「ほんとのきもち」「1Good」
物語:1票
無欲な娘のためにお菓子を四つ買って帰る母親。
一体なぜ?
一体なぜ?
18年09月17日 22:17
【ウミガメのスープ】 [藤井]
【ウミガメのスープ】 [藤井]
解説を見る
あれはいつの日だっただろうか。
会社からもらって帰ったお菓子二つを娘たちに与えた時のことだ。
その二つは種類が違っていて、「どっちがいい?」と二人の前に差し出した。
こっち、と二人は一つのお菓子を指差す。
「じゃあ、ジャンケンしよっか」
「はぁい。さーいしょーは…」
「えー、やだ!マナこっちがいいー!」
私の提案を遮って妹のマナは駄々をこねた。幼いから無理もないのだが、姉のユリだってまだ幼い。しかし、ユリはもう一つのお菓子を手に取った。
「いいよ、マナ。そっちあげる」
「あら……良かったね、マナ。お姉ちゃんくれるって」
「わーい!!おねえちゃん、ありがとー!」
妹にお菓子を譲ったユリは少し残念そうに笑った。
『えらいね、ユリ。お姉ちゃんだもんね』
ユリの優しさを褒めるつもりで私が口にした言葉。
しかしその一言が、後に彼女を縛る呪いの言葉になってしまった。
それからユリは、事あるごとに自分の本心をぐっと抑え込むようになった。
何かを選ぶ時には必ず妹を優先し、自分は残り物を手に取る。次第にそれが当たり前になっていったのだ。
それはユリ自身も自覚していた。母親が気を遣ってマナよりも先にユリに選ばせようとした時、ユリはごく自然に"自分が欲しい方"ではなく、"マナが選ばなさそうな方"を考えていたのだ。
母のサヤカは悩んだ。
そもそも選ぶ必要のないように同じものを買う?
いやいや、それでは意味がない。重要なのは「選ばない」ことではなく、「自分が欲しいものを選ぶ」ことだ。
そうしてサヤカの下した決断は、『二種類のものを二個ずつ買うこと』だった。
どちらかが一方を選んでも、まだ二種類選べる。そうすればユリが遠慮する必要もなくなるのではないか。
以来、サヤカは娘のために四つのお菓子を買って帰るようになった。
二人が一つずつ選んだあとに、残った二つを夫のタクヤと分ける。
同じ種類のものが二つ残った場合には話は早いのだが、一種類ずつが残った日には、サヤカとタクヤもどちらかを選ぶ必要があった。
「あなた好きな方選んでいいわよ」
そう口にして、サヤカはハッと気付く。自分もまた無意識に衝突を避ける癖がついているということに。
「…ここは公平に、ジャンケンで決めないか?」
そんなサヤカの心中を察したように、タクヤは笑った。
--------------------
【要約】
二人姉妹の姉ユリは、幼い頃から妹のマナを優先する癖がついて、いつしか自分の本当に欲しいものを選ぶことが出来なくなってしまった。
見かねた母親は、二種類のお菓子を各二つずつ買って帰るようになった。そうすれば、妹のマナがどちらを選んだとしても、ユリにも同等に選択権が与えられる。
そうして『自分の欲しいものを選ぶ』という経験をユリにも大事にしてもらいたかったのだ。
会社からもらって帰ったお菓子二つを娘たちに与えた時のことだ。
その二つは種類が違っていて、「どっちがいい?」と二人の前に差し出した。
こっち、と二人は一つのお菓子を指差す。
「じゃあ、ジャンケンしよっか」
「はぁい。さーいしょーは…」
「えー、やだ!マナこっちがいいー!」
私の提案を遮って妹のマナは駄々をこねた。幼いから無理もないのだが、姉のユリだってまだ幼い。しかし、ユリはもう一つのお菓子を手に取った。
「いいよ、マナ。そっちあげる」
「あら……良かったね、マナ。お姉ちゃんくれるって」
「わーい!!おねえちゃん、ありがとー!」
妹にお菓子を譲ったユリは少し残念そうに笑った。
『えらいね、ユリ。お姉ちゃんだもんね』
ユリの優しさを褒めるつもりで私が口にした言葉。
しかしその一言が、後に彼女を縛る呪いの言葉になってしまった。
それからユリは、事あるごとに自分の本心をぐっと抑え込むようになった。
何かを選ぶ時には必ず妹を優先し、自分は残り物を手に取る。次第にそれが当たり前になっていったのだ。
それはユリ自身も自覚していた。母親が気を遣ってマナよりも先にユリに選ばせようとした時、ユリはごく自然に"自分が欲しい方"ではなく、"マナが選ばなさそうな方"を考えていたのだ。
母のサヤカは悩んだ。
そもそも選ぶ必要のないように同じものを買う?
