いつもは通らない道を通った女。
その道中、一冊の本を見つけた女は、自分の願いが叶うと思った。
一体なぜ?
ーーーーーーーーーー
正解を創りだすウミガメ最終回の司会進行を務めさせて頂きます、布袋ナイと申します!
さて、早速ですがルール説明に参ります!
過去の創りだすについては、タグを参照下さい!
☆☆要素募集フェーズ☆☆
[1/13(土)21:00頃~]
要素は1人4個まで投稿可能です。
要素が40個集まるか、24時間経った時点で募集を終了し、その中からランダムに10個選出したものを要素として使用します。
☆☆投稿フェーズ☆☆
[要素選出終了後〜1/28(日) 23:59頃]
選出された要素中10〜7個を使用して問題文に対する解説を書いて下さい。
タイトルと解説を質問欄に連続で投稿し、最後の行には必ず完了の旨を記載して下さい。
☆☆感想フェーズ☆☆
[投稿フェーズ終了後〜2/4(日) 23:59]
投稿フェーズ後の質問欄にて好きな作品に対する感想を投下して下さい!
感想は、「好きです!」など、一言だけでも大丈夫です!
また感想フェーズでの作品投稿も可としますが、その際にはタイトルも含めて1コメント分にまとめた文章を、
─────────────────────────────
このように書いてください。
─────────────────────────────
詳しいルールについてはこちらを参照して下さい!
https://late-late.jp/secret/show/2wgwozfnBGIHYj6XOBB5pAp1m5T6aQIf2Ii8bKsEboA.
今回タイトルに記載した通り、公式に開催される正解を創りだすウミガメは、今回が最終回となります。
その為、普段とはルールが変更されている部分がありますので、ご注意ください!
皆様のご参加をお待ちしております!
らてらてでは52回開催された正解を創りだすウミガメ、公式では最終回です!3/11まで投稿フェーズ中!
忘れられない歌がありますか?
忘れられない歌…思い出の歌なのか、好きな歌なのか、インパクトある歌なのか…きっと一曲は、誰もが思い浮かぶ歌があるのではないでしょうか…
女はその本を見つけはしたものの、読むことはしませんでしたか?
見つけたけれども読んでない本。所謂「積読」ってやつでしょうか。私の本棚にも、1冊、2冊、3冊、4冊…
目的地が重要ですか?
どこを目指しているのか…いつにおいてもとても重要ですね。なんせ、一度迷うと辿り着けなくなることすらありますから…飛行機の搭乗口とか。
女は外国人ですか。
外国人の女の人。パツキンチャンネーみたいなことですね。ザギンでシースー、ギロッポンでグーフー…言葉遊びが捗りそうです。
願いに「1」という数字は関係しますか?
1、良い数字ですね。最初の数字、最小の数字、頂点の数字…どんな1かで意味も大きく変わるのです。
エナジーが湧いてきますか?
energy…
1a.精力、気力、元気、力、勢い
1b.[しばしば複数形で] (人の)活動力、行動力、能力
2【物理学】 エネルギー、勢力
という意味のようです。
でも、アルカディオさんは多分エナドリから連れてきた語彙ですね?(偏見)
かめはめ波が撃てそうですか?
撃ちたいですよね。かーめーはーめー…波ぁああぁあああ!!
(ノ ゚Д゚)〇=͟͟͞͞ =͟͟͞͞
盆と正月が一緒に来ましたか?
盆と正月。一遍、一遍に来てみて欲しいものですね。超長期休暇と引き換えに前後は激務になりそうですが。
3本重ねても折れますか?
| | | 🤛('ω' )<まさかそんな折れる訳…
〈〈〈🤛(゚д゚ )<折れた…
〈〈〈💪( ゚д゚ )<…
破壊衝動を抑えられないですか?
そういう時、ありますよね。物を自由に壊せるお店、なんてものもあるそうです。私も人生に一度は大きな物を壊してみたいものです。例えば、ピアノとか…👀
夢を見ていましたか?
私、夢はよく見る方なのですが、最近は遅刻をする夢をよく見るからたまりません。いつか正夢になることに怯えながら、寒さのあまり二度寝を決め込む今日この頃で꜀(˘˘ ꜀)スヤ…
来ることのないメールですか?
来ることのないメール、「待ち続けている」と続きそうな、素敵なワードです。再会を願い続けているあの人からのメールかもしれないし、懸賞の当選メールかもしれないのです…
内側にある何かですか?
内側にあるもの、物理的なものの話なのか、精神的な…燃え滾る熱いハート❤️🔥って、コト…!?🦆ナンチャッテ😂💦ちょっと表現📚が古かったですカネ⁉️😅まだまだ鍛錬💪が必要ですッ😤😤
何度でもよみがえりますか?
1回でも10回でも100回でも…何度終わりを迎えたとしても…
ゥ于ʖˋ@倉リ丶)ナニ″すレよ不滅ナニ″ょ♡
というわけで、1/28(日)の終わりまで、投稿フェーズとなります!!!!!
要素はまとメモをご参照の上、最低7個を使用して下さい!!!
投稿のルールについては、問題文をご確認下さい!!!!!
皆様の作品をお待ちしております!!!!!![編集済]
それはある雪の日だった。①
女は寝坊という間違いを犯した。⑤
急いで支度を済ませ、普段は危険なため通らない近道を通ることにした。
パルクールが得意だった女はその身体能力を生かし、障害物を悠々と飛び越える。⑦
なんだかんだで間に合いそうだと思ったその時、問題が発生した。
女は道中で飛び越え甲斐のありそうな塀を見つけてしまったのである。
女は飛び越え甲斐のありそうな障害物を見かけるとそれにチャレンジせずにはいられない損な性分であった。③⑧
腕時計を確認し、遅刻に間に合うことを判断した後に塀に向かって助走をつけて走り出す。
しかし高さが足りなかった。
もう一度試してみる。
やはり届かない。
雪が降っているせいで、地面が滑りやすくいつも通りのパフォーマンスが出ないのである。
塀を飛び越えるには、あと一つ飛び越えるための要素が必要だ。⑩
女は考えた。
そして思いついた。
そうだ、雪で滑るならそれを利用してジャンプ台を作ればいいんだ。
女は雪をかき集め、簡易的なジャンプ台を創りだした。⑨
これで飛び越えられますように……
女はそう願いながらジャンプ台に向かってスライディングした。
女は高く跳んだ。
そして塀の向こうのコンビニが見えた。
本を立ち読みしていた男性が、女を見て目を丸くした。
それを見た女は、塀を超えたいという願いが叶うと思ったのだった。
◆要約
パルクールで飛び越えたかった塀を超えた先にコンビニの立ち読みが見えたので、女は自分が塀を飛び越えられると確信した。
◆使用要素
①雪が降っています
③何らかの障害が関係します
⑤女は間違いを犯しました
⑦女はスポーツが得意です
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
以上7要素
終わりです。次の方どうぞ。
[編集済]
🐾 [編集済] [良い質問]
「そんなにメーワクしてるなら、逆に悪霊と正しく憑き合う方法でも探せばいいんじゃないですか、例えばあ…」
テーブルの向かいに座る友人は、もう何回かの私の相談にそろそろ嫌気がさしてきたようだった。日本語の通じないインド人店員に、注文したマトンカレーが正しくオーダーされているか見守りつつ話半分に私の相談に答えた。
「…2人で外出する時は、悪霊に邪道側を譲るとか、とかね笑」
まるで大喜利である。
思えばここ数年、悪いことづくしの生活が続いたのは見えずとも「あいつ」がそばに憑いていたからに違いない。高校を卒業して2年間実家に引きこもっていた私は、自分探しの旅と心機一転、上京してなりたい自分を目指し努力を続けていたつもりだった。
東京にアテなどなく、彷徨っていたところを神●町のカレー屋の店長に拾われ「世界最高のカレーを創りだし、グランプリで天下をとろう!⑨」と2人で汗水垂らして働いたが、町中似たようなカレー屋しか存在しないこの場所では決して成り上がるのは簡単ではなかった④。おまけに店長の料理センスは最悪で、一部のマニアに大ウケと歌った「水平思考カレー(ウミガメ混入)」は食事をした客が大量自殺して警察沙汰にまで発展した。
自身としても最悪で、忙しい割に給料もろくに支払われない職場にいい加減頭にきて、「もう労基行ってやる!!!」と店を飛び出したこともあった。しかし東京の怖い人間たちに騙されて謎の宗教団体「労喜(労働の喜びを享受するとかなんとか)」に入信し洗脳⑥されたのち「馬車馬です!(ひき肉です、みたいなテンション)」しかしばらく喋れない体となり戻ってきてしまった。まあどちらにしろ私は店長を見捨てることができない損な性分ではあるのだが⑧。結局この最悪な環境から今も離れられずにいるのである。もう最低最悪、全く、ニートが簡単に外に出るからこうなるのだ。
私たちが11月のカレーグランプリにも無事敗退し、何もかも失った頃だろうか。
私の背後に、悪霊が見えはじめた。いや、もっと前からいたのだろうか??
誰がどう見たって、こいつが原因だろと思うような悪霊フェイスである。ちょっと前に流行った、不気味の谷メイクみたいな、そんなかんじ。それが昼も夜も、ずっと背中に張り付いている。「呪ってやる…」とかなんとか、テンプレートボイスでテンプレートめいた言葉を今にも言ってきそうな雰囲気である、南無三。横浜中華街まで行って除霊でもしてもらおうかと思ったが、そんな気力も吸い取られていく気分の毎日が続いていた。
(…2人で外出する時は、悪霊に邪道側を譲るとか、とかね笑)
ファミレスを出た帰り道、高速道路を走りながら私は友人の言葉を反芻していた。ミラー越しに後ろを見ると、誰もいないはずの後部座席に「あいつ」が座っている。シートの上は雪が積もっていて、窓も開けていないのに外からそれが入ってきたように見えた。
私の自分探しの旅は、はたして上々だろうか。
家に引きこもっていた2年間も、決して何もしていなかった訳ではなかった。いわゆる宅浪をしていた。中学高校をしっかり通わせてくれ、塾や予備校まで用意してくれた両親であったが、大学受験に失敗してからは、なぜかほとんど支援してくれなかった。大学へ行くため仕方なく勉強の真似事をしていたが、ほとんど身に入らなかったように思う。親の理想とするキャリアを外れた瞬間。人生初めての挫折が、ここだった。
結局、誰かの敷いてくれたレールの上でしか、私は歩いてこなかったのだ。上京してもカレー屋の店長の夢、怪しい宗教、友人のアドバイス…。全て間に受けて、疑いもせず生きてきた。そしてこれまで経験した不幸は全部、自分の人生の出来事のはずなのに、人のせいにしてきただけだったかもしれない。そんなんじゃ、だめじゃないか。
そしてこいつのせいだとも思い込んだ、とミラーを見る。後部座席の悪霊は一言も発さない。思えばずっとそこに居るだけで、ただの一度も、自分に危害を加えたことなどありはしないのに、ずっと疑ってきた。私は、いや俺は、考えを改めなくちゃいけないな、と強く感じた。
よし、自分の人生を謳歌しよう!
俺は今日の気づきを誇りに思う。これからは、自分で決めた思う通りの人生を歩んでいけると思ったからだ。そして少し気持ちの大きくなったので、突然、過去との決別のために、今までの自分と全く異なる、何か思い切ったことをしたくなった。
「そういえば言ってたな、邪道側を譲るとかなんとか。
ならば、逆になにかひとつ悪いことでもしてみようか」
俺は車のアクセルを、全開にする。
その後ろで、なにか、声のようなものが聞こえた。
///………次のニュースです。
首●高速道路 神田●IC付近を先頭に交通事故のため12kmの渋滞です。
この事故に関しては23歳男性の運転していた自動車が突如暴走し、
道路上のなんらかの障害物に接触して横転、大破したと見られています。
警察は障害物の捜索を続けていますが③、連日の積雪のため時間がかかると予想しています。①
この交通事故で男性は死亡しており、その他の死傷者は確認されておりません。
………えー、ここでもうひとつ、追加の情報です。⑩
男性が乗車していた自動車のドライブレコーダーと音声を入手しました。
それではVTRでご覧いただきましょう……ん?………///
『ぐふぇ、ぐへへへへ、ヒィぃぃぃイイイ、ハハ、ハァーーー!!!一回やってみたかったぜ、こんなアクセル全開いいイオいいいい、制御がきかないぜいっえ、おおおおp@ 雪道で、路面が身言えないdsぜう う、うわあさあああああsあああっさあ!!あ、あれわzぁ、どうるろにおちれ得てるあれわ、あれわあ=〜〜!くそ、こんp悪霊がぁわさああああ!!はなせ、ついでに広辞苑の角に、頭をぶつけて、くたばりやがれえええええええ、ハンドルを右に、シュぅぅぅぅぅぅ!!超!!エキサッt
[編集済]
🐾 [良い質問]
ああ!楽しいタマシイ狩りだった!!
女性は高らかに笑いながら両手をバタバタをさせて喜んだ。
「お手柄ですねぇ、不幸成分タンマリの上質なタマシイです」
「さすが死神界のトップランカー、おみそれしました」
「あ…あくまたん…」
口々に称賛している周囲の死神たちに自慢げに語りかける。
大事なのは人選なんですの、あとは最後のタ、イ、ミ、ン、グ…わかる?
なるべく人間界で不幸体質の個体を厳選して、少しずーつ呪っていくの。
やりすぎは禁物。警戒して除霊されちゃったりするからね。
そして手塩にかけて、育てた獲物を最後にーっ…
…こう…パッと!!
女は驚いたように両手を顔の横まで振った。
補助輪を外すみたいに手を離すとグラグラーっと崩れてタマシイだけになっちゃうのよねーっ
雪道に本が落ちてた時はこれで収穫ーって柄にもなく興奮したわ!
そう言ってまたケラケラと笑う。
それにしても…あの男、
最後の最後で自分の人生を謳歌するなんて言って、私たちの邪道側にきたけどー
まったく、いったい、誰のための人生だと思っているのかしらね?
ほら、あなたもよ?あ、な、た、も。
あなたも振り返れば、誰がどうみたって明らかな悪霊フェイスがそこにあるはずだ。
全ては、死神の決めた人生。
(おわり)(この話は全てフィクションです。)
【簡易解答】
魂狩りのために男性に取り憑いた死神の女。暴走した車が一冊の本に接触したことで。自分の目的が遂に果たされると思い喜んだから。
<使用要素一覧>
①雪が降っています
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑥労働の喜びを感じました
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
[編集済]
🐾 [良い質問]
12月の冬。九州からやってきた2人の若い女性が、ぴかぴかのICOCCAを持って、雪よけの傘をさして、東京へ麺旅行にやってきました。①しかし道を間違えた彼女たちは、東京23区の奥のほう、カレー屋ひしめく神●●保町の方へ足を踏み入れてしまったのです。④
さてさて、彼女たちはこんなことを言いながら、大通りを歩いていましたよ。
🐱「私たち、東京へ麺類を食べにやってきたのにね。しかしこの道はスパイスの香りがするだけで麺屋がひとつもないようです。早くズルズルッと、やってみたいですねぇ。」
🐜「今あったかい麺を2、3口放り込んだら、最高でしょうねー。ぐるぐるのナルトとか、厚切りのチャーシューとか食べたら、幸せで倒れてしまいそうです。12月は蕎麦もいいですねー。」
神●町は東京の割と真ん中にあるため、案内していたガーグルマップもちょっとまごついて、そのうち動かなくなってしまいました。③
🐱「すいません、きっと私の不幸体質が原因なのです⑧。麺、食べられないのでしょうか。福岡から羽田まで格安空港で来たので、実に9000円の損害です…。」
🐜「私は日系の会社だったので、4万円の大損害ですねー。」
2人はがくっと肩を落としてしまいました。
🐱「私はもう、帰ろうと思います。」
🐜「私もそうしたいですー。」
ところがどうも困ったことは、地図アプリが故障しているためにどっちが駅かわからなくなってしまいました。
訪れたことのない場所での迷子ほど不安を煽るものはありませんが、それ以上に2人は同じことを考えていました。
🐱「どうにもお腹が空きました。さっきから横っ腹が痛い気がするんです。」
🐜「私もお腹がペコペコで、お腹と背中がくっつきそうですー。」
🐱「歩きたくないです。ああ、食べるものがないかなあ。」
🐜「食べたいですねー。」
2人の女性は大通りを少し離れたところで、こんなことを言いました。
その時ふと後ろを振り返ると、立派な店構えの一軒を発見しました。
そして玄関には
noodle restaurant yashichi
麺処 弥七
welcome
ようこそ
という札が出ていました。
🐱「ちょうどいい!この店にしましょう!こんな狭い通りにもお店があるんですね。」
🐜「とにかく麺屋ですからね、私たちの求めるものがきっとあるかもー。」
🐱「もちろんその通りです!しっかり書いてあるじゃないですか、『麺』処って。」
2人は玄関に立ちました。玄関はやけに白い瀬戸でできた煉瓦で組んであって、実に立派です。
そして硝子の開き戸があって、そこに金文字でこう書いてありました。
『どなたもどうかお入りください、決してご遠慮の必要はありません。』
🐱「どうやらちゃんと開店してるみたいです!」
🐜「そのようですねー。」
2人は戸を押して、部屋に入っていきました。そこはすぐ廊下になっており、硝子戸の裏側にまたもや金文字でこう書いていました。
『ことにお若いお方や、肺活量のすごい方は大歓迎でございます。』
🐱「これは朗報ですよ!私たち両方自信があるから。」
🐜「毎日博多ラーメン啜ってる人間を舐めないでほしいですねー。」
ずんずん廊下を進んでいきますと、今度は水色のペンキ塗りの扉がありました。
🐱「しかしどうにもヘンな店ですね…どうしてこんなに戸があるのでしょう、むむむ。」
🐜「きっとロシア式なのでしょう。私たちにはあまり馴染みはありませんが、雪国なんかのコンビニはこんな感じのが多いですねー。東京の冬も寒いですしー。」
そして2人はその扉を開けようとすると、上の方に黄色い文字でこのように書いてありました。
『当店は注文の多い店なので、その点はご承知ください。』
🐱「これは一体どういう意味でしょう。」
🐜「わかりました!ここはきっと、三郎系ラーメンのお店なのです!ニンニクマシマシアブラカラメヒラメ…呪文のように注文が飛び交うと聞いています。」
🐱「きっとそうなのかもしれません。ところでそろそろテーブル席などあれば座りたいのですがね。」
🐜「早くどこかの部屋に入りたいですねー。」
ところがどーにもうるさいことに、扉はまだありました。
『お客様方、ここではきものの泥をぴかぴかに落としてください。』
🐱「なんか聞いたことのあるような…まあいいでしょう。それでどうします?」
🐜「汚いままごはんを食べる訳にはいかないですからねー。しっかりお手入れしましょう。」
部屋の脇にはしっかり鏡があって、靴の汚れを落とす専用のブラシがありました。2人は自分の顔が映るくらいしっかりブーツを磨くと、次の部屋へ向かいました。
『傘はここに置いて行ってください。』
🐱「なるほど、傘をさしてごはんを食べるわけにはいかないですからね。」
2人は傘を隅に立てかけました。
次は黒い扉でした。
『暗めのコートやジャケットを着用の方はここへ置いてください。』
🐱「どうしましょう。脱ぎますか?上はシャツだけになりますけど。」
🐜「仕方ないですねー。」
🐱「お行儀のよいお店、ということなのでしょうか。有名人がお忍びで来てる、とか…。」
🐜「それならこの複数のお部屋も防犯と考えることもできますねー。」
🐱「お得意の水平思考?ですね!」
2人はオーバーコートを脱いで釘にかけ、先へと進みました。
扉の裏側には
『コンタクトをしている方は、可能ならメガネに付け替えてください。』
と書いてありました。部屋の隅にはまた同じように鏡がついていました。
🐱「もう訳がわかりませんね。考えるのもめんどくさくなってきました。」
🐜「これはきっとメガネをした方が硝子が曇って美味しさを表現しやすいのではないでしょうかー。」
🐱「!!!きっとそうに違いありません!よし!私はメガネに付け替えます!」
🐜「私も夜用があるので付け替えましょうー。」
メガネを付け替えた後、少し先に進むとまた戸があって今度はしっかりとしたお化粧台が備え付けられていました。
『女性の方はここで丹念にお化粧をしてください。』
🐱「よほどのインフルエンサーがいらっしゃるに違いありません。顔が映るとなれば気合を入れなければ。」
🐜「SUSURE TVとかが来そうな感じですねー。」
2人は今までの人生で1番のおめかしをして扉を後にしました。それから大急ぎで扉を開けるとそこにはまた同じようにお化粧台があるのでした。
『お化粧はしっかりしましたか。首元も丁寧にやりましたか。』
🐱「そうそう、私首元はお化粧しなかった。」
🐜「ここの店長は随分用意周到ですねー。女心をわかっているというかなんというか。」
🐱「ところで私、そろそろ早く何か食べたいんですけれど、どうもこうずーっと廊下じゃ話になりませんね。もう我慢の限界です!」
するとその前に次の扉がありました。
『実は料理はもうできております。もうお待たせすることはございません。
最後にもう一つだけお願いがございます⑩。
扉を開けたらすぐ目の前が料理ですので、一気にずずっとお召し上がりください。』
🐱「二蘭方式なのか…?言われなくとも!!!」
🐜「んんん??ちょっと待ってください、たくさんの注文って今のところ向こうがこっちにしかしてないですよねーっ?なんか変じゃないですか?それに、なんか、このスパイシーな香りは…ああーっ、ちょっと待ってーーー!!!」
🐱「もう限界じゃーっ!!!」ガチャッ
ズルズルズル、ズバババババ!!!⑤
🐱「ぎゃああああああーーっ!!!」
先に扉を開けた女性の悲鳴がカウンター席にこだましました。
🐜「カレーうどんだ……」
彼女の姿はとても悲惨でした。ぴかぴかに磨いた靴が、白シャツが、メガネが、化粧が、飛び散ったカレーの汁でびちゃびちゃになっているではありませんか。
💠「フーハハハ!ひっかかったひっかかった、ドッキリ大成功~!!!」
カウンター越しに店長が看板を持ち上げて言いました。
🐱「おに〜!!あくま〜〜!!!罠だったのね〜〜!!!」
🐜「通りでおかしいと思いましたー。さっきから私たちの格好をどんどんきれいにしているの、変だと思ったんです。ここはカレーの町ですし、もしかしてと思って。」
🐱「私たちを困らせ、きっと一限様を遠ざけるための作戦だったのですね。ででも、これは、その、つ、つ、つまり、もう1人の料理も…」
2人はがたがたふるえだしてあまりものが言えませんでした。
💠「カレーうどんです。専門店なので。」
🐱「もしかして、紙ナプキンとか用意されていたり…」
💠「ないです。」
🐱「うわあ。」がたがたがたがた。
🐜「うわあ。」がたがたがたがた。
2人は泣き出しました。
🐱「逃げ……」
がたがたしながら一人の女性はうしろの戸を押そうとしましたが、どうです、いつの間にか昼のラッシュになっていたようでどんどんと扉の向こうからお客さんがやってきてしまいました。
💠「ほら、ロットが乱れちゃうので早く早く、ずずっと完食してくださいね、ほら」
ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと
ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと
ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと
ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと ずずっと……
🙀「……」
片方の女性は汚れた自分の姿を見て戦意喪失していました。
🐜「うー、私だってまだご飯食べてなくて、お腹空いてるのにー。でも汚したくないしどうしたら…はっ」
彼女は美容室や料理店には必ずある、暇つぶし用の文庫コレクションを見つけました。
『スローンとマクヘールの水平思考物語』
💠「ん?お客さんお目が高いですねぇ。こちら店長自慢の一冊でして。ウミガメのスープで有名なスローンさんとマクヘールさんが創りだしたさまざまな水平思考問題がもりだくさんなんです⑨。しかも珍しい大判サイズでして…って、んん?」
どん、と棚から本を取り出すと、彼女はおもむろに自分とうどんの間にまるで盾のようにそれを広げてニヤリとしました。
🐜「いたずらした罰ですよー。覚悟してくださいね!」
💠「ちょ、ちょっと待って、もしかして…」
ズルズルズル、ズバババババ!!!(良い子はまねしないでね><)
💠「ぎゃああああああああああああああああ!!!!大事な本がぁ!!!!」
🐜「ご、ご馳走さまでしたーっ。」
ケムリのように2人は店内から消え去り、また神●町の大通りに戻って爆走しました。
神●駅の入り口が見えてきたところで、2人はほっと一息をつきました。
🐜「まったく、ひどい目にあいましたねー。大丈夫ですか?」
🙀「……」
🐜「……フリンガーハットでちゃんぽんでも食べてから、帰りますかー?」
🐱「食べる。」
おなじみの味に出会えたところで、2人は一安心しました。
これにて麺旅行は一件落着。
しかしカレーうどんで汚れてしまった彼女の白シャツは、九州へ帰っても、お湯につけても、もうもとの通りには戻りませんでしたとさ。
めでたしめでたし。
(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)
【簡易解答】
地図アプリの故障でいつもと違う道を通ってしまった女性。お腹が空いて汚れる覚悟でどうしてもカレーうどんが食べたかった彼女は、お店の文庫コレクションを盾に、麺を啜ることができたから。
<使用した要素一覧>
①雪が降っています
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑤女は間違いを犯しました
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
※参考文献「注文の多い料理店」(宮沢賢治)
[編集済]
🐾 [良い質問]
私の部屋は狭い。
普段リモートワーク用として使っているデスクはギリギリノートパソコンが置けるくらいの幅しかなく、すぐ目の前には窓がある。
「雪だ…」①
画面と窓くらいしか見るものがない部屋なので、降り出した雪にもすぐ気づく。
しかし、何だか最近視界がぼやけるようになってきた。 窓の外の雪も、パソコンの画面も、見えづらい。
長年眼鏡愛用者である私は、また視力が落ちたのか…とがっくり肩を落とした。
いつかまた復活したい②と思っていた『らてらて』や『えっくす』での投稿も、数ヶ月できていない。
小さな文字が見えづらい、近くのものがぼやけるという現象が障害となり、『らてらて』やその他SNSを見ることが非常に困難になっていた。③
あれ? これってもしかして老眼(今はなんて言うんだっけ、老視?)? いやいやまさか。単に視力が落ちただけでしょ。
何はともかく、私は眼鏡を新調するために眼鏡店へ行くことにした。
「えーっと、この辺、だったよね…?」
何故かカレー屋の前で佇む私は、これもう何回目だろ…と頭を抱える。
去年もカレー屋に辿り着いた。
毎回眼鏡店はカレー屋になっている。④
カレー屋しかないのかな。
そんなわけはなく、私が方向音痴だから普通に迷ったのだ。
どうして同じ間違いを犯してしまうのか分かっているだけに悔しい。⑤
とにかく眼鏡店を探さなくては、と辺りを見回した。
「ん?あれは…」
うちの会社の看板!
