷さんが都会に旅立っていく。
離小島君は自転車の後ろに鼠屋敷さんを乗せて全力で駅に向かい、なんとか始発の時間に間に合うことができた。
駅には離小島君の他にも同級生たちが見送りに来ていた。
電車に乗り込んだ鼠屋敷さんに、めいめいがお別れや励ましの言葉を投げかける。
しかし無情にも電車のドアは閉まり、鼠屋敷さんを乗せて走り出していった。
離小島君はその寂しさで涙が溢れてきた。
その泣き顔をみんなに見られないようにするために鼠屋敷さんからもらった手紙を頭の上に載せたのはなぜ?
「しょうがないじゃん、目覚まし鳴らなかったんだから」
「そんなんで向こうでちゃんとやってけるのかよ!」
「はいはいお説教はいいからしっかり漕ぐ!いそげー!」
始発の電車で幼馴染の鼠屋敷さんが都会に旅立っていく。
離小島君は自転車の後ろに鼠屋敷さんを乗せて全力で駅に向かい、なんとか始発の時間に間に合うことができた。
駅には離小島君の他にも同級生たちが見送りに来ていた。
電車に乗り込んだ鼠屋敷さんに、めいめいがお別れや励ましの言葉を投げかける。
しかし無情にも電車のドアは閉まり、鼠屋敷さんを乗せて走り出していった。
離小島君はその寂しさで涙が溢れてきた。
その泣き顔をみんなに見られないようにするために鼠屋敷さんからもらった手紙を頭の上に載せたのはなぜ?
25年12月11日 22:00
【ウミガメのスープ】 [ダニー]
【ウミガメのスープ】 [ダニー]
解説を見る
「なんでこんな大事な日に寝坊すんだよ!」
(本当は寝坊なんかしてないんだけど)
「しょうがないじゃん、目覚まし鳴らなかったんだから」
(あんたからもらった目覚まし、超うるさいんだもん)
「そんなんで向こうでちゃんとやってけるのかよ!」
(それはちょっと不安、だな)
「はいはいお説教はいいからしっかり漕ぐ!いそげー!」
(急いでほしく、ないな…)
自転車で2人乗りの最中、鼠屋敷さんは離小島君が着ているパーカーのフードの中にこっそりと手紙を入れた。
面と向かって渡す勇気がなかったからだ。
そんなことをされているとはつゆ知らず、離小島君は全力で自転車を漕ぎ、なんとか始発の時間に間に合わせた。
「元気で、やれよ」
電車に乗り込んだ鼠屋敷さんにぶっきらぼうに声をかける離小島君。
離小島君の言葉に頷いたところで電車のドアが閉まった。
電車はゆっくりと動き出し、鼠屋敷さんの姿はどんどんと小さくなっていく。
離小島君は目に涙が溜まっていることに気づいた。
(あれ?俺、なんで…?)
こんな顔、クラスのみんなに見られたくない。
そう思った離小島君は咄嗟にパーカーのフードを目深に被った。
そこで初めて自分の頭の上に何かが載っていることに気づいたのであった。
(本当は寝坊なんかしてないんだけど)
「しょうがないじゃん、目覚まし鳴らなかったんだから」
(あんたからもらった目覚まし、超うるさいんだもん)
「そんなんで向こうでちゃんとやってけるのかよ!」
(それはちょっと不安、だな)
「はいはいお説教はいいからしっかり漕ぐ!いそげー!」
(急いでほしく、ないな…)
自転車で2人乗りの最中、鼠屋敷さんは離小島君が着ているパーカーのフードの中にこっそりと手紙を入れた。
面と向かって渡す勇気がなかったからだ。
そんなことをされているとはつゆ知らず、離小島君は全力で自転車を漕ぎ、なんとか始発の時間に間に合わせた。
「元気で、やれよ」
電車に乗り込んだ鼠屋敷さんにぶっきらぼうに声をかける離小島君。
離小島君の言葉に頷いたところで電車のドアが閉まった。
電車はゆっくりと動き出し、鼠屋敷さんの姿はどんどんと小さくなっていく。
離小島君は目に涙が溜まっていることに気づいた。
(あれ?俺、なんで…?)
こんな顔、クラスのみんなに見られたくない。
そう思った離小島君は咄嗟にパーカーのフードを目深に被った。
そこで初めて自分の頭の上に何かが載っていることに気づいたのであった。












