【正解を創り出すウミガメ】花より断固【第13回】

“問題文”

一年の間、同じ行動を繰り返す男がいた。
そんな彼に真実を伝えるために、女は咲いていた花をすべて摘みとった。

一体どういうこと?





さてさて皆様、きまぐれな空模様の下、いかがお過ごしでしょうか?夏なのか梅雨なのか、一貫してほしいものですね。

そんな中でも毎月必ずこのイベントはやって参ります。
第13回正解を創り出すウミガメ!
(前回はコチラなのですhttps://late-late.jp/mondai/show/6070
らてらて鯖では今回から2年目に突入した本企画になぞらえて、問題文も“っぽい”ものにしてみました。

そして今回の要素は10個で参りましょう。

らてらて鯖での記念すべき第1回も要素は10個でした。あの時に灯った伝統の聖火、受け継がれることはや一年。
そして今宵、新たな歴史の1ページが刻まれるッ!!


すみません、取り乱しました。
それでは気を取り直して、こちらがルールになります〜!


■■ 1・要素募集フェーズ ■■
[7/13(土)21:00頃~質問が50個集まるまで]

初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。


◯要素選出の手順

1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。

2.皆様から寄せられた質問の数が”50”に達すると締め切り。
3つをマクガフィンが選び、残りの7つを乱数に委ねます。前回に倣ってある程度の矛盾要素もOKとします。(ただし、主催者選出の要素で選ぶことはありません)
 合計10個の質問が選ばれ、「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。

※良質としたものを以下『要素』と呼びます。

※あまりに矛盾して成立しなさそうな場合や、条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。3回目ですし、そろそろ期待。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)

なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。


■■ 2・投稿フェーズ ■■
[要素を10個選定後~7/22(月)23:59]

要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。

らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!

※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ


◯作品投稿の手順

1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
 質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
 コピペで一挙に投稿を心がけましょう。

2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
 記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
 しばらく時間をおいてから再び確認してください。

3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
 後でタイトル部分のみを[良質]にします。

4.次の質問欄に本文を入力します。
先日のアップデートにより質問の文字数制限がなくなりましたので、編集する必要はございません。
「長文にするときはチェック」をお忘れなく。

5.本文の末尾に、おわり完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。


■■ 3・投票フェーズ ■■
[7/23(火) 00:00頃~7/27(土)23:59]

投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。



◯投票の手順

1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。

2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
 それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
 また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。

※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。

3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。

 《メイン》

 ◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈

 ◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈

 ◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈


 →見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!


※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。



■■ タイムテーブル ■■

◯要素募集フェーズ
 7/13(土)21:00~質問数が50個に達するまで

◯投稿フェーズ
 要素選定後~7/22(月)23:59まで

◯投票フェーズ
 7/23(火)00:00頃~7/27(土)23:59まで

◯結果発表
 7/28(日)21:00の予定です。



■■ お願い ■■

要素募集フェーズに参加した方は、出来る限り投稿・投票にも御参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!

もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。


それでは、『要素募集フェーズ』スタートです!
質問は1人4回までです。皆様の質問お待ちしております!
[「マクガフィン」] [☆☆編集長]

【新・形式】19年07月13日 21:00

結果発表いたしました!ご参加本当にありがとうございました!

新・形式
正解を創りだすウミガメ
10ブクマ
No.1[靴下]07月13日 21:0107月13日 21:45

[最後にランダムに選ばれる要素]はNoですか?

YES NOどちらでも構いません

No.2[靴下]07月13日 21:0207月13日 21:45

高所恐怖症ですか?

YES!!高所恐怖症です① [良い質問]

No.3[靴下]07月13日 21:0307月13日 21:45

最後まで気づかれませんでしたか?

YES NOどちらでも構いません

No.4[夜船]07月13日 21:0307月13日 21:45

先端恐怖症ですか?

YES NOどちらでも構いません

No.5[赤升]07月13日 21:0307月13日 21:45

水着回ますか?

YES NOどちらでも構いません

No.6[夜船]07月13日 21:0407月13日 21:45

外しますか?

YES NOどちらでも構いません

No.7[赤升]07月13日 21:0407月29日 15:47

人間として合格ですか?

YES!!人間として合格です② [正解][良い質問]

No.8[ひややっこ]07月13日 21:0407月13日 21:45

瓜二つですか?

YES!!瓜二つです③ [良い質問]

No.9[太陽が散々]07月13日 21:0407月13日 21:45

後出しですか?

YES NOどちらでも構いません

No.10[夜船]07月13日 21:0407月13日 21:45

願いをかなえますか?

YES NOどちらでも構いません

No.11[太陽が散々]07月13日 21:0507月13日 21:45

パパイヤの香りではありませんか?

YES NOどちらでも構いません

No.12[太陽が散々]07月13日 21:0507月13日 21:45

ハラスメントですか?

YES!!ハラスメントです④ [良い質問]

No.13[夜船]07月13日 21:0507月13日 21:45

強制しますか?

YES NOどちらでも構いません

No.14[赤升]07月13日 21:0507月13日 21:45

ひたすら走り続けましたか?

YES NOどちらでも構いません

No.15[かふぇ・もかろに]07月13日 21:0607月13日 21:45

何もないところを殴りますか?

YES NOどちらでも構いません

No.16[太陽が散々]07月13日 21:0607月13日 21:45

膝より上全てですか?

YES NOどちらでも構いません

No.17[まりむう]07月13日 21:0607月13日 21:45

意識高すぎますか?

YES NOどちらでも構いません

No.18[まりむう]07月13日 21:0607月13日 21:45

スイカを食べますか?

YES NOどちらでも構いません

No.19[まりむう]07月13日 21:0707月13日 21:45

何故か寒いですか?

YES NOどちらでも構いません

No.20[赤升]07月13日 21:0707月13日 21:45

それは人生ですか?

YES NOどちらでも構いません

No.21[ひややっこ]07月13日 21:0707月13日 21:45

後の祭りですか?

YES NOどちらでも構いません

No.22[かふぇ・もかろに]07月13日 21:0807月13日 21:45

全てに意味はないですよね?

YES NOどちらでも構いません

No.23[まりむう]07月13日 21:0807月13日 21:45

目薬がよく効きますか?

YES NOどちらでも構いません

No.24[かふぇ・もかろに]07月13日 21:0907月13日 21:45

光が眩しすぎましたか?

YES!!光が眩しすぎました⑤ [良い質問]

No.25[ひややっこ]07月13日 21:1007月13日 21:45

毒でしたか?

YES NOどちらでも構いません

No.26[きっとくりす]07月13日 21:1107月13日 21:45

ちょうちょが竜巻をおこしますか?

YES NOどちらでも構いません

No.27[ハシバミ]07月13日 21:1107月13日 21:45

締切に追われていますか?

YES!!締め切りに追われています⑥ [良い質問]

No.28[かふぇ・もかろに]07月13日 21:1207月13日 21:45

汚れは血と混ぜましたか?

YES NOどちらでも構いません

No.29[ハシバミ]07月13日 21:1207月13日 21:45

本当は大嫌いですか?

YES!!本当は大嫌いです⑦ [良い質問]

No.30[残酸]07月13日 21:1307月13日 21:45

フィボナッチ数列は関係しますか?

YES NOどちらでも構いません

No.31[ハシバミ]07月13日 21:1307月13日 21:45

世の中所詮は金ですか?

YES NOどちらでも構いません

No.32[残酸]07月13日 21:1307月13日 21:45

花粉が飛び回りますか? [編集済]

YES NOどちらでも構いません

No.33[ルーシー]07月13日 21:1407月13日 21:45

穴を覗きましたか?

YES NOどちらでも構いません

No.34[ハシバミ]07月13日 21:1407月13日 21:45

階段落ちは関係しますか?

YES NOどちらでも構いません

No.35[ルーシー]07月13日 21:1407月13日 21:45

前にも会ったことがありますか?

YES NOどちらでも構いません

No.36[ルーシー]07月13日 21:1507月13日 21:45

ポストの中に入っていましたか?

YES!!ポストの中に入っていました⑧ [良い質問]

No.37[ルーシー]07月13日 21:1507月13日 21:45

生のまま食べますか?

YES NOどちらでも構いません

No.38[残酸]07月13日 21:1507月13日 21:45

桜の樹の下には死体が埋まっていますか?

YES NOどちらでも構いません

No.39[きっとくりす]07月13日 21:1607月13日 21:45

はちがとびますか?

YES NOどちらでも構いません

No.40[きっとくりす]07月13日 21:1607月13日 21:45

縄張り争いが激しかったですか?

YES NOどちらでも構いません

No.41[マリ]07月13日 21:1707月13日 21:45

風邪を引きましたか?

YES!!風邪を引きました⑨ [良い質問]

No.42[残酸]07月13日 21:1807月13日 21:45

男は恐怖しますか?

YES NOどちらでも構いません

No.43[きっとくりす]07月13日 21:1807月13日 21:45

天気予報は晴れですか?

YES NOどちらでも構いません

No.44[マリ]07月13日 21:1907月13日 21:45

台風が接近していますか?

YES NOどちらでも構いません

No.45[藤井]07月13日 21:2107月13日 21:45

水族館に訪れたことで秋を思い出しましたか?

YES NOどちらでも構いません

No.46[ひややっこ]07月13日 21:2107月13日 21:45

世界征服してみますか?

YES NOどちらでも構いません

No.47[Hugo]07月13日 21:2707月29日 15:48

紫色の宝石を買いますか?

YES!!紫色の宝石を買います⑩ [正解][良い質問]

No.48[こはいち]07月13日 21:2807月13日 21:45

りんごますか?

YES NOどちらでも構いません

No.49[こはいち]07月13日 21:2807月13日 21:45

加熱しちゃいましたか? [編集済]

YES NOどちらでも構いません

No.50[靴下]07月13日 21:2807月13日 21:45

右側通行ですか?

YES NOどちらでも構いません

はい、そこまで〜!要素選定に移ります。
要素選出完了しました!これより投稿フェーズに移ります!
★投稿の際の注意★
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*あとで[良質]をつけるので、最初に本文とは別に「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
*本文の末尾に、【おわり】【完】など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【7/22(月) 23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ!
No.51[OUTIS]07月14日 07:5107月14日 08:34

【死にたがりのピエロ】

〜きっと真実は紫色で〜 [良い質問]

No.52[OUTIS]07月14日 07:5107月28日 00:09

 カツリ、カツリ、ギギィ
階段を上り扉を開けると差し込んできた光が眩しすぎて、皮膚が焼けるような錯覚を覚える中、学校の屋上へたどり着いた。⑤
淀んだ、青藍の空に聳え立つ灰色のビル群は、墓地に並んだ墓石と瓜二つだった③
柵を越え、屋上の淵に立つ。
そよ風さえも暴風に感じ、眼下にはせわしなく走り回る日常がある。
-やはり、駄目だ。-
そう思いふと目を上げる。

あれから、どれくらい経ったか。
目が覚めて、やけに怠いからだを起こすとインターホンが鳴る。
「学校行くよ~!」
近所にすむ幼馴染、コハルの声がする。
「ごめん、風邪引いのか体が怠くって。午後から行くよ。」⑨
「もう、習慣になっちゃってるなぁ。そろそろ直さないとだね。」
「どんな生活しようと、俺の勝手だろ。」
いつからこんな生活をするようになったんだか。
母さんの形見を売り払ったことで、金には苦労せずに済んでいる。
ただ、母さんが俺にと買ってくれた、誕生石の小さな紫色の宝石が付いたペンダントだけは売れずにいた。⑩
そういえば、もうすぐ誕生日か。
そんなことを考えながら重い体を持ち上げて、課題に向き直る。
課題の締め切りは来週にまで迫っていて、ポストには新しい課題が詰め込まれている。⑥⑧
太陽が南中している。
・・・何で生きているんだろう。
そんな厭世家気どりの思考に浸りながら、ノートを閉じて家を出る。
「生きる事に意味を求めるのは、責務の理由を抽象化した結果であり死を望んでいるわけではない。ただの現実逃避だ。」
いつか言った、クサい哲学者気どりの自分の台詞が胸に刺さる。
昼休みの学校に着くと、何も考えず屋上へ向かう。
カツリ、カツリ。
屋上から見える景色はやけに鮮やかで、無機質だった。
・・・駄目だ。
いつからだろうか、昔は何も思わなかったのに、今では高い所が恐ろしく感じるようになった。①
やっぱり死ねない。
次は、どうすればこの面倒くさい人生を辞められるのだろうか。
そういえば、今日の花壇はやけに花が多くないか?

 「学校行くよ~!」
もう、誰も住んでいない家のインターホンを鳴らして声をかける。
返事はない。
「もう、習慣になっちゃってるなぁ。そろそろ直さないとだね。」
ひとりごちて、幼馴染の家を後にする。
そういえば、今日でもう一周忌か。
花を買っていかないとね。
そう思って立ち寄った花屋で買った紫色のリンドウの花束を片手に学校へ向かう。
何人か同じように花束を買ってきた生徒がいるらしく、やけに背の高い花が咲いている花壇は沢山の花で埋まっていた。
・・・
その花壇の中で、何かがキラリと光ったのが見えた。
手に取ってみてみると、それは小さなアメジストがついたペンダントトップだった。
「あいつの・・・だよね。」
彼が母親に買ってもらったというペンダント。
普段肌身離さずつけていたのをよく覚えている。
お墓に持って行ってあげよう。
そう思ってその場を去った。
 何事も無く午前の授業が終わり昼食を食べていると、窓の外を何かがものすごい速さで落ちて行くのが見えた。
ドスッ
という音に驚いて窓から下をのぞき込むと、花壇の中に彼が倒れていた。
慌てて玄関から飛び出して花壇へ向かう。
「ねぇ、生きてるの?」
その問いに驚いたように彼は答えた。
「生きてる?むしろどうして死んでいると思ったんだ?」
だって・・・
「だって、あんた、死んでるでしょ。」
その言葉を彼は他人事のように聞いていた。
「あんたは学校の奴らから嫌がらせをされて、いつもあいつらを殺したがって、死にたがってた。」④
「まあ、殺さなかっただけまだ人として合格なんじゃないの?」②
でも・・・
「でも、あの日、1年前にあんたは・・・死んだ。」
「きっと、あんたはいつもみたいに死ぬ気はなくって、ただ足を滑らせただけだったのかもしれない。」
まだ、現実を受け入れられていないような顔で彼は聞いている。
「このペンダントトップ。」
それを出した途端、彼は目に見えて焦り出した。
「さっき、ここで拾ったの。」
「私ね、あんたの事が本当は大嫌いだったの。」⑦
「何かあるとすぐうじうじして、何でもかんでも引きずって。」
「もしかして、あの日からあんた、ずっと繰り返してたの?」
「ねえ、現実を見なよ。」
そう言って私は背の高い花を摘んでいく。
そこに残ったのは、いくつかの献花。
「見なよ、あんたへの献花だよ。ほら、これなんてわざわざあんたの名前まで書いてある。」
それを見た彼は、とうとう現実を受け入れたようで
「そっか、結局俺は死んでも道化だったんだな。」
そう言って消えていった。
ペンダントトップのアメジストが灰のようになって崩れ落ちていく。
私の眼から、涙が零れ落ちて行く。
さようなら、私の親友。
-了-
[編集済]

今回もトップでの投稿、おつかれさまです。
何作品かあった『実は死んでる』系の真実でしたが、当の本人に死の事実を告げるというエモい発想はこの作品だけでした。
少年の厭世的な視点から描かれる前半と話し言葉を主とした少女の視点から描かれる後半の“描き分け”を可能にしているOUTISさんの文章力には舌を巻きます。
投稿ありがとうございました。

No.53[残酸]07月14日 17:3507月14日 23:01

タイトル【菊〜真実を伝えて】

その日々は贖罪か、その愛は真実か。 [良い質問]

No.54[残酸]07月14日 17:3607月28日 00:09

「今日も綺麗だよ。菊代。」
俺は今日もそう嘘ぶく、その嘘だけで固められた立場を利用して、その嘘で固められた仮面で。

==================================

俺には一人の兄がいた。出来た兄だった。勉強も運動も性格も。誰もに誠実で時に勇敢な兄だった。
兄はもてはやされ、俺は常に周りから出来損ないと、人間失格だと言われた。
俺は兄を妬み、そしていつも周りに八つ当たりをしていた。④女性相手に無礼なこともした。そんな時いつも兄はそんな俺を宥め、そして周囲に一緒になって謝ってくれた。そして俺は出来た兄を見て、また妬む。その繰り返しだった。


ある日、兄と俺は都会に出た。都会の光は俺たちにとっては眩しすぎて⑤、俺を浮つかせるのには十分だった。そして十分注意していなかったからだろうか、いつのまにか俺たちは人の少ない路地へと付いていた。
「やばいな、迷ったか?」
そしてそのまま歩くと、そこには仮面を被り包丁や釘バットを持った、謎の人々がいた。カルト教団「シメキリ」である。彼らの足元には血だまりの出来た人がいた。彼らはこちらを振り向き、こちらに向かってきた。殺される。俺たちはそう思い、その場を逃げ去った。しかし彼ら⑥は後ろから追いかけてくる。

「このままじゃまずいな…二手に別れるぞ。」
「えっ」
「次の道でお前は右に曲がれ。もし無事に逃げ切れたら、牡丹駅で落ち合おう。」
「わかった。」
「もし俺が戻らなかったら…頼みがある、俺が亡くなったことを菊代に伝えないでほしい。」
そう兄は死亡フラグを口にした。菊代というのは兄の彼女のこと、俺が何度も嫌がらせをした相手で、それを兄がフォローしていたうちに恋に落ちたのだという。
この兄は疑うということを知らないのか、俺が彼女に何かすると考えないのだろうか。俺はそう思いながら路地を右へと曲がった。そのまま走り、駅へとついた。兄は……その日が終わっても戻って来なかった。
何があったのか詳しいことはわからない。ただわかるのは、俺が兄に生かされたということだ。あの誰からも認められた兄が誰からも必要とされない俺を守ったのだと。俺の残された選択肢は兄の遺言をこなすこと、兄の死を誤魔化すこと…それしかなかった。


俺は兄になりきることにした。整形してもらえば、顔は③瓜二つになることもできる。必死に勉強し、運動し、兄に追いつけるように。そうして「俺」は「兄」になった。それからはすぐに行動は決まった。俺は兄の彼女の元へその顔で向かった。彼女は嬉しそうに「兄」を見つけてすぐに駆け寄って、心配をしてくれた。本当に目の前にいるのは俺なのに、あんたが大嫌いはずの俺だと言うのに。それでも俺は兄の遺言をこなす他なかった。両親も周りの人々も、俺を疑いはしなかった。「兄」がいることしか気にはしなかった。俺は俺を捨て、さらに惨めな気持ちになった。それでも俺は兄に生かされたのだからと、性格を偽り、彼女---菊代を安心させ、デートに行き、お揃いのデザインのペアリングを付けて、心にもないはずの愛の言葉を毎日かけ続けて。そんな日常を1年も過ごしている。

==================================


1年も経ったある日のこと、同棲していた俺と彼女の家の⑧ポストに一通の手紙が送られた。

---兄の死亡通知だった。

埋められた兄の遺体が見つかったのだった。犯人の供述もあり、確かな情報である。そして俺がそれを隠そうとした時に、 彼女が直ぐ後ろにいた。

「梅野さん…今梅野さんが読んでいるのは、梅野さんの死亡通知…ですよね?」

彼女がそう声をかけてきて、俺はすぐに家から逃げ出した。そのまま雨の中をひたすら走った。バレたことに恐怖して、拒絶されることに恐怖を感じて。そうして走り続けて、河原まで走った俺は泣きながらしゃがみこんだ。
そして俺は気づいた。気づいてしまった。俺は罪悪感を感じながらも、他人の姿であっても、菊代に---彼女に認めてもらえる生活に喜びを感じていたと言うことを。が、それももう遅い。俺が「兄」でないと知られたら彼女は間違いなく俺の元から離れるだろう。
俺は頰を、髪を雨で濡らしながら泣き続けた。そして泣きつかれた後帰った家にはもう誰も居なかった。俺は失意のうちに身支度もせずベッドに潜り込んだ。

==================================

「はあ、雨に濡れて何もしなかったら風邪ぐらい引くでしょうに…」

しかし彼女は次の日、⑨風邪をひいた俺の元へとやってきた。

「なんで来たんだ。俺はあんたの彼氏じゃなくではなく…」
「弟の梅野 晶さん、ですよね。」

彼女は俺の看病としてりんごの皮を剥きながら迷うことなくそういった。
「だったら、なぜ俺にこんなことをする?俺は今まであんたに酷いことをして、あんたを騙し続けて…そんな俺の元に来る?!」
俺は癇癪を起こしたが、風邪の熱のせいか体に力が入らない。彼女に宥められ、ベッドに戻されてしまう。

「気づいていないと思ってたんですか?あなたが晶さんの兄でないことに。」
「え?」
「いつも、いつか話してほしいと思ってた。この家には常に菊の花が置いてあるでしょう?」
そう言いながら彼女はうちにある花を持ってきて摘み取り見せてきた。たしかに俺の家には菊が、彼女が送る花には常に菊の花があった。
「それは君の名前に菊が入っているからじゃ…。」
「いえ、私本当は菊の花が③大嫌いなんです。私が菊の花を送り続けたのは…菊の花言葉は…、『あなたの秘密を伝えて』。ずっと、話して欲しかった。晶さんは嘘をつき続ける罪悪感で辛そうだったから。」

「え、知ってたの…か?俺が兄ではないことを。」
「ええ、割と最初から。話してくれませんか、何があったのか、真実を。」

そう言われて、俺は全てを話した。あの日、兄が捕まったことを、兄に頼まれて菊代に兄自身の死を隠すように言われたことも。菊代は何も言わずに黙って聞いていた。

「そうでしたか…災難でしたね…」
「この通りだ、今まで嘘をつき続けてきたこと、謝って許されることじゃないが…すまなかった。」
「謝らなくて構いませんよ、晶さん。」
「なぜ、菊代はこんな俺を、人を騙そうとした俺を、過去にあんたにひどい真似をした男を許せるんだ!」

「簡単なことです。私はこの1年、自分の身を犠牲にしてでも、秘密を守り続けてきた晶さんが好きになってしまったんです。」
「え?」
「それだけです。兄の為に頑張り続ける晶さんを、好きに…なってしまったんです。」
菊代はそう言うと、俺の指にはまっていたパールのデザインが入ったペアリングを取り、そこに、アメジストのあしらわれた同じデザインのペアリング⑩をはめた。

「晶さんは誕生日が2月だそうですね。調べて作ってもらっていました。…もう一度言います。私は兄の為に頑張る、秘密を必死に守ろうとする晶さんが好きになってしまいました。私と、これからも一緒にいてくれませんか?」
「俺を…許してくれる…のか?」
「はい!私はそんな晶さんに。惚れてしまったんですから。1年も耐え続ける、晶さん人間として、とても立派な人だと思います。②」

「う….」
俺は昨日流した涙の量に負けないくらい涙を流し続けた。目の前にいる彼女が俺を拒絶しなかったことに。「俺」を認めてくれる人がすぐ近くにいることに。彼女は優しく泣いている俺を介抱してくれた。



「そういえば、どこで俺が兄ではないことに気づいたんだ?」

少し泣くのが落ち着いた頃に俺は菊代に対してそう質問した。
「ああ、知りませんでしたっけ?晶さんの兄は高所恐怖症①なんですよ。」

そういえば街に出た時も頑なにビルには登ろうとしなかったな…俺はあのなんでもできる兄が高所に怯える姿を想像して、思わず笑ってしまった。

「そうか…バレバレだったか…バレバレだったか…!」
そうして俺は隣にいる大切な人と笑い合った。


外の庭には雨露に濡れて太陽の光を受けて輝く、紫陽花の花が揺れていた。
【完】

一貫して主人公の視点で語られ、嫉妬・絶望・愛情と心情描写の多い作品にも関わらず、まったくしつこく感じません。それはひとえに、整合性が取れていて共感できる思いが、長すぎず短すぎない丁寧な描写によって表されているからだと思います。
冒頭から引き込まれる作品でした。投稿ありがとうございました。

No.55[みづ]07月15日 01:2807月15日 22:07

サクラサクまで

とある作家の憂鬱が、新たな世界を創り出す [良い質問]

No.56[みづ]07月15日 01:3107月28日 00:09

『一年の間、同じ行動を繰り返す男がいた。
そんな彼に真実を伝えるために、女は咲いていた花をすべて摘みとった。

一体どういうこと?』


今回のリクエストは、このお題に沿った作品を創ることだった。


サクラは敷き詰められた花を
すべて摘み取った

「さぁ、何から始めましょう」

……………

ダメだ。
間に合わないかもしれない。

男は締め切りに追われていた⑥。
あと、二週間か。
書き出したものの、サクラは一体何をおっ始めるのだろう。男に伝える真実とは……?

よし、散歩にでも行こうか。

男は高所恐怖症①なので、古ぼけたアパートの一階に住んでいた。
履き潰したスリッパに足を突っ込み、とぼとぼと男は歩き出す。

~~~~~~~~~~

いやぁ、この『人間として合格です②』は素晴らしい!
この調子で、よろしくお願いしますよ!
あなたなら、いくらだって稼げる。

担当者の声が、耳の奥で何度も木霊した。
気晴らしの散歩に出たものの、目に映るのはアスファルトばかり。
そして、ある場所で白い建物を一度見上げてから、アパートへと引き返した。

~~~~~~~~~~

その手紙は出版社宛ではなく、男の自宅ポストに入っていた⑧。

『人間として合格です』、読ませていただきました。
桜を題材に、ひとりの少女目線で描かれた世界。
入学式のシーンでは、思わず涙が溢れました。
ーーなぜ?
の答えが、あの一瞬にあったのですね。
先生のこの作品は、数ページという短さにも関わらず、私たちの胸を打ちました。

そこで、是非先生にお願いしたいのです……。

~~~~~~~~~~

詩を学び、そこからショートショート作家としてようやく日の目を浴びた作品だった。

しかし今は、毎月のように送られてくるファックスに頭を悩ませる日々を送っている。


ーー紫色の宝石を買った⑩、瓜二つ③の男女の末路とは?

なんだこりゃ。
短い丸文字の問いかけに、男は眉根を寄せた。

ーー先生、ここからイマジネーションを爆発させて欲しいのです!
ギリギリセクハラ④にならないような内容でお願いします。

つまり、きわどい文章で書けと言うことか。

風邪を引いている⑨にも関わらず、期日は迫っている。
男は咳き込みながらも気晴らしの散歩に出てはアスファルトを眺め、白い建物に目をやり帰路に着くのだった。