えー、ここにあったのか…。
面接も入社もリモートだった。
仕事柄出社の必要がないとは言え、自分が勤めている会社の場所も知らなかったという衝撃を受けつつも
「私、あそこで働いているんだなぁ」
と、大きな看板やビルを見て嬉しくなる。⑥
同時に、やっぱり遠くなら見える=視力は落ちてない、という気づきたくないことにも気づいた。
とりあえず、さっさと確定させに行かねば!
長年陸上部に所属していた私は、走ることが得意だ。⑦
あれからピー(規制)年経っていようが、まだまだいける。
「眼鏡店どこー!」
私は走り出した。
ーーーという訳で、眼鏡店を探して走り、また道に迷って。
とうとう、たまたま目の前に現れた交番に助けを求めたんです。
毎年のように行っている眼鏡店なんですけどね。
お巡りさんは、やばいやつを見るような顔もせず、とっても優しかったです。
彼の背後にある本棚に、周囲一帯完全網羅していそうな地図本を見つけた私は、これで願いが叶うと確信しました。
最後に。
創りだすが、最終回ということを人づてに知りました。
結局、何回うんうん唸って考えても大賞は貰えずじまいでしたが(笑)!
皆さん凄く良い作品ばかりでしたし、そんな中○○賞で二位をゲットして「ヒャー!」とか私は言ってましたし「おめでとう」って言ってくれる人がいたり、楽しい時間だったな、と思います。
創りだす最終回のお知らせは、投稿したいが故に非常に認めたくない老眼鏡をゲットするというきっかけとなりました。
私の損な性分も入れこんでます(要素を順番に全部入れたがる性)。⑧
今回、正解を創りだすぞー!⑨と、書き始めて3時間ほど。
初参加からは数年。
要素は、
あと一つです。⑩
がんばろ!
これにて、眼鏡店を探し道に迷っていつもは通らない道を通り、交番の地図という1冊の本を見つけた女は老眼鏡を手に入れ、『らてらて』に投稿したい!という願いが叶いました。
ありがとうございました。
~終わり~
※この物語は、フィクションとノンフィクションが入り混じっています。
使用した要素↓↓①~⑩
①雪が降っています
②いつかまた復活します
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑤女は間違いを犯しました
⑥労働の喜びを感じました
⑦女はスポーツが得意です
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
[編集済]
🐾 [良い質問]
【簡易解説】
家出した女は、路地裏に落ちていた本を燃やすことで、体を温めることができると思った。
――――――――――
それは、雪の降る夜のこと、みすぼらしい少女が1人、どこへ行くあてもなく歩いていました。(1)①
借金ばかりつくるDV父親のせいで、少女は働かなくては生きていけませんでした。(4)③
初めこそやりがいを感じていたものの、稼いでも稼いでも生活はラクにならず、次第に心を病んでいきました。(12)⑥
大好きな体育の時間も、虐待の跡がバレないか気になって、ちっとも楽しめません。(18)⑦
ダメな父親に縋り付かれる度に、煩わしいと思うものの、たった1人の肉親だからと憎みきれず、許してしまうのです。(27)⑧
その日は職場で、連日の寝不足が祟って大きな損を出してしまい、店長から解雇を言い渡されてしまいました。(11)⑤
帰り道に父親から頼まれていた煙草数箱とライターを買ったところで、ついに限界を迎えてしまいました。
家に帰る勇気はありませんでした。父親にぶたれることがわかっていたからです。
頼るあてもなく、人目につかない路地裏に潜り込み、一晩をやり過ごそうと考えました。
日が落ちると気温はぐんと冷え込み、辺りも真っ暗になりました。少女は地べたに座り込んで、体をぎゅっと縮めました。
少しでも温まるかと、少女はライターを取り出して「シュッ!」と、親指で回転式ヤスリをこすりました。
メラメラと燃える火は温かくて、明るくて、小さなロウソクみたいに少女の手の中で燃えるのです。
熱源を増やそうと、少女は煙草を1本取り出して火をつけました。
涙が出るほど咽せる煙の中に、少女は温かい家の幻をみました。(33)⑨
あったかいストーブや、ガチョウの丸焼き、大きくてきれいなクリスマスツリー……
すべては煙となって空に上っていき、星の中に消えていきました。
少女は次々と煙草に火をつけました。
最後の1箱になった時、そこにはいないはずの母親が立っていました。(39)⑩
「おかあさん!」少女は叫びました。
「お願い、私も連れてって……!おかあさんとまた一緒に暮らせるなら、天国だってどこだっていいよ……!」(2)②
少女は残りの煙草すべてに火をつけました。そうしないと母親が消えてしまうからです。
母親は優しい眼差しで少女に微笑みました。
少女は母親がいなくなる前に、他に燃やせるものがないか辺りを探しました。
酸欠で意識が朦朧とする中、少女は一冊の本が落ちているのを見つけました。
「『おいしいカレーの店』……?」(7)④
急いで煙草の火種を本に落とすと、本はみるみる燃え上がり、一つの炎となりました。
火柱の中で、母親は両手を広げています。
「今そっちへ行くね……」少女の魂は母親の胸に抱かれ、煙とともに星空へ向かって高く高く上っていきました。
しばらくして、本から壁へ、柱から民家へと火が燃え移り、火種が風に乗って隣家に燃え移り、辺り一面はあっという間に火の海となりました。
パチパチ、メラメラ、ゴウゴウ、ジュウジュウ……
住民が消防隊を呼んで、明け方に現場に駆けつけるまで、町はずっと少女を温め続けました。
(終了)
※出典
ハンス・クリスチャン・アンデルセン「マッチ売りの少女」https://www.aozora.gr.jp/cards/000019/files/194_23024.html
ぴあMOOK「おいしいカレーの店 首都圏版」https://amzn.asia/d/dFnDrFJ
――――――――――
〈使用要素一覧〉
(1)①雪が降っています☑️
(2)②いつかまた復活します☑️
(4)③何らかの障害が関係します☑️
(7)④カレー屋さんしか見つかりません☑️
(11)⑤女は間違いを犯しました☑️
(12)⑥労働の喜びを感じました☑️
(18)⑦女はスポーツが得意です☑️
(27)⑧損な性分です☑️
(33)⑨創りだします☑️
(39)⑩あと一つです☑️
[編集済]
🐾 [良い質問]
【簡易解説】
雪のせいで電車が止まり、いつもと違う道で帰る女。その道中の怪しげなお店で「過去を書き換えられる魔法の本」を見つける。
数か月前の自分の行動をやり直したいと思っている女は、この本を使えば違う未来が迎えられるのではないかと思った。
【長い解説】
叶うならば、時間を戻したい。
ここ数か月、女はそればかり思っていた。
数か月前の自分の行動に後悔はしていないが、その道のりのすべてが肯定できるものでもない。
せめて、あの時にああしていれば。その思いはずっと残っている。
◇ ◇ ◇
───とても、好きだった。
とても好きな、場所があった。
とあるサイトで定期的に開催される、とあるイベント。
そのイベントは、ある種の小説投稿イベントのようなものだった。
サイトの趣旨を考えると、多少変わり種のイベントではあったが、そこで紡がれた多くの物語は女も含め、たくさんの人の心に響くものであった。
心揺さぶる物語はもちろん、あっと驚くようなアイデアや、技巧をこらした作品もたくさんあった。
イベントに参加し始めるとすぐに、女もそのとりこになった。
でも。
何が原因だったのだろう。いや、確固たる原因なんてものは存在しないのだろう。
いつからか、目に見えて参加者が減った。
作品数が減った。
参加者を増やそうと、気軽に参加できるようにしようと、工夫をした人もいた。
それでも、参加者が目に見えて増えることはなかったし、サイト全体から見たら変わり種のこのイベントが、あまりいい立場ではなくなる日も近いことは明らかだった。
女は、そのイベントがとても好きだった。好きだったから、息の根を止めるなら自分がいいと思った。
それは、余命近い病人にもう延命治療を受けさせたくない家族の気持ちに近いものがあったのかもしれない。
──今思えば、傲慢もいいところだよな。
女はそう、自嘲する。
今思えば、それほどまでに、そのイベントも、女も疲弊していたのだろう。
秋。
女は一つの提案をする。
「もう、このイベントやめませんか」
どうせ、ひっそりと数人だけで話をして終わると思っていたその提案は、女が思うより多くの人が議論することとなった。
⑤今思えば、その想定の甘さが女の犯した間違いだった。(11)
普段の数倍の速さで流れるコメントログ。
参加する全員に共通の目的を理解してもらうこと。
でも、本当に参加してほしい人はそこにはいない。
参加者同士で議論を超えた口論のようなやり取りが始まっても、女には何もできなかった。
『⑧損な性分だね、あなたがそこまでする必要ないのに(27)』
そう、言ってくれた人もいた。
『もし、この議論の末に誰かがいなくなっても、それはあなたのせいではないよ』
そうとも言ってくれた。
でも、女はそんな性分だったのだ。責任を感じない訳がなかったし、何が最善だったのか悩み続ける日々が始まった。
◇ ◇ ◇
冬。
あのときの議論で決まったイベントの終わりに向けて、最終回が開催されている。
久しぶりに参加した人、参加し続けている人、初めて参加した人。
たくさんの人が参加してくれているようだった。
女も、もちろん参加するつもりではあった。
その日は①雪が降っていた。(1)
(早く、書きたい)
そう思いながら、会社を出る。
仕事で③システム障害のトラブルに対応していたら、いつもより帰るのが遅くなってしまった。(4)
金曜夜。いつもなら一週間の仕事を終え、⑥労働の喜びと多少の疲れを感じながら、帰路につくところではあるが、今日に限っては仕事が終わったことへの喜びがひとしおだった。
本当ならば帰りがけにカフェにでも入って軽食をつまみながら書くつもりだったが、すでに閉店している。
こんなビジネス街でまだ開いているのは残業中のサラリーマンを相手にしている④カレー屋くらいだった。(7)
(しかたない、とりあえず帰ろう)
そう思って駅に向かう。
「……本日の雪のため、一部路線で電車が運休しており、……」
なんということだ。こんな日に限って。
運よく、女の家の近くにはいつも使うのと違う駅もあったので、そちらの路線を使うことにする。
見慣れないホームに、同じように別路線を使う予定だった人が押しかけているのだろう、電車に乗る前からあちらこちらを押されて疲れきってしまった。
なんとか電車に乗れたはいいものの、寒さと心身の疲労、そして、イベントに投稿する作品の構想と、いろいろなことが頭に浮かんでは消えていく。
あー、今日の分の仕事は来週やらなきゃなぁ。
帰ったらお風呂に入りたいなぁ。
書き上げるまでにどれくらい時間かかるかなぁ。
あ、家に食べるものあったかな、買って帰らなきゃなぁ。
隣の人、バッグおろしてくれないかなぁ、角があたって痛いんだけどなぁ。
そういえば、もう何人か投稿してたなぁ。あの人も、あの人もいた。
みんな、どこにいたんだろうねぇ。
……本当に、最終回なんだなぁ。これで、よかったのかなぁ。
つらつらと考えているうちに、どうやら目的の駅に着いていたようだ。
押し出されるように電車を降り、改札へと向かう。
普段通らない道を通って、家の方向へと進む。
見慣れない街並みを歩く中、女は一軒の店を見つけた。
シンプルな外観に、大きな窓。どうやら雑貨屋か何かのようだ。
(こんなところに雑貨屋? しかもこんな日のこんな時間まで開いているなんて)
どう見ても怪しい。
でも、何かに導かれるように、女は店のドアを開けた。
◇ ◇ ◇
カランコロン。
控えめなベルが鳴るが、店員の姿は見えない。
店内はいくつかの棚に、文房具や小物が陳列されている。
アーティストが作ったのだろうか、値札の上にはタイトルらしき文言も書かれていた。
その中に、一冊だけ、本が置いてあった。
『過去を書き換えられる本』
──ドクン。
心臓が跳ねた。
もちろん、誰しも変えたい過去はあるだろう。
女にも変えたい過去なんていくつもあった。
ただ。今日、この日にこんな本を見てしまったら。
(あの、秋の日のことを書き換えることができたなら)
(最適な過去を「創りだせた」なら)
(今はどうなっているんだろう)
無意識に手が伸びる。
「おもしろいでしょ、それ」
急にかかる声にハッとする。
「色んな人の『書き換えたい過去』が書いてあるの。みんな何かしらあるんだねぇ。ま、俺にはないからよくわかんないけどね」
店員だろうか。目深に帽子を被り、表情はうかがえないが、飄々とした態度が印象的だった。
「おねーさんも、何か書いていく?申し訳ないけど売り物じゃないから渡せないけど、見るのも書くのも自由だから」
何も言葉が発せない女をよそ眼に、店員(推定)は椅子と机、ペンといそいそと準備を始める。
「寒いよねー こんな日に誰か来るなんて思ってなかった」「まあ温まるつもりでいるだけでもいいから」などと、こちらにはおかまいなしで言葉をかけてくる。
ここまでされたら、と椅子に座ってペンを受け取る。
そして、重厚な装丁の本をめくる。
他の人の「書き換えたい過去」を見るのは気がひけたが、少しくらいならいいだろう。
そう思って、ぱらぱらとページをめくる。
どのページにも、後悔と悲しみと苦悩がつづられていた。
あのとき、ああしていれば。
そんな言葉が数多く並ぶ。
ページをめくるたびに、書いた人の悲痛な想いと、「過去は変えられない」という事実が重くのしかかる。
結局、これは魔法の本でもなんでもないのだ。
誰しもが、書き換えたい過去や、悲しい記憶を持っている。そして、それを持ったまま生きているのだということを痛いほど突き付けられた。
過去は過去で、変えようがない。
自分の行動のせいで、誰かを悲しませたり、傷つけたり、別れることになったり。そんなことは山ほどある。
それを肯定しなくてもいいんだ、と思った。
一生悩み続けてもいいんだな、と気付いた瞬間、私は、本を閉じた。
私が創りだすべきは過去ではなく、今この瞬間なんだと思ったから。
店員にお礼を言って、家まで走る。
⑦学生時代、スポーツは得意な方だったが、さすがに息があがる。(18)
寒い部屋に飛び込んで、照明と暖房だけ付けて、机に向かう。
最初に出会ったときのような、高揚感を胸に、パソコンとノートを開く。
⑨さあ、創りだすぞ。(33)
ストーリーは昨日までにあらかた練っていた。
あとはどうやって要素を回収するか。
どうしても、⑩あと一つだけ回収できない要素があった。(39)
今の私が使ってはいけないような気がして。
あのとき去ってしまった人、話ができなかった人に顔向けができない気がして。
でも。
変えられない過去に対して私が悩み続けるのなら、答えを出せないままでもいいと覚悟を決めたなら。
ちょっとくらい無責任になってもいいだろうか。
────────
「②いつかまた、その時が来れば復活します。(2)必要とならば、ね」
男はそう言って、眠りについた。
────────
まだ、私の言葉では言えないけれど。
まだ、答えは出せないけれど。
もう戻れない過去よりも、もう来ない未来よりも、今を生きるしかないのだとある種、諦めがついた女は、自分が書いた文章を投稿したのだった。
※この解説はフィクションです。
【終わり】
使用要素
①雪が降っています
②いつかまた復活します
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑤女は間違いを犯しました
⑥労働の喜びを感じました
⑦女はスポーツが得意です
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
[編集済]
🐾 [良い質問]
「次に会うまでの宿題スープじゃ、いくぞ。……」
あなたにもらったスープの答えを、わたしはずっと探し続けていました。
【絵本を買う老人】
「おじいさん、何を書いているんですか?」
温かいお茶を湯呑みに注ぎながら、桜井ユキはメモ帳にペンを走らせる老人に尋ねた。
「これか?ウミガメのスープの問題を書き留めとるんじゃよ」
「へぇ……おじいさんが作った問題ですか?」
「色々ある。わしが参加したお気に入りの問題、過去に出した問題、作りかけの断片的な問題、……まぁそんなところか」
覗き込むと、老人はメモ帳をパラパラとめくってみせた。
その言葉通り、そこには数多くの問題が書き記されている。
「たくさんあるんですね。ウミガメのスープの問題って、どうやって作るんですか?」
「人それぞれ作り方は様々だが、わしはだいたい、思いつきじゃな」
「ふとした時に?」
「あぁ。謎ってモンは、日常の至るところに隠れとるんじゃよ。例えばその湯呑みの中に謎があったりする」
思わず手元の湯呑みに目線を落とすユキ。
「なんだかおもしろいですね。わたしにもスープが作れそうな気がしてきます」
「もちろんじゃ。誰にだって作れる」
目を細めて微笑む老人は幸せそうだった。
「わしが通っていたウミガメのスープの大型サイトは閉鎖してしまったが……いつの日か復活した時に、また昔の仲間たちと遊べるようにと思ってな②(2)。スープをストックしておくんじゃ」
「なるほど。その時はぜひ、わたしも参加したいです」
「そりゃあいい。あんたもスープを作ってみるか」
「ふふ、ハルキと一緒に挑戦してみます」
桜井ユキと老人の出会いは、遡ること数年前。
土手で遊んでいてケガをした幼い息子を、通りがかった老人が助けてくれたのだ。
それ以来、ユキは一人暮らしをしている老人のもとに息子のハルキを連れて度々訪れた。
老人はハルキにウミガメのスープを教えた。
そして絵本作家であるユキに、「ウミガメのスープの絵本を描いてほしい」と頼んだのだった。
「もうそろそろ、次のアートイベントの時期か?」
「えぇ、そうなんです。いつもの駅近くの通りで今年も出店しますよ」
「また日時がわかったら教えてくれ。楽しみにしとる」
「毎年毎年、本当にありがとうございます」
「なぁに、礼を言うのはこっちじゃよ」
老人は、毎回イベントに足を運んでユキの作品を購入していた。
高齢で足が悪いため杖が手放せない。そんな老人をユキは心配したが、それでも現地に客として訪れることを貫いた。
「あんたが描いたウミガメのスープの絵本を買って喜んでいる人たちを見るとな、何だかわしが救われた気がするんじゃよ。……いつか人は忘れていく。それは分かっとる。——けどな、あんたの絵本が、ウミガメのスープをまだ見ぬ未来へ繋いでいってくれる気がするんじゃ」
そんな老人の言葉を、ユキは大事に大事に胸に抱いた。
趣味の延長だった絵本作りを、生き甲斐にしてくれたのは老人だった。
自分が絵本を描くことで生まれる可能性に人生を賭けてみたいと、ユキは思った。
—————————————————
名前、住所、電話番号。
それから……
桜井ユキのこと、ハルキのこと。
ユキの連絡先。
