前回の「正解を創りだすウミガメ」から、もう1か月が経ちました。
(前回の様子:https://late-late.jp/mondai/show/648)
夏休みも(有無は別として)後半戦に突入!
夏を締めくくる、美味しいスープ、みんなで作ろうぜ!
今回は、要素数”12”で行いたいと思います。
では問題文をどうぞ。
■■ 問題文 ■■
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
橋の上で「ありがとうございます!」と言った男と、
橋の下で「ごちそうさまでした!」と言った女。
二人のおかげで、金魚は長生きした。
何故?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この問題には、解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。
以下のルールをご確認ください。
■■ ルール説明 ■■
▶ 1・要素募集フェーズ ◀ [8/17 21:00頃~質問が60個集まるまで]
まず初めに、『要素募集フェーズ』を行います。
正解を創りだすカギとなる、色々な質問を放り込みましょう。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、”YESかNOで答えられる質問”を受け付けます。質問は1人3回まで。
2.皆様から寄せられた質問の数が”60”に達すると締め切り。
今回は、全ての質問のうち、”10”個をランダムで選び、さらに”2”個を出題者の気まぐれで選びます。
合計”12”個の質問が選ばれ、「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※良質以外の物は「YesNo どちらでも構いません。」と回答いたします。こちらは解説に使わなくても構いません。
※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
▶ 2・投稿フェーズ ◀ [要素を12個選定後~8/29 24:00]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
解説投稿フェイズでは、要素に合致するストーリーを考え、質問欄に書き込んでいただきます。
らてらて鯖の規約に違反しない限りなんでもアリです。
通常の出題と違い、趣味丸出しで構わないのです。お好きなようにお創りください。
とんでもネタ設定・超ブラック真面目設定もOK!
コメディーでも、ミステリーでも、ホラー、SF、童話、純愛者、時代物 etc....
皆様の想像力で、自由自在にかっ飛んでください。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。魅力たっぷりの銘作(迷作?)・快作(怪作?)等いろいろ先例がございます。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
「コピペで一挙に投稿」を心がけてください。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを良質にいたします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから、投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
5.本文の末尾に、おわり完などなど、「明確に終了とわかる言葉」を必ずつけてください。
▶ 3・投票フェーズ ◀ [8/30 00:00頃~9/1 24:00]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は”3”票、投稿していない「観戦者」は”1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈いたします。
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)→その作品に[良い質問]を進呈いたします。
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)→全ての作品に[正解]を進呈いたします。
なお、見事『シェチュ王』になられた方には、次回の正解を創りだすウミガメを出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
…異論はないね?
[最優秀作品賞][最難関要素賞]
同率で受賞です。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集期間
8/17 21:00頃~質問数が”60”に達するまで
◯投稿期間
要素選定後~8/29 24:00まで
◯投票期間
8/30 00:00頃~9/1 24:00まで
○発表
9/2以降のいつか(出題者の気分次第)
■■ お願い ■■
要素募集フェイズに参加した方は、出来る限り投稿・投票にも御参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!
もちろん、投稿フェイズと投票フェイズには、参加制限など一切ありません。
どなた様も、積極的に御参加ください。
それでは、要素募集フェイズから、スタート!
【メイン会場】結果発表!皆さんお疲れさまでした!激戦を勝ち抜いたのは…?
ある世界、ある時代、ある国に。 一人の年若き④王女がいた。
王女は生まれつき片目が無かった事から①隻眼姫と揶揄され、王家の恥さらしと王の怒りを買い城に軟禁されていた。
不憫に思った王妃は王女にネックレスをプレゼントした。
「盾にヤモリは我が王家の紋章です。あなたは王家の人間です。誇りをもって生きるのですよ。」
その言葉を胸に、王女は軟禁生活に耐えた。 醜い顔でも勉学に励めば認めてもらえるのではないかとがむしゃらに勉強した。戦時下にあり国を憂いていたことから、戦場における戦士の⑫心理テストケースをテーマに2度論文も出した。
1回目は箸にも棒にも掛からず、⑧2回目は注目されたものの、著者が王女であるとわかると王は醜女の分際でと怒り狂い論文を焼きなかったことにしてしまった。
勉強も禁じられ、軟禁は実質監禁へと変わり、絶望した王女の心の支えは一匹の金魚だけだった。
狭いガラスケースの中を行ったり来たりする金魚に自分を重ねたのかもしれない。
監禁生活が数か月続き、世の中の事も全く分からなくなったある夜、庭から突然男の声がした。
「突然のご無礼をお許し下さい。王家の方にいらっしゃいますか!」
目をやれば庭の小さな池に掛かった橋の上に、ひどく汚れた軍服に身を包み、壊れた⑪対戦車ライフルを負った男が片膝をつき深々と頭を下げていた。
王女はひどく驚いたが久しぶりに見る外の人間に興味を持った。
「そうですが・・・あなたは?」
「自分は陸軍第二十四小隊所属のミシマと申します。陛下に是非ともお願いがありここに忍び込んだ事どうかお許しください。」
どうやら王家の者に直談判したいようだ。だがこの男は③勘違いしている。王家の人間なら誰でも権力があるわけではない。
自分の顔を見れば判りそうな物だが、王家の事情には疎いと見えた。
「此度の戦争は我々の敗北は決定的です。ですが王は降伏を良しとせず最後まで抵抗の意思を見せておいでです。ですがもう、無理です。このままでは国民の命が無駄に失われます。どうか、あなた様から王に降伏を進言して頂きたいのです。」
王女は呆れた。私などが王に進言など許されるものか。世の中がどうなっているのかは知らないが自分には出来ぬ相談と断った。
だが男は引き下がらなかった。
男は膝をついた姿勢を崩すことなく、王女におかしな物体を差し出した。
「これが今国内で最も貴重な果物、②りんごでございます。」
それを見た王女は愕然とした。これがりんごだと?こんな黒ずんでしわしわの、見るからに固そうな物体がりんごとは。
「驚かれましたか。城内は辛うじてまだまともな食事が出ているかもしれませんが、我々はもう農作物を食べることすらできません。畑は焼かれ、水は汚染され、このままでは魚も家畜も全滅してしまいます。」
信じられなかった。今日の夕飯に出てきたカレーライスは少々量が少なかったが普通に思えた。そう話すと男は頭を垂れたまま少し笑い、
「それは城が自分たちの分だけを保管していたからです。我々はもう、⑩カレーの人参すら食べることができないのです。」
どうか、どうか、と男は繰り返し言う。まるで⑨充電がそろそろ切れそうな人形の様に、弱々しくどうか、どうか、と。
王女は自分の胸元に光る⑤ヤモリのネックレスを見た。母の言葉が思い出される。王家の人間として、誇りを持てと。
王女は男に頷き、「分かりました。私にどこまで出来るかわかりませんがやってみましょう。」と伝えた。
男は肩を震わせ「ありがとうございます」と言うとそのまま動かなくなった。
王女が近寄ってみると男は片膝をついたまま事切れていた。顔を覗き込むと男の顔はひどく焼けただれ、両の目が潰れていた。
何故橋の上にいるのか、何故自分を見て驚かないのか、不思議だったが合点がいった。この男は何も見えていなかったのだ。
左手には祈願成就の⑥御札が握られており、男の覚悟の程が感じられた。
王女は渡されたりんごに口をつけた。不味かった。りんごの香りも瑞々しさも全くなく、砂を食んでいるような気になった。
だが王女はそれを全て食べた。そうしなくてはいけないと強く思った。
「ごちそうさまでした。」
そう力強く言うと王女は立ち上がった。
両の目が見えずとも命がけで使命を全うするものがいるのだ。片目が無いくらい何だと言うのか。
「あなたにも長生きしてほしいものね。」
そう水槽の金魚に告げると王女は部屋を後にした。
⑦秋の気配をふと感じるようになった季節。夜風に波立つ水面に、金魚はするすると水槽を泳いでいた。(了)
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
僕はさえない男だ。
そんな僕でも思いを寄せる女性の一人や二人はいるものだった。
ただ、僕が思いを寄せるのは④高貴な家柄のお嬢様であった。
彼女とは地元のレストランで働いていたところを見かけて好きになったのだ。
胸元に⑤ヤモリのネックレスが光る妖艶な彼女。
それは⑦秋の気配をふと感じる日だった。
僕はその日地元のレストランでカレーライスを頼んだ。
でも、僕の苦手な人参が入っていると知った途端、皿の端に人参をよけ始めた
強面の僕をみてクスッと笑いながら話しかけてきた。。
「ちょっと、お客さん人参が嫌いなのはわかるけど
味の濃い⑩カレーライスに入ってるのすら食べられないの?」
僕はその母性にくすぐられたんだ。
彼女はとっても魅力的だったよ。だから俺も落とすのに必死になってた。
足を運ぶ回数も⑧2回目、3回目、4回目、、、と増えてったけど
軍の召集令状が来てからは変わったよ。
彼女に僕が召集されたってこと伝えたら悲しんで泣いてくれたよ。
でも、行くってことには変わりない。
そんなこんなで一般人だった僕は兵士になった。
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
召集令状が来てから1か月。
今日の訓練で自分の配置が言い渡された。
ライフル分隊と言われてる部隊で働くそうだ。
武器である⑪対戦車ライフルの訓練もしたけど、
対戦車ライフルを担いで戦車に突っ込むって言ったって、いくら生身では命はもたないだろう。。
僕もいつか死ぬかもしれない。
《せめて、両想いになるまでは死にたくない!》
そんな思いを叶えたくて近所で有名な祈りの橋に②りんごをもって向かった。
そこは、りんごと幸福で生きていると信じられている美しい金魚がいるところで
この地域の人は昔からお願いをしたいときはりんごをもってこの橋へ来たそうだ。
⑥御札がびっしりと張り付いた、その橋は月明かりで照らされていて妖艶な雰囲気を漂わせていた。
僕がりんごを投げて願い事をしようと思ったら不意に橋の下にいる彼女に気づいた。
彼女に眼を取られて的外れな方向にりんごを投げてしまった。
彼女が眼をこちらに向ける。とても、悲しそうな眼をしていて胸が苦しくなった。
彼女はりんごの落ちたところに歩いて行って、こっちを見ながらりんごをかじった。
「ふふっ。。おいしいね。サクッ..サクッ...ごちそうさまでしたっ!」
「あっ、それは願い事のために。。」
「大丈夫!私もお祈りするために持ってきたから。たっくさ~ん!ねっ?」
こうして、僕と彼女は祈りの橋で晴れてむすばれることとなったのだ。
僕は橋の下に降りて行って願い事を胸の中で確かに感じながら
「ありがとうございます。。」
とたくさんのりんごを川へと流した。
水の中では金魚がたくさんのりんごとたくさんの幸福を手に入れた。
こうして当分の餌に困らない金魚は永く永くこの地の民の願いを
叶えるために生き永らえたのだった。
〈証明終〉
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
「ごちそうさまでした」①隻眼の彼女はそういって嗤った。
しかし聞こえるはずはないのだ。こんなにも離れた距離で。
そんな感想を最後に、私の記憶は途絶えていた。
私の名前は北窓 しがない考古学者だ。
年齢は50 この年にもなって⑩カレーの中の人参すらも食べられないほどの人参嫌いだ。
そのせいで家内に逃げられたことは弟子たちには秘密だったがすでにばれているようだ。
なぜだろうか。まあよい。今はそんなことはどうでもよいのだ。
これから語るのは私の若いころの話である
若いころの私は何も考えていなかった。なにをおもったかリアクション芸人を志していたのだ。
しかし芸人になるための道は厳しく、大学教授の下で遺跡探索のバイトをして食いつなぐ日々だった。
夏もそろそろ終わりを迎え、⑦秋の気配がふと感じられる、そんなある日のことであった。
彼女と出会い、そして別れを繰り返したのは。
その日は新人発掘の企画に応募し運よくとおったため、
かつては名のある一国であったというとある遺跡に来ていた。
無事に撮影を終え、遺跡の中の野生の金魚が泳ぐ小さな池にかかった橋を渡っていた時だった。
野生の金魚を珍しく思い、写真を撮ろうとしたのだが⑨携帯の充電が切れそうでカメラが機能しなかった。
諦めて金魚を眺めているとそこには異様な光景があった。
橋の下に①隻眼の小さな女性が立っていたのだ。
はじめはただの③勘違いかとも思った。
しかし白と赤をメインにした②リンゴをあつらった美しい着物に身を包み、
毅然と立つ彼女は確かにそこに存在していた。
④高貴な家柄であろうことは明らかだったが、片目に張られた⑥御札だけが異様だった。
彼女は私に多くの質問をしてきた。名を問うものから
⑫心理テストじみたものまで様々だったが、聞かれるままにこたえていった。
途中で⑪対戦車ライフルに打たれた時の対応を聞かれたりもした。そんなものわかるはずがない。
別に答える必要も特になかったのだがなぜかすべての問いに答えてしまった。
質問を終えると彼女は「ご馳走様でした」と言ってほほ笑んだ。それを最後に私の記憶は途絶えた。
目が覚めると車の中だった。スタッフ曰く橋の上で突然倒れたらしい。
彼女との出会いを語ったところで頭がおかしいと思われるだけだ。
写真が残っていないのが本当に残念である。
そう思っておとなしくしていると、突然後方から爆発音が響いた。
私たちのいたあの遺跡だった。幸い死傷者は出なかったそうだが、
あの池の金魚たちは死んでしまっただろうと思うと少し寂しくなった。
そこからは絶望が待っていた。私は数々の感覚を失っていたのだ。
これからの生活に希望を失い、わたしは自殺を決めた。
書置きを残し近所の橋へ向かった。
「ありがとう、君に会えてよかった。ここで死ねばまた君に会えるのかな?」
そう呟いて私は飛び降りた。
そして私は死に至った。
そのはずだった。水面に当たる直前にヤモリのネックレスが光り輝いた。
私のものではない。いったいなぜ?そう思う間もなく、私は意識を失った。
目が覚めるとそこは自宅だった。カレンダーを見て驚いた。
一週間ほど日にちが戻っていたのだ。はじめはただの勘違いだとは思ったが、
起こる出来事の一つ一つが⑧二回目の風景だったため否が応でも理解させられた。
そして訪れる遺跡での撮影。彼女には聞きたいこと、伝えたいことがたくさんあった。
だからこの撮影を待ち望んだ。
ついに撮影が終わった。真っ先に橋の元へと向かった。
やはりそこにはまた彼女はいた。
彼女は以前と同じように笑うと、また私に質問をしてきた。
しかし今回は心に余裕があった。
彼女の質問の内容を当て、逆に質問をすると彼女は戸惑った。
そして彼女はあきらめたように語りだした。
彼女ははるか昔からこの地に住まう妖怪らしい。金魚の中に紛れて生きており、
ときどき人間の前に現れては、対話することで生気を食らい生きながらえているそうだ。
しかし前回は相性が良く、話し込みすぎてしまったらしく、
その弊害でいくつか感覚が失われてしまったらしい。
何年かすれば徐々に戻っていくそうだ。
そしてそのわびにあのヤモリのネックレスをくれたらしい。
あのヤモリのネックレスは着けている人が死んだとき、
一度だけ時を戻し生き返らせる力があるのだと。
感覚が奪われた期間に偶然死んでしまっては後味が悪いと考えたらしい。
話を聞いて私は自分の精神の弱さを悔やむとともに、
自分が早く死んでしまったことにより、彼女を救えることを喜んだ。
彼女にこの遺跡が爆破され、危険であることを伝えると、
彼女は非常に驚いていたが、すぐに気を取り直し仲間や金魚たちにその旨を伝えた。
彼女と仲間たちは私に何度もお礼を言っていた。
彼女たちと別れた私はリアクション芸人の道をすっぱり諦め考古学者として頑張ることにした。
その裏でわたしは彼女たちのような妖怪の住処を守る活動をしている。
彼女とともに泳ぐ金魚たちの姿を眺めると、今日も一日頑張ろうと思えるんだ。
こんな話信じられないかな?でも確かに彼女たちはこの世界にいるんだよ。
見かけたら優しくしてあげてね。
私の話はこれで以上だ。さあ授業に戻り給え。先生たちが待っているよ
~fin~
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
これは前世の話
りんごは色づき秋の気配をふと感じる季節。⑦少女は死にかけの鮒を見た。哀れに思った少女は、「神さま、この魚をお助けください」と祈った。そのとき、なにかあったら破りなさい、と言われていた御札⑥の存在を思い出した。
