ヒーローに憧れていた子供たちは、ヒーローに憧れなくなってしまった。
いったいどういうことだろうか?
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お待たせしました! 第9回正解を創りだすウミガメ開催です。
今回の要素は初心に帰って15個です。理由は私が参加しないからです。
この問題には解説を用意しておりません。皆さんからの質問がストーリーを作っていきます。
詳しくは、以下の手順・ルールをご確認ください。
■■ 要素募集フェーズ ■■
①出題直後から質問を受け付けます。いただいた質問の中から、私が15個お応えし、良質とします。採用にあたっては、乱数を用います。
※以下、良質としたものを要素と呼びます。
※良質以外のものは解説に使わなくてもOKです。
※矛盾が発生した場合には早い方を採用とします。
※あまりに条件が狭まる物は採用しません。
矛盾例(早い方を採用)
・田中は登場しますか? OR 田中は登場しませんね?
・葛原さんって可愛いくないですよね?(現実と矛盾する)
※ふたつ目に関しては矛盾例ではありませんが、問題と関係ないので採用しません。決して私怨ではありません。
狭い例(お控えください)
・ノンフィクションですか?
・登場キャラは1人ですか?
・ストーリーのジャンルは~ですか?
②期限をすぎると《投稿フェーズ》に移ります。
■■ 投稿フェーズ ■■
① 解説投稿フェーズでは、15個の要素すべてを用いた「正解」を考え、質問欄に書き込んでください。ぶっ飛んだネタ設定・胸が締め付けられるシリアス設定など、いかなる設定でも歓迎します。ただし、多くの人が不快に思うような要素は自粛してくださいますようお願い申し上げます。
作成の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
②期限をすぎると《投票フェーズ》に移ります。
■■ 投票フェーズ ■■
①投票フェーズでは、投稿フェーズで提出された回答の中からお好みのもの、そして最も難しいと思った要素を1つずつ選んで投票してください。
今回も、以下の3賞をご用意いたしました。
●最難関要素賞(最も難しかったとして票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈します。
●最優秀作品賞(最も秀逸であると票数を集めた作品)→その作品に[良い質問]を進呈します。
●シェチュ王(作品への票数の合計)→シェチュ王が出題した、全ての作品に[正解]を進呈します。
②シェチュ王の得票数が最終的に同数だった場合、先着順に番号を1から振り分け、乱数で抽選します。それ以外は同時受賞とします。
それでは、第9回正解を創りだすウミガメを開催いたします。皆さんの解説を心待ちにしております。
■■ タイムテーブル ■■
要素募集フェーズ
投稿直後~同日22:30
(期限内に要素が40個以上集まらなかった場合、40個に達するまで延長)
投稿フェーズ
要素募集フェーズ終了後~3/24 23:59
投票フェーズ
投票会場設置直後~3/30 23:59
結果発表フェーズ
3/31 21:30までの発表を予定していますが、延期になる場合もございます。
投票会場→https://late-late.jp/mondai/show/4954
リクガメは最近の一番のお気に入りです。 106は罠だw
YESNO、どちらでも成立します。……回答で雑談しないでください!! 雑談で回答しますよ!! [編集済]
たけのこ派ですか? [編集済]
NO.(みなさんが解答を作成する際には、YESNOと捉えていただいて結構です) [編集済]
もうみんな疲れていますか?
YESNO、どちらでも成立します。が、おそらく疲れていますよね、間違いなく。なに22時に深夜のテンションになってくれているんですか。嬉しいですけども。
Youtuberといえば子供のヒーローだよね
実は男はあの超有名Youtuberの「あ」①⑨⑩
「あ」といえばあの有名バンドグループ「ロジャー」組んでましたね⑧
よく間違われますがロジャーはLGじゃなくてLJ Lの下はJです⑭
ロジャーと言ったらバンド対決ですよね 倒したバンドのメンバーを引き抜いて王道アニメみたいだーって④話題になりました
別な有名なエピソードはあれです
○の海③のことを猿の海と聞き間違えて⑬デジタルデンモクで殴られそうになったが⑤取っ手が取れて②助かったやつ
これがきっかけで有名になりましたよね
そんな彼も自分をプロデュースしてくれていた「残飯」先生をお払い箱にしたもんだから
奥さんの「8月の雪」に振られて⑪自分の子供ともひきさかれましたよね⑦
そのストレスで突然歯が抜け⑫舌を噛んで⑥歌えなくなっちゃったんですよね
そりゃあまあ 憧れてた子供達も口をそろえて言いますよ「どうでもよくなっちゃいました」⑮って
つまり 男は「あ」のことを表していた が正解です。
こんなのウミガメのスープじゃないって? 20の扉でやれ? ちょっとくらい許して下さいよ 初投稿なんで
『統合失調症のような妄想癖のあるウミガメ初心者の男が出題者になってしまっていた』
【完】
[編集済]
「8月の雪」という奥さんの名前のセンス、抜群にいいですね。「そのストレスで突然歯が抜け舌を噛んで歌えなくなっちゃった」という踏んだり蹴ったりなシチュエーションに少しそのYouTuberが可哀想になってしまいましたが、全体的にコミカルかつテンポよい筆致で、気持ちよく読めました。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
「ここらと8月に雪が降るんれすね⑪」
その日殺人の現行犯⑤で取調室に連れてこられた男は、ずっと黙り込んでいたかと思えば突然そう口を開いた。懐かしげに目を細め、棺桶のように無機質なコンクリートの壁の中、鉄格子の向こうの雪を眺めている。
「こっちは俺の故郷とは季節が真逆らからなぁ。でも俺の故郷も、こんな風に雪がよく降るところらったんれすぜ刑事さん①。毎年何十人も寒さで死ぬ奴がいてさ」
「……突然饒舌になったな」
「へへっ。なんかもう、どうでもよくなっちまったもんで⑮」
「北半球の出身なのか?」
「へい。××という村れ生まれやした」
それは刑事が聞いたこともない地名だった。
「孤児ららけの小さな村れして、毎日食べることにも必死で、栄養不足のせいか『ファ』もある時急に抜けちまって」
「『あ』?⑩⑬」
「ファです……『歯』れすよ刑事さん。お陰で喋りにくいったらねーや。これれも歯が抜ける前は、とにかく稼ぐためってんでバンド活動⑧やら実況⑨やらに手を出してた時期もあったんれすよ。まぁ売れなかったんれすがね。とにかくこんなファなんで、お聞き苦しくて申し訳ありやせ」
「貴様の身の上話などどうでもいい」
男の言葉を遮るべく、刑事は自分の腕を強く、強く、取調室の机に叩きつけた。パリンと。衝撃で机の上にあったティーカップの取っ手にヒビが入って取れた②。
「犯行の動機はなんだ?何故我が国で開催されていた相撲大会の優勝レスラー③を突然刺し殺したのだ」
「アイツはね刑事さん。俺と同郷なんれさぁ。故郷の出世頭とでも言うんれすかね。貧乏生活から抜け出して世界で活躍するようになった、俺らみたいなのからするとまさに希望の星、ヒーローれした。俺には弟が二人いたんれす。上の弟がLay下の弟がJoe⑭ってぇんれすが、ある日二人腹を空かせてが物乞いをしてるときにあの相撲野郎に酷く絡まれたらしいんれすよ。貧乏人はこれれも食ってろって、目の前で残飯をゴミ箱に捨てられて、とても食えねぇほどグシャグシャにされてね。弟二人ともあの野郎のことをヒーローみたいに慕ってたんで、夢が引き裂かれた⑦みてぇな気分らったれしょうねぇ」
「その……弟二人とやらは」
「そのまま腹を空かせて死にやしたよ。まらほんの子供らったてのに」
「つまり動機はその復讐か?」
「そう。憎い仇を何年も追い続けてついにとろめを刺す復讐劇ってのも王道の展開れしょう?④俺の人生、もう満足だ。これでいつ死んれもいい」
「それを決めるのは貴様ではない。司法と裁判官だ」
そう言って刑事は椅子から立ち上がり、上司にこのことを報告すべく部屋から出て行った。迂闊にも男一人だけを部屋に残して……。
【終わり。そしてタイトルへと続く】
[編集済]
「ヒーローに憧れなくなってしまった」という問題文を、とても巧みに回収していらっしゃって感服しました。二重の意味で「憧れられなくなってしまった」のですね。「弟達に会うため微笑」む男の情景が、雪という情景と美しく融合しています。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
やっぴ〜☆
わたしの名前はシャルル!歌うことが一日三食のちゃんこ鍋よりもだぁい好きで、軽音部に所属している⑧どこにでもいる普通の女子中学生だったんだけど、ある時相撲の妖精スモリンに選ばれて魔法少女になっちゃったの☆④
魔法の力で、子供達の憧れのヒーロー『スーパー力士まじかるシャルル③』に変身して悪い人達⑤と日夜戦っているんだよぅ♪
どすこいまじかるっ☆
「只今入った凶悪犯のニュースです」
ふぇぇえ、大変っ!ニュース実況⑨によると、公園のゴミ箱に残飯を捨てちゃった悪い人がいるみたいだよ!カラス対策のためにあそこには生ゴミを捨てちゃいけないルールなのに許せない!
そんな悪い大人はシャルルが成敗しちゃうんだからっ☆悪即・ツッパリ!
変〜身!
シャララン♪
Lalalala〜♪
JAPAN・青サイパン・赤サイパン・黄サイパン♪⑭
(●リキュアみたいな変身バンク)
さぁ!そこのおじさん!覚悟しやがりなさいっ☆
シャルルの魔法をくらえ〜い!
どすこーーい☆
「ぎゃー!突然歯が抜けた〜!!⑫ふがふが!」
一気に老けちゃう魔法よっ?
更に、どすこーーい☆
「ふがー!(意訳:8月なのに猛吹雪が〜!!⑪)」
あっ!待ちなさい!
家に逃げ込んでも無駄よ!土俵の外まで逃がさないんだから! 必殺のぶちかましをくらえーい!
どすこーーーーーーーーい☆
どすん!
どすん!
「ふんがーーーー!! (意訳:ドアの取っ手が取れた〜!! ②ちゅーか、家が崩れる〜! ローンが〜っ!!)」
おーっほほほほ!
思い知ったかしらぁ? 正義はかならず勝つのよ〜っ!
(勝利の四股を踏みながら)
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
……突然だが、ここは日本のとあるボロアパート。平成のこのご時世に風呂トイレ共同という、よく言えば『古き良き』悪く言えば『時代遅れ極まりない』この安アパートの自室で、もう一週間も風呂に入っていないフケだらけの頭を掻きむしりながら必死に卓袱台にかじりついている一人の男がいる。小説家①の田中太郎だ。ただし小説家の頭に『売れない』が付く。
彼は今、書き出したときには『面白い!売れる!僕は天才だ!』と確信を持っていたはずの文章を、しかし書き終えて冷静になってしまった頭で読み返して愕然としていた。
な、な、な、なんなんだ!このどう頑張っても噛みそう⑥な上に聞き間違えそう⑬な長ったらしい変身の呪文は! 馬鹿か僕は! うん、馬鹿だな!
そもそも呪文とか以前に展開が糞だ! 糞過ぎる! 文才がない! 死にたい! ゴミ箱に残飯捨てた程度の小悪党をボコボコにぶちのめすヒーローが読者に受け入れられるか!? そんなヒーローに子供達が憧れるか!? いや! 憧れないだろ!! っていうかゴミ捨ての違反をニュース実況するってのもおかしいだろ!!
何故自分はこんなものを面白いつもりで書いていたんだろうか。一度でも創作活動を行ったことがある者ならば誰でも陥ったことがあるであろう虚無感が田中を支配する。
……せっかくここまで書いてしまったんだから、どうにかして、手直しでなんとか面白くならないものか?
しかし悩めども悩めどの答えは一向に出ない。遂には考えることに疲れどうでもよくなって⑮きて、田中は原稿用紙をビリビリに引き裂いた⑦。グッバイ黒歴史。
こんな駄作のことは忘れて早く次の作品に取り掛からなければ。
しかし田中の手は一向に動かない。全く何も思い浮かばない。締め切りは着々と迫っている。震えるペン先でかろうじて原稿用紙に書きこんだのは……「あ⑩」のたった一文字だけであった。
次回!
迷走する田中!
小説家生命の危機!
ご期待下さい!
【続かないよ。終わりだよ】
[編集済]
「続かないよ。終わりだよ」に田中の作家生命の一部始終が凝縮されていると思うのは気の所為でしょうか? 「一度でも創作活動を行ったことがある者ならば誰でも陥ったことがあるであろう虚無感」――私にも心当たりがあり、グサグサと田中の言葉のナイフが突き刺さってきました。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
※ある日の朝刊より抜粋※
【見出し:●ンパンマン惨殺! 犯人はやはり●いきんまんか!?⑤】
本日早朝、●ン工場付近のゴミ箱の中にみんなのヒーロー●ンパンマンの生首が捨てられているのが発見された。
●ンパンマンについて知らない人は流石にいないだろう。自分の顔の一部を子供達に食べさせて歯が突然抜け落ちる⑫ほどの酷い虫歯に陥れるという非道な面もあるが、基本的には心優しく、最近ではバンド活動⑧にも手を出してみんなの人気を一身に浴びていた、誰もが認める元気百倍なヒーローである。
彼はまさに
Legend
Jewelry⑭のように輝かしく、子供達誰もが彼に会いたいと憧れる存在だった。しかし、もうそんな風に憧れることはできなくなってしまったようだ。
生首の発見者は小結マン。小結マンと言っても、あの有名なおにぎり坊主のことではない。相撲取りの小結マン③である。本誌はその小結マンへの独占インタビューに成功した。
「おいどんが日課のランニングをしていたら、ゴミ箱の方から甘い匂いがしてきたんでごわす。そうしたら●ンパンマンの脳みそ……いえ、粒あんがそこら中に散らばって蟻が群がっていて(凄惨な内容だったせいで検閲にでもひっかかったのか、記事はここまでで引き裂かれて⑦いて続きは読めなくなっている)
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※後日のニュース番組より抜粋※
こんにちは。
超適当なキャスターが超適当にお送りする、超適当ニュースのお時間です。
まずは天気予報から。明日の天気は雪になるでしょう⑪。……おっと失礼、噛みました⑥。言いたかったことは違います。今は8月ですものね、雪なんか降るわけありませんよね。えーっと本当は何て言おうとしたんでしたっけ? ま、いっか。思い出せないってことはきっとどうでもいいことだったに違いありません⑮。
番組が始まったばかりですが、ここで一旦CMです。
(取っ手の取れる●ィファール②、赤字覚悟の大セール実施中♪)
はい、CM終わりました。なんとなく素敵なCMだった気がしますね。
それでは続いてのニュースです。何日か前に話題になった……えっと残パンマン?⑬ ……え、違う?……●パンマン? まぁ、兎に角その何とかパンマンの事件に関する続報がたった今入りました。現場である●ン工場からうちの新人アナウンサーの××さんが実況⑨してくれるらしいんで、適当に中継つなぎまーす。
××さーん。
(テレビ画面に●ン工場内部の様子と一人の女性アナウンサー。そして隣に立つ、コック帽をかぶり白いひげを生やした男性の姿が映し出される)
『はーい視聴者の皆さんこんにちは!現場の××です! 見てください私の隣にいるこの人!誰だか分かりますか?そうです!皆さんご存知、パン作りを生業にしている●ャムおじさん①です!』
『たった今この●ャムおじさんが白状しました!』
『あの●ンパンマンの生首はただ●ャムおじさんが、子供たちに顔を配ったせいで凸凹で使い物にならなくなった●ンパンマンの顔を、残飯としてゴミ箱に捨てただけだそうです!この場合残飯と言うより残パンと言った方が正しいのでしょうか!』
『とにかく! ●ンパンマンは生きています!』
『繰り返します!』
『みんな大好き●ンパンマンは生きています!』
『愛と勇気しか友達がいない彼が死んだというのは我々の誤解だったのです! 死んだと思われていたヒーローが実は生きていた……なんて王道アニメ的④な素晴らしい展開なんでしょう! 以上で現場からの実況終わります!』
はい。それではこれにて本日の適当ニュースを終わりにします。
さよなら、さよなら、さよなら~。
【終わり】
(ところでこの一連の事件に登場するヒーローの名前の●部分に入るべき文字は何?⑩)
[編集済]
「ところでこの一連の事件に登場するヒーローの名前の●部分に入るべき文字は何?」……この要素回収、さすがです! 「粒あんがそこら中に散らばって蟻が群がっていて」……コミカルと思いきや、冷静に考えてみると、かなり悲惨ですね。小結マンのトラウマにならないことを祈ります。三作品もの作品投稿、お疲れ様でした。スピードとクオリティを両立して書かれており、どれも楽しく拝読しました。 [編集済]
『男は家族に見せられないファイルを残飯フォルダとして隠していたが、ゴミ箱に捨てたために見つかってしまい妻と娘から軽蔑される様になってしまった。』
男はヒーローを演じるスーツアクター①声が良かったのでナレーションもしていた⑨
いつものように怪人と戦っていると剣がすっぽぬけ②⑫観客に大怪我をさせてしまう⑥
彼のせいでウミガメンジャーは打ち切りになり④仕事をもらえなくなった彼は寝る間も惜しんでバイトに明け暮れた。
ティッシュを配ったり結束バンドを組み立てたりと⑧ オーストラリアへ海外旅行⑪に行けた頃からは考えられない仕事だった。
疲れ切った彼の唯一の楽しみはムフフな画像収集⑤になっていた。
(縦書きの承認画面は珍しいな)⑭(こっちはひらがな一文字か)⑩(リスニング難しいんだよな)⑬(まわし萌えるわ)③
十分に見終わった画像は残飯フォルダにしまっていたが、容量が一杯になってきたのでゴミ箱に捨てた⑮
このとき男は忘れた。ゴミ箱を空にするのを。
案の定家族に見つかり、男は大切なものを失った⑦
【完】
[編集済]
「疲れ切った彼の唯一の楽しみはムフフな画像収集になっていた」って、地味にリアルで嫌ですね……! そして、その「ムフフな画像」の正体が「まわし萌え」だったと知ったときの衝撃は、はじめて叙述トリックを読んだときと同じくらいの衝撃でした。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
母「もう怪物の季節ねぇ」
カメオ「え?台風の季節?」⑬(聞き間違い)
母「違う違う、怪物の季節よ。ニュースでも注意報が出てたじゃない。もう9月なんだから、いつ怪物が現れてもおかしくないでしょう?」
そう、この国では数年前から突如怪物が姿を現わすようになった。
それはゾンビのような醜さにゴリラのような巨体、この世のものとは思えぬ恐ろしい姿をしていて、とにかく人間に敵対的だ。
毎年犠牲者が絶えず、状況を重く見た政府は遂に『怪物対策特選部隊』を組織した。
卓越した身体能力と精神力を兼ね備えた少数精鋭の部隊で、一般的には『ヒーロー』の愛称で親しまれている。
脅威的な力を持つ怪物と身体ひとつで戦う、まさしく正義の味方。文字通りの『ヒーロー』は今や子供たちの憧れる職業ぶっちぎりで第1位だ。
そしてカメオもそんなヒーローに憧れる1人だった。
母「カメオ、来年の『春テスト』やっぱり受けるつもりなの?」
カメオ「もちろんだよ母さん。だってヒーローになるのがずっと俺の憧れだったんだから」
『春テスト』とは年1回行われるヒーロー適性試験のことだ。毎年4月〜7月の期間に渡って、トレーニングも兼ねた選考が行われる。応募できるのは18歳から23歳の健康な男女のみ。来年18歳になるカメオも遂に受験資格を得るのだ。
母「ヒーローは危険な仕事だから、カメオには無理して欲しくないけど…」
カメオ「心配してくれてありがとう母さん。でも俺は平和を守る正義の味方になりたいんだ」
何故ヒーロー適性試験が春から行われるのかと言うと、怪物の出現期間は9月〜12月の秋冬に集中しているためだ。
4月からヒーロー養成を始めることで9月以降の怪物出現に間に合わせる事ができるのだ。
そして翌年、4月。
ついにカメオが『春テスト』を受ける時がやってきた。
カメオは意気揚々と『ヒーロー養成所』の門を叩く。
受付を済ませロビーに入ると、そこはヒーローを志願する沢山の若者で溢れていた。
その奥には黒いマントを羽織って静かに微笑む背の高い男が1人。
マントの男「これで全員が揃ったようだね。こんにちは、ヒーロー候補生の皆さん。私はヒーロー養成所の所長、Dr.ラテだ。よろしく」①(男の職業が重要)
男は少し厳しい顔つきになって続けた。
ラテ「さて、ここにいる君達は事前の一次審査を通過した言わば精鋭256名ではあるが、ここからはさらに狭き門となる。心して臨んでほしい。ご存知の通り、応募者に公平を期す為、この『春テスト』の詳細は一切公表されていない。ここで簡単に内容を説明しておこう」
Dr.ラテの説明を要約すると以下の通りだ。
まず『春テスト』という名称は春に行われる事が由来ではなく、正式名を『HALテスト』という。
4月〜7月までの4カ月をかけて、トレーニングを兼ねながら身体能力、精神力、知能、判断力、適性などをテストし、候補生を3つのクラスにふるい分けする。
