二十歳の誕生日。
満開の花を見たその人は、自分が再びこの花を見ることはないとわかった。
いったいなぜ?
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お待たせいたしました、正解を創りだすウミガメ第20回を開催いたします。
今回初めて司会を務めさせていただきます、ハシバミです。どうぞよろしくお願いいたします。
前回はこちら→ https://late-late.jp/mondai/show/9276
遂に第20回です。区切りが良い気もしますが月一だと20より24の方がキリが良いのでは、ということで特別なことはなく粛々と進行させていただきます。
さて、前回追加されたルールについて、今回も採用いたします。
さらに一つ、ルールに追加させていただきますので、ご確認ください。
★ルールその1★
『簡易解説をつける!』
作品の冒頭もしくは末尾に、問題文の問いかけに対する簡易解説(要約)をつけてください。文字数や行数の指定はありません。
※作品自体が簡易解説のような形である場合は、新たに要約をつける必要はありません。
☆追加☆
簡易解説内にも1つ以上の要素を使用してください!
選ばれた要素のうち、どの要素を使用するかは任意です。
※本文には要素をすべて使用、その内1つ以上を要約にも含めてください。
★ルールその2★
『作品投稿は1人1作のみ!』
あなたの本気を1作に詰めこんでください。
※尚、投票対象外としてサブ作品を1作品まで投稿可能とします。
その場合タイトルに必ず『投票対象外』と明記してください。
★要素→7個(すべて使用)
★文字数制限→なし
それでは、いつものルール説明へ参ります。
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★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[2/15(土)21:00頃~質問が40個集まるまで]
まず、正解を創り出すカギとなる質問(要素選出)をしていただきます。
☆要素選出の手順
①出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人3回まででお願いします。
②皆様から寄せられた質問の数が40個に達すると締め切りです。
全ての質問のうち"4個"を出題者の独断、さらに"3個"をランダムで選びます。合計7個の質問(=要素)が選ばれ、「YES!」の返答とともに良質がつきます。
良質以外の物は「YesNo どちらでも構いません」と回答いたします。こちらは解説に使わなくても構いません。
※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用いたしません。
▼矛盾例
田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
▼狭い例①
ノンフィクションですか?(不採用)
▼狭い例②
登場キャラは1人ですか?(不採用)
▼狭い例③
ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~2/23(日)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
** ラテシン版 **
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
** らてらて鯖 **
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。
⑤本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~2/29(土)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
☆投票の手順
①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
②作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
その他詳細については投票会場に記します。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
(※今回は最優秀作品賞=シェチュ王となります)
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
2/15(土)21:00~質問数が40個に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後~2/23(日)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後~2/29(土)23:59まで ※予定
☆結果発表
3/1(日)21:00 ※予定
◇◇ お願い ◇◇
要素募集フェーズに参加した方は、できる限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
質問だけならお手軽気軽、でもメインはあくまで投稿・投票。
投稿は意外と何とかなるし、投票もフィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!
もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
皆様の思考や試行、思う存分形にしてみて下さい。
◇◇ コインバッジについて ◇◇
誠に申し訳ありませんが、今回もコインバッジ贈呈は無しとさせていただきます。
それでは、これより要素募集フェーズを始めます。質問は一人3回まで!
いざ、スタート!
【結果発表】ありがとうございました!
これより要素選定に入ります。しばしお待ちくださいませ。
要素選定が完了いたしましたので、これより投稿フェーズに移ります!
要素一覧をまとメモに載せましたのでご活用ください。
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。
⑤本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
※要約※
男性のいなくなった世界に生まれた男性である「その人」は
二十歳の誕生日、外界と隔絶される直前に
花が咲くのに100年以上かかる植物が満開に咲くのを見た。
あの花が種を付け芽吹き、
もう一度花を咲かせる頃には自分はもう生きていないだろう。
けれど、愛されたいと願った人に気持ちを返してもらえた。
それだけでもう「その人」は満足だった。
(要約終わり)
あの人は私の家の近所に親と住んでいた所謂幼馴染というやつで、
幼いころから私はよくあの人に遊んでもらった。
私は生意気な子どもだったので、
あの人の背の高さやら急に低くなった声やらをよく指摘しては困らせていた。
ある8月の日、裏山の川で水浴びをしていた私は足を滑らせ溺れそうになった。
それを助けたあの人と二人でずぶ濡れになり②、
服を絞った時にも、私はその人の裸を見て胸が無い、などと言っていた。
ある10月の日、大きな大きな満月をこっそり二人きりで見上げた。とても綺麗だと思えた。
「月には兎がいるんだっていうね?」
「かぐや姫が帰ったはずだから、姫のお手伝いでもしてるんじゃないの?」
「いいな。お姫様のお世話なんておいしい⑥役割」
「すさまじきものは宮仕えともいうけどね」
「子供に対して夢が無いと思います」
ある12月の日、
遠い遠い昔の偉い人の生まれた日。
曇り空ばかりを恨めしく見上げていた私に
白い模造紙と青い色鉛筆ばかりを大量に買って⑤きて、
細かいグラデーションを作って私の部屋に張り出した。
ある2月の日、
私は上の学校へ進学するための試験を受けた。
正直私などよりあの人の方が余程頭がいいのに、
なぜ学校へ行っていないのだろう。
そういえば、あの人の家は人目を避けている気がするな。
…子供が引きこもっていたらそうなるか。
私は愚かにもそう理由付けし一人で納得していた。
ある4月の日、
私は全てが新しくなったような気分で桜のアーチをくぐって学校に通いはじめた。
「――のこと大事に、いとおしく思ってくれる人がもっとずっと沢山できるよ」
と、あの人が言った。
「私は」
不特定多数の誰か、よりあなたに愛されたい④
とは言えず、言葉を飲み込んだ。
ある6月の日、
夜、あの人が深刻な顔をして私の部屋にやってきた。
そして秘密を打ち明けられた。
自分は女ではないこと。
とうとうごまかしきれなくなって、
明日、二十歳になったら国だか何だかのお偉いさんの所に行く、
つまり、離れ離れになること。
そこから先はずっと軟禁されるだろうこと。
「お役目終えたら返してやるよ、って言われたけれど」
たぶん、これが会えるのは最後になると思う。
そう言われて私の脳内は混乱した。
もう一生会えないという事実に、私は、
彼が激怒する③かもしれないと思いながらも頼み込んで、
――翌朝私は目を覚まし、ぼんやりとその人の横顔を見つめた。
うっすら顎にひげ?が生えている。
…この人は本当に男というものなんだなぁ。
最後の時間は裏山で過ごした。
二人とも何も言わずに歩いていると、
その山でしか生えていない木々に花が満開に咲いていた。
120年に1度しか咲かない花。
咲くときはその長い命の終わる時だという。
一生に一度見られたら、それは幸運なことなんだとも。
この国に数十年ぶりに生まれたもう一つの性。
どんなに手を尽くしても生まれなかったそれの存在が知れ渡ると大人たちは狂喜した。
「自分を花に例えるだなんてとんだナルシストだと我ながら思う」
「それでも本当に嬉しかった。生きていけると思った」
「最後に一緒にいるのが自分の好きな子で良かった」
それからあの人は高そうな車に乗せられて、どこかに連れていかれた。
涙は出なかった。
眠れずに迎えたその日の月はちっとも綺麗なんかじゃなかった①。
ある10月の日、
私は自分の身体の変調を感じ取っていた。
心当たりを片っ端から端末で調べる。
(あー…)
親に知らせたら困惑するだろうか、
それとも優遇措置が受けられると歓喜するだろうか?
いずれにせよ、
私は二重⑦の命をしばらく抱えていくことになるのだ。
それがどんなに自己中心的な願いであっても、
沢山産まれてくるであろうあの人の子供のうちの一人に過ぎなくても、
思い出とこの子がいればきっと大丈夫だと思った。
【おしまい】(約1,520字)
相変わらずのスピード感ながら、要素の回収がお見事です。
うさぎがおいしい役割、という発想。月が「とても綺麗」からの「月はちっとも綺麗なんかじゃなかった」。そして「二重の命」。
切なくも希望のあるラストでした。
[編集済]
要約
「その人」が見たのは、「満開の花」が描かれた作品である。
その作品の作者は絵を渡し、【④愛の告白】をしたが、「その人」は断った。
結局傷ついた作者によって絵は持ち去られてしまったので、「その人」が再びこの「花」を見る機会はなくなってしまった。
「その人」は花の絵を渡される段階で告白されると勘付いており、「もう見ることはないだろう」と悟ったのだった。
(要約終わり!)
とある大学のとある美術部。
ここの部員はA男とB子の二人だけである。
今日は今度の展示会の為に作品づくりを進めているようで、静かな時間が流れていた…と思ったら、B子は突然歌を口ずさみ始めた。
「【⑥うーさーぎーおーいし】、かーのーやーまー」
A男は面食らい尋ねた。「どうして突然ふるさとなんです?」
「展示会の絵を描いているからに決まってるじゃない。それ以外にないわ」
答えになっていないじゃないか…A男は心の中でそう呟き、しばらく思考を巡らしてからもう一度尋ねた。
「ああ、地元の風景でも描いてるんですか?それでふるさと…」
「違うわよ。あなたがここに来た時のことを描いてるのよ」
いよいよ話が見えなくなり、A男はB子の手元を覗いた。そこにはうさぎが一羽、ぽつんと描かれていた。
「なんで、僕が入部した時の絵が、うさぎ?」
「だって見るからに一人が好きそうな子が入ってきたなぁと思ったんだもの。それにあなた、絵を描く理由は気が紛れるからって言ってたでしょう?」
「…要は、僕のことを寂しがりやなヤツだと馬鹿にしてるんですね?」
「馬鹿になんかしてないわ、でも『うさぎさん』なのは合ってるじゃない」
B子は小さく笑うと、再び手を動かし始めた。「うさぎおいし、かのやま…」そのフレーズだけを小声で繰り返しながら。もう作業に集中しているようで、声を掛けても意味はないだろう。
彼女はいつもこういう感じである。いわゆる「マイペース」な振る舞いが多く、突拍子もないことを言い出したと思えば、また突然会話が途切れたりする。
A男はもう慣れていた。初対面のときからこんな態度で、それから今日までその態度を目の当たりにしていれば、慣れない方が難しい。
今のA男にとって問題はそこではなかった。
展示会のテーマは「思い出」。B子がそのテーマのもと描いているのは「二人が出会った時のこと」。
B子に想いを寄せる彼にとって、動悸を激しくさせるのに充分な理由であった。例え自分の姿が動物として描かれていても。
二人は作業が一段落ついたところで、各々の帰路についた。
A男は帰ってすぐ、今度はまた別の作業を始めた。取り出したのは画用紙と色鉛筆。A男はこの作品を完成させるために、【⑤青い色鉛筆ばかりを買った】。青とはいってもバリエーションは豊かで、一見緑色にも見えるものもあった。
数日前、A男はB子にある質問をしていた。
「私の好きな花?そうね、桜かしら。ほら、やっぱり日本人だし」
「随分とテキトーな答えですね…」
なぜこんなことを訊いたのか。もうすぐB子の誕生日が控えていたからだ。A男はこの日に、告白をしようと決めたのだ。せっかくだからプレゼントも派手にしたいと、花束でも準備しようと思ったのだが、彼女の答えはなんともいえないものだった。
「急に聞かれても思いつかないわ。でも、ちゃんと桜は好きよ。それなりに」
「うーんじゃあせめて、その…好きな色は?こんな色の花が好き、とかありませんか?」
花束にできるものを答えてくれ…そう願いながら質問を増やした。B子は少し考えてから、言った。
「ありえない色の花が好き。見たことも、聞いたこともない、そんな色をした花」
「…見たこともないのに好きなんですか?」
「ええ。なにか変かしら?」
自信満々の表情に、変だと言い返す余裕はなかった。A男はもはや意地だと、彼女の意に沿う「花」をプレゼントしたいと思った。
A男が今描いているのは、海色の桜。
背景は月の輝く夜で、満開の桜がぼんやりと青い光を放っている…そんな絵だ。
B子の誕生日は満月の日らしい。そんな日に相応しい絵になるよう、A男は努力した。
今思い返せば、彼女が普通の花を好きだと言う方が変だろう。彼女に見合う男になりたければ、「誰も見たことのない花」くらい用意できなければいけない。
からかい甲斐のある後輩に向ける愛ではなく、ひとりの男として【④愛してほしい】…その一心で、A男は桜と向き合った。
そして、B子の誕生日当日。いつものように二人は部室にいた。
「思ったより長引いちゃったわね。A男くん、なんだかすごく集中してたじゃない」
A男が集中していたのは、正直展示会の為ではなかった。満月が輝き出す時間まで待っていたのだ。A男はどうやって話を切り出そうかと、丸めた画用紙に少しだけ目をやった。
「突然なんだけどね、私今日誕生日なのよ」
B子のその言葉に、A男は慌ててしまった。一応立ててきた計画では、まず告白、そして成功すれば桜の絵を誕生日プレゼントとして渡す予定だった。
「何かないの?私はあなたの入部一ヶ月記念にお菓子をあげたじゃない」
「…そういえばあのクッキー、うさぎの形してましたね…あの時から既に馬鹿にしてたんですか…」
B子はクスクス笑った。張り詰めていた緊張はそれでほぐれ、A男もまたクスクスと笑い提案した。
「ちょっと、一緒に歩きませんか。ちゃんとプレゼントもありますから」
二人は外に出て歩き出した。時間はもう遅いのだが、月明かりのお陰で道はそれほど暗くなかった。しばらくして、A男は持っていた画用紙を広げ始めた。計画と順番が違うのは、結局告白する心の準備が整わなかったからだ。
「先輩、これ。僕なりの誕生日プレゼントです」
「…青い夜空、青い月に、青い桜の絵、ね。なるほどそうきたか」
B子の感想は上手ねと無難なものだけだった。
A男はもう少しないのかと多少は思ったが、もはやそれどころではなかった。
伝えなくては。これだけで終わってはいけない。「ありえない花」を準備した理由、それはたった一つだけだ。
「あ、あの…先輩」
どうしても、その先の言葉は出なかった。元々の内気な性格が、ここに来て祟ってしまった。
しかしA男は決意を固めると、突然腕を上げて、それは見事な満月を指差した。
「月が、綺麗…ですね」
A男はやっとの思いでその言葉を紡いだ。
それは彼に出来る精一杯の愛の告白だった。彼にとって最大の愛情表現だった。
沈黙が続いた。A男はB子の返事を待った。
「…どうだろう?【➀そんなに綺麗かしら。私にはそうは思えないわ】」
A男はその後のことはあまり覚えていない。
B子に渡した絵をひったくるように奪い取り、
「先輩はやっぱり変ですね、こんなに綺麗な月なのに」と渇いた笑い混じりに言い捨てて、気付けば自分の家に着いていた。
B子のためにと、必死の思いで絵を完成させた自分の部屋に、A男は立ち尽くしていた。
頭の中ではB子の言葉が響いていた。
月が綺麗だと指摘して、否定で返された。自分と一緒に見る月では、B子にとって綺麗ではなかった。
A男はグシャグシャに握りしめた画用紙を広げた。そこには皺だらけの青い桜と、皺だらけの青い月が描かれていた。
「確かに、綺麗でもなんでもないや…」
その言葉を皮切りに、A男の目から涙が溢れ始めた。止まる気配のない、止める気もない、そんな涙が画用紙に落ちて、作品を更に【②グシャグシャにした】。
涙と一緒に、B子と交わした会話もこぼれ落ちているようだ。彼女の放ったマイペースな言葉たちが、次々と脳裏に蘇る。
『うさぎさん』なのは合ってるじゃない
その言葉を最後に涙は止まった。
A男は大当たりだと独りごち、
「大当たりじゃないか!!」
今度は叫ぶようにそう言うと、画用紙を縦に破いた。自分に対するものか、B子に対してのものか、両方なのか。そんな【③怒りを目の前の画用紙にひたすらぶつけた】。
「せっかく明日は展示会本番なのに…」
A男くんはあれきり来なくなってしまった。
作品は完成してるみたいだから、勝手に飾っちゃえば済む話だけど。
「ねえA男くん。かぐや姫は嫁ぐ気なんか一切なくて、あえて無理難題を提示してたのよ。…私なりに、あなたの思いにはずうっと答えてたのにね」
正直ひとりきりの部活は寂しい。だから、彼がここに来た時は本当に嬉しかった。最高の「思い出」だと言えるくらい。
私は自作の「うさぎ」に目をやった。
期日ギリギリになって手を加えたそのうさぎには、前まではなかったモフモフの【⑦二重アゴ】がついている。
「しっかりテーマには沿ってるわね。A男くんと出会う前の自分を描いたんだから」
終わりだピョン!
[編集済]
告白されると勘付いたがゆえの「もう見ることはないだろう」がなんとも良いですね。
「あなたの思いにはずうっと答えてたのにね」の切なさがたまりません。
告白を受け入れることはできない、でも今の関係を壊したくはない……どうにか二人には良い関係に落ち着いてもらいたいものです。
[編集済]
◆簡易解説:二十歳祝いの花見宴会で、悪酔いして視界が『二重』⑦になったので満開に見えた桜。失敗に懲りて酒はもう飲まないと誓ったので、二度と幻覚の桜を見ることはないと断言できる。
◆本解説:
「こんにちは先生。ちょいと不思議なクイズを見かけたんです」
「ほお。一体どんなものだ?」
「【『二十歳の誕生日。 満開の花を見たその人は、自分が再びこの花を見ることはないとわかった。いったいなぜ?』
ヒントは、①月は綺麗ではない ②ずぶ濡れになる ③激怒する ④愛されたい ⑤青い色鉛筆ばかりを買う ⑥うさぎがおいしい ⑦『二重』は重要】
……とのことですが、全く分かりません。物知りの先生なら分かりませんか?」
「なんだ、そんな簡単なことを聞きに来たのかい。ところでお前さん、特にどこが分からないと言うんだ?」
「全部分かりませんが、『青い色鉛筆ばかりを買う』ってのが皆目見当も付きません。これは一体どういう意味で?」
「良い所に目を付けた。それはだな……青い色鉛筆が安かったんだ」
「えぇ……。そんな、それだけってこと無いでしょ? なんかこう、そこに大きな謎が隠されている筈ですよ」
「謎? 謎……おお、そうだ! 謎かけだ! これは謎かけなのだ!」
「あ! 謎かけでしたか! ……それで?」
「うむ。安かったので青い色鉛筆ばかりを買う。これが謎かけになるわけだ」
「それで?」
「だからだな……お、こうだ!
