なんでだと思う?
——————
こちらの問題文の解説を考えていただきます。
ただ考えるだけだとみなさんには簡単だと思うので、みなさんから条件を募集します。YESNOで回答できる質問ならなんでも、1人4個まで、私にください。
もしみなさんが「告白しますか?」と言って私がYES!と採用したら、みなさんの考える解説のどこかで、告白がされていないといけない。そういうのが今回は7個あります。
とにかく募集した7つの条件を取り入れつつ解説を「創りだし」てほしい、そんな企画です。
——————
前回大会はこちらから! https://late-late.jp/mondai/show/18077
以下から、いつものルール説明になります。細かい投稿方法についてはこちらをさらっと読んでくださいね。
☆ 1・要素募集フェーズ ☆
[出題〜要素が40個集まるまでor6/12(月)00:00]
まず、正解を創りだすカギとなる質問(要素選出)をしていただきます。
・要素選出の手順
①要素の投稿
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
皆様から寄せられた質問の数が40個に達するか、日付が変わったら締め切りです。
②要素の選出
選出は全てランダムです。
選ばれた質問には「YES!」もしくは「NO!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※ただし、問題文や前出の要素と矛盾するものや、条件が狭まりすぎるものは採用されないことがあります。あらかじめご了承ください。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(不採用)
[狭い例]ノンフィクションですか?/登場キャラは1人ですか?/ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
要素は7個採用します。7個全て、解説に取り入れてください。
☆ 2・投稿フェーズ ☆
[要素選定後~6/25(日)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。文字数・投稿数に制限はございません。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖・ラテシン版)」も参考になさってください。
ラテシン版
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
らてらて鯖
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
・作品投稿の手順
①投稿作品を別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。複数投稿も可とします。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾には、「おわり」などの終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、本文・タイトル共に自由に編集していただいて構いません。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せします。
※エントリーを辞退される際は、作品タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。
※投稿フェーズ終了後に投稿(=ロスタイム投稿)をされる場合、タイトルに<ロスタイム>と付記してください。
※少しでも気軽にご参加いただくために、今回の創りだすでも次回主催辞退制度を採用しております。
仮にシェチュ王を獲得しても次回の主催を務める時間・自信がない……という方は、相談チャットの出題者のみ機能やミニメールなどで私に教えてください。
☆ 3・投票フェーズ ☆
[投票会場設置後~7/1(土)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
・投票の手順
①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
②作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿したシェフも、持ち票は3票とします。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。感想については、簡略なもので構いません。一文でも大丈夫です。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。こちらの投票数は「シェフ」と「観戦者」で共通です。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[正解]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、複数票を1票として計算します。
それでも同率の場合、出題者も事前に決めた3票を投じます。
それでも同率の場合は、最終投稿が早い人に決定になります。
◇ コイン特典◇
・シェチュ王……400c
・最優秀作品賞…100c
・最難関要素賞…10c
・作品の投稿…15c
・投票への参加……10c
・要素が採用される……10c
※「最優秀作品賞」および「最難関要素賞」については、1名分のコインコードしか用意がございません。
このため同率受賞の場合は、先に投稿された要素/作品の投稿者の方にコインコードを贈呈させていただきます。あらかじめご了承ください。
■ タイムテーブル ■
・要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が40個に達するまでor 6/12(月)00:00まで
・投稿フェーズ
要素が決定してから 6/25(日) 23:59まで
・投票フェーズ
投票会場設置後 ~ 7/1(土) 23:59まで
・結果発表
7/2(日) 22:00
☆ルール説明ここまで☆
長いけど思ったよりは簡単な企画なので、ぜひお気軽に挑戦してみてくださいね。
桁の変わる回数の半分もの回が続く創りだすを、今回も盛り上げていきましょう!
それでは、始めに要素を募集します。1人4つまで、質問していってください。
50創りだすの〜?スタート!!
感想を書いた秘密の部屋のルームキー:はまべのうた
ということで、6/25(日)の終わりまで投稿フェーズになります!
要素はまとメモをご参照いただき、7個全てを使用してください!
投稿上の注意も、問題文から要確認、ぜひお気軽に挑戦してみてくださいね。
簡易解説:国事として白雪姫は両親に献花した。
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アタシは白雪。
鏡があんなことを言わなければ……
あいつが、母の美貌は世界一ィィッ!とだけ言ってくれていればもう少し穏やかな一生を送れたと思う。①
毒殺はともかくネクロフィリアの王子になんて捕まることはなかったのだ。
リンゴの前にも毒の櫛だのなんだあるが、そもそもそれ以前からアタシは毒漬けにされていた。
肌がなんで雪のように白い? 死にそうだからだよ! 察しろよ!
唇がなんで血のように赤い? 血ィ吐いてんだよ! 見りゃわかんだろ!?
髪がなんで黒檀のように黒い? こりゃ自前だよ。父も母も黒くねぇけどな! そこも察しろや。な?
まぁそんなわけで親から毒を盛られるのは日常茶飯事よ。母親じゃなくて父親な。戸籍上のだよ。言わせんな。
ゴミ箱に捨てられたもんが一番安心して食える生活って分かるか? まぁわかんねぇよな……④⑤
1人の憎悪でも対処しきれてないのに、鏡のせいで+1人ご案内ときたもんだ。
もう無理無理。どうしようもねーわ。
何とか城から逃げたものの、あえなく毒リンゴでバタンキュー(死語)ってことよ。⑥
そんで倒れたアタシは蘇生されなかった。
死体愛好家の王子なんてマジでいるのな。冗談きついわ。気付いたときにはあっちも死んでたから顔も知らんけど。
アタシは取り入れた毒が多すぎたせいで防腐作用も凄かったのか、
ガラスケースの中で腐ることもなく生き永らえた――死に永らえた――ってわけ。②
王子、もといそのときは王様か。アイツが不慮の事故で死んでからようやく復活よ。
それでも代謝はしてたんだろうな。長期入院にありがちな骨粗鬆症ってやつ? これでまた死にそうだった。⑦
でもちょうど父も母も死に、アタシが国を継がなきゃどうにもならねー状態だったからね。半分内乱状態よ。
自分に鞭打って、祖国に戻って、葬儀を執り行って、民と臣にお願いしないとな。
アタシを女王として認めてくれーって!③
お願いはそれで最後。後は命令するだけさ、良い国にしろってな。
はぁ、棺に花を入れて冠を被るだけのイベントなのにすっかり疲れた。
何か甘いものちょうだい。
……あぁ、リンゴは勘弁な?