いやいや、それでは意味がない。重要なのは「選ばない」ことではなく、「自分が欲しいものを選ぶ」ことだ。
そうしてサヤカの下した決断は、『二種類のものを二個ずつ買うこと』だった。
どちらかが一方を選んでも、まだ二種類選べる。そうすればユリが遠慮する必要もなくなるのではないか。
以来、サヤカは娘のために四つのお菓子を買って帰るようになった。
二人が一つずつ選んだあとに、残った二つを夫のタクヤと分ける。
同じ種類のものが二つ残った場合には話は早いのだが、一種類ずつが残った日には、サヤカとタクヤもどちらかを選ぶ必要があった。
「あなた好きな方選んでいいわよ」
そう口にして、サヤカはハッと気付く。自分もまた無意識に衝突を避ける癖がついているということに。
「…ここは公平に、ジャンケンで決めないか?」
そんなサヤカの心中を察したように、タクヤは笑った。
--------------------
【要約】
二人姉妹の姉ユリは、幼い頃から妹のマナを優先する癖がついて、いつしか自分の本当に欲しいものを選ぶことが出来なくなってしまった。
見かねた母親は、二種類のお菓子を各二つずつ買って帰るようになった。そうすれば、妹のマナがどちらを選んだとしても、ユリにも同等に選択権が与えられる。
そうして『自分の欲しいものを選ぶ』という経験をユリにも大事にしてもらいたかったのだ。
「どこかの島の話」「1Good」
物語:1票
ミリーの生きるその島は、外界から隔絶されているがゆえに「島」だった。
この場所の存在する経緯を知っていたであろうダンは、ミリーに何も語らなかった。
何も語らないまま、ひとりで死んでしまった。
ミリーはとても賢かったので、
ダンに続いてローラも死んでしまった時、
次には自分が死ぬのだろうと悟った。
しかし自分が何によって死ぬ運命なのか、ミリーにはわからない。
◇
あなたは「島」でミリーと対峙している。
ミリーを、あなたは救うことができるだろうか。
・回答者さんは「私」としてミリーに話しかけることができます。
・ミリーに話す以外の行動を試みる場合、括弧書きで(行動)してください。
この場所の存在する経緯を知っていたであろうダンは、ミリーに何も語らなかった。
何も語らないまま、ひとりで死んでしまった。
ミリーはとても賢かったので、
ダンに続いてローラも死んでしまった時、
次には自分が死ぬのだろうと悟った。
しかし自分が何によって死ぬ運命なのか、ミリーにはわからない。
◇
あなたは「島」でミリーと対峙している。
ミリーを、あなたは救うことができるだろうか。
・回答者さんは「私」としてミリーに話しかけることができます。
・ミリーに話す以外の行動を試みる場合、括弧書きで(行動)してください。
18年09月13日 14:50
【亀夫君問題】 [輪ゴム]
【亀夫君問題】 [輪ゴム]

~完~ 皆さまご参加ありがとうございました!!