⑤:【安かったので青い色鉛筆ばかりを買う】 とかけて 【受験に落ちたガリ勉、自棄酒で悪酔いしてなじられる】 ととく」
「ほほお。そのこころは?」
「【死ぬほど勉強してたからって、掃いて捨てるほどある、凍るような真っ青の鉛筆】
【死ぬほど勉強してたからって、吐いて捨てるほどアルコール酔うな、真っ青の鉛筆】と。こうだな」
「安売りを『勉強』と言うのは分かるんですが、二つ目の方の『真っ青の鉛筆』とは?」
「ガリ勉のあだ名は鉛筆と決まっているだろう」
「ははぁ~。酔って真っ青の鉛筆くん、と。……先生、苦しい謎かけですね」
「良いんだよ。どうせ皆このヒントで苦しんでる筈だ」
「何の話ですか。でも、受験生ってことは鉛筆くん未成年ですよね? 酒盛りなんてして良いんですか?」
「良いワケないだろ。だからこそ、この酒盛りが物語の起点となるんだ」
「何の話ですか!」
「クイズの話に決まっているだろう」
「あ、ちゃんとクイズを解いてくれてたんですね」
「当たり前だ! なんだ、急に謎かけを始めた変な人とでも思っていたのか。で、次のヒントだが、『ずぶ濡れになる』というのがあるな。うむ、これも謎かけだな」
「またですか」
「バカ者。コレは、ヒントを使って謎かけすると正解の物語が炙り出されてくるというクイズなのだ!」
「なんと! 謎かけの後半がストーリーになっていくんですね!」
「分かったならば続けるぞ。『ずぶ濡れになる』の使い方はこうだ。
②:【川に落ちてずぶ濡れになると、風邪を引くからと服を脱がされる】 とかけて 【ギャンブル依存になるが大負けする】 ととく」
「鉛筆くん未成年なんですよね!? ……そのこころは?」
「【溺れて身ぐるみ剥がされる】」
「ガリ勉の面影も無いですね」
「真面目な人ほど壊れるとこうなるという教訓でもあるのだ。さあ、それからは食べていくのも一苦労だ。どんどん行くぞ。
④:【嫌われたくない、愛されたいので恋人の命令に逆らえない】 とかけて 【食べ物すら買う金も無いので、大好物のコロッケじゃなくても構わないナリ。インド料理でもOKナリよ】 ととく」
「突然のコロ助! 鉛筆くんじゃなくてキテレツくんなのでは……。で、そのこころは?」
「【何でも言いなり】
【ナンでも良いナリ】」
「ナンの方が高そうですけどね」
「親切なインド人でもいたんだろう。 さあ、今度こそ人生逆転をかけて受験勉強のし直しだ。しかし食べる物はナンばかり。この状況を打破しなくてはならない。
①:【意中じゃない人に月は綺麗ですねと言われたが、月は綺麗ではないと言って場を濁す】 とかけて 【ナンに飽きたがどうにかして食べる】 ととく」
「そのこころは?」
「【難癖付けて空気を変える】
【ナン癖付けて、食う気を変える】」
「癖じゃなくてカレー付けてくださいよ。インド人いるんですよね?」
「インド人は去ったのだ。流せ。忘れろ」
「インド人を右に!」
「さあ、運命の受験リベンジだ。
③:【大好きな野球選手の特集号を隠されて激怒する】 とかけて 【今年こそはサクラ咲いておめでとう】 ととく」
「そのこころは?」
「【イチロー号隠したな!】
【一浪合格したな!】」
「大分なりふり構わなくなってきましたね」
「1年遅れの大学生ライフを満喫した鉛筆。3月に誕生日を迎えて二十歳になり、お祝いの花見宴会で人生二度目の酒盛りだ」
⑥:【うさぎがおいしいからって、二兎追う者は一兎をも得ず】 とかけて 【美味しい酒だ、と飲み過ぎて酒の席でしくじる】 ととく」
「そのこころは?」
「【美味を欲張って追うと失敗】
【美味を欲張って嘔吐。すっぱい】」
「また吐くんですか。 それと、なんですか『失敗』と『すっぱい』って。どっちも『失敗』で良いじゃないですか」
「こういうのが好きなんだ、ほっとけ。
さて。ついにこのクイズの正解の部分に辿り着いたぞ。
⑦:【二十歳の誕生日の酒盛りでは、飲みのイロハを知らず胃薬を用意していなかった】 とかけて 【酔ったために満開の花を見たその人は、自分が再びこの花を見ることはない】 ととく」
「そのこころは?」
「【二十の花見。酸止めは無い】
【二重の花見、三度目は無い】】
酒で二度もしくじった男は二度と、いや三度と酒を飲まないと誓った。故に、視界が二重になったことで満開に見えた花を再び見ることももう無いということだ。これがこのクイズの正解だな」
「流石は先生ですね! ……ところで、『二重』だけ使い方違いません? ヒントじゃなくて正解に使ってますよね」
「……ん? いや、いやいや、『二重は重要』⑦というぐらいだから、これが正解の最重要ピースになるわけでな……」
「それと、『二重』って『にじゅう』とも読みますけど『ふたえ』とも読みますよね?」
「あ、ああ、その通りだ。なぞかけには二つの意味があるが、漢字には二つの読みがあるな」
「このヒント、『ふたえ』の方は使わないんですか?」
「え? いや、そう言われてもな。意味一緒だし……」
「二つの読みがあるんですから二つともちゃんと使って下さいよ。さあ、『ふたえ』は一体どうするんですか?」
「うーん……、それはだな……。
⑦:桜は花弁5枚のものを【一重桜(ひとえざくら)】と言うが、よーく調べたらその時咲いていたのは10枚花弁の【二重桜(ふたえざくら)】だったんだ」
【お後がよろしいようで。】
[編集済]
綺麗にまとまった簡易解説から一気に提示される要素。そして始まる謎掛け。
感心するものから無理矢理なものまでありつつ、次はどう来るのだろうとワクワクしながら読み進めてしまいました。
最後に簡易解説に繋がってから行われた『ふたえ』の回収はお見事でした。
[編集済]
ーーー大切なものは2つだけ、恋と音楽。それ以外は消えてしまえばいい。
(ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』より)
1920年、冬。
「知らないわけじゃないだろうね?あんた」
カウンターに座る私に向かいの主人が冷笑を浮かべる。
「この国の大統領がジム・ビームとデス・ソースを間違えたのさ。俺たちにゃ関係ないが、禁酒法はその腹いせというわけでね。ストロベリージュースならタダであげるよ、坊ちゃん。」
私はただ黙って、冷めた澄ましスープの中に金貨を何枚か沈めた。それを見て男がため息一つつくと、皿をスプーンでキンキンと叩いて妻を呼んだ。
「さあさ、お客さんがウミガメのスープのお代わりだ。倉庫から材料を取ってきておくれ。…『18番目の樽』だ、間違えるなよ。」
言い終えると、男はさっきから壊れて止まっているジュークボックスを足で蹴り上げた。
ーーーーーーーーーー
その店は、良くも悪くも小路に囲まれた亜細亜人街にあって、洗濯屋とか、金のない大学生とか、そのどちらも関係ないような放浪者たちが掃き溜めのようにして住んでいるところだった。
そんな場所であったから、この大都会を半日ほど迷子にさえならなければ、一生出会うこともない小さな店に訪れる客などは余程の変わり者か……私のように心底思いつめた人間かのどちらかだろう。貧困のため、向かいの家ではいつも子供が泣いている。
『薬屋岡八 なんでもあります。』
鉄のレリーフで細工された看板を横目に、私は二階へ急いだ。瓶だのサイフォンだの、調剤用の計量カップだのをかき分けたところに、彼は文字通り埋もれていた。
「随分と遅かったですねえ。」
薬師はまるで四大元素を黄金に変えようとした錬金術師よろしく、部屋に閉じこもってガロンをオンスに直したり、クォートをドラムに換算したり。生み出した溶液を入れたり混ぜたりしている最中だった。私は今しがた手に入れた密造酒を彼の作業台へと置いた。
「そら、ご注文通りの『Moon Shine』さ。…これで材料は揃ったろう。」
蓋を開けながら、スンスンと匂いを嗅いだりして品定めを始める。
「透き通った深みに、月を丸ごと絞り機にかけたような黄金色の輝き。2フィンガーほど舐めれば、仕事であれ、金であれ、贅沢な暮らしであれ、きっと全て思うがままという気分にさせてくれます。『Moon Shine』と言う名前は伊達じゃありません。」
このまま飲めたらどんなに素晴らしいか、とがっかりしたような顔を浮かべながら、彼はボトルをひっくり返して蒸留酒をじゃぶじゃぶとフラスコのなかに注いだ。たちまち月の輝きは見る影も無く、残ったのはむかむかするようなチョコレート色の液体へと生まれ変わった。①
「どうだ、これで完成なのか?」
「いいや、今飲んだら、きっと心臓がバクハツしてしまうでしょうねえ。」
「完成じゃないだと!?」
私は薬師に向かって掴みかかった。
「上質なウサギ肉⑥に赤いニシン、喋る蟻、みづの涙、密造酒…こりゃあなんだ!?全てあんたが薬のために必要と言った材料だ!ふざけるな!!こっちは人の命がかかってるんだ!!」③
「痛いじゃないですか、離してください。」
薬師が両手を振って訴えるので、私はやっと手を離した。彼はよたよたと薬棚の方へ歩いていくと、ひとつの木箱を取り出した。
「これが全てとは言っていないのです。確かに、あなたの愛する人は今や不治の病に犯されています。医者なら皆口を揃えて言うでしょう。…しかしそれは誰も治療法を知らないからなのです。」
「私はこの仕事を始める前は、ある分野を研究する植物学者でした。世界中を駆け回って、様々な標本を入手することを生業としておりました。その結果見つけたのが…これです。」
木箱の中には大小様々な形の瓶や真綿を敷き詰めた標本箱が所狭しとならんでいて、その中央、ひときわ大きく仕切られた区画内に一輪の大きな睡蓮の花が飾られていた。私は一目見ただけで、その美しさと、恐ろしさを理解した。
「老人の世迷言と思うでしょうが…この特別な睡蓮を生きたまま調合することができれば、その病気はたちどころに良くなります。もっとも、この睡蓮を育てようとするものなど滅多におりません故、私は種しか持ち合わせがありません。ひと昔前なら、いくらでも手に入れることができたのですがねえ。」
薬師の笑みに強烈な嫌悪感を覚えた。しかし、それで薬が手に入るならば、それは黄金よりも価値のあるものだと、私は思った。
「大丈夫。あなたの愛が真実ならば、きっと綺麗な花が咲くはずですよ。」
ーーーーーーーーーー
私は家に帰ると、台所にあった紙ナプキンがぐしょぐしょになるまで泣いた。その後陽気なニューオリンズの音楽などを口ずさみながら寝室まで歩いて行くと、彼女の咳き込む音が出迎えてくれた。彼女は古ぼけた私のシャツを着て、ベッドに横になっていた。
「ねえ、青い色鉛筆が足りないの。誕生日にはそれをたくさん買ってきてほしいわ。」⑤
無機質なコンクリート製の床には、彼女が描いた絵が何枚か散らばっている。それらをひとつひとつ拾い上げると、どれも同じような構図の青空ばかりだと気付いた。それを光に透かして見ようと仰ぐと、ちょうど天窓から見える景色と重なった。
「この部屋の中にいるのはもう飽きてしまったの。だってここから見える景色は何ひとつ変わったりはしないんだから。」
私は鷹揚に頷いて見せると、いつかこの部屋から出られるさと言い聞かせ、「本当?」と返してくれる彼女の素直な優しさに甘えた。それから額の熱を計ったり、汗を清潔なタオルで丁寧に拭いたりした。彼女の一方の瞼は二重になっていたがそれは神経の乱れのせいだと町医者が言っていた。目は万病を語ると言うらしい。⑦
申し訳ないが、このような場所にいつまでもこもっていては治る病気も治らないだろう。私は彼女のベッドに腰掛け、眠りにつくまで話し相手になった。
・
・
・
数時間ほど流れ、部屋から立ち去った瞬間。
「かはっ!……はあっ……!!」
私は突然、胸を押さえて倒れ込んだ。まるで海底の深いところに叩き落とされたかのように掻き出しても掻き出しても口の中に水が流れてくるようだった。痛い、苦しい。吸っても吐いても空気が入ってくる気配がない。どうやら少し血も吐いたらしい。
視界が朦朧としてわからないが、私は半分意識を失いながらもポケットの中に手を突っ込んだ拳をそのまま口の中に入れた。飲み込んだのではない、吸ったのだ。そのうち自分の体が言うことを聞くようになるまで待った。一体、どのくらいの時間がたったのだろう。
幸いに、彼女に気づかれなかったのが救いだ。こんな姿を見たら、きっと気が動転してしまうだろうから。自分の病気が伝染したと、私が否定しても責任を感じるだろう。
だがしかし、私は嬉しいのだ。同じ痛みを、苦しみを共有していると信じれば。
彼女を閉じ込め、同じ空間においたのは、愛されたいと思った私のわがままなのだから。④
そして再びポケットの中に手を入れ、血液で満たされた私の肺に、睡蓮の種を蒔いた。②
ーーーーーーーーーー
「頃合いかと、思ってさ。」
薬師は私の言葉を手で制し、胸部に聴診器をあてた。自分の方からは何もしなくてもわかるくらい、カサカサと葉がすり合わさる音が聞こえている。
「幻聴ですよ。実際には肺から水泡音が聞こえるにすぎません。…まあ、上々ですね。」
またうんざりするほど聞いた汚い笑い声だ、しかし、それも、もはやどうでもいい。
「これから、あなたの肺を取り出すわけですが。前にも言った通り、完全に、生きた状態で睡蓮の花を採取します。新鮮でなくては意味がありません。よって、麻酔もしません。」
「いいさ、別に。」
自然と歌を口ずさんだ。彼女の大好きだった、あの陽気なニューオリンズの音楽。
彼の手際は素晴らしかった。私は生まれて初めて、自分の体の裏側を見た。まるで青空の絵を、天窓に透かしてみたように、開いた胸壁から光が差し込んで美しかった。
肺に咲く睡蓮。
満開の花弁を見た私は、しっかりとまぶたの裏に焼き付けておこうとした。きっとこれが人生最後の景色、もう2度と、この花を見ることもないのだから。
私はそして、ゆっくりと目を閉じた。
ーーーーーーーーーー
無機質なコンクリートの部屋。
生気のない瞳で、天窓をただ見つめていた彼女は、いつしか窓の外でちらちらと真綿のように降りてくる雪に心を奪われていた。
30cm四方の彼女のカンヴァスは、瞬く間に一面真っ白に染め上げられてしまう。
「もう、青い色鉛筆も必要ないわね。」
そしてスケッチブックから描き途中の作品を一枚破りとると、それを投げた。半分だけ青く塗られた画用紙が行ったり来たりしながら床に落ちていった。きっと彼が丁寧に拾ってくれるだろう。
……彼はまだ帰って来ないのだろうか?最近の彼といえば鬱ぎ込み、あんまりかがみこんで歩くものだから、妻の顔を忘れてしまうのではと心配になるくらいだった。そうして彼のことを思う度に不思議とこちらの胸が締め付けられるように痛むのを、咳などしてごまかしていた。
すると玄関の方でチャイムが鳴った。こんな時間に来客とは、一体何者だろう?扉を開けると、見知らぬ小柄な男性がさらに腰を曲げて小さく立っていた。
「こんばんはお嬢さん。私、薬屋岡八と申します。ご注文の薬、確かにお届けに参りました。」
「私に薬を?頼んだ覚えはないわ。」
「いえ、正確には、あなた方『お二人の』でございますが。私の見立てでは、重症なのはあなたの旦那様の方だと思いますから。」
強引に薬箱を押し付けられた。
「あ、そうそう。彼のことですが、一週間は帰って来られないと思いますよ……家に戻ったら是非伝えておいてください。
『今回は片側だけで勘弁してやる』と。」
老人は好き勝手訳の分からないことを言って、その場を去っていった。
(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)
参考:『うたかたの日々』(ボリス・ヴィアン著)に登場する「肺に咲く睡蓮」より着想をいただきました。
ーーーーーーーーーー
《薬屋岡八製薬目録》
No.2945:紗雨丸(サナメマル)
形状:円形淡黄色、ハート型の刻印付き。
用法:本剤一錠を中心線から折り、思い人と二人で分かち服用すること。清めた雨水で溶くと尚良し。
薬効:胸部の鎮痛及び止血作用あり、胸が張り裂けるほどの恋に効く。
副作用:稀に人体欠視症を併発、恋は盲目なり。
[編集済]
会話や文章に雰囲気があり、怪しげな店の様子などが目に浮かぶようでした。
愛する人を救うため、自らの命も投げ出せるほどの愛。
目録の薬効と副作用がまたなんとも言えず美しいです。
問題文とお題のせいでどうしても悲恋になりがちですが、最後まで愛を貫いてくれました。
[編集済]
簡易解答:私は最愛の人の病気を治すため、人体に寄生するという睡蓮の花を手にするべく、②自分の血液で濡れた肺に種を蒔いた。臓器・花の採取は自らの死を連想させ、満開の花弁を見た私はもう2度と覚めることのない永遠の眠りへつくのだと悟ったのであった。 [編集済]
☆
要約:【④愛されたい】気持ちの裏返しで女性殺しを繰り返していた殺人鬼『その人』は、極悪人殺しの殺人鬼に殺される。最期に見た光景は満開の桜と、それに重なる過去の自分と母と思しき女の姿だった。【終】
以下、長い解説。
バシャバシャバシャ!