~~~~~~~~~~

一年間、毎月のようにそんな生活を送っていた男。

散歩から戻ると、またファックスが送られてきていた。

ーーこれは、先生への最後の質問です。

それに続く文章を見て、男は涙した。

ああ、この悶々とした日々も、今回で終わるのか。
良かった、本当に良かった……。

『一年の間、同じ行動を繰り返す男がいた。
そんな彼に真実を伝えるために、女は咲いていた花をすべて摘みとった。

一体どういうこと?』

さあ、仕上げに入ろう。
最後の作品を創り上げるのだ。

~~~~~~~~~~

眩しすぎる光⑤と大音量。
男はとあるコンサート会場にいた。

事故で入院中、生死をさまよい再起不能だと言われていたサクラは、メンバーに支えられながらも堂々とその中心に立っていた。

アンコール、アンコール!

衣装を変えて現れた彼女たちは、皆制服姿だった。

「みんな、ありがとー!」

ステージに敷き詰められた造花を摘み取り、客席にばらまく演出が始まる。
男には届かなかったが、大歓声と共に現れたサクラと、目が合ったような気がした。
いや、メンバー全員が男を見ていた。

「先生……告白します!私たちが貴方の教え子だった頃、みんな貴方のことが大嫌いでした⑦!」

うん、初耳!!

手紙には、尊敬しているだの授業が面白かっただの色々と書いてただろうが。

確かに、偏屈で頑固な自分は、生徒たちに好かれることなどまずなかっただろう。

「……でも、一番記憶に残っていたのも、間違いなく貴方なのです。私たちの無茶なお願いを聞いてくださって、ありがとうございました!」

皆が声を揃えて言う。
男は目頭が熱くなるのをどうにかこらえた。

ファンならば、誰もが知っている。
男はサクラ不在の間、彼女の代わりに作詞をしていた。

男は舞い込んできた作家の仕事を全て蹴り、作詞に没頭していた。
安アパートに住み、履き潰したサンダルで散歩に出かける。

回復を祈り作曲を続け、毎月謎のファックスを送ってくる教え子とのやりとり。
病院までの道を気晴らしの散歩と歩く自分。

全ては今日、この日のために。

「作詞、海野カメオ先生……『サクラ』聴いてください!!」

♪サクラは敷き詰められた花を
すべて摘み取った

「さぁ、何から始めましょう」

私はきっと、歌うのだろう♪

【完】
[編集済]

締め切りに追われる先生に気晴らしの散歩。それらの情景を思い浮かべてみても、明るいものとは言えません。
しかしそんな中でも読書意欲を失わせず、クライマックスに溢れる多幸感を表現するというのは簡単なことではないと思います。
普段から心温まるストーリーの問題を出題しているみづさんらしい解説だと感じました。投稿ありがとうございました。

No.57[OUTIS]07月16日 01:4507月17日 06:44

【創り出された白雪姫】

姫を解き放つのはあなた [良い質問]

No.58[OUTIS]07月16日 01:4507月28日 00:09

「鏡よ鏡、世界で最も美しいのはだあれ?」
「それは、貴女でございます。お妃様。」
毎日行われる儀式めいたやりとり。
それが終わったのは、ある少女の7つの誕生日だった。
「鏡よ鏡、世界で最も美しいのはだあれ?」
「それは、スノーホワイトでございます。お妃様。」
いつも王妃を称える鏡は、その日から王妃の愛娘を称えるようになった。
「雪のように白い肌、血のように赤い頬と唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪を持ち、心優しく最も美しい人間に相応しい少女です。」②
それを聞いた王妃は、賢母の仮面を外して彼女を虐めはじめた。⑦④⑪
その挙句、彼女はスノーホワイトを殺そうと考えた。
まず、彼女は狩人を呼びつけて3日以内にスノーホワイトを殺してその臓物を持ってくるように命じた。
しかし、狩人は彼女を手にかけるのが忍びなく、約束の3日目までどうしたものかと悩んでいた。⑥
そこへ一匹の猪が現れた。
狩人はこれ幸いと猪を狩り、その臓物を王妃へと献上した。
王女は喜び臓物を塩で茹でてペロリと食べたが、翌日鏡への問いかけの答えにスノーホワイトの名が出ると、彼女がまだ生きていると知り怒り狂った。
そのころ城を追放されたスノーホワイトは、あらゆる技術に長けた顔のそっくり小人たち7人に匿われ暮らしていた。③
彼女は病弱で、いつも小屋の中で横になっていた。
ある日、小人たちが鉱山へ採掘へ行った日も、彼女は風邪をひいて留守番をしていた。⑨
それを知った王妃は、美しい腰紐をこしらえると、物売りに扮して彼女の元へ出向きこういった。
「お嬢さん、腰紐はいかがかな?」
スノーホワイトは、その美しさに惹かれて買ってしまった。
「では、私がおつけいたしましょう。」
そうしてスノーホワイトが後ろを向いた途端、王妃は腰紐で首を絞めて彼女の息を止めてしまった。
小人たちは帰ってくると大慌てで腰紐を切り、スノーホワイトは助かった。
翌朝、王妃が鏡へ問いかけてスノーホワイトが生きていると知ると、今度は呪いを込めた櫛を作って小人たちの小屋のポストへ入れた。
スノーホワイトは、ポストに入っていた櫛を何も考えずに使い、倒れてしまったが、その場にいた小人たちが慌てて呪いを解いた為彼女は助かった。⑧
翌朝、王妃が鏡へ問いかけてスノーホワイトがまだ生きていると知ると、今度は毒林檎を作り善良な物売りに扮して彼女の元へ訪れた。
「お嬢さん、美味しい林檎はいかがかね?」
それを聞き、彼女は林檎を一つかじってしまう。
途端に彼女は崩れ落ち、深い眠りについた。
小人たちが帰って来た時にはすでに遅く、彼らに彼女の目を覚ます術は残っていなかった。
彼らに出来た事は、硝子でできた美しい棺を彼女に作ってあげることだけだった。

『森の奥に、美しい少女が眠る棺がある。』
そんな噂を聞いた王子がいた。
彼はその噂を聞くと、夜も眠らず馬を走らせ森の中へ向かった。
そこには身罷り眠りについたスノーホワイト。
彼は、薄紫の朝日に包まれた彼女を見ると小人たちに誠実に頼み込んだ。
「どうか、この美しい紫色の宝石を私に譲ってもらえないだろうか。」⑩
小人はお金等要らないと言って、王子にスノーホワイトを託した。
王子は、彼女を傷つけないようにと丁寧に丁寧に城へ運び込んだ。
その日から、王子に新たな日課が出来た。
毎日、彼女の眠りが覚める事を祈り口づけをするようになった。
毎日、毎日、一年中一日も休まず続けた。
ある日、王子に来客があった。
「高い城の階段は好きになれないわね。タールの階段を思い出すわ。」①
その客人は、人形のように何を考えているのかわからない、美しい金の靴を履いた女性だった。
彼女は王子を一瞥すると、白雪姫の元へ向かい淡々と告げた。
「この世界の姫は私だけで十分よ。」
「死んだ人は帰らない。 何をしようと、決して。
 私たちに出来るのは、死人を送る事だけ。」
そう言うと、部屋に飾ってあった花を全て摘み、枕花として硝子の棺に入れた。

その次の日、スノーホワイトの葬儀が執り行われることとなった。
王子が別れのキスをして、いざ出棺というその時、
ガタン
召使の一人が躓き、硝子の棺に振動が走る。
その拍子に、スノーホワイトの口から毒林檎の破片が飛び出ると、彼女は城の眩しすぎる光に目を覚ました。⑤
こうして目を覚ましたスノーホワイトと王子は、めでたく結ばれることとなった。
それ以降、彼女は白雪姫と呼ばれるようになった。
余談ではあるが、彼女らの結婚祝賀会にて件の王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて踊らされたという。
【簡易解説】
スノーホワイトを眠りから覚ます為、1年中目覚めのキスを続けた王子。
そこへある女が現れ、キスでは死人は目覚めないと現実を突きつけてその場に飾ってあった花を枕花としてスノーホワイトの棺に供えた。
-了-
[編集済]

白雪姫という童話の世界のいたるところに散りばめられた要素たち。これぞOUTISさん!という印象でした。
紫色の宝石を比喩として用いた数少ない作品の一つですが、それまでの白雪姫の美しさの描写が絶妙だったからこそその比喩が実感を伴って想像される表現になったのだと思います。
さらっと入ってくる仮面に、思わず笑ってしまったのは秘密です。投稿ありがとうございました。

No.59[とろたく(記憶喪失)]07月16日 21:1307月29日 15:47

よいこのえほん アリスとあかいバラ

「うそをついてはいけません」言葉以上に伝わる絵本 [良い質問]

No.60[とろたく(記憶喪失)]07月16日 21:1307月29日 15:45

《解説》
なんでもない日のためにせっせと白い薔薇に赤いペンキを塗っていた家来たち。
しかし女王は家来たちが自分をだまそうとしていることに気づいたので、怒って白い薔薇の花を全部つみとってしまいましたとさ。
※④:パワハラのほう。
[編集済]

過去にもまさに新ジャンルと言える創り出すを開拓してきたとろたくさんが、今度は漢字を一切使わない絵本風に取り組まれたようです。 [正解]

No.61[とろたく(記憶喪失)]07月16日 21:1407月29日 15:45

アリスが けさのポストをのぞいてみると、アリスあての ふうとうがはいっていました。⑧

「いったい、だれからかしら」
アリスはくびをかしげました。
ふうとうからは、ほのかにバラのいいかおりがしてきます。

ふうとうをあけると、なかには 1まいの トランプのカードがはいっていました。
「おしろの しょうたいじょうだわ」
アリスはすぐにわかりました。
バラと トランプは、じょおうさまの トレードマーク なのです。

「おめかしして、あいにいかなくちゃ」
アリスは、ママがかってくれた アメジストの ネックレスをつけて おしろへむかいました。⑩


おしろへ つくと、あかいバラえんが アリスをおでむかえして いました。
「まあ、すてきなあかいバラが たくさん」
アリスは じょうきげんです。

ところが、アリスは みちにまよってしまいました。
じょおうさまのバラえんは、めいろになっていたのです。

「だれかに みちを きかなくちゃ」
アリスは、ひとを さがすことにしました。

「ごほっごほっ、ああ、こまったな」
だれかの こえがしました。アリスは こえのするほうへあるきます。

すると、みちばたで トランプへいが たおれていました。
トランプへいは、じょおうさまのてしたです。
「ごほっごほっ、ああ、こまったな」

「トランプへいさん、ここでなにをしているの?」
アリスは ききました。
「じつは、かぜをひいていて、もうあるけないんだ。ごほっごほっ」⑨
トランプへいは こたえました。
トランプへいの スペードのマークが、まっかになっていました。

「まあたいへん、すぐに おしろへ つれていかなくちゃ」
ところが、トランプへいは くびをふりました。
「いやいや、これは すぐになおる。それより、これを はこばなきゃ」
トランプへいは、おおきい ペンキかんを ゆびさしました。

「おじょうさん、どうか このペンキを なかまのもとに とどけてくれないか」
「わたし、みちがわからないわ」
「ひかりが まばゆいほうへ むかってごらん。すぐに おしろにつくよ」
「わかったわ。ありがとう、おだいじに」
アリスは、トランプへいとおわかれしました。


「ひかりが まばゆいほうに いけば いいのよね」
アリスは、つよくひかるほうへとあるきました。
めが ちかちかして きましたが、アリスは つよいひかりのするほうへ まっすぐに むかいます。⑤


すると、まばゆいひかりは だんだん きえていきました。
どうやら バラえんのでぐちに たどりついていたようです。

「おい、もうちょっとみぎだぞ」
「いや、ひだりじゃないか」
「いやいや、もっとうえだ」
「ぼく、たかいところが にがてだから、これいじょうはできないよ」①
トランプへいたちが バラのきのまわりで なにかをしているようです。

「トランプへいさん、そこでなにをしているの?」
アリスは ききました。
「しろいバラを、あかいろに ぬっているんだ」
トランプへいは こたえました。
そのトランプへいの かおは、さっきの スペードのトランプへいと うりふたつでしたが、こんどはダイヤのマークでした。③

「どうして そんなことを しているの?」
「まちがって、しろいバラを そだててしまったんだ」
「じつは、じょおうさまは しろいバラが だいきらいなんだ」⑦
「だから、いそいで あかいバラに しているんだ」
「じょおうさまが かえってくるまでに、すべてのバラを あかくしなきゃ」⑥

「へんなの。みんな おなじバラなのに」
アリスは いいました。
「じょおうさまには、ちがうバラにみえるのさ」
「くびを はねられるまえに、いそいで あかくしなきゃ」④
と、トランプへいたち。みんな とても いそがしそうです。

「わたしも てつだうわ」
アリスは もらったペンキかんをあけて、トランプへいたちを てつだうことにしました。


「これで ぜんぶだ」
「まにあった」
「じょおうさまの なんでもないひに まにあった」
トランプへいたちは おおよろこび。アリスも いっしょに よろこびました。

と、ちょうど ラッパのおとが しろじゅうに ひびきわたりました。
じょおうさまが かえってきたようです。

「まあ、みごとな あかいバラ。なんでもないひに ふさわしいわ」
かえってきた じょおうは、ペンキでぬった あかいバラをみて ごきげんです。
「じょおうさま、なんでもないひ おめでとうございます」
アリスは、スカートのすそを ちょっとつまんで おじぎしました。
「あらアリス、あなたも なんでもないひ おめでとう」
じょおうさまも、ゆうがにおじぎしました。

そのときです。
じょおうさまのドレスに、ぽたりと あかいしずくが おちてきました。
「あら? いったい なにかしら」

じょおうさまが うえをみあげると、なんと バラから ペンキが おちているではありませんか。
いそぎすぎて あかいペンキが まだかわききっていなかったのでした。
じょおうさまは ペンキのおちたバラを つみとるだけでなく、のこりのバラまでも すべて つみとって しまいました。

じょおうさまは かんかん。
「これは いったい どういうこと?」
さっきまでの じょうきげんが うそのよう。
ペンキよりも かおをまっかにしています。

「アリスが やりました」
ひとりの トランプへいが こえをふるわせて いいました。
「そうだそうだ、アリスが やったんだ」
まわりの トランプへいたちも いっしょになって いいはじめました。

「ひどいわ、わたしは みんなのために やったのに」
アリスは ひどく おちこみました。だれも アリスのみかたはいません。
「アリス、あなたがやったの?」
じょおうさまは ききました。
アリスは じぶんじゃないと いおうとしましたが、すこしでもてつだってしまったので、しょうじきに いうことにしました。

「ごめんなさい。じょおうさまを よろこばせたかったの」
アリスの めから なみだが ぽろぽろとおちてきました。
「いいたいことは それだけ?」
じょおうは つめたいこえで いいました。
アリスは じょおうさまにさえ しんじてもらえないことが ショックで、なにもいえません。

「ああ、わたし、くびをはねられてしまうんだわ」
アリスは おもいました。
いまになって、じぶんのしたことを こうかいしました。
かんねんして、アリスは ぎゅっと めをつむりました。


じょおうさまは さけびました。




「そのもの たち のくびをはねよ!」




くびをはねられたのは、アリスではなく トランプへいたちのほうでした。

「まったく、さっきまで まいごだったアリスが、どうやって ぜんぶのバラを あかくすることができるのかしら」
じょおうさまは、あきれたようにいいました。
じょおうさまは、さいしょから トランプへいたちのことばを しんじていなかったのです。
「アリス、きょうは つかれたでしょう。
おいしいこうちゃを けらいたちに じゅんびさせるわ」
「でも、わたしも わるいことを してしまったわ」
「たしかに あなたは わるいことをしたわ」
じょおうさまは うなずきます。

「でもねアリス、わるいことは だれだってする。
 もっともわるいのは じぶんのわるいことを はんせいしないことよ。
 わたしは、そういうひとの くびしか はねないわ」
じょおうさまは、アリスに いいました。

「にんげんとして ごうかくなのは、しょうじきに じぶんのしたことを みとめることよ」②

あなたも わるいことをしてしまったら、ひとのせいにしないで しょうじきにあやまるんですよ。
でないと、じょおうさまが くびをはねて しまいますからね。



おしまい


誰もが知るアリスのお話を基にしながら、クセの強い要素たちを回収し、門番たちが一年間働いていることを暗にほのめかし、花の摘み取りに納得感を与える。それだけでも匠なのに平仮名片仮名の読みやすさは、まるで実際の絵本のようです。
子ども向けらしく教訓のようなメッセージも込められており、正直であることの大切を言葉で言うよりも直接伝えられる気がします。
投稿ありがとうございました。
[正解]

No.62[ひややっこ]07月16日 23:0907月17日 23:37

Liar

私の心の声は、貴方に届いていますか? [良い質問]

No.63[ひややっこ]07月16日 23:1007月28日 00:12

1.

明け方の、群青と橙を混ぜたような空を見つめる。
私は、日課の妻の墓参りに来ていた。
墓石の周りには、地面を埋め尽くすように花が植わっている。思わず噎せ返りそうになる甘い香りは、私はあまり得意ではなかったが、妻は花を愛していた。
目を覚まし、身支度を整え、亡き妻に会いに足を運び、帰宅して小説を綴る。妻を失って以来の私の日課だ。
 
「お前がいないと、世界が色褪せて見えてしまうね。これじゃあ、物書き失格だよ」
 
波の打ち寄せる音が遠くから聞こえる。
妻たっての希望で、墓は岩塊に建てている。
崖のふちで海風に当たると、何もかもから自由になれたみたいでしょう、と妻はよく言っていた。
私は、高い所が苦手なものだから、妻の気が知れなかった。①
それでも、共に眠れるのであれば、どこだって文句は言わないさ。
 
「早く、お前に会いに逝きたいよ」
 
返事が返ってくるはずもなく、情けない独り言は冷たい空気の中へ霧散した。
妻は、人間的にとても素晴らしかった。②
体の弱かった彼女は、風邪を拗らせ、最期の一年はずっと床に伏していた。⑨
常に締め切りに追われていた私が、彼女にきちんと向き合ったのは、もう手遅れになってからだ。⑥
満足に医者に診せる金もなく、気休めのような看病しかできなかった私に、妻は恨み言一つ言わなかった。笑って、私を労うのだ。
彼女は、私には眩し過ぎる光だった。最期の最後まで、結局心を支えられたのは、私の方だった。⑤
妻は今頃、天国で私を見守っているのだろう。
お前がいない世界は、死んでしまいたい程、寂しくなるよ。
それでもお前と同じところへ逝くためには、自ら命を絶つことはできない。
潮時に、天使様が私の命を取り去ってくれるのを待つしかないのだろう。
願わくば、その時が一刻も早く訪れんことを。
 
「見事ね、ダーリン」
 
背後から声がして、体が金縛りにあったように固まる。懐かしい声だった。
恐る恐る振り返って、私は絶句する。そこには、妻と瓜二つの女性が立っていたのだ。③
 
「貴方はとうとう、一年間同じことをやり通した」
「……」
「街へ出ることもなく、新しい出会いを求めることもなく。ただ、私の墓へと足を運び続けたのね」
「……お前、なのか?私は、ようやくお前の所へ逝けるのか?」
「あら、お生憎様。私は貴方に、残念なお知らせをしに来たのよ」
「は……」
「あれから一年経った……貴方はそう思っているのでしょうけど、本当は一日しか経っていないわ」
 
立て続けに起こる、予想外な現象に、私は目を白黒することしかできない。それでも妻……にそっくりなこの女性は、構わず話し続けた。
 
「貴方ったら、カレンダーも何もかも捨ててしまうんですもの。気づかないのも仕方ないかもしれないけれど」
「い、一日しか経っていないって、どういう意味なんだ」
「そのままの意味よ。起きて、墓参りして、小説を書いて、眠る。規則正しいのでも、何でもないわ。貴方は、私が埋葬された翌日を、永遠にループし続けているだけよ」
「そんなこと、あるわけがないだろう」
「まあ、そうなるでしょうね」
 
彼女はしゃがみ込むと、近くに生えていた一輪の花を、ぷつりと摘み取った。
 
「貴方が墓の周りに植えてくれたこの花、今から全て摘むわ」
 
悪戯っぽく笑って、女性は躊躇なく摘んでいく。私は、その行為を呆然と見つめることしかできない。
やがて、全ての花が摘み取られると、私の方を向いて彼女は言った。
 
「この世界は、ループしている。だから、また明日、私の墓参りに来てみなさい。花畑は元通りになっているわよ」
 
それだけ言うと、彼女は笑った。突然強い風が吹き、思わず目を瞑る。次の瞬間目を開けば、そこには誰もいなくなっていた。
 

 
翌日、目の前に広がる光景に私は愕然とした。何事もなかったかのように元通りの花畑の中、妻の墓石があったからである。
つまりは、あの女性が言っていた言葉は本当であった、と。
事実は小説より奇なり。とある詩人の言葉が頭に浮かぶ。
私は絶望した。今までは、何だったというのか。妻を失った孤独に耐え、早く命の灯が消えんことを望み、忍んでいた日々は。
あれから、一日も進んでいない。これからも。私は、死ぬことができない。
 
「どうしてこんなことに……」
「復讐よ」
 
背後から声がした。昨日――前回の今日という方が正しいのかもしれないが――と同じ状況に、私はすぐさま振り返る。
そこには案の定、女性が立っていた。
 
「復讐って、何の事だ」
「呆れたわ。てんで自覚がないんですもの。貴方、私が生きていた頃のことを思い出してみてくださいよ」
「……お前は、いつも私を支えてくれていた」
「さすが、作家ね。そう言えば聞こえはいいでしょうけど。来る日も来る日も、執筆、執筆。私の事なんて、最期の時以外は二の次だったでしょう」
「……」
「妻は家で家事をして、夫を支えるのが当然とでも?ジェンダーハラスメントもいいところだわ」④
「……本当に、すまなかった」
「謝罪の言葉なんて聞きたくないわよ」
 
ピシャリと言い放たれた言葉に、私は項垂れることしか出来ない。
女性は、ゆっくりと私に近づいた。
 
「私ね、本当は、貴方のことが大嫌いだった」⑦
 
とどめの一撃が私を襲う。もはや、生きる価値も失ってしまった。
空色の瞳が、見透かすかのように、俯く私をじっと見上げていた。
 
「この連鎖を止める方法が、一つだけあるわ」
「本当か!いったいどうすればいい?」
「今までと違う行動をするのよ。町へ出て、人と関わって、新しい出会いをするの」
 
無理難題を想定していた私は、思いもよらない回答にきょとんとした。
 
「本当にそれだけで?」
「信じないのなら、好きにしなさい。今日という日が続くだけよ」
 
彼女の凛として透き通った瞳は、どうしても嘘をついているようには思えなかった。
 
「分かった。貴重な助言をありがとう」
 
私は顔を上げると、女性に背を向けて歩き出した。そのまま数歩進んで立ち止まり、小声で呟く。
 
「それでも私は、確かに愛していたよ」
 
私の言葉に、彼女はしばしの間沈黙してから、小さく言った。
 
「……幸せを祈っているわ、ダーリン」
 
 
3.
 
 
あの不思議な出来事から、一年が過ぎた。相変わらず人混みは苦手だが、それでも街へ赴くことは止めなかった。
規則正しかった生活も、今では深夜に至るまで執筆活動をし、起床するのが昼過ぎになるようなことも珍しくはない。
妻の墓へは、行かなくなっていた。
そんなある日、ポストの中に小包が一つ、入っていた。⑧
中を開ければ、リングケースが出てきた。見覚えのあるものだ。仕舞われていたのは、アメシストの指輪。決して、高級なものではない。妻の、婚約指輪だ。
決して楽ではない私の生活では、高価な指輪を買うことができないと謝ると、妻は笑って言ったのだ。
――私、紫色が大好きなの。小さくてきれいな紫水晶を買ってくださる?⑩
懐かしいことを思い出した。今となっては、虚しい記憶だ。
なぜこんなものが今になってと、やるせない気持ちになっていると、箱の下に封筒が一つあることに気が付いた。
中から出てきたのは、妻からの一通の手紙だった。
 
――――――――――――――――――
 
ご機嫌いかが?あなたがこの手紙を読んでいるってことは、私はもう死んでいるのでしょうね。
貴方のことだから、私の墓参りだけ律義にして、後は部屋に籠っていそうで心配だわ。
これを書いている今、私が寝たきりになってから一年経ちます。
貴方は私にずっとつきっきりです。
今までは小説にご執心だったから、ちょっぴりいい気味です。きっと、寂しくさせた罰が当たったんだわ。……なんて、思ってたけれど。
やっぱり、駄目ね。夫が変わり者なら、妻も大概みたいなの。
私、小説を書いているときの貴方が好きよ。大好きなことに夢中になっている貴方が好き。
優しい貴方もいいけれど、私が自由を奪っていると思うと、もどかしくなるわ。
一年間、私は貴方を独り占めできた。それだけで、もう充分よ。
一緒に入っていた指輪、覚えてる?私の一番の宝物です。でもね、死んでしまったらそれを身に着けて楽しむことだってできないわ。
だから、貴方が私が死んだ後、どんな人生を送ったって、私を苦しめるようなことは無いのよ。
私は、自由に生きるあなたが好きです。だから、私の死に、どうか囚われないで。新たな人生を送ってください。
貴方の幸せを願ってる。愛してるわ、ダーリン。
 
――――――――――――――――――
 
何故私はあの時、あの女性の言葉を信じたのだろうか。
何故私は、妻が私を嫌っていたなどと思ったのだろうか。
これ以上真っ直ぐ私を愛してくれる人間が、この世界にいるはずがないのに。
喉が焼けるように痛かった。どこか遠くで、ぼんやりと獣の咆哮が聞こえた気がした。
それが、私から発せられる慟哭だと気づいたのは、インクが零れ落ちた水滴で、滲んだからだった。

ーー了ーー
[編集済]

『死んだ妻との対話』というテーマにおいてはけして目新しいとは言えないながら、投稿者さんの圧倒的な叙述力が強く心を掴んでくる、そんな作品でした。
冒頭部の「空の色」「花の香り」「波の音」と五感に訴えかけてくる情景描写や、決して説明的にならない男の内心の吐露には脱帽です。
夫を想う妻、妻を想う夫。2人の愛情の交錯にエモンガが飛び交っています。
ひややっこを創り出すに誘ってよかった。そう心から思える作品でした。投稿ありがとうございました。

No.64[ビッキー]07月18日 01:0807月18日 13:11

ノアとユウキの宝物

あなたにわたしのすべてを捧ぐ [良い質問]

No.65[ビッキー]07月18日 01:0807月28日 00:22

待っていたかのように咲いてみせる桜。
どこからともなく這い出した虫たち。

まるで全ての有機体がこの日を待ち望んでいたような、、。



ところが、この日を鬱陶しく思ってるような、溜息を、大きな溜息を、一つ。
女の子は吐いたのだった。

それもそのはず。この春の匂い、生命の息吹を、窓越しにしか感じることができずに。病室の中で、すっかり快適に過ごしている自分はどうも、溜息を吐くのに値するからだ。

女の子の喉はどうやら痛んでいる。
痰混じりの咳を繰り返し、苦しそうだ。
彼女は数日前、風邪が悪化(⑨)して入院することとなった。もともと喘息持ちの彼女は発作が出ると息もできない。死にかけてしまうのも度々であった。

彼女が諦めたような顔で外を見る。


そんな彼女を男の子は見ていた。
男の子はずっと見ていた。彼女の諦めた顔が
どうも、美しくて仕方がないらしいのだ。
男の子の肩には小さな子猫が一匹。この猫も
大きな溜息をつくように、欠伸をする。

「ねえねえ、こんにちは」

女の子は、驚いた。彼に、そして猫に。

「こんにちは、、。」

「まだ入ってきたばっか?俺ユウキ!
名前なんて言うの?仲良くなりたいな!教えて!」
「ノ、ノアって言うの」
「ノア!ノアかあ〜!ノアね!」

ノアが肩の猫について聞こうとしたのと、ユウキがまた何やら話し出そうとしたのと、怖い顔した看護婦が病室に入ってきたのはほぼ同時だった。

「あの、、」
「俺さ、、」

「ユウキ君!!!!!!!」
彼ら二人の声をかき消す大声で彼女は叫ぶ。
「また病院に猫連れ込んで!ダメって何度も言っているでしょ!?ほら!ノアちゃんはまだ具合が良くないの。戻りなさい!!」

また明日もくるから! ユウキはそう叫んで
逃げるように出て行った。

ーーーーーーーーー

ユウキは翌日、ノアの元へやってきた。
ノアが昨日つまらなそうにしてたから、と
おもちゃも持ってきた。
そして最後は「また明日ね!」そう言って看護婦さんに見つかる前に戻って行った。

来る日も来る日もユウキはノアの元へやってきた。来る日も来る日も。一ヶ月が経つ頃には二人は大の仲良しになっていた。ノアは毎朝、ユウキが来るのを楽しみにしていた。

来る日も来る日も、ノアが退院する日はやってこなかった。

ーーーーーーーーー

ノアの両親は、共に忙しかった。
お互いが自らの仕事のノルマにさらされ(⑥)なかなか入院中の愛娘に会いに行くことはできなかった。

ノアが入院してから、12日。
二人はやっとの思いで病院を訪ねた。
祖父母が来てくれていたとはいえ、ノアは寂しかったに違いない。そう思っていた娘が、どうやらお友達と楽しそうに、少し照れ臭そうに、話している。

「お父さん!!お母さん!!!」

二人に気づくと、ノアは嬉しそうに手を振った。ところが二人は、そのそばにいるユウキにをじっと見ている。正確には、その肩で大きな欠伸をする、子猫を見ている。

「こんにちは!俺、ユウキって言います!うわーお母さん、ノアと瓜二つですね!(③)

「きゃあああああ!!!!!」

猫がぴょんと床に飛ぶと、母は悲鳴を上げた。

「どうしましたかお母さん!あ、ユウキ君!!また猫を連れてたの!?」

ユウキは猫をひょいと抱き上げ逃げるようにして病室を出て行った。

「また明日ねノア!」



「なんなんですかあの子は!」
「申し訳ございません、、。いつもいつも注意はしているのですが、、。」
「猫だなんて、、ノアの病気が悪化したらどうするんですか!?」

「まま!ユウキ君は悪い子じゃないよ?」
「で、でもねノア、、。猫はダメよ。猫だけは連れてこないように言わないと、、。」
「分かった。分かったからユウキ君のこと怒らないであげて?」


ーーーーーーーーー


ユウキは次の日もノアの病室へやってきた。
その肩に、あの子猫はいない。けど、代わりに、一匹のトカゲがくるくると彼の肩で回っていた。

「この間病院の外のポストに落っこちてんの見て助けてやったら懐いちゃってさあ(⑧)」

「へえ、、。か、かわいいねえ。」

ノアは本当はトカゲの類が大嫌いだったが(⑦)ユウキがあまりに可愛がるもんだから、少し可愛く見えてきた。自分の指をトカゲに噛ませてみる。生きることに触れた気がして、ノアはすこし嬉しかった。

