(前回の様子:第6回 https://late-late.jp/mondai/show/3315 )
年が明けて1月。年末年始、実家に帰省した方も多いのではないでしょうか。
年末年始でなくとも、成人の日に故郷の旧友と再会、そんなこともあったかもしれません。
私たちにとっては、このらてらて鯖も帰る家の1つです。
そんな私たちの家で新年1発目、景気のいい解説を創り出してみませんか?
今回は要素11個! 前回より一つ少なめですが、1のゾロ目で参ります。
新顔さんも常連さんも、みんなまとめていらっしゃーい。
では問題文ドン!
■■ 問題文 ■■
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男は虹を見た。
その後、男の行動がニュースになった。
一体、何があった?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この問題には、解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。
以下のルールをご確認ください。
■■ ルール説明 ■■
1・要素募集フェーズ
初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、“YESかNOで答えられる質問”を受け付けます。質問は1人3回まで。
2.皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切ります。
質問の中から11個がランダムで選ばれ、「YES!」の返答とともに[良い質問](=良質)が付きます。
※[良質]としたものを以下『要素』と呼びます。
※選ばれなかった質問には「YesNo どちらでも構いません。」と回答します。こちらは解説に使わなくても構いません。
※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用しません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
2・投稿フェーズ
選ばれた要素に合致するストーリーを考え、質問欄に書き込んでください。
らてらて鯖の規約に違反しない限りなんでもアリです。
通常の出題と違い、趣味丸出しでも大丈夫。お好きなようにお創りください。
とんでもネタ設定・超ブラック真面目設定もOK!
コメディーでも、ミステリーでも、ホラー、SF、童話、純愛、時代物 etc....
皆様の想像力で、自由自在にかっ飛んでください。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。魅力たっぷりの名作(迷作?)・快作(怪作?)等いろいろ先例がございます。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
5.本文の末尾に、おわり完など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
3・投票フェーズ
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
4・結果発表
皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈します。
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)→その作品に[良質]を進呈します。
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)→全ての作品に[正解]を進呈します。
そして、見事[シェチュ王]になられた方には、次回の正解を創りだすウミガメを出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
1/16(水)19:00~質問数が50個に達するまで
(万が一質問が集まらない場合は1/17(木)23:59で締め切ります)
◯投稿フェーズ
要素選定後~1/27(日)23:59まで
◯投票フェーズ
1/28(月)00:00頃~2/1(金)23:59まで
◯結果発表
2/2(土)22:00ごろを予定しております。
■■ お願い ■■
『要素募集フェーズ』に参加した方は、出来る限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
とりあえず考えて投稿してみるだけでも、気づいたら創り出すの常連になっています。何事も「やってみる」ことです。
解説は1個のみでなくても構いません。思いつく限り、何個でも投稿可能です。
素敵な解説をお待ちしております!
もちろん、『投稿フェーズ』と『投票フェーズ』には、参加制限など一切ありません。途中参加も大歓迎!
どなた様も、積極的にご参加ください。
それでは、『要素募集フェーズ』スタート。
質問は1人3回までですので、渾身の質問、お待ちしてます!
結果発表!! 皆様ご参加ありがとうございました!
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*あとで[良質]をつけるので、最初に本文とは別に「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【1/27(日)23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ!
「あはははははははははははは」
闇夜に笑い声が響く
「ついに完成したぞ。これで世界は私のものだぁ!」
そう言って高らかに笑う
その声は人間の理解できる言語を発していなかった
ある日男は職場から帰る途中に虹色の何かが浮かんでいるのを見つけた。
はじめは自分の目がおかしいのかと焦る。③
しかしおかしいのは虹のほうだと気づくのにさほど時間はかからなかった。
それは暗闇の中に浮かんでいながらもはっきりとそこに存在し、
しかしながら発光などはしていなかった。
明らかに科学的には成り立たない。
異常なまでにそれに興味をひかれた。
そしてその虹色に触れてしまったのが運の尽きだった。
そもそも出会ってしまったことが間違いだったのだろう。
触れると同時に彼の視界が裏返る。
目に映るのはこの世のものではない”なにか”
彼は深淵をのぞき込んでしまった。⑦
そして彼は狂気に取り憑かれた。
彼は”虹”に触れた際多くの情報を与えられた。
兵器を呼び出す術
それを思い通りに扱う術
それの入力を男の知識に変換する術
その情報をもとに魔法の術式を書き上げる。
静寂に包まれた深夜の住宅街に石の角⑤でアスファルトを削る音がガリガリと鳴り響く。
それは異様な光景であった。それを目撃した人がいれば警察に通報されていただろう。
しかしそれが目撃されることはなかった。
あたかもそこに道が元々なかったかのように人々はその道を避ける。
何らかの超常的な力が働いているのは明らかだ。
一方”虹”は焦っていた。
”虹”は都合の良い手駒として男を使い深淵の向こう側の存在を呼び出そうとしていた。
性質は人間の精神に取り憑き周りの人間を狂わせ最終的に快楽殺人者に落とし込むといったもの。⑩
男に書かせていた文章は一種の手紙 招待状 である。⑪
その土地のものに大地に刻ませ闇夜にのせ送ることで世界をつなぐのだが、
このペースでいけば間に合わない。②夜が明けてしまう。
そこで最後のリソースを費やし男の動作を加速させた。
人間の行える動きを超えており男の体は傷ついていく。⑨
男は書き上げ高らかに笑う。
周囲が闇に満ちた。目のくらむような闇が明け、そこには
たらこが落ちていた
”虹”は愕然とする。はじめ何が起こったのか理解できなかった。
そして男の書いた文章を確認する。そして発見した。
summon cod roe
たらこを召喚
なぜこんな文章が?とも思ったが書くべき文と比較して愕然とする。
summon code roe
召喚コード 交戦規定(roe=rules of engagement)
eが足りない。⑥
書き直せばギリギリ間に合うかとも思った。
しかし男は意気消沈しており、それ以前にリソースが足りなかった。
”虹”は男に間違いを伝えることをあきらめ、⑧
ゆらりと揺らめいたかと思うと、すっと掻き消えた。
虹が消えると同時に男のいる道を包んでいた力が晴れ、男の行為があらわとなる。
閑静な住宅街の一部に突然現れた異常な光景
様々な地方の記号、文字、数字が刻まれ、道や壁を埋め尽くす。
その中央には傷だらけになり意識を失った男と傍らにたらこが落ちていた。
この事件は直ちにマスコミに取材され世間の知るところとなった。
学者によりその文字列は解析されたが、記憶領域に円周率が関与していること、④
たらこを呼ぶことぐらいしか解析されなかった。
男はその後病院に搬送され、数日後に目を覚ました。
警察の事情聴取に対し男は意味不明な言動を繰り返し、最終的に精神病院に収容されることとなった。
~完~
[編集済]
深淵を見つめているとき、深淵もまたこちらを見つめている。這いよる混沌を思わせるような文もさることながら、その深淵である「虹」を軸に程よく不気味な物語を創り上げています。一方で、難関だと思われた要素のたらことEを掛け合わせ、まさかのオチに使うとは。成功していたら間違いなくSAN値がピンチになるところでした。(ただし男は手遅れ)
トップバッターから私のストライクゾーンを抉りこむように打ってきますね…控えめに言って最高です。
彼は交番を後にし、よれた外套の襟を立てて家路を急いでいた。
その手にあるのは一瓶のインク。
何度も交番で凶悪犯のモンタージュと凶悪面の巡査長と睨み合い、今日。遺失物の預かり期限が過ぎ、彼のものとなったのだ。
乱暴に扉を開ける。下宿に人はいなかった。彼はこれを幸いと、台所から一本の竹串を失敬して部屋に急いだ。
百枚綴りの厚いノートを開く。慎重に瓶の蓋を取り外し、そっと竹串を沈めた。
赤い。
彼は最初に何を書くべきか迷い、数字を並べることに決定した。無限に列なるこの円周率というものは、使い込んだこのノートにも、新たなるこのインクの門出にも相応しい。
3.1415
残念ながら、無限のはずの数字はたったの五つで終幕を迎えた。
しかし、なんとまあ素晴らしい。鮮やかながらも深みのある、うつくしいとしか言い様のない赤。黄ばんだ紙面になんと燦然たる有様!
こんなことなら数学もきちんと勉強すべきであった。真面目にやれば、④少なくとも十桁くらいは覚えられただろう。
彼は教本を探すべく後ろを向き、しかし慌てて向き直り、瓶を仕舞った。こんな貴重なものを零してはならない。人目に晒してはならない。皆、己と同じく虜とされてしまう。
そうさせぬためには、そうだ。
この赤に見合うペンが必要だ。
彼は百貨店を後にした。
全財産を詰めた封筒は未だ、くたびれた外套の裡にある。餓死を覚悟に無理を通した銀行口座が呆れそうなものだが、この店で既に数件目だった。
彼の理想とするペンは見つからない。
インクのお色がお気に召しておられる? 女店員の声が思い出される。
慇懃無礼とはこのことか、苦学生にペンなど不要とばかりな嘲りを、彼は見逃さなかった。周囲に吹聴するかのような甲高い声が耳につく。ついでに昼に食ったのであろう①たらこの臭いが鼻につく。
彼はたらこが大の苦手だった。この最後の店で美しいボルドーの万年筆を買い逃したのはたらこのせいである。
内心での弁明に折り合いはつかないが、彼はこの一日で得た知識の反芻を始めた。
ぬらぬらとした独特の書き味など不要。⑤必要なのは、かっちりとした数字の角を潰さず、細かい漢字筆記に耐え得る堅牢さのみ。
この目に焼き付け、己の肌に肉に骨に刻み付けるような、繊細かつ強靭な線を希望する。
よって求めるものは、しなやかな竹串の、いや違う、しなやかな黄金製で針のような極細字、舶来品ならばEFと刻印されたペン先。ついでに、あの赤に見合う程度の寂寥と壮大さを感じさせる、そう、例えばこの水面下深くから見上げた蒼穹の如き藍紫の……
己は何を見ているのだ?
彼はあまりの衝撃に立ち止まった。
祭りの跡のような夜空が檻に捕われて見える。いや、この燦然たる黄金に彫刻されしEFの文字!
顔を上げれば「Red-Liner 1000-1700」の錆びた看板。赤道輸送便とでも読むのか。
何にもまして見事な万年筆が、輸入雑貨屋のショウウインドウに飾られていた。
彼は勢い込んでガラスに頭突きをした。べったりと両手をついて⑦覗き込む。
あのたらこは、もしや、神の遣い!
見れば見るほど、あの赤のためにあるようにしか思えぬ色加減だった。
「坊ちゃん、気に入ったんなら触ってみるかね」
「い、いえ……」
店主らしき老人が隣に立っていた。
千載一遇の機会である。しかし、彼は断らねばならなかった。彼の目にはそれが深遠と底知れず見えていたのだ。
¥314,159-
奇しくも、あと一万円ばかり、足りない。
次第に雨が降りはじめた。傘もないので彼はひたすら濡れ歩く。
多少働いてはいるが、給与が出るのはまだ先だ。
あの素晴らしい、光の届かないほど大きな宝石のような、暗闇に咲く桔梗色だ。前借りはできないが、待っている内に売れてしまうだろう。
下を向いて思考を巡らせていた彼は、どうにか正面から来た人を避けた。その直後に、横から来た何かに弾き飛ばされた。
「おっと。なんだ、瓶の坊主か」
凶悪な顔面が更に恐ろしく見えた。巡査長とぶつかったようだ。
水溜まりのなかで確認する。⑨左腕がひどく痛む。腕時計に傷が入っていた。
あのペンを買わなくて本当によかった。
「おい、ありゃあ⑩気の狂った人殺しだ、これをやるから、生きてるだけツイてたと思えよ」
巡査長は紙切れを投げ捨て走り去った。
紙切れ。彼が今切望して止まぬ高額紙幣。
これがあれば、あのペンが買える!
「止まれ! 貴様! 止まれそこのボロコート!」
ぐいと袖を引かれ、彼は立ち止まった。
「俺か! 誰が好きでボロを着るか!」
「私が知るか! 貴様、あれを返せ!」
あれとはなんぞや。
浮いた気分が叩き落とされた。早くあの店に行かねばならぬというのに。
「ええい、貴様が警察なぞに渡すからこのような面倒を! 漸くここまでしたというのに!」
ああ、なるほど。
あの赤。あのインクか。
彼は思い出した。百人もを殺したというモンタージュを。そうとも、今目の前にある顔によく似ている。
さて、如何に切り抜けるべきか。巡査長は何をしているのだ。
ふと空に赤みが差し、彼らは顔を上げた。
西の空に薄らと③虹が見える。今のは夕立だったのか。とすると、急がねばなるまい。
いつしか雨は上がり、赤い光が目を刺した。太陽がその最期の力を振り絞る。
彼はちらりと左腕を見た。現在時刻。十六時四十二分。内側のはずの赤ばかりが強調された、ひび割れの虹。②閉店までもう少しもない!
「赤い……」
そう呟くのが聞こえたと同時に、彼は己が全力を以って拳を振り抜いた。
「居たぞ!」
「さっきの坊主か! お手柄だ、そいつをそのまま……おい!」
彼は息を切らしてショウウインドウの前に立った。シャッターは開いているが、店内は明かりがついていない。彼は両手で筒を作り、鏡の中を覗き込んだ。
あった。
厳かな異国の教会にあるステンドグラスのような、鮮やかな青色。
しかし彼はふと違和感を覚えた。
黄金のそのペン先を注意深く観察する。⑥Eがない。Fだ。ただの細字だ。
EFは、彼の求めた極細は既に売れてしまったのだ!
「どうしたね、坊ちゃん」
「……あ」
「君が昼間に見ていたペンならね、残念なんだけど」
しわがれた老人の声がした。店主だった。
今度は逃げられなかった。
彼は断罪を待つように、次の言葉に耳を閉ざさなかった。
「実は、中に取ってあるよ」
「本当ですか!」
「おうとも、いつか来るだろうと思ってね。まさかその日の内にとは」
⑪便箋を前にし、彼はずいぶんと長く逡巡していた。彼は、あの凶悪犯に伝えてみたいことがあったのだ。
探していたのはこのインクであろうこと。持っていたのを見つけはしたが、指名手配されていたため交番に入れなかったであろうこと。この赤を気に入り、ペンを買い求めたが金が足りなかったこと。脇目を振らぬ巡査長のせいで怪我をしたこと。つまりは手配犯のお陰でペンが購入できたこと。逮捕協力者として賞金を貰い、餓死を免れたこと。
そのようなことを厭味にもこの赤で並べ立ててやろうと考えていた。
しかし先日、彼が表彰された記事より大きく、サイコキラー極刑に処すとの見出しを発見した。
インクも勿体ないし、⑧手紙を出すことは諦めるべきか。
そろそろこの瓶も空になる。
彼が頼った輸入屋の店主は言っていた。この瓶はどこでも買える安物である。中のインクは個人が製作したものであろうと。
彼はふと、一つの台詞を頭に蘇らせた。
ならばさて、⑩どうやってこの赤を再現すべきか。【完】
[編集済]
まさに、理想のサイコキラー。非常にそう思いました。
サイコキラーとは特殊なようで、それに近しい思考回路を持っている人は意外といる。日常の中で誰かがどこか道を外しているであろうことに気づかない、そんななんともいえない恐怖を感じました。
ところで私はらてらて鯖過去6回の創り出すを拝見していたのですが、前回含めた過去作にZenigokEさんの作品はまだないことに未だ驚きを隠せないでいます。(普通に参加したことあると思ってました)マジでその文章力ください。
自宅から③虹を見た男は焦った。
この辺りにだけ、数ヶ月前から虹の出る日に限って黒づくめの⑩サイコキラーが現れていた。既に重傷人・死者も出ている。死者の中には①たらこ唇が愛らしかった男の妹も含まれている。
それ以来虹が出そうな日をリサーチし奴を捕まえるつもりで準備をしてきたが、まさか今日が虹の出る日だと思っていなかった。しかし奴はきっと出る…男には考えている②時間などなかった。
すぐに家を出るため両親に⑪手紙を書き残そうとしたが、手紙を見れば両親は自分を探しに外へ出て被害者になるかもしれない…。両親に⑧伝える事は諦めて男は飛び出した。
家の裏手から自作の武器を取り出す。先端にサイの角を取り付けた槍だ。奴はナイフを使うために近付かずに済む長い槍が、刃物より頑丈で一突きで致命傷を与えられるサイの⑤角が必要だった。
武器を持ち町を走り回り路地を⑦のぞくと…いかにも怪しい黒づくめの人物がいた。身長や体格は情報によく似ている。まだこちらには気付いていない。男は頭の中で円周率を唱える。興奮を抑えるために④円周率を記憶しておいたのだ。
「近づくと奴は振り向くだろう。しかし警察からの情報に寄れば、毎回奴はDEADと書かれた服を着ているはず…よしEを狙えば心臓だ」
男は全力で駆け出した。予想通りに奴はこちらを振り向いた、が、その服にはEがない。男は⑥Eがない事に困り動揺した。その服には「DAD」と書かれており、サイコキラーではなかったのだ。
「ヒッ…」咄嗟に黒服の男がうずくまった瞬間、その後ろにいた人物に槍が刺さった。情報に合う身長と体格、黒づくめで胸にDEADと書かれ、手にはナイフを持つサイコキラー。男がずっと探していた人物である。見事に胸元のEの部分を突き刺している。⑨助かりはしない重症だ。男は更に一度槍を抜き、トドメを刺した。
うずくまった黒服の男は声を震わせながら警察に電話をしていたようだが、男にはその後の記憶はほとんどなかった。ただサイコキラーを殺し復讐を果たしたという実感だけが彼の中に残った。
翌日、殺人犯として男はニュースに出ていた。男はやりきったと思っていたが、その後の捜査で殺された人物はサイコキラーでなく、サイコキラーの被害者遺族で敵討ちをするつもりでナイフを持っていたと発表された。更に警察は情報の誤りも発表した。
「我々が追っているサイコキラーは胸元にDEADでなくDADと書かれています。ご注意ください。」
【完】
[編集済]
復讐、というタイトルのシンプルさにまず驚いたのですが、読み進めていくうちに「ああ、これは『復讐』という言葉以外を書く必要すらない」そのように感じました。
復讐劇かと思いきや、復讐のために殺した男は全く別の人物。しかも殺された男は主人公と同じ復讐者。そんな悲劇の元は殺人犯だけでなく、警察の情報でもあるということにやるせなさを感じます。実に「復讐」そのものを描いたと言ってもいいくらいの深みがある作品です。そんな物語をよくぞ、初投稿で描くとは。凄いと言わざるを得ません。
___
『虹』を尊重してくれた、大切な貴方へ
貴方がこの手紙を読んでいる頃、私はもう、この世にはいないのでしょう。
…ってフレーズ、一回使ってみたかったんだよね。だから使ったのです。だって面白そうなフレーズでしょ。
まあ冗談抜きで、私は病気で既に死んでいると思いますが…
今はちゃんと自分の意志で、こうやって【⑪手紙を書く】事が出来るけれども、正直1か月後にはどうなっているかは分からない。
【②私には、時間が無いのです。】だから、私の命が尽きる前に、手紙で『想い』を伝えます。
え?死にかけの病人の文字は読みづらいって?
