暗闇の中、ある人が船を漕いでいた。
その人が口笛を吹いたことで、ずっと探し求めていたものが見つかった。
状況を説明してください。
皆様、大変お待たせ致しました!第15回正解を創りだすウミガメのお時間ですっ!
(前回はこちらhttps://late-late.jp/mondai/show/6882)
今回は新参者のひややっこが、進行を務めさせて頂きます。精一杯頑張ります!
さて、十五といえば、どんなものが連想されますか?
お月見?少年たちの漂流記?盗んだバイクで走りだしちゃったり?
そんな本日、十五回目の問題文は…………十五、何も関係ありません!(使いたかった。粋な問題文にしたかった。悲しきかな、力不足だった……。)
というわけで、今回の問題文は自分の好きを詰め込みました!
船を漕ぐってロマンですよね。ひややっこは口笛が吹けません。憧れます。
さあ、そんなどうでもいい話はこれくらいにして。
今回の要素採用数は、10個で行きたいと思います!シェフの皆様の素晴らしい作品、お待ちしております!
■■ 1・要素募集フェーズ ■■
[9/22(土)21:00頃~質問が50個集まるまで]
まず、正解を創り出すカギとなる質問をして頂きます。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
2.皆様から寄せられた質問の数が”50”に達すると締め切りです。
要素は基本ランダム、いくつか私が直接選んで決めさせていただきます。前回に倣ってある程度の矛盾要素もOKとします。
合計10個の質問が選ばれ、「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※あまりに矛盾して成立しなさそうな場合や、条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。いつもありがとうございます、田中さん。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
■■ 2・投稿フェーズ ■■
[要素を10個選定後~7/22(月)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。(タイトルだけ、ちょっぴり早めに回答するので、ご注意ください!)
4.次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするときはチェック」をすると、とても読みやすくなるのでお忘れなく!
5.本文の末尾に、おわり完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
■■ 3・投票フェーズ ■■
[7/23(火) 00:00頃~7/27(土)23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
《メイン》
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
9/22(日)21:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~9/30(月)23:59まで
◯投票フェーズ
10/1(火)00:00頃~10/5(土)23:59まで)
◯結果発表
10/6(日)21:00の予定です。
■■ お願い ■■
要素募集フェーズに参加した方は、出来る限り投稿・投票にも御参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽ですけれども、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!
もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
最後に、一つ謝罪を。今回は、コインの贈呈をすることができません。
システムの理解がきちんとできておらず、通常の進行でいっぱいいっぱいとなってしまうので、辞退させていただきます。楽しみにしておられた方には、非常に申し訳ないです。
なお、今後の創りだすウミガメでのコイン贈呈をするか否かはその度の主催者にお任せします。
コインはありませんが、皆さまのご参加を心よりお待ちしております!
それでは、『要素募集フェーズ』スタートです!
質問は1人4回までです。皆様の質問お待ちしております!
遅れてすみません!結果発表です!
ただいま要素選考中です!
正しい日時はタイムテーブルの通りです。
私は昼間は社畜の仮面を被り①粛々と業務に従事しているが、
ひとたび仕事から解放され帰宅すれば晩御飯の黄身があふれた⑨TKGも風呂もそこそこにあるサイトを開く。
『らてらて』―――水平思考パズルの問題を出題し合うサイトだ。
そこそこ柔らかい③安物のソファーに身を沈め④、
チャットで参加のあいさつをして問題に没入する。
そんなことを繰り返して深夜に差し掛かろうかという頃、こんな問題が投稿された。
『とある雪国⑧で、男が「せめて声だけでも聞きたい」と思い⑩やっとの思いで逢いに来たが、女はそれを追い返した。一体なぜ?』
この問題に対し、核心に近づこうと様々に質問をしていくが、良質もつかない。
『迷信は関係しますか⑦?』と質問をし、出題者の回答を待つ。
『YESNO 重要ではありません 結婚おめ②』
「勘弁してよ⑤…」
私はぐったりと脱力し、オフタイマーで照明が切れ暗くなった部屋の中で座ったままうつらうつら舟をこぎ始めた。
朝の光が射しこみ⑥、ソファーで寝てしまっていた私は自分の口から出たピューピュー言う音で目が覚めた。
うーんと伸びをし、凝り固まった体をほぐす。
(そうだ、昨日寝落ちしたときの問題、進んだかな)
床に落ちていたスマホを拾い、起動させると、問題は解決済みになっていた。
そこで私が知った答えは――――
【おわり】
[編集済]
まず、長文許可の確認をして頂いてありがとうございました。そして驚きの速度での投稿ありがとうございます!
エモい香りのするスープに、明かされぬ答えが、とても気になるところです!読者に想像の余地を与えるというのが、技ですね。解いている様がリアルでした。目が覚めると答えが出てるってよくありますよね。卵かけご飯美味しそうです。
何故、求めてしまったのだろうか。
「世界の全ての国々を巡れば、あらゆる願いが叶う。」
そんな迷信じみた噂話を頼りに私は“心”を求めて旅をしていた。⑦猛烈な暑さの砂漠も、凍てつく寒さの雪国も、私にとっては風の無い穏やかな平原とさして違うようには思えなかった。⑧大人、子供、白人、黒人、あらゆる人々に出会ったが、私からすれば誰も同じ仮面を被ったように見えた。①
そんな私は、ある国で一人の女性に出会った。彼女は、奴隷であった。奴隷といっても特に詳しい制度があるわけではない。鎖でつなぎ労働をさせる。中には夜伽をさせるための女性奴隷もいるらしいが、油断した隙に襲われる事が多い為もっぱら奴隷は労働用の男性奴隷が多いという。
「私を買ってちょうだい!」
彼女はそう私に声をかけてきた。
(勘弁してくれ・・・そもそも私には奴隷なんて要らないし、初期の購入費はもちろん旅の人数が増えたら食費なんかで維持費も増える。ただの足手まといだ。)⑤
そう思って通り過ぎようとしたら、
「私は貴方に“心”を用意してあげられるわ!」
そう言ってきた。
“心”、それは私が探し求めている物であった。
「何故、わかった?」
「私は心の魔法使いだもの!それくらい当然よ!」
「本当に、心を用意できるのか?」
「もちろん!だから私を買ってちょうだい!」
「どうやって、私に心を用意するんだ?」
「それは、買ってくれたら教えてあげる。」
そう言って彼女は何も言わなくなったため彼女を買う事にした。
彼女はにこにこと笑いながらついてくる。私には、それが少し不快に思えた。
彼女と共に私は更に多くの国を巡った。けれども、彼女は一向に心を用意してはくれなかった。
「いつになったら心をくれるんだ?」
そう、私が問いかけると
「心の準備が出来たらね。」
そう言ってはぐらかす。
「それじゃあいつになっても私は心をもらえないじゃないか。」
「大丈夫よ、いつか絶対にあげるから。」
そう言って彼女はいつも笑っていた。
あれから、どれだけの月日が経っただろうか。私がたどり着いたのは、音楽の街であった。
音楽等の芸術は、心に依存する。つまり、ここでなら私は心を得られるのではないかと期待していた。
笛や太鼓の音と共に、人々の祭囃子が響き渡る。けれども、それらは私にとってノイズでしかなかった。
けれども彼女にとっては楽しかったようで、流れる音に合わせて鼻歌を歌っていた。
彼女は未だに心を用意してはくれていなかった。
そろそろ彼女を捨てようか。
次の国へ向かう為に船を漕ぎながらそう考えていると、彼女は再びあの町の歌を口ずさみ始めた。
ひどく、おぼつかないメロディで。
そろそろ別れるのだから、最後くらい親切にしてもいいか。
そう思って口笛を吹こうとするも上手く吹く事が出来ない。
マスクパーツが口笛の邪魔になっていたのだ。
フルフェイスのマスクを外すと彼女が驚いた様子でこちらを見ていた。
「あなた、顔が作られていたのね。綺麗な顔なのに、勿体ない。」
「勿体ない?スキンパーツは防御力が少ないのだから、こうして守らなければならないだろう?」
「そーね、貴方には心が無いんだった。」
私はその言葉を無視して口笛を吹き始めた。
メモリーに記録された音を、精密に、一音違わず。
「やっぱり、そういう事をさせたら貴方たちは凄いわよね。
でも、やっぱり心が足りない。曲ではあるけれど、音楽じゃないのよ。」
そして小さく
「でも、それも今日までね。」
そう小さく、悪戯っぽく、されどどこか寂しそうに呟くと
・・・私にキスをした。
「私の最初で最後の魔法よ。
私の心をあなたにあげる。」
そこそこ柔らかい唇の感触と共に、暗闇に一筋の光が差した。③⑥
それと同時に、私の中に君が溢れた。⑨
君が、君の心が私を満たしてゆく。
「人間というのは、美しいものなのだな。」
私は、彼女の心を手に入れた。
こうして私は心を手に入れた。
けれども、それは決して私を幸せにはしなかった。私が心を得た代わりにドロシーが心を失ってしまったのだった。
私は心を得た事で様々な感情を手に入れた。
彼女を愛おしいと思い、結婚しようと言っても何の反応も無かった。②それは、心を得た私の心を深く沈ませた。④
お願いだ、せめて声だけでも聞きたい。⑩
どんなに頼んでも彼女は光の無い眸でこちらをただ見つめているだけ。
心を得るという事は、こんなにもつらい事なのだろうか。
私は、心を必死に閉ざした。
彼女の心を、少しも傷つけないように。
柔肌を守る、ブリキの鎧のように。
-了-
[編集済]
早い!そして、エモい!!!流石、OUTISさん。
今回も期待を裏切ることなく素晴らしいエモさの作品を、驚愕の速度で仕上げてくれました。本当にどこから来るのか、その発想力。そして繊細かつ美しい語彙力。
男の願いを叶えるために自らの心を犠牲にした女。男はその大切な贈り物を傷つけまいと、皮肉にも、閉じ込め護る。エモい。非常にエモい。エモいけど幸せになって欲しかった!この葛藤が解消されることはないんだろうなぁ……。素晴らしい作品をありがとうございました!
気づいたら、船に乗っていた。
「ここ…どこ?」
思わず、アニメやマンガでありきたりなセリフを口にしてしまった。
でもしょうがない。
だって、本当に何もわからないのだから。
わかっていることといえば、真っ暗な中で船に揺られていること。
そして、目の前で仮面を被った男が、ただひたすらに船を漕ぎ続けているということだけ。①
こんな状況なのに不思議と頭は冴えていて、決して取り乱すこともない。
「あの、ここどこですか?あなたは誰なの?」
…返事はない。
とても気味が悪い。
頼れるのは自分自身だけ、か。
とりあえずこうなった経緯を思い出そうとしてみるが…
「っ!?」
急に頭が割れるような頭痛が襲う。
何も、思い出せない。
そんな私を見て、男が嘲笑っている。
当然、仮面を被っているのだから表情は全くわからないのだが、なぜかそんな気がした。
この男は誰?一体何が起きた?
探し求めてみるが、答えは一向に見つからない。
「♪〜♫〜」
突然目の前の男が口笛を吹いた。
そしてその瞬間に、私は全てを理解した。
私は雪国の、小さな高校の生徒だった。⑧
生徒数も少なく、みんなが仲の良いクラスで、それなりに幸せな毎日を過ごしていた。
その生活が崩れたのは、ある雪の日。
『僕たち、お似合いだと思うんだ。高校を卒業したら、僕と結婚しよう。』②
クラスメイトの一人が告白してきた。
しかもカップルをすっ飛ばして、いきなりの求婚だった。
一体なんのつもりだろうか?
本当にめんどくさい。
勘弁してほしい。⑤
「はあ?なんでそんな上から目線なわけ?私、あなたのこと好きでもなんでもないから。」
きつめの口調で振って、家に帰った。
しかし、その日から悪質なイタズラが始まった。
『結婚しよう』『式場は任せてね』
『早く君のドレス姿が見たいな』
そんな内容の手紙が毎日、ポストから溢れ出るほど入っていた。
学校ではずっとつきまとわれて、友達とのつきあいも減ってしまった。
どこで知ったのか、私の携帯に永遠と留守電を入れられた。
何を言っても無駄で。
先生や友達も注意してくれていたが、全く効果はなかった。
もう、限界だった。
そんな中、友達からある噂を聞いた。
『朝日が輝いているとき、屋上で人の名前を叫ぶとその人と縁が切れるらしいよ。』
今まで聞いたこともないほどマイナーな噂。
きっとただの迷信だろう。⑦
それでも、今の私にとっては救いだった。
信じずには、いられなかった。
晴れの日で綺麗に朝日が輝く日に、私は屋上に上がった。
これで終わるといいな。
そんなかすかな希望を抱えて。
「×××ーー!!!」
叫んだ。何度も何度も。
「!?」
突然後ろから抱きしめられた。
驚いて振り向くと、首に手が伸びてきて、絞められた。
苦しくて一生懸命もがくが、力はむしろ強くなっていく。
顔を見ようとするが、後ろから光が射していて見えない。⑥ せめて、声だけでも聞ければ、犯人がわかるのに…!⑩
『♪〜♫〜』
誰もが知っているウェディングの曲。
口笛で吹いている。
私の首を絞めながら、吹いてる。
こんな狂ったことをするのは。
首を絞める手が緩むことはなく、そのまま意識を手放した。
…全部思い出した。
やっと、探し求めていた『答え』を見つけた。
目の前の男は口笛を吹いている。
あの、いまわしいメロディーを。
「…あんたは、私を殺した…!」
『…やっと思い出してくれたんだね。』
男が仮面を外す。
そこには、忘れようにも忘れられない、アイツの笑顔があった。
『よかった。僕のこと忘れてなくて。』
「ふっざけんな…!私のこと殺しておいて、何で飄々と笑ってられるの!」
『正確にはまだ死んでないよ。僕も君も死にかけてるのさ。完全には死ねなかったみたいだね。』
「はあっ!?どういうことよ!?とにかく、私はさっさとここから出て、生き残るんだから!」
『ふふっ無駄だよ。』
また、抱きしめられた。嫌な感触。気持ち悪い。
足掻いてみるが、女子高生の私がかなうはずなくて。
『僕の中は君でいっぱいなんだよ。君が溢れてる。これからはずっと一緒。もう、離さないよ。』⑨
そのまま二人で真っ暗闇に沈んでいく。④
きつく抱きしめられた腕は振りほどけない。
だんだん息苦しくなってくる。
苦しい。
助けて。
暗闇で二人きり。
もう、動く気力もない。
そこそこ柔らかな唇が私の唇と重なる。③
このまま、全て愛してしまえば、楽になれるのだろうか。
『「愛してる」』
少し満たされた気持ちで、私は永い眠りについた。
【fin】
[編集済]
問題文と要素の素晴らしい調理により、絶妙に不気味さ漂うスープを作ってくださった、イナさん。なんともいい所で終わらしてくださって。バッドエンドなのか、いや、ある意味歪んでいながらも結ばれた思いはハッピーエンドなのか。こんなことを聞くのは野暮だとは思いつつ、つい気になってしまいますね!とても漂う雰囲気が好きでした。
小さな街に住んでいた私。
今となってはその故郷も、住めたものではないのだが。
ド田舎で、何にもないこの街の小さな小さな町工場で、私は工場長を勤めていた。
…え?こんなに若い娘さんが工場長?…そういうセリフは聞き飽きましたよ、お兄さん。
この、窓から光は指すくせに⑥経営のお先は真っ暗な工場の跡継ぎになったのが私。社員だって少ないし、もうじき潰すんじゃないかな。
本当に、潰れかけの工場を残して此の世を去ったお父さんには、勘弁してほしいくらい。⑤憂鬱な日々を過ごしていた。
そんな日々にちょっとだけ、光が指したのは⑥いつだったか。帰り道に見つけた、あの仮面の①アーティストさんが原因だ。
「どうもー!…えー、最近ここで路上ライブを始めました、名前を『雪国』⑧っと申します!」
仮面を着けてるのに滑舌の良い「雪国」さんは、快活に司会を始めるところだった。
帰り道で疲れていた私。別に興味はなかった。その日は最後まで司会すら聞かず、帰った。
2日目は、ちょっと違った。
雪国さんが今日も司会を始めていて、あの快活そうな声が聞こえた。 昨日とは少し時間がズレているが、ちょうどライブをスタートさせる頃らしい。
ちょっとした偶然が面白かったのと、今日の取引が上々だったのが重なり、ご機嫌だった私は雪国さんのライブを観賞することにした。
「あ、お客さんありがとうございまーす!」
私が立ち止まったのを見たのか、彼は感謝の言葉を辞す。 お客さん一人一人に丁寧に対応する、私には真似できないな。
なーんて現実の悩みは、ギターの旋律に吹き飛ばされた。
「♪頭ん中に君が溢れてさ⑨、どうしようもないこの気持ちが…」
彼のオリジナルの曲なのだろうか。世間のブームなど露知らずな私には解らなかったが、彼の歌に引き込まれたのは間違いがなかった。
「ありがとうございましたー!はーい、拍手ありがとうございまーす!」
真剣で繊細で丁寧な歌声が終わった時、彼はまた、快活な「雪国さん」に戻った。 私が精一杯の拍手を送ったのは言うまでもない。
その日から、私はほぼ毎日、彼のいる路上の前では5分ほど、足を止めることになった。
気運が良いのか何なのか、私がそこに着く頃いつも、ちょうどライブはスタートしていた。私の他にも常連さんは数人いたが、私のようにほぼ毎日いる人は疎らだった。
雪国さんはいつも同じ歌を歌う。一曲だけ。3分くらいの短めの歌。引っ提げるのはアコギだけで、演奏と後語りが終わるとそそくさ帰ってしまう。 なので、面と向かって話したことは一度しかない。
その一度、というのは、あの路上で雪国さんに、最後に出逢った時だった。
街ではある迷信が流行っていた。⑦
「今度の台風が、村に100年にいっぺん訪れる、『神ノ怒リ』なのではないか。」
全く勘弁してほしい。⑤、なーにが神ノ怒リだ。100年前にその予想が外れたのは知ってんだぞ。 神ノ怒リは古来より伝わる大型台風のこと。何故か100年に一度襲来する設定らしい。
「…っていう迷信なんですよ。雪国さん、この村の人じゃないんですか?それなら知らなくても良い話です。」
そそくさ帰ろうとした雪国さんを止め、歌への賛美を終わらせたあと、雪国さんはその迷信について尋ねてきた。
大方、常連さんの一人であるおばあちゃんからでも聞いたのだろう。
「私の出生地は…隠しておくとして。とにかく、今度の台風は凄いらしいですから、くれぐれもお気をつけて下さい。それじゃ!」
最後まで快活に鷹揚だった雪国さんにご挨拶を返し、私は帰途についた。
その日、憧れの雪国さんとお話出来たのが嬉しすぎて家で側転していたのは別の話にしておこう。
結論から言おうか。
迷信は、本物になった。
あれは、神ノ怒リといって相応しいだろう。
私達の、私の故郷は、自然の脅威に粉々にされた。
訪れた台風は凄まじい勢いで通過した。
私は隣街のさらに隣街にある、大きな市営会館に避難した。
大災害を目の前に、私は工場の従業員はまだしも、工場の機械の心配まで、場違いにしていた。
こないだ結婚する②旨で退職した女の子が使っていた機械、『ミーハーちゃん3号』は無事か?
業績のことで頭がいっぱいだった私は、従業員の安否を確認できて安心した。同じ市営会館に来ていたのである。
その日から1ヶ月くらいは、そこで身を寄せあって暮らしていた。 あと、安否を確認できていない知り合いとすれば、雪国さん。
まあ雪国さんは街出身ではないだろうし、万事問題ないとは思うが。 そう思いながらも、会館では雪国さんを探し求めた私である。顔も解らなかったので、見つけることは出来なかったが。
結局、私達の工場は潰れた。 いや、私達の故郷は、潰れた。 台風の影響で洪水や土砂崩れを起こし、街自体が沈んだのだ。④
あの日通った神社、初恋の彼といった映画館、友達と遊んだ裏山。
全部、崩れて沈んで、原型を留めていない、らしい。
私が街をもう一度訪れられるまで、3年の月日がかかった。 避難規制が解除されず、死者行方不明者の捜索も大掛かりなものだったらしい。
久々に街を訪れた私は戦慄した。 ここからはボートに乗って移動して下さい。 なんてことだ。まるでベネツィアみたい。
土砂で茶色く濁ったベネツィアの見渡す限り、私は絶望した。
幸い知り合いの死者は、避難勧告が早く回ったことも助け、一人としていなかったのだが、私の一番の友達の一人、故郷はこうして無残な姿である。
途中、あの路上があった場所にも立ち寄った。
雪国さんはどうなっただろうとか、そんなことを考える頭のスキマはなかった。
が、流石に、その辺りにあの仮面が流れていたら話は別だ。
「すみません、あの仮面のところまで漕いで貰えますか?」
職員さんに無理をいって寄り道し、仮面を拾った。
雪国さん、本当に大丈夫なんだよね?
くれぐれも気を付けてたよね?
仮面だけ見ると不気味なもの。私はどんどん不安になった。
3年前の会館で探した日から、ずっと探し求めたあの人は、元気だろうか。
あの歌はまだ鮮明に覚えている。アコギはなくてもいい。だからせめて、あの人の声だけでも聞きたい。⑩無事を確認したい。
そんな気持ちの中、ボートが私の工場に入った時だった。
停電しているのは当たり前。崩れた建物の間を縫って侵入したのである。
職員さんが漕いでいるのだから危険ではないと思ったが、職員さんは少し険しい顔をしていた。 やがて、こう叫んだ。
「おい!君、そこは危ないから出てきなさい!」
職員さんは、私の工場跡にいる別のボートを懸念して侵入したのだった。
確かに危険だ。一体誰が…。
暗闇の中、ある人が船を漕いでいた。 その人が口笛を吹いたことで、ずっと探し求めていたものが見つかった。
工場跡地内で船を漕いでいたその人は、不意に口笛を吹いた。ある程度遠くにいて顔は解らなかったが、口笛は聴こえた。
間違いなく、雪国さんの、メロディだった。 職員さんの注意が聴こえたのか、その人は段々とこちらに近づく。
口笛は続き、やがて、その人の素顔が見えた。 イメージの雪国さんらしい、そこそこ柔らかい③印象の顔。 口笛を止め、こちらに笑いかけてきた。
「すみません、ある人を探していたんですが、今見つかったので良かったです!」
あの快活な声で、雪国さんは言った。
私は溢れでる安堵で言葉も出なかった。 職員さんは怪訝な顔をしているだろう。
雪国さんが急に、あのメロディを歌い始めたのだから。
「♪頭ん中に君が溢れてさ、どうしようもないこの気持ちが…」
雪国さんの無事が確認できました。 崩れた建物の近くで、私は故郷への想いでいっぱいになり、ついには泣き出していた。
終わり。
[編集済]
こちらはとっても心温まるスープ!
仮面ミュージシャンと聞くと、初めは怪しい人なのかな?と思いましたが、明朗快活、素敵な好青年。ほのぼのとした雰囲気のお話に微笑ましく読んでいたら、突然のアクシデント。正直、ギリギリまでバッドエンドを疑っていました。仮面が見つかったあたりでは「終わったな……」と(笑)。結末に、思わず、よかったぁー!と心の中で叫びました。いい意味で予想を裏切ってくださってありがとうございます!
僕は仮面を被っていた①。
それは真っ白で、脆い。
僕には両親がいる②。
光が射したと同時に⑥、僕は産まれた。
広大な大地。辺りは真っ白だった。
ここは雪国なのだろうか⑧?
ハレルヤ~!
そう聞こえた気がした。
きっと、パパの声だ。
こっくり、こっくり。 ずっと暗闇の中で船を漕いでいた見知らぬおじさんが、パパの声に驚いて目を覚ました。
せめて、ママの声も聞きたかった⑩のに。
僕はすぐさま、おじさんによって両親と離ればなれにされた。
~~~~~
寒くはないけれど、ちょっと冷たいお風呂に入れられた僕は、二人の女から見つめられていた。
「沈むねぇ④」
声が聞こえた。
「うん。新鮮だもの」
「でも、コレステロールが気になる」
「ふふ、それ迷信らしいよ⑦」
何だか、温かくなってきた。
暑くてたまらなくなり、体がゆらゆらし始めてからちょっと。
ピュウ、と例の見知らぬおじさんが口笛を吹いた。
「今だ!火を止めろ!」
「はい!シェフ!」
二人の女が僕を水攻めにした。
寒暖差が激しすぎる。
こんなの拷問じゃないか。
勘弁して欲しい⑤と、僕は懇願した。
そんな声など聞こえていない彼らは、僕を見てゴクリと唾をのんだ。
彼らは僕の、白く脆い仮面を剥いでいく。
「…そこそこ柔らかく③」
「黄身が溢れる⑨!」
「これだ、これをずっと探し求めていたんだ!」
おじさんは、完璧な半熟ゆで卵を作った。
【完成】
[編集済]
短編で、非常にスッキリとする素敵な作品でした!私はついつい長文になってしまいがちなので、問題の解答であり、しかも10の要素を詰め込んで、これだけシンプルにまとめられているのは、本当に尊敬します。波線を境に露わになる正体と、回収されていく伏線が見事でした。
俺は結婚②ができない。親にも「これ以上独りでいるのは勘弁してほしい⑤」と言われ、ある日合コンに行った時のこと。
雪国⑧出身だという彼女はとても明るく活発で、連絡先の交換を申し込むとすんなり受け入れた。
後日、彼女の声だけでも聞きたい⑩と思った俺は、彼女に電話をかけることにした。話は意外にも盛り上がり、なんとデートに誘われてしまった。
普通はこっちから誘うものなんだろうが。にしても、女性と二人きりでデートなんて何年振りだろうか。なんてことを考えながら待ち合わせ場所に着いた。彼女は船が好きだと言っていたので、ボートに乗ることにした。辺りはすっかり日が沈んでいて④暗かったな。船を漕いでいると、彼女がいきなり口笛を吹きだした。こんな彼女を見るのは初めてだ。何というか、仮面①を外してくれたような気分がして嬉しかった。それと同時になんだか守ってあげたくなって、彼女を抱きしめた。彼女の体はそこそこ柔らかかった③。
そうして俺の心に一筋の光が射した⑥。彼女と結婚したのだ。プロポーズは俺から。「僕の中に君が溢れた⑨、結婚しよう」だっけ。今思うと大分キザだがな。
新婚旅行はローマだ。トレヴィの泉に小銭を投げ入れたりもしたな。願いが叶うってのは迷信⑦かもしれないが。
私がずっと探し求めていた幸せ、やっと見つけた。
ー完ー
[編集済]
おめでとう、俺!!(拍手喝采)
個人的に、とても要素①の使い方が好きでした。仮面外してくれるって、凄くいいですよね!「俺」が後ろから思わず抱きしめてしまう気持ちも分かります。末永くお幸せに!
俺は夜の暗闇の中、一人で船を漕ぎ続けていた。
「…見つかんねえよおーー!!」
話は4限目のテストにさかのぼる。
ーーーーーーーーー
「あと一教科〜〜♪」
高校に入学して初めてのテスト。
もともと頭のよろしくない俺は、睡魔と格闘しながら午前中をなんとか乗り切った。
…テストの出来?
フッ、それは愚問だぜ。
まあ、一番辛かったのは国語のテストで「雪国」とかいう話が出てきた時だな。⑧
読んでる途中で意識が飛んで気づいたら終了5分前 だった時は、
「あ、終わった☆」
って絶望したもんなぁ。
お、そろそろ最後の英語のテストだ。
最後くらい良い点取ってやるぜ!
ハッ!
あれ…?
リスニングは…?
・
・
あ、終わった☆
うおおおやってしまった!
せめてもう一度!
キャスィー!
声だけでも聞かせてー!⑩
くっ、こうなったらもう運ゲーだ!
