(前回の様子:第4回 https://late-late.jp/mondai/show/2426 )
もう11月ということで、寒さが少し現れて来ましたね。
私も時期の移り変わりの速さに驚くと共に少し怖さを感じています。
皆さんも迫り来る寒さに負けず、創り出しましょう!素晴らしい作品を期待しています!
今回は11月開催ということで、要素11個で開催します。(その理論で行くと1月は1個なんですかね……())
初参加の方も、前回参加した方も学生さんも社会人さんもママさんも。小説家やってる方も気軽に、積極的に参加してくださいー!
では問題文です!
■■ 問題文 ■■
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
女は、男にひとつ嘘をついた。
嘘に気づいた男は、持っていたものを燃やすことにした。
どういうことだろう?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この問題には、解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。
以下のルールをご確認ください。
■■ ルール説明 ■■
1・要素募集フェーズ
初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、“YESかNOで答えられる質問”を受け付けます。質問は1人3回まで。
2.皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切り。
質問の中から10個がランダムで選ばれ、「YES!」の返答とともに[良い質問](=良質)が付きます。
※[良質]としたものを以下『要素』と呼びます。
※選ばれなかった質問には「YesNo どちらでも構いません。」と回答します。こちらは解説に使わなくても構いません。
※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用しません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
2・投稿フェーズ
選ばれた要素に合致するストーリーを考え、質問欄に書き込んでください。
らてらて鯖の規約に違反しない限りなんでもアリです。
通常の出題と違い、趣味丸出しで構わないのです。お好きなようにお創りください。
とんでもネタ設定・超ブラック真面目設定もOK!
コメディーでも、ミステリーでも、ホラー、SF、童話、純愛、時代物 etc....
皆様の想像力で、自由自在にかっ飛んでください。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。魅力たっぷりの銘作(迷作?)・快作(怪作?)等いろいろ先例がございます。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
5.本文の末尾に、おわり完など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
3・投票フェーズ
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
4・結果発表
皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈します。
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)→その作品に[良質]を進呈します。
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)→全ての作品に[正解]を進呈します。
そして、見事[シェチュ王]になられた方には、次回の正解を創りだすウミガメを出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
11/15(木)22:00頃~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~11/26(月)23:59まで
◯投票フェーズ
11/27(火)00:00頃~11/29(木)23:59まで
◯結果発表
11/30(金)(未定)
■■ お願い ■■
『要素募集フェーズ』に参加した方は、出来る限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!
もちろん、『投稿フェーズ』と『投票フェーズ』には、参加制限など一切ありません。途中参加も大歓迎!
どなた様も、積極的にご参加ください。
それでは、『要素募集フェーズ』から、スタート!!
結果発表しました!皆さん、参加ありがとうございました!
これにて質問を締め切ります!
とりあえずこの51個の質問から11個の要素を選出します!
要素選定をしばらくお待ちください。
ただいまより、『投稿フェーズ』スタートです!
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*あとで[良質]をつけるので、最初に本文とは別に「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。[編集済]
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【11/26(月)23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ!
彼女は転校生としてこのクラスにきた。
ハローとサンキューとグッバイぐらいしか
外国語の語彙力がなかった当時の僕からしてみれば、
英語ですらない彼女の言語は何一つ分からなかった。⑧
それでもたどたどしく日本語を使う彼女に
ただの「案内係」だったはずの僕は惹かれていた。
[編集済]
セリフ、No59の男の心情などが、全く飾りっけがなかったので、凄く心に直接伝わってきた感じがして、最初から物凄いの来たな、と思いました。大好きです。 [編集済]
春は一緒に近所で釣りをした。
僕より上手で、いつの間にか彼女の趣味の一つとなっていた。⑤
夏は廃ホテル⑥で肝試しをした。
カッコいい所を見せようと必死に強がって見せた。
秋は合唱コンクールがあった。課題曲は「小さい秋見つけた」①
歌詞の意味を伝えると、彼女は鈴のような声で歌った。②
冬はクリスマスに手袋を贈った。
彼女は微笑みながら片方の手袋だけ僕に返してきた。
「片方は手をつなげば必要ない」と⑩
[編集済]
☆
そしてまた春が来ると僕は思っていた。勝手に。
「は……、国に帰る……?」
彼女から告げられた言葉に思考が止まる。
それはもう決まったことで彼女が何を言っても覆らないらしい。
この年で養ってくれている③親に逆らうことはできない。
彼女が遠い海の向こうへ幽閉されていく⑪。
そんな彼女を捕まえる術なんて僕には何一つなかった⑨
[編集済]
☆
「で、でもLINEやってるから!文なら翻訳も出来るしな!」⑦
そう言った僕も、そして彼女も気付いていた。
必死に伝えようと身振り手振りで努力したこと、
寒い中つないだ手の温かさ、
文だけでは伝わらない思いがあること。
それでも僕は寂しくないと強がることしかできなかった。
[編集済]
☆
そうしてきた別れの日
始めて空港に行くこともあり余裕をもって行動したはずだった。
なのに、
【線路付近での火災発生により電車が遅れています】
予想外の事故、慣れない駅の構造。
成長期の遅い僕はごった返す人の波に飲み込まれる。
結局空港に着くころには約束の時間から一時間遅れていた。④
機内の彼女にはLINEすらも届かなかった。
[編集済]
☆
あの日以降LINEは何一つ動かなかった。
絶望に飲まれた僕の元に国際郵便で荷物が届いた。
中には片割れの手袋と手紙が入っていた。
手紙には拙い日本語でこう書かれていた。
「さようなら、私のことは忘れてください」
紙には涙の跡が残っていた。
[編集済]
☆
あぁ、彼女も強がる人だったのだなと
今更気付くと同時に彼女への怒りがわいてきた。
丸わかりの嘘つきやがって。
ちゃんとLINE見ろよ。お前のこと嫌いなわけないだろ。
大体お前冷え性だろうが。
これじゃあお前はずっと寒いままだろう。
[編集済]
☆
僕は持っていた手紙を家の暖炉にくべた。
たった一枚の紙きれはすぐに炭と化した。
これで「さようなら」も「忘れて」もナシだ。
何年かかっても構わない。君の手を掴みに行く。
これが今の僕にできる「強がり」だ。
【完】
[編集済]
☆
【1日目 18:00 アキの家】
ワタシは今、究極的な選択を迫られていた。
血の匂い、友人の泣き声、そして何時かは現れるであろう警察の存在。
ワタシには分かる。この状況は、ワタシの決断で大きく変わると。
そして、決断を悩んでいる暇はない事も。
何せ、まだ発覚すらしていない、この事件の犯人を暴けるのは、
現状では名探偵であるこのワタシ以外には、いないのだから。
…このまま黙って何もしない訳にはいかない。
今、ワタシは名探偵として、真逆の事をしている。
ワタシが名探偵ならば、きっと解き明かそうと全力になれるのに、
今回のワタシに限っては、事件に苦しめる事になるなんて…ね。
もう、無駄口を叩くのは止めよう。口では無く手を動かして、この状況を好転させよう。
…例え正義に反する事だとしても、私は必ず「真実」を…
暴かせはしない…!
_____
【2日目 10:30 アキの家】
友人の家で、黙々と「作業」を続ける。
緊張した顔をしている『アキ』を横に、ワタシは意外にも自分が落ち着いている事に驚く。
いくら様々な事件に関わっていたとしても、ワタシはマトモな人間であり続けられると思っていた。
だからこそ、そんなワタシが、まさかここまで冷酷になれるとは…
今、改めて思い返してみると、アキがワタシに助けを求めたのは、当然の事かもしれない。
数年ほど前から、ワタシに声を掛けてくる人が多くなった。
最近では、テレビに出ていましたよね!とか、アカスさんのファンです!と言われる。こうなると非常に気持ちが良い。
少々踏み込んでくる人は、サインを求めてくる事もある。勿論ワタシはサービス旺盛なので、書いてあげたね。
…でも、なるべくなら静かに過ごしたい所ではある…!!
そもそも、探偵というものは、尾行なり調査なり、目立たない事をするのが仕事であって、
キャーキャー騒がれていたら、仕事にならないのからだ。
まぁ、それだけワタシの名も有名になり、仕事が入りやすくなったという事ね。それは素直に喜ぶとしましょう。
そして、周りから天才だと言われるワタシに助けを求めるのが合理的であると、アキは考えた訳だ。それが良い事なのかどうかは別としてね。
え?探偵って何の話さって顔をしているね。
いいよ、諸君らに改めて自己紹介をしてあげる。
ワタシの名前は<謎解 明(ナゾトキ アカス)>。超天才な19歳の美少女よ!
時々男勝りだと言われるし、美少女なんて似合わないと言われる事もあるけれど、あえて言わせてもらうわ!
ワタシの仕事は、名探偵よ!周りからは美しき女探偵と呼ばれている!
(※美しきの件は完全に自称)
最近は有名になってきて、結構儲かるようになってきた。
…ふざけた名前だなと思ったそこの諸君、この名前はわざとだからね!
ワタシの熱狂なファン…もとい隣にいる友人アキが付けてくれたニックネームだよ!
覚えられやすい名前だから使っているだけ…!
結構気に入っているとか、アキから貰ったニックネームは大切にしようだとか、そんな事情は一切無い!!!
一切無い!!!!!
…コホン!脱線する前に、話を本題に移そうか。
単刀直入に結論から言うよ、ワタシは今、
殺人事件の証拠を隠蔽しようとしているの…
…何で唐突に証拠が出てくるのかって?
丁度現在、ワタシは殺人事件に直面しているの。だってワタシ、名探偵だし。
事件が起きたら、発見者がワタシを呼んでくれるのよ。
今回は、それがアキだった訳だけど。
…だったら何で、名探偵が証拠を隠蔽しようとしてるのかって?
理由は至ってシンプル。
ワタシが共犯者だからよ!
【1ヶ月前】
元から、嫌な予感はしていた。絶対にヤバい事が起こるって思っていた。
切っ掛けは1ヶ月前、ワタシの男友達、<木赤 秋(キアカ アキ)>のあの言葉。
彼とは幼馴染で、異性では唯一の友人にして、非常に仲が良い。…別に恋愛的な意味は一切ないけどね!
ついでに言うと、ナゾトキ アカスのニックネームも彼がくれたものだ…別に気に入ってはいないけどね!
…あぁ、言い忘れていた。アキは妹ちゃんと二人暮らしよ。親は居ない、数年前に亡くなった。
親が死んだ事が原因で、アキがワタシを頼るようになったんだっけ。
一方のワタシも、実は一人暮らし。アキと同じく親が死んでしまったからね。
だからワタシは、同じ境遇のアキを助けるために、名探偵として稼いだお金をアキにあげている。
実質、『③ワタシがアキと妹さんを養っている』ようなものだ。
…未成年者にそんな事が出来るのかって?
日本なら無理でしょうね。でもここは日本じゃないし。
…まぁ、今回の話では、国はほぼ重要じゃないから、詳しい事情はカットするよ。
そんなアキとワタシは、基本的にスマホでやり取りをする。
どちらも『⑦LINEを利用している』ため、最近は電話やメールよりも、LINEでの会話が増えたかな。
え?日本じゃないのに何でLINEがあるのかって?細かい事は気にするな!
…話を戻して、1か月前、アキがワタシにLINEでトンデモない事を言ってきたんだ。
内容は至ってシンプル。
「名探偵の頭で、クソオンナを殺す方法を考えてくれよ!」
アキの言う「クソオンナ」が誰の事なのかはスグに分かった。
アキの妹ちゃんの人生を壊したアイツの事だ。
アキの妹ちゃんは、数か月前に不登校になった。理由はイジメ。
イジメの主犯格である<久素御 奈世(クソオン ナヨ)>とその取り巻きから、
私物を壊されたり、暴言を吐かれたり、殴られたり、
この前は、帰宅する前に無理やり宿題を代行させられたせいで、『④家に帰るのが1時間も遅れた』り、
『⑪放課後にロッカーの中にずっと閉じ込められた』事もあるという。
これらのイジメを受けて、妹ちゃんは学校へ恐怖を抱くようになった。最近は外出もあまりしなくなったという。
妹ちゃんをこんな状態にした奴は、文字通り、「クソオンナ」である。
正直汚い言葉は使いたくないけれど、奴こそ、クソオンナと呼ばれるに相応しいでしょう!
アキはどうにかして妹ちゃんを助けようとしたけれども、彼とワタシの力ではどうしようも無かった。
否、力不足以前の問題として、この国は、イジメを犯罪だと規定していないのだから、
名探偵のワタシがイジメを立証出来ても、何の意味も無いのよ…
こんな時に両親が居れば…!とアキが嘆いていたのを覚えている。
…さて、こんな状況だ。妹ちゃんを想うアキが、「奴、クソオン ナヨ」を殺したいと思い始めるのは、ある種当然の事だったのかもしれない。
というかワタシも、あんな奴は死んでしまえばいいのにと思った…
過激な発想だけれども、ワタシは妹ちゃんの事を本当の妹の様に思っていたから…そう思ってしまった。
だから、本当に兄妹であるアキが、奴を殺したいと思うのは、理解出来る。
でも、さすがに殺すという発想に至った事はなく、
それ故に、アキが「殺人計画を依頼」してくるとは思わなかった。
勿論、当時のワタシはアキの依頼を断った。根拠は3つ。
1つ、当然の事だけど、殺人は犯罪である事。バレるバレない以前の問題として、やる事自体がアウト。
2つ、アキの殺人がバレれば、妹ちゃんの社会的地位も危うくなる事。
3つ、ワタシは名探偵だけど、そもそも探偵が「殺人事件」を捜査する事は滅多にない事。
まず、探偵が殺人事件に巻き込まれる事が珍しい。
警察の捜査に不満を抱いた依頼人が、たまーに探偵に捜査を依頼しにくる程度であり、
小説やアニメのように事件を解決するなんて事はほぼにありえないと断言出来るの。
一応ワタシは、名探偵だから(?)殺人事件に関わった事も何回かはある。某高校生探偵、工〇君のようなものと思ってくれていいよ。
それでも、殺人はワタシの専門外。
仮にワタシがアキの誘いに乗ったとしても、計画なんて思いつくはずが無いのよ。
だからワタシはアキの依頼を断った。これが1か月前の事。
今のアナタはストレスが溜まっているだけだ、一回冷静になれと、アキのお願いを一喝したのを覚えている。
これが間違いだった。もっとアキを説得しておけば良かった。もっとアキの悩みを聞いてあげれば良かった…。
【1日目 17:10 アカスの家】
「クソオンナを殺してしまった…どうしよう助けて」
LINEに送られた、この衝撃的な連絡を見て、
ワタシは「信じられない!」と叫び、たまらず自宅から駆けだした。目指すはアキの家。
おそらく、今までの人生で、一番全力でダッシュした事だろう。
ワタシがアキの家につき、アキのあまりにも情けない泣き顔を見ても、
息を切らしていたワタシは、恐怖や怒りといった感情を抱く事は出来なかった。
_____
【1日目 17:40 アキの家】
アカス
「で、何で奴の死体がアナタの家にあるのよ!?」
アキ
「偶然だったんだ!家の前を掃除していたら、偶然奴が家の前を通りかかって…始めは殺すつもりじゃなかった!
何で俺の妹をイジメたのかって、奴を問い詰めようとしたんだよ…それで、外で話すのも何だから、家の中に入れて…」
アカス
「そこから、なんで奴を殺したのさ!?」
アキ
「ずっとヘラヘラした態度でさ…自分は悪くない、悪いのはイジメられそうな性格をしているアイツだって言いやがって…!!
それで、ついカッとなって…」
アカス
「近くにあった花瓶で頭部を殴打…本当に何をやってんのよ!アナタは!!」
ワタシは不毛な怒りを、始終泣き続けるアキにぶつける。
こんな事をしている場合ではないのに、アキを一方的に責めたてても何も事態は好転しないというのに…
…無残な姿となった奴を背に、ワタシはアキを責め続けた。
正直、死体を見ても驚く暇は無かった…
それよりも、死体を見た時の怒りの方が勝ったのだ。
【1日目 17:50 アキの家】
何時までも怒っていても解決はしない…
冷静な思考こそが、理性的な言動こそが、名探偵の武器なのだ、とワタシは勝手に思っている。
ワタシは大きく深呼吸をして、建前上は落ち着いた対応をする事にした…
アカス
「…で、妹ちゃんには何って説明したの?現場が自宅だから、さすがにバレるよね?」
アキ
「いや、実はまだバレてない。アイツは友達の家に泊まりに行ってるからな!」
そういえば、妹ちゃんは、奴らからイジメられていたとはいえ、友達もちゃんといた事を思い出す。
…よくよく考えて見れば、アキが奴を自宅に入れるはずがないのだ。妹さんが家に居る限りは。
アキ
「本当に、自宅に居なくて良かったよ…明後日まで帰ってこないから、当分バレないぜ!」
何故この男は、殺人を犯しておきながら、良かったのだと言えるのか…
余裕のあるフリをしているのだろうか?さっきまで泣いていたくせに。
アカス
「良い訳ないでしょ…いつかはバレるわよ!アナタが人殺しだと知ったら、妹ちゃんはこの先どうするのよ!?」
アキ
「…本当に、ゴメン。アカス。…だから……………」
ダメだ、やっぱり理性的にはなれそうにない。
この先、アキが何を言おうとしているかは、何となく分かっていたからだ。
アカス
「それで、殺人という最大の禁忌を犯したアナタが、よりにもよって、事件を解決するハズの名探偵であるワタシを呼んだ。
…大体想像が付いてしまうけれども、一応聞いておくよ、アナタは『何を助けて欲しい』のさ!?」
殺人現場を、沈黙が包む。
数刻の後、アキはようやく重い口を開いた。
アキ
「…名探偵であるお前に考えて欲しい。
俺が犯人である事がバレない様にする方法を…。」
_____
別に驚きはしなかった。
元からこの可能性は考えていたからだ。
もしもアキが素直に自首をするつもりなら、わざわざワタシに連絡をよこしたりはしない。
それ以前の問題として、殺人を警察以外の他人に告白する理由がない。
それに加えて、「助けて」と来たものよ。
こういう手前の考えは2つの内のどちらか。
「本当に何をしていいか分からないから助けて」なのか、「共犯者として自分を助けて」…よ。
それに、妹ちゃんは不登校になっている。
こんな状態で、もしも殺人が発覚すれば、妹さんは、「自分をイジメた相手が兄に殺された」というショックで、
どうなってしまうか分かったモンじゃない。
妹を想うあまり、殺人を犯すぐらいのアキが、妹さんに真実を告げるとも思えないからね…
_____
アカス
「つまる所、ワタシに完全犯罪を考えろと…このワタシに、アナタの殺人の片棒を担げと…もう殺人は起きてしまったけれど、今から妹さんが帰って来る前に完全犯罪を考えろと…」
アキ
「無茶苦茶な事を言っているのは分かっている!お前を犯罪者にしてしまう事も分かっている!でも、お前に頼らないと…妹に辛い思いをさせてしまうんだ…お前しか、頼れないんだ!頼む、助けてくれ!!」
何とも自分勝手なお願い…いや、名探偵のワタシに宛てた『依頼』だろうか?
自分の犯罪を隠すために、恋b…ゲフン!ゲフン!
友人のワタシを利用しようとする…奴がクソオンナなら、アナタはクソオトコよ!
…と、そう言ってやりたかったけれど…口には出さなかった。
もう、無駄口を叩くのは止めだ。止めにしよう。
いくら文句を言っても、自体は好転しない。
ここは、もう一度冷静になる必要がある。冷静に、アキと共に、
この状況を対処する必要がある。
…それに、正直な所…ね。
『アキの事を助けてあげたいと思っているワタシがいる事も事実』
元から、アキの事は、大事に思っていた。
幼馴染というのもあるけれど…それ以上に………アキの妹ちゃんに、感情移入しすぎてしまった。
妹ちゃんを養っているせいだろうか、彼女とは話す機会も多かったし、
そんな彼女を傷つけたくないのよ。
アキの殺人で、妹ちゃんの人生が閉ざされる事があってはならない…!
それに、1か月前から、ワタシはこう思っていたじゃないの…
『クソオンナは死んでしまえばいいのに』…と。
『いっそのこと、誰かに殺されればいいのに』とも思っていた…!!
ただ、殺人と言う行為が違法だから、ワタシは何もしなかっただけ。
妹ちゃんを苦しめた奴の事は、憎んでいたけれど、我慢していただけ。
アキにとっては、法律よりも、憎しみの方が勝ったから、殺しただけ。
死んで欲しいと願っておきながら、殺して『くれた』アキを責めるのは、お門違いでは無いのか?
むしろ、リスクを背負ってまで殺しを実行したアキを助けてあげるべきではないのか?
…何を考えているんだ、ワタシは、ここは、殺人を犯したアキに自首を進める場面でしょう!アキを糾弾するべきでしょう!
アキの友人として、アキに正しい道を示すべきでしょうに…!
…そう建前上は思いながらも、本音は危ない方向へ傾いていき…
_____
【1日目 18:00 アキの家】
ワタシは今、究極的な選択を迫られていた。
血の匂い、友人の泣き声、そして何時かは現れるであろう警察の存在。
ワタシには分かる。この状況は、ワタシの決断で大きく変わると。
そして、決断を悩んでいる暇はない事も。
何せ、まだ発覚すらしていない、この事件の犯人を暴けるのは、
現状では名探偵であるこのワタシ以外には、いないのだから。
…このまま黙って何もしない訳にはいかない。
今、ワタシは名探偵として、真逆の事をしている。
ワタシが名探偵ならば、きっと解き明かそうと全力になれるのに、
今回のワタシに限っては、事件に苦しめる事になるなんて…ね。
もう、無駄口を叩くのは止めよう。口では無く手を動かして、この状況を好転させよう。
…例え正義に反する事だとしても、私は必ず「真実」を…
アカス「暴かせはしない…!
いいよ!アナタのその最低な依頼、この名探偵が引き受けてあげる!」
_____
【1日目 18:30 アキの家】
アカス
「さてと…まずは、今何をするべきなのかを、冷静に考える必要があるね…」
アキ
「た、頼むよ…アカス、お前の名推理に全てが掛かっている」
補足しておくと、アキは私の事をアカスとニックネームで呼ぶ。名付け親だからそりゃそうか。
でも本名では呼ばない。アキはワタシのニックネームを大層気に入っているご様子だ。
アカス
「何が頼むよ…なのよ。さっきまでガキみたいにピーピー泣いてたくせに…それに、今回は『明かされたらダメ』だろ…ワタシ達の人生が終わるよ?」
アキ
「そ、それもそうだな…でもさ、あの時は絶望しかなかったんだよ!今はお前という希望が居るけどな!だから余裕を少しは持てるんだよ!」
やはり、アキはクソオトコだ…そう思いながらも、アキの事を嫌いになれない自分がいる。
…先ほども言ったように、無駄口を叩く暇も無いし、無駄な事を考える暇も無い。
アカス
「ノートを用意して…ワタシの頭の中の考え、全部書く!」
名探偵としての頭脳をフルに働かせる。
慌ててアキが取ってきたノートをぶんどって、ワタシは計画をまとめ始めた…。
【1日目 18:50 アキの家】
アカス
「さて…と、それじゃ、ワタシの名推理とやら…披露してあげる。」
アキ
「よっ、待ってました!」
アカス
「…勘違いしないで、ワタシは殺人の専門家じゃない。間違いなく計画にはボロが出るよ。」
アキ
「おいおい、不吉な事をいうなよ…仮にそうだったとしても、俺の知る限りではお前が一番の天才なんだよ!頼む!」
アカス
「ハァ…仕方ないな…推理を始めるよ!
まず…奴の死体は絶対に家に置いたらダメよ…!妹さんにバレる!大前提として、妹さんには何も無かった事を装う必要がある。だから、殺人の痕跡は全部消す!血痕や凶器は処分するわよ!」
アキ
「その次にするべき事は?」
アカス
「死体をどうにかする。死体をこの世から抹消するか、どこかに隠すかしないといけないけど…悪いけど、ワタシには死体を丸ごと溶かすような危険な薬品を手に入れる事が出来ないからね。まず、心当たりが無いし。」
アキ
「そうなると、やっぱり隠すのが楽か?どこかに埋めようか?」
アカス
「あのね…死体一つ埋めるのに、どれだけの大きさの穴が必要なのか知ってるの?まず2人でデカい穴を掘る労力はない、更に言うと時間が足りない。時間が掛かると誰かに目撃される可能性も高まる。この時点で却下よ。」
アキ
「でも、もうすぐ深夜だぜ!誰にも見られないならコツコツやっても良いだろ!」
アカス
「深夜に実行するのは賛成、でも時間が膨大に掛かる計画は絶対にダメよ!」
アキ
「だったら、海に死体を投げるのはどうだ!?」
アカス
「…それはあまりお勧め出来ないわね…『⑤ワタシが趣味で海に釣りに行く』のはアナタもよく知っているでしょう?」
アキ
「あぁ、アレってお前の意外な趣味だよな…?」
アカス
「釣り好きから一つ指摘させてもらうけれど…海って、基本的に色んな人が来るんだよ。釣りだけじゃなく、観光や水泳、果てには暇つぶしの人もね…要は、不特定多数の大勢の人が来ると思ってもらってもいい。」
アキ
「それがどうした、何か問題でもあるのか?」
アカス
「問題大ありだよ…!何の工夫も無しに海に死体を投げたら、海の流れで死体がどこに行くかが分からない。
そうなれば、どこの海に死体が行くかも分からないし、そこで死体がどこの誰かも分からない人に見つかる可能性も高い…
海から死体が見つかったら、事件性を疑われる可能性が高いし、対処もし辛い…!」
アキ
「あー…それもごもっともだな。」
アカス
「それに、死体の身元が特定されたら、動機の面から真っ先に貴方が疑われるよ?トドメに…もし、貴方の家に入る被害者の姿を誰かに見られていたら、一発でアウトだね。」
アキ
「だったらどうすればいいんだよ…!!目撃証言何てどうしようも無いだろ!!」
アカス
「黙って話を聞きなさい…目撃証言の可能性については、後で説明する!とにかく、今のワタシ達に残されている道は、誰にも死体を発見されない事…事件性を疑われたらアウトと思いなさい!
