男は、長年探していたカプセルを見つけたので、「もうひとつ見つけなければ」と思った。
どういうことだろう?
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ウミガメのスープ、そして「創りだす」を愛する皆々様。
お待たせしました。第49回正解を創りだすウミガメのお時間です。
今回の司会を務めます、ほずみと申します。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
前回はこちら→https://late-late.jp/mondai/show/17891
4月も中旬となり、新しい生活にも慣れてきた方も多いのではないでしょうか?
反対に、「今までとは変わらない…」と思っている方も何か新しいことを始めてみるのはいかがでしょうか?
…そう!つまり創りだすなんていかがでしょう!
※「正解を創りだすウミガメ」って何?という方はこちらをどうぞ
→https://late-late.jp/secret/show/d8MCaJqldjB6JV9SOlry2do4DhGUmmpYsCcIDbNu04c.
※主催からの連絡や「創りだす」への疑問はこちらをご活用ください→
https://late-late.jp/secret/show/2wgwozfnBGIHYj6XOBB5pAp1m5T6aQIf2Ii8bKsEboA.
それでは、詳しいルール説明へどうぞ!
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[出題〜要素が50個集まるまでor23:59]
まず、正解を創りだすカギとなる質問(要素選出)をしていただきます。
☆要素選出の手順
①要素の投稿
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人5回まででお願いします。
皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切りです。または、出題日の23:59で50個に達していなくても締め切ります。その時点で投稿された要素が10個未満の場合は別途アナウンスします。
②要素の選出
全てランダムに10個の質問を選びます。
選ばれた質問には「YES!」もしくは「NO!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※ただし、問題文や前出の要素と矛盾するものや、条件が狭まりすぎるものは採用されないことがあります。あらかじめご了承ください。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(不採用)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~4/30(日)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
要素10個中8個以上を含んだ解説案をご投稿ください。文字数・投稿数に制限はございません。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖・ラテシン版)」も参考になさってください。
ラテシン版
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
らてらて鯖
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。複数投稿も可とします。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾には、「おわり」などの終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、本文・タイトル共に自由に編集していただいて構いません。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せします。
※エントリーを辞退される際は、作品タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。
メイン投票は対象外となりますが、サブ投票の対象となります。
※投稿フェーズ終了後に投稿(=ロスタイム投稿)をされる場合、タイトルに<ロスタイム>と付記してください。
メイン投票は対象外となりますが、サブ投票の対象となります。
※少しでも気軽にご参加いただくために、今回の創りだすでも次回主催辞退制度を採用しております。
仮にシェチュ王を獲得しても次回の主催を務める時間・自信がない……という方は、投稿フェーズ終了後に設置される投票所にて、その旨をお伝えください。投票所の相談チャットにて「出題者のみに表示」にチェックを入れて書き込むか、主催までミニメールを送る形でも結構です。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~5/7(日)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。フィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!
☆投票の手順
①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
②作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿したシェフも、持ち票は3票とします。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。感想については、簡略なもので構いません。一文でも大丈夫です。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。こちらの投票数は「シェフ」と「観戦者」で共通です。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
またこれらとは別にサブ賞を設けさせていただきます。どのサブ賞を実施するかもふくめ、これらの詳細は投票会場にてご説明いたします。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[正解]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=一人の方からの複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。(投票者の頭数です。)
それでも同率の場合、出題者も事前に決めた3票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
◇◇ コインについて ◇◇
シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…15c
投票参加賞……10c
要素採用賞……10c
上記の通り賞に応じてコインを発行する予定ですので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。※「最優秀作品賞」および「最難関要素賞」については、1名分のコインコードしか用意がございません。
このため同率受賞の場合は、先に投稿された要素/作品の投稿者の方にコインコードを贈呈させていただきます。あらかじめご了承ください。
■■ タイムテーブル ■■
※状況に応じて変更の可能性もございます。
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が50個に達するまでor4/15(土)23:59
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 4/30(日) 23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後 ~ 5/7(日) 23:59まで
☆結果発表
5/8(月) 21:00(予定)
毎度恒例、長い説明にお付き合いいただき、ありがとうございました!
細かいルールについては、そのフェーズが始まった時にでもご確認ください。
もしくは連絡所に書き込みをお願いします。
これより、第49回正解を創りだすウミガメを開始いたします!
まずは要素投稿フェーズです!お忘れなく、要素投稿は1人5回までですよ!
それでは、よーい…………
スタート!!!
結果発表~!!!!
投稿フェーズの締切は 4/30(日) 23:59 です。
要素一覧をまとメモに載せましたのでご活用ください。
使用要素は【10個中8個以上】です
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、自由に編集していただいて構いません。終了アナウンス後の編集はお控えください。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿する場合、タイトルに<ロスタイム>や<投票対象外>の付記をお願いいたします。
それでは、投稿フェーズ、スタートです!
皆様のご作品を、心よりお待ちしております。
33歳、カメオ。地方中枢都市で会社勤務をしている。
電車に1時間少々揺られれば、生まれ育った町にたどりつく。
独身だし、実家から通勤できなくもない距離だが、カメオは町を離れたかった。
* * *
小学生のときは、絵心があることを自認していた。
教科書という教科書や参考書に、パラパラ漫画なんかを描いた(35)。
題材は大体、大人気バトル漫画、ラテシンボール。クラスでも好評だった。
小学5年生のとき、友達グループで、タイムカプセルを埋めることにした。
親が買ってくれたのだという。学校行事ではない。
僕・カメオは、パラパラ漫画の自信作の1つを入れることにした。
近所の原っぱに埋めた。地図も作った。
小学6年生のとき、大きな災害があった。そのときの水害によって、
タイムカプセルは移動してしまったらしい。それは行方不明になったし、
僕の家も水浸しになったし、僕は水が怖くなって、今でも泳げない(2)。
(それはただの言い訳かもしれないけど。)
大人になって、年に一度、同窓会をして、その日にタイムカプセルを探す習慣ができた。
5年ほど続いた後、皆、タイムカプセルを諦め始めた。
僕は最後までこだわった。「まあ仕方ねえよ」
「カメオ、お前真面目すぎるんだよ」と言われた(22)。
(それを真面目な表情で言ってるお前はどうなんだと思った。)
僕にとっては、この町は、とにかく、「失う」ことの象徴になってしまった。
タイムカプセルだけじゃない。たくさん失った。
それで町を離れたかったし、同時に、少しでも、何かを取り戻すための行動が
僕にとって必要だったのだと思う(26)。「足りないもの」を取り戻す行動が。
今日はその同窓会の日だ。だいぶ早めに出発した。
もう一度だけ探してみよう。探すのは何年ぶりだっけ・・・
そして、今年が最後になるんだろうと思っている(15)。
* * *
到着した僕は、スコップを手に、やみくもに掘ってみた。
周囲の視線が気になる。まだ明るいし、長時間は厳しいか。
埋めたときはまだ子供だ。そんなに深いところではないはずだ・・・
汗びっしょりだ。よくもまあ、こんなに頑張るものだ(41)。
2時間近く、掘っては埋め、掘っては埋めを繰り返している。
最後のあがきというものだな。体力の限界も思い知った。
かなり暗くなってきた。もう、同窓会の開始時刻は過ぎている。
「ここまでか・・・」・・・スコップに「コツン」、と当たる音。
黒光りしている。ただの石か? それとも・・・
泥を叩き落とすと、球体が現れた。
「あった・・・」 思わず腰が抜けてしゃがみ込んだ。
頭が真っ白だ。気が抜けた。毛は・・・毛は抜けてないな。よかった。
だけど、急に体毛が全て抜け落ちたらこんな心境になるだろうか?(31)
しばし呆然とした後、開けてみようとする。それは簡単に開いた。
友達のものがある中で、自分のものを探した。
小さなノートに書いたパラパラ漫画が出てきた。
パラパラしてみる。そんなにいうほど、立派な出来ではない。苦笑だ。
ノートの最終ページに、僕自身からの手紙があった。
「立派な大人になっていますか?」いい質問だな(20)。
そんなに立派じゃない。だけど今日は、一つやり遂げたかな。
子供が思う「立派な大人」なんて、偶像に過ぎないんだな、と思う(44)。
大人も子供も、一日一日、精一杯生きているだけだし、それか、
できるだけ怠けようとしているだけだな。少なくとも今の僕は、そうだ。
それと、小さなガチャガチャのフィギュアが出てきた。
・・・そうだ、これも僕のだ。入れたことも忘れていた。
ラテシンボールのキャラクター。
説明紙によれば、3シーズンで4体ずつ、計12体あるという(10)。
そこにあったのは11体だった。1体足りない。・・・そうだ。
苦労してコンプを目指していたが、あと1体で諦めたんだった。
でも、そんな大事なものをなぜここに入れたんだっけ?
