【正解を創りだすウミガメ】冬に風鈴【第19回】

◆◆ 問題文 ◆◆


2月。
まったく風の通らないその場所に、女が風鈴を吊るしたのは

いったいなんのため?



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こんばんは、約1年ぶりに創りだすMCをさせていただくことになりました藤井です。よろしくどうぞ!

 ** 前回はこちら **
https://late-late.jp/mondai/show/8936

      。
      。
      。

今回は『よりウミガメに寄せた正解を創りだす』を目指したいと考え、新たなルールを設けています。


★新ルールその1★
『簡易解説をつける!』
作品の冒頭もしくは末尾に、問題文の問いかけに対する簡易解説(要約)をつけてください。文字数や行数の指定はありません。
※作品自体が簡易解説のような形である場合は、新たに要約をつける必要はありません。

★新ルールその2★
『作品投稿は1人1作のみ!』
あなたの本気を1作に詰めこんでください。
※尚、投票対象外としてサブ作品を1作品まで投稿可能とします。
その場合タイトルに必ず『投票対象外』と明記してください。


☆要素→6個(すべて使用)
☆文字数制限→なし


新たなルールが加わり自由度が下がってしまうかもしれませんが、ぎゅっと凝縮された中でみなさんが思う存分遊んでくださることを楽しみにしています。

それでは第19回創りだす、はーじまーるよー(=◜o◝=)✨

      。
      。
      。


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★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[1/12(日)21:00頃~質問が40個集まるまで]

まず、正解を創り出すカギとなる質問(要素選出)をして頂きます。


☆要素選出の手順

①出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人3回まででお願いします。

②皆様から寄せられた質問の数が40個に達すると締め切りです。
全ての質問のうち"4個"を出題者の独断、さらに"2個"をランダムで選びます。合計6個の質問(=要素)が選ばれ、「YES!」の返答とともに良質がつきます。

良質以外の物は「YesNo どちらでも構いません」と回答いたします。こちらは解説に使わなくても構いません。

※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用いたしません。
▼矛盾例
 田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
▼狭い例①
 ノンフィクションですか?(不採用)
▼狭い例②
 登場キャラは1人ですか?(不採用)
▼狭い例③
 ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)

要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。



★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~1/22(水)23:59]

要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。

らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!

※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
 ** ラテシン版 **
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
 ** らてらて鯖 **
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1


☆作品投稿の手順

①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。

②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。

③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。

④次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。

⑤本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。



★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~1/28(火)23:59]

投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。


☆投票の手順

①投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。

②作品を投稿した「シェフ」3票、投稿していない「観戦者」1票を、気に入った作品に投票できます。
その他詳細については投票会場に記します。

※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。

③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。

 ◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
 →その質問に[正解]を進呈

 ◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
 →その作品に[良い質問]を進呈

 ◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
 →全ての作品に[正解]を進呈
 (※今回は最優秀作品賞=シェチュ王となります)

(◉◉)<見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!

※票が同数になった場合のルール
 ◆最難関要素賞
 ◆最優秀作品賞
 →同率で受賞です。

 ◆シェチュ王
 →同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
 それでも同率の場合、投稿・投票に参加されなかった方に協力を仰ぎ、追加票にて再集計します。(※今回限りの特別措置です)




■■ タイムテーブル ■■

☆要素募集フェーズ
 1/12(日)21:00~質問数が40個に達するまで

☆投稿フェーズ
 要素選定後~1/22(水)23:59まで

☆投票フェーズ
 投票会場設置後~1/28(火)23:59まで ※予定

☆結果発表
 1/29(水)21:00 ※予定



◇◇ コインバッジについて ◇◇
誠に申し訳ありませんが、藤井のオフの事情により、今回はコインバッジ贈呈は無しとさせていただきます。
また、エモンガ・匠賞についても今回は無しの方向で考えております。
自分が責任を持って管理できる範囲を考えての決断でした。ご理解いただけると幸いです。




それでは、これより『要素募集フェーズ』を始めます。質問は一人3回までです。


みんな さんか してね(=◜o◝=)
やきにく(=◜o◝=)
やきにく(=◜o◝=)
[藤井]

【新・形式】20年01月12日 21:01

結果発表!!やきにくたべたい人あつまれー!

新・形式
正解を創りだすウミガメ
10ブクマ
No.1[靴下]01月12日 21:0301月12日 23:17

100円ショップで買いましたか?

YesNo どちらでも構いません

No.2[靴下]01月12日 21:0301月12日 23:17

田舎が恋しくなりましたか?

YesNo どちらでも構いません

No.3[靴下]01月12日 21:0301月12日 23:17

用心深い性格ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.4[とろたく(記憶喪失)]01月12日 21:0401月12日 23:17

冷麺は重要ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.5[たけの子]01月12日 21:0401月12日 23:17

吊るすのは軒先にですか?

YesNo どちらでも構いません

No.6[とろたく(記憶喪失)]01月12日 21:0501月12日 23:17

肩を揉んだら筋肉痛ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.7[とろたく(記憶喪失)]01月12日 21:0601月12日 23:17

言葉遊びますか?

YesNo どちらでも構いません

No.8[シチテンバットー]01月12日 21:0601月12日 23:17

どこからともなくゴングが鳴り響きますか?

YesNo どちらでも構いません

No.9[ごがつあめ涼花]01月12日 21:0601月12日 23:17

また、ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.10[たけの子]01月12日 21:0601月12日 23:17

ちょっと泣きそうですか?

YesNo どちらでも構いません

No.11[シチテンバットー]01月12日 21:0701月12日 23:17

消火器が登場しますか?

YesNo どちらでも構いません

No.12[ごがつあめ涼花]01月12日 21:0701月12日 23:17

真っ白の葉書は関係ありますか?

YesNo どちらでも構いません

No.13[たけの子]01月12日 21:0701月12日 23:17

できることならまた会いたいですか?

YesNo どちらでも構いません

No.14[シチテンバットー]01月12日 21:0901月12日 23:17

メッッッッッッチャ甘いですか?

YesNo どちらでも構いません

No.15[耳たぶ犬]01月12日 21:0901月12日 23:17

南半球は重要ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.16[耳たぶ犬]01月12日 21:1101月29日 21:05

通常より一オクターブ高いですか?

YES!! 通常より一オクターブ高いです!(乱数要素) [正解][良い質問]

No.17[ごがつあめ涼花]01月12日 21:1201月12日 23:17

幸せがどこにあるのかは重要ですか?

YesNo どちらでも構いません

No.18[「マクガフィン」]01月12日 21:1901月12日 23:17

少しだけうらやましかったですか?

YesNo どちらでも構いません

No.19[「マクガフィン」]01月12日 21:1901月29日 21:05

もう一度だけなら許せますか?

NO!! 「もう一度だけ許す」ということは出来なかったのです!(★NO良質要素) [正解][良い質問]

No.20[「マクガフィン」]01月12日 21:2001月12日 23:17

うまく言葉にできませんか?

YesNo どちらでも構いません

No.21[きっとくりす]01月12日 21:2201月12日 23:17

嵐を呼ぶおまじないをしますか?

YesNo どちらでも構いません

No.22[きっとくりす]01月12日 21:2201月12日 23:17

アイドルグループが解散しますか?

YesNo どちらでも構いません

No.23[きっとくりす]01月12日 21:2401月12日 23:17

20年前に戻りますか?

YES!! 20年前に戻ります!(乱数要素) [良い質問]

No.24[きっとくりす]01月12日 21:2601月13日 00:43

ごめんなさい質問しすぎました。 [編集済]

イイヨ!(=◜o◝=)

5

No.25[葛原]01月12日 21:2901月12日 23:17

観覧車が遠くに見えますか?

YesNo どちらでも構いません

No.26[リンギ]01月12日 21:3101月12日 23:17

ほんのり香りますか?

YES!! ほんのり香ります! [良い質問]

No.27[リンギ]01月12日 21:3401月13日 00:43

前日は焼き肉パーティでしたか?

YesNo どちらでも構いません。やきにくはいいぞ。

1

No.28[弥七]01月12日 21:3701月12日 23:17

青い色鉛筆ばかり買いますか?

YesNo どちらでも構いません

No.29[弥七]01月12日 21:3701月12日 23:17

熱帯魚に名前をつけますか?

YesNo どちらでも構いません

No.30[葛原]01月12日 21:3901月29日 21:05

傘が開きませんか?

YES!! 傘が開かないのです! [正解][良い質問]

No.31[弥七]01月12日 21:4101月12日 23:17

髪型は7/3分けですか?

YesNo どちらでも構いません

No.32[HIRO・θ・PEN]01月12日 21:4701月13日 00:43

ほぽぽぽぽぽぽ ですか?

2

YesNo どちらでもぽぽぽぽぽぽぽ

2

No.33[えいみん]01月12日 21:4901月12日 23:17

宙に浮きますか?

YesNo どちらでも構いません

No.34[えいみん]01月12日 21:4901月12日 23:17

耳が遠いですか?

YES!! 耳が遠いです! [良い質問]

No.35[HIRO・θ・PEN]01月12日 21:5001月12日 23:17

くっし ますか?

1

YesNo どちらでも構いません

No.36[まりむう]01月12日 21:5101月12日 23:17

チョコが1個ももらえませんでしたか?

YesNo どちらでも構いません

No.37[まりむう]01月12日 21:5101月12日 23:17

わんこが可愛いですか?

YesNo どちらでも構いません

No.38[まりむう]01月12日 21:5201月12日 23:17

巨大マグロを釣り上げますか?

YesNo どちらでも構いません

No.39[HIRO・θ・PEN]01月12日 21:5301月13日 00:43

正直ボブとは思えないけど、ここは取り敢えずボブということにする ますか?

4

YesNo 正直どちらでも構わないんですけど、ここは取り敢えずどちらでも構わないということにします

3

No.40[特攻トマト]01月12日 22:0401月12日 23:17

左手は添えるだけですか?

YesNo どちらでも構いません

No.41[M]01月12日 22:0701月12日 23:17

高すぎますか?

YesNo どちらでも構いません

皆さまご参加ありがとうございます!
これより要素選定に入ります。しばしお待ちを~
お待たせしました。要素選定が完了しましたので、これより投稿フェーズに移ります!
要素一覧をまとメモに載せましたのでご活用ください。
★投稿の際の注意★

①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。

②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
[編集済]
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。

④次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。

⑤本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
No.42[たけの子]01月13日 15:1801月14日 14:11

風鈴の人/全てはここから始まった

作・きの子 [良い質問]

No.43[たけの子]01月13日 15:1801月28日 14:02

【要約:風鈴を演奏する動画を配信するため】

箱を開けるとだいぶ薄くなった新聞のインクがほんのりと香った④。
まるで20年前に戻った③かのようなあの秋の終わりの田舎町で、
突然の雨に折り畳み傘が開かなくて⑤
途方に暮れていた自分に雨宿りするように言ってくれ、
窯の名物を見た途端に「演奏するのに使うので買います、送ってください」
なんて店中の風鈴の音を厳選しだし、
大量の風鈴を買う珍妙な依頼まで受けてくれた陶芸窯の人には頭が上がらない。

今回は通常使う1オクターブよりさらに高い①ものも用意し、
風が吹いて余計な音が鳴らないようにと
20個を超える大量の風鈴が室内物干し竿に並んだ。

以前別の物を使った動画を掲載後に見つかった演奏ミス。
それはごく些細なものだったけれど気づく人はいた。
動画を消そうと思ったけれど、多くの人の
「消さないで」という声で思いとどまった。
あんなミスをもう一度だけ許すなんて事はできない②。
そのために数ヶ月練習してきたのだから。

ここは最上階の角部屋で隣に住んでるお婆ちゃんも耳が遠い⑥し、
そんなに迷惑にはならなかったはずだ。

さぁ、リベンジ開始だ。
私は風鈴を鳴らすための棒をかざした。

【終わり】

風鈴を楽器として演奏する、なんとも美しい発想です。ひとつがひとつの音を持っており、それぞれの音の違いを音階として扱うというところから、ふとハンドベルを思い浮かべました。確かに、風が吹いては困りますよね。風鈴という音の出るアイテムに対し『耳が遠い』という要素をどう差し込むかは今回の見所のひとつでもあるように思うのですが、『隣人の耳が遠いために騒音苦情が来ない』という解釈は面白いなぁと思いました。

No.44[リンギ]01月13日 22:3801月14日 14:11

難聴マダムとピアニスト

作・リンギ [良い質問]

No.45[リンギ]01月13日 22:3801月28日 14:02

簡易解説:20年前知り合った難聴のマダムへ向けて、ピアノのコンクールが決まった時の目印として風鈴を吊るすことを決めた。それがいつしか女のルーティンとなり、ピアニストとしての仕事が決まるたび願掛けとして吊るしているから。

2月某日。
温暖化の影響をじわじわ受けるこの土地が、今日少し肌寒いのは、この雨のせいだろう。
風もなく垂直に降りしきる雨とともに、濡れたアスファルトが【④ほんのりと香る】。
女はそんな天気の中、室内になにかを吊るした。
てるてる坊主?…いや、違う。

「…よし。」

それは風鈴だった。ひどく鮮やかな色合いで、遠くからでも一際目立つだろう。
閉め切った室内で揺れることのない風鈴を、女は指でわざと鳴らしてみる。

ちりん。

【①通常より一オクターブ高い】音色に、耳を澄ませる。
その音を聞くたびに、女の思考は【③20年前まで遡る】。
女がまだ、『少女』だった時代だ。



確か、夏日。夏休み直前くらいだったか。
少女はその日、最高に機嫌が悪かった。
とにかく嫌なことが続いたのだ。

朝寝坊し、小学校に遅刻した。
給食は嫌いなものばかりだった。
体育の時間のとき、みんなの前で無様に転んだ。
やんちゃな男子たちに指をさされ、笑われた。

そしてついさっき、幼いころから習っているピアノのレッスンで、先生と大ゲンカした。

何度も何度も同じところでつまずいてしまう音色は、先生にとって【②『もう一度だけ許す』ことが出来ない】というところまで来てしまったのだろう。
売り言葉に買い言葉。
「やる気がないなら出ていきなさい!」という言葉に「じゃあもういい!!」と飛び出してきてしまったのだ。

そして極めつけが、

「~~~っなんで開かないのぉ!?」

小生意気にも愛用している【⑤日傘が開かない】。
真夏の夕方は昼間とさして変わりない。じりじりと突き刺すような暑さが、少女の苛立ちを増長させてゆく。

渾身の力を振り絞って無理やり日傘をひらこうとした、その時。

「もし?そんなことしたら、日傘がやぶれてしまうわ。お嬢さん。」

おっとりとした声にすら苛立ち、睨みつけるようにして振り向くと、そこにはお婆さんが立っていた。
なにぶん20年前なので顔立ちはすでにおぼろげだが、第一印象が「きれいな人だ」だったことは覚えている。
彼女も日傘を持ち、帽子も被ったまさに鉄壁。

その上品なマダムは、少女の形相に驚くことなく、言葉をつづけた。

「ここ、巻き込まれちゃってるの。それさえ直せば、ちゃんと開くようになるわ。」

彼女の笑顔に毒気を抜かれ、言われるがまま直すと、日傘はいとも簡単に開いた。
巻き込まれていることにも気づけないくらいに、少女の視野は狭くなってたようだ。

「あ、ありがとう…」

怒りが少しだけ落ち着き、ばつが悪そうに少女が礼を言うと、彼女はいいのよ、と笑った。




「…そう、災難続きだったのね…」

日陰ができる公園のベンチにて、少女はマダムにため込んでいた鬱憤を吐き出していた。マダムは嫌な顔ひとつせず、真剣に話を聞いてくれた。
マダムもピアノが好きで、家でよくピアノのクラシック曲を聴いているらしい。

「けれどお嬢さん、その怒りの感情は、ピアノを弾くうえでは案外貴重だわ。」

思いがけない言葉に、驚いた顔でじっとマダムの顔を見つめる。
ピアノに怒りの感情?まったく結びつかない。

「そうねぇ。例えばリストの死の舞踏やブルグミュラーの大雷雨なんかは怒りの曲として有名だけれど…」

貴方にはまだ早いかしら、と言われムッとする。確かに知らないが。

「私は昔から耳が悪くてね…歳を取ってからさらに【⑥耳が遠く】なってしまったわ。」

マダムの耳をよく見ると、穴になにか小さな機械がはめ込まれていた。
補聴器だろうか。

「でもね、本当にすごい演奏というのは、耳より先に心に届くものよ。」
「気持ちを乗せるなんて眉唾だと思うかしら。でもやっぱり、あるのとないのとじゃあ歴然とした差があるわ。」
「愛の曲、怒りの曲、葬送の曲…。作曲家も何かの思いを込めて曲を作るもの。それを表現できれば、きっと素晴らしい演奏になるでしょう。」

マダムの言葉に少女は居ても立ってもいられなくなっていた。
ピアノは技術だと思っていた。指運び、タイミング、強弱。それさえ完璧なら演奏も完璧に違いないと。けれどピアノはそれだけではないのだという。

初めての試みだが、今なら気持ちを演奏に乗せることができる気がするのだ。
身体が熱いのは、気温のせいか、それとも。

ピアノに触りたい。演奏したい。彼女の言うとおり、今の気持ちを音色に乗せて表現したい!

「おばあさん!」

気づけば大声でたちあがっていた。

「私の演奏、今度聞きに来て!」

コンクールが近々あるわけではない。全く未定のまま少女はそんなことを言い出していた。
マダムの名前も知らない、どこに住んでいるのかも、なんなら少女も名乗っていない。
それでも少女は言わずにはいられない。

「えっと、まだなんにも決まってないけど!もし日にちが決まったら、おうちに風鈴飾るから!1番目立つ奴!吊るすから!もし見つけたらきっと見に来て!私ぜったい、おばあさんの心に届けてみせるから!」

マダムは初めて驚いた表情をして、一言。

「…えぇ、きっと、風鈴を探して、聞きに行くわ。お嬢さん。」




その言葉がひどくうれしくて、頭を下げ、全速力で家に帰り、ピアノにかじりついた。
気持ちを乗せることを意識すると、面白いほど評価が上がった。
コンクールが決まるたび、少女は家の1番目立つ場所に風鈴を吊るした。
季節も風通しも無視した行動によく首を傾げられるが、そんなものはどうでもいい。

あのマダムにどうか届いてほしい。

けれど何回コンクールに出て、何回受賞しても、あのマダムが姿を現すことはなかった。





そして20年たった今、プロのピアニストとなった女は、コンクールやリサイタルが決まるたび、こうして風鈴を吊るしている。
いまやこの行動は、女の願掛けであり、初心に帰る象徴でもある。

あのマダムに出会わなければ、きっと今の自分はないだろう。
…マダムはもう、もしかしたら、もしかしてしまってるのかもしれない。

それでも、女はマダムに風鈴を捧げ続けるのだ。

もう一度、指でちりん、と鳴らした。
季節外れの美しい音色は、あの夏の日を呼び起こす。


女はいまだ、かのマダムに演奏を聴いてもらえる日を待っている。
【終】
[編集済]

私も昔ピアノを習っており、少し自分を投影しながら拝読しました。マダムの言葉に感銘を受け、いてもたってもいられなくなる少女の姿に胸が熱くなりました。結局その後マダムと会うことはかなわず物語は閉じられますが、綴られることのないストーリーに読者は思いを馳せずにはいられないでしょう。『雨に香るアスファルト→室内に吊るす→てるてる坊主、ではなく風鈴』という流れも軽やかで美しかったです。

No.46[耳たぶ犬]01月14日 22:2501月15日 02:10

深海から遠い夏まで

作・耳たぶ犬 [良い質問]

No.47[耳たぶ犬]01月14日 22:2701月28日 14:02


【要約:海底の調査をするチームが、閉鎖空間の中で発狂しないようにするため】

ここは海底二万マイルにあるラッテラーテ国所属の潜水艦、【イヤ・ローブ】。
海底に眠るといわれる財宝や鉱物資源、歴史的価値のある遺物などの捜索を国家規模で行っている艦である。

ラッテラーテ国は周辺諸国との国境問題もあり、傘が開けない⑤ほどの狭い領海を有効活用したいと考えていた。

諸外国にバレないようにするため水や食料は数週間に一度の補給のみとなる。そのため、乗組員は週に一度しか体を洗わず…その…ほんのり香る④

そんなイヤ・ローブ艦だが、一風変わった四つの部屋が存在する。
そのうちの一部屋に風鈴は吊るされている。

事の発端は20年前、深海の調査が始まったころまでさかのぼる。③

深海の密閉空間、通信傍受の心配もあり外界との通信は必要最低限のみ。新しい発見など早々起こるはずもなく、非日常的な空間に置かれた乗組員の精神は徐々に摩耗していった。
そしてついに限界に達した彼らは発狂した。
一日中ニタニタと笑うもの、急にハッチを開けようとするもの、果てには自らの鼓膜を破くものまで現れた。
こうして第一回深海調査はさんざんな結果で中止となった。
彼らは今でも後遺症に苦しんでおり、特に鼓膜を破ったものは今でも耳が遠い。⑥

この事態を重くとらえた国の上層部は『このような事態の発生をもう一度だけ許すということはできない。』②として、潜水艦内にストレスを解消させるための空間を設けた。

そして出来たのがこの「季節の部屋」である。
春夏秋冬と四部屋存在し、その部屋の中では季節の風物詩を味わうことができる。
こうして彼らに季節を満喫することで閉鎖空間のストレスを解消してもらう…というのが狙いだ。

春ならば桜(押し花だが…)秋ならば紅葉(絵だが…)冬ならばかまくら風の狭い空間…といった感じの部屋の構成となっている。

夏には蝉の鳴き声.mp3が選ばれていたのだが、乗組員から「通常のセミより一オクターブ高くて耳障りだ」①という苦情が入り、2月からは風鈴を吊るすことになったのだ。
(ちなみにこの風鈴もリラックス効果を促すため、通常より一オクターブ高く設計されている。)


潜水艦の揺れに合わせて風鈴が鳴る。
乗組員たちは水圧の重さから解放され、遠い夏の風を感じていた。

【終わり】

各要素の使い方が非常に上手く、すべてが散らかることなくひとところへ収束されていく様が見事でした。そして、乗組員のストレスを和らげるための季節の部屋という発想がとても素敵!中身はどれも簡素なつくりで思わず笑ってしまいましたが、深海で潜水艦の揺れにより鳴る風鈴で遠い夏の風を感じる、というのが何とも味わい深いです。かっちりしそうなテーマでありながらほどよくガス抜きされており、絶妙な読み心地がとても好感触でした。

1

No.48[こたこた2号]01月15日 23:0801月16日 14:00

時は風なり

作・こたこた2号 [良い質問]