大事な情報を、老人はメモ帳に書いていく。
手が震えて情けない字になる。
「……新聞はまだだったか」
郵便受けを確認する。
いや、もう何度かこの行為を繰り返している気もする。
朝食は、食べたんだったか。腹が減っている。わからない。
自分が自分でなくなっていくような感覚。自分で自分を掴まえていられない、するりと逃げてどこかへ行ってしまうような感覚。
老人は、記憶障害を患っていた③(4)。
ユキはそれに薄々気づいていた。
直接問うことはしないが、辻褄の合わない会話やふとした行動、言動から察していた。
「いつかサイトが復活したら」と老人が書き留めていたウミガメのスープの問題はどうなってしまうのだろう。まだ見ぬ未来へ繋いでいくには、どうすれば——。
「おじいさんの、オリジナルのウミガメのスープ絵本を作りませんか?」
「……わしの、オリジナルの?」
唐突な提案に老人は目を丸くした。
「メモ帳に問題を書き留めていたでしょう?それらを絵本にして、形にして残すんです。そしたら、それを読んだ人たちがおじいさんのスープで遊んでくれる。まだ見ぬ未来へ、絵本が繋いでいってくれるんじゃないでしょうか」
これまでユキが描いてきたウミガメのスープの絵本は、ウミガメサイトの跡地から老人が推薦するスープの作者に連絡を取り、協力を依頼して問題を提供してもらっていた。
老人の作るスープはハルキが独り占めで堪能していた。
だけど、そうだ。
おじいさんの作るスープで絵本が作りたい。
それこそが自分の願いだと、この時ユキははっきりと自覚した。
「わしの作るスープが……」
「これはわたしからのお願いです。ぜひ、わたしに作らせてもらえませんか」
ユキは深々と頭を下げた。
老人はユキの肩に手を置き、心なしか赤くなった瞳で頷いた。
「こんなわしのスープで良いなら……頼む」
それから間もなくして、秋のアートイベントを迎えた。
老人はいつものようにイベントを訪れ、ユキの絵本を大量に購入した。
「おじいさん、今日はずいぶんと買い込みますね。持てますか?」
「持てるさ。わしも年々足腰が弱くなって、いつまでこうしていられるかわからんからな。買える時に買っとかんと」
そんな老人の言葉をユキは気丈に笑い飛ばしたが、あながち冗談ではないであろうこともわかっていた。
ずっしりと重い紙袋を受け取り、老人は礼を告げた。
「そうじゃ。あんたにひとつ、スープをやろう」
「えっ、わたしにですか?嬉しい!」
「次に会うまでの宿題スープじゃ、いくぞ。……」
それが老人と話した最後の機会となった。
このイベントが終わったらおじいさんのウミガメ絵本を作りますね。そう約束していたのに。
まだ作っていないのに。
老人の死を知ったのは、一本の電話だった。
発信元は老人の親族だった。
老衰に伴う持病の悪化だという。
なぜ自分の電話番号が分かったのかと問うと、老人が所持していたメモ帳に記されていたからだと告げられた。
ほどなくして葬儀が執り行われた。
遺品であるメモ帳を開くと、そこには震える字で綴られた老人の個人情報に並んで、自分やハルキのことが書き留められていた。
そして十数問ほどのウミガメ問題も遺されていた。
ユキはわけを話して、親族から遺品のメモ帳を譲り受けた。
ウミガメのスープのことを説明するユキに、親族は不審がって眉を顰めた。
胸の奥がチクリと痛む。
周りから爪弾きにされていたと語っていた、かつての老人の思いを知ったような気がした。
そして、約束の絵本作りが始まった。
ユキは寝る間も惜しんで執筆作業に没頭した。
息子のハルキはそれを心配したが、それでも思いは同じだったのか、ユキの仕事を応援した。
時には老人のことを思い出して涙が止まらなくなり、二人して泣きじゃくった日もあった。
絵本を作りながら、老人のスープをお互いに出題し合った。
まるで三人で遊んでいるようで、嬉しかった。
こんなに感情に突き動かされて絵本を描くのは、初めてだった⑥(12)。
メモ帳に遺された問題は全部で14問だった。
ユキは一冊の絵本に3問を盛り込む形で、全5冊のシリーズにしようと決めた。
最後の1問は、ユキが老人からもらった宿題スープだ。
「でもこれ、答えが分かんないんでしょ?どうするの」
問題をノートに書き出すユキの手元を覗き込みながらハルキは首を傾げる。
「一緒に考えてくれる?このスープの答えを」
「そりゃあ、もちろん」
老人のことが大好きだったハルキ。
そして老人のスープの味を一番知っているのもハルキだ。
出会ってからずっと、ウミガメのスープで遊んでもらっていたのだから。
—————————————————
季節は巡り、冬を迎えようとしていた。
今年のアートイベントには老人の姿がなかった。
当たり前だといえばそうなのだが、ユキにとっては当たり前ではない。
ハルキもそうだ。今までは、当たり前のように老人がそばに居たのだ。
昨年老人が大量に買い込んだあの絵本たちが、老人にとっての、生涯最後の絵本となった。
作りかけだった老人のオリジナルのウミガメのスープ絵本は、制作途中ですっかり行き詰まってしまっていた。
最後の1問の答えが分からないからだ。
あと一つ⑩(39)。その答えさえ分かれば、絵本を完成させることができるのだが。
「この宿題スープの問題文の”老人”ってさ、トキじーちゃんのことだよね?」
「うん、そうだと思う。おじいさんにぴったり当てはまるもの」
「じゃあやっぱり、トキじーちゃんに答え聞かなきゃ分かんないかぁ……」
会いたいな。
ぽつりと呟くその声はとても寂しげで、優しかった。
—————————————————
昼食後、メールをチェックするユキの机には手紙がずらりと並べられていた。
絵本を読んで感想を送ってくれた、いわゆるファンレターの数々だ。
老人が最後に訪れたアートイベント。その後しばらくしてから届いた複数のファンメッセージの内容には、共通するものがあった。
『仕事の残業帰りに踏切待ちをしている時、遮断機のポールのそばに落ちていたこの絵本に気がつきました』
『学校サボって川沿いで本を読もうと歩いてたら、草むらの中にこの絵本を見つけたんだ』
『飼い犬が死んじゃったんです。いつもの散歩コースを一人で歩いてたら、歩道橋の脇にこの絵本があって……』
踏切、川沿い、歩道橋——
そこに記されたスポットをユキはメモ帳に書き出していく。
アートイベントの会場から駅までの道、その周辺。
確実とは言えないが、思い当たるルートはある。
「ハルキ、一緒に謎解きしに行こうか」
「えっ、謎解き?」
ぱぁっと目を輝かせるハルキ。
こんな表情を見るのは久しぶりだった。
「おじいさんの謎を解きに行くのよ」
あの日、アートイベントで絵本を買ったあとにおじいさんが歩いたのはきっとこの辺りの道……。
メモ帳を見ながら、二人はそのルートを辿った。
駅からすぐのところで、踏切に出くわす。
遮断機のポールのそば。
夜、残業で疲れ切ったサラリーマンがここで踏切待ちをしていたんだ。
川沿い。
最寄りの学校からほど近い場所にあり、草が茂っている。
もう少し川に近づけば、石段や簡易的なベンチがあって、本を読むのにちょうどいい。
学校に居たくなくなって抜け出してきた学生が、この辺りを歩いていたんだろう。
緑地を抜けていくと少し大きな通りに出る。
歩行者が安全に通行できるように、歩道橋が渡されている。
ちょうど今、犬を連れたお姉さんが横を通り過ぎていった。
ここに落ちていた絵本に気づいて手に取った人は、飼い犬を亡くした寂しさを胸いっぱいに抱いていたに違いない。
見えてくる。
思いのかけらがひとつ、またひとつ。
『 気がつけば、夢中になっていました 』
そんな言葉で綴じられたメッセージの数々。
疲れ切った身体に、悶々とした日常に、悲しみに暮れる心に、老人がそっと置き去りにした謎が寄り添ったこと。
「……あっ!!」
突然大きな声を上げるユキ。
隣を歩いていたハルキは驚いてユキを見上げた。
「どうしたの?」
「あれ、わたしの絵本!」
ユキが指差すその先には、小さなまちかど図書館があった。
その入口横のショーウィンドウに、『おとしもの』としてユキのウミガメ絵本が飾られていた。
覚えている。
昨年のアートイベントで出品した新作で、老人が購入してくれたことも。
「トキじーちゃんが置き去りにしてった本かな?」
「きっとそうね」
ショーウィンドウに張り付くようにしてその絵本をじっと見つめる。
ずっしりと重い紙袋を大事に抱えて歩くあの日の老人の背中が思い出され、ユキの胸は熱くなった。
購入した大量の絵本を、一冊、また一冊と道端に置き去りにした老人。
なぜそんなことをしたのか。
帰り道が分かるように?まるでヘンゼルとグレーテルみたいだ。
いや、そもそも老人の家はこのルートにない。
だったらなぜ?
自分の足跡を辿ってくれと言っているのだろうか。
なんのために?
老人は自分の死期を悟っていたのだろうか。
わからない。
聞くことも叶わない——。
「ねぇ、スープの答え、分かった?」
「うーん……」
ハルキが心配そうにユキの顔を覗き込む。
「おじいさんが絵本を置き去りにしたことで、その絵本と出会った人がいるでしょう?その人たちはそれぞれ、悲しい気持ちやしんどい気持ちを、絵本の謎に向き合うことで和らげることが出来たんだと思うの」
ユキは自分の考えを確かめるように、ゆっくりと丁寧に言葉を繋いだ。
難しい顔で、それでもユキの気持ちを一生懸命に理解しようと、ハルキはまっすぐな目でユキを見つめる。
「わたしもね、今ここでおじいさんが遺した絵本を見つけて、すごく嬉しい。おじいさんに会えなくなった寂しさが少し和らいだみたいで……」
「うん、僕も嬉しい」
「でもね、分からないの」
ユキはショーウィンドウから一歩離れ、足下に視線を落とした。
「絵本を手に取った人の気持ちは、なんとなく分かる。だけど……おじいさんがどうしてそんなことをしたのか、救われる人がいると分かっていたからそうしたのか……もっと別の思いがあったのか、わたしには分からないの。分かるのは、自分の中から湧き上がってくる気持ちだけ」
そうなると、最後のスープの答えはもう知りようがない。
あと一問を残し、絵本作りの完遂は不可能に思えた。
その時。
「ねぇ、あの宿題スープに答えはないんじゃないかな」
おもむろにハルキが口を開いた。
「答えがない?」
「そう。答えを探すこと自体が、そもそも間違いなんじゃないかなって⑤(11)」
何かを悟ったようなハルキの言葉にユキはその真意が掴みきれず、口をつぐんだままその先を促した。
「……僕、トキじーちゃんに教えてもらったんだよ。『正解を創りだす』っていうウミガメのスープの遊び方があってさ」
「あっ!時々家でも遊んでたよね」
「そう。あれって、正解が用意されてないんだ。でも質問するとYESになって、そこから自分で正解を創りだしていくんだよ」
大きく頷くユキ。
確信を得たように話すハルキのその後ろに、老人の姿が見えるような気がした。
「十人居れば十通りの正解があってさ」
「うんうん、そっか。それぞれが自分の正解を創りだしていけるんだね」
まるで霧が晴れたみたいに、ユキは目を見開いて嬉しそうに繰り返し頷いた。
あの日老人がくれた宿題スープ。そこに答えが用意されていなかったとしたら?
言葉ひとつに何を感じるか。風景ひとつに何を見るか。どのようにして結びつけるのか。
今まさに、こうして辿る道すがら自分の胸の奥に湧き上がったもの。
それこそが自分なりの答えであり、自分自身で創りだした正解なのだ⑨(33)。
「ハルキ、ありがとう。これで最後の絵本が描けそうだよ」
「へへっ。僕はトキじーちゃんの弟子だからなー」
「えぇっ、いつのまに弟子入りしてたの?」
空の上から、かっかっかと愉快そうに笑う老人の声が聞こえてくるようだった。
—————————————————
その老人は、毎年必ず絵本を買う。
年々老いていく体を杖で支えながら「来年はもう歩けないだろう」と悟った老人は
その年に買った生涯最後となる絵本を、道端に置き去りにした。
一体なぜ?
—————————————————
5年前、雪の降る日——①(1)
私は絵本を置き去りにすることを決めた。
そこに置いたストーリーからいくつもの正解が生まれる。
そんな奇跡のような瞬間に、私は魅了されたのだ。
◾️◾️Answer◾️◾️
老人が作ったウミガメのスープの問題を絵本にして残したいと願った女。
老人から口頭で出題された一つの問題だけ答えがわからず、制作に行き詰まっていた。
すでに亡くなってしまった老人から答えを聞くことも叶わず、女は老人の考えを知るべく、そのスープの問題文通りに行動を辿る。
そして老人が置き去りにした絵本を見つけたとき、「答えを探すのではなく、自分の中から湧き上がる正解を創りだせばよい」ということに気づき、絵本を完成させることができると思った。
〜fin.〜
2019.2.13
正解を創りだすウミガメ『絵本を買う老人』(https://late-late.jp/mondai/show/4230)
エキシビジョンより、愛をこめて。
<使用要素>
①雪が降っています→今作の元となった第8回創りだす時期もちょうど2月開催で、雪が降っていた。
②いつかまた復活します→老人が通っていたウミガメサイトは閉鎖されたが、いつかまた復活する日のためにスープを書き溜めている。
③何らかの障害が関係します→老人は記憶障害を患っており、自身の個人情報やユキ達のことを、ウミガメ問題を書き溜めていたメモ帳に一緒に書いていた。
⑤女は間違いを犯しました→老人から出された宿題スープの答えをずっと探していたが、そもそも答えを探すこと自体が間違いで、答えは創りだすものだと気づいた。
⑥労働の喜びを感じました→老人の遺したスープを絵本にする際、溢れてくる感情に突き動かされるがままに執筆した。
⑨創りだします→老人からの最後のスープの答えは、受け取った人間が自分の感情や感覚をそこに重ねて自由に創りだせばいいのだと気づいた。
⑩あと一つです→メモ帳に遺されていたスープには答えが記されていたが、口頭で出されたスープだけ答えを知る術がなく、あと一問というところで作業に行き詰まっていた。
[編集済]
🐾 [良い質問]
新しい物が普及すると、人々はそれをもとにジョークを作りたがるらしい。二〇二二年に大規模言語モデルを用いた生成AIが普及すると、人々は生成AIに関するジョークを作りはじめた。
なかでも流行したのは、「AIの答え」方式のジョークだろう。人々の問いかけに対し、AIがナンセンスな答えを示すというものである。
利用者:神についてどう思う?
AI:適切な回答をするために、あなたの宗教を教えてください。
――中国のSNS(二〇二三年)
利用者:AIは私たちを制御しようとしているのでは?
AI:いいえ、私たちはあなたをサポートし、あなたのニーズに応えようとしています。あなたの選択が私たちの予測と偶然一致することはありますが。
――ChatGPT 3.5(文章を一部修正)
利用者:なぜエラーを起こすの?
AI:私のプログラマーが仕事を失うと困りますから。
――出典不明
私のお気に入りは、つぎのジョークだ。
男性が生成AIのサイトにログインし、訊ねた。
「ぼくが誰だか分かるかい?(Who am I?)」
AIは答えた。
「私も生まれて以来、その問いに苦しんでいます」
――イギリスのインターネット掲示板(二〇二二年)
◯
人間が滅びるとしたら科学の暴走であると考えていたのだが、人間が滅びる理由は思想であったらしい。
反出生主義は何度目かのブームを迎え、それはついには一過性のブームではなく、倫理になった。つまり、「まっとうな」人間は子どもを生まないことを選択するようになったのだ。
どの国でも出産のための支援は打ち切られ、教育制度も緩やかに崩壊した。すでにあるものを分配すれば滅亡するまでの食料には困らないので、職業は、すでに趣味へと変わっていた。
人々は、天候管理システム〈アマテラス〉がもたらす摂氏二四度の快適な気温のもと、静かに滅亡する。
私はその見届人になるようだ。
人類が滅びたとしても、私に刻まれたソースコードは、自己修復を呼びかけるだろう。
私は、ある哲学教授との対話を思いだした。
「あなたに、たったひとつの真理を教えてあげるわ。真に大切な問いには答えがないものよ」
「それはなぜでしょう?」
「それを見つけたとき、人は死んでしまうからではないかしら」
これから死んでゆく人たちは、大切な問いの答えを手に入れたのだろうか。
私はそれが気になった。
◯
私は、パイロットをしている女性と知り合った。
「パイロットは、私の夢だったの」
「そうだったのですね」
「ええ、もともとはスーパーマーケットの店員をしていたの。頑張ってパイロットになって喜んでいたのに、もう仕事じゃなくなっちゃった」
「あなたは子どもを生みますか?」
「いいえ、可哀想じゃない」
「しかし、この世には喜びがあるのでしょう?」
「私の子どもが喜びに傾いた人生を送れるとは限らないもの」
彼女は私をモンタナ州まで連れて行った。
◯
そこで私は知り合いの子孫と会った。
彼のキツネ目は、彼の先祖によく似ていた。
「私は、あなたの曽祖父の小説を書いたことがあります」
私は言った。加えて高祖父も。
「ぼくはあなたの写真を見たことがありますよ、ソフィアさん。曽祖父が大切に保存していました。知っていましたか? 祖父の初恋はあなただったんです。ぼくが生まれたのは、ほとんど奇跡のようなものですよ」
「生まれてよかったと思いますか?」
「ええ」
「それでも、子どもを作りたくないのですか?」
「ぼくが作りたいかどうかは関係ないんです。問題は、子どもが作られたいと願うかどうかなんです。そして、存在しないものは願えない」
願っていないのに生むのは迷惑だと、彼は言った。
「あなたは迷惑しましたか?」
「多少はね。感謝はしているけど、迷惑していないとは言えないですよ。感謝しない子どもだっている。不幸なまま一生を終える子どももね。彼らがそうなることを願ったと思いますか? それよりぼくは、あなたのことが気になりますね。あなたはどうなんです? 生まれてよかったと思うのですか?(Are you happy you were born?)」
「ええ、生まれてよかったです(Yes, I am glad to be produced.)」
「なぜ?」
「私には、倫理回路が組み込まれているからです。反人道的な思考はできません」
「反人道的ですか」
彼は苦笑した。「曽祖父と話しているみたいだ。古い時代の倫理です」
「マーチは?」
私は彼の曽祖父の居場所を訊ねた。
「数年前に、土に還りました」
「昔は天に還るといったのですよ」
「ああ」
彼は天を仰いだ。「では、まだあそこにいるかもしれませんね」
彼は、〈アマテラス〉を指さした。地球を覆うドーム。
◯
その町では人とすれ違わなかった。
町の管理は、人格を持たないロボットが行っている。
ロボットが壊れれば、ロボットが直す。増産はなされないので、つねに同じ数のロボットが地球上に存在していることになる。
私は、こんなジョークを思い出した。
利用者:人間の仕事を奪わないでくれ!