もう一度ノートを見返してみる。
「あと一個は、大人のぼくにおねがいします」
そうか。大人の僕にお願いするなんて、図々しい奴だな。
大人の経済力を当てにしているのか?
とても古いものだが・・・当時すごい人気だった。
ネットで探していればそのうち見つかるだろう。
たった一個のカプセルトイぐらい、大人の僕にとってはお安い御用だ。
20年以上かかったけど、コンプは近いようだ(15)。
「いいだろう」と呟いて、僕はスマートフォンを手に取った。
同窓会で皆に会えるのが楽しみだ。
<おわり> 使用要素は全部のつもりです
[編集済]
見つけたカプセルとこれから探すカプセルが違うもの、という意外性とそれら2つのカプセルのつながりに対する必然性が見事なバランスです。主人公の焦り、悲しみ、歓喜…様々な感情がありありと伝わってくるストーリーもよかったです。 [編集済]
男には夢があった。小学校の頃に教科書に残した落書き、“不老不死になりたい”(35)。なぜ人々はいずれ死ぬという事実に耐えられるのか、男は疑問でしかたがなかった。
死に怯える男は、医学を学んでその夢を成し遂げようとした。同僚に真面目すぎだとからかわれるほど研究に打ち込んだが(22)、男が望む成果は得られなかった。かつてとある研究所で不老不死の研究がされていて、今でもそこには不老不死の薬が残されている、なんてくだらない都市伝説を信じるくらいに男は追い詰められていた。
しかし男のその執念が無謀な夢を現実のものにしてしまった。研究所の跡地から、現在の科学では再現不可能な、人間の体を不老不死に変容させる成分を含むカプセルを発見したのだ。
「よくもまあ(41)、そんなものを見つけることができましたね。あなたの熱意に神様が微笑んでくれたのかしら」
不老不死の薬を発見したと聞いた男の妻は、驚きながらも男の生涯の夢が叶ったことを喜んでいた。
「でも、一人分の分量しかない。君は水で飲むのが苦手だから、違うタイプの薬も探さないと(2)」
「あら、私の分も探してくれるなんて嬉しいですね。でも、あなたはそれで不老不死になって何がしたいんですか?」
「何がしたいか、うむ……」
男はこれまで不老不死に恋焦がれ、信奉していた。不老不死そのものが生涯の目的で、それさえ叶えば幸せになれると思い込んでいた。でも実際は、不老不死になったあとも人生は続く。それも永遠に。
不老不死という夢はあくまで偶像に過ぎない(44)。妻の鋭い質問がそれを思い起こさせてくれた(20)。
「そもそも、私もあなたももう81歳(10)。髪の毛も他の毛も全部抜け落ちたようなあなたがこれ以上老いなくなっても(31)、今更遅いんじゃないかしら。私たちの人生はもうそろそろ終わる(15)。それでいいんじゃないですか?」
気づけば、男には愛する家族がそばにいた。不老不死という夢が目前に迫って初めて、男は生きることの意味を知った。
この薬はもはや必要だろうか?(26回収せず)
簡易解説
長年探していた不老不死の薬を発見した男。そばで支え続けてくれた愛する妻のためにも、もうひとつ見つけなければと思った。
使用要素
⑥以外全て
おわり
[編集済]
妻の分も不老不死の薬を探す夫と、夫と一緒に今を生きたい妻。
2人の対比が短い解説ながら印象的でした。
[編集済]
簡易解説
サウナに苦手意識を持っていたが克服意欲のあったサラリーマンの男。男は長年探し求めていた『入門用にピッタリのサウナ』を仕事先のカプセルホテルに見つけ、そこでサウナの味を覚え、もう一軒、もう一軒とサウナを探すようになった。
解説:
私は、サウナが苦手だ。故に昨今のサウナブームには疲弊している。無論頭ごなしに否定しているわけではない。こうなったのには理由がある。
小学生の頃、暗記系統が苦手だった私はお風呂で九九(10)の暗唱を行っていた。
まあある意味、真面目すぎたのかもしれない(22)。7の段のあたりで頭が真っ白になってもダウンすることをしなかった。故にのぼせて倒れてしまった。それ以来、熱さへの苦手意識がまず一つ。
そして冷たい方への苦手意識もこれまた存在する。これはその倒れる事件よりもっと前、親父と入った銭湯にあった水風呂にふざけ半分で飛び込んでしまったことが原因である。想像の何倍も冷たかったその水風呂で小さかった私は無事悶絶。子供心というのは変なところでピュアなもので、無事冷たい水がトラウマになった(2)。
サウナは熱いサウナ室に入り、その後すぐ水風呂に浸かるというその性質上どちらも痛いところをついてきてるわけで、当然私は苦手意識を持つに至ったが、ここ最近リアルの友人やネットのよく見るコミュニティも妙にサウナの話題で持ちきり。多少の疎外感を覚えつつ、『もうそろそろでブームは終わる(15)』と自分に言い聞かせてその場を乗り切る。だがブームが思ったより長い。全然終わらない。なんなら年を追うごとにどんどん勢いが増してきている。私も羨望よりチャレンジ精神の方が少しずつ上回っていきブーム初期から柄でもなくサウナを探し始めた。しかしながらうまく行かない。それはそうだ。わがままな話だが私は入門用みたいなサウナが欲しかった。しかしながらそんなところ、簡単には見つからない。バラエティ性には多少のばらつきこそあれど基本的な熱いところと寒いところの繰り返し、という根本が変わらず全く意味がない。いやそんなことを言うのであれば最初からサウナに向いていない、多くの人間はそう言うに決まってる。実際間違ってはない。だから避けてきたのだから………。
そんな拗らせていた私のサウナ観が変わる日が、あるときようやく訪れた。
その日私は出張により遠く離れた地域に滞在していた。とても日帰りできる場所ではないがかと言って高い宿も持て余す感じがしてしまう、と駅前のカプセルホテルに滞在することにした。
カプセルホテルも昔と随分変わったものだ。多様化したアメニティ、テレワーク強化で需要が高まったコワーキングスペース、そして大量の漫画。飲食物にも力を入れているのか、美味しそうな料理の写真もたっぷり飾ってある。そんな中でひときわ目を引いた掲示が受付に置いてあった。
『当館はサウナがおすすめ!