少女は御札を破った。するとどこからともなく青いヤモリがあらわれた。
「赤いものと青いもの、どちらが好き?」
青ヤモリは少女に尋ねた。
「赤いものが好き」
少女の返答を聞くと、ヤモリは首に下げているネックレスを光らせた。⑤
すると鮒は生き還り、ぽちゃんと川の中に戻っていった。
少女は喜んだが、自分の右目がりんごになっていることに気が付く。①② また、その日からりんご以外の赤いものが食べられなくなった。
ヤモリの質問はとても簡単なものである、と少女は勘違い③していた。
実際は心理テスト⑫のような簡単なものでは無い。ヤモリの質問は心理テストではあるが、もっと、重要な、神のご意向を左右するものだったのだ。
りんごの目は、命を救った代償か、テストの答えが気に入らなかったか、真実は神のみぞ知る。
******
カレーの人参すら食べられないほど⑩人参嫌いな男は、人参を食べさせられそうになって逃げ出してきた。
遠くで怒り狂った母親が乱射する対戦車ライフル⑪の音が聞こえる。
今帰ってもまずい気がして、公園を散策する。
すると川の中に見慣れない水車と、物欲しそうな目で金魚を見つめている女性がいた。
何をしているのか聞くと、携帯の充電がそろそろ切れそう⑨なので水力発電をしている、と言われた。1度やってみたかったらしい。
「やりたい!」といえばすぐ水車を用意できるし、許される。そのくらい女は高貴な家柄である。④
閑話休題、説明をしている最中にも女性のお腹は何度も鳴っていた。女の脳内が金魚のソテー、甘露煮、刺身で溢れる。たまに男の右目代わりのりんごにも目がいっている。
生まれたときからりんごだった己の右目。食べられてはかなわない。
見かねた男は、盾がわりに持ってきた食器を指さして言った。中身は肉じゃが(人参入り)である。
「金魚の代わりに、これ食べる?」
「是非!」
金魚からパッと目を離し、人参(肉じゃが入り)を見つめる女性。
鯉のエサやりのように、橋の下で待機している女性の口の中に肉じゃがをぽいぽいと放り込む男。
「ありがとうございました!これで母に殺されずに済みます」
「こちらこそありがとうございます!ごちそうさまでした!」
金魚は、女の胃ではなく、川で元気に泳いでいる。来世でもまた少女は鮒を救い、鮒は少女に救われたのだった。⑧
fin
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
アキラは自宅で飼っている金魚に餌を与えていた。
少し多めに水槽に餌を入れてやると、容器がちょうど空になった。それを無造作に投げ捨てる。
真面目に勉強して、真面目に働いて、真面目に生きてきたつもりだ。楽しいとは言い難い人生だったが、それでも前を向いて歩いてこれたのは、大切な存在がいたからだ。
女手一つでアキラを育ててくれた母親。彼女の葬儀は昨日終わった。
彼にとって生きる理由と言えば、いまやこの①右目が潰れた金魚くらいだった。
「僕が死んだら、お前も死ぬしかないんだろうな」
アキラの声が聞こえているのかいないのか、金魚はパクパクと口を動かし餌を食べている。必死に生きようとしているその姿から目を逸らし、アキラはアパートを出た。
***
ユミカは目の前に座る裕福そうな身なりの男を一瞥して小さくため息をついた。
初めてのデートで高架下の薄汚いレストランを指定し、⑩カレーの人参を避けて食べているこのオジサンと結婚することを、果たして幸せと呼べるのだろうか。
④由緒正しい姫宮家に生まれたユミカはその勝気な性格から家風に馴染めず、親の反対を押し切って大学に進学した後有名なジュエリーブランドの本社に就職した。優秀なユミカは上司からは認められ後輩からは慕われ、順風満帆なキャリアウーマン人生を歩んでいた。
しかし、30歳を目前にした娘を何としても結婚させなければと鬼気迫る両親の紹介を断ることが出来ず、ここ最近の週末はもっぱら初めて会う男とデート、といった調子だった。
最初に会った相手は、霊が見えるのだと主張し、土産に⑥御札を持たせてくれた。⑧2回目に会った相手は、趣味の話になった途端、⑪対戦車ライフルについて延々と演説し始めた。話題に詰まった時に突然⑫心理テストを始める42歳の男もいた。
果たして何人と会ったのだろう。両親の見立てが悪いのか、金持ちは変わり者が多いのか、それともお嬢様らしからぬ性格をしたユミカ自身に問題があるのか。
ーーーごめんね、お父さん、お母さん。今回も無理そうです。
デザートに出てきた②りんごのシャーベットに⑦ふと秋の訪れを感じる。ジュエリーブランドはこれからの季節が忙しい。こんな無駄な時間を過ごしている場合じゃない。
ユミカはシャーベットを食べ終えるとすぐに立ち上がった。
「ごちそうさまでした!」
ユミカだって結婚したくないわけではない。しかし誰でも良いわけでもない。
少なくとも、今日のデート相手は「なし」だ。手短に挨拶を済ませて1人で店を出た。
レストランを出てスマホを確認したユミカは、スマホの⑨充電がなくなりそうなことに気づいて慌てる。仕事の連絡が来るかもしれない。
足早に歩道橋を上ると、橋の真ん中辺りに男が立っていた。
手すりに手をついて、多数の車が走る道路を見下ろしている。何やら暗い雰囲気を身にまとっているように見えた。
ユミカは考えるよりも先に走り出していた。男の腕を握って自分の方に引く。目の前で自殺なんて勘弁だ。
「馬鹿じゃないの!?」と怒鳴ろうとしたが、男の首元に⑤光るネックレスが目に付いた。
「あ、それ、YAMORIのネックレス……」
「え、はい。どうして知ってるんですか」
「どうしてって、私の会社の商品だから」
「へ?僕の名前です、矢森。矢森アキラ」
2人はお互いに顔を見合わせて、少しの沈黙の後に同時に笑った。
「あなた、矢森さんっていうんですね」
「このネックレス、YAMORIでしたか」
矢森の話によると、面倒な仕事の電話を終えて一息ついたところに丁度ユミカが通りかかったらしい。当然自殺するつもりなど毛頭なかった、と。
ユミカは自分の盛大な③勘違いに赤面した。
「やだ、本当にごめんなさい……。早とちりしちゃいました」
「いえ、寧ろありがとうございます。なんだか元気出ました」
矢森は優しく微笑んでユミカを見つめた。
おそらくユミカと同年代か、少し年下だろう。落ち着いた雰囲気に柔らかい物腰。きちんと着こなしたスーツは清潔感があって、顔付きにも人柄の良さがにじみ出ているようだ。
ユミカは矢森と目が合って、自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。
***
ユミカと連絡先を交換して別れ、1人で歩き始めたアキラは珍しく鼻歌など歌っている自分に気づいて苦笑する。母の形見のネックレスがもたらしてくれた出会いに浮き足立っていた。
怒ったり笑ったり照れたり、クルクルと表情を変えるユミカは魅力的だった。意志の強そうな目も、ハッキリとした物言いも、その割に細身の身体も好みだった。
彼女に言ったことは嘘ではない。自殺するつもりはなかった。……あの場では。
アキラはふと立ち止まって、鞄の中を探る。今晩使おうと思って調達していた薬を取り出し、目に付いたゴミ箱に捨てた。
ーーー金魚の餌を買って帰ろう。
再び歩き始めたアキラの足取りは軽かった。(終)
[編集済]
(`・θ・´)フムフム [正解][良い質問]
「お嬢様、あまり遠くへは行かれませぬよう……」
「大丈夫よ!じいさまってば心配性なんだから。私はもう子どもじゃないわ」
「やはり爺も一緒に回りますよ」
「だーめ!じいさま疲れちゃうでしょう?こんな機会もう無いかもしれないんだから、めいっぱい色んなところ回りたいの!」
「う……。8時には必ずここへ戻ってきてくださいね。何かあればすぐにその電話で爺を呼び出してください。約束ですよ」
「分かったってば!じいさまこそ、ヘンな人についていっちゃダメよ!」
上品なスカートをひらりと翻し駆けていく彼女の背中を、爺は不安そうに見送った。
格式の高い家に生まれた彼女[④]は、17歳の誕生日に「お祭りというものに行ってみたいわ!」と目を輝かせた。周りは断固反対したが、幼いころからずっと面倒を見続けていた爺は、彼女のこんなにもわくわくした表情を見たことがなかったため、どうにかしてその願いを叶えてやりたいと思った。そして今日、うまく周囲を言いくるめて彼女を連れ出してやることに成功したのだ。
夏の終わりを惜しむように開催されたらてらて町の夏祭り。うだるような暑さは過ぎ去り、近頃では心地よい風が髪を揺らし、ふと秋の気配を感じるようにもなった[⑦]。
しかし今日ばかりはその涼しさを熱気が上回っているかもしれない。ずらりと並ぶ屋台、浴衣を着た大勢の人たち。立っているだけで伝わってくる特別感。彼女の胸は高鳴る一方だった。
「ねぇ!この赤くキラキラしたもの、おひとつちょうだいな」
「あいよ!200円だよ」
生まれて初めて見る屋台。そこで売られているものはどれも安価なものばかりだ。彼女はお金だけは充分に持っていたし、屋台のものすべて買い占めたってお釣りが出るだろう。しかし、彼女にとってはそのどれもがこの上なく価値のあるものに見えた。
(とってもきれい。これは見て楽しむものなのかしら?)
赤くキラキラしたそれをうっとりした目で見つめる。街灯にかざしてみたり、くるくると回してみたり、つんつんとつついてみたり。
はて、と首を傾げる彼女を、やや離れた場所から訝しげに見ている人物がいた。
「……りんご飴がそんなに珍しい?」
彼女が振り向くと、そこには眼帯を装着した隻眼の男[①]が立っていた。
「りんごあめ?これ、りんごあめって言うの?」
「知らないのか?りんご[②]を飴でコーティングした食べ物。甘いよ」
「へえ!……まぁ、ほんとだわ!すごく美味しい」
満面の笑みを浮かべてりんご飴を舐める彼女に、男は虚をつかれた。ただのりんご飴になんて嬉しそうな顔をするのだろう。
言葉に詰まっていると、今度は彼女の白い腕が伸ばされた。
「あら、これ……何のモチーフなのかしら?かわいい」
「っ……これは、ヤモリっていう生き物で、よく家の窓とかにはりついてて」
「そうなの?私は見たことないわ。とてもキレイね、素敵」
細い指にすくい上げられたヤモリのネックレスが、周囲の明りを反射させ男の胸元でキラリと光る[⑤]。
反応に困っている彼のことはお構いなしに、次に彼女が目をつけたのは男の手の中のパックだ。ひょいと覗き込むと、そこには食べかけの焼きそば――端の方に人参だけが丁寧に寄せられている。男は大の人参嫌い。幼い頃からずっと、カレーライスの人参すら食べられないのだ[⑩]。
「あら、あなた、そのパックによけてるの、なあに?」
「……焼きそば、の人参。苦手で」
「まあ!よかったら私にくださらない?焼きそばって食べたことないわ」
「えっ……別に、全然いいけど」
「やったー!じゃあ、お礼にわたしのりんご飴、差し上げるわ」
「えっ……!いや、それは」
間接キスになるから、と男は言えない。無論、焼きそばの時点で間接キスなのだが。しかしりんご飴はいささか直接的すぎる。
「いいから。交換しましょう?」
「……ん」
彼女の笑顔に押され、男は焼きそばを渡してりんご飴を受け取った。勢いよく焼きそばをすすり始める彼女。男もためらいつつ、りんご飴を口にする。
「う~ん、こんな美味しいもの食べたことないわ!」
「……そりゃあ良かった」
「あなたはどう?美味しい?」
「あぁ……ありがとう」
「ふふ。ごちそうさまでした」
男の口の中は喩えようのない甘さでいっぱいだった。この短時間で完全に調子を狂わされている。
彼女は男の手を取り、半ば強引に持ちかけた。
「ねぇ!私にお祭りを案内してくださらない?私ね、こんなお祭りって生まれて初めてなの。それに、何だかあなたのこと気に入っちゃったわ」
それから男は彼女と二人で祭りを回り始めた。
初めはためらいがちだった彼も、彼女のその無邪気さに、不思議と壁が溶かされていくようだった。
射的コーナーでは、対戦車用ライフルを模した鉄砲[⑪]を構える男に「キャー!」と興奮する彼女。普段から眼帯生活のため、片目でピントを合わせる事は何てことない。男は狙った通りの的をとらえた。
「すごいすごい!なぁに?これ」
「御札[⑧]。……オモチャのだけど。御守りみたいなモン」
「へぇ、お守りを撃っちゃって大丈夫かしら?」
ふふ、と笑う彼女につられて笑う。
まるで二人で悪戯をはたらいているみたいな気分だ。
そして金魚すくいコーナーでは彼女が興味津々だった。男は簡単にコツを教えたが、どうも上手くいかず、すぐに破れてしまった。
「う~ん、難しいわ」
「んー……じゃあ、ここらでひとつ心理テスト[⑫]でもやってみるか」
「心理テスト?」
「そう。金魚を俺だと思ってすくってみてよ。それで、捕れたかどうか、逃げられた場合はどんな逃げられ方だったか、それで心理が分かる」
「ええ?なぁにそれ。あなたが金魚?……ふぅむ、よし!」
男のこの提案は実はでたらめで、答えなんて用意されていなかった。しかし、金魚に逃げられてしまった時に『これは俺とあんたの関係。結ばれないみたいだな』なんて言って、どんどん加速する自身の気持ちにストップをかけられればよいと思った。――のだが。
彼女は赤と黒の模様が美しい大きな金魚に狙いを定め、まるで優しく撫でるようななめらかな手つきで、その大物を見事すくい上げたのだ。
手元のボウルでピチャンと金魚がはねた。
「わぁ!!とれた!!ねぇ、すごい!!とれたわよ!!」
「……そうだな」
「あっ、ねぇ、心理テストの結果は?」
「さぁ。知-らね」
「なによそれー!」
男の頬は心なしか染まっていく。
店のおじさんはそんな二人の様子をとても微笑ましく見ていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
男は腕時計に目をやり、心配そうに彼女に尋ねた。
「なぁ、そろそろ帰らなくて大丈夫か?一人で来たわけじゃないんだろ」
「あっ……そうね、じいさまから渡された携帯電話の充電も切れそうだわ[⑨]。もう戻らなきゃ……」
寂しそうに肩を落とす彼女に、男は射的で取ったオモチャの御札を差し出した。
「これ、あんたにやるよ。お守り」
「えっ……」
「オモチャだけど、あんたには効きそうだから。……俺の代わりに、そばで守ってくれるように」
その言葉を聞いた彼女は、一瞬とても哀しげな表情をした。
「それってもう会えないってこと?嫌だわ!そんなの、だって……」
「そうじゃない、そういう意味じゃないんだ。勘違いするなよ[③]、これが最後じゃない」
「本当に?本当にまた会える?」
「もちろん。……別れの言葉を口にしなければ、大丈夫。また会える」
男は小さく笑った。彼女は彼の澄んだ瞳を見て、コクリと頷く。
二人はゆっくりと歩いた。「じゃあ、ここで……」と彼女が橋の下に下りる。
男は橋の上から彼女を見つめ、出会った数時間前よりもはっきりと彼女に告げた。
「ありがとう!」
彼女は一瞬、何を言うべきか迷ったようだった。しかし、彼の言葉がよみがえる。”別れの言葉を口にしなければ大丈夫”と。
「……っ、ごちそうさまでした!」
その言葉を聞いた男はふわりと笑った。このやりとりは2回目だ[⑧]。
そうだ。繰り返すように、何度でもまた会える。
彼女も、泣きそうな笑顔で手を振った。
――夏が終わる。
広大な土地に佇む白い家。彼女は爺に大きな透明の水槽を用意させた。
そして、いろんな本を読み漁って金魚の飼育法を調べた。大きなフィルターも設置した。
広すぎるくらいのその水槽の中を優雅に泳ぐ金魚を、彼女は飽きもせず毎日眺めている。
「お嬢様、金魚がそんなにお気に召されたのです?」
「えぇ、じいさま。……大事な大事な金魚なの」
水槽の脇にぶら下げられたチープな守り札を見て、彼女は幸せそうに微笑んだ。
― fin. ―
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
わたしは小春。いっぴきの狸。
沢山の狸がのんびり暮らす、ここ、ぽんぽこ村の長であるお父さんの一っ匹娘。④
いつもは屋敷で先生と「化けごと」の勉強をしているの。
食事や洗濯は全部、女中さんがやってくれるから、わたしは一日、化ける練習くらいしかやる事がないんだよね。
だけどそんなある日、お母さんと村の外れにある川岸の方へ行った時なんだけど、
私見ちゃったの。
人間たちが家族や友達同士で、河原で思い思いに何かを焼いて楽しそうに賑わっているのを。
お母さんには楽しそうだからもっと近づいて見てみようよって言ったんだけど、人間に見つかるなんて一番危ないこと絶対にやめなさいって叱られちゃった……。
私も人間は何だか怖い生き物なんだろうなぁと思っていたんだけど、あんな楽しそうに笑ってるとこ思い出すと、何だか本当かもよく分からなくて……。
そんな事を屋敷の縁側で寝そべりながら、ぼんやり考えていた。
季節は夏。だけど時折、秋の涼しい風が入って来る。もしかすると、あの河原の人たちも人間の世界の夏休みが終わったらもう来なくなるのかもしれない。⑦
縁側に置いてある金魚鉢の中に目をやる。
ぷかぷか、ひらひら、かわいい金魚。
何も考えてないのがちょっと憎いな。
そうしたら私、思いついちゃった。
私も人間に化けてあの人たちの中に混ざろう。
早速、先生にその話をして、どうすれば人間に化けられるか聞いてみた。
「化けることに熱心なのは感心だが、その理由じゃダメだ」
「えー、どうして?」
「狸の三大死因を知ってるかい?」
「知らない。」
「3位が川に流された、2位が運動不足による生活習慣病、1位が人間にたぬき汁にされた、だよ。良いかい、人間はそれほど危険な輩なんだ」
「うーん、本当にそんな人たちばかりなのかな……。」
「ただ、方法はある」
「方法?」
「お前が化けるんじゃなくて、ちゃんと化けごとの修業を積んだ狸がお前を化かせばいいんだ。私の弟子に弥吉という若い奴がいる。そいつの練習にもなるだろう」
「やったー! ありがとう、先生!」
「ただ、絶対に危ないマネだけはするんじゃないぞ。いざとなったら、とにかく逃げることだけを考えるんだ」
「うん、大丈夫だよ、先生♪」
次の日、先生の家にお邪魔した。弥吉さんは、いかにも真面目に修業してますという感じでキリっとした顔立ちの狸だった。
「それじゃあ弥吉、さっき言われた通りにやってみろ」
「分かりました。はあッ!」
弥吉さんは甚平から取り出した御札を持って呪術を使い始めた。⑥ 藁葺きの部屋に煙が充満する。
あれ? もしかして私、自分の体が変わってるかも。身長もどんどん高くなって……。
そして煙が止んで、変身した私の姿が現れた。
って、何これ、すごく重たい……これって銃?
