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やあ、第五拾壱回正解を創りだす司会のOUTISだヨ。最近の暑さときたら人の血に飢えているのかと思う程で参るよネ…皆様は体調崩されてはいないかナ。
ところで夏といえば夏の大三角形や天の川と星を見る機会の多い時期だけれど、星見草なんて洒落た異名を持つ花がある事をご存じかナ。実はこれ、菊の事なんだヨ。菊の花を星に見立てた和歌が由来なのだとカ。今回はそんな菊の札に因んだ回とさせてもらうヨ。
―さてさてさて、そうして酷暑を忘れるべく始めましたるは創りだす。参加されれば胃肝肺肝が健やかになって、薫風咽より来たりて口中微涼を生ずるが如し…なんてぇのは冗談ですが。
さぁさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。夏の暑さを吹き飛ばす、第五拾壱回正解を創りだすの始まりだヨ!
※「正解を創りだすウミガメ」って何?という方はこちらをみてネ
→https://late-late.jp/secret/show/d8MCaJqldjB6JV9SOlry2do4DhGUmmpYsCcIDbNu04c.
※実際の様子はこちらから見られるヨ
→https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
前回大会はこちらから!→ https://late-late.jp/mondai/show/18265
それでは、詳しいルール説明を始めるヨ。
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[出題〜要素が40個集まるまで or 23:59]
まず、正解を創りだすカギとなる質問(要素選出)をしていただくヨ。
☆要素選出の手順
①要素の投稿
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けるヨ。
質問は1人4回までで頼むヨ。
皆様から寄せられた質問の数が40個に達するか、出題日の23:59になったら40個に達していなくても締め切らせていただくヨ。
②要素の選出
すべての質問からランダムに12個が選ばれるヨ。
選ばれた質問には「YES」もしくは「NO」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつくヨ。
良質としたものを以下『要素』と呼ぶヨ。
※ただし、問題文や前出の要素と矛盾するものや、条件が狭まりすぎるものは採用されないことがあるからネ。あらかじめご了承願うヨ。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(不採用)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出すから活用してネ。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~8/19(土)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行するヨ。
すべての要素を含んだ解説案を投稿してネ。文字数・投稿数に制限は無いから、好きにやってネ。沢山書いてくれると私が喜ぶヨ。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしてネ。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖・ラテシン版)」も参考にしてみてネ。
ラテシン版
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
らてらて鯖
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成するヨ。複数投稿も可だからネ。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまうから注意してネ。
コピペで一挙に投稿を心がけてネ。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してネ。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があるヨ。
しばらく時間をおいてから再び確認してネ。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してネ。
後でタイトル部分のみを[良質]にするヨ。
④次の質問欄に本文を入力してネ。
本文の末尾には、「おわり」などの終了を知らせる言葉を必ずつけてネ。
投稿フェーズ終了までは、本文・タイトル共に自由に編集していただいて構わないヨ。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せするけど、簡易解説は「スッキリまとまった解説」に与えられる「スッキリ賞」の考慮事項になる可能性があることをご承知願うヨ。文字数やつける位置に指定は無いからネ。
※エントリーを辞退される際は、作品タイトルに<投票対象外>を付記してネ。
メイン投票は対象外となるけど、サブ投票の対象となるヨ。
※投稿フェーズ終了後に投稿(=ロスタイム投稿)をされる場合、タイトルに<ロスタイム>と付記してネ。
こちらもメイン投票は対象外となりますが、サブ投票の対象となるヨ。
※少しでも気軽にご参加いただくために、今回の創りだすでも次回主催辞退制度を採用しているヨ。
仮にシェチュ王を獲得しても次回の主催を務める時間・自信がない……という方は、投稿フェーズ終了後に設置される投票所にて、その旨を伝えてネ。投票所の相談チャットにて「出題者のみに表示」にチェックを入れて書き込むか、主催までミニメールを送ってくれれば大丈夫だヨ。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~8/26(土)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行するヨ。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出してネ。フィーリングで全然OKだヨ。心向くままに楽しもうネ!
☆投票の手順
①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置するヨ。
②作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できるヨ。(ただし、投稿数が少なかったりした場合はこの数字が変わる可能性があるヨ。その場合は投票所で改めて告知するから注意してネ。)
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿したシェフも、持ち票は3票とするヨ。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてネ。感想については、簡略なもので結構だヨ。一文でも大丈夫だからネ。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答え願うヨ。こちらの投票数は「シェフ」と「観戦者」で共通だヨ。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構わないヨ。
※自分の作品に投票は出来ないヨ。その分の票を棄権したとみなすからネ。
※投票自体に良質正解マーカーはつけないから、その点はご了承願うヨ。
またこれらとは別にサブ投票として「匠賞」「エモンガ賞」「スッキリ賞」を設けさせてもらうヨ。
これらの詳細は投票会場にてご説明するヨ。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定するヨ。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[正解]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題してもらうヨ!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞だヨ。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=一人の方からの複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞だヨ。(投票者の頭数です。)
それでも同率の場合、出題者も事前に決めた3票を投じて再集計するヨ。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただくヨ。
◇◇ コインコードについて ◇◇
シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…15c
投票参加賞……10c
要素採用賞……10c
上記の通り賞に応じてコインコードを発行する予定だから、皆様ぜひお気軽にご参加願うヨ。
※「最優秀作品賞」および「最難関要素賞」については、1名分のコードしか用意できないヨ。
このため同率受賞の場合は、先に投稿された要素/作品の投稿者の方にコードを贈呈させていただくから、その点あらかじめご了承願うヨ。
■■ タイムテーブル ■■
※状況に応じて変更の可能性もあるから注意してネ。
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が40個に達する or 23:59
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 8/19(土)23:59
☆投票フェーズ
投票会場設置後 ~ 8/26(土)23:59
☆結果発表
8/27(日)21:00(予定)
毎度恒例、長い説明にお付き合いいただき、心より感謝申し上げるヨ。
細かいルールについては、そのフェーズが始まった時にでも確認してネ。
ではこれより、正解を創りだすウミガメを開始とするヨ。
Are you ready?
Start!!!
果たして、新たなシェチュ王に輝いたのは…?
あれが夏の大三角ですか?
YESNO 関係ないヨ
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」という歌詞で知られる楽曲を歌った歌手の名前は?
昨日の答え:マイケル・ファラデー
[編集済]
頭がキーンとなりますか?
YESNO 関係ないヨ
かき氷を食べた時に感じるキーンとした頭痛のことを、その原因となる食べ物の名前を用いて何という?
昨日の答え: Supercell
振り返る余裕がないですか?
YESNO 関係ないヨ
「振り返る余裕もなく 斬られた自覚もなく おまえは倒れ見つめてた」
という歌いだしで始まる、時代劇「影の軍団Ⅳ」のエンディングテーマのタイトルは?
昨日の答え:アイスクリーム頭痛
あくびが出そうですか?
YESNO 関係ないヨ
あくびをすることが由来である、本来あるべきものが無い事を示す漢字は?
昨日の答え:影
手合わせしますか?
YESNO 関係ないヨ
手合わせといえば勝負をつける事を指すが、大手合とはかつて何の競技において昇段を決める勝負を指していたか。
昨日の答え:欠
頭の上になにかふってきましたか?
YESNO 関係ないヨ
ゲーム「ドラゴンクエスト」にてモンスターの名前としても使われた、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」にて地獄に落ちたが生前の善行により頭上に蜘蛛の糸が降ってきた悪党の名前は何か?
昨日の答え:上昇する
おおきなくもが重要ですか?
YESNO 関係ないヨ
一般に入道雲と呼ばれる、夏によく見られる大きな雲の事を気象学において何と呼ぶ?
昨日の答え:カンダタ(犍陀多)
コーラスが完ぺきですか?
YESNO 関係ないヨ
劇中のコーラスのシーンに様々な字幕をつけるミームが流行した、マフィアに狙われたクラブ歌手が匿われた修道院等での生活を描いた1992年に公開された映画の邦題は?
昨日の答え:積乱雲
湿度と温度は共に高いですか?
YESNO 関係ないヨ
高温高湿の一定条件下で金属等に発生する腐食を加速させその耐久性を評価する試験を温度、湿度、バイアスの頭文字をとってアルファベット3字でなんと呼ぶ?