上からHクラス、Aクラス、Lクラス。
このクラス分けこそが『HALテスト』と呼ばれる所以だ。
それぞれのクラスは頭文字を表しており、
HはHERO《英雄》、
AはAMBASSADOR《使節》、
そしてLはLOSER《敗者》だ。
Hクラスは言わずもがな最前線で活躍するヒーローとなる。選ばれるのは僅か5、6名程という精鋭中の精鋭。
Aクラスは巡回や調査が主な仕事で、場合によってはヒーローの補充要員を務めることもある。選ばれるのは20名前後。
そして残りのLクラスは残念ながらヒーローの活動に関わることはできない。しかし政府から適性に合った職種を斡旋されることが約束される。
過酷な『HALテスト』はこうして幕を開けた。
256名中、およそ9割はLクラスになってしまうのだからカメオを含め皆必死だった。
全員がライバルではあったが、その中で心を許せる仲間も2人できた。
1人は力石という恰幅のいい男だ。大きな体に似合わず小心者だが心優しい。
カメオが「なんか力士みたいだな」と聞くと、本当に相撲部屋にいた経験もあるらしい。カメオはややこしいので力石ではなく「リキシ」と呼ぶことにしている。③(力士の登場)
もう一人はメガネをかけたまるで博士のような風貌の男。
その見た目通り冷静沈着で頭の回転が凄まじく速い。名を尋ねるとなんと葉加瀬と言うらしい。カメオは心の中で「ハカセ」とカタカナ変換して呼んでいる。
カメオとリキシとハカセはそれぞれ得意分野が偏っているせいか、テスト全体の成績は今ひとつだった(※カメオは精神力だけトップで他は平均以下)。そんな中でなんとなく仲良くなったのだ。つらいトレーニングも仲間と励ましあい、カメオ達は何とか乗り越えた。
そして激動の4カ月が過ぎ、迎えた7月末日。
運命のクラス発表の時だ。
Hクラスから順に名前が呼ばれる。
・・・
ラテ「・・・以上だ」
予想はしていたが、カメオ達3人はAクラスまでに名前を呼ばれることは無かった。つまりLクラス、敗者であることが確定した。
カメオ「うーん、ギリギリアウトだったかなぁ」
やはり本心では悔しいものの、冗談めかして強がって見せるカメオ。
名前を呼ばれなかった者は、これから一人ずつ職業斡旋の面接を受ける運びとなる。しかし…
ラテ「あぁカメオ君、それと力石君と葉加瀬君。君たちはちょっとこっちへ来てくれ」
Dr.ラテに名前を呼ばれた3人は別室へと案内された。
ラテ「簡潔に話そう。実はこの『HALテスト』、H,A,L以外にもう1つクラスがあるんだ」
カメオ「4つ目のクラス?」
ラテ「ああ。Hの上を行く最高クラス、それがJクラスだ」
リキシ「J…クラス…。な、何かの頭文字なんですか?」
ラテ「JOKERのJさ。JOKERとはトランプにおける最強の切り札。つまり極秘裏に作られた《切り札》クラスだ」
ハカセ「なるほど。それで、その極秘裏の話をなぜ私達3人にするのでしょうか?」
ラテ「ある程度は察しているだろう?君達3人がそのJクラスに選ばれたんだよ」
カメオ「ええー!マジですか!?」
リキシ「おれたちが、切り札…」
ハカセ「意外ですね。私たちはテストの成績は上位ではなかったはず」
ラテ「総合力で見ればね。しかし君達は一部の分野で群を抜いた成績を収めている。そういう尖った存在こそ、窮地における切り札となり得るのさ」
言い終えるとラテは背後の大きな扉を指さした。
ラテ「この部屋は通称『Jルーム』。Jクラスの為に特別に用意された極秘トレーニングルームだ。君達はここで1か月間、特別トレーニングを受けてもらう。9月以降に現れるであろう怪物という脅威に向けてね。我々の切り札として、この国の平和を守ってほしい。頼まれてくれるか?」
カメオ「もちろんです!ラテ所長!」
リキシ「お…おれも、頑張る」
ハカセ「光栄です。尽力いたしましょう」
ガコン・・・ガチャリ
Jルームに3人が入ると、巨大な鋼鉄製の引き戸が鈍い音を立ててロックされる。
部屋の広さは30畳ほどだろうか。天井は高く、コンクリートのような無機質な壁が四方を囲む。
トレーニングマシンの様なものは何もなく、目の前に大きなモニターだけが置かれていた。
カメオ「トレーニングルームって割になんか殺風景だな」
リキシ「なんか、モニターがあるから、これから指示があるのかもしれない」
ハカセ「・・・」
しばらくすると、モニターにDr.ラテの姿が映った。
ラテ「待たせたな、Jクラスの者ども。そして今までご苦労」
明らかに今までのラテとは顔つきと口調が違う。
ラテ「簡潔に話そう。まずお前らが《切り札》ってのは嘘だ。Jクラスは本当は最高クラスなんかじゃない。Lの下の最低クラスなんだよ」⑭(Lの下はJ)
リキシ「最低…クラス…?」
ハカセ「…LOSER《敗者》とまで言われるLクラスのさらに下とは。Jクラスとは一体どういう意味なんです?」
ラテ「お、気になるか?教えてやるよ。JクラスのJはJUNK。《ガラクタ》のJクラスだ。いや《ゴミ》の方が相応しいか?ははは…」
カメオ「さっきから何を言ってるんだ!お前本当にラテ所長なのか!?」
ラテ「五月蝿いぞゴミの分際で。いいか、Hクラスが高級素材だとすればお前らJクラスなんざ残飯も同然だ。そのJルーム、オレが何て呼んでるか教えてやるか?ゴミ箱だよゴミ箱。お前らは『ゴミ箱』に捨てられた『残飯』なんだよ!」
ハカセ「・・・」
ラテ「これからお前らの身に起こる事を教えてやる。今から約24時間後、8月1日の正午に、とある薬品の粉塵をその部屋に放出する。平たく言えば毒ガスだ。その真っ白な粉塵は空間に充満し、接触や吸引によりお前らの全身を徐々に蝕んでいく」
カメオ「毒ガスだと…?」
ラテ「毒はまずお前らの肉体を滅ぼす。皮膚は焼けただれ、関節はバラバラ、全身が引き裂かれるような苦痛を味わうはずだ」⑦(ひきさかれる)
ラテ「大抵の者は苦痛に耐えかね、何だかんだ舌を噛み切ろうとする。だが毒は神経や精神をも汚染し、もはや自分の意志で死ぬことさえ叶わなくなる」⑥(何だかんだ舌を噛む)
ラテ「苦痛を感じなくなった頃には肉体も精神も完全に変容し、その部屋に残るのは…醜い3体の怪物だ」
リキシ「どういうこと…?おれたちが、怪物に…なる?」
ラテ「そして9月以降、怪物となったお前らを街へ放ち、そこにヒーロー参上。見事ヒーローの活躍によって街の平和は守られるって寸法だ」
カメオ「なん…だと…!怪物を生み出してたのはお前だったのか…!?そうやって今まで罪のない人を怪物にし、多くの人を傷つけたのか!」
ラテ「だからそう言ってんだろぉ?ヒーロー養成にも怪物討伐にも政府から莫大な援助が入る。こんなぼろい商売やめられるかよ」
ハカセ「全てがあなたのマッチポンプという訳ですか。全く下衆すぎて反吐が出ますね」
ラテ「ほざいておけ。どうせ数日後には思考すらままならなくなる。ちなみにこの毒ガスな、真っ白な見た目と使われる時期から、隠語で『8月の雪』って言うんだ。シャレてるだろ?まぁオレが発明してオレしか使わねぇんだけどな。8月の雪が降るのは今年で9回目だな。ははは…」⑪(8月の雪に降られる)
カメオ「ふざけるな…!俺はお前を許さない!」
ラテ「はっはっは!見上げた胆力だな。精神力だけ見れば今回トップだったことはある。そうそう、さっきお前らが一部の分野に突出した成績を収めたって言ったよな。それにも意味があってな、経験上そういう偏った人間の方が面白い怪物が出来るんだよ。味のある怪物に仕上がってくれよ~?その方が怪物退治が絵になるからなぁ!ヒーロー活躍の為の尊い犠牲になる、これほど美しい死に方ってのも無いだろう?」
カメオ「…俺は正義の味方を夢見て来たんだ。お前のような悪を滅ぼすために!」
ラテ「あーわかったわかった。ゴミの相手をするのもいい加減うっとうしいな。もう通信切るぞ。明日降る『8月の雪』を楽しみにしとけ。次会うときは怪物の姿でな!ははははは!」
…ブツン
モニターは再び暗転し、部屋は無機質な照明に照らされるだけの鋼鉄の箱に戻った。
カメオ「くそっ…ふざけるな!正義であるはずのヒーロー養成所が逆に黒幕だったなんて…」
リキシ「うぅ…いやだよ。おれ怪物なんかになりたくないよ…」
ハカセ「なるほど。『HALテスト』の募集要項に『事故などにより怪我、病気、その他いかなる不利益があろうと自己責任とする』とあったのはこの為ですかね。私たちは選考中の不慮の事故により死亡したということにされるのでしょう。まぁこのカラクリが分かったところで、私たちがそれを誰かに伝える術はもう無いわけですが…」
カメオ「いや…まだ時間は残されている。何とかここを抜け出そう!そして悪を討つんだ!」
リキシ「む、無理だよ。そんなのできっこないよ。」
ハカセ「カメオ君、水を差したくはありませんが、私も流石に無謀が過ぎると思います。あのDr.ラテの口ぶりから察するに、この部屋の内側から脱出する方法など・・・ん?」
ハカセは何かに気付いたように扉を見つめる。
カメオ「どうしたハカセ?」
ハカセ「扉の内側にも取っ手がある…この部屋の目的を考えれば扉の内側には取っ手をつける必要など無い。もしかしたら、事故などで養成所側の人間が閉じ込められた場合の為の脱出方法が用意されているのかも…?」
カメオ「な、なるほど!流石ハカセ!」
ハカセ「いえ、あくまで仮説であって光明が差した訳ではありませんが…」
カメオ「それでも可能性がある限り足掻いてやろう!24時間ここで死を待つくらいなら、やれるだけやってやろうぜ!」
カメオ「俺はさ、リキシみたいに力は強くないし、ハカセみたいに頭も良くない。俺1人じゃきっと無理だけど、3人で力を合わせれば何とかなると思うんだ!頼む!2人とも!俺に力を貸してくれ!」
リキシ「う、うん。なんだかカメオに言われるとやれそうな気がしてきたよ」
ハカセ「やれやれ。カメオ君の変人級に前向きな精神には毎度呆れますが、こういう時こそ頼りになりますよ。そうですね。3人で力を合わせて必ず生きてここを出ましょう!」
カメオ「よっしゃ~やるぞ!なんか王道アニメ的な展開になってきたな!」④(王道アニメ的な展開)
ハカセ「ふふふ。死の危険が迫ってるのになんでそんなに楽しそうなんですか…まったく」
そして24時間のリミットが迫る中、3人の無謀な抵抗が始まった。
まずはリキシが引き戸の取っ手を掴み、全体重をかけて引いてみる。
リキシ「うぎぎぎぎぎぎ・・・はぁ、はぁ無理だ。ビクともしない」
カメオ「リキシの力で無理なら力任せでは開かないか…ってどうしたハカセ?」
ハカセ「壁に何かディスプレイとキーボードが…おそらくこの部屋の緊急解錠システムでしょう」
カメオ「おお!じゃあこれで鍵が開けられる!?」
ハカセ「いえ…解除キーが分からない以上は無理でしょう…適当に打っても間違えて逆にロックされるのがオチです」
カメオ「あぁ…そっか…」
ハカセ「まぁ正攻法では、ですけどね」
そう言うとハカセはポケットからスマホを取り出した。
カメオ「え?ここ電波あるの?」
ハカセ「流石に圏外ですよ!そこまでセキュリティがザルな訳ないでしょう!しかし私たちの持ち物チェックを怠った辺りは網目が緩かったですね。そしてこれはただのスマホではなく、私の開発したハッキングデバイスです。こいつを使ってこのシステムを攻略してみましょう」
カメオ「え!?そんなことできんの!?」
ハカセ「いえ、困難であることは確かです。ミスが許されない以上、時間も相当かかると思います。こいつの実戦投入はまだでしたので丁度いいテストの機会になりました」
カメオ「この状況で実機テストって、ハカセも十分変人ですやん…だけどここはハカセにしか任せられない!頼んだハカセ!」
リキシ「ハカセ、よろしくお願いします!」
ハカセ「ははは。ここまで頼りにされるとは光栄です。尽力いたしましょう!」
13時間後・・・
ハカセ「おそらく攻略できました…解除キーを打ち込みます!」
システム「解除キー『ていきょうじかんがりくがめ』ヲ認証シマシタ。扉ノロックヲ解除シマス」
カメオ「おおおおー!やったあああ!流石ハカセ!」
リキシ「あ、ありがとう!ハカセ!」
ハカセ「ロックは外れたものの、自動で開かないということはやはり最後は力づくで開けるしかないようですね」
リキシ「よぉし、おれの出番だな。まかせろ!うおおおおおおおおお!」
リキシが全身全霊の力で引き戸をこじ開ける。
ズズズズズズズズズズ・・・・
ついに3人はJルームからの脱出を果たした。
見捨てられた『残飯』たちは自らの力で『ゴミ箱』から抜け出したのだ。
ハカセ「よし、早く施設から逃げましょう!」
カメオ「待ってくれ!リキシが!」
リキシは足がもたついて転んでしまう。
リキシ「ご、ごめん!おれはいいから早く逃げて!」
ラテ「コラ待てゴミどもぉ!どうやってゴミ箱から出やがった!?」
リキシ「ぐわあぁっ」
3人の脱出に気付いたDr.ラテが転んだリキシに追いつき、リキシの左腕を踏みつけた。
ラテ「そこの2人も逃げるんじゃねぇ!一歩も動くな!」
ラテの右手には拳銃が構えられている。
カメオ「うおおおおおお!」
カメオは逃げるどころか猛然とラテに向かって突進する。
ラテ「動くなと言ったろぉ!撃つぞ!」
パァン…ッ
響く銃声。弾丸はカメオの左肩をかすめた。
カメオ「ぐううっ…!」
ラテ「…ぶっはぁ!」
と同時にカメオ渾身の右ストレートを顔面に食らい吹っ飛ぶラテ。
クリーンヒットしたパンチの勢いでラテの前歯は数本持って行かれた。⑫(突然歯が抜ける)
ラテ「ぺ…てめぇらぁ!もういい、ここで殺す!」
なんとか立ち上がったラテは口から血と一緒に折れた前歯を吐き捨て、再び銃口をカメオに向ける。
カメオ「リキシ!今だ!うっちゃれ!」
リキシ「よおおおおおい!」
ズシーン!
隙を突いてラテを羽交い絞めにしたリキシは全体重をもってラテを床に叩きつけた。
その衝撃でラテの手から拳銃が離れ、そのまま床を滑って行った。
そして腰砕けになったラテの前に、拳銃を拾ったカメオが立ちはだかる。
ラテ「ま、待て!そうだ、お前ら3人をヒーローにしてやる!いや、是非ヒーローになってくれ!君達こそヒーローにふさわしい!ははは!そ、そうそう!今までのもすべてテストだったんだ!いやあ見事だった!君達は晴れてヒーローだ!憧れのヒーローになれるぞ!」
カメオ「ラテ所長、折角のお言葉ですが、もう俺たちヒーローとかそういうの…」
拳銃の撃鉄を起こし、不敵に笑うカメオ。
カメオ「どうでもよくなっちゃいました。」⑮
ラテ「やめろおおおおおお!」
カメオ「ばあん!」
撃たれたと思い、ショックのあまり失神するラテ。
カメオ「あはは、撃つわけないじゃん。人殺しと一緒にすんなっつーの」
ハカセ「…はいカットー。うん、いい画が撮れましたよ」
振り向くとスマホを構えたハカセが親指を立てている。
カメオ「え、ハカセムービー撮ってたの!?」
ハカセ「はい。Dr.ラテが拳銃を出した辺りからずっと。証拠としてこれほど確実な実況報告は無いでしょう」⑨実況する
カメオ「あの危機的状況で…ハカセあんたやっぱり変人だよ…」
ハカセ「ふふふ。カメオ君とリキシ君なら大丈夫と信頼してたんですよ。しかしカメオ君も本当に危険を顧みない人ですね。左肩、大丈夫ですか?血出てますけど」
カメオ「かすっただけだから大丈夫大丈夫!ツバつけときゃ治るっしょ!」
リキシ「で、この男、どうしようか」
ハカセ「まぁ前代未聞の重犯罪者ですからね。十分に聴取してもらって法に裁かれる必要があるでしょう」⑤犯罪要素
カメオ「とりあえず『ゴミ箱』にでもぶち込んでおくか。そんで然るべき所へ通報しよう」
ズズズズズズズズズズ・・・・
『Jルーム』にラテを放り込んで再び扉を閉める。
その寸前、ラテが目を覚ました。
ラテ「う…おい!お前ら!まて!閉めるな!閉め・・・」
ガコン・・・ガチャリ
ハカセ「あ、オートロックみたいですね。丁度良かった」
カメオ「まてよ?ラテは解除キー知ってるから扉を開けられちゃうんじゃ?」
ハカセ「あぁ心配に及びませんよ。ハッキングついでに解除キー変えておきましたから」
カメオ「抜け目ねぇ…一体どんな複雑なキーにしたんだよ?」
ハカセ「『あ』です」⑩
カメオ「『あ』? 1文字!?」
あまりにも早すぎる返答に、思わず声が裏返るカメオ。
ハカセ「はい、仮に解除キーの変更に気付いても、まさか解除キーが五十音最初の1文字だけなんて思いもよらないでしょう」
カメオ「そういうもんかな…」
ハカセ「あのような小賢しい人間ほど単純なものを見落とすんですよ。これが心理の裏をかくというやつです」
カメオ「ハカセ、俺はあんたが恐ろしいよ…」
リキシ「そ、それに万が一、解除キーが当っても大丈夫…」
リキシがおずおずと話に入ってきた。
リキシ「実は、さっき脱出したとき、力入れすぎて内側の取っ手を壊しちゃったんだ」②取っ手が取れる
リキシは照れ笑いしながら外れた扉の取っ手を見せてきた。
カメオ「いや、どんだけ馬鹿力だよ!それじゃもう絶対中から開けられないわ!」
カメオ「それにしても俺の仲間はとんだ超人揃いだな。ははは!」
ハカセ「メンタルおばけのカメオ君には言われたくないですけどね」
その後、カメオたちの通報によりすぐに警察が駆け付け、『ヒーロー養成所』の長年の悪事は白日の下に晒された。
政府を欺き、大量の犠牲者を出した前代未聞の大犯罪。Dr.ラテへの極刑はまず間違いないだろう。
カメオ「さーて、ヒーローにもなれなかったし、就職失敗だなぁ。これからどうすっかぁ…そうだ!3人でバンドでもやるか!はっはっは」
リキシ「あ…おれ、ドラム叩けるよ。『スネア連打の力石』って、地元で有名だった」
カメオ「え!そうなの!?てか意外と多才だなリキシ!」
ハカセ「私もピアノなら自信ありますよ。いいじゃないですか、バンド組みましょうか?」
カメオ「えーと…冗談のつもりだったんだけど…じゃあ俺もギターと歌練習しよっかな…」
ハカセ「バンド名はどうします?言い出しっぺのカメオ君が決めてくださいよ」
カメオ「ノリノリかよハカセ!…えーと、じゃあ…『*****』ってのはどうだ!」
カメオの提案したバンド名に、一瞬言葉を詰まらせる2人。
リキシ「・・・だ、ださい・・・」
ハカセ「…ウケ狙いの発言なのだとしたら評価します」
カメオ「辛辣すぎない!?でも俺が決めていいって言ったから決まりね!我らがバンドここに結成!」⑧(バンドを組む)
数年後・・・
母「もう台風の季節ねぇ」
カメオ「え?怪物の季節?」
母「違う違う、台風の季節よ。ニュースでも注意報が出てたじゃない。それにもう、怪物は現れないでしょ?どこかの勇敢なヒーローさんのおかげで」
カメオ「…そうだね。怪物がいなくなったおかげで、ヒーローもいなくなっちゃったけど」
カメオは懐かしそうに、そしてどこか寂しそうに笑った。
母「ヒーローがいなくて済むのは平和な証拠よ。ほらカメオ、そろそろ出ないと遅刻するんじゃない?」
カメオ「うん、行ってくるよ母さん」
『ヒーロー養成所』の悪事が暴かれたおかげで、『怪物の季節』は二度と訪れなくなった。
残暑の厳しい9月、怪物の影に怯えながら並木道を歩いていたあの頃が嘘のようだ。
『ヒーロー』という職業が無くなり、当然『ヒーロー』は子供たちの憧れではなくなった。
いつしかそれが当たり前になっていた。
まるで怪物もヒーローも、最初から何も、なかったみたいに。
同日、19時。東京九段下。
カメオ「みんな武道館まで来てくれてありがとー!今日は俺たち結成100回目のライブということで、大勢のお客さんに聴いてもらえて嬉しいです!嬉しいなぁ、リキシ!」
リキシ「お、おれに振らないでよ…おれはMCできないよ」
ハカセ「えーっと、カメオ君が初武道館でテンション上がっちゃってますが、次の曲行きましょうか」
カメオ「むしろハカセは冷静すぎだよ!では聞いてください!俺たち『正義の味方』の新曲、『愛と勇気だけが友達』!」
カメオは大切な仲間たちと、今も『正義の味方』をやっている。
『正義の味方』として、自分の正義を歌い続けている。
最新の調査によると、今子供たちの憧れる職業第1位はぶっちぎりで『バンドマン』だそうだ。
一体何の影響かは全くの不明である。
【おわり】
[編集済]
こんなにカッコいい「どうでもよくなっちゃいました」が、これまであったでしょうか? 「ハカセ」「リキシ」といったキャラクターの設定から「今子供たちの憧れる職業第1位はぶっちぎりで『バンドマン』だそうだ」というオチに至るまで、最後の最後まで突き抜けて「王道!」って感じで、清々しい気持ちで読了しました! 作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
「あ、⑩」彼は唐突に虚空を指差した。
「あれ、UFOじゃない?」
幼稚園児とは単純なものだ、つい先ほどまで私をいじめていた彼女たちも、
「えぇ、どこどこ!?」と、振り向きだす。
ホッとして泣き出しそうになる私の口に、彼はそっと人差し指を当てた。
「ほら、今のうちに。」
二人は静かにその場を離れた。
今思えば、これが私と彼の、本当の意味での出会いだったのかもしれない。
歯が抜けた時もそうだった。⑫
びっくりして泣きじゃくる私の背中に手をあて、「ほら、おそろいだね。」と同じように前歯のない自分の口を見せてくれた。
彼はいつでも、私のヒーローだった。
それは2人が学生になっても変わらなかった。興味の向かう先こそ違えど、2人の進路は相談せずとも常に同じだった。
「ねぇ私、アルファベット順を反対から言えっていうゲーム、いつも失敗しちゃうんだ。どうしてもKを忘れちゃうの。O,N,M,Lときて、毎回Jにいっちゃうんだよね。」