秘技えんぴつコロコロでどんどん解答用紙を埋めていくぜ!
うっ記述式…
天敵めぇ…
「問1 次の単語を英語で書きなさい。『仮面』」①
…うん。
わかんねえな。
仮面だから…
顔を覆うもの…
「答え フェイスパック」
完っ璧!
「問2 次の文を英語にしなさい。『彼は料理が下手なので、君が溢れてしまった。』」⑨
はぁ?
君が溢れるってどういう状況だ?
君が溢れる…
好きってこと…?
「答え He can’t cook , so many many love.」
よし、いい感じだ。
(彼は知らない。黒板に『誤字があったのでなおして解くこと。君→黄身』と書いてあることを)
「問3 次の文を英語にしなさい。『ついに彼はメアリーと結婚した。』」②
…なんで俺がこんなのを英訳しなきゃいけないんだよっ!
コンッ
ここで事件は起きた。
俺の大切なものが窓から転げ落ちていった。
ポチャン
そのまま下の池に落下した。
「ああああああ!!!!」
『こらっ!そこ!何やってる!』
ーーーーーーーーー
そして、今に至る。
俺は大切なものが沈んだと思われる池で小型の船を漕ぎ、一生懸命探している。④
しかし、懸命な捜索も虚しく、一向に見つからない。
「うっ、ううっ…」
自然と涙が溢れる。
ずっと欲しくて、やっと手に入れた代物。
何十年か前のモデルの、もの。
ついこの間、ネットオークションで落札したばっかりだったのに…!
ああ、あのそこそこ柔らかくてなめらかな手触り。③
思い出すだけでまた涙が出てくる。
なあ、どこに沈んでるんだ…。
もう勘弁して出てきてくれよ…。⑤
時間は深夜3時を回った。
ううっ、つらい…。
突然周りの茂みがザワザワッと揺れた。
「うわっ!」
ただコウモリが飛び立っただけなのに、なんだか怖くなってくる。
こんな真夜中に、一人…?
無理無理無理!!
怖いて!
…静かすぎだから?
でも音楽プレイヤー持ってない…!
…そうだ!
セルフミュージックをスターティンしよう!
「♪〜♫〜」
とりあえず口笛を吹いてみる。
うん、さっきより怖くないな。 ・ ・
ん、待てよ…
夜に口笛を吹くとヘビが出るって迷信があったような…⑦
ははは、まっさかぁ!
そんなことあるわけ…
ガサッ
「ぎゃああああ!!!ヘビーーー!!」
どこから来たのか、船に這い上がってきている!
「地の果てまで沈めえええ!!!」
パニックに陥った俺はオールをブンブンしてみる
ヒューン、ポチャン
やっと引き離すことができた。
くっ、ヘビにこんなに苦戦を強いるとは…
俺もまだまだだな…
船の淵に手をかけ、息を整えていたまさにその時。
視界の端で白いものが見えた。
「!?」
まさか、あれは…!!
急いで船を近づけてみる。
それを拾い上げて…
「あったーーー!!!」
ついに…!
「俺の大切なM○N○ーーー!!!」
ああ奇跡の再会だ!
ヘビと格闘しなければ見つけられなかったかもしれない!
ヘビ、ありがとう!!
本当にありがとう!!
ずっと探し求めていた『M○N○』が、再び俺の手に!
ーーーーーーーーー
やっと自宅に帰って来た。
勢いよくベッドに倒れこむ。
窓から光が射している。⑥
もう朝か…
今日の授業は睡眠学習確定だな。
そんなことを考えながら、相棒を片手に眠りについた。 【fin】
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最初に、誤って早めに回答してしまって本当にすみませんでした。それでは、感想を述べさせていただきます。
いや、それかーーい!確かに!とても使いやすいけども!多くの学生が愛用しているでしょうけれども!一体、誰が歪んだ愛情の向かう先を予想することができただろうか。いや、できない(反語)。と思ったらちゃんと題名に記載してあった……。いやでも予想できない。すみません、暴走してしまいました。個人的にとても好きです。ギャグ好きの血が騒ぐ。「きみ」のくだり最高でした。公共の場所で吹き出しました。
[編集済]
あるところに、若い夫婦が居た。ある日、女が身ごもった。②
彼女は男に
「ラプンツェルが食べたい、食べなければ死んでしまう。」
そう迷信を信じて頼み始めた。⑦
遂には食が細りやつれてきたため、男は妻と生まれる子供のために仮面の魔法使いの敷地に忍び込んだ。けれども、男はすぐに魔法使いに見つかってしまう。①
「私には身重の妻がいるのです。そのためにラプンツェルを分けてはいただけないでしょうか?」
男がそう言って頼み込むと
「私は今すぐお前を雪国にでも飛ばして凍え死なせてやってもいいんだけどネ。勘弁してほしいだろう?いいサ、好きなだけラプンツェルは持って行くといいヨ。⑧⑤
でもネ、一つ条件があるヨ。生まれた子供をすぐに渡しナ。」
「そ、そんな・・・」
「でなきゃ雪国に一つ人型の氷が増えて、ラプンツェルを探しに行った男が一人いなくなるだけサ。」
男は、悩んだがラプンツェルを食べなければ妻も死んでしまいそうな様子であったため、苦渋の決断をくだした。
「わかりました。子供は貴方にお譲りします。」
「カカカ、それでいいんだヨ。」
男は、大量のラプンツェルを持って女の元へ帰り、事情を話した女は子供を手放す事にショックを受けていたが、最後には諦め涙を流しながらラプンツェルを食べ始めた。
数か月後、生まれた赤子はラプンツェルと名付けられると同時に魔法使いによって連れていかれた。
これは、そんな彼女の物語。
わたしは一日中塔の上に閉じ込められているの。
塔を出入りできるのはわたしの髪を伸ばすことのできる魔法使い様だけ。
それでも少ししか伸ばせないからわたしの髪は元からとても長いの。
魔法使い様によって数十センチ伸ばされた髪を窓から垂らしてそれを伝って魔法使い様は登ってくる。
けれど、その夜は違った。
わたしが口笛を吹いていると、下から声が聞こえてくる。
「美しいメロディを奏でる方よ、どうか私を招き入れてはいただけないか。」
魔法使いには誰も招き入れてはならないときつく言いつけられているけれど、初めての来客にわたしは会ってみたいと思ってしまったのよ。だけど、魔法使いによって髪を伸ばしてもらわなければこの塔の下までは届かない。どうしようかと考えていると部屋の隅に丸められた延長コードが見えて、延長コードに髪の先を縛り付け長くすることができたわ。
それを窓からお客様に向けて垂らす。
整った顔立ちの、一人の男性であった。言葉を重ねるうちにわたしたちは惹かれあい、お互いの事をもっと知りたいと思うようになった。
初めて重ね合わせた素肌はそこそこ柔らかかった。③
わたしたちは抱き合いながら共に混ざり、深い、深い眠りへ沈んでいったわ。④
チュン、チュン
眩い朝日で目を覚ます。
隣には彼の寝顔。
わたしは生まれて初めて、満ち足りた感覚を覚えたわ。
「魔法使いが来る前にぃ、早く逃げてくださいな。」
わたしはそう言って彼を起こして帰らせたの。
けれども、数日経つとなんだか物足りなくさえ思えてくるようになった。
また、彼と一夜を共にしたいの。
そんな夜、再び彼は塔を訪れてくれた。
延長コードを用意して、彼を招き入れる。
そして至福のひと時を過ごした後朝日と共に別れる。
でも、そんな幸せな日々は長く続かなかったの。
わたしが身ごもってしまい、その事が魔法使い様にばれてしまったのよ。
魔法使い様は怒ってわたしの髪を切って塔を追い出したわ。
もう、あの人とは会えないのかしらね。
私は、王子という立場でありながら一人の女性と一線を越えてしまった。
けれども、私は彼女を忘れる事が出来ない。
だから今日もまた城を抜け出しあの“塔”へ向かう。
今日は、もう彼女の髪が垂れていた。
私が塔へ登ると、そこに居たのは彼女ではなく仮面を被った怪しげな人物だった。
「キミがラプンツェルが大事にしていた“お客様”かナ?
彼女に逢いたかったのならばご愁傷様だヨ。もうここに彼女は居ないヨ。私が髪を切って荒野へ放り出してやったからネ。」
その言葉に耳を疑う。
「そんな・・・嘘・・・だろ?」
呆然としている私に、彼は何もしてこなかった。
彼女にはもう逢えないのだろうか。
ならば、王位なんてものにも最初から興味はない。
いっそ、ここから・・・
そうして私は飛び降りた。
結局命は助かったものの、私の世界から光が消えた。
7年後、私は旅をしていた。
彼女を探して。
光を失った今、せめて声だけでも聞きたい。⑩
彼女の奏でていた歌をおぼろげな記憶を元に口ずさみながら・・・
7年後、わたしは生まれた双子と共に暮らしていた。
朝早くから水を汲み、夜遅くまで糸を紡いで。
とてもつらい生活ではあるけれど、子供達がいるから我慢できる。
そんなある日の夜、わたしは糸を紡ぎながらもうつらうつらと船を漕いでいたの。
心地よいまどろみの中で、7年前の記憶が蘇る。
口笛で、あの日奏でていたメロディを懐かしむように奏でる。
なんだか、彼に逢えるような気がして。
~♪
どこか、聞き覚えのあるメロディが聞こえてくる。
私は無意識にその音のする方へ向かっていた。
「ラプンツェル、君なのか?」
闇の中を、音を頼りに彷徨い続ける。
そして、その時は来た。
「あなたは・・・お久しぶりねぇ」
聞き覚えのある、艶やかな声。
と同時に体が抱きしめられる。
唇に、唇が触れる。
・・・ポタリ
彼女から零れ落ちた雫が、私の目へと落ちる。
その瞬間
私の世界に、光が射した。⑥
視界の中に、君が溢れた。⑨
涙で目を赤く腫らした彼女がそこにはいた。
「やっと、逢えましたね。」
そこへ、乱入者達が現れる。
「そんなにアツアツだなんて、なんだか妬けるわね・・・」
そう言う前髪の長い少女に続き、もう一人の少女が話しかける。
「あー・・・感動の再会中申し訳ないのだけれど、ちょーっとよろしいかしら?」
「空気の読めない女は嫌われるわよぉ?」
「煩いわね!そもそもあんたみたいな年増が姫っていうのも信じられないんだから・・・」
ぶつくさ言いながら少女はラプンツェルの元へ歩み寄り
「私と一緒に来なさい、髪長姫『ラプンツェル』!」
「嫌だっていったらぁ?」
「貴女、いいえ、私たちに拒否権なんて無いのよ」
それまで黙っていた眠たげな少女が声をかける。
「私たちが集まらなければ、物語は元には戻らずに形を失い消滅してしまう。」
「物語ぃ?何の話かしら?」
「一緒に来れば、わかる。」
「まあいいわぁ。一緒にいってあげる。
そういうわけだから、子供達をお願いするわねぇ。」
残されたのは、王子と二人の子供だけ。
彼女たちは、どこへ向かうのか。
それを知る者は・・・
-了-
[編集済]
待ってました。創り出されたシリーズ、絶対にラプンツェルをやってくれる日が来ると信じてました。まさか、私が主催の時に書いてくださるとは!題名見た瞬間から興奮が抑えられませんでした。
問題文への回答がとても美しくて、感動しました。要素を詰めても世界観を一切壊すことなく、綺麗な御伽噺を楽しませてくれる素敵な作品です。密かに次回作を待ってます!
彼は2020年に放送中の特撮「仮面①ライダーラテシン」の主人公、海野カメオである。
彼は悪の組織ロッカーと戦っている。ロッカーとの長い闘いの間に、彼は敵の女幹部ラテコと親しくなった。ラテコは元はロッカーに忠誠を誓う幹部であったが、カメオとの闘いの中で次第にロッカーに疑問を感じるようになり、カメオに説得されてロッカーを裏切ることを決意した。
ラテコは、今では事実上カメオ側のスパイとして活動している。彼女は表向きはロッカーの幹部のまま、危険を冒してカメオに貴重な情報を流してくれているのだ。彼女がスパイと見破られなかったのは、首領の幹部への扱いや監視がそこそこ柔らかかった③のも理由の一つだろう。だが、スパイである以上はいつ正体が見破られるか分らないのだ。 早くロッカーを壊滅させ、ラテコを危険なスパイから解放してやりたい。そう、この戦いが終わったら結婚しよう②と誓ったのだから……。
彼は今、ロッカーの総本部がどこにあるのかを突き止めようとしていた。今まで彼はロッカーの支部をいくつも壊滅させてきたが、支部をいくら潰してもロッカーの勢力はゆるぎなかった。ロッカーの中心である総本部を見つけ、首領を倒さなければロッカーは壊滅できない。その総本部はどこにあるのか? 総本部の場所は最高機密であり、幹部のラテコさえ知らされていないのだ。首領も姿を現すことなく、竜神の絵が刻みこまれた壁でスピーカーから指令を下すだけなので、ラテコは首領の顔も知らない。
だがカメオは、総本部はどこか水の底にあると睨んでいた。なぜなら、ロッカーの最高幹部ラッティーシンヤは、逃亡するとき決まって水の中に潜って逃げる。最高幹部だけでなく、怪人や戦闘員まで、水に潜れるし、それを好む。総本部はどこか水の底に沈んでいる④ことは間違いないと、カメオは感じていた。
ラテコはカメオのためにここ数か月、総本部の場所を探り出そうとしていた。危険な仕事だ。ラテコがカメオ側のスパイだとばれたら、ラテコは即座に処刑されるだろう。だが、ラテコは「総本部さえ突き止めて壊滅させれば、この闘いも終わりでしょう? もう闘いもスパイも勘弁してほしいわ⑤。早く終わりにしたいのよ」と言って、その仕事を自ら引き受けたのだった。
これまでのところ、ラテコがつかんだ情報は二つあった。
首領はある種の迷信や予言に従って作戦を立てており⑦、総本部の場所もその迷信に関係ある可能性が高いこと。そして、ロッカーの冬用の装備を考えると、その場所は雪国と考えられることだ⑧。だがその後ラテコは杳として消息が途絶えた。ラテコは無事だろうか? カメオはいらだった。せめて、ラテコの声だけでも聞きたい⑩。
そしてある日、ついにラテコから連絡があった。ついに総本部の場所を突き止めたと。その場所は……
「北海道、洞爺湖」
アイヌには、ここに龍神「ラブシ・オヤウ」が住んでいるという伝説がある。条件にぴったりだ。カメオは早速北海道に向かった。
夜明け前、まだ周囲が真っ暗な時間にカメオは洞爺湖に着き、小船で湖の中に漕ぎ出した。この湖の底に、ロッカーの総本部があるのか。夜明けとともにラテコは現れると言っていた。カメオは待った。
太陽が山の上に姿を見せ、最初の光が周囲を照らした⑥。
続いて、湖の中に一つの姿が浮かび上がる。
ラテコか? カメオは合図の口笛を吹く。
口笛を聞いた人影は手を振った。ラテコだ!
ラテコはカメオの船に泳ぎ寄り、乗り込んだ。
だがカメオは気が付く。ラテコが重傷を負っていることを。
「ラテコ! どうした? やられたのか?」
「ええ……。ようやく総本部の入り口と、首領の部屋まで突き止めたのだけど、見つかってしまったの……。どうにか……逃げてきたけど……」
ロッカー壊滅のために、カメオのためにラテコはここまで生命を賭けてくれたのだ。
心の中でカメオは思った。(俺の心の中は、きみで溢れそうだ⑨)
カメオは岸に戻り、ラテコから総本部の入り口と、首領の部屋までの道順を聞くと、ラテコに応急手当てをした。
「あそこに、俺が乗ってきた車があるから、そこにいてくれ。もし運転できそうなら、近くの町まで行くのがいい」
「ええ……。必ず戻ってきてね、カメオ」 「ああ。必ず首領を倒して、ロッカーを壊滅させて戻ってくるよ」
カメオは湖に潜り、湖底に潜む総本部を目指した。
今度こそ総本部を壊滅させ、首領を倒し、ロッカーを壊滅させ、闘いを終わらせるために。
- END -
[編集済]
どうなる、カメオ?!次回……と続けたくなるエンド。いやー、素晴らしいですね。この、敵の心が正義の側に揺らぐ展開ほど熱いものはない。この話の続きも、カメオとカメコの初期のいがみ合いとか、そこから仲良くなって行く過程を、毎週観たいです。日曜朝に。死亡フラグがボンボン立っているような気がしないこともありませんが、帰ってこいよ!カメオ!!そして幸せな挙式を見せてください。
「なにが欲しい?」
その問いかけに対する答えを、ずっと探していた。
** きみのとなりで **
「もうすぐ誕生日だね。なにが欲しい?」
幼い頃、その問いかけを私は楽しみにしていた。
折り畳み傘、ぬいぐるみ、一輪車、ゲーム、服……
毎年その答えは変わっていった。
「もうすぐ誕生日だね。なにが欲しい?」
あれは高校三年生の頃だっただろうか。
お決まりの問いかけに、私は口をつぐんでしまった。
なにが欲しい?
その答えが、さっぱりわからないことに気づいたのだ。
私の欲しいものって何だろう?
年を重ねれば重ねるほど、その答えは闇の中へと引きずり込まれていき、見えなくなった。
○●○●○
28歳の冬のある日。
大きな雪だるまにたぬきの仮面を被せる。[①]
これは幼い頃におばあちゃんが教えてくれたおまじないのようなものだ。[⑦]
『雪だるまにたぬきの面を被せるとなぁ、次の日に空がスカーンと晴れるでなぁ』
雪国版てるてる坊主といったところだろうか。私はその言葉を信じ、冬の日には度々そのおまじないを実践していた。
私の住む地域は雪深く、冬になると毎年こんもりと雪が積もる。[⑧]
明日には遠方から大切な友人、那月が来る予定だ。同じ趣味を持ち、意気投合してSNSでずっと親しくしている人。実際に会うのはこれが初めてだ。
私ははりきって大きな雪だるまを作り、マフラーを巻いて帽子を乗せ、手作りのたぬきの仮面を被せた。
「明日晴れますように!」
○●○●○
翌日、空は見事に晴れた。
「晴れてるのに雪が降ってる」
隣を歩く那月が物珍しそうに呟く。
「狸の嫁入りだよ」[②]
「えぇ、何それ」
「狐の嫁入りの雪バージョン」
「初めて聞いた」
空を見上げ、口を大きく開ける那月。どうやら雪を食べようとしているらしい。
年齢のわりにどこか子どもっぽい那月の仕草に心をくすぐられる。
「ユウ、もうすぐ誕生日じゃなかったっけ」
顔は空へ向けたまま視線だけをこちらに向ける那月。
目元が雪で濡れて、声は明るいのに泣いているみたいだった。
「よく覚えてるね」
「覚えてない。1月……7?」
「8」
「8か」
「何くれるの?」
「むしろ何くれるの?」
「私があげる方っすか」
まるで昔からずっと一緒に居たみたいに肩肘張らず笑い合えることに、私は内心驚いていた。初対面の相手だとは信じられないくらい、何かがぴたりとはまる感じがした。
ふわふわと舞う雪が太陽に照らされキラキラと輝く。
それだけで、なんとなく私は幸せだった。
「ユウちゃん、チューしたげようか」
「はい?」
「ちょっと早めの誕生日プレゼントに」
「いや、チョイスおかしくない?」
「じゃあ、なんか欲しいものある?」
ぱたりと思考が止まる。
欲しいもの。
私の欲しいものって、何?
「そんなこの世の終わりみたいな顔して悩まなくても」
どうやら止まっていたのは思考だけではなかったらしい。
数歩先でこちらを振り返る那月に気づいて、慌てて足を踏み出す。
「那月の誕生日、夏だっけ」
「そだよ」
「なんか欲しいものある?」
「今言っても絶対忘れるじゃん」
「メモっとく。何欲しい?」
「ユウちゃんのチュー」
「却下」
「なんで」
わは、と軽快に笑う那月。
「じゃあ、夏にはユウがこっち来てよ」
「え、行く!」
「よし、決ーまり」
○●○●○
夜になり、二人でコンビニ帰りに散歩をしていた時のことだ。
辺りを見回した那月がふと口を開く。
「雪ってさ、音を吸収するのかね」
「音を吸収?」
「なんかすごい静かだなぁと思って」
どうなんだろう。わたしは生まれてこの方ずっとこの町に住んでいるからこれが普通だ。うーん、と首を傾げる。
すると、隣で那月がおもむろに口笛を吹き始めた。
「泥棒来るよ」
「わは。来ないよ」
「来ないか」
さらに口笛を吹きつづける那月。
コロリとした小さな鈴みたいに、可愛らしい音だ。
「なんの曲?」
「いま作った」
「まじ?」
「まじ」
一歩一歩、雪を踏みしめる音が響く。
は、と息を吐く那月。
確かに静かだな、と思った。
「握手しようか」
ふいに差し出された手に、私は意表を突かれて足を止めた。
「急にどしたの」
「チューはだめでも、握手ならいいしょ」
「なにそれ」
ふはっと笑う。
私は快くその手を握った。
「握手」
頬をほころばせて私の手をふわりと握り返す那月。
私より少し大きくやや骨ばって見えたその手は、意外にも、そこそこ柔らかかった。[③]
「ユウの欲しいもの見つかったら教えてよ」
不思議だ。
何もいらないと、強く思った。
○●○●○
夜が明け、始発の電車で帰る那月を見送る。
早朝の駅はきらきらと眩しかった。
ひとり家に帰り、ぼんやりとした頭でつい先程までの記憶を辿る。
頭の中で那月の快活な笑い声が反響する。
見慣れた風景に真新しい思い出が結び付けられていく。
ゆるやかな時間の中、私の身体はソファーに沈んでいった。[④]
・
・
・
暗闇の中、だれかが船を漕いでいた。
暗くて顔はよく見えない。
わずかな波の音が響く。
周りの雑音を、雪が吸収しているのかもしれない。
その波音の隙間から、小さな鈴の音が聴こえてくる。
否、メロディーを伴ったそれは……口笛だ。
どこかで聴いたことがあるような気がする。
『なんの曲?』私は尋ねるが、声は出なかった。
『いま作った』と、その人は微笑んだ。
少しずつ、船は遠くへ行ってしまう。
手を伸ばそうとする私を置き去りに、闇が晴れて光が射す--
・
・
・
「っ、那月!」
はっと目を覚ます。
カーテンの隙間から朝陽が差していた。[⑥]
私は、驚いた。
目から涙がぽろぽろと溢れていたのだ。
晴れ空を見上げ目元を濡らす那月の横顔が浮かび上がる。
「……あは、おかしいな、晴れてるのに」
この気持ちは、なんだろう?
悲しくないのに、涙が溢れてとまらない。
私はスマートフォンを手に取り、SNSを開いた。
那月にメッセージを送る。
『欲しいもの、見つかったかも』
すぐに返信の通知が届く。
『なに?』
ぽたり。
涙が液晶画面に落ちる。
『那月が隣にいる時間』
あの時、何もいらないと強く思ったのは
既にそれを手にしていたからだ。
そうか。そうだ。
私は初めて、満たされたんだ。
『電話していい?』
那月からのメッセージ。
うん、と返信するとほぼ同時に着信の画面に切り替わった。
「……はい」
「別れたあとにそのメッセは反則だわぁ」
「う。ご、ごめ」
「っていうか泣いてる?なんか鼻ぐすぐすいってる」
「や……寝てた」
「寝てたんかーい」
変わらぬ気さくな態度にふっと気が緩む。
私は手の甲でごしごしと目元を擦った。
「ユウは不思議だね」
「なにが?」
「昨日初めて会ったのに、もうずっと昔から一緒にいるみたいだ」
私も全く同じことを考えていた。
「心地いいんだ。ほんとにただそれだけなんだけど、『ただそれだけ』が、めちゃくちゃでかい」
わかる。わかるよ。
私は無言で、伝わりもしないのに何度も頷いた。
「またすぐ会いに行くわ。何なら今すぐ引き返してチューしてやりたいけど」
「いや、チューは勘弁して」[⑤]
「わは」
じゃり、じゃり、と那月の歩く音が響く。
きっともう地元に着いて、慣れ親しんだ地を歩いているのだろう。
「けどほんとに引き返そうかと思ったから、あのメッセ。なに言っちゃってんのこの子はって。せめて声くらい聞かせろって思って電話した」[⑩]
「……へへ、ありがと」
「へへ、じゃないっつうの」
スマートフォンに耳を押し当てたままカーテンを開ける。部屋いっぱいに太陽の光が差して、窓の外にはふわり、ふわりと雪が舞っていた。
「……狸の嫁入りだ」
「また雪降ってんの?」
「うん」
「食べれば?雪」
「食べないよ」
「大人だな」
「それほどでも」
「べつに褒めてないけど」
きらきら、きらきら。
私の心は、晴れていた。
○●○●○
たぬきの仮面を被った大きな雪だるまが、窓の向こうからこちらを見ている。
私はボウルに卵を割って牛乳を注いだ。
なんだか猛烈にホットケーキが食べたくなったのだ。
泡立て器でがしゃがしゃと混ぜる。
すると、勢い余って卵黄がボウルから床へダイブした。[⑨]
「わぁ。」
虚しく響く自身の声。
……あぁ、やっぱり隣に君がいてほしいな。
そう思って少し笑いながら、卵を回収した。
** end **
[編集済]
最初の二文で、「あ、好き。」って確信しました。初めて会ったとは思えないほどの、お互いにしっくりとくる感覚。絶妙にぬるくて、心地のよい距離感。それが会話文の軽い掛け合いからひしひしと伝わってきました。藤井さんの語彙力の凄さよ。(語彙力)そこからの「何もいらないと、強く思った。」ですよ。もう、エモさ大爆発ですよ、奥さん。クライマックス、主人公がはじめて芽生える欲求に困惑する描写も……いや、何を言っても野暮になる気がしてきました。ともかく、最高の一言です。とても素敵なスープをありがとうございます!!
1人の少年の話をしよう。
彼は小さな村に、母と2人で住んでいた。
体の弱かった母は、あるとき病気で死んでしまう。
そして、少年は決意した。
「旅に出よう。南の海の向こうには、豊かで自由な国があるらしい。寒くて貧しいこんな場所⑧とはさよならだ。」
少年は小さな船に乗り、1人で海へと繰り出した。
船旅の途中でいくつかの港町に寄ったが、
人と話すことが苦手な少年はどこへ行くにも顔を隠していた①。
必要なものを揃えたら、すぐに船を出す。
海でも陸でも孤独な旅だった。
波に揺られながら、少年はよく歌を歌った。
幼いころに好きだった歌や、港町で耳にした歌。
その日、彼が口笛を吹いたのは単なる偶然だった。
突然強くなる、風と波。
海面は轟音をあげて渦を巻く。
小さな船は、あっという間に飲み込まれた④。
「死んだらまた母に会えるだろうか⑩。」
そんな考えが脳裏に浮かんだ刹那、
少年は海底から何かが近づいてきていることに気づいた。
夜に口笛を吹くと、蛇が出る⑦と言われているらしい。
夜の海で、口笛を吹いた少年のもとに現れたのは―
「竜?⑤」
少年が目を覚ました場所は、華やかな街だった。
道行く人はみんな笑顔で、建物はあちらこちらに装飾品が光る。
きっとここが旅のゴールだと、少年は思った。
少年は街で暮らし始めた。
ここは豊かで、そして自由だ。
しかし、少年は満たされないと感じていた。
街の生活に慣れてきても、その違和感は残り続ける。
なかなか寝付けず、少年は夜の街へ散歩に出かけた。
あの日のように口笛を吹いたのも、また偶然である。
歩いていた少年の足元に、奇妙な感触。
硬い石のタイルが、ぐにゃりと歪んでいた③。
途端に思い出す、夜の海で見た光景。
「ああ、ここは、竜の腹の中か。」
そう気づいたときには、ぐにゃりとした感触が少年の全身を飲み込んでいた。
少年が目を覚ました場所は、砂浜だった。
「あつ…眩しい⑥」
直射日光から逃げるように、ふらふらと歩きだす。
やがて、小さな村にたどり着いた。
華やかではないが、ここは孤独を埋めてくれる場所だと少年は思った。
少年の旅は、そこで終わり。
新しい家族②と幸せにのんびり暮らしているよ。
話はここまで、そろそろ夕食の時間だ。
今日はオムライスか。
大盛り⑨でよろしく。
終
[編集済]
壮大な冒険の末に辿り着く先が、龍の腹の中。冒険心を駆り立てられるとても素敵な作品でした!しかもそこで幸せに暮らすのがいいですね。こういうゲームがあったら、プレイしたいです。龍の腹の中からスタートするやつ。素敵な作品ありがとうございました!