解説を見る
その島は、外界から隔絶されているがゆえに「島」だった。
外周は出口のない壁で隔てられ、天井は透明なドームで覆われている。
住民はミリーが物心ついた頃から、ダン、ミリー、ローラとその仲間たちのみだった。
島には水も食料も豊富に蓄えられているが、酸素を供給する装置が故障して満足に動かない。
当初は島内に生える木々から酸素を得ていたが、ある時木々が次々と病気にかかり、
島全体の酸素量は次第に目減りして行った。
最後に残っていた木である「ローラ」が枯れてしまった時に、
ダンは苦しまずに覚悟を決めて死のうと考え、服毒自殺をした。
それに先立ち、ミリーにも「これを飲めば苦しまずに死ぬ」と説明して
毒入りの水を与えたが、ミリーは自殺を拒んだため、ダンはひとりで旅立った。
…はずだったが、心残りだったのだろう。
死にぞこないの幽霊として、ミリーの前に現れたのだ。
奇跡でも起こらない限り、ミリーはこのまま死んでしまうだろう。
しかし私は今度こそ、彼女の最期まで共に寄り添っていよう。
◇
【島】
・外側がどうなっているのかは不明。
・外周は壁で、天井は透明なドームで覆われているので雨は降らない。
・「拠点」に食料と水の貯蔵庫がある。
・「拠点」には壊れた酸素供給装置もある。
【ダン】
・島にいた唯一の人間。
・ミリーや島内の木々に名前をつけ、家族のように話しかけていた。
【ローラ】
・木。病気で枯れてしまった。
・島の、貴重な酸素供給源だった。
・他にも仲間の木があったが先に枯れている。
【ミリー】
・若い雌の猫。
・ダンが日常的に使っていた言葉と、その意味は分かっている。
・島の外のことは知らない。物心ついた頃には島にいた。
・ローラが病気で、ダンがそれを嘆いていたことを理解している。
・ローラが死んでしまうと自分も生きられないということを理解している。
・自分が死んでしまうことは受け入れているが、自殺は望まない。
・ダンが死んでしまって寂しい。
◇
<情報開示目安>
・最初はミリーには「私」の声だけが聞こえ、「私」にもミリーの姿はよく見えない
・ミリーが人間ではないことに気付く → ミリーの姿がよく見えるようになる
・「私」が自分の正体に気付く → ダンの知っていたことをある程度思い出せるようになる
<END条件>
・ミリー、ローラ、「私」の正体に気付く & このままでは酸素がなくなることを知る
外周は出口のない壁で隔てられ、天井は透明なドームで覆われている。
住民はミリーが物心ついた頃から、ダン、ミリー、ローラとその仲間たちのみだった。
島には水も食料も豊富に蓄えられているが、酸素を供給する装置が故障して満足に動かない。
当初は島内に生える木々から酸素を得ていたが、ある時木々が次々と病気にかかり、
島全体の酸素量は次第に目減りして行った。
最後に残っていた木である「ローラ」が枯れてしまった時に、
ダンは苦しまずに覚悟を決めて死のうと考え、服毒自殺をした。
それに先立ち、ミリーにも「これを飲めば苦しまずに死ぬ」と説明して
毒入りの水を与えたが、ミリーは自殺を拒んだため、ダンはひとりで旅立った。
…はずだったが、心残りだったのだろう。
死にぞこないの幽霊として、ミリーの前に現れたのだ。
奇跡でも起こらない限り、ミリーはこのまま死んでしまうだろう。
しかし私は今度こそ、彼女の最期まで共に寄り添っていよう。
◇
【島】
・外側がどうなっているのかは不明。
・外周は壁で、天井は透明なドームで覆われているので雨は降らない。
・「拠点」に食料と水の貯蔵庫がある。
・「拠点」には壊れた酸素供給装置もある。
【ダン】
・島にいた唯一の人間。
・ミリーや島内の木々に名前をつけ、家族のように話しかけていた。
【ローラ】
・木。病気で枯れてしまった。
・島の、貴重な酸素供給源だった。
・他にも仲間の木があったが先に枯れている。
【ミリー】
・若い雌の猫。
・ダンが日常的に使っていた言葉と、その意味は分かっている。
・島の外のことは知らない。物心ついた頃には島にいた。
・ローラが病気で、ダンがそれを嘆いていたことを理解している。
・ローラが死んでしまうと自分も生きられないということを理解している。
・自分が死んでしまうことは受け入れているが、自殺は望まない。
・ダンが死んでしまって寂しい。
◇
<情報開示目安>
・最初はミリーには「私」の声だけが聞こえ、「私」にもミリーの姿はよく見えない
・ミリーが人間ではないことに気付く → ミリーの姿がよく見えるようになる
・「私」が自分の正体に気付く → ダンの知っていたことをある程度思い出せるようになる
<END条件>
・ミリー、ローラ、「私」の正体に気付く & このままでは酸素がなくなることを知る
「リグレット・メモリー」「1Good」
物語:1票
そのジュースを買ったことで、俺は彼女がもうこの世にいないのだと知った。
どういうことだろうか?