「そんなのどうとでも言えるよ、ミディアムのM、ラージのLときたら次はジャンボのJで構わないでしょ?」⑭
冗談めかしてそう言う彼を見ていると、他の人とは違う感情が胸に浮かんだ。けれど私にはそれがなんなのか、わからないでいた。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
「ねえ、どうしてよるはくらいの?」
「どうぶつがうまれたのはいつなの?」
「こころってどこにあるの?」
彼女はまっすぐな子どもだった。早くに父親が家を出て行き、自然と大人びていった僕とは違い、すべてに疑問を持ち、すべてを知りたがる彼女は、雲ひとつない青空のようだった。
「ねえ、どうして遊んでくれないの?」
心臓が跳ねた。
「なんであなたみたいな、けーわいな子と遊ばなきゃいけないのよ。」
彼女は園の女の子のリーダーに、喧嘩を売ったも同然だった。
当然、囲まれる。手こそ出さないが、その中で幼稚園児にしては陰湿な攻撃がなされていることは火を見るよりも明らかだった。
泣き声が聞こえた気がした。
「あ、」誰かが声をあげた。
「あれ、UFOじゃない?」いじめっ子たちが散らばっていく。
その声が自分ののどから出たことに気がついたのは、輪が崩れ、うずくまっている彼女の姿が目に入ったときだった。
慌ててかけより、彼女の顔をのぞきこんだとき、僕はふと感じた。
僕が彼女を守らなきゃいけないんだ、と。
学生になってからも、彼女はただひたすらに純粋だった。曇りひとつなかった。
テレビに影響されやすい彼女の夢はコロコロ変わった。
「いいなぁ、私もアナウンサーになりたいな。相撲の実況とかしてみたいや。」③⑨
「あれって女の人がやってるの聞いたことある?普通男の人がやるもんでしょ」
「これだから君は頭が固いって言われるんだよ、時代はグローバル、固定観念は敵だ!」
すでにご覧のとおりだ。直線的に進む彼女は、その指向性ゆえに敵を生む。そして本人はそれを悪いことだと思っていないからタチが悪い。
「昨日、電車でお年寄りに席を譲らないおっさんがいたから注意したら、叩かれちゃった。」
「クラスの友達の教科書隠してる子たちがいたから、その子に隠し場所教えてあげたら、あとでバッグに砂入れられちゃった。」
僕よりある意味漢の彼女はよく絆創膏を貼っている。
彼女の何気ない「だって、正しいことをすべきだよ」は、僕にはけして真似のできないものだっただろう。
彼女はいつでも、僕のヒーローだった。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
高校生ともなると、自分の気持ちについても、以前よりはまだ少しわかってきたかもしれない。
私が他の人たちと少しズレていることには、もうかなり前から気づいていた。
私は絶対的に正しいと思うことを自分の中の正しいにしてきたつもりだけれど、きっとそれだけじゃないこともあるのだろう。
でも殴られたくないからといっておじいさんの困った顔を見過ごしていいことにはならないし、嫌われたくない、という保身はクラスメートの泣き顔をそのままにしておく理由にはならない。
もちろん私がいつも正しいだなんて思わない。だから私は彼と一緒にいるのだ、と最近は思う。泣きながら「大丈夫」というクラスメートに対しては、ただ涙だけをみて体が動く私よりも、「大丈夫」と言った意味まで考えられる彼の方が正しいのだろう。
そして気づく。彼は間違えないのだ。
テストがいつも100点、なんてそんなことを言っているわけじゃない。言い間違えることもあれば、聞き間違いをすることもある。⑬
けれど彼はいつも、大事なことは間違えない。
だから私は彼と共に行きたい。私は彼がいれば、何も考えずにまっすぐ進める。私がたとえ間違えても、彼がそれを正してくれる。
ヒーローは、間違えない。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
彼女はいつでも僕の前を歩いていた。だから僕は必死に彼女に追いつき、少しでも彼女を守れたらと、そう願っていた。
「2人だけの」
その言葉を彼女はよく使った。
けれどその日、常に進み続けて留まらない彼女は、前ぶれもなく歩みを止める。
「バンドがやってみたい。」⑧
振り返って彼女は僕に笑いかける。
「バンド?」
「そ。2人だけの、ね。」
「君はすぐ訳のわからないことを言う。」
「そうやって文句を言いながらも、いつでも君はやってくれるよね?」
もちろん思いつきだけでできるものでもない。ため息をつきながらも僕は彼女とカラオケに向かった。
彼女はマイクを握り、僕はタンバリンをかまえる。
「たとーえー すべてーがー ふたりをー
ひきさいーてーもー♪」⑦
「縁起でもない歌、歌わないでよ。」
僕は笑って彼女を見上げた。
ふと、彼女の異変に気づく。
「ねぇ、」マイクを通しても消え入りそうな声で彼女は言った。
「私たちってずっと一緒にいられるのかな?」
とっさに言葉に詰まる。普段なら、笑ってごまかしていたかもしれない。けれどその切実な表情を見た僕の口は、容易には動かなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
「大人になったら、お互いバラバラになっちゃうのかな?」
思わず言葉が口を突いて出たのは、心が弱っていた証かもしれない。
私はただ怖かったのだ、ヒーローである彼と、間違いなどない彼と離ればなれになってしまうことが。
一瞬息を飲んだ彼だったが、すぐにまた笑顔に戻って言った。
「いいや、僕たちはずっと一緒なんだ。君がエンジンで僕がハンドル。どちらが欠けても成り立たないよ。」
そう言う彼の声は、私でもわかるほどに震えていた。
カラオケボックスからの帰り道、私の後ろを歩く彼は、心なしか足取りが重かった。
「さっきはああ言ったけど、それでも僕たちには別れを告げる時が来るのかもしれない。」
その言葉端に、はっとさせられた。
いいや、違う。
「君は間違ってるよ。」私は確信を持って、彼の言葉を否定する。
「君は間違ってる。」繰り返す。
「君は、そんなことを言ってはいけなかったんだ。もしそれが、将来の私を気遣っての言葉だとしても、君は常に正しくいなきゃいけない。君がそんな顔で、そんな声で絞りだした言葉が真実なはずはないんだ。」
途中から、彼の沈んだ顔は苦笑いに変わる。
「私と君はずっと一緒。それを否定することが正しいことだなんて、私には思えないよ。君と2人なら、この空にだって雪を降らせられる、そう信じてるんだから。」
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
「君とならこの空にだって雪を降らせられるよ。」
8月の夕焼け空を指差しながらそう言う彼女を見ていると、少し考えすぎていたのがバカらしく思えてくる。
ふっと息を吐いて僕は言う。
「そうだね、君がひたすらに走るから、僕はそれを追いかければいい。」
彼女は大きく首を振った。
「違うよ、いつだって君が私の行く先を教えてくれる。だから私は突き進めるんだ。
君は私の、ヒーローだから。」
とくん、胸が一度、大きく脈打った。
僕が彼女の…ヒーロー…
とっさに思う。今だ。今、言うんだ。君に聞いてほしいこと、僕が信じていること。
「実は、さ、僕にとっても君は…」
「あ!」
彼女が突然大声をあげて、通りかかったレストランの中を覗き込む。
「どうかしたの?」もどかしさを感じながらも僕は尋ねる。
「さっきあの人が、スープをゴミ箱に捨てたんだよ。美味しそうなのに、よくない。」
僕が彼女の目線の先に人影を認めるのと、その人影がドアベルを鳴らして外に出てくるのはほぼ同時だった。
「すみません!」彼女は当然声をかける。
僕はため息をつきながらも彼女を追いかける。
「あの、さっきはどうしてスープを捨てたんですか?もったいないじゃないですか!」
振り向いた男の顔を見た彼女が、小さく悲鳴をあげる。それほどまでに男の顔には生気というものが感じられなかった。
「俺か、、俺に話しかけてるのか?」虚ろな目でこちらを見る。
「そ、そうです。ゴミ箱に捨ててましたよね?」深呼吸をして彼女は再び声を上げる。
「あぁ、そうだ。俺はあの店のウミガメのスープを一口飲んで捨てたよ。俺は…俺は、大変なことをしてしまったのかもしれない。」独り言のようでありながら、その響きは誰かに聞かれることを待っているようにも思えた。
「どういうことですか?」彼女は重ねて問いかける。
「お嬢ちゃん、お坊っちゃん、俺の長い話を聞いてくれるか?」うなずく僕らを見て男はさびしげに笑った。
そして歩き出しながら、男の過去の話が始まった。
「俺は昔、と言っても10年ほど前まで、船乗りだったんだよ。 あれはもう、20年も前の話になるかな。あの日は海が大荒れで、船が無人島に難破してなぁ…」①
男は語った。食べ物がどんどん尽きていったこと。仲間の乗組員も次々に死んでいったこと。最後には船のシェフと自分の2人しか残らなかったこと。
「本当に食べ物も何もなくてよぉ、もうこれ以上何も食わないでいたら死んじまうって時よ。あいつがスープを作ったのは…」
シェフは寝ていた男を突然起こし、満杯の鍋を見せてこう言ったそうだ。
「おいお前、ちょうどいいところにウミガメがいた。ウミガメのスープにありつけるぞ!」
「俺は喜んで食ったさ、そりゃあ美味かったのなんのって、飢えてた俺たちは天にも昇る心地だったよ。だがよ…」
船乗りとしての仕事も終え、レストランで偶然見つけた「ウミガメのスープ」を実に20年ぶりに一口食べて己の間違いに気づいたと言う。
「え?何に気づいたの?どういうこと?」
せっついて問いかける彼女に、男は、
「おっと、いいところで俺の家に到着だ。お嬢ちゃん、残念だったな。続きはまた今度、話してやるよ。」
満足げな様子でそう言いながらも、家の扉を開けようとする男の手は震えていた。
「おっと、ドアノブを壊しちまったみてぇだ。」 感情の歯止めが効かなかったのだろうか、力の加減を誤ったようだ。②
「じゃあな」と言って手を振る男は、一体誰に別れを告げていたのだろうか。頰を膨らませた彼女はつぶやく。
「なんだよぉ、何に気づいたのか教えてくれたっていいのに。せっかく王道アニメっぽくなってきたところだったのに。」④
なんだそれ、そんなわけがない。
「あの男の話のどこが王道アニメなの?それにどうしてスープを捨てたかだって、すでに明白だ。」
「だって襲いくるピンチから仲間と力を合わせて脱出したんだよ?そこで一度はハッピーエンド。それにその後『あの時の事実』的なのが明らかになるんでしょ?アニメっぽいよ。
でも、まだわかんないよ、どうしてスープを捨てたの?あの人は何に気がついたの?」
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
はあ、ため息をついて彼は、
「いや、今日はやめておこう。また明日、この家に来てみよう。」
気になる。とても気になる。だが男の顔色からして良いことではないだろうし、彼が今日話すべきでないというのならそれは正しいのだろう。
すっかり暗くなった道を歩きながら、元船乗りだという男のことを考える。だがわからない。しだいに思考は彼のことへとずれていった。
私は彼に、彼がヒーローだと伝えた。彼はどう思っているのだろう?
「ねぇ、、、」「おやすみ、また明日ね。」
さえぎるように彼はいい、手を振って去っていった。
翌日、私は彼の来訪を告げるインターホンで目を覚ました。
「すぐに降りて来られるかい?あの男のところに行くよ。」
あわてて着替えて彼を追いかける。
「え…なにこれ…」
昨夜はもの寂しく見えた男の家の周りが、やけに騒々しい。立ち入り禁止のテープがいたるところに張り巡らされている。
「昨日あの後、男は自殺したらしい。
『俺に生きている資格はない。もうなにもかもどうでもよくなった。』というような遺書が残っていたそうだよ。」 ⑮
淡々と告げる彼に対して、私は思考がまったく追いつかない。
「あの人が、、、自殺?」
「そうだよ、手首に何度もためらい傷を残した挙句、結局舌を噛み切って亡くなったらしい。」⑥
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
わざと平静を装って感情を込めずに彼女に伝えた。案の定彼女はまだ混乱しているようだ。
確かに予感はしていたが、やはり早朝に一人で来てみて正解だった。
彼女にゆっくりと、順を追って説明する。
男が昨日食べたスープのこと、男が無人島で食べたスープのこと、そして男が何に気がついたのか。
「あの男を裁く法律なんて存在しないだろう。むしろ被害者といってもいいくらいだ。でもあの男はそうは思わなかったんだろうね。自分は罪を犯したと感じた。だから死を選んだのだろう。」⑤
ようやくすべてを飲み込んだ彼女は、立ち止まることを知らない彼女は、再び目に光を宿した。
「そうだったんだね。私は全然気づかなかったよ。だけど君は全てを理解していた。それはすごいと思う。
でもどうして私に言ってくれなかったの?私ならあの人を殴ってでも、警察に行ってでも自殺をやめさせた。止まり方を知らない私になら、それができた。」
ああ、忘れていた。彼女はどこまでもまっすぐだ。人が一人死んでいるこんな時でさえ、彼女はどうしようもなく彼女のままだった。
「だからだよ。」僕は言った。
「君なら自殺現場に乗り込みかねないから、そんな危ないことを君にさせるわけにはいかなかったんだ。」
「君がそう思うのは仕方がないことかもしれない。でも…」
「僕は、」彼女をさえぎって僕は続ける。
「僕は、君みたいになりたかったんだ。その場にとどまることしか知らない僕は、君なしでもなにかを成し遂げられることを証明したかった。自分に対してさ。」
彼女は何か言いたそうに口を開き、けれど再びその口を閉ざす。
「僕にとって君は、誰よりもまっすぐに進み続ける君は、ヒーローだったんだ。」
ありのままの想いを伝える。
しばしの沈黙
「あの、、さ、」ようやく口を開いた彼女に、先ほどまでの勢いはなかった。
「君の行動の理由はよくわかったよ。そして今さら後悔しても仕方ないことだ。でも、それとは別に…
昨日私も、君をヒーローだと思ってるって言ったでしょ?そしてどうやら君も、私をヒーローだと思っていたみたい。」
「てことは、さ、」顔を上げた彼女の顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
「私も思ってたことを言っていいよね。
もう君の前を歩くのはイヤだ!!!」
一瞬、世界が色を失ったように見えた。だがそれもつかの間、彼女の真意を理解した僕は応じる。
「うん、今度からは一緒に並んで、2人で進むことにしようか。」
彼女は満足そうにうなずく。
「ああ、君はやっぱり間違えないや。私をこんなにも理解してくれている。」
「じゃあもうお互いをヒーローと呼ぶことはないね。」
「そうだね、強いて言うなら『相棒』かな?」
僕の元ヒーローはこれからを思い描いて楽しげに笑った。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
これからはいつも隣に、か。
彼の言葉に私は嬉しくなってつい笑ってしまう。
でも、と私は深刻な表情に戻って言う。
「今回の君の行動はダメだよ。これからはきちんと私にも相談すること!」
「はい…」すまなそうに言う彼の姿にプッと吹き出してしまう。
「でも私は君を信じるよ。だから君は、君の正しいと思ったことをするんだ。それが私に反するなら、そのときはいくらでもケンカしよう。」
「もちろんだよ。そして君は立ち止まらなくていい。僕と歩調を合わせなくていい。君は君の力を、君の信じる正義のために使うんだ。」
彼は透明なビー玉を眺めるように目を細めて言った。
「じゃあ、今度2人であの人のお墓参りに行こうよ。来週の日曜日に。」
「ほら君はいつも、こんなにも突然で横暴でまっすぐだ。」
私の元ヒーローは今までを思い出して楽しそうに笑った。
さて、と彼は言う。
「とりあえず家に帰ろうか。」
うん、とうなずき並んで歩き出す。
「あ、」ふと彼は虚空を見上げた。
「あれ、UFOじゃない?」
彼の指につられて夏空を見上げた私の鼻に、白くて冷たい何かが、ひらりと舞った。⑪
【簡易解説】
お互いをヒーローとして憧れていた子供たち。しかし「ウミガメのスープ」の男がゴミ箱にスープを捨てて自殺したのをきっかけに、2人は共に歩くことを決意し、ヒーローへの憧れはまた別の感情へと変わった。
【完】
[編集済]
「ウミガメのスープ」を「残飯」要素として処理する発想に驚嘆しました。「ヒーローは間違えない」――ヒーローというのは、あるいは崇拝の対象なのかもしれませんね。お互いの共依存的感情が、別の依存関係に変遷していく過程が短い文字数ながら丹念に描かれており、アメリカの短編ドラマを見ているような心地で、最後まで連れて行ってくださいました。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
目を刺すような痛みに気づくと、私は空っぽのワインボトルを抱きかかえていた。
冷え切ったチキンソテーと、床にまで散らばったパエリアの食べかすが昨日のことを思い出させる。
だけど昨夜とは違って、こいつらはもう魂が抜けた死骸だ。食べる気にさえなりゃしない。
それどころか言いようもない吐き気が、この空っぽの瓶に詰め込みたいほどに襲ってくる。
トイレから出ると、目の痛みは窓の外から入る眩しさからくるものだと気づいた。
夜はもうすっかり明け、スーツを着た人の粒が交差点上でマスゲームを繰り広げている。
仕事がある人はいいよなあ。
私はふとそんなことを思った。
泣きたくて堪らなかったが、ボックス席で潰れた店長を見るとなんだか申し訳なくてやめた。
……後片付けをしなくては。
昨日のぶんのゴミを出しに店の外へ向かった。工事で取っ手がなくなったので、両手が塞がっていてもすぐに開けられた。
明朝体の「閉店のお知らせ」の張り紙が、尚更ゴミ出しを虚しい気分にさせた。
ああなんて、淀んだ世界だ。
①②
・・・・・・・・・・・・
通勤のために繁華街を通る。
早朝の繁華街は汚いので、毎回死んだ気持ちで通る。
夜だって汚いのに、朝に見ると余計に汚れて見える。
それはイルミネーションがただの黒い導線の集まりになってしまうせいか、それとも店から出ている大量のごみのせいか。
残飯が入っているのか、そこにはネズミがたかっていた。
私は初めて、現実のネズミというものを見た。
・・・・・・・・・・・・
『あーっと海亀山、ここで土俵から押し出し負け!』
『彼は小柄ですからね、力比べは相手に分があります』
『しかし最近の海亀山の成績はあまり良くありませんね』
『今場所が始まって以来一度も白星がないですね。今後の彼の活躍に期待したいところです』
『日本人の横綱はおよそ××年ぶりですから、やっぱり同じ日本人として勝ってほしいですね』
③⑨
・・・・・・・・・・・・
「せーかいーはーせーかいー、せーかいーはーおーなじー♪」
「あらあら、世界は”せまい”よ。聞き間違い?」
「まあまあ、子どもだからいいじゃないか。それに間違ってはないからなあ」
「ふふ、確かに“世界は世界、世界は同じ”ね。こっちの方がしっくりくるわ」
「せーかいーはーまーるいー、ただひーとーつー♪」
「おお、凄く上手だぞ。将来ミュージシャンになれるんじゃないか?」
「ふふ、いいわね。あなた、この子とバンドでも組んだら?」
「日本初の親子バンドか。悪くないな……」
「もう。すぐその気になっちゃって」
⑧⑬
・・・・・・・・・・・・
ディズニー作品は好きだ。
別に子どもと思われてもいいが、勿論好きだと思う理由がある。
夢と魔法に満ちた世界、約束されたハッピーエンド。
歌に乗せる感情、わかりやすい勧善懲悪。
お約束で始まり予定調和で終わる、王道で完璧な様式美のアニメーション。
そこに現実はない。あるのは、幻想だけ。
もっとも、幻想を見過ぎてトイレに魚を流して動物虐待および器物損壊で捕まるなんて例もあるけど。
でも、最近では4DXのおかげで8月でも雪に降られることができるのだから、現実の中でも幻想を見たっていいじゃないか。
そもそも現実のネズミは、あんなスターにはなれないのだ。
生きるか死ぬかの瀬戸際を過ごし、人間に隠れながら人間のお下がりを食らう。
そんな動物から、よくあのキャラクターが誕生できたなと思った。
最もあれは、壮絶な経緯があってこそ生まれたわけだからむしろネズミであることに意味があったのだろう。
私はそんな人間にはなれない。
なれなかった。
④⑤⑪
・・・・・・・・・・・・
何か珍しいことがあるだけで、周りはちやほやしだすらしい。
成功するか失敗するかなどどうでもよい、とにかくすごいと持て囃す。
それが世界初だから。
日本で何十年ぶりだから。
自分で初めて独立して店を持ったから。
そこには可能性があるから、夢や希望があるからと。
そして失敗すれば、あれが悪かったこれが悪かったと、知ったように口を出してくる。
そっとしておいてくれとは言えないまま、酒に呑まれて夜が明ける。
テーブルの上のトランプカードの山を眺める。
Lなんてカードがあったのかと一瞬思ったが、よく見るとハートが7つあった。
大富豪の最中だったか。店が潰れるというのに、皮肉なことだ。
革命を起こすには運が必要だ。
勝つためにも運が必要だ。
そのどちらもなかった私には、弱い手札しか残らなかった。
本当に?
