嵐が過ぎ去った朝の事。
やっとの思いで見つけた探し物を、私はすぐに捨ててしまった。
いったい何故?
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こんばんは、第44回正解を創りだすウミガメの司会を務めさせていただきます、あひるだと申します。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
前回はこちら→https://late-late.jp/mondai/show/16499
6月にして猛暑が続く今日この頃、早くも夏バテ気味の方も多いのではないでしょうか。そんな時は、シェフの皆様渾身の創作スープで身も心も潤して参りましょう!
※「正解を創りだすウミガメ」って何?という方はこちらをどうぞ→https://late-late.jp/secret/show/d8MCaJqldjB6JV9SOlry2do4DhGUmmpYsCcIDbNu04c.
※主催からの連絡や「創りだす」への疑問はこちらをご活用ください→https://late-late.jp/secret/show/2wgwozfnBGIHYj6XOBB5pAp1m5T6aQIf2Ii8bKsEboA.
それでは、詳しいルール説明へどうぞ!
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[出題〜要素が50個集まるor23:59まで]
まず、正解を創りだすカギとなる質問(要素選出)をしていただきます。
☆要素選出の手順
①要素の投稿
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切りです。
または、出題日の23:59で50個に達していなくても締め切ります。その時点で投稿された要素が10個未満の場合は別途アナウンスします。
②要素の選出
選出はランダムに行われます。
選ばれた質問には「YES!」もしくは「NO!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※ただし、問題文や前出の要素と矛盾するものや、条件が狭まりすぎるものは採用されないことがあります。あらかじめご了承ください。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(不採用)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~7/14(木)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。文字数・投稿数に制限はございません。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖・ラテシン版)」も参考になさってください。
ラテシン版
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
らてらて鯖
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。複数投稿も可とします。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾には、「おわり」などの終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、本文・タイトル共に自由に編集していただいて構いません。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せしますが、長編である場合つける事をお勧めいたします。
※エントリーを辞退される際は、作品タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。
メイン投票は対象外となりますが、サブ投票の対象となります。
※投稿フェーズ終了後に投稿(=ロスタイム投稿)をされる場合、タイトルに<ロスタイム>と付記してください。
メイン投票は対象外となりますが、サブ投票の対象となります。
※少しでも気軽にご参加いただくために、今回の創りだすでも次回主催辞退制度を採用しております。
仮にシェチュ王を獲得しても次回の主催を務める時間・自信がない……という方は、投稿フェーズ終了後に設置される投票所にて、その旨をお伝えください。投票所の相談チャットにて「出題者のみに表示」にチェックを入れて書き込むか、主催までミニメールを送る形でも結構です。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~7/21(木)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。フィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!
☆投票の手順
①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
②作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿したシェフも、持ち票は3票とします。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。感想については、簡略なもので構いません。一文でも大丈夫です。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。こちらの投票数は「シェフ」と「観戦者」で共通です。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
またこれらとは別にサブ投票として「匠賞」「エモンガ賞」「スッキリ賞」を設けさせていただきます。
これらの詳細は投票会場にてご説明いたします。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[正解]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=一人の方からの複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。(投票者の頭数です。)
それでも同率の場合、出題者も事前に決めた3票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
◇◇ コインバッジについて ◇◇
シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…15c
投票参加賞……10c
要素採用賞……10c
上記の通り賞に応じてコインを発行する予定ですので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。
※「最優秀作品賞」および「最難関要素賞」については、1名分のコインコードしか用意がございません。
このため同率受賞の場合は、先に投稿された要素/作品の投稿者の方にコインコードを贈呈させていただきます。あらかじめご了承ください。
■■ タイムテーブル ■■
※状況に応じて変更の可能性もございます。
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が50個に達するor6/30(木)23:59まで
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 7/14(木)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後 ~7/21(木)23:59まで
☆結果発表
7/22(金)21:00予定
毎度恒例、長い説明にお付き合いいただき、ありがとうございました!
細かいルールについては、そのフェーズが始まった時にでもご確認ください。
これより、第44回正解を創りだすウミガメを開始いたします!
まずは要素投稿フェーズです!お忘れなく、要素投稿は1人4回までですよ!
それでは、よーい…………
スタート!!!
結果発表~!
要素の難易度を考慮し、今回は要素10個の内【8個】は使用するよう設定させていただきます。もちろん9個~10個の使用も可能です。
↑(追記)「~個以上」の定義が不安だったので文章を訂正しました。
これより投稿フェーズに移ります。
投稿フェーズの締切は7/14(木)23:59です。
要素一覧をまとメモに載せましたのでご活用ください。[編集済]
①投稿作品を別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、コピペ等で一挙に投稿するようお願いします。
②投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
③まずタイトルのみを質問欄に投稿し、その次の質問欄から本文を投稿してください。
④本文の末尾には、「おわり」などの終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せしますが、長編作品である程つける事をお勧めします。[編集済]
クレバスは、いつも見えないところにあって、登山家はいつの間にか落ちている。誰のせいでもなく、そこにそれがあったというだけ。
私が堕ちていったきっかけも、ただそこに火種が転がっていたからというだけ。そう言い聞かせても、別に気が晴れるわけではなかった。
三崎悠里。私はついこの間まで、普通の女子大生だった。普通の大学で、普通の成績で、普通のサークル、「普通」のバイト。唯一自慢できたのは、素敵な彼氏がいたことだった。
バイト先は、有名なカフェの地元支店。「普通」の同僚に囲まれ、恙なく暮らしていたはずだった。
クレバスは、その支店が運営する公式インスタの、一つの誤爆だった。店内の混雑具合や新メニューのポップ、そしてバイト求人といった極めて無味乾燥の投稿ばかりだったのに、ある日突然、淫らな募集の掛かった投稿があった。
反吐が出るので内容は伏せるが、本来だったら裏アカみたいなところで投稿され、夜の街で内々に行われるべき、褒められたものではなかった。
インスタ担当の一人だった先輩が後に気づき、すぐに謝罪と共に削除したが、文面の露骨さが綺麗な雰囲気のカフェに合わず「面白かった」のか、瞬く間に拡散された。
その噂は大々的に、もちろん私の大学内でも広まっていったのだが、ここで彼氏がそれを知ってしまったのがいけなかった。
今でも私は、その誤爆を誰がやってしまったのか何も知らない。しかし、その炎上騒動が起こったカフェに私がバイトしていたこともまた事実だった。彼氏は執拗に私を疑った。