また、万が一死体を発見されたとしても、事件として処理されない様にする事。…そうなると、答えは一つね。
隠し場所は、『山奥にある使われていない建物』よ!」
アキ
「…なんでそうなるのか理解出来ないんだけど…説明求む。」
アカス
「まず、さっきも言ったけど、死体は見つからない事が前提。
そうなると、人が全く来ない場所を選ぶのは当然の事。
更に、何か月、何年経っても、死体の位置が変わらない事が必要になる。勝手に湧いて出てきたら、見つかるからね。
そうなると、ワタシ達の力で行ける場所といったら、山奥の建物ぐらいしか思いつかない。
…そして更にもう一つ、死体が見つかっても、事件として処理されない事が条件になるの。」
アキ
「そんな事が出来るのか!?」
アカス
「机上の空論だけど、海に遺棄するよりかは、可能性を上げる事は出来る。…もしも、未成年者の死体が山奥にある建物…例えば誰も使っていない山小屋から見つかったら、警察は二つの可能性を疑うハズよ。
死体遺棄の可能性と、家出の可能性をね。」
アキ
「家出!?警察がそこまで考えてくれるか?」
アカス
「だから机上の空論だと言っているでしょう!自分でも苦しい事を言っているのは自覚している!都合よく家出だなんて勘違いしてくれるとは思っていない!!
でも、家出論を無かった事にしても、海に捨てるという不確定な要素が多い行為よりは山の方がマシだと言っているの!」
アキ
「…分かった、お前の判断を信じる!でもさ、山奥にある誰も使っていない建物って何だよ…どこにそんなもんがあるんだ?」
アカス
「それぐらいはアナタも一緒に調べなさい。ネットを使えばそれぐらい簡単に調べられるでしょ?
…間違っても、死体遺棄とか危ないワードで調べないでね?もし疑われた時に、警察がどこまで個人のパソコンに関与出来るか分からないから。」
アキ
「お、おぅ…了解したぜ…ところで話を戻すけど、目撃証言については…」
アカス
「まぁ、目撃されたと決まったわけじゃないけれど…もしも証言が有ったとしても、アナタは事件の事は何も知らない。妹の件で話を聞いただけで、30分後には帰したと、適当に言っておきなさい。」
アキ
「そんなんで誤魔化せるのか?」
アカス
「それでいいの。逆に凝り固まった偽証の方が大変だしボロも出やすい。…まぁ、目撃されていないという可能性も十分にあるし、『杞憂』でしょう。この後の事は、死体をどうにかした後にゆっくり考えればいいのよ。…さぁ、さっさと遺棄出来そうな場所を調べるわよ!」
【1日目 19:20 アキの家】
アキ
「…それでだ。ここ何か良いんじゃないか?」
アカス
「ここから8つ程の街を超えた先にある山の『⑥廃ホテル』か…条件には一致しそうだね。」
アキ
「よし、善は急げだ!さっそく捨てに行こうぜ!」
アカス
「待ちなさい!まだやるべき事があるわよ!まず、この廃ホテルが本当に人気の無い場所か、隠せる場所があるか、確認しないといけない…更に、死体を安全に運搬する方法も考えないといけない。
おまけに、ワタシ達の行為は全く持って善じゃないわよ!」
アカス
「と、いう訳で、これから懐中電灯を持って実物を拝みに行くわよ!当然、死体はまだ持って行かない!アナタ、最近車を買ったんでしょ?それで連れて行きなさいよ!」
アキ
「今からか!?いや、深夜が良いって件はお前も賛同してくれたしな…分かったよ!でも、この死体はどうにか出来ないか?ちょっと不安なんだけど…」
アカス
「…確かに、精神衛生上、リビングに死体を放置するのはいただけないわね…。でも、余計に手を加えても、逆に証拠が残るわ。今は放置しましょう!」
1時間以上、長々と死体遺棄の計画について話し合ったワタシは、正直疲れていた。
まぁ、ここで気を抜いたら、計画は成功しない。
ここから長丁場になるでしょうけど、やるしかないわね!!
…数十分後、車の中でワタシは爆睡した。それはもう爆睡した。
でも仕方ないじゃない!これからおそらく不眠不休でどうにかしないといけないんだから…!
寝れるときに寝れるのが合理的ってもんでしょ!
アキ
「帰る時は、お前が運転しろよ…?俺だって眠いからな…」
事の発端が何を言っているのか理解出来ないね…!!!
【1日目 22:30 山の近く】
アカス
「…で、山奥に車を突っ込む事は出来ないから、近くの目立たない道路に違法駐車したと…」
アキ
「人聞きの悪い事いうなよ!他の車も沢山あるし平気平気!」
アカス
「それで、ここから歩いてどれぐらい掛かりそう?なるべく遠くがいいんだけど。」
アキ
「そうだな…見積30分って所か?若干近い気もするが、多分大丈夫だろう。」
【1日目 23:40 廃ホテル前】
アカス
「嘘吐き!1時間経っちゃったじゃん!!」
アキ
「いいだろ30分の誤差ぐらい…!それに、1時間も掛かるような山奥の廃ホテルに人は来ないだろ!むしろラッキーだぜ!!」
アカス
「…確かにそれもそうね。さぁ!さっさとホテルを探索するよ!」
探偵としては、様々な修羅場も経験してきた身であり、
廃ホテルなんて、今までに比べたら屁でも何でもない…怖くなんて無い!
えっ?恋人のアキがいるから怖くないだけだろって?
な、なにを言っているんだ諸君は、そ、そんな訳ないだろう!?
【2日目 01:30 廃ホテル】
アキ
「…あーあ、日を跨いじまったよ。」
アカス
「下手したら、後一日跨ぐ事になるかもね…。
…一通り見たけれど、ホームレスが居そうな気配は無し、本当に誰もいない、おそらく滅多に人が来る場所じゃない…ウン、時間稼ぎとしては、十分に良い場所ね!」
アキ
「時間稼ぎって、何の話だよ?」
アカス
「色々よ…死体を遺棄してから、万が一にもバレた時の時間に差があればある程、ワタシ達は心の準備が出来るし、隠蔽工作をする時間も増える。何だったら、遠い所に逃げてやってもいいかもね…隣国のラテシン王国とかいいかも。」
アキ
「おいおい、そこまでしなきゃいけないのかよ…それに俺、外国語は喋れないぞ…?」
アカス
「最悪それぐらいの事をしましょうって事よ。それに隣国の言葉よ?授業で習ったでしょう…最低限は理解できるでしょう?」
アキ
「いやー…マジで理解出来ないんだわ、これが。冗談じゃねえぞ、俺は単語もほとんど分からんからな!」
アカス
「…だったら、どこまで分からないのか試してみましょう…
〇△◇☆ 〇△◇☆ 〇△◇☆ ≧§γ.
×◎÷? ×◎÷? ×◎÷? ≧§γ.」
アキ
「あぁ!?何だって!?」
アカス
「ラテシン王国の言葉だけど…ワタシが何を言ったか理解出来た?」
アキ
「『⑧さっきも言ったけど、俺は外国語はサッパリなんだよ…』」
アカス
「あら残念、これは逃亡する事になった時に大変ね…」
アキ
「ちなみに訳する何になるんだ…?」
アカス
「この国の言葉で
『①②だれかさんが だれかさんが だれかさんが みつけた
ちいさいあき ちいさいあき ちいさいあき みつけた』よ。アキもご存知の有名な曲ね。というか、同じ秋の部分すら聞き取れないアキって…』
アキ
「うるせえ!こんな時に俺の事をアキって呼ぶのは止めろ!」
_____
【2日目 01:50 廃ホテル】
アカス
「…さて、方向性は決まったわ。さっきの部屋に死体は隠す…予定だったんだけれど…それで、さっきの話の続きなんだけど。」
アキ
「さっきの?一体何時の話だ?」
アカス
「家出に見せかけるの話よ…廃ホテルを見てみたけれど、さすがに家出に見せかけるのは無理があるって気づかされざるを得ないわ…中学生の少女がこんな所に普通はこないわ。死体が見つかったら間違いなく事件性を疑われる…
だって、アナタが付けた殴打の後が頭部に残ってるし。」
アキ
「…それに関しては、本当に俺が悪かったと思ってるよ…で、家出に見せかけられないなら、どうするのさ?他の山で、絶好の家出日和っぽい場所でも探すか?」
アカス
「却下。妹ちゃんが帰ってくるまでの時間までに探せる確証が無いし、体力も持たない。…それに、この廃ホテル自体が非常に良い隠し場所になってる。」
アキ
「だったら、部屋に隠すんじゃなくて、やっぱり埋めようぜ?死体を見つけさせないためにも、確実性を取るべきだ!廃ホテルに人なんてこないだろうし、時間を掛けても埋めるべきだって…!」
アカス
「…さっきはあり得ないって否定したけれど、この廃ホテルの人気の無さを見れば、一考の価値はありそうね…でも、覚えておいて、もしも人に見られたら…」
アキ
「一発でアウト、だろ?流石に勝手が分かってきたぜ!」
アカス
「犯罪歴1日にも満たないアナタが何を偉そうに…!調子に乗って慢心したら、ボロが出るよ!」
アキ
「…それは、肝に銘じておきます。」
アカス
「それじゃぁ、さっさと帰って計画の続きと行きましょうか!犯罪者としては、車を長く放置したくはないし、地域住民に顔を見られると厄介よ!」
アキ
「分かったよ、じゃぁ帰りはお前が運転しろよ、俺、一睡もしてないんだから。」
アカス
「ワタシは行きで寝ていたのでルートが分かりませーん!!」
アキ
「こ、こいつは…」
アカス
「…それに、どちらにしても家に帰ったらタップリと寝る時間はあるわよ?どうせ死体運搬は、18時間以上も後の話になるでしょうし…」
アキ
「ん?どういう事だ?
…あぁ、今から帰ってここに戻ってきても、お昼になってるからか…さすがに太陽が出ている時に犯罪行為なんてしたら、警察なり地域住民に見つかるかもな…」
アカス
「…へぇ、本当に勝手が分かってきたのね。名探偵としてアドバイスしておくわ。誰にも目撃されたくないなら、暗い時に行動するのが基本なのよ。今まで扱った事件の犯人の1人が、過去にこんな事を言っていたのよ。
『犯罪者は、太陽にはかなわない』ってね…」
【2日目 05:40 アキの家】
アカス
「思ったより、早く帰ってこれたね!…気分は最悪だけど…!」
それもそうだろう、何せ、ワタシ達がアキの家に帰ったところで、まだ事は終わっていない。
むしろ、事が始まったアキの家で、死体を再び見なければならない事が、苦痛でならない。
あの時は、アキに対する怒りと混乱、そして事件を隠蔽するぞ!と意気込んだ事が切っ掛けで、
死体に対して恐怖なんて感情は抱かなかった。
…でも、今は違う。
犯罪中だというのに、廃ホテルで仲良く会話して、緊張感が多少ほぐれてしまった…
だからこそ、非日常である事を認識するのは、とても辛い…
奴の死体を目の前にして、ワタシは、初めて恐怖という感情を抱いた………
アカス&アキ
「……………」
アカス
「…悪いけど、寝る前にやるべき事はあるわよ…まず、深夜の死体運搬に備えて、手袋…今回は軍手を調達しましょう。」
アキ
「さすがの俺でも分かるぞ、指紋を残さないためだな!犯罪者にとって、『⑩手袋は重要』だもんな!」
アカス
「…厳密には、手袋の扱い方をしくじると逆に証拠になるんだけど…今説明するのは面倒くさい…アキ、後で調達しにいくわよ。」
アキ
「他にやるべき事はあるか?」
アカス
「まず、トランクケースが欲しいね。死体運搬で使うから、死体が入りそうなやつを調達する。それから、殺人の痕跡を消す!家の床に付いた血痕やらDNAやらを残してはいけない…徹底的な掃除も必要でしょうね。そして、奴がアキの家に居た痕跡も消すわ!昨日は慌ただしかったせいで確かめてなかったけれど、彼女の持ち物は全て処分するべきよ!」
アキ
「確か、奴は鞄を持ってきていた…ほら、そこの椅子に置いてある奴だ…これを片付けるなら、まずは手袋を付けないとな…」
アカス
「アキ、分かってると思うけど、20kmぐらい離れた所で買ってきなさいよ!出来るなら、長ズボンやゴミ袋に、スプレー缶とかも買ってきなさい!平たく言うなら、日曜大工で使えそうな道具を適当にね!」
アキ
「理由は…怪しまれないようにするため、ってか?ここまで来ると、さすがに手が込みすぎて、お前に恐怖を感じるぞ?」
アカス
「あ゛!?名探偵に依頼しておいて、よくもまぁそんなフザけた事が言えたわね…?」
アキ
「ヒィッ!すぐに買ってきます!それはもうすぐに!」
…ちょっと待てよ?ここでアキを行かせたら、ワタシは死体と二人ボッチになってしまう!
それは避けたい!
アカス
「待ちなさい!アナタ、ずっと寝てないから疲れていたでしょう?一回眠っていったら?その間にワタシが買いに行くから。」
アキ
「あぁ、そういえばそうだった…早く帰って来いよ?」
アカス
「…言うまでもないけれど、当然鍵は掛けておく事、誰も家に入れない事。カーテンは今の通り閉め続ける事…分かったわね?」
アキ
「最近の俺、まるで子供に言い聞かせるかのように命令されてばっかだな…勿論分かってますよー…」
…正直な所、本当にワタシは疲れていた。
廃ホテルという場所に行く事自体が非日常なのだ。それに加えて殺人事件の隠蔽…
精神的にキツかった。
少しで良い、少しで良いから、とにかく死体から離れたかったのよ。
【2日目 10:00 アキの家】
アキ
「…それで、お前は軍手やらトランクケースやらシャベルやらを買うために、ケーキを4つに、マイバッグ3つ分のお菓子を購入してきたのか…?」
アカス
「えぇそうよ。軍手だけ買ったら怪しまれるし、ワタシのような華麗な美少女が日曜大工をするのも怪しまれるでしょう?だから目的のブツを買う時は、他のデザートも一緒に購入してきたって訳!これなら怪しまれないでしょ!」
アキ
「十分怪しまれるわ!こんなに買ったら店員の記憶に残るだろ!」
アカス
「大丈夫大丈夫!!一気に爆買いした訳じゃなくて、8つの店で分割して買ったから!勿論、どの店も遠く離れた場所だから、足が付く事は無いと思うよ!これで店の監視カメラに映っても怪しまれないわね!」
アキ
「…で、この大量のレシートと、ガソリン代は…?」
アカス
「勿論、貴方から拝借した財布で払っておいたから、安心しなさい!」
アキ
「流石にぶっ飛ばすぞお前!?」
アカス
「へぇ、じゃぁ逆に聞くけど、アナタはワタシに、こんな依頼をしておいて、ワタシには何もご褒美が無いとでも言うのかな?」
アキ
「…どうぞ、そのデザートとやらはアナタへの依頼料ですよ!
せっかく恋人同士なんだから、これぐらい負けてくれよ…」
アカス
「ハァ!!何言ってんの!?ワタシはアナタとはそういう関係じゃないしー!まだ違うしー!
それに、これぐらいじゃ満足しないから!死体運搬したら今度は焼肉食べ放題で奢れ!」
アキ
「美少女なら食べ放題とか言うなよ…」
【2日目 10:30 アキの家】
アカス
「さて…朝食兼昼食も食べ終えた事だし…やりますか。」
アキ
「食べ終えた直後にアレをやるって中々にヘビーだな…吐くなよ?」
アカス
「残念だけど、死体は見慣れていないから分かんないわ。でも善処はする。」
アキ
「美少女なら仮にも吐く可能性を肯定するなよ…」
軽口をたたきながらも、改めて、死体と向かい合わせになる2人。
…どれだけ明るい雰囲気を醸し出そうとしても、アキが殺した事実は変わらない。
…軍手の上から、奴の鞄を握り、中身を確かめる。
アカス
「ふーん…運が良かったわね。こいつ、スマホの類は持ってないよ。もしも持っていたら、GPSでバレていたかもね。」
アキ
「………我ながら、悪運に助けられている感じだな…中身は、財布やらメモ帳やら、色々だな…」
アカス
「あっそ、じゃぁ燃やせる物はこっちのゴミ袋、それ以外はあっちのゴミ袋に分別して。」
アキ
「何でだ?そんな事しなくても全部まとめてホテルに捨てればいいだろ?」
アカス
「もしも見つかった時、何が証拠になるか分からないからね…捨てるにしても、最低限の量に留めたい。燃やせるやつは、今の内に燃やして灰にしておこうって訳。燃えるゴミの日に出すのは、ちょっとリスキーな気もするからね。」
アキ
「…あくまでも、他の人との関りは持たない様にって事か。」
アカス
「それじゃぁ、風呂場で良いわ。貸してちょうだい。そこで燃やせるやつは全部燃やしておくから。…後、奴の服もはぎ取っておくわ、一緒に燃やすよ。」
アキ
「はい!?何で服まで…」
アカス
「何が証拠になるか分からないから…見つかった時の事を想定して、服も燃やしておきたい。服にワタシ達のDNAが付着している可能性は0では無い!」
アキ
「正直、変態じみた行為はしたく無いんだけど…分かったよ!はぎ取ってきますよ!」
アカス
「待ちなさい!奴の服をはぎ取るのはワタシがやる!男のアナタは色々とダメよ!!」
アキ
「そこは信用してほしかった…それに、大丈夫か?死体に直接触れる事になるぞ?」
アカス
「…そこは、どうにかするよ……主にガッツで…」
_____
…数分後、ワタシは、奴の服と下着を持ってきた。
あの時のワタシの顔は真っ青になって、体が震えていた。
当たり前よ、死体に直接触れたのは、これが初めてだったんだから…
アキ
「お前…マジで大丈夫か?さすがに死体に触れるのはキツイだろ…?」
アカス
「だ…だだだ大丈夫よ!!?これぐらいで動揺していたら、死体遺棄なんて出来ないよ!?」
言ってから気づく。あまりにも、あからさまな嘘だ。
こんな調子で大丈夫だろうか?もしも警察に尋問されたら、ワタシは平静を保てるだろうか?
…ダメだ、ネガティブな感情が全身を覆っていくのを感じる………
アキ「ああ!もう!そんなウソを吐いてまで強がるな!忠告はしておいただろ!
…でも気持ちは分かる、俺だって死体に、死体の服に触れたく何てないからな…でも、流石にこれ以上迷惑は掛けられねえよ…服を燃やすのは俺がやる…死体運搬も、なるべくなら俺がやる!」
アカス
「…こんな時に、妙な男らしさを出されても困るからね…」
ワタシの持っている服を取り、風呂場へ向かうアキ。
数十分後、キッチリ燃やしておいたぜ!と無理やりな笑顔で報告するアキを見て、なんとも言えない感覚に襲われた…
とにかく、死体に触れたのだから、この服はもう使わない方が良い…
先ほど出かけた際に、服屋から調達した新しい服を着ておこう。
痕跡を残さないなら徹底的に…しつこいけれど、ワタシは殺人に詳しくない。
だから、考えられる痕跡は全て消す!
先ほどまで来ていた服も、今着た服も、後で処分する事になるでしょうね。
_____
…なるべく奴の私物を分けて分別し、車に詰め込んでいく。
車には、事前にブルーシートを敷いてある。車には一切の痕跡を残さないためだ。
アキ
「…クソッ!死体ってこんなに重たいのかよ!」
アカス
「…でも、中学生の女の死体よ、ワタシと協力すれば、何とか運べるでしょう?」
アキ
「さっきの件もあるし、別にいいよ。お前に、死体を持つ度胸は無いだろ?」
アカス
「…減らず口を…少なくとも、殺人を犯すよりかは、簡単だと思うけどね!」
今回は、何とか気分を極端に悪くせずに、触れる事が出来た。
やはり、1人でやるのと2人でやるのとでは、大違いね。
…トランクケースを積み、いよいよ死体運搬の準備は完了した。
アカス
「さて、今着ている服も脱いで、あのゴミ袋に入れときなさい。シャワーを浴びたら、新しいやつに着替えるのよ?」
アキ
「本当に徹底してるな…」
【2日目 11:30 アキの家】
アカス
「さぁ、アナタの家でやるべき事も、これが最後よ!…部屋の大掃除と行きましょうか。血痕付きのリビングは元より、奴が歩いた玄関や廊下もちゃんと掃除するわよ!」
アキ
「んで、そのために用意した掃除道具まで新調したやつか…さすがに既存のは使えないからな。」
アカス
「あぁ、掃除が終わったら、今着ている服は…」
アキ
「ゴミ袋に入れてシャワーだろ!!あと何回やるんだよこれ!」
アカス
「…運搬した後、その後で、お風呂場も掃除しないとね…その他も含めると…」
アキ
「ヤバい、シャワー恐怖症になりそうだ…」
その後は、ひたすら掃除をした…匂いを誤魔化すために、消臭剤や香水を買ってきたり、
他にも思いつく家への偽装工作は、やれるだけやった。
そもそも、ワタシがこの犯行に加担しているのは、妹ちゃんの為…
誰にも殺人がバレてはいけない…でも、一番に妹ちゃんには絶対に感づかれたらダメ…!
…神経質になったら、逆に怪しまれそうな気もするけれど、今だけは、どんな些細な事も見逃さないようにしたよ…
【2日目 20:00 アキの家】
アカス
「やっと、この時間になったわね…覚悟は出来たかしら?」
アキ
「当然だ!…やれる事は全部やって、運搬の用意も出来たぞ…俺の意見通り、死体は埋める方向性で良いんだな?」
アカス
「えぇ…一考した結果、見つかる可能性は立地や埋める場所を考えても0に等しいと判断出来たわ。
仮に人が来たとしても、ワタシ達が死体と共に隠れられる場所もあるみたいだしね。…まぁ、穴が見つかったら、もう廃ホテルは使えなくなるけれど…」
アキ
「何言ってんだ!お前も昨日言ってただろ!『杞憂』だって!!ここまで来たら、俺達の悪運を信じようぜ!!」
アカス
「巻き込んだのはアナタのくせに…でもいいわ、この依頼も、これで最後にしましょう!!」
名探偵であるハズのワタシが、正義という概念をドブに捨てて、今まさに、犯行のフィナーレを飾ろうとしている…
何故、アキの犯行に加担したのか、それは理屈では上手く説明出来ない…
第一に、アキの妹ちゃんのために、行動している、それは間違いない。
けれど、ワタシにはそれ以外の感情もある気がする…
今までアキの前では素直になれなかったけれど、ワタシはアキの事が………
…だとしたら、最悪ね。もっと、少女漫画の様な恋をしたかったわ。
これから先、ワタシ達は、マトモな関係ではいられないでしょうから………
_____
【2日目 22:40 山の近く】
アキ
「…で、この大量の荷物(死体含む)、一体どうするんだ?」
アカス
「車で行けない以上、徒歩で運ぶに決まってるでしょうが!!」
アキ
「あぁ、筋肉痛は避けられない…!!」
アカス
「今回ばかりはワタシも持つ事になるから、運命共同体よ…!我慢しなさい!」
【3日目 00:20 廃ホテル 奥】
アカス
「ハァ…!ハァ…!二度とこんなのやりたくないわ!!」
アキ
「奇遇だな、俺もだ!!」
クソ重たい…おっと失礼。とても重たい荷物を何とか運び終えたワタシ達。
しかし、疲れている暇はない。この先、一番の重労働がワタシ達を待っているのだから…
アキ
「………それじゃぁ、始めますか、穴掘り。」
アカス
「穴で済めばいいけどね…もう一回言っとくけど、死体1つ埋めるのに、相当な大きさが必要だからね?」
アキ
「まぁ、何とか朝になる前には終わらせますよ…!」
アカス&アキ
「…………………」
【3日目 02:00 廃ホテル 奥】
アキ
「オラよっと!!」
アキの掛け声と共に、約5Mの穴にトランクケースが落ちていく…
死体を放置したら、何が起こるか分かったモンじゃない…だから、トランクケースごと、遺棄する事にした…
アキ
「さてと!穴埋めと行きますか!!」
アカス
「…その前に、奴の私物も一緒に埋めるわよ。元から死体は見つからない事を前提に動いているのだから、ここに埋めた方がいいでしょうね。下手な所に隠すよりも合理的よ。」
アキ
「それじゃぁ、燃えねえやつと、この灰をまとめてオラァ!!!」
_____
【3日目 04:00 アキの車の中】
吹き抜ける風は、とても寒かった。
もうすぐ冬だからというのもあるけれど、こんな事をした後だから、感覚が過敏になっているのかもしれない…
急いで車に乗り込み、暖房を付けると、文字通り、温かさが身に染みた。
恐らく、人生の中で一番暖房機器に感謝したでしょうね。
アカス
「改めて思うよ…何でワタシは、こんな最低な依頼を引き受けたのかしら…」
アキ
「いや…お前にはマジで感謝してる…俺1人じゃ、絶対にここまではこれなかった。」
アカス
「本来、この領域には来てはいけないハズなんだけどね…」
車の中で、若い男女が2人、語り合う。
それは、本来ならばデートと呼んでも差し支えない、素晴らしい時間なのでしょうけれども…
アカス
「分かってると思うけど、殺人に死体遺棄。バレたらどうなるか分からないからね?」
アキ
「…聞くのが怖いが、法律的にはどれぐらい何だ?」
アカス
「未成年だから、多少は軽減されるんじゃない?焼石に水でしょうけれども…それに、やってる事が過激すぎるから、マスコミに潰される事間違いなしよ。」
会話の内容は、とてもロマンチックとは言えない…
あまりにも汚すぎる会話。
3日間掛けて行われた犯罪行為を、お互いがまるで反省会のように語り合う。
アキ
「…そういえばさ、奴が行方不明になったって情報を聞いたんだよ。そりゃそうだよなぁ…つい1日半前には、殺しちゃったもんなぁ…」
アカス「大丈夫だ、ワタシ達は絶対に大丈夫だ…
万が一、警察がアキやワタシを疑ったとしても、死体が見つからない限り、奴が家にいた痕跡が見つからない限り、ワタシ達を逮捕する事は出来ない…」
アキ
「あぁ、そうだな!何せ名探偵のお前が考えた計画だもんな!!
死体が見つからない限り、『⑨俺達は絶対に逮捕されねえよ!!』
だからアカスも暗くならなくていいって!!絶対に大丈夫だからよ!!」
アカス
「だから、そういう慢心がボロをだね…それに、ワタシ達は共犯だから、どちらかが捕まったら、もう一方も終わるよ?」
アキ
「まぁ、お前は天才だし、名探偵というステータスもあるから、まず疑われないだろ!それに、万が一疑われても、お前なら上手く切り抜けられるだろ!」
アカス
「…正直な所、自信はない…服をはぎ取ったあの時、平静を保てなかった…警察に尋問された時、ワタシは上手くやれるだろうか…」
アキ「おいおい!そんなのお前らしくねえじゃないか!それに、そもそも警察に疑われないって!『杞憂』だよき!ゆ!う!」
アカス
「何か最近、『杞憂』という言葉をよく使うようになったね……というか、ワタシが捕まらなくても、アナタが捕まったらワタシが危ないんだよ!」
アキ
「まぁ…その点に関しては、マジで気を付けます…」
車は走る、走り続ける。
おそらく、後1時間もすれば、アキの家に付くだろう…
さて、どうしたものか、自宅に送ってもらうか、それとももう一晩アキの家に泊めてもらうか、
…正直、今は1人になりたくない。
今更、怖いという感情が噴き出てしまった。自宅に帰れば、1人になってしまう。
あぁ、でも、今日はアキの妹ちゃんが帰ってくる日でもある。
さて、どうしたものか…
アキを1人にさせると、何を口走るか分からないからな…
あえて、アキの家に泊まるのも手だな…
車は走る、走り続ける。時と共に、道を過ぎていく。
ワタシの不安…それが杞憂かどうかは分からないが、ワタシの考えをよそに、時間は過ぎていく。
明日、明後日、1週間後、1か月後、1年後、
ワタシ達は、平和に暮らすことが出来るのだろうか?