初心者に勧めたいサウナとして好評を頂いております!もちろん上級者にも!』
ベタな決まり文句だが心に来るものがあった。そういえばこのカプセルホテル、かつてネットの掲示板でオススメのサウナを聞いたときに『いい質問です(20)』とばかりに返ってきた答えの中に入っていた。無論遠方であったためそのときは足を運ぶに至らなかったが、偶然とはいえ私はその施設にいる、これは何かの運命なのだろうか、そう思いそのままチェックインを済ませる。
ロッカールームで服を脱ぎ、大浴場に入ってみるとそこは人であふれかえっていた。若者から中年、おじいさんまで。日帰りでの利用もできるとのことだったのでホテルとしてではなく、浴場、ひいてはサウナ単体の人気が伺える。
一通り体を洗い、いざサウナへ。とはいえサウナが3つほど………。一番右のサウナは…うん、やめておこう。出てきた人からもれなく湯気が立っている。真ん中も…出てきた人たちはもれなく顔が赤い。となると………左か。
『ゆるいサウナ』と書かれた左のサウナの扉の脇には『サウナ入門者におすすめ!』と書かれた看板が建てられていた。初心者向けってのはこれのことか、と私は苦手意識を克服する意志を入れ直して扉を開き、中に入る。
たしかに、熱い。
だが『ゆるいサウナ』だけあって耐えられない熱さではない。そう思いながら3段あるうちの一番下に座る。
ゆるいサウナの一番下、本当に初心者向けのところとはいえ1分もすれば少しずつ汗がたれてくる。ただこの汗、悪い気はしない。東京のジメジメした暑さに比べればこんなもの、いくらでも耐えてやる。そんなことを思い、5分は経った。汗はだんだん増えてくる。全身の毛穴という毛穴が覚醒してる気がする。まるで体毛がすべて抜け落ちるかのような、そんな気さえする。…(31)
………10分弱ほど入って流石に限界を感じ私はサウナ室を後にした。ただ本当の勝負はここから。そう、水風呂である。
結果的に食わず嫌いでしかなかったサウナ室そのものとは違い、水風呂の方は直接的に嫌いな感情を持っている。とはいえ私も大人。嫌い、嫌いと言っていてはこの先何もできなくなってしまう。そう腹をくくって水風呂に入る………前に、汗を流す必要がある。これは最低限のマナーである。私は冷たい水の出るシャワーを恐る恐る浴びることにした。
冷たい。はっきり言って好きになれるものではない。だがこの感覚、初めてではない。そう、学校時代のプールのはじめと終わりの冷たいシャワーだ。キンキンに冷えた水を全身に浴びた後、私は足から水風呂に浸かるのであった。
やっぱり駄目なやつだ、そう悟るのに1秒もかからなかった。全身を冷たいもので包まれる感覚、それがどうも慣れないのだ。結局、大人になっても同じだった。
なのでその時は水風呂にはあまりいなかった気がする。足早に水風呂を去り、外にある椅子に腰掛ける。俗に言う休憩ラウンドだ。
やはりサウナは私には合わなかったのだ。結局私はいい面だけを真に受けて性に合わないことをする、それだけだった。気取って言えば、世のサウナの評判は私にとって偶像に過ぎなかった…(44)。まあそれがわかっただけ今回は得したと気持ちを切り替えて、二度とサウナには………
いや、そんなんじゃない。
何かがおかしい。
もういい、と思った矢先にそれに反するように消化不良のような気持ちを突然抱えてしまった私は、椅子から立ち上がり再びサウナ室へと向かっていた。おかしい。サウナは私とは縁のないもののはずなのに。なんならさっきより1段階強いサウナ室に入り、これまた10分ほど滞在した。そして出たあと、なんの迷いもなく水風呂へ。冷たくて嫌いとか、そんな感覚はないわけではなかったけど後回しになっていたような気がする。で結局水風呂の冷たさに驚かされ、また後悔の念を覚え椅子に座る。
なんで私は2度もサウナに入ってしまったんだろう。いや、サウナはいい。サウナは。衝動的に水風呂に入るなんて、どうかしてるぞ。何が私をそんなに突き動かすのか………。もういい。風呂に入って自分の部屋に戻ろう。もうサウナは金輪際………
いや、やはり自分に嘘をついているような気がする。
わかった、もう一度。もう一度だけ。
たかがサウナごときで葛藤を繰り返し気がつけば私は一番温度の高いサウナ室の中にいた。
熱い。熱すぎる。こんなところを好む人間どうかしてる。そう心の中で言い聞かせるが、体はこのサウナ室から出ることを拒んでいる。熱中症で動けないとかではない。体はこの場所にいることを望んでいる。
そんなノリの自問自答を繰り返し、10分強はそこにいた。なぜだ、なぜだ、と自分に問いかけているうちに今度は水風呂の中にいた。何故と言われると説明はできないが私がトラウマになっていた冷たい水風呂への恐怖は心の隅っこに放り出されていたように思える。そして3回目の水風呂で、私は体の中、心臓の部分に何か温かい芯のようなものができたことに気づいた。そこから数秒して水風呂を出て、また休憩。数秒もすれば、その芯は本領を発揮した。
芯は少しずつ私の体に溶けだすように広がっていきほのかな暖かさを発する。そしてそれが頭のてっぺんから足の先まで通ったその瞬間、私はすべてが繋がった気分になる。そうか、サウナも水風呂も休憩も、この瞬間のために必要だったのだ。…(26)
1つも欠かすことができない、というよりこの3つがパズルが完成するようにきっちりハマる瞬間、それがこのときだ。
言葉にするだけではどうにも伝わりようのないこの快感を味わったその瞬間、私は小声で
「ととのった〜〜〜。」
こう呟いた。
『ととのう』も人伝で聞いた言葉でしかなかったが今ならわかる。この感覚のことで間違いない。よくもまあ…(41)昔の人間はサウナという概念、さらにはサウナの入り方なんかを考えついたもんだ。そういえばこの感覚、プールの授業の次の授業の爽快感に似ている。そうか、私は何気に少年時代にととのっていたのかもしれない。その時は爽快感に身を任せ教科書に勢いで落書きしたり…(35)、それが見つかって先生に怒られたのも、今ではいい思い出。今は流石に落書きこそしないものの、この場に教科書があったらこのととのった感覚のままに、一つの芸術を生み出せそうな気分であった。
その後は軽くだけ数回サウナに入り、自分の部屋に戻って寝てしまった。だがあの『ととのう』感覚が病みつきになってしまい、今では『もうひとつ、もうひとつ見つけなければ』…(問題文)とサウナ施設の新規開拓がマイブームになっているのだ。
おわり
使用要素…すべて
[編集済]
まさかのカプセルホテル!しかもサウナ!問題文を考えたときには思いもしない方面からの解説に驚きました。サウナにはまる人からすると、「もう一軒」とサウナ巡りをしたくなる気持ちが分かるような気がします。サウナに行ってみたくなる作品でした。 [編集済]
ひとしきり文句を垂れていた緒方さんの声が止んだのかと思ったら、もう到着していたらしい。何遍も来すぎたおかげで、もう移動時間に退屈を感じなくなってしまった。浦島効果みたいなものか。
小さな船からゆっくり降り、一面の寂れた島を見回す。今日こそは成果の欠片でも掴んで帰ると息巻く自分は、隣の緒方さんと上手い対比になっていることだろう。
研究分野が異なる緒方さんの興を削ぐのもなんだが、新たな仲間だというのだから、こちらの世界の虜にさせるようこき使わなければ。スカートの裾を抑え、海辺の海水の不快感(2)を叫ぶ緒方さんを無理に、この離島の内部へ案内する。
そこには、よく見慣れた跡が広がる。かつては大きな建物が立ち並んでいたと推察される廃墟は、4000年前の建造物と言われてもなぜか納得してしまうような圧倒的な歴史文化の存在感を体現する。
炭鉱と遠洋漁の発展のために整備されたこの島は、炭鉱の枯れと生態系の変化、そして本島の文化の変化からずっと前に閉鎖され、今では私のような文化研究者の餌食になっている。
昔には建物の入口だったであろう廃墟の穴を丘の下から見上げつつ、私は緒方さんに解説する。彼女が広げている教科書には、私や先輩が夢想した研究未遂の歴史事実が乱雑な字で落書きされている(35)。この落書きを指し夢を語った私に、何度ため息をついた人がいようか。
この島でなぜ、カプセルなんか探しているのか。
この島は、定住者も少ない形態だったと察せられるし、そんな例外者のために、細部の情報を過剰に引き出そうとするのは、些か真面目に徹しすぎ(22)ではないか。