どういうことだろうか?
18年09月20日 19:30
【ウミガメのスープ】 [カク]
【ウミガメのスープ】 [カク]

よく「Yes」を「Yed」と打ち間違えます
解説を見る
※下に要約あります。
思えばきっかけは、こんな話をし始めたからだと思う。
長い間ずっと一緒にいた。何年も付き合って、そう遠くない未来、俺達は結婚するんだろうと思っていた。少なくとも俺は、プロポーズするつもりでいた。
別れ話をされたのは、突然だった。
悪いのは、俺だ。わかっている。突然、別れよう、なんて言われて、冗談だろと思って、彼女の顔が真剣なのを見て。冗談でも、ドッキリでもないって知ってしまって。そう思った瞬間、俺は怒鳴ってしまっていた。なんでなのか、自分でもわからない。今まで過ごした時間すべてが、無駄なんだ、と言われた気がしたからだろうか。俺が彼女にとって、もう不必要な存在だと、言われた気がしたからなのだろうか。
激昂した俺を見て、彼女はしびれを切らして、家を飛び出してった。
俺はそれを追いかけるつもりで、同じように玄関から飛び出した。でも、玄関先まで出て、どういうわけか、追いかける気が失せてしまった。感情が追いついてきて、足を止めているみたいだった。今追いかけたら、彼女の迷惑になる、と考えたのだろうか。
もう真っ暗で、そこそこ雨も降ってる中、傘もささずに彼女は走り出してった。この辺りは街灯もない。そこまで俺は、彼女を追い詰めていたのだろうか。
正直、今からでも自転車で追いかければ、全然追いつける自信があった。それで、せめて傘でも渡して去ればよかった。でも、その時の俺に、そんなことできる余裕などなかった。当てのない苛立ちは、半分は鎮まり、半分はまだ生きていた。
(明日でいい…明日、謝って、ちゃんと話をしよう)
寝れば気持ちも落ち着く。そう思って俺は、苛立ちをぶつけるように強めに玄関の戸を閉めた。それからどうしたかは、具体的には覚えていない。たぶん、ろくになにかするでもなく寝たんだと思う。
次の日。
俺に電話を掛けてきたのは、彼女の母親だった。
要件は簡潔だった。
彼女が交通事故に遭ったと。
打ちどころが悪かったのか、意識不明の重体だと。
血の気が引く感覚がした。
俺のせいだ。俺があの時怒鳴ったからだ。俺が怒鳴っていなければきっと、彼女が家を飛び出して行くことはなかったはずだ。飛び出していかなければ、事故に遭うこともなかった。俺のせいだ。俺のせいだ。
来れるなら見舞いに来て欲しい、と言われたものの、別れ話をされた後というのもあって、行くのが気まずかった。行くべきだというのはわかっていた。もしかして、心のどこかで、楽観視していたのかもしれない。重体、という単語を。それとも、負荷がかかりすぎて、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
明日でいい。明日行こう。
そんな考えが、次の日も、次の日も続いてしまうことに、なんで俺は気づかなかったのだろうか。
彼女の家族は心優しくて、俺が彼女のことを大事に思ってるからこそ、事故の姿を見たくないのだと思ったようで、時々俺の家を訪ねては、彼女の私物を持っていってくれた。その度に俺は、彼女に謝ることも、見舞いに行くことも出来ずにいる俺が、どんどん嫌になっていった。
俺は何日か目のとき、ついに彼女の家族に、別れ話の話をした。
彼女の家族は意外にも、優しく俺の話に耳を傾けてくれた。俺は彼女の家族と仲はよかったし、彼女も俺の家族と顔を合わせたことはある。
彼女の家族は俺の事を慰めてくれた。きっと思うところがあったのよ、と。すぐに仲直り出来る、と。でも俺は、昨日の反動からか、なかなか前向きになれなくて、ちゃんと返事が出来ないでいた。
だからもしかしたら、家族の方には、俺も彼女と別れるつもりなんだと思われたのかもしれない。
俺の家から彼女の私物が消えて、最後、彼女の母は、良くなったら連絡しますね、とだけ言って去っていってしまった。
取り残されたように俺は、無気力な日々を過ごしていた。
彼女が良くなった、と連絡が来た時、俺は飛び起きて彼女の母に電話した。
聞くと、実はもっと早く良くなっていたのだそうだ。だが、記憶の混濁が見られるとかで、俺には伏せておいてくれたらしい。だが良くなったら伝えるという約束なので、俺に連絡をしてくれたのだ。優しい人だ。今どこでどうしているのかを聞くと、もう数日前から日常生活に復帰しているとのこと。この時間は、アルバイトの時間だ。
俺は家を飛び出した。勇気など必要なかった。これ以上後悔したくない、という思いが、ようやく俺に追いついたようだった。連絡をくれたということは、記憶の混濁も治ったということなのだろう。彼女に謝ろう。元に戻ろう、なんて俺のわがままだ。ただ謝って、それでいい。彼女が幸せになってくれれば。ただ俺は、あんなさよならなんていやなんだ。それだけなんだ。
彼女がアルバイトしているコンビニには、すぐに辿り着いた。考える前に飛び込めとでも言うように、俺の体は勝手に店内に入っていった。
入店音と共に、男のいらっしゃいませーという声。カウンターを見ても彼女はいない。裏にいるのだろうか?