No.49[こたこた2号]01月15日 23:0901月30日 10:38

【要約】タイムスリップできる風鈴を使って復讐したいと考えたため


私は小学生の時、物置の奥に風鈴があるのを見つけた。キレイな見た目を気に入り、こっそり持ち出して部屋に飾った。

ある日、その風鈴は風もないのに音が鳴っているようだった。微かな音なので近付いて聞いてみると…風鈴なのに、それはそれは低い音を鳴らしていた。

私はあまりの低さにゾッとして、思わず目をギュッと閉じた。音が鳴り止んだようなので目を開けたら、そこは自分の部屋ではなくなっていた。
まったく知らない誰かの部屋になっており、私は混乱した。とにかくここがどこなのかを探るためあちこち情報を嗅ぎまわったところ、どうやら【③20年前の世界に来ている】ことが分かった。
どうすればいいか分からず、ひとまず風鈴のある部屋に戻った。
風鈴のキレイな柄が目について、何気なく風鈴に近寄ると…【④ほんのりと甘い香りがした】。
何の香りかなぁと目を閉じて考えていたら、気付いたら元の時代、自分の部屋に帰って来ていた。

私がこの風鈴に関する出来事を思い出したのは、現在高校で嫌いな奴に再会したからだ。

これまた小学生の時、私はそいつにある嫌がらせをされた。
その日の天気は雨で、私はお気に入りの傘を持ってきていた。しかし、そいつが【⑤傘が開かなくなる】ように細工をしたのだ。
頑張って無理矢理に開いた所、その傘は壊れてしまった。
あわや大喧嘩になるところを担任の先生がなだめて、予備の可愛い傘を貸してくれたことで、その場は収まった。

そして例のそいつは、高校生にもなって全く同じ嫌がらせをしてきたのだ。
いくらなんでも【②また許してやろうとは思えなかった】。
私は物置にもう一度隠しておいた風鈴を取り出し、季節に見合わないのは重々承知で部屋に飾った。

「過去のあの時に行けたら…あいつがトラウマになるくらいに、二度と私に嫌がらせなんてしたくなくなるくらいに怒ってやる…」

しばらくすると、風鈴は微かに音を鳴らし始めた。しめた!とその音をよく聞いてみると…あの時に聞いた低い音とはまるで違う。【①むしろ風がある時の通常の音より、一オクターブ高い】ような………

気がつくと、そこは自分の部屋のままだった。しかし、何かが違うような気がした。嫌な予感がして、かつてのように情報を嗅ぎまわる。
ここは、元の時代の10年後…つまりは未来だった。
どんなに不思議な風鈴だからって、都合よくいくわけがなかった、ということだ。なんだか呆れてしまった私は風鈴の甘い香りを嗅ぎ、元の時代に戻った。

後から私は冷静にこう考えた。私は過去にも未来にも行けるという危険な代物を、たかだか嫌いな人に仕返しするという目的だけで使おうとしたのだ。
風鈴はまた物置に隠しておくことにした。風鈴にとっては三度目の物置である。

あれから何年も何年も経った今、私はあの風鈴をまた部屋に飾っている。【⑥耳が遠くなった】私には、風がない時に奏でられる微かな音はもう届かないのだ。やっとただの風鈴として楽しめる。


【終わり】
[編集済]

風鈴でタイムスリップというこれまた斬新な発想。それも、音を聴いて未来過去へ飛び、匂いを嗅いで現在へ戻るという何ともユニークなシステム。これによってラストの要素⑥『耳が遠い』が活きてくるのですね。非現実要素を含みながらもストーリーは現実ベースで流れており、また全体的に素朴であるため、不思議と馴染みやすさがありました。風鈴の微かな音が聴こえなくなり初めて風鈴として楽しめる、というラストが好きです。

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No.50[シチテンバットー]01月17日 20:3701月19日 02:22

2月2日日曜日のLTW特別興行

作・シチテンバットー [良い質問]

No.51[シチテンバットー]01月17日 20:4001月28日 14:02

【簡易解説】
プロレスで目隠しマッチ(両者共に視界を封じられた状態の試合)をしてる途中、どさくさに紛れて風鈴を対戦相手の衣装に付けた。
これで視界が封じられてても音を頼りに相手の場所を把握できる、という狙いがあった。
会場内には当然風が通らない。

【簡易じゃない解説】
「さあLTW主催特別興行『Fight 2 KIsaLLagi~鬼は外!勝つのはウチ!~』も残すところあと二試合となっております。引き続き実況は海見戸蘭、解説は元丸々井レスリングの元世界王者である78バテオさんにお越しいただいております。バテオさん引き続きよろしくお願いします」
『こんばんは。よろしくお願いします』
「しかしバテオさん、分かるでしょうか。この会場の熱気!会場となった出募野市民体育館が爆発してしまいそうです」
『ええそうですね。今年一月の中旬からタッグ戦線を蹂躙し続けてるデーモンコア・ブラザーズ。彼らは常に観客や対戦相手を恐怖に突き落とすようなキャラクターと思われていましたが、今日は少し違いましたね』
「ええ、タートルネックスを相手とした今回の試合、何と鬼の格好をしナマハゲコア・ブラザーズとして登場しました。さらに反則無しなのを良いことに豆を相手に投げつける始末。来日して半月ほどですが、早くも日本文化への適応を見せております」
『普通鬼は豆ぶつけられる側ですし、そもそもナマハゲは鬼ではないんですけどね』
「しかしそこは横暴ファイトで知られる彼ら、最後の最後でなんと金棒を取り出しフルスイング!勝利を決定付けました。試合後には仕切りに『悪い子はいねーかー!!』と叫んでましたね」
『『悪い子はお前らだろ!』と観客に突っ込まれてましたね』
「観客からの野次は耳が遠い振りをしてやり過ごした二人でした⑥。さてセミメイン戦には昨年の12月、念願のWTL女子王座を獲得したビッグインシデント香織選手が登場します」
『ええ、王座を戴冠してからはエキサイトなファイトスタイルにさらに磨きがかかりましたね。特に1月19日に行われた前回の特別興行『スケートリンクより冷たく暑いプロレスリング~大寒に耐寒して戴冠を体感せよ~』でのカピバラフェイス京子との一戦は国内外から称賛の声が上がるほどの名試合となりました。今日は王座がかかってない試合なんですけど、彼女にとっては防衛戦と同じくらい重要な試合と思ってるでしょう』
「ええ、以前から悪即断をモットーに掲げている香織選手、王座獲得後もこれを一貫し続けていましたが、そんな彼女に大事件が発生しました。彼女の親友であるキイナ選手。彼女が突如ディーバ・メランコリー率いるウォレット・クラブが襲撃。右脚を負傷し一時的に戦線離脱となってしまいました」
『ウォレット・クラブといえばアメリカで活動している3名の悪女軍団。現地では横暴極まりない集団として知られておりますが、まさかの電撃来日となりました』
「香織選手は当然激怒。ウォレット・クラブリーダーのメランコリー選手と対戦することになりました。その際に試合形式を一般の皆様から募集し抽選となりましたが、選ばれたのはまさかの『武器持ち込み目隠しマッチ』という訳の分からんシロモノでした」
『変則的にもほどがありますよね』
「それではルール説明です。武器持ち込み可能、試合中は黒いピッチピチのアイマスクの着用が義務付けられています。基本的にはNoDQ、つまり反則無しですが、試合中に故意に自らの目隠しを取ることは禁止されています」
『『故意に自らの』と言ってるのは、以前相手の目隠しを取ることで反則勝ちを狙おうとした事例が影響してるのでしょうか?』
「おそらくその通りでしょう。そしてそれに加えて第三者の試合への直接的な介入も禁止されています。具体的に言いますと試合中の選手への攻撃はアウトということです」
『ウォレット・クラブへの対策ということでしょうか?』
「そのようですね。・・・さあ流れて参りましたビッグインシデント香織の入場曲!そして現れましたWTL女子王者!肩にかかっているのは輝かしいチャンピオンベルト!あの聖夜の決戦から一ヶ月と少しが経過しました。今や伝説となったブレイカー七海との王座戦、その後も強敵相手に何度も防衛を重ねてきました。今回は王座は賭けられていません。しかし彼女は言いました。王座が賭けられてなくてもプライドは賭けられている。親友のために、自分のために、ウォレット・クラブは誰一人として許すわけにはいかない、そう語っていました香織選手!さあコーナーポストからベルトを高々と掲げた!観客席から大歓声が飛んでおります!」
『完全にこの団体の顔となりましたね香織選手』
「そうですね、誠に頼もしい限りです。・・・そしてウォレット・クラブの入場曲が流れ始めました。途端に会場は大ブーイングに包まれます!」
『まあこれは仕方ないでしょうね』
「そして現れましたウォレット・クラブ!向かって左側にキャサリン・メイ、右側にジェシー・カーター、そして真ん中にはリーダー、ディーバ・メランコリー!黒い衣装に身を包んだ悪女軍団が悠々と花道を進んでおります!そして今リングイン!」
『香織選手、ずっとメランコリー選手を睨み付けてますねえ』
「さあ先程も言いましたように今回は武器持ち込み可能ですので両者ともに武器を持ち込んでおります。香織選手はウォレット・クラブの入場中に袋をコーナーポスト付近のリング下に置きましたね。何でも持ち込める割にはそこまで大きくないように思えますが」
『そうですね。対するメランコリー選手の袋は非常に大きいのですがねえ』
「そしてメランコリー選手は早くも袋から竹刀を取り出しました。そしてレフェリーによってアイマスクが装着されました。さあゴングが鳴りました試合開始です!」

「試合開始直後ですが、やはりお互いに探りあってる感じですね」
『ええ、プロレスに限らず格闘技において視覚は極めて重要ですから、それが制限されてるとなると大きく動くことは出来ないですよね』
「そしてメランコリー選手、竹刀を杖の要領で使っております。これで香織選手と接触した際に相手がどこにいるか察知しやすくなります」
『これは考えましたね。しかしレフェリーは巻き添えを恐れて二人からだいぶ離れていますね』
「普段はレフェリーへの攻撃はそれほど起こらないのですが、今回は頻発する可能性がありますからね。さあ二人が肉薄してきた。おっと竹刀が触れた瞬間香織選手の蹴りが炸裂した!そしてすかさず相手に掴みかかる!」
『これは相手の狙いを読んでいたみたいですね。しかし視覚が制限されているからかかなり荒々しいファイトとなっております』
「いつもの香織選手はほんと華麗という言葉が似合うファイトスタイルなんですがねえ。さあメランコリー選手が香織選手を突き飛ばした。通常なら両者共にそこから追撃が狙えますが、今回ばかりはそうはいきません。メランコリー選手、手探りでロープを掴みヨタヨタとリングを降ります」
『おっとメイ選手とカーター選手がメランコリー選手の所へ集まりましたね』
「二人が呼び掛けておりますメランコリー選手も気付いた様子・・・メランコリー選手何かを言っておりますが、おっとメイ選手、カーター選手を残して一目散にホールを出ます。猛ダッシュです」
『これはメランコリー選手が何かしらの指示を受け取ったということでしょうね』
「さあメランコリー選手、またヨタヨタとリングへと戻ります。竹刀は一連の攻防で落としてしまいました。再び拾うすべもありません。ここからまた両者探り合いです」

「さあ試合開始から10分経過しました。少々香織選手が劣勢と言えるでしょうか」
『ええ、メランコリー選手はグラウンドの攻防が得意ですから、一度掴みかかることが出来ればそこから得意技を繰り出すことが出来ます。対して香織選手はアクロバティックな技が多いのですが、視界が制限されている状態ではそういったものは繰り出せません』
「先程もメランコリー選手に腕十字を決められていました。さあまたメランコリー選手が掴みかかるが、おっと香織選手がヘッドバット!ガッチリと組み付いて離さない!ヘッドバットを連続!!会場が大いに盛り上がります!!」
『香織選手がヘッドバットとは珍しいですね』
「さあようやく相手を解放しました。十発は放ったでしょうか。さすがにメランコリー選手もグッタリとしております」
『近くにあったロープを探って立ち上がりましたね』
「おっとここで香織選手がドロップキック!!すぐさま立ち上がりましたがさらにドロップキック!!倒れた相手にレッグドロップ!!!」
『急にスタイルが変化しましたね』
「ええ我々がよく知っている香織選手のファイトスタイルです。メランコリー選手、目は隠されていますが明らかに困惑しているのが伺えます。そしてフライングボディアタック!フォールしますがカウントは2!」
『いきなりアクロバティックになりましたねえ・・・あっ背中!背中を見てください!』
「おっとメランコリー選手の背中に!風鈴がぶら下げられている!先端につけた安全ピンでメランコリー選手の服に固定している!季節外れの風鈴がチリンチリンと鳴っております!香織選手がまたしてもランニングボディアタック!!メランコリー選手何とか起き上がりましたが、その度にチリンチリンと風鈴の音がする!風も通らない出募野市民体育館に風鈴がチリンチリンと鳴り響く!チリンチリンと鳴る度に香織選手の攻撃が炸裂する!【問題文】」
『音を頼りに相手の位置を探り当てるとは考えましたね。しかしこれほどの歓声の中で風鈴の音を聞き取れるとは流石の集中力』
「さあ一気に形勢は逆転しました!リングサイドのカーター選手、慌ててスマートフォンを操作しております!」
『たぶん何かしらの連絡をしてるのだと思いますね』
「しかしメランコリー選手時間の問題だ!これは力尽きるのも時間の問題か!さらに脚へ攻撃を仕掛けていく!」
『これは完全にペースを掴みましたね』
「おっとここでメイ選手が戻ってきた!戻ってきた!袋を持って・・・スーパーの袋?」
『海亀スーパーと書いてありますね』
「この会場から徒歩5分の海亀スーパーに急遽買い出ししたのでしょうか。さあ袋を受け取ったカーター選手、取り出したのは・・・風鈴!風鈴です!香織選手と同じく風鈴を使います!そしてリングに近付き、風鈴を揺らす!鳴り響く風鈴の音!これは香織選手、混乱している!作戦が仇となったか!」
『これはよく考えましたね』
「香織選手の真後ろにはよろよろと立ち上がるディーバ・メランコリー!チリンチリンと音がする!しかし目の前にはエプロンに立ち風鈴を揺らすジェシー・カーター!攻撃ではないため注意することしか出来ないレフェリー!これはマズイ・・・おっとこれは!」
『おっとこれは凄い!』
「香織選手!少し迷いながらも真後ろのメランコリー選手にラリアット!よく気付きました!」
『カーター選手もまさかと言いたげな表情ですね』
「メランコリー選手よろめき動く!そして真反対の方向でカーター選手が風鈴を鳴らす!しかしそれには耳も貸さず敵まっしぐら!カルカンもビックリ!」
『おっとよく見てください』
「どうしましたか?」
『よく見ると二つの風鈴が違います。カーター選手のはよく見る普通の風鈴ですが、香織選手が付けたものはそれより小さいですね』
「なるほど!大きさが違う故に音程が違ったために判別できたのですね!」
『はい、香織選手が所持してた方が大体一オクターブ位高いですね①』
「これは助かった香織選手!作戦を逆手に取ろうとする発想は見事でしたが、さすがに大きさや音色を揃えることは出来なかった!メイ選手の指摘でようやく気付いたカーター選手、しかし今から買い出しに戻ることは出来ない!その前に試合が終わってしまう!」
『メランコリー選手がかなり劣勢ですからね』
「おっとメイ選手、エプロンに上がってレフェリーにイチャモンをつけてますが・・・あっと何ということだ!!!」
『これはマズイ!!!』
「卑劣なりウォレット・クラブ!!!メイ選手がレフェリーの注意を惹き付けている間にカーター選手がビニール傘で香織選手を殴打!!!そして背中に風鈴を取り付けた!!!さらにメランコリー選手の風鈴も外していく!!!」
『レフェリー何やってんだよ!!』
「当然これは反則行為!!即座に香織選手の反則勝ちとなるところです!!しかし肝心のレフェリーは気付いていない!!!イチャモンを続けたメイ選手に対して退場命令を下したレフェリー、しかし本懐は遂げられてしまった!!!」
『もうこれはね、ホントにありえない』
「勝ち誇った顔でエプロンを降りたメイ選手とカーター選手!!これは大ピンチだ!!頼りの風鈴が無くなり、逆にこちらに取り付けられた!!」
『香織選手もね、何をされたか分かってると思いますよ』
「しかし分かってもどうすることも出来ない!上手い具合に手が届かない所に付けていきました!ゆらりゆらりと立ち上がる香織選手!リンリンと風鈴が鳴り響く!さあメランコリー選手が・・・おっとこれはどうした!?」
『おっとこれは?』
「メランコリー選手、明後日の方向へ歩き出した!ダメージでフラフラなことを考慮しても香織選手に向かって歩いてるとはとても思えない!!」
『カーター選手の顔が曇りましたね』
「異変に気付いたカーター選手、リングサイドから声を上げるが・・・メランコリー選手、リング内から耳を傾けるポーズ!!カーター選手声を大きくしメランコリー選手も近づいていくが、おそらく通じてない!!リングから身を乗り出してまで耳を傾けてるがおそらく聞き取れてない!!!何とメランコリー選手、絶望的に耳が遠い⑥!!!」
『これはちょっと・・・』
「最早身を乗り出すどころか完全にエプロンに立ってる状態なのに聞き取れてない!!このブーイングの嵐を考慮しても絶望的な聴力!!カーター選手、これには愕然!!ゆっくりとリングから降りたメランコリー選手にフェイストゥフェイスでカーター選手が指示を出しますが・・・ここでレフェリーから注意が入ります!!」
『本日のレフェリーは巻駒礼子さんです』
「カーター選手とレフェリーが言い争うが・・・香織選手のトペ・コンヒーロ!!!ウォレット・クラブの二人とレフェリーをなぎ倒していく!!!メランコリー選手に対して耳がよく利く香織選手、カーター選手の怒鳴り声を聞き逃さなかった!!!」
『これは凄い!!!』
「しかし自らも客席のフェンスに激突!これは両者大ダメージ!!リングサイドに横たわります!!レフェリーも起き上がれない!!・・・おっと、カーター選手が怪しいぞ?」
『何かしていますね』
「マスクをしながらミキサーを取り出して・・・水を入れて・・・何と納豆を取り出した!そしてミキサーに投入!次は何とくさや!!これもミキサーへ!!!最後に取り出したのは・・・ドリアン!!!袋から取り出した瞬間、会場から悲鳴が上がった!!!それもミキサーへ!!!そしてスイッチオン!!!その間両選手はまだ立ち上がれない!!!」
『いやいやこれはマズイ!』
「そして袋から・・・水鉄砲を取り出した!!そして出来上がった地獄の悪臭液を流し込んでいく!!!」
『ダメダメダメ!!!ヤバイって!!!』
「会場が騒然としている!!歓声でもブーイングでもない、異様な悲鳴や叫び声があちこちから漏れている!!!」
『止めて止めて!!』
「しかしレフェリーは未だに立てず!!止めることが誰も出来ない!!カーター選手が高笑いをしながらシャコシャコを始めたあ!!!」
『ダメダメ!!ダメだって!!』
「誰かこいつを止めてくれ!!しかしレフェリーは横たわったまま!!そして限界までシャコシャコしきった水鉄砲!!高笑いをしながら香織選手に標準をあわせる!!!」
『マズイよ!!』
「・・・しかしここで香織選手がランニングボディアタック!!水鉄砲を取りこぼした!!」
『あぶねー!!あぶねー!!』
「助かりました!!会場からは安堵の声が広がります!!カーター選手にとっては高笑いをしてたのが仇となりました!!・・・おっと待ってください!!」
『待って待って待って!!!』
「香織選手が水鉄砲を拾い上げた!!おそらくそれが水鉄砲であることには気付いたでしょう!!しかしその中身は知る由もない!!普通ならこの悪臭液を放とうとは思いません!!!しかし目隠しされていた香織選手!!!これがバイオハザードを引き起こす水鉄砲であることを知らない!!!」
『止めろー!!止めろー!!』
「会場からは再び悲鳴!!止めろとの野次も聞こえてきます!!・・・しかし香織選手!!無情にも水鉄砲を構えたあああ!!!」
『無理無理無理!!ダメダメ!!!』
<ノー!!ノー!!プリーズストップ!!!
「悪臭液を作った張本人、思わず命乞い!!しかし香織選手は聞く耳を持たない!!むしろカーター選手に照準を合わせた!!!カーター選手、傍らにあったビニール傘を拾い上げる!!・・・しかし開かない⑤!!!傘の防御で直撃を避けようとしたのでしょうが開きません!!!先ほど反則を犯してまで香織選手を殴ったツケがここで!!!まさしく自業自得!!!因果応報であります!!!」
《お下がりください!!!危険ですのでお下がりください!!!》
「場内アナウンスが響き渡る!!!観客から止めろと声が飛ぶ!!!しかし香織選手が耳にしてるのは、等しく無意味の怒号のみ!!!」
『そんなこと言ってないで止めて・・・止めろおおおおおおお!!!!!』
「香織選手がああああ!!!!!四方八方へ悪臭液を放射!!!!!何ということだ!!!!!阿鼻叫喚!!!!!阿鼻叫喚であります!!!!!無差別射撃!!!!!悪臭液を無差別に!!!!!最前列の観客が逃げ惑う!!!!!LTW創設以来、前代未聞の大惨事!!!!!悶絶であります!!!!!直撃を避けられなかったウォレット・クラブ両名悶絶!!!!!マスクなど無意味であります!!!!!」
『マズイってこれ!!!!!ダメだよ!!!!!』
「惨劇の現場はリングを跨いで実況席とは真反対のリングサイド、かなりの距離ですが、それでも我々もほのかに感じるこの刺激臭④!!!しかし香織選手も苦しんでいる!!!水鉄砲を落として倒れこんだ!!!地獄の悪臭からは開放した本人も呑み込んでいく!!!」
『試合続けられんの!?』
「ここでガスマスクをしたスタッフ登場!!!リセッシュを吹き散らかします!!!それでも完全に除去できないおぞましい臭い!!!」
『ガスマスクありませんかね?』

