(前回の様子:第3回 https://late-late.jp/mondai/show/1898)
すっかり秋も深まってまいりました。皆様いかがお過ごしでしょうか?
食欲の秋?スポーツの秋?読書の秋?
……いいえ、ここはウミガメの秋でしょう!
張り切って創りだしましょうね。
今回は、少なめの要素10個で開催します。
(月イチ開催って結構ハードだな〜と思ったので緩急つけてみました。)
初参加の方も、前回参加してお疲れの方も。学生さんも社会人さんもママさんも。お気軽にどうぞ♪
では問題文です!
■■ 問題文 ■■
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
男は、そこに書かれた言葉を見るなり「信じられない!」と叫び、駆け出した。
この後、男のおかげで世界が明るくなった。
何故?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この問題には、解説を用意しておりません。皆様の質問がストーリーを作っていきます。
以下のルールをご確認ください。
■■ ルール説明 ■■
1・要素募集フェーズ
初めに、正解を創りだすカギとなる色々な質問を放り込みましょう。
◯要素選出の手順
1.出題直後から、“YESかNOで答えられる質問”を受け付けます。質問は1人3回まで。
2.皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切り。
質問の中から10個がランダムで選ばれ、「YES!」の返答とともに[良い質問](=良質)が付きます。
※[良質]としたものを以下『要素』と呼びます。
※選ばれなかった質問には「YesNo どちらでも構いません。」と回答します。こちらは解説に使わなくても構いません。
※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用しません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
なお、要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
2・投稿フェーズ
選ばれた要素に合致するストーリーを考え、質問欄に書き込んでください。
らてらて鯖の規約に違反しない限りなんでもアリです。
通常の出題と違い、趣味丸出しで構わないのです。お好きなようにお創りください。
とんでもネタ設定・超ブラック真面目設定もOK!
コメディーでも、ミステリーでも、ホラー、SF、童話、純愛、時代物 etc....
皆様の想像力で、自由自在にかっ飛んでください。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。魅力たっぷりの銘作(迷作?)・快作(怪作?)等いろいろ先例がございます。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
◯作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まず「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
4.次の質問欄に本文を入力します。本文が長い場合、複数の質問欄に分けて投稿して構いません。
また、以下の手順で投稿すると、本文を1つの質問欄に一括投稿することが出来て便利です。
まず、適当な文字を打ち込んで、そのまま投稿します。
続いて、その質問の「編集」ボタンをクリックし、先程打ち込んだ文字を消してから投稿作品の本文をコピペします。
最後に、「長文にするならチェック」にチェックを入れ、編集を完了すると、いい感じになります。
5.本文の末尾に、おわり完など、「終了を知らせる言葉」を必ずつけてください。
3・投票フェーズ
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
◯投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は“3”票、投稿していない「観戦者」は“1”票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
4・結果発表
皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)→その質問に[正解]を進呈します。
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)→その作品に[良質]を進呈します。
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)→全ての作品に[正解]を進呈します。
そして、見事[シェチュ王]になられた方には、次回の正解を創りだすウミガメを出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
◯要素募集フェーズ
10/19(金)23:00頃~質問数が50個に達するまで
(※万が一質問が集まらない場合は10/21(日)23:59で締め切ります)
◯投稿フェーズ
要素選定後~10/31(水)23:59まで
◯投票フェーズ
11/1(木)00:00頃~11/3(土)23:59まで
◯結果発表
11/4(日)20:00頃(予定)
■■ お願い ■■
『要素募集フェーズ』に参加した方は、出来る限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
要素出しはお手軽気軽ではありますが、このイベントの要はなんといっても投稿・投票です。
頑張れば意外となんとかなるものです。素敵な解説をお待ちしております!
もちろん、『投稿フェーズ』と『投票フェーズ』には、参加制限など一切ありません。途中参加も大歓迎!
どなた様も、積極的にご参加ください。
それでは、『要素募集フェーズ』から、スタート!!
【メイン会場】大変お待たせしました!結果発表です!4代目シェチュ王に輝いたのは…!?
これにて質問を締め切ります!
要素選定をしばらくお待ちください。
これより『投稿フェーズ』スタートです!!
*質問欄で文章を作成していると、その間、他の方が投稿できなくなってしまいます。
別の場所(文書作成アプリなど)で作成し、「コピペで一挙に投稿」を心がけましょう。
*投稿の際には、前の作品の末尾に「終了を知らせる言葉」の記述があることを確認してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
*あとで[良質]をつけるので、最初に本文とは別に「タイトルのみ」を質問欄に入力してください。[編集済]
*作品中に要素の番号をふっていただけると、どこでどの要素を使ったのかがわかりやすくなります。
*投稿締め切りは【10/31(水)23:59】です。
投稿内容は投稿期間中何度でも編集できます。
また、投稿数に制限はありませんので、何作品でもどうぞ![編集済]
メロスは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
シラクスの市、この世界の中心部に位置するシラクスは、
市という名前ではあるが、世界一の貿易国でもあった。
常に他国の行商人が行きかい、昼夜問わず賑やかなこの国は、まさに世界の光と言っても過言では無かった。
…2年前までは。
[編集済]
名作になぞらえた疾走感あふれる作品!生半可な太宰治愛ではできない芸当です。「CKP」や「たわしコロッケ」などの難関要素もテンポよく組み込み、読んでいて心地よい!要素発表から数時間で書き上げたとは思えない読み応えです。 [編集済]
暴君ディオニスは、人というものを信じられなくなってしまった。
自身の家族を、国民を、悪心を抱いているといって処刑するのだ。
ディオニスは疑う事に『⑧依存していた。病的なレベルとも言えるだろう。』
年老いて、頭がクルクルパーになったディオニスには、疑って敵を作り、それらを処刑する事でしか安心感や充実感を得られないのだ。
完全に老害である。
[編集済]
☆
こんな暴君のせいで、シラクスの市は機能を停止し、各国の貿易も停滞してしまった。
ディオニスを怒らせれば他国にも影響が及ぶかもしれない…そう考えた他国の人間達は、ディオニスに文句を言う事も出来なかった。
無論、世界の光のシラクスがこのザマでは、世界全体の貿易が暗くなっていった事は言うまでもない。
だれか、世界に光を取り戻してくれ…!世界中の民が、そう願った。ディオニスは魔王か何かなのだろうか?
これを聞いたメロスは激怒した。
そして、まるで正義のヒーローにでもなったの様な気分で王城に乗り込み、そしてメロスはあっけなく逮捕された。こいつはアホか?
[編集済]
☆
さて、政治もロクにわからないくせに、短剣一つで王を殺そうとしたメロスは、ディオニスに処刑させられそうになる。そりゃそうだ。
メロスは(一応妹のためという大義名分の元)何と友人のセリヌンティウスを身代わりに三日間の猶予をくれと、世迷言を言い出した。
王を殺そうとしたテロリストの戯言など認められるはずも無いが、一方のディオニスも、無実の民を虐殺する狂人であり、メロスの要求を面白がった。
メロスの要求は認められ、何の罪もない可哀想なセリヌンティウスは捕らえられる事となった。
メロス「必ず三日目の『①水曜日』には『⑥戻ってくる』からな!!」
ディオニス「フン、少し遅れて戻ってくるがいいさ、その時には貴様の罪を永遠に許してやろう!」
[編集済]
☆
メロスとセリヌンティウスは黙って抱きしめ合った。友と友の間の二人は、これで良かったのだ。
だがちょっと待って欲しい…
メロスの狂った提案に付き合うセリヌンティウスもまた、狂人なのではないのか?
もはや、命を掛ける事が出来るこの二人の関係性もまた、依存症に近いものがあるのではないのだろうか…?
だがそんな事はどうでもいい!!
時は過ぎて2日目。メロスは村に戻り、自分勝手な都合で妹の結婚式を強行した。
[編集済]
☆
妹「なんで急に結婚式をやらなくちゃいけないのさ!」
メロス「何…『⑤CKP』…『crazy king pain(痛々しい暴君?)』に一泡吹かせようと思ってね…今の私にとって、これが一番『重要』な事なのさ!!」
妹は思った。この兄はバカか?流石にこの略称は無理があるだろう。それ以前に日本語訳が絶対に間違ってるぞ。
CKまでは上手くはまったのに、Pの部分で躓いたのだろうか…そう推測するも、メロスはドヤ顔でCKPと言っているので、妹は口を挟めなかった。
激動の結婚式が終わり、村では宴が行われた。
メロスは大好物の『⑩たわしコロッケ』を口に放り込んで…
[編集済]
☆
ちょっとまて、たわしコロッケってなんだ!?そんなもの私は聞いたことないぞ!!
たわし型のコロッケなのか?それともコロッケ型のたわしなのか?
ここを深く考えては物語が前へ進まない!!コロッケ型のたわしを食っている事にして、この場を何とか収めよう。
宴に参加しながら、メロスはずっとここに居たい、妹の家族とずっと暮らしていたいとも思い始めた。
友人を人質にして敵前逃亡をしようとは、
この男、メロスこそが(C)サイ(K)コ(P)パスと呼ばれるべきではなかろうか。
(ちなみにサイコパスはpsychopathと書くらしい。Kが無えじゃねぇか!)
[編集済]
☆
さて、本来なら友人をさっさと助けにいくべきなのに、何故かメロスは家で熟睡し、最終日の朝に目覚めた。
メロスは村を抜け、走る、それは走る。
村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、距離的に余裕が出来たのだろう。
メロスはもう大丈夫だと言わんばかりに、ぶらぶら歩き始め、呑気に歌まで歌い始めた。友人の命が危ないのに。
[編集済]
☆
そんなメロスだが、川の前に来てふと足を止める。
なんと、昨日の豪雨で川は濁流とかし、橋は木っ端微塵に破壊され、向こう岸に渡れなくなってしまったではないか!!
メロスは、事の大きさをようやく理解したのか、男泣きを始めた。泣きながらゼウスとかいう奴に懇願した。
いや、ゼウスって誰だよ。メロスが宗教みたいなものを信じているなんて初めて知ったぞ!(ガチです)
メロスは覚悟した。この濁流に逆らい、向こうまで泳がなければ、友を助ける事は出来ない。
ついにメロスは濁流へ身を投げた!!『④寒さに凍え』ながらも、人間離れした体力を用いて、メロスは必死に泳いだ!!
時が刻一刻と過ぎた次の瞬間、ついにメロスは対岸へとたどり着いた!!
その後山賊が襲い掛かって来るけど特に重要じゃないからカットね。
[編集済]
☆
メロスは疲労し、眩暈を感じて地面に倒れ込んだ。
体力が持たない。それに、村を出てから常に頭上に照らされる太陽の光のせいで熱中症になってしまったようだ…
あぁ!いくらメロスのような狂人でも、『⑨太陽にはかなわない』のだろうか!?
メロスは思った。やはり自分の力ではディオニスには勝てなかったと、セリヌンティウスを助ける事は出来なかったと…
メロスは再び長い眠りについた…
[編集済]
☆
ふと目が覚めると、メロスの耳に心地よい音が聞こえる。
これは水の音か…水を両手ですくい上げ、それを口に運ぶ。
途端、メロスは元気を取り戻した!水は体に潤いを与え、長き眠りは体力を回復させた!
空を見上げると、太陽が沈もうとしているではないか!!
不味い…!!もうすぐタイムリミットだ!!クソッ!太陽の光に立ち向かえていれば、こんな事には…!!
[編集済]
☆
太陽にはかなわずとも、太陽が猛威を振るわない夕方ならばメロスは立ち向かえる。
しかし、処刑の時刻までは、もう時間が無い!!!
メロスはこれまで以上に走った!!メロスは黒い風のように走り、ついにシラクスへたどり着いた!!
後は、市の中心にある広場へ走り抜けるだけだ!!
そんなメロスは、市の入り口にある看板を見て、仰天した!
『水曜日より工事のため、明日まで広場への通路を封鎖します。』
[編集済]
☆
メロス「ふざけんなぁ!!原作と展開が違うじゃねえか!!こんなの信じられない!!」
今まで散々ふざけてきたこの物語だが、最期まで原作に忠実とは限らないのだ!!
メロスがこの展開を信じようが信じまいが、このままではメロスは刑場へ赴く事が出来ない。
あぁ、今度こそメロスは終わるのか!!
そう思った時、メロスは天を見上げた、そして気づいたのだ!!
メロス「道が封鎖されているのなら…民家の屋根を走れば良いじゃないか!!!」
いや、よくはない、全くもってよくはないのだが、友人の命のため、メロスは手段を選んでいられない!
[編集済]
☆
助走を付け、今までの中で一番のスピードで駆け出したメロスは、超人的な跳躍力で屋根の上に飛び移った!!
もうなんでもアリだなこの話。
メロスは走った!!屋根の上を走り、屋根と屋根の間を飛び越えた!
時には何故か『⑦屋根と屋根の間に張り巡らされた綱を渡り、移動した!』ほら、ゲームとかでよく屋根と屋根の間に綱があるじゃん!!
走れメロスはゲームじゃないけどそういう事にしておいてくれ!!!
ついに、メロスは刑場にたどり着いた!!
セリヌンティウスの足にしがみつき、自身の帰還を群衆に身で示した!!
一時は何事かと思った観衆も、次の瞬間にはどよめいた!!!
かくしてセリヌンティウスの縄はほどかれ、二人は再開したのだ!!
[編集済]
☆
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。
君が若もし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
セリヌンティウスはメロスの心中を察し、メロスの右頬を『③ビンタ』した!!
本家だとビンタじゃなくて殴っていたはずだけど気にす(ry
一方のセリヌンティウスも、一度だけメロスを疑ってしまった事を詫び、メロスに自分を殴ってくれと懇願。
その思いに答え、メロスは全力で友をビンタし、そして二人とも歓喜の涙を流しながら抱きしめ合った!!
やっぱりこの二人の関係性は異常だ…
その様子を見ていたディオニスは心を打たれ、メロスとセリヌンティウスに謝罪し、自らの負けを認めた。
そしてこう言ったのだ。「どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。」…と。
観衆は歓声を挙げた!「万歳!!王様万歳!!」
[編集済]
☆
かくして、暴君ディオニスは心を改め、国民のために政治を尽くした。
ディオニスはシラクスの民が皆笑顔になれる国を創ると宣言し、手始めにシラクスの名を
『②スマイリー共和国』、笑顔と共にある国と名を変えた!!
そして、シラクスの市は本来の形を取り戻し、各国の貿易も元に戻った。
今こそ、シラクスに世界の光が戻ったのだ!!これから先、きっと世界に光が照らされ、明るくなっていく事だろう。
勇気ある男、メロスとセリヌンティウスのおかげで、世界は再び光に包まれ、明るい雰囲気を取り戻したのだ!!!
[編集済]
☆
物語はハッピーエンドを迎えた。
…だが、最後に二つほど、この正解を作った身として、らてらて鯖の皆様と原作者様に、どうしても言いたい事があるので言わせてください。
らてらて鯖の皆様!一時のパニックで無回答16連投しちゃってすみませんでしたぁぁぁ!!!
原作者の太宰治様!!こんな変な作品にしてしまって大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
【やけくそ気味に完】
[編集済]
☆
よく晴れた水曜日のことだ。島を買った。いい島だった。世界には数多くの無人島があるが、おれはそのひとつを買い取ったのだ。
そうだヤシの木を植えよう。無人島といえばヤシの木だもんな、うん。おれは納得するとヤシの木を買った。いい値段がしたが、今日は島を引き渡される記念すべき日だ。少しくらい贅沢をしたって、誰も文句をいいはしないだろう。
おれはヤシの木に乾杯するとウィスキーを喉に流しこんだ。肌がひりついてきてから、おれはプレハブ小屋に場所をうつすことにした。まったく、太陽にはかなわない。
三ヶ月が経ったころ、CKPと名のる団体の代表がやってきた。
資料を見た。信じられない。
そこには「国をつくろう!」と大きな文字で書かれていた。
「国をつくりませんか」
おれは了承した。誰でも自分の国をつくりたいと思ったことはある。実行にうつす資金と労力がないだけだ。金と時間だけは、たっぷりある。名はスマイリー共和国。
三百万円を要求されたが、いまのおれは一国一城の主だ。それくらいは安い安い。
スマイリー共和国に移住したがる臣民は少なくなかった。おれは承諾した。ひとりでは、王さまになったような気がしない。
かくしてスマイリー共和国には十二人の臣民と、おれとが居住することになった。
臣民のひとりは、目がくらむほどの大金を献上した。
臣民のひとりは、自分は大工をしていたので他の住人の家を無償で建てると請け負った。
臣民のひとりは、神の葉をおれに献上した。
おれの支配に必要だったのは、神の葉だった。おれはその植物を育てるよういった。神の葉をしぼると甘ったるい匂いがして、頭がすーっと楽になった。酒でも飲んでいるようだとおれは思った。
起きていても夢を見た。黄金のゴキブリや、たわしコロッケなどというわけのわからない夢を見ることさえあった。これを臣民にやると、リラックスした。
ある日、臣民が逃げ出そうとした。おれは追わなかった。あいつはもどってくるという自信があった。この国はすばらしい。笑顔に満ちている。
実際、やつはもどってきた。
おれはやつに神の葉をやると、気持ちよさそうに眠っているあいだに、処刑した。
臣民たちは笑っていた。
ここの臣民は、ビンタをされても笑いながら逆の頬を差し出す。
寒さに凍えたって、崖と崖のあいだを綱渡りしたってへっちゃらだ。
なんたってここはスマイリー共和国。
みんなが笑顔で暮らしていられる、すばらしい国なのだから。
(おしまい)
[編集済]
神の葉によるまがい物の笑顔…「明るさ」に滲むブラック感がたまりません…!圧倒的文章力でひときわ異彩を放つ一品です! [編集済]
世界には折り返し地点があるとは思わないか?
一週間の中にも水曜日①があるように、人生においても同じことだと私は思う。
私は、その折り返し地点は何十年も前だった。
この国は、かつて誰もが無気力で幸福などない国だった。王の魔法のせいで太陽の光が奪われ、闇に閉ざされていた。そのせいで人々は寒さに凍え④、王が廃棄した食べ物の残りをゴミから掘り出して食べる毎日を暮らしていた。私にとっては、古いスポンジたわしのようにボソボソになったコロッケやフライなどの揚げ物⑩にかぶりつくのが一番の贅沢だった。
そんな生活に嫌気がさした。私は、この生活に不満を持っている仲間を集めて王政を倒そうとしたんだ。みんなで国を守る共和政にしようと蜂起した。笑顔で暮らせる国にしようと、笑顔の印を大きく書いた旗を翻してね②。
見事に王を破ることができたよ。それも、やけにあっさりと。
王を牢獄にぶち込んで、今まで溜まった鬱憤を晴らすかのように王を拷問した。国民のことを考えずに自分だけが贅沢な暮らしをしていたからね。顔も赤く腫れあがるまでたくさん殴った③。そして、王は最後まで黙ったまま衰弱して死んだ。
その後、死んだ王の遺物を探した。王の血筋があると厄介だったから、そのことが思い起こされるものがないかと。
ある日、たった一文だけ、王の部屋の壁に小さく書かれているのを見つけた。
……「Cold Keep People」……
人々は凍え続けている、それを王はわかっていたんだ。なのに、そのことを今まで無視していたのが信じられない、そう思ってさらに怒りの感情が湧いた。
しばらくして、私はこの国のリーダーとなった。革命の指導者だったからだ。王の闇の魔法が消えた。魔法自体は誰でも使えるもののようだったから、解くのは意外にも簡単だったよ。
太陽の光が差し込んできた。その光は、とても眩しかったよ……なにせ、光を見ることはほとんどなかったからね。
だが、その光は……恐ろしいものだった。
光を浴びると、人々はおぞましい怪物に変貌した。殺し合い、共食いしあう凶暴な魔物に全員が変わってしまうんだ。夜になると全て元通りになるが、その時の記憶が抜け落ちてしまう。それだけじゃない、太陽の恐ろしさは、その中毒性にあるんだ。
「光をくれぇ」「光がほしいよぉ」そう言って太陽に依存してしまう人間が後を絶たなくなった⑧。みんな夜はずっと眠れずにただ朝を待つばかりの廃人になった。一緒に戦った仲間たちですらだ。……私は恐ろしかった。なんとかしてやりたかった。だが、解決法は見つからず、ただただ誰も敵わない太陽に対して恐怖するしかなかった⑨。
そこでやっと、私はあの壁に書かれた文の意味をようやく知ったんだ。
「Cold Keep People」……凍えは人々を保ち、守り続ける……
おかしいと思ったんだ。人々が凍え続けるという意味ならば、「Keep People Cold」あるいは「People Keep Cold」でないとおかしい。順序が滅茶苦茶なんだ⑤。
食べ物も王一人が食べるぶんにしては多すぎる。全員に食べ物がいきわたるほどの量を、廃棄と称して国民に分け与えていたのだ。
すぐに私は闇の魔法をかけた。再び闇だけの日常に戻ってきた⑥。
私は国民全員に説明した。国民は理解してくれた。その恐怖から身を守るために私は来る日も来る日も魔法をかけ続けた。
……ついに、その恐怖を知っている人間は私一人になった。
国民からの視線はだんだん暗く冷たいものに変わった。どんより沈んだ眼差しだったよ。それでも私は国民を守るために必死で魔法をかけ続けた。それはまるで断崖で延々と終わらない綱渡りをさせられているかのように⑦、孤独で、少しも気の抜けない毎日だったよ。
それもついに、終わる。
私は、やっとその苦しみから解放されるのさ。
さあ、お前はどうする? “共和国の王”よ。
希望から絶望に変わる折り返し地点は、すぐそこにある。
・・・
俺は王の部屋に駆け込んだ。
「Cold Keep People」……その文字が壁に刻まれていたのを発見した。
「信じられない!」
俺は叫んだ。王の魔法をつい先ほど解いたばっかりだ。
嘘だ、あれはただの戯言であってくれ!