昨日の答え:天使にラブソングを
冷たい水に浸かりますか?
YESNO 関係ないヨ
「冷たい水をください できたら愛してください」という歌詞のポルノグラフィティの楽曲は?
昨日の答え:THB(試験)
どれだけ時間が経とうとも消えませんか?
YESNO 関係ないヨ
主に遺跡と呼ばれている、土地に埋まり過去の文化を残している文化財の事をその保存状態から文化財保護法においてなんと呼ぶか?
昨日の答え:アゲハ蝶
許されようとは思いませんか?
YESNO 関係ないヨ
免罪符とも呼ばれる、カトリック教会が16世紀に発行した罪の償いを軽減する証明書のことを、○○状という形で何という?
昨日の答え:埋蔵文化財
いつかはそうなるとわかっていましたか?
YESNO 関係ないヨ
元は第二次世界大戦における連合国の日本本土侵攻作戦でもあるダウンフォール作戦の一部として、九州侵攻(「オリンピック作戦」)の作戦予定日を指す言葉であった、いつか必ず起こるが現時点ではそれがいつかわからない日を指す言葉を何というか?
昨日の答え:贖宥状
バトンですか?
YESNO 関係ないヨ
パレードの更新や応援団において指揮者の役割を持つ、装飾的なバトンを持つ少女のことをなんというか?
昨日の答え:Xデー
打ち明けられませんでしたか?
YESNO 関係ないヨ
人狼ゲームにおいて、役職を打ち明ける事を英語の頭文字2字を使い何というか?
昨日の答え:バトンガール
多弁は銀ですか?
YESNO 関係ないヨ
「雄弁は銀、沈黙は金」という諺を広めた事でも有名な、『英雄崇拝論』や『フランス革命史』といった著書をもつ19世紀イギリスの歴史家の名前は?
昨日の答え:CO
「きっと」は関係しますか?
YESNO 関係ないヨ
18世紀初頭、ロンドンの食堂で提供されていた「キットカット」という料理はどのような料理であったか?
昨日の答え:トーマス・カーライル
ろうそくを使いますか?
YESNO 関係ないヨ
英国王立研究所で行った子供向けのクリスマス・レクチャーをまとめた「ロウソクの科学」でも有名な、電荷の単位に名を遺したイギリスの科学者の名前は?
昨日の答え:羊肉のパイ
これより要素を決定するヨ 少々お待ちヲ…
いや、もう一周回って笑えてくるよネ…
真面目な話に戻ると、流石に投稿数0は不味いから誠に身勝手だとは思っているけれど、全日程を1週間延長とさせてもらうヨ
ということで投稿フェーズ〆切は8/26(土)の23:59
皆様のご参加、切実にお待ちしているヨ
【簡易解説】
男は、天国から地球を見ていた。
自分の母となる人がどんな人なのか、見るために。
その時女は、酒を飲んでいた。
その後2人が出会ったとき…男が、女から産まれた時。
産まれたばかりの男は泣いて、それを見た女は無事に我が子の誕生したことに安堵して笑った。
【解説】
我々の住む地球から遥か遥か天上の、我々が決して見つける事の出来ないところに、天国という場所があります。
そこでは、沢山の魂達と、1人の神様が、楽しく暮らしておりました。
天国には、地球にある美しいもの、素晴らしいもの、楽しいことが全てあります。
だから天国に住む魂達は、天国にいる間はみんな幸せで、楽しく、平和に暮らしています。
けれども、その代わりに魂達は神様の決められたタイミングで、神様が決められた場所の何者かに生まれ変わらなければいけません。
そうして、その先で死んだらまた魂だけで天国に帰り、時が来たらまた地球に生まれるということを繰り返しているのです。
彼等が生まれるタイミングを遅らせることは、ほんの少したりともできません。
ですから魂達は、神様から次の生まれ先をお伝えされて、そして地上で生まれるまで、痛みも暑さも寒さも感じない楽園で、後悔の無いように目一杯好きに遊んで暮らすのです。(4)
さて、そんな天国で過ごす一つの小さな魂に、地球での生まれ先が決まったことから、このお話は始まります。
その小さな魂は、神様の決められた生まれ先をお伝えいただこうとしてました。
指定された部屋に入れば、そこには地球に繋がる池があり、その前に真っ白な髭の老人が立っていました。
きっとこれが神様だ、とか大きな池だなぁ、とか小さな魂が考えていると、その老人は小さな魂に向かって、こう言いました。
「今から252回、地球で太陽が昇って、沈んだころだ。お前はあの女性から産まれるということになっている。」
その直後、小さな魂は促されるままに、池の中を覗き込みました。
すると、池の中には地球のとある街の小さな家の中の様子が映し出されていました。
小さな魂は、あんまり本が好きではないから、地球のことは全く知りません。
けれども、気まぐれに読んだ絵本によると、子供を産んだ女性は、その子供の"お母さん"というものになって、子供に美味しいお菓子を焼いてくれたり、素敵なお歌を歌ったり、優しく抱きしめてくれたりするものらしいのです。
だから、自分の"お母さん"はどんな人なんだろうと、わくわくしながら家の中を覗き見た小さな魂は、そんな気持ちも吹き飛ぶくらいにびっくりしてしまいました。
そこでは、小さくて可愛らしい女性と、大きくて陽気そうな男性が楽しそうにお酒を飲んでいました。
けれども、その量は明らかに異常です。
1本、2本、3本、4本…
二人で飲むには明らかに多い数のお酒の空き瓶が、床やテーブルにゴロゴロと転がっています。
と、思えば突然に、顔を真っ赤にした女性が、テーブルの上のタオルをひっつかみ、振り回して踊り出しました。(15)
そして、一緒にお酒を飲んでいた男性が、それを見て、笑いながらお水を勧めています。
ここに生まれたら…僕は一体、どんな生活をすることになるんだろう?
僕の"お母さん"は、絵本の"お母さん"とは違うものなのかもしれない。
そんな事を思った小さな魂は、思わず不安そうに呟きます。
「…あれが、本当に僕のお母さんになるの?」
呟きに答える声は、ありませんでした。
○
その後、部屋から帰された小さな魂は、酷く不安な気持ちで歩いていました。
とぼ、とぼ、と足取りは重く、何処に行くとも決めないままに、ただ花畑を進んでいきます。
けれども、途中で小さな魂に、近寄ってくる者がいました。
「ねえねえ君、元気なさそうだね。大丈夫?」
それは、小さな魂と同じくらいに小さな少女でした。
小さな魂は俯いて、心配そうにするその少女の足下あたりをじっと見て、むっつりと黙り込みました。
それを見た少女は、頭につけていたものを外して、小さな魂に差し出しました。
「綺麗な物を身につけると、ちょっとだけ元気になれるよ。」
小さな魂が見れば、それは歪な花冠でした。
「ありがとう。…でも僕、身につけるものにはあんまり興味が無いんだ。ごめんね。」
そう言って小さな魂は、崩してしまわないように、慎重に少女の頭に花冠を着け直してあげました。
「そっかぁ。…だったら、何かして遊ぼうよ。楽しいことをしていれば、きっと元気になれるかも。」
そう言って彼女は、小さな魂の手を取って、室内の遊び場へと向かいました。
○
遊び場には、カードゲームやダーツ、ビリヤード台やボードゲームなど、様々なものがあります。
その中で彼等は、オセロというゲームをしようと決めました。
理由は…簡単で楽しいからと、少女が勧めたからでした。
何ゲームかを終えて、徐々に打ち解けた2人は、またゲームをしながらポツポツと会話をしていました。
内容は勿論、小さな魂が俯いていた理由についてです。
彼は、生まれた後が不安なのだと、少女にそっと打ち明けました。
「そっか、君は生まれる時期が決まったばっかりなんだね。地上って天国よりもずっと不便らしいし、嫌な思いをすることもいっぱいらしいから、ちょっと怖いよね。…自分を産むお母さんがあれ?って思うような人なら、尚更。」
と、花冠を着けた魂は、なんだか呑気な様子で頷きました。
「…君、そんなに怖いって思ってないでしょ。」
「あれ、バレちゃった?…と、ここ、もーらい。」