山を見る。
ひっくり返った7の下にはJのカード。
11バックか。
革命は、4枚でなくても起こせることがある。
希望は、まだある。
自分の手札になくても、僅かな希望が。
――現実も、どうやら捨てたものではないらしい。
⑭⑮
・・・・・・・・・・・・
「海亀山引退だってさ」
「もう少し頑張って欲しかったねえ」
「私たちも彼に期待し過ぎたかもなあ。次の角界のヒーローを待つとしようか」
「なかなか出ないよ、そんなの」
「いや、彼の兄弟弟子の空鶴なんか最近いいらしいぞ。もしかしたらもしかするかもしれない」
「そうね。兄弟子の意志を受け継いで、勝ってくれるといいわねえ」
「……う」
「あら、どうしたの、舌でも噛んだ?」
「……」
「待て、口から何か出して……亀夫、『あ』」
「あ!」
「……やっぱりだ。歯が抜けてる!」
「あら本当! いよいよ大人ね!」
「やったな! じゃあこの抜けた歯を、願いを込めて投げるんだぞ!」
「うん! パパとバンドが組めるようにお願いするよ!」
「あらあら、すっかりパパに影響されちゃって。でも将来が楽しみね!」
⑥⑩⑫
・・・・・・・・・・・・
現実はそううまくいかない。
自分の思い描いた幻想とかけ離れることは多いだろう。
それに打ちのめされ、苦しみ、悩む日が続くかもしれない。
ただそれは、一時的に幻想と現実が引き裂かれただけに過ぎない。
現実のネズミはヒーローには成り得ない。
誰かの残飯にたかるしかできない、哀れな生物でしかない。
でも全てを失った彼が、ネズミのヒーローを創り、今も愛されているように。
誰かの夢が、誰かが零した夢が、きっと誰かの夢になるのだ。
⑦
・・・・・・・・・・・・
ポップコーンの食べかすを掃除する。
憧れのカストーディアルキャストにやっとなれたことを噛み締める。
そんなちっぽけな夢なんて思うかもしれないけれど、それでもそれが私の夢だった。
ゲストは私に聞く。
「何してるんですか?」
私は今も信じている。
「夢の欠片を集めているんですよ」
これは、私にしかできないことだと。
誰かの夢を、壊さないようにするための誇りある仕事だと。
「みんなそれぞれ助け合う、小さな世界……♪」
ああなんて、素晴らしい世界だ。
Fin.
[編集済]
これはおそらく考えすぎでしょうが「私は初めて、現実のネズミというものを見た」という表現が、世界の〝せまい〟様子を表しているように思えて、作品の本筋とはべつに、とても胸に染みました。ヒーローになれない挫折感というのは、たぶん誰の胸の中にもあって、そんな中で必死にもがく〝私〟の姿が胸を打ちます。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
あるところに、3人の子供がいた。
「おい、あ!今日の飯は!?」「い、うるさい。今、準備中」「そうか!うは!?」「風呂掃除してりゅ、ぅぅ」
それぞれ、名前を「あ」⑩「い」「う」という。
「い、お前も手伝え」「えぇ!なんでだ!」「しゃ、3人で協力する、でしょ?」
彼らは、協力しながら“上層”を目指していた。
―上層と下層―
日本は2つに引き裂かれた⑦。
2XXX年、国内の裕福層が日本上空の浮遊島を占領、“Light Japan”として独立宣言したのだ。
裕福層がいなくなった“日本”は、徐々に荒廃していった。
かくして、日本は、上を“Light Japan”、下を“Japan”⑭として分裂し、大きな格差が生まれた。
いつしか、国内では“上層”、“下層”という呼び名が一般的になっていた。
――――――――
「じゃ、さっき取れたドアノブ直してくる②!」「また壊したか」「壊してねえ!握ったら取れたんだよ!」「ボロ屋だかりゃ、ら。しょうがないよ」
先程から ! がうるさいのが「い」。声が大きく、お調子者。
さ行とら行が言えてないのが「う」。頻繁に噛む。よく女の子に間違われる。
どちらでもないのが「あ」。常にどっしり構えている。体格的にも。
この名前に関して、下層では教育や福祉が崩壊しており、かつ誰もいちいち名前に意味を込めるほどの余裕が無いのである。断じて作者の手抜きなどではない。
~~~
「よっしゃーーー!!飯だ!」「うるさい」「いただきましゅ」
ガツガツ!ムシャムシャ!
「そういえばさ、俺、相撲部屋にスカウトされた③」
「そうなの!?やったじゃん!!」「しゅごい。おめでとう」
日本で行われていたスポーツは、おおよそが現在上層でしか行われていない。設備や熟練者が根こそぎ持っていかれたのだ。
相撲は数少ない例外で、下層でも行われている。そのため、上層を目指す子供たちの間ではポピュラーなスポーツなのだ。
―上層を目指す―
浮遊島に行く経路は空路しかなく、また上層の入国審査は厳しいので、基本的に下層の人間が上層に行くことは無い。
しかし、下層で大成し、有名になると上層から招待が来る。
そのため下層の子供たちは、上層に行くために大成することを目指して努力する。
――――――――
「オレもなー!なんか見つけなきゃ!」「僕も…僕、できりゅことあるかな」「そんなの、うだったらあるに決まってるだろ!?」「そうだな。もっと自信を持っていい」
~~~
「ごちそうさ(しゃ)ま(ー!)」
「よし、決めたぜ!!オレ、バンド組む⑧!」
「はぁ?急だな…」「オレスポーツできねえし、一発ドカンと目立つなら、やっぱバンドだろ!」「バンド…い、声大きいから、向いてりゅ、かも」「あぁ、そうかもな」
~~~~~
「バンドメンバー集まったぞーーー!!」
「うるさい」「しゃ、さっそく?言い出したの、数日前だったはず」「バンドやりたがってた奴多かったんだ!声かけたらすんなり入ってくれたぞ!!」
「さあ!バンド名考えて、練習して…忙しくなるぞー!」「楽器はどうする」「一式揃って落ちてた!」「そんなわけあるか」「本当だって!」
「…どうすぃ、しよう」
「「う、どうした(!?)」」
「えっと…2人とも、やること決まってりゅのに、僕は何にも無いなって思ったら、不安になって」
「う…」「…大丈夫だ!!オレたちは決まっただけ!まだ追い付けるさ!!」「そうだな、それに、俺たちはお前を置いていくことは無い」
「あ…い…あるぃがとう」
~~~
「う、お前上層のテレビ局からインタビューされたらしいな」「ええっと」「そうなんだよーーー!下層の様子を実況中継するって⑨!」「お前には聞いてないぞ」
―上層と下層の交流―
前述のとおり、下層から上層に行くケースはほとんど無いが、上層から下層を訪れることは意外とある。
下層には分裂前の日本の文化財がほとんど残っており、その文化財の保護や観光を目的として来ることが多い。また、下層の様子を調査するケースもある。
――――――――
「ラッキーだったな、う。これで、上層に顔を売れたぞ」「でも、僕、ずっと噛みっぱなしで、良い印象残しぇ、せなかったよ」「いやいや、そんなこと無いって!むしろ…えーっと…!」「…まあ、個性的なんじゃないか」
~~~~~
「「上層からタレントにスカウト(!)?」」
「しょ、そうみたい。僕のインタビューの様子が『かわいい』って話題になったんだって」
「うわーーーっ、やったな!できること見つかったぞ!!」「よかったな、う」
~~~~~~~~
―皆さんが今の仕事に就くまでにそのような経緯があった、と。
「はい、そうですね」
―では、このあたりで今日の取材は…
「えー!もう終わり!?オレの王道アニメ的ストーリーはまだまだこれからだぞ④!?ボーカルのオレの歯が突然抜けて喋り辛くなって、でも皆で猛特訓してオレの分カバーしてくれたこととか⑫!」
「い…じゃなくてイツキ。今日のが終わりゅだけで、またあるから」「それに、その話は王道アニメ的なのか?」「何を!皆で困難を乗り越えるのは王道だろうが!」
―イツキさんは普通に話せているようですが。
「あぁ、上層に来てから入れ歯買ったんだよ!」 「毎日ちゃんと洗ってるよな?」「うるさいな!洗ってるって!」「2人とも…すいません、うるしゃ、さくて」
―では、最後に何か一言ありますか?
「これからも、“秋之島”として頑張っていきます」
「えっと、ウミオを応援お願いします」
「…そうだな!色々あって上層に来たけど、これから下層の皆にヒーローみたいに夢を与えられるよう頑張るぞ!!」
「「おぉ~」」
「なんだ、かっこいいこと言うじゃないか」「しょ、そうだね。下層の人たちとも、また交流したいね」
―それでは、“アキ”さん、“イツキ”さん、“ウミオ”さん、取材にお付き合いいただきありがとうございました。
「「「ありがとうございまし(すぃ)た(!)」」」
~~~
「あ~あ、アキの奴作り過ぎ!!飯こんなに要らねえよ!」
「あはは…アキは力士だかりゃ」
「オレらバンドマンとタレントだぜ!?食べ過ぎたらダメな職業だよ!むしろ、ウミオが食べきったのがおかしいよ!!」①
「タりぇ、レントになってから食レポの仕事とか多くて、結構食べれるようになっちゃった」
「おいおい…!食べきれなかったら捨てるしかないぞ!」
「…頑張って。もし捨てるなら、ゴミ“ちゅうしゅう”センターにまず持って行くんだよ」
「おう!わかった!」
(なんだかんだ、ウミオはまだ舌噛むなあ⑥!ま、そこが魅力的みたいだし!)
~翌朝~
(やっぱり食べきれなかった…!)
(ウミオは“しゅうしゅう”センターに持ってくって言ってたよな⑬!)
―上層のゴミ処理―
ゴミ“中枢”センター:可燃ゴミの焼却・不燃ゴミの処理 を行う
ゴミ“収集”センター:ゴミ中枢センターで出た灰などを下層へ投棄する 家庭で出た灰も収集している
上層のゴミに関する規制は結構厳しく、ポイ捨てや分別ミスも犯罪にあたる⑤。
イツキはまだ知らない。
――――――――
~一方、下層の様子~
「聞いた?下層から3人が上層に行ったんだって」
「そうみたいだね!憧れちゃうなあ」
「おーーーい2人ともー!」
「あ、帰ってきた…て何その格好」
「雪降ったみたいになってる!?今8月でしょ⑪?」
「それがねー…よく見てよ」
「え、これ全部ご飯粒じゃん。どうしたの」
「ふらついてたら急に空から袋ごと降って来たんだー。ご飯だけじゃなくて、肉とか野菜とかもあった。袋たくさんあったし、数週間は持ちそうだよー」
「えぇすごい!楽しみだな!」
「降ってきたってことは、もしかして上層から来た?定期的に降るようなら、仕事しなくてもよくなるかも…」
「そーだよ!この後仕事あるけどどーでもよくなっちゃった⑮!早く2人とも行こ?」
「上層の食べ物食べれるなら、上層行かなくてもいいかな?」
「ちょっと、まず様子見てから…」
【完】
[編集済]
「おい、あ!今日の飯は!?」「い、うるさい。今、準備中」「そうか!うは!?」「風呂掃除してりゅ、ぅぅ」――という流れで、脳味噌が「???」となったあとに判明する、「あ」「い」「う」……! 地の文にユーモアと社会風刺が入り乱れていて、頭の中が混乱します。あと作品から、きっと赤升さんが優しい人なのだろうという感想を抱きました。「愛と勇気」のイメージからイカれたマッドサイエンティスト的な印象を抱いてしまい、申し訳ありません……。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
かけがえのない友がいる
そいつはゴミ箱に残飯を捨てると
憧れていたヒーローになるのを辞めた
そんな奴だけど 俺らはそいつの歌を創ることにした
それでは聞いてください
「HERO → Innocence」
受け付けました。
詞:MAEGASHIRA
曲:GYOJI
Lの下はJがいる⑭
Lの下はJがいる
俺は舌を噛んでいる⑥
吊られた男はJガイル
ちゃんこに憧れ相撲部入って③
入部初日に取っ手を取って②
怒られたあとの初試合
相手にまわしを引き裂かれてた⑦
色々どうでも良くなった⑮
モテてみたいとバンドを組んだ⑧
楽器より重たい奴しかいない
そんな俺らにも友達がいた
キムタク愛する龍一は
六法全書が愛読書
ヒーロー憧れ19年
開成卒の東大出
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
ゲームに命を賭すJは
三度の飯よりゲーム好き
ゲーム実況8周年⑨
eスポーツのプロプレイヤー
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
いつもの曲がり角で
いつもの曲がり角で喋る 喋る 喋る
俺らと違う
俺らとは違う
8月に雪が降るように⑪
有り得ないと思うだろう
だけど本当のことなのさ
だんだん俺たち疎遠になって
ヤケになって酒に呑まれて
周りに疎まれ片隅で
いないもののように扱われてた
色々どうでも良くなった
持たざるものだと諦めていた
生きる価値のない奴しかいない
そんな俺らを見捨てなかった
検事志望の龍一は
廃棄するはずの弁当をくれた
金に困ってはいるけれど
餌付けのようで苛立った
存外熱さを持つJは
くすぶる俺らを叱ってた
逆切れして拳を振り上げた
でもそれだけならまだ良かったのに
あいつの口から白が飛んでった⑫
あいつの身体が大きく仰け反った
尖ったテーブルの角に
尖ったテーブルの角に落ちる 落ちる 落ちる
あいつはいない
あいつはもういない
きっと聞き間違ったんだ⑬
そうであれと願っただろう
だけど本当のことなのさ
嗚呼俺らのせいだ
お前がやったんだと
誰かが言う 誰かが言う 誰かが言う
そして檻の中⑤
それなのにお前は
それなのにお前は
そんな俺らのために
こんな馬鹿のために
イノセンスになった①
イノセンスになった④
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
俺たちさえいなきゃお前は
お前はヒーローになれたのに
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
でもお前がいなきゃ俺たちは
俺らはここにはいなかった
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
俺たちさえいなきゃお前は
お前は上へと行けたのに
なんで俺らと友達なんだろう
なんで俺らと友達なんだろう
L字の曲がり角の下は
あいつの死体が眠ってる
Lの下はJがいる
Lの下はJがいる
Lの下はJがいる
Lの下はJがある⑩
[編集済]
「ちゃんこに憧れ相撲部入って/入部初日に取っ手を取って/怒られたあとの初試合/相手にまわしを引き裂かれてた」のリズム感が大好きです。あと「キムタク愛する龍一は/六法全書が愛読書/ヒーロー憧れ19年/開成卒の東大出」も! ライムという斬新な手法は「創りだす」初、でしょうか? 作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
「あいつは今もあの曲がり角の下にある墓地で眠ってる
この前あいつの墓を綺麗にしてきたよ
あいつが好きだったゲームシリーズの最新作を持って
そしたらその晩夢に出てきてたよ
『へんじがないただのしかばねのようだ』だってさ
ゲームを愛してやまないあいつは
生きてるお前が遊べって言ってる気がしたよ
あいつの亡霊を追いかけるのはやめた
あいつは今も弁護士の仕事を続けてる
この前なんで俺らを助けたのか聞いたよ
『残飯を捨てたら悲しい気分がしたから』だってさ
俺らは捨てられる運命だった
腐ってゴミ箱に放られるだけのただの生ゴミだった
でもあいつはわざわざ探して拾ってくれた
汚れるのも構わず探してくれた
俺らを捨てるのが惜しいと思ってくれた
上から目線の偽善とかそんなんじゃなかった
あいつは誰よりも優しい法律家だった
あいつはヒーローに憧れるのをやめた
だけどあいつらは 今でも俺らの
ごめんな そして ありがとう」
Fine.