レジの前で待ち伏せているのも嫌なので、俺は適当にペットボトルジュースを取って、レジに向かった。
「こちらのレジにどうぞー」
聞きなれた声が、した。
いつも通りの、見慣れた姿の彼女が、そこに、立っていた。
『あれ、また来たの?』
『いっつもこれ買うよねーはい、140円』
『こんなに来るならポイントカードつくればいいのにー』
そんな風に茶化してくれた日常が、頭の中で鮮明に蘇る。
俺は何を言うか一生懸命に考えながら、彼女のいるレジに歩いていく。
なんて言おう?まずは挨拶か?いや、開口一番謝った方がいいのでは?それとも容体の心配?なんて言おう。気さくに話しかけた方がいい?それとも真剣に?ああちょっと待てよ。今彼女は仕事中なんだ。後で話そう、と言った方がいいんじゃないか?でもそれじゃあもしかしたら、彼女は残りの時間、嫌な気分で仕事をすることになるかもしれない。とりあえず今は簡潔に謝って──
「お預かりしますー」
ピッ、という無機質な音がした。
目の前の彼女は、完璧に作られた笑顔で、レジに俺の持っていったジュースを通した。
『記憶の混濁が見られてて…あなたのことを忘れちゃってたりしたのよ』
──もしかしてそれは、治ってなどいなかった?もう治せなかった?手遅れだった?いや──
『治す必要などない』と判断された?
「袋ご利用になりますか?」
「えっ!?あ、いや…」
「…?」
彼女は、一人の客として俺を見ていた。その目に光はない。
「……テープで、大丈夫です…」
「かしこまりましたー」
本当に、こんなこと、あるんだな。
じゃあ、もう、あの雨の夜で──
「140円になりますー」
俺は丁度の金額をそこに出して、「レシートいらないです」と言い残して立ち去った。「ありがとうございましたー」という業務的な彼女の声がした。
店を出て、壁にもたれ掛かるようにして、ペットボトルのキャップを開けた。嗚咽が零れそうなのを誤魔化すように、ぐいっと中身を飲んだ。
──あれで最後だったんだ。あれでさよならなんだ。あの夜、車にはねられて、彼女は死んだんだ。「彼女」は今もここにいるけど、俺の知っている彼女は、もう、どこにも──
幸せでいてくれるならそれでいい、などと綺麗事で本音を誤魔化していた俺は、
誰にも聞こえないように、静かに、泣いた。
〇要約
男が恋人と別れ話をした後、彼女が交通事故により記憶喪失に。後日、彼女がアルバイトをしているコンビニに行ったところ、一人の客として扱われた為、彼女が自分のことを忘れてしまった、つまり自分の恋人だったあの彼女はもうどこにもいないのだと知った。
思えばきっかけは、こんな話をし始めたからだと思う。
長い間ずっと一緒にいた。何年も付き合って、そう遠くない未来、俺達は結婚するんだろうと思っていた。少なくとも俺は、プロポーズするつもりでいた。
別れ話をされたのは、突然だった。
悪いのは、俺だ。わかっている。突然、別れよう、なんて言われて、冗談だろと思って、彼女の顔が真剣なのを見て。冗談でも、ドッキリでもないって知ってしまって。そう思った瞬間、俺は怒鳴ってしまっていた。なんでなのか、自分でもわからない。今まで過ごした時間すべてが、無駄なんだ、と言われた気がしたからだろうか。俺が彼女にとって、もう不必要な存在だと、言われた気がしたからなのだろうか。
激昂した俺を見て、彼女はしびれを切らして、家を飛び出してった。
俺はそれを追いかけるつもりで、同じように玄関から飛び出した。でも、玄関先まで出て、どういうわけか、追いかける気が失せてしまった。感情が追いついてきて、足を止めているみたいだった。今追いかけたら、彼女の迷惑になる、と考えたのだろうか。
もう真っ暗で、そこそこ雨も降ってる中、傘もささずに彼女は走り出してった。この辺りは街灯もない。そこまで俺は、彼女を追い詰めていたのだろうか。