城のバルコニーへと駆け出した。
空を見ると――分厚い雲から一筋の光が差し込んでいた。
《要約》
男は「闇がないと世界が滅びる」といった言葉を見つけて信じられず外に駆け出したが光景を見て世界を闇にした。男が死んだことで、魔法が解かれ世界が明るくなった。
(以上)
[編集済]
CKP(Cold Keep People)の解釈が2通り用意され、読者をあっといわせるところがすごい!きっとこの世界は今後も同じ悲劇を繰り返していくのだろうと思わせる不気味さがなんともいえません…! [編集済]
「娘さんと結婚させてください!」
「よかろう、ただし条件がある。」
そう言って、彼女の父が見せたのは「第32回天下一料理会」のチラシだった。
彼女の父はCooKingPapa、略称はCKP(⑤)である。
料理のできない男を娘と結婚させる気はないそうだ。
「この大会で優勝できたら結婚を認めよう」
太陽のマテ茶推し作品。このノリ好きです!太陽のマテ茶にぴったりアップテンポ(?)作品!クッキングパパにはツボりました。うまい! [編集済]
こうして男は天下一料理会に参加することになった。
男は得意料理の「たわしコロッケ」(⑩)で勝負に挑む。
天下一料理会で求められるのは料理の味だけではない。
料理を作り出す過程も審査の対象となる。
男は高所での綱渡りをしながら(⑦)料理をするというはなれ業で芸術点を稼ぐことをもくろんだ。
☆
そして運命の結果発表の水曜日。
壁に張り出された優勝者の名前を見て男は叫んだ。
「信じられない!」
そこに男の名前はなかった。
「そんなはずはない・・・!俺は確実に大会を誰よりも盛り上げていたはずだ!」
☆
納得できない男は優勝者の料理に関する審査員のコメントを見る。
審査員A「決め手となったのは隠し味の『太陽のマテ茶』でした。」
審査員B「ラーメンと太陽のマテ茶を組み合わせるという斬新な発想に驚かされました。」
審査員C「太陽のマテ茶最高!」
「太陽の力には勝てないのか・・・!(⑨)」
☆
違うそうじゃない。
男の料理に対する審査員のコメントにはこうあった。
審査員A「綱渡りの演技は素晴らしかったが肝心の料理の味が普通。」
審査員B「この方には料理以外に活躍できる場があるのではないでしょうか・・・」
審査員C「太陽のマテ茶が入ってないとか料理じゃない」
☆
しかし、ショックを受けた男にそれらのコメントは目に入らなかった。
「『やぎ座のあなたは水曜日(①)に良いことがあるでしょう』って占いでも言ってたのにいいいぃぃぃ!!!」
駆け出す男!走るよ、とっとこ!
男は来年の大会に備えるため修行の旅に出る。北へ・・・!
☆
1年後・・・男は戻ってきた(⑥)。
雨にも負けず風にも負けず、たわしコロッケを作り続けた。
寒さに凍えつつ(④)雪にも負けず、夏の暑さにも負けず、たわしコロッケを作り続けた。
もう「味は普通」なんて言わせない!隠し味に太陽のマテ茶も使った!
☆
審査員A「決め手となったのは隠し味の『太陽のマテ茶』でした。」
審査員B「コロッケと太陽のマテ茶を組み合わせるという斬新な発想に驚かされました。」
審査員C「太陽のマテ茶最高!」
1年間修業を続けた男に負ける余地はなかった。
男は第33回天下一料理会で優勝した。
改めて男は彼女に結婚を申し込む。
☆
「たわしコロッケ依存症(⑧)の人とは結婚したくないわ」
ビンタされ(③)、フラれる男。
毎日たわしコロッケを食べ続けた男の体は、もはやそれなしでは生きていけないように変異していた。
☆
悲しみに包まれた男はスマイリー共和国を建国する(②)。
スマイリー共和国には、男と同じくフラれてしまった人たちが集まってきた。
「お互い頑張ろうぜ」などと励ましあうフラれた男女。
☆
いつしか、スマイリー共和国は失恋の聖地となっていた。
そして、みんな集まって、騒いで青春してふざけあって、これほどにない幸せ者になるのであった。
世界は少しだけ明るくなった。
めでたし、めでたし。(完)
[編集済]
☆
「地球は青かった」 世界で初めて宇宙から地球を見た者が言った何かと担がれている言葉らしい。
星の色を気にする間などあったのか、悠長なものだ と今なら人々は嘆息するだろう。
真っ青な地球を当たり前のように窓から眺めながら、ある男、ジョンは目の前の球体のほんの一点に住まう家族の身を案じていた。
今頃トウモロコシの播種期であろうか、まだかわいかった娘にコーンコロッケと偽って食べさせられたたわしコロッケの触感をおもいだしながら、支給された味だけはいい固形食を噛みくだく。
地球衛星軌道上第3宇宙戦略防衛軌道衛星「ノーベル」第1主砲 砲手
これがジョンの肩書だ。
2089年の火星移住をきっかけに2100年代から太陽系の移住計画が進められており、金星、月、火星、木星にまで人類の開拓が行われた。
しかし2321年の火星の独立をきっかけに、コロニーの政権はそれぞれ地球の支配から自立。太陽系の航海圏と星の資源をめぐる対立が続いていた。
戦いのさなか、地球は力を増す火星に対抗するために金星勢力と同盟を結んだ。その甲斐あってか火星からの攻撃は徐々に少なくなり、「ノーベル」を含む防衛軌道衛星のクルーはつかの間の安息を楽しんでいた。なかには戦争がなくて退屈だとぬかす奴もいるにはいた。
2388/10/11 期しくも火曜日に、事件は起こった。
「地球本部より入電、エジプト統治下にある月面のファレイン連邦国が反乱。続いて月の地球政権国家が次々と火星陣営につき、スマイリー共和国の建国をするという声明が出されました。」
モニターに声明の文章が表示され、クルーたちは動揺し、困惑したり、憤慨するものもいた。だがジョンはあの傀儡政権しかない月が、信じられない、と驚きながらも、ほっとしていた。
また戦争が始まる。照準を定めて狙い、撃つ。あの快感。これを求めて、砲撃の撃つ機会の一番多い軌道衛星のポストを希望したんだ。もっとも家族には戦争依存症だと疎まれちまったがな。と彼はこぼすのだった。
「戦闘配置につけ、月面の陽電子砲門がこちらをロックオンしたことを確認した」
ジョンは手慣れた手つきで第一主砲を操作して割り出された座標に砲身を合わせる。本来なら、衛星のCKPシステム(Cybernetic Knowledge Provision人工知脳式知識譲渡システム)が自動でするのだが、マニュアル操作を断固として譲らないジョンの経験と知恵はその実績の通り信頼されていた。
「発射」
ジョンは敵の陽電子砲にあわせて攪乱弾を発射。砲撃の軌道をずらした。すぐさま他の主砲が反撃し月面に攻撃を加えた。
月面からの陽電子砲の攻撃はノーベルのカパロ二ウムという特殊金属でできた装甲に殆ど反射され、逆にこちらは一方的に月の砲台を破壊していった。これは簡単な戦争になりそうだとジョンが思っていた矢先、衛星は思わぬ方向からの攻撃を受け大破した。
宇宙空間ゆえに轟音はこだましない。しかし急激な気圧の変動をうけ、船体から投げ出されたジョンはあわてつつもむき出しになった機材のの綱につかまって、吹っ飛ぶのをこらえた。迎撃地点は直下の地球からだ。金星勢力までもが裏切り、地球上の太陽風集約砲台をのっとって攻撃してきたのであった。
綱をわたってなんとか船内に戻ってくるジョン。他のクルーのほとんどは先の衝撃で宇宙に放り出されていた。
(カパロ二ウム装甲は太陽風には無力。船体の傷から陽電子砲が損害を与える。これは…もう無理、だな)
ジョンがあきらめ、走馬灯のように家族の思い出を浮かべていたその時、妻、エリーとの喧嘩をふと、思い出した。
冬山での戦闘訓練で同僚にこてんぱにされてしげしげと帰ってきたとき、外のさむさに震えるジョンにビンタをあびせてこう言ってきたのだ。
「諦めて帰ってきたの? なさけないねぇ。最後に一矢報いなさいよ!」
そうだった。
砲台を飛び出して操舵室に向かった。思い出の中でエリーは続けて言った。
「寒い? いいえ。あなた言ったわよね。『俺は炎だ。宇宙で燃える炎だ。太陽すらのみこむ炎だ。』ってねぇ?」
期しくも今日は火曜日だったな、ジョンは笑った。
ノーベルのCKPシステムが太陽風集約砲によって故障しているのをいいことに、ジョンは航行装置を勝手に起動してメインエンジンをふかせた。目標地点は月。
一矢報いてやる。
月側もこちらの目論見に気づき、集中砲火を浴びせてきたようだがもう遅い。
ノーベルはそのまま、間近まで迫り……。
2388/10/12(水) 日付をまたいだ直後だった。夜空の中の月のすぐそばで大きな爆発がおきた。カパロ二ウムによる青く輝く閃光は地球の空をおおうほど明るく、けれども味気ないものだったそうだ。
結
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そのお名前にふさわしい、ハードSF作品!なんか本格的なCKPが出てきた…と圧倒されました。そのほかの要素も全然無理矢理感がなく、純粋に物語として楽しめるクオリティです! [編集済]
水曜日といえば? そう、「ホンマでっか!?TV」ですね①。
ある男は欠かさずその番組を見ていました。それだけでなく、明石家さんまの出る番組はすべて見ていました。彼は明石家さんまを敬愛してやまない人間でした。人々を笑わせる明石家さんま大先生に一目会いたくて男は芸人になりました。
芸人のやることは思っていた以上に大変です。漫才やコントだけではこの世知辛いご時世では儲かりません。男はバラエティに出ることになりました。
裸で雪国に放り出され④、高層ビルの谷間で綱渡りをし⑦、巷で話題のCKP(ちくわパフェ)を無理やり食べさせられ⑤、ターミネーター2で「I'll be back(私は戻ってくる)」と溶鉱炉に沈むシーンを熱湯風呂に耐えながら再現し⑥、ドッキリで好物のコロッケからたわしをただ揚げたものにすり替えられたたわしコロッケを食べる羽目になりました⑩。一番衝撃だったのは罰ゲームのプロレスラーのビンタ③。ビンタされるだけならまだ良かったのですが、彼は目覚めてしまったのか、その手のクラブに毎晩通い続けるようになってしまったのです⑧。
そんなことをしても彼は明石家さんまに会うことを諦められませんでした。
そして、会う機会が訪れました。お笑い向上委員会です。
彼はモニター横でしたが、さんまさんに見てもらえるチャンスを逃しません。やっとこさ渾身の一発ギャグを披露することができました。
「信じられない! 信じランナウェイ!」
そう言って滑稽に駆け出す男。笑いもそれなりに起こりました。
しかし、それを見てさんまさんは一言。
「う~ん、サンミュージックの奴らには、敵わんなあ⑨」
男は、ショックを受けました。それなのになぜだか悔しいという気はみじんも起きませんでした。それが、男が芸人をやめるきっかけとなったのです。
男はディレクターになりました。男はさんまさんをMCにした「スマイリー共和国」という番組を作りました②。
打ち合わせが終わり、さんまさんは男にこう言いました。
「なんや、今はディレクターやっとんのんか?」
「俺はお笑いは向いてないですから・・・」
「何言うてんねん。お笑いは向き不向きやないで。笑わしたら勝ちや。それが苦笑いでもな」
「ですが・・・」
「番組名なんやと思てんねん。スマイリー共和国やで? 日本全部を笑かす勢いでやらなあかんで。ディレクターがそんなんでどうすんねん」
「す、すみません・・・」
「謝るくらいやったらギャグかましたりや。『信じランナウェイ』でおもろく走ってた昔みたいにな」
「えっ、俺のギャグ・・・」
「覚えとるに決まっとるやないか。ほな、頼むで。みんなで一緒に日本をドッカンと笑わしたるんやからな」
そう言ってさんまさんは颯爽と他の番組の収録に向かいました。
男はその姿が消えるまでずっとさんまさんの背中を見ていました。
「スマイリー共和国」は瞬く間に人気番組になりました。
そして放送するその時間だけは、国中が笑いで明るくなったとさ。
(EDテーマ:笑顔のまんま)
《要約》
「信じられない!」と駆け出すギャグで滑ったため芸人をやめた男は、ディレクターとなって国中を明るく笑顔にする番組を作った。
《補足とお詫び》
「信じランナウェイ」は、スケットダンスという漫画にあったギャグ?です。
そしてさんまさんらしからぬ物言いしてたらすみません。
NHK《終》
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とことんリアリテイにこだわった作品!なんだかさんまさんが出てくるだけで明るくなりますね。「太陽にはかなわない」の回収の仕方に「そうくるか〜」と吹き出しました。ちなみにこの作品読みながら寝落ちしたところ、夢にさんまさんが出てきました。 [編集済]
仕事に疲れた男は通信機に書かれた言葉を見るなり「信じられない」と叫び駆け出した。
伝説の食堂「スマイリー共和国」②が近くに作られたのだ。
作ると言うと違和感があるかもしれないが本当に作られたのだ。
この「スマイリー共和国」は全世界を旅しそこで得られた食材を使って料理を作るという形式をとっている。
毎回作られる料理は異なり、外れもあるがたいてい素晴らしい料理が食べられる。
毎度毎度店主の気まぐれな場所に店が作られるためありつける人が少なく伝説と呼ばれているのだ
男は危険な仕事を行う条件として本部へ要望し、この食堂の形成情報を知られるようになっている。
驚くべきことにスマイリー共和国は男の生まれ故郷に作られていた。
そのため男は期せずして地元に戻ってくる⑥ことになった。
そんなわけで男はスマイリー共和国へとやってきた。
この店にはメニューなどはない。
店主特性のフルコースのみだ
一品目は「日輪の導き」
太陽の光をふんだんに受けた野菜たちが口の中に入れるたびにはじける。
やっぱり太陽の恵みにはかなわない⑨。シャキシャキとした葉物野菜の歯ごたえに手が止まらない。
二品目「月光の温もり」
ポテトサラダに似たそれを一口食べると月夜の寒さに凍える④ような感覚を感じた。
しかしその直後に体の芯から体が温まる。不思議な感覚だ。
三品目「火炎の移ろい」
真っ赤なそのスープ飲むと舌に焼けるような辛さを感じた。しかしそれでいてあふれだすうまみによって手は止まらない。
一歩間違えれば料理として破綻するような高所での綱渡りじみた⑦その料理に衝撃を受けた。
しかしこの店の神髄はこれからである
四品目「水面の跳躍」①
見るからに”それ”が生きているとわかった。恐る恐る口に運ぶ。口に含むと同時に”それ”は躍動した。
躍動と同時に出汁とスパイスが口の中に広がる。味わいを堪能したのちに”それ”を噛みしめたとき、唐突に生命の喪失を感じた。
口の中で確実に一つの命が消えたことを感じた。味も同時に変化する。それまでのレアさからうまれる躍動感を感じる味わいから、
熟成され漬け込まれたような味わいに変わってゆく。それに驚きながらこれからの展開に心を躍らせた。
五品目「木遁の聖槍」
唐突にこれまでの異次元の料理とはまったく違う一般的な料理が出てきた。コロッケだ。
中央がへこみまるでたわしのようにも見えたが光り輝く衣や香しい肉の香りから明らかにコロッケだと分かった。⑩
ナイフで食べやすい大きさに切ろうとする。
すると店主が一言「中央の骨は食べられませんので外してくださいね」
切ってみると店主の言う通り中央に骨の様なものがあった。
ねじれた骨は二本の骨が一対になりらせん状にねじったのちそれを二つ折りにしたような形をしていた。
骨の間に挟まった肉の繊維は一本一本が分かれており、その隙間にジャガイモが詰められていた。
ナイフを入れると何の抵抗もなく通り肉の柔らかさがうかがえた。
口に入れると感動を覚えた。ほくほくとした芋に似た食材の食感。
やわらかい肉でありながら確かに感じる肉の歯ごたえ。
サクサクとしていながらも油っぽさを感じない衣。
何の肉であるかは分からなかったが満足の味わいに至福を感じた。
六品目「金銀の宝瓶」
パフェだった。いやこれをパフェといってよいのだろうか。
基本的には普通のパフェなのだが堂々とちくわが突き刺さっていた。⑤
珍しいこの店での外れ料理かとも思った。
しかし違った。ちくわの中にはたっぷりと生クリームが詰まっており、ちくわの食感と相まって、不思議なおいしさがあった。
中に入った様々なフルーツの溢れ出る果汁、グラノーラのサクサク、ザクザクとした歯ごたえ。それに交じって現れるちくわのぷにっとした食感。
意外な味に病みつきになりそうだった。
七品目「土竜の一撃」
これが最後だ。出てくると同時にビンタを受けるような衝撃を感じた③。しかしそれは錯覚だったと分かる。
味は普通の紅茶だった。しかし一口飲むたびに決意がみなぎる。
思い出されるのは敵からの強烈な一撃。だんだんと戦いがいやになっていた。
そのせいで戦績が振るわずぜんせんから離れてはいたものの激務に追われていた。
しかしそんな感情も紅茶を一口飲む度に薄れ決意がみなぎっていった。
そんなこんなで食事の時も終わり男は幸福に包まれていた。
「これだからスマイリー共和国はやめられないぜ☆」
もはや依存症にも似たこの男のスマイリー共和国の好きっぷりだったが、
これがあってこそ世界を守るヒーローが存在しているということを知っている人は数少ない。
世界を救うヒーローは巨悪を倒し世界に明るい未来へみちびくため
今日も最前線へとはしるのだ!~fin~
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今回は、要素「たわしコロッケ」のおかげでグルメ描写が多くなりましたが、なかでもNo. 1飯テロ作品はこれでしょう!次々繰り出されるおいしそうな得体の知れないメニュー!料理の説明でどんどん回収されていく要素(笑) お腹鳴らしながら楽しませていただきました! [編集済]
私は先輩をつれて、とある喫茶店に来ていた。
この「スマイリー共和国」はできたての大衆食堂だ。水曜日はレディースデーで、半額なのである(と、表の看板に書いてあった)。
「なかなか、いい雰囲気のお店だね。えっとねー、私はクレープとカツ丼!」
「チョイスが壊滅的ですね。私はパスタなので、CKPですね」
「どういうこと?」
私はメニューを見る。
「二十万」
「……」
「どういうことなの、ねえ」
私は沈黙した。そうすると先輩が不安げな顔をするのが分かっているからだ。
「も、もどってきて! 現世に! この現し世に!」
「……」
「タコス」
「え、何?」
私の沈黙が終わったからか、先輩はパッと太陽のような笑みを浮かべた。
まったく、敵わないな。
頼んでいたクレープとカツ丼とパスタが運ばれてきた。
「雑談の時間です」
「わ、わあ! わたし、雑談大好き!」
ちょろい。
「この前、ウチのたわしコロッケを散歩させていたら」
「犬の名前、たわしコロッケなのセンスが壊滅的だからやめたほうがいいと思うよ」
先輩はカツをもぐもぐと食べながらいった。
「させていたら」
「スルー……?」
「させていたら、おじいさんが川にセンタクしに行ってたんです」
私はなおもスルーし、いった。
「町中で!?」
「孫の命か、一生爪切れなくなるか」
「あ、そっちの選択なんだ……」
「おじいちゃんはもちろん、即決でした」
「そりゃあ、もちろんだよね!」
「ええ。爪を切るほうを選びました。お孫さんは、私の後ろに斬り伏せられました」
「なんで!? お孫さん、可哀想……」
先輩は涙目になる。
「そうですよね。私も不思議だったんです。どうして老い先が短いくせに、一生爪切れなくなるのが嫌なのかって」
「『私も』って、私もいったようにするのやめてほしいな……」
「おじいちゃんは答えました」
「あ、いっちゃったんだ」
「もっと罵ってくれ、と」
「あ、めざめちゃったんだ」
「私はいいました」
「もう嫌な予感しかしないよ」
「気をつけて帰ってくださいねって」
「疑ってごめんね、まともだったね」
「おじいちゃんはいいました」
「また嫌な予感しかしないよ」
「罵ってくれなきゃ、いたずらするぞ」
「ほら! 予感的中」
先輩は少し誇らしげだった。
「私は立ち去りました。途中、何か踏みつけましたが、気にしている余裕はありませんでした」
「たぶんそれ、切り捨てられたお孫さんだよ……」
「あとで靴の裏を見てみると、血がべっとりついていました」
「ほらぁ……わたし、そういう怖い話、だめなのに……」
「近道として処刑場を通り抜けてきたので、ついたのでしょう」
「私だったら、遠回りしてでも避けるけどね……」
「どうでしたか? 私の話は」
「う、うん……今日も怖かったよ……」
先輩は恐怖のためか、寒さに凍えているかのように震えだした。
日常生活大丈夫か、この人。
「先輩は、何か話題がありますか?」
「う、うん。じゃあね、えっとねー。今日、ご本読んだんだ。わーって敵が出てきて、ざーって戦って、ざくーって勝つんだよ。面白かった!」
「今の所、先輩の語彙の貧弱さしか伝わってこないんですが」
「む、難しい言葉使えるもん! チミモーリョーが出てきてイシキモーロー、私はマリリン・モンロー」
「ラップじゃないですか。……ふう、いっぱい話しましたね」
「うん、私以外は賑やかな席だったね」
私たちが立ち上がろうとしたとき、男が目の前にやってきた。
「お姉ちゃん、僕チンとランチ行かない?」
その言葉でナンパするなら場所を選べよ。ここ大衆食堂だぞ。
「へ?」
先輩が困惑している。私は素早く助け舟を出した。
「おごってくれるならいいですよ」
「もちろん、構わないぜベイベー」
私は伝票を男に持たせ、レジの人にいった。
「お代はこの人からなので」
私は先輩をつれて、店を出た。
「……10万!?」
ぎょっとしたような声が後ろから聞こえる。
しばらく問答がつづき、男がビンタされるような音がした。
「逃げましょう」
走りながら、先輩が私に聞いてきた。
「な、なんだったの、さっきの」
「私が頼んだパスタが19万7800円したんです。先輩のカツ丼とパフェはあわせて1200円。レディースデーで半額ですから、ちょうど10万円ですね」
「なんでパスタの値段を、1000円誤魔化したの?」
「高いところで綱渡りをしているようなスリルでしたね……」
「ふふふ」
先輩が笑った。
「あはは」
私も笑った。
会計を肩代わりしてくれた男のおかげで、私たちはとても幸せなのだった。
私たちが幸せなら、世界中のみんなは幸せなのだ!
