【正解を創りだすウミガメ】もみの木、ゴミの日【第40回】

シェフ『・・ウミガメのスープって知ってますか？』
男『今食ったものじゃあないのか？』
シェフ『いえ、そういうお話がありまして。なんでも船で遭難した男が食べさせられたウミガメのスープというのが実は・・・』
男『・・・ぞっとしないな。俺が食べたのもまさか”ソレ”なんて言うんじゃないだろうな？』
シェフ『いえ、そんなことはしませんよ。うちは正真正銘のウミガメを使ったスープですよ』
男『そうか、そりゃ良かった。・・・本当に・・・良かった』
シェフ『代金替わりのイタズラです』
男『オイ！こんな話聞くぐらいなら次から金払うぞ！』
シェフ『すいません、それは本当に大丈夫ですので。またのお越しをお待ちしております』
男『・・・おう、旨かったぜ。また来る』




男は船に乗っていた。
ある日、男の乗った船が遭難してしまった。
総勢⑥48名。食料に瀕した彼らであったが、とある無人島に流れ着き一時的に難を逃れた。

男達は備蓄していた食料を消費しつつ何とか島で暮らしていたが、徐々に食料も底をつき
焦りの色が出ていた。そこで彼らは島で生き残るために男と女で仕事を分担することにした。
船には様々な国の人が居たため、ある男は英語が分からなかったり、またある女は⑦漢字が読めなかったりと
それぞれの国の言葉が分からず意思疎通に苦労したが、皆協力して助けが来るまで島で生き残ることに合意した。

男達の数人は海岸上で釣りを、また他の男達は食料となりそうな実や雨風しのげそうな場所を探しにうっそうと生い茂る森林に
入っていった。女達は男達の疲れをいやすため男の足や肩を①もんだり、男達のために料理を
作ってふるまった。

そんな非日常的な日常が数週間も続いたある日。男が定期的に付けていた日記帳代わりにしていたメモ帳も
もう④黒く塗りつぶされるほどに書き込まれたある日のこと。
日付を書き込んでいた男はある事に気づいた。そういえば今日はクリスマスか。彼らにも待っている家族が居るはずだ。
俺たちはこんなところで何をやってるんだ。このままだと③年が明けてしまうと。
彼らの疲労の色もピークに達していた。島で食料を採るにも限界がある。
男は決意した。なんとかして島を脱出することを。

男は皆を集め声高々に伝えた。このままだとみんな死んでしまう。一か八かになるがこの島を出ようと。
彼らに島のあちこちに生えていたもみの木を刈り取りいかだにして脱出する計画を伝えた。
木こりが偶然にも乗船していたのだ。彼は渡った先で仕事にありつくためのナタを持っていた。
それがたまたま役に立った。木こりがナタを数回木に叩きつけると、うまい具合に木は倒れ込んだ。
彼が言うには木には方向があり、刃を入れる場所、倒れる角度などは⑤音だけが頼りだということだ。
それは熟練の腕を持つ彼にしかわからなかった。
倒れるもみの木を見て男は思った。こんな日にもみの木を倒してばちが当たらなければ良いが、と。

数日かかってしまったが紐やロープになりそうなもの、マストの代わり、４０本ものもみの木で作った丸太を集め
それらを男達は協力して縛りつけ、はたして大きないかだは完成した。
いかだに積み込む荷物を積み込み、彼らは脱出を試みた。決死の大航海である。
男達は余った木で作ったオールで必死でこぎ、女達も出来る限りの協力をした。
いかだでの生活は困窮を極め、島で干して作った食料はすぐ底をつき、水の補給もままならなくなった。
何日目かの夜、そろそろ誰か犠牲になる必要があるのではないか。自らの体も食料としようかと悩んだその時。
光が・・見えた。まばゆい光が。たまたま漁に出ていた船が通りかかったのだ。
彼らは残った体力を振り絞り、後先考えず叫んだ。彼らは助かった。