かつての日常通りに生きていく事は出来るのだろうか?
アキの妹ちゃんを守る事は出来るのか?
アキとの関係は、どうなってしまうのか?
ワタシは、これからマトモに生きていけるのか?
名探偵としても、1人の人間としても………
…ダメだ、いくら考えても、不安は無くならない。
こういう時こそ、冷静になるべきなのだろう…
…そう、冷静になれば分かる事、今、何を考えても、現状も未来も変わらない。
…それならば、一旦ここで、思考を止める事にしようかな。
最近、ずっとピリピリし続けてしまったから、疲れてしまったよ。
でも、最後に、これから先のワタシがどうするべきか?それだけはハッキリさせておこう。
ワタシ自身を見失わない様にするために!
…ワタシの名前は<謎解 明(ナゾトキ アカス)>。犯罪に手を染めた、19歳の探偵。
ワタシは謎を解き明かすどころか、隠してしまった。
探偵の真逆の事をした、犯罪者の少女。
いつもは、犯人の仕掛けたトリックを暴く側だけれど、今回は仕掛ける側になってしまった。
未来のワタシが、幸せになれるとは限らない。
何度も言うようだけれど、ワタシは殺人なんてやったこと無いし、だから計画にボロがあるかもしれない…!
…それでも、未来の事なんて分からないから、だったら、これ以上、杞憂なんていらないよ!
ワタシの計画が勝つか?警察が勝つか?その結末は、今は考えなくても良い!その方が良いんだ!
例え、一度犯罪に手を染めたとしても、ワタシの仕事は、名探偵よ!
きっと、これから先も、名探偵として、活動を続けていく!
周りからは美しき女探偵と呼ばれている!呼ばれ続けなければ、アキ達を養えない!!
…だったら、この先も、名探偵として、生き続けてやるわよ!!!
【完】
_____
[編集済]
要素決まって一日でこんなに凝った物語が作れますか・・・!???本当に凄い。
物語だけど、全然設定が作者の独りよがりになってなくて、物語の舞台、登場人物の設定が分かりやすく頭に入ってきました。主人公の語りで展開が進んでいって、心情の変化も伝わってくるようになってたのも良いと思いました。あと、登場人物の名前。めっちゃ笑いました。5分くらいずっと笑いが止まりませんでした。
[編集済]
私は高校生にして怪盗ルブレット=ミュゼ
あ、こっちは本名ね。怪盗としてはザ=サードで通ってるよ
今日は幼馴染のホウ=トーコと遊園地に来てたんだけど、
トーコとはぐれた時に怪しげな取引に遭遇したんだ。
陰に隠れてみてたんだけど、反対側にも誰かいてね?
それが友達のココットちゃんだったの。
その後トーコと普通に合流してその日は帰ったんだけどね。
その日以降ココットちゃんのことが気になって動向を探ってみたら、
まさかの同業者だったの。問い詰めてみたら自分の父を殺した組織を探すために
組織との唯一のつながりである宝石「MIX」を探しているんだって。
そんな話を聞いちゃ協力しないわけにはいかないな
こうして決して捕まることのない完璧な怪盗コンビが誕生した。⑨
「楽観的な義賊と悲観的な復讐者」2人の怪盗の戦いが今始まる
ある日のこと。2人はいつものように標的の調査をしていた。
「なんか聞こえない?」
「何?」
「なんか歌みたいな。悲しげな曲調」②
「聞こえないけど」
「上のほうから聞こえた気がしたんだけど…」
そう言ってミュゼが上を見上げる。
高い塔の最上階 鉄格子のはめられた窓辺にその少女は幽閉⑪されていた。
闇の様な黒髪、透き通った白い肌、宝石のような青い瞳
助けを求めるように鉄格子をつかむその手にはいびつな魔方陣の描かれた手袋⑩がはめられていた。
「昨日の場所はは知らない人が見たらただの廃ホテル⑥その実態は闇オークションの会場。
とゆうわけで本来の目的はMIXらしき宝石の情報が入ったからその確認だったんだけど。
その情報ががセだったんだから。もうここはどうでもいいじゃん。」
「でもあの子が気になるんだよ」
「あの子って?」
「帰りがけにいたきれいな子。調べてみたらある王国の王女様なんだって。
さらわれてあの闇オークションで商品になってるって。名前はセーネ姫」
「で?」
「で?ってひどいなぁ。助けてあげたいんだよ。」
「まああの時の反応からそういうと思ってたけど。関係ないからやる気でないよ。」
「まあまあそういわずに」
「やる気は出ないけどわたしはあなたを手伝うだけだよ」
「さっすがココットちゃん…いいえ、2141号」
「仕事だからね。やるよミュゼ…ザ=サード」
「こうやってコードネームで呼び合うの夢だったんだー」
「毎回それ言ってない?」
「いいじゃん別にー」
そんなたわいのない会話の中に物騒な用語が当たり前のように潜んでいるのはもはや日常の一幕である。
そして時は決行当日まで突き進む
「さーてやってきましたグラフ・ラサール城!!」
「なんでそんなテンション高いの?しかも城じゃないし」
「城みたいなもんでしょ。一つのダンジョンに近いし」
「まあいいや それじゃあ始めますか」
「お姫様救出大作戦!!!!」
「ださい」
「そんなー」
鉄格子の部屋
「こんにちはーLINEやってる?」
「やめい」
「?????!?!??!??!!?!?」
「よその国の言葉か じゃあ」ゴソゴソ
「てってれー翻訳こんにゃくー!」
「遊んでないでちゃんとやれ」
「へいへい 『はじめましてこんにちは』 これであってるかな?」
『あなた、私の言葉がわかるの?』
「『わかるよー さっき何歌ってたの?』」
『故郷の歌で小さい秋見つけたって曲ですけど…そんなことはどうでもいいです。
どうしてここにいるんですか??』
「『あなたを助けに来たんだよー』」
『助けにだなんてどうせ私の力が目当てなんでしょう?それにそもそもどうやってここに?』
「『力?』」
ミュゼがそう問うた時扉がバタンと大きな音を立てて開かれる
「ハーイ私の金づるちゃん出番ですよ.....って誰だお前ら」
「誰だお前らといわれたら答えてあげるが世の情け」
「それパクリじゃん わたしたちはMAX 怪盗よ」
「のってくれたっていいじゃん」
「なんだてめえら馬鹿にしてんのか」
「『ちょっと待っててね』」
「馬鹿になんてしてませんから」
2人がそうつぶやいた刹那闖入者はその場に倒れ伏す。
圧倒的な技術の前になすすべもなかった。
「なぜお前らが失われたはずのその言語を?…ぐっ」
そういうが早いか闖入者は縛り上げられた。
セーネ姫を連れて脱出し、安全な所へ行き事情をきいた。
セーネ姫曰く{力」とは彼女の黄金を生む右手のことを言うらしい。
彼女が幼いころ川で趣味の釣りをしていた時、川の神に見初められ触れたものの
すべてを黄金に変える右手とそれを封ずる手袋を手に入れたそうだ。
その力は、姫として国を養う③ために使われてきた。
しかしその噂を聞いた悪の組織に攫われて現在に至る。
「『そうだったんだ。大丈夫だよ。助けたくて助けただけだから。見返りなんて求めてないよ』」
『あなたたちは本当にいい人なんですね』
『それにしてもどうしてこの言葉を話せるのですか?』
『この言葉を話せる人はもういないと思っていたのですが…』
「『それはね…』」
「サード 時間」
「『ごめんね すぐに安全な人がやってくるから』」
『あ...』
セーネ姫が別れの言葉を伝えようとするも、その時には二人の姿はそこにはなかった。
そして入れ替わるようにベージュのコートとソフト帽を身に着けた大柄の男性がやってきた。
「一足遅かったか、MAXのやつらめ 大丈夫ですか 私が来たからにはもう安心ですよお嬢さん」
若干ドヤ顔しながらそういった彼だったが彼女に言葉が通じていないことに気づくと、不満げに煙草に火をつけた。
セーネ姫は彼が何と言っているのか理解できなかったが、不満げな中に滲み出る楽しげな様子に安心感を感じた。
「なんで若干うれしそうなの?」
「コウカズのおじさんに嘘ついちゃった。あの子に言葉が通じるみたいに話しちゃった」
「ありゃりゃ おじさんてんぱってんだろうなー」
おじさんを困らせたバツが返ってきたのか二人は仲良く翌日の授業に遅刻してしまいましたとさ
おしまい
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キャラクターのコミカルで、ネタ混じりの会話がすごく面白かったです。
max 二人は怪盗 というタイトルもセンスがあっていいと思います。プリキュアと怪盗混ぜるにしてもそのまんま怪盗なのが本当に好きです。
続きがすごく読みたいと思える作品でした。
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【小さい秋を見つける】十月中旬。
歩きながら私は涙が止まらなかった。
十六才の高校生が涙を流しながら歩いていたのだから、回りの人達が変な顔をするのも無理はなかった。
それでも私は泣き止めなかった。
ノーツが死んだ。
死んでしまった。
ノーツは我が家で【養う】飼い猫だった。品種はわからない。雑種かもしれない。私が物心がつく前に我が家に居着いた野良猫らしい。
縁側で干したお布団に眠るのが大好きで、幼い頃の私はよく一緒になって眠ったものだった。
干してある私の【手袋】に両足をいれるのが好きだった。
透き通るような綺麗な黒色の毛並みが美しかった。
卵料理とリンゴが大好きだった。
私を見守るようにいつもついてきてくれて、私が釣りに行くといつも後ろからついてきて一緒に桟橋で当たりを待っていた。
私が暇をもて余して【ハミング】しているのが好きらしく、ハミングしているとどこからともなくやってきて私の隣で目を細めて転がっているものだった。
目を細めていた笑顔はニコニコとしていて
無言で包む混むようにスリスリと頬を寄せてくれたものだった。
死因は老衰。
私が部活から帰るとまだかすかに温かった。膝の上で頭を撫でているうちにいつの間にか冷たくなってしまった。
ノーツが死んだ。
次の日の土曜日。私はアルバイトにいかねばなかった。
いつもより【一時間遅く】起きた私は慌てて準備をすませ
玄関で妙に明るい声で「じゃぁ、行ってくる」と言い、
表に出て縁側のお布団を見たとたんに涙が止まらなかった。
泣きながら中心街行きの【廃ホテル】の隣のバス停まで歩き
泣きながらバスを待ち、
泣きながらバスに乗り込んだ。
バスはいつものように混んでいて、
【私の知らない言語で話す】外国人の二人組、【幽閉される!?】とかいう小説を抱えた進学校であろう同世代位の男子、どこかに出掛けるのであろうニコニコと微笑む老婦人。勤めに行こうとする会社員がひっきりなしに涙を流す私を見てきた。当然と言えば当然だろう。
でも私はそんなことを気にする余裕もなかった。
「ほら、此所に座って落ち着きなさい」
穏やかに言いながら黒髪の長いお姉さんが席を譲ってくれた。
二十歳ぐらいだろうか。クールそうな見た目と裏腹に見守るような瞳をたえた白のシャツと黒いパンツの美しい人だった。
何故だか白い手袋を着けていたのが印象的だった
「すいません…」
消え入るような声で一言お礼を言って、私は席に座った。
彼女は私の隣にたち、私がうつむいているのをじっと見ているようだった。そのまましているうちに何故だか涙が止まってきた。
私が降りた停留所で彼女は降り、目的地の中心街までずっとついてきた。バスというものは得てして同じ面々で固まってしまうものだが、彼女を私は見たことはなかった。
どうしたの、とも大丈夫とも聞いてくることはなかったが彼女はずっと私の隣を見守るように歩き、町中の雑踏からさりげなく私をかばってくれていた。
今日は秋のお祭りの日とあってお昼頃からも中心街は多くの人で賑わっていた。
「ケーキをご馳走させてください」
中心街の通りを抜けたあたりで私は彼女に言った。
新手のナンパ見たいで普段は恥ずかしがるものだが、何故だか彼女にはすっと言うことができた。
喫茶店に入って彼女はチラリとメニューを見て
「ここのアップルパイ美味しいのかしら…パンケーキにつけていい?」
と聞いてきた。私がどうぞと答えると彼女は目元を細めて笑った。
持っていた携帯からバイト先に【LINEアプリ】を起動して、
体調が優れないので休ませていただきます と言ったのを聞いていたらしく、
「今日、あなた…暇なのね」
とニコニコと微笑みながら言った。
喫茶店を出ると彼女は私を連れてトンネルをくぐった。
いいところがあるのよ、と彼女が言ったのだ
「ここ」
彼女が指差したのは釣り堀だった。
「こんな秋の日に釣りですか…?」
「あら、中々いいものよ。【私の趣味】だし」
「釣竿持ってきてないですよ」
「貸してくれるわよ、あなた、やったことないの?」
そんなことは知っていたがどうにもやる気になれなかったのだ。
「お姉さんに負けるのが怖いの?」
ニヤリと笑いながらこちらを見つめてきたのを見た私はつあ無言で六百円をカウンターに叩きつけてしまった。
十月中旬のそれにお祭りの日にわざわざ釣りにくるような暇人は私たちの他には誰もいなかった。
お陰でエモノをとられることもなく、私たちはのんびりと適度に吊りを楽しむことができた。
「~♪」
気がつくと私はハミングしていたらしい。
彼女は目を細めてじっくりと聞いてくれていたようだった。
釣り堀を出ると私たちはクレープを買った。
控えめな生クリームの甘さが妙に心地よい。
このあたりはお寺の近くもあって中心街からそこまで離れていないはずなのに妙に静かだった。
あらためて彼女を見たがクール差と包み込む優しさがきれいに降り合わさっていた不思議な美しい人だった。背中まである黒髪が風になびく度に何故だか落ち着いた。
20分も歩くと縁日の屋台群についた。
この祭りのメイン行事である灯籠流しまでまだ時間はある。
私と彼女は縁日を見て回りつつ、大いに楽しんだ。
不思議だったのは彼女と金魚すくいを行ったとき。
彼女の目の前の水槽から何故だか金魚はみんな逃げてしまった。
彼女は理由がわかっているのかコロコロと笑うのみだったが
結局彼女は【一匹も捕まえることができなかった。】
中央の櫓の余興で私達は漫才をを見た。
私は笑うことはできなかったが隣の彼女は静かに微笑んでいた。
ノーツも好きだったのだ。
昔、ラジオが漫才の番組に切り替わった時何故だか滅多に鳴かないノーツがニャーと控えめに鳴いて見つめてきた。真剣な表情でラジオに聞き入っているように思えて、しばらく消せなかった。
その真摯な瞳は他の番組の切り替える気にさせなかったのだ。
ノーツが死んで、悲しくて悲しくて、まともにご飯も食べられなかったのに、知らない女性とお茶を飲んで、釣りをして、散歩をして、縁日を回って、漫才を聞いて。何をしているのだろうか。
漫才が終わって灯籠流し用の灯籠を貰ったときには
すっかり私は元の悲しみに戻っていた。
ノーツはもういないのだ。昨日死んでしまったのだ。
橋の欄干まで来た時彼女は唐突に言い出した。
「ねぇ、ここの灯籠流しってどんな行事か知ってるかしら」
「一日だけ帰ってくるご先祖様を送るんでしょう。お盆にもやりますけどこの祭りはそれの亜種みたいなものと聞いてます」
「そう。でも帰ってくるのはご先祖様だけじゃないのよ」
「…?」
「それで、少しは落ち着いたかしら」
「ええ、ありがとうございます。でもこうして、今年も灯籠流しが終わるんですね」
「そうよ。これでおしまいなの。今まで楽しかったわよ」
「今日はありがとうございました。僕も楽しかったです」
下を向いたまま私がいうと彼女は私の横に顔を寄せた。
「今までずっと、よ。」
見たことのある深い瞳が私を見つめた。そして彼女は頬をスリスリとした後に、頬っぺたにキスをした。
私が本当にビックリしたのは頬を寄せるその姿がノーツにそっくりだったからだ。
呆然として声も出さずに突っ立ってる私に彼女は言った。
「大好きだったわ。いきなり知らないお姉さんからの告白よ。
喜びなさい?じゃあね」
そう言って、寂しげに笑った彼女はそのまま素早く人混みに紛れ祭りの雑踏に消えてしまった。
私はしばらくそこに立ちすくしたあと、感謝の意を籠めて手に持っていた灯籠の蝋燭に火をつけて、橋から川に流した。
今日は「灯籠流し」の日。
一日だけ死者が生者の元に帰り、共にある日である。
ありがとう。 ノーツ。
【完】
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『デューク』のオマージュということで、デュークを読み直してからこの作品を読み始めることにしました。(涙出ました。)
茶飲みさんの作品。前回のイメージが限りなく強かったので、こんな色の作品もかけるのか、と驚嘆しました。
デュークをベースにしながら、ところどころに要素を自然に交えていて、オリジナリティも残せている、茶飲みさんの実力が伺える話でした。
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「はぁ、またジジイに煩く言われる・・・」
そう言って由衣は⑦LINEを起動する。
ある程度良い家柄に生まれた彼女は両親から不良にならないようにと厳しく育てられていた。
しかし、それを煩く感じていた彼女はストレス解消にネットで⑤男を釣ってはサイフだけ盗んで遊んでいた。
どんなに悪質でも、相手も下心があった為通報されずに⑨決して捕まる事は無い。
その安定したスリルに彼女は酔っていた。
「はぁ、もう家賃を払わないとか・・・」
そう言って裕司は新しいバイト先へ向かう。
その途中で、一人の少女が目に入った。
彼女はどこか懐かしさを感じる面影をしており、何故か目が離せなかった。
男と紅葉の生い茂る公園へ入った彼女を追いかけて裕司も公園へ入る。
ある日私は家出賃を稼ぐ為にネットで知り合った男と会っていた。
圧迫した家庭に辟易していた所で金蔓になりそうないい男を見つけた為渡りに船と決行したのだった。
「えっとぉ・・・キョウスケさんでしたっけ?」
挨拶を交わしてカフェに入り軽く、そしてさりげなく奢らせる。
男がトイレに行った隙を見てこっそりと睡眠薬を盛る。
カフェを出て、欲望を露わにした男を相手にしながら睡眠薬が効く丁度いい距離の公園を探して入る。
クスリが効いてきたと見え、ボーッとした所を見てベンチへ座らせ、財布をスる。
公園に入った裕司が見たのは、まだ高校生くらいの彼女がサイフをスり盗る瞬間だった。
「おいっ!」
大声で彼女に声をかける。
すると、男も財布をスられた事に気づいたのか彼女へ詰め寄っていく。
胸ぐらを掴み彼女を殴ろうとする男。
咄嗟に間に入った裕司だったが、殴り飛ばされ動けなくなってしまった。
「おいっ!」
サイフをスった直後、一人の男が声をかけてきた。
自分を咎める表情が父親の顔と被る。
その声で眠気が飛んだのか財布をスられた事に気づいた男は殴りかかってきた。
殴られると思った瞬間、声をかけてきた男が間に入った。
助かったと思った。
しかし、あっさりと男は殴られ倒れてしまった。
そして、男は私に向かって何度も暴行を繰り返した後にどこかへ連れ去っていった。
痛みが和らいできた時、目の前に入ったのは財布をスられていた男が彼女を連れ去る姿だった。
何故か、自分が行かなくてはと思い後を追った。
その間にバイト先へ④1時間は優に遅れそうだと連絡を入れる。
男が入っていったのは⑦廃ホテルだった。
ご丁寧に、入口に南京錠まで落ちていてもともと⑪幽閉する気だったのだと窺えた。
「うっ・・・」
酷い痛みと共に意識が覚醒していき、一番最初に目に入ったのは薄汚い部屋だった。
家出先の住処にしてはあまりにも酷すぎる。
急いで逃げようとしたが、拘束用の⑩手袋がつけられており、逃げ出すことはできなかった。
もがいているとあの男がやってきた。
恐怖で顔が引きつるのが自分でもわかったが、もうどうしようもない。
諦めかけたその時、パトカーのサイレンが聞こえた。
彼女を助けようと思ったものの、非力な自分では直接やりあっても勝てない事は既にわかっている。
そこで携帯を使いパトカーのサイレンを鳴らす事で助けようと考えた。
大音量で鳴り響くサイレン音。
焦った様子で逃げ出していく男を見て、成功したのだと安心した。
男が戻ってこないうちに建物の中へ入り、彼女の手についている手袋を外す。
あの時の男がやって来た。
手袋を外され、助かったのだと思うと気が緩んだ。
しかし、この後どうしようか。
いっそ、このまま彼を使うのもいいかもしれない。
どことなく父親に似た男を利用するというのも、なんだかスッキリする。
「ねえ、私を誘拐してみない?」
「ねえ、私を誘拐してみない?」
突然の提案に思考が追い付かずに少しフリーズする。
「今、なんて?」
「私の家、お金持ちなの。 ちょっと脅迫状を送るだけで大金が手に入る、いい提案でしょ?」
困惑と誘惑。
確かに金は欲しいが、犯罪は・・・
「いざという時の為に、脅迫状は持ってきてるの」
そういって彼女は新聞紙の切り貼りされたハガキを渡してきた。
「いざという時の為に、脅迫状は持ってきてるの」
そう言って私は持ってきておいた脅迫状を渡す。
「私の名前は・・・」
名前を言おうとしたが、本名を伝えるのははばかられる。
「私の名前は遠山由紀、あなたは?」
「あなたは?」
そう聞かれて自分の名前をつい口にだす。
「遠藤裕司だ。 脅迫状については考えさせてくれ・・・」
どこか違和感を感じつつもその正体がわからないまま時間は進んでいく。
「・・・・・・」
気まずい。
・・・気まずい。
話すことが無い、とりあえず適当にユウジに話しかける。
「~がマジ卍でさぁ・・・」
「マジ卍でさぁ・・・」
彼女と少し話をしてみるが、⑧まるで俺の知らない言語で話しているかのようだ。
彼女を見ていると、何故か家を飛び出す前の兄貴の顔を思い出す。
数年前に一度年賀状が来たっきりで連絡を入れていない。
喧嘩した状態で出ていったせいか会いに行くのも気まずい・・・
今はどうしているだろうか・・・
そう考えていると彼女は何やら②歌を口ずさみ始めた。
~♪
家に居ないとこんなにも落ち着かないものなのか、それとも今日起きた非日常に心が安静を求めているのか。
よく父親が歌ってくれた歌を口ずさんでいた。
~♪
それは、どこか懐かしい歌だった。
昔兄貴とよく歌った。
その瞬間、違和感の正体がわかった。
脅迫状の宛先、それは数年前に送られてきた年賀状の送り主と同じだったのだ。
そうなると彼女は・・・
「遠藤雄一、俺の兄貴だ。」
「遠藤雄一、俺の兄貴だ。」
それを聞いて落ち着いていた心臓が再び爆発しそうになった。
父親の名前、そしてその弟であると
「お前の名前は確か・・・由衣だったか?」
「お前の名前は確か・・・由衣だったか?」
年賀状の記憶を手繰り寄せながら名前を呼ぶ。
目の前にいる彼女・・・いや、姪である由衣に向かって。
「お前も兄貴から逃げて来たのか?」
どこか似たもの同士であるであろう彼女に問いかける。
「お前も兄貴から逃げて来たのか?」
「あぁ・・・クソったれな親父から逃げて来たんだよ」
そう言われ私は答える。
「じゃあ、似た者同士だな」
そう言って笑いあう。
「お前、うちで暮らさないか?」
「お前、うちで暮らさないか?」
自分でも信じられないような言葉がさらりと口から出た。
自分の生活もカツカツなのに、彼女を③養えるのか。
しかし、彼女を養う為ならなんだってできる気がした。
「いいのか?」
その一言で、全てが決まった。
「じゃあ、もうこいつは要らないな。」
そう言って手元にあった脅迫状を燃やす。
明日から真面目に就活しないといけなそうだな・・・
そうぼやきながらも彼女との帰り道に映える夕暮れは、①季節の変わり目を私たちに伝えていた。
―――了―――
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私的終わり方かっこいいオブザイヤーだと思いました。(何を言っているんだ私は)
嘘の内容とか、燃やすとか。問題を出す前に色々考えてはいたんですけど、私の想像を遥かに上回る質の嘘と燃やす物でした。タイトルにも、終わったあとにそういう事か!と思いました。かっこいい。まじ卍。ファンキーな作品。
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【プロローグ】
いきなりだけど異世界モノって知っているか?
主人公が異世界に行ってヒーローしたりラブコメするやつ。
異世界転生と異世界転移は全く違う意味だとか、異世界チートものの流行りはもう終わりだとかそういう議論は後に回すとして、なんでこんな話をしたかといえば簡単だ。
今、目の前で猫耳娘と修道女と魔女っ子が小鬼みたいなのと戦ってるんだが。
【1章】
そこ、嘘松とかいうな。俺も混乱しているんだ。
まずは俺の身の上の話からしようか。
俺は20代半ばのSE。エナジードリンクが相棒のブラック会社の下っ端だ。
そんな仕事をしていれば時間感覚もおかしくなる。
そうして俺は起きるのが1時間も遅れてしまう④。完全な寝坊だ。
俺
「クソッ!せっかく家に帰れたと思ったのに、また会社泊まりの日々になっちまう!!」
空腹とストレスで痛む胃を抑えながらダッシュで会社に向かった。
と、その時右側からものすごい衝撃。
俺
「うぐふぉぁぁっっっっ!!!!!」
異世界転生的に言えばトラック、なのかもしれない。
いや、リアルであんな目会ってみろ。ぶつかってきたものを確認する暇も優しい走馬燈見る時間もないからな。死ぬほど痛かった。
というわけで目が覚めたら見知らぬ草原、しかも目の前で戦闘中なのだ。
魔女っ子や修道女が聞いたことのない言葉⑧で歌えば②、三人が不思議なオーラをまとうわ小鬼の元へ火の玉が飛んでくわ。
そのまま猫耳娘が猫パンチをお見舞いすると小鬼は倒れたまま動かなくなった。
俺がぼーっとその様子を見ていたら三人が一斉にこちらを見た。
猫耳娘
「お、よかったニャ!生きてたニャ!」
魔女っ子
「ちょっとアンタ!こんなところで寝っ転がって!