私たちはそれでずっと、したしてないの言い争いをしたのだったが、彼の視野はあまりに狭く(38)、私を信じてくれることはなかった。私たちは遺恨の残ったまま別れた。
彼はその被害妄想を、大学の面々にぶちまけた。彼は話が上手だから、周りに友達を欠くこともない。大学ではすっかり、私が「そういう人」だという容疑が定着した。
面白がってからかう人、勝手に落胆する人、心ない言葉を浴びせる人。様々な中傷が飛び交ったが、当然それは私の耐えうるものではなかった。まずはバイト、そしてサークル、授業、果ては、大学。
心を壊した私は、もう大学に在籍していられる余裕がなかった。一浪までして入った手前、家族にはひた隠しにして三ヶ月は持ったが、魔法が解けるとこれ以上ないくらいに怒られた。
空白の三ヶ月で、心を壊し生を持て余した私は、競艇で仕送りのお金をあらかた溶かしてしまったのである。最初は冗談のつもりで、よくある小説の破滅の人生をなぞって面白がるくらいのつもりだったが、いつの間にか本物になった。親からは勘当扱いされ、持てるものを全て失った。
それが3年前。今の私は、なんの希望もない25歳だ。人と話さないバイトで稼いだお金で、安い家賃を払ってアパートに一人。部屋には、埃被った再受験用の参考書が積み上がっているだけだった。両親とは長らく連絡をとっていない。いつも一人だった。
クローゼットを開け、一応外行き用のダサイパーカーとズボンを取り出す。中にある姿見には、3年前に女子大生をしていたとは思えないような醜悪な人相が映っていた。美容院に行っていないというのもあるが、卑屈な性格が顔に出るというのは本当なのだろう。私はスマホも持たず財布だけ持って、家を出た。
生を終わらせるつもりだった。それで平日都内の山に来たのだが、外は嫌に湿気った雰囲気だった。
鬱蒼とした山には人気がなかった。私は奥深くへ進んでいく。サークルのメンバーで一度、山にハイキングに行ったことが余計に頭をよぎる。思い出したくもないのに、その中の一番の親友の紗奈の顔が浮かんだ。彼女なら、私の味方になってくれたのだろうか。今どこで、何をしているだろうか。
雨が強くなっていく。私は山内の軽い崖坂に来た。ここからなら、上手くいくのか、ぼんやりと考えた。
そこで、雨風が強く吹き抜けた。崖に落ちる方へ向けて、風圧に引っ張られる。近くの木の幹を掴んで、落ちるのだけは耐えた。
強風に逆らった私の足は、がたがたと震え続けた。目の前にした墜落に、弱い私が戦かないはずはなかった。
生きたい。なんの希望もないのに、本能だけがどす黒く全身に谺した。
強まる嵐の中、私は下山していき、やっと地上の公道へ出た。時刻は夕方。郊外といっても、帰路に着く人々がまばらにいた。
嵐は、人間不信の私に、なぜか人を確認できたことを安堵させた。
帰ったら、親に電話して、再受験や就職について相談しよう。錆びた頭で、虚勢みたいに思った。それほどに、本能は強いものだった。
その瞬間。
嵐が私の身体全体を襲った。
あまりに強い勢いに、咄嗟の反応もつかず吹き飛ばされる。それはまるで、自分一人では抗えない大衆の号哭を一身に受けるようだった。
いや、大衆ではなく、”たった一人”の3年ぶんの慟哭といった方がいいのかもしれない。私は、押し寄せる嵐ではなく、単に内包した別の本能に押し流されていたのだろう。
人は疎な住宅街で、そこには一人の女子高生がいた。彼女も強い嵐に吹き飛ばされそうになっていたが、私にはない傘を盾になんとか耐えているところだった。
押し流された私と、衝突するまでは。
あとコンマ数センチの差(10)で、このあとの運命は変化していたかもしれない。当たりどころが少しでもずれていれば、とそう思うのも自然だろう。
激突した私たちは、強い流れに逆らえず、近くの電柱に「堕ちる」まで止まらなかった。
私たちは、互いの頭を撃って気絶した。
薄らいでいく意識の中、私は幻覚を見た。
傘を差した紗奈が、私に手を差し伸べる。私は咄嗟に手を取ろうとしたが、やめた。
私はもう、借り物のレインコートを着ているからだ。あの時助けてくれなかった紗奈のことなど、脳裏にないと言い聞かせた。
紗奈は、さっきの女子高生に傘を差した。
丈夫な傘は、レインコートよりも雨を凌げそうだった。
私は気絶した。
——
私は目を覚ました。
どれだけ気を失っていたか見当もつかない朧げな頭をどうにか起こし、体勢を上げようとした。
瞬間、違和感をいくつも覚えた。
気絶したのは電柱の側だったはずだが、見知らぬ部屋にいる。自分で雑に切り揃えたはずの髪の毛が、さらさらと真横を通過する。日の明かりに向かって伸ばした手は、なんの手入れもしていなかったはずなのにネイルが煌めいていた(6)。荒れてもいないし、どことなく白く透明感があった。
覚めない身体でとうとう起き上がると、部屋の隅にある姿見が見えた。
使命感に駆られるように、それに近づき、見入る。
姿見越しの全身が、目に映った。
部屋の外では、過ぎ去った嵐の隙間を縫うような、束の間の炎天が地面を燃やしている。
私はあの時の女子高生の姿になっていた。
………
早朝に起きたものだから、一晩中気絶していたのに、「私」の家族の目を盗んで外に出られた。
あれから何回と姿見を見たし、ひょっとしたら姿見がおかしいのかとも思って洗面所を見つけ出したが、私はやはり私でない誰かになっていた。
桜井アリス紅。16歳の高校生だった。ハーフらしい整った顔に、私の醜悪な瞳が収まっているのが不自然で、この状況の数奇さを語った。
今日は平日だが、私は学校ではなく昨日使った駅へ直向きに走っていた。
こんな、ファンタジーの世界が現実になっていていいのか。混乱するより先に確保しておくべきものがある。
私の身体。
私の身体は一体どうなってしまったのか。今頃着ぐるみみたいに、「この」女子高生が中で操っているのだろうか。この女子高生は何者か。それがわからなければ、混乱が混乱のままになってしまう。
「彼女」の行方を追って、まず最寄駅に来た。そこにはいなかった。
続いて街のショッピングモールが開店すると、隅々を訪ねた。そこにもいなかった。
私は一体何をしているのか。頭が冴えてきてそんな気持ちになるが、ブティックのショウウインドーに映る「自分」を見て思い直した。
鏡が自分を映していないというのは、想像を超える違和感だった。昨日、外出前にクローゼットの姿見で見た本来の自分と重ね合わせる。ダサくて陰険な自分と違って、制服がよく似合う美麗な女の子がそこにいる。私は大学で、テスト前に借りた友達の授業ノートを思い出した。別に下手でもない私より遥かに上手い字に、蛍光ペンで良く整理された要項。バッグの中にしまうときに気を遣ってしまうようなぎこちなさが、今の「私」とそっくりだった。
きっと「彼女」も、同じ気分で街を彷徨っているはずだ。途方もなく広いこの街を、私は駆けた。「自分」という、大事な探し物を追いかけた。
午前10時。再び戻ってきた最寄り駅で、私は発見した。
駅のベンチに腰掛け、項垂れるパーカー姿の女性。顔がよく見えないが、私かもしれない。
ショッピングモールでも二、三と同じことを思って不発に終わった経験から、今度は遠巻きに様子を窺う。その「余裕」が、私を狂わせた。
彼女は顔を上げ、持っていたペットボトルのお茶を飲んでいた。
それは初めて第三者を通してみる、紛れもない「私」だった。
私は激しい絶望に襲われた。
心に鋭い篠を刺された感覚に、襲われた。
先ほどまで慣れないとも言いつつ、綺麗な女子高生の身体を動かしていたのがよくなかったのかもしれない。駅のベンチに独り座す「私」の醜悪さは、見ていられないものだった。
髪が汚いとか、服がダサいとか、そういう話ではない。人間不信になった私の心が表出した陰険さが、外面にも十全に滲んでいたのだ。
唯一それを感じさせないのは、まっすぐで純真な瞳。多分あの中には、「この」女子高生がいるのだなという冷静な視座と同時に、もしその瞳すら、私のものとなっていたら、と考えて耐えていられなかった。
傍目から見た自分は、大学で世間体ばかり気にしていた私には受け入れられない現実だった。
どうしてこうなってしまっただろう。脳裏を過ったのは、小さなヒビの重なった、あの大きなクレバスだった。
そうだ、私は運が悪かっただけだった。それだけで、「あんな風」になってしまった。
そう思うと、「私」に話しかける勇気は出なかった。
躊躇っていたその時、その声がした。
こうちゃーん!!
私の全てを変えさせた、その声がした。
紅ちゃん!やっほー!
ていうか、なんで制服なの?今日創立記念日だよ?
多分ぎこちない顔をする私に、いや、「桜井アリス紅」という女子高生に話しかける女の子に、私は…。
あ〜、なんか、『いつものクセで…。』
「私は」、恥ずかしげに笑って(27)返事した。
クセって、変なの〜。
そうして私はどんどん、あのベンチを離れていった。
そうだ、これはチャンスだったんだ。
自分の選んだ最悪の境遇という、邪魔なものがなくなって(41)、
女子高生という、なんでもやれる(25)立場になったということだ。
掛け違ったボタンは、レールから外れた人生は、これでひっくり返して元通り(23)になったのだ。
今更、あの「三崎さん」に話しかけて、彼女に干渉される方が面倒だし、またあの身体になるわけにはいかない。
朝をかけてやっと見つけた自分の身体。その探し物を、私は捨てることにした。
それを捨てて、今私は、新しいものを手にした。
友達の提案で、私たちはカフェに行くことになったが、道中、決して後ろは振り返らなかった。
駅を出ると屋根はなくなり、日差しが紅たちに降り注ぐ。
レインコートは、篠衝く雨を防げない。
今、激しい雨が降れば、紅はどうなってしまうのか、まだわからない。
—
【要約】
嵐に巻き込まれ、ある女子高生と入れ替わった私。
翌朝に自分の身体という探し物をやっとの思いで見つけたが、その瞬間、他人から見た自分のあまりに陰険な雰囲気に絶望し、元の身体に戻りたくなくなった。
結果、私は自分の身体と、それが負う人生を捨てることにした。
—
彼女たちはとある人とすれ違った。紅は気づいていないが、三崎悠里の一番の親友、紗奈が駅構内へと入ったのである。
駅の中で、紗奈は悠里を見つけるのか。八方塞がりの彼女を守る傘になっているのか。
紅はそれを知らないし、知ろうとも思わない。
紅の昨晩いた場所は、もう重要ではない(17)のだから。
[終わり] 要約込み字数4912字
借り物を盗んでかりそめの再起を果たした「私」は、果たして望む通りの未来を手にできるのか。そして、「私」となった彼女に救いの傘は差し出されるのか。
『レインコートは、篠衝く雨を防げない。』という一節が今後を暗示しているようで、とても深く考えさせられる作品です。
[編集済]
[正解]
そのくじを引いた瞬間は、自分はなんて運が悪いのか、と思っていた。
あの子と二人で森を探検だなんて、間が悪すぎるって思ったよ。
その数日前、お母さんが興奮気味にこんなことを捲し立てた。
明後日、キャンプに行けることになったよ!!