[編集済]
-
10歳のころ、公園の時計が22時を指すと決まって向かう路地裏があった。飲食店が並ぶ通りの、裏。
従業員の出入りもほとんどないそこに、目当てはあった。
喫茶店の裏に積まれたダンボールに隠れて様子を伺っていると、中華料理屋の裏口が開いた。30代くらいの店員が面倒くさそうにゴミ箱を運び出す。店員が店に戻るとすぐに飛び出して、フタを開ける。雑にしばられた袋の口を開き、漁る。
チャーハンは食べづらい。シュウマイやギョーザは取りやすいし腹も膨れるから、たくさんある日は当たりだった。
だけどその日はシュウマイもギョーザも見当たらなかった。上の方にはラーメンやスープの具が積まれていたのだ。腹が鳴っては諦めるわけにも行かず、食感のないラーメンを口に突っ込みながら更に下へと漁っていた。
「残念だったなァ、糞餓鬼」
あざけるような声をかけられたのは、パサパサになったチャーシューを見つけたときだった。
振り返れば、さっきの店員がいた。毎日ゴミ捨てをする店員だから、目を付けられていたのだろうか。
いつものやる気のなさそうな様子とは違って、口元には意地悪そうな笑みが浮かんでいた。
あわてて逃げようとするが、腕を掴まれる。
「逃げんじゃねェよ、餓鬼。何も取って喰おうってわけじゃねェんだ」
「は、なせ!」
「いいじゃねェか、おっちゃんとお喋りしよォぜ」
「しねーよ離せ!」
「お前ェ、毎日食いに来てんだろ。話によっちゃァもっと良いもん食わせてやるっつってんだ」
見上げた店員――おっちゃんは相変わらず意地の悪い笑い方をしていて、だけど不思議とウソはないと思った。
抵抗をやめると、おっちゃんは後ろ手に裏口のドアを閉め、タバコに火を付けた。
「当たりは餃子と焼売か」
「なんで」
「ハ、どいつも同じだな。で、お前ェ、夜はどうしてんだ」
「どうって。家だよ」
「ほォ、家があんのか。親は」
「知らねー。帰ってこねーよ」
「成程ねェ」
それだけ聞くと、おっちゃんはタバコの火を乱暴に踏み消し、言った。
「じゃァ、俺んとこ来るか」
あんなうさんくさい提案になぜ頷いたのか、今でも分からない。ただ同じように付いていったのが他に5人いたように、おっちゃん自身のなにかが人を、クソガキを惹きつけたのかもしれない。
とにかく言われるままに路地裏で待って、しばらくして出てきたおっちゃんの後ろを付いていくことになった。
店から20分ほど歩いたところに、そのボロアパートはあった。2階建てのアパートの1階最奥の部屋に向かう。
おっちゃんがドアを開けると、奥の部屋からオレよりいくらか背の高い子供が出てきた。
「おかえ……また拾ったの」
「飯は」
「食べた。他の奴らは皆寝てるよ」
「そうか。おら、お前ェも中に入れ、ドア閉められねェだろォが」
乱暴に引っ張られて玄関に入る。子供とは一瞬目が合ったが、すぐに興味なさげに視線を外された。
「俺、風呂入るね」
「あァ」
そのまま廊下を抜けてリビングに通される。
オレの住んでいた家に負けず劣らずな外見だったが内装は案外キレイだし、部屋も広かった。
リビングには大きな座卓があり、更に2部屋に続くだろう襖が見える。
「さっきのは」
「あァ、錦は今年で11だったか。一番長いし年長だからな、お前ェの世話も彼奴がするだろォよ」
「アイツもアンタが拾ったのか。他にもいるのか?」
「全部で5人、お前ェで6人目だ」
その人数には随分と驚いたが、同時に納得もした。それなら確かにこの広さが必要だ。
だとしてもやはり、おっちゃんの正体には謎が深まる。
「アンタ、なんなんだ」
「俺か。俺の名前は鴨だ」
「鴨? ヘンな名前だな」
「本名な訳ねェだろ。お前ェみてェな餓鬼は知らねェだろォがな、俺みてェな悪者の名前よ」
「ふぅん。どんな悪さしたんだ?」
「あ? 宿の前で火ィ焚いたり女奪ったり、力士相手に殴り合いなんてのもあったな」(③)
「おっちゃんが?」
「莫ァ迦、んなことやったら一発で豚箱だろォが。鴨の話だよ」
「でもおっちゃんも鴨なんだろ?」
「あァ。ま、俺だってバレりゃァ豚箱よ」(⑤)
言うまでもなく、おっちゃんのしていることは誘拐で、紛れもなく犯罪だ。頷いたのはオレだし、他の奴らも同じだったが。
このときにはそんなことを考える余裕もなく、ただ変な名前のヤツもいるもんだとだけ思っていた。
「お前ェは今日から重助な」
そんなときに突然言われたものだから、言われた名前を上手く聞き取ることができなかった。鴨なんていうフザけた名前について考えていたから、聞き間違えたのだろう。(⑬)
「なんだ、オレは残飯漁りのいやしいネズミだってのか」
「鼠ィ? ……莫ァ迦違ェよ、ちゅうす……あァもうそれでいい、お前ェは今日からチュウ助だ」
そして今思えば確実に、おっちゃんは舌を噛んでいた。(⑥)
あとから知ったことだが名前には意味があって、おっちゃんとしてはこだわっていただろう。最終的にはおっちゃんが噛んだせいとは言え、聞き間違えたことにはいくらか罪悪感が残る。
「おっちゃん、なんで拾いもんなんてしてんだよ。あの店で働いてんだろ」
「何でかねェ。ま、錦拾っちまったのが運の尽きよ。あの店は良いぜ。食事にゃ困らねェし、お前ェみてェな糞餓鬼がよく釣れる」(①)
「拾うために働いてんのか」
「さァな」
結局そのあとも、おっちゃんがなぜ子供を拾ってきていたのかは分からないままだ。ただの気まぐれだったのか、なにかしらのバックボーンがあったのか。
あったとして、それを語るような人ではなかったことは間違いない。事実、一番おっちゃんに近いところにいたニシキでさえ、なにも知らなかった。
ニシキはすでに4年ほどおっちゃんと暮らしていたらしい。増えていく子供たちの世話役を任されていて、その日も風呂から上がるとすぐにオレの世話を押し付けられていた。
「オマエの名前、ニシキってんだろ。ニシキゴイってやつか?」
「はあ? そんなわけないだろう。新見錦だよ。お前だって本当は重助のはずだ」
「にーみ?」
「あの人から聞かなかったのか? まあ聞いても分からないか。壬生浪、新選組の隊士の名前だよ」
「ミブロ」
「……まあいい。それより先に学ぶことがあるからな」
ぶっきらぼうに言いながらもタオルや着替えを用意していく。渡された着替えは、少し丈が長かった。
居心地悪く視線をさまよわせていると、1枚のチラシが目に留まった。カラフルな文字と、楽しげなイラストが踊っている。
「これ、なんて書いてあるんだ」
なぜか気になって問えば、ニシキものぞきこんで答えてくれた。
「Love。愛、って意味」
「その下は?」
「Juctice。正義。世間様が大好きな綺麗事だよ」(⑭)
「ふぅん」
「アルファベット、読めないのか。学校は」
「3年から通ってない」
「俺は1年も。アルファベット、これは英語だけど日本語を表すこともできる。ローマ字って聞いたことないか? 例えば、これ。Aは『あ』って読む」(⑩)
そのあともニシキはいくつかのアルファベットを指して読みや意味を教えてくれた。
話し方こそそっけなかったが面倒みもよく、なにより勉強が好きで、教えることもむしろ楽しんでいるような様子だった。
翌朝、俺が起きたときにはすでにおっちゃんは出かけたあとだった。
ニシキとイオリが適当な朝ご飯を作り、他の子供たちを起こす。
食事当番は持ち回りだったが、料理を覚える気のないマタサブロウなどはウインナーを焼いていればいい方で、大概はパンをトースターに突っ込んで終わりだった。
おっちゃんは昼間はめったに家におらず、子供たちだけで過ごすことがほとんどだった。外に出ることもなく、オレはずっとニシキから勉強を教えられていた。
イオリはオレより1つ年下だったが、オレよりよほど頭が良かった。イオリも勉強は好きなようで、本を読んではニシキとあれこれと話し込んでいた。
マタサブロウは勉強にも興味がなく、いつもおっちゃんのパソコンを弄っては動画を見たりゲームをしたりしていた。ネットであれこれと知識だけはたくわえていたようだったが。
いつだったか、引き出しの取っ手が取れたことがあった。(②)開けることができずにオレたちが四苦八苦している間に調べて、さっと開けたのがマタサブロウだった。
ケンジはニシキに次いで長く、拾われたときの年齢としては最年少の4歳だったらしい。要領よく立ち回るが、なぜか最後に貧乏くじを引くのもケンジだった。音楽が好きで、マタサブロウがパソコンを使っていない間はケンジが動画を見ていることも多かった。
ゴロウはこの時点での最年少で、よくケンジが面倒を見ていた。一番おっちゃんに懐いていたのがゴロウで、たまに家にいるときにはベッタリとくっついて離れないくらいだ。
そんな生活だったから、実のところおっちゃんとの思い出は多くはない。2人きりで会話したのは最初の夜と、2ヶ月ほどが経ったあの夜くらいだ。
その日は珍しく19時にはおっちゃんが帰ってきていて、みんなで夜ご飯を食べた。
ケンジが炊いた、少し芯の残るご飯に文句を言いながら食べていたとき、突然歯が抜けた。(⑫)
口の中でどうにかご飯を避けて手に出す。
「おっちゃん、歯」
「あ? ……あァ。来い」
おっちゃんは箸を置き、そのまま外へ向かう。あわてて追いかけると、アパートの前で待っていた。
「どっちだ」
「どっちって……ああ、下」
「なら屋根の上だ。投げろ」
「投げる?」
「そォするもんなんだよ。上の歯は床下、下の歯は屋根の上、ってな」
「ふぅん」
投げた歯は音を立てることもなく、屋根まで届いたかは分からなかった。
おっちゃんがそのまま部屋に戻ろうとするのを見て、慌てて声をかける。
「オレたち、どうなるんだ」
なぜそんなことを聞いたのか。漠然とした不安があったのかもしれない。あるいは単に、おっちゃんと話したかっただけで、話題はなんでもよかったのかもしれない。
さして深刻な動機でもなかったが、それを口にしたときのおっちゃんの目はよく覚えている。
ただ静かで、穏やかな目。
「どォなりたい」
「どう……別に、ふつーに」
問い返されて初めて、なにも考えていなかったことに気付いた。未来のことなんて、明日のことなんて、なにも。
「普通にねェ。お前ェらが普通に生きるなんざ、余程の奇跡でも起きねェとな。それこそ今、8月に雪でも降るくらいの奇跡がな」
「おっちゃんは」
「あ?」
「おっちゃんは、ふつーに生きたいとか思わなかったのか?」
「ハ、思うかよ。悪は成敗される。それが正道、王道だろ」
そう言ってニ、と笑うおっちゃんは間違いなく悪であるけれど、オレにとってはヒーローに思えた。テレビにかじりついて応援していた、憧れていた、弱きを助け強きを挫く、ヒーロー。
事実、生きるためだけに生きていたオレたちをゴミ溜めからすくい上げてくれたおっちゃんは、まさしくヒーローだった。
おっちゃんがアイツを拾ってきたのは、それから更に2ヶ月ほどが経ったころだった。
「此奴は、そうだなァ、新八だ」
「新八、って」
「いつも通り錦と、お前ェにとっちゃ初めての後輩か、面倒見とけよ」
ニシキはなにか言いたげにおっちゃんを見ていたが、おっちゃんはそれに応えることなくシンパチを押し付けていった。
シンパチはオレと同じ10歳だったが、最近まで学校には通っていたそうで勉強はオレよりもずっとできた。手際がよくて料理も教えればすぐにできる。物怖じもしない性格で、ニシキはともかくオレが世話できる分野などほとんどなかった。
その代わり、ケンカだけはした。
なににつけてもはっきりと物を言うシンパチに、いつもオレが突っかかっていた、という方が正しいかもしれない。そう考えると、ニシキは優しかったのか、関心がなかったのか。
「お前、これが犯罪だって分かんないのか?」
どんな話の流れだったか、シンパチが言った。
「知ってるよ。だからなんだ? オレたちはおっちゃんに拾われなきゃ死んでたんだ。ホーリツってのはオレたちの命より重いのかよ」
まっとうには生きられないオレたちの中で、その生活が犯罪かどうかなんて気にするヤツはいなかった。
なのにシンパチはまっとうなことを言う。
「そういう状況になった事自体が間違いなんだよ。法律がちゃんと機能していればお前達は残飯漁りをする必要もなかった。それを救えなかったのは大人の怠慢だ。でもだからって、今目の前にある犯罪を見逃すことはできない。それとこれとは別なんだ」
「そんなキレイゴトでなにができる」
「間違いを正すために間違いを犯しては意味がないだろう」
「だから! んなこと言ってる間に死ぬんだよ、オレたちは!」
「それでもだ」
「――っ、どうでもいい、正しさなんて関係ない! そんなこと言えんのは恵まれてる人間だけだ。オレたちにはんなもんどうでもいいんだよ!」(⑮)
「それでも、それを放っておいた社会に未来はない」
オレがどれだけ感情的に言い返しても、シンパチは揺るがなかった。
ニシキは少し顔を上げただけですぐに本に視線を戻す。イオリは黙って家事を続け、イヤホンをしているマタサブロウには聞こえていたかも定かではない。ゴロウは意味が分かっていないようで、ケンジはそんなゴロウの相手をしている。
躍起になるオレだけが異質のようで、ひどく悔しかった。
だけど今になっては分かる。オレはただ、諦めが悪かったのだ。
その日ははっきりと覚えている。10月28日。昼食の片付けも終わり、それぞれが好きに過ごしていた時間。滅多に鳴らないチャイムが鳴った。
チャイムには応じないのがルールだった。オレも2日目には教えられたし、教えていた。
だけど迷わず、シンパチは玄関に向かった。
「は、おい」
声をかけても気に留めず、覗き穴を確認してからドアを開ける。そこには数人の大人がいた。
大人たちはシンパチになにかを話しかけ、家の中に入ってきた。
そのとき大人たちが話していた内容は、あまり覚えていない。ムズカシイ言葉を使って、オレたちを家から連れ出した。
シンパチは初めからすべて分かっていたようだし、ニシキとイオリは理解しているようだった。
オレに分かっていたのは、これがおっちゃんが言っていた王道だということだけだった。(④)
そのあとオレたちはそれぞれ施設に入れられた。他の子供たちがどこに行ったのかは、誰に聞いても教えてはもらえなかった。
当然、おっちゃんのことも。
オレたちは完全に引き離されたのだ。(⑦)
オレは小学校に通うことはできなかったが、中学高校と進学をした。大してやる気もなかったが、勉強には問題なくついていけた。
久しぶりに呼ばれる自分の名前には落ち着かなかったが、それもすぐに慣れた。
高校の図書館で、ある本に目が止まった。『壬生浪士組』。
「ミブロ」
中を見れば、隊士の名前が載っていた。芹沢鴨。新見錦。田中伊織。佐伯又三郎。野口健司。平山五郎。
「平間重助」
それが芹沢派と呼ばれる隊士の名前だった。このとき初めて、オレはおっちゃんが付けようとした本当の名前を知ったのだ。
そして、永倉新八。彼は芹沢派ではなく、直接の関与はしていないにしても芹沢を暗殺した側の人間だ。
ニシキが物言いたげにしていたのは、これが原因だったのだろう。
おっちゃんはシンパチが「正道」の人間であることを知っていたのか。
だけど他の誰でもなく、同じ神道無念流を修めた者の名を選んだのは。
なんて、考えても答えはないけれど。
あるとき、同級生に動画を勧められた。ゲームの実況動画だ。(⑨)
顔こそ出していないが、その声に、喋り方には覚えがあった。なにより、ユーザー名がそのままマタサブロウだった。
マタサブロウがある動画で、ポツリとバンドの名前を出した。普段音楽の話などしないから気になって調べると、インディーズで活動しているバンドらしい。(⑧)
見覚えのある顔が2つ、ケンジとゴロウだ。2人は同じ施設に入ったのかどこかで再会したのか、分からないけれど、2人が並んでいる姿にはひどく安心する。
だけどまだ、3人には連絡をしていない。しようと思えばできるが、まだ。いや、多分この先も。
ニシキとイオリがどこでなにをしているのかは分からない。だけどあの2人のことだ、まっとうに進学してまっとうに就職しているのだろう。
皆まっとうに生きている。それでいい。
オレも、アウトローなヒーローに憧れることはもうやめた。
普通に生きられるはずがないと言われたオレたちが、まるで普通であるかのように生きている。そう、おっちゃんのいう「8月の雪」は降ったんだ。(⑪)
どこで奇跡が起こったのか。誰がキセキを起こしたのか。そんなの、1人しかいない。
勧善懲悪が「王道」だという。だけどきっと、これもまた「王道」だ。
「平間さん、支援を行いたいという方がいらっしゃっています」
「ああ、すぐに行く」
アンタは不器用すぎたんだよ、おっちゃん。オレはもうアンタには憧れない。
アンタとは違う、まっとうなヒーローになってやる。
【完】
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「そして今思えば確実に、おっちゃんは舌を噛んでいた」――シリアスな文脈からの急激なコメディ文脈に、抱腹絶倒しました。……ここ笑いどころですよね、きっと? 「ホーリツってのはオレたちの命より重いのかよ」のような政治的文脈や、「アンタとは違う、まっとうなヒーローになってやる」という文章に込められた逆説などのエッセンスもあり、ハシバミさんの熱がそのまま伝わってくるような迫力がありました(作品と作者はある程度切り離して考えるべきだとは思いますけれど、作品にパワーがあるということのたとえです)。 [編集済]
…ちょっとさ、相談事に付き合って欲しいんだ。
どうしても答えが分からない難問があってね…
皆に憧られていたヒーローが、どうして人気を無くすことになったのか…その理由が分からないのさ…
「ラテ家シリーズ」という番組があったんだ。
コメディーなドラマで、週に1回、1時間放送されていた、あの番組さ。
内容は至ってシンプルで、主人公が仲間たちとチームを組んで、日常のトラブルと闘うというもの。
このドラマは9年前から放送されていた、超人気番組だったのさ。
当時、子供も大人も関係なく、皆がラテ家シリーズを好んでいた。
子供達は、ラテ家シリーズが放送された翌日には、学校で必ず番組の話をしたんだってよ。
大人達も、会社の休憩時間に、話のタネとしてよくラテ家シリーズを話に出していたんだってさ。
ラテ家シリーズで一番有名だったのは、主人公だ。
熱き心を持ち、何事にも真っ向から努力し、無茶苦茶だと思われた事をやり遂げる。
悪事を見逃さず、人を傷つける者は許さないし、
仲間たちと共に、様々な苦難を乗り越えていった。
まぁ、【④よくある王道アニメに出てきそうな展開】だったな。
それでもこのドラマは人気を博し、
コメディー的な方法で、勇敢に闘う主人公は、ドラマの中では皆から「ヒーロー」とあだ名で呼ばれていたし、
視聴者からも、敬愛を込めてヒーローと呼ばれていた。
ヒーローの人気っぷりはすさまじい物があった。
作中で、ヒーローがサッカーを指導する話が6話ぐらい続いた時は、子供達はサッカーに夢中になった。
また、ヒーローがバンドを結成した時の話が7話ぐらい続いた時は、【⑧世の大人達も、ノリにのってバンドを結成した】という。
主人公がイジメを止めさせようとすれば、ヒーローに感化された視聴者が、イジメを止めさせる勇気を貰い、実際にイジメを止めさせた。
…だとか、そういう話もよくあったという。
つまり、皆がヒーローに憧れていたんだ。
さて、ここまでが、ドラマに登場する「ヒーロー」の話だ。
それじゃぁ次は、そのドラマが壊れた原因と言われている、俳優「レーン」の話でもしますか。
【①レーンという男は俳優】で、色んな番組に出演していたんだ。
…勘の良い方はお察しの通り、レーンは「ラテ家シリーズ」の「ヒーロー」を演じていた、名俳優だった。
その人気っぷりは、「ヒーロー」と良い勝負だったという。
レーンが特定の商品を使っている様子をSNSにアップすると、その商品の売り上げが急増しただとか、よくある話だが、
レーンが視聴者から好かれていたのは確かだ。
そんなレーンは結婚していてな…
奥さんとレーンの仲に関しては、皆がおしどり夫婦だと言っていた。
結婚する前のレーンは、彼女と良いお付き合いをしていたという。
【⑪8月、猛暑のはずなのに、突然降りだした雪】は、デート中の2人を困らせたが、
雨宿り…ではなく雪宿りのために入った喫茶店が、非常に良い雰囲気だったために、
そのまま結婚の話に展開した…って話がある。
その時の告白は、レーンが彼女に対して「晴れて夫婦になりましょう!」と言ったらしい。
この、「いかにも」で「それっぽい」話が、事実がどうかは置いておくとして、
レーンと彼女は結婚し、晴れて夫婦となった。
この結婚は、ニュース番組の枠が8分ぐらい使われる程、注目された。
1人の俳優の私生活に関する事で、8分だぞ?レーンが有名である事が伺えるな。
結婚式の様子は報道陣にも公開され、各局が視聴率を上手く確保するために、
【⑨他局に負けないように、結婚式の様子を実況】しようとしたという。
この時は、レーンと関わりのある有名人は勿論の事、
何故かレーンと関係ない人…例えば、大物芸能人だとか、テレビによく出演する社長だとか、【③力士だとか】が、お祝いのコメントとやらを出したという。
まぁ、目立ちたがり屋な連中がわざわざコメントするぐらい、レーンは注目されていたって事だ。
こんな様子だから、世間の誰もが、レーンの幸せを疑わなかった。
…で、ここまでレーンの「良い」話を聞いてもらったわけだが。
まてまて、話はまだ終わっていない、むしろここからが本題なんだ。
結果から言うと、レーンは警察に【⑤逮捕された】んだ。
レーンはな、それはもう酷い男だったのさ。
表では、俳優として仕事をし、皆から好かれていたくせに、
自宅に帰れば、共演者たちに対して暴言を吐いていたのさ。
レーンは普段は優しいものの、酒を飲めば性格が豹変する、典型的な二面性を持つ野郎だったって訳さ。
酒を飲んだレーンは、何時もの様に「アホ」だの「クズ」だの「無能」だの「役立たず」だの…
とにかく、あらん限りの共演者に対する暴言(愚痴)を言っていたという。
レーンは、表では活躍しているように見えていたが、
裏部隊での他の出演者達とのいざこざやトラブル、人間関係に関して多大なるストレスを抱えていたそうで、
酒を飲む事で、ストレスを発散していたという。
テレビが報じた話に、こんなエピソードがある。
ジャックという共演者が、【⑬レーンの話をちょっと聞き間違いをした】事にキレたレーンは、
家でこんな暴言を吐いたのだそうだ。
「ジャックゥ!!!お前のレーン様に対する態度は何なんだ!?
【⑭お前は俺より下】なんだよ!肝に銘じておけ!」
…実に恐ろしい。
ただ、これだけならまだいい。
妻自身は、レーンの他人に対する暴言を聞くのは、慣れていたというし、これなら誰にも迷惑は掛かっていなかったそうだ。
…レーンが、妻に対しても暴言を吐くようになるまでは。
レーンは、些細な事で切れるようになり、毎日のように妻を罵倒していたそうだ。
「飯が不味い!」「風呂が熱すぎる!」「もっと酒を持ってこい!」「その顔は俺をバカにしてるのか?」
こんな調子で、妻に対して暴言を吐くようになれば、それはもうDVである。
こんな酷いDVだったのにも関わらず、女は耐え続けていたのだとか…
ちょっと脱線するが、後に女は、記者会見でこう語っている。
「私はレーンの一番の大ファンで、レーンに何を言われても耐えていた」だとか、
「レーンは俳優の仕事でストレスを抱えていて、私はそれを支えたかった」だとか…。
それでも限界は来るものだ。
ある夜の事、ついにレーンは、妻に対して手を上げたのだ。
原因は、妻が初めてレーンに対して、反抗的な事を言ったからである。
実は、妻はレーンのために、毎日手作り弁当を渡していたのだが、
今日は何故か、レーンが弁当を持って帰ってこなかったのだ。
理由を問いただすと、レーンはこう返した。
「今日のお前はクソ不味いモノしか作れなかったのか?一口食べて不愉快になったから捨ててやったよ!!」
今まで、酒によった時しか強気にならないレーンが、真昼間という酔っていない時間に、妻に対して行った非道な行為。
「酒を飲んで文句を言われるのはいい、でも素の貴方が、私を愛していないというのが分かったわ!ふざけないで!!」
レーンの言葉を聞いて、堪忍袋の緒が切れた妻が、レーンと口喧嘩をし、
それがヒートアップして…レーンは妻を殴ったのだ。
怒鳴りながら何度も何度も殴りかかってくるレーンに、命の危険を感じた妻は、
一瞬の隙を見て部屋に立てこもり、警察に通報したという。
その後、駆け付けた警察とレーンは乱闘になり、
その際に、部屋が滅茶苦茶になって【②ドアの取っ手が取れた】とか、【⑥警察の1人が殴られて舌を噛んだ】だとか、
とにかく酷い有様だったという。
言うまでも無いが、DVの件を問われる前に、警察に暴力を振るったレーンは逮捕された。
こうして、レーンと妻の関係は、警察によって【⑦引き裂かれた】訳だ。
その後、警察の取り調べで分かった事だが、実は女は、少し前からレーンとの離婚を計画していたらしく、
その際に慰謝料を請求するため、ボイスレコーダーにレーンの暴言を記録していたという。
例の「お前は俺より下」発言も、レコーダーに記録されていたものだ。
名俳優レーンが逮捕されたとなると、マスコミはここぞとばかりに過激な報道を始めた。
先ほど話したレーンの暴言とかは、全て「元」妻のボイスレコーダーに入っていた音声だったし、
共演者や妻に対する暴言の情報なんかは、全部マスコミの報道を聞いて知ったよ。
まさかレーンがこんな男だったなんて…って、世間中が絶望し、レーンをバッシングした。
後に、謝罪会見を開いたレーンは痩せこけた姿で登場しし、生気が感じられなかったという。
様々な厳しい質問を喰らったレーンは、最後に「今後俳優としての活動はどうしますか?」と質問されると、
【⑮「もう…どうでもよくなっちゃいました。ハハハ……」】
と、一切の笑顔が無い顔で発言し、これ以降メディアに姿を現す事は無かった。
そう、レーンは一切姿を現さなかった。
ここでやっと「ラテ家シリーズ」の「ヒーロー」の話に戻るんだが、
レーンが逮捕されて以降、ラテ家シリーズにレーンが登場する事は無かった。
妻と警察に暴力を振るった犯罪者を出演させないのは、ごく当たり前の事だが…
番組の公式HPは、レーンが逮捕された翌日には、レーンの姿を「抹消」したし、
3週間ほどは放送を休止し、1か月後には、レーンの「代役」を立てると発表した。
この時の俺の感想が分かるかい?