正直、今からでも自転車で追いかければ、全然追いつける自信があった。それで、せめて傘でも渡して去ればよかった。でも、その時の俺に、そんなことできる余裕などなかった。当てのない苛立ちは、半分は鎮まり、半分はまだ生きていた。
(明日でいい…明日、謝って、ちゃんと話をしよう)
寝れば気持ちも落ち着く。そう思って俺は、苛立ちをぶつけるように強めに玄関の戸を閉めた。それからどうしたかは、具体的には覚えていない。たぶん、ろくになにかするでもなく寝たんだと思う。
次の日。
俺に電話を掛けてきたのは、彼女の母親だった。
要件は簡潔だった。
彼女が交通事故に遭ったと。
打ちどころが悪かったのか、意識不明の重体だと。
血の気が引く感覚がした。
俺のせいだ。俺があの時怒鳴ったからだ。俺が怒鳴っていなければきっと、彼女が家を飛び出して行くことはなかったはずだ。飛び出していかなければ、事故に遭うこともなかった。俺のせいだ。俺のせいだ。
来れるなら見舞いに来て欲しい、と言われたものの、別れ話をされた後というのもあって、行くのが気まずかった。行くべきだというのはわかっていた。もしかして、心のどこかで、楽観視していたのかもしれない。重体、という単語を。それとも、負荷がかかりすぎて、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。
明日でいい。明日行こう。
そんな考えが、次の日も、次の日も続いてしまうことに、なんで俺は気づかなかったのだろうか。
彼女の家族は心優しくて、俺が彼女のことを大事に思ってるからこそ、事故の姿を見たくないのだと思ったようで、時々俺の家を訪ねては、彼女の私物を持っていってくれた。その度に俺は、彼女に謝ることも、見舞いに行くことも出来ずにいる俺が、どんどん嫌になっていった。
俺は何日か目のとき、ついに彼女の家族に、別れ話の話をした。
彼女の家族は意外にも、優しく俺の話に耳を傾けてくれた。俺は彼女の家族と仲はよかったし、彼女も俺の家族と顔を合わせたことはある。
彼女の家族は俺の事を慰めてくれた。きっと思うところがあったのよ、と。すぐに仲直り出来る、と。でも俺は、昨日の反動からか、なかなか前向きになれなくて、ちゃんと返事が出来ないでいた。
だからもしかしたら、家族の方には、俺も彼女と別れるつもりなんだと思われたのかもしれない。
俺の家から彼女の私物が消えて、最後、彼女の母は、良くなったら連絡しますね、とだけ言って去っていってしまった。
取り残されたように俺は、無気力な日々を過ごしていた。
彼女が良くなった、と連絡が来た時、俺は飛び起きて彼女の母に電話した。
聞くと、実はもっと早く良くなっていたのだそうだ。だが、記憶の混濁が見られるとかで、俺には伏せておいてくれたらしい。だが良くなったら伝えるという約束なので、俺に連絡をしてくれたのだ。優しい人だ。今どこでどうしているのかを聞くと、もう数日前から日常生活に復帰しているとのこと。この時間は、アルバイトの時間だ。
俺は家を飛び出した。勇気など必要なかった。これ以上後悔したくない、という思いが、ようやく俺に追いついたようだった。連絡をくれたということは、記憶の混濁も治ったということなのだろう。彼女に謝ろう。元に戻ろう、なんて俺のわがままだ。ただ謝って、それでいい。彼女が幸せになってくれれば。ただ俺は、あんなさよならなんていやなんだ。それだけなんだ。
彼女がアルバイトしているコンビニには、すぐに辿り着いた。考える前に飛び込めとでも言うように、俺の体は勝手に店内に入っていった。
入店音と共に、男のいらっしゃいませーという声。カウンターを見ても彼女はいない。裏にいるのだろうか?