いま、そういうことにしたのだ!!
めでたしめでたし!!!!!!
(おしまい)
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最っ高に明るいラストがとても好きです!ランチを食べてる女性に「ランチでもどう?」ってどうなんでしょう。逆にウケる気がするのは私だけでしょうか? 個人的なナンバーワンお気に入りです! [編集済]
今崎ホセは御年50にもなるベテランお笑い芸人である。
そんな彼は半ば強制的にある番組に出演させられることになった。
新しく作られた②「スマイリー共和国」というお笑い番組だ。
①水曜日の夜10時から放送予定で、司会を人気お笑いコンビの「ハマダヒトシ」が務めるそうだ。
かつてこの時間に放送されていた「水曜日のハマダヒトシ」という番組が、
あまりの苦情の多さに打ち切りになってしまったため代わりにこの番組が始まることになった。
この番組はいわゆるリアクション芸がメインとなっており、出演する芸人もリアクションに自信のある芸人が集まっている。
たとえば、3人組お笑い芸人ドラゴンソルジャーは目の前に氷の浮かんだ冷水の入ったプールがあると、
「このプールに入ったら、凍死するから、絶対押すなよ。」と言ったのちにプールに飛び込み④寒さに凍える芸をした。
さらに、この番組の常連のお笑いコンビココソコは「100個のコロッケを1時間以内に完食するという伝説をいきなり達成する」という企画にみせかけて、
「コロッケの大食い中に⑩たわしコロッケをまぜても気づかない説」というドッキリにハメられてしまった。
そのドッキリの後に、ココソコの中田がのこしたセリフ⑤「CKP・・・ちゃんとしたコロッケプリーズ」はミュージシャンのDAIROKUっぽい発言として、
この番組内での流行語になったことも記憶に新しい。
今回、今崎には⑧「違法薬物依存症の疑いをかけられる」というドッキリが仕掛けられた。
その内容は以下のとおりである。
コスモス太陽が司会を務めるニセ番組の収録中に、警察に扮したプロレスラーの蛾野が突入してきてこう言った。
「この中に違法薬物依存症の奴がいるとの情報が入ったので、強制捜査を行う。
薬物依存になるとバランス感覚がなくなってしまうと一般的に言われている。
だからこの場にいる全員に⑦高所での綱渡りをやってもらい、バランス感覚が極端に低いものには違法薬物依存症の疑いで制裁を加える。」
このとき今崎は恐怖で震えていた。なにせ蛾野には別の番組で毎回痛い目に遭わされているからだ。
ほかのニセ番組出演者が次々と綱渡りを成功させる中、何としてでも制裁を逃れたい今崎は落ちそうになりながらもかろうじて綱渡りを成功させた。
それをみた蛾野は安心して去っていったはずだった。
しかし、渡り切った直後に今崎はとんでもないものを目撃した。
「WANTED 指名手配 今崎ホセ 違法薬物依存症の疑い」
と書いてあった。どうみてもでっち上げの指名手配を見て、今崎は「信じられない」と叫び、駆けだした。
しかし、蛾野はこれを見逃すはずがなく、今崎を捕らえた。
蛾野「今崎、やはりお前が犯人だったか。おとなしく白状しろ!」
今崎「ええ、さっきの綱渡りで無実を証明したじゃないですか。それを見て安心して去っていったじゃないですか。」
蛾野「俺はな、お前をビンタするためなら、でっち上げてでもお前の元に⑥戻ってくるんだよ!」
今崎「もうでっち上げって認めたじゃないですか。もうやめてくださいよ。」
蛾野「いいや、お前は③ビンタされなければならないという義務がある。いくぞ!3,2,1,バーン!」
破裂音が鳴り響いてしばらくたったのち、愉快な音楽が流れてきた。
太陽「どっきり大成功!素晴らしい叩かれっぷりでしたね。」
今崎「もー、ほんとやめて。トラウマになるから・・・」
太陽「それにしても叩かれた時の顔メッチャイケメンでしたよ。」
今崎「お前の方がイケメンやろ!⑨太陽にはかなわんわ!」
ドッキリにはめられても面白い返事を忘れない今崎の姿勢に周囲は笑いに包まれ、
そのようすをテレビで見ていた視聴者にも笑みが浮かび、
その笑みが全世界に伝わっていき、世界は明るくなった。
「完」
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あれ?私この番組見たことある…。そんな既視感にとらわれるお笑い作!もうずっと笑いっぱなしでした!今年の年末もやりますかね?楽しみになってきました。 [編集済]
■ Prologue. ■
よれよれの一万円札を三枚握りしめ、路地を歩く一人の少女。
ふと立ち止まった彼女の虚ろな瞳には、幼き自分と兄、そして母の姿がぼんやりと映し出されていた。
―――――――――――――
「おかあさん。なぁに?これ」
「スマイリー共和国よ[②]」
「スマイリーきょうわこく?きょうわこくって何?」
「うーんとね、王様のいない国」
顔を合わせればケンカの絶えないアキとハル。
二人の手のひらにマジックでスマイルマークを描いた母は、微笑みながらそう説明した。
「誰がえらいとか正しいとか、そういうのは無いの。二人が協力してニコニコにするのが、スマイリー共和国よ」
「ふぅん。じゃあハル、今日からケンカすんの無しな!」
「アキちゃんこそ!ケンカ無しだよ!」
「わかってるっつーの!」
遠い記憶の無邪気な笑い声はやがてフェードアウトし、ハルは再び歩き出した。
まだ十一月半ばというのに、今年の冬は例年より寒さが厳しく各地で既に真冬の様相だ。
勢いよく降り続ける雪は、彼女の足跡を瞬く間に消していく。
(私の存在も、こんな風に簡単に消してくれればいいのに)
自嘲気味に浮かべた笑みは、街灯に照らされてどこか哀しげに見えた。
両親の離婚。
幼くして離れ離れになった兄。
最愛の母の死。
全てを受けとめ背負って歩くには、彼女の背中はあまりに小さすぎたし、彼女の腕はあまりに細すぎたのだ。
持ちきれないのならばいっそ捨てようと決めた。面倒な人間関係も、余計な記憶も、自分の名前も。
すると、随分と身軽になった。大抵のことに傷つかなくもなった。その代わり、心から笑うこともなくなった。
彼女のスマイリー共和国は消失したのだ。けれど、それで良かった。
それで、良かったのだ。
―――――――――――――
■ side-H. ■
母の死後、彼女は高校を中退し親戚の家に引き取られた。放任主義な親戚一家のもとではハルは存在しないも同然で、渇きを潤す愛情はどこにもなかった。それは都合のいいことだと、何度も何度も自分に言い聞かせた。
やがて彼女は自身のことを「フユ」と名乗るようになり、空っぽの心を手早く満たすために援助交際に溺れた[⑧]。女子高生という身を利用すれば、お金を手にすることは想像以上に容易かった。可愛い制服を着て、それらしく甘える。最初のうちは胸の奥がズキンと痛んだり腹の中に喩えようのない不快感が渦巻くこともあったが、それも次第に麻痺してしまった。
何も感じないし、何かを失う恐れもない。
もうずっと、明けない夜の底にいるみたいだった。
――その日、アキに再会するまでは。
―――――――――――――
■ side-A. ■
ふんわりと降り積もった雪が辺り一面を白く染め、夜中でさえ心なしか明るく感じる。雪の日の夜空が、アキは好きだった。
幼くして両親が離婚し父親についていくことになったアキは、次第に母と妹の顔を思い出せなくなった。思い出そうとすると、ひどい頭痛がしてとても耐えられなかった。きっと自分を護るために、本能が記憶に蓋をしてしまったのだろう。
間もなく父は再婚し、新しい母親との生活が始まった。良い人だし、父も幸せそうだ。昔のことは忘れて今の生活に身を置く。それこそが自分に求められているものだと、アキは察していた。
くたびれた学生鞄を肩に掛け、街灯に照らされた道を歩く。毎週水曜日[①]は授業が早く終わるので、少しでも小遣いの足しになればと、学校から少し離れたピザ屋でアルバイトを始めた。今日も忙しい一日だったと、大きく息を吐いて冷えた手をこすり合わせる。
ちらちらと降り続けていた粉雪は陸橋に差し掛かったところで雨混じりの雪に変わり、アキはビニール傘をさした。すり減ったスニーカーで滑らないようにゆっくりと歩く。そして階段を降りきろうかというところで、ふと街灯の脇にしゃがみこむ人影に気がついた。
見慣れない制服を着た女子だ。こんな時間にこんなところで一人うずくまっているその姿は、見過ごしてはいけないような気がした。
「……あの、大丈夫?」
躊躇いがちに声をかけると、びくりと肩を震わせ静かにこちらを見上げる――その瞳が、大きく見開かれた。
綺麗な子だと、思った。
―――――――――――――
■ side-H. ■
目が合った瞬間に、何も感じなくなったはずの心に強烈な電撃が走った。
自身を見下ろすその人は、紛れもなく兄のアキだった。
「あ……」
咄嗟に口をついて出そうになる名前を既のところで押し戻す。ハルは言葉を失った。記憶の最後にある彼の顔とは随分違っていたけれど、よく通るまっすぐな声と、切れ長のその瞳は、彼女のよく知る兄の面影そのものだった。
全てを捨てて汚れきった妹を知ったら、兄はどんな目で自分を見るのだろう。喉の奥で不穏なものがゆっくりと首をもたげる気配がした。
「君、すごい顔色悪いけど……。家はこの辺?」
すぐ傍にしゃがんで目線を合わせようとするアキから、反射的に顔を逸らし俯く。
大丈夫、と答えたかったが、何か喋ろうとするといろんなものが一気に溢れてしまいそうで、何も言えなかった。
「んーと……あのさ、ここだと濡れるし寒いから、どっか移動しよう?」
差し出された手を握り返すことも出来ずにただ沈黙を貫いていたが、困ったようにアキがぽんぽんと優しく肩を叩くので、意を決してハルはゆっくりと立ち上がった。
「よし、行こう。……君、名前は?」
胸の奥がズキンと大きく痛み出す。アキは自分に気付いてない。たった一人の兄妹である自分のことを、覚えていないようだ。
力なく開いた口から零れた声は、今にも泣き出しそうに震えていた。
「……フユ、」
「フユ?俺、アキって言うんだ。なんか似てるな」
「そうだね」
――季節ひとつぶん近づいたね。
心の中でそう呟いて、ハルはビニール傘越しの滲んだ夜空を見上げた。
―――――――――――――
■ side-A&H. ■
その日を境に、二人は週に一度、アキのバイト上がりに会うようになった。
アキの携帯には”フユ”の連絡先が登録され、バイトが終わると例の陸橋で落ち合い、コンビニに寄る。その後の行き先は決まって最寄りの公園だった。あの日の夜、二人が向かった場所だ。
ドーム型の小さな遊具の中で携帯の明かりに照らされながらおでんを分け合い、他愛もない言葉をぽつりぽつりと交わす時間は、何よりも幸福に思えた。
「CKPだな[⑤]」
「何?シーケーピーって」
「コンビニ、からの、パーク」
「パーク……公園?もうそれ、普通にCKKで良くない?」
「CKKってなんかYKKみたいじゃん。チャックかよ」
「いや、意味わかんないよ」
「あっはは」
軽快に笑いながら、アキは不思議に思っていた。
やけに居心地がいいのに、なぜか恋愛感情は湧かない。
彼女は一体何者なんだろう?
疑問は日に日に強くなっていったが、多くを語りたがらない彼女に対し、アキもまた多くを尋ねようとはしなかった。
一方、ハルは不安に思っていた。
喜びも痛みも感じない鉄壁の心が、どんどん弱く脆く崩れていくのをはっきりと感じていたからだ。
それなのにアキからの連絡を無視することが出来ないのは、きっと自身の一番深いところで彼を必要としているからなのだろう。
アキの屈託のない笑みが、ハルには眩しかった。
『じゃあ、またね』
別れ際には、二人は必ずそう交わした。
“一週間後の水曜日にまた会おう”
その約束の代わりに。
―――――――――――――
■ side-A. ■
街はクリスマスカラーに彩られ、道行く恋人たちをイルミネーションが包む込む。
そんな日の夜、アキはバイトで多忙を極めていた。
休憩室で”フユ”にメールを打っていると、バイト仲間から「彼女っすか~?」と冷やかされた。そんなんじゃねぇよと一蹴し、アキは考えた。
(彼女じゃない。けど、じゃあ何だ?)
約束の時間を一時間遅らせて、二人はいつものように陸橋で落ち合い、公園へ向かった。
「今日はさすがにどこもかしこも人が多いな」
「そうだね……。ここは良い特等席だね」
「はは、確かに」
遊具の中でコンビニのケーキをつつきながら二人は笑い合った。しかしふと、アキはハルを見つめ、その手を止める。
「……フユ、なんか今日、元気ない?」
「んー?そんなことないよ」
「でも、なんか……」
訝しむアキに、ハルは小さな紙袋を差し出した。
「はい、クリスマスプレゼント」
「えっ、マジ!?うわ、どうしよ。俺なんも用意してない!」
「あっはは。いいよ~そんなの。私のも大したものじゃないし」
「うわー、マジごめん、ありがとう。嬉しい。……え、なんかこれ温かいけど」
「ふふ、私が帰ったあとに開けてね」
そう言ってハルは早々に立ち上がり、そのまま遊具を出ていってしまった。
いつもなら別れ際に必ず「じゃあ、またね」と言う彼女が、何の挨拶もなしに駆けていく。照れ隠しだろうか?
まぁいい、後でメールしよう。
そう思って、アキは紙袋を開いた。
中に入っていたのは、ザクザクとした粗い衣が特徴的なコロッケ。
一口かぶりつくと、何だかとても懐かしい味がした。
そしてよくよく見るとその包み紙には『たわしコロッケ』の文字と一緒に、スマイルマークが二つ書かれている[⑩]。
その刹那、何かが頭を撃ち抜いたような気がした。
「……っ、信じらんねぇ……!!」
アキは雪の降りしきる中、無心で駆け出した。
―――――――――――――
「母さんの作るコロッケはザクザクでたわしみたいだなぁ」
「あら、なによ。不満なの?」
「そうじゃない。うまいよ、たわしコロッケ」
「あはは!たわしコロッケだって!」
「たわしコロッケー!!」
家族みんなで笑い合う。何でもない日常の風景だ。
母の作るコロッケは、どこのスーパーで売っているコロッケよりも格別に美味しかった。そのザクザクの衣がたまらないのだ。
記憶の蓋が開かれ、無数の欠片が色づき溢れ出す。
ばらばらだったピースが、惹き合って形を成していく。
当たり前のように忘れてしまっていたことが、ひとつになってこの手の中に戻ってくる[⑥]。
(どうして、こんな大事なことを、)
「ハルーーーー!!!!」
冷たい空気をまっすぐ切り裂くように響くアキの叫び声に、驚いて振り返る人々。
降りかかる視線を跳ね退けて、アキはすり減ったスニーカーを蹴り上げ無我夢中で走った。
頑なに過去を語ろうとしなかった彼女からの、過去を思い起こさせるプレゼント。
別れ際にいつもの挨拶がなかったこと。
今にも消え入りそうな笑顔。
ひどく嫌な予感がした。
―――――――――――――
■ side-H. ■
(……寒い)
あてもなく走り続けるハルの身体はガクガクと震えていた。
どうしてだろう、今までどんなに寒い日でも、ここまで寒いと思ったことはなかったような気がする。
寒い、寒い、寒い、
「……そっか、」
ぽつりと呟いて納得する。もはや彼女の心は『何も感じない鉄壁の心』ではなくなってしまっていたのだ。
ではいつから?
――アキに再会した日からだ。
どうして急に寒くなった?