【⑩「あ……」】の一言だよ。何か言葉を捻りだそうとして、「あ」としか言えなかった。
…仕方のない事だというのは分かっているが、
それでも、皆の知っているヒーローは、もう帰ってこない。
レーンが演じていた、レーンの顔をして、レーンの声をした、あのヒーローはもう帰ってこないのさ。
だが、ここで問題が発生した。
代役がヒーローを演じるようになってから、ヒーローの人気が急落したんだ…!
可笑しな話だろ、監督もシナリオライターも共演者も舞台もドラマに当てられた予算も、何もかもが変わっていないのに、
ヒーローを演じる奴が変わっただけで、一部の視聴者がヒーローに興味を持たなくなったのさ!
「ヒーローは、レーンが演じないと意味が無い!代役が演じるヒーローはヒーローじゃないんだよ!」
「レーンが居ないと、ラテ家シリーズは終わったも同然だよね。もう視聴しないからねー。」
「ヒーロー=DV男 ってイメージが付いてね…もうあのドラマを純粋には見れんよ。」
「共演者たちともトラブルがあったんでしょ?そんな番組でヒーローなんて笑わせるわw」
「犯罪者が出ていた番組が続く事が変なんだよ!こんな番組今すぐ止めさせろ!」
ネットでは、レーンに対する賛否は別として、ドラマを楽しめないという声が多数寄せられた。
レーンが叩かれるならともかく、ドラマの中に登場するヒーローにまで、批判が殺到したんだ…!
…酷い行いをした犯罪者のレーンが、社会から求められないのは当然の事だし、
レーンは社会に復帰するな…そう言われるも、当然の事だ。
だから、もうテレビには出なくなった。それで良いんだ。
でも…どうして…何故!ヒーローまでが批判されなくちゃいけないんだ!
レーンの言動が、どうしてヒーローの人気を落とす事になったんだ!
レーンの暴言や暴力は、ラテ家シリーズのヒーローとは無関係だろう!?
9年間も続いたラテ家シリーズも、ヒーローも、今までずっと愛されていたのに、
演じていた俳優の逮捕で、どうして人気を無くしてしまったんだ!?
…失礼、興奮してしまった。
とにかく、ヒーローは終わったんだ。終わってしまったんだ。
ここで、皆に聞きたい事がある。
長い前置きをしてしまい、誠に申し訳ない…
皆に、質問しようではないか。
『ヒーローに憧れていた子供たちも大人たちも、ヒーローに憧れなくなってしまったんだ。
いったいどういうことなんだ?』
そう聞いたら、「レーンがゴミ箱に残飯を捨てたのが決め手になって妻が反抗し、レーンが暴力を振るったから」だと言われるのが一般論だろう。
それが答えとして成立している事も、知っている。
数多くの人に、「レーンのせいだ」と言われる事も知っている。
でも、俺はそうは思わない。
何度も言うように、レーンの言動とヒーローは無関係だ…無関係なんだ…
レーンが酷い男だったのが事実でも、ヒーローが酷い事をした訳ではないだろう!?
何もかもが、どうでもよくなった中で、唯一考えていた事なのに、
未だに答えが分からないんだ…
なぁ頼む。誰か、俺に教えてくれないか?
この難問の答えを。
【完】
[編集済]
時事ネタですね。私も最近の自粛ムードは、なんかしっくりこないので、読んでいて何度か頷きました。暴力を振るったレーンが裁かれるのは当然ですが、作品には罪がないですからね。語り手の作品に関する入れ込み具合が常軌を逸しており、「ラテ家シリーズ」の関係者なのかな? などと想像して拝読しました。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
男の名はヒロ、高校一年生。
バンドを組んだことで動画配信を始め、そこそこの人気を得て世界的ミュージシャン兼ヒーローを気取っている。⑧①
ある日、男の家の家事をしてくれていた恋人と連絡が取れなくなった。⑦
仕方がないのでコンビニで買ったパンを食べながら、夏休み登校のため通学路を歩いていると、同じく登校中の同級生の女子に出会う。
八月に雪が降るような状況で学校なんて青春を無駄にしているとか、最近炎の超能力が芽生えただとか話していると、ふと男の恋人の話題になった。⑪
彼女は一昨日の夜遅くに車に乗り込んだと聞き、恋人が誘拐されるというアニメ的王道展開に燃え、必ず救い出すと決意。④
男は食べていたパンを捨て、嫌がる同級生を連れて誘拐犯と断定した他人の家にドアノブを破壊し侵入した。②⑤
しかしこれは、上から左に、左から右に右手を振り、そこからアンダースローに繋げる、男が考案し子供に人気のゴミ箱シュート技「Lonely Joker」を見た他の動画配信者に尾行され、生実況されていた。⑭⑨
男は犯罪行為の他にも、同級生の言うアトラスを「あ」ですと聞き間違えたり、それを正そうとしてなんだかんだ舌を噛んだ彼女のせいにしたりと、問題のある行動をリアルタイムで世間に晒すこととなった。⑩⑬⑥
その上、八月に雪が降った原因が恋人の失踪に関係すると考え、巨大な力士像を破壊。③
この像の歯が抜け落ちたため、それについていた氷が落下中に砕けて雪となっていたようだ。⑫
だが、これは恋人の実家が代々守ってきた守護神であり、彼女はその保全のために出かけていたのだった。
破壊を目撃した恋人は「どうでもよくなっちゃいました」と闇落ち姿で登場。⑮
男は愛の力で彼女の心を取り戻す、俺達の戦いはこれからだと騒いでいるし、当の恋人は真っ昼間から公衆の面前でボンデージ姿。
しかも二人の話を総合すると、諸悪の根源は男が炎の超能力で地球温暖化を加速させたことらしく、同級生は頭を抱えた。
以上の実況を見ていた子供たちは幻滅し、動画配信者としての男の名誉は地に落ちた。
【完】
[編集済]
まず、「巨大な力士像」の巨大さに驚きました。「杞憂」の故事の妄想の大きさに合致するような壮大なストーリーで、この短さによくもまとめられたものだと思います(もっとも、これより長くするほうがよほど難しい気もしますが)。「アトラスを「あ」ですと聞き間違えたり、それを正そうとしてなんだかんだ舌を噛んだ彼女のせいにしたり」――犯罪行為以外は、そんなに大したことないんじゃないか、と思っていたら、まさかの地球温暖化の原因でしたか。それは叩かれますね……永久にドアノブを壊される刑に処されればいいと思いました。……地味に重 [編集済]
…オレの名前は、町賀坪之。
仕事はヒーローショーのスーツアクター。①(男の職業は重要)
遊園地や商業施設などでちびっ子たちにキャーキャー言われるだけの楽な仕事さ。
俺の演じる「ライオンマン」はテレビなどでは放送されない舞台限定のヒーローで、演じているのもただ1人オレだけだ。
額に大きく描かれた「L」がライオンマンのトレードマーク。ヒーローショーは毎回大盛況で、その憧れの眼差しと声援をステージ上で独占できるのは悪くない。
まさに俺の人生は順風満帆そのもの。
ちなみに今日は俺が演じる100回目のヒーローショー。
今まで王道アニメよろしくの決まり切った展開を99回も繰り返してきた。④(王道アニメ的な展開)
もうセリフも台本無しで言えるほど慣れたもんさ。
今日も海亀デパートの屋上で悪の組織「カッカイ団」をねじ伏せ、いつも通り子供たちの株を上げるとしよう。
オレはコンビニにでも立ち寄るかの様な軽い足取りでステージへと向かった。
・・・・
何はともあれ、たくさんの子供たちが見守る中、オレの100回目となるヒーローショーは幕を開けた。
しかし開始数分後、ステージ袖で自分の登場を待つオレは、冷や汗をびっしょりかいていた。
…おかしい。司会のお姉さん役がいつもの女じゃない…オレは聞いてないぞ…
オレが焦ったのは急遽キャスティングが変わったことだけが理由ではない。
オレはステージでマイクを持つ司会役の女性を良く知っていた。
あいつは海野カメコ…!オレの元カノだ。昔趣味でバンドをやってた頃のファンだった女…今思い返せばオレは付き合ってた頃あいつに酷い仕打ちをした覚えがある。⑧(バンドを組む)
オレの浮気が原因で振ってから音沙汰なかったが、恨まれていてもおかしくない…幸いオレの顔はマスクで隠れている。カメコにオレの正体がばれないようにしなくては…
大男「がーっはっは!俺様はカッカイ団のリーダー『ヨコヅナン』!俺様のスーパー相撲で、ここにいる全員を捕まえてやるぞお!」③(力士の登場)
カメコ「きゃー!カッカイ団のヨコヅナンよ!みんな!大声でヒーローを呼びましょう!せーの!」
「「「ライオンマーン!!!」」」
オレ「とう!待たせたな!悪の組織カッカイ団リーダー『ヨコヅナン』!お前の好きにはさせないぞ!みんな!このライオンマンが来たからにはもう大丈夫!俺にまかせろ!」
カメコ「やったわみんな!ライオンマンが助けに来てくれたわ!」
急遽決まった代役であろうにも関わらず、カメコがきちんと台本通り実況してくれていることにひとまずオレは安心した。⑨(実況する)
ヨコヅナン「現れたなライオンマン!今回こそは邪魔をさせんぞ!俺様は秘策を用意してきたんだ!」
オレ「なに!秘策だと!?」
正直オレは完全に演技無しで聞き返した。
ヨコヅナンの秘策など台本に無かったからだ。
まずはお前のスーパー張り手をオレがひらりと避け、ライオンパンチでカウンターする流れのはずだろうが。
オレは心拍数の上昇を感じながらも何とか次のセリフをつなげる。
オレ「そ…そうはいくか!俺はカッカイ団を許さない!お前らは…子供たちをさらって、悪の組織の車としてこき使うつもりだろう!?」
やべぇセリフミスった!「悪の組織の歯車」だろ!焦って突然「歯」が抜けちまった!何だよ「組織の車」って!社用車かよ!⑫(突然歯が抜ける)
ヨコヅナン「…まぁいい。俺様の用意した秘策はこれだ!…クイズ対決!」
オレ「く…クイズ対決!?」
まてまていよいよおかしい。なんだよヒーローショーでクイズ対決って!聞いたことねーよ!ていうかお前さっきスーパー相撲とか言ってたじゃん!なに頭脳で勝負しようとしてんだ!
ヨコヅナン「どうした?まさか正義のヒーローが怖気づいたのか?」
カメコ「お願いライオンマン!みんなの為にもクイズ対決で戦って!」
オレ「ぐ・・・」
間違いない。なにか裏で仕組まれてやがる。ドッキリ?…いやこんなデパートの屋上で芸能人でもないオレにドッキリを仕掛ける意味が分からん。いずれにしてもヨコヅナン役の男や監督も全員仕掛け人か…観客も見てるし、ここは流れに乗るしかねぇ。
オレ「い、いいだろう!正義のヒーローは逃げたりしない!」
カメコ「やったわ!みんなライオンマンを応援しましょう!」
「「「がんばれー!ライオンマーン!」」」
何故だか知らんがスタッフ全員でオレをハメようとしてやがる…台本に無いクイズ対決なんて絶対オレが不利じゃねーか。
ヒーローが負けるシナリオにでもしたいのか?だが今はステージの上…とにかく乗り切るんだ。
そしていつの間に作ったのかご丁寧にクイズ解答席のセットまで運ばれてきた。大道具係までグルかよ…
カメコ「では先に5ポイント先取した方が勝利です!行きますよ!」
てかお前が進行するの!?なにヨコヅナンの秘策に加担してんだ!お前はヒーロー側じゃないのか!
カメコ「では第1問!スリランカの首都は?」
<ピンポーン!>
ヨコヅナン「はい。『スリジャヤワルダナプラコッテ』」
カメコ「正解です!ヨコヅナン1ポイント先取!」
そんなん分かるかい!ていうかヨコヅナン回答速すぎか!引くわ!
カメコ「第2問!ある有名な調理器具メーカーが1996年に発明…」
<ピンポーン!>
ヨコヅナン「はい。『取っ手の取れるフライパン』」②(取っ手が取れる)
カメコ「正解です!ヨコヅナン2ポイントリードです!」
問題の途中で答えんなよ!クイズ王かよ!そんで出題ジャンルの振り幅すげーな!
カメコ「ライオンマン、まだ挽回できますよ!がんばって!」
うるせえ!
オレ「もちろんだ…!ヒーローは決して諦めない!」
その後も一般正解率1桁以下としか思えない難問クイズをヨコヅナンが超早押しで連続正解し、ポイントは4-0とオレは完全に窮地に立たされた。
カメコ「ライオンマンピンチです!ここでカッカイ団に屈してしまうのでしょうか!?」
オレ「…いや、正義の心は、決して折れない…!」
いや心は完全に折れていた。
終わった。完全に終わった。どういうわけか今回は全くヒーローらしい活躍をさせてもらえない。ヒーローの活躍は、周りの御膳立てがあって初めて成り立つのだと痛感した。しかし何て仕打ちだ。オレが何か悪いことをしたっていうのか?ステージから降りたら監督にしこたま文句を言ってやる。
カメコ「おーっと!ここで一発逆転チャンスです!なんとこの問題に正解すると…56ポイントが追加されます!」
ヨコヅナン「なんだとぉー!?」
バラエティ番組の定番じゃねーか!なぜ56ポイントかは知らんが、なるほどそういうことか。一度ヒーローをピンチに追い込んで一発逆転ってシナリオだな。そいつは間違いなく王道だ。監督よくわかってんじゃねぇか。後で褒めてやるぜ。
カメコ「しかもこれはライオンマンに関するクイズです!ライオンマンまたとないチャンス!」
オレ「よし!まかせろ!絶対にヨコヅナンを倒す!」
ヒーローは完全に息を吹き返した。御膳立ては十分だ。今回も無事、100回目の正義の勝利を飾ることが出来そうだ。
カメコ「問題です。ライオンマンには、かつてカメコという愛する女性がいました」
オレは耳を疑った。脳も疑った。いまこの女なんと言った…?言い知れぬ嫌な予感に全身に鳥肌が走る。
カメコ「ある日、カメコはライオンマンのために一生懸命手料理を作りました。その時ライオンマンの取った行動は次のうちどれでしょう?」
オレの正体がバレている?いやバレていたとして何だこの演出は…なぜオレはヒーローショーで過去の女の話を暴露されているんだ。ここにいる全員この女の協力者なのか?なぜ?どうして?
俺の頭はかつてない速度で回転していたが処理が全く追いつかない。カメコは問題を読み続ける。
カメコ「3つの選択肢から正解を選んでください。
(あ)『こんな残飯が食えるか!』と怒鳴り料理をゴミ箱に投げ捨てた。
(い)『美味しい!』と嬉しそうに手料理を残さず食べた。
(う)お腹を空かせた子供たちを家に招き、みんなに分けてあげた。
さあ、どれでしょう?」
動脈に液体窒素を流し込まれたように急速に血の気が引いていく。
頭がクラクラする。呼吸も荒くなり、意識を保つのがやっとだ。
何が起こっている?ここはヒーローショーで、オレはライオンマン、観客が観ている、あいつは元カノ、視界が霞む、汗がすごい…あれ?これって夢?オレは何をしてるんだっけ?
カメコ「ライオンマン!答えが分かったらボタンを押してください!」
ハッと正気に返る。冷静になれオレ!なぜこんなことが仕組まれたのか今考えても仕方ない!とにかくこの瞬間を乗り切るんだ!
後のことはどうにでもなる!この女が嘘をついてるって何とかして言いくるめちまえばいい!
オレは本当の答えを覚えている。自分の過去の行動だから当然だ。しかしそれを答えるわけにはいかない。なぜならオレはヒーロー!子供たちが憧れる存在だ!
ヒーローが選ぶべき選択肢は、(い)か(う)だな。ここは(う)の方がヒーローっぽいか。よし、(う)でいくぞ!とにかく絶対に正解の(あ)を選ぶわけには・・・
<ピンポーン!>
「『あ』です」⑩
俺の思考回路が最善の選択肢をはじき出す前に、ヨコヅナンがボタンを押していた。
カメコ「…正解です。ヨコヅナン56ポイント獲得!」
オレ「う、嘘だ!この女は嘘をついている!お…お前さては悪の組織の一員だな!?」
オレはしどろもどろになりながらもあわてて否定する。ふざけるな!こんなところでオレの人生の邪魔をするんじゃねぇ。そうはさせるか!オレはヒーローの地位を守り続けるんだ!
カメコ「いいえ本当です!なぜなら私がそのカメコだからです。私はこの男、『町賀坪之』に振られました!付き合っている間も散々な仕打ちを受け続けていました!」
カメコはオレを指差しながら、マイクを通してはっきりとオレの名を呼んだ。
ついに本名まで出しやがった。くっそぉ!なんでオレがこんな目に遭わなきゃならない!考えろ…考えろ!嘘でも出まかせでもいい、何とかして自分の理を通すんだ!
言い逃れる方法…何か無いか?…しかし「町賀坪之(まちがつぼゆき)に振られました」ってはっきり言われちまった。聞き間違いなんかじゃねぇ…聞き間違い?…そうだ!
オレ「ま…は…『8月の雪に降られましたぁ?』へ、へーお姉さんの住む場所では8月に雪が降るんですねぇ。め、珍しいですね!あはははは!」⑪(8月の雪に降られる)
苦しい。非常に苦しいが他に策が浮かばなかった。オレはカメコの発言を聞き間違えたことで押し通す暴挙に出た。さすがに無理があるが、どうせ観客のほとんどは子供。ヒーロー補正で何とか誤魔化しきってやる!⑬(聞き間違え)
カメコ「あなたは自分の過去の過ちを認めようとはしないんですね」
カメコは静かに、しかし毅然とした態度でオレをじっと見つめる。
オレ「お、俺は正義のヒーローライオンマン!俺はいつだって正しい!過ちなど犯すはずが無い!」
オレは引き下がらなかった。大丈夫、まだ何とかなる。オレには確実に子供たちの歓声を引き起こすことのできる切り札が残されているんだ。
ヨコヅナン「まぁ本物の正義のヒーローなら、ピンチになったら変身できるはずだな」
ここでヨコヅナンが助け舟を出してくれる。ナイスだヨコヅナン!
ライオンマンはピンチに陥ると、額の赤い「L」のマークを外す。そしてそこには黄金に輝く「L」のマークが現れる。
こうすることで「ライオンマン」は「ゴールデンライオンマン」へ変身することができ、100倍のパワーを発揮できる設定なのだ。この変身する瞬間が1番会場が盛り上がるのである。
「ゴールデンライオンマン」に変身しちまえばこっちのもんさ。不可能も可能にするヒーローの威光で子供たち全員味方につけてやる!
オレ「くそぅ、いいだろう!ライオンマン真の姿を見せてやる!…変!身!」
オレは勢いよく額の赤い「L」を外す。
オレ「百獣パワー覚醒!ゴールデンライオンマン!!」
オレは観客席に向け、いつもの決めポーズを見せつける。
当然会場は大盛り上がり、「ワー!キャー!」と爆発的な歓声が巻き起こる。
ここからヒーローの逆転劇が始まるのだ。
・・・本来であれば。
しーんと静まる観客席。ぽかんと口を開ける子供たち。時間が止まったのかと錯覚するほどの沈黙。
数秒して子供たちの不安そうな声がざわざわと聞こえ始める。
「『L』じゃないよね?逆だよね」
「ぼくわかる!あれ『L』じゃなくて『J』だよ『J』!」
「それにいつもみたいに金ピカじゃなくない?」
「なんか茶色みたい!茶色の『J』!」
「ちがうよあれは『銅』っていうんだよ。銅メダルの銅だよ」
「金じゃなくて銅なのー?なんでー?」
子供たちのざわめきで異変を察し、オレはとっさに舞台袖にある鏡の方を向き、自分の姿を見る。
俺の額に描かれたマークは銅色の「J」だった。
金の「L」のはずだろ…それが銅の「J」?
「L」を外したらその下が「J」ってどういうことだよ…⑭(Lの下はJ)
は?どういうこと?何が起きている?あれ?やっぱり夢?