【終わり】
[編集済]
問題文の解釈とそれに合った元ネタの融合が丁寧で一気に楽しめる素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済]
『 あ、母さん。うん。そろそろだと思う。あたしと奴の話をすればいいんだよね。
それじゃあ、何から話そうかな…あ、その前にそこの鏡どかしていいかな。うん、やっぱりあたし女だからさ、見るの嫌なんだよね。①
そうだなー…まずは最初、一番最初の記憶から話すよ。あたしが覚えている一番古い記憶。
気が付いたら知らない女の人―あ、母さんの事ね―に殴られててさ。なんかお金盗んだって責められて。あたしはそんな事した覚えもないし、もちろん身に覚えのないお金を使った記憶だって無かった。ただひたすらに殴られて、怒られる理不尽な記憶。どこかへ逃げ出したいって、そう強く思ったのは多分あたしだけじゃなかったんだろうね。⑤ 数万円も盗んでたなんて、本当小学生とは思えない額だったよね。
で、その次は中学生の頃かな。それまでもちょくちょくあったけど、あんまり印象に残ってる事とかは無いし。
あれは…そう、技術か美術の時間だったっけ。工作中になんかボーっとしてたらさ、激痛でハッとしたの。で、左腕が明らかに変な方に曲がってて。そそ、まるでひとりでに骨が折れたみたいに。⑦ 周りはみんなして気味悪そうにあたしの事見てるし。まあそうだよね、急にハンマーで自分の腕を滅多打ちにし始めたらそりゃ引くよ…
あれから少しして、次に覚えているのは高校生の頃だね。
高校でも時々出てはいたんだけど、まあそれがいけなかったんだろうね。あれって高校2年の夏だっけ?―そうそう、眠剤かなんか大量に飲んで自殺しかけたの。② 気づいたら病院でさ。あー、ただでさえ友達付き合いとか苦手なのにこれ致命的だなーって、そいでまあ多分その後卒業するまで友達0人のまま卒業したわけだけど。進路の事とか受験なんかも自殺の原因だったかもね。あ、そういえばこの時が一番長かったかな?
それで―そうそう、次が結構飛んで…25歳だったかな?大学中退してフリーターやってた時には驚いたよね。店長からはいつまで無断欠勤するつもりだって電話かかってくるし。まあ、受験したのはあたしだからこうなる可能性も低くは無かったわけだけどさ。麗しの乙女的には華の20代…ってわけにもまあこんな身体だから関係ないし、バイト先は嫌な先輩ばっかりだし。本当あたしって貧乏くじを引くためだけに生まれたみたいな存在だよね。ただまあ、やっぱり成長したせいかこの頃から割と立ち直りが早くなってきたのよね。
そしたら、次が今。もう32ってんだからびっくりよね。あたし的にはまだせいぜい4~5年くらいしか生きてないつもりなんだけどさ。でも…なんとなくわかるんだよね。あたしはそろそろ消えるんだって。解離性同一性障害…だっけ、所謂二重人格ってやつ?残念だけどあたしは副人格の方だったみたいだし。そりゃそうだよね、いつも嫌な事とかきつい時にしか意識が無いんだもん。あたしと奴が入れ替わる度に、くるくると回るような世界に辟易してはいたけどさ。⑥ こればっかしはそう生まれてきたあたし…と、そう生んだあいつのせいなんだし。
―あ、あいつも気づいてたんだ。それで今日はわざわざこんな事したわけ。お別れ会的な?え、最後に一つだけなんでも好きな食べ物とか買ってくれるって?一生に一度のお願いって奴?③ あ、どっちかっていうと死刑囚の最後の晩餐の方が近いか。あはは。 でもなー…食べ物とかあんまり興味ないし…だってあいつガサツだから賞味期限とか全然気にしないで半年くらい経ってる納豆とか冷蔵庫に入ってるんだもん。④ あたしまで食事に興味なくなっちゃったよ。―あ、そうだ。じゃあ花束がいいな。あいつはそんなに花とか興味無いと思うけど、あたしは好きだからさ。普通は居なくなる奴に残る奴が渡すんだろうけど…まあ消えるわけだし。あたしは楽しめて、あいつにも遺せて。一石二鳥って奴じゃん?』
そうして、俺の声で話す俺ではないソイツの話が終わる。傍らには、一抱えの花束。
「うるせーよ、バーカ。」
【簡易解説】
二重人格の副人格である“あたし”は二重人格の副人格として生んだ主人格である“やつ”に対し、自らがそろそろ消える事を感じ最後に花束を贈った。
―了―
[編集済]
独特な陰鬱さと二重人格の設定の妙が光る良い作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済] [正解]
ぐちゃぐちゃにされた半生分について?