とあるネットサイトで11111番目(14)のキリ番を踏んで、記念品をゲットしたのだが、それがその時、私が参加していたサマーキャンプだった。
あ、時代を感じるとか言わないでね。だってまだ小学生の頃の話だよ?
サイトでもらったパスワードですぐさま応募し、私は一人その森林地帯にやってきた。
でも、小学校でも人見知りな私は、そのサマーキャンプに来ていた他の子たちとうまく馴染めなかった。ましてや、あまりにも弱気だったせいか、男の子集団にからかわれる有り様だった。
その集団を統べていたのが、噂の辰也くんだったってこと。多分普段の小学校でもお調子者で、周りにたくさんの友達を欠かなかったみたいな感じなんじゃないかな。
だからもう、一日目は最悪だった。一応、同じ班の女の子と仲良くはできたんだけど、辰也くん達の煽りラッシュを受け止めるのに精一杯だったよ。もう、早くこのよくわからないキャンプが終われ〜って気持ちで。強制参加だったしね。
それで、二日目が夕刻を通して森を探検する企画だった。そこで担当のおじさんは意地の悪いことに、一回班を解体しちゃったの。より多くの結びを作るため〜とか言って。
基本二人ペアになるようにくじを引いたんだけど、女の子の方が少ないから、まあ工夫しなければ男の子とペアになるのは確定でしょ。よりによって辰也くんと同じマークを引いちゃったと。
それからはもう最悪。一応そこの名所のデイジーの花畑を探すっていう目的あっての探検なんだけど、辰也くんは自由奔放だからもう、好き勝手色んなとこに行っちゃう。運動神経もその頃から悪かったから、ついていくので精一杯だった。
そして、ついに辰也くんは禁忌を犯した。
ここから先は行っちゃダメだよ、って設定されてた区域を越えて、森の繁る辺りまで来ちゃった。小学生向けのキャンプ企画で立ち入り禁止にされてるくらいだから、危ない区域だったんだろうね。
私たちは洞窟のあるところに来た。秘密基地、なんて小学生男子のロマンだろうから、辰也くんも興奮しっぱなしで洞窟を見ていたんだけど、流石に狭いから奥深くまで…というわけでもなく、一瞬で戻ってきた。
え、その時は私は入らなかったよ。辰也くんは自分ならなんでもやれる(25)みたいな自信があっただろうからずんずん探検しちゃうけど、私は真面目ちゃんだったから、早く安全圏内に戻りたくてそわそわしてたもん。あと、目的地のデイジーの花畑が見たかった。目標設定は大事だよ。
その時、つまり、辰也くんがちょうど洞窟から出てきた頃。
多分、辰也くんがはしゃいでいたのがよくなかったのかな。
外から見ていた私は、洞窟の入り口上から落石が起ころうとしているのを見た。
咄嗟だったから、危ない!と思ったのは良かったんだけど、辰也くんを押す方に庇った。あとコンマ数センチの差(10)で大怪我は免れたけど、お察しの通り私たちは、落石に塞がれて洞窟から出られなくなってしまった。
そこからはもう、私の大泣きコンテストだったよ。参加者一人に、観戦者も一人。あ、洞窟にいたクモとかカウントしちゃう?だったら衆人環視かな??
危ないところに侵入して、狭〜い暗闇に大人なしに閉じ込められたんだから、そりゃあ誰だって泣きたくなると思うけど。でも、そういえば辰也くんは最後の最後まで泣いてなかったな。私視点だと。
なんだけど、辰也くんはそんな私に素直に謝ったり、必死に慰めてくれた。一日目に散々からかってたのはどこいったってくらい、それは真面目に懸命に。
その頃外では、キャンプの担当のおじさん達も予測していなかった嵐が吹き荒れ始めていた。あっという間に大嵐になって、ますます出られなくなった。もちろん洞窟の中だから雨風はないんだけど、豪雨とか雷の轟音は中まで響いてくるし、私の目からも大嵐。
でも段々と、辰也くんの楽天家な言葉に笑わせられて、恐怖も克服していった。
あとは…あの洞窟が狭すぎた(38)ってのも大きいかも。狭い暗闇で男の子と二人きり、しかも相手は怖がる私を励ましてくれてるし…。
小学生の私が、そのギャップに落とされちゃうのも必然というかなんというか…。
それで結局、その日は夜通し洞窟で過ごしたよ。晩御飯抜いたのは、あの日以外ないかもしれないなあ。
…そりゃ、スペースがないから、二人で肩を寄せあって眠るしか…おい、興奮すな、二人ともまだ小学生だぞ。きゃーじゃないんだよ。
で、ここで昨日の嵐が味方してくれるんだけど、あまりに強い風だったから、夜通しの中で入口を塞ぐ岩が緩くなってたの。
そこからはもう、二人で一生懸命岩を押して押して、押して…。
ばーんっ!
岩が無事にひっくり返っていって、入口は元通り(23)。私たちの短い冬眠明けを阻む邪魔はなくなった(41)ってこと。
いや、漫画だったらここでハッピーエンドだろうけど、私たちまだ、森林の中を迷ってるままだからね。二人の勘で遭難しながら歩いていったよ。
元々、キャンプに合う森林だってくらいだから遭難なんて滅多にしなかったとは思うけど、そんなこんなで朝の刻、無事にゴールの花畑に着けた。お腹も空いてへとへとだった私たちにはもうぴかぴかになって(6)見えたよ。ちなみにキャンプの担当の人たちはその時いなくて、後から来て信じられないくらい怒られた。主に辰也くんが。
ずーっと探してたデイジーの花々に囲まれて、ようやく私は安寧の心を戻したわけだけど…。
ここで質問。平穏が戻って生まれた心の余裕、すぐそばには吊り橋効果的なので撃ち抜かれた大好きな辰也くん、そして「ちょうど良さげな」デイジーの花。これなーんだ。
一輪持ち帰ろうと手に取った花を、私はすぐに捨てちゃった。
好き、嫌い、好き、嫌い…。
好き。
最後の一言が少し聞こえて、辰也くんが振り向いて何してるの、って聞いてきたけど、私は多分恥ずかしそうに笑い(27)ながら、内緒って言っておいた。
…と、これが私の初恋の話。
…感想戦はいいから、早くそっちのも吐きなさい!!