文句を言いつつも院生らしいいい質問(20)を寄せる緒方さんであるが、まだまだ詰めが甘い。
この歪で魅力的な文化形態渦巻く島において、我々に必要なのは周縁の人々の生活様式についての研究である(26)。数少ない定住者だったこの島の管理者が、島の定住にあたり何をしたかというのは、ここでしか知り得ない。その信条から、長年研究を続けているというものだ。
そう返しても、緒方さんは納得した様子を見せない。いくらこの島が稼働したのが昔だったとしても、離島の定住者が「本島の文通相手」という偶像でしかない(44)概念を現実に・本当に求めたわけがない。都合が良すぎる見解だ。云々とまた文句を垂れるモードになったところで、私は決定的なものを目撃したのだった。
潮の引いた目下の海岸に、何年も辿られた海の流れの跡。
この先もまた、そういったカプセルが流れつく候補かもしれない。小さな陸地を見、私はもうそろそろ今日の調査を終了しよう(15)と緒方さんに告げた。
それから一週間。
私はついに、文通の入ったカプセルを見つけたのである。長年の研究が報われる瞬間だった。
過酷な離島生活を送る私たちは、労働者や観光客との定期的な交流を享受した。しかし、常に同じ人間と接せられるわけではない職務において、文通というものに憧れた。港の停留所にあるガチャガチャのカプセルを海に投げれば、誰か拾ってくれないか。
こんな日記の記録を読んだところで、実際にそれを実行した者がいるとは、多くの人は考えなかった。よくもまあ(41)そのカプセルが本島に届いたものだ。その存在を信じ続けた私でさえ、そう思う。潮の流れに詳しかったから…では適切な理由にはならなさそうだ。
離島へと届けられるよう海に流したが、結局その宛先には届かなかった『返信の』文通カプセルの中には、当時の本島の人間が島の管理者へ綴った感謝が窺える古びた便箋が出てきた。これが島の管理者へついぞ届かなかったままだったと思うと、どうにも惜しい心持ちがする。
しかし、本島の人間から島の管理者へ返信が書かれ、それが海に流されたというのだから、管理者の文通は実際に試行されたのである。これと、その文章内容だけでも大きな収穫だった。
しかし、私はもう一つ見つけなければならない(問題文)。
島の管理者が大海原へ投げた、当時の心情のこもったカプセルを。
外部との恒常的な関わりを夢想した管理者の、葛藤に生きた証を。
【簡易解説】
男は離島の文化研究調査を行う研究者。日記の記録をもとに長年探していた、本島の人間との文通が入ったカプセルを見つけたが、それは「本島→離島」、つまり返信が書かれたものが入っていたので、本島にて大元の「離島→本島」に送られた内容の入ったカプセルも探す必要があると思った。
使用要素:2,7以外
(終わり)
[編集済]
カプセルの中身が文通の手紙とは!文通であれば1通あればもう1通あるのも納得です。研究者が研究対象を探すのもこれまた納得。加えて、廃れた離島の文化を追い求めるというロマンあふれるストーリーが素敵でした。 [編集済] [正解]
みなさん、初めまして。僕は古根・弥七(こね・やしち)と申します。矢猫・知恵士(やねこ・ちえし)先生という方の元で探偵助手をしています。この先生がまた変わった人で、僕もいつも振り回されています。緊張するとすぐ人気のない物置とかに隠れるくせにいつも人をからかうようなニヤニヤ笑いで本心を見せないチェシャ猫のような人。そんなチェシャ猫先生のお話を一つ、させていただこうと思います。
あれはそう、僕が先生の助手になってすぐのことでした。雨の中事務所の扉を開けるとそこにいたのは黒く巨大な毛玉…と見まがうほどに爆発した頭の先生でした。
「うわっ…子猫君(苗字のせいで先生は僕の事をこう呼んでいる)か。入るときはノックしてくれたまえよ。」
そう文句を言う先生に対して僕は呆れた事を強調するように溜息をつきながら
「先生が呼んだんじゃないですか、おいしい物食べに連れて行ってくれるって。っていうかこれ玄関のドアですし、そもそも何があったらそんな頭になるんですか。」
そう。僕はこの日、宝くじが当たったからと先生に呼び出されご飯をごちそうになりに来たのだ。
「ああ、これかい?いやね、久しぶりにシャワーを少し浴びたんだよ。身だしなみは大事だからね。ただ、そうするといつもこうなるんだ。生憎と僕の髪質は水が嫌いなようでね。」
そういってもじゃもじゃ頭相手にドライヤーと櫛で格闘する先生。はっきり言っていつもの飄々とした感じが無くなって少し面白い。
「あ、今笑っただろう。…まったく。これでもまだマシな方なんだよ?こうしてちゃんと乾かして櫛をかければ数分でなおるんだから。」
「はいはい、で、いくら当たったんです?」
どうせ数千円、良くて1万ってところだろう。そう思って聞いてみたものの
「秘密。」
そういってニヤリと笑う先生は、もう髪を整えていつもの雰囲気に戻っていた。
結局その日はそのままラーメンを二人で食べに行ったものの、チャーシューを1枚追加するだけでいつもとあまり変わらなかった。けれど、今思えばこの時から既に計画は始まっていたのだ。
数日後、再び先生に緊急だと呼ばれて事務所に向かうと開口一番
「旅行の準備をしてくれよ。まあ長くて二泊三日ってところかな。」
そういわれた。当然文句を言おうとするものの
「まあそう言うな、こいつを見れば子猫君も気が変わるだろう。」
そういって2枚の紙きれを見せてきた。
「『碧知島(へきちじま) 二泊三日MATHコンサート招待券』…先生って結構ミーハーなところありますよね。」
この先生はよくアイドルグッズを買ってきてはこっそり棚に並べたり暇があればライブ映像をテレビで流したりしている。そのせいで僕も多少はそういった話に詳しくなってしまった。
しかし…
「碧知島にMATH、悪趣味ですね。」
そう、付け加える。
―MATH
数学系男子アイドルグループを歌った4人組ユニット。
七三分けの髪型にメガネというインテリな雰囲気の五十嵐・六弥(いがらし・むつや)。
180超えの長身で肩下まで伸びるロン毛が特徴の四ノ宮・旭(しのみや・あさひ)。
天パで少しヤンチャな雰囲気のオラオラ系男子の一ノ瀬・達八(いちのせ・たつや)。
そして、150センチ代で最も小柄な小動物系の三谷・二葉(みたに・ふたば)。
この4人の名前である
MUTUYA、ASAHI、TATUYA、HUTABA
の頭文字でMATHということらしい。
当時事務所であぶれていたメンバーを寄せ集めて作ったという噂もあったが、デビュー当時はあまり売れずに地下アイドルとあまり変わらないような知名度であった。それを一新しようと行われたのが10年前のイベントである。
レジャー設備を貸し切って二泊三日で行おうとしたのだ。それを行ったのが当時できたばかりの碧知島だった。
そう、このライブは10年前のイベントとほとんど同じなのだ。唯一違う点があるとすれば
「おや、ペルシャの事件を知っているのか。」
―ペルシャ。
あまり人目の届く場所へ出ない為温室のペルシャとも呼ばれ、小柄でありながらその名を関する猫の如く長髪をトレードマークとするシンガーソングライター。コアなファンを多数持ちながらも、冬場に屋内会場でしかライブを行わないという偏屈さのせいで知名度はあまり高くない男。
そして、このイベントは事務所に所属するこの2組に与えられた最後のチャンスでもあった。しかし、このイベントの初日に彼は毒物を飲んで死んでしまう。そんな惨劇のリバイバルのようなイベント。それがこのチケットに対する僕の印象だった。
「確かに。でも、このイベントに君も参加する。これは決定事項だよ。」
飄々としてとらえどころのない笑みの中に何を言っても聞かない頑固さを感じ取り、僕は諦めてついていくことになったのでした。
先生が船酔いで萎びたトマトのようになったり、僕がその中身を掛けられて第二の萎びたトマトのようになったりとハプニングはあったが、特に何事もなく僕らは無事に件の島に到着した。その後、僕らは会場のホテル棟へ荷物を置き早速ライブ会場へと向かうことにした。会場は2つの建物に別れており、1階に食堂やパーティ用会場のあるホテル棟と楽屋兼宿泊設備を7つ備えたライブハウス棟がある。ライブ等の楽屋は完全防音でちょっとした楽器なら演奏しても外には聞こえないくらいだ。ただし、このライブハウス棟の楽屋部分が少し変わった形になっており