ごめんなさいね。本来ならパソコンで入力した方が良いのですが、あいにく【⑥Eのキーが壊れていて】マトモに入力すらできないのです。
この手紙は、根性で読んでね☆
…本当なら、手紙なんて面倒な事はせずに、私の口から、貴方に直接想いを伝えるべきなのでしょう。
しかし、【⑧直接伝えることは諦めたのです。】
私の想いを知った貴方が、どんな反応をするのかが怖かった…
だから、手紙という形でお送りします。私が死んだあとに、私の想いを知ってもらえるようにするために。
こんな自分勝手な我儘を許してください。
さて、本題に入りましょう。
といっても、グチグチ長ったらしく前置きを語るのは、お互い面倒ですし…
想いを話すといった以上、勿論重要な所は全部書くつもりでしたが、一つ一つ丁寧に書いても、本当に面倒です。
私も貴方も、面倒な事は嫌いなタイプですからね。概要だけ書きますよ?
ズバリ、私は貴方の事が好きでした!本当なら結婚もしたかったです!
この衝撃的な告白に、貴方は驚きましたか?あるいは予想通りでしたか?
まぁ、貴方は勘の良い人だったので、多分気づいていた事でしょう。
貴方とは、小学生の頃からの長い付き合いでしたね…あくまでも友達としてでしたが。
でもね、私は貴方と一緒にいる内に、貴方の素敵な所に惚れてしまったのです。
貴方は、とても知的で、私に根気強く勉強を教えてくれました。
高校にさえ行けないと言われていた私に、5年間も分かりやすく勉強を教えてくれましたね。
おかげで、あの時は貴方と同じ高校に行けたのです…しかも、評判の良い高校に!
貴方のおかげで、私は勉強する楽しさを学べました。本当にありがとう。
そういえば、貴方は、家庭的な事も得意でした。
貴方がキッチンに立てば、クラスの女子達が羨ましがるほどの腕前で、美味しいデザートを作っていましたね。
貴方が独自に開発した【①たらこケーキ】は、意外とクラスメイト達にウケていましたね。
貴方は頭を使うゲームが得意でした。
チェス、将棋、囲碁…どれを取っても、私は貴方には勝てませんでしたね。
特に、将棋やオセロをしていた時は、【⑤勝つために必要な角】を毎回取られてしまい、完敗でした。
貴方は「角を取らなくても勝つ方法はある」とドヤ顔で言っていましたが、勝者の自慢話は、腹が立つだけなのです!
知的な貴方は暇つぶしとして、【④円周率1000桁を呟く】という、そこそこ頭がオカシイ特技を持っていましたね。
…つまり、貴方は物凄く記憶力が良いのですが……それを暗記しても、日常生活で役には立たないのでは(笑)
後は、今まで読んできた小説に登場するキャラクターの名前を、全て暗記しているという妙技もありました。
貴方は推理物やホラーを好んでいたせいか、貴方の口から語られる登場人物の1割は【⑩サイコキラー】だったのです。
正直、もっと楽しい本も読んだらどうですかとは思います。
ただ、夏に友達同士で集まって怪談話をした時は、貴方のサイコキラー談義が一番怖かったのを思い出します。
これは友達から好評だったので、この暗記は日常生活で役に立ちましたね(笑)
…いやー、貴方との思い出を書くと、面倒な程長くなりそうなので、ここらへんでストップをかけておきます。
まぁ、私は貴方と過ごした日々が楽しかったよ!って事を言いたかったのです。
本当なら、貴方に告白をしたかったんだけどね……直接言う勇気が無かったから、手紙で伝えた訳です。
繰り返すようだけど、貴方がこの手紙を読んでいる頃、私はもう、この世にはいないのでしょう。
告白をこんな風にやった事、本当にごめんね。
…でも、最期に一つだけ、思い出話を…私が貴方に惚れた理由を書いておきます。
貴方は、誰よりもとても優しかった。
気持ち悪いからという理由で殴られ、【⑨怪我をしていた私】を助けてくれたのが、貴方でしたね。
正直、あの時は嬉しかったのですよ!私の事を『私』として認めてくれた人が現れたのですから!
あれ以来、私は自信を持って、私でいられるようになったのです。
そしてこれが、私と貴方の出逢いでもあったのです。
当時、私を認めてくれなかった奴らに囲まれ、私は絶望していたのです。
それを助けてくれた貴方に、惚れてしまうのは当然でしょう?
ただ、この時の私はまだ小学生でしたし、貴方に告白する勇気もなく、ただただ友達としての関係を続け、10年も経ってしまいましたが…
本当に、貴方の事が好きでした。
さて、言いたい事は全部書きました!
ここらへんで、私はペンを置くとしましょう(このフレーズも使ってみたかった)
それでは大切な友達よ、貴方は病気にはならず、ちゃんと長生きしてくださいね!
自分勝手なトランスジェンダーより
___
<プロ棋士 ラテ・シン さんへのインタビューの一部を抜粋>
お前はバカじゃねえのか!?なんで直接俺に言わねえんだよ!!
…って、この手紙を読んだ時は思いましたね。
いや…アイツが俺を友達として見ていなかった事は、何となく分かっていました。
そりゃまあ、バレンタインデーにチョコを送ってきたり、クリスマスにプレゼントを渡してきたり、
『男と女の友人としての付き合い』としては、明らかに行きすぎな所があったからな…
兎にも角にも、俺はアイツの思いに、そこそこ気づいてはいた。
多分、俺を恋愛対象として見ているんだろうなー…って事も。
しかし…そうか。アイツは、俺と初めて出会った時から、俺に惚れていたのか。
でもさ、アイツを助けた事って、アイツにとってはそんなに嬉しい事だったのか?
『体は男だけど、女として振る舞っていた』からイジメられた…
そんな訳分かんねぇ理由で暴力を振るわれていた『女の子』を助ける事は、俺にとっては当たり前の事だったんだがな…
昔のアイツにとっては、俺だけが味方だったのだろうか……
…まあ、当時の俺は、まだ生きていたアイツに想いを伝える事しか考えていませんでした。
…この手紙はアイツから手渡しされて、「私が死んだら開けてくださいね!」なんて言われたんだが…
俺が約束を破って、自分が死ぬ前に【⑦中身をのぞかれる】可能性は考えていなかったのかな…
肝心な所で抜けているのが、実にアイツらしい。
約束を破った理由ですか。
流石に、余命宣告をされた奴から、「死んだら開けてね」なんて言われたら、ちょっと怖くなるだろう…だから見たんだ。
…約束を破ったのは申し訳ないと思うが、今回ばかりはそれが良かったと思ってるぜ。
本当に、アイツは自分勝手で我儘だ。
自分の気持ちを伝えるのが怖いから、自分が死んだ後に手紙で伝えて、俺の気持ちは考えないなんて…
病院に着いたら、真っ先にアイツに言ってやりましたよ。
俺が、お前の想いを否定する訳ないだろうが!
なんで直接言ってくれなかったんだよ、このバカが!!ってね。
これが、俺とアイツが結婚した切っ掛けでしたね。
皆さんご存知の通り、アイツは病気でした。
結婚してから、アイツと一緒にいられた時間は少なかったが、それでも俺は幸せでしたし、アイツも幸せだったと信じていますよ。
…え?どうして勇気を振り絞って、彼女に告白出来たかって?
実の所、俺も、アイツの事は前々から好きでしたよ。
でも、アイツと同じように、俺もアイツに告白が出来なかった。
そんな時、アイツが病気になって、そしてあの手紙ですよ。
アイツが手紙を書いてくれたんだ。俺も想いに答えないといけないと思ってさ…ただ、それだけの事ですよ。
…ただ、これは今だからこそ言えた事なんですが…この事は、初めて世間に明かします。
手紙の最初に、 『虹』を尊重してくれた、大切な貴方へ って書いてありますよね。
この『虹』という単語を見た時点で、俺には大体の手紙の内容が分かっていたんですよ。
数年前から、この国でも、性の多様性を認める動きが広がっていって…
その時に、虹色の旗が用いられるようになったじゃないですか。
それ以来、彼女は虹をとても気に入る様になりましてね。
…そうです、この手紙にある虹とは、性の多様性…彼女に限って言えば、トランスジェンダー、見方によってはゲイの事を指しています。
「死んでから読め」と指示されて、その手紙には、『虹色のハートマーク』で封がされていて…
手紙を読んだら、『虹』を尊重してくれた、大切な貴方へ…ですよ。
誰がどう見ても恋文じゃないですか!
【③恋心を抱く相手から、虹色ハートマークの手紙を渡されたら、そりゃあもう焦りましたね!】
これを死んでから読めって約束させられて、守る人はまずいないでしょう!
…なんか惚気話みたいでスミマセン(笑)
___
この国が、性の多様性を認める動きが広まって、はや数年。
実は、自分がLGBTでした。自分の知り合いがLGBTでした…と告白する有名人は後を絶たない。
告白する皆の想いは1つ、性の多様性を認める動きに、賛同し、協力したいからだ。
プロ棋士 ラテ・シン は、亡くなった『彼女』との思い出を、世間に公表した。
後に、 ラテ・シン の想いは記事となり、最終的には、テレビで美談として放送された。
【完】
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本当にもう…私が想定していた以上の虹をまんまと書いてくれましたね…
レインボーフラッグを知らないわけではなかったのですが、虹の意味を理解したときには震えるしかありませんでした。とりあえずこの感想を書いているときの私は読み返しつつ「こんなんずるいわ! 別垢作って投票したろうかマジで!」と半ばキレ気味に思っている状態です。流石にそれはやめましたが、そのぐらい素晴らしかったので許してください。
それにしても「彼女」が亡くなったとはいえ、二人の結末がハッピーエンドでよかった。
コードに絡まった男は白い一室に座していた。
一応は座禅のポーズと言えよう。
男は何事かをぶつぶつと呟き、瞑想すべく息を整えた。
そして、すべての雑念を⑦除き払った。
男はオレンジの世界に居た。
あらゆる感情が襲い掛かって来るように思えた。
丹田に力を入れて腹式呼吸を心掛けると、口の中には血の味が広がった。
血を吐き出すと、男はイエローの世界に居た。
黄色がやけに目にちらつく。
男は更なる高みへ昇らんと意思を強く持った。
男はブルーの世界に居た。
たくさんの立体がぶつかり合い、削り合い、完全な球体へと成長してゆく。
最初から完璧な人間なんていない。
切磋琢磨し合うためには⑤角も必要なのだと理解した。
男はネイビーの世界に居た。
①たらこ……たらこを崇拝するのです……
どこからともなく聞こえた声に、男はたらこ教徒になることを誓った。
そもそも無数に連なりあった無垢な命は、真理と根幹を同じくするものではないか?
男は己もたらことなるべく、更なる高みを目指した。
男はパープルの世界に到達した。
……89793238……83279502……84197169……
数字の羅列が、DNAの図のように絡まりあって蠢いている。
④記憶力のよい男は、世界の真理とは円周率なのかと納得した。
ふと、男は最高位であるはずの紫の次の世界があることに気付いた。
男は虹のように重なる世界を見下ろしていたのだ。
おお、真理! たらこよ! ③早く虹色のチャクラの向こうへ!
私は一刻も早く、それを成し遂げねばならない!
そして、男は赤い世界に居た。
男は混乱していた。赤は最低位だ。紫の次に顕れるわけがない。
いやしかし、赤はたらこの色でもある。
ならば、このようなことも有り得るのだろうか。
気付くと、男は⑪手紙を書いていた。
自宅の書斎で、お気に入りの万年筆で、男が愛する赤いインクで。
このインクの製造法を見つけたこと、もうすぐ出来上がること、言われた通りに瓶の片方は進呈すること、作る過程で少々問題はあったが、
男はふと、一つの台詞を頭に蘇らせた。
私が成し遂げねばならない「それ」とは、まさか……
命の塊。
血。血だ。血液。血だ。上質なコーティング紙に最高のフローで記したような流れる赤い、それは血液。ああ、赤、それが欲しくて、私は、赤い、流れ出る血が、赤が、生命が、しかし、手渡された安物の瓶が、赤い、なぜ、赤くて、私がまさかそんなことを、どうして!