私達が助けなきゃどうなってたことか!」
修道女
「怪我はないようですが……。出身はどちらですか?」
口々に俺に話しかけてくるファンタジーな彼女達。
そんな彼女達を見つめていると口が自然と動いていた。
俺
「てかLINEやってる?(´_›`) 」⑦
……どうやら俺の口説きのセンスは異世界には通じなそうだ。
【2章】
猫耳娘
「へぇーッ!『にほん』って所から来たんだニャ!」
修道女
「それはそれは……大変でしたね。」
魔女っ子
「ふーん……ま、助けたのが私達でよかったわね。」
時は少し進んで町中。あの後素直にいきさつを話した俺に、三人はそれならばとこの町を案内してくれた。
全く違う世界の話にお互いに驚嘆しあっていると
ティロリロリン♪
俺「おっ!……と。LINEの通知音かよ。びっくりしたわ。」
携帯をのぞき込むと友達から「ちょwお前有名人じゃんwww」というLINEがきていた。
電波など来てないはずなのに何故かLINEだけ動いたので、写真を撮ってタイムラインにあげたら恐ろしく反響があったらしい。
こういうときはなんて返すのがテンプレだったかなと考えているとふと視線を感じた。
俺
「うわッッ!!人の携帯を勝手にのぞき込むなよ!」
猫耳娘
「これ!『けいたい』っていうニャ!?不思議ニャ!!」
魔女っ子
「何これ何これ!?こんな魔道具見たことないわ!!」
修道女
「これが異世界の技術……!?こんなの経典にも載ってない……!」
三人はキラキラした目で俺の持っているスマホをのぞき込んでいた。
そういえば転生系の異世界って電子機器が発達してないことが多いよな。
まぁ発達していたらそれはSFになるだけの話だが。
俺
「これLINEって言うんだが、そんなにすごいか?」
そう聞くと一瞬の間が空き、その後怒涛の抗議や説得が始まる。
性格の違う三人の少女が口々に語る様子は壮観でふつふつと気持ちがわいてくる。
これが異世界転生の心地よさってやつかという愉悦と誰かに製品を届けたいという気持ちが。
俺の両親は電化製品の組み立てで俺を養ってくれていた。③
だから俺自身も小さい頃から機械いじりなんて日常茶飯事だ。
そしてプログラミングスキルはいうまでもなく、だ。
本当は異世界でも社畜だなんて死んでもお断りだ。けど、
俺
「じゃあさ、俺がそれに似た奴を作ってやるって言ったらどうする?」
目の前に広がる三人の驚きや憧れの混じった笑顔。
こういうのが見れるからこそ人は仕事を続けるもんだろ?
【3章】
俺
「とりあえずはこんなもんでいいだろう。」
何日もかけて作ったそれはスマホやLINEというより、ポケベルやトランシーバーに近い気もするが彼女達は大喜びでそれを使ってくれた。
その様子を見ながら自分の携帯を起動させる。
あの日以降も友人が俺の撮った写真をtwitterにあげてバズったり、他の友人からもLINEが来たりとで充電が切れそうだ。
俺もこっちのLINEもどきにお世話になるか、と考えていたら猫耳娘が後ろから声をかけてきた。
猫耳娘
「ねーねー、そのけーたい?みたいに
綺麗な絵を届けることはできないのかニャ?」
俺
「ん?スタンプ……じゃなくて写真のことか?
さすがに写真を送るのにはまだまだ技術が足りないな」
猫耳娘
「そっかー。ワタシもさっき拾った小さな秋の木の実①とか
趣味の釣り⑤で手に入れた池のヌシとかを
もっと多くの人に見てもらいたかったニャー。」
俺
「しかし今のままだと技術も材料も足りないな。
この世界の鉱物の知識とかもまだ無いし……。」
修道女
「なら他の人たちにも協力を仰げばよろしいのでは?」
魔女っ子と話していた修道女が会話に加わってくる。
彼女曰く国王に事情を説明して国家プロジェクトにしてしまおうという話らしい。
国王への謁見の許可は彼女達がとってくれるらしい。
俺
「といっても、そんなにうまくいくものなのか?」
魔女っ子
「私たちをバカにしないでよねっ!
こう見えて指折りの冒険者グループなんだから。」
猫耳娘
「そうじゃなきゃいくらLINEとの交換条件とはいえ、見知らぬ男に食料も住み家もあげないニャ。」
修道女
「自信を持ってください。あなたはとても素晴らしい力を持っているのだから。」
三人に説得され国王の元へと連れていかれる。
また社畜人生に逆戻りかと思ったが、彼女たちの誘いを断らない辺り俺も異世界に毒されてきたらしい。
【4章】
結局あの後国王に認められLINE製作はかなり大きな事業となった。
社畜になるだろうと覚悟していたが、どうやら福利厚生とか働き方の考えがまともらしく
事業の中心人物というわりに休暇ももらえ、学者や技術者のおかげでLINEはどんどん便利になっていった。
……現実でもここまでやりがいがあったらと思わざるも得ない。
まぁ、そんなわけで頂いた休日を緩やかに消費していたというわけだ。
俺
「ふぅ……。こっちの世界の知識は大体分かってきたな。
とはいえ、魔法とかは一切使えないけど。」
そう思いながらLINEもどきを見ると修道女からコメントが。
彼女からはこちらの世界の知識をLINEで教えてもらっていた。
きっと今回も律義に送ってくれたのだろうと思い確認する。
俺
「今日は魔法の文法か……、ってうわあぁぁぁぁ!??」
修道女とのLINEを開いた瞬間、部屋に突風が吹き荒れる。
箪笥は倒れ、ふとんはふっとび、俺は椅子から転げ落ちる。
暫くすると風は止み散らかりまくった部屋と熱くなったLINEもどきのみが残った。
---------------------------------------------------------------------------
修道女
「多分LINEで『巻物』と同じ現象が起こったものかと。」
時は少し進み国王の元。突風について修道女に相談した所、国王にも報告した方がよいと言われここまでやってきたのだ。
俺
「ええと、『巻物』ってなんですかね?」
俺が聞くと修道女が説明をしてくれる。
どうやら『巻物』とは魔法の文法を魔力をこめて紙に書き下ろすことで、紙を開けばどんな人でもその魔法を使うことができるようにしたものらしい。
とはいえ一回限りしか効果はないようだが。
修道女
「一見危険にも思えるかもしれませんが、これは非常に効果的です。
交信も可能、武器にも出来る。
これを使えば魔王だって討伐できるかもしれません!」
国王は修道女の発言を聞くと一瞬眉を寄せた。
国王
「しかしいままで何度も討伐隊を送ってきたが決して捕まえることができない⑨上、討伐隊は一人も帰ってこなかった。
娘が幽閉されてから⑪もう何年もたっている。
今更こんなもので勝てるとは……。」
どうやらこの世界には『魔王』がいてその魔王を討伐するためLINEもどきを使おうという話らしい。
いかにもファンタジーで異世界転生だ。でも大事なことはそんなことじゃあない。
俺
「今お前LINEをこんなものって言ったな……。」
そう、これ一つに彼女たちがどんなに目を輝かせたか、何人の国民が努力したか俺は知っている。
それをバカにされて黙っていられるか!!
俺
「見せてやるよ!LINEの底力ってやつをよぉ!!」
【5章】
そうして俺が啖呵を切り、三人も乗ってくれたことで討伐隊は組まれた。
lINE作りで信用が稼げた上、指折りの冒険者のグループのお墨付きもあり、多くの人が集まってくれたのだ。
俺が手袋をつけていると三人が声をかけてきた。
魔女っ子
「決戦前におしゃれしてくるなんて意外と余裕そうね。」
俺
「ちげーよ。
LINEを使いすぎると熱くなりすぎるから手袋は重要なんだよ。⑩」
猫耳娘
「ほへー。そうなんニャ。ま、道中は私達におまかせニャ!」
修道女
「魔王は廃ホテル⑥をねぐらとして使っています。
姫様もそこに幽閉されていると思われます。」
そんな風に話していると討伐隊からの声がかかる。
どうやら彼らの準備も出来たらしく、リーダーとして何か一言をと頼まれてしまった。
どうしようかと一瞬迷ったが、次の瞬間背中をポンと押された。
振り返ると三人がいつものようにほほ笑んでくれていた。
まったく、その笑顔に俺は弱いんだ。
そう思った俺の顔もきっと笑っていたに違いないだろう。
俺
「皆!LINEを使って情報や魔法を共有するんだ!
絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!!」
----------------------------------------------------------------------------
そうして魔王討伐は開始した。
作戦通り彼女たちが道を作っている間に俺は廃ホテルに侵入。魔王の間へと訪れた。
俺
「魔王!来てやったぞ!」
魔王の間へ入ると魔王が玉座に座っており、その後ろの牢屋には姫が捕らえられていた。
魔王
「愚かな……。今までの討伐隊と同じ目に合わせてやろう。」
なけなしの筋肉を動かし魔王に近づく。
LINEを開き攻撃魔法を発動させると魔王は表情をゆがませる。
魔王
「これは……巻物か!?」
やってくる魔王の攻撃は防御呪文で受け止める。
事前に色んな人にLINEで呪文を送ってもらってたとはいえ、瞬時に判断しトーク画面を開くのは難しい。
さらに手袋もぶすぶすと音を立て燃え始めていた。
魔王
「その手のものを離せ!!」
ついには魔王に見破られLINEが部屋の隅へと転がっていく。
武力も魔力も生身では持たない俺が追いつめられるのは早かった。
魔王
「なかなかやるがここまでだ。今楽にしてやろう。」
姫
「勇者様!!!」
まさか勇者なんて人生で言われるなんて思わなかったが、女性を泣かせてしまったのはいただけない。
助けて見せるから泣かないでくれと思いながらも体は動かない。
目の前に勝利を確信した魔王がやってくる。
魔王
「さぁ、最後に言うことはないか?」
最後にいうこと、ねぇ。
俺
「そうだなぁ。お前、
『グループ通話』って知っているか?」
俺がそう言った瞬間、転がっているLINEから幾重にも重なった歌声が響く。
作戦に参加してくれた、友達になってくれた異世界の住民達の魔法の詠唱によって俺の体の傷は癒え、魔王は行動阻害の呪文によって現れた影に縛られ身動きが取れなくなった。
魔王
「貴様っ!いったい何をした!!」
俺
「俺だけの力じゃない。これは俺の仲間とLINEの力だ!!!」
魔法で強化された体で動けない魔王を思いっきり殴りつける。
そのまま魔王はバタリと倒れ動かなくなった。
何が起こったのかと驚いた顔で固まった姫に近づき牢屋から出してやると彼女は何度も何度もお礼を言い続けた。
姫
「本当にありがとうございました!
勇者様が助けてくれるまで一人ぼっちでそれで、えぇと……!」
俺
「そんな緊張しなくていいって。それよりさ……、
てかLINEやってる?(´_›`)」
【エピローグ】
こうして俺たちは魔王に勝利し国の英雄として祝福された。
国王も大層喜び、今日は国を挙げたパーティーとなった。
魔女っ子
「で、まさかあんたが姫様の付き人になるとはねー。」
修道女
「その服も似合っていますよ。」
猫耳娘
「そんなことより今日はいっぱい食べるニャ!」
そして俺は魔女っ子が言ったように姫様の付き人となった。
姫様は魔王に数年囚われていたこともあり人付き合いが苦手らしく、また助けた俺には心を開いてくれていることから国王からお願いされたのだ。
とはいえ、今でもLINE技術者のリーダーをやっていることもあり、技術者連中から声をかけられ挨拶をしていると後ろから軽く服を引っ張られた。
俺
「うぉっと。姫様、普通に話しかけてくれていいんですよ?」
姫
「えっと、その、急ぎの用事ってほどではないのですけれど、次の議会での開票を姫の職務として果たしてほしいって言われて。
こんな席でする話ではないと分かっているのですが……。」
俺
「開票作業?そんなの姫一人にやらせるんですか?」
姫
「みたいです……。でもでも、私一人でも大丈夫ですよ!
今度こそ勇者様の手も借りずに頑張りますから!
ただちょっとルールがよく分からないものでして……。」
彼女が持っていたルールが書かれた書類を受け取り中身を確認する。
そこには厳格でまだるっこしい言葉で長々と文が書かれていた。
読んでいるだけで頭が痛くなりそうだ。
姫
「あぁ……!だ、大丈夫ですから!
勇者様無理をなさらないでください!私大丈夫ですからぁ!」
俺の表情を見て姫が必死に取り繕うように声を上げる。
とはいえ、自分一人で大丈夫なんてどう考えても嘘だろう。
俺はLINEを取り出し魔法を発動させ持っていた書類を燃やす。
それを見て姫様がかわいらしい叫び声をあげた。
俺
「……姫様、LINE投票(アンケート)って知ってます?」
どうやら魔王が滅んでも俺のLINE開発は終わらなそうだ。
-------------------------------------完-------------------------------------
[編集済]
創り出す発の異世界転生モノ。
なぜ携帯を作れるの、なぜモテるの、なぜ電波が繋がるの、そんなご都合主義のようなテンプレが、創り出すの場では逆に武器になってるのが面白すぎました。しかもLINEでの倒し方にもバリエーションがあるし、要素も自然に入れてるし・・・
個人的に今回の要素はどうしてもLINEがあるから現代物に絞られるから最難関かな、と思っていたのが、まさかファンタジー書きますか。しかもLINEベースで。猫チョコの髪にコッペパンの時から鯖虎さんのセンスの秀逸さが好きでしたが、もっと好きになりました。
[編集済]
[良い質問]
──すべては運命なのだ──
伝説の天才科学者、寺沢創之助。
彼のその言葉が世界を解き明かすカギだった。
◆◆◆
──2018年8月、東京。
わたしが彼と出会ったのは、新宿駅の南口だった。
普段なら素通りしてしまうようなストリートミュージシャン(②)。しかしその人は別格だった。
歌声もさることながら曲がすごい。聞いたこともない旋律、コード進行……
思わず足を止めて聞き入ってしまった。
演奏が終わると、喝采とともにギターケースに多くの硬貨が投げ込まれた。
わたしはどうしても彼と話がしたくて、人だかりがはけるのを待って声をかけた。
「あの……」
「あ、お嬢さんちょうどよかった。家に泊めてくれませんか? 僕、お金あまり持ってなくて……」
ギターを背負いながら、彼は微笑みかけた。
見ず知らずの女性の家に泊まろうなんて、非常識にもほどがある。
しかし、わたしはもうすっかり彼のトリコだった。
「いいですよ。私はカオリ。あなたの名前は?」
「ソウタ」
「ソウタさん。さっきの曲、どれもすごく良かったです 」
「ありがとう。どれも2100年のヒットソングだからね」
「2100年って。おかしい。でもそんな感じの未来感がある曲でした」
「手っ取り早く電車賃を稼ぐにはこの方法に限るよ」
「……本当にお金ないんですね」
他愛もないやりとりをしながら改札へ向かう。
はじめて出会ったはずなのに、何度も会ったことがあるような不思議な気分がした。
そして、そのまま彼とわたしの数ヶ月にわたる生活が始まった。
──9月。
一緒に暮らしはじめてすぐ、彼があまりにも流行に疎いことに気がついた。
「そういえば、ソウタさんってLINEやってる?」(⑦)
「……LINEってなに?」
「ええっと、スマホは持ってますか?」
「スマホ……はこの間知った。でも持ってないよ」
そんなやりとりがいくつもあった。
もしかしたら、彼はしばらく外国にいたのかもしれないし、そもそも日本人ではないのかもしれない。
あまり過去を語ろうとはしないので、わたしも無理に詳しく聞こうとはしなかった。
謎が多くなればなるほど、男性は魅力的になるものだ。
──10月。
わたしは釣りが趣味で、休日には市ヶ谷の釣り堀や荒川に出かけるのが定番だった(⑤)。
その日は、はじめて彼を連れていった。
まだ暖かいと思っていたのに、じっとしていると冷える。小さな秋の訪れを感じた(①)。
寒い寒いと手をさすっていたら、彼が手袋を貸してくれた。
「まだ10月なのに手袋なんて持ち歩いてるの?」
「僕が住んでいたところは、一年中手袋が必要なんだ」(⑩)
北国か高山にでも住んでいたんだろうか。謎がまたひとつ。
グレーの手袋は見たこともないほどスタイリッシュで、暖かかった。
そんなに気に入ったなら、それ、あげるよ。と彼は笑った。
彼からの最初で最後のプレゼントになった。
──11月。
別れは突然やってきた。
「僕は故郷に帰らなくてはならなくなった」
彼は泣きながら、今までありがとう、と繰り返した。
わたしも泣いた。彼はわたしが泣き止むまで抱きしめてくれた。
去りゆく背中を見つめながら、わたしは彼とはもう二度と会えないような予感に震えた……
◆◆◆
──2150年11月、東京。
僕はタイムマシンに乗って、生まれ育った時代に帰ってきた。
過去を繰り返すのはもう10回目。
最初はまるで知らない言語のように感じた香織の時代の言葉も、今では150年の隔たりを感じないほどスムーズに会話ができるようになった(⑧)。
繰り返すたびに香織との別れがどんどん辛くなっていく。
今回は名残惜しくて予定よりも帰還が1時間遅れてしまった(④)。
抗菌マスクと手袋をつけて研究所の外へ出てみると、相変わらず荒廃した街並みが目の前に広がっていた。
今回もダメだったか……
僕は落胆した。
「失敗のようですね……」一緒に外へ出てきた助手も、気を落とした声でつぶやいた。
僕がタイムトラベルを繰り返すのには理由がある。
21世紀後半に天才科学者・寺沢創之助によって作り出された細菌兵器は、悪用されることはついになかった。
しかし、2140年の大地震の影響で細菌が漏れ、日本国内はパニックに包まれた。
それから10年、いまや大都会東京の面影はない。
この悪夢のような現状を打破するには、細菌兵器が存在しない世界を作り出すしかない。僕は過去を変えるためにタイムマシンを開発した。
ただ、寺沢創之助は狂人だ。
「なぜ危険な細菌兵器をつくりだしたのか」と問われた際、『誰にも理解されないだろうが、すべては運命なのだ。私に課せられた使命なのだ』と言い放ったことは、狂科学者の語録として、今にいたるまで語り継がれている。
過去に戻って彼本人とコンタクトを取ったところで、兵器の開発をやめさせることは難しいだろう。
確実な方法は、彼を誕生させないことだ。
僕は、タイムマシンで寺沢の生まれる1年前へ行き、母親と父親の恋路を妨害しようと考えた。
彼は2019年東京生まれ。女手一つで養われたといい(③)、父親は不明。彼の手記によると、母親からは“父親は結婚前に事故死した”と教えられ、父親の存在を示すものは「形見のグローブ」だけだったという。
父親の手がかりがないのなら、母親からあたるほかない。
母親こそが寺沢香織であった。
僕は彼女に会うために、2018年の東京へとタイムトラベルをはじめたが、いくら探せど彼女の周りにスポーツマンはおろか、男の影すら捕らえることはできなかった(⑨)。何度過去をやり直しても、22世紀では相変わらず伝説の天才科学者として寺沢の名が君臨し続けている。
いったいなぜなのか。
彼女が寺沢香織であることは間違いない。趣味や生年月日など、あらゆる情報が史実と一致している。
今回のタイムトラベルでは、別れが辛くなることを承知で香織と恋人にまでなったのに。考えたくはないが香織が別の男と浮気していたというのだろうか……
「少し外を歩いてくる」
僕は助手にそういって、街へ繰り出した。
マスクと手袋が欠かせない汚染された街。
どこを見渡しても、タイムトラベル前と変わらない風景が広がっていた。
子どもが遊ばなくなった公園は遊具が朽ち果てている。
廃れたホテルは、看板の文字が崩れ落ちていた(⑥)。
H TEL LOVE
なんだかいかがわしい。
元の名前は何だったのだろう。HOTEL CLOVERとかそんな名前だったのかもしれない。GLOVEでは「手袋」だし……
そのとき、頭に稲妻が走った。
寺沢の手記に残されていた「形見のグローブ」の文字。カタカナで書かれていたため、てっきり野球やボクシングのグローブのことだと思っていたが、「手袋」のことではないか?
そう。僕は今回のタイムトラベルで香織に手袋を渡した!
なんということだ。
香織は息子に嘘をついたのだ。父親は事故死などしていない。
寺沢創之助……あの天才科学者の父親は「僕だった」のだ!
脳みそが燃えるように活動を始める。
おそらく、寺沢は僕が残した抗菌手袋の素材から、父親が未来からきたこと、未来の日本が細菌で汚染されていることを悟ったのだろう。
そして、父親がなぜタイムトラベルを試みたのかも理解したに違いない。
……そうだ。寺沢が細菌兵器なんか作らなければ、僕はタイムマシンで過去に行くことなど考えもしなかった。
彼は、父親を未来から呼ぶべく細菌兵器を作ったのだ。母と父を巡り合わせ「自らを誕生させる」ために。
僕は過去を変えるためにタイムトラベルを繰り返していたつもりが、寺沢が描いたシナリオ通りに動いていただけだったのだ。
──誰にも理解されないだろうが、すべては運命なのだ──
あの言葉が脳内に反響する。
寺沢創之助は、自らに課せられた運命をすべて理解したうえで細菌兵器を開発したのだ……
まさに天才的頭脳……!
ふらつく足で研究所に戻ると、タイムマシンを焼却処分するよう助手に指示した。
ソファに倒れこみ、たった一人で息子を立派に育て上げた香織に想いを馳せる。
もう一度過去に戻って、彼女と恋仲にならないようにやり直せば何か変わるだろうか?
僕にはとてもそうは思えなかった。
何度過去をやり直そうと意味はない。
結局我々は、どれだけあらがっても逃れることのできない「運命」という名の檻に幽閉されているのだ──(⑪)
【完】
[編集済]
ただただ驚愕しました。
展開の衝撃がすごく大きかったです。衝撃的だけど、理屈が完璧に通っているっていう作り込まれた凄さ、そして、嘘。
あと、要素の洗練さ。例えば、『手袋が重要』について、その箇所だけ読んだら(なるほど、確かに重要だな)とは思うんですけど、最後まで読み進めていくとまた違った重要な意味があるのに感嘆しました。運命に幽閉されている、が単なる格好つけた比喩表現のみに留まらない説得力があることも大好きです。
[編集済]
[良い質問]
廃ホテル⑥は近年の海面上昇によって、格好の釣り場になっているらしい。
釣り好きの友人⑤がそこへ行くというので、同伴させてもらうことにした。
ついーっ ばしゃ
LINE⑦で1時間遅れる④と言っておいたので、彼女は既に釣りを始めていた。釣り人のときの彼女は、いつも同じ服装(合わせて三万円程度)を身に纏い、同じグローブ(1500円)⑩をつけている。
愛用の釣竿(5万円)をひきあげると、小さな秋刀魚がかかっていた。彼女は、「小さい秋見つけた①」と歌い②、微笑んだ。
バケツ(800円)の中には、いくつかの魚が幽閉⑪されていた。こいつらはこの後、水槽の中で養われる③らしい。
彼女は、水面を見つめたまま、道具の値段など尋ねて何をするつもりなのかと聞いてきた。今書いている小説の資料として、と答えると、彼女はおもむろに口を開いた。
「さっき、手袋の値段教えたでしょ?あれ嘘」
知らない言語で話された⑧。そう思うほど、衝撃は大きく、理解に時間を要した。嗚呼、間違いがあるのなら――
彼女は、ライターを取り出した私の手を捕まえようとしたが、私はそれよりも早くこの原稿を燃やした⑨。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
end
[編集済]
TASさんですか???????
最短ルート通ってるけど無理がある訳では全然ないっていうのが凄い・・・完璧こはいちさんですね。
1文目の破壊力がやば過ぎました。海面上昇で廃ホテルが釣り場とかこんな繋げ方多分1億人に1人も思いつかないです。
[編集済]
~男~
男は世界中を旅する冒険家で、今日は寝坊して乗るはずだった列車に【要素④】1時間遅れてしまい、暇を持て余していた。
せっかくだからと森の中を探検していると、どこからか女の子の歌声が聞こえてきた。
【要素①】【要素②】小さい秋見つけたの歌を聞いた男は不思議に思い近づくと、【要素⑥】がれきの山と化した廃ホテルのそばに少女が腰かけて歌っていた。
少女は男に気づくと、目を見開いて歌うのをやめてしまった。
少女は胸元をぎゅっとつかみ、しばらく男を見つめていたが、やがて拳を握って立ち上がると、男に縋り付いて何かを訴え始めた。
【要素⑧】少女は男の知らない言語で話していたいため、何を言っているのかは分からなかったが、少女の体が小刻みに震えているのに気が付いた。
男は上着を脱いで少女に掛け、【要素⑩】手袋を差し出すと、手早く火をおこし、湯を沸かし始めた。
~少女~
体が温まり一息つくと、少女は身振りを交え、時には地面に絵を描き、自分が人里離れた屋敷に【要素⑪】幽閉されていたこと、そこから逃げ出してきたが行く当てがないことを必死に伝えた。
男はしばらく視線を彷徨わせていたが、やがて少女をじっと見据えると、右手を差し出してきた。
少女はおそるおそる男の手を取った。その日から、少女は男とともに世界中を旅することになった。
~10年後~
少女は母となり、2児を【要素③】養っていた。
今日は野外でテント泊だ。
少女は夕食の食材を調達しようと、【要素⑤】川で釣り糸を垂らしていた。
魚がかかった!と手ごたえを感じた瞬間、突風が吹き、驚いて釣り竿を持つ力が緩んだ隙に、魚が逃げてしまった。
【要素⑨】もう捕まえることのできない獲物が逃げていくのをしばらく眺めていると、ふいにLINEの着信が鳴った。そろそろ夕飯の支度を始めるようだ。
少女は今日の釣果を抱え、家族のもとへ急いだ。
男は子供たちと一緒に焚き火にくべる木の枝を集めているところだった。
男は、少女から魚を受け取った時、その手が冷え切っていることに気づいた。
男は、平気だと言い張る少女に、半ば強引に自身の着ていた上着を掛け、手袋をはめさせた。
それから男は、手早く火を起こすと湯を沸かし、少女に差し出した。
―了―
[編集済]
今回の作品群の中でも私はかなり好きな方の作品です。
すごいシンプルで、でも中身がちゃんと詰まっていてわかりやすい。
その分かりやすさは、くるみローストさんがかなり描写を丁寧に書いているから、というのもあると思いました。すごく上手い・・・!!
