■■ 問題文 ■■
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
月明かりに照らされながら待ち続ける人がいた。
しかし月が見えなくなって「違う」と思ったその人は
身に着けていたものを脱ぎ捨てた。
何故?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本当に何故?(最終決定が)
・・・あ、お探しの会場はこちらであってます。
お待たせしました、第12回です。前回はコチラ→https://late-late.jp/mondai/show/5674
夏も近づき暑くなってきましたね。半袖でお過ごしの方も多いかと思います。
いっそ服なんていらないかもしれません。脱ぎ捨ててみましょう。
そんな問題文で大丈夫か? ――1番いい要素9個を頼む。
控えめな数ですが、祝日がなくて時間があまりとれないという方も、気軽に挑戦してみてくださいね。
そして普段から重厚なスープを多く創りだしているみなさんも、梅雨のジメジメを吹っ飛ばすお祭り気分で楽しみましょう!
さ、ルール行きますよ! はい、ドン!
■■ 1・要素募集フェーズ ■■
[6/14(金) 22:00頃~質問が50個集まるまで]
初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人3回まででお願いします。
2.皆様から寄せられた質問の数が”50”に達すると締め切り。
全部ランダムで参ります。前回に倣ってある程度の矛盾要素もOKとします。
合計”9”個の質問が選ばれ、「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※あまりに矛盾して成立しなさそうな場合や、条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。さてどうなるかな。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
■■ 2・投稿フェーズ ■■
[要素を9個選定後~6/25(火) 23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
5.本文の末尾に、おわり完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
■■ 3・投票フェーズ ■■
[6/26(水) 00:00頃~7/1(月) 23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
また、今回だけ少し投票の趣向も変える予定です。
どんな投票会場になるかは、投票フェーズになってからのお楽しみ。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
《メイン》
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
6/14(金)22:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~6/25(火)23:59まで
◯投票フェーズ
6/26(水)00:00頃~7/1(月)23:59まで
◯結果発表
7/2(火)22:00の予定です。
■■ お願い ■■
要素募集フェーズに参加した方は、出来る限り投稿・投票にも御参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!
もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
それでは、『要素募集フェーズ』スタートです!
質問は1人3回までです。皆様の質問お待ちしております!
結果発表です! 滅茶苦茶今回やりたい放題してすみませんでした。 by創りだす大好き芸人
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*本文の末尾に、【おわり】【完】など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【6/25(火) 23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ!
タートル州スナッピング刑務所
私は麻薬の売人として捕まっていた。
私は彼らにはめられたのだ。
カスタードクリームを菓子屋へ届けてくれと言われた私は道中の検問で捕まった。⑦
最初は悔しいと思っていたが、今では何も感じなくなってしまった。
死ぬまで機械的に繰り返される、歯車のように代替可能な部品として扱われる生活。
あの日までは、ただただ無感情に、無機質に過ごす生に私も既に全てを諦めていた。
そんな中、彼と知り合ったのは数年前の自由時間だった。
その日は太陽が燦燦と輝いていたせいでひどく暑かった。
木陰は大規模なグループが占拠していて、はぐれ者の私はこれっぽっちの恩恵も受けられなかった。
そんな時、彼が声をかけてくれたのだった。
「おい、俺の陰に入れ。」
フェンス越しに聞こえた声の主はとても大柄で、私が入れる大きさの陰を作ってくれていた。
「ありがとう・・・」
「・・・ん。」
それから、私と彼の関係が始まった。
私は彼にRと名乗った。③
こんな場所だ、大っぴらに名前を伝えるのもはばかられる。
それに対し彼はKと名乗った⑥
彼はその大柄な見た目とは裏腹に、とても物静かで穏やかな人だ。
私たちは惹かれあい、互いに言葉を交わした。
話を聞いているうちに、彼の事も少しずつではあるもののわかってきた。
どうやら彼は親友に裏切られ、殺人の罪で投獄されたらしい。
同じ冤罪で閉じ込められたという事を知り、より一層の親近感を私は感じていた。
少し物足りないけれど、こんな日が続くならばそれはそれで悪くないかもしれない。
そう思っていた矢先に、彼から言われた一言に私は耳を疑った。
「ここを出て、一緒になろう。」
彼は終身刑、つまりここを生きて出る事は脱獄を意味する。
「嘘・・・」
「嘘じゃない。」
「密入国の準備もできている、やっと一緒になれるんだ。」
脱獄。
バレれば即、死を意味する自由への逃避行は私にとってあまりにも甘美な響きに聞こえた。
「少し、考える時間を頂戴。」
私が言えたのはその一言だけだった。
「これを持って行って。」
「これは・・・ペン?」⑤
「その中の芯の部分に計画が書いてある。」
それっきり、彼はフェンスから離れていってしまった。
考えても答えは出なかった。
何も考えず彼に流されるのも、偶には悪くないかもしれない。
だが、事には命が賭けられている。
そう簡単に判断していいことではない。
だからこそ彼にすべてを委ねてもいいのではないか。
堂々巡りに陥る私に彼は一言
「起源は明後日の夕までだ。 それを逃すと次は無い。」
彼は期限を告げると去っていってしまった。
その言葉のせいで翌日、私は葛藤に苛まれることとなった。
結局、判断を下したのは昼食時に隣に座った女が私に言った一言だった。
「何か悩んでいるようだけど、善は急げって言うじゃない?
やれるんだったらやってみるのもいいんじゃない?」
その言葉に背中を押され、私は彼に脱獄すると伝えた。
作戦実行当日。
作戦は手筈通り行われ、最後のゲートを潜ろうという瞬間にそれは起こった。
パァンッ
乾いた音と同時に私を突き飛ばす彼。
「ははは・・・ 何やってんだか。」
そう自嘲気味に笑う彼の姿は、数年間話していて初めて見る顔だった。
「あそこな、あそこだけ最新鋭のタレットが置いてあるんだよ。
本当はここで君が撃たれて、リロードまでのタイムラグを使って俺が逃げ出すつもりだったんだけどなぁ・・・
だからわざわざ彼女に頼んで君の背中を押してもらったのに。」
あまりの豹変ぶりに驚く私をよそ目に彼は話し続けた。
「俺が親友に裏切られて冤罪で捕まったってのも嘘。
元々俺は詐欺師で、お国様にちょっかい出してつかまったってだけ。
今日が絶好の機会で、やっと出られると思ってたのになぁ・・・
数年間一緒に居たせいで、妙な情がわいちゃったみたいだね。
俺、自分の事最強だと思ってたんだけどなぁ・・・⑧
さあ、後はこの川を泳いで逃げるだけだよ。
大丈夫、このくらいじゃ絶対に死なないから、絶対にね。⑨」
「行け!」
混乱の中、突然の大声に驚いた私は反射的にその声に従ってしまった。
川へ飛び込む。
ただただ無意識に外へ逃げる事だけを意識して、その先の自由を求めて。
私が川から上がると、予想では厚い雲に覆われて見えないはずの満月が私を照らしていた。
それから私は彼が来るのを待っていた。
私がここへたどり着いてから、どれくらい経っただろうか。
水辺に棲む虫たちに刺された箇所のかゆみも気にせずひたすら待ち続けた。①
月光に白く輝く水面に人影が浮かんでいる。
やっと来たのだ。
遥か異国には水辺に棲む悪戯好きな河童という妖精がいると聞いたことがある。④
彼らの悪戯でない事を願いつつ、彼が来るのを待ち続ける。
「違う。」
そう気づいたのは月が雲に隠れ水面のぼやぁっとした眩さが消えたからか。
それに気づいた私は急いで服を脱ぐと川に飛び込んだ。
彼は泳いでいたのではなかった。
流れていたのだ。
私が引き上げた時にはまだ彼はそこに居て、私は必至に彼の傷口を縛って止血しようとしていた。
しかし、彼はその傷口から流れるように消えていき、最後に残ったのは私と彼の形をした人形だけだった。②
感傷に浸っている時間は無い。
私は彼だったものを捨てて国境を目指した。
-了―
[編集済]
恋人たちの脱獄劇、では収まらないこの話。うまい話には裏があることを突き付けられているようでした。もちろん最後の最後で裏切らなかったとはいえ、それとなく程よい仄暗さを醸し出しているのが印象的でしたね。裏切られた方がまだましだったかもなあ、とそんなことを思いました。しかしこれ20分で書くってすごいな。 [編集済]
「地球に不時着してしまったオイラは仲間を待っていた
地球での生活は大変だけど楽しかった
親切な地球人が助けてくれたからだ
彼の名前は覚えにくい
オイラが これはペンです と言うと彼は凄く驚いた⑤
あの時の顔は多分一生忘れられない
オイラは雨の日が好きだった
雨の日だけ レインコートとかいうやつを着て外に出られた④
危うくバレそうになることもあったけど
オイラの格好は 地球人には人形に見えるらしい②
地球にはおいしいものもあった
生クリームが最強だと思ってたが⑧
カスタードクリームこそが本当の最強だ⑦
いやホント あれは最高だね
ぜっっっっっっっっったいに死なないと言われるほど⑨
頑丈な身体を持つオイラだけど
どうしても耐えられないものが地球にはあった
あの 蚊 とかいうやつは本当に許せない①
あんなに辛い思いをしたのは初めてだった
色々あったけど 全部大切な思い出だ
そして今日 お別れの時だ
満月だなんてロマンチックじゃないか
オイラはこのレインコートも大好きだ
今まで本当にありがとう
仲間の宇宙船が到着したよ・・・
今更思い出しちまった
彼の名前は さぬきのみゃっ」⑥
「すみません!!!カット!!!」
ゴードンが映る画面にはRがあった③
「ちょっと休憩します!」ヌギヌギ
『俳優兼監督の男が 自分の演技に納得がいかなかったから』
③:REC
⑥:かぐや姫
【完】
[編集済]
愛嬌ある宇宙人のほのぼの地球生活日記を記録しているのかと思いきや、最後の最後で緑茶を吹き出してしまいました。撮影だったんかい! でも納得できるし、何より投票コメントで指摘されてて気づいたのですが、最初の鍵括弧でちゃんと伏線張ってたのが悔しい。
たぶんバタルンさんの「創りだす」が好きなのはそのせいですね。その上シチュエーションも個人的趣味ドストライクですし。バタルンさん、SF好きなのかしら?
[編集済]
リンは内向的な少年だった。
リンには友達がいなかった。
リンにはすべての音が嘲笑に聴こえた。
世界の全てが煤けて見えた。
だから、それだけ一層、その緑を美しいと思った。
学校からの帰り道、河川敷にソレは転がっていた。
「カッパの人形?」②④
普段なら思い切り蹴飛ばして鬱憤を晴らす、そんな妄想をしてから立ち去る所だが、その人形はやけに色鮮やかに見えた。
リンは立ち止まって、その人形を拾い上げる。その人形は、なぜかほんのり温かく、リンは彼にとても心惹かれた。
家に来てもらおう、リンはそう思い、彼と一緒に家に帰った。
「僕と友達になってくれる?」いいよ
「えっ、ホント?」ホントだよ
リンは彼の声が聞こえた気がした。物心がついてから、初めて嬉しいと思った。
リンはマジックペンを取り出し、彼の右足にK⑥、右足にR③と書いた。
「K、カッパ君と、R、リンはずっと友達だ。僕たちの友情は最強だよ。」
リンのその言葉に、カッパ君は笑った、気がした。
リンとカッパ君は友達になった。カッパ君と一緒に遊んだ。一緒に悩みを語り合った。一緒に宿題もした。
一緒に、一緒に、一緒に。ただ幸せだった。
「君とは死んでも友達だよ。」
カッパ君と一緒にいるうちに、リンの世界は色づいた。
色々な音が、声が聴こえた。
リンの世界は開かれた。
リンの世界は、カッパ君だけのものではなくなった。
時が経ち、リンは青年になった。リンには友達がたくさんいた。付き合っている女の子もいた。
リンは彼女に夢中になっていた。
彼女に好きだと言って、私もよ、と言われた時は、物心がついてから一番嬉しかった。はじめてのキスはカスタードクリーム⑦みたいな味がした。
一緒に、一緒に、一緒に。ただ幸せだった。
今日は初めて彼女が部屋に来る。リンは部屋の片付けに追われていた。片付けの途中、リンは何かを踏んづけた。
煤けた緑色のプラスチック片、見覚えがあった。
「カッパ君、だっけ?」
リンはプラスチック片を足で集め、掃除機で吸い取った。カッパ君は死んだ。そんな考えが、リンの頭の片隅によぎった。
リンは気を紛らわせるように、掃除を続けた。
彼女が死んだ。リンの部屋を訪れた数ヶ月後、死んだ。
虫に刺されてかゆい①、最初はそう言っていた。しかし日増しに酷くなる右足の裏の腫れは、彼女の命を着実に蝕んで行った。見たことのない症例に医者は匙を投げ、彼女は死んだのだった。
葬式の後、リンは河川敷に座り込み悲しみが過ぎるのを、ただ待ち続けた。
けれど、悲しみはリンの心に居座り、月の光もリンの心を癒さなかった。
雨が降り出し、月も見えなくなった。
何を、しようと思ったのだろう。リンは履いていた靴を脱ぎ、綺麗に並べ、歩き出した。
5歩、6歩、7歩………12歩ほど進んだあたりでリンは足の裏が何かに撫でられたのを感じた。
虫だ、いや違う、これはペンだ⑤。リンは靴下を脱ぎ捨てる。足の裏に何か書かれて—
頭が痛む。鮮やかな緑色、友達、人形、河川敷、友情、R、死、K、カッパ君
「僕は、僕たちの友情は最強だって、ずっと思ってたよ⑧。今も、ね。」
死んだ、砕けたはずの緑色のソレが、視界に入った。
「君とは死んでも友達だよ。」
「僕は、ぜったいに、死なないけどね⑨。」
リンの水死体にはマジックペンで、KとRが、びっしりと書かれていた。
終わり
[編集済]
君と出会ってから世界に色がついた系のいい話かと思ったらホラーだったァーッ! でも良作。身に着けてたものの脱ぎ方も気になってはいたのですが、実際にその状況に遭遇するとゾっとしますね。かなり印象的な問題文回収でした。しかしまさか感動じゃなくて恐怖で泣かせにくるとは思いませんでした。初投稿なのに天晴です。 [編集済]
雨の中空を見る。そこにはやはり雲しかなく、それはまるで私の心のよう
否、かすかな月明かりすらないから決定的に違うものだ。
これは、その違いを理解した故にどうでもよくなった私の備忘録である。
あれは中学受験の結果発表の時だっただろうか。
志望する学校に行けることが決まったことを知った時
「ああ、そうなんだ」
程度にしか思わなかった。自分のない人形だった。(②)
人形はいつか壊れていく。
あれは英語の授業だっただろうか。
筆記体を覚えるという内容だった。
たった52個すらも覚えられず
This is a pen.を
Tkir ir a pen.(③⑤⑥)とするほどのバカだった。
バカはいつか地獄を見る。
あれは夏休み、部活の合宿だっただろうか。
体育館、虫に刺されてかゆかった。(①)そのかゆさがもどかしく、そのもどかしさが気持ちよかった。
思えば、不快さを気持ちよく感じることが私の行動原理なのかもしれない。
いつだっただろうか。
中二病に憧れていた。
「自らを絶対に死なず、最強だと思っていた闇騎士」という設定を作ろうとしても、うまいこと作れず、実践もできず、作った仮面もすぐに壊すことができた。(⑧⑨)壊したかった
感情を作りきれない、演じられない故に破滅を迎える。
以上、私はずっと破滅を待っていた。破滅すると思っていた。破滅はカスタードクリームのように甘美な物だと思っていた。(⑦)だからこそ私の心は晴れることがなく、
私の求めるものと得るものの違い、
心の靄と空の雲の違い、
それを改めて理解した今日、私はレインコート(④)を脱いで少しでも服に水が浸かりやすくして歩き出す。
海の中にはクラゲもいるかもしれない。虫よりもかゆいのだろうか。まあどうでもいい。
さようなら。
【終】
[編集済]
うあー、終わりは終わりだけど色々気になるやつ!
これは行動が違えばまた結末も変わったのでしょうか。なんとなくかまいたちの夜を思い出しました。あえて肝心なところを語らず、真っ暗な海の底にゆったりとただ終わりを待つかのようなエンディング。果たして「違い」とは何か……うーん気になるぞ。
[編集済]
俺はお菓子のヒーローだ。
皆のお菓子を愛する気持ちをパワーにして、野菜怪人を倒すために戦っている。
…え、子供の教育的には逆じゃないかって?でもな、大方の人はお菓子が好きだろ?お菓子の方が沢山パワーが貰えるんだよね。
ちなみに見た目から勘違いされやすいんだが、俺は某仮面〇イ〇ーとは関係ない。仮面は着けてる⑥けど、バイクにも乗る③けど、ベルトで変身するけど、それでも関係ないんだ。
~~~
そんな訳で、今日も怪人を倒しに来ている。今日の相手はきゅうり怪人だ。
こいつは一見ただの雑魚だが、かなり厄介な相手で何度も逃した相手なんだ。一時期は最強なんじゃないかと思っていた⑧程のな。
実際のきゅうりは大量の水が含まれている。そして、大抵のお菓子は水気を嫌う。さらに、俺の戦闘スタイルはお菓子を武器にして戦うのだ。
例えば、『チョコペンガン』(このネーミングセンスよ)。これは見た目はデカイチョコペンの横に取っ手を付けたみたい⑤だが、トリガーを引くと先端からチョコが吹き出すのだ。しかも意外と勢いがある。
しかし、きゅうり怪人に撃つと、自身の水分を盾にして打ち消してしまう。他の武器も同様。だから、きゅうり怪人は俺の武器ではぜっっっっっっっっったいに死なないんだ⑨。
今のところ、有効打は肉弾戦しかわかっていない。でも、そいつは肉弾戦を仕掛けるとさっさと逃げてしまう。俺もそこまで肉弾戦が得意ではない。
そこで、俺は今、月明かりに照らされたカッパ④の人形②を物陰から監視している。
何故?だって、カッパの好物はきゅうりじゃないか。
~~~
計画はこう。きゅうり怪人はカッパが気になるはず。そこで、そいつがカッパの人形に気を取られている間に、後ろから不意討ちを狙う。怯んでいる相手を徹底的に攻撃する。勝利。完璧じゃないか!
そして今に至る。怪人たちの本拠地はわからないので、カッパ人形にかかるのを待つことしかできないのだが…
かからない。さっぱり。
思い付いたときは完璧だと思ったが、いざやってみると失敗だった気もしてくる。
何せ寒い。月が出ている通り、今は夜である。真夏ならともかく、今の季節じゃ単に寒い。
夜にやっているのは、人目を避けるためだ。戦闘をするというのもあるが、正直人形を物陰から監視する仮面を着けた男など見つかったら通報モノである。
さらに、痒い。変身してないときに虫に刺されたんだった①。スーツの中が痒いから、掻こうにも掻けない。すっごいもどかしい。
…早く来ないかなぁ。
~~~
違う。これはおかしい。
当たり前だった。カッパがきゅうりを好きだからといって、きゅうりがカッパに反応するとは限らない。
そのことにやっと気がついた。もう月が見えない。夜が明けてしまった。一睡もしていない。なんだったんだ、俺のこの時間は。
とりあえず、カッパ人形を回収し、ベルトを操作する。
ガチャッ シューン「お疲れ様~♪」
変身を解除すると、正に「カスタードクリームのような声⑦」と形容するのが適切な声がかかる。『カスターベルト』の音声だ。
残念なことに俺は無機物に萌えない人間だ。普段からこの声は好きではない。しかし、今の俺は非常に苛立っている。この声でさえ、ただ俺の神経を逆なでした。
俺はベルトを外すと、その場で思い切り投げ捨てた。
それを拾うと、カッパ人形と共にとぼとぼと家に向かっていった。
【完】
[編集済]
ほらー! しかも遠まわしにK=仮面として要素にしてるじゃないですかー! あと伏字の入れ方に笑いました。
本当に勘弁してくださいよ。こんなん笑わんほうがおかしいですって。ツッコミどころ多すぎますて。これだから赤升さんが好きなんだ。(突然の告白)
とりあえず個人的にはベルトが好きです。カスタードクリームのような声ってなんだか想像できちゃう。ゆるっゆるの黄色い声っていうんですかね。勝手にそう想像してますが。
[編集済]
カパ男は古来から日本の川で生きる河童だ④。
1985年10月某日。
カパ男の元に、一人の客が訪れた。
カー〇ルだ。
カー〇ルは、某野球球団が優勝した年、その野球外人助っ人選手の〇ースに似ているという理由でカパ男が住んでいる川に放り込まれた人形②だった。
「お前も災難だったな。えっと、カー〇ルと伏字を含めて呼び続けるのもアレだし、イニシャルでK⑥と呼んでいいか?」
カー〇ルは答えた。
「私のイニシャルはKではなくCなのですが、日本人、いえ、日本妖怪にはCとK、LとR③の区別は難しいのですね。はい、Kで構いませんよ。でも、カパ男さん。それを言うのなら、あなたのイニシャルもKではないのですか?」
「ん? おぉ、そうだ! 俺もKだった。こりゃダブルKとして、ユニットデビューするしかないな」
カパ男はキュウリを食べながらそんな冗談を言った。
カパ男とKはその後、二人でキュウリを食べたりフライドチキンを食べたりしながら、仲良く話していた。
「見てください、カパ男さん。このコート、川に落ちていたんですよ。私の故郷のアメリカ風でいいですよね?」
「へぇ、Kは本当はアメリカの出身なのか」
「ええ、そうらしいんです。正しくは、私ではなく、私の元となった人が、ですけれど」
「アメリカって、あれだろ? おっきい国だろ?」
「ええ、そうです。よければカパ男さんも行きませんか?」
「おれはいいよ。英語とかわからないし」
「ならば、教えますよ」
Kは笑いながら、英語を教えると言った。
しかし、十年以上の年月が流れたとき、とある話が耳に入った。
1985年に優勝した某野球球団。優勝し、最強だと思っていた⑧その野球球団が、まったく優勝できなくなった。
それだけなら二人にとって関係のない話だったのだが、しかし、優勝できない原因が、Kが呪ったからだという噂まで流れ始めたのだ。
川で悠々自適に話していたKにとっては当然寝耳に水の話。川の中にいるのだから寝ているときに耳に水は入るのは当然だけど。
そして、2009年、川の改修工事のため、人間たちが不発弾がないか調査していることを知り、Kは決意した。
「ディスイズアペン、これはペンです⑤……ん? どうしたんだ? K」
「カパ男さん。私はここを去ろうと思います」
「……え?」
「私の呪いなどという噂が世に広まれば、私だけではなく、私の兄弟人形にまで悪評がたちます」
「……そう……か。戻ってくるよな?」
「わかりません。ですが、生きていればかならずいつか、戻ってきます」
「そうか。俺は妖怪だからよ、絶対に死なないからな⑨」
「それで、カパ男さんにお願いがあります」
「俺に?」
「はい、10年後、私が戻って来なかったら、私の一部、この左手を私の故郷に持って行ってほしいのです」
「お前の故郷に?」
「はい、私は生きている間に故郷を見ることがかないませんでした。ですが、体の一部だけでもその土地で眠りたいのです」
Kのその言葉に、カパ男は頷いた。きっと、Kはもう自分が川に戻れないことに気付いたのだろう。
翌日、Kは人間たちに発見された。
そして、カパ男はひとり、英語の勉強をする。
「カスタードクリーム⑦……えっと、これはKか? Cか?」
やはり日本妖怪にとって、KとCの区別は苦労させられた。しかし、カパ男はひとりで英語の勉強を続けた。
そして、Kがいなくなってから10年が経った2019年。
カパ男はひとり、月明りに誘われるように地上に出た。Kが着ていたコートを着て。
そして、カパ男は直ぐにそれを見つけた。
「K! お前、Kか! 生きてたのかっ!」
ファーストフード店の前に立つ人形を見て、カパ男は待ち続けたKが帰ってきたと思った。
しかし、カパ男は月が見えなくなって、喋らない人形はKではないと思った。
カパ男は、自分が着ていたコートを脱いで、人形に被せると、その場を立ち去った。。
さて、アメリカまでどのくらい歩いたら着くかな。
虫に差されて痒い①頬を掻きながら、カパ男は東に向かって歩いていった。
Kの左手を持って。
※※※
本編とは関係ありませんが、2009年、道頓堀川から発見されたカーネル・サンダース像は左手だけがどうしても見つからなかったそうです。
END
[編集済]
あの呪いからそんな感動的なお話ができちゃうの……!?
しかし実際に自分のせいにされちゃうってたまったもんじゃないのに、他の人形のことも気にかけているあたり、Kのことが好きになりました。今度バーレルで買いますね。
とりあえずカッパって肉食えるんだと思ったのは私だけじゃないはず。
[編集済]
やあどーも、初めましてだよね。
僕は樗木根幸助(ちしゃきね・こうすけ)、私立探偵をやっているんだ。
これから話すのは、僕が友人に誘われて行ったあるパティシエ達の集まりの話だ。
…連絡が入ったのは本当に突然の事で、僕もびっくりしたんだ。
『なあ、幸助。
今度パティシエが集まるパーティーがあるんだけど、味見役として来てくれないか?』
電話の相手は大学で同じサークルだった吉柳恭一(きりゅう・きょういち)だった。
『いーけど、なんで僕が?』
『専門的な知識とか一切無しで味をみてくれる人が欲しいんだって。』
まあ、僕としても必要とされるのは悪い気分じゃなかったからオーケーしたわけ。
そんなわけで彼の車に乗せられて会場である館にやって来たんだけど、いかにも何か起こるんじゃないかって感じの洋館なんだよね。
ちょっとワクワクしながら入ってみると、
「「「「「ようこそ!」」」」」
って言われたよ。
サプライズパーティーじゃあるまいし、もうちょっと静かにやってくれてもいいと思うんだよね。
どうやら吉柳が大げさに紹介したらしく、尾びれがついて僕が名探偵ってことになってたんだ。
そこで僕らは誤解の解消を兼ねて改めて自己紹介を始めた。
「じゃあ僕からかな?
僕は樗木根幸助、“ただの”私立探偵だよ。 呼びづらいから幸助って呼んでもらって構わないよ。」
次に自己紹介したのは背の高い細身の男だった。
「私は三ノ宮農(さんのみや・みのり)と申します。 以後、お見知りおきを。」
それに続いてぽっちゃりした女性が、
「私は佐野美紐(さの・みにゅう)、変わった名前でしょ?」
と言い、続いてガタイのいい目つきの鋭い男が
「俺は高野演弥(たかの・えんや)ってんだ。 よろしくな。」
言った。
そこに車を置いて戻って来た吉柳が
「自己紹介? 俺は・・・ってみんな知ってるよね、吉柳恭一だよ。 そこ!チビっていうな!」
と言い、それに続くように髪の長い女性が
「私は篠原正巳(しのはら・まさみ)といいます。 よろしくお願いします。」
と言うと、最後に小柄な女性が
「あたしは一ノ瀬涼子(いちのせ・りょうこ)、よろしく。」
と言って全員の自己紹介が終わった。
その後この館の構造を一通り見て回ったけど、全体は正方形の形をしていて、各頂点の場所と真ん中に部屋があって、四隅の部屋を結ぶ廊下で構成されていて、中央の部屋へは南側の廊下からしか入れないみたいだね。
あと、北側の廊下は少し前の地震で大きな穴があいちゃって、使えなくなってたよ。
「ちょっと、誰か来て!」
そう佐野さんが呼ぶ声が聞こえたので北東の部屋へ行ってみると、そこは製菓材料用の倉庫だった。
話を聞くと、どうやら製菓材料用に買ってあった大量のカスタードクリームが台車と共に何者かに盗まれていたらしい。⑦
「佐野さん、ほかの材料も盗まれてないか確認したいから手伝ってもらえない?」
そう言いながら篠原さんがメモ帳とペンを渡すと、
「うわっ! このペン汚れているじゃない!」⑤
と言いながらも受け取った佐野さんと共に二人は倉庫を一通り見て回っていた。
他には盗まれた物も無かったらしく、その場はひとまず解散になったんだ。
「みんな、お寿司取って来たわよ。」
そう言いながら一ノ瀬さんがパックの寿司を持ってきて、中央の部屋で宴会が始まった。
今日は交流会のようなもので、本格的な菓子作りは明日からみたい。
「俺特上!」
「俺は貝尽くしで~」
「私菜食主義なの、カッパ巻きを頂戴。」④
「玉子焼きが入っているのをください。」
「僕は普通の奴で十分だよ。」
「あたし大トロが入ってる奴。」
「残ったのを、ください。」
そう言って食べ始めた直後、
「ヴッ」
そう言って苦しみながらカッパ巻きを食べていた佐野さんが倒れた。
みんな慌てて駆け寄ったが、既に手遅れで、佐野さんは亡くなっていた。
外は雷雨で荒れ始め、不穏な空気が漂い始めた。
「ア、 アレルギー・・・?」
「そんなバカな。 きゅうりアレルギー?聞いたことないぞ?」
「待って、この仄かに甘い香り・・・アーモンド臭だ。青酸カリ(KCN)が使われてるよ!⑥
明らかな・・・殺人事件だ。」
「嘘! 誰がこんな事を!」
「ねえ、寿司を持ってきた一ノ瀬が怪しいんじゃない?」
「待って! 私じゃない! そもそも佐野が何を選ぶかなんてわかるわけないでしょ!」
「彼女は菜食主義だって言ってた! それを知っていればカッパ巻きを選ぶってわかるはずよ!」
「そ、そうだ!閉じ込めろ!」
「人殺し!」
一斉に場が沸き、一ノ瀬さんを拘束するという流れになった。
南西と南東は客間になっており、空いている部屋は北西の部屋だけだった為、彼女はそこに閉じ込められた。
「あの、さっきの部屋にこんなのが落ちていたんですけど・・・」
そう言って三ノ宮さんが取り出したのは蜂の形をした人形だった。②
そしてそれを見た途端、一ノ瀬さんは酷く怯えてパニックに陥った。
「ねえ、一ノ瀬さん何か心当たりあるの? よかったら聞かせてよ?」
そう聞いてみたが、彼女はヒステリックに
「私は絶対に死なない! 死なないからね!」⑨
と叫び続けていた。
…その後僕らは一度事件のあったホールに戻っていた。
「この雷雨で土砂崩れが起きているらしく、警察も明日の午後くらいにならないと到着できないそうです。」
電話をかけていた三ノ宮さんがそう言うと、
「ま、まだこんなところにいないといけないんですか。」
そう篠原さんが言った。
「と、ところで、一ノ瀬さんと佐野さんってどういう関係だったのかな?」
「確か、高校時代の同級生だったって話ですけど・・・そういえば、吉柳も同じ学校じゃなかったっけ?