⑥⑧
その村では毎晩、夜になると恐ろしい鬼が出てくるという。男が一人、屋敷から月を眺めていた。
「うう、今夜も冷えるわい」
国でも一際寒い地方だった。冬には雪が降る。男の屋敷のすぐそばを流れる川が凍りつき、積もった雪で地面と見分けがつかなくなってしまうほどだ。
それにしても寒い。夏が過ぎたばかりだというのに。それに、最近は月が一段と青白く光るのだ。何か嫌な予感がする。いや、もう予感ではないのだ。
「そろそろ寝ねぇと、鬼に食われちまうよ」
男は視線を落とし、引き戸を閉めようとした。そのときだった。
ひょうるるる、と不気味な音がしたのだ。思わず彼は見てしまった。白い月を揺らめく水面に映す川の、上流の方から何かがゆっくり近づいてくるのを。
「なんだぁありゃあ??」
逆行に阻まれよく見えない。しかし、あれは人だろうか。いやそれよりは一回り二回り大きい。男は目を凝らした。すると、その影の周りにふわりと漂う怪しげな炎が見える。いよいよ恐ろしくなった男だったが、なぜか目を離すことはできなかった。それどころか身体すら動かせない。下手に動けば、呪われてしまうかもしれない。
そうしている間にも、影は近づいてくる。ああ、もう少し近づけば姿が分かる、という頃だ。その影から頭らしきものが外れたのだ。
「ああ、ああぁぁあ」
男は腰を抜かしそうになった。しょんべんもいくらかチビった。だが視線は釘付けだ。外れた頭は炎と同じような軌道で不気味に川の上を舞った。そして頭の影が大きく揺れたとき。
「っ?!」
一瞬だけその恐ろしい顔面を拝めた男は、事切れた。月明かりが優しく部屋に差し込み、死んだ男の首の切断面を照らし出していた。今夜もまた、一つの尊い命が失われたのだ。
⑤⑦⑩
「ったく、勘弁してほしいもんだねぇ」
村では会議が開かれた。上座には村長が座るはずだったが、一番始めに死んでしまった。そのため、その任を継いだ息子センリが座っているのだが、この怪異事件には無力である。頼れるという導師を伝手で呼んできたが、てんで役に立っていない。面目丸つぶれである。
「おたくらがさくっと倒してくれるって話じゃ無かったんかい!その、やつらを」
「幽鬼ですね」
「そう、幽鬼だ」
広間には大勢の村人が座して眉間に皺を寄せていた。導師ラハンはセンリの対面にいた。一人だけ、なんの感情もその顔に覗かせてはいない。それがひたすら不気味な男であった。
「ともかく、だ。わしらは大事な大事な金を払って依頼しとるんだ。仕事をしねぇなら返せや!」
センリが声を荒げる。村人の何人かは「やめなさいよみっともない......」みたいな目で彼を一瞥したが、主張は道理に背いていなかった。事実、多くの村人は同じような不満を抱いていた。一体何人が殺されるのを黙って見ていなければならないのか。いやそれならまだ良い。次に殺されるのは、自分ではないか。重い空気が広間を支配した。
だがラハンは涼やかな表情のままだった。
「初めに申し上げた通り、こちらから幽鬼に手を出せば必ず死にます。見かけても何もしてはならない。あちらから私どもを狙ってくるまで、耐えなければならないのです」
伝えた通りである。それ以上はどうしようもない。そういう含意もあった。だが村人の心情は一切合切無視されていた。毎朝、こんなやり取りが続いていた。我慢をするのにも、彼らの限界はとうに越してもおかしくはない。それを押し止めているのは、死の恐怖だけだった。
「んじゃあよ、こういうのはどうだ」
村人の一人がやにわに口を開いた。痩せ気味の男で、髪の毛が伸ばしたままになっていた。髭も剃っておらず、大変汚な......やつれて見えた。彼はつい一昨日、幽鬼に娘を殺されていた。
「なんでしょうか」
「俺があんたの代わりに幽鬼ってのを倒してやるよ!だからあんたの商売道具寄越しな」
「そんな!おまえさんだけ助かろうってのか?!汚ないねアンジン、見た目も中身も!」
アンジンというらしい村人に反対の意見がいくつか上がった。自分だけが助かろうとしている。抜け駆けは許されない。
「なあ、とにかくだ。道具だけ持ってればあんたらとおんなじ様に幽鬼は殺せんのかい?」
「無理ですね。私どもは導師として生気を内に留めておくための訓練をしっかりと積んでいます。常人が幽鬼に対峙したならば、五秒と持ちますまい」
アンジンは黙りこくった。静寂というにはあまりにも雄弁な沈黙。死んだ村人は既に十余人、中には幼子も何人かいた。仮にこの怪異を乗りきったとして復興は難しいだろう。誰もが、破滅の運命を感じざるを得なかった。
「もう、ダメかも知れんねぇ」
呟いたのは初老の女性だった。だがラハンにはもっと老けて見えた。続くように、声が上がる。
「幽鬼、倒せないかもな」
「ははは、わしらはめでたく全滅じゃ!うわははは」
「姿も形も分からない。せめて声だけでも聞こえれば......」
幽鬼という未知の存在に、明解な答えを持つ者はいなかった。悲しみも、怒りも、その行き場を失っている。それが逃れ得ない諦観を生み出していた。
それにラハンが反駁した。とは言っても、仕事の都合で必要だからなのだが。
「幽鬼は怪異です。つまり、迷信によって力を得た存在です。今ここで諦めてしまっては、幽鬼の存在をより強めてしまうかもしれません。できるだけ強気でいることが、幽鬼討伐の鍵です」
声音すら平坦だった。ラハンが何を考えているか、村人には判然としなかった。しかしこの言葉が決め手となり彼らの落ち着きが戻ってきた。そのまま会議はお開きとなった。
①②③⑨
「待たせたましたね。行きましょうか」
「......あ、はい!」
ラハンは屋外へ出ると、戸口の近くに座り込んでいた少女ユカに声をかけた。全ての荷物を預けて、外で待たせていたのだ。ラハンが導師として幽鬼を追うようになってから何年も一緒にいる娘だった。
「いやー今日は風がきもちいですね!!」
「夏でも涼しいですから、ここは」
「暑がりのせんせえにとっては死活問題ですからね!」
ラハンの半分くらいしか背丈のないのに、ユカは大きな籠を背負って平気な顔をしていた。中には色々な道具が入っている。ラハンはそこから無造作に釣竿を引き抜いた。今日の昼食を準備しなくてはならないのだ。
そのまま二人は川まで歩いていく。急峻な山々に囲まれながら、流れが非常に緩慢だった。人も幽鬼もこの村に来るときは、川を通るのだ。幽鬼が出ている場所だが、物怖じすることはない。いつものことなのだ。
「何か、変わったことはありませんでしたか?私が会議に呼ばれていた間に」
「うーん......何もなかったよーな気がします。あ!」
適当に河畔に腰掛け、棹を投げた。地域によっては魚の住まない川があったりするが、ラハンはこの川に溢れる生気の気配を感じ取っていた。魚含め、生物の有無はだいたい分かる。
「どうしましたか?」
「道具について色々聞かれました。男の子に」
「そうですか。どのように答えましたか?」
「いつもどーりです!」
導師という職業は人の興味をひく。これまで様々な村を巡ってきたが、そのほとんどで仕事について訊かれた。道具や、幽鬼の倒しかたについて。
幽鬼と対峙するのは決まって月明かりの強い晩だ。雲で翳れば彼らは出てこない、と多くの人に説明してきた。大抵の鬼は幼いときに殺された人間の魂が元となっていて、月の満ちていくのに合わせて力を増す。女性に強く惹かれるが、男も殺す。犠牲者の魂から十分な温もりを奪い去るまでは幽鬼は一箇所に留まり続けるのだ。
仮面は、遠い昔の皇帝に見初められた女性のものだ。その美貌は国を傾けたとも伝えられる。幽鬼がひとたび月光に照らされた美女の面を見れば、否応なくそれに吸い寄せられるだろう。
「説明のしにくいことですからね。誤解を生んでしまっては混乱に繋がります」
しばらく釣りを続けていると竿が折れてしまったので、そこで切り上げて食事を始めることにした。ラハンは釣り上げたばかりの魚を丸かじりした。びちびちと口の中を跳ね回ったが、しばらく咀嚼していると大人しくなった。他の人が思うほど固くはない。ちなみに、ユカはちゃんと焼いてから食べた。どこから取ってきたのか、鶏の卵を割って魚の身を浸している。殻から黄身が溢れた。
「あまり燃料を使わないでくださいね。次の仕事に響きますから」
「はーい。でも火薬と油はとってありますから、だいじょぶです」
「食べ終わったら準備しましょうか。ユカは向こうの方で待機していてください。仮面は持っていきますね」
火の始末をつけ、ラハンは立ち上がった。風が強い。ある種の危惧を抱きかけたが、きっと大丈夫だろうと思い直した。今夜は満月だ。光が強いぶん、影は濃くなる。
今回も、普通にやれば良いだけだ。
④
夜になった。不気味なほど大きい月が空に浮かぶ。ラハンは村の屋敷を借りて、じっと構えていた。
やがて不気味な静寂が訪れたかと思うと、川の上流から何かが近づいてきた。それは青白い炎を周りに漂わせ、滑るように川を下る。一度、幽鬼を目撃した村人が尋ねてきた。なぜ幽鬼は沈まないのだと。そんなの決まっている。船に乗っているからだ。
暗がりからパッと一つの影が飛び出した。ラハンだ。今夜ばかりは村人も事の顛末を見届けようと、薄く戸を開けながら彼の様子を目で追っていた。
ラハンは駆けた。幽鬼が岸に近づいた瞬間を見計らって大きく跳ね、襲いかかる。月の白い光を仮面が反射した。艶やかな紅を口に引いた、妖艶な女性の面だ。幽鬼はびくりと震え、炎を踊らせながらラハンを迎え撃つ。どちらも一瞬でけりをつけるつもりなのだろう。暗闇のなかに緊張が走る。
気づくと、不気味な炎は消えていた。幽鬼とおぼしき影はぐったりとして動かず、そのまま下流へと流れていった。
ラハンとユカはもといた屋敷に戻った。そこに控えていた村人たちに向きなおる。
「終わりましたよ。幽鬼はもう出ないはずです」 村人たちの安堵した顔が蝋燭の明かりに照らし出された。これでようやく終わったのだと。センリがずいと前に出てくる。そして、ラハンに対し深く頭を下げた。
「ありがとう。その、なんだ。疑っちまって悪かったよ。おたくらに任せてよかった」
「いえ、気にしないでください。報酬さえいただければ構わないのですから。それより一つ、頼みがあるのですが」
「ああ、ああ。なんなりと」
ラハンは屋敷の裏手の方を指差した。そこには、これまでの犠牲者がとりあえずの間寝かされているのだ。
「幽鬼に殺された死体は強い呪いを受けています。このまま埋葬してしまえば、この村にはきっと災いが降りかかるでしょう」
「そんな!」
ゆっくりとラハンは首を振った。
「ご安心ください。そこで私たちに任せてほしいのです......具体的には、彼らの心臓をくり貫いて術で封印するのです。そのために、心臓をいただけないでしょうか」
「心臓を!いやしかし、仕方がないことだ。分かった」
「ありがとうございます。いきますよ、ユカ」
幽鬼を倒したというのに、ラハンの調子は全く乱れていなかった。そんな彼を村人たちは不思議そうに見つめていた。
翌朝、ラハンとユカは村を去った。受け取った心臓は革にくるんでいる。二人が川を下る方向に歩いていくと、両岸に縄が渡してあるのが見えた。一艘の船がそれに引っ掛かっている。
「ああよかった。そのまま流されてしまうのではないかと思っていたのですが」
「ユカが丁寧に張りましたから!」
慣れた手つきで縄をほどき、船に乗り込むユカ。ラハンはそれに続いた。川の流れにのってゆっくりと船が進み出す。上機嫌なユカは体を揺らしながら口笛を吹いた。ひょうるるる。
「一向に上手くなりませんね、ユカ。口笛はもっと口をすぼめてやると良いそうですよ」
「えー!でもこの方が幽鬼っぽくありませんか?」
なるほど、一理ある。ラハンは顎を撫でた。空気の混じったような音だから、宵闇から聴こえてくると不気味な感じがしてよい。
「そういえば、釣竿が折れてしまいましたね。仮面を吊るして首が飛んだように見せることができなくなってしまいます」
「うーん。しょーじき手が込みすぎだと思いますけどね。炎だけでじゅーぶんですよ」
幾らか川を下った辺りで、ラハンは貰った心臓を取り出した。そしてそれに思い切りかぶりついた。ぐちゃぐちゃと嫌な音がする。
「うえぇ。それ気持ち悪いですよ」
何度も見ている光景なのに、ユカは馴れる気がしなかった。飛び跳ねた血で服が汚れないように、船の端へと身を寄せた。
ラハンはそんな反応に、別に嫌な気がしなかった。心が失われているからだ。仙人になろうと修行を積み、その過程で失敗した。それ以来ラハンは呪いを受け、感情が無くなった。ユカもそれに巻き込まれて、感情を失うと同時に身体の成長を止めている。
感情を取り戻すには、魂に生気を送ってやらなければならない。一番効率的なのは、殺された人間の心臓を食べることだった。呪いを受けてからずっと求め続けている。五六人分あった心臓をぺろりと平らげ、ラハンは息を吐いた。満腹だ。
「ユカ。私の呪いが解けたら必ず、あなたの呪いも解きます。必ず、解きます」
「いいですよ、せんせえ。ずっとこうして一緒に旅ができるなら、それも悪くありません」
最初は、ただ術の研究対象としてユカを連れているだけだった。だが今は、負い目を感じている。自分に降りかかるはずだった呪いに巻き込んでしまった。それがラハンをユカのそばに縛り付けていた。
だが。だがもし感情を完全に取り戻したらどうなるだろうか。
何人もの人間を殺め、その心臓を食らった。この罪の重さに、果たして取り戻した感情が耐えられるだろうか。ラハンは恐れている。ただユカへの贖罪だけが、自分を正気へと引きとどめてくれはしないかと考えながら。
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心の臓にある"好み"という部分をドリルで抉られた気持ちです。どうしよう、もう全部が好きだ。中華風ダークファンタジーと言えば良いのでしょうか。前作、前々作とは少々毛色の異なった、しかしHugoさん独特の不気味さを決して忘れない素晴らしい作品でした。おぞましい行動の裏に、懺悔と贖罪という悲しく、そして人間らしい感情が見え隠れしているのが素敵です。もう、私の趣味ド直球です。是非とも長編としてシリーズ化して頂きたい!!
あの老人と出会ってから、僕の中で何かが変わった。
彼の話に出てきたカコという女性は未来とは全く別の人物であったけれど、どこか同じ存在なのではないかとさえ思えた。
それ以来、なんだか彼女が近くにいるような感覚を覚えつつあった。
身の回りの、“水”の中に。
体の中を巡る水や、空から降り注ぐ雨粒、雲や川、そしてその行きつく先である海に思いを巡らせるようになった。
小遣いを貯めて雪国へ行き、空から舞う純白の君を眺めた事もあった。⑧
輪廻転生なんて怪しげな話を少し信じてみたいと思った。
もしも、来世で再び君と出会えるかもしれないというのなら。
しかし、それは僕の中に小さな虚無感を生み出した。
もとよりこの世で彼女と逢うことはは叶わないが、来世でなら。
僕の心にはいつの間にか暗い、暗い光が射していた。⑥
「いっそ、死んでしまおうか。」
医者になろうと思っていたけれどもそれは彼女を救えなかった僕の自己満足にすぎない。
もしも再び彼女と逢うことが叶うならこの生を終わらせるのも悪くはないのかもしれない。
自分勝手だと彼女は怒るだろうが、それでもかまわない。
元々僕はそんな立派な人間じゃあないんだから。
そう何度も言い訳をして死のうとするものの、怖くなり結局途中でやめてしまう。
そんな自分に嫌気がさしながら、僕は医者になるための勉強をしていた。
ふと、あの日のタイムカプセルに入っていた仮面を取り出す。①
彼女の形見となってしまったその仮面は、僕が医者を目指す理由を思い出させてくれる。
あの日の涙を、くやしさを、思い出させてくれる。
くじけそうな時は、いつもこの仮面を見ては己を奮い立たせる。
この思いが、決して折れないように。
結局僕は、軽度の鬱になっていた。
あの日から水という存在が僕を癒してくれるものの、結局はただの水でしかない。
せめて声だけでも聞きたい。⑩
いつの間にか、叶わぬ願いを祈るようになっていた。
時には彼女が死なずに成長し、結婚する幻覚を見ることもあった。②
重症だと自分でも自覚し始めるころには再び命を絶とうと考えていた。
そして、最期を迎える場所はとある湖に決めた。
比較的大きな湖であり、そこから流れる川は海へと向かっている。
もしもここで死ねば自分も彼女の元へ行けるのではないか、そんな事を想わせる何かがこの湖にはあった。
ボートを借りて、湖へ漕ぎだす。
より、彼女に近い場所を目指して。
やっぱり、死ぬのは怖い。
でも、もうどうでもいい。
自分を奮い立たせるために、いつか彼女が歌ってくれた歌をおぼろげな記憶から紡ぎ出し口笛に乗せる。
~♪
情けない自分への、せめてもの鎮魂歌。
夜中に口笛を吹くと霊が現れるなんていう迷信もあったけれど、もしそれで彼女が来てくれるというのならば大歓迎だ。⑦
よし、逢いに行こう。
・・・ポシャリ
僕の身体は、水底へと沈んでいく・・・④
・・・はずだった。
『全く、何死のうとしているのよ。』
水の中に映る少女。
僕は、ずぶ濡れになってボートの上に横たわっていた。
『私に逢う為に自殺?勘弁して頂戴。⑤
私が病気でどれだけ苦しんで死んだと思っているの?息が詰まって、視界が霞んで。その末に死んだ私に逢う為に貴方は自ら命を絶とうっていうの?
私に対する嫌がらせだとしたら大成功ね。』
涙を流す少女の姿が水面に映る。
そう、10年前に死んだはずの桜未来であった。
「なん・・・で?」
呆然と、涙を流しながら怒る彼女へ僕は問いかける。
『本当はね、輪廻を巡らなくちゃいけないんだけど。君の事が心配で現世の水に間借りしていたの。
逢う事だって本来は許されていないんだけどね、貴方が吹いた口笛って私が昔貴方に聞かせてあげた奴でしょ?
あれは考古学者だったお父さんが聞かせてくれた遠い異国の地で降霊術に使われている曲なの。だから私もこうして貴方と会話ができるようになっているわけだけどね。
それに、元々私たちは・・・
そ、そんな事より、私に合いたいんだったら会ってあげるからもう自殺なんてしないこと。いいわね?』
そう言われ条件反射でうなずいてしまう。
彼女は満足そうにうなずくと、
『よろしい。それじゃあ、帰りましょう?』
と言い出した。
夢を見ているような気分のまま言われた通りに、ボートを漕ぐ。
彼女も水面を飛ぶようについてくる。
「ところで、桜も家まで来るの?」
『未来。』
「え?」
『昔は未来ちゃん未来ちゃんって名前で呼んでたでしょ。
未来って呼んで頂戴。』
「わ、わかったよ。
で、未来も家まで来るの?」
『当たり前でしょ?またバカな事をしないように見張っていてあげる。』
「で、でもバケツとか持ってきていないし・・・」
そう、彼女は水なのだ。
水を運ぶにはバケツが必要だと思っていたが、
『大丈夫よ、私はあくまでこの水に間借りしているようなもの。水がある場所だったらどこにでも行けるわ。』
そう言われ、自販機でペットボトルの水を買うとその中に彼女が現れた。
ラベルを剥がして彼女と話しながら帰った。
それ以来、僕の生活に時々彼女が現れるようになった。
ペットボトルの中の彼女と別れを告げた翌日、目を覚ますために水を汲んでいるとコップの中に彼女が現れた。
僕が驚いて水を止めるのを忘れたせいで、君がコップから溢れてしまった。⑨
水越しにした初めてのキス(?)は、そこそこ柔らかかった。③
彼女の居る生活、叶わぬ願いが叶ったけれども、僕は再び医者を目指すことにした。
今まではただの自己満足だったけれど、これからは・・・
-了-
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突然自分の趣味を暴露するんですけれども、私、主人公が苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いた末にひょいっと救いあげられる話が本当に好きなんです。まさにそれでした。もう色んな人に言ってますが、ハッピーエンドでよかったああ!!水っていうのがいいですよね。至る所に存在するから、妄そ……想像が広がります。水たまりとか、歯磨きとか、お風r……この辺で自重しておきましょう。素敵なスープありがとうございました!
暗闇の中、ある人が船を漕いでいた。
その人が口笛を吹いたことで、ずっと探し求めていたものが見つかった。
状況を説明してください。
~~~~~~~~
「やあ、来たね」
「早いな。待ち合わせまではまだあっただろ」
「いいから来なよ。ここはサンドが旨いんだ」
こんな都会でも落ち着ける喫茶店はあったのだな。別に立地が悪いわけではない。角地ではないが目立たないこともなかった。先に来ていたニガミの様子から、味に問題があるわけでもないだろう。接客か。 そう思いながらテーブルにつきメニュー表を見ると、疑問は解消された。
「高いな」
「値段相応のコーヒーは出るよ。豆も名産のものばかりだ」
「どうせ味なんて分からないだろ」
「どうだか。こういうのはね、雰囲気なんだよ。一種の迷信みたいなものさ」⑦
そう言ってニガミはソファに体を沈めた。④なるほど。店全体の雰囲気が味覚に影響するのかも知れない。意識していなかったが、視線が通らないように磨りガラスのついたてが幾つか立てられている。それと、少し暗めにしてある店内や、寒すぎない空調。そこそこ柔らかいソファに、落ち着いた色の床。③聴こえるか聴こえないかくらいにかかっているジャズも気分を落ち着かせる。
だがそれを言ったら、俺らが雰囲気をぶち壊してないか。入ったときちらりとみた他の客は全員、なにやら高級そうな服を着ていたりした。それに比べてこちらはただの高校生。制服ならまだ見映えはしただろうが、土曜日だったので私服だ。
ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください。と店員がお冷を置いていった。ニガミが一口飲んだのを見て、俺もグラスに手を伸ばした。
「落ち着かない」
「まあそんなこと言わないでさ。ところで注文は決めたかい」
「今見てる。が......」
どれも高い。ドリンクだけでも最低千円はいくのか。困ったな、今日は持ち合わせが少ないんだ。ポケットの財布をまさぐる俺を見かねて、ニガミがにやりと笑いかけてきた。
「じゃあさ、今日は僕の奢りでいいよ」
「なんだと」
驚きはしたが、言葉に甘えてアイスコーヒーとトーストを注文した。トーストにはゆで卵がついてくる。ニガミはフロートとパンケーキだった。サンドイッチじゃないのか。
「結婚祝いだと思ってくれよ。ほんとはベッドをプレゼントしたかったんだけどね」②
「それは『フィガロの結婚』だろ。資料集で見たことがある。実際に聴いてみたいな、せめてCDでもあれば」⑩
結婚祝い......ついこのまえ親戚が結婚したみたいだが、そんな話ニガミにしただろうか。というか、なぜこんなタイミングに。ニガミの方を見てみると、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「誰の結婚だ。まさか、この世界のどこかで誰かがなんて下らないこと言わないよな」
「じきに分かるんじゃないかな。この店に来るはずだよ」
「お前は超能力者か魔法使いなのか?そんなこと分かるわけないだろうが」
「残念ながら僕はいたって普通の高校生だよ。SFも魔法もありゃしないさ」
コーヒーとトーストが運ばれてきたので話は中断となった。パンケーキは時間がもう少し時間がかかるそうだ。ニガミの恨めしそうな表情を横目に、俺はゆで卵の殻を剥いてかぶりついた。中から黄身が溢れてくる。⑨
入り口の方ででからんからんと鈴のなる音がした。新しい客が来たのだろう。興味本位で見てみると、格好つけたスーツの男がカウンター越しに店員と話していた。内容はよく分からないが、何か焦っているように見える。
「あの人だよ」
「どうしてあの人が結婚すると分かったんだ」
「指輪のケースを大事そうに持っているところを見たからだよ。僕が入ろうとしたとき、店の前に立っていたんだ」
ふむ。だから結婚祝いか。だがなぜそれで、もう一度ここに来ると分かるのだろうか。喫茶店に男が戻ってくる理由。男が途方に暮れた様子でカウンターから離れ、店を出ていった。一瞬だけ開いた扉から陽光が射して、眩しかった。⑥
「どうかしたかい」
「結婚祝いにベッドは酷いな、と思っていた」
「まあね、皮肉だよ」
皮肉、ね。今しがた店を出た男は、何か困った様子だった。トラブルに巻き込まれたのか、個人的な悩みなのかは分からない。だが、ニガミが男の登場を予想できたということから分かることがある。
「彼は困っていた。けれども、喫茶店にくればなんとかなると思っていた。つまり、解決策を見つけたんだな?」
「まあ、そうだね。結局彼は解決できなかったみたいだけど」
ニガミの話によれば、男は一度喫茶店に来ているはずだ。彼は喫茶店に戻ってきた。こういう場合、男の抱えていたトラブルはだいたいこんなものだろう。
「お前はこう考えたんだな、男は指輪をなくしたから喫茶店にあるかもと確認しに戻ってきた」
「当たらずとも遠からず。指輪は店に出てから確認してたじゃないか。ここに落としたとは思わないはずだよ」
それもそうか。じゃあ何を忘れたんだ。傘......は必要ないよな。本日は晴天。
「上着を忘れた」
「あのねえ。真冬の雪国ならともかく、今は夏だよ。もっと普通に考えようよ。ヒントは、絵」⑧
「絵か?」
「うん。日本人なら誰もが一度は見たことがあるだろうね」
思わせぶりだな。いや、だいたい察しはついているが、だとしたら今日のニガミの態度はなんだろうか。なぜ戻ってきた男にこだわるんだろうか。
ほどなくパンケーキも運ばれてきた。ニガミは驚くべきスピードで平らげて、じゃあ帰ろうかということになった。
「あれ、こっちじゃなかったか」
「どうしたんだい、まさか前と後ろが分かんなくなったのかい?」
「ああ。迷いそうになった。まあ喫茶店に前も後ろもないと思うけどな」
「会計なら僕が済ませておくから、先に外に出ておいて」
カウンターに向かっていったニガミを見て、俺は確信した。本当に勘弁してほしい。⑤これは今度、今日以上の額をおごらされるな。
店から出ると、光に目が眩んだ。店内が暗かっただけになれるまでは時間がかかるだろう。いつの間にか、ニガミが横に立っていた。
「こんなんじゃ、正面に人が立っていても姿ははっきりしないよな?」
「そうだろうね」
「指輪に夢中だったならなおさらだろうな」
ニガミの表情は見えない。だが、仮面のような笑顔をはっつけているに違いない。①店を出る直前、ニガミは財布から一万円札を取り出して支払いをしていた。俺の記憶ではこいつはあんな革の財布は持っていない。
「ここ、狙うには持ってこいの場所だろ」
「負けたよ、今日の勝負はお前の勝ちだ。着いたときにはもう盗んでいたとはな」
喫茶店からなりのいい男が出てきて、目が眩む。指輪が無事かどうか確認する。隙だらけだ。きっとニガミはここぞとばかりに尻ポケットの財布を盗っていったんだろう。男は失くした財布にあとから気づき、喫茶店に戻ってきた。とんだ結婚祝いだ。
別に金に困ってない。特別な事情もない。ただ気が向いたときにフラッと、スリで競争する。面白いからな。まあ騙されるのが悪いのだ、盗まれるのが無用心ってものだ。地獄の沙汰も金次第、死ぬまでにもう少し稼ぐことにしようか。
~~~~~~~~
非現実要素はありますか?-NO
解決策を見つけましたか?-YES
絵ですか?-YES
前と後ろが分からないのですか?-YES
その人の姿は鮮明に見えましたか?-NO
~~~~~~~~
暗闇で船を漕いでいる男。
これは絵本のためにとある作家が描いたものだ。しかし男の全身と船を暗い色で塗りつぶしてしまったため、どっちを向いているのか分からない。どうしようかと頭を捻った。
作家は悩んだあげく、男が口笛を吹いていることにした。男の前方に明るい色の音符を描き足す。
すると、男の向いている方向が一目瞭然。作家は探し求めた解決策を見出だすことができた。
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どうも、初めてHugoさんの作品を拝見した時からHugo沼の住民(自称)の、ひややっこです。自分主催の創りだすでHugoさんが二作品目も上げてくれた時のひややっこの心情を、四文字で述べよ。『狂喜乱舞』。ありがとうございます!!もう、ニガミという名前が出てきた時点で、嗚呼、Hugo作品だっ!ってなりました。すみません、ついつい熱くなっちゃうのが僕の悪い癖。口調といい、キャラの描写といい、すごく好きです。これからも応援してます!
昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ選択に行きました。
そう。それはまさに選択。
数日前。おばあさんは川へ洗濯に行っていました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、「おぎゃー、おぎゃー。」と、赤ん坊の泣く声が聞こえて来ました。
おばあさんが気になってそこに向かうと、そこには二人の赤ん坊がいました。
一人は赤目で少し長い耳、もう一人はたれ目で丸っこい耳をしていました。 おばあさんは「おうおう、かわいそうになぁ」と、二人を抱きかかえようとしました。
おじいさんとおばあさんが結婚した頃は、家計が厳しく、子供を作る余裕もなかったため、二人の間には子供がいませんでした。
それもあってか、捨てられたであろう二人を見ておばあさんはたいそう可哀想に感じたのでしょう。
しかし二人を連れて帰ることはあたいませんでした。
おばあさんが赤子に近づいたとき、その横から、一匹の蛇が現れ、言葉を発しました。
「そこな老婆よ。この赤子は先日この川に流された可哀想なこじゃ。人間は身勝手だ。
自らの都合で川を侵し、 風雨で街が侵されれば自らの行いを顧みることもなく、自らの赤子をささげた。
罪の意識を感じるのであれば、自らが罰を負えばよいのだ。 それなのに”まだ”何の罪も犯していない赤子をささげた。
だから私は罰を与える。真に何の罪も犯していない老婆。そなたにこの赤子を育てさせよう。 ただし育てられるのは一人だけ。
もう一方は私自ら育てよう。めいっぱいの恨みをこめて。人への恨みのこもった兵士を作り上げよう。 さあ、選び給え。
そなたがこの赤子の運命を決めるのだ。選ぶ時間はくれてやる。3日後にきたまえ」
そう言って蛇と赤子は影も形もなく夕焼けに紛れて消えてしまいました。
おばあさんは洗濯物もほっぽって家に帰って頭を抱えました。
これをお爺さんに話していらない心配をかけても意味がないと、お爺さんに黙っていることにしました。
そうして数日の間おばあさんは悩みました。どちらを救うべきか、どちらを神様に任せるべきかと。
そうして数日後。選択の時。 おばあさんは決めました。怨嗟の元に育つのなら、それに耐えられ得るものを任せようと。
神様とやはり考えは変わらず、罪なき子を苛むことはやはり嫌なのだ。
そうしておばあさんは赤い目で長い耳の赤ん坊を自分で育て、たれ目で丸っこい耳をした方を神様に任せることにしました。
神様は「それも一つの選択よ」と言って、たれ目の赤子ととともに消えていきました。
おばあさんは家に帰るとお爺さんに、事情を説明し、その子供を育てることにしました。
その子供は宇佐となづけられ、すくすくと育っていき、5歳になりそうな頃でした。
ある日、その子供が近所の子供と少し遠くに遊びに行っていた時のことです。
宇佐と、そのほかの子供たちが返ってくると、街は静寂に包まれていました。
普段であればこの時間帯は活気のあふれる街なのですが、不気味なほどの沈黙が街を覆っています。
宇佐はそのことに気づくこともなく、家に帰って玄関を開けました。
「ただいまー」そう元気よく家に入ると帰ってきたのはいつもと異なる静寂でした。
「、、、おばあちゃん?」(いないのかな?)そう思いながら部屋をたどる宇佐。
5歳の少女には恐怖心を感じられるほどの静寂に、宇佐は泣きだしそうになりながらもおばあさんを探す宇佐。
しかしその耳に聞こえてきたのは最愛の祖母のうめき声
その声の聞こえる方に走ると、 そこには頭から血を流した祖母がぐったりと倒れていました。
「おばあちゃん?どうしたん?」 「おお、宇佐か、声を聴かせておくれ、、、」
「おばあちゃん?」 宇佐が祖母に声をかけると祖母は最期の力を振り絞り、宇佐を戸棚の中に押し込めました。
「え?おばあちゃん??どうしたの?」と、宇佐が動揺しながらそう聞くと、祖母は続けます。
「この村は盗賊に襲われているんだよ。仮面をしていたから正体は定かじゃあない。おじいさんはもう亡くなった。殺されたんだ」
宇佐は絶句する 「このまま静かに聞いとくれ。助けは呼んだが、この雪だ。このままじゃあ間に合わない。」
「私はもう生い先が短い。せめて宇佐、あんただけでも生きてほしい」「でも、、、」
「盗賊がもう戻ってきた、絶対に出てくるんじゃあないよ。何があってもしゃべっちゃあだめ。」
その言葉を最後に多くの人の足音と、歌声が聞こえてきた。
その歌声は酷く暴虐的で、残虐で。それでいて整っていた。
それに続けてなり響いたのは殴打の音。斬撃の音。祖母の呻く声。
繰り返し、繰り返し殴る音 その音は宇佐の脳裏に歌声とともに刷り込まれる。
(もうやめてほしい)
(勘弁して)
(やめて)
もうとっくにその音は消えていた。
それでもその音は宇佐の頭に染み付き、蝕む。
おばあちゃんの苦悶の声が脳裏にあふれかえる。
その時間がどれほど続いたか。
目の前に光が差し、やっと、正気を取り戻した宇佐の目の前には優し気なたれ目の青年がいた。
「大丈夫かい?生き残ったのは君だけみたいだ。済まない、、、助けられんかった」
「_____________」
「まだ落ち着くのは厳しいよね。大丈夫、君は安全だ。ゆっくり立ち直っていけばいい」
そうやって宇佐に話しかける彼は”こく”と名乗った。
宇佐は正気を取り戻したとはいえ、落ち込み切っており、それを彼は丁寧に介錯していった。
こくの介錯のかいあって元気を取り戻したころ、宇佐はこくに湖に行かないかと誘われた。
真夜中になぜ?と思ったものの、疑うことなくついていった。
真夜中であったが、月明かりが湖面に反射し、幻想的な風景を醸し出していた。
「きれいだねえ、こく」返答はない
「こく?」静寂が響き。トラウマがよみがえる
「どうしたの?こく?」そう聞いた時、口笛の音が聞こえてくる。
「え?」最初はそれを理解できなかった。
「____」脳みそが理解を拒んでいた
「____」信じたくはなかった。こくがあの歌のフレーズの口笛を吹いていることを。
「どうして?」そう聞こうとしたとき、突然体が闇夜に沈む。船が崩れ水に投げ出される。
「______」宇佐の最後の叫びは水音と口笛にかき消されて消えていった。
「ごめんね」そう言ったこくの声はもう彼女に聞こえることはない。
あの時彼女が乗っていたのは泥の船。水に触れると次第に柔らかくなる泥の船。
こくと名乗った青年は誤った後に改めて歌い始める。
♪~カチカチなるのは何の音?
fin
[編集済]
昔話って、結構ダークなお話が多くありますけど、その中でもいっとうダークな作品を投稿して頂きました。自分勝手な人間の罪を代表せざるを得なくされた、善人の老婆。そして、何も知らずに絶望に次ぐ絶望へと突き落とされる少女。ラストシーン、こくの感情がどうであるか分からないのがとてもいいと思います。任務を遂行する時、躊躇いはあったのか、なかったのか。謝罪は、どんな気持ちでしたのか。何が言いたいかって言うと、こういうどこか不気味で考察し放題な昔話、とても好きです!!
ぬいぐるみに、卵に、髪の毛1本。
蜂蜜と、思い出を少し。
私の半分をあなたにあげる。
だから、私と・・・・・・・・・・・・
________________
『生まれて』はじめて見たのは、驚きを浮かべてこちらを見る幼い少女の顔だった。
「本当だったんだ・・・」少女はボクの方を見ながら、歓喜と戸惑いが入り混じった表情で呟いた。
そしてそのまま、ボクは少女に抱きしめられた。
柔らかい感触、そして、少女の温かさが染み渡っていく。少女は言った。
「私はフォリア!ねえ、私と友達になってよ!」
ボクは生まれたばかりで、ここがどこかも、自分が誰かも分からないまま、少女の感触、匂いを直に感じて・・・ただひたすら困惑していた。
でも、彼女の笑みを見ていたら、不思議となんだか胸があったかくなって。
ボクは、この温かさをずっと感じていたい、この少女の笑みをずっと見ていたいって思った。
「うん。友達になろう。」
________________
7日が経った。
長い髪に、少女の幼い身体。ボクの見た目はどういうわけかフォリアに瓜二つだ。だから、「私の名前を分けてあげる!」と、フォリアから「リア」という名前をもらった。
フォリアは13歳で、彼女の母と父は早くに流行病で亡くなり、彼女は母と仲の悪い叔母の家に引き取られたらしい。
そして、この天井裏を部屋として与えられたというけれど・・・至る所にクモの巣がかかって、ベッドも用意されていない。生活に必要なものが何一つ無くて・・・どう考えても厄介者として扱われている。
事実、フォリアの身体にはアザがいっぱいだった。
そんな環境の中、ある日、フォリアは天井裏で一冊の古びた本を見つけた。ホコリかぶっていて、いくつかのページは破れており、それでも辛うじて読める部分に、【友達をつくるおまじない】が、怪しげな手法で書かれていたのだという。
そして、手順通りそれを行った結果、ボクが生まれたということらしい。
シー、と指を1本口の前に持ってきて、フォリアが微笑む。
「やっぱり、今まで通りリアのことは叔母様には内緒ね。バレたら追い出されちゃうわ。」
「分かってる、けど・・・ 天井裏に叔母が来たらバレちゃうんじゃ、」
「叔母様は不潔な所は好きじゃないから。こんな場所に来るはずもないわ。」
当たり前のように言ってのけるものだから、ちょっと驚いた。
「フォリアは、それでいいの?」
「大丈夫よ。だって今は、リアがいるもの!」
そして、フォリアに抱きしめられる。あの時と同じで温かかったけれど、少し力が強かった。
あぁ、きっと怖いんだな。
ボクは頭を撫でて言う。
「フォリアはよく頑張ってる。ね。頑張ってるから。ボクが知ってる。ボクが見てる。だから、ボクの前では無理しなくていい。」
「うぅ、リア、りあぁ・・・」
涙を堪えきれずにフォリアが泣きじゃくる。
まだ13歳の少女だ。過酷な環境の中で、どうしようもなく感情が溢れてしまうことだって、ある。泣きたくなっても、ずっと1人で。迷信みたいなおまじないに縋ってしまうほどに、フォリアの心は限界だったのだろう。
でも今は、ボクがいる。フォリアからもらった命で、ボクがフォリアを支えていかないと。ボクだけに、出来ることを・・・
「ねえフォリア、ボク達は瓜二つだ。1日くらい入れ替わっても、きっと叔母は気づかないよ。」
だから、と言おうとして、口を塞がれる。
「ダメ。」
「何でさ。だって、フォリアが、」
「ダメ。友達に苦しんで欲しくないの。」
「ボクだって友達のフォリアに苦しんで欲しくないんだって。ね、いいでしょ。」
「・・・・・・分かった。何か痛いことされたら言ってね。代わるから。」
「はーい。」
代わらないけれど。
そうすることで、フォリアの苦しみが減るならいいんだ。
________________
天井裏の小さな窓から光が射して、目が覚める。朝だ。
あぁ、そうだ。今日はボクがフォリアだ。
顔にはつける必要がないから、心に仮面をつける。フォリアだったらどうするか、どう振る舞うか。大丈夫。ボクなら分かる。
急いで下に降りて、朝ご飯の準備をする。目玉焼きの作り方は昨日フォリアに教えて貰った。 フライパンで目玉焼きを焼いて、トースターで焼けた食パンにバターを塗る。
これだけお金があるのなら、少しくらいフォリアの生活に回してくれてもいいのに。
出来上がって丁度、叔母が起きてきた。天井裏からは怒鳴り声しか聴こえなかったし、今まで姿を見たことが無かったけど・・・。きっと、嫌な人っていうのはこんな顔をしているんだろうな。そう思った。
「おはようございます、叔母様。」お辞儀して、食パンと目玉焼きをテーブルの上に置く。
叔母はこちらを一瞥もせずに、椅子に座った。
自分の分の食パンは半分に切っておく。残り半分はまた上に行って、フォリアに渡せば・・・
「ちょっと、目玉焼きの黄身が溢れてるじゃない!」
「えっ____」
叔母が叫ぶ。そんなはずは無い。ボクはちゃんと目玉焼きが形を保ってるのを見てテーブルの上に置いた。
「失礼ですが叔母様、ぼ・・・私は」
「うるさい、口答えするな!」
頬を叩かれ、勢いのまま床に倒れてしまう。そこを叔母に踏まれ、背中をフォークで刺され続ける。フォークの先には、卵の黄身がついていた。
「どれだけ私を苛立たせれば気が済む!姉に似たその顔で私を苦しめるな!お前なんて引き取るんじゃなかった!お前さえいなければ、お前さえいなければッ!!」
フォリアを苦しめてるのはお前だろうが。
お前さえいなければなんて、こっちが言いたいよ。
そう言いたい。抵抗したいけれど、少女の身体で何も出来やしないし、もしも抵抗してしまったら、フォリアが酷い目にあうかもしれないから、何もせず、ただ踏まれ続ける。
ひたすら悲しかった。フォリアがこんな奴に、こんな理不尽な理由で暴力を受けてきたなんて。
結局、今日の家事が終わるまで、何度も同じことが続いた。
__
「ただいま。」
「あ、リア、おかえり・・・って、その怪我!」
天井裏に戻ると、ボクの怪我を見たフォリアに驚かれた。
「大したことないよ。これでフォリアの傷を減らせたんだから。」
「だからって・・・」
「明日も、ボクがやるよ。フォリアはしばらく休んでて。」
正直に言うと、大したことがないなんてことは無く、すごく痛い。
でもそれは言わない。フォリアを心配させたくないから。
フォリアの苦しみを全部取っ払うのが、きっと自分の役割だから。
それから、ボクは何日もフォリアと代わって、フォリアの負担を減らし続けた。
そして、ボクが十何回目の入れ替わりを終えて、天井裏に戻ってきた時。フォリアが悲痛な表情をして言った。
「やっぱり、明日は私がやる。リアは残ってて。」
「え・・・。ダメだよ。それじゃフォリアが・・・」
「見てて辛いよ。私は身代わりになって欲しくてリアを作ったんじゃないのに・・・・・・」
フォリアが遂に泣き出す。宥めようとフォリアの頭を撫でようとして、自分の傷だらけの腕が目に入って、何も言えなくなった。
しばらくして、フォリアが泣き止んで、言う。
「ねえリア、半分こ、しよ?」
「半分こ?」
「うん。全部。リアに私が名前を半分あげたみたいに、ご飯も、痛みも、悲しみも。全部半分こしよう。
1人だけ全部貰うなんて、ダメだよ。」
「フォリア・・・・・・。」
半分こ。はんぶんこ。言葉がしっくり入ってきた。
苦しみを全部貰っても、きっとそれでフォリアは苦しむし、何より、『友達』ってそういうものじゃない。分け合うのがきっといいんだ。ボク達は、半分ずつで生きるのがちょうどいいんだ。
消すことばっかり考えてて、そんな簡単なことに気づけなかった。
「ごめん、そんなことに気づかなくて。
じゃあその代わり、ボクがフォリアに『幸せ』を半分分けてあげる。」
リアの目が見開かれて、こっちを向く。
「ずっと一緒にいて、フォリアを守ってあげる。分け合って、与えて。そうしよう?」
フォリアに手を差し出す。フォリアは最初に見せたような笑顔に戻って、元気よく答えた。
「・・・うん!!」
______
「じゃあ、明日と明後日は私で、しあさってはリアの番ね。」
「分かった、そうしよう!じゃあ、そろそろ寝よっか。」
「うん!」ランプを消して、2人で床に横になる。
「夜は寒いね。あと1ヶ月くらいすると、もっと寒くなるの。」
「そうなんだ。」
「でも、リアがいると、あったかい。全然寒くない。」
「良かった。」
「あったかいね。リアの身体は、あったかい。」
「フォリアもあったかいよ。」
「ふふっ、ありがと。
ねえリア、知ってる?東の方の国にはね、『季節』っていうのがあるんだって。」
「季節?」
「寒い時と暑い時があるの。あったかい時には、ピンク色の、大きくて綺麗な花が咲くんだって。」
「それは・・・きっと綺麗だろうね。見てみたい。」
「いつか、行こうね。私とリアで、船に乗って、世界を見て回るの。」
「素敵だな。行こうね。」
「そうしてね、旅の途中に、かっこいい男の人と出会って、結ばれたいな。」
「えっ。結婚、する、の・・・?」
「もちろん!リアもいつかはするでしょう?もしかしたら、私より先にお嫁さんになるかも?」
「ええ、ボクには考えられないよ・・・」
「リアも恋をしたら変わるわ。恋って素敵な響き。私もしてみたいな、恋!
私、リアが結婚したら、たくさん祝福するわね!」
「勘弁して欲しいな・・・。」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「リア、眠れないの?」
「あ、フォリア・・・。」
眠れなくて、窓の外に浮かぶ月を眺めてたら、フォリアを起こしてしまったようだ。
「さっきまで話してたから、目が冴えちゃって。
ごめんね、ボクが起きちゃったから、寒かったでしょ。すぐ寝るよ。」
そう言って、また横になる。
フォリアがボクの頭を撫でて、言う。
「眠れないなら、子守唄歌ってあげる。お母様がよく歌ってくれたの。」
「うん・・・。ありがとう。」
ボクの頭を撫でながらフォリアが歌う。
優しくて、包まれるような歌声で・・・。
ボクの意識はすぐに夢の中へと堕ちていった。
「おやすみなさい、リア。」
________________
「ねえリア聞いて。叔母様が、旅行に連れて行ってくれるんだって!」
「ええ、あの叔母が?」
流石に耳を疑った。フォリアに対して怒鳴ったり暴力を振るうばかりの叔母が、旅行にフォリアを連れていく?どういう心変わりなのだろう。
「そうなの。それでね、明後日の朝から船に乗って、叔母様の別荘に行くの。南の方だから、今の時期でもあったかいんだって!」
「へぇー。いいね。ここら辺は寒いからきっといいバカンスになるよ。期間は?」
「だいたい1ヶ月くらいって聞いたわ。」
この国がある半島一帯はどこも雪国だから、あったかい国に行くとなると海をこえないといけないし、そこそこの長旅になる。1ヶ月か・・・そうか、1ヶ月・・・。あれ。
「それって・・・ボク、ついていけないよね?」
「あっ!」
「1ヶ月間、ボク一人で留守番?」
「えっと・・・。
あ!そうだ!リア、木箱の中に入れる?」
そう言って、フォリアはおそるおそるボクの後ろにある小さな木箱を指さす。
「・・・。」
結局、ボクの留守番が決まって、ボクは自分の身体の硬さを呪うことになった。
________________
フォリアが南へと出発してから少しして、ボクも港の方に向かった。
別に、こっそりフォリアについて行こうとかそういう事ではない。
それよりも、ボクには重要な問題があるのだ。それも、生死を左右するほどに。
「お願いします!1ヶ月でいいので、ボクをここで働かせてください!」
・・・そう、1ヶ月生きる為の金が必要なのだ。
___
『働くのなら、船大工のジョイスさんの所はどうかしら?あの人、訳アリの人を自分のところで雇ったりしてるらしいの。物好きだって噂で、リアも気に入ってもらえるかもしれないわ。』
フォリアの言葉通り、ジョイスさんの前で思いっ切り頭を下げている。恥なんてない。この1ヶ月、生き抜くためだ。
「それで、お嬢ちゃん。うちで働きたいってことだが・・・」
長身で髭の生えた男__ジョイスさんが頭を掻きながら困ったように言う。「なんでうちに?このご時世だ。お嬢ちゃんみたいな若い女に与えてやれる仕事もほとんどないぞ。」
「それは・・・少々、事情がありまして。友達から、ジョイスさんの所なら、訳アリの人でも雇ってもらえると聞いたので。」
「事情ねぇ。
まぁ、この歳で雇ってくれ、なんてここに来るくらいだ。訳アリなのは間違いねえだろうな。でも、うちも別に慈善事業でやってる訳じゃねーんだな。」
「そう、ですか・・・。」
「俺が面白いことが好きな性分でね。変な奴を見かけたら、一緒に仕事しないかって誘ってるだけだよ。俺が面白いもんが見れる分、等価交換ってね。
悪いけど、仕事は遊びでやってねーんだよ。帰りな。」
「で、でも!」
「それとも何か?俺がお嬢ちゃんのことを面白いって思うくらいのもんを持ってるってのかい?」
ジョイスさんがニヤついて言う。その目は、ボクに『事情を話せ』と言っているようだった。
でも、この人はなんだか、最初からそれを聞きたかっただけなような・・・
「分かりました。話しますよ。」
「おぉ、教えてくれや。」
子どもみたいにワクワクした表情で、ジョイスさんが言ったものだから、ボクは全てを悟った。
この人、変人だ。
___________
「ハハハ!!思った通りだ。コイツ、やっぱおもしれぇ!!」
ボクとフォリアのことや、叔母のことなど、事情を粗方話し終えた後、ジョイスさんは大爆笑していた。
この変態、はじめからボクのことは雇う気だったらしく、冷たい態度を取ったのも、ボクの事情を包み隠さず聞くためだったらしい。
「魔術で生み出されたねぇ。俺にはそういった類の知識は無いから分かんねーけど、なんとなくお前の性格は分かったわ。
目の中に1個のすげー狭い世界しか写してない。自分のことが見えてるつもりで、見えてない・・・。
それが『刷り込み』ってやつなのか、単に世間を見てないのか・・・。ま、何にせよ面白えわ!」
「ボクが、自分が見えてないって・・・。会ったばかりでわかんないでしょうそんなの。
それより、ボクは雇って貰えるって事でいいんですよね?」
「あぁ。こっちははじめにお嬢ちゃんの目を見た時から雇う気だったしな。
等価交換つったろ?こっちが面白いモン見られる分、1ヶ月、アンタが最低限生活できるくらいには出してやるよ。」
「・・・!ありがとうございます!」
「その分、厳しくいくからな。明日の6時からな。」
「分かりました!失礼します。」
ジョイスさんの所を去って、軽くガッツポーズをする。
ひとまず、安心した。流石にフォリアが帰って来た時、ボクが飢え死になんてしてたら洒落にならないだろうから。
帰って、フォリアが置いていってくれたパンを食べて、横になる。
その日の夜は、やけに寒く感じた。
________________
フォリアが旅行に行ってから、ボクがジョイスさんのところに行ってから、3週間が経った。
ジョイスさんの所での仕事はボクの身体ではかなり厳しいもので、そのおかげで寒くても疲れで泥のように眠ることが出来た。でもそのおかげで1ヶ月の期間を生きることが出来ている。
そう、もうすぐ1ヶ月!あと1週間くらい頑張ったら、フォリアに会えるのだ!
あぁ、フォリア。今すぐにでも会いたい。声だけでもいいから今すぐ聞きたい。
そう言っている間にも家の玄関の前までやって来ていた。ドアを開ける。
明日の朝起きて目の前にフォリアがいますように。そうしたら、旅行先の話を聞いて、それで____
「えっ・・・。」
「あっ・・・。」
家のドアを開けたら、とても驚いた表情でこっちを見ている叔母がそこにはいた。
「お前・・・何故ここにいるの・・・?」
激しく動揺する。まさか、想像より1週間も早く帰ってくるなんて。じゃあフォリアは天井裏にいるはずで・・・。今ここで見つかるのは非常にまずい。何故ここにいるか、どうやって誤魔化せばいい。なんとかしないと・・・。
「なんで・・・なんでここにいるのよ!!!
貴方は!私が船から落として!!死んだはずでしょう!!?どうして!!」
・・・え。
「私に復讐に来たの!!?そうなのね!?
私が暴力を振るった挙句、殺したから!!!!!」
こいつ は
今
なん て言った?
「でも私は悪くない!!!!悪くない!!あんたの母が悪いんだ!!!!あんたの・・・うぐッ!??」
感情に任せて叔母の顔面を殴る。少女の力だ。骨が折れたりはしなかったが、衝撃で気絶したようだ。
こいつが、フォリアを。
キッチンにあった包丁を手に取り、叔母の方に刃を向ける。
・・・・・・いや・・・。違う。
こんなことしても、フォリアは。
なら。
ボクは家を出て、港の方に走った。
___
「なんだぁ・・・こんな夜遅くに、どうしたんだよ、リア。」
「ボートを、貸して貰えませんか。」
「ボートって・・・あぁ。こりゃあ、ダメだな。何言っても聞かねえ目をしてやがる。お前、今ここで俺が断っても俺のボート使うだろ。」
「それは、そうですね。」
「ハァ・・・分かったよ、分かった。勝手に使え。俺は知らんぞ。」
「ありがとうございます。本当に。」
「あぁそうだ、
って、行っちまった・・・
・・・ありゃあ、もう手遅れかもな。」
___
暗闇の中、必死にボートを漕いでいた。
フォリア、夜の海は暗いんだね。
君はこの底にいるのかい。この暗闇の底に、いるのかい。
ダメだよ。
ダメだよ。フォリア。
ボクはまだフォリアに半分も幸せをあげられてない。
フォリアにもっと幸せになって欲しかったのに。もっと一緒にいてあげたかったのに。
一緒に2人で世界中を見て回るって、約束したのに。
フォリアが結婚しても、フォリアが幸せになるならいいって思えたのに。
ねえ、どこにいるの。暗くて、涙で、上手く前が見えないんだ。
どこにいるの。
どこに。
ねえ。
・・・・・・・・みつけた。そこにいたんだね。
何時間か船を漕ぎながら探し求して、ふと海の水面を見ると、そこには悲しげな顔で笑うフォリアがいたんだ。
はは、フォリアが、涙を流して、ボクの方を見てる。ひどい顔だ。
1人で寂しかったでしょ。待ってて、ボクが、今行くよ。
ぽちゃん。
沈んでいく。深く、深くに。光の届かない、海の底に。
息ができず、浮かび上がろうともしない。
もう、いいんだ。フォリアに貰って、2人で生きると決めた人生だ。
フォリアがいないなら、このまま・・・・・・
意識を手放す寸前、寒い海の中、どこかで感じたような温かさを、また感じたような気がした。
________________
目を覚ますと、そこはボートの上だった。
ボクは・・・確か、海の中に沈んだはずなのに。なのに、なんでここにいるんだ?