読んだ後、ほっこりしました。
[編集済]
太田 聡志様
お久しぶりです。突然の手紙で驚いたことでしょう。
半月ほど前に偶然あなたの高校生時代の同級生に会い、住所を聞きました。
裕樹くんとは、今も年賀状のやり取りを続けているんですね。実際の年賀状も見せてもらいました。
長らく連絡を取らず、ごめんなさい。
あなたが就職を期に実家を出た時に、私はあなたの前から姿を消すつもりでした。
だけど裕樹くんに会って、あなたの話を聞いて、あなたの息子の写真を見て、どうしても我慢ができなくなってしまいました。
私は、あなたに謝らなくてはならないことがあります。
手紙で伝えることを、どうか許してください。
私はずっと、あなたに嘘を吐いていました。
私は、あなたの本当の母ではありません。
それどころか、あなたを育てることになった(③)経緯も合法的なものではありません。
これから書くのは、私の身勝手な懺悔です。
読みたくないと思うのであれば、今すぐ捨ててもらっても構いません。
だけど、誓って真実です。それだけはどうか疑わないでください。
あの日、仕事帰りに乗っていた電車が人身事故で運転を見合わせてしまいました。
代替の交通手段もなく、結局普段より1時間遅れで駅に到着しました。(④)
遅い時間ですし、普段ならば大通り沿いの道を通って帰るのですが、その日は疲れていたこともあって近道をしました。
街灯の少ない細い道沿いに、随分前に廃業になったらしいホテル(⑥)がありました。
何かが気になって見ると、ドアの外されたフロントの中に、小さな人影がありました。
2歳くらいの男の子が、床に座っていたんです。
そこには真っ赤な紅葉があって、私はそれに目を惹かれたのだと分かりました。
手袋、まだ持っていますか?
あなたが幼いころに使っていた、赤い手袋です。(⑤)
とっくにあなたには小さくなっているのに取っておけという私を、あなたは不審に思ったことでしょう。
あれは、その時あなたが身に着けていたものです。
朝夕に肌寒さを感じるようになってきた時分に、とてもきれいな紅葉だと思いました。
だけどあなたの瞳が淋しげで、何かを待っているような、何も待っていないような様子で、我慢ができなくなってしまいました。
何をしているの、と問うと、まってる、と答えました。
誰を待っているの、と問うと、少し口を開けてから首を横に振りました。
どこから来たの、と問うと、左を指差しました。駅の方角です。
電車に乗ってきたの、と問うと、うん、とうなずきました。
いつからここにいるの、と問うと、あさ、と答えました。
もう、夜の9時を過ぎています。
その子の待ち人は来ない。そう思いました。私にも覚えがありましたから。
家に来る、と問うと、じっと見上げました。
手を差し出すと、そっと握りました。
その小さな紅葉がひどく冷たくて、どうしようもなく暖かくて。
私は思わず、歌を歌っていました。(②)
あなたは歌を知らないようでしたが、たどたどしく繰り返してくれました。
ちいさい秋みつけた。
いつの間にか、とても上手に歌えるようになっていましたね。
あの時のあなたの手が、私の見つけたちいさい秋だったのです。(①)
あの手袋は私が攫うきっかけ、というとあなたには良くないものでしょうが、あなたの親の愛の証だと思うのです。
あなたが親に愛されていなかったことを言い訳にあなたを育てておきながら、あなたの手にぴったりの小さな手袋を見るにつけ、そこに確かな愛情を感じずにはいられませんでした。
あなたが将来何を思うのか、いえ、私の勝手な贖罪だったのでしょう。
捨てることもできず、当然説明することもできず、結局はあなたに委ねてしまいました。
あなたを連れて帰ってから、1週間経っても、1ヶ月経っても、行方不明の2歳の男の子のことが公になることはありませんでした。
その時私は、捜索願が出されていないのかもしれない、と思いました。
あなたの親は、あなたを探してはいないのではないか、と。
私には、息子がいました。ちゃんと、血の繋がった。
妊娠が発覚してすぐに相手は姿を消したので、1人で育てていました。
そして息子は、あなたに出会う2ヶ月前に、亡くなりました。
朝起きたら、息をしていなかったんです。
どうしたら良いのか分からなくて、病院にも役所にも連絡ができず、ただただ遺体を腐らせてはいけないと、誰にも見られないように隠さなければならないと、それだけを考えていました。
おかしな話ですが、あの時はそれしか考えられなかったんです。
だから、その子の戸籍があったんです。
捜索願の出ていないあなたと、持ち主のいなくなった戸籍。
これなら、私とあなたと、亡くなった息子のことを知る人のいない場所に行けば、普通に暮らせるのではないか。
そう、考えました。これなら、私は捕まることはないと。(⑨)
しばらくはあなたを外出させることもできず、幽閉状態になってしまっていましたが(⑪)、なんとかお金を工面して引越しをしました。
誰も知る人のいない土地に暮らすのは初めてではなかったので、きっと大丈夫だろうと。
実際、幸いにも大きな問題はなく、あなたを幼稚園や学校に通わせることができました。
私はまともに学校にも通っていなかったから、あなたと一緒に勉強をするのはとても楽しかったです。
あの日々がなければ、私はこうして手紙を書くこともできなかったでしょう。
覚えていますか? 逆さ言葉。結局あなたは習得できないままでしたね。(⑧)
あれはろくに漢字の読み書きもできず、遊び道具も与えられない中で私が見つけた遊びでした。
幼稚園の頃はまだまともでしたから、家に絵本はあったんです。
ひらがなだらけの文章を、単語だけ逆さまにしながら読む。
くだらない一人遊びでしたが、不思議な響きに興味深げにしているあなたの姿を見ると、あんな遊びにも意味があったのだと思えました。
そうそう、昔はよく釣りに行きましたね。
私が育った近所には山があって、子供の頃はそこの小川でよく釣りをしていたんです。
道具なんて持っていなかったので、木の枝とタコ糸と、見よう見まねでしたが。
それでも、川に糸を垂らしてじっと待つ時間が心地よくて、あなたにも体験してもらいたかったのです。
私にとっては唯一、趣味と呼べるものだったのかもしれません。(⑤)
でも、あなたと過ごす時間はそれ以上に、何もかもが楽しかったです。
書き始めると、きりがなくていけませんね。ごめんなさい。
こんな話、あなたにとってはどうでもいいことでしょうに、本当にごめんなさい。
あなたが私を恨むのなら、この手紙を警察に持っていってください。
あなたを攫った場所や、当時の写真も入っています。
捜索願は出ていないかもしれないけれど、捜査くらいはしてくれるでしょう。
だけどもし、訴えるつもりがないのであれば、この手紙は処分してください。
どちらにしても、あなたの未来に私はもう必要ありません。
私は本当は、あなたの人生には係わりのないはずの人間なのですから。
どうか、これからのあなたの未来が幸せなものでありますように。
[編集済]
ハシバミさんの作品群、どの創り出すでもそうなんですが、本当に切り込む角度が他の人とは違って、しかも目を奪われるようなものがあるのが本当にすごい。自分の感性をはっきりと言葉にする力が極めて優れているんだと思います・・・。
今回の創り出すも手紙の文章からスタート、後半で男に焦点が当てられる感じとなっていますが、本当に描写が丁寧で細かいし、問題文と解説という関係としての納得感もピカイチに高い。ただただ尊敬しますし感動しました。
[編集済]
手紙を読み終えた男は、小さく息を吐いた。
女の明かした事情に、まったく心当たりがなかったわけではない。
大層なことをした割には、女は嘘を吐くのが下手だったのだ。
だから、驚きはしなかった。
男は手紙を封筒に戻し、リビングのテーブルの上に置いた。
寝室のクローゼットの奥に仕舞いこまれた段ボール箱を引っ張り出す。
学校で貰った賞状や作った作品が詰め込まれている。
ひとつひとつ、開いて眺める。
これは小3の夏休みの宿題だ。初めて賞を貰って、市内のホールに飾られた。
これは中学生のころ。ささやかな反抗期を迎えていたが、授業参観の折に見られて、褒められたのがこそばゆくも嬉しかった。
これは。
そうしてダンボールの底が見えるようになったころ、男はようやく本来の目的を思い出した。
小さな、赤い手袋。
穴が二つに分かれている、ミトンだ。
紅葉と言うから五本指かと思っていたが、確かに2歳児の手に嵌めるのは難しいだろう。
女も記憶があいまいだったのかもしれない。
男は小さく笑って、手袋を手にリビングに戻る。
先ほど置いた封筒と一緒に、紙袋に入れる。
庭に目をやり、今度はスマートフォンを手に取った。
もうすぐ、買い物に出かけた妻と息子が帰ってくる時間だ。
メッセージアプリ(⑦)を起動して、サツマイモを買ってきてほしい、と送信する。
少しして、妻がメッセージを確認したことを示す文字が表示され、ネコのスタンプが返ってきた。
妻のお気に入りだ。
買い物のお願いだけで用途を察したのか、期待するようなキラキラとした目をしている。
今年3歳になる息子は、まだ見たことがないだろうか。
都会育ちの妻も経験はないかもしれない。
実際、男も中学校の課外活動の中で経験したことがあるだけだ。
上手くできるだろうか。
いや、上手くできなくてもきっと、2人は笑ってくれるだろう。
帰ってくるまでに、焚き木と落ち葉を集めなくては。新聞紙と、アルミホイルも。
口角を緩め、男は立ち上がった。
ほんの1時間後の未来。
男と、妻と、息子の笑顔がそこにはあった。
焚き木の中に隠した、思い出と共に。
【完】
[編集済]
☆
アクセスコード承認。
コード【#####】…オーバー。
【19## #月18日 ファイドリトルオータム事件】のデータを開示します。
事件の詳細についてはあまりに残虐であることから現在Cランク相当の閲覧権限がかけられています。
また精神汚染の疑いがあることからBランク相当の保護プロコトルをしいています。権限の無い職員は直ちにファイルを閉じてください。
この先お聞きになられますか?
【概要欄】
本件はラテラテ地方の地方開発区域セイレムで起きました。
発端はこの区域に住む【オータム・メイレイン(13)】が
歌を歌っている最中に謎の発作を起こしたことです。
当時彼女の保護者であった【トロー・タークストン(46)】
は区域医師である【ティーライク・オールドマン(?)】に診察を要求しましたが当医師は原因不明と解答。
【メイレイン】が譫言で魔女の存在を示唆する発言をしたことから区域内に魔女がいると断定されました。
当時キリスト教信仰が強い当区域の宗教色は強く誰も疑いを挟まなかったと【ティーライク】氏の日記に記されています参考資料は下記をご確認ください。
区域判事【キャノー・スピンバーグ(59)】は魔女の存在から翌日より裁判の立件を承認しました。
最初の裁判で被告人の立場に立っていたのは
【トロー】氏の家に勤め、養われている
現地人使用人【ファースト・ツラレール(23)】
呪術的要素の強いカリブの島国の出身であったこと。
当時メイレインと親しくしていたことが理由になります。
また、彼女の部屋のベッドよ下より人形が出てきたことも彼女の疑いを強めました。
キャノー判事は判断のすえ、裁判所の地下の勾留所に彼女を勾留することに決定。隔離措置が行われました。
トロー氏の懸命な弁護があったと後に記されています。
二日の後に中央都市より本問題を解決する為に派遣されてきた
一級審問官【ウィーチ・キラーゼ(57)】が行動を開始します。
勾留中のファーストに尋問の後魔女と断定。翌日の内に絞首刑としました。
反対意見は数多くあったと思われますが当時一級審問官は絶大な権限を有し、異論を挟めなかったと思われます。
これより後に数々の区域住民が彼の手によって絞首台又は十字架にかけられていきます。
(←区域内該当者一覧 ページ数1/16 →二日目に跳ぶ)
結果的に処刑された数69名。内尋問による衰弱死16名の凄惨な事件が本件になります。
【証言データ】
①◼月7日 ティーライク・オールドマンのカルテより
メイレイン氏の容態については当方に手段なし。
なんらかの呪術を貰ってしまったと考えられる。
外傷、なんらかの事前診断、持病の様子なし。
何か譫言を呟いている。
一時間遅れてしまってごめんなさい…?
何かに魘されているのだろうか。 鎮静剤を投与する。
②◼月10日 酒場【her hobby is fishing】店主【サバー・トラゼ】の日記より抜粋
一級審問官殿が到着してからまたたくまに魔女が処刑された
いい気味だ!!この区域は神が守護される開発区域!!
これでこの区域は平和になるだろう!!ビバ!!ラテラテ!!
③◼月15日 花屋【ピロー・ペンナリー】の日記より
どういうことよ?魔女はいなくなってこの区域は平和になったんじゃなかったの!?今度は三人も発狂者がでるなんて…おお神よ
まだ魔女のやつはどこかに隠れているに違いないわ!!
ウィーチ氏の腕の見せどころね!!はやくやって欲しいわ!!
趣味の釣りは当分やめておきましょう…
④◼月17日 農夫【ニトロ・ゲージストン】の日記より
ウィーチ殿は確かに有能なのかも知れないが少々強引すぎないだろうか…魔女はゆゆしき問題だがこの裁判がずっと続いて区域の人々が信用しあえないのならそれは少し問題だ。このまま事態が鎮静するといいのだが…
⑤◼月18日 牧師【シーリーフ・クレイ】の日記より
また発狂者が出てしまった…おお神よ…どうして試練を科されるのですか…先日また魔女を処刑したばかりではありませんか…
汝の隣人を愛せとイエス様は仰有いますが…これは…難しいものがあります…発狂者は我々の知らない言語を呟かれますこれが魔女の呪いなのでしょうか…
⑥◼月26日 雑貨店【ウォルナット・ロスト】の日記より
三回目の裁判が行われた容疑者はなんと牧師様!!魔女はどこにでもいるし、誰にでもなれるらしい…誰も迂闊には信用してはいけないのだとか…牧師様を弁護したいが…そんなことをすれば私が魔女と言われるかもしれない…すまない…これは懺悔だ…
⑦◼月27日 歌い手【キャット・フマーノ】の証言
絞首台に上る時に牧師様は高らかに神に祈られました。
あの人が魔女なんて、信じられない…。
でも誰かが「悪魔だ!!」と言ったとたんに刑は淡々と執り行われてしまった。何か変な方向に我々は進んでいるのかもしれない…誰か…誰か止めないだろうか…と私は思っていたのです
⑧◼月1日 木こり【キットリン・クリス】の日記より
…ニトロの奴が裁判席に上っちまった…この裁判はおかしい!!と発言した瞬間にこれだ…誰も誰も信じられないのかもしれない。
勾留所に預けられた奴を何とか助けてやりたい…あとは野となれ山となれ…俺は友情を貫く!!
(廃宿の下より発見された 本人が隠したと思われる)
⑨◼月3日 少年【マウンテン・ライス】の日記より
よるに黒ずくめのふーどを被った人が勾留所にむかっていたので
おとうさんとおかあさんにつたえたらすぐに黒ずくめの人はつかまりました!!わるいやつなんだとおもいます!かれらもきっとまじょです!!おとうさんとおかあさんがだれもしんようできないとか言っていたけどこれでおわるはず
やっぱりかれらはlineをやって繋がっていたに違いありません!!
どうなるのかな…
⑩◼月10日 行商人【ゼロ・リミックス】のノートより
何で区域医師のティーライクさんが裁判に逢わなきゃいけないんだ…!?あの人からどれだけの人が治療してもらったと思っている流石におかしいだろぅ!?でも…キットリンとニトロの奴があんなことになってしまった以上動けない…くっ…どうすれば
⑪◼月16日 掃除人【モップ・ゴーシゴシ】の証言
幽閉されていたティーライクさんが勾留所で死んでしまいました…遺体を見ましたが全身にひどい怪我…持病だと言われましたが拷問があったに決まっています!!これは密告があったと聞きました。
もう誰も信じられないのかもしれません…
いや、もう誰も信じられないのよ!!
⑫◼月26日 コーヒーハウス店主【チルット・ヴィクトリー】の日記
俺以外はきっと魔女だ!!そうにちがいない!!今日で29人目だぞ!?いつまで魔女を探せばいいんだ!??もう誰も信じられない!!!密告、密告、密告もううんざりだ!!明日皆の前で言ってやりたいね!!魔女なんかいないんだって!!
もうこの狂気は止まらないってのか!?俺はもう逃げる!!こんなところにいられるか!!!
⑬踊り子【ギャンガー・ケイレム】の証言
もう裁判所は地獄だったよ…魔女に疑われたらもう絶対に死んでしまう。あんなに中のよかった区域民達がお互いを監視するように暮らしているんだ。疑心暗鬼の中で誰も信じられない。
民の中にはもう区域から逃げ出す人も多くいたね…とにかくあの場所には人を狂わせる何かがあったんだ。
⑭マスター【マリアージュ・ナイトシップ】の証言
絞首刑ではもうダメだということで処刑方法はいつのまにか火炙りに変わっていてね…毎日毎日黒い煙が蔓延しているんだ…
疑わしきは罰するというか…常に松明が準備されていたよ…あぁ思い出したくない…
⑮手袋職人【カルロット・オーティス】の証言
何を裁判で言おうと「嘘だ嘘だ!!」と村中が連呼して松明に火をつけるのよ…信じられないでしょ?もう最後は被告席に火炙り装置が準備されていたんだから…逃げて正解だったわ…
【証言欄一ページ目 →二ページ目にいく】
【音声データ】
「だから私は魔女じゃない!!みんな目を覚まして!!」
「「「「黙れ!お前が魔女だ!!」」」」
「「「もえちまえ!!死ね!!」」」
「…私は死んでもいいわ…だけど…お願いよ!!」
「魔女の発言なんか聞くか!!仲間がいるんだろう!?」
「そうだ!!密告があったんだ!!」
【気が触れた人の手記の最後のページ】
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
…これ以上閲覧はお止めになられますか?
ファイルを保存確認。エンゲージ。プロファイル37564…承認。
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創り出すでSCPが見られるとは・!!!
SCP作品としても、かなり作り込まれてるし、要素も込で、更に私達の名前も込みで・・・って考えると想像力と労力が膨大に必要とされますね・・・これだけ質のいい状態でそれをやり遂げるってやばすぎます。
オータム・メイレインという私を想起させる人物が中心とされていますが、私は至って正常ですし、女性のようですし、私は男性なのできっと別人でしょう。私は至って正常です。私は至って正常です。私は至って正常です。これはねこです。私は至って正常です。私は
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①木々が色づき肌寒くなってきたある秋の日、カオリは合コンに参加していた。
端っこで座っているだけでいいからと長年の友人に頭を下げられて、渋々参加したことをカオリは後悔していた。
原因は明確で、目の前に座っている男のせいだった。
合コンに④1時間遅れて到着したユウヤは悪びれるそぶりもなく、俺様が来てやったぞと言わんばかりにカオリの向かいの席に座った。
ユウヤは盛り上がるみんなの話を鼻で笑いながら、ビールをガバガバと飲んだ。
印象は良くなかったが、向かいの席になったのに無視するのもどうかと思い、カオリは話しかけてみた。
「ユウヤさんの趣味はなんですか?」
「まあ、読書かな」
「……『今夜、⑥廃ホテルにて』っていう小説知ってます?」
「新井コウの?」
ユウヤは馬鹿にしたように笑った。
「あんな大衆ウケを狙って書いた本はダメだね」
まるで評論家であるかのような偉そうな口ぶりに、カオリは曖昧な笑みを浮かべた。
そんなことはお構い無しに、いよいよ酒が回ったらしいユウヤは、調子に乗って偉そうに語りはじめた。
──この場にいる女たちは身なりこそ綺麗に整えているが、「結婚して仕事を辞めたい」「経済力のある男に③養って欲しい」……、そんな気持ちが顔に出過ぎている。
──それに全く気づかずに、馬鹿みたいな顔をして⑦連絡先を交換する同僚たちはあまりにも愚かだ。
──合コンで⑤釣りが趣味だなどという女は地雷だし、俺は⑧釣り用語なんて全然わからない、モテたいならもっと考えて喋った方がいい。
……とてもじゃないが周りに聞かせられるような内容ではない。
釣りが趣味だと言ったカオリ自身に対してする話でもなかったが。
幸い、他のメンバーは各々意気投合した相手との会話が盛り上がっているようで、こちらに興味はないようだった。
「俺はビッグになるんだ」
ユウヤは会話の中で何度もそう繰り返した。
現在の自分は⑪籠の中の鳥と同じで才能を活かしきれていないだけなのだ、これから大成功を収めて周りの奴らをあっと言わせてやるんだ、と。
カオリは適当に相槌を打ちながら、もやもやとした気持ちを募らせていた。
「……随分偉そうに周りのこと見下しているみたいですけど、あなたってそんなに偉いんですか?」
そんな台詞が口をついて出そうになったところで、一次会終了だと声がかかった。
二次会は②カラオケに行くらしいが、カオリはすぐさま断った。
酔っ払ったユウヤが手をつかもうとしてくるのをサッと避けて、⑩手袋をして大切な手を守る。
ついさっき飲み込んだ台詞はそのままにして、代わりの台詞をユウヤに向かって吐き捨てた。
「カオリもコウも漢字にすると『香』なの」
「へ?」
「つまらない小説ばかり書いてごめんなさいね」
ユウヤは意味がわからないというような顔でキョトンとしている。
カオリはニッコリ微笑んで踵を返し、もう二度と会わないであろう哀れな男に背を向けたのだった。
***
ユウイチは本を閉じて息を吐いた。
ベストセラー作家・荒木サチが、街で出会った人々との小さなエピソードをフィクションを織り交ぜて書き上げた短編集『あなたの話』。
半年前の合コンに想いを馳せる。
あの時に隣に座っていた女は、自分の仕事は一般企業の事務だと話し、一次会が終わるとさっさと帰っていった。
手袋をする姿を見て、まだ少し早いのではないかと思ったのを覚えている。
名前はカオリではなく、ミユキと言ったはずだ。
──ミユキと、サチ。どちらも漢字にすると、『幸』……。
ユウイチにとって荒木サチは、⑨絶対に手の届かないような場所にいる、憧れの小説家だった。
有名な作家を好きだと公言するのは何だか恥ずかしく、馬鹿にするようなことを言ってしまった自分に嫌気がさす。
そして客観的に見た自分の姿を目の当たりにして、頭が冷えた気がした。
ユウイチは自室の引き出しで眠る書きかけの原稿を思い浮かべた。
たしか明日は燃えるゴミの日だったはずだ。
いつまでも完成しない荒木サチかぶれのつまらない文章が並んだアレを捨ててしまおうと、重い腰を上げた。
(終)
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『あなたの話』というタイトルで、心温まる系統の話かな、と見当をつけて読んでいたら、全然違いましたね、思い込み良くない反省。
人間によくある性質、やってしまいがちなことを、合コンの場、小説の話題、といった、現実味を帯びさせた描写を交えて書かれているから、ストーリーがより身近に感じられました。
登場人物のセリフが、それぞれの人間性、心情を的確に表している感じがして、大好きです
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「くそっ!騙された!」男はそういいながらこれまで持っていた女との写真、手紙をすべて捨てていた。いったい何が起こったのか-男は結婚詐欺師に騙されたのだ。
話は今から5年前にさかのぼる。
この日、男は葉っぱがほんの少し色づいていることに小さい秋を感じながら裏路地を歩いていた。(1)
男が廃ホテルの近くに差し掛かったその時だった。ある女の叫び声が聞こえた。
声は廃ホテルから聞こえてきた。男が廃ホテルの建物を見ると女性がまるで幽閉でもされているかのような格好で窓の外を見ていた。(11)女が言っている言葉は男にはわからなかった。(8)しかし、男は女が明らかに助けを求めているように聞こえた。
すぐに男が廃ホテルに向かうと、別の男二人組とその女がいた。男は二人組を倒すと女に向かっていった。
「大丈夫?」
女はゆっくりとうなずいた。その彼女の顔はとても美人であり、男は一発で惚れてしまった。早速男は女と手紙で交際を始めることになった。
しかし、この時点で男は女の罠にかかっていた。女は結婚詐欺師グループの一人であり、二人組もグループの一員であったのだ。
男と女は順調に交際を進めていった。カラオケで歌を歌うこともあったし、「釣りが趣味」だという女につきあって一緒に釣りをしたりすることもあった。(2)(5)そのたびに女と一緒に写った写真も増えていった。
そしてある日、男は女に呼び出された。男が待ち合わせ場所で待っていて1時間たった後、女がやってきた。(4)
「それで、話って何だい?」
「あの、結婚してください。」
「えっ、いいんですか?」
「はい。」
「やったあ!」
そうこれは女からのプロポーズであった。もちろん結婚詐欺師の女にとってはこのようなウソなど朝飯前だ。しかし、それまでプロポーズの一つもされなかった男にとって、またとない幸せだった。
それからというものの、女は男との結婚式費用としてありとあらゆるお金を男に払わせた。式場料金はもちろんのこと、ドレス、ハイヤー、料理、そのすべてが男にとっては豪華なものだった。男は喜んでお金を女に払っていくのだった。
しかしやがて、男の両親が女の異常に気付くことになった。きっかけは男の両親が女に女の親のことについて尋ねると、「私の両親は死んだの。」と女が答えたことだ。男の両親はその時の態度に違和感を覚え、女を探偵を通して調べてもらうことにした。すると、「両親が死んだ。」という女の言葉は嘘だということが分かった。さらに探偵が調べてみると、女はどうやらある犯罪グループとつながっており、その犯罪グループのメンバーの1人と結婚していることが分かったのだ。探偵は男を呼び出しこのことを伝え、結婚を破棄するように伝えた。
しかし、男が結婚詐欺の事実を知らされたときにはもう遅かった。女は結婚詐欺師グループのメンバーと国外に逃亡しており、すでに女たちを男の国で決して捕まえることができなくなってしまっていた。(9)
それに気づいたとき、男は激しく泣いた。自分が騙されたことに情けなさを感じたからだ。こうして、男は今まで彼女からもらった手紙や一緒に撮った写真をすべて捨てていったのだった。
さて、その後男はどうなったのだろう?-実はこの事件のあと、男の身にどんでん返しが起こっていたのだ。
今から1年前、男は手袋を拾い、それをLINEやFacebook、Twitterで呼びかけたところ、ある女性が名乗り出た。(10)その女性は実は男が働いている大手企業社長の令嬢であり、男はその女性の婿養子として結婚することになったのだ。(3)今、男はかつて自分をだました女に復讐しようと思っている。詐欺という犯罪を行う形ではなく、女性の会社の次期社長の地位を得るという少なくとも合法的な形で・・・・・。(終)
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まりむうさん、お久しぶりです。最近よく出題されているなーと思っていましたが、創り出すにまで参加されるとは。本当にありがとうございます。
さて、この話を読んだ感想としては、廃ホテルから叫び声が聞こえてくるという突拍子ない設定のはずなのに、構成が丁寧になされていて、上手く組まれていることによって、めっちゃリアリティーあって怖かったです((((;゚Д゚))))騙されただけでは済まさない男の行動力、凄いっすね・・・復讐が成功することを祈っております
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俺たちは、お互い仲が悪かった。
「せんせー、ユウくんがまたアイちゃんと喧嘩してるー!」
「こら! 乱暴はやめなさい!」
「だってアイが先に……!」
「言い訳しない! 女の子に乱暴するのはダメでしょう!」
「……ちぇ」
「……ふん」
いつもどっちから仕掛けたかわからないと言っていいほど、俺たちは取っ組みあいの喧嘩をしていた。両方とも喧嘩っ早い性格だったからかもしれないが、お互い些細な理由で泥やあざだらけになって家に帰っていた。
ある日、帰り道で住宅街の裏手にある潰れたホテルの近くを通った時のことだ。同じ帰り道にいるのが気に食わなくて(住んでる地域が近いから当たり前なんだけど)、どっちが言い出したか「あの建物で肝試しして怖がらなかった方が勝ち」ということになった。中に入ると、蔦に覆われているせいか薄暗く不気味な雰囲気だった。
「……出口、どっちだったっけ」
「なんだよ、お前覚えてないのかよ」
「ユウがめちゃくちゃに進むから……」
「はあっ!? 大体アイが入ろうって……」
「言ったのはそっち!」
「いーやお前が言った!」
そんな風に喧嘩をしだした。だが、入った時より暗くなっているのに気づいて、なんとなく俺たちは喧嘩をやめた。……急に怖くなって、俺たちは床に座り込んでしまった。
「……なあ、俺たちこのまま出られないのかな」
「……わかんない……家に帰りたい……」
「……俺も……」
「………」
「な、なんだよ……泣いてんのか?」
「……泣いてない」
「嘘つけ。…………ん」
「何だよ」
「やる」
「やだ」
「俺がやだ」
「なんで」
「…………お前が泣いてると調子狂う」
「………………」
「あってめ、鼻水つけやがったな」
「ふん、かっこつけやがって」
「うえー。こっちに近づけんな。汚い」
「じゃいただき」
「あげるって言ってねえ! 洗って返せって言って……」
ぐぅう~……。
どちらのお腹が鳴ったかはわからない。でも、なんだか気が抜けて、思わず俺たちは笑ってしまった。どうやらその笑い声が聞こえて、俺たちは無事に見つかった。
俺たちはこっぴどく怒られてしまったが、これをきっかけに俺たちは喧嘩こそすれど、本音で話し合えるほどに仲良くなった。
結局タイミングがなくて、ユウに借りたハンカチは返せないままだった。
・・・・・・・・・
アイとは小学校を卒業してから会っていない。中学から別々だったし、いくら親友とはいえ連絡先もお互い知らないままだった。アイがどうなろうが俺の知ったことではないんだが、俺が大事にしていたハンカチを借りパクされたままであることだけは覚えている。ちくしょう、あいつ絶対忘れてやがんな。
が、もうあれから10年も経って俺たちは20歳を迎える。つまり、成人式でアイツに会えるわけだ。そうすればおのずと昔話に花が咲き、それとなーくハンカチのことを放り込めるわけだ。
(以下ユウの一人劇場)~~~
「そういえば俺、お前にハンカチ貸してたよな」(イケボ)
「あ~忘れてた~ごめんなユウ~」(相撲取りみたいな声)
「気にすんなって。お前のタイミングで返してくれればそれでいいからSA☆」(イケボ)
「ユウにはかなわないぜ~」(相撲取りみたいな声)
ふふふ。お前が忘れていようが俺はねちっこく覚えているぞぉ。俺は借りた物は必ず返してもらう主義なのだからな。ふっふっふ……はーっはっは……!