子供「ねぇこれ誰ー?『ゴールデンライオンマン』じゃないのー?」
会場からの声にオレは慌てて対応する。
オレ「い、いや…俺はもちろん、『ゴールデンライオンマン』だよ!ちょっとマークが違うけど、実はこれでも大丈夫なんだ!うん!俺は『L』でも『J』でもライオンなんだよ!ははは!詳しくは秘密だけどね!えーと…あと色も別に金じゃなくても大丈夫になったんだ!昨日からね!『銅』でもよくなったんだよ!」⑮(どうでもよくなっちゃう)
ああもう無理だ。流石にもう理屈がめちゃくちゃだ。ていうか理屈すらない。どうしようもねぇ。「銅の『J』」って「ゴールデンライオンマン」に全くカスってないじゃねーか。この状況でどう取り繕えばいいんだ。あぁもしヒーローがいるのならばどうかこのオレを助けてくれ。
ヨコヅナン「あー!思い出した!お前は!」
ヨコヅナンのわざとらしい大声で会場の沈黙は破られた。
ヨコヅナン「お前は悪の『ブロンズジャック男爵』だな!人の心を引き裂くという『引き裂きジャック』とはお前のことだろう!額の『銅のJ』がその証だ!」⑦(ひきさかれる)
オレ「え…?『引き裂きジャック』?何を言ってる…俺は悪の組織『カッカイ団』を倒す正義の『ライオンマン』…」
ヨコヅナン「お前なにか勘違いしてないか?『カッカイ団』は子供たちを捕まえて皆で一緒に遊ぶためのチームだぞ。悪の組織なんかじゃない。毎回『ライオンマン』に邪魔されていたが、俺様は子供たちと楽しく遊びたかっただけなんだ。誰も仲間外れにしない。みーんな捕まえて皆で楽しく遊ぶのが目的なんだ」
オレ「いや、あの…でも『ライオンマン』は正義のヒーローで…」
急に新しい情報が増え過ぎて考えが全くまとまらない。
カメコ「わかったわ。『ライオンマン』は『引き裂きジャック』の仮の姿!『カッカイ団』と子供たちが楽しく遊べないように、その仲を引き裂くのが目的だったのね!」
オレ「いやいや違うって!俺は『引き裂きジャック』なんかじゃない!誰のことも引き裂いたりしない!」
分かっていたが、もう誰もオレの味方をしてくれない。四面楚歌の音圧がすごい。
カメコ「少なくとも私の心は間違いなく引き裂かれました」
カメコ「はっきり言います。あなたはヒーローなんかじゃない!今まで自分勝手に振る舞い、たくさんの人の心を引き裂いてきた最低な男です!」
カメコは両目に涙を浮かべながらオレを睨みつけてくる。
「そうだそうだー!」
「私も引き裂かれましたー!」
観客から上がる声にオレが向き直ると、客席に見覚えのある顔がちらほら見えた。
あいつは大学時代に付き合っていたラテコ、後ろにいるのは確か3股かけてた時のウミミ。
他にも名前がパッと思い出せないが、オレの遍歴を知る女が何人も目に入った。
自分で言うのも何だがオレはルックスが良くトークスキルも高い為、誇張なしに昔からモテた。
誰かと付き合ってもすぐに新しい子を見つけては振り、二股以上かけていることも多かった。
女癖が悪いと仲間内でも悪評が立っていたがオレは気にも留めなかった。
女性を泣かせたことも確かに数えきれないが、感覚がマヒしてたオレに罪の意識は薄かった。
そしてそのオレに心を引き裂かれたという被害者たちが、この会場に集まっていたのだ。
「ライオンマンさいてー!」
「お姉さんかわいそうー!」
「ヨコヅナンと遊びたーい!」
客席から沸き起こる子供たちのオレへのブーイング。万事休すか。
過去の自分の軽率な振る舞いが積もり積もって今になって回ってくるとは。
神様ってのはちゃんと見てるのかもな。これ以上あがいても仕方ない。オレは覚悟を決めた。
「悪は必ず裁かれる!」ライオンマンが毎回ショーの最後に言う決め台詞だが、まさにその通り。
今この場で裁かれるべき「悪」はこのオレだ。ここはオレの輝くステージではなく、公開処刑場なんだ。
オレだって腐ってもスーツアクターの端くれ。最後まで自分に課された役を全うするさ。
オレ「げーっへっへっへ!見破られたのなら仕方ない。いかにも私が『引き裂きジャック』こと『ブロンズジャック男爵』だ!『カッカイ団』!貴様らと子供たちを引き裂いてやる!」
悪役のセリフがスラスラ口から出る辺り、オレはそもそもヒーロー役に向いてなかったのかな、とふと考える。
「「「がんばれー!ヨコヅナーン!!」」」
ヨコヅナン「悪の『引き裂きジャック』め!俺様の『スーパーぶちかまし』を受けてみろ!うおおおおお!」
ヨコヅナンの巨体が突進してくる。ヒーローのオレならひらりと避けるところだが、今のオレにその資格はない。
今までの自分への罰として、正義の鉄槌を甘んじて受け入れよう。
…ってまさかヨコヅナン本気で来ないよな?突っ込んでくるスピード全然落ちないけど…
え?軽く当てるフリだよね?ウソ?ガチで来るの?無理無理無理!確か元力士でしょ?体重100㎏超だよね?
やばい・・・よけ・・・死・・・
ドッパァァン!
それは「史上稀に見る見事なぶちかましだった」と偶然居合わせた関係者は後に語る。
・・・・
数時間後、意識を失っていたオレは医務室で目を覚ました。
「お、起きたか」
ベッドの傍らにはヒーローショーを取り仕切る監督がひとり座っていた。
オレ「監督…?いてて…」
監督「大丈夫か?医者の見立てでは気を失っていたものの目立った外傷は無いから心配ないとのことだ」
オレ「そうすか…これ、全部監督が仕込んだことなんすよね」
監督「坪之くん。黙ってこんな事をして悪かったね。実は海野カメコさん他数名から君の過去について投書があってね、僕も最初は耳を貸さなかったんだが、証拠となる写真やメールを見せられて信じるしかなかった。『手料理をゴミ箱に捨てる』のも酷いが、それ以外にも散々泣かせてきたそうじゃないか。それも1人だけじゃなく多くの人を。君はアクターとして優秀だから過去のことには目をつぶろうとも思ったが、子供たちに憧れられるヒーローがそんな男ではいけないと思ってね。みんなにも協力してもらって制裁させてもらうことにした。悪は必ず裁かれる。これが僕がヒーローショーを作る上での譲れない信条だからだ。手厳しいやり方になってしまったことは許してくれ」
オレ「…やり方には驚きましたが、まぁ流石のオレも身に沁みましたよ。当然オレはもう降板なんでしょう?」
監督「残念ながらね。今後は『カッカイ団』が子供たちと楽しく遊ぶショーを作る予定だ」
オレ「はっ…そうですか。まぁオレにはもう関係無いっすけどね。今までお世話になりました」
オレは捨て台詞を吐いて医務室を後にし、帰路に就いた。
肩と腰がまだ少し痛むが、今までオレが傷つけてきた心の痛みと比べたらきっとあまりにも軽すぎるんだろう。
まさにオレの人生は順風満帆そのもの。…だった。
たった1日でそれは失われた。今思えば一瞬の夢だったようにすら感じる。
自業自得なのは分かっているが、オレはどうしても苛立ちが抑えられない。
「クソっ…カメコさえ現れなければ…チクショウ…」
オレはブツブツと恨み言を呟きながら帰り道を歩いていた。
「すみません、ちょっといいですか?」
自宅付近の道で、誰かが俺の肩を叩く。
「うるせえ!オレはイラついてんだ!」
バキッ
オレが勢いよく振り払ったせいで声をかけてきた男のアゴにオレのヒジが思いっきり入ってしまった。
「ぐっ…」
不意打ちのエルボーを食らいよろける男の服装をオレはよく知っている。
警察官だ。…やばい。逃げよう。
気が動転したオレは咄嗟に走ってその場を離れようとした。
警官「こら待て!」
しかし身体を痛めているせいもあってあっさり追いつかれてしまう。
警官「こらこら、手を上げてまで職務質問に答えたくない理由でもあるのか。暴行罪および公務執行妨害に当たる恐れがあるぞ」⑤(犯罪要素)
あぁなんて1日だ。神様はやっぱり見ているんだな。
悪は必ず裁かれる。
オレは無性に、あのライオンマンの決め台詞を叫びたくなった。
オレ「悪は、必ずサバが出る!」
大事なところで何だかんだ舌を噛んだ。⑥
やっぱりオレは正義のヒーローには向いてないのかもな。
警官「何を訳の分からないことを叫んでるんだ。とりあえず近くの署で話を聞くから」
・・・
10分後、警察署の個室でオレは警官と向かい合っていた。
警官「それで、なんで警官を殴ってまで職質から逃げようとしたんだ?」
慣れた手つきで調書にペンを走らせながら警官が聞いてくる。
オレはなんだか何もかもどうでもいい気分になっていた。
「へっへっへ…警官さん。長くなるけど聞いてくれるか?オレの最悪な1日の話をよぉ…」
警官はオレのぶしつけな態度に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが、ひとつため息をついてこう言った。
「いいから全部話してみろ。まずは、名前と職業から教えてくれ」
オレは今日のことを思い返しながら軽く天井を仰いだ。
そしてゆっくり息を吸い込み、長い長い供述を始める。
【※1行目へ】
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「「あ」ですか?」を選択肢として回収した腕が光ります。「どうでもよくなっちゃう」も、他の作品とは違った趣きがあり、秀逸です。「身に沁みた」といったあとに暴力を振るうなんて、〝オレ〟も懲りない人ですね…… 二作品の投稿、お疲れ様でした。両方とも別々の面白さがあり、物語の構成の妙が見事です。 [編集済]
こんにちはー、“ひらがな47”リーダーの「あ」です⑩!
あれ?“ひらがな47”ご存じないですか?……そうですか(´・ω・)、よし!では、グループの説明からはじめますね!
“ひらがな47”は46~48人のアイドルグループです。それぞれメンバーはひらがなを名乗っているんですよ!
えっ?人数に変動があるのはなぜかですか?それは「ゐ」と「ゑ」がいたりいなかったりするからなんです。半分いて半分いないってことで0.5人換算でグループ名も47です。某グループ達の間をとった訳ではないですからね!本当に!
ライバルは“カタカナ47”です。おわかりかと思いますが、メンバーがそれぞれカタカナを名乗っているグループです。……あっ、そっちも知らない?プロデューサーは同じなんですよー。もうひとつ姉妹グループに「ラテン文字とアラビア数字」ってグループも……知らないですよねー。
ライバルと言いながらも同じプロデューサーにプロデュースされてるアイドル同士で実は仲が良いんです!でも、“ひらがな47”と“カタカナ47”は音にすると名前が全く同じなので、みんななんとかキャラの区別をつけようと一生懸命なんですよ(・`ω・)。
「い」はなんだかんだ舌を噛んで⑥自分のひらがなを言ってみたり、カタカナの「カ」は「カ」と「力(ちから)」って似てるよねって力士キャラ③になってみたり……。ひらがなの「へ」とカタカナの「ヘ」はもういっそひきさかれた⑦双子キャラでいこうかとか。
似た見た目でいうと「J」と「し」もよく似てるよねーって話題になりますね。ただ「L」が顔文字にしたとき自分の方が鼻が高いって下にみてくる⑭らしくてよくケンカしてるんですよー、あの二人。あっ、どうでもいいですか?⑮まぁまぁ、そう言わずにもう少しお話聞いてください><。
“ひらがな47”のメンバーでは、“KARADA no ICHIBU”というバンドを組んでみたり……⑧体の一部ってことでメンバーは「目(め)」「歯(は)」「胃(い)」「毛(け)」「手(て)」の五人だったんですけど、突然「歯(は)」が抜ける⑫って言い出して、そしたら「毛(け)」も「手(て)」と聞き間違える⑬し漢字の見た目も似てるから自分もいない方がいいんじゃないかとか言い出して、大変だったんですよー。歯と毛が抜けたら、レレレのおじさんみたいじゃないですか!まぁ、いろいろあって今は団結してがんばってます④(・`ω・)。
で!キャラ付けに一番成功したのはカタカナの「ヒ」なんです。「ヒ」は「ーロー」っていう顔文字をつけて「ヒーロー」を名乗ったんです!
ヒーローの名のもとにいろんな依頼を受けてスゴかったなー。8月に雪を降らせたいという依頼を受けて、「布団が吹っ飛んだー」とか「トイレにいっといれ」とか「取ってを取ってしまったー②」とか寒いギャグをたくさん言ったり、……結局は南半球に行って雪を見ました⑪けど。あと、少年野球の実況中継とかも依頼されてましたねー。うまいこと選手をのせてくれるって評判で子どもたちに人気だったんですよ!
でも、プロデューサー①が町のゴミ箱にお弁当の中身を捨てているのを動画に撮られて大炎上しちゃって……。そこでは猫が荒らすからって、食べ物を捨てたら罰金⑤を払わないといけなかったんです。しかも、プロデューサーはメンバーの食べ残しを捨てたとか言い訳するから、その影響でメンバーの人気もがた落ちしちゃって……。……もともとそんなにある人気ではないですけど、少し子どもたちに人気だった「ヒ」にも依頼が来なくなっちゃって、大変なんですよ!
……それで、本題なんですけど、このプロデューサーをなんとか更正させるうまい方法はありませんか?手段は問いません。よろしくお願いいたします。
【おわりだよー】
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〝KARADA no ICHIBU〟がツボにはまって、しばらく笑い転げていました。そしてそこから〝歯が抜ける〟の要素回収。同じ平仮名同士でも「ゐ」と「ゑ」と「い」と「え」、あるいは「お」と「を」は耳だけだと区別がつきませんね……。「うぃ」「うぇ」「うぉ」とか発音しているのでしょうか? 作品全体がコメディ・テイストで、まんべんなく笑うことができました。作品投稿、お疲れ様でした。 [編集済]
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月村ひかり。
18歳。
県立星辺高校3年1組21番。
背が高く、髪が長い。
基本的に図書室で本を読んでいる。変なタイトルの本が多い。
嘘が好き。
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「なんだ、後輩くん。今日もサボりか?感心しないな。」
「先輩だってサボりでしょうが。」
「いやいや、私は今日は体調が悪くてね。とてもじゃないけど授業は受けられないさ」
「体調が悪い人は図書室じゃなくて保健室か家で寝てるんじゃないでしょうか?」
「ははっ。全くもってそうだな。サボり者同士、仲良くしようじゃないか」
何気無い会話を交わす。
この高校の図書室は学校の隅にあり、教師は授業に出ているためにこの時間には誰もいない。
だから、僕はこうやって授業をサボる為に図書室にいる。
「・・・ねえ先輩。何読んでるんですか?」
「後輩くんには表紙が見えないのかい?見たら分かるだろう。」
「いえ、見たら分かるから聞いてるんです。なんですか『今日からキミもダジャレ大王』って。」
「あぁ。これは本格派ミステリーの第一人者『原 米志』先生の遺作でだな・・・。驚く事に、犯人は主人公の中国人探偵なんだ。主人公は超能力でワイングラスに複雑な毒を仕込んだのさ。」
「私は先輩の嘘にどこから突っ込んだらいいのでしょう。
唐突に犯人をバラされたことでしょうか。ノックスが聞いたらグレネードランチャーぶっぱなしそうな本格の"ほ"の字も無い内容でしょうか。」
「まぁ、少々物事を小難しく考えてしまうタチでね。ユーモアを持とうと思ったのさ。
こういう洒落を極めたら、クラスの人気者間違い無し!後輩くんもそうは思わないかい?」
「クラスの人気者は授業をサボりません。あとクラスで急にダジャレ言い出したらただのヤバい人です」
「失敬な、私だって真面目にやっているんだ。1度聞いてみろ。君は笑いが止まらなくなって歯が全部抜けるぞ。」
「そこまで言うなら聞いてみようじゃないですか。」
「あぁ聞かせてやるとも。私のユーモアセンスに震えるがいい!!!
『取っ手を取って』」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・
「『取っ手を」
「いや2度も言わなくていいです。十分に分かりました。先輩のユーモアセンスを十分に味わいました。」
「む。そうか・・・ちなみに、これとは別に早口言葉も練習してある」
「ダジャレといい早口言葉といい、何を目指しているんですか」
「将来の夢は総理大臣になってきのこの山派を法的に罰することだ。」
「はいはい。それは大層立派な夢ですこと。で、聞かせてくださいよ。早口言葉」
「あぁ聞かせてやるとも!私の滑舌に震えるがいい!」
「なんかそれさっきも聞きました」
「にゃまむぎにゃまごめにゃまたま・・・・・・・・・忘れてくれ」
「なにこの可愛い生き物」
赤くなる先輩と、それを見つめる後輩の僕。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
________________________________
月村ひかり。
18歳。
嘘が好き。
「The" joke" should be hidden under the" lie "___嘘は冗談と交えて。スペインのSF作家、ハルク=メッシの名言だ」
「ファーストネームが2つとは、さすがSF作家。日本人で言えば たかし=さとし ですよそれ。」
「まぁ、この嘘も冗談ってことさ」
「本当に好きですねぇ。」
今日も僕と先輩は図書館で言葉を交わす。
「そういえば、なんで先輩はそんなに嘘が好きなんですか?」
「んー、後輩くん。君は『ヒーロー』に憧れるかい?」
「ヒーローっていうと、悪を倒す、みたいなアレですよね。そりゃあ子供の頃は憧れてましたけど。」
「じゃあ、そのヒーローに、例えば何か一つ良くない面があったとしたら?」
「えっと?どうなんでしょう。」
「例を挙げるとしよう。
ある男は悪から世界を守るヒーローだとする。子供達は彼に憧れていた。そんな子供達が例えば彼がゴミ箱に残飯を捨てたところを見てしまったらどうだろう?それを写真で撮られ、拡散などされたら?」
「・・・確かに、陰を知ってしまった訳ですから、憧れは薄れるかもしれませんね。それが、どうかしたんですか?」
「人間の悪い所さ」 先輩は本から目線を落とさずに言う。本の表紙には『力士をたずねて3000ちゃんこ』と書かれていた。
「人間は目と目で向き合っているようには見えても、結局は他人を自分のイメージでしか見られていないのさ。だから、イメージに外れた行動をすると『こんな人だとは思わなかった』なんて糾弾する。ははっ、勝手だろう。」
「それが、先輩が嘘が好きな理由とどう関わってくるんですか?」
「イメージと違うことが良い印象を与えることもあるだろう?」先輩は持っている本を掲げる。
「【ギャップ萌え】だよ。こんな清楚で美しくて大人しそうに見える人間が洒落が好きでお喋りな嘘つきだとしたら、それは素敵だとは思わないか?」
「清楚でって部分はちょっと突っ込みたかったですけど・・・まぁいいです。
どうなんでしょうね。というか、それも嘘なんじゃないですか?ギャップ萌えとか狙ってなくて、それが先輩の素なんでしょ」
「バレたか」なんて、先輩は笑いながら舌を出す。
「そんなに嘘ばっかりついてると、舌を切られちゃいますよ」
「あぁそれは問題ない。既に切られてるよ」
____『縁』をね。
自分の背筋に寒気がするのを感じた。
「切るといえば、そろそろ髪も切ろうかな。」
髪を弄びながら、先輩が変わらずニコリと笑う。
チャイムが鳴った。
________________
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月村ひかり。
最近、早口言葉の練習を諦めた。
相変わらず嘘が好き。
「なぁ後輩くん、バンドを組まないかい?」
「・・・いきなりどうしたんですか。」
「いや、最近バンドの映画を観たんだが、恥ずかしながら凄く感動してね。これはもうバンドをやるしかないだろ?」
「前後関係ってご存知ですか?」
「え?聞き間違いだったら悪いが、今バンドを組むと言ってくれたかい?」
「聞き間違いだったら悪いのは先輩の耳ですね。『前後関係』と『バンド』『組む』 どこに似てるところが?」
すると、先輩は真面目な顔で、
「私もあと1ヶ月もないうちに卒業するだろう。そうすると、私達も引き裂かれてしまうだろう?思い出作りくらいしたいんだ。」
「先輩・・・・・・」
「と、いう訳だ。どうせ面倒くさがりな後輩くんは楽器が出来ないだろうからボーカル、私も楽器が出来るわけがないからボーカルだな。
さて。バンド名『あ』の結成だ!」
「バンドって何でしたっけ」
先輩が舌を出して笑う。またお決まりの嘘らしい。
「まぁ、思い出を残したいのは本当だな。ここで本を読んでばかりの3年間だったが、この学校に思い入れが無いことも無い」
「よくそれで卒業出来ましたね。
そういえば、聞いたこと無かったですけど進路って決まってるんですか?」
「文学部への進学は決まっている。」
「おお凄い。文学部っていうと、言語とか哲学とかですか。先輩にぴったりですね」
「本が読めそうって理由だけで選んだ。将来は作家になって印税で生活したいな」
「ふふ、そういうところも合ってると思いますよ。作家も先輩っぽくて良いんじゃないですか。」
でも、授業に出ないで留年はやめて下さいね、と冗談めかして言う。
しかし、思い出作りか。
何をしたら喜ぶだろうか、なんて考えていたら、チャイムが鳴った。
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かと言う僕も留年なんてしてしまっては困るので、たまには授業に出る。今は休憩時間だが。
授業に出る、なんて言っても、考えているのは先輩の思い出作りに何をするか、ということだ。
高校生女子の喜びそうなものをプレゼントする、とかはどうだろうか?
今時の高校生女子の喜びそうなもの・・・周囲に、耳を傾ける。
『__の動画、見た?凄いから見てよー。』 動画実況、だろうか?
先輩と僕で何か動画を作る?もしくは僕が何かに挑戦して、それを動画にする? いやいや、先輩はそういうのが好きな人ではないだろう、多分
『ネイルやったんだー。ほら、見て。』
ネイルとか、アクセサリーも先輩の趣味には合わないような気がする。
『ねぇ、アイツこっち見てるよ。』
『うわ、ほんとだ。気持ち悪。』
『そんなこと言わない。襲われるよ』女子高生__名前は、何だったかな? が、こちらに気づいたようで、指を指して睨みつける。最悪だ。
『アイツ授業サボってるじゃん?なんかその時3年の女子とつるんでるらしいよ。』
『あ、知ってる。月村ひかりでしょ。そいつもアイツと一緒で、1年からクラスでハブられてるらしいよ。』
『マジで!?いじめられっ子同士、お似合いじゃん。』
____え?
先輩も、クラスで・・・・・・
この間の会話が蘇る。
『そんなに嘘ばっかりついてると、舌を切られちゃいますよ』
『あぁそれは問題ない。既に切られてるよ
____『縁』をね。 』
縁を切られているというのは、クラスでの事。先輩も僕と同じで、居場所がないから、そんな環境が辛くて図書室に・・・・・・?それは分からない。
でも、色々考えて分かった事がある。
月村ひかり。
18歳。
県立星辺高校3年1組21番。
背が高く、髪が長い。
基本的に図書室で本を読んでいる。変なタイトルの本が多い。
嘘が好き。
・・・それで?他は?長い時間先輩といて、分かった先輩の特徴は?