誰かが、助けてくれた?それだったら、その誰かはここに居ないとおかしいんじゃないか・・・?なら、いったいどうして。
その時、海の中で感じた温かさを思い出した。
あの、包まれるような、優しい温かさ___あぁ、そうだ。忘れるはずもない。
フォリアが、ボクを助けてくれたのだ。
ははは・・・。ダメだよ、フォリア。
1人で死んじゃったくせに、ボクを生かすなんてさ。
・・・いや、違う。ダメなのはボクだな。
フォリアがボクが死ぬなんて、望むはずがないじゃないか。
一緒にいないと、なんて。ボクが一緒にいたくて、現実を受け止められなくなって、ただ死にたかっただけだ。
水面に写ってたのがフォリアじゃなくてボクだって、きっと心のどこかで、ホントは分かってたさ。
フォリア。君は、ボクにフォリアの分も生きていて欲しいんだね。
フォリアにまで助けてもらって、ようやく気づけたよ。
海は広く、空には幾千の星が輝いていた。
星を見上げながら口笛を吹く。メロディは、あの日、フォリアが歌ってくれた、優しい子守唄。
どうやって生きればいいか、きっとボクは今まで分からなくて。だから、フォリアに頼りっきりだった。フォリアありきの世界では、フォリアのいない世界なんて、考えられなかった。
今ようやく見つけたよ。
世界はこんなに広いんだね。フォリア。
ありがとう。ボクを生んで、ボクを形作ってくれて。
ありがとう。何もわからないボクを支えてくれて。
ありがとう。最後の最後に、ボクを生かして、大切なことを教えてくれて。
でも大丈夫。ボクはもう見失わないよ。
だから、おやすみ。フォリア。
________________
「あァ!?何事も無く戻って来たと思ったら、今度はウチに住ませてほしいだァ?どういう神経してんだお前。」
「ははは・・・すいません。でも、ジョイスさんくらいしか頼れる人がいなくて。」
「ハァ、そうかい。まぁ、いいぜ。うちも男一人だと寂しいし・・・何より、面白そうだからな。
ただし!同じ家の間柄になるわけだ。仕事は前よりも厳しく行くぞ。わかったな!」
「・・・!!!ありがとうございます!」
「にしても、リア、お前・・・。いい目をするようになったな。」
「・・・・・・はい!」
【完】
[編集済]
すみません、まず一言。あーー!エモいぃぃぃ!!冒頭の魔法の準備からエモかったです。そして、出てくるキャラの心の暖かいこと。(叔母さまは除きます)フォリアとリアの関係性に、次に起こることを何となく予想しながらも、このまま幸せになってくれと願わずにはいられませんでした。屋根裏部屋の秘密のお友達って、最高ですよね。語彙力が足りない。ハッピーエンドとは言い難いですが、それでもリアが前に進むようになるのが、涼花さんの作品の素晴らしさだな、と思いました。
とある公園に伝わる迷信の一つに、このようなものがある。(⑦)
「新月の夜、ボートを漕ぎながら口笛を吹くと探しもの、あるいは求めているものが見つかる。」
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雪国に積もった雪の一部がスリップ事故によって僕の妻の血に染まった。(⑧)
側から見れば仮面夫婦と呼ばれるかもしれなかったが少なくとも僕は心の底では彼女のことを愛していた。(①②)
その日から僕は、何の意味もなく生きていた。
無駄に呼吸し、無駄にご飯を食べ、無駄に眠り、無駄に、無駄に、無駄に。
いつだっただろうか、その迷信を聞いたのは。
ネットサーフィンをしていた時だったか、それとも誰かが話していたのが耳に入ってきたか。
「新月の夜、ボートを漕ぎながら口笛を吹くと探しもの、あるいは求めているものが見つかる。」
それはただの好奇心であり、何も意味がないと思っている自分でもなにかを手に入れることができるのか、という単純な興味だった。
夜の公園は静かだった。月も照らさないようなそんなくらい公園なのだから当たり前だろう
自販機でお茶を買い、ボートを借りる。
数分漕いでいるがボートの漕ぎ方ってこんな感じでいいのだろうか。
口笛を吹く。そこまでうまいわけでもなく、曲名は忘れたが妻の好きだった曲を吹く。自由を願うような歌だったかと思う。
その曲を起点に彼女との思い出が心を満たす。
せめて声だけでも聞きたい(⑩)
そう願い求めながら口笛を吹き続けていると彼女がボートの上に現れた。
なるほどどうやら迷信は本当のようだ。
「えっと、久しぶりだね」
全く、勘弁して欲しい。こんなにも完全に叶うと、もっと色々なものを望んでしまう。君が心に溢れてしまう(⑤⑨)
「本当に久しぶりだよ。それにしてもあの迷信は本当だったんだ。」
「迷信……ああ、口笛のやつね。にしても元気にしてたみたいだね。無気力だけど」
「そっちも変わってみたいだな」
「変わらないよ。もうこっちにはいないんだし。まあそんなことは置いといて行こうか。
」
「行くって?」
「ほら、迷信にあったじゃん口笛を吹くと最も身近な死者に連れて行ってもらえるって。」
彼女が僕の腕を掴む。その手はそこそこ柔らかかった。(③)抵抗する気も起きない。
「もう、戻ってこれないけどいいよね?」
ボートがなぜか沈み始める。違和感もなくそれが当たり前であるかのように。(⑨)
「それじゃあ、いこうか」
意識が薄れていく。ただ心に光が射したような気分だ。(⑥)
もうこれでいいのだろう。
そうか、ずっと探し求めていた「自分の生きる意味とは?」という質問に対しての答えは……
【了】
[編集済]
主人公の独白、特に、「無駄」が心にグサリと刺さってきました。結局主人公は最愛の人との再会が叶う訳ですが、ハッピーエンドかと言われると……メリーバッドエンドですかね。ラストの言葉が題名に帰ってくるという仕掛けがとてもエモかったです。ありがとうございました!
私はレスキュー隊員だった。
体力や技術は群を抜いていたけれど、臆病なところがあり現場では満足に活躍もできず助けられなかった人の事を考え鬱になる事もあった。
“あの日”までは。
いつも通りの時刻に始まる訓練、点検、etc…。しかし、その日の午後に私は呼び出された。
「君には悪いが、一つ頼まれてくれないかな?」
そう言う上司の目には有無を言わさぬ光が射していた。⑥
「拒否権は?」
「君に使うだけの勇気があるならば。」
答えはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
「・・・喜んでお受けいたします。」
その言葉に満足そうにうなずく上司。
「で、その内容なんだが・・・」
その内容を要約すると、上司の結婚相手の親戚であるお嬢様が雪国から日本へ来ているらしい。けれども、暑さで倒れそうになった為急遽避暑地として泊まるのに今は使われていない山中の湖畔にある宿泊施設を使いたがっているからその責任者として私が同伴して彼女の御守をしろとの事だった。②⑧
翌日、問題のお嬢様が到着した。
「今日からしばらくお世話になります、Екатерина Смирновです。」
綺麗な日本語でわざわざ名乗る彼女。
「え?エカ・・・なんだって?」
「Екатерина Смирнов、呼ぶ際はカチューシャとお呼びください。」
「よ、よろしく。」
そこまで問題がある少女というわけでもなさそうだ。
なんとかなるだろう。そう、思っていた。
彼女は二人きりになった次の日から豹変した。
まるで、昨日は仮面を被っていたかのように。①
「あんたみたいな勇気も度胸の無さそうな奴と一緒に生活するなんて死んでもいやだけど、お父様の言いつけだからしたがってあげるわ。光栄に思いなさい。」
残り2日がとても長くなる事を悟り、私は胃が痛くなってきた。
勘弁してほしいものだ・・・⑤
翌朝、いつもより早く起きて朝の走り込みを終えると、もう目覚めたのか彼女が話しかけてきた。
「何か面白い事は無いの?」
「面白い事と言われても・・・この通り山の中ですから。
強いて言うなら、訓練用にボートがあるくらいでしょうか。」
「ボート!ボートがあるのね!」
途端に目を輝かせる彼女。
嫌とも言えずにボートを用意することになった。
ボートを浮かべ、救命胴衣をつけた事を確認して漕ぎだす。
彼女はボートがお気に召したようで、水上にいる間は始終ご機嫌だった。
その日は、一日中ボートに乗って過ごした。
次の日、私たちはクライミングをする事にした。
お嬢様なのにできるのかと疑問に思ったが、
「これでも体育の授業は最高評価なのよ!」
なんて言うからとりあえず道具を貸してみたが、やはり大人である私たちも最初は苦しむレベルの訓練用の崖。悪戦苦闘していた為見守りから補助に回り、日が傾きかけた頃に登り切った時はどこか通じ合えたように思えた。
明日、彼女はここからいなくなる。最初は鬱陶しいだけの我儘お嬢様だったが、今ではいなくなるのが少し寂しく思えてしまう。
日も暮れて暗くなった頃、宿泊施設に戻ると彼女がふと思いついたようにボートに乗りたいと言い出した。
暗くなってからは危ない為ボートの使用は禁止されている。けれど、少しなら。
そう思ってボートを出した。
十五夜の満月が明るく湖面を照らしていた。
それからしばらく、私たちは一日の事を振り返っていた。
出会った時の印象、2日目のボート等・・・
そして、“それ”は今日のクライミングの話をしている時に起こってしまった。
「それにしても今日のクライミングは楽しかったわね!」
「危ない時もありましたけどね。」
「いいじゃない、怪我はしなかったんだし。」
「誰の御蔭だと思っているんですか・・・」
「でも、あの時はヒヤっとしたわね。ほら、あの手が滑ってこう・・・」
そう言って、立ち上がった彼女は救命胴衣を脱いで岩の代わりに手に持ち、あの時の動きを真似てつま先立ちになった瞬間。船が少し傾き、バランスを崩した彼女は水底へ沈んでいった。④
頭が、真白になった。
何も考えられなかった。
沈んだ彼女、水面に浮かぶ救命胴衣。
「カチューシャ!大丈夫か!?」
船から見を乗り出して声をあげるが、反応はない。
いくら満月で明るいといえど、月明りでは水中ははっきりと見えない。
どうすればいい。
このまま飛び込んでも彼女の居場所がわからなければどうしようもない。
せめて、暗闇の中でも場所がわかれば。
そんな時、ふと以前聞いた迷信を思い出した。⑦
「人間の感覚というのは、どこか一部が欠けるとその機能を補うように他の感覚がより鋭敏になり、時には人間の域を超える程となる。」
この状況では、目はもう役に立たない。
ならば目を失えば・・・
もし目を失えば彼女を見る事はもう二度と叶わない。
けれども、せめて声だけでも聞ければ。⑩
このままでは声すら聞けないまま終わってしまう。
手を、両目に当てる。
片目では心もとない。
両目をつぶす。その勇気があるのか。
今まで、何度勇気が出せずに後悔してきたか。
今こそ、勇気を出す時なのではないか。
指を、目に当てる。
プツリ
眼球という物は、そこそこ柔らかかった。③
そしてその瞬間から、小さな音も耳が拾いどこから来るのか理解できるようになった。
音の反射で湖面が“聞こえる”。
ふと暗闇の中で音を出しながら周囲を認識する蝙蝠の話を思い出し口笛で高い音を水面に向けて吹いてみる。
湖面が聞こえた。
そして、その奥から少し遅れて湖底が聞こえた。
同時に少女の形も俺の耳は聞きとっていた。
心拍数が上がる。
何度か口笛を吹き場所を確認する。
水中では口笛を吹く事が出来ないから見失ったら終わりだ。
慎重に、かつ急いで用意を行い俺は水中へ飛び込んだ。
無我夢中で、記憶を頼りに手探りで彼女を探す。
柔らかい布の触覚。
見つけた。
上下感覚が狂い死にそうになったがなんとか戻る事が出来た。
口笛で周囲を確認して彼女に応急処置を施す。
水を吐かせ、心臓マッサージと人工呼吸を行っていると、彼女の心臓が動き出すのが聞こえた。
ほっとして人工呼吸を続けていると・・・
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!」
音が全ての世界に、きみが溢れた。⑨
「あ、あんたその目・・・って・・・キ、キス・・・」
確かに、気が付くと目から血を流した人間にキスされているというのはなかなかホラーかもしれない。
しばらくして、落ち着いてきた彼女に状況を説明した。
「そう、ごめんなさい。わたしのせいで・・・」
「いや、俺の監督不行き届きなんだ。俺の責任だよ。」
「・・・貴方、変わったわね。」
「そうか?まあ、両目をつぶして何も変わらないほうがおかしいだろう。」
そう言いながら、彼女にボートを漕いでもらって戻った。
カチューシャが目覚めてから、俺は周囲を聞くことが上手くできなくなっていた。
火事場の馬鹿力のようなものなのだろうが、あれが使えなくては今後の生活に支障が出てくる。
ただでさえもうこんな目じゃあ仕事を続けられないのだから。
その夜は、一人延々と周囲を聞く訓練に励んだ。
彼女との別れの日。
「それでは、四日間お世話になりました。」
来た時のように仮面を被って彼女は去って行った。
そして俺は、口笛を吹いていれば周囲を聞くことができるようになっていた。
退職願は代筆してもらった。
こんな体にはなったけれど、旅に出るのも悪くないかもしれない。
それにしても、本やテレビを見られなくなったのは残念だな。
そんな事を考えながら荷物をまとめて外へ出る。
世界の音が、彼の新たな門出を祝福していた。
-了-
[編集済]
気弱な護衛と気の強いお嬢様!最高!大好きなやつです!お嬢様に危険が及んだ時の主人公の対応の仕方が、もはや春琴抄レベルでしたが、そこがいい!そこまで生まれ変わってしまうところがいい!ああ、OUTIS作品だなぁと感じるエモさでした。ありがとうございました!
ここは、とある洋館。
今宵ここに、二人の人物が訪れる。
一人は、《壁にぶつかった》女・友永梨香。女は、《二分の一を三分の一にする》ために。
もう一人は、《大切な人を亡くす》男・神原拓弥。男は、《キャラをつくる》ために。
それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑の元にこの場所へと足を踏み入れた二人は、出逢う。
これは《せっかくのコーヒーが冷めてしまう》物語である。
――――――
ガチャリ。鍵の開く音が聞こえる。玄関の扉が開き、男――神原拓弥が洋館に入ってくる。
「……誰もいませんかー」
神原が声を張り上げるが、返事はない。
「よしよし。ま、空き家だしな。っと、スイッチ……ああ、点いた。電気はまだ通ってる、と。それもそう、だよな。家具とか、はは、全部そのままだ」
二人がけのソファとテーブルに暖炉、本棚に飾り棚。小さなカウンターには食器やポットが並べられている。
神原は部屋の中を歩きながら、時たま家具に触れ、小物を持ち上げては眺める。その表情は、どこか寂しそうにも見える。
一通り部屋の中を歩くと、中央にあるソファに腰を下ろした。
「はー……なんか疲れた、な。いや、これから俺は、ここで……ああ駄目だ、眠くなってきた。ちょっとだけ、ひと休、み…………」
そのまま神原は目を瞑り、眠ってしまったようだ。
ややあって、足音が近づいてくる。ゆっくりと、玄関の扉のノブが回った。
「あっ、開いてる……。あ、あの、すみません。どなたか、いらっしゃいませんか」
扉から顔を覗かせて、サングラスをかけた女――友永梨香は声をかける。だが神原は起きる様子がない。
返事がないことで、友永は躊躇いながらも洋館の中に足を踏み入れた。
「あの、入り、ます、ね……?」
恐る恐ると言った様子で友永は足を進める。ふらりと伸ばされた手がソファの背もたれを捉える。
そのまま背もたれを辿ると、友永の手は神原の頭に触れた。
「ひぁっ」
友永は短く悲鳴を上げて手を引っ込める。
ソファでうつらうつらと船を漕いでいた神原は、その感触と声に目を覚ます。
「ん……えっな、誰!?」
友永の姿を認め、今度は神原が声を上げる。
びくりと肩を震わせた友永は、一つ深呼吸をして頭を下げた。
「勝手に入ってしまって、すみません。私、友永梨香と申します。道に迷ってしまって……声をかけたのですが返事がなく、玄関が開いていたものですから、その」
「ああ、いや……鍵かけ忘れてたか。えっと、道に迷ったって、どこから……というか、どこへ?」
「えと、駅に」
「駅か。それなら歩いても15分くらいだ。少し歩いたら大きな通りに出るから、そこを右に曲がって、あとは道なり」
「あ、えっと、その」
玄関の方を指差しながら説明する神原にも、友永の反応は芳しくない。
首を傾げた神原だが、友永の様子に「あ」と声を上げる。
「もしかして、目が見えない、のか? 【⑥光は射す!!!】って、今電気点いてるけど、分かんない感じ?」
「……はい」
友永はこくりと頷く。神原は困ったように頭を掻き、「……とりあえず、ソファ座りな」と声をかけた。
背もたれ伝いに友永がそっと腰掛けるのを見届けて、神原も向かいのソファに座る。
「迷子って言ってたけど、一人? 杖とかもないみたいだけど」
「はい……えっと、あの、実は私、【②結婚してください】って言ってくれた人がいて」
「婚約者ってこと?」
「そう、なるんですかね……まだ、答えていなくて。私……私、駄目なんです。一人では何もできなくて」
ぽつりぽつりと語る友永に、神原は居心地悪そうに座り直す。
「私にはいつも、選択肢が二つしかないんです。誰かに手を引かれるか、一人で立ち止まっているか。昔から、ずっと。それが……そんな状態で、結婚、なんて。だから私、……彼も、今は私を支えるって言ってくれているけれど、いつか【⑤勘弁して欲しい】って言われるんじゃないかって。このままじゃ、駄目だって、思って」
「それで、一人で?」
「はい。……でも、白杖が折れてしまって」
「……なるほど、それで迷子か」
それなら、道を教えたところで一人で帰れとも言えない。どうしたものかと考えながら、神原はやおら立ち上がりカウンターの方へ歩き出した。
「ええとなにか……コーヒー、飲める?」
棚を漁りながら神原が声をかける。突然の問いかけに反応できない友永に、神原は苦笑する。
「【⑩せめて声だけでも】聞かせてもらえないと、分かんないんだけど」
「あ、はい、えと、コーヒー。飲めます」
「なら良かった。ミルクとか砂糖とかないみたいだけど……ああ、これ入ってるやつか」
ポットの蓋を開け、お湯が湧いていることを確認する。並べたカップにスティックタイプのインスタントコーヒーを入れ、お湯を注ぐ。
ざっくりと混ぜながら、神原は口笛を吹きはじめた。
「……その、曲」
「え? ……あ、口笛。これ、癖でさ。無意識なんだ。……で、ああ、曲? 何だっけな、曲名は忘れたけど。昔から好きな曲で」
「私、知ってます。あ、いや、私もタイトルは知らないんですけど」
「え! ……ああいや、この曲知ってる人、初めて会ったから」
「私もです」
思わぬ共通点に、友永は状況も忘れたように明るく笑う。その声に神原も自然と頬が緩み、慌ててぎゅっと口を結び直した。
混ぜ終わったカップをテーブルに置けば、その音に友永は軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。あの、ここって……あ、すみません、あの、お名前をお聞きしても?」
「ああ、名乗ってなかったか。俺は神原拓弥。友永さん、だっけ。一人で帰れとは言えないし、送ってけりゃいいんだろうけど、ちょっと今、やりたいことあってさ。とりあえず、ほら、コーヒーでも飲んでて」
「いえ、そんな。……あの、ここって、神原さんのお宅、でしょうか」
「ん、まあ……元、な。昔住んでたんだよ」
「昔? なら……あの、私。この辺りの神社でお願い事をしたら叶う【⑦っていう迷信がある】と聞いてきたんですけど、何かご存じないですか?」
神社。友永の言葉に、神原は首を傾げる。
「この辺りに神社なんてあったかな……【①仮面を被った】男が出るって噂ならあったけど」
「え」
「冗談だよ。……いや、あながち嘘でもない、か」
ぽつり。小さく呟いた言葉が見咎められる前に、神原はまた口を開く。
「ああでも、放置されてたにしては、ちゃんとしてるだろ? ソファなんかも【③そこそこ柔らかかった】し」
「え、あ、はい。……あの、神原さんはどうしてここに?」
「……どうして、って? 自分の住んでた家に来て、何か問題が?」
「ああいえ、それは……ただ、少し、気になってしまって。昔住んでいらしたお家で、いわば【⑨あなたが溢れた】空間にいらっしゃるのに、その、どこか、寂しそうで」
言葉を選ぶように。ゆっくりと紡がれた友永の言葉に、神原は深くため息を吐いた。
気を悪くさせたかと謝る友永に、神原は「違う」と少し笑う。
「違う、違うよ。ああ、やっぱ駄目だ、駄目なんだな」
何が。友永は首を傾げる。神原は観念したように話しはじめた。
「ここさ、家族で住んでたんだ。母親と父親と妹。口うるさい母親と、仕事ばっかの父親と、反抗期の妹。……でも、嫌いじゃなかった。……だから、死んだんだ」
「え……」
「昔からさ、俺の好きな人、俺の大切な人は死んじまうんだよ。家族も、友達も。恋人も、みんな。だから……いい加減うんざりでさ。懲り懲りっての? 大切な人なんか作らなきゃいいんだって。一人で生きていけるように……覚悟決めたくてさ。最後に、ここに来たってわけ」
かける言葉も見つからず、友永は黙り込む。神原は自嘲するように笑って、言葉を続けた。
「ま、最後にとか、覚悟決めるとか? ここに来てる時点で、駄目だよな」
「そんなこと! ……そんなこと、ないです。私、なんかが何かを言える立場では、ないんですけど。でも……【⑧国境の長いトンネル】、みたいな」
「なに、それ」
「抜けたら、きっと、違う世界が広がっているんです。だから…….その」
「もういいよ」
友永は必死に言葉を重ねる。何を言えばいいかなんて分からない。でも、何かを言わずにはいられなかった。
神原から投げられた静止の言葉にびくりと肩を跳ねさせるが、神原は笑っていた。
「いいよ、分かってる。実際、どうにもなんないことなんだ。いつまでも【④沈んで】たってしょうがねぇよな」
「……はい」
「友永さんもさ。なんだっけ、選択肢が二つしかなくてって。その増やす三つ目って、一人で歩くことじゃないと駄目なの?」
「え?」
吹っ切れたように。あるいは今まで被っていた仮面を脱いだかのように。
軽やかな神原の言葉に、友永は首を傾げる。
「せっかくさ、結婚してほしいって言ってくれてるんだろ? だったら、その人と二人で。一緒に歩けばいいじゃん。手を引かれるだけじゃなくて、一緒に。……それこそ俺が言えたことじゃないんだけど」
サングラスの奥で友永は目を数度瞬かせる。
神原は途端に恥ずかしくなって、コーヒーに手を伸ばす。口をつけたところで、そっと机に戻した。
「コーヒー、冷めちゃったな。淹れなおすよ」
「え、あ、すみません。せっかく淹れてくださったのに」
「いや、インスタントだから。それもスティックの」
二人分のカップを持ってカウンターに向かう。新しくカップを二つ並べ、インスタントコーヒーの袋を開ける。
コーヒーを用意しながら、神原はまた無意識に口笛を吹く。
ここは、とある洋館。
それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑の元にこの場所で出逢った二人は、またそれぞれの人生を歩んでいくことになるのだろう。
そんな予感とともに、この物語は幕を下ろす。
――――――
[編集済]
冒頭で語られる、どこか無茶ぶりのような設定。それでいてエモいな、と思ったのは「せっかくのコーヒーが冷めてしまう」ですね。そんな無茶振りなんのそのというように、素晴らしくまとまっていて惹き付けられる物語でした。男女の設定がとてもいい味を出していて、特に、女性の「二分の一を三分の一にする」!!はじめはなんのこっちゃと思ってましたが、まさかそのように使われるとは……!流石です。
〈簡易解説〉
盲目の女は、うたた寝をしていた男と出会う。
男が何気なく吹いた口笛の曲を女も知っていたことで、互いに少し気を許すようになる。
それぞれの身の上話をする中で、女はずっと探していた「三つ目の選択肢」を男から与えられた。
******
〈解説〉
これは『AD-LIVE』プロジェクトを題材とした作品です。
出演者の役も、セリフも、全てがアドリブで紡がれる舞台劇。
出演者たちは用意された『AD-LIVEワード』を自由なタイミングで引くことができますが、引いたワードは必ずその場で使わなければなりません。
更に今年は世界観や人物設定も当日にくじで決められます。
この作品も『AD-LIVE』。
《》はYesNoの要素から〈人物設定〉〈目的〉〈物語の方向性〉に分けて。
【】は指定された要素を『AD-LIVEワード』風に文言を整えて。
いずれもその場で実際にくじを引きました。
つまりこの作品は解説であり、即興劇であり、『AD-LIVE』プロジェクトのダイレクトマーケティングなのです。
詳しくは『AD-LIVE』でご検索ください。
10月12日、13日公演のライブビューイングのチケットは明日10月1日より一般発売開始です!
―――閉幕―――
[編集済]
左の解説にそう書いてあったので、つい検索しちゃいました。全く、なんてことしてくれるんですか、ハシバミさん!こんなの絶対に沼じゃないですか!最高!種明かしされると、最初の設定も頷けるし、随所に挟まれる要素も二重に匠に用いられてるんですね、納得。これはあれですね、発想の勝利ってやつですね。あっぱれ!