レジの前で待ち伏せているのも嫌なので、俺は適当にペットボトルジュースを取って、レジに向かった。
「こちらのレジにどうぞー」
聞きなれた声が、した。
いつも通りの、見慣れた姿の彼女が、そこに、立っていた。
『あれ、また来たの?』
『いっつもこれ買うよねーはい、140円』
『こんなに来るならポイントカードつくればいいのにー』
そんな風に茶化してくれた日常が、頭の中で鮮明に蘇る。
俺は何を言うか一生懸命に考えながら、彼女のいるレジに歩いていく。
なんて言おう?まずは挨拶か?いや、開口一番謝った方がいいのでは?それとも容体の心配?なんて言おう。気さくに話しかけた方がいい?それとも真剣に?ああちょっと待てよ。今彼女は仕事中なんだ。後で話そう、と言った方がいいんじゃないか?でもそれじゃあもしかしたら、彼女は残りの時間、嫌な気分で仕事をすることになるかもしれない。とりあえず今は簡潔に謝って──
「お預かりしますー」
ピッ、という無機質な音がした。
目の前の彼女は、完璧に作られた笑顔で、レジに俺の持っていったジュースを通した。
『記憶の混濁が見られてて…あなたのことを忘れちゃってたりしたのよ』
──もしかしてそれは、治ってなどいなかった?もう治せなかった?手遅れだった?いや──
『治す必要などない』と判断された?
「袋ご利用になりますか?」
「えっ!?あ、いや…」
「…?」
彼女は、一人の客として俺を見ていた。その目に光はない。
「……テープで、大丈夫です…」
「かしこまりましたー」
本当に、こんなこと、あるんだな。
じゃあ、もう、あの雨の夜で──
「140円になりますー」
俺は丁度の金額をそこに出して、「レシートいらないです」と言い残して立ち去った。「ありがとうございましたー」という業務的な彼女の声がした。
店を出て、壁にもたれ掛かるようにして、ペットボトルのキャップを開けた。嗚咽が零れそうなのを誤魔化すように、ぐいっと中身を飲んだ。
──あれで最後だったんだ。あれでさよならなんだ。あの夜、車にはねられて、彼女は死んだんだ。「彼女」は今もここにいるけど、俺の知っている彼女は、もう、どこにも──
幸せでいてくれるならそれでいい、などと綺麗事で本音を誤魔化していた俺は、
誰にも聞こえないように、静かに、泣いた。
〇要約
男が恋人と別れ話をした後、彼女が交通事故により記憶喪失に。後日、彼女がアルバイトをしているコンビニに行ったところ、一人の客として扱われた為、彼女が自分のことを忘れてしまった、つまり自分の恋人だったあの彼女はもうどこにもいないのだと知った。
「ビアトリクス・ポターと秘宝の壺」「1Good」
トリック:1票
あるところにポターという男がいた。ある日、ポターの部屋に泥棒が入った。盗まれたものは、ポターが大切にしていた壺だけだった。
ポターの部屋には金目のものが多くあり、また盗まれた壺に大した価値はないというのだが、なぜ泥棒はこの壺を盗んだのだろうか?
ポターの部屋には金目のものが多くあり、また盗まれた壺に大した価値はないというのだが、なぜ泥棒はこの壺を盗んだのだろうか?