期待してもらっているようで悪いけど、それについては省いておくわ。
……だって、数分だけじゃ語り尽くせないもの。
--
あの日、あたしは花束を受け取った。
「彼氏さん、喜ぶといいですね!」
そう言った花屋の屈託のない笑顔は、今でも忘れられない。
そして、その足で公園へと向かった。
あの男を予め呼び出してたの。
公園にはあの男以外に誰もいなかったわ。
もちろんそのつもりでこの場所を選んだけど、ここまで順調だと、逆に不気味よね。
あたしが待ち合わせ場所に着くと、あの男は呑気にもこう言った。
「用事って一体なんなんだ?」
流石にちょっと驚いたわ。
あの男、あたしの半生分をめちゃくちゃにして尚、全然気にしてない素振りだったんだもの。
あたしの恨みは既に賞味期限切れだとでも思ってたのかしら。
でも彼の不幸は、あたしがそういうのを気にしないタイプだったってことよね。④
だからあたしは気兼ねなく、花束をあの男に渡したの。
「あなた、この間起業したでしょう。だから……せめてもの気持ち」
そう言ったら、あの男はうんざりした顔を微塵も隠そうとせずにこう言ったわ。
「全く……わざわざ呼び出すほどのもんかね。普通はもっと実用性のあるものだろうが。花束なんかさあ」
久しぶりに再会したあの男は、昔と微塵も変わっていなかった。
「相変わらず情緒がないのね。『気持ちだけ受け取る』とか、もっと気の利いたことも言えないの?」
「俺は忙しいんだ。使えない奴に時間と気持ちを割く余裕は持ち合わせていないんでね」
あの男は、花束をぞんざいに地面に放り出した。
せっかく花屋が綺麗にまとめてくれたのにね。
「俺の興味を惹きたいなら、お前こそ気の利いたプレゼントでも考えたらどうだ? ……おっと、贈り物のセンスもないんだったな」
あの男はそう嘲って、さっさと帰ろうとしたの。
すると突然、胸を押さえて膝から崩れ落ちてね。
そのさまにちょっとした高揚と優越感を抱きながら、あの男の顔をあえて覗き込んだの。
「……あら、忙しいっていうのはただ公園で一人うずくまる用事だったの?」
「かはっ……お、前……何を、した」
「何をって?」
「とぼけるな……! 花束に、何か仕込んだだろう……!?」
「いいえ、これはついさっき買った普通の花束でしかないわ」
「嘘だ……じゃあ、なん、で」
あたしはあの男が捨てた花束を拾って、目の前に再び差し出した。
「この花、なんの花か知ってる?」
そう言ったら彼、今度はしっかりと花を観察しだした。
そして花から仄かに匂う香りに気づくと、青ざめかけた顔をさらに青白くさせたわ。
「蕎麦の花なの。控えめだけど、いい香りがするでしょう?」
あの男は苦悶に満ちた表情であたしを睨んだ。
……あたしも、かつてはそういう顔をあの男に向けてたのかしらね。
本当に、いい気味だった。
「ああ、そういえば重度のアレルギーなんだっけ。粉のひとつまみ分だけでも危険だとか」
とはいえ、花束の花粉でも発作が起きるほどの過剰摂取になるとは思わなかったけど。②
一応他にも忍ばせてたのに、全然使わなかった。
「くそっ……なぜこんなことを……」
「なぜって、貴方を殺すために決まってるじゃない」
そう言ってから、あの男はやっと自分の状況を理解したみたい。
あたしを睨んでいた目が、みるみるうちに怯えたカエルのような目に変わっていくのがわかったわ。
「もしかして……その右手で反射して光ってる、そいつは」
「ああ、これ? これは……」
答える前に、あの男は逃げ出した。
どうやらあたしが右手に持ってた鏡を、ナイフだと勘違いしたようね。
あれは妹の形見として持っていただけだったのに。
あたしとそっくりな双子の妹。
同じ一つの卵の片割れとして産まれたときから、なくてはならないあたしの半身だった。
それなのに、あの男が……。
……。
……あたしはもう、鏡の中でしかあの子に会えない。
あたしはそっと鏡を握りしめて、あの男を追いかけた。①
アナフィラキシーで苦しんでいるとは思えないほど、あの男の脚は速かったわ。
あたしの目が届かないどこかに行ってしまいたいという気持ちが、そうさせたんでしょうね。⑤
でも、あの男が行き着く先はわかっていた。
だってあたしが逃げ道を誘導してたんだもの。
公園の端の区域にある、大きな木がある場所にね。
しかもあの男、走ってる時に足の骨を折ったみたいで。
ひとりでに折れるなんて、普段どれだけ不摂生だったのかしらね。⑦
だから追い詰めるのは、本当に簡単だったわ。
あの男は終着点の木の下で、ぶつかるような音を立てて凭れかかってた。
「すごいわ。呼吸が苦しいはずなのに、随分しぶとく逃げられるのね」
「は、はは……! 残念だったな、蕎麦で起こるアナフィラキシーは時間に猶予があるんだよ……!」
ここまで追い詰めても、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていたわ。
足元に転がってたスマホのせいかしらね。
「逃げている間に救急車を呼んでおいた……来るまでの間なら、俺は充分に生き延びられる……」
「生き延びて、今起こったことを全部話して……」
「そして警察にお前を突き出して、それで終わりだ……!」
あの男が冷や汗をかきながらそう言った。
もうとっくに詰んでたことも知らずにね。
ヴぶぶ ヴぶ ヴヴヴぶぶぶ
空気を細かく震わせるような音が聞こえた。
そしてあの男の肩に、何かが止まっているのが見えたわ。
それは黄金にも近い黄色をしていて、大きな翅と複眼と触覚を持った――スズメバチだった。
そいつと目が合ったあの男は、悲鳴を上げて慌てて振り払おうとした。
だけど、あの男に止まっていたのはその一匹だけじゃなかった。
気づけば二匹、三匹……ざっと数えると二十はあの男にくっついていたわ。
当然よね。
だってあの男が寄りかかってた木には、スズメバチの巣があるんだもの。
しかも大きな音を立ててぶつかったんだから、嫌でも起きるに決まっているじゃない。
「こんなに群がるなんて……貴方、蜂に好かれてるのね」
あるいは、あの男にあげた花束の花の蜜の匂いにつられてやってきただけかもしれないけれど。
あの男は逃げられなかった。
既に花束のせいで動きは鈍くなってたけれど、足の骨も折れてたんじゃあね。
あたしは、あの男の白い肌がミミズのように赤く膨れ上がっていく様をずっと眺めてた。
そしてとうとうあの男は倒れて、全身を激しく痙攣させた。
小さく泡を吹いた口を、池の鯉みたいにパクパクと動かして……。
水場で藻掻き溺れていく、小さな蝿を見ているかのようだったわ。
いずれにせよ、あの男が呼んだ救急車は間に合わない。
あたしは、そう思った。
「……ねえ、一生に一度のお願い」③
「あたしの目の前で存分に苦しみながら、死んで」
そう言ってやった。
だって、あの男の一生は一度しかないでしょう?