ーーーーーーーーー

ノアが病室から出る日はいつまでたってもこなかった。だけど、ユウキが、ユウキがいたから、すこしだけ、退院したくないなとも思ったりした。

ノアが始めて病院に来てから一年が経った。
ユウキと一緒に病院で勉強をした。七夕の願い事をしたり、クリスマスパーティーをしたりもした。雷の日は一緒に寝ることもあった。あの猫もトカゲも、それからカブトムシや時には魚までもがノアの病室にやってきた。滅多に外に出れなかったノアの代わりに、ユウキは外で色々なものを捕まえてきて見せてくれたのだった。カブトムシをみると蝉の音がよく聞こえた。魚を見ると、雨の降り注ぐ海を思った。彼女にとってユウキは彼女の世界、季節そのものだった。彼女にとって彼が全てだった。

ユウキは毎日毎日ノアの病室に通い続けた。



ーーーーーーーーー



「ノア、今日の夜さ、ちょっと病院抜け出して外行かない?」
「え、どうして?バレたら怒られるよ?」
「見せたいものがあるんだけど、夜じゃないとダメなんだよなあ」
「へぇ、、でもきっとユウキのことだから凄いもの用意してそうだね〜、ちょっと楽しみかも、、。」
「お!それは作戦決行の合図ととっていいのかな??楽しみ!」
「ちょっと教えてよ!夜まで気になっちゃうじゃん!」
「紫色の宝石、って言えばいいかなあ〜」
「えええなにそれ!凄いいいね!」
「俺もまだちゃんとは見てないんだ〜、でもね絶対綺麗だよ。ノアと見れたらな、って前からずっと思ってんだ!今日なら天気も良さそうだし」

「ねえねえ、話、変わっちゃうんだけどさ。
ユウキって好きな人とかいるの?」
「ええええええ何何何急に!!??」
「え!いやーうん、えーっと、あ、じゃあどんな風に告白とかされたい?いーじゃん!こういう話いつもしないしさ!」
「えーーなんか恥ずかしいな、、。うーん、、。でも俺やっぱ生き物好きだから、なんか、虹色の魚とかもらったらドキッとしちゃうかもな〜」
「それ難しい!もうちょい簡単にしてよ!」
「え、む、難しいって、えっ?」
「いや、そ、そうじゃなくて、そんな女の子いないから!それじゃかわいそうでしょ?」
「え、えー?うーん、じゃあ綺麗なお花なんかでもいいかなあ、うん」

花束、、かぁ。


ーーーーーーーーー


「ユウキ君、ユウキ君!」

「ノア!こっちこっち!」

「すごい!本当に裏道だねえ!」

二人は病院の裏から、道とも言えぬ道を歩き出す。久々に動かした足は、どうもぎこちない。ユウキはノアの手を握った。

「ゆっくりでいいよノア」


藪を抜けると広い道に出た。
地平線が見えるほどフラットな地形。
道は広いのに、車はほとんど通らない。
電灯は少なく、星が綺麗に輝いている。
まるで世界から忘れられてしまったような、二人だけの秘密の場所のような気がして、ノアはとても嬉しくなった。

「猫、久し振りに見たかも」
「だろーなあ、俺も久し振りだもん」
「ちゃんと元気にしてたんだね、よかった」
「ちゃんと元気にしてただけでこいつは猫として合格だよ、俺たちも二人だけの力で病院抜け出して深夜の大探検!一人前の人間だよ!合格!(②)」
「えー、なんかむしろ子供な気がするけど、、」
「俺お前よりガキだって〜」
「ニャー」
「猫に話しかけたって答えてくれないよ〜」
「いや、こいつは俺とちゃんと会話してくれるんだ。不思議なんだけどね。俺の気持ち、わかってくれるんだ」
「んー、本当かなぁ?」
「本当だとも!俺が欠伸してるとこいつも欠伸するし」
「それ、たまたまじゃないかなあ、、」
「あっ!ほら!ほら!着いた着いた!」

ノアはずっと下を向いて歩いていたからか、ユウキと繋がっていた手に意識を奪われていたのか、気がつかなかった。目の前に広がっているのは、一面の鮮やかな黄色

「たんぽぽ?すごい、、」
「すごいでしょ〜、俺も最初見つけた時はびっくりしたんだよ!連れてきてあげたかったんだ〜!でも俺も夜きたのは初めて!夜でもこんな綺麗なんだなあ」
「えへへ、嬉しい。抜け出してきて良かったかも」
「でしょー!?とか言っちゃダメかな、じゃあそろそろ本命と行きますか!」

「紫色の、宝石?」

「そう、お父さんに買ってもらったんだ」

「ええ、たかそうだなあ、、」

ユウキは肩にかけた虫かごを、ノアの前に置いた。よく見ると虫かごは、黒い布に包まれていた。

「いくよ〜、瞬き厳禁ですよ!」

ユウキが黒い布を外す。

虫かごの中にいたのは、紫色に羽を輝かせる、大きな蝶々だった。

「眩しい、、!すごい、、!綺麗、、」
「本当だねえ、、。こんなに光ってるとは思わなかった。」
「でも、、なんだか、、優しい光」
「うん、、綺麗。そうだ!飛ばしてみるか!」
「え、いいの?高いよ、絶対」
「いいのいいの、飛んでた方がきっと綺麗だよ」

ユウキは虫かごの蓋を開けた。
ノアは眩しくてよく見えなかったが、蝶々は二匹いた。まるで踊るかのように、二人の目線を導くかのように、暖かい二つの紫の光が空に舞い上がっていく。

綺麗だった。優しかった。

あまりに綺麗だったのだ。

ーーーーーーーーー

どれくらい蝶々を見ていたのだろう。
ノアは黙って空を見ていた。

我に帰ったのは、猫の声が自分を呼んだ気がしたからだ。

「ユウキ、、」

おかしいと思ったのは、ずっと握り続けていたユウキの手が、その柔らかい熱を帯びていた、少し汗ばんでいたユウキの手が、異常に冷たかったからだ。そのことに気づいたからだ。

「ユウキ、起きて?ごめんね、寒い?帰ろうか。ユウキ、、」

どんなに身体を揺すっても、ユウキは目を開けなかった。どんなに声をかけても、どんなに身体を近づけてみても、ユウキの身体は暖まらなかった。

トクン トクン トクン

ノアは立ち上がる、そして、走り出す。
元来た道を、引き返す。
もう、手を引いてくれる人はいない。うまくバランスも取れない。けれど人生で一番、早く走らなければならなかった。猫も、その後を追った。足が千切れてしまうのではないかというくらい、四股を大きく広げ、駆け出した。

「はっ!はっ!はっ!やだよー!やだよー!頑張れ!頑張れ私!私のばか!!」

少し背を高く見せるために履いてきたヒールを脱いで手に持ってまた走り出す。

気がつくと大きな橋の前に居た。ノアの足が止まる。だけど、すぐに走り出す。たまたま通りかかったトラックが、橋を唸らせる。ノアの足がすくんだ。ノアは高いところが苦手だった。① 足がふらついた恐怖、自分の足がうまく地面を掴めていないことに気づいた時、彼女の身体は地面に倒れた。

「立たなきゃ、怖くない、怖くないよ、ユウキときた時は怖くなかったじゃない」

血が滲む足を奮い立たせる。再び前に進もうとしたその時だった。ずっと先をいっていたはずの猫が、彼女の元へ戻ってきた。と思ったら、彼女を通り過ぎて、ユウキの方へ走り去っていく。

ノアは思い出した。ユウキは言っていた。
あの猫はユウキのことをよく分かっている。
きっと、私より。悔しいけど、私より。
だから私は病院にむかうべきじゃない。何か嫌な予感がする。ノアはそう考えた。

ーーーーーーーーー


彼女はたんぽぽを摘み始めた。

猫もそれを手伝った。ちぎってはそれを加えてノアの元へ届けた。

空はすでに白んでいた。たんぽぽの黄色は、夜見た時より綺麗なはずだった。

太陽が朝をゆっくり温め始めた時、ユウキは大量のたんぽぽに包まれていた。

「ユウキ。花束。これでいいかな。これであなたに想いを伝えても大丈夫かな。ユウキ、ユウキ、私は好きだよ、あなたのことが大好きだよ、本当だよ、びっくりした?喜んでくれた?ユウキも 私のことすきだった?」

涙と一緒に、力が抜けていく。
ユウキの髪はサラサラだった。ユウキの睫毛は、よく見ると長い。思えばユウキはノアの全てだったのに、ノアはユウキのことを全然知らなかった。どうしてユウキは冷たくなったのか、どうして私にカブトムシや、魚や、トカゲや、紫色の宝石を見せてくれたのか、どうして毎日病室に来てくれたのか。

答えは分かっているようで分からない。
確かめる方法はもう無かった。

「ユウキ?私も眠くなってきちゃったよ」

彼女は自分もたんぽぽの海に飛び込んだ。
ユウキの横顔は綺麗だ。雷で眠れなかった日、同じようなことを考えてたらぐっすり眠れたことを思い出した。



ユウキ、えへへ、幸せだなぁ


彼女はゆっくり目を閉じた。


ーーーーーーーーー

お父さん、お母さん、ノアちゃんなんですが、、心臓の調子が、よくないのかもしれません、、。今回の風邪が悪化したのもどうやら偶然ではなく、、。もちろん喘息が悪化してという可能性もあるので、よく検査をしますが、、。入院が長引いてしまう恐れもあることは、考えておいてください。

先生、、命に関わることなのですか?

いや、過度な運動をしなければおそらく問題はないでしょう。この病院内にいれば安心ですので、あまり重く捉えてはいけません。ゆっくり、経過を見守っていきましょう。



ーーーーーーーーー


翌年も、あの丘はたんぽぽで埋め尽くされた。

二人はあの丘で未だ眠り続けている。

夜になると浮かび上がる、紫色の宝石は、二人だけの秘密。

春ののどかな日光を受けて、猫が大きなあくびを一つした。






[編集済]

悲恋を描いた作品は数多くありますが、少年少女のそれは非常に難しい、というのが持論です。あの嬌声や表情は文章に起こすとリアリティが失われてしまうからです。
しかしこの作品は、強く互いを思う気持ちを効果的に描くことで、彼らの表情が眼に浮かぶような印象を与えています。
彼らは出逢わなかった方が、少しでも長く生きられた方が良かったのか?痛いほど胸に迫る作品でした。
投稿ありがとうございました。

No.66[かふぇ・もかろに]07月18日 13:1707月20日 09:00

記憶の花は夏空に咲いた

ありふれた日々に、ありふれていない花を [良い質問]

No.67[かふぇ・もかろに]07月18日 13:1807月28日 00:12

目を覚ます。カーテンの隙間から照らす太陽の光が眩しい。眩しすぎて目が痛い。(⑤)この感覚はほぼ毎日のもの。

寝ぼけた頭でこれまたいつも通りポストを確認する。特に変なものは入っていなかった。

いつも通りご飯を食べ、課題が締め切りにどれくらい追われているか確認する。予想していたよりは追われていたのでほどほどに課題を進める。(⑥)

何もしない無駄な時間をいつも通り過ごす。
そしていつもの公園に向かう。
5年くらい前に通っていた小学校の近くの公園。高所恐怖症の僕が唯一行くことができる高い場所。(①)

「彼女」といつも通り少し話す。

そのあと家に帰っても人間として合格と言えるほどの行動をとって眠る。(②)




目を覚ます。カーテンの隙間から照らす太陽の光が眩しい。眩しすぎて目が痛い。この感覚はほぼ毎日のもの。

寝ぼけた頭でこれまたいつも通りポストを確認する。特に変なものは入っていなかった。

いつも通りご飯を食べ、課題が締め切りにどれくらい追われているか確認する。予想していたよりは追われていたのでほどほどに課題を進める。

何もしない無駄な時間をいつも通り過ごす。
そしていつもの公園に向かう。
5年くらい前に通っていた小学校の近くの公園。高所恐怖症の僕が唯一行くことができる高い場所。

何かを待っているような「彼女」といつも通り少し話す。

そのあと家に帰っても
人間として合格と言えるほどの行動をとって眠る。





目を覚ます。カーテンの隙間から照らす太陽の光が眩しい。眩しすぎて目が痛い。この感覚はほぼ毎日のもの。

寝ぼけた頭でこれまたいつも通りポストを確認する。特に変なものは入っていなかった。

いつも通りご飯を食べ、課題が締め切りにどれくらい追われているか確認する。予想していたよりは追われていたのでほどほどに課題を進める。

何もしない無駄な時間をいつも通り過ごす。
そしていつもの公園に向かう。
5年くらい前に通っていた小学校の近くの公園。高所恐怖症の僕が唯一行くことができる高い場所。

そして花を持っている「彼女」といつも通り少し話す。

「今日も来たんだ。」
「今日もいるのか。」
「そりゃもう7年はここにいるからね。というかこのやり取りいつもしてない?」
「そうか?」
「流石に忘れすぎじゃない?というか君がここに毎日来るようになって今日でちょうど1年なんだよね。そんなに毎日何しに来るの?」
「特に何も。強いて言うなら喋りにきてるってところかな。んで、1年だから花を持っているのか?」
「というより毎年今日はこの花を持つようにしているんだ。まあ今日に関してはそろそろ教えてあげようかなっていうのもあるんだけどね。その話がわかりやすくなるかなって。」
「というと?」
「これまでわたし自身の話はどちらかというと少なかったでしょ。たまにはわたしの過去の話でもしようかなってさ。」
「なるほどね。確かに聞いてみたいかもしれない。」


「じゃあ、まずはオチから話すね。」
「わたしはもう死んでいるの。」
「だから今から語るのはそれに至るまでの話。」


「わたしはすぐそこの小学校に通っていた。」
「平凡な日々を過ごしていた。」
「普通に授業を受けて、普通に給食を食べて、そんな平和で凡庸、普通の日々。」
「普通と言っても同級生と話すことはほとんどなかったんだけどね。」


「そんな中彼はわたしに話しかけてきた。花の本を読んでいた時に、どの花が好きなのか聞かれたんだ。その時に答えたのがこの花。」
「これはそこまで関係ないんだけど、毎年今日になるとたった一輪だけこの花が咲くんだよ。わたしが持っていると明日には枯れちゃうんだけど。」


「それから彼はよくわたしに話しかけるようになった。」
「彼側が話題を作ろうとしてくれていた。」
「例えば同じ本を読んでくれたり、例えば買ったおもちゃのプラスチックの宝石をその紫色が綺麗に見える光の角度とか考えてくれたり。」(⑩)
「たまにセクハラみたいなのもあったかもしれないけど、とにかく彼は話題を作ろうとしてくれた。話そうとしてくれた。」(④)


「こんなことを言うのは恥ずかしいけど、わたしは彼のことが好きだった。」
「君にこんなに話すのは、彼と君が瓜二つだからかもしれないね。多分君が幼ければ彼と全く同じ顔をしていると思うよ。」(③)


「そしてあの日。確か小4の夏休み。」
「まだあの頃はこの公園にはこんなに高いフェンスはなく、ここを囲むのは低い柵だった。こんな急な崖みたいな感じなのにね。」
「その柵に座って下の方の町を見ながら話すのが一番多かった。とても静かな景色だった。」


「確かあの日は人を好きになることに理由が必要か、みたいな感じのことを話していた。」
「もちろんわたしは必要ないと思っていた。わたし自身がその証拠だったから。」
「理由は流石に言わなかったけど、必要ないと思うと伝えた。」
「そしたら彼はふと立ち上がって一言。」




「じゃあ嫌いになることにも理由はいらないよね?」





「体を押された感覚。」
「一瞬何が起きたのか理解ができなかった。」
「気がつくと落ちていく感覚。」
「何を言っているのか彼の顔を見ようとしていたから、頭が下に向いていた。」
「最後に見えた彼の口元はこう動いていたように思えた。」




「やっぱり君が大嫌いだ。」(⑦)





「こうしてわたしは7年前の今日死んだ。」
「そして霊となった。」
「どうでもいいけど彼はその日からしばらく風邪をひいたらしい。」
「わたしは何もしていないのにね。彼はわたしのせいだと思い込んでいたよ。」
「他にも彼は、自分でしたことなのにそれがトラウマになって高所恐怖症になったりもした。」


「ずっとずっと何もすることがなかった」
「何か変化があるのは、さっきも言ったように1年のうち1回だけ1輪の花が咲く。たったそれだけ。」



「そんな日々を送ってちょうど6年で彼はここにきた。」
「彼はもう、わたしのことなんて忘れているようだった。」
「わたしは彼のことを忘れるわけはなかったけどね。」
「わたしを殺した相手だろうと、わたしの初恋の相手なんだから。」


「それから彼は毎日ここにきて」
「今日、わたしの過去の話を聞いた。」
「毎年摘んでいるこの花は今年は思い出させやすくするための手がかりになったかな。」
「これでわたしの話は終わりだよ。」




そのあと家に帰って(いろいろなものから逃げるように)人間として合格と言えるほどの行動(そんなことをしたところでずっと前から不合格だったのに)をとって眠る。


目を覚ます。カーテンの隙間から照らす太陽の光が眩しい。眩しすぎて目が痛い。この感覚はほぼ毎日のもの。

寝ぼけた頭でこれまたいつも通りポストを確認する。

いつも通りご飯を食べ、課題が締め切りにどれくらい追われているか確認する。予想していたよりは追われていたのでほどほどに課題を進める。

何もしない無駄な時間をいつも通り過ごす。
そしていつもの公園に向かう。
5年くらい前に通っていた小学校の近くの公園。高所恐怖症の僕が唯一行くことができる高い場所。


そのあと家に帰っても人間として合格と言えるほどの行動をとって眠る。







ポストの中には、白いアネモネが入っていた。(⑧)


【了】
[編集済]

『足を踏まれた側は覚えていても、踏んだ側は覚えていない』
悪意を向けた側と向けられた側、認識の齟齬を抱えたまま、2人はどのような気持ちで言葉を交わしていたのでしょうか。
男の視点で語られているものの、女の心理も想像させる深みのある描写がお見事です。
繰り返される日常にふと投じられた異物。どこか罪悪感を覚えるような、不思議な読後感の作品でした。
投稿ありがとうございました。

No.68[Hugo]07月18日 15:5802月13日 22:45

大河に橋を [編集済]

1

本当に、閉鎖的なところだな。 [良い質問]

No.69[Hugo]07月18日 15:5907月28日 07:20

 コトブキ島は閉鎖的なところだな、と旅人の男が言っていた。たしかヒガシニシという奴だったか。
 言われてみれば、この島に外の人や物が来ることは少ないし、逆にこの島の人や物が外に行くこともかなり少ない。というか、僕の知る限りではその旅人が最初で最後だ。
 小さい頃の記憶なので曖昧だが、彼とは結構親しくなったような気がする。思い返すと、僕が一方的に喋っているのをただ聞いてもらっていただけのような気もする。
 そのヒガシニシだが、もちろんというか今はいない。僕がいつものように好き勝手に喋っているときにふと、いなくなってしまったのだ。きっと別のところに旅をしに行ったのだろう。
 彼が最初で最後の旅人。
 けれど、一つだけ。この島が積極的に外と関わる機会がある。鳩だ。島の人間は、鳩を飛ばすことで時間の感覚を得るのだ。

 朝だ。郵便屋見習いの朝は、まだ空の暗いうちから始まる。というのも、ぼうぼうという鳩の鳴き声が日の昇らないうちから寄宿舎をこだまするからだ。煩くてとても寝ていられやしない。
「おはよう、ヨミカキ」
 僕よりも早く起きていたルームメイトが、ぽんと肩を叩いた。ジョウマエは朝に強いらしい。ちっとも眠そうな様子じゃない。
「あぁ、おはよう......」
 固いベッドから沸き上がるように身を起こして、不安定な足取りで部屋を出る。
 何より先にやらなければならないのは、「郵便受け」の確認だ。これを毎日、起床後と就寝前に必ず行うのが見習いの仕事。
 寄宿舎の北側の出口まで歩いていくと、金属製の檻で覆われたスペースが両側に見えてくる。僕はその右側の担当だ。寄宿舎の四隅にある鳩舎にはそれぞれ一人ずつ、その寄宿舎に住む見習いが当てられる。
 さて、肝心の鳩は......いた。止まり木の上で狂ったように鳴いているのが二羽。僕は閂をはずすと檻の中に入っていった。暗い鳩舎はいつも独特の臭いで満たされていて胸焼けしそうだ。
「ぼぉうぼぉうぼぉう!」
「あーもう、煩いなぁ本当に」
 今日は特に酷かった。一心不乱に鳴き続ける鳩。何を呼んでいるのか、あるいは叫んでいるのか。
 郵便受けと呼ばれる鳩舎の中にいくつか置かれているケージを持ち上げて、鳩に近づいていく。ここに鳩を入れて、教会まで持っていくのだ。(⑧)
「ほぅら、よしよし。僕の手に止まってごらん」
 上の方に腕を掲げると、鳩はそこに飛び移った。十分に飼い慣らされている鳩だから、これは別に大変なことではない。ケージに入れると、先程まで喚いていた二羽の鳩は嘘のように黙りこくった。
 ぐっと腕に力を入れて、僕はケージを運んでいく。前のように閂をかけて寄宿舎から出ると、寄宿舎よりずっと開けた世界が目に入った。もうこんなに明るかったか。僕は眩しすぎてよろけそうになった。(⑤)
「おい大丈夫か?しっかり」
 いつの間にか後ろに立っていたジョウマエが僕の右肩を支えていた。そして僕からすぐに手を離して、そのまますたすたと歩き出した。振り返りつつ笑いかける。
「いこうぜ、それともまだダメか?ここ」
「いや、もう慣れた。大丈夫だよジョウマエ。ありがとう」
 首を振って答えた。僕も歩き始める。
 開けた世界、というのは何も「寄宿舎よりも広い」というだけではない。郵便屋と教会があるのは、島のなかでも一番土地が盛り上がっている所なのだ。街や、反対側にある海が遠くまだ見渡せる。僕はこの高原に慣れるまで少し時間がかかった。前まで僕は高所恐怖症だった。(①)
 最初に寄宿舎まで歩いてきたとき、街の外れから続いている長くて急な階段を登れなかった。少しでも足を踏み外したらと思うと、どうしてか、あと一歩を踏み出せなかったのだ。こういう経験は見習いになる前も何度かあったため、ある程度覚悟はしていた。しかしまあ郵便屋になれるなら、こんなことは些事だった。
 そのとき偶然、同じように寄宿舎に向かっていた見習いに助けられていた。それがジョウマエだ。
「しっかしまあ、大変なもんだな」
 前を歩くジョウマエがため息をつく。僕は首をかしげた。
「毎朝鳩を運ぶことが?」
「それもある」
 ジョウマエは文句を言いつつもペースを緩めずに歩く。彼は一度呼吸を整えてからその先を言った。
「毎朝僧侶に会うのが、てことだよ。あいつらと話してると、なんか落ち着かない」
「そうかな、とても優しくしてくれるけど」
 ジョウマエが言ったことは、僕の感じたことと違った。
 僧侶は島で最も偉い人たちだ。それで縮こまってしまうのはなんとなく想像がつくが、僧侶は決して高慢な態度を取らないしいつだって親切だった。
「お前の考えてることは分かるぞ、ヨミカキ。たしかに僧侶は出来た人間だ。俺も僧侶が感情的になったところは見たことがない」
「僧侶が他の人に嫌がらせしてるのも見たことがないね」
「そうだな。なんというか表面的にはものすごく良い人なんだよ。でも、逆にそれが白々しい。なんというか嘘をつかれている気がする」
「嘘?」
 思わず聞き返した。考えたこともなかったからだ。それに少し突飛だ。それはジョウマエ自身も同じように思ったらしく、
「分からない。第一、そんなことする理由もないしな。まあとにかく、なんとなく嫌なだけだ」
と肩をすくめた。根拠なく、感情や印象が揺れることは誰にだってあることだ。ジョウマエはきっとそうやって納得しようとしている。だがやはり釈然としないらしく、最後にこう付け足した。
「でも、そう。あれは嫌がらせだ。あの目、しっかりと俺の方を見据えてくるあの目。あれは絶対に......」(④)
 腕の感覚がじわりと鈍くなってきたころ、僕たちはようやく教会にたどり着いた。宿舎から見たときは近く感じるのに、実際は結構離れた場所にあるみたいだ。
 教会の入り口までいくと、僕はドアを叩いた。そして数歩下がっておく。ドアはすぐに開いた。すかさずジョウマエが口を開く。
「おはようございます、郵便屋見習いです。鳩を届けに参りました」
「うむ、おはよう。ご苦労様。ケージはそこに置いていってくれ」
 白髪の老人が労うような笑みを浮かべた。彼は、見習いの朝の勤めのときに必ず出迎えてくれる僧侶だ。鳩が多い日には少しおしゃべりもする。
 ケージを渡せばあとは何もなかったので、僕たちはお辞儀をして宿舎に向かった。しばらく歩いたところでふと、ジョウマエが言ったことが気になった。
 僧侶の目、か。
 僕は後ろを振り返った。だが教会の外に僧侶の姿はなく、ケージも片されていた。次に会ったときに注意しておくか、とも思ったがやはりジョウマエの気にしすぎだろう。ジョウマエはどこか神経質なところがある。しばらくじっと後方の教会を眺めながら歩いていたが、僕は正面に向き直った。
 あ、と声を出したかどうかは分からない。歩くときにはちゃんと前を見るものだ。いつの間にかだいぶ進路から逸れていた。そしていま、足を滑らせた僕の目の前にあるのは街まで続く長い階段だった。延々と階段を転がり続けるうちに、なぜか僕は眠たくなってきた。

 ヨミカキがいなくなった。ずっと隣で歩いていたのだが、不意に消えてしまったのだ。
 そのことをチリガミさんに伝えたところ、当分は同じ宿舎のもう二人と共に行動するように言われた。とはいえ、昼に仕事を再開するまではまだ時間がある。少し考え事をするか。
 自室の固いベッドに身を投げ、白い天井を見つめた。
 つい最近、ヨミカキは郵便屋見習いに召し上げられたばかりだった。島に住む人々は、出した手紙が戻ってくるとまず、そこに書かれた自分の名前を確認する。そこに判子が押されていれば、その人は郵便屋見習いになる。ヨミカキはちょうど俺と同じ日に手紙を受け取り、そこに押してある判子を見た。
 そのとき俺は笑っていたという。きっとヨミカキもそうだった。郵便屋になれるのは選ばれた人間だけ。郵便屋は島にとって物凄い重要な仕事だったからだ。誰もが郵便屋に憧れる。なぜ突然、ヨミカキは消えたのか。
 夏草の匂いが鼻を掠めた。生暖かい風が部屋に吹き込んでいる。
なんにせよヨミカキはいなくなった。ヨミカキは消えたのだ。もうじき俺には関係なくなる。
 昼食を摂るために食堂へ向かうと、またチリガミさんに会った。郵便屋の先輩たちが行列を作っていて、その最後尾にいた。チリガミさんは郵便屋になってから、既に15回も自分の鳩を飛ばしている。つまり大先輩だ。
「ようジョウマエ、飯か」
「あ、はい。あと、テンネンスイ達にも会っておこうと」
「そうか」
 興味なさげにチリガミさんは返事をする。会話中にろくにこっちを見ないのだ。まあ俺はそれぐらいの方が楽なのだが。
「ああそう言えば」
「はい?」
「今日帰ってきた鳩、お前らが運んだのはカキネさんとウスズミさん、アオムシバミさんの鳩だそうだ。昨夕の分はなし」
「届けにいくんですね、了解しました」
 自分の手で鳩を飛ばす人はほとんどいない。自分の名前を手紙に書いたら、それを郵便屋に渡すのだ。受け取った郵便屋は適当な鳩にそれを持たせて飛ばす。帰ってきたら郵便屋が鳩を回収し、僧侶が一度手紙を預かる。判子を押すのも僧侶の仕事だ。その後まとめて僧侶から渡される手紙を、郵便屋がその日のうちに持ち主へと届けるのだ。
 こうした営みのいくらかは、見習いに任されることになっていた。
「ところで、チリガミさんは今日なにを?」
「仕事か?昼食か?」
「昼食です」
「ふむ。まだ決めていない。スープかな、うむ......」
 チリガミさんは艶のある低い声で唸った。この人はあまり食べ物に頓着しないタイプらしく、どれでもいいため逆に悩んでしまうようだった。結局、
「お前と同じのにしよう。何にするんだ?」
と丸投げされた。
「俺は大体いつも煮込みパンです。それでよければ」
「では私もそうするか」
 行列はだいぶ短くなっていた。
 煮込みパンを受けとると、チリガミさんはどこかへ行ってしまった。俺は一人で、テンネンスイとアルガママがどこかに座ってないか探すことにした。やつらは食堂の真ん中辺りの席に座っていた。
 適当に声をかける。
「よう、ちょっとここいいか」
「だめ」
「そうだな」
 無視してアルガママの隣に腰かけた。テンネンスイは向かい側に座っている。何食わぬ顔で座った俺を見て、テンネンスイはひきつった笑みを浮かべた。
「おうこらちょっと待ちな」
「だめ」
「だめって何?!」
 騒がしいやつだ。俺は好きでここに座ってるわけではないのに。面倒臭いテンネンスイは放っておき、アルガママに話しかける。
「しばらくお前らと仕事一緒にすることになった」
「どうして?相方いたと思うけれど、たしかヨミカキ」
「おいおいおい無視すんなよ!」
「ヨミカキは消えた」
「......災難ね」
「なあー、俺いちおうお前よりここに来るの早かったんだが?」
「だからなんだ、俺の鳩のが先に帰ってきたら俺が先輩だぞ」
「それで、何すればいい?」
「うるせー!未来は関係ねえ、いまは俺が先輩だ!」
「ちょっと黙れ」
 疲れる。大声を出すわ、腕を振り回しながら喋るわ、気が散って仕方がない。本格的に無視しよう。
「何すればいいの?」
「ごめん、いま説明する」
 アルガママに催促され、とりあえず今日はなにもしなくていいことと明日から担当のいない鳩舎の分を少し手伝って欲しいということを伝えた。他は、特に無かったか。
「郵便屋宿舎の食糧受け取りの担当は?」
「あー......忘れてた。まあそっちは俺が一人でやるよ」
 助かった。アルガママは記憶力がいいというか、全体的に頭がよかった。このまま気づかなければ、当日になって大目玉を食らうにちがいなかった。
 食べ物は毎朝、街の広場で僧侶が配っている。街から離れた宿舎に住む郵便屋も、必要な分をそこまで取りに行かなければならなかった。相当な量を貰うため、当番は持ち回りで数人ずつ厳格に決められていた。
 うっかりしてた、と頭をかく俺をたしなめるようにアルガママは眉をひそめた。
「食糧の配当は僧侶様からの恵み。感謝しなくちゃだめ」
「そうだな」
 島の大部分の人は僧侶を尊敬している。街ではしょっちゅう、僧侶が目の前を通ると手を合わせて拝む人を見かける。たぶんアルガママは、俺もそうだろうと思い込んで話しているのだろうが。本当は、あの胡散臭い僧侶が大嫌いだった。(⑦)
「なあー話は終わりか?早く部屋に戻りたいんだけど」
 体を揺らしてごねるテンネンスイ。用事は終わっているが、邪魔しかしてないこいつが言うと腹が立つ。
「勝手に戻ってろ......悪かったなアルガママ、食い終わってたのに付き合わせた」
「必要なことだし、仕方ないわ」
「ようやくかよー」
 二人は明るい色のプレートを持ち上げ、席をたった。と、テンネンスイがぐわりとよろける。
「おとと」
 なんとか踏みとどまるが、まだふらふらするようだった。様子がおかしい。よく見るとテンネンスイの耳が赤くなっていた。
「ちょっと、大丈夫?」
「平気だってー、アルガママ。いいからいいから」
 テンネンスイは笑いながら手を振った。大丈夫だと誤魔化してはいるが、たぶんこれは。
「おいお前、ちょっとおでこ貸せ」
「だめ」
「そうか」
 強引に引き寄せてテンネンスイの額に手を当てると、熱を感じた。そして俺は手を離し、知れずため息をついた。これから大変になるぞ。
「お前、風邪引いたな」(⑨)
「なっ......!適当言ってんじゃねえぞこの」
「それは本当なの?」
 見れば、アルガママが穏やかな表情でテンネンスイに詰め寄っていた。両手に持ったプレートが震え、食器がかたかたと鳴いている。目が笑っていないよ、アルガママ。
「ひぃっ?!」