【簡易解説】
デイジーの花を探していたのに、色々あって森の洞窟に閉じ込められ夜を明かした「私」。嵐のおかげで脱出でき、朝になってようやく探していたデイジーの花を見つけたが、それは好きな子の花占いに使ったので、すぐに地面に捨てられた。
おわり。(2544字)
少年少女の小さな冒険と、甘酸っぱい初恋を彩るデイジーの花畑が目に浮かぶ、心暖まるお話。いらないから捨てるのではなく、使った結果として捨てるという問題文の使い方が巧みです。
この恋の結末が気になりますねえ。
[編集済]
【簡易解説】
嵐で遭難し、無人島に漂着した男は、脱出しようと救命ボートを探していた。しかし、時を同じくして男のストーカーである「私」も漂着していて、男と二人きりで過ごすために、救命ボートを海に流してしまった。
【長い解説】
思えば、俺があんな豪華客船に乗れるなんておかしかったんだ。
珍しく近所の商店街で買い物をしたら、たまたま抽選券をもらった。
それでくじ引きをしたら、たまたま特賞の豪華客船で一泊二日の旅のペアチケットが当たった。
実感がわかずに放置していたらいつの間にかチケットを1枚なくしていた。
そして気付けば当日。もったいない精神で俺は豪華客船に乗り込んでいた。
世間は夏休みのはずなのにどうにも乗客が少ないと思っていたが、賢い人はどうやら天気を心配してキャンセルしたらしい。なんでも、嵐が近づいているとかいないとか。
そんなことにも気を遣えない俺自身にほとほと嫌気がさす。
まあ、俺の人生に意味なんか無いわけだから、嫌気がさすことすらおこがましい。
■■■
小さい頃から、3つ上の兄と一緒に水泳を習っていた。思えばあの頃はまだ毎日に意味を見出せていた。
練習はつらかったものの、大きな大会に出て優勝する達成感は格別だった。
気付けば兄は中高6年間、全国大会に優勝し続けるという偉業を成し遂げていた。
初めて一緒に出た市の大会の表彰式では⑦恥ずかしそうに笑っていた(27)のに、全寮制の強豪校に入学する頃にはすっかり一人前のアスリートのように自信に満ちた顔をしているのをテレビの特集で見た。
一方の俺はというと、兄が高校に入ったと同時に、中学生の大会で『あの3連覇スイマーの弟』と期待のまなざしで見られるようになった。
…結果からいうと、それに耐えきれなかった。
1年生の頃は──前評判に周りの選手も恐れていたのだろう──なんとか優勝できてしまった。それで余計に期待がのしかかった。
兄はもちろんインターハイでも優勝を飾り、2人そろって注目されることが増えた。
その頃からだろうか、あんなに打ち込んでいた水泳に何の面白みも感じなくなり、水の中にいることがただただ苦痛になった。
それでも、自分には水泳しかないと言い聞かせ、2年生になってもなんとかギリギリで全国大会に出られる成績はキープした。
そして、全国大会当日。
注目されていた俺を取材するためにテレビやら雑誌の取材陣がいたのを覚えている。
そこから決勝戦の飛び込み台に乗るまでの記憶が一切ない。
決勝戦に出ているわけだから、予選は勝ち抜いたはずなのに何も思い出せないのだ。
はっと気づいたときにはスタートの合図が鳴っていた。
他の選手の飛び込む音が聞こえ、俺も続けて飛び込む。内心はまったく落ち着いていなかったが、十数年泳ぎ続けた体は無意識に手足を動かす。
もはや勝負など関係なかった。早くプールから出たい一心だったのかもしれない。
ようやくゴールに触れた瞬間、会場が無音になった。その後、周りのざわめきが耳に入る。
「……ただいまの判定、1着は、」
審判席から聞こえた声が呼んだのは俺の名前ではなかった。
プールから上がり、記録を確認する。時間にして0.01秒差。距離にして②コンマ数センチ差といったところか(10)。たったその差で、俺は優勝を逃した。
それが俺の最後のレースだった。
■■■
1年後。
実家のリビングには⑧兄の6つの金メダルと俺の金メダルと銀メダルが1つずつ飾られることになった(31)。
水泳で結果を残せなかった俺は、世の中のすべてに絶望した。
こういうと「それだけのことで?」とも言われそうだが、水泳一筋だった中学生の俺は、世間一般の中学生男子よりも視野が⑨狭すぎたのだろう(38)。
なにもかも終わってしまったと思った俺は、そこから何をする気力も起きず、ただただ流されるだけの生活を送っていた。
気付けば、自分の人生に何の意味も見いだせないまま、20歳もすぎていた。
この豪華客船に乗ったのは、そんなときのことだった。
(死にそうになると走馬灯を見るって本当なんだなぁ)
俺は砂浜で伸びをし、①ぴかぴかと光る太陽に目を眇めながら呑気に思う(6)。
豪華客船は案の定、嵐に巻き込まれ遭難した。
船体に穴が空いたとかで、一か八か救助ボートに乗って避難を試みた無謀なやつらがいた。
…俺はどうしたんだっけ。もはやそれすら曖昧だが、確実なのは俺がこの砂浜に打ち上げられたということ。
意識が戻ったときは暗かったので、岩陰で夜を明かし、輝く朝日を頼りに行動を始めることにする。
とりあえず、救助を待つにしろ、この場所から移動するにしろ、周りの様子を窺おう。今が夏でよかった。凍え死ぬ心配はしなくていい。
そう考えたところで、自分に生き延びる意思があることに気付き、自嘲する。
(案外しぶといもんだなぁ、俺)
乾いた笑いを漏らしながら、砂浜を歩く。
道路や看板などの人工物が見当たらないことから、ここはよほどの僻地か無人島のように思えた。
(人に助けを求めるのは無理そうだな… ん?俺がここに流れ着いたということは、あいつらが乗っていったボートも流れ着いているのでは…?)
一縷の望みをかけて、とりあえず海沿いを歩けるかぎり歩くことにする。
何か見つかるといいが。
■■■
どれくらい歩いただろうか。とてつもなく長い時間歩いた気もするが、太陽の位置から考えるにまだ朝と呼べる時間帯だろう。
(あの岩まで行って何もなかったら休憩しよう)
そう思い、力を振り絞って歩を進めた。
岩の後ろを覗くと、オレンジ色のボートらしきものが転がっている。
(あれはもしや…)
おそるおそる近づくと確かにそれはゴムボートだった。船底が上になっていたため、⑤ひっくり返す(23)。ざっと見るに、破れている部分はなさそうだ。
(オールの代わりになるものがあれば乗れるのでは?)
この状況に希望を見出していることに、もはや嘲笑はしなかった。
…彼女が現れるまでは。
◇◇◇
あ!ひろくん!やっと見つけた~!!なかなか見つからないから焦ったんだよぉ!!商店街のくじ引きに当たったときからずっと誘ってくれるの待ってたのに、いつまでたっても何も言ってくれないからついつい合鍵でおうち入ってチケット持って帰っちゃった(・ω<) テヘペロ あれ?私のこと忘れちゃった?嘘だよね?中2の全国大会のときに帰りのバスで一緒だったじゃない?あの熱戦に感動してついつい話しかけちゃったんだけど、あれ以来ずーっとひろくんのこと見てきたんだよぉ!!私は友達の応援に行ってたんだけど、そんなの吹っ飛ぶくらいの名勝負だった!!あれから水泳の雑誌とか見ても情報乗らなくなったし、大会に行っても出てないから心配してひろくんの学校まで行って水泳部の先生に話聞いて、辞めちゃったって聞いたときはショックだったなぁ>< でもそのときに決めたの。
「今後は私がひろくんのことを支えよう、⑥そのためにはなんでもしよう(25)」って。それからずーっとひろくんのことを見守ったり、お家のお掃除したり、変な女が近寄らないように監視したり、色々してきたの!そしたら一緒に豪華客船旅行に行くチャンスが来たから、張り切っちゃった( ´艸`) 本当だったらお天気が心配だったからキャンセルしてほしかったけど、どうしても一緒に行きたかったから! 結局、嵐に遭っちゃったけど、なんとか同じボートに乗れるように頑張ったから同じところに着けて本当によかった~!!ここ無人島みたいだから、これでやっと⑩邪魔なものがなくなったね(41)!あ!このボートもいらないから私が流しちゃうね!えーいっ!
いきなり現れた女の勢いに押されている間に、彼女は救助ボートを沖に向かって押し出していた。我に返った俺はボートを取り戻そうと、海に入っていく。流れが案外速いようで、もう泳がないと追いつけない距離までボートは流れてしまった。
(仕方ない、さすがに行けるだろ、俺…!)