そんな出来事があった数年後。男は海辺のとあるレストランを訪れていた。
あの日以降、男は国からは表彰を受け、仕事では幹部に任命され
あの時の苦しい航海が嘘だったかのように順風満帆な生活を送っていた。
なかなか忙しく、時間が無い中で、このレストランで食事することは男の唯一の楽しみともいえた。
どんなに忙しい時でも男はVIPとして裏口から2階の個室に案内される。これもこの店のシェフのおかげだ。
最初にこの店に来た時は間違って⑧駐輪禁止の場所に車を止めてしまいシェフに怒られたが、シェフが男の顔を見て
はっと気づいた。男があの時の船長であったと。シェフはすぐに態度を改め、階段を上がった奥の部屋に案内した。
それからはずっとこの席に案内されている。
男は窓から見える客の列を眺めながら温かいうみがめのスープに舌鼓していた。⑨オニオンが決め手のスパイシーなスープだ。
⑧OCT（オレガノ・クミン・ターメリック）が入ったカレー風味のだし汁をさらに加えて飲み、〆るのがここの常連のやり方だ。
男はシェフを呼んだ。ほどなくしてシェフが駆け付けた。
男はシェフに謝った。毎度毎度すまないなと。
するとシェフはこう答えた。いやいや、あなたは命の恩人ですから。お金なんて結構ですよ、と。

男はシェフに礼を言うとレストランを後にしようとした。
するとシェフはこう言った
『ああ、待ってください、こんな話を聞きまして』

『・・ウミガメのスープって知ってますか？』

END

要素：①②③④⑤⑥⑦⑧⑨　の全部

要約：男達は遭難し流れ着いた無人島から脱出するために島に生えていた４０本ものもみの木を伐採し
いかだを作った。（一部添削し忘れたため修正） [編集済]

1＋

彼との出会いはある寒い日だった。自転車を押してビルの前で不安げな顔をしている彼に「自転車停めるならこっちだよ」と声をかけたのだった。
普段は教室の外で生徒に声をかけることはないのに、どうしてか彼はほっておけなくて、つい話しかけた。
「駐輪場は裏にあるんだよ。さすがに初めてじゃ場所分からないよね(2)」
なんて雑談をしても「……うん」としか返ってこなかった。
今にして思えばいきなり知らない大人に話しかけられたのだから当たり前の反応だったけど。

「今日の授業は私が担当します。よろしくね」
数分後、私と彼は教室の机を挟んで向かい合っていた。今日の体験授業の生徒は何の因果か彼だった。
1対1の個別指導を売りにするうちの塾には様々な生徒がやってくる。彼もその1人だった。
(体験だし、力だめしも兼ねて簡単なテストでもするかな)

端的に言えば、結果は散々だった。計算問題もミスが多いし、漢字も読めない。(7)
(これで今から中学受験希望か…正直厳しいな)
塾長に渡された彼のプロフィールを見ながら今後のことを考える。今は5年生の終わり。受験勉強を始めるにはギリギリのタイミングだ。これは大変な道のりになりそうだ。
テストの解説をしながら彼の様子を観察する。初めてのことで緊張もあるのだろうが、お世辞にも集中しているとは言えなかった。飲み込みは悪くないのだが、途中で飽きたのだろう、プリントの端に書かれたりんごのイラストが黒くぬりつぶされていた。(4)

◇ ◇　◇
その後、正式に入塾が決まった後も苦労は絶えなかった。どんなにメモしても宿題はやってこないし、前回の内容も忘れてしまう。中学受験はおろか、学校の勉強もおぼつかないレベルだった。
その理由の1つに彼は文字を読み書きすること自体が苦手であるようだった。その代わり、音で入ってきた情報を受け取るのは得意で、ちょっとした会話の内容でもしっかりと覚えていた。試しに算数の公式やら漢字の書き順を自分で言わせてみると次の授業までしっかりと覚えていた。
(彼には音で覚えさせるこの方法だけが頼りだ…！)(5)

どちらかといえば何事も文字で考えたい私とは違う彼の思考回路はとても興味深く、それと同時に彼の生きづらさを憂いた。彼の両親もそれを理由に受験させようとしているのだろう。
この世の中は何かを「みんなと一緒に」できる能力がない人に厳しすぎる。どちらかと言えば劣等生の扱いを受ける彼も、きっと輝ける場所があるはずだ。
……それが中学受験の先にある場所なのかは私には分からないけども。