汚い路地裏の地面に溜まった雨水が、乱暴に跳ねる。
水滴が容赦なく足元に染み込み、気持ち悪いほど靴が【②ずぶ濡れになって】しまっている。
が、男にとってはあまりに些末なことだった。
逃げなければならない。
なぜ?
俺は狩人。追いかける側だったはずなのに。
どうして?
水たまりが跳ねる音。
男の喘鳴、心臓音。
それだけの世界で。
男は確かに他の存在を感じていた。
いったいいつから?
始まりは覚えている。
ちょうど雨が上がった時から、始まったのだ。
男は『その人』と呼ばれる殺人鬼だった。
殺人鬼に『その人』?
なんてそっけない通り名なんだ、と思うだろうか。
そのままを表すには、あまりにおぞましいのだ。
標的となるのは必ず恋人のいる女で、「相手のいる女はまるで愛くるしい見た目で万年発情期のうさぎのようだ」なんて理由で標的を『うさぎ』と呼び、殺し、そして、
食べる。
骨だけとなった女の亡骸を、『お前の【⑥うさぎもおいしかった】よ。』というメッセージとともに女の恋人に送り付ける、悪逆な殺人鬼にして、非道な食人鬼。
『その人』という隠語の裏には、そんな残虐な意味が潜んでいた。
そして今日は、『その人』の二十歳の誕生日でもあった。
おぞましい殺人鬼は案外若い。
もう法律は自身を守ってはくれない――否、法律が改正されて、もうとっくの昔に法の守護から外れているのだが、裏の社会に生きる『その人』は表の社会の決まりごとにさして興味はなかった。
今日も今日とて、『うさぎ』を探し、おいしく頂くだけ。
そのはずだった。
「月がきれいだよ。」
すれ違ったカップルの片割れが、傘を閉じながら『うさぎ』に囁く。
男もフードを脱いで何となく空を見上げた。ちょうど雨が上がり、ちぎれた雲から月が出ていた。
大きく、まるまるとした、満月。
…きれい?どこが?男にはちっとも分からない。
どうやら男の目に映る【①月は綺麗ではない】ようだ。
多量の鮮血とグロテスクな内臓ばかり見てきているせいで、網膜にまで赤色が染みついているのかもしれない。
そういえば、月にはうさぎがいるとかどうとかいう話があったな。
…おあつらえ向きじゃないか。
男の口角がゆがむ。
男が、『その人』になる。
カップルを尾行し、手を伸ばした。舌なめずりは無意識で。
数多の女の血と涙の染みる指先で、いつものように、『うさぎ』を、狩る。
捕食の時間―――…。
ぞ く り 。
何かが『その人』の背筋を駆けた。
このまま手を伸ばしてはいけないと、危険信号が、男の脳裏に、ちかちかと。
妙に寒いのは、先ほどまで雨が降っていた影響か、それとも。
手はそのままに、足だけ、後ろに動かす。
距離を取る。
『うさぎ』は残虐な狩人に気づくことなく、片割れとともに夜の街に消えていった。
いったい何事だ。
捕食の時間を邪魔された『その人』は【③激怒しながら】振り向く。
その一瞬、人影と目が合った。
その人影はハッキリとこちらを見ている。
目は口ほどに、とはよく言ったもので、視線は『その人』のその先の行為を雄弁に止めていた。
その眼光だけで、脳裏の危険信号がいっせいに全身で鳴り響く。
目が合った。たったそれだけで、『その人』から、ただの男に戻された。
怒りなんて、とうにしぼんでしまっていた。
あれは、ダメだ。
人影がゆったりと動き出す。
男はたまらず逃げ出した。
追いかけられたわけでもないのに、男は逃げることを選択した。
そして冒頭に戻るのだ。
物陰に隠れながら、男は呼吸を整える。
それなりの間、この辺りを狩場としてきた。
だが、あんな存在は知らない。
というか、なぜアレは俺の行動を止められたんだ。
無言で、視線だけで!
どうして!!
「それはですね」
呼吸が、止まった。
それに構わず声は降ってくる。
「あなたがあのカップルを尾行する前から、俺があなたを尾行していたからです。【⑦二重尾行】というやつですね」
微妙にズレた答えを吐いた張本人を、男は恐る恐る見上げ、確認する。
フードを被った、少年だった。
若い。自分よりも。
高校生くらいか?
少年は悠然と笑う。
あまりに自然な動きだったので、男は反応が遅れた。
目の前でナイフが振り下ろされる瞬間まで、動けないなんて!
男は顔を限界までそらし、間一髪で避ける。
皮膚は無事だ。服が少しだけ切れた。
「…おや、今ので仕留めるつもりだったんですが。さすが歴戦の殺人鬼は反応がよろしいようで」
慇懃にそう言いながら、少年はナイフを突きつける。
無骨なサバイバルナイフ。
それだけでわかる。
こいつは、同類だ。
じりじりと間合いを図りながら臨戦態勢に入る。
奴も攻撃態勢ではあるが、纏う雰囲気は緩い。
「月に叢雲花に風、とはよく言ったものです。意味はご存じ…ないでしょうね。世の中の好事には障害が多い、という意味です。さらに好事とはこうず、とも読めるのですが、そう読むと物好き、という意味になるんだとか。まさに俺たちにピッタリだと思いませんか?」
何が言いたい。
「…俺は昔、なぜ血は赤いのか、という疑問について深く考えたことがあります」
は?
「なぜ血は赤いのか?他の動物の血も赤いのか?他の色にすることはできるのか?知的好奇心とは恐ろしいですね。犬、猫、ハムスター、カラス、ハト、俺はあらゆる動物を解体し、血を採取しました。結論から言えば、まぁ、赤色でしたね」
…何の話だ。
そうしている間にも移動しながら間合いを図っている。
「次に、バラして集めた赤い血を、俺は青い色鉛筆で青くしようとしました。紙に垂らして上から塗りつぶしてみたり、色鉛筆の芯だけ抜き取って血と混ぜてみたり…。ま、結果はお察しですよね。近所の文具店の人からは【⑤青い色鉛筆ばかりを買う】不思議な子供と言われました。懐かしい話です」
奴はどこまでも普通だった。
声色も態度も、なにもかも。
まるで知人と世間話をするかのような気安さで、同類と対峙している。
「なんてことしているうちに、楽しくなってしまったのです」
ぶわり、と背後から強風が吹いてきた。
いつの間にか広いところに出ていたらしい。
視界に飛び込んできた花びらをうっとうしく思う。
……花びら?
振り向いてしまったのだ。目の前に臨戦態勢の同類がいるにも関わらず。
背後には、それは立派な桜の大木が満開の花を咲かせていた。
花びらは雨水をはじき、月あかりを反射させ輝く。ライトアップされてないのにハッキリと見えた。
薄紅色の花びらを大量にまき散らしながらも、枝が見えないほど盛大に咲き誇る夜桜。
汚い掃きだめのようなこの場所に、こんな絵画のような領域があるなんて。
あぁ、そう、今日は俺の誕生日だった。
俺の誕生日は、桜の時期だった。目の前の桜にセピア色が重なる。
セピアにはランドセルを背負う俺と、顔が見えない女――…。
誕生日を覚えていながら花の時期を今になって思い出すとは、今日は本当にどうかしている。
「きれいですよね、この桜。夜桜というのも非常に風流です」
絶好のチャンスだろうに、奴は隣に立ち桜を眺めている。
満月を見てもきれいだとは微塵も思わなかったのに、この桜だけは心から美しく思う。
「桜が美しいのは、樹の下に死体が埋まっているから、だそうですよ」
奴は世間話をしながら、物騒なことを言う。
…………。
「理科の時間でやりませんでしたか?赤い水に白い花をつけると、色を吸収して白から赤い花になる、という実験。その理屈でいけば、桜は死体の血を吸って赤く染まる、ということになります」
この血もきっとその糧になるでしょう、と。
…………………。
「それにしても間抜けですね。さっきまで命のやり取りをしていたのに、桜に見とれて隙だらけとは。まぁ、でも、楽でよろしい」
俺は地にひれ伏しながらも桜を見ていた。
【二十歳の誕生日。満開の花を見た俺は、自分が再びこの花を見ることはないとわかった。】
俺はこれで死ぬからだ。
ずしり、と重さを感じる。
奴が馬乗りになっていた。手にはもちろんナイフ。
それにしても、こいつは人を刺したというのにまったく変わりがない。
同類なら喜ぶなり興奮するなりするだろうに。
平坦なまま、奴は先ほどの続きですが、と話し始める。
興味はない。桜を見ていたい。
「動物をバラしているうちに、生き物を殺すことが楽しくなっていました。命あるものが命を落とす瞬間に、鼓動を刻んでいた心臓が静かに止まる瞬間に、温かいものが時間をかけて冷えていく経緯に、俺は生命の神秘を感じます。だから、殺します。」
なんの感情も湧かない、平坦な死刑宣告。
「…殺人鬼の大半は、標的にある種のこだわりがあるもの。最期に、なぜ恋人のいる女性ばかり狙うのか、教えていただけません?」
俺は当然答えない。
かすむ視界のなか、ずっと桜を見ていた。
重なるセピアの思い出を、網膜に焼き付けるように。
「…【④愛されたい】気持ちの裏返しですか?」
!!
「女性を、それも恋人のいる人を狙うのは、かつてあなたを愛さずに男を作って去っていった母親の影を見ているからですか?」
なぜ、なぜ、そんなこと、
奴はその問いに応えることはなかった。饒舌なくせに、肝心なところは沈黙を貫く。
「…そこで男性でなく女性の方を殺したり、そのまま食べてしまうあたりが、殺人鬼の素質というか、異常者ですよね。分かりますよ」
いやになるくらい優しく微笑む奴は、ふう、と一呼吸置き、体勢を整えた。
俺を殺すための体勢に。
「人殺しはいけないことです。けれど俺はそれを抑えることができません。だから、せめて標的はあなたのような極悪人だけと決めています」
ゆっくりとナイフを振り上げる。
そして。
「俺は自分が異常者であることを知っている。知ったうえで生きている。今のあなたが自分の将来の姿になるだろうということも、承知の上で行為に及ぶ。あなたも、そうだったんでしょう?『その人』さん」
俺が最期に見た景色は、満月と夜桜、そしてその全てを切り裂くような鋭いナイフの切っ先だった。
花びらが舞い散る夜桜の下、1人の少年が静かに根元を掘り起こしていた。
自らの手で時間をかけ、ようやく人ひとり入りそうな大きさ、深さの穴が開いた。
身体を起こし、はぁ、と大きく息を吐く。
「…あいにくですが、俺はあなたのような人食いの趣味はありません」
人の形をした肉塊を見下ろし、まるで生きているかのように話しかける。
つい、さっきまで、生きて、動き、話をしていた、人の過去形。
動いていたものが動きを止めるその瞬間、
あるはずのものが消えていく瞬間、
二度とない、人の、最期の瞬間!
あの刹那に、少年の欲望が満たされた。
その瞬間を思い出し、無意識に表情が溶ける。
あぁ、本当に、これだから、人殺しはやめられない!!
「人食いの趣味はありませんが、あなたは確かに俺を満たしましたよ」
ありがとうございます。
心からの謝辞を述べ、少年は肉塊を抱え、穴に横たえる。
その間にも花びらは降り、土より先にそれを埋めてしまおうとする。
「今まで散々、『うさぎ』と称して食べてきたんでしょう?だったら、最期は自分が食われてみればよろしい。このまま腐り、土に溶けて、この桜に吸収されるのです。人間とて所詮は動物、それはよい肥料になるでしょう」
開けた穴を、また自らの手で埋めていく。
その表情は慈愛に満ちていた。
「月に叢雲、花に風」
「『喜ばしいこと』には、とにかく障害が多いのです」
「とくに俺たちのような、『物好き』にとっては、ね」
用が済んだ少年は、振り向きもせずその場を去った。
月と桜は、そのすべてを、静かに見ていた。
【終】
[編集済]
少年の淡々とした語りにぞくりとしつつ、不思議な説得力がありました。
血を色鉛筆で青くしようという発想は、意味不明でありながら理解できてしまうような、地続きの狂気か感じられました。
[編集済]
むかしむかし、あるところに、『眠らずの国』という国がありました。
そこで暮らす人々はみな24時間、どんな時もぱっちりと目が覚めていて、睡眠をとることがありません。昼は外へ行って畑仕事をし、夜は家に帰って家族と食事をしたり、仲間を集めてカードやおしゃべりをして楽しく過ごしていました。
国を治める王さまは家来に慕われおり、自分の娘であるお姫さまをずいぶん大切にしておりました。王さまの言いつけでお姫さまは一日中お城から出ることを許されず、そのため図書館にこもって読書に耽っていました。
お姫さまにはたくさんの時間があったので、毎日毎日、本棚から自分の顔より大きな本を端から取り出しては一冊ずつ。今では図書館のすべての本が、彼女の頭の中にあるようです。
そこから広がる空想の世界が、お姫さまのお気に入りでした。
そんな毎日が、突然現れた1匹の悪魔によって破られました。
自由気ままに、お城の中へと入ってきた悪魔と兵隊たちが戦いますが、全く意味がありません。剣はまるで霞を切るように通り抜け、鉛の銃弾はその小さな体には当たりもしませんでした。
「なんと芳しい、知恵の香りだろう!!」
クンクンと鼻を鳴らすと、図書館へと一直線に飛んでいきました。そして外のことなど何も知らないお姫さまに向かって叫びます。
「お前の夢の中を見せてもらうよ!」
悪魔はそう言ってお姫さまの頭の中に飛び込みました。するとどうでしょう!彼女は地面に伏して、そのまますやすやと寝息を立ててしまったではありませんか。
頭の中では今まで溜め込まれていた知恵の泉から、たくさんの夢が溢れて止まりません。
悪魔といえば夢の中で汽車に乗って旅行や遊園地にいったり、おいしいうさぎ料理を食べたり⑥、満月に落書き①やいたずらをしたり。朝日が登るまで遊び続けました。
「ああ、楽しかった!また会おう!!」
それからというもの、悪魔は毎日のようにお姫さまの元を訪れ、彼女だけが一日の半分、夢の中に閉じ込められてしまったのです。王さまはたいそうお怒りになり③、国中の賢者を呼んでは悪魔払いや眠りから解き放つ方法を試させました。
あるものは寝ている間に水をかけたり②、青い色鉛筆ばかりを大量に買ってきて⑤お姫さまの部屋一面を目の覚めるような青空に変えてみたり。しまいには「お姫さまの美しい目こそ悪魔を引きつける原因なのだ!」と言ってふたえをハサミで切ろうとする変わり者さえ現れました。⑦
しかしどんな方法を試しても夜になれば、お姫さまは悪魔の手によって夢の中へ落ちていくのです。人々はそれを知って悲しみました。
かわいそうなお姫さまのために、王さまは国の一番はずれの森に住む魔法使いに助けを求めました。すべてを打ち明けると、魔法使いはこう言いました。
「それは『睡魔の呪い』だね。最近ではどんどんと深い眠りになっているようだ。このままでは今晩、彼女の20歳の誕生日には2度と目が覚めなくなってしまうだろうねえ。」
「眠りから覚めないとは、死んでしまうということか?」
「そうとも言うね。」
王さまが泣き崩れると、魔法使いは笑って話を続けます。
「なあに、簡単なことさ。」
そして袖からぽんと何かを取り出すと、それを王さまの手のひらに乗せました。
「睡魔に打つ勝つ方法はただ一つ。睡魔という名の小さな悪魔を、この小さな小さな枕で寝かしつけてしまえばいい。たったそれだけ。」
魔法使いにお礼を言うと、彼は日が暮れる前にお城に帰って行きました。
その晩、お姫さまはお城の塔の一角、自分の部屋で『睡魔の枕』を握りしめ、睡魔がやってくるのを待っていました。しかし現れた睡魔を見て、彼女は驚きました。睡魔は仲間を連れてきたのです!しかも悪魔たちはそれぞれ、異なるよろいを身にまとっていました。
羽毛のよろい、木のよろい、鉄のよろい。
枕はひとつしかありませんが、仕方ありません。お姫さまはドレスの袖をひとまくりすると、順番に睡魔たちを寝かしつけていきました。
まずは羽毛のよろい。羽毛はとてもふかふかで暖かかったので、おやすみのキスをするとそのままぐうぐうといびきをかいて寝てしまいました。
木のよろいは細かい枝がチクチクと体に刺さります。たまらずよろいを脱いだところに枕を差し出すと、こちらもすぐに眠ってしまいました。
最後は鉄のよろいです。よろいを身につけていたのは、お姫さまを夢の中に閉じ込めて散々いたずらをした、あの悪魔でした。硬くて重い鉄のよろいは、どんなに頑張っても外すことができませんでした。
もうだめだ。また夢の中に閉じ込められてしまう……と思ったその時。
よろいの中でカタカタと細かい音が聞こえました。お姫さまは不思議に思って、もしかして震えているの?とたずねます。
「鉄が冷たくて、寒くて仕方がないんだ、助けてくれ。」
無理もないでしょう。気温がぐっと下がる冬の真夜中、こんなものを肌につけていてはみるみるうちに体温が奪われてしまいます。彼女は悪魔に話しかけました。
「あなた、名前は?」
「モルフェだ。」
「そう、じゃあ、こっちにいらっしゃい。」
彼女はよろいごとモルフェを抱きしめました。鉄のよろいを伝って、体温があちらへと流れて行きます。心地よい温もりに包まれながら、彼は生き返るような気分でした。
「もういい、君の方が凍えてしまうよ。」
彼女は首を振りながら、さらに強くモルフェを抱きしめました。睡魔は初めて、極めて遠慮がちに言いました。
「降参、降参だ、呪いは解こうじゃないか。
…なあ、君は一体、今どのようなことを考えているようなのだろうか?」
彼女は考えました。悪魔と出会う前のこと、出会ってからのこと、夢の中の出来事…
「私は今では別に、あなたのことを怒ってはいないのです。思えばそう……楽しい夢でした。」
眠らずの国のお姫さまは、優しく睡魔の頭を撫でました。
「お父さまに大切に大切に育てられた、その結果があの図書館での生活でした。日がな物語を紡いでいく人生の中で、もしかしたら誰もいない静かな部屋でひとり、私は人知れず求めていたのかも知れません。私を必要としてくれる、愛してくれる誰かを。④最後に私の夢でよければ、使ってください。」
モルフェはゆっくりと頷きました。そしてあたりを見渡すと、彼女に向かって言いました。
「察するに、この国にはベッドというものがないようだ。君はいつもソファの上で寝ているようだからね。これでは寝心地が悪かろう…そら、今晩だけの僕からのプレゼントだ。」
睡魔が何か言うと、彼女の足元には大きな大きな睡蓮の花が咲きました。上品な香りと満開の花弁に包み込まれながら、その上に二人は横になります。
「今度は閉じ込めたりしないさ、一緒に、夢の中で遊ぼう。」
まるで夜のとばりが降りるように、彼女の美しい二重まぶたがゆっくりと下がっていきます。そしてふたりは同時に目を閉じました。
夢の中、三匹の睡魔とお姫さまは朝日が登るまで遊び続け、睡魔は2度と現れませんでした。
(おしまい)(このお話は全てフィクションです。)
参考:『星を賣る店』(クラフト・エヴィング商會著)に登場する「睡魔の枕」より着想をいただきました。
[編集済]
おとぎ話のような文章は、絵本の挿絵が浮かび、読みきかせる声が聞こえてくるようでした。
花はどう使うのだろうと思っていたら、ベッド替わりの睡蓮とは驚きました。
優しくも切ないラストに、これからも皆で遊べばよいのにと思わざるをえません。
[編集済]
簡易解答:睡魔に襲われ、20歳の誕生日に2度と目覚めない呪いをかけられた、眠らずの国のお姫さま。彼女は魔法使いからもらった睡魔の枕によって悪魔を倒すことに成功します。しかし誰かに愛されたい必要とされたいと願った彼女は④彼の用意した睡蓮のベッドに伏し、最後に夢の中で遊ぶことを約束しました。
☆
【要約】
月が二重⑦に見えるその日にだけ、満開の花を見ることができるらしい。
たまたま自分の誕生日であったため、大して興味はなかったが見に行ったその人は感動し、涙した。
しかし、その時流れた公共放送(ラジオ等)により、花が咲くのは二百年に一度だけと知ったので、自分が再びこの花を見ることはないとわかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私は青い色鉛筆ばかりを買っては⑤、地球の絵を描いていた。
地球は青く美しく、スケッチブックはもうすぐ青で埋め尽くされる。
██星に住む我々の娯楽と言えば絵を描くこと。
画家として生計を立てる私にとっては、もはや娯楽の域を超えてしまったが。
私たちは、地球人と大して変わらない文明を持ち、似たような姿形をしている。
そういったことも、私が地球にシンパシーを感じる所以かもしれない。
「一枚おくれ」
チャリンと缶に投げ込まれる硬貨。
「好きなの持っていきな」
「なぁ。地球ばっかり描いて飽きないのか?」
「別に」
「ほら、人気なのは月だろ?アンタほどの腕があれば、描いたら即完売するだろうに」
残念ながら、私は月が綺麗だと思ったことがなかった①。
見てごらん。
ぺったんぺったん。
うさぎがおいしい⑥お餅をついているよ。
どちらかと言えば、私にはシミだらけの老婆に見える。
こんなことを言ったら頭がおかしいと思われる程度に、皆は月が好きだ。
「まぁ、アンタは興味ないだろうけどさ。月に青い花が咲くらしいぜ」
「ふーん。いつ」
異常気象が原因か、はたまた神秘か。
██星から月が二重⑦に見える日。青く美しい花が、月全体に咲くのだと客は言う。
告げられたその日は、ちょうど私の二十歳の誕生日だった。
―――醜い月が、愛されたい④からって必死でやっているイベントのようなもの―――
そんなもんだろ。
(月に良いイメージを抱いていない私の意見は過激かつ偏っている)
「気が向いたら、見に行ってみろよ」
「ああ」
客が去ってしばらく、私は青い色鉛筆を眺めていた。
「地球は青くて、美しい」
月が、青く……?