――今まで隣にアキがいたからだ。
アキと再会してから、ハルはぱったりと援助交際をやめた。あれほど溺れていたのに。そう、空っぽの心を手早く満たす必要がなくなったのだ。アキという確かな存在がいつも傍にあったから。
心が息を吹き返せば吹き返すほど、ハルは耐えがたい恐怖に苛まれていた。また大切なものを失うのではないかという不安に、胸が引き裂かれる思いだった。
これ以上アキと一緒にいると、自分が壊れてしまう。いや、彼をも壊してしまいそうな気がした。故に、彼を絶ち切る決意をした。再び鉄壁の心を手に入れるために――。
そうして無防備に晒された心が今、寒さに凍えているのだ[④]。
ふと顔を上げると、近くの海岸へ辿り着いていた。もうどれほど走ってきたかわからない。吹きつける潮風が一層、ハルの体温を奪ってゆく。
海の中に高く切り立つ岩。その細くなっていく道を、一歩一歩前へ進んでいく。それはまるで綱渡り[⑦]、足を踏み外せば極寒の海だ。打ち付ける波の飛沫がハルの白い頬を伝う。
自分の意思で進んでいるのかどうかすら、ハルにはもうわからなかった。心がひっきりなしに悲鳴を上げ、立ち止まってはいられないのだ。
「ハルーーーー!!!!」
背中に届くその声に、ハルの足は初めて前進を拒んだ。
振り返ると、遠くに見えるアキが肩で息をしながらこちらへ駆けてくる。
「アキちゃん……」
「馬鹿ハル!何してんだお前!!それ以上動くなよ!!」
ふらふらの足で自身のもとへ近づいてくるアキ。その姿を見た途端に、ふっと全身の力が抜けてしまった。ぐらりと大きく揺れるハルの身体を、間一髪でアキが抱き寄せる。
「っっっぶねぇな!!アホ!!馬鹿ハル!!」
「アキちゃ、」
「お前な、こんなとこ歩いて死ぬ気か!馬鹿か!!話すこと山ほどあんだから、帰るぞ!ほら!!」
海を背に自身の手を引いて一歩前を歩くアキの背中は、改めて見るととても大きく思えた。しかし、その肩は小刻みに震えている。
その後ろをついて歩きながら、ハルは「全然寒くないなぁ……」なんて、的外れなことを思った。
「……なぁ、お前最初から気付いてたの?」
「何が……?」
「俺がアキだってこと」
「当たり前じゃん……兄妹だよ」
くるりと振り返ったアキは、ばつの悪そうな顔をしていた。
「……ごめんな、ハル」
波の飛沫のせいなのか、濡れている彼の頬をハルはぺちんと優しく叩いた[③]。
「これで仲直りだよ。……スマイリー共和国だから、ね」
―――――――――――――
■ Epilogue. ■
クリスマスを終えて新年を迎えた街は、多くの人々で賑わっていた。
あの後も二人は相変わらず陸橋で落ち合い、コンビニに寄って、公園に向かう生活を送っていた。何だかすっかりそれが馴染んでしまったのだ。
変わったことといえば、二人が「ハル」「アキちゃん」と呼び合うようになったこと。
ハルが無邪気に笑うようになったこと。
互いの手のひらにマジックでスマイルマークが描かれたこと。
そして、晴れた日曜日には二人で海へ来るようになったこと。
きっと、それくらいだ。
「アキちゃんはよく怒るし、よく笑うね」
「何だそれ。最近はそんな怒らないだろ」
「まぁね。……再会したばっかの頃ね、アキちゃんの笑顔は眩しいなーって思ってたよ」
「え、俺そんな笑ってた?」
「うん。でもね、太陽の眩しさにはかなわないなぁ[⑨]」
海面にキラキラと反射する陽の光に目を細めてハルは笑う。
「やっと夜が明けたよ」
「……ん?何のこと?」
「ううん、何でもない」
ハル手作りのたわしコロッケを頬張りながら、二人はどこまでも遠く広がる水平線を見つめていた。
― fin. ―
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こんな物語を待っていた…!
2人の視点からつづかれる丁寧な心理描写に、じんわりと温まりました。一文一文が心をもって刺さってきます。主催者がこんなことをいってはいけないかもしれませんが、私が票を投じるならばこの作品でした!
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某月某日、13時。男は震える手でボタンを押した。
少しの間を置いて、画面が切り替わる。深呼吸をして、スクロール。
見るべきは一番上の明細。申込状況。そこに書かれていた言葉は――「当選」。
男は目を瞬かせ、公演名と申込状況を何度も往復する。
間違いない。当選だ。
「……し、信じられない!」
男は叫び、駆け出した。この気持ちを一刻も早く、共有しなければ。
「取れた、取れたんだよ、チケット! 当選したんだ、10月31日の夜公演! 行くだろ、行くよな!」
女の元に駆け込んできた男は、挨拶もそこそこにまくし立てる。呆気にとられていた女も、徐々に状況を理解した。
「それって、前に言っていた……何とかって劇団の?」
「そう! 劇団クレイジーキングスパーティー、CKP(⑤)の新作公演! 毎公演すんごい倍率なんだよ、まさか取れるとは!」
興奮冷めやらぬ様子の男に、女は呆れる。熱くなりやすい男であることはよく知っていたが、場所は考えてほしい。
「詳しい話は後で聞くから、戻りなさい。仕事中よ」
流石に、周りの目が痛かった。
公演当日まで、女はひたすら男から話を聞かされることとなった。
女は舞台にはさして興味を持っていなかった。話を聞けば確かに面白そうではある。当日に向けて、楽しみも募っていく。
それでも男の熱にはうんざりとしてしまう。こうして座席についてからも、そわそわと落ち着かないのだから。真っ赤なシャツが目立って、隣にいるだけで恥ずかしい。
「ほら、もう開演時間よ。静かにしなさい」
――幕が上がる。
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演劇の世界を見事にとりいれた作品。「おや、これはれは〜」のくだりで、お金払うので続きを!となりました。ハシバミさんはやはり「語り」がお上手です! [編集済]
皆様、ようこそおいでくださいました。私は、そうですね、観測者とでも名乗りましょう。
さて、本日語りますのはとある国のお話。しばしの間、どうぞお付き合いくださいませ。
こちらはスマイリー共和国(②)。皆様、名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。この国に非常に近く、途方もなく遠い国にございます。ご覧くださいませ、よく作りこまれた――失礼、50年ほど前に建国された国にございます。
さてこの国、共和国と申しますように民主主義を謳っております。しかし、実質的に独裁国家と化していることは、賢い皆様ならばお気づきでございましょう。
当然、貧富の差もございます。国民の口癖をご存知でしょうか? ……ご存知ですか? ええ、貴女でございますよ、薄紫のニットのお嬢様。最前列でございますからね、見目にも気合が入っていらっしゃる。いったいいくら積まれたので? ……おや、これは失礼いたしました。話を戻しましょう。国民の口癖、ご存知ですか? ……ご存じない。お隣の貴方は? ふむふむ、「早く話を進めろ」? いやはや、これは手厳しい。お叱りを受けてしまいました、仕方がありませんのでお話を進めましょう。
「太陽にはかなわない」(⑨)
これが国民の口癖にございます。いったいどうしてこのような口癖になるのでしょうか。暑いから? いえいえ、ここはスマイリー共和国、温暖な気候で一年を通して快適に過ごすことができます。
ここで言う「太陽」とは、空に浮かぶ太陽ではございません。お察しの方、お待たせいたしました。この「太陽」は、国の長――大統領を指しているのでございます。
皆様、太陽はどういう存在だとお思いでしょうか。必要不可欠な存在。ですが、ありがたいのみではございません。我々、地球に住まうものにとっては心地の良いものではありますが、少し距離がずれればいかがでしょう。既に夏などは、わずらわしく感じている方もいらっしゃるかも知れません。
近ければ焼かれ、遠ければ凍える。
この国も同じでございます。大統領の近くにいるものは、かの人の代わりに責を追わねばなりません。遠くにいるものは恩恵にありつけず、貧しい生活を強いられるのです。
ご覧くださいませ。これが太陽から遠く離れた世界でございます。人々は日々の食事にも苦労し……おや。あの方は食事にありついているようですね。少しお話を聞いてみましょう。
失礼、貴方の持っているものはなんでしょう?
「は? なんだ、あんた」
私は観測者。世界を観察し、記録し、語る者です。さて、私の質問にも答えていただきましょう。それはなんですか?
「こ、れは貰ったんだよ。見れば分かるだろ、コロッケだ。ちゃんとした食事なんて一週間ぶりさ」
コロッケ。ふむふむ、成程、確かに綺麗な狐色をしておりますが。貰ったと仰いましたが、いったいどなたにでしょう? ここに人に恵みを与えられるような方がいらっしゃるのでしょうか。
「あいつだよ。ほら、時計台のところにいるだろ。ぼろっちい身形のくせに、帽子だけは立派なやつだ。あいつは週に一度やって来て、こうして食料や薬を売ってくれるのさ」
成程、確かに異質な男がおりますね。しかし、商人ですか。そのような方がいて、襲われたりはしないのでしょうか。購入するための金銭だって、皆様には余裕がないのでは?
「俺達だって馬鹿じゃない。ここにまともな食料を届けてくれるのはあいつだけだ、あいつの商品を奪って一時を凌いだところで、すぐに飢えるのは分かっている」
ふむ、確かにそうですね。私が浅はかであったようです。ところで、先ほど薬と仰いましたね。貴方も薬を買われているのですか?
「ああ、これだよ。これを飲めば寒さも空腹も凌げる。値は張るが、便利なもんさ」
成程、成程。商人はこの薬と食料――貴方がお持ちのコロッケのようなものを売っているのですね。
よく分かりました、ありがとうございます。どうぞ、おなかの調子にはお気をつけて。
さて、皆様はお気づきでしょうか。いかがで……おっと、睨まれてしまいました。話を進めましょう。
あの方が持っていたコロッケ。違和感がありませんでしたか? ――そう、たわしです。え? 舞台上の演出だろうって? おやおや、随分とつまらない考えをしていらっしゃる。この舞台上で起きていることは全て現実、リアルなのでございます。
つまり商人はあの方にコロッケと偽ってたわし――いわばたわしコロッケ(⑩)でしょうか、たわしコロッケを売っているのです。
そんなもの、だませるはずがないとお思いでしょう。いえいえ、だませるのですよ。現にあの方はコロッケと思い込んでいたでしょう? 無論、たわしだけではいけません。重要なのはもう1つ――薬でございます。
もうお分かりでしょう。あの薬、いわゆるドラッグでございます。怪しむ人もいるのでしょうが、食料と共に売りつけられるのであれば断ることもできません。ああ、最初は食料に混ぜて売っているのかもしれませんね。すぐに人々は薬のとりこ。依存症(⑧)となってしまうのです。
まったく、不埒な輩もいるもので……おや。ご覧ください皆様、面白い見世物が始まるようですよ。時計台と、あちらは居住棟でしょうか。居住棟のある区画は、こちらより幾分も裕福な区画のようですね。ふむふむ、成程。時計台から居住棟へ渡りきれれば、そちらの区画で受け入れられるということでしょう。
高さとしてはざっと10階建てでしょうか。渡る方法は勿論、綱渡り(⑦)でございます。距離は、そうですね。20メートルはあるでしょうか。短いとお思いになりましたか? しかし己が渡らなければならぬとしたら……いかがでしょう。
ですが、なぜこのような危険を冒す必要があるのでしょうか。先程の方を覚えておいでですか? そう、たわしコロッケの方です。あの方はここでの生活に満足していらっしゃったではありませんか。
ところで皆様は、飢えと薬によって次第に狂い朽ちていくことと、生死を賭けた戦いに挑むこと、どちらを望みますか?
さて、あちらの区画の住民にとっては一大イベント、楽しい楽しい賭け事の対象なのです。折角ですから、私どもも賭けをいたしましょう。では、あの方が渡りきれると思う方。……どうしました、手を上げてください。そこの赤いシャツのお兄さん、いかがですか? あの方が渡りきれるとは思うのであれば、手を上げてください。……はい、では渡りきれる方に賭けると。
他の方はいかがでしょう。では、渡りきれないと思う方。おや、こちらでは手が上がりますね。皆様、あの方を信じてはいらっしゃらないと。
さてさて、いよいよ渡りはじめました。1歩ずつ慎重な足取りで、進んでいらっしゃいます。1メートル、2メートル、3メートル……おっと、身体が大きく揺れましたが、なんとか耐えたようでございます。しかしまだまだ先は長い。さあ、再度ゆっくりと足を出し……ああ。
そういえば、賭けの褒美を決めておりませんでしたね。ふむ、しかし勝者が多いと褒美を配るのも大変です。敗者はおひとりだけでしたね。では、罰ゲームといたしましょう。
お兄さん、どうぞこちらへ。どうしました、そちらの赤いシャツのお兄さん。どうぞ、舞台にお上がりください。……おや。そのシャツ、もしやとは思いましたが、10周年記念の商品ですね? いやはやこれは嬉しいことです。我らがCKPを、どうぞ今後ともご贔屓に。……おといけない、罰ゲームでしたね。では、ご贔屓さん、何が起きても決して訴えないでくださいますね? ご同意いただけませんと、こちらとしてもやるわけにはいきませんので。はい、ありがとうございます。では、失礼いたします。
ご贔屓さん、良い音が鳴りますね。私、ビンタ(③)でこんな良い音を出すことができたのは初めてです。それにしてもご贔屓さんは運が良い。こちら、水曜日限定(①)の企画でございますからね。ちなみに明日、木曜日は私からの口付けでございます。おや、そちらの方が良かった? では皆様、明日も当日券の販売はございますので、どうぞお越しくださいませ。
では、お話をスマイリー共和国に戻しましょう。このように、この国では太陽――大統領の保護下から離れた人々は、寒さに凍える(④)しかないのです。まったく、世知辛いものでございますね。果たしてここから物語はどう動くのか――。
――おや。これはこれは、いけませんね。どうやら、チケットも持たずに物語を覗き見している輩がいるようです。これより先はチケットをお持ちの方々のみのお話。どうぞ皆様も、チケットを持って劇場へお越しくださいませ。
え、CKPのチケットはどこで手に入るのか? ふむ、そうですねぇ……我らがCKPは、皆様のご贔屓の劇団。すなわち皆様がご贔屓となった劇団こそが、劇団クレイジーキングスパーティー、CKPなのでございます。
それでは、皆様。また、劇場でお会いいたしましょう。
[編集済]
☆
――幕が下りる。
しばし、動くことができなかった。周りにつられて手を叩く。頭がふわふわとして、何も言葉が浮かばない。腰を上げられない。
「私……私、必ずまたここに来る。戻ってくる(⑥)。」
こんな心地は初めてだった。こんな経験ができるだなんて、思ってもいなかった。世界が広がったような、1つ、新たな火が灯ったような。
「ありがとう。今日、誘ってくれて」
男のお陰で、女の世界は明るくなった。
【了】
[編集済]
☆
「ただいま!」
「おかえり〜」
「いやぁ、外マジで寒かったぁ」
「まじ?あたし家の中にいても寒いんだけど」
「俺が暖めてやろうか?」
「さっむ。あんたのせいで完全に④凍えた」
「ひどい」
「あ、そうだ、あんたに手紙来てたよ」
「どれどれ。……は!?信じられない!」
「え、何、どこ行くの。おーい」
「夕飯までには帰る!」
「別に帰ってこなくてもイイけど」
「ひどい」
「うわ、⑥戻ってきた」
「もう少し俺に興味持っても良いのでは」
「で?」
「え?」
「手紙の内容だよ」
「お、なんだ?気になるのか?おいおい〜」
「……」
「痛っ!?無言で③ビンタってマジか」
「で?」
「はい。……俺の担当作家の中根ぷぷ先生、いるじゃん?」
「うん、②スマイリー共和国の絵本で大ヒット出した人でしょ」
「そうそう、⑤CKP先生」
「略し方」
「CKP先生からの手紙だったんだけど、旅に出るって」
「手紙で報告?変わってるね」
「自分探しの旅だって」
「やっぱり作家って変わり者が多いの?」
「①水曜日締め切りの原稿まだ上がってない」
「水曜日って、明日じゃん」
「そう!逃げられた!」
「マジかぁ」
「そんなわけで探しに行かないといけない」
「本当、ギリギリの⑦綱渡りみたいな仕事してるよね」
「しかも高所だよ、サーカス団も真っ青」
「はいはい。早く探してきなよ」
「夕飯までには戻るから」
「夕飯の⑩コロッケ、あんたの分だけ中身タワシにしておくわ」
「とんだ嫌がらせだな!」
「ちなみに、CKP先生の新作ってどんな内容なの?」
「ドラック⑧依存症で逮捕された少女が久しぶりにシャバに出て、ドラックよりも⑨太陽の方がありがたいと気づくハートフルストーリー」
「絵本作家……?」
「タイトルは『明るい世界』」
「狂ってる」
(終)
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全編会話のみでつづられたポップな作品。日常会話と思いきやツッコミどころ満載!ちるこさんといえばストーリーテラー、というイメージがありましたので、いつもと違うテイストが「創りだす」ならではだと感じました。 [編集済]
男は送られてきた不合格通知に『Consider Key Point(要点をよく考えて)』の文字を見て「信じられない!」と叫び、駆け出した。男が受けたのは『“大人”になるための試験』であった。
男の住む国はスマイリー共和国と言う。今から約50年前に、世界の問題は笑顔で笑っていることで解決できるという信念のもと建国された②。この国の“大人”は何があっても笑顔で笑っている。というより、常に笑うことのできる人間にのみ“大人”の権利が与えられていた。
“大人”になるためには試験に合格する必要がある。試験は毎週水曜日①に行われていて、18歳以上になると年に一度、誕生日の前後ひと月の間に受けることができる。建国から50年たち、建国者の孫世代が受験するようになった今、試験の合格率は減少傾向にあった。試験に合格できないとずっと“子ども”として扱われる。年相応に就職などもするが、お金の使い道等は“大人”に管理され、自由に使うことはできない。結婚なども“大人”にのみ認められていた。
しかし、“子ども”は泣いたり怒ったりする感情が認められている。そして“大人”になるためには楽しい思い出が必要不可欠だとして、“大人”たちが用意した楽しい企画が毎週土日に開催されていた。感情の自由さと企画の楽しさを理由に、ずっと“子ども”で居たいと試験を積極的に受けない“子ども”依存性⑧の人たちもいた。
そんな中、男は“子ども”からは財産権、“大人”からは感情の自由を奪うこの国のシステムに納得できず、なんとかしたいと思っていた。“子ども”のままでは、あまりにも出来ることが少ないので、まずは“大人”になることを決意する。
その日から男はポーカーフェイスの特訓をした。友達に頼んでたまに突然ビンタしてもらったり③、苦手な高いところも克服できるようバンジージャンプをしたり、特訓は数ヶ月におよんだ。結果、男は突然なにをされてもポーカーフェイスを保てるようになり、苦手な高所でも笑顔で綱渡り⑦ができるほどになっていた。
これなら間違いなく合格出来るだろうと受けた試験は、冷蔵庫のような寒い部屋に一時間放置されるというもので、寒さに震え④ながらも笑顔を保ち乗りきることができた。しかし、届いた通知は不合格。信じられない、ポーカーフェイスは完璧だったのに、と男は役所へ駆け込んだ。
役所の人間は、男の持っている通知を見て
「おー!CKPが出たならあと一歩じゃないか。CKPが一番重要⑤だからねぇ。まぁ、顔だけ笑っててもダメってことだよ。」
とニコニコしていた。
その言葉を受け、男は気づいた。この国の“大人”たちはみんな本気で楽しくて笑っているのだと。そして、にせもの笑顔では、太陽のような本物の笑顔にはかなわないと⑨。
それからの一年は、何が起こっても明るい発想ができるようつとめた。飼っていたペットが死んだときは、今までありがとう、天国でも幸せにと笑顔で見送り、渋滞にはまったときは、渋滞の先には何があるのか面白い答えをたくさん考えてみてひとりで笑った。
そしてついに、男は試験の場に戻ってきた⑥。今回は女性と食卓らしきテーブルがあった。座ると女性が「はい、あなた。今日の晩ごはんはコロッケよ♪」と言って男の前に皿を置く。よく見ると中身は千切りのキャベツとたわしだった⑩。思わず男は「わぁ、衣が立ってすごくおいしそう!いただきまーすって、これはたわしですよ、たわし!」と人生初のノリツッコミ。女性は少し笑いながらも芝居がかった口調で「そんなこと言うなんて…あなたひどいわ!」といいながらビンタをしてきた。男は「ぶったね、オヤジにもぶたれたことないのに!」という人生初のモノマネ、をしたところで試験が終了した。
結果は見事合格!男は無事“大人”になれたのだった。
その後、男はこの経験を生かし『この世界の楽しみかた』という本を出版し大ベストセラー。“子ども”たちにもよく読まれて、試験の受験率と合格率が上がり、笑顔の“大人”が増え、世界は少しだけ明るくなった。
……男の当初の目的は果たされないまま男本人も忘れてしまったようだ。
おわり
[編集済]
確立された世界観が素晴らしい作品です。コンパクトにオチまでしっかりとまとまっていてハイクオリティ!しかしなんて悲しい国でしょう。こんな世界に生まれなくてよかったです…! [編集済]
たかいたかい=高所での綱渡り⑦と思ってしまうほどに、
わたしは高所恐怖症なのに山頂に行けとメールが来ます。
しんじられない! 高い上に寒い場所に行かせるなんて④
ころす気ですか! どうしてあなたは、いっつもいっつも
ろくでもない場所にばかり出張させるんです!