「おい弥吉! この馬鹿者が! 誰が屈強な兵士に変身させろといった!?」
「すいません、人間、人間……とイメージしていたら、対戦車ライフルを背中に担いだ戦地帰りの隻眼軍人のことを考えてしまいました」①⑪
「今、そんなこと考えなくていいんだよ! これで人間と仲良く食卓囲める訳ないだろ! 2回目やってみろ!」⑧
「はい、やってみます……。はあッ!」
再び部屋が煙で満ちる。今度はそんなに身長も変わらない。そして煙が止むと、再び新しい私の姿が現れた。
「おー。これは良い出来なんじゃないか? まさに可愛い人間の女の子って感じで、小春ちゃんのイメージそのままだ」
確かに、これなら人間を騙せるかもしれない。
「ありがとう、先生! 弥吉さん!」
「お役に立てれば光栄です。それと、これを。」
渡されたのはヤモリのネックレスだ。
「これを首にかけておいてください。しばらくは効果が続きます。しかし、これが赤く光りだしたら充電切れです。狸に戻ってしまう前に帰ってきてください」
「分かった。気をつける。」
「私たちは橋の上から見守っています。もし何かあったら、とにかくこっちまで来るんですよ」
「大丈夫だって!」
河原は今日も家族連れで賑わっていた。燦々と川面に降り注ぐ陽光がバーベキュー日和だと人々に知らせていた。
そこに一組の親子がテントを張り、外で何かを作っているようだった。
嗅いだことのない香り……。だけど、なぜだか食欲をそそられる……。人間たちはいったい普段から何を食べているんだろう……。
「おい、あの子迷子じゃないのか?」
「あら、本当みたいね。うちの千弘と同じくらいの子」
「どうしたの? 君、迷子?」
「えーと、えーと……」
人間に対してどんな言葉を使えば良いのか全く思いつかない。その代わりにお腹から、ぐ~と情けない音が鳴った。
「この子お腹が空いてるみたいね。カレーがもうすぐできるけど少し食べる?」
「は、はい!」
「まあ、じきに親御さんも探しに来るだろう。そこら辺をフラフラしてる方がかえって危ない。しばらくそこで、千弘と遊んでおいで」
優しい人間の夫婦たちは、私を迷子と勘違いして暖かく迎え入れてくれた。③
その家族には私の家と同じように、女の一人っ子がいた。
「小春ちゃんは何年せい?」
「え、え~と、千弘ちゃんは、何年せいなの?」
「私は二年生だけど」
「あ、あ~! 本当? 私も二年生なの」
「じゃあ、お友達になろうね」
お友達。考えてみれば、生まれてからほとんど屋敷で一日を過ごしてきて、お友達なんて言える他の狸は居なかった。
「うん! なっちゃおう! お友達!」
「え、う、うん。
あ、そうだ。学校で今流行ってる心理テストやる?」⑫
「しんりてすと?」
「うん、取りあえず指示に従ってればいいから。『クマが急に現れました。あなたは次のうち、どうしますか……』」
「う~ん、二番かな」
「第二問、『前を歩いていた人が持っていた募金箱から500円が落ちて、そのままどこかに行きました。
あなたは次のうちどうしますか』」
「う~ん、最後の」
そんな当たり障りのないような質問がいくつか続いた。
「はい、終了ー。これで、あなたがどの動物のタイプかが分かります。ずばり、あなたは狸でしょー!」
「うわわっ!」
びっくりして、背中の方でしっぽがポンッと出てしまった。
「どう、当たってる?」
「当たってるも何も、私は千弘ちゃんと同じ人間だよ!」
「『私と同じ人間』? そんな当たり前のこと言わないでよ。小春ちゃんって面白ーい」
千弘ちゃんはケラケラ楽しそうに笑っている。
「ハハハ、どうやら仲良くやってるみたいだね」
千弘ちゃんのお父さんがやってきた。
「そろそろカレーができるぞ。こっちに来るんだ」
二人で揃って「はーい」と返事をした。
「ねね、千弘ちゃん、カレーって何?」
小声で聞いてみる。
「えーっ! 小春ちゃん、カレー食べたことないの?」
「シー! 静かにして! それで、どんな食べ物なの?」
「辛いんだけど、色んなお野菜とかお肉が入ってて美味しいんだよ」
「へ~。なんだか全然想像できないなぁ」
テントの方へ行くと、既に四人分のお皿が食卓に並べられていた。
「さあ、小春ちゃんも食べて食べて。大自然のなかで食べるカレーは格別なんだから!」
えーと、こういう時、人間は何て言うんだっけ……。あっそうだ!
「いただきますっ!」
「はい、召し上がれ。」
ご飯の湯気の中で、黄金に輝く液状のスープに、ごろごろと肉や野菜が入っている。狸の世界で似た食べ物を見たことはないのに、何だかとても食欲がそそられる。私がカレーを食べるというよりも半分、このカレーという料理に私が襲われるような形で、一口目が口に入っていく。
「……!」
美味しいぃっ……!
「りんごが隠し味に入ってるからね。小春ちゃんでも食べやすいと思うよ」②
私は夢中になって、すぐ二口目に手をつけた。
「あらあら、かなりお腹が空いてたみたいね。 おかわりならまだあるから、慌てて食べなくても良いのよ」
「いえ、そんなに貰っちゃ悪いですよ!」
「あら、そんな大人びた言葉も使うのね。ほんとう不思議な子。」
千弘ちゃんのお母さんはそうニコニコ言って、サラダをお皿によそっていた。
「でも何だか、こう言っちゃ小春ちゃんの親御さんに失礼だけど、家族がもう一人増えたみたいね」
家族……か。なんだか、本当に私も人間の家族の一員として生まれ変わったような、そんな不思議な気分だなぁ……。そう思うと、何だか胸の奥の方が熱くなった。
「そういえば、小春ちゃんが胸につけてるそれ、なーに?」
「これは、ヤモリのネックレスなんだけど……ってあっ!」
その時ヤモリのネックレスが確かに赤く光った。⑤ 弥吉さんの言葉を思い出す。
「これが赤く光りだしたら充電切れです。狸に戻ってしまう前に戻ってきてください」
もうすぐ充電が切れちゃう!⑨ 急いで帰らないと!
「すいません、私そろそろ帰らないといけないです!」
「えぇ? 君、親御さんがどこに居るのか分かるのかい?」
「はい、大丈夫です! 自分でここまで来たんで!」
「小春ちゃん、もう行っちゃうのー?」
「うん、千弘ちゃん、また来年もこの河原に来ればきっと会えるから、これからも友達でいようね!」
「うん」
「それじゃあ、バイバイ!」
「ちょっと待って、小春ちゃん、カレーがまだお皿に残ってるけど、持って行ってもいいわよ。ただの紙のお皿とプラスチックのスプーンだから」
「それじゃあ、もらっちゃいます……! 本当に、ごちそうさまでした!」
橋の上の先生たちが見守ってくれていた所へ行くと、弥吉さんの隣に私のお父さんがいた。
「お父さん!? どうしてここに」
「そりゃあ、可愛い一人娘が人間の目と鼻の先に行くなんて聞いて、じっとしてられる訳ないだろ。心配したぞ~」
小さい狸のお父さんの手が、ぽんぽん私の足を叩いた。
「お前たちも、そんな危ないマネさせるんじゃないよ、全く!」
「すいません、小春お嬢さまがどうしてもと言うんで……」
弥吉さんも先生の後ろで申し訳なさそうにしていた。
「で、どうだったんだ?」
「どうだったって?」
「楽しかったのかって聞いてんだ!」
「うん、すっごく楽しかった!」
「はぁ~。だろうな、橋の上からずっと見ていて、絶対そうだと思ったよ。あんな笑顔になってるお前を見るのは久々だ。え~っと、弥吉とか言ったか?」
「は、はい!」
「君が私の大事な小春を人間の姿に化けさせたんだろう?」
「はい、申し訳ございませんでした!」
「そういうことじゃない。愛する我が娘を笑顔にさせてくれたんだ。ほら、手を出せ。」
お父さんは弥吉さんに数枚の金貨を手渡した。それなりの額であるはずだ。
「これはお前さんの報酬だ。これからも化けごとの修業、頑張るんだぞ」
「はい! ありがとうございます!」
弥吉さんも良い笑顔になっていた。
「そうだ! 弥吉さん、これ食べる? カレーっていうんだけど、すっごく美味しいんだよ!」
「あ~、小春お嬢様、ダメなんですよ。狸の体で人間の食べ物を食べると、全然美味しくないんです。そのカレーライスの人参すら食べられません」⑩
「そうなんだ~。じゃあ、仕方ないね」
私は残り少ない人間の姿の時間を、余ったカレーに舌鼓を打ちながら楽しんだ。
その晩は、もうそのカレーでお腹いっぱいで、夕食が食べられないと思った。料理役の女中さんにそのことを話してみる。
「あら、そんなことがあったんですか。今日は縁側の金魚を鍋にするつもりだったんですが……。小春お嬢さまがそういうことなら仕方ないですね。また明日にしましょ。」
‐おあとがよろしいようで‐
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(`・θ・´)フムフム
「男は、カレーライスの人参すら食べられない偏食家だったから(10)ですか?」
「yes! 正解です!」
橋の上──すなわちレインボーブリッジの上部を通る首都高を走るバスの中で、男は「出題ありがとうございます!」と雑談チャットに書き込んだ。
橋の下──すなわちゆりかもめに乗った女は、「おいしいスープ、ごちそうさまでした!」と書き込んだ。
たまたま同時刻に上下の空間をすれ違った縁もゆかりもない男女は、まさにその時、協力して難問を正解に導いたのだ。
・・・・・・・・・・・
二人の参加者の水平思考のおかげで、あたしの2回目(8)の出題は無事解説を出すことができて、充電がそろそろ切れそう(9)だったスマホ──赤くて可愛い色だから、「金魚ちゃん」って名前で呼んでる──は、ラスト1%の状態で生き延びた。
「お嬢様、終わりましたなら充電いたしましょう」
執事の山岡が、うやうやしく金魚ちゃんに手をのばす。中途半端に充電を繰り返しちゃ、電池の寿命が早くなる。うん、ほどよい頃合いね。
お気に入りの可愛い金魚ちゃん。長生きさせてあげなくっちゃ。
「ずいぶん熱中されていたようですが、いつもの心理テスト(12)をなさっていたのですか?」
するするとりんご(2)の皮を剥きながら、山岡がバリトンボイスで聞いてきた。訳ありげな隻眼(1)のナイスミドル。世界に二人といないやんごとなきお嬢様のあたしにピッタリな、世界に二人といない完璧な執事だけど、いまだにウミガメのスープのことを妙に勘違いしてる(3)。
「だーかーらー! これは心理テストじゃないんだってばー!」
山岡の剥いたウサりんごをひょいっと一つつまむ。甘酸っぱい味。梨の季節が過ぎてりんごがおやつに出てくるようになると、秋の気配をふと感じる(7)。
──ううん。あたしには、そのくらいしか季節を感じる方法がない。
大きなお屋敷。その奥のあたしの部屋。あたしだけの部屋。あたしだけしかいない部屋。
窓もない、出入りも自由にできない、綺麗で快適なだけの空間。四方に貼られた御札(6)。物理的にも霊的にも外から遮断されたここで、あたしは生きている。
やんごとなき家柄(4)に生まれ、代々受け継がれた力を他の誰より強く持ってしまったあたしは、儀式の時以外、ここから出してもらえない。
あたしと世界の接点は、このあたし付きの執事・山岡と、そして金魚ちゃんだけ。電話を掛ける相手はいないけど、ウミガメのスープを知って、この鯖で交流ができるようになって、やっと楽しいことが見つかった。
だから、だからこそ。
本当に絶妙のタイミングで、膠着した状況から対戦車ライフル(11)のごとくのFAを気持ちよく決めてくれた二人に、あたしは心のなかでもう一度お礼を言った。
「家の護り手」として、ウチのシンボルになってるヤモリを象ったネックレス。それがキラリと光った(5)ように見えたのは、別ににじんだ涙のせいじゃない。
そういうことに、しておいて。(了)
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(`・θ・´)フムフム
「えーと、あっちがこっちで、こっちがそっちで…」
僕は道に迷って、家に帰れなくなっていた。
2次会やらなんやらでテンションが上がっていた時になんで電車使わずに帰るぞ〜なんて知らない道を通ってしまったのだろうか。
酔いもあって完全に僕は道に迷ってしまっていた。
スマホのマップ機能を使おうにも、⑨開けたら充電が残り少なくなってしまっていためもうただの板になってしまっている。
「ここ、なんの橋だろうか…」
気がつくと僕は知らない橋の上にいた。とりあえず誰か道を教えてくれる人がいれば良いのだが…と考えていると一人の女性が橋でたむろっているのが分かった。なにやら黒いマントを羽織っているようだ。
これ幸いにと声をかける。
「あの、すいません。」
「はい?」
彼女が振り返る。
「え。」
僕は言葉に詰まる。彼女は眼を見張るほど美人だった。
「えーと、どうされました?」
「え、えーと、み、道に迷ってしまったんです。スマホの充電も切れてしまって…助けていただけませんか?」
「ええ、いいですよ。」
「ありがとうございます!」
「それでどこに行くつもりですか?」
そして彼女は僕を案内してくれるようである。僕は隣で歩く彼女をもう一度見る。
彼女は①左目には眼帯をつけており、首にヤモリのネックレスをかけている。マントを羽織っていることもあり、格好的には仮装パーティにでも行ったのだろうか。
「えーと、そのコスチューム、どこかのイベントで着たのですか?」
「いえ、これは普段着ですよ。」
あれ、③何か勘違いをしていたのだろうか、もしかして厨二病とかいうやつ!?
あんまりこの話題には触れない方がいいかもしれない。
あと、それはそれとして…
「あの、僕がいうのもおかしいですけれど、もう少し知らない人には警戒した方が良いと思いますよ。」
「ん、ノブさんは私に害を与える気だったのですか?」
彼女がふっと笑う。その笑顔はとても蠱惑的だった。
「そういうわけではなくて、女性としてどうなのかと…」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。私、強いですから!」
「強くても力を過信しちゃダメです。心配する人もいるんですよ。」
「あ、ありがとうございます。」
そして歩くと僕の家が見えてきた。
「あ、ここが私の家です。」
「そうみたいですね。」
「ここまでありがとうございます。少し待っててくれますか?」
「すいません、私、朝までに家に帰らないといけないんです。」
「じゃあ、連絡先だけでも交換しませんか?」
「はい、いいですよ。」
そして僕は何度か彼女とあっていた。会う時間はいつも深夜、その暗さの中でいつも彼女は美しく、僕は彼女に恋に近い感覚を持ってしまった。
そして季節は夏の終わり、僕たちは近くのお祭りに来ていた。
「ふわあ、綺麗…。」
「この町一番のお祭りですからね。」
「あんまりこういうところに来たことはなかったから…感激です!ノブさん、ありがとうございます!」
彼女は着物に身を包みはしゃいでいる。少し子供っぽいところも彼女の魅力の一つだと思う。楽しんでくれて何よりだ。このお祭りは「札焼き祭り」と行って魂を封じたとされている⑥御札を焼き、魂を天に帰らせるためのお祭りである。しかしこのお祭りではたくさんの店が屋台を出すので、ほとんどの人はそれが目当てになる。もちろん僕たちもそうだ。
「あ、金魚救いがありますね。」
「漢字違くない…?」
「でもこういう屋台の金魚は掬われなかったら焼かれて骨を肥料にするという噂が…」
ええ…
「にしても金魚掬いなんてやったことないですね。やってもいいですか?」
「オッケー、一緒にやろうか。」
「はい!」
そして金魚救い、もとい金魚掬いをした結果…
「よし、取れました!」
「水に瞬殺された…。」
僕たちは一匹の金魚を手に入れた。
「僕の家で買いましょうか?」
「ありがとうございます。私そういうの自信なくて…」
「あと…、僕の家についでに来てくれませんか?」
「はい、でも私は朝までには帰りますよ?」
「いえ、時間は取りませんよ。」
「ではご一緒させていただきます。」
そして祭りが終わったあと、僕たちは僕の家に行き、金魚を飼う準備を済ませた。
「元気に育つと良いですね〜」
「健康状態が良ければ5年くらい生きることもあるらしいですよ。で、それで、ですね…」
少し顔が赤くなり、鼓動が早くなる。多分僕の顔は、②りんごみたいに真っ赤になっているだろう。でも、ここで言わなければ…。
「ショコラさん…僕はあなたのことが好きです。これからこうやっていずれは…いえ、すいません、えっとその、僕と付き合って頂けませんか!?」
ど、どうだ…?