青く、ねぇ
~~~~~~
数日後。
私はずぶ濡れ②になりながら己に激怒していた③。
「月なんかを見る為に、こんな目に遭うとはな!!あー、自分が馬鹿だとしか思えない!誕生日だからか?浮かれたとでも!?本物の馬鹿だ!」
花を見ることができるポイントまで辿り着くのに半日かかった。
整備されていない道無き道で何度も転んだ。
水溜まりにはまり、身体中びしょ濡れ。
不快極まりない。
ちくちょう
怒りがピークに達しようとしたその時、風に乗って微かに甘い匂いがしたような気がした。
私は呆然と立ち尽くす。
月が、青い。
二重になった月を埋め尽くす名も知らぬ満開の花。
重なり合う部分は濃紺、ぼやけた輪郭は水色。
いいや、言葉で表すことなど出来ない。見たことも無い青が、そこには広がっていた。
つと、私の目からは涙が溢れていた。
美しかった。
スケッチブックと青い色鉛筆を探した手は空を切った。
なぜ持って来なかった!?
悔やんでも悔やみきれないほどの焦燥感に駆られる。
ザザ……ザ…
██星の公共放送が流れ始めた。
『二百年に一度しか咲かないという月の花。見ましたか?明日にはもう枯れてしまうなんて、残念ですねぇ』
『いやー、僕はちょっと直に見るには険しい道のりらしいので。ネット配信されるまで待ちます笑』
―――二百年に、一度。
二十歳の誕生日。
私は、もう二度と見ることができないとわかった青い月を濃く、濃く脳裏に焼き付けた。
【おわり】
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月面を覆う満開の青、届くはずもない香りを感じてしまうほどの美しさが伝わってきます。
ラジオの「ネット配信されるまで待ちます笑」の冷め具合がなんともリアルで、私もなんでもネットで済ませてしまいがちですが、やはり直接見るほうがずっと心が震えるんですよね。
懐疑的だったはずのその景色から目をそらせない男の気持ちが痛いほど伝わりました。
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簡易解説
⑥ウサギガオイシイ号とのコンビでG1初制覇を成し遂げたフウマは、師匠から来年以降は満開の桜の時期に海外の大レースに騎乗するように背中を押され、今まで見てきた桜を見ることができなくなることを寂しく思う反面、世界一の名ジョッキーになるという強い決意を固めた。
2020年4月12日 G1サクラハナ賞が大阪競馬場で行われた。
少し時季外れに満開になった桜が見守る中、勝ったのはフウマ騎手騎乗の⑥ウサギガオイシイであった。
これでフウマはG1初制覇!デビュー当時から騒がれていた若手のホープがついに花開いたのであった。
思えば、騎手になってからもう7年。今までいろいろなことがあった。
フウマは子供のころから馬のことが大好きで、近所の厩舎にお邪魔しては、そこの馬たちの絵を描いたり馬と水遊びして②ずぶ濡れになったりした。たまたまその厩舎には青毛の馬が多かったためか、⑤青い色鉛筆をよく使い、しょっちゅう買いに行った。
そんな馬が大好きなフウマは中学卒業後に騎手の道を選択。学校でも着実に技術を身に着け、3年後に無事デビューすることができた。しかしデビュー当時は師匠のオトハシ先生に③激怒されることも多かった。
一番の失敗といえば、ビューティフルムーンという馬に騎乗した際、馬との呼吸を無視した強引な騎乗で大敗したことだろう。
この馬はオトハシ先生が太鼓判を押すほどの素質馬で、先生自身もレースに勝った際には「月がきれいですね。」と言おうと思っていたのだが、蓋を開けてみればまさかの大敗。フウマに対して大目玉を食らわせたのちに、記者に①「あれでは月がきれいですねとはとてもではないが言えない。」と愚痴を漏らした。
それ以来、オトハシ先生はフウマに対して、「馬を愛し、馬に愛される騎乗」を目指すように口を酸っぱくしながら言い続けた。フウマは馬への愛は誰にも負けていないという強い自負があったので、④馬に愛されたいと強く思うようになった。
そうした挫折を乗り越えてのG1制覇である。先生とフウマの喜びはここに記すことができないくらい、大きなものであっただろう。
レース後、師匠のオトハシ先生はフウマに対しこう言った。
「もうお前は国内に留まっていてはもったいないな。来年からはこの時期に行われる世界最大のレース、バドイワールドカップを含むたくさんのレースに乗ってきてもらわないとな。大阪で乗ってほしい気持ちもあるが、⑦ダブルブッキングみたいな無茶はさせられん。あっちで頑張ってこい!もちろんとびっきり強い馬をいっぱい用意してやるわ。」
その言葉を聴き、フウマは「そうか、もう来年からはこの桜の時期に俺はバドイに行くことになるのか。その時期は大阪の桜が満開になるし、見られなくなるのは悲しいけど、ちゃんと結果出して世界一の名ジョッキーになるぞ!」と決意した。
(完)
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問題文と要素の関係で切ない、特に悲恋の話が多くなる中、まっすぐ前向きなお話でした。
「うさぎがおいしい」を馬の名前で消費するのはズルくも見えますが、実際競走馬の名前は変なものが多いのでいっそこれが正解なのではないかと思えます。
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(要約)
幼い頃から病と闘っている19歳のゆり。もう何年も自身の部屋で過ごしている。
ゆりは毎年、6月の誕生日にお祝いにきてくれる親戚のお兄さんに恋をしていた。毎年、誕生日が来るのが待ち遠しかった。いつかは元気になって彼に愛されたいと願っていた(④)。
しかし20歳の誕生日、彼とともに外出した際に満開の桜を目の当たりにしてしまう。今日が誕生日というのは家族が仕組んだ嘘で、今はまだ4月だったのだ。
なぜ家族はそんな嘘をついたのか、思い当たる理由はひとつしかない。ゆりは、自分がもう数か月も生きられない体なのだと悟った。
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☆ [正解]
(本編)
◆プロローグ◆
俺は最後の別れを告げるためにあの子の家に向かっていた。
道すがら、二か月前の記憶が何度もよみがえる。
──月がきれいですね。
──わたしにはきれいに見えません。
遠回しだが明確な拒絶。
俺はあの日、振られたのだ。
◆第一章 ゆりの部屋◆
ゆりの家に到着するなり、おばさんに「見せたいものがある」といわれあの子の部屋へ通された。
壁には水彩色鉛筆で描かれた絵画がかかり、本棚には日本の文学作品が整然とならんでいる。主を失った部屋は以前と同じはずなのにどこか虚ろであった。月齢付きのカレンダーは、今日の日付を示していなかった。
おばさんに渡されたのは一冊のノートだった。
俺はとても読めないと断った。女の子のノートを読むのは忍びないし、想いを伝えて拒まれた相手ならなおさらだ。
それでも是非ともあなたに読んでほしいといわれ、俺は渋々ノートを開いた。
◆第二章 ゆりの物語◆
ここしばらく具合が悪い日が続いていたが、今日はふしぎと気分がいい。気分のいいうちにあの日のことを記しておこうと思う。
あの日、いつものように母が部屋に来て、びりびりと日めくりカレンダーをめくる音で目が覚めた。
母が、ゆりちゃん調子はどう、と聞くのでわたしは、今日はだいぶいいみたいと答えた。
カレンダーをみると6月24日で、わたしの誕生日だった。
「おかしいわね、ついこの間春がきた気がするのに」とわたしがいうと、大人になると時が経つのが早く感じるものなのよ、と母は笑った。
「ゆりちゃん、成人おめでとう」
母から渡された包み紙を開けると、さまざまな青色のファーバーカステルが入っていた(⑤)。
わたしは調子がいい日は大抵本を読むか絵を描きながら過ごしている。最近は窓から見える景色ばかり描くので青ばかり減ってしまう。なにせこの窓から見えるものといえば空と建物だけだ。青の色鉛筆は嬉しい。
「そういえば定晴くんは夕方お見えになるそうよ」と母はいい、部屋を出ていった。それを聞いてわたしの頬は赤くなったかもしれない。
***
わたしは漱石の本が好きで、なかでも『夢十夜』の第一夜が格別好きだった。
いつかわたしが死ぬとき、かたわらで大切な人が見守ってくれたらすてきだと思う。そしてわたしが死んだあと、百年もわたしを持ってくれるとしたらどんなに幸福かしら。
そう空想するとき、思い浮かぶのはいつも定晴さんだった。
定晴さんは従兄弟のお兄さん。小さい頃からお見舞いにもよくきてくれている。
数年前までは外へも遊びに連れていってくださったのだけれど、いつかの夏わたしが外出先で倒れて以来、母はめったに外出を許さなくなった。やがて定晴さんは東京の大学に行ってしまい、あまりうちへも来られなくなった。
それでも誕生日だけは毎年欠かさず顔を見せにきてくれる。だからわたしは誕生日が待ちどおしくて仕方がない。
***
夕方、先生の往診のあと、入れ違いに定晴さんがいらっしゃった。一年ぶりに会う定晴さんはとても元気そうで益々たくましい感じがした。明るい空色のシャツが眩しかった。
一緒に夕飯を食べたあと(わたしはあまり食べられないけれど)、急に母が出かけていった。今思えば、ふたりきりになるように気遣ってくれたのだと思う。
定晴さんとたくさんお話をした。
最近のはやりの曲を教わったけれど、なかでもペンとアップルを合体する歌がおかしかった。
ゆりはどんな歌を知ってるの、と聞かれたので、歌は小さいころに歌った童謡くらいしかわからない、と答えた。
それからわたしの知ってる歌を歌った。ふるさとの歌詞を勘違いしていたので定晴さんに笑われた(⑥)。わたしも笑った。あんなに笑ったことはもう何年もなかったように思う。
定晴さんはいつもわたしの知らない世界をたくさん教えてくれる。このまま外の世界へ連れ出してくれたらいいのにと思った。
「ねえ、外を散歩したい」
「おばさんに怒られないかな」
「少しなら大丈夫よ」
定晴さんは少し思案したあと「じゃあ今日は特別だよ」とおっしゃった。
***
定晴さんに車椅子を押してもらい、久しぶりに玄関の外へ出た。
夜風が思いのほか寒く、少し熱が出てきたかもしれないと感じた。
人通りのない静かな夜だった。道の真ん中で野良猫たちがのんびりとくつろいでいた。
わたしは定晴さんと出かけていることが大変幸せだった。定晴さんと一緒ならどこまでも行けると思えた。生きる希望がわいてくるようだった。
唐突に「月がきれいですね」と定晴さんがいったので、空を見上げたけれど一見、月は見当たらない。わたしの高さからは街路樹の陰になっているようだった。車椅子が進むのにあわせて、葉の間からちらちらと光が見えた。
「わたしにはきれいに見えません」(①)と正直に答えたら、定晴さんはひどく寂しそうな顔をなさった。
ふと、わたしは月が見えることに違和感をおぼえた。今日は新月だと思ったけれど、カレンダー見間違えたかしら。
住宅街を抜けて川沿いの公園にでると、「あ」と声をあげて定晴さんが足を止めた。
そこには思いがけず桜の木があって、花びらの雨を降らせていた。
ああ、そのときのわたしの気持ちといったら、なんと形容したらいいのだろう。
満開の桜をみれば今が4月であることは明らかだった。
先程おぼえた月齢の違和感と、目の前の桜とが、ここ半年ほど奇妙に日が早く経っていったこととぴたりとつながった。
母のしわざだ、と思い至った。
朝カレンダーをめくるとき、一枚ずつではなく、時々二枚重ねでめくるようにしていたのだと思う(⑦)。
わたしは具合の悪いときは一日中眠ることも多く、とうの昔に日付の感覚がなかった。気づかぬうちに少しはやい暦でわたしは生かされていたに違いない。
母が嘘をついてまで誕生日を早めた理由を、わたしは一つしか思いつかない。
わたしは6月24日まで生きられないのだ……
わたしは呆然と桜を見上げた。
風がやさしく吹き桜は花びらを散らした。花びらが舞うたびに、橙がかった街灯のあかりに照らされてきらきらした。
これが、最後の花見なのだ。
「きれいですね」と思わずいった。定晴さんは何もいわない。
振り向くとふしぎななことに定晴さんは泣いていた。なぜ泣いているのですかと聞こうとしたら、自分も泣いていたことに気がついた。
それからわたしたちは静かに涙を流しながら、花が散っていくのを眺めた。
夢十夜のように、愛する人に見守られながら死にたい、死んだ後もずっと想ってほしいと願っていたことはけして嘘ではない。
けれど、そう願うよりももっと強い気持ちで、わたしはいつか病気を乗り越えてあの人に愛されたいと祈っていたのだと、死を目前にしてはっきりと自覚してしまった(④)。
***
その日家に帰ると母はまだ戻っていなかった。だから母はわたしたちの外出を知らないし、わたしが嘘に気がついたことも知らない。
今が本当は何月何日なのかは訊かないままにしている。
かすかな望みを捨てきれないのだ。あの夜のできごとが一夜の悪い夢であったらと。
◆第三章 なぜ想いは伝わらなかったのか◆
ノートを読み終えて、俺は困惑していた。
「知りませんでした。ゆりがあの日を誕生日と勘違いしていたなんて……」
俺はおばさんに頭を下げた。
勝手にゆりを連れ出しておばさんの嘘を台無しにしたことを咎めるために、このノートを見せたのだろうと思ったからだ。
あの日は、ゆりがもう長くはないだろうと聞き、例年の前倒しで会いに行った。最後になるかもしれない気がして、外へ連れ出してしまった。
しかし、おばさんはゆるゆると頭を振った。
「違うの、あなたにきちんとゆりの気持ちを知ってほしくて」
「ゆりの気持ち……」
「あなた、ゆりに振られたと思ったでしょう?」
その通りだ。実は、俺の困惑の対象は誕生日どうこうより主にそっちだった。ノートを読む限り、ゆりはまったく俺の気持ちに気づいていない。俺を振ったつもりもなくて、それどころか俺のことをとても想ってくれている。
「俺は、ゆりが漱石を好きだと聞いていたので『月がきれいですね』といったんです」
漱石が、I love you. を「月が綺麗ですね」と訳したという逸話は真偽はさておき有名である。ゆりへの愛のことばとしてふさわしいと思いチョイスした。
そう伝えると、おばさんは悲しそうな顔をした。
「色々考えてくれてありがとう。でも、多分ゆりは知らなかったの」
「知らなかった? え、だってこんなに……」
俺は本棚を指さす。
「ええ、ここには漱石の本はいっぱいあるけど、それしかないから」
おばさんの意図がわからず、ぐるりと部屋を見回した。たしかにこの部屋にはテレビもパソコンもないが……
俺はハッとした。
【「月が綺麗ですね」は漱石の小説にでてくる文章ではない。】
いくら漱石が好きであっても、情報源が小説のみでは知りようがないのだ。あの子は流行りの歌どころか、童謡の歌詞すらも知ることのできない狭い世界で生きていた。知らない言い回しを愛の言葉と受け取れないのは当然である。
なんて滑稽だろう。格好つけて告白したつもりになって。勝手に拒絶されたと思い込んで。
あの子は俺のことをこんなにも想ってくれたというのに。
俺は自らの過ちに激しい憤りを感じ、唇をかんだ。(③)
「もっときちんと伝えるべきでした。あの子に謝りたい」
「定晴くんは何も悪くないわ。あの子に謝るべきなのは私のほう。心配を盾にこの部屋に閉じ込めていたようなものなんだから。最後にはこんなその場しのぎの嘘で騙すようなこともして」
おばさんはやつれた手で日めくりカレンダーをなでた。
「どうしても死期が迫ってるなんて悟らせたくなかった。誕生日じゃないのにわざわざ東京からあなたを呼んだら勘付くと思ったの。バカな親でしょう?」
「……バカだなんて思うわけないじゃないですか」
俺は心から述べた。おばさんが握りしめたハンカチは涙ですっかり色が変わっていた(②)。
「ノートを読んだ瞬間に、騙してごめんねと謝りたくなった。でもできなかった。ゆりはこのノートを書き終えてすぐに昏睡状態になってしまったから」
そして目覚めることはなかったのだ。
長い眠りの中で、あの子は一体どんな夢を見ただろうか。
「定晴くん、娘を愛してくれてありがとう」
◆エピローグ、そしてもう一つの解説◆
居間へ行くと、俺の父親も通夜の準備を手伝っていた。