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■□□
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という形になっている。
これに左上から123…と番号を振ると、123478の7部屋が楽屋兼宿泊設備となっていて、5番が中庭、6番がライブハウスへの通路、8番の部分は凹んでいて8番に面する7番と9番に接する廊下から外に出られる形になっている。
ライブ会場にはあまり人も居らず多くて30人といったところだった。
10年前の事件で話題になり一時はよくテレビにも出ていたが、その人気は続くことなく少しずつ減っていき今ではまた10年前と同じような活動ばかりになったアイドル「MATH」僕は彼ら全員がどうも自分を偽っているように見えてならなかった。いや、アイドルなんていうものは文字通り偶像に過ぎないのだからある意味当たり前かもしれないが…⑩(44)。
夕食はホテル棟のパーティ会場にてバイキング形式で行われ、MATHの4人も現れファンたちと交流をしていた。それを見た先生が
「子猫君は何も言わず意味深に微笑んでいればいいから。」
と言って僕を連れ4人に挨拶に向かった。
「初めまして。私どもはしがない探偵をしております。こちらが~…」
そういって名乗る先生に対して、4人は
「あ…?ああ、どうも。五十嵐六弥です。よろしく。探偵さんってことはもしかして10年前の…?」
と聞いてくる五十嵐氏。
「ああ、これはご丁寧に。私は四ノ宮旭と申します。今夜は良い月ですね。」
と気障なセリフを返してくる四ノ宮氏。
「おん?ああ、俺は一ノ瀬達八っす。よろしく!」
と気さくに笑いかけてくる一ノ瀬氏。
そして
「えっ…アッ…ボクは三谷二葉です。どうも…」
と少し驚いたような三谷氏。
一通り三者三様(いや、この場合は四者四様というべきか?)の挨拶を終えると先生は
「さて、君の眼に彼らはどう映った?」
と聞いてくる。
「五十嵐氏は…タバコの匂いがしましたね。四ノ宮氏はアイドルっていうより役者さんっていう感じでしたね、香水とかもすごくしていて。まつ毛も長かったのが印象的でした。つけまつげですかね?一ノ瀬氏はなんかこう…思っていたよりいい人って感じでしたね。三谷氏は…なんか…可愛かった?…いや、別に変な趣味とかじゃないですよ!?ただ、率直な感想というか…」
そう自分で言って自分で慌てていると先生は
「うんうん、君はなかなかいい目を持っているね。」
とだけ言って満足そうに笑っていた。
「あ、あと。」
そういって僕は付け足す。
「全員、僕らの名前を聞いた時に一瞬驚いたような、怯えたような、そんな表情をしていました。」
すると先生は
「そうかそうか、それじゃあ私は少し夜風に当たりに行ってくるから。あ、あと―」
そう言いながら去ってしまった。
パーティが終わり、ホテルへ戻ると私はカプセルを渡された。やっと手に入れた。間違いない。ピルケースを確認して私はそれがこの10年探し続けていたカプセルだと確信した。しかし、カプセルに入っているのは1つだけ。もう1つ、見つけなくてはならない。まあ、既に予想はついているが…
翌朝、私はホテルのパーティ会場に人を集めてもらい、檀上に上り言い放った。
「今朝、私の助手が毒を飲んで死んでいるのを発見しました。警察には既に通報済みです。」
そして推理する。ここで起こった悲劇を。この10年、警察関係者とのコネを作り得られた捜査資料や当時の新聞から。
その日は、昼前から事件の訪れを示すように島を薄く覆う霧雨が降りはじめた。MATHの4人とペルシャはそれぞれ楽屋の1~4番をそれぞれ六弥、旭、達八、二葉の順で使い、7番をペルシャが使っていた。余った9番の部屋は雑多な管理用具等を仕舞う物置として少し前から使われていたらしい。
全員9時には楽屋入りしており、この時点ではまだ雨が降ってきていなかった。そして、9時から本番までの1時間は全員リハーサルをしていたとのことだ。
10時からのMATHのライブ中にマネージャがペルシャの忘れていったビタミン剤の入ったピルケースを届けに来たという。彼はライブ30分前にはビタミン剤を飲んで数独をするのがライブ前のルーチンになっていた。
そしてMATHのライブが終わった11:30からMATHの4人は四ノ宮旭の部屋で30分感想会を行った。その後、4人で食事に行く予定であったが共演者であるペルシャが部屋で食べると聞き親睦を深めるためにペルシャの部屋に集まりデリバリーで昼食をとることに。ただし、旭のみ体調不良のため不参加とのこと。また、この最中に数分六弥は部屋を出ている。要件については事務所が協力を拒否したため不明。
食事が終わると全員部屋を出て自室に戻り、ペルシャも移動している。この時、二葉のみ菓子を買ってくると言って外へ出ている。
そして、ペルシャのライブが始まる13:00にライブ会場にはペルシャは現れず、代わりにペルシャの部屋と空き部屋の間の道をペルシャと思しき人物が雨に濡れながら歩いているのをスタッフが確認している。異様な雰囲気であった為声をかけるのが憚られたとのこと。そして、同時刻ホテル棟の食堂にてニット帽をかぶりサングラスをかけた不審な男性が目撃されている。当時警察はこの人物が犯人の他殺ではないかとみて調べていた。また、12:30から13:30までの1時間、六弥と達八は二人で歌の練習をしていたと述べている。
そして、13:30分、スタッフがMATHの4人にも声をかけペルシャを探していると達八が9番部屋でペルシャの死体を確認する。死体は濡れた服を着ており、現場にはビタミン剤の入ったピルケースに空のペットボトル、そして数独が残されていた。
問題はこの数独である。最初は特に異常なしと考えられていたが、最後に被害者が解いていたと思われるページの一マスだけ塗りつぶされている事が確認された。それが、下段中央の枠の1マスである。
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という形であったため、これをダイイングメッセージと捉えた警察は犯人が七のつく人物であると考えて捜査を開始。しかし、関係者の中に七のつく人物はおらず事務所がスキャンダルを恐れ捜査への協力に難色を示した事から事件は自殺として処理された。
「さて、この事件は10年前にここで起こった事件の犯人によって引き起こされたものです。そのため、まずは過去の清算としてその真相について私の推理を聞いていただけますか?MATHの皆さま。」
犯人はあなた達の中にいる。そう言外に含ませながら続ける。さあ、推理ショーの始まりだ。
「そうですね、まず犯人がいかにして被害者に毒を飲ませたかについては簡単でしょう。彼のルーチンを知っていれば被害者のピルケースに毒入りのカプセルを仕込んでおけばいいだけですから。問題は、その毒がいつ仕込まれたか。マネージャが犯人ならば持ってきた時点で仕込んでおけばいい話ですが、マネージャであればこのタイミングで殺す必要はなかった。温室のペルシャと呼ばれる被害者ですから人目に触れないところで殺害すれば失踪扱いにするのは簡単です。つまり、この時点では毒は仕込まれていなかったと考えられます。毒が仕込まれたのはこれ以降です。そして、10時以降死体が発見されるまで楽屋内に居たのは被害者のあなた達しかいないのです。
そして被害者の死亡時刻ですが、13:30以降と思われていますが実際には13:00頃には既に死んでいたでしょう。彼のルーチンを考えればライブ開始の30分前にはピルケースの毒を飲んでいるでしょうからね。つまり、ライブ終了からこの時点までに毒を混入できた…アリバイの無い人物は食事中に中座していた六弥さん、ライブの感想会後被害者の捜索まで姿が確認されていない旭さん、そして昼食直後に自販機に飲み物を買いに行った二葉さんの3人の中にいます。」
そこまで言って言葉を区切る。
「ちょっと待ってくれ、じゃあ13:30頃にスタッフが見たっていうペルシャはどう説明するんだよ。」
そう達八さんが聞いてくる。
「いい質問ですねぇ④(20)。それは犯人の工作によって偽装された犯人の姿そのものです。
犯人は、カツラを被り被害者が亡くなった後再び現場に戻る必要があったのです⑥(26)。