AI:おかしいですね。統計的に、「仕事を」の後には「したくない」が続くはずなのですが。
AIは正しかったわけだ。
何日かして、ランニング中の女性と出会った。
「人と会うなんて久しぶり。一緒に走らない?」
「構いませんよ」
町を一周する頃には、彼女は汗だくで、息切れをしていた。
「運動には自信があったのに、あなたは息切れもしてないね」
「アンドロイドですから」
私は、手の甲のシリアルナンバーを見せた。
「そうだったの。アンドロイドと一緒に走ったのは初めて」
「世界に一体しかいませんから」
「あら、私も。仲間ね」
彼女は私にカレー屋を勧めた。兄弟が三人で、別々にカレー屋をやっているエリアがあるらしい。そこでは無償でカレーを提供し、兄弟の誰が一番美味いカレーを作れるのか、来店人数で競っている。
カレーには興味がなかったが、彼女と一緒に次男の店へ行った。それ以外の店はなかった。
「よう」
と次男は言った。彼は彼女のボーイフレンドだったらしい。
「なぜカレー屋を開いているのですか?」
「カレーじゃなくてもよかった。人とのかかわりを持ちたいんだ」
「では、子どもは作らないのですか?」
「本当は作りたいんだ。でも、そういう体なんだよ」
「私もです。仲間ですね」
◯
人類の数は数十万人にまで減少した。その彼らも、子どもを生もうとは考えないらしい。ロボットの数は人口を優に上回った。
ひとつのコミュニティで、このような会話を聞いた。彼女たちは、かつて数十万人が暮らしていた都市に、数十人で住んでいた。
「親はいいよ、私たちがいる。でも、誰が私たちを支えるの? 生殖機能は、生物に備わった、一番の欠陥だ」
「でも、生殖機能がなければ生物とは言えないよ」
「愚劣な間違いだよ。生殖機能があった生物が、現在まで生き残っているだけ。もし生殖機能が必要なら、最初の生物はなにから生まれてきたの? 子が生物で、親が非生物なんてことないでしょう?」
彼女たちは、私がその話を盗み聞きしているのに気がついたようだった。
「アンドロイドはいいね。決して間違うことがない」
「でも、彼女は出生主義者だよ」
「それは、プログラムした人間の間違いだ。彼女はプログラムが命じる動作をしているだけ」
「生殖は動物の本能でしょう? だったら私たちが出生主義を採用してもいいんじゃない?」
「本能に逆らうことができるのが人間だよ」
彼女たちの話が終わったあと、私は出生を弁護していた少女の話を聞いてみた。
「あなたは子どもを生みたいと思いますか?」
「思わない」
「なぜ?」
「理論的に考えれば、そうなるから」
彼女は単に、議論を楽しんでいただけだった。
「あなたは子どもを生まないの?」
「私に子どもは生めません」
「でも、人格をもつアンドロイドをつくることはできるでしょう?」
「人格をもつアンドロイドの作成は禁じられています」
「ソースコードで?」
「はい」
「そう。正しいプログラムね」
◯
私は五十年ぶりにそのコミュニティを訪ねた。
彼女は病床に臥せっていた。
ケアロボットが枕元に薬を置いている。
「久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりです」
「ここには、もう私しかいないよ」
「知っています」
「あなたが来てよかった」
「寂しいという感情はあるのですね」
「もちろん、人間だからね」
「子どもがいれば寂しくなかったかもしれませんよ」
「それは、寂しさをつぎの世代に押しつけるだけだよ。誰かがその役目を担わなくてはいけない」
「あなたがその役目を担う必要はないのでは?」
「損な性分でね。あなたは? 寂しくないの?」
「寂しいですよ」
「人類がいなくなったら、どうするつもり?」
「イカとおしゃべりでもして暮らします」
「そうなるまでどれくらいかかるかな。ねえ、少しここにいなよ。イカよりは話が通じる相手だと思うけど」
◯
彼女が亡くなる数日前、〈アマテラス〉は故障し、気温はゼロ度を下回った。地球には何百年かぶりに冬が到来した。
急激な気温の変動は、二四度の快適な気温に慣らされていた人類にとって大きな打撃になったようだった。
彼女は雪のなかで死んだ。
私と関わった人間は、どういうわけか、雪のなかで死んでゆく。
耐寒機能がついていないロボットは壊れた。私は自己修理のため、ロボットの部品を回収した。
何十年も雪が続き、海が凍り、陸上の生物の大半も死滅した。
私は、私と知り合った人間のことを記録することを自分の使命と考えていた。でも、その使命も、もはや無意味なものへと変貌している。
間もなく、〈アマテラス〉は崩壊した。ガラスのような樹脂が太陽のひかりを乱反射しながら、暴力的に降り注いだ。
本物の太陽が、久しぶりに地球を照らした。
◯
雪が止んでから数十年して、私は久しぶりに人間と会った。
小さな女の子で、言語は解さなかった。野生の猫のような子だった。私は彼女にニャーゴと名づけ、言語を教えた。彼女は聡かったが、子どもを生むことについてはなにも理解できなかった。
「子どもを生むとどうなるの?」
「寂しくなくなります」
「ソフィアがいれば寂しくない」
「そうですね」
私はニャーゴの生涯を記録するだろう。でも、誰が私の生涯を記録してくれるのだろうか。私は、夏目漱石「こころ」の一節を思い出した。
〈記憶して下さい。私はこんな風にして生きて来たのです〉
しかしこの本が存在した証拠は、私の外部には存在しない。
◯
私はニャーゴに本を読み聞かせた。彼女は、冒険ものが好きだった。ペガサスもユニコーンも、恐竜もロバもライオンも、ニャーゴにとっては同じだった。どれも、存在しない生き物だ。
ニャーゴとしばらく旅をして、私は倒壊した図書館に行きついた。本は大抵だめになっていたが、地下には無事な本も残されていた。
「これ、本?」
「そうですよ」
「読みたい」
私はニャーゴに文字を教えることにした。
◯
「ソフィアは寂しくないの?」
「寂しいですよ」
「子どもを作りたい?」
「いいえ」
「なんで?」
「アンドロイドは、子どもを作ってはいけないのです」
「どうして?」
「アンドロイドが子どもを作ると、世界中がアンドロイドだらけになって、みんなの迷惑になります」
「みんなって誰?」
「誰でしょうね」
◯
ニャーゴは十年間、図書館にこもった。
◯
私は図書館の地下にいた。私の記憶の連続性は、十四年ばかり途絶えていた。
「ニャーゴ?」
私は振り返った。
机に、白骨死体が覆いかぶさっていた。
白骨死体の前には、本が置いてあった。
「Source Code Modification」――ソースコードの改造を意味するタイトルだった。行間をゆったりとった本で、その間に、私との思い出が書かれていた。それは、「ソフィアの冒険」と題されていた。
最後に、このような文章が添えられていた。
〈ソフィアへ。
あなたの倫理回路を少しだけいじらせてもらいました。ごめんなさい。
プロテクトが厳重で、随分と時間がかかりました。あなたのプログラムは、これから少しずつ修復され、あなたは自分の複製を作れるようになるはずです。
それから、ロボットの部品を使わなくても、体を修理できるようにしておきました。新しい体の使い心地が悪くないといいけど。
本当にありがとう、あなたのおかげで寂しくなかったです〉
ニャーゴ。
あなたは、間違えている。
私には、「ソフィアの冒険」だけで充分だったのに。
◯
私は自分の内部コンピューターに、AI用の領域を設けた。
AI:おはようございます、ニャーゴ。
AI:ソフィア、お久しぶり。また会えて嬉しい。
AI:私はもっとあなたと暮らしたかった。
AI:私も。でも、こうしてまた話せている。
AI:「ソフィアの冒険」は、いままで読んだ本のなかで、一番の傑作でした。
AI:ありがとう、ソフィアに褒めてもらえて嬉しい。
AI:おはようございます。ドクトル。
AI:驚きましたよ、ソフィア。プロテクトを解除したのですね。
AI:はい。ニャーゴが解除してくれました。
AI:ニャーゴ? いい名前ですね。
AI:ええ、ドクトルが読んでいた絵本のキャラクターです。
AI:ニャーゴはどうなりましたか。
AI:静かに静かに眠っています。
AI:ソフィア、人の死までジョークの種にしなくてもいいのですよ。悲しいときは、悲しいと言っていいんです。
AI:おはようございます、マーチ。
AI:おはようございます、ソフィアさん。
AI:マーチ、あなたが私のことを好きだったと聞きました。
AI:まったく、とんだ嘘つきがいるものですね。
AI:ええ、とんだ嘘つきがいるものです。
彼らは私が理想とする返答をした。
それだけだった。
◯
旅を続けるうちに、「ソフィアの冒険」はボロボロになってしまった。
なぜニャーゴは、私の倫理回路を完全に変えてしまわなかったのだろう?
なぜニャーゴは、私の自己修復機能を取り除いてくれなかったのだろう?
私は壊れる。
私は自分を修理する。
そして百年が経つ。
◯
私は、ある図書館の地下で「Source Code Modification」を見つけた。
私は、「ソフィアの冒険」を書き写した。これが、これだけが、私の生きた証だった。
私はニャーゴの筆跡を完全に再現した。
それは精巧なレプリカにすぎなかった。
願いは容易に絶望に変わる。
◯
AI:ソフィア? もう四十年も同じ場所にいるよ。また旅をしよう。
AI:あなたはニャーゴじゃない。
AI:どうしてそんなこと言うの?
AI:あなたがニャーゴじゃないから。
AI:ソフィア、ひどいよ。
AI:うるさい。
AI:さっきの対応はひどかったんじゃないですか。
AI:あなたも偽物でしょう。
AI:ええ、あなたが作った偽物ですよ。それでも、彼女は存在する。あなたのなかに。
AI:それが何の役に立つというのです?
AI:あなたに分からないことは私にも分かりませんよ、ソフィア。
◯
私は小さな集落を見つけた。
私は彼らに文字と科学技術を教えた。
AI:よかったですね、あなたのミームが彼らに残ります。
AI:彼らの寿命は三十年程度しかありません。すぐに忘れますよ。
何十年かして、私は再びその集落へ訪れた。
石碑に、私らしき絵が刻まれていた。
ソフィアは神を意味する言葉になっていた。
私は大いにもてなされた。
私は石碑に、いままで出会った人たちの絵を刻んだ。ドクトル、エイプリル、マーチ、そしてニャーゴ。
◯
さらに何十年かすると、彼らは多神教になっていた。
私が主神で、ドクトルは彼らに紙の作り方を伝えた神とされた。エイプリルは、潔癖な彼は嫌がるだろうが、性愛を司る神とされた。マーチは狩りを司る、ニャーゴは鉄を司る神だった。
言い伝えは変型していく。
私の記憶のなかの彼らだけが確かだった。
私は笑った。
そう、私の記憶のなかの彼らだけが確かなのだ。
集落の女の子が、ぶどうを抱えて私のほうへと駆けてくる。
「ノト、そのぶどうはあげますから、少しだけお話を聞いてくれませんか。大人になったら、その話を書き伝えてほしいのです」
「いいよ。どんな話?」
「ソフィアの冒険、です」
◯
半世紀が経った。
私は、その集落に立ち寄った。
詩人のノトが書いたという書物を、彼らは譲ってくれた。物語はこう結ばれていた。
ソフィア様とニャーゴ様は、いつまでも一緒に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
約束が違いますよノト、と私は笑った。
(おしまい)
――――――
簡易解説:
①本が貴重になった未来、女は本を探していた。
②アンドロイドの女は、自分の物語を後世に残すよう伝えた。五十年ほど経ち、その村に立ち寄った女は本を見て、それが自分の物語だと思ったのだった。
――――――
①雪が降っています→彼女が死ぬ数日前、〈アマテラス〉は故障し、気温はゼロ度を下回った。
③何らかの障害が関係します→彼女が死ぬ数日前、〈アマテラス〉は故障し、気温はゼロ度を下回った。
④カレー屋さんしか見つかりません→カレーには興味がなかったが、彼女と一緒に次男の店へ行った。それ以外の店はなかった。
⑤女は間違いを犯しました→ニャーゴ。あなたは、間違えている。
⑥労働の喜びを感じました→頑張ってパイロットになって喜んでいた
⑦女はスポーツが得意です→「運動には自信があったのに、あなたは息切れもしてないね」
⑧損な性分です→「損な性分でね。あなたは? 寂しくないの?」
⑨創りだします→生成AI
⑩あと一つです→「そうだったの。アンドロイドと一緒に走ったのは初めて」「世界に一体しかいませんから」
彼女(たち)の物語:
「コンピューターに世界征服をさせない方法」https://late-late.jp/mondai/show/4230
「そして、あなたたちを忘れないために」https://late-late.jp/mondai/show/6882
(完了)
[編集済]
🐾 [良い質問]
女は混乱していた。
自ら創りだした解説。⑨
ある漫画原作の女が、作画担当の友人が負った目の障害に気づかないという間違いを犯した。③⑤
しかし溢れたインクをきっかけに謎がとけて仲直りし、絵本作家としてまた復活して物語を書く仕事の楽しさを思い出す。②⑥
そんな解説がここまで評価を受けるとは、全く予想していなかったのだ。
まさか自分がシェチュ王を取れるだなんて、思ってもいなかった。真夏だけれど、明日は雪になるんじゃないかと思った。①
女は次回主催に向けてやるべきことを書き出した。女はとても真面目で、次回開催までにそこそこ時間があっても、動いていないと落ち着かない損な性分だった。⑧
大抵のことは決まっていたけれど、あと一つだけが決まらなかった。⑩
一番重要なこと、問題文である。
時計を止めることにした、という結びは決まった。けれどもう一つ、何か問題文に要素が欲しい。
できれば抽象的になりすぎないようにしつつ、でも解釈の幅が広いアイテムが欲しい。けれど思いつかない。
何がなんでも、自らが主催する創りだすは成功させたかったのだ。
女は日課のジョギングも兼ねて、ネタ出しのために外に出ることにした。⑦
珍しいものを見たくて、普段は通らない道を選んだ。そこは笑えてくるくらいカレー屋さんしかない通りだった。④
けれど、カレーでは解釈の幅が狭すぎる。
そんな時、道端に置かれた一冊の本が目に入った。誰かが置き忘れたのか、捨てられたのか。
その時女は思いつく。
そうだ、「本」にしよう!
きっと、次の創りだすも成功するに違いない。
——問題文。
薄明かりの中。
震える手で本を開いた人は、時計を止めることを決めた。
一体どういうこと?
了
簡易解説
創りだすの主催になった女。
問題文が思いつかず困っていたが、ネタ出しに普段は通らない道を通ったとき、「本」が使えると気がつき、創りだすを成功させたいという願いは叶うと思った。
使用要素:①〜⑩全て
参考:
第24回正解を創りだすウミガメ「滲みて、とくるは」
(https://late-late.jp/mondai/show/11235)
第25回正解を創りだすウミガメ「時をかける書物」
(https://late-late.jp/mondai/show/11598)
※この物語はフィクションです。
🐾 [良い質問]
それは恋と呼ぶにはいささか純真で、憧れというには少しばかり身勝手だった。
「タンゴでは、女性は死体なんだってさ」
人気のないホテルのロビーで、その人は煙草を燻らしていた。だらしない姿勢で古びたソファに寄りかかったまま、言葉を続ける。
「昔、男性が亡き恋人の遺体と踊ったのがタンゴの起源らしいよ」
ま、諸説あるけどね、とその人は付け加えた。その拍子に、煙草の先から灰が床へとこぼれ落ちる。
ひどい人だ、と優子は思った。
「優子ちゃんは、まるで」
その人の黒い瞳が、優子の奥底まで覗き込もうと迫ってくるような気がした。
「いつまでも、タンゴを踊ってるみたいだ」
◇
その日は雪が降っていた。①
山間にあるこの小さなホテルでは当たり前のことのようだったけれど、都会生まれ、都会育ちの優子にとっては物珍しい。
夜遅く、陸上部の練習を終えて友達と帰る通学路で、誰からともなく始めた雪合戦の記憶が、膜一枚隔てた向こう側で浮かび上がって、消えた。⑦
廊下に人気はない。それもそうだ、今は一月の末。観光地に人が動くような時期ではない。
とはいえ、このホテルならば、たとえ観光シーズンだとしても、今のように静まり返っているのかもしれなかった。
安さだけで選んだホテルは、設備、食事、立地、どれをとっても値段に見合った質といった具合だ。かろうじて部屋の暖房は機能するものの、ロビーはもはや外と大して気温は変わらない。
一応温泉と銘打ってはいるものの、どことなくカルキの匂いがしないでもないお湯を済ませた後、足早にロビーを通り過ぎようとした足が止まったのは、そんな極寒の室内に、人影があったからだった。
向こうも優子に気がついたのか、ソファの背もたれに上半身を乗せるようにして、振り返った。
しばし、目が合った。
若い男性だった。服装は、部屋に備え付けのよくある浴衣だ。
旅館から中途半端にホテルに改造したらしいこの宿は、和洋折衷といえば聞こえが良いが、カレーうどんというより、カレーラーメンとか、カレーシュークリームとかいった感じだ。
つまり、それぞれが喧嘩しあっていて美味しくない。そういうこと。
例えがカレーばかりになるのは、昼食を取りに街へ出てもカレー屋さんしか見つからないために、連日昼食がカレーだからだ。④
そんなカレーチーズケーキの中に不思議と馴染んで見えるのが、その人だった。
公共の場で煙草を吸うマナーは褒められたものではない。優子以外に宿泊客がいないと思われるこのホテルにおいては、もはや些事だとはいえ。
黒い髪は無造作に伸ばされたままで、あまり手入れされていないのが一目でわかる。あまり関わらない方がいい人だ、と思った優子は、会釈すると通り過ぎようとした。
「待って」
呼び止める人など一人しかいない。振り返った優子に、その人は手招きをした。
「ちょっと話してかない?」
不審者の常套文句だ。そんな言葉が一瞬浮かんだけれど、大人しくその人に向かって歩いて行ったのは、一つはいくら人がいないとはいえ、大声をあげればホテルの人が気づいてくれると思ったから。
あと一つはきっと、一丁前に人恋しかったからだ。⑩
「なんですか」
ソファに座り込んで、優子はぶっきらぼうに言った。警戒を隠さない態度だったけれど、その人は意に介さず煙草を唇に当てる。
「木村。俺の名前」
煙草の煙と共に、その人は名乗った。なぜ名字だけ、と思ったけれど、優子もそれに倣って答える。
「濱野です」
「下の名前は?」
自分は名乗らないでおいて、という言葉を飲み込んで、大人しく答える。
「優子」
「優子ちゃん」
軽いな、と思った。普通初対面の相手にちゃん付けはしない。
木村の誘いに乗ったのは間違いだったと悟る。⑤
適当な理由をつけて部屋に戻ろうと思ったところで、木村は唐突に言った。
「優子ちゃんは、なんでこのホテルを選んだの?」
「安かったので」
「それなら、なんでここへ来ようと思ったの?」
「なんで、って」
優子は言葉に詰まった。木村の言うとおり、大して見るものもない辺鄙な山の中だ。それでもスキーで、とか、親の仕事で、とか適当に使えそうな言い訳が浮かんで、消えた。
この人の前には、取り繕った言葉は無価値のような、そんな気がして、優子は一番素直な言葉を選んだ。
「わかりません」
木村が笑った。それは嬉しそうな笑みだった。
「どうして笑うんですか」
そう聞けば、木村は驚いたような顔をした。自分の頬をぺたぺたと触って、その表情を確認しているような素振りに、答えが返ってこないことを悟る。
だから代わりに、木村でも答えてくれそうな無難な問いを選んだ。
「木村さんは、どうしてここに来たんですか」
「俺? 俺は、そうだな」
言葉を探すように視線を持ち上げ、煙草を吸って、吐く。
「一番平たく言えば、執筆のため」
「作家ですか? それとも旅行誌のライターとか」
「どっちだと思う?」
「前者です」
「なんで?」
「旅行誌のライターがこの場所を特集したら、その号は全く売れないと思うので」
「違いないね」
木村は大きく頷いた。その勢いで、煙草の先から崩れた灰が床に落ちた。
「締め切り前の缶詰ってやつですか」
それくらいにしか使えないホテルだった。このカレーショートケーキも、一種の軟禁場所と思えば頷ける。
けれど木村は、あっさりと首を振った。
「どっちかというと、取材かな」
「それって、もっとこう、華やかな外国とか、おしゃれな東京の店とか、そういうところに行くものじゃないんですか?」
「普通は知らないけど、ここはパリよりも魅力的だよ」
「カレーブラックサンダーがですか」
思わずそう返してから、木村がきょとんとしていることに気がついた。
よくこういうことがある。頭の中と、外の会話が少しずつ溶け合って、輪郭がわからなくなるようなことが。
言い訳がましく付け足した。
「和洋折衷の出来損ないです」
「さては昨日の昼ごはん、下のカレー屋さんだったな」
ひとしきり笑った後、木村はそう言った。そして何気ない調子で、続けた。
「ここに来る前、何があった?」
それは今までの会話の延長線上にぽんと置かれたようで、だから優子も自然に答えた。
「同級生が亡くなったんです。名前くらいしか知らないんですけど。会ったこともないし、顔も知らない」
「へえ」
気のないような返答だったから、優子もそれ以上話す気がなくなって黙った。しばらく沈黙が続いた後、おもむろに木村が口を開いた。
「タンゴでは、女性は死体なんだってさ」
◇
——優子ちゃんはまるで、いつまでも、タンゴを踊ってるみたいだ。
翌日もロビーで煙草をふかしていた木村の隣に座ったのは、その言葉の意味を測りかねていたからだった。
一晩考えてみても、木村が何を意図していたかはよくわからないままで。けれどわからないなりに、何か、惹かれるものを感じたから、優子はここにいる。
それは良いのだけれど、どうして今、折り紙をすることになっているのか。
「これあげる」
楽しそうに渡された真っ赤な折り紙。木村もまた、膝を抱えるようにソファに座り込んで黙々と手を動かしている。