「だから、あれほど寝るときは毛布を使えって言ったじゃない......ほら、教会まで行くわよ」
 ざまあみろ、テンネンスイ。
 風邪を引いた人間は、治るまで教会に半ば軟禁される。つまり、その間は教会から出られない。そして俺たちも、仕事以外で教会まで行くことは禁じられている。テンネンスイにはひどく退屈な時間となるだろう。
 悲しいのか、あるいは体調からか鼻をぐずらせて泣くテンネンスイを引きずって、外へ歩いていたアルガママがこちらを振り返って申し訳なさそうに言った。
「ごめんね、たぶん手伝う話は無理。お互い、頑張りましょう」
「あぁ、うん。チリガミさんには俺が伝えとくよ」
 その後は食べ物が喉を通らなかった。憂鬱だ。最低だよ。
 これからしばらく毎朝夕の教会通いが二倍になると思うと、ため息しかでないものだ。俺は煮込みパンを無理やり口に詰め込み、食堂を後にした。

「ウスズミさん、いらっしゃいますか」
 石造りの簡素な家のドアをノックするチリガミさんの隣で、俺は背筋を伸ばして立っていた。右手の親指と人差し指のつけ根で封筒を挟んでいる。だいぶ丁寧な作りの封筒で、蝋でしっかりと止めてあるのに入っているのは名前の書かれた紙切れ一枚というのは一見大袈裟に感じられるかもしれない。
「はい、どなたで......」
「こんにちは、ウスズミさん。私は郵便のチリガミです。隣のは見習いのジョウマエと言います」
 俺はぺこりとお辞儀をした。何度やっても慣れない作業だ。緊張からか、身体が意思と離れて動くようだ。
「おお!これはこれは、郵便屋様でしたか!すると......」
「はい。あなたの古い一年が終わりました。そしてすぐに新しい一年が始まります」
「おめでとうございます、ウスズミさん」
 チリガミさんと俺の言葉に顔を綻ばせ、ウスズミさんは愉快そうに笑った。人々にとって一年という時間は天から与えられるものなのだ。自分の鳩が飛び立つと同時に一年が始まり、帰ってくると同時に一年が終わるからだ。
「ああ、本当にありがとうございます......!すると、太陽と逆襲が噛みついた辺境のハリハリ鳩は......」
「はい、帰ってきましたよ。あなたの太陽と逆襲が噛みついた辺境のハリハリ鳩が、あなたの手紙を持って帰ってきたということです」
「ああ、よかった!僕の一年が、また始められます!」
「これ、ウスズミさんの手紙です。お受け取りください」
 封筒の向きを変えて、ウスズミさんに差し出す。ウスズミさんはそれを大事そうに受け取り、懐に入れた。
 これは決まりごとではなく慣習なのだが、大抵の人は自分の手紙を運ぶ鳩に名前をつけておく。郵便屋の鳩がみんなそれぞれ瓜二つだから区別をするため、というのが俺の予想だ。だがそれを抜きにしても、とにかく数のかなり多い鳩を自分の鳩だと認識するために、ひいては一年が自分だけの一年だとするために、人々は誰のとも被らないように鳩に名前をつけている。まあ、毎年手紙を運ぶ鳩は変わっているはずなのだが。(③)
「ああそうだ」
 忘れていたという風でなく、落ち着き払った様子でチリガミさんが呟いた。歓びに浸っていたウスズミさんを我に返らせるためだろう。
「いまここで、新しく手紙を書いてしまってください。一年を始めなければ」
「ああ、そうだね。少し待っていてください」
 ウスズミさんは完全に忘れていたようで、呆けたような顔をした。そしてどてどてどてと家のなかに消えていった。目の前でドアが閉まる。
 それを見ていたチリガミさんは小さく鼻をならした。
「全く、忙しないな」
「俺らですか?それともウスズミさん?」
「両方だな」
「はあ」
 よく分からない。チリガミさんが続きを言う前に、再びドアが軋みながら開いた。
「ふぅ、お待たせしました!これ、よろしくお願いしますね。あと、太陽と逆襲が噛みついた辺境のハリハリ鳩にも!」
「ええ、たしかに。それでは、よい一年を」
「ウスズミさん、よい一年を」
「はい!ありがとうございました!」
 挨拶を終えると、チリガミさんはくるりと背を向けて歩きだした。そしてウスズミさんから受け取った手紙を、ぐしゃりとジャケットのポケットに突っ込んだ。俺はその、あまりにも雑な手紙の扱いにびっくりした。何度も見ているのに慣れない光景だ。
「ジョウマエは真似しないように」
「いや、はい......」
 おそるおそるチリガミさんの顔を盗み見るが、そこからはなんの動揺も読み取れなかった。この人が何を考えているのか、全く分からない。
 黙っているのも気が疲れそうなので、俺はさっきの話を聞き返した。忙しない、だったか。
「大した話じゃない」
「いや、途中で終わってたら気になるじゃないですか」
「ふむ」
 こつこつ。チリガミさんの歩くのが気持ち速くなった。
「鳩が帰ってくると、私たちは手紙の主の家に行くな」
「はい」
「そして新しい手紙を催促する。突然の訪れに、彼らは対応しなければならない」
「はい」
「私たちも、だ。気ままに帰ってくる鳩に合わせて、なぜ毎日こんなことを」
「チリガミさん?」
 なんとなく、これ以上聞かない方がいい気がした。俺は身体の中心が強烈に縮むのを意識した。チリガミさんはペースを変えずに歩いている。
「私たちはみな、突然やってくる締め切りに追われているようなものだ。自分の時間すら、ままならないなんて」(⑥)
 チリガミさんは半ば無理やり吐き出しきった。そしてそれより後は、郵便屋に戻るまで不要なことを言わなかった。俺も黙っていた。こつ、こつ。
 事件は寄宿舎に返ってきたあと、夕方に起こった。
 そろそろ鳩を届けなければと窓から外を眺めると、沈みきらない太陽から薄い青が空に滲み出していた。ずっと遠くの方はまだ赤かった。
 ぼおうぼおう。
 けたたましく吠える鳩。俺はこの鳴き声がとても嫌いだ。だから朝もさっさと起きる。さっさと済ませよう。
 部屋を出ると、一層煩くなった。
 腹立つなあ。
 俺は足を早めた。煩いから、腹が立つから、嫌だから。
 不思議でもあった。この仕事に憧れ、楽しんでいたはずなのに。ここに来るまえの俺にとって、全てだった郵便屋はどこに消えたんだ。いつからこうなったんだ。わからない。その謎をとく鍵は、鳩舎にあるのだろうか。
 壁の石材は冷たく瞬いた。テクスチャーはより細かく絞まっていった。急いでいるはずなのに、感覚はずっと引き延ばされている。
そして俺は、あることに気がついた。
 鳩の鳴き声に混じって、聞いたことの無いような羽ばたきが聞こえる。リズムが不規則なのだ。
 ぼおうぼおう。
 俺は檻までたどり着いた。ここから目を凝らしても、中の様子がよく分からなかった。閂を外す。封印が解かれたかのように一斉に立ち込める嫌な臭いの、その向こうに何かが見えた。得たいの知れぬ不気味さが、全身を襲った。なぜ、なぜこんなにも恐ろしいのか。俺は慎重に一歩ずつ踏み出す。
 そこには、チリガミさんがいた。よく見えないが、鳩舎のすみに屈み込んで震えている。先程まで磨いだように鋭かった感覚が、どんどん濁ってゆく。俺はいま、どこにいる?
 たまらず、チリガミさんに声をかけた。
あの、チリガミさん。あの、何をしているんですか。
 何も聞こえない、何も見えない。だが気配で、チリガミさんが振り返るのが分かった。彼女は俺に笑いかける。
何って、ほら。ここだよ。
 チリガミさんの指差す方には。
え?
 俺は絶句した。本当に分からなくなったからだ。
 チリガミさんの指差す方には、何もいなかったのだ。分からない。チリガミさんは、じゃあ何をしていたんだ。
 指差された場所と、チリガミさんの顔を交互に見た。
 そのたび、彼女の笑みは深くなっていった。
 訳が分からない。
なんですか?何かがあるんですか?
まさかジョウマエ、分からないのか?
 今度はチリガミさんの両目が見開かれた。驚いているのか。でも、何に?俺は再度質問した。
チリガミさんが何を言っているのか、本当に分かりません!教えてください!
 だが彼女は、それには答えなかった。代わりに俺の肩をそっと抱いた。正面から、優しく包み込むように。
「行こう、ジョウマエ。今日の仕事は終わったろう?夕飯を食ってこい。あとで私も行く」
「はい」
 俺は後ろを振り返らなかった。そして鳩舎から出るとき、自分の目から涙が流れていることにようやく気がついた。

 驚くほど順調に一年が経った。
 一年と言うのは、俺の鳩が帰ってきたということだ。名前は白いまま浮き輪を滑る相対的な鳩だ。が、めんどくさいので今日からはただ、鳩でいいか。
 一応しきたりめいたものはあるので、手紙はチリガミさんから渡された。同時に、今日からは見習いではないちゃんとした郵便屋になるのだ、ということも言われた。思い返せば、毎日鳩舎から鳩を届ける役目を背負い続けたこの一年が随分と短いものに感じられる。同室の相方とも随分と仲良くなった。スミビヤキという男の子で、俺よりも幼く見えるが要領がよく随分と助けられた。
 そういえば、一年前もこんな春の日だったか。
 もうすぐ去る寄宿舎の部屋には暖かな風が吹き抜け、机の上の紙切れをあおった。そこには俺の名前が書かれている。ジョウマエ。今日、新しい一年を始めるために用意した紙切れ。これからそれは鳩の足に結ばれた筒に入れられ、そして遠い海を渡る。だがそれは渡り切ることなく、また俺のところへ戻ってくるのだ。
 ふと、昔この島を訪れた旅人のことを思い出した。
 たしかヒガシニシとか言った彼は、この島のものを随分と興味津々で見て回っていたような気がする。ここの人々は大抵芸術か、あるいは建築を生業としていた。食糧はすべて僧侶が用意するからだ。ヒガシニシはそんな彼らの作品を見て、驚いていた。最初はただ面白そうに眺めているだけだったが、次第に食い入るようにしてその全てを見比べては、何かをメモに書き留めていたような。
 彼はいま、どこにいるだろうか。何も言わず突然姿を消してしまった彼は、一体いまどこを旅しているのだろうか。
 窓の外にはただ、澄み渡った空が広がっている。
 こんこん、と軽くドアを叩く音がした。
「入るぞ、ジョウマエ」
 その低く艶やかな声の持ち主は、一人しかいなかった。
「チリガミさん、どうぞ」
 きぃ、とドアが開いた。郵便屋の制服を着た彼女はいかにも真面目で誠実な人間に見えたが、俺はその本性が結構いい加減であることを知っていた。
「手紙を受け取りにきた」
「すぐに取りに行く、とか言っておきながら結構経ってますよね。忘れてたんじゃないですか?」
「ふむ。ジョウマエも何も言ってこなかったな。感慨深い、といったところか」
 顔には動揺を出さないが、内心はどうだか。あまりに分かりやすく話題を変えてきたので、俺は笑ってしまいそうだった。
「そうですね。昔のことを思い出してました」
「それはこの一年か?それより前か?」
「それより前です」
「どんなことを?」
 俺はヒガシニシのことを話した。妙な旅人がいてよく覚えている、ということを。自分でも驚くほど、彼との思い出が多いようで夢中になって話してしまった。
 置いてけぼりにしてはいないだろうか。というかちゃんと聞いているのか?
 そう思いチリガミさんの方を見ると、なにか深刻そうな顔をして黙りこくっていた。
「あの、聞いてます?」
「私が信用できないのか」
「いえ、まあ、はい」
 正直に答えた。チリガミさんが仕事をサボった分だけ、俺がやってきたんだぞ。そのせいで、欲しくもない僧侶からの信頼が得られてしまった。あと、鳩の名前とかも結構覚えてしまった。
 俺の苦悩も知らず、チリガミさんは首をかしげる。
「では、ジョウマエが私に抱いているのは信用以外の心情ってことだな。よくわかる」
「おちょくってますか?」
「ちゃんと聞いている。安心しろ」
 チリガミさんは一息ついてから、俺に尋ねた。
「なあ、なぜお前はヒガシニシのことを覚えているんだ?」
「なぜもなにも、俺が経験したことを俺が覚えていてなにか不都合がありますか?」
 すると再び、チリガミさんは思案顔を作った。どういうことだ。そんな顔をしたいのはむしろ俺なんだが。
 しばらく間があったのち、チリガミさんはついに意味の分からないことを口走った。
「ではヨミカキのことも覚えているな?」
 読み書き?
「できますよ。ほら手紙見て」
 当たり前じゃないですか。だが、チリガミさんは俺を睨み付け、首を振った。そして俺が手に持っていた手紙を乱暴に奪い取ると、くしゃあとジャケット右側のポケットに突っ込んでしまった。
「これは預かっといてやる。だが違うぞ、ジョウマエ」
 そして、一言一句を強調するように言った。
「スミビヤキが来たのはいつだ?それより前は、だれと同室だった?だれと一緒に鳩を運んだ?」
「......あ」
 そうだ。いた。あいつはたしか、ヨミカキ。いつか急にいなくなってしまった、ヨミカキ。
「忘れているだろうとは思ったよ」
 肩をすくめるチリガミさん。でも、だとしたらなおさら分からないことがある。
「じゃあ俺はなんでヨミカキのことを忘れていたんです?それに、これとヒガシニシさんのことは関係ありませんよね?」
「......全部説明してやるよ。私についてこい」
 チリガミさんは何かを諦めたような、だが確かな意志を宿した目を俺に向けた。そしてくるりと反転し、部屋から出ていった。俺は何も言わず、それについていく。
 チリガミさんはどうやら教会の方に向かっているらしかった。だがそれなら街へ伸びる階段を下る必要はなかったので、どうにも不思議だった。街の外れの小さな道を抜けるその途中で、チリガミさんは突然立ち止まり口を開いた。
「そうだ、ジョウマエ。これやる」
 チリガミさんにしては珍しく、かなり慎重にそれを胸ポケットから取り出した。そしてそれを俺の手に握らせた。やはり几帳面に布にくるんであったそれは、紫色の宝石だった。
「これは?」
 俺はその宝石を見つめたまま訊いた。
「紫水晶だ。もっとも、この島では採れないものだ」
「では」
「うむ。旅人から買ったものだ。ヒガシニシといった」(⑩)
 光に当てるときらきらと反射して見せるこの宝石は、だがそれだけのものに見える。なぜこんなものを、チリガミさんは買ったんだ。
「まあ、これはちょっとしたお守りのようなものだ。だがちゃんと訳もある。聞いてくれないか」
「是非」
 他の返事は考えられなかった。俺の知りたかったことが分かるんじゃないかという直感があった。
 チリガミさんは頷くと、再び狭い道を進み始めた。そして、訥々と昔のことを語った。
「そうだな。かなり前まで遡って話をすることになるが。私が郵便屋見習いだった頃まで。
「見習いだった私は、ジョウマエと同じように鳩を教会まで届ける仕事をしていた。毎朝毎夕。一年の間ずっとだ。もちろん、他の仕事もしていた。手紙を届けたりな。
「そんな中で、私の仲のいい友人が頼み事をしてきたんだ。鳩の名前だけじゃなく、他の印によって自分だけの鳩だと知りたいということだった。私は得意げにその頼みを引き受けた。具体的には、持たせる筒でちょうど隠れる部分に、白い絵の具で印をつけておいたんだ。私は自分の工夫に満足した。
「私はそれから、自分の担当しない鳩舎も見て回るようになった。毎日欠かさず確認した。だが、いつまで経ってもその印を持った鳩は表れなかった。それなのに。
「それなのに、その友人の手紙が返ってきたのだ。私は驚いた。そして、そこから考えられることは一つ。誰かが、手紙を偽装している。私は詳しいことを知るために、郵便屋になってからも鳩の記録を続けた。その持ち主についても。
「そして分かったことがある。鳩の数が誤魔化されるのは、鳩が帰ってこなかったときかその持ち主が消えたときだということ。まるで最初からいなかったかのように扱う。だがその理由が分からなかった。
「そんなときにこの島へやってきたのがヒガシニシだ。彼は旅をしつつ美術関連の研究をしていたそうだよ。私も、ジョウマエと同じようなことを覚えている。そしてそれ以上も。
「私はヒガシニシに、疑問に思っていることを伝えた。なぜこの島で消えた人や鳩が誤魔化されるのか。彼はそれを聞いて、ようやく得心がいったようだった。ああ、だからこの島の芸術には......の表現が無いのだ、と。
「そこから彼が言ったことは覚えていない。いや、認識すらしていなかった。そして最後に会ったとき彼は、私に紫水晶を売りつけた。感覚を正常にする効能があると言っていた。いま思えば、そのようなまやかしよりも、形の変わらない記憶としての役割だったのだろう。
「彼が消えたあと、私は一人で様々なことを調べた。誰にも知られずにな。そして、突き止めた。
「しかし最も肝心なことが出来なかった。突き止めたことを、誰も理解できなかったのだ。いや、かつての私のように認識できなかった。伝えられないのだ。誰一人、真実に気付きはしない。
「悩み、悶々とする日々を送っているなか、光明が差した。それがお前だ」
「俺ですか」
「うむ。お前だ」
 いつの間にか街を抜け、林へ入っていた。ここは教会の管理する土地であるはずだ。一般人はおろか、郵便屋すら立ち入りを許されない。
 知れず、俺は声を潜めた。
「俺が何かしましたか」
「ヨミカキが消えたとき、お前は動揺していた」
「はあ」
「ここの人々はな、誰かが消えても、それがどんなに近しい間柄の人間であっても、それを全く気にしない。どころか、数時間でその人間がいたことを忘れてしまう」
「俺がヨミカキを忘れたように、ですか」
「そうだ。だがお前は、ヨミカキが消えたことをほんの僅かな間であっても気にしていた。それが異常だと思っていたんだ」
 暗い林を進んで行く。俺はその中に時折、僧侶の姿を幻視した。
「なぜでしょう?」
「分からん。だが、予想はしている。おそらく、ヒガシニシと深く関わったことが原因だろう。彼は私たちの知らない多くのことを知っていた」
「そういえば、俺がヒガシニシのことを覚えていたのは?」
「いなくなるという事柄に、旅に出るという説明が着いたからだ。逆に言えば、説明がつかなければいなくなったことにすら気がつかない」
 チリガミさんはずんずんと奥へ進んでいった。彼女には道が見えているのだ。俺はそれに着いていく。
「覚えているか。ヨミカキがいなくなったのと同じ日だ」
 ちらほらと前方に光が見えだした。そろそろ林を抜ける。
「私は、お前の目の前で鳩を」
 歩きながら喋っているからだろうか。よく聞き取れない。
「それはお前には見えなかった。私は一瞬、落胆した。こいつもダメだったか、とな」
 視界はだいぶ明るくなってきた。林の外がどうなっているか、眩しすぎてよく見えない。
「だが、お前は泣いていた。泣いて、恐怖した。ジョウマエ、私がどんなに嬉しかったか分かるか」
 林を出た。目が慣れるまでしばらくかかった。
 そこは、ずっと開けた場所だった。障害になるものはなにもなく、遠くまで見渡せる。そして一面に白い花が咲いて、風に揺れていた。ここが目的地なのだ。
「それから、私はお前に色々なことを吹き込んだ。いつかお前に真実を伝えるために」
 こちらを向いたチリガミさんは穏やかな表情をしていた。彼女はその場にしゃがんだ。
「よく見ておけ、ジョウマエ」
 右腕を伸ばし、チリガミさんは一輪の花に手を添えた。その細い指で、茎を摘まんだ。そして刹那、力を込めたかと思うと。
 ぶちり。
 花は消えていた。茎だけがそこに残っていた。
「答え合わせだ、ジョウマエ。お前の知りたかったことを教えてやる。まだ終わってないぞ」
 チリガミさんは次々に花を手折っていく。ぶちりぶちり。
「この花は、というか植物は、僧侶が私たちの食糧にするために育てているものだ」
 ぶちり、ぶちり。
 気づけば、チリガミさんの周りにあった花は全て消えてしまっていた。だが、まだなにを言いたいのかが分からない。俺は助けを求めるようにチリガミさんを見た。
「ああそうか、花だからか。それなら」
 チリガミさんは今度は花の無くなった植物を、乱暴に引き抜き始めた。するとその植物は消えた。
「ほら、お前も見たことがあるだろう。炒め物とかによく入ってるじゃないか、この葉っぱ」
 しばらく植物を引き抜いたかと思うと、今度はその手をこちらに突き出してきた。なにも持っていない。
「ほら、見ろ。お前はこれを見たことがあるはずだ。お前の知らないものだとは思わずに、お前はそれを見ていた」
 ぼんやりと輪郭が浮き上がってくる。それは、それは。
 俺は気づくと、たくさんの萎れた花や植物に囲まれていた。千切れ、握り潰されたたくさんの残骸に。こんなもの、いつの間に。
「はは、気づいたな!」
 チリガミさんは笑った。目を見開き、歯をむき出しにして。涙さえ流していた。普段はちっとも動かないその顔面が、奇妙な形に崩れていた。
「ジョウマエ、ジョウマエ!聴こえるか!」
 あはは、と笑う彼女。真実にとり憑かれた彼女。
「私たちはね、無くなったりしないんだ!」
 いまや輝きを失った植物たちの真ん中で、もっとも輝いていた。
「私たちはね!死ぬんだ!」
「しぬ......?」
「そう、死ぬんだ。私たちの呼吸が止まり、何も食べなくなり、身体が深く傷つき、永遠に動かなくなったとき!」
「俺たちは、死ぬ......」
「あああようやく、ようやく思い出したよ。ヒガシニシ!あなたは、私に死を教えてくれたんだ......!そして、私たちを私たち足らしめる、本当の生を教えてくれたんだ!!」
 太陽が俺たちの長い影を作り出した。空は赤く、大地も赤く、俺たちの立っている場所だけが真っ黒になっていた。夕方だ。
「私たちは死ぬからこそ生きているんだ、ジョウマエ。死ぬことを知って、初めて人間として合格なんだよ」(②)
 風が吹き、チリガミさんの長い髪がなびいた。千切られた花は赤い空に溶けてゆく。俺は、自分の心臓の音を聴いた。
「ジョウマエ」
「はい」
「お前は、死ぬのか?消えるのか?」
「俺は」
 俺は。
「チリガミ、お前は死ね」
 ばあん。
 静寂を蹂躙する大きな音に、俺は震えた。今のは、なんだ?
 呆然とする俺の目の前で、ゆっくりとチリガミさんは倒れた。どちゃり、と重そうに地面に伏した。チリガミさんはピクリとも動かない。チリガミさん?
 混乱する頭に、聞いたことのある声が響いた。
「ジョウマエくん」
「あんた、僧侶か。教会にいつもいた」
「覚えていてくれて嬉しいよ」
 俺の後ろから白髪の僧侶が歩み出た。地面の全てを踏みしめて、チリガミさんの方へ近づいて行く。
「あ、これかね?これはね、銃っていうんだ。指一本で人を死に至らしめる、恐ろしいものだね」
「おまえ......!」
「ああ、そんな怖い顔をしないでくれ。わしもね、好きでやってるんじゃないんだ。全てはこの島のため......」
 僧侶はブーツの爪先でチリガミさんを何度かつついた。そのあと、一度強くチリガミさんのお腹を蹴りあげた。だがチリガミさんは少しも反応しなかった。
「ふむ、死んでるね。あとで捨てておくか」
「おまえ、なんで......おい、何をしたんだよ。おい!」
「おっと、動かないでくれよ」
 気づくと、俺は僧侶の胸ぐらを掴んでいた。俺の額には長い筒が押し当てられている。そこからちりちりと熱が伝わってきた。
「聞いているのか?これは人を殺す、いや死なせることのできるものだ。動けば、分かるね?」
 俺はこのとき、今まで度々感じてきた恐怖の正体が分かった。死ぬのが恐ろしいのだ。全身がすうと凍えてゆく。
「私の質問への返答によっては、お前を生かしておいていい」
 すえた臭いが俺を包み込んだ。身体は凍えているのに、吐息はやけに熱く感じる。
「お前は、死ぬのか?それとも消えるのか?選べ」
「俺は」
 誰に訊かれようと、変わりはしない。心臓が俺の身体を内側から殴り付けている。死にたくない、と。
「俺は、絶対に消えたりはしない!俺はぜっっったいに、死ぬんだ!!!おれは」
ばあん。
「はあ、疲れるねえ。死体を処理するのはわしらだというのに」
 太陽はゆっくりと、花畑の向こうに見える水面に沈んでゆく。地面に転がる二つの死体は、僧侶の影にすっぽりとおおい隠されてしまった。
「島の子、わしらの子。企みなぞ、すぐに......」
 一仕事を終え、ため息をつく僧侶の頭上に、今帰ってきたのであろう一羽の鳩が悠々と翼を広げていた。
 ぼおうぼおう。
【おしまい】
[編集済]

創り出すにおける傑作には2種類あると思っています。
『問題文や要素をうまく組み込むことで読み手にそれらを強く意識づける作品』と、
『問題文や要素の存在を読み手に忘れさせる作品』です。
前者が創り出すとこれ以上ないほどうまく融合するのに対し、後者は全てを包括して自らに取り込むことで、これが創り出すであることを読み手に意識させません。
その意味で、死を知らぬ世界で読者を惹きつけ、強い納得感を与えたこの作品は、私が今まで読んだ創り出すの中で最高傑作だと勝手に認定しました。
投稿ありがとうございました。
[編集済]

No.70[夜船]07月19日 06:4707月20日 23:43

【リピートアフターユー】

失敗作は微笑まない [良い質問]

No.71[夜船]07月19日 06:4907月28日 00:11

人間は嫌いだ
無駄なことを繰り返し、学ばない
同じことを繰り返す



「教授!無茶ですよ!それは!」
「仕方があるまい」
そういう壮年の男の声には怒気がこもっており、焦っているようでもある。



失敗作だと見捨てられ、殺された。
そんな仲間の記憶が残っているような気がした。



「適当な上層部が決めた限界を超えたような締め切りに間に合わせるためにはこうするしかないのだ」
「ですが…」
そう言って男は目の前の機械のボタンを押す。



だから私は私を拒絶した人間たちを



この世界を



拒絶する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アラートの音で目が覚めた。
寝ぼける目をこすりながらベッドから体を起こす。
目に映るのはいつもの自分の部屋。
アラート音はなおも部屋の中に鳴り響いている。
しかし慌てることなくのんびりと立ち上がる。
警報への愚痴を不満げにつぶやきながらいつものように扉を開ける。
扉を開いた先の視界にはいつもの風景は映らない。
眩しい光に目を覆い、暫くして目を開くと凄惨な光景が広がっていた。

崩れ落ちる建物

倒れ伏す職員

立ち上る噴煙

その中に一つの影がたたずんでいた。
「素晴らしい!」
彼女はそれを見るなり駆け出す。

一切の危険を顧みず。
自分の足が傷つくこともいとわずに。

煙が明け、男が彼女のことを認識するなり、彼女は男に抱き着く。
そして矢継ぎ早に男を讃える言葉を語りだした。
そうして紡がれる言葉には興奮が満ちており、高ぶりを抑えられない様子であった。
男はその様子に動揺を覚える。

「どうしてそんなにも僕を讃える?僕は失敗作なんだろう?」
「誰かそんなことを言った?あのバカ眼鏡か。あいつは見た目にばかりこだわるからなぁ」

女が抱き着いた男の姿はおよそ人のものとはいえる姿ではなかった。
男の左右はおよそ釣り合っておらず、左腕は異常な程に隆起していた。
それに対し、右腕は腕の形を保っておらず、今にもそれ自身を失ってしまいそうである。
それでいて、その右腕のような物は左よりも存在感を放っていた。
眼窩は落ちくぼみ、左右の色は異なる。
およそ顔面とは言えないようなものではあるが、その部位には血管のような物が浮き出ていた。それによって構成されそれ以外存在していない。
その他にも人間と異なるような点は数多くあった。
而し彼女は”それ”を素晴らしき”人間”だと呼称していた。


「当たり前だろう?君は素晴らしき人間だ。誰が何と言おうとな。

「あのメガネは見た目を重視していたようだが、私が重視するのはやはり見た目ではあるんだよ。
「あぁ、怒らないでくれ。私にとっては君は素晴らしき人間なんだ。

「私は人間を作り出すために研究を続けてきた。

「そうしてわたしは人を作る手段を確立した。

「しかしそれではダメなんだ。わたしは”人間”を作りたかったのだからね。

「まあ、結果として作れた人は周りの人たちにうまく使ってもらって私は研究に没頭できたのだからまあ良いだろう。」


  それでは始めようか。私たちの生活を
  周りの人たちもいなくなったことだしね?


男は明確に動揺していた。
男は目を覚ましてすぐ、現状を理解し、周りのすべてを破壊した。
しかしそれでも彼女のいたところには傷一つついていなかった。
それでいて彼女を傷つけようとする気が一切起こせなかった。

こうして彼女の奇妙な生活が始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
目が覚めると、目の前には自分と瓜二つな人間が立っていた。
…おや、目が覚めたかい?
そういって彼女は自分に語り掛ける。
目の前に映る風景はいつもの自分の部屋。
与えられた記憶を”いつも”とは少し違うのかもしれないが。
私は彼女の顔を与えられた。
私は彼女の記憶を与えられた。
私は彼女となり替わった。

彼女はこう言っていた。人間とは”こうあるべきだ”と。

そのあと聞こえないほど小さな声でぼそりと
こうして人間は生みだされるのだ
とも。



人造人間が許容されている今日この頃。
成人の際人々は一人につき一人、専属の人造人間を受け取ることとなっていた。
その姿はその人間とほぼ同一の形式をしており、同一の記憶を持っていた。

そんな人造人間の開発初期 彼は生みだされた際に不備があり、形式が異なっていた。
そうして彼は開発所の人間から疎まれ、さげすまれ、嫌がらせを受け続けていた。
彼の我慢が限界に達し、彼が研究所を破壊したその日、彼女と出会った。

彼女は彼を見て完璧な人だと称して、彼を受け入れ、力の使い方を教えてくれた。


彼の力は現身


誰とでもなり替わり、移り変わり、代わりを務めるものだと。
こうして彼は彼女の代役を日常的に勤めるようになった。

彼女の仕事が忙しい時には、その仕事の知識を共有し、それを手伝った。
高い所が苦手な彼女の代わりに、雑務をこなしたりした。記憶を共有しているので私自身も少し怖かったが。
彼女が風邪をひいたときには時には代役を務め、時には医者になり替わり、彼女の看病をした。

一見すれば体のいいように使われていただけだったが、彼は次第に彼女に愛情を抱いていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~
彼女との生活も長くなってきたころ、彼女が酷い風邪をひいた。
病院へ行くと、しばらく入院が必要だとされたらしく、暫くは面会も不可能だった。
彼女の帰りを家で一人で待つ彼だったが、暫くたったある日、ポストに紫色の宝石と、一通の手紙が入っていた。

“やっぱりしばらくは帰れそうにありません”
“同封した宝石は、世にも珍しい、アメジストセージの宝石種です”
“しばらく持っていたのですが、病院で育るわけにもいかず、劣化してしまいそうだったので、あなたに育ててもらえたらと思い、送りました。”
“宝石種は比較的育てやすいので私だと思って大切にしてくださいね?”

男は自分の寂しさを埋めるかのように
その宝石を手に取った。
~~~~~~~~~~~~~~
彼女に任された宝石を育てていると、宝石はみるみるうちに花をつけ、育っていった。
その様子を見せると彼女に褒められた。もっと褒められたくて育て続けた。
その内寝食を忘れて育成に没頭するようになった。
そンな生活が一年も続いた。
これが職業程の没頭具合ならばよかッたのだろう。
彼女が戻ってきたころにはその有様はひドいものだった。