「えーお騒がせしました。先ほどの悪臭ですが、スタッフ10人動員し3分かけてリセッシュ78本消費してようやく収まりました。当然ですが、その間も試合は続いています」
『ですが一連の事件における彼女たちのダメージは根深いですよ』
「しかしよろめきながらも立ち上がる!!!香織選手!!!そしてエプロンづたいに歩いて、コーナーポスト付近のリング下を漁っている!!!」
『この辺に持ち込んだ武器置いてありましたからね』
「そして袋を掲げた!あまり大きくないが、何が入っている?」
『おっとメランコリー選手、たちあがりましたね』
「一連の出来事からリングサイドで半死半生となっておりましたメランコリー選手、ようやく立ち上がってヨロヨロとリングイン。ほぼ同時に香織選手も反対側からリングイン」
『メランコリー選手、声をあげていますね』
「気合い入れの雄叫びか、ダメージからの呻き声か、しかしいずれにせよ香織選手に対しては悪手!!」
『香織選手が近付いていった!!』
「そして香織選手が袋で殴打!!同時に倒れこみます!!最早お互いに虫の息!!」
『次大きい一撃決めた方が勝ちますね』
「おっとダメだダメだダメだ!!!カーター選手、パイプ椅子片手にリングイン!!!狙いは当然香織選手!!!」
『最悪だよほんと最悪だよ!!!』
「まだダメージが残ってるのかよろめいている!!しかしよろめきながらも憤怒の表情で香織選手を睨み付ける!!香織選手はまだ起き上がれない!!!」
『誰か止めろよマジで!!!』
「カーター選手、パイプ椅子を振り上げ、無情の一撃が・・・おっと止めた止めた止めた!!!復活のレフェリー、間に割って凶行を止めました!!!」
『よーしよしよしよくやった!!!』
「パイプ椅子を取り落とす!!!懇願するカーター選手!!!しかしレフェリーから正義の制裁いいいい!!!退場命令!!!退場です!!!一度反則を見逃がされてしまったが、もう一度許されることは出来なかった②!!!」
『やったやったやった!!!』
「さあその間に立ち上がる香織選手!!袋片手に、袋をひっくり返し・・・何ということだあああああ!!!???」
『嘘だろお前!!?嘘だろ!!!』
「香織選手が持ち込んだもう一つの武器!!!それは大量の画鋲!!!大量の画鋲であります!!!」
『ああマズイマズイマズイ!!!』
「しかし香織選手を探し当てたメランコリー選手!!!必殺のスリーパーホールド!!!ガッシリと脚を胴に回している!!!倒れたら一巻の終わり!!!まさにビッグインシデント!!!」
『耐えろ耐えろ耐えろ!!!』
「何とか耐えている何とか耐えている!!!しかしこのままでは力尽きるのも時間の問題!!!よろめきながらも、先ほど撒いた画鋲を踏みながらも、必死に耐えている!!!」
『危ない危ない!!!』
「香織選手、前屈みになってメランコリー選手を背負う形となった!!何とか倒したいメランコリー選手との攻防!!・・・ロープを掴んだ!!トップロープを掴んで自らの体を支える!!・・・そしてセカンドロープに足をかけた!!これはまさか!!?」
『え!?マジで!?』
「セカンドロープに両足をかけて・・・飛んだああああああ!!!!!画鋲の海へ!!!!!ビッグインシデント香織!!!組み付いて離れないディーバ・メランコリーを押し潰すように飛んだ!!!そして飛んだ場所には先ほど画鋲!!!」
『こーれはとんでもないダメージ!!!』
「悶絶!!!背中に画鋲を突き刺されたメランコリー選手、最早のたうち回る体力も残ってないながらも悶絶している!!!」
『ちょっと待って待って!!』
「さあ何と立ち上がった香織選手!!ロープづたいにコーナーへ登った!!」
『いやこれはマズイでしょ!!?』
「視界が封じてる中とんでもないリスクを背負おうとしている!!!しかし彼女のファイトスタイル、常にハイリスクハイリターン!!!悪を滅ぼすためならば、手段を選ばない、例え自分の身を滅ぼすことになっても!!!そういう人間です!!!」
『マズイって!!』
「さあ立ち上がった!!必殺、閃光のムーンサルトおおおおおおお!!!!!飛んだああああああ!!!!!決まったああああああ!!!!!カウントスリー!!!」
『すげえ、すげえよ』
「苦しみながら、傷付きながらも、王者としてのプライドを守り、友の仇を討ちました!!!」
『あ、おいおいおいおい!!!』
「あああ、何と!ウォレット・クラブが戻ってきて香織選手を襲撃!!試合が終わった直後でまだ目隠しも外してない香織選手をいたぶっていく!!」
『冗談じゃねえよまじで!!』
「目隠しを外したメランコリー選手、グロッキーながらも何とか立ち上がり、鬱憤を晴らすかのように香織選手にストンピング、香織選手立ち上がることが出来ない!さあそしてこの指の構えは!!メランコリー選手、親指を下に向けた!!これは"処刑"の合図!!メイ選手とカーター選手が構える!!キイナ選手を欠場に追い込んだダブルパワーボムの体制だ!!試合でメランコリー選手を葬った画鋲の海へ落とそうとしてる!!おっと誰か来た!!」
『誰か来ましたね?』
「あれは欠場中のキイナ選手!!松葉杖を突きながら懸命に花道を進んでいく!!キイナ選手に気付いた二人が構えを解いた!!」
『いや無茶だよこれは』
「何とかリングイン!!ウォレット・クラブと親友の間に割って入る!!」
『でもどうすんの?抵抗できないじゃん』
「しかし睨み付けるのがやっと!!ウォレット・クラブ、抵抗できないキイナ選手を嘲笑う!!あっとなんと!!キイナ選手に対して"処刑"の合図!!」
『おいおい怪我人だぞ!?』
「これはキイナ選手絶体絶命!!・・・おっと!?」
『どうした?何があった?』
「突然照明が暗転してしまいました・・・あ、照明が戻りましたね・・・おっとこれは!?」
『うわあマズイ!!』
「ブレイカー七海!!前LTW女子王者その人です!!聖夜の一戦から欠場していた極悪非道のブレイカー七海が再びリングに!!メランコリー選手、両腕を広げて歓迎のポーズ!!」
『・・・おっと?』
「しかし反応を示さない、メランコリー選手少し戸惑って・・・あっとスーパーキック!!!七海選手メランコリー選手にスーパーキック!!驚きを隠せない残ったウォレット・クラブの両名!!キイナ選手、香織選手も驚いている!!」
『こんなことがあるの!?』
「二人がかりで七海選手を襲撃・・・はね飛ばした!!あっという間にはね飛ばした!!数的不利を物ともしないパワー!!そしてメイ選手にスーパーキック!!カーター選手のラリアットを避けてスーパーキック!!!・・・何と!?仮面に手をかけて・・・仮面を外した!!!残虐の象徴である仮面を自ら外した!!!」
『凄いよ!?どうなってんの!?』
「会場が騒然としている!!信じられない光景を目にしている!!あの悪辣ブレイカー七海が人助け!!自らの心も未来も光も封じ込めていた仮面を捨て、極悪の名をも捨て、悪女軍団のウォレット・クラブを排除しようとしてる!!そしてカーター選手の喉を掴んだ!!これは必殺の、チョークスラムううう!!!画鋲の海へえええ!!!」
『うわあああ!!マジかよ!!』
「一体何が起こってるんだ!?何が起こってるんだ!?我々にもとても信じられません!!七海選手リングアウト!!花道から会場を去っていきます!!帰ってきたのか!!?希望や未来を疑わず前を向き猪突猛進する快活な七海選手が帰ってきたのか!!?」
『どうなってんだよこれ!?』

「いやーそれにしてもバテオさん、試合内容もさることながら、まさかの結末が待ち受けていましたね」
『ええ、まさかあの七海選手が帰ってくる・・・かもしれない、と思えるとは。もう二度と見ることが出来ないと思ってましたから』
「ええ、ブレイカー七海となって以降の暴虐さといったら、本当に豹変としか言いようがないほどでしたね」
『本当にそうですね』
「えー、ここでお知らせです。8日と15日の二回の通常興行を挟みまして、次回のLTW主催特別興行は23日に田取市民体育館にて行われます。興行名は『Snowman's Brawl~諦めの悪い子はいねえか~』です。皆様のご来場お待ちしております。またこの特別興行の実況解説も私とバテオさんが担当いたします」
『よろしくお願いします』
「さて、興奮冷めやらぬ出募野市民体育館ですが、まだメイン戦が残っています!時を遡ること20年③、かつてLTWの二大エースと呼ばれたレスラーがいました。その名前は"鉄人"こと垣田浩二、そして朝原修一。その二人がこの王座をかけて争ったのが2000年2月6日の特別興行。この一戦は知る人ぞ知る伝説の一戦となりました。今もなおこの試合が団体の歴史全ての試合の中でのベストバウトと呼ぶ人も数知れず。そして現在2020年、元号が平成から令和へと変わり、かつてのエースは父親に、かつての子供は屈強なレスラーに成長を遂げた!そして今、再び伝説の一戦の幕が上がる!激戦は必須!LTW世界王座戦、チャンピオン鋼拳骨vsチャレンジャー朝原義人!まもなく選手入場です!!」

【了】

長いです(第一声) 正直、この問題文とこの要素でプロレス持ってくるとは思ってませんでした。しかも前作から続いてた。そしてやっぱり不思議なことに、プロレスを全く知らない私でも勢いにおされて次へ次へと読めてしまうんですね。悪臭水鉄砲の辺りが個人的ピークでした。風鈴を相手の服に取りつけて目隠しマッチの手がかりにする、1オクターブの音程差でフェイクを聴き分ける……など、シチテンさんにしか創りだせないであろう解説に唸りました。リセッシュがちゃんと78本なのが好きです。

No.52[夜船]01月18日 00:0801月19日 02:22

第:そして落ちゆく

作・夜船 [良い質問]

No.53[夜船]01月18日 00:0901月28日 14:07

簡易解説

感覚の薄くなってしまっていても大切な人が返ってきたことに気付けるようにするため

本解説

あの日、いつもとは違う音が見慣れてしまったこの世界に鳴り響いた。
風を切るような音 
うねるような轟音
耳をつんざく炸裂音
そんな音はもはや日常だった。
いや、これに慣れてしまってはいけないと理解はしている。
理解しているからこそ慣れている自分が嫌だった。
そんな日々が繰り返されてきた。
しかしその日に響いた音は違った。
いつもよりも何段階も高い音
耳が切り裂かれるように感じる
慌てる間もなくその音は止まる
そうして視界は血の色に塗り替わった。



はっきりと自分の死を認識した。
そんな現実のような明白な夢。
その夢の記憶もおぼろげになってきたころ漸く自分が眠ってしまっていたことに気付く
「あらあら私ももう年かしらねぇ」
そんな風に嘯いて手元で開いたままになっている本をぱたんと閉じる。
閉じた本を自分の顔の近くに持ってくるとふわっと香の香りがする。
「おはようございます大奥様」
「おはよう。貴美さん。今日もあの人は帰ってこなかったわねぇ」
「仕方のないことですよ。旦那様も大変忙しいですから。」
「あの人が残してくれた風鈴が鳴るのはいつになるのかしら。」
「気長に待ちましょう。危険な仕事でもないのですから。」
そうやって家政婦さんとのんびり話して今日もまた一日を終える。



一度だけ冗談めかして真実を伝えようとしたことがあった。
それは私が彼女に風鈴を送った時のことだ。
ほんの少しの冗談で
「もう帰ってこないかもしれない...」と。
そういうと彼女は
「ん?なんだって?」
と聞き返してきた。年齢の影響もあるのかと思い繰り返そうとすると
少しも言わないうちにもう一度
「ん?なんだって?ごめんなさいね。年のせいか耳が悪くなってきていてねぇ」
と妙な気迫を込めて繰り返してきた。もう一度言っても同じ反応が返ってくるだけだろう。
私は思わず
「何でもないですよ...」と繰り返し、そう言えば!と話をそらすように
風鈴を取り出し彼女に渡した。
私からの手紙を受け取った彼女は大変うれしそうに
「これであの人がこっそり帰ってきてもちゃんと迎え入れることができるわね!」
と笑っていた。
私の心は罪悪感で満たされていた。



彼女が待つあの人はもう帰ってこない。
落下傘が開かず訓練のさなか死んでしまったと聞いた。
彼女自身もその連絡は聞いていたはずだったと思う。
しかし彼女はそれを受け入れなかった。
だから私はそれに従うことにした。
あくまで私は彼女の家政婦。彼女の生きる希望があるのならそれに越したことはない。
こんなことが続いて20年にもなる。
はたから見ればこんなのは狂気の様だろう。
しかしこれは私たちにとっては生命線なのだ。
20年前彼が死んでいなかったらどれほど幸せだっただろうか。
そんなことを考えながら私は今日も彼女に言うのだ

「明日は帰ってくるといいですね」

と。

真実を知りながらも受け入れることを拒む大奥様と、そんな大奥様の選択を受け入れることにした家政婦。二人が、互いに言葉なき承知の上で真実を知らない日常を演じている。なんというか上手く言葉で表現できない感情でいっぱいになりました。表面は優しくベールに包まれていながら、胸の奥に尖った木でカリリと小さく傷をつけられたみたいな、虚しさや切なさや儚さを含む生暖かさのような。幸せってなんでしょうね。

No.54[Hugo]01月18日 03:0401月19日 02:22

■■■■という概念についての考察

作・Hugo [良い質問]

No.55[Hugo]01月18日 03:0401月28日 14:07

■簡易解説
 楽しかった子供の頃を懐かしむため。
 夏になると日差す縁側に風鈴が吊るされる。まだ小さかったときは両手に重たい西瓜を抱えてそこまで歩いていき、包丁で西瓜を割ってもらって食べた。
 アパートの部屋に吊るした風鈴では鳴るわけがないが、どうしてもそのときの記憶が恋しくなったのだ。

■本文
 暖冬だという。二月だというのに降るのは雪ではなかった。
 開かなくなった傘はコンビニの傘立てに捨ててきた*。まあ、ひょっとしたら、誰かの役に立つかもしれない。雨は依然しとしとと降ってくるので、似合わない色のチェスターコートが水気をまとってしまう。
 歩みは重たい。日を増すごとに、自宅へ帰るのが怖くなっているのだ。古いアパートだというのに隣の部屋から音が聞こえたことはない。孤独が人を苛むのだろう。
「孤独ね」
 寒いが暖房をつけるとあちこちが結露して大変なのだ。大抵は毛布にくるまってやり過ごしている。身体を小刻みに振るわしながら、適当な冷凍食品をレンジに放り込んだ。
 テーブルの上はとっちらかったままだ。何があるのかろくに分かりゃしないが、とりあえず夕食をのせるだけの空間を確保したい。腕を使って適当に除けると、冷たい灰皿が肌に触れた。

 もとから寂しかった部屋、今では家具も私物も半分くらいになってしまった。緩やかな死を感じた。もうお金もないのだし、最後くらいパーッと散財しようかしら、と自棄になって街に飛び出すことにした。
 装いだけは綺麗に繕っていても、分かる人には分かるらしい。ネオンの光が私の本体を暴き出す。こっちに来ないか、と手招きをしてきた男がいた。
「あんた、いい気分になりたかないか?」
「ちょっとした金がありゃ、それで十分」
「これはな、■■■■って代物なのさ。ほんのり香る幸せな記憶って意味*。洒落てるだろ」
「あんたにも良い時代があったんじゃねえのか、あ?」
 憂鬱に酔い、もう殆んど何も聴こえていないくらいだったが*。躊躇う理性と裏腹に、手を伸ばしていた。悪魔との取引き、ジェットコースター落下直前の高まり。使いかけのライターならアパートにあったはずだ。

 水面の揺らぎが運ぶ光のように、それらはやってきた。チリンと涼しげな風鈴が、軒を支える柱からぶら下がっている。灰色がかった記憶はやがて色彩を帯びた。
『西瓜冷えとるで。持ってって食いな』
 穏やかな声が私を呼んでいる。とうの昔に死んだはずのばあが、ふくよかな笑顔で台所に立っていた。そうか、私は二十年前の、幸せなあの日にいるのだ*。
『ばあ、これ重たいよ』
『えらい実がつまってるのさ。きっと蜜も甘い』
 大きな西瓜を両腕に抱えて、よたよたと縁側へ向かう。花柄のワンピース越しに心地よい冷たさを感じた。遅れて、でかい包丁を持ったばあが隣に座る。
『ほら、いま割ったるからね』
 細い腕のどこにそんな力があるのか、西瓜はざくりと真っ二つになった。真っ赤に熟れた果肉の断面が涎を誘う。何等分かにして、ちょうど良いサイズになった西瓜を思い切り頬張った。
『おいひい!つめあい!!』
 口の周りを汚しながらむしゃぶりつく。子供の私の叫び声は、大人の私よりオクターブも高かった*。ばあは私を見て幸せそうに微笑んだ。美味しい西瓜を食べながら、私は夏休みの次の予定に思いを馳せる。夏祭り、浴衣、花火。近くの河原で水遊び。あの子とあの子も一緒に呼ぼう。
 夏の午後、爽やかな風が風鈴を小さく鳴らした。

「幸せを見つけた!」
「幸せを見つけた!」
「幸せを見つけた!」
 顔面を熱い涙が伝う。身体中の、命の全ての熱が目頭からこぼれ落ちる。どんなアルコールより私を酔わせる幸せの記憶。この香草の煙は、あの日々の太陽の匂いだ。
 突然、じりりりりり、と不快な音がした。幸福な光景は一切掻き消えて、現実に引き戻される。何事かと見回すと、しばらく使っていない携帯が鳴っていた。文句のひとつでも言ってやりたくなり、相手も確かめずに耳に当てた。
「なんですか、誰ですか」
「あ、久しぶり。元気?」
 元気?じゃないよ。相手は捲し立てるように続ける。
「最近さ、また寂しくなっちゃって。この前のことは謝るからさ、もう一回一緒に」
 私は壁に携帯を投げつけた。携帯は部屋のなかを跳ね回り、そして手の届かないところに落ちた。あの男、ふざけているのか。もう一度だけでも、許すはずがない*。
 誰もが願って当たり前の幸せを望んだだけ。私はそれに向かって歩いてきたはずだ。なのに、大切なものは手元に残らず、あの男は私の要らないものを押し付けて勝手にいなくなった。
 こんなはずじゃなかった。
 忘れてしまいたい。
 再び■■■■を燻そうと探したが、さっき使った分で全部のようだった。どうにかして帰らなければ、私の幸せな少女時代に。
 私はふと、棚にしまってある風鈴を思い出した。そうだ、あの頃の記憶が忘れられずに、窓のそばに毎年かざっていたっけ。震える四肢は寒さのせいだけじゃないだろう。それをなんとか抑えつつ慎重に風鈴を取り出した。
 薄いガラスに金魚の絵があしらわれた風鈴。電灯の金具に引っかけて吊るした。何かの期待を込めて風鈴を眺める。だが、何も起こらない。涙すらこぼれるあのときの記憶は、どこにも蘇ってこない。
 閉じた部屋のなか、冷やかな風鈴は決して鳴らない。現実にも、心のなかにも。
 そうだろう。
 幸せなど、端からないのだ。
 私は薄暗い台所に向かった。酒もタバコも我慢してきたが、こうなれば五十歩百歩だろう。あとは自分で決めるかどうかの違いだ。
 真冬。風鈴の吊るされた部屋で。
 私は、大きな、重たい西瓜を、真っ二つに割った。

ちゃんちゃん(終わり)
[編集済]

孤独を描いた重厚感のある解説。Hugoさんは描写力がすさまじいのでしょう。言葉の選び方や置き方のひとつひとつが色となり温度となり、その息遣いさえもが伝わってくるような文章です。特に「じりりりりり」と携帯電話が鳴って現実に引き戻されるあの瞬間が、一気に熱が引いてモノクロの静寂に支配されるような感覚になり、ぞくっとしました。また、ばあとのやりとりに、なんともたまらない気持ちにさせられました。

No.56[えいみん]01月18日 12:5401月19日 02:22

魔除けの風鈴(?)

作・えいみん [良い質問]

No.57[えいみん]01月18日 12:5501月28日 14:07

《簡易解説》
娘の出産が無事に終わるよう、厄除けの風鈴を吊るした。なお、諸事情により効果は無さげ。



《本解説》
ウミコ「あ、またお腹蹴られた!」
カメコ「元気な子ねえ。顔を見るのが楽しみだわ。」
カメオ「孫か...なんだかあっという間に歳をとってしまったな。」
カメコ「予定だと3月半ばだったっけ?」
ウミコ「うん。」
カメコ「本当に楽しみね。」
カメオ「楽しみだし、なんだか緊張するな...」
ウミコ「お父さんは相変わらず気が小さいね笑」
カメコ「カメコの受験の合格発表でも1番ソワソワしてたわよねえ〜」
カメオ「な、なんだよ、別に心配してもいいだろ。」
ウミコ「心配しすぎて顔が真っ青だったよ笑」
カメコ「正直情けないわ。」
カメオ「.........」
カメコ「お父さんは昔からずっとこうなのよ。」
ウミコ「なんとなく想像できる〜」
カメオ「少しは俺の顔を立ててくれよ...」
ウミコ「私が産まれたときはどんな感じだったの?やっぱりお父さんは心配してた?」
カメコ「実は、お父さんも私も心配事が尽きなかったのよ。」
ウミコ「え?そうなの?」
カメコ「うん。まあ、初めての経験だからいろいろ心配してたの。」
カメオ「そうだな。それにウミコは逆子だったんだよ。」
ウミコ「へ〜」
カメコ「あの時は不安で仕方がなかったわ。散歩したり、美味しいもの食べたりして気を紛らわしてたんだけど、どうしても気になっちゃって。」
カメオ「俺も同じだったよ。なかなか仕事が手につかなかったな。」
カメコ「でも、最終的に逆子は直って無事に産まれてきたよ。」
ウミコ「そっかー、いろいろあったんだ。」
カメオ「俺は今でも、逆子が直ったのはあの風鈴のおかげだと思ってるよ。」
カメコ「そうかしら?私はたまたまだと思うけど。」
ウミコ「風鈴ってお母さんが飾ってたあれ?」
カメオ「それそれ。」
ウミコ「あれってお母さんのじゃないの?」
カメコ「違うわよ、お父さんが飾っとけって言うから飾ったのよ。あなたがお義父さんからもらったんだっけ?」
カメオ「そうだな。」
カメコ「確か、お義父さんの家にずっと吊るされてたわね。何でだったっけ?」
カメオ「忘れたのか?お前には一度話したじゃないか。」
ウミコ「何それ聞きたい!」
カメオ「よし、ウミコがそう言うなら聞かせてやろう。」
カメコ「ちょうどいいわ、私にも聞かせて。」
カメオ「この風鈴は俺の父さんからもらったものなんだけどな......