彼女は僕を少し驚いたように見ているそして、「やっぱりこれが運命…」と呟いていた。
そして、彼女は眼帯を外した。もう一つの目というより穴は黒く、引き込まれそうで…そして僕は猛烈な眠気を覚え、倒れ伏した。
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(`・θ・´)フムフム
私、ショコラは吸血鬼の④公爵家であるルノワール家の一人娘だ。吸血鬼は人間よりも体が強く、太陽の光を浴びたりしなければたと(11)対戦車ライフルを打ち込まれようとかすり傷一つつかない。
そんな強く、孤独な私が人間に恋をしたのは今回で⑧2回目だった。
最初に恋した男は信彦君という子だった。誰にでも優しく接するようなそんな男の子それが私は大好きだった。そんな彼と私は恋をし、遊んで、結婚までした。私が吸血鬼であることを知った時にも彼は真摯に対応してくれた。彼はいつも私に付き添ってくれた。でも…寿命には勝てなかった。吸血鬼は寿命も長い。私は若いまま、信彦君だけが年を重ね…やがて老衰で固形物…⑩カレーの中の煮込んだ柔らかい人参さえ食べられなくなり…そして衰弱した時彼が言ったのは
「ごめん、ショコラ…」
感謝の言葉でも、昔を懐かしむ言葉でもなく、私への謝罪の言葉だった。
私が吸血鬼でなければもしくは彼と恋に落ちたりしなければ彼は失意のうちに亡くなったりはしなかった。だから私は恋をしないように努めようとした…けれど、
私はまた恋をしてしまった。相手は信長君と言って名前も信が入っていて、試しに(12)心理テストをして見たら信彦君と全くおんなじ結果が出た。私が好きになるのはそういう人ということなのだろう。そして彼が告白をした時に思った。惹かれ会うのは運命なのだと。でもわたしは嫌だった。また彼が失意のうちに亡くなってしまうのが怖かった。から…
私は眼帯を取り、吸血鬼の力である邪眼を発動させ彼を眠らせた。そして近くのベッドまで彼を運び…寝かせたあと、その首に私の歯を差し込んだ。⑤ヤモリのネックレスに彼の鈍く光る血を這わせ、彼の血をそして、彼の記憶を吸う。これはヤモリの魔力を利用した、吸血鬼に伝わる秘技だ。これで彼は私の事を覚えることはないだろう。
私は窓から外に出て橋の上にある彼の部屋を見る。
彼から吸い出した彼の記憶。その記憶から私は彼からどれだけ慕われているかどれだけ大切にされていたかを知った。そして私がそれらを奪ってしまったことも。
「ご馳走様、でした…。」
私は吸血鬼のマントを広げ蝙蝠となり、空へと飛び立った。冷たい風が肌を濡らす。私はそれが⑦秋の訪れのためなのか、私の頬を流れる涙のせいなのかわからなかった。
私たちの暑い時間は終わりを告げた。
私はショコラ、狡猾で人の心すら思わないような、冷たい孤高の吸血鬼でなければならないのだ。
====================================================================
僕の家では金魚を飼っている。
いつから飼い始めたのかも覚えていない。
じゃあなぜこの得体の知れない金魚を大切にしているかって?
この金魚を見ているとなぜか寂しいような幸せなようなそんな気持ちになる。
だから僕は今日もこの金魚を大切に育てるのだ。
〜fine〜
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(`・θ・´)フムフム
・登場人物等紹介
彦星(男)…織姫の夫。働き者で善良な優しい青年。{⑩}カレーライスの人参すら食べられない。織姫をとても愛している。
織姫…天帝の娘で、彦星の妻。彦星をこれ以上ないくらい愛しているが、天帝には逆らえない。
天帝…織姫の父親。娘想い(少し過保護)。天の神様。
{④}女…神様から(隻眼の)金魚と家守のネックレスを授かった一族の末裔。金魚のおかげでお金に困ることのない生活を送れているが、金魚を狙う輩に狙われている。ネックレスを引き継ぐはずだった娘がネックレスの心理テストに合格しなかったので、幼い孫が育つのを待っている。
{①}(隻眼の)金魚…持ち主が必ず財を成す金運の象徴。神水の中でしか生きられない。金魚を狙う不埒な輩に片目を奪われ、隻眼になってしまった。
神水…神界にある水。神界以外の空気に長時間さらされると普通の水になってしまう。
{⑥}御札…御札を貼った部屋の空気を浄化し、神界と同じ空気にする。貼ると二度と取れない。
家守(ヤモリ)のネックレス…金魚の片目が奪われたことを知った神様が、金魚を護るために一族に送ったネックレス。持ち主の家を護る効果がある。
ネックレスの守護効果…持ち主の家に悪意を持って近づこうとする輩は守護範囲内に入れなくなる。守護範囲の一番外側に絶対防壁を張る効果もある。持ち主の生命力に応じて、持ち主の家を中心にして半径数m~数kmまでを守護範囲とする。守護効果が発動した時、{⑤}ネックレスが光り、危険を知らせてくれる。持ち主が幼かったり、危篤状態だったりすると効果を発揮しなくなる。また、持ち主が金魚のいる部屋から離れても効果を発揮しなくなる。ネックレスが持ち主の生命力を奪うことはない。
ネックレスの引継ぎ条件…引継ぎ時、ネックレスの化身(ヤモリ(見た目はアヌビスのような感じ))が現れる。その化身が行う{⑫}心理テストに合格すれば、持ち主が入れ替わる。化身の性格が関係しているのか、男性が選ばれることは滅多にないという。
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(`・θ・´)フムフム
・本文
昔々、あるところに織姫という名の娘と彦星という名の青年がいました。
織姫の父親で、天の神様である天帝は織姫が年頃になってきたので、織姫の婿を探していました。
そんな折、働き者で有名な彦星が天帝の御目に留まりました。
天帝が二人を引き合わせてみたところ、とても相性が良かったらしく、二人はすぐに結婚することになりました。
二人の結婚生活は誰が見ても羨ましがるほどでした。
そんなある日、織姫は夕食の副菜としてきんぴらごぼうを出しました。
それを見た彦星は何も言わずにそのきんぴらごぼうを残してしまいました。
いつもはどんな料理でも平らげてくれる彦星がどうしてきんぴらごぼうだけ残したのか、彦星に聞いても教えてくれなかったので、織姫は周囲に聞きまわりました。
その結果、彦星がカレーライスの人参すらも食べられないほどの大の人参嫌いであることが分かりました。
すぐに結婚し、お互いのことを深く知らなかったゆえに起きたことだったのです。
織姫はすぐに人参を出したことについて彦星に謝り、彦星も何も言わずに残してしまったことについて、「大人にもなって人参なんかが嫌いだなんて知られたら、嫌われるんじゃないかと思って…すまなかった。」と言って織姫に謝りました。
二人は互いに許しあい、普段通り仲の良い生活に戻りました。
それで二人の問題は解決したかのように思われましたが、織姫が周囲に聞きまわったことにより、二人がケンカしたという噂が出てしまいました。
その噂はたちまち広がり、織姫の父親である天帝の耳に入ってしまいました。
噂を聞いた天帝は織姫と彦星を呼び出し、事情を説明するように命じました。
二人の説明を聞いた天帝は娘の料理を口にすらしなかった彦星に怒ってしまい、彦星が人参を食べられるようになるまで天の川を流し、二人が会えないようにしてしまいました。
天帝は、彦星が人参を食べられるようになったかどうかを確認するため、百年に一度、7月7日(七夕)に鵲(かささぎ)橋を架け、織姫が作った人参を使った料理を食べる機会を彦星に与えました。
1回目の七夕では、織姫は「人参は素材の味が一番」と言って、人参の天ぷらを出しました。
しかし、彦星は生の人参の味が嫌いだったので、食べられるはずもなく、1回目は天帝の許しを得ることはできませんでした。
ーーーーー
昔々のそのまた昔、らてらて村という小さな村におじいさんとおばあさんが暮らしていました。
ある日、おじいさんとおばあさんが仲良く川沿いをおしゃべりしながら散歩していたところ、小さな少年が川辺で倒れていました。
大変だと思った二人は、その少年を家に連れて帰り、一通りの手当てを済ませて寝室で寝かせてあげました。
その日の夜、二人が夕食の準備をしていると、少年が起きてきました。
そこで二人は少年に事情を聞いてみました。
少年の話を要約すると、少年は記憶喪失であるということでした。
しかし、相当裕福な家の子どもであることと、ここらに住んでいるわけではないことは、はっきり分かりました。
なぜなら、少年の着ている着物は見るからに高価で、ここらで見るものでもなかったからです。
少年の親が少年を探しに村まで来ているかもしれないと思った二人は、少年を着替えさせ、村に出ました。
しかし、村の中心部に近づくと何やら騒がしく、おじいさんが先に様子を見に行くと、山賊とおぼしき集団が何かを探している様子でした。
おじいさんは、あの少年を探しているのではないかと考え、急いで二人の元へ戻り、家に引き返しました。
数分後、おじいさんが外の様子を確認していると、山賊がこちらに向かって来るのが見えました。
このままでは少年が危ないと考えた二人は、少年を床下に隠し、山賊を迎えることを決めました。
少年を隠し終えた直後、山賊が玄関の扉を開けました。
そして一言、「子どもはいないか?」と言いました。
「こんな老人の夫婦のところに小さな子どもなんているはずなかろう?」
「じいさん!」(小声)
おばあさんの声で自分の過ちに気付いたおじいさんでしたが、時すでに遅し。
「私は子どもと言っただけで、小さな子どもなんて言ってないのだが…?どういうことだ?」
「い、いや、これは、その、そう、思い込みじゃよ。子どもって言われたら誰でも小さい子を思い浮かべるじゃろ?」
「まあ、それもそうだ。そもそもこんなところに子どもなんているはずはないな。」
二人がほっとしたその瞬間、
「とでも言うとでも思ったのか!どこかに子どもが隠れているはずである。少しくらいなら荒らしてもかまわん、探せ!」
数分後。
「どこに隠したのだ?」
「はじめから言っておるじゃろ、ここには子どもなんておらんよ。」
「そんなはずはないだろう、どこに隠したのだ?っと、ばあさん、そこをどいてくれないか。」
「どうして?」
「いいからどくのだ!」
そう言って、賊は畳の上に立っていたおばあさんを押しどけました。
「やはりな。ばあさんが一歩も動かないからおかしいと思ったのだ。畳を剥がさせてもらうぞ。」
「駄目じゃ、やめてくれ!」
「邪魔をするでない!」
そう言うと、賊はおじいさんの必死の制止を振り切り、畳を剝がしました。
そうして少年を見つけた賊が、少年を抱きかかえて言いました。
「探したよ、さあ帰ろう。」
「おじさんだあれ?」
「おや、記憶をなくしてしまったのかい?ちょっとビリッとするけれど、我慢するんだよ。」
そう言うと、光が少年を包み込みました。
そして、光がおさまると、
「お父様!」
「うん、ちゃんと思い出せたようだね。」
「お前さんは一体…?」
「私はこの子の父親だよ。」
「じゃが、さっきはあんなにも態度が悪くて…。もしやお主、呪術師か何かか?さっきの光でその子を洗脳したんじゃろ!」
「ああ、{③}勘違いさせて悪いね。さっきのは全部演技だったのだ。一度、ああいうことをやってみたくてね。そうだね…こうしたらわかってもらえるかな。」
そう言うと、羽織っていたぼろぼろの着物が消え去り、少年と同じ着物が現れました。
「そのお姿、その後光、もしやあなた様は神様ではあられませんか?」
「ああ、気付かれてしまったら仕方ないね。そうだよ、天の神様をさせてもらっている天神という。ここにいるのは、私に仕えてくれている者たちだ。先程までの悪行、詫びさせてもらいたい。すまなかったね。」
「神様に謝ってもらうなど、畏れ多い。触れてもらっただけでありがたいと思わねば。なあ、ばあさん。」
「そうだねえ。もう少し抵抗して、触ってもらえば良かったかね。」
「ばあさん!」
「フフッ、息子が世話になったね、感謝するよ。実は、探していたのは本当でね。この子が持っているこれ。まだこの世界にはないのだが、発信機というやつでね。普段ならこれですぐに居場所が分かるのだが、これの{⑨}充電が切れかけでね。精度が悪くなっていて、この辺りに居るということしか分からなかったのだよ。」
「おじいさん、何を言ってるかわかりますか?」
「さあ。」
「まあ、神の道具とでも思ってもらえれば良いよ。そんなことより、脅かしたにもかかわらず、その身をていして守ってくれたね。本当に感謝しているよ。荒らしてしまったこの家は後でこれまで以上のものを用意するのだが、先にお礼にこれを渡しておこう。」
そう言った天神の前に大きい長方形の木の箱が現れました。
その中には水と金魚とおぼしき魚が入っていました。
「これは…?」
「金運を呼び込む金魚と金魚の水槽だよ。中に入っている水は神水と言ってね。この金魚はこの水の中でしか生きられないのだよ。神水は神界以外の空気に長時間さらされると普通の水になってしまうから、この御札も渡すことにするよ。この御札を貼った部屋は、神界と同じ空気が流れるようになるよ。水槽も神界の空気があれば腐らないから安心して、掃除は不要だよ。」
「受け取れません!神様のお役に立てただけで充分じゃよ。」
「じいさん、神様からの贈り物だよ、受け取らない方が失礼だよ!」
「しかしじゃな…。」
「おばあさんの言う通りだよ、おじいさん。こういうのは受け取っておくべきだよ。」
「神様がそういうのであれば…。ありがたく受け取らせていただきます。」
「良かった。では、あとで使者に家を贈らせるから、その家を使ってくれると嬉しいよ。」
そう言って、神様御一行は天に帰っていきました。
数分後、天神の使者という者がやってきて、大きな家を置いていきました。
それからというもの、二人は娘と息子の夫婦を家に呼び戻し、家族で幸せに過ごしていました。
しかし数年後、金魚を狙った盗賊によって金魚の片目が奪われ、息子夫婦が殺害されてしまいました。
それを知った天神は、金魚と彼らを護るために、ヤモリ(家守)のネックレスを贈りました。
それからは、盗賊などの不埒な輩が襲ってくることもなく(実際には襲ってきたがネックレスに阻まれ)、一族は平和に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
ーーーーー
数百年後。
女は体調に異変を感じていました。
ヤモリのネックレスの引継ぎ相手が見つからずに時間が経ってしまい、気付けば近所の子供たちから妖怪ばばあと呼ばれるほどの年齢になってしまっていました。
娘たちは心理テストに不合格だったので、残す希望は孫なのですが、まだ孫はまだおさな過ぎて、ネックレスの効果が発揮するかどうか怪しいのです。
そういうわけで、孫がもう少し成長するまでは倒れるわけにはいかないのですが、どうもここ最近は調子が悪いようなのです。
女が、「こういう時こそ…こういう時こそ神様が助けてくれればいいのじゃが。」とつぶやいたその時、頭の中に聞いたことのない男の声が流れてきました。
「おばあさん、どうしたんですか?」
ーーーーー
男(彦星)は悩んでいました。
「今日は{⑧}2回目の七夕だ。人参なんて、あんなまずいもの食べられるはずないだろ、どうすればいいんだ。今日は高麗人参を使ったカレーにすると言っていたな。そんな珍しいものを使っても食べられないものは食べられないよ。ああ、そうだ!この{②}りんごと人参をこっそり入れ替えて…。いや、駄目だ駄目だ。そんなことがばれたら、今度こそ終わりだ。ああ、どうすれば良いのだ。そうだ、少し人間を見て気分転換するか。どれどれ…。」
そうして男が人間の世界をのぞき込むと、相変わらず人々が争っていました。
「人間たちは、いつ見てもどこかで争っているなあ。もう少し仲良くすればいいのに。しかも、争うための道具まで開発して…。ああ、あれ、この間新しく出てきた戦争用の乗り物、戦車とか言ったかな。あんなもの作って、どれだけ無駄な命を奪えば気が済むのかな。えっ!?何だあれ、戦車の中の人間が撃ち抜かれた。はぁ、{⑪}対戦車ライフル、また新しいものを開発したのか…。壁を乗り越えるために何かを開発する努力はすごくいいんだけどなあ。努力の方向を間違っているんだよなあ。」
そう言って、人間たちの世界を覗くのをやめようと視線を外したとき、何か違和感のある光景が見えた気がしました。
それが何かを探すために、もう一度覗いてみるとそこには、一方的に攻撃を受けている場所がありました。
しかも、その攻撃はどれも何かに吸い込まれるように消えていくのです。
どうも神の力が働いているようだ、男はそう思いました。
その力の源を探してみると、ある人間の老婆がいる部屋に神界と同じような空気が感じられました。
そこには、神界にいるはずの金魚、神水、神木でできた水槽、それにヤモリのネックレス。
男は、小さい頃に聞かせてもらった天神様にまつわる昔話を思い出しました。
「ああ、そうか、この家があの…。」と思わず感慨に浸っていると、老婆が何か言いました。
男が注意して聞いてみると、「…こういう時こそ神様が助けてくれればいいのじゃが。」と言っていました。
それを聞いた男は、自分の問題を解決する方法を考えることも忘れて、その老婆に声をかけていました。
「おばあさん、どうしたんですか?」
ーーーーー
女は、急に聞こえた、聞いたことのない男の声に驚きました。
なぜなら、この部屋には知り合いですら出入りを制限されているからです。
しかも、声は耳からではなく、頭の中から聞こえてきたからです。
少し間をおいて、女は恐る恐る、「誰かね?」と尋ねました。
「ああ、聞こえてたんだね。返事がないから聞こえていないのかと思ったよ。私は彦星、天界の住民だよ。おばあさんが困ってそうだったから、つい声をかけちゃった。迷惑だったかな?」
「迷惑などとんでもない!もしや、助けてくださるのですか?」
「そうだね、出来る限り助けたいと思っているよ。それで、どうしたんですか?」
「実は、私は天神様から金魚などをいただいた一族の末裔でして、」
「その辺りの事情は知っているから、どうしてほしいか言ってくれればいいよ。」
「はい、孫がこのネックレスを引き継げる年齢になるまで、私は倒れるわけにはいかないのですが、最近どうも身体に異変を感じていまして。あの子が育つまで何とか健康でいたいのです。」