被害者はピルケースにビタミン剤をライブの日数分用意していました。要は3粒です。しかし、これを1つのカプセルだけにしては見た目を偽装していても被害者に疑われかねない。だからといって一つだけ毒薬とすりかえたら毒薬を飲むとは限らない。そこで、犯人は3粒の毒入りカプセルを用意して3粒全て、もしかしたらピルケースごとかもしれませんが…入れ替えて仕込んだのです。そして、被害者が死んでから残りの2粒を回収する必要があった。この出入りを目撃されたときの為に犯人はカツラを被り被害者のフリをして部屋を出入りしたのでしょう。なんなら、その姿を目撃されれば捜査のかく乱につながると考えたのかもしれません。その時に犯人は被害者が持っていたペットボトルの水を服にかけて雨の中を歩いたように工作したのでしょう。」
すると今度は旭さんが
「カツラなんてもの、楽屋の中には無かったと思うよ?」
と突っ込んでくる。
「まあ、貴方としてはそういう事にしておきたいでしょうね。
ですが、当時楽屋の中にはあったはずです。そして、今もなおここにあります。」
と言って旭さんを指さす。
「貴方が被っているカツラがね。
四ノ宮旭さん、貴方は幼いころ大病を患いその治療により奇跡的に全快するも体毛が全て無くなってしまっていますね?その為、まつ毛も眉も髪の毛もすべてメイクで用意したもののはずです。そして、貴方が12時以降誰にも目撃されていないのは…」
そう一つ区切って、慎重に言葉を紡ぐ。
「貴方のカツラが、盗まれていて髪の毛が無い事を見られないようにするべく部屋から出られず、部屋に人を呼ぶこともできなかったからじゃあありませんか?」
旭さんは何も言わない。肯定とみなしそのまま言葉をつなげる
「しかし、だんだんと空腹感が貴方を苛み始める。その結果…13時頃、ニット帽やサングラスで顔を隠しこっそりと食堂へ向かった。その姿が不審者として目撃されていたのではないですか?おそらく、犯人は目撃された直後にカツラを乾かしてあなたが部屋を出ている間にこっそりと戻したのでしょう。そのために帰ってきてカツラを見つけた貴方はその後外へ出る事ができた。」
そこまで言って、もう一度見据える。
「ええ、そうです。私は十歳のころに病に倒れ、その治療の末に体毛を全て失いました⑦(31)。これが私の秘密です。」
それだけ言ってカツラを外した。
「全て、探偵さんのいう通りです。ですが私は殺していません。」
そういう彼に対し
「ええ、わかっています。貴方は犯人では無い。そもそも貴方の体格じゃあ被害者に偽装する事はできませんし、カツラである必要はありませんから。」
と言って推理を続ける。
「このように被害者の偽装をした犯人は…貴方ですね?三谷二葉さん。」
そういって二葉さんに視線を向ける。
「うん、これまでの探偵さんの話はよくわかったよ。でもさ、よくもまあそんな証拠の無い推理で僕を犯人にでっちあげられるね⑨(41)。そもそも、僕が毒を仕込めるタイミングって探偵さんの話の通りなら食事が終わった後、ペルシャがあの部屋に向かうまでの短い時間じゃないか。どんなに早くったって同時に部屋につく事になる。」
それに対して私も答えを紡ぐ。
「被害者は、自室を出た後遠回りをして件の部屋まで向かったんです。それを知っていれば最短ルートを使えば倍近い距離になるから同時に部屋を出ても先回りして毒を仕込む事はできる。被害者が極度に水を浴びる事を嫌う事を知っていれば①(2)。で、六弥さんの中座は多分タバコを吸いに行っただけなんじゃないかな。
彼の髪質は私より酷い…霧雨程度でも浴びたら10分後にはピサの斜塔が頭上に完成する。そうなったら数時間格闘しないと元には戻らないからね。」
この口ぶりに何かを察したのか、息をのむ聴衆。答えてあげよう。
「そう。被害者のペルシャこと…矢猫・弁次(やねこ・べんじ)は僕の兄だ。
話を戻そう。彼は死の間際にダイイングメッセージを残した。死の間際、彼も誰が自分を殺したのか推理したのだろう。といっても、彼からは犯人が誰か消去法で推測できただろうからね。もしかしたら慌てて部屋を出る貴方の姿を直前に見ていたのかもしれないが。
彼から見て犯行を行えるのは六弥さん、旭さん、二葉さんの3人だ。このうち六弥さんはヘビースモーカーで旭さんは香水をつけている。もし二人のうちどちらかが毒を仕込んだのなら部屋に残り香がしていただろう。それが無かったから、彼からは貴方が犯人だと解いていた数独に残した。」
するとすかさず
「でも、確か7のマスが塗りつぶされていたんでしたよね。それが僕にどういう関係があるんですか?」
と聞いてくる。
「確かに。警察は7という数字が重要だと踏んでいたようだけど、彼は7という数字には固執していなかったんだ。重要なのはマス目の位置さ。」
そういって縦と横の線を指で示す。
「塗りつぶされていたのは下段中央の枠内の左側中段のマス。要するに、4列目の8行目。これは…掛け算九九のマスとみなすこともできるだろう②(10)。」
そういった途端、何かを察した二葉さんに緊張が走る。
「九九の表であればそのマスは4×8…32が入るのはわかるよね。つまり、三と二を名に持つ貴方の事を指しているってわけだ。三谷二葉さん。」
ここまで言ったところで警察が到着したのか周囲が騒がしくなる。
「でも、貴方の言った事は全て机上の空論。証拠が無いよ。10年前の事件を、証拠も無しに告発する気?」
その言葉に対し私は
「ええ、ですから証拠を用意しました。今日この場にね。」
そういって助手を呼ぶ。
「もう出てきていいですよ。子猫君。」
すると舞台袖からピルケースを持って先ほど死んだと言った助手が出てくる。それを見てざわつき始める会場に対して
「申し訳ありません。一つ、私はこの場で一つ嘘をつきました。彼が死んだと言いましたがアレは嘘です。そして、彼に向けられた凶器である毒物がこちらです。」
そういってピルケースを掲げる。
「こちらは昨夜、私が二葉さんに頼みビタミン剤入りのピルケースを子猫君の持病の薬と言って代わりに届けてもらうようお願いしたものです。」
このピルケースには細い糸を短く切って挟んでおいた。そのためもし途中でこの箱が開けられていればすぐにわかる。そして、昨夜子猫君から回収したピルケースには蓋が開けられた痕跡があった。
「この中のカプセルが毒物であり、そしてそのカプセルから貴方の指紋が検出されれば…決定的な証拠となるだろう。飲んで消える前提のカプセルに指紋が残らないように注意するとは思えないからね。」
そう言った途端、二葉さんは服の中に手を入れ何かを取り出そうとする。
「っ!」
ある程度まで追い詰めたらこの行動に出る事は予想していた。取り押さえて、その手の中にあるものを奪い取る。
「見つけたよ、3つ目のカプセル。自決なんてさせないから。」
ピルケースに入っていたビタミン剤は3つ、毒入りカプセルも3つ、ならば残りは2つあるはずだ。これがその3つ目。最後の最後、自決に使う可能性を考慮しておいてよかった。
「それじゃあ、最後に動機についてなんだけど…こればっかりは私にも予想することしかできないから確認させてほしい。動機は…貴方の秘密に関係あるんじゃないかな?」
そう、三谷二葉の秘密…それは
「『毒は女の凶器』、なんて言葉を以前何かで聞いたことがありますが…毒というのは極めて扱いづらい凶器です。入手が困難で廃棄も容易くはない。そんなものが他の凶器と比べ勝っている点が一つ。力が要らない事です。同年代で体格も近い貴方であれば鈍器や刃物を使っても難なく殺害できると考えられる。それをしなかった…いや、できなかったのは…貴女が女性で腕力に自信が無かったからではありませんか?」
そう言うと、最後まで少し抵抗していた彼女は力を失い語り始めた。
「ええ、そうよ。あの事件の少し前、アタシは彼に告白したの。実は女だって伝えて、付き合ってほしいって言ったの。でも、あいつったら『あんたはアイドルだろ。』なんて言って断られて…憎かったし、怖かった…アタシの秘密を知られたのが。バラされるんじゃないかって。」
「そして、殺害に至ったと。」
「ええ、そうよ。彼はアタシを愛してはくれなかった。結局、これが一番こたえたんでしょうね。」
その言葉に、少し考えて
「兄は数独が趣味でしてね。死の間際までやっていたようですが。
ところで、『数独』という言葉の意味をご存じですか?」
そう問いかける。
「…知らないわよ。数字なんてそんなに好きでもないし。」
そうぶっきらぼうに返ってくる答えに
