ヘッドホンを耳に当てると、男はふと学生時代を懐かしんだ。
そして、昔に読んでいた本の1ページだけを破り取った。
どういうことだろう?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※某お笑いコンビとはなんら関係はございません。
やってまいりました、第16回目。前回はコチラ:https://late-late.jp/mondai/show/7696
最近一気に肌寒くなりました。温度差の風邪には気を付けてくださいね。
ちなみに私は風邪ひいて一夜限りのハスキーボイスを手に入れました。喉だけど。
そして、アンケートhttps://late-late.jp/enquete/show/108のご協力もありがとうございました。参考になる意見ばかりで、今回いくつか改変しながら採用させていただいてます。
そんなわけで、投稿も投票も、特殊ルールや追加要素にはお気をつけて。
では、いつものやつどうぞ。
■■ 1・要素募集フェーズ ■■
[10/17(木)21:00頃~質問が50個集まるまで]
まず、正解を創り出すカギとなる質問をして頂きます。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
2.皆様から寄せられた質問の数が”50”に達すると締め切りです。
選出は全てランダムです。相変わらずある程度の矛盾要素もOKとします。
選ばれた質問には「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
なお某寿司は書かない場合がありますのでご注意ください。良質はつけますのでそれで判断してください。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。すべては乱数の匙加減に託しましょう。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
■■ 2・投稿フェーズ ■■
[要素選定後~10/27(日)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
また、こちらにもちょっとした追加要素を入れます。ヒント欄にて発表いたします。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。タイトルは作品フェーズが終わり次第返信させていただきます。
4.次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。
つけ忘れていた場合は、お手数ですが適当な文字を入力した後に質問の編集画面に飛び、作品をコピペしてください。
5.本文の末尾に、おわり完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
■■ 3・投票フェーズ ■■
[投票会場設置後~11/2(土)23:59]
※作品数多数の場合、期間を延長する場合もございますのでご了承ください。
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
10/17(日)21:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~10/27(日)23:59まで
◯投票フェーズ
投票会場設置後~11/2(土)23:59まで ※予定
◯結果発表
11/3(日)22:00 ※予定
■■ お願い ■■
要素募集フェーズに参加した方は、できる限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
質問だけならお手軽気軽、でもメインはあくまで投稿・投票。
投稿は意外と何とかなるし、投票もフィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!
もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
「ちょいと待ちなよとろたくチャン。今回の要素の個数がないぜ。まさか0個かい?」
いえいえモヒカンのおにいさん、ちゃんと今回も数を設定しています。
ただし、今回に限り要素数は非公開のままスタートさせていただきます。
もちろん要素選定が完了次第お知らせいたしますのでご安心ください。
それでは、『要素募集フェーズ』スタートでございます。
質問は1人4回まで。それではレディ~~~~~~~、GO!!
結果発表です! さあ、栄えある第16回のシェチュ王は・・・?
「5個から15個」です。
選ばれた要素を「少なくとも5個」使用してください。
ただし、「要素数×200字」以内に文字数を収めてください。
15個の場合は例外として文字数無制限です。
それでは、要素発表しますのでもうしばらくお待ちを・・・
そして、もうひとつ追加要素を入れます。
タイトルに「投票対象外」である旨のコメントをつけていただくと、その作品を投票対象外に設定することができます。
使用例:【投票対象外】仮面ファイターポラリス・NGシーン集
もちろんこれは任意ですので、10作品出して10作品とも投票対象にしても構いません。
また、1作品だけ書いて投票対象外にしても、期間内投稿ですので投票権を3票獲得することが可能です。
もしよろしければ、こちらもご活用くださいませ。
なお、新ルールと追加要素について、まとメモにものちほど出させていただきますので是非ご活用ください。[編集済]
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*本文の末尾に、【おわり】【完】など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【10/27(日) 23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ!
今日は待ちに待った成人式。噓です。
はっきり言って億劫です。
なんで好き好んであいつらに会いに行かなけりゃあかんのや?
そもそもなんでこんな時期にやるんだ。
冬だよ?冬。
寒い時期なんだよ?
いくら振袖とかスーツとかが暖かいとはいえ それでもこんな山奥じゃあ寒いんだよ?
冷え性がつらい私はホッカイロ必須なのに、スーツだと目立っちゃうからつけられないし。
風邪気味だから若干ハスキーぎみになっちゃっててこんな声でみんなに会いたくないなあ。
そもそも普通の声でも”あいつら”には会いたくないわけなんだけども。
スーツなので勿論自転車では迎えない。
なのに、まだ免許が取れていないので、親の車で向かわざるを得ない。
過保護な親なので少し恥ずかしい。
冷え性な私を気遣って耳当てをつけてくれた。
恥ずかしいことに変わりはないが正直言って吹っ切れた。
もうなるようになれ。そう思いながら、私を気遣う親に照れ隠しの噓をつく。
この親とはいろいろあった。
若い頃、と言っても中学の頃、仮面ライダーに出ていた売れない芸人にあこがれて、
お笑い芸人の学校に入ろうとしたことがあった。
その時にはひどく喧嘩したっけ。ブチ切れた親父にリモコン投げつけられて怪我したこともあったな。
あの後なかの電池がどっか行っちゃって困ったっけ。
いつもの朝ご飯はご飯派の親だったのに、その日から自分にだけパンになったっけな。
結局諦めて普通の高校に入ったわけなんだけども。
そこでみんなと離れてしまったのは少し悲しかったな。
元気にしてるかな。当時一緒に芸人の夢を追いかけていた相方の山崎。
その頃はまだ携帯とか持ってなかったから連絡手段も手紙ぐらいしかなかったから。
声だけでも聞けるといいなあ
雪の積もった地面にガタガタとタイヤの音が鳴り響く。
雪の降り積もった地面は道路の幅を狭め、
安全運転を心掛ける運転者の手によってその車の動きは非常にゆっくりなものとなっていた。
そうやってゆっくり目的地に向かう道中は嫌な思い出も心を覆う。
行きたくないという気持ちに沈んでいく。
そう。”あいつら”だ。自分に付きまとってきたやつら名前を口に出すのも嫌になる。
ひたすらに地味に干渉してくるのだ。
ゲーム、マインスイーパーをやっていたら勝手に画面を触られて爆発させられた。
パソコンの時間に自分の使うパソコンのお気に入りフォルダに変なサイトを混ぜ込み、
それをあたかも私がいれたかのように言いふらした。
重要書類のハンコを押すときに限って机にぶつかってきたりもした。
はっきり言おう。あいつらがいるだけで、この同窓会への参加意欲は一気に薄れる。
でも、先生に会いたいから。だから私はあそこへ向かう。
私を闇から救ってくれた先生に会うために。
今日は待ちに待った成人式。
私のかわいい弟子たちの門出の日。
私も当時は嫌だったっけな。
そんなことを思い返しながらヘッドホンを外す。
校歌なんてさすがに覚えていないからね。
でも歌えた方がかっこいいじゃあないか。
覚え直そうとしていたことは内緒だよ?
だってそんなのカッコ悪いじゃあないか。
でもちょっと不安だ。
そうやって彼は昔の学生証の歌詞の書かれたページを破く。
そのページを握り締め彼は歩き出す。
「やあお前ら、久しぶりだな!」
物語としてはここで終了。物語としては、、、ね?
[編集済]
わかるーと思いながら読ませていただきました。
あんまりいい学生時代とはいえないんだけれど、全部が悪かったってわけじゃなくて。同窓会なんてあんまり気乗りしないんだけれど、あの人に久しぶりに会えるならいいかもな。まさに自分もそんな感じで同窓会に行った覚えがあります。破ったページも、本当にそんな学生時代を想起させるもので、そんな個人的には一言で言い表せない、不思議なノスタルジックな気分になりました。好きです。
男がヘッドフォン越しに聴いていたのは、学生時代に所属していた演劇部の作品の録画。
というのも、明日は演劇部の皆で飲み会を開くのだ。久しぶりに押し入れから資料を漁ってきて、明日の話の種にでもしよう。そう思いながら懐かしさに浸っていた。
今、視聴している作品は男の中でも特にお気に入り⑮だった。男が初めて台本を考えたもので、なんとそれが大会で優秀賞を受賞した。録画ビデオテープと一緒に、優秀賞の判子付きの⑩表彰状も見つかり、部長や同輩後輩と手を取り合って喜んだことを思い出したのである。
暫くして脚本も見つかったのだが、ここで男はあることを思いついた。 実は男が初めて書いた脚本は、推理小説のような演劇。それも、演出を意識したもので、解決パートの部分はかなり狭い⑥スペースに収まっている。確認してみると、ほんの1ページ。
明日の飲み会で、皆を試してみようかな…。
男は脚本の解決パートを破り、脚本だけをリュックにしまう。
つまり、男は明日、部員仲間にクイズを出すのだ。解決部分だけ破れてた、等と嘘をつき④、その推理小説脚本を皆に見せる。
果たして皆は、10年以上も前の記憶を頼りに、闇に包まれた⑪真相を解き明かすことが出来るのか…。
おわり。(総字数505字。)
[編集済]
これ出題しませんか?(割とマジで)
まさかこんなにはやい段階で最適解を生み出すとは……私も演劇部で脚本を書いてた経験がありまして、途中までじっくり書いといて最後駆け足~っていうのに共感しつつ、でもそれを逆手に取ってクイズにしちゃう水平思考……面白いです。こういうのが見たかったどころじゃなく、個人的にはもうこれが正解じゃん! と思うほどでした。おみそれしました。これ出題しませんか?(しつこい)
司会者「ヘッドホンを耳に当てると、男はふと学生時代を懐かしんだ。
そして、昔に読んでいた本の1ページだけを破り取った。
どういうことだろう?
次の内からお選びください。
①お笑い芸人は関係するから
②マインスイーパーを爆発させる為
③リモコンがどこかに行ってしまったから
④嘘は関係あるから
⑤冷え性がつらいから
⑥かなり狭いから
⑦ハスキーボイスだから
⑧自転車では向かえないから
⑨心を救うから
⑩判子を押すから
⑪闇に包まれるから
⑫同じ過ちを繰り返すから
⑬遅すぎるから
⑭朝はご飯派だから
⑮お気に入りだから
⑯物まねの審査員をしていたら、観覧に来ていた娘が初恋の相手に似ていたのでナンパしようと、台本に電話番号を書いてADを通じて渡す為」
ピンポーン!
回答者「⑯番!!」
ブー!
司会者「問題は最後まで聞きましょう。
正解は⑰番の
プロ野球選手になった息子の活躍をラジオで聞きながら、一緒に練習した日々を思い出しながら、息子の活躍が載ったムック本の記事をスクラップブックに貼るためでした。」
おしまい。
[編集済]
びっくりした。でもそうそう、こういうのが見たかったんですよ。まさに発想の勝利的な奴。
こういうやり方はどのお題にも使えてしまうので一度やってしまうとやりづらくなってしまうんですけど、それでもやっぱり「やられた!」と思わざるを得ませんでした。さすがtsunaさん、私たちにはできないことを平然とやってのける。まあでも、もうこんなギリギリの技を使うことはできな……
司会者「ヘッドホンを耳に当てると、男はふと学生時代を懐かしんだ。
そして、昔に読んでいた本の1ページだけを破り取った。
どういうことだろう?
次の内からお選びください。
①お笑い芸人は関係するから
②マインスイーパーを爆発させる為
③リモコンがどこかに行ってしまったから
④嘘は関係あるから
⑤冷え性がつらいから
⑥かなり狭いから
⑦ハスキーボイスだから
⑧自転車では向かえないから
⑨心を救うから
⑩判子を押すから
⑪闇に包まれるから
⑫同じ過ちを繰り返すから
⑬遅すぎるから
⑭朝はご飯派だから
⑮お気に入りだから
⑯物まねの審査員をしていたら、観覧に来ていた娘が初恋の相手に似ていたのでナンパしようと、台本に電話番号を書いてADを通じて渡す為」
⑰プロ野球選手になった息子の活躍をラジオで聞きながら、一緒に練習した日々を思い出しながら、息子の活躍が載ったムック本の記事をスクラップブックに貼るため
ピンポーン!
回答者「⑰番!!」
ブー!
司会者「問題は最後まで聞きましょう。
・・・という問題文にある、リモコンの正式名称は何?
という問題で、正解はリモートコントローラーでした。」
おしまい。
[編集済]
地味に趣向を変えてきた。でもそうそう、こういうのが見たかったんですよ。要素で地味な伏線をはってくる奴。こういうやり方はどのお題にもいえることですが難しいんですよね。それを一見意味のなさそうな要素に見せかけてちゃっかり重要な答えを導くための要素に仕立てるというのは離れ業です。そこにシビれる。まあでも、この後のひっかけの展開を考えることはもうできな……
司会者「ヘッドホンを耳に当てると、男はふと学生時代を懐かしんだ。
そして、昔に読んでいた本の1ページだけを破り取った。
どういうことだろう?
次の内からお選びください。
①お笑い芸人は関係するから
②マインスイーパーを爆発させる為
③リモコンがどこかに行ってしまったから
④嘘は関係あるから
⑤冷え性がつらいから
⑥かなり狭いから
⑦ハスキーボイスだから
⑧自転車では向かえないから
⑨心を救うから
⑩判子を押すから
⑪闇に包まれるから
⑫同じ過ちを繰り返すから
⑬遅すぎるから
⑭朝はご飯派だから
⑮お気に入りだから
⑯物まねの審査員をしていたら、観覧に来ていた娘が初恋の相手に似ていたのでナンパしようと、台本に電話番号を書いてADを通じて渡す為」
⑰プロ野球選手になった息子の活躍をラジオで聞きながら、一緒に練習した日々を思い出しながら、息子の活躍が載ったムック本の記事をスクラップブックに貼るため
という問題文にある、リモコンの正式名称は何?
という問題で、正解はリモートコントローラーでした。
と発言しましたが、
正しくは、リモートコントローラー、又はリモートコントロールでした。
お詫びして訂正いたします。」
おしまい。
[編集済]
読む側をひっかけてきた。でもそうそう、こういうのが見たかったんですよ。その1その2と流れを作っておいて、その流れからはみ出さずに新たなアプローチを加えてくる奴。ちょっと自分でも何言ってるかわからなくなってきましたが、私としてはこの裏切り方はすごく好きだなと思いました。最初にギリギリと言いましたが、もうそれすらを逆手に取ってくる。3つに分かれてこそいますが、この3つ全体がひとつの作品。ちゃんとしたひっかけ3部作。純粋にこういう発想がほしい人生です。あこがれる。
朔太郎はヘッドホンを耳に当てた。
流れてくるのは、あるお笑い芸人①のネタだ。
関西弁でまくし立てる男の声。
あの日、まだ小学生だった俺は腹を抱えて笑っていた。
面白かったし、楽しかったな…。
マインスイーパーが爆発する②までは。
~~~~~
「リモコン、リモコン。どこ行ったー③?」
さくたろー、さくちゃん、さく!
ヘッドホンを外し、「なに?」と言うと軽く頭を叩かれた。
「またリモコン隠したでしょ」
「知らない④」
「嘘だね。鼻の穴ピクピクしてる」
「…だって、姉ちゃんクーラーつけるだろ」
俺は冷え性に苦しんでいる⑤のに、姉は暑がり。
差別とか偏見じゃないけど、普通逆じゃね?
「こんな狭い⑥ワンルームに2人住んでるのが暑苦しいのよ」
普段よりワントーン下げたハスキーな声⑦が続ける。
居候はどっち?
ボクです。
朔太郎は隠していたリモコンを差し出し、姉の百合子に渡した。
百合子は一人暮らしで車を持っている。
未成年である朔太郎は、愛(自転)車を百合子の車に押し込み、家出をしたのだ。
自転車では向かえない⑧くらい遠く、見知らぬ土地。
百合子は朔太郎の家出の理由を聞かなかった。
あの時、朔太郎の心を救ってくれた⑨のは間違いなく百合子だ。
「あ、そうだ。あんた判子持ってる?」
「持ってない。何で」
「まぁ、苗字一緒なんだし…あたしのでいっか」
百合子は判子を取り出した。
とんとん、はぁ~、グリグリ⑩。
よっし!完璧。
「…何これ」
「あんた、行きたいんでしょ?お笑いの養成所」
すうっと身体中から血の気が引き、一瞬目の前が暗闇に包まれた⑪。
「で、申込書には判子が必要。あと、あんた未成年者だから保護者のサイン。写真、それと…」
正直、百合子の声はほとんど耳に入っていなかった。
何で、姉ちゃんも母ちゃんも平気な顔してられるんだ?
お笑いが大好きで、あんなに仲の良かった家族は、今やバラバラになっているというのに。
朔太郎はヘッドホンを耳に当てる。 流れてくるのは、あるお笑い芸人のネタだ。
関西弁でまくし立てる男の声。
途中で噛む。
男は同じ場面で、同じ過ちを繰り返す⑫。
それは朔太郎が、この漫才を何度も何度も聞き直しているから。
なんでやねん。マインスイーパーびゃくはちゅさせりゅ
「なぁ、姉ちゃんは何とも思わないのかよ!親父が死んだのは、この漫才のせいだろ?」
朔太郎は使い古したカバンを漁り、ボロボロになったネタ帳から1ページ破り取った。
まだ小学生だった頃にたった1度だけ読んだネタ帳。
10年前…現在18歳である朔太郎にとっては遥か昔のことだ。
その後、ずっとしまい込んでいた忌まわしい遺品。
「あ、お父さん生きてるよ」
「…へ?」
「お父さんは、生きております」
「おい、ふざけんなよ。葬式しただろうが!」
「だから、あれネタじゃん?」
あー、やっぱ誤解してたのかぁ。
百合子はポリポリと頭をかきながら、何から説明したもんか…とブツブツ言っている。
朔太郎の父は、お笑い芸人だった。
しかし、一生に一度しか立てないというくらいの大舞台で噛むという大失態を犯し、テレビから姿を消した。
「まずソコから間違い。あんたがショック受けて観たがらなかっただけで、お父さん普通にテレビ出てたし」
「でも、葬式で…自殺したって母ちゃん泣いてただろ!」
「あれは趣味悪いとあたしも思ったけどさ」
百合子の話をまとめると、噛んでスベったから消えたとかではなく、逆にそこそこ売れっ子になれたらしい。
しかも、芸人を辞めて新たな道を歩みたいと言い出したのは親父の方だった。
『ボク、オリンピックに出たいんです』
なんでやねん!
「え、アホなん?いや、そもそも遅すぎ⑬やろ!」
思わず関西弁が出てしまい、朔太郎はフンッと目を逸らした。
「で、どうやら本気だったらしくて。辞表出してホントに辞めちゃったのね。でもそこそこ売れてたから、コンチクショウ何考えとんねん!と皆様が盛大な『葬式』を開いて送り出したって訳」
お笑い芸人って意味わかんない、と百合子はベッドにダイブした。
「お母さんも、お母さん。お世話になったのにアホが申し訳ないって葬式ネタにOK出してさ。ガチ泣きで自殺しただの、あの時噛まなければ…だのノリノリ」
マジかよ、とちゃぶ台に突っ伏した。
当時8歳だった朔太郎が、ニセ葬式と気づけなくとも不思議ではない。
というか、母ちゃん! 何考えてんだよ。息子騙し続けて、結果家出されてんだぞ?
「俺は…ずっとそれを信じてたってことか?いや、でも現にあれから親父に会ってない」
「そりゃ、ずっと海外で強化合宿してるから。来年の東京オリンピックに出るし」
「はぁ!?」
「あんた、ヘッドホンでお父さんの漫才ばっか聴いてないでさ、ちゃんと新聞とかテレビとか観なさい」
まさか、未だに勘違いしてるとは思ってなかったわよと呆れられる始末。
「あっ、そういえば今日オリンピック特集に出るわ」
百合子はテレビをつけ、朔太郎はぼんやりした頭で観た。
「強さの秘訣…うーん、朝食は米⑭!ですかねぇ。あ、最近のお気に入り⑮は明太子!知ってます?あれって…」
ばっさりカットされた。
「ばっかみてぇ。マジで生きてるし」
「で?お笑い芸人になりたいの?」
「…来年、結果観るまで保留する」
ファザコンさくちゃん~と百合子にからかわれるが、認めざるを得ないし、怒る気にもなれなかった。
まずは順序立てて、頭を整理しよう。
話はそれからだ。
【完】
[編集済]
当時は笑えるもんじゃなかったけど、時間が経てば笑い話になる。これもまた一種の青春。話としても面白いんですが、何より私が唸ったのは「マインスイーパー」の組みこみ方です。
一旦「どういうこと?」と思わせといて「なーんだそういうことだったのか」という展開のさせ方はなかなか難しいのですが、それをすっきりと、しかも要素順に組み込むうえでやるというのが、さすがみづさんだなと思いました。これは某弥七さんが好きになるのもわかる。好き。
「お疲れ様でしたー。」
いつからだろうか。
俺はつまらない人間になってしまった。
ーーーーーーーーー
「あ"ぁ"ーただいまー」
・・・もちろん返事はない。
ここでおかえりって言ってくれる存在がいれば、俺も幸せになれんのかなーと夢のようなことを考えながらスーツを丁寧にハンガーにかける。
ストーブのタイマーをセットする時間を間違えてしまい、寒さに凍えて舌打ちしながら渋々夕飯の準備をする。
ついでに明日の朝のためのご飯を炊く。
めんどくさいが、これだけは譲れない。
朝はご飯派なのだ。⑭
それから、つらい冷え性に悩まされている俺は一年中出しっぱなしのコタツに潜り込んで、3分待つ。⑤
「…いただきます」
今日のメニューは新発売のカップ麺と、茹で卵。
…これしか作れないんだからしょうがない。
一人暮らし17年目に突入したくせに、夕飯の1つもろくに作れないのが虚しい。
「昔はもっと意欲もあったんだけどな。」
誰に向けてるのかも分からない言い訳を呟いて茹で卵を口に放り込む。
キンキンに冷えたビールを飲み、ゲームで暇つぶしして、ラジオを聴き、気がつけば朝。満員の電車で出勤して、延々書類に判子を押し、何度も同じミスをして上司に怒られる。⑩⑫
いつも同じ毎日に嫌気が差す。
そう思いながらも、結局マインスイーパーを開く。
ーーーーーーーーー
『ボンッ』②
はい終わったー。
もう何回もやっているのにクリアできない。
学生の頃は余裕だったはずなのに。
今は何をやっても失敗ばかり。
俺は一体何がしたいのだろうか。
俺のやりたいことって何なのだろうか。
俺の未来は、闇に包まれている。⑪
まあそんなこと考えたって今更どうにかなることでもないし。
新しく日課入りしたラジオを聴くためにヘッドホンをつけて目を閉じる。
『さて、今日のお悩み相談はー、ペンネームイナさんからのお便り!』
イナさん…?
どこか懐かしい感じがする。
あ、思い出した。
確か学生時代に…
俺は一時期、ウミガメのスープにはまっていた。
中学の時、友達が出題してくれたのが楽しくて、実際にサイトを覗いてみたのがきっかけだ。
当時、俺はスマホを持ってなくて、夜中に親が寝たのを横目にコソコソとタブレットで観戦していた。
それから俺が参加するようになるまで、そう時間はかからなかった。
一回受験を挟んで疎遠になったが、高校生になって念願のスマホを手に入れてからは毎日のように顔を出して参加した。
その時に使ってた名前が、「イナさん」だった。
特にお気に入りのサイトは「らてらて」で、水平思考するのはもちろん、夜中にボードゲームしたり、創り出すで長編書いたり。⑮
高校のテスト期間とかぶったのにも関わらず、創り出す優先して酷い点数取ったっけな。
でも初参加の創り出すでいろんな人から高評価もらえて。
高校では交友関係がかなり狭いことが悩みで、大抵一人で過ごしてたから、ネット越しだけど俺の作品が誰かに読んでもらえて、評価してもらえたことがなんか嬉しかった。⑥
当時のらてらてユーザーの皆さんが俺の心を救ってくれた。⑨
そう言っても過言じゃないってほど、俺の中でらてらては大きなものになっていった。
だけど、卒業して就職活動始めた頃から段々と忙しくなって。
もう十何年も前に開いたっきりだ。
…まだあるのかな?