◇ ◇　◇
片っ端から音読をさせた結果、ある程度は成績が上がったものの、12月になっても志望校に合格できるかは五分五分だ。
ただ、初めて会ったときより確実に彼は成長した。彼はこの1年で彼なりのやり方を身に着けた。さらには勉強して問題を解くことが楽しくなった、とも言っていた。それで十分ではないか、ここから先はせっかく前向きになれた彼を傷つけるだけではないか、と私は思ってしまう。
そんな彼はクリスマスイヴの夜なのに塾に来て勉強している。自ら進んで来たという。
その姿を見て私はなんだか堪らなくなってしまった。
彼の頑張りが全くの無駄だとは言わない。でも、クリスマスイヴの夜まで根をつめるほどなのだろうか。クリスマスなんだからもっとウキウキした気分で子供らしく過ごしてほしいと思ってしまうのは塾講師失格だろうか。特に彼は本来、もっと伸び伸びと過ごす方が向いている。しかも。
「せんせ、この植木算がどうしても木が足りなくなっちゃうんだよね」
ちょうど彼が質問に来た。ノートを見るに木の本数が合わないようだ。40本ほど。
「聖夜くん」
クリスマスイヴ生まれだから、と名付けられた彼の名前を呼ぶ。そう、今日は彼の誕生日なのだ。
「もみの木の40本や50本くらい、刈り取っちゃえばいいんだよ。いや、そうすべきだよ」
そして今日くらいは、楽しいことだけ考えてほしい。
街中にもみの木が溢れる今日なら、彼のノートのもみの木が少なくなったって構わないだろう。
「せんせ、何言ってるの？　変なの」
そう言う彼の笑顔が私にとって唯一の救いだった。



年が明けたら、いよいよ入試本番だ(3)。結果がどうあれ、その日が彼にとって良い日になりますように。
お門違いとは知りながら、私はサンタに願った。

≪終わり≫


【要素】
②③④⑤⑦

【簡易解説】
塾講師の私は中学受験に向けて勉強中の教え子に対し、植木算のもみの木の本数が違ってもいいじゃないか、と言う。
それはせっかくのクリスマスイヴくらいは羽を休めてほしいと思ったからだった。

「最後にOCT検査をします」(8)
　そう言われたのが、忘れもしない三年前。
　OJTならばともかく聞き馴染みのないOCTなる言葉。何の略かは知らないが、要はレントゲンのようなものとのことだ。
　けれどそんな検査をするまでもなく、私の視界は黒く塗りつぶされていた。(4)

　思えばその当時、眼科に行ったのは何年振りだっただろう。
　目の良いことだけが、なんて言うつもりはないけれど、一番に浮かぶ取り柄と言えばそれだった。
　高校生の時点で裸眼の人間は、もう随分と稀だったことをよく覚えている。
　心配事があるとすればいずれ来る老眼くらいだ。目の良い人から来るなんて聞いていたから。
　だから毎年の健康診断もあやまたずA評価で、何年も何十年も、眼科に行く機会なんてなかった。

　そうして気がついたときには、もう手遅れだった。当たり前だ、治ることはないのだから、自覚症状が出てからでは遅い。
　左目の視野は半分もなく、右目も三割は失われている。
　投薬でできるのは進行を遅らせることだけで、それでもゆっくりと、この目に映る世界は失われていく。

　今のところ仕事は続けられているが、それもいつまでできるのか。

　そんな私の不安を察してか、上司が親戚の働いている盲学校を紹介してくれた。
　生来、子供と関わるのは好きな部類だ。休日を中心にボランティアに通うのは、純粋に楽しかった。
　盲学校の規模感はよくわからないけれど、生徒は40人ほど。(6)
　目が見えない、というのは、自分がそうであるように視界が黒く塗りつぶされている状態と思っていたが、そうではないらしい。
　黒いもの、白いもの。光を感じるもの、ぼんやりと影を捉えられるもの。生まれつき見えないもの、ある時から、急に、徐々に。

　彼らと接する内に、漠然とした不安の形がおぼろげながら掴めるようになってきたような気がする。まだ曖昧だけれど。

　視覚に頼れない彼らは、総じて音には敏感だ。(5)
　私などよりよほど早く、そして正確に音を見抜く。足音を聞けばどの先生が近づいているのかが分かるそうだ。
　けれどやはり、わからないことも多い。
　例えば、校舎の裏。そこが駐輪場だとは知る生徒はほとんどいない。(2)
　自転車が並ぶ様子を見ることも、自転車に乗ることもできないのだから。
　それから漢字。点字に漢字は存在しないし、何かに掘られた文字であっても、複雑な形をした漢字を捉えることは難しい。(7)

　わからないこと、できないことは多いけれど、わかること、できることを頼りに過ごしている。
　その姿はきっと、私が子供だったころと変わらない。

　ボランティアを始めてから半年ほどが経って、クリスマス会が開催されることになった。
　大きなクリスマスツリー――もみの木に、子供たちが手探りで飾り付けをしていく。
　イベントが始まってもいつの間にかもみの木に集まって、木に、飾りに手を伸ばしては揉んでみたりもして。(1)
　それもそうだ、彼らはそうすることでしかもみの木を感じることができないのだから。
　40人の生徒に、もみの木は一つ。入れ代わり立ち代わり、飾り付けをするときもそうだ。積極的に手を伸ばせない子もいて。