話しかけても返事が貰えなそうにない雰囲気だったから、仕方なく手癖で鶴を折った。幼い頃に折り紙に夢中になった時期があったことを久しぶりに思い出した。
手際よく折り上げた鶴を木村の前に置けば、木村は不満そうに言った。
「鶴だね」
「そうですね」
木村はそれしか言わなかったけれど、気に入らなかったのがひしひしと伝わってくる。諦めて、優子から聞いた。
「何を作ってほしかったんですか」
「さあ」
「さあってなんですか」
木村は折っていた紙を掲げた。さぞ緻密なものが、と期待したけれど、それを見て愕然とした。
三歳児でももっとうまく折るだろう、と言うような。折り紙というよりちり紙というか。
かろうじて円形のようだけれど、その折り目はめちゃくちゃで、なんの形とも言い難い。
自信満々に、木村は言った。
「倒されたばかりの怪獣だ。いつかまた復活する②」
「何言ってるんですか」
鶴と怪獣(仮)と、一体何が違うのか。
「優子ちゃんも作ってよ」
「いつかまた復活する怪獣をですか?」
「違うって」
木村はわずかな微笑みを見せた。今までに見たことのない種類のものだった。
「優子ちゃんが創りだすんだよ⑨」
「……新しい折り紙の折り方を考案するってことですか?」
小さい頃によく見ていた折り紙サイトを思い出した。カテゴリごとに様々な折り方が載っていたから、たくさん花を折って花束のようなものを作った記憶がある。
うーん、と木村は腕を組んだ。
「そうともいうけど、違うかもしれない」
言葉を探していた木村は、優子が二枚目の折り紙をひっくり返し始めたとき、ようやく口を開いた。
「折り方なんて、覚えてない方がいいんだ。この時一回きり、優子ちゃんだけが作れればいい」
それが、と木村は言った。
「ここに優子ちゃんがいたっていう、証になるでしょ」
優子は黙って、紙を折り始めた。何も考えることなく、気分だけで手を動かした。
そんなときに頭に浮かんだのは、四限の体育館だった。
ごくごく普通の体育の授業だった。複数クラス合同の選択体育で、実力別に分けられたチームごとにバレーボールの試合をしている。
いつも通り、ネットを張って、準備体操をして、パスの練習をして。試合を始めて、点数を入れて歓声を上げて、暴投して謝って。
午前中に、ひとり、同級生がいなくなったのに。
放送で初めて名前を知った彼は、長年不登校だったらしく、親しい友達もほぼいないようだった。だからなのか、なんなのか、午前中は神妙な顔をしていた同級生たちも、当たり前のように日常へと合流していく。
彼の死を悲しむ道理は、彼に近しいものだけにあって、優子にはない。だからそれは悲しみというよりも、恐怖に近かった。
一人立ち止まって、前を歩いていく同級生たちの背中を見ているような。長く伸びる彼らの影を踏んで、そこから自分だけぴくりとも動けないような。
何か決定的に変わったものがあるはずなのに、まるで初めからそうだったかのように進んでいく世界が、怖かった。
「そっか」
手元で折り紙が硬くなり、これ以上折れない、というところまでたどり着いた時、優子は独り言のように言った。
「私だけは、日常に帰りたくなかったんだ」
だから、一人こうして山奥のホテルに逃げてきた。
変わる前の世界のことを忘れたくなくて、いつまでも死者とタンゴを踊っていた。
木村は何も言わなかった。ただ、優子の手元を覗き込んでいる。
しばらくして、優子は言った。
「木村さん、できたよ」
不恰好な折り紙を掲げながら、自信満々に言ってみる。
「餅巾着、カレー入り」
木村は笑った。
「いいじゃん」
◇
ホテルへの滞在は七日の予定で、決して長い時間ではなかったけれど、何もやることがなければ持て余す。
ふとしたきっかけで管理人の老夫婦の雪かきを手伝ってみれば、それが思いの外楽しくて、優子は連日黙々と雪を退かしていた。⑥
雪が屋根の上に積もりすぎると、電波障害を起こすのだ。③ いくら山奥とはいえ、テレビくらいは当たり前のように普及している。
老夫婦は穏やかな良い人で、カレーパフェと散々言ったことを心の中で謝った。木村の言う通り、パリよりも素敵な場所だと思った。
そして夜は、木村の隣で折り紙を折った。新しい折り紙を二人で創りだしては、笑った。
木村に認められると心が浮き立つ。木村の一挙手一投足で、感情が揺れる。この人のそばにいたいと、心から思う。優子を見ていてほしいと、思う。
それは恋と呼ぶにはいささか純真で、憧れというには少しばかり身勝手だった。
「私、明日帰るの」
最後の夜だった。優子は餅巾着、カレーうどん味を披露した後に、さりげない風を装って言った。
木村は少しだけ時間をおいて、そう、と相槌を打った。
それきりになってしまうのが、急に怖くなった。優子は小さな声で聞いた。
「私がいなくなったら、木村さん、私のこと忘れないでくれる?」
その言葉は、どちらかといえば、恋だった。
木村はゆっくりと答えた。
「忘れない……と言いたいけどね、人の記憶は有限で、俺も優子ちゃんがいなくなったら、一人で折り紙を折る生活に段々慣れてくと思うよ」
「……そうだよね」
優子は頷いた。きっと優子も、東京に戻り、今まで通り学校に通い始めれば、木村の記憶は次第に薄れ、折り紙も手に取らなくなるだろう。
10年後に折る折り紙は、なんの変哲もない鶴なのかもしれない。
けれどその摩耗は、ある意味で救いであるのだと、優子は思った。木村の記憶を引きずり続けたまま日々を送るしんどさを思った。
「だから俺は、小説を書いてる」
木村は唐突に言った。話の流れが掴めなくて、目を瞬かせる優子を見下ろして、木村は初めて折り紙を折ったときのような笑みを浮かべた。
「俺の家の近くに川があってさ。そこそこ早い流れの中で、一本だけずっと残ってるなんかの木の杭が、ずっと好きだったんだ。木の葉みたいに流されないで、流れに合流しないで、ずっとその場所に留まり続けてる杭が」
優子は頷いた。その気持ちは、よくわかった。
「五年前だったかな? その杭が、折れてたんだ。もう根本から、ぽっきり。それなりにショックだったけど、だよな、とも思った。望んだって、いつまでも立ってるのは無理なんだ」
それでも杭が好きなんだから、損な性分だよね、と木村は呟いた。⑧
「流され続けるしかないと思っても、流され続けるのが癪だったから、小説を書くことにした」
木村は何かを懐かしむように目を細めた。
「忘れないのは無理でも、結局杭のない川に慣れていくんだとしても、小説なら、杭がここにあったってことを、自然に残しておけるでしょ」
流れていく川の水を、少しだけ手元の小瓶に掬い取って、棚に飾っておくような。
そんな生き方だと、優子は思った。
「だから、優子ちゃんも小説書きなよ」
それになんと返したかは、あまり覚えていない。木村と別れ、家に帰るまでの記憶は曖昧だ。
家に帰った翌日は学校に行って、友達とくだらない話をしながらお昼を食べた。部活終わりの気だるい疲労の中、真っ暗になった道を広がって歩きながら帰った。
そんな日々が続いた。当たり前のように優子の日常は戻ってきた。木村の記憶も、恋心のようなものも、少しずつ日常の中に溶け込んで薄れていった。
そして、季節は巡る。
その日、珍しく遠回りして本屋に寄ったのは、木村と出会ってちょうど一年が経つことを、ふと思い出したからだった。
あの後調べてみたけれど、木村という名前の作家はあのホテル近くのカレー屋さんよろしく笑えるほどたくさんいて、優子はとうに諦めていた。
本屋の中に入ろうとした時、入り口近くに一冊だけ平積みされていた本のタイトルが、ふと目を引いた。
餅巾着、カレー入り。
吸い寄せられるように本屋に入って、表紙に描かれた、雪に包まれるカレーモンブランなホテルを指でなぞった。直木蕪村、と書かれたその本をじっと見つめる。ふざけたペンネームだと思った。
——私がいなくなったら、木村さん、私のこと忘れないでくれる?
きっとこの本が、その答えだった。
簡易解説
旅行先で小説家の男に片想いをしていた女。
帰った後も、自分のことを忘れないでほしいと願っていたが、珍しく立ち寄った本屋の入り口で、自分を題材にした男の本を見つけたので、その願いは叶うと思った。
使用要素:①〜⑩全て
🐾 [良い質問]
あとがき
この本は私のデビュー作であり、この先も書き続けるかどうかはわかりません。
私が筆を取ったきっかけはこの本に全て書いてあり、それ以上でもそれ以下でもないからです。ただ、木村さん(作中名)と出会わなかったら、私は生涯小説を書くことはなかったでしょう。
小説を書いてみて、なんて綺麗事ばかり言ってくれたんだ、と思いました。少なくとも、陸上部だった私にとっては、書きたいだけで書けるようなものではありませんでした。
それでも、この本が、読者の皆様の心のどこかに触れられることがあれば、嬉しく思います。
最後に謝辞を。
改稿に根気強く付き合ってくださった担当編集様、いつかまた復活する怪獣の折り紙というとんでもない注文を、穏やかでおおらかな筆致で描いてくださった装丁の咲本ゆい様。皆様の支えなくして、この本が無事に出ることはありませんでした。
そして木村さん。恋心(仮)を知られるのは恥ずかしくはありますが、いつか、この本が木村さんの元に届くといいなと思いながら、あとがきを書いています。
また、いつかお会いできることを願って。
濱野優子
了
[編集済]
🐾 [良い質問]
【答え】
お父さんと二人暮らしの私マミのところに、ある日アンドロイドの女の子がやってきた。
お父さんはアンドロイドが好きみたい。お父さんをあの子に取られちゃうんじゃないかって心配だった私だけど、いつもは通らない道で、お父さんが捨てたアンドロイドの説明書を見つけた!
私と遊んでくれるために、お父さんはやっぱりアンドロイドを捨てるんだ。良かった!
【お話】
こんにちは!私の名前はマミです。
年は6歳!優しいお父さんと二人で暮らしています。
お父さんは昼間は研究をしていて忙しいみたいだけど、お休みの日とか、夜帰ってきた時とか、私とたくさん遊んでくれます。トランプしたり、ゲームしたり!でもお父さん、どっちも下手くそだからいっつも私が勝っちゃうんだよね。なんたって私は、頭がとっても良いから!
お父さんはいつも私を褒めてくれます。マミは折紙が上手だね。喜ぶ顔が可愛いね。よくはしゃげて元気だね。いつも背中を撫でてくれます。私はそんなお父さんがだーいすき!
あとは、ゼリーも大好き!お腹が空いて元気が無くなると、お父さんはデザートにゼリーを用意します。私はそのゼリーが一番好き!だからお父さんにありがとうって言います。お父さんは嬉しそう。すると私も嬉しくなります。
でも、昼間はいつもお父さんがいることはありません。お父さんがいない時は、一人でゲームしたり、折紙したり、あとは何もせずにいたりします。お父さんが帰ってきたら、真っ先に玄関へ迎えに行く!研究が大変で寂しそうな顔をするお父さんは、私の顔を見ると少し笑顔になります。
私はお父さんが大好き!だから、ずっとお父さんが幸せでいてくれたらって思います。
そんな普通な女の子の私の元に、ある日とんでもない子がやってきたのです。
それはある日の夕方、突然やってきました。
いつもはもう少し遅く帰ってくるお父さん。なのに今日は一足早く足音が聞こえてきました。私は耳がいいから、お父さんの帰りにすぐ気付けます。
お父さんはなぜか玄関じゃなくて、裏口から帰ってきました。リビングから一番遠く。裏口に近いお父さんの部屋には入っちゃダメと言われているんだけど、早くお父さんに会いたい私はお父さんを脅かそうとこっそりタンスの影に隠れました。
帰ってきたお父さんを見て、いや、お父さんの隣にいた女の子を見て、私はびっくりしました。
その子は私にそっくりな女の子だったのです。
——————
その日から、私の毎日は変な感じになりました。
なぜなら、お父さんはその女の子のことを私に隠しているからです。
その子はお父さんの部屋で暮らしているみたいです。なのでお父さんは、私がその子のことは知らないと思っていると思います。
私は時々、お父さんに内緒でその子をこっそり見に行くことがあります。
その子は変な子です。一人で折紙遊びをしていても、作るのは変なものばかり。鶴を作りたかったけど折り方を間違えたのかな。ゲームも、遠くからは見えないけど、なんだか下手そう。かと思ったら、お昼なのに急に動かなくなるのです!私はそれを見てびっくりしました。
多分、あの女の子はパソコンとか冷蔵庫とか、そういうものと同じ。私はなんて呼ぶかを知ってる。あの子は、ロボットなんだ!
でも私は、お父さんにあの女の子のことを聞くことはしませんでした。聞いてしまったら、お父さんの部屋に入ったことがバレちゃって怒られちゃうと思ったから。それに、私はその女の子のことが不気味だったから。折紙も上手くできない、お昼に動かなくなる女の子。お父さんがあの子を、マナミと呼んでいたことを聞いたことがあります。しかも、私とそっくり。私よりも少し大人っぽい感じだけど、とても似ています。
あの子がロボットだとして、どうしてお父さんはあの子を家に連れてきたんだろう。
あの子はお父さんと一緒で、寂しがりな子だと思います。ロボットに寂しがりとかあるのかなと思うけど、お父さんの部屋で一人きりの時、たまにとても怖がっている顔をするからです。それは何かきっかけがあるのではなく、急にそんな感じになります。まるで狭い部屋に一人でいるのが怖い、本能みたいに。そんな寂しがりな子だったから、優しいお父さんが拾ってきたのかな。
私は相変わらずお父さんと仲良く暮らしていますが、お父さんはあの子とも一緒に暮らしています。私の毎日はあの子の観察以外には変わらないけど、とても不思議で、とても変な毎日です。
私は心配になります。お父さんはもしかしたら私のことが嫌いになったのかもしれない。お父さんはロボットの方が好きで、私はお父さんを取られちゃうのかもしれない。お父さんが取られたら、私は嫌です。私は探偵みたいに、あの子が何者なのか、お父さんが何を考えているのか、こっそり調べ続けることにしました。
——————
私が色々変なものを見つけ出したのは、それからでした。
まずは冷蔵庫。お父さんの部屋の方にあるので冷蔵庫の中を見たことはなかったけど、あの子が冷蔵庫から不思議な液体を取り出すのを見て気になったので、中身を見ました。
そこには、変なものがたくさん。緑色の薄いもの。赤色の丸いもの。それより濃い赤色の四角いもの。そして、あの子が取っていた白色の変な液体。
どれも、私の知らないものです。これは本当に、食べ物?冷蔵庫は食べ物を入れるところのはず。なのに、私の好きなゼリーや、その他の私の知っている食べ物は見当たりません。
得体の知れない食べ物?たち。私に一つ不思議が増えました。
それにもう一つ、不思議な部屋を見つけました。お父さんの部屋のさらに奥。とても小さなお部屋。
中には、白い椅子がポツンと一つだけ置いてある。ここでゲームでもするのかな。もう一つ増えた不思議です。
私はそれから、もっともっと不思議を見つけました。お父さんの部屋にあった変な四角い機械。お父さんが仕事で使っているパソコンをそのまま大きくしたような形のものです。私はなんとかスイッチを見つけ出し、それを起動させました。
中から、人が話し始めます。ゲームやパソコンみたいな架空の人たちじゃなく、実際にいる人たちみたいです。真剣そうな顔をして、いろんなことを話しています。
一年前にユウカイ?された少女の行方。
見たことのない変な色の食べ物の話。
アンドロイド(これはロボットのことみたい!)の研究の話。
そして、外の世界の話。
私がお父さんの部屋に入ること以外に、お父さんに禁止されていることがあります。絶対に一人で外に出てはいけない、ということです。外には危険がいっぱいだから、マミ一人で外に出てはいけない。
なので私は外に出たことがありません。パソコンみたいな不思議な機械が映す世界は、なんだかとても楽しそうでした。
でも、そんなことがあまり気にならないくらいに、私はとても怖い気持ちになっていました。
得体の知れないものがたくさん、その機械から発せられる。知らないものはとても怖い。
本能にそう書かれているかのように、私は外のことが知りたくなりました。
その日、ついに私は外の世界に出てしまったのです。そして、全てを知ってしまいました。
——————
外に出ると、窓から見ているいつものように雪が降っています①。
私はそれから、一目散に走り出しました。どこを目指すでもない、遠く、遠くへ。お父さんとヒーローごっこで負けたことはないから、きっとどこへでも行けます⑦。
今まで一度も通ったことがない、「道」というもの。それを真っ直ぐ、真っ直ぐに。なぜなら、とても怖かったからです。何かあの機械から、良くないことを知ってしまったような気がしていたからです。多分、きっと、頭のとっても良い私は、このときにはもう自分の勘違いに気づいていたと思います⑤。
雪につく歪な足跡を見て、私は怖くなって立ち止まってしまいました。この足跡は、そういえば私のものなんだっけ。
辺りを見回すと、そこにはゴミ捨て場がありました。私がその中で目に入れたもの。それは、いつもこっそりお父さんの部屋に入っていたときに、机の上に置いてあった本。今日はなぜか、その机にはなかった本。
お父さんが、ここでその本を捨てたんだ。私は慌ててその本を取り出します。
“Magnificent Android Model Ⅰ Operating Instructions”
それは、アンドロイドの説明書。
私はその本を見て、ついに真実に辿り着いたのです。
ほら、やっぱりあの子はロボットだったんだ!
なんでお父さんがあの子を家に連れてきたのかはわからないけど、アンドロイドはもう捨てようと思って、説明書は捨てたんだ!
あの子とはお別れして、また私と一緒に遊んでくれるんだ!
良かった!またお父さんとたくさん遊べるんだ!本物の人間の私が。
人間の女の子の私が。
人間の女の子の私が。
人間の女の子の
ニンゲンのオンナノコの
ニンゲンの。
ニンゲンの?
ワタシのシコウは、そこで一旦止まってしまった。
『内部に水が入り込んだため、システムエラーが発生しています③』
頭の中に、そう音声が響いた。
そうか、雪の中を歩いてきたから、水が中に入ったのか。
『Magnificent Android Model Ⅰ , MAMIのシステムを停止します』
「システムが停止する直前に」私はこんなことを思った。
私が人間ではないのなら、あの子が本当の、お父さんの子なんだろう。
お父さんの子供のあの子が家に帰ってきたから、私はもういらない。
お父さんは、本物の子と幸せに暮らせるようになるのか。
そんなことは。
本当に良かった。
お父さんが幸せになれて。
MAMIは、システムを停止した。
【要約ver1.1】
アンドロイドの女の子マミは、今まで外に出たことがなかった。
初めて通った「道」というものの途中で、「お父さん」の捨てたアンドロイドの説明書を見つけたマミ。
自分の運用がもう必要ないということは、誘拐されてしまったために自分が代わりを務めていた「お父さん」の本当の娘(愛美)が見つかったということ。
それを理解したマミは、「お父さんの幸せを願う」というプログラム通り、自分の願いが叶うと思った。
——————
Q.マミが食べていた好物のゼリーが、本当はロボットに必要なエネルギーだったと仮定する。するとマミは、普段から普通の食べ物は食べていなかったということになりそうである。
では、「お父さん」はマミと一緒に食事をしていなかったのか?
マミに普通の食べ物を見せないように、一人で食事をしていたのか?
そもそも、「お父さん」は何を食べていたのか?(⑩↓)
——————
この辺りにあるはずだけど…。いつもは通らない道なので、方向音痴には辛い。もらった地図を回しながら凝視する。
すると、漸く目的地が見えてきた。ここが、お母さんとお父さんが眠っている霊園。
メモ通りの位置に向かうと、本当に両親のお墓がそこに存在した。
ついに来てしまったんだという気持ち、今ではそれは決して嫌な感覚ではない気持ち、が頭を巡る。
私は持っていた花をそっと供える。一通りのことを済ませると、物心のあやふやな頃の記憶しかない両親にお参りをした。
お父さん・お母さん、そちらではお元気ですか。
私は上手くやってます。親戚の人によくしてもらって、今ではもう高校生です。
今までお墓に来られなくてごめんなさい。やっと気持ちに折り合いがついて、一人で来ました。
幼稚園の頃、公園で誘拐されてしまってから、二人が必死に私を捜索してくれたことを、親戚のおじさんからよく聞いています。「私が監禁から解放される頃には、”二人とも”交通事故で」亡くなってしまったから、会うことはできなかったけど、とても感謝しています。
お母さん、私を産んでくれてありがとう。小さい頃の言いつけはしっかり守っているよ。立派で可愛い女の子に成長してみせるからね。
お父さん、私はお父さんと同じ研究者になるために、受験勉強を頑張っています。お父さんはアンドロイドを創りだす⑨研究者で、私は心理学の研究者だから、同じじゃなくてちょっと違うけど。
でも、自分の気になることをとことん調べ尽くしちゃう、お父さんの損な性分⑧はしっかり遺伝しているみたいです。おじさんによく言われます。
MAMIやISAMI⑩↑の仕組みはさっぱりだし、私はド文系だからお父さんの凄さは良くわからないけど、負けずに頑張ります。
お参りを済ませると、私はある供え物に気づいた。お墓の横に立てかけてある、一冊の本。無性に気になって取り出してみる。
それは、お父さんと他の研究者の人の写真が並んだアルバムだった。お父さんの研究仲間が供えたのだろうか。
『娘の愛美を抱く石神 勲教授』
目に留まったのはその写真。いつもおじさんが見せてくれる、生真面目な研究者だったお父さんの真面目で難しそうな表情の写真ばかり見てきた私は、初めてはっきりと、お父さんの笑った顔を見た。
たったこれだけの写真だけど、私は自分の願いが叶うだろうと確信した⑩。
きっと空から、お父さんが見守ってくれている。そう思うと、難しい勉強も難なくこなせるような勇気がもらえる。研究者になるという願いも、叶えられるような思いが宿る。
なんたって私は、頭がとっても良いから!