と、少女が、白いコマを次々とひっくり返していきます。
「………」
「…もう、そんなにむくれないでよ。不安は多くてもさ、きっと心配は無いよ。だって君のお母さんは、君がお腹にいる事をまだ知らないんだから。君がこれから人間になるのとおんなじで、君のお母さんも、これから母親になっていくところなんだよ。不安だって言うなら、これから毎日、君のお母さんの様子を見に行けば良いんだよ。そしたら、きっとお母さんのことも好きになれるだろうし…心の準備も出来るんじゃないかな。」
にっこり笑う彼女に、思わず小さな魂は、黙り込みました。
そんなに簡単なことなら、どれだけよかったことだろうか、と。
結局、その後10ゲーム程続けて遊んだ辺りで、オセロに飽きた2人は別れました。
また会えたら、その時には別の遊びをしようと約束をして。
○
それから毎日、小さな魂は、少女の言った通りに自分の"お母さん"の様子を見に行きました。
けれども、10日経っても、20日経っても、小さな魂は、中々安心できません。
だって、小さな魂の"お母さん"は、全くお母さんらしくなる気配が無いのです。
絵本の中のお母さんは、みんな料理上手でした。
けれども、"お母さん"の料理の様子を見ていたら、焦げていたり、崩れていたり、塩と砂糖を間違えていたり…
アサリでパスタを作った時なんて、アサリと一緒に砂が入っていて、それを食べた男性("お母さん"とよく一緒にいる、優しそうな人です)が、じゃりじゃりとした食感に、思わずうがいをしに行ったほどでした。(31)
100日経っても、200日経っても、やっぱり不安は変わりません。
だって、"お母さん"は、妊娠がわかってからも、毎日のように外に出て、決して大人しくはしていないのです。(16)
買い物に行ったり、他の人の家に行ったり、時には海に行くことだってありました。
転んだり、怪我をしてしまったらどうすると言うのでしょう。
最悪、お腹の中の僕の身体を殺してしまうかもしれないのにと、小さな魂は、この"お母さん"は、自分のことを大切にしてくれないんじゃないかと、ずっと心配しておりました。
○
さて、とうとうあと30日程で小さな魂が生まれる、という頃。
「僕、生まれるのが不安で不安で仕方ないよ…」
そう小さな魂は、相変わらず少女の形の魂に不安を吐き出しておりました。
あれから、何度も遊び、何度も話をしていた2人は、すっかり仲良しになっていました。
少女は小さな魂のそんな不安を聞くのも、すっかり慣れっこで、とことことゲーム置き場を歩き回りながら、困ったように笑います。
「不安、なかなか収まらないね。…もう、1月くらいしかないのに…」
そう言いながら彼女は、何やら集めていたものを、小さな魂にまとめて渡してきます。(29)
それは、花札というカードゲームでした。
「…これ、散らばっちゃってたんだけどさ。…2人で出来るゲームだし、丁度良いから、今日はこれをしない?」
小さな魂が、少女に頷き…そして、2人は花札をすることにしました。
○
ゲームの途中、2人はいつものように話をします。
「…お母さんの好きなところ、見つかった?」
少女の問いかけに、小さな魂は、言葉を詰まらせます。
「…それが…もう時間がないのに、全然わからなくって…」
それを聞いて、少女は手札を出そうとした手を止めました。
そして、小さな魂に言い聞かせるように、こう言いました。
「…きっと、難しく考えすぎてるんだよ。ずっと見てればさ、良いところだって見えてる筈だよ。…それが大きなものではなかったとしても、良いところがない人間なんていないからね。今は良くないところばかりが目についちゃうのかもしれないけれども、さ。」
そう言って少女は、手札にあった"芒に月"と、場にあった"芒に雁"の札を持っていきました。
その後で、少女は山札をめくります。
山札から出てきたのは、"桜に幕"。
少女は、場にあった"桜に赤短"と合わせて、桜の札を持って行きます。
「ふふ、ラッキー。」
さて、次は小さな魂の番です。
けれども小さな魂は、手札のどれを出しても、場にある札は持ってはいけません。
しょうがなく、小さな魂は芒のカス札を一枚出しました。
魂達の点差は決して大きくはなく、まだどちらが勝つともわかりません。
けれども、なんだか気分が乗らなくて、彼は山札を捲らずに手を止めました。(27)
「…できる事なら、ずーっとここにいたいな。」
うじうじとそう溢した小さな魂に、花冠を着けた魂はびっくりしたように言いました。
「…ずーっと生まれられないっていうのも、辛いと思うよ。だって、ここには完成されたものしかないもの。…それに、生まれるってそんなに悪いことじゃあないんじゃないかな。…生まれてみたらきっと、良いことだってあるだろうし…。」
「…そうなのかなぁ。」
答えながら、小さな魂の中は、不安と不満でいっぱいになっていました。
きっと、少女は産まれるのが、とてもとても、楽しみで…だから、彼女には、自分の気持ちなんてわかってもらえないんだ。
そんな気持ちでいっぱいで、なんだか小さな魂は、次第に、悲しくて悲しくてしょうがなくなりました。
結局、2人はその試合の勝負をつけることはありませんでした。
なんとなく、再開するという雰囲気にならなくて…少女も何も言わなくて。
また今度、と約束だけをして、2人は別れました。
○
それからまた、時が経ちました。
明日は、小さな魂が産まれると言われた日です。
けれども小さな魂といえば、そんな日でも暑さに耐えかねて、エアコンをつけっぱなしにする"お母さん"に憤っていたところでした。
絵本の中の優しいお母さんなら、お腹の子供の事を考えて、エアコンをつけっぱなしになんてしないことでしょうから。(25)
こんな感じで本当に、僕は明日無事に産まれることなんてできるのだろうかと、小さな魂が歩いていた時、花畑の中に少女を見つけました。
少女と会うのは、花札で遊んだ時以来です。
小さな魂が、ふと少女の手元に目を向ければ、一生懸命な様子で、相も変わらず歪な形の花冠を作っておりました。
それを大して気にも留めずに、小さな魂が少女に声を掛ければ、少女は少し驚いた後で、にっこりと笑って顔を上げました。
「わ、久しぶりだね。"お母さん"の様子はどう?」
「久しぶり。今日も今日とて不安だよ。…とは言え、明日はいよいよ産まれる日だからね。覚悟は決めなくちゃって思ってるけどさ。」
「…そう、明日。」
それを聞いた少女は、花冠を編む手を止めました。
そして何やら考えた後で、「よおく聞いてね」と前置きをして、口を開きます。
「…幸せの形って、人それぞれだと思うの。生まれた先では君も他の人もみんな、決して同じものではないし、平等でもない。だから辛い思いをする事も、辛い思いをさせてしまうこともあるし、時に、何かを傷付けたり、殺めてしまうこともあるかもしれないわ。けれども、君を幸せにしてあげられるのは、君しかいないんだよ。だからさ…難しいかもしれないけど、どうか幸せを掴み損ねないようにね。」(17)
小さな魂は、眼を見開きました。
生まれる前の魂の時の記憶は、当然生まれた後の頭には残っていません。(7)
なのに、どうして少女がそんな事を言うのか、わからなかったからです。
「…う、うん。産まれてからの僕は、その言葉、忘れちゃうと思うけど…ちゃんと、気を付けるよ。」
よくわからないままながらそう答えた小さな魂に、少女はにっこりと笑いました。
「…良かった。…それじゃ、私以外にもお別れを言いたい魂もいるだろうし…天国で遊べる最後の日を、後悔しないように過ごしてね。」
そして、また少女は、花冠を編む作業に戻りました。
小さな魂は、首を傾げて…しかし、少女に言われた通り、他の仲良しの魂達に、お別れを言いに行ったのでした。
○
そして迎えた、小さな魂の産まれる日。
小さな魂は、産まれるよりも少し前に、地球に繋がる池のあるこの部屋に、きちんと入室しました。