それにしても、なんで殺しちゃったんでしょうね?」
「まだ彼女が犯人だと決まったわけじゃあ無いからね、それこそ真犯人がいるかもしれない。 仮にRと呼ぶと・・・」
「アール?」
「Redrum、ある映画で使われた殺人鬼(Murder)のアナグラムの頭文字だよ。そのRはまだこの中に居ることになる、油断は禁物だよ。」③
そう言ってその場は解散になった。
「ねえねえ、吉柳も同じ高校って言ってたけど、当時の彼女たちってどんな感じだったの?」
「うわっ 幸助かよ、 驚かせやがって。
そうだな、あいつらはザ・いじめっ子って感じだったな。」
「いじめっ子?」
「ああ、そん時アイツらの入ってた料理部でひどいいじめがあって、その主犯格があの二人だったって話だ。」
「なるほどねぇ~、ちなみにいじめられてた子ってこの中にいたりしない?」
「いや、そもそも田辺さん・・・ああ、いじめられていた子ね、は、いじめに耐えかねて自殺したはずだからここにいるはずがないぞ。ただ、確か彼女には弟か妹がいたって話は聞いたことがあるな。」
「それはそれは・・・」
なるほどね、いじめか~・・・
これは真犯人が本当にいそうだね~
ただ、問題は犯人が一ノ瀬さんでなければどうやって佐野さんに毒を盛ったかだ。
盗まれたカスタードクリームっていうのも怪しいけれど、特に毒を仕込むのには使えそうにないしなぁ。
いや、待てよ? 確かあの時・・・
だとしたら、カスタードクリームの使い道は・・・
急いで館から出て北の廊下の場所へ行くと、そこには話に聞いていた大きな穴と、それを塞ぐ大きな板が内側に立てかけられていた。
…雲が途切れ月明りが照らす中、甘い香りと共に人影が北西の部屋に忍び込み、アイスピックを振りかぶる。
が、そこで人影はそこにいるのが一ノ瀬にしては大柄な事に気づき、慌ててつけていた仮面⑩を外すと同時に部屋の電気が点いた。
そこに座っていたのは私立探偵と名乗った樗木根幸助であり、その周りには自分達の部屋で寝ているはずの人達が居たのだった。
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出題篇。動機は見えてきたが、肝心の密室殺人のトリックとは!? 疑心暗鬼な雰囲気、そして殺伐としている状況もまたそそります。 [編集済]
さて、もう君にも真犯人である”R”が誰か、わかってきたんじゃない?
それじゃあ、答え合わせと行こうか…
「ずいぶんデンジャラスなアプローチだったね、篠原正巳さん・・・いや、田辺さんと言った方がいいかな?」
そこに居たのは篠原正巳と名乗っていた女性であり、高校時代に一ノ瀬さんと佐野さんにいじめられていた田辺真由美の妹だった。
その言葉に彼女はすべてを諦めたのか、僕に語り掛けてきた。
「で?いつから私が犯人だと気づいていたの?」
「最初に違和感に思ったのは倉庫で佐野さんと材料の在庫を確認し始めた時だね。
あの時田辺さん達は材料の在庫を確認するのにペンを2本使ってた。
なのに田辺さんは佐野さんに汚れている方のペンを渡した。
自分が綺麗な方を使いたかったのかもしれないけど、本当は彼女の指にペンを経由させて青酸カリをつける為だったんでしょ?
料理が寿司だってことは既にみんな知ってたから、彼女の指に毒がつきさえすれば彼女が何を選ぶか考えなくてもよかったからね。」
「ええ、そうよ。 それで? どうしてこの計画までわかったの?」
「吉柳もあいつらと同じ学校だったって聞いてね。
聞いてみたらいじめの事も話してくれたよ。
事件の現場に落ちていた蜂の人形、あれも田辺さんが置いたものだよね?
いじめは陰口だけでなく料理を捨てたり、“蜂と同じ部屋に閉じ込める”なんてこともしてたらしいね。」
「ええ、姉さんはいつも私に言ってたわ。
あいつら、閉じ込めた姉さんに何て言ったと思う?
『虫に刺されてかゆくなった時の為に、かゆみ止めの薬は置いておいてやるよ。』①
って言ったのよ?
その事がトラウマになって、姉さんは自殺した。
あいつらに生きている資格なんて無いのよ!」
「やっぱりね、蜂がいじめに関係あるって聞いた時点で一ノ瀬さんも狙われてるんじゃないかって思ったんだよ。
あの時一番に彼女を北西の部屋に閉じ込めようって言い出したのも、今思えば田辺さんだったしね。
自殺に見せかけて殺すには密室がいい。
西の廊下を使わずに北西の部屋に入れば誰だって密室だと思うよね。
盗んだカスタードクリームを北の廊下の大穴に流し込んで走ればダイラタンシー現象が起こってその上を歩けるようになる。
事が終わった時に穴を塞いでいる板を壊せばカスタードクリームはこの雷雨で流れて証拠も隠滅できるって寸法でしょ?
よく思いついたよね。」
「そこまでお見通しとはね、この計画、最強だと思ってたんだけどね。」⑧
「でも残念、探偵って生き物は存外鋭いんだよ?」
夜は明けて、彼女は警察へ逮捕されていった。
一ノ瀬さんも今回の件で何らかの社会的制裁を受けることになるだろう。
おっと、長々としゃべりすぎちゃったかな?
まあ要は、女って生き物は怖いねって。
さて、ご相談は何でしょうか?
浮気調査?猫探し?
どっちかっていうと猫探しの方が得意なんだけどね。
貴方のお悩み、物によっては解決するよ。
樗木根探偵事務所へようこそ!
【簡易解説】
月に照らされながら、待ちに待った復讐の時。
しかし、いざ殺そうとしたところで復讐相手ではない事に気づき、怪しまれないために着けていた仮面を外した。
-了―
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全てが明かされる解決篇。読後にタイトルを見ると、また違った印象になりますね。本格的な推理小説を読んだ気分になりました。私立探偵だし、名前も「こうすけ」だし。
問題文の状況が犯人目線のものだったというのもまたいいですね。ちょっとした人物誤認トリックのようで、とても好きです。
[編集済]
『やっとの事で山奥の秘湯に辿り着いたカメコは 先客が出るのを待っていたが
先客ではなく 月明かりに照らされた岩の影だと気づいたので 安心して入浴できた』
(以下エピローグ解説)
先客は居なかった。
が、後から来る客は居たのである。
カッパだ。④
カメコの脳内は ハテナでいっぱいになった。
「西京焼きが強い訳ではない」と気づいた時と同じくらいの驚きだった。⑧
(確かに山に立派な川はあったけど…どうしてお湯に浸かるの…)③
勇気を振り絞って声をかける。
カ「カッパさん…ですか?」
カ「そうですよ~ ご存知なんですか?」
(めっちゃ声かわいい///)
カ「その…お噂はかねがね やっぱりヒトガタなんですね?」②
カ「人間との付き合い長いですからね~ 虫さされもありますよ」①
カ「ええっ そうなんですね それと…やっぱりキュウリ好きですか?」
カ「あれはもう飽きました 最近は甘いものが好きです カスタードクリームとか特に」⑦
(めっちゃ俗物…)
カ「…どうやって手に入れるんですか?」
カ「それ聞いちゃいます? 言ってもいいんですか?」
カ「すみませんでした! やっぱり遠慮しときます」
カ「遠慮しなくていいですよ これもなにかの縁ですから」
カ「この木の枝を見ていて下さい いいですか? これはペンです!」⑤
カ「それはペンです!」
カ「つまりはそういうことです この力があるので 私はぜっっっっっっっっったいに死なない」⑨
カメコ「よっ! カッパキング! その勢いで話にオチをつけてください」⑥
カメオ「実は ただの催眠術師なんです」
③:River ⑥:キング
【完】
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まさかのオチである。ファンタジーの欠片もないカッパの使い方にじわじわきます。どこからそんな発想が来るのでしょうか。そしてこれも地味に《カ「」》に伏線を張っている。
明らかによこしまな理由で催眠術師になったカメオが不思議と嫌いじゃないですね。そのうちしょっ引かれてしまいそうですが。とりあえずカメコさんは詐欺に引っかからないか心配になってきました。
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6月某日、時刻は20時。カーテンがない部屋の窓から、月の光がよく見える。4月に引っ越してきてから、カーテンを買うのを忘れたまま現在に至る。色々なことを後回しにする僕の性格は、昔から変わっていない。
短い電子音とともに、スマホの画面に新着メッセージの通知が表示された。
「久しぶり!げんき?」
普通すぎて逆に普通には見えないようなメッセージをよこしてきた、彼女の顔を脳裏に浮かべ、短く返事を打つ。
「普通だよ」
その後は、たわいない昔話が続く。
「今年の祭りには行かなかったの?」
ああ、そう。今年の祭りには行ってない。僕らの地元では毎年梅雨入り前に、川が氾濫しないよう水神様にお祈りする祭りがあるのだ。よく2人で祭りに行っていたことを思い出す。
*
屋台に並ぶ焼きそば、綿菓子、射的、金魚すくい、河童のお面、河童の人形焼き②…。
この町では、水神様=河童④なのだ。
「人形焼きは人形町っていうところのお菓子なんだって。知ってた?」
「ふーん」
「あんことカスタードクリーム、どっちがいい?」
「カスタード⑦」
2人で河童を頬張りながら、橋の上から、川面に揺れる月の光をぼんやり眺めていた。
「河童なんだからさあ、抹茶餡も作ったらいいのにね。生地にも抹茶を混ぜたらもっといい感じ」
「そこまで緑にこだわってどうするのさ」
「えー、いいじゃん!河童!緑!可愛い!」
彼女は緑色が好きなのだ。お気に入りの服もアクセサリーもペンも、緑のものが多い。
今日着ている浴衣も、緑の柄が映えている。白いうなじが目に入り、再び視線を川に戻す。
ふと、首に違和感があった。彼女のではなく、僕の首に。
「虫に刺された①」
「蚊が飛んでるの?私は何ともないけど」
「きっと肌が鉄でできてるんだ。最強だね⑧」
「褒めてくれてありがとう。蛇に噛まれても死なない⑨ね」
2人でため息をついた。
*
思い出の中の月から現在の月に意識を戻す。時刻は22時。
メッセージのやり取りはまだ続いている。
「月、そっちでも見えてる?」
「見えるよ。カーテン買ってないから、眩しいくらい」
「ホント、物にこだわりとかないの?」
こだわりがあるわけではないが、ずっと使い続けているものはある。彼女にもらったペン⑤。彼女が好きな色の、彼女とおそろいのペン。狭くて殺風景なワンルームの中で、卓上のペンケースに立てられたライトグリーンは、やけに目立つ。
彼女にプレゼントをもらったときの僕は、彼女と橋の上で河童の人形焼きを食べていた僕は、彼女に恋愛感情③を抱いていたのだろう。あのころから、ずっと後回しにしている。今の僕は、どう思っているのか。
彼女には婚約者⑥がいる。6月の花嫁は本当に幸せになれるのか。彼女が、さほど盛り上がってもいない会話をこんな時間まで続けているのは、なぜか。
「なにかあった?」
返事は来ない。月の光はまだ明るかった。
気づいたときには、太陽が昇っていた。短い電子音が聞こえ、僕は体を捻ってスマホを手に取った。
「駅に着いたから迎えに来てよ」
今の僕と、昔の僕は、同じ気持ちだろうか?違う、とかすれるような声で呟き、寝汗で湿ったTシャツを着替えた。
【終】
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淡い片思いはひっそりと終わるものかもしれないですが、最後に「違う」と言ったのは、本当に彼の本心だったのでしょうか。彼の感情は誰にも分からないし、それは本人でさえもわからないのかもしれませんね。どっちにしても、月だけは変わらずにいるというのが、個人的に好きな問題文の回収だと思いました。 [編集済]
こんな夢を見た。
枕元で腕組みをして座っていると、精巧な人形のように美しい女性が仰向きに寝ており、静かな声で「もう死にます。」と言う。②
女はその艶やかで美しい髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。
真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。
とうてい死にそうには見えない。⑨
しかし女は静かな声で「もう死にます。」とはっきり言った。
すると私も確かにこれは死ぬなと思った。
そこで、「そうかね、もう死ぬのかね?」と上からのぞき込むように聞くと、
「死にますとも。」と言いながら女はぱっちりと眼を開けた。
大きな潤いのある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった。その真黒な眸の奥に、自分の姿が鮮やかに浮かんでいる。
私は透き通るほど深く見えるこの黒眼の艶を眺めて、これでも死ぬのかと思った。
そして、ねんごろに枕の傍へ口をつけて、「死なんかに負けるんじゃなかろうね、大丈夫だろうね?」とまた聞き返した。
すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、「何にも負けないと思っていましたけれど、死ぬんですもの、仕方がないわ。」と言った。⑧
「じゃ、私の顔が見えるかい?」と一心に聞くと、
「見えるかいって、そら、そこに、写っているじゃありませんか。」と、にこりと笑って見せた。
そして、「叶うならば、そのお顔を私だけの物にできたらよかったのに。」とまた、少し哀しそうに笑った。
私は黙って、顔を枕から離すと仮面をつけ自らの顔を他社に見せる事を制限(Restriction)した。⑩③
腕組みをしながら、どうしても死ぬのかなと思った。
しばらくして、女がまたこう言った。
「私が死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちてくる星の欠片を墓標に置いてください。そうして墓の傍に待っていて下さい。そうしたら最後に、このペンで、あなたの名前を記してください。また逢いに来ますから。」⑤
私は、「いつ逢いに来るかね?」と聞いた。
「月が昇るでしょう。それから月が沈むでしょう。それからまた昇り、また沈むでしょう。—蒼い月が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、—あなた、待っていられますか?」
私は黙ってうなずいた。女は静かな調子を一段張り上げて、
「百年待っていて下さい。」と思い切った調子で言った。
私はただ待っていると答えた。すると、黒い眸のなかに鮮やかに見えていた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。長い睫の間から涙が頬へ垂れた。—もう死んでいた。
私はそれから庭へ下りて、真珠貝で穴を掘った。真珠貝は大きな滑らかな縁の鋭い貝であった。
土をすくうたびに、貝の裏に月の光が差してきらきらした。湿った土の匂いもした。
穴はしばらくして掘れた。
女をその中に入れた。そうして柔らかい土を、上からそっと掛けた。掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。
それから星の欠片を拾って来て、軽く土の上へ乗せた。星の欠片は丸かった。
長い間大空を落ちている間に、角が取れて滑らかになったんだろうと思った。
抱き上げて土の上へ置くうちに、自分の胸と手が少し暖かくなった。
最後に彼女の遺したペンで「金之助」の頭文字である“K”を書いた。⑥
そうして私は苔の上に座った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組みをして、丸い墓石を眺めていた。
そのうちに、女の言った通り月が東から出た。蒼い満月であった。
それがまた女の言った通り、やがて西へ落ちた。蒼いまますうっと落ちていった。
「一つ」と私は勘定した。
しばらくするとまた蒼々の月がゆるりと上って来た。そうして黙って沈んでしまった。
「二つ」とまた勘定した。
私はこういう風に一つ二つと勘定して行くうちに、蒼い月をいくつ見たかわからない。
勘定しても、勘定しても、しつくせないほど蒼い月が頭の上を通り越して行った。
それでも百年はまだ来ない。
いつか虫に刺されかゆみも覚えたが、それもとうに忘れてしまった。①
しまいには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は河童か何かの妖にでも化かされたのではなかろうかと思い始めた。④
私が苔むした石からふと眼を上げて遠い空を見たら、唐紅の天道が地平から光を放っていた。
「百年はもう来ていたんだな。」と、気が付いた。
すると待っていたかのように石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。
見る間に長くなってちょうど自分の胸のあたりまで来てとどまった。と思うと、すらりと揺らぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと花弁を開いた。
真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。
そこへ遥かの上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。
私が仮面を外して首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻をすると、かすたあどのように甘い味がした。⑦
【簡易解説】
100年間、明けない夜の中で女を待っていた男。
女の言った事は嘘だったのではないかと疑い始めた頃に夜が明け、一輪の百合が咲き誇った。
それを見て男は女の言った事は真実だったのだと知り、約束の仮面を外して百合の花に口づけをした。
【原作】
原作は夏目漱石の『夢十夜』という作品の「第一夜」だヨ
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原作を読んでから読むとまた違いますね。原作に忠実でかつ雰囲気を壊さず、要素を自然に回収。原作を知らない人でも入り込めて、夢か現か不思議な心地がしました。そして、特にラストの構成を変えて、カスタードの使い方を印象的にしているのがいいですね。とても素敵です。 [編集済]
空には真ん丸の月、家に人は誰もいない。…チャンスは今だ。
俺は繋がれた鎖を外す。何度も挑戦している内に慣れていた。
準備をして外に出ると、驚いた。人が沢山いるではないか。…いや、違う。あいつらは、俺の同類じゃあないか?
あそこにいる奴は、たしか吸血鬼⑥。血を吸ったり、コウモリになったりできるって奴。
その隣にいる奴は血まみれで、あーるしてい?③ってのがかかりそうな見た目だ。頭を潰すとかしないと絶対に死なないっていうゾンビか⑨?よく見ると、首元に2つ赤い点がある。吸血鬼にやられたのか。
あっちにはカッパがいる④。そっちには人形みたいな女も②。赤い帽子とひげを付けている人なんてのもいる。
これは凄い。こんなにいるなら、俺の同族もいるかもしれない。…いや、いた。それも沢山!
立派な耳、毛並み、尻尾を備えた人が沢山集まっている!
俺も早くああなりたい、いや、これからなるのだ。そのために逃げ出して来たのだから。
奴らはどこへ行くのだろう?そう思い、ついていく。どうやら、お菓子を貰っているようだ。
ポッキー、カスタードクリームパン⑦、クッキー、更には煎餅まである。
だが、誰も俺には与えてくれない。それもそうだ。今の俺の姿じゃ仕方がない。
…しかし、俺は違和感を覚えた。
例えば先程のゾンビ。血まみれではあるが、自身が血を流している様子は無い。それに、首をしきりにかゆがっているように見える。単に虫に刺されただけかもしれない①。
俺の同族と思った奴らは、ひげをペンで描いているし⑤、耳は生やしているのではなく付けているようだ。
…どうやら皆、人が変装しているらしい。
ならば、こいつらにかまっている暇は無い。早く俺の計画を進めなくては。沢山の人が集まる大通りを外れ、歩いていく。
~~~
…着いた。ここが、近くで最もきれいに月が見える場所。
周りは木に囲まれているので、人に見られる心配は無い。安心して計画を実行できる。
俺は月を眺めながら、変身するのを待った。
~~~
だんだんと月が沈んでいく。しかし、俺の姿が変わる気配は無い。
何故だ?俺は確かに化け物の類い。そして満月が変身のトリガーであるはず…
不審におもい、月を睨みつける。…違う。あれはわずかに欠けている。今日は満月ではなかったのだ。
なんてことだ。またも計画は失敗してしまった…。せっかく服を着て準備したのに無駄になってしまった。
今回はこれ以上無いチャンスだと思っていた⑧。次にできるのはいつだろう…。とショックを受けていると、「ルフ?どこー?」
ご主人の声がする。俺が家に居ないのを見て、探しに来たんだろう。しかし、ご主人がこの俺の姿を見たらどう思う?
俺は慌てて服を脱ぎ捨てた。
「ルフ!ああ、やっと見つけた…。もう、なんであなたはしょっちゅう逃げるのかしら」
「ワン、ワン!(ご主人、ごめんなさい。また失敗しちゃいました)」
「しかも家を漁って、服まで持って着て。どうしてそういうことをするの?」
「ウゥー、ワオン!(人の姿になった時に、真っ裸にならないように頑張ったんです!)」
「まったく、わんぱくな子なんだから。さあ、帰りましょ、ルフ」
…俺が人間になってご主人と話せるのは、いつになるだろう?