気になった俺はらてらてで検索をかける。
「・・・あった。」
デザインや機能はだいぶ変わってるけど、確かに俺が参加してたサイトだ。
ランキングを開くと、見覚えのある名前がいくつも出てくる。
皆さんずっとやってたんだ…。
問題数がえげつないことになってる。
俺がいない間にたくさんの名作が生まれたのだろうか。
そう思うと、少し寂しかった。
・・ログイン、してみようかな。
そう思った俺は急いで、引っ越してから一度も開けていないダンボールを掘り起こす。
学生時代に何度も読み返したから、薄汚れてしまっている。
【らてらてアイデアの書】
学生時代の俺が書き溜めた、アイデアノート。
いや、ここまで分厚いともはや本といった方が正しいかもしれない。
ルーズリーフを何百枚もまとめてくっつけてあり、ご丁寧に表紙まで手作りだ。
そこには、いつか出題しようと思ってまとめたアイデアや、創り出すで感動した作品が貼り付けてある。
使ったアイデアのページは破り捨てて、その分また新しいページを足していった。
そのせいか、かなりの重みになっている。
そこからログインIDとパスワードを探し出し、入力してみる。
「お帰りなさいませ。イナさん様」
機械的に表示されるものだけど。
あたたかくて、懐かしい。
じんわりと目の前が滲む。
俺にとって本当に大切なものだったんだなと、今更ながらに思い知る。
未解決問題を見てみると、ちょうど「正解を創り出すウミガメ」が開催中だった。
要素と問題文を見て、様々なストーリーが頭をよぎる。
ああ、参加したい。
こんなに強く思ったのはいつぶりだろうか。
今更復帰なんて、もう遅すぎるのかもしれない。⑬
こんな歳になってまた一からなんて無理があるのかもしれない。
それでも俺は、シェチュ王になりたい。
また仲間と水平思考がしたい。
ネタ本を読んで、良さそうなアイデアを見つける。
こんなに楽しみなのは本当に久しぶりだ。
…よし、やるか。
満ち足りた気分で、俺は1ページを破った。
【完】
[編集済]
なんだろう、自分ではないんだけど、まるで自分を見ているような、そんな気が致しました。どうしようもない人生でも、らてらてがあれば、まだ生きるのも楽しいと思える。らてらて、あるいは創りだすに人生の光を見出す。そんな昔の自分を見ているようで、そういう自分自身の気づきに立ち会える作品に出会えてよかったと思います。やっぱりイナさんの話が好きだなあ。くたびれてしまった心に、なんだか優しくあたたかな風が吹き込んでくる、そんな気がしました。
司会「時は亀和元年、第16回アーティスト大賞授賞式も、いよいよ最優秀賞を残すのみとなりました!
これまで多くのアーティストの方々に登場していただき、お話を伺ったり、演奏をしていただいたりしてきました。
どのお話も演奏も素晴らしく、観衆のみなさん、ないしテレビの前のみなさんも、きっと興奮冷めやらぬことでしょう!
ですが、その楽しい時間もついに、終わりを迎えようとしています。
いよいよ、フィナーレを飾るにふさわしい、ベストアーティスト2019の登場となります!
みなさん、心の準備はできましたか?
それでは発表します。
ベストアーティスト2019の受賞者は...............
カメオさんです!!!
おめでとうございます!
カメオさん、舞台までどうぞ〜!」
カメオが舞台に上がると、会場から大歓声が沸き起こった。
カメオはいわゆる国民的アーティスト。
彼の曲が万人に受け入れられるのには、ある大きな理由がある。
彼の曲には、夢をテーマとした曲が多い。
誰しも子供の頃は夢を持っていたはず。
しかし、歳を重ねるにつれて、現実の厳しさを知り、その夢を諦めていくものである。
子供の頃の純粋な夢を叶える人間は、ごく少数と言えるだろう。
しかし、夢は簡単に諦め切れるものでもない。
夢を忘れた大人も、夢を忘れかけている少年少女も、心のどこかでは夢を見ているのかもしれない。
そんな、夢と現実の狭間で揺れる人間の心を克明に描き出し、力強いハスキーボイスで歌い上げる、それがカメオの曲なのである。⑦
大観衆が見守る中、カメオのスピーチが始まった。
カメオ「みなさんこんばんは、カメオと申します。
本日はこのような素晴らしい賞をいただき、大変光栄に思います。
語りたいことは山ほどありますが、ここでは私の音楽人生についてお話ししたいと思います。
これまで私を支えてくださった方々への感謝は、舞台裏でお伝えしておきます。(笑)
大変長くなりますが、よろしくお願いします。
(拍手喝采)
私が音楽に傾倒し始めたのは、中学生の頃でした。
私は昔から、人付き合いが苦手でした。
幼い頃はまだよかったのですが、小学校の友人と離れ、中学生になってからは、周囲の人とうまく付き合えなくなっていました。
そんな時、私の心を救ってくれたのが、音楽でした。⑨
私は変わった人間なのか、世間で話題になっているメジャーな曲にはあまり興味が持てず、マイナーな暗い曲ばかりを聴いていたように思います。
きっと自分の内面を、深い闇に包まれた心を、代わりにさらけ出してくれているような気がしていたのでしょう。⑪
今は、自分の音楽を磨くという意味でも、様々な音楽を聴いていますが、あの頃の私の音楽のストライクゾーンはかなり狭かったですね。⑥
メジャーな曲の一つや二つくらい知っていれば、友達ができたかもしれないのに、と思います。(笑)
おかげさまで、私はひとりぼっちでした。
私はずっと一人で、音楽と向き合い続けていました。
学校なんて、私にとっては音楽に思いを馳せる場でしかなく、授業や部活、クラスメイトには全然興味が持てずにいました。
ですが、2年生に上がり、新しいクラスになった時に、初めて友人と呼べる人に出会えました。
その人はカメコという名前でした。
聞き覚えがある方もいらっしゃると思います。
彼女も私と同じで、ずっと一人で何かを考えているような人でした。
私の学校には、そんな変わった人は私以外いなかったものですから、妙に気になりました。
そこで、私は彼女に話しかけてみました。
『いつも一人で何してるの?』
今思えば、とんでもなく失礼な物言いだったなと思います。
若い頃はみんな、孤独を嫌いますからね。
ひとりぼっちでいることは、コンプレックスになり得るわけです。
私のした質問は、マインスイーパーでわざと地雷を爆発させにいくようなものです。(笑)②
今更ですが、この場を借りて、彼女にお詫び申し上げたいと思います。
ごめんなさい。
(会場爆笑)
ですが、彼女は怒ることなく、こう答えました。
『小説を書いているの。』
珍しいな、と思いました。
音楽をやっている人、例えば文化祭でバンドを披露した人とかなら、私の他にも何人か見かけました。
しかし、書き物をしている人は見たことがありませんでした。
私はますます気になって、こう続けました。
『よかったらその小説見せてくれない?』
これまたアブナイ質問ですね。(笑)
もし、私が見知らぬクラスメイトに『曲聴かせてくれない?』と聞かれていたら、その人とは距離を置いたことでしょう。
(会場爆笑)
ですが、これまた彼女は快く小説を見せてくれました。
私とは大違いです。(笑)
私はその小説を読みました。
あの時の衝撃は、一生忘れられません。
彼女の小説は、中学生が書いたものとは思えないほど完成されていた、少なくとも私はそう思いました。
そして、驚くほど私の心に響きました。
私のお気に入りの曲たちと同じように、私の心を代わりに叫んでくれているような、そんな小説だったのです。⑮
この瞬間から、私は彼女に取り憑かれてしまいました。
もっと彼女と言葉を交わしたい、もっと彼女の小説を読みたい、そう思ったのです。
どのくらい彼女に夢中になっていたかというと、朝はご飯派で、パンなんて食べたことがなかった私が、彼女と会話するチャンスを増やすために、彼女を真似て、学食のパンで朝ごはんを済ませるようになったほどです。⑭
(会場爆笑)
私はなるべく多くの時間を、彼女と過ごすようになりました。
そんなある日、学校で彼女と夢について語り合いました。
彼女にはある夢がありました。
もちろん、小説家です。
その頃からすでに、私も音楽家を目指してはいましたが、彼女の情熱にははるかに劣ったでしょう。
彼女には、その夢以外のことは見えていないように思えました。
私は彼女のことを心から尊敬していました。
私たちは、卒業後も連絡を取り合いました。
共に高校へは進学せず、お互いに夢に向かって歩み始めました。
別々の道ではありましたが、私たちはちょっとしたライバルのようなもので、どちらが先に夢を叶えられるか勝負していました。
学校もなくなり、一日中小説を書けるようになって、彼女はとても嬉しそうでした。
体育がなくなったせいで、彼女は全く体を動かさなくなったらしく、首の痛みや冷え性がつらいと口にしていました。⑤
まるで私のおばあちゃんです。(笑)
かくいう私はというと、歌やギターの練習でちゃんと体を動かしていたので、その点では私の大勝利と言えます。
(会場爆笑)
この頃はすごく楽しかったです。
それは、現実を直視しなくてよかったからです。
親がいるからお金の心配はいらなかった。
まだまだ若いから時間があった。
私たちは、この世の厳しさをまだ知らなかったのです。
それから数年が経ちましたが、私たちは売れないままでした。
そろそろ自立しなさい、ちゃんとした仕事につきなさい、親からもそう言われました。
それでも私は、音楽家の道を諦めきれませんでした。
彼女も夢を諦める気は一切ないようでした。
しかし、現実は甘くありません。
とにかくお金がないのです。
ご飯は1日2食、タイムセールの時間帯を狙って買いに行きました。
本当は実家で暮らしたかったのですが、両親に追い出されてしまったので、仕方なく格安の物件を探し、そこに住み着きました。
私の足は、姉から譲り受けた自転車で、本来であれば、自転車なんかでは向かえないくらい離れたスタジオへも、必死に自転車を漕いで行きました。⑧
下積み時代、というのでしょうか。
しんどいなんて言葉では言い表せないほど、私は疲弊していました。
お金のためにバイトをすることも考えましたが、少しでも多くの時間を音楽に割きたかったので、結局バイトはしませんでした。
彼女も私と同じで、お金に困りながらも、一日中小説を書いていたようでした。
しかし、これだけ頑張ってもなお、私たちに光は差しませんでした。
正直、私は夢を諦めようかと思い始めていました。
どれだけ美しい夢も、叶わなければ、現実には敵わないのです。
当時、私は露骨に参っていたのでしょう。
彼女はよく私を励ましてくれました。
彼女はいつも、夢を見ていました。
他のことには目もくれずに、ひたむきに夢を追い続けるその姿は、私の憧れでした。
そんな彼女が近くにいたからこそ、私は頑張ってこれたのだと思います。
しかし、それでも私は立ち上がれる気がしませんでした。
今回ばかりは、本当にしんどくなってしまったのです。
そんな時でした、彼女の小説が大ブレイクしたのは。
街中をフラフラと歩いていたら、彼女の小説が書店の一番目立つ棚に置いてあるのを見て、目玉が飛び出るくらい驚きました。
その瞬間の自分の顔を、一度でいいから見てみたい、と今でも思います。
(会場爆笑)
それを見て、あることが腑に落ちました。
つい最近、彼女は私にお金を支援してくれるようになったのです。
最初は、私のために彼女が無理をしているのだと思い、断っていたのですが、それでも彼女が強く勧めてきたので、ありがたく受け取ることにしていました。
そんなお金がどこから出てくるのだろう?
ずっとそう思っていたのですが、それは彼女の小説が飛ぶように売れていたからだったのです。
しかし、同時に疑問も生まれました。
なぜ私に教えてくれなかったのだろう?
いつまでも売れないままの私を気遣ってくれたのだろうか?
私は全然そんなこと気にしないのに、なんだか水臭いなあ、そう思いました。
その場ですぐに、彼女の小説を買いたかったのですが、買いませんでした。
恥ずかしながら、お金が足りなかったのです。(笑)
私は彼女にすぐさま電話をかけ、小説をくれないかと頼みました。
しかし、彼女は小説を見せることを渋りました。
何かがおかしい。
直感的にそう感じました。
結局、私が強く迫ったので、彼女は小説をくれました。
私はウキウキしながら、その小説を読み始めました。
その時の感想を率直に述べます。
何だこれ?
彼女からもらった小説は、これまで彼女が書き続けてきた小説とは、全く違うものだったのです。
面白くないわけではありませんでした。
むしろ、すごく面白い小説だったと思います。
しかし、長い間、彼女と接してきたからこそ分かります。
そこに、彼女の想いのようなものは、微塵も感じられませんでした。
彼女の小説は、いつも私の心を打つものでした。
人間の内面がむき出しになったような、人間の行き場のない感情を体現したような、そんな小説でした。
しかし、その小説には、そういったものが全く感じられなかったのです。
私にはなんとなく、その理由が分かりました。
彼女と同じように、辛い生活を送っていたからこそ分かりました。
彼女は、大衆に受け入れられる小説を書くようになったのです。
彼女には間違いなく、小説家としての才能がありました。
おそらく、売れようと思えば、いつでも売れることができたのです。
彼女は言うなれば、いつまでたっても売れないお笑い芸人、ひいてはしがないミュージシャンである私なんかとは、無縁の存在だったのです。①
少しさみしい気もしましたが、私は大喜びしました。
共に夢を追ってきた友人が、人気小説家になった。
私は彼女の友人として、とても誇らしかったです。
彼女自身は納得いかない様子でしたが、小説家として大成できたのだから、喜ばしいことではないか。
『おめでとう』
私は、そう彼女に伝えました。
『ありがとう』
彼女は私に、こう返しました。
それからというもの、彼女の人気はどんどん上がっていきました。
彼女は今や、超有名な小説家です。
私はあいも変わらず、売れないアーティストでしたが、彼女のおかげで、人並みの生活を送れるようになりました。
有名アーティストには程遠かったですが、私は楽しく音楽作りができていました。
私が音楽を続けてこれたのは、彼女がいたからです。
彼女には本当に感謝していました。
しかし、やはり彼女は納得がいかないようでした。
彼女は時々、ふさぎこんでいたようにも見えましたが、売れっ子には売れっ子なりの悩みがあるのだろう、私はそれくらいにしか考えませんでした。
今思えば、あれが彼女からの最期のSOSだったのかもしれません。
平穏な日常は、ある日突然崩れ去りました。
彼女が亡くなったのです。
ある朝、いつものようにテレビをつけていると、とんでもないニュースが流れてきました。
『有名小説家のカメコさんが死亡、原因は自殺か』
その見出しを見た瞬間、私は頭が真っ白になりました。
理解が追いつかない、感情が追いつかない。
何もかもがよく分からなくなりました。
気づけば私は、次の仕事の打ち合わせの時間も忘れて、自分の部屋で呆然と立ち尽くしていました。
手に持っていたはずのテレビのリモコンは、どこかに行ってしまいました。③
それからしばらく、私は何もする気が起きませんでした。
なぜ彼女は自殺してしまったのか?
なぜ私に何も言ってくれなかったのか?
私は、亡くなった彼女のことしか考えられなくなっていました。
そんなある日、私のもとに1冊の本が届きました。
誰だ、こんな時に本、しかも小説を送ってくる奴は。
こんなもの読めるわけがないだろう、そう思いながらも、その小説を手に取りました。
すると、おかしなことに気がつきました。
その小説にはタイトルがなかったのです。
読む気なんてさらさらなかったのですが、不思議だったので、ついページをめくりました。
そして驚愕しました。
それは彼女が書いた小説だったのです。
私は、ついさっきまでの沈んだ気持ちなど綺麗さっぱり忘れ、食い入るようにその小説を読み始めました。
そこには、彼女の人生が書かれていました。
もっと言えば、それは彼女の人生そのものでした。
小説に初めて触れた日から、亡くなってしまうまでの出来事、そしてそれらに対する彼女の想いや苦悩が、まざまざと描かれていました。
その小説はまさに彼女の小説、私が初めて彼女に会ったとき、読んで衝撃を受けた小説と同じものでした。
私の心を打ってやまない小説でした。
私は彼女のことをよく知っていたつもりでした。
共に夢を追い続けてきた親友のことは、全て分かったつもりでいました。
しかし、彼女は私の知らないところで苦しんでいたのです。
その小説には、私の知らない彼女が描かれていました。
それと同時に、彼女は私の知る彼女でもありました。
やはり彼女は、小説に全身全霊をかけていました。
自分の心の赴くままに、小説を書き続けてきた。
しかし、彼女の小説は売れなかった。
自分の大好きな小説を書くだけでは、この世で生きていくことはできなかったのです。
彼女の生活は、私と同じように辛く厳しいもので、小説に書かれた彼女の生活は、私の辛い記憶を呼び覚ましてきました。
しかし、彼女はある時期から、自分の書きたい小説ではなく、大衆に受け入れられる小説、いわゆる売れる小説を書くようになったのです。
お金に困り、売れる小説を書くようになってから、彼女は苦しみ始めました。
自分の書きたい小説はこれじゃない、なのにこの小説こそが世界に認められてしまう。
生きるためには、小説が売れないといけない。
だから自分は、売れる小説を書かなくてはならない。
小説に描かれた想いが本当か嘘か、そんなことは関係ないのかもしれない。④
自分の心のままに書いた小説が売れないということは、私の心が世界に受け入れられないものだということではないのか?
想いのこもっていない小説が評価されるのなら、文字なんかに、小説なんかに想いなどこもり得ないということではないのか?
彼女は一人、苦悩を抱えていたのです。
書きたい小説と売れる小説の間で、愛する小説と愛される小説の間で。
私は泣きました。
その小説にありありと綴られていた彼女の想いに、私は全く気づけなかったのです。
彼女が悩み、苦しんでいるところに、『おめでとう』なんて言葉をかけてしまったのです。
私は死ぬほど後悔しました。
もし、私が彼女の悩みに気づけていたら、彼女は死ななかったかもしれない。
責任も感じました。
彼女が売れる小説を書くようになった時期は、ちょうど私が精神的に参っていた時期、音楽を諦めかけていた時期と重なっていたのです。
もしかすると、彼女は私のために売れる小説を書き始めたのではないか?
そのせいで、彼女に重荷を背負わせてしまったのではないか?
もちろん、彼女の小説にそんなことは一言も書かれていませんでした。
それでも、残された私はどうしてもそう考えてしまう。
彼女の小説のページをめくるたびに、私はひとつ、またひとつと後悔を重ねてゆきました。
どれだけ悔やんでも、もう遅すぎました。⑬
だって、彼女は死んでしまったのだから。
私は涙が止まりませんでした。
どれくらいの時間、彼女の小説を読んでいたでしょうか。
気づけば小説は、終わりに近づいていました。
その小説の最後には、メッセージが書かれていました。
それは、私宛のメッセージでした。
そこには、私への感謝が綴られていました。
中学生の頃から、ずっと一緒に夢を追い続けてきた私への、最期の言葉が綴られていました。
その内容は、ここでは語りません。
私の中だけにとどめておきたいからです。
小説の最後のページには、はみ出るようにしてたった一言、こう書かれていました。
『さようなら。』
私はその場に倒れ込みました。
涙なんてもう枯れてしまったと思っていたのに、私はまた泣いてしまいました。
この小説を読み終えた瞬間、彼女がどこか遠くへ行ってしまった気がしたのです。
もう二度と、彼女とは会えないんだ。
もう二度と、彼女の新しい言葉を目にすることはできないんだ。
そう思うと、ただただ虚しくなりました。
彼女の小説を読んで、私は音楽の道を諦めることにしました。
親友である彼女を失った悲しみから立ち直れそうにない、それも理由のひとつではありました。
ですが、最大の理由はもっと別のところにありました。
自信がなくなってしまったのです。
あれほど小説を愛し、小説のために生きてきた彼女でさえ、満足いく小説家にはなれないまま、その生涯を閉じてしまったのです。
私なんかにアーティストがつとまるとは、とても思えませんでした。
変な話、恐ろしくもなりました。
夢を追い続けた結果、彼女は亡くなってしまった。
それも、自らの手によって。
彼女は誰よりも小説を愛していたからこそ、小説によって殺されてしまったのです。
この事実は、私の心に重くのしかかりました。
死んでしまったら、小説なんてもう書けないのです。
死んでしまっては元も子もないのです。
彼女と同じ過ちは繰り返すまい。⑫
夢を追うのは諦めよう。
音楽家になるのは諦めよう。
そう心に誓おうとしました。
しばらくの間、私は音楽を作らなくなりました。
私のことを少し昔から知っている方であれば、あの引退詐欺はそういうことだったのか、と思っていることでしょう。(笑)
私は何をするでもなく、家でゴロゴロしていました。
頭を使ってしまうと、どこかで彼女のことを考えてしまう。
それが嫌だったので、何も考えないようにしていました。
これまでの心の傷を全て忘れられるまで、ずっとこうしていようと思いました。
そして、気持ちの整理がついたら、新たな人生を歩み始めようと決意しました。
しかし、たった今、私はベストアーティスト2019の受賞者として、この場に立っています。
私は結局、音楽の道を諦められませんでした。
どうして諦められなかったんでしょうね。
私にもさっぱり分かりません。
(会場爆笑)
私は、唯一とも言える友人が夢半ばで亡くなってしまってもなお、自分の夢を、アーティストになる夢を諦められなかったのです。
私の心を時間が癒してくれた、というわけではありませんでした。
音楽を再開した時も、私は後悔や責任を感じたままで、過去のことを引きずっていました。
なんなら、今でも引きずっています。
気持ちの整理がつかないまま、私は曲を作り始めました。
そんな状態で、まともに曲作りができるわけがありません。
私はすぐに行き詰まってしまいました。
まさにその時、ある考えが私の中に生まれました。
彼女が遺した小説を、曲にできないだろうか?