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

幼少期、カメオは病弱な子どもであった。
赤ん坊の頃から体が弱く、無理をするとすぐに体調を崩してしまう。
カメオの両親であるラテオとラテコはカメオにつきっきりで世話をしていた。
我が子の可愛さ半分、心配半分である。
苦労は絶えなかったが、3人は幸せに暮らしていた。

ラテオ「カメオはまた風邪を引いたのか?」
ラテコ「うん、そうみたい。今のところいつも通りの症状だから安心して。」
ラテオ「そうか...それでも毎度心配になるな。」
ラテコ「あなたは気が小さいもんね。」
ラテオ「そんなことはないぞ!」
ラテコ「嘘よ、カメオが産まれる前だってずっと緊張してたじゃない。」
ラテオ「そ、そうか?」
ラテコ「そうよ。私に変に気をつかっちゃって。」
ラテオ「そ、それはお前が心配だったからじゃないか。」
ラテコ「なぜか他人行儀で出会ったばかりの頃みたいだったわ。20年前に戻った気分になっちゃった。」③
ラテオ「そうか、もうお前と出会ってからそんなになるのか...時が経つのは早いもんだな。」
ラテコ「ええ、そうね。気がついたらカメオの方が大きくなってたりして。」
ラテオ「だといいなあ。俺は今でもあと5センチ身長が欲しいと思ってるんだ。」
ラテコ「そういえば、昔から身長気にしてたわね...」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ウミコ「お父さんとおじいちゃんってなんだか似てるね。」
カメオ「まあ親子だからな。正直似たくはなかったが...」
カメコ「あなたは結局、お義父さんより大きくなれなかったのね。身長、私と同じくらいなんじゃない?」
カメオ「............話、続けるぞ。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その日は大雨だった。
毎年傘開く名物の花火も、この雨で延期になってしまった。⑤
以前から花火大会を楽しみにしていたカメオだったが、数週間経っても体調が戻らなかった。

ラテオ「ひどい雨だな。花火大会は延期になったらしい。」
ラテコ「そう、でもよかったわ!延期ならカメオと一緒に行けるかもしれないし。」
ラテオ「......カメオはどうだ?」
ラテコ「あれからずっとしんどそうにしてる。お医者さんにも診てもらったんだけど、なかなかよくならないの。大丈夫かしら...」
ラテオ「しばらく様子見するしかないな。俺たちにできることはそれくらいだ。」
ラテコ「そうね...」

ラテオはカメオの元へと戻っていくラテコをぼんやりと見つめていた。
カメオは大丈夫だと自分に言い聞かせるが、どうしても安心できない。
カメオが元気になったら、新しいおもちゃでも用意してやろう、そんなことを考えていた時だった。

ラテコ「カメオ?!カメオ!!」

ラテコの甲高い声が聞こえてきた。
ラテオが慌てて駆けつけると、そこにはカメオを抱きかかえながら泣き叫ぶラテコの姿があった。
普段より1オクターブは高い声で絶叫していた。①
体から血がひいていき、ラテコの声がだんだん聞こえなくなっていくのを感じる。
ラテオは正気を保つので精一杯だった。

ラテオ「急いでください!お願いします!!」
ラテコ「ラテオ、救急車は?!」
ラテオ「今呼んだ!ラテコはカメオを頼む!」
ラテコ「う、うん!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ウミコ「お父さんピンチじゃん!」
カメオ「俺は何にも覚えてないけど、父さんも母さんもめちゃくちゃ焦ったらしい。」
カメコ「そりゃそうよ。」
カメオ「人生で1番パニックになった瞬間らしい。視界が暗くなるわ、耳が遠くなるわで大変だったんだとさ。」⑥
カメコ「想像するだけで恐ろしいわ。」
ウミコ「それで、お父さんは大丈夫だったの?」
カメオ「...あのな、大丈夫じゃなかったらウミコは産まれてないだろ?」
ウミコ「あ、そうか。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

カメオは病院に搬送され、入院することになった。
病院で治療を受けた後も、カメオの容態は安定しなかった。
ラテオとラテコは一日中、交代でカメオの看病をしていた。

ラテコ「ラテオ、もう丸一日つきっきりでしょ?替わるわ。」
ラテオ「そうか...ありがとう。」
ラテコ「今日は花火大会ね。」
ラテオ「そうだな...カメオと一緒に見に行けなくて残念だよ。」
ラテコ「来年は3人で行こうね。」
ラテオ「ああ。」
ラテコ「あなただけでも行ってきたら?昔から毎年通ってるんでしょ。」
ラテオ「うん...でもカメオのことを考えると、あんまり行く気になれないな。」
ラテコ「あなたがそんな顔してたらカメオが心配するわよ!気分転換にいってらっしゃい!カメオの看病は私に任せて。」
ラテオ「...ありがとう。ちょっと夜風にあたってくるよ。」

ラテオは自分の心を落ち着けるようにして、ひとり夜道を歩いた。
花火大会の会場には、様々な屋台が並んでいた。
カメオのことを忘れて、花火を楽しむ気には到底なれない。
ラテオはカメオのために、何かお土産を買って帰ることにした。

ラテオ「カメオが喜びそうなものは...食べ物は冷めちゃうし、食べられるかどうか分からないよな...お面でも買って帰るか...?」

ラテオはしばらくの間、火薬がほんのり香る会場を歩き回った。④
いろんな屋台を見て回り、ラテオが目をつけたのは風鈴だった。
かつて、強い風は流行病や悪い神を運んでくると考えられており、風鈴は邪気除けの意味で飾られていた。
風鈴の音が聞こえる範囲では、災いが起こらないという。
おもちゃとしても使えるし、今のカメオにぴったりのお土産だとラテオは思った。

ラテオ「すみません、この青い風鈴をください。」
店員「はいよ、1000円ね。」

ラテオは風鈴を手土産にして、カメオのいる病院へと戻った。

ラテオ「ただいま。」
ラテコ「おかえり、どうだった?」
ラテオ「正直花火は楽しめなかったよ。でも、カメオにお土産を買ってきたんだ、ほら。」
ラテコ「へえ、風鈴なんて売ってるんだ。」
ラテオ「風鈴には厄除けの効果があるらしいから、これできっとカメオも元気になるよ。」
ラテコ「ありがとう。じゃあさっそく飾りましょう。」

こうしてカメオの病室に青い風鈴が飾られた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ウミコ「風鈴って昔はそんな風に使われてたんだ〜」
カメオ「平安時代とかには、魔除けにも使われていたらしい。」
カメコ「平安時代ってなんだっけ?」
ウミコ「ええー!お母さんそんなことも知らないの?昔勉強したでしょ!」
カメコ「ウミコにとっては10年前のことだけど、私にとっては30年以上前のことなのよ。綺麗さっぱり忘れたわ。」
カメオ「そういうレベルの話かこれ......?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

不思議なことに、その風鈴を飾ってからというもの、カメオの体調は快方へと向かっていった。

ラテオ「よかった...カメオはもう大丈夫そうだな。」
ラテコ「そうね、本当によかったわ!それにしても不思議ね...この風鈴のおかげなのかしら?」
ラテオ「そうかもな。お医者さんも驚いてたよ、奇跡的な回復ぶりだったらしい。」
ラテコ「退院も決まったし、ようやく3人で家に帰れるわね。」

ラテオは家に帰った後も、もう一度たりともカメオの病気は許さないとばかりに、家の軒下にその風鈴を飾り続けた。②
カメオも風鈴を気に入ったらしく、風の吹く日には、風鈴が揺れて鳴るのを眺めていた。
これまた不思議なことに、カメオは成長するにつれて、どんどん健康になっていった。

ラテオ「カメオは元気な子に育ってきたな!昔とは大違いだ。」
ラテコ「本当ね。やっぱりこの風鈴のおかげなのかしら?」
ラテオ「俺は絶対にそうだと思うぞ!カメオがもっと大きくなったら、この風鈴を譲ってやるんだ。『大変なことが起こったらこの風鈴を吊るせ』とな。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

カメコ「これでひとつ謎が解決したわ。」
カメオ「どうした?」
カメコ「お義父さん、たまにご近所さんから『風鈴おじさん』って呼ばれてたじゃない?その理由よ。」
カメオ「ああ、それね。夏だけならまだしも、年がら年中風鈴を吊るしてるんだから無理もない話だな。」
ウミコ「お父さんはこの風鈴に命を救われたのかもね。命の恩人だ!」
カメオ「人ではないけどな...で、この話には続きがあるんだけど、もうだいたい想像がつくな。」
ウミコ「この風鈴を吊るしたら私の逆子が直ったんでしょ?」
カメオ「そうなんだよ。だから俺はこの風鈴の効果は本物だって信じてるんだ。」
カメコ「その話を聞くと、確かに効果ありそうに見えてきたわ。」
ウミコ「お母さんは単純ね笑」
カメオ「頼むから変な石とか高値で買わされたりしないでくれよ...」
ウミコ「さすがにそれはないわよ!」
ウミコ「.........ところでさ、1つ気になることがあるんだけど。」
カメオ「どうした?」
ウミコ「どうして部屋の中に吊るしてあるの?」
カメオ「そりゃもちろん、ウミコの出産が無事に終わるようにと...」
ウミコ「そうじゃなくて、なんで風のある外に吊るさないのかってこと!」
カメオ「...ああ、そういうことか。...実はな、このマンションではないんだが、昔住んでいたマンションでも、この風鈴を吊るしてたんだ。ウミコはまだ小さかったから覚えてないだろうな。」
ウミコ「何か悪いことでもあったの?」
カメオ「いや、単に夏だったから吊るしてみただけなんだが...隣に住んでた人からクレームが来た。」
ウミコ「(´・ω・`)」
カメコ「厄除けの風鈴で災厄を呼び寄せてどうするんだか...」
カメオ「まあそんなわけで、念のため外には吊るさないようにしてるんだよ。ご近所付き合いってやつだ。」
カメコ「風鈴1つでもクレームが来たりするのよね。」
カメオ「東京都環境局HPの生活騒音の対象には『風鈴』も含まれているらしいぞ。今検索した。」
カメコ「へえ...最近はいろいろ大変ね。」
ウミコ「理由は分かったんだけどさ、この風鈴意味あるの?だって全く揺れないし、音も鳴らないじゃん。」
カメオ「...え?ほ、ほら、カメコは出産が近づいてるけど元気だろ?この風鈴のおかげなんじゃないか?」
カメコ「ウミコは風鈴を飾る前からずっと元気よ。」
カメオ「まあ、それはそれでよかったじゃないか!元気で何よりだ!お父さんは嬉しいぞ!」
ウミコ「やっぱりこの風鈴意味なさそうだね。」
カメコ「いらないわね。」
カメオ「............」
カメコ「でも、綺麗だし飾っておきましょ。」
ウミコ「そうしよう〜」


3月末に、ウミコは元気な男の子を出産した。
ウミコがこの風鈴について息子に語ってあげるのは、また別のお話である。


【完】(約5000字)
[編集済]

出産を控えた娘を見守る家族の会話から展開されていく、一家にまつわる風鈴のエピソード。全体的に台詞が多めですが、うまくその場の空気を表しており自然と物語に溶け込めます。心配性の父を育て上げたその父親も心配性で、風鈴の効果を信じ大切な我が子のためにと吊るすその姿が重なり、読んでいて温かな気持ちになりました。風鈴を外に吊るせない理由(=近所のクレーム)が現実的!(笑)飾らない日常風景が素敵な作品です。

No.58[M]01月18日 15:5001月19日 02:22

プロフェッショナル ~私の流儀~

作・M [良い質問]

No.59[M]01月18日 15:5101月28日 14:07

簡易解説:自作した風鈴の音を確かめるため。

私が風鈴職人を志した理由────それは20年前に遡る③。
私が小学生だった夏、雨の降っていた下校中に傘が開かなくて⑤困っていると、心配したお婆ちゃんが迎えに来てくれた。
「この傘使って。お母さんね、仕事で遅くなるって。」
「うん。」
この頃お母さんは忙しく、いつも帰るとお婆ちゃんの家に行っていた。
畳の匂いがほんのり香る④お婆ちゃんの家に吊るしてあったのが私の風鈴との出会いだった。
「お婆ちゃん、これ何?」
「あぁ、これは風鈴って言ってねぇ、鳴らして涼しく感じるために吊るしてるんだよ。
もうすっかり耳が遠く⑥なっちゃったけど、この音を聞くと落ち着くんだよ。ほれ。」
そう言ってお婆ちゃんが鳴らした風鈴の音に魅せられ、風鈴が好きになった。

この間は音が通常より1オクターブも高い①風鈴を作ってしまった…もうそのようなミスは許されない②。より心地よい音を目指し、今日も風鈴を作ってはその音を確かめる。
  終
───────
製作・著作
  Ⓜ
[編集済]

要素を流れに沿って回収し纏めあげた、非常にシンプルな作品となっています。そんな中で、おばあちゃんの家からほんのり香る畳の匂いというのが何とも良いですね。耳が遠くなったにもかかわず、風鈴の音を気に入って吊るしており、かわいい孫に聴かせる。今回要素を選ぶ際に「五感に訴えかける要素って面白いな」と思い『ほんのり香る』『耳が遠い』を選んだのですが、その面白さを強く実感したのがこの作品だったかもしれません。

No.60[みづ]01月19日 00:3801月19日 02:22

春夏秋冬~これは二月の物語~

作・みづ [良い質問]

No.61[みづ]01月19日 00:3901月28日 18:43

【簡易解説】
今はマンションに囲まれ、まったく風の通らない場所となってしまった駄菓子屋。
それでも主人は、開店中の証である風鈴を日々吊るし続けている。



私は小さな駄菓子屋を営んでいる。
今日は生憎の雨模様だ。
二月ということもあり、下手をすれば雪になりそうなくらい寒い。
客足も大してあるまい、と思ったが。

「…傘が開かなくなったの⑤」

「あれま。そりゃ災難だったねぇ」

よっこらしょと腰を上げ、私は箪笥から出したタオルを手渡す。
目を潤ませていた少女が、にっこり笑った。

「お家の人に電話するかい?」

「うん」

黒電話を差し出そうとすると、少女はランドセルから携帯電話を取り出し、慣れた手付きで操作し始めた。

「傘が壊れちゃって…うん、今駄菓子屋さんにいる。うん、そう。風鈴の…わかる?」

通話を終えた少女の表情は明るかった。

「ママが迎えに来てくれるって」

「ほっほ、よかったねぇ。それまでゆっくりしておいき」

「ありがとう」

こんなふうに、雨宿りがてらでも立ち寄ってくれる子がいる。
色とりどりの菓子や玩具に目を輝かせている姿を見ることは、私の生きがいだ。

春には、ぴかぴかのランドセルを背負った子。

夏には、仲良しの皆と遊び回り日に焼けた子。

秋には、柿の木にこっそり登っては渋柿に顔をしかめて吐き出す子。

冬には、白い息を吐きながらせっせと大きな雪だるまを作る子。

ずーっと、私は子どもたちの姿を見るのが楽しくて楽しくて。


ほんのり甘い香りのする④ガムを紅葉のような手が包み込む。

ひいふうみ。
ぽたぽたぽた。

ガムの数を数えながら、雨の音を聴きながら…私は二十年前に思いを馳せた③。


ちりんちりん

二月だというのに、風鈴の音が鳴り響く。
今日は北風が強い。

―――あのね、万引きは犯罪なんだよ

―――ま、万引きなんてやってない!

ただでさえ高い子どもの声が、さらに一オクターブほど高くなる①。

私はふうとため息を吐き、言葉を続けた。

―――『もう一度だけ許す』ということは出来ないんだよ②

快活そうな男の子は、はっと目を見開き、俯く。

二度目であることを見抜かれていたと察した彼は、ぽたぽたぽたと大粒の涙を流した。

一度目だって、本当なら見逃してはいけなかった。
親や警察に連絡しなければならなかったのだろう。

二十年経った今でも鮮明に思い出せるのは、それをしなかったことを私が後悔しているからなのか。


「……の?」

「んん?」

そういえば会計の最中だった。

「もう!おばあちゃん耳が遠いんだから⑥」

「ほっほ、ごめんよ。んで、なんて言ったか?」

「こんな真冬に、どうして外に風鈴を吊るしてるの?って」

赤らんだほっぺを膨らませて、その子が尋ねる。

「あぁ、あれな。季節は関係ないんだよ」

「風鈴は夏に吊るすものじゃないの?」

「本来はそうだけどね。ウチでは、お店が開いてますよってしるしなんだよ。ずうっと昔から」

「ずーっと昔から…。じゃあ、風鈴はこの店のトレードマークなのね!」

「んん?とれーどまーく?」


悲しいことも楽しいことも。
まぁ色々あるでしょう。

春夏秋冬、日々私は色とりどりの風鈴を吊るす。

今はもう、背の高いマンションに囲まれ、風が通ることもなくなったけれど。

【おわり】

淡い色を乗せて静かに穏やかに語られる、小さな駄菓子屋の風景。特別ドラマチックでもない悲壮的でもない切り取られた記憶の断片が、なんとも味わい深く広がっていきます。特に『もう一度だけ許すということはできない』の要素の差し込み方がとても良いですね。その言葉で、過去に一度見逃されていた(気づかれていた)という事実を知る。この要素に苦しめられたシェフが多かったようですが、個人的にすごく好きな調理法でした。

1

No.62[ハシバミ]01月20日 17:3701月22日 21:05

「風吹かば」

作・ハシバミ [良い質問]

No.63[ハシバミ]01月20日 17:3701月29日 21:05

【簡易解説】

願いが叶う風鈴に桶職人である元恋人の不幸を願った結果、風桶効果によって世界から風が消えてしまった。
風のない世界で、それでも願いを取り消すことに一縷の望みをかけて女は再び風鈴を吊るした。

ーーーーーー

 取り返しのつかないことをしてしまった。それに気が付いたのは、二月四日の昼であった。

 二月三日。近所の神社では節分会が行われる。芸能人が来るわけではないが、市長が来てそれなりの盛り上がりを見せる。とはいえ訪れる人々の目当ては、豆撒きよりも境内や参道の屋台である。
 久方ぶりに行ってみることにした。今年の節分は日曜日。急に予定がなくなって、暇を持て余していたのだ。
 神社に近づくにつれて賑やかな声が聞こえるようになる。最後に来たのは、小学生のころだったか。節分ではなく、夏祭りだったけれど。
 自宅の前の道を行くと、参道の途中に出る。右と左。どちらにも屋台が並んでいるが、さて。少し見回して、比較的人の少ない右を選んだ。
 焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ。ヨーヨー、くじ、型抜き。通りに並ぶ屋台、張り上げて呼び込む声、楽しそうに歩く人。浴衣を着ている人がいないくらいで、記憶にある夏祭りとそう変わらない風景だ。
 まずは小腹を満たそうか。食べたいものを探して視線を左右に動かしていると、何かが目に止まった。何か、違和感。
 ――リィン
 音が聞こえる。声が聞こえない。高く澄んだ音が耳に届いた途端、雑踏が遠ざかる。あれだけ賑やかだった話し声も足音も焼く音も、すべてが遠くなる。
 ――リィン
 届くのは音。そして、匂い。ふわりと、かすかに香る――「仏壇の匂い」。(④)
 ああ、見えた。違和感の正体は、風鈴屋だ。
 私が最後に来た夏祭り。最後に訪れた屋台。最後に買ったもの。


 話は二十年前に遡る。(③)


 小学五年生だった私は、一人で夏祭りに向かっていた。母親が一緒に行こうというから友達の誘いも断っていたのに、急にパートが入ってしまったのだ。風邪で倒れてしまった人の代理という事情は理解できるが、感情が許せるかどうかは別問題だ。
 急なことで食事も用意できないからお祭りで食べてきなと渡された千円札を握りしめて、私は大きな足音を立てて歩いた。着せてもらうつもりだった浴衣もおじゃんになったのだ。
 友達と鉢合わせたら、恥ずかしい。お母さんと一緒に行くんだとあれだけ言っていたのだ。今更一緒に回らせてとも言えない。さっさと買って帰ろう。
 食事だけならコンビニにでも行けばいいのだが、やはり折角だから祭りに行きたかった。焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ。食べ物だけだとお金も余る。ヨーヨー、くじ、型抜き。いない母親には使いみちを咎められることもない。
 苛立ちは消えないけれど近づくに連れて期待も増す。参道について、まずは比較的人の少ない右に進むことにした。
 同じ食べ物でも屋台によって味のバリエーションや値段が違う。右に左に、真剣に吟味しながら歩いた。
 ――リィン
 ふいに高く澄んだ音が耳に届いた。なんだろう。見渡せば、少し先に見慣れぬ屋台があった。
 ――リィン
 風に揺れるガラス――風鈴だ。混み合う通りでも、その周囲だけは不思議と空いていた。物珍しいと見ていく人が居てもいいものを、避けるでもなく、まるでそこには何もないかのように通り過ぎていく。
 屋台の前で立ち止まると、おじさんがニッと笑って話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、風鈴に興味があるのかい?」
 特段興味があったわけではないけれど、そのとき心惹かれていたのは事実だ。あいまいにうなずいた私に、おじさんは少し声をひそませて続けた。
「この風鈴はね、普通の風鈴じゃあないんだよ」
 秘密事を語るような口調に、引き込まれないはずがなかった。
「これはね、願いが叶う風鈴なんだ」
「願いが叶う?」
「そう。この風鈴が鳴ったときにお願い事をするとね、そのお願いが叶うんだ。どんな突拍子もない願いでもね」
「どんな……テストの点数でも?」
「もちろん。テストの点数でも、恋愛でも、運動でも、何でもだよ」
 願いが叶う。それは突拍子もなくて、ひどく魅力的だった。それでなくとも、風鈴はきれいだった。
 屋台の後ろに並んだたくさんの風鈴。ガラスに描かれた柄は様々で、私が特に惹かれたのは桜とウサギの描かれた物だった。
 私の視線に気が付いたおじさんがその風鈴を取って私の前に示した。そのとき、ふわりと香った。
「……仏壇の匂い?」
 両親の寝室の片隅にある仏壇。私が立ち入るのは、私の生まれる前に亡くなった母方の祖父母の命日くらいだ。ただ、母親は毎日線香を上げているようで、部屋の前を通るとよくその匂いがした。
「仏壇? ああ、この匂いか。気になるなら、そうだね、短冊に付いた匂いだろうから、取り替えてしまえば気にならないと思うけど」
「ううん。この匂いがいい」
 私はこの匂いが好きだった。仏壇の前に座るとき、私は会ったことのない祖父母よりもこの匂いに夢中になる。嗅いでいると、なんだか落ち着くのだ。
「そうか。じゃあこの風鈴、いかがかな?」
「あ、でも、お金……」
 すっかり忘れていたけれど、私は千円しか持っていない。値段は書かれていないようだけれど、このお金で風鈴が買えるのか。ましてや願いの叶う、なんて代物だ。
「この風鈴は、そうだね、千円。千円でいいよ」
 私が裸で握りしめたままの千円札におじさんは気付いていたのだろう。でも、このお金は。
「でも、ご飯……」
「ん、ああ……そうだねぇ……うん、じゃあ五百円ならどうかな」
「え、いいの?」
「もちろん。この風鈴も、お嬢ちゃんの願いを叶えたがっているからね」
 それがおじさんの優しさだったのか、実際には五百円の価値もないものだったのかはわからない。ただそれは、そのときの私にはとても魅力的な話だった。そのまま千円札を差し出すくらいに。
 おじさんは風鈴を箱に仕舞いながら言った。
「風鈴に願うのはね、自然に鳴ったときじゃないといけないよ。自分で揺らすのはもちろん、扇風機の風でもいけない。必ず、自然の風で鳴ったときだ。でないと願いは叶わないからね」
「わかった、ありがとう」
 おじさんから風鈴を受け取った私は、なんだかとても胸躍る気持ちだった。そうまで叶えたい願いがあった、というより、秘密を持ったことが嬉しかった。
 内緒にしないといけない、とは言われなかった。けれど願いの叶う風鈴だ。無闇に人に話しては、人に知られてはいけない――そんなふうに思うのも道理だろう。