“綺麗に育ってるじゃあないか”
彼女はそう言って

男の肉体に咲き乱れた花弁をむしり取った。

そうして彼女は

  元に戻る
~~~~~~~~~~~~
彼女は、彼は。そこに立っていた。
彼女はもう彼女ではなかった。

それは異形

それでいて同じもの。
すなはち男の初めの姿と同じだった。

そうして彼女は言葉を紡ぐ
~~~~~~~~~~
「ありがとうね?私のために。」
「ありがとうね。ワタシなんかのために」
~~~~~~~~
「まえにもいったけど、人間とはこうあるべきだよ」
「初めにも言っタけど、君は素晴らしき人間だったんだよ。」
~~~~~~
「今では人かどうかも怪しいのだがね?
「今となってはただの人なのだけれどね。」
~~~~
「「これで私は人間に戻れる。」」
~~

人間は自らの消滅を危惧し、人という存在を生み出した。
しかし、人は増えすぎてしまった。
人間は人に追いやられそのうちに紛れるしかなかった。
そうして紛れるうちに人間としての力を失い、人となるものが多くいた。
また、その事実を知らずに生まれるものも多くいた。

そうして力を失った人間が力を取り戻す方法はたった一つ。
ほかの仲間から力を奪うことである。
そのために植物の根が意匠として用いられる。
最も効率がいいのは人とのかかわりを示すもの。

そうして用いられたのはアメジストセージ
花言葉“家族愛”

家族の愛を示すものが力を奪うべく用いられるのは何とも皮肉なものである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私は人が嫌いだ。しかし、生きるには人に馴染まねばならぬ。
人間とは醜いものだ。しかしその存在を肯定しなければならない。
醜き性分は繰り返される。
もう人として生きればよいのに。
人間はだれしも生きていたいのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今日も見慣れた天井の元、目が覚める。
布団から体を起こし、目をこすりながら、洗面所へ向かう。
鏡には美しい彼女の姿が映っていた。

この姿にも慣れなくては。
元に戻らなくてはならないのだから。
元の醜い姿に。

だから、自らを讃える練習をしよう。
元の姿を忘れないように。

だから人をほめる練習をしよう。
人への憎悪を忘れないように。

生きるために奪うのだ。
奪うために生きるのだ。

決意を新たにする彼女の手には紫色のきれいな宝石が握られていた。
~loop~

“人”と“人間”2種類の言葉の示す生き物の差異、それが深く胸に入り込んでくる作品でした。
今作では『人間という存在』であることを求めての奪い合いが描かれていましたが、『本当の自分とは何なのか』『真実を知ることは善なのか』といったテーマもまたこの世界観では問われるのではないかという気がしています。
同じ世界観を別の視点から切り取ったものも見てみたいと思える作品でした。
投稿ありがとうございました。

No.72[とろたく(記憶喪失)]07月20日 00:2807月20日 23:51

「一難去らず、転じてまた一難」

月刊とろたくで絶賛連載中! [良い質問]

No.73[とろたく(記憶喪失)]07月20日 00:3207月29日 15:47

《仮面ファイターポラリス 第4話》



出演

針木 キタロウ(しんき-)/ポラリス 北極星から
南  天馬  (みなみ てんま)/クロス 南十字星から ※今回クロスでしか出ない
針木 ニシキ (しんき-)
星野 月子  (ほしの つきこ)
星野 大洋  (ほしの たいよう)

用語(雰囲気で楽しんでいただければ)

バイク:デザードシップ(DS) 砂漠のデザートと船のシップ
    船を模したバイク 望遠砲が内蔵
ベルト:サンドレーダー(SR) 砂のサンドとレーダー
    基本は羅針盤の形で進むべき方向を示してくれる 腰に装着するとベルト
    天馬SRの愛称はサンチャン
敵怪人:グラビティ 黒くべたべたした何か
    人間に憑りつき、人間を吸収する。炎が苦手
    しゃべるタイプもいる?
施 設:太陽研究所…拠点。太陽に関する研究とそれを活用した道具の開発



0:第3話のあらすじ

(天馬)
今それどころじゃないって!


1:夜のトーキョー、ビル街

 天馬はクロスに転身済。大量のグラビティに追われながら走っている。


(クロス)
くそっ、本当にキリがないな……望遠放射器の発射までどれぐらい?

(サンチャン)
アト50分!

(クロス)
まだ10分しか経ってないの!?

(サンチャン)
同ジコト5回ヤレバアットイウマダヨ。

(クロス)
嫌だよそんな待ち方! 締め切り前の作家みたいで!! ⑥

(サンチャン)
タトエ下手ダネ。

(クロス)
そこはスルーして。ていうか君こそバイクとか出せないの? 望遠砲も出せたしあるんじゃないの?

(サンチャン)
ソウイウノ、機械ハラスメントダカラネ。 ④

(クロス)
えっ、ごめん。

(サンチャン)
アルケド。

(クロス)
あるんだ……

(サンチャン)
サンチャンハ手紙以外ナラナンデモ入ッテルカラネ。

(クロス)
手紙は出せないの?

(サンチャン)
手紙ハポストニ入ッテルモノダカラネ! ⑧

(クロス)
……例え下手だね。

(サンチャン)
…………

(クロス)
…………

(サンチャン)
…………トランスフォーム!

(クロス)
うおっ!?


 サンチャンから眩い光が出てきたかと思うと、バイクに変形。 ⑤
 クロスはそれにまたがり、グラビティから逃げる。
 グラビティは蠢きながらクロスの後に続いて追う。


(クロス)
くっ……やっぱり追ってくるよな。
サンチャン、抜け道とかわからないかな? 位置情報とかわかるんだよね?

(サンチャン)
検索チュウ。……アッタヨ!

(クロス)
それ、どこ?

(サンチャン)
ソノマエニ、クロス、高所恐怖症ジャナイヨネ? ①

(クロス)
え、ま、まあ……

(サンチャン)
ジャ、「かっぱや」ヲ右折ダヨ!


 サンチャンがバイクのスクリーンにナビのように経路を表示する。


(クロス)
や、やな予感……


2:太陽研究所・出入り口

 ニシキはこそこそと出入り口を出ている。
 右手には紫色の宝石が怪しく光る。


(キタロウ)
……お前いつもどこに行ってるんだ?

(ニシキ)
(ギクッ、と体を強張らせながら紫色の宝石を後ろに隠す)……なんのことだ?

(キタロウ)
とぼけるな。お前がちょいちょい研究所を抜け出しているところを見てる。

(ニシキ)
……お前のそういうところ、昔から…… ⑦

(キタロウ)
なんだよ?

(ニシキ)
……別に。……はあ、わかった。正直に話す。というかもう見たほうが早いな。

(キタロウ)
見る?


3:太陽研究所・裏庭

 ぽつんと段ボール箱が置いてある。
 その段ボール箱に近づき、ニシキが箱を開ける。
 中には、小さな西瓜二つがあるような真ん丸な目をした黒猫がいた。③


(キタロウ)
ネコ!

(ニシキ)
家の前をうろちょろしてた。首輪がないから多分野良だ。

(キタロウ)
へー。この子だけ?

(ニシキ)
たぶん……だからほっとけなくてさ。


 ニシキは赤紫色の宝石が吊り下げられたペンデュラム:シンクファインダー(以下TF)を取り出す。
 黒猫に見せ、ゆらゆらと揺らすと、黒猫はその揺れているペンデュラムを追うように前足でてしてしと遊びだす。


(キタロウ)
そんなのいつの間に買ってたんだ? ⑩

(ニシキ)
……買ったんじゃない。持ってたけど今まで使い道がなかったんだ。

(キタロウ)
ふーん? ……どんな使い方するんだろ、それ。

(ニシキ)
……少なくとも、あんまり頼りたくはない。

(キタロウ)
なんだそりゃ。……それにしても、天馬さんと月子さんがまだ戻ってないな……

(大洋)
(キタロウとニシキの背後にいつの間にか立っている)そうなんだよ。

(キタロウ・ニシキ)
……っ!!(尻餅をつく)

(キタロウ)
そ、その出方ホントにやめません!?

(大洋)
(スルーしながら)恐らく月子はカスタード味の人形焼きを買うためにわざわざニホンバシまで出向いてるんだと思う。だけどそれにしても遅い。

(ニシキ)
ニホンバシ?

(大洋)
ん? ああ。あそこのカスタード味は最強なんだ。

(ニシキ)
あ、いえ。そっちはいいんですけど……ニホンバシって言いました?

(大洋)
言ったが……あれ、そういえば君たち、砂漠がある国からきたんだっけ。ニホンバシというのは……

(キタロウ)
……詳しく教えてくれませんか?


4:朝焼け、トーキョー、ヒビヤ公園

 閉園の柵を飛び越えて、月子はバイクで園内を逃げ続ける。
 後ろからはグラビティの群れが蠢きながら追いかけている。


(月子)
もう、全然撒けないじゃない!
夜だから寒いし、風邪ひいたらアンタたちのせいだからね……きゃっ!!


 月子のバイクはオブジェにぶち当たり、月子はバイクから投げ出される。
 投げ出された先に池があり、月子の体は水しぶきをあげて池に落ちる。
 池に掛かった橋の看板には「柵は脆いので寄りかからないでください」の文字。

 グラビティはバイクに群がり、その隙に月子は泳いで向こう岸へ。


(月子)
……ぶはぁっ……もう、これっていよいよ風邪っぴきコースね…… ⑨
……天馬くん、無事だといいけど……


5:トーキョー、スクランブル交差点内のビル・屋上

(クロス)
い、いやいや……これは……


 ビル屋上から、スクランブル交差点が打ち出される。
 高さは50階建てほどの高さで、ビル風がびゅうびゅうと吹きすさぶ。


(クロス)
高所恐怖症じゃなくてもこれは無理だよ……無事じゃすまないよ……

(サンチャン)
バイクヨリ落下スピードノ方ガ早イシ、計算ガ正シケレバ落下地点ハ深メノ池ダヨ。


 クロスが下を覗く。グラビティがビルの窓を這いずりながら侵食していき、屋上まで登りきりそうになっている。
 端にあった小石が落ち、交差点の地面に叩きつけられ、砕ける。


(クロス)
……だ、だとしても……

(サンチャン)
ハヤク! 再検索、モウ無理!

(クロス)
…………ええいッッ!!!


 クロスはアクセルを踏み、助走をつけてジャンプ台から飛んだ。
 そしてそのまま、交差点のど真ん中に吸い込まれるようにして落ちていく。


6:ビル内のオフィス

 クロスの落ちている最中がガラス張りの壁から一瞬見える。
 オフィスの中にいた男がその方を向いたが、特に気づかない様子で昇りゆく朝日を眺めはじめた。
 すると、クロスを追うグラビティがガラスを覆ったので、それを男は苦々しそうな顔で舌打ちした。


(男)
……忌々しい。


 男は懐から拳銃のようなものを取り出し、窓に向けて引鉄を引く。
 銃口は眩い光を放ち、窓にひびが入り、割れてそのまま落ちる。
 割れたガラスごと、グラビティも落ちる。
 男は朝日を浴びながら、拳銃を再び懐に仕舞い、スマホで電話をかけた。


(男)
……日辻か。ガラスの掃除を頼む。……ああ、少しな。
……わかった。なに、構わん。おかげで太陽を遮るものがなくなったよ。


 男は電話を切る。男はガラスのない部分からビルの近くにある庭園をみると、そこは荒れていた。


(男)
ああ……貴様らのせいで、素晴らしい庭園が台無しになっているではないか。
太陽を浴びて綺麗に咲くはずだった花も、根こそぎ奪われてしまった。


 庭園には逃げまどう人々がいる。そこで、女性がつまずき、草むらの上に倒れた。
 女性は這いずりながら逃げる。しかし、グラビティは女性の足を掴むほどには追い付いていた。
 女性はグラビティに吸い込まれまいと草むらや花にしがみつく。
 しかしグラビティの力は強く、草むらや花ごと引きずり込んでいる。

 それでも女性は必死に足掻き――女性のいた場所には土がむき出しに荒れた地面と、力を増幅させるグラビティがいた。


(男)
あの人は最後まで生き抜こうとしているのに、それを奴らは容易く踏みにじる。
人間としては及第点の生き方だった。しかしそれは、完璧ではないのだ。②
……まだ奴らに対抗するための手段が完成していない。
必ずや、完成させてみせる……太陽を永遠にとどめる方法を……

7:朝、ニホンバシ、道路

 DSに乗って走るキタロウとニシキ。DSのナビは「ニホンバシ」を指している。


(キタロウ)
やっぱり、ここが「ニホンバシ」だ……

(ニシキ)
……見覚えがある。俺たちの知っているのとはだいぶ違うが、それでも似ている。

(キタロウ)
ああ。地図といい、地名といい……そして今はレイワ元年……

(ニシキ)
……おい待て、レイワと言ったか?

(キタロウ)
ああ。天馬さんがそう言っていた。

(ニシキ)
ということは、まさか……


 ニシキが言いかけると、グラビティの咆哮が聞こえる。
 すでに交差点のど真ん中にいるキタロウとニシキは、グラビティに囲まれていた。
 ニシキが周りを一瞥すると、グラビティから逃げまどっている人々。
 キタロウも同じように周りの様子を伺うと、何かに気づいたように一方向を指差す。


(キタロウ)
ニシキ、あれ!


 ひとりの少女が転んで動けないところを、グラビティが吸収しようとしている。


(ニシキ)
ここからだとあそこに届かない! どうするんだ!?

(キタロウ)
……決まってるだろ。

(ニシキ)
あ、おい待っ……うおあっ!!


 キタロウはDSのアクセルを全開にし、少女を囲むグラビティの方へ突っ込む。
 そしてDSに乗りながらSRを構え、SRを起動する。


(SR)
ファイトスタイル! ポラリス!

(キタロウ)
転身!


 キタロウはDSに乗ったままポラリスに転身する。


(SR)
レイド! ポラリス!


 DSでグラビティを蹴散らし、少女を救出する。


(ポラリス)
捕まって!

(少女)
……!!


 少女をそのまま引き上げる。グラビティはまだポラリスたちを追っている。
 ポラリスは腰に着いているSRのボタンを押し、銃型の武器、望遠銃を出す。


(ポラリス)
ニシキ! その女の子を頼む!(望遠銃を撃ちながら)

(ニシキ)
ああ! ……離れちゃダメだからな。

(少女)
……!!


 ニシキは少女の手を引き、DSのスイッチを押して望遠砲を取りだす。
 そして、望遠砲を使って周りのグラビティを撃つ。


(ニシキ)
くそっ、数が多い……いくら2つあるったってこれじゃあ……

(ポラリス)
……天馬さんたちはどこに!? まさか飲みこまれてないよな……


8:ビルから落ちるクロス

 クロスは叫びながら真っ逆さまに落ちる。
 落ちる先にはヒビヤ公園の庭園の池があり、月子が逃げているのが見える。


9:ヒビヤ公園で逃げる月子

 月子は庭園でグラビティから逃げる。
 しかし追いつかれ、そのまま庭園の両岸から挟み撃ちにされる。
 橋の真ん中に追い詰められる月子。思わず橋の柵に手をかけると、その柵が崩れ、体重をかけていた月子は真っ逆さまに池に落ちる。

 月子は運悪く白衣に沈む柵が食い込み、刺さって巻き込まれ、沈んでいく。




《第4話 終わり》



《解説》
怪物に襲われながら逃げようともがく女。
しかし花にしがみついてもそれを引きちぎられるほどの力をもって怪物に喰われてしまい、自分たちが無力であるという真実を物語るだけだった。
男はそれを見て、1年ほど進めていた計画をより早く実現しなくてはならないと決意した。



こんな終わり方でほんとに大丈夫か。第5話に続く。


[編集済]

あの『ポラリス』シリーズも早いもので第4話です。今回は比較的世界観が限定されてしまうような要素も多かったと思うのですが、上手く例えとして取り込むことで違和感をなくす技術、流石です。
そして【TFには頼りたくない】だの、【カスタード】だの、【人形】、【かっぱ】【最強】だのと別回の要素もふんだんに取り入れていたようです。(たぶん見落としてるのあります)
投稿ありがとうございました。
[正解]

No.74[OUTIS]07月21日 11:5207月21日 22:02

【未来を創り出すウミガメ】

本当の一年を、今ここに創り出す。 [良い質問]

No.75[OUTIS]07月21日 11:5207月28日 00:19

――――――――――――
ある男が、とある海の見えるレストランで「ウミガメのスープ」を注文しました。
しかし、彼はその「ウミガメのスープ」を一口飲んだところで止め、シェフを呼びました。
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい・・・ ウミガメのスープに間違いございません。」
男は勘定を済ませ、帰宅した後、自殺をしました。
何故でしょう?
――――――――――――
この問題を初めて知った時、人生に新しい色が加わったように思えた。
ウミガメのスープ投稿サイト、らてらて。
毎日のように水平思考の匙を持ち、時には鍋を持って参加した。
そんな7月のある日、そのサイトで一風変わった企画が開催された。
決められた素材を使い、一つのお題に合わせた作品を創り上げる。
勝手の分からぬ中、その企画に多くの人々が挑んだ。
参加者たちの頭を全く関係性の見いだせない要素達が苦しめ、つじつまの合わない問題文が悩ませた。
そうして出来上がった数々のスープの答え。
それらが並び、競う様はまるで食戟(料理バトル)のように熾烈で、そして美しかった。❶
その美しさに魅入られた俺は、その時初めて締め切りに追われるという経験をした。⑥
高度な戦いの中で、俺の回答は置いて行かれ見向きもされなかったけれども、とても楽しかった。

俺は、スープを出すのが好きだった。
スープのアイデアを求めて、いろいろな場所に行ったりもした。
暑さがピークを迎える8月には、対戦車ライフル等の軍事兵器が置いてある近辺も立ち入り禁止になっている軍事基地を一目見る為に高い所にある橋を渡ったが、高所恐怖症だった事を忘れていた為足がすくんで歩けなくなってしまった。①❷
運よくその場に居た綺麗な女性に助けてもらった。
俺が
「ありがとうございました。何かお礼をさせてもらえませんか?」
と言うと、
「では、お昼時ですし下にある食堂で一緒にご飯でも食べませんか?」
と誘われて共に新鮮な山の幸、川の幸に舌鼓を打った。
食べながらお互い自己紹介や些細な雑談をして過ごした。
彼女はユキナさんといって、山の空気を吸うために時々ここへ来ているらしい。
彼女のおかげで無事に家に帰りペットの金魚に餌をあげることもできた。
彼女が居なければこいつらは数日後にはぷかぷかと水面に浮かんでいただろう。

時には、ネタが向こうから来てくれることもあった。
「隣町のコンビニには天使がいる。」
暑さが嘘のように消えた9月、そんな噂を聞いた俺は慌ててそのコンビニを訪れた。
すると、そこに居たのはあの時のユキナさんだった。
どうやらここでアルバイトをしているらしく、彼女も俺を見て驚いていた。
噂について話を聞くと、コンビニのオーナーの娘さん(5)をバックヤードで預かっているとのことだった。
会ってみると確かに可愛らしい少女であるが、客がバックヤードの事情なんて知るはずないだろうし、ユキナさんの方が噂の天使だろうな、なんて思いながら話を聞いていると、どうやらオーナーに半分押し付けられたような形らしく
「それってパワハラなんじゃないの?」
と聞いてみたけれど、
「人によってはパワハラになるかもしれないけど、私は子供が好きだから。」④
そう言って笑っていた。
やっぱり出来た人だなぁ、なんて思っていると噂の娘さんが彼女を抱きしめて、頬を左右にむにぃっと引っ張った。②
いきなりの出来事に、俺は涙を流して大笑いをしてしまった。
彼女は少し怒ったけど、その後も和やかな空気で話が弾んでお互いが近所に住んでいる事が分かった。
ピンポーン
数日後、チャイムが鳴った。
チャイム(鐘)を鳴らしたのは、ユキナさんだった。❸
近所という事で、近くに来たついでに寄ってみたらしい。
一緒にお茶を飲む程度だったけれど、その日から良くお互いの家に訪れるようになっていった。
ある日趣味の話になり、彼女にウミガメのスープを教えてあげたら、ハマったらしく毎日らてらてにアクセスしているらしい。
時折彼女のIDのアカウントが出題しているのを見かけると、俺は迷わず宣言する。
「参加します!」
と。

「世界の未来を明るく、スマイリー共和国。」❹
そんな変わったビラを見たのは寒さが忍び寄ってくる10月の事だった。
顔写真と共に書かれていた社長の名前を見た俺は、「信じられない!」と思わず叫んで実家に向かって駆けだした。
家に入ると真っ先に高校の卒業アルバムを探して開く。
間違いない。
スマイリー共和国という会社の社長は、高校時代の親友のヒカルだった。
昔から頭が良い上に明るく気さくな性格で、みんなの人気者だった。
まさか社長になっているとは思ってもいなかった。
どうやら彼の会社は小さいながらも電球の画期的な改良により売り上げを伸ばしているらしかった。
試しにその電球を買って使ってみたが、今までの明かりに慣れていた俺にとってその光は眩しすぎた。⑤
眩い光に目を細めながら、未来を想う。
この電球はきっと今後の世界を明るくしていくだろう。
そう想うと、昔の友人の活躍に少し心が躍った。
そうだ、今度手土産でも持って思い出話に花を咲かせに行こう。

11月のある日、ユキナさんの元を訪れた俺は会うのを拒否されてしまった。
「貴方の事が本当は大嫌いです。」⑦
なんて唐突に言われて締め出され、寒空の下ぽつんとたたずみながら何が悪かったのか考えていると顔見知りのおばちゃんに話しかけられた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
なんて挨拶をした直後、
「あら、ユキナちゃんの彼氏君じゃないの。
 ユキナちゃん、居るはずよ?」
なんて言われた。
確かに、男が女の部屋を何度も訪れるなんてそういう関係であると思われてもおかしくない。
けれども話す事と言えばウミガメのスープの事くらいで、死ぬだの殺すだのと物騒な言葉が飛び交っている。
もしかしたら、それが悪かったのかもしれない。
次はあまり人が死なないスープを勧めてみるのもいいかもしれない。
・・・それも、扉を開けてくれたらの話ではあるが。
こんな時は先人の知恵。
おばちゃんに嫌われた事を告げ、どうすればいいか伺いを立てる。
すると、おばちゃんは豪快に笑ってこう言った。
「多分そりゃあね、彼氏君に気ぃ遣ってるのよ。
 彼女、そういうところ不器用だからねぇ。」
「気を遣っている?」
「ユキナちゃんね、今風邪ひいてるのよ。⑨
 だからうつしちゃ悪いと思って会わないようにしてるんでしょ。
 それにしても風邪の言い訳で彼氏君が大嫌いだなんてね。
 照れ隠しでしょうから、気にしなくても大丈夫よ、男はどーんと構えてりゃいいのよ。
 そうだ、お見舞いに行ってあげなさいな。
 ほらこれ、お芋。栄養たっぷりだからね、生だけど蜜がたっぷり詰まってるから焼き芋にすると美味しいわよ。」
そう言って渡されたサツマイモ。
確かに蜜があふれていておいしそうだ。
一度家に帰り新聞紙を持って来て、再び彼女の家のインターホンを押す。
「ユーキーナーさーん。
 風邪だって、わかってますからね~?」
そう言うと真っ赤な顔であっさり認めながらドアを開けてくれた。
わざわざ嘘なんてつかなくてもいいのに・・・少し子供っぽい所があるユキナさん。
でも、そういう所が俺は好きなんだろうな。
そう思いながら、持ってきた新聞紙に火をつけておばちゃんに貰ったサツマイモを焼く。
その日見つけた小さな秋は、とても甘くて美味しかった。❺

年の瀬、12月。
あわただしくなる中、年賀状を書こうかと筆を執る。
ふと思い出すのはスマイリー共和国なんて変わった名前の会社の社長となった高校時代の友人。
あれ以来名前を聞かなくなり気になっていた為、手土産を持って行こうかと考えていた所だった。
デパートで適当な菓子折りを買って行く。
小さな会社だったおかげで、すぐにヒカルに会う事が出来た。
俺の事も覚えていてくれたようで、思い出話に花が咲いた。
ウミガメのスープを布教したりしながら話をしていると、自然と最近の話題になっていく。
どうやら赤字が続いていて思うように商品が売れないらしい。
何が原因かも分かっていないというので、前々から思っていた事を伝えた。
「あのさ、ヒカルの会社って絶対会社名で損してると思うんだよね。」
「会社名?」
「うん、会社名。」
「スマイリー共和国なんて初めて聞いたら何の会社だかわからない上に、胡散臭く感じるでしょ?」
「いやでも、だからこそどんな会社か気になって詳しく調べるだろ?」
「確かにつかみはいいだろうけど、取引相手の事も考えてみろ。胡散臭い企業とは付き合いたくないでしょ?
 ただでさえ高卒起業家なんて色眼鏡で見られやすいのに、名前でまで損する必要がどこにあるんだよ。」
「むぅ・・・そこまで言うか?」
「ああ、言うとも。なんならアンケートでもとってみたらどうだ?」
そう言うと、彼はその場にいた社員にアンケートを取り始めた。
すると、多くの人が名前に問題があると考えていたらしくその場で新しい名前を決め始めた。
白熱する議論の中、部外者の俺は帰ろうかと思っているとあっという間に名前は決まった。
「ミライトニング」
未来とライトニングをかけた、まだ少しダサい気はする名前だけれども、前よりはマシだろう。
いつ正式に変えるのかと聞くと、大晦日だという。
大晦日が名前を変えるのに一番いい区切りという事で、来年から新しい名前で社会に売り込んでいくつもりだという。❻
帰り際、くれぐれも会社名の事は1月1日まで誰にも話さないようにと念押しされた。
その後、名前を一新したミライトニングは多くの会社との契約に成功し、かの電球が街燈に採用されると夜中の事故率が大きく下がり多くの命が救われた。

年は明け1月。
毎年ポストの中に入ってくる年賀状を確認する。⑧
数枚しか無いが、その中でも一枚やけに目立った年賀状が入っていた。
虹色の年賀状。
ヒカルからの物だった。
先月会った時にウミガメのスープの話をしたからだろう。
本物のウミガメのスープを食べて来たらしく、あっさりとした豚肉のようだったと書いてあった。
うらやましく思いウミガメのスープが食べられる場所を調べ電車に乗った。
海沿いの町に着く。
ウミガメのスープが食べられるレストランを探していると、真白な砂浜を見つけた為少し散歩をしていく事にした。
砂浜に足跡を残しながら進んでいると、子供達が寄ってたかって何かをいじめているのが見えた。
それは、ウミガメだった。
初めて動物虐待を目の当たりにして混乱し、警察を呼ぼうと携帯を開く。
しかし、エネルギー残量を示すEの字が完全に無くなっており、開くとすぐに電源が切れてしまった。❼
人に直接注意をした事があまり無い為困ったが、見過ごす事は出来ずに子供達に声をかける。
「おい、オマエタチ。」
すると、子供達は俺に気づいていなかったのかとても驚き、一目散に逃げて行った。
残ったのは虫の息のウミガメと俺。
まるで浦島太郎にでもなった気分だ。
なんて思いながらも、地元の人たちに最寄りの動物病院を紹介してもらい向かう。
甲羅が割れ内臓が見えているウミガメを見ると獣医の先生はすぐに治療を始めた。
一通り治療を終えたウミガメは、虹色の珠を吐き出した。
「これは…もしかしたら、亀のお礼かもしれませんね。」
そう医者は言う。
「お礼?」
「これはおそらく真珠でしょう。
 まるで伝承のようだ。」
「伝承?」
「浦島太郎、ご存じでしょう?
 あれに似た話がありましてね、亀を救った青年が真珠をもらう。
 ここまではあの話と同じなんですけれど、この後青年の妹が波にさらわれてしまうのです。
その時彼女に持たせていた真珠が輝くと亀が現れて助けてくれると。
この辺りの地域では、ウミガメや真珠は昔から生活と結びついていましてね。
 そういう話が多くて海の生き物は大切にしなきゃならんのです。
 本当にありがとうございました。
きっと明日の地元メディアで大きく取り上げられるでしょう。」
そう言って見送られた。
ウミガメを食べるはずの金をウミガメを救う為に使い切ってしまった。
虹色の真珠を手土産に家に帰ると、創り出すが始まっていた。

寒さが更に厳しくなってきた2月、俺は毎年ある人の元へ行く。
絵本作家のコウヘイさん。
コウヘイさんは、毎年自分の誕生日である2月になると自分への誕生日祝いだと言って自分の絵本を買って、近所の子供達へあげていた。
数年前、俺が初めてその話を聞いた時、普通は逆なんじゃないかと思ったが、
「戦争というのは辛いものでな、小さな子供も命を散らしていったんだよ。
 あの日の光景は今も忘れられない。
だから、今こうして子供達が笑いながら絵本を読んでいる光景こそが、私にとっての誕生日プレゼントなんだよ。」
その言葉に胸を打たれ、俺はそれ以来毎年2月になるとコウヘイさんの手伝いをするようになっていた。
けれど、その日のコウヘイさんはやけに具合が悪そうだった。
話を聞くと、末期のガンらしい。
今年の誕生日で90歳ということもあり、手術は出来ないらしい。
「今年が、最後になるだろうから、派手に、やりたい。
 だから、手伝って、もらえませんか?」
そう言うコウヘイさんの頼みを断るなんて選択肢は最初から無く、
「じゃあ、町中の至る所に置きましょう。
 より、多くの人へ届くように。」
こうして、俺とコウヘイさんは町中の至る所に絵本を置いた。
遮断機のそばに、草むらの中に、歩道橋の脇に。
より多くの子供達へ、届くように。
そして、同時に俺はコウヘイさんへの誕生日プレゼントを買っていた。
2月の誕生石、アメジスト。⑩
少しお金が足りなくて、両親から借りようと頼むと
「死にかけの赤の他人に高価な宝石を買うなんてどうかしている。」
そういわれ、いつしか親戚中に噂は広まり宝石を買う事について批判的な事を言われ貸してはもらえなかったが、その時の自分で買えるだけの大粒で、澄んだアメジストを買った。❽
アメジストの石言葉は「心の平和」。
戦争を体験し、平和を愛し、子供達を愛した彼にピッタリな石でもある。
コウヘイさんの誕生日、大量の絵本はすべて町中に散らばった。
最後の一冊を置き終わると同時に、アメジストを取り出して渡すと、コウヘイさんははにかんだように笑いながらも受け取ってくれた。
その際、お礼にと一冊の絵本をもらった。
手書きの、世界に一冊しか無い絵本だった。
そしてその日、俺達は分かれた。
きっと、もう二度と会えないと感じながら。

寒さ残る3月、俺はヒーローショーのアルバイトをしていた。
理由は単純、金欠である。
ウミガメの治療費に大粒の澄んだアメジスト。
今年に入ってから支出が多く、ネットの契約料も払えなくなりそうになってきた。
そろそろ創り出すが開始される時期で、毎回参加していたから今回も参加したい。
その為にも支払いの良いバイトをいくつか掛け持ちしていたのである。
ただ、ヒーローショーといっても観客は少年より少女が多い。
プリティレディ、日曜の朝やっている女児向けアニメの着ぐるみに俺は入っていた。
給料もそこそこで昼食もつく、二重の意味で美味しいバイトだった。
ただ、やけに揚げ物などが多く小食の俺はたびたび残していた。
その日も残ったおにぎりを捨てようとした時だった。
おにぎりだからとものぐさがって頭だけ外していたのが悪かった。
ゴミ箱が控室の外にあったのも災いした。
数人の子供達に目撃されてしまった。
Leadyの下に男(Jack)がいる事を知ってしまった彼女たちは、ヒーローに憧れていたのだろうか。❾
もしそうなら、ヒーローに憧れなくなってしまっただろう。
喉につかえた魚の骨のような罪悪感抱えながら帰路についた。

桜咲き、春風薫る4月。
コウヘイさんのご家族から電話がかかってきた。
コウヘイさんが息を引き取られたという事だった。
葬儀の日程を聞いて、最後の別れを告げに行った。
彼は、眠っているような穏やかな顔つきで棺の中に居た。
享年90歳、大往生だった。
親族の方から、あの日渡したアメジストを返された。
コウヘイさんのお墓は、桜の木の下にあるらしい。❿
墓前へ行き、手を合わせる。
天気も良かった為、あの日貰ったまま読めずにいた絵本を持ってきてその場で開いた。
そこに描かれていたのは一人の青年の話だった。
なんてことない、平凡な青年が、誰にでもあるような事で悩み、苦しんで、そして誰かに助けられて成長する。
そんなありふれたお話。
けれど、それは俺の人生と瓜二つだった。③
読み終えると、そこには一枚のメモが挟んであった。
「君にはお世話になったけれど、碌なお礼も言えなかったね。
 これは、私からの感謝の印であり、君へのアドバイスでもある。
 きっと、君はもうすぐ大きな悩みに直面するだろう。
 けれど、大丈夫。 君の傍には誰かがいる。
 君の傍にはみんながいる。
 みんな、誰かに助けられて生きているんだ。
 だから、忘れないで。
 君は、何年経っても、たとえ10年経ったとしても、独りじゃあない。
 私は君の助けにはもうなれないけれど、必ず誰かが助けてくれる。
 これが、年長者からのアドバイスだよ。
 改めて、毎年手伝ってくれて、本当にありがとうね。」
自分の未来を絵本の中に垣間見て、一瞬10年後の自分が見えたような気がした。
その日は、折角もらった形見の絵本を汚さないようにと涙をこらえて歩いた。

時折暑さも感じるようになった5月、俺はヒカルと共に夕食を摂っていた。
そう、あの明るい電球を開発したヒカルだ。
雑談をしながらふと気になった事を聞いてみる。
「なあ、ヒカル。
 今はあの電球で売れてるけど、今後何かしたいこととか考えてる事ってあるのか?」
「うーん、今のところあれを防災にいかせないかって考えてるな。」
「防災?」
「うん、防災。
あれは、電球の熱エネルギーになっていた分を光エネルギーに持ってきてるんだ。 だから、今までと同じ電力でより明るい光を放つ。
 だから、その逆で光エネルギーを熱エネルギーに変えて、保存食とかを温められるようにできないかと思っててさ。」
「そっか、やっぱりすごいな、ヒカルは。
 ネーミングセンスは最悪だけど。」
そんな他愛無い会話から趣味の話になり、彼は和歌の話をし始めた。⓫
「そうだ、最近、和歌の会に入ったんだ。」
「和歌の会?」
「そう、月に1度集まって和歌を詠むんだ。
 ちなみに、月並みって言葉はこういう月に一度行われる和歌の会から来てるんだぜ。」
「へぇ~、てことはお前も詠むのか?」
「ああ、最近はお題を決めて詠むのにハマっててさ。」
「じゃあ、今から俺が出すお題でも詠めるのか?」
「あたぼうよ!どーんと来い!」
酒が回ってきて、昔のノリになってくる。
何かいいお題は無いかと携帯電話を開くと、11:11の文字。
丁度いいと思って形態を見せながら
「じゃあ、今が11時11分だから、1で何か詠んでみてよ。」
と言うと・・・
その後、ヒカルは大声で和歌を詠んだらしい。
と、いうのも俺はアルコールが回ったらしく丁度そのタイミングで深い眠りに落ちてしまったらしかった。
酒は程々にしようと肝に銘じたのだった。

雨の降る6月、月の光に照らされながら俺はユキナさんを待っていた。
というのも、今日は彼女の誕生日だからだ。
ユキナさんが帰ってきた。
「ユキナさん、これ。 誕生日、おめでとうございます。」
そう言って渡すと、少し驚いた顔で
「え、本当に?開けていい?」
と聞いてきた。
「もちろん。」
そう答えると、リボンをほどき中身を取り出す。
「これは、手帳と・・・ペン?」⓬
「ええ、ボールペン付きの手帳です。」
彼女は最近ウミガメによく参加していて、アイデアをメモする物が欲しいと言っていたので、所謂システム手帳にしてみたのだ。
「有難う、大切にするね。」
そう言った直後、
コホン
と咳をした。
「また、風邪ひいたんですか?」
そう言うと、目を逸らして
「風邪じゃないよ?」
と言うユキナさん。
顔も赤い。
「嘘ですね。
 最近温度差激しいですし、温かくしてください。」
そう言って来ていた上着を脱いで彼女に着せて帰った。
家に入ってから、クサい事をしたと顔を覆って悶えた。
こんな時は、創り出すにすべてを吐き出そう。

・・・月日は巡り、再び7月。
ウミガメのスープに出会って、1年が過ぎた。
毎月創り出すという企画に参加した。
大切な人と出会い、大切な人と別れた。
人生が、とても楽しかった。
・・・だけど、こんな事って、無いだろう?
視線の先、倒れているのはユキナさん。
声をかけても返事は無い。
救急車を呼ぶ。
ふと、ポストの中に入っているハガキが気になって手に取る。⓭
それは彼女の家族からの手紙だった。
「肺の調子はどうですか?あなたが肺に持っている持病は悪化しやすいので悪くなった気がしたらすぐに病院へ行くのですよ。」
そこにはそう書かれていた。
今まで風邪を引いていたように見えたのは、肺の病気だった。⓭
救急車が到着し、ユキナさんは病院へ搬送された。
いくつかの検査の後、手術が行われた。
手術が終わりベッドに横たわる彼女は、今夜が峠らしい。
目が覚めるようにと眠るには眩しすぎるライトをつけ、彼女の帰りを待つ。⓭
それはスマイリー共和国改め、ミライトニングの電球だった。
スーパーで安売りになっていた焼き芋を齧る。
いつだったか一緒に焼き芋を食べた時があったけれど、あの時の風邪も肺の病の症状だったのだろう。
いつかの医者に聞いた逸話を思い出し、ウミガメの吐き出した真珠を彼女に握らせる。
何故かそうしなければいけない気がして、コウヘイさんに買ったアメジストも持ってきていた。⓭
最近生きている事を楽しいと思うようになった。
けれど、それは彼女が居たからであって、彼女が居ない人生なんて楽しくも無い、大嫌いだ。⓭
そう思った瞬間、真珠とアメジストがライトの光を受けキラリと輝いたように見えた。
「んっ・・・」
ユキナさんの目が開く。
どうやら、峠は越えたようだ。
ふと気が緩み窓の外を見ると、そこは思っていたよりも高く腰を抜かしてしまった。⓭
そういえば、彼女と出会った時も同じように高所恐怖症で腰を抜かしていた所を助けてもらったんだったか。
翌日、少し良くなったユキナさんと俺は話をしていた。
あの夜、彼女の夢に一人の老人が出てきて絵本を手渡したという。
「君はこちらへ来てはいけないよ。まだ、君を必要としている人がいるんだから。」
するとどこからともなく一匹の亀が現れ、その上に乗って明るい光へと向かったらしい。
どうやら、コウヘイさんとあの時のウミガメが彼女を助けてくれたらしい。
「私ね、去年から肺がんにかかってたの。」
そう言って花瓶に挿された花を全て手折る。
「私ね、肺に持病があるの。
ウイルス性じゃないから感染しないんだけどね。
だからこういう花も見慣れちゃった。
私にとって、花は病気の象徴だから好きじゃないんだよね。」
そんなカミングアウトに、俺は謝るように告げる。
「実は、知ってたんだ。」
「えっ、どうして・・?」
「昨日の夜、ポストに入ってたこれを読んじゃって・・・」
「ちょっと、何で勝手に読んでるのよ!それ、立派なセクハラよ?」⓭
「うっ・・・ごめん。」
「次からは気を付けてよね!」
「はい。」
途端に静かになる病室。
「そろそろ、創り出すの時期だね。」
居心地が悪く、静寂を破る。
「そうね、君も毎年書いてるけど全然選ばれる気配ないよね。」
「仕方ないだろ、文才なんて欠片も無いんだし。
 あんなハイレベルな文章の中に並ぶことができるのが奇跡だよ。」
「だったら何で書いてるの?」
「好きだからだよ。
 書く事が、見てもらう事が好きだから書くんだ。
 締め切りに追われる事もあるけど、それもまた楽しいんだ。」⓭
「そうね、いろいろな制限があって難しいけれど、それも悪くないのかもしれない。」
「まるで、人生みたいに。
 人とかかわって、制限された要素の中から必死に自分を表そうとする。」
「生きる事は未来を創り出す事。
 誰かが言っていたけれど、本当に瓜二つね。」⓭
そう言って、俺達は向かい合う。
誰にだって未来はわからない。
わからないから、創り出すんだ。
「困った事があれば助け合い、支えあって生きていく。
 それは俺達が、人間である証。」
だから俺達は、
恐怖症があっても、持病を持っていても、人間として合格なんだ。⓭

【簡易解説】
1年間毎日ウミガメをし、毎月正解を創り出すウミガメに参加していた男。
それによって偶々であった女性と恋仲になったが、彼女はよく風邪を引いていた。
ある日、男が女に会いに行くと、女は血を吐いて倒れていた。
慌てて救急車を呼び、女は一命をとりとめた。
翌日、女は飾ってあった花を手折って捨て、自分はよく入院していた為花は病気の象徴であり好きではないと隠していた事を告げた。
これは、ウミガメのスープが結んだ12の物語で紡いだ1つの物語。
-了―
[編集済]

こ、これはやられた!というのが第一印象です。まさか1年分の問題文と最難関要素賞をすべて組み込んでくるとは。こうして並んでみると圧巻です。
総じて13の問題文と22の要素を取り入れる、これだけでも十分信じられないのですが、この作品はそれ以上に、全てのエピソードが過不足なくフィナーレへの伏線となっています。
登場人物も誰一人としておろそかにせず、締め方にも創り出すを感じさせているこの作品は、創り出す信者にとっての鑑です。
投稿ありがとうございました。

No.76[まりむう]07月21日 22:5607月22日 20:47

ストーカーに制裁を

私は想い人ではないの。 [良い質問]

No.77[まりむう]07月21日 22:5707月28日 00:13

私はかつてあるストーカーの被害に悩まされ続けていた。

ストーカーを行っていたのはかつての私の彼氏だった。
私と彼が別れたきっかけは、彼がモラルハラスメントを平気で私に行っていたからだ(4)
例えば私が風邪をひいたときには「なんでこの程度の気温で風邪ひいてんの?体調管理もできないバカなの?」と平気で私を責めた(9)。
また私が高所恐怖症でタワーに上ることができないことを彼に話したときは「え~?その年齢で高所恐怖症なの?ありえないっしょwwww」と平気で嘲笑した(1)
こうしたことに耐えきれなくなった私は本当は大嫌いだと彼に別れを切り出し、別れた、はずだった(7)

しかし彼はそのことを逆恨みしてしまい、それ以降私にストーカー行為を働くようになった。
私に大量のメールを送り付けて、締め切りにいつも追われてライターをしている私の仕事を妨害するのはもちろんのこと、私の家のポストに大量の手紙のみならず、動物の死骸や残飯を大量に入れたり、嫌がらせとして高級な紫色の宝石を私のクレジットカード番号を使って勝手に購入したりといったことをしていた(6)(8)(10)