こう思ったのです。
私は彼女の小説に憧れていました。
何度でも言います。
彼女の小説は、いつも私の心を打つものでした。
彼女の書く文章は、私の目標だったのかもしれません。
そんな彼女が最期に遺した小説。
この小説が、過去のものになってしまうのは悲しかったのです。
これまでずっと、共に歩んできた彼女を置き去りにしてしまうようで、辛かったのです。
まあ置き去りに、と言っても、知名度を考えれば、置き去りにされていたのは私の方だったわけですが。
(会場爆笑)
もちろん、一筋縄ではいきませんでした。
私と彼女は別の人間です。
彼女の歩んだ人生と、私の歩んできた人生は、似てはいても、同じではありません。
それに、小説と音楽も別物です。
小説に書かれる文章と、音楽に書かれる詞は、似て非なるものなのです。
『詩は音楽にならなかった言葉であり、音楽は言葉にならなかった詩である。』
ドイツの小説家で、ノーベル文学賞を受賞したヘルマン・ヘッセの言葉です。
たしかに、両者は密接な関係にありながら、相容れないものなのかもしれません。
しかし、私は必ずうまくいくと確信していました。
出会ってからずっと、運命を共にしてきた私たちの作品同士なら、必ず一つの作品になれると信じていました。
彼女の小説には、夢と現実の狭間で揺れる彼女の心が、ありありと描かれていました。
それは彼女自身の心であり、私たちの誰もが、人生で一度は抱いたことがあるであろう心です。
夢を何度も諦めかけ、それでも夢を諦めきれなかった私なんかは、特に共感できるのかもしれません。
彼女の小説は、曲の歌詞にするにふさわしいものに思えました。
彼女の小説をもとに、曲の歌詞を書くようになってから、私の曲の質はぐっと高まったと思います。
ずっと憧れていた彼女の小説が今、私自身の作品に生かされている。
なんだか不思議な気持ちになりました。
まるで、彼女が天国から私を支えてくれているかのような、そんな気がしました。
彼女の遺した小説は、精神的にも私を支えてくれました。
彼女の小説を曲にしたい、いや、しなければならない。
そんな想いが、私の中にありました。
想いというよりも、使命に近かったのかもしれません。
私自身の願望が、私にそう思わせているだけなのかもしれませんが、彼女もそれを望んでいるような気がしました。
彼女が最期に、私宛にこの小説を遺したのは、彼女の人生を曲にしてほしかったからなのではないか、そんな風に思うのです。
私が彼女の小説に憧れていたように、彼女もまた、私の曲に憧れてくれていたのかなと思っています。
そんな私の曲は、多くの人に受け入れられました。
だからこそ、今こうして栄誉ある舞台に立てています。
自分の書きたい曲で、自分が書かなければならない曲で、多くの人の心を動かせる。
私にとって、これほど嬉しいことはありません。
そしてもう一つ、嬉しいことがありました。
私の曲が多くの人に受け入れられるのは、彼女の詞が、彼女の想いが、多くの人に受け入れられるものであるからに他なりません。
自分の想いが受け入れられないことは、とても辛いことです。
それが真剣なものであればあるほど。
先程述べた通り、彼女は生前、このことでずっと悩んでいました。
当然です。
彼女は命を懸けて小説を書いていたのに、その小説は、想いを込めた小説は、この世界では広く受け入れられなかったのですから。
自分が真剣に作った作品が受け入れられない辛さは、私にもよく分かります。
長年、彼女と似た辛さを抱えながら、音楽を作り続けてきたからこそ、よく分かります。
彼女の小説は、本当の意味では最期まで受け入れられなかったのかもしれません。
ですが今、こうして多くの人の心を動かしている。
私の作る曲の中で、彼女の詞は多くの人に受け入れられている。
私はそのことがすごく嬉しかったのです。
彼女が報われるような気がしたのです。
私の生き方は、私のアーティストとしての在り方は、ひとつに決まりました。
彼女と一緒に作品を作り上げていこう。
彼女と一緒に最高のアーティストを目指そう。
そう心に誓いました。
何度も夢を諦めそうになった私ですが、この決意だけは絶対に揺らぐことはないでしょう。
これが、私のこれまでの音楽人生の全てです。
語るにはあまりにも長すぎる、自分で言うのはなんですが、波乱万丈な人生でした。
ここで、みなさんにお伝えしたいことがあります。
夢を追い続けてほしいのです。
夢を抱いたことのない人は、この世にいないと思います。
子供の頃は、誰しも一つや二つくらい夢を持つものです。
ですが、その夢は年を重ね、現実を知るたびに遠ざかっていき、次第に忘れ去られていきます。
夢を追い続けることは、本当に難しいことなのです。
だからこそ、多くの人が夢を忘れ、現実に生きています。
しかし、それでも私は、夢を追い続けることの素晴らしさをみなさんに訴えます。
夢を追い続ければ、普通に生きる人生よりも、夢を諦めて現実に生きる人生よりも、はるかに辛い人生になることでしょう。
夢を叶えるためには、血の滲むような努力が必要です。
失うものもたくさんあるでしょう。
夢を追い続けなければ得られる幸せは、この世にたくさんあります。
それらを犠牲にすることになるかもしれません。
私は、夢を諦めることが正しくないとは思いません。
むしろ、それが正しいのかもしれない、とすら思います。
ですが、夢を捨てて、判で押したような生活を送るだけでは得られない喜びがある、とも思っています。⑩
だからこそ、私はみなさんに『夢追い人』であってほしいのです。
先月リリースされた、私の16thアルバム『夢追い人』には、こういった想いが込められています。
みなさん、どうか自分の心の声にだけは正直に生きてください。
これこそ、私たちが音楽を通して最も伝えたいことです。
最後に、少しだけおまけの話をさせてください。
実は、今日この会場に来る前に、家で彼女の小説を読み返してきました。
ヘッドホンを耳に当て、彼女の詞をもとに作り上げた私たちの曲を聴きながら、小説のページをめくりました。
彼女と夢を語り合った学生時代のこと、2人で夢を目指して競争していた頃のこと、彼女が"売れる小説"で大ブレイクし、悩み始めた頃のこと、彼女の死を知った瞬間のこと、彼女の小説を読みながら、曲を書いたときのこと。
私の心の中にしまわれていた思い出が、彼女の遺した言葉たちとともに、ありありと思い出されました。
私はとても懐かしくなり、少しだけ泣いてしまいました。
そして、小説を読み終えようとしたとき、ある言葉が目に入りました。
『さようなら。』
小説の最後のページに、たった一言だけ記されたその言葉は、私たちにはふさわしくない言葉になっていました。
だって、彼女の小説は、彼女の想いは、私の曲の中で歌われ続けているのですから。
彼女は、私の中で生き続けているのですから。
私はその最後のページを破りました。
そして、食べました。
(会場大爆笑)
人生で紙を食べるのは、その時が初めてでした。(笑)
私と彼女に別れの時は来ません。
なんてったって、私が彼女の『さようなら。』を食べてしまいましたからね。(笑)
私はこれからも、彼女と共に音楽を作り続けます。
そして、いつか彼女と会えたらこう言ってやるんです。
『ありがとう。』と。
ご清聴ありがとうございました。」
カメオが話し終わると、至る所から拍手が、歓声が沸き起こった。
会場は、今日一番の感動に包まれた。
【完】
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あんまり主催としては個人的な感情を出すのはよろしくないかなあと思っていたのですが、それすらも忘れて泣きました。ただただ、泣きました。
とにかくカメオの一言一言が深く心に突き刺さり、カメコ自身の独白はないのに、その苦悩がカメオのスピーチからにじみ出てくるようで、もうとにかく、ただ抉り取られるほどに心を動かされました。からの、問題文の回収の仕方。シリアスな話が続いて、オチとして使う。その粋な使い方に、心は原型をとどめておりませんでした。素晴らしい作品です。
亮(りょう)さんと出会ったのは、とある老人ホームだった。
きっかけは忘れたが、生まれてすぐにお爺ちゃん死んでしまい居なかった私は、よく亮さんの所へ遊びに行っていた。
私は亮さんといろんな事を話した。
その話を聞かせてくれたのは、そんなある日のことだった。
亮さんは沖縄の人らしく、修学旅行で沖縄へ行く事になった事を伝えると、笑っていた。
「ねえねえ亮さん、私今度沖縄行くんだよ。」
「そうかい、沖縄はいいところですよ。」
「でね、今日学校で聞いた曲なんだけど、すごい気に入ったんだ。亮さんにも聞かせてあげるね。」⑮
そう言ってスマートフォンに繋がったヘッドホンを亮さんに渡す。
「へぇ、どんな曲ですかね。」
そう言って聴き始めた。
“でいごの花が咲き 風を呼び嵐が来た
でいごが咲き乱れ 風を呼び嵐が来た“ (「島唄」作詞:宮沢和史より引用)
島唄というその曲を聴いている亮さんは、どこか寂しそうだった。
「この曲を聴いていると、なんだか懐かしくなりますね。
ちょいと、老人の昔話を聞いちゃもらえませんか?」
そう言って、しゃがれた声で亮さんは話し始めた。⑦
―――――――――――――――――――――――――――――
痛いほど陽の光がさんさんと照り付ける中、暇をつぶしに来たサトウキビ畑で僕は一人の少女と出会った。
長い黒髪に、日に焼けた褐色の肌。真白なワンピースを身にまとった彼女に、僕は無意識に声をかけていた。
「君は?」
「わ、私は和葉(カズハ)。えっと、あなたは?」
少し驚いた様子で返してくる少女に、少し緊張しながらも自分の名を告げる。
「亮くん、いい名前ね。」
そう言って笑う彼女の笑顔に、僕の緊張はどこかへ消えていた。
「和葉ちゃんって、この辺りに住んでるわけじゃないよね?」
少し気になっていた事を聞いてみると
「私は隣町からお父さんの用事で来ているの。1週間くらいで帰るんだ。」
「じゃあ、それまで一緒に遊ばない?」
「面白そう!明日は何して遊ぶ?」
「明日はここで鬼ごっこしよ!」
そう言って、明日遊ぶ時間を決めて僕たちは帰った。
翌日、彼女と遊ぶのが楽しみで僕は約束よりも早く昨日のサトウキビ畑へ来ていた。
「お待たせ、亮くん。」
昨日と違い動きやすい恰好で来た彼女に声をかけられる。
「じゃあ、鬼ごっこしよっか。鬼はじゃんけんでいいよね?」
そう言って彼女とじゃんけんをして鬼を決める。
「じゃあ、私が鬼ね。」
そう言って負けた彼女が10秒数え始める。
サトウキビ畑の中を走り抜けていると、足音と共に彼女が追いかけて来た。
「待ってよー!」
「やーだよー!」
そう彼女に言った直後、バランスを崩して転んでしまう。
「はい、タッチ。」
そう言って彼女は逃げ始める。
「ちょ、待ってってば!」
「やだよー!」
起き上がってから追いかけ始めるころには彼女の姿は消えていた。
そうして鬼ごっこをしているうちに、日は暮れて僕たちは別れた。
数日間彼女と一緒に遊んで過ごした。明日、彼女は自分の町へ帰るらしい。
「今日で、最後だね。」
ふとそんな言葉が口から洩れる。
「そうだね。・・・ねえ、今日はやりたいことがあるんだけどいい?」
「なになに?」
「えっとね、あっちに洞窟があるでしょ?だからあそこでおままごととかしたいなって。」
「おままごと・・・面白そう!」
彼女の言葉に少し驚きながらも、面白そうですぐに賛成した。
・・・
「はい、これごはんだよ。」
そう言って手を差し出す彼女。
「え?何もないけど?」
「おままごとだから、あるって想像して食べるの!
朝ごはん、山盛りのご飯だよ!」⑭
「そ、そうなんだ。」
少し怒った様子に気圧されながらも想像しながら食べる。
想像の中のごはんはとても美味しかった・・・と思う。
その後、彼女は両親と共に帰って行った。
けれども、彼女の家はそこまで遠くなかったためその後休みの日はよく一緒に遊ぶようになった。
3年後、高校へ進学すると同じ学校になった。
「これで、もっと遊べるね。」
そう言って彼女は笑っていた。
日の光が少し暗く感じる場所、東京にて。
あれから、3年の月日が経った。
俺は高校を卒業して東京へ出稼ぎに出ることになった。
島を離れ、船に乗り東京を目指した。
そうしてたどり着いた憧れの東京は、煤で汚れた場所だった。
必至にあちこちを駆け回って、印刷所への勤務が決まった。
自転車を走らせ印刷所へ通い、毎日のように活字を拾っていた。⑩
沢山の情報が文字人よりも少し早く入ってくる。
芸人の話題なんかが入ってきた時はちょっとした優越感に浸っていた。①
時折故郷が懐かしくなり帰りたくなるが、自転車じゃあ到底帰れない。⑧
機械の歯車のように働いては得た給料に少し余裕が出来たら実家へ送る日々。
1年程経ったある日、印刷の元を見て一瞬手が止まってしまった。
目に映る「戦争」「徴兵」の文字。
逃げよう。
そう思いながらその日は帰った。
荷物を集め、逃げようとしていた時、“ソレ”が届いた。
「召集令状」、通称“赤紙”。
どうやら、逃げるには遅すぎたようだ。⑬
俺は軍に入隊し、沖縄への汽車に揺られていた。
そう、戦場は沖縄だった。
まさか、こんな形で里帰りすることになるとは思っていなかった。
家族はどうしているだろうか、和葉はどうしているだろうか。
不安を乗せながら、汽車は走っていく。
雲が空を覆い、日の光が弱まった沖縄。
戦争が、始まった。
俺が配属されたのは、歩兵隊だった。
任務は班ごとに分かれて敵軍への攻撃。
みんな、明るく気さくな奴らばかりだった。
「ところでお前ら、嫁さんとかカノジョとかいるのか?」
班長で最年長の良平(りょうへい)。
「俺はいねーけど、あそこの村の女の子って可愛いよな。」
そう言って笑うムードメーカーの幸之助(こうのすけ)。
「僕は、地元に幼馴染が・・・」
少し恥ずかしそうに言い出す正吾(しょうご)。
「なっ・・・おめー、ずりーぞ!」
「まあまあ、俺だっていないんだから安心しろって。」
そして、俺の4人。
「うっせー!俺だってすぐあの娘に・・・」
「いいんじゃないか、俺は応援するぞ?」
そう言うと熱くなっていた幸之助は照れたようにすぐにおとなしくなった。
「まあ、そういう思いは大事にしろよ。
んで、いつも心の奥にしまって忘れないようにするんだ。
歯ぁ食いしばって
『死んでたまるか、生きて帰ってやる』
って思えるからさ。」
なんて言いながら笑っている良平。
正直、戦場ではあったけれども楽しかった。
仲間たちと一緒に笑いあえた。
戦争は、残酷だ。
戦場では、むせかえるような血と火薬と土の匂いが立ち込め、多くの人が死んでいく。
奴ら、地雷を仕掛けやがった。
地雷。
リモコン等で操作せずとも勝手に人を殺す悪魔の置き土産。③
きっかけは、“カチッ”という小さな音だった。
けれど正吾は気づいたのだろう。
「良平さん、すみません。ここまでみたいです。」
そう、震えながら声をかけてきた。
「そうか、ご苦労だった。
正吾以外は逃げろ。正吾は俺が合図を出すまでは決してその足を離すな。」
地雷は、足を離した瞬間に爆発する。
軍に入った際に教えられた内容だ。
「正吾、楽しかったぞ。」
そう、良平が声をかけた瞬間、遠くで人影が爆ぜた。
思っていたよりも小規模な爆発だったが、片足はなくなっているだろう。
まだ生きているなら、連れて帰らなければ。
そう思って駆け寄ろうとすると、
「来ないでください!」
と正吾が叫んだ。
「僕は、もう永くは持ちません。このままでは足手まといになるだけでしょう。
僕は、この辺り一帯を這いまわって、一つでも、多くの地雷を無くします。
今まで、お世話に、なりました。」
引っ込み思案な正吾とはとても思えなかった。
体を引きずり、最終的には転がるように去って行った。
その日だけ、やけに多くの地雷が爆発した。②
一人、仲間が死んだ。
戦争は、最低だ。
兵士とは関係の無い人々を襲う。
それも、味方のはずの兵士が、補給だと言って村から食料を、ある物全てを奪っていく。
若い女は兵士達の慰め者にされる。
そんな話も耳にした。
その日、別の隊が俺達が拠点にしている村へ来た。
補給と称して食料を奪っていく。
逆らう者には死を。
鉛の弾が、まき散らされた。
「女だ!若い女を連れて来い!」
隊長と思しき人物が大声で叫ぶ。
ハッとした顔で幸之助が走り出す。
「待て!」
良平が制止する。
「なんですか・・・」
「何を、考えているんだ?」
恐ろしい顔で幸之助を問いただす良平。
「あの娘を、助けるんです。
そうしないと・・・」
「それは、どうしてもしなければいけないのか?」
口を挟む隙の無い、緊迫した空気の中ゆっくりと幸之助がうなずく。
「俺にとっては、命よりも大事なんです。」
「そうか、だったら行け。」
「・・・はい!」
幸之助が駆けだしていく。
「おい、行くぞ。」
「えっ。行くってどこに?」
不意に良平に声を掛けられて反射的に尋ねてしまう。
「・・・助けてやるに決まっているだろう、仲間が漢を見せようとしてるんだ。
全力で助けてやるもんだろ。
それに、無事に事が済んでももうここへは居られないしな。」
「わかりました。」
俺達は、逃げるのに最適な場所を探した。
幸之助が、村の娘と共にやって来た。
ヘマしたのか隊の奴らが追ってきている。
「こっちだ!」
声をかけると、気が付いたのかこっちへやってくる。
あと少しで合流できる。
その瞬間。
パァン
乾いた音が鳴った。
目の前まで来ていた幸之助が崩れ落ちる。
「・・・え?」
目の前で、幸之助が死んだ。
「逃げろ!止まるな!」
呆然とする俺達に良平が発破をかける。
その言葉にハッとして村の娘を連れて走った。
荒れ果てたサトウキビ畑の中を、必死に走った。
捕まってはいけない。
ただ夢中になって走った。
日の光の消えた夜、浜辺を二人で歩いていると良平と合流することができた。
けれども、彼の目は既に光を亡くしていた。
「何で俺らこんな所にいるんだろうな?
なんであいつら、死んだんだろうな?」
そう、つぶやいていた。
此処は、地獄だった。
ふと、途中で立ち止まって良平は言った。
「班長として命令する。本日、この場を持って本班は解散とする。
皆、逃げて生き延びる事。」
そう、最後に残った班員である俺に告げると去って行った。
パァン
乾いた銃声が、一発だけ聞こえた。
それ以降、良平を見ることは無かった。
「自分は、守ってないじゃないですか・・・」
涙は、もう流れなかった。
ただ、二人でひたすら歩いた。
そして気づいた。
彼女とは、どこかで会ったことがある。
数年前の記憶が蘇る。
「和葉・・・なのか?」
仲間を失った時、ふと冷静になった。
泥に塗れ綺麗だった長い黒髪は荒れてしまっているが、幸之助が助けた彼女は子供の頃サトウキビ畑で出会った少女だった。
「憶えててくれたんだ。」
そう言って少し驚いたように笑う彼女が、どうしようもなく愛おしく感じた。
その日から、俺達は近場にあった洞窟に隠れた。
子供の頃はとても大きかったその空間は、今の俺達にはとても狭かった。⑥
一日、二日、三日。
ただ俺達は身を寄せ合って隠れていた。
一歩でも外へ出れば撃たれて死ぬかもしれない。
戦場で、お互いが心の支えだった。⑨
隠れ始めて、もう何日が経っただろうか。
飢えと渇きが身体を苛み始めた。
けれども外へは出られない。
まだ、耳の奥に銃声がこびりついている。
グルゥと腹の音が鳴った時は反射的に体が跳ねた。
雨も降り、体が冷えていく。
体温が奪われていくのを感じて、死を実感した。
とても、辛かった。⑤
まだ、生きている。
和葉も日が少し入り込んだ時に時折動いている。
あと少し。
耐えれば、戦争が終われば。
そう願っていた。
けれども、限界は来る。
飢えは、正気を奪う。
渇きは、理性を狂わせる。
「カズハ。」
声を、かけていた。
しゃがれて、ちゃんと言えていたかもわからない。
けれども、彼女には伝わったのだろう。
「なに?」
「ごめん。」
「ん、いいよ。」
全てを悟ったのだろう、彼女はそう言った。
「好き、だった。おまえが。」
「うん。私も。」
涙は、出なかった。
「ごめん。」
それ以上、声が出なかった。
「はい、ごはん。」
そういって手を差し出す彼女。
そこには何もない。
食べる物なんて無いと、嘘だと思いたかった。④
ズドン
けれど、撃ってしまった。
生ぬるい血の感覚を覚える。
「死ぬのって、寒い、ね・・・」
それが、彼女の最期の言葉だった。
俺は、彼女のくれた“ごはん”を食べた。
暗闇で食べた“ごはん”の味は分からなかった。
涙が、いつの間にか流れていた。
彼女は優しかった。
俺は、洞窟の中で独り闇に包まれた。⑪
あれからどれだけ経ったか、雨の中外へ出てみるといつの間にか戦争は終わっていた。
洞窟の中には、彼女の日記があった。
時折動いていたのは、これを書いていたのだろう。
俺はそれを持って帰った。
文書は全て燃やせと言われたが、必死に隠して持ち帰った。
そうしなければ、彼女が完全に居なくなってしまう気がして。
―――――――――――――――――――――――――――――
それは、あまりに生々しく惨い話だった。
「私は、何回かこの話を若い人に話してきました。
そしてその度にこれを、渡しているんです。」
そう言って、亮さんは手元の本を1ページ破りとった。
「これを、君に。」
そう言って渡されたのは日記の1ページだった。
表と裏、とこどころ読めないところもあるが2日分書かれていた。
「人間は、過ちを繰り返すもんです。⑫
けれども、戦争だけは繰り返しちゃなりません。
だから、こうして戦争の事を話して彼女の日記を1ページずつ渡しているんです。
彼女の遺品ですが、死にゆく老人が持っていてもどうしようもありません。
そもそも彼女を殺した私が持っていていい物かもわかりません。
ならば、せめて未来を創り出す若者たちへ託す事にしました。
それを見て、平和の大切さを思い出してください。
決して、戦争の悲惨さを忘れないでください。
同情して欲しいわけじゃあありません。忘れないで欲しいのです。」
「亮さん・・・」
「ちょいと、老人の頼みを聞いちゃくれませんか?」
「うん、何でも言って。」
「平和の大切さを噛みしめ、今を生きてほしい。
戦争なんて起きないような世の中を創ってほしい。
それだけです。」
渡された1枚の紙は、やけに重かった。
【簡易解説】
沖縄出身の元兵士であった老人は、「島唄」を聴いて少年時代が懐かしくなり昔話を始めた。
けれども、それは悲惨な戦争の前置きだった。
愛する人を手にかけ、その肉を蝟ーした事を告白した老人は、最後にその女性の日記を取り出して一ページを破り若者へと渡していた。
決して戦争を忘れないように。
たった1枚の紙の重さで。
-了-
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この作品は戦争の悲惨さを物語る、という一言では片づけられないでしょう。その話は淡々と、そしてゆっくりと紡がれながら、ありありと鮮烈に景色が思い浮かんでしまう。その紙の重みは言葉の重みでもあり、そして今まで歩んできた道の重みでもある。赤紙がもたらす政府からの重圧と、大事な未来を容易く潰されてしまうこととの対比のようで、酷く胸打たれるようでした。これは私には書けません。改めて、OUTISさんという人を尊敬いたしました。
俺は昔からお笑いが好きで、よくヘッドホンで漫才を聴いている。今日もハスキーボイス⑦の芸人①のネタで笑いながら過ごした。
……懐かしいな。俺にもお笑い芸人を目指してた頃があったっけ。
確かこの辺に…あったあった、俺らのネタ帳。
あの頃はかなり狭い⑥アパートに住んでたし、部屋も散らかしてたからリモコンをなくす③こともしょっちゅうあったな。
相方、元気にしてるかな。
連絡とってみっかー。もし会えることになったら、これを持っていこう。
男はネタ帳の一番お気に入り⑮のネタが書かれたページを取り、ポケットに入れた。
~完〜
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その短さが、私はほしかった。
-完-
俺はハスキーボイス⑦のお笑い芸人①の漫才を聴いてお笑い芸人を目指してた学生時代を思い出し、コンビを組んでいた相方のウミオにメッセージを送るためマインスイーパーしかしない(しかもすぐ爆発させる)②スマホを開いた。
「よっ、久しぶり。なんか懐かしくなってさ。食事でもどうよ?」
しばらくして返事が来た。
『久々じゃん。明日空いてるしいいけど?』
「やった!」
喜んでスタンプを押した⑩。
「どこにする?」
『10時に海亀屋でどうよ』
「いいよ。ありがとな!」
海亀屋はかなり狭い⑥路地を抜けた先にあるので自転車では向かえない⑧穴場的スポットだ。おっ、ウミオが来た。
「よぉウミオ、久しぶり。何年ぶりだろうな?」
『高校だから…7年ちょい?』
「そんなにか…最近どう?」
『実は俺、医者に癌って言われてよ』
「…どういうこと?」
『冗談だよ冗談。嘘w④』
「ったくお前なぁ…」
ウミオは昔からこうだ。
『そういうお前は?』
「俺は最近冷え性がつらくて…⑤」
『お前おじさんじゃねーかw』
「ちげーよw注文するか。すいませーん!ナポリタンください」
『俺は朝はご飯派⑭なのでオムライスで』
「これ、持ってきたぞ」
俺はポケットに入ったネタ帳の切れ端を取り出した。
『おっ懐かし〜w』
「そうだろ!」
『お前は闇に包まれた⑪俺の心を救って⑨くれたなー。』
「な、なに急に」
『あの頃は夢とかなかったからよー』
「…そうか。」
『にしても本当懐かしいよな。なくしたリモコン③が3日くらい見つからなくてさ。もう同じ過ち⑫は犯したくないよ』
「それでさぁ、また漫才やらないか?」
『今からか。遅すぎない?⑬』
「いけるって!来年のカメ-1出てみようぜ!」
〜数ヶ月後〜
司会「優勝者はタートルズのお二人でーす!」
二人は賞レースで優勝し1000万円を手に入れたとさ。めでたしめでたし。
~完~
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もうショートの時点で言いたい事は言ったのですが、とにかくこのまとめる技術がすごい。小気味よい会話のやりとり、それだけでカメオとウミオの漫才師のような関係性ですとかもわかりますし、なにより要素と要素の連関性があったりもして、15要素入っているのにさりげない使い方をしていてとてもいい。まさに創りだすのあり方のひとつだと思います。なので改めて言いましょう。
その短さが、私はほしかった。
-完-
走れ、進め、飛び出せ!