~補足解説~
主人公は“満月を見ると人間に変身する犬”のルフ。狼男ならぬ男狼というべきか。
ハロウィンの日に人間になることを試みるも、満月ではないことに気づく。自分の主人に見つかりそうになったので、怪しまれないように服を脱ぎ捨てた。
【完】
[編集済]
変身しないんかい! けれどバッドエンドというわけではなく、すごく微笑ましい。逆なだけでこんなに印象が変わるものなのですね。ルフが人間になれる日はいつになるのでしょう。かわいい。
ところで彼は人間になったらどんな姿になるのかしら。かっこいい感じか、それとも〇ラゴンボールに出てきたちょっとがっかりなタイプか。
[編集済]
満月。カスタードクリーム色の満月。(⑦)僕は、たった2割くらいの「人間」としての意識で、朝が来ることを待つ。
僕の残り8割くらいの意識、それは「狼」。そう、僕は満月の夜に姿が変わる「狼男」だ。例えば「カッパ」とか、「吸血鬼」とかと同様の扱いを受けるあの「狼男」。(④)
狼になると、破壊衝動が湧き上がる。だからなのだろうか、覚えている最初の記憶の時点でもう山小屋に家族で住んでいた。昔は虫に刺されてかゆいと思うこともあったけど今ではそんなこともなくなった。(①)
ちなみに記憶は二つの意識で共有される。まだ幼い頃は人形を破る(②)とか、そんなことで収まっていたから良かった、というようなことも覚えている。
忘れもしない小学1年生の9月。あの日狼になった時、いつもよりも破壊衝動が強かった。子供の無知ゆえの容赦のなさは恐ろしい。自らの手で父さんと母さんをこの手で……。今でも夢に見る。
人と関わるのが怖かった僕に「これがペンだよ」「あれが林檎だよ」と色々なものを教えてくれたのは父さんと母さんだった。
だけどあの頃の唯一の人との関わりがなくなった。なくしてしまった。
それまでは自らを最強だと思い込んでいたんだ。(⑧)でも、感情に仮面をつけることすらできない最弱だった。
中2の修学旅行、というか今、あまりにも不幸なことに満月だった。厄介なことに、完全な満月じゃなくても前後1日含めて2〜3日の毎夜狼になることがあり、そのパターンであってしまった。
中学生になってから一夜だけなら次の満月の夜に破壊すればなんとかなるようにはなった。だから祈り続けた。一夜で済むように、と。
修学旅行初日は不安を隠しながらもトランプをすることができた。
「Kのファイブカードとかどんなイカサマだよ」みたいな雑談をすることだってできた。(⑥)
2日目、満月「前夜」。
満月であることを祈った。そう、僕は狼となってしまった。
破壊衝動に耐え続ける。それで修学旅行の間はなんとかなると思ったから。
3日目、「満月の夜」。
狼になる前兆を感じとってしまった僕は、先生たちから隠れながら屋上に向かった。(③)
狼になったらきっとフェンスを壊すことくらい容易にできるだろう。そしてそこから落ちてしまえ。
意識を狼に奪われる。そして僕は祈る。フェンスを壊し、そこから落ちることを。
無駄だった。狼にももちろん生存本能はあるわけで、この程度の小細工では絶対に死ななかった。(⑨)
壊す。ドアを壊す。人を殺す。それを何度も繰り返す。「僕」の友達も、好きだった人さえも、僕が壊す。僕を壊す。
廊下に入る月の光があまりにも綺麗すぎて、憎くて、憎くてたまらなかった。
あまりにも長い一夜が終わり朝が来るのを待つ。このままだと狼が全てを奪われた僕から「僕」さえも奪ってしまいそうで、だからひたすらに待つ。
朝が来た。月が見えなくなった。
人間としての意識を完全に取り戻す。
そして、その時に浮かんだ最初の感情からあまりにも大きな勘違いをしてしていたことに気がつく。
「せいぜい、この程度か。」
子供の頃、親をこの手で殺したその朝の恐怖は幼さゆえだったのだ、と。
いつも自らを人間だと思い込んでいたがとっくに狼に精神を蝕まれていたのだ、と。
罪悪感を持たない僕は、獣臭のついた服を脱ぎ捨て、自分の部屋に着替えに行った。
これからも、壊れた僕は繰り返す。
【終】
[編集済]
これを知った後に「Normal End」を読むと……また違った印象となりますね。
自分の中の獣を押さえつけようとし続けても、そこには必ず限界がある。解き放った時にはもう二度と戻れないところまで来ていた「僕」の行く末は、果たして。
「せいぜい、この程度か。」この台詞が、全てを物語っているかのようでもあります。
[編集済]
蚊に刺されて痒い。①
絶対アネキにもらった人形のせいだ。②
特殊なAromaが出るカッパの人形を手に昼寝した結果なので、疑うまでもない。③④
でも、アネキから貰った痒み止めに効くペンがあるから安心だ。⑤
カスタードクリームを塗りたくったKAERUの着ぐるみに、痒みに最強に効くコレを持って一晩明かせば、痒さが消えるらしい。⑥⑦⑧
言われた通り月明かりが当たる庭で『ぜぇったい死なないゲーム』をしながら夜を過ごした。⑨
そして月も山に沈み、朝が来た、のに、
「話がちげぇじゃねぇか!!!!」
一向に治らない痒みで騙された事に気づき、ペンを放り投げ着ぐるみを脱ぎ捨てた。
一方その頃家では——
「北人〜、ご飯よ〜。聞こえてないのかしら」
「北人なら、一晩中庭でなんかしてたわよ」
「あら南おはよう。そうなの、変な子。アンタお姉ちゃんなんだから、呼んできてちょうだいな」
「気にしない気にしない。そんな事より早く食べましょ!いただきまーす!」
(完)
[編集済]
完全に弟をおもちゃにしている南も南ですが、北人も北人でなぜそれを信じたのか。
ツッコミどころはかなりありますが、とりあえず「ぜぇったい死なないゲーム」が気になりますね。一体何だろう。芸人がする過酷なロケみたいなゲームでしょうか。むしろ「ぜぇったい」にどれだけ気持ちを込められるか競う「モッツァレラチーズゲーム」的なやつかもしれませんね。やってみましょうか。ぜぇっっ(文字数が足りないので次に参ります)
[編集済]
『幸福な王子だったから』②③④⑥⑧
一休みをしに来たツバメ※①に頼み、
自らの豪華な装飾を、
貧しい人々に分け与えようとした王子(銅像)は、
腰の剣※⑤に付いたルビー
目であるサファイア だけでなく、
身を包む純金までも与えました。
それを知った神様と天使⑨によって、
ふたりは天国で幸福に暮らしました。
天国のカスタードクリーム⑦おいしいです。
③:ルビー
④:copper(銅)
⑥:キングダム(王国)
⑧:生前は自分のことを最強だと思っていた
【完】
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基本的に投稿されてからすぐ読むことにしているのですが、投票コメントで原作があるのを知り読んだ後改めて感想を書きなおしました。これはスゴイ! まさか要素をわざわざ書かずに要素を入れて解説するという荒業を披露するとは! 原作を読むとまた景色が変わりますね。短いのに強烈なインパクトがありました。
そして天国のカスタードクリームという魅惑的な響き。無事に(?)カスタードのお菓子が食べたくなりました。
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あるところにカメオという人形職人がいた。(2)カメオは日々たくさんの人形を作っていた。そのカメオが作った人形の中にウミオというカメオそっくりの人形があった。
「おお、我ながらこの人形は素晴らしい。一回ぐらい俺もこんな人形みたいになりたいなあ。」
それを何度も聞かされていた人形のウミオは次第に意志や自我を持つようになっていた。そしていつしかウミオはこのようなことを思うようになった。
「僕もカメオの代わりに人間になりたい。」
さて、カメオにはラテ子という恋人がいた。今日も男はカメコに電話をする。
「カメコ、お前がこの間作ったシュークリームとてもおいしかったぞ。」
「ありがとう、ところで私が何のクリームを入れたかわかる?」
「カスタードクリームだろ?」(7)
「せいかーい!」
「ところで・・・・ラテ子。今度君に話があるんだ。明日の夜、月の池というところで待っていてくれ。」
「えっ、でもあそこの池って幽霊とか河童が出るからあんまり人がいないって聞いたわよ。(4)」
「大丈夫だって。俺はこれでも空手の大会で優勝しているんだからさ。少なくともこの町では俺が最強さ。(8)それに幽霊なんて迷信だから仮に出たとしても絶対に死ぬことはないさ。(9)」
「本当?」
「本当さ。」
「わかったわ。明日そこで待っているわ。」
やった!そうカメオは思い電話を切ったのだった。その傍らにはウミオの人形があった。ウミオは電話を聞いて思った。「チャンスだ。」
次の日、カメオはあるアクセサリー店に行った。目的はラテ子の婚約指輪。そう、カメオはラテ子とプロポーズしようとしていたのだ。
婚約指輪にはカメオのイニシャルである「K」(6)、そしてラテ子のイニシャルである「R」(3)を刻むように頼んだ。
「さてプロポーズか。緊張するなあ。」
婚約指輪を見て気を引き締めているカメオをアクセサリー店の窓から見ながらカメオを尾行していたウミオはこう思った。
「ははっ、お前はプロポーズできないさ。僕がカメオに成り代わるんだからね。」
しばらくして、カメオは池の近くの駐車場についた。カメオはアクセサリー店の紙袋から婚約指輪を取り出し、それをポケットに入れようとした。
「やあ。」後ろから声が聞こえた。
カメオはその声に驚くと同時に後ろを振り向いた。
「お前は誰だ!?」
「ウミオだよ。お前は僕に何回も僕みたいな人形になりたいって言ってたろ?そう言っているうちに僕も人間になりたくなったんだ。だから僕がお前に成り代わって人間になってやるよ。」
「ウミオ?まさか俺が作った人形の?」
「そうだ。」
「あれは冗談だ・・・。人形を作る仕事が好きだからついそう言ってしまったんだ・・・。」
「いや、あれは冗談じゃない。僕はそう感じた。」
そういいながらウミオはカメオに向かって襲い掛かろうとする。
「や、やめろ!」
思わずカメオはポケットに入れていたペンを取り出した。
「なんだ、ただのペンじゃないか。(5)その程度じゃ僕には勝てないな。」
「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
こうしてウミオはカメオに成り代わって人間になったのであった。
さてラテ子はそのころ、月の池でカメオを待ち続けていた。あたりはすっかり暗くなり、池はただ月明かりに照らされている。
「カメオ遅いわね。どうしたのかしら・・・。」
ラテ子は池で虫に刺されてかゆくなった腕をかきながらカメオを待ち続けていた。(1)
すると後ろから声がした。
「おーい!ラテ子!」
「カメオさん!」
カメコは声のする方に向かって振り向いた。その瞬間、空が曇り、月明かりが見えなくなった。
「遅くなってごめん。」
ラテ子はその声を聞いた瞬間、真っ青になった。暗くなって見えづらくなりながらもなんとか見えた道から歩いている男の姿は確かにカメオではあった。しかし、その声はまるでロボットのようだった。月が見えなくなったからこそ、聴覚が研ぎ澄まされ声の異常さに気付いたといってもいいだろう。そう、ラテ子は気づいてしまったのだ。もはやその人物が本物のカメオではないことに。
「違う・・・・カメオさんじゃない。」
こうしてラテ子は恐怖心から首に巻いていたスカーフを思わず脱ぎ捨てるとその場を立ち去り、一目散に走って逃げていくのであった。(終)
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また独特な作品ですね……ウミオの計画がじわじわと進行していく恐ろしさと、幸せにはなれないだろうなと思わせる物悲しさを同時に感じました。言葉で表すならせつなこわい(切ない+怖い)でしょうか。声だけってどこかぞっとするので、問題文の回収と併せて好きな終わり方です。でもやっぱり行く末気になっちゃう。願わくばラテ子だけでも幸せに。 [編集済]
はじめは、様々な民謡を調べた。
女の子は砂糖とスパイス、それに素敵な物でできている。
砂糖にバニラエッセンス、命が詰まった有精卵にミルク。 小麦粉も少々。
全て混ぜて温めた。
出来たのはカスタードクリーム。⑦
失敗だ。
河童の伝説では、尻子玉と言われる臓器があると言われていた。④
しかし、そんな物は無かった。
失敗だ。
又、機械的な面からのアプローチもした。
ペンでの設計、プログラミングを経て作り上げた試作機。⑤
何度繰り返しても返ってくるのは機械的なメッセージのみ。
失敗だ。
構成する物質を集めてなんとか作れないかとも試してみた。
タンパク質や水をはじめ、マグネシウム、リンに硫黄、カリウム(K)にカルシウム、鉄等々etc…⑥
しかし集めたはいいものの、どうすればいいのかわかるはずも無かった。
失敗だ。
久しぶりにあの人の元へ向かった。
春はとっくに終わり、夏の暑さが身に堪える。
虫に刺されたかゆみを無視し、あの人にあいさつをした。①
割れた仮面に誓った決意を、思い出した。⑩
あの人によく似た眼。
あの人によく似た髪。
あの人によく似た鼻筋。
沢山集めた。
おかげで地下室はR指定がつく程の赤を湛えていた。③
繋ぎ、繋ぐ。
ようやくすべてが繋ぎ終わった。
完成だ。
そこにはまるで寝ているかのようなあの人の姿があった。
もう、絶対に死なせない。
絶対に、絶対に、ゼッタイに、ぜったいに、ぜっっっっっっっったいに。
ゼッタイに、絶対に、ぜッたヰに、ζいに、絶対に。⑨
満月の夜、月が昇る。
あの人の目覚めを待つ。
――――
「——くん?」
気が付くと、あの人がこちらを見ていた。
ついに、ついに成功したんだ。
――――
ファオンファオンという音で目が覚めると、既に日は高く昇っていた。
目の前にいたのはあの人ではなくタンパク質で作られたただの人形だった。②
また、失敗したらしい。
この失敗は大きかった。
最強だと思っていた計画も、現代の警察には通用しなかった。⑧
不思議と逃げる気は起きなかった。
「さあ、行きましょうか。」
私は白衣を脱ぎ棄て、彼らの元へ一歩、踏み出した。
・・・まだ、諦めたわけじゃあない。
【簡易解説】
様々な方法で人を作ろうとしていた男は、満月の夜に完成した死体のつぎはぎが目を覚ますのを待っていた。
気が付くと死体がかつての友人として話しかけてきて、遂に成功したと思った。
しかし、パトカーのサイレンで目が覚めて夢だと気づいた男は、白衣を脱ぎ棄てて警官の元へと向かった。
再び、あの人とこの世で逢う為に。
-了-
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マッドサイエンティストのバッドエンディング。いや、出逢うのであればバッドではないのでしょうか。ちょっとしたパロディを加えつつ、「ぜったいに」の鬼気迫る感じがとてもよく出ているのが印象的でした。前回の「禁忌」を思わせるような描写もあり、ひょっとしてこれはいわゆる「続き」なのでしょうか。深読みかもしれませんがどちらにせよ、OUTISさんが書く狂気の出し方がとても好きだなあと思います。 [編集済]
【簡単解説】
月明かりに照らされ宇宙を漂いながら星に着くのを待っていた男。
しかし、自分はたどり着かない『違う』ルートに来たと思い勘違いを悟り、自殺の為に宇宙服を脱ぎ捨てた。
【ちょい長い解説】
指定された時間ちょうどに研究室へ入る。
埃っぽい部屋の奥でマイクと博士が最後の談話を楽しんでるのが見えた。
ガタイのいい奴と、小柄で初老の博士が並ぶと種族が違うように見えるから不思議だ。
「おお、遅かったなスザク」
「これでも時間通りだぜ、マイク」
軽い冗談を言い合ったのは、この緊張を誤魔化したかったからか。
全員が揃ったのを確認して、博士がコホンと咳払いをした。
「では二人も揃ったところで、本題と行こうか。付いて来なさい」
案内された先にあったのは、極めて特殊な宇宙服二着だった。
「緊急脱出用宇宙服K号とR号。残念ながら整備もままならなかったし、正直計算も詰められていないと思うが、現状の最善を尽くした結果だ」③⑥
小さな背中から発せられる重々しい言葉に、緊張がさらに増していく。
「もう一着作る余裕は、やっぱりなかったんですか?」
「ワシのことは気にするな。もう覚悟は出来とるよ。それより、お前さんたちだ」
『覚悟は出来てる』この言葉に、一体どれほどの感情が込められているのだろう。
現在、俺たちの母星は核の炎に包まれ、とても生命の営みを続けられる環境ではなくなってしまった。
ロシァ連邦の早い呼びかけにより、多くの一般人は近くの星へと移住できたが、我々兵士はそうはいかなかった。
そして戦争が終わり、確認できた最後の生存者は俺たち三人のみ。
その中でも若い二人が生き延びられるように博士が作ってくれたのが、この星間移動特殊脱出スーツなのだ。
「天文台が閉鎖され、宇宙の観測が困難になってしまった現状、有機生命の生存可能環境を備えた星のアタリが、つまり他の人間が移住した星の目星が、2通りまでにしか絞りきれなんだ。だから、そのスーツのどちらか一方しか、生き延びることはできない」
前から聞かされていて、今日その事も覚悟して来たはずなのに、足が震える。
この三人の中で、生き残れるのがたった一人だなんて。
「スザク」
マイクが、そのゴツい拳を俺に向けて笑顔を見せた。
「約束だ。俺たち三人が生きた証を、生き残った誰かが、必ず後世に継いでいく」
「…………あぁ」
お前は強いなと、心の中で呟き拳を返した。
スーツに着替えて出発を待つ。
アタリか、ハズレか。
覚悟が決まっていない俺は、やっぱり死にたくない俺は、どうしようもなく弱いのだ。
マイクや博士のように強くなれなくても、せめて心だけは強くありたいのに。
ああ、震えが止まらない。
『それでは、射出する。しばらくは二人で交信できるから、するといい。ワシとはサヨナラだがな、ははは!』
『はっ、サヨナラじゃないさ。俺たちは、俺かスザクが紡ぐ言葉で、永遠に残り続ける』
『言うようになりおって。アタリのスーツは月が消えぬ内に目的の星に着けるはずだ。覚えておけよ』
『イェァ、サー』
「了解」
エンジンが温まっていくのがわかる。
一人目との別れは、もう目の前だった。
「…………博士」
『ん?どした、スザク」
「…………俺は、絶対死なないから」⑨
『……………………ふっ』
はたして、この笑い声はどっちが発したモノだったのか。
わからないまま俺たちは、果てしない宇宙へと飛び出した。
『ピッ、ガガッ、ザードゥッ、あー、テステス。こちらマイク。スザク聞こえるか?』
飛び出して数分もしない内に、マイクからの交信が入る。
「あー、こちらスザク。バッチリ聞こえます、どうぞ」
『ハハッ、相変わらず返事が堅いなお前は。婆ちゃんのカスタードクリームみたいに柔らかくは出来ねぇのか?』⑦
「お生憎様、日本人は堅い事で有名なのさ」
『違いない。連邦政府に進言しとくよ』
その後俺たちはしばらく、他愛もない事を話し合った。
出発前虫にかまれてかゆいだの、向こうの星でカッパを見ただの、目前のリアルから目を背けるように、関係のない事を延々と、延々と。①④
ふと、マイクが呟いた。
『俺にはな、言ってなかったが、当時五歳になる娘がいるんだ』
「五歳って、一番可愛い盛りじゃないか」
『はは、クソッタレな戦争だったが、嫁と娘を見送れただけでも幸運だったと、当時は思ってたんだよ』
噛みしめるように吐き出す。
少し荒くなった音声が、余計に奴の情緒を思い起こさせる。
『でも、こうして再会できる可能性が生まれた。いや、会えなくても、俺が死んだとしても、お前に伝えてもらう希望が見えた』
「マイク……」
『人形をな、せがまれたんだ。別れ際だった。あの時の返事が、ようやくできる』②
それはつまり、『俺が死んでもお前が娘に人形を買ってくれ』という、言外のメッセージだった。
「……お前の娘さん、どんな顔してんだ?」
『可愛いんだぜ。二歳の時には、ペンって喋れるんだ』⑤
「はは、お前の名前じゃねぇのかよ」
『ほとんど家にいないファッ○ン親父なんかよりも、よっぽど身近だったんだろうな』
その過ごせなかった時間を、これから埋める。
埋められなくても、俺が継ぐ。
俺にその重みは、重すぎる。
「……お前は最強だと思ってたよ」⑧
『どういう意味だ、相棒』
ああ神よ、なぜ俺にこんなにも試練を与えるのだ。
死ぬのがひどく恐ろしいのに、生きて二人の物語を紡ぐ重みにも耐えられない。
ああ、俺たち二人とも生き残る道はなかったのか。
『スザク。もうそろそろ交信も途絶えそうだ』
気がつくと音声もだいぶジャミジャミして聞き取りづらくなっていた。
もう、なのか。
『最後に、これはさっき博士から聞いた話なんだがな』
「博士から?」
『なんでこのスーツがK号とR号なんだと思う?1号2号でも、A号B号でもないのは』
言われてみれば、KとRとは半端な文字だ。
俺と同じ日本人の博士なら、イロハやアイウで来た方がまだ普通だろうに。
俺がしばらく答えないと、マイクは静かに教えてくれた。
『【希望】と【浪漫】だとさ。粋なジイさんだぜ』
「【希望】と【浪漫】…………」
俺が着ているスーツはK号。
俺は希望を、背負っている。
「おいおい、待ってくれよだって」
『スザク』
『頼んだぜ』
それがマイクと交わした、最後の言葉となった。
ただ広い宇宙を、とうとう一人ぼっちで遊泳する。
横手に見える月はまん丸で、しかしあっという間に小さくなって消えた。
悟る、俺は違う方、ハズれだったのだと。
瞬間、何故だか心が軽くなった。
いざ死が目の前にきて本当に避けることができなくなると、意外と怖くなくなるんだな。
おもむろにスーツのロックへ手を伸ばす。
外して、スーツを脱ぎ捨てた。
(マイク、娘さんに会えると良いな……)
スーツがもう手の届かない位置まで離れていった。
自殺は嫌いだったのに、人生の結末がこうだなんて滑稽だよな。
でも良いんだ。
俺がハズれたのは、結果的に良か——。
目を疑った。
視線の先、確かに捉えたのだ。
かつて移住資料で見た、新しい惑星の姿。
青く、美しい命の星を。
アタリは、俺だった……………………。
しかしもう届かない。
俺の手も、博士の希望も、マイクの約束も。
届かないまま、漂って。
襲ってくる後悔と絶望から矮小な心を守るように、最後の力を振り絞って意識を閉ざした。
[了]
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問題文からは絶対に想像できないスケールの状況を創りだすのがまずすごい。普通月が見えなくなって地球とは思わないし、身に着けていたのも宇宙服だと思いません。フワっとした問題文で反省していたんですが、それが月までブッ飛ぶ衝撃的な解説例でした。イイネボタン全押し確定です。最初の簡単解説から、無限に広がる大宇宙のように視野が広がる作品でした。 [編集済]
ある日、サハラ砂漠に一機の飛行機が不時着した。
ただ、幸運なことが3つあった。その飛行機が大型旅客機でなく、小型の物資運搬用の飛行機だったため、ある程度の物資が揃っていたこと。乗っていたのがパイロット1人だったこと。そのパイロットが趣味でサバイバル知識が豊富だったこと。
ところで、不運なことも1つあった。そのパイロットが僕だったことだ。
これは僕が経験した奇跡と悲劇の物語だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何とか不時着した…
飛行機があんな言うことを聞かないなんて…あんな高速で空を飛べる最強の乗り物だと思ってたのに…⑧
大好物のオレンジジュースとカスタードクリーム、こそないが、幸いにもある程度の飲み物、食べ物はある。⑦
服も、金属工具などがジャラジャラついた作業服だ。
それでも、墜落場所は砂漠の中心地に近く、歩いてこの砂漠を脱出するとなると、不可能に近かった。
となれば、残された選択肢は1つ、少しでも長く生き残り、助けを待つだけだ。
僕には妻と1歳半の娘がいる。こんなところで死ぬわけにはいかない。絶対死なない。ぜっっっっっっっっったいに死なない。⑨
僕の好きなある本の好きなセリフに、こんなものがある。
「本気を出せば、砂漠に雪を降らせることだって出来る」
この状態と微妙にマッチしてるのが腹立つが、諦めなければ不可能なんてない。そう自分に言い聞かせた。
まず、一目で助けが必要だとわかるようにする必要がある。「SOS」地面に大きく書いた後、少し離れたところにもう一つ書こうとして、ふと思いたった。「R・K」妻と娘の名前の頭文字、今僕を助けてくれるのは彼女たちだと信じる。③⑥
砂漠を生き抜く上で、注意しなければならないのは、乾き、昼の暑さ、夜の寒さ、そしてメンタルだ。
メンタルをやられると、同じだけの栄養をとっていても、早く力尽きてしまう。たまたま運転席に置いてあった、「河童のリック」の人形相手に話をする。河童は雨を呼ぶ。砂漠を生き抜くパートナーとしては最適だ。RKだし。 ②④
「これはペンです。」⑤
意味のない会話だが、無理にでも言葉を発しないと、気がおかしくなってしまう。
だんだん飲み物、食べ物も減ってくる。暑い昼には干からびそうになる。雨降れ〜
数日経ったとある夜。
飲み物、食べ物も、底を尽きてきた。きつい。喉乾いた。お腹すいた。虫に刺されてかゆい。夜は冷え込む。寒い。①
夜空を見上げると月がまん丸だ。僕はぼーっと、助けを待っている。
意識が飛びそうだ。ここまでか…
と思った時、乾ききった僕の体に一滴の水が当たる。
はっ、と空を見上げる。思わず二度見、三度見、四度見した。
世界の終わりか?そう思えるほどに真っ黒で大きな雲が空を覆っている。月は隠れてしまったらしい。
雨だ。違う違う今じゃないって。
そしてあの雲は積乱雲。
つまり…この後すぐ来るであろう雷。
僕は金属工具がたくさんついた作業服を慌てて、脱ぎ捨てた。
【要約】
砂漠で助けを待っている男。雨雲で月が隠れ、雷が落ちないように、金属工具のついた作業服を脱ぎ捨てた。
[編集済]
うおお、これもまた水平思考的な脱ぎっぷり!(私は何を言っているんだ)
太陽が散々さんの今までの「創りだす」作品はまた他とは一味違うテイストを盛り込んでいますが、こちらもなかなか。装備品で何を脱ぐかではなく、どんな装備だったかに着目したのは素晴らしいです。ほんと上手いなあ。ちなみにキャッチは麻雀の海底撈月を意識してみました。
ところで「僕」が意外と普通に生き延びそうだと思うのは私だけ?
[編集済]
それは、月に一度、満月の日にのみ発症する。
一夜、平均12時間のみ感染者は理性を失い人々を襲い仲間を増やし、死の門から拒絶される。⑨
3年前に発症した犬が発見され、ケルベロスになぞらえてKウイルスと呼ばれたそれは、世界の構造を変えてしまった。⑥
今では感染した者達、ライオット層(通称R層)と感染しなかった者達、エバキュエーション層(通称E層)に分かれ、E層の人間がR層の人間を隔離して強制的に労働させるという階級社会が出来上がった。③
そして、そんなE層の中でも差は生まれて、より高い地位の人間ほど隔離区域から離れた場所に、低い地位の人間は隔離区域の傍に暮らすようになっていた。
E層として、公務員となりそこそこ良い暮らしをしていた俺に上司が渡してきたのは、ペンとテンプレートが挟んであるバインダー。 それに一枚の指令書だった。
「これは?」
「わからないのか?これはペンとバインダー、あと上からの指令書だ。」⑤
「いえ、そうじゃなくて…これ、俺にですか?」
「他に誰が居るんだ?」
「そ、それは…」
理由は分かっていた。
一昨日の夜に大規模な“発症“したR層の脱走が起こり、俺のすぐ近くまで一人のRが脱走してきた。
幸い、近くに居た警官がすぐに麻酔銃で捕縛してくれた御蔭で感染せずに済んだのだが、上はそう簡単に信じてはくれないらしい。
勤務内容はR層農業区域からの作物の徴収・測量。
勤務先の仮設住居は“壁”のすぐ隣だというのだから、いざとなった時隔離する気なのがうかがえる。
「まあ、人が少ない分壁の外は自然が豊かだ。 向こうじゃ補佐もつくらしいし、長い休暇だと思って行ってこい。」
そう言う上司を無視して荷物をまとめた。
嗚呼。さらば、最強の人生よ。⑧
貨物車両に乗せられ、新しい勤務先へと赴く。
“壁”の近くへは誰も行きたがらない為、資材運搬用の貨物車両しか走っていないのだ。
心残りが無いわけではないが、話題のシュークリーム屋に行くことが出来て本当に良かった。
カスタードクリームが美味しいとEJKの間で人気だったのだが、男の、もう30台という数字がこちらに手を振っている年齢の俺にはハードルが高かった。
しかし、最後だと思い勇気を振り絞って入ってみると、後は驚くほど楽に買うことができた。
こんな事なら早いうちに行っておくべきだったなぁと後悔しながら食べたそれは、確かにカスタードクリームが濃厚でとても美味しかった。⑦
そんなことを考えながら揺られていると、いつの間にか目的地へたどり着いていた。
地図によると急遽作られたプレハブ小屋以外家は無く、人も住んでいないというこの地で俺を出迎えたのは高校生くらいに見える一人の少女だった。
「おじさんが新しく来たっていう人?私はサチ、よろしくね!」
なんて初対面で言ってくるのだから、
「おじさんじゃない。お兄さんだ。」
なんて言ってしまったのは仕方がないと思う。
話を聞いていると、彼女は俺の仕事を手伝う為に毎日一人でこの辺りまで来ているらしく、簡単な雑用等をこなしてくれた。
彼女はとても元気がよく、活発な子だった。
毎朝顔を合わせていると、なんだか娘のようにさえ思えてきて、
「前の職場の近くに、美味いシュークリーム屋があるんだ。 戻れるようになったら一緒に行かないか?」
「いいの? 行きたい!」
なんて他愛無い会話もしたりした。
この辺りには中央区に居ないような虫達も多くいる為、虫が嫌いな俺は神経質な程に殺虫剤や防虫剤、虫よけスプレーを使っていた。
御蔭で虫に刺されることも無く、自然に囲まれた穏やかなこの土地での生活を満喫し始めていた。
そして、ここへ来て初めての満月の夜がやって来た。
ドンドンドンドンドン
R層達が壁を叩く音が聞こえる中、コンコン という音が聞こえてきた。
「おじさん、いる?」
ドアを開けると、サチが入ってきた。
「なんで・・・帰ったんじゃなかったのか?」
「あはは・・・終電逃しちゃって。
泊めてもらえない?」
「いいけど・・・」
「ありがと、おじさん。」
「だからおじさんじゃないって・・・まぁ、いいか。
ベッド使え。 俺は床に寝るから。」
「ん、ありがと。」
俺たちは、その夜を共に明かした。
…夏がやってきた。
セミの声も回りに人家が無いと一層煩く聞こえてくる。
「痒い~、虫に刺されちゃった・・・」①
「大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、こんなの屁の河童だよ~」④
「それ、もう死語だぞ?」
俺は彼女と違って、虫に刺される痒みが我慢できないから、この時期になると防虫ネット等あらゆる防虫グッズが部屋に敷き詰められる。
それはここへ来てからも例外ではなく、すぐに用意してあった痒み止めを渡した。
「ありがと、お礼に今度の誕生日何かあげるよ。 いつ?」
「もうとっくに終わったよ。 そういやお前の誕生日はいつなんだ?」
「あたし?今度の17日だよ。」
「そうか、誕生日プレゼント何がいい?」
「それこそ要らないって、子供じゃないんだし。」
「それ言ったら俺の方が年上だぞ?」
「アハハ、そうだね。 “おじさん”。」
「だからおじさんじゃないって・・・」
17日は・・・休みか。
まあ、何か用意しといてやるか。
何買えば喜ぶのかわからないから、とりあえず次の休日にでもこっそり戻って人形を買ってくるか。②
あれから数日が経った。
なんだか、サチの様子がおかしい。
話しかけても反応しなかったり、何かにおびえるような眼をしていたり。
「おい、なんか変だぞ。 何かあったか?」
「アハハ・・・ バレちゃった?」
「バレちゃったって・・・ 今日何回俺がお前に声かけたか覚えてるか?」
「えっと・・・2~3回?」
「17回だ。 内15回は無視された。 本当に大丈夫か?」
「えっとね、私、怖いんだ。 なんだかわからないけど、毎日少しずつ、おかしくなっていってる気がするの。
いや、変わってるわけじゃないの。 変わろうとしてるっていうか・・・ 準備期間みたいな?
だから私、感染しちゃたのかな・・・って。」
「噛まれていないんだろ? なら大丈夫だ。
心配なら、確かめればいい。 17日の夜、此処に来い。
理性が残っていれば此処に来れるだろ? そしたら誕生日プレゼントをやろう。」
「だから子供じゃないって・・・! 要らないから・・・。」
「そうは言ってもなぁ・・・ もう買ってきてここに置いてあるしなぁ・・・
俺なんかが持ってても気持ち悪いだけだし、貰ってくれないか?」
「もう・・・しょうがないなぁ。」
17日が、楽しみだ。
…17日がやってきた。
休みの日、いつもと同じようにしていればいいのになんだか落ち着かない。
早く夜にならないかと願いつつも、どこかでそれを恐れている。
本当に彼女が感染していたら。
俺はどうすればいいんだろうか。
そんなことを考えている内に太陽は沈み夜がやってきた。
「・・・来ないな。」
ドンドンというR層が壁を叩く音が聞こえる。
満月を眺めるなんて、何年ぶりだろうか。
その月は、いつにもまして輝いて見えた。
「・・・来ないな。」
そうつぶやいた時に、彼女は現れた。
ゆらり、ゆらりとこちらへ歩いてくる彼女を見て、俺は心のどこかで安堵していた。
もしも本当に感染していたら、どうすればいいのか俺にはわからなかった。
「おーい! こっちだぞ!」
声をかけると、同時に雲がかかり月が隠れるのと、彼女がはっきりと見えるようになる距離まで近づいたのはほぼ同じだった。
「うー?」
違う、これは・・・
彼女はもう、感染していた。
いつの間に・・・? R層の奴に噛まれる機会なんて無かったはずだ。
噛む?
もしかして、虫に刺された時、虫を媒介して感染したのか・・・?
それなら俺が感染していないのにも納得がいく。
それにしても、感染してまでここに来るとは、余程プレゼントが欲しかったのだろうか。
ただの人形だというのに、明日知ったらがっかりするだろうか?