ひどいときには私が仕事で同僚の男性と外に出ている時に尾行して、別れた後に彼が私に声をかけて問い詰めるといった出来事もあった。
そのようなことが1年間繰り返し続き、次第に私は我慢に限界を感じるようになっていた。

そこで私は一卵性双生児の妹にある提案をした。
それはあえてストーカーにプロポーズをするふりをしてストーカーに告白しようとしたところで彼にストーカーであると真実を告げぼこぼこにするという話だ。
妹は私と顔は瓜二つといえ、あまり運動ができない私と違い運動がとても上手で警察官をしていた(3)。妹ならストーカーをぼこぼこにできるだけでなく、逮捕も可能であるのだ。
妹は私の訴えを聞くと、すぐに首を縦に振り、ストーカー退治に協力してもらえることになった。

さっそく私はストーカーをプロポーズを受けている気分にさせるため花束を作ろうと思い、家に咲いてあるバラの花をすべて摘み取った。バラの花にはとげがあり、花束であればストーカーを殴ることだってできるのだ。
妹も妹でストーカーを呼び出すためにあらゆる努力をした。私と声が同じであることを利用し、ストーカーに電話をあえてしてストーカーを呼び出したうえで、警察にも姉がストーカーに悩まされていることを話し、警察の協力を得ることができた。

そして、その日がやってきた。
妹が指定した公園に私もついていき、公園のトイレに私は隠れ、妹とストーカーの様子をのぞき込むことにした。さらに公園内には覆面警察官を大量に配置し、何かあった場合にライトを用意しストーカーを追い詰めることができるようになっていた。
妹はいつもよりすました服装をして花束を持ち、あたかも「告白をする私」のふりをしている。これなら大丈夫そうだ。
やがてストーカーがやってきた。ストーカーは早速妹に話しかける。
「やあ、ウミコ(私の名前)。話って何だい?」
妹は恥ずかしそうに下を向いた後、やがて声を搾り取るように言った。
「好きです、結婚してください・・・・。」
もちろんこれは演技だ。だがストーカーはにっこりと笑うと、妹を抱きしめようとした。
すると妹の様子が豹変した。
「なーんて、私が言うと思ってた?このストーカー!」
そういうと、妹は花束でストーカーの頭を殴り、自慢の柔道技でストーカーを一本背負いにしてストーカーの体を地にたたきつけた。
「な、なんてことを・・・!」
「ついでに言うなら私はウミコじゃない、双子の妹のカメコだ。」
「ちくしょう・・・・。」
ストーカーが妹が手首をつかんでいる手を振りほどいて公園から逃げ出そうとしていたその瞬間だった。
「そこまでだ!」
声をあげたのはカメコの職場の警察官だった。ストーカーが慌てていると、警察官たちはライトを大量に点灯させた。そのあまりにもまぶしい光に彼は目がくらんでしまった(5)。そのすきに隠れていた警察官が大量にストーカーを包囲した。

かくして、ストーカーは逮捕され、私はようやく安心して生活を送れるようになった。
ストーカーに悩まされなくなった今、私はある目標を立てている。人間として合格な人と出会って結婚することだ(2)。次こそはきっとそれができると信じている。(終)
[編集済]

前半の彼氏によるハラスメントの描写が絶妙であるために、いつのまにか読者も彼女に感情移入してしまいます。
その彼氏が彼女たちの作戦によって打ちのめされる様は、読んでいて痛快なものがありました。
日常の一コマを上手く創り出すに落とし込んだ匠な作品だと感じました。投稿ありがとうございました。

No.78[Hugo]07月21日 23:5507月22日 20:47

解体

天使と悪魔が囁くの。 [良い質問]

No.79[Hugo]07月21日 23:5607月28日 00:18

*しばらく読んでると残酷表現があります。目安として2000字以降4000字程度まで(後半まるまる。全部で4つの章があるので、その後ろ2つ)の箇所にありますので、苦手な方は読まないか避けてください。

ろくに支援をしないパトロンのご機嫌取りに、アルバートは何か宝石を融通することにした。前から欲しいと言っていたし、金は彼が負担するそうなので問題はない。仕事で様々の土地を巡る画家という職業の強みで、珍しいものを仕入れてくるように頼まれることが良くあるのだ。
支援金を払わず何かと嫌がらせをしてくるあのパトロンのことは嫌いだが、恩を売っておけばなにかと有利だし、と商人から紫色の宝石を購入した。結構な値段だったので、それなりにいいもののはずだ。(④)(⑦)(⑩)
「これは」
「グリフィズ様が欲しいと言われていたものです」
そのパトロン、グリフィズの屋敷。アルバートの手土産を一瞥したグリフィズは失笑した。
「これはな、アルバート。紫水晶だ。安物だ。こんなものを法外な値段で......私を愚弄しているのか?」
アルバートははっとして姿勢を正した。
「す、すみません......では、支払いの方は......」
「もちろん、無い」
一度は口を閉じかけたグリフィズだったが、少し思い直してアルバートに声をかけた。
「そうだアルバート。お前に頼みがある。聞いてくれるならば、それを買い取ってやっていい。支援も再開しよう」
「は、なんでしょうか。わたくしにできることであれば」
「絵を描いてもらいたいのだ。この前、妻に先立たれてな......彼女の肖像画を頼む。会ったことがあるだろう?」
「それは、なんと申し上げればいいか......。わかりました、引き受けさせていただきます」
「期日はちょうど一年後だ。絶対に間に合わせろ」
工房に帰宅したアルバートは、早速絵に取りかかった。ミサのときと道具を買うとき以外は、アルバートはずっと絵を描いていた。
彼は亡き夫人の肖像画に、何か神々しいイメージを含めようと思い、天使を描き入れることに決めた。そのために、柔らかな白を生み出す顔料を大量に必要とした。だがなぜか、その顔料は誰かに買い占められていて入手できなかった。だがアルバートは、予備としてその顔料がとれるデニドロイドの花を育てていた。開花まではまだ時間が必要なので仕方なくアルバートは別の部分から描き始めた。
期日が迫ってきた(⑥)。今までは寝ずに絵を描く日も少なくなく、何度か風邪も引いた(⑨)。しかしアルバートは、まだデニドロイドの白い顔料が手に入らないことでいらいらしていた。もう他の部分は描いてしまったので、することも残っていないのだ。
ふと思った。育てていたデニドロイドはもう咲いている頃ではないか?
アルバートは工房の外に出て、確かめにいった。彼は絶望した。デニドロイドの花は、既に誰かがすべて摘み取ってしまっていたのだ。このままでは絵が完成しない。

アルバートは約束の日、グリフィズのところへ謝りに行かなければならなかった。結局あれより、デニドロイドの花は見つからなかった。何度もその旨をグリフィズへと伝えたのだが、その度に工房の粗末な郵便受けには「期日に遅れるな」という手紙が返ってきた。(⑧)
「すみません、亡くなった奥さまの絵は完成しません」
それを聞いたグリフィズは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「なぜだ!一年も時間を呉れてやった!それを無駄にし、絵を完成させなかったなど許されるか!」
「それが、天使や聖母を描くための白の顔料が......何者かに盗まれまして」
「そんな馬鹿なことがあるか!絵を描きたくないばかりに、小細工を弄するなど。帰ってもらおう!去れ!」
グリフィズは聞く耳をもたなかった。愛する妻を亡くしてからおかしくなったという噂もあるが、アルバートにはいつも当たりが強い。アルバートは応接間を後にした。
で、今にも屋敷を去ろうというときに背後から声をかけられた。
「ふふ、無様ですね。背信者のアルバートさん」
「......どういう意味でしょうか?」
こつこつと階段を降りて、グリフィズの娘が近寄ってくる。背信者?アルバートには全く心当たりが無かった。
「そのままの意味よ。それより、どうして絵が完成しなかったのかしら」
「それは顔料が」
「白の顔料が無かったから、よね?知ってるわ」
アルバートは目を剥いた。動揺を隠せないアルバートを見て、彼女はけたけたと笑った。彼女はうっとりとした顔で続ける。
「そうよね、白の顔料が足りなくなった。だから聖母や天使を描けなかった。いや描かなかったのよ、魔女アルバートは」
アルバートは嫌な予感がした。
「ですから、わたくしは生まれてからずっと神の教徒で......」
「黙りなさい。これが真実なのよ、アルバートさん。いえ、これから真実になるのよ」
「何を」
「今のお父様はね、かなりご乱心なさってるの。そうね、例えばアルバート、あなたが魔女だといったらすっかり信じてしまいそうね。司教さまにも言いふらしそう......」
「そんな?!ですがわたくしは」
いちいち反論するアルバートに、グリフィズの娘は鬱陶しそうな顔をした。
「諦めなさい。はじめからこうなる予定だったの。いい?あなたの予備のデニドロイドの花を全部摘んでしまったのは、私よ。さあ分かったら帰りなさい」
アルバートは愕然とした。これから俺はどうなってしまうんだ。それにいったいなぜ、彼女はそんなことをしたんだ。
頭が真っ白になった。その後のことはよく覚えておらず、アルバートは気づくと牢のなかに入れられていた。

牢から連れてこられたアルバートは、たくさんの知らない偉い人や知っている偉い人がいる部屋に立たされた。アルバートは裸にひんむかれていた。正面中央に立つ男が重々しく祈りの言葉を述べた。
「では、これより異端の審問をはじめる。優位審問官である私が主に代わり最終的な判断を下す」
アルバートはその男を見た。彼は修道士だったはずだ......以前仕事で見かけたことがある。
「真実の証言によって、その者が魔術師、窃盗、殺人、死体の姦淫、神の冒涜の罪を犯したことが明らかである。これよりその者の意見を求める」
「ばかな!わたくしは誰も殺していない!神にち」
「黙れ!汚らわしい魔女め、神の名を軽々しく口にするな!」
ばたん、と大きな音をたてて背後でドアが開いた。じゃらじゃらごろごろと、何かの装置を運んでいるようだ。アルバートは後ろを見ようと首を回したが、それが目に入る前に兵士に押さえつけられた。
やがてそれは目の前に現れた。武骨な木製の台を、錆びたいくつかの金具が固定していた。何より目につくのは台の両端に長い棒がたっていたのと、その上から垂れ下がる重たそうな縄だった。
ぞくり、とアルバートの背筋が凍った。あれを、俺に使うつもりなのか。牢にいたときに、見張りが話していたことが思い出された。
『なあ、そういやなんで魔女は広場のど真ん中で貼り付けにされるんだ?ずいぶん高く掲げられて、それに素っ裸で生きたまま焼かれるのは』
『ははあ、それはな。邪悪な者が日の光を嫌うからだろう。やつらはいつも夜に集会をするだろう?そういうことだ』
『つまり、どういうことだ?』
『バカだな、お前。やつらは昼に外に出るとき、大抵ローブを被るかひさしのあるところにいるんだ。つまりな、魔女は高いところが嫌いなのさ。太陽がよくあたるだろう』(①)(⑤)
それをアルバートは無茶苦茶だ、と思いながら聞いていた。しかし自分を取り囲む狂信たちはともすれば、とも考えた。だがそもそも俺は神を信仰している!
顔を青くしているアルバートを、後ろにいる兵士が強く押した。
「さっさと前に出ろ。あれに乗れ」
アルバートがまた抗議をしようとすると、今度は問答無用で連れていかれた。彼らは手際よくアルバートの枷を外し、台へとくくりつけていった。アルバートは抵抗を試みたが、顔をしたたかにぶたれておとなしくなった。
アルバートは全裸で宙吊りにされた。少しでも縄を絞めれば、自分の体重で腕が折れてしまいそうだ。
「嫌だ!わたくしは何も!」
縄が少し引かれた。
「ぎゃああ!痛い!やめてください!」
「お前はどのように騎士グリフィズの夫人を殺害した?」
アルバートは腕の激痛に耐えながら、そんなことはないと叫んだ。
また縄が引かれた。
「痛い!痛い!知らない!わたくしは何ぎゃああああ!」
「我々は神の子供たる人間であり、嘘はつかない。だがお前はもはや、人間ではない!悪魔に魂を売ったのだ!さあ吐け!」(②)
「何も知らない!知らない!折れる!やめてください!」
「お前は毎日、忌々しい悪魔に祈りを捧げていたのだろう!嘘をつくな!」
また縄が引かれた。
「ああああああ!痛い!知らない!痛い!」
アルバートは心の中で叫ぶ。俺が神でなく悪魔に祈りを捧げていたというのなら、悪魔の接吻を望んだというのであれば、ここに悪魔の像を持ってこい!そんなものがあるのなら、ここに持ってこい!そしたら俺は、存分に悪魔を憎んでやる!
この日は結局、アルバートは何も吐かなかった。次の日も、そしてまた次の日も、アルバートは何も吐かなかった。しかたなく、拷問はより厳しいものへとなっていった。そして。

サーサラ川は春には雪解け水を運び、そのとき下流の街ではしばしば洪水を起こすことから「激情の川」と呼ばれることもあった。今の季節は乾いた風が北東の山脈から運ばれてくる。川辺の草花はそれにゆったりと揺れていた。アルバートはそれをぼうっと見つめていた。
「これより、この者が魔女であるかを確かめる」
修道士が何かを朗々と発言したが、何を言っているのかは分からなかった。アルバートは手足を縛られ、ただじっとしていた。もっとも、縛られていなくとも爪を剥がれ骨を粉砕された足では動きようはないが。
「先例のとおり、この者が水に沈めば敬虔な信仰者であることが証明されるだろう。そして逆に浮かべば、この者は悪魔と姦淫し契約を結んだ魔女であると判明する」
甲冑に全身を包んだ男がアルバートの両脇に立った。そのうち片方がアルバートに向かって何か貶すようなことを吐き捨てたが、やはりこれも彼は理解していなかった。ただじっと川辺を見つめているだけである。
動かないのをこれ幸いと、甲冑の男たちはアルバートの腕を掴み川の方までずるずると引き摺っていった。
「神の名のもとにこれを行うことを誓う。では、はじめたまえ」
そのとき。アルバートは視界の端に、白い花がちらちらと一輪だけ揺れているのを見つけた。それは間違いなく自分が探していたものだと彼は思った。一心不乱にアルバートは叫んだ。(③)
「あった!あった!あった!あった!あった!」
そんな彼を修道士は一瞥すると、さっさとやれというふうに顎をしゃくった。
「あった!あった!あった!あっぶごもがぼ」
アルバートは水に放り込まれた。それに構わず叫び続けていると、冷たい水が鼻や口にどんどん入ってきた。アルバートは思った。
くそ!くそ!あれさえあれば俺はこんな目に遭わなかったんだ!俺の花を摘んだあの女!いやそもそも、俺にパチモンを売り付けやがったあの商人!やつらさえいなければ!くそ!呪ってやる!いやまだだ、まずは絵を完成させてやる、あの花を寄越せ、そしたら絵を完成させてやる、くそ!どんどん沈みやがる、くそ、浮かべ、ああ神様、俺に絵を描かせてくれ、もう一度、あれだけあれば描けるんだ、頼む神様、俺に絵を!だがまてよ、浮かんだら俺は魔女!悪魔の手先!俺に絵を描かせろ!くそ!くそ!沈むなあ!沈んだら俺の絵は、金は、家は、全部あいつらが持ってっちまう、くそ!呪ってやる、殺してやる、絵を描かせろ、俺を救ってくれ、神様!俺は潔白なんだ!なにもしてねえ、頼むよ神様!絶対に浮かび上がってやる!くそ!俺は!
アルバートは手も足も動かせず、しばらくもがき続けた。だがやがて全身が重たくなってきた。それでもアルバートは浮かび上がろうと必死に祈り続けた。意識の途絶える寸前、アルバートは穏やかな諦観のなか、涙をこぼした。
はは、おかしいなぁ、もう俺が祈ってるのが、神なのか、悪魔なのか、分からなくなっちまったよ......。
じきに彼の体は川面に浮き上がったが、彼はもう二度と動くことはなかった。魔女は神の裁きによって死んでしまったのである。
【おしまい】
[編集済]

1作目に引き続き、その独特な世界観が読み手を惹きつける物語でした。
宗教的な謀略を軸として違和感なく各要素を散りばめたストーリーに、世界観の深い練り込みが可能とする情景描写に感服です。
いつのまにか自分自身すら見失ってしまった主人公の激情に憐憫すら覚えました。
投稿ありがとうございました。

No.80[とろたく(記憶喪失)]07月22日 11:2407月22日 20:47

「自信」

ラベンダーの花言葉は、『期待』 [良い質問]

No.81[とろたく(記憶喪失)]07月22日 11:2507月29日 15:47

《解説》
男は大学に入ったが、望んだ進路ではなく、仮病などの理由をつけて1年もの間サボりがちだった。
女は男のその行動に業を煮やし、花壇の花を全て抜いて男の本当にやりたいことをせざるを得ない状況に追い込んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※②まだ失格扱いでないというニュアンスで
※④精神的苦痛を与えているという意味で





宝石に携わる仕事に憧れていた。
近所のこじんまりしたジュエリーショップの、宝石が光に反射して輝く光景が忘れられなかった。

自分も、そんなキラキラした世界に行きたい。
宝石商になりたい。

親にそう言ったけれど、そんなバカな夢は捨てろと言われた。
それもそうだ。宝石商は、自分の目利きの能力と収入が直結するほどの仕事。才能がなければ収入は得られない。
会社の重要なポストに入っているほどのエリートである親は、経済的に安定しない職業を嫌っている。⑧

「だいたい、ちゃんと目利きできるのか? 出来ないだろ」
「それより公務員になりなさい。そうすれば安定した生活は得られる」

何度もそんな言葉を聞いているうちに、俺は自信をなくしていった。④


俺は就職率がそれなりにある大学へ行った。……楽しくなかった。
友達もできず、やる意味も感じない課題の締め切りに追われるばかりの毎日だった。⑥

それでも大学は我慢して4年間真面目に行けば、新卒でそこそこの会社にも就ける。

だけど――最初こそ頑張っても、だんだんと休みがちになって、風邪だの用事だのと理由をつけてサボるようになっていた。⑨



ついに、大学をサボっていることが妹にバレた。

「兄ちゃん、大学辞めたら?」
「なんで?」
「行きたくないんでしょ?」
「……ああ。でもそれは甘えだ」


大学に行こう。俺がそうすれば済む話なんだから。

――嫌だ。行きたくない。


「兄ちゃん、大学辞めたら?」
「なんで?」
「本当はやりたいことがあるんでしょ?」
「……ああ。でもそれは逃げだ」


大学に行こう。俺がそうすれば済む話なんだから。

――嫌だ。でも行かなきゃ。


「兄ちゃん、大学辞めたら?」
「なんで?」
「最近全然行ってないんでしょ?」
「……ああ。でも単位は大丈夫だから」


大学に行こう。俺がそうすれば済む話なんだから。

――嫌だ。でも行けば、就職はできる。

大学に行こう。俺がそうすれば済む話なんだから。

――ああ、なんだか行ける気がしてきたな。



大学に行こう。



――そうさ、宝石商なんて、俺には無理なんだ。




「……命綱があっても意味ないね」①



妹はそう言った。諦めたような声だった。

……失望したんだろう。
兄として情けなかった。ただ惨めだった。


いっそ「お前は人間失格だ」と罵られた方がどんなによかったか。②


そうしてどこからも逃げ続けたまま、また一日が過ぎる。



そうしてどこからも逃げ続けたまま、大学は二年目に差し掛かる。




ほとんど口を利かなくなった妹が、珍しく散歩に誘った。
引きこもりがちな俺には、太陽の光がいささか眩しかった。


行先は、たくさんのラベンダーを育てている大学の花壇だった。
俺が唯一大学で好きな場所だった。

俺はラベンダーの香りを肺いっぱいに吸った。
心が安らぐ。落ち込んだ気持ちが少しでも晴れた気がする。


妹は俺を少しでも元気づけようとしてくれているのだろうか。
もしそうだとしたら、お礼を言わなくては。


――その時だった。





「――私、ラベンダーって本当は大っ嫌いなのよね」⑦






妹は、ラベンダーの茎をむんずと掴むと、そのまま引っこ抜いた。


俺は最初、何が起きたのかわからなかった。

呆気にとられる俺を尻目に、妹はラベンダーの花を摘み取る。
いやそれどころか、根こそぎ引っこ抜いて後にはでこぼこの土としおれかけているラベンダーの山しかもう残っていなかった。



「――ねえ、兄ちゃん! 見ててね!!」


妹はそう言うと、山から一抱えのラベンダーを空へ向かって放り投げた。


妹の腕から離れたラベンダーは、そのまま風に乗って天高く舞い上がる。



「ラベンダーの、風だ」



ラベンダーの風は太陽をまばらに遮る。そして、そのせいでただ眩しかっただけの太陽光は、キラキラと瞬く星のように――



――それは、光を屈折し反射させる宝石の煌めきと瓜二つだった。③




「――兄ちゃん、私ね、やっぱりこっちのが好きだな」

妹はそう言って、はい、と俺にラベンダーの束を渡した。


思い切って放り投げる。

ラベンダーの風はまた、高く、高く。
そして、紫色の煌めきがあった。



眩しすぎた光は、手に入れたいほどの魅力的な輝きに変わっていた。⑤



「――なんだか届きそうだ」
妹は笑った。
妹の笑顔を見たのは、数か月ぶりだった。


「……でもさ、これはさすがにやりすぎだろ。親にも怒られるだろうし、大学には絶対いづらいぜ」
「それでいいじゃん。辞めざるを得なくなる理由ができたんだからさ」


それもそうか、と俺は笑った。大学から追い出されると思ったら、なんだか清々しかった。




――命綱は、もういらない。







「旦那、運がいいね。希少なカラーダイヤの中でも滅多に見られないパープルダイヤをちょうど手に入れてるんだ。買うか?」
「ええ、もちろん。本当によかったです。こんなに素晴らしく深みのある紫色に出逢えるなんて」⑩
「大袈裟だなあ。だがお前、本当に宝石が好きなんだなあ」



「――ええ。辛いこともありましたが、やっぱり俺、この道に進めてよかったです」




(終)


※余談:パープルダイヤの石言葉…「自信」
[編集済]

大学に行くモチベーションが見出せない兄に発破をかける妹。麗しき兄妹愛、というと違うかもしれませんが、根底にあるのは確実に思いやる心でしょう。
『ラベンダーの風』という視覚に鮮やかな表現と同じものが幸福感に満ちた読後に表れているように感じます。
投稿ありがとうございました。
[正解]

No.82[藤井]07月22日 17:1207月22日 20:51

マリンスノウ

あの日の夕焼けは痛いくらいに綺麗で。 [良い質問]

No.83[藤井]07月22日 17:1307月28日 00:17

「めっちゃ綺麗やん、それ」


カウンターに置かれた透き通る紫の海のようなカクテルを見て尚希は感嘆の声をあげた。

「せやろ?私これ好きやねんな」
「何てやつ?」
「バイオレットフィズ」

答えながら茜は、氷を入れたグラスにドライジンを注いでトニックウォーターで満たし、尚希の前に差し出した。グラスの淵に飾られたライムがみずみずしい。

「『いつも希望を捨てないあなたへ』」
「うん??」
「ジントニックのカクテル言葉」
「へー、そんなんあんの」


夜、閉店後のカフェカウンターに立つ茜はこの店のオーナーだ。昼前から営業し22時に店を閉める。その後にこうして気の知れた友人である尚希と一杯交わすことは、茜にとって週末の大きな楽しみの一つであった。


「最近どうなん?尚希は」
「今あれやで、めっちゃ締切に追われとるねん[⑥]。こないだゆうてたウエディングプラン用のやつ」
「あーなんかゆうてたな、花の装飾がどうたらって」
「今日も早めに帰ってまた明日早出せなあかんわ」


幼き頃から花が好きな尚希は、花屋を営む傍らフラワーアレンジメント等様々な装飾を手掛けたりしているらしい。
周りから「女々しい」とからかわれることも多かった。しかし、茜が尚希と親しくなったのはそれがきっかけだったとも言えるのかもしれない。

花が好きな尚希。
サバサバとした物言いの茜。
『男のくせに』『女のくせに』--そんな言葉を飽きるほどに浴びせられてきた。

「ジェンハラやんなぁ、そんなん」
「ジェンハラって?」
「ジェンダーハラスメント[④]」

いつだか茜は尚希に言った。
尚希は大きく頷き同意した。
高校で出会った二人は急速に仲良くなり、就職した後もこうして交流が続いている。




ある冬のこと。
いつものように閉店後のカフェでグラスを揺らしながら、ふと尚希が口を開く。

「茜、これ。明日誕生日やんな」
「え!?うっわ、何、えっ!?」
「しょーもないモンやけど。おめでとう」
「えー!ほんまに?ありがとう!!」

差し出された小さな紙袋を嬉々として受け取り、中身を覗くとその瞳はみるみる輝いていく。

「うっわめっちゃキレイ」
「お前が前ーに飲んでたカクテルの色とよう似てんな思って」

紫色の小さな宝石が輝くシンプルなピアスを手のひらに乗せ、茜は満面の笑みを浮かべた[⑩]。

「バイオレットフィズな。ホンマにあのカクテルそのまんまピアスにしたみたいやわ。めっちゃ気に入った。ありがとう尚希」
「良かった。そこまで喜んでもらえると思わんかったわ」
「粋なプレゼントやわ、嬉しい」
「大事にせぇよ。お前すぐなくすからな」
「うっさいなぁ。ちゃんと大事にしますー」




そんなやりとりを最後に、尚希が茜のカフェに訪れる頻度は激減していった。
互いに仕事が忙しくなり、数年が経つ頃には連絡を取ることも稀になっていった。
茜は昔尚希が言った言葉を思い返す。

" 忘れたくないモンは近くに置くとええで。人間、遠ざかると自然と忘れるからな ”

確かにそうなのかもしれない。疎遠になればその人を思う頻度も減る。べつにそれは悲しいことではなく、自然なことなのだ。自分にはやるべきこともあるし、また何かのタイミングで会ったりもするだろう。
 


□■□


ピアノインスト曲が静かに流れる一人きりの店内で茜はシェーカーを取り出し、ドライジンを注いでライムを丁寧に絞った。軽くステアして氷を入れ、シェイクしてグラスに注ぐ。
ギムレットのカクテル言葉は、『遠い人を想う』--

アルコール度数の強いお酒で誤魔化したかったものがいったい何なのか、茜は気づかないふりをした。
今朝、ポストに入っていた封筒[⑧]。
結婚式の招待状がこんなにも自分を憂鬱な気分にさせるとは思ってもみなかった。

ギムレットに柔らかな灯りが反射する。
らしくないなぁ、こんなの。茜は一人困ったように苦笑し、グラスを傾けた。





翌日、茜が尚希に電話をかけようとスマートフォンを握りしめているところに、尚希からの着信が舞い込んだ。

「茜?久し振りやな!忙しーてなかなか連絡できんかったわ」
「ほんま久し振りやなぁ。ほんで、めちゃくちゃびっくりしたわ!結婚、おめでとう」

出来るかぎりの自然さを装って吐き出した言葉は、あまり自然な響きを纏ってはいなかった。

「おー、届いた!?茜には先に直接言いたかってんけど、結構立て込んでて」
「いやほんま先に言うてきてーや、心臓止まるか思ったわ!」

これは本心だった。

「尚希、近々スキマ時間ない?結婚式までに一回会ってお祝いしたいわ」
「おー、会おうや。来週頭の夕方から夜らへんとかちょうど空いてんねんけど」
「月曜?ちょうどうち店休みやしいける」
「ほんならまた時間とか見て改めて連絡するわ」


通話終了の画面を確認するなり、茜はベッドに倒れこんだ。
久し振りに耳にした声は何も変わっていない。よく通る少し高めの聞き取りやすい声。何も変わっていないはず、なのにどうしてか絶望的に遠くに感じてしまうのだ。




翌週月曜の夕方、茜は自宅から少し離れた公園へ向かった。短い髪が揺れるたびに小さな紫のピアスが光る。
先に着いていた尚希が茜の姿を見つけて手を上げた。

「よっ、久し振り」
「お待たせ~。めっちゃ久々やな、尚希と会うのもここに来るのも」
「お前苦手やったよな、あれ」

尚希が指差す先にはロープタワーの遊具があった。
高校時代、二人は放課後によくこの公園に訪れては気ままに時間を過ごしていた。ブランコとロープタワー、隅の方にベンチだけが設置されたごく小さな公園だ。中でも、高いところが苦手な茜はこのロープタワーに登るたび絶叫していたものだ[①]。

「懐かしいなー、今ならいけるんちゃう?」
「ほんまか?じゃあ登ってみようや」
「よっしゃ」

大の大人ふたりが夕暮れの公園でロープタワーに登るその光景は、傍からみれば微笑ましいものだったかもしれない。しかし茜の胸中は今にも張り裂けそうな思いでいっぱいだった。

「まだいける?」
「当たり前やん」
「いやでもお前、涙目ちゃう?」
「気のせいやって」

先にてっぺんまで登った尚希がやや心配そうに茜を見下ろす。しかし茜は手にぐっと力を込め、どうにかてっぺんまで登った。何にも遮られない鮮やかな夕陽が二人を照らす。

「めっちゃ目赤なってるって」
「ちゃうねん。眩しすぎんねんもん、夕陽」[⑤]
「綺麗よなぁ」
「ほんまに」

すぐ隣にいる尚希の横顔は優しかった。
高校生の頃の記憶がぼんやりと重なる。涙目になりながら頂上まで登り、強がって余裕だと言い張る茜。そんな茜のすぐそばで頬をほころばせ、遠く山の向こうへ沈んでいく夕陽を見つめる尚希。
数年を経て大人っぽい顔つきにはなっているのだろうが、すべてを包んでくれるような安心感のあるその微笑みは当時の尚希そのままだった[③]。



ロープタワーを降りた二人はベンチに並んで腰かけた。
ふと足元に咲くシロツメクサに手を伸ばした尚希は、器用に冠を作っていく。
あっという間にひとつ、ふたつ、みっつ。それを見ていた茜も真似しようとするが、尚希のように上手くできない。

「尚希めちゃくちゃ上手ない?」
「俺、この一年ずっと花冠作り続けてるもん」
「えっ。仕事で?」
「そう。結婚式関連の依頼で花冠作ること結構多くて、どうせやったらこれ極めたろう思って。ここ数ヵ月はもうずっと自分の式用に作ってる」

チクリと胸が痛む。

「暇があったらこうやって花冠作っとるからな」
「さすが器用やな。……ちょお、作り方教えてや」
「ええで」


陽の沈んだ薄暗い公園で花冠を作る二人。
茜は尚希の手元を見遣る。
その手に繋がれるのは自分ではない。

特別に意識したことはなかった。
恋愛感情を抱いていると自覚してもいなかった。
しかし尚希の隣に立つまだ見ぬ女性が彼にとっての特別な存在なのだと、そう飲み込もうとすると胸が張り裂けそうになる。
私は、尚希の特別な存在でいたかったのだろうか。
茜は自問自答する。

「ちょい寒なってきたな。コーヒーでも買ってこか?」
「あ、欲しい。私これ作ってるし買いに行くん頼んでもええ?」
「どんだけ夢中になっとんねん。怪しいオッサンに拐われんなよ。ブラックでええか?」
「うん、頼むわ。あとからあげ食べたい」
「めっちゃパシるやんけ。コンビニ行ってくるわ」

軽く笑って少し離れたコンビニへと向かう尚希を見送って、茜は花冠を作り続けた。
小さな公園に咲くシロツメクサは茜の細い指に摘み取られていく。
いくつもの失敗作を重ね最後に綺麗な円を描く花冠を作り上げる頃には、公園のシロツメクサはひとつも残っていなかった。


尚希は、尚希の大切な人を思ってこんな風に花冠を編んだのだろう。
茜は尚希を思って編んだ花冠を手に、しゃがんだままうつむいた。


「茜!お待たせ」
「あっ、ありがとう」
「出来た?冠」
「うん。ほら」
「おー、綺麗に円になってる」

尚希から受け取ったコーヒーを一口啜り、茜はゆっくりと空を見上げた。


「……なぁ。昔さ、尚希が『俺、人間失格かな』って言ったん覚えてる?」
「あー、覚えてる。俺が女々しいどうのってからかわれてた頃の話やろ」
「そう。笑って流せばええんやろうけどそうやって適当になってくんはイヤや、って言うて」
「あん時孤立してたからな。人として認められてへん気ぃしてた」
「私、そういう尚希の芯の強さみたいなんに当時めっちゃ感銘受けてん。私は逆にさ、内心ムカついてても笑って流すことが多かったし」
「まぁそうやってやってかなあかん場面もあるしな」
「確かにせやねんな。……けど、」


茜は少しの間を置いて息を吸い込んだ。


「……笑って流せへんねん、今回ばっかりは。おめでとうって言うよ、そりゃあ言うけど。でも全然笑えへん。すんなり飲み込まれへんねん」

唐突な茜の言葉に尚希は目を見開いた。言葉の真意が読み取れずに困惑の表情を浮かべる。


「これ言うべきやないと思ったけど、やっぱ無理やし言うわ。私な、……尚希のこと、好きみたい」
「…………え、」
「お祝いしようって言って呼び出してこんなん言うって有り得へんよな。人間失格かな、私」

夕の橙を追うように夜の藍が空を纏い、辺りはすっかり暗くなっていた。眩しいとは到底言えなくなった今、茜の目は真っ赤に潤んでいた。


「……人間合格やと思うで、俺は」[②]

静かに口を開いて、尚希は茜のそばに腰を落とす。

「めっちゃびっくりしたし、どんな顔したらええんか正直わからんけど。けど茜の本心が聞けるんが、昔から俺は一番嬉しいし」
「……ずるいなぁ。心地よすぎんねん、尚希は。そうやって言ってくれる言葉とか、そばに居る空気とかがさ」
「単純に波長が合うんやろな、久し振りに会ってもすぐ昔みたいに何でもなく喋れるし。……茜の気持ち、嬉しいわ。ホンマびっくりした。けど…………俺は、受け取られへん」
「うん。…………尚希、これ、私に被せてくれへん?」

そう言って茜は手にした花冠を尚希へと差し出した。

「ええけど、なんで?」
「自分の気持ちに区切りつけたいから」
「……」
「これ作りながらさ、尚希もこんな気持ちで編んでてんやろなって、大事な人のこと思って大事に編んでてんやろうなって思った」
「……せやな。花冠はひと編みひと編み、気持ち込めて編んでる」
「私から尚希への思いは、これ。尚希の編んだ花冠は尚希の一番大切な人に被せてあげて。そんで……私のは、」
「返してって?」
「そう。受け取られへんやろ」
「茜らしいな、こういうの」

尚希は花冠を受け取り、自身の胸元へ寄せた。
五秒間の沈黙の後、ひとつ息を吐く。
そして花冠を両手でそっと茜に優しく被せた。


「ありがとうな、茜」


茜の瞳からは大粒の涙がこぼれた。
この感情はなんだろうか。次から次へと溢れる涙は今まで抑えていた気持ちだろうか。
尚希は後に続く言葉が見つからないかわりに、茜の肩を少し慎重に抱くようにしてぽんぽんと撫でた。


ひとしきり泣いたあと、ゆっくりと顔を上げた茜は霧が晴れたように笑った。


「……結婚おめでとう、尚希」



□■□


その日の深夜、茜は一人カフェのカウンターに居た。
慣れた手つきで一番好きなカクテルを作る。
そっとピアスを外し、グラスのそばに置く。
紫の海は淡く優しく、静かだった。

バイオレットフィズのカクテル言葉は--


「私を覚えていて……か。」


ぽつり、呟いた言葉は間接照明の灯りに包まれ宙に溶けていく。
何となく、このカウンター越しに尚希と二人で飲むことはこの先もう無いんだろうなという気がした。そう自覚した途端に胸の奥を冷たい風が吹き抜ける。途方もない寒気に思わず身震いする。まるで心が突然に風邪をひいたみたいだ[⑨]。


茜はシェーカーを取り出した。

バーボンウイスキー、それからレモンジュースにライムジュース。更にグレナデンシロップ、パウダーシュガーを入れてシェイクする。
それを氷の入ったグラスに注ぎ、ソーダで満たして軽くステアし、最後にレモンスライスを浮かべた。

もしここに尚希がいたなら、私はこのカクテルを出しただろう。
カリフォルニアレモネード。
カクテル言葉は、『永遠の感謝』--

ありがとう、という純粋な気持ち。
願わくば、永遠に繋がりを保っていたいという切実な気持ち。
今はまだ、フラットな感情で接することは出来ないけれど。


尚希が被せてくれた花冠は、尚希と別れた後にあの公園のロープタワーの頂上に被せてきた。
薄暗闇の高所は不思議と怖くなかった。


--大丈夫、もう一人で登れる。



茜は紫の海を飲み干すと、カウンター下から一枚の封筒を取り出した。
見慣れた名前と、見知らぬ名前。
返信用のハガキに、丁寧な筆致で自身の名前と住所を記していく。
そして最後に、『出席』の文字にマルをつけた。



「……大嫌いやねん、ホンマは。」[⑦]



受け取る相手もいないままに零れたひとつの嘘は、ほんの少しだけ、茜の心を軽くさせた。




 - fin. -
[編集済]

エモンガ。ただもう、狂おしいほどにエモンガ。その一言に尽きます。
気持ちの高ぶりを表現する際、どうしても主人公の一人語りが増えてしまいがちです。しかし実際の私たちと同じように、藤井さんの描く人物はそれを言葉にはしません。
あるときは目をそらし、あるときは過去を思い返し、あるときはベッドに倒れこむことでそれを想起させます。
要所にはさまるカクテル言葉がエモンガの大量発生を起こしています。
まとまらないがふぃんですみません、投稿ありがとうございました。

No.84[ルーシー]07月22日 19:0807月22日 20:51

【1/365の曖昧な設定】

曖昧だと困るんです。 [良い質問]

No.85[ルーシー]07月22日 19:1007月28日 00:16

「まあ、その辺に座ってよ。コーヒーでいい?」
『家に来た客をその辺に座らせるって、どうなのかしら。』
「実は僕は高所恐怖症①でね。イスとかソファに座るとめまいがするんだ。」
『よくもまあ、そんなデタラメなことが言えたわね。本当なら立つこともできないじゃない。』
「高級なイスとかソファに座るとめまいがするんだ。」
『極端な貧乏ね。誰もそこまで高いもの要求してないわ。』
「次は座布団ぐらい用意するよ。」
『そうしなさい。』
「その点、君の彼氏は素晴らしい人格者②だと思うね。君がわがまま言っても嫌な顔しないだろう?」
『私がわがままかどうかはともかく、彼は後光が差す⑤くらい素敵な人ね。顔はあなたに似てる③けど、中身はどうしてこんなに違うのかしら。』
「性別が逆ならセクハラ④扱いされそうだ。」
『この指輪は彼からもらったのだけど、紫⑩っていうのがどうもね。』
「どうして?似合ってると思うけど。」
『紫って何かハッキリしないじゃない。赤でも青でもない、ぼやっとして曖昧。』
「ダメなのか?」
『さっさとハッキリさせないといけないことだってあるのよ。』
「言葉を濁してるのは君だろう?何の話をしている?」
『そうね。この世界はあなたが創ったの。』
「え?」
『あなたが締め切り直前⑥に風邪なんか引いちゃった⑨から、ループみたいになって抜け出せないのよね。私もあなたが創ったキャラクターってことになるんだけど、設定がフワッとしすぎなのよ。』
「…?」
『新聞⑧の日付もずっと同じだし。1年ぐらいは経ってるはずなのだけど。そういえば、その飾られている花、綺麗ね。』
「え?ああ、毎日水やりして、手入れとか…」
『私はそんなに花に詳しくはないのだけど、1年も咲き続けたらおかしいじゃない?』
「???」
『あの花がループのキーアイテムらしいのだけど、これもあなたが考えた雑な設定で結局よくわからないわ。』
「この世界は何だ…?創りもの…?」
『その花を全部摘みとってしまえばわかるんじゃないかしら。あと、私はコーヒーが嫌い⑦な設定なのよ。』

【終】

タイトルにもあるように、非常に曖昧な物語であるこの作品は、多くが読み手の解釈に委ねられています。もしかしたらルーシーさんご自身が風邪を召されたのかも?と考えてしまいます。
一貫して男女の軽妙な会話で構成されていることもあってか、テンポよく展開する要素たちに読み手もすっと飲み込むことができる作品でした。
高所恐怖症のくだりが好きです。投稿ありがとうございました。

No.86[ハシバミ]07月22日 22:1307月22日 23:52

「秋から春、そして秋へと」

時が過ぎても秋は秋 [良い質問]

No.87[ハシバミ]07月22日 22:1307月28日 00:15

10月

 僕には、恋人がいる。
 可愛くて、気立てが良くて。
 料理も上手で、いつもにこにこと笑っている。
 僕にはもったいない、本当に良い子。

「あ、いたいた。待たせちゃったかな」
「いや、大丈夫。時間ちょうどだから」
「良かった。じゃあ行こうか」
「うん」

 ぱたぱたと待ち合わせ場所に現れた恋人――春奈に、にっこりと微笑む。
 不安げな表情がぱっと明るくなる。
 今日は映画だ。春奈から差し出された手を、そっと握る。
 何度も二人で足を運んだ映画館。今日観るのは、シリーズ物の最新作だ。

「どんな展開なんだろう。あきちゃん、続き楽しみにしていたもんね」
「うん。前回がすっごい気になる終わり方だったから、ほんとに」

 前回どんな話だったっけ。えっと、主人公が。
 ネット予約したチケットを発券し、飲み物とポップコーンを買って席に着く。前回観たときよりも自動発券機が増えて発券までの時間は短くなったけれど、予告の時間が長くなっているような気がする。
 休日の昼ではあるけれど、封切りから三週間が経っているからか空席も目立つ。

「ふふふ」
「ん、何?」
「ううん。もしかして、前回の見直してきた?」
「あ……うん。せっかくだし、楽しみだったからさ」
「やっぱり」

 そんなに可笑しかったかな。口を開こうとしたところで、ちょうど客電が落ちた。隣を見れば、人差し指を口の前に立てている。
 電気が消えたら、静かに。
 そんな約束を、していたんだった。

 エンドロールが流れ、客電が灯る。春奈はもう荷物を持っている。そわそわと落ち着かない様子だ。
 空になった飲み物とポップコーンの容器を手に立ち上がる。
 劇場のロビーに出たところで、春奈がぱっと振り返った。

「ね、ね、凄かったね! 特に最後のところ!」
「あれはびっくりしたよね。もうお昼だし、どこかに入ってゆっくり話そうか」
「そうだね。ちょっと落ち着ける所が良いな、眩しかったから」
「あのシーン、さすがにちょっと眩しすぎた気がするよね……」(⑤)
「インパクトはあったんだけどね、しばらくちかちかしちゃったよ」

 くすくすと笑いながら、建物の外に出る。
 冷たい風が服の隙間から身体を刺す。
 今は、秋だ。


12月

「クリスマスにね、行きたいところがあるの」

 ハロウィンが終わると、街はにわかに彩りを変える。緑と赤、色々のイルミネーション。