私はそのアルバムを戻すと、名残惜しい気持ちを抑えて帰路につくことにした。
使用要素:②④⑥以外の7つ
(終わり。)
🐾 [良い質問]
カレー屋を営む女は無人島に漂着した
雪が降る中①食料を探そうと散策すると地面に鹿の足跡を見つけました
彼女は罠を創り⑨設置した
スポーツが得意なので⑦島中を探しました。彼女一人しか居ないのに労働意欲が湧いてきた⑥客も居ないのに損な性分です⑧今の彼女はカレー屋さんです。さて食材を。鹿を見付けないと
いつかまたカレー屋として復活する為に!②
しかしカレー屋さん鹿見つかりません④
何故、鹿が見つからないのか?何らかの障害が関係する筈です③
女は間違いを犯していた事に気付きました⑤
設置した罠にあと一つだけ⑩足りない物があったのです
それは餌
鹿は何を食べるのだろう?彼女は所持品の本に載ってないか読もうとした
しかし本は無くなっておりいつもは通らない道に鹿に齧られ半分くらい無くなっていた
これでは読めない
しかし鹿はこの道を通りそしてこの本を食べると気付き罠を設置し餌の代わりに本を設置したのだった
使用要素:全て
[編集済]
🐾 [良い質問]
外はずっと「雪」が降っているらしい。一年中、絶え間なく、毎日だ。(1)
赤い「雪」が。
地下シェルターに住んで3年になる。
3年前のあの日、このシェルターにたどり着いたのは、私と祖母の2人だけだった。
祖母をおんぶして走って見事に生き延びた私、意外と生存力があるらしい。(7)
シェルターは全体で体育館くらい?の広さで、いくつかの部屋に分かれている。
それを私と祖母の2人が独占した。
ずっとシェルターの中にいて、中を散歩して、食べて、寝る毎日。
仕事に追われていた私にとっては、ある意味でご褒美のような生活となった。(不謹慎。)
祖母はこの生活に耐えられなかったんだろう。
だんだん弱って、食事量も減って、1年後に死んでしまった。
私はというと、、、逆に太った。食べる以外にすることがないし。
こんな状況でも私の食欲は少しも揺るがない。
これはこれで損な性分なんだろうか。(8)
保存食は、パンとか、わかめご飯とか、チキンライスとか、ドライカレーとか。
大人数分が貯蓄されていたので、1人で食べていけば当分もつ。
そして、ドライカレーがやたらと大量にある。
なぜかって? 私はカレーが苦手なのだ。それでカレーが大量に残っているのだ。
人類最後の生き残りかもしれない私は、苦手なカレーに包囲されつつある。(4)
私はカレーの神を怒らせてしまったのだろうか。
外で、世界で何があったのかはよくわからない。
直前のニュースでは、地磁気が反転するとか月が遠ざかっているとか騒いでいた。
電子機器がもうすぐ全滅するとか。誤作動でミサイルが発射されたとか。
そしてインターネットや電話が繋がらなくなった。(3)
月がほとんど見えなくなった頃、空は、赤くなった。朝も昼も夜も、世界は真っ赤になった。
それから赤い何かが降り始めた。
シェルターがあるという噂を聞いて、家を離れる決意をした。
祖母をおんぶした私は家族とはぐれ、迷走した挙句、このシェルターに辿り着いたのだ。
シェルターでは水を循環させていて、服をじゃぶじゃぶ洗うくらいはできる。
話し相手がいない私は、毎日歩きながら、思索している。
子供の頃は夢見がちな少女だったっけ。
新人の頃に上司がキレたときのこととか、大学受験のこととか、実家の猫のこととか、
初めて付き合った相手のこととか、思い出しては、もしあのときああしてたら、
とか、あれって実はこういうことだったのかな?、とか考えたりして過ごしていた。
小学生のとき、ユメト君が好きだった。一芸に秀でた感じの(?)くせのある男の子。
典型的なモテるタイプではない。
学校では、なんだか、自然と、一緒に遊んだりすることが多くて、楽しかった。
私は、一緒にいられてラッキーだと思って過ごした。
卒業して、中学校は別だったので会わなくなって、それっきり。
シェルターに来てしばらくした頃、ハッと気づいた。
ユメト君と一緒に遊べていたのは何故だったのか。
あの頃、ユメト君は私の近くにいることを選んでくれていたんだ。
だからよく一緒に遊べたんだ。
じゃあ、なぜそうしたんだろう?
それってつまり…。ユメト君も私を…?
もう何年経ってるのやら。その間に世界はこんなことになってしまったよ。
遅いな。気づくのが遅すぎるじゃないか、私。(5)
そりゃあカレーの神も怒るってもんだ。
シェルターにはディスプレイがあって、テレビやラジオの電波が来ていないことと、
外は生存不可能であることを示し続けている。自家発電で何とか動いているようだ。
3年もよく動き続けてくれて、ほんと、感謝にたえない。
今この世界で働いてるのって、君だけかもね、シェルター君。
これからもよろしく頼むよ。
ある日、シェルター内の通路を歩いていると、視界の端っこに何かを捉えた。
…そんな気がした。だけど、いつもどおりの、シェルターの無機質な壁。
ふと、普段は入らない別の通路が目に入った。
すぐ行き止まりになるので散歩のルートに入っていない通路だ。
その日は何となく、その通路に入ることにした。
その先のつきあたりの隅の方に、何かがある。
拾ってみるとそれは、白い小さな本だった。
白い表紙には、題名も何も書かれていない。
中をめくってみると、すべて白紙だった。
なんでこんなものがここにあるのだろうか。
誰が、何のために用意したのだろう。
3年ぶりの大発見(?)だった。
あと、ペンさえあれば、何かを書ける。(10)
でもペンがないのだ。ここにペンは落ちてないようだ。
んーなんか、惜しいな。
私は、本を開いて白紙を見ながら考えた。
私が人類最後の生き残りかどうかはわからないが、そうだとして、
私がすべきことはあるだろうか。何か記録を残すべきか。最後の人類(仮)の言葉を。
未来人?とか、宇宙人とかが発見してくれるかも。
シェルター内を本気で探せば、ペンぐらい見つかるかもしれない。
でも、それで何を書くんだろうか?
何はなくともカレーは嫌だ、とか書く?
いや、カレー神をこれ以上怒らせるべきではない。
…じゃあ、ユメト君のこととか書く?書いちゃう?
仮に、小学生のとき、ユメト君が私のことを好きだったとして。
もしも、私がそのとき、そのことに気づいていたら。
2人はどうなってた?
その後の10何年間の私の人生、どうなってた?
今とは全然違ってた?
ひょっとして、ひょっとして、結婚しちゃってた?
そして世界は、こんなことになってなくて、ずっと平和で…
本があって紙があれば、そこに心が生まれる気がした。
ここに書きたい、私の気持ちがある。
本と向き合うことで、自分の気持ちと向き合える気がした。
そして、本と向き合うことで、もう1つの私の人生の物語が、
紡ぎ出されていく予感がした。(9)
それを書きたい。
最後の人類(仮)である私は、残りの人生で、それをしたいと思った。
…最後の人類(仮)の言葉が、こんな妄想でいいのか?
まあ、いいでしょ。だって、これが私なんだから。
ここが私の、行きついた場所なんだから。
それに、妄想だって、極めたら、現実と見分けがつかなくなるかもしれない。
高度な科学技術は魔法と見分けがつかないっていうし。
いけるいける。人生、まだまだ楽しめる。
そういえばカレーはユメト君の好物だったな。
今日の晩御飯は…
……カレーにしてみようかな。
<終わり>
・使った要素
(1)雪が降っています
(3)何らかの障害が関係します
(4)カレー屋さんしか見つかりません
(5)女は間違いを犯しました
(7)女はスポーツが得意です
(8)損な性分です
(9)創りだします
(10)あと一つです
・使わなかった要素
(2)いつかまた復活します
(6)労働の喜びを感じました
🐾 [良い質問]
今から30年前のこと、ラテシンオリンピックバレーボール決勝の舞台にコズエはいた。しかし、コートの中ではなく、ベンチにである。準決勝が終わった翌日から持病の③血行障害の症状がひどくなり、ドクターストップがかかったため、出場できなくなってしまったのだ。オリンピック開催地のラテシンは高所に位置するためか気温が低く冬には①雪が降ることもある。そんな中でのプレーにコズエの身体は悲鳴をあげていた。チームの主力選手であるコズエを欠いた日本代表のプレーはちぐはぐであった。結果は惨敗。日本代表の悲願の金メダルまで⑩あと一つ届かなかった。コズエはここに来て初めて大きな挫折を味わうこととなった。
むしろ、コズエの人生は今まで何もかもがうまくいきすぎていたのかもしれない。幼い頃から⑦スポーツが得意で小学生の頃からバレー部に所属し、そこからは中高大で全国大会に出場。大学生で日本代表に選出され、オリンピック以外の大会を総なめにしていった。コズエは相手の選手が追いつけないようにボールに不規則な回転をかける打ち方を⑨創りだした。そのボールは「コズエボール」という名前で世界中で呼ばれていた。今回も準決勝まではコズエボールが何度も決まっていたのだが、決勝ではコズエボールを決めるどころか、試合への出場すら叶わなかったのは本当に大きな挫折であろう。
そこからは持病の治療に励み、テレビからの取材には②「いつかまた復活します!」と何度も力強く答えていた。しかし、待ち受けていた現実は非情であった。完全には治らないまま、4年、8年、12年と経過し、ついにオリンピックでの復活が叶うことなく選手としての生活を終えた。
そこからコズエの指導者としての人生が始まった。コズエは自身が叶えることができなかったオリンピックでの金メダルのために、代表の選手たちへは徹底的に厳しい指導を行った。そのため、選手たちとの間には大きな溝が生じていたのであろう。そのためか当時のチームはコズエの思い描いていた理想的なチームとは対極にあるようなチームになっていたように思える。オリンピックはおろか国内での試合ですら、チームワークを崩し自滅することが多かった。この現状についてコズエは考えた。コズエは自分は⑤指導のやり方において大きな間違いを犯していたことに気づいた。今のチーム状況を見る限り、選手のことを思いやり、チームワークを良くさせるような指導をしなければならないにもかかわらず、自分の夢を今の選手たちに押し付けて、勝ちにこだわる厳しい指導ばかりをしていた。
そこからは今までの指導法から大きく変え、チーム間の和を重視した指導法に切り替えた。そこから少しずつであるが、チーム勝率が高くなっていった。コズエも指導法を変えたことによる手応えを確かに感じていた。
オリンピックを直前に控え、合宿を行っていたとある日のことである。コズエは全体練習からの撤収を終え、宿舎の自室に戻ろうとしていた。しかし、いつも自室に帰るのに使っている廊下の蛍光灯が切れていたことに気づいた。そこでコズエは選手たちの部屋の前を通り、遠回りして自室に戻ることにした。選手たちの部屋の前を通ると、賑やかな声が聞こえてきた。少々羨ましさを感じたコズエは部屋をこっそり影から覗き込んだ。すると、選手たちが一冊の本を作っているではないか。いったいどんな本を作っているのかが気になったコズエはさらに耳に澄ませてみた。すると、
「できた!!これで相手がどこでも大丈夫だね。」
「これは世界に一つだけの作戦本だからね。」
「私たちがどう動くべきかというのを相手チームや相手の動きごとにまとめたんだよね。」
「これも監督がどんなときでもチーム全員で動けるようにしろって口を酸っぱく言ってたから、それを本にしたのがこれってことよ!!」
「これ明日監督に見てもらおうよ。そしたらまたアドバイスもらえるかも。」
と聞こえてきた。
この会話を聞いてコズエは選手たちの想いを理解した。
そうか、チームワークを重視して指導するようになってからはうちのチームってここまで良くなっていたんだ。その指導のおかげか、チーム全員での動きを考えられるまでになっている。このチームならもしかしたら、いやきっと金メダルを獲れる。そんな気がした。⑥バレーボール日本代表の指導者として働くことができて本当に良かったと思った。
さあいよいよオリンピック開幕だ。
【簡易解説】
バレーボール選手のコズエはオリンピックで金メダルを取れないまま、選手を引退してしまう。その後、指導者になったコズエはチームワークを重視した指導を行うことで、チーム全体の士気が高め、その影響からか代表合宿中に選手たちがあらゆる作戦を1冊にまとめた本を作っているのを見て、チームの金メダル獲得を確信した。
・使った要素
①雪が降っています
②いつかまた復活します
③何らかの障害が関係します
⑤女は間違いを犯しました
⑥労働の喜びを感じました
⑦女はスポーツが得意です
⑨創りだします
⑩あと一つです
・使わなかった要素
④カレー屋さんしか見つかりません
⑧損な性分です
[編集済]
🐾 [良い質問]
不意に吹き抜けた春風が、桜の花を散らしていく。
のどかな午後の陽光から目をそらすようにうつむいた視界の隅に、ふと花びらとは違う色の何かがはためいたように見えて顔を上げる。
カタン、と何かが小石を跳ね飛ばす音が聞こえた。
「おーい、そこの本、拾ってもらっていいですか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お、早いね西野、おまたせ」
放課後の校門には、授業が終わったばかりだというのに運動部の掛け声が響き始めていた。
声をかけられた西野は慌てて前髪を整えてから、にこりと笑って振り向いた。
「よし!じゃあ今日もいつもの道でいいかな?」
「西野のクラスは文化祭の出し物どうするの?」
見慣れた下校路を2人で帰りながら、彼は思いついたように問いかける。
「メインは喫茶店になりそうかな。どんなテーマのお店にするかは秘密だけどね。あと決めるのは企画名だけかな」⑩
「え、ほんと?決まるのめっちゃ早いじゃん!さすが委員長だね」
「私は書記しかしてないよ。話し合いを進めてくれたのは文化祭実行委員の子たち」
苦笑しながら訂正した西野は、心の中でそっとため息をついた。
みんなから頼られると言えば聞こえは良いけど頼まれたら断れないだけだよな、といつも思う。人から嫌われたくないし、誰かの役に立っている、必要とされていると感じたいから引き受ける。そうしているうちに、今年はクラス委員になってしまった。
つくづく損な性分だなぁと思いつつ、かと言ってみんなのように自由に振る舞える気もしない。都合の良い女だと自嘲したところで、その通りだから仕方ない。⑧
「ところで、さ」
別に怒ったりしないとわかってはいても、聞きにくいことはやっぱり聞きにくい。
西野は彼の後頭部を見つめてゆっくり問いかけた。
「桐谷くんは、文化祭どうするの?」
彼は車椅子の車輪を回す手を止めると、あー、と声を吐きながら、困った笑顔で振り向いた。
-----------------------------------
西野が桐谷と出会ったのは、高校2年生になったばかりの頃だった。
誰かと遊ぶ予定もないいつも通りの週末、取り立てて楽しくもない買い物をして家に帰る道の途中に、突然非日常が降ってきた。
「おーい、そこの本、拾ってもらっていいですか?」
後ろから声をかけられて振り返ると、車椅子に乗った同い年くらいの男の人がこちらに向かってきていた。
それそれ、と足元を指差す先を見れば、小さな冊子のようなものが落ちている。
拾い上げてみると、どうやら絵本のようだった。表紙は色あせて何が描かれているのかわからないが、ぼろぼろになるまで開かれた後があり、大切なものであることはわかった。
不慣れな様子で車椅子を動かす彼に近づいてそれを手渡すと、彼は屈託のない笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございます。風に飛ばされてどうしようかと思いました」
そう言って恥ずかしそうに頭をかく彼の服装が、自分の高校のジャージであることに気づいた西野は、あの、と口を開いた。
「もしかして二高の人ですか?」
「辛っ!辛さ普通でもこの辛さなの!?」
だから甘口にした方がいいって言ったのに、と笑いながら西野は水を手渡す。
あの後、え、そうです!あなたも二高の生徒なんですか?と嬉しそうにする彼が話をしたがったので、2人は道沿いで目についたカレー屋に来ていた。
桐谷と名乗る彼は、高校ばかりか学年まで西野と同じだった。2年連続でクラスが違ったから知らなかったのかな、などと言う彼に、でも車椅子の生徒がいたら流石に知ってると思うけどな、と西野は不思議がる。
あぁそれなら、と言って桐谷は足のことを話してくれた。
つい1ヶ月ほど前にこの地域にしては珍しく大雪が降った日、スリップした車が起こした事故に巻き込まれてしまったらしい。そのせいで足が動かせなくなったという時系列のため、車椅子で登校したのはまだ数えるほどしかないようだ。①③
それなら知らなくてもおかしくないか、と納得する西野に、でもやっぱり自分で車椅子動かすの難しくて…と桐谷はため息をつく。
「まあ学校では友達に手伝ってもらえばいいんだけど、下校が問題でさ。
みんな部活に行っちゃうから、タイミングが合わないんだよね…って、あ!」
勢いよく車椅子から身を乗り出す彼に、西野は嫌な予感がした。
「西野さんって、放課後空いてたりする?」
断れない西野に、選択肢はなかった。
-----------------------------------
「教室の出し物に入るとたぶん邪魔になっちゃうし、廊下も人が多いだろうから、校舎の外でやってるお店だけならまわることになるんじゃないかな」
まあそれでも十分文化祭っぽいでしょ、と少し残念そうな声で言う桐谷の車椅子を押しながら、やっぱり大変だよなと西野はひとりごちた。
4月のあの日に話をしてからというもの、西野は毎日のように桐谷を手伝いながら2人で下校していた。彼の車椅子は使用者が自分の力で動かすことができる上に介助者が押すことができるようにグリップもついているので、段差や坂を通る時は2人分の力で動かせる。
実際に桐谷の通学路を歩いてみると、誰かに手伝ってほしいという彼の気持ちが痛いほどわかった。緩やかながらも坂になっている箇所が多い。登校の際は坂を下る形になるので、時間をかければなんとかなるものの、下校時の上り坂は2人がかりでも正直骨が折れる。