地球に繋がる池に飛び込めば、自分が生まれる先の赤子の体の中に入ることが出来るのです。
けれども小さな魂は、依然として不安でいっぱいでした。
池の中には"お母さん"が陣痛で苦しんでいるのが見えていたから、尚更に、です。
だからつい、小さな魂は、こんな事を言っていました。
「…神様、僕、どうしても今…産まれなきゃ駄目なの?」
それを聞いた真っ白な髭の老人は、目をまんまるにして、口を開きました。
「…それはつまり産まれたく無いと…そういう事だろうか?」
問いに答えがあった事に、小さな魂はびっくりしてしまいました。
だって、これまでに目の前の老人が自分の問いかけに答えたことなんて、一度も有りませんでしたから。
本当のことを言えば、小さな魂は、本当の本当に生まれたくないって訳じゃあありませんでした。
不安は大きいけれども…生まれるのを受け入れているという気持ちも、これからの生活を楽しみにしている気持ちも、確かにありましたから。
けれども、面白くない気持ちがどうしても先立って、そう口をついてしまっただけだったのでした。
けれども、一度言ってしまったことです。
一度しっかり聞かれてしまったのに、「いいえ、生まれたくない訳ではありません」なんて言ったら、嘘つきだって思われてしまうかもしれません。
それが嫌だと思ったので、小さな魂は、それが如何にも本当の事です、と言わんばかりに精一杯に強がった表情で、しっかりと頷いて見せた後で言いました。(19)
「う、うん。僕、生まれたくなんて無いよ。」
「そうか、そうか」
老人は、穏やかに頷きます。
しかし、すぐに様子が変わった様子で、なにやら捲し立てました。
「ああ、そうか、そうか、そうか!生まれたくないと確かに聞いたぞ。よろしい、ならば…私が成ろう。成らぬ事を望んだのはお前なのだ。お前自身なのだから…私が代わってもいいだろう?次に生まれるのは、私だ!」
老人が何を言ったのか、小さな魂にはよくわかりませんでした。
けれども。
老人がそう言った瞬間、老人の身体と自分の身体が、白く光って…老人が、地球に繋がる池の中に飛び込んで行くのが見えました。
小さな魂は、慌てて老人の姿を追うように、池の中を覗き込みます。
見れば"お母さん"が、丁度子供を産んでいるところでした。
慌てて池の中に飛び込もうとするも、何故だか池の中にはいけません。
そして、暫く様子を見ていれば…"お母さん"は、元気な男の子を産みました。
暫くして、元気な産声をあげるその子を抱いて、母親が、安心したように笑ったのが見えます。
小さな魂は、ここにいます。
けれども、"お母さん"は、子供を抱いています。
自分じゃない魂が…あの老人が、"お母さん"の子供になったのだと、小さな魂はすぐに気が付きました。
「どうして?」
けれども、その答えを小さな魂は知っています。
「生まれたくない」、そう言ったのは、自分自身だったのですから。
少し、生まれるのを先送りに出来れば良い、くらいの考えでした。
けれども、"お母さん"が子供を産むのは、先送りにはなりませんでした。
…いいえ、老人が、先送りにはしませんでした。(21)
あの老人は、神様ではなかったのでしょうか?
戸惑っていた小さな魂の耳に、聴き慣れた声が聞こえます。
「…ああ、ここに残っちゃったんだね。」
見れば、部屋の入り口前に、少女が立っておりました。
小さな魂は、部屋を飛び出して少女のところに行こうとして…しかし、自分がこの部屋から出られなくなっている事に気が付きました。
少し呆然とした後で、けれども小さな魂は少女に言いました。
「た、大変なんだよ!僕が生まれたくないって言ったら、僕の代わりに神様が生まれちゃったんだ!」
その言葉に少女は、悲しそうに眼を伏せました。
「ええと…まず、あの子は神様じゃないよ。だって、神様は私だからね。」
「…え?」
目を見開いた小さな魂に、少女は静かに続けました。
「君は輪廻転生の輪を外れて…魂の案内役っていう、魂のまま、変わらない存在になったんだよ。人間で言う、不老不死みたいなものかな。…まあ、生まれたくなった時には、生まれたくないって子と交代しても良いって事になってるから、ずっとここにいたいって訳じゃないなら、一時的なものにはなるんだけれどもね。…あの子は、生まれたかったんだろうね。生まれたくない、と言った君の代わりに、あの子が生まれたんだよ。」(11)
少女の言葉に、小さな魂は真っ青になります。
「…じゃあ、僕は…生まれたくないって魂が来るまでは、ずっと…」
「…君は、本当は生まれるのが嫌って訳ではなさそうだったから、止められたら良かったんだけれども、言ってしまったものには、取り返しがつかないからね。…いつか、生まれたくないって子がいたら、その時には、代わって生まれてあげてね。」
そう言って少女は、呆然とする小さな魂を置いて、その場を去りました。
○
…私が知っているのは、ここまでです。
さて、1人取り残された小さな魂は、意地を張ってしまった事を後悔しながら、今も次に生まれる魂達の案内役を続けているのか、はたまた、既に別の魂と役目を交換して、地球のどこかで生まれたのか…
それは、天国にいない私達には、知る由もない事でしょう。
-完-
※このお話はフィクションです。このお話の天国は、実際の天国とは異なる可能性があります。
上手いネ。
何が上手いって、「男は泣き女は笑った」を男を赤子、女を母親にすることで極めて自然に解決させているところだヨ。
そこに星が地球であるという叙述を組み合わせて独自の天国という世界観を作り上げ、女が酒を飲んでいた点から主人公の心の機微を作り物語を動かす。
骨格としてウミガメの答えに沿ったしっかりした解を示しつつ、物語としても独自の世界観と共に仄暗い教訓めいたメッセージ性を持っていてよく練られていると感じたヨ。
[編集済]
[正解]
↵
↵
未来の自分がどうなるかなんて、その時の自分にしかわからない。↵
↵
それはもちろんわかっている。↵
どんな未来も、きっとそうなったのには理由がある。↵
予想だにしない結果が待ち受けていようと、結局のところは受け入れなくてはいけない。↵
↵
↵
だが、それでも俺は受け入れることができるだろうか。↵
↵
↵
未来の自分は、性別が変わってしまっているということに。↵
↵
↵
--↵
↵
それは白い息が出るような、寒い夜だった。↵
バイト帰り、三つ星を頼りにリデルとベテルギウスを探しながら歩いていた時の出来事である。↵
↵
その途中に通る公園で、女性が何やら砂場に直で胡座をかいて座りこんでいるのを見かけた。↵
↵
繁華街のはずれだし「いつもの酔っぱらいか」とは思いつつも、女性一人でひとっ気もなく氷点に近いような寒さがある公園に居座っているのを放っておくのも怖くて、なんとなく気になってしまった。↵
俺は公園の出入り口付近で、自販機の前で飲み物を悩んでいるていを装って、陰からその女を少し見守ることにした。↵
↵
その女は『いいちこ』の一升瓶を抱えながらワンカップ大関を煽っていた。↵
まああれは空っぽになったワンカップ大関の容器をグラス代わりにして飲んでいただけだとは思うのだが、なんだかその時俺は「ああいう成人にだけはなりたくないな」と19歳ながらに思った。↵
↵
そしてその女は酒を飲み干すと、空になったカップの縁に、砂場の砂をつけていた。↵
まさかとは思ったが、そいつはカップを砂だらけにしたまま『いいちこ』を注ぎ、思いっきり口をつけてガッツリ煽っていた。 ※⑫(31)↵
↵
その行為に寒気を感じたまではいかないものの、なんだか口の中がちょっとジャリッとした気分になった。 ※①(4)↵
↵
↵
もう既に関わりたくなかったが、家に帰るにはあの女の横を通り抜けなくてはならない。↵
↵
そう思って、俺は女の横を通り過ぎようとしたのだが……↵
↵
↵
「私は君の未来を知ってるよ」↵
↵
ここで思わず立ち止まって振り返ってしまったのが間違いだった。↵
↵
↵
↵