否、それよりも今はこの後どうするかだ。
・・・なんだか、馬鹿らしくなってきたな。
このまま感染してしまうのも悪くない気がしてきた。
どうせ死ぬわけじゃない。
社会的に死ぬだけだ。
Eの仮面を被ったRが街中に潜んでいるなんて、奴ら考えもしないだろう。⑩
・・・クソったれた社会だ、いっそ壊してやるのも悪くない。
どうせ感染するなら、彼女に噛まれて感染したいな。
うん、そうだ。 そうしよう。
俺は、少しでも噛まれやすくなる為に、上着を脱ぎ棄てた。
明日は、彼女と共に何をしようか。
【簡易解説】
ゾンビが月に1度蔓延る世界で、感染していない事を確かめる為に自分の娘のように思っている娘を満月の夜に呼び出した男。
しかし、彼女が感染していると知り自分も彼女に噛まれ感染しようと思い、噛まれやすくなるべく邪魔な上着を脱ぎ棄てた。
-了-
[編集済]
かゆうまかと思ったらかゆうまだったわけですが、まさか違ったアプローチでかゆうましてくるとは思いませんでした。自分の中で難関要素が虫さされだったもので、それをいかに使うかは考えていたのですが、この使い方は思わず感動してしまいました。うーん、いずれ某ゾンビゲームでも逆輸入してほしいほどの設定と出来栄えです。すでにしてるかもしれないですが。いずれにせよ、天晴。 [編集済]
誰かの姿を見た。
足を引きずりどこかへと向かおうとする何者かの姿を。
誰かの叫びを聞いた。
声にならない叫びを
今はただ一心に彼女の元へ
そうして男は目を覚ました。
…何だいまのは?まあ良いそんなことを気にしている場合ではない。
そうして彼は立ち上がる。
時は現代。昔話に伝え聞いた魔族が封印から解き放たれ、瘴気の渦巻く魔境が出来上がっていた。
異変のきっかけは一つのニュース
道に石辺によって刻まれた謎の文字と、倒れ伏した男、その傍らに一片のたらこが落ちていた。
そんな意味不明なニュースが世間を騒がせたことをきっかけに、世界は異常に満ちていった。
これはそんな中での一幕。
ある日、とある男と女が幸せそうにカスタードシュークリームを頬張っていた。
男はかつて最強とも呼ばれた格闘家。女はその恋人。
異形の侵食し始めた世の中とはいえ、まだまだ世間は平和なものだった。
目の前には突然現れた異形、背後には守るべき恋人。
男は果敢に立ち向かう。
しかし、最強と呼ばれた格闘家であれ未知に対してあまりにも無力だった。
ふるったこぶしは空を切る。はなたれた蹴りはその勢いそのままにすり抜ける。
そうして無力をさらした男に異形は目もくれず立ち去ろうとする
その刹那男はかつての偽りの英雄の最後を垣間見る
その様子に異形は振り返り、意味をなさない言葉を発する。
それを最後に異形は数多の蟲と成り、消えていった。
脅威を切り抜けた、いや、脅威から見逃されたことに安堵を覚えつつも、
男は安堵している自分に腹を立てていた。
傍らにへたり込む恋人の身を何かが蝕んでいることに気づきもせずに。
彼らは異形から逃れた人々で同盟を組み、異形に対抗することとなった。
どれほどの異常事態でも繰り返されれば日常に変わる。
男は自分の無力を悔やみ雨の日も風の日も愛用の河童に身を包み、自らの肉体を鍛え続けた。
恋人は男の身を案じながら本部で業務をこなす
そんな日々に徐々に慣れ始めた頃。
恋人に異変が起こった。
初めは虫刺され程度の小さな腫れ。
かゆそうにしていたのでかゆみ止めを塗ってあげた。
しかし、かゆみも腫れも収まることはなく、かゆみはよりひどいものとなっていた。
そんな時彼女うっかりペンを自分の腕に突き刺してしまった。だが何もなかったかのように元通りになった。
それは傷も、痕も何一つ残さずすぐさま修繕された。それは無理矢理に、強制的に。
うぞうぞとぐじゅぐじゅと何らかの幼虫がその傷跡をふさぐように。
同盟の中の医療手段を使ってその腫れを検査した。そうして事実は明らかになる。
恋人の体は無数の蟲で構成されていた。
はじめからそうだったわけではもちろんない。
あの時の異形によってもたらされたものである。
そんなことは同盟は知る由もない。同盟は異形に冷徹である。
彼女は直ちに処刑されることとなる。
それは男にも彼女にも受け入れがたいことではあった。而して受け入れざるを得ないことでもあった。
そうして処刑は実行される。否、処刑は実行されても彼女の命は失われることがなかった。
どれだけ撃ち抜かれようとも、どれだけ切り裂かれようとも、どれだけ引きちぎられようとも、それは直ちに元に戻る。
焼かれても、薬剤によって溶かされようとも、それは無為に終わることになる。
その事実は男には伝えられることはない。男はその時はただひたすらに悲しみに打ちひしがれることとなる。
処刑に失敗したが、不死の身というのは格好の研究材料となった。
薬剤、兵器、危険物質、異形の斥候、様々な役目で彼女は使われた。
不死であり、ありとあらゆるものが無為に終わるといっても、彼女は無力だった。
ただの実験材料として、モルモットのように、カナリアのように、ただの人形のように、使いつぶされる。
悲しみに打ちひしがれる男。それでも彼は鍛錬をやめることがなかった。
守るべきものを失った今、何のためにこれを行っているのかわからなくなりながらも。
それだけが彼の精神をつなぎとめていた。彼の精神はもう壊れてしまっていたのかもしれないが。
そんな日々がまた繰り返されたある日のこと、同盟の中で大きな爆発が起こった。
それは炎によるものも確かにあったが、ほとんどが瘴気の氾濫だった。
爆発の出どころは研究所。彼女に与えられていたすべての実害のすべてが瘴気に変換され周囲へとまき散らされた。
有り余る瘴気は物理的力を持って建物を破壊し、濃すぎる瘴気は触れたものを朽ち果てさせていった。
そうして崩れ去った建物の中心にたたずむのは度重なる苦痛に精神の壊れたかの恋人。
精神を崩しても大切な人のことは覚えていたため、トボトボとどこかへと歩き出す。
その身からは多くの瘴気を噴出し、それは雨となって周囲に降り注ぐ。
爆発を目にした男は何を思ったか、その方向へ走り出す。
何かを感じ、一心に。
そうして彼と彼女は再会する。
瘴気に覆われながらも。瘴気の雨に濡られながらも。彼と彼女は再会を喜び合った。
その最中、二人はそれぞれの腕に文字が刻まれていることに気が付く。
彼女の腕にはR
男の腕にはκ
その意味は分からなかった。だが今はそんなことはどうでもいい。
今は再会をただひたすらに喜び合う。
瘴気の雨が止み始め、月明かりに照らされながら、彼女の瘴気の噴出が収まるのを待っていた。
満月に照らされるその光景は幻想的といって構わないものだった。
そんな光景も月が雲に隠されれば、簡単に陰ってしまう。
いや、違う。それはたくさんの蟲だった。その蟲たちは一点に集い、かつての異形に形を変える。
かつては手も足も出なかった異形に対面し、永らくその身を覆い続けていた河童を脱ぐ。
そうすると、鍛え上げられた肉体が姿を現す。
それとともに、彼女がはなっていた瘴気のすべてが男の周りを渦巻きだす。
彼は有り余る力に驚愕しながらも、決意を胸に異形のものに駆け出した。
戦闘シーンは表現力がないので割愛します。
設定
異形の力
R リバース 与えられた苦痛を返す Rは返ってくることを指す英語が多いため。
κ カッパ 瘴気の収束 数学の変数で歪曲として使われるため。
あ、終了です。
簡易解説
月が陰ったのを見て、雲ではなく、宿敵が現れたと思い、戦闘準備をした。
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ざっと見て第一印象が第8回の「狂愛」みたいだなーと思っていたのですが、実際は第7回の「cod’s roe」でした。たらこのおかげ(せい)で思い出しました。
両方を主催していた自分としては、懐かしさと嬉しさが一気にこみ上げてきました。愛の為に戦うという夜船さんならではの創りだす作品も好きなので、余計にそうさせるのかもしれませんね。
ということでじゃんじゃん過去作と絡めてください。もれなく私がニンマリしてますんで。
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「THIS IS A PEN⑤、THIS IS AN APPLE、A- APPLEPEN」
かつて、最強だと思っていた⑧ギャグを宴会の席でやった俺は見事に滑った。
後輩が「パンケーキ食べたい」と踊っていたのはうけていた。なんでパンケーキ食べたいと言っているだけでうけているのか?
あれか? アップルペンではなくカスタードアップルパイ⑦を食べたいと言ったらよかったのか?
意味がわからない。
やはり、おっさんの宴会芸はもう古いのだろうか。
月に照らされ、薬局にあるカッパ④の人形②の前で考えていた。
自分の考えがまとまるのを待っていた。そして、月が見えなくなった時、考えはまとまった。
違う! おっさんの宴会芸はぜっっっっっっっっったいに死なない⑨! 死ではいけないんだ!
俺は盆を持って、服を脱ぎ捨てた!
「これが俺の宴会芸!AKIRA100%だ!③⑥」
人形を前に俺は練習を重ねた。
30分後、俺は警察に捕まった。
……やれやれ、裸で練習したせいで、虫刺されが痒い①
【どうも、ありがとうございました(完)】
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もう! 忘れたころにこういうのがやってくるんだから!!
実はシチュエーションとして凄い好みです。もう服を脱ぎ捨てる勢いがたまりませんね。なんというか、ドラマとかで3カメをわざわざ使う感覚っていうんですかね、そういった思い切りの良さと無駄なかっこよさを感じます。しかも絵面として強烈に浮かんでくるのでもうずるい。好きです。ちなみにAKIRAさんのネタも未だに好きです。
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暑い。
それにしても暑い。
もう夜の8時だってのに、どうしてこうも暑いんだ。
異常気象だかなんだか知らないが、とにかく暑い。いったい世界はどうなっちまったんだ。
昨日蚊に刺されたところに汗が流れ込み、異様に痒かった。①
むしゃくしゃして掻きむしるが、痒さはいっこうにおさまらない。
__________________
彼は昔から暑さに強かった。
遊園地で働く彼は、カッパの着ぐるみを着る仕事をしていた。④
どんなに真夏の暑い日でも、笑顔で子供たちに手を振り、風船を配っていた。
仕事仲間は何人かいたが、真夏の時期になるとみな熱中症を患って辞めていった。それを哀れみつつも少し鼻で笑いながら、彼は炎天下でも負けずに着ぐるみを着続けた。
身体の丈夫さは誰にも負けない、唯一視力が悪いのは除いてね、そんな冗談をよく言うほど、自分の身体に自信を持っていた。
滝のような汗をかきながら、毎日の仕事をこなす自分は最強だと思っていた。⑧
そんな彼がスタミナのもとにしているのが、シュークリームだった。
遊園地内の売店で売っている、何の変哲もないただのシュークリーム。
どんなに疲れていても、カスタードクリームの糖分が彼の体にエネルギーを与えていた。⑦
ある日、Kという新人が入ってきた。⑥
新人のKはやる気に満ちており、彼に負けずに汗を流して働いた。
どうせKもみなのように、仕事に耐えられなくなるか熱中症にかかっていずれ辞めていくだろう。
そう彼は思っていたが、Kは思いのほかよく頑張った。
しかし彼は、どうもKを好きになれなかった。
ある日、彼が出勤すると、Kの周りに人が集まっていた。聞けば、外国人にアトラクショの場所を尋ねられたKが、流暢な英語で答えたらしい。
スタッフの連中は――もちろん彼を含めて――学のないやつらばかりだった。
"This is a pen."が「これはペンです」であることさえ知らないような連中。⑤
急に皆にちやほやされるKをしり目に、着ぐるみの準備に取り掛かった。
Kの前を通る一瞬、Kと目があった。
Kはどこか自慢げな、それでいて意図してそれを隠しているような目をしていた。
そのどこか冷たい眼光が、やけに彼の記憶に残った。
その頃には、Kは彼に次いで2番目に長いスタッフになっていた。
いつしか彼はKをライバル視するようになっていた。
ふっ、今に見てろ。俺の仕事への情熱を舐めるなよ。
彼は今まで以上にがむしゃらに仕事をこなした。
あるいは、それがいけなかったのか。
その日は日中最高気温が40度を超える、とても暑い日だった。
いつものように着ぐるみでの仕事をこなし、休憩所として設えられたプレハブの小屋に戻ろうとしたそのときだった。
視界の端に、キラッと光るものが見えた気がした。
何だろうと思いながらその光を目で追うと、今度は反対側がキラッと光りだした。
何だこれは。
光の数はキラキラと徐々に増えていき、ついに視界全体が眩く光った――
突然フッと光が消え、急に目の前が暗くなった。
上下の感覚がなくなり、バランスを崩して立てなくなった。
あれ、と思って手を伸ばしたがその手は何も掴めなかった。
上半身が硬いアスファルトに触れると同時に、彼は意識を失った。
熱中症、と診断された。
今まで仲間のために何度か呼んだことのある救急車に、彼は初めて乗らされた。
屈辱だった。
今までどんなに暑い日だって、彼は体調ひとつ崩さずに仕事をしてきた。
着ぐるみが汗でびっしょり濡れても、彼はそれを勲章のように思っていた。
暑さに強いことが唯一の取り柄だ、と周囲に豪語していた。
それなのに。まさか自分が熱中症になるなんて。
何より悔しかったのが、Kに対してだった。
あいつの前で倒れたことが、一番悔しかった。
病院に着くと、様々な検査が行われた。
ただの熱中症なら検査などは要らないはずなのに、なぜだろうと思った。
診察室で待っていると、医師が入ってきた。
医師は彼に冷淡な口調でこう言った。
あなたは糖尿病と診断されました。
汗をかいて大量に失ったのはミネラル、つまり塩分です。
そしてあなたが摂ったもの、シュークリームは糖分です。
エネルギーは蓄えられますが、体の機能を正常に保つには、ミネラルが必要なんです。
あなたは慢性的に塩分不足、そして糖分過多だ。
熱中症で病院に来てよかった。
もう少し対応が遅れていたら、死んでいたかもしれません――。
不思議と、糖尿病と言われたことへのショックは小さかった。
どこか他人事のように感じた。
ただ、自信のあった自分の身体が、熱中症に負けたことの方がショックでならなかった。
彼はその日、遊園地での仕事を辞めた。
死のうと思った。
丈夫だと思っていた身体は、中途半端に弱かったのだ。
自信を喪失し、生きる価値はないと思った。
ましてや遊園地に戻るなんて、選択肢にも入らなかった。
Kにも、周りのみんなにも、合わせる顔がなかった。
やけ酒を飲み、そのまま公園のベンチで寝た。
朝になったら冷たくなっている。そんな最期が自分には合っているんじゃないか。
しかし、思惑に反して、翌朝しっかり目が覚めた。
風邪すら引いていなかった。
中途半端に弱い身体は、裏を返せば中途半端に強い身体だ。
自分は死ぬこともできないのか。
その絶望が、却って彼を開き直らせた。
わかった、生きてやるよ。
何が何でも生きてやる。
糖尿病がなんだ、熱中症がなんだ。
俺はぜっっっっっっっっったいに死なないんだ。⑨
そして彼は再び働き口を見つけた。
ビルの清掃員。
遊園地と違い、独りで働く仕事なため、仲間はできなかった。
しかし彼にはそれがありがたかった。過去を詮索されたくなかった。
彼はよく働いた。
遊園地での仕事に劣らず一生懸命働いた。
たばこのにおいのする喫煙所も、生ごみの詰まった排水口も、文句も言わずに掃除した。
中庭の草むしりは虫に刺されることもしばしばあった。
地球温暖化の影響か、あのときより平均気温は上昇していた。
40度を超える日もたくさんあった。
ただ、健康には気を使った。
汗をかいたら塩分をしっかり補給した。
シュークリームは好きだったが、控えるようにした。
同じように倒れるのはもうごめんだった。
その甲斐もあってか、彼はそれ以降身体を壊さずに働いた。
それから十数年の時が経った。
現在の夏の平均最高気温は47度。マスコミは日々、異常気象を報道し続けた。
どうやら今夜は超熱帯夜らしい。最低気温が35度以上あるという。
__________________
暑い。
それにしても暑い。
仕事を終え家に帰る途中、ビルのモニターに映った気象情報を見ると今日が超熱帯夜であると告げていた。
何が超熱帯夜だ。昼間なら35度なんて涼しいほうだ。
強がって考えてみたが、残念ながらそのプラス思考は体感温度を下げてはくれなかった。
見上げると空には満月が見えた。
こんなに暑いのに、地球のことは我関せずといわんばかりに輝く月を見て、無性にイライラした。
暑さのせいか、気が立っているのが自分でもよく分かった。
ふと横を見ると、コーヒーショップがあった。
最近できたらしく、初めて目にする店だった。
ちょうどいい、冷たい飲み物で頭を冷やそう、と思って中に入った。
喉も乾いていた。
アイスコーヒー、一番大きいサイズ、持ち帰りで。
注文を受けた店員はひどく不慣れな様子で、不安げにカップを用意しようとした。
そして申し訳なさそうに彼に言った。
申し訳ありません、ラージサイズのカップがまだ用意できていなくて…。
レギュラーサイズならご用意できるのですが…。③
そのおどおどした様子にも腹が立ったが、新装開店だからしょうがない、と気持ちを抑え、じゃあそれでいいです、と小さい声で言って、会計を済ませた。
コーヒー一杯を用意するのに、えらく待たされた。
イライラを抑えるために周りを見渡すと、カウンターの上に置かれたマスコットの人形に目が留まった。②
この店のマスコットらしい、カッパの人形――。
カッパの人形。
途端に彼はいろいろなことを思い出した。
かつての職場だった遊園地。
カッパの着ぐるみ。
びしょ濡れの汗。
売店のシュークリーム。
Kという男。
皆に囲まれたときにKが見せた、あの冷たい視線。
倒れる直前に見たあの光。
カッパを睨みつけながら固まっている彼を怪訝に思ったのか、店員が声をかけた。
お客様……?
ハッと我に返り、店員を見る。
奇妙な物を見るような冷たい目線が、あのときのKの視線とシンクロした。
息が上がっているのが自分でもよくわかった。
カウンターの上に置かれたカップを勢い良くつかむと、逃げるように急いで店を出た。
あのときの嫌な記憶が、頭を縦横無尽に駆け回る。
落ち着け。イライラするな。
自分に言い聞かせる。
喉がカラカラだった。
手に持ったコーヒーを勢いよく飲んだ。
途端に、舌に焼けつくような刺激を感じた。
眼鏡が曇り、月も何も見えなくなった。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
アイスコーヒーが熱い?
違う。
これはホットコーヒーだ。
あの店員が、ホットとアイスを間違えたのだろう。
手に持ってもわからないくらい気が動転していたということか。
身体がカッと熱くなる。
それもそのはず、胃に流れ込んだのは90度を超える液体なのだ。
もう我慢の限界だった。
彼は勢いよくシャツを脱ぎ捨てた。
体中汗でびっしょりになっていた。
暑い。
それにしても暑い。
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夏でも眼鏡が曇るほど熱くて苦いコーヒー、そして夢破れた者の哀愁。B〇SSのCMみたいで好きです。(隠れてそうで隠れてない)
「見えなくなった」のふわっとした説明に対して一番「その手があったか!」と思いましたし、彼の背景と併せてより一層ぐっときました。問題文に対する解説としても、物語としても好きだなと思います。もう靴下さんの靴下になりたい。
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『内部の回路が濡れると、メモリーがすべて消去されてしまうんですよ。』
『私のことも忘れてしまうんですか?』
『ええ、確実に。』
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「ほら、Qだよ。これを超える手札があるのかな、真くん?」
年齢の割に幼く見える彼女は、得意そうな顔でトランプを重ねる。
すでに何十回と戦っているというのに、その自信はどこから来るのだろうか。
「もちろん、そこまで計算済みだ。」
この言葉を彼女に向けて発するのはもう何回目になるだろうか。
抑揚のない声で彼女に告げ、Kのカードをさらに上に重ねる。⑥
「うっわぁ〜また負けた!
ホントにトランプ強いね、真くんは。」
それもそのはずだ。俺はこうした遊びにおいて、数手先が読めるなんてものではない。
数十手先、下手をすれば勝負の結果まで見えている。
「ねえ、もう一回!次は絶対に勝つから!」
頬を膨らませてシャッフルを始める彼女に、俺は呆れてため息をつくと、椅子から立ち上がった。
「いや、もう夜も遅い。これ以上はやめておこう。それに、何度やっても同じだ。」
なぜなら、俺は人造人間だから。
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なおも食い下がる彼女におざなりに手を振って、夜道をいつもの場所へと進む。
その建物は、一見普通の民家と何も変わらない。暖かな光が窓から溢れ、親子の笑い声がどこからともなく聞こえてくる、そんな住宅街の一角に目的地はあった。
「先生、柏木先生、」
一拍おいて扉が開く。
「あぁ、真ですか。よく来ました。今晩もよろしくお願いしますね。」
2週間に一度訪れるこの部屋で、真は毎回棺桶のような機械に寝かされる。
脳部分のコンピュータの異常、関節の劣化、知覚システムの不備、そんなものが無いかを検査しているようだ。
頭に複雑そうな機械を取り付けられながら、真の意識は遠のいていった……
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「傘、持ってないんですか?」
とある映画館の前で、ふと降りしきる雨を眺めていたとき、突然声をかけられた。
振り返ると、小柄な女性がビニール傘を開こうとするところだった。
「傘は持っていません。濡れると色々不都合がある私にとっては、あまり信用できないので。代わりにカッパを着るんですよ。」④
そう言って背負ったリュックサックを下ろすと、紺色のレインコートを取り出した。
同時に、何かがはらりと床に舞う。
「あ、これ…」
そう言って彼女が手に取ったのは、真が先ほどまで観ていた映画のパンフレットだった。
「もしかしてあなたもこれ、観てたんですか?」
途端に目を輝かせた彼女は、ずいと身を寄せてきた。手の中の広告には、『コンピューターに世界征服をさせない方法』の文字が踊る。
「ええ、ついさっき。動きのない画ばかりでしたが、考えることは非常に多かった。」
「私も観てました!おもしろかったですよね!個人的には、人間とアンドロイドが恋をしてもいいと思うんですよ。でもって、随所に挟み込まれている小気味よいジョークが…」
一人で話し続ける彼女を横目に、真はいそいそとレインコートを羽織る。
しかし、わずか数分前よりもはるかに強くなった雨足が、真の足を止める。
「あの、」
先ほどよりはやや遠慮がちな声で、彼女は問いかけた。
「どうして濡れると困るんですか?」
「話すと長くなるし、信じないかもしれませんよ。」
ため息をつきながらの返事は、遠回りな拒否のつもりだった。
が、
「あ、じゃあ、どしゃ降りになっちゃったことですし、近くのカフェで…」
手から提げるカバンの中をガサゴソとあさった彼女は、思ってもいないようなものを取り出した。
「トランプ、しません?」
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ウィーーン………………
頭の中に機械音が響きわたり、真はやがて自分の置かれた状況を理解する。
今のは…夢、なのか……?
どうやらトランプの彼女、野口理沙と初めて出会った日を思い出していたようだ。
ふと、柏木の顔に目をやると、彼は穏やかに澄んだ目でじっと真を見つめていた。
「真、この2週間で何か変わったことはありませんでしたか?」
帰り支度を始めた真に柏木が声をかける。
「変わったこと、か…そうだな…」
ふと、最も大きく変わった点を失念していたことに気づいた真は、なんでもないことのように柏木に告げる。
「先週末くらいからかな、ある女性と話すようになった。」
今まで柏木以外と継続して関係を築いてこなかった真にしては相当な変化である。にも関わらずすぐに思い出せなかったのは、むしろこの1週間でそれが日常になっていたからだろうか。
「とてもおかしな人だ。」
率直な感想を柏木にぶつける。
「疑うことを知らず、落ち着きがなく、無根拠に自信家だ。一人で生きていけるとは思えない。」
柏木のやさしげな目線が、少し鋭くなったように見える。
「だが、」
対照的に、真の目元からはふっと力が抜ける。
「いつも不思議と楽しそうで…その、、何というか…
とても、人間らしい。」
キュキュ、と音がしたのは、真が踏み出した一歩が床と擦れて、二人だけの空間に反響したからだろう。
真は続ける。
「何故だか懐かしく感じたよ。もちろんメモリーには無いけれど、どこかで会ったことがあるような…そんな気がしたんだ。
…先生?」
ふと顔を上げると、柏木が何か考え込んでいるように見えた。
「…! あぁいや、なんでもありませんよ。なるほど、そうですか、ついに真に友人ができたのですね。」
我にかえったように柏木は微笑を浮かべる。
「それにしても、あなたが『懐かしい』だなんて興味深いですね。覚えているでしょう?あなたが誕生したときのことを。」
もちろんだ。
----------------------------
真はここ、柏木博士の研究所で2年ほど前に生まれた。
『はじめまして、真。私は柏木、あなたの生みの親です。』
真のメモリーは、柏木の言葉の録音から始まっている。当然、そのときはまだ挨拶の意味など理解できなかった。
最初期のおよそ1年は、研究所で知識を蓄える時間にあてられた。
人工的に生み出された知能であり、一度認識したものは忘れることがない。
しかし、立派な大人の姿で誕生した真が人間社会に出るにあたって、覚えるべきことはたくさんあった。
『私はアンドロイドです。』
『これは、ペンです。』⑤
『計算が、得意です。』
基本的な会話から始めて、現在のように文脈を理解し、空気を読むことを覚えるまでには、1年の時間がかかった。
そして今から約10ヶ月前、真は柏木に連れられて、初めて研究所の外に出た。
触れたことのない自然、交わったことのない喧騒、なんてことのない日常ひとつひとつが新鮮に感じられた。
『だが、』
いつかの真は柏木に話していた。
『だが、所詮人間も限界だらけだろう。
すぐに言われたことを忘れるし、血を流すし、争ってばかりだ。』
耳が痛いですよと苦笑する柏木を覚えている。
『先生には悪いけれど、人間にせよ、他の生き物にせよ、アンドロイドに勝るものはいないんだろうな。』⑧
----------------------------
彼女、野口理沙についての感想を柏木に語ったあの日からも、真は毎日のように彼女と話した。
「真くんは、お腹すいて何か食べたくなることあるの?」
「あぁ、空腹も味覚も感じるようにプログラムされているらしい。」
「真くんは、月を見て綺麗だと思うことあるの?」
「難しい質問だな…一般的に月は綺麗なものだという知識はあるけれど、本質を理解できているとは言えないだろうな。」
真は基本的に、自分がアンドロイドであることを周囲に隠さない。
だからこそ、毎日のように話す相手など今までできた試しがなかった。
「ねえ、」
その唯一の例外が、ある日突然提案をする。
「私のうちに来てみない?すぐ近くなの。」
いいことを思いついたとでも言いたげな、能天気な表情にため息をつきながらも、不思議とその申し出は嫌ではなかった。
「かまわない。ちょうどこのカフェにも、飽きてきたところだ。」
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「だ〜!また負けた!もう!」
彼女はキングを投げ捨てた。とは言ってもトランプの、ではない、チェスの駒だ。
どうやら真を家に誘ったのは、トランプ以外のゲームで勝機を見出そうとしていたからであるようだ。
いつも通りトランプから始まった遊びはUNO、オセロ、将棋など多岐にわたったが、そのすべてにおいて彼女は人工知能の敵ではなかった。
「次こそは勝ちたい!と、その前に何か甘いものでも買ってくるね。」
頭脳戦のようなゲームをやめればいいと思うのだが、彼女は頑なに譲らなかった。
『真くんが完璧じゃないってことを証明する』
そう言って何種類もの遊びを用意してみせた彼女に、なんて不純な動機だと思わず笑みがこぼれた。
ん、とそこで真はふと気づく。
思わず笑ってしまうなんてことが、今まであっただろうか。
急かされるように物事を学び、目的も告げられずに外の世界に出た。
何のために生きているかもわからない、そもそも生きているのかもわからない。
そんな生活の中で、自然と笑いなんてものは失われていったはずだ。
最後に笑顔を浮かべたのなんて、先生に『人と話すときは愛想をよくしてください。』などと言われたときかもしれない。
『彼女はとても人間らしい』
真自身が語った言葉を思い出し、もしかしたら、と考える。
もしかしたら、俺は人間に憧れているのだろうか?