泳ぐ覚悟を決めたそのとき。
「ひろくぅーん!!無理はよくないよぉ!!もう何年も泳いでないでしょ??戻ってきたら私がひろくんのために尽くしてあげるからぁ!! …それとも一緒に海の藻屑になる?私はそれでもいいよ?」
その言葉につい動きを止め、足が勝手に島の方へ向く。
あの大会以来、誰も俺を見てくれなかった。水泳しかない人生を送っていた俺から水泳がなくなったら、自他共に認めるクズ人間の完成だ。親も、友人も、世間も。誰も俺に関心を持たなかった。そして、俺すらも。
今回、漂流したのは、彼女に出会わせるために神様がくれたチャンスなのではないか。俺のことを一心に見つめてくれる彼女と、今後の人生を共にするための。
正直、彼女との出会いは覚えてないし、彼女の正体も、どこから来たのかも、⑩本当に昨日の夜まで同じ船に乗っていたのかも分からない。
…でもそんなのは些細なことだ(17)。2人のこれからの方がよっぽど大事だ。これからは、彼女と、ともに。
砂浜に佇む彼女の顔が見える距離まで近付く。
彼女もこちらに駆け寄ってくる。
目が合い、
伸ばした手が触れ合ったとき。
──ひと際強い波が2人を攫っていった。
≪終わり≫
本文:3541文字
使用要素:①②④⑤⑥⑦⑧⑨⑩
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果たしてこれは運命の相手に出会った……と言えるのか。あからさまな「私」と、そこはかとなく漂う主人公の狂気が恐ろしくも哀れな複雑な関係です。最後に波に飲まれた二人は、私の望み通り海の藻屑になってしまうのでしょうか。 [編集済]
簡易解説
水平館で起こった殺人事件を解決しようと考える探偵とその助手だったが、被害者と犯人の立場をそれぞれ考えた結果被害者に同情してしまった探偵は、犯人を決定付ける証拠品を自ら探し出すと、それを見つかりにくい場所に捨てなおすように助手に指示する。
その目的は、犯人に証拠を見つけたから早く自首した方が良いと促すことだった。
わざわざ証拠品を捨てさせた理由は、犯人がそれを強引な手段で回収できないようにするため。
*
嵐の夜、水平館で発生した殺人事件。被害者は館の主人、犯人は不明、嵐の夜の犯行故に館には外部からの侵入者はあり得ない。館へ繋がる道はその全てが奇跡的に土砂崩れによって塞がれているのだ。つまり、その場に居合わせた者以外に犯人は存在しえないという状況。
運悪くそこに居合わせた私と先生だったが、探偵稼業を生業としていることをその前の晩皆に伝えてしまっていた先生は特に刑事事件に詳しいというわけでもないのにも関わらず事件の捜査を主導することになってしまった。
さて、そんな状況で「土砂崩れで警察が足止めを受けている間に事件を解決させたい」と言いながら先生が藪の中を漁り始めてもう一時間が経過しようとしている。流石にもうやめておいた方が良いのではないか、私がそう声をかけようとしたとき。
「……あっ」
先生の指差したその先には明らかに地面を掘り返した痕跡。入念に土を戻して元通りにしているが、先生の目は誤魔化せなかったらしい。⑤(23)
「やっぱりメイドか」
土を被ったそれを先生が軽く拭くと、キレイに手入れをされていたはずロケットがその姿を露わにする。館のメイドが身に着けていたものだ。
館の全ての人間が見覚えがあったであろうそのロケットの中には僅かに残った薬物であろうものの痕跡、狭すぎる構造故にそれに塗れてしまい写っているのが誰なのかも判別できない写真を見て、私と先生は二人で静かに顔を伏せる。⑨(38)
あんなに優しい彼女がこんな凶行に出た動機、その情動の強さを既に私たちは知っている。そもそも、私たちはこの館の主人が殺される前に主人から依頼を受けここに来たのだ。「私を殺そうとしている人間を炙り出してほしい」という依頼を。
「物証は得た……状況の確認も欲しいところだが、これだけの証拠があれば最早アリバイ潰しは必要無いな」④(17)
先生はロケットを手に取り立ち上がると、すぐさま館へ足を向ける。
物証が出てしまったのなら、事件は解決だ。後は皆を集めてことの全てを告げるだけ。なのだが、先生は一旦そこで足を止めた。
「助手よ、このロケットは目立たない場所に捨てておけ」
私はただ無言で頷く。先生がこれから何をする気なのかは知らない、証拠品を持たずに私に捨てさせるということは、きっと先生がこれからすることは単なる告発ではないのだろうと、それくらいならば予想できた。
「わかりました」
先生が望むのであれば、私はなんでもやります……やれます。その言葉は飲み込んだ。それを告げると先生は少し悲しそうな顔をするのを知っているから。⑥(25)
捨てておけ、と言われたがこれはメイドが大事にしていた思い出の品だということを私は知っている。そう無下には出来ない。
洗面所でハンカチを濡らし、ロケットの汚れを綺麗に拭き取った後、私はそれをハンカチで綺麗に包み込み窓から放り投げる。この場所なら大丈夫なはずだ。①(6)
私が先生の部屋へ戻るまでそう時間はかからなかったからか、先生はまだ何かの準備を進めている最中だった。
「早かったな」
「捨てるだけでしたので」
私はなるべく音をたてないようにしながら紅茶の用意を始める。横目に先生の様子を見ると、紙に何かを書いている。
気にしすぎると先生もこちらを気にするだろうと思い直し紅茶に視線を戻し集中する。ガラス越しに踊る紅茶の茶葉を見ながら考えるのは、先生がこれからしようとすることは果たして先生の身を危険にさらすことなのではないのか、ということ。
先生は歳の近い女性相手ということもあってか明らかにメイドに対して同情的だった。もしメイドのために危険な行動に出ると言い出すのなら、私はどうすれば良いのだろうか。どうしたいと思うのだろうか。
「紅茶、淹れ終わりました」
そんな考えを巡らせながら私は紅茶をカップに注ぎ先生の手元へ置く。その間もやはりなるべく紙に書かれている内容は見ないようにしていた。
「助手」
「……どうしました?」
先生は何も言わず、私に紙を見せる。内容はただの事件の犯人の告発文。少し普通と違うのはその告発文が犯人に宛てられたものであることと、全体の内容が自首を促すものであるということだ。
「先生、これは」
あなたは彼女の殺意を肯定するのですか?あなたがやっていることは非常に危うい行動です、危険を伴います。彼女のことがそんなに気に入りましたか?どうして私にこれを見せるのですか。
様々な言葉の濁流が溢れて零れ落ちていく。脳という器に残るのはいつも「先生を否定したくない」という思いだけ。
「とても、良いと思います。彼女はどの目線から見てもあの主人の行動の被害者の側面を持ちますからね。先生がそう望むのであれば」
複雑な思いは全て笑って誤魔化す。そうすれば、先生はいつも深く追求しないから。
「君はいつもそうだな。まあ良い」
軽くため息を吐きつつ先生はそう言うと私の手から紙を取り上げ、紅茶を一息で飲み干し扉を開けた。
結論から言うと、事件は解決した。告発文を読み証拠が持ち去られたことを確かめたメイドが、屋敷の者全員を呼び出し自らの罪を告白したのだ。
私たちに事情を全て話したメイドはどこか晴れやかな表情で、次の日やって来た警察官たちに自首をし連行されていった。
その時なのだろう。私が捨てたはずのロケットがメイドの首にかかっているのを、先生が目にしたのは。
「助手よ」
「どうしました? 改まった顔で」
先生はずい、と私に身体を寄せる。互いの息が触れ合うほどの距離に私は目を逸らし、顔の紅潮を抑えるため脇をぎゅぅとしめる。②(10)
「私はロケットを目立たない場所に捨てろと言ったはずだ。そう伝えれば君はちゃんとメイドが見付けられないような場所に捨てると、そう思ったんだ」
そう、私は彼女のロケットを”目立つ場所に””目立つ方法で”捨てた。理由は先生の身をわざわざ危険にさらす必要は無いと考えたから、他の人あるいは犯人自身がそれを見付け手を回すようにしたかったから。
もしもこんな事件で先生が犯人から恨まれることなどあったりすればそれは今後邪魔にしかならない。別の人間から先生が証拠を隠匿した罪人として告発されるなど以ての外だ、だから私はその可能性を排除しただけのこと。
私はそれだけ、先生のことを大切に想っている。多少の犠牲は、先生にとって邪魔なものを排除するためなら気にならない。⑩(41)
だけどそれは知られたくはない。先生のために私がすること、その思惑を知られたらきっと先生は私に失望するから。人殺しに自首を促すような優しい先生に、私の考えは知られたくない。
「どうして彼女の手にロケットはあったんだ?」
「さあ、何ででしょう? 私にはわかりません」
だから私はいつも笑って誤魔化す。自分の排他的な思惑も、顔の紅潮も、先生への想いも。⑦(27)
たとえ勘付かれていたとしても、それは決して自分の口からは語れないものだから。
まるで罪人みたいな心境だな、と私は一人廊下で静かに笑った。
いつか私も、あのメイドのように語れる日は来るのだろうか?
終わり
使用要素:①②④⑤⑥⑦⑨⑩
文字数:2851
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優しすぎる探偵、探偵を想うが故に暗躍する助手、同情に足る事情を抱えた犯人、きな臭い被害者。この場合、真の罪人は誰なのでしょうか。天秤が傾くように不安定な各々の立場が巧みに表現されている作品です。 [編集済]
ひどい嵐の夜のことです。
スライミーは、昼間の悪ガキどもの言葉を思い出していました。
「お前、自分の家持ってないだろ!」
「今住んでるところ、暗くて湿っぽいよな!」
「帰れ、帰れ、家なしスライミー!」
強い風と雷の音が、沈んだ気持ちをさらに大きくさせます。
「どうしたの? 眠れないの?」
お母さんに聞かれたスライミーは、泣きながら昼間のことを話しました。
「そう。 それは悲しいし悔しかったわね。 そうだ、お母さんがいいお話をしてあげる。 これを聞けば悲しさも悔しさも飛んでいっちゃうわよ! それじゃ、始めるね。。。 私の名前はスライミー!」
スライミーは思わず声をあげました。
「スライミー? 私とおんなじ名前」
「ふふ、そうよ。 あなたと同じ可愛い女の子よ。 あなたと違ってカタツムリの女の子だけどね」
「えっ? カタツムリ?」
スライミーは少し複雑な表情を見せましたが、お母さんは気付かない振りをして話を続けました。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私の名前はスライミー
可愛いカタツムリの女の子なの。
自分で言うな!ってツッコミはいらないわよ。
ある嵐の夜、私は「早く嵐が過ぎ去らないかな」って思いながら家にこもっていたの。
でも嵐は収まるどころか、どんどん酷くなっていったわ。
それまではピカって、たまに光るくらいだったカミナリも、ピカピカって何回も何回も光るようになっちゃったの。①(6)
そしてとうとう「ピカピカ、ドッカーン」って、私のすぐ近くに落ちてきたわ。
もうホントびっくり!