ヘッドフォンから聴こえる音声。あの子の歌声。その全て、君達にとっては、懐かしい宝物。
高校生になった頃だった。
中高一貫校で、まだあいつらとは同じ学校。あいつらや君のことは、まだ学校中で話題になってたんだ。
「突如消えた天才バンド、『リモコン』③」
校内で年に一度、6月に開かれるバンド大会で毎年、その圧倒的な才能を見せつけていた君たちは、去年、突如、衝撃的な形で姿を消した。宣伝も練習も、噂に聞かなくなってしまったんだ。
君は「リモコン」のギタリストだった。圧倒的な演奏力、表現力もさることながら、たまにコーラスではハスキーな歌声を披露して⑦、女の子を魅了してたっけ。
そんな空虚なバンド活動なんて、嘘の塊だった④、君は気づいたんだ。あいつらの軽んじた行動とそりが合わなくなっていった。メンバーと衝突も、たくさんした。
やがて、メンバーに追いやられるように君は、バンドを去った。陰湿な苛めだった。君の「仲間」が仲間じゃなかったことに気づくのは、遅すぎたんだ⑬。君は「仲間」を信じていたけど、薄っぺらなあいつらは、君を踏みにじった。
君はもう、ステージでギターを持つことを止めていた。中三の年の大会で問題を起こして。降り積もった怒りから、君はステージで、あいつらに手を出してしまった。卑怯だったよね。あいつらは、君への陰湿な嫌がらせの中、手だけは一度だって出さなかった。 あいつらの苛めは少なくなったけど、君は仲間のいない、狭い狭い、小さな世界⑥にひとりぼっちだった。
そんな時、あの子が来た。最初は、そうだ、下駄箱に手紙があったんだっけ。まるでラブレターみたいだったね。
私と一緒に、ステージに出てくれませんか?
ユキナ
君はその頃ユキナのこと、少しも知らなかった。だからびっくりした。でも、ラブレターの返事はしなかった。またバンド大会に出て、バンド活動をして、空虚な「仲間」と同じ過ちを繰り返す⑫のが怖かった。例えユキナが、どんな奴だったとしても、ね。
そう、ユキナは底抜けに明るい子だった。闇に包まれた⑪立方体の中に、ひとりぼっちで住む君を、必死に連れ出そうとしていた。
君が「ラブレター」を受け取ったことを知ったあの子は、どうにかして君をその気にさせようとした。 ユキナも高校一年生。他のクラスから遊びに来て、初対面の時は君にこんなことを言った。
これから一緒にステージに上がるんだから、私は君のことが知りたい!
例えば…朝はご飯派?⑭
知らねぇ。
好きなお笑い芸人は??①
関係ねぇだろ。そんなこと。①
馴れ馴れしいあの子が、君には最初は鬱陶しかった。ユキナの質問や話に、まともに答えることはしなかった。君の名前、以外はね。
じゃあさ、君の名前は…マエバシ…なんていうの?
…クニハル。
返答に、ユキナでさえ、少しびっくりしていた。君はユキナに、名前を教えた。「リモコン」の頃から、ギターのマエバシという名前は有名だった。でも、クニハルは、あいつらくらいしか知らなかった。
もしかしたら、君は心の底で、あの子に期待していたのかな?こんなにもズタズタにされた心を、ユキナが救ってくれること⑨。ゴミ同然に扱われて、キチガイのレッテルを貼られて、ひとりぼっちの確定判子をあいつらに押された⑩君に、あの子がステージへ行こうって、手を差しのべてくれること。それも、君が可哀想だから、とかじゃない。
ユキナが、他でもない君に期待してくれるのが、君には嬉しかったんだ。
ユキナは君と同じ、ギタリスト。お気に入り⑮の相棒の名前は「ミーハーちゃん3号」。とかなんとか、得意げに説明したユキナを、君は黙って見ていた。
でも、スタイルはずっと一人で練習、大会には出ていなかった。一人で練習する中で、あの子はノートを作っていた。有名な曲の楽譜や、難しいリズム、対策、日記形式で、それはノート何冊分かも解らない、一つの本くらいの厚さになっていた。ギターを始めた中一から四年間、欠かさず書いてたんだから、当たり前だけどね。
あの子は、情熱の証として、それを君に進呈した。大丈夫、コピーはとってあるもん。そう、笑いながら。君はあのことがあるまで、そのノートを開かなかった。君はまだ、ユキナに心を開くのが怖かった。
君と一緒にステージに出たい!
「リモコン」で君を知ったであろうユキナに、そう言われるのが辛かった。
まあユキナは、勝手に君とユキナで二人メンバーで、大会に申請してたんだけどね。
君がユキナと、少しだけ話すようになっていた頃のことだった。邪魔さえなければ、君が少しずつ、ユキナに心を開いていった頃だね。日付でいうと、大会の1ヶ月くらい前。
ユキナは、あいつらに殴られたんだ。
君はその日、小雨の降るなか、スーパーに行った帰りだった。自転車も満足に通れないような⑧小さな路地に、倒れているユキナを見つけた。
君は本当に驚いた。顔にはアザ、腕にも傷があった。小さな雨の中、あの子は冷え性が辛いことの何倍くらい、寒かったのだろう⑤。意識を失っていた。
君が直ぐに救急車を呼んだのも幸いして、ユキナは助かった。ただし、顔のアザと、腕の骨折は、直ぐには治らなかった。
緊張した様子で付き添っていた君は、ユキナと、ユキナの病状についてお医者さんから聞いて、絶望した。骨折したユキナの右手では、ギターは弾けない。その事実が眼前に来たのは、急にマインスイーパーが爆発する②のよりも、一瞬のことだった。
ユキナは寂しげに笑いながら、助けてくれたお礼をした。事情の説明と一緒にね。
あいつらは、君がユキナとステージに立つことを嫌った。「リモコン」の失態戦犯が、ステージに出るなんて、穢れた行為だ、って。
あいつらがユキナのことを知ったのは、君のせい。偶然出会ったあいつらに責められて咄嗟に、ユキナと大会に出たいって、言っちゃったんだ。あの子と一緒になら、君は走れそうだった。あの子は何故かもわからない、君を元気にさせる、不思議な力を持ってたんだ。
だからあいつらは、ユキナを責めた。君との交流を断ちたかったあいつらに対して、気丈に抵抗したユキナの心は、本当に強かった。それであいつらは手を出してしまったから、停学になったんだけど、そんなことは君は、どうでも良かった。
投げ飛ばされたユキナの、鉄柵に当たった右手は、結果として骨折した。その事実が、衝撃的すぎた。
病院から帰った君は、すがる思いでユキナのノートを読んで、泣き出したんだっけ。あの子が大会に賭ける情熱を見て、或いは、ギターボーカル一人でも大会に出られるのに、それでも、ギターを持ってステージに立つ君のことを考えてくれた跡を見て。
或いは、あの子が綺麗な文字で手書きした、ある詩を見て。
君は申し訳なさでいっぱいだった。自分の書いた詩を、自分の全てをさらけ出してまで、君を信じたユキナは、君の「仲間」のせいで、大会でギターが弾けないんだ。 君はその時まで、完全にはユキナを信じられなかった。自分を信じたユキナとステージに立つことを、「リモコン」の頃の過ちから、怖がっていた。
自分が信じた相手に裏切られるのが、どんなに辛いか、知っていながら。
たくさん泣いた君は、もう一度ギターを持つことを決めたんだ。
大会当日は、会場がどよめいていたね。「リモコン」の件で、出場禁止になってもおかしくなかった君が、ユキナの説得を受け、またステージに上がったんだから。
しかも、メンバーはあの頃より人数も減って、五人から二人。メンバーのもう一人は、誰も知らない、右手をギプスで固定した女の子。
でも、信じ合った二人の演奏の前では、みんなそんな疑問なんて吹っ飛んだんじゃないかな。
走れ、進め、飛び出せ!今、追い風に乗っかって!
隣で走ってくれる君に、贈る、ありがとう!
君がユキナの詩を基にして、短期で仕上げたオリジナル曲。君のアコースティックギターの旋律と、底抜けに明るいあの子の言葉、歌声。
拍手でいっぱいの会場で、君も、ユキナに向けて精一杯の拍手を送ってた。
その時のユキナの、呆気にとられたような顔は、今でも忘れられない。
校内大会の録画動画の再生を止め、ヘッドフォンを外す君。スマホの隣には、大会の前に穴が空くくらい読み込んだ、ユキナのノート。
君はあるページを開いた。ユキナが大会に申請する時、バンド名を決めようとした跡。
あの時は確か、候補が絞れずに、ユキナの独断で「No Name」だったんだ。というより君は、選考の場にいなかったし、ね。
じゃあ、今度の名前は?
隣から、優しい声がした。いつまでも変わらない、キラキラ輝かせた目と、弾んだ優しい声。腕はもちろん完治済み。あの子が君に、問いかける。 君は候補の中の一つの書かれた1ページを、丁寧に破り取った。ユキナはそれを怒ったりしない。だって…
コピーはとってあるもんな。
君は笑いながら、ある候補を指さした。
L.Latte主催 アマチュアバンド大会
申請用紙
バンド名
「Yukiguni」
Gt.Vo.赤羽 雪菜
Gt.前橋 国晴
おわり。(総字数3619字。)
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こういう青春ほんと好きなんです。闇を抱えながら一人で生きていく人間に、一筋の光のような人が現れて。ふたりの絆がだんだん強固になっていって、いつの間にかかけがえのない存在になって。話としては王道なんですけど、そういうキラキラした青春に強く惹かれてしまう人間にとっては、もう好みドストライクでした。「好きな芸人は?」「関係ねえだろ」という要素の捻り方も好きです。映像化して~!
男には、お気に入り⑮の本があった。
お気に入りといっても、内容は全く理解していない。
実は昔から活字が大の苦手で、タイトルと書き出ししか読んでいないのだ。
あの日から、ずっと本棚の奥にしまい込んだまま。
男はヘッドホンを耳に当て、まだ自分が学生だった頃に思いを馳せた。
中学受験に合格したお祝いで、最新のCDMDレコーダーを買ってもらった。
独特なハスキーボイス⑦が売りだった女性シンガーのCDをレンタルし、MDに録音する作業が楽しくて仕方なかった。
そういえば『あの子』は今何をしているんだろう?
録音したMDを貸した女の子。
代わりに、とあの子が持ってきた本を借りたのだ。
お互い名前も知らないのに話は盛り上がり、毎日のように2人で放課後を過ごした。
好きなお笑い芸人①が出る番組を録画したかったのに、リモコンが見つからなくて失敗したとか、マインスイーパーが下手で、どうしても爆発②させてしまうとか。
そんな他愛ない話で爆笑していた。
ーーーね。この本のこと、内容もタイトルも絶対に秘密よ。誰にも言わないでね…
貸しっぱなしのMDと、借りっぱなしの本。
いつから、あの子と会わなくなったんだっけ。
確か自転車では向かえない⑧くらい遠くに引っ越した、と風の噂で聞いた気がする。
「引っ越しの準備進んでる?」
部屋に入ってきた妻の姿を見て、男は慌ててヘッドホンを外した。
末端冷え性⑤の彼女は、もっこもこの靴下を履いている。
可愛いなぁ。
「あっ、ほらやっぱりサボってる」
「ごめん。ちゃんとやります」
彼女にプロポーズした時、OKを貰って小躍りした。
天を仰ぎ、神様は本当に存在するのだと心を救われた⑨様な気持ちだった。
婚姻届に判を押す⑩手が震えていたことは、未だにからかわれるネタとなっている。
男の部屋は2人で住むにはかなり狭い⑥ので、結婚を機に新居へと引っ越すことにしたのだった。
「あ、それ懐かしいねぇ」
今まさにダンボールに詰めようとしていた本を指差し、妻が言った。
「お互い借りパクしてたままだったね。あのMDどこにしまってたかな…?」
きょとんとした男を見て、嘘でしょ④?と妻は目を見開く。
「えっ、えぇ?君、何で」
「ははーん。さては私が貸した本、ちゃんと読んでなかったのね」
「いや、何ページかは読んだんだよ!ほら、出だしが印象的だったから」
《私は、何度も何度も同じ過ちを繰り返す⑫》
ハモった。
「つまり、あの子は君だったってことか」
「何だ。てっきり覚えてたからプロポーズしてくれたのかと思ってたのに」
妻は本に目を向けた。自然と男も視線を落とす。
本のタイトルは『闇に包まれる⑪』だ。
ちょうど真ん中のページを見るようにうながされ、男は慌ててページ数を確認して紙を捲った。
100ページの本なので、50ページ目 は…
何故か切り取り線があった。
✂――――――キリトリ――――――
「トリック的に、そこであぶり出しが必要なの。さあ、破って。ライターある?」
言われるがまま、男は本の1ページを破り取った。 ライターで下からあぶると、文字が浮き出てくる。
『春山沙織』
妻の旧姓だった。
「この本は私が趣味で書いて作った本。犯人は私。探偵に暴かれて、80ページで終わってる」
では、残り20ページは…?
私の名前は春山沙織です。
あなたの名前は?
本の感想を聞かせて。
ほとんど空白の20ページに、小さな手書きの文字が並んでいた。
「昔は引っ込み思案だったの。恥ずかしいから、誰にも秘密にしてって言ったのよ」
なのに、反応無し。
これってどういう意味?
「ええー!いや、君は気づいてたの?」
「あなた、昔と全く変わってないから」
褒められているのか貶されているのか怪しいが、女性って色んな意味で怖い。
ひとつ咳払いをして、妻が正座した。
思わず男もそれに倣う。
「春山沙織です。あ、今はあなたと結婚したから三沢沙織だけど。あの頃、一緒に遊んでくれてありがと」
「三沢孝宏です。あの、ごめん。本当は活字が苦手で、本読んでません。でも…これからも、末永くよろしく」
遅すぎる⑬自己紹介をして、2人して思い切り吹きだした。
だめだお腹痛い、とか言いながら昔話に花を咲かせる。
今夜、引っ越しの準備は進みそうにない。
「明日、朝は私が用意するわ。ご飯でいいよね」
「君、朝にパン出したことないじゃないか(笑)⑭」
【〜Happy End〜】
[編集済]
すき。荷物整理して、ふと学生の頃を思い出すというシチュエーションから、もう胸が高鳴りました。そして今の今まで気づかずに、あの時の子ともう再会してて、そして結婚までしている。そして改めて自己紹介するっていうのが非常~~~にエモい。かわいい。末永く爆発してほしい。マインスイーパーだけに。(?) でも、ほんとにこのふたりにはあたたかい家庭を築いていってもらいたいなあと思いました。これは某弥七さんが好きになるのも(ry
物語は未完成だからこそ美しい。
ふ、とそんな言葉が頭に浮かんだ。何故だろう。考えたのは一瞬で、すぐに思い当たった。
金曜日の夜。カレンダー通りの仕事、明日は何の予定もない。そんな日はなんとなく眠る気分にもなれず、ヘッドホンでラジオを聞きながらぼんやりと夜更かしをするのが習慣になっていた。
聞こえてきたのは、特徴的なハスキーボイス。(⑦)昔、よく聞いていた歌だ。流行の歌でもなく、この歌がお気に入りだという人は俺の他に一人しか知らない。(⑮)
だから思い出した。彼の言葉。
物語は未完成だからこそ美しい。
田舎とも都会ともつかない町の、偏差値が高くも低くもない高校。疎外されるほど嫌われてはいないが、積極的に仲間に引き込まれるほど好かれているわけでもない、普通の生徒。俺も彼も、そういう立ち位置だった。
「物語は未完成だからこそ美しい。そうは思わないか?」
「なんだよ、それ」
いや、普通というには彼はいささか変わっていた。朝食がご飯派かパン派かで争っている中では、食事としてのご飯と米としてのご飯の話を始め。(⑭)マインスイーパーをやればわざと地雷を踏み、果てにはマインスイーパー自体を爆発させるプログラムを作った。(②)
そんな彼だから、変なことを言い出すのにも慣れていた。
「完成した物語、完結した物語はそれで終わりじゃあないか。どこまでも続く、どこまでも広がるからこそ、その可能性が美しいんだ」
「そういうものか?」
「では物語の終わりはなんだと思う? 人生の終わりは? 死? だが世の中の物語の大半は死によっては終わらない。そして死によって終わる物語は悲劇となる。では、終わりとは。死とは」
「また難しいことを考えるものだな」
「そう、難しい。だからこそ考え続けるのさ。これもまた美しいといえるのだろうか」
「知るか」
それから彼は、事ある毎に未完成の物語について考えるようになった。
元より彼は答えのない問いを考えることが好きだった。それは時には無くしたリモコンを探すためにタイムスリップする方法であり、時には嘘つきのクレタ人のことであった。(③④)
だから彼が何度その話をしたところで、またいつもの発作だと笑っていた。
彼が本気で美しい物語を探していることに気付いたときには、もう遅かったのだ。(⑬)
高校一年生の冬。彼は死んだ。
朝、自室で首を吊っていたらしい。遺書には両親への感謝や迷惑をかけることへの侘びが書いてあったそうだ。死を選んだ理由はなく、ただ誰かへの恨みだとか絶望だとかではないとだけ書かれていたと、聞いた。
状況からして自殺としか思えない。遺書もある。ただ、動機がない。そしてもう一つ、彼がいつも使っていた自転車がなかった。
自転車は、葬儀も終わってから神社の境内で見つかった。彼の家からは自転車で十五分程の距離だ。ただしその境内は約五百段の石段の上。或いは木の生茂る山の上。自転車では辿り着けないはずの場所だ。(⑧)そしてそこに自転車を置いてしまえば、帰りは三十分以上歩くことになる。
第三者の介入も疑われたが、結局は自殺で落ち着いた。そう、彼は自殺したのだ。己の物語を未完成のものとするために。少しの謎を残したのも、物語を続けるための布石だろう。
いつの間にかラジオは次の番組に移っていた。役者だかお笑い芸人だかがメールを読んでは笑っている。(①)時計を見れば、三時を回っていた。もう寝るか。ヘッドホンを外して、マグカップを片手に立ち上がる。ふと、本棚の最下段に目が留まった。卒業アルバムだ。
実家から出る時に押し付けられたまま、小学校から大学まで揃っている。高校のアルバムを抜き出して、開く。卒業時のクラスのページには、当然いない。行事のスナップ写真は時系列だろう。入学式。いない。オリエンテーションキャンプ。いない。体育祭。いない。いや、俺はいた。文化祭。――いた。
確か、ゲームをモチーフにしたアトラクションだ。教室の前に段ボールで作った飾りは、既に半分以上剥がされている。その前でクラス全員が集まって、各々好きなポーズで写っている。一番後ろ。端。半目になっている俺の隣で、人当たりの良い笑みを浮かべている。
分厚い紙だが、思ったよりは簡単に破けた。キッチンの一口コンロで燃やせば、簡単に灰になる。
俺だけが知っている。彼の物語はまだ、終わってはいないことを。
【絶筆】
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未完成だから美しい、そしてその美を追い求めることこそが「彼」の生きる道。彼は自分の生を芸術に昇華しようとしたのでしょうか。そして、「謎」を遺すというのが、永遠に未完成の傑作、絶筆した作品のようで、とても心惹かれます。彼の自殺に理由はないのかもしれない。しかし、もしかしたら……なかなかどうして、答えがないものにそそられます。これだからハシバミさんファンはやめらんねえ。
赤い光が、ある男へ入っていく。
何かを求めるように、フラフラと。
俺の耳元で数々の憤りの声が囁く。
突然の事に驚き、そして気が狂いそうになるのをヘッドホンで音楽を聴く事で耐えようとした。
しかし、俺はその囁き声が頭の中で物語になっていくのを感じていた。
そして、その感覚に若干の覚えがあった。
“創作意欲”、“インスピレーション”。
学生時代消しゴム判子を創っていた時、感じていたものを無理やり引きずり出されているようだった。⑩
そして、もう一つ。
昔、学生時代に見た夢と似ているのだ。
当時は何度も居眠りをして叱られていたが、あの時の夢だけ少し異様であった。⑫
ふと思い出して当時の国語の教科書を探す。
…見つけた。
後ろの方についていた世界の童話集がお気に入りでよく授業中に読んでいたのを覚えている。⑮
周りの奴らがお笑い芸人の話で盛り上がっていたり、携帯でマインスイーパーをしたりしている中、一人で本を読んでいるくらいには読書家だった。①②
パラパラとみていると、当時しなかった単元のページが目に入る。
[書]⑴物語を書いてみよう。
…これだ。
このインスピレーションを形にしなければ。
そう思って、ペンを手に書き始めた。
…闇に包まれながら、触手のような粘液が蠢いていた。⑪
そこは、かなり狭かったが不定形の“ソレ”にとっては大した問題ではない。⑥
シンギュラリティ。
狂気的特異点とでも呼ぼうか、太古の地球に飛来した「古のもの」達によって創造された“ソレ”は知能を持ち、「古のもの」に反抗して全面戦争を起こした。
結果として、「古のもの」によって彼らは 地下深くに封印されることとなったが、決して死に絶えてはいなかった。
地下深くで、その憤りを抑えながら復活の日を待ち望んでいた。
それも、もう終わり。
ある日、大きな地震で地は裂け、その隙間から最強のスライムが目覚めたのだった。
ある朝、ある男が目覚めると街は昏い影に飲まれていた。
人々は皆怒り狂い暴徒となって破壊を行っている。
自らにもふつふつと底しれぬ怒りが湧いてくる。
嗚呼、もう遅すぎたんだ。⑬
狂気の怒りに染まるのを感じながら、男は理性を手放した。
こうしてとある大きな街は狂気に沈んでいった。
当時貴族たちの間で流行っていた自転車でも追いつけぬほどのすさまじい速さで。⑧
そうして街が支配されてからしばらくしたある日、突如街の四方から影が晴れていった。
「みんな落ち着きなさい!」
「皆さん落ち着きましょうね~」
「落ち着いて、ください。」
「あんまり怒りん坊な男の人は嫌われるわよぉ~?」
街の人々の心を救ったのは、4人の少女たちであった。⑨
影は四方から狭められていき、街の中心に追い詰められた。
形を変えて少女たちの目の前に現れた“ソレ”は、形容し難い粘液のような存在だった。
「貴方が、5人(?)目なのねぇ?」
「こ、こんなのと一緒に行かなきゃいけないの?」
少女のうちの二人が声をかけると、
「こんなのとハ、失礼だナ。」
そう、ハスキーボイスで“それ”は答えた。⑦
「貴方にも、来てもらわなくちゃいけないのよぉ。」
「断ると言ったラ?」
「貴方は断れないはずよぉ?