って毎回上司の仕事場に駆けこんでまで文句を言っても、
けっきょくコンビニのチョコレート菓子("C"hocolate)と、
この前買った便利なサバイバルナイフ("K"nife)、そして
この寒さには欠かせない"P"コート、これらを略してCKP⑤
に頼り仕事する羽目になるのです。
ああ、仕事というのは、人工太陽を動かす仕事です。
りんごなどの果物電池を応用して……と専門家が言っても
まるで仕組みはわかっていないのですが。とにかく、毎週
すいようびになると①、極寒の山を登り、雪やら氷やらが
たくさん私の頬っぺたをぶつように③横殴りに吹雪く中、
てんとを張って太陽を動かします。
よるが一定時間経過すると人工太陽が予定通り昇るように
みはります。人工太陽が無事に昇ったことを確認できたら
しゅうりょう、家に戻る⑥だけです。当然ながら、本物の
たいようの明るさにはかなわない⑨ことも知っていますが
かなりの谷底にある私の故郷は、毎日極夜なんじゃないか
っていうくらいに太陽光が届きにくい場所なので、人工の
たいようを使っています。ただ、歴史の浅い故郷の為生み
だされた人工太陽は、依存症⑧などが引き起こされないか
けねんされているようで、こうして見張っているのです。
でも、そんな科学の将来性とともに生まれて生きる故郷の
すまいりー共和国②は、今日も明るいです。
⑩ところで奇跡的な縦読みができました。
是非確認してみてください。
《要約》
高所恐怖症の男はメールで「あの山で人工太陽動かしてね!」という命令が来るといつも「信じられない! なんで高所恐怖症に高所作業させるんですか!」と上司に直接すっ飛んで文句を叫ぶが、光が届きにくい故郷のためにしぶしぶ仕事をする。
だがそんな男が人工太陽を動かすおかげで、故郷は明るい光の下で生活できるのだった。
《補足》
「CKPはなんかのイニシャルから取ってる」
→「頭文字」→「頭の文字」→「縦読み」
という考えに至りました。
(以上)
[編集済]
とろたく(記憶喪失)さん3作目!純粋に頭の中のぞいてみたいです…。ほかの要素を見事に組み込みつつ、縦読みで要素回収するなんて凄すぎます! [編集済]
CKP(⑤)ゲームは、カードを用いた対話ゲームです。
プレイヤーは3チームに分かれ、それぞれ「Create」「Kill」「Propose」の役割を担います。
「Create」となったチームは、与えられた行動を実行する方法を考えます。
「Kill」となったチームは、その行動の後日談や別視点を考え、行動の実行を妨げます。
「Propose」となったチームは、どちらのチームの考えがより納得のいくものであったかを判定します。
勝者となったチームは1ポイントを獲得します。
これを役割を交代しながら行っていき、獲得したポイントの多いチームが最終的な勝者となります。
また、チームではなく個人戦でゲームを行うことも可能です。
その場合、「Create」と「Kill」は1人ずつ、残りの人は「Propose」となります。
「Propose」はそれぞれが判定を行い、得票数の多かった役割を勝者とする、もしくは得票数をそのままポイントとすることが可能です。
「Create」は、カードを用います。
使用するカードには、「状態」カード、「アイテム」カード、「行動」カードがあります。
それぞれのカードを1枚ずつ引き、《「状態」にある人物が「アイテム」を使用し、「行動」を実行する》ことができるように導いてください。
「状態」カードは『依存症(⑧)』『猛暑日』『社畜』等です。
基本的には良くない状態ですが、少数『母』『無敵』等の良い状態のカードもあります。
「アイテム」カードは『たわしコロッケ(⑩)』『パンツねずみ』『えんぴつ電話』等です。
身近な物を2つ組み合わせた名称になっていますので、どのようなアイテムかを自由に想像してください。
「行動」カードは『夏休み最終日に計算ドリルを全て終わらせる』『高所での綱渡り(⑦)を行う』『高額なアクセサリーを購入する』等です。
実行困難な行動が記載されていますが、背景は自由に想像してください。
裏面にプレイの例を記載していますので、実際のプレイの参考にしてください。
[編集済]
誰が想像したでしょうか、まさかゲームルールを創りだす方がいらっしゃるなんて!作り込みがすばらしく、らてらて鯖でも実現できそうな内容…!今後恒例企画になってくれたらと願ってやみません。一応ここに記念碑立てておきます。
((( CKPゲーム発祥の地 )))
[編集済]
「状態」:『寒さに凍える(④)』
「アイテム」:『ペットボトル発電機』
「行動」:『24時間勤務する』
Create「《『寒さに凍える』男が『ペットボトル発電機』を使用して『24時間勤務』》します。
日本よりずっと緯度の高い地域で、スマイリー共和国が建国されました(②)。
ある日、日本に住む男はスマイリー共和国への出張を命じられました。
知らせを見た男は「信じられない!」と叫んだことでしょう。
家族へ知らせるため、あるいは上司へ直談判するために駆け出したかもしれません。
スマイリー共和国はいわゆる発展途上国で、不便や危険も多くあったためです。
とはいえ命令には逆らえないので、男はスマイリー共和国に降り立ちます。
スマイリー共和国は気温が低いので、男は『寒さに凍え』ています。
男の仕事は、彼の会社が発明した『ペットボトル発電機』を使用してスマイリー共和国の全域に電気を通すことです。
『ペットボトル発電機』はその名の通りペットボトルサイズの発電機で、小型ながら多くの電気を生み出すことができます。
一刻も早く日本に帰りたい男は、『24時間勤務』で仕事に当たりました。
どうしても眠くなってしまった時には、共に作業に当たっている仲間にビンタしてもらって(③)目を覚ましました。
その甲斐あって、1週間の予定を3日に短縮して水曜日(①)には日本に戻ってくる(⑥)ことができました。
そうして、男のおかげでスマイリー共和国に電気が通り、夜の世界が明るくなりました。」
Kill「しかし数日後、今回初めて実際に使用された『ペットボトル発電機』に大きな問題があることが発覚しました。
その名の通りペットボトルを使用して作られているので、長く太陽に晒されていると溶けてしまったのです。
人類の英知も、太陽にはかなわなかった(⑨)ということです。」
Propose「今回の行動は実行できたと判断します。
日本より緯度の高いスマイリー共和国では、たとえ屋外に設置していたとしてもそう簡単にペットボトルは溶けないと考えるためです。
また、明言されていないとはいえ、そもそも発電機を屋外に置くことは考えずらいため、今回は「Create」チームの勝利とします。」
ーーーーー
CKPゲームの説明は以上となります。
このゲームは対話ゲームですので、実際にプレイをしながら細かいルールを策定していっても構いません。
また、カードを自作することも可能です。
ぜひ皆さま自身でCKPゲームをより楽しいゲームとしていきましょう!
【End】
[編集済]
☆
男には友がいた。友は1匹の鳥である。友は、凍えるほど寒かった④この世界に春を届けるため、太陽のかけらを取りに行った。そうして世界には無事春が訪れ、友は焼け死んだ。
一生の殆どを共に過ごした友の死に、男は絶望した⑧。そして、狂いそうな気を紛らわすための旅に出た。
男が暫く歩いていると、凍った国に出た。男の国にもたらされた、麗らかな春の日和はどこにも無かった。
なんてことだ!友の持ってきた太陽のかけらでは世界全体を温めることはできなかったのだ。
男は、友の願いを叶えるため 、更に太陽のかけらを持ってくることにした。
長い綱に鈎をつけ、投げて太陽に引っ掛けた。もう片方の綱の端は地面に固定する。長い長い綱渡りが始まった⑦。
足の感覚が無くなるほど歩くと、綱に水星が引っかかっているのが見えた。
降りてみると、水星人と出会った。未知との遭遇に、両者互いを恐れていた。
男が地元名物のCKP⑤――カレーたわしコロッケパン⑩――を差し出してみると、水星人は喜んで食べた。
水星人は、お礼にと金りんごをくれた。男が1口齧ると、今まで感じていた耐え難い暑さがふっと消えた。
男の腕時計には、「水」と書かれていた。今日は水曜日①、水星の守護の力が強まる日である。
「信じられない!」
男は水星人にいたく感謝し、太陽へ急いだ。
男は、太陽まで辿り着いた。身の焦げる臭いがする。さすがの金りんごでも、太陽の熱には敵わないようだ⑨。
男は鞄の中のものを、全て太陽で燃やした。そして空っぽになった鞄に、太陽のかけらをぎゅうぎゅうに詰め込んだ。
男が鞄の中身を全て燃やしたとき、りんごの木がするすると伸びてきた。瞬く間にりんごが膨らみ、色づき、輝いた。
太陽の力をめいっぱい受けて育った無袋金りんごは、水星で貰ったものより一層輝いて見えた。
男は金りんごを幾つかもいで、帰路についた。
途中水星に寄り、水星人に金りんごをあげると、とても喜んで皆で分け合っていた。男には、わざわざ金りんごの冷製スープを作ってくれた。まろやかな甘みと爽やかな酸味を、より引き立てるようにして作られたスープは、CKPと並ぶほど絶品であった。炭化してなお熱を持った体に、冷たいスープと擦り降ろされた果肉が気持ちいい。
気がつくと、男の火傷や炭になってしまった腕や皮膚は、完全に復活していた。男は礼を言って、地球へ急いだ。
地球に戻ってきた⑥男は太陽のかけらをばらまいた。動物たちの瞼が開き、草木は萌え、そよ風は優しく、闇という闇に春の陽射しが降り注がれた。
男は友の亡骸の前に立っていた。「お土産だよ」と言って、亡骸の上で金りんごを握り潰した。金りんごのジュースがかかった友は、ゆっくりと息を吹き返した。
「ああ、びしょびしょだ。暫く飛べないじゃないか」と言いながら、友はぽふぽふと男をビンタする③。
1人と1匹は、再開の喜びに静かに浸っていた。
その後、英雄として祭り上げられた男と友は、民衆からの強い希望もあって、一国の王となった。動物も鳥も人間も、皆が笑顔で暮らせる国となれ。スマイリー共和国の成立である②。
to be continued……
創出神話 建国編 完
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『星の王子様』や『双子の星』を想起させる美しいお空の物語。「太陽のかけら」などのファンタジー表現に心が震えます!優しい作品をありがとうございました! [編集済]
私はハナコ。このとっても広い部屋で家族と一緒に住んでるの。今日の晩ご飯は肉じゃがと揚げパン。私は、晩ご飯の後はいつも、今日あったことをパパとママに話すの。
今日はお兄ちゃんと近所の子たちと一緒に鬼ごっこをして遊んだ。お兄ちゃんたちは私より大きいから、高いところに逃げたりして全然捕まえられないの!ずるい!私も大きくなったらあんなふうになれるのかな…。
そんなことを考えていると、だんだん眠くなってきた。パパとママに「おやすみなさい」と言って、自分の寝床に戻る。明日は何して遊ぼうかな、明日のご飯は何かな…暗闇の中でそんなことを考えながら今日も眠りにつく。
私は幸せだった。
そう、今日までは…
—————————————————————————
「もうイヤ!あんたのことなんてもう知らないんだからっ!!!」
③ビンタを食らわされた俺は、彼女が俺の部屋から出ていくところをただただ呆然と見つめるしかなかった。
俺は工学部に通う大学生。今日は彼女を自分の家に招いたわけなんだが…いやぁ、そんなに言うほどなのか?確かに俺の部屋は綺麗ではない。けど俺にはこの部屋の雑多な感じが落ち着くんだ。しかし初めて家に呼んだ女の子にいきなり暴力を振るわれるとは。
やっと付き合えたというのに、初っ端からこれかぁ。正直もう既にやっていける自信はない。あいつもあんな態度だったし、仕方ないと割り切って別れるか…いやちょっと待て、そういえば、明日は①水曜日か。丁度普通ごみの収集日だ。ちょうどいいや、取りあえず部屋に溜まったゴミでも集めるとするか…
部屋を掃除し始めると、確かに思っていた以上に俺の部屋は汚かった。この環境に慣れていたからだろうか、それとも無意識に見て見ぬふりをしてしまっていたのだろうか。次から次へとゴミが出てくる。飲み残しの入ったペットボトル、コンビニ弁当のゴミの入った袋、洗濯していない靴下。壊れたパソコンの乗った机の下は、たくさんの電気コードが埃をかぶって張りめぐらされている。途中まで読んだ雑誌の下には、⑩食べずのそのままになったコロッケがたわしのように固くなっていた。
次々と出てくるゴミを目の前にして、俺は心が折れてきた。こんな環境でも平気で生きていた自分に我ながらドン引きである。彼女には申し訳ないことをした。後で謝らなきゃ…そのためには、部屋を徹底的に綺麗にするぞ…!
そう意気込んだ瞬間、あるゴミが目に留まった。小さくて黒い塊なのだが、これは何だ?こ
なもの家にあった記憶はないが、もし重要な部品とかなら捨てるわけにもいかない。しばらく考えた俺は、その写真を撮り、知恵袋で質問した。
”部屋でこんなものを見つけました。これが何か分かる方いらっしゃれば教えてください。”
すぐに回答が返ってきた。そしてそれを見た俺は絶望した。
”それはGです。急いで掃除して、何らかの対策を打つことをおすすめします。Gを1匹でも見かけたら、あと100匹はいると思っておいたほうがいいです。”
おいおい待ってくれよ…俺は、そんなヤバい部屋に住んでたっていうのか。どんどん冷や汗が噴き出てくる。
「し……信じられない!!!」
俺は人生最大の大声でそう叫び、財布を掴みとって家を出た。
俺はそこから徹底的にG対策を調べた。
部屋のゴミを全部捨てた俺は覚悟を決め、家具を一旦全て移動させる。そこには俺の今までの怠惰を笑うかのように大量の奴らがいた。俺の知らないところで②スマイリー共和国でも建国していたのではないかと思えるくらい無限に涌いた奴らには、徹底的に④殺虫用凍結スプレーをお見舞いする。⑦電気コードを伝ってどこかに逃げようとしても無駄だ。俺は容赦なく洗剤をぶっかける。
全て始末したと思っても気を緩めてはいけない。すぐに第二の矢を放つ。ドラッグストアで買ってきたバルサンを開封し、煙が出始めたのを確認する。外に出た俺は、第三の矢として粉末型の殺虫剤を部屋の周りに撒く。⑤CKP(Cockroach Killer Powder)と書かれたアメリカ製の殺虫剤は、奴らが食べると⑧依存症を起こしてどんどん食べて、それを奴らのアジトに持ち帰ることで根絶やしにするらしい。万が一薬剤耐性を持っていたとしても、脱水症状を引き起こさせることで息の根を止めるらしい。俺は親の仇のようにCKPを撒きまくる。
—————————————————————————
目が覚めると、世界は明るくなっていた。あれ、私、暗いところで寝てたはずなんだけど…。急に不安になってきた私は、急いでパパとママのところに向かった。
「…パパ?ママ?どこにいるの?」
「ハナコ!早くこっちに来なさい!!!」
連れて行かれるがままに私は走り出す。パパは…お兄ちゃんたちは、どこにいるの?そんなことを聞く間もなく私の目に飛び込んできたのは、動けなくなったパパとお兄ちゃんの姿だった。
「ううっ…寒いよ…」
「パパ!お兄ちゃん!!!早く起きて!!!」
「ハナコ…早く逃げるんだ…」
「ハナコ、パパとお兄ちゃんは気にしないで!!!早く走りなさい!!!」
状況が未だ飲み込めないまま、ママは私を連れ出す。途中で煙のようなものに巻き込まれ、少し意識が朦朧としてきた。なんでこんなことになっているのだろう…
命からがら外に出た。私は状況を頭の中で整理しながら、心を落ち着かせようとする。ママがどこからか持ってきてくれた食べ物を食べる。食べ終わった後、私は恐る恐るママに聞いた。
「ねえ、あれはなんなの?パパは?お兄ちゃんは?みんなは?どうなっちゃったの?」
「…ハナコ。私は、ずっとハナコのこと守ってあげるからね、だから…お願い…」
そう言ったママは、しばらくして動かなくなった。私は何が何だか分からなくなった。頭が理解することを拒んでいる。信じられない、信じたくない。私は弱った身体を動かし、なんとか逃げようと再び走り出した。
—————————————————————————
パッケージに書かれた時間を待ち、部屋に⑥戻ってきた俺は、ドラッグストアの掃除用品の力を借り、徹底的に掃除をする。二度とこの悪夢が甦らないために、そして彼女に許してもらうためにも、俺は変わるんだ…!