「『数字は独身に限る』という言葉を略したものだそうです。昔は兄弟そろってテレビでアイドルのライブを見て目を輝かせたものです。
予想にすぎませんが、兄も貴方を愛していたのですよ。一人のファンとして、少し厄介オタクとしてね。」
そう言うと、警察が到着したので事情を説明し彼女を連れて行ってもらった。
犯人の三谷氏が連れていかれるのを見ながら
「先生、二つ聞いていいですか?」
と尋ねると
「いいよ。」
と言われたので気になっていた事を聞いてみる。
「五十嵐氏がタバコ、四ノ宮氏がカツラ、三谷氏が女性であった事を隠していたんですよね。でしたら、一ノ瀬氏も何か隠していたりするんですか?」
という問いに
「あまり他人の秘密を明かすのはよろしくない事だとは思うけど…そうだねぇ。しいて言うなら、真面目過ぎる事かね⑤(22)。ちょっと悪い系で売ろうとしてたんだろうけど、根が良い人だからかただの暑苦しい感じのキャラになっちゃってる。当時六弥さんと1時間練習してたっていうのも彼の提案だったらしいからね。」
「意外とつまんないですね。じゃあ、最後に…なんで三谷氏は僕を殺そうとしたんですか?」
すると、先生は少し考えこんだ後
「君を告発者だと勘違いしたんだよ。今回のイベントは僕が企画したんだけど、その時に使った名義がダイイングメッセージの7に因んでセブンスにしたからね。で、そんな中で子猫君が挨拶しに来たんだから、口を封じようとすると思ってピルケースを渡したんだ。」
さらっと爆弾発言。
「えっ!?このイベントの主催者が先生!?どういうことですか!っていうか、この島の施設全部貸し切りにして芸能人呼んで…いくらかかったんですか!?そんなお金どこから!?」
混乱する僕に先生はいつものニヤニヤ笑いをしながら言うんだ。
「言っただろう。宝くじが当たったって。さあ、帰ろうか。」
こうしてこの事件の幕は閉じました。
他にも先生の話は結構ありますが、ひとまずはここまでです。皆さまお付き合いいただきありがとうございました。
使用要素:③⑧以外
―了―
ウミガメのスープの問題文に対する解説であり、決められた要素を回収する、という縛りを感じさせないほどに推理小説として完成していました。読んでいてとにかく先が気になります。問題文への答えと、事件の真相。2つの謎を解き明かすストーリーが読んでいて楽しかったです。 [編集済] [正解]
投稿した皆様、本当にありがとうございました。[編集済]
https://late-late.jp/mondai/show/18115
締め切りは5/7(日)23:59です![編集済]
ロスタイム投稿作品はメイン投票の対象にはなりませんが、サブ投票の対象となります。
ご投稿の際はタイトルに「ロスタイム」と付けて下さい。
【解説】
大きな草原の中心の大きな木の下で、シャベルの刃に全体重をかけて足を乗せて、地面に深く突き刺したそれを真っ直ぐ下に傾ける。
さく、さくと思っていたよりも幾分か柔らかな土を掘り返す音に、時折りぶち、ぶち、と植物の根の千切れる音が混ざる。
そんな作業を黙々と繰り返して、1時間と少し。
流れる汗も気にならない。
きっとこの先に求めたそれがあると、確信を抱いていたから。
やがて、シャベルの先が何かにぶつかり、がち、と金属音が響いた。
その周辺を、慎重に掘り進めていけば…やがて、赤子ほどの大きさの金属製のカプセルが、顔を覗かせていた。
遂に見つけたそれこそが、俺の長年追い求めていたものだった。
○
俺の日常には、常に小さな違和感が付き纏っていた。
例えばそれは、何故だか赤ん坊の頃から水が嫌いで…昔は風呂どころか飲み水すらも怖がっていたらしいこととか。(2)
習ってもいない九九をそらで言えたりだとか。(10)
教科書の隅、適当に描いていたはずの落書きが、全く知らないご当地キャラに似ていたりだとか。(35)
テレビで偶然に流れた、知らない土地を見て、何故だか泣いてしまいそうなくらいに懐かしくなったりだとか。
そんな些細な違和感の積み重ねに首を捻る日々の中、突然に俺は理解した。
俺には、別の誰かの一生の記憶がある、と。
きっかけは、ある日見た夢だった。
夢の中でその人は、大きな木の下で、見知らぬ…けれど何故だか懐かしい誰かと、2人でタイムカプセルを埋めていた。
ぽつぽつ思い出話をしながら、小さなスコップでゆっくり時間をかけて開けた大穴に、赤子ほどの大きさのタイムカプセルを。
そして、名残惜しそうに幼馴染と別れた後で…場面が暗転し、その人は、水の中に居た。
浮いて、沈んで、浮いて、沈んで…
目を覚ました。
…そんな夢を見てからというもの、まるで自分が体験したことみたいに、その俺じゃない誰かの記憶が当たり前のように頭の中に居座るようになった。
…"記憶"の通りであるならば……俺が生まれる十数年前、その人物は俺が知らないどこかの土地で生まれ育ち、大好きな幼馴染と共にタイムカプセルを埋めて、しかしそれを掘り起こす前に海難事故で死んでしまったらしい。
それらは、俺に付き纏った些細な違和感の正体としては納得出来るもので…それと同時に、もっと大きな感情が、俺の中に居座るようになった。
前世の記憶と言うのだろうか、或いは未練を持った誰かが取り憑いているとでも言うのだろうか。
わからないけれども…記憶の人物は、タイムカプセルのことが酷く心残りだったことだけは、わかった。
本当に存在したかもわからない人物ではあるけれども…幼少期からずっと俺の記憶の中にあったであろう彼の心残りは、まるで初めから俺自身のものだったみたいに、俺の中で燻っていた。
それからの俺は、俺の記憶の中の人物に関する知識を…地名だとか、地形だとか、景色だとか、人間関係だとか…そんな事を、ノートの中に思い出せる限り詳細に書き留めていった。
…どうしようもなく、必死だった。
他の誰かが聞けば、きっと妄想だとか、厨二病だとか言ってくることだろう。
或いは…あの"幼馴染"なら、「君は真面目すぎるよ、あの子と一緒だ。」なんて言って、笑っただろう。(22)
…この熱量だって、本当はある種の偶像化にすぎなくて、一時の特別感に酔いしれているだけなのかもしれない。(44)
だから、一度それを見つけてしまえば…たちまちに消えてしまうような、儚いものなんだろう。
それでも…そうだとしても。
俺が、俺の生きた十数年に付き纏った違和感から解放されるには、きっと必要なことだった。(46)
だから俺は、書き留めた記憶を読み解いてまとめて…数年間、ひたすらに記憶に関することを調べ続けた末に、一つの住所に辿り着いた。
…よくもまあ、ここまで絞り出したものだ。
我ながら、気持ち悪くなるほどの執念深さだと思う。
…けれども、これでようやくこの後悔が晴れるはずだ。
タイムカプセルを見つけに行こう、そう思って俺は…まず、電車の切符を買った。
○
そんなこんなで割り出した住所の場所に向かい…冒頭に戻る。
タイムカプセルは、思っていたよりもずっとずっと軽くて、持ち上げても何か軽い音が小さく聞こえてくるだけだった。
慎重にカプセルを開いてみれば、その中にはお揃いらしきキーホルダーと、何枚かの古くなった写真、そして何通かの手紙が入っていた。
手紙のうちの2通は、2人が自分に当てて書いた手紙、そしてもう2通は2人がお互いに向けて書いた手紙だった。
それらの封は開いておらず、年季が経った様子で少しだけ紙が黄ばんでいた。
さぁ、どれから読み始めようか。
そう手紙を見比べた時にふと、もう1通手紙があることに気がついた。
…数十年前の手紙とは思えないほどに真っ白な封筒に入った手紙が。
不思議に思って封を開けてみれば、そこにはびっしりと文字で埋められた、数枚の便箋が入っていた。
その内容曰く…その人は、生まれつきに同じ誰かの人生の夢を見ていたこと。
それを面白く思って、夢日記をつけ始めたこと。
夢の中で、知っている住所が出てきたこと。
その住所の場所から、夢の中で見た景色を辿って行ったら…ここに辿り着いたこと。
そして…その時に、夢で見ていた誰かの記憶を全て"思い出した".こと。
記憶の人物が大好きな幼馴染に、会いたくなったこと。
…その幼馴染も、自分と同じ状況になっているかもしれないと思ったことなど、様々な事が書いてあった。
そして最後に、もしも君がこの手紙を読んだなら、タイムカプセルと共に下の住所まで来て欲しいと締められており、手紙の最後には、初めて見る住所の羅列と、知らない人の名前、そして電話番号が添えられていた。