だって、そういう運命なんだからぁ。」
「何か勘違いしているようだガ、私はお前たちとは似て非なるものダ。
確かにお前たちに惹かれる何かを感じるガ、断る事もできル。」
「えっ・・・」
その言葉に、高飛車な少女は動揺を見せる。
「だガ、私を見ても正気を保っているのは面白イ。世界を見て回るついでニ、ついて行ってやろウ。」
その言葉に少女たちが目を輝かせる。
「私の名は『ショゴスロード』。“最強のスライム“ダ。」
そう言ってショゴスは形をローブをまとった初老の男性の姿へと変える。
彼らの旅は、まだ続く。
…違う。
書きあがった物語を見て、俺はため息をついた。
明らかに何かの続きである物語。
決して完成ではない、不完全な物語。
納得できない。
そう思い物語を書いたページを破り捨てた。
気が付けば、あの囁き声はなくなっていた。
紙は捨てられたが、物語は“創り出された”。
それだけで、十分だった。
【簡易解説】
突如インスピレーションがわいてきた男。
けれども、男にとってその感覚は異様であったためヘッドホンで音楽を聴き抑えようとした。
最終的に、その感覚に身を任せ昔の教科書を探して物語を書いた。
けれども、その内容は満足のいくものではなく男は「物語を書こう」の単元のページを破り捨てた。
了
(要素数11、約1795字・簡易解説・了含む&文字数カウント除く)
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さーやってまいりました。同じシリーズものチャレンジ(?)をしている私としてはこの問題文、そして要素でどう対応するのだろうかと気になっていたのです。もちろん自分の首も締めましたが。
ですが、「創り出された」を逆手に取るとは。でも果たしてこの行動は本当に夢なのか? それとも……? そんなふうに考えてしまいまして、また次回が楽しみになってまいりました。いったいどんな結末を迎えるのでしょうか。さあ、次回はなんと、あの月のプリンセスが登場です。(勝手に予告するスタイル)
⑥負け際の塹壕戦、背後にある通信基地をなんとしても守らなければならない戦況となった。男は兵士の一人で、狭く汚い塹壕に身を隠しながら地獄のような日々を送っていた。
②一発逆転をかけ、自陣に相手を引き込み地雷で一掃する作戦が提案された。地雷を警戒して相手はまず地雷処理兵を送ってくるだろう。男は、その処理兵を殺す任務を負った。結果、手榴弾で処理兵を爆殺することに成功した。
⑬予想通り自陣へ雪崩れ込み地雷によって数を減らしていく敵兵。だが、その勢いは止まらなかった。反撃と言わんばかりに猛攻を仕掛けられ、味方がたくさん死んでいく。男は撤退を要請しようと通信基地へ急いだ。だが基地は砲撃の流れ弾によって半壊しており、既に放棄された後だった。遅すぎたのだ。
それでも希望を捨てなかった男は、必死に通信機にしがみついた。チャンネルを本部に合わせて、ヘッドホンを耳に当てる。......だが、いくら待てど何も聞こえてこなかった。しまいには、敵兵の怒号がすぐそこまで迫っているのが分かった。俺はここで死ぬのか。男は戦場に連れてこられる前のことを幻視した。学生だったころはこんなんじゃなかった。平和だった。日々が楽しかった。一体いつから、この戦争は始まったんだ?
⑮ふと男は、懐に入れておいた一冊の本を取り出した。学生時代のお気に入りだった。辛くなったとき、狂ってしまいそうになったとき、これに触れることで精神を保っていた。その本の最初のページ──何も印刷されていない白紙のページを開いた。そして、それを破りとった。ペンを取り出し、名前を書き込んだ。せめて、手紙だけでも残さなければ。
④内地に残してきた妻と、今年で十歳になる娘に向けて。この国は負けてしまうだろうこと、自分はもうすぐ死ぬだろうこと。だが、何も心配はいらない。俺は死ぬまさにその瞬間まで幸せだった。男は、人生最期の嘘をついた。銃声が響いた。
おしまい
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Hugoさんに死角なし・・・
今回はかなりエモンガは難しめかなーと思った次第だったのですが、この内容量で1分ぐらいで読み終えてしまう・・・? 嘘やろ・・・? 絶対私なら長々と書いてしまう。なのに、酷く心を揺さぶられてしまいました。死にかける時の描写なんかもう、本当に硝煙の香りとか、錆びた鉄のようなにおいが伝わってくるようです。要素の入れ方も段落ごとに挟まれ、ちゃんと丁寧に組み込まれていてすごく好きです。
僕はゆるっとした脳みそと、かなり狭い⑥範囲で思いつける語彙を駆使して、どうにか【創り出す】に参加していた。
僕の創り出す文章は毎度毎度、とにかく短いのである。
しかし、短い解説が良いという説も事実もない。
むしろ、僕は丹念に創り上げられた美しく精緻な文章に心惹かれる。
【創り出す】において、 いかに解説を短く料理してやるか などという馬鹿げた過ちを意図して繰り返す⑫のは僕だけなのでは?と不安に思うことが多々ある。
さて、今回ピックアップされた要素は何だろう?
以下から最低5個選んでください。
①~⑮(省略)
!?
以下から5?え、5個?
何、マジで5個でもいいの…?
コホン。
ふむ、相変わらずカオスだな(通過儀礼)。
ザクザクまとめていこう。
これはみづ氏(仮名)が【創り出す】を創り出す模様を追ったドキュメンタリーだ。
10月17日(木)
うーん、お笑い芸人…あんまり詳しくないけど、絡めるべきだよなぁ①。
むしろ、これをメインにしちゃう?
マインスイーパーは昔やったことがある。1発目で爆発させた苦い記憶②。
よし、アレとアレとコレとコレとムニャムニャを使おう。
集中する為にテレビを消そうとしたが、リモコンが見当たらない③。
まあいいか、とヘッドホンを耳に当てることにした。
うーん。何も聴こえないと、それはそれで落ち着かなくなってくるな。音楽でも流してみよう。
懐かしいなぁ、これ中学生の頃のヤバい癖が詰め込まれた闇まみれ⑪のプレイリストだ。
同士を募り、カラオケで歌いまくり、荒んだ心を救ってくれた⑨…。
いや、何でこんなのチョイスしちゃったの。
思い出に浸っている場合ではない。締め切りがあるんだから。
10月18日(金)
急に寒くなった。秋という中間期をすっ飛ばして冬になることが多くなってきた気がする。
喉が痛い。これは風邪をひいてしまったかもしれない。
試しに声を出してみた。
「ぼえ~」
がさっがさのハスキーすぎるボイス⑦。
ただでさえ冷え性⑤で風邪をひきやすいというのに、よりにもよって【創り出す】の期間に風邪なんて洒落にならない。
こういう時、独り身はツラい。
優しい奥さんがいて『体調悪いなら、ゆっくり寝てて』とか言ってくれたら、なんてね。
10月19日(土)
やはり喉が痛いので、朝食はお粥にした。
え?パンをスープに浸すとゴックンしやすい?
いや、パンなんて論外だ。朝食はご飯に限る⑭。
何はともあれ、期限内に創り出す投稿をしたい僕は、お粥を流し込み気合いを入れた。
ふと窓の外を見る。
…って、うわ!最悪だ。
雨が降ってきた。
食材が切れかかっている。
買い物に行かなくてはならないのに、金がなくて車の免許を持っておらずド田舎に住んでいる僕は、専ら自転車で移動していた。
カッパで行くか…?
風邪ひいてるし、こんな土砂降りの中を自転車でスーパーに向かうなんて狂気の沙汰だ⑧。
僕は早々に諦めて、創り出すことにした。
10月20日(日)
僕は機械に疎く、出来るだけ人前でスマホを使いたくない。
外出の予定があると創り出せないのはそのせいだ。
未だに連打(フリック入力も出来ない)している。
だから、何をするにも遅すぎる⑬のだ。
ウミガメで質問したら結婚重婚しまくるし、出題の返答も追いつかない。
今回の【創り出す】でも、文字数カウントの仕方が危ういので、こうなったら短文投稿のポリシーを捨ててでも15個全ての要素を使い切ろうと決意した。
10月21日(月)
朝方、ようやくひと区切りついたので眠ろうとしたら、ピンポーンと鳴った。
どうせセールスだろう。
眠いので無視することにした。
いや、待てよ。
数日前にお気に入り⑮の本を揃えたくて、通販でまとめ買いした記憶がある。
僕は素早く対人用の衣服に着替えた。
ビンゴ!
やはり宅配便だった。
見慣れた制服に身を包んだ女性が、プルプルと腕を震わせながらダンボールを抱えている。
この地域の担当になったことを呪っているかもしれない。
「す、すみません…お待たせして」
鬼重いダンボールを受け取り、僕は判子を押した⑩。
10月22日(火)
ダメだ。
こんなの【創り出す】じゃない!
みづ氏(仮名)は頭を抱えていた。
我々の存在を忘れているし、未だにテレビのリモコンが見つからないので、耳にはヘッドホンを装着したままだ。
安物なのか、微かに漏れ聴こえる音楽は結構ヤバいラインナップである。
スマホすら上手く扱えず、冊子型のメモ帳に呪文のような読みづらい字が踊っている。
まるで本のように分厚いメモ帳。
わざわざ小さなメモ帳にするから、分厚くなるのだということに気づいていなのか?
全文をこれから連打でスマホから投稿するらしい。
確か【創り出す】ではコピペ投稿がマナーとされているはずだが…。
短い文章ならば許されると考えているのか。
こいつはダメな人間だ。
ビリッ
唐突に、男はその本の中の1ページを破り取った。
見たところ1番最初のページ、10月17日の記述だと思われる。
【創り出す】には締め切りがあるという。
男…みづ氏(仮名)にとって、開催初日(10月17日)はすでに遥か『昔』のことなのだ。
「ううっ」
そもそも厨2闇歴史プレイリストが思い出とかアウトでしょ…えーい、こんなもの破ってやる!
半泣きの中年男は、そこはかとなく不気味であった。
みづ氏(仮名)はこうして、ちまちまといくつもの【創り出す】の断片を消してゆくのだ。
さて、破られたページをどう書き直すのか。
我々はこの先も、みづ氏(仮名)を追跡していこうと思う。
「?????」
我々が用意したサンプル映像を確認していたみづ氏(仮名)。
「あのさ。これ、宅配便受け取りのとこ以外、僕喋ってないよね?」
ええ。
ナレーターさんがアドリブで声当ててます。
イケボでしょう?
うちの看板ナレーターなんです。
ふっ、本当にみづ氏(仮名)全然喋ってないですね。
「イケボだけど!最後とか、明らかにおかしいでしょ?やった、完成したー!ってそりゃちょっと半泣きにはなったけど、そこで厨2闇歴史がどうのって…何なの?」
あ、そこはナレーターさんが困ってましたよぉ。
急にページ破ったりし出すから、ちょっとコイツ大丈夫かなと。
思い当たるのがヤバい闇まみれのプレイリストくらいしかなかったらしいです。
「破ったのは『ヤバい闇まみれのプレイリスト』じゃなくて『要素漏れ確認のチェックリスト』だ!」
また上手いこと言う。
さすがですね~(笑)
「くっ、全然上手くないし!そもそもお前たち、部屋にいなかったじゃないか。さては隠しカメラだな!?盗撮だ!」
えぇ?
だってみづ氏(仮名)、ひきこもって無言で書き続けてるし、オッサン単品って絵面的にあんまり面白くないし。
「思ってたけど、ちょいちょいディスってくるよね!」
確かにナレーション部分には思わず聴き入ってしまったが…。
彼(誰?)は僕に恨みでもあるのだろうか。
ほんと、ナレーションの端々に悪意を感じるんだけど!
僕はこの話を断ることに決めた(当たり前だ)。
情熱大陸とか言うから…。
あっ、やっぱり違うじゃないか!
情熱太陸ってパクりにしても雑すぎる。
「二度と来るな!」
僕は奴らを追い出した。
そして隠しカメラ等を完璧に排除するため、盗聴盗撮バスターに依頼する羽目になったのである(痛い出費)。
浮き足立って契約書に判子押さなくて良かった。
絶対、ミジンコサイズの文字で危険な注意書きがあるはずだ。
今流行りの【創り出す】詐欺に遭うなんて、やはり僕はツイてない。
10月23日(水)
~追記~
でもまぁ【創り出す】には無事投稿できたし、いっか。
・2020
・思い出の後先
危ない、忘れるところでした。
追記以外の内容は、ほぼ嘘っぱちです④。フィクションです。
ちゃんとメモ帳アプリからコピペしています。これだけは言っておかないと。
【Fin】
[編集済]
ドキュメンタリー形式とは恐れ入った。その発想、ありそうでなかったです。
この明らかなパチモン感も控えめに言って大好きです。そしてあることないこと勝手に吹きこんじゃうナレーションもいいキャラしてます。じわじわきます。そして3作投稿もお疲れ様です。でもなぜかフィクションだとは思わないんですがなぜでしょう。そんな妙なリアリティさが好きです。これは某弥七さんが(ry
お笑いオーディションからの帰り道。①
俺はヘッドホンを耳に当て、お気に入りのラジオ番組を聞いていた。⑮
あの時の間もっと工夫できたな、質問にうまく返せなかったな。
今日の反省点がどんどん浮かび上がってきて、ラジオの内容もよく入ってこない。
家が近づいてきた時、ふと懐かしい歌が流れた。
忘れることのできない『彼女』の、大好きな歌だった。
ーーーーーーーーー
俺は、友達はいなくて、お昼ご飯は教室の隅で一人で食べているような高校生だった。
授業も全部わかっていてつまらないものだったし、テストも当たり前のように満点。
そして、それが他の人から嫉妬されて、挙げ句の果てに仲間外れにされるという悪循環。
本当に、楽しくなかった。
そんな俺の心を救ってくれたのが、彼女だった。⑨
彼女は俺に話しかけ、一生懸命に会話をつないで、共通の話題を見つけてくれた。
それは、ひと昔前にブレークした芸人の話というしょうもないものだったけど、彼女は芸人が好きらしく、笑顔で毎日話しかけてくれた。
彼女はクラスの中でも大人しい方で中心的な存在ではなかったから、俺がクラスのみんなと仲良くなるなんてことはなかった。
それでも、俺には彼女がいればそれで十分だった。
いや、むしろ彼女以外のものは何もいらなかった。
それくらい、俺の中で彼女は大きな存在になっていた。
後から知ったことだが、彼女は先生に頼まれて俺に話しかけてきてくれたようだった。
しかし、そんなことはもうどうでもよかった。
彼女が、愛おしかった。
彼女は冷え性で、いつも足の冷えに悩まされているようだった。⑤
この情報は俺が彼女を一日中観察した結果導き出したものだから、正確にはわからないが。
そこで俺が手作りの、市販のより温かさが長持ちするカイロをプレゼントしたら、喜んでもらえた。
その時の笑顔が眩しくて。
ますます俺は惹かれていった。
彼女の家は俺の家の真反対にあり、家に帰ってからだと自転車で向かえない距離だった。⑧
だから俺は仕方なく、彼女の少し後を歩いて家に入っていくのを見届けてから帰ることにした。
彼女はとても可愛くて、クラスの男子から密かに人気だ。
ただ、俺はそんな奴らとは違う。
彼女の本質、全てを愛しているのは俺だけだ。
ソファーに座っていてリモコンを自分で踏んでいるのに気づかず、一生懸命探しているところ、朝はご飯派で特にお茶漬け鮭味が好きで週に4回は食べているところ、最近の趣味はベッドに寝転がってマインスイーパーをすることだがいつもすぐに爆発させてしまうところ、そしてその後に口を膨らませる仕草。②③⑭
彼女が生きる一瞬一瞬全てが愛おしい。
彼女と婚姻届に判子を押す夢まで見た。⑩
俺こそが彼女にふさわしい。
そんな安堵感からか、告白せずに高校生を終えた。
ーーーーーーーーー
卒業後は、彼女が好きで二人の思い出でもある、お笑い芸人になるために、都内のかなり狭いアパートを借りて一人暮らしを始めた。⑥
偶然にも彼女の通う大学が近くだったため、その付近のコンビニのバイトをいくつも掛け持ちしながらネタを書いた。
しかし、お笑い芸人の道はそんなに甘くはなく、生活を切り詰めて、毎日彼女との将来を励みに頑張った。
彼女が大学を卒業したら告白しよう。
そう心に決めて。
しかし、ある日から突然彼女は大学に来なくなった。
俺は心配で仕方がなかった。
彼女の新しいアパートの住所は突き止めることができなかったため、安否を確認することができない。
不安で不安で不安で不安で不安でたまらなかった。
彼女を見かけなくなって556日と12時間24分目。
近くのカフェでついに見つけた。
男と幼い子供と手を繋いで幸せそうな彼女を。
目の前の光景が信じられなかった。
彼女は、結婚したらしかった。
相手はいかにも金持ちそうな、耳障りなハスキーボイスの若い男だった。⑦
俺の心は、一瞬にして闇に包まれた。⑪
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
ついていってみると、新しい綺麗な一軒家に入っていった。
その日はバイトを休んだ。
俺はどうしても諦められなくて、翌日彼女の家に行った。
「久しぶり。覚えてるかな?俺、ずっと君のことが好きなんだ。誰よりも愛してるよ。」
『…あんた、あの時のストーカーでしょ。最悪。気持ち悪い。二度と私に近づかないでよ。』
会話はそこで終わった。
あれは俺の知ってる彼女じゃない。
きっとあの男に毒されて変わってしまったんだ。
なんて可哀想なんだろう。
今更告白するなんて、遅すぎたんだ。⑬
俺がもっと早く告白していれば。
俺がもっと彼女を守ってやれてたら。
もう同じ過ちは繰り返さない。⑫
今度は、俺が彼女を救う。
ーーーーーーーーー
この何ヶ月かはとても忙しかったな。
振り返ればもう昔のことみたいだ。
ヘッドホンを外して家の鍵を開ける。
相変わらず狭いアパートに住んでいる。
そろそろ引っ越そうかなと思いつつ鍵をしっかり閉める。
本棚に行く。
本を取り出す。
一ページ破る。
リビングに行く。
鎖に繋いだ女の子の口に入れる。
飲み込ませる。
最近の帰ってきてからのルーティーン。
彼女と新しい人生を歩むために、過去は捨てなくてはならない。
無論、彼女が高校時代持っていて借りたままだった本もだ。
でもそのまま捨てるのはもったいない。
だから食費を浮かせることにした。
まあさすがに紙だけじゃ生きていけないから、一日に一ページずつ。
順調に減ってきている。
彼女に似て大人しい子だから手間がかからないし。
そろそろ俺が新しい父親だとわかってくれたかもしれないな。
彼女との生活のための準備は着々と進んでいる。
相変わらず芸人として売れないし、お金もないけど大丈夫だろう。
彼女の方に保険金が入ったはずだから。
俺が稼いだ金といっても過言ではないしね。
ああ、ごめんね。
お腹空いたよね。
もうすぐご飯にするから、テレビでも見てちょっと待ってな。
俺と彼女とこの子の幸せは、もうすぐそこにある。
もう、俺たちを邪魔するものはない。
家事をしっかりできる夫にならなきゃな。
幸せな気分に浸りながら、夕飯の準備を始めた。
ーーーーーーーーー
『続いてのニュースです。先日、都内の⚪︎×区で、3人暮らしの家族の夫が殺害され、子供が誘拐された事件について、警察は捜査を進めていますが未だ犯人は捕まっていません。一人無傷で助かった妻の・・さんは今日、子供の顔写真を公開しました。引き続き情報提供を求めています。…』
【終】
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ヒエッッッ・・・・・・・・・(すき)
あの、また温度差すごいやつ書いてしまったんですか? もう日本中のグッピー全滅しますよ?