「あんた、意外とやればできるんじゃない…。」
「俺、頑張って全部掃除したんだ。昨日は申し訳なかった。だから、俺のこと捨てないでくれ…!」
「ベ、別に…捨てるなんて言ってないし。ていうか、あんたが私のためにここまでしてくれると思ってなかったから、ちょっと見直した。なんていうか…ありがと。」
彼女の眩しい笑顔が俺の心に染み渡る。俺は、この綺麗な笑顔を守るためにも、毎日しっかり掃除をしようと心に決めた。俺は、綺麗に明るくなった部屋に、彼女を招き入れた。
—————————————————————————
パパ、ママ、お兄ちゃん、みんな…
私、もっと一緒にいたかったな…
大好きだよ…
⑨太陽の光が差す中、彼女の乾ききったその身体は動かなくなる。
彼女の身体は一羽の鳥に咥えられ、どこか遠くに飛んで行った。
<終>
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これはすごい。まさかのGにあっと驚きました…!読み物として面白い!「名作しか書けない人」ってHIRO・θ・PENさんのような方のことをいうんでしょうね…!? [編集済]
日の光がまぶしい。もう六月半ばに差し掛かろうというのに、まだ梅雨入りもしていない。公園の前を通ると、雲一つない青空の下で、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。最近の子どもたちがどんな遊びをしているのかが少し気になったが、ゆっくり見ている暇はない。急がなければ、打ち合わせの時間に遅れてしまう。
たまには運動でもしようと思ったのが間違いだった。いつもならタクシーを選ぶのに。
少し走ると、目的地の東亜ホテルが大きく見えてきた。予定の時間まであと三分。何とか間に合いそうだ。
目測を誤ったのか、僕の身体が衰えたのか、ここまで五分もかかってしまった。息を整えホテルに入ると、いつもながら、その素晴らしさに驚かされる。歩き心地の良い白茶色のじゅうたんにえんじ色のソファー、階段や壁は白で統一されていて、吹き抜けになっている二階の天井からは大きなシャンデリアが金色の光を放っている。
「おはようございます、杉野先生。遅刻ですよ」
ホテルの光景に感動していると、横からいたずらっぽい声が聞こえてきた。声のした方向に目を向けるとそこには、スーツを着たさわやかな顔立ちの男が立っていた。
「ああ、おはよう太陽。少し道に迷った。なあ、いつも言っているが、いい加減その呼び方はやめてくれないか」
「わかったよ、直也」
おかしい。いつもなら仕事中だと言って、絶対に断るはずなのに。……なんだか嫌な予感がする。太陽の方を見ると、うつむきがちで、しきりに唇を触っている。
しばらく様子を見ていると、太陽が口を開いた。
「……直也。先に謝っておきたいことがある」
不安げな顔で、太陽がこちらを見てくる。先の話を聞きたいとは思わないが、どうぞと手を前に出した。
「今日来るはずだった新小説の担当編集者の浜口さんだが、急用で来られなくなって代わりの人が来るそうだ」
何だ、そんなことか。どこに問題があるのか分からず、首をかしげた。
「……その代理人が女の人だそうだ」
まずい。そんなことを知ったら妻が怒る。それは避けなければならない。
「今日の打ち合わせは中止だ。君も登美子の性格は知っているだろう。何で他の人を頼まなかったんだ」
「頼んださ。けど、向こうも人が足りてなくて困ってるらしいんだ。仕方ないだろ」
呆れた言い訳だ。自分の交渉ミスを相手のせいにするとは。
「今日はもう帰る。次の打ち合わせは男にしてくれよ」
「待ってくれ。今日だけでいいから、頼む」
手をつかんで呼び止められた。
「しつこいな」
そう言って振り向くと、太陽が気まずそうな顔をしていた。
「なんだよ。何か言いたいことがあるならはっきり言えよ」
太陽の顔が暗くなるのがはっきり見てとれた。
「直也が登美子さんのことを思って、男の編集者を希望していることは知っている。登美子さんが⑧直也依存症だってことも。でもな、そのせいで直也が周りからどう思われているか知っているか」
少し考えて首を振った。
「同性愛者だ。結婚はそのカモフラージュで、いつも編集者を狙っているという噂がある。その証拠に、子どもがいないとまで言われている」
そんな風に思われているなんて知らなかった。第一、周りからの評価なんて気にもしていなかった。誰が何を考えるのかなんて自由で、その思考を止めることは誰にもできない。それらをいちいち気にしていたらキリがないからだ。
――でも、これだけは許せない。
「僕が登美子を愛していないとでも言うのか。子どもを作れない登美子の体質を馬鹿にするのか。そのことで、どれだけ登美子が悲しんだことか」
怒りがふつふつと湧いてくる。そんな僕の感情に気付いたのか、太陽が慌てたように口を開いた。
「落ち着け落ち着け。俺だってムカついてるんだ。でも、とりあえず最後まで聞いてくれ」
「あ、ああ、悪い、感情的になった。話を続けてくれ」
太陽はほっとしたような顔で、次の言葉を発した。
「それで、だ。最近はその噂が広まって、直也の担当になりたくないという男の編集者が増えているそうだ。今回、浜口さんの代わりで男の人が見つからなかったのも、そのせいだろう。この状態を続ければ、いつか担当してくれる男の人がいなくなるかもしれない。今日、この交代を受け入れれば、少しはマシになるかもしれないんだ。だから今日だけでいい、頼む」
なるほど、そんな事態になっていたのか。それでも、受け入れるのはできるだけ避けたい。しかし、担当してくれる男性がいなくなるのは困る。
「わかった。そういうことなら、今日の打ち合わせはその代理人で我慢しよう。さっきは理由も知らずに怒って悪かった」
「まあ、本当の理由を隠そうとした俺も悪かった。ごめんな」
君は謝らなくても良いと言おうと思ったが、水掛け論になりそうなのでやめた。
「代理人は三十分遅れると言っていたから、もうそろそろ来るはずだ。しかしまあ、新小説のタイトルが『暗黒帝国』って、暗すぎないか」
「そんなことはないさ。今回の内容にぴったりのタイトルだと思っているよ」
「その内容が問題なんだよ。何をやっても成功しない少年がチャンスに恵まれるが、最後の最後で邪魔をされて失敗する。そして、その邪魔をしたやつらが世間に認められていく。ほんとに売れるのか、そんな後味の悪い話」
確かにそのあらすじだけを聞けば面白くなさそうだ。
「そういう現実のような理不尽な世界を書きたいと思ったんだ。大丈夫、面白くなるように考えてあるから」
しばらく二人で話していると、後ろから声をかけられた。
「あの、すみません。杉野先生でいらっしゃいますか。」
「ああ、そうだよ」
振り返りながら、落ち着いた声でそう言った。怒っていると思われないように注意を払って。何せ相手は、僕が男性の担当者が来ないことに怒っていると思っているはずだからだ。担当者を委縮させてしまっては、打ち合わせが一方的になって、良い作品ができなくなってしまう。加えて、今回は僕のイメージ払拭もかかっている。
「浜口の代理人の荘田です」
名刺を渡す手を見て、思わず顔を上げた。相手の顔を見て、さらに驚いた。昔の恋人にそっくりなのだ。渡された名刺を確認する。やはりそうだ。
「瑠璃子さんにゃのかい」
焦りで口がうまく回らなかった。隣で太陽が肩を震わせている。彼女は少し笑いながらうなずいた。
「瑠璃子さん、どうして東京にいるんだい。北海道に帰ったはずじゃ……」
今度は噛まないように注意した。彼女が何か言おうとしたその時、彼女のスマホが鳴った。
「ごめんなさい、浜口さんからだわ。出てもいいかしら」
ちょうど良いタイミングだ。僕も太陽と話すことがある。僕がどうぞと言うと、彼女は少し離れた場所に行き、電話に出た。
「おい、太陽。一体どうなってるんだ」
「さあ。というか、瑠璃子さんって、あの瑠璃子さんのことか」
太陽も状況をよく把握していないようだ。
「そうだよ。君も見ただろ、あの手。僕が奪ってしまった、あの手だ」
――瑠璃子さんと付き合っていた頃、僕が瑠璃子さんをバイクの後ろに乗せて走るのが、いつものデート方法だった。目的地も決めず、気の向くままに走り、知らない土地で見たことのないものを見つけることが僕らの楽しみだった。十七年前のあの日も、僕らはいつものように新たな刺激を求めて、見知らぬ土地を走っていた。何もない田舎だったので、今日は何も見つからなさそうだとか、こういう所にこそ意外な発見がありそうだとか、色々なことを話していた。しかし、楽しい時間を過ごしていた僕らに、悪魔がやりを突き立てた。カーブに差し掛かったところで転倒してしまったのだ。幸い、二人とも命に別状はなかったのだが、その事故が原因で瑠璃子さんは左手を失ってしまった。
横目で彼女を見る。彼女は電話の相手と口論しているようだ。まだ⑥戻ってくる様子はなさそうだ。
「太陽、僕はどうすれば良い」
「どうするもこうするも、今日の打ち合わせが終われば、もう彼女と会うことはないだろう。何の問題もないさ」
そうだ、太陽の言うとおりだ。何の問題もない。少し後ろめたさがまとわりつくだろうが、知らない人と打ち合わせをするよりも断然やりやすいではないか。そう思うと、心に余裕ができた。
彼女が電話を終えて戻ってきた。怒っているような、困っているような、よく分からない顔をしている。どう考えても悪い話なのだろうが、聞いてみるしかない。
「どうしたんだい」
彼女が言いにくそうに口を開いた。
「浜口さんが今回の担当から外れて、私が正式な担当者になることが決まったらしいの」
……話がうまくのみ込めない。
「つまり、今日だけでなく次からも荘田さんが打ち合わせに来ると」
太陽が横から質問した。
「そういうことになりました」
「理由は何ですか」
「浜口さんは父親が倒れたので、その介抱で田舎に帰りました。思ったよりも容体が悪く、いつ落ち着くか分からないので、今回は担当から外してもらったそうです。それで、代わってくれる他の男性を探したそうなのですが、見つからなかったそうです。それで仕方なく、私が担当を引き継ぐことになりました。これ以上の担当者の変更はあり得ないそうです。編集長に確認したので、間違いないです」
だんだん話が飲み込めてきた。
「それでは、今回の話は中止」
「待ってくれ、太陽。今回の話がなくなったら、瑠璃子さんはどうなる」
太陽の話をさえぎって、瑠璃子さんに質問を投げかけた。
「クビだと言われました。特にこれと言った業績がない私を雇っているほど余裕はないと」
「そうか。太陽、少し向こうで話せないか」
あからさまに嫌そうな顔をしていたが、僕が歩き出すと付いてきた。
少し離れたところに着くと、すぐさま太陽が怒ったような声で言った。
「おい、直也。どういうつもりだ。まさか彼女が担当になることを受け入れるつもりじゃないだろうな」
「いや、受け入れるつもりだ」
「なぜだ。そんなことをしたらお前が困ることになるのは分かってるだろう」
確かに、今日だけならまだしも、これから数カ月も知らない女性と会うことなど、妻が許すはずないだろう。
「それでも、だ。僕は瑠璃子さんから返しきれないほどのものを奪ったんだ。返しこそすれ、奪うことなど許されるはずがない」
例え⑦高所での綱渡りのような危険を背負うことになろうとも。
「お前の考えは分かった。そこまでの覚悟があるなら、俺はもう何も言わない。ただし、登美子さんには絶対にばれないようにしろよ。説明したところで意味がないからな」
太陽の言う通りだ。妻にこのことが知れたら――たとえ僕が自ら言い出したとしても――執筆が難しくなるだろう。最悪の場合、執筆そのものが中止になる可能性もある。
「ああ、分かってるよ。じゃあ、向こうに戻ろうか」
戻ってからは、話がスムーズに進んだ。事情を説明し、僕と会うのは必要最低限にすることを約束した。執筆中は集中するために、この東亜ホテルにほぼずっといること、普段は太陽を通して連絡をしてほしいこと、僕の部屋に直接連絡するのは緊急時のみにしてほしいことを話した。週末は妻に会うために家に帰っているので、連絡は出来る限り避けてほしいと頼んだ。その後の打ち合わせでは、少し内容についての議論があったが、大きな方針変更はなかった。
それからしばらくは、進捗を確認する連絡が週に一回程度あるだけだった。
打ち合わせの日から一カ月が経とうとしたある日の朝、彼女から初めて、直接電話がかかってきた。相談があるから今日の昼過ぎに会ってほしいとのことだった。二人で会うのは流石にまずいので、太陽も同席であればという条件で承諾した。
約束の時間になり、ロビーに向かうと、ビショビショの傘を持った瑠璃子さんと太陽がいた。どうやら外は大雨のようだ。空は厚い雲に覆われ、まだ昼だというのに夜みたいに暗い。
「とりあえず座ろうか」
僕が近くにあった椅子に座ると、太陽は僕の隣に、瑠璃子さんは正面に座った。
「それで、用件は何ですか」
太陽が不機嫌そうに聞いた。
「今朝ポストを確認したら、こんな手紙が入っていたの」
瑠璃子さんから手紙を受け取った。僕が手紙に書かれた文字を見ると同時に、外で雷が光った。
「そんな。……信じられない!」
「おいおい、太陽。これってまさか……」
横から手紙をのぞき込んだ太陽も、何が起きているのか理解したようだった。
「太陽、瑠璃子さんのそばにいてやってくれ」
「わかった」
その返事を聞いて、僕は駆け出した。
タクシーの中で、瑠璃子さんから受け取った手紙を読み返す。そこには、「直也さんは渡さない。殺してやる」と書かれている。何度見返しても妻の字だ。ホテルを出てから何度も電話をかけているが、つながる様子はない。数日前の週末も楽しく二人で過ごした。一体いつばれたのだろうか。外を見ると、ホテルを出た時よりもさらに雨脚が強まっている。
近所のアパートの前を通り過ぎ、家が見えてきた。
「そこの白い壁の家の前に止めてください」
勘定を済ませてタクシーを降りた。タクシーが行ってしまうと、夜の闇が僕を飲み込んだ。昨日までは普通に見えていたはずの家が、一回り大きくなったように感じる。門前の花壇に植えてある白い朝顔の花が、雨に打たれてしおれている。
玄関の扉を開けた。こんな時間だというのに、灯りの一つもついていない。リビングに行き、電気をつけたが妻はいない。
「登美子」
名前を呼んでみても返事がない。妻の寝室に向かい、ドアを開けた。しかし、ここにも妻はいない。部屋を出ようとして、違和感を覚えた。その正体を探るべく部屋を見渡すと、壁に何本もの針が刺された何かがあった。近づいて確認する。瑠璃子さんの写真だ。後ろで、ガタンという音がした。振り向いたが、誰もいない。ドアを開けて部屋を出ると、恨めしそうな顔で僕をにらむ妻がいた。
「登美子」
「遅かったわね。お夜食は」
低くゆっくりとした口調が、妻の怒りを物語る。
「……」
「どうするんです、お夜食」
こんな時になぜ食事なのかは分からなかったが、とりあえず食べることにした。
妻が食事の準備をし始めた。できるだけ妻の目を見るようにして話しかける。
「なあ登美子。夫婦ってものはな、しょせん他人なんだよ。それぞれに過去もあれば歴史もあるんだ。何もかも自分の思い通りにはならないんだよ」
妻は、僕の話を無視して味噌汁とご飯を並べている。
「それを前提にして、お互いに譲り合うしかないんだ。そのうちに、瑠璃子さんとのことも、ゆっくり話すから」
「おかずなにもありません。冷めたコロッケで我慢してください」
妻は、僕の前に皿を置き、僕と対面するように座った。
「いずれお前が知りたがっていることもちゃんと話すから。新しい出発をするつもりでな、これからは」
妻は下を向いたまま、目を合わせようとはしてくれない。このままではらちが明かないので、ひとまず食べようと料理に目を向けると、とんでもないものが目に飛び込んできた。⑩コロッケ……いや、たわしだ。
「これは……」
妻を見ると、じっとこちらを見ている。
「何のつもりだ。ふざけた真似をするんじゃない」
「どうかしたんですか。ソース、かけてください」
ソースの瓶を机にたたきつけながら、妻が言った。妻が何をしたいのかに気付き、思わず妻をビンタしてしまった。すると、妻が先程よりも強い目で僕をにらんだ。
「あたし、絶対に離婚なんかしませんからね。あなたとあの女が粘着テープみたいにくっついて離れなくなろうが、離婚なんてしませんからね」
妻が声を荒げて言った。
「何を言ってるんだ。お前頭がおかしいんじゃないのか」
言ってしまった。もう引き返せない。
「許さない。絶対あなたを許さないから」
そう言い残して、妻は寝室に引きこもってしまった。
数日後、太陽に呼び出された。用件は当然、妻とのケンカについてだろう。指定されたのは、自宅近くの落ち着いた雰囲気の喫茶店――カウンター席一列とテーブル席が三つあるだけで小さい――で、以前は妻と太陽と三人でよく来ていた。二人で会うだけならホテルの僕の部屋で充分なはずなのに、なぜこの場所なのだろう。状況を把握したら、一緒に家まで付いて来てくれるつもりなのだろうか。
店に入って中を見渡す。太陽はまだ来ていないようだ。店の左手奥のカウンター席に女性客が一人で本を読んでいたが、僕が店に入ってすぐ、慌ててトイレに立った。それ以外に客はいない。話をするにはいい状況だ。他人には聞かれたくない話になるはずなので、できるだけ離れた手前のカウンター席に座る。テーブル席にするか迷ったが、四人席に一人で座るのは気が引けた。
マスターにコーヒーを頼んでいると後ろで、カランカランという音がした。振り向くと、入り口に太陽が立っていた。今日はスーツではなく、私服を着ているようだ。
「おはよう、直也」
太陽が、僕の右隣に座りながら言った。
「ああ、おはよう。こんなところに呼び出して何の用だ」
来る前から気になっていた疑問を投げかける。
「今の状況を確認しておこうと思ってな」
そんなことは知っている。
「そうじゃなくて、なぜこの場所なんだ」
「その理由は後で説明するから。それで、あの後どうなったんだ」
なんだか、はぐらかされている気がする。しかし、今知る必要性も感じられないので、太陽の質問に答えることにした。
――数日前に起きた、妻との出来事を一通り話し終えた。
「かなり怒ってるな、登美子さん」
「そうなんだよ。それで、お互いが落ち着くまで時間をおこうと思ってホテルに戻ったんだ。でも登美子のことを思うと、全然はかどらなくてな。今日君が呼び出してくれて良かったよ。ありがとう」
「まだお礼を言うには早いよ。登美子さんとのことを解決しなきゃ、帰っても同じだろ」
確かにそうだ。話したことで随分と気が楽になったが、まだ何も解決していない。
「それで、実際彼女とはどうなんだよ」
「彼女って、瑠璃子さんのことか。何もないに決まってるだろ。君まで僕を疑うのか」
太陽がそんなことを思うはずはないと分かっているが、つい声が大きくなってしまう。
「そういうわけじゃないさ。一応の事実確認だよ。ほら、場合に寄っちゃ、俺の手助けの意味が無くなるだろ。だから、嘘はつかないでくれよ」
なるほど。手助けするために、もっと現状を詳しく知りたいということか。
「わかった。何でも聞いてくれ」
「じゃあ、遠慮なく。彼女と打ち合わせ以外で会ったことは」
「登美子の手紙を渡された日だけだ」
「登美子さんに隠していることは」
「ないよ。週末に、その週あったことは全部話してるし。あ、でも、登美子とケンカした日、ホテルに帰ってからバーでやけ酒したんだ。記憶がないから、かなり飲んだはずだ。もしかしたら、高い酒とか飲んだかも」
店の奥でガシャンという音がした。トイレから戻って、カウンター席で本を開いていた女性がマスターに頭を下げている。どうやら、ガラスのコップを落としたようだ。
「まあ、それは今回の問題とは関係ないから大丈夫だろう」
太陽が急に立ち上がり、声を大きくした。
「なんだ。どうかしたのか」
「い、いや、何でもない」
太陽が座りながら言った。必要以上に後ろを気にしているようだ。まさか、今の音に驚いたのだろうか。思わず口元が緩んだ。
「じゃあ、最後の質問だ」太陽が口早に言った。「お前は登美子さんを、今も愛してるか」
太陽が真剣な目で見つめてきた。僕も真面目な顔をする。そして、迷わず答えた。
「愛してる。できるだけ早く、前の生活に戻りたい。だから太陽、手を貸してくれ」
――少し間があって、太陽が言った。
「ちゃんと聞いていたかい、登美子さん」
登美子……?