そうして、あの男は――白目を剥いて息絶えたの。
救急車が来るまで、蜂の群れはずっとあの男の周りをくるくる回り続けていたわ。⑥
--
これが、あの日の出来事。
結局あたしがあいつを殺すために使った所持品は、その日に買ったばかりの花束だけ。
あとは、ほとんどあの男の自滅に近い形で復讐を遂げたの。
おかげで、証拠不十分で不起訴になってしまったわ。
明らかに殺意を持ってたから、重い罰を受けることは覚悟してたのにね。
だからあたし、明日になったら釈放なの。
その前に取材できた貴方はラッキーね。
とはいえ、復讐の手段に殺人を選んだことについては赦されることじゃない。
あの男に謝ることはしないけど、この罪は一生かけて背負っていくことになるでしょう。
だから地獄から迎えが来るまで、せいぜい慎ましやかな半生を過ごすことにするわ。
あなたも、花束を貰う時には気をつけて。
花には、殺意を込めることもできるから。
……それじゃあ、さようなら。
[面会終了]
【まとめ】
あたしの半生をぐちゃぐちゃにしたやつに、あたしは花束をおくった。
なんでだと思う?
⇒復讐相手が蕎麦アレルギーだったので、蕎麦の花束でアナフィラキシーを起こして殺すため。
(アレルギーを起こせるものならば、どの花でも可)
------
①鏡に対する恨みはまだ残っている。 →双子の妹、あれはあたしの鏡、なくてはならない半身(鏡を見なきゃ、もうあの子には会えない)
②過剰摂取。 →そばの花、アレルギー、少量でもアナフィラキシー(過剰反応)
③一生に一度のお願い。→苦しみながら死ね。だってあなたの一生は一度しかないもの。
④賞味期限は気にしないタイプ 。→怨恨っていう賞味期限。
⑤どこかに行ってしまいたい。→私の目が届かないどこかへ
⑥くるくるまわる。→雀蜂がくるくるまわる
⑦ひとりでに骨が折れる。→逃げ続けたせいで骨が疲労骨折、どんだけ不摂生
以上です。それでは、次の方どうぞ。
[編集済]
お題への不足ない回答と狂気を描き切る見事な構成が映える素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済]
【長い解説】
最悪である。
よりによって限定スイーツを予約していた日に残業になってしまった。
普段は④賞味期限を気にしないタイプの私でもさすがにこれは気にする(26)。
上司よ、頼むからトラブル対応を「③一生のお願い(22)」で頼むんじゃない。せめて冷静に命令をしてくれ。でないと断るも引き受けるも気まずい。
先輩よ、エナジードリンクは1日に1本までにした方がいいんじゃないか。さすがに5本目は②過剰摂取(20)だ。
後輩よ、こんな先輩たちで申し訳ない。こんなんじゃ⑤どこか別の部署なり会社なりに行ってしまいたい(31)気持ちも分かる。動くなら早めをおすすめする。
さて、あちらこちらに謝りの連絡を入れ、トラブルを必死に片付け、会社を出たのはもうすっかり遅い時間。
①電源が切れたモニターに映る自分の目は死んだ魚のようだった。もう見えなくなったトラブル相手のメールがまた表示されるんじゃないかとちょっと怖い。今後トラウマになったらどうしてくれるんだ。恨むぞ。(14)
つくづく大きな駅が最寄り駅でよかったと思う。24時間対応の宅配便センターの場所を調べつつ、私は足早に向かった。
残業が決まったタイミングで急いで宅配業者に連絡を入れ、会社近くの宅配便センターに送ってもらえたのは不幸中の幸いだった。
長いと1年待ちの限定お取り寄せスイーツ。ようやく届く日にこんな散々な目に遭うとはなんとも残念だが、その分まで楽しめばいい。
そうして手にした箱は、思いのほか軽かった。宅配業者のスタッフに急な変更に対するお礼とお詫びを言いつつ、大事に箱を抱え込んだ。
どうやって食べようかな、どうせならかわいいお皿に乗せて食べたいな、と上の空で駅前を歩いていたのがいけなかった。
ドン、と衝撃を感じて私は膝から崩れ落ちた。まるでスローモーションのようにスイーツの入った箱が⑥くるくると空中で回っている(32)。あぁ、あたしの半生カステラが。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
大学生くらいだろうか、若い男性が声をかけてきた。どうやら彼がぶつかったらしい。
「はい…大丈夫です…」
なんとか返事をして立ち上がりつつ、箱を受け取り軽く様子を見る。
「荷物もすみません。弁償するので…」
申し訳なさそうに言う彼に「大丈夫」と返し、改札へ向かう。
なぜだか、その姿が苦労性の知り合いの姿に重なり──そんなわけないな。
さて、起きてしまったことは仕方がない。中身の半生カステラは多少ぐちゃぐちゃになっただろうが、もとからやわらかいものだ。味に影響はないと信じたい。
電車に乗り込み、SNSを立ち上げる。もう日付が変わりそうだ。
フォローしているうちの一人が確か誕生日を迎えるはず。
細かいところまで気を配っていて、いつも⑦周りの心配をしすぎて、ひとりでこっそりと骨が折れる作業をしているんじゃないかと(40)思っている。年齢も性別も分からないけど、なんとなく親近感があるのは、苦労性ゆえのシンパシーか。
日付が変わった瞬間、風船が飛び交うプロフィール欄の画像が投稿される。
次々と「おめでとう」のコメントが付くなか、私も送った。
「───さん、お誕生日おめでとうございます!💐🎂」
【要約】
お取り寄せの半生カステラを持ったあたしとぶつかった青年。
その青年は「あたし」とSNS上の知り合いで、翌日が誕生日だった。
「あたし」はSNS上で青年に対し、花束の絵文字を送って誕生日を祝った。
【簡易解説】
同一人物だと知らなかったから。
《おわり》
[編集済]
大胆な問題文解釈に繊細な文章力。柔と剛を制す素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済]
夜、着替えを終えた女は鏡に向かった。
ありのままを見せる鏡はときに残酷。無邪気な子供のよう。
無神経な、鏡よ、鏡よ、鏡さん。①あいつは今どんな顔をしている?