　例えば――例えば。小さくてもいい、一人一本を自由に扱えたら。
　必要のないことかもしれない。非現実的な提案かもしれない。
　だけどきっと、自分がそうしてもらえていたら、とても嬉しいから。
　言ってみるだけ。やってみるだけ。

「あの、来年から――」


〈おわり〉
――――――――――――――――――――
【要素】①②④⑤⑥⑦⑧

【簡易解説】
盲学校の生徒一人につき一本のクリスマスツリーが用意できれば、みながじっくり触って楽しむことができると考えたため。

生きることは理不尽だ。


私は、生まれてからずっと、神さまやイエス様の御名のもと縛り付けられ暮らしてきた。

神に失礼を働いてはいけない。私達が救われるためには、神を信じなきゃいけないと。


私たちの国は、イエス様の生まれ変わりを自称する国王ノウに支配されている。キリスト教を崇拝し、盲信し。そして、その意思に反する国民はいない。

反抗した者は皆無惨に殺されて行ったからだ。


私の父は農業をしていた。⑨父の自慢のニンニク。「ほら、イヴ。どんどん食べなさい、精がつくからな」そう言って沢山ニンニクの乗ったステーキを焼いてくれたことを覚えている。

そんな父は、私が高熱を出したその日に断食の掟を破り食事を摂らせた罪で殺された。


くだらない。何がイエス様の生まれ変わりだ。救世主がこれか。

子供の私は楽しそうに父を火炙りにする国王を睨みつけ、しかし何も抗えなかったことを覚えている。


この国は…駄目なんだと思う。皆、目が死んでいる。国王ノウの通り道にはいつも、①手をもみ頭をヘコヘコさせるくだらない国民AとBとCと。皆、自分の意思で生きちゃいないんだ。つくりものの神とやらに抗えない、つまらないモブ達。



今日は12月24日。私の誕生日。私は聖夜に生まれたから、「イヴ」と名付けられたそうだ。まぁ、そんなこと、もうどうでもいい。今年で18歳。来年もこのまま神の奴隷で終わるくらいなら、いっそ死んだ方がマシだ。


神も、イエスも、ぶっ壊してやる。

本来24日は、肉や魚を食べちゃいけない日。でも、私は今父の自慢だった⑨ニンニクステーキを再現して美味しく平らげた所だ。ご馳走様。これが最期の晩餐になるかもしれない。


そうだ、これも。

私は聖書を取り出し、今までの恨みをぶちまけるようにイエスの言葉を④黒インクで塗りつぶしてやった。怒りのままに。

「何が『信じる神の子は救われる』だッ！何が『求めれば与えられる』だッ！適当なことばっかり書くな！」


そして、私は怒りのままに街に飛び出した！



私は街に向けて叫んだ。「神なんてクソだ！そんなものを信じてるこの国の皆もクソだ！クソみたいなエセ救世主が怖くて従ってる奴らは、やっぱりクソだ！」


ふと、視界の先に「聖地」が見える。
40本のモミの木の群生地を大事に大事に聖地として崇めている場所だ。

ああ、父の友達の盲目のおじさんは②ここに自転車とめちゃって処刑されたんだっけ。くだらない。「⑤音だけで生活してるめくらなので許して下さい」そんな言葉もむなしく火炙りだ。本当にくだらない。


こんな場所、無くなってしまえばいいんだ。
でも、雪の中もみの木を灰にすることは叶わないだろう、それなら。


「よくきけ！私がこんな街ぶっ壊してやる！今からお前達が崇めてるこのくだらないもみの木だって、1本残らず刈り取ってやる！もし、もし…」

涙がこぼれた。騒ぎに、何事かと出てきた街の人々が集っている。イヴの夜、ざっとみて⑥40人程か。私は続けた。

「もし、まだ自分の意思で生きる気があるやつがいるのなら、もし、私と共にくだらない神と戦う意思がある奴がいるのなら、一緒にこのくだらないモミの木をぶっこわせ！聖地なんていらない！神なんて要らない！私達は自分の足で歩けるじゃないか！」


これでいい。きっと、私は死ぬだろう。でも、殺される最期の刻まで、せいぜい抗ってやる。



追記、今日は12月31日。③もうすぐ年が明ける。私はというと、今、レジスタンスの組織を結成しそのリーダーをしている。

イヴの夜、私の叫びをきいた⑥39人全員が私に賛同し、ついてきてくれた。もちろん、あのモミの木は全て刈り取ってやったよ。

長々と読んでくれてありがとう。それでは、いいお年を。完
[編集済]