あとコンマ数センチ近かったら感電してたんじゃないかしら。②(10)
外の様子が気になった私は少しだけ外にでてみたのね。
そしたらなんと、すごい突風が吹いて家がどこかに飛ばされちゃったの。
私は家を探して、飛んで行った方へ進んだわ。
しばらく進むと、大きな葉っぱの下にサイコロが2個落ちてたの。
なんと7のゾロ目でビックリ。③(14)
えっ?
7?
よく見るとテントウムシの兄弟が葉っぱの下で雨宿りをしているところだった。
「テントウムシの兄弟さんたち、私のおうちを知りませんか?」
テントウムシの兄弟は交互に言ったわ。
「昨日の夜はどこにいたのさ?」
「そこの近くを探せば見つかるんじゃないの?」
「おうちをなくしたのは、ついさっきなの。 だから昨日の夜にいた場所は関係ないのよ④(17)」
「だったら今日の夜はどこにいたのさ?」
「そこの近くを探せば見つかるんじゃないの?」
「おうちは風で飛んで行っちゃったの。 だから今日の夜にいた場所も関係ないのよ」
「だったら僕には分からないや」
「飛んで行った方を探せば見つかるんじゃないの?」
「そんなこと分かってるわよ!」
私は心の中で毒づきながらも、テントウムシの兄弟にお礼を言って先に進んだの。
すると、今度は裏返しになって手足をジタバタさせているカメさんがいたの。
カメさんは、しばらく暴れたあと、なんとかひっくり返って元通りになれたの。⑤(23)
私はカメさんに家を知らないか聞いてみた。
「家がなくなって良かったじゃないか。家なんてひっくり返ったあと戻るのに邪魔なだけだぜ。 それに家の中は凄く狭くて窮屈だしな」
カメさんはジタバタしていた姿を見られたのが恥ずかしかったのか、照れ笑いを浮かべながら話してくれたわ。⑦(27)
私はカメさんの話を聞いて、自分の家ってそんなに大事なのか考え直してみたわ。
「カメさんが言うように狭くて窮屈。それに、重いし、狭いところを通るときは邪魔になるし」
そんなことを考えながら進んでいたら、目の前に私の家が転がっていたの。
ようやく家を見つけた私の心は想像していたほどパッピーじゃなかったの。
入ってみた家の中は狭くって⑨(38)、案の定アンハッピーになっちゃったわ。
家から出てみると、邪魔なものがなくなった⑩(41)、そんな感覚だったわ。
ふと空を見上げると、嵐はいつの間にか過ぎ去っていて、私の気持ちみたいに晴れ渡っていたの。
私は自分の家だった小さな殻を見つめながら思ったわ。
「やっとの思いで見つけた家だけど、私にはもう必要ないから捨ててしまおう」
こうして私は、家に縛られた不自由なカタツムリから、自由に生きるナメクジに生まれ変わったの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はい、お話はこれでおしまい」
夢中で話を聞いていたスライミーは、声を弾ませながら言いました。
「お母さん、面白い話を聞かせてくれてありがとう! 私、元気が出てきたわ」
「それなら良かったわ。明るくなってきたし、お母さんはもう寝るわね」
確かにもう寝る時間です。
でも、スライミーは興奮して眠れそうにありません。
「お母さん、少しお散歩してきていいかな?」
「いいけど、あまり陽に当たらないようにね」
「うん、ちゃんと日陰を通るようにするわ」
「それから、いつも言ってるけど人間には見つからないようにね。塩をかけられちゃうからね」
「わかってるって!それじゃ行ってきます!」
昨日までの泣き虫のスライミーはもういません。
今ならカタツムリの悪ガキどもに何を言われても平気です。
スライミーは暗くて湿っぽい岩の陰から、明るくなってきた外の世界へ、元気に這い出でいきました。
(END)
[編集済]
出だしから当たり前のように人間の女の子だと思い込んでいたスライミーが、物語の終わりにナメクジだと明かされて驚きつつも納得できました。意外などんでん返しが隠された、童話の様に優しい作品です。 [編集済]
どうも、また会いましたね。俚諺屋でございます。
偶には昔話も悪くはないでしょう。これは私がまだ若かった頃の、かれこれ数百年前に見つけた俚諺でございますが、未だ売れずに残っている骨董品でございます。それでは、「七色の島に八尋の船」のはじまりはじまり。
―――――
『海を渡った遥かな果てに、七色の島があると云ふ。』
そんな話を真に受けて、私は幼い頃から漁師である両親の船に乗りながら水平線の向こうを眺めていた。そんな夢物語を私が真に追うようになったのは、齢8つの頃であったか。酷い嵐に襲われて、船は荒波に揉まれ私も意識を失い海に投げ出された。思えば、あの時私は一度死んだのではないかとさえ思っている。
次に目が覚めた時、私は海の上を漂っていた。運の良い事に船の残骸と思しき流木が浮いており、服がそれに引っかかっていたか、私はとにかくその流木にしがみつき助けが来るのを待った。しかし、そんな中遠くに大きな島がある事に気づいた。その島に向かい、私は一心不乱に泳いだ。幼き体で流木にしがみつきながらであったため、牛の歩みよりもゆっくりであったが、少しずつ確かにその島へたどり着こうとしていた。何時間泳いだことだろうか、日も傾きかけ空が茜に染まった頃に私はその島へたどり着こうとしていた。あと、数分といったところであろうか、島の奥に七色の光が見えたと思った瞬間に私は急な潮の流れに流され沖へと虚しく流されていった。②
その時に私の意識は一度途切れ、次に目覚めたのは大きな船の甲板の上であった。どうやら、私はその船に拾われたらしい。これもまた奇跡のような確率であるが、私はあの島が導いてくれたのだと信じている。落ち着くと、私はその船の見習い水夫としてその船の一員となった。だんだんと、時間が経つにつれ私が乗った船は海賊と言われる船である事を知ったが、私はそんな事は些末な事でしかなかった。私にとって一番重要な事は、あの七色の島にたどり着く事だったからだ。
その為にも私は必死に働いた。雑用から始まり、船を操る術を見て必死に盗み、ついには船長に気に入られるようになった。船長に拾われて干支が一巡りするほど経った、そんなある日私は船長に呼び出されていた。
「おい」
「何でしょうか、船長。」
いつも口数の少ない船長がより一層静かに見えたのは、きっと気のせいではなかった。それを示す言葉が追って聞こえたからだ。
「俺はもう長くない 船はお前にくれてやる 好きにしろ」
その言葉を飲み込むには数刻の時間がかかった。とても長い時間であったが、お互い無口な気性(きっと、そこが船長に気に入られた理由の一つであるかもしれないが)であったためかあまり気まずくはなかった。
「私を試しているのですか?」
「違う」
「では、本当に?」
「ああ」
その後、船長は船長室を出ていったが私はしばらく動けなかった。その間、外からは酷い罵倒やら物音やらが聞こえてきていたのを憶えている。
翌朝、船長は眠るように息を引き取った。本当に、唐突の出来事であった。
その日から、私は一気に海賊団の船長となった。なんでもできる立場になったのだ。⑥
そして、私はまず船員たちに七色の島を目指すと伝えた。反発は覚悟していたが、船長が私を指名した事が大きかったのであろう、ほとんどの反発は無く私を受け入れてくれた。
その日から、この船は海賊船から探検船となった。
私はあの日拾われた海域までまず移動し、七色の島を目指した。しかし、なかなか成果は出なかった。食料は私の記憶から漁師の真似事で糊口をしのげてはいたが、それでも船員の士気は下がる一方であった。
災難というのは、唐突に訪れるから災難というのであろう。私達の船は、ある日急な嵐に見舞われた。普段なら雲行きなどからある程度予想がつくのだが、その嵐はまるで無から出でたかのように急に訪れ、私達の船を襲った。甲板の荷物は全て流され、昔集めていた財宝やらもほとんどが流されてしまった上に嵐が収まり一息つけると思った瞬間に船が急な高波に襲われ転覆してしまった。皆、必死に泳いで船にしがみついていた。
そうして空を覆う暗雲が消え青空が見えた頃、私達は一つの島にたどり着いていた。
幸い船員の皆は無事であったし、積み荷は流され船もひっくり返っていたがまだ使えそうではあった。皆して
「邪魔な物がなくなってせいせいした。」⑩
だの
「船がピカピカになって掃除の手間が省けた。」①
「そもそも、あれらのせいで俺らの部屋が狭すぎたんだ。」⑨
だのと強がっていた。
しかし、私は自然と視線が島の奥に向いていた。島の奥に、七色の輝きがあったのだ。私が探し求めていた、七色の島にやっとたどり着いたのだ。しかし、何故か思っていたよりも満たされなかった…というよりも、何かが終わってしまうという名残惜しい気持ちの方が強かった。
きっと、私はもう七色の島そのものではなくそれを探すという行為に生きがいを憶えていたのだろう。今の私には、この島はもう必要ない。
「おい!野郎ども!船を押せ!出航するぞ!」
そう言って、船をひっくり返して元に戻し、皆に伝えた。⑤
「もう昨日いた場所はあてにならん、俺達はまだ見ぬ未来を目指す探検隊だ!進め!」④
そう、恵まれた仲間達に恥ずかしそうに笑いながら。⑦
以上が、私が遥か昔に集めた俚諺の一つでございます。本末転倒な場合は悪い意味で使われがちですが、案外悪い物でもないかもしれませんね。