宇美子。女より少し年上で、同僚でもある。そして…
ズキンと胸が痛んだ。
今夜、私はあいつを、この手で…
スマホのアラーム音が鳴った。
時間だ。決着を付けなければ。
「よう」宇美子は右手にギプスをしていた。
「これ?なんか、ひとりでに折れたのよ」⑦
「ハァ?」馬鹿にしているのか?この期に及んで…
女の心が乱れた刹那。
宇美子は、右手のギプスで女の顔面を激しく殴打した。
「!?」グシャッと嫌な音。
続けて殴打。殴打。殴打。殴打。ギプスが崩れ落ちていく。
(嘘だろ!?そこまでするか!?)
薄れゆく意識の中、あざ笑う声が聞こえる。
「消えるのはてめえの方だ、ぐちゃぐちゃにしてやるよ」
(そ、そんな… これで、終わり…?)
それから私は首を絞められた。
* * *
「カメコー!がんばれー!」「ウミコー!卑怯だぞー!」
カメコはハッとした。
四角いリングの上。
女子プロレスラー「バイオレンス・ウミコ」と「ライトニング・カメコ」の
10何度目かの対決。カメコは凶悪なウミコに何度も打ちのめされてきた。
だが、今日だけは負けられないのだ。
リングから逃げてどこかに行ってしまいたい。⑤
同時に、一生に一度でいい、力を出し尽くせ!と願う。③
カメコとウミコの、存在をかけた死闘が続いた。
* * *
ついに試合は動いた。度重なるダメージで、ウミコは立ち上がれない。
カメコはポールに登り、観客側を向いて立った。
そして後ろ向きに飛んだ。カメコの体は弧を描き、回転して⑥、
ウミコに浴びせられた。そのまま押さえ込む。
押しのけようとするウミコ。レフェリーがカウントを始めた。
「ワン!」
直前にプロテインを過剰摂取したのだ②、筋肉よ、燃え尽きろ!
「ツー!」
「ぬおおおおおおおおお!」
「スリー!」
カンカンカン…大歓声の中、カメコの勝利を告げるゴング。
「やった…」勝ったカメコの方が泣いていた。
ウミコはゆっくりと立ち上がり、じっと天井を見上げた。
今日はバイオレンス・ウミコの引退試合だ。
だからこそ、真剣勝負だという暗黙の了解があった。
…え?なに?私がウミコに花束を贈るの?…いいわよ。それくらい。
負けて引退なんて、可哀想だからね。…可哀想?ウミコが?…私は?
花束を受け取るウミコ。「…カメコ、お前はいつまで続けるんだ?」
「まだまだ。賞味期限は気にしないタイプだからね」④2人は握手を交わした。
この5年後、2人はプロレス団体「宇美亀」を立ち上げることになる。
【簡易解説】
女子プロレスラーである女を長年散々な目に遭わせてきたレスラーが引退するので
女は花束を渡した。
《おわり》
花束を贈る瞬間に収斂する熱いライバル関係を描く荒々しい描写が素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済]
あいつとの出会いは、小学1年生の頃。
ずっと同じ学童に通っていたあたしとあいつだったけど、最初はお互いに「同じ学校の同じ学年の子」くらいにしか思ってなかったと思う。
その認識が変わった日のことは、今でも覚えてる。
あの日のことは、あたしにとってはそれだけキョーレツな出来事だったから。
⚪︎
あの日は、あたしの大好きなつぶあんのモナカがおやつに出る日で。
あたしは、先生から一つモナカを受け取って、うきうきでテーブルに持っていく途中だった。
けれども、テーブルに着く前にお行儀悪くモナカを食べ終わったらしいやんちゃな奴等が、手鏡で光を反射させて悪ふざけをしていて…そして、その光が同じくふざけていたあいつの方に向いて、さあ大変。
光を避けようとしたあいつがあたしにぶつかった拍子に、2人まとめてすってんころりん。
あたしが手に持っていたはずのモナカが、くるくるまわりながら落ちていったことだけはやたらはっきりと見えていたのに。(32)
気が付いた時には、あたしのモナカはあいつが転んで下敷きにして、ぐちゃぐちゃに潰れてしまっていた。
そのあとはもう、本当に最悪だった。
鏡を向けてきた奴等は、ぶつかったあたしたちを見て大笑い。
あたしはそれに怒り狂って鏡を向けてきた奴等に掴みかかって行って…大乱闘の始まりだ。
あいつはといえば、転んで痛かったからか、大乱闘が怖かったからか…わからないけれど、座り込んでわんわん泣いていた。
…結局、あたしと鏡でふざけてた奴等、両方が先生に怒られて、その場は終わったんだけれども、あたしはその日モナカを食べることが出来なかった。
だから、半生を潰したあいつと、悪ふざけしてた奴等と、鏡に対する恨みは、今もまだ残っている。(14)
大好物を駄目にされた恨みは大きかった。
⚪︎
…さて、本題はここから。
次の日、いつも通りに学童に来たあたし。
いつも通りに荷物を置いて、いつも通りに上着をハンガーにかけて、いつも通りに勉強道具を持って机に向かった。
けれども、いつもと違う事が一つ。
あいつが声をかけてきた。
「きのうはごめんね」…って。
あたしはふざけるなって突っぱねて…けれども、あいつは本当にごめんね、ともう一度だけ謝って、あたしになにか手渡してきた。
それは、4個入りの小さなモナカだった。
あいつが「おうちにあったのを持ってきた」というそれは、スーパーの和菓子売り場でよく見かけるもので…許してやろうかなと思ったのも束の間、あたしは気がついてしまった。
賞味期限が明日までになっている、と。
「…これ、賞味期限あしたまでじゃん!」
びっくりして大きな声を出したあたしに、あいつはきょとんとした顔をした。
多分あんまり賞味期限とか気にしないタイプなんだろう。(26)
対するあたしは、残念ながらそういうのは気にするタイプだった。