その女は、自らを「俺の未来の姿」と称した。↵
↵
そんなことを言われて信じられるわけがなかったが、その女についた古傷やほくろは、何もかもが自分とそっくりの位置にあった。↵
おまけに俺の目の前で俺の個人情報や家族・友人などの周辺環境、果てには誰にも明かしていない俺自身の密かな趣味の内容までも赤裸々に明かすものだから、結局信じざるを得なくなってしまった。↵
↵
……つまり、俺は未来に『ああ』なるってことだろうか。↵
↵
そう思っただけで、俺はちょっと涙が出た。↵
その女もあっけらかんに笑いながら言うもんだから、殊更泣けてきた。 ※(問題文)↵
↵
↵
↵
それ以降、俺の生活の中にあの女が入り込むようになってきた。↵
↵
曰く、時空を超えるにはそのためのエネルギーをチャージしないといけないらしい。↵
それらを充分に集めるまでは、ここに滞在するよりないのだとか。↵
↵
「……ちなみに、そのエネルギーって何なんですか?」↵
「何って、何かだよ」↵
「だから、その『何か』を訊いてるんですが」↵
「え~? 言ってもわかんないと思うよ?」↵
↵
その女はちょっとだけ考えこんだ後、「しょうがないな」と首を掻いた。↵
↵
「かいつまんで言うと、伊られた0匹のイナゴにフランスパン濃度の濃い空気を混ぜて佐ったやつ」↵
「は?」↵
「だから、伊られた0匹のイナゴにフランスパン濃度の高い空気を混ぜて佐ったやつ」↵
↵
いや、何もかいつまんでないが。↵
何度聞いても「何か」を集めていることしかわからなかった。 ※⑪(29)↵
↵
どっちにしろ本当か嘘かもわからないので、聞き流すことにした。↵
↵
↵
そうして行く先々であの女と出会っては、ちょっとしたおしゃべりをして別れる日々を繰り返した。↵
↵
↵
「やあ、昔の私。今日もちょっと喋っていかないかい?」↵
↵
ある日、俺がマクドナルドでグラコロを食べようとしていた時、その女は俺の隣の席に座っていた。↵
↵
「……いつも言ってますけど、先回りしてくるのやめてもらえますか」↵
「相変わらず敬語を外さないねぇ。私は未来の君なんだから、堅苦しいのは抜きにしなって」↵
「俺は信じてませんから。そもそも性別が違うじゃないですか」↵
「それも説明したじゃん、そういう体質って発覚したんだって。なくはないんだよ、急に性別が変わる突然変異って」↵
「何分の一の確率だと思ってるんですか、それ」↵
「いいじゃん、君だって別に性別に執着してるわけじゃないでしょ?」↵
↵
それとも何か証明したほうがいいかな? とその女は続ける。↵
↵
「……じゃあ、性別以外で他に俺の未来を教えてくださいよ」↵
「んっとね、不老不死になるよ」 ※③(11)↵
「真面目に答えてください」↵
「あははっ」↵
↵
本当に、あの時相手にしなきゃよかった。↵
酔っ払いの戯言だと、きっぱりと無視していれば。↵
↵
俺は溜め息をつきながら、ブルーライトカットのメガネをかけた。↵
そしてノートパソコンを開いてWordを起動した。↵
↵
↵
「おっ、何やってるの?」↵
「……」↵
↵
無視した。↵
するとその女は俺のPC画面を覗き込んできた。↵
↵
↵
「あ~、懐かしい。それってコンクール用のやつでしょ? SFの恋愛ものの……」↵
「わかってるんだったら話しかけないでください。集中したいんで」↵
「え~、どうしよっかなぁ」↵
「あんたこそわかってるでしょ、俺がこれにどれだけ懸けているのか」↵
「そりゃ知ってるよ。でもさ」↵
↵
↵
「さっきから画面スクロールするだけで、全然キーボードを叩いてないんだもん」↵
「……」↵
↵
↵
適度に賑やかだったはずの店内が、なぜか急に静まり返ったような心地がした。↵
↵
↵
俺が答えられずにいると、女は柔らかく笑ってこう言った。↵
↵
「……ねっ、明日の土曜日空いてる?」↵
↵
↵
--↵
↵
待ち合わせ場所として指定されたあの公園に行くと、あの女はブランコに揺られながらストロングゼロの500mlを飲んでいた。↵
↵
「おはよ~、朝ごはん食べてきた?」↵
「あんたには言われたくないんですが」↵
「大丈夫大丈夫、これ朝ごはんだから」↵
「ご飯ってか、飲み物じゃん……」↵
「まっ、そんな細かいことは気にしないで。君に見せたいものがあるんだ」↵
↵
見せたいもの……?↵
俺がそう思っていると、その女はスマホのようなものを取り出して何度かタップした。↵
↵
すると、砂以外何もなかったはずの砂場から乗り物が突然出現した。↵
↵
「さっ、乗って」↵
女に促されるままに乗り物に乗ると、中は普通の自動車内のようで案外広く感じた。↵
↵
「うわっ、さっむぅ。車のエアコンつけっぱにしとけばよかった~」 ※⑨(25)↵
「……ところで、どこに行くつもりですか?」↵
「ん? それは着いてのお楽しみ~」↵
↵
女は楽しげに笑った。↵
……全く、何を考えているのやら。↵
↵
乗り物のエンジンがかかるような音がした。↵
女は運転席でいくつかのボタンを押すと、ハンドルを強く引いた。↵
ちょっとだけグラッと揺れる感じがしたが、不快な心地ではなかった。↵
↵
「……っていうか、飲酒運転……」↵
「まぁまぁ細かいことは。どうせ自動運転だし」↵
↵
車内を改めて見ると、窓のようなものがなく完全に閉じられた空間になっていた。↵
外の景色を見れるわけでもないので、俺は持ってきたノートパソコンを開いてWordを起動した。↵
↵
「こんなところにまで持ってきたの?」↵
「何もなくて退屈なんで」↵
「そこのスクリーンで映画とか観れるよ。古典から未来のものまで全部揃ってるのに」↵
「未来は流石にネタバレじゃあ……」↵
「アナ雪の実写リメイクとかあるよ」↵
「アナ雪の実写リメイク……!?」↵
「観る?」↵
↵
……悔しいけど、ちょっと気になった。↵
↵
「……いや、いいです。書く時間に充てたいので」↵
「そっか。でも君……」↵
↵
↵
「……いや、なんでもない。好きにしなよ」↵
女はそう言うと、それっきり口を閉ざしてしまった。↵
↵
俺はなんとなく引っかかったが、それを訊くことはしなかった。↵
……とにかくこれで、書くことに集中できる。↵
↵
↵
コンクールの締め切りはもうすぐだ。↵
SNSで繋がった友人はみんな、ここに向けて作品を書いている。↵
↵
俺は、つい最近コミュニティでいい評価を貰えるようになったばかりの新参者だ。↵
賞まではいかなくとも、せめて最終選考に残るには、こんなところで詰まっているわけにはいかない。↵
↵
俺よりすごい作品を書く人なんて沢山いる。↵
そして俺も作品を評価されるようになった以上、前よりもっといい作品を書かなければならない。↵
↵
もっと質の高い作品を。↵
もっと面白いと思ってもらえる作品を。↵
↵
ただでさえ最近は作品を上げるスピードが昔より落ちている。↵
それなのに下手なものをあげるわけにはいかない。↵
↵
↵
エンジンの振動とキーボードの叩く音が、静かに空間の中で鳴り続けていた。↵
↵
↵
↵
↵
「……さっ、着いたよ」↵
女が再び口を開いたときには、エンジン音はすっかり止んでいた。↵
↵
俺がドアを開けようとすると、その女は「おっと」と俺の手を制した。↵
↵
↵
「セーターとダウンジャケットじゃあ大変だよ。これ着て」↵
↵
そう言って差し出されたのはTシャツとタオルだった。↵
ちなみに目の前の女は既に着替えていた。↵
↵
「……あの、本当にどこに行くつもりなんですか?」↵
「サマソニだけど」↵
「サマソニ?」↵
↵
……今、12月だよな?↵
↵
「あ、恥ずかしい? 先に外出てよっか?」↵
「いや、そうじゃなくて……」↵
↵
俺がそう言い終わらない間に、その女は車のドアを開けた。↵
↵
↵
すると――車の中にむせ返るような熱気とまばゆいほどの青が差し込んできた。↵
↵
↵
「日焼けが心配だったら帽子や日焼け止めもあるからね。そこのクーラーボックスに飲み物とか冷やす系のグッズもあるから適当に好きなの選んで持ってっていーよ」↵