~~~(以上アキラの脳内をお送りしました)
そして成人式当日を迎える。なんだか見知った顔が集まっているところがあるので、俺はそこに向かうことにした。
「ようユウ! お前も見てみろよ! すっげー綺麗なんだぜ、あいつ!」
はて。あいつって誰だろ。クラスのマドンナ清水さんか、いやいやそれならびっくりというほどでもないかな。まさか内村とか。いやいやだってあいつあだ名カビゴンだぞ? ないない……。
……なーんて、思ってただけならまだ良かった。
目に飛び込んだのは、長い髪をシンプルな髪飾りで綺麗に結わえて、少し落ち着いた水色をした振袖を着た女性だった。真っ赤な口紅、白い肌、パッチリと開いたまつげが目立ち、モデルのような風貌を思わせるほどにすらりとした体型だった。
女性は大勢の人に囲まれていたが、こちらに気づくと驚いたような表情を浮かべた。
「…………ユウ?」
「もしかしてお前、アイ……?」
「びっくりしたろ? 男も拳で黙らせるほどのアイが、こんなに美人になってんだぜ」
面影がないわけではない。だが、あまりにも小学生だったころの記憶と違うその姿が、なぜだかアイのようでアイでないような、そんな違和感さえ覚えるほどだった。
「久しぶり」
「お、おう……元気か?」
「うん、元気」
「いやあ、すっげえ……なんていうか……」
「見違えた?」
「あ、そうそう、それ、そんな感じ……」
「綺麗?」
「そ、そりゃあきれ、綺麗に決まってんだろ。……ただ……」
「ただ?」
「ただ…………」
ただ。これ以上の言葉が出なかった。
……俺は一体、何を言おうとしていたんだろう……。
「……そうだ。これ、会ったら返そうと思って。……ほら」
差し出されたのは、少し色あせた電車柄のハンカチだった。
間違いない。これはあの時貸したハンカチだ。
「お、おお、う、あ。あの時の奴だよな? 覚えてる覚えてる」
「ほんとに覚えてる? まあいいや、これですっきりしたし。清水さんが呼んでる。じゃあね」
……まあ、ハンカチは返してもらったしいいか。
俺はもう、あいつのことを考えなくてもいいのだ。
……なのに、なんで俺はちょっともやもやしてるんだ?
・・・・・・・・・
<14 西小6年1組 同窓会(23) 📞v
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
おかだけん「土曜日に飲み会やります! 人数決めたいから参加できるかできないか返事ください!」18:03
☆ひろ☆「参加します」18:03
清水加奈子「参加しまーす」18:04
うっちー「参加します!!!!」18:04
おだっち「(俺も行くんだよぉー! と書かれたマンガキャラのスタンプ)」18:06
はしもっちゃん「(私も同行しよう と書かれたマンガキャラのスタンプ)」18:06
ななみ♪「ごめーん、バイトで行けないかも……」18:09
西岡雄吾「おれもばいと」19:14
佐藤康太「俺は行ける」19:18
関根裕子「私も行けます!」19:20
ひかる(・ω・)「うちもいくー」19:21
ハナコ♪「(行ける! と書かれたパンダのスタンプ)」20:34
ゆきえ♪「(無理… と書かれた小鳥のスタンプ)」20:36
清水加奈子「あと返事してないのは?」22:03
うっちー「10」22:06
ひかる(・ω・)「いけそうだったら返事してなー」22:08
おかだけん「今日中に返事してくれると助かる」22:15
おかだけん「(お願いします!! と書かれたスタンプ)」22:16
+📷📉 (Aa ☻) 🎤
・・・・・・・・・
同窓会当日。
成人式ぶりの顔ぶれだが、やはり振袖を抜きにしても昔とそこまで変わらなかった。清水さんも相変わらずおしとやかで綺麗だし、内村も痩せたとはいえ面影は残ったままだった。
もちろん女子は化粧をしていたが、俺は小学校のころに戻ったような気がして少しだけほっとした。
……のだが、何やら女子のテーブルが騒がしい。
「えーっ!! 髪切っちゃったのぉ!?」
「なんだなんだ、お前たちどうした」
「あっ、ユウ。ねえねえ見てよ、アイちゃんが髪切ったんだ」
「はあ? 別に興味なんかねえ………っ!?」
そいつは、確かにアイだった。
だが、髪はベリーショートで坊主なんじゃないかというぐらいの短さで、服装はボーイッシュといえばいいのか、ライダースジャケットとジーンズを着用していた。化粧もファンデとリップクリームぐらいの薄化粧で、成人式とはまるで違うと断言できるほどの恰好をしていた。
「……よう。成人式ぶり」
「……お、おう……お前、本当にバッサリいってんな……」
「まあ、最初から切るつもりだったから」
「長い髪似合ってたのにねー」
「普段スカートとかも穿かないから、振袖もめっちゃかわいかったのになー」
「化粧も綺麗だったなあ。ねえねえ、美容室はどこで……」
唖然としている俺をよそに、女子はわいわいしながらアイを取り囲んだ。
俺は元のテーブルに戻った。だがなんとなく友達との話に盛り上がれなくて、トイレに向かった。
「……あ」
「あれ、お前もトイレ?」
「まーね。ちょっと疲れたから抜け出したとこなんだ。ずっと髪型とか服装のこと言われてたからさ」
アイは頭を掻いた。昔困ったことがあるとやっていた癖だ。なんだか少しほっとした。
「俺も話についてけなくてさ」
「何の話してたの?」
「ポケモン」
「得意分野じゃん」
「そうなんだけどさ。なんか話す気が起きなくて」
「ふーん。じゃ、そっちに混ざろうかな」
「え、お前まだポケモンやってんの?」
「うん。だってこの前新作出ただろ? やりこもうと思って」
……そういえば、こいつは昔からゲーマーだったな。
よくお互いの家でWiiとか、プレステとかやっていた。
いっつも俺よりやりこんでて、対戦ゲームでも毎回コテンパンにされてたっけな。
俺は思わず笑ってしまった。
「なんかおかしい?」
「いや、別に。というより、ちょっと安心した」
「安心?」
「ああ。お前が昔と変わってなかったんだなって。成人式の時はびっくりしちまったけど」
「……」
アイは少し黙ってしまった。しまった、何かまずいことを言っちまったか。
「……ユウはさ。どっちがいいと思う?」
「えっ、何が」
アイはゆっくりと口を開いた。俺は何のことかわからずに聞き返した。
「成人式の時の恰好と、今の恰好」
えっ、それ俺に聞くの? え? なぜにwhy? ちょっと心の準備ができてないぞ。
これはあれか? ファッションとかのセンスを問うているのか? だったら俺気の利いた事言えないぞ。なにせ上も下もしまむらルックだからな。それともどっちのお前も綺麗だよ(イケボ)とかくっさい台詞を吐くべきなのか? いやいやなんでそんなん女子じゃあるまいし。いや女子ではあるんだけど。
だってアイだぞ? ティガレックスをほぼほぼ一人で討伐する猛者だぞ? うん、正直にどっちがいいか言おうそうしよう。
「……今の方かな」
「……本当?」
「そりゃーお前、振袖とか似合わねえもん。袴とか着てくんならまだしもよ、しかも化粧とか笑っちまうぐらい濃かったし……」
「……」
ってオァァッ!! つい昔の癖で「うっかり喧嘩腰モード 対アイver.」が発動してしまったァ! 畜生俺はどうしてこう気の利いた事を言えないんだ! 素直に今の恰好のことを褒めちぎるべきだったのに俺の馬鹿野郎!
い、いや。まだ間に合う。俺はありったけの知恵を振り絞る。
「そ、そのジャケットもかっこいいよな。すげえ欲しいと思っててさ。似合ってるぜ」
ど、どうだ? まだマシだよな!?
恐る恐る俺はアイの方を見た。だがアイは俯いていて、どんな表情かわからなかった。
そして、ポツリとつぶやいた。
「そっか……」
相変わらずアイは俯いたままだった。
声色だけ聞いても、嬉しいのか、少し寂しいのか、それともやっぱり怒っているのか、声のトーンが少し下がったぐらいで聞こえただけだった。
……どっちだこれ。 え、どっちだこれ!?
しまむらルックにはこれが限界だ。メンズノンノとか読もうと思ったことすらないんだ。
そうだマイブームとかの話をしよう。最近何にハマってるかとか聞けば盛り上がるし何より俺は聞き役に回れる。よーしマイブームを聞くぞ。うん? でもマイブームって言い方だとちょっとわかりづらいか? 普通に趣味とかでいいのか? まあ趣味でも通じるよな?
あとそれとなく機嫌を取るために丁寧な言葉遣いをするべきだろう。それが喧嘩腰にならない方法だ。お前? いやさすがにあなたとか使うべきかな。なんか丁寧ってよくわからなくなってきた。もうなんでもよくなってきたが……。
ええいままよ!!
「あなたのご趣味は……」
なんでお見合いみたいな聞き方をした俺ェーッッ!!
・・・・・・・・・
青い空、白い雲。
気持ちのいい爽やかな風が吹く。
それはもうびゅうびゅうと。
俺の頬をこれでもかというほどに殴りつける。
そう、季節は3月。
俺たちは今釣り堀にいるわけだが…………。
「…………さっむ!!!」
「だから言ったろ、防寒具必須だって」
「えっ、3月ってもう春でしょ……? なんでこんな寒いの……?」
「海風で春でもまだ寒いぐらいなんだよ」
「それを先に言ってくれよ……俺ダウンしかねえよ……下一枚しか着てねえよ……」
「それも言ったよ馬鹿。釣りを甘く見るな」
「ふぇーい……」
……さて、なんでこんなことになっているのかというと。
「ご趣味は?」
「釣りを少々」
「釣りってよくわかんないんですよねぇー」
「良ければ教えますよー」
「えーでもー俺のぶんとかいろいろ大変なんじゃ……」
「準備したから3月行こうぜ」
「やだ展開はやーい」
こういうことである。あれよあれよという間に俺はアイと釣りをすることになっているわけだ。
……しかし、本当に寒い。
俺が釣りを舐めていたにしても、これはマジで寒い。
まるで巨大な冷凍庫に幽閉されたみたいだ。
「……おい、釣り竿が動いてるぞ」
「はは……みたいっすねー……」
「引き上げないのか」
「したいのはやまやまなんですが……手が思うように動かなくてですね……」
「馬鹿! かじかんでんだよ!」
アイはそう言って釣り竿を離し、俺の手を掴んだ。
……手、小さいな。俺とは一回り違うくらいか。
それに少ししっとりしている。手袋から手を出したからだろうな。
それに手を握る強さが……心地よい。
包み込むようでいて、それでいて熱を分けるように程よく力強い。
……あ、ちょっと上目遣い。
俺と目が合うや否や、アイは手をぱっと離して自分のはめていた手袋を外した。
「……ほら。手袋貸してやる。これで少しはましになんだろ」
そう言ってその手袋をくれた。
手袋はやけにぴったりで、温もりがまだ残っていた。
それはなんだかまるで俺と離れないように手をつないでいるような――。
「おい、顔も真っ赤じゃないか。だから防寒具を持てって言ったのに」
・・・・・・・・・
「うし、釣れた。クロダイだな」
「えっ、鯛釣ったの? すげえなおい」
「このへんはよく釣れるらしいんだ。でも小さいからリリースする。こいつはオスだ。メスのほうがうまい」
「そんなんまでわかるのか?」
「うーん、というよりクロダイの若い奴はオスだと思えばいいっつうか。クロダイは全員オスで生まれるんだ」
「えっ、じゃあメスいないの?」
「途中からメスに変わるんだ。もちろん、全部じゃないけど」
「ほーん。なんだかかわいそうだな」
「……どうしてそう思うんだ?」
「もしかしたらメスになりたくなかったクロダイもいるかもしれないってことだろ? 逆にメスになりたかったのになれなかった奴もいるかもしれないじゃないか」
「……そう思う奴はお前が初めてだと思うよ」
アイは軽く笑った。その微笑に少し心臓が跳ねた。
「だ、だってよお、環境とかで勝手に人生? というか魚生決められるってわけだろ? すごい窮屈だと思わねえ?」
窮屈ねえ、とアイは反芻する。
「そういう生態だから、と思ってスルーしてたな。だがそこまで思うか?」
「思うって。人間で例えるならあれだ、ミュージシャンになって歌を歌いたいのにお堅い官僚の子どもに生まれちゃった感じ」
「……敷かれたレールの上を歩かされる、っていうことか?」
そうそれ、と俺は返した。アイは軽く息を吐いた。
「……生まれも育ちも、決められるわけじゃない。仕方のないことさ」
アイの顔は俯いていた。
俺は同窓会の光景をその時ぼんやりと思い出していた。
・・・・・・・・・
なんだかんだ釣りをはじめて半年。
季節は夏の終わりの9月である。
そして俺はなんとかして大物を釣ることを目標にしている。
……の、だが。
「……釣れねー……」
「そりゃすぐ釣れたら苦労しねえよ」
「つーかなんで半年もやって獲れないんだよ……」
アイはアジとかバンバン釣るのに。俺だって釣りたい。
なんでいっつもわけがわからん小魚しか釣れてないんだ。だいたい食えないやつだし。
なんだかいらいらしてきたのでそれをぶつけるようにつぶやいた。
「……今から言いたい事言うわ」
「急だな」
アイは短く返した。俺はそのまま続けた。
「お前って昔からムカつく奴だったよ」
「悪口かよ」
俺は無視した。ただの独り言のようにつらつらと話した。
「しょっちゅう突っかかってきたしよ」
「それはそっちだろ」
「ハンカチも10年借りパクするしよ」
「だから成人式で返したろ。ていうかお前も早く俺の手袋返せよ」
「なんで成人式で返したんだよ」
「……は?」
「なんで覚えてたんだよ。あれ10年前のことだったろ」
「なんでって、大事にしてただろうが」
10年前に大事にしてたものが今も大事だと思ってんのかよ。
「俺は覚えてないと思ってたんだよ」
「はあ? じゃああのまま借りパクしてて良かったのかよ」
「いいわけないだろ。だからまた日を改めて返してもらおうと思ってたんだよ」
「どんだけあのハンカチに思い入れがあるんだよ」
「ばっか、ハンカチなんてどうだっていいんだよ」
「どっちだよ」
俺もそう思う。
大事なハンカチがどうでもいいと思っている自分に。
「なんだよ、それ」
俺だってそう思う。
律儀に成人式で返してきたお前に腹を立てていることに。
「意味わかんねえよ」
俺だってわからないんだ。
わからなくなりすぎて何も考えたくなかった。
それなのに、波の音が頭の中を落ち着かせてくれないんだ。
「……同窓会」
頭が真っ白になってつい口に出た。
「俺、ホントは行きたくなかったんだ」
波の音がうるさいので大声で言った。
「じゃあ、なんで来た」
アイも心なしか大声で言っている気がした。
「それはっ……」
……それは………………。
・・・・・・・・・
時は少し遡り。
同窓会の返事をどうするか決めていたところである。
《土曜日に飲み会やります! 人数決めたいから参加できるかできないか返事ください!》18:06
そんなメッセージが来た。俺は乗り気じゃなかった。
別にクラスメイトに会いたくないわけではない。
だが、成人式以来感じている行き場のないもやもやした感情をどうすればいいのかわからず、そんな状態のままで行くのはなんとなく嫌だったからだ。
結局俺は「今日中」から一時間遅れた1時に「来ない」とだけ返事をしようと思った。
非常識な時間帯に送って八つ当たりしたかっただけだった。
俺は画面を開いた。「いけない」という四文字を書くだけだ。
数秒ぽっちの時間を使うだけだった。
それなのに。
《行く》1:06
アイだった。アイが同じ時間帯に返事を寄越した。
ただそれだけだ。たまたまだ。俺には関係ない。
でも、気付くと俺はこう返信していた。
《俺も》既読1 1:07
なあ、この既読は、お前なのか?
・・・・・・・・・
「……お前が来るって言うから」
「ああ!? 聞こえねえよ」
アイが叫ぶ。どうやらつい声が小さくなってしまったようだ。
俺はなんとなくやけになってさらに叫んだ。
「だから! お前が来るから俺も行ったんだよ!」
「はあ!? 理由になってないだろ!」
「なってるよ! 俺はお前に会えると思って――……」
……そうか。
そういうことか。
俺は、あの時ハンカチを返してもらってがっかりしたんだ。
俺は、あの時お前に会える口実が欲しかったんだ。
俺は、あの時お前に触れて満たされた気持ちになったんだ。
だから、俺は、つまり。
「…………アイ、お前が、好きだ」
・・・・・・・・・
俺が普通の女子でないと気づいたのは、中学に入ってからのことだった。
「ねえ母さん、どうしてもスカート穿かなきゃだめ?」
「ダメに決まってるでしょう。あなたは学ランを着るの?」
「俺、そっちのほうがいいよ」
そう言うと、母は溜息をついて言った。
「あのね、アイちゃん。女子の制服はセーラー服なの。いつまでも我が侭言ってないでちゃんと着てきなさい」
「でも俺……」
「あと、その俺って言うのもやめるのよ。あなたは可愛いんだから、もっと女の子らしくなさい」
「……わかった」
母に悪気はなかった。
でも俺には、女の子らしく、という意味がわからなかった。
小学校では男子女子という区別はあれ、可愛い服を着ている男子もいたし、かっこいい服を着ている女子もいたからだ。
俺はかっこいい服にあこがれていたし、好んでそういった服を着ていた。
舐められたくなくて、ずっと男子のように振る舞うことが当たり前になっていた。
だから、中学で男女の区別がはっきりしていることに戸惑った。
女子に混ざる男子はオカマと言われ、男子に混ざる女子は媚びていると言われることに違和感を覚えた。
俺はできるだけ女子の話題についていこうと必死だった。
勿論ついていくことはできなかった。
だから俺は、中学を卒業して女子らしい振る舞いをやめることにした。
俺は、私服を着ることができる高校を選んだ。
もちろん女子の服と俺の服とを比べると明らかに系統が違うが、少なくとも浮くことはあまりなかった。
そのおかげか、俺は男女問わず友達をつくることができた。
友達はいい奴らばかりだった。その中で、一番仲の良かった女子がいた。
名前は、秋という。
秋は、俺と同じパソコン部に入っていた。
俺はゲーム好きではあったが、プログラミング言語は全く知らないため作る方はてんで素人だった。やることといえばほとんどデバッグか打ち込みの手伝いだった。
秋は逆に数学が得意な子だった。いつもオリジナルのゲーム制作には、彼女が中心となって作っていた。彼女の作るゲームは、どれも売られているものに引けを取らないほどのクオリティの高いもので、俺は彼女の作るゲームがいつも楽しみだった。
「君の作るゲームはいつもすごいや。俺はまだintとかよくわからなくて……」
「理解できればすっごく簡単だよ。考え方を養ってけばなんとかなるって」
秋はいつも明るく優しい性格で、プログラミングが苦手な俺をよく励ましてくれた。
俺は、そんな彼女のことを少しずつ好きになっていた。
俺は、帰り道に秋に告白した。自分が心は男であるということも踏まえて。
「アイちゃん、本当なの? それ……」
「うん。……別に断ってくれてもいい。俺は君に無理に付き合ってもらおうとは思っていないから」
「…………」
秋は俯いた。
秋は誰よりも優しかった。
だからきっと、丁寧に言葉を選んでいるんだろうということが伝わった。
その優しさが、俺にはつらかった。
「……ねえ、少し考えてもいい?」
秋は、一言だけそう言った。
俺は、返事を待つことにした。
なんとなく帰り際に逃げるように去っていく秋の後ろ姿が忘れられなかった。
そしてその後の出来事をきっかけに、俺は再び女として生きることにした。
・・・・・・・・・
波の音が頭の中で反響する。
だが、その音が気にならないほどに、ユウの声がやけにはっきりと聞こえた。
俺は思わずユウを見る。
ユウは俺をしっかり見つめていた。
その気迫に圧されそうだったが、俺は動揺を悟られないように返した。
「な…………に言ってんだ、お前」
「何ってお前、聞こえなかったのかよ」
「じゃなくて、冗談だろ。なあ」
ユウは冗談なんか言わない奴だった。
だから余計に耳を疑った。
「本気だよ、俺」
「嘘だろ…………」
嘘だと言ってくれ。
「だーかーら、嘘じゃねえって」
「どうして」
「……俺も今気づいたんだ」
「だ、だったら、それが本当に好きかわからないだろうが」
「いや、ちゃんと恋愛感情だ。それは間違いない」
「間違いないってお前……」
「それより返事しろよ。お前は俺のこと好きなのか、どうなのか」
「お前のことを……?」
なあ、俺は。
俺は、お前をどうすればいいんだ。
・・・・・・・・・
「……お前と付き合うよ」
アイは、俺にそう言った。
「……えっ……マジで?」
「うん」
やけにあっさりと。
さっきまで呆然としていたのが嘘のように、アイは承諾した。
「まっ……えっ……」
「なんでお前が驚いているんだよ」
「だ、だってお前……まさか承諾するとは思わなくてよ……念のため言うけど釣りに付き合うわけじゃないからな? コイはコイでも魚の鯉じゃないからな?」
思わず変なことを口走ってしまった。自分でも思うが、今の俺相当恰好悪いな。
「わかってるよ馬鹿。あと鯉は海にいたら絶対捕まえられねえよ」
「だ、だよな……」
そうだよな……からかっているわけじゃないよな。
恋心が実ったわけだよな。俺もさっき気づいたけど。
なのになんでだ?
嬉しいはずなのに、なんでまた腑に落ちないんだ?
なあ、俺は。
俺は、お前を信じていいんだよな?
・・・・・・・・・
「……おい、釣り竿」
「あ、本当だ。よし……」
アイのことは気になるがひとまずは本来の目的である大物を釣る。
獲物をしっかり捕らえようと、釣り竿を持つ手に力が入る。
ふと目に入ったのはその力を入れた自分の手だった。
馴染みすぎて忘れていたが、そういえばこの手袋はあいつから借りたままだ。
まあ、いつでも返せると思いながら、俺は獲物が食らいついた先に目を向けた。
大事なのは獲物の動きに合わせることだったな……。
ぎゅるぎゅると擦れる音が聞こえる。獲物の力は思いのほか強い。
だが焦らずに落ちついて巻くのがコツだと言われたのを思い出しながら、俺は深呼吸してリールを巻いた。
ざぽん、という音が聞こえた。
獲物が空に輝いていたのが見えた。
「……釣れっ…………、あ……?」
釣れた魚は、さっきの力には見合わぬほどに細長く小さい魚だった。
見たことはあるがきっと今まで釣ったのと大差ないやつだろう、とがっかりしたときだった。
「これ……秋刀魚じゃねえか」
アイは目を見開いていた。え? サンマってあの秋刀魚?