そんなの渡すなんて信じられない、と憤ったあたし。
そもそも、おやつの時間があるから甘いもの摂りすぎになっちゃうし、とも思ったあたしはそんなのいらない!とモナカをあいつに突っ返した。(20)
けれどもその時にモナカを受け取っておけば良かった、とあたしは今でも後悔している。
それからというもの、あたしはやつに付き纏われることになったのだから。
⚪︎
難しい問題にうんうん唸っていれば、教えてあげるよとノートを覗き込まれて、別に良いと怒る羽目になった。
プレゼントだと渡された粘土工作は、骨組みが粘土の重さに耐えられなかったのか、渡された瞬間粘土が落ち、骨組みがその衝撃で1人でにポッキリ折れた。(40)
くれた花には喜んだものの、大きな芋虫がついていて、あたしは驚いて尻餅をついた。
お母さんと大喧嘩して、あたしがどこかに行っちゃいたい…なんて溢した時には、じゃあ行こう!なんて言って隣町まで電車で連れて行かれた。(しかもその後、2人揃って大人達にとっても怒られた。)(31)
どれも酷い思い出だ。
⚪︎
そんな感じだったから、4年生に上がって同じクラスになってからは、ずっと一緒にいる事が多かった。
…否、付きまとわれ続けていたと言う方が正しいかもしれない。
ただまあ、その頃にはあいつにも慣れっこだったこともあって、そこまで気にしてはいなかったけれども。
そんな感じだったから、一番最初にあいつの引越しを知ったのも、あたしだと思う。
2月の終わりに、暗い様子だったあいつに何かあったのかと聞けば、お父さんの転勤で4月に他の県に引っ越すことになったんだと、悲しそうにそう伝えられた。
それに思わず、「こっちに残れないの?」なんて返したら…あいつが泣きそうな顔をしたから、それ以上は何にも話せなかったけれども。
…その日以降、特に引越しの話題は無く、あいつとあたしはただ普通に過ごしていた。
本当は、なんだか怖くて触れられなかっただけだけど。
何に怖いと思っていたのかもよくわからなかったあたしには、普通に過ごすことしか出来なかった。
⚪︎
けれども、あいつの引越しの日は、あたしなんて置いてけぼりで、着実に迫っていた。
そして3月の真ん中あたりに、あたしは担任から呼び出された。
先生は、修了式の日に、あいつと一番仲が良いあたしに、色紙にクラスメイトからのメッセージを集めて、最後に花束と一緒にあいつに渡して欲しいってことを言っていた。
あいつと仲が良いなんて冗談じゃない、とは思ったものの、最後くらいは優しくしてやろう、と仏心でメッセージを集めた。
『向こうでもがんばってね』
『ひっこしても忘れないでね』
『いっしょに遊んでくれてありがとう』
あいつへのメッセージが集まるたびに、あいつが本当に引っ越すんだなって実感が、だんだん積もっていった。
⚪︎
そして、修了式の日。
4年生最後のホームルームの時間に、あいつが先生に前へ呼ばれた。
先生が、あいつが引越しして、転校しますって軽く説明した後で、次にあたしが呼ばれた。
花束と色紙を持って、あいつの前に立つ。
雰囲気のせいかなんだか泣きそうになったけれども、ぐちゃぐちゃに顔が歪みそうなのを必死で堪えた。
そして、震える声を抑えて、なんとか言った。
「…絶対、あっちでも元気にやりなさいよね。」
あたしは、そう一言をなんとか言って、色紙と花束を渡した。
受け取ったあいつは、目にいっぱい涙を溜めて、そして言った。
「一生に一度のお願いだから…また会いに来てもいいかな?」(22)
「…急に来たりしないなら。」
あいつはぼろぼろ泣いたあと、「うん」って大きく頷いた。
まだお別れではないと知って、何故だか少し安心したあたしがいた。
…あいつと会えなくなったって、全然問題無いはずなのに。
家に帰ったあとで、あたしはちょっとだけ泣いた。
⚪︎
…さて、そんなやりとりがあったのが、2ヶ月前。
5年生になったあたしは今、駅であいつが来るのを待っている。
今生の別れくらいに思っていたけれども、あいつの新しい家は、電車に2時間も乗れば行き来できる距離であったらしく、あいつはすぐに嬉々として会いに行きたいと手紙を送ってきた。
もうちょっと期間空けたり出来ないのかと思いつつ、あたしは連休のある今月に約束を取り付けたのだった。
少し待てば、あいつの乗っている電車が到着したらしかった。
開いた扉から飛び出すあいつが見えて、あたしはちょっとだけ笑った。
あいつは、何やら嬉しそうに手土産らしき風呂敷をぶんぶんと振りながら近づいて来る。
…中身、ぐちゃぐちゃになってるんじゃないかな。
-完-
【解説】
学童でおやつの最中(半生)をぐちゃぐちゃに踏み潰されてからと言うもの、ずっと腐れ縁なあたしと「あいつ」。
あいつの転校が決まった時、先生はあたしに、修了式の日にあいつに花束を渡して欲しいと頼み、あたしはそれを引き受けたから。
半生菓子…和菓子の分類の一つで、水分量が生菓子と干菓子の中間のもの。最中や甘納豆、石衣など。
[編集済]
問題文と解説の丁寧かつ強固な対応と等身大の物語が素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済]
「―分かりたくもないな。少なくとも僕以外の男に花束を贈る理由なんて。」
口から漏れ出たのは答えではなくそんな言葉だった。
そう言いながら花束を贈る準備を行う。言われた通り、東の国から桜という花を取り寄せる手続きをして手紙を書く。君が僕に頼み事をするのはこれが初めてだったから。40年も連れ添ってきて初めてだったから。喜びと哀しみが、まるで浮浪者の薬を過剰摂取でもしたかのように混ざりあっていた。②