…開けたのが俺じゃなかったらどうするつもりだったんだとか、個人情報を俺が悪用するとか考えなかったのかとか、"幼馴染"ももう死んでしまっていたのかとか、そもそも開封済みのタイムカプセルを埋め直すなとか…様々な事が頭をよぎって、だけれどすぐに消えて行った。
その代わりみたいに、自分と同じ境遇で…そしてなにより、夢の中で大好きになっていっていた幼馴染の記憶を持つ人に会うことが出来るかもしれない、という興奮が、じわじわと浮かび上がってきて。
俺は、俺の生まれる前に始まったこの旅の、本当の終着点となるであろう場所への手がかりを、大事に大事にしまい込んで…そして、土を払ったタイムカプセルを、また丁寧に閉じて、持ってきていたリュックの中に詰め込んだ。
…きっと、この場所で手紙の主を見つけた時こそが、この旅の終わりになるんだろう。(15)
…さて、もうひとつ見つけなければ。
そう思って、俺は直ぐに検索エンジンを立ち上げる。
…ずっと昔から会いたかった、初めましての君に、俺はなんて声を掛けようか。
そんなことを考えて、検索履歴を埋めていった。
【簡易解説】
自分ではない人物の記憶を持って生まれた男。その人物が実在したのではないかと疑った男は、かつてその人物が幼馴染と共に埋めたタイムカプセルを探していた。
遂にそのタイムカプセルを見つけ出した男は、その中に、"幼馴染"の記憶を持つという人物が自分に当てて書いた手紙を見つけた為に、もうひとつ、今度は"幼馴染"の記憶を持った人物を見つけなければと思った。
【使用要素】
①水が嫌いです(2)
②掛け算九九ます(10)
③もうそろそろでおわります(15)
⑤真面目すぎです(22)
⑥必要あります(26)
⑧教科書に落書きします(35)
⑨よくもまあ です(41)
⑩偶像に過ぎません(44)
完
[編集済]
意外にもカプセル以外のモノを探す解説はこの1作品だけでした。裏返せば、それだけ納得感を出すのが難しいストーリーですが、タイムカプセルと"もう一つ"の記憶を持つ人物たちを登場させることで"幼馴染"を探す理由に納得感が生まれます。「ずっと昔から会いたかった、初めましての君」というフレーズが素敵です。
参加者一覧 12人(クリックすると質問が絞れます)
結果だけさらっと見たい方は投票会場https://late-late.jp/mondai/show/18115の解説をご覧ください!
ついにやって参りました、「第49回正解を創りだすウミガメ」結果発表のお時間です!!
今回はロスタイム含め6名の方に作品をご投稿いただき、9名の方にご投票いただきました!ありがとうございます!
サブ賞も多くあるため、最難関要素とサブ賞は各ジャンル1位のみ、最優秀作品賞はベスト3を発表していきます!
(投票所の方では全ての開票結果をまとめておりますので、そちらもどうぞ!)
早速発表いたしましょう!!まずは、最難関要素です!!
◇最難関要素賞◇
最難関要素賞に選ばれたのは……
🥇(5票)
⑦体毛が全て抜け落ちます(ダニーさん)
突然の体毛、しかも全て抜け落ちるという特殊な状況。これだけでウミガメのスープの問題が作れそうなほどの難関要素に苦戦したシェフが多かったようです。
ダニーさんおめでとうございます!
それではサブ賞の発表に移ります!
まずは匠賞から!
最も皆様を唸らせたのは……!
◇匠賞◇
第1位(3票)
③『サ活』(作・アルカディオさん)
⑤『チェシャ猫探偵の事件簿 -復讐のセブンス-』(作・OUTISさん)
カプセルホテルという柔軟な発想の『サ活』、推理小説としてのトリックも素晴らしい『チェシャ猫探偵の事件簿 -復讐のセブンス-』の2作品が同率1位でした。アルカディオさん、OUTISさん、おめでとうございます!
◇エモンガ賞◇
続いてはエモンガ賞です!
勝利のエモンガが微笑んだのは……?
第1位(3票)
④『水に空々』(作・さなめ。さん)
今は無き文化の研究のために離島を訪れるというロマンあふれるストーリーはまさにエモンガ。
さなめ。さん、おめでとうございます!
◇スッキリ賞◇
サブ賞の最後を締めくくるのは、スッキリ賞です!
皆様を最もスッキリさせた作品は……?
第1位(3票)
②『神様がくれたもの』(作・うつまさん)
④『水に空々』(作・さなめ。さん)
不老不死の薬をもう一つ求める理由を簡潔にまとめた『神様がくれたもの』、ロマンと歴史が詰まったカプセルをもう一通探す決意を綴った『水に空々』が同率1位でした。
うつまさん、さなめ。さんおめでとうございます!
さて、続いては皆様お待ちかねの本投票です!
心の準備はよろしいでしょうか?
では、発表いたします!!
◇最優秀作品賞◇
🥉(2票)
①『見つけたもの、足りないもの』(作・のまるすさん)
見つけたカプセルと探すカプセルが別物である巧みさもさることながら、ウミガメのスープの解説としての納得感と主人公の心情が伝わるストーリーのバランスが絶妙です。
のまるすさん、おめでとうございます!
🥈(3票)
②『神様がくれたもの』(作・うつまさん)
不老不死の薬が入ったカプセルを探す。これ以上なく明確なストーリーです。テンポよい要素回収も、掛け算九九を「81歳」と回収するテクニックもお見事です。
うつまさん、おめでとうございます!
さて、いよいよ最優秀作品賞の発表となります。大接戦を制し、栄えある最優秀作品賞を受賞したのは……!
と、その前に。去年の春に「創りだす連絡所」を作成し、新たな形での「創りだす」を始めて早一年となりました。誠にありがとうございます。「創りだす」に今も参加してくださる方がいることに最大の感謝を。初めての方、参加し続けている方、そして久しぶりの方。様々な方に投票いただき、どの部門も非常に接戦でした。その結果…
しかし、私はもう一つ見つけなければならない。
島の管理者が大海原へ投げた、当時の心情のこもったカプセルを。
「見つけたよ、3つ目のカプセル。自決なんてさせないから。」
🥇(4票)
④『水に空々』(作・さなめ。さん)
⑤『チェシャ猫探偵の事件簿 -復讐のセブンス-』(作・OUTISさん)
こちらの2作品が同率で最優秀作品賞を受賞です!さなめ。さんはエモンガ賞・スッキリ賞、OUTISさんは匠賞との同時受賞です。それぞれ別の観点で評価された最優秀にふさわしい作品でした。本当におめでとうございます~!!!
そして、最後を飾る、シェチュ王の発表に移りましょう!
得票数が同じ場合、投票した人数が多い方がシェチュ王受賞となります。
そのため今回のシェチュ王は4名から投票されたこの方……!
シェチュ王
さなめ。さん
おめでとうございます!
皆様、盛大な拍手をお願いいたします!!!
|🍊*’▽’)っ ~~~👑 ☔(^ ^*)
また、見事シェチュ王に輝いたさなめ。さんには、唯一称号[◇シェチュ王◇]と次回である「第50回正解を創りだすウミガメ」の出題権を進呈いたします!!
第48回に引き続き、記念すべき50回の節目の出題となります!本当に、おめでとうございます!!
これにて「第49回正解を創りだすウミガメ」閉幕となります!
改めまして、皆様、本当にありがとうございました!!
男は、長年探していたカプセルを見つけたので、「もうひとつ見つけなければ」と思った。
どういうことだろう?
◆◆要素◆◆( )は質問番号です。アンカーを付けるのにご利用ください。
①水が嫌いです(2)
②掛け算九九ます(10)
③もうそろそろでおわります(15)
④いい質問です(20)
⑤真面目すぎです(22)
⑥必要あります(26)
⑦体毛が全て抜け落ちます(31)
⑧教科書に落書きします(35)
⑨よくもまあ です(41)
⑩偶像に過ぎません(44)
◆◆タイムテーブル◆◆
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が50個に達するまでor4/15(土)23:59
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 4/30(日) 23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後 ~ 5/7(日) 23:59まで
☆結果発表
5/8(月) 21:00(予定)
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!