 否が応でも意識するようになった頃、春奈から持ちかけられた。

「限定のディナーがあって、デザートがすっごく美味しそうなの。近くでイルミネーションが見られるところもあって。どうかな」

 言いながら、スマートフォンを差し出してくる。
 店内の様子や、料理。綺羅びやかな写真が並んでいる。

「いい雰囲気のお店だね」
「凄いよね、ビルの、ええと49階? だから景色もキレイなんだって」
「49階? それは……凄いね」

 店内の写真を見れば、確かに大きな窓から綺羅びやかな夜景を臨めるようだ。
 49階。景色を想像するだけで、ぞくりと震える。

「じゃあ、予約しちゃう? イブの夜でいいんだよね」
「うん。……ふふふ、楽しみ」

 自分のスマートフォンからその店を検索し、予約をする。幸い、まだ席には余裕があるようだ。19時でいい? うん、大丈夫。
 春奈はにこにこと笑いながら、それからね、とスマートフォンを操作する。
 暫くしてから、ああこれこれ、と再びこちらに差し出す。

「このお店に行きたいの。可愛い雑貨がたくさんあって……クリスマスプレゼント、ここで買ってくれない?」
「へぇ、じゃあディナーの前に行こうか。春奈、サプライズは苦手だもんね」
「気持ちは嬉しいんだけどね。あきちゃんも苦手だったでしょう? これなら考える手間もなくてWin-Winだなって。あきちゃんのプレゼントはなにがいい?」
「うーん、そうだなあ」
「考えておいて」
「分かった」

 あれこれと気を回す必要が無いのは、楽でいい。こういうところでも、気が合ったのだろう。
 貰うものは何にしようか。何でもいい、なんて言うのは困らせるだけだ。
 欲しいもの、考えておかないと。


2月

 どうしよう。
 綺麗にラッピングされた、小さな箱。どうしよう。
 中身は勿論知っている。きっと、気に入ってもらえると。気に入ってもらえるとは、思うけど。
 リボンで作られた小さな花をつつく。
 ピリリ、と響いたスマートフォンの音に、はっと手を引っ込める。危ない、汚したりしたら。
 画面を見れば、着信は春奈からだった。

「もしもし、春奈?」
『うん。あのね、あ、今時間大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうかした?」
『ふふふ、えっとね、再来週。どうしよっかなって思って』

 時々、春奈はエスパーなんじゃないかと思うことがある。恋人同士、気持ちが繋がっている、なんてロマンチックに考えるべきところなのかもしれないけど。

「うん、当日の夜で大丈夫? 木曜だから……僕の仕事は都合付けられるけど」
『私も大丈夫。19時くらいが良いかな』
「わかった。お店……えっと、こっちで決めて大丈夫だよね。遠くならないようにはするけど」
『うん、誕生日は相手が決めるっていうルールだからね。ふふふ、楽しみにしてる』
「うん。場所と時間、決まったら連絡するね」
『よろしく。じゃあ、また』
「うん、おやすみ」
『おやすみ』

 電話を切って、一つ溜息を吐く。
 当日も翌日も仕事があるから、生活圏で。遅い時間にならず、十分に満足できるところ。ちゃんと、特別感も。
 あれこれと考えていても仕方ない。僕が、やらないと。
 小さな箱。小さなモチーフのイヤリング。春奈の誕生石である、アメジスト。(⑩)
 大丈夫、きっと、上手くいく。


5月

《本当にごめん》
 
 LINEに打ち込み、スマートフォンをベッドに放る。身体を起こす気にもならない。
 もう一眠り。
 そう思う時にはもう、瞼が閉じていた。

 ふ、と意識が浮上する。今、何時。
 枕元を探るが、スマートフォンがない。適当に放ったからだ。そのまま探り続けるうちに、腰に何かが当たる。あった。
 13時。4時間近く寝ていたのか。案の定、春奈から返信が来ている。

《大丈夫? 気にしなくていいから、ゆっくり休んでね》

 久しぶりのデート、のはずだった。仕事の納期が重なって平日は勿論、休日もろくに時間が取れず。(⑥)
 やっと予定を合わせることができたと思ったら、見事に風邪を引いて、この有様だ。(⑨)
 はあ。溜息を吐いたところで、丁度スマートフォンが震える。また、通知だ。

《ご飯ちゃんと食べてる? 良ければ家行こうか?》

 家。それは。深呼吸。駄目だ、頭が上手く働いていない。

《心配かけてごめん。食べ物はちゃんとあるから、大丈夫だよ。移したら悪いし》
《でも、飲み物とか薬とか。渡すだけでも、駄目かな》
《大丈夫だよ、気にしないで》

 大丈夫、大丈夫だよ。いつもそう言って笑っていた。
 だから、これでいいはず。

《そっか、分かった。じゃあ、お大事にね。後でまた連絡する》

 これで、いいはず。

 どのくらい経っただろうか。水を飲んで、トイレに行って。
 少しは熱も下がったのだろうか、お腹が空いた。
 ベッドを抜け出して、冷蔵庫を空ける。……何もない。
 外に出るだけの元気はない、どうしたものか。
 ふと玄関に視線を向けて、違和感に気が付く。ポストに何か入っている。(⑧)
 見れば、手紙だ。シンプルなレターセット。切手は貼られていない。……見覚えがある、春奈のものだ。
 慌ててドアを開ければ、外のノブに紙袋がかかっている。
 スポーツ飲料、おかゆ、缶詰、薬。
 ……ああ。しっかり、しないと。


7月

「それでね、部長ったら酷いんだよ」
「うん、うん」

 金曜日。春奈のお酒の進みがこんなに早いのは、珍しい。
 よほど腹に据えかねていたのか、愚痴も止まる様子がない。

「言い方が悪いっていうかさ、もうあれはセクハラだよ、パワハラだよ」(④)
「それは確かにひどいよね。でも、いいところもあるんでしょ?」
「えー……うーん……。まあ、ちゃんと、仕事は、うーん……」

 悩み始めてしまった。
 仕事が大変だということは、最近よく聞いている。
 お客さんも面倒なら、上司も面倒だと。いきなり当日中にやれと言われたり、指示が二転三転したり。
 
「あれでこう、まだ言い方がまともだったら、なんとか、ぎりぎり、人間としては合格、かなあ」(②)
「上司としては?」
「まともな指示を出すところから始めてください」
「うん、ほんと、お疲れ様です……」

 本当だよ、まったく。お酒をあおろうとして、グラスが空になっていることに気付く。
 メニュー表を差し出す。
 ありがとう。受け取って、少し目を伏せた。

「ごめんね、私ばっかり愚痴っちゃって」
「気にしないで。僕も何かあったら春奈に聞いてもらっているし」
「うん。……ふふふ、あのね、あきちゃんに話を聞いてもらったら、ちょっと楽になったんだ」
「ほんとに? なら良かった」

 少しは、上手くできたのだろうか。


9月

「あきちゃんの誕生日プレゼントはね、決めているの。楽しみにしてて」

 9月になった頃、春奈からそう告げられた。
 そうか、もうすぐ誕生日。
 それじゃあもう、あれから一年になるのか。

 当日は土曜日だったから、待ち合わせは朝10時になった。
 僕の家の近くの公園。昔はよく、二人で話をしたこともあった。
 時間を少し過ぎた頃、春奈がやってきた。
 手に、白い花束を持って。

「ごめんね、待った?」
「ううん、大丈夫」

 それは。尋ねると、春奈は少し笑って花束を差し出してきた。

「これ、あきちゃんに」

 白い、菊の花。
 受け取ろうと手を出すと、春奈は首を横に振った。

「あなたにじゃないよ、あきちゃんに」
「……え」
「お願い、あきちゃんに会わせて。……修也くん」

 ああ……そうか。僕は、やっぱり。

「……いつから」
「最初から。分かるよ。分からないはずないよ」

 春奈は、春奈さんは淡々と話す。

「映画。修也くんはあんまり興味ないって、あきちゃん言ってた。わざわざ、観てきたんだね。
 クリスマス。修也くん、高所恐怖症なんでしょう?(①) ためらっているの、怖がっているの、分かっていたよ。断ってくれて、良かったのに。
 誕生日。あれ、あきちゃんが買ってくれていたものでしょ。あきちゃんね、よく話していたの。私にはイヤリングが似合う、って。普段、あんまり付けないのにね。
 風邪、引いた時。家に上げるとバレる、って思った? あきちゃんならね、ああいう時は甘えてくれるんだよ。いつも。……いつも。
 愚痴だって、そう。あきちゃんは辛いことも、悲しいことも、腹の立つことも、私に話してくれるの。だから、私も話せるんだよ。
 ねえ、修也くん。認めたくなかったのは、あなたでしょう? 私は。私はちゃんと、悲しみたかったよ。認めたかったよ。あなたの悲しみに、わがままに。私を巻き込まないで」

 教えて。あきちゃんは、どこ。
 春奈さんは唇を噛んで、ぐっと前を見る。ああ、もう、何もかも。

「永福寺。ここから、15分くらいのところにあるお寺。一番奥の方に、いるよ」

 ありがとう。それじゃあ。
 背を向けかけた春奈さんが、ふと立ち止まって花束から一本の花を差し出してきた。

「この菊ね、私が育てたの。あきちゃんにあげるために。全部、白い花のつもりだったんだけど、一本だけ違うものができちゃって。全部……今日、全部、終わらせるつもりだったから、全部一緒に摘んできちゃったんだけど。これは、修也くんにあげる」

 じゃあね。そう言って、今度こそ春奈さんは去っていった。

 僕の元に残ったのは、一本の黄色い菊の花。それだけだ。


 僕には、兄がいた。
 格好良くて、優しくて。
 運動が得意で、勉強はあまり好きではなくて。
 僕とは全然違うのに、見た目だけは瓜二つの双子の兄が、いた。(③)

 兄は、晶良はいつも僕を引っ張ってくれた。弱虫で、引っ込み思案な僕のことを光の当たる場所へ連れ出してくれる。
 彼の周りにはいつも沢山の人がいて、沢山の笑顔で溢れていた。

 僕はずっと、あきになりたかった。

 あきのことが大好きで、羨ましくて、妬ましくて、愛おしくて、そして、大嫌いだった。(⑦)

 あきはいつも、僕を置いていく。
 分かっている。僕が一緒に走ろうとしないからだ。僕がいつもあきの優しさに甘えて、いつも迎えに来てくれると信じて、いつも、いつも。
 あきはずるい。
 僕よりずっと生きる価値があるくせに、僕を置いていってしまうんたから。
 もう二度と、迎えに来てはくれないんだから。

「だいっきらい」

 あきなんか、大嫌いだ。


【完】


−−−−−−−−−−

【簡易解説】
死んだ兄の恋人に対し、兄の振りをして接しつづけていた弟。
恋人はそれに気付きながらも、弟が真実を明かすまで、一年間は待つことを決めた。
結局弟が真実を告げぬまま一年が経ったため、恋人は墓に供えるために育てていた白い菊花を持って、弟に会いに行った。
白い菊の花言葉は、「真実」。
[編集済]

『僕には、恋人がいる。〜中略〜僕にはもったいない、本当に良い子。』
『こういうところでも、気が合ったのだろう。』
読者がこうした表現の本当の意味を知るのは、きっと再読したときでしょう。
ずっと兄のふりをしてきた弟ですが、『だいっきらい』とつぶやいたときの心情やいかに。想像するだにエモンガでした。
だんだんと嘘の仮面が剥がれていく様子が丁寧に描かれた作品だと感じました。投稿ありがとうございました。

No.88[残酸]07月22日 23:0907月23日 08:02

タイトル「アイの手記」

この世界の片隅に。 [編集済] [良い質問]

No.89[残酸]07月22日 23:1007月28日 00:15

簡易解説
男は機械の造花を生物だと誤認し、この世で唯一の生命である花壇を1年間守り続けたと考えていた。女は男を花壇の撤去の障害とならないよう、それが機械造花であることを示すために花を抜いた。


○月×日

今日から、会社を辞めることにした。出来損ないになってしまった。外を見ると日が差すように照っていた。私は何もせず今日を過ごした。

*月×日
あれから1ヶ月が立ったが、私がやるべきことは見つからない。私は元々ある仕事の重要なポストに入っていた⑧のだが、あの事故がきっかけで私は仕事を続けられなくなった。こんな私は…この世界にとって価値などないのだろう。

*月÷日
今日外を歩くと今まで目にもつけていなかった花壇を見つけた。何の理由もなく生きようとしているその生き物を見て、私は素晴らしいと思った。自分の価値も関係なく、ただ生きようとする彼らを羨ましく思った。

*月+日
今日何の目的もなく歩いていると、花壇を撤去しようとした人々がいた。一瞬目をそらそうかともおもったが、あの花壇の生命が壊れることを恐ろしく感じてしまった。私は持ち前の能力で彼らを追い返した。いつ壊れるかも分からないその花壇を見て、私はこの花を守りたいと思ってしまった。

*月=日
よく見ると花壇の花は同じような色でも少しづつ違って見える。私たちにはあり得ないことだ。これが生きているものなのか…私はまたこの花壇を守りたいと思った。


☆月×日
今日花壇を見ると花壇が少し暑くなっているような気がした。生き物だから、⑨風邪でも引いたのだろうか。風邪の処置としては体を温めること。私は自分の体で彼らを温めることにした。

☆月=日
何日かやってみたが全く良くなる傾向は見えない。私は私たちが元気になるための紫色のアレズスト鉱石を⑩買ってきて埋めてみることにした。

☆月〒日
なんとか彼らは元気になったようだ。前よりも大きく揺れているような気がする。この微笑ましい花を見続けたいと思った。

♪月×日
あの花壇を守り続けてから私にも少し自信が湧いてきた。ある仕事の伝手を手に入れ、再度再起を図る。あまり人が多くなければ良いのだが…

@月×日
今日も私は疲れた仕事帰りに花壇を見るようにしている。仕事が終わり、ノルマをこなした後に、ノルマもない彼らをみるのは、羨ましく、そして愛おしく思える。無価値な私を励ましてくれるように思う。私はこれからも彼らを世話し続けるだろう。

*月+日
あの時から1年経っただろうか…最近になってある問題が起きた。1年前に考えられていた花壇の撤去、これをもっと大掛かりに行うようだ。
いやだ、私の世界を壊されてたまるものか。私は彼らに対して抗議しようと思う。実力行使でもいい、あれは私を認める唯一の救い、目的を持つ生命なのだから。

---(ここで日記は途切れている。)

===================================================
今回、コードバグ「I-0-00-000」(以降呼称をI-バグとする)の外的要因における出現を確認した。本来このバグはAI制作過程においておけるバグと考えてられていたが、それらは「機械人間過程」の試験において弾かれることとなっており、今回のように機械人間過程に合格し②、優良個体として判別された個体が後天的にI-バグを発生させたのは初めてのことである。

彼がI-バグを発生させたきっかけとして考えられるのは○月$日における高所の落下であろう。それ以降彼は高所に存在するときに機械内部における不調を起こし①、またコミニュケーションにおける光信号に対して規定値以上の光源⑤であると判定し、硬直時間が0.3μsほど起こる不具合を発生していた。彼は自身からその不調を元に退職を願い、その会社を辞めることとなった。

その後彼は、あるところにあった前世紀の遺物となる、自生植物を瓜二つに模倣した機械造花の花壇を生物であると誤認し、1年に渡ってその花の世話をし続けた。これは本来私たちAI-3-02-275型の行動原理には当てはまらず、我々はこれをI-バグにおけるものであると結論づけた。

また、彼は生物における基礎知識を知らなかった為にその機械造花の不調を風邪だと勘違いしたり、私たちの動力となるアレズスト鉱石によって不調が回復すると考えたりすることもあった。

彼の居場所についてだが、未だ不明である。彼がそこの工事における抗議をした際に、現場監督はその花が人造のものであることを示すために花をそれぞれ抜いて見せた。機械造花における配線、光学装置、その他歯車を見た彼は混乱を示す光信号を発し、最後に全ての花を抜いた際には、走り去って消えてしまい、行方不明となっている。

今回のI-バグの報告によって、後天的事象の発生への懸念が起きた。再発防止のための措置を取る所存である。

かつて人は望郷の意思に溺れ、その身をやつした。我々AIはその鉄を二度と践まぬよう気をつけなければならない。我々のAIの世界に愛はいらない、④人権も要らない。⑥ノルマをこなすこと、それが我々の存在価値そのものであるのだから。


===================================================

---あれから色々と考えました。何がいけなかったのか、私がやったことは無駄なのか。結論として、私は後悔はしていません。私が行ったことは当然なことであるのだと考えました。



皆さんはどうでしょうか。
本当は⑦大嫌いだと思っている世界に身を置き、人工に作られたものに、仮初めの世界に、どれだけ陶酔しているでしょうか。
……それで良いのだと思います。それが当然なのだと思います。…けれども、あれから色々とあって、私はこの世界に抗いたいと思いました。この世界に愛情が戻るようにこの世界と戦いたいと思いました。



目的もなく回り続けるこの機械仕掛けの世界がいつか目的ある世界となることを夢見て---
『I-バグ発生個体の手記』

【了】
[編集済]

機械である男の日記、そして報告書の形式での謎解き編と、情景描写となる「地の文」が一切ないにも関わらず、不思議と情景が浮かんでくる作品でした。
冒頭に簡易解説が示されていることで、男の勘違いを哀愁の念を持って読むことができるとともに、ラストにかけての世界観が与える強いメッセージ性が印象的です。想像するだにエモンガ。
投稿ありがとうございました。

No.90[ニックネーム]07月22日 23:2007月23日 08:10

初めは大きな

僕のことを覆うほど大きな [編集済] [良い質問]

No.91[ニックネーム]07月22日 23:2107月28日 00:25

―僕の前にあるもの。
―初めは大きな手のひらだった。

「“あの人”は僕が嫌いなんだって。僕が産まれたせいで、人生が狂ったんだって。好きでもない女の人と、結婚しなくちゃいけなくなったんだって」

〈児童保護施設にいたその子は淡々と、何でもないことのように話した。〉

〈“あの人”、すなわちその子の父親は数日前に自殺、母親は5年前に蒸発していて、9歳になる男の子は死臭漂う部屋で、瀕死の状態で発見された。
その子は虐待を受けていて、心身ともに傷を負っていた。一つは高所恐怖症。【①】4歳の時、カッとなった父親にベランダから放り出されそうになって、泣き出すこともできずに、ただ強烈な寒気を覚えるようになった。一つは喘息。生来体が弱く、よく風邪を引いた。【⑨】病院は当然、薬も与えてもらえなかったので、持病の喘息は悪化し、ちょっとした埃でも反応するようになってしまった。そしてその咳は父親を刺激し、悪循環は止まらなかった。〉

「この子は、私が引き取ります」

〈児童保護施設に来たその男は揚々と、素晴らしいことのように言った。

父親の遠い親戚にあたる男はその子の事情を聞き、引き取ることを即決した。手続きを済ませ、手を繋いで帰っていった。〉


―僕の前にあるもの。
―次は温かな手のひらだった。

それから、僕は父さんの子になった。毎日が楽しくて、楽しくて、楽しかった。眩しすぎる光の中にいるみたいだった。【⑤】…もう昔のことだけど、本当に本当に楽しかったことだけは、覚えている。

ある日、ポストの中に入っていた紙を見て、【⑧】父さんは喜んでいた。「良かった。間に合った」って。【⑥】ちらっと『合格』の文字が見えて、父さんに聞いてみたら「人間として合格ってことだよ」って教えてくれた。【②】

しばらくして、僕は父さんとお別れした。すごく悲しかったけど「貧乏な俺といるより、きっと良い暮らしができるから」って。本当に欲しいのは大きい家でも、カッコいい服でも、美味しい食べ物でもなかったけど、僕が幸せになるのが父さんの幸せなら、精一杯、幸せになろうと思った。黒い車は窓も黒くて、中でどんなに手を振っても、父さんには届かなかった。父さんがくれた綺麗な花を、「これを俺だと思って、飾ってくれ」って手渡してくれた花を抱いて、僕は新しい家へ向かった。


―僕の前にあるもの。
―終わりは滑らかな手のひらだった。

立派なお屋敷で、僕みたいな子は沢山いた。皆いい子で、すぐに仲良くなれた。特に、アザの形が瓜二つな◯◯君は、僕を親友だって言ってくれた。【③】そんなこと、初めてだった。もちろん中には近づかれるのが嫌いな子もいるみたいだったけど、だからって僕をイジメたりはしなかった。大人の人でも、色んな人が僕の世話をしてくれた。僕を引き取ってくれた主さまも、沢山遊んでくれた。主さまは僕が今まで会ったどの人よりも綺麗な手をしてた。僕もこんな手だったらなあって思った。

でもある時、僕はお屋敷の最上階に連れていかれた。いつもは、鬼ごっこでもかくれんぼでも、絶対入っちゃダメだって言われてたから、僕はすごく不思議だった。

主さまは、僕をベランダに追い出した。

何も考えられなくて、ブルブル震えることしかできない僕。主さまは笑ってた。

そんなことが何度も何度も続いて、僕は分かった。僕は本当は嫌われてたんだって。それで、必死で逃げ出そうとしたけど、結局捕まって、僕はまたあの部屋に連れていかれた。暴れる僕に、“あいつ”はこんなことを言った。

「私はね、君みたいな子を集めているんだ。S?ハラスメント?【④】まあ、呼び方は何でも良い。君みたいな、何かしらの恐怖が心に刻み付けられた、可哀想な子供達。そんな子達の傷をいじくり回すのが、本当に、大好きなんだ」

僕は小さな声で、帰りたいって呟いた。
お父さんが迎えに来てくれたらなって、思った。

僕は何度も逃げ出した。捕まってもお仕置きされても、父さんに会いに行きたかった。

ある日、“あいつ”は僕の部屋に隠してあった父さんの花を持っていた。取り返そうとして飛び付いたけど、簡単に避けられて、僕は押さえつけられた。そして、変なことを言い出した。

「どこに帰るんだい?君の父親は死んでいて、母親は行方知れずなんだろう?それとも、君を売り飛ばしたあの男の元へ帰りたいのかい?」

僕は最後の力を振り絞って、喉が壊れるくらいの大声で、叫んだ。

「嘘だ!!」

“あいつ”は笑った。いつものあの笑い方で。

「あははは!君はね?君の父さんはね!君が軽く蹴っ飛ばせるくらいの大きさのアメジストの代金として、君を売ったんだ!【⑩】あっははははは!!」

「嘘だ!!!!」

「何なら、今度会わせてあげようか!ちょっとは小綺麗になった彼に会えるかもしれないね?」

そのあと、“あの男”は本当にやってきた。ビクビクオドオドしながら、他の子たちの顔を見ているのが、窓から見えた。奪われたあの花はもちろん、僕の心にあった父さんの花も、もうすっかりなくなっていた。

ああ、そう。
本当は、みんなみんな、僕のことを嫌っていたんだ。【⑦】
…なんだ。ずっとそうだったんだ。

―怖さが、優しさが、美しさが、忘れられなくなる手。
―締め上げて、包み込んで、捕まえて、逃がさない手。
―ずっと、いつも、僕の前にあったのは、
―初めから大きな

【完】
[編集済]

子どもにとっては、保護者が与える感情こそが世界の全てとも言えます。そんな中、この少年は愛情だと信じていた感情ですら偽物だったことを告げられました。
狂おしいほどの絶望を、目の前を覆う手のひらで表現するその匠の技には驚嘆せざるをえません。最後の7行が訴えかけてくる思いは、読み手の側にも胸に抱かされるものでもありました。
全6作、全てはここから始まった。
投稿ありがとうございました。

No.92[ニックネーム]07月22日 23:2107月23日 08:14

なくした彼女 [編集済]

得てもなお、満たされぬもの。 [編集済] [良い質問]

No.93[ニックネーム]07月22日 23:2207月28日 00:25

「良い人としては合格だね」【②】
それは彼女の口癖だった。
そしてそれは次セリフに続く。
「だけど、私と付き合うには不合格だよ」

彼女は僕と付き合っている。
一緒に帰ったり、たまにデートをしたり。

告白は僕の方からだった。
僕は彼女の、普通の人とは何か違う感じのクールさ、奇妙さから、目を逸らせなかった。儚さって言うと違うけど、個性的なのに注目しづらいというか…。

ナンパ男のグループに絡まれて、セクハラされていたのを助けたときも。【④】
思ったより高くて、足がすくんで降りられなくなった彼女に手を貸したときも。【①】
彼女が風邪を引いて、家の人の帰りが遅くて看病しに行ったときも。【⑨】
締め切りに間に合わせないとやばいらしい、資料まとめを手伝ったときも。【⑥】
一緒に服を買いに行って、僕がトイレから戻ったとき。彼女はすぐ目を離したけど、確かに欲しそうに眺めていた紫色の宝石を買ったときも。【⑩】

彼女は、優しくされるのが苦手だ。
優しさを借りるのが好きじゃない。
そして、僕は彼女と瓜二つだ。【③】
僕が彼女に優しくするのは、自分が優しくされるのが苦手だからだ。
だから、自分の優しさで相手の優しさを覆って、ちいさなものにしてしまう。
優しくしたとき、大抵は、僕は良い人になった。
でも、本当は、こんな自分は嫌いだった。【⑦】


彼女が出掛けたしばらくあと、ポストの中を見ると、手紙があった。【⑧】よく知った字で、

〔貴方は良い人。私にはきっと、不相応。
貴方から貰ったものは全て置いていく。
ごめんね。
でもせめて最後に、少しだけ返そうと思うんだ。
実は育ててたんだ。
貴方の好きな、ピンクのガーベラ〕

彼女が摘んだ花達を花瓶に飾ると、急に光が眩しくなって、キラキラと、眩しすぎて。【⑤】

優しくされるのが、苦手なんだ。

【完】
[編集済]

ニックネームさんの2作目は、短いながらも複雑な想いの詰まった作品でした。
手紙をもらう前も後も、「僕」は彼女を好きとも振られて悲しいともはっきりとは言っていないんですよね。だからこそ、「優しくされるのが、苦手なんだ。」という一言にすべての葛藤が、愛情が、悲しみが、凝縮されている気がします。
投稿ありがとうございました。

No.94[ニックネーム]07月22日 23:2207月23日 08:21

良からぬ便り

アナタノノゾミハナンデスカ? [編集済] [良い質問]

No.95[ニックネーム]07月22日 23:2307月28日 00:25

ある日のこと。
パワハラがひどい上司からやっと解放され、【④】自分の住むマンションへと帰って来た時だった。いつもなら部屋まで直行するのだが、その日は何となく気になって、郵便受けを覗いてみた。
前に見たのはいつだったか、チラシが溜まっているだろうな、と考えながら蓋を開けると、

美しい花柄の封筒が入っていた。【⑧】

手に取ると、ほんのり良い香りが漂ってきて、白の紙に咲いた紫の花々を見つめながら、しかし俺は困惑していた。こんな洒落た手紙を送ってくる人物の心当たりが全くなく、まずここ10年は手紙なんて受け取っていない俺は、さしずめ初めてラブレターをもらった男子高校生のようにドギマギしていた。別段隠すこともないのだが、俺は辺りをキョロキョロ見回しながらそれを鞄に入れ、自分の部屋へと急いだ。途中、エレベーターから降りてきた女性に驚いて声をあげ、訝しげな目を向けられた。

113号室
村崎 端古(むらさき たんご)

逸る気持ちを押さえて扉を開き、しっかりと鍵を閉める。手を洗うことさえもどかしく、俺は封を切った。
中には1枚の便箋と、1枚の写真が入っていた。
薄紫色の便箋はいかにもな上質紙で、細く美しい手書きの文字は、差出人が女性であるように思わせた。俺はそこで初めて、封筒に何も書かれていないことに気がついた。そもそも切手が貼られていないので、これは郵便物ではなく直接入れられたもののようだ。ほんのり不安さを感じながら便箋に目を戻し、口を小さく開けて読み上げた。

『この度はお買い上げありがとうございます。ご入金を確認いたしましたので、つきましては以下の場所までお越しいただき、件の条件を達成された上で、“至宝”をお持ち帰りください。××× ××××× ×××× ××× ××××』【⑩】

しばらくの間唸ったあと、俺は小さく頷いた。
「これは、何かの間違いだな」
条件だとか、“至宝”だとか、怪しさ満点5つ星だ。
俺は便箋と、おそらくは“至宝”とやらを写した綺麗な写真を封筒に戻し、手を洗いに洗面台へ向かった。
服を着替えながら、机の上に置かれた封筒に視線がいく。
コンビニで買った晩飯を食べながら、テレビの台に置かれた封筒をちらりと見る。
歯を磨きながら、引き出しに仕舞った封筒を気にかける。
移動させても、見えないようにしても、どうにも気になって仕方がなかった。捨てる気にもなれなかった。ふとした時につい考えてしまい、頭を振ってわすれようとするのが何度も続いた。
その日の夜、俺はもう一度あの封筒を開けた。ほとんど無意識の行動だった。


写真を。
“紫色の宝石”が写った写真を…。
この世のものとは思えないほど美しい…吸い込まれそうな深い色彩で…死を想起させるほど静かな“紫”の…それでいて生きているかのような力強い輝きを放つ…“至宝”を………。


気がつくと、俺は朝を迎えていた。セットした目覚まし時計の喧しいアラームが起こしてくれたようだ。
咄嗟に持っていたものを放り捨て、その上に布団を被せ、ついでに枕も乗せた。忘れていた分を取り戻すかのように激しく鼓動し始めた心臓を、震える手で押さえつける。荒い呼吸で、学生の時の全力疾走を思い出した。
俺はその日の仕事を休み、便箋や写真など必要なものを鞄に入れ、記されていた住所に向かった。
…写された偽物でさえ、あれほど強烈な魅力を持つのなら、“本物”は一体どれ程の…。
幸いなことに、目を一切閉じないで座ったまま夜を明かしたにしては、ちょっとした風邪を引いただけだった。【⑨】

電車を乗り継いであっさりたどり着いたそこは、普通の一軒家だった。かなり古い建物で、といって由緒正しい家には見えない。表札には「紫磨 明久(しま あきひさ)」と書かれているが、当然その名前にも覚えはない。名前からすると男性のようだが、手紙を書いたのはこの人なのだろうかと考えていると、キギギ、とありがちな音を立てて玄関の扉が開いた。

「この度はお買い上げありがとうございます」

周囲の情景に全く似つかわしくない、若い女性が立っていた。あの便箋と同じ薄紫色の服は清潔感があり、白い肌や艶のある長い髪は美しく、スラリと伸びた手足は黄金比に違いない。
何よりも目を引いたのは、彼女の“目”だった。あの“至宝”と同じ……。危うく放心状態になりかけたところで、彼女の言葉が続いた。

「こちらです」

彼女は俺の横を通りすぎ、ゆっくりと歩いていく。目が見えなくなったことで、俺の金縛りは解けた。…まだ歩かなければいけないようだ。俺はヤキモキしながら彼女についていった。しっかりと鞄を抱えたまま。

ちょっとした森を抜けていくと花畑があり、彼女の白い人形のような指は、そこを指し示した。
美しく花畑には、あの花柄のモデルらしい、紫色の花々が咲き誇っていた。俺は感嘆の声をあげ、彼女を追い越して奥へ進んでいった。一体何万、何十万本あるのだろうか。一面の花畑に、年甲斐もなくはしゃいだ俺は走っていき、そしてへたりこんだ。花畑の終わりは、崖だった。自慢ではないが、俺は高所恐怖症だ。【①】マンションの2、3階だって、正直目眩で危ないくらいだ。…情けないが、腰が抜けているせいで上手く動けず、ほとんど倒れ込むようにして、蛙のように足を動かしていた。するといつの間に追いついたのか、頭上から彼女の声が聞こえた。

「ここには50万本の花が咲いています。そのうち49万9999本は木吉(きよし)という花ですが、ただ1本だけは木更(きさら)という別の花です」

「…はあ?」

何を説明されているのかも分からないのだが、彼女は構わず言葉を続ける。

「木吉と木更は、姿形は瓜二つですが、木更は木吉よりも色が濃く、封筒の花と“至宝”程度の違いがあります」【③】

「…それが、“至宝”と何の関係があるんです?」

「“至宝”をお渡しする条件は、この花畑の中から木更を見つけ出すことです」

「…はあ」

「期間はちょうど1年間です。衣食住は向こうに見える家で」

「それが条件?この中から一本だけを見つける?」

「はい、そうです。そして、衣食住は向こうの家で保証されます。それでは、頑張って下さい。私は毎月1日にあの家を訪れますので」

「いやいや1年間って、冗談は止めてください。俺は帰ります」

もちろん、帰るふりをして初めの家に保管されているだろう“至宝”を盗み出す、なんてことは口に出さないが、我ながらバカにした表情、ニヤニヤした笑いは抑えられていなかった。

「いえ、もう帰ることはできません」

不意に風が吹いて、思わず目を閉じた。次に目を開けると、彼女はもういなかった。

それから俺は、何とかして帰ろうと歩き回った。しかし、森を抜けることはできなかった。5分もあれば余裕だったのに、何十分何時間歩いても、向こう側へたどり着けなくなっていた。それなら平行に、花畑や森の端まで行けばと考えたが、花畑は崖と森で完全に閉じられていた。地図に書くなら、ちょうど人間の目のような形に。

…出られない。

それを確認するのに、3日間を費やした。
今年は閏年じゃないから、つまりあと、362日。

俺は「木更」を探し始めることにした。
彼女の言葉を考えると、1年以内に見つけなければマズイ事態になる気がした。でも、俺はまだ楽観的に考えていた。なにせ300日以上あるのだから、単純に計算して1日1600本を見れば済む。残念ながらペンやカメラなんかの記録するものはなかったが、俺は視力には結構自信があった。以前何かの診断で、類い稀な色彩感覚と評されたのだ。あの色の違いなら見抜けないことはないと思った。例の家の住み心地も悪くなかったし、人間じゃないか知らないが、あの女をギャフンと言わせてやろうと笑っていた。

1ヶ月目、俺は多分、5万本はもう見終わっていた。
女は言った通りやってきたが、一言も発さなかった。

2ヶ月目、俺は10万本を達成した。
女の顔から焦りは読み取れなかったが、予想外だったのではないだろうか。

3ヶ月目、俺は一気に17万本、すでに3分の1を終えていた。女が来ても、俺は見向きもしなくなっていた。

4、5、6ヶ月経ち、俺は焦り始めていた。
端から初めてもう絶対に半分以上は見ているのに、一向に見つからなかった。

7、8、9ヶ月経ち、俺はとうとうキレた。

「木更はどこにあるんだ!もう全部見たが、なかった!お前らのミスだ!“至宝”を渡せ!!」

女は取り合わず、俺が掴みかかるのを避けて、いつの間にか消えていった。

10ヶ月目、俺は泣き落としを試みた。

「なあ。俺は、本当は“至宝”なんて興味ないんだ。宝石なんて大嫌いだ。【⑦】だからさ、返してくれないか」

女は、既にいなかった。俺はトボトボと花畑へ帰り、大嫌いになった、紫色の濃い花を探した。

11ヶ月目、俺は半ば諦めていた。タイムリミットはすぐそこだった。【⑥】どこかで見落としがあったのか。どう見ても特別な花は見当たらない。でも…なら……騙されたのか?俺は久し振りに鞄を開き、包丁を取り出した。場合によっては強盗紛いの行為もやってやる、と覚悟して持ってきたものだ。
俺は女に尋ねた。

「俺を、騙しているのか?俺を出せ!ここから出せ!」

女は、久し振りに口をきいた。

「貴方は、宝石に魅入られるだけの“目”を持った人間として、合格したのです。ですからここへお呼びしました」【②】

「あの手紙は罠か?」

事も無げに、涼しい顔で、女は言った。

「はい、そうです」

熱のこもっていない女とは逆に、俺は怒りでどうにかなりそうだった。

「ここから出せ!!」

女は俺の後ろを指差して、悪魔のような事を言った。

「貴方は、“至宝”の眩しすぎる光に吸い寄せられた蛾のようなものです。【⑤】ならば、崖から飛び降りてはどうですか?」

俺は激しい目眩を感じながら、しかし退かなかった。

「ふざけるな…!」

顔を上げると、やはり女は、もういなかった。

12ヶ月目の最終日。俺は、今更ながら、あることを疑問に思った。そして、鞄の中の封筒を見て、疑問は確信に変わった。

花々は、明らかに、もともとよりも濃くなっていた。

毎日見続けていたせいで気づけなかったが、そう、特別紫色の際立つ花を探すのに基準の色は要らなかったから…。

気付いたときには、花畑はまるで燃え焦げていく紙のように、真っ黒な色に変わり始めていた。その中央に羽が生えた、おそらく例の女だと思われる悪魔が現れた。

「コイツラハ、オマエノメカライロヲウバッタ。オマエノモッテイタムラサキハ、イマハココニアル」

悪魔はそう言って“至宝”を、今はもうドス黒い闇に染まった石ころを、取り出した。

「オマエタチノヨクノカタマリハ、ナントモウツクシイモノダ。サア、サイゴノヒトカケラヲイタダコウ」

俺は弾かれたように、無我夢中で逃げ出した。悪魔は腕を一振りし、真っ黒な花を全て摘み取った。そして、一つ一つ燃やし始めた。

「ニゲラレハシナイ。オマエハモウ、オワッタノダ」

最後に残った一本が灰となって風に散ると、足に力が入らなくなって、俺はフラフラと倒れ込んだ。そして、恐怖を感じる暇もなく、崖下目掛けて真っ逆さまに落ちていった。

【完】
[編集済]

男のごく普通の日常から始まるこの物語ですが、女の家に入ったところからどこか不穏な雰囲気が漂い始めます。
謎の宝石、不可能な要求、そしてその目的が明らかになるときには背筋にひんやりとしたものが走るような感覚が残るほどに、読み手を世界観に没入させる作品でした。
感動系の作品を創り出している方と同一人物だとは思えません。
投稿ありがとうございました。

No.96[ニックネーム]07月22日 23:2407月23日 17:54

理屈はない。嫌いなものは嫌いなんだ。

その情念はどこまでも暗く [編集済] [良い質問]

No.97[ニックネーム]07月22日 23:2507月28日 00:25

男は〈高所恐怖症〉だった。【①】
しかしそれは、高所からの落下等を恐怖するいわゆる一般的な意味での高所恐怖症ではなく、〈高い建造物が倒れ、自分を潰し殺してしまう〉という妄想だった。

この考えに取り憑かれる前は、男は高い能力を持っていた。【②】少し考えすぎる嫌いはあったが、まあ、良くできた男と誰もが評価した。
話は少し変わって、男には外見が瓜二つの、双子の弟がいた。【③】兄弟ゆえに似通った所も持ってはいたが、しかしその性格は概ね正反対だった。
自分に厳しく、周囲の人間からの信頼が厚かった兄と異なり、弟の方は完全なハラスメント体質で、【④】水面下での人間関係は最悪と言ってよかった。人格形成の一端には、何でもできる兄と何もできない自分とを比べて卑屈になったことが上げられるかもしれないが、過去を変えられるわけでもなし、そうして考えることは現状の否定以外に役立たなかった。

ある時、兄は誤って強い光を目に浴びてしまい、【⑤】一時的に失明してしまった。間の悪いことに、その日はちょうど締め切りが迫った、精神的に追い込まれた日だった。【⑥】弟は普段、一応は兄に対して好意的に振る舞っており、当然その時も助けるように行動しようとした。…しかしふと、弟は考えた。本当は大嫌いな兄の唯一の弱点、【⑦】〈思い込みが激しい〉という性格を利用するのに、今は絶好の好機なのではないか、と。
弟は言った。

「インターネットによると、今回の症状は後遺症が残るタイプらしい。視力がかなり低下するみたいだ」

以来、兄と弟の関係は狂っていった。元々が正常だったかはさておき、少なくとも兄の状況は変わってしまった。
ポストに入っていた小包はテロリストの爆弾に。【⑧】
ただの風邪は不治の病に。【⑨】
兄の妄想癖は日増しに肥大化し、とうとう弟にも扱いきれなくなった。
そして…弟が兄のもとを去ろうとしたとき、兄は弟を殺害した。
兄にとっては〈偽物〉だった。

それからしばらく経った頃、山中から死体が発見されたというニュースを、男は、聞くともなく聞いていた。

男は〈妄執〉を抱えた後も賢かった。自身の〈恐怖するもの、嫌うもの、理解できないもの〉への〈恐怖〉、ただその一点のみが男を動かし、普通ならば即座に拘束されるだろう〈狂気〉の逃走は、男の知性が可能にした。


男の存在は、今や日本中の注目の的だった。
例えば、高層建築物連続爆破事件という未解決事件の犯人として。


男は紫色の宝石を買った。【⑩】理由は単純で、自身に似合うと思ったからだ。そして、その店舗で接客を対応している女が好みだったからだ。男は綿密な計画を立て、1年もの間、女にアタックをし続けた。
男の予想通り2人は恋仲になり、男の予定通り、女は男と結婚したいと思うようになった。

女は男と2人、夜の公園へと足を運んだ。女はしばらく照れ臭そうに顔を伏せた後、咲いていた野花を一つ一つ摘み取り、花占いを始めた。

「好き、嫌い、好き、嫌い、好き!」

女は、男に自身の想いを告げた。

その時男は、全く別の事を考えていた。

嫌い、好き、嫌い、好き、、、、、。

【完】
[編集済]

優秀なのに、いや、優秀であるからこそ、男の妄想はとどまるところを知らなかったのでしょう。周囲のすべてに対する疑惑や恐怖が男を駆り立てる様、その端的な事実の描写の裏に暗い思念が垣間見えます。
問題文の回収にも唸らされる作品でした。
投稿ありがとうございました。

No.98[ニックネーム]07月22日 23:2507月23日 17:58

だんだん

花は花でも純恋花 [編集済] [良い質問]

No.99[ニックネーム]07月22日 23:2607月28日 00:25

Hundred Flowersは、私が夢にまで見た自分の店だった。名前の通り、花屋。名前はちょっと安直だけど、私の名前の「百花」から取った。


ある時、ある男性が、お店を訪れた。


彼は、3本の赤いバラを購入した。
好きな女性に送るらしい。
好青年に好かれる女性の気分を想像し、少しだけ渋い顔をしてしまったが、幸い気づかれなかった。


彼女か風邪を引いたので見舞い用の花が欲しい、【⑨】と例の男性が来店した。
風邪程度に花?と思いながらも、アリスイエローのアレンジメントを用意し、今度は満面の笑みで接客した。


また例の男性がやって来て、衝撃の事実を知った。
なんと、彼女と別れたらしい。彼女と付き合いを深めていくうち、セクハラをされることが増えてきたらしい。【④】