「私はただの天界の住民だから、残念だけど病気を治すような力はないんだ。少し方法を考えさせてくれないか?」
「分かりました。」
「思いついたらそちらに行くので、それまで待っておいてほしい。では。」
そう言うと、男の声は聞こえなくなりました。
ーーーーー
「さて、どうしたものか。」
男は先程の老婆を助ける方法を考えていました。
「どうすればあのおばあさんを助けられるだろうか。天帝様に頼むのが一番なのは分かるが、今日は人参を食べるまで機嫌は良くないだろうし…ああ、忘れていた!人参を食べる方法を考えないといけないんだった!いや、待てよ。今日の料理に使う人参は高麗人参って言ってたよな。あれを使えばおばあさんを助けられるのではないか?だが、そんなことをしては私のためにあんなに珍しいものを探し出してくれた織姫に申し訳ない。だが、放っておいたらあの一族が滅んでしまう。やはり、おばあさんを助けるべきだ。こうしちゃいられない、急がないと、人参が調理されてしまう。」
男は、織姫がカレーを作っている調理場に急いで向かいました。
男が調理場に着いたちょうどそのとき、織姫が調理場から出てきました。
「織姫!」
「彦星さん、会いたかったです!」
「私もだよ。」
二人は久しぶりの再会を喜び、見つめ合いました。
数秒後、
「ところで、なぜあんなに急いでいたのですか?」
「ああ、そうだった。織姫、高麗人参はどこに?」
「高麗人参ですか?あれでしたらもうお鍋の中ですよ。もうカレーもできあがっていますよ。」
「ああ、そうか…。すまない、織姫。そのできあがったカレー、人助けにどうしても必要でね。詳しくは後で説明するから、鍋ごともらえないか?」
「彦星さんがそこまで言うのなら…。」
「本当にすまない。それから、もう一度カレーを作ってほしいんだ。今日こそは食べてみせるから。」
「分かりました。」
男は、「では、またあとで。」と織姫の手を握りながら言い、織姫がうなずいたのを見てから走り出しました。
そして、調理場の扉を開き、カレーの鍋を取りました。
そのとき、天帝が見えた気がしましたが、気のせいだという思いと、見つかって引き止められたら終わるという思いから、急いで調理場を出ました。
ーーーーー
女は彦星が来るのを待ちながら、考えていました。
「はて、彦星とな。どこかで聞いた名前の気がするんじゃが。どこで聞いたんじゃったかの。」
そんなことを考えていると、部屋の扉が開きました。
一瞬身構えた女だったが、その声を聞いて、彦星が来てくれたのだと安心しました。
「おばあさん、待たせたね。これを食べれば元気になるよ。」
「おぉ、ありがとうございます。この匂いは、カレーですか?」
「御名答、カレーだよ、高麗人参入りのね。織姫が色々な健康に良い香辛料を使ったカレーに高麗人参も入れてくれたんだ。材料はすべて神界でできたものだから、効能は人間界にある物以上だよ。」
「こんな贅沢なものを…。ありがとうございます。」
「ゆっくり食べてね。それでは。」
「何かお礼は?」
「私はおばあさんを助けたかっただけで、報酬を求めていたのではない。むしろ、報酬をもらってしまうとそれは人助けではなくなってしまう気がするのだ。だから、感謝だけで充分だよ。」
女「そうですか。」
男「そうなのです。それでは。」
男が天界に帰る間際に、女が「本当にありがとうございます!」と言いました。
男はにっこりと微笑んで、天界に帰っていきました。
ーーーーー
「おばあさん、あれで元気になってくれるといいな。さて、帰ったら人参を食べなければ。」
そう思いながら天界に帰り、織姫のもとに向かっていると、天帝の使者に、天帝が呼んでいることを伝えられました。
男は、織姫のカレーを持ち出したことがばれたのかな、など呼び出される理由を考え、びくびくしながら天帝のもとへ向かいました。
天帝のもとへ着くと、男が考えもしなかった言葉がかけられました。
「この度の働き、ご苦労であった。君には感謝しているよ。」
「天帝様、どういうことでしょう?」
男が何のことか分からずに戸惑っていると、
「君は天神様の昔話を知っているかな?」
「もちろん知っていますとも。」
「私が天神様の子どもであることは?」
「知らないわけがないですよ。」
「それでは、今私はどういう立場だと考えられる?」
「うーん、あ、あの昔話でおじいさんとおばあさんに拾われた子どもは天帝様ということですか。」
「その通りだよ。それから?」
「それから…。いえ、それ以上は特に何も。」
「そうか。今日、君はおばあさんを助けたね。」
「はい…、ですが天帝様に感謝されることなど何もしていませんよ。」
「おばあさんについて知っていることは?」
「あの昔話の一族の末裔で、ネックレスの引継ぎがうまくいかなくて困ってる、ということくらいですかね。」
「それで何か気付かないかね?」
「いえ。」
「はぁ、君は案外勘が鈍いのだね。そこまで知っていてなぜ…。簡単に言うと、あのおばあさんは、私を助けてくれた一族の末裔だから、私は彼女を助けた君に感謝しているという話だよ。」
「あ、なるほど。」
「実は君が悩んでいる間に、ネックレスの化身のヤモリ君が、君がおばあさんを助けようとしている、と報告しに来てね。君がどうするのか見ていたんだ。ヤモリ君は近くに天界の住人の気配がしたせいで、眠りを邪魔されたと怒っていたけどね。だが、君が気付かなければあの一族は滅んでいたかもしれない、本当に感謝しているよ。ところで、高麗人参に考えが至ったのは良かったが、少し遅かったね。君がその考えに至った時点で織姫はすでに人参を鍋に入れてしまっていたからね。だから、君と織姫が話している間に少しだけカレーに細工させてもらったよ。おばあさんが必ず治るようにね。君がカレーを取りに来た時は、見つかってしまわないかドキドキしたよ。あのこそこそする感じ、久しぶりで楽しかったよ。だが、まさか鍋ごと持っていくとは思わなかったよ。」
「あれは、一食分では効果が表れないかもしれないと思いまして…。それより、おばあさんは元気になるんですね、良かった。」
「もちろん。それでだ。感謝の意を込めて君の願いを一つ叶えようと思うのだが、何が良いかね。」
「見ていたならお分かりだと思いますが、私は人助けに報酬を求めては」
「良いのだ。私は彼女に頼まれたわけではないしね。情けは人の為ならず、それが多少早く回ってきただけだよ。さあ願いを言いたまえ。」
「少し納得はいきませんが、天帝様に言われたら仕方ないですね。分かりました。それでは、あのおばあさんの孫が育つまで、おばあさんが元気に暮らせるようにしてあげてください。」
「自分のことでなくて良いのかね?」
「私が人参を食べられれば、万事解決します。」
「食べられなかったらどうするつもりだ?お前はまた織姫を悲しませるつもりか?」
「織姫に食べると約束したのです。何が何でも食べてみせます。」
「そうか、君ならそう言うと思っていたよ。では、織姫のところに向かおうか。」
「はい。」
威勢よく言ってしまったものの、男の心には不安が広がっていました。
食事場に行くと、織姫が行儀よく座っており、机には今よそったであろうカレーライスが置かれていました。
男はその場に立ち止まりました。
「どうしたのだ。早く進みたまえ。」
「はい。」
本当は今すぐにでも逃げ出したかったのですが、織姫との約束を思い出し、男は席に着きました。
そして、出されているカレーライスをじっくりと観察しました。
しかし、どこにも人参が見当たりません。
煮込み過ぎてとけてしまったのかとも思いましたが、ジャガイモは異常なく入っています。
男は何が起こっているのか理解できず、織姫を見ました。
織姫はこちらを見て、ニコニコと笑っています。
織姫が何かしたのかと思い、次に天帝を見ました。
「なんだね。早く食べなさい。」
天帝が何かに気付いている様子はありません。
「分かりました。」
男はとりあえず一口食べてみました。
すると、人参の味など全くせず、ほのかな甘みとさわやかな酸味が感じられました。
「これは…、りんご?」
「正解!彦星さんが走り去って行く後姿を見ていたら、彦星さんがりんごを落としたの。だから、カレーの隠し味としてそのりんごを入れてみたの。」
「それで、人参は?」
「それはね、お父様が今回の彦星さんの働きに感心して、人参の入っていないカレーを作って良いって言ってくれたの。」
男は驚いて、天帝に視線を移した。
「おい、それは言うなと言っただろう。…まあ、なんだ、今回の働きに免じて、これまでのことを許してやろうと思ってだな。ただし、最後の質問で自分についての願いを言っていたら、許すことはなかったがな。」
「もう、お父様ったら意地悪なんだから。ねえ、彦星さん。」
そう言って、織姫が見つめてきたので、男も織姫を見つめ返しました。
数秒見つめ合っていると、
「やめんか。そういうことは食事が終わってからしなさい。」
楽しい食事会も終わり、彦星が織姫と食事場を出ようとしたとき、
「次に娘を悲しませるようなことをしたら許さないからな。」
天帝がそう言いました。
「分かっております。」
そう笑顔で返しました。
「少しお父様と話してきていい?」
「もちろん。」
織姫が天帝に近づいていって何か言いました。
「おい!」
天帝が驚いたような声を上げ、その後織姫に何か言いました。
そして、織姫は楽しそうにして帰ってきました。
「さあ、帰りましょう。」
「天帝様と何を話していたんだい?」
「内緒よ。」
「そうか。帰りにあの橋に寄りたいんだけど、いいかな?」
「もちろん。」
この百年何があったのかを話しながら歩いていると、橋にはすぐに着きました。
「少し待っていてくれないか。すぐに終わる。」
「分かりました。」
男は橋の真ん中まで行って言いました。
「ありがとうございました!あなたのおかげでようやく織姫と一緒に暮らせるよ。」
ーーーーー
男が帰った後、女は男の正体に気付きました。
「彦星、あの七夕伝説の男の方か。このカレー、妻が作ったと言っていたの。そういえば、今日は七夕じゃったの。」
そんなことを思いながら、女は男にもらったカレーを一口食べました。
すると、今までの身体の異変が嘘のように消えていくのを感じました。
「おお!元気があふれ出てくるわい。しかも、おいしい。彦星様は良い嫁を持ったのぉ。」
そして、気付けばカレーを完食していました。
食べ終わった皿を、世話をしてくれている人に下げてもらい、女は部屋の扉を開けて、夜空に浮かび上がった天の川を見て言いました。
「ごちそうさまでした!彦星様のおかげでまだまだ生きられそうじゃ。」
*****
{⑦}
彦星「一年中一緒に居られるようになったから、私の好物のサンマを妻と楽しめるようになったんだ。」
織姫「彦星さん、そろそろ焼けますよ。」
彦星「ああ、ちょうど焼けたみたいだ。今は旬だからおいしいんだよ。君たちも一緒にどうだい?」
【完】
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
「⑫心理テストをしましょう」
一番前を歩いていたアールが、突然前置きもなくそんなことを言った。
仕事中になにを言っているんだ、とクロオは注意しようとしたが、それよりも早く二番目に歩いていたポーラが「ヤリマス」と答えた。
依頼人がそう言うのならば仕方がない。
一番後ろを歩いていたクロオは黙ってついて行くしかなかった。
「じゃあ始めますよ」
そう言うとアールは右手の人差し指を自分のこめかみへと当てた。
それはアールが物を考えるときの癖だった。
おそらく、今この場に相応しい問題を、頭の中で検索しているのだろう。
「チョットマッテクダサイ」
アールが口を再び開く前に、ポーラがキョトンとした表情で質問した。
「『シンリテスト』トハ、イッタイナニヲテストスルノデスカ?」
どうやら、ポーラはアールの言っていることをきちんと理解しないまま返事していたようだ。
長年、何でも屋を営んでいるクロオだったが、このような『奇妙な依頼』を頼まれたのは初めてだった。
ある日、クロオが事務所でデスクワークをしていると受付のドアが激しく叩かれた。
「邪魔するぞ」
そう言って入ってきたのは、付き合いの長い仲介業者だった。
愛想が悪いのが玉にキズだが、信頼の出来る相手だった。
「何ですか? 今日はちょっと忙しいんですけれど」
ソファーに寝転がって週刊誌を読んでいたアールが、あくびをかみ殺しながら返事をした。
「クロオ、仕事の依頼で来た」
「そうか」
仲介業者の男もクロオも、アールのそんな態度にいちいち反応しなかった。
「期間が少し長いが、割の良い仕事だ」
「分かった、話を聞こう」
クロオは机の上に眼鏡を置くと、デスクワークで疲れた右目を軽くマッサージした。
「ただし、経緯が少々複雑でな。話を聞くイコール依頼を受ける、と考えてもらいたい」
仲介業者の前置きを聞いて、クロオは動きを止めた。
仲介業者の男は難易度の高い仕事を持ってくることがしばしばあったが、決して理不尽な仕事を持ってくることはなかった。
クロオとアールならば、達成出来ると考えて仕事を持って来たのだろう。
それに、男が割が良いというのならば、実際に割が良いはずだ。
「了解した。話を聞こう」
そう言ってクロオは男のために来客用の椅子を準備した。
「有難い。恩に着る」
男は椅子に腰を掛けた。
「話を始める前に紹介したい人物がいる。おい、入ってきてくれ」
男は事務所の外に向かって声を掛けた。
そこに現れたのは、見慣れない格好をした一人の女だった。
「おっ」
アールは入ってきた女を一目見ると、週刊誌を脇においた。
女はヒラヒラとした薄い布地に黄金色の装飾品を身に付けたエキゾチックな服装をしていた。
艶のある漆黒の髪が肩くらいまで伸びており、意思の強そうな目、高い鼻をしていた。
体中から高貴な気品のようなものが漂っており、一瞬で、部屋の中の雰囲気が変わった。
「やあ、ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
いつの間にか、アールがもう一脚椅子を持って来て、クロオの横に立っていた。
客の性別や容姿で態度を変えるのはやめろ、とクロオは常々言っているのだが、アールは一向に改めようとしない。
「ゴチソウサマ」
女は何故か、椅子を差し出すアールに向かってそのようなことを言った。
一体どういう意味だろう、とクロオが眉をひそめていると仲介業者の男が説明を始めた。
「もう察しがついていると思うが、彼女はこの国の人間ではない。彼女の紹介と共に、仕事の話を始める」
そう言って男は女を紹介した。
女の名前はポーラと言い、実は男もポーラの本名を知らないのだそうだ。
「面積こそ小さいがポーラの国は地下資源が潤沢でな。貿易でかなり栄えているそうだ。そして、このご時世に珍しいことに未だ王政を敷いている。彼女は、その国の王族なんだ」
「へえ、④高貴なご身分なんですねえ」
「……で仕事内容は?」
アールの間の抜けた相槌はいつも会話のテンポを乱す。
クロオは黙って話を聞いてほしいと思った。
「ポーラの護衛だ」
男の説明によると、ついこの間、ポーラの国で軍事クーデターが起こったらしい。
しかし、国王は良政を心掛けており、国民の支持率も高かった。
だから、クーデターは失敗に終わり、事態は治まりかけていた。
「ただ、一部の過激派が最後の悪あがきを始めてな。かなり無茶苦茶なことをしている。中には、ポーラの命を狙うと公言する輩までいる。だから、クーデターが治まるまで彼女は国外へ退避することとなった」
「なるほど。俺たちはその間、彼女の身を守ればいいというわけか。期間は?」
「一か月間。その間にクーデターは鎮圧されるはずだ。あと、話をあまり難しく考えないでもらいたい。護衛と言っても、ポーラがここにいるのを知っているのは一部の人間だ。おそらく、刺客がやってくることもないだろう。国外退避も念のための処置だからな」
「ふむ」
クロオは椅子の背もたれに体重を預けて話を整理した。
要は、一か月間この事務所を隠れ家として彼女に提供し、その間、お嬢様の相手をしていればいいというだけだ。
確かに、割の良い仕事と言えるだろう。
「クロオ。なに黙っているんですか! 女性が困っているというのに、それを助けないというのはおかしいでしょう!」
「うるさい。少し黙っていてくれ」
「残念でした~、僕に黙るという機能はありません~」
「……」
一瞬、クロオはアールを引っぱたきたいという衝動に駆られた。
だが、そのようなことをしても意味がないと分かっていたので我慢した。
「了解した。それでは、これから仕事を始めよう」
アールの言動は置いておいて、クロオは男にそう返事をした。
「頼んだぞ。なにか分からないことがあれば連絡をくれ。答えられる範囲であれば答えよう」
そう言い残して男は静かに事務所から出て行った。
「さて、と」
男が出て行った後、クロオは改めてポーラの姿を眺めた。
「これは……」
どう考えてもポーラは目立ち過ぎていた。
これから外に出るわけではないが身を隠そうとしている人間の格好ではない。
そもそも、この目立つ格好で隠れようという人間が事務所までやって来たという事実が、クロオには理解出来なかった。
「一つ、頼みたいことがあるのだが」
「ハ、ハイ。ナンデショウカ」
クロオの言葉にポーラは大きく体を震わせて反応した。
明らかに、怖がられている。
見知らぬ土地、不慣れな言語、初対面の異性。
そして、極め付けは命を狙われているという状況だ。
ポーラの気持ちを考えれば、過剰に反応するのも仕方ないように思えた。
「全く、相変わらずクロオは女性の扱いが下手くそですね」
「相変わらずとはなんだ」
一か月間、ポーラからこのように振る舞われるのはさすがに厳しいなと考えていると、アールがニヤニヤとこちらを眺めていた。
「そこまで言うのなら何とかしてみろ」
「当たり前ですよ。女性のことなら僕に任せてください」
そう言うとアールは右手の人差し指を自分のこめかみへと当てた。
「オッケーです。ちょっと準備させて下さい」
アールは台所へ向かうと、小さなナイフと皿、そして、②りんごを持って戻ってきた。
「ポーラ。見ていてください」
そう言うとアールは器用な手つきでりんごを切り始めた。
赤い球体を六つのくし形に分け、皮に対してV字の切り込みを入れる。
そして、その切り込みに向かって厚く皮を切り落としていった。
「出来ましたよ」
そこに現れたのは、小さなりんごウサギだった。
「オー!」
ポーラはひどく興奮した様子でそれを受け取った。
「ほら、まだまだいますよ」