「知らんのか?」
「おまえさん⑩サイコキラーとして処刑されるんだぞ?」
「たらこ教か。虹の橋渡れてよかったな」
耳元で、笑みを含んだ声がした。
「以上で洗脳実験の報告を終了いたします」
「まあ、よろしい。コードを抜け! 五分後に執行だ」
「おい、誰か記者を退かせ。写真はご法度だぞ」
「ま、まってくれ……真犯人を……でなければ第二第三の私が……」
「……まだ意識があったのか。②そんな時間はない」
「ならば聞いてくれ、諸悪の根源は、R」
男に許されたのは最初の一文字のみだった。
続く⑥Eすら言えなかった。ああ、どうしたことだろう。
男は失意の中で⑧諦観した。猿轡をつけられては話すこともできない。
もう遅い。奴は野放しだ。
⑨無数の銃弾が男の体に穴を開けた。
ほどなくして、男は死んだ。
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要素を選出したときにきっと数々のカオスな話が生み出されるだろうとは思っていました。ですが、これはカオスではなく、「混沌」だとわざわざ言い換えたくなってしまいたくなるほどの世界でした。うまく言葉に言い表すことができないギラギラした前衛的な世界観、大好きです。
解説で終わらせるのではない、更なる解釈まで生み出すような話を書けるとは。今後ZenigokEさんのファンになりたいと思います。
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カメオは誰もが出来る事が出来ない。
人とコミュニケーションがうまく取れなかったり、簡単な作業が出来ないのだ。
自分一人でシャツのボタンを止めたり、靴ひもを結ぶ事が出来なかった為、施設で暮らしていた。
しかし、カメオには誰も出来ない事が出来た。
本の内容や人の会話を正確に記憶する事が出来たのだ。
ーサヴァン症候群ー
カメオはそう呼ばれていた。
ウミコは社会で上手に生活出来ないカメオや、同じサヴァン症候群の患者が暮らす施設で働いていた。
同じサヴァン症候群でも、出来る事は同じではない。
カメタは見た風景を正確に覚えて描く事が出来る。
ウミタは数を正確に測る事が出来たり、円周率を2万桁まで言う事が出来た(④)。
それぞれ、出来る事が違うのだ。
今朝は酷い雨が降ったが、反対に施設はとても賑やかだった。
ウミコ「じゃあ、みんないただきますをしましょうね」
カメオ・カメタ・ウミタ「いただきます」
ウミタ「975060…978661…グスン…(①)」
涙声でウミタが数を口にする。
ウミコ「どうしたの?ウミタくん…?」
カメタ「いくら?①たらこ?めんたいこ?」
ウミコ「たらこだよーカメタくん美味しいね。」
カメオ「いくら…たらこ…めんたいこ…」
ウミタ「978670…EEEEE!ぴったり、EEEEE!」
さっきまで、泣いていたウミタが今度は嬉しそうにEを連呼する。
ウミコ「もーウミタくん、口の中に食べ物入れたままじゃダメだよ~Eって何の事?」
ウミタ「E…E…」
ウミタは辺りをキョロキョロ見回してEを探す。
カメオ「もーウミタくん、口の中に食べ物入れたままじゃダメだよ~Eって何の事?」
カメオがウミコの言葉を繰り返す。
Eが見つからなかったのか、ウミタはEを呟きながら、悲しそうな顔をした(⑥)。
ウミコ「もういいよウミタくん。はい、ご馳走様ね!」
カメオ・カメタ・ウミタ「ごちそうさま」
肩を落としたウミタはEの意味を伝える事を諦めた(⑧)。
ウミコには彼らが何を話しているか理解出来なかったが、彼らと居るのは楽しかった。
昼食を追えたカメオ達は、いつもは外で絵を描いていたが、雨が降っている為に今日は施設の中をスケッチブックを持って歩き回った。
古時計の裏に何かを見つけたカメタはスケッチを始め「カブトムシ!」とウミコに言った。
ウミコがスケッチブックを覗き込む(⑦)と、写真の様にリアルに書かれたゴキブリが今日の作品であった。
ウミコ「きゃっ!・・・カメタくん、これはゴキブリよ…角が無いでしょう?(⑤)」
そんな話をしていると、施設に来客を知らせるチャイムが鳴った。
ピンポーンと音が鳴る。
ウミコ「あら、誰か来たのかしら…」
カメオ「きゃっ!・・・カメタくん、これはゴキブリよ…角が無いでしょう?」
============================
カメヤマ警部は最近の殺人事件に頭を悩ませていた。
事件が起こるのは、いつだって雨の日だった。
今朝も酷い雨だった。この町が灰色に染まり、ゆっくりと冷える音がポツリポツリと響いていた。
男は雨が上がった後にかかる虹を見つめた時、被害者が虹を渡ってどこか遠くへ行くのが見えるのだという。(⑩)
雨は男の臭いや、足跡を流していった為、警察の捜査は難航していた。
男にとってカメオは都合がよかった。
男「こんにちは。ウミコさん。」
ウミコは施設にやってきた男を招き入れた。
ウミコ「こんにちは。何かご用ですか?」
男「この施設に会話を記憶する子が居ると聞いてね。」
ウミコ「あ~カメオくんの事ですね。」
男「その子は今日いるのかな?」
ーカメオが来たその時、ウミコは膝から崩れ落ちた。(⑨)ー
呆然とするカメオの耳元で男はカメオに囁いた。
男「カメオ君…辞めて…そのナイフから手を放して…どうしたの?カメオくん。痛いっ」
カメオ「カメオ君…辞めて…そのナイフから手を放して…どうしたの?カメオくん。痛いっ」
震えた声でカメオは繰り返した。
・・・。
カメヤマ警部の元に事件の知らせが届いた。
急いで現場へ向かうカメヤマ警部は、この町を覆うほどの大きな虹を見た。
(雨が止んだのか…という事は、犯人は既に逃げているかもしれない。急がなければ…)(③)
施設に辿り着いたカメヤマ警部が見たのは、血に染まったウミコとナイフを持ったカメオだった。
カメヤマ「!!?」
カメオ「せんぜっぃ…ひっ…」
泣きだしたカメオを見て、カメヤマ警部は混乱した。
カメヤマ「君がやったのか?どうしてこうなったんだ!」
カメオ「ひっ…カメオぐん…辞めで…そのナイフをこっぢ…向げないで…どうしたの?カメオぐん。痛いっ」
こうしてカメオの間違った自供の元、カメオは犯人として捕まった。
・・・・・はずだった。事件を解決したのは、ウミタのEの真実とカメタの絵だった。
カメヤマとカメタが話をしていると、ウミタがカメタの描いたゴキブリの絵を持ってきた。
カメヤマがその絵を注意深く観察する。
そこには、ゴキブリ、女の手、見切れた時計が描かれている。
するとカメオがおもむろに会話を再現しだした。
カメオ「きゃっ!・・・カメタくん、これはゴキブリよ…角が無いでしょう?」
カメオ「ピンポーン」
カメオ「あら、誰か来たのかしら…」
カメヤマ「?この絵を描いている時に誰かが来たのかい?」
カメオは頷く。
カメヤマ「カメタくん。それは本当?」
カメヤマが尋ねると、カメタは背の高い痩せた男とウミコが施設の玄関で話をしている絵を描き始めた。
カメヤマ「!??凄い・・・写真の様だね。この人が来たのか?」
カメタ「。。。」カメタは分からないという様にカメヤマを見つめ返す。
するとウミタが思い出したようにカメタの絵に描かれた見切れた時計を指さして訴えかける。
ウミタ「これ、E!」
カメヤマ「E?」
ウミタはキョロキョロと辺りを見回し、外にかかっている虹を指さし
ウミタ「あれもE!」とカメヤマに伝えようとする。
カメヤマ「虹?」
ウミタ「E!E!E!」
ウミタがそういうと、カメオが今朝の会話を繰り返す。
カメオ「975060…978661…グスン…」
カメオ「どうしたの?ウミタくん…?」
カメオ「いくら?たらこ?めんたいこ?」
カメオ「たらこだよーカメタくん美味しいね。」
カメオ「978670…EEEEE!ぴったり、EEEEE!」
カメオ「もーウミタくん、口の中に食べ物入れたままじゃダメだよ~Eって何の事?」
カメヤマ「たらこの卵の数か?」
ウミタが頷く。
カメヤマが一つの仮説を思いつく。そして、おもむろに計算を始めた。数分後にその仮説が正しい事が分かった。
カメヤマ「16進数…Eは14だな。14時、虹か」と呟いた。
警察の死亡推定時刻の調査の結果は14時だった。
ウミタの絵の男が警察によって突き止められるのに時間はかからなかった。
それから数年後、カメヤマ警部の元に手紙が届いた。
~~親愛なるカメヤマくんへ。~~
今日はあの日と同じ酷い雨だね。
僕は君を思い出しているよ。
君は僕の事を思い出しているのかな。
僕は、明日死刑が執行されるみたいだ。
もう時間がない(②)から、僕を捕まえた君にこの手紙を送ろうと思ってね。
僕は明日の14時に死刑が執行されるらしい。
これは僕の希望なんだよ。
なんで、14時だかわかるかい?
君がまた虹を見た時に、僕と救えなかった人達を思い出すようにさ。
人は誰かに忘れられた時に死ぬらしい。
僕の事、いつまでもわすれないでくれよ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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事件の解決に向かうたまらなさもさることながら、私が一番「やられた!」と思ったのはEの解釈です。
数字の羅列からのEならおそらく16進数、と気づけたまでは良かったのですが、そこから後に14時(2時)と虹とのダブルミーニングがあると知った時は再び驚かされました。
どちらか一方の発想だけならまだできても、まさかこの二つを組み合わせるとは。この解説でその共通点に気づいた時、ウミタくんばりに興奮してしまいました。この発想は是非見習いたいです。
●設定・解説・要素
トリック:サヴァン症候群の施設の患者を利用した状況証拠の捏造(会話の捏造)
E:16進数で14を表す。14時⇒午後2時⇒虹の言葉遊び。
要素
①たらこは登場する
事件当日の昼食に出ていたたらこ。
ウミタが食べたたらこは978670粒の卵があった。
(⇒たらこの卵の数は約20~150万粒。)
978670粒は16進数表示にするとEEEEE。
数字の世界に生きるウミタはEEEEEに感動する。
②もう時間が無い
⇒捕まったサイコキラーの最後の復讐。
③虹を見た男は焦る
⇒雨の日に犯行を行うサイコキラー。
虹は雨の後にかかる事より、事件が手遅れになっている事を示す。
虹を見て、刑事のカメヤマくんは焦る。
④円周率を記憶する
⇒キーパーソンウミタの設定。
⑤角が必要
⇒ゴキブリをカブトムシというカメタ。そして、その絵。
この絵と角が無いという会話をカメオが記憶していた事でこの時間に来客が居た事を知らせる事が出来た。
⑥Eが無くて困る
この時は12時前後(昼食時)の為に、ウミタはE(14)を見つける事が出来なかった。
事件が起こってからの、E(14時、虹)がカメオを助ける事になる。
⑦のぞく
スケッチブックを覗くウミコ
⑧伝えることを諦める
ウミタはEを伝える事はウミタのコミュ力では厳しかった。
16進数だという事は数字の世界に生きるウミタだからこそ気が付けた。
また、事件解決時にウミタは諦めずにEを見つけ出した事との対比。
⑨怪我をする人物が登場する
刺殺されてしまったウミコ。
⑩サイコキラーが登場する
カメオの存在を聞き、ウミコを殺す時に会話を捏造する事で利用できると思った犯人。
ウミタやカメタの特技については知らなかった模様。
⑪手紙を書く
獄中から、カメヤマにサイコキラーが手紙を書く。
【事件解決の糸口】
カメオの会話記憶+カメタのゴキブリの絵から、カメタがゴキブリの絵を描いていた時刻に来客があった事が分かる。
カメタの絵が描かれた時間、時計の指す時刻が何時かを正確にウミタが測る事が出来た事で14時に来客があった事が分かる。
死亡推定時刻が14時であった事から、来客の男が捜査線上に上がる。
【完】
[編集済]
☆
俺は『それ』を見たとき、焦った。
目の前の問題を解決しなければならない。時間は限られている。
しかし、俺はどうすればいいのかわからなかった。
―――「『rainbow』って、読めなかったの?」③
問1 次の空欄に当てはまる単語を選べ
1、Rainbow appears after the ( ).(虹は( )の後に現れる。)
ア.rain
イ.dinner
ウ.sky
正答:ア(雨)
先生「さすがにここでつまずかれても困るんだけど…」
男「先生、俺達は日本語を使う民族なんだ。英語が出来る必要は無い」
先生「はいはい、補習中なんだから言い訳しない」
先生「というか、レインボーくらい聞いたことあるんじゃない?rainbowをなんて読んだの?」
男「ラインボ(笑)かなぁと」
先生「もうローマ字読みにはつっこまないとしても、なんでテストに(笑)が出てくるの…」
~~~
5、Please( )the door.(ドア( )ください。)
ア.say
イ.open
ウ.sit
正答:イ(を開けて)
男の解答:ウ e
先生「…なんでeって書いたの?」
男「pleaseは命令だった記憶があるから命令形にしようと思ったんだけど、site(~して)だとeが足りなくて困ったんだよ⑥。だからeを付け足した」
先生(please=命令形な訳じゃないけど)「…よく選択記号の後にアルファベットを付け足すって発想が出て来たね。ある意味凄いと思う」
男「勿論!俺は円周率200桁覚えている④からな、潜在能力はあるのだ」
先生(それで脳味噌使い切っちゃったのかしら)
~~~
問2 次の英文を日本語に訳せ
1、Ken was hurted by his dog.
正答:ケンは彼の犬に傷つけられた⑨。
男の解答:ケンは彼の犬の心だった。
先生「どうしてこうなったの」
男「hurtってハートでしょ。ハートは心だから」(hurt:傷つける・heart:心 他)
先生「hurtは読めたのにrainbowは読めなかったのね」
先生「…ねぇ、貴方大丈夫?100点満点中3点なんて初めて見たんだけど、ちゃんと授業受けてる?」
男「俺は真面目だ。今回のテストだって何度も隣の答案を覗きたくなった⑦が、そこを俺の崇高なる意思で止めたのだ」
先生(ただカンニングしなかっただけなのにこの尊大さ。その崇高な意思を是非とも勉強に向けて欲しいのだけど)
~~~
3、Because Sara is sickness, she doesn´t come here.
正答:サラは病気なので、彼女はここに来ません。
男の解答:サラはサイコ
先生「いや、サイコって何よ」
男「…サイコキラー⑩?」
先生「テストにサイコキラーは出ないと思う」
先生「ところで、途中までしか書いていないのはわからなかったから?」
男「ああ、この辺りでもう時間が足りなくなってきたこと②に気付いてな、他の問題を解こうと思ったのだ」
先生「もう?選択問題が多かったから時間かからないと思ったんだけど…」
男「和訳に手こずってな。ほら、細かいところを消すのには消しゴムの角が必要だろ⑤?俺としたことが、消しゴムの準備をしそこなってね、何回も他の部分を消してしまったんだ」
先生「反対側の使ってない方で消せばよかったんじゃない?」
男「…何!?貴様、天才か!」
先生(貴方は天然かしら)
~~~
問3 次の文章を読んで、問題に答えよ
(前略)Kana wrote a letter to celebrate Shiho´s birthday.(中略)Shiho found アthat in the post.(後略)
(カナはシホの誕生日を祝うために手紙を書いた⑪。(中略)シホはポストの中にそれを見つけた。)
2、アthat とは何のことか。日本語で答えよ
正答:カナの書いたシホの誕生日を祝うための手紙
男の解答:ダースベー〇ーへの手紙
先生「急にダースベー〇ーが出て来たわね」
男「焦っていたのか、birthdayとdirthbayを見違えてしまった」
先生「友人間の手紙がやがて宇宙を巻き込む戦争に…」
男「ははは、先生も冗談が上手い」
~~~
問4 貴方の将来の夢について、3文以上で書け
正答:省略
男の解答:tarako is vely goob.(たらこはとても良い①…?)
先生「もう何からつっこめばいいの…」
男「いや、何しろ時間が無くて…。とりあえず、俺の好物、いや、むしろ俺の一部であるたらこについて書こうとしたのだ」
先生「貴方の一部たらこで出来てるのね、流石だわ」
男「うむ、たらこは良い。惜しむらくは、時間切れでたらこの良さを伝えるのを諦めるしかなかったことだ⑧」
先生「そこは惜しむところじゃないと思うわ、私」
~~~~~
その後、彼の友人から漏れたであろう彼の迷解答がツ〇ッターでトレンドに載り、ちょっとしたニュースになったのであった。
(著者はセンター試験受験者を応援しています)
【完】
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珍解答を題材にしたこの解説、私が惹かれたのは男の答え方のリアリティさです。ただ間違えるだけなら誰にだってできる、しかし人を笑わせられる答え方の匙加減はすごく難しいのです。何しろ、本人は笑わせるつもりではなく本気で答えていますからね。その感じが絶妙です。
しかもちゃっかり要素を回収しているあたり、要素のカオスから更に爆笑のカオスを生み出す赤升さんの使い方、前回から滅茶苦茶好きです。
男は正念場に立たされていた。
いよいよ今日、鳳凰戦第7局が始めるのだ。
相手の豊島鳳凰は緩急自在な指し回しで今一番勢いのある若手だ。今まで3勝3敗、ここを勝てばタイトル、鳳凰を取ることができる。しかし負ければその夢も露と消える。
男はこの勝負に敗れたら、棋士を引退するつもりだ。最近目立った成績も取れずに落ち込んでいて、年も年だからだ。
子どもの頃は円周率を1000桁記憶したほどの記憶力の良さから天才と呼ばれた男も、今では還暦間近だ。⑷
朝食を終え、男は海外にいる妻へ手紙を書いていた。(11)自分を落ち着けるためだ。自分で書いた、決意に溢れた文章を読み返すと、元気が湧いてきた。
手紙を書き終え、男は対局(試合)会場の「扇ノ間」を覗いてみた。⑺豊島はまだ来ていなかった。もう少し時間がある。しかし何をしようにも微妙な時間だった。
仕方なく、男は部屋で寛ぐことにした。
まもなく午前10時、戦いが始まろうとしていた。男と豊島は面と向かっている。
豊島は趣味のフットサルで骨折したらしく、腕を吊っている。(9)
彼がこちらを睨んでいるのが伝わってくる。その目の光は、サイコキラーを思わせるほど鋭く、決意に満ちていた。⑽
男は今回の作戦をもう一度考えていた。普段の得意戦法でいこうと思っていたが、この前研究会でやったあの手もやってみたいし…でも相手が先攻なのでこちらにそれは決める余地はない。しかし何でも受けて立ってやろう。男はなぜか少年のようにわくわくしていた。
そしていよいよ対局が開始した。相手の初手は予想の範疇だった。それなら…男は自分の得意戦法に導き、持久戦に持ち込んだ。これなら自分の思うように戦える。少しずつ男が有利になっていった。
…はずだった。
控え室では、他の棋士たちがみんな寄って集って同じモニターを見つめている。モニターには対局の様子が上から吊るされたカメラのリアルタイム映像が映っている。「次は角交換するんじゃないか」「いやそれだと同桂の後3八角があって嫌だろ」「私はもう少し囲いたいかな」好き勝手いっている。
しかし、モニターに映った次の手を見て、みんなが固まった。
「嘘だろ…」「大悪手だろ!」「もう終わりだわ!」
次の瞬間わめき出した。
それは対局していた男の耳にも入ってきた。
ざわざわしてるな…ん、待てよ…これ、やばいんじゃないか…⁉︎
豊島がかすかにニヤリと笑ったような気がした。
痛恨の一手であっという間に形勢は逆転し、男はだいぶ不利になった。ひたすら我慢する手が続く。
(そろそろ昼食か?この時間は腹が減って集中力が欠けてくるな…やっぱりEがないと困るな…)⑹
男はその昔自然科学にはまりこんだ。円周率を1000桁覚えたのもその頃だ。今でもエネルギーをEと言ったり、辻褄を合わせることを有理化と言ったり…。将棋と科学には、どこか似たところがある。無限の可能性があるところ、どこまでも追求できるところ…最近はあまり自然にも触れていないが。
そんなことを考えていると昼食休憩になった。昼食は海鮮丼にした。マグロにサーモン、イクラ、たらこまで乗っている。⑴男は完食してEを蓄えた。
しかしいくらEを蓄えたところで不利なのに変わりはない。それでも最善を尽くそうとするのだが、形勢は動かない。男は一手進めるごとに戦意が喪失していくのを感じていた。
角(将棋の駒の一種。斜めに動ける)があれば逆転できるのにな…⑸
眠さも男の集中力を妨げた。暖かすぎるのかもしれない。少し空調を変更してもらおうとも考えたが、目の前の豊島を見て伝えるのを諦めた。⑻豊島は叩かれても気づかなそうなほど集中している。やはり自分も歳なのか、と思ってしまう。Eがなくなってきた。
男は気分転換にと、外に出た。対局会場の旅館は庭園も有名だということを思い出した。残りの考えられる時間も少なくなりつつあり、つい焦ってしまう。⑵果たして気分転換になるのだろうか…
外に出ると、大きな虹が広がっていた。雄大な自然の美しさを前にしても、「引退」という文字が頭を離れず、どうすればいいかと焦ってしまっている自分が嫌だった。⑶虹…いったいいつぶりに見ただろう?この自然の美しさ…大きなアーチ…
そう言えば…
角があれば…だと?