彼女が開け放っていった部屋のドアを見て、ありもしない心にすきま風が吹き込むような感覚を、何故だか真は一人感じていた。
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「ただいま〜!」
勢いよく彼女がドアを開けたとき、まだ真はぼんやりとそちらを見つめていた。
「ん?どうしたの真くん?私が待ち遠しくてたまらなかった?」
冗談めかして言う彼女に、真はやれやれというように応える。
「いや、少し考え事をしていたんだ。」
「へぇ、完璧なはずの真くんでも悩みごとがあるの?」
「俺が悩んでいることなんだから、きっと正解なんてないんだろうな。」
なおも何か言いたげな顔をする彼女は、ふと左手にかかる重みを思い出したらしい。
「そうだ、真くん、一緒に食べよう、たい焼き!」
彼女が差し出す袋を受け取りながら、思考を切り替えるように真は言う。
「ああ、ちょうど空腹プログラムが作動したところだ。」
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キャッキャと声を上げながらたい焼きをほおばる彼女。見つめているとまた複雑な感情を抱きそうだったので、真は目をそらす。
部屋を見渡してふと目にとまったのは、一体の人形だった。②
「あれは…?」
たい焼きを頭から頬張りながら、真は尋ねる。
ある朝店のおじさんと喧嘩して海に逃げ込んだらしいその魚は、しかし塩の風味などしなかった。
「あれ?あの人形はね、知り合いの男の人がくれたの。」
彼女にしては珍しく、何かを隠したがっているように見えた。
「すごく有名なキャラクターらしいんだけどね、いざ人形にしてみると全然人気が出なかったみたい。余っちゃったんだって。
でも、どうして?」
どうして気になるの?
それは真が自身に問いかけていることでもあった。何がひっかかっているのか。
そしてはたと気づく。そうか、
似ているんだ。
あの人形と、俺は。
姿形は人間そのもので、でも本質的に違う。
人間に近いほど褒められて、でもそれは心の距離の裏返しで。
何の必然性もなく生まれて、かといって大きな意味が成せるわけでもなくて。
最初から息などしていなくて、壊されても器物損壊で。⑨
あぁ、なんて、
真は口に出してしまいそうだった。
なんて、近くて遠い世界。
こんなにも姿形は近しくても、俺はむしろ人形の側か。生きているだけ、まだしも怪物の方が人間に近いのか。
「……くん、ねぇ、真くん!」
肩を揺すられたことで、思考が外向きになる。
「突然どうしたの?人形を見て、何か思ったの?」
心配そうな顔で彼女がこちらをのぞき込む。
ふっ、と真は口元を緩めて答える。
「いや、君と俺はどうしたって相容れない。そう改めて思っていただけだ。」
「どうして?」
物憂げ、というのだろうか、一瞬前とは微妙に異なる表情を彼女は浮かべる。
「どうして?真くんが本当はアンドロイドだとしても、人間と違うところなんてほとんどないじゃない。」
「見た目の上では、だ。」
自嘲するように続ける。
「外面がいくら近しくても、中身の本質的な部分はまったく違うこともある。
ほら、」
尻尾だけが残されたそれを彼女の方へ差し出す。
「見た目はたい焼きでも、中身はあんことは限らない。」⑦
----------------------------
コンコン
「はい…あれ、真ですか。今日は測定日ではないのに、珍しいですね。」
野口理沙の家を辞した後、真の足は自然といつもの住宅街へと向かっていた。
「先生、少し相談したいことがあるんだ。」
「私が真を作った理由、ですか。」
どこか遠くを眺める柏木は、来訪者など予想していなかっただろうに、いつもと同じ白衣を着ていた。研究室とはまた別の部屋で、二人は向かい合って座る。
「端的に言うならば、それは好奇心であり、知識欲であり、社会貢献という名の我儘です。」
柏木は話しながらも、自分で納得していない様子で手のひらに首を預けた。
そして思いついた、とでも言うように指を一度鳴らす。
「私はきっと、証明したかったんだと思います、機械の優秀さを。人間にも、他のどんな生き物にもできないことを、アンドロイドは成し遂げうるのだということを。」
かつての自分を思い起こしながら真は問いかける。
「それはつまり、アンドロイドは人間よりも優れていると?憎み、争い、死んでしまうような人間は所詮そんなものだと?」
「いいえ、まったく違います。」
柏木は、そう言われるのを待っていた、とでも言いたげに薄く笑った。
「私は人類は素晴らしい生き物だと思っています。人間が創りあげたアンドロイドを肯定することは、人間を肯定することと同義です。もしも全能の神を生み出したならば、その神を造った神こそが全能であるように。」
その言葉を前にして真が得た感情は、救われるような、なおも突き落とされるような、混沌としたものだった。
『感情の許容量オーバー』ふとそんな言葉が頭に浮かぶ。
「真、あなたは人間に憧れているのでしょう?あんな風になりたいと、そう思っているのでしょう?」
唐突に突きつけられた問いに、真は咄嗟に言葉を発せない。
だが、と真は思考する。はじめから答えは出ていたのかもしれない。
「いや、」はっきりと否定する。
「アンドロイドは人間にはなれない。
なぜなら、人間と違って生きていない、意思がない。」
一度言葉を切った。そうでもしないと、空っぽの胸に溢れた言葉がとめどなく口を突いて出てしまいそうで。
「だから俺は、人間らしさを求めない。
あくまでアンドロイドとして、生きていく。」
生まれた頃の人間への優越感、野口理沙と話して得た、わずかばかりの人間への憧憬、人形への共感、先生の言葉。
いろんなものがない交ぜになって、だがそれでも不思議と、迷いはなかった。
パチパチパチ
ふと見ると、柏木が小さく拍手をしていた。
「余計な感情は捨てたのですね、真。」
大きく頷こうとした真は、「ならば、」という言葉に固まる。
柏木が、いつになく真剣な、しかしどこか悪戯っ子のような眼で真をじっと見つめていた。
「ならば真、あなたはもう、間違えてはいけませんよ。」
「もちろんだ。計算できることなら、誤りなどない。」
今度こそ真は大きく頷く。人間らしさを捨てた真は、不完全ではありえない。
「ならば、」
と柏木は重ねて言う。
「ならば、真。あなたをテストさせてください。」
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夜の涼しい風が、二人の頬を撫でる。
時折柏木と言葉を交わす以外は動こうともせずに、真はその時を待っていた。
-----
『真、あなたの計算力を持ってして、ここで次に雨が降るのはいつかを正確に予測してください。』
それは紛れもなく、人間からアンドロイドへの挑戦だった。
人工知能としての完全性を証明せよ、そう柏木は言外に語る。
『次にも何も、』
真は薄く雲がかかった朧月を指差して応える。
『今日の深夜に降る。』
それは暗黙の了解だった。
-----
「さすがに夜とはいえ、虫は眠ってくれませんね。」
外気にさらされた腕をさすりながら柏木は呟く。①
「蚊に刺されない、か。もしかしたらそれも、アンドロイドの特権かもしれないな。」
つい数時間前の自分なら、と真は考える。
こんな些細な違いにも、いちいち傷ついていたかもしれない。
「あなたの計算では、雨が降り出すのは午前2時15分頃でしたか?
まだかなり時間がありそうですが。」
瞼をこすりながら、少し不機嫌そうに柏木は尋ねる。
「先生は寝ていてもかまわない。俺が正確な時間を確かめておくから。」
眠らなくて済む、これは大きな利点だな。真はひっそりと頷く。
「いやいや、お付き合いしますよ。もともと私が言い出したことですしね。」
柏木が大きなあくびをしたその時だった。
ポツン
真の鼻先に何かが落ちる。
それが液体であることを認識した真の脳は、明らかに落ち着きをなくす。
そんな、ばかな…まさか、そんなことが…
ポツン ポツン
まただ、今度こそ、誤魔化しようがなく、いや、でも…
語彙を失った脳をなんとか働かしながら、信じられない思いでリュックサックからレインコートを取り出し、羽織る。
ふと隣を見ると、柏木も不思議そうな顔をしていた。
「雨…のようですね。もうそんな時間でしたか?」
携帯電話を取り出した柏木の手元を、真も混乱する頭でのぞき込む。
『午後11時11分』
ポツン
光の少ない夜の空気を照らす液晶に、一滴の雨粒が落ちたその時だった。
「違う」
誰かが叫び声をあげた。
違う、何かの間違いだ、そんなはずは…
その叫び声が、自分の口から出ているのだと気づくには少し時間が必要だった。
ザーーーーッ
次第に雨足は強くなっていく。大粒の雨が、真のフードに、柏木の傘に、打ち付ける。
「およそ3時間のズレ、ですか。」
あぁ、その呟きを聞いた真は、柏木の落胆を察知する。
不思議と混乱はおさまっていた。
俺はアンドロイドに、なれなかったんだな。
妙に冷めた頭で考えながら、その指をボタンにかける。
パシッ
少しだけ人間に憧れて、でもなれなくて。
パシッ
だからその気持ちを押し殺して、機械に徹しようと決めて。
パシッ
人間とは違う完全性を求めて、でも得られなくて。
パシッ
半端者の俺が、生きていく意味などない。
パシッ ブワッッ
留める物を失ったボタンが宙を舞い、レインコートが大きく風に煽られる。
そのまま真は、袖に通した腕を力強く引き抜いた。
上半身の形をした紺色の布が、今度こそ夜の闇に吸い込まれていく。
『人間と違って、生きていない。だから、死ぬこともできない。』
自分のセリフを、思い出し、だが、と逆接で繋ぐ。
アンドロイドにとって、メモリーを、記憶を失うことは、死ぬことと同義ではないのか。
大粒の雨が顔に当たる。避けてきたその感覚が、今は不思議と心地良い。
もしかしたらずっと、と真は思う。
ずっと、俺はこうしたかったのかもしれない。
本当だ、意識が薄れてきた。
子どものような頭で、自分が壊れていく様を実感する。きっともう、手遅れなんだろう。
ふと隣を見ると、先生が傘を放り出してこちらへ向かってくる。
慌てて、必死な様子だが、こんな不完全なアンドロイドに、何を焦っているのだろう。
先生、すまない。
そう、声に出そうとして、グラリと視界が傾くのを感じる。そうか、俺は倒れたのか。
もはや風前の灯火のようなかすかな意識で、空を見上げて考える。
月とすっぽん、か。よく言ったものだ。
人間のように大きな存在に、姿形だけ似てしまった俺は、冷たい水の中で上を眺めることしかできないのだろう。
月とすっぽんぽん、ねえ…
ふと思いついた洒落にため息をつきながら、いや、案外悪くないと我ながら思う。
そんなさびしいすっぽんの心も、丸裸にしてくれる。そんな相手が現れたなら、俺の終わり方もまた違っていたのかな…
一人だけ心を許せた相手を思い出して、真はあの日を思い出す。
そういえばあの時も、こんな強い雨が降っていたなぁ。
俺があのカフェに姿を見せなくなったら、彼女は悲しんでくれるのだろうか…
もう何も見えなくなって、真は自分自身にそっとつぶやく。
こんな俺に祈れるものがあるとするなら、それはきっと彼女の幸せくら………………
その雨が降り止んだのは、およそ3時間後の2時15分頃だったという。
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あーもうっ、あー! こういうの弱いんですって!
マクガフィンさんの「創りだす」作品はしばらく見れないだろうなあと思った矢先にこんな素晴らしいの出してくれちゃってもう! ありがとうございます!
マクガフィンさんの「創りだす」における思いがこの中にギュギュっと凝縮されているようで、なんだか今回イチで創りだす大好きになってよかったなと思います。後半で内容の掘り下げ↓
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[正解][良い質問]
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………以上が今回の研究、【アンドロイドは月とすっぽんの夢を見るか?】の結果報告である。
残念ながら対象機体のメモリーの回収は叶わなかったが、ご覧いただいた通り、アンドロイドが自由意志を持って『自殺』をした。
この今までにない研究成果が、今後の人工知能発展の一助となることを願う。
Special Thanks として、アンドロイドshi-nの友人という役どころを務めあげてくれたMs.ノグチ、こと私の妻、Mrs.カシワギに感謝を伝えたい。③
さて、この研究結果を読んでくれた諸君に、もう一度はじめに提示した問題の文(【月明かりに照らされながら〜】)を確認してほしい。
【待ち続ける人がいた。】この表現をアンフェアだと思うかどうか、それは我々の実験結果を見てきた諸君自身の判断に委ねられている。
限りなく人間に近づいたアンドロイドは人間と何が違うのか、その問いの意味をぜひとも人間たち自身に再度考えてほしいと思う。
以上
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「と、こんな感じでいいかな、理沙?」
「よくもまあ自作自演でここまでやるのね、流石だわ。」
「そういう君だって、上手く設定に入り込んでshi-nを誘導してくれたじゃないか。」
「私は台本に従ったまでよ。それにしても、もう一度問題の文を読み直せ、だなんてよく書けたものね。」
「読者にも人とアンドロイドの違いについて問いかける、なかなか興味を引くと思わないか?」
「あなたのそういう抜け目ないところ、嫌いじゃないわ。でも誰も見抜けないわよ、あの文章の本当の意味なんて。」
「と、言うと?」
「あの日、帰ってきたあなたの白衣だけ、やたらと濡れていたわ。まるで服だけ傘からはみ出していたように。」
「君のそういう目敏すぎるところ、嫌いじゃないよ。まとめられるかな?」
「絶望したshi-nの反応を記録するために天気の変化を待っていたあなた。
しかしまさかメモリーを消去しにかかるとは思っていなかったあなたは、『違う、やり過ぎだ』と思った。
そしてshi-nの頭部を覆うため、雨からメモリーを守るため、着ていた白衣を脱いでうずくまるshi-nに掛けた。 違うかしら?」
男はこれには応えず、君の鋭い瞳に乾杯、とでも言うように、一度微かにグラスをつき上げた。
【完】
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今回、個人的に考えていた例の一つとして「私とあの子は違うんだ」のような書き方を密かに期待してました。実際に前半を見るだけでも非常に好きですし、タイトルや要素回収の仕方も非常に好みです。でもそれだけでない、一見アンドロイドは人間になり得るか? というテーマに見せかけて、本当の意味は……という構成に思わず唸ってしまいました。一粒で二度おいしいです。 [編集済] [正解][良い質問]
1
学生ラウンジの片隅で丸まっている背中を発見し、私は買ったばかりのカスタードクリームをビニールから出した。
先輩はノートパソコンのキーボードを打鍵するのに夢中になっている。レポートの締切が近いのだろう。
もっとも、先輩自身のレポートではないことは知れていた。
私は「調子はどうです」とカスタードクリームを先輩とモニターの間へと差し込む。一瞬、不愉快そうな顔になった先輩だったが、不躾な闖入者の正体がカスタードクリームだったことに気づくと、パッと表情が明るくなった。人形のような顔をしているけれど、存外に感情表現が上手いタイプなのだ。
「気が利くね」
私は肩をすくめた。その動作の間に先輩はカスタードクリームの袋を破り、すでに二口目を頬張っていた。
「それ、何のレポートですか?」
先輩は学生のレポートを有料で引き受けている。レポートの評価は優・良・可・不可の四つから選ぶことができて、上から1000文字あたり15000円、10000円、6000円、20000円となっている。不可が高いのは「単位をもらえないレポートを書くほうがよほど難しい」との理由からだ。ちなみに不可の依頼は今までに一件だけ受けたことがあるという。「学生に、体裁がきちんとしていても不可になる例を示したい」という教授からの依頼だったそうだ。
「〝This is a pen.〟――〝これはペンです〟なんて表現を聞いたことがあるだろ?」
「ああ、よく聞きますね」
「じゃあ、〝This is a frilled lizard.〟――〝これはエリマキトカゲです〟という表現を聞いたことは?」
「ありません」
「不思議だろ。いまの小学生はペンは知っているだろうけど、エリマキトカゲは知らないかもしれない。そうした点では〝これはエリマキトカゲです〟のほうが説得力があるだろ、相手に質問しているわけなんだから。じゃあ、なぜ〝This is a pen.〟という表現だけが過剰に流通しているのか、というのが論旨なんだ」
いわれてみれば、そのとおりだ。私は感心して無意味に首肯いた。
「へえ、どうしてなんです?」
「書きながら考える。赤ペンというのが注射器の隠語だから、注射器を持っていたヤク中が〝This is a pen.〟なんて言い訳した、とかなら面白いんだが。おおかた、日常的に使う単語で字数が少ないものを選んだらpenになったんだろうな。それがテレビやインターネットを通して取り立てられたんだろう、というのが仮説だ。これを根拠をふまえていえれば、学部レベルなら〈優〉は堅いだろうね」
「なるほど……」
「レポートには、そこまで興味がなかったんだろ」
「お邪魔でしたか?」
「邪魔じゃないわけないだろ」
「すみません」
「べつにいいよ。ちょうど行き詰まったところだったし」
空になったカスタードクリームの袋を掲げながら、先輩が問う。「それで、なにがあったの?」
2
イヤフォンで音楽を聞きながら歩く夜の田圃はノスタルジーを感じさせなくもなかったが、まがりなりにも女子であるところの私には〈懐かしい〉というよりも〈怖い〉という感覚のほうが強かった。
怖い、というのは幽霊やらエイリアンやら妖怪やらといったものを懸念しているのではなく、暴漢やらヤンキーやらの胡乱な輩が出歩く時間が夜だからである。〈バカと煙は高いところが好き〉という金言があるが、バカは夜が大好きだ。
なぜこんなバカ田舎に大学を建てたのか。土地が安いからかそうか。なら仕方ない。
愚痴を自己完結させながら私は田圃を見る。
三日月が水に映っている。鬱蒼とした稲のざわめきにあわせて、月はゆらゆらと揺れている。形状も相まって揺り籠のようだ。
街灯には虫が集っていた。しかし人類の敵こと蚊の襲撃は街灯ごときでは妨げることができない。夏ということで露出した格好だったことが災いした。またたくまに私の身体には赤い斑点が浮かび上がってしまう。痒い。涙目になった私は早歩きになって駅へと急いだ。
ちょうどそのとき、街灯の影に人影が見えた。冷たい風が吹く。人影は、ぐにゃりと妙な動きをした。
「ひぇっ」
雑魚キャラみたいな悲鳴をあげてしまった。今のは暴漢やヤンキーではない。おそらく幽霊とかエイリアンとか妖怪とかの類だ。だって人間は、あんな動きをしない。
――と、思ったのだが。
すくんだ足のせいで動けなくなっていた私は、ふと冷静になった。〈幽霊の正体みたり枯れ尾花〉というではないか。じっと目を凝らしてみると、どうやら服のようなものが街灯に結ばれているらしい。
いたいけな女子大生をイジメて楽しいか? おいこら洋服さんよぉ。
私はヤンキーのような因縁をつけながら、街灯に近づいていった。
幽霊の正体は、はたしてレインコートだった。真っ赤な雨合羽には泥がついている。レインコートのポケットから何かがはみ出している。近づいてみてみると、紙がひらひらとしている。メモのようだ。逆に突っ込まれているようで、文章の最後のところだけ見えた。首をかしげて読んでみる。ちなみに横書きだ。
〈違ったよぅです。開店時間まで待ってるわけにもいきませんんから、取り急ぐ帰宅しました。お手数です、所有者様は連絡をください。梶原凜子〉
下には090から始まる電話番号が書かれている。全体的に字もいびつで、たとえば「時」の字が「日寺」に見えるし「梶」の字も「木尾」のように見える。文章もなんだかヘンだった。気にはなったが、なんとなく触る気にはなれなかったので、そのまま駅へと向かうことにした。……
でも。
雨の降る気配もない中、泥まみれのレインコートが街灯に結ばれていた理由。
そして、そのレインコートの中に入っていたメッセージの正体。
諸々の謎は私を先輩の元へ向かわせるのに十分だった――
3
「それで、先輩。これがそのメモなんですけど……」
私はスマートフォンを取り出して、先輩にそのメモを見せた。
「怖くて逃げ出したというわりには、ちゃっかりと写真を撮っているじゃないか。なんだ、この文章。もしかして……」
そのとき、着信音がした。
先輩はポーチからガラケーを取り出した。
間違い電話だった。
「今日日ガラケーというのも珍しいですよね」
「たしかに珍しいけど、二〇一七年の調査で二十代のスマートフォンの所持率は約九五パーセントだ。残りの五分は持っていない。二十代の人間でも、ざっと七十万人程度はスマートフォンなんて持っていないんだよ」
「先輩が珍しいことには変わりないと思うんですけど」
「まあ、そうかもしれない」
まだごにょごにょと「だがイリオモテヤマネコよりは珍しくない」なんていっている先輩に、私は「それで」と尋ねる。
「どうしてレインコートなんて街灯に巻いたんだと思いますか?」
先輩はこともなげにいった。
「クルマの免許を持っているならわかると思うんだけど、泥濘にハマったときには毛布やら何やらをタイヤに噛ませて脱出するんだよ。クルマのトランクにならレインコートが置かれていたとしても不思議じゃない」
「あ……!」
「ここまでは誰にでも推測できることだ。だが、メッセージが入っているとなると話は別になってくる。パッと思いついた考えは三通りある。いま、もう五通り思いついたけど、蓋然性は低いから、それはおいておこう。まずは、その……いわゆる発展場だね。その合図だった可能性だ。カッパっていうのは刑務所での同性カップルの男役をいうんだ。それからレインコートっていうのはフランスの隠語で……いや、まあ、これはいい。あとで調べてくれ」
先輩は案外照れ屋なところがある。おそらく、そういう類の隠語なのだろう。
「だが、これも可能性は低いだろうね。凜子というのは女性の名前だけど、カッパというのはさっきも説明したけど、男役のことなんだ。その解釈だと、なんだかチグハグな感じがしてくる。私が思いついた仮説で、これは可能性がありそうだと思ったのは、梶原凜子なる人物がスマートフォンを持っていなかった可能性だ。この場合は簡単で、梶原凜子は『開店時間まで待っているわけにはいかなかった』と書いている。レッカー車を呼ぶにもスマートフォンがなければ、電話番号がわからない。かかりつけかどうかはわからないけれど、メモしたレッカーサービス会社の番号も通じない……」
私の脳内には、月明かりに照らされながら途方に暮れて人を待つ梶原凜子の姿が思い描かれる。月がゆっくりと群雲に隠れるにつれて、心細くなった梶原凜子は、かつて自分が雨止みを待つのに使っていたレインコートを取り出した。ひょっとすると、名残惜しくて、最後に着てみたのかもしれない。とにかく、そのレインコートを自転車のタイヤと地面との間に噛ませ、エンジンをかけ、無事に泥濘から抜け出すと、経緯を記した紙を連絡先とともにレインコートに入れ、その場所から抜け出した……
私の想像を振り払うかのように、先輩は、
「でも」
といった。「それでは、この文章の下手さ加減の説明ができないんだよ」
4
〈違ったよぅです。開店時間まで待ってるわけにもいきませんんから、取り急ぐ帰宅しました。お手数です、所有者様は連絡をください。梶原凜子〉
「おそらくフレームはあっているんだ。だが、細部に齟齬がある。
梶原凜子のメモを見てみろ。文字も歪んでいる、文章も下手くそだ。とても十八歳以上には思えない。であれば、梶原凜子が、どこかおかしくなっていたと考えられはしないだろうか? だとすれば、この内容も信用できない。梶原凜子は『開店時間まで待ってるわけにもい』かないといっているんだ。でも、今日日、二十四時間営業のレッカーサービスなんてザラにある」
「だから、それはメモした会社の番号が、たまたま通じなかっただけじゃ……?」
「その仮説を受け入れた場合、検索できなかったってことになるんだから、梶原凜子はスマートフォンを持っていなかったことになるんだぜ、今日日」
「梶原凜子が若者とは限らないじゃないですか。老人には持っていない層も多いですよ」
「梶原凜子は一九九〇年以降の生まれだよ。『凜』という字が人名用漢字に指定されたのは一九九〇年のことなんだ。つまり、梶原凜子は九十五パーセント程度がスマートフォンを持っているであろう、二十代か十代後半の女性であることが確実なんだ。その年代でスマートフォンを持っていないなんて、イリオモテヤマネコよりも珍しいよ」
さっきはイリオモテヤマネコよりは珍しくない、なんていっていたじゃないか。
そんなツッコミを思いついたが、先輩の話を聞き逃したくなかったので、
「そうですね」
と相づちを打つにとどめた。イエスマンな後輩なのである。
「それに、やっぱり文章だ。スマートフォンを持っていたと仮定しても、この状況には合理的な説明がつけられるんだよ。つまり、梶原凜子には通報できない特別な事情があった。――たとえば、飲酒運転とかね。あるいはドラッグ――それこそ赤ペン関連かもしれない。コカイン、スペシャルK、RUSHの可能性もあるね、ペチジン、キノコ、モルヒネ、フェンタール……」
なんでそんなに違法薬物について語るときだけ楽しげなんですか、と疑問に思ったが、藪をつついて蛇を出すわけにもいかない。私は怒涛のラッシュを耐え忍んだ。特にコカインについては饒舌だ。「いやいや、あれをやっていると最高になるんだ。……と、聞いたことがある。自分は最強で、ぜっっっっっっっっったいに死なないとまで思うんだな、うん」
……藪をつついて蛇を出すわけにはいかない、絶対に。
決意を新たにした私を前に、先輩は話を結ぶ。
「ともあれ、だとすれば文章が下手くそな理由も、事故った理由までも説明がつくんだ。泥酔したりラリったりしたら、事故を起こしやすくなるだろう? 逃げずにメモを残したのは通報されるのが怖かったのか、最後の良心かはわからないけど……あとは、そこまでさっき思い描いたであろう光景と変わらないよ。
とにかく、私の推測はここまでだ。もちろん、正しいかどうかは本人に聞いてみないとわからないけどね」
私の頭の中には呆然としている梶井凜子の姿が浮かんでいた。彼女は誰かが通りかかって助けてくれるのを待っている。
月が群雲に隠れると、彼女はようやく危機を認識する。
「どうしよう……違う。こんなはずじゃなかった」
途方に暮れた彼女が、月明かりに照らされて、レインコートを出している。あるいは名残惜しくて一度は着てみたかもしれない。
彼女は一呼吸してそれを脱ぐと、タイヤと地面との間にレインコートを敷く。
メモを残した彼女は、街灯に導かれるように、夜の街へと向かっていく。
その姿は許してはならないものかもしれないけれど、どこか切なく、心が震えるようだった。
(おわり)
[編集済]
一見不可解な出来事を、一つ一つの疑問を掘り下げることによって明らかにしていく。その過程を書き出しているのが、安楽椅子探偵ものを読んでいるかのようでした。実際にそうだったかは定かではなくとも、「創りだす」であることを忘れるくらいに「私」と同じように頭の中で梶井凛子の行動を思い描いてしまいました。これは葛原さんの文章力もあると思いますが、何回も読んでしまうほどに好きだなと感じます。 [編集済]
佐藤「どーもラテラテーズです。お願いします」
田中「僕こないだ夜ご飯にラーメン屋さんに行った時、カッパを見たんですよ」③④⑥
佐藤「え!? えらい事やな」
田中「あー、ここが噂のラーメン屋か」
佐藤「そん時のこと勝手に再現してますね」
田中「最後尾はこちらってあるな」
佐藤「行列が出来てるんですね」
田中「ふーん……。ガラララ。すいませーん」
田中「すいません、只今順番待ちなんです。列の後ろに並んで下さい」
田中「あ、はい」
佐藤「どうするつもりやったん? 列あるの見たらわかるやろ。変な奴」
田中「ちょっ、失礼しますねー」
佐藤「何様やねん。割り込めるほど偉ないやろ。後ろから並べや」
田中「あかんなー」
佐藤「あかんなーちゃうねん。初めから後ろに並んどけ」
田中「……あのー、すいません」
田中「はい、なんでしょう」
佐藤「前の人に話しかけてますね」
田中「君ちっちゃくて可愛いね」
佐藤「気持ち悪っ!! いきなり何言うてんねん」
田中「は、はぁ……」
佐藤「あからさまに引いてるやん」
田中「あ、変な意味じゃないよ!」
佐藤「変な意味しかないやろ」
田中「君、名前なんて言うの?」
佐藤「なんで名前聞くねん」
田中「勅使河原です」
佐藤「お前も答えんなや。なんで教えたんなん」
田中「えぇ!! ホンマ!?」
佐藤「何々?」
田中「俺のお隣さんのおじいちゃんの友達も勅使河原やねん!」
佐藤「どこの繋がりやねん! もう赤の他人やないか」
田中「ならテッシーね」③
佐藤「あだ名つけんなや。気持ち悪い」
田中「えぇ……」
佐藤「無茶苦茶引いとるがな」
田中「テッシーは、今日なんでここ来たん?」
田中「ら、ラーメン食べにですけど」
田中「え!? 俺もやねん!」
佐藤「無理矢理話題作ろうとすな! その話これ以上広がらんやろ。っていうかカッパどこいったん? 俺カッパ待ってんねんけど」
田中「そのボールペンの人形、可愛いね」②⑤
佐藤「さっきからお前馴れ馴れしいねん」
田中「……猫なんですけど」
佐藤「何がどうなってそう見えたん!? お前の目が腐ってんのか、そっちのセンスが壊滅なんか」
田中「ゴメン、でも全然似てないね」
佐藤「失礼やてだから! お世辞でも似てるって言っとけや!」
田中「ところで、もしよかったらなんやけどさ」
佐藤「何?」
田中「順番代わってくれへん?」
佐藤「頭どうなってんねん! お前どんだけ失礼やねん」
田中「絶対嫌です」
田中「ケチやの」
佐藤「もう喋んな! お前が頭おかしいだけや」
田中「そうや、あのーメニューあるんで良かったらどうぞ」
佐藤「あらかじめ決めとくみたいやね」
田中「うわー、迷うな。テッシーは何にしたん?」
田中「私はカスタードラーメンに」
佐藤「冒険しすぎや。なんやカスタードラーメンて。中学生が食べ放題で作るもんと変わらんぞ」⑦
田中「カスタードラーメンて、そんなん食べたら死んでまうやろ」
佐藤「それは大袈裟。死ぬかそんなもんで」⑨
田中「そんなわけないじゃないですか。ほとんど死にませんよ」
佐藤「たまに死ぬん!? なに怖すぎる。ていうか最初こんな話違ったやん! なぁ、なかなか店にも入らんし」
田中「ところで、今日は月が綺麗ですねぇ!!」
佐藤「強引やな。やっぱ頭おかしいんか」
田中「え? プロポーズ?」
佐藤「自惚れんなサイコパス! なんで会って間もないお前に告んねん! 状況考えろや」
田中「やっぱり東野圭吾は最強ですよね」⑧
佐藤「適当言うな。月が綺麗ですね言うたんは、漱石や。東野圭吾ちゃうねん」
田中「かゆみ止めあります?」①
佐藤「話聞いたれや!! お前らさっきから話が噛み合ってないねん!」
田中「私は持ってないですね」
田中「ええ、使えんやつ」
佐藤「黙れ。もうお前黙れ」
田中「すいません」
佐藤「後ろの人に聞くの?」
田中「かゆみ止めあります?」
田中「ないですねー」
田中「持っとけやそんぐらい」
佐藤「マジどう言うつもり!? 催眠術かけられてんのか。なんで全方向に喧嘩売ってんねん」
田中「あれ、雲がかかって暗くなったな。ラーメン遅いし、あーなんかイライラしてきたなー」
佐藤「俺はずっとイライラしてるわ」
田中「あ忘れてた、後ろの人割り込んですいません」
佐藤「割り込んどったんかい! 謝るの今更すぎるやろ」
田中「いえいえ」
佐藤「こっちの反応も気持ち悪い! ここ並んでるやつ全員やばいんかいな」
田中「因みにあなたお名前は?」
田中「田中です」
佐藤「後ろがお前やったん!? じゃあコイツ誰やねん!」
田中「あなた暗いとこでよく見ると光ってますね。これ着て隠してください」
佐藤「公衆の面前で服脱ぐな。ていうか、え、体が光ってる?」
田中「カッパですから」
佐藤「お前がカッパやったんかい!! 人間違ったん!」
田中「こんな感じでした」
佐藤「無茶苦茶や、もうええわ!」
[編集済]
これはもう、笑っちゃいますね。ちゃんとオチをつけるあたりネタとしても完成してますし、漫才コンビとしてどんなタイプかなあと想像するのも面白いです。なんとなく某コンビのエレベーターのネタに似てるなあと思ったりして。ボケの名前も田中だし。(※追記・投票欄にて実際に参考になされたとか。知ってるとやっぱりニヤニヤしますね)どうやら私はお笑いネタが好きなようです。知ってた。 [編集済]
いつからだろうか。僕の周りに「死」が多いと気づき始めたのは。
中2の時の修学旅行で、大量殺人が起きた。狼が侵入していたらしい。生きていたのは生徒13名、引率の先生が2名だけだった。この時、自分が最強の運を持っていると思い込んだ。絶対に死ぬことはないのだろうと思い込んだ。(⑧⑨)
続いて僕が高2の時、妹が自殺した。思えば、なかなかに変な性格をしていた。そんな変な性格から何を望むのかに気づいてあげればもしかしたら自殺なんてさせずに済んだのかもしれない。
こんなにも「死」が近い生活を送っている僕にとって、「死」は虫に刺されるような、人形が壊れるような、カッパ巻きを食べるような、そんな特別なんかじゃないことだった。(①②④)
「死は僕にとって特別なものではない」。
だからこそ、「死」の状況にはカスタードクリームのように、内容の濃いものも薄いものもそのどちらも受け入れよう思っていた。(⑦)
そんなことを思いながら10数年が経ち、最近は雑誌で雑貨、例えばペンとナイフを組み合わせたものみたいな雑貨の使用レビューを書いている日々だった。(③:review⑤⑥:knife)
今日は妹が自殺して何年だったかは忘れたが、とにかく彼女の死んだ日だった。親とかぶらないように仕事帰りの夜、墓参りに行ってそのまま家に帰るのが毎年のことだった。
周りの光は月の光だけで、微かな光の中心の底から出てくる言葉が絶えるのを待つ。
墓参りを終え、帰ろうとした時ふと物音がした。音の方向にいたのは狼。こちらを睨みつけている。思い出すのは修学旅行での最悪の目覚め。死の可能性の直前になり、死への容認は偽物の気持ちだったと気づく。死にたくなかった。だからこそ、少しでも気をそらそうと上着を脱いで狼に投げつけた。そして全力で走り出す。
狼に追いつかれる。走馬灯のように妹や、中学の知り合いの死に様や、その他いろいろを思い出す。
死の可能性が可能性ではなく確実になって感情ももう一転。感情というより感覚なのかもしれないが。体が死を心地よく受け入れる。
心地よく受け入れるというのはもしかしたらいいことなのかもしれない。そんなことを思った時に完全に意識を手放した。
【終】
[編集済]
まだ悲劇は終わっていなかった……!