アールは残りのリンゴを全てウサギ型に細工して皿の上に並べた。
「コレハ、スゴイデス! ?<+&*{|~$#!!」
後半、ポーラはりんごウサギを目の前にして、聞きなれない言葉を口走った。
「ど、どうしたんだ、彼女は?」
ポーラの尋常ではない様子を目の前にして、クロオは思わず動揺した。
「どうしたって、そりゃこれが珍しいんですよ」
「珍しい? これが? ただのりんごウサギだぞ?」
アールの回答にクロオは疑問を感じた。
「文化の違いですよ。食材に対してああいう細工を施すのは珍しいことですからね。自分の国では当たり前だと思っていたことが他所の国では珍しい、なんてのはよくあることです」
「そういうものなのか」
アールの言葉だけでは納得出来なかったが、実際にポーラの反応を見ると説得力があった。
「スバラシデス」
先ほどよりも落ち着いていたが、ポーラは肩で息をしていた。
りんごウサギによる感動はまだ続いているらしい。
「ポーラ、~|~&($>?‘{#&」
突然、アールが流暢に外国語を話し始めた。
ポーラがかなり驚いていたが、実はクロオも驚いていた。
どうやら、先ほどポーラが漏らした短い言葉だけで、アールは彼女の話している言語がどこの国のものなのか分かったようだ。
アールが人並み外れた知識を持っていたのは知っていたが、まさかここまでとはクロオも知らなかった。
「それでクロオ、何です?」
「何です、とは何だ?」
「ポーラに何か頼みたいことがあるんでしょう?」
「あ、ああ、そうだった。簡単に言うと、着替えてほしいんだ」
クロオはポーラに向かって、彼女の服装が目立ち過ぎていることを話した。
頻繁に外に出るわけではないし、来客が来たら奥に隠れてもらうつもりだ。
しかし、それでも貴女の服装は非常に目を引く。
万が一、他人に見られた時のことを考えて、出来ればこの国の一般的な服装に着替えていただきたいのですが。
そのような内容を、クロオは身振り手振りを交えてポーラに伝えた。
「ハイ、ワカリマシタ」
さっきまでの小動物のような反応とは打って変わって、ポーラはクロオの目を見て返事した。
悔しいことだが、アールの準備したりんごウサギの効果は絶大だったようだ。
「フク、ゴチソウサマ」
クロオから着替えを受け取るとるとき、ポーラはそう言った。
アールが椅子を勧めた時もそうだが、どうやら、彼女はこの国の言葉を③勘違いして覚えてしまっているらしい。
「どうです? 僕のおかげで彼女は心を開いてくれましたよ」
着替えるためにポーラが隣の部屋へ移動した後、アールが自尊心に満ち満ちた顔で隣に立っていた。
「……一つ確認したいことがあるのだが」
「何でしょう?」
「りんごウサギは外国人の心を開くものであって、女性の心を開くものじゃないんじゃないか?」
ポーラの態度が変わったのは明らかにアールのおかげであった。
しかし、恩着せがましく話しかけてくるアールに対して、素直に評価する気が失せてしまった。
「いやあ、それにしても楽しみですね。女性、もとい、ポーラの着替えを待つのは」
「余計なことを言うな。さっきも言ったはずだぞ。これで⑧二回目だからな」
それからしばらく、クロオとアールは無言のままポーラの着替えを待っていた。
「オマタセシマシタ」
数分後、Tシャツにジーンズ姿というシンプルな服装に着替えたポーラが隣の部屋から出てきた。
「素晴らしい! 似合っていますよ!」
ポーラの姿を一目見た瞬間、アールは手を叩いて絶賛した。
「Tシャツとジーンズが似合ってるって褒め言葉なのか?」
アールをそう嗜めたが、内心、クロオはアールの気持ちが分からないでもなかった。
窮屈そうな胸部に、隙間のあるウエスト。
そしてジーンズの裾の部分からくるぶしより上の部分が大きく覗いてしまっていた。
これらの服はクロオが近所の服屋から購入してきた一般的な女性用のものだが、単純に彼女のスタイルの良さをアピールする結果となった。
整った顏でこの格好をしていると、先ほどまでとは違う意味で目立ってしまう。
「それでも、かなりマシになっただろう」
及第点だな。
クロオは心の中で呟いた。
「オネガイアリマス」
そう言うとポーラは、首にかけているネックレスを摘まんでクロオの眼前に掲げた。
「コレ、ハズセマセン」
「外せない? どういう意味だ」
ポーラの言っている意味が分からないクロオは、アールの通訳を交えて理由を聞いてみた。
ポーラのつけているネックレスには、ヤモリ型に彫金された金属がついていた。
彼女の国ではヤモリが神聖な動物らしく、王族はこのネックレスを常に身に付けていなければいけないらしい。
「だから、外せないそうですよ」
アールを通じて、クロオはポーラの話を聞いた。
珍しい形をしたネックレスではあるが、近くで見なければ目立つことはないだろう。
「構わない。オッケーだオッケー」
クロオがそう言うとポーラは顔をぱあっと輝かせた。
「ゴチソウサマデシタ!」
何度もお辞儀するポーラを見て、やはりこの娘は「ありがとうございます」と「ごちそうさま」を間違えて覚えている、とクロオは考えた。
「ポーラ、これからよろしく。えっと……(=(%*+|{><‘{‘ 」
初めは普通に話しかけていたアールだが、ポーラが聞き取り辛そうにしているので、急遽、言語を変えて話し始めた。
護衛を円滑に進めるためにも、彼女と信頼関係を築くのは良いことだ。
途中、それまでニコニコとアールの話を聞いていたポーラだったが、急に表情を変えた。
好奇心と、恥ずかしさの混じったような不思議な表情で、クロオを見た。
「おいアール、どんな話をしてるんだ?」
「ええ。クロオは女性にモテないから、貴女のような美人と話すのは緊張するんです、と話しました」
パァン!
激しく金属を叩くような音が辺りに響いた。
「余計なことは言うな、と何回も言ったはずだぞ」
「はいはい」
案の定、全く堪えていないアールを見て、やはり意味のない行為だったとクロオは手の平を擦りながら痛感した。
異国の王族の世話をするということで少なからず緊張していたクロオだったが、蓋を開けてみればポーラとの生活はとても静かに過ぎていった。
「あーあ、こんな楽な任務だったらいつでも大歓迎なんですけどね」
「油断するんじゃない、アール」
毎日ポーラと楽しそうにお喋りしているだけのアールを嗜めるクロオだったが、彼自身、デスクワークを続ける毎日で護衛をしているという自覚は日に日に薄れていった。
そして、ポーラがクロオの事務所で隠れて生活すするようになってから一か月が過ぎようとしていたころ、仲介業者の男から連絡があった。
「そうか分かった」
電話の内容は今後のことについてだった。
事務所の近くまでポーラの従者が来ているので、そこへポーラを送り届ける。
それが、クロオとアールに課せられた最後の使命だった。
「もう終わりですか、ポーラがいなくなるなんて僕は寂しいですよ」
アールは、夏休みの終わりを目前に控えた子供のように駄々をこねた。
「ワタシモ、サミシイデス」
意外なことに、ポーラもこの事務所から出て行くことを寂しいと感じているようだった。
彼女が初めに感じていた未知への恐怖や知らない場所での緊張というものはかなり薄まっているのだろう。
しかし、どう考えても自分の国の方が居心地が良いに決まっている。
クロオには、彼女の心境の変化が理解出来なかった。
「我儘を言うんじゃない。すぐに出るぞ」
気持ちの切り替えが出来ていないポーラとアールを連れ出して、クロオは事務所を出た。
道中、アールとポーラはずっと黙っていた。
信じられないことに、本当に二人は別れを寂しがっているようだった。
俯きながらトボトボと歩いていたアールが寂しさを紛らわすように突然提案したこと、それが、冒頭での心理テストをしましょうという発言だった。
「心理テストとは、人の心の本音を、言葉にして表すものなんです」
アールはポーラに心理テストの説明をした。
「オモシロソー。ヤッテミマショウ」
ひと月前のポーラならば、今の説明を理解出来なかっただろう。
一か月間、アールと話をしていただけで彼女の語学力は著しく成長していた。
「それではいきますよ」
出題する前、アールはちょっとだけ、右手の人差し指をこめかみに当てた。
「カレーの中で、一番好きな具材はなんですか?」
「はあ? なんだその質問は? おかしいだろう?」
思わずクロオはアールに詰め寄った。
カレーライスは比較的この国で知名度のある料理だが、外国人であるポーラがカレーライスを認識しているとは考えにくい。
それに、知名度がある料理だからこそ、カレーライスには地方や家庭でのバリエーションがたくさんある。
例えば、レーズンを入れるのが普通だと考えている人がいれば、その逆の人もいるだろう。
A牛肉、Bにんじん、C玉ねぎ、Dジャガイモ、という風に選択肢でもあれば話は別だが、アールの出した心理テストは、クロオにから見て不公平なものに思えた。
「エット……スミマセン、カレーライストハナンデスカ?」
やはりポーラはカレーライスのことを知らなかった。
これでは、この心理テストは成り立たない。
「ちなみに僕がカレーライスで好きな具材は、……にんじんかな」
「待て待て」
勝手に話を進めるアールに対して、クロオが割って入った。
「彼女はカレーを知らないんだ。質問に答えることは出来ない。あと、言っておくが、お前の回答もおかしいぞアール。なにがにんじんだ。逆だろ逆、お前がそんなもの食べている姿見たことないぞ」
「……言い方に気をつけて下さいねクロオ。その言い方だと、僕がまるで⑩にんじんを食べられないみたいじゃないですか。違いますよ、僕はにんじんを食べられないんじゃありません。にんじんを食べる必要がないのです。そもそも、にんじんを食べる行為に何の意味があるのですか。にんじんを摂取して、消化して、エネルギーにする。ああ、なんて無駄で面倒な行為なのでしょう。非常にナンセンスです。その点、この僕は」
「分かった分かった。お前が正しいよアール」
「そうですか、分かってくれて嬉しいですよクロオ」
クロオは何一つ分かっていなかったが、こう言えばとりあえずアールが満足することを知っていた。
「しかしアール。さっきも少し話したが、彼女にこの心理テストは無理だ。カレーライスを知らないんだからな。別の問題にすべきだ」
「それもそうですね」
そう言うとアールは、今度は右手の人差し指をこめかみに当てることなく、すぐに口を開いた。
「ポーラが好きなのは僕とクロオ、どっち?」
「おい、ちょっと待て」
再び、クロオはアールの発言を問い質さなければならなかった。
「その質問で何が分かるんだ?」
「ポーラが僕とクロオ、どちらが好きなのか分かります」
「あのなあ」
クロオはどこから文句を言えばいいのか悩んだ。
ただ、一つだけ、はっきりと分かっていることがあった。
それは、なぜ先ほどアールがカレーライスの話をしたのか、ということだ。
アールは初めからこの質問をポーラにするために、カレーライスの話をしたのだ。
いきなり解答が難しい質問をしても答えてもらえるとは限らない。
そこで、アールは自然なやりとりを装った上で、敢えてポーラに答えられない質問をしたのだ。
そうすることによって、一度質問に答えられなかった罪悪感をポーラに与え、二回目の質問に答えてもらう確率をあげようとしたのだ。
しかも、質問の内容が嫌らしい。
護衛の最中、クロオは必要最低限の会話しかポーラとしていなかった。
対して、アールは毎日ポーラと話していた。
アールとクロオ、好きなのはどっち、という二択の質問ならば、消去法でアールが選ばれるだろう。
さらに、アールはこの質問をする直前に人差し指をこめかみに当てていなかった。ということは、カレーライスの話を始めたときからここまで計算済みだったに違いない。
ポーラに好きと言ってもらうためだけにここまでするか? なんと小賢しい奴だろう。
クロオは感心するよりも呆れる割合の方が多かった。
「ふざけるな、これのどこが心理テストだ。真面目に考えろ。大体、お前に人間の心理が分かってたまるか」
「あっ、ひどい差別発言だ。訴えてやる。ついでに給料上げろ、このケチ」
「給料は今関係ないだろうが。それに、ひどいのはお前の出した心理テストだ。詐欺師のような真似をしやがって。いいか、そもそも人間の心理というものはそんな質問一つで分かるような簡単なものじゃない。とても複雑で、本人が自覚していないことの方が多くてだな」
「あれ? 何を悩んでいるんですかポーラ」
クロオの小難しい話を聞き流して、アールは無言で悩んでいるポーラの方を向いた。
「ワタシ、クロオモ、アールモ、フタリトモスキデス。ダカラ、ソノテスト、コタエラレマセン」
ポーラはアールの出した悪ふざけに対して真剣に悩んでいたようだ。
「どうしてですかポーラ! この一か月間、僕とポーラは楽しくやってきたじゃないですか! それなのに、僕よりもクロオの方が良いというのですか?」
別れの間際、手軽にポーラから好きと言われようとしていたアールは当てが外れ激しく動揺していた。
しかし、動揺したのはクロオも同じだった。
どうして悩む必要がある? 俺はこの一か月間、彼女とほとんど会話をしていない。
ずっとアールと楽しそうにしていたじゃないか。
それなのにどうして?
「ワタシノクニ、ムカシ、トテモマズシカッタ。ユタカニナッタノ、タクサンハタライタヒトノオカゲ。ダカラ、ダマッテハタラクヒト、ワタシノクニデハ、イチバンエライ」
一番近くにいたアールだけではなく、俺のことも見てくれていて、評価してくれたということか。
クロオはポーラ自と彼女の国について、親しみのようなものを感じた。
「…………」
「どうしたアール。急に黙って」
ポーラの言葉を聞いたアールは、反論することなくただ黙って歩き始めた。
「おい、返事したらどうなんだ?」
「要は、ポーラの国では黙って仕事する人がモテるんでしょう? だったら、僕は黙って動くだけです」
「へえ。でもこの前、お前自分で黙る機能がないって言ってなかったか」
「うるさいなあもう! ポーラの前で僕に話しかけないで下さいクロオ!」
「アハハ」
クロオとアールのやり取りを見てポーラは声をあげて笑った。
そんな彼女を見て、クロオはこの雰囲気も悪くないな、と感じた。
「うん?」
「どうかしましたかクロオ?」
「……いや、何でもない」
一瞬、笑顔を浮かべるポーラに妙な胸騒ぎを覚えたクロオだったが、不安はすぐにかき消えたので気のせいだと思うことにした。
「ハハーン。さてはクロオ、今さらながらポーラの魅力の虜になったのですね」
「馬鹿なことを言っていないで護衛に集中しろ」
アールのことを注意しつつも、自身の気の緩みを感じずにはいられないクロオだった。
「オヤ、アレハナンデショウ?」
ポーラの従者との待ち合わせ場所である橋の上に到着したクロオたちは、約束の時間が来るまで橋の上で待っていた。辺りはだんだん薄暗くなり始め、視界が徐々に狭まり始めている。
「確かにあれは何なんだ?」
ポーラの指さした先では、小さな子供が何やら手に持って橋の下をうろうろしていた。
傍には底の深い川が流れており、穏やかとは言えない激しい流れだった。
「気になりますね。ちょっと行ってきます」
アールは近くの階段から河川敷に降りていった。
こういう時のアールは行動が早い。
いちいち悩んだりせずにすぐに行動に移す。
ただ、護衛の途中にポーラから離れるのは間違っているし、それを咎めなければいけないクロオも何も言わなかった。
彼も、油断しているのだろう。
「何だソレは?」
河川敷から戻ってきたアールは手になにか持っていた。
「なにって、金魚ですよ。知らないんですか?」
「金魚という生物なら俺も知っている。俺が聞きたいのは、どうしてさっき下に降りたお前が、金魚を持って来たかと言うことだ」
河川敷から戻ってきたアールは、水に満たされたビニール袋の中で泳ぐ金魚を持っていた。
「ああ、これですか。さっきの子供なんですがね、この前、夏祭りで金魚すくいをして見事この金魚を釣り上げたらしいのです。それで、家に持ち帰って飼おうとしていたのですが、家にはすでに飼いネコがいたらしく、子供が見ていないときに金魚を食べようとした。それが頻繁に起こるので、家で金魚を飼うのを諦めた子供は、悩んだ挙句、金魚をこの川に放流しようとしたそうですよ」
「なるほど、金魚の話はよく分かった。それじゃあアール、さっき聞いた俺の質問に答えてくれ」
「はい? 今答えたじゃないですか?」
「いや、答えていない。俺が聞きたいのは、『どうしてお前が子供の持っていた金魚を持って来たか』ということだ」
「あー」
手に持った金魚を自分の目線の高さまで持ち上げて少し眺めたあと、アールは間の抜けた声を出した。
「俺はお前に理路整然とした説明を期待しているぞ、アール」
「えーと、まあ、強いていうのならば、何となく、ですかね」
「お前に理路整然とした話を期待した俺が馬鹿だったよ」
クロオは外国人のようなオーバーなジェスチャーをして、肺の中の空気を全て絞り出すように大きなため息をついた。
「でもまあいいじゃないですか。あんな川に放られたらこの金魚も大変ですよ。僕は金魚を助けたのです。クロオに責められるようなことは何もしていませんよ。それに、夏祭りで手に入れた金魚の世話に困るというのは子供にとって大人になるための通過儀礼みたいなものです。誰もが経験することですよ。そんな貴重な場面に立ち会えるなんて、僕たちは幸せ者じゃないですか。これらは全て夏の終わりを感じさせてくれる風物詩のようなものです。ああ、もう⑦秋の気配がそこまで来ていますねえ」
アールは橋の欄干に肘を置くと、遠くを見つめ何かを懐かしむような表情を浮かべた。
よくもまあそこまで詭弁が弄せるものだとクロオは呆れるしかなかった。
「うん?」
ふと、クロオは先ほど感じた妙な胸騒ぎを再び覚えた。
「どうかしましたかクロオ?」
アールが手に持った金魚の袋を指先でつつきながら質問する。
ポーラも、クロオのことを心配そうに見つめていた。
「いや、気のせいだと思うのだが」
そう口にした瞬間、クロオは先ほどから自分が感じている胸騒ぎの正体に気がついた。
ポーラの胸元にある⑤ヤモリのネックレスが、キラキラと輝いているのだ。
どうして彼女のネックレスが輝く? クロオはその意味を考えた。
辺りは暗くなり始めており、太陽などの自然光による照り返しとは考えにくい。
アールやポーラがこの輝きに気付いていないのも変だ? 煌めくだけだった輝きは、はっきりと一筋の光となりポーラの胸元で輝いていた。
何故、自分だけ気付けたのか?