「海は塩水でできている」
世界が認めなくとも、後ろ指をさされようとも、それでも共にいたいのだ。 [正解][良い質問]
「勘弁してほしいですか?」
「YES! こんな未来は勘弁してほしいです!」⑤
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地球温暖化による海面上昇で、数千年後、地球は陸地のほとんどが海に沈んだ。④
陸地に棲息する動物は住処を追われ、減少の一途を辿る。
それは人間も例外ではなく、ほとんどの人間は陸地でなく海に住むことを余儀なくされる。
水中でも地上と同じような生活ができるよう研究がすすめられたが、海中に散らばったゴミの除去や処理、そして工場の排水や生活による下水で汚染された海水を浄化するには膨大な費用と時間がかかった。
結局9割ほどは環境が整うまで待たされ、自力で生きれるようになるしかなかったので、人間の中で長い年月をかけて身体の構造が変化していった種がいた。
「まず、肺が大きく発達していった人間。効率よく呼吸ができるように、かつ長く息を止めて動けるように進化しました。
次に、鰓と似た呼吸器官を持つようになった人間。水中で呼吸ができるよう、水中から酸素を取り入れて肺に送り込む部位『鰓肺(さいはい)』に変化したものも発見されています。
もちろん、これらの進化を伴わずに補助器具を使いながら生活している人間もおり、我々はこの3種類に、それぞれ
肺が発達したものを【イルカ】、
鰓肺が見られるものを【サカナ】、
そのどちらにも変化しなかったものを【タイヤキ】と名称を付けて区別しています。
ここまでで何か聞きたいことはありますか? はいスズキくん」
「先生、サカナは水の上でも呼吸ができるんですか?」
「いい質問です。サカナは魚類に近い構造のため、大気中での呼吸ができません。はいイトウくん」
「先生トイレ!」
「先生はトイレじゃありません。はいバンドウくん」
「先生空気!」
「先生を空気にしちゃいけません。はいアズキさん」
「(ボゴボゴボガボゴブブゴボガバッ)」
「泡で声が聞こえません。はいスズキくん」⑩
「先生、『そろそろ時間です』と言ってます」
「ありがとう。あなたは翻訳家の才能があるわ。アズキさんもありがとう。それでは今日はここまで」
先生がそう言うと同時に、終わりのチャイムが校内に響き渡る。
クラスメイトは窓から校庭に出て泳ぎまわってはしゃぐとか、女子はペットのラッコがこの間子どもを出産しただのという話をしている。
窓の外を見れば、相変わらず海は淀んだ青色をしている。
海上から光が射しこんでいるのは見えるが、ここからは反射して太陽の姿が見えない。⑥
溜息をつくと、顔の周りがぬるくなった。
なんてことはない、ただの日常だ。
ぶくぶくと音がしたので、俺はその音の方に向くと、いかついタンクと繋がったごついマスクをつけたアズキがぼごぼごと口のあたりから泡を吐き出しながらお礼を言った。①
『さっきはありがとう、スズキくん』
「全然いいよ。今日は調子悪そうだね?」
『今朝からこうなの。ほんと、マスクって嫌い』
「そんなこと言うなよ。大事な生命線じゃないか」
『だからだよ。いいよね、タイヤキと違って、サカナやイルカは水中に長く耐えられるんだから』
アズキは溜息をついた。マスクからまた大きな泡がぼこぼこと飛び出した。
その音に反応したのか、ちょうど空気補給をしようとしていたバンドウが近くを通りがかった。
俺はバンドウを呼ぼうとしたが、バンドウは自分の唇に人差し指を立てて悪戯っぽく微笑んだ。
そして、後ろから近付いてアズキの肩に触れる。
アズキが叩かれた肩のほうへ振り返る。
バンドウはすかさず人差し指を立てる。
人差し指の先はアズキの頬がある。
そのまま人差し指は頬に直撃。
大成功。
アズキのマスクに当たり、バンドウの人差し指は見事に綺麗な120度に反り返った。
もちろん、バンドウは悶絶した。
『あっ、ご、ごめんね?』
「大丈夫……俺、指の関節、そこそこ丈夫だから……」
「何やってんだよ……」
「ほっぺたをつつこうとしたら、マスクに勝てなかった……」
『材質硬いし、海上にあがると結構重たいからね……』
「マジかよ人殺せるじゃん……とりあえず、空気吸っていい?」
バンドウは鞄から携帯用空気ボンベを取り出し、ボンベから出てくる泡を飲みこんで、一息ついた。
「やっぱり空気は最初の一口がうまい。これで今日も放課後頑張れるってもんだ」
「また海上に出るのか? 飽きないなあ」
「そりゃそうさ。俺は必ず《戻り水》をこの目で確かめるんだ」
戻り水とは、陸地にしか存在しないとされる水のことで、それを見た者は願いが叶うともいわれている。
だがそれは雨とは違い、蒸発や凝結とは関係ない陸地のどこかで勝手に溢れ出て、人知れず海の中へ流れて消えていく。
そしてその物理法則を無視した戻り水によって、海は陸地を覆うほどの量になった、という伝説だ。
もちろん、陸地がなくなったのは温暖化による海面上昇によるものだと小学生でも知っているので、それは迷信や都市伝説のような類だとほとんどの人間は思っている。⑦
バンドウは幼稚園のころからこの迷信を信じて、必ず戻り水を見つけるのだと毎日のように言う。
馬鹿みたいにひたむきな奴だが、そういうところがあいつの憎めないところなのだ。
「探すのはいいが、あまり陸には出過ぎるなよ。イルカやサカナは長く陸地の環境には耐えられないんだから」
「そんなこと言うんだったら手伝ってくれよぉ。昔は仲よく3人、公園で泳ぎ回ったじゃないか」
「いつの話をしてるんだ。それに今日は予定があるから無理」
「え~。アズキは?」
『私も、今日はちょっと……』
「……ふ~ん?」
バンドウは俺とアズキとを交互に見比べた。
「ふたりそろって用事ねぇ、本当にきみたち仲がいいですねえ」
「……なんか含みのある言い方だな」
「べっつにー。そうかぁ、一人淋しく戻り水探しかぁ」
バンドウはわざとらしくため息をついた。なんか腹立つな。
ごめんね、とアズキは申し訳なさそうに謝った。口から出る泡は、心なしか小さかった。
「ま、いいさ。予定があるなら仕方ない。じゃあまた明日な」
バンドウはひらひらと手を振り、そのまま水面の方へ浮上していった。
そして、ボートで通学しているアズキとも正門で別れた。
アズキは別れ際に、また泡を吐いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「またあとでね」
私はそう言い、スズキくんと別れた。
停船場に行って、通学用にとめてある自分のボートに乗る。
窮屈で息苦しかったマスクを外すと、心地よく涼しい風が吹くのを肌で感じた。
「空気がおいしいなあ」
バンドウくんじゃないけど、思いっきり呼吸ができると、やっぱり安心する。
しばらくボートを漕いでいると、鳥が飛んでいるのが見えた。
もうすぐ日が暮れるので、鳥たちも自分の巣に帰っているのだろう。
家に帰ると、野良鳥たちがやかましく騒ぎながら寄ってくる。
「今日は遊べないよ、ごめんね」
それでも鳥はうるさくピーピーと鳴くので、構わず自分の部屋に行って荷物を整理し、再びボートに乗った。
「どこか出かけるの?」
留め具のロープを外していると、母が玄関から顔を出してくる。
……本当は家族に会う前にさっさと出て行きたかったけど、仕方ない。
「……ちょっとだけね。でも、ちゃんと夜までには帰ってくるよ」
「何しに行くの?」
「人に会いに行くの」
母は、少し怪訝そうな表情を浮かべた。
「誰? タイヤキ? それともイルカ?」
「……関係ないでしょ」
「関係あるわよ。子どものことは交友関係でもなんでも知っておかないと。特にタイヤキは、いつどこかで溺れてるかもしれないと思うと……ああ怖い」
母さんは身震いした。胸が締め付けられるような気分だった。
「母さん、私はもうそんなに子どもじゃないよ。ちゃんと空気の量には気を付けてる」
「そうは言ってもねえ、少し心配なのよ。小さいころに、あなた、溺れたことあるでしょう? もし会う人がサカナだったら私は……」
「母さん、もうその話はいいから。急いでるの」
「いいえ、何度でも言うわ。もし会う人がサカナだったら、私はここを通しません」
……だから、捕まりたくなかったんだ。
――どうしよう、適当にごまかそうか。
でもこの前、わざわざ友達の家に電話してまで確認していたし、もし嘘だと言われたら……
「アンコおばさん、アズキは今日、俺と”陸地で”戻り水探しするんだ」
後ろから声がした。正確には、後方の海から。
振り返ると、バンドウくんが水面から顔を出していた。
「バンドウくん……?」
「いやあごめん。遅いなあと思って、勝手に来ちゃったわ」
「なんだ、バンドウくんなら安心ね。気を付けてらっしゃい」
「……うん」
「うーん。波に揺られながら、ゆったり泳ぐのも気持ちがいいなあ」
ボートの進む方向に合わせるように、バンドウくんはゆっくりと泳いでいる。
バンドウくんはどこか楽しげで、満足そうな顔をしている。
「……あの、どうしたの? こんなところまで来て」
「ん~?」
「戻り水を探すんじゃなかったの?」
「探すよぉ」
のんびりとした口調でバンドウくんは答えた。
「だからちょうど目的地に向かってたら、偶然、いやほんと、たまたまのすれ違いざまに、近くを通りがかったってわけよ。そんで、声かけただけ」
「……ありがとう、あなたがいなかったら、私」
「だぁから気にしないの。ほんと、過保護な親を持つと大変だなあ」
バンドウくんは呑気そうに言った。
「……気持ちがわからないわけではないの」
私は確かに昔、顔からマスクが外れて溺れ死にしそうになったことがある。
母が過保護になったきっかけも、ちょうどその時期からだ。
「けどよ、もう俺たち18よ? 一級船舶だって取れる年齢よ。もう『うるせえババア!』ぐらいの勢いでいかんと」
「でも……」
「あ、何なら本当に戻り水探しに一緒に行ってもいいんだぜ? あの嘘、半分そのつもりで言ったから」
へへっ、とバンドウくんは笑った。少し照れ臭そうだった。
「ありがとう、でも……」
「わかってるって。今日は久しぶりのデートなんだろ」
「え、なんで知って」
「あ、本当にそうだったんだ」
「……」
バンドウくんは、悪戯っぽくにやぁ、と笑った。
「いやぁ~、相変わらず仲がよろしくて何よりですなあ。いやぁ~」
「ちが、いや違くないけどそうじゃなくて、えと」
「あー隠すな隠すな。きみたちふたり、揃いも揃って嘘が下手なんだから」
「て、ていうか、どうしてわかったの」
「そりゃ怪しむでしょうよ。付き合ってるふたりが、同じ日に用事があるなんて。どう考えてもデートじゃん、でぇと」
バンドウくんはわざとらしく強調した。指摘されると、すごく恥ずかしい。
「うぅ……よりによってバンドウくんにバレるとは……」
「ん? それはどういう意味ですかねアズキちゃん」
そんな会話をしながら、少しずつ気が晴れるのを感じた。
「……さて、きみの家も見えなくなったし、ここいらまででいいかい?」
「うん、ありがとう。もう大丈夫」
「それなら良かった。じゃ俺は、戻り水を探すとしますかね」
バンドウくんは笑った。
強い人だなあ、と、思った。
私は、バンドウくんみたいに強くはなれないな。
遠ざかるバンドウくんの後ろ姿を眺めながら、私はマスクをつけ、空気タンクを背負って海に飛び込んだ。
マスクは相変わらず調子が悪い。
息を吐くたびにぼこぼこと大きい泡が口から出て、視界の邪魔をする。
待ち合わせ場所には、もうスズキくんが待っていた。
「ごめんね、待たせて」
『ああ、俺も今来たところ』
「……恋人みたいだね、この会話」
『……そりゃ、恋人だから』
カップルだから。
マスク越しに、水を伝って反響するスズキくんの声が心地いい。
「ふふ。じゃあ行こっか、デート」
やっとできた、何年振りかのデートに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《昨日22時ごろ、人種を偽って申告し婚姻届を提出したとして、キンメ容疑者・オグラ容疑者の両名を、身分詐称および人種結婚法違反の疑いで逮捕しました。オグラ容疑者の供述によると、タイヤキであるオグラ容疑者との結婚を成立させるために、キンメ容疑者が自らサカナではなくタイヤキとして身分を偽り、それを黙認して提出したとのことです。なお似たような人種詐称婚のケースは今年に入って23件目と大幅に増加し、各地で件数を減らすための対応策が考えられています。次のニュースです。今日は珊瑚の産卵時期ということもあり、【珊瑚公園】では多くの観光客が――》②
「また詐称婚ですって。最近ほんとに増えたわねえ」
「サカナとタイヤキは生活もまるで違うのに、どうして結婚しようと思うのかねえ」
「最近の若い子は将来を深く考えてないのよ。ああ嫌だ、タイヤキなんてマスクの裏で何考えてるかわかったもんじゃないわ」
いつものニュース、いつもの両親の会話。
いつも俺は、そんな毎日が嫌で仕方なくて、いつも早めに家を出て、遅くに家に帰る。
「……行ってきます」
「あら行ってらっしゃい。今日は部活ないから、早く帰ってくるわよね?」
「……いや、ちょっと今日友達と約束があって、遅くなると思う」
「あら、そうなの。サカナの子? それともイルカの子?」
両親の選択肢の中には、いつもタイヤキはない。
「……バンドウだよ」
「なんだ、バンドウくんか。それなら良いけど」
「(……ごめん、バンドウ)」
そうして俺は、また嘘をつく。
……いけないことであると、じゅうぶんに理解しているから。
水中では生きることができないタイヤキと、大気中では息ができないサカナ。
大気での呼吸を必要としながらも、水に浸かってさえいれば水中でも過ごせるイルカとは違って、この二つは特に生活スタイルが違い過ぎる。
生きる環境がまるで違うために、トラブルを避ける目的として、町中でもたびたびタイヤキの入店を拒否する店があったり、サカナの受け入れ禁止の看板があるホテルがあったりする。
その人種の違いを理由に、サカナとタイヤキ同士の結婚も、法律で禁止されている。
だからこそ自分の子どもが犯罪者にならないために、親は人間関係を把握したがるのだ。
『ごめんね、待たせて』
息を切らしているのか、マスクから出る泡は大きく途切れ途切れになっている。
「ああ、俺も今来たところ」
『……恋人みたいだね、この会話』
ぶくぶく、と音を立ててアズキは言った。
もし顔が見えていたら、きっと笑ってくれているのだろうか。
「……そりゃ、恋人だから」
そう、俺たちは、恋人だから。
法律では許されない、恋人。
「……そうだ、先に謝らないといけないことがあって」
『なに?』
「アズキ、《珊瑚公園》に行きたがってたろ。でもこの間調べたら、タイヤキは珊瑚公園の中心部には入れないんだって」
『そうなの?』
「なんでも、珊瑚の保存のために空気供給所が整備できないかららしい」
『……そっかあ。珊瑚公園もダメかあ』
アズキは、少し項垂れた。
きっと、がっかりしているんだろう。
「……ごめん。《珊瑚の墓場》までは大丈夫なんだけど」
『スズキくんは悪くないって。そりゃ、珊瑚の産卵は見たかったけど……別に、きみとならどこでもいいからさ』
ほら、珊瑚の墓場には行けるんだし、行こうよ。
アズキはそう言って、俺の手を引いた。
珊瑚の墓場は、文字通り珊瑚の死体や動物の死骸しかない墓場だ。
真っ白なサンゴ礁が続くだけで、水面からの光も強く届かない、モノクロのような世界。
本来は、地球温暖化の深刻さを説く環境学習に連れてこられるだけの場所で、産卵シーズンに人気な中心部と違って、余程のマニアなんかでなければあまり寄り付かない。
『……わあ、やっぱりすごいな』
ぼこ、とマスクの口から泡が出ていた。
「……本当に良かったのか? 墓場なんかで」
『墓場も案外素敵な場所だよ、人も少ないし、静かで落ち着くし。それにほら、一面真っ白だから、もし産卵したら、きっと雪が降ってるみたいに見えそう』
「珊瑚の死体は産卵できないよ」
『そうだけど、それでも雪国みたいな景色になるだろうなあって』⑧
アズキは、マスク越しだが優しい声をしていた。
励ましだけでない、本心でこの時間を楽しんでくれていると実感できた。
アズキは、本当に、優しい。
どうしてこんな素敵な子と、結婚ができないのだろう。
それでも、やっとできたデートは、それはそれは楽しいものだった。
……本当に、楽しいものだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイヤキとサカナが結婚して逮捕されるニュースを見るたびに、思うことがある。
「……どうして結婚しちゃいけない人種がいるんだろう」
「どうしたの、バンドウくん?」
「んーん、ちょっと気になっただけ」
俺はイルカだから、サカナの友達も、タイヤキの友達も、たくさんいる。
スズキとアズキとだって、ふたりの両親から顔を見知られてるぐらいには昔っから仲がいい。
それなのに、アズキの家に行こうとするとスズキは断るし、アズキもスズキの家には行けないと言う。
最初は、お互いあまり仲が良くないのかと思っていたけど、3人でもしょっちゅう遊ぶし、なんなら俺そっちのけで遊んでたりすることもあった。
というかその方が多いし。俺は昔からぼっちが多かったし。
……もちろん全然傷ついてない、全然。
中学に入ると、あーこいつら両思いだなーってバカな俺でもわかった。
というか、そもそも二人から相談を受けていた。
「なあ、バンドウ。アズキのマスクの奥の顔って見たことある?」
「んー? まあ、一応?」
「……どんな感じ? 手触りとか、どんな感じ?」
「……えーとね、蟹の殻並に硬いよ(適当)」
「ま、マジか……そりゃそうだよな、海の上は紫外線とか大変だもんな……」
「(信じちゃった……)スズキはアズキの顔見たいの?」
「えっ……そりゃ見たい……あ、変な意味じゃないからな? 別に下心じゃなくて、純粋に……」
……いや、顔に下心ってなんだよ。
一方、アズキはと言うと、
「~♪」
「おう、どうしたんだ、口笛なんて吹いて」
「バンドウくん。スズキくんって、口笛知らなかったんだって」
「ほーん? 確かに、空気で音を鳴らすからなあ」
「ずっと鳥の鳴き声だと思ってたって。だからそのたびに鳥を見ようとして浮上するんだって。かわいいよね」
「いや、それは知らんけど」
「でね、今度会うときは、私が口笛を吹いて、スズキくんを呼びたいなって思うんだけど、どう思う?」
「(どうでも)いいんじゃないですかね」
なんで俺に逐一報告してくるのきみたち。
というかなんで付き合ってないのきみたち。
互いののろけを聞かされるたびに、そんなことを思っていたけれど。
それが法律のせいだったと知ったのは、詐称婚のニュースを見てからだった。
「……どうして結婚しちゃいけない人種があるんだろう」
「どうしたの、バンドウくん」
「んーん、ちょっと気になっただけ。先生は知ってる?」
「うーん……生活のしかたがあまりにも違い過ぎるからとは言われているけど」
「でもさでもさ、それだったらイルカだってサカナとタイヤキと違うじゃん。なんで?」
「イルカは、どちらの生活にも合わせられるからじゃないかしら」
「だったらさ、サカナとタイヤキが一緒に暮らせるようにすればいいじゃん」
「そう簡単にはいかないのよ。っていうかあなたはイルカなんだから、そんなことで悩む必要はないでしょ?」
「でも……」
「もう、喋る暇があったら補習を終わらせなさい。話はそのあと」
……どうしてふたりは結婚しちゃいけないんだろう。
あんなに好きあっているのに、結婚出来ればいいのに。
そんなことを考えながら、俺は今日も戻り水を探している。
いつか、ふたりが仲良く幸せに暮らせるようにと、願いを抱きながら。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……信じられない、嘘までついてタイヤキなんかとつるんでいるなんて。あなたをそんな子に育てた覚えはないわ」
「……ごめん」
「謝って済む問題じゃない。これがどれだけ大事なのかわかってるのか?」
「……」
母は溜息をつく。父は、腕を組んで俺を睨む。
「見つけたイトウさんには感謝しないといけないわね。もし結婚までしてたら、私はもう仕事すらできないわ」
「……アズキは、悪い人じゃない」
「いい人か悪い人かなんてどうでもいいの。相手の人種が問題なの」
「いいか、お前が犯罪者になるだけで、一体どれだけの人間が悲しむと思うんだ」
「……っ……」
言葉を飲みこんだ。声が出なかった。
「とにかく、手遅れになる前に、彼女と別れなさい」
「そうよ、もし彼女を大切にしたい気持ちがあるんだったら、彼女も犯罪者にしたくないでしょう」
両親はそう言う。
俺は、喉の奥でつっかえている言葉が出なくて、酸素が不足しそうだった。
どうして、本当に言いたい言葉に限って、うまく声に出せない。
「……わかった」
やっと振り絞って出た言葉は、これだけだった。
逃げるように自分の部屋にこもる。
……ただもやもやと自分の中で黒い何かが渦巻いているのを感じていた。
……寝よう。
そう思っていたところに、スマホの通知音がした。
《アズキ:今から珊瑚の墓場に来れる?》
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
スズキくんは、もう珊瑚の墓場に来ていた。
「……ごめん、待った?」
『……今来たところ』
「……ふふ、さっきと同じやりとりしてる」
『……そうだね』
スズキくんは笑った。でも、元気はなかった。
「どうだった?」
『……犯罪者になる前に別れろ、だって』
「……私も、同じようなこと言われた」
サカナとタイヤキは、結婚できない。
恋人になっても、不毛なだけ。
……わかってるんだ。頭では。
でも、それでも。
「……もっと、一緒にいたい」
『……俺も、きみと、ずっと、一緒にいたい』
「……よかった。私だけじゃなくて」
思い出が、走馬燈のように流れていく。
そのたびに、きみを愛しいと思う。
ふたりで見つめあう。
この時間が、本当に長く続けばいい。
すると、視界の端でちらちらと白いものが降りていくのが見えた。
「ねえ、見て。――マリンスノーだ」
『本当だ。……まるで雪国だ』
「ね? 意外とここも、悪くないでしょ」
『そうだな……綺麗だ』
こんな素敵な場所を、私たちがふたり占めしているんだ。
この場所には、隔たりなんかない。
――いや、まだ、隔たりがひとつある。
私がずっと嫌いだった、隔たりが。
『……アズキ……?』
マスクを外す。背負っていたタンクがゆっくりと落ちているのを水流で感じる。
肌に、冷たいものが触れるのを感じる。
目を開けると、マスクと違って視界はぼやけていた。
……せめて、顔だけが見えればよかった。
《一緒に、》
口から泡が漏れていく。空気が吸えなくて、続きの言葉を言えなかった。
けれど、スズキくんは、頷いたような気がした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マスクを外したアズキの顔は、泡でよく見えなかった。
《一緒に》
アズキ自身の口から、そんな声が聞こえた。
俺は頷いた。そして、泡を出しながら沈むマスクとタンクを拾った。
マスクをつける。一気に息苦しさを感じる。
「……はっ、か、ぐっ……」
息継ぎは、もうできない。
……けれど、もう、そんなことは、どうでもいい。
俺の口から空気を出して。
きみの口から水を出す。
君の酸素で、息がしたい。
そしてそのまま、息絶えたい。
命がけの、キスをした。
マリンスノーが、白いサンゴ礁に積もっていった。
.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○.。o○
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あああーーー、こんなのずるいじゃないですかっっ!!!好きっっ!!始まりのSF設定に心がぐわしっと掴まれました。「タイヤキ」という遊び心ある可愛らしい名前にクスリとしてたら、エモさに瞬殺されますよ、皆さん。お前はもう死んでいる状態ですよ。物語の起承転結が非常に精巧に作り込まれていて、エモさとハラハラドキドキのオンパレードです。 [正解]
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俺はただ、ふたりが幸せなら、それでいい。
たとえふたりが犯罪者の予備軍であろうと、それは変わらない。
……いや、違うな。
犯罪者になって仲良く牢に入れられるだけなら、まだマシなほうだと思う。
……けどさ、あいつらは、嘘がへたくそなんだ。
そんなの、本人たちがよくわかってる。
だから、あいつらは、嘘をつかずに――
……馬鹿だ。きみたちは、俺より馬鹿だ。
馬鹿みたいにひたむきで、だからこそ、俺はきみたちが好きだったのに。
「何も、心中なんか――ないだろ」
俺は呟いた。
意識不明になったふたりが、海に浮かんだ状態で発見された。
スズキはサカナ専門の病院に搬送され、アズキは海上にあるどこかの病院に運ばれた。
スズキの病院はすぐに特定できたが、アズキの病院の位置は全く把握できていない。
どうやら、複数の病院を転々としているようだ。居場所を聞き出そうとしても、かん口令だなんだのと言って教えてくれない。
「……心中したくせに、離れ離れじゃんかよ」
俺は嘲笑うふりをした。……だが、全然うまく笑えなかった。
……なんでこうなったのかはわかってる。
SNSで、ふたりがデートしていた姿がそのまま拡散されていたからだ。
今や裁判所では、ふたりの家族が裁判を起こしながら罵り合っている。
互いに相手に殺されかけたのだとおうむ返しのように言っている。
――そうだよな、きっとそう言うしかないんだ、お前たちは。
ニュースの発表でも、別々の事件として取り上げられている。
――そうだよな、きっと認めたくないんだ、あんたたちは。
……いっそふたりが死んだほうがよかったのかもな、お前らには。
犯罪者をふたり、減らすことができたからな……!!
「 ――畜生ッッ!!!! 」
悔しくて仕方なかった。
ずっと心臓と喉の奥が痛んで仕方なかった。
あいつらは、ただ互いに愛してただけなのに――。
……何を、信じればいいんだろう。
だいじなやつらが幸せになれない世の中で、何を信じて生きたらいいのだろう。
……ふと、思い出したのは。
戻り水の、ことだった。
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あの心中から、10年の歳月が経つ。
俺はいつの間にか大っ嫌いな政治家になっていた。
……一応言うが、なりたかったわけじゃない。
嫌だった勉強もすることになってしまったし、上っ面だけのマニフェストを原稿通りに読みながら反吐が出そうだったし、体裁ばっかりを気にするやつらに向けたくもない笑顔を向ける羽目になったし、同じことばかり言って眠くなりそうな議会に苛立ったりもした。
はっきりと言える。最悪だ。
でもそれも、やっと終わる。
結婚に関する法律の改正案が、可決された。
もう、人種に関係なく結婚をすることができる。
科学技術は少しだけ進み、サカナでも大気に満たされた場所に行けるようになり、タイヤキが水中で溺れないようにするために人工鰓が開発された。
そういった進歩もあり、政治家たちも法律の改正に対して肯定的な意見が増えたのだろう。
まあ、あまりにサカナとタイヤキのカップルが増え、カミングアウトする大物芸能人もいたので、民意的にもその風潮は高まっていたのもあるが。
決定打は、「法律のせいで犯罪者が増えるのがよくないんだったら、いっそその法律なくせばいいんじゃね?」というガキみたいな意見だった。
……今までの苦労とかなんだったの、マジで。
とにかく、これで結婚に関するトラブルが減るわけだ。
全国のロミジュリは、めでたしめでたし。
ただ俺は、戻り水をいまだに見つけられていない。
ついでに言うと、アズキもだ。
10年も経つと見つけられそうなものなのだが、ここんとこ忙しいのもあってろくに情報も掴めていない。
いやまあ戻り水に関してはさすがに俺ももうアラサーになってあきらめてはいるが、せめてアズキの手がかりを掴みたい。
俺の意地もあるが、これはスズキのためでもある。
「……よう、スズキ」
「……」
病室に行くと、スズキはこちらをじっと見ながらうつろな表情を浮かべている。
スズキは、およそ1年ほど前に、突然目覚めた。
もう死ぬんじゃないかと思っていたので、俺には喜ばしいことだった。
だけど、スズキはそれからあのまま、文字通り死んだ魚のような目で、病室に佇んでいる。
会話はそれなりにできる。だけど、どこか無気力で。
半身をどこかに置いてきてしまったような、そんな喪失感さえ感じる。
……アズキと会えば、きっともとに戻るんじゃないか。
そんなことを考えながら、俺はスズキに大気中でも息ができるための器具をプレゼントした。
スズキは気に入ったのかはわからないが、プレゼントした翌日から装着していた。
そして、ずいぶん久しぶりに海上に出ることにした。
「……まあ、なんの手がかりもないんじゃな」
夜の海の上で視界も悪い中、俺は水面近くを泳いでいた。
どこからかピーという音がして、こんな夜中に鳥なんか飛んでるんだなあと思った。
「お前もなんか探し物かあ」
そして、なんとなく問いかけるような気持ちで、鳥の鳴き真似をするつもりで口笛を吹いた。
すると、再びピーと返ってくる。
なんとなく楽しくなって、また俺は口笛を吹く。
ぴー ぴー
ぴー ぴー
だが、少しずつ違和感を覚えはじめてきた。
そしてその違和感の正体に気づく。
「なんだか……音が大きくなってる……?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
窓の外を見れば、相変わらず海は淀んだ黒色をしている。
すっかり夜になっているので、月の光は見えない。
溜息をつくと、顔の周りがぬるくなった。
なんてことはない、ただの――。
ピー ピー
「……?」
微かに聞こえた音。
海の中では、鳴らせない音。
これはね、口笛だよ。
空気を震わせて、音を出すの。
鳥の鳴き声みたいでしょう?