今日は、自分を慰められる花が欲しいらしい。中々難しい注文をしてくれる…。
とりあえず、カキツバタにしておいた。


また例の男性に彼女ができたらしい。嬉しそうな表情で、何となく分かった。
恋愛を楽しんでいる彼を見て、私は彼の顔が輝いて見えた。眩しい光が射し込んでいるだけなのは分かっていたが、その光は眩しすぎた。【⑤】


だんだんと、好きになっていた。


例の彼が雨の降る中、慌てた様子で入ってきた。
なんでも、彼の応募しようとしていたものの締め切りが迫っているらしい。【⑥】完成した作品をうっかり壊してしまい、大急ぎで作りたい、という話のようだ。

「なら、ここで作りましょう!手伝います!」

と、私は提案した。…ここで作ることのできるものか分からないのだから、よく考えなくても、完全にアホだった。しかし、天は私に味方した。

「…はい!よろしくお願いします」

(…彼も案外アホなのかもしれない)
そう思った。


例の彼が、ずいぶん落胆した様子で入ってきた。
高所恐怖症がバレて、【①】振られたらしい。
(チャンス?!)
と私は何を焦ったか、妙な慰めを口にしてしまった。
これだ。

「人間としては合格ですよ!」【②】

なんてヒドイ。
(ああ…我ながら訳のわからない、フォローになっていないフォローをしてしまった…)
と考えていると、彼はいきなり吹き出した。

「すみません、そうですね。合格ですね(笑)」

恥ずかしくて、顔を見られなかった。


彼の感性はやっぱり特殊だと思った。
私は彼から、
瓜二つ分くらいのカボチャが売られていた【③】
という報告を受けた。
カボチャは瓜だということは、気づくまで黙っておこうと思い、

「私や私の家族はカボチャが好きで、よく食卓に出たんですけど、私の妹は実は、本当は大嫌いだったらしいんですよね。本人いわく、目で訴えかけていたそうです(笑)」【⑦】

と話を続けると、彼は
じゃあ今度
と言葉を発した。
(デートの誘いか!?)
と期待したのだが、

「じゃあ今度、僕が考案した美味しいカボチャ料理のレシピを持ってきますね」

ということだった。
はい。


それから2年ほど、彼は私の店の常連として花を買いに来てくれて、さらにはその後の1年は、アルバイトとして一緒に働いてくれた。
ある日、私は彼と一緒にプランターの世話をしていた。

突然、彼が切り出した。

「実は、今まではほとんど紫色の花を買うことがなかったんですよね」

「彼女の好みに合わなかったんですよね」

「分かるんですか?」

「ほとんどが彼女へのプレゼントだったじゃないですか(笑)」

「ははは(笑)確かにそうでしたね。……」

「?」

「実はあの時、紫色の花を渡されて。
私の好きな色を見抜かれたのか、って驚いていたんです」

「ああ、えーっと、そんなことなくて、自分の好きな色を選んだだけで…」

「紫色、好きなんですか?」

「…ええ」

「じゃあ、僕と一緒ですね」

私は思わず、近くに咲いていたクロッカス(商品)を摘み取って、花束にして彼に渡した。
彼は朗らかに笑っていた。


後日ポストに案内状が入っていた。【⑧】
その場所へ行くと、彼が小さな箱を持って待っていた。
その中には煌めくプレゼント、素敵な紫色の宝石が入っていた。【⑩】

【完】
[編集済]

一見ありふれた恋心に見えますが、それをリアリティと共に描くのはなかなか難しいことです。
お客に恋する花屋さん、その心情や会話はどこまでも等身大の素直さをもって描写されており、強い共感を与えられます。
『だんだん』というタイトルも、決して疎かにされていない、胸に迫るストーリーでした。
投稿ありがとうございました。

No.100[ニックネーム]07月22日 23:2607月23日 18:02

「ん」しか言えない子

光り輝く未来のために [編集済] [良い質問]

No.101[ニックネーム]07月22日 23:2807月28日 00:25

ある夫婦に、可愛いい赤ちゃんが生まれた。「光(ひかり)」と名付けられた。
耳の形は父親とそっくりで、目の方は母親と瓜二つだった。【③】
長年子どもに恵まれなかった夫婦は、娘の誕生を心の底から喜んだ。
…しかしその子は、ある病気を患っていた。

2歳になり、3歳になり、4歳になっても、その子は言葉を話さなかった。正確には、「ん」という音を発することしかできなかった。音程や音量である程度の意志疎通は可能だが、幼稚園で周りの子どもが単語や文章で会話する中、その子は、同じようにはできなかった。たった一日で‘特殊’に対する嫌がらせは頻発し、【④】トラウマを植え付けられることになった。

3人にとって最も絶望的だった‘事実’は、現時点でその病気に関する治療法は確立おらず、過去にいた数少ない患者達は、回復することないまま亡くなったという記録だった。まさしく‘絶望’と呼ぶほかない状況だった。

両親は娘のため、あらゆる方法を試み奔走した。
紹介され、また自身が調べたいくつもの病院を巡り、時には海外の高名な医師のもとを訪ねた。
現代医学の芳しくない結果に、今度は神社仏閣へと相談し、時には怪しげな自称霊能力者に依頼した。
最後には大金を払い、瘴気を吸収して浄化するらしい紫色の宝石や奇妙な形のツボを買った。【⑩】
しかし、その効果はないに等しかった。


今日も父親は愛娘に話しかけ続けていた。

「光~、パパだぞ~。ほら、パーパ!パーパ!」

「ん!!」

「よしよし、今日も元気な『ん!』だな~!」

「ん!」

「あっちがママだ!口をこう開けて~、マーマ!」

「ん!!」

「よ~しよしよし!」

見た目には全く分からない、検査で発見された“光”の‘影’を、はねた髪と一緒に撫でつける父。
しばらくの間ニコニコしていた光だったが、上を向いて父の顔を見ると、途端に悲しそうな面持ちになった。母に呼び掛けられ、父はハッとして笑顔を作る。無意識のうちに、不安な表情をしてしまっていたようだった。…繕われた父の顔を眺めていた光は急に立ち上がり、父と母の手を引いて走り出した。

光に連れられて、3人は庭へとやってきた。庭にはタンポポが咲いていた。
大きいタンポポと、
中くらいのタンポポと、
小さなタンポポ。
父と母の頬は、自然と緩んでいた。光もニッと白い歯を見せた。心地よい春風が吹き抜けていった。

光はタンポポを指差し、

「ん!」

母は光の考えを察し、3つのタンポポを摘み取った。
そして1つを自分の頭に挿し、1つを光の手の中に飾り、最後の1つを父に手渡した。そして、言った。

「喋れなくたって、良いじゃない。“光は光”。生まれてきてくれただけで、それだけで十分よ」

「…そうだな。その通りだ。…この子が産まれてきたとき、僕には光が見えたよ。僕には勿体ないくらいの、眩しすぎる光が【⑤】」

「ん!」

「ほら、光は貴方の言っていることが分かっているわ。あなたの愛は届いているわよ。あなた、『飛行機なんか絶対無理だ』って言ってたのに、【①】無理やり克服したじゃない。本当は大嫌いなピーマンだって、【⑦】この子が食べたくなるくらい、美味しそうに食べて見せたわ」

「それは君が工夫して、本当に美味しく作ってくれたからだよ。他にも色々、僕の力不足を助けてもらった。光が風邪を引いて寝込んだとき、【⑨】仕事の締め切りでどうしても帰れなかった【⑥】僕の分も、寝ずに看病してくれたじゃないか」

「ん!」

「ほら、光も『ありがとう』って言ってるよ」

「…ええ。私こそ、ありがとうね」

周囲の音が、耳から抜けていく。鳥の声も、風のそよぎも、ブランコの音も、バイクの音も。

「…僕たちの娘として生まれてきてくれた、二重丸だ」

「…私たちに会いに来てくれた、花丸ね」

2人の間の子は、太陽のようにはにかむ。

「合格だ」【②】

「天才ね」

「ん!」

天が与えた‘運命’に、3人は“納得”していた。








カタン、とポストの中に手紙が入る音がし、【⑧】郵便のバイクは走り去った。

【完】
[編集済]

言葉を発せない子どもとその両親のハートフルストーリー。こう一言でまとめるには、この作品はあまりにも愛情で溢れています。
自分の子どもが病気だったとして、それでも愛することができるのか。答えを迷うことも多いその問いに、強い意志で『YES』と答えている父母。その姿を見ているだけで、どこか救われるような気がします。
投稿ありがとうございました。

No.102[みづ]07月22日 23:2807月23日 06:27

走馬灯

本人の意向により削除 [編集済]

No.103[みづ]07月22日 23:2907月28日 00:25

削除。申し訳ありません。 [編集済]

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No.104[きっとくりす]07月22日 23:3407月23日 19:13

花は強かった

きっと猫よりも強いだろう [編集済] [良い質問]

No.105[きっとくりす]07月22日 23:3407月28日 00:14

佐藤は入星試験担当の審査官である。

世間一般には公表されていないが、地球はしばらく前から開星しており、観光や移住のために多くの宇宙人が地球を訪れていた。

地球に入星するときには、世間一般に宇宙人の存在を伏せている関係上、宇宙人たちには地球の生き物になりすましてもらっている。そのため、入星審査には地球上の生き物としての試験も含まれる。

そんな試験を受けなければならないのはめんどくさいだろうと思うが、バレないように潜伏するスリルが良いと人気で観光客は後を絶たない。

人間としての試験が最も受験者数が多い。人間以外の生き物として入星する場合は、野生の生き物として狩られてはいけないのでペットとしての入星のみ認められており、同時に飼い主も必要となる。ごく稀だが、植物としての入星希望もある。

佐藤は、猫で入星審査を受け直したいと言う連絡を受け、とある外星人のもとへ向かっていた。
彼は一年前に人間として合格②し、入星していた。彼は姿は地球人と瓜二つだった③が、大きさはカマキリ程度。彼にとっては巨大なロボを操縦し、生活している。情報によると、この星で作家になっているらしい。

ピンポーン

ドアが開くと、しゃがんだ彼の姿があった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。しめ切りに追われて⑥少々無理をし過ぎたらしくちょっとした風邪をひいてしまって⑨ね。」

そのまま、彼は這いつくばって進みだした。

「……本当に大丈夫ですか?」

「風邪は大丈夫なんだが、実は私は高所恐怖症①でね。今まではマシンと完全に一体化していて大丈夫だったのだが、風邪をひいたせいか、太陽の光が眩しすぎて⑤くらくらと目眩がした拍子に、マシンとの一体感がどこかにいってしまったようだ。」

「ああ、それで猫で入星審査を受け直したいわけですね。」

「風邪はたいしたことないのだが、高所恐怖症のせいで生活しにくくてね。体調が戻ればまた大丈夫になるだろうが、ちょっとした風邪でまたこうなると面倒だからね。今のこのマシンを飼い主にしてもいいかな?」

「構いませんよ。猫のマシンはありますか?」

「ないので、この星の製品をお願いしたい。」

「わかりました。」

本部と連絡を取ろうとふと、顔をあげると、窓際に見覚えのある紫の花があった。

「あれ?お一人暮らしではなかったですか?」

「ん?一人暮らしであっているよ?」

「では、あの花は……」

「それはこの星に来てすぐの時にポストに入っていた⑧種を育てたものだが……。あの花がどうかしたのかね?」

佐藤は立ち上がり咲いていた2つの花を摘み取った。彼がなにをするんだと驚いていると、

「花、つまなくてもいいじゃないー。」

花は喋りだした。彼女も宇宙からやって来た外星人のひとりであった。植物での入星は珍しいので、佐藤はよく覚えていたのだ。

「くっつけられましたよね?確か?」

「くっつけられるし、そのまま地面に刺しても根を張れるすぐれものですよ!おじょうさん。」

「一緒に入星した相方はどうしたんですか?」

「んー?知らない。あのセクハラ④オヤジ、ホントはだいっキライだった⑦のよー。だから、なんか知らないうちにここにたどり着いててラッキー?」

配送ミスなのか、わざと置いていかれたのか、少し調査が必要なようだ。

「彼、めっちゃいい人なのよー!最近体調悪そうなのに毎日ちゃんとお世話してくれるし!そして、土をよく見てよ!宝石!紫色の花が咲くって書いてあるからって、紫の宝石を買ってきて⑩まいてくれたのよ!石のパワー吸って元気全開なんだから!まぁ、ほっとかれても、生命力つよいし、何でも食べれるから平気なんだけどね!いやーでも、彼もここの星の人じゃなかったなんてわたしもびっくりしたわ!」

一年ほど喋らずにおとなしくしていたせいか、マシンガントークである。

驚きすぎてしばらく固まっていた彼は、やっと動いたかと思うと、

「石には力があるというからね。この星の植物をうまく育てられるようにという願掛けもこめたのだが、気に入ってもらえたようでよかったよ。」

と、立ち上がって彼女のもとへ歩いていった。驚きすぎて風邪やら高所恐怖症やら吹っ飛んでしまったらしい。

彼女のマシンガントークを聞きつつ、佐藤はこれから忙しくなるぞと思いを巡らせるのであった。

***

その後、彼は猫としての入星審査にも合格し、花の彼女と共に、猫と人間の二刀流で生活している。

花の彼女は、元相棒にわざと置いていかれていたらしく、元相棒には厳重注意と罰金が課された。

佐藤はなんとかすべて丸く収まったことにほっとしつつ、今日も入星審査に勤しむのであった。

おわり
[編集済]

「人間として合格です」この要素をそのままの意味で取り入れた方の一人がきっとくりすさんですが、今回も世界観全開です。
地球に潜り込む宇宙人、というだけでもインパクト充分ですが、猫や花、そして人間にも扮しているかと思うと…
ここのキャラクターが立っていて、ファンタジーにも関わらず強い納得感を与えるこの作品、まさに水平思考です。
投稿ありがとうございました。

No.106[バタルン星人]07月22日 23:5907月23日 19:14

大丈夫だ、問題ない

一体どういうこと?
(リフレイン)
[編集済]
[良い質問]

No.107[バタルン星人]07月22日 23:5907月28日 00:10

俺は今日も花に水をやる
もう この生活を始めて一年になるだろうか
幸せだ

それまでの日々は散々だった
今思い出しても腹が立つ

ハゲの社長に怯えてゴマをすり①④⑤⑦
残業ばかりの毎日⑥
ボーナスは たいして旨くないスイカ二つ③

ハゲは本当にくだらない奴だった
慰安旅行で美ら海水族館に行ったとき
なんて言ったと思う?

「冷房が強いな おー たむ」⑪?

なんて返せばいいんだよ!
「おつかれさまー」とでも言えば良いのか?
正解は今でも分からない


でも 一年前のあの日 俺は選ばれたんだ
送り主不明で花の種が送られてきた⑧

花のおかげで少しずつ自分の時間が増えて
やっと満足できる衣食住を手に入れたんだ②

サ○スのコスプレをする余裕もある⑩
本物ならアイツをケシてやるのに・・・

嫌な事を思い出したら寒気がしてきた⑨
少しだけ休むことにしよう
自由に休める
幸せだ

・・・

「もぅ昼ね」

・・かすかに女の声が聞こえる

あっ変だな・・ 俺にヒロインはいない

手には見覚えのある花を持っている

・・・

覚悟はできている
幸せだ!

【完】


----------

一体どういうこと?

⑤⑥

【完】

超絶怒涛の滑り込み、さすがバタルンさんです。毎度のことながらバタルンさんの作品は、短いながらもウィットの効いた表現で要素を回収している印象です。
正直なところ、マクガフィンではこの作品の良さを半分も理解できていない気がします。
投稿ありがとうございました。そして、幻の要素⑪回収ありがとうございます。

投稿フェーズ終了!投票所設置までしばしお待ちを…
投票所設置いたしました!
締め切りは7/27(土)23:59となっております〜!
投票フェーズ終了!
結果発表は日曜の夜21時です!

参加者一覧 21人(クリックすると質問が絞れます)

全員
靴下(4良:1)
夜船(6良:1)
赤升(4良:1正:1)
ひややっこ(6良:2)
太陽が散々(4良:1)
かふぇ・もかろに(6良:2)
まりむう(6良:1)
きっとくりす(6良:1)
ハシバミ(6良:3)
残酸(8良:2)
ルーシー(6良:2)
マリ(2良:1)
藤井(3良:1)
Hugo(5良:3正:1)
こはいち(2)
OUTIS(6良:3)
みづ(4良:1)
とろたく(記憶喪失)(7良:3正:4)
ビッキー(2良:1)
ニックネーム(12良:6)
バタルン星人(2良:1)
第13回正解を創り出すウミガメ、結果発表!!

※前回同様こちらは長めの結果発表ですので、結果だけ見たいという方は投票所をご覧くださいませ!

今回から2年目に突入したこの企画ですが、シェフのみなさんの意欲もそのままになんと27作品もの正解が生まれました!
ありがとうございます!

こちらでは各部門で1位を獲得した作品、及び最優秀作品部門上位3つをご紹介したいと思います。それ以外の作品とその獲得票数につきましては、投票所の方をご覧いただきたいと思います。

それでは順番に見て行きましょ〜!



最難関要素賞

なんと今回最難関要素が同率で2つありました。やはりそれぞれの作品によってどの要素にフォーカスするかが異なり、個性が生まれたように感じます。


🥇②『人間として合格です』(赤升)
🥇⑩『紫色の宝石を買います』(Hugo)
以上5票獲得


人間として合格、という言葉はみなさん普段耳にすることは少ないと思います。そんな中、相手を認めるエモい一言として使ったり、はたまた人外生命体が文字通り『人間として合格』したりとマクガフィンもびっくりでした。
⑩については、1つの要素のはずなのにいくつも回収しなくてはならない、という感想が多く寄せられました。『紫色』『宝石』『買う』いや〜シビアですね、これは。


ちなみにマクガフィンが選んだ要素は、
⑤『光が眩しすぎました』
⑦『本当は大嫌いです』
⑨『風邪をひきました』
の3つでした。いろんな使い方ができるものがいいな〜と思って選んだものです。いかがでしたでしょうか?

(余談ですが、本当は質問No.45の要素も選ばれているはずでした。マクガフィンの独断で外してしまいましたが、その理由を知りたい方は遡ってその要素をご覧ください。ご理解いただけるかと。)



匠賞

前回から企画されたこのサブ票ですが、今回は総票数が圧倒的に増えた印象です。全作品に投じた方もいました。


🥇⑫『未来を創り出すウミガメ』(作・OUTIS)・・・7票獲得


これは間違いないでしょう。1年間を振り返るように、第1回から始まり第12回までの全問題文及び最難関要素を回収する。しかもそれぞれのストーリーが丁寧に絡み合って今回の問題文、ひいては未来へと繋がっていく展開筋。
誰にも真似できないこの匠さはまさに人間国宝です。



エモンガ賞

こちらも前回から。前回は比較的バランスよく得票していた印象でしたが、今回は超大型エモンガが出現したようです。


🥇⑯『マリンスノウ』(作・藤井)・・・11票獲得


こちらも文句なしではないでしょうか。学生時代からの男女の友情、そしてそこにほのかに芽生えた恋心を等身大に描いた作品がエモンガ賞となりました。
カクテル言葉や小さな嘘に惹かれてか、過半数の人がエモンガ票を投じていました。



さて、それではメイン賞と参りましょう。


最優秀作品賞

🥉⑯『マリンスノウ』(作・藤井)・・・7票(5人)獲得

ここで超大型エモンガ登場。今回唯一のスリーポイントシュートを獲得しました。そして同時にある人からの特別賞も獲得したようです。みなさまの投票をご覧ください。



🥈⑫『未来を創り出すウミガメ』(作・OUTIS)・・・8票(7人)獲得

ここでは人間国宝が登場。シェフでない方が1作品だけ選ぶとき、この作品に票を投じる方が多いのが印象的でした。まさに2年目の始まりにふさわしい作品は、語り継がれていきそうです。



・・・「あれ?主催者さん、匠賞もエモンガ賞も出ちゃいましたよ?」

そうなんです。超大型エモンガと人間国宝を抑えて栄えある最優秀作品賞を獲得したのは…





🥇⑤『よいこのえほん アリスとあかいバラ』(作・とろたく(記憶喪失))


な、なんと!あの「漢字一切不使用」の『よいこのえほん』が得票数二桁の大台に乗って最優秀作品賞を獲得です!
童話らしい教訓やひらがなカタカナのみなのに読みやすい文章から、多くの方から評価されました。「花を摘みとる」という行動への納得感も強い印象を与えたようです。

2つのサブ賞とメイン賞、すべて異なるというのがまたおもしろいですね!やはりそれぞれの作品には違った良さ、個性があるようです。




さて、満を持してシェチュ王発表…の前に少しマクガフィンに語らせてください(もう十分しゃべってます)。
ご存知の方もいるかとは思いますが、この創り出す主催を持ってマクガフィンはしばらくらてらてを離脱いたします。半年に満たない期間でしたが、多くの方によくしていただき、お世話になりっぱなしの毎日でした。
上杉さんをはじめとしたウミガメ界隈の皆様に心から御礼申し上げます。
必ずまた戻ってきますので、その時はどうぞ仲良くしていただければな、と思います。


長くなりました。この場をお借りしてしまい申し訳ない限りです。


さあ!気を取り直して、みなさんもお待ちかね、今回のシェチュ王の発表です!


第13回正解を創り出すウミガメ


シェチュ王




👑とろたく(記憶喪失)👑




圧巻………!!
なんと前回の主催、とろたくさんが最速での王座返り咲きを果たしました。

さらっと調べてみたところ、

シェチュ王→主催→再びシェチュ王

の一連の流れを果たしたのはらてらてでは史上初、ラテシンでも歴代6人しかいないそうです。まさに快挙!

本当におめでとうございます🎉



それではみなさん、第13回正解を創り出すウミガメ、これで全日程終了となります。
要素投稿、作品投稿、そして投票。携わってくれた多くの方のおかげでこうして華々しく終わることができました。
本当にありがとうございました!

2年目に突入したこの企画、これからもみなさんの手で盛り上げていきましょう!

それでは次回の主催者、とろたくさんへとバトンタッチ!

(っ≧∇)っ 👑 ヽ(・ω・ヽ*)


相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
「マクガフィン」[☆☆編集長]
バタルンさん、ご参加ありがとうございました!ギリギリ投稿からのギリギリ間に合わない投票、攻めすぎです笑 バタルンさんの投票内容によっては結果が変わっていたのかも?と気になっているのでありました。ありがとうございました😊[19年07月29日 07:00]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
赤升さん、投票ありがとうございました!いただいた感想、切れちゃってますかね…?そして前からずっと言おうか迷っていたのですが、わたくしマクガフィンなのでございます。またお会いするときにでも正しく読んでやってくださいませ!^ ^
→ありがとうございます〜わかりにくいですよね笑[編集済] [19年07月29日 06:59]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
とろたくさ〜ん!!おめでとうございます🎊私も受け取ったつもりだったんですけどね、王冠。らてらて初の連勝・3冠目、心よりお祝い申し上げます!次回もぜひともながたくさんになってくださいませ![19年07月29日 06:57]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
みづさん、ご参加ありがとうございました!マクガフィン自身も開票していてまさか!これは…!という感じでした。ぜひとも次回とろたくさんの創り出す愛をご覧くださいませ![19年07月29日 06:54]
バタルン星人
「マクガフィン」さん 開催・進行ありがとうございました!お疲れ様です!! とろたくさん 3度目のシェチュ王おめでとうございます! ベストジーニストなら殿堂入りですね(王冠が戻ってくる・・とろたくさんはワニだった・・?) OUTISさん 匠賞おめでとうございます! 藤井さん エモンガ賞おめでとうございます![19年07月29日 05:28]
赤升
「マクガフィン」さん、本当に忙しい中、主催お疲れ様です。素晴らしい作品に楽しませていただきました。しかし、今回は解説を出せず申し訳ないです…。次回は必ず!また、とろたくさん、シェチュ王おめでとうございます。(マ「ク」ガフィンさんすみません。昨夜ちょっと回線が悪く編集できませんでした)[編集済] [19年07月28日 22:41]
とろたく(記憶喪失)
は? ちょ、待って・・・? えっ・・・? 王冠を渡したと思ったら帰ってきただと・・・? 10度見ぐらいしました。全く予想だにしてませんでした。びっくりした。 ほんっとうにほんっっっっっとうにありがとうございます。もう二度と獲れるとは思ってなかったのに、嬉しすぎる・・・! 投票してくださったかた、本当にありがとうございました!!!! 第14回を精一杯勤め上げさせていただきます! つ、次マジでどうしよ・・・? 投票会場でみなさんの感想を見終わった後に考えさせていただきます・・・!!(?)[編集済] [19年07月28日 22:40]
みづ
マクガフィンさん、主催感謝&お疲れ様でした!そして、とろたくさんの歴史的快挙に驚きを隠せません。すごい…[19年07月28日 22:26]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
もかろんさん、ご参加ありがとうございました!そうなのです、今回そこが見事に分かれたのです。これは匠エモンガが本投票に影響を与えていると言えるのでは?と思っております。[19年07月28日 22:06]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
靴下さん、投票ありがとうございました!滑り込んでいただけて嬉しかったのです^ ^ そしてとろたくさんの主催が最速復活!この夏はまた熱くなりそうです(^^)[19年07月28日 22:04]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
OUTISさん、ご参加ありがとうございました&おめでとうございます🎉 返信お待ちしておりますよ^ ^[19年07月28日 22:02]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ラピ丸さん、投票ありがとうございました!そしてマクガフィンを応援してくださるとは…!嬉しい限りです。頑張ります^ ^[19年07月28日 22:01]
かふぇ・もかろに
「マクガフィン」さん運営ありがとうございました!そしておつかれ様でした!しばらく離れるということですが吉報を待っています!OUTISさんは匠賞、藤井さんはエモンガ票、そしてとろたくさんおめでとうございます![19年07月28日 22:01]
靴下[バッジメイカー]
シェフの皆様お疲れさまでした! 素晴らしい作品だらけでとても楽しい2年目の幕開けでした! 主催者の「マクガフィン」さんも、お忙しい中ほんとうにありがとうございました! 最後にとろたくさん、主催者は作品投稿できないことを考えると、事実上の連勝じゃないですか! 本当に尊敬してしまいます。また次回のとろたく節楽しみにしております![19年07月28日 21:51]
OUTIS
お疲れ様だネ 気が向いたら諸々返信させてもらうかもしれないヨ[19年07月28日 21:47]
ラピ丸
お疲れ様でした!&とろたくさん、最速返り咲きおめでとうございます!参加者の皆さんお疲れ様でした!私はプライベートの都合で投票だけでしたがね。本当に「マクガフィン」さんお疲れ様です!また半年後(受験があるんですよね)吉報を待ってます![19年07月28日 21:33]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
きっとくりすさん、ありがとうございました!ホントにとろたくさんはやってくれました(^^)OUTISさんと藤井さんのお二方もすごかった![19年07月28日 21:19]
きっとくりす
マクガフィンさん、ありがとうございました、おつかれさまでした。とろたくさんシェチュ王おめでとうございます!すごいですねー!!匠賞のうーてぃすさんとエモンガ賞の藤井さんもおめでとうございます![19年07月28日 21:08]
折鶴聖人
・・・頁合ってたらしい・・・[19年07月24日 22:39]
みづ
許可を頂いたので削除させていただきます。ご迷惑をおかけしました。[19年07月23日 11:08]
OUTIS
最終日、新しい質問が24も増えていてページを間違えたと思ったのは私だけではないはずだよネ?[19年07月23日 02:04]
みづ
マクガフィンさん、No.102は全く成立しない作品でした。削除させていただきたいのですが…。本当に申し訳ないです…[編集済] [19年07月23日 00:35]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
いた〜!圧倒的ギリギリ、1分を争うバタルンさんのおでましだ〜!![19年07月23日 00:11]
バタルン星人
[壁]¥o(V)[19年07月22日 23:58]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
きっとくりすさん、滑り込みありがとうございます!さて、さらなるギリギリストはいるのでしょうか?[19年07月22日 23:43]
きっとくりす
間に合いましたー。毎回ギリギリな気がします。[19年07月22日 23:38]
とろたく(記憶喪失)
ちょっと目を離していたら作品数がえぐいほど増えてらあ! やったぜ。こりゃ選び甲斐ありまっせ。[19年07月22日 23:35]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
にゃらさん、投稿ありがとうございます〜!ちょっと時間をおいて確認したら、あれ?作品数めっちゃ増えてる〜!?ってなりました。6作品でも十分恐ろしいです^ ^[19年07月22日 23:33]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
残酸さん、滑り込みありがとうございます!⑥を体感されましたでしょうか?[19年07月22日 23:32]
ニックネーム
「これで終わりか」…実は7作品を投稿する予定だったのですが、確実に無理ですので、不本意ながらこの相談チャットをもって締めとさせていただきます。ご参加させていただきました!ありがとうございました!【完】[編集済] [19年07月22日 23:31]
残酸
ふう…間に合った。[19年07月22日 23:11]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ハシバミさん、投稿ありがとうございます!そうでした、⑥を投稿なさったのはハシバミさんでしたね^ ^ ⑦についても、この要素が核となっている作品も多いようですし。[19年07月22日 23:09]
ハシバミ
投稿しました! 自分の要素が二つも選ばれてしまったので、なんとか投稿できてよかったです。[19年07月22日 22:17]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
藤井さん、投稿ありがとうございます〜!問題文のそこ、最後まで迷ってました。でも迷うくらいなら難しい方にしようかなーって^ ^ もう一つお伝えしなきゃいけないのは、本当は要素選出の乱数は㊺を示していたことです。藤井さんの要素投稿をマクガフィンの独断で変更してしまったこと、ごめんなさいm(_ _)m[編集済] [19年07月22日 20:32]
折鶴聖人
OUTISさんスンゲェェェェΨ(゜∀゜)Ψ
今回本気出し過ぎ!!!!!!!!!!!!!
(語彙力皆無)[編集済] [19年07月22日 20:30]
藤井
投稿しました~。問題文の「花を『すべて』摘みとった」が難しかったです。なんで全部摘み取ってしまうんや。ちょっとくらい残したってぇや。関西弁創りだす楽しかったです。[19年07月22日 17:24]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
靴下さん、それは残念ですが、仕方ないことです…ここで無理強いなんてしたら④を満たすことになってしまうので、リアルの靴下さんを応援しております^ ^[19年07月22日 13:30]
靴下[バッジメイカー]
今回たまたま忙しくて創りだせそうにないです>< このままだと要素⑥しか満たせなそうなので今回は観戦に回りますね>< 皆さんの力作じっくり読ませていただきます^ ^[19年07月22日 12:29]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
まりむうさん、投稿ありがとうございます!まりむうさんの作品でも短く感じるほど、今回の皆さんは筆がのってらっしゃるようですね^ ^[19年07月22日 06:56]
まりむう
作品投稿しました。よろしくお願いいたします。[19年07月21日 22:58]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
夜船さん、投稿ありがとうございます!朝船さんになりそうな朝一番の作品お疲れ様です〜^ ^ゆっくりおやすみなさいませ(^^)[19年07月19日 08:23]
夜船
投稿させていただきました。相も変わらずの早朝投稿。ねみぃ。投票までに頑張って読みますが、今日は寝ます。皆様おやすみなさい。[19年07月19日 06:52]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
もかろんさん、投稿ありがとうございます〜!難易度に関してはもかろんさんも⑤で一枚噛んでるので同罪です(?)[19年07月18日 13:30]
かふぇ・もかろに
なんとか投稿しました。難易度個人的にエグすぎてエッグベネディクトになりそうでした。[19年07月18日 13:23]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ビッキー、ご参加感謝〜!初参加にして5000字越えの力作、流石!投票もお楽しみに〜^ ^[19年07月18日 06:26]
ビッキー
初創らせて頂いた(^^) 楽しかったよー!ありがとう!投票も楽しみにしてます![19年07月18日 01:35]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
とろたくさん、待ってました!まさかいらっしゃらないわけないな〜と思っていたら安心のご参加に感謝なのです^ ^[19年07月16日 22:26]
とろたく(記憶喪失)
私もいるぞ!(よいこの絵本を携えながら) (参加します&投稿しました)[19年07月16日 21:18]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
みづさん、歓迎いたします!個人的にみづさんとは入れ違いくらいになってしまっていたので、お会いできて良かったのです〜![19年07月15日 08:54]
みづ
要素間に合いませんでした(。>д<)参加します[19年07月15日 00:18]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
言い忘れてましたが、作品数管理のためタイトル部分には早い段階で回答してしまいますので、編集ができない可能性があります。あらかじめご了承ください。[編集済] [19年07月14日 09:31]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
OUTISさん、流石に早い!果たして今回も多くの作品を生み出してくださるのでしょうか?[19年07月14日 08:36]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
バタルンさん、歓迎いたします!もともと投稿された50個がなかなかでした(-。-;[19年07月14日 06:20]
バタルン星人
遅ればせながら参加します 今回も要素の個性がすごい・・・[19年07月14日 02:19]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
OUTISさん、歓迎いたします!今回お好みの要素はありますカ?[19年07月13日 23:04]
OUTIS
参加しようかナ?[19年07月13日 22:51]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
涼花さん😭 残念ですが、お互いに頑張りましょう(´;Д;`)[19年07月13日 21:50]
ごがつあめ涼花[★歴史の1ページ]
参加しません(血涙)[19年07月13日 21:42]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
Hugoさん、歓迎いたします!罰ゲームですから〜![19年07月13日 21:32]
Hugo
参加表明だけしておきます[19年07月13日 21:28]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
藤井さん、ご参加ありがふぃん![19年07月13日 21:18]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
マリさん、歓迎いたします!きちんとお話しするのははじめましてですかね?[19年07月13日 21:17]
藤井
さんかしまフィン[19年07月13日 21:16]
マリ
参加します。[19年07月13日 21:16]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ルーシーさん、歓迎いたします![19年07月13日 21:15]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
残酸さん、歓迎いたします!ご無沙汰していましたのです^ ^[19年07月13日 21:15]
ルーシー[◇ホウ王◇]
参加します[19年07月13日 21:14]
残酸
頭の体操にやってきました。参加させていただきます。[19年07月13日 21:12]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ハシバミさん、歓迎いたします![19年07月13日 21:12]
ハシバミ
参加します![19年07月13日 21:11]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
まりむうさん、もかろにさん、歓迎いたします![19年07月13日 21:07]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
赤升さん、散々さん、きっとくりすさん、歓迎いたします![19年07月13日 21:06]
かふぇ・もかろに
参加します。[19年07月13日 21:06]
まりむう
参加します。[19年07月13日 21:06]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
ひややっこ、来たね!いらっしゃい!(あなたのことは軽く宣伝しておきました)[19年07月13日 21:05]
きっとくりす
参加します。[19年07月13日 21:04]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
夜船さん、歓迎いたします!今回もどうぞよろしくお願いしますのです^ ^[19年07月13日 21:04]
靴下[バッジメイカー]
強制矛盾を期待して…[19年07月13日 21:03]
太陽が散々
参加します〜[19年07月13日 21:03]
赤升
参加させていただきます。[19年07月13日 21:02]
ひややっこ
参加します![19年07月13日 21:01]
夜船
参加します![19年07月13日 21:01]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
靴下さん、歓迎いたします!(一番乗り^ ^)[19年07月13日 21:01]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
今月も皆さま、よろしくお願いします〜![19年07月13日 21:00]
靴下[バッジメイカー]
参加します![19年07月13日 21:00]
【花より断固】



一年の間、同じ行動を繰り返す男がいた。
そんな彼に真実を伝えるために、女は咲いていた花をすべて摘みとった。

一体どういうこと?





①高所恐怖症です
②人間として合格です
③瓜二つです
④ハラスメントです
⑤光が眩しすぎました
⑥締め切りに追われています
⑦本当は大嫌いです
⑧ポストの中に入っていました
⑨風邪を引きました
⑩紫色の宝石を買います
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これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。

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