僕たちは幼いころから…いや、幼いころは仲のいい友人だった。何かと興味を持っては突き進むリチャード、明るく気が強いリサ、そして少し臆病だった僕―エルリッヒ。当時は身分なんて考えることもなくただひたすら仲の良い友人と共に遊ぶだけの最高の日々だった。
夏の日は網を片手に野山に入ってウサギを追い、冬は湖でスケートをした。
僕とリチャードは対照的で、臆病で自分からは何もできなかった僕と興味が沸いたらひとりでに突っ走って居なくなり、骨が折れたと泣き笑いしながら戻ってくるあいつ。⑦ 小さな農家の生まれのリチャードと、貧乏な辺境ではあるものの領主の三男である僕。そして、その間を取り持ってくれた商家の娘であるリサ。あの頃は何も考えなくても良かった。ただ心地の良い時間が流れていた。冬のあの日までは。
その夜は満月が明るく、そして美しく輝く晩だった。夜中に3人で抜け出してスケートをしようという話になってこっそりとスケート靴を持って集まった。
氷の上をすべる内に気づけば僕はリサの事を見つめていた。それはきっとあいつも同じだっただろうし、誰でもその場にいればそうなっていただろう。氷上でくるくるとまわるリサの姿は美しく、まるで氷の精のようであった。⑥ そう、思えばこの瞬間僕らは同時に彼女に恋をしたのだ。
湖畔にはちょうど僕の家が持っている別邸があった。といっても僕みたいに誰にも気にされていないせいで管理なんてされておらず、忍び込んでも誰も気づかない為に僕らはそこで夜を明かした。家に戻っても僕の事なんて誰も心配していなくて、いつも通りの日常に戻っていく。翌日会った時リチャードの頭には大きなコブができていて、母親にこっぴどく叱られたと嘆いていた。そして、それからしばらくリサは僕らの前に姿を現さなかった。
リサと遊ぶことが無くなってからしばらくして、僕の元に結婚の話がやってきた。相手はある大きな商家の娘で…有り体に言えば政略結婚だ。けれど、僕にとってはそんな事関係なかった。その相手というのが他でもないリサだったからだ。正直な話、その瞬間僕は喜びと共にリチャードに対する優越感に浸っていただろう。いつも僕の前を行くリチャードに、初めて勝つ事ができるのだから。
世間体も考え、プロポーズを行うように言われ僕はリサをあの湖畔へ連れ出した。少し混乱しながらも口にだした告白の言葉。あらかじめ話が伝わっている為予定調和の返答が帰ってくる―はずだった。
断られた。というよりも、待ってほしいと。時間が欲しいとだけ言って彼女は逃げるように帰っていった。その時の僕は呆然とその場に立ち尽くす事しかできなかった。
それからしばらくして、リチャードが都会の学校へ行くという話が噂になった。なんでも向こうから来ていた学者先生が偶々あいつを気に入ったとかで推薦してくれるらしい。もう会えないと思うと少し寂しくなり、彼に会いに行った。そこで見たのは、楽しそうに談笑しながら商店を巡るリチャードとリサの姿だった。そこで僕は気づいた。彼女があの日断った理由を。待ってくれと言った理由を。
僕は、リチャードが都会へ旅立つ日にリサを湖畔へ呼び出した。自分でもいかに意地悪で愚かな行為かわかっていた。それでも来て欲しかった。あいつなんかより僕のところに来て欲しかった。―けれど、その日の夕焼けは旅立つ者の為に朱く燃えていた。
結局、僕が彼女から色よい返事を貰えたのはそれからさらに数週間経ってからだった。あの湖畔で告白し、予定調和の返事をもらう。聞くところでは彼女の母親がこれまでのいきさつを知り激怒したとのことだった。
そして、彼女を娶ると共に両親から湖畔の家を相続し僕らはそこで暮らす事となった。
誰しもが好きな相手と共に暮らす生活というのは薔薇色の日々であると考えるだろう。けれど、それは想いが双方にあればこそ。それからの生活は僕にとって鈍色の日々だった。
君はいつも湖畔が見える窓際に座り、本を読んでは時折憂いを帯びた恨めしそうな瞳でただ湖を眺めていた。
会話といえるような会話は一つもない。そのせいで、僕は君との会話は愚かその声すら思い出す事が出来ないのだから。常にどこかへ行ってしまいたいと言いたげな空気をあてつけのように僕に向ける君の事を、それでも愛さずにはいられなかった。⑤ 少しでも気を抜けば逃げてしまいそうで、失いたくなくて。
朝起きて仕事へ向かい、昼食を食べる。そして帰ってきて共に夕食を食べる。たまの休日では1日中窓辺に座る君を眺めて。僕らの間に会話は無く、ただひたすら無機質な日々を繰り返した。年を取るにつれ美しさを失ってもなお、僕は君を愛し続けた。④
まるで冷戦のような40年間。僕はずっと君だけを見続けてきた。けれど、君は僕に声をかける事は愚か目線すら向けず今も巨大な水鏡を恨めしそうに眺めている。①
それでも。それでもリチャード、僕は君が手に入れられなかったものを手に入れたんだ。その優越感だけ…最早、その優越感だけを糧に僕は生きてきた。
そんなある日、新聞を読んでいた彼女が少し微笑みながら数十年ぶりに声をかけてきた。
「ねえ、あたしの半生をぐちゃぐちゃにした男に花束を贈りたいの。手伝ってくれない?」
奇跡かと思った。彼女が僕に花束をくれるなんて。
「ああ、もちろんだ。何をすればいい?」
咄嗟に応えると
「東洋の桜という花を用意してほしいの。それと―手紙の代筆。」
そう、返ってきた。
「手紙?」
僕は自分に向けられた花束だと思っていたためにオウムのように聞き返してしまった。
「そう、手紙。貴方に書いて欲しいの。一生に一度のお願い。」③
そんな事を言われては、断る事はできない。けれど、彼女も商家の娘。読み書きはできるはずだった。
「ふふ。あたしが花束を贈る理由…なんでだと思う?」