「ちゃんと聞いてたわよ」
太陽の後ろで妻の明るい声がした。そして、太陽の肩から妻の顔が覗いた。驚きで言葉も出ない。
「直也さん。私、全部聞いてたの。直也さんの気持ちが聞けて嬉しい。この前は怒ったりしてごめんね」
「ああ」
いまひとつ状況が理解できなくて、気の抜けた返事が出てしまう。
「何その生返事。私と会えて嬉しくないの」
「まあまあ、登美子さん。まずは状況を説明してあげないと」
――テーブル席に移動し、気持ちが落ち着くまで待ってもらい、今の状況を説明してもらった。
「僕らがケンカした二日後に、太陽が誤解を解こうと登美子に会いに行った。しかし、登美子は太陽の言い分に納得せず、僕の本心を知りたがった。そこで今日、太陽が僕を呼び出し、登美子が聞きたいことを、太陽が聞くことを提案した。質問内容は事前に相談して決め、登美子は僕らの会話を、太陽が付けたマイク越しに聞いた。そして、ことは順調に進み、今に至ると」
正面にいる二人がパチパチと拍手をした。
「要約すると大体そんな感じだな。途中で登美子さんがコップを落としたときは、ばれるんじゃないかと心配したけど」
「だって、直也さんがお金を使い過ぎたかもとか言うから」
二人がこちらを見ている。
「結果的に成功したんだからいいじゃないか。二人とも動きが自然で、全く気付かなかったよ」
苦し紛れに二人を褒めてみる。
「そうだろ。登美子さんがコップを割ったのに気付いてすぐ、登美子さんが直也に見つからないように、それとなく立ったんだ」
「私だって、太陽さんより直也さんが早く来たのを見て、さりげなくトイレに行ったのよ」
二人の言葉に少しずつ引っかかりを覚えたが、話題をそらすことには成功したようだ。
「ところで太陽。何でこの店を選んだんだ」
太陽がにやりと笑って言った。
「それは、ここのマスターが俺たちのことをよく知ってくれてるからさ。お前たちが結婚する前からの付き合いだからな。実は今日、マスターが気を利かせてくれて、この店昼まで貸し切りにしてくれてるんだ」
顔を上げて左を見ると、マスターがコップを拭きながら、こちらを見て微笑んでいる。
「なあ直也。誤解も解けたことだし、今度二人で旅行にでも行ってきたらどうだ」
太陽の隣にいる妻がキラキラと目を輝かせている。これも作戦のうちなのかもしれない。
「仕事はどうするんだよ」
僕も行きたいとは思うが、避けて通れない議論だ。
「それは俺がどうにかしておくさ。もとはと言えば、瑠璃子を代理人に選んだ向こうが悪いんだ。一週間の期限交渉くらい、受け入れてもらわないと」
僕は苦笑いする。こういう時の⑨太陽には誰もかなわないのだ。太陽は、相手の弱いところを突いて自分の言い分を通すのがとてもうまい。恐らく、他にも武器を持っているのだろう。
「じゃあ、その言葉を信じて旅行に行くことにするよ」
「やったー」
妻が子どものようにはしゃいでいる。
「登美子さん、ちょっとだけ直也を借りてもいいか」
「どうぞ」
妻が答えた。急にどうしたのだろう。太陽について行き、店の外に出た。
「どうしたんだよ」
「旅行、どこに行くんだ」
旅行に行くこと自体今決まったのに、まだ考えているはずがない
「これから登美子と決めようと思ってるけど」
「お前、登美子さんと初めて行った旅行を覚えてるか」
忘れるはずがない。
「覚えてるよ。全部が全部っていうわけじゃないけど」
「昔、お前が送ってきたメールを見返してそのときの旅行のプランを復元したんだ。今度の旅行、そのプランで行ってみないか」
「本当に復元したのか」
何だか変な感じがする。
「わざわざ嘘はつかない。鬱陶しいくらい頻繁にメールがきてたから、簡単に復元できたよ。覚えてたって言ったら、登美子さん絶対喜ぶと思うぞ。ほら、日付だって七月三十日で、もうすぐだし」
「それはそうだろうけど」
太陽がこういうことするときは、決まって何か僕に頼みたいことがある。
「僕は何をすればいい」
「ばれたか」
太陽が頭をかいて笑っている。
「まあ、それについてはまた今度連絡するよ。とりあえず戻ろう」
店に戻って、旅行プランを考えたから楽しみにしていてほしいと言うと、妻は嬉しそうにうなずいた。
マスターにお礼を言って、三人で店を出た。妻とケンカした日とは打って変わって、空は快晴だ。
数週間後の週末、僕ら三人はあの喫茶店にいた。今日は一番奥のテーブル席で、妻が僕の左隣、太陽が正面に座っていて、右側のカウンターの中ではマスターがコーヒーを淹れている。今日の太陽はスーツ姿だ。
「旅行、どうだった」
「本当に楽しかったわ。直也さんったら、日付も近いことだし、初めての旅行と同じプランにしようって言いだしたのよ。初々しかったあの頃の気持ちに戻って、再スタートしようって」
自分で言った言葉を聞いて、顔が熱くなってくるのを感じた。
「でも日付は一緒だったけど、曜日が①水曜日にずれてたのは残念だったわ」
「何だ、恥ずかしいのか。顔が赤いぞ」
「まあ、そんなことは置いといて、旅行の話をしよう」
太陽の茶化しを無視して、話を進めた。
「それで。予定通り『⑤CKP』に行ったんだよな」
相手にされていないことに気付いたのか、話を戻した。そう、「Central Kobe Park」だ。あそこでの出来事が一番楽しかった
「そうだ。時間があまりないから、手短に話す」
今日は休日だが、昼からホテルに戻って小説の打ち合わせをしなければならない。
「せっかく期限を二週間も延ばしてもらったのに、今の気分じゃ『暗黒帝国』は書けないから②『スマイリー王国』を書く、とか言うからだぞ。しかも、内容はほとんど決めてないときた」
「決めてないことはないさ。④寒さに凍えていた少年が、時には失敗もするがだんだんと他人に認められていき、最後には国王になって笑顔の絶えない国を作るっていうハッピーエンドだ。旅行で登美子の笑顔を見て、僕が書きたいのはこういう明るい話だって気付いたんだ」
隣で登美子のフフッという声が聞こえた。しかし、太陽は呆れたような顔をした。
「そこらに落ちていそうな話だな。『暗黒帝国』の方がマシだったんじゃないのか」
いくら太陽でも、言っていいことと悪いことがある。
「ねえ」
妻の低い声が聞こえた。
「ま、まあ、時間もないことだし、仕事の話はこのくらいにして、旅行の話に戻ろうか」
太陽が慌てて話を切り替えると、妻の声が明るくなった。
「それでね。直也さんと昼からCKPに行って、カフェでゆっくり話したり、アイスを食べたり、広場で遊ぶ子どもたちを眺めたり、楽しかったわ。前は、私たちもキャッチボールとかバドミントンをしたりして遊んだんだけど、二人ともそんな体力はないから前来たときの思い出を話しながら過ごしたの。それで、最後に夕陽を見ながら恋人峠に登ったの」
「まあ峠と言っても、小さな丘の頂上なんだけどな」
話を取られた妻が、こちらを見ている気がする。
「前のときと同じように、そこでキスをするんだなと思ってたら、いきなり③ビンタされたんだよ。『お返し』とか言って。何の話かと思ってびっくりしたよ」
「でもその後、『やったな』とか言いながらやり返すふりして、私が目をつぶってる間にキスしてきたじゃない」
思い出すと顔がにやけてくる。
「もっと聞いていたいところだが、そろそろ時間だ」
太陽が時計を見ながら言った。
「悪いね、登美子さん。また今度」
店を出て、太陽の車に向かう。外は晴れているにも関わらず雨が降っていて、僕らの仲直りを祝福しているようだ。
「俺の言った通り、うまくいっただろ」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
朝七時。登美子と二人で並んで歩く。十月に入り、散歩するにはちょうどいい気温だ。
「やっと書き終えたのね」
「ああ、次の執筆まではゆっくりできるよ」
「またどこかに旅行に行きましょう。今度は私が考えるから」
「まだ行ったことのないところに行きたいな」
「それはお楽しみ」
家が数百メートル先に見えてきた。
「そういえば、太陽と瑠璃子さんが付き合うことになったらしいよ」
「知ってるわよ。だいぶ前からよ。そうでなきゃ、あの話し合いの場はなかったもの」
「僕らの旅行のあとじゃないのか」
「違うわよ」
「え、だって。……まあ、幸せならいいか」
「そうね」
家に着いた。仲良くゆれている白色の朝顔が、僕らを迎え入れてくれた。
【完】
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緻密に作り込まれたストーリー!そして忠実なたわしコロッケの再現。今回一番のドラマティック作品でした!女の嫉妬は怖いですね〜…
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思い出の中にいた。
友達みんなで小学校の近くにある山に行って、そこにあった洞窟に旗を立てて。
『今日からここは、スマイリー共和国だ!』
なんて言って、国のルールを作って、それから、そこにお菓子を持って来て、鬼ごっこなんかして遊んでいた。
そして、今日も、いつものようにかくれんぼを始める。
鬼ごっこでも、かくれんぼでも、最初の鬼は曜日ごとに別の人がやると、ルールで決めていた。僕は、水曜日の鬼だった。
「もーいいかい?」
「もーいいよ!」
なんて言って、みんなを探し始める。
しばらくして、僕が5,6人ほど見つけて、後誰を見つけていないか、考えている時だった。
誰かの、声が聞こえた。
それは、話し声というよりかは、助けを求めるような、泣き声に近いものだった。
この声はどこから聞こえてくるのだろうか?誰の声だろうか?
周りを見渡すが、声の出処も、姿もわからない。
そしてそのまま、広い山の中に、泣き声だけが反響し続けて……
___________________________________
「……さの、…………麻野!起きろ!」
「!!?」
突然の大声にビクッとなりつつも、夢から意識を戻す。そうだ、今は授業中だった……。
目を開けると、日本史を教える教師が、まさにご立腹といった表情で、僕の方を見ていた。 クスクスといった笑い声も聞こえる。
「いつもいつも寝て。たまには真面目に授業を聞こうという気にはならんのか?」
「すいません……一応、起きようとはしているんですが」
なんて一応謝っておく。単純に教師の話に興味が起きないだけだ。
僕はそういう人間だった。
将来について、積極性のない自分が何かを成し遂げるなんて自信もないし、生まれてきてからの17年間だけでも、自分より全てが優れている人間なんて沢山見てきた。
そうしたら、いつの間にか、この世の何もかもにやる気が無くなって、その場から動けなくなった。言うなれば人生の脱落者のようなものだと思ってしまっている。
ただ、言われた後にすぐに寝るのはばつが悪い。大人しくノートを開ける。
「……ん?」
ノートを開けた僕は、自分の書いた覚えのない文章が書いてあることに気づく。
『話をしませんか?』
と。板書を一切取っていないが故に新品の日本史のノートの左上に1文だけ、そう書かれていたのだ。
誰かのいたずらだろうか?そうだとしても、こんないたずらに意味があるとは思えないが…
消しゴムを取り出し、文章を消す、
だが、そこで驚くことが起こった。
シャープペンシルを使って文字を自分で書いた訳でもないのに、ノートから文字が1画ずつ、まるで人がいて、そこで文字を書いているのかのように【浮かび上がった】のだ。
『ねえ、話を、しませんか?』
と。さっきの文章と全く同じ筆跡で。
僕は恐怖を感じていた。幻覚でも見ているのだろうか?そうでもないと、目の前で起こっているこの現象は説明ができない。
だが、嫌な感じではなかった。好奇心……?違う。どこか、懐かしい感じのする感情、のようなものが湧き上がっていた。
だからこそ、シャープペンシルを持ち直し、こう書いた。
『君は、誰?』
少し長い間をあけて、再び文字が浮かび上がる。
『わからない』
『あなたは?』
と。
僕は、麻野涼真____涼やかで真っ当に育ってほしいという願いのもと親がつけたらしいのだが……そうやって、自分の名前を書いてもよかった。
だけれど、
(……)
僕は、しばし考えた後、
『僕もわからないんだ』
と書いた。
『ふふっ、おかしい。』
『私達、名前の無いもの同士じゃない。』
返事はすぐに返ってきた。
僕もすぐに答える。
『変な関係、だね。』
『そうね。私自身、こうでもしないと話ができないから。』
『そうなのか?』
『私自体、今自分が存在しているのか、していないのかもわからないの。目も口も耳もないし。』
『でも、文字を通して、あなたと話をしているって感覚はあるの。文字を書く手すらも無いんだけどね、ふしぎ』
「ふしぎ、って。」思わず笑みが零れてしまった。近くの席の何人かが【不思議そうに】僕の方を見てきた。
気づけば、恐怖感も違和感も消え去っていた。
僕は彼女に尋ねる。
『こういう関係って言葉にするならなんて呼べばいいんだろう。
ペンフレンドとか?』
彼女が笑ったような気がした。
『ペンフレンドって、なんかよそよそしいじゃん。もうちょっとかっこいい名前にしない?』
かっこいい、か…彼女にも、彼女なりのセンスがあるのだろう。
『かっこいいって言ってもなあ。何か、アルファベットの略称とかなら、かっこいいかな?』
『それ、いいね。えーっと、…私達の関係だから…』
そして、少しして、『そうだ!』と、彼女は【叫んだ】。
『CNKPとか、どうかな?かっこいい?』
『CNKP?Pは、ペンフレンド?』
『そう。Can_Not_Know_Pen-friendでCNKP。英語が合っているとは思わないんだけどね』
『「私達は、お互いの事を知り得ない。そして、自分のことすら。」って、言葉だけ見ればすごくかっこ良く聞こえるでしょ?』
僕が『確かにそうかも』なんて言うと、彼女は無邪気に『やった!』と答えた。(軽やかな筆跡からも、彼女が喜んでいると分かった。)
このようにして、僕と彼女の間で、CNKPと呼ぶ奇妙な関係が作られたのであった。
_________________________________
それから何週間か経ったあの日の昼休みのことである。
彼女との関係も、すっかり日常生活の中に溶け込みつつあった。
ノートを使って話をするだけでなく、時にはマス目を書いてマルバツをしたり、またあるときには問題を作って、ウミガメのスープをして遊んでいた。
数学の問題をこの日本史のノートに書いたときには、『しょうがないなぁ、』なんて言って、一緒に考えてくれた。
それでも、僕が自分のことを話すこともなかったし、彼女も自分のことを話さない。話すことが出来ないのだから。
さて、その日も、僕は昼ごはんを食べながらも、いつものように彼女と話をしていた。
『弁当食べながら話なんてして。ノートに落としても知らないよ?
っていうか何食べてるの?少し私に分けてくれたりとかは…』
『いや、身体もないのに食べれないでしょ…ちなみに、今日の昼ごはんはコロッケだけ。 といっても、このコロッケはただのコロッケじゃないけどね。』
『そうなの?』
疑問に持つ彼女に対して、自慢げにペンを走らせる。
『もちろん。「たわしコロッケ」って言って、朝5時から……』
『えっ、あの朝5時から並ばないと買えない上に限定3個しかないたわしコロッケ、買えたの!?』
『そう!辛かったけどね、買えたんだ…
え?』
彼女は、たわしコロッケを知っている?名前も、実体もない彼女が?
『あ、あれ? …えっ
なんで?
おかしいな、わ、私は……』
彼女は動揺する。ふとして、高いところから落とされたかのように。
もしかしたら、今まで彼女が立っていた場所すらも、すぐに切れてしまいそうな細い綱の上だったのかもしれない。
そんな動揺から、ある考えがよぎった。
『これは、1つの仮説なんだけど』
僕はペンを走らせる。
『君には、もともと、名前があったんじゃないかな。』
彼女の返事はないまま、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
___________________________________
彼女が再び話しかけて来たのは、あれから1週間後の日本史の授業のことだった。
『あれから色々考えたんだけど』
あまりにも唐突で少し驚いたが、声をあげずにはいられた。
『やっぱり私にだって、名前はあったはずなんだよね。』
それから、彼女は語り出す。どこか、懐かしげに昔を語るように。
『親から名前を授かって生まれてきて、成長して、みんなと同じように学校に行って……そういう人生を送ってた気がするんだ。
そんな中で私がこうなったのは、多分…自分が分からなくなったから、なのかな。』
『それは、個性を失ったってこと?』 僕は問いかける。
『個性、とはちょっと違う気がするな。』
『個性って言うのは、別に自分とは関係ない気がするんだ。
それは単に、集団で生きる中で、周りの人と比べて際立ってたり、変わってたりして目立つ部分を誰かが見つけて、そう呼んでるだけなんじゃないかなーと思うの。』
『そうじゃなくて、私達の自分っていうのを形成するのは、もっと……名前だったりとか、職業だったりとか、地位とか。 そういう、周りの中で「どうあるか」、「どう生きているか」を表す、名札みたいなものなんじゃないかな』
周りの中でどうあるか。
それは、僕が諦めて、考えるのをやめたことでもあった。自分がどうせ何をしても周りの迷惑にしかならないと思って、周りから距離を置いてきた自分にとって、その言葉はビンタをされたかのように強烈な威力を持っていた。
『首から下げている名札をお互いが見ることで存在が認められるってことか。僕は、自分のことを他人がどう見てるか、考えるだけでも怖いや____自分ですら自分のことが分かってないのに』
『そうだね。まぁ、自身がどういう人間だと自分がどう思っていてもで、結局周りが見るのは周りにとっての自分なんだけど。
周りがどうとか、私も怖かったんだと思うよ。
自分がどう生きたいのかと、どう生きなければいけないのかの間に挟まれたから私は、「私」っていう名札をどこかに落としちゃったんじゃないかな。
そしたら、皆が私のことを見つけられなくなっちゃったんだ。』
心なしか、彼女の字が震えているように見えた。
『私が辛かったのはね、』
『そうやって考えてく中で、君がちょっと羨ましくなっちゃったことだよ。
君も自分を見失ったはずなのにどうして?って思っちゃったんだ。そんな自分が………ごめんね、勝手に消えちゃったのは私なのに。君は私と違って、ちゃんと今を生きてるのに』
『……そんなかっこいいもんじゃないよ。君がこうなったのは、そんな状況の中で生きようとして苦しんだからでしょ。僕よりも立派だよ』
彼女と話していて、僕と彼女の違いに気付かされた。僕は、周りの中にいるのが怖くなって、まっとうに生きることを諦めただけなのだと。
そうやって逃げた自分を正当化するために、自分はこういう人間なんだと言い聞かせた。なりたい自分が、したい生き方が元から無いから。立ち向かおうとしなかったから……
僕は自分を見失ったわけではない。自分から、もともとあったかもしれない自分の可能性から逃げただけなのだ。
だが、それでも。
『でも、僕は、君と出会って話をして、CNKPっていうよくわからない関係を持って、ちょっとだけ、これからを、君と生きてみたいと思えたんだ。生きる意味が出来たかもしれないと希望を持てるくらいに、楽しかったんだ。』
心からの告白だった。よもや日本史の授業中に、愛の告白をするとは思わなかったが。
それでも、僕は……。
『君を、必ず見つけてみせる。』
彼女の返事が来たのは、それからしばらくしてからだった。
『ありがとう、嬉しい。
でも……私はまだ、怖いみたい。ごめん。』
何が、と言っても返事は無いまま、一日が終わった。
___________________________________
また、夢の中にいた。
山の中で泣き声だけが響き続けている。
「だれか、いるの。」
と返事をしても、返事が返ってこない。どこにいるのかすらもわからない。
そんな時だった。
太陽を覆っていた雲が少しだけ晴れた。
余りの眩しさに思わず顔を覆う。太陽は辺りを照らし、辺り全てが明るくなった。
そして、その光が、自分の目の前にある木の後ろ側に人がうずくまっているような影を写した。
まるで、僕の呼びかけに太陽が答えてくれたかのようで。
太陽には敵わないな、なんて思いつつ、急いで木のある方に近づく。
そこには、1人の少女がいた。
「君は、確か……」
ここまで口にして、自分が少女の名前を覚えていないことに気づく。少女が私に気づき、涙ぐんだ目をこっちに向けてくる。僕は改めて、問い直す。
「ねえ、どうして、泣いているの?」
少女は泣き止まないまま、返事をする。
「お父さんも、お母さんも、いなくなっちゃったの……」
少女が手で涙を拭う。少女の右手には、まだ新しい火傷が出来ていた。
「やだよ、ひとりはやだよ……わたしは、どうしたらいいのかな…」
そう言って、少女は泣き続ける。
僕は、この少女がこのかくれんぼを始めるまで泣かなかったのは、きっと皆と一緒にいたからなんだと。
そして、かくれんぼで初めて1人きりになって、自らの孤独を意識してしまったのだと気づいた。
そして。それに気づくと同時に、僕は反射的に彼女の腕を掴んだ。
「えっ…」
「僕が、君のそばにいるよ。
何があってもこのかくれんぼみたいに、見つけてあげる。だから、泣かないで。」
僕の言葉に少女は一瞬きょとんとする。だが、言葉の意味がわかったのか、すぐに驚いたような表情になる。そして、涙を拭くと、
「やくそく、ね!」
と、クシャッとした笑顔を見せながら、小指を出した。
___________________________________
目が覚める。
自分の横の目覚まし時計には、【10/31(Wed)AM 04:01】と映っている。随分早く起きたようだ。
(水曜日、か。)
僕は急いで自分の本棚に向かい、本を1冊ずつ取り出す。
自分の行動に合理性はなかった。
ただ、この前彼女に言ったことと、夢の中で少女と交わした約束が、どこかで繋がって見えたから……そんな理由といえるのかわからないものがもととなった、衝動的な行動だった。
本棚の奥から1冊の古ぼけた日記を見つけると、1ページずつ、内容を見つつ、めくっていく。
そして、その手は、写真の貼ってあるページで止まる。
それは小学生の頃に秘密基地を建てた時の、【全員の】集合写真で。
だからこそ、そこには確かに、少女が写っていたのだ。
あの夢が現実だった事に驚きながら、『スマイリー共和国全員集合!』とタイトルが打たれたそれを一文字ずつ指で追っていく。
『この国の目的!』
…
『秘密基地の場所』
…
『国民一覧』
(……!!!!!!!!)
あまりの衝撃に止まった指は、1人の女性の名前を指していた。
「信じられない……!」
忘れていたその名前に、懐かしさを覚える。
そして、その懐かしさは、
【彼女】が初めて話しかけてきた時に覚えた感情と、まったく、同じだったのだ。
意識すると同時に、記憶が蘇る。
僕が彼女と、あれから……高校生になっても、同じ学校で、同じクラスだったこと。高校生になっても、手の火傷の痕とか、内気な性格で避けられてきたこと。そして、僕がそれに対して、何も出来なかったことを
。
「……行かないと。」
僕はすぐに制服に着替えると、玄関のドアを開けた。
冬に近づくにつれて冷たさを増しつつある空気が肌に触れ、寒さを覚える。寒さに足が震える。
震えている理由は、寒さだけか?
心の声が囁く。
彼女に受け入れて貰えないかもしれないと、恐れているのではないか?
「……うるさい」
このままの関係を続けていた方が、幸せなのでは無いか?
「うるさい、僕は見つけると約束したんだ。」
心の声は聞こえなくなった。
前へと、学校へと、1歩ずつ、急ぎ足で進んでいった。
___________________________________
教室のドアを開ける。
まだ日も昇っていない教室には、勿論誰もいない。
いや……きっと。
僕は【声をかける】。
「いるんだよね、そこに。」
つまるところ、彼女はきっと、ノートに宿っている訳では無いということだ。 僕らが気づいていないだけ、彼女を認識することが出来ないだけで、彼女はいつも、あの教室の中にいたんじゃないか。
返事は無いが、僕は確信をもって、声を出し続ける。
「僕は、思い出したんだ、君の事を。君との約束も、思い出も。
ねえ、君の名前は……」
『やめて!』
僕の目の前で、彼女が叫ぶ声だけが【聞こえた】。
『怖いの。
また私が私という名札を見つけても、きっと本当の意味で、私は私がわからないままになる。皆と上手くやっていけるとも思えない。
また私が消えちゃったら?あなたに話しかけに行くとも限らないんだよ?