僕は、先輩の事を、あまりにも知らなかった。
________________________________
ある男がいた。
男はヒーローとして子供たちから、人々から憧れを受けていた。
しかし、ある日、子供たちは彼がゴミ箱に残飯を捨てていた所を目撃した。
噂は瞬く間に広がる。この情報化の時代、人々は呟かれた噂を拡散していく。
ヒーローへの信頼も瞬く間に失われる。非難の声が国中から飛び交う。男の守りたかった、居たかった大切な場所から、大勢が男を否定し、嘆く。
そんな時、男はどうするだろう。僕なら分かる。きっと、居場所から、逃げることしか出来ない。
ヒーローを倒したのは皮肉にも悪の怪人ではなく、守りたかった居場所の不特定多数になってしまった。
___僕もきっとまた、その男だろう。いや、僕は彼のように善人になれない。ヒーローの力を持っていたら、ヤケになって不特定多数を攻撃し、犯罪に走っていたかもしれない。
だが、本質は変わらない。僕に植え付けられた悪いイメージ__僕の場合は、入学早々つけられた根も葉もない噂 1つで、クラスの人々は真偽も問わずに離れて行ってしまった。
クラスメイトの蔑む目、笑う声、さされる指・・・・・・居づらくなった僕はある時に授業から抜け出し、図書室に逃げ込んだ。
そして、そこには__
「おや、君も授業をサボったのかい?感心しないな」
「・・・・・・ほっといてくださいよ。」
先輩がいた。彼女は本を閉じ、こちらを向くと、
「そうだ。君、8月には雪が降ると思うかい?」
「はぁ?何ですか、いきなり。降るわけないでしょう」
先輩は笑うと、「そうだろう、そう思うだろう。だが、私は見たことがある。暑くて、今にも溶けそうな温度の中、冷たい雪が降ってくるのは至福そのものだぞ。」
「あぁそうですか。すいません、どうでもいい上に今虫の居所が悪いんで話しかけないでもらえますか。
ってか、嘘でしょそれ。」
先輩は__最近見たように、舌を出して笑って言う。「ははっ、バレたか。」
それから、先輩は僕が来る度に僕に話しかけ続けた。どうでもいい唐突な話題、そしてそこに紛れる嘘。僕が話すのを拒否しても、どうせ嘘だと言っても、サラッと受け流し、どうして僕に構うのか、なんて言っても、嘘で誤魔化し、また笑うのだ。
そこから、よく今の関係になったものだと思い返して僕も笑う。
きっと、先輩も僕と同じ、『ヒーローの男』そのものだ。『嘘つき』というイメージかだけで、クラスから疎外され、僕が高校に入学していない時から、あの図書室で、1人でいたのだ。
___あんなに、素敵な笑顔をしているのに。
「っ!!」僕は驚く。
そうか、僕は、先輩のことが・・・・・・
________________________________
3月の中頃。桜の咲く頃。
3年生の、卒業式の日。
「先輩、ご卒業おめでとうございます。」
「あぁ、ありがとう。それで、どうしたんだ?こんな所に呼び出さないと伝えられない用件か?照れるな」
決意を決めた僕は、王道アニメの展開のように、朝、先輩の下駄箱に『先輩、卒業式が終わったら体育館裏に来て下さい』とだけ書いた手紙を置き、先輩を呼び出した。
「ほら、先輩は僕に言ったじゃないですか。思い出を残したいって。」
「あぁ、言ったな。」
「で、それから僕は考えたんです。どんな事をしたら先輩の思い出になるだろうか?って。何をしたら先輩は喜んでくれるだろうか?って。
例えば贈り物だったら、どういうものが好きなんだろう?って。」
僕は続ける。「でも途中で、そういうのどうでもよくなっちゃったんですよね。」
「ははっ、」先輩は笑う。「って事は贈り物無しか?別にそれでもいいさ、後輩くんといれたことは、十分思い出に」
「いえ、贈り物はありますよ。贈り物と言えるか分かりませんが・・・」
僕は、思ったより先輩のことを知らなかった。
でも、これだけは分かる。
「先輩、好きです。大好きです。」
先輩の目が見開かれる。「え、後輩くん・・・え?なんで、嘘だよな_」
「先輩みたいに嘘はつきませんよ。贈り物をするってなったときに、先輩なら何がいいかわからないから、先輩の特徴を1個ずつ挙げてみたんです。背が高くて、髪も長くて、嘘が好きで__僕が好きな人でした。なら、もうこれは告白しかないなーって。」
「えっちょ・・・後輩くん、前後関係って知ってるかい?」先輩が狼狽えながら言う。いつもなら僕が言いそうなセリフだ。
僕は笑って、
「ふふっ、それもそうですね。」
「いや全く・・・」先輩は、涙混じりになった笑顔で答える。
「最後の最後に、物凄い思い出を残してくれたものだ。ありがとうな、後輩くん。
それで、私の答えは・・・」
_______________________
人は、目と目を合わせていても、人の内的な面はイメージでしか見られない。
ヒーローに悪い陰を見てしまった子供は、ヒーローを蔑むかもしれない。
そんな憧れを失った子供たちに、僕は、今ならきっとこう言える。
「いったい何故?」
【完】
[編集済]
「基本的に図書室で本を読んでいる。変なタイトルの本が多い。/嘘が好き。/・・・それで?他は?」のくだりの「嘘が好き」が、とても利いていますね。人をダマすための嘘、自分を誤魔化すための嘘。きっと先輩は、最後の答えだけはどちらもつかなかったのでしょう、なんて思います。あるいは「冗談と交え」た嘘はつくかもしれませんが、はてさて。前回の創り出すで、私はごがつあめさんの作品に〝境界の意識〟という言葉を使ってコメントしましたが、今回読んでいて、境界というよりも疎外的なイメージなのかな、と考えをあらためたりしました。 [編集済]
遠い未来、遥か彼方の銀河系……
音楽が悪の組織ミュートンタによって滅ぼされようとしていた!
音楽を守るべく立ち上がったある5人のミュージシャンがチームを組んだ、その名も……⑧
《クレナイ戦隊 Xジャパン》
「やり直し」
「ええっ!! 企画書も見ずに!?」
「当たり前だ、こんなんアウトだ。フォーエバー却下だ」
亀田Pは静かに言った。
海山Dはショックを受けた。だがすぐに持ち直し、企画書を再び亀田Pに見せた。
「な、名前は替えますから中身だけでも見てくださいって! キャラとかも練ってきたんですから」
「仕方ない、見せてみろ。どれどれ、レッドは……」
《ギターレッド トシ》
「アウトっつってんだろ!!」
「ちょ、だから名前はこの際置いといてくださいって。設定とか見てくださいって」
《ギタリストの父親に憧れてギターを始める。父親を捜すためにXジャパンに加入、才能を見込まれてリーダーになる。ギターソロのように熱く目立つ戦い方が特徴》
「……まあ、王道の主人公だな。父親はいずれ出てくるのか?」
「終盤で敵の幹部になった父親が出てきます」
「おお、王道の展開だな。なんかほっとしたわ」④
亀田Pはひとまず安心した。名前はともかく主人公やキャラクターの設定は悪くないと考えた。流石は数々の名作を生み出してきた海山D、名前はともかく可能性に関しては益々期待できる。
「どれどれ次はブルーか……」
《ベースブルー ヒース》
「おいもうこれ名前読めてきたぞ」
「まあまあ、名前は替えますって……」
《サブリーダーで参謀、まとめ役。一人で突っ走りがちなレッドをいさめられる唯一の人物。ベースのようにクールで静かだが不思議な存在感のある戦い方をする》
「まあ悪くない。チームを陰で支えるキャラクターは地味ながら母親層には人気も出る。イケメンの俳優を使えばファンもちゃんとつくだろう。畜生キャラ設定はちゃんとしやがって。名前アウトでしかないのに」
《ドラムイエロー 剛力士郎》
「ヨシキじゃないんかい!」
「え、ヨシキの方がよかったですか?」
「いい訳あるか! でも統一しろよ! なんで名前違うんだよ!」
「彼は現役力士なんですけど、四股を踏んだらリズムを刻みたくなってドラマーに目覚めたんです」③
「『ああだから名前に力士があるんだ』ってなるか! 無理やりすぎるだろ! なんで力士要素足した!」
「日本の相撲界も盛り上げようと思って」
「戦隊ものには荷が重すぎるわ! 一応設定も見るけどな……」
《ムードメーカーでお調子者。カレー好き》
「適当かよ。しかも力士じゃなくていいじゃねえか」
「途中で眠くなって……」
「この野郎仕事しろ……まあギャグキャラってことだな。キャラクターのことは後で考えるとして……次はグリーンだな」
《サックスグリーン ジス・アンダーゼル(Jis Underthel)》
「もう色々全く関係なくなってきたな」
《アメリカ人でかっこつけたがり。ピンクとは音楽の方向性で衝突しがちだが、心の内では認めている》
「かっこいいけど音楽の方向性とか子どもわかんないだろ。ちょっと面白そうだけど。しかも名前の意味もよくわからんし」
「名前ですか。そうですね、エキサイトで翻訳したら」
「翻訳したら?」
「『Lの下はJです』って出ます」⑭
「くっだらな! いや仕事しろや!! もういい次!」
《ヴィオラピンク あ》
「名前適当にするなよ。しかもヴァイオリンとかでよかったじゃないか」⑩
「ヴァイオリンだと長いんで」
「じゃあ他の楽器用意……した結果これか……くそう……」
《気の強い女の子。グリーンと喧嘩をするが恋してるが故の照れ隠し》
「おいちょっとキュンと来ちまったじゃねえか。これで最後か?」
「一応追加戦士も作ったんですけど……」
「なにいっちょ前に用意してるんだ! ……見るけど!」
《ピアノ YOSHIKI》
「確かにピアノやってるけど! しかも色ないからまんまじゃねえか馬鹿野郎!」
「ち、違うんです、ピアノはホワイトとブラックの両方になれるんです、だからわざと色を書かなかったんです、ホントです」
海山Dは慌てて弁明した。亀田Pは今にも切れそうだった。
「ピアノは白鍵と黒鍵両方あるからか!? ここに来て楽器要素回収ですか!?」
「ダブルスパイなので色を変えて潜入してるんです!」
「だからちょっと面白そうな設定にすんじゃねえよ!! いやしてくれ!! してほしいけどいちいち名前のアウトさに釣り合ってないんだよ!」
《敵か味方か謎に包まれている。ドとド♯を聞き間違えただけで怒る》
「前半はいい。後半はなんだ」⑬
「絶対音感の持ち主なので……」
「どうでもいいわ!」⑮
亀田Pは息を絶え絶えにしながら言った。もうかなり精神的な疲労がピークだった。
「あの、一応シナリオも作ったんですけど」
「……見せろ!」
亀田Pはもう疲れ切っていた。もう絶対に突っ込まないと心の中で決意した。
・・・・・・・・・・・・
第一話 ~歌がこの世からなくなった!?~
子「助けて―!!」
箱「ハーコッコッコ! わめいてももう遅いハコ! お前の舌を奪い取ってやるハコ!」
赤「そこまでだ! パンドラミミック!」
箱「ハココ!? なんだ貴様らは……」
青「俺たちは、音楽を愛し音楽に生きる挑戦者たち……」
全「クレナイ戦隊 Xジャパン!」
箱「なにい!? 貴様らがあの……だがしかし、人間ごときが俺に勝てると思うなハコ!」
緑「それはどうかな?」
全「エックスチェンジ!」
X「取っ手をとって! 紅くれない!?」
Xジャパン、Xチェンジャーの持ち手を引っこ抜き、赤い音符を入れる。②
X「クレナイダー!!」
赤「パッションメロディ! ギターレッド!」
青「クーレストメロディ! ベースブルー!」
黄「エナジーメロディ! ドラムイエロー!」
緑「スタイリッシュメロディ! サックスグリーン!」
桃「エレガントメロディ! ヴィオラピンク!」
全「クレナイ戦隊、Xジャパン!」
赤「覚悟しろ、パンドラミミック! はっ!!」
レッドがギターをおもむろに弾きはじめる。
箱「ぐわああ!! おのれ、Xジャパンめ……こうなったら奥の手だハコ!」
パンドラミミックが子どもの口を開けて舌を引き裂く。⑦
その後、子どもの下に違う舌を植え付ける。
黄「一体何を……!?」
子どもの舌が伸び、Xジャパンを縛り付ける。
箱「ハココココー! これで手も足も出ないハコ!」
桃「卑怯にも程があるわ!」
Xジャパンはもがくが脱出できない。
子どもはその姿を見て苦しそうな顔をする。
子の声「一体どうすれば……」
子「……そうだ!」
子どもは舌をめいっぱい噛んだ。⑥
歯が抜けるが、それにも構わず力を振り絞った。⑫
子の声「舌を噛みちぎってしまえばいいんだ!!」
舌が消え、Xジャパンは解放される。
箱「な、なんだとお!」
黄「よくもやってくれたな! くらえ! カレー☆アタック!!」
イエローはたまたま持ってたカレーの食べ残しをパンドラミミックの中身に叩きつける。
箱「ぐわあーーーっ!!」
黄「食べきれなかった残飯を捨ててやるぜ!! あばよ!!」
パンドラミミックは倒れる。
カレーライスの米粒が、そのまま雪のように降り注いだ。⑪
ハコ「8月のカレーは汗をかくハコー!」
赤「これで今日も音楽は守られたぜ!!」
~完~
・・・・・・・・・・・・
「とどめイエローかよ!」
「現役力士なんで一番の腕っぷし担当です」①
「つうかカレー好きなんじゃなかったのかよ!」
「え、だから戦ってるときも持ってたじゃないですか」
「だからって敵に投げつけないだろ! 苦情来るだろうが!」
「『スタッフがおいしくいただきました』って言えばいいじゃないですか?」
「戦闘真っ最中に『説明しよう!』みたいな手軽さで実況できると思ったら大間違いだからな!?」⑨
「えー」
「他にもツッコミどころはある。怪人に捕まってたあの子どもメンタル強すぎだろ」
「まあ、フィクションなんで」
「フィクションにしては話の展開グロすぎだからな!? ちびっこびっくりするわ! むしろこの子どもを主人公にした方が……」
「……この子どもを主人公に……? ……ハッ、それだ!!」
・・・・・・・・・・・・
遠い未来、遥か彼方の銀河系……
法律を守らない大人たちが横行し、未成年の安全を脅かしていた。⑤
大人たちに頼れない世界の中で、大人に反旗を翻す5人の子どもたちがいた!
「赤ちゃんレッド!」
「青年ブルー!」
「ヒヨコイエロー!」
「若葉グリーン!」
「ベビーピンク!」
「未成年の飲酒喫煙ダメゼッタイ! ミスター☆チルドレン!!」
「アウトーーーーー!!!!!」
・・・・・・・・・・・・
戦隊イエローがカレーをゴミ箱に捨てるという事態になったため、
戦隊に憧れるはずの子ども役はそのまま子どもの味方、戦隊ヒーローの役になった。
【完】
[編集済]
「J is Under the l」……エキサイト翻訳にちゃんと引っかかるのですね。嘘だろうと思っていたら、さすがエキサイト翻訳……エキサイトしている! 「もう絶対に突っ込まないと心の中で決意した」の時点で亀田Pの敗北は目に見えていましたが、それでも闘いに挑む亀田P……男の鑑です。今回の結果を受けて、とろたくさんの元に誰かがきても、私は感知しませんのでよろしくお願いします。オリオンさんと同じく、三作品も投稿された体力・発想力には舌を巻きます。投稿お疲れ様でした。 [編集済]
これ以降のご投稿は投票の対象とはなりませんが、投稿自体は可能です。
参加者一覧 20人(クリックすると質問が絞れます)
さっそく、結果発表の方に参りたいと思います。
■■ 最難関要素賞 ■■
一票獲得したのは、以下の五要素です。
これらの要素は三位となります。
●取っ手が取れます。
●王道アニメ的な展開になります。
●バンドを組みます。
●「あ」です。
●突然歯が抜けます。
二票獲得した要素は、こちらです。
この要素は二位となります。
●8月の雪に降られました。
最後に最難関要素賞の発表です。
一位は、四票を獲得した、
●Lの下はJです。
――です! 数多くの参加者が、この要素には泣かされたことでしょう。
おめでとうございます!
■■ 最優秀賞 ■■
一票獲得したのは、以下の二作品です。(投稿順、作者敬称略。以下同じ)
●「マクガフィン」「元ヒーローは二度笑う」
●紺亭唐 靴蛙「最低な男の最悪な1日」
二票獲得したのは、以下の四作品です。
●オリオン「一人残された男は弟達に会うため微笑みながら」
●赤升「ゴミ箱の中の世界」
●キャノー「現実の都合がドラマに影響するのは、何故?」
●きっとくりす「アイドルの依頼」
三票獲得したのは、以下の三作品です。
これらの作品は三位となります。
●オリオン「とある国民的ヒーローの一連の事件の顛末」
●ハシバミ「かえすがえす」
●とろたく(記憶喪失)「慰める奴はもういない」
四票獲得したのは、以下の作品となります。
この作品は二位となります。
●紺亭 唐靴蛙「怪物の季節」
最後に最優秀賞の発表です。
一位は、六票を獲得した、
●ごがつあめ涼花「エイプリルフールには少し早い」
――です! おめでとうございます!
■■ シェチュ王 ■■
三位は、三票を獲得された以下の二名です。
●ハシバミさん
(「かえすがえす」=3票)
●とろたく(記憶喪失)さん
(「慰める奴はもういない」=3票)
二位は、五票を獲得された以下の二名です。
●オリオンさん
(「一人残された男は弟達に会うため微笑みながら」=2票、「とある国民的ヒーローの一連の事件の顛末」=3票)
●紺亭 唐靴蛙さん(「最低な男の最悪な1日」=1票、「怪物の季節」=4票)
一位は、六票獲得された、
●ごがつあめ涼花
(「エイプリルフールには少し早い」=6票)
――です。おめでとうございます!
■■ まとめ ■■
というわけで、今回の結果は、次のようになります。
最難関要素賞Lの下はJです。
最優秀作品賞ごがつあめ涼花「エイプリルフールには少し早い」
シェチュ王ごがつあめ涼花
シェチュ王のごがつあめ涼花さんには、次回の第十回 正解を創りだすの開催をお願いします。
皆さん、お忙しい中、作品の投稿と投票お疲れ様でした! そして、ご参加していただきありがとうございました!
それでは!
ここのとこ年度終わりですごく忙しく要素出しだけで他なにも参加できなかったのですが、皆さんの作品を見て感動しているところです。ごがつあめ涼花さんシェチュ王おめでとうございます!そしてなにより葛原さん開催運営お疲れ様でした!ありがとうございました![19年03月31日 22:26]
ごかつあめ涼花さん、最優秀作品、シェチュ王おめでとうございます! 第十回の開催お待ちしております! 葛原さん、開催お疲れさまでした。しかし要素15って本当に鬼ですね。楽しかったです。 そして投票してくださった方々、ありがとうございました! 感想は後程ゆっくりと見させていただきます。本当にありがとうございました。[編集済] [19年03月31日 22:16]
葛原さん、運営まことにお疲れ様です、ありがとうございました! シェフの皆様、素敵な作品をありがとうございました! ごがつあめ涼花さん、おめでとうございます! またこれから読み返させていただきます。ありがとうございました。[編集済] [19年03月31日 22:11]
葛原さん、主催お疲れさまでした。ごがつあめ涼花さん、シュチュ王おめでとうございます。拙作に投票・コメントくださった皆様、ありがとうございました。今回もとても楽しく参加させていただきました。[19年03月31日 22:05]
葛原さん本当に運営ありがとうございました!要素15個と難しい問題文ということで、とてもやりごたえがあり楽しかったです そして、シェチュ王、ということで・・・めっちゃびっくりしてます。滑り込みの1作しか投票してなかったので、とても不安でしたが嬉しいです。運営頑張ります!皆さんの作品もとても素晴らしく、世界観や考え方などは勉強になりました。改めてありがとうございました![19年03月31日 21:47]
2作目作っちまった。HERO面白い。イノセンスもよかった。何よりどっちも主役のルックスがイケメンだ。でも1作目といい伝わるかドキドキしてならない。すいません。あんなやり方してますがタイトルは「HERO → Innocence」でお願いします。[編集済] [19年03月24日 05:01]
>してぃー。さん 「イクラの雨が降」った、創りだすです。http://sui-hei.net/mondai/show/16625 >電磁ボーナスさん 私が理性ある人間でよかったですね。危うくモニターを睨みつけるところでしたよ。 >藤井さん 藤井さんは簡単(当社比)な要素しかあててないですね。[19年03月17日 22:48]
してぃー。さん はじめてお話する方に不躾だとは思いますが「きのこ」のほうが優れています。いままで「たけのこ」派だったのは、本物の「きのこ」を食べたことがないからですよ。明日、またここにきてください。本物の「きのこ」というものをお見せしますよ……[19年03月17日 22:31]
>マクガフィンさん 常識を覆す場である「らてらて鯖」で、常識の範囲内というのは酷かもしれませんけどね…… >赤升さん はじめまして(存じ上げておりますが、直接お話するのははじめてでしょうか)、そしておかえりなさいませ。歓迎します。[19年03月17日 21:42]
2.取っ手が取れます。
3.力士が登場します。
4.王道アニメ的な展開になります。
5.犯罪要素はあります。
6.何だかんだ舌を噛みました。
7.ひきさかれます。
8.バンドを組みます。
9.実況します。
10.「あ」です。
11.8月の雪に降られました。
12.突然歯が抜けます。
13.聞き間違えをしました。
14.Lの下はJです。
15.どうでもよくなっちゃいました。
男がゴミ箱に残飯を捨てたため、
ヒーローに憧れていた子供たちは、ヒーローに憧れなくなってしまった。
いったいどういうことだろうか?
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!