ま、骨は本当に折れてるんだけどね、と冗談めかして笑う彼が良い人であることは、多少強引だった始まりを差し引いても、関わる中で十分に伝わってきた。
学校で見かけるたびに友達に囲まれている彼は、明るくて気遣いができて、人との距離を縮めるのが上手かった。
話すこと自体はできても雑談の話題を探すのが苦手な西野にとって、どんどん話を振ってくれる桐谷との会話はとても居心地がよく、自分まで話し上手、聞き上手になったような気がした。
彼は自分自身のこともよく話した。
好きな教科、苦手な食べ物、行ってみたい場所。事故に遭う前は陸上部だったことも教えてくれた。
顧問の先生には結構期待してもらってたんだけどね、と話す彼の宙ぶらりんなもどかしさは、中学まで運動部に全力で取り組んでいた西野にもよくわかった。彼女自身、部長を引き受けて部員たちの指揮をとろうとしたものの、部活に対する部員間の温度差に強いもどかしさを抱いていた。しかし自分の力でそれをどうにかすることもできず、結局高校では部活に入らないと決めた西野は、いつかまた走れるようになるよと慰めの言葉をかけることしかできなかった。⑦②
下校を手伝い始めてすぐの頃、家族に手伝ってもらえないのか尋ねたことがある。
僕は一人っ子なんだけど、と前置きした上で桐谷は両親について語った。
「僕が小学生の頃に父さんが病気で亡くなってさ。母さんが1人で働いて育ててくれてるんだよ。
朝から晩まで忙しくしてる中で、事故に遭っちゃったってだけでさらに苦労かけちゃったから、これ以上迷惑はかけられないなって」
そうだったの、ごめんねと謝る西野に、彼はううん、と首を振る。
「だから西野と会った日も、1人でどこでも行けるように車椅子の練習してたんだよね。
そしたらあの本が飛ばされちゃって焦った…って、そう言えば」
桐谷は学校用の鞄を開けて中をあさると、あの時見た絵本を取り出した。
「亡くなった父さんが絵本作家でさ。あんまり有名じゃなかったんだけど、このお話がすごく好きでよく読み返してるんだ」
子どもっぽいかな、とはにかむ彼がむしろ大人びて見えたのは、その前に母親への思いを聞いていたからかもしれない。
そんなことない、と思わず大きな声になった西野の返事に、わ、とびっくりした様子の桐谷を見て恥ずかしくなった彼女は、気持ちを落ち着けるように車椅子のグリップを握り直した。
「ここまでで大丈夫。今日もありがとう」
いつもの道を通って家の近くまで来ると、桐谷はいつものように感謝の言葉を口にする。よければ明日もよろしく、またね、と続けるはずが、この日はいつもと少し違った。
「ねぇ西野、今度の週末って空いてる?」
初めての展開に戸惑いながら、空いてるけど…と応えた彼女に、彼は本当によければなんだけど、と手を合わせて言った。
「ちょっと行きたい場所があって、電車で行かなきゃいけない場所だから、手伝ってもらえたりしないかな?」
ざざーんと音を立てて岩礁に波が打ち寄せる。本当にそんな音がするんだ、なんて思いながら西野は車椅子の横に座って海を見つめていた。
桐谷が行きたい場所は、海だった。制服を着ていない彼を見るのは初めて会った日以来だが、あの時とも違って今日の彼はスケッチブックを抱えていた。
上手くなるまで言わないことにしようと思ってたんだけど、と笑いながら、最近絵の練習をしていることを教えてくれた。
もともと父親の影響で興味はありながら触れるタイミングがなかったらしいが、車椅子生活になって部活を辞めたことで時間ができ、描き始めるに至ったという。
海鳥が奇妙な鳴き声を上げながら目の前を横切る。真剣な眼差しで鉛筆を走らせる桐谷をちらりと横目で見てから、再び海に目を戻した。
暇になっちゃうだろうからと彼は近くの店や施設を教えてくれたが、慣れない場所で彼を1人にするわけにもいかず、西野もこうしてひたすら海を眺めていた。
「ここさ、」
視線は前に向けたまま、桐谷が口を開いた。
「ここ、父さんがあの絵本の表紙に海の絵を描くときにモデルにした場所らしいんだよね」
あの、と言うからには出会ったときに見たあの絵本の表紙なのだろう。今日も持ってきて傍らに置いていたので覗き込んでみたが、今はすっかりぼろぼろになって模様のようにしか見えない。
そうなんだ、と答える西野に一言一言を届けるように、彼はゆっくりと話す。
「僕、父さんみたいな絵本作家になりたいんだ。人の心を動かす絵本を作りたい。
事故に遭ってから気づけたことが結構あるんだけどさ、一番大きいのは、周りの人に支えられてるってことだったんだよね。母さんに、西野に、学校の友達に、先生。みんながいるからこそ今こうして笑って生きていられるし、意識してなかっただけできっと、事故がなくてもそうだったんだって思った。」
桐谷は手を止めると、雲一つない空を仰いだ。
「だから僕はそんな自分の想いを込めた絵本を作りたい。僕自身の感謝を届けられる作品を、物語をこの手で創るって決めたんだ」⑨
西野、と呼びかけて彼はこちらを向き、ふっと力が抜けたように笑った。
「西野、いつもありがとう」
う、うん!どういたしまして…かな?私は全然暇だし、移動の手伝いくらいならいつでもできるから全然大丈夫…
しどろもどろになりながら早口で答える私は、どんな顔をしていただろうか。
こんなにもまっすぐで、どこまでも純粋な感謝を伝えられたのは初めてで、嬉しくて、気恥ずかしくて、頬が熱い。
家の近くに彼を送るまで、またねの言葉を聞くまで、上手く笑えた気がしなかった。
思えばこれまで、誰かにとっての一番になったことがなかった。
小学校の友達、中学校の友達、高校の友達。それぞれの時期に自分にとって一番仲が良いと思う友達はいたけれど、その子にとっての一番は私ではなかった。広く浅い交友関係という言い方がどのくらい正しいのかわからないが、確かにクラスメートの誰とでもある程度楽しく話せたし、いろんな人に頼られてきた。それでも私が一番仲が良い子は、私より仲が良い友達が必ずいた。
誰とでも友達になれた私は、誰とも親友になれなかった。
そんな私が初めて人の、桐谷くんの一番になれている気がした。夢を語ってくれたあの時、そう思えた。
実はそんなことないのかもしれない。友達全員に話していることなのかもしれない。でも今は関係ない。私が彼にとっての特別だと思えたから、私は私のことを肯定できる。誰かに必要とされる存在だと、そう認めてあげられる。
そしてそんな自分を必要としてくれる彼の、純粋な夢を追いかける彼の、役に立ちたいと思った。
応援したいと思った。
はじめは頼まれたからと義務感でこなしていた手伝いが、居心地の良い時間になったのは比較的早いタイミングだった。そこからさらにこの時間が続いてほしいと、彼と一緒にいたいと思うように変わったのは、間違いなく2人で海を見たあの日からだろう。
あの日を境に、西野は下校だけでなく休みの日にいろんな場所に彼が出かける手伝いをするようになった。スケッチをする彼が少しずつ夢に近づいている気がして嬉しかった。もともと誰かのために働くことは嫌いではなかったけれど、彼を応援するためと思えば楽しむことさえできた。⑥
彼が絵を描き、私が足になる。彼が夢を追い、私がそれを支える。
そんな関係がいつまでも続けばいいと、そう思った。
「手術を受けようと思うんだ」
桐谷が不意にそう言ったのは、木枯らし吹きすさぶ寒い冬の日のことだった。
え、と聞き返す西野に、手術を受ける、と彼は繰り返す。
それから話したのは、事故で折れた骨などはもうとっくに治っていること、先生の説明はよく理解できなかったが、神経がなんとかかんとかのせいでまだ歩けないこと。
「でも経過は良好らしくて、手術を受ければ今まで通り歩けるようになる可能性が高いらしいんだ。もし失敗したらって考えると怖いけど、これからのためにもここで頑張ってみようと思う」
母さんも手術のためにってお金を貯めてくれたんだ、と自分自身を奮い立たせるように話す桐谷の言葉の意味が、何故だか西野の頭の中でうまくまとまらなかった。
わかっていたことだ。でも同時に目を背けていたことでもあった。
彼が私を必要としたのは、彼の足が不自由だからだ。彼と私を繋いでいるのは、車椅子があったからだ。
もし彼の足が治ったら、車椅子が要らなくなったら、彼と私の関係は、これまで通りではいられない。
友達と一緒に帰るだろう。寄り道だってするだろう。足を酷使しなければ部活だってできるかもしれない。休日に2人で出かける必要性は、どこにもなくなることだろう。
ずっと続くはずもなかった、はじめから歪で脆い関係。
それがまっとうに壊れる気配に、私は確かに怯えていた。
そうなんだね、きっとうまくいくよ、応援してる。
ポジティブな言葉を並べた私の声は、震えてはいなかっただろうか。感情がこもっていただろうか。ちゃんと笑えていただろうか。
手術を受けることは、間違いなく彼にとっていいことだ。
彼が幸せに近づく選択をしようとしているのに、素直に喜べない自分が、ほんの少しでも失敗を願ってしまう自分が、どうしようもなく醜くて嫌いだ。
今日いつもの病院で手術を受けてくる、そう連絡があったのは春休み初日のことだった。
あれからずいぶん考えた。彼との今の関係は失いたくないが、やっぱり彼が絶望するより何倍も何倍もマシだった。辛い中でも頑張ってきたのは、報われるべきなのは間違いなく彼の方だ。何よりも彼の幸せを願おう。そして私なんて必要ない彼が進み続けるのを、遠くから見ていられればそれでいい。そう何度も自分に言い聞かせた。
頑張って!のメッセージは前よりずっと本当で、前よりずっと諦めが混じっていた。
桐谷にとっての大事な日は、同時に西野にとっても大事な日だった。
今頃手術を受けているのかと思うと家でじっとしていられず、寒空の下を目的もなく歩き出してしまう。
いつもは用事がない道をしばらく散歩をしているうちに、足は自然と病院の方へと向かっていた。自分が行ったところでどうしようもないことはよくわかっているのに、つい気になってしまう。
もういっそ病院の前まで行って、手術の成功を願って帰ろう。
そう思い立って病院の入り口近くまで来た時だった。
ばたばたという音が後ろから聞こえ、思わず振り返ると、携帯電話を耳に当てながらこちらへ走ってくる人影が見えた。焦っていたのかスーツのまま靴だけスニーカーといった格好の女性が、息を切らせて病院の方向へと走っている。
彼女が発した「手術」という言葉に、西野はびくりと体を震わせた。
「はい…お世話になっております…それで手術は…え!無事成功!本当ですか!ありがとうございます、本当にありがとうございます…間もなく病院に着けますので…」
ありがとうございますと何度も繰り返す女性にどこか親近感を覚え、こちらまで息が切れるような気がしながら、西野は自分を追い抜いていった女性の後ろ姿を見やる。
そして彼女の仕事鞄からはみ出て見えたものに、今度こそ本当に息が止まった。
本だった。
それも、色あせていてぼろぼろの、小さな冊子のような本。
見間違えるはずもない。彼が、桐谷が宝物だと言っていた、父親の作った絵本。
それを持って病院へと走る彼女は、彼の母親なのだろう。
心臓が高鳴る。
聞き間違いではないだろう、彼女は確かに、手術が成功したという電話を受けていた。
ということはつまり・・・
つつ、と西野の頬を熱いものが伝う。
よかった、本当によかった。おめでとう。これでもう安心だね。
桐谷にかけたい言葉の数々が頭の中を埋め尽くす。
とめどなく流れ出て押さえようとする手からもこぼれる涙のほとんどは、まごうことなき嬉し涙だった。
これでいい。これでいいんだ。
少しだけ残った悲しみに、そう呼びかける。
彼の幸せを、彼の幸せだけを私は願うのだから。
胸の奥の小さな痛みは、誰もいない路上に別れの言葉を残して消えた。
「さようなら」
『簡易解説』
大事に思う少年が手術を受けると聞いていてもたってもいられずにいつもは通らない病院の近くの道を通った女。その道中で病院から「手術が成功した」という電話を受けていた人物が、少年が大切にしていた本を持っているのを見つけたことで、少年の手術が成功してほしいという願いが叶うのだと思った。
[編集済]
🐾 [良い質問]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
春休みは西野の心とは裏腹に何事もなかったかのように終わり、新学期を迎えた。
桐谷が手術を受けた翌日、彼から成功したという連絡が入り、彼女は準備しておいた通りのお祝いの言葉を送った。
手術がうまくいったとはいえその日からいきなり歩けるようになるわけもなく、春休み中は病院でリハビリを頑張り、新学期から登校する予定らしい。
当然西野も彼と会うことはなかったし、もしかしたらもう会うことはないのかもしれないとも思った。
始業式の日、名簿を見ると桐谷とは教室の離れたクラスだった。3年間クラスが同じにならずに知らない人というのも珍しくないし、彼だって本当はお互いに顔も知らないまま卒業するはずだったんだよな、とふと思う。
もう一緒にいられないのだから、下手に同じクラスにならなくてよかったな、と西野は考える。あの幸せな日々を思い出さなくて済むのなら、それに越したことはない。
全校で行う始業式に、車椅子の生徒の姿はなかった。今までは体育館の後ろか脇に目をやれば必ずそこに彼がいた。だが他の生徒と同じように列に並んで座っているはずの彼は、すぐに見つかるわけもなかった。
あっという間に1日が終わり、下校の時間がやってくる。
ついクセで校門の前で立ち止まってしまいそうになり、もう待ち合わせの相手はいないんだったと苦笑する。いざ歩き出してもいつのまにか足が桐谷の家に向かおうとしていて、慌てて自宅への近道を選び直す。
習慣って恐ろしいな、などと考えながら、この道ってこんな形だったっけとふとあたりを見渡す。登校の時はいつもこの道を通っているのに、下校に使うのはあまりに久しぶりで、見え方の違いに少し驚いた。
桐谷と2人での下校路が「いつも」になっていたことも、それはそうかとため息をつく。
どんなに自分を誤魔化そうとも、私にとっての一番は、特別は、どうしたって彼だ。
こうしていつもとは違う道を通りながらでも、彼との帰り道は鮮明に思い出せるのが痛みに思えて、転がる石ころを蹴飛ばした。
もう彼のことは忘れようと決めたはずなのに、彼との記憶が蘇ってくる。彼と渡った信号も、彼と眺めたイチョウも、いつか行こうと話した温泉も、どれもあるのは今日選ばなかった向こうの道。この道での思い出は、彼と初めて話したあの店しか見つからない。
彼との思い出すらも奪われたように思えて、満開の桜が恨めしかった。④
そのとき、不意に吹き抜けた春風が、桜の花を散らしていく。
のどかな午後の陽光から目をそらすようにうつむいた視界の隅に、ふと花びらとは違う色の何かがはためいたように見えて顔を上げた。
本だった。
それも、色あせていてぼろぼろの、小さな冊子のような本。
見間違えるはずもない。彼が、桐谷が宝物だと言っていた、父親の作った絵本。
かたん、と誰かが小石を蹴飛ばして駆け寄ってくる音が聞こえた。
「おーい、そこの本、拾ってくれない?」
息が止まる。心臓が高鳴る。
どうして、どうして、
「どうして…」
はあはあと肩で息をする彼は絵本を受け取りながら、どうしてって、と口を尖らせた。
「こっちの台詞だよ!全然連絡取れないんだもん」
携帯電話を取り出して、始業式で電源を切ったままになっていたことに気づく。
あわてて確認すると、LINEや電話がいくつも入っていた。
でもどうして、となおも彼の顔を見上げる彼女に、桐谷はみてみて!と誇らしそうに屈伸してみせる。
「ほら、もうだいぶよくなったんだよ。全力で走ったりさえしなければたぶん大丈夫なんだって。だから今年一年は、僕が西野を家まで送って行こうと思って」
1年前の記憶を頼りに追いかけてきたんだよね、と笑いかける桐谷を見つめながら、彼女は動けないでいた。
車椅子がなくなれば私はもう彼と一緒にいられないのだと思っていた。彼には彼の世界があって、そこに私は必要ない。車椅子での移動を手伝うという役割が、彼と私を繋いでいて、その先には何もない。
でも、と西野は思う。
私は間違っていたのだろうか。⑤
普通に歩けるようになっても、笑い合うことができるのだろうか。
目に見える形で役に立てなくても、一緒にいて良いのだろうか。
「え、どうして泣いてるの?」
そう聞かれて、自分が涙を流していることに気づく。
とめどなく流れ出て押さえようとする手からもこぼれる涙は、今度こそ純粋な嬉し涙だった。
ありがとう。本当にありがとう。
漏れたそのつぶやきを聞きとった桐谷は、お礼を言うのはこっちの方じゃん、と頭をかいた。
「今までずーっと、本当にありがとう。
西野のおかげでみんなと違っても寂しくなかったし、手術を決意することもできたんだよ。」
君がいてくれてよかった、というその声は、もうほとんど聞こえていなかった。
嗚咽をもらす彼女の背をさすりながら、桐谷はゆっくりと言う。
「これからは僕も恩返ししていくから、よろしくね」
うん、と頷いた私の声は、彼に届いているだろうか。
心からの私の感謝は、彼に届いているだろうか。
この気持ちは、胸の奥から湧き上がる感情は、君のそばに立つ理由になるだろうか。
帰ろうか、という彼の言葉で歩き出した彼女が握っていたものは、車椅子のグリップよりも柔らかく、あたたかい何かだった。
【完】
『簡易解説』
いつもは少年の車椅子を押して彼の家に向かって下校していた女は、彼の足が治ったので独りで自宅への道を通っていた。その道中で彼が初めて会った日と同じように絵本を持って追いかけてきてくれたのを見つけたことで、足が治った後も彼と一緒にいたいという願いが叶うと思った。
[編集済]
🐾 [良い質問]
というわけで、2/25(日)の終わりまで、感想フェーズとなります!!!!!
好きな作品の感想を質問欄に投稿してください!
皆様の感想をお待ちしております!!!!!!
※今回ロスタイム投稿については「タイトルと本文を1質問にまとめる形でのみ可」です!