この部屋のインテリアに似つかわしくない棺が存在感を放っている。
祭壇にはほほえみの遺影。遺影の両脇には色とりどりの花が供えられて、芳しい匂いを生んでいる。
その中の、立派に開いた白い花弁が目を惹いた。
6月の誕生花だ。あの子の名前の由来だ。
今日は6月24日で、生きていればあの子の20歳の誕生日。
妖しく首をかしげた百合の花を前にして、どんなに恋い焦がれても、想いを伝えたくても、この花の名の女の子に会うことはもうできないのだと思い知らされた。
【完】
[編集済]
ゆりの視点と定晴の視点、どちらからも成立するまさに『二重』の解説です。
ゆり視点の簡易解説から定晴視点の本編なので、どう繋がるのかとわくわくしながら読みはじめ、けれどすぐに物語に引き込まれました。
ゆりが「月が綺麗ですね」の意味をわかった様子がないのが不思議でしたが、定晴と同じタイミングでハッとさせられました。
ゆりは最期まで知ることはなかったのだと思うと本当に悲しいすれ違いです。
[編集済]
[正解]
私はずっと1人だった。
心臓がどうやら悪いらしく、手術をするのも命がけなそんなどうしようもない心臓を持っていた。
あれは春だっただろうか。
なにもすることがない家で空の絵を描くために大量の青鉛筆を買おうとして、そして彼に出会った。
彼は何も見ていないような、それでいて何かを俯瞰しているような目をしていた。そんな彼に私は興味を惹かれた。だから知らない人のはずの彼に自然に話しかけていた。
「あの、あなたも空の絵を描くのが好きなんですか?」
「あ、僕ですか?ごめんなさい。急に話しかけられたから驚いちゃいました。えっと……なんでしたっけ?」
「いえ、あなたも青い色鉛筆ばかり買おうとしている(⑤)ようですのであなたも空の絵を描くのが好きなのかなと思いまして。」
「いや、僕は夜空の方が好きだからなぁ。あなたは昼の空の方が好きなんですか?」
そんな感じでずっと店の中で話し続けるのもあれだからと、近くのカフェに行って話をしましょうと、いわゆる逆ナンのようなことに成功した。その時に彼は学科は違うけど同じキャンパスに通っている同じ歳の大学生だということを知った。
それから何ヶ月くらい経っただろう。一度会った人と急に何度も会うようになるあの現象みたいに度々彼のことを見かけらようになっていた。それは彼も同じようで昼食を一緒に取ったりすることも多かった。私が生まれてたぶん初めて「1人」じゃなかった時間だった。そんな日々の中、ふと私の心臓の話をしてみた。彼は驚くでも、動揺するでもなく淡々と聞いた。
「不安じゃないの?」
「もう慣れたよ。」
嘘だった。この言葉だって不安にそれを隠すための笑顔の二重の感情によってなんとか発することができたものだった。(⑦)
「ごめんね。急にこんな話して。」
そのあとは2人ともずっと黙っていた。
そして昼ごはんを食べ終わってそれぞれ別れようとして私は倒れた。
目が覚める。ここは……病院かな。鼻になじんだ匂いがする。多分今回も健康センターからそのまま様子がおかしいということで病院に輸送されたのだろう。周りを見ると、リンゴを手の上で器用に切っている「彼」がいた。
「あっ起きた……もう……あんな話聞いた直後だったし心配したからね?そうだ、リンゴのウサギ食べる?」
「食べる……美味しい……。ところで今何時くらい?」(⑥)
「えっと……17:30だね。倒れてから2日経ってるけど。2日も目を覚まさないからちょっと大げさかもしれないけど死んだのかと思ったんだからね……」
表情からも彼が本当に心配してくれていることが伝わる。そんな彼に、もっと彼に愛されたいと私は願う。(④)
その後、医師が来て軽い検査の後少し入院することが決まった。その入院期間中に、私はまた意識を失った。
次に目を覚ましたとき、周りには誰もいなかった。
近くを通りかかったナースが、私に気がつき医者を呼びに行く。どうやら2ヶ月も意識を失っていたらしい。過去最長かもしれない。眠る数日前に見ていたのとほとんど同じ光景だなと思いつつ、これまで何度も受けた検査を受ける。どうせ今回もしばらく入院することになるのだろう。
実際にその通りで、私は20歳の誕生日の1週間前まで入院することになった。
ただ気がかりなことが1つ。眠る前までは毎日のようにお見舞いに来てくれてた彼が1度もお見舞いに来てくれなかったことだ。もしかしたら私が意識を取り戻したことに気付いてないだけなのかもしれない。早く彼に会いたい。
退院して、友人に「彼」のことについて聞いてみる。
すると友人は気まずそうにこう告げた。
「率直に言うけど……あの人事故にあったらしい。見通しの悪いところで車もあの人もどっちも気づかずに……それで……運悪く……死んじゃったんだって……」
妙に冷静に頭が回る。死というものがとても近しい人生だったからだろう。もしくは動揺しすぎて逆に冷静になっているのか。
私が先に死んでしまうのだという覚悟はできていた。甘かった。この世界はそんなに甘くなかった。だって、想像なんてできるわけがないじゃないか。こんな理不尽な現実を。
それからの1週間は、世界が全て歪んで見えた。地面も信号も先生の書く文字もノートの罫線も。月さえも歪んで見えた。彼に月が綺麗だなと言われても否定してしまうだろうくらいには。ああダメだ、どうしても彼を意識してしまう。(①)
そして私の20歳の誕生日、きっと今日なら神様それとも仏様?わからないけどその辺りが彼に会わせてくれるだろう。それじゃあ、おやすみ。さよなら。
ここは……船の上か。進行方向の反対側の岸には、満開の彼岸花が見える。
ということは三途の川か。そんなことを考えながらぼおっと進む先を見ていると岸に「彼」の姿が見える。そして水中を確認する。三途の川の水ってこんなにも綺麗なのか、川の底が鮮明に見える。このくらいならば、足をつけることができそうだ。そう判断した私は船を降り、ズボンがずぶ濡れになるのも気にせず走って彼のもとに向かう。(②)
彼は最初から私がいることに気付いているらしく何やら激怒していた。「首にタオルを強く自分で巻き付けたような跡がある、君だけは絶対に自分の意思でこっちに来るなんてことをして欲しくなかった」と。(③)
しょうがないだろう。私はあなたの愛に執着しているのだろうから。
あなたの愛を感じられるだろうここで、私は前を向く。もう後ろは見ない。あなたが愛してくれればそれで。さよなら、満開の彼岸花。
【了】
【簡易解説】
とある男に愛されたかった女はその男に先立たれ、それに後追い自殺をした。
三途の川の上から周りを見渡すと後ろに満開の彼岸花が咲いているのを見たが、その直後例の男を見つけそちらに注意を奪われた。彼を見つけて安心した彼女は、
「自分はただただ彼に愛されたい、(④)それが叶うのならば後ろを見ることも、満開の彼岸花も見ることはないだろう」と考えた。
愛されたかった人が愛されようとした、たったそれだけのありふれた物語。
[編集済]
心臓病から始まり、ああこれは「私」が亡くなるパターン……と思いながら読み進めると、まさかの展開。
作品としては良い意味で、「私」からしたら悪い意味で裏切られました。
本文最後の「さよなら、満開の彼岸花。」は「私」のさっぱりとした気持ちが伝わるフレーズで、なんとも声に出したい日本語です。日常生活では使えませんが。
そして簡易解説最後の「たったそれだけのありふれた物語。」があることで、「私」を価値観の違うものとして置いていたのが、ぐっと身近に感じさせられました。
[編集済]
【簡易解説…?】
その人は誕生日に自分へのプレゼントとして花を買おうと花屋さんに来た。そこで、元から希少種であり、花占いでは失敗が確定していることから不吉なものともされる、という「二重」⑦の要因に依り、店先には滅多にない「花びらが偶数枚のマーガレット」を見た。
都会人で、その行きつけの花屋さんくらいでしか花を見ないその人は、これからは意図して仕入れないようにするという店員さんの旨を聞いたので、自分が再びこの偶数マーガレットを見ることは無いのだろうと解ったのだった。
(簡易解説のため、物語部分の要約は省略しています。ご了承下さい…?)
++++++++++
お花屋さんの桜子さんが、その人と初めて会ったのは、彼女が店員さんになって日が浅い頃のこと。
その人は、まだ18歳の男の子だった。お花屋さんに通うのも、単に帰り道の中途にあるから、なんて至極簡単な理由だろう。見た目だけで言うのなら、花なんてあまり興味の無さげな、エリート大学生といったところか。
こんにちは、いらっしゃいませー!
桜子さんが声を掛ける。
すると、恥ずかしがりなその人は、軽く会釈をして、お花屋さんを去っていった。でも、桜子さんは満足そうに、仕事を再開していたような。
しかし、彼は今では、ここによく顔を見せる常連さんになった。
桜子さんは、だんだんと常連になったその人に、渾名をつけた。お花屋さんの、軽い趣味のようなもの。いつも顔を合わせる人、面識のある人に、ふんわりと考えたニックネームを頭の中でつける。直接呼ぶのは気が引けるので、もちろん頭の中でだけ。
例えばほら、お昼過ぎに通っていったあの人。あの人は休日になると、友達の主婦と外食に行っているそうだ。それを店先に大きな声で話す声が聞こえるので、三人衆の彼女の渾名は、「ミーハーちゃん3号」。
そうして、今度はあのおじいさん。あのおじいさんはお花屋さんに来るついでに、可愛いお孫さんの為に向かいの色鉛筆を買うことがしばしばだという。それも、なぜか青い鉛筆ばかり⑤だそう。それで、顔はちょっと、ブルドッグに似てる、そんなおじいさんの渾名は、「ブルー鉛筆」。
そういうテンションで、「その人」の渾名は「うさうま」さんになった。
彼がバッグにいつも付けてるキーホルダー。どんな経緯か、兎と馬のストラップが付いている。初めてそれを見た桜子さんは、略して「うさうま」だ、と思ったのだ。
しかしこのニックネーム。うさうま、うさうま…、なんだかうさぎがおいしい⑥みたい。桜子さんは頭の中に、月のうさぎが狂乱してチキンを振り回してる光景が思い浮かぶのがおかしくて、結局彼は「うさうま」さん。
彼の名前が「宇佐美さん」だと知ったとき、桜子さんはどんなに驚いたことか。
これは、それから少しあとのこと。うさうまさんは、このお花屋さんで、初めての購入をした。
元よりお花屋さんの常連さんなんて、パッと顔を出すだけだったり、店先の綺麗な花を眺めるだけだったり、あまり購入自体はしないものだ。花を買うときといえば、例えば…贈り物をするときくらい。
その人には、高校生の時分からずっと好きな人がいた。名前は恵と書いてメグさん。ひゃあ、なんてお熱い青春。桜子さんは真っ赤な顔をする。自分だって、ついこないだまで青春の渦の中に居た癖に。
彼もまた真っ赤な顔でそれを話した上で、桜子さんにこんな頼みを渡した。曰く、彼のハートを射止めた彼女に、花を贈りたい。パッキリ決まったお決まり型の、プロポーズである。彼の決断を自分のことのように真摯に考えた桜子さんは、ある一つの花を提案した。贈り物は、一輪のデイジーの花。店主が有名なデイジーの花畑から仕入れた一級品であるのはもちろんのこと、桜子さん曰く、プロポーズにいきなりドカンとした花束は、愛されたい④と駄々を捏ねるようで中々に重い。彼の純粋な想いを伝えるには、一輪の「純粋」を花言葉に持つ、デイジーが一番だと、桜子さんはお薦めした。
うさうまさんがその彼女への恋を実らせたと知ったとき、桜子さんは満足そうに頷いていたという。うさうまさんが負けず劣らず、幸せそうな笑顔だったことは、言うまでもないだろう。
+++++
うさうまさんがデイジーを買ってから、どれくらい経った頃だろうか。半年、いや、一年くらい?
閉店間際、私が店先の花を手入れしていた頃、うさうまさんがお花屋さんに現れた。
いらっしゃいませー!こんばんは、宇佐美さん!
笑顔で迎えたハズだったのだが、うさうまさんの顔は、あまり晴れていなかった。怪訝な気持ちで顔を伺った私は、彼のいつもの二重⑦が一重になっていることに気付いた。彼の目は、泣き腫らしたように、赤かったのだ。私の頭の中に、小さな雨粒が一滴、静かに落ちた。
彼の顔は、少し前まで、ずぶ濡れ②だったのだろうか。
気丈で気高いうさうまさんが、こうした人前で泣くことはないだろう。花粉症にしては、腫れすぎてしまっている。だから、彼の目には、小さな雨粒が生まれたのではないだろうか。そう思った。
閉店間際、暫く店内を渡り歩いていたうさうまさんは、私がまもなく閉店であることを伝えると、こんなことを言った。
あの…店員さん。また花をお薦めしてもらっても良いですか?
恐る恐る尋ねるうさうまさんの頼みを、私は快く受け入れた。
彼が提示した今回のお題は、「自分への誕生日プレゼント」。私も今まで知らなかったが、彼は今日が二十歳の誕生日らしい。なるほど、3月24日。うさうまさんっぽいと言えばそうかも。彼は今日、そうして自分への贈り物をするのだという。
誕生日プレゼントの花…ですか。それなら…。
宇佐美さん自身が気に入られたお花とか、ありませんか?
私が尋ねみると、そうですね…、とうさうまさんは辺りを見回した。そこで、レジ横に隠された「それ」を見つけたのは、ある種の運命だったのかも知れない。
まだ盛りでない3月は綺麗ではない①ハズなのに、満開に咲いたその花。店員の一人である私が見つけてしまった、ある種不吉なマーガレットを。
あの、この花って、マーガレットですよね?花占いで有名な。
うさうまさんが偶然にも「それ」を発見したとき、私の頬はひきつったに違いない。私はポーカーで一度も勝てないような人間である。
あ…そのマーガレットですね。…話すとちょっと長くなるんですけど…良いですか?
うさうまさんが不思議そうな顔をしたまま頷くのを見ると、私はマーガレットの話をした。
マーガレットは、花占いの花として有名です。他にも花言葉は、貞操、誠実。恋する人に似合うような綺麗な花言葉ですが、花占いに使われる理由は、それだけではありません。マーガレットの花びらは、殆どが奇数なんです。だから花占いをするとき、好き、嫌い…というように始めると、好きで終わる。そんなロマンチックな花なんですね。メグとかマギーとか、女性の名前に使われることもあるんですよ。
知らないうちに思わずにやけてしまっていることに気づかないまま、私は説明を続けた。
ですが、なんとこのマーガレットは、花びらが偶数です。最近ふと数えてみて気付いたのですが、偶数のマーガレットはとても稀少であり、しかも花占いでは失敗を出しやすい、少し不吉な花なのです。だから、これからは仕入れないようにしよう、と店長と相談していたくらいなんですが…。それで、売らずにこんな隅っこに眠っているんです。
私が花占いの話を終えると、うさうまさんは偶数マーガレットの話を反芻した。そうでしたか…なら花屋くらいでしか花を見ない僕は、もう偶数のマーガレットを見ることはないだろうな。
そして、うさうまさんは少し思案したあと、このマーガレットを欲したのだった。
…誕生日プレゼント、このマーガレットにします。
私は一瞬、とても驚いた。なぜって、不吉な証のその花を、恋を成就させたうさうまさんが手に入れるなど…。しかし。もしその不吉さが、「うさうまさんに似合う不吉さ」ならば。
…あの、宇佐美さん。もしかして、宇佐美さんは。
うさうまさんは頷いた。きっと、私が察したことに気づいたのだろう。
…失恋したんだ。だから、目元が。
うさうまさんは、自身の誕生日のその当日に、メグさんに別れを告げたのだった。彼女が遠い雪国に留学することをきっかけに、宇佐美さんと彼女は何となく別れてしまったのだという。単に遠距離恋愛に耐えられなくなっただけなのか、それとも。
失恋したうさうまさんに、偶数マーガレットは重なるものがあったのだろう。失恋した人間には、奇数マーガレットのような、恋の後押しは逆に心に辛い。眠るなんてのんびりしたことは出来ないまま、布団が吹っ飛んじゃうくらいの怒り②に暮れたと思えば、会えない悲嘆に苦しむ。うさうまさんの失恋は、奇数ではなく不吉な偶数マーガレットにしか、気を慰めることが出来ないのかも知れない。
ごめんなさい、せっかくこの店のデイジーを贈ったのに。
入店時のような暗い顔に戻ってしまったうさうまさんは、こんなときにも、私に謝っていた。だから、私は。
…ねぇ宇佐美さん。
宇佐美さんは、今日が二十歳の誕生日なのでしょう?