俺は角を持っているじゃないか…
1九に。
右下の端に。
突然男の頭に一筋の光が生まれた。
男は対局室は小走りで戻った。とはいえども和服なので動きにくい。座って呼吸を整え、男は次の一手を指した。
5五角。
それは右下にいた角を中央に持って行き、そして次の手で左下に移動させようというものだった。まるで虹のアーチのような軌道を描くのだ。
それを見て、豊島の顔が変わった。明らかに眼差しが鋭くなった。もはやサイコキラーを通り越して人間ではないように見える。
控え室の棋士たちは、この一手で再び固まった。しかし次の瞬間、感嘆の声が漏れた。
「そういうことか…」「これは妙手だ!」「よかった…これで勝てるかもしれないわ…」男の顔には生気が戻ってきた。
男はその後も落ち着いて進め、ついには優勢を築き上げた。双方の残り時間は残り1分になった。落ち着け…落ち着くんだ…このままいけば勝てる…
男は必死に先の手を読んだ。相手の「王」を捕まえれば勝ちだ…
「50秒、1、2、3、4…」男は目を見開いた。勝つ術を発見したかもしれない。残り4秒で確認する。
「5、6、7、8…」間違いない。あと19手で王を捕まえられる。勝ちだ!
「9…」男は次の手を打った。
豊島はその手が来ることを知っていた。そして自分が負けることも知っていた。
どこで間違えたんだろうか…
「30秒…40秒…50秒、」
(さっきまで優勢だったのに…)
「1、」
(虹が綺麗だったな…)
「2、」
(これで失冠か…)
「3、」
(俺もまだ歳じゃない!)
「4、」
(やっぱり悔しい…)
「5、」
(妻に逢いたい…)
「6、」
(おやつおいしかったな…)
「7、」
(しかしよく勝てたな…)
「8、」
(俺もまだまだだな…)
「9、…」
「…負けました」絞り出すような声だった。
もちろん2人は悔しさも嬉しさも表に出さない。相手に向かって礼をする。
その直後、対局場には報道陣が詰めかけた。男は嬉しさをこらえながら、報道陣の質問に答えた。
彼らが帰ったあと、控え室にいた棋士たちが押し寄せた。同期もいるし、大先輩もいる。まだ高校生のの若手もいた。彼に続いて入ってきた人物を見て、男の動きが止まった。
「晴見…?どうしてここに…?」
晴見は男の妻で女流棋士。ここ最近は海外で将棋教室を開き活動していた。
「大事な対局だからどうしても見たいと思って…ずっと控え室にいたの。」晴見は控え室で大多数の男性棋士と一緒に分析していたのだ。
「序盤のあの手を見て本当に凍りつくかと思った…でも見事に逆転したわね。」
「ありがとう。」男にはそれしか言えない。
翌日、男は新聞の一面を飾った。
「レジェンド、執念の奪還」という見出しとともに。
【完】
[編集済]
「虹を見て焦る」その要素が選ばれた時、私はなんとなく「虹」というピンチから乗り越える解説が多いのだろうかと予想していましたが、まさかその解釈が全く違った視点も持つことができるのか! そう思えたのが、何を隠そうミンタカさんのこの解説です。
虹を見ていても気は抜けない、しかしどこかで虹に安らいでいる男。その一瞬のリラックスが生み出した一筋の光。ピンチをチャンスに変える瞬間を、うまく「虹を見て焦る」を使って表現していると思います。
男は焦りに焦った。
『虹』を見た時、こんなのが視聴者にウケる訳がないと思っていたからである。
___
男は若手の芸人である。
番組に出た事はなく、知名度はあまりにも低い…まさに下積み時代である。
男はマネージャーと共に、番組、イベント、宣伝、ラジオ、何でもいいから出演させてくれと、
頭を下げたり、【⑪手紙を書いて】お願いしたり…それはもう必死であった。
そんなある日の事、マネージャーが取ってきたバラエティ番組に、男は参加する事になった。
その番組は、1か月後から放送される予定の新番組だという。
男は喜んだ、初めてテレビに出る機会を手に入れたからである。
…そして男は、その番組の収録で他の出演者と共に、様々な『企画』をやらされる事になる。
それが男の悲劇の始まりだとも知らずに………
この番組は、目立たない若手に体を張るチャレンジをしてもらう企画を主にしており、
体なんぞ張った事もない男にとっては、最悪な企画ばかりだったのだ!
それでは、その最悪な企画…その収録の様子を、少しだけ覗いてみよう………
「芸人はどんな過酷な状況でも、レポートが出来ないと!」という番組の意向により、
若手の芸人達は、非常に怖いとの評判が流れているお化け屋敷のレポートをさせられた。
お化け屋敷を貸し切って、【⑩サイコキラーの恰好】をした化け物共にビビらないかを競わされるのだ。
「ちょっと…!ここ絶対何かでるでしょ!絶対来るでしょ!何かk…ビャアアアァァアア!!!!」
男はお化け屋敷の中で真っ先に叫び、号泣しながら逃げ出し、無様な醜態を撮影される事になった。
【⑤「芸人として働く諸君らには、苦痛を耐え抜く精神力も必要だろう」と言われた時は、
かなり鋭利な角のある足つぼマッサージ】で作られた道(長さ30メートル)の上を、どれだけ早く走れるかを競わされた。
「いや…私の身体は丈夫じゃないし、パスで……え?パスは無し?せめて5メートルは進め?
分かりましたよ…それじゃぁ行きますよ………バアアアアアア!!!!!」
この後、男は激痛に耐えかねて3メートルも進めなかった上、足の感覚がおかしくなって、5分間も歩けなかった。
「お前たちの記憶力を試してやろう!」という事で、世界中の国名やら有名人の名前やら【④円周率を暗記】させられて、
鬼教官の恰好をした人の前で暗唱(答えを間違えると鞭を振るわれる)させられた。
「あー…えぇっと…あのー………度忘れしたので、もう一度覚えなおしてきてもいいですk」
ピシャン!「痛ぃい!!」
ピシャン!!「痛っ!ちょっと止め…」
ピシャン!!ピシャン!!「マジで止めろ!!」
初っ端から答えを度忘れして、【⑧鬼教官に答えを伝えるのを諦めたため】、鞭を振るわれていた。
「視聴者はゲーム性を求めている!という訳で、脱出ゲームをしよう!時間内に密室から脱出出来なかったら、この部屋が爆発するぞ!!」
と告げられた後、男は密室に閉じ込められ、脱出ゲームを余儀なくされた。
しかし、謎は解けないばかりか、徐々に時間は過ぎていき…残り時間が掛かれたアナログ時計を、男がふと【⑦のぞいて】みると…
「【②ヤバい!後1分しかない!】クソッ!このアナログ時計が【⑥のこり | 分じゃなくて、残り日分だったら…
あぁ、せめてEの部分が欠けていなければ】まだ脱出成功したかもしれないのに!!
頼むから爆発は止めてくれ!!この番組だとマジで爆破させそうで洒落にならないんだよ!!ここから出してくれぇ!!」
後に、この部屋(の扉)が爆発したので、男は無事に脱出出来た。
…こんな体を張った企画ばかりしていたので、当然【⑨男は怪我をしていた】。
本当なら、男はこの番組への出演を止めてしまいたかった。
しかし、自分は若手であり、知名度も低いため、止める訳にはいかなかったのだ。
なによりも、この番組が実際に放送されるのは先の話……
まだ番組への評価自体が無いこの状況では、男はクビにされる事がなかったため、
なるべく多くのロケに出て、出演料を貰っておく必要があったのだ。
そんな日々が続いていたある日、男は最悪の経験をする事になる。
それは、「ゲテモノ料理を食え!」という企画を撮影している時の事…
「マジかよ…蛇にアリに【①たらこ】にたわしコロッケをミキサーしてジュースにした物がこちらになります…じゃないだろ!こんなの飲んだら死ぬわ!俺が死ぬわ!!
えっ…どうしても飲まないとダメですか…?分かりました、一気飲みすればいいんですね?
えー…視聴者の皆さん、見ててくださいね!今からおれが こいつを一気飲みします!」
「オロロロロロッロオオロロ!!!」
男は盛大に吐いた
恐らく今まで体験してきたどの企画よりも、これが辛かった。
男は思った。このシーンはカットだな…と。
番組において、吐いたシーンを見せる事は出来ないし、
だからと言って黒塗りのモザイクを掛けたら、画面がつまらなくなるからだ。
…さて、バラエティ番組というものは、基本的に収録が終わった後に、
今度はスタジオで、編集された物を出演者達が見て、その時の様子をテレビで放送する訳ですが…
男が、ロケの映像を見ている時、【③『虹色のモザイクがかけられたアレ』を目にした瞬間、男は焦った!】
(いやいやいやいや!!!何で俺のアレが堂々と映像に残ってんの!?
俺のアレを虹色にしただけで、吐いているシーンが生々しく映ってんじゃん!!
こんなの放送したら流石にクレーム入るし、俺の芸人としての人生が終わる!!)
…そう、このテレビが放送されていた当時は、テレビでは「ゲ〇」が出てきたら、そのシーンは全カットするか、黒塗りにして見えなくさせるか…
とにかく、吐いたシーンを丸々放送するなんて、誰も考えた事が無かったのだ!!
そんな事情があったので、冷や汗をダラダラ流しながら焦っていた男だが、
男自身には権力なんてあるハズもなく、何も言えないまま、遂に番組が放送される日が来てしまったのだ!!
番組は初回放送というだけあって、3時間スペシャルで放送され、男のあまりにも悲惨すぎる様子が、生々しく放送された!
「ちょっと…!ここ絶対何かでるでしょ!絶対来るでしょ!何かk…ビャアアアァァアア!!!!」
「分かりましたよ…それじゃぁ行きますよ………バアアアアアア!!!!!」
ピシャン!!ピシャン!!「マジで止めろ!!」
「この番組だとマジで爆破させそうで洒落にならないんだよ!!ここから出してくれぇ!!」
「オロロロロロッロオオロロ!!!」
テレビには、男の無様というか、醜態というか…とにかく、そういうアレな様子が映っていた。
これを見た男は本当に焦り、ネガティブになっていた。
「こんなのがウケるはずがない…ほら、ここなんて叫んでいるだけじゃん…あぁ、例の『虹』のシーンが出てきた……
ここで俺が面白くないって思われたら、俺…終わったな………」
その次の日、男が恐る恐るネットを見てみると、
「新番組開始!」という題のネットニュースと共に、男をはじめとする、若手の芸人達を称賛するコメントで溢れていたという。
【完】
[編集済]
キャノーさんの発想力って一体どこから来るのかと小一時間。
アレを「虹」で編集されることは数あれど、実際に解説とし創り出すのは後にも先にもキャノーさんぐらいなのでは?(誉め言葉)
まさにバラエティでのお笑い芸人の災難を題材にしていますが、このハイテンションに次ぐハイテンションさは読む人に息つく暇も与えさせず、腹筋を鍛えるのに一役買っています。そしてなんだかんだたわしコロッケを踏襲するスタイル、好きです。
今、世界的に流行中のゲームがあった。
『アーマーブレード』
略称はアマブレ。このゲームは、タイトルの通り装備に重点を置いたオンラインRPGアプリだ。
手に入れた素材から装備を作ったりガチャで装備を出したりして、強い装備を付けて敵を倒す。ゲームの腕に差があっても装備で埋めることができるので、幅広い人にプレイされていた。
~~~
佐々木、つまり俺もアマブレを始めたばかりだった。好評は聞いていたが、始める勇気が出ないところに俺の数少ない友人、小林から「僕と一緒に始めよう」と誘いを受けたのだ。
いつも通りアプリを起動すると、目を疑うものが飛び込んで来た。
(これ…まさか、Eランクの装備!?)
このゲームの装備にはランクがあり、A~Eの5段階。Aが最低でEが最高のランクだ。Eランクの装備は装備したキャラの装備欄に虹色の枠が出るので一目瞭然だ。
Eランクともなると相当やりこむ必要があり、そのためにEランク装備をフル装備のプレイヤーは虹プレイヤーと称賛される。
その虹色の枠が小林のキャラの装備欄にあったのだ。何故始めたばかりの小林が持っている!?
慌てて小林にメッセージを送る。
「どうしてEランクの装備があるんだ!」
「そんなに焦ってどうしたの?Eランクってアマブレのこと?それなら、ガチャを回したらたまたま出たんだ」
「急にお前の装備欄に虹色が現れたんだ!焦らないわけない③!それに、無料ガチャで出るのはAかB、出てもCだぞ」
「いや、なんか出ちゃって…。佐々木もいつか出るって!」
そう言われ、少ないお金(ゲーム内)でガチャを回す。
『たらこソード①』…白い枠、Aだ。
~~~
それから、俺は必死に装備のために努力した。
まず、素材から装備を作る方法。敵モンスターを倒すとモンスターの牙や皮、角が手に入る。その素材を消費して装備を作るのだ。
俺はひたすらモンスターを狩り続けた。モンスターにダメージをくらい⑨、何度も瀕死になったがそれでも続ける。まさにサイコキラーのごとく⑩。
しかし、なかなか素材が揃わない。もうそろそろ揃いそうになると、最後の1種類が全く出なくなる。物欲センサーか?
(くそっ、あとユニコーンの角さえ揃えばいいのに。Cランクのユニコーンアーマーには角が必要なのに⑤、なんで皮ばっかり出るんだ!)