 焼きそばとチョコバナナを買って家に帰った私は、とにもかくにも風鈴を吊るしたかった。けれど焼きそばはまだしもチョコバナナが邪魔だ。急いでチョコバナナを食べて、焼きそばはリビングのテーブルに置いたまま部屋に入る。
 レースのカーテンと普通のカーテンの間。端っこなら、普通にカーテンを開けても隠れる。ここがいい。早速ベッドに乗って風鈴を吊し、窓を開ける。今だけカーテンも大きく開ければ、風鈴も充分揺れるはずだ。
 何を願おう。テスト、恋愛、運動。まずは。どのくらいそうしていたか、やっと願いを決めたころ。
 ――リィン
 やっと、風が吹いた。ベッドの上で正座をし、目を閉じて指を組む。
(明日の音楽のテストでうまく歌えますように)
 声には出さず、心の中で願う。
 音楽のテストは、みんなの前で一人ずつ歌わなければならない。歌はあまり得意ではないし、今回の曲は私には音が高くてうまく歌えないのだ。
 だから恥をかかないようにうまく歌いたい。それに明日には結果がわかるから、最初の願い事としてはぴったりだ。
 お願いを終えて、目を開ける。叶うかな。叶うといいな。
 玄関で鍵の開く音がする。母親が帰ってきたんだ。慌ててカーテンを閉める。パート先からまっすぐに帰ってきたなら、私の部屋の窓は見えていないはずだ。
「ちょっと、この焼きそばなぁに? 晩ごはん食べてないの?」
 リビングから母親の声がする。……忘れてた!
「今から食べるの!」
 慌ててベッドから飛び降りる。ああ、今回だけは音楽のテストが楽しみだ。

 果たして翌日、私は大いに喜んだ。願いが叶ったのだ。高音の部分も綺麗に歌えた。試してみれば、普段より一オクターブ高い声まで出すことができた。(①)
 やはりあの風鈴は本物だったんだ。本当に願いを叶えてくれるんだ。
 嬉しくなった私は、それから毎日のように家に帰ると窓を開けた部屋に篭るようになった。風鈴が鳴れば願い事をする。
 願い事は一日一回。
 これもおじさんに言われたことではないけれど、なんとなくの決まり事だ。その方がありがたみもある。
 お気に入りの傘が壊れれば、風鈴に願った。折れた骨が引っかかって開かなくなっていたのが、翌日には元通りに直っていた。(⑤)
 苦手な算数のテストの前の日にも、風鈴に願った。問題を見た途端に公式が頭に浮かんで、するすると解くことができた。
 友達と喧嘩をしたときももちろん、風鈴に願った。翌朝顔を合わせたときに素直に謝罪の言葉が出て、すぐに仲直りした。
 すごい、すごい。なんでも叶うんだ。
 そうして願い事を続けて、ひと月。いや、二週間くらいだったか。夏休みに入ってしばらくしてからも、私は部屋に篭る生活を続けていた。
 願い事、というのは動機の一つであったけれど、そのときばかりはゲームの方が大きな理由であった。その年のお年玉で買ったゲームを、ようやく心置きなくできるのだ。
 むろん実際はそんなことはなく、良いところで母親に怒られる日々だった。音が漏れてしまうから宿題をしている、なんて言い訳は効かない。
 ――リィン
 その日も部屋の外から母親に声をかけられ、仕方なしに宿題のドリルを開いたときだった。
 風鈴。そうだ、これを願えばいい。
 ベッドに飛び乗り目を閉じる。
(ゲームをしてもお母さんに怒られずにすみますように)
 これで明日から心穏やかな日々を送れる。
 そう、思った。

 確かにそのあと、部屋に篭ってゲームをしていることを咎められなくなった。理由は簡単で、母親がそれに気付かなくなったからだ。
 願い事をした翌朝。目覚めると、部屋までニュースの音が届いていた。リビングから部屋まで、普段ならこんなはっきりと聞こえることはない。
 リビングへ行けば、母親はいつも通りキッチンで朝食を作っていた。目玉焼きとサラダ。特に大きな音を出しているわけではない。
 テレビのボリュームを下げれば、普段よりも十は大きくなっていた。
「あら、音下げちゃうの」
「だってうるさいんだもん。いつも上げるなって怒るのお母さんでしょ」
「そんなに大きかった? なんか聞こえなくって」
「大きかった」
 初めはそんなやりとりだったけれど、違和感はその後も続いた。呼びかける声が届かない。私がゲームをしている部屋の前を通っても何も言われない。それは願い事の通りだけれど。
 数日後、母親は病院に行った。耳は遠くなっていて、だけど何の異常もない。(⑥)
 ただの老化だろう、それにしては急激だけれど。そんな結論だった。
 それを聞いて、私は確信した。風鈴だ。風鈴が願いを叶えてくれたんだ。
 部屋に戻り、カーテンを開ける。くぐもった音を鳴らしながら風鈴が姿を見せる。
 願いを叶えてくれた。けれど。
 これは私の望んだことだろうか。望みは叶った。怒られなくなった。でも、代償が重すぎる。
 途端に怖くなって、風鈴をしまうことにした。買ったときの箱に入れて、工作類の詰まった段ボールごと押し入れの奥に押し込む。
 もう一度願えば良かったのかもしれない。でも、代わりに何が起こるのか。それを考えたら、とてももう一度願おうなどとは思えなかった。


 思い出した。そうだ、風鈴だ。
 意識がぱっと二十年後に戻る。
 私は踵を返して、家へと急いだ。押入れの奥の段ボール。何度か見た記憶がある。けれど中身は整理していない。まだあるはずだ。
 玄関を開け、リビングを抜けて部屋へと入る。リビングのソファに座っている母親は、私の帰宅にも気付かない。
 押入れ、下段、奥。これだ。小学生のときの図工や自由研究の作品、賞状。そして、見付けた。
 掌に乗る薄緑の箱。こんなに小さかったか。開ければ、思い出したばかりの桜とウサギ。そしてなにより、仏壇の匂い。
 今は。これなら、風鈴に願ってもいいはずだ。全て、風鈴のせいなのだから。
 そう、そもそも今日神社に行ったのも、この風鈴の。あの願いのせいだ。
 あれから母親はパートもできなくなった。もともと仕事に明け暮れて家庭を顧みない父親は、ますます家に寄り付かなくなる。
 外出することが極端に減った母親の代わりに買い物をしたり、たまの外出に付き合ったり。
 母親の世話は、私がするしかなかった。
 不思議な話だ。たった今思い出した。風鈴も、願いも、今の今まで忘れていたのに。罪悪感だけは、ずっと忘れなかった。
 今日は本当は、デートをしているはずだったのだ。友人の友人。付き合って三年。結婚だって視野に入れて、同棲する部屋も探していた。私は実家からあまり離れることはできないけれど、それを受け入れてくれた。受け入れてくれていた。
 それが急に、彼が家業を継ぐと言い出したのだ。彼は次男だし、本人にもやる気はなかった。はずなのに。
 だから結婚相手は実家に来てくれないと困る。彼の実家は、京都だ。関東ならまだ考えられたのに。
 それだけなら、まだ良かった。悔しいけれど、悲しいけれど、まだ許せた。
 彼を紹介してくれた友人が、彼に恋人がいると言い出したのは別れを告げられた三日後だった。
 もう半同棲をしていて、彼の実家にも行くつもりだ。それどころか彼も新しい恋人も、もう仕事を辞めているらしい。付き合っているのは半年前くらいからで、だから友人はもう私たちは別れていると思っていた。なんて。
 それが、一週間前。
 母親のことがなければ彼についていくのは私だったはずだ。いや、そんな男についていかなくて正解だったかもしれない。
 だとしても、彼の不幸を願うくらい、許されるはずだ。一回、くらい。
 風鈴を吊して、窓を開ける。待つこと数分。
 ――リィン
 二十年ぶりの音に、私は願った。彼と、新しい恋人の不幸を。

 願い事を終えて、再び風鈴をしまう。一回だけ。この一回だけ、特別だから。
 どんな不幸が起こるのか。私はそれを知ることができるのだろうか。
 少しの不安と期待と、なにより清々した気持ちで、翌日は仕事を向かった。
 いつも通りに仕事をして、昼休み。隣の席の同僚がスマホを片手に話しかけてきた。
「ねぇ、なんかやばいっぽいよ」
「やばいって、なにが?」
「世界」
「なにそれ」
 いつも言葉の選び方が適当な同僚だ、またなにか下らないことだろう。そう思いながら受け取ったスマホの画面は、予想に反して真面目なニュースサイトであった。
「風が吹かない……?」
 それは、昨夜から世界中で風が吹かなくなったというニュースであった。いつも風がうるさいビル街でも、砂が流れる砂漠でも、白く波立つ海でも。
 パタリと、風が止んだ。
「ね、やばいでしょ?」
 世界中の学者が、どういうことかと首を傾げている。今後どのような影響が出るのか、考えるだに恐ろしい。そんな真面目なニュースが、けれどユーモアの混じった文章で締められていた。
「ねぇ、聞いてる?」
 同僚の言葉なんて耳に入らない。最後の一文に、私の意識は釘付けだった。
『だが一番困るのは、桶屋かもしれない。風が吹けば桶屋が儲かる――であれば、風が吹かなければ桶屋は商売上がったりであろう。』
 私の彼、元彼の家業は、桶職人だ。

 仕事に身が入らず、定時になると同時に会社を飛び出した。どうしよう、どうしよう。やはり願ってはいけなかったんだ。
 彼の不幸を願った。廃業になることくらいは願った。この先もずっと不幸であってほしいと、願った。
 でもそれが、ここまで大事になるなんて、思わない。
 どうしよう、どうしよう。こんな願い、取り消すことができるとすれば、やっぱりあの風鈴くらいしかない。
 でも。
 家に帰り、昨夜しまったばかりの風鈴を引っ張り出す。仏壇の匂い。くぐもった音。カーテンレールに吊るして、窓をあける。けれど。
 ――風鈴に願うのはね、自然に鳴ったときじゃないといけないよ。
 風鈴は鳴らない。
 もう一度願うことは、許されない。(②)

【終】
[編集済]

これはすごい……!最後の一行、要素②の回収に鳥肌が立ちました。簡易解説を読んだ時点ですごく面白い解釈だなと惹かれたのですが、本解説を読めば読むほどその世界に引き込まれていき、展開に胸が高鳴りました。風に鳴る風鈴に願ったことで世界から風が消え、そのせいでもう二度と願うことは叶わなくなった、という繋がりがすごい…!創りだす作品としてだけではなく、通常のウミガメとしても優れた作品だと思いました。 [正解][良い質問]

1

No.64[とろたく(記憶喪失)]01月22日 16:4901月22日 21:20

2月であることは重要ですか?

作・とろたく(記憶喪失) [良い質問]

No.65[とろたく(記憶喪失)]01月22日 16:4901月28日 14:39

―――――――――――――――――――――――――


 その老人は、毎年必ず絵本を買う。


―――――――――――――――――――――――――


 電子音が、聞こえる。
 電子音が、聞こえる。

 電子音が、聞こえる。
 電子音が、聞こえる。


 息遣いが、聞こえる。

 点滴が、ぽたり、落ちている。


「カメコちゃん、昔話、聞いてくれる?」
 マスクでこもった声が尋ねた。私は頷いた。
 皺だらけの手と一緒に、今にも消えてしまいそうな温もりを握りしめていた。


「昔ね、毎日のように本屋に来てた常連さんがいたの」



 その人はね、鶴見さんと言ってね。

 そう、あなたの、おじいさん。

 孫のあなたの誕生日、毎年のように絵本を買ってた、おじいさん。


 もちろん元々本好きな人だから、それ以外の本も買ってたわ。

 書斎に入ったことはある?
 そう、あれの9割ぐらいは、うちで買ったものだと思うわ。
 見たことはないけれど、それでも私の店よりたくさん本があるんじゃないかしら。


 もう20年経っているのね。
 本当に一瞬のような20年だった。

 ……あなたのおじいさんはね、店の近くを通るといつも声を掛けてくれて。
 あなたのことも、よく話してくれたわ。

 だからかしらね、20年前にほとんど面識のなかったあなたを引き取っても、それほど困らなかったのよ。
 まるで、昔から知っている子みたいにね。


 ……懐かしいわねぇ。今でも、よく覚えているわ。③


 傘が開かないほどの大嵐の中で、女の子がうずくまっていて。⑤
 その傍らには、倒れた鶴見さんと、もうぐしゃぐしゃになって読めなくなった絵本もあったかしら。

 その女の子は、いつもよく泣いていたわね。
 特に静かな夜は、不安でなかなか寝付けなくって。

 本を読みきかせると、ぴたりと泣き止んでたっけね。
 かと思ったら、今度は古本の匂いで涙を流したり。④

 あなたは本好きだけれど、おじいさんとの想い出もいっぱい本に詰まっているのね。


 ふふ。鶴見さんは本当に幸せ者ね。
 唯一の肉親であるあなたに、こんなにも好かれていたのだから。



 ……どうしてあなたを拾ったか、教えてなかったわね。

 そうね、いろいろ理由はあったのだけれど。

 あえて言うなら、私も独りぼっちだったからかな。


 私はね、兄弟もいなかったし、一度も恋人を作らなかった。
 親も共働きで、ひとりで家にいるのが当たり前だった。

 でも、私はそれでよかったと思っているわ。
 それよりも私は、たくさんの人、いろんな人と話すほうが好きだったから。


 だって、特定の人を愛し続けるより、毎日色んな人と楽しくおしゃべりするほうが、幸せだと思わない?
 っていうのは、私個人の考えだけれど。


 そうね、特に人が誰かの話をしているのを聴くのが、好きみたい。


 もちろん鶴見さんと話すのも好きだったわ。

 あの人は、常連のひとり。
 それ以上でも、以下でもない。

 でも、大事な人であることに変わりはない。

 あなたも、同じ。


 ……いや、ちょっと違うかな。


 あなたは、きっと特別。
 特別だから、引き取ったの。


 あら、さっきは特定の人を愛さないみたいなこと言ってたのに。
 じゃあ、本当にあなたは特別ね。


 ほかにも話したいことがあった気がするけれど……やめておくわ。


 あなたが泣きそうなんだもの。


 本屋なら、笑顔で見送らなきゃ。



 ……もう一度だけ時間が許してくれたら、もっとお話しできたのにね。②



 わかるわ。なんとなくだけどね。



 だんだん、耳が遠のく感覚が、してくるの。⑥




 あなたと、ちょっと似ているわね。




 あれから目はもう治ったのかしら?





 そう、少しずつ見えるようになってるのね。それはよかった。






 ……そうだ、もうひとつだけ。






 これだけは、最後に言っておかなきゃね。
















 本は雨風に弱いから、管理はしっかりね。









 なんて。










 ふふ。




















 大好きよ。










―――――――――――――――――――――――――


 昔を思い出していた。

 毎年絵本を誕生日に買ってくれるおじいちゃん。


 そのおじいちゃんが、ある日突然倒れて、呼びかけにも答えてくれなくなって。

 ざあざあびゅうびゅうという大きな音の中、ただただ置き去りになってしまった絵本を見ているうち、視界がだんだん真っ暗になっていって。



 そっと抱きしめられる感覚がして、私はそのまま暗闇で眠った。


 あの時と同じ温もりだ。
 20年経っても変わらない温もりだ。


 今はあなたが、眠っているけれど。


 拾ってくれて、ありがとう。
 あなたのそばに置いてくれて、ありがとう。



 いつもより一オクターブ高い、ロングトーンの電子音が、部屋中に鳴り響いていた。①



―――――――――――――――――――――――――


 ドアに取り付けた風鈴は、よく機能している。

 視力が回復した後も、なんだか新しい出会いが待っているようで、音が鳴るのを待ち遠しく感じた。


 からんころん。


 音が聞こえる。



 今日も、がんばろう。







《簡易解説》
目が不自由なので、来客を知らせるドア用の風鈴を、本屋の入口に設置するから。


※2019年2月に開催された【正解を創りだすウミガメ】絵本を買う老人【第8回】の問題文を、一部引用させていただきました。



(以上)


[編集済]

ヴォェエ(号泣) 私のとびきり思い入れのある第8回を溶かし込んでくれてありがとうございました。2月。一年経つのは早いですね。『特定の人を愛し続けるより~』のくだりは、なんだか考えさせられるものがありました。この台詞のすぐ後に『あなたは特別』として対比させているのもまたニクいですね。大好きなおじいちゃんと、その別れから救ってくれたお姉さん。二人を見送った彼女もまた、誰かを救う存在になるのかもしれませんね。

1

No.66[まりむう]01月22日 21:1201月23日 03:37

Japanese Girl、オーストラリアで縁日をする

作・まりむう [良い質問]

No.67[まりむう]01月22日 21:1301月28日 14:13

【簡易解説】
女は現在、季節が日本とは逆の南半球の国オーストラリアに留学しており来月日本に帰国する予定である。
そこで留学先の学生や先生に感謝を伝えたいと思ったことや、オーストラリアの季節が夏のため日本の夏の雰囲気を伝えたいと思い、大学で縁日イベントを行うことになった。
縁日イベントは空調で締め切った教室内で行うのでせめて空調のないドアの周りだけでも日本の雰囲気を出すためにドアに風鈴をつるすことにした。

【本編】
「はあ、4年間もあっという間だなあ。来月には日本に戻らなきゃいけないのがさみしいけど、留学も面白い経験だったなあ。」そう言いながら女は教室のドアに風鈴をつるし始めた。

彼女の名前はカメコ。カメコは高校を卒業後、南半球の国オーストラリアの大学に留学した。この2月に大学を卒業し、来月には日本に帰国する予定である。
子供の時から英語や海外の生活に興味を持っていたカメコにとって留学生活で辛いと感じる経験はあまりなかったが、時々苦労したこともあったなあとカメコは回想した。
ある時カメコが本来の専攻ではなかったが興味を持って受けることにした音楽の授業で現地の民謡を歌う機会があった。その曲は日本人のカメコの歌声よりも1オクターブ高いのが特徴で、現地のオーストラリア人が音程を外さずに流ちょうに歌う中、カメコは日本人ということもありその曲を歌うことに苦労した(1)。またある授業では宿題として出された論文を出し忘れてしまい何とか遅れて出したものの論文の英語の綴りにミスがあり大学の先生から「もう一度だけ許すこともできないわよ?」とこっぴどく怒られたこともあった(2)。それでもそういった困難を乗り越えて努力した経験や、何より現地の学生や先生たちと同じ生活環境で深く交流した経験はカメコにとってこれまでとは比較にならないほど充実していた。そうする中でカメコにはある思いが芽生えていた。

留学先の学生や先生に感謝の気持ちを伝えたい。そして帰国する今だからこそ日本の文化を伝えてから帰国したい。

そこでカメコは卒業前に大学でイベントを行い、そこに大学の学生たちや先生たちを呼んで楽しませようとひらめいた。しかしここである問題が生じた。オーストラリアは南半球にあり、季節は日本とは逆だ。日本は2月は冬真っ盛りだがここオーストラリアは夏である。そのような中で今の日本の冬のイベントをやってみてもオーストラリア人にとっては実感がわかないかもしれない。それでは彼らが楽しめない。彼らがイベントを楽しめるようにするためには・・そうだ。日本の夏のイベントをやろう。こうしてカメコは大学の教室を借りて日本の夏のイベントである縁日を行うことにした。

しかし縁日イベントを行うまでには多大な労力を要した。まず何とか教室を借りられたのはいいのだが、その教室は冷房が効きづらく大学側からはできればドアを締め切ってやってほしいといわれてしまった。これでは教室の中が見えず、イベントをやっているとはわかりにくいかもしれない。そこでカメコはドアに装飾を施すことで何とか日本の雰囲気を出すことで学生や先生たちの興味をひかせるようにした。ホワイトボードに「Ennichi」と書いてドアにつるすことはもちろん、日本の行事の1つ七夕の織姫と彦星を折り紙で作成して装飾に使ったり、風鈴をドアにつるしたりした。教室の前の廊下は風が基本的に吹かないところではあるが、カメコが教室を見たとき、空調がドアに向けて設置されていることに気づいた。この空調を使って風を吹かせれば風鈴もなるかもしれない。一か八かのかけではあったもののカメコはやるしかないと思った。

縁日のイベントに使うものを作ったり調達したりするのも大変だった。
金魚すくいやヨーヨーすくいのために大量の水のみならずプール、そして金魚やヨーヨーが必要となるため輸入に関する法律に引っかからないかひやひやした。装飾用に使う唐傘を調達した際に、その唐傘が不良品で開かずもう一度日本から送ってもらう羽目になったこともあった(5)。またカメコはこの縁日で雰囲気を出すためにお香をたくことになっていたが、送られてきたお香のにおいが強く、ほんのり香る程度にするために量を減らすのに苦戦した(4)

そうして苦労しつつも大学やキャンパス周辺にチラシを配って宣伝を行い、縁日イベント当日を迎えた。
果たして縁日は成功するのか、カメコは不安になった。縁日は基本的に日本独特の行事だ。文化の違うオーストラリア人が縁日を楽しめるのだろうか。もしかして誰も来ないのではないか。そう思った時だった。

縁日の教室のドアが開く音がした。ドアにつるされている風鈴は教室の空調の風がドアに向かって流れるに従い、「リリン」と音がした。
ドアを開けたのは大学の同級生だった。同級生はドアを開くなり風鈴を指さしてこう言った。
「これは何?面白い音ね。」
「これは風鈴よ。今回は特別に日本の縁日と呼ばれる行事を再現してみたの。楽しんでね!」
そういうと、学生は即座に縁日が行われている教室の中に入っていったのだった。

縁日は大盛況だった。大学の学生や先生たちだけでなく学生や先生たちが家族を呼んでくれて教室に大量に人がごった返した。中には高齢で耳が遠い学生のおばあちゃんや、まだ6か月になったばかりの先生の子供もいた(6)。カメコはそうした中でスタッフではあったもののまるで20年前のまだ小さい子供のころに戻ったように笑顔で楽しんだ(3)

縁日が終わってカメコが教室を片付けていると、学生がカメコのところに近づいてきた。
「手伝おうか?」
カメコが快く引き受けるとその学生が縁日で散らばった紙を拾いながらこう言った。
「今回の縁日は僕にとってもすごく楽しかった。日本の縁日ってオーストラリアのお祭りと違ってなんだかこじんまりしているんだね。でもその分いろんな人との交流を身近に楽しめるよね。確か日本は僕たちの国と違って7月から8月が夏なんだろ?日本に行きたいな。」
カメコはそれを聞いてこういった。
「今度あなたが日本に来た時に日本の観光地を紹介するわ。」
「いいねそれ。ぜひ紹介して。私も今度またオーストラリアに来るわ。そのときはよろしくね。」
「いいよ。」
こうしてカメコは留学生活の最後に留学先の仲間との再会を約束しながら片づけを進めていくのであった(終)。
[編集済]

2月に風鈴を吊るすという問題文を季節外れの風鈴として解釈する方が多い中、国外に居るということで2月が夏=風鈴が相応しい季節として組み込まれていたのが面白く感じました。そして手作りの縁日イベントがすごく楽しそう!小学生の頃に学校で採れたサツマイモを使ってお祭りをしたのを思い出しました(笑) そういえば風鈴って日本ならではのものなんだなぁ、素敵だなぁと改めて思いました。

No.68[弥七]01月22日 23:3001月23日 03:37

『伸夫と名付けた熱帯魚』

作・弥七 [良い質問]

No.69[弥七]01月22日 23:3001月28日 20:09

ーーーああ、寒いほど独りぼっちだ!