――思わず、窓から飛び出した。
わずかに聞こえる音を頼りに、俺は上へ上へと浮かびあがる。
きみか。もしかして、きみなのか。
泳ぐ手を必死に動かした。ずっと寝ていたせいで、体がきしむような感覚がした。
でも、そんなことはどうでもいい!
俺は必ず会いに行く。
会いに行って、きみと一緒に――。
ざっぱぁぁぁああああああん!!
大きな波しぶきを立てて、海上へ到達する。
また少し息苦しくなったが、すぐにあたりを見回した。
そして――俺は、ボートに乗った女性と、その傍らで浮かぶバンドウを見た。
「……アズキ……? アズキなのか……?」
「スズキくん……来てくれた……口笛を、吹いたら……」
ああ、あれは、確かにアズキだ。
マスク越しでしか聞こえなかった、アズキの声だ。
アズキはボートの上で、よろよろと立ち上がった。
そして、バランスを崩して――
「……危ないっ!」
ひっくり返った船のせいで、アズキは水中に投げ出される。
俺はすかさず潜り、アズキを助けようとする。
「アズキ!」
アズキの腕をつかんだ。アズキは俺を確認して、水の中で俺に抱きついてきた。
俺はそれに応えるように、アズキを抱きしめた。
「……ぶはぁっ! ……はは、ほんとにスズキくんだあ」
「マスクじゃなかったからわからなかった。……アズキだよな?」
「そうだよ、私、アズキだよ。ちゃんと触れて、確かめて」
アズキは俺の手に触れた。スーツでない、ちゃんとした体温があった。
「あ、はは……なんだ、そこそこ柔らかいじゃんか……」③
「え、今更言うけどまだ信じてたのきみ」
「だ、だって、おれ、顔見たの初めてだったから……」
「出会い系サイトか」
「う、うるせ……あ、あれ……」
目頭がズキズキと痛んでくる。
そして、熱をもってきたのを感じる。
何かの病気か、いや、でも……
――目から、何かあたたかいものが溢れ、そして頬を伝ってきた。
それは、俺だけでなく、アズキも同じだった。
「……ねえ、なにか、目から出てるよ。大丈夫?」
「アズキこそ、何か水が出てきてるよ」
「ほんとだ。何だろう、これ」
見覚えのない透明な液体。
じくじくと痛んでいるが、これはむしろ心地よい痛みだった。
そして、それは、あることを考えるときに、出てくるのだとわかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わかった。これは、きみのことを考えてたら、自然と出てきたんだ。頭の中がきみでいっぱいになって、止まらなくなったんだ。これは『きみ』なんだ」
「あはは、なに、それぇ」
「だって、ほんとに、きみなんだ」
「じゃあ、私のこれも、きみ?」
「ああそうさ、きみだ」
ふたりは笑いあっていた。
ずっと、目から透明な液体を流しながら。
本当は体を心配するべきなんだけど、なぜだかふたりの笑っている姿を見ていたら、そんなことはしなくていいと思ったんだ。
そして、俺自身も、ふたりを見ていたら……。
「おれ、もう、願いが叶ったから、いいや」
「え? 戻り水、見つけたの?」
「~~~~っ、もう、そうじゃなくって! はは……」
自分の目から、きみが溢れて海と混じり、消えていった。⑨
(終わり)
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そして、描写がとても美しい。その文才が羨ましい。設定がかなり突飛なものであるはずなのに、会話に日常感が滲み出ているんですよ。彼らの中での平凡な、そして何よりも大切な宝物である日々がそこにあるんですよ!!こんなのずるいじゃないですかっっ!!!(2回目)泣きます。クライマックスとラストシーンの素晴らしさは、なんかもう、文字にできない。語彙力が追いつかない。間違いなく高級料理店の星三つスープです。 [正解]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《戻り水の伝説》
さんずいに、戻ると書く。
だから私は、それを【戻り水】と呼ぶことにする。
それは陸地時代に見られた水源で、舐めると海水のようにしょっぱいのだと言う。
確かめるすべはどの文献を見ても記載されておらず、記載されていても「流れた」「流した」「零れ落ちた」そのようにしか表記されていない。
しかし、陸地時代のオリンピックのスポーツ選手の「長年の願い事が叶って『戻り水』が出た」という記述を発見したことから、戻り水にはどうやら願い事を叶える力があるらしいと推測する。
しかし、そんなことがありうるのだろうか?
陸地に住まなくなったほとんどの人類には、もう二度とわかることはないのだろう。
【解説】
陸地が海に沈んだ世界で、口笛を鳥だと勘違いしていた海に住む人間。
鳥を一目みたくて水面から顔を出すと、それは夜に人間が口笛を吹いていたことを知り、正体がわかった。
【要素チェック】
①仮面
→仮面っつかマスクだけど、まあある意味では役目を果たせたと思います。
②結婚する
→法律云々。だいぶ人種差別にならないかねこれ。
③そこそこ柔らかかった
→同じ人間であるのに今の今までバンドウの適当な答えを信じていた件
④沈む
→陸地が。
⑤勘弁してほしい
→こんな未来は。
⑥光は射す
→海なので一応光は届く環境。
⑦迷信は関係する
→海の中なら涙は迷信と言い張る。
⑧雪国
→サンゴの白い景色と、マリンスノー
⑨きみが溢れた
→海の中なら涙はきみと言い(ry
⑩せめて声だけでも聞きたい
→泡がうるさい。それと、生身の声もやっぱり聞きたいよねっていう。
(以上)
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……と思ったら最後ーー!!伏線回収!戻り水ってああ!そういう!!畜生全く気づけなかったぜ、大将!!最後の最後まで刺客が。なんだかものすごくやかましい感想になってしまいました、すみません。ところで本作品の映画化のお知らせは何時でしょうか。流石、創り出す大好きとろたくさんです。愛がなきゃ書けない。絶品スープをありがとうございました。 [正解]
むかしむかし、神様が世界をつくって1000年ほどたった頃、世界は雪と氷に覆われていました⑧。空は灰色の雲に包まれ、時折雪を降らせます。
寒さで作物も育たず、世界をこんな劣悪な環境にした神様は、自分たちを見捨てたのだと心がすさみ、悪いことをする人間ばかりになってしまいました。
そんななか、信心深いひとりの男がいました。男はこの状況も神様の深い考えのあってのものだと、周囲に悪いことをするのをやめるように言いましたが、「神様に深い考えがあるなんて迷信だ⑦」と周りの人間は聞く耳を持ちません。
男は、神様が直々に降臨してくだされば、周囲のみんなも思い直すのではないかと、毎日お祈りをしました。
お姿をお示しにならなくても、せめてお告げだけでも⑩という男の祈りが届いたのか、ある日、人間たちのもとへ神様が降臨しました。
神様は人の姿をしていますが、顔は見られてはならないらしく、いつも仮面をつけています①。
神様は「雪で覆われたこの世界は、私がお前たちに与えた試練である。私を信じていれば、いずれ報われるであろう。」と告げました。
しかし、それでも人々は神様を信じず、悪いことばかりしています。更に男が仮面をつけて現れ、みんなを騙しているのではないかと疑いだしてしまいました。
そのなかで、ひとりの女が男に賛同し、毎日一緒にお祈りをするようになりました。ふたりは親交を深め、結婚しました②。
ちょうどその頃、ふたりの前に再び神様が降臨しました。
神様は「今の世界には悪いことをする人間ばかりなので、私はこの世界を創ったことを後悔している。空からたくさんの水を降らせて、世界をキレイに洗い流すつもりだ。これまで、毎日祈りを捧げたお前たちは救うので、大きな方舟を作って、すべての生き物のつがいを一組ずつ乗せなさい。」と男たちに告げ、方舟の設計図を渡しました。
大きな方舟だったので、完成させるのには何年もかかりました。建築中何度か周りの人々に、水を降らせるというお告げを知らせましたが、信用されず、ふたりで方舟を完成させました。
生き物たちを方舟にのせ、入り口をしっかり閉めてしまったあと、大雨が降りだしました。方舟に乗らなかった人々が後悔してももう遅く、みるみるとすべてが水の底へと沈みました④。
空一面がどす黒い雨雲に覆われて世界は暗闇に包まれました。
濁流の中でもなんとか船の安定をはかろうと男たちは必死です。方舟に積んだ食料はぐちゃぐちゃに混ざり、鶏の産んだ卵は割れ⑨、鳥たちは中を飛び回りてんやわんやです。
雨は100日間降り続けました。101日目には雨が止み、太陽の光が射しました⑥。男たちにとって、初めて見る太陽でした。
雨は止み流れは穏やかになりましたが、水はまだまだ引きそうにありません。
数十日経つとかなり水が減ってきて、方舟の底は陸に着きました。水面からでた陸地があるのだろうかと男は確認のため鳩を放ちました。
しかし、とまるところがなかったようで鳩はすぐに方舟に戻ってきました。
20日後、再び鳩を放つと鳩は帰ってきませんでした。男は鳩に何かあったのか、生活ができる土地ができていて戻ってこないのか分からず困ってしまいました。
そこで、鳩が戻ってくるようにという想いを込めて、男はぴゅーと口笛を吹きました。すると、オリーブの枝を咥えた鳩がやってきたのです。
そのことで、水がひき陸地が現れ、新たな世界が完成していることを知り、皆で方舟を出ました。
たどり着いた陸地は、緑に覆われていました。地面も今までのような凍って固いものではなく、水にぬかるんだ柔らかいものでした③。
祈りを捧げると神様が降臨し、男たちの苦労を労いました。男はこのような洪水は二度目は勘弁してほしいと神様にお願いしました⑤。神様はその願いを受け入れ、約束の証しに空に虹をかけました。
その後、男たちも動物たちも順調に子孫を残し、新たな世界への一歩を踏み出したのでした。
おわり
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ノアの箱舟の素敵なオマージュ作品でした。自分じゃ全く思いつきもしなかったけれど、改めて問題文を見ると、なるほど、整合性がある。口笛の使い方とか完璧でした。文章も、世界観を壊すことなく引き立たせる美しい言葉遣いでした。すっと入ってきて、納得感の深い作品をありがとうございました!
俺にはいまだに忘れられない彼女がいる。それは高校の時の同級生のラテ子だ。 彼女と初めて会ったのは、高校1年生のある日の放課後のことだった。
「うわ~。また音楽室にリコーダー置き忘れちゃったよ。我ながら勘弁したくなっちゃうよ。」(5)そういいながら、僕は学校の帰りに音楽室に向かった。
音楽室の扉を開けると、ある音楽が聞こえてきた。ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」だった。(1)普段はオーケストラで演奏されることの多いこの曲だが、流ちょうにそれをピアノで弾いている女子がいた。それがラテ子だった。
俺がこっそりと音楽室に入ろうとすると、ラテ子が俺の方を向いて言った。
「どうしたの?」
「え、あ、いや・・・。リコーダー忘れちゃって・・・。」
「リコーダーここにあるわよ。」そう言って彼女はある一つの机を指した。そこには俺のリコーダーが確かにあった。
「ありがとう。」
「うふふふ。よかったわね。」彼女は笑顔でそういった。
「君の名前は?」
「私はラテ子よ。あなたは?」
「俺はカメオだ。何年生なんだ?」
「1年生。」
「俺もそうだ。何組なんだ?」
「1組。」
「俺は2組だ。」
こう話すうちに彼女と親しくなりたいと思うようになった。
翌年、高校2年の時に俺は偶然にも彼女と同じクラスになった。成績が中ぐらいでパッとしなかった俺に比べて彼女はクラスの中でも成績がずば抜けていた。しかし彼女は成績が優秀だからと言っておごらず、俺に対しても分け隔てなく接した。家庭科でオムライスを作る実習があった際は、俺が卵の黄身をボウルにあふれるかのように大量に入れてしまい、それを彼女が笑いながらオムライスの正しい作り方を教えてもらったこともある。(9)こうしているうちに彼女と俺はますます親しくなっていったのだ。
彼女と最後に会ったのは、春の陽が射す高校3年の3月のことだった。(6)
彼女は俺たちが住んでいた雪国の田舎というハンデを乗り越えてあるヨーロッパの音楽大学に留学することが決まっていた。(8)なんでも家に帰ると熱心にこの地域では有名なピアノの先生にピアノのレッスンを受けたり、留学先の国の言語を勉強していたりしたそうだ。彼女は将来、ピアニストとして活躍したいという夢を持っていた。
俺は彼女にしばしの別れの挨拶をするつもりで、空港へ向かった。
空港で彼女を見つけると、彼女は俺にハンカチを渡した。
このとき、ハンカチの手触りがそこそこ柔らかかったのを今でも覚えている。(3)
「ハンカチって別れの意味があるって知ってるか?」と俺は冗談めかしく彼女に言った。
「あっ・・・・ごめん。」
「ハハッ、そんなの迷信さ。あくまでそういう話があるっていうだけさ。」(7)
「そうよね、それで1つ告白していい?」
「なんだい?」
「私が帰国したら、あなたと結婚したい。」(2)
「・・・・・!」俺は数秒間何とも言えなかった。そして声を絞り出すように言った。
「・・・・そうだな。」
「嬉しい。じゃあまた4年後に会おうね。」
しかし、「ハンカチを渡すと別れる」という話は現実のものになってしまうのだった。
翌日、俺にとっては耳を疑うニュースが飛び込んできた。
「ラテシン航空111便がインド洋で墜落、機体は沈没した模様」(4)
そう、ラテシン航空111便はまさに彼女が乗っていた飛行機だった。
俺はせめて彼女だけでも生きていてほしいと思っていた。何せ一部の他の乗客の死体や機体の残骸が見つかる中で彼女の死体や遺品が見つかったという話は一切なかったのだ。俺は彼女が無人島のどこかに流れ着いたのではないか、もしそうだったら彼女のいる無人島に行ってせめて彼女の声でも聞きたいとでも思いつつもそれを押し殺して生活していた。(10)
それから4年後、本来であれば彼女が留学を終え日本に帰国するはずだったある日のことだった。事故の犠牲者の遺体を探索しようというボランティアの話があることを新聞で知った。あの事故の際にラテシン航空111便に搭乗した人物の中には遺体はおろか当時着用していた遺品ですら見つかっていない者もいた。そして彼女もそのうちの1人だった。
俺は迷ったが、そのボランティア団体に連絡し、遺体の捜索に参加することになった。
事故現場とされる場所までは本来はモーターボートを使用する予定だったが、モーターが途中で故障してしまい、手漕ぎボートを使用することになった。
手漕ぎボートで事故現場に行こうとするとやはり時間がかかってしまうのは仕方がない。俺は一緒に参加した彼女の両親やほかの遺族と共にボートを漕いでいるうちに日も暮れて夜になってしまった。
手漕ぎボートを漕いでしばらくすると月の光が海面に映った。彼女はここで安らかに眠っているのだろうか。そう思った時、脳内に彼女の声がこう聞こえてきた。
「私はここにいるのに・・・・。」
「ラテ子・・・。ここにいるのかい?」俺は心の中で言った。
「そうよ・・・。その月の光が映っているところが私の遺体や遺品のあるところよ。私はこうなってしまったけれどお父さんやお母さん、そしてあなたが私を探してくれないかってずっと待ち続けていたのよ・・。」
俺はとっさに月の光が映っている部分を捜索してほしいと思い、口笛を吹いて捜索隊に伝えた。
「何だい?」
「ここに彼女がいるかもしれないんです。」
「そんな迷信言われてもなあ・・・。」
「でも、なぜかここを調べないといけない気がするんです。」
捜索隊とは話が少しもめてしまったが、何とか月の光が映っている部分のところに捜索隊がもぐることになった。
数十分して、捜索隊があるものを見つけてきた。
「ピアノの楽譜の本が見つかりました。しばらく水没していたからかかなりインクが消えてしまっていますけど何とか音符が見えました。あと、手紙のようなものが見つかりました。」
俺はすぐにその楽譜を確認した。すると、楽譜の裏表紙の部分にマジックで「Rateko」と書かれているのを見つけた。ああ、間違いない。これは彼女の遺品だ。
さらに手紙を見てみた。そこにはうっすらとこう書かれているのが見えた。
「カメオへ。」
これを見て俺はここに彼女がここに眠っていることは間違いないと確信した。
さらにしばらくすると、捜索隊は指の部分が白骨化したものを見つけた。後日その部分をDNA鑑定したところ、ラテ子の遺体であることが確認されたのだった。
白骨化した遺体の一部がラテ子であることが確認されてから数日後、ラテ子の葬式が開かれた。
葬式中、俺は僧侶の読経を聞きながら心の中で彼女とこう会話した。
「長い間、君を見つけられなくてごめんな。」
すると、彼女の声がこう聞こえたような気がした。
「ううん。見つけてくれてありがとう。私はもうこの世にはいないけれどあなたのことは忘れないよ。あなたも私のことを忘れないでね。」
「こちらこそありがとうな、ラテ子の声が聞けてうれしかったぜ。また天国でいつか会おうな。」
俺は涙を流しながら心の中でそう答えたのだった。(終)
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音楽で繋がっているって言うのが、もうエモいですよね。ラテ子ちゃんがとても素敵な女の子でした。優しくて健気で、オムライスが作れる!オムライスの作れる女の子って個人的に理想です。ピアノも弾けるし。……悲しい結果にはなってしまいましたが。それでも、ラストシーンで2人の心が通じあって、主人公の心が前向きになったでよかったなぁ、と思います。
若ハゲに仮面を渡された(1)。
「船乗りに伝わる言い伝えです。海で愛しい人を失った人間は、死者の声を聞いてしまう。だから死者から正体が分からないように仮面を被るんです、――まあ迷信ですよ(7)」
渡した若ハゲ自身も仮面をつけていた。
出航に同行するのは金で雇った三人。友人つてに出会った信用のおける人物だ。
若ハゲと大男と無口。本人たちはあだ名で呼び合い、私もあだ名で呼ばれる。
私のあだ名は老いぼれ。心の中でこっそりと憤る。見た目以上に老けているのは確かだが、老いぼれ呼ばわりされるほどじゃない。
だが、あの時を大昔のように感じるのも事実か。
――結婚したのは雪降る日(2)。雪が天使に見えて、私たちは世界に祝福された。孤児として苦しい思いもした私達だった。しかし今は世界で一番の幸せ者になった。彼女は肩を出したドレスだったのに、少しも寒がらず、むしろ熱を帯びていた。それでも私は彼女にスカーフを掛けてやった。友人たちの拍手の中、私たちはこの日、数えきれないほどキスをした。
――結婚生活。そこに収まるのが自然であるかのように。ささいなことで笑いあう。なんでもないことで怒りあう。料理や、家具や、食器や、旅行や、家事や、仕事や、未来や、思い出や、生活や、お金や、愛のために。たくさんの感情を溢れさせ、アルバムが満たされていく。私の人生がきみで溢れていく(9)。幸せで幸せで幸せで。
――彼女が仕事で船に乗った。不凍港の無いこの雪国では、船が出せなくなる時期も長い(8)。そうなれば手紙も届かない。私は一抹の不安に駆られながらも、笑顔で見送った。私にも仕事がある。二人の生活のために頑張らなくては。その一心だった。また会う日を楽しみにして。
――5ヶ月遅れの沈没の報せ。妻が乗った船だった。妻は見つからず、後はもう、思い出せない。
「見えたぞー!」
大男の、平素でも大きな声がさらに音量を増して鳴り渡る。
思い出に没頭するうち、私はどうやら寝ていたらしい。寝ぼけ眼を擦り、眼前を見据える。
「本当にあった……」
あれからの、妻を探し回る日々。仕事は辞めさせられた。借金もした。友人は離れていった。家は荒れ果て、私も老いていった。
果ては裏社会にも出入りし、銃や、麻薬や、毒や、非合法な物にもいろいろ触れた。
そして先日、怪しげな男に高い金を支払い、ついに情報を得たのだ。
『転覆した小舟が洞窟の入り口に繋がれている。発見者いわく、沈没した船に詰まれていた小舟と同じ型らしい』
そして今。曇天の下。黒ずんだ海面の向こう。情報通りの光景が眼前に広がっている。
大干潮のときにのみ現れる洞窟と。
そこに、彼女が使ったのかもしれない小舟が繋がれて。
興奮と動揺。そしてほんの少しの期待。私はポケットを力いっぱい握りしめた。――服が皺くちゃになると妻に注意された、私の癖だ――
青灰色の切り立つ崖の途中を、くりぬいて作ったような洞窟が一つだけ。辺りに上陸できそうな陸地もなく、緑もない。洞窟の入り口だけが暗闇をのぞかせていた。
無口が偵察に行き、小舟の体すらなしていない木くずを調べてから手旗でサインを寄越す。
大男が洞窟の上部を指さした。
「見ろ、岸壁に海面の跡がついてる。情報通り、この洞窟は大干潮のときにしか現れねぇらしい。行くなら早く行こうぜ」
帰ってきた無口が何かを持っている。――帽子。破れた帽子。鍔広で羽飾りがついている。
心臓がドクンと跳ねた。ついに……。
「妻のものだ……」
若ハゲと大男が頷き合った。
「ここからが本番ですよ」
船員たちが、手慣れた様子で洞窟にもぐる準備を済ませていく。
若ハゲが海の様子を探る。
「幸いにも波は穏やかですが、潮の高さから見て捜索できるのは2時間です。それ以上かかるようなら安全の保障はできません」
無口は、留守を担当するようで。
荷物の確認を済ませ、仕上げに若ハゲと大男へランプを渡す。そして、私が被っている仮面の傾きをなおしてくれた。がんばれよ、と言ってくれてる気がした。
洞窟。
中はかなり深く、じめじめとして、狭い。手を横に伸ばしきる事も、立ち上がりきる事もできない。それでいて潮臭さと青臭さが交互にやって来る。窮屈に歩いているうちに緩やかに坂はあがり、地面の質が変わる。触れてみると、湿り気を帯びているがそこそこ柔らかい(3)。ここまでは波が来ないという事か。
「ここまで海水が入り込まないということは、ここから奥なら流されないということです。見つかる確率が上がりました」
若ハゲ、大男に挟まれる形で列をなして進んでいく。早く進みたいのに、二人に歩調を合わせないといけない。自分の思うように動けなくてじれったい。大男が舐めた人差し指を上に突き出していて、その仕草に妙にいらついた。
「風を感じるぞ。外に続いているのかもしれねえな」
やがて開けた空間に出る。
天井は高くなり、反対に、地面は一段低くなる。氷柱のように見える柱の群れが、上から下から生えている。
光を滑らせて、壁面がぬめりと光沢を放つ。
生き物の気配はなく、不快なにおいは消えて、代わりに冷たい空気が鼻に抜けた。
暗い。
さらに突起状の柱のせいで、ランプの灯りが通らない。
焦る。洞窟が沈んで船に戻れなくなるかもしれないというのに(4)。そしたら次に探しに行けるのはいつになる?
不凍港がない国と、大干潮のときしか入れない洞窟。1年後か、2年後か、それとももっと先か。私はポケットを握りしめる。じれったさが限界に達した。
若ハゲからランプをひったくる。大男が何か言っている。知るか。二人を無視してそこら中を照らす。仮面が視界の邪魔だ。外したい。こけそうになる。構うか。走る。
早く、早く――。
その時だった。
ピュー、っと笛にも似たごく高い音が聞こえて、私に居場所を知らせた。
若ハゲが私からランプを取り上げる。大男とともに音のした場所に駆ける。私も後に続く。
そして――。
翳したランプの光が射して、暗闇にその光景を切り取る(6)。
洞窟の隅に腰かける全身骨格が、服を支えにしてバランスを保っていた。
埃が舞って、迷う魂のように見えた。
服装はあの頃のまま、美しく、少し綻ぶ。
ランプを反射してきらりと視界に飛び込む左手の薬指の指輪。私が彼女に贈ったものだ。
手が震える。涙があふれ出す。彼女から目が離せない。
「……あ……」
ピューとまた鳴って、彼女の頭蓋骨がカタカタと揺れる。
彼女の頭蓋骨の隙間を通して、まるで口笛のように、洞窟を吹き抜ける風が音を鳴らす。
風に揺られる頭蓋骨は、彼女の意思の表れか。もう生きてはいないのに舟を漕ぐ。
彼女はこんなところで眠っていた。誰にも会えず一人ぼっちで。
ずっと、ずっと探していた。
彼女も、ずっと、ずっと私を呼んでいた。
「……待たせて、しまったね……」
彼女に触れようと思うのに、触れることができない。抱きしめたらきっと壊れてしまう。
嬉しさと悲しさの中に、ああやっぱりか、という諦めがまたたく。
夜の更けた街の静寂、その残響が、私の今の心にとても似ていた。
私は仮面に触れ、そしてポケットを握りしめる。
大男が時間を確認する。
「感動の対面の所悪いけどよ、この洞窟はもう沈む。早いとこ奥さんを回収して――」
大男の言葉を手で制す。
私は仮面を外して、若ハゲに差し出した。
若ハゲは眼を見開く。そして小さくため息を吐いた。
「……残る気なんですね?」
言葉には、心を変えてほしいという願いがあった。だけど。
「愛しているんだ。もう、生きる理由がない。なら最後はせめて妻と――」
若ハゲは、三度手を迷わせて、仮面を受け取った。
大男が激昂する。
「勘弁してくれよ!(5) お前の奥さんだってそんなの望んでねぇだろ!」
大男ががなる声がやけに遠い。優しい男だが、なんとなく、この男はまだ愛を知らないのだろうと思った。
若ハゲが大男を諌める。若ハゲはこちらを一度だけ振り向いたが、諦めたように俯き。
ランプを一つその場に置くと、出口を目指して力強く踏み出していった。
「やっぱりあんたは老いぼれだ」
吐き捨てるように口にし、大男も続く。
彼女の隣に腰かける私。
静寂が訪れる。あれ以来、風もピタリとやんだ。
若ハゲ、大男、無口、そして今まで出会った人々が、揺れるランプの光の中におぼろげに浮かんでは消えていく。彼らは無事か、幸せか。とりとめがなく、焦点が定まらない。
ランプの灯りが不規則に揺れて、燃料が尽きて、消える。
そうしてどれぐらい経った頃だろうか?
ポケットの中、小瓶を取り出す。暗闇の中、彼女が隣にいるのを感じた。きっと安らかに眠っている。彼女の懐かしい姿が鮮やかに、暗闇に浮かぶ。
あの頃のまま美しく。小さく寝息を立てて。少しだけ痩せたかもしれない。
やがて私も暗闇へ融けていく。ずっと思っていたことを口にしよう。
仮面はもうないんだ。だから――
「君の声を聞かせてくれ(10)」
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芸術的な狂気を感じる作品(心からの賞賛)。
心中描写から、男の焦燥感がひしひしと伝わってくるのですが、繊細な文章を乱すことなく書いてらっしゃるので、思わずほうっ、と息が出るような美しさでした。作中で描かれる過去の苦労も、詳しく追求することは無いけれど、沢山の困難を乗り越えてきたことが自然と理解出来て、匠だなぁと思いました。
~簡易解説~
暗い洞窟の中で、妻を探していた男。
彼は、頭蓋骨の穴を抜ける、口笛にも似た風の音を手掛かりに白骨化した妻を探し出した。
風に揺られる頭蓋骨は、舟を漕いでいる様子そのものだった。
(終り)
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そして、口笛の正体。頭蓋骨の隙間から漏れでる音って、中々不気味ですよね。けれどやっぱり心惹かれてしまう。とても好きなお話でした。ありがとうございました!