「七色の島に八尋の船」
・まだ見ぬ未来を目指し過去にとらわれず荒波を進む事。
【簡易解説】
御伽噺であり、昔流れ着いた伝説の島を探し求めていた主人公は、嵐に揉まれ運よくその島にたどり着いた。しかし、たどり着いたことでその島そのものではなく伝説を追い求める事に生きがいを見出していた事に気づき仲間達を連れ、新たな伝説を探すべく旅立って行った。
―了―
[編集済]
七色の光は果てなき海へ。それほど長くはない文章の中に主人公の成長と、それまでの半生において求め続けた物からの解脱がうまく凝縮されています。
「七色」から「八尋」に繋がるタイトルもよく考えられていてお洒落です。
[編集済]
[正解]
投稿した皆様、本当にありがとうございました。
投票所設置までしばらくお待ちください。
ロスタイム投稿作品はメイン投票の対象にはなりませんが、サブ投票の対象となります。
ご投稿の際はタイトルに「ロスタイム」と付けて下さい。
【簡易解説】
昔男を殺し、咄嗟に山の穴に死体と凶器を投げ入れて埋めた私。
数年後、その山が嵐の影響で土砂崩れを起こした。
土砂崩れによって埋め隠した物があらわになってないか危惧した私は、嵐が過ぎ去った早朝にそれらを見つけ、今度は絶対に見つからないような場所へと捨てたのであった。
【以下簡易でない解説】
とある年、とある国の小さな町。
何十年、あるいは何百年遡っても例が無い。そのような嵐に襲われていた。
十日前、頭上が急に暗くなったかと思えば、あっという間に激しい雨に風が町中に溢れかえった。そしてそれらは弱まる気配を一切見せないまま現在に至る。
町中の人間は嵐を恐れ一歩も外に出ず、私もそうしていた。
雨音だけでなく、吹き荒れる風がとてもうるさい。所々隙間風が吹いている。雨漏りもしているかもしれない。果たして嵐が過ぎ去るまでこのボロ小屋が形を留めていられるだろうか。食料をたくさん購入してすぐの出来事だったので、飢えの心配は必要ないことが不幸中の幸いだった。
突如地響きが聞こえた。地震ではない。すると土砂崩れだろうか?
「土砂崩れ」
何気なく出てきたワードを頭の中で複数回反芻する頃には、私は冷や汗が止まらなくなっていた。
今から数年前。
仕事・人間関係・健康。何もかもが上手くいかず、まともな収入もごく僅か、食事も一日一回あれば良い方という有様。
むしゃくしゃした私は近くの街の賭場へ繰り出した。
まあこういうのはヤケになったら負けなので、結果は散々であった。
ポーカーもだめ。スロットもダメ。ルーレットだけはあとコンマ数センチ左に球が転がってたら大当たりだったんだが②(10)。
頭を抱えていたその時、場内で大きなどよめきが起こった。
周りを見渡せば、とある男が喜んでいた。奴のそばのスロットマシーンは7が三つゾロ目になっていた③(14)。大当たりだ。
やんややんやと野次馬が集う。周りにおだてられて奴は恥ずかしそうに笑っていた⑦(27)。
どうにも腹立たしい。奴と私は顔なじみだったが、仲が良いわけではない。むしろ真逆であった。
奴は私が住んでいる町から数キロほ離れた村の今は亡き前村長の息子であった。三人兄弟の末っ子ということもあってか親に甘やかされて育った結果、二人の兄とは違ってとんだロクデナシになってしまった。
金を稼ぐ運と実力はあったため村はおろかここら一帯で一番の稼ぎ頭にはなったが、それを台無しにするほどに人間性が悪い。
常軌を逸したレベルでワガママであり、全てが自分の思い通りにならないと気が済まない性格。その上心もノミほどに狭く⑨(38)、手にした大量の金も自分以外に使ったことが無い。
何であんな奴が人生上手くいってんだ。
そう悶々としていたら、いつの間にか奴を殺していた。
信じられないかもしれないが、本当にそうとしか表せなかった。
気が付いた時にはとある山の中腹にて、胸にナイフが刺さった奴が血だまりに倒れていた。
あとで知ったことだが、賭場から奴の村へ向かうにはこの山を通る必要があったのだ。どうやら奴の帰路の途中で殺してしまったようである。
だが当時は何故山にいるのかすら分からなかった。刺さっているナイフは自分の物なのに、手が血まみれになっているのに、本当に自分が殺したのかと疑問にすら思っていた。完全にパニックなっていた。
目の前には死体、ナイフ、金の入ったバッグ。
とりあえず前者二つをどこかに隠さねばならない。
辺りを見渡せば小さめの岩がある。ひっくり返すとやや深めの穴があった。
考えている暇はない。そこに凶器と死体を押し込み、先ほどひっくり返してどかした岩を再びひっくり返して元通りになるよう塞いだ⑤(23)。
ここら辺を人がよく通るのか、通るとして人目に付くのか。そんなことを考慮する余裕は無かった。
とにかく金を持ったバッグを持って誰にも気付かれないように自宅に戻り、家の床板を外してそこにバッグを置き隠し、あとはひたすら眠った。もしかしたら悪い夢を見ただけだったのではないかと祈りながら。
目覚めてあれがまぎれもない現実と悟ってからは何もかもが恐ろしくて仕方が無かった。人を殺すなんてもちろん初めてだし、こんな大金を所持していることももちろん初めてだった。
いつバレてしまうのか、バレたらやはり死刑になるのか・・・。
そう怯えながら半年が経った。
結局犯行は明らかにはならなかった。
当然行方不明になった奴の捜索はなされたのだが、そのあとすぐに村を飢饉が襲ったため、そちらの対応に追われることになった。私の町も含めた複数の地帯が対処に右往左往し、ようやく持ち直したころには奴の存在はほとんど朧気程度になってしまった。
元々奴の性格から村の人たちは捜索に消極的であり、現村長である奴の一人目の兄に至っては「邪魔者がいなくなってよかった」とすら言っていたらしい⑩(41)。
そういう状況で多少余裕が出てきたので、「とりあえずほとぼりが冷めてからこの町を離れよう。村も町も辺鄙なところにあるし、そこの数年前の『失踪』事件が一々掘り返されることもないだろう」と考えるようになった。
そのためには遠くに引っ越す必要があるが、例の大金を除けばほぼ一文無し。今あの金を使ったら流石に足がつく。であれば資金を得る手段は限られる。私は身を粉にして働く決意をした。
人間死ぬ気になればなんでもやれる⑥(25)、という話とは少し違うが、ある種の目標を手に入れたことで所謂どん底からは抜け出した。
そうして資金を貯めながら数年が経った。
私は窓から外を見た。雨のせいでロクに景色は見えなかったが、何となく例の山で起こっているような予感がする。
ようやく遠くへ逃げる算段が付き始めたころにこの嵐と土砂崩れ。
元々嫌われいた奴が『失踪』したところで詳しく捜査には乗り出そうとしなかった人たちも、『死体と凶器』が見つかったとなれば話は変わってくるだろう。
そうなればやることは一つ。
三日後も早朝。
夜中まで続いていた嵐は嘘のように過ぎ去り、地平線の先から空が青色に染まり始めていた。
やはり土砂崩れはあの山で起きていたようだ。
私はスコップを持つと、一心不乱に土砂を掘り始めた。
この山も別の広くてなだらかな道路が出来てからはほとんど使われなくなり、まともに作物も育たず鉱石も無い山には人一人住んでいなかった。土砂崩れも起こったとあればここら一帯を人が通りかかる可能性は限りなく低いだろうが、急ぐに越したことはない。
ようやく見つけた死体と凶器。数年も経てばだいぶ白骨化も進んでいる。
私は鋸を取り出すと、死体をぶつ切りにした。そしてそれらを強引にカバンに詰め込むと、いくつもの山を越えてある場所に着いた。
切り立った崖。そして数百メートル下を流れる川。私はそこからカバンを投げ落とした。
私が死体を捨てた場所へ至るには崖を降りるしか手段は無いが、この崖を構成する成分はかなり脆く、昇り降りするのは極めて危険であり、何よりそこまでする価値はあそこには皆無であった。
この崖には橋もかかっておらず、そこから見える景色も大したものではない。訪れる人がいればそれこそ道に迷った人くらいだろうが、そんな人がわざわざ崖から下を見下ろす真似はしないだろうし、仮にしたとしても数百メートル下のカバンには気付きはしない。万が一気付いたとしてもそもそもそれに気を止めたりはしないだろう。
私はようやく罪が発覚する恐れから解放されるのであった。
二月ほど経ってから遠くへ引っ越そう。そうしたらあの金で何が出来るだろうか。自分が思い付くことは全てが何でも出来る気がする⑥(25)。
自宅に帰る頃にはもう朝と昼の中間のような時間になっていた。
汚れまみれだったボロ小屋も、数日雨に晒されてたせいか妙にピカピカになっているようだった①(6)。
【終わり】
未曾有の嵐によって暴かれた罪。されど狡猾にそれを始末した主人公。
天運に味方され、輝かしい未来を手にした主人公の罪がなぜか今後明らかになるとは思えないのは私だけでしょうか……。
[編集済]
参加者一覧 16人(クリックすると質問が絞れます)
結果だけさらっと見たい方は投票所の解説をご覧ください!→https://late-late.jp/mondai/show/17060
ついにやって参りました、「第44回正解を創りだすウミガメ」結果発表のお時間です!!