井伏鱒二『山椒魚』より。


20年前、2月の放課後。③

忘れられない思い出をくれた、君に捧げる。


七海は足早に教室の扉を開けた。

吐く息が白く染まるような季節だというのに、彼女は汗ばんだ身体に冷たい空気を入れるために制服の胸元を開け、そして錠前のかからない鍵穴に時期外れの風鈴を下げた。

こんな校舎の片隅、寂れた空き教室に誰がやってくるわけでもない。

ただ彼女はそうせずにはいられなかったのだ。もはや、こんな姿、他人に見られて気持ちの良いものではない。

一息吸って、教室の周囲を注意深く見渡す。重ねて読者諸君に伝えるが、こんな場所に人っ子ひとりいるはずはないのだ。

そう、いるはずもない、人間は。


空き教室は、七海の王国だった。

机の上に山と積まれた水槽の中にいっぱいの砂つぶを敷き詰め、杉苔、銭苔だのの類と共に、色とりどりの熱帯魚がゆらゆらと呑気に浮かんでは沈みを繰り返していた。

全て七海ひとりの箱庭である。水中の国民たちは王女の登場に色めき、水面に近づいてみな大きな口をあんぐりと開けた。

しかし、そんなことは御構い無しに、一国一城の主は床に放置していた空の水槽を持ち上げると、そこに並々一杯の水道水を浸して校庭側の窓に置き、それを眺め始めた。

(ほう!深窓の王女は随分とご執心らしいな!)

人間よりも一オクターブ高い声。①たてがみのような大きなヒレをブルブルを震わせながら、青いベタが彼女に向かって叫んだ。


校庭では、今しがたランニングを終えた野球部員たちが、グラウンドに入って練習を始めるところだった。ばらばらに散って準備する二十数名の部員たちの姿の中、ひとりの青年を彼女は水槽越しに見た。

(穴蔵の山椒魚が、蛙にでも恋したか!)
「うるさい、ばか。」

青いベタがちょっかいを出すので、七海はぶつぶつと文句を言った。

(外に出て見に行ったらよろしい。)

また水槽の熱帯魚は彼女に対して何か言ったが、まるで耳が遠くなったかのように返事がなくなったので、仕方なくまた浮いては沈みを繰り返した。⑥

この寂れた空き教室の中で、彼女は青年を水槽の中に閉じ込めた。まるで青年の全てを手に入れたような恍惚感に浸りながら、その姿をじっくりと観察した。

オーオーと掛け声をあげる青年が、まるでぱくぱくと口を開ける熱帯魚のように見える。

太陽が乱反射する、七海の大好きなライトブルーの世界。その水槽の水底で野球帽をかぶった青年は大きくダイヤモンドを描きながらくるりと一周すると、他の魚たちと手を叩き合った。

それが、とても素敵だった。

彼女は教室の隅に捨ててあった壊れた傘を手に取ると、ふんっとスイングの物真似などをしてみせた。⑤あの青年のように力強くはいかないか。それでも同じことをしているだけで、なぜだか幸せな気分になるのだから不思議だ。

(あの男は、七海の知り合いか?)

魚ごときにジェスチャーが通じるのかはわからないが、首を横に振った。

(それでは、話したこともないのだろう。)
「……」

今度は首を縦に振った。ベタは思案をするように水槽の周りを行ったり来たりした。

(この水の檻に閉じ込められた分際で言うことでもないが、)

魚というやつは皮肉まで言うらしい。

(篭って物思いに耽ったりする奴は、莫迦だよ。)
「だってなにも知らないんだもの!」

彼女が大きな声をあげたので、水面に細かい波紋が生まれた。他の熱帯魚たちがびっくりして右往左往した。

「面と向かって話したこともないし、名前も学年も…実は知らない。私には友達がいないから繋がる知り合いもいないし、付き合ったことだって、ない。」

こんな空き教室で魚と話している学生には、やはり友達はいないのだろうか。

「でもね、素敵だってことはね、わかるの。」
(そんなに怒らなくてもよろしい。君は独りぼっちではないよ。…しかし、七海。)

ベタは恐縮したように、か細い声で言った。

(…小さな勇気をお出し。青年は水槽の中にいるのではない。いつまでも穴蔵の山椒魚では、蛙はいつか逃げてしまうよ。)

そう言うと、ベタははらぺこで死にそうだと、彼女に訴えた。七海は少し冷静さを取り戻して、学生鞄の中から給食のパンくずを取り出そうとした。

その時だった。

七海の背後で雷が落ちたような音が聞こえた。

反射で前に崩れ落ちる。振り返るとガラスが割れ、窓辺に置いた水槽が半分欠落していた。突然の異常事態にあっけにとられてその場から動けなかった。

しばらくして破片に気をつけながら恐る恐る近付いた。壊れた水槽の間から、眼下の校庭ではさっきまで練習をしていた野球部員たちがみんな揃ってこちらを見ていた。おそらく飛んだボールが校舎の窓ガラスに直撃したのだろう。危ないところだった。

彼女は青年を探したが、まるで水槽から逃げたかのように、彼の姿はなかった。


ちりん。


2月の放課後、鍵のかからぬ錠前に、掛けられた風鈴がひとつ。

全く風など通りもしないその場所で、ちりんちりんと音がした。

「大丈夫かッ!!」

さっきまで水槽の中にいたはずの青年が、七海の目の前に現れた。黒い大きな瞳が、また一段と大きくなった。

(ほら、蛙がきなすった!!)
「...蛙が。」

ベタは語りかけたが、頭の整理が追いつかない彼女は言葉をただ繰り返した。青年は不思議そうにしていたが、すぐに彼女の元へ駆け寄った。

「怪我は無いか?保健室まで、送るよ。」
「……」

彼はそして、少しためらいがちに言葉を切りながら話し始めた。

「君は、この場所から、僕のことをずっと見ていたろう。」
「!!」

彼女は青年の方をまっすぐに見つめた。

「…いや、勘違いならばそれでいい。最初は水槽を見ているだけかと思ったが、だんだんとそう思えるようになってきて、いやあ恥ずかしい話だが…応援されているみたいで、嬉しかった。僕、伸夫っていうんだ、君の名前は??」
「…七海。」

それしか言葉が出なかったが、彼はそれでうんうんと頷いた。

「見たところ怪我は無いようだが、心配だから一緒に保健室まで行こう。僕の肩を持って。」

抱き寄せられるようになったので、びっくりして一歩引いた。その様子を王国の熱帯魚たちはやきもきしながら見守っていた。すると一匹の、あの青いベタが大きなヒレをまたぶるぶると震わせながら叫んだ。

(ああ!だめだだめだ!ここで逃げたら!!魚は元来気が早いと相場が決まっているのだ、ええい、ままよ!!)②

ぼちゃんと水しぶきをあげて、水槽から飛び出した。そのまま床に落下して二人の目の前でばたばたと暴れた。驚いた彼女たちは後ろへと重なり倒れこんだ。

彼の野球服から、ほんのり土埃の香りがする。④

七海は小さな勇気を出した。

「…蛙。」
「また蛙かい?」

少し笑った彼の唇に、自分の唇を合わせた。

「…蛙にくちづけをすると、どうなると思う?」

(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)
[編集済]

窓際に置いた水槽に、窓の向こう側の人物を閉じ込める。それだけで一枚の絵が描けそうなくらい感性豊かな世界観に驚かされました。弥七さんは創りだすに限らず、通常のウミガメにおいても、その世界に自身も入り込んで書き上げているという感じがします。物語を読んでいて、情景が浮かんだりその場の風や匂いを感じることはたまにあるのですが、この作品は脳内スクリーンにアニメーションがそのまま浮かぶようでした。

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No.70[弥七]01月22日 23:3001月29日 02:32

簡易解答:学生である少女・七海は、放課後空き教室に行ってその窓から恋した青年を観察することを日課としていた。鍵のかからない扉を誰かが開けた時にすぐにわかるよう、彼女は錠前に風鈴をかけておいたのだった。

(◉◉)

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No.71[きっとくりす]01月22日 23:3401月23日 03:40

盗み食い攻防戦

作・きっとくりす [良い質問]

No.72[きっとくりす]01月22日 23:3401月28日 21:50

答え
冷蔵庫が開いたのが分かるように。


解説
今、私たち家族を悩ませている問題はじいちゃんの盗み食いである。

この間も、バレンタインの時に出してみんなで食べようとチョコレートを冷蔵庫に隠していたら、じいちゃんがめざとく見つけて食べていたことがあった。

ほんのりとチョコの香り④をさせながら私に「あれは傘じゃないけん開かんとよ」と言ってきたので判明したのだった。

パラソル型のチョコを傘なのに何でバッって開かない⑤のかとしつこく聞いていたのはもう20年も前のことなのに、じいちゃんは一体私をいくつだと思っているのだろう③と思ったことだった。




チリンチリン……



「おじいちゃん!また、盗み食いしようとして!」

「盗み食い?なんのことじゃろ?」


風鈴の音と、おかあさんの大きな声が聞こえる。

じいちゃんは耳が遠い⑥ので、普通のときでも大きな声で話さないと聞こえないが、今は怒っているのでさらに大きな声だ。

さて、私たちがじいちゃんの盗み食いをとめるのにはふたつ理由がある。

まず、ひとつめの理由はじいちゃんの体のことだ。じいちゃんは肥満体型で高血圧なのだ。食べ過ぎは良くない。

ふたつめの理由は冷蔵庫の閉め忘れだ。食べ物がないか冷蔵庫をあさったあと冷蔵庫を開けっ放しにするのだ。

しかも、うちの冷蔵庫は閉め忘れ防止の警告音が壊れてなぜか通常より1オクターブ高い音が鳴るようになってしまった①。ただでさえ高い音で聞こえにくかったのにもうほとんど聞こえない。

これ以上盗み食いをゆるしてはいけない②と家族で対策中なのだ。

チョコレートの件のあと、冷蔵庫に風鈴をつけることにした。風鈴の音で冷蔵庫が開いたのがわかり、様子を見に行けるのだ。

今のところ、さっきのように盗み食いする前にじいちゃんをとめることができているので、とりあえずは成功している。

しかし、じいちゃんもいろいろ考えてなんとか盗み食いしようとしてくるので、この戦いはまだまだ続きそうだ。

【おわり】

おじいちゃんかわいい!今回一番のほのぼの作品ではないでしょうか。また、パラソル型のチョコがなんで開かないのって聞くのが、何となくきっとくりすさんっぽいなぁと思いました。方言もいとおしい。風鈴が鳴るたびに盗み食いを咎めないといけないのはなかなか大変ですが、夏に軒先の風鈴の涼しげな音を聴いて盗み食いを企むおじいちゃんの姿を思い起こすのだろうなぁと思うと、なんだか微笑ましく、優しい気持ちになります。

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No.73[ちくわさん(偽物)]01月22日 23:5901月23日 03:40

タイトル『凪の音色』

作・ちくわさん(偽物) [良い質問]

No.74[ちくわさん(偽物)]01月23日 00:0001月28日 14:13

問・2月。まったく風の通らないその場所に、女が風鈴を吊るしたのはいったいなんのため?



風鈴の音が聞こえる。
私は目を覚ますとベッドから起き上がり、カーテンを開けて窓の外を見た。
いくつもの風鈴がテルテル坊主のように軒先に吊るされていて、ちりんちりんと乾いた音を鳴らしている。
風鈴が音を出す仕組みはとてもシンプルだ。
本体から吊るされた短冊が空気の流れを受け、内部にある舌(ぜつ)という部品を揺らす。
すると陶器でできた外身に舌が触れ、あの軽快な音が起こるのだ。
種類や材質、用途などにより仕組みや音質は変わってくるが、風鈴はほとんどがそのような造りになっている。
熟練の職人になるとちょっとした音の違いでどの種類の風鈴が鳴っているか分かるらしい。
一方、私は長年風鈴の音を聞いているというのに、一向に音を判別できないでいる。

「おはよう」

自室から出て一階に降りると、母が台所で朝食と弁当を作っていた。
母は私が挨拶しても無言のまま手を動かしていたので、もう一度さっきより大きな声でおはようと言った。

「おはよう清太」

すると今度は母もちゃんと挨拶を返してくれた。

母は少し耳が遠い……⑥。
父から家庭内暴力を受け、鼓膜を破られてしまったからだ。
私が生まれた直後に離婚が成立しており、母は生まれたばかりの私を抱きながら様々な場所を転々とし、今住んでいるこの家に辿り着いた。

「清太、もう出るんでしょ。はい」

朝食を食べ終え仕事着に着替えていると、母が包みを二つ差し出した。
片方は分かる。
いつも見ている私の弁当箱だ。
それではもう一つは?

「桜ちゃんの分」

予想していた母の答えにため息をついた。

「桜には必要ないだろ」

「何言ってんのアンタ。お世話になってんだから、これくらいしなくちゃ」

「……分かったよ」

桜のお世話になった覚えはない、と反論したかったが、言い争うと仕事に遅れてしまいそうだったので大人しく二つの弁当箱を受け取って家を出た。

外に出ると先ほどまでうっすらとしか聞こえなかった風鈴の音がより鮮明となって私の耳まで届いた。
右手にある隣家には大小さまざまな風鈴が吊るされている。
たくさんの風鈴が風を受け不規則に揺れる様子は、まるで海中を漂うクラゲの群れみたいで見飽きるということがない。
しかし、私は風鈴特有のちりんちりんという軽快な音が苦手だった。
気を抜くと眉間に皺がよってしまいそうになるのだが、そんな表情をこの家の人に見られるわけにはいかない。
長い深呼吸をしてから、隣にある木造建築物の扉を叩いた。

「おはようございます」

この建物にはインターホンがないので、ノックして来訪を告げなければならなかった。

「おはよう、清太」

中から現れたのは桜の母親で、私の住んでいる建物の大家でもある吉乃さんだった。

「母から預かってきました」

私は桜のために用意された弁当箱を吉乃さんに差し出した。

「いつも悪いね」

「いえ、いつもお世話になっているのですから当然です」

母の時とは違い、私は吉乃さんに対して素直にそう口にすることが出来た。

吉乃さんは腕の良い風鈴職人だ。
この家に吊るされている風鈴はすべて彼女の作品だ。
吉乃さんの家は戦前から続く有名な風鈴職人の家系で、現在は彼女が家業を継いでいる。
元々は吉乃さんの旦那が婿養子として家に入ったのだが、旦那は交通事故で夭折してしまった。
それ以来、昔から風鈴職人として働いていた吉乃さんが旦那の代わりとなり風鈴作りに精を出している。

「あとこれ、今月分です」

弁当を渡したあと、私はあらかじめ用意しておいた封筒を鞄から取り出した。
今月分の家賃だ。

「たしかに受け取ったよ」

吉乃さんは弁当箱と同じように大切そうにその封筒を受け取った。

私たちが住んでいる家はかつて住み込みで働いていた風鈴職人たちのためのものだ。
昔はたくさんの人が住んでいたそうなのだが、現在風鈴を作っているのは吉乃さんしかいない。
だから、住む人がいなくなった建物は賃貸物件となり、住む場所を探していた母がそこを借りることになった。
私は大家である吉乃さんの世話になっているという気持ちはあっても、その娘である桜の世話になっているという気持ちは全くなかった。

「ああ、そうだった」

吉乃さんは何かを思い出したという表情をした。

「ごめん。今日これいらなかった。桜、風邪ひいたみたいでさ。学校休むって。昨日雨降ってたのに傘が壊れて……⑤ずぶ濡れになって帰ってきたから」

そう言うと吉乃さんは一度受け取った弁当箱を僕に返してきた。

今は一月の下旬だ。
雨に濡れれば元気だけが取り柄の桜でも体調を崩すこともあるだろう。

「じゃあこれ、吉乃さんが食べてください」

私は受け取りかけた弁当箱を再び吉乃さんに返した。
弁当を二つも食べるほど大食漢ではないしせっかく作ってくれた母に返品するのもしのびない。
ならば普段からお世話になっている吉乃さんに食べてもらえばいいのではないか、という結論に達した。

「……折角だしそうさせてもらうよ」

少しの間があったあと、不自然な笑みを浮かべながら吉乃さんは弁当箱を受け取った。
吉乃さんの表情に引っかかるものを感じつつ職場へ向かうため歩き始めた。

「清太」

駅へ歩き始めた私に吉乃さんが声をかけてくる。

「帰りに桜の見舞いに来てくれないか」

「仕事が終わるころには桜は元気になっていますよ。だから見舞いは必要ないと思いますよ」

「たしかにそうかもしれないね。じゃあ要件を変えよう。お願いがあるんだ」

吉乃さんは手に持っている弁当箱をゆらゆらと揺らしながらこう言った。
「これ、食べ終わったら桜の部屋に置いておくから取りに来い」

「……分かりました」

なにを言っても無駄だと観念した私は渋々返事した。
母も吉乃さんも桜のことを甘やかしすぎではないだろうか。
私は桜のおもちゃではない、一人の成人した男性なのだ。
納得とは程遠い感情を抱きながら、重い足取りで職場へ向かうことにした。



「桜に甘いのは私も同じか」

私は右手に持っているビニール袋を眺めながら『違う、これは病人のために買ってきたものであって、桜のために買ったものではない』と罪悪感に苛む犯罪者のように何回も自分に言い聞かせていた。

仕事終わり、私は弁当箱を回収するためにこの家を訪れたら、問答無用で桜の部屋の前まで連れてこられた。
吉乃さん曰く、桜の部屋に弁当箱を置いてあるので勝手に入って取ってくれ、とのことだ。
桜の部屋にはもう何年も入っていない。
私は意を決して扉をノックした。

「桜、入るぞ」

室内は暗くて何も見えなかった。
日はとうに沈んでおり、病人である桜は明かりをつけることもなく寝入っているようだ。
よく何十個もの風鈴が鳴り続けているこの家で眠ることができるなと感心する。
部屋に入る前に入口付近にあるスイッチを操作した。
カチッという音とともに室内が明るくなる。

部屋の中は足の踏み場がないほど散らかっていた。
クローゼットに収められなかった衣類、読んだまま放置されている漫画、ゲームの充電器で埋まっているコンセント。
女の子の部屋というよりはわんぱくな男子小学生の部屋みたいで、数年前に見た桜の部屋そのままだった。

「お母さん?」

僕が遠慮なく部屋を眺めていると、その気配を察したのか布団の中で眠っていた桜が目を覚ました。

「あれ、清ちゃんだ」

桜は布団から顔の上半分だけを覗かせて、親の帰りを巣の中で待つ雛鳥のように恐る恐るこちらの様子を伺っていた。

「見舞いに来たぞ」

「わっわっわっ、ありがと」

「思ったよりも元気そうだな」

「うん、来てくれて嬉しいな。桜、ずっと一人だったから心細かったの」

状況を把握した桜はぼさぼさの頭のままにこーと笑った。
声を聞く限り体調はそれほど悪くなさそうだが、普段の桜は私の姿を見かけると無条件で抱き着いてくることがある。
以前、街中で知り合いと話しているときにそれをされ、私は本気で怒った。
それ以来さすがに自制するようになっていたが、私が目の前にいるのに布団から出てこようとしないということは、やはり体調が万全ではないということだろう。

「ほら、土産だ」

私は手に持っていたビニール袋を桜に渡した。
中身は桜の大好物だ。

「あっチョコミントのアイスだ。桜、これ大好き。毎日食べてる」

桜はカップを受け取ると早速ふたを開けようとした。
私は慌ててそれを止める。

「すまないが、それを食べるのは私が帰ってからにしてくれないか」

「あっ、ごめん」

桜は申し訳なさそうにアイスのカップを再び袋の中にしまった。
私はミントの香りが苦手だった。
あの香りが漂ってくるだけで息が詰まり咳が出て、もし間違って食べてしまうと内臓がすべてすり潰した葉っぱで埋め尽くされたような気分になる。

「ねえ清ちゃん。お願いがあるの」

桜は大好物であるチョコミントのアイスをしまいながらおずおずと上目遣いでこちらをのぞき込んできた。
見舞いの品を受け取ったうえまだ何か要求するのか、という言葉を飲み込んで「なんだ」と桜の言葉を促した。

「清ちゃん、もう少ししたら誕生日だね」

「ああ」

「実はね、桜も誕生日なの」

「そうだったな」

私たちは二人とも二月生まれだった。
今、一月の下旬なので来月には二人とも年を一つ重ねることになる。

「だからお願いがあるの」

話の流れが読めた。
桜は自分の誕生日にかこつけて、なにか私に無茶を言うつもりなのだ。
普段ならば頭ごなしに拒否するところだが折角の誕生日だ。
桜の頼み事を聞いてやるのも悪くないだろう。

「あの廊下、通ってもいいかな」

「だめだ」

私は桜の要望を頭ごなしに否定した。

桜の言う廊下とは、桜の家と私の家を繋ぐ廊下のことだ。
私の住んでいる家は元々桜の家で働いていた職人たちの離れで、母屋であるこの家との間をたくさんの人々が行き来していた。
家と家の間にはその名残である廊下が今でも残っており、扉を開ければ二つの家を繋げることができた。