22年02月05日 06:30
【ウミガメのスープ】 [蒼い胡蝶蘭]
【ウミガメのスープ】 [蒼い胡蝶蘭]

タイトルに深い意味はありません
解説を見る
簡易解説:ポターが大切にしていた壺だけにやたら厳重な防犯設備がついていたので、泥棒はこの壺に価値があると思い込んだから。
【解説】
ポターは大金持ちで、万が一泥棒に入られても大切な壺さえ盗まれなければそれで良いと考えるほど、その壺を大切にしていた。そこで、大切な壺だけに厳重な防犯装置を取り付けた。
その上、大切な壺よりも泥棒が優先して盗んでいくように、大切な壺と違って高値で売れる壺をいくつも同じ部屋に置いた。
壺は嵩張るので、わざわざ価値のなく防犯も厳重な壺は捨て置き、高値で盗みやすい壺を盗むだろうと考えての行動である。
しかし、実際にポターの家に入った泥棒は、盗みの技術は凄腕だったが目利きの技術は素人同然。
いかにもな防犯設備で厳重に守られている壺を見た泥棒は、これこそが価値の高い壺に違いないと思い込み、持ち前の技術で防犯設備をすり抜けて盗んでいったのだった。
※漫画云々でかえって混乱させていたらすみません。「大事にしていたから」「大切にしまっていたから」等でも正解としましたが、このように解説では間抜けな怪盗のような感じなので念のため補足しました。
※FA条件の混乱について本当に申し訳ありませんでした。
最終的に、「1.(文中及びヒントにもある通り)ポターが壺を大切にしていたこと。2.そのため、厳重・あるいは大切にしまい込まれていたこと。3.それによって泥棒は大切な壺の価値が高いと勘違いして盗んだこと。」以上3点が盛り込まれているものを正解としました。
【解説】
ポターは大金持ちで、万が一泥棒に入られても大切な壺さえ盗まれなければそれで良いと考えるほど、その壺を大切にしていた。そこで、大切な壺だけに厳重な防犯装置を取り付けた。
その上、大切な壺よりも泥棒が優先して盗んでいくように、大切な壺と違って高値で売れる壺をいくつも同じ部屋に置いた。
壺は嵩張るので、わざわざ価値のなく防犯も厳重な壺は捨て置き、高値で盗みやすい壺を盗むだろうと考えての行動である。
しかし、実際にポターの家に入った泥棒は、盗みの技術は凄腕だったが目利きの技術は素人同然。
いかにもな防犯設備で厳重に守られている壺を見た泥棒は、これこそが価値の高い壺に違いないと思い込み、持ち前の技術で防犯設備をすり抜けて盗んでいったのだった。
※漫画云々でかえって混乱させていたらすみません。「大事にしていたから」「大切にしまっていたから」等でも正解としましたが、このように解説では間抜けな怪盗のような感じなので念のため補足しました。
※FA条件の混乱について本当に申し訳ありませんでした。
最終的に、「1.(文中及びヒントにもある通り)ポターが壺を大切にしていたこと。2.そのため、厳重・あるいは大切にしまい込まれていたこと。3.それによって泥棒は大切な壺の価値が高いと勘違いして盗んだこと。」以上3点が盛り込まれているものを正解としました。
「草食系女子・カメコ」「1Good」
物語:1票
カメコは、ほうれん草を食べたので告白しようと決心した。
なぜ?
なぜ?
22年02月07日 21:39
【ウミガメのスープ】 [雛猫ふまの]
【ウミガメのスープ】 [雛猫ふまの]

アカウント…お前…無事だったのか…
解説を見る
カメコは、お弁当に入っていた冷凍食品のほうれんそうのおひたしを食べた。
するとほうれんそうが入っていたカップの底に『恋愛運⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』『好きな人と結ばれちゃうかも!?』と書かれているではないか。
そう、そのカップは占いが底に書かれているタイプのものだったのだ。
『えぇ〜っ!これは今日告白するっきゃないよね⭐︎ おーいカメオく〜ん!』
カメコは意を決して意中の男子生徒・カメオに告白しようと決心した。
【解説】
ほうれんそうは弁当用のもので、底に占いが書かれていた。
その結果の恋愛運が良かったので告白を決心した。
するとほうれんそうが入っていたカップの底に『恋愛運⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎』『好きな人と結ばれちゃうかも!?』と書かれているではないか。
そう、そのカップは占いが底に書かれているタイプのものだったのだ。
『えぇ〜っ!これは今日告白するっきゃないよね⭐︎ おーいカメオく〜ん!』
カメコは意を決して意中の男子生徒・カメオに告白しようと決心した。
【解説】
ほうれんそうは弁当用のもので、底に占いが書かれていた。
その結果の恋愛運が良かったので告白を決心した。