「ほ、ほんとに? 俺小さい秋刀魚見つけたの?」
「ああ、ちゃんと秋刀魚だ」
「え、でも鱗があるぜ。秋刀魚って鱗あったっけ」
もちろん、とアイが言った。
「秋刀魚は鱗がはがれやすいんだ。だからもがけばすぐ取れる」
・・・・・・・・・
俺たちが付き合って1年経過した。
その間に、少しずつアイは変わった、気がする。
特別大きな変化があったという訳ではない。
ただ、一年前に比べるとなんとなくアイは女性らしくなったと思う。
いやまあ女性ではあるんだが、それにしても、何か違和感のようなものがある。
特におかしいと感じたのは釣りの頻度だ。
付き合う前は週一ぐらいやっていたにも関わらず、最近はもっぱら釣りではなく普通にデートをすることの方が多い。ほぼ毎日と言っていいぐらいに映画館とか、食事とかをするようになった。
別にそれが嬉しくないわけではない。むしろ俺は会える回数が増えて喜んでいる。
でもどうしても捨てきれないもやもや感。
そもそも本当にあいつは俺のことを好きなのかどうかわからなくなってきた。
むしろフラれた方がこのもやもやはなくて済んだのかもしれない。
かと言って別れるわけにもいかない。だって俺まだ好きだし。
ついに不安になって聞いた。
「なあ、俺のこと好きだよな?」
「当たり前だろ」
…………うん。
いや、そりゃそうだわ。
むしろ訊く俺が馬鹿だわ。
そしてあいつは俺のことを決して嫌いなわけじゃないこともわかっている。
そう、好意があるのは間違いないはずなんだ。
じゃあ俺は何を疑っている?
わからない。
でも、それが何か確かめなくてはこのもやもやは晴れない。
だけどどうやって……?
ふと、コンビニで一つの雑誌が目に留まった。
・・・・・・・・・
「……なにこれ」
「ゼクシィ」
「見ればわかるわ。なんで買った」
「……なんとなく」
「自分が学生だってこと考えろよな」
「いざとなったらお前に養ってもらうつもりでいる」
「お前がヒモになったら絶交する」
「冗談です。ちゃんと就職します」
はあ、とアイは溜息をついた。そりゃあ呆れるだろうな。特にプロポーズとかもしていないのに結婚情報誌を衝動買いしてしまったわけだし。
「違うんだよ、聞いてくれよ。こいつ婚姻届けついててさ……それが可愛くてさ……ほら見てよこれ」
付録の婚姻届けを切り離してアイに渡した。
アイは婚姻届けをまじまじと見ていた。
「全然違くねえじゃねえか。結婚したくて買ってるじゃねえか」
「いやまあゆくゆくはそうなりたいけどさ……」
「けど、何」
「よく小学校とかでもやるだろ、好きな子を自分の苗字に変えてみたりとか、日直でペアになった時に相合傘書いてみたりとか」
「お前そんなんやってなかったろ」
「そ、そうだけどさあ。婚姻届け仕上げたらどうなるだろってちょっと魔が差しただけなんだよお」
「へー……そうでござんすか……」
アイの視線が痛い。
うん、呆れているどころか引いてるわ。
ちくしょう、家来るんなら隠せばよかったわ。
「そりゃ、今はダメだと思うけどよ……結婚、したくないか? お前は」
「……私は…………」
アイは即答しなかった。
俺もすぐに答えは求めなかった。
「……少し考えてもいい?」
アイは、一言だけそう言った。
俺は、返事を待つことにした。
・・・・・・・・・
俺は逃げるようにユウの家を出た。
あいつから受け取った婚姻届けを持ったままだった。
「あら! やっとおしゃれするようになったのね! イケてるじゃない。ねえ?」
「とってもお綺麗ですよ! お母さまも気に入ったみたいですね!」
なんとなく、俺は成人式の振袖選びのことを思い出していた。
母さん、喜んでたっけ。
でも俺は、鏡に映る自分の姿がどうしても好きになれなかった。
綺麗じゃないわけじゃない。
だけど、俺は綺麗になりたいわけでもない。
だから俺はこう言った。
「…………まるで、自分じゃないみたいです」
それでも、女子らしい言動を心掛けた。
俺は男子らしい振る舞いをやめようとした。
父から教わった釣りもやめたはずだった。
なのにいつの間にか、釣り堀に着いていた。
釣り竿を借りて半ば乱暴にロッドを振った。
波紋が大きく広がった。浮きは激しく波打って揺れていた。
当然、魚は一匹も警戒して寄り付かなかった。
「おいおい嬢ちゃん、あんた素人か? そんなんじゃ俺たちの魚も逃げちまうよ」
他の客がそう言っているのが聞こえた。
「い、いえ。すみません……普段海で釣っているもんで」
「ああ、海と川じゃ勝手が違うんかねえ」
苦しい言い訳だったが、その釣り客は納得したようだった。
「うんにゃ、俺もこの前海で釣ったんだけどよお、てんでダメだったなあ」
「海、言ったことあるんですか」
「おうよ。他の釣り仲間が船釣りに行くもんでよ。なんなら嬢ちゃん、俺が教えちゃろうか?」
「は、はあ」
「嬢ちゃん可愛いからよ、なんでも教えてやるぞ。手取り足取り……」
かわいい。
かわいいとか、言わないでくれ。
「い、いえ。お気持ちだけで。私、帰りますんで……」
俺は空っぽのバケツを持って釣り堀を立ち去った。
「ええ!? 今来たばっかりだろ? もう少しゆっくり……」
「馬鹿だね源さん。あれじゃセクハラで訴えられておしめぇよ。……気を悪くしないでくれな! 俺たちは、ただ仲良くしたいだけだからよ!」
わかっているさ。
ジョークに悪気がないのも、ただの善意で言っていることも。
それでも俺は、心なしか早足になった。
ただただ気持ち悪くなって、何も考えたくなくて、走った。
受け取った婚姻届けは、帰った時にはしわくちゃになっていた。
・・・・・・・・・
「……うーん」
ほんとに、俺は何をもやもやしているのだろう。
婚姻届けも(半ば押し付ける形で)渡した時は嫌じゃなかったし、やっぱり俺はアイを恋愛感情として好きなのは間違いないだろう。
でもそういえば、このもやもやは成人式の時でも感じていた気がする。
俺はそれが恋愛感情によるものだとてっきり思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
じゃあなんだ?
俺は怠惰な脳みそを無理やり働かせる。
成人式の時、俺は呆然とし過ぎてて何もできなかった。
覚えているのはハンカチのくだりだけだ。
……いや。もう一つあったな。
《綺麗?》
《そ、そりゃあきれ、綺麗に決まってんだろ。……ただ……》
《ただ?》
《ただ……》
俺は何を言いかけた?
俺はあの時、何を思っていた?
同窓会の時、俺は最初行きたくないと思っていた。
そしてアイの返事を見て「行く」と打った。
その行動は俺があいつのことを好きだったからによるものだと思っていた。
でも、それなら俺は最初になぜアイツに会いたいと思っていなかった?
どうしてあいつの姿を見て驚いた?
《そりゃーお前、振袖とか似合わねえもん。袴とか着てくんならまだしもよ、しかも化粧とか笑っちまうぐらい濃かったし……》
…………もしかして。
あの時、あれは俺の本心で言ったのか?
俺はあいつが女性らしいふるまいをしていることに違和感があるのか?
振袖姿を見た時も、なぜか俺はあの時のあいつがいなくなってしまった気がして会いたくなかった。
でもライダースにジーンズの恰好を見て俺は安心した。
あいつは変わっていなかったんだと、思わず昔を思い出して嬉しかった。
でも、それなら。
なんであいつは、今更女性らしいふるまいをするようになったんだ?
…………ふと。
あいつから借りたままの手袋が目に入った。
……。
…………。
……あいつに、会いに行かなくては。
・・・・・・・・・
ユウの隣は居心地がよかった。
俺が女性らしくないふるまいをしても、それがあたかも自然なことのように受け入れてくれたからだ。
成人式の時の姿を見られるのが嫌だった。
俺がらしくない恰好をしたときに、お前がどんな反応をするのか見るのが怖かった。
でもハンカチは返さなくてはならなかったから、とっとと済ませようとした。
同窓会に行ったのは、俺が女性でないことを伝えたかったからだ。
もうお前に二度と会わないつもりで、でも本当の俺を知って欲しかった。
ラインで同じタイミングで返事したとき、思わず笑っちまったんだ。
もしかしてお前も同じアニメを見ていたんじゃないかってな。
《そのジャケットもかっこいいよな。すげえ欲しいと思っててさ。似合ってるぜ》
そうだろ。高かったんだぜ。
バイトの給料で初めて買ったお気に入りなんだ。
だから俺は、お前がやっぱり一番の親友だと思ってた。
お前は俺を認めてくれる。お前は俺のあるがままを受け入れてくれる。
《アイ、お前が、好きだ》
なのになぜ、俺を好きになってしまったんだ。
俺は、お前の好きと同じにはなれないのに。
………………それでもいいか。
俺はお前のことが好きだから。
俺はお前と恋愛することに決めた。
存外、いつもとあまり変わらないので悪くない生活だった。
このまま続いても、それはそれでいいと思った。
でもお前は、それを許してはくれないんだな。
なぜだか酷く苦しかった。
いっそもう遠くへ行ってしまおうかとふと考えた。
でも、そんな勇気はなかった。
そんな疲れ果てた俺を呼ぶ、酷く息の上がった声が聞こえた。
「…………アイ!」
・・・・・・・・・
ユウは、息が絶え絶えになりながら走ってこちらに向かってきた。
「ぜぇっ……ぜぇっ……なんだ、ぜ、全然近いじゃねえか……急いで損した……」
「お……っ前、なんでここに……」
「ああ? 別に不思議じゃないだろうが。ここ駅に行く道だろ。そんな急に遠くへ行くわけじゃあるまいし。つうかむしろお前が遅いだろ」
「……ちょっと、寄り道しただけだよ」
「釣り堀とかか?」
「! っなんで……」
「あてずっぽうだったけど本当に行ってたのかよ……ホント釣り好きな」
ユウは息を整えつつ軽口を叩いた。
俺は驚いたのをごまかして話をそらした。
「……女性らしくない趣味だとは自分でも思ってるけど。ていうか答えろ、なんで私を走って追ってきたか」
「……まさにそのことなんだけどよ」
「そのことって」
「その女性らしくない趣味のことでよ」
「だから、それが私を追ったのとどういう理由が……」
「その私っていうのだよ。やめろそれ」
「はあ?」
なんでお前に一人称をとやかく言われなきゃいけないんだ。別に自然なことだろうが。
そう言い返そうとした。
でも、その前にユウは次の言葉を発した。
「お前、女じゃないんだろ」
………………どうして。
どうして、今更そんなことを言うんだ。
なんでお前、今までそんなこと思わせないようにしてきたのに。
「ば、……馬鹿な事言わないでよ。急に何言い出すんだよ」
俺は以上に動揺していた。
今まで積み上げてきたものを壊したくなかった。
だから否定することにした。
どこからそれに気づいたのかは知らないが、俺は絶対に認めないことにした。
「……」
ユウは、その問いかけに何も言わなかった。
代わりにコートのポケットから黒いものを取り出した。
「……それ、私のだろ。なんで突然……」
そして、静かに口を開いた。
「…………これ、男物だろ」
・・・・・・・・・
「な…………」
アイは絶句していた。俺は続けた。
「手袋だけじゃねえ。お前の服は俺が着ている奴とほとんど被ってた。サイズは小さかったけどな。でも手袋だけやけにぴったりだと思ったんだ。なあ、なんで俺より一回り小さい手なのにぶかぶかの手袋を持っていたんだ?」
アイは黙ったままだった。俺はさらに問い詰めるように言った。
「なあ、お前は確かに《自分の手袋だ》って言ったよな」
「それ、は……」
言い訳ならいくらでもできるだろう。
自分に合うサイズがなかった。父親のおさがりだった。
あるいは間違えたが返品がめんどくさいなんて言われたら俺は何も言い返さなかった。
お前の嘘はすぐ剥がれる。
だから問い詰めればすぐボロを出す。
けれど、それでもお前がちゃんと隠す気だったなら、俺は何も言わなかった。
別に言い返したところで俺には何の得にもならないと思った。
お前が男らしい振る舞いをしている方が俺は好きだし、俺はまだ本気でお前と結婚したいと思っているから。
お前がその嘘を守ろうとしているのであれば、俺は今までの関係を続けてやるのがせめてもの礼儀だとも思っていた。
でも、お前は何も言わなかった。
それが、俺にとっての答えだったんだ。
「なあ、もうやめよう。この関係は空しいだけだ」
・・・・・・・・・
「……待ってくれ!」
ユウが立ち去ろうとした。思わず俺は止めていた。
「私……俺は……別にお前との結婚が嫌だったわけじゃないんだ」
「……じゃあなんでさっき答えられなかったんだ? どうしてお前は薄っぺらい嘘で言い訳しようとしなかった?」
「それは……お前に嘘をつきたくなかったから……」
「嘘をつきたくなかっただと? じゃあ俺の告白をなんで受け入れた? 受け入れられないって言えばこんなにこじれなかっただろ! 俺はお前を諦めるだけで済んだんだ!」
「違うんだ……違うんだ、俺は…………!!」
「違うってなんだよ! はっきり言えよ! 俺の気持ち弄んで楽しかったかよ! えぇおい!」
「お前の気持ちを馬鹿にしているわけじゃない! そんな軽い気持ちでお前の告白を受けたわけじゃない……!」
「だからどうして告白を受けたんだ! なあ! 答えろアイ!!」
ユウは怒鳴るように言った。
…………俺は、秋とのことをなぜか思い出していた。
・・・・・・・・・
「……ごめんね」
秋は、まず一言だけ言った。一呼吸おいて続けた。
「私は、アイちゃんを恋愛対象として見れない」
「うん」
「私は、ずっと友達だと思ってた」
「……うん」
「……ずっと友達でいたかった」
「……うん」
「でも、友達に戻れる気がしない」
「……ごめんね」
「謝らないで」
秋は、目を伏せた。だが口調は、心なしか普段の彼女とは打って変わった厳しいものだった。
「ひどいのは私よ。だって、アイちゃんは一生私と友達でもよかったんでしょう。私もそうでありたかった」
声色は弱々しく震えていた。
俺はその声を聞いて心臓が張り裂けそうだった。
「でも、友達でいようとすればするほど、私はきっとアイちゃんを傷つける気がする。アイちゃんを、ずっと苦しめる気がするの。だから……」
「――……ごめんね…………――」
彼女の顔は、酷く歪んで涙がこぼれていた。
そのうち、お互いに話すこともなくなった。
俺は友人を失った。
それはきっと、彼女の方もそうだったのだ。
……ああ。だから俺は。
ようやく、その理由が分かった。
・・・・・・・・・
「……お前を失いたくなかった」
不思議と、声は落ち着いていた。
「失いたくなかったって、お前」
ユウは疑うように俺を見た。
でも、声はさっきと比べて荒くはなかった。
本気で俺の言葉に耳を傾けようとしていた。
「俺、好きな女の子がいてさ」
「……おお」
「その子に告白したことがあったんだ」
「…………おお」
「もちろん、断られた」
「……そうか」
「でも友達のままでいるのはきっと俺を傷つけるからって、それ以来その子と友達でいることもなくなった」
「……そうか」
「……でも、俺はあの子と話せなくなってつらかった。なんで告白したんだろうって自分を恨んだ」
「……」
ユウは静かに話を聞いていた。
自分のペースで話していい、そんな風に言ってくれているかのようだった。
俺は、それに感謝しながら続けた。
「お前は、俺にとって最高の親友だ」
「……おう」
「でもそんなお前が、俺のことを好きだと言いやがった」
「……そうだな」
「俺はどうすればいいのかわからなかった。気づいたらその子のことを思い出してた」
「……」
「……もし俺が断ったら、俺はお前を失ってしまうんじゃないかって。友人関係のままでいようと思っても、それがお前を苦しめてしまうんじゃないかって」
「……」
「だから俺は、失いたくなくて告白を受けることを選んだ」
「……」
「……ごめん」
ただ一言、謝るしかなかった。
今の俺には、罪悪感しか残っていなかった。
「…………そういうことかよ」
「自分でも、最低だと思ってる」
「ああ、まじでお前ひどいぜ」
ユウはそう返事した。そして少し深呼吸して続けた。
「……でもよ、それじゃあなんで女らしいふるまいとかするようになったんだよ。別に釣る必要なかっただろ。無理に『私』とか使ってよ。すっげー違和感だったんだぞ」
「……それは……お前が喜ぶかなって……せめて男であることもやめようと思って……」
「お、お前マジかよ。なんでそんなに頑なに男バレするの嫌だったんだよ。俺むしろお前が女っ気ないことに惚れ……いやなんでもない。というか俺のことはいいんだよ」
「いや、よかねーだろ」
「いいんだよ俺は! むしろお前にフラれてすっきりしてんだよ。お前がすっきりしてんのかが問題だ」
「……」
すっきり、か。
確かに俺は、男と結婚することは避けられた。
でも、ユウの言う通り、別に付き合っているときに女として生きる必要もなかったんだ。
じゃあ、どうして俺はいつの間にか女として生活することに慣れてしまったのだろう。
わざわざ、自分を偽ることになっても…………。
……ああ、そうか。
俺、自分に嘘ついてたんだ。
「……あ」
思わず、涙がこぼれていた。
俺はまた、秋のことを思い出していた。
そうか、君は。
俺が君を引きずらないように、わざと自分から離れたんだな。
そして俺が自分に嘘をつかないように、君自身が嘘をついたんだ。
……やっと、君のささやかな思いを見つけられた気がするよ。
気づいたら、ユウに抱きしめられていた。
「……お前、何してんの」
「……泣いてるから。あと、最終確認」
「確認って、なんの」
「…………お」
「お?」
「お前が、俺に抱きしめられてドキドキするか」
「……は?」
「ちなみに俺はドキドキしている」
「……全然しない」
「ぐう。ですよねー……」
それでも、俺はなぜだか涙があふれていた。
「え、ちょ、マジ? 泣くほど嫌だった?」
「……うん」
「そんなわけないよなってお前ちょっと! ……くっそー……」
髪の毛をくしゃっと掴んだ。昔困ったときにしていた癖だ。
そして、コートのポケットからハンカチを取り出した。
「……やる」
「……いいよ、別に」
「俺が良くない。お前が泣くと調子狂う」
「…………」
「あっ、てめ、鼻水つけたな」
「なんか、ムカついたから」
「くっそー、俺が片思いしてるのをいいことに好き放題しやがって……」
「お前、まだ俺のこと好きなのかよ」
「あったりめえよ。つうか俺はな、もう10年ぐらい拗らせてるんだ。そうそう簡単に諦めてたまるかよ」
「諦めろよ。俺は男は眼中にない」
「まぁーたまたそんなこと言っちゃって。俺かっこよかったろ?」
思わず鳥肌が立った。
ええ? こいつの謎の自信どこからくるの?
こいつほんと昔から諦め悪いな……。
俺はどうしたものかと少し悩んだ。
ポケットに手を突っ込む。まあ当然大したものは……。
「お、おい。そのくしゃくしゃの紙、もしかして」
「うん、そうだね。さっきもらった婚姻届けだね」
「そ、その笑顔は何かな? なんだか嫌な予感がするんですが」
「えー? いつもと変わらない笑みだと思いますけどぉー?」
「こ、この近くにコンビニはあるけど関係ないですよね? 外から取り出すことができないゴミ箱があるけど決して中に入れたりは」
「燃えるゴミにスパーキング!!!」
「オァアーーーーー!!!!!」
ユウは聞いたことのない奇声を発した。
さながらそれは、鶏のように滑稽で、負け犬のように遠吠えをしているかのようであった。
そしてがっくりと膝から崩れ落ち、情けなく項垂れた。
「あーすっきりした」
「そ……そんな……俺の、俺の初恋が……」
「ふん。燃えろ、お前の恋心もろとも」
「く……なんて卑劣な……ん? ちょっと待て、恋心燃やしたらそれ逆効果では?」
「……あっ」
「あって言ったなお前。上手いこと言おうとして別の意味になっちゃったの気づかなかったなお前。つまり俺にはまだ明るい希望が……」
「ねーよ馬鹿! こっちくんな!」
ちくしょう、こいつ不死身かよ。
なんだか俺はもう相手するのがめんどくさくて話をそらした。
「もうなんでもいいや。釣り行こうぜ釣り」
「よかねえよ。お前まだ俺の恋心弄ぶのかよ」
「はあ? 別に釣りとは関係ないだろ。そうだ、あそこの川にある釣り堀行こう。鮭が釣れるらしいぜ」
「えっうそ、マジで? あれ、でも鮭って海にいるんじゃねえの?」
「生まれるのは川なんだよ。そんで大人になったら産卵のために元居た場所に戻ってくるんだ」
「へー。確かに秋鮭はうまかろうて……腕が鳴るなあ」
「また小さい秋鮭を見つけたりしてな」
「この野郎……どこまでも俺をコケにしやがって……」
「俺より釣れるようになってから言えよ馬鹿」
馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅ、とユウが言った。
馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんですかぁ、と俺が返した。
再び言い争いが続いた。
釣り堀に行くまで、そんなやりとりばっかりしていた。
きっと俺たちは明日も懲りずにそうするのだろう。
お前と俺は同じようで違う。
友情と愛情は同じようで違う。
だから、お前は俺と同じにならなかった。
だから、友情と愛情が同じにならなくて済んだ。
それでも、俺たちは。
ずっと、一緒に。
「友、いい加減その手袋返せよ」
「えー、だって愛のプレゼントだし……」
「あげてねえよ。10年借りパクする気かお前」
ユウアンドアイ
おしまい
[編集済]
あの、涙出ました。10回くらい読み返しました。
場面、描写と心情のリンクが本当に上手いです。語りがコミカルな部分もあってすごく人間的で、読みやすいし。主人公とヒロインのお互いの想いの変化や行動を、それぞれを主体とする事で、直に心に伝わってくる文章で・・・ 私が創り出すで目指していた理想ってまさにこういう作品が訴えかけてくるものなんだなぁって気付かされました。そんな作品に出会えたことに、尊敬と感謝。本当に大好きです。
[編集済]
[良い質問]
《要約》
体は女で心は男。
女であろうと、自分に嘘をついた。
自分に嘘をついていたと気づいたので、男として自分に嘘はつかないと決めた。
女として過ごしていた時にもらった婚姻届けは燃えるゴミに出した。
《要素チェック》
①小さい秋を見つける → 小さい秋刀魚、秋鮭/秋のささいな思いを見つける
②歌を歌う → 歌を歌いたいのに官僚の家に生まれたたとえ
③養う → ユウは好きな子に養われたい派(ゼクシィのくだり)
④1時間遅れる → ラインの返事
⑤女性の趣味は釣り → ほぼメイン アイは女として振る舞っている(一応。口調ガバガバなのは仕様)
⑥廃ホテル → 小学校時代の肝試し場所
⑦LINEやってる → 画面の再現がんばった
⑧男の知らない言語で話す → プログラミング言語むずかしい アイは男として振るまっている時代
⑨決して捕まえることが出来ない → 恋と鯉をかけてみたかった
⑩手袋は重要 → 男物
⑪幽閉される → 冬の強風ってホント冷凍庫並だと思う
(以上)
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こうやって解説書くの、問題としての部分をちゃんと忘れてない感じがあっていいと思います。なんかオシャレ。 [編集済]
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「私が絶対に守ってあげるから…私はずっとそばにいるからね…」
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午後10時。俺は日本に降り立った。さっき見た夢は何だったのだろうか?そんなことを考えながら歩き出した俺は、空港内で迷子になりつつも、案内表示を頼りに何とか脱出する。
スマホで地図を見ながら、最寄り駅へと向かい、目的地への切符を購入する。思っていたより大分遅い時間になってしまった。もう終電が出てしまっただろうか。心配になった俺は、拙い日本語で改札の横にいる人に尋ねた。
「スミマセン、マダ、ヤマノテ⑦セン、ヤッテル?」
「あっ、はい。本日電車が遅延していました影響で、終電時刻を④1時間ほど遅らせております。」
「ア、アリガトウゴザイマス。」
あまりよく聞き取れなかったが、何となく大丈夫そうなので、改札を通ってホームに上る。
電車を待っている間に煙草を吸おうと思い、ポケットへ手を突っ込む。
俺は、煙草を切らしていたことを思い出す。それと同時に、手のひらが煙草の箱でないものに触れる。
俺は、1枚の写真を取り出した。
幼い俺と、父と、母が、家の前で笑っている写真。
少し色褪せた写真を眺めながら、俺は深く息を吐く。
”健太”
写真の裏に書かれたその文字を眺める。俺の前髪は、通過する快速電車の風に揺れた。
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俺は中国で養子として育った。俺が5歳の時に日本から連れられてきたらしい。
正直俺は日本での記憶がほとんどない。だから、俺が疑問を持つまでは、自分が養子で、実は日本で生まれたことに気が付かなかった。
テレビで幼児向けの番組を見ているときに、子守唄が流れてきた。ふーん、こんな子守唄もあるのかと、その時は何も考えず聞いていた。
そう言えば、俺はどんな②子守唄を歌ってもらってたっけ…と思い出す。出だしの歌詞を思い出したところで、ある重大なことに気付いた。
歌詞の意味が理解できない。
その理由が、俺の理解力の低さではなく、歌詞が英語でないからということに気付くには数日かかった。
確かに、数少ない幼少期の記憶から思い出せる言葉は、何故か⑧俺の知らない言語だった。
しばらくして、俺は養子として日本から連れてこられたということ、本当の両親は日本にいるということを養母から伝えられた。
本当の両親に再会したい。そう思うようになるのに時間はかからなかった。
俺は知りたい。どうして俺は両親に捨てられたのか。
理由なんて知らなくてもいいかもしれない。実際俺は中国で何不自由なく生活している。
でも、再会したい。本当の両親に。
養母にそう伝えると、1枚の写真を渡してくれた。俺が初めてこの家に来た時に、手に持っていた写真らしい。俺と父親と母親の家族写真だ。
大切に握りしめて全然離さなかったのよと、養母は写真の裏面を指して言う。そこには指でついたであろう小さな汚れと、「健太」という文字が書かれていた。
俺は、日本語での会話力を③養うために、本やネットで勉強した。何とか小学生レベルの会話なら出来るようになった。
両親の居場所を探すために、1枚の写真から、数少ない手掛かりを探していった。写真の奥に移るタワーの場所から、おおよその場所を計算する。表札は鮮明に映っているわけではなかったが、なんとかその文字の中に①小さい「秋」という漢字を見つけることができた。
18歳の夏、バイトで貯めたお金を使って、俺は飛行機に乗り込んだ。
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目的の駅で降りる。
地図アプリと写真と目に見える景色を順番に見比べながら、一歩ずつ進んでいく。
程なくして、辺りは真っ暗な住宅街に差し掛かる。
写真と同じ家を見つけた。
両親はそこにいなかった。
空き家だった。
表札には「萩原」と書かれていた。門は壊れ、窓ガラスも割れている。3階建ての一軒家と小さなアパートの間にある我が家が、異様な存在感を放つ。不動産屋の看板はくすんだ色になって地面に落ちていた。
家の中は埃とゴミまみれだった。20年前の広島カープのカレンダー、錆び切った鍋とフライパン、色の抜けきった国語辞典、シミだらけのクマのぬいぐるみ。
元々、無謀な計画とは自分でも思っていた。家は見つけられたが、両親はそこにいなかった。
でも、俺は少し安心した。俺はこの家で生まれた。そのことが分かっただけでも収穫だ。
この場所で過ごした記憶は残念ながら持ってない。けれども、何故だろう、懐かしい気持ちになる。
この場所で過ごした幼少期の俺に思いを馳せる。
そんな気持ちに浸っていると、あくびが出てきた。最後に寝てからもう30時間は経っただろうか。
ぽつりぽつりと光る街灯が眩しい。深夜の住宅街は静かだ。この時間から宿を探すのは無謀だろう。
そうだ。
一晩だけでいいから、我が家で寝てみたい。
俺は、我が家の一番広い場所で寝ることにした。
埃まみれの床は、正直寝るべき場所ではない。
しかし、床に身を投げ出した俺はすぐに瞼が重くなってきた。
俺はここでどんな人生を送っていたのだろう。
あぁ、やっぱ、両親に会いたかったなぁ…
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気が付くと、俺は真っ暗な狭い部屋に閉じ込められていた。
空間の外から声が聞こえる。
「おい!なんだこの飯は、こんなもん食えるか!!!」
「……。」
「黙ってないで早く作り直せこの野郎!!!」
「痛い!…もうやめて!」
「何逆らってんだお前?なんだ、また殴られてえのか…?」
「やめて…やめてください!痛い!」
「どうせお前のことだから、陰で俺の悪口言ってんだろ?」
「お願いします…もうやめてください…」
「お前なんかに拒否権ねえんだよ…!」
激しい物音が耳をつんざく。俺はとっさに耳を塞ぐ。
噴き出した冷や汗が止まらない。
空間からの脱出を試みるも、⑪扉は微動だにしない。
物音はより激しくなっていく。怒鳴り声と叫び声が頭に響きわたる。
突然、声が止んだ。
沈黙ののち、足音が遠ざかっていく。
「ごめんね…ごめんね…」
扉の近くで微かな声がした。
カタリと小さな物音がする。
俺は震える手で扉を開く。
そこには……
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目が覚めた。
心臓の鼓動がうるさい。
何も考えたくないという俺の気持ちとは裏腹に、俺の脳は記憶を甦らせていく。
今のは、夢なんかじゃない…。
立ち上がって辺りを見渡す。奥に見える埃まみれの和室の中に、一つの押し入れを見つける。すかさず駆け寄る。
押し入れの戸の側面の下には、大きくへこんだ傷があった。まるで、棒か何かでつっかえた扉を無理矢理開けようとしたような跡だった。俺は、ここで…
俺の疑問は、確信へと変わった。俺の記憶が、夏の豪雨のようになだれ込み、俺の思考を踏みつけていく。
俺の母親は…
全てを理解した俺は、恐ろしく冷静に次の段階を踏もうとしていた。
20年も前の事件だ。この荒れ果てた空き家では、証拠は残っていないだろう。俺の証言だけでは警察は⑨絶対に逮捕できない。ならば…
——————————————————————————————
「20時にホテルの前で待ってます♥」
出会い系アプリをインストールした。俺は、画像加工アプリで出来るだけ女性に見えるように自分の顔を加工し、プロフィール画像に貼り付ける。
壁にかかっていたカレンダーを思い出す。より見つけてもらいやすくするために、「趣味:野球観戦(広島カープ)」と登録する。母親の顔に似た⑤女性、しかも趣味が野球観戦、しかもカープ女子だと知れば、奴も釣られるだろう。
俺の予想は良くも悪くも的中する。顔を見て確認する。Google翻訳の力を借りつつ、なんとか夜に会う約束を取り付けた。俺は着替えて準備する。
奴は現れた。呑気な表情をしてやがる。俺は冷静に感情を殺し、声をかける。
「コンニチハ♥」
「あっ…どうも。今日はよろしくね」
俺は口角を精一杯上げて、軽蔑と憎悪の表情をかき消す。コイツか。俺は奴の手を握った。
俺は、部屋に入るや否や、奴の首を絞めた。
苦しさに狂う奴の顔を見ながら、俺は⑩手袋をはめた手に力を込める。
見開いた眼が俺の方に向く。
苦しそうな顔のまま、奴は動かなくなった。
恐怖と達成の感情が俺の視界を歪ませる。
家族写真を取り出す。
ライターで火をつけ、床の上に置く。
これで、もう終わりだ。
——————————————————————————————
最終便の飛行機に乗り込んだ俺は、座席に深く腰掛けた。
火事の起きたホテル、さらにそこで死体が見つかったとなれば、あのホテルは⑥廃ホテルになるだろう。
ホテルに対して罪悪感を感じながら、俺は美しく煌めく東京の街を飛び立った。
子守唄を口ずさみながら、俺は窓の外を見る。
窓に映りこんだ自分の顔は、少し涙を流していた。
(完)
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発想の天才だと思いました。物語の納得感が今回の作品の中でトップクラスのような気がします。
11個の要素の映えさせ方が本当に上手く、感嘆するばかりでした。(個人的に要素単体よりも全体として使うのが難しいな、と思っていたので、おお全部繋がってる!と興奮しました。さすがチョロかわペンギン。)
起承転結、キャラの目的がはっきりしていて、それでも飽きさせないような工夫が随所に見られる素晴らしい作品でした!ちなみに当作品で1番大きなものを燃やしたのはひろぺんさんでした。
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「……少し涙を流していた。」
「今日のお話も面白かったよ!ありがとう!」
錆付いた廃ホテル⑥の中、何も知らない無垢な笑顔が僕に向けられる。
今まで話した中には彼女の年齢には難しいものもあっただろうに、
いつだって話終わるころには目を輝かせ喜んでくれた。
とある名探偵の事件も、二人組の怪盗の話も、マッドサイエンティストの運命も、
他の作品だってもれなく皆彼女のお気に入りだ。
「ねぇ、お兄さんはどうしてそんなに話を思いつくの?