誕生日くらい、自分の幸せを願ってみませんか?
他人のことにやきもきする思い出は、誕生日には要らないと思うんです。だって、今日は、「宇佐美さんの日」なのですから。
これが、私の思う宇佐美さんの幸せの一つですよ!
そう言って私が、偶数マーガレットと一緒にうさうまさんにもう一輪渡したのは、奇数の方のマーガレットだった。
冷え性が辛いかのように、彼の手が涙に冷たいのは、すぐに忘れてしまって欲しい。失恋した悲しい時だからこそ、彼には奇数マーガレットを贈る。奇数マーガレットは、偶数と違って、あなたの恋を応援するのだから。
あなたの恋は、こんなところで終わらないんだ。
雪うさぎになってしまう彼女を忘れてしまってでも、散ってしまったあなたの恋は、また動き出して欲しいのだ。
花というのは性質上、あなたの恋と密接に関わるものである。
だから私達お花屋さんは、あなたの恋を応援する、奇数マーガレットになりたい。
だから…私はまた、いつでもあなたのお花選びの、ご相談に乗りますよ。またのご来店、お待ちしております!「うさうま」さん!
奇数マーガレットも受け取ったうさうまさんに向けて、私は精一杯の笑顔を贈った。失恋のお悔やみなんて関係ない、私からの誕生日プレゼントのつもりだ。
うさうまさんは、そんな私に深々と一礼した。そのまま帰宅するのかと思ったが、彼はそこで、たった今受け取った花、偶数マーガレットの方を取り出した。
好き、嫌い、好き、嫌い。
彼はその場で、満開のマーガレットに、いや、或いは「満開のメグ」に、別れを告げる花占いを行ったのだった。
…嫌い、好き、嫌い。
最後の花びらは空に飛んでいった。きっと、雪国かどこかへ行ってしまったのだろう。
飛んで行ってしまったメグの花びらは、天高くひらひら、ひらひらと輝いていた。
++++++++++
【本当の簡易解説】
その人は誕生日に自分へのプレゼントとして花を買おうと花屋さんに来た。そこで、元から希少種であり、花占いでは失敗が確定していることから不吉なものともされる、という「二重」⑦の要因に依り、店先には滅多にない「花びらが偶数枚のマーガレット」を見た。
都会人で、その行きつけの花屋さんくらいでしか花を見ないその人は、これからは意図して仕入れないようにするという店員さんの旨を聞いたので、自分が再びこの偶数マーガレットを見ることは無いのだろうと解ったのだった。
それと同時に、満開のマーガレットを見たその人は、その人の愛していた人をメグ、というマーガレット、Margaretに語源を持つ彼女の名前と合わせ、満開のマーガレットに重ねていた。
満開の偶数マーガレットの花占いを行い、その花を散らせることで、自分がもうその想い人に出逢えないことを真に解ったのだった。
もうマーガレットを見ないというのは、そうした「二重」の理由からである⑦。
おわり。(本文総字数4157字 要素数7個+α)
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花びらと一緒に想いが散っていく様はとても美しく、切ない光景でした。
簡易解説で二重の意味が明かされるのがお見事でした。
ところどころに覚えのあるワードが紛れ込まされているのも流石です。
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【簡易解説】
カメコはかつて、自身が子供の時に旅行に行った村を懐かしく思い、その村に行って満開の桜を見た。
しかし、村は来年ダム開発により沈み、そのためこの桜ももう見られなくなることがわかった。
カメコは激しい怒りを覚えて泣きつくした後、せめてもの思い出にと桜を瞳の中に焼き付けようとするのだった(3)。
【本編】
「ここが確かウミガメ村なんだっけ。あの頃とほとんど変わっていないなあ。」3月のある夕方、客がほとんどいないバスの中でカメコはそう心の中でつぶやいた。
カメコは小学生のころ、この村に家族旅行で行ったことがある。その時は夏休みだったので川の中でずぶぬれになりながらも思いっきり遊んだものだ(2)。地元の旅館でふるまわれた料理もおいしかった。とくにウサギの丸焼きは初めて食べるときは気持ち悪いなと内心思ったものの、食べてみたら意外とおいしくてびっくりしたものだ(6)。
旅行から帰ってから、当時好意を持っていたクラスメイトに村の絵を見せようと思って色鉛筆を近所の文房具店で買おうとしたら、青い色鉛筆しかなくて結局そればかりを買ったのも今となってはいい思い出だ(4)(5)。
それからしばらくは学生生活に追われて村のことは忘れかけていたが、テレビで田舎の村を扱う特集を見たとき、ふとあの村のことを思い出した。今のあの村はどうなっているんだろう。もう一度行きたい。カメコは20歳の誕生日にその村に行くことを決意した。
しばらくすると、バスの窓には満開の夜桜が見えた。カメコはふとその桜が気になり、次の停留所で降りてさっきの桜の場所に歩いて行った。
「ここの村の夜桜も本当にきれいだなあ。私へのプレゼントみたい。またこの桜が見られるなら村にまた来たい。」そう思っていた時だった。
「この村も来年にはなくなってしまうから、桜の写真を撮らないとな。」
そう言っていたのは、あるカメラマンだった。カメラマンは桜の咲いているところから少し距離を置いて桜を撮影しようとしていた。
「えっ・・。」カメコはそれを聞いてびっくりしてしまった。カメコはふとカメラマンのもとに行き、こういった。
「村が無くなるってどういうことですか!?」
「おや、君はこの村の者ではないようだね。僕はここの村の住人のカメオさ。君の名前は?」
「カメコと言います。昔この村に来たことがあってもう一度来ました。」
「そうなのか。疑ってすまなかった。」
「ところで村が無くなるってどういうことですか?」
「この村はね、来年ダムに沈む予定なんだよ。なんでもこの村の上流で水力発電所を新しく建てるんだってさ。それでダムが必要なんだそうだ。そしてそのダムはまさにこの村に作られるんだってよ。」
「そんな・・・。ダムを建設するのを止めることはできないの!?」
「もちろん僕らも反対したさ。だがな、いかんせんここは財政が厳しいし、なにより過疎が激しい村だ。俺みたいな若者は少数だ。それにな、もうダムの建設の準備は始まっている。だから俺にももう止めることはできない。」
「そんな・・・。もうこの桜が見られないなんて・・・。」
カメコは内心激しい怒りを覚えつつ絶句した(3)。小学生の時素晴らしい思い出を作ってくれたこの村、20歳の誕生日に美しい夜桜を見せてくれたこの村。その村がもうなくなってしまうのだ。そしてカメコの目に激しい涙が込み上げ、泣き崩れた。
「どうして・・・。どうして村が・・・。こんなにいい村なのに・・・・。」
カメコの自慢の二重瞼は涙で激しく腫れた(7)。
気が付くと時間はもう夜だった。さっきまで美しく照っていた月が涙で激しくゆがんで見えた(1)。きっと相当泣いていたのだろう。カメコは一瞬冷静になるとこう思った。
「そうだ、せめてこの夜桜を目に焼き付けよう。この村が沈んだ後もこの桜、そしてこの村があったことを忘れないために。」
こうしてその晩、カメコは寝ずに桜を一日中見続けて瞳の中に桜を焼き付けていくのであった。(終)
短い分、カメコの感情が激しく揺さぶられる様がよく伝わってきました。
旅行の思い出やそれをふと思い出すところはリアルで、ダムに沈むという話が余計に苦しく感じてしまいます。
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【解説】
その人は、日中に出歩こうとするだけで激怒されるほど、生まれつき太陽の光を浴びてはいけない体質である。③
月を見慣れ過ぎて綺麗とも思わないその人は、いつか青空と満開の朝顔を見て描き、画用紙を青くするのが夢だった。①⑤
成人になったことで、その人は太陽の下に出ることを許されるようになる。
もちろん、自分の夢も叶えることができた。
しかし太陽に愛されたくても愛されない体質のことも身をもって体感し、二度と満開の朝顔は見られないだろうと理解したのだった。④
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
紙芝居の時間だよ。
今日は、「黒い夜、白い朝、青い空、赤い肌」というお話だ。
おやお嬢ちゃん、この話を知っているのかい?
それなら、終わるまでみんなに秘密にしておかなくちゃいけないね。
それでは、はじまりはじまり。
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一度でいいから、朝顔の花をこの目で見たい。
ぽつり、そんなことを彼に言ったことがあります。
だから彼は、約束してくれました。
いつかふたりで真っ青な空と朝顔を見ようと。
私は、太陽の光が届かない町で育ちました。
そのせいで、その町に住む者はみな、太陽に愛されたくても愛されない、生まれつきの日光アレルギーになってしまうらしいのです。
なんでも日光を少し浴びただけで、体中が真っ赤っかになってしまうとか。
その町には学校もなく、町の外に行くにも夜しか出歩くことができないため、この町の子どもはみんな通信教育で育ちます。
そんな中で、朝顔の観察をする、というものがありました。
植物に触れる機会もほとんどなかった私たちは、朝顔の芽や蔓が支柱に絡まっていくのを見るだけでも喜んだものです。
しかしいくら土や苗を水浸しにしても、花はつぼみかしぼんでいる姿しか見かけられません。
なぜだろう、と思った私は、朝顔の花が咲くのは日中だけなのだと知りました。
私は、朝顔の花が見たいと思いました。
だからこっそり朝の時間帯に家を抜け出して、町の外にある朝顔の花を見ようと考えたのです。
しかし、家を出ようとした姿を親に見つかりこっぴどく叱られてしまいました。
あんなに激怒されたのは、近所の家のウサギ小屋の鍵を外した時以来でしょう。
いや、だってあれを私たちが食べているのだと思うとかわいそうに見えてきたんですもの。
まあ、うちの町の郷土料理、一応ウサギ料理なんですけどね。
そうして、成人するまでは太陽の光が照らす場所に出てはいけないときつく言い聞かせられたのでした。
さて、それ以来外に出ようとは思いませんでしたが、ある日、町に旅人が訪ねてきました。
旅人はこの町が一日中夜であるという噂を聞き、一目見ようとやってきたのです。
旅人は、この町の月は綺麗だと言いました。
とうに見慣れ過ぎた月を綺麗だと言う人は、私はその人が初めてでした。
旅人は、初めて食べるウサギ料理に驚きました。
肉料理はウサギしか食べたことのなかった私には、なんだか普通の料理が一層特別に思えてきました。
私はその人に興味を持ち、暇さえあればその人のところに来て旅の話を聞きました。
旅の話はそのどれもが新鮮で、私はやっぱり一度でいいから外に出たいと思うようになりました。
どうして外に出ないのか、とその人は問いました。
私は自分の体質のこと、そして成人するまでは決して外に出てはいけないことを旅人に明かしました。
旅人は尋ねました。いつに成人になるのかと。
私は答えました。もうすぐ成人の誕生日を迎えると。
そしてぽつり、一度でいいから満開の朝顔と青空が見たいと言いました。
そして、その光景を描き、空と朝顔の色でスケッチブックを一面青色にしたいと。
すると、旅人は成人の誕生日に朝顔を見に行こうと約束してくれました。
そして、ついに誕生日を迎えました。
旅人さんは、いつものように穏やかな笑顔で私を迎えに来てくれました。
私は周りに人がいないのを見計らって、こっそり家を出ることに成功しました。
町の外はまだ薄暗く、太陽の光はまだ昇っていません。
朝顔の生えている場所を訪れると、まだ朝顔はつぼみのままで、今にも咲きそうでした。
自分の思っているよりもはしゃいでしまっているようで、左隣にいた旅人さんがくすくすと笑いました。
ちょっと恥ずかしくなった私は、朝ごはんでも食べようと思いました。
しかしどうやら朝ごはんのウサギおにぎりを忘れてしまったようです。
仕方がないのでスケッチブックと色鉛筆を取り出しました。
青色の色鉛筆が多いのを見て、旅人さんは再び笑いました。
……本当に私は思っていたよりも浮かれていたみたいで、思わず顔が熱くなりました。
そしていよいよ、空が少しずつ白んできました。
すると、朝顔の花がだんだん開いていきました。
朝顔の花は、それはそれは綺麗で、鮮やかな青色をしていました。
私は、念願の朝顔に、思わず涙が零れました。
ああ、こんなきれいなものを、二度とみることができないのかと。
わたしは、スケッチブックに、あおいろの色えんぴつを走らせました。
あおいろ、あおいろだ。
とってもきれいな、あおいろ。
白い空の明るさで、一段と映えてみえます。
朝の空をみるのも、これがはじめて。
あさがこんなに気持ちのいいものであるとは、まったく思いもしませんでした。
ほんとうにあかるい。
いままでの夜の黒さが、うそのようにも おもえてきました。
白いそらも、だんだんあおくなってきました。
きもちのいい、あおいろ。
清々しい、あおいろです。
あお、あおいろ。
これが、あおぞらなんだ。
ほんとうに、きれいだ。
しっかりと、めに やきつけて、おかなくちゃ。
ああ、でも、あんまり ここにいると、肌が赤く なっちゃうかな。
やっぱり アレルギーには、きをつけて おかないと。
あれ?
なんだ、まだあかくない。
へいきだ。
よかったあ。
まだ、そとにいられる。
そとに。
あんしんしたら、おなかの おとが なった。
おなかがへった。
あさごはん、たべてない。
おなかがへった。
なにか ないかなあ。
あさがおだ。
おいしくなさそう。
おなかがへった。
すけっちぶっくだ。
たべられなさそう。
おなかがへった。
たべたいなあ。
うさぎが たべたいなあ。
ももにくに かぶりついて。
ないぞうも ちゃんと したごしらえして。
のうみそは おとなのあじ。
いのちのあじ。
いのちの あじが するの。
おなかが へった。
うさぎが たべたい。
ふと ひだりを みると、
イチワノ ウサギガ イタ。
アア、ウマイナア、ウマイナア。
ウサギノ ニクハ、ウマイナア。
ナマニク ダケド、イツモノ アジダ。
ナマニク ダケド、オイシイ アジダ。
ミミヲ カジルト、 ナンコツデ コリコリ。
メダマヲ ナメルト、 ネットリシタ ゼラチンシツ。
タンモ ナカナカ、ニクアツ。
クビスジノ セセリハ、トッテモ ジューシー。
モモニクモ ハリガ アル。
レバーモ ハツモ、マダ アタタカイ。
アタタカイ ウチニ、イッパイ タベヨウ。
アア、オイシイ。
トッテモ、オイシイ。
ソラガ クロク ナルマデ、ワタシハ ウサギヲ タベテイタ。
オイシイ。
オイシイナア。
ウサギサン。
ダイスキナ ウサギサン。
トテモ オオキナ ウサギサン。
アア。
オイシイ。
モット タベタイ。
マダ、タベタイナア。
アレ?
タビビトサン、ドコニ イッチャッタノ?