今回は乱数の悪戯により難関要素が多く、問題文との相性から見ても難易度が高めになってしまったかと思います。
にも関わらず7名の方に作品をご投稿いただく事ができ、8名の方にご投票をいただきました!ありがとうございます!
サブ賞も多くあるため、サブ賞は各ジャンル一位のみ、最難関要素と最優秀作品賞はベスト3を発表していきます!
(投票所の方では全ての開票結果をまとめておりますので、そちらもどうぞ!)
早速発表いたしましょう!!まずは、最難関要素です!!
◇最難関要素賞◇
最難関要素賞に選ばれたのは……
🥇第1位(3票)
③昨晩にいた場所は重要ではありません(藤井さん)
④ゾロ目です(ぎんがけいさん)
方や根底にあるシチュエーションが重要ではないと否定され、方や数字が絡む上に条件が特定されるため純粋に使い所が難しい。
異なる理由から多くのシェフを悩ませた、こちらの二つが最難関要素に選ばれました。
藤井さん、ぎんがけいさん、おめでとうございます!
それではサブ賞の発表に移ります!
まずは匠賞から行きますよ!
最も皆様を唸らせたのは、この作品だっ……!
◇匠賞◇
🥇第1位(3票)
⑤『七色の島に八尋の船』(作:OUTISさん)
⑦『タイトル「タイトル考えてる余裕が無かった」』(作:シチテンバットーさん)
OUTISさんの作品は後半における息もつかせぬ伏線回収が巧みです。
シチテンバットーさんの作品はロスタイム投稿ですが、匠賞以外にも多くの票を獲得していらっしゃいますね。
OUTISさん、シチテンバットーさん、おめでとうございます!
◇エモンガ賞◇
続いてはエモンガ賞です!
勝利のエモンガが微笑んだのは……?
🥇第1位(4票)
⑥『カタツムリのスライミー』(作:ごらんしんさん)
主人公が持たざる事の強みに気付くまでの過程、そこへ導く母の愛情。そして、カタツムリではないスライミーの意外な正体。何重にも心を揺さぶられる、そんな作品が見事エモンガ賞に選ばれました。
ごらんしんさん、おめでとうございます。
◇スッキリ賞◇
サブ賞の最後を締めくくるのは、スッキリ賞です!
皆様を最もスッキリさせた作品は……?
🥇第1位(2票)
⑤『七色の島に八尋の船』(作:OUTISさん)
⑦『タイトル「タイトル考えてる余裕が無かった」』(作:シチテンバットーさん)
今回問題文と要素の特性上短編で仕上げるのが難しかったであろう中、要素と心理描写を回収しつつスマートにまとめられたこちらの二作品が見事スッキリ賞に選ばれました。
OUTISさん、シチテンバットーさん、おめでとうございます。
さて、続いては皆様お待ちかねの本投票です!
心の準備はよろしいでしょうか?
心の準備はよろしいでしょうか?
では、発表いたします!!
◇最優秀作品賞◇
🥉第3位(2票)
②『地に舞い降る探し物』(作:さなめ。さん)
⑥『カタツムリのスライミー』(作:ごらんしんさん)
少年少女の繊細な心の動き、きらりと輝く憧れや希望。どちらも幼い子供の心の機微を描く、ほのぼのとした2作品が見事第3位に選ばれました。
さなめ。さん、ごらんしんさん、おめでとうございます!
🥈第2位(3票)
③『泳げないさかな』(作:ほずみさん)
・・・3票獲得
泳ぎに執着するあまり全てを放棄した主人公。不意に登場する、主人公ではない「私」。正気と狂気、希望と絶望の狭間をたゆたう作品が見事第2位に選ばれました。
ほずみさん、おめでとうございます!
さて、いよいよ最優秀作品賞の発表となります。大接戦を制し、栄えある最優秀作品賞を受賞したのは……!
朝をかけてやっと見つけた自分の身体。その探し物を、私は捨てることにした。
きっと、私はもう七色の島そのものではなくそれを探すという行為に生きがいを憶えていたのだろう。
第1位(4票)
①『借り物のレインコート』(作:みさこさん)
⑤『七色の島に八尋の船』(作:OUTISさん)
「私」が選択したのは『他者の人生の借りパク』。
「私」が選択したのは『自身の人生をかけた探求』。
同じテーマから創りだされながら、対極とも言える程に相反する主人公が紡ぐ人生の物語2作品が同率で第1位に輝きました!
みさこさん、OUTISさん、おめでとうございます!
そして、最後を飾る、シェチュ王の発表に移りましょう!
得票数が同じ場合、投票した人数が多い方がシェチュ王受賞となります。また、シェチュ王選定条件に関係はありませんが、今回の受賞作品はサブ投票にて最多となる計7票を集めています。
発表します。今回のシェチュ王はこの方……!
シェチュ王
👑OUTISさん
おめでとうございます!
皆様、盛大な拍手をお願いいたします!!!
また、見事シェチュ王に輝いたOUTISさんには、次回である「第45回正解を創りだすウミガメ」の出題権を進呈いたします!!
本当に、おめでとうございます!!
これにて「第44回正解を創りだすウミガメ」閉幕となります!
改めまして、皆様、本当にありがとうございました!!
あひるださん主催ありがとうございました!!シェチュ王のOUTISさんおめでとうございます!!最優秀作品賞のみさこさんも、おめでとうございます!!シェフの皆様、素敵な作品をありがとうございました!!![22年07月22日 21:39]
嵐が過ぎ去った朝の事。やっとの思いで見つけた探し物を、私はすぐに捨ててしまった。
いったい何故?
◆◆要素◆◆
( )は質問番号です。アンカーを付けるかどうかはおまかせします。
①ぴかぴかになりました(6)
②あとコンマ数センチの差です(10)
③ゾロ目です(14)
④昨晩にいた場所は重要ではありません(17)
⑤ひっくり返して元通りです(23)
⑥なんでもやれます(25)
⑦恥ずかしそうに笑います(27)
⑧Vが6もありません(31)
⑨狭すぎました(38)
⑩邪魔なものがなくなりました(41)
※最低でも10個中【8個】の要素を使用してください。もちろんそれ以上でも構いません。
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!