~~~
懸命な努力の末、Cランク位の装備が揃って来た。だが、Dランクには途方もないような数の素材が必要だし、Eランクはほとんどがガチャでしか手に入らない。
そこで、次に食費を削ることにした。自炊する時間がもったいないと感じていたので、一石二鳥である。
それまではたまにご飯を炊いて、おかずにたらこを買う位の手間をかけていたが、もっぱらコンビニのおにぎりやパンで済ますようになった。
しかし、課金したからすぐに高ランクの装備が出るとは限らない。基本出るのはCランクだし、たまにDランクが出ても既に持っている奴だったりする。
どうすればいい。さらに課金するか。
小林に置いて行かれたくない。そのためにはEランクの装備が無いと困るのだ⑥。
~~~
その後、俺はいろんなものを削った。睡眠時間に始まり、光熱費がもったいないので電灯を付けず、電気代がもったいないのでストーブを使わない。
そして、浮いた金も時間も全てをアマブレに注ぎ込んだ。ほとんど俺はアマブレのために生活しているようなものだった。
それなのに、Eランクの装備は出ない。もう生活費も時間も削るものが無い②。
そうだ。実家に手紙を書いて⑪、お金を送ってもらおう。
(…いや、駄目だ。今まで何もなかったのに、急に金を送るよう言ったら不審に思われる。もし、俺の家に来てアマブレを取り上げられたら…。絶対駄目だ!実家に伝えるのは、諦めるしかない…⑧。)
~~~
しばらくして、俺は思いついた。
「…あぁ、そうだ。金がなければ、取ってくればいいんだ。持ってる奴から。狩ればいい。アマブレなんだから。」
~~~
◯月△日
「お昼のニュースです。××町で、連続殺人事件が起きています。被害者は財布を持ち去られているため、金銭目的の犯行と見られます。目撃証言によると、犯人は20歳から30歳の男性と見られ―――」
~~~
窓を割って中に入る。いつも通り、寝ているところを金属バットで一撃。何回もアマブレでやったから慣れたんだ。
さあ金を取らなきゃと部屋を見回すと、見覚えがある。足元に転がっている奴の顔を覗きこむ⑦と、小林の顔だった。
「なんだ、小林か。アマブレ、楽しいか?俺はめちゃくちゃ楽しい。だから、俺に協力してくれ。待ってろ、すぐ追い付くから。」
ふと枕元を見ると、スマホがあった。手に取るとパスワード入力画面が現れる。
そういえば、小林は円周率100桁言えると自慢していた。その影響で、俺も少し覚えていた④。
試しに円周率10桁を入力する。3141592653。…開いた。
…そうだ。わざわざお金を取ってガチャを回して装備を手に入れるなんて回りくどいことしなくても、直接Eランクの装備を持ってる奴から取ればいいんだ。
~~~
◯月□日
「速報です。××町で起こっていた連続殺人事件の容疑者である佐々木――氏が逮捕されました。佐々木容疑者は逮捕時、佐々木容疑者の友人である小林――氏の自宅で『アーマーブレード』というアプリゲームをしていたとのことです。また、佐々木容疑者のいた部屋で小林氏の遺体が発見されており、警察は連続殺人事件との関連を調べています。」
(この作品はフィクションです。現実に存在するゲーム、起こった事件とは一切の関係がありません。)
【完】
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1作目とは打って変わって、ソシャゲあるあるからのブラックな話。ソシャゲに関するトラブルから発生した事件も起こっているので、話のぶっ飛び方とは裏腹に馬鹿にできません。
少しのお金から麻痺をしていき、だんだん壊れたように課金していく一人の男。
執念からくる男の行動は、まさに異常な狂気を孕んでいます。そんなぞっとする作品まで描けるなんて、本当に尊敬します。
みんなもゲームはほどほどに、現実としっかり区別しましょう。
鉄格子越しに虹を見た男は焦った。
通り雨が上がり、日が射しているのだ。
「もう時間が無い…。」
メモが取れない男は仕方なく机に刻まれた円周率を記憶した。
「3.141592653…。」
ピッ、ガチャ。
扉が開く。
「よし、次だ。」
男は空いた扉から隣の部屋に移動した。
足を引き摺り、赤い筋を残して。
『よくここまで来たね。君はつくづく楽しませてくれる。』
学校に付けられているようなスピーカーから声がした。
「サイコキラー野郎…!いつまでやらせる気だ!」
『なぁに、次で終わりだよ。その机の上にに問題がある。解いてくれたまえ。全部で3問。制限時間は15分。解けたら壁の穴に答案を投下してくれ。』
「解けなかったら?」
急に部屋の電気が消え、壁に【主催者】が映し出された。
『君の公私にわたるパートナーは死ぬね。大切なものを失った顔を見せてくれ。ああ、全問不正解なら君も死ぬ。ま、1問でも解ければ君は生き残れるよ。』
「…笑えねぇな。お前の仮面とは違って、笑えねぇよ。」
『刑事さん、君は知りすぎたんだよ。』
男はこのサイコキラー【主催者】を追っていた。
様々な仕掛けが施された脱出ゲームに強制参加させ、今のように絶望を叩きつけ苦悩する姿を楽しむ。
そんな狂人だ。
憎むべき相手ではあるが、今は従うしか、前に進むすべがなかった。
『そこにおにぎりがあるよ。たらこの。好物なんだろう?』
「食えるか。毒でも入ってたらどうする。」
『ふざけるな。』
突然語気が変わる。
『このゲームは芸術だ。食べ物に毒を仕込んでただ殺すなんて愚の極み。その身に絶望を刻むまでは殺さない。…食えよ。ここまで来い』
「…」
味わう余裕もなくかっ食らう。
『席に着いたらカウントスタートするよ。』
平静を装って口調を戻す主催者。
深く深呼吸し、机に着いた。
冷静に、解いていく。
ーーーーーーーーー
点A~Fと、点どうしをつなぐ線が書かれた図が書かれている。
問一
点A~点Bをつなぐ直線を、数学用語でなんという?(A.線分)
問二
点ABCDFを直線で繋いで出来る図形をなんという?ただし、線各辺の長さは全て同じとする(A.正五角形)
問三
点ABEを直線で繋いで出来る図形をなんという?【点E】を探し出して答えなさい。ただし、答案用紙は置かれていた場所にあるものとする。
ーーーーーーー
ここまで来て気づく。
「点E、図に無いぞ?」
そう、テストには書かれていないのだ。
当然裏も見るが書かれていない。
「なんだこれ?!」
『問題に書いてあるだろう?Eを探せって。』
「問題に書かれてるとは限らないってか?!ふざけやがって!」
残り10分。
机の周辺を探し始めた。
しかし見あたらない。
壁際に置かれている棚を退かして見たがやはり無い。
「ほかの部屋なのか…?」
気づけば残り3分。
足に負った傷が広がり、流れる血が少し増えてきた。
朦朧とし始めた。
もう、このゲームは誰にも終わらせられないのか?
犯人を伝えられないのか?
そう思いをめぐらせるが、既に男の心は折れていた。
諦めるしかない…。
すまん、相棒…。
席につき、背もたれに体を預け天井を仰ぐ。
点E。
「あった…」
図形と言うからには角度を割り出す必要がある。
だが、部屋の中を探し回った時には角度を測れそうなものはなかった。
『あとにふぅん、あとにふぅん』
愉快そうな声が不快だ。
冷静に、問題用紙が置かれていた場所に戻し真上を見る。
「一か八か…!」
A.直角三角形
『10、9、8、7…』
「間に合え!」
『にー、いー…ギリギリ間に合ったみたいだね。さて、答え合わせ、しようか…』
「早くしろ…」
『とりあえず、ポストの隣のドアからこっちに来なよ。』
ガチャ、と鍵が開く音がした。
ゆっくりとドアを開け、隙間からのぞく。
無数のディスプレイと、仮面をつけた人物が1人。
『早くコッチに、刑事さん。』
ボイスチェンジャーで性別は分からない。
「てめぇ、なんのためにこんなに…」
『まずは答え合わせ!お見事!3問正解!満点だよ!』
「笑ってんじゃねぇ!」
『さて、最後の問題。犯人、わたしはだーれだ?』
以前、男はパートナーにあることを尋ねるため、手紙を書いたことがある。
思い過ごしだと思い、破いて捨てた。
「お前なんだろ?相棒」
仮面を外した主催者は見覚えのある顔をしていた。
『お見事!って、知ってるの知ってたけどね。あー楽しかった。』
「なんで…こんな…」
『サイコキラーにそれ聞く?私はこれを定期的にやらないと生きてる気がしないのよ。趣味よ』
「…連続殺人犯、主催者こと《弥栄鏡子》。逮捕する。」
ーーーーーー
翌朝、巷でも有名な連続殺人犯【主催者】が逮捕され、唯一の生還者であり逮捕した男はニュースになった。
「相棒が殺人犯じゃ、警察には居られない。」
そう言い残し退職したが故に。
[編集済]
緊迫した状況の中で命がけのゲームをさせられる、そしてその絶体絶命を脱したかと思いきや、衝撃の結末を迎えるこの作品。その中で、「Eが必要」という恐らく一番抽象的で解釈に悩むともいえる要素を、もっとも劇的に変化させたといっても良いくらいだと思います。
実はツォンさんをこちらで初めてお見かけした初心者ながら、こんな素晴らしい作品を創り出してもらったうえでお会いできると思いませんでした。本当にありがとうございます。
[良い質問]
~あと10の日~
『しろくろはあたまいいね!えんしゅうりつ、たくさんおぼえた④っていってたよ。』
『えんしゅーりつ?ってなに?』
『んー、まるいのにはかどがたくさんひつようっていってたような…』
『まるはまるじゃないの?』
『円周率は円の大きさに対する円の周りの長さの比率ですね。円の内側にピッタリの多角形と、外側にピッタリの多角形の外周の長さの平均が近い数字になります。角が多いほど正確なんです。⑤』
『『ほー。』』
『あっ、にじだよ!にじにかいてあるもじは、そらからのてがみなんだよね。⑪』
『そうそう。…ん?“あと10”?』
『…なんでしょう?隊長に報告ですかね。』
*
~最後の日①~
あるシンガーソングライターの男がいた。男は最近、路上ライブでよく利用している公園に住み着いている野良猫たちの観察に、はまっていた。観察しつつ、勝手に猫たちにニックネームをつけるのを楽しんでいた。中でもお気に入りは、白と黒の斑模様の“サイコキラー君”だ⑩。夏に彼がセミを咥えているのを目撃したのが由来である。
ジジッと鳴くセミを口に咥えた彼と目が合い、周りに散らばるセミの足や羽の残骸に気づいた時は正直ゾッとした。ここの猫たちは食事については有志の団体に管理されていて、飢えているわけではない。おそらく狩りを楽しんでいるのであろう。
そんな、サイコキラー君だが普段はとてもかわいい。好物のたらこを持っていくと、他の子達もそうだが、ちょうどE(エー)の音の甘えた声で近寄ってくるのだ。男は絶対音感があり、猫たちの鳴き声も音階で聞こえていた。
今日も、男は猫たちのためにたらこ①を買っていた。
*
~あと9の日~
『今日の議題は突然虹に現れたカウントダウンについてである。』
『たいちょう!あれはほんとに、かうんとだうん?』
『間違いない。十日前は“あと10”と書いてあった。そして、今日出た虹には“あと9”。これは何かに対するカウントダウンだろう。』
『なるほどー』
『問題はなんのカウントダウンか、だが……』
『それについては、“ノアの箱船”の再来なのではないかと予想します。』
『ノアの箱船!』
『のあの?』『はこぶね?』
『虹の残り回数を示していて、もう虹を出さない、つまりは雨が止むことがなくなると言うことかもしれないと思っています。』
『もしそうなら大変だ……。』
『提案なのですが、ミュージシャンの男に天気に気を付けるよう伝えるのはどうでしょう?彼は音感が良いようですし。我々にたらこもくれます。』
『なるほど、ではそうしよう。』
『たらこのひと!』『たらこ!』
『では、今日はここまで!解散!』
*
~最後の日②~
男には最近困ったことがある。なぜか虹が出ているとき、猫たちが男をひっかきにくるのだ。そして猫たちは男の周りで、G(ゲー)、A(アー)、E(エー)、D(デー)の順で一斉に鳴き出す。ひっかかれて、手や足が傷だらけになってしまった⑨。
しかし、その鳴き声を元にいいメロディーと歌詞が浮かんできた。猫たちに感謝しなければ。
*
~あと1の日~
『ダメだ。全く伝わらないですね。』
『ソ、ラ、ミ、レ(空見れ)だと気づいていないのだろうか?』
『うーん、仕方がないです。諦めましょう⑧。ついに、カウントダウンも、“あと1”まできてしまいました。もう、時間がないです②。』
『我々だけでも、安全を確保しよう。次、雨が降りだしたら隠れるぞ!何があっても外に出ないように!』
*
~最後の日③~
猫たちの好物のたらこを買ってきたはいいものの、男は到着したときに虹を見つけて焦った。またひっかかれる、と③。
だが、猫たちはあらわれない。たらこが目的の甘えたEの声もない。実はたらこが苦手な男は、困ってしまった⑥。このたらこどうしよう……。
*
~最後の日©️~
『たらこきたよ!たらこ!』
『こら、外をのぞく⑦んじゃない!』
『あれ?たいちょう、にじでてるよー。』
『なに!?“祝、虹一億回!!これからもよろしくー”……。』
『のあのでなくてよかった!』
『たらこいーい?』
『…よし、そうだな、たらこをもらいに行こう。』
『『おー!』』
*
~最後の日④~
困っていると、Eの声で鳴きながら猫たちが一斉にあらわれた。男はたらこの行き場が決まり安心する。ついでに、虹とたらこではたらこが勝つのだなと心の観察日記にメモをとった。
猫たちが集まってたらこを食べ始めたところで、男は猫たちのおかげで完成した新曲を披露することにした。タイトルは【七色ハンター】。
猫たちが聞くストリートライブは口コミで広まり、曲の良さもあって、地元のニュースで取り上げられた。
男が有名ミュージシャンになる日も近いかもしれない。
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※補足
猫たちはドレミのイタリア語音階、男はドイツ語音階を頭に思い浮かべているので、すれ違っています。
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おわり。
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どうしてもサイコキラーという要素が作品の幅を狭めてしまうのではと危惧していたのですが、そんな中で最も微笑ましいサイコキラーに出逢えました。しかもそれだけでなく、虹の解釈もお見事です。
実はひそかに虹=音階も考えていたのですが、まさかイタリア音階とドイツ音階のすれ違いが生み出す解説に出逢えるとは。解釈をそのまま使いつつ、そこから更に昇華する考え方、私もそんな創り出しニストになりたいです。
「僕は思うんですよ。ハエにもおしゃれする権利はあるんじゃないかってね。」
つぶらな瞳を輝かせて河合は言う。
その向かい側で、弘崎はハエを喉に詰まらせたような表情で口を開いた。
「根拠は?」
「それは僕の口からは言えない」
「じゃあ、誰の口からなら言えるっていうんだ」
「ハエです」
はえぇ……。思わず間抜けなため息が漏れる。
「たとえば、これ」
河合は一枚の写真をテーブルの上に差し出した。
「なんだ」
「知らないんですか?たらこですよ[①]」
「そのたらこがなんだ、と聞いている」
「いや、だから、ハエです」
弘崎は頭を抱えた。
こいつといると、会話というものが成り立たない。キャッチボールをしているはずが、あいつは俺の投げたボールをキャッチせずに見当違いのボールをまた投げてくるのだ。
「ハエとたらこにいったい何の関係が?」
「先程の話の続きです。ハエにもおしゃれをする権利はあると。たとえば、このサーモンピンク。彼にはよく映えると思うんですよ。ハ」
「ハエだけに。」
「……ええ、ハエだけに。」
弘崎はたらこの写真を手に取り、窓の光に透かした。
バカみたいに濃いコーヒーが飲みたい気分だ。
「虹って、色が足りてないと思いませんか」
ほらきた。荒れ球にもほどがある。
弘崎はキャッチャーミットをぶん投げる自身を思い描きながら、深い深いため息をついた。幸せが逃げていく。
「お前の見解は?」
「ええ、このたらこです」
「そうか、なるほどな」
「ああん」
つぶらな瞳をぺしょんとハの字に圧縮して悲しみを表現する河合。仕方なしに続きを促す。
「こういうやわらかなピンクが虹には足りない。ひょろりとカーブさせたこのたらこを虹に添えれば、虹は完全形になるのに」
「ナスは要らないのか」
「要りません。何いってるんですか。センス無すですね。ナ」
「ナスだけに。」
「はい。」
こいつの頭をものすごい尖った何かでガツンと打ってやれば、多少なりともマシにはなるだろうに。
しかし残念ながらこの部屋には "ものすごい尖った何か" は見当たらない。テーブルも丸ければ、ソファーも丸い。じゅうたんも、窓も、時計も、何故かすべてが丸い。
虹にたらこが必要というのなら、この部屋に必要なものは角だ[⑤]。
「帰る」
「どうして?」
「どうしてって」
弘崎はこれから用事があること、自分も暇ではないこと、何よりこれ以上不毛な会話を続けていると自分の気が狂いそうだということを、分かりやすい言葉で丁寧に説明してやろうかという考えが2秒ほど頭をよぎったが、3秒目にはすでにあきらめていた[⑧]。
「弘崎さん、僕と話をしているとつまらないですか」
「つまらないなんてことはない。十分につまる。ハエが喉に。」
「うわぁ、そりゃあ大変だ。病院行ったほうがいいですよ」
「お前にそう言われると泣けてくるな」
ピピピピ、と携帯のアラームが鳴る。
「時間ですか」
「ああ。またな」
「ええ、また。気をつけて」
□□□
事務所を出てタクシーを拾い市内の病院へと向かう。
真っ赤な夕日が空を染めるのを見て、弘崎は「赤すぎる」と思った。
病院の敷地内に足を踏み入れると、急に酸素が薄くなったように感じられる。
弘崎はふとシャツの胸ポケットに手をやり、先程のたらこの写真を取り出した。
虹にはやわらかなピンクが足りない。
そんな河合の言葉を思い出していた。
□□□
「3.141592653……」