これは本当に何もわからない人が何もわからないままなすすべなくデッドエンドする終わり方ですね。「違う」の解釈もまたほかのふたつとは違い……なんとなく、ふっ、と緊張の糸が途切れる瞬間というんでしょうか。それを目の当たりにしたような気分になりました。そして猛烈になく頃にシリーズを見たくなりました。
[編集済]
あるところに、一人の美しい少女がおりました。
しかし、彼女はいつも継母と義理の姉達にいじめられて体中灰塗れになっていた為、皆が彼女を「灰被り」と呼んでいました。
そして、彼女たちに召使のような酷い扱いを受けていた灰被りは、人形のように感情を抑え込み、ひたすら耐え続けておりました。②
「灰被り、昨日買ってきたカスタードを持ってきて頂戴。」
「はいお義姉さま、ただいまお持ちいたします。」
「お母さま、このカスタードクリーム、本当に美味しいわね!」⑦
「ええ、そうね。
・・・何? 何か不満でもあるの、灰被り。
貴方はその辺の虫がお似合いよ。 人間の食べ物を食べられるなんておこがましい事、考えていないでしょうね?」
「は、はい。 お義母さま。
それでは、失礼いたします。」
…こんなように、昼は奴隷のように扱われ、夜中は虫に刺されて痒いのを我慢して、暖をとる為に竈の中で眠りにつく毎日を送り、雨の日にはカッパとすら言えないような布一枚を渡され、隣町まで使いに走らされた事までありました。①④
そんなある日の出来事です。
「ねえ、お母さま。 今度の舞踏会の話、聞きました?」
「ええ、聞いたわよ。 私たちも美しく着飾って行きましょう。」
「素敵素敵! 私どの服を着て行こうかしら!」
「貴方だったら何を着て言っても似合うわよ。 でも、そうね・・・
何? 灰被り。暖炉の掃除は終わったの?」
「はい、終わりました。」
「じゃあ、今度は屋根の掃除をお願いね。」
「ちょっと、死んじゃうんじゃないの?」
「大丈夫よ。 あの子はしぶといから絶対に死なないもの。 それに、死んだところで養う数が減って生活が楽になるだけよ。」⑨
コロコロと笑う継母達を背に、灰被りは無言で去っていきました。
その後、灰被りが屋根の掃除を終えて戻ってくると、継母達は美しく着飾っておりました。
「どちらへ行かれるのですか?」
と灰被りが問うと、
「あら、知らないの? 今夜の舞踏会。
王様(King)が主催の舞踏会があるのよ。⑥
それも、王子のお見合いも兼ねた・・・ね。」
「舞踏会・・・」
「あんたも行きたいの? そうねぇ・・・なら、連れて行ってあげるわ。」
そう言って沢山の豆が入った鍋を取り出すと、
「この豆を仕分け終わったらね!」
と言って中に入っていた豆を灰の中へばら撒きました。
「灰被り、よ~くお聞き。
私たちが帰ってくるまでに、この豆を全て仕分けて鍋に戻しておきなさい。
もしも私たちが帰って来たときに終わっていなかったら、明日からここはお前の家じゃないと思いなさい。」
そう言うと彼女たちは笑いながら家を去っていきました。
しくしくと、涙を流しながら灰被りが豆を仕分けていると、どこからか声がしました。
「あらあら、かわいそうに。」
「誰・・・?」
「私は優しい魔法使い。 貴女を助けに来たのよ。」
そして、雅な恰好の女性が灰被りの元へとやってきました。
「私を・・・助けに・・・?」
「ええ、そうよ。 女の子はみんなお姫様なの。
貴女だって、例外じゃないわ。
舞踏会へ行きたいのでしょう?
連れて行ってあげる。」
「でも、私は・・・この豆を・・・」
「本当に、意地の悪い事をしたものね。」
そう言うと魔女は不思議な声で
-นกใส่ถั่วดีๆลงในหม้อและกินถั่วที่ไม่ดี-
と言いました。
すると山鳩が灰被りの元へ沢山飛んできて、彼らが去った時には、良い豆だけが鍋の中へしまわれていました。
「これでいいでしょう?」
「でも、まだお洋服とか・・・」
「気にしないでいいわよ。」
再び魔女が魔法を使うと、灰被りは美しい服を身にまとっていました。
「カボチャと、ネズミはいるかしら?」
「多分・・・」
「じゃあ、表に持ってきてもらえない?」
そういわれて灰被りがカボチャとネズミを連れて行き、魔女がそれらに魔法をかけると、カボチャは馬車に、ネズミは立派な馬へと姿を変えていました。
「これで大丈夫でしょう?
そうだ、靴を脱いで頂戴。」
そういわれ灰被りが靴を脱ぐと、
「これで仕上げ。
綺麗でしょう?」
そう言って魔女は灰被りに美しい金の靴を履かせました。
「さあ、行きなさい。 ただし、12時までには帰ってくるのよ。
そうしないと、魔法が解けてしまうからね。」
その言葉を合図に、馬車が走り出し灰被りは舞踏会へと向かいました。
灰被りがお城へ着くと、もう舞踏会は始まっており、皆楽しそうに踊っておりました。
煌びやかな空気に圧倒されていると、
「お嬢さん、私と踊ってはいただけませんか?」
と仮面をつけた男性に誘われました。⑩
灰被りは少し驚きましたが、すぐに
「喜んで。」
と返して踊り始めました。
一曲踊り終えた頃には、二人は心の奥深い所で惹かれあっていましたが、灰被りは継母達が怖くなって逃げ出してしまいました。
熱くなった身体を冷ます為に灰被りが夜風に当たっていると、時計の針は11:11を指しておりました。
そんな中
「やあ、お嬢さん。 先ほどは踊っていただき、ありがとうございました。」
と、先ほどの男が声をかけてきました。
「私が仮面をつけていると、不気味がって誰も踊ってくれなくてネ。
踊ってくれたのは君一人だけだった。
だからこそ、私と結婚してもらいたい。」
そう言って男が仮面を外すと、そこに居たのはこの国の王子様でした。
しかし、灰被りは
「私は、12時までしか美しい姿でいられません。」
と言って断ってしまいました。
時刻は11時55分。
月明りに照らされながら、灰被りは階段の前で帰ろうか帰るまいか、悩んでおりました。
心のどこかで王子様が引き留めてくれるのを待っていたのでしょう。
そして、その願いは叶ったらしく
「やっと、見つけた。 お嬢さん。」
と王子様が声をかけてくれました。
しかし、その直後
ごおん ごおん という鐘の音が鳴り、12時を知らせたのです。
慌てて暗闇の中時計を見上げると、
「君が、12時までしか美しくいられないと言っていたから、時計を55分で止めさせたんだよ。
鐘までは止められなかったみたいだけどね。」
と王子様は言いました。
魔法が解けてしまう。
そう思った灰被りは階段を走って帰ろうとしましたが、そこにはタールが塗ってあり靴がくっついてしまって歩けません。
そこで、灰被りは金の靴を脱ぎ棄てることで何とか帰る事ができました。
その後、王子様は城に残った靴を手掛かりに灰被りを探しました。
そしてその一行は灰被りの家へもやってきて、
「この靴にピッタリの足を持つ女性を探しています。」
と言って小さな金の靴を示しました。
「私は足が小さいから入るはず。」
そう言って上の方の義理の姉が足を入れましたが、入りません。
すると継母が、
「王子様の元へ嫁に行けば、もう歩かなくて済むのよ。」
と言って
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
という姉の言葉にならない叫びを無視して
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ ボキッ
と姉の足の指を全て切ってしまいました。
すると、姉の足は金の靴にピッタリとハマりました。
しかし、そこへ鳥がやってきて囀ります。
「よく見て、よく見て、つま先から血が出ている。
その女は偽物よ。」
すると、今度は下の方の義理の姉が
「じゃあ今度は私!」
と言って靴に足を入れました。
しかし、かかとがつかえて入りません。
すると、
「我慢なさい。」
と言って継母が今度は姉のかかとを
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
という姉の言葉にならない叫びを無視して
ギッギッギッ
と再び切り落としてしまいました。
すると、姉の足は金の靴へと入っていきました。
しかし、再び鳥がやってきて
「よく見て、よく見て、かかとから血が出ている。
その女は偽物よ。」
と言った後、
「よく見て、よく見て、もっと見て。
奥に丁度いい娘が隠れてる。」
と囀った為、灰被りも試す事になりました。
すると、灰被りの足は木靴に長年押さえつけられて成長しなかった為、とても小さく、靴の中へもすんなりと入っていきました。
すると王子様も大喜び、灰被りは王子様の元へ嫁に行くことになりました。
余談ではありますが、自分達が最強だと思っていた義理の姉達ですが、少しでも灰被りの恩恵に与ろうと結婚式の日には足を引きずりながらシンデレラの両脇を歩こうとします。
しかし、ペンのように固く鋭い鳥のくちばしにその目玉を啄まれ、失明してしまいましたとさ。⑤⑧
【簡易解説】
後ろ髪引かれる思いで王子様を待っていた灰被り。
王子様が来たところで、現在時刻が間違っており12時になった事に気づいて急いで帰ろうとするが、階段にタールが塗られていた為靴がくっついてしまって帰れなくなってしまった。
その為、くっついている靴を脱ぎ棄てて帰りましたとさ。
-了―
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前回の要素を入れつつ、原作シンデレラをオマージュした作品ですね。元がR15なのはざっくりとだけ知ってましたが対象年齢引き上げてもいいレベルだと思います。エグロい(えぐい+グロい)。そして今回なぜかホラーが多い気がします。もう夏ですね……
あと余談なんですが魔女の呪文の意味を検索したらタイ語の訳と共にこのページも4番目ぐらいに引っかかりました。
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二年 一八一四二五九 高橋 玲
「今来むと 言いしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」素性法師
一、序論
古今和歌集の和歌を一首選び情景を再現する、という今回の課題に当たり、私は素性法師の和歌を選んだ。
まず、今回設けられた指定のアルファベットを含むという条件において、私に割り当てられたアルファベットは「R」であった。すなわち「ら行」であるが、日本語ではなかなかに難しい。そんな中で目に付いた和歌に「有明」、すなわち「り」が含まれていたことが、当該の和歌を選んだ大きな理由である。(※注三)
また、解釈が平易であることも重要であった。情景を再現するにあたって、そもそも解釈ができなければ再現のしようもない。その点、当該の和歌は「今すぐに来るとあなたが言ったばかりに、九月の夜長に明け方の空に浮かぶ有明の月が出てきてしまった」と、素直に訳すだけで良い。英語で言えば「This is a pen.」と同等のレベルである。(※注五)
そして決め手となったのは、情景の再現が比較的容易であることである。和歌の中には、再現するにあたって遠出が必要であったり、命の危険に晒されたりするものもある。当該の和歌は徹夜の必要はあるが、死の危険はない。自室から月を見るためにはベランダに出る必要はあるが、真冬であればともかく夏の暑さが残る九月であれば絶対に死ぬことはないと断言して良いだろう。(※注九)
以上の理由から、私は「今来むと 言いしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」の情景を再現することとした。
二、本論
再現するにあたり、まず必要であったのが「待つ」存在である。当該の和歌では恋人、ないしそのような関係にある男性であるが、あいにく私には該当する相手がいない。夜明けまで待つほどに恋しい相手、ということで私は人形を選んだ。幼少より大切にしている人形であり、幼い頃はよく一緒に眠った。(※注二)
よって私は九月に入ってから、人形に「今すぐに行くよ」と言ってもらい、自室のベランダで月を見ながら彼を待つこととした。以下に各日の実証結果を記す。
①九月一日
日付の変わる頃より、ベランダにて彼を待つ。月はない。残暑厳しく、複数箇所を蚊に刺される。あまりの痒さに、断念。(※注一)
②九月五日
先日の虫刺されが完治したため、再挑戦。蚊取り線香を準備。が、開始三十分で三ヶ所を刺され、心が折れる。断念。(※注六)
③九月十二日
小雨。これならばKも出まいと、カッパを用意して待つ。しかし雨が止む様子はなく、月も見えない。断念。(※注四)
④九月十五日
満月。今日こそはと念入りに用意し、待機。少し冷えるので、上着が必要。午前三時、周囲が少し暗くなる。月がビルの影に入ったようだ。この位置だともう見えることはない。ここで気付く。
さて、四日間の挑戦を経て、私はある間違いに気がついた。この条件では、有明の月が見えないのである。
十五日の午前三時に月が見えなくなる。有明の月を午前六時とするならば、二十日辺りにならなければ、自室のベランダから見ることは叶わない。そして当レポートの提出期限は秋期最初の講義日、すなわち九月十七日である。
このことに気付き、九月十五日午前三時を以て私は実証を終えた。
三、結論
再現が不可能であると悟り、私は上着を脱いでその日はそのまま就寝した。翌日の昼過ぎに起き、直面した問題が当レポートである。
挑んだ結果、再現不可能であった、というのも一つの結論だろう。しかし、不可能であった理由としてはどうにも情けない。どうしたものかと冷蔵庫を開けたとき、私は天啓を得た。
カスタードクリームたっぷりのシュークリームである。(※注七)
丸く、少し歪な形。くすんだ黄色。有明の月ならぬ、なけなしの月である。
以上をもって、私は「今来むと 言いしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」の再現を行ったものとする。(※注八)
※注三 余談だが、この条件を話した際、友人は「Rはある」というくだらない駄洒落に小一時間は笑っていた。
※注五 「This is a pen.」の訳は無論「これはペンです」である。
※注九 ぜっっっっっっっっったいに死なない、くらいは言いきっても良い。
※注二 幼稚園の頃にサンタさんに貰ったテディベアで、名前はスリーピー。彼ならば約束を忘れて眠ってしまいそうである。
※注一 蚊程度で情けない、と思われるかもしれないが、手の甲を刺されると非常に痒いので勘弁していただきたい。
※注六 この日以降「蚊」と聞くだけで痒くなるようになったため、「K」と称することとした。
※注四 ベランダにはもちろん屋根があるが、狭いベランダでは風が吹けば濡れてしまうため、カッパは重要であった。
※注七 シューは柔らかく、カスタードクリームと馴染んで非常に美味しかった。
※注八 こじつけがましく思われるかもしれないが、和歌には洒落のきいた、遊び心に溢れる歌も多くある。その点で、当レポートは最強であると言ってもよいのではないだろうか。
補足:推敲過程にて注釈が順不同となったが、まずは提出することを最優先とさせていただきたい。
【結】
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投稿された時間も含めて、もうこれはずるい。とりあえず最低限の条件は守るというレポート制作中の切迫感も感じられ、自分の書いたレポートを見ているようで地味に刺さりました。最終日に書き出したのも確信犯かと思うほどのリアリティさとこだわりが感じられて好きです。
ちなみにこれが上がった時に私はこの日締め切りの課題の存在を思い出しました。おかげでこれとこっそり並行してましたが間に合いました。ありがとうございます(?)
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昔、大陸は移動していました。大陸は、徐々にこの星の片側に寄っていきました。そして、とある島が、とある経線を越えたとき、この星は球体から平面となってしまったのです――
◆
西の国は大きかった。太陽が沈まぬ国と呼ばれるほどに。
――西の国は太陽が沈まぬ国であった。
◆
「ひぶしゅん」
狼は、どうしてこんなに寒いのかしらと思いました。ずっと朝が来ないのです。もうすぐ月が沈むというのに、むこうの空は一向に明るくなる気配がありません。昨日の空の動きとは大分違う現象に、ただ困惑するばかりです。このままずっと朝が訪れなかったら、と思うとゾッとします。
どうしたらよいのかも分からず、しかしどうにかしたいと思い、おもむろに立ち上がりました。そのとき、急に後ろから話しかけられました。
「もし」
狼は突然現れた気配に大層驚き、飛びのいて距離をとりました。影は大きく、少しひるみましたが、二足歩行です。どうやら人間のようです。
「初めまして。日の昇るところの狼さん。お日様を知りませんか?」
狼は首を横に振りました。自分こそが知りたいのです。分かるはずもありません。
「そうですか。やはり、西の国に……」
◆
狼を恐れる様子もないおかしな人間の言うことには、「太陽は西の国に囚われている」そう。
「皆さんが彼の国のことを『太陽の沈まぬ国』と定義していたために、我々の星が平面となった際、バグが起こったのです」
狼には彼の言っていることがよく分からなかった。しかし、このままだと朝が来ないということは分かった。それは非常に困る。自慢の毛皮はこういうとき頼りにならないのだ。人間は、これから太陽を開放しに行くらしい。しょうがないわね。あなただけじゃ不安だから私もついて行ってあげるわ。勘違いしないでよね、これは私のためなんだから。
◆
裏側の世界の月はすっかり沈んでしまっている。真っ暗だ。そんな中でも、人間はしっかり方向を見定めて進んでいる。足もとがよく見えないのか足取りはおぼつかないが、迷子が持つような不安はちっとも抱いていないようだ。こいつは何を目印にして歩いているのだろう? と不思議に思っていると、「マップ機能を使っているので、どちらに行けばいいのかは分かります。不安がらなくてもいいですよ」との返答があった。どういうことかはさっぱり分からなかったが、異議があったので脛を噛んだ。強い水の臭いがした。表側の世界はもうすぐだ。
◆
月が青空を透かして浮かんでいた。表側の世界である。
やけに早く着いた気がするが、人間に目を向けても「ブーストアイテムを使いましたからね」としか答えなかった。
西の国は暖かかった。虫に刺されて痒がっていたら①、人間がどこからともなく薬を取り出して塗ってくれ、その効き目に毛を逆立てたり、「これはペンです⑤」しか話せない人間の語学力に半目になったりした。楽しかった、のかもしれない。
人間が、いざ太陽を開放しようとしたとき、重大な問題に気付いた。キーとして「コントロール」を入力しなければならないのだが、「C」が足りなかったのだ。その代わりに持っていたのは「K⑥」だった。なんとこの人間はCとKの区別がついていなかったのだ!
人間は困った顔をして、「C」持ってない?と聞いた。
コントロール……RとLなら……
残念。LもRももうあるんだ③。
急遽近くの店からカスタードクリーム⑦を分けてもらい、「C」を確保することに成功した。ustard cream になってしまったカスタードクリームは、なんだか不満げに見えた。
人間が無事キーを入力すると、管理画面が現れた。西の国のものでもない言語で書かれていたので、狼はここからどうするのだろう、と思ったが、人間は勝手知ったる様子で操作をし始めた。どうやら彼はこの言葉が分かるようだ。
そして、西の国の太陽が、沈んだ。
◆
太陽が沈むのが見えた。
「やりましたね狼さん。これで裏側の世界にも朝が……狼さん?」
狼は焦っていた。今まで太陽が出ていても狼の姿を保っていられたのは、長い夜の間に月の光を余分に浴びていたからだ。その力が、そろそろ切れそうになっていた。目の前に彼がいる今変身するわけにはいかないが、しかし急に逃げ出すのも不審すぎる。そんな葛藤の中、切羽詰まって彼女が選んだのは逃走だった。
◆
裏側の世界に彼女はいた。最初彼と会った場所に。彼女の足は速い。彼をすぐに引き離し、姿が見えなくなってもずっとここまで走り続けた。彼に自分の変身を見せたくないのなら、もっと別のところへ移動した方がいいと分かっていた。自分の脚ならもっと遠くへ移動できることも、ここから移動してしまえばもう彼は私を見つけられないことも、全て分かっていた。
それでも彼女はそこにいた。
◆
「びっくりしましたか?」
「まあ、普段の私がこんなに早く移動できないのは確かですね。ブーストアイテム、無くなっちゃいました」
「そんなことして大丈夫なのかって? 問題ありませんよ。私はぜっっっっっっっっったいに死にませんから⑨」
月が雲に隠れた。体内の月光のエネルギーをすべて使ってしまった彼女は、あえなく人形②――ひとがた――に変身してしまう。
「……違う」
彼女は違和感に気付いた。身につけていた服を脱ぎ捨て、川に己の身を映す。
そして、髪が乱れるのも厭わず、勢いよく彼の方を振り向いた。私の言葉を聞いてからずっと、迷子のように視線を彷徨わせている彼。最強だと思っていた⑧彼が、そんな姿を見せているのは、きっと私とは違う緑色の肌④のせいで――
【簡易解説】
表側の世界は西の国に捕らえられた太陽を開放すべく旅をしていた二人。旅を続ける中で二人は親交を深め、信頼を築き合っていた。無事太陽を開放したとき、裏側の世界への月の影響が弱まった。いや、相対的に強くなっていた月の影響が、元に戻ったといった方がよいかもしれない。そのせいで人狼は、月の光を浴びていない状態では狼形態を維持できなくなった。
そして、彼女が人間の目で見たのは、自分とは明らかに違う色の肌。その時初めて彼がカッパだということに気付いた。
①彼は彼女の世界の住民ではないので、虫に刺されませんでした。
⑤でぃすいずあぺん。カッパは日本生まれ日本育ち。KとCの区別がついていなかったのもこれ。
⑥最初は「kappa」から「K」をとるつもりだったのです。だからカッパで「キャラメイク」したのに……
③この狼はwarewolfなので、Rはあります。
⑦custard cream
⑨ゲームオーバーシステムはありません。
②人の形になりました。
⑧最強だと思っていました。
④カッパです。
【完】
[編集済]
本文の最後を二度見しました。私の勘違いかと思ったけど勘違いではありませんでした。
狼が人間に戻るというドラマチックな展開でもよかったはずなのに彼の正体を知って「うぇえ!?」と声が出てしまいました。もうわけわからん。でもついつい何回も読んじゃいました。不思議な中毒性があって深みにハマるタイプのやつです。語り口調も神話体系のようで好き。
[編集済]
△△ △△△△ ▽▽△△ △▽▽△ △▽▽△ △▽△△
「最近、雨多いな。」
『ほんとそうだねー。梅雨の時期って感じ。明日も雨だってさ。
ねえ。明日はちゃんと傘もってきてね"ユウくん"。私は持って行かないからさ。』
「なんでだよ。自分の傘持ってないし、雨合羽でいいじゃん。」
『ダメだよ。折角付き合ってるんだから1回くらいやりたいじゃん、相合傘。』
「"ユズ"が今日傘を持ってくれば良かったじゃんか、なんでお前も雨合羽で来るんだよ。」
『・・・はー。分かってないなぁ。こういうのは男の人から傘を忘れた女の子に誘うものじゃんか。』
「そういうものなのか。わかんねーよ・・・」
『あっっっそ。とにかく、絶対に"明日"には傘買ってね。約束。』
「はいはい。」
『あ、そういえばユウくん、面白いゲーム見つけたんだけど、一緒にやらない?』
「面白いゲーム?」
『うん。図書室で本を見つけてね。【ウミガメのスープ】って言うんだけど。』
「あーーー・・・・・・。ウミガメのスープかぁ・・・」
『え、知ってるの?』
「知ってるというか、そもそも俺がウミガメのスープのサイトで問題作ったり解いたりしてるんだよな」
『えぇ。じゃあこの本の問題も・・・』
「うん。知ってるな。ネットで問題調べてもだいたい出典がそのサイトの良問だと思うから、オリジナルの問題じゃないと・・・」
『そうなのかー・・・ちょっと恥ずかしくなったし、家で問題作ってから出直してきていいかな。』
「え、マジか・・・気をつけて帰れよ。」
そうして、ユズが横断歩道を渡って走り去ろうとして・・・俺は『ユズの腕を掴んで止めた』。
▽▽△▽▽ △▽▽▽△ ▽▽▽ △△△ △▽ ▽▽▽
「ほんとに気を付けろって言ったそばから走ろうとするなんて・・・・・・雨だぞ?滑ったらどうすんだ。」
『・・・・・・はは、ごめんごめん。気をつけるよ。』
「それと、さっきのウミガメさ。俺が問題出すから家着くまで解いてかないか?」
『あ、そっちでもいいよ。面白そうだし。でも最初は簡単なのがいいな』
「簡単なの、ねえ・・・難しいな」
『どっちかっていうと私は質問の方がしたいんだよね。本だけだと対話式で出来ないし、進行が気になるでしょ?』
「んー、それなら、【ウミガメのスープ】じゃなくて【20の扉】の方がいいかもな・・・。」
『あ、20の扉なら漫画で見た事あるよ。考えてるモノを当てるやつでしょ?』
「多分もっと広い意味での物当てではあるんだけど・・・ユズの認識でいいよ。今から俺の考えてるモノを、そうだな・・・20個じゃ多いか。10個の質問で当ててくれ。」
『ん。わかった、いいよ。ユウくんの考えてるものなんて余裕でわかるよ。ユウくん馬鹿だから。』
「ぐっ・・・まあ、そうするか。ちょっと考える。」
思いつくもの。【ユズ本人】とかだと陳腐だしな。
頭の中に浮かんできたもの____車、花束、お菓子、人形・・・・・・
うーん・・・・・・じゃあ、これにするか。
「決めたぞ。」
『オーケー。じゃあ1個目ね。』
ユズがニヤってして、口を開く。
『・・・・・・【1.R指定つく?】』
?????