その意味から導き出された答えに、クロオは戦慄した。
「ポーラ! 伏せろ!」
クロオは喉に力を入れて声を張り上げた。
突然の大声にポーラは動くことなく、むしろ怯えて体を強張らせてしまった。
このままでは危ない。一刻も早く行動しなければ。
そう判断したクロオはすぐに動いた。
「へっ?」
クロオはポーラのいる方向へ向かって、アールを突き飛ばした。
「っとと」
頼りない足取りでアールがポーラに数歩近づく。
アールが立ち止まり振り返ってクロオに文句を言おうとした瞬間。
パァアン!
この国では馴染みのない音が辺りに響いた。
空気を勢いよく切り裂き、高い運動エネルギーを持った物質が物を破壊する音。
つまりそれは、銃声だった。
油断していた。
クロオは自身の気の緩みを激しく後悔した。
笑っているアールやポーラを見て、知らず知らずのうちに自分も緊張感を失ってしまっていた。
これは護衛として、有り得ない失態だった。
「ダイジョブデスカ!」
ポーラが倒れたアールの方へと駆け寄った。
「そっちじゃない! 行くな狙われるぞ!」
クロオがそう叫ぶとポーラはぴたりと動くのをやめた。
このような状況に耐性があるのか、ポーラは最善の行動を素早く判断したようだ。
先ほど、ポーラのネックレスを輝かせた謎の光は、おそらく、遠距離での狙撃を補助するためのレーザーサイトなのだろう。
改造された特殊な光だったから、アールやポーラには見えなかったのだ。
光は、アールに着弾した後、倒れたアールの周辺を漂っていた。
明らかに、ポーラが近づくのを待っている。
次に彼女のとる行動が、倒れたアールの介抱だと読んでいるのだろう。
実際、彼女はクロオが声を掛けなければそう行動していた。
クロオは、倒れたアールの存在を利用する狙撃手のしたたかさに感心した。
相手は仕事慣れした、経験豊富な狙撃手のようだ。
しかし。
「今回ばかりは相手が悪かったな」
クロオは振り返ると光の元を探した。右目を手で覆い、左目だけで光の線を辿っていく。
見えた。
ここからおよそ一キロ離れたビルの屋上だ。
「いつまで寝ている、起きろアール!」
「……ふう、あとちょっと横になっていたかったんですけれどね」
クロオの呼びかけに対して、狙撃されたはずのアールは何事もなかったかのように起き上がった。
「もう少しでポーラが抱きついてくれそうだったのに」
アールは悔しそうな表情をしていた。
「アール!」
ポーラは神の起した奇跡を目の当たりにしたように驚いたあと、腰から崩れて倒れそうになった。
慌ててクロオが支える。
「ちょっとクロオ。その役目、僕と変わってくださいよ」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
このような状況でも普段と変わらないアールに、クロオは頼もしさを感じずにはいられなかった。
「クロオ、アールガ、アールガ」
ポーラは驚きと喜びの混じった表情で、目にたくさんの涙を浮かべ混乱していた。
まだ状況が整理しきれず、様々な感情が入り混じっているのだろう。
「大丈夫、アールは人間じゃない。あいつはロボットだからな」
クロオはポーラを落ち着かせるため、赤子を寝かしつける母親のような穏やかな声で言った。
クロオは今でもたまに、アールを引き取った日のことを思い出す。
あれは①クロオが仕事で左目を失った直後だった。
己の失敗により視力を失ったことは仕方がないと割り切っていたが、これから先、片目で仕事を続けていくことに不安を感じていた。
そんなある日、クロオは仲介業者の男から危険な研究を繰り返している科学者を紹介された。
科学者は研究資金を得るために、違法に制作した義足や義眼を販売していた。
人格に問題はあるが彼の提供する商品の評判は良かったので、クロオは科学者に義眼を作ってもらうことにした。
義眼の出来は、クロオが想像していたよりも遥かに良かった。
装着していて違和感がなかったし、普通の人間には見ることの出来ない光線を可視可する出来、さらに目の周りの外眼筋に力を込めることで望遠鏡のように遠くまで見ることが出来た。
クロオは科学者の提供した商品に、高い満足感を得ていた。
装着時の最終調整を行うため科学者の所へ最後に訪れたときのことだ。
クロオはラボの中無数にある檻の向かう側で、静かに座っている『ソレ』を見た。
クロオが初めて『それ』を見たとき、ひとりの人間が檻の中にいると思ったが、科学者が言うには違うらしい。
たくさん作ったロボットの一体で、エネルギー回路に問題があるため処分する予定の失敗作だという。
科学者は『ソレ』のことをただ記号で、『RX―7』とだけ呼んでいた。
どうして自分が『ソレ』を引き取る気になったのか、クロオは今でも分からない。
少なくともあのときの『ソレ』には感情があるように見えなかったし、今のアールの片鱗など微塵もなかった。
一緒に行動していてイライラさせられることが多いし、性格も自分とは全く違う。
共同生活をする相手として、非常に不満の多い相手だ。
しかしそれでも、クロオはアールを引き取ったことに後悔を感じていなかった。
「アール!」
クロオは頼れる相棒の名を叫んだ。
「なんですかクロオ」
アールは何ごともなかったかのように、弾丸が着弾した場所をぽりぽりと掻いていた。
ただの狙撃銃ではアールに傷一つつけることすら出来ない。
アールの装甲は、至近距離からの⑪対戦車ライフルにさえ耐えれるのだから。
「この一か月間ほとんど動いてなかったんだから、その分動いてもらうぞ」
「仕方ありませんね。ポーラのためです、分かりましたよ」
アールは面倒臭そうに返事した。
「相手はどこに?」
アールの言葉を聞いてクロオは少し視線を動かした。
狙撃手の立っているビルの屋上に手すりを見つけると、それを辿って横にスライドしていく。
すると、やがてビルの側面に辿り着き、そこにはアンカーボルトで固定された看板が付いていた。
看板には、ビルの名称と思われる文字が書かれている。
「〇〇××ビル、屋上!」
「〇〇××ビル、了解です」
クロオに教えてもらったビル名を復唱すると、アールは右手の人差し指をこめかみ当てた。
アールの頭部にある膨大なデータの中から、該当する物件を検索する。
結果はすぐに出てきた。
住所までちゃんと分かっている。
「じゃあちょっと行ってきますよ。ポーラのこと頼みましたからねクロオ」
分かった任せろ、と返事する前にアールはその場から姿を消していた。
エネルギー消費が激しいので普段は抑えているが、リミッターを外したアールは人知を超えた運動をすることが可能だ。
すぐに狙撃手を倒してきてくれるだろう。
「ただいま」
数分後、アールはまるで何ごともなかったかのように戻ってきた。
「これ、どうすればいいのか分からなかったのでとりあえず持ってきましたよ」
アールの片腕には、狙撃手と思われる外国人が大きな米袋のように抱えられていた。
ご丁寧にも、どこかのホームセンターで購入したらしい新品の縄で緊縛されている。
「アール!」
アールの無事な姿を見て感情が緩んだのか、ポーラはそれまでせき止めていた涙を流しながらアールに抱き着いた。
「ブジデヨカッタデス!」
「……え、ええ。ポーラのためなら、これくらいお安い御用ですよ」
アールは抱えていた狙撃手を地面に置くと、自由になった両腕をポーラの肩に回すことなく、所在なさげにぶらぶらと揺らしていた。
クロオはその様子を見て、この感情豊かなロボットは羞恥を表現することも出来るのか、と感心していた。
「クロオ、アール。イママデ、ゴチソウサマデシタ」
約束の時間になるとポーラの従者がやってきて、クロオたちは彼女と別れることとなった。
以前と比べてかなり流暢に喋れるようになった彼女だったが、相変わらず、何故か⑥御礼だけは間違えたままだった。
「うっ……、うっ……ポーラぁ……」
アールは頭部に付けているカメラの部分から水滴を勢いよく流し、臭気検知部の穴から粘り気のある液体を生産していた。
本当に、様々な機能をもったロボットだ。
「じゃあなお姫様」
利益の見込める仕事を無事終えることが出来て、クロオは機嫌が良かった。
「アノ、クロオ」
クロオが声を掛けると、それまで穏やかに受け答えしていたポーラが少し寂しそうに口を開いた。
「ワタシハ、クロオヤアールト、マタアエマスカ?」
「それは……」
無理だろう。と言うのが正直なクロオの答えだった。
クロオは仲介業者の男からポーラの情報をほとんど聞かされていない。
つまりそれは、ポーラの正体を知ってはいけないという意味だ。
正体の分からない相手と再び会うことなど、どう考えても無理だ。
アールならば、一か月間共に生活した情報だけで彼女の正体を突き止めることが出来るだろう。
しかしそれは、決してしてはいけないことだ。
それをしてしまうと、クロオやアール、ポーラたちにとって、良くない出来事が起こるだろう。
おそらく、この橋の別れが、ポーラとの今生の分かれになるに違いない。
「……またきっと会えるさ」
しかしクロオは考えていることとは違うことを言った。
ポーラが自分にどのような言葉を求めていたか、分かっていたからだ。
「そうだポーラ。この子を上げます」
水分の排出を一旦止めたアールは、先ほど子供から譲り受けた金魚の入ったビニール袋をポーラに渡した。
「この子を僕だと思って、大切にして下さい」
「ハイ、ワカリマシタ」
ポーラに金魚を渡すアールを見て、クロオには厄介な荷物を押し付けただけに見えたが、それはきっと気のせいだろうと思うことにした。
別れを終えたポーラは橋の下に降りていった。
そこには小型の高速船が停まっており、彼女はこれからそれで海まで向かうのだという。
見た目からは分からないが、その船はかなり高性能で、このような小さな川でも問題なく運転出来、胴体部分の小屋はきちんと防弾仕様なのだそうだ。
乗船する直前、船のエンジンが動き出すと、ポーラは橋の上にいるクロオとアールの方を見た。
「イママデゴチソウサマデシタ!」
エンジン音に掻き消されないよう、ポーラは大きな口を開けてハッキリとそう言った。
アールは再び水分を出す機能をオンにして、両手を振りながらそれに応えていた。
そして隣にいたクロオは、最後の最後で、我慢が出来なくなった。
「いいかポーラ!」
クロオは橋の上から大きく身を乗り出して、少しでも彼女に届くよう大きな声を出した。
「この国ではな、御礼を言うとき『ありがとうございます』って言うんだ。もう間違うなよ。次会ったとき確認するからな、分かったか?」
次会ったとき。
クロオのこの言葉に、ポーラは一際強く反応した。
「ハイ!」
ポーラもクロオに負けないような大声を出した。
しかし、すでに船は動き出し、橋から少しずつ離れ始めていた。
「あとな、アールから貰った金魚、大切に育てろよ! そいつを大切にしてるかどうか、確かめに行くからな! 金魚が死んだらもう、俺やアールはポーラの所に行かないからな! いいな!」
クロオの言葉に対してポーラはなにか言っていたが、本格的に速度を上げ始めた船はあっという間に遠くなり、ポーラの言葉がクロオの耳まで届くことはなかった。
ポーラを見送ったあと、手すりから乗り出していたクロオは、しっかりと両足で橋の上に立った。
呼吸が乱れて肩が大きく上下する。
手の甲で額を拭うと、汗の粒が薄く伸びていく感覚があった。
「クロオ」
二人のやり取りを黙ってみていたアールが、ぽんとクロオの肩に手を置いた。
「さっき初めて、ポーラのことを名前で呼びましたよね」
「……お前、そういうのは気がついても黙っておけよ。改めて言われると恥ずかしいだろうが」
「あと、金魚を大切に育てろってポーラに言っていましたけれど、それもどうかと思うんですよね」
「なぜだ?」
「金魚の寿命は10年以上で長めですけれど、それって環境がしっかり整っている場合に限るんですよね。カレーを知らなかったり、『ありがとうございます』って言葉を知らなかったポーラが、金魚の正しい飼育の仕方を知っているとは思えないんですよ。しかも、金魚つりの金魚は病気にかかっていることが多いので、これらの根拠を考慮すると、あの金魚の寿命は長くても数週間だと思うのですが、その点についてはどう思います?」
「だから、そういうことをいちいち言うなよ。まったく、野暮なロボットだな」
「ふん」
どうやらアールは、クロオとポーラの別れのやり取りを見て、自分だけ仲間はずれにされたと感じたようだ。
その寂しさから、クロオに突っかかってきているのだろう。
本当に面白いロボットだな、見ていて飽きない。
クロオは仕事仲間を見て、子供の成長を見守る親のような心境になった。
「それじゃあ帰るぞ。この一か月間、ポーラの護衛で手一杯だったからな。早速明日から別の仕事が入っているぞ」
「あっ、無理です。帰れません」
「なに、どうかしたのか?」
狙撃されたことで頭部にダメージがあったのか?