「今度はなんだ?」
「あ、弘崎さん」
翌日。
いつものつぶらな瞳で河合が頭を下げる。
「こんにちは。いい天気ですね、紅茶がうまい」
「それはよかったな。で、さっきのは?」
「はい?」
「延々とブツブツ呟いてた数字」
「あぁ、円周率覚えてるんですよ[④]」
けろりとした表情で河合は言う。
「家内がね。わたしは円周率20桁をさらりと言える人間しか信用しないって言うんですよ。まいったなぁ。僕、暗記系はどうにも苦手で」
「なんかまずいことでもやらかしたのか」
「ええ?何もやらかしてませんよ」
「はぁ?じゃあなんで使いもしない円周率なんかを馬鹿正直に覚えようとしてる?」
「いやぁ、だって信用されたいじゃないですか」
弘崎はハエに取り囲まれたような表情で河合を見た。
「というか、使いもしない円周率だからこそじゃないですかね」
「……というと?」
「有用な情報を覚えればいろんなシーンで使い回すことができる。でも、僕が日常で円周率20桁を使う場面はまぁ無いです。そんなものを必死に覚える理由はただひとつ、信用されたいからですよ。実にシンプルだ」
河合が決して馬鹿ではないことを弘崎は知っていた。
荒れ球気質のピッチャーではあるが、変化球でど真ん中のストライクを突いてくることも然して珍しくはない。
そして河合が、とぼけたような顔をしながらも人の話をそれはそれは注意深く聞いているということも、弘崎は知っていた。
こちらから投げたボールは無視されたように見えて、後ろ手で一球残らず捌かれている。
河合にエラーは有り得ない。Eのカウントはずっと0表示のままだ。全てを見透かされているような気がして、弘崎にとっては正直やりにくい相手だった[⑥]。
「だったらお前は、俺が円周率100桁をさらりと言えない奴のことは信用しないと言ったら必死こいて覚えるのか?」
「ひえーっ、100桁ですか。まずは脳内キャパシティの拡張手術をするところから始めないとだなぁ」
三日後、河合は円周率を70桁まで覚えていた。
□□□
" 色彩殺人 "
--その言葉は、今やすっかり聞き慣れたものとなっていた。連日ニュースで報道されるその実態はこうだ。
全身黒ずくめの何者かが無差別に街行く人を連れ去り、強烈な光を照射し失明させる。命にこそ別状はないが、被害者の視力は奪われ、深い闇と絶望の中に放り込まれる。
犯人の意図するところはわからず、現場には毎回必ずたらこが残されていた。全くもって奇妙である。
猟奇的色彩殺人。サイコキラーだとか、たらこキラーだとか、世間を騒がせていた[⑩]。
「……陽菜、」
静まり返った病室。
弘崎の歩み寄るベッドには、両目を包帯でぐるぐる巻きにされて横たわる少女の姿があった[⑨]。中学二年生になったばかりの弘崎の娘だ。
彼女の世界の色彩は、例のサイコキラーによって奪われた。しかし奪われたものは色彩だけではない。言葉も、表情も、希望も、何もかもだ。
娘が何をしたというのだろう。
なぜ、平穏な日常に前触れもなく闇を落とされなければいけなかったのだろう。
一体何のために--
ポケットから取り出したたらこの写真を握りしめ、弘崎は怒りとやるせなさに震えていた。
□□□
その日事務所に行くと、河合はたらこを食べていた。
「……うまいか?」
「あ、弘崎さん。こんにちは。うまいですよ、なかなか」
「それはよかった」
「弘崎さんもおひとつどうですか」
「いや、遠慮しておく」
湯気の立つ白米の上で輝くたらこ。
河合の言葉通り、それはうまそうだった。
「……というか、そのネクタイは何だ」
「あ、気づいてくれましたか。かわいいでしょう?」
「たらこみたいだ」
「ええ、たらこ色ですから」
弘崎は頭を抱えた。
いつか河合がたらこになってしまうんじゃないかという気がした。
「何だってお前はそう、意味のないことをいつも楽しげにやってのけるんだ?」
「意味のない、ですか?」
「円周率にしろ、何にしろ。このたらこだって、食べたところで何がわかる?ネクタイをたらこ色にしたところで何がわかる?何もわからない。そうだろう」
「……弘崎さん」
河合が小さく息を吸う。
束の間の静寂の後、雪崩のようにその口から吐き出されたのは、円周率100桁だった。
「……」
「ふぅ。覚えましたよ、円周率100桁」
「な」
「なぜ?弘崎さんに信用されたいからです」
「…………」
河合のつぶらな瞳は、弘崎を真っ直ぐに見据える。
その瞳から放たれる強い光は、固く閉ざしたはずの扉をいとも容易くすり抜けその奥を照らす。
まるで心を覗かれているみたいだ、と弘崎は思った[⑦]。
「僕にとって意味のないことなんて無いですよ。ハエがおしゃれをしたっていいし、そうだな、ナマコが五本指靴下を履いてもいい」
また訳のわからないことを言い出した。
「他人の目に馬鹿馬鹿しく映ることでも、当人にとってはものすごく大事なことかもしれないでしょ。僕が覚えた円周率100桁は、僕にとっては大事な意味がある。……あ、雨が上がりましたね」
丸い窓の外から陽の光が差し込んでいる。
今朝から降り続いていた雨はいつのまにか止んでいた。
弘崎は導かれるように窓の傍まで歩いていく。
「……虹だ」
突如、弘崎の視界は暗転する。
「ッ、!?」
弘崎の身体を真後ろで羽交い締めにしたのは河合だった。
「河合!お前、何を……」
「綺麗な虹ですね。弘崎さん、もっとよく見てみてくださいよ」
河合が窓の向こうの虹を指差す。
それを追うように弘崎の視線が虹へ結ばれたときーー
そこへ割り込むように、ルーペがかざされた。
「なッ……!!」
雲の切れ間から降り注ぐ陽の光は弘崎の視界を焼いた。
弘崎は声にならない声を上げ、床の上をのたうち回る[③]。
「ぁ……が……ッ」
「虹って、色が足りてないと思いませんか?」
うずくまる弘崎に一瞥を投げて、河合は事務所を後にした。
テーブルの上には、小さなトレーに乗ったたらこが緩いカーブを描いて残されていた。
□□□
[⑪]
-------------------------
弘崎さんへ
あなたの世界が闇に包まれて、一週間が経ちました。
8日目に僕がこの部屋を訪れたとき、あなたの鼓動は失われていた。暗闇の中で窓を割り、その破片で喉を切ったんですね。
その時あなたは何を思っていたのでしょうか。
僕の世界には色がなかった。
何を見ても平淡で、全てが死んでいるように見えた。
街の人々が目を輝かせて生きているのを見ると、僕はその視界の先を見てみたいと思った。
一体どんな風に映っているのだろうか、と。
けれどそれは叶わないから、かわりに僕の世界を見せてあげようと思った。
これでも人々は目を輝かせて生きるのだろうか?と。
結果はつまらないものでした。
皆、死んでゆく。
僕が殺さなくとも。
色彩とは生命なのでしょう。
無色の世界を生きる僕に、生きている実感がわかないというのは全くもって正常なことなのだと知りました。
だけどね、弘崎さん。
あなたといる日々は少しだけ、世界が色づいて見えましたよ。
なぜでしょうか。
僕には奇跡のような日々でした。
僕はもしかしたら、弘崎さんなら色彩のない世界でも生きていくのではないか、と少しだけ期待したんです。
そうしたら僕も生きていける気がして。
うーん、やはり炎は赤すぎますね。
もっとやわらかなピンクがいい。
もう、これ以上は書けないようです。[②]
弘崎さん、さようなら。
河合
-------------------------
2019年1月26日。
都内の某事務所が全焼。
焼け跡から二人の成人男性の焼死体が発見される。
【END.】
[編集済]
殺伐とした解説群にハエが!(たらこの写真) という癒し(?)の第一印象から、まさかここまでぞっとした印象に変わる解説を頂けるとは思いもよりませんでした。
「サイコキラー」という要素の性質上、今回はいかに最高にサイコな人物が生み出されるか選手権みたいな側面があった気がするのですが、殺す気はなかった(と言う)河合が個人的に一番鬼畜だと思いました。犯行動機に加え、たらこが河合のサイコさを加速させるいいアクセントになっています。
[正解]
「本日はご来場誠に、ありがとうございました」
舞台の公演が終わり、新井祥吾は共演者とともに楽屋へ戻る。
近年は多方面に盛り上がりを見せている、いわゆる2.5次元の舞台。
祥吾は2.5次元を中心に活躍する、人気若手俳優だ。――いや、だった。
先月、29歳になった。いよいよ30代が目前に迫り、もう「若手」とは言っていられない。今の売り方もいつまで通用するのか――。
密かに焦りつつ、しかしまだ人気は変わらない。その日も楽屋には、ファンからのプレゼントや手紙が届けられていた。
「あいっかわらず祥吾のは多いなあ」
「いやいや、ありがたい限りだよ」
プレゼントの入った段ボール箱をちらと見てから、手紙だけが分けられた紙袋を手に取る。
「着替えないの?」
「んー……」
一つ一つ取り出しながら封筒を眺めていく。無地のもの、キャラクターもの。シンプルなもの、シールで装飾されたもの。しっかりと糊付けされたもの、開きやすいシールで留められたもの。個性が出ていて、封筒を見るだけでも楽しいのだ。
いつも同じ封筒を使う人もいれば、季節に合わせて変える人もいる。レターセットは違うけれど同じシールを貼る人も。あ、これはいつもの子だ。この子は初めてかな、いやあの子かも。
楽しげに封筒を取り出していた祥吾の手が、ふと止まる。そっと取り出せば、鮮やかな虹の目立つ封筒。
封筒を手に固まる(③)祥吾に気付いた共演者が、茶化すように声をかける。
「どした、カッターでも入ってた?」
「入ってないよ。というかそれって開けてから分かるやつでしょ」
へらりと笑いながら、封筒を裏返す。控えめに書かれた名前。よく知った名前。
なぜ、今になって。
祥吾の意識は、5年前に遡る。
―――――――――――――
「ごめ〜ん、ちょっと遅くなっちゃった」
「いいよ、全然。なんかトラブった?」
息を弾ませる虹原美優に、祥吾は苦笑して扉を開ける。美優は慣れた様子で、おじゃましまーす、と口にしながら靴を脱ぐ。
「スマホ家に忘れちゃって、すぐ戻ったんだけど」
「え、あんな目立つスマホを?」
「あんな目立つスマホを」
へへ、と笑いながら美優はポケットから取り出したスマートフォンを印籠よろしく突き出す。
シンプルさが売りのスマートフォンにつけられたカバーは、スマートフォンと同じかそれ以上の厚みのパーツで埋められていた。中央にはラインストーンで書かれた大きな「E」が目立つ。
「いつも思うんだけど、なんで『E』なの? 普通そこはイニシャルじゃない?」
「いいじゃん」
「『E』だけに?」
「うっわ、寒」
「今のそういう流れだったでしょ!?」
勝手知ったる他人の家。平気で部屋に上がる美優を横目に、祥吾はキッチンに立つ。普段飲むのはコーヒーだが、美優は紅茶派だ。お手頃価格な専門店で購入したフレーバーティーに、砂糖もたっぷりと。
「あっはは。んー、まあ深い意味はないんだけど」
「ふうん? あ、アップルティーでいい?」
「うん、砂糖たっぷりね」
「了解」
こぶりなヤカンを火にかけ、ティーポットとカップを用意する。あらかじめ温めて、なんていうほどちゃんとした淹れ方はしないが。
「中学の時、親友とイニシャル交換したんだよね」
「イニシャル交換?」
「うん。あ、ありがと。ケータイ、ガラケーにさ。こうやってラインストーンで、お互いのイニシャル貼ったの。それが『E』。英梨」
「それでラインストーンなんだ。そういう、デコ? 今あんま見ないよね」
「どうせセンス古いですよーだ」
「悪いとは言ってないじゃん」
美優は紅茶をテーブルに置き、ラインストーンを指でなぞる。
「ま、今じゃこれが手に馴染んでるから『E』がないと困る(⑥)んだよね、落としそうでさ」
「ケースが重いせいじゃ……なんでもない」
美優は、女性誌のモデルをしている。いわゆる2.5次元舞台を中心に人気を伸ばしてきている祥吾と違って、お世辞にも「人気モデル」とは言えない。
二人が出会ったのは共通の友人の紹介――要は、合コンだった。芸能人同士、友達かそれ以上か、目的はそれぞれだっただろうが、二人が「それ以上」の関係になるのにそう時間はかからなかった。
「ね、あれなに?」
美優が壁の目立つところに貼られた紙を指差す。数日前にせっせと手書きして貼ったものだ。
「ああ。円周率だよ」
「円周率? なんで?」
「覚えなきゃいけない(④)から」
言いながら、祥吾はラックを探る。いくつかの雑誌に交ざって、目当てのものが入っていた。
「これ。次の舞台」
ぱらぱらと台本をめくり、目当てのページを開いて美優に手渡す。
「円周率に関係する順に殺人を重ねていく役なんだよ。サイコキラー(⑩)って言うの? それで円周率を口ずさむシーンがあるんだよね」
「ふぅん。ね、また観にいってもいい?」
「もちろん。むしろ来て」
二人で過ごす時間は、祥吾には心地良かった。
お互い周囲にばれないように気を配りながらも、穏やかな時間に幸せを感じていた。
祥吾の元にマネージャーから連絡があったのは、例のサイコキラーを演じる舞台の稽古が始まってすぐの頃だった。
「祥吾、あなた、炎上しているわよ」
スマートフォンに並ぶ着信履歴に首を傾げながら折り返せば、開口一番にそう告げられた。
「炎上?」
「カノバレ」
かのばれ。カノバレ。頭の中で数度反芻し、は、と声が漏れる。祥吾の動揺を余所に、マネージャーは続ける。
「写真が流出しているのよ、ツーショット写真。これあなたの部屋でしょう。ちょっと待って、今写真送る」
ピロンと受信を告げる音にスマホから耳を離して確認すれば、確かに祥吾と美優の写真だった。祥吾の部屋で、美優が初めてたらこパスタ(①)を作ってくれたときのものだ。
この写真が、SNSを通じて流出しているらしい。
「彼女さんの自撮りよね。向こうから漏れたんだとは思うけど、心当たりは?」
必死に記憶を遡っても、祥吾に心当たりはない。そもそもこの写真は、祥吾は持っていない。だからといって、美優が漏らすだろうか。
要領を得ない説明をする祥吾に、電話口でマネージャーは一つため息を吐いた。
「いい、分かったわ。とにかく、まず彼女さんに連絡しなさい。稽古が終わったら事務所に来ること。いいわね」
はい、と返事ができたかは怪しかった。
休憩時間にはまだ余裕がある。今更ながら周囲を見渡し、聞かれた様子のないことに安堵する。
さらに人気のない場所を探すべく階段室に移動して、美優に電話をかけた。
数度のコール音ののち、聞こえた声は震えていた。
「はい」
「聞いている、ね?」
「ごめん、ごめんなさい」
「……どういうこと?」
「私のせいなの。きっと、あの時、わざとじゃないよ、ほんと、でも、私が、私の」
「ちょっと、落ち着いて。大丈夫だから」
責める気はなかった。わざとであればさすがに話も変わるが、それはないだろうと信じてもいた。
美優はゆっくりと深呼吸をして、再度口を開く。
「この前ね、英梨に写真を見せたの。見せただけだよ、だけど、そのあとスマホ置いてトイレ行ったりもして……パスワードもね、かけてるけど、昔と一緒で、英梨も知っているから、たぶん、そこで」
英梨。以前聞いた、美優の親友の名前だ。
「でも、どうしてそんなこと」
「分かんない。会うのは久しぶりだったけど、特に変わったこともなかったと、思う。英梨にもね、聞いてるんだけど、返事がなくて。電話も出ないから、分かんなくて」
「分かった。俺、今稽古中で、終わったら事務所に呼ばれているから。そっちも、話あるよね。とりあえずその、英梨さんには連絡取ってもらいたいけど」
「うん……ほんとにごめん」
「大丈夫、美優が悪いわけじゃないのは分かっているから。大丈夫だよ」
「うん……うん、ありがと」
電話を切り、深く息を吐く。
これから、どうなるのだろう。
犯人が分かったところで、一度世に出たものはなかったことにはできない。自分のファンのどれだけが離れることになるのか、祥吾には想像がつかなかった。
今の舞台に、影響はないだろうか。本番中でなかったのは幸か不幸か。
実際にSNSを開いて確認する勇気もなく、何事もなかったかのように稽古場に戻る。それが、今の祥吾にできる精一杯であった。
「あちらのお友達がね、認めたらしいわ。嫉妬とか出来心とか、大事になるとは思ってなかったとか、色々言ってはいるらしいけど」
夜、食事を断って事務所に向かうと、マネージャーと数人のスタッフが残っていた。
「そうですか」
「それで、どうするの?」
「どう、って」
「どうしたいの」
マネージャーは、祥吾のデビュー当時から担当している。多少きつい物言いもあるが、それも愛情ゆえだということは痛いほど理解している。でも。
「俺は」
その厳しさが、今の祥吾には辛かった。ぐるぐると考えていたことが、溢れてくる。
「俺は、恋愛もしちゃいけないんですか? いつもいつも、自分の生活全部を覗き見られる(⑦)。なにが好きか、いつどこに誰と行ったか。全部全部監視されて、ちょっとの発言にああでもないこうでもないって、そんなの、そんなの全部仕方ないって、我慢しろって、役者ってそういうものなんですか」
一気にまくし立てて、肩で息をする。特に厳しく言われてきたわけではない。でも、うんざりするようなことはたくさんあった。
マネージャーは祥吾を見つめ、しかし表情を変えずに言う。
「恋愛をするなとは言わない。プライベートを詮索されるようなことは我慢しなくていい。そういう相手からあなたを守るのも私達の仕事よ。
でもね、あなたには立場がある。責任がある。役者が恋愛をしちゃいけないなんてことはないわ。でも、あなたの仕事は芝居だけじゃない。ファンの子たちと触れ合うのも仕事の内よ。握手、チェキ、バスツアー。そうやって、ファンに近いところで商売をしているの。それがあなたの売り方なの。
あなただって分かるでしょう、ファンの中には本気であなたに恋をしている子だっている。もちろんね、あなたに手を出していいわけじゃない。行き過ぎた行為があればこっちで対処する。だけど、そういう子たちに夢を見させてあげるのが、あなたの仕事なのよ」
マネージャーの言いたいことも、祥吾にはよく分かった。自分がそういう売り方をして、それを求めているファンがいる。それは分かっていた。