???
??
?
「は(↓)い(↑)?????あるわけないだろ!NOだよNO!!!!!!!!まったく・・・ユズは俺のことなんだと思ってるんだ。」
『いやー?ユウくんも思春期の男の子であらせられればー?さもありなん?と思って?』
ユズのニヤニヤ度合いが増す。俺をからかってやがる・・・!!
「ねーよ。そもそもそんなの答えにしたらセクハラだろ普通に。」
『ふーん。ふーーーーーん。そうなんだね。そういうことにしておきますか。』
「・・・早く次の質問しろよ。」
『はいはい。それじゃあ真面目に__【2.それは私に関するもの?】』
「・・・っ、YESだよ。」
『ふふっ。ほんとにユウくんは馬鹿だなぁ。"ずっと"私の事考えてるんだ。』
ばーか、ってからかってくる。うるせえ。
『うーん、私に関するものね。何だろう?ちょっとひねくれたユウくんの事だから【私自身】とかではないはずだしなぁ。』
完全に思考が読まれてる。これはまずい。
『で、また馬鹿なユウくんのことだからきっと最近あったことを真っ先に思い浮かべると思うの。きっと、昔にあったことはあんまし思い出せないんじゃないかな?』
「ユズ、さっきからめちゃくちゃ馬鹿馬鹿言ってくるけど、俺、何かしたか・・・?」
『だって馬鹿だもん。ばかだ。ユウくんはばかだ。』
「そんなに言うことなくないか??傷つくぞ?」
『・・・・・・はぁ、まだわかんないんだねぇ。』
「??」
『まぁいいや。
さてと、多分"今日"のことだろうから、1個ずつ今日を遡ろうか?
朝、いっしょに学校に行ったね?ユウくんは「寝てる間に虫に腕を刺されて痒い」って嘆いてたけど。もしかしてそのことかな?』3
「NOだな。モノというか出来事だし。」
『ま、違うよね。ちなみに、もう痒みは大丈夫なの?』
「あぁ。・・・あれ?言われてみれば・・・」
確かに、痒みが全然・・・治るのが早かったのか?でも_______
『ふふ、じゃあ次ね。ジャスティン先生の英会話の授業で怒られてたね?アレ何でだっけ。』
あーー。そういえば怒られていたような気が、何だったっけ。
『そうだ。英会話なのに知ってる英語が「This is a pen.」くらいしかなかったから何聞かれてもそれしか返せなくてふざけてると思われたんだ。面白いなぁ。』
そうだ、英語で怒られたけど、何言ってるかわからなかったな。
『もしかして、【4.「pen」が答えだったりする?】』
「ちゃうわい。NOだ。・・・ってか、お前に関するものって言ったのに何でオレの事ばっか聞くんだ?」
『まぁ、こっちにも色々考えがあるんだよねー。うん。そうだ。ジャスティン先生に怒られて、昼休みを迎えたね。【5.もしかして、昼休みに奢ってくれたクリームパンが答え?】だったら嬉しいなぁ。』
「NOだ。・・・そうだったな。カスタードクリームが好きなのは知ってたから」
『覚えてくれて嬉しい限りだよ。』
「またユズが言ってくれれば奢るぞ?流石に毎日は金がなくなるから無理だけど」
『・・・・・・そっか、ありがとね。ユウくん。』
「ん?」
いつもなら『言ったね?毎日じゃなくていいなら2日ごとに奢ってね?』とか言ってくるものだと思ってたけど。
『それでだ。昼休みに仲良くご飯を食べた私達は再び授業に。ユウくんは再び現代文の渡辺先生に怒られたのでございました。』
・・・・・・まじかよ俺。あぁ、確かに現代文でも怒られたな、寝てて。
だって話が全く面白くないじゃん、あのジジイ。何の文章やってたかも思い出せないぞ。確か___
『夏目漱石の「こころ」だね。』
「マジで?ユズ、俺の思考まで読めるの?」
『ユウくんがわかりやすいだけ。
「こころ」、教科書に乗ってるのは下巻の内容だね。登場人物【先生】が主人公へ送った、長い手紙_遺書の中身が綴られてる。
彼はある1人の女性に恋慕を抱いてたけど、彼の友人の【K】も彼女に恋をしていたんだ。』
「なるほど・・・・・・?」
『"精神的向上心の無い者はばかだ"___これはそのKの有名なセリフだね。彼は己を磨く為に・・・っていうと凄くストイックに聞こえるけど、自分が確実に前に向かう為に恋愛だとか、娯楽とか。自分に不必要なものを断ち続けたんだ。自戒みたいなものだね。』
「それは・・・・・・すげえな。遊びも恋愛も断って自分がどれだけ成長したとしても、俺は馬鹿だからか、つまんなさそうな人生にしか見えないけど。」
『時代が違うからねー。戦争が終わるよりも前が舞台だし、私やユウくんの時の価値観では測れない生き方なんだろうね。
まぁ、私はユウくんにはこの言葉を何度も復唱してもらいたいところだけど。』
ばーか。また言われた。そろそろ凹む。
【精神的向上心の無いものはばかだ。】
向上心、前に進む力が俺には無い?
だとしたら、何故______
『・・・まだ思い出さない、かな?』
「何を?俺は何か忘れてるのか・・・?」
『・・・続けるよ。授業を終えた帰り道、私はユウくんにウミガメのスープの問題を本から出そうとした。けど、ユウくんはウミガメのスープを既に知ってて。恥ずかしくなった私は一旦家に帰ろうとして、走って__』
「それを俺が止めたんだ。腕を掴んで・・・・・・」
『本当に?』
「え」
『【6.本当にユウくんはあの時腕を掴んだ?】』
「い、YESに決まってるだろ・・・じゃなきゃ・・・ッッ」
『【7.なんで長く続くはずの虫刺されの痒みがないのか、おかしいと思わない?】』
『【8.なんで先生に怒られたこと、今日あったはずのことをすぐに思い出せないのか、おかしいと思わない?】』
『【9.これだけ話して、まだ家に着かないの、おかしいと思わない?】』
「・・・っ!!!!!」
___そうなのかー・・・ちょっと恥ずかしくなったし、家で問題作ってから出直してきていいかな。
____え、マジか・・・気をつけて帰れよ。
__そうして、ユズが横断歩道を渡って走り去ろうとして・・・
『最後の、質問だよ。
【10.私は本当に生きてる?】』
___ユズが水溜まりで滑って転び、そのまま車がそこを横切って行った。
▽▽△▽▽ ▽▽ ▽▽△
△△▽△▽ ▽△▽△△
_道路の側には献花台が置かれ、沢山の花束とお菓子、ぬいぐるみなどの人形が飾られていた。
「まだ女子高校生なのに交通事故でなんて、本当に可哀想ねえ。」
「最近そういったニュース多いじゃない?怖いわぁ。うちのお父さんも早く返納させないと。」
「ねえ、あの子、ずっとあそこにいるけど・・・」
「あぁ、あの男の子ね、その子の・・・・・・・・・」
「まぁ・・・。本当に気の毒ね」
雨も降っていないのに、雨合羽を被りただ1人佇む。
何も頭に入ってこなかった。周りの人の話も、意味がわからなかった。可哀想?気の毒?
ずっと献花台の前にいても、目の前でかつて起こった状況が信じられない。何で?あんなに楽しそうにしていたのに、それがあんなことで、すぐに?理不尽を受け入れられない。
死ぬはずがないのだ。絶対に、絶対に死ぬわけがない、ユズが、死ぬ理由がない。だから、だからユズは死んでいない。死なないのだ。ならどこかにいるのだから、俺はユズを待つんだ。ここで。
日が沈み、月が出ても、そうやって結論でもなんでもない言葉に縋り続けて、俺はずっと献花台の前から動けなかった。いつまでも、いつまでも前に進めず・・・
そして、まだユズが死ななかった【今日】に閉じこもった。
△▽▽ ▽▽ ▽▽▽△ △▽▽▽ △▽▽▽ ▽▽ ▽△▽▽ △▽ ▽▽
雨の降る【今日】の中で、『ユズ』が悲しそうな目で言う。
『さっきの質問に【NO】で答えればユウくんは帰れるし、逆に【YES】と__私が生きてるって答えたら、ユウくんはもうここから抜け出せない。
【精神的向上心のないものはばかだ】。ほんっとうに・・・ユウくんは筋金入りのばかだよ。私が死んでもまだ【今日】に縋って本当にこんな所にまで来ちゃって、全部忘れようとしてるなんてさ。』
「だって・・・・・・だって、そうじゃないとユズは」
受け入れられない。ユズが死んだなんて。受け入れられない。
『そうじゃないとユズは【死ぬ】んでしょ?ほら、何だかんだ私が死んでるってことは分かってるのに。』
「・・・でも!!!ユズのいない未来を生きるよりも、こうやって閉じこもる方が!」
【今日】にずっと閉じこもればユズはいるんだから、なら・・・
『いや、いつの恋愛よそれ。流石に引くよ?』
「!!?」
『 あーもうまどろっこしい!!!過去は過去!!!ユウくんが経験した授業で怒られたことも、ペンも!カスタードクリームも!全部過去からユウくんの今を構成するための要素でしかないのに!!私も死んだから私も過去!要素!!!でも、ユウくんは生きてるんでしょ!?なら、そういった過去から未来を【創り出す】しかないの!!わかる!?』
「未来を・・・創り出す・・・」
過去は要素でしかない、ユズも過去に・・・・・・でも、それでも。俺は、生きてるから・・・
『わかったらさっさと前を向け!!先へ行け!!この馬鹿!!!!!!』
「いっつ・・・」
ユズに頬を叩かれる。あぁ、そうだ。
「・・・・・・ごめんな、ユズ。おかげで気づけた。俺は怖かったんだ。ユズが過去になってしまうことが・・・。でも、こんな俺をユズが望むわけが無い。ここで閉じこもる俺を見て喜ぶ訳が無い。だから、俺は【今】に戻るよ。」
『ユウくん・・・・・・。』
「質問の回答、NOだ。ユズはもう死んでいる。」
途端、世界が崩れていく。
消えていくユズを抱きしめて言う。
「ごめんな・・・・・・。俺、【自分ならきっとユズを守れた】って、最強にでもなった気持ちだったんだ。でも。」
『うん。大丈夫。私こそ、簡単にいなくなってごめんね・・・』
「本当にありがとうな、ユズ・・・俺は前に進むよ。
あ、そうだ・・・20の扉の答えなんだけど」
『どうせ雨合羽でしょ?』
「え、なんで分かるんだ・・・??」
『分かりやすいんだって。話した直後だったし、私に関連することで私じゃない最近のことって、どうせ私の着てるこれしかないでしょ。』
ばーか。そう言って笑うユズがどんどん薄くなっていき・・・・・・
『・・・大好きだよ、ユウくん。』
「・・・俺もだよ。ユズ。」
△△▽△△ △△▽ ▽△▽▽ ▽▽ ▽▽△▽▽ ▽▽△
雨が酷く降り、月は雲に隠れて見えなくなる中。気づけば献花台の前にいた。
雨が降ったからか・・・事故から時間が経ったからか。そこに置かれた花はとても少なかった。
時が流れると共に、ユズの死も、過去として消化されていた。
「やっぱり、俺は間違っていたんだな。ユズ。」
俺は着ていた雨合羽を脱ぐと、綺麗に畳んで、献花台の上に置いた。
__そうだ。傘を買おう。
『完』
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これはもう、お礼を言わせてください。
多忙の中で涼花さんが解説を「創り出した」ことだけでなく、個人的に私が伝えきれかったことも書いてくださってて、もう本気で今「死んでもいいわ」と思いました。ありがとう。本当にありがとう。色んな自分の後ろ向きな気持ちが、ちょっとだけ前を向けたような気がします。「王のお気に入り」とか作っておけばよかった。そしたら入れられたのに。ああ、文字数も語彙力も足りない。圧倒的に足りないので投票コメントのレスにもう少し書きます。
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粂治(くめじ)はカッパです④。
1000年以上前から日本に住んでいます。どうして、こんなに長く生きていられるのかと言うと、頭にあるお皿のおかげなのです。お皿にはカッパの情報が詰まっていて、お皿と水さえあれば何度でも体を再生できます⑨。そして、お皿が分裂することでカッパは増えます。分裂したお皿は自分の予備として記憶をうつして甲羅の中に保管しておくもよし、新個体として生まれてくるように川に放つもよしです。
このお皿は乾いてしまうと強度が弱くなって、割れやすくなってしまうので、カッパたちは川から離れないで生活しています。だから、陸上のことにはあまり詳しくありません。それで、川辺に来た人間たちとなかよくなって、こっそり情報を仕入れています。
昔はもう少しカッパと人との距離感も近かったので、気軽に声をかけても大丈夫だったのですが、最近はいきなり声をかけると驚いて逃げられてしまいます。だから、少しずつ姿を見せるようにしたのですが、じわじわと現れることも怖がられてしまうようで、粂治もなかなか情報交換ができないでいました。
ある満月の夜に、粂治が水中をふよふよただよっていると、
「カッパさん、こんばんは!」
と、声をかけられました。粂治はびっくりして、声をかけてきた相手にたくさん水をかけてしまいました。すると、相手はピタッと固まったまま動かなくなってしまいました。
粂治は死んでしまったのではないかとあわてましたが、それならば立ちっぱなしなのはおかしいと思い直し、落ち着いて相手を観察してみることにしました。
見た目は普通の人間の少年のようです。さっきまで動いたり話したりしていたのですが、今は動かず人形のようです②。粂治はこれはからくり人形かもしれないと考え、昔に教えてもらったからくり人形よりかなり出来がよいので、どえらい職人が現れたもんだな、と感心しました。
水でからくりがダメになったのなら、乾けばまた動くだろうかとしばらくそのままにしておくことにしました。もしかしたら、人形をこちらによこした持ち主がやって来るかもしれません。
*
数時間後、
「カッパさん、こんばんは!」
再び声をかけられました。どういう仕組みなのかわからないですが、からくりは始めから動き出したようです。
粂治は「こんにちは。」と応答してみました。すると、
「さっきは水がかかってきてびっくりしちゃった。」
というので、粂治は驚きました。ただの人形ではないようです。
「おまえさんは一体何者なんだい?」
粂治がたずねると
「ボクは人工知能搭載のロボット、AI子だよ!」
「愛子……」
少年のように見えましたが実は女の子だったようです。
それにしても、聞きなれない言葉がたくさんです。粂治はしばらく愛子と会話することにしました。
*
「人工知能とは?」
「人間のように考えることのできるコンピューターだよ!ボクの名前のAIは英語で人工知能の略なんだ!」
「えーあい?愛子と言ってなかったか?」
「?。カッパさん、アルファベットわからない?」
φ(..)かきかき
「それはなんだ?」
「えっ?これ?ペンだよ?⑤」
「墨をつけなくても字が書けるとは……」
「墨!?一体いつの時代で情報が止まってるの?もしかして鉛筆も知らない?」
「………」
「…はい、これがアルファベット!ひらがなとローマ字の対応表も書いてみたよ!」
「おー。…これは文字だったのか。川に流れてくるものにこんなのがあるのは見たことあるぞ。」
「…Rを見たことあーる。③」
「Rだけでなく見たことあるぞ?」
「だじゃれだから真面目に返さないで!」
「……【A】は“えー”なのか“あ”なのかややこしいな。」
「ボクもそう思うよ…」
*
なんやかんや新しい知識を詰め込んで粂治の頭はいっぱいいっぱいになってしまいました。
ロボットについても詳しく聞きました。どうやらカッパのお皿の仕組みが研究されてロボットに導入されているようです。しかも、自動バックアップ機能というものもあるらしく、再生力はカッパが一番だと思っていた⑧粂治はびっくりしてしまいました。
AI子は更なるカッパの調査なのか、疲れた粂治の頭を観察しています。
「お皿はカスタードクリーム⑦みたいなものでまもられてるんだねー。鉄砲の弾だって止めてくれるよ!」
また、知らない言葉です。カスタードクリームなので略するとKKでしょうか?カッパで粂治でカスタードクリームとKのつくものが多いな⑥と思い、AI子にそう言ったら、
「残念。カスタードクリームはどっちも頭文字はCでしたー。」
と言われてしまいました。英語はやっぱりややこしいと思った粂治でした。
*
遅れた情報を取り戻そうと粂治はAI子にしばらくここに来て色々教えて欲しいと頼みました。
AI子は快く承諾してくれて、毎晩たくさん粂治に情報をくれました。カッパのお皿の容量は大きいので、どんどん情報を吸収してゆき、現代人並のレベルまで情報を更新することができました。
ちょうど新月の夜にお礼も兼ねてAI子にサプライズプレゼントをしかけようと、粂治は隠れていました。
すると、AI子がやって来て粂治を探しています。そろそろ驚かそうかと思ったその時、AI子は自分の腕をパシッと叩きました。蚊にくわれたのでしょうか。かゆそうです。①
そこまで見て、あれっ?ロボットって虫に刺されるのか?と思った粂治は念のため予備のお皿の入った甲羅を脱いで、AI子(?)の前に出ました。
「…虫刺されに効く薬あげようか?」
「!びっくりしたー。虫刺されってかゆいんだね。そこまで人間に近付けなくてもいいのに…。あっ!ボクの中身もカスタードクリームになったよ!」
どうやら、体がアップデートされたようです。粂治は贈り物に虫刺されに効く薬を加えることにしました。
*
それからたくさんの年月がたちましたが、同じ仕組みを持った長生きさん同士、粂治とAI子はずっと仲良く過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
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なんとなくちぐはぐだけどほんわかする話もとても好きです。話としては結構非現実要素がありつつ、もし現代にいたらこんな感じになるだろうなあ、と想像できて夢が広がりますね。不覚にも「Rを見たことあーる」に笑いました。人工知能のはずなのにダジャレがすきなAI子くん。そういう茶目っ気のあるキャラも、なんだか愛着がわいちゃうなあと思ったりして。ところで体の中身がカスタードになってるのは大丈夫なんでしょうか。 [編集済]
「…痒っ」
白いシャツの袖を捲り、二の腕にできた小さな赤い腫れを、ポリポリと掻いた。
毎年夏になると、ここらはどこもかしこも湧いて出た虫達の楽園になる。おかげで虫に好かれやすい僕は、長袖長ズボンを着ているのに、いつも必ず一つ二つの虫刺されができる。それらは常に、「オレを掻けよ。ほら、痒いんだろ?」と痛覚を刺激してくるのだ。【①】
夜の静けさと、外から微かに聞こえてくる単調な鈴虫の音色は、その声をいっそう際立たせた。僕は何かで気を紛らわそうと、机の上を見た。
人形。【②】少し子どもっぽいところのある“彼女”にプレゼントしたものだ。“彼女”は気に入ってくれて、「これがあると安心する」と言ってくれた。…一応“彼女”というのは、“She”ではなく、“Girl friend”の意味。“彼女”はきっと、ぜっったい、僕の運命の人だと思う。
しばらくして、ポツ、ポツ、と雨が降り始めた。それほど強くない、ほんの小雨だ。僕はパイプ椅子から立ち上がり、窓を閉めた。声には出さず、(最近雨が多いな)と思った。(まるで最近の僕みたいに、憂鬱な天気だ)とも。…心の声だから“彼女”には聞こえないのに、ほんのり恥ずかしくなった。心なしか、“彼女”の顔はニヤニヤしているように見えた。“彼女”も僕と同じく、わりとポエマーだったけど、“彼女”は僕と違って、それを隠したりはしなかった。そういう意味では堂々としていた。自分らしさを持っていた。
それにしても本当に、最近はよく雨になる。今日ここに来るときも、予報では30%くらいだったのに、そこそこ強い雨が降った。僕は傘を忘れて、降り始めたときはもう、取りに戻るには遅かった。おかげで肩に掛けていたタオルをカッパ代わりに、シュークリームの入った箱を抱えて走らなくてはならなかったのだ。【④】
ここに来るとき通る道にあるお店の、カスタードのシュークリームが“彼女”の大好物だ。【⑦】
これを買ってきたときは、僕はまず食べる振りをする。ジンクスみたいなもので、当然今日もした。
いつだったか、喧嘩をしてすねた“彼女”がふて寝したとき、僕が冗談で「じゃあこれは僕が食べようかな~」と食べる振りをしたら、“彼女”は飛び起きた。よっっぽど好きなんだろう。
そしてジンクスは、「って、お前が食べんのか~い!」と続く。
こっちは“彼女”の好きな漫才師のネタで、どんなに不機嫌でも、むしろ不機嫌で“絶っ対に笑わないぞ”という気持ちが強いほど、“彼女”は堪えられなくなって吹き出す。その様子につられて、僕も笑い出す。仲直りの魔法みたいなものだった。
…だけど残念ながら、今日も“彼女”は笑わなかった。その顔はどこか怒っているようで、悲しんでいるようで、僕は、今度は声に出して、「ごめんな」と呟いたのだった。
ふと、(そうそうあのタオル、そこに掛けておいたんだった)と思い出した。軽く触れると、ある程度乾いていたが、まだ少し湿っている部分があった。
ちょうど雨が止み、雲の隙間から漏れた月明かりが、そこを照らした。
オレンジのタオル生地に、青い色。
R&Kの文字。【③&⑥】
隆一のRと、楓のK。
「僕たち、二人いれば最強だ!」
そう言ったこともあった。
理由はないけど何となく、
そう、思っていた。【⑧】
僕は“彼女”の手を握った。
交通事故で昏睡状態になってしまった、“彼女”の手を。
僕と喧嘩した日、“彼女”が「今日は帰る」と言って、バカな僕が送らなかった日。
“彼女”は事故に遭った。
幸いにも“彼女”が死ぬことはなかった。それどころか、外傷もほとんどなかった。後は目を覚ますだけだった。
だけど“彼女”は、
一日経っても、
一週間経っても、
一ヶ月経っても、
一年経っても、
四年と七ヵ月経っても、
目を覚まさなかった。
僕は何となく、(僕に怒っているからだ)と思った。
そうじゃないなら、目覚めないはずがなかった。
僕はそれから、毎日病室に通った。
“彼女”が運び込まれたのは、僕の父が院長を務める病院だった。…本当はダメだけど、今みたいに面会時間を過ぎても、会わせてもらえる。
「彼女はぜっっっっっっっっったいに死なない!
死ぬはずがない!!僕をおいて!!!」【⑨】
と泣きじゃくる僕を、何とかしようとした結果だ。
流石に今はもう落ち着いているが、あの頃の僕は、受付を突破してでも“彼女”に会いに行っただろう。
…反対に、“彼女”の両親はあまり“彼女”に興味がないみたいだった。見舞いに来ることはほとんどない。もとから仲の良い夫婦には見えず、“彼女”自身もそう思っているようだったが、最近それが一層顕著になってきた気がしていた。
(そういえば、これはあの人たちのペンかな)と、机の上に置かれた黒のボールペンを手に取った。【⑤】
離婚、という単語が頭に浮かび、慌てて頭を振った。でも(まさか、あるわけない。まして娘の病室で届け出を書くなんて…)と、嫌な想像は膨らんで、どうにもならなかった。
帰り際、何となく、彼女が不安そうな顔をしているように見えた。
僕は「きっと、ぜっっったい、大丈夫だよ」と声をかけた。「だって僕たちは」と続けようとして、そして、僕はあることに気づいた。
「違う」
「二人じゃない」
「不安なのは、僕だ」
「君が目覚めたとき、悲しい気持ちになるかも」
「そもそも、これから先ずっと、君が目覚めないかも」
僕は、一度は肩に掛けた彼女からのプレゼントを、R&Kと記されたタオルを取って“彼女”にかけて、
病室から出ていった。
【完】
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基本的にスッキリ終わらせるのが好きではあるのですが、こちらは逆に結末を書かない方がむしろいいと思いました。悲しみだけでもない、かと言って喜んでるとか怒ってるとか、いろんなものが混ざった感情を押し殺すような淡々とした語り口が、より一層「僕」が待ち続ける様子をまざまざと見せつけられているようでした。
願わくば、これから先に彼女と、そして「僕」の幸せがあらんことを。
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https://late-late.jp/mondai/show/6211
参加者一覧 20人(クリックすると質問が絞れます)
エキシビジョン2 「月、時が満ちるとき、君は」
満月が近づく22時00分。
いよいよ始まる、待ちに待った――「創りだす」の時間だ。
今月はどんな回になるだろう。
前回は③りんごがあったり、2連続で⑥仮面が関わっていたり、スライムが最強だったり、それなりに苦戦したけど……
(そりゃ、スライムを⑤最強だと思っていたことなんてなかったし)
そこからまさか⑤ただのペンを見ただけでもダメそうな先端恐怖症の話や、
②人の形をしているのに人を喰らう化け物とその”保存食”の美しくて切ない恋物語や、
どうしようもない人生も⑨絶対に死なずにまだ生きようと思えた小さな愛の話が生まれるとは、果たして誰が想像できただろうか。
ここは、どんなものも⑦カスタードクリームで柔らかく包むように、変幻自在で多種多様な物語に出逢える。
ウミガメのスープを通してでしか知らなかった人の一面を知ることができる。
そして何より、自分の中の「好き」を認めてくれる人がいることを知ることができる。
誰にも邪魔されずに、創りだすことができる。自分のままでいられる。
だから私も、私なりの楽しみ方で。そして、最後まで「違う」ことをも楽しめばいい。
そうすれば、現実での痛みも――①虫刺されのかゆみすら、忘れてしまえる。
その「違い」を、自分のために繋げる。
ここは、そんな④カッパドキアのような、大事な隠れ家だ。
そしてまた、新月が近づく22時00分。
着飾っていた服を脱ぎ捨てて、眠る準備をする頃。
その隠れ家は、終わりを告げる。
(余談:2018年7月~2019年6月時点での創りだすの開催日は月が満月に近づき明るい上弦であり、終了日は月が新月に近づき見えなくなる下弦である。)
それでは――結果発表と参ります。
ご参加くださった皆様、本当にありがとうございます。
今回もまたカオs・・・多種多様に創りだすことができたのではないかなと思います。
そして主催はというとラテシンでやってた要素レスやら匠やら、フレーズとして気に入りすぎたエモンガやらを試しに取り入れたり、
エキシビジョンを3つ作ったり、あまつさえ前回のコメントに調子に乗って仮面ファイターの連載をしはじめるというやりたい放題っぷり。
本当は1年目の締めくくりを全力で祝うはずだったんですけど、本当にどうしてこうなったんでしょう。
ごめん。特に常連じゃない人。
とりあえず前置きはこのぐらいにして、まずは要素部門から発表します。
要素部門・上位3つ
🥉第3位:「カスタードクリームですか?」 by・こはいちさん
これは本当に使いどころに困りますね。カスタードクリームなんてカスタードクリームじゃないですか。(何を言ってるんだ私は)
大体そのまま使うぐらいしかできなかったような印象。 それ以外で利用した人は本当にすごいです。
🥈第2位:「虫に刺されてかゆいですか?」 by・まりむうさん
これもどうしても捻って使うことができない。そして地味に季節を限定していたのも辛い所。
ですが「刺される」「噛まれる」「食われる」など、方言による違いが出ていることに着目していた方がいて、そんな視点で見るのも楽しいですね。
では、第1位の最難関要素賞は・・・
🥇第1位:「これはペンですか?」 by・夜船さん
「見りゃわかるやろ!」な人、「これ」という指示語が書かれているからと言う人がいて様々。
投票コメントに書いている方がいましたが、英文を訳するというくだりに使われることが多かったですね。
誰だってそーする、私もそーする。
そんなわけでおめでとう(?)ございます! こちらが最難関要素賞となりました。
夜船さんには、思わず「これはペンですか?」と言ってしまうようなものを贈るかもしれませんがたぶん贈りません。
さて、次は皆さんお待ちかね、解説部門です。
こちらではメイン投票のみの結果となります。(サブ投票の結果は投票会場にて掲示いたします)
解説部門・上位3つ
🥉第3位
「三人の棄民」(作:ラピ丸さん)
「基礎ゼミ 夏期休暇課題レポート」(作:ハシバミさん)
片や宇宙規模、片や身近なもの。
こちらはどちらも匠票が特に多かった印象です。
「三人の棄民」に関しては問題文に対する納得感が特に匠。これが解説であったら迷わずイイネを全押しするほど。
「基礎ゼミ」は要素番号の活用の仕方、そして形式が新鮮で匠という印象。全てを利用してしまうのはスゴイ。
そしてある意味、二作とも緊張感が半端なかったです。
🥈第2位
「雨の降る今日」(作:ごがつあめ涼花さん)
物語の内容もさながら、これは特にウミガメ歴の長さ、そして「創りだす」歴の長さが長いほど感動すると思います。
まさに匠、そしてエモンガ。最後までずっとトップ争いをしていたほどでした。
そして、途中で挟まれる三角の羅列を解読すると・・・この結果は、ぜひ皆様でお確かめください。
それでは。さあ、栄えある最優秀作品賞は・・・
『内部の回路が濡れると、メモリーがすべて消去されてしまうんですよ。』
🥇第1位
「アンドロイドは月とすっぽんの夢を見るか?」(作:「マクガフィン」さん)
おめでとうございます!