―そして、ふと口から言葉が漏れた事に気づく。
何も答えず、彼女は手紙の内容を口ずさみ始める
「新聞であなたが世紀の大発明をしたという一文を読みました。そしてふと思うのです。もしこの世に美しい花が無ければ春を心穏やかに過ごせる人がどれだけいるでしょうか。」
僕は、涙を堪えてその手紙と共に桜の花束を贈るよう手配する事しかできなかった。
薄氷に花も映らぬ水鏡
【簡易解説】
政略結婚で好きでもない男の元へ嫁いだ「あたし」。「やつ」を好きになってさえいなければ、自分の半生に今程不満を覚えず心穏やかに過ごせただろうという意味を込めて最後に桜の花束を贈った。
目の前にいる、もう一人の人生を滅茶苦茶にした男に復讐するために。
元ネタ
【主】
みずうみ/原題: Immensee 作:テオドール・シュトルム
【副】
世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし 作:在原業平
…といっても、みずうみにインスピレーションを得ただけで実際の内容とはかなりかけはなれているヨ
―了―
問題文そのままの圧倒的な重苦しさが素敵な作品でした、ご投稿ありがとうございました! [編集済] [正解][良い質問]
また、いくつかお詫びです。こちらのミスで始め長文許可ができていなかったことと(出題者のみ表示にてご指摘をいただきました、ありがとうございます)、まとメモにて記した要素について今日夜まで()付きの質問番号を付記していませんでした。
どちらも投稿者の皆様にご不便・ご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません。[編集済]
ルームキー:はまべのうた
参加者一覧 12人(クリックすると質問が絞れます)
こちらの会場では、本投票の結果を開封していきます。最難関要素やサブ票の結果については、投票会場の方の結果発表をご確認ください〜!
https://late-late.jp/mondai/show/18315
まずはご参加くださったデータから!
今回はロスタイム含め6名の方に作品をご投稿いただき、8名の方にご投票いただきました!ありがとうございます!
さて、早速本投票の結果発表に移っていきます!
心の準備はよろしいでしょうか?
では、発表いたします!!
・第三位
受賞したのは〜?
あたしは楽しめて、あいつにも遺せて。一石二鳥って奴じゃん?
花には、殺意を込めることもできるから。
①『呉越同舟』(OUTISさん)
②『何を込めて花束を』(とろたく(記憶喪失)さん)
(共に3票獲得)
こちらの作品でした!おめでとうございます!
二重人格の設定と、蕎麦の花束。それぞれ別の観点から問題文の言い回しへ的確なご回答をいただきました!好き!
・第二位
輝いたのは〜?
あぁ、あたしの半生カステラが。
③『多面体な日常』(ほずみさん)
(4票獲得)
こちらの作品でした!おめでとうございます!
問題文の違和感を「別人」で解消、「半生」などの大胆な解釈の裏に繊細な日常の描写が光ります!よい!
・最優秀作品賞
いよいよ優勝作品の発表です!勝利を手にしたのは…。
僕は、涙を堪えてその手紙と共に桜の花束を贈るよう手配する事しかできなかった。
⑥『湖畔にて』(OUTISさん)
(5票獲得)
こちらの作品です!!!
問題文そのままの重苦しさを描き上げた筆致に、花束に込められた真意の衝撃。とても素敵な作品でした!
おめでとうございます🎉!
では最後に、シェチュ王の発表に移りましょう!
戴冠したのはもちろん…?
👑シェチュ王👑
OUTISさん
でした!おめでとうございます!
二作品ご投稿くださった上に、二つとも表彰台、最優秀作品賞をも受賞と、文句なしのシェチュ王戴冠です!
見事シェチュ王に輝いたOUTISさんには、唯一称号[◇シェチュ王◇]と次回である51創りだすの出題権を進呈いたします!!
おめでとうございます!主催からの引くほどの感謝と王冠をお受け取りください!!!
☂️(°▽°)ノ======👑 <ヨ ナ カ キャッチ!
これを以ちまして、50創りだすは終了となります!節目の大会を盛り上げてくださった皆さんに、改めてご感謝を!
ありがとうございました〜〜!
お疲れ様でした!今回も素敵な解説ばかりで、読んでてとても楽しかったです!OUTISさん、シェチュ王おめでとうございます!さなめ。さん、主催運営ありがとうございました!![23年07月02日 23:27]
お疲れ様でした~! OUTISさんおめでとうございます。とても素晴らしい作品でした! もちろん、ほかの作品も。そして50回という素晴らしき回に参加できてとても楽しかったです! 改めておめでとうございます! それでは、また![編集済] [23年07月02日 22:13]
なんでだと思う?
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①(14)鏡に対する恨みはまだ残っている。
②(20)過剰摂取。
③(22)一生に一度のお願い。
④(26)賞味期限は気にしないタイプ 。
⑤(31)どこかに行ってしまいたい。
⑥(32)くるくるまわる。
⑦(40)ひとりでに骨が折れる。
投稿は6/25(日)の終わりまで!
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
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Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!