小さい秋を見つけて、
歌を歌って、
養って、
1時間遅れて、
女性の趣味は釣りで、
廃ホテルが出てきて、
LINEやっていて、
男の知らない言語で話して、
決して捕まえることが出来なくて、
手袋が重要で、
幽閉される
話なのに、なんで皆内容が違って皆面白いの?」
いつだって彼女は純粋だ。どの話も僕一人で考えたと思っている。
別に真実を伝えたって構わないのだが、それすらも時間稼ぎにさせてもらおう。
そう思いながら僕はゴミ袋を持ち上げた。
「じゃあ、なんでなのかあてっこしよう。
僕がごみを捨ててくるまで考える時間にしてていいよ。」
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僕が彼女に出会ったのは本当に偶然だった。
友達が遊びの約束に一時間遅れて④あまりに暇だったから、
昔よく遊んでいた公園のベンチでスマホゲームでもしようかと考えていた。
そうしてついた先で出会った少女が彼女だった。
一人でベンチの隅っこで体育座りしていた彼女は悪く言えば異質で、
良く言えば現実離れしていた。
自分の中でぐつりぐつりと何か得体のしれない欲求が騒ぎ立てる。
「こんにちは。どこか具合悪そうだけど一人で大丈夫?
何ならお兄さんが面白いお話をしてあげようか?」
声をかける。恐怖と疑念の視線が僕の体に刺さる。
彼女は長い間言葉を探し、そして絞り出した。
「……お父さんもお母さんも、私がいると怒るから。」
どうやら彼女が醸し出す異質さには家庭環境が関係しているようだ。
僕はこれ以上疑わせず、怖がらせないために善良な一市民を演じる。
「じゃあ、僕がお父さんとお母さんを説得してあげよう。
僕は話をすることだけは上手だからね。」
そうして彼女の家の場所を知った。
その時彼女の父親に全く知らない罵倒語⑧で罵られたり、
彼女の母親が男を美貌で釣る趣味がある⑤性悪女だと発覚したりした。
本当にクズな連中。だからこそ僕にとっては都合がよかった。
ぐつりぐつり、頭が煮えたぎるように熱い。
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指紋が付かないように手袋をつけ⑩、LINE⑦で釣られた男のふりをして母親を先に呼び出す。
何度も部活で振ってきた金属バットはよく手になじんだ。
後はもう一回、今度は母親の持っていた携帯を使って父親を呼び出す。
この廃ビルは小さい頃から愛用の秘密基地だ。
ここなら誰も僕を捕まえることなんてできない⑨。
ほぅら、もう一発、おまけに一発。まだまだ足りない。
ぐつりぐつり、熱い血潮があたりに飛び散る。
吹きすさぶ夜の風すらも、その日の熱さを冷ましてはくれなかった。
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ぐつりぐつり、目の前で炎が揺れる。
燃やす前に一度ゴミ袋の中身を確認する。あの日着ていた服に手袋、
そして彼女の退屈を癒すため『らてらて鯖』を見るのに使っていた携帯。
どれも大事なものだったが、証拠隠滅のためには捨てなくてはならない。
「……さようなら。」
感謝の気持ちを込め、焼却炉に袋ごと投げ入れる。
炎は激しく燃え上がり僕の罪を隠していく。
ぐつりぐつり。
どんなに証拠が燃えてなくなったとしたって僕の罪はなくならない。
彼女からしてみれば親から幽閉されてた⑪のが僕からに変わっただけかもしれない。
決して捕まえることが出来ない、なんて所詮作り話の中だけなのだ。
それでもどこからかあの音が聞こえる。
ぐつりぐつり。
彼女を養える③喜びに、奇跡に、僕の全てが熱を持つ。
「小さいあーき、小さいあーき、小さいあーき、見-つけた♪」①②
彼女の歌声が廃ホテルからこぼれて僕の元へと届く。
どうやら考える時間はとうの昔に終わってしまったらしい。
話をするのは好きだが、物語を考えるのが苦手な僕は今後
彼女を退屈させないようにするのに骨が折れそうだ。
それでも、そうして初めて、彼女には僕だけが残る。
だかららてらて鯖ではここで、【めでたし、めでたし】。
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最後にこれを持ってくるのは巧者すぎると思いますw
鯖虎さん3作目、本当にびっくりしましたけどどれも全然クオリティ落ちたりしないし、この作品も、前半で人を惹きつけるようなアイデアを見せて、後半に内容に温かさのこもった文章・・・ただただ賞賛を贈ります・・・すごいです
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「娘をみてもらえませんか?」
そんな依頼が来たのは、キンモクセイの香りがして秋が来たなと思い始めた①ある日のことであった。
男はそこそこ有名な大学教授である。といっても、研究内容を知られているわけではない。彼は超能力や超常現象の類いが好きで、自力で調べてはその人物に会ったり、その場所に赴いたりしていた。しかし、ほとんどがインチキであった。そして何度もそのトリックを見破ったので『超常現象キラー』だとして話題になったのだ。
その影響で男のもとへ超常現象に関する依頼が来るようになったが、依頼人が怪しいと思うものはやっぱりすべてインチキで、男はまだ“本物”に出会えてはいなかった。
そんな中舞い込んだ、女性からの依頼は“本物”ではないかと期待の持てるものだった。
彼女の娘にはこの世の生き物ではないものが見えているらしい。それだけなら幻覚やイマジナリーフレンズの可能性を疑う。しかし、一瞬目を離した隙に、少女には絶対に届かない高いところにある本を取り出して読んでいることがあるというのだ。少女にどうやって取ったか聞くと「のっぽさんが取ってくれたよ」と。
そんな少女の不思議さに気づいた周囲の人々な、神の子だと祭り上げられて連れていかれそうなのだという。
男はその依頼を受けて、女性の娘に会いに行くことにした。
少女は、女性が趣味の釣り⑤をするとき用に建てた山奥の別荘に、ほとんど一人で暮らしているようだ。
身を隠すためとはいえ、不自由な幽閉生活から⑪早く解放してあげたいものだ。
しかし、女性は女手ひとつで娘を養っている③と聞いていたので、生活が大変なのではと思っていたが、趣味用の別荘を建てられるくらい余裕があるのだな、なんの仕事をしているんだろう、などと考えながら別荘へ向かう。
もうすぐ別荘に到着するという頃、かすかに歌声が聞こえてきた。おっ、と思い声のするほうへ向かうと少女が動物たちの前で歌を歌っていた②。不思議なことばや響きの歌で、童話の中に迷い込んだかのような光景である。すると少女は男に気づき、にっこり笑ってあいさつした。
「こんにちは、おじさん。お母さんから聞いてるよ、大学の先生が来るって。」
男も、こんにちは、よろしく。と言い握手をしようと手を差し出したが、
「お母さんから聞いてると思うけど、手袋をしてほしいな。」
と少女に言われてしまった。
そう、直接少女に触れないように手袋をしてほしいと言われていたのだった。少女にはなにかこだわりがあるらしい。夏でなくて良かったなと思いながら手袋をして、少女と握手をした。
別荘へと向かいながら少女と話す。
「ここにひとりでいて寂しくないかい?」
「ひとりじゃないよ。“おともだち”がたくさんいるよ。」
「おともだち?」
「今もわたしたちを見てるよ。」
男は辺りを見回すが、なにかがいる気配はない。
「おともだちのこと、詳しく教えてくれないかな?」
「いいよ。まずは……」
ピロリーン
「あっ、“おともだち”からLINEかも!」
少女は携帯を取り出した。男がちらりと覗いてみると、相手からのメッセージも、少女の送っているメッセージもよくわからない文字の羅列のようだった。まるで、少女と“おともだち”は男の知らない言葉で会話をしているかのようだ⑧。
「LINEやってるんだね⑦。どんなやり取りをしてるんだい?」
「今度遊びましょうとか……あー、今日おともだちと約束があったの忘れてた…。大変!すぐ行かなきゃ!おじさんもついてきて!」
と少女が慌て出した。男は勢いに押されて少女と一緒に走り出した。走りながらの少女の説明によると、約束の時間に一時間遅れているらしい。
たどり着いた先は山奥の廃ホテル⑥だった。説明しながら走っていたのに少女は全く息切れしていない。男はすっかり息切れしてしまってしばらく動けそうではない。少女は誰かと喋っているようだが、男には相手の姿は見えない。息を整えながらどうしたものかと考えていると、少女が男の様子に気づいて
「そっか、おじさんは“みえないひと”だったね。」
と言うやいなや、何もない空中からキャンディをひとつ取り出した。いや、見えない誰かから受け取ったのかもしれない。それを男に差し出し、
「これを食べると“みえる”ようになるよ。わたしにはすぐわかった、おじさんは“みえる”ようになりたいひとだよね?一度食べたらもう戻れないけど、大丈夫!きっと後悔しないと思うよ。」
少女の言葉に押されて、キャンディを受け取った瞬間、依頼人の女性と少女がついているウソに気づいてしまった。
「君はロボットだね?」
と言うと少女は目を見開いたが、すぐに理解したようすで、
「手袋を外していたのですね。うっかりしてました。」
「走ったから暑くなってね。どうして触感は人によせてないんだい?」
「手は特に機能重視なんです。」
彼女が息切れしなかったのはロボットだったからのようだ。
「でも、隠してたのはロボットだってことだけで、あとは本当なんですよ?わたしは“みえて”ますし、そのキャンディを食べると“みえる”ようになります。異界のものを食べると異界の住人になれるんですもの!わたしが“みえる”ことを“みえる”人に証明してほしかったんです。先生は“みえる”ようになりたいひとだと思ったからちょうどいいと思って…。」
そう言うと、彼女は微笑んで
「でも、食べるかどうかは先生に任せます。それではお元気で、また会えると嬉しいです。」
そう言うと、去っていってしまった。腕を掴もうと思ったが捕まえることはできなかった⑨。
男はしばらく悩んだが、キャンディは燃やしてしまうことにした。彼女たちとはもう会うこともないのだろうなと思う。
おわり
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きっとくりすさんの文章の世界観は本当に素敵だなぁって、つくづく思います。
向こう側に興味を持っているけれども、霊能力のようなものもない。それでも、何処か興味を捨てられずにそちら側の事柄に向かおうとする男が、向こう側の少女と出会う話。
もしも、男がキャンディを受け取ってたら?そんな想像をしてしまいますが、【余計なお世話】ってタイトルで男の意志を表しているのがすごく格好よくて好きです。私だったら、きっと、受け取っているので。
面白かったです!きっとくりすさんの話をまた読みたいと思いました。
[編集済]
シェフの皆様、素敵な作品を本当にありがとうございました!!!
これより、投票フェーズを開始します。投票所開設までお待ちください!
(きっとくりすさん»作品の間に割り込んでしまいすいません、作品については有効とします!)
参加者一覧 22人(クリックすると質問が絞れます)
さて、結果発表の時間です!
今回は17作品。予想を超える作品の数々が集まりました。
私がゆっくり読むことが出来たのは投票期間が終わり集計が始まってからなのですが、なるほど、たしかにこれは投票先に悩みますね・・・どれも皆さんの独創的な視点から、素晴らしい作品が出来上がっていました。
本当にご参加してくださり、ありがとうございました!
最難関要素賞
👑『小さい秋を見つける』(4票)
『LINEやってる』(3票)
『幽閉される』(3票)
『手袋は重要』(3票)
『廃ホテル』(2票)
『女性の趣味は釣り』(2票)
『男の知らない言語で話す』(1票)
『養う』(1票)
『決して捕まえることが出来ない』(1票)
ということで、
・とろたく(記憶喪失)さんの『小さい秋を見つける』
が最難関要素賞に決定しました!おめでとうございます!
要素11は皆さんにはどう感じられたでしょうか。
藤井さんも感想で言っていますが、今回の創り出すの要素はそれ自体が特別難しいわけではなく(というか前回が異質)、それぞれをどう組み合わせるかが難しいように思えました。だからこそ票がバラけている、という結果が起こったんだと思います(途中まで3票4作品のままで最難関が4つになるところだった)
その中で、この抽象的で捉えにくいけれども、良い雰囲気を持った『小さい秋を見つける』が最難関となりました! とろたく(記憶喪失)さん、おめでとうございます!
最優秀作品賞
👑「異世界LINE」(作:鯖虎)(5票)
👑「ユウアンドアイ」(作:とろたく(記憶喪失))(5票)
👑「マッドサイエンティストの真意」(作:もっぷさん)(5票)
「名探偵アカス 〜唯一の未解決事件〜」(作:キャノー) (4票)
「煙の向こう」(作:ハシバミ)(4票)
「あなたの話」(作:ちるこ)(3票)
「とあるデータコード」(作:茶飲みご隠居)(2票)
「秋の日にボーイミーツガール」(作:くるみロースト)(2票)
「欠けた記憶を求めて」(作:HIRO・θ・PEN)(2票)
「灯籠流し」(作:茶飲みご隠居)(2票)
「11の要素と僕だけの彼女」(作:鯖虎)(2票)
「完璧男」(作:こはいち)(1票)
「帰る場所」(作:OUTIS)(1票)
「結婚詐欺師に騙された男、そしてその後」(作:まりむう)(1票)
「MAX 二人は怪盗」(作:夜船)(1票)
「強がりな僕と彼女」(作:鯖虎)(1票)
というわけで、3作が5票で並ぶ結果となりました!今回は全部で41票の投票がありましたが、こちらもかなり投票先がばらけましたね・・・皆さんの作品がどれも素晴らしかった結果でしょう。
その中でも、特にこの3作はどれも着眼点が素晴らしく、人の心を惹き付け、直接響いてくるような何かを持っている作品だと私は思います。
最優秀作品賞に選ばれた鯖虎さん、とろたく(記憶喪失)さん、もっぷさんさん、本当におめでとうございます!(とろたくさんは最難関要素賞も取って、2冠ですね!おめでとうございます!)
と、いうわけで、らてらて鯖第5回「正解を創りだすウミガメ」、シェチュ王の発表に移りたいと思います!
シェチュ王
👑 鯖虎 さん(8票)
最優秀作品賞「異世界LINE」に含め、最速投稿ながらも高クオリティな作品「強がりな僕と彼女」、そして、創りだすというシステムを最大限に活かし技巧を凝らした「11の要素と僕だけの彼女」の秀作3作を投稿された鯖虎さんが見事5代目シェチュ王に輝きました!おめでとうございます!!
同率2位はら最優秀作品の2作を投稿されたとろたく(記憶喪失)さんと、もっぷさんさんの2名となりました!(5票)
今回の創りだすは、「嘘」をベースに話を書いたら、人は優しい嘘を書くのだろうか?悲しい嘘を書くのだろうか?という私的興味から始まりました。
なので恋愛ベースが多くなるかな?と予想をしていたんですが、恋愛以外の復讐劇だったりとか、異世界転生物()、怪盗、ファンタジーや、恋愛モノではあるけれど、それだけに留まらない密度がある話など、皆さんの想像、創造力に驚かされ、ワクワクしました!
さて、鯖虎さんにシェチュ王の座をお譲りして、第5回正解を創りだすウミガメを締めさせていただきます!(次回の「正解を創りだす」の主催の権利が与えられます)
進行が遅れたり、色々申し訳ない部分もありましたが、主催としてやらせて頂いて、本当に楽しかったです!受験が終わり次第、また参加させて頂きます!
皆さん、本当にありがとうございました!
ごがつあめ涼花さん、MCおつかれさまでした!鯖虎さん、5代目シェチュ王おめでとうございます。そして鯖虎さん、OUTISさん、ハシバミさん、(茶飲みご隠居さん、)拙作へのご投票並びにご感想、ありがとうございました。やはり感想をいただけるととっても嬉しいものですね……!次回開催も楽しみにしています。[18年12月03日 01:00]
深夜ですがコメント失礼。まずはごがつあめ涼花さん主催お疲れさまでした!多忙な中集計やコメントなど頂き非常に感謝しております!またシェチュ王&最優秀作品賞ありがとうございました!とにかくアイデアでは負けないぞ!と数こなしたのが実を結んだようでよかったです。投票して下さった皆様及び競い合い楽しませてくれた参加者の皆様、本当にありがとうございました!お疲れさまでした![18年12月03日 00:43]
皆さんお疲れ様でした・θ・鯖虎さん5代目シェチュ王襲名おめでとうございます!そして拙作に投票してくださった方々、MCごがつあめ涼花さん、ありがとうございました![18年12月03日 00:36]
ごがつあめ涼花さん、主催お疲れ様でした。ご丁寧なコメントもありがとうございます!(勝手に女子高生だと思っていたので、えっ男性なの!?と驚愕しております。) 今回は読み終わらなくて投票できず、申し訳ございませんでした。最終日にあんなに投稿があるなんて…。そして鯖虎さん、シェチュ王おめでとうございます!全然毛色の違う作品を3つも!本当にすごい!とろたくさんもおめでとうございます!拙作に投票してくださった方ありがとうございました(*´꒳`*) by掃除人モップ・ゴーシゴシの末裔[18年12月02日 10:38]
ごがつあめ涼花さんお疲れ様でした&ありがとうございました!鯖虎さんシチュ王おめでとうございます!あのクオリティで3作品も書いていたという衝撃の事実に戦慄してます。また、著:完璧男への感想ありがとうございました!「短く……もっと短く……」と虚ろな瞳で呟き続けた甲斐がありました![18年12月02日 09:16]
ごがつあめ涼花さん、主催&感想ありがとうございます。鯖虎さん、シュチュ王&最優秀作品賞、とろたくさん、もっぷさん、最優秀作品賞おめでとうございます。そして拙作に投票&コメントいただきました皆様、ありがとうございました。今回も最後まで楽しく参加させていただきました![編集済] [18年12月02日 07:44]
ごがつあめ涼花さん、主催ありがとうございました!全部に感想ありがとうございます!鯖虎さんシェチュ王&最優秀作品賞おめでとうございます!もっぷさん、とろたくさんも最優秀作品賞おめでとうございます!みなさま、楽しい作品たちをありがとうございました![18年12月02日 03:48]
ごがつあめ涼花さん、主催お疲れさまでした! 御多忙な中感想までいただけて恐縮です。 そして鯖虎さんシェチュ王おめでとうございます!! あんな3作品出されたらもう投票するしかないです・・・。 また、作品賞もありがとうございます。なんだかんだ最難関要素賞もいただきましたが・・・w[編集済] [18年12月02日 01:32]
滑り込み三品目ぇ!!そしてHIRO・θ・PENさん、事後報告になってしまい申し訳ないのですが文の最後の部分だけお借りさせていただきました。もし都合悪ければぜひ言ってください![18年11月27日 00:02]
ご隠居、はじめ読んだ時名前をスルーしてたのですが、よくよく見ると聞きなれない名前で「トロー・ターク……私じゃねえか!」と爆笑してしまいました。有難い限りです。あと長文なのはマジで申し訳ないです。[編集済] [18年11月26日 23:54]
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ! 私は2日ほどで1000字程度のラブコメを書こうとしたらいつの間にか締め切りギリギリで19000字の釣り要素を前面に押し出した長編を書き上げていた…な、何を言ってるのか(ry と思ってたんですがほげえ、キャノーさん一日で私と同じぐらいの文字数……締め切りギリギリの私とは一体…… ですがこれでも削ったんで許してください。[編集済] [18年11月26日 22:24]
ハシバミさん>>投稿ありがとうございます!タイトル、前回の私も投稿する時に考えましたー。 上手いタイトルって思いつかないから、小説のタイトルとか本当に凄いなぁ、って思ってみたり[18年11月26日 13:54]
もっぷさんさん»投稿ありがとうございます!ちょっと参加者が思ったより少なくて落ち込んでいたこともあり、そういった積極的な投稿が心から嬉しいです[18年11月24日 18:43]
ひのえさん>>歓迎します!こんな企画があるんです・・!!過去にも4回ほど行われているので、実際の様子が知りたかったらタグから調べていただければ見られると思いますー。 投稿お待ちしてます ─=≡Σ((( つ╹ω╹)つ♡ [18年11月16日 23:29]
さて、要素が出揃いました。皆様の作品をお待ちしています! とろたくさん>>私も予想つきませんw これがどう転ぶか… ちるこさん>>いえいえ、大丈夫です! 前回はCKPといいスマイリーといい質問が狂気に満ちてましたからね……[編集済] [18年11月16日 00:05]
席を離してたらめっちゃ参加しててびっくり。本当に歓迎します!初めての方も多いですね、楽しみです… そしてひろぺんさんナイスシュート![18年11月15日 22:31]
なんとこのバスケットボール、シュートは1人3球まで、ゴール確率は2割程、しかもゴールボールは凄い勢いで跳ね返り我々に突進してきます。一歩間違えば大怪我にも繋がりかねないこの競技ですが、競技人口は着実に増えております。[18年11月15日 22:28]
①小さい秋を見つける
②歌を歌う
③養う
④1時間遅れる
⑤女性の趣味は釣り
⑥廃ホテル
⑦LINEやってる
⑧男の知らない言語で話す
⑨決して捕まえることが出来ない
⑩手袋は重要
⑪幽閉される
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!