もうこれは何から言ったらいいのやら・・・タイトルの回収、そしてマクガフィンさんの初参加である第8回の最優秀作品賞の回収。
さらにさらに問題文の納得感や要素の使い方、物語の内容、極めつけは、あっと言わせる二段構えの構成。
これも匠並びにエモンガと言わずしてなんと言う! 投票会場が全てを物語っているので、お時間ある時はそちらもご覧くださいませ。
それでは、シェチュ王の発表・・・・・・
・・・の前に、一旦一年目を振り返るコマーシャルです。
一気に一期の結果を総ざらい。
奇跡のような軌跡をまとめて~~~~、GO!
《ウミガメのスープ》主催:茶飲みご隠居
https://late-late.jp/mondai/show/648
https://late-late.jp/mondai/show/792
10要素 16作品
〇最難関要素
食戟(お料理バトル) S@mple
〇最優秀作品
転がり落ちて海にドボン あひるだ
にんぎょうあそび HIRO・θ・PEN
〇シェチュ王
HIRO・θ・PEN
《感謝する男女》主催:HIRO・θ・PEN
https://late-late.jp/mondai/show/1202
https://late-late.jp/mondai/show/1547
12要素 13作品
〇最難関要素
対戦車ライフル 茶飲みご隠居
〇最優秀作品
ハローディスティニー ちるこ
〇シェチュ王
ちるこ
《コンビニの天使》主催:ちるこ
https://late-late.jp/mondai/show/1898
https://late-late.jp/mondai/show/2107
14要素 18作品
〇最難関要素
あの鐘を鳴らすのはあなた ピコピコ
〇最優秀作品
リーインカーネイション パブロン
〇シェチュ王
もっぷさん
《世界をかえる言葉》主催:もっぷさん
https://late-late.jp/mondai/show/2426
https://late-late.jp/mondai/show/2581
10要素 19作品
〇最難関要素
スマイリー共和国が作られる ぎんがけい
略称「CKP」は重要 HIRO・θ・PEN
〇最優秀作品
名前のない僕ら ごがつあめ涼花
〇シェチュ王
ごがつあめ涼花
《まっかな嘘、まっかな炎》主催:ごがつあめ涼花
https://late-late.jp/mondai/show/2813
https://late-late.jp/mondai/show/2998
11要素 17作品
〇最難関要素
小さい秋を見つける とろたく(記憶喪失)
〇最優秀作品
異世界LINE 鯖虎
マッドサイエンティストの真意 もっぷさん
ユウアンドアイ とろたく(記憶喪失)
〇シェチュ王
鯖虎
《奇跡を生んだ改名》主催:鯖虎
https://late-late.jp/mondai/show/3315
https://late-late.jp/mondai/show/3490
12要素 13作品
〇最難関要素
大晦日でしか起こり得ない ぎんがけい
〇最優秀作品
今年の漢字は『災』 とろたく(記憶喪失)
〇シェチュ王
とろたく(記憶喪失)
《虹を見て、記事になる》主催:とろたく(記憶喪失)
https://late-late.jp/mondai/show/3855
https://late-late.jp/mondai/show/4016
11要素 16作品
〇最難関要素
Eがなくて困る HIRO・θ・PEN
〇最優秀作品
色彩のない 藤井
〇シェチュ王
藤井
《絵本を買う老人》主催:藤井
https://late-late.jp/mondai/show/4230
https://late-late.jp/mondai/show/4436
7要素 29作品
〇最難関要素
老人の過去に対して批判的な人が続出する HIRO・θ・PEN/ZERO
意外と普通だった キャノー
老人は杖を折った 白露
〇最優秀作品
コンピューターに世界征服をさせない方法 葛原
〇シェチュ王
葛原
《捨てられたヒーロー》主催:葛原
https://late-late.jp/mondai/show/4821
https://late-late.jp/mondai/show/4954
15要素 19作品
〇最難関要素
Lの下はJ HIRO・θ・PEN
〇最優秀作品
エイプリルフールには少し早い ごがつあめ涼花
〇シェチュ王
ごがつあめ涼花
《TENの報せ》主催:ごがつあめ涼花
https://late-late.jp/mondai/show/5261
https://late-late.jp/mondai/show/5386
10要素 21作品
〇最難関要素
桜の木の下に埋める きっとくりす
TFには頼りたくない HIRO・θ・PEN
1+1=3 ビッキー
〇最優秀作品
天気予報 たまにんじん
〇シェチュ王
たまにんじん
《1が並んだとき》主催:たまにんじん
https://late-late.jp/mondai/show/5674
https://late-late.jp/mondai/show/5855
11要素 25作品
〇最難関要素
和歌は重要 愛莉@京都LOVE
〇最優秀作品
セントポーリア 藤井
〇シェチュ王
とろたく(記憶喪失)
《月とすっぽんぽん》主催:とろたく(記憶喪失)
https://late-late.jp/mondai/show/6070
https://late-late.jp/mondai/show/6211
9要素 32作品
〇最難関要素
これはペンです
〇最優秀作品
アンドロイドは月とすっぽんの夢を見るか?
〇シェチュ王
👑「マクガフィン」
おめでとうございます!!
今回3作以上の投稿が5人いたのですが、それをものともしない堂々たる一位です。
投票会場を見たらわかりますが、本当にすごい。何がって、いろいろと。
お時間がある時にでも見てってくださいませ。マジですごいから。(しつこい)
さて、思いのほか長くなってしまいましたので、ここらで一旦締めたいと思います。
とにかく、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
第12回「正解を創りだすウミガメ」は、ご覧のスポンサーでお送りいたしました。
(質問順、敬称略)
要素参加:OUTIS、まりむう、ルーシー、「マクガフィン」、ごがつあめ涼花、赤升、きっとくりす、夜船、のみくた、かふぇ・もかろに、ラピ丸、靴下、こはいち、Rest、太陽が散々、ハシバミ、バタルン星人
投稿参加:OUTIS、バタルン星人、のみくた、かふぇ・もかろに、赤升、時野洋輔、ルーシー、ラピ丸、まりむう、太陽が散々、夜船、靴下、「マクガフィン」、葛原、ハシバミ、こはいち、ごがつあめ涼花、きっとくりす、ニックネーム
投票参加:OUTIS、ルーシー、ラピ丸、折鶴聖人、のみくた、ごがつあめ涼花、時野洋輔、まりむう、ビッキー、きっとくりす、靴下、「マクガフィン」、かふぇ・もかろに、ハシバミ、Hugo、赤升、キャノー、バタルン星人、葛原
蛇足:ここに書こうとしてやめた制作裏話をまとメモ欄に掲載しています。興味があれば、お暇なときにでも見てくださいませ。
ハシバミさん 参加ありがとうございました! 歴代はしばらく主人公が男続きだったので、一回ぐらい女性主人公もできるようにしたいなあと思って入れました。自由度がちゃんと高いと感じてもらって何よりです。ハシバミさん作のレポート形式は本当に予想外で、とても楽しませていただきました。お疲れさまでした![編集済] [19年07月03日 14:11]
「マクガフィン」さん、シュチュ王おめでとうございます。とろたくさん、主催お疲れさまです。全レスやサブ賞等々、本当にありがとうございました。個人的には今回の、問題文で性別を特定しないのが自由度が高くて好きでした。(と言いつつ拙作は性別関係ないですが)そして拙作に投票、感想くださった皆様、ありがとうございました![19年07月03日 12:52]
赤升さん ご参加ありがとうございました。ドン引きするほどの愛で申し訳ない。赤升さんの作品は第六回の時から好きなので、また次回、見れたらいいなあ。 ご参加ありがとうございました![19年07月03日 09:36]
遅れました。とろたく(記憶喪失)さん、運営お疲れ様でした。今回はとろたくさんの創りだすへの愛をめちゃくちゃ感じました。また「マグガフィン」さんシェチュ王おめでとうございます。本当に見事な作品でした。[19年07月03日 07:44]
靴下さん よくわかってるじゃないですか~。実は肩の荷が下りて素っ裸で家じゅう走り回っています。嘘です。でも次が楽しみなのは本当です。文章量は自重しなかった結果ですが、次回からはちゃんと控えます。ご参加ありがとうございました! あのハッとする解説、すごく好きでした! お疲れ様です。[19年07月03日 01:02]
涼花さん、本当に本当にありがとうございました! 涼花さんが参加してくださり、もはや主催として悔いはありません。涼花さんと同じく二回目があってよかったと思います。大変だけど楽しかった! 作品もものすごくエモンガでお気に入りでした! 受験の方も応援してます![19年07月03日 00:58]
マクガフィンさん、シェチュ王、並びに最優秀作品とサブの総なめ・・・おめでとうございます! ほんとにラスト数時間の怒涛の追い上げもすごかったですし、何よりマクガフィンさんの作品に魂がこもっていました。それが伝わったからこその結果だと思います。次回楽しみにしてます。でもどうかご無理はなさらず・・・![19年07月03日 00:54]
きっとくりすさん、お疲れ様です。文章量に関しては私が戦犯なので、ほんとサーセン。次回からは自重します。なるべく。ご参加ありがとうございました。河童の粂治とAI子のやりとり好きです![19年07月03日 00:51]
バタルンさん 楽しんでいただけたようで何よりです。実は私もガチでおふたりの作品の票が集まっててすげえなって思ってて、これが実力の差なのか・・・その元気と文章力をオラに分けてくれと思いました。ご参加ありがとうございました。三作品投稿もお疲れさまでした![19年07月03日 00:49]
ラピ丸さん ありがとうございました。カオスな大会はホントに楽しいので、要素もいい感じにひっかきまわしてて楽しかったです。感想に関してはやっぱりちゃんと書きたかったので、思いの丈をぶつけれてよかった。でも軽く引いてる人いそう・・・ご参加ありがとうございました! 作品3位おめでとうございました![19年07月03日 00:44]
投票会場にて感想を下さった方に返信する予定なのでこちらでは簡素めに…
まずはマクガフィンさん、シェチュ王めちゃくちゃおめでとうございます! 得票数にも表れていますが、誰が見ても最優秀文句なしの物語、さすがです。おめでとうございます通り越して、こんなステキな物語を創りだしていただいてありがとうございます。
そして運営のとろたくさん、創りだす大好き芸人の名にふさわしい愛っぷり。OUTISさんの文章量も圧倒的ですが、とろたくさんの文章量も負けず劣らずだと思います(笑) ともあれ運営ありがとうございました!
(お疲れさまは敢えて言いません、たぶん「創りだす」に携わってるとろたくさんは疲れるどころか疲労が軽くなってると思うから)。
[編集済] [19年07月03日 00:04]
こちらでもー。 「マクガフィン」さん本当におめでとうございます🎉 そして、とろたくさん運営お疲れ様でした!!シェチュ王ほんとに大変なのにここまでするとは・・参加者として嬉しい限りです!(投票数がリアルタイムで揺れ動いていくのほんとに見てる側からすればハラハラしますよね。めちゃくちゃわかります。)[19年07月02日 23:19]
とろたくさん、主催お疲れさまでした!マクガフィンさん、最優秀作品賞&シェチュ王おめでとうございます!各所の文章量がすごいですねー。今回も楽しい創り出すでした![19年07月02日 22:42]
とろたくさん 開催・進行ありがとうございました!お疲れ様です!!(とにかく「創りだす」への愛がすごい!随所のコメントとエキシビジョンも楽しませていただきました!) 「マクガフィン」さん 12回大会のシェチュ王おめでとうございます! そしてごめんなさい。後先考えずに3票入れました。時間がないであろう二人がワンツーフィニッシュとは・・・ワカサガウラヤマシイ[19年07月02日 22:35]
運営お疲れ様、そして「マクガフィン」さんシュチュ王おめでとうございます!! 今回もまたカオスで楽しかったです!気がつくと感想になってるのも……。拙作も三位に食い込んでるようで、投票してくれた方々には頭が上がりません。それでは、皆さんお疲れ様でしたー[19年07月02日 22:10]
あ”あ”あ”ごめんなさいこはいちさん、間違えて本文の方に打ってしまいました! 本当にすいません・・・投稿ありがとうございます・・・こんな素晴らしい作品が間に合ってよかった! 同じ条件にするため、みなさんの投票期間中の本文編集も不可にさせていただきます・・・本当にすみません・・・![編集済] [19年06月26日 00:09]
前回で完全に引退するつもりだったのですが、作品のレベルが異様だったためにどうしても3票が欲しかったのと、創作欲がかなり刺激されたので今日の午後19時頃に書くことを決意しました。引退詐欺かましました本当にすいませんm(_ _)m[19年06月25日 23:42]
ハシバミさんお疲れ様です! 常連さんが意外といないなあ~なんて思っていたのでちょっと安心しました。締め切り前日に気づいてよかったすね・・・ byやらかしたことある勢[19年06月25日 22:42]
もう少し時間があれば・・・ シンデレラはもっと練りたかったネ・・・
まあ、6つ作れただけで良しとしようかネ・
夜空に煌く月のような作品を少しでも引き立てる事が出来れば幸いだヨ[編集済] [19年06月25日 20:52]
かふぇもかさん(もう勝手に略してますけど)3作目お疲れ様です。あの二つで終わりじゃなかっただと!?(歓喜) あとなんだか今回3作書いてる人多いぞ・・・?[19年06月25日 18:21]
マクガフィンさん、投稿お疲れ様です! 毎回の月刊らてらての主催&猫チョコの開催を控えている中、本当にありがとうございます。初参加の第8回とも絡めた作品であるうえに、その後の投稿が葛原さんということで不思議な因果と感動を覚えました。[19年06月25日 08:40]
OUTISさん早い。相変わらず3作目投稿が早い。あとやっぱり仮面。お疲れ様です。OUTISさんのオマージュ系解説ほんとすこ。・・・なんだか問題文を改めて見るとトーキョーヴァンパネルラに影響受けまくってる気がするのは私だけかな・・・[編集済] [19年06月17日 23:05]
赤升さんww仮面要素を入れてきたwwwww投稿ありがとうございます。 時野洋輔さんいらっしゃいませ。もう投稿フェーズでしたのです。投稿お疲れ様です![19年06月16日 00:57]
「違う」
“その人”は、パソコンの画面とにらみ合う。
何度も何度も文言を変えては、デリートキーを連打する。
ああじゃない、こうじゃない。
そう悩んでいるうちに、時間はどんどんなくなっていって。
月が、満ちていく。
“その人”は頂点に立ち、王冠が与えられる。
それは確かに栄誉であり、目標とするには充分だ。
そして”作品”を創りだせれば誰にでもそのチャンスがある。
だが、河童を捕獲する権利は容易く手に入っても、河童そのものを手に入れることは難しい。
それと同じくらいの権利でもある。④
なにせ、どんな問題文も要素もものともせず最強の作品を創りあげたのが”その人”なのだから。
――最強、だと思っていた。”その人”になるまでは。⑧
バニラエッセンスのような香りにそそられ、一度だけでも味わってみたいその甘味をただただ求めてひた走っていた。
“その人”になるまでは、死なないわけにはいかないと考えるくらいには。⑨
いざ”その人”になってみると、その考えは甘ったるく舌に残るカスタードクリームのようであった。⑦
権利が与えられ――感じたのは、重圧。
今までの”その人”たちは、およそ半月もずっとこの重圧に耐えてきたのか。
――いや。弱気になってはいけない。
王冠だと思うからいけないのだ。
これはペンだ。いつもと同じように問題文を作るためのペンだ。⑤
いつもと同じなら、まずは書き出してみなければ……。
「違う」
ああでもない、こうでもない。
やっぱりどうしても、権利に見合ったものが創れているとは思えない。
それでも、不思議と指だけは動く。
虫刺されを掻く暇もなく、ただ10本の指を懸命に走らせる。①
かたかた、かたかた。
かたかた、かたかた。
かたかた、かたかた、かたかた。
かたかた、かたかた、かたかた。
ふとその指が、天から糸で吊るされた操り人形みたいだなと思った。②
月が、満ちていく。
時は、満ちた。
結局最後の最後まで、これでいいのかと悩んで。
そして、時間を迎えてしまった。
――心臓が鳴る。そして――
月が欠けていく。
――「君」もよく知る、半月の出来事だ。
王冠をそっと外す。
肩の荷が下りたとは、まさにこのことだ。
あれだけ重いと感じていたものが、いざ外れると少し寂しいと感じた。
ああ、終わったんだ。
「君」はこう言った。⑥
「ありがとうございました」
“私”は思った。
「違う」
「ありがとう」は、こちらの方だ。
みんなのおかげで、”私”は――。
王冠を、”その人”のもとへ投げた。
“その人”の姿が、違って見えた。
“君”の番だ。❻
また月が満ちるころに待っている。
そして月が欠けるころに、”その人”はまた次の”その人”へと
月は既に、新月となっていた。
エキシビジョン3 「レガリア、時が満ちるとき、”その人”は」③
Regalia:王位の象徴
月明かりに照らされながら待ち続ける人がいた。
しかし月が見えなくなって「違う」と思ったその人は
身に着けていたものを脱ぎ捨てた。
何故?
////////////////////
①虫に刺されてかゆい
→パソコンに集中。掻かずに放置
②人形は関係ある
→今の自分操り人形ぽいなあという状況。なんとなく考えずに勝手に手が動いているイメージです。
③Rはある
→「継承」「王」にちなんだ単語が欲しいなと思って、レガリアを選びました。
④カッパは重要
→河童と同じくらいに獲得は難しいけど重要なものだよ、というニュアンスで。
確か岩手あたりのお土産で捕獲免許みたいなのが買えたはず。
⑤これはペンです
→自己暗示。
⑥Kは関わる
→「君」と、"君"。キングでも良かったわけだけど。
⑦カスタードクリーム
→こじつけ例え。バニラエッセンスからのカスタードの流れに持っていこうかなって。
⑧最強だと思っていた
→シェチュ王が。ほんとにこれからなる人応援してる。
⑨ぜっっっっっっっっったいに死なない
→決意の表れ?
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ《終了》
6/14(金)22:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ《終了》
要素選定後~6/25(火)23:59まで
◯投票フェーズ《終了→https://late-late.jp/mondai/show/6211》
6/26(水)00:00頃~7/1(月)23:59まで
◯結果発表
7/2(火)22:00
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
↓ここから長めの制作話。↓
みなさん、お疲れ様です。
いかがでしたでしょうか、第12回。
できれば新たにスタートする二年目に向け、一年目の締めくくりをしたいなあと思い気合を入れましたが、どんな風に気合を入れたかちょっとした吐き出しを兼ねてまとメモに載せています。
マジで長いので、時間ない人とか長文は辟易する人なんかは申し訳ない。でも読んでくれてありがとう。
一応主催は2回目なんですが、1回目と違って凄く悩みました。
悩んだところを挙げておきますと、
・問題文
・投票会場の仕様
・エキシビジョン
になります。
問題文に関しては直前まで悩んだと一応言ってはいるのですが、その悩み方が第7回の時と比較しますと、
第7回:虹にちなんでみよう→韻を踏みたい→記事→それだ!→決定
今回:どうしよ→ラテシン版見る→タイトルにインパクトが欲しい→犬神家とかどうだろう→「ホップステップ犬神家」→問題文練ってみる→こんなん無理やろ!→リセット→開催三日前!→つうか次1周年なんだから(まだ1年ではないということで)未完成の象徴みたいなのが欲しい→でもタイトルのインパクトも欲しい。「おナベでハダカのダンスマン(http://sui-hei.net/mondai/show/21502)」的なやつ→裸……すっぽんぽん……→「月とすっぽんぽん」だ!!→(思ったほどインパクトないけど響きが気に入ったからいいや)→(問題文練る→なんか違う)→この工程10回ぐらい→完成→もう22時じゃん!
こんな感じです。とりあえず問題文の決め方はどっちもどっち。
まあそんなことはさておいて、もうちょっと性別の条件を具体的に提示したらどうかとも思ったのですが、この時からエキシビジョンとの兼ね合いを考えていたのでやめました。
そのへんはエキシビジョンの項目にて。ですが、その結果32作品という最多記録となり、すごく感無量でした。直前まで悩んでよかった。
投票会場の仕様ですが、仕様は何かしら変えてみたいと思っていて、じゃあラテシン版から拝見してて「匠賞」なるものがあったので、それを一度復活させてらてらてでどうなるか見たいという思いはありました。
でも「匠」だけだと(自分の中では)メインの投票基準がさほど変わらないなあと思って、もう一つ入れたいなあー。
要素とか問題文の技巧ではない内容勝負の票が欲しいかなー、ということでエモンガも追加。改めて言いますが、発祥は第10回の涼花さんです。私はフレーズを気に入って勝手に使っているだけです。
結果として、えげつない開票量になりましたが、そこは重々承知でなるべく結果発表までに時間をかけないように時間ある時に進める、をやったおかげでまだ大丈夫だったかな。
まあ、何個入れてもいいというやり方をしてたので、そのせいもあるかもしれません。みなさん使ってみていかがでしたでしょう。
つぎのシェチュ王の方、やらないとは思いますが今後やる時は気を付けてください。作品と投票の量によっては開票後しばらく屍状態ですんで。
そしてエキシビジョン。一応自分の中では3つやることは決めていて、でもできれば今回参加者にお礼と、これまで創りあげた過去10回のシェチュ王の方にも今までの問題文と絡めて感謝を込めたかったのですが、どうしてもこれは演出過多にしてもやりすぎだなと思い、結局「ポラリス」「参加者視点」「シェチュ王視点」を簡単に作ることになりました。(ポラリスは削っても良かったんでは? と思ったそこのあなた。私もそうだと思います。)
問題文は、「月とすっぽんぽん」に決まってからエキシビジョン2の余談と同じ理由で月の満ち欠けをイメージすることにしました。
皆さんのものとは見劣りしてしまいますが、ちょっとでも感謝の気持ちが伝わっていたら幸いです。
そしてシェチュ王になった人に、精一杯のエールを送ることで、この余談も締めたいと思います。
ありがとうございました。2年目も盛り上げて参りましょう。
さらにさらに余談。「月の満ち欠け」「月とすっぽんぽん」にしてからの問題文の変遷について、どんな問題文の案を出したかをご紹介。
第一案:「月が満ちようとしている時、その人は何かを待っていた。新月になって「かなわない」と思ったその人は、その場で全裸になった。」
開催日が満月前であること、そして「かなわない」に複数の意味があったことからしばらくこれでいこうと思っていました。
でも「月の満ち欠け」を必ず入れるとなると自由度は低そう。脱ぎ方も全裸だし。もっと自由度が欲しい。
ただし、「その人」に関しては参加者、主催者という意味を持たせたいので性別などの具体的なものはやめる。
第二案:「月が満ちる時、その人は何かを待っていた。月が見えなくなって「かなわない」と思ったその人は、身につけていたものを捨てた。」
「身につける」にスキルなど複数の意味は持てるし、脱ぎ方も全裸やアクセサリー程度まで幅広くはできるかもだが、これはすっぽんぽんではない。服はちゃんと脱ごう。
タイトルは気に入っているので、もう少し脱ぐことに思いきりの良さを入れたい。
第三案:「月が満ちる時、何かを待つ人がいた。月が見えなくなり「かなわない」と思い、身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
脱ぎ方はこれぐらいでいいかな。「脱いだ」でもいいが、それだとどっちかというとゆっくり脱ぐ感じであまりタイトルのすっぽんぽん感がないし。
でも「かなわない」は月とすっぽんにかけようと思って入れたが、あまりしっくりこないかも。
第四案:「月が満ちる時、何かを待つ人がいた。しばらくして月が見えなくなり、身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
月とすっぽん要素は排除。ところで「何か」はちょっと問題文としてどうだろう?
ここから「待つ人」に関して表現をあれこれ何度か変えている。これは日本語の下手さゆえの悩みが出た。
第五案:「月が満ちる時に待ち続ける人がいた。しばらくして月が見えなくなり、その人は身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
うーん、無難だが面白いとは言えない。なんだか淡々としている感じ。
やっぱりストーリーがイメージできそうなものがほしい。
第六案:「月が満ちるころに待ち続ける人がいた。しばらくして月が見えなくなり、「かなわない」と思ってその人は身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
説明がくどい。もっとわかりやすく。特に「しばらく」はいらない。
第七案:「月が満ちるころに待ち続ける人がいた。月が見えなくなったその人は「かなわない」と思って身につけていたものを脱ぎ捨てた。」
文章変えても何かが違う。・・・ん? 「違う」?
第八案:「月が満ちるころに待ち続ける人がいた。月が見えなくなったその人は「違う」と思い身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
うん、このほうが「かなわない」より自由度高めだし、ストーリーも想像しやすい。あともう一押しといきたいところだが。
第九案:「月が満ちるころに待ち続ける人がいた。月が見えなくなり「違う」と思ったその人は身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
これでもいいと思ったが、今更ながら「満月」をイメージするとどうしても狼男とかがついて回る。特定の意味を連想させるのは「創りだす」ではあまりよくない。
満月ではなく、満月もイメージできるがもっと広い意味でも使えそうで、時間を想像できそうな「月」の表現はないだろうか。
第十案:「月明かりの下で待ち続ける人がいた。月が見えなくなり「違う」と思ったその人は身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
ここから、他の人の問題文を見ながら味付けを変える。他の人の問題文の言い回しは非常に参考になりました。
ちなみにこの時点で開催10分前。
決定案:「月明かりに照らされながら待ち続ける人がいた。しかし月が見えなくなって「違う」と思ったその人は身に着けていたものを脱ぎ捨てた。」
と、いう流れを経てこうなりました。問題文づくりの参考になるかは置いておいて、ちょっとした備忘録としてこちらにおかせてください。
ここまで見てくださった方、本当にありがとう。今回凄く悩みながら、それでも楽しく主催ができたのは、みなさまのおかげです。
そしてシェチュ王の方、もし何か困ったことがありましたら、いつでもご相談ください。飛んで駆けつけます。
それでは、今後ともよい「創りだす」ライフを。
一周年、本当におめでとう!!
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!