「でも。もしあなたがそういう売り方が嫌だって言うなら、芝居一本で行きたいと言うのなら、私も掛け合ってあげる。お付き合いをちゃんと公表したいと言うのなら、それも。だけどそうじゃないのなら。責任が取れないのなら、やめなさい。あなたも相手も、不幸になるだけよ」
あなたはどうしたいの。マネージャーは再度祥吾に問う。
「俺、は」
―――――――――――――
どうするべきだったのか。悩んで、悔やんで――忘れようと努めてきた。
美優のことは好きだった。でも、将来のことを考えられる段階ではなかった。ファンを、失いたくなかった。
結局「仲のいい友人の一人」として、騒動になったことへの謝罪をして。美優にも、直接伝えることは諦める(⑧)しかなかった。
それから5年経って現れた、虹柄の封筒。苗字に虹が入っているからと、美優が好んで使っていたレターセットだ。
あれ以来、連絡もとっていなかったのに。
なにが書かれているのか。震える手でそっと封を開ける。便箋は3枚。
1枚目は最近の祥吾の仕事について。舞台をいくつか観にきていたらしい。
2枚目は美優の近況。生活のできる程度にはモデルとしての活動を続けられているらしい。そして。
「怪我……?」
思わず漏れた声に、帰り支度を進めていた共演者が振り返る。なんでもない、と軽く手を振って手紙に視線を戻す。
怪我を、したらしい(⑨)。交通事故で、幸いにも重い怪我ではない。でも、残る傷ができてしまった。
罫線に対して小さく書かれた字が乱れてきた。内容は3枚目に続いて、最後に一言、『会いたい』。
添えられているのは連絡先ではなく、日時と喫茶店の名前。5年前、よく行った店だ。客層が比較的高く、パーテーションや観葉植物で仕切られた席が多い。人目を避けるのには適していた。
書かれた日付は、本番が終わって二日後。記憶を探る限りオフのはずだ。
「どうしよう……」
美優がなにを望んでこんな手紙を書いてきたのか、祥吾には分からなかった。
今更、どんな顔で会えばいいのかも。
分からないまま、当日を迎えた。なんの覚悟もできていないけれど、逃げることもできなかった。
きっとまた、暗い気持ちを引きずることになる。
指定された時間の10分前に喫茶店に入る。待ち合わせで、と言えば奥の席を示された。壁際の、二人がいつも座っていた席だ。
「待たせちゃった、かな」
自然を装って声をかけると、スマートフォンを見ていた美優が顔を上げる。
肩に流れる髪も、細く整えられた眉も。祥吾の記憶と、少しも変わっていない。
「ううん、私が早く着いただけ」
そういう様子もいつもと変わらないように見えた。もっとも、大きなマスクのおかげで口元は見えないけれど。
美優の前には紅茶が置かれている。祥吾はコーヒーを頼み、席に着いた。
「ごめんね、急に。お仕事、平気だった?」
「うん、今日は、というか明日までオフだから」
「そっか、良かった。でもほんと、来てくれてありがとう」
「いや、全然」
会話が途切れる。手持ち無沙汰に水を飲んでいると、祥吾の前にコーヒーが置かれた。角砂糖を一つ入れて混ぜる。
「怪我、したって。大丈夫?」
考えたところで他に聞けることも思いつかず、そっと尋ねる。
美優はためらうように視線を彷徨わせ、ティーカップの持ち手にかけた指をもてあそぶ。
そういえば、先程から一口も飲んでいない。
「大丈夫、なんだけど」
決心したように息を吐いて、マスクに手をかける。もう一つ深呼吸をしてから、外した。
その下の顔を見て、祥吾は息を飲む。
「傷が残ったって、書いたよね。それが、これ」
右耳の近くから口元まで、ざっくりと入った線。周囲には細かな傷も目立ち、よく見れば額や目元にも傷跡が見える。
「…………しゅ、じゅつとか」
「ある程度はね、なんとかなるんだって。小さいのとかは、多分普通に治るし。でも、これは」
動揺する祥吾とは反対に、美優は淡々と言う。
「難しいって。術後も色々と気を使わないといけないし、どのみちすぐにはできないし」
もうね、どうしようもないの。呟いて、ようやく紅茶に口をつける。一口すすってソーサーに戻すとシュガーポットに手を伸ばしかけて、やめた。とっくに冷めていたのだろう。
もう、時間がないのに(②)。
ティーカップをもてあそびながら、紅茶の水面に言葉を落とす。
「もう時間がないの。私もう28だよ。こんな顔じゃモデルもできない、待っていてくれるだけの時間なんてない。今更他の仕事なんてできないし、私にはもう、何もないの」
ぽとり、ぽとりと。こぼれる言葉は震え、水分を含んでいく。
「それ……なんで、俺に」
「分かん、ない。分かんないよ、そんなの。もうどうしようもないって思ったとき、浮かんだのが祥吾の顔だった。また会いたくて、話したくて……それだけ」
顔を上げない美優を前に、祥吾の頭は不思議と冷えていた。
動揺も困惑も混乱も消えた。もう、心は決まっている。
「封筒を見たとき、すごく戸惑ったし焦りもしたけど、懐かしかった。あの頃のこと思い出して。俺、ほんと酷いことしたよね。ごめん」
「そん、なこと、あれは、私が」
「うん。でもそれはわざとじゃない。なのに俺はなにもしなかった。美優のこと、きっとすごく傷つけた。
今更許してもらおうとかじゃないけど、許してもらえるわけもないけど、俺だって、ちゃんと美優のこと好きだった。守りたかった。でも、でも俺は弱かった。怖かった。
だけどさ、思い出したらやっぱり、楽しかったんだ、あの頃は。美優と過ごす時間は穏やかで、優しくて……幸せだった。
美優が俺のこと思い出してくれたのもさ、そういうことなんじゃないかな」
違う?
祥吾が問えば、美優は首を振る。
「楽しかったよ。幸せだったよ。壊したく、なかったよ。でももう遅いの、もう戻れないの」
「そうだね、もう戻れない。壊れちゃったから。
壊れちゃったから、直せるんだよ」
穏やかに続く祥吾の言葉に、美優がゆっくりと顔を上げる。
「俺は、直したい。また新しく作りたい。あの頃みたいに、ううん、あの頃よりずっと幸せな時間を」
「それ、って」
「美優。俺と、結婚してくれませんか」
美優はぽかんと祥吾を見つめる。
今更になって、祥吾も恥ずかしくなってきた。なにを、言ってしまったのだろうか。むろん本音ではあるけれど。
「ふ、ふふ」
不意に美優の肩が震えだす。また泣かせてしまったのかと焦る祥吾は、しかしすぐに違うことに気付いた。
「あっはは、なに、突然。順番飛ばしすぎ」
笑っていた。涙を拭いながら、とても幸せそうに。
「あーもう、ほんと、冷静なのかテンパってるのか、どっちかにしてよ」
「いやだって……だって」
「変わってないなぁ祥吾は」
ほんっとおかしい。きゃらきゃらと笑う美優の表情は、すっかり晴れやかになっている。
「結婚って、ねぇ、色々必要なんだよ? ちゃんと準備できてるの?」
「準備……お金はまあ多少、え、いくらあればいいのかな……そこはでも慎ましく……」
「節約するの? 結婚式は?」
「そりゃあしたいけど。なんか、あるんじゃない、最近は。あまりお金のかからないようなさ。あ、でも俺、白無垢好きだな。似合うと思うんだよ、美優に。なんだっけ、あの、角が必要(⑤)なんだよね」
「角? ……もしかして角隠し?」
「そう、それ」
「角って! 真逆じゃん!」
「いやでもほら、角があるから隠すんでしょ!?」
いつかのような、いつものようなやり取りに、祥吾も笑う。
きっと、これから先も。
―――――――――――――
それから1年後。
人気若手俳優と元モデルの結婚がネットニュースとなり、様々な感情と共に拡散された。
それでも、紋付袴と白無垢に包まれた二人の人間の笑顔に向けられた声のほとんどは、祝福だったという。
【完】
[編集済]
どうしたらハシバミさんみたいに心にぐっとくる素敵な文章が書けますか。
アイドルのように扱われる2.5次元俳優を題材にしながら、あるべき姿、そして苦悩をしっかり描きつつ、雰囲気を壊さずに要素を回収しています。カオスにカオスを重ねる作品たちの中から、こんなに心温まる作品に出逢えただけで、私はこの第七回に携われてよかったと心から思えました。
やっぱり、推しの結婚は素直に祝福したいものです。
僕はサイコキラー⑩に殺された。
死ぬことに不思議と抵抗は無かったが、虹を見てしまったので死んだのを後悔した。
何故?
◇
鳥の羽が生えた天使に手を引かれながら、僕は何度も地上を振り返った。どう見ても、空には虹がかかっていて、何でこんなときに死んでしまったんだ、と嘆いた。アナウンサーの死亡事故を伝える声が、空虚に響く。そこに僕の名前があることが忌々しい。
君さえ1人にしなくて済むのなら、僕は地獄だって良かったのに。死んでしまってはどうしようもない。
◇
そして、僕は鱈に生まれ変わった。いや、生まれ変わる予定だった、が正しい。この世に生まれて、産まれる前に死んだ。①まだ卵の状態で、食べられて死んだのだ。同じ日、同じ時間、“同じ奴”に。
◇
詰んだ。そう思った。たらこの状態だと、動くに動けない。僕の親は殆どすべての人間より非力で、僕が十分成長出来る見込みは無い。
そう、僕は必ずといっていいほど、無力なたらこの状態で、サイコキラーに殺される。スーパーに並んでいて買われたり、親の腹の中で親ごと殺されたり、兎に角あいつに殺されるのだ。
これはあまりに酷いんじゃないかと、5回目のたらこ生を終えたあと、神様に手紙を書いた。⑪
以外にも丁寧な返事が返ってきた。神というのは飾り気のないレターセットを使うのだな、と我ながら妙な驚き方をしてしまったのを覚えている。
返事の内容はこうだ。虹が出る間だけ現れる“あの子”とよく接触していたから、サイコキラーにとって僕の魂は虹色に見えるらしい。
そういうことならどうしようも無いので、僕は「鱈になれるかなチャレンジ」を続けることにした。神の恩寵をいただいた。隣人愛がどうのと言っていたが、僕にはよく分からない。
◇
今の僕は、たらこ道をエンドレスリピートしている。鱈になる前に死ぬのだから賽の河原行きか、と思ったらどうやらあれは人間の子限定らしい。
動けないまま死んでしまう僕が、徳を積んで人間道に復帰するのは不可能に近い。そんな僕が「たらこ道を外れる」方法が、1つだけ存在する。他の道と交差して出来る「角」を曲がればよい。神の恩寵(DG)は既にいただいたので、角(edge)を発生させるには、Eだけが必要なのだ。⑤⑥
◇
3.14から始まる数字の羅列を呟き続ける④が、eが現れる気配もない。鱈の姿で彼女と会うのは諦めたので、一刻も早くeに現れて欲しいのに、と焦りが募る。だって、言葉もないのに、僕のことを伝えられる訳が無い。⑧
今生も、僕はレジ袋越しに惨劇を見た。楽しげな雰囲気のパーティに現れる、レジ袋を携えた不審者。人間の限界に挑戦したような肉体から放たれるクリームパイに、投げつけられた人の頭は吹っ飛び⑨、空気は一変する。
人が死ぬ光景に慣れてしまった僕は、これをいやに冷静に見ていた。そして、その慣れのおかげで、僕はとても重要なことに気が付いた。
3.14って、eじゃなくてπだ。
◇
僕はネイピア数(e)を唱えた。無理数をひたすら暗記していた過去があるのだ。√2から√5までなら100桁以上を余裕で言える。
2.7182818284
11桁目を口にした瞬間、僕はサイコキラーに齧られ暗転。そして、目の前には最早見慣れた輪廻の一本道が表示される。だがいつもとは違い、見慣れない交差路が出来ていた。目の前を雲雀が横切っていくのが見えた。
これを曲がったら雲雀に転生するのか、スーパーで売られないだけいいな、と思いながら迷いなく角を曲がった。
赤ん坊の産声を聞いた。
◇
あれはどうやら人間道だったらしい。あの雲雀は前世でどれだけの徳を積んだのやら。
僕は世に人間として生まれ落ち、月の姫顔負けの速さで成長し、記憶を頼りに元住んでいた街まで走った。
サイコキラーがまだ捕まっていないのは、ひとえに彼の正体が特定されていないからである。だから、彼は今もあの街に住み続け、美しい色の魂を狩り続けている。
僕が彼に殺されないようにするのは簡単だ。彼の住む街に行かなければいい。そうすれば彼の眼に虹色は映らない。でも、僕は生き延びるために生まれ変わった訳ではない。虹が出る時だけ現れることが出来る彼女を、1人にしないために生まれ変わったのだ。
遠くに彼の気配を感じるが、構わず走り続けた。だって、虹はもう出ているのだ。③
◇
もう時間が無い。②虹は消えかかっている。
言葉で伝えられるとは思っていない。ただ、孤独を1番恐れていた彼女に、「忘れてないよ」と伝えるためだけに行くのだ。
つまらなさそうな顔で噴水に腰掛ける彼女に、誰も話しかけない。背後に見える虹と同じくらい透け始めた彼女に、一瞥もくれない。深淵を覗いてしまった彼女⑦に気付ける者は、誰もいないのだ。ただ、僕だけが、君を捉えている。
彼女が僕に気付くのと僕が彼女の手を取るのは同時だった。そういえば初めて触れたな、とか、手冷たいな、とか思うところは色々あったけど、そういうのは全部隅に追いやって、また会いに来るから! と叫んだ。
彼女は驚いた顔のまま消えていった。虹はもう、水色で塗り潰されていた。伝わった。なんの根拠もないけど、そう思った。
雲一つない快晴だ。やはりサイコキラーに殺されたけど、彼女がこの光景を見ていなくて良かった、と思うだけだった。
[完]
簡易解説
前世からの知り合いとの、待ち合わせの合図が虹である。虹を見て男は待ち合わせ場所に行くが、そのことはサイコキラーのターゲットになることと同義である。サイコキラーの住む街へ走っていった彼は、殺されてニュースになる。傍目からは、殺人鬼から逃げる憐れな市民に見えていたことであろう。
[編集済]
こはいちさんの神話体系、いつもながら舌を巻くばかりでございます。
宗教の要素がお互いに邪魔をせず、しかもたらこのシュールさが独特な世界観に自然に入り込み、より強い説得力を引き出しています。おかげで、「次は一体どうなるんだ!?」と読み進めずにはいられません。
はてさて、二人はちゃんと巡り合うことができるのでしょうか。次が気になる~。そして神話の完成が待ち遠しい~。(ただのファン)
[編集済]
今も後悔している。言えなかった。あの時――私が君に言うべきだったのは――。
◇◇◇
目を覚ましました。朝、目を覚ますというのはよくあることで、別段変わったことではありません。では、何が変だというのでしょう?何かがおかしいのです。
違和感の元を探すうちに、私は自分の頬を伝う涙に気が付きました。なるほど、違和感の正体はこれに違いないです。変に思うでしょう、自分が身に覚えのない涙を流しているのですから。
先程まで見ていたであろう夢がどんなであったか思い出そうと試みます。しかし「人の夢」と書いて「儚い」とはよく言ったもので、殆ど何も思い出すことができません。唯一思い出せたのは、君の姿――。私には心当たりがありました。きっとあの夢をまた見たのでしょう。ちらりと窓の外を見遣ると、あの時と同じ綺麗な虹がかかっていました。
◇◇◇
ベッドの上でのんびり考え事をしている暇はありませんでした。出勤時刻が迫っています。薄れて消えてしまう前に、君の姿を心に留めます。ごはんの上にたらこフレークを乗せて掻き込むように食べ、急いで家を出ました。(①)
乗るべき電車にも乗れて一息ついたので、ここらで私について少しお話しましょうか。実は、私が生まれてからから3世紀ほどが経過しようとしています。私が生まれたのは2000年前後だったでしょうか、もうよく覚えていません。いえ、別に人類の寿命が延びたわけではありませんよ。私だけがそうなのです。
少年時代の18才のある日、私は雷に打たれました。幸い、その時は何故か無事に済んだのですが、数年経ってから様子がおかしいことに気付き始めました。周りがどんどん年をとっていくのに、私の見た目は18才の少年のままずっと変わらないのです。
どうやら私に訪れた悪戯は、相当たちの悪い、不老不死のおせっかいでした。
◇◇◇
大人になりたくない。
皆さん、子供の頃にこう思ったことが少なくとも一度はあるでしょう。できるならばずっと10代後半でいたい、青春を謳歌していたい――。私もそうでした。そのような思いが強すぎたのでしょう。ある意味罰のようなものかもしれません。
どういうところが罰かって?そうですね…。私が関わった人は皆私より先に死んでしまいます。それに、何しろ時間が余ります。暇を持て余した私は円周率を数万桁覚えたこともありました。(④)
一人の人間が300年も生き続けるのは不自然極まりないので、数十年に一度名前や住み家を変えたりしながら、今迄うまくやってきたつもりです。しかし、それも疲れました。親しい人を見送るのも、もううんざりです。さながら標的を自身に定めたサイコキラーのように、何度も自殺しようとしましたが、完遂できませんでした。(⑩)どんなに鋭く尖ったものも、私の体を満足に裂くことはできず、軽いケガをした自分がその場に残るだけでした。(⑤)(⑨)
でも、最近は自殺衝動はありません。生きるモチベーションができたのです。
◇◇◇
私には仲の良い女友達がいました。と言っても、年齢は80才ほど違いましたが。私が不老不死だということを知っていたのは後にも先にも彼女だけでした。
彼女は18歳の時、不治の病に倒れました。私の懸命な看病も空しく、その2年後に彼女は亡くなります。それから100年ほど経ってようやく、私は彼女のことが好きだったことに気が付いたのです!私はなんて馬鹿な人間なのでしょうか、もはやその気持ちを彼女に伝えることは不可能でした。(⑧)
ところで、現在、技術の発展によってタイムマシンが完成しています。どうやら数年後に一般に発売されるようです。それに、100年前の不治の病も、今では簡単に治すことができます。そうです、これが私の生きるモチベーションです。どうやら彼女は最期にまだ何かやり残したことがあったようなので、過去に戻ってそれを叶えてあげたいのです。その際に私の気持ちを少しでも伝えられればそれで満足なのです。
おや、職場の最寄り駅に着いたようです。それではまたいつか...