失礼しました。とにかく気が動転しすぎてそのままシライ/グエンを決めてしまったものですから、思わずグッピーを心配してしまいました。しかし本当に男の狂った愛の描き方は上質なホラー作品のようなそれで、めちゃくちゃぞっとしました。1作目からの流れでこんなの書いちゃうんだから・・・そんなイナさん(さん)の二面性を今後とも推していきたいです。
〜賢い息子〜
息子は怒っている。
ムスッとした顔でいつもと同じ白米をモシャモシャ食べている。⑭
今日は12月25日、クリスマスである。
なのに…なのに…“プレゼントが無い”のだ。
父親も母親も音楽が大好きだ。家のラジカセからは常に何かの音楽が流れている。自然と息子も音楽を愛する人間になった。音楽は世界を広げてくれる、そしていつでも沈んだ心を救ってくれると知っている。⑨
13歳になる今年、サンタさんにお願いしたのは、ヘッドホンだった。ラジカセで聞く音楽も、もちろん良い。だが、ヘッドホンで聞く音楽は別物だ。周りが闇に包まれたように真っ暗になり、自分だけの世界に浸れる。⑪
今まで使ってた父親のお下がりのヘッドホンは数ヶ月前に、壊れてしまった。2月生まれの息子はこの日を待ちわびていたのだ。
朝、枕元には手紙があった。
「プレゼントは明日届けます。ごめんね。」
切り取った活字をツギハギに貼り付けた、爆破予告スタイルで、こう記されていた。楽しみにしていただけにがっかりした。明日では遅すぎる。⑬
何事もなかったかのようにご飯を食べる、真向かいに座る父親、斜め向かいに座る母親。
父親の顔を見ていると、ふと思い出した。昨晩のことだ。
ぐっすり寝ていたら、何か顔に落ちてきたのだ。思わず声をあげた。
「あ!ごめんごめん」
そこには父親の焦った顔があった。みんなで布団で雑魚寝する我が家だが、寝る時の並びは父親、母親、息子。何故父親がここにいるのだ。
聞こうすると、僕の耳を撫でた父親は寒そうに自分の場所へ帰っていった。気になったが、暖かい毛布の心地よさで、いつのまにか寝ていた。
あれは一体なんだったのか?わからないことは聞いてみる。
「あ〜ごめんごめん。寝ぼけて手が当たっちゃっただけだよ。大丈夫だったか?」
幸い痛みはほぼ残ってなかった。しかしこれは妙だ。昨晩息子の顔に当たったもの。あれは手の感触ではなかった。もう少し柔らかい、しかし中には硬さがある、そんなものだった。
「いやいや、気のせいだよ。」
父親は言う。嘘をついている?釈然としないがまあ良い。父親を責めてもヘッドホンは出てこない。父親より、今憎むべきはサンタクロースだ。④
そういえば、学校の友達がこんなことをいっていた。
「サンタさんって本当はいないんだぜ。だってさ1人で世界中の家に1日でもプレゼント配れるわけないじゃん?お母さんとお父さんがくれるだけなんだよ」
まったく馬鹿馬鹿しい、息子は思う。父親は、サンタさんは、別世界の人だと言っていた。自転車で会いに行くこともできないと。我々には想像もつかない技術を持ってるに決まってる。もし存在しないのなら、こんな世界中に名を轟かせているはずがないのだ。⑧
息子は気分を変えようとする。
テレビで録画していたお笑い番組を見ようと思ったらリモコンがなかった。
賢く、大人な息子は泣き叫んだりしない。だが腹が立つ。こんな時こそ音楽が必要だ。①③
CDをセットする。ハスキーボイスの綺麗な歌声が流れてくる。息子の気分も少し良くなった。⑦
しばらくして、テレビを見ようとしたら、リモコンが見当たらない事を思い出す。人間ば何故同じ過ちを繰り返すのだろう。息子の気分は少し下がった。⑫
もう数十分音楽に浸った後、本を読もうと思い至り、父親の書斎に向かう。
読書をするのも、両親の影響だ。
「小説は世界を繋げてくれる。」
そう言う父親の書斎には山ほど本がある。父親のこのかなり狭い書斎だけでこんなに本があるのだ。この世界には一体どれだけの本があるのか。想像するたびに息子はワクワクする。⑥
どれを読もうか物色する。両親は気に入った本は2、3冊買う。なので数冊ある本を選べば、まず間違いはない。
入口のすぐ近くに2冊ある本があった。手に取ってみる。
息子はすぐに違和感を感じた。パラパラとめくってみる。
明らかに破られているページがあった。
これはなんだろう。考えていると今日はクリスマスだと言うこと、そして朝の出来事が頭に浮かぶ。
サンタさんの手紙、あれは父親の本で作られていたのかもしれない。
息子は考える。何故。何故。
友達の話が思い浮かぶ。
「サンタはお父さん、お母さん」
父親の言葉が思い浮かぶ。
「サンタさんは別世界の人」
「小説は世界を繋げてくれる」
数秒後、結論に至った息子はニヤリと笑った。
息子はこれから読むかもしれないその本を1ページ破った。ハサミとのりを用意する。
活字を切り取り、紙に貼り付ける。
「サンタさんへ
やはりあなたは本当にいたんですね。
『本は世界を繋げてくれる』
本で作った手紙は、あなたの住む世界と僕らの住む世界を繋げてくれるのですね。
僕は両親にしか伝えてない欲しいものを何故あなたが知っているのか。
パパがあなたに伝えていたんですね。
安心して下さい。僕はこの事を他の人に言いふらしたりしません。
世界中の人があなたに手紙を送ったら読みきれないでしょう。
秘密にします。
でもその代わり、明日には必ずヘッドホンを下さい。」
息子はその手紙を枕元に置くと、満足げな表情で眠りについた。
翌朝、12月26日、息子は目を覚ます。
数秒の心地よいまどろみ、そしてはっと周りを見渡す。
枕元には柔らかい袋があった。中にはヘッドホンが入っている。
早速お気に入りの曲を流す。⑮
未来を歌う曲だった。
賢い息子は、これからの輝かしい未来を思いながら、ヘッドホンを耳に当てている。
〜慌てん坊のサンタクロース〜
その夜サンタはひっそりと息子の枕元に向かった。冷え性にはつらい寒い夜だ。手には柔らかい布に包まれたヘッドホンがある。父親の影響で息子は音楽を愛する少年となっていた。⑤
ゆっくり、ゆっくり。音を立てないように。
手を伸ばして、枕元に置こうとしたその時。
手を滑らせた。ヘッドホンが息子の耳に当たる。
しまった!恐る恐る息子の顔を覗き込む。
寝ぼけた表情の息子。その目を見た瞬間サンタは昔を思い出す。
サンタさんについてあれこれ考えたりした、サンタさんは両親だと言う友達を鼻で笑った、あのころ。誰よりも広い世界をいくつも持っていたあのころ。
顔を見られてしまった。今日はプレゼントは渡せない。賢い息子だ。手書きも避けよう。
書斎に入る。ぱっと目に入った2冊ある本を手に取ると、1ページ破る。昔読んだことのある本。ハサミとのりで手紙を作った。
プレゼントは明日届けます。
ごめんね。
【了】
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これはなるほどなあ・・・こういう構成の仕方はすごいですね。
サンタさんは本当にいるのか? と思わせといて、実際は賢すぎるが故に斜め上の発想をしていた、というので、クスっと笑ってしまいました。これがもし父親視点が先だったら微笑ましいぐらいで終わっていたはずが、あえて後にすることで息子視点での不可解だった謎を解き明かしてくる。しかもヘッドホンの当て方ですよ。まさかガチで当てに来るとは。(?) そんなやり方もあったのか・・・勉強になります。
仕事の疲れからか何をする気も起きず、おもむろに枕元のリモコンを掴んでテレビをつけた。
最近流行りのお笑い芸人がアイドルをネタに漫才をしていた。面白いのだが、隣で笑う人がいない。①
朝はご飯派なので米を炊かねばならないが、億劫でやる気にならない。⑭
冷え性だから風呂に入って温まりたいが、肝心の風呂が洗えていないから湯を溜めることもできない。⑤
こういう時に思い浮かぶ人は、1人いる。
俺はその人から届いた郵便に目を落とした。
村瀬綾子から、結婚式の招待状が届いた。
彼女と俺は、いわゆる幼馴染だ。小学校から大学までずっと一緒だった。
編み物が趣味で文学少女だった彼女と、近所のガキ大将だった俺が親しくなれたのは、心の深い部分で波長が合っていたからに違いない。
付き合ってくうちに、彼女がよく読む本を読むようになった。彼女もより社交的になったと思う。自転車で家に遊びに行くと、いつも嬉しそうに笑うのが眩しかった。
大学を卒業してめっきり会わなくなった。
彼女に彼氏が出来たのは共通の友人から聞いた。
ショックな事に、俺は思っていたよりもそれに悲しみを抱けなかった。
気分はマイフェアレディのヒギンズ博士だった。
その頃から彼女が大学で創った詩をよく読んだ。
『昔の嘘が鎖をかける。今になって、叫ぶことすら出来なくなった。ああたった一言、好きだと言いたいだけなのに。』④
これが自分に向けられた言葉だと信じて疑わなかった。
イライザの“ I love you ”を自分のものだと確信した愚かなヒギンズは、優越感の海で泳ぎ疲れ、花売り娘を蔑ろにしていた事に気付きもしなかった。⑮
招待状には手紙が同封されていた。
力なく文字を追う。
『
こんにちは。お久しぶりです。五年ぶりですね。
私はこの度結婚する事になりました。相手は同じ職場の先輩です。突然の報告になってしまいましたが、裕介くんには伝えたいことが沢山あるので、手紙を書きます。
裕介くんとは小学校からずっと一緒でしたね。内気な私をいっぱい外に連れ出してくれて本当に感謝してます。
中学の頃、球技大会で裕介くんと同じチームになった事、覚えてますか? あの日、皆に良いところを見せようとして失敗ばっかりだった私を、裕介くんが優しく慰めてくれた事、今でも鮮明に浮かんできます。
あの日だけじゃない、裕介くんはいつも私を助けてくれましたね。ただ幼馴染が心配だっただけかもしれませんが、いつも優しい裕介くんが心の支えでした。
実はずっと内緒にしていた事があります。
大学二年の学園祭に文芸サークルで詩を詠んだ事があったのですが、あれって実は裕介くんを思って書いたんです。今では恥ずかしくてもう読めないけれど、すごく感慨深い思い出です。勝手にテーマにしてごめんね。
婚約した先輩と会ったのは入社して二年目の頃でした。
あの頃色んなストレスで潰れそうになった私を、隣で励ましてくれる先輩がいつの間にか大切な人になっていました。
裕介くんが私を引っ張ってくれるなら、先輩は隣で寄り添ってくれる人です。一度会ってみてください。きっと仲良くなれると思います。
もう一つ隠していたことがありました。
裕介くんがずっと好きでした。
小学校の頃からずっと、ずっと、あなたの事を目で追っていました。
結婚報告の手紙にこんな告白を書いたら、困ってしまいますよね。でも、きっとこの先もう二度と伝える機会がなさそうなので言ってしまうことにします。
裕介くんが、ずっと好きだった。
結婚式には絶対来てください。もし来られなくても、近々会いましょう。その時は夫婦揃って伺います。
長々と失礼しました。裕介くんと会えるのを楽しみにしています。』
ずっと好きだった……? 俺だって、俺も、ずっと好きだよ。
目の前が暗くなりそうな時は、いつも隣に彼女がいた。⑨
でも今はいない。彼女がいる場所は、自転車では到底たどり着けない。俺は気づくのが遅すぎた。⑧⑪⑬
耳障りなテレビの音を消そうとしたが、リモコンが見当たらない。無神経な笑い声が神経を逆なでする。③
頼む、お願いだから静かにしてくれ!
思わずヘッドホンを耳に当て、ギュッと目を瞑った。
過去形で綴られた愛の言葉は、消し去ろうとする感情と反作用して考えたくもない懐かしいあの頃をフラッシュバックさせる。
そして、思い出した。
今つけているヘッドホン、高校一年の誕生日に初めて彼女からプレゼントされたかけがえのない宝物だった。
涙がひとしずく、頬を伝う。
マイフェアレディなんかではなかった。ピグマリオンの哀れな博士、いや俺自身がイライザだったのだ!
伝えなかった言葉は、もう伝えられなくなっていた。彼女の詩を何度も読んだはずなのに、同じ過ちを繰り返すとは!!⑫
気がつくと、本棚にしまってあった文集から彼女の詩が印刷されたページを破り取っていた。
苦しくて、痛くて、何が何だかわからない。
俺はもうどうする事も出来なくて、ただの紙切れになったそれを抱いて、惨めに泣いた。
【了】
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マイ・フェア・レディはあらすじぐらいしか知らないのですが、それでも切ないすれ違いといいますか、そういうのに惹かれました。
当たり前のように思っていた関係はいつの間にか崩れていた、でもそれを知ったのはとうに手遅れというようなものに、ひどく物悲しさを覚えます。
気づいていたら、変わっていたのだろうか。伝えていたら、あの人は隣にいたんだろうか。そんな悲しみがラストの余韻となって、ある意味では心地いい気分になりました。
酒焼けでハスキーボイス⑦になった冷え性がつらい⑤
飲酒運転になるので通勤には自転車では向かえない⑧キャバ嬢が
当時の彼氏のクズっぷりを相談して心が救われた⑨という理由で新たに付き合いだした
新卒で就職するには遅すぎる⑬朝はご飯派⑭で
リモコンを何度も無くすほど部屋が散らかって③⑫かなり狭くなった⑥自称お笑い芸人①の田中に
夜道⑪は怖いので迎えに来てもらおうと電話をかけても
ヘッドフォンをしてPCで学生時代を懐かしみ
当時お気に入り⑮のマインスイーパーでクリア寸前で爆発させた②という理由で電話に出なかったのだが、
判子の押してある⑩婚姻届と面接を受けてきたという就職情報誌の切れ端を見せて
お前と結婚したいから、その時、面接を受けていたと、嘘をつく④為
めでたくなし めでたくなし
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tsunaさんキレッキレ。今の創りだすではあまり見られないような、こういう力業っていうんですか、レゴブロックで奇跡的なクリーチャーを創りあげるようなそんな作品を見ることが少なかったので、このイカれたメンバー(要素)をまとめ、そして繋がりを見出していくやり方がもうたまりません。ラストの言い訳もまた、男の性格の断片をあらわしているようで好きです。
男は闇に包まれるといってもいいほど空が暗い早朝に起きると、ごはん派の息子のためにご飯を炊いて朝食を用意する。(11)(14)いつもは妻も朝食を作るのだが、今日は3月ではあっても冷え性がつらくてなかなかベッドから出たくないのだという。(5)おいおい、今ベッドから出ないと息子の式に間に合うように朝食を作るには遅すぎるよと思いながらも自分が朝食を作ることにした。(13)今日の朝食は特別だ。いつもは白飯なのだが今日は赤飯を用意し、息子がお気に入りの料理である鶏のから揚げをたくさん揚げている。(15)そう、今日は息子にとって特別な日なのだ。それは息子の大学の卒業式。新たな門出を祝うためこの日の朝食はいつにもまして力を入れた。
息子が起きると、息子がテレビをつけようとリモコンを探すが、リモコンがどっかに行ってしまったようで不満げだった。(3)
「お父さん、リモコンどこ?」 「うーん、わからないや。」
「もうお父さんったらこの間もリモコンなくしたじゃん。(12)」
「ああ、ごめんごめん。」
いつもならなんてことのない日常会話。しかし、息子は大学を卒業したら上京して就職し、一人暮らしをするため今日で息子は男から離れることになるのだ。内心この日が嘘であってほしいと思いながら男は息子とともに朝食をとった。(4)自分たちが住んでいるところは、今度息子が住むところからは自転車は遠すぎて迎えられないのはもちろんのこと、自動車でもそう簡単には向かえない。(8)だからせめてその心の寂しさ会話をすることで少しでも救おうとしているのだ。(9)そのうち妻も起きて朝食を食べさせ、妻と息子は着替えの準備をして大学に向かうのだった。
男は2人を玄関で送った後、涙を流しながらかなり狭い部屋の廊下を通って書斎へ向かうのだった。(6) 書斎へ向かうと、男はおもむろにラジカセとCDを取り出した。そのCDは息子がお気に入りの曲を集めたものだ。男はヘッドホンを耳に当て、CDを再生すると息子の学生時代を思い出すのであった。(1)
男と妻は共働きであり、なかなか育児に時間を割けなかった妻のために男も息子の育児に協力していた。その1つが休日に当時小学生の息子と一緒に遊ぶことだった。ある時は家で息子と音楽をかけながらマインスイーパーで勝負して何度も爆発して泣きそうになりながらも最後には勝利したことがあった。(2)その時の曲もCDに入っており、息子と勝負する時間が楽しかったなと男は思った。またある時は息子と一緒にカラオケ店に向かい、息子のお気に入りの曲で一緒にカラオケを歌うことがあった。といっても、ハスキーボイス、もといかすれ声気味の自分の声で声が若い息子と一緒に歌うのはかなりきつかった。(7)その中でもあるお笑い芸人の曲はなかなかうまく歌えず、ノートに音階や歌詞を書いて何度もそれを見返しながらカラオケに行くたびに息子と一緒に歌った。最初は自分の声で嫌そうにしていた息子も、次第に自分と楽しみながら歌うようになった。
そういえば息子はこの曲がきっかけで高校卒業までお笑い芸人を目指していたんだっけ。男はそう思いだした。息子が高校を卒業して浪人のために予備校に行かせようとしていたある日、息子が突然NLCなるお笑い芸人養成所の入学志望書を持って行ってハンコを押してほしいと頼んできたことがあった。(10)男はものすごく怒ったものだ。最終的には何とか息子を説得し、息子は予備校に行ったのだがときどきもしお笑い芸人養成所に行かせていたらどうなっていたのだろうと思うこともある。
でも、そんなことを思っても仕方がない。今日で息子とは別れ、それぞれ別の道を歩むことになるのだ。大学を卒業すれば息子はもう自宅には寄らずすぐに東京に向かい、そこで自立して住むことになる。もう息子に会える時間は少なくなるのだ。 男は音楽を聴き終えると、涙を流しながら、お笑い芸人の曲の歌詞や音階を書いたノートを探した。もう育児をしていたあの日々にもう戻ることはできないのだ。そして・・・そのノートは見つかった。 ページをめくると・・・あった。それはたしかにあのお笑い芸人の曲の歌詞だった。
歌詞を見ながら父はますます涙が止まらなくなった。 「息子とはもうお別れなんだな。さようなら息子。さようなら子育て。」 そう思いながら、父はお笑い芸人の曲のの歌詞や音階を書いたページを破り捨て、息子の自立を喜ぶのであった。(終)
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自分の学生時代ではなく、子どもの学生時代という発想。まずそれが好きです。青春って、学生だけでなくその親もある意味体験しているのだなあ、と思いました。そして子どもの成長を見守っていく過程、そしてまた子どもも男と同じような体験をするのかなあと考えると、よりノスタルジックな気分になります。子どもを持つっていうのはこんな素敵な体験をするということでもあるのだなあ。なんとなく羨ましい。
トーマスは昔の荷物を漁り、カセットや本を見つけた。
ヘッドホンを耳にあてお気に入り⑮の曲を聴くと学生時代が思い出された。
「そんなもの付けてたら警報も聞こえないだろ」と、よく怒られたものだ。
というのは、通っていたのは普通のジュニアハイスクールではなく、軍士官学校であったからだ。
ヘッドホンをしているのと、軍人を目指す身のわりに足が遅すぎた⑬のもあって、
「タートル(亀)」と呼ばれて、ピエロ、日本でいえばお笑い芸人①のように、
良い意味で馬鹿にされたものだ。
あの時の、叫びすぎてハスキーボイス⑦になってしまっている教官すら懐かしい。
「あれすら懐かしくなるとは、俺も年をとったな」
最近では、遠くに行くはずないテレビのリモコンがどこかへ行った③と探したり、
男のくせに手の先の冷え性がつらかったり⑤と、年をとったを感じることも多くなった。
本を捲っていると空白だったはずの場所が斑になっている事を見つける。
「おや、これは…」
それが斑模様、よく見るとかなり狭い⑥間隔で書かれた文字であることに気づく。
「この文字の癖はあいつか…」
学校の近くにあった小高い丘と一人の友人が思い出される。
「やぁ、またここで書いているのか。パトリック」
「あぁ、トーマス。君も丘まで良く自転車でくるね。しかも毎回一人で」
彼はパトリック。彼もあだ名が決まっていない頃に、
転んで鍋を溢してしまって、「ポット(鍋)」と呼ばれ鈍さを小馬鹿にされていたのだ。
その点と、読み書きの違いはあれど、本が好きという点で趣味が合ったのだ。
「そっちこそ、また小説を書いているのかい。いい加減読ませてくれよ」
「あぁ、戦争をしなくてよい世の中になったらね。まぁ人間は同じ過ちを繰り返している⑫から、どうだろうね」
「なんだよ。読ませてくれないってことかよ」
今は、アメリカ人の俺が朝はご飯派⑭になるほど、戦争はしなくてよい世の中になったぞ。
約束通り読ませてもらう。
そこには、小説なんかではなく、家族へのメッセージや住所、
そして恐らく自分たちをテーマにした童話、絵本のような物の文字が書かれていた。
それを読みながら、学校卒業後に一緒に行くこととなった作戦…
自分から大切な物を二つ奪った、俺の心が闇に包まれる⑪こととなった作戦を思い出す。
「やぁ、久しぶり。元気だったか?地雷除去作業らしいな」
「元気だよ。地雷についてはどうやら、中立の国の要請で恩を売っておこうという事らしい」
久しぶりに会う友人。比較的簡単な作戦と楽観的な気持ちになる。
「ところで、その本貸してくれないか?」
「ん、あぁ良いけど。大切なんだ。汚さないでくれよ?」
「あぁ。約束はしかねるけどな」
あの時、すでに嫌な予感があったのだろうか。
俺の大切なものを汚してまで、自分のメッセージや住所を残すというのは。
あの作戦で俺は大切なものを二つ失った…。足と友だった。
むしろ敵国と友好な関係となっていた中立国は、
嘘④の地雷撤去作業を依頼し、地雷撤去作業者を爆発させる②事で
こちらの軍を削ろうとしていたのだ。
俺の心は闇に落ちた…。
俺は友の住所を確認し、故郷に戻ろう、外国へ行きたいと奥さんに相談した。
彼女は日本人であるのに、闇に落ちていた自分の心を救って⑨くれ、
足を失った自分のリハビリまで付き合ってくれたのだ。
それだけが理由ではないが、結果的に婚姻届けに判子を押す⑩事となった。
足のない者との海外旅行だ。しかも行く場所自体は見たことがない。
この年で行くのはかなり負担をかけるだろう。
しかし、奥さんは
「あら?それはあなたにとって大切な事なんでしょう?
なら私にとっても大切なことよ。一緒に行きましょう」
と言ってくれたのだ。
「その代わりに、そのお友達との思い出。話して聞かせてくださいね」
俺は、思い出のあの丘へ連れて行くことも心に決めた。
もう自転車では向かえない⑧し、一人ではないが、パトリックは喜んで迎えてくれるだろう。
そして、彼の家族に渡そうと、大切だった本のもっと大切な1ページを破り取った。
そうだ。彼の残した童話も代わりに絵本にしよう。
絵本だから、そうだな、タイトルはシンプルがいいな。
(完)
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大切な物を失えば心は荒み、新しく大切な物を得れば心が救われる。トーマスがパトリックが残した童話を絵本にしようと思ったのも、完全に癒えてはいない戦争の傷を、失ったもの自身が癒してくれたからなのかなあ、とそんなふうに思いました。そういった心のつながりが形に現れるというのが、エモいですね。そして、タイトルの意味に持っていく・・・このテクニックも、凄い好きです。
売れない①お笑い芸人である俺は⑤冷え性が辛く暖房の③リモコンを探し始めた。そのときふとある引き出しが気になった。
「そういえば全然開けてなかったな…」
その引き出しを開けてみると雑多な物の中に1枚のCDが見つかった。 そのCDをイヤホンで聞いてみると懐かしいメロディが聞こえてきた。
これは.......学生時代のバンドで作った曲だ.......
この綺麗な⑦ハスキーボイスはボーカルの渚の声だ。 彼女は⑮お気に入りであるこの曲に⑩太鼓判を押していた。
僕はそんな彼女に心惹かれていた。そしてそれはただの片想いだと思い込んでいたのだ。そしてその片想いというのは④嘘だった。当時の僕の視野は⑥かなり狭かった。
彼女が作ったこの曲の歌詞。当時はラブソングだと思っていた歌詞。今となって気付く。この歌詞は永遠の片想いが綴られたものだったんだ。俺は気付くのが⑬遅すぎたんだ。
彼女のあの明るい笑顔。ストレスで⑪闇に包まれていた俺の⑨心を救ってくれたのに。
ああなんで、⑭朝はご飯かパンかなんてつまらない喧嘩で顔を合わせなくなってしまったのか.......
その瞬間、一気に彼女に会いたいという気持ちが溢れ出てきた。まるで②マインスイーパを爆発させてしまったかのように。
しかし彼女はすでに遠くへ行ってしまった。⑧自転車などでは決して辿り着けない場所へ.......