目が覚めると、すっかり夜になっていました。
朝顔は、すっかりしぼんでいました。
そして、真っ赤な液体でずぶ濡れになった自分の手と――。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その人は、日中に出歩こうとするだけで激怒されるほど、生まれつき太陽の光を浴びてはいけない体質である。③
月を見慣れ過ぎて綺麗とも思わないその人は、いつか青空と満開の朝顔を見て描き、画用紙を青くするのが夢だった。①⑤
成人になったことで、その人は太陽の下に出ることを許されるようになる。
もちろん、自分の夢も叶えることができた。
しかし太陽に愛されたくても愛されない体質のことも身をもって体感し、二度と満開の朝顔は見られないだろうと理解したのだった。④
その人は日光を浴びると姿だけでなく性格もおぞましいものに変貌してしまう二重人格であった。⑦
そして今まで食べていたうさぎの肉も、本当は――。⑥
真っ赤な液体でずぶ濡れになりながら、その人はもう二度と太陽の下で普通の人間としては生きていけないことを知ったのだ。②
「旅人さん、話しておきたいことが」
「どうしたんですか、改まって」
「旅人さん、この間、娘に太陽の下に連れ出すと言っていましたよね」
「……すみません。ですが娘さんに身の危険が及ばないように、日よけや細心の注意を……」
「いえ、注意してほしいのは、旅人さんの方なのです」
「私の?」
「……私たちは、最初からふたつの姿、そして別々の人格を持って産まれます」
「二重人格のようなもの、ということですか?」
「そう思ってもらっても構いません。ひとつは普段の姿、もうひとつは太陽の光を浴びると現れる姿です」
「もうひとつの姿、ですか」
「しかしその姿は、とてもおぞましいもの。だからこそ私たちは、子どもたちが間違いを犯さないように気を付けないといけないのです」
「……」
「旅人さん。あなたはとてもいい人だ。一生日陰者でいなければならない私たちにも、楽しい時間を与えてくれた。だから、これを」
「……まさか」
「もっと早く、こうするべきだったのです。しかし、私には、私たちには、情けないことにそんな勇気はありません。だから」
「いざとなったら、娘を殺してでも――」
「……殺せません。大事な娘さんでしょう」
「しかし、それでは、あなたが……」
「いいんです。その時は、朝顔と青空を目に焼き付けておこうと思います」
「これは、見ず知らずの僕にも優しくしてくれた、せめてものお礼ですから」
=========================
さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。
紙芝居の時間だよ。
お嬢ちゃん、きみは本当のことを知っているんだね。
でも、子どもたちには秘密にしておかなくちゃならない。
わかってくれるね。
さあ、それではこの言葉で締めくくろう。
「黒い夜、白い朝、青い空、赤い肌」これにて、おしまい。
(以上です)
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ああ、これは少女と旅人の交流の話……暖かい話か切ない話か……そう思っていた時期が私にもありました。いや間違ってはいないんですけど。
平仮名が増えていくところまではまだ信じていましたが、だんだんどんどん不穏になっていくところは鳥肌ものです。
一体「お嬢ちゃん」はなぜ本当のことを知っているのか? いやそれならこの紙芝居は? じわじわと疑問が湧いてくるお話でした。
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簡易解説
わたしは地球からきた絵描きさんが青い色鉛筆ばかり買っている⑤様子を見て、ふるさとが恋しくなって青い星である地球の絵ばっかり描いているのではと推測した。絵描きを心配して同じく元気のなかった、絵描きと同居している花が満開に元気になったのを見て、あー、絵描きさんたち地球に帰るのかなぁと思った。
長めの解説
これはわたしが緑でいっぱいのコロッタ星にきて数年、もうすぐ二十歳になる頃の話だ。
同じく他星からきた、ご近所の絵描きさんの様子がおかしい。
空を見てはため息をついているし、バイト先の文房具店で買う色鉛筆や絵の具は青色ばかりだ⑤。
気になったわたしは絵描きさんのパートナーである、花形生物のパプコさんに話を聞きに行った。
すると、パプコさんも元気がなくて、今にも枯れそうだったので、わたしはあわててパプコさんに水をあげた。あわてすぎてパプコさんはずぶ濡れになってしまった②が、少しは元気が出たようだ。
絵描きさんはパプコさんをほったらかしにしていたのかとわたしは怒って③パプコさんに話を聞いてみたが、ほったらかしにされていたわけではなく、パプコさんの心因性のものだったらしい。
「最近、あの人が元気ないから心配で……。」
「確かに様子がおかしいですよねー。空を見てため息をついているし、買うのは青色の画材ばっかりだし。」
「そうなのね…。うちでも、よく『ウサギがおいしい⑥』みたいな歌を歌ってるし、ため息ついて月がキレイじゃない①って言ってるし、元気がなくて心配なの……。まぁ確かにチキュウにいた頃に見た月はとてもキレイだったんだけどね。」
「へー、チキュウってどんなところだったんですか?」
「わたしはあんまり長くいなかったんだけど、彼とはそこで出会ったのよ!この星は私たちみたいな植物タイプの生物がいっぱいの緑色の星でしょう?チキュウはねーなんと!水がたくさんの青色の星なのよ!!」
思い出話をしているうちに少し元気がでてきたようだ。
「チキュウではね、他星からの入星は受け入れられているけど、チキュウの住人たちのほとんどは、他星に生物がいることを知らないの!」
「へぇ!変わった星ですねー。」
「そう!だからチキュウの生き物のふりをしなくちゃならないのだけど、チキュウじゃ植物は話さないし動かなくて、私たちが暮らすには、動くことのできるパートナーが必要だったの。」
「ほぅ、そのパートナーが絵描きさんだったんですか?」
「そうなの!一人で入星しようとしちゃって困っていたわたしを助けてくれたのよ><。とてもいい人でしょう?わたしはもう大好きになっちゃって、彼の行く先へはどこへでもついていくわって思ったのよ。」
そんな彼女を見て、わたしもそんな風に誰かに愛されてみたいものだと思う④。
そして、ふと思い付いた。彼はチキュウが恋しくなって、青い星であるチキュウの絵ばっかり描いているのではないかと。彼女にそれを伝えてみると、
「それだわ!…でも困ったわね。彼が私のふるさとに行ってみたいって言うからこの星に帰ってきたのだけど、もう星の外へ行けるほどの資金は残ってないのよ……。どうしたらいいのかしら。でも、原因がわかっただけでも前進だわ、ありがとう><」
そう言う彼女と別れた数日後、ちょうどわたしの誕生日の日に、ふと、絵描きさんちの窓を覗いてみると、満開に花を咲かせたパプコさんがいた。
何か解決作が見つかったのだろうかと訪ねて行ってみると、彼の持っていた宝箱の底が二重になっていて⑦、昔隠したへそくりが見つかったらしい。
チキュウへ行くにはじゅうぶんだとすぐにでも出発しそうな様子に、あぁこのご近所さんたちともお別れなのだなぁと少し寂しい気持ちになったのであった。
おわり
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パプコさんがとても可愛くて、ついつい頬が緩んでしまいます。
入星を受け入れているにも関わらず他星の生物を知らない、というのは、むしろ知らないから防ぐこともできない、と考えると、今もどこかに地球外生命体が……とわくわくしてきます。
花が咲く=パプコさんの悩みが消える=もう見られない、というのが一連に繋がっていて、解説としても上手いと思いました。
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【簡易解説】
悪徳ギャングの支配する町で路上暮らしを強いられていた男は、ある日ひょんなことからギャングとの抗争に巻き込まれる。
20歳の誕生日、紆余曲折を得て男は抗争の元凶であるギャングのトップと対決。重傷を負うものの二重の策⑦が上手く作用しこれを倒した。
相手の服に付いた血痕を花に例え、この花はこの地には二度と咲かないと希望を抱いた。
【簡易じゃない解説】
ここはとある時代に存在したとある国のとある町。
当時は数多くの国の数多くの町が格差、貧困、暴力などの問題に直面していた。
同時に数多くの暮らし数多くの町がギャングと呼ばれる集団に実質的に支配されていた。
そしてこの町も例外ではなかった。ギャングに支配されているとは別に、様々な問題を抱えていたのであった。
例外があるとすれば、情勢が数年前から急速に悪化していたことであった。
組織からこの町一帯の管理を任されていた男の持病が突如悪化。自分の息子にその座を譲り、自らは隠居した。それから間もなく男は亡くなったのだが、ここからが事態はさらに悪くなっていく。
新しく管理者となったウィル・カーティスという名の男は、野望ばかり大きく抱く割にそれを実現する能力はこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
この男が組織を栄えさせようと取った策は悉く失敗し、それらを切っ掛けに内部抗争が勃発。それに便乗した他のギャングも加わり、最早死体が見つからない日が珍しいほどの荒れ様であった。
そういった火の粉は当然町民にも降りかかり、ただでさえ良くない生活は経過する時間に比例して悪くなっていった。
これはそんな町に住む一人の「犬」の物語である。
町にいくつか存在している家無しの人々がたむろする路地、その隅に男はいた。
彼の名はマシュー・ヴァローノ。19歳。物心が付いた時から極貧生活を強いられ、年齢が二桁に到達する前に両親が失踪、放浪の末にこの路地にたどり着いた。いよいよその日の食事も行えるかどうかの際に追い込まれたがどうにも生きることを諦められなかった彼は、所謂何でも屋を始めた。ゴミ捨てや掃除に靴磨き、金さえ貰えればどんな仕事もこなした。時には自ら率先して汚れ仕事をこなし、その後に料金を請求することすらあった。
彼の生に対する執着心と、依頼料金が最低1ドルからだったことから、彼はいつしか「ワンダラー・ドッグ」と呼ばれるようになった。
ある日の夜、乾燥しきってパサパサになったパンをかじりながらマシューは黄昏ていた。仕事はなく金も稼げなかったが、パンがあるだけ今日はだいぶマシな方だ、と自分を慰めつつも日に日に悪くなっていく町の情景や先の見えない自身の暮らしについては憂鬱さを誤魔化すことは出来なかった。
金がない以上趣味も限られてくるのだが、そのうちの一つである天体観測すら今日も近くの火災の煙に邪魔されてままならない。煙に紛れて歪みきっている三日月も、本来ならその美しさで彼の目を楽しませてくれるはずなのだが①。
「私たちを匿ってくださいませんか?」
そんな夜のことだ。突然二人組に声をかけられたのは。
黒い帽子に黒いコートで全身を包んでいる。片方は背が高く細身、もう片方はかなり小柄。パッと見で分かったことはそれだけだった。
始めは困惑し、
(この二人は何者だ?一体何故に匿ってほしいのだ?)
などと考えていたが、細身の男が
「今はこれだけですが・・・いずれ正式に報酬をお出ししますので」
と100ドル紙幣10枚を差し出したのを見てからは、二人をどうやって匿うかのみ考えるようになった。
夢だか幻だか上手く区別がつかないような夜から数ヶ月が経った。
正式に報酬がどうこう言ってたような気がするが、思いがけない大きな収入に浮かれるあまりそのことを朧気程度にしか認識しておらず、寝て起きてを何度か繰り返すうちに忘れてしまった。
数名が近くや遠くを走り回ったりあちこち眺めていたりしたが、しばらくすると静かになった。それから間も無く感謝の言葉もそこそこに二人は走り去ってしまった。
あの時貰った金は食事や命を守るための緊急避難などですっかり使い果ててしまった。その上治安も加速度的に悪化し、仕事にもほとんどありつけず、正直数ヶ月前よりも状況は明らかに悪かった。
しかし今日はいつもの路地にはいなかった。久々に仕事が舞い込んできたからだ。報酬もある程度出るらしいので、パンくらいは買えるかもしれない。ここが待ち合わせ場所だったか。何か小さな女の子が絵を描いているな。商売か?しかしあんな陰気な絵はちょっと買いたくないな。茶色やら黄土色、なんか暗い感じだよなあ。まあ町がこんな感じだから仕方ないかもしれないが・・・。まあ今は絵よりパンだ。素晴らしい絵画を持ってても腹はふくれねえからな。
・・・と一時間くらい前は思ってた。
今は銃を構えた複数名の男からどうやって逃れるか、そればかり考えている。
何だこれはハメられたというのか?しかし何故?誰かから恨みを買った覚えもないし確かに疎まれたくらいならあるかもしれないがそれに銃を持ってるってことはギャングか?しかしギャングに狙われるとなるとますます理由が分からない。もしかしてあの時の、とまで考えていたマシューの脳内は耳をつんざくような銃声によって真っ白になった。
思わず目をつぶったが痛みは感じない。撃たれるのってこういう感覚なのかなあと呑気なこと考えていると、
「早く!こっちに来てください!」
と誰かが腕を引っ張った。
どこかで聞いたことあるような、と思いもしたが、そこから思い出す暇はなかった。
気が付いたら全く見知らぬ場所であった。様々な仕事であちこち巡るマシューにとっては、とても信じがたい事実であった。
「この辺りは見知らぬ人間はまず入れないようになっております。ひとまずは安心してもよろしいかと」
マシューをここまで引っ張ってきた背の高い細身の男は、小汚ない家のこれまた小汚ないドアをノックし何か呟いたあと
「さあ、お入りください」
とドアを開けてマシューを招き入れた。外見ほど内装はみすぼらしくないようだ。
細長男に従うままに階段を登り部屋へと入る頃には、マシューはもうほとんど思い出していた。
思い出したといっても、姿をちゃんと見たわけではなかったが・・・
「また会ったわね・・・で合ってるかさら?」
あのとき匿った小柄の女性がそこにいた。
「色々と話さなければならないことはたくさんあるのだけど・・・まず着替えなさい。ヴィットがあなたにぴったりな服を用意してくれるわ」
言われてみると、同じ服を長年着続けているのを抜きにしてもひどい状態である。危うくいのちを落としかけた冷や汗と走り続けた汗で服がびしょ濡れである②。突然の展開に少しパニックになりながらも、お言葉に甘えて服を着替えることにした。今まで着てた服が雑巾にしか見えなくなった。
「突然のことで驚いてるのだろうけど・・・とりあえず自己紹介をするわ。私はシャーロット・カーティス、この人は私の側近・・・でいいのかしら、ギルバート・ジョセフよ」
「え・・・カーティスって・・・」
「お察しが早いようで。シャーロット様はこの町一帯を支配しているウィル・カーティスの腹違いの妹でございます」
先代は只の女遊び好きだったのかそれとも跡取りについて過剰なほど心配してたのかは分からないが、とにかく母違いの子供がたくさんいた。その中で跡を継いだのが長男であるウィル・カーティスであった。しかし他の異母兄弟にその座を狙われるのかと考えたのか、彼らを組織の力を使って抹消し始めたのだった。魔の手はシャーロットにも伸び、しばらく逃避行を強いられることとなった。
「じゃああの時は・・・」
「あの路地でのこと?ええ、そういうことよ」
「なるほど・・・ん?つまりさっき俺を襲ってきたのは・・・」
「ええ、ウィル・カーティスの一派でございますな」
「あいつ、疑心暗鬼になったのかとうとう見境なくなっちゃったのよ。少しでも繋がりがある人を片っ端から尋ねていってるわ。まあ質問なんて生易しいものじゃないけどね」
「ですので、あなたはしばらくこの家に住んでいただくことになります。外に出れないのは窮屈かと存じますが、何せ恩人の命がかかっているので・・・何どぞご了承くださいませ。その代わり生活に不便はさせないようにいたしますので」
「つまり・・・ほとぼりが冷めるまでずっとここに籠ってればいい、そういうわけか?」
「そういうわけにもいかないわね・・・何日か後にはここにも追っ手が来ると思うわ」
「え?でもさっきは知らない人間は入れないって・・・」
「先程も言った通り」
ジョセフはいつの間にか用意していた紅茶を差し出しながら言葉を続けた。
「手段を選ばなくなってきているのであります。普通なら思い付かないか思い付いても実行しないようなおぞましい手段も、平気で実行してしまうのです」
「ええ・・・だからここに数日いたら拠点を移す、また数日したら・・・て感じね」
「・・・ずっとそれを繰り返すのか」
「ずっとというわけではないわ。計画が成功するまでよ」
「計画?」
「ええ、ジョセフ、説明しなさい」
「しかしシャーロット様?」
「彼がウィルや他のギャングと繋がりがあるようには思えないし、あったとしても連絡する手段は無いわ」
「分かりました」
するとジョセフは部屋を出たかと思えば、すぐに大きな包装紙を取り出した。
「これは?」
「ウィル・カーティス暗殺計画・・・とでも言うのかしら?」
「暗殺!?」
「お察しかと思われますが、現在ギャングはガタガタの状態なわけであります。反ウィル・カーティス派とウィル・カーティス派による内部抗争、それに便乗した外部からの抗争。その影響で町もどんどん荒れ果てていく限りであります」
「それを止めるために暗殺・・・というわけか?」
「ええ、私が言うのはどうかと思うけど、ウィルは正直とても有能とは言いがたいわ。それだけでなく自身の敵となりうる可能性は、例えそれが芽ほどしかなくても排除していく。この調子ではフラストレーションが高まっていくばかり。はっきり言って、このままではギャングも町も未来はないと思ってるわ」
「なるほど・・・」
マシューは椅子に深く座り込んだ。日々を金と飯のことばかり考えて生きている間に、そんなことが起きていたのか。
「あのさ・・・」
「何?」
「この計画、俺も一枚噛ませてくれないか?」
「え!?」
「いけません!命の恩人であるあなたに、そんな危険な目に合わせるわけには・・・」
「いーや、決めたぞ。俺はこの仕事をやってのけるさ。料金はあとから請求してやる。まあ安心しな、どうも計画当日は俺の誕生日らしいしな、サービスで安くしておくさ」
「でも!」
「命の危険って言うけどよ、どうせここに籠ってても追っ手に見つかるかもしれねえ、今の現状、すでに安全な状態からは縁遠いってわけだ。それによ・・・」
「何か・・・?」
「金の匂いがする!」
「は?」
「ギャングのトップが代わるってことは、町も変わるってことさ。あ、計画の後に誰をトップに置くかは決めてあるんだよな?」
「勿論です。話はすでに通してあります」
「だったらやるしかねえよな。今のままだとドン詰まりだし、誰に代わるかは知らねえが、まあこれ以上悪くなるってことはないだろう。町が活気付いたら経済が回るのは。俺はそれに乗っかって一儲けするわけだ」
「でも・・・」
「あのよ、俺が何て呼ばれてるか知ってるか?」
「・・・?」
「『ワンダラー・ドッグ』と呼ばれてるらしいんだ。金の匂いは嗅ぎ逃さないぜ」
大まかな作戦はこうだった。
ボディーガード数名と共にウィル・カーティスが川沿いの道を歩いて通る。この道を右に曲がることがウィル・カーティス邸に通じる唯一の経路だ。
ウィルが道を曲がろうとする時、買い物袋を持った男がすれ違うと同時に袋を落とす。すると袋の中のいくつものオレンジが転がっていく。
これを合図に仲間たちが襲撃を行う・・・といったものだった。
そして買い物袋を落とす役をマシューが請け負うことになったのだ。
作戦当日。そしてマシューの20歳の誕生日。
七名のボディーガードを引き連れたウィル・カーティスが歩いて道を通っていく。
道を曲がり始めると同時に、すれ違ったマシューが袋を落とした。
ここまでは完璧・・・なはずだった。
「驚いているだろうな、マシュー・ヴァローノ」
突然名前を呼ばれて顔を上げると、ウィル・カーティスとそのボディーガードが侮蔑の目をこちらに向けていた。
「暗殺計画・・・か。俺もいよいよ大物になったものだなあ。しかし俺を殺そうとしてたのなら、俺の用心深さも知っていたはずだよなあ?」
マシューはただ目を見開いてウィルを見ている。
「仲間・・・というか計画の実行を『予定』していた者は、皆買収した。計画も全て筒抜けだった、というわけだ」
「・・・・・」
「お前、シャーロット嬢を匿ったあの『犬』か。金目当てか、それとも正義がどうのという話か?どっちにしろお前は」
ボディーガードがマシューに銃を向ける。
「ここでジ・エンドだ」
乾いた数発の銃声が鳴り響いた。
「・・・ってぇーな・・・」
「流石のお前も撃たれるのは初めてだったか?安心しろ、急所は外してある。しかし無茶をするなら命の保障はしないぞ」
「・・・・・」
「まあお前の命はいずれにせよここで終わるんだがな。俺がとどめをさしてやるんだ。あと少しで俺の秘書がやって来る。買収もされない『信頼できる』男だ」
「・・・・・」
「・・・来たか」
「はい、ウィル・カーティス様」
「よし、そのショットガンを俺に渡せ」
「・・・・・」
「おい、渡せと言ってるんだ。耳が遠くなったのか?」
「私の耳はまだ遠くなっておりません。そして・・・何が正しいと判断する頭脳も衰えてはおりません」
そう言うと、ウィル・カーティスの『信頼できる』秘書―ギルバート・ジョセフ―はショットガンを彼に向けた。
「な、なにいいいいいいいいい!?裏切るのかギルバートおおお!!!」
「裏切るも何も、初めから私はシャーロット様の親愛なる僕でございます」
「くそっ、お前ら、あのクソジジイを撃ち殺せ!!!」
「始めに言っておきますが、銃弾をすり替えておきました。一発目の弾は殺傷性が低いものに、そして二発目は・・・」
ドオン!!ドゥンドォゥン!!