クロオはアールの頭部分をまじまじと眺めた。
「あっ、いえ、そういうわけじゃなくてですね。単純に、⑨充電がそろそろ切れそうなので」
「そういうことか」
クロオは安堵の溜息をついた。
アールは電気をエネルギー源として活動するタイプのロボットなので、街中で仕事をしているとき、たまにこういうことが起こる。
狙撃手を倒すためにリミットを外した反動だろう。
むしろ、この程度の被害で良かったというべきだ。
「仕方ない。タクシーでも拾うか」
「それにしても泣くのってあんなにエネルギーが必要なんですね。冷却に必要な水を排出したせいでオーバーヒートしそうになっちゃいましたよ。おかげで、いつもより予備電源を早く消費しちゃいました。泣くのは赤ちゃんの仕事だって言われている理由が分かった気がします。泣くことは、すごく疲れるんですね」
「そういう理由か!」
心配して損した、と言わんばかりにクロオが語気を強めた。
「ふざけえるな、そんな理由でタクシーを使えるか。歩いて帰るぞ」
「でもクロオ。途中で僕が充電切れになったとき、苦労するのはクロオですよ」
アールの言葉にクロオは絶句した。
ロボットであるアールは、こう見えて非常に重い。
途中で充電が切れて動かなくなった場合、事務所まで抱えていくのは非常に大変だ。
また、何とか事務所まで行けたとしても、事務所の入り口は二階にある。
アールを抱えて二階の事務所まで戻ることは、クロオが今まで仲介業者の男から斡旋されたどの仕事よりも、難易度が高いと言えた。
「……タクシー使うか」
「落ち込まないで下さいクロオ、その内きっと良いことがありますから」
「……」
煽りとも思えるアールの言葉を無視して、クロオはタクシーを探すため交通量の多い道路へと向かった。
了
[編集済]
(`・θ・´)フムフム
帝都でいちばん高い塔、その天辺の小窓を僕は眺めていた。やんごとなきプリンセス④が住むというその場所に思いを馳せると、なぜだか心が浮き立つからだ。と言っても、誰かが小窓から顔を見せたりするわけでもなく、塔の上の光景はいつだって代わり映えしないのだけれど。
ところが、その日小窓に訪れた変化は、あまりに思いがけないものだった。ドレス姿の少女が窓枠に足を掛け、飛び立ったのだ。
背中に寒気が走りきるより早く、僕は地面を蹴った。バタフライの要領で空を掻き、真っ直ぐに塔を目指す。真っ逆さまに墜落する少女を受け止めると、僕は手近な屋根にゆっくりと降りた。
「なんてバカなことをしてるんだ、君は! 自殺なんて……」
僕が真剣にそう言うと、少女は嬉しそうにケラケラ笑い、
「私が自殺するとお思いになったの?」
そして、手に握りしめていた本を僕の目前に掲げる。「ヒトでもできる空中散歩」……僕の母が、改造手術を受けた人間のために書いた本だった。母は隻眼の天才生物学者で、人間を改造して様々な野生動物の能力を持たせる技術を産み出していたのだ。①僕は嘆息する。
「残念だけど、その本に書いてあることを実践して飛べるのは、僕みたいに改造手術を受けた人間だけだよ」
「そうなんですの? 勘違いしていましたわ③」
少女はケロリと言うと、僕の目を見てこう言った。
「私と結婚してくださらない?」
はあ? と思わず叫んでしまってから、周囲の視線に気付く。屋根の上に降り立った少年と少女が目立たないはずないし、少女のほうはプリンセスなのだ。慌てた僕は、少女への返事を保留し、ゴリラの腕力で少女を抱えたまま、チーターの脚力で屋根瓦を疾走し始めた。
町外れにある巨大なリンゴの木に着くと、僕は走るのをやめた。②
「この木のウロが僕ん家なんだ」
そう言って少女を家の中へ案内する。
「まあ、庶民はこんな所に住んでいるのね!」
「これは普通じゃないよ。どっちかというと、さっき屋根に降り立った家の方が普通の家」
この家は、母が竹とリンゴを掛け合わせて作ったツリーハウスだ。ここは、母が天才であるゆえの住居であり、断じて普通ではない。ところが少女は何を思ったか、
「あら、じゃあ私の未来の旦那様が特別なのね!」
と顔を綻ばせた。プリンセスの感性は変わっている。
「それで、どうしてこんな所に?」
「君はプリンセスだ。普通に町を歩いているだけでものすごく目立つし、下手すれば連れ戻されてしまう。だから……えいっ」
言いながら、プリンセスの額に御札を貼り付ける。⑥
「これが額にある間、人の目には君が猫に見える。これなら安心して町を歩ける」
毛並みのいい子猫が、寄り目になって額の方を見つめている。てしてしと前足で空を掻いているのは、お札を触っているのだろう。額から御札をはがすと、少女は目をキラキラさせて問う。
「では、この御札も特別なのですね?」
これも母が発明した品だから、まあ普通ではない。僕は無言で頷く。その次の瞬間、
ぐううう〜〜〜、と大きな腹の音が鳴った。
僕ではない、ということは彼女の腹の虫らしい。僕はキッチンに立ち、昨日の残りのカレーを皿によそった。
「はい。特別じゃない庶民カレー」
少しの皮肉をこめつつ、カレーをプリンセスに差し出した。最初こそ、顔を近づけて色を見たり匂いを嗅いだりしていたが、ほどなくして一口食べた。
「美味しい! 好きな味ですわ。でも、このカレーライスが特別ではない、というのは嘘ですね」
彼女は僕の鼻をつついて、ニヤリと笑った。
「だって、このカレーライスには人参が入っていないのですもの。あなた、人参が苦手なのではありませんの?⑩」
僕は言葉に詰まった。彼女の言う通りだった。僕が人参嫌いだと知っている母は、カレーに人参を入れない。
「“特別な”庶民カレー、ごちそうさまでした!」
きれいにカレーを平らげたプリンセスは、そう言って手を合わせた。
プリンセスの額に御札を貼って、僕らは町に繰り出した。収穫祭に向けてちらほらと出始めた出店に、ふと秋の気配を感じる。⑦僕らは心理テストの店に入ったり、アクセサリーの店を冷やかしたりして遊んだ。⑫アクセサリー店の店先にいた、尻尾が輪になったヤモリにプリンセスが心惹かれていたようだったので、尻尾に紐を通して彼女の首にかけた。⑤母がこのヤモリを生み出した時には、こんな胸に貼り付いて気色悪いばかりのヤモリを気に入る人間なんていないと思っていたが、そんなこともないらしい。
町をそぞろ歩いていると、町人の噂話が耳に入る。「プリンセスが塔から誘拐されたらしい」「誘拐犯を捕えるために対戦車ライフルまで持ち出されたらしい⑪」プリンセスが塔から飛び降りたことは伏せられているし、やたらと物騒で、僕は肝を冷やす。
僕が周囲を気にしながら歩いていると、出店で買った綿菓子を食べようとして、子猫が額の御札をはがしとってしまった。途端にプリンセスが姿を現し、周囲の人間が一斉に振り向いた。プリンセスは僕の手を取り駆け出す。僕も、チーターの脚力でそれに応えた。
プリンセスはやけに町の地理に詳しく、人の少ない路地を的確に選んで駆けていく。「ずっと塔から眺めていましたもの」と彼女は微笑んだ。なんだか楽しくなってきた次の瞬間、全身から力が抜けて僕は橋の上にくずおれた。(問題文要素)
「どうしたんですの?!」
心配そうに覗き込むプリンセスの瞳が、とても美しく見えた。
「僕は改造手術を受けたサイボーグだから……ときどき充電しないと体を動かすことさえままならないんだ。……そろそろ充電切れかな⑨」
ははは、と自嘲気味に笑った瞬間、僕と彼女は引き離された。プリンセスを連れ戻すためにやってきたエージェントだった。エージェントの一人は僕の手に手錠をかけ、もう一人はプリンセスを抱えて橋の下へ飛び降りた。
プリンセス達は橋の下に留まっていた船に降り立ち、僕を引き離すように船を発進させた。
プリンセスは、橋の下から大声で僕に叫んだ。
「“特別な”庶民カレー、ごちそうさまでした!」
この期に及んでそれを言うか。2度目の言葉に僕は少し笑った。⑧
僕も大声で返す。
「こちらこそありがとうございます!」(問題文要素)
彼女には何のことだかサッパリ分からないだろうが、これでいい。僕はニヤリと笑いながら連行された。
そして数日後。僕は、クローン人間創造の罪で収監されていた母を連れ、無事脱獄を果たしていた。様々な動物の能力を持つ僕にとって、充電さえできれば、この国の刑務所など敵ではないのだ。とはいえ、侵入して脱出するのは、単に脱出するよりも手間が多く、失敗の可能性もそれなりにある。そこで僕は、“合法的に”刑務所に入りたかったのだ。
その後僕と母は、刑務所に入っている間に母が考案した「金魚の寿命を飛躍的に伸ばす薬」を作って売り、慎ましく平和に暮らした。
それもこれもあのプリンセスのおかげだ。ついでに、金魚たちが母の薬で寿命を延ばしたのも。(問題文要素)【了】
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(`・θ・´)フムフム
{⑦}今日はハロウィン。
ここ、らてらて国では、ハロウィンはらてらて三大祭りのひとつとして、毎年大きな賑わいを見せる。
今日も、{①}片目に眼帯をした隻眼の船長、{②}りんごを持った悪そうな顔をしている魔女、{⑨}充電がそろそろ切れそうだと言わんばかりにゆっくり動くロボット、{⑪}対戦車ライフルを持って歩く軍隊、様々な格好をして歩いている人たちがいる。
{④}ヤモリが家紋の高貴な家に生まれた女は、毎年ハロウィンの日だけ、外出することが許されていた。
幼いころは、両親と一緒にいろんな話をしながら歩いたのだが、最近は一緒に外出してくれることもなくなり、しかも、家の名を売るためにとヤモリの衣装を着ることを義務付けられた。
{⑧}今日はヤモリの衣装を着る2回目の日だ。
女はいやいやながらも今日もその衣装を着ることを承諾し、街に出た。
女が落ち込みながら歩いていると、魔女の衣装をしたおばあさんに、「そこのお嬢さん、簡単な{⑫}心理テストを受けていかんかね?」と呼びかけられた。
少しも興味は湧かなかったが、気分転換にとその心理テストを受けてみることにした。
その結果、今の自分が相当落ち込んでいることを言い当てられた。
そのほかにも、自分の性格について、色々と当てられてしまった。
女が驚いていると、おばあさんが、「衣装を変えてみたら気分が晴れるかもしれないよ。」と言ってきた。
「でも、どこのお店でも、もう衣装は貸し出されちゃっているでしょう?」
「ここに良いものがあるよ。かわいいうさぎの衣装。どうだい?今はお金を持っていないだろうから…{⑤}その胸元で光っているヤモリのネックレスを担保に貸してあげようか?」
「いいわね、その衣装!借りるわ。」
女はおばあさんから借りたうさぎの衣装に着替え、街を歩いてみた。
気持ちがいいので、そこらじゅうを歩き回っていると、賑わいから少し離れた石橋の下で、有名な殺人鬼のお面をつけた男が、金魚の格好をした女の人を殺そうと追いまわしていた。
女が驚いていると、橋の上から、男の人の声が聞こえた。
「そこのうさぎさん、あそこにある人参を食べてくれないか?」
そこには、ドラキュラの格好をしている男が立っていた。
「何でよ?」
「私は警察官なのだが、人参恐怖症でね。{⑩}カレーライスの人参も食べれないし、それどころか人参を見ただけで足がすくんでしまうんだ。あの女の人を助けると思って、頼む!」
「分かったわよ。私のせいで誰かに死なれたくないもの。」
そう言うと、女はすぐに人参を食べた。
「ごちそうさまでした!これでいい?」
「ありがとうございます!これであいつを追いかけられる。」
そう言うと、男は橋から飛び降り、殺人鬼を追いかけていった。
後日、金魚の衣装をしていたという女性から、女のもとへ手紙が届いた。
そこには、「御札状」と書かれていた。
{③}送り主の女性が漢字を勘違いして書いてしまったのだろう。
そして、送り主の名は節子となっていた。
女は思わず、
{⑥}「節子、それ御礼やない、御札や!」
と言ってしまった。
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(`・θ・´)フムフム
参加者一覧 23人(クリックすると質問が絞れます)
さてさて皆さん、今回は 正解を創りだすウミガメ感謝する男女第2回 にご参加いただ
き、誠にありがとうございました。
では早速こちらからまいりましょう!
最難関要素賞
今回は要素数12で行いました。なかなか工夫しにくい要素、世界観を決めてしまいかねない要
素が多く、苦戦された方もいらっしゃることでしょう。そんな中で選ばれた言葉はこちら!
3位⑨充電がそろそろ切れそう & ⑩男はカレーライスの人参すら食べられない (2票)
2位①隻眼のキャラ (3票)
1位⑪対戦車ライフル (4票)
ということで、最難関要素賞は、
「対戦車ライフル、関係するじゃろ?儂にはわかっておる」(茶飲みご隠居さん)
でした!正解マーカーを贈呈させていただきます!
ちなみに私の気まぐれで選ばれた言葉は、③誰かが勘違い と、⑪対戦車ライフル でした!
…なんかごめん!!!
最優秀作品賞
今回の総作品数は13。最初の3日間に3作、最後の4日間に10作が投稿されました。ちなみに私
が投票期間中に創った多少無理のある作品が、サブ会場のまとメモに載ってるので、見たい人だけ見てね(また火事かよとか言わない)。そして総文
字数はなんてこったい”54546字”。計算したら、原稿用紙に詰め詰めに書いても、タタミ8畳分
あります。すっげ。そんな中でも多くの票を獲得した作品はこちら!
3位「家護る姫君」(やつぎさん) (6票)
2位「繰り返すようにまた会える」(藤井さん) (7票)
1位「ハローデスティニー」(ちるこさん) (8票)
ということで、最優秀作品賞は、
「ハローデスティニー」(ちるこさん)
に決定いたしました!本文に良質進呈です!
見事に1票差でしたね!いい勝負すぎて3回集計確認しました!
そして最後に…
シェチュ王に輝いたのは…
ちるこさん でした!!!(/・θ・)/
おめでとうございます!正解進呈!そして君が『第2代・シェチュ王』だ!
要素出し・投稿・投票に参加された皆さん、お疲れさまでした。
要素出しや投票すらも怖くてROMっておられた方、ご覧の通り、シェフの皆さんが作り上げた
作品はどれも格別です。人は皆、素晴らしい作品を創り上げることができる生き物なのです。
次回は、あなたの持つその価値観、感性でぶつかっていきましょう!
今回は作品を作れなかったという方、今回の作品を参考にして、次回は是非作品を投稿してみ
てくださいね!時間こそ必要ですが、らてらて鯖にたどり着けたあなたなら、絶対に創りだせ
る!マジで!
作品を投稿してくださった方、貴重な時間をこちらに割いていただき、ありがとうございまし
た。票をもらえなかった?シェチュ王になれなかった?いやいや、正解を創りだす、それ自体
に価値があるんですよ~。”創りだす”ことができたあなたは、確実に成長しているのです。そし
て、続けていくことが大事なのです。月に一回(と決まっているわけではないが)の作文練習会と
思って、次回も是非ご参加くださいね。そして第3回を盛り上げましょう!
では、
新・シェチュ王!
第3回の開催、まかせました!(王冠をバトンパス)
HIRO・θ・PENさん、運営ありがとうございました。今回名作が多く生まれたのはそもそも、単純かつアシンメトリーなこの問題文の美しさも一役買っていると思います。そしてちるこさん、二代目シェチュ王おめでとうございます。物語としてのクオリティの高さとウミガメのスープとしての納得感の高さが、やはり勝因となったのではないかと思います。他の方々の作品も楽しく拝読させていただきました。最後に私の拙作に投票していただいた皆様、本当にありがとうございました。[18年09月03日 19:57]
HIRO・θ・PENさん開催ありがとうございました。今回の自分の作品は無茶がな流れが多かったので他の人の作品を見てたくさんの驚きがありました。改善できるところは改善しつつ、次回作につなげていこうと思います。やっぱり企画系も楽しいですね!!![18年09月03日 11:14]
HIRO・θ・PENさん大役お疲れ様でした!催眠術のおかげでとても楽しい思いが出来ました。参加者の皆さんもお疲れ様でした!其々に個性があって興味深く作品拝見しました。ちるこさんシェチュ王おめでとうございます。次回楽しみにしています。最後に、自分に票を投じて下さった皆様、ありがとうございます。本当に本当に嬉しいです。自分の書いた解説に、少しでも水平思考を感じて頂けたなら本望です。[18年09月03日 08:01]
以下、(本物)が(偽物)の代弁をしております。
いぇ~い! 創りだすで初めて投票してもらえた~! 投票してくれた黒井由紀さん、未解決問題特攻隊隊長さん愛してる~。特に藤井さんはチョー愛してる!そして、優勝したちるこさんおめでとーございます!!
キッカケがないとなかなか文章を書かない自分としては、とても良い練習の場になりました。
このような場を提供してくださったHIRO・θ・PENさんありがとーございましたー![編集済] [18年09月03日 00:41]
また、自作に貴重な票を下さったZEROさん、パブロンさん、だんご部長さん、こはいちさん、フェイクちくわさん、カサブランカさん、ありがとうございました!票に添えられた感想もどれも嬉しく読ませていただきました。これを励みに、また次回も挑戦したいなぁと思っています。
そしてそして最後に、ひろぺんシェフの創りだす作品にもう脱帽です。脱帽どころか髪抜けます(?)本当にあなたはアイデアマン。発想が自由で、それなのに一本の糸でちゃんと繋がっていて、文句なしの初代シェチュ王です。改めて、お疲れさまでした!ありがとう。[編集済] [18年09月02日 21:25]
主催のひろぺんシェフ、本当に本当にお疲れさまでした。集計総括という大仕事の前夜に🚪で騒ぎ倒して夜更かしさせてごめんなさい(土下寝)
そしてそして!見事シェチュ王になられたちるこさん、おめでとうございます!!『ずっと好きだったんだぜ』を読んだ時から物語書きさんだな~と認識していたんですが、今回の創りだすを読んでやはり、と思いました。ヤモリをブランド名にする発想は流石です。物語の締め方もとても味わい深くて素敵でした。
次回の創りだす開催、楽しみにしております…![編集済] [18年09月02日 21:12]
第2回シェチュ王の栄冠を頂きまして、至極恐縮しております。この場を借りて感謝の気持を綴らせてください。
まずはHIRO・θ・PENさん、企画運営ありがとうございます。らて鯖に登録してすぐに楽しそうな企画が目に留まり、参加させていただきました。
早々に書き上げたもののタイトルが決まらずに保留している間に作品投稿が始まり、一気に自信がなくなりました(笑)これ以上自信喪失する前に投稿してしまおうと慌てて投稿した後も、ぞくぞく投稿される素敵な作品に感動したり落ち込んだりしていました。
まさか優勝できるとは思っていませんでしたが、こんなに嬉しいものなのですね……!黒井由紀さん、やつぎさん、パブロンさん、だんご部長さん、ペコリンさん、こはいちさん、素敵な感想をいただきありがとうございます。
作品投稿&要素提供&投票してくださった全ての皆様への感謝と敬意を胸に、次回開催させていただきます。是非ご参加ください![編集済] [18年09月02日 19:29]
HIRO・θ・PENさん、開催ありがとうございました。投票所に書かれていた解説も拝見しましたが、男と女の発言が互いに向けられたものではないことに驚きました。問題文を読み返してから「言った」とだけ書かれていて、対象が指定されていないことに気付きました。 ちるこさん、最優秀作品賞受賞とシェチュ王継承おめでとうございます! とても素敵な物語でした! 茶飲みご隠居さん、最難関要素賞受賞おめでとうございます! お伽噺風にしようと思っていた自作解説に、クローンとかサイボーグとかを出さざるを得なくなったのは、おおむねあなたのせいですw[編集済] [18年09月02日 19:16]
末尾に終了宣言お忘れなく、って言おうとしたけど、前回の自分が宣言し忘れてることに気づいた。( ´>θ<)人 でも終了してるかどうかは文章読めばだいたい分かるのでOK!許せ!(ガバガバルール)[編集済] [18年08月20日 19:13]
>ZEROさん 絶対に重要となるように組み込まなければいけない!という訳では無いです。質問欄はどんな作品も否定せず受け入れてくれます。ですが、(以下個人的感想)重要になるように組んだ方が、無理のない文章になる気がします。[編集済] [18年08月20日 08:57]
ぎんがけいさんもようこそ・θ・投稿フェーズになれば緊張してられなくなりますよ~^θ^成人はしてますがお酒はクッソ弱いので飲まないんです-θ-🍕[編集済] [18年08月17日 22:07]
①隻眼のキャラ
②りんご
③誰かが勘違い
④女はやんごとない家柄
⑤ヤモリのネックレスが光る
⑥御札
⑦秋の気配をふと感じる
⑧2回目
⑨充電がそろそろ切れそう
⑩男はカレーライスの人参すら食べられない
⑪対戦車ライフル
⑫心理テスト
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!