「そんなのだめに決まっているだろ」

私の言葉を聞いて桜は体を強張らせた。
無意識のうちに私は声を荒げてしまっていたらしい。
子供の相手をする大人の態度ではない。
私は自分の心を落ち着かせてから話を続けた。

「あの廊下は危険すぎる。昔、大怪我をしたこと覚えているだろう?」

私の言葉に、今度は桜が黙る番だった。

昔、桜が今よりももっと幼かったころ、桜はあの廊下を使って私の家まで遊びに来ていた。
二階に作られた廊下なので、桜の目には絵本に出てくる城の通路のように見えたようだ。
本人は暇さえあればアトラクション感覚で廊下の上を行ったり来たりしていた。
ただ、その廊下は簡易的に増築されたもので、桜の体も日に日に成長していた。
ある日、成長した桜の体重に耐え切れなくなった家と家を繋ぐ廊下は、音を立てて壊れてしまった。
壊れてしまったといっても橋全体が崩壊したわけではない。
ちょうど廊下の真ん中あたりに大きな穴が開いてしまったのだ。
その拍子に家族に黙って廊下を渡っていた桜は、一階に落下して腰の骨を折るという大怪我を負ったのだ。

「桜の体はあの頃より大きくなっている。通れるわけないだろ」

「女の子に向かって体が大きいとか言わないで」

桜の体は同世代と比べて明らかに一回り大きかった。
本人もそのことを気にしているのか、話の筋とあまり関係ない反論をされた。

「あの穴はもう直したし、ママだって使ってるじゃん」

「吉乃さんは廊下を渡ってるわけじゃない。それに仕事だからいいんだ」

吉乃さんは作り終えた特定の種類の風鈴を、桜側の廊下の入り口に吊るしていた。
屋敷の中にはたくさん風鈴があるので、その場所は一時的な保存場所に適していたらしい。

「そんなのえこひいき、仕事だからってずるい」

「大怪我したあと黙って通ろうとして吉乃さんに何回も怒られただろう。もう二度とだめだ……②。」

「いや、桜も廊下使う」

「子供は大人の言うことを聞いていればいいんだ」

「桜、子供じゃない」

桜に風邪でもうつされたのだろうか。
私は彼女の論理的ではない物言いに頭が痛くなってきた。

「桜、今まで何回誕生日を迎えた?」

「え、えっと」

唐突に予想外の質問をされたせいか、今までムキになっていた桜は目を丸くしたあと手を使って数え始めたが、そのカウントは両手が埋まる前に止まってしまった。

「じゃあいいことを教えてあげよう」

私はわざと寝起きで髪型の乱れている桜の頭に手を置いてこう言った。

「大人というのはな、誕生日を二十回迎えた人のことを言うんだ」

私が言っていることが伝わったのか、桜は熱で赤く染まっていた頬をさらに紅潮させ、大きな目をさらに大きく見開き瞼に涙を浮かべ始めた。
しまった、やりすぎた。
自分の失敗に気づき謝ろうとした瞬間、私の額に先ほど桜に渡したはずのミントのアイスが飛んできた。
ごつんという音とともに痛みが走る。
カップから微かに匂うミントの匂いを嗅ぎ、嗚咽を漏らしそうになった。

「清ちゃんのばか、出てけ」

一度、誕生日の話題で話をスカしたのが余計だったのか、桜は鼻を詰まらせながらグズり始めた。
桜にとって誕生日の話題はタブーだということを、すっかり忘れてしまっていた。

「こら、ものを投げるな、危ない」

桜は近くにあったティッシュの箱を掴もうとしていた。

「二十年前に戻れたら……」

「二十年前?」

「二十年前に戻れたら……③、ママに一日でも早く産んでもらうのに」

「それはどういう意味だ?」

怒りのため錯乱しているのか、もはや桜は自分でも何を言っているのか分かっていないようだった。
二十年前に桜が生まれていないこと、『戻る』という日本語は様々な使い方があり元の状態に復すという意味もあるが、今の使い方だと矛盾が生じてしまうことを丁寧に説明しようとしたが、桜はまったく話を聞いてくれなかったので、苦手なミントのアイスを手にして部屋から退散することになった。



私は桜が生まれてからずっと彼女を間近で見てきた。
吉乃さんは腕の良い風鈴職人であるがゆえ子供のために時間を割くことが難しく、父親もすでに亡くなっていたため桜は独りでいることが多い子供だった。
だから桜はたまたま近くにいた私という存在に依存するようになった。
独りでいることの辛さは分かっているつもりだったので、私は可能な限り桜のそばにいてあげた。
今まではそれでよかった。
けれど、これからはきっと違う。
私は桜の父であり、兄のような存在だ。
桜が私のことをどう思っているか分からないが、私の桜に対する見方は変わらない。
彼女の将来のためにも私がしっかり導いてあげなければならないのだ。

「先輩、お久しぶりです」

二月の末日。
仕事終わりに家の近所を歩いていると後ろから声をかけられた。

「ああ、君は」

その人は数年前、私の下で働いていた女性だった。
彼女はとても優秀で仕事が早かったのだが、優秀であるがため学生時代の友人と会社を起こし独立していた。
今でも仕事上の付き合いで連絡をとることはあったが、顔を合わせて会うのは久しぶりだった。

「どうしたんだい? こんなところで」

「はい、実は」

話を聞いてみると、なんと彼女は私に用事があったらしい。

「そうか。じゃあ立ち話もなんだから、どこか落ち着いた場所で話そうか」

行きつけの喫茶店に案内している最中、彼女はどうして私の家がこの付近にあると知っていたのだろうかと気になった。

喫茶店に入ると店員から喫煙席か禁煙席か尋ねられた。
私が喫煙席で、と言おうとすると横から彼女が禁煙席でお願いします、と言った。

席に案内されコーヒーのブラックを二つ注文した。
この店では注文を受けてからコーヒーのための豆を挽き淹れるので香りがとても良かったが、その分時間がかかった。
コーヒーが来るまでの間、お互いの近況を報告しあうにはちょうどいい時間になると思った。

「君、喫煙者じゃなかったっけ?」

私は喫茶店に入ったときのことを思い出して質問した。

「煙草、やめたんです」

なぜか彼女は少しもじもじしていた。

「たしか、先輩は煙草を吸う人苦手でしたよね」

「別に苦手じゃないよ」

彼女は勘違いしていた。
私は煙草の煙が苦手なのではない。
ミントの香りのする煙草が苦手なのだ。
ミントの香りが近くですると過剰に反応してしまう、その様子が彼女には煙草嫌いに見えてしまったのかもしれない。

「今日はいったいどんな用事で?」

彼女は僕に会うためここまでやってきた。
事前連絡もなしにやってくるということはそれなりの理由があるはずだ。

「あ、はい」

そう言ってから彼女は下を向いて黙ってしまった。
私の記憶の中にある彼女はハキハキと自分の考えをしゃべる社交性のある女性だ。
なにか言いづらいことでもあるのだろうか、年上として円滑に話のしやすい状況を作った方が良いのだろうかと考えていたら、ゆっくりと彼女は話し始めた。

「若い女性ってどう思います?」

「うん?」

質問の意味が分からず、眉間に深い皺を刻んでしまった。

「いえ、すみません。言い直します。若い女性が結婚するのってどう思います?」

「別にどうも思わないな。人にはそれぞれ人生があり、結婚するのはその人の自由だ。結婚に向き不向きな時期があるとは思うけど、若いということがその否定材料だと思わない。若さにはメリットもデメリットもある。当人たちがそのリスクを把握しておけば若者の結婚に問題は何もない。ただ、若いという理由だけで女性の結婚が否定されるとしたら、それはおかしいと思うな」

「そうですか」

心なしか、彼女はほっとしたような表情を浮かべていた。

「では、先輩が結婚したいと思う女性ってどんな女性ですか。あっ、深い意味はないです」

先ほどよりも深い皺が眉間に出来ていたのだろう。
彼女は質問し終わるより先に謝ってきた。

「一緒にいて苦にならない人がいいな。結婚するということは共有する時間が多くなりそうだから、長時間一緒にいられる人がいい。それこそ何年も、何十年も一緒にいられる人だ。二人でいる時間が苦痛でなければ結婚生活とは上手く運ぶものじゃないのかな、結婚したことないから分からないが」

「そうですか」

いったい彼女は私になにを言いたいのだろう。
一緒に働いていたときの彼女はこんな回りくどい会話をする人間ではなかった。
彼女自身、そのことに戸惑いを感じているのだろう。
口をつぐみ黙り込んでしまった。
ひょっとして、周りの人たちには私が彼女を説教しているように見えているのではないか。
私がどうでもいいことを心配して話題を探していると、ぎゅっと握りこぶしを作った彼女が口を開いた。

「あの、先輩。実は」

「すみません」

いきなり、何の前触れもなく後ろから声をかけられた。
振り返ってみると背の高いスーツ姿の女性が立っていた。

「すみません。ライターを貸していただけますか? 先ほど、煙草の話していたのが聞こえたもので」

私と話をしていた彼女は律儀に鞄をまさぐり始めたが、自分が禁煙していることを思い出して「すみません、持っていないです」と頭を下げた。

「すまないが、他をあたってくれないか」

私がそう言うと、女性は澄ました顔をしてどこかへ行ってしまった。

「すごく奇麗な女性でしたね。背が高くて髪がサラサラで。私もああいう素敵な大人の女性になりたいです」

「いや、他に気になることがあったと思うが」

「なにかありましたか?」

「なんでもない。話を続けよう。私に何か言いたいことがあるんだろう」

「はい。実は私、今度結婚することになったんです」

一度決心を固めたせいか、水を差されたにも関わらず今度はあっさりと言った。

「ほう、そいつはおめでとう」

「はい、ありがとうございます。お世話になった先輩には直接報告したくて」

彼女の中で私の存在がそこまで大きいものだとは意外だった。
たしかに新人時代の彼女に仕事を教えたのは私だが、それはごく短い期間ではるか昔の話だ。

「先輩に報告したくても、『仕事のできない半人前のくせに結婚するのか』って怒られるか心配で」

「私はそんなこと言わないし思わないよ」

どうやら先ほどまでの要領を得ない質問の数々は彼女なりに結婚報告の取っ掛かりを探していたようだ。
私が若い女性の結婚に対して文句を言っていたら、彼女は報告せずに帰ってしまっていたのだろうか?
ともかく、彼女の結婚相手は会社の社長である元同級生で、煙草をやめたのも子供ができたときのことを考慮してのことらしい。
仕事はとりあえず続けるそうだ。

「先輩は結婚する予定はないんですか?」

「予定も相手もまったくないね」

「もったいないです。さっきの女性とまでは言いませんが、素敵なお相手が現れるといいですね」

ふと、私の脳裏に桜の顔が浮かんだ。
想像の中の彼女はボサボサ頭で美味しそうにチョコミントのアイスを頬張っており、私に吐き気をもよおさせた。

「どうかしましたか先輩。顔色、悪いですよ」

「結婚したいと思える女性の要望に一つ追加だ。チョコミントのアイスを食べないこと、これは私にとって最重要事項だ」



結婚報告に来てくれた彼女と別れたあと、コンビニで買い物をして家まで帰ってきた。
玄関のかぎを開けコンビニで購入したものを冷蔵庫にいれたあと、自室で部屋着に着替えようとしたところで私は動きを止めた。
私の部屋にはものがほとんどない。
夜寝るときは床の上に布団をひいているし机は引き出しがなく机上にものを置けるだけだ。
他に小物がちらほらとあるがすべて手で持てる大きさしかない。
つまり、人が隠れるとしたら部屋の隅にあるクローゼットしかないのだ。

「そこにいるのは分かっている。出てこい」

こんなドラマに出てくる刑事みたいな台詞を言う日が来るとは思わなかった。
私が黙って腕組みしていると、クローゼットの中から桜が現れた。

「そこで何をしている。内容によっては本気で怒るぞ」

「褒めて」

「は?」

初めは聞き間違いかと思った。
しかし、桜ははっきりと「褒めて」と言っていた。
どうして他人の部屋に忍び込み潜んでいたことを褒めなければならないのか。
いったい桜は親からどのような教育を受けてきたのかという言葉が浮かんだが、吉乃さんへの批判にもなっているので慌ててその言葉を打ち消した。

「いいか。こんなこと言いたくはないが、桜のしていることは住居侵入罪というれっきとした犯罪で」

「街中で清ちゃん見かけても抱き着かなかったこと褒めて!」

私は頭を抱えそうになった。
恐ろしいことに、桜はきっと本気なのだろう。
まず桜を褒めなければ、彼女はきっと私の話を聞いてくれない。
落ち着け、私は大人だ。
そう何度も自分に言い聞かせたあと、できるだけいつも通りの声を出すように心がけた。

「私の言い付けを守って偉いな。成長したぞ桜」

「まあね」

桜はそっぽを向きながら私の精一杯の気遣いを受け流した。
再び激高しかけたが、桜が不機嫌になっている理由がなんとなく分かってきたので、一度、冷静に話してみる必要があると思った。

「ねえ、どうして桜がここにいるって分かったの」

少し機嫌が良くなったのか、それとも今さらながら私に怒られるのが怖くなったのか。
桜はこちらの様子を窺いながら質問してきた。

「匂いがしたからだ」

「匂い?」

「ああ。お前、チョコミントのアイスを食べただろ」

自室に戻り着替えようとしたとき、クローゼットの中からほのかにチョコミントのアイスの匂いが香った……③。
それは本当に微かな香りだったが、ミントに対して過剰な反応をする私の鼻は、クローゼットから漏れるミントの匂いに気づいた。

「私の知り合いでチョコミントを食べるのは桜だけだ」

チョコミントを食べクローゼットに隠れているのが桜だとすれば、自ずと侵入経路も分かった。

「それにしてもよく吉乃さんに気づかれずあの廊下を通ってきたな」

うちは母も働きに出ているので、私が帰ってきたとき誰もおらず玄関に鍵がかかっていた。
玄関から入れるのは、鍵を持っている私と母しかいない。
ということは、桜は玄関以外の場所から侵入し部屋に潜んでいたということだ。
いったいどこから。
決まっている、宙に浮かぶ廊下を渡ってきたのだ。

「私にはあの廊下を吉乃さんにバレずに渡ることができない」

大怪我して以降、桜は廊下を黙って通ろうとするたびに吉乃さんに見つかって怒られていた。
家と職場が同じである吉乃さんは今この瞬間も風鈴を作っているはずだ。
廊下は吉乃さんの作業場の近くにあるので、桜が廊下を渡ろうとすると吉乃さん見つかる可能性は非常に高い。
例えば私が廊下を通ろうとすれば必ず吉乃さんに見つかってしまうだろう。
私にできないことを桜がやり遂げている事実に少し驚いた。

「風鈴、鳴らさないように気を付けたから」

「鳴らさないように気を付けても意味がないだろ。あの家では四六時中風鈴が鳴っているんだから」

「違う」

「ああ、気づいていたのか」

私は桜の発言を聞いて本当に驚いた。
彼女は、今までどうして廊下を渡ろうとするたびに吉乃さんに見つかっていたのか、理由に気づいているのだ。

廊下は吉乃さんの作業場の近くにあった。
しかし、吉乃さんには仕事があるのでずっと見張っておくことができない。
それでも桜は危ない廊下を渡ろうとする。
そこで吉乃さんは一計案じることにした。

吉乃さんは廊下の扉付近に風鈴を吊るすことにした。
風鈴といっても通常のものではない。
特別な細工を施し、音色を1オクターブ上げたものだ……①。
廊下はいつも無風なので、1オクターブ高い風鈴が鳴るのは誰かが通過したときしかない。
吉乃さんは特別な風鈴が鳴ったときだけ廊下を確認するようにしていたのだ。

吉乃さんからその話を聞かされた私と母は、桜が廊下を渡らないよう風鈴の音に注意するようにしたのだが、母は耳が遠かったのでそもそも風鈴の音が聞こえなかったし。私は常に風鈴の鳴り続けている中で特殊な音色を聞き分けることができなかった。

「生まれたときから聞いてるんだもん。できるよ」

「そうか」

桜よりも長い期間風鈴の音を聞いていても聞き分けられない私には、耳の痛い話だった。

風鈴のからくりに気づいていれば鳴らしてはいけない風鈴は分かる。
桜が一オクターブ高い風鈴を鳴らさなかったので、吉乃さんは娘が廊下を渡っていることに気づけなかったのだ。

「ねえ清ちゃん。今日、なんの日か分かる?」

桜はおずおずと上目遣いでこちらをのぞき込んできた。
桜が私にお願いをするときにするときの表情だ。

「分かってる」

私はすべて分かっていた。
桜がどうして数年ぶりに廊下を渡って私の部屋にやってきたのか。
そして今日がなんの日なのか。

「今日は2月の末日、29日。4年に1回しかない、桜の誕生日だ」

桜は自分の誕生日を、私と過ごしたいだけだったのだ。

20年前の2000年2月29日、桜は産声を上げた。
4年に1度しかない日に生まれた桜は、小さいころそのことでからかわれることが多かった。
誕生日プレゼントがもらえなくてかわいそうだとか、小学校に2歳児がいるだとか、子供はあらゆることを冷やかす種とする。
もしも1日でも早く産まれていれば、このような悩みを抱かずに済んだだろう。
桜にとって年齢の話はあまり喜ばしい話題ではなく、必要以上に子ども扱いされることをひどく嫌っていた。

「ほら立て、スーツに皺ができる」

今年、短大を卒業する予定の桜は既に就職が決まっていた。
事前に社内講習があるので卒業前から会社に通っているとは聞いていた。

「ん」

短い撥音と共に桜が手を差し出してきた。
ジャンケンしよう、というわけではないだろう。
私は黙ってその手を握り大根でも抜くようにひっぱり上げた。
立ち上がった桜の目線は私より少し下にある。
女性にしてはかなり大柄だ。
今日会った女性は桜を年上だと認識していたが、実際には桜の方が年下だった。

「清ちゃん、今日は桜の誕生日です。桜は大人になりました」

「そうだな」

今日は桜の5回目の誕生日だが、もちろん桜が5才になったという意味ではない。
法律では「誕生日の前日の24時に年をとる」と決まっているので、社会的に桜は20才として扱われる。
ひと月前の1月は子供だったが、今では文句のない大人だ。

「だから誕生日プレゼントちょうだい」

「待ってろ」

大人はそんなこと言わない、という言葉を飲み込んで、大人らしい振る舞いをするため私はあらかじめ用意しておいたものを1階へ取りに行った。

「ほら、お前の大好物だ」

私はコンビニで購入しておいたチョコミントのアイスを桜に渡した。

「桜、これいらない」

桜は大好物であるチョコミントのアイスを受け取らなかった。
ひょっとして、もっと高価なものを欲しがっているのだろうか。
たしかに大人の誕生日プレゼントがアイス1個というのは安すぎる……。

「桜もうチョコミントのアイス食べない」

「あっ、お前やはり話を聞いていたな」

喫茶店で後輩の彼女に話した結婚相手に求める最重要事項、桜はそれを盗み聞きしていたのだ。

「それと変な風に話しかけてくるな。知り合いだとバレるだろうが」

喫茶店で私たちが話をしている最中、桜はライターを貸してほしいと言ってきた。
その願い事は禁煙席に座っている人物に対してこの世で最も遠い願い事だ。

「だって清ちゃんが知らない人と楽しそうに話してたから」

あのとき、桜が話しかけてきた理由は想像がつく。
大方、私が家の近くで知らない女性と話していたから感情を抑えきれず接近してきたのだろう。
以前、似たような状況で仕事の取引先の相手と話しているとき、街中でいきなり桜から抱きつかれたことがあった。
あのときは本気で桜を怒ったものだ。

「清ちゃん」

「なんだ」

「桜は清ちゃんのためだったら大好きなチョコミントのアイスを一生我慢できる」

「そうか」

「生まれてからずっと一緒にいるから清ちゃんに息苦しい思いさせないと思うし、若い女性の結婚は別に問題ないんでしょ。だから、ねっ」

「なにが『だから』なんだ」

桜に喫茶店で話していたことを全部聞かれてしまっている。
私なんかのためにここまで行動するなんて、もはや笑うしかなかった。

「桜、私から頼みたいことがある。今までお前の我儘につきあってきたんだ。1つくらいきいてくれ」

「うん。なに?」

「今後、もう2度とあの廊下を渡ってうちに来るのはやめてくれ」

ちゃんとした業者に改修を頼んでいるとはいえ、やはりあの廊下の強度には疑問が残る。
もう、あの廊下は誰も渡るべきではない。

「えっ。それって」

私の発言を拒絶されたと思ったのか、桜は今にも泣きそうな表情になった。

「あともう1つ、誕生日プレゼントがあるのを忘れてた」

私は鞄から封筒を取り出して桜に渡した。

「この家の合鍵だ」

「鍵?」

「それは私からじゃない。母から預かったものだ。桜ももう大人なんだから、と母が用意したんだ。これからは私だけじゃなく、母のこともガッカリさせないように気を付けてくれ。つまり」

私は桜から目を逸らし、できるだけ素っ気なく無感情を装いながら桜に伝えた。

「もうあの廊下を渡ってくる必要はない。用事があるときはちゃんと玄関から入ってこいということだ。わっバカ、やめろ」

私は飛びついてくる桜を支えきることができず、2人して床に倒れこんだ。



「こんにちは」

「清太。昨日は悪いね」

「いえ、吉乃さんが悪いわけではありませんから」

私は頭にできたコブをさすりながら返事した。
3月1日、私はいつも通り2つの弁当を持って吉乃さん宅を訪れた。

「桜は」

「それがねえ。あの子、お腹の調子が悪いから今日は学校休むって」

「あいつ」

昨晩、私の頭にコブを作った張本人は、ささやかな誕生パーティーの最中、チョコミントのアイスが食べられなくなった代わりにバニラのアイスをたくさん食べていた。
3月になったとはいえまだ十分寒いので、体調を崩すのも当然だ。

「それよりも桜から聞いたよ。清太、とうとう家の鍵、渡したそうじゃない」

「そういう風に表現することもできますね」

鍵を用意したのは母で、渡したのは私なのだから、母の存在が隠れてしまっているが吉乃さんの言っていることに間違いはない。

「桜に家の鍵を渡したからって、なにか大きな変化があるわけじゃないですよ」

はっきり言って、私の中での桜の評価は今までマイナスだ。
それを1回だけ、ゼロにリセットしてみてもいいかなと思ったのだ。
私のような人間にあれだけ素直に感情を伝えてくれているのだから、私なりに桜に報いてみようと思った。
だから私の桜に対する接し方は今後も変わらない。
桜の言動によって評価がプラスになるかもしれないし、今まで通りマイナスになるかもしれない。
それはすべて桜次第だ。

「ああ、そうだ。吉乃さん、廊下の風鈴、もう片付けちゃっても大丈夫ですよ」

「うん、分かった」

吉乃さんはそれだけですべて察したようだ。
今後、この家で鳴る風鈴の数が少し減ることになるだろう。

私は私の知っている桜になにも期待していない。
私が期待しているのは私の知らない桜に対してだ。
喫茶店で会ったときの桜、今まで私はあのような桜を見たことがなかった。
凛として言葉遣いもしっかりしていて、どこに出しても恥ずかしくない大人の女性だった。
社会に出て働くようになれば、私の前でもあのような振る舞いをしてくれるのだろうか。

「……それはそれで嫌だな」

桜なんかに負けてなるものか。
一人で勝手に闘志を燃やし、私は会社へと向かった。



問・2月。まったく風の通らないその場所に、女が風鈴を吊るしたのはいったいなんのため?