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで今夏なんですか?」↵
「そりゃあ、ちょちょいっと時間を超えてだね……」↵
「いや、それにしても俺を連れて行っていいものなんですか!?」↵
「言っても、君にとっては今年の夏だから数ヶ月巻き戻っただけだよ。固いことは言いなさんな~」↵
↵
↵
じゃ、外で待ってるね~、とその女は車から降りてドアを閉めた。↵
↵
……本当に未来の俺は、こんなに変わるものなんだろうか?↵
そう思いつつも、炎天下に女性を待たせたままにするのも忍びないので俺は渋々着替えた。↵
↵
↵
「おお~、シンプルなのに様になってるねぇ~。やっぱ男の子だと結構Tシャツと帽子だけでもかっこいいなぁ」↵
「……暑っちぃ……」↵
「いや~、絶好のフェス日和だね! ほら、行こう!」↵
「あっ、ちょっと……」↵
↵
↵
↵
会場に着くと、歌手の煽る声や楽器の重低音などによって、炎天下の熱気がより高まっていた。↵
↵
「おっ、ちょうど次amazarashiだって。間に合ってよかった〜。しかし、他のラインナップが懐かしくて超エモい」↵
「……『エモい』はさすがに未来で流行ってないんじゃ?」↵
そう言うと、未来の俺は「好きで使ってるからね」と楽しそうに笑った。↵
↵
「ほら、せっかく来たんだから早く行こうよ。外なのに大人しくするなんてもったいないよ!」 ※⑤(16)↵
↵
手を引かれて人混みの中に入っていく。↵
コール&レスポンスの渦に巻き込まれて、激しいドラムやベースのビートとつんざくようなエレクトリックギターの音色の波にさらわれる。↵
↵
熱狂する観客に混じって、未来の俺はタオルを振り回していた。 ※④(15)↵
↵
↵
↵
「っはぁ、すごかったねぇ。フェスってこんなに楽しかったんだ!」↵
フェスが終わっても、興奮冷めやらぬ夜に浮かれて、未来の俺は満足げに振り返った。↵
↵
「どう? 君は気分転換できた?」↵
「……」↵
↵
正直なところ、騒がしい音楽は嫌いじゃない。↵
だけど俺は……↵
↵
「……もう終わりなら、さっさと帰りましょう」↵
「えっ、この時の君に会わないの?」↵
「会いませんよ。混乱させる気ですか、数ヶ月前の俺までも」↵
↵
未来の俺は「けち〜」と不満を垂れながらも、やはり楽しげな顔をしていた。↵
↵
「まっ、流石にこの時間軸の君に会うのは冗談なんだけど、実はもう一個行きたいところがあるんだよね」↵
↵
↵
--↵
↵
「ほいっ、こいつを揃えて雨四光!」↵
「ぐあ〜っ、マジかぁ〜狙ってたのにぃ」↵
「いやぁ、姉ちゃんもまさか猪鹿蝶を揃えた時はビビったけどね。久々に面白い勝負ができたよ」↵
↵
とほほ~、と未来の俺はがっくりと肩を落としていた。↵
俺はそれを眺めながら、少し遠目の席でシャーリーテンプルを飲んでいた。↵
↵
豪快に笑う他の客と握手と抱擁を交わしたあと、未来の俺はテーブルに戻ってきた。↵
↵
「いや~、本当に惜しかったな。見た? 今の熱い戦い」↵
「行きたかったところって……バーですか?」↵
「そうだよ。ここ、お店の人とか他のお客さんと花札で遊べるんだ。花札バーってやつなのかな。とにかく、珍しいよね」↵
「あの、この時代で寄る意味あるんですか?」↵
「そりゃ〜だって、ここの店、君の住んでる時間軸じゃ終わっちゃってるからね」↵
「だとしても、なんでここに?」↵
↵
私最近花札にハマっててさ〜、と未来の俺はハイボールを飲みながら答える。↵
↵
「せっかくハマるんだから、今のうちに君にルールを教えておこうと思ってね〜。ほら、君もやろうよ」↵
「やりません」↵
「え〜っ、一めくりだけでもしてってよ。一度めくったらもうその快感に病みつきだよ」↵
「めくりません」 ※⑩(27)↵
「んもう、我ながら頑固っ」↵
「ていうか寄らないで下さい、酒臭い」↵
「いいじゃない。だって親が酒好きだよ? そういう血を受け継いでんのよ」↵
「だからですよ。親の依存症で散々な目にあったでしょう、俺たち」↵
「……」↵
↵
↵
「……若いねぇ。我ながら若いよ、君は」↵
未来の俺は、どこか遠い目をしながら微笑んだ。↵
↵
「でもね、大人になると、色んなことをいずれ諦めるようになる」↵
「……」↵
「その代わりに、別にある楽しみを見つけるんだ」↵
未来の俺はそう言って、残り少ないグラスを飲み干した。↵
↵
↵
……色んなことを、諦める。↵
その代わりに、別にある楽しみを見つける。↵
↵
その言葉を、俺は未来の自分の口から聞きたくなかったような気がした。↵
↵
↵
「……あの」↵
「ん?」↵
「……」↵
↵
↵
「……未来の俺は、……」↵
↵
↵
――未来の俺は、書くことまでは諦めてませんよね?↵
そんな言葉が脳裏をよぎった。↵
↵
「……」↵
↵
↵
「…………なんでもありません」↵
未来の俺は「そっか」と言って、ハイボールのおかわりを注文した。↵
↵
「……眠いんで、車に戻ってていいですか」↵
「あらっ、そりゃずいぶん付き合わせてしまったねぇ。ほい、鍵」↵
↵
↵
未来の俺がポケットから鍵を出したのを、半ば奪うような形で引き取った。↵
↵
↵
店から出ると、夜空は赤いアンタレスが瞬いていた。↵
↵
……思わず車のある場所へと駆けだしてしまったのは、きっと早くクーラーの冷風に当たりたかったせいだ。↵
↵
↵
車の前に着いた時には、肺が締め上げられるほどに息が上がっていた。↵
湧き上がる汗の雫が肌を伝って落ちて、アスファルトに染み込み黒を滲ませていた。↵
↵
車の中に入って、ドアを閉め切って、俺はパソコンを開いた。↵
ブルーライトが目を刺すのも構わず、俺はじっとりとした手でキーボードを叩いた。↵
↵
叩き続けた。↵
↵
↵
……気分が悪くなって、パソコンを閉じた。↵
↵
頭が痛かったので、目を閉じた。↵
↵
↵
--↵
↵
「もう来ないで下さい」↵
俺は、元の時間軸に戻った後の別れ際にそう言った。↵
↵
「締切が近いので。書く時間を作りたいので、あんたに構ってる暇はないです」↵
「そっかぁ。そういうことなら締切まで会わないけど」↵
↵
↵
「……でも、君の時間軸で締切の日が終わったらまた会いに行くよ」↵
↵
未来の俺はそう言って車に乗った。↵
↵
エンジンがかかると、車は透明になって姿を消した。↵
↵
↵
「……二度と来るな」↵
白い息を混ぜて、恨みがましく呟いた。↵
↵
↵
↵
未来の俺が来なくなってから一週間が経った。↵
↵
締切はすでに明日に控えていた。↵
↵
あの女の言葉に呪われたかのように進捗は遅かったものの、先送りせずに取り組んだおかげで完成間近にまでこぎつけられた。 ※⑧(21)↵
↵
↵
あと少しだ。↵
↵
あと少しで、終わる。↵
↵
↵
俺はキーボードを叩いた。↵
↵
叩き続けた。↵
↵
↵
既に二日も徹夜して、気が遠くなりそうになりながらも、一心不乱に叩き続けた。↵
↵
↵
(……大丈夫だ)↵
俺はまだ書ける。↵
↵
↵
時の流れが、一分一秒を削っていく。↵
↵
書く時間を削られていく。↵
↵
だけどそれなら、他の時間を削ればいい。↵
↵
↵
一食にかける時間が惜しい。↵
↵
眠ったら6時間も書く時間が削られる。↵
↵
↵
↵
俺はまだ書ける。↵
ちゃんと、話の展開を考えられる。↵
↵
俺はまだ書ける。↵
思うままに、構成を整えられる。↵
↵
↵
俺はまだ書ける。↵
絶対に、あんな未来になってやるものか。↵
↵
↵
まだ書ける。↵
まだ書ける。↵
↵
まだ書ける。↵
↵
まだ書ける。↵
↵
↵
まだ書ける。↵
↵
↵
まだ書ける。↵
↵
↵
↵
まだ書ける。↵
↵
↵
↵
↵
まだ………………………………
↵
↵
↵
↵
↵
↵
↵
↵
↵
↵
↵
……気づけば俺は、白い天井を見つめていた。↵
↵
自分の家のものではない、見覚えのない天井だった。↵
↵