「暴発するものに」
「ま、まさか・・・まさか・・・」
「ウィル・カーティス・・・ここで散ってもらいます」
ショットガンから放たれた弾は確実にウィル・カーティスの命の灯火をかき消した。
「終わったな・・・」
「お疲れさまでした」
「二重の策⑦が上手くいって良かったな」
「ええ、裏切りや買収の可能性も考えまして、本当に大事な部分は本当に信頼できる人のみに話しておりました」
「まさか秘書が獅子身中の虫とは思いもしないだろうからな・・・それにしても、本当に殺傷性を低い弾なのか?めちゃくちゃ痛いぞ」
「あくまで私の経験上の話ですが、殺傷性が高いものは痛みをあまり感じないものなのでございます」
「そうなのか。二度と使わねえ雑学をどうも。それにしても・・・」
二人は事切れたボディーガードとウィル・カーティスを見下ろした。
「ひでえものだな」
「ええ」
「まあ、花と例えれば綺麗には・・・」
「見えませんな」
「見えねえな。こんな満開な赤黒い花、二度と見たくねえぜ」
「弾痕を花に例えるのは独創的と言いますか・・・」
「まあでもジョセフ、二度とこんなグロテスクな花は咲かないよな?【問題文】」
「はい、勿論でございます。今後はこの道にある木々がそれは綺麗な花を咲かせることでしょう」
帰ってきたら怪我を見られたシャーロットに
「無理するなとあれほど言ってたでしょ!?」
と泣きながら激怒された③。
しばらく後にシャーロットのこれまた異母兄弟が新たなトップになった。
それからはあっという間だった。
新しくトップになった者はウィルともその前の者とも比べ物にならないほどの人格者だった。
抗争を収め、町の人々にも様々な恩恵をもたらした。
おかげで町は華やかになり、あの陰気な絵を描いていた少女は明るい絵を描くようになった。最近は青空を描くのが彼女のブームらしく、青い色鉛筆ばかり買っているらしい⑤。
シャーロットは新たにポストを与えられた。マシューは「犬」からシャーロットの「側近」となり、あくせくと働いた。おかげで今まであり得ないような待遇にありつけた。ウサギのステーキがこんなに旨いことも初めて知った⑥。
そして・・・
「ましゅううううう!!!なんでまた出掛けるのおおおおお!!!」
「シャーロット!俺にも仕事が・・・」
「じゃあ連れてってよおおおおおお!!!」
「くそ!なんでこんなワガママなんだ!!!」
「マシューからの愛に餓えているシャーロット様④、そして愛の嗅覚が鈍感なマシュー・・・やれやれ、これではどちらが『犬』か分かったものではありませんな」
【マ終】
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ギャングの抗争、その日暮らしの生活。会話にも雰囲気があってとても良かったです。
ギルバートの飄々とした態度もとても好きで、今後も三人でわちゃわちゃやっているのだろう様子を見たくて堪りません。
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少女はつらつらとペンを走らせています。
白紙のページに物語を創り出す為に。
彼女は不思議の国のアリス。
小さくなったり、大きくなったり、自分の涙でできた池に落ちてずぶ濡れにもなった少女②
今彼女は、不思議の国に住んでいました。
幼かった少女は、成長してもう20歳の誕生日を迎えます。
「あら、どうして青いバラではなく白いバラが咲いているのかしら?」
彼女の物語の中に白いバラは無く、青いバラしか存在しません。
兵士は言いました。
「アリス様、青いバラなんて存在しません。」
「じゃあ、貴方は私が間違っているとでもいうの?」
「いえ、滅相もございません・・・」
「バラを全て青くしなさい。」
そう言って彼女は、帽子屋からたくさんの青い色鉛筆を買ってこさせ、バラを青く塗らせはじめました。⑤
「そう、私は正しくないといけないの。これは青いバラよね?」
「はい、青いバラです。」
「ダメね、ちゃんと心の底から青いバラだと信じなさい。私が青いと言ったから青いんじゃないの。本当に、貴方は青いバラなんだと信じているの。」
「ですが、実際に白いバラは青く塗っても・・・」
「黙りなさい、この狂った世界で生きていくなら二重思考が重要なの。例えばほら、私は左手で2本の指を出していて、右手でも2本の指を出している。合わせて何本?」⑦
「4本です。」
「5本よ。」
「いえ、4本です・・・」
「いい、あなたは2+2という計算をして4と答えを出したけど、私が2+2が5だと言ったら5だと信じなければいけないの。いい?」
そう言って彼女は兵士を殴りました。何度も、何度も。
「じゃあ最後にもう一回だけ聞くわ。あれは何色のバラ?」
「青い、真っ青な薔薇です。」
「合格。」
彼女は満足そうにつぶやきました。
一方、シンデレラたちは不思議の国を探索していた。
「ここに8人目がいるのですか?」
「ええ、そのはずよ。確か名前はアリスだったかしら?」
「へー、アリスって美味しいの?」
「赤ずきん、人は食べてはいけませんよ。」
「ところで、ラプンツェルは何処へいったのかしら?」
「ああ、彼女なら愛されたいって言って男を漁りに行きましたよ。」④
その言葉を聴くなり、ショゴスは激怒した。③
「私が必死に探しているときに奴は何をしているんダ・・・!」
「まあまあ、ショゴスも落ち着いて。」
そうこうしているうちに一行は青いバラ園を抜けてアリスの元へとたどり着きました。
そこでアリスは白兎を解体して食べていました。
「やっと見つけたわ、アリス。」
「あら?もうそんな時間なのね。そうだ!せっかくですしお茶会をしましょう?15時なんかじゃなくて、本当の3時のお茶会。丁度美味しい兎が手に入ったの。」⑥
「兎!私食べたい!」
「しょうがないわね、最後のお茶会くらいはさせてあげるわ。」
「いいですね。では、この“でんきけとる”という物を使ってみましょうか。」
「あんた本当に便利よね、青い狸みたいに・・・ 丁度そこに青い色鉛筆が落ちてるし塗ってみる?」
「酷いです。最近環境汚染がひどくて帰りたくなかったんですけど、月に帰りますよ?」①
「わかった、謝るから落ち着いて?」
「みなさん楽しそうですね。」
一同は青いバラを眺めながら一晩お茶会を楽しんだ。
「それでは、行きましょうか。もうこの場所へはどちらにせよ帰ってこれないでしょうし、青いバラを見るのもこれで最後でしょうね。」
彼女たちはバラ園を抜けて旅に出る。
狐面の人物を探しに行くために。
【要約解説】
少女たちと旅に出ることになったアリス。
彼女は自らを正しくするために白いバラを大量の青い色鉛筆を買ってきて青く塗らせ、この世に存在しない青いバラを作っていた。⑤
その為、旅に出るともう青いバラは見られないと感傷に浸った。
―了―
来ました、「創り出された」シリーズ!
自ら「狂った世界」と言い切るアリスが何とも言えず良いですね。
「青い色鉛筆ばかりを買う」の要素がしっかりアリスとリンクしているところは流石です。
一体この先に何があるのか? 狐面の人物とは? ますます続きが気になります。
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投票会場設置までしばらくお待ちください。
参加者一覧 19人(クリックすると質問が絞れます)
結果、発表ーーーーー!!!!
ご来場の皆様、紳士淑女その他の皆様。長らくお待たせいたしました!(いえ本当に) (ようやく)結果発表のお時間です!
今回の創りだすでは、15人の素晴らしいシェフの方々によって、15作品が誕生しました。
また投票対象外作品も1作品投稿されております。
出題者都合によりいつもより若干短い期間での開催となってしまいましたが、多くの方にご参加いただけてとてもうれしいです。
みなさま、楽しんでいただけましたでしょうか……?
さてさてそれでは、ドキドキの結果発表です!
☆最難関要素賞
上位3要素の発表をいたします。
*****
第3位(2票)
🥉④愛されたい(こたこた2号さん)
第3位にはこちらの要素がランクイン!
シンプル故に使い方に悩む方も多かったのではないでしょうか。
恋愛、友愛、家族愛、博愛……今回は他の要素、問題文と合わせて悲恋が多くなりました。
「愛されたい」と願望でしかないのも大きな要因でしょうか。
第2位(3票)
🥈「うさぎがおいしい」(きっとくりすさん)
🥈「『二重』は重要」(ごがつあめ涼花さん)
第2位はこちらの2要素!
「うさぎがおいしい」がランダムで決定した時は頭を抱えたのですが……食べたり歌ったり慣用句にしたり馬の名前にしたり、みなさん上手く使われていました。
そして「『二重』は重要」。にじゅう/ふたえのどちらなのかどちらもなのか、はたまた解説文を二重にするのか。こちらも様々な使い方が見られました。
「重要」という部分をどれだけ重く取るか……これもまた腕の見せ所でしょうか。
そんな第2位を破った、最難関要素は…。
第1位(7票)
🥇「青い色鉛筆ばかりを買う」(弥七さん)
青! 色鉛筆! ばかり!
深く考えれば考えるほどドツボに嵌る情報量……一つの要素ながら拾わなければならないものが多く、みなさまの頭を悩ませたようです。
やはり空や地球の絵に使う方が多かったですね。
弥七さん、おめでとうございます!
*****
次なる表彰は、匠、エモンガ賞!
1位発表とさせていただきます!
☆匠賞
匠の腕が輝いたのは…!!
(8票)
🥇『黒い夜、白い朝、青い空、赤い肌』(作・とろたく(記憶喪失)さん)
なるほど、これは旅人と少女の温かい交流、最後は切ない別れか。
紙芝居ということは、童話のような雰囲気もあるのだな。
ああ、これは切な……おや!? 少女の ようすが……!
前半と後半でがらりと変わる雰囲気、それでいてただ驚かすだけではなく、きちんと説明される背景。
要素や問題文の回収もしっかりしていて、まさに匠の技ではないでしょうか。
とろたく(記憶喪失)さん、匠賞受賞おめでとうございます!
☆エモンガ賞
勝利のエモンガが微笑んだのは…!!
(11票)
🥇『夢一夜』(作・もっぷさんさん)
それぞれがそれぞれを想うのに、どうしようもなくすれ違う。
悲恋の作品が多い中、悲恋は悲恋でも両片想い。
知らぬままに亡くなったゆりと、喪ってから知った定晴と、いったいどちらの方が辛いのでしょうか。
多くの人の心を揺さぶった、まさにエモンガな作品です。
もっぷさんさん、エモンガ賞受賞おめでとうございます!
さてさて…これにてサブ受賞式は終了です。メイン表彰に移ります。
改めまして沢山の投稿、そして投票、ありがとうございました!
さてさて最優秀作品賞、気になる結果は…??
では、発表に移りましょう!
☆最優秀作品賞
第3位は……
こちら!
(4票)
🥉『桜子さんの花占い』(作・さなめ。さん)
最初と最後、二重の意味が明かされる簡易解説。
優しく切なく、けれど前向きで綺麗なお話でした。
宇佐美さんと桜子さんのフラグを期待する人も多くいらっしゃいました。
さなめ。さん、おめでとうございます!
続いて…
第2位は……
こちら!
(7票)
🥈『黒い夜、白い朝、青い空、赤い肌』(作・とろたく(記憶喪失)さん)
匠賞に輝いたこちらの作品です!
読者をひきつける表現力、先入観を与えつつ綺麗に回収する構成力、要素を物語にしっかりと組み込む……力。
感想の語彙力が追いつかない、実に見事な作品でした。
題名の対比もまた、シンプルながら読前と読後でがらりと印象が変わります。
とろたく(記憶喪失)さん、おめでとうございます!
**
第20回創りだすは第19回に引き続き『一人につき1作品のみ』というルールを導入しました。
したがって、同率一位にならない限りは、自動的に最優秀作品賞=シェチュ王となります。
そして今回の激戦を勝ち抜いたのは、たった1作品!
発表します。
第1位に輝かれましたのは…
⤴️オオオオオオオオオオォォォォォォ…
……こちら!
――わたしはいつか病気を乗り越えてあの人に愛されたいと祈っていたのだ
(12票)
🥇『夢一夜』(作・もっぷさんさん)
今回の創りだすを制したのは、こちらの作品です!!!
切ない話に二重の簡易解説。
物語としても解説としても非常に読み応えのある作品でした。
「二十歳の誕生日」に「満開の花」、そして「再びこの花を見ることはない」。
問題文に対する解説としての納得感への評価が非常に高く、複数票投票が多かったのも特徴でした。
それでは
第20回、正解を創りだすウミガメ、シェチュ王に輝かれましたのは……
シェチュ王
👑もっぷさんさん👑
です! おめでとうございます!
こちらの王冠をもっぷさんさん……もっぷさん……に
(^ ^つ👑ヽ (=◜o◝=))
∧
もっぷさんさんさん、おめでとうございます!
以上をもちまして、結果発表を終わります!
最後の最後に延期して申し訳ございませんでした……。
創りだすを知ってから初めて創りださなかった創りだす、みなさまのお陰でとても楽しく進行することができました。
ありがとうございました!!!
遅ればせながら、皆さま本当にありがとうございました。
平日の対応が難しかったため締切を休日に集め、いつもよりも短い期間での開催となってしまいましたが、多くの方にご参加いただくことができてとても嬉しかったです。
反省点も多くありますが、それはまたいつか……。
私への温かい言葉も賜り、嬉しい限りです。最後に、要素投稿投票とご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました![編集済] [20年03月03日 21:30]
もっぷさん(さん)!! 創りだす復帰後で即シェチュ王とは・・・すごすぎます!! おめでとうございます!!!! みなさまもハシバミさんもお疲れ様でした!!!! あっ、匠もありがとうございました。やったぜ!!![20年03月01日 23:59]
ハシバミさん、ありがとうございました&お疲れ様でした!短い期間にぶち込むというハードな創り出すも、また乙なものだなと思いました(*´ `*)もっぷさんさん、シェチュ王おめでとうございますー!また機会があれば創り出す参加したいと思います。皆さま美味しいスープをありがとうございました。[20年03月01日 23:20]
わあああ、ありがとうございます!!こんなに多くの票をいただけるなんて…!!今回久しぶりに参加して、創り出すむずかしさを思い出しました。要素を無理に入れようとして不自然になったり…でもやっぱり楽しい!次回、頑張って運営しますので、みなさまどうかご参加くださいますよう…(>人<;) そして、ハシバミさん集計お疲れ様でした。作品へのコメントもありがとうございます!![20年03月01日 23:10]
ハシバミさん、出題主催進行ありがとうございました!お疲れ様でした!創りだす常連様の、新ルールや綺麗な進行でこのイベントを楽しむことが出来ました!解説文の小ネタ、私は見逃しませんよー?笑
もっぷさん、シェチュ王おめでとうございます!本当にすごいすごいお見事すごいでした!(?)どこまでも悲しい話でありながら、私達に「共鳴」させてくれるような素敵なお話、精巧な描写構成、そもそもの感動的なすごいすごい発想、何をとっても圧倒的すぎてすごいでした!(?)改めまして、もっぷさんさんさん、おめでとうございます!!
私、3位おめでとう!やった、表彰台に立てました!!上位の方の素晴らしさの渦中で3位に立てたこと、本当に嬉しいです!私の作品に暖かい感想、票を下さった皆様には本当に感謝感激雨さなめ。です!目を通して下さった皆様も、本当にありがとうございました!
あの、本当に感激ものなので、あとであっちの雪国で、偶数デイジー振り回してきますね。(?)
皆様、お疲れ様でした!ありがとうございました![編集済] [20年03月01日 22:58]
お待たせいたしました、結果発表です! 最後の最後に出題者が締め切りを守れなくて申し訳ございませんでした……。改めまして、参加者の皆様、ありがとうございました![20年03月01日 22:07]
投票会場を設置いたしました。匠・エモンガも受け付けておりますので、奮ってご参加ください。(投票会場:https://late-late.jp/mondai/show/9765)[20年02月24日 10:43]
まにあってーい。間に合わないかと思って焦りました。投稿できてよかった。作品が被っているかはまだ他作品を見ていないのでわかりませんが、さなめ。さんイナさん(さん)とバッジが被ってます。最近のお気に入りです。[編集済] [20年02月23日 18:21]
皆様、ご参加ありがとうございます。只今より要素選定を行います。思っていたよりハイペースで要素募集が終わってしまい動揺中……今しばらくお待ちくださいませ。[20年02月15日 21:38]
二十歳の誕生日。
満開の花を見たその人は、自分が再びこの花を見ることはないとわかった。
いったいなぜ?
■■要素一覧 ■■
①月は綺麗ではない
②ずぶ濡れになる
③激怒する
④愛されたい
⑤青い色鉛筆ばかりを買う
⑥うさぎがおいしい
⑦『二重』は重要
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
2/15(土)21:00~質問数が40個に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後~2/23(日)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後~2/29(土)23:59まで ※予定
☆結果発表
3/1(日)21:00 ※予定
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!