ある日、1人の若い女性が私の家を訪ねてきた。
初めまして、と彼女は挨拶したが、私はどこか彼女に見覚えがあるような気がした。
「私の母は、私を産んで間もない頃、あなたの旦那様と一緒に亡くなりました」
_______________________
私の夫は、数年前に事故で亡くなった。
地球外生命体の研究、といえば聞こえはいいかもしれないが、いい年してUFOやら宇宙人やら、存在するはずもないオカルトに夢中になっていた夫。⑦
世界でUFOの目撃情報が入ってはその国に行って目撃者から直接話を聞かなければ気がすまないらしく、しょっちゅう私を置いて一人で海外に行っていた。
私が旅行に行きたがっても、国内旅行でさえめんどくさがっていたのに。
「ならあなたが海外に行くときに連れて行ってよ」と言ったら、申し訳なさそうな顔で「勘弁してほしい」と言った。⑤
きっとそのころから不倫をしていたのだ。
おそらくUFOに夢中になったころから、そんな迷信じみた話を認めない私の事なんか興味がなくなったのだろう。
夫が亡くなった場所はフィンランドにある湖だった。⑧
真冬、湖全体が厚い氷に覆われた中、一ヵ所だけ丸く氷がなくなって穴が開いていた場所があり、その穴の近くに夫は倒れていたらしい。
しかも、若い女性と一緒に。
地元に住む猟師が不自然な穴を見つけ、近づいたところ、2人が並んで倒れているのを見つけてくれた。
身元確認のため現地へ行った私は、夫が別の女性といたことを知った。
現地の人は私が本妻だと知ると、気を遣ってくれたが、薄々不倫に感づいていた私はあまり悲しくはなかった。
体中に打ち身の跡があるにもかかわらず、互いの頭部だけは無傷のまま死んでいたことにも――互いの腕を枕にしたのか知らないが――何の感情も湧かなかった。
ただ、フィンランドに行く直前に夫が言っていた「もうすぐきみにいいものを見せてあげられるかも知れない」という言葉の意味がわからず仕舞いになってしまったのは少し残念だった。
そのときは「宇宙人を捕まえて家事でも手伝ってくれるの」と嫌味を言ったらわかりやすく落ち込んでいた。
そのあとすぐに気を取り直したのか、曲にならない曲を口笛で吹いていたのを、なぜだかよく覚えている。
_______________________
ある日、1人の若い女性が私の家を訪ねてきた。
「私の母は、私を産んで間もない頃、あなたの旦那様と一緒に亡くなりました」
そう言う彼女を見て思い出した。
どうやら彼女はあの不倫相手の娘だった。
大学で医学を勉強しているらしい。
「私は母についての記憶がありません。せめて声だけでも聞きたかったのですが。⑩ ついこの間私は20歳になり、あの事件のことを父から教わりました。母があなたの旦那様と一緒に命を落としたと。私はショックでした。記憶がないとはいえ自分の母親です。浮気をしていたなんて。
…ですが少し気になることがあるんです。私の父は、当時新婚だったこともあり、母とうまくやっていたようです。② なので母が浮気をしていたとは思えないそうなんです」
「あなたのお母さまが私の旦那と不倫をしていなかったと?」
「はい。私もそう信じたいです。そして、もう1つ気になる点があるんです。2人の死因はご存じですか?」
「ええ、全身を打って死亡したと聞いてますが」
「そうです。私も父からそう聞きました。でもそれって、おかしくないですか?」
「どういうこと?」
「二人が死亡していたのは真冬の雪国の、それも一面が凍るほどの湖です。そんな場所で事故が起きるとすれば、凍死を考えるのが一番自然じゃありませんか? 事実、2人の傍には湖に穴が開いていたそうです。たまたま氷が薄くなっているところを踏んで、割れて落ちてしまった。頑張って這い上がったけれど、寒さもあって力尽きた。それが自然じゃないですか?」
なるほど、と思った。医学を学んでいるとそういうことに気がつくのか、なんて思った。
「けれど、私は事故の後現地に行って確認しましたが、氷が割れたような穴の開き方じゃなかったように思いました。まん丸の穴でしたし、夫がのこぎりかなんかで人工的に開けたんじゃないかと私は思います」
彼女は納得していなそうに首を軽く振った。
「全身を打って死亡した、というのが正しいならば、原因としては何が考えられるんですか?」
私は訊いてみた。
「日本で一番起こりやすいのは鉄道での飛び込み自殺ですが、事故だとすると転落事故ですね。建設現場なんかから落下すると、脳震盪を起こしたり、更に頭蓋骨が骨折すると脳挫傷という障害を引き起こし、死に至ります」
彼女はよどみなく答えてくれた。
そして「実は、そこも違和感があるんです」と眉をひそめた。
「仮に岩か何かが転がったとしても、湖の真ん中でピンポイントに2人に当たるとも思えない。もっと手前で氷を割って湖に沈むでしょう。④ どこかから転落するにしても、あの湖は結構広いんです、周囲にはとても転落死するような高台はありません」
「確かに…」
私はため息をついた。
もう何年も前の出来事で、私の中では「過去」として処理している事故のこと。そんなことで今更こんな不可解な気持ちになるなんて思っていなかった。
そして彼女は、さらに私を混乱させるようなことを口にした。
「実は1つ、仮説を持っているんですが、それを話したらあなたは私のことを信じなくなるかもしれない。聞きますか」
何やら嫌な予感がしたが、私はゆっくりとうなずいた。
「あなたの旦那様は、UFOを呼び出すことに成功したのではないでしょうか」
そのセリフは私の予感をはるかに飛び越えてきた。
いったいどういうことだ。
私が訊くと、彼女はゆっくりと答えてくれた。
それは想像を超える話だった。
「これは私が父から話を聞いたり自力で調べたりの限りですので正確かどうかはわかりません。ですがおそらく間違いないと思います。
私の母は、実は旦那様の大学の後輩なんです。もともとオカルト好きだった母は、大学のゼミの同窓会で旦那様と再会し、旦那様が地球外生命体の研究を始めたことを知った。もともと母も興味のあった話なので、その研究を手伝いたいと申し出た。と言っても、母がそのときすでに新婚なので、それを知る旦那様に断られたようです。旦那様も家族があるので当然でしょう。
ただ、2人がフィンランドに行く直前、母が興奮した口調で長電話をしているのを見た、と父が言っておりました。どうしたのか聞いても曖昧な返答だったそうです。おそらくですが、旦那様がUFOを呼び出す方法を発見したのではないでしょうか。母は旦那様にフィンランド行きの同行を乞いました。呼び出す方法を発見したことで気持ちも昂っていたのでしょう、2人でフィンランドに行くことになった。
そして2人は湖に行き、呼び出した。もちろん成功して宇宙人が登場した後どうなるかはわからなかったけれど、アドレナリンが出ている2人は関係ない。私にはあまりUFOやら宇宙人の知識はありませんが、アブダクションというんですか、UFOから出る光に吸い込まれる、漫画のような現象。あれによって2人は立っていた氷の地面ごと丸く吸い込まれた。その途中、光から抜け出した2人は地球の重力によって氷の地面に叩きつけられた」
ーー私は一言も発せず、ただ目の前の女性の口から流れるストーリーを聴いていた。
全くもって科学的ではない。およそ医学部の学生が考えていることとは思えなかった。
しかし、その淀みない言葉の流れに、棹を挿せないのも事実だった。
私自身オカルトの類を好まないのに、なんだかこの推論が合っているような気さえした。
「――なるほど」
声がかすれ気味になり、慌てて咳払いをする。
「如何でしょう、全く根拠もなく、現代の科学に反していることは承知の上で、私の仮説をお聞きになってどう思われますか」
彼女の問いかけに、私が返した言葉はシンプルなものだった。
「ならば、確かめてみましょうか」
_______________________
そして私たちは1ヵ月後、フィンランドに来ていた。
夫がフィンランドに行く前に言った「もうすぐきみにいいものを見せてあげられるかも知れない」という言葉の謎を解くべく、私はこの1ヵ月間、夫の机やパソコンを調べた。
しかし何を見せてくれるつもりだったのか、更にはどうすればUFOがやってくるのか、肝心な呼び出し方さえわからなかった。
それでも私たちは、フィンランドに、そして例の湖にやってきた。
とりあえず、2人が亡くなったと思われる時間、深夜まで待った。
そしてゆっくりと湖の真ん中を目指してボートを漕ぎ出す。
真ん中の辺りまで来たが、当たり前だが何も起こる気配はない。
なにか呼び出す方法のヒントはないものか。夫の亡くなる前数日間の様子を思い出してみる。
特別な変化があったような感じはしなかった。何か手がかりはないものか…。
ふと、私は無意識に、夫があのとき吹いていた口笛のフレーズを吹いていたようだ。
彼女が怪訝な顔をしていることで、ようやく自分が口笛を吹いていることに気がついた。
慌ててそれを止めて、彼女に説明しようとしたそのとき。
遠くの方から、地鳴りというのだろうか、細かく大地が震えるような音が聞こえた。
彼女と顔を見合わせる。
彼女も驚いたようにこちらを見ていた。
まさか。
しかし、だんだんと大きくなる音を聞くと、認めざるを得なかった。
私たちの上空に現れた銀色の球体、それは紛れもなく地球外からやってきた飛行物体だった。
_______________________
しばらくその飛行物体は空中に静止していた。
その頃にはもう地鳴りは消え、時折不思議な音ーー文字で表すのは困難だが、強いて言えば「きみきみ、きみきみ」と聞こえたーーを出していた。⑨
しばらくしてその音が途絶えると、その飛行物体から光が地上に伸びてきた。
それは以前に彼女が言っていた、漫画のような光だった。
やっぱり光は射すのか、なんて呑気なことを考えていたら⑥ 、次の瞬間意識がふっと飛行物体の中に吸い込まれた。
あまりにも一瞬だったので驚く暇もなかった。
どうやら一瞬で飛行物体の中に移動したらしい。
隣には彼女もいた。
そして彼女の姿を見てあれ、と思った。
首から下は確実に先ほどまでの彼女の格好だったのだが、首から上をすっぽり覆うような、ヘルメットのような仮面のような奇妙なものを被っていた。①
彼女の方を向いたが、彼女の反応からすると私も同じものを被っているのだろう。
壁を見てみると、なんとも言えない抽象的な模様であった。
見たことがないのにどこか懐かしく、止まっているようでいてやんわりと動いていた。液晶画面のように淡い光を放っているが、液晶画面ほどの無機質さは感じない。
私は見惚れていた。
どうやら彼女も同じ様子だった。
私はその模様を見ているうちに、ハッと直感的に理解した。
これは、人が生まれる前に見ていた模様なんだ。
私はそのとき、夫が宇宙人に陶酔していた理由がわかった。
我々の命の始原、それを宇宙人は見せてくれるのか。
彼が私に見せたがっていたものはこれだったのか。
そして私に海外への同行を断っていた理由、それは私にいきなりこれを見せて、理屈ではない宇宙の神秘を体感させたかったからなのか。
私はいつまでもその模様に見惚れていた。
私は酔っていた。
そのせいで、いつのまにかUFOの外に出されていたことに気がつかなかった。
地球の重力が私たちを地上に連れ戻そうとする直前、目が覚めた。
頭に被った仮面はそこそこ柔らかかった。③
頭が優しくボートに触れたと思った直後、私たちの体はボートに叩きつけられた。
意識を手放す直前、私は夫に語りかけた。
ありがとう、とても素敵なものを見せてくれて。
【完】
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今回投稿された作品の中で一番、冒頭で心を奪われた作品でした。靴下さんはとんでもないものを盗んでいきました。この文では冷静を装っておりますけれども、内心「えーーっ!!」で荒れ狂っております。展開が怒涛。一体どうしてこんなにぶっ飛んでいるはずなのに、説得力があるのですか。私もいつかこういう納得感満載のSFがかけるようになりたい……。伏線の回収も見事で、何よりオチがとてもスマート。やられたっ!って感じです。心いっぱい奪われました。
そこにあったのは、小さな湖だった。
私の目の前にいた少女が描いた絵には、命が宿る。
少し大きい程度の紙に、少女が筆を走らせるとそこには空間が生まれた。
白い絵具を一筋描けばそこには眩い光が射した。⑥
茶色の絵具を一面に塗って生まれた土は、そこそこ柔らかかった。③
彼女は、そこに多くの自然を描いていた。
咲き乱れる桜、真夏の海、落ち葉散る山、冬の雪国。⑧
それらは全て紙の中で空間となり世界を創り出していく。
そんな中でも、特に彼女は自然の絵をよく描いていた。
理由は教えてくれなかったが、新郎新婦や機械等の人・物を描いた絵に空間は生まれなかった。②
私が彼女に出会ったのは、数年前の6月だった。
もう夏だというのに気温は20度を下回っている。
せめてセミの声だけでも聞きたい。⑩
そう思いながら山を歩いていると、どこからかセミの声が聞こえてきた。
声を辿ってみると、そこには一人の少女がいた。
大き目のスケッチブックに絵を描いている・・・いや、描いていたのだろう。
セミの声が聞こえてくるその絵を、少女は無感情に眺めていた。
気が付くと私は、誘蛾灯に誘われる虫のようにふらふらと歩み寄っていた。
「その絵は・・・?」
言葉が口から洩れる。
「これは、私の世界。私だけの世界。」
寂しそうに、少女は言った。
それから私は何度か彼女の元へ訪れるようになった。
彼女が描くと共に生まれる世界。
まるで迷信のようなその様子に、どこか惹かれていた。⑦
何故そこに世界が生まれるのかはわからない。
けれど、そこは常に美しい満ち足りた世界だった。
機械は無い、娯楽のほとんどない世界。
もしもただ娯楽が無いだけの世界ならば、勘弁してほしいと思っただろう。⑤
けれど、その世界には行ってみたい、永住したいとさえ思える何かがあった。
いつだったか、ふと気になって聞いたことがある。
「何故きみは絵を描くのか。」
と
少し時間が経って帰って来た答えは
「絵が好きだから。」
というありきたりな内容だった。
気が抜けて絵に視線を戻そうとして、ふと彼女の足に視線がいった。
少し紫がかったような皮膚。
所謂青あざだった。
それも、よく見るとそこだけではない。
よく隠れているようではあるが、体の節々にその跡が見えた。
「虐待されているの?」
今思えば失言だったと思うこの言葉を、言ってしまった。
一筋、涙が彼女の頬を伝う。
けれども彼女の顔は少しも変わらず、まるで仮面を被っているように無表情だった。①
その日から、彼女は居なくなった。
後味の悪い別れに、私は何度も後悔した。
まだ、彼女とは会えていない。
それでも心のどこかで会えるのではないかと思いあの場所へ通う。
その日は、ちょうど別れた日だった。
~♪~♬
口笛の音が聞こえる。
少しおぼつかない調子のそのメロディを辿っていく。
いつもの場所よりいくらか下の場所に一枚の紙があった。
よく見るといつもの紙を4枚張り合わせてあった。
そして、そこには湖が存在していた。
けれども、いつもの彼女の絵とは違う点が一つあった。
ボートに人が乗っている。
彼女だ。
一歩、踏み出す。
今までも絵の中へ入ろうと試みた事はあったが、紙が小さくて不可能だった。
けれど、このサイズなら。
次元の壁を通り抜け、絵の世界へ沈んでいく。④
その瞬間、世界が、きみが溢れた。⑨
いるだけで様々な感情を感じるその場所は、まさに彼女の心の中そのものであった。
-寂しい-
-怖い-
-苦しい-
時折感じるその感情に胸を締め付けられながらも、彼女の元へ駆けていく。
彼女は、ボートの上で絵を描いていた。
そこにはやはり一つの世界が出来上がっていた。
その瞬間私は悟った。
彼女を虐待していた者の心を。
彼女が人を描かなかった理由を。
きっと、彼女は世界を描くことができる。
では、元の世界が彼女が描いた世界ではないと誰が断言できる?
そして、もし彼女が描いた世界だったとして彼女が“次の世界”へ行ってしまったら元の世界はどうなる?
きっと、それを恐れたのだろう。
彼女が通り抜ける事の出来ない小さな紙を与えて。
けれども、彼女は世界を創り上げた。
人の居ない、静かな世界を。
私は彼女に語り掛ける。
「もう大丈夫だよ。」
と
この世界が何枚目だったとしても関係ない。
私がこの不思議な少女の傍にいることができるなら。
-了-
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ギリギリまで粘ってくださって、本当にありがとうございます!おかげでこの作品に出会うことが出来ました!絵の中に入るっていう展開が、もう大好きなんですよ。執筆にも繋がることですが、「かく」っていう行為は、自分の心の中にあるものを形にする行為だと思うんです。だから、少女が描いた作品に込められた彼女の苦悩を、主人公が感じ取るという描写がとてもしっくり来ました。彼女だけの世界、彼女の心の叫びを閉じ込めた世界に、足を踏み入れ、傍にいることを選んだ主人公。エモい。なんてエモいんだ。創作意欲を掻き立てられる作品でした!
(https://late-late.jp/mondai/show/7831)
こちらにて、投票フェーズを行っております![編集済]
参加者一覧 23人(クリックすると質問が絞れます)
毎回恒例、長文結果発表です。結果だけご覧になりたい方は、投票所をご覧下さい!
レディィィィース&ジェントルメェェェン!!
第15回 正解を創りだすウミガメ結果発表のお時間だァァァ!!!
……はい、というわけでやって参りました、待ちに待ったこの時が!ひややっこはテンションMAXでそろそろ湯豆腐になりそうです!
今回は25作品もの投稿が寄せられました!本当にありがとうございます!
こちらでは各部門で1位を獲得した作品、そして最優秀作品部門上位3つをご紹介します。それ以外の作品とその獲得票数につきましては、投票所の方をご覧いただきたいと思います。
それでは、参りましょう!!
最難関要素賞
ーーー君、黄身。選ばれたのは……
『🥇⑨きみが溢れた(by 赤升さん)』
これは難しかった!君派と黄身派に主に分かれていましたね。どちらを選ぶかでその後の使い方がだいぶ変わってくる要素です。
匠賞
ーーーなんということでしょう。構成、視点、まさに、匠の技です。
🥇⑳『海は塩水でできている』(作:とろたく(記憶喪失)さん)
この作品には、その構成と視点の匠さに舌を巻いた人が沢山いたことでしょう。詳しくはネタバレになってしまいますので言えませんが、ラスト、ヒュッてなります。本当に。まだの方はぜひご一読ください。
エモンガ賞
ーーー世界観、人間関係、情景描写。全てにおいて、エモンガでした。by.冷奴
🥇⑳『海は塩水でできている』(作:とろたく(記憶喪失)さん)
これはもう仕方ないよ……。だって最初っからエモンガだったもん……。
実は、投票所にてご確認いただければ分かりますが、こちらの部門は大変大接戦でした。そりゃそうだ。だって皆さんエモいものばっかり書くんだもん。
おや、会場がざわついている気がしますが、先に行きますよ?
それでは、メインの賞の発表です。
最優秀作品賞
第3位
ーーーあの有名な話が、ウミガメに。
🥉㉑『バグをリセットする話(バックアップもとる)』(作:きっとくりすさん)
多くの人が知っているあの有名な話。でも、その話とこの問題文とを結びつけたのは、本当にお見事です!読んでいて、問題と要素とのマッチの仕方が抜群で驚きました。
第2位
ーーー波線を超えて、ガラリと変わる世界観。
ーーーまさに、創りだす物語。
🥈⑤『口笛おじさんと完璧な僕』(作:みづさん)
🥈⑲『9月30日公演』(作:ハシバミさん)
というわけで、二つの作品が第2位に選ばれました!どちらも異なる作風ですが、一つ確実に言える共通点は、どっちも想定外、ということです。予想の斜め上を行く作品でした!
第1位
そのラストを見届けた時、
その言葉の意味を知った時、
ーーー貴方はきっと、涙する。
「そりゃそうさ。俺は必ず《戻り水》をこの目で確かめるんだ」
🥇⑳『海は塩水でできている』(作:とろたく(記憶喪失)さん)
おめでとうございますっっっ!!!ああ、皆さんのどよめきが聞こえてくるようです!
ええ、そうです!前代未聞(たぶん)の、三冠達成!!匠、エモンガに引き続き、最優秀作品賞までも堂々と勝ち取ったのは、「正解を創りだすウミガメ」大好き芸人こと、とろたくさんっ!!!
さあ、それでは、シェチュ王の表彰を行いたいと思います。
ーーー第15回、正解を創りだすウミガメ、シェチュ王となったのは!
👑とろたく(記憶喪失)さん👑です!!
シェチュ王→主催→シェチュ王→主催→シェチュ王は、もう、レジェンドでしょう!!
それでは、とろたくさんに王冠を授けます!!
ヘイッ![丿 °∀°]丿シー==三三👑ヽ(´▽`)/ワーイ
涼花さんありがとうございましたー!先輩からの言葉はさすが重みが違います……。よく心に刻んでおきます。頑張ります!エキシビション感想ありがとうございます!涼花さんの創作意欲を刺激できたなら、もう本当に万々歳です![19年10月08日 21:18]
とろたくさん、ありがとうございました!3連です!!おめでとうございます!!とろたく巻きで世界征服する勢いでいいんじゃないでしょうか(????)そして、例え私出場してても、これは絶対とろたくさんの優勝です。圧倒的これだ感でしたから。豆腐のイソフラボンに誓って言います(???????)次回の菩薩ハットトロッタク楽しみにしてます!!![19年10月08日 20:54]
藤井さん、ありがとうございましたー!!創りだす菩薩、すごい好きです。すごいパワーワード。本当に、ガフィーさんフォローの天才ですよ(確信)。作品はもう溢れ出す感情を、欲望のままに書きましたので、喜んでいただけてよかったです、本当に(笑)。うぶ毛ならいいんですかっ?!豆腐に生えてるうぶ毛って、それもはやカビじゃないですか?!大丈夫ですか?!!私にも藤井さんの爪の垢とうぶ毛ください。[19年10月08日 20:27]
マクガフィンお疲れ様でしたー!そしてもう本当に色々ありがとうございました。君いなかったら恐ろしいことが起こってたと思います。ぜひぜひ!またみんなで盛り上がりましょう!ありがとうございました![19年10月08日 20:11]
靴下さん、ありがとうございましたー!!わー!エキシビション褒めていただいてありがとうございます!つ、爪の垢?!ワタクシ豆腐なので、カド削ればいいですかね(?)[19年10月08日 20:08]
ひややっこさん運営お疲れ様でしたー。感想も丁寧でエキシビションまで、ほんとに忙しい中して下さったおかげで楽しめました。ガフィンさんもビッキーさんもひややっこさんも、ほんとに受験頑張りましょうね。浪人生からのアドバイスとして、学校で当たり前みたいな風潮が出てても浪人はマジで何があってもダメですからね。散々聞かされてると思いますが特に今年はほんとにヤバいです。 そして、とろたくさんおめでとうございますー!4冠やばっ・・・自分も2冠なので、3までは受験終わってから頑張って追いつこうって思ってましたが、4は無理っすね笑 すぐに5もとりそうな気がしてます。ほんとに凄かったです。とろたくさんの作品とかエキシビションは本当に勉強になりましたし、自分の創作を司る部分が刺激されました。・・・まぁ、流石に1回辞めますって言ったのに参加したり、時期がやばかったりで3月までは参加を控えますが・・・シクシク [編集済] [19年10月06日 23:04]
待って?(待って)・・・待って?? もうなんてコメントしたらいいかわからんのですけど???? さすがに3連とか思ってなかったんですけど???? うん?????? と、とにかくありがとうございます????????? もちろん投票してくださった方も本当にありがとうございます?????? あ、それと皆さんも言っておりますが、エキシビジョン最高でした。ひややっこさんがいたらひややっこさん優勝でした。では、次回は創りだす菩薩としてハットトロッタクをキメていきたいと思います(?????)[19年10月06日 22:53]
ながたくさんすごい通り越してわろてます。創りだす芸人とかいうレベルじゃなくなってきてることないですか?創りだす菩薩とかでいいんじゃないですか?(言いたいことをうまく例えにできない人)圧倒的大差での三冠そして実質3連覇おめでとうございます。ハットトロッタクとかいう唯一称号出来てもいいと思う(上手いこと言えてるようであまり言えてない人) そしてひやちゃん改め完全に茹で上がってしまってる湯豆腐ちゃん、主催ほんとにお疲れさまでした。ガフィーさんとのナイスコンビでした。作品への感想もすごく嬉しかったですし、繰り返しになりますがエキシビションめちゃめちゃ良かったです。 爪の垢レターパックが流行っているみたいですが、爪の垢はちょっとさすがに開封時に動揺を隠せないので、うぶ毛のレターパックお待ちしてます。 拙作にコメント、投票くださった方もありがとうございました![編集済] [19年10月06日 22:36]
ひややっこさん、お疲れさまでした!!とろたくさん、やはり生粋の?創り出す芸人!さすがです…。どの作品も素晴らしく、本当に投票悩みました(>_<)感想や投票頂けて、幸せです。[編集済] [19年10月06日 22:13]
ひややっこさんおつかれ様でした!&とろたくさん三冠おめでとうございます!!!さすがとろたくさん…怖い…その才能が怖いです…。ひややっこさんコメント丁寧につけてくださって本当にありがとうございます!エキシビションも感動でした!本当にお疲れ様でした![19年10月06日 21:50]
皆さん、参加してくださった方も観戦してくださった方も、本当にありがとうございました。いっぱいミスしちゃったけど、すごく楽しかったです。皆さんの暖かい励まし、そして、何度も助けてくれたマクガフィンのおかげです。本当に、本当にありがとうございました!![編集済] [19年10月06日 21:31]
そしてエキシビション、あれはすごかった。かっこよすぎる。時系列をいじくりまわしながら最後の一文で綺麗に締めくくっていて言葉も出ませんでした。うわ、、うわ、、なんだこれすごい、、とただ圧倒されておりました。創り出すに投稿されていたこれまでの作品と比べて異色でしたがめちゃくちゃ面白かった。同一人物かどうか疑うレベルです。本当にありがとうございました![19年10月06日 21:26]
うわあああああああああああとろたくさんおめでとうございます!!!!とんでもねえ作品でした!そして主催ひややっこさんお疲れ様です&ありがとうございましたッ!丁寧な感想つけてくれてもう、、あと少しで涙腺壊れてました。全ての作品に言葉のブーケを送られていて、本当に大変だっただろうなと。[19年10月06日 21:26]
(観戦しました) ひややっこさん 開催・進行お疲れ様です!! とろたくさん 15回大会の匠賞エモンガ賞シェチュ王おめでとうございます!! 「正解を創りだすウミガメ」大好き芸人は伊達じゃないッ[19年10月06日 21:25]
Syo!さん 「長文にするならチェック」という項目がなくても改行できるようになったっぽいので、編集画面で改行すれば、いい感じの長文にできるようになるはずです。[編集済] [19年09月25日 00:23]
こんばんは。 作品投稿しようかと思うのですが、No.72の執事アーノルドさんは単なる書き込みミスでしょうか?それとも作品投稿の最中でしょうか? 少し様子を見て、18時10分を過ぎても反応がなければ作品投稿させていただきますね。[19年09月24日 17:53]
不慣れなもので、対応遅くて申し訳ないです!Mさん、大丈夫ですよー!Syo!さんとごあつ雨涼花さんの要素まで入れて先行させていただきます。(涼花さん、要素追加ありがとうございます!)[編集済] [19年09月22日 21:19]
暗闇の中、ある人が船を漕いでいた。
その人が口笛を吹いたことで、ずっと探し求めていたものが見つかった。
状況を説明してください。
【要素】
①仮面
②結婚する
③そこそこ柔らかかった
④沈む
⑤勘弁してほしい
⑥光は射す
⑦迷信は関係する
⑧雪国
⑨きみが溢れた
⑩せめて声だけでも聞きたい
ミスが多々あって申し訳ございません。以下が正しいタイムテーブルとなっております。ご確認よろしくお願いします。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
9/22(日)21:00~質問数が50個に達するまで
◯投稿フェーズ
要素選定後~9/30(月)23:59まで
◯投票フェーズ
10/1(火)00:00頃~10/5(土)23:59まで)
◯結果発表
10/6(日)21:00の予定です。
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!