「病院だよ、ここは」↵
↵
女性の淡々とした声が返ってきた。↵
一週間ほどしか空いていないのに、随分久しぶりに聞いたように感じた。↵
↵
そう聞いた時の俺はどこかぼんやりとした意識だったが、徐々に事態を理解して飛び上がるように起きた。↵
↵
「今、何月何日だ!? 締切は!?」↵
「とっくに過ぎたよ。君は丸三日眠ってた」↵
「そんな……じゃあ、この前の車を使わせてくれよ! 二日前に戻って、遡って……」↵
「無駄だよ」↵
↵
↵
「……君は、もうあの作品を書き上げることはできない」↵
「なん……」↵
↵
彼女は笑っていなかった。↵
未来の俺の笑わない顔を見たのは初めてだった。↵
↵
俺が言い終わらないうちに、彼女は俺のノートパソコンを俺の目の前に置いた。↵
↵
↵
開いた画面は、あの時の執筆途中のままで残っていた。↵
保存もしていなかったはずなのに、時間が止まっていたかのようにそのままだった。 ※②(7)↵
↵
↵
俺は点滴の管につながれた手をキーボードの上に置いた。↵
そして画面に向き直った。↵
↵
↵
……それだけなのに、たったそれだけだったのに。↵
手は震えて、文字の羅列を見ただけで悪寒のようなものが走った。↵
↵
頭が、真っ白になった。↵
↵
↵
「……君は、書くことを拒絶している」↵
「…………嘘だ」↵
「本当だよ。君も薄々気づいていたはずだ、もう自分の中で限界を感じていたことに」↵
↵
未来の俺は、以前までの軽薄さからは考えられないほどに怜悧な口調と声色をしていた。↵
↵
↵
「……最初は、小さな物語を作り上げた時の快感からだった」↵
↵
「その快感をまた嚙み締めたくて、一つ、また一つと作品を創り上げていった」↵
↵
↵
「そのうち、君はそれなりに評価されるようになった。君もその期待に応えたくて、どんどん作品を生み出した。楽しかった、珍しく続いた趣味だった。本当に楽しかったから、食事も寝る間も惜しんで書き続けていた」↵
↵
↵
「……でも、今はどう? 食事も睡眠も削っているのは、本当に心の底から楽しんでいるから? 書きたくて書きたくてたまらないから書いているの?」↵
↵
↵
「ハッキリ言うよ。君は今、書きたくないのに書いている。ご飯を抜く時も、徹夜する時も、それが必要な痛みなんだと、自分をずっと騙し続けて」↵
↵
↵
「ずっと、精一杯の強がりで書いていたんだよ」 ※⑦(19)↵
↵
↵
真っ白な頭は、未来の俺に対する反論を考えてはくれなかった。
↵
↵
……でも、ずっと気になっていた。↵
未来の俺が、何のためにここに来たのか。↵
それとなく訊こうとしたこともあったけど、彼女は「時間旅行」とだけ言ってはぐらかすばかりだったから。↵
↵
↵
「だから、あんたは……書くことを諦めたのか」↵
↵
↵
「それで、酒に溺れて。書こうとする俺の邪魔ばっかりして」↵
↵
↵
「……滑稽だったか? 俺の足掻きは。馬鹿みたいに、キーボードにしがみついている俺の姿は」↵
「滑稽なんかじゃないよ。私はただ……」↵
↵
「それでも俺には、これしかなかった!」↵
↵
↵
「何かを……何かを褒められたのは初めてだったんだ。ずっとずっと、何のとりえもない俺が。何にもできなくて、どんなことも続かなかった俺が、唯一他人から良い評価をもらえたのが書くことだった」↵
↵
↵
「やっと……やっと『これだ』って思えるものだったのに。だから、頑張ってきたのに……」↵
↵
↵
「全部……全部、無駄だった……!」↵
↵
↵
喉の奥が痛かった。↵
その痛みを和らげようとするかのように、目頭が熱くなるのを感じた。↵
↵
↵
「……わかってるよ」↵
↵
↵
「知ってる。今まで書くことが好きだったことも、あのコンクールのために君が懸けてきたことも。色んなことを犠牲にしてまで、仕上げる価値があったことも」↵
↵
↵
「全部知ってる。……体を崩した後、締め切りなんかより何よりも、何にもできなくなった自分に絶望したことも」↵
↵
↵
「……でも、これだけはわかってほしい。目的をもってそんな君の元にやってきたことは確かだけど、それは君を笑うためじゃない。体も壊すし、どうせ完成できないんだからやめろとか、そんなことを忠告するために来たわけでもない」↵
「じゃあ、どうして……」↵
「……」↵
↵
「……私が、君の傍にいたかったからだよ」↵
「え……?」↵
↵
↵
「君はきっと、この辛い感情をこの先ずっと抱えていくことになる。この気持ちに折り合いをつけるのに、長い年月をかけることになると思う」↵
↵
↵
「でも、それを誰かに打ち明けることはしなかった。打ち明けたくても、できなかったんだ。相談したところで、どうせ自分の気持ちの問題だってわかりきっていたから。それを打ち明けられるほどの存在なんて、いなかったから」↵
↵
↵
「そんな君の気持ちに、私自身が寄り添いたかったんだ」↵
↵
↵
「……どうして」↵
↵
俺がそう言うと、彼女は寂しそうに笑った。↵
↵
↵
「……私が、そうしてほしかったから」↵
↵
↵
未来の俺は両手を広げた。↵
訳も分からずにしばらく彼女を見つめていると、「もう、鈍いなぁっ」と俺の体を強く抱擁した。↵
↵
力が強くて、少し息が苦しかった。↵
だけど暖かさがあり、心地よかった。↵
↵
俺は、それを受け入れながら目を閉じた。↵
……少しだけ、唇を噛んだ。↵
↵
「……幸せの形なんてね、人それぞれだよ。同じ人間であっても、時が違えば変わるんだ」 ※⑥(17)↵
↵
それが、今はたまたま書くことじゃなくなっただけ。↵
彼女は、穏やかな声でそう言った。↵
↵
↵
静かな時間が、真っ白だった頭を優しく満たしていくのを感じた。↵
↵
↵
↵
↵
「……もう、そろそろ時間みたいだ」↵
彼女はそう言った。病室の窓から、あの車が見えた。↵
↵
「ごめんね、本当はこれからもしばらくは支えてあげたかったんだけど」↵
「……別に大丈夫です。そもそも、俺は来ないでくれって言ったじゃないですか」↵
「全く、素直じゃないなぁ。だから今まで信頼できる友達が作れなかったんだよ」↵
↵
「それはお互い様でしょう」と言うと、彼女は「言えてる」とまた笑った。↵
↵
↵
「それじゃ……また、未来で」↵
↵
未来の俺は車に乗った。↵
エンジンのかかる音が聞こえると、車は青い空の中に染まって消えていった。↵
↵
↵
俺の目から水が溢れて、そのまま頬を濡らしていった。↵
↵
↵
↵
↵
--↵
↵
エンジンの駆動音と振動に包まれながら、私は小さく息をついた。↵
そしてクーラーボックスから『ほろよい』のアイスティーサワー味を取り出した。↵
↵
……結局、大したことはできなかったかもな。↵
そんなことを思いながら、缶のプルタブを開けて一口飲んだ。↵
↵
どこかノスタルジックな気分になって、心の中で過去の私に語りかけた。↵
↵
↵
↵
――かつての私へ。↵
↵
……実はね。君に言わなかったことがあるんだ。↵
↵
↵
君は静かに瞬く星々を見ながら、夜な夜な作品を仕上げていたよね。↵
楽しさがいつしか苦しさに変わっていっても、君はそれを続けていた。↵
↵
①もしかしたら何も生み出せないかもしれないという恐怖を抱えながら、それでもその寒気を感じないように必死だったよね。↵
そしてそのことに気づいてから、君はずっと苦しみ続けた。↵
↵
②でもね、その苦しみは、いつまでも保存するわけじゃない。↵
だって君は――↵
↵
③君の書くことへの情熱と思いは、いつしか不老不死になるんだ。↵
いつまでも衰えず、何度も何度も蘇る。↵
↵
④いつか気分転換のために行ったフェスで、声を上げながらタオルを振り回していたように。↵
君はずっとその心の炎を絶やさずに、永遠に燃やし続けるんだ。↵
だって、そうでしょう?↵
↵
⑤君は結局のところ、パソコンの画面の外で大人しくなんていられない性分なんだ。↵
ずっと部屋の中で、湧き上がって抑えきれない欲求をそのキーボードにぶつけるんだ。↵
↵