そう、海外である。だが俺は逢いに行く。この気持ちを無碍にしたくない。かつてと⑫同じ過ちを繰り返したくないのだ。
ノートに書かれたこの曲の歌詞のページを破り、なけなしの金を握りしめた俺は家を飛び出した。(終)
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この作品を読んだ状況ですか? 正直椅子からすってんころりんするかと思いました。
切ない恋愛話は好物なのでもうずっとそのノリで読んでたのですが、遠くって本当に物理的な遠さでくるとは思いませんでした。これはいい裏切り。ハピエン好きにもやさしいです。
なお、同じ所で突っ込みを入れている人がいらっしゃるようなので、もうびーんずさんの手のひらでいろんな人がダンサブルに踊っています。とんだ策士です。そんなあなたが好きです。
「この声……そっか。本当に。」
「ね?イイ曲れしょ?この人ホントスロいんすよ!曲作って歌詞書いて歌って演奏して、全部一人でやってるんすよ?」
男の呟きに被せて、男の後輩である『我蛭 罍(あびる らい)』はまくし立てた。酒樽を意味する名前のくせに、酔っぱらうのは速い。苗字の“浴びる”のせいだろうか。
紹介した曲を聴いている相手に話しかけるのだから、質の悪い絡み方だった。男はちらりと後輩の方を見たが、すぐに目を閉じた。
「…。」
「先輩、最近の曲もイイもんれそ?食わず嫌いはダメらってわありましたぁ?」
男はヘッドホンを耳につけたまま。
ゆったりと流れる世界から、雑音が消え去っていく。
3分と58秒間の没入の後、男は本棚に手をかけた。
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食わず嫌いなんて、したくてしていたわけじゃない。もしかしたらその曲が、自分の世界を広げてくれるかもしれないし、閉じた目を開けてくれるかもしれない、なんてことは知っている。…ただ、俺には勇気がなかった。あの日々を懐かしむ、勇気が。
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林 檎花(はやし きんか)。高校2年生の時、俺は初めてそいつとしゃべった。後から聞いた話によると小学校も同じだったらしいけど、俺は特に気づいていなかった。
林は、それまで俺が出会ってきた中で一番静かなやつだった。声を聞いたことすらなかったと思う。いつも赤と黒のイヤホンを耳につけていて、それでずっと何かの音楽を聴いていた。俺が疎いのもあったけど、林も誰かに曲を薦めるようなことはしなかったから、俺たちの接点は皆無だった。
あれは夏休みの始まる前々日。ホームルームが終わって帰るとき、ふと林の机を見ると、スマートフォンが置かれていた。クラスの他の女子が着けているようなストラップは一切なく、黒い、としか形容しようがないシンプルなものだった。そういえばペンケースやカバンにも何もついていなかったような、と妙に納得した俺は、そのカバンが見当たらないことに気がついた。何の気なく気になったスマホは忘れ物のようだった。特別届ける義理もなかったが、見つけた以上は放置するのも申し訳ない気がして、俺はそれを手に取った。走れば間に合うかな、と教室を出たところで、不機嫌そうな顔をした林と目があった。
数秒の沈黙。奇妙な気まずさを感じていた俺に、林は声をかけた。
「……それ、私の?」
2メートルも離れていない場所から発せられたものとは思えないような、とても小さな声だった。
「えっと、うん。そう。はい。」
焦っていた俺はとりあえずスマホを渡し、足早にその場を去った。すれ違う瞬間、微かに「ありがとう。」と聞こえた気がしたが、俺は振り返らなかった。
夏休みの前日、つまり次の日の休み時間中。教室の端で一人窓の外を眺めている林に、俺は話しかけた。
「あ、あのさ、いつも何聴いてるの?」
林が振り返って、初めて目と目が合った。反射的に目を逸らしそうになるのを我慢しながら、俺は返事を待った。けど、しばらく待っても、林は何も言わなかった。急に鼓動が速くなるのを感じて、赤くなった顔を見られる前に俺は自分の席に戻った。
授業が始まっても俺の緊張は解けず、いつも面白い『魚平(うおひら)』先生の授業も全然頭に入ってこなかった。
次の休み時間、さすがに平静を取り戻した俺に、林はノートの切れ端を渡してきた。そこには、『鬱空虚(ウツウツウツロ)。楢韮駑羅螺(ナラニラヌララ)ってグループの曲。』と書かれていた。画数の多い難しい漢字が、ちょっと感動するくらい整った字で書かれていた。まさか、同じ教室のクラスメートとの会話に時差があるとは思っていなかった俺は、またもや動揺した。じっとこちらを見ていた林に、焦って口から出た言葉は、
「俺も聴いてみていい?」
だった。
放課後。俺たちの帰る方向は一緒だった。林によると、中学にあがるときに引っ越したけど、またこの町に戻ってきたらしい。偶然にも、俺の家から歩いて5分くらいの場所に住んでいた。帰り道、そういうわけで少し前にいた林に気づいた俺は、駆け足で追い付いて話しかけた。
「い、今は、何の曲聞いてるの?」
また変にどもってしまった、と恥ずかしさを感じていると、林は急に足を止めた。耳から外したイヤホンをハンカチで拭っている。
「……これ。」
と林が差し出してきたそれを受け取り、俺は少し緊張しながら耳につけた。
林がプレーヤーを操作し、音楽が流れ始める。頭の中に響いてきた振動は、俺が今まで体験したことの無いものだった。
俺は、俺の中の何かが、粉々に砕けるのを感じた。
4分と16秒の革命。イヤホンを返して、何か感想を言おうと思った俺は、
「ありがとう。」
と呟いていた。
「良かったね。」
さっきまでの音楽から続いているような、林のハスキーボイスが、今度ははっきりと聴こえた。俺ははっとして、けど何て言えばいいのか分からなくて、ただ
「良かった。」
とだけ答えた。林は少し笑って、それから前を向いて歩き出した。
「うん。」
と言ったその声は、やっぱり嬉しそうだった。
夏休みが始まってから、数日に一度、俺は林の家を訪れた。あの後、インターネット上では聴けないアルバムの曲をいくつか聴かせてもらえる話になったからだ。
初めの方はただCDを借りて返すだけだったけど、そのうち感想を話し合うようになった。
「…これはどうだった?」
「イントロから惹き込まれた。メロディもリズムもカッコいいなんて言葉じゃ言い表せないし、歌詞の一つ一つが共感できたし、何より聞き終わった後の余韻がすごく良かった。」
俺はちょっと恥ずかしがりながら、でも、感じたままを言った。林は嬉しそうに笑って、
「…そっか。良かったね。」
と言った。俺も笑って、
「良かった。」
と答えた。
大きくはないけど、普通に聴こえる声だった。
俺が嬉しく思ったのは、素晴らしい音楽に出会えたことや、その感覚を共有できる仲間がいてくれたことだけじゃなかったと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
林はあまり大きな声で話さなかった。いや、話せなかったと言った方がいいかもしれない。小学校のとき、その女子にしてはかなり低い声が原因でいじめられていたんだそうだ。実際にされた行為としては無視が大半で、林自身はあまり気にならなかったと言っていたが、高校生になっても人と会話するのに慣れていない様子を見るに、かなり大きな影響があったはずだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「音楽に興味なんてなかったけど…こんな曲があるなんて、思ってもみなかった。
心を揺さぶって、心を透明にして、心を救ってくれた。」【⑨】
俺の言葉に林はうなづいて、
「…私も初めは…こんなに好きになるとは思ってなかったよ。私の世界を広げてくれた。閉じてた目を、開けてくれたんだ。」
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俺と林の仲は、別に付き合うとかの意識はなかったけど、高校の終わりまでずっと続いた。本当に、たくさんのことがあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あるときは、生まれて初めて女子の部屋に入った。
「…ごめんね。私の部屋、かなり狭くて」【⑥】
「そんなこと…まあ確かにちょっと狭いけど。」
林の部屋はたくさんのCDや音楽機器、それと意外なことに、そこそこたくさんある本で満たされていた。
「本も結構あるんだな。音楽関係のやつか?」
「…うん。好きなアーティストさんについて書かれた本とか。…特に気に入ってるのは、これ。」【⑮】
「ああ、『十言神咒(とことの かじり)』さんか。インタビューなんて受けてたんだな。」
「…そう。楢韮駑羅螺が解散しちゃったその後の話とか。…他には、新曲の話も載ってるよ。」
「新曲?」
「『語麺(かたむぎこ)』だって。構想とか、歌詞に込めた感覚とか。…わ、私もまだ読んでないから、また今度でよかったらだけど、読んでみる…?」
その本は、今も俺の家にある。
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あるときは、生まれて初めて女子と二人でライブ会場に行った。
「…大丈夫?お、重くない?」
「大丈夫、いける。」
二人乗りの自転車で三つ隣の町まで走ったけど、足の疲れなんて吹き飛ぶくらい最高だった。林とはもちろん、全然知らない人達とも、最高に盛り上がれた。自転車を押して、二人並んで帰りながら、俺は何も言わなかった。林も何も言わなかった。
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あるときは、生まれて初めて女子に誕生日プレゼントをした。
11月5日は林の誕生日で、俺は冷え性が辛いらしい林に靴下をプレゼントした。【⑤】林は喜んでくれたけど、俺は自分のセンスの無さと、バイト禁止の校則を恨んだ。
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あるときは、あることに気づいた。
「俺さ、初めてあの曲を聴いたとき、俺の中の何かが壊れてくような感覚があったんだ。」
「私も、あった。…自分を操縦してたリモコンが無くなったみたいに、自由になれた」【③】
「…俺たち、違うところも多いけど、そういう所は一緒だよな。」
「そうだね。」
一瞬目が合って慌てて逸らしたけど、顔が熱くなるのは止められなかった。俺は、ただ赤くなりやすいんじゃなくて、林といると赤くなりやすいんだ、と思い知ったのは、このときだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あるときは、生まれて初めて、心の底から悔やんだ。
「小学校のときも一緒だったんだよ。クラスは違ったけど。」
「そ、そうだったんだ…えっと、ごめん。」
「どうして謝るの?」
「だって…。」
「いいんだよ。あんなの、気にしてないから。」
そう言った林…、…檎花の声は少し震えていたけど、本当に凛々しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あるときは、生まれて初めて、女子の部屋に泊まった。
「家出?」
「…。」
「最近親とうまくいってないんだっけ。」
「まあ、いざとなったら『龜田(かめだ)』の家にでも泊めてもらうよ。そういえば知ってる?あいつ、カラオケセット買ったらしいよ。」
「…。」
「…?」
「…あのさ、今日、お母さんも家に帰ってこないんだ。」
「…え?」
「……よかったら、泊まってく?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
あるときは。
檎花は自分のベッドに、俺は床に敷いた布団に潜って、電気を消した。夜も遅かったし、部屋は完全な暗闇に包まれた。【⑪】
シーンと静かで、真っ黒で、お互いの息遣いまで聴こえるようだった。
「…俺さ、本当に運が悪いんだよ。マインスイーパーって知ってる?」
「うん。」
「俺がやると、最後の最後は絶対運ゲーになって、それで毎回負けるんだよ。」【②】
「ふふ、逆にスゴいね。」
「ここまで来ると、逆に運がいいよな。…けど俺の親は、俺と違って毎回勝つんだ。」
俺は何を話してるんだ。
「…俺の親さ、本物のバカなんだ。」
「…そうなの?」
「仕事が嫌になって、お笑い芸人になってブレイクするって仕事辞めたんだ。掛け値なしのバカ。」【①】
「…うん。」
「まあ、それで本当にブレイクするんだからすごいんだけどさ。ほら、判子を押すネタの『閄(もんと)』って人。」【⑩】
「え、あの人なんだ。よくテレビに出てるよね。」
俺は何を言ってるんだ。
「……そうだ。泊めてくれたお礼に、明日の朝ご飯は俺が作るよ。俺、朝はご飯派なんだけど、き…林もご飯派?」【⑭】
「…ありがとう。私は朝あんまり食べない派だけど、せっかくだし作ってもらおうかな。」
「…そっか。じゃあ美味しいの作るよ。」
俺は。
眠ろうとしても眠れないまま、時間だけが過ぎて、そして檎花が話し出した。
「………私、夢があるんだ。」
「…夢?」
「うん。そんな大したものじゃないんだけど。」
「俺は夢なんて考えたこともないし、それだけですごいよ。」
「そうかな?そうだといいんだけど。」
「その夢ってもしかして…?」
「…うん。私、音楽の仕事に就きたいんだ。」
「やっぱり!すごくいいと思う!きっと一番の歌手になれるよ!」
「…ふふ、ありがとね。まあ、歌手は無理だと思うけど。」
「いや、なれる!俺が保証する!」
「…どうして?」
「すごく良い声だからだよ!」
「…こんな声なのに?」
「その声だから!」
「…そんなことないよ。」
「そんなこと、ある!絶対になれるよ!」
「………ありがとね。」
「…お礼されるようなこと言ってないよ。
俺はさ、
ただ、
好きなんだ。
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「すごく珍しい名前だよね。『病 鵺(いたずき やとり)』って。」
「あはは…親が冗談でつけた名前らしいんだけど、無茶苦茶だよな。」
「まあ、私の『檎花』も相当珍しいけど。」
「確かに。やっぱり由来は林檎?」
「うん。お母さんが好きなんだ。…そういえば、『檎』って字には『鳥が集まる木』って意味があるんだって。」
「へぇ。…俺の名前、そのままじゃないけど、『鳥』って入ってる、よな。」
「…うん。」
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俺は、同じ過ちを繰り返した。【⑫】何度も機会はあった。何度もチャンスはあった。何度も何度も何度もあった。でもその度に、全部飲み込んだ。自信が無かったのか、勇気が無かったのか、とにかく俺には始めることすらできなかった。爆発なんてしないのに。いっそ爆発させた方がマシなのに。
あいつは夢を叶えるために、歩いていった。追いかけるにはあまりにも遅すぎるし、いつかみたいに自転車で行けるような距離でもない。【⑧】【⑬】もちろん、離れないでついていくこともできた。…けど、俺はそうしなかった。「集中してほしい」だなんて、とっくに気付いていた自分の気持ちに嘘をついて。【④】
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「俺はさ、ただ、好きなんだ。……その声が。」
全く余計な一言。
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赤と黒のヘッドホンを外して机に置き、俺は本棚にある一冊の本を手に取った。十言神咒へのインタビューが載っている唯一の本だ。あの時から、ずっとここにある。
忘れもしない、77ページを開く。
どうしてあいつはこの本を貸してくれたのか、余白に書かれた細く美しい字を見て、俺は知った。もう10年も前のことだ。
そこには、俺が言うはずだった言葉が、言いたかった言葉が、言えなかった言葉が書かれていた。
俺はそのページを丸々破り取った。いつか見たノートの切れ端よりも、ずいぶん大きなものになった。
俺はそれを折り畳み、罍がくれたCDのケースに挿し入れた。そうしてケースを閉じて、ふと、ジャケットを見た。
あの颯然としたハスキーボイスがリフレインする。【⑦】
そこに記された名前は、
『Bird Apple』
赤い林檎のなった枝に、黒い鳥が止まっていた。
【ENDing-
“Sick Иight”】
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半ば恒例となりました、ニックさんツイッタードM企画。(失礼)毎回新しい企みに乗っかりながら、一体それをどう生かすのだろうといつも楽しませていただいてますが、いやあ・・・・・・好きです。投票対象外ではありつつも、青春のはかなさ、苦い思い出なんかがあって、凄く心に響きました。しかも、ツイッター要素である名前にちゃんと意味を持たせて、それを最後に持っていくという手腕がもう、すごすぎます。願わくば、ふたりが再会してほしいなあ・・・本当にありがとうございました。
奏はどこかにいってしまったリモコンを探していた③。うちで飼っている犬はリモコンがお気に入りだ⑮。きっとあの子がどこかに隠したに違いないと隙間という隙間を覗き込んでいた。
そんな中、奏は懐かしいものを見つけた。大学時代のサークル仲間と作った楽器紹介の本だ。奏は大学時代に楽器サークルに所属していた。それぞれが好きな楽器を気ままに演奏するサークルで、奏は主にリコーダーを演奏していた。みんな今どうしてるかなと懐かしい気分になった。
その数日後、サークル仲間の一人である響から『久しぶりに集まろう』というラインが送られてきた。
気が合うなーと少し嬉しい気分になり、この間見つけた本を持っていこうと決めた。
久しぶりにみんなと会ってなかなか話が盛り上がる。部室は狭かった⑥とか、あの曲は楽しかったなどの懐かしい話題から、娘がかわいいとか、最近はまってるものなど、みんなの近況まで、いろいろな話をした。
同窓会の提案者である響の話を聞くと彼が同窓会しよう!と思い立ったのは、昔、みんなでよく演奏した曲を奥さんが聴いていたかららしい。何を聴いているだろうと奥さんのヘッドホンに耳を寄せて聴いたというのでラブラブだなとみんなでからかった。
自分もちょうどこれを見つけたばかりだったんだとあの本をみんなに見せた。みんなは部室に置いていったらしく持っているのは俺だけだったようだ。
せっかくだから、一ページずつ分けないかと提案してみた。ただ持っていてもまた失くしかけるだけ⑫のような気がするし、次に会うときにまた一冊にしようと。
みんなもそれに乗り、ページを一枚ずつ破いた。
次は楽器の演奏できるところで楽器を持って集まろうと約束する。
今度はこの本もちゃんと保管しておかないとだな。
ちなみに、探していたリモコンは結局見つからず行方は闇の中である⑪。
おわり
※要素5つ、759文字
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これもまたすっきりとまとめていながら、ページを破ることに「なるほど!」と感心しました。かつての青春を思い出しながら、仲間と集まるというのがいいですね。そのページなくさないでよ? なんて茶化したくなってしまいますが、それを含めても要素の選び方が秀逸で、まさにどれを使うか? という職人技が光ります。その要素のつながり、話としての自然さ。うまいし好きだなあ。やっぱりきっとくりすさんの作品、好きです。
【ミュンヒハウゼン男爵の不愉快な戯言】
【投票対象外】
※人によっては不快な感情を抱く可能性があります。ご注意ください。
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不快に思うとするなら、それは君がまさにその通りの人間だからだ。 [編集済] [良い質問]
才能の無い者こそ才能の存在を信じる。
そして繰り返す、自己嫌悪の日々。
書類を書いて、客に商品を売り込んで、時々判子を押すだけの日々。⑩
俺は、社会の一歯車に過ぎない。
そんな事はわかっている。
嫌気がさして缶ビールを片手にTVを見ようとしたけれども、リモコンが見当たらない。③
仕方がないから、手近にあったヘッドホンをつけて音楽を聴く。
学生時代にコツコツ小遣いを貯めて買ったお気に入りのヘッドホンだ。
音楽の事は詳しくないけれど、これで聴く曲は他より良い音のような気がした。
学生時代、音楽だけは好きだった。
音楽の才能なんて無いって、自分でわかっていたから。
何度かパソコンで曲なんてものを創ろうかとやってみたけれども、やっぱり才能なんてなくって。納得できる音は出なかった。
だからこそ、音楽だけは純粋に楽しめた。
ただひたすら、音楽を聴いていた。
リズム、音程。俺の理解できない世界。
だからこそ諦めがついた。
純粋に、素晴らしい作品を心から楽しめた。
けれども、他はそうはいかなかった。
文を書く。
絵を描く。
どちらも、子供の頃から少しずつ触れていた世界。
才能が無い、自分とは関係ないと切って捨てるにはもう遅すぎていた。⑬
生まれてから文を書いたことの無い人が居ようか、絵を描いたことの無い人が居ようか。
昔は、周囲から上手い上手いと褒められていたけれど、それはお世辞に過ぎなかった。
自らの世界が狭すぎたから、それを信じ込んで自分に才能があると勘違いしていた。⑥
自分が一度は夢見た世界であったからこそ、自らに才能が無いと知ってから素直に楽しめなくなった。
才能への嫉妬。
心に芽生えた闇に包まれ、鬱にまでなった。⑪
常に、自らの醜い面ばかりが目に入る。
それは、インターネットという世界を知ってからより加速した。
醜い容姿、声。
インターネットで知り合った人達は、ハスキーボイスやイケボ等“綺麗”な声で歌を歌っていた。⑦
その度に自らの声の醜さを意識させられ、次第に人と話をしなくなった。
正に、劣等感の塊だった。
一時期、ウミガメのスープというゲームにハマって「正解を創り出すウミガメ」というイベントで物語を書いたことがあった。
様々な要素を組み合わせ問題文に対する回答を創り上げるという企画。
お料理バトル、男はリアクション芸人、様々な要素を無理やり押し込め自らをキャラクターとして登場させた作品は、無かったように消えていった。①
わかっている。ナルシストで自信過剰な登場人物が出てくるクソ寒い物語としても回答としてもどうしようもない文章だという事は書いた自分が一番よくわかっている。
そんな風に、文章や絵を時折描く事はあった。
少しは上手くなったんじゃあないかと思って。
必至に練習したと信じて。
そしてその度に完成度の低さに落胆しては鬱になる。
そんなバカな事を繰り返していた。⑫
全てが、中途半端だった。
絵も、写実的な絵を元々描いていたのに可愛いキャラクターが描きたくて、描けなくて。
沢山書いた。
けれども、納得のいく顔が描けず結局は全て仮面をつけて隠した。⑯
そして他人の完成度の高い絵を見ては嫉妬し、心の奥が冷えていき布団にくるまって。
けれども、それでも一向に温かくはならなくて。
体中が心まで冷え切っていた。⑤
そんな事を想っていたら、酒が終わってしまった。
新しく缶ビールを買ってこようにもコンビニへは少し遠い。
酒が入っているから自転車は使えない。⑧
面倒だから、水で我慢しよう。
そう、いつも面倒がっていた。
けれども、時折何でもできるような、無敵のような気がしてイラストを描いた。
途中まではそこそこ筆が進む。
けれども、輪郭線を一本に描こうとすると思ったような線が描けずに全てを辞めてしまう。
まるで、途中まで上手く行っていたマインスイーパーが一つ地雷を踏んだだけで全て台無しになるように。②
そこまで思って、本当に今なら何かが描けそうな、創り出せそうな気がしてきた。
箪笥を漁り、古いノートを取り出す。
昔はいろいろな文章や絵をここに描いて練習したものだ。
俺のお気に入りのノート。⑮
そう、これは過去の自分への決別だ。
過去の作品は全て捨て去ろう。
そう思い、破り捨てようとまず一ページを破り取った。
そして、呆然とした。
次のページは白紙だった。
他のページをめくってみる。
何も描いていない。
・・・知っていた。
努力なんて、していなかった。
才能なんて、無かった。
全ては自分の都合の良いように作り上げた嘘に過ぎなかった。④
自分には絵も文の才能も無いと努力を怠り、嘘で自分の都合の良いように塗り固めて。
そうして、自分の心を守っていた。⑨
結局、俺に無かったのは絵の才能でも文の才能でも無く、努力の才能だった。
努力は才能と言えるか?
言えるだろう。
時に人は、才能なんて無い、一般に才能と呼ばれているものは全て努力の賜物だという。
ならば、一般に努力の結果とされているものも才能の一部であると言い換えられるのではないか。
例えば、絵を描くとき自らの絵の下手さに落胆し筆を捨てる者と諦めずに描く者。
この二者の違いは何だろうか。
描きたいという感情の強さだろうか?
諦めない強い心の有無だろうか?
おそらく、両方だろう。
けれども、それらは努力で手に入るものだろうか?
”好き“という感情も、打ちのめされない強い心も、努力で手に入るようなものではないだろう。
ならば、それは才能と呼べるのではないだろうか。
言わば、“努力の才能”。
あらゆる分野において〇〇の才能と呼ばれているものは、全て努力の才能がその〇〇の分野で発揮されたからこそ成り立つのではないか。
才能は、生まれつきのものであって自らの意思でどうこうできるものではない。
ならば、ならば、ならばならばならばならばならばならばならばならばならばならば・・・・・
ニゲタッテ、イイジャナイカ?