◇◇◇
~数年後~
ついにタイムマシンを入手して、彼女が生きている時代に戻ってきました。ふと空を見上げると、虹が見えます。100年前の彼女の最期の時に、窓の外に綺麗な虹が見えたことを思い出した私は、もう時間がないことに少し焦って、急ぎ足で彼女の病室に向かいました。(②)(③)
病室に入ると、ベッドに臥せる彼女の姿がありました。彼女はすぐに私が未来からきたことを見抜きました。本当はもっと話したいことがあるのですが、何しろ時間がありません。私は未来から持ってきた道具で彼女の病気のもとを除きました。(⑦)
すっかり良くなった様子の彼女と話している最中、彼女の危篤の知らせを聞いた100年前の私が部屋になだれ込んできました。するとどうでしょう、私同士の目が合った時、二人の私の体が極彩色の光で包まれました。ああ、そういえばドッペルゲンガーと出会ったら云々というおとぎ話が大昔あったような気がします。まあでも、彼女を助けるという目的は達成した訳ですし、私は十分長生きできました。ここで死ねるのならば本望です。私は光に包まれながら彼女に言いました。
『あなたのことが好きでした』
◇◇◇
今も後悔している。言えなかった。あの時――私があなたに言うべきだったのは――。
自称不老不死のあなたへ
私はあなたに感謝しています。ですが、それ以上に怒っています。「あなたのことが好きでした」なんて、自分の気持ちだけ一方的に伝えてそのまま消えてしまうなんて。不老不死なんて、やっぱり嘘だったのね。私のやり残したことは、あなたが好きだと伝えることだったのに。あなたがいないと意味がないじゃない…
彼女は届く宛てもない短い手紙を投函した。彼と過ごした日々はあっという間で、夢のようだった。
◇◇◇
彼女が入院していた病院は、強烈な発光を目にした近隣住民に通報され、爆発事件としてニュースになっていた。しかし、爆発が起こった証拠(Evidence)はどこにも見つからず、事件はそのまま人々の記憶から消えていった。(⑥)
【完】
[編集済]
同名の曲は名前しか知らなかったので、数回ほど聴いたうえでこちらの作品を読ませていただきました。
案の定、泣きそうになりました。曲の解釈というのはありがちなようで、そもそもほとんどあれで完成している曲を更に昇華して解釈し、感動を与えるというのはなかなかできません。それなのに、要素を盛り込みつつこんなに素敵な解釈に仕上げるとは尊敬しかありません。特にサイコキラーの解釈が一番好きです。
投票会場の設置までしばらくお待ちくださいませ。
こちら(https://late-late.jp/mondai/show/4016)にて、投票お待ちしています!
参加者一覧 22人(クリックすると質問が絞れます)
今回は16作品の投稿がございました。
あの要素と解説の中から、びっくりどっきりするぐらいにどんどん集まりましたね。
私としては要素選出段階で心が折れていましたが、みなさんには頭が下がりません。いやマジで。
主催者のエキシビジョンが投票会場に置いてありますので、よろしければ御覧くださいませ。
なんというか、たらこじゃなくてTARAKOですけど。
それでは、結果発表と参ります!
まずは最難関要素の表彰です。
最難関要素賞(上位三位のみの発表)
第三位! 2票の「たらこは登場する」(質問・夜船さん)
サイコキラーと併せて、大波乱となった解説要素の一つといってもいいでしょう。
はたしてサイコキラーとたらこをどうつなげるか、それが今回の創り出しニストの腕の見せ所といってもいいでしょう。
個人的には、汎用性の低さが難関の原因であったと思います。
続いて第二位! 3票の「角が必要」(質問・HIRO・θ・PENさん)
「かく」「かど」「つの」そのどれを使うか、非常に悩んでしまいそうなこの要素。
汎用性はたらこに比べて高いはずが、ふたを開けてみると想像すら難関というパンドラの箱だったこの要素。
まさに皆さんの創造力が試されるこの要素に、3票入りました。
そして第一位は……
だかだん!
👑「Eが無くて困る」(質問・HIRO・θ・PENさん)
が最難関要素賞になりました!
抽象的な表現だからこそ、どう使うのか悩むこの要素。
多くの方が全体の方向性を決めることになったかと思います。
まさにこの要素に"出逢えたことから全てが始まった"ような、そんな多種多様な解説に巡り合えたことに感謝。
それと同時に、HIRO・θ・PENさんの3発3中ぶりに涙するばかりでございます。
私のエクセルは、HIRO・θ・PENさんの愛人か何かなのでしょうか。ともあれ、おめでとうございます。
続いてはお待ちかね、最優秀作品賞の表彰に移ります。
最優秀作品賞
第三位!
「もっともうちなる赤いいろどり」(作:ZenigokEさん)
「晴れ空に白」(作:ハシバミさん)
二作品が同票で3票入りました。
ぞっとするような程よい寒気で終わる解説と、じんわりと暖かさの余韻が残る解説。
話の展開が対照的ながら、どちらも人の心を惹きつける、そんな解説が同じ票数を獲得しました。
続いては第二位!
「七色ハンター」(作:きっとくりすさん)が4票を獲得しました。
ほっこりとグロを両立させる唯一無二のサイコキラーが現れるとは。
それでいて、虹が七色である由来とされる音階を元にしたこの解説が、第二位になりました。
個人的に、私の意図以上のものを創り出してくれたと思っています。感謝したい限りです。
そして栄えある第一位は……
ぱんぱかぱーん!
👑「色彩のない」(作:藤井さん)
が6票獲得した最優秀作品となりました! おめでとうございます!
「サイコキラー」という要素を、最も深く突き詰めた作品であると思います。
最初のコミカルな雰囲気からだんだん雲行きが怪しくなってくる恐怖をよく引き出しています。
もうほんと、控えめに言って最高です。サイコキラーだけに。
それでは、らてらて鯖第7回「正解を創りだすウミガメ」、シェチュ王の発表に移ります!
シェチュ王
👑 藤井さん(6票)
がシェチュ王になりました! おめでとうございます!
今回の創りだすは、第7回ということで虹に絡めた作品を出したいと思い問題文を作らせていただきました。
(最近は6色が有力らしいですがそんなことは気にしないぜ!)
虹をそのまま使うのか、比喩として使うのか、はたまた別の何かを勘違いしていたのか、などなど。
そしてその後男はどんな行動を取り、巷を騒がせるのか。そんなことを考えつつ、作らせていただきました。
予想以上でした。虹の描写にはこんなに奥深いものが創造できるのか!
想像以上の連続、そんな回であったこと、開催した甲斐があるというもんです。
そしてサイコキラー、お前はもう牢屋に入ってろ。二度とシャバに出てこなくていいからな。
それでは、藤井さんにシェチュ王のバトンをお渡ししたいと思います!
(次回の「正解を創りだす」の主催の権利が与えられます)
第7回正解を創りだすウミガメ、これにて終幕でございます!
そして藤井さん、遅ればせながらシェチュ王おめでとうございます! 実は既に数々の心温まるスープを創り出している藤井さんのファンでしたが、今回新しい一面をこの創り出すから見ることができ、より一層大好きになってしまいました。第一回からの常連である藤井さん、一体どんな回を創り出すのでしょう…! もうすでにワクワクが止まりません![19年02月03日 15:26]
皆様、ご参加ありがとうございましたー! 第三回から参加しつつ、主催という全く新しい立場を経験させていただきました。過去の創り出すを拝見し、今までのシェチュ王となった皆様が積み重ねてきたものの重み、そしてそこから私には一体何ができるのかというものをもう一度見つめ直すことができました。少しではありますが、「創り出す」の歴史に携われたことを非常に誇りに思います! 特に皆様の暖かいコメントが、何よりの励みになりました! 本当に感謝してもしきれない…![19年02月03日 15:18]
とろたく(記憶喪失)さん、主催お疲れ様でした。素晴らしい作品を書いてくださった皆様、また拙作に感想を書いてくださった方々、本当にありがとうございます。次回も腕を奮って参加したいです。やっぱり優勝目指したい…!(藤井さん主催…。問題文にはらこめしとか入るのかな)[19年02月03日 09:49]
主催のとろたく様、お疲れ様でした!暖かいコメントを頂き感謝感激雨霰です…!また優勝の藤井様、おめでとうございます!シェフの皆々様は本当に素晴らしい作品ばかりで、読んでいてとても勉強になりました!もっと自然に要素を使えるよう、次回はさらに頑張ります(`・ω・´)とても楽しかったです、本当にありがとうございました!![19年02月03日 05:34]
主催のとろたくさん、ありがとうございました&お疲れさまでした。諸々の迅速な対応や各作品へのコメント、エキシビション、大変に楽しませて頂きました。そして参加者の皆さんお疲れさまでした。今回の要素は本当にどれも組み合わせづらくて鬼畜だったー。様々な解釈が読めて楽しかったです! 次回創りだすはまたタイミングを見て開催させて頂こうと思います!夢にまで見た主催なのでたぶん早めに開催するかと(笑)また次回も皆で一緒に楽しめたら幸いです。ありがとうございました![19年02月03日 01:28]
やったーーーー!!!!( ゚д゚ )✨創りだす優勝は第一回の時からずっと憧れてやまなかったので素直に嬉しいです!!投票してくださった弥七さん、ひよこさん、きっとくりすさん、折鶴聖人さん、ZenigokEさん、ハシバミさん、ありがとうございました!コメントも大変嬉しく読ませて頂きました。サイコキラー最高、ハエ大好き。[19年02月03日 01:23]
とろたくさん、お疲れ様でした! 皆様ありがとうございました。藤井さん、おめでとうございます! とても楽しく、また非常に勉強になりました。ありがとうございました![19年02月02日 22:35]
とろたくさん、主催お疲れ様です。藤井さん、おめでとうございます。そして拙作にコメントくださった皆様、ありがとうございます。今回も個性豊かな作品群で、とても楽しかったです。[19年02月02日 22:33]
皆さん、とろたくさん、お疲れ様でした!藤井さんシチュ王おめでとうございます! 私はとろたくさんに続きが気になると言われて、なんというかもういっぱいいっぱいでございます。全体的にサイコな雰囲気が漂う第7回となって、非常に楽しませていただきました。[編集済] [19年02月02日 22:10]
nitrogenさん 本当に滑り込み&編集お疲れ様です。私だったらこの出題、まあまあ心折れてました。← そして皆さんには感謝してもしきれない・・・ありがとうございます。[19年01月28日 00:39]
ふー、やっと全部入りました... ほんとすみません... (編集できるということで文章をちょっと書き足したなんて言えない) こういうショートストーリー書いたの初めてなのですが、普段から完成度の高い作品を投稿している皆さんがどれだけ凄いかがわかりました笑[編集済] [19年01月28日 00:34]
nitrogenさん 大丈夫ですとも! ちょっとした誤字や文の抜けなどを考えて、本文は訂正可にしています。割り込みでヒント出し、申し訳ありません。投票対象にもなりますので、ご安心ください。日にちが変わるギリギリでの滑り込みお疲れ様です![編集済] [19年01月28日 00:03]
こはいちさん ⊂⌒~⊃。Д。)⊃))゜Д゜)"'・.'.ブホッ 実はひっそりこはいちさんの神話体系を楽しみにしてました! 1時間前の滑り込み、お疲れ様です![編集済] [19年01月27日 22:31]
ハシバミさん 投稿ありがとうございます! アイドル俳優の恋愛模様を描いた作品で留まらないところが素敵です。私も長文常習犯みたいなものですから全然長文でも大丈夫です(?)[編集済] [19年01月27日 00:25]
藤井さん 本当は感想をまず書くべきなんですが、今藤井さんの称号を見てびっくりしました。さすがはらこめしニスト。たらこをはらこに空目しました。(内容、めちゃくちゃ震えてます。投稿ありがとうございます!)[編集済] [19年01月26日 01:01]
赤升さん 1作目からガラリと変わった話の展開に思わずゾッとしてしまいます。これが廃課金ユーザーの末路か・・・ 2作目投稿お疲れ様です![編集済] [19年01月20日 17:40]
キャノーさん お笑い芸人の災難をテーマに、非常に笑える作品をありがとうございます。前前前回おなじみのたわしコロッケについつい反応してしまいました。二回目投稿、お疲れ様です。[編集済] [19年01月19日 19:43]
ミンタカさん 投稿ありがとうございます! 根っからのプロ棋士であるからこその行動に、思わず親しみが湧いてしまいました。こういうキャラ作りたいなあ。[編集済] [19年01月19日 02:07]
外枠さん 恐らく初めましてですかね?(どこかで問題参加してたらすみません) ご参加&投稿ありがとうございます! 僅かながら情報分野をかじっていた身として、外枠さんの目の付け所に脱帽です。ようこそ創り出すの世界へ・・・[編集済] [19年01月18日 16:37]
ひよこさん(さん) ようこそ! 投稿ありがとうございます。イロモノ揃いの要素の中、投稿から参加していただけただけでも感謝感激雨霰でございます。しかもこちらも早い![編集済] [19年01月17日 11:03]
藤井さん Eはかなりアバウトですから、どんな要素になるのか主催者ながらわくわくしてます。エクセルさんが荒ぶっちゃった結果どんな話が生まれるのでしょう。[編集済] [19年01月17日 00:40]
男は虹を見た。
その後、男の行動がニュースになった。
一体、何があった?
要素
①たらこは登場する
②もう時間が無い
③虹を見た男は焦る
④円周率を記憶する
⑤角が必要
⑥Eが無くて困る
⑦のぞく
⑧伝えることを諦める
⑨怪我をする人物が登場する
⑩サイコキラーが登場する
⑪手紙を書く
1/27(日)23:59まで受け付けております。
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!