答・娘が危険な場所を通るのを音で察知するため。


おわり

クロオとアールでちくわさんの創りだすに魅了されて以来、滅多に拝むことのできないあなたの創りだす作品を読めることがまず幸せです。キャラが立っているとか点じゃなく線で繋がってるとか毎回同じことを言っている気がするけど、作品のどの点が優れているというより『あぁ、ちくわさんの作品だなぁ』って思える、そういうブレない何かがある気がします。あと、清ちゃん、どこかちくわさんっぽい。今度チョコミントアイスおごりますね。

これにて投稿を締め切ります!たくさんのご参加ありがとうございます(=◜o◝=)
投票会場設置はしばらくお待ちください。
やきにく(=◜o◝=)

参加者一覧 22人(クリックすると質問が絞れます)

全員
靴下(3)
とろたく(記憶喪失)(5良:1)
たけの子(5良:1)
シチテンバットー(5良:1)
ごがつあめ涼花(3)
耳たぶ犬(4良:2正:1)
「マクガフィン」(3良:1正:1)
きっとくりす(6良:2)
葛原(2良:1正:1)
リンギ(4良:2)
弥七(6良:1)
HIRO・θ・PEN(3)
えいみん(4良:2)
まりむう(5良:1)
特攻トマト(1)
M(3良:1)
こたこた2号(2良:1)
夜船(2良:1)
Hugo(2良:1)
みづ(2良:1)
ハシバミ(2良:2正:1)
ちくわさん(偽物)(2良:1)
こんばんは。こちらやきにく会場です。
お取り皿をどうぞ。タレはセルフサービスです。



というわけで
やきにくたべながら結果発表~(=◜o◝=)つ🍖✨




第19回創りだすにご参加・ご観戦くださった皆様、ありがとうございました!
今回は16名のシェフによる16作品が集まりました!シェフのみなさんありがとうございます。こちら労いのにくです。え?タレ?セルフサービスっていったでしょ。
こらこら、おさない。かけない。とまこまい。




ではまず、最難関要素賞の発表からまいりましょう。



●最難関要素賞●

今回、要素6つしかなかったから全部発表しちゃうね。


ホワイト要素(得票数0)

☃️❹『ほんのり香る』(リンギさん)
☃️❻『耳が遠い』(えいみんさん)

「五感要素面白いじゃん」って藤井が独断で選んだ2つの要素。こちらはシェフを苦しめることはなかったようです。
ホワイトリンギさんとホワイトえいみんさんに感謝しようね。


第2位(1票獲得)

🥈❸『20年前に戻る』(きっとくりすさん)

これはもっと票入ると思ってました。20年前、難しくないですか?ちなみに乱数くんが選んでくれた要素です。
どうやらシチテンさんが大いに苦しめられた模様。


あれ?第2位の時点で要素が6つ中3つ。
ということは……?




第1位(5票獲得)

🥇❶『通常よりも一オクターブ高い』(耳たぶ犬さん)
🥇❷『「もう一度だけ許す」ということは出来ない』(「マクガフィン」さん)
🥇❺『傘が開かない』(葛原さん)


そうです。まさかの3要素が同率一位!(第8回デジャブ)

❶『通常よりも一オクターブ高い』
……個人的最難関要素はこれかなと思いました。一オクターブってけっこう高いよ。この要素を見たとき、合唱でオク上(ユニゾン)歌うっていうのを思い描いたんですが、誰とも被らなかったですね。某創りだす芸人TろTく氏はこの要素こそが最難関に違いない、一億耳たぶ賭ける、とおっしゃっていました。耳たぶ犬さんはこれを機に億たぶ犬に改名してもいいし、しなくてもいい。

❷『「もう一度だけ許す」ということは出来ない』
……らてらて創りだす史上初?(ラテシンは未確認)の、NO良質要素でした。わかりやすく『二度と許せない』にしたらよかったんですが、マクガフィンさんが投げてくださった質問が『もう一度だけなら許せますか?』だったので、その原文をできるだけ残す形で要素化しました。思いつきで入れたNO良質でしたが、個人的には今後も軽率に導入してほしい。YES良質よりもインパクトありますよね。

❺『傘が開かない』
……傘壊れとるやないかーいwwという要素でした。純粋に雨傘として扱う方もいれば、比喩表現として扱う方もいましたね。恐らく『傘が重要』だったらいくらでも差し込みようがあったのでしょうが、『開かない』という状況が指定されてしまっていることにより難易度が上がったのかもしれません。というか、これNO良質でも面白かったかもしれないですね。『傘が開きませんか?→NO!傘は開きます!(良質)』みたいな。うーん、創りだす、まだまだ遊べる。

というわけで、むずかし要素を投稿してくださった
耳(億)たぶ犬さん
「マクガフィン」さん
葛原さん
ありがとうございます。そしておめでとうございます!にく、どうぞ。どんどん、どうぞ。
え?やさい?ないです。




それでは投稿作品の結果発表へ移ります!






●最優秀作品賞●


今回、大混戦!いきますよー。




第3位(3票獲得)


🥉⑤『2月2日日曜日のLTW特別興行』(作・シチテンバットー)
🥉⑧『魔除けの風鈴(?)』(作・えいみん)
🥉⑬『Japanese Girl、オーストラリアで縁日をする』(作・まりむう)
🥉⑮『盗み食い攻防戦』(作・きっとくりす)


こちらの4作品がランクインしました!
みなさんの投票コメントを見ていきましょう。


◆2月2日日曜日のLTW特別興行/シチテンバットー◆
▶️《とにかく勢いで笑わせられる作品です。めちゃくちゃ好き。 from.Hugo》
▶️《ほぼ全部がセリフでできていることでサクサク読めました。 from.まりむう》
▶️《速度感・文体・作り込みのどれにおいても、どの作品とも異なる光り方で輝いていました。シェフが創りだしたいと思っているものを創りだした、その気持ちがスープからよく伝わってきて、私の唯一の票を進呈したくなりました。 from.HIRO・θ・PEN》

◆魔除けの風鈴(?)/えいみん◆
▶️《「1オクターブは高い声で絶叫していた」ってのが個人的にツボにはまったので。 from.耳たぶ犬》
▶️《風の通らない場所に吊るす理由として、近所迷惑というのは面白いと思いました。 from.ハシバミ》
▶️《謎に対する解答も納得度があるのもですが、ほのぼの日常系のストーリーが俺好みでした。 from.シチテンバットー》

◆Japanese Girl、オーストラリアで縁日をする/まりむう◆
▶️《文の長さ、セリフと状況説明のバランスの良さ、そして肝心の問題文への問いも、全てが高い質を保ち続けた良作だと思います。 from.キャノー》
▶️《南半球で風鈴を鳴らす理由がとても自然で、このトリックの使い方がうまいなーと思いました。  from.M》
▶️《二月を南半球の夏として季節に合ったものにしたのはとても面白く、納得度も高かったです。 from.ハシバミ》

◆盗み食い攻防戦/きっとくりす◆
▶️《1番「ウミガメのスープ」だったのはこちらの物語だったように感じます。 「質問する前に解説見ちゃった!」感が強いというか。 from.こたこた2号》
▶️《オクターブの要素を冷蔵庫のピー音で回収してるのが納得です。 from.リンギ》
▶️《日常の光景をうまく切り取っていて、納得感もあり、実際にウミガメとして出題されたら絶対に楽しいだろうと思いました。  from.M》


勢いと熱量とプロレス愛のシチテンさん。
東京都環境局の基準がいささか厳しいえいみんさん。
ビバ南半球のまりむうさん。
お腹壊さないか心配なおじいちゃん。じゃない、きっとくりすさん。

おめでとうございます!!にく、どぞ!(=◜o◝=)つ🍖






第2位(5票獲得)


🥈③『深海から遠い夏まで』(作・耳たぶ犬)
🥈⑫『2月であることは重要ですか?』(作・とろたく(記憶喪失))


3位作品から2票差をつけてこちらの2作品がランクイン!


◆深海から遠い夏まで/耳たぶ犬◆
▶️《解釈の点でこれ以上は叩きだせない。少なくとも自分には無理だった。これの焼き回しはできても、これを超える発想は無理と悟りました。 from.ラピ丸》
▶️《タイトル・要約から魅力的。もちろん本編も読んだが、要約はこの作品が1番興味深かった。 from.みづ》
▶️《風ではなく揺れによって風鈴を鳴らすというのに、ちょっと「おっ」と思いました。いやはや、これはすごい。一票投じます。 from.とろたく》
▶️《風鈴の必然性も さることながら「まったく風の通らないその場所」への解答として「閉鎖空間」は特に納得度が高かったと思います from.バタルン星人》
▶️《シチュエーションがユニークでまさに冒険の世界を楽しませてくれました。 from.まりむう》

◆2月であることは重要ですか?/とろたく(記憶喪失)◆
▶️《耳が遠いという要素があったので、そちらにばかり気を取られてしまっている間に、目が不自由という発想をしているとろたくさんはぶっ飛んでいるし純粋に凄いと思った。 from.みづ》
▶️《イツモオウエンシテマスダイスキデスコンカイモトテモオモシロカッタデス(早口) from.Hugo》
▶️《前の問題を参考にして解説作るの私にはできない! from.耳たぶ犬》
▶️《問題文の2月から、去年2月の創りだす(しかもこの時も藤井さん!)とつなげるのよいなと思いました。 from.きっとくりす》


耳たぶ犬さんの作品は問題文に対する解説、解釈がピカイチとの声が多数。
そしてとろたくさんは一年前の創りだすを引用して今作を書き上げるという遊び心(というかエモ心?)を見せてくださいました。
堂々の第二位、おめでとうございます!
ちょっといいにく、どぞ(=◜o◝=)つ🍖✨





第19回創りだすは『一人につき1作品のみ』というルールを導入しました。
したがって、同率一位にならない限りは、自動的に最優秀作品賞=シェチュ王となります。

そして今回の激戦を勝ち抜いたのは、たった1作品!


発表します。



ごくり。





(=◜o◝=)・・・






第1位は……こちら!










" ――風鈴に願うのはね、自然に鳴ったときじゃないといけないよ。 "








🥇⑪『風吹かば』(作・ハシバミさん)




ついに!!創りだす常連のハシバミさんが優勝!!!✨(=◜o◝=)✨
では、みなさんからのコメントを見ていきましょう!


▶️《風が2度と吹かない状況下で体験した主人公の「詰み」感はこの16作品中随一と言っても過言ではないでしょう。 from.弥七》
▶️《圧倒的な完成度に複数票を投じます! 要素②の使い方が秀逸で恐ろしくて…あれ、この鳥肌はどっちの鳥肌かな…両方かも… from.こたこた2号》
▶️《なんだか全部がしっくりきました。 from.きっとくりす》
▶️《今回の創りだすでは、個人的にストーリーNo.1です。(中略) 謎への解答もちゃんと納得度の高いものを用意してたのが高得点です。要素②での締めもグッド。 from.シチテンバットー》
▶️《非現実要素がありつつ、その心理も論理にも納得ができることはすごい手腕でしょう。(中略) あと、優勝予想もこれですね。いやこれ賭けてもいい。ビビっときたもん。ついに念願のハシバミさん優勝ですよこれ。(中略) あと断言したい、ハシバミさんは、今回優勝する。絶対する。あとツイッターで言ってたラピ丸さんと藤井さんが圧倒された作品もこれなんじゃないかと予想します。そのぐらい今回ハシバミさんの作品はすごかったと思います。 from.とろたく》→どんだけ優勝予想すんねん。いや、当たってるけど。ちなみに藤井の圧倒された作品も当たり。ラピ丸さんの方は億たぶ犬さん作品でした。



ハシバミさんご自身の『簡易解説義務付け、少なめの要素数ということで、より解説として納得できるものを、と意識して創り出したつもりです。』というお言葉どおり、非常に洗練された見事な作品でした。
私は主催者という立場でフラットな目線で作品を拝読しておりましたが、この作品を読んで、最後の最後で思わず「すごい」と呟いてしまいました。そのくらい圧倒された解説です。要素②の回収法としてこれ以上のものはないとさえ思ってしまうほど、ピースがはまるべき場所にはまったというような感覚。鳥肌が立ちました。



ハシバミさん、おめでとうございます!
すごくいいにく、どぞ(=◜o◝=)つ✨🍖✨
たくさん、どぞ(=◜o◝=)つ✨🍖✨🍖✨🍖✨
やさい?ないです。




というわけで、第19回正解を創りだすウミガメの[最優秀作品賞]ならびに[シェチュ王]に輝かれましたのは……


👑ハシバミさん👑


です!おめでとうございます(◉◉)ノノ゙☆パチパチ



ハシバミさん主催の創りだすが!ついに!やってくる!
第20回創りだす、よろしくおねがいします!
(=◜o◝=)つ🍖

まちがえた
(=◜o◝=)つ👑







以上をもちまして、結果発表を終わります!



このあともゆっくりとやきにくをお楽しみください。
タレはセルフサービスです。

やさい?

ないです。



ありがとうございました!!
✨🍖ヾ(=◜o◝=)ノ🍖✨
20年01月12日 21:01 [藤井]
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
藤井
いそいそ。静まり返ったやきにく会場にてこんばんは。改めて、第19回創りだすにご参加いただきありがとうございました!新ルールを導入し、サブ投票やコインを無しとするなど、自分の思いやリアル事情を優先した形での開催となり、いつものようなお祭り感は希薄になってしまったかもしれません。それでも私はすごく楽しませていただいて、自分の主催した創りだすに悔いはないと思える、それがとても幸せです。要素投稿、作品投稿、投票、観戦してくださった皆様に心から感謝!そしてシェチュ王のハシバミさんに盛大な拍手!✨ 結果発表では『ひとつの作品に対する複数人のコメントを並べたら評価ポイントがより見やすく面白いんじゃないか』ということで、これまた思いつきで差し込んでみました。その結果やたらと文字の多い結果発表になってしまった…(^p^)熱いコメントの数々にももっと光が当たればいいな、と思ったのでした。 とにかく楽しかったです!企画完遂、ありがとうございました!(*˘ω˘)♥️[編集済] [20年01月30日 04:32]
4
とろたく(記憶喪失)
わああい!! ハシバミさん優勝!! CKPの時から大好きでした!!!! おめでとうございます!!!!! みなさんも藤井さんもお疲れ様です!!! ちょっといいにくもありがとう。オクターブ犬さんといっしょにたべます。 2位ありがとうございます! すんごい楽しかったです![20年01月29日 23:55]
弥七
司会進行&出題おつかれさまでした!!今回も非常に楽しかったです!!><優勝したハシバミさんおめでとうございます🎉牛タン食べたい(OvO)♪[20年01月29日 23:20]
バタルン星人
藤井さん開催進行やきにくお疲れ様でした! ハシバミさんシェチュ王おめでとうございます![20年01月29日 22:00]
シチテンバットー[1問正解]
藤井さん、主催お疲れさまでした。ハシバミさん、シュチュ王オメです。今回も投票しなかったものでも光る作品が多く、中々に面白かったです。[20年01月29日 22:00]
みづ
藤井さんありがとうございました!やきにくやきにく(^q^)ハシバミさんおめでとうございます!めで鯛✨どの作品も面白かったですありがとうございました![20年01月29日 21:50]
ハシバミ
う、わ、あああありがとうございます! 感想も嬉しいお言葉ばかりで、本当にありがとうございます。そうか、次回で第20回なんですね……プレッシャーががが。一番の懸念材料が感想を言語化するのが苦手、ということなので淡白な運営になるやもしれませんが……頂いたお肉、じゃなかった王冠を汚さぬよう精一杯務めさせていただきます! 改めて、拙作に投票・感想くださった皆様、ありがとうございました。藤井さん、主催お疲れ様でした。皆様、次回もどうぞよろしくお願いいたします。[20年01月29日 21:44]
3
リンギ
ハシバミさんおめでとうございます!藤井さん主催お疲れ様でした。[20年01月29日 21:36]
まりむう
ハシバミさんおめでとうございます。藤井さんありがとうございました。[20年01月29日 21:19]
M[はらこめし]
出題お疲れさまでした!ハシバミさんシェチュ王おめでとうございます![20年01月29日 21:19]
きっとくりす
藤井さん主催ありがとうございました!ハシバミさんおめでとうございます!!!!!![20年01月29日 21:07]
1
藤井
とろたくさん、まりむうさん、きっとくりすさん、弥七さん、フェイクちくわさん、ご投稿ありがとうございます!これにて投稿フェーズ終了とさせていただきます。投票会場が設置され次第、投票フェーズ開始となります。今しばらくお待ちください![編集済] [20年01月23日 04:23]
ちくわさん(偽物)
悪あがきしました。[20年01月23日 00:04]
弥七
投稿しました!^ ^[20年01月22日 23:56]
きっとくりす
間に合いましたー。[20年01月22日 23:54]
とろたく(記憶喪失)
どちらかというとファンレターを投稿しました。文字数はみじかめの2020字です。[20年01月22日 16:51]
藤井
シチテンさん、夜船さん、Hugoさん、えいみんさん、Mさん、みづさん、ハシバミさん、ご投稿ありがとうございます!順にじっくり読ませていただいてます。シチテンさん長い(…)[20年01月21日 05:25]
ハシバミ
投稿しました![20年01月20日 17:39]
みづ
参加します、からの投稿しました:( ;˙꒳˙;):[20年01月19日 00:40]
M[はらこめし]
投稿しました。(個性0の報告)[20年01月18日 15:52]
えいみん
なんとか投稿できました(`・∀・´)[20年01月18日 12:56]
Hugo
投稿できて幸せですっ!ハアアアアアアアン(洗脳)[20年01月18日 03:06]
夜船
あ、どうも。前回出てませんでしたし、相変わらず質問し逃してますけど投稿します。幸せって何でしょうね。[20年01月18日 00:07]
シチテンバットー[1問正解]
投下しましたる[20年01月17日 20:42]
藤井
こたこた2号さん、ご投稿ありがとうございます!これまたおもしろい発想ですね。要素⑥の使い方が特に気に入りました。[20年01月16日 13:59]
こたこた2号
飛び入り参加失礼しても大丈夫でしょうか…?[20年01月15日 23:04]
藤井
お、巷で噂のつくりだす犬だ。よしよし。いいこだ、えさをやらう。 Twitterで宣伝はしてたもののたぶちゃんの創りだす作品が見れるなんて思ってなくて、すげー嬉しいのでドッグフード食べます。[20年01月15日 02:09]
耳たぶ犬
わん[20年01月14日 22:27]
3
藤井
きの子さん、リンギさん、早々のご投稿ありがとうございます!風鈴を吊るし楽器として演奏するお話と、楽器を演奏する際の目印として風鈴を吊るすお話。この並びがなんだか面白いですね。[20年01月14日 14:12]
リンギ
投稿させていただきました。ご査収ください。[20年01月13日 22:44]
たけの子
|ω・) 投稿させていただきました… |彡サッ![20年01月13日 15:21]
藤井
思いつきでNO良質取り入れてみました。今回、【投稿は1人1作のみ】です!みなさんよろしくどうぞ~(=◜o◝=)🍖[20年01月13日 00:10]
2
きっとくりす
良質ノーおもしろそうです![20年01月12日 23:25]
4
M[はらこめし]
参加します[20年01月12日 22:06]
マトリ
観賞します![20年01月12日 21:54]
まりむう
参加します。[20年01月12日 21:51]
HIRO・θ・PEN
・θ・[20年01月12日 21:48]
2
えいみん
参加...するかもしれない...しないかもしれない(`・ω・´)[20年01月12日 21:45]
藤井
(※無効質問が1つあるので、質問数41で締め切ります!)[20年01月12日 21:42]
リンギ
質問させていただきます。参加は様子見で・・・[20年01月12日 21:30]
葛原
たぶん質問だけ〜。参加します。[20年01月12日 21:29]
1
弥七
もう、おちゃめさんなんだから...><笑[20年01月12日 21:28]
2
きっとくりす
ごめんなさい質問しすぎました><[20年01月12日 21:28]
2
「マクガフィン」[◇おぶざまんす!◇]
要素だけ参加させてください![20年01月12日 21:18]
3
きっとくりす
参加します。[20年01月12日 21:13]
耳たぶ犬
参加できたらします。[20年01月12日 21:07]
ごがつあめ涼花[★歴史の1ページ]
質問、参加します[20年01月12日 21:06]
3
とろたく(記憶喪失)
お邪魔します! はてさてどんな創りだすが見られるかな。[20年01月12日 21:03]
弥七
参加します!^ ^質問は3回ですね!わかりました><[20年01月12日 21:03]
4
シチテンバットー[1問正解]
参加しまする。[20年01月12日 21:03]
たけの子
参加させていただきます![20年01月12日 21:02]
藤井
創りだすのじかんです。みなさんよろしくどうぞ~(=◜o◝=)✨[20年01月12日 21:02]
靴下[バッジメイカー]
参加しますやきにく![20年01月12日 21:01]
■■問題文■■

2月。
まったく風の通らないその場所に、女が風鈴を吊るしたのは

いったいなんのため?


■■要素一覧 ■■

①通常より一オクターブ高い
②『もう一度だけ許す』ということは出来ない
③20年前に戻る
④ほんのり香る
⑤傘が開かない
⑥耳が遠い


■■ タイムテーブル ■■

☆要素募集フェーズ
 1/12(日)21:00~質問数が40個に達するまで

☆投稿フェーズ
 要素選定後~1/22(水)23:59まで

☆投票フェーズ
 投票会場設置後~1/28(火)23:59まで ※予定

☆結果発表
 1/29(水)21:00 ※予定
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ブックマーク(ブクマ)って?
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。

Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。

ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!
ブクマ:11