・・・うっぷ。
少し、悪酔いし過ぎたみたいだ。
顔を洗って酔いを冷ます。
明日は早い、朝は米派だから米を研いでおかないと。⑭
こんな夜は遅くまで起きていたっていい事なんざ一つもない、さっさとこの紙切れを捨てて寝てしまおう。
それじゃあおやすみなさい。
【簡易解説】
仕事の疲れで、ヘッドホンをつけて音楽を聴いた男。
そのヘッドホンは学生時代買った物であり、当時音楽だけは素直に好きになれた。
けれども、文や絵は諦める事が出来ず素直に好きになることが出来なかった。
全ては自らの才能の無さ故。
そして、時折何か描けるような気がしては挫折していた。
ふと、思い出して何か描けるような気がしてきた男は過去との決別として過去の努力という名の駄作を捨て去ろうと考えた。
けれども、そのページは1ページしかなく自らは文才や画才が無かったのではなく単純に努力をしていなかっただけだと知った。
しかし男は、努力も才能であると考え自らを逃げることで正当化しはじめた。
-了-
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個人的にはこれを最後に持ってかれて、そしてやっぱりOUTISさんすごいって言うのは簡単だったんですけど、なぜだかそれじゃあ私がこの作品の感想としては納得できなくて。じゃあこれに対してマジレスでもするのかって言ったらそれもまた違くて、本当に……すみません。全然感想になってないや。
不快に思うかもと書いてはおりますが、逆にこれぐらい書かなければ私にはこの作品は刺さらないと思います。断言できます。もう対象外でもこれを主催賞にしたい。やべえまた全然感想になってないや。
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投票会場設置まで少々お待ちください・・・
参加者一覧 20人(クリックすると質問が絞れます)
ど~も~。お待たせいたしました。
みなさん本当にお疲れさまでした。そしてありがとうございました。
今回特殊ルールだったり要素15個だったりかなりきつい戦いを強いてしまったのではないかと思ったのですが、
あれまびっくり27作も集まりまして。いつも参加者のみなさまには感謝してもしきれません。
さて、それでは参りましょうか。まずは最難関要素賞から。
最難関要素賞
上位2位での発表です。
……もう一度言います、上位2位での発表です。
第2位
🥈「リモコンがどこかに行ってしまいましたか?」(by 靴下さん)
🥈「冷え性がつらいですか?」(by まりむうさん)
🥈「自転車では向かえませんか?」(by Hugoさん)
🥈「判子を押しますか?」(by Mさん)
🥈「遅すぎますか?」(by Mさん)
さあ、もうこの時点でお察しかとは思いますが、なんと2位には5つランクインしました。
こちらに入れた方々は、とにかくシチュエーションが限られてしまう、そんな意見が見られました。
すでに問題文の時点で非ファンタジーに限定されてしまうことこの上ないのに、さらに限られてしまうと、すごく難しい……
……そう、本当に難しいのです。この時点でも、本当は難しい、はずなんです。
イヤーダイゲキセンデスネー。イッタイナニガイチイニナッタンデショウカー。
第1位
🥇「マインスイーパーを爆発させますか?」(by まりむうさん)
知ってた。知ってた以外の何者でもなかった。もう長文部門を苦しめるパワーワードでしかなかった。
地味に短文(全要素使わなかった作品)でどんな要素使ってたのかな~と眺めていたわけですが、マインスイーパーの好かれなさが半端でなかったです。
私でさえポラリス作る時に心が折れた。無理やり「私の(mine)スイーパーは爆発力が」とかにしてしまった。最強に難しかったです。
実質2択。ゲームか戦争。それぐらいでしか使えない。たぶん今回みたいな特殊ルールがなければ作品10作ぐらい減ってた。
そんなわけで、後ほどまりむうさんには最難関要素賞の賞金5コインを送らせていただきます~。
さ~て、お次は匠とエモンガです。
もう結果を見た方もいらっしゃるとは思いますが、改めて表彰したいと思います。
匠賞
🥇『情熱太陸~本当の嘘の本当は嘘?~』(作:みづさん)
🥇『少し柔らかく、しかし硬いクリスマス』(作:太陽が散々さん)
さ~てこちらは、個人的にはなかなか面白いランキングでした。
どちらもこれは構成のうまさが光った作品といったところでしょうか。
最後にいい裏切りを持ってきたのが、やはり投票者に「やられた!」と思わせた。私もこれはすごいなあ、と感心してしまいました。
またそのあとに続いた2位の作品群も、全体的にオチ含めた構成、短文なら要素の選択、長文なら要素の取り入れ方が特に評価されたのだと思います。
エモンガ賞
🥇『夢追い人』(作:えいみんさん)
わかるーーーーーーーー!!!
……すみません、とろたく巻の中身が出てしまいました。
なんとあのえいみんさんが、初登場にしてエモンガをかっさらっていきました。
内容としては王道なのかもしれない。しかし、しかしですね?
王道がなぜ王道かと言われると、それは多くの心を惹きつけるからです。
そしてえいみんさんは、その王道を感じさせない王道を投稿したのです。
ただただ、カメオのスピーチ、語り口が、私たち読者……いえ、観客を惹きつけてやまなかった。
これが創りだすの作品であることを忘れてしまうぐらいの没入感がそこにはありました。
主催である私すら、涙。これが、数々の良い問題を出題しつづけてきたえいみんさんの力なのだと痛感致しました。
ありがとう、本当にありがとう。もうそれしか、言えない。
……ああ、失礼いたしました。それでは、最優秀作品賞の発表です。
最優秀作品賞
第3位
エントリーナンバー、20番!!
🥉『ピグマリオン』(作:ラピ丸さん)
いやーこれは本当に切なくて切なくて。
ピグマリオンとかマイ・フェア・レディとか、そういったものを知らなくても読み入ってしまう。
ラピ丸さんは今までの創りだすでも一味違う作品を生み出されていましたが、こちらもまた今回の作品群では特に異彩を放っていたのではないでしょうか。
切ない話、哀しい話であるのに、どこか海の中を揺蕩うような心地いい読後感もあって。
こういうすれ違い、胸打たれます。そしてなんと、某氏の唯一の3Pシュート枠でございました。おめでとうございます!
第2位
エントリーナンバー、19番!!!
🥈『少し柔らかく、しかし硬いクリスマス』(作:太陽が散々さん)
匠がこちらでランクインいたしました。
この作品の何がすごいって、まずヘッドホンの使い方でしょう。
「耳に当てる」、これを捻るというところから考えたその思考、まさにシェフには目から鱗の使い方。
私もこの考え方は非常に参考になります。しかも、視点の構成もまたすばらしい。ワザマエ! でございました。
なおこちらも、某氏が2Pを入れております。なんと、今回複数ポイントが入ったのはピグマリオンとこちらだけ!
それだけがっちりと心を掴んで離さない、そんな魅力的な作品でした。
そんな太陽が散々さんを破った栄えある第一位は……
……と、その前に、ちょっとしたつぶやきを。
なおこちらは蛇足もいいところなので、読み飛ばす方は次の赤字までスクロールをお願いいたします。
さて、今回私の考えていたことと言いますと、特に「解説」として書き上げるのを意識してもらうことでした。
しかし、私が主催しているとそれを難しくしているんじゃないかなと思いまして。問題文とか特に。
みなさんには自由に発想を飛ばしながら作品を創ってもらいたい。長文だって好きだ。
だけど、読む側に負担をかけ過ぎてもいけないよなあ。
そんなわけで、以前のアンケートを取りました。
そして、それらを参考に今回の特殊ルールを設けさせていただきました。
本当はもう少し語りたいところですが、めちゃくちゃながたくになりましたのでこのへんはまとメモに載ってます。
気になる方は見てね。もちろん見なくてもなんら問題はないよ。
――ではこのへんで失礼しました。そろそろ、第1位の表彰に移りたいと思います。
……栄えある、第1位は……
🥁<ドゥルルルルルルルルルルルルル...
第1位
エントリーナンバァーっ、
…………2番ッッ!!!!!
――男がヘッドフォン越しに聴いていたのは、学生時代に所属していた演劇部の作品の録画。
🥇『あの頃のこと、覚えていますか?』(作:さなめ。さん)
なんとぉーっ! 軍配が上がったのは、特殊ルールを制した、さなめ。さんの作品だぁーー!!
これは大勝利! ヘッドホンの使用、そして1ページだけを破ったことの納得感、そして何より要素の最適かつ最高の味付けっっ!!
ベースの問題文、選び抜いた要素を最大限に生かし、シンプルながら良さを余すことなく引き出しています!
そう、実際に出題の解説としても差し支えが無いほどに……ぜひこの作品を出題してもらいたいぐらいに!
まさに、今回でなければ確実に出会うことのできなかった逸品でした!
ありがとう、本当にありがとう! 私はこの素敵な解説文に出会えただけで、もう感謝で心があふれかえるようです!
――第16回、正解を創りだすウミガメ、シェチュ王となったのは……
……もちろん!
シェチュ王
👑さなめ。さん👑
おめでとうございます!
最優秀作品を勝ち取った「あの頃のこと、覚えていますか?」もさることながら、2作目の「隣で走ってくれる君に。」も大変すばらしいものでした!
もうすべてが私のドストライク! そんなさなめ。さんがなんと! 出場2回目にしてシェチュ王を勝ち取ってしまいました!
すごいなあ、もう最近みんな凄すぎだよ。私もうシェチュ王なれんよ。
まあそれはそれで楽しいからいいんですけどね! では、戴冠式を行います。
\チャ~チャ~チャチャ~チャ~チャラララチャンチャンチャ~~ン/
サナメサン、オメデトーゴザイマース > (ノ´ω`)ノ👑 ソッ...
さなめ。さん ほんとに、ほんとーーーにおめでとうございます! さなめ。さんの作品は本当に素晴らしかったです。(何回も言ってる) 手の震え? それはこれからのさなめ。さんの主催に対する武者震いです。 でもわかる。私もそうだったなあ。そんなまっかっかで初々しいシェチュ王なさなめ。さんに( ˘ω˘ )つ̻̻[冷えピタ][19年11月04日 01:47]
みづさん ありがとうございました! みづさんのミニメのマメさ、ほんとに好きです。匠賞おめでとうございます! それもひとえにみづさんの手腕です。お疲れさまでした![19年11月04日 01:42]
太陽が散々さん シルバーコレクターの片鱗ほんとに表れてまっせ。集計してて「また2位入ってる!」と思ってしまいましたもの。すいません。まあ、伊達に創りだす芸人はやってませんから? そこは、いつものことだと思っていただいて。愛が伝わっていただけてるなら何よりです。 そして出題、時間の許す限りで、がんばってみたいと思っております。お会いしたときは、よろしくお願いしますね。[19年11月04日 01:40]
ラピ丸さん ほんとそれな。シェフのみんなは本当に優秀です。もうどんなことにもびくともしないです。もちろん、ラピ丸さんもね。そうそう、ポラリスの処遇はちょっと考えないといけなくなりましたが、たぶんtwitterあたりでやるかもしれません。とにかく、ありがとうございました。[19年11月04日 01:36]
イナさん(さん) ちなみにこの表記はさんが入っているユーザー名の方もれなく全員につけてます。なのでわざとです(?) グッピーのことはいつも心配します。ほんとにグッピーキラーとお呼びしたいぐらいです。でもそこが好きなんです。次回もそんな作品たちを作ってきたら、いよいよ世界のグッピーを心配すると思うので、どうぞよろしくお願いします。(?) ありがとうございました。[19年11月04日 01:33]
ハシバミさん 自由度と制約の両立、それがまさに理想で、それをみなさんのおかげで実現でき、そしてハシバミさんに楽しかったと言われるとほんともう、嬉しいです。ご参加ありがとうございました![19年11月04日 01:29]
きっとくりすさん ご参加いつもありがとうございます。グッピーの心配しちゃいますよそりゃ。だって激しいんだもん。でもそこが好きなのです。 スープが好きと言われると、恐縮です。ただ出題できるかなあ。参加はいっぱいするつもりではいるんですけどね・・・時間の許す限りで、私も出題頑張りたいと思います。創りだすでは、また次の次の回でお会いしましょう![19年11月04日 01:27]
狐狗狸さん ご参加ありがとうございました! 恐れ入ります。私もできれば読み直しながら書きたかったもので、そう思っていただけると嬉しいです。 そして確かに! 文字数制限って、あえてギリギリまで文字数を使うという手もありますね・・・(おい)[編集済] [19年11月04日 01:21]
弥七さん 今更ながら、勝手にお名前お出ししてすいませんでした。w なんというか、以前の弥七さんのスープが記憶に新しすぎて、もう言及せずにはいられないなと思っちまいました。特殊ルールが優勝すると、私もなんだか嬉しいなあ。投票に駆けつけて下さり、ありがとうございました![19年11月04日 01:20]
Mさん ありがとうございましたー! 特殊ルール楽しいなんて言われて、もう、感無量。Mさんの作品2つとも本当に素晴らしかったです。お疲れさまでした![19年11月04日 01:17]
さなめ。さん、シェチュ王おめでとうございます!今回の特殊要素である文字数制限をスッキリまとめてあり、とっても好きでした(^▽^)oそしてとろたくさん、開催ありがとう&お疲れ様でした!!諸々はたぶんミニメで送り付けます!匠賞嬉しかったです。[19年11月03日 22:58]
さなめさん、シェちゃ王おめでとうございます〜本当に納得感を持ちつつスッキリまとまっていて、素晴らしい解説だと思いました!とろたくさん、運営お疲れ様でした〜とろたくさんの創り出す愛はこのページ全体からバチバチと伝わってきます。とろたくさんのスープ、楽しみにしております!そして、僕の作品に投票していただいた方々、ありがとうございました!今までの創り出す投稿作品4つのうち3つが投票数2位…これはシルバーコレクターの風格を見せ始めてます…笑[編集済] [19年11月03日 22:57]
とろたくさん主催おつかれさまでした!&さなめ。さん、シェチュ王おめでとうございます!!さなめ。さんファンとして嬉しい限りです!感想を寄せてくれたたくさんの方々、ありがとうございます!新ルールも楽しかった(^^)[19年11月03日 22:37]
とろたくさん、主催ありがとうございました。さなめ。さん、シュチュ王おめでとうございます。拙作に感想・投票くださった皆様、ありがとうございました。自由度と制約のどちらも増していてとても楽しかったです。[19年11月03日 22:34]
さなめさん、シェチュ王おめでとうございます!納得度が一番高かった解説だったと思います!とろたくさん、主催お疲れ様でしたー。わたしはとろたくさんのスープも好きだし、一緒に問題に参加したい気もするので楽しみにしてますー。あっ、あと、全国のグッピーを心配しているのにまた笑ってしまいましたー。[編集済] [19年11月03日 22:14]
出題他諸々、ありがとうございますとおつかれさまです。読み直したい派には、この特殊ルールはありがたかったです。決して長文が嫌というわけではないですし、ちゃんと読んでますよ(´・ω・`)文字数意外と余裕あったから、もっと描写増やせば良かったなぁ…[編集済] [19年11月03日 22:14]
(ファッ!?みづさんへの解説文に私の名前が!!Σ(OoO))とろたくさん企画お疲れ様でした!そしてシェチュ王を獲得したさなめ。さん、サイコーでした。今回は新ルールに軍配が上がりましたね!^ ^[19年11月03日 22:13]
とろたくさん丁寧な感想本当にありがとうございます…!!主催者様の感想があるから、ああ書いてよかったなぁって思えます!とろたくさんありがとうございます!グッピーごめんね!(ちなみに私はイナさんでもイナさんさんでも大丈夫ですよ)[編集済] [19年11月03日 13:37]
投稿しました。投票対象外ですので、忙しい方は読み飛ばしてくださって全く問題ありません<(_ _*)>
要素は15個で文字数制限がなく、6060字あります(´▽`;)ゞ
目立つ漢字がたくさんありますが、ツイッターの企画ですのでお気になさらずお願いします( 〃▽〃)
ENDingの“Sick Иight”は“シック ナイト”と読みます。[編集済] [19年10月28日 00:29]
びーんずさんお疲れ様です。 長文許可はしたはずですが、もしかしたら反映されてないかも・・・すみません。編集恐れ入ります。 投稿ありがとうございます![編集済] [19年10月27日 22:31]
11要素で2100字強です〜。(正確には2,107字)ページを破りとる」を破ったページを使って何かする」に繋げたかったのですが、無理だった!!他の人のを読む事にします〜。[19年10月26日 16:38]
Mさんありがとうございます! ショートもロングも、要素をぎゅっと凝縮しつつこんなに納得感のあるものに仕上げるのはひとえにMさんの手腕。やはり普段出題で訓練している方は違うのか・・・[編集済] [19年10月20日 03:13]
オイオイ、もう既に出題数が私の二倍はあるえいみんさんが創りだすに来てくれただけでも嬉しいってのに、まさかの長文錬成ナカーマ(?)。ほとんど休まず出題なされてからの創りだす、お疲れ様です。[19年10月19日 09:00]
投稿しました〜(`・ω・´)初めて創り出すに参加してみたんですが、一度火がつくとやめられなくなってしまい、1万字を超えてしまいました_(:3 」∠)_要素は15個全て使ってあります![19年10月19日 05:39]
tsunaさんが颯爽と現れたァー!! そして早業と力技を両立した見事な3Pシュートが決まりました。この短い全要素使いを上回る猛者は果たして現れるのでしょうか!!!??? 投稿ありがとうございます![編集済] [19年10月19日 00:09]
私が答えるのも変かもですが、とりあえずはWindowsOSのパソコンに標準で入っているゲームの事だとは思います。地雷(マイン)を爆発ではない事が、ミソであり難しいですね。[19年10月18日 01:54]
質問なんですが、マインスイーパーを爆発させるというのは、地雷を爆発させるということですか?マインスイーパーが分からなくて調べてみたんですが、いまいちよく分からなかったものでヽ(;▽;)ノ[19年10月18日 01:48]
トップバッターは夜船さんだぁっ! 夜船さんならきっと他作品も書くでしょう。ところで仮面ライダーに出ていた売れない芸人とは一体誰なのでしょうね。もしかして最初の文字に「と」が・・・[編集済] [19年10月18日 00:15]
さなめ。さん:ありがとうございます! ちょっと文字数制限厳しめかもしれませんが、問題文の解説として考えたりするときなんかにきっと要素数の少なさが活きる・・・かも? あるいは、文章を短くまとめる練習としても、いい、か、も。[編集済] [19年10月17日 22:25]
靴下さん:恐れ入ります。 もちろん、これまでどおりの長文も受け付けてますのでご安心を。また、文字数制限に関しては判定ガバガバですので、ちょっぴりオーバーでも許します。(制限の意味とは) あるいは、「文字数めちゃくちゃオーバーしたので投票対象外にしてください!」でも大丈夫です。私の感想で良ければ、投票対象外でもお付けいたしますよ。[19年10月17日 22:23]
ヘッドホンを耳に当てると、男はふと学生時代を懐かしんだ。
そして、昔に読んでいた本の1ページだけを破り取った。
どういうことだろう?
【要素】
以下から最低5個選んでください。
①お笑い芸人は関係する
②マインスイーパーを爆発させる
③リモコンがどこかに行ってしまった
④嘘は関係ある
⑤冷え性がつらい
⑥かなり狭い
⑦ハスキーボイス
⑧自転車では向かえない
⑨心を救う
⑩判子を押す
⑪闇に包まれる
⑫同じ過ちを繰り返す
⑬遅すぎる
⑭朝はご飯派
⑮お気に入り
【特殊ルール】
・文字数は、全要素15個以外の場合「要素数×200」の制限とする。15個は無制限。
・また、作品を投票候補として辞退したい場合、タイトルに【投票対象外】と表記すること。
【タイムテーブル】
◯要素募集フェーズ
10/17(日)21:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~10/27(日)23:59まで
◯投票フェーズ
投票会場設置後~11/2(土)23:59まで ※予定
◯結果発表
11/3(日)22:00 ※予定
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~ここからながたく反省会~
みなさんお疲れさまでした。
とろたく回恒例(?)長めの反省会のお時間でございます。
今回は
・アンケート
・特殊ルール
・個人的な話
の3本でお届けいたします。
まず、私が今回目指したのは投票の負担を軽くすることです。
なので、皆さまに投票の項目を中心としたアンケートを事前に行わせていただきました。
ご協力ありがとうございます。
特に参考になったのは、
夜船さん:「書きたい要素を選ぶ」
といっても乱数で選んだ中で選んでもらう形になってしまいましたが、特殊ルールづくりの参考になりました。ラテシン版でも、以前に自由に要素数を設定してもらうという回があったようで、とても面白い回となっておりますよ。
ラピ丸さん:「長編と短編で部門分け」
私としてもながたくなせいか、特に文章量が気になっておりまして、でもだからと言って長文も見たいという欲がございましたので、こういう部門分けもいいなと思っておりました。
両方見れるように、というのが、今回の文字数制限を設けるきっかけでした。
名無しさん:「ウミガメらしさを忘れない」
個人的には目指したかった形でした。でも自分の書くお題では力不足だというのもわかっていたので、だからこそ、それがやりやすい回にしたい。問題に対する解説、そういったものを創りあげられるような回にしたいと思っていたのです。
藤井さん:「投稿上限を設ける」
藤井さんはtwitterでも意見をくださってて、ぜひ実現してほしい、あるいは実現したいと考えていました。どうしても日程的に理想の日にらてらてに入れないという都合があり見送ってしまいましたが、作品数を減らすという行為を参加者にゆだねてみるという方式をしてみよう、とささやかに実現してみました。本当にささやかですけど。
そんなわけで、特に「投票の読み込み負担を減らす」というのを目標に、今回の特殊ルールを設けさせていただきました。
要素を自由に選んでもらったのは、新しい人にもとっつきやすくなるやりやすさ。
文字数制限を設けたのは、短くまとめる技術の向上。
そして対象外を設けさせたのは、数は多くても負担を減らすことができないかを考えた一つの案でした。
いかがだったでしょうか。私はその特殊ルールが本当に良かったのかはわかりません。要素を減らすだけでも自然と文字数は減るとも思いました。
一番は、みなさんが楽しめたかどうかです。だけど、もっといい方法もあったのではないかな、とそんなことばかり考えていました。
そして、できることなら、もっといい「創りだす」をみなさんに創りあげていってほしい。
お互いが楽しかったと思える場にしてもらいたい。
そんなふうに考えていました。
それで、個人的な話というのは。
次回、参加はやめようと思いまして。
……読んでいる方、わざわざ意味ありげにスクロールさせてすいません。
そもそも「創りだす」はふらっと来てふらっと投稿する気安さがあるので、わざわざこんな宣言しなくてもいいのです。
もちろん引退をしたいとかではありません。
むしろずっと「創りだす」に参加し続けたい、今でもそのように考えております。
というか、次回参加できないのが本当に申し訳ないとか思うぐらいなのですが。
ただ、個人的な理由、本当に個人的な理由なんですけど、
私が「創りだす」に参加しすぎて、本来のウミガメのスープに参加するということができてなくてよくないなあ、と日に日に思いまして。
自分は器用ではありません。一つのことに集中すると、他のことが疎かになりすぎてしまいます。
それだけ自分の中で「創りだす」が大きかったんだなあと思います。
これだけ続けられたのもなかなかないな、とも思います。
ただ、「創りだす」を楽しめるのは、そもそもウミガメのスープがあってこそだよなあ、とも思います。
なので、次回の期間は、一旦離れてひとまずウミガメの方に集中しようかなあ、と考えています。
……本当にそれだけです。本当にわざわざ意味ありげなスクロールをさせるほどでもない報告をしてしまいすみません。
そしてこれ有名な芸能人とかYoutuberがやるやつだから。
そんな調子乗りのとろたくですが、創りだす以外でも仲良くしていただけると幸いです。
まあ、18回目あたりにはひょっこりひょうたん島するとは思いますので、その時は、またよろしくお願いします。
……ほんと、第17回、参加しなくてごめんね。
それでも次回楽しみにしております。ひっそり見守っております。
ここまで読んでくださった方、お付き合いくださり本当にありがとうございました。
それではまた、創りだす大好き芸人として会える日まで。
今まで本当にありがとう。
これからもよろしくお願いします。
とろたく(記憶喪失)
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
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Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!