この関係を続けた方が、きっと、幸せなんじゃないかって、だから……』
「消えない。僕がずっと君と一緒にいるから。」
『……っ』
彼女が息を呑む。僕は続ける。
「この前も、…ずっと前も言ったけど、 僕は君と生きたいんだ。
そして、何度君が自分を見失いかけそうになっても、僕が君を見つけて、そばにいてあげたい。君を守ってあげたい。救ってあげたい。
全部僕の願望だけどさ。それが僕にとっての生きるってことだって分かったんだ。」
「僕だってこんな人間だからさ。人生にとって最良のアドバイスとか、周りの中でどう生きればいいとか、わからないけど。 確かに、人は変われない生き物だと思うよ。君だって、僕だって。
でも、自分っていうのが、他人に認識される事によって成り立つものなら、僕が君を知って、君が僕を知ってさ。そうやって、お互いで助け合えたら。そういう関係になれたら、きっと僕らは、この世界に【生きている】って、言えるんじゃないかな?」
朝日が昇る。教室が少しずつ、陽光で照らされていく。
彼女はすすり泣くような声を出しながら、言う。
『出来るの?私でも……生きられる?
そっか……君がいてくれるんだもんね。
一緒に、生きてみようか。じゃあ。』
そんな声を聞いて、僕は【彼女の名前を呼んだ】。
彼女はこの学校の制服を着て、僕の目の前で、涙を流しながら立っていた。
「……みいつけた、なんてね。」
「あの時の約束から、ずいぶんと時間が経ったね。 思い出したよ。私の名前も、君の名前も。本当にありがとう。」
「こっちこそ。」
「でも、CNKPじゃ無くなっちゃったね。」
「そういえば、そうか。
えーと……Cannot KnowがCan Knowになって、CKPかな?」
「ペンフレンドなのかも分からないけどね、それでいいや。
あーあ、CNKPって、かっこよかったのにな」
彼女が冗談めかして笑う。
人はそう簡単には変われない。
けれども、僕らの関係は少なくとも、
『お互いを知らないし、知ることの出来ないもの(CNKP)』から、
『お互いを認識して生きていくもの(CKP)』に変わったのだ。
悪く言えば、お互いを依存しないと、生きていけないのかもしれない。
依存性と言っても過言でもないかもしれない。
けれども、僕らはこういう生き方をしていく。
僕らの世界は、まさしくこの時から始まったのだ。
_______________
[編集済]
時々、「この人の心は宇宙よりも広いんじゃないか」と思わせる人に出会うことがあります。この作品の読後感もそうでした。ひたすらに深く深く心の底を見せられるような感覚!シャーレの浅さのもっぷさんは圧倒されてしまいました…!
[編集済]
[正解][良い質問]
シェフの皆様、素敵な作品を本当にありがとうございました!!!
投票会場でお待ちしております(^ ^)
「こ、この儂が…!?信じられん…」
執筆から戻り、ブラウザを見た爺は激怒した。
第三回優勝者「たわしコロッケ氏」出題の
「第四回正解を創るウミガメ」の自信作を作り出さんとはや二日。
ようやく納得のいく解説を産み出したというのにその時刻は
水曜日を越えて木曜日たる夜中の12時41分。期日を完全にすぎていたからである。
そもそもこの企画のパイオニアであるところの爺。
この企画が四回に渡って続く記念すべきこの大会。是非とも優勝せんと意気込んだのだが…時刻は待ってくれなかったのである。
季節も十一月。寒暖の差が激しくなるこの季節。
年寄りには特にきつい寒さに震えながら。
眠るわけにはいかぬと嫁にビンタされ睡魔を退けながら。
珈琲依存症になるんじゃないか…?と思うほどがぶ飲みしながら。
産み出した最高の自信作ここに無駄となり果てた。
普通なら愕然と机に突っ伏し落ち込むのだろうがしかし。
しかしである。
「ふふ…ふふふふふ…儂が…諦めるとでも?」
爺は往生際が悪かった。そして幸か不幸か水平思考の持ち主だったのである。
「手はある!!」
落ち込みから一転深夜の民家にてそう言いながら爺はハッキングアプリ「cheat knocking program」(略称 CKP)を起動。
ラテシンサイト「ラテラテ鯖」に不正アクセスを行い始めた。
狙いはサーバーの位置情報を日本から日付変更線をまたいだ先にある赤道直下の小国「スマイリー共和国」に変更をすること。
そうすれば日時は一日ずれることになり
「儂はどうどうと文章を投稿できるのじゃからな!!」
普通ならラテラテ鯖の防御システム「ウミガメのスープ」
によって易々と退けられてしまうのだがこの爺。
年の功を持って易々とセキュリティというセキュリティを回避する!!
後にペンタゴンの元最高情報処理責任者をして
「高所での綱渡り…に等しい」と言わしめる最高の電子戦がここに始まった。
「届けぇ!!儂の作品投稿を邪魔するな小僧!!」
動機が最低なことを除けばになるが。
数時間後。
時刻は朝の4時。
爺はパソコンの前に満足げに突っ伏していた。
画面には「位置情報 スマイリー共和国 日付 10/31」の文字。
内部の時計が操作されたことによりブラウザの電子世界は改編。
ラテラテ鯖は暗い夜の世界から明るい昼の世界へ変わっいたた。
そう。爺は…勝利したのであった…。
「いくら日時が違反しているといっても…この太陽にはかなわんじゃろうて…日付はまごうことなき31なんじゃからな…mission complete…」
END
「それでお爺さん。投稿できましたか?」
「ダメなものはダメじゃって…」
「世の中甘くないですねぇ…」
[編集済]
こんなのずるいです!(笑) 堂々と締め切りを破ってくる大御所感。チャーミングな語り口と説得力のある「CKP」の使い方…とても面白く読ませていただきました!しかし、締め切りは守りましょう……! [編集済]
時間内に創り出してくださった方には大変申し訳ございませんが、
作品の内容を配慮してここまで有効といたします。
これ以降に投稿された作品は【投票対象外】となりますので、エキシビションとしてお楽しみください。
↓↓[編集済]
男「・・・嘘だろ・・・信じられない!」
そう叫びながら一目散に駆け出した。亡命のために。
事の経緯を説明しよう
男はごく普通の保険会社のセールスマンをしている
「最近悪い事ばかりだ・・・」
浮気がばれ、妻のたわしコロッケとビンタを食らってから、いいことは一つもない。
サーカス団に所属している浮気相手には既婚者だとばれ、高所での綱渡りをさせられそうになり、縁を切ってからは仕事に励もうと残業、エナジードリンクの飲みすぎで倒れ、カフェイン依存症から脱してみれば、本日、昼は脱水症状を起こすほどの日照りを受け、ついさっきまで寒さに凍えながら家々を訪ね歩いていると、【スマイリー共和国】なる表札を発見し、興味にそそられインターホンを押してから戻ればよかったと後悔した。ただの平凡な(何の成果もあげられない)水曜日になると思ったからだ。
ピンポーン
「留守か?にしては家に明かりが点いているし・・・アッ今中に人影が!」
聞き逃したのではともう一度押してみる。
ピンポーン
「アッレ、おかしいなー」
何度押しても家主は出てこない。こんな時は何かしら見落としている可能性が多い。そこで、玄関先をくまなく見渡すと、表札の側面にこう彫られていた
『御用の方はインターホンを鳴らしてお入りください』
「ってことは入ってもいいよな・・・」
玄関扉は開錠された状態だった。ここで不審に思うべきだったのだ。
中に入り、「夜分遅くに・・・」そう男が言いかけると、中から出てきた翁のような人物(以降翁と呼ぶ)が出てきて一言
「パスポートを提示せんか。ほれ、早ぅ。」
!!!ドユウコトダ???男の思考が停止し、微動だせぬ間にまた翁が
「パスポートの提示ができぬなら、不法入国者として、収監せざるを得んがよいな!?」
男「いや・・・それは困りますが・・・・・・不法入国というのは?」
男の質問に目もくれず、翁は
「うるさい!囚人にワシと話す権利はない。皆の者、この者を不法入国者コード【CKP】として、地下牢に収監せい!」
へッ!?・・・地下牢に・・・収監・・・
男の思考回路がショートしている間に、家の奥から出てきた黒服の男たちによって男はなされるがままに地下牢へと放り込まれた。
あまりの出来事につかれた男は、もう何でもいいや・・・とすぐさま寝入ってしまった。
翌日
目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。どうやら寝ている間に別の部屋へ移動させられたようだ。
昨日のことを思い返して、ハタと思う。共和国?独裁国家の間違いでは・・・?
まあいい。某金王国と揶揄される国も独裁国家だが、共和国を名乗っているのだから。
ところでここは本当に地下牢なのか?
壁中に変な箱が取り付けられ、部屋の隅々には不自然に家具が配置されている。
周囲を調べようとすると、天井に付いていたスピーカーから次のようなアナウンスが流れた。
「不法入国者コード【CKP】のあなたがこの地下牢を出るためには、この部屋から、脱出していただく必要があります。」
「この部屋の脱出における重要な要素は、【Create】→【解錠】→【Path】の三つの順番で正しく出口へ突き進むことです。一つでも間違えてはなりません。それではお気をつけて。」
出口?ってことはこの部屋の出口は入り口の扉ではないということか。
ミスったらその時はその時だ。と、仕方なく脱出のために一つ一つ壁の箱の中で開くものを探して開け、電源を入れてパスワードを入力し、アイテムを得て次の箱を探し、を繰り返して何とか出ることができた。
ここは多分あの翁の家の庭だろう。ふと玄関から出ようとして、ある文字が目に入った。
国境と門と翁の家の周囲を囲む塀に書かれており、門の閂には赤黒い字でこう書かれていた。
『亡命は死罪、未遂でも終身刑』
おいおい嘘だろ。早く出ねば!そう思ったのもつかの間、男の後頭部にかたくて冷たい筒状のものが突き付けられた。
恐る恐る振り返ると、翁が冷徹に銃を構え、「どうかしたか」と図太い声で聴いてきた。
「閂に何か書いてあるなと思いまして・・・」何とかごまかし、事なきを得た。
翁「ついてこい」
翁の後ろを少しずつ距離があく用についていき、家の裏へ廻るすきに、男は逃げだした。
一目散に玄関先の門の閂を無理やりへし折って門の外に飛び出す。これで撒けたはずだ。
そう思い、何とか会社まで逃げてこられた。
が、会社の警備員たちのやり取りをたまたま聞いてしまい、男はパニック状態に陥った。
そう、【CKP】の言葉が聞こえたのだ。
「・・・嘘だろ・・・信じられない!」そう叫び、一目散に逃げだした。
もうどれだけ走ったかわからない。気が付いてみるとがけから転落していた。
崖の上にはあの家で見た翁と入かたちが堂々とこちらを眺めている。
だんだん意識がもうろうとしてきて、視界も白くなってきた。こんな奴らにもかかわらず後光が差しているように見えてしまっている。
もうだめなのか・・・これ以上は持ちそうにない・・・なんて死にざまなんだろう・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ところで読者は御築きだろうか。
この男はだれにも知られずにあることを成し遂げ、世界を少しだけ明るくしたということを。
この男がへし折った閂は、翁(過激派の極右翼主義者)がスマイリー共和国(帝国会軍備品格納庫)に隠していた核弾頭の安全装置の解除スイッチであった。
このスイッチは、二つに折ることで作動するのだ。
つまり、宇宙から見た地球では、ある島国の一角が明るく輝いているのだった。
Fin
もっぷさん、登校許可ありがとうございました!!!!!
[編集済]
導入の日常感と、読後の非日常感のギャップがすごい!「お気づきだろうか」でぞわぞわしました。
せっかくのいい作品が投票得られなかったのもったいないです!次回は締め切り厳守でいきましょう〜(´∀`*)
[編集済]
参加者一覧 22人(クリックすると質問が絞れます)
お待ちかねの結果発表のお時間です!!
今回も沢山の独創的な作品が生まれました。
ご参加いただきどうもありがとうございます☆
最難関要素賞
『スマイリー共和国が作られる』(5票)👑
『略称「CKP」は重要』(5票)👑
『水曜日』(2票)
『たわしコロッケ』(2票)
『男はビンタされる』(1票)
『高所での綱渡り』(1票)
ということで、
・ぎんがけいさん『スマイリー共和国が作られる』
・HIRO・θ・PENさん『略称「CKP」は重要』
が同率一位となりました!おめでとうございます!
今回もなかなかパンチが効いた要素があり、組み込むのが難しかったのではないでしょうか。
スマイリー共和国ってなに!?CKPってなに!?という参加者の声が聞こえてくるようでした…
(正直主催者も、要素10でちょうどよかったかも…と安堵したほどです)
逆に、クセの強い要素がいい仕事をしてくれたという意見もあり、名作を生み出すスパイスになってくれたことは間違いないと思います。
最優秀作品賞
「名前のない僕ら」(作・ごがつあめ涼花)(9票)👑
「夜が明けたら」(作・藤井)(5票)
「Good bye」(作・HIRO・θ・PEN)(5票)
「折り返し、繰り返し」(作・とろたく(記憶喪失))(4票)
「CKPゲームの遊び方」(作・ハシバミ)(4票)
「一週間フルコース」(作・夜船)(3票)
「制裁は避けられない」(作・ぎんがけい)(3票)
「走れメロス ~偉大なるあのお方様に最大の敬意と謝罪を~」(作・キャノー)(2票)
「自分探しの旅に出たくもなるわ」(作・ちるこ)(2票)
「たわしコロッケ物語」(作・seaza)(1票)
「愚者礼讃」(作・アストロラ〜ベ)(1票)
「お笑い怪獣はかく語りき」(作・とろたく(記憶喪失))(1票)
「私と先輩がだべるだけの話」(作・葛原)(1票)
「日の出」(作・ハシバミ)(1票)
「世界を変えるために」(作・きっとくりす)(1票)
「朝顔夫人」(作・ZERO)(1票)
最後に滑り込んだ、ごがつあめ涼花さんの「名前のない僕ら」が多くの人々の心を惹きつけ、見事最優秀作品賞となりました!
おめでとうございます!!
そして……
シェチュ王
ごがつあめ涼花さん(9票)👑
2位以下をひき離し、圧倒的人気を集めたごがつあめ涼花さん、4代目シェチュ王となりました!!
おめでとうございます!!!
ちなみに2位は5票獲得の、藤井さん、HIRO・θ・PENさん、とろたく(記憶喪失)さん、ハシバミさん。4名同率となりました!
今回大会は、従来の枠にとらわれない面白い作品がたくさん生まれた印象があります。
次回も楽しみですね〜!
ごがつあめ涼花さんにシェチュ王の座をお譲りして、第4回正解を創りだすウミガメを締めさせていただきます!
しかしながら、プロフィールを拝見しまして、ごがつあめ涼花さんはこれから大事なシーズンなのでは!?長期にわたる「創りだす」の開催は負担になってしまうのでは……と心配しております(´・_・`)
ラテシン時代は、前回主催者が代理開催することもあったようですし、もし開催大変そうでしたらぜひぜひ協力させてくださいね!!
皆様には拙い進行でご迷惑をおかけしましたが、主催楽しかったです!ありがとうございました!
次回も楽しんで創りだしましょう〜♪
遅れました、もっぷさんさん、主催感謝です。そして、ごがつあめ涼花さん優勝おめでとうございます。私は最難関要素賞をいただいたので投票してくださった方々に感謝します。私の作品もつたないながら3票いただきました。こちらもありがとうございます。[18年11月05日 13:17]
おうおう、お疲れさまじゃ~大変じゃったろうな…その手間には敬意を払うぞい!!いやーやはり二日の付け焼き刃では奥行きが出ぬな…皆の見事なスープに脱帽じゃよ。次回は五月雨殿か。なかなか面白くなりそうじゃな…スープを用意したすべてのシェフと大会運営者殿に感謝を込めて…ありがとうのぅ!![18年11月05日 00:00]
もっぷさん、出題&コメントありがとうございます。ごがつあめさん、シュチュ王おめでとうございます。そして拙作に投票&コメントをくださった皆様、ありがとうございます! CKPゲームは解説形式で遊ぼうとした結果の思いつきでしたが、好評のようで嬉しかったです。猫チョコとの差別化に苦労しました(笑)これらてらて鯖でやろうとしたらどうなるんだろう……? 企画化を思いついた方がいたら是非やってください。らてらて鯖内に限り著作権フリーです!![編集済] [18年11月04日 23:35]
もっぷさん出題お疲れさまでした。コメント嬉しい、ありがとうございます! そして優勝したごがつあめさんに一票入れてもらってるから、実質わたしも同列一位。みなさんお疲れさまでした![18年11月04日 22:19]
もっぷさんお疲れ様です。作品コメントも丁寧に一つ一つしてくださってありがとうございました。 ごがつあめ涼花さんおめでとうございます。きっと一位なんだろうなあと思ったごがつあめさん含め、入れなかったのが申し訳ないほど、めちゃくちゃすばらしい作品ばかりでした。 元ネタ拝見してきました。そしてZEROさんの作品を見て滅茶苦茶納得しました。ありがとうございます。[編集済] [18年11月04日 21:30]
お疲れ様です>θ<ごがつあめ涼花さん、4代目シェチュ王襲名おめでとうございます!やはりダントツでしたね!⦿θ⦿拙作に投票してくださった方、そしてMCの3代目シェチュ王もっぷさんも、ありがとうございました![18年11月04日 21:15]
大変お待たせしましたが、結果発表です!ごがつあめ涼花さんが4代目シェチュ王に輝きました!!おめでとうございます🎊 ご参加いただいた皆様、思いの丈や制作秘話などどうぞお聞かせください(^^)[18年11月04日 21:09]
茶飲みご隠居さん、ご参加ありがとうございます!「締切り」を活かした作品であることを鑑み、茶飲みご隠居さんの投稿までを投票対象とさせていただきます。ただし、締切厳守で頑張ってくださった方もいらっしゃいますので、申し訳ないのですが茶飲みご隠居さんの投票権は1票とさせていただきます。皆さまご理解のほどお願いいたします(>_<)[18年11月01日 01:45]
投稿ご参加いただいた皆様、ほんとうにお疲れ様でした。(ごがつあめ涼花さん、鮮やかな滑り込みありがとうございました!) 投票会場設営までしばしお待ちくださいませ〜[18年11月01日 00:07]
茶飲みご隠居さん、この企画も連綿と受け継がれ第4回となりました。期間は残り少ないのですが、パイオニアであられる茶飲みご隠居さんにもぜひご参加いただけると嬉しいです![18年10月28日 23:03]
きっとくりすさん、大いなる一歩どうもありがとうございました。投稿していただいて大変嬉しいです! どの投稿も素敵すぎて、主催者なのに早く感想を書きたくてうずうずしております…[18年10月28日 22:59]
作品投稿してくださった皆さま、どうもありがとうございます!どの作品もハイクオリティで読み応えがありますね…!すでに2作品投稿してくださっている方もいて嬉しいです(^^) 投稿フェーズは残り一週間、まだまだ投稿受け付けておりますよ〜[18年10月24日 23:23]
キャノーさん、トップバッターありがとうございました!全然気にされる必要ないですよ、分割しての投稿もOKなんです。ご丁寧にまとめていただいてありがとうございます![18年10月20日 19:13]
CKPなんてあれしか思い浮かばないじゃないか・・・。 キャノーさん 一回適当に文字を打って、そのあと編集して長文にするをチェックにすれば全部まとめて出せますよ。ご参考までに。[編集済] [18年10月20日 16:08]
要素決定しました!10個とはいえ、なかなかクセのある要素達が揃いましたね(`・ω・´) 皆さまのお力で「世界を明るく」してくださいね!ステキな作品お待ちしております〜[18年10月20日 07:48]
②スマイリー共和国が作られる
③男はビンタされる
④寒さに凍える
⑤略称「CKP」は重要
⑥戻ってくる
⑦高所での綱渡り
⑧依存症
⑨太陽にはかなわない
⑩たわしコロッケ
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
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Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!