⑥他人の幸せの形が何であろうと、いつだって君の幸せは文章を書いていることなんだ。↵
……その形にたどり着くのに、結局何年もの歳月をかけるけど。↵
↵
⑦それでも君は、心の底では精一杯に強がっていたんだよ。↵
絶対にくじけないって。↵
いつか、絶対にまた作品を書いて、創り上げてやるんだって。↵
↵
⑧君は書くことと向き合うことを、先送りになんてしなかった。↵
どんなに苦しくても、実際にやることとは離れていても、絶対に考えて続けていた。↵
ずっとずっと考えて、考え続けて、その結論に長い時間がかかっただけの話だ↵
だって、そうじゃないか。↵
↵
⑨かつては暑い夏も、寒い夜も、エアコンの切タイマーをセットしても、結局その時間を過ぎてまで書くことの方が多かったんだから。↵
時には汗だくになりながら、時にはかじかむ指先に鞭打ちながらも、それでもタイピングの手を止めなかったんだから。↵
↵
⑩確かに今の君は、きっと花札をめくることはない。↵
何をやっても楽しくないから。何をしようとも、自分の糧にならないと思っているから。
それでいい。それでいいんだ。↵
私が花札を楽しめるようになったのは、久しぶりに書くことの楽しさを思い出してからなんだ。↵
↵
⑪……君は、ちゃんと集めているよ。
今泣いているこの時も。↵
書くことが楽しいって思う「何か」を。↵
書くことを取り戻したいって思う「何か」を。↵
ずっと、ずっと。遠ざけているようで、ちゃんと近づいていたんだよ。↵
↵
⑫靴の中に入った一粒の微細な砂を感じるかのように、君は心の片隅で、ずっと書くことを気にしていたんだ。↵
↵
↵
……だからこそ、今。↵
成人して、お酒も嗜むようになった、今……↵
↵
↵
↵
私は、書くことを続けているよ。↵
書くことを楽しんで、心から笑えているよ。↵
↵
↵
↵
……だから。↵
今だけは、今のこの瞬間だけは、いっぱい泣きなよ。↵
↵
↵
君の未来が、心から笑えるように。↵
↵
↵
↵
そうしたら、私は。↵
今この瞬間、心から楽しんでこの文章を書けるから。↵
↵
↵
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如何にも創りだす、といった感じで少しじんわりとしてしまったヨ。「↵」を使う事で作品が執筆中の文章であるというメタ構造を組み込んだトリック性や文中にちらりと見えるSCP要素。そして最後の最後で怒涛の要素の再回収。
かつては某ご隠居が創りだすでSCPをオマージュした作品があったり、メタ構造の作品も投稿されていた過去の創りだすを経験してきた身としては涙が零れてきそうだヨ。これこそ凍り付いた情熱に雫ってネ…伝わる人ももう居ないカ…呵々
この作品の為にアカウントを作成したりと、熱意を熱意を感じられる作品だったネ
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参加者一覧 10人(クリックすると質問が絞れます)
結果だけさらっと見たい方は投票会場https://late-late.jp/mondai/show/18491の解説を見てネ。
さあ、ついにやって来た「第五拾壱回 正解を創りだすウミガメ」結果発表のお時間だヨ。
今回は投稿期間を延長することとなってしまったけれど、その結果として2名の方に作品をご投稿いただき、6名の方にご投票いただけたヨ。まずはその事に心より感謝の言葉を送らせてもらうネ。
今回は最難関要素と最優秀作品賞、どちらも1位の発表のみとさせてもらうヨ。
(投票所の方では全ての開票結果をまとめているから是非よってみてネ)
早速発表といこうカ…まずは、最難関要素だヨ。
◇最難関要素賞◇
最難関要素、なんと同一ユーザーから投稿された2要素が同列一位となったヨ。
今回一位の最難関要素賞に選ばれたのは……
🥇(2票)
⑨エアコンをつけたままにしない(ごがつあめ涼花さん)
⑩花札をめくらない(ごがつあめ涼花さん)
一見変哲もないエアコンという要素、しかしファンタジー系統の多い他の要素との相性が悪いという理由でランクイン。また、花札というあまり馴染の無さ故に使いづらいという意見が見受けられたネ。
また、どちらの要素もNoで返してしまったことで難易度が跳ね上がったといった印象だネ。
ごがつあめ涼花さん、おめでとう。
三副賞
続いて、サブ投票の発表だヨ。今回、作品数が2つの為作品を中心に発表させてもらうネ。
①『とある小さな魂の話』(作:布袋ナイさん)
🥇匠賞
🥇スッキリ賞
②『かつての私へ。』(作:五日の黄身さん)
🥇匠賞
🥇エモンガ賞
ということで、なんと『とある小さな魂の話』にスッキリ賞、『かつての私へ。』にエモンガ賞。そして匠賞は同票で両作品ともに受賞という結果となったヨ。
さて、長い長いと前降った割にすぐ来てしまった最優秀作品賞の発表だヨ!!
◇最優秀作品賞◇
「う、うん。僕、生まれたくなんて無いよ。」
🥇(5票)
①『とある小さな魂の話』(作:布袋ナイさん)
輪廻転生を元に独自の天国観を描いた「とある小さな魂の話」が選ばれたヨ。
投票所では天国という設定で問題の細部を綺麗に昇華している点が評価されたようだネ。
そして、最後を飾る、シェチュ王の発表に移ろうカ。
といっても、今回は最優秀作品賞は同率一位では無く作品も一人一作品だから…今回のシェチュ王はこの方だヨ!
シェチュ王
👑布袋ナイさん
祝福を、心からの祝福をこの場を借りて贈らせてもらうネ。
皆様、盛大な拍手をよろしく頼むヨ!!!
また、見事シェチュ王に輝いた布袋ナイさんには、唯一称号[◇シェチュ王◇]と次回である「第52回正解を創りだすウミガメ」の出題権を進呈…と言いたいのだけれど。ここでは唯一称号である[◇シェチュ王◇]のみの進呈とさせてもらい、同時にこの場を借りて一つ告知をさせてもらうヨ。
今回の創りだすにおいて、ついに本来の投稿フェーズでの投稿作品が0という事態が発生したヨ。
これを機に、近年の創りだすへの参加数の低迷等を鑑みて一度有志で集まり話し合いを行いたいと考えているヨ。それに伴い、誠に勝手ながら第52回正解を創りだすウミガメの出題権については一時保留とさせていただけないかナ。
そして同時にこの場へご足労いただいた貴方に、是非とも話し合いに参加していただきたいと考えているヨ。詳しくは秘密の部屋「正解を創りだすウミガメ連絡所」をご覧いただけるかナ。
https://late-late.jp/secret/show/2wgwozfnBGIHYj6XOBB5pAp1m5T6aQIf2Ii8bKsEboA.
っ 🎭っ👑 😻
これにて「第五拾壱回 正解を創りだすウミガメ」閉幕だヨ!
改めまして、皆様、本当に感謝するヨ!!
OUTISさん、主催お疲れ様&ありがとうございました!投票頂いた皆さん、ありがとうございました!!!シェチュ王、嬉しいです!五月の黄身さんも、お疲れ様でした!!めっっっちゃ好きです!!![編集済] [23年09月03日 01:38]
すをです。大変にご無沙汰しております。作品投稿で参加させていただければと思っていたのですが、ちょっと時間内に間に合いそうになく……。明日ロスタイムで投下させていただいてもよろしいでしょうか……?[23年08月19日 23:33]
ある男は星を見ていた。ある女は酒を飲んでいた。
二人が出会った時、男は泣き女は笑った。一体何故?
―要素―
①寒気を感じない(4)
②保存しない(7)
③不老不死になる(11)
④タオルを振り回す(15)
⑤外でおとなしくしない(16)
⑥幸せの形は人それぞれ(17)
⑦精一杯の強がり(19)
⑧先送りにしない(21)
⑨エアコンをつけたままにしない(25)
⑩花札をめくらない(27)
⑪何かを集めている(29)
⑫砂が入っていた(31)
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!