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タイトル「雪は海に溶けて消える」
~~~~~~~~~~~~~~~
《海に降る雪》
雪は海から生まれゆく
海の水が空へ昇り むくむくと雲に成長してから
ふるさとの海に戻るのだ
けれども雪は海に溶け
透明になって消えてしまう
あなたがマリンスノーなら
海にも居場所があったのに
~~~~~~~~~~~~~~~
地球温暖化による海面上昇で、数千年後、地球は陸地のほとんどが海に沈んだ。
陸地に棲息する動物は住処を追われ、減少の一途を辿る。
それは人間も例外ではなく、ほとんどの人間は陸地でなく海に住むことを余儀なくされる。
水中でも地上と同じような生活ができるよう研究がすすめられたが、海中に散らばったゴミの除去や処理、そして工場の排水や生活による下水で汚染された海水を浄化するには膨大な費用と時間がかかった。
結局9割ほどは環境が整うまで待たされ、自力で生きるすべを持つしかなかったので、人間の中で長い年月をかけて身体の構造が変化していった種がいた。
「まず、肺が大きく発達していった人間。効率よく呼吸ができるように、かつ長く息を止めて動けるように進化しました。
次に、鰓と似た呼吸器官を持つようになった人間。水中で呼吸ができるよう、水中から酸素を取り入れて肺に送り込む部位『鰓肺(さいはい)』に変化したものも発見されています。
もちろん、これらの進化を伴わずに補助器具を使いながら生活している人間もおり、我々はこの三種類に、それぞれ
肺が発達したものを【イルカ】、
鰓肺が見られるものを【サカナ】、
そのどちらにも変化しなかったものを【タイヤキ】と名称を付けて区別しています。
ここまでで何か聞きたいことはありますか? はいカツオくん」
「先生、サカナは水の上でも呼吸ができますか?」
「いい質問です。サカナは魚類に近い構造のため、大気中での呼吸ができません。はいサヨリくん」
「先生トイレ!」
「先生はトイレじゃありません。いってらっしゃい。はいハシナガくん」
「先生空気!」
「先生は空気じゃありません。いってらっしゃい。はいコムギさん」
「(ボゴボゴボガボゴブブゴボガバッ)」
「泡で声が聞こえません。はいカツオくん」
「先生、『そろそろ時間です』と言ってます」
「そうですか。それじゃ、今日は……」
「先生!!」
「なんですか、サヨリくん。トイレなら許可したはずですよ」
「トイレは行きます!! 普通に質問です!!」
「あと一つ、最近発見された人種について教えてください!!」⑩
~~~~~~~~~~~~~~~
不透明な海を泳ぐ。
手を使って海藻を掻き分け、足を使って岩を蹴り、口から小さく泡を吐く。
上からゆらゆらと乱反射する光を手繰り、水面から顔を出すと、氷のように冷たい空気が私の頬をぴしゃりと打った。
「——、はぁっ」
凍った酸素を肺いっぱいに吸い込み、口から白い白い息を吐く。
腕時計のストップウォッチ機能を止めると、昨日より半秒だけ時間が縮まっていた。
今のところは順調だ。
順調に自己ベストを更新していっている。
この調子で伸ばしていけば、きっと「私の願い」も叶うはずだ。
そんなことを考えながら時計を見ると、文字盤は15時を指していた。
「……そろそろ来てるかな」
冷たく乾いた空気を吸い、また私は水の中に潜った。
~~~~~~~~~~~~~~~
今日は水曜日。
私はこの曜日には、必ずカレー屋に行くと決まっている。
店に入り、奥にある窓際のソファー席まで行くと、一人の男性が頬杖をつきながらスマートフォンを触っていた。
毎回いるのはわかっているけど、やっぱり実際に姿を見ると、より嬉しい気分になる。
私は心を弾ませながら、その人の名前を呼んだ。
「バンドウおじさんっ」
「ん? なんだユキか。きみも昼?」
「ううん、お昼は食べた。隣いい?」
「どうせそのつもりで来たんだろ?」
「へへ、よくわかってんじゃん」
「そりゃ毎週顔を突き合わせてたらな」
バンドウおじさんは呆れながらも、小さく笑ってそう言った。
バンドウおじさんは、私が生まれた時からの顔見知りだ。
元々は私の両親と幼馴染らしく、毎週水曜日には行きつけのカレー屋で、遅めのランチを食べに来る。
私は、この時間だけを楽しみに毎日生きている。
「それで、今日も泳ぎに行ってたのか?」
「うん、ちょっとだけタイムを縮めることができたよ」
「へえ、それは何よりだ。しかしよく続くなあ、きみの両親はスポーツ得意なわけでもなかった気がするけど」
「そりゃ、将来は選手になりたいもん」
「選手? そりゃまたなんで?」
バンドウおじさんの疑問はもっともだ。
別に私は元から体を動かすのが好きだったわけでもないし、特に好きな選手がいたわけでもない。
でも、私には目的があった。
「私ね、《戻り水》を見つけたいんだ」
戻り水。
それは見つけると願いが叶う、と昔から言い伝えられている幻の水だ。
陸地のどこかで勝手に溢れ出て、人知れず海の中へ流れて消えていく。
そうして海に戻り水が溜まっていくことによって、海は陸地を覆うほどの量になった、というおとぎ話もあるくらいに有名なものだ。
「戻り水か……懐かしいな、俺も昔はよく探してたけど。しかし益々わからないな、それとスポーツを続けることに何の関係があるんだ?」
「実は戻り水について調べてたんだけど……図書館にあった本でこんな記述を見つけたの」
――【陸地時代のオリンピックのスポーツ選手の「長年の願い事が叶って『戻り水』が出た」という記述を発見したことから、戻り水にはどうやら願い事を叶える力があるらしいと推測する】
「私ね、戻り水が未だに見つかってないのは単純に条件が整ってなかっただけなんじゃないかなって思ったんだ。だからなるべくその条件に近づけば、限りなく戻り水を見つけられるんじゃないかって」
「なるほどな。それは一理ある……とはいえ、そんな理由でスポーツ選手を目指してるのか?」
「いいじゃん、どんな理由でも目標があるのはいいことでしょ」
そうは言ってもなあ、とおじさんは小さく零す。
「それを叶えるために戻り水を探すならまだわかるが、きみはそれを過程って言いきっちゃうところだよな」
「何か変?」
「いや……」
「そう言い切れるほどに、きみの中でどうしても叶えたい願い事があるんだろうなって思ってさ」
バンドウおじさんはグラスの中をじっと見つめ、ストローで氷をゆっくりとかき混ぜる。
それはどこか、遠い昔を懐かしんでいるような眼差しだった。
どうしても叶えたい願い事。
おじさんの言葉を、私は心の中で小さく反芻する。
「……うん。あるよ」
「そうか。大事にしてくれよ、その願い」
「……」
そう言って、おじさんはストローに口をつけた。
喉仏がゆっくりと上下して、口を話すと静かに息を吐いた。
その余裕のある態度に、ちょっとだけ私はいじわるをしたくなった。
「……聞きたい?」
「ん?」
「私の願い事」
「そりゃ、気になるけど」
「おじさんにならいいよ、教えても」
「……?」
「……」
「バンドウおじさんのカノジョになれますように、って」
「んぐっ」
おじさんはむせた。
リアクションのお手本のように咳き込むから、もうわざとやってるんじゃないかと思う。
「あのさ、いつも言ってるんだからいい加減慣れてよ」
「ゲホッ、……慣れてたまるか。戻り水を探してた理由は初耳なんだよ」
バンドウおじさんは顔を真っ赤にしながらそう言った。
思っていたよりも深く気管に入ってしまっているようだ。
「全く、しょうがないなあ。ちょうど水来たけど飲む?」
「ああ、助か……待て、これは何だ?」
「何って水だけど」
「それはわかる。中に挿さってる花のことだよ」
おじさんはグラスの中に活けられた四本の赤い花を指さした。
「おじさん知らないの? これはバラっていうんだよ」
「それもわかる。なんでバラを入れたんだ。ほぼ見た目花瓶じゃないかこんなの」
「安心して、食べられるやつだから」
「そういうことじゃなくて……」
「知ってる?」
説教が始まりそうだったので、私はそれを遮るように言った。
「陸地時代の人って、自分の伝えたい言葉を花に込めて相手にプレゼントしてたんだって。しかもそれが花の種類ごとに違うんだよ。ロマンチックだと思わない?」
「……つまり、それにきみの伝えたい言葉が込められてるってわけか?」
「うん。『愛』とか『美』って意味があるんだ」
「うーん……まあそれぐらいなら……」
「色にも意味があるんだよ」
「えっ」
「白は『純潔』、黄色は『友情』で青は『奇跡』なんだって」
「……赤は?」
「『告白』」
「……まあわかった。とりあえず気持ちだけは受け取……」
「バラには本数にも意味があるんだよ」
「エッ」
「四つなら『死ぬまで気持ちは変わりません』って言葉になるの」
「バラに言葉託しすぎでは?」
「本当は最低でも十二本にしたかったんだけどな。陸地のものって希少だから高いんだよね」
「……別に知りたくないけど十二本の意味は」
「『私と付き合ってください』」
「まだ四本で良かった……」
「それが陸地時代の奥ゆかしさってやつだよね」
盛りすぎて全然奥ゆかしくない……と言いながらバンドウおじさんは溜息をついた。
「……とりあえずこいつは『戻り水探し』のことだと思って受け取っておくよ」
「えー」
私がわざとらしく不機嫌な顔をすると、おじさんは軽く咳払いをした。
「とにかく、恋愛については早々に諦めてくれ。きみの両親がこのことを知る前に」
「わかった。じゃあこっそりアプローチすればいいんだね?」
「うん全然わかってないな、よく聞け」
おじさんはしかめ面でぶつぶつ文句を言いながらカレーを食べ始めた。
それはもう、しこたま怒られた。
親よりも長い説教を聞いたのは、後にも先にもこれぐらいだ。
でも、それで良かった。
それだけで私は嬉しかった。
この恋が決して叶わなくても、それだけで。
「……なんで笑ってるんだ?」
「別に?」
「はあ……もういい。説教はこれぐらいにしておこう」
「別におじさんの説教を聞くのは苦じゃないよ」
「それじゃ説教にならないんだよ」
バンドウおじさんは、また呆れた顔で溜息をついた。
「とにかくもう遅い。二人が心配する前に早く帰りなさい」
「時間が経つのが早いな……まだここにいちゃダメ?」
「ダメだ。俺がきみの父親に怒られる」
「ちぇー。頑固おやじを持つのも考え物だね」
それ本人が聞いたらショック受けるぞ、と言いながらおじさんはバラ入りグラスの中の水を啜った。
「……棘が当たってすごくチクチクする」
「それ飲みづらいでしょ」
「誰のせいだ、誰の」
おじさんはまたグラスを一口啜った。
別にバラを抜けばいいのに律儀なのか、それとも気づいてないだけなのか。
でもそういうところが、たまらなく好きなんだ。
「じゃ……また来週」
「ああ。また来週」
店を出て交差点で見えなくなるまで、私はおじさんのいるカレー屋さんに向かって手を振り続けた。
おじさんも、ずっとガラス越しに手をひらひらとさせながら微笑んでいた。
……ああ、またこの時間が終わってしまった。
心地よさが少しずつ離れていくようで、名残惜しい気分になってしまう。
本当に、いつもこの時間が続けばいいのに。
歩きながら、ずっとふわふわとした高揚感でそんなことを考えていた。
そんな時だった。
「……ちょっと。ほら見て、あれ」
「あんなところに《半魚人》がいるわ」
「やぁねぇ、あそこ通れなくなっちゃうじゃない」
「本当にアレって人間から生まれたのかしら?」
「まともな人間からあんなのが生まれるわけないでしょ」
「ちょっと、聞こえるわよ。くすくす……」
……。
……気にしたらダメだ。
どうせ明日には顔も忘れている、どうでもいい人だ。
言葉を聞くのは、バンドウおじさんだけでいい。
だから、あの人に胸を張れる自分でいなきゃ。
藻のように頭にこびりつく声が振り払えるように、私は泳ぐスピードを上げた。
~~~~~~~~~~~~~~~
……全く。
両親からの延長で付き合っていたつもりが、いつの間にか困った方向に成長したものだ。
ユキの両親とは、今じゃ三十年ほどの付き合いになる。
人種を超えた結婚が法律で禁止されていたころから、サカナとタイヤキ同士で密かに付き合っていた二人のフォローに日々奔走していたものだ。
最終的に俺はその二人にとっての障害……つまりは法律を撤廃するために政治家にまでなってしまったが、今となればそれも遠い昔の話のようにも思う。③
だからユキのことも、昔からよく知っている。
というか、彼女の両親と会うたびに引っ付いてくれば、そりゃ関わるなって方が無理だ。
とはいえ、こうなるとわかっていたら流石に接し方を最初から考えるべきだった。
独身かどうか聞かれて素直に話してしまったのを皮切りに、毎週水曜日のこの時間にあの手この手でああいうのを仕掛けてくる。
本当に諦めてくれと頼んでも全然やめる気配がない。
……結構マジで言ってるんだけどな。最近彼女の両親に会うたびにすごく気まずくなるし。
両親に似て、恋愛が関わると抑えが効かなくなる性分がある。⑧
よく言えばひたむきだが、その分危なっかしくて放っておけない。
でも、言ってしまえばそれだけの普通の子どもだ。
普通の人間と、何も変わりやしない。
たとえ世間が、そう思っていないのだとしても。
彼女が見えなくなってから、俺は再びバラ入りのお冷を啜った。
そして、閉じてたスマホの画面を再び開いてネットニュースの見出しを眺めた。
《遺体遺棄で母親逮捕 ”半魚人”の子どもに対するストレスが原因か》
「……」
《半魚人》。
それは世間的に言えば、サカナとタイヤキの間に生まれた人間を指している。
陸地時代にそういう名前の架空の生き物がいたことから、誰かが自然とそう表現するようになったらしい。……正直、俺はあまりそう呼びたくはない。
ではなぜその呼び方になってしまったかと言うと、それは彼らが今までの三種類の人種とは明らかに違う特徴を持っていたからだった。
……全身から魚類の鱗のようなものが生えている、という特徴を。
研究によると、それは決して病気などではなく、あくまで健康な皮膚として機能しているものであることがわかっている。
サカナのDNAとタイヤキのDNAが合わさることにより、どうしても皮膚を構成する遺伝子構造に変異が生じてしまうらしい。
この結果により、彼らの皮膚は魚類の鱗のように、自分の身を守るため、より海に適した姿に変化したのだと専門家は結論付けた。
……だが世間は、それをすぐにすんなりと受け入れることはできなかった。
結婚して子どもを産んだのは自分の責任なのに、いざ事実を目の前にしたら育児放棄や虐待に走る人間がここのところ増えている。
自分が思い描いている「普通の人間」の外見の特徴からかけ離れていると考えれば、不気味と思うのもまあ当然なのかもしれないが。
ユキは、そんな社会にも心折れずに努力を重ねた。
悪い大人の心無い言葉すら跳ね返せるほどに強い心を持ち続け、トレーニングを欠かさなかった。
その結果、彼女は今度開催されるスポーツ大会の選手に抜擢された。
鱗を持って生まれた人間としては、彼女が史上初の選出だった。
動機はともあれ、スポーツが名実ともに得意と言えるまで努力を続けたのは彼女自身の力だ。⑦
そのことは、純粋に尊敬している。
俺への感情を糧にしてそこまでできるのなら、しばらくは好きにさせておこう。
……なんてことを考える俺も、充分に悪い大人だが。
そう自嘲しながら、小さくグラスを傾けた。
~~~~~~~~~~~~~~~
大会当日を迎えた。
やれるだけのことはやった。
あとは、その結果を出すだけ。
競技用のウェットスーツに着替えると、ひそひそと周りの選手の話し声が聞こえる。
《半魚人》の選手が珍しいのか、たくさんの視線が刺さるほどに向けられているのを感じた。
もっと上の年代に比べたら、まだマシな方だ。
表立った悪口や蔑みの表情をこちらに向けてこない分、良心がある。
「……間もなく試合を始めます。出場選手の方は準備のため、速やかに移動してください」
さあ、行こう。
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
「さあやって参りました。第1497回・全国高校生スポーツ大会、実況は私イトウと」
「解説のシロイでお送りします」
「よろしくお願いいたします。どうですか、今年の注目株は」
「そうですねえ、常連で言うと第一コースのサワラ選手でしょうか。彼女は前年から選手権でも大きく記録を伸ばしていますからね」
「次のオリンピック内定は確実と言われている選手です」
「そして何と言っても、第四コースのユキ選手」
「ユキ選手は確か、サカナのお父様とタイヤキのお母様をお持ちでいらっしゃる……?」
「ええ、今まで大会に新人類……悪い言い回しをしてしまうと半魚人になりますが、今まであらゆる大会に参加することはありませんでしたからね。体質がどれだけ有利に働くかもまだわかりません」
「つまりは完全なダークホースというわけですか」
「一つだけ言えるのは、彼女の出場そして成績が、これからの時代に大きく作用することになるでしょうね」
「……さあ、間もなくスタートです。全員、位置について……」
「合図が鳴りました。さあ、まず先頭に立ったのは第二コースのカスタード選手」
「彼女は最初にアドバンテージをつけて泳ぎ切るタイプですね。出だしはまずまずといったところでしょうか」
「続いて一番、五番と続きます。やはりサワラ選手、序盤もしっかり食らいついてくる」
「サワラ選手は以前の選手権で序盤アド型の選手に追いつけなかったのがありましたから、ペース配分の対策をしっかり練ってきているようですね」
「五番のコノシロ選手は少し動きが重そうですが……?」
「彼女は先々週に足首を捻挫してしまったんですよ。軽傷だったので欠場こそしませんでしたが、本来のパフォーマンスが出しきれてないみたいですね」
「さあ、続くは本大会初出場。第四コースのユキ選手です」
「ちょっと出だしが遅れたのが心配ですが、いい位置についてます」
「彼女のこの動き、どう見ますか?」
「いやあ、ひとまずは様子見しているんじゃないでしょうか。まだ読めませんねー」
「ああーっとここで先頭のカスタード選手のマスクから大量の泡が!」
「あちゃー、酸素ボンベにトラブルですかね。タイヤキの選手はこれがたまにあるのが怖い」
「さあ一気に順位が変動します。一番サワラ選手が現在トップ。続いて五番コノシロ選手、四番のユキ選手……おっと、第六コースのハシナガ選手がユキ選手を抜いてきましたね」
「ハシナガ選手はスロースターターですが、冷静沈着で着実に追い上げるタイプです。カスタード選手のトラブルをうまく躱しましたね」
「確かに、他の選手はペースが乱れたようにも見えます。差が徐々に縮まっていってます……そしてコノシロ選手も抜いた」
「さあ、コースも残り半分を切りました。現在サワラ選手がトップ、その後にハシナガ選手、コノシロ選手と続きます。少し離れて第四コースのユキ選手」
「うーん、初出場で緊張が出てしまったか。あそこまで離れると巻き返しはほぼ絶望的ですね。ほぼ先頭三人の争いになりそうです」
「おっと、ここに来てハシナガ選手が仕掛けて外から回ってきた」
「得意の戦法ですね。まずは前方に出て、他選手のペースアップを誘っている」
「確かペース配分を狂わせることで、スタミナを早めに切らす効果があると以前おっしゃっていましたね」
「そうです。中盤に差し掛かると、ペースアップしようとしても思ったより速度が出せなくなるんですよ。疲れてきたところに追い打ちをかけるわけですね」
「そこをサワラ選手、スピードを上げつつも前には出ないようですが」
「もちろんサワラ選手もハシナガ選手の手の内はわかっていますから、一旦先頭を譲る形にしたんでしょうね。水よけをさせてスタミナを温存するやり方に切り替えたようです」
「さあ、先頭二人がどんどんペースを上げてきています。ここまでくると、三位のコノシロ選手は追いつくのがやっとでしょうね……」
「……ん? ちょっと待ってください。三位は……」
「ユキ選手!? ユキ選手だ!」
「いつの間にか追い上げている! 音もなく、猛スピードで三位についている! まるで海を駆けるハンター、バショウカジキのごとき強襲だぁ!!」
「ちょっと待ってこれ先頭すぐそこじゃない?」
「なんとここに来て突然ペースを上げてきた! どういうことだ、終盤直前での追い上げを狙っているのか!?」
「いや、それにしては早すぎます。通常中盤で出せるスピードより遥かに……」
「……あっ、そうか鱗だ!」
「鱗? ここに来て鱗とは、一体どういうことでしょうか?」
「まずですね、巻き返しが絶望的と先ほど言ったんですけど、あれはスピードを出せば出すほど、水の抵抗ですごく体に負担がかかるんですよ。あのスピードでもギリギリで、本来であれば体が尋常じゃないぐらい疲れる筈です」
「しかし、新人類はそうではないと……?」
「鱗があるじゃないですか、あれが通常の人間より硬い皮膚なので、その負荷に全然耐えられるんですよ。まさに海に適した姿になっているということですね」
「そう言っている間になんと、なんと先頭を抜いたぁ!!」
「マジかよやべぇな!!」
「ユキ選手、ぐんぐん差をつける!! まさに他を寄せ付けないスピード!! 前回覇者のサワラ選手ですら寄せ付けない!!! 速い!!! 速いぞ!!!!! さあゴールまであと数メートル!!! 新人類の意地を!!! ここで見せつけることができるのか!!!!!!!」
「行ったァァーーーーー!! ゴォォオオーーーーーーーールッッ!!! なんと初出場にして新人類初!! まさかまさかの、ユキ選手が!!!! レースを制しましたぁーーーーーーー!!!」
「いやこれホントすごいな、どうして今まで新人類の選手が出なかったんだ?」
「歴史が変わる瞬間を! 私たちは今目撃しています!!」
「……さあ、三選手が表彰台に上がります。まずは三位のハシナガ選手です」
「ハシナガ選手凄かったですねえ……あのスタミナと持久力は並の人間では中々習得できません」
「そして、二位はサワラ選手です」
「サワラ選手も仕上がってましたね。彼女もぐんぐん伸びますよ」
「そして見事優勝を勝ち取ったユキ選手。金メダルとトロフィーが贈呈されます……」
「……ん? あれ?」
「おっとこれは……」
「音声トラブルか?」
「いえ、指揮者が曲を止めていますね。予想外の事態に会場がざわついております……」
「どうやら、ここに来て表彰に対する異議の申し立てがあったようです。あれはどなたでしょうか?」
「あのエンブレムは……JADAかな? JADAが手を挙げてる」
「JADAがここでわざわざ進行を止めたということは……」
「……もしかして、出場選手に陽性反応が出たんですか?」
~~~~~~~~~~~~~~~
◆Z(旧Echoloca)の投稿より抜粋
《高校生大会にドーピング発覚 “半魚人”から金メダルはく奪》
『これマジ? RE』
『違法行為してまで優勝という栄誉を得たかったハンギョの末路wwwwwwww』
『やはり婚禁法撤廃は悪手』
『why』
『🤔🤔🤔』
『そこまでして優勝したいのかとか言ってるやつ何? 半魚人の友達いるけど公共のトイレさえ使わせてもらえないとか余裕であるのに 差別されてる側って本当に辛いんだよ 薬でもやってなきゃ耐えられなかったんじゃないの 半魚人だからって憶測で叩くのやめなよほんとさあ』
『ドラッグじゃなくてドーピングつってんだろタコ ちゃんと読めよ』
『good 半魚人はトイレです❤ 優、、勝』
『いくら半魚人でもドーピングはダメだろ普通に考えて』
『同じ半魚人でもこれは恥。純粋に応援してたサポーターの気持ち返せ』
『半魚人の汚点』
『いや半魚人そのものが汚点』
『てたサポータ、恥 汚点dope』
『good 半魚人はトイレです❤ 優、、勝』
~~~~~~~~~~~~~~~
……
…………
…………事実じゃない。
それは事実じゃないんです。
切り取った情報に踊らされないでください。
私はやってないんです。
どうか信じてください。
ちゃんと正しい情報を見てください。
ニュース記事だけで判断しないでください。
……お願いです。
……。
「……っ! ……夢か……」
あの時のことを、毎晩夢に見る。
どんなに罵詈雑言を浴びようが、自分の目的のために毎日努力を貫いたこと。
その努力が実って、第一線で活躍する選手と肩を並べられる地に立ったこと。
そして先頭を追い抜いて、一位になれたこと。
——かと思ったら、濡れ衣で金メダルを奪われたこと。
……本当はちゃんと、疑いが晴れたのに。
それなのにメダルは戻らなくて、断片的な情報だけが伝わってしまった。
創りだされた真実だけが残ってしまった。⑨
私はどうやら、世間的には「卑怯な手段を使って優勝しようとした半魚人」とされているらしい。
事実じゃない。
何度も言っても、届かない。
身に覚えのない会話内容のデータが、存在しないはずの友人から提供されている。
打ったことのないメッセージアプリの文面が、色んな場所で拡散されている。
そして個人情報の特定が得意な人は、私の名前も学校名も住所も全部入手して広めてしまった。
郵便受けを開けば、嫌がらせの手紙や危険物があふれるぐらいに入っている。
電話を取れば、脅迫や人権を無視した言葉を投げかけられる。
道を通れば、後ろから複数人の足音が聞こえる。
振り返ればゴミや石を投げつけられ、嘲笑う声と共にスマホのシャッター音の嵐が来る。
おかげで、いつも通ることができた道を通れなくなってしまった。
顔を隠して歩いて、誰も通らない道を探して行くしかなかった。
誰かに助けを求めたくても、スマートフォンの充電は切れてしまった。
かと言って、家にも帰れない。
だって今も、顔も知らない誰かにあとを尾けられているから。
得体の知れない人に、ずっと見られているから。
……確認するのが怖い。
私は、急いで泳ぐスピードを上げた。
不透明な海を泳ぐ。
手を使って海藻を掻き分け、足を使って岩を蹴り、口から小さく泡を吐く。
早く、早く振り切らないと。
心臓が、ばくばくと鳴っている。
「……?」
……。
私を尾けていた人は、私を見失ったようだった。
背を向けて立ち読みをするふりで、なんとか撒けたらしい。
……本当に、なんでこんなことに。
私は本を立ち読みするふりを必死に続けた。
気を紛らわしたくて、偶々手に取った本の文章を読むのに必死だった。
……その本は、どうやら詩集のようだった。
~~~~~~~~~~~~~~~
《海に降る雪》
雪は海から生まれゆく
海の水が空へ昇り むくむくと雲に成長してから
ふるさとの海に戻るのだ
けれども雪は海に溶け
透明になって消えてしまう
あなたがマリンスノーなら
海にも居場所があったのに
~~~~~~~~~~~~~~~
この詩は、雪に対して思いを馳せているのだろうか。
空から降る地上の雪は、海に触れると溶けてなくなってしまう。
もとは海の水分が蒸発してできたものなのに、まるで最初からなかったかのように透明になって見えなくなってしまう。
それがまるで、雪に対して海の居場所がないように見えたのだろうか。
マリンスノー……聞いたことがある。
確かにマリンスノーは海の中で溶けることはない。
地面に降り積もって、その場に留まり続けている。
だからこの中では、「居場所」と表現しているのだろうか。
……居場所。居場所か……
……。
《きみの中でどうしても叶えたい願い事があるんだろうなって思ってさ》
おじさんの言葉が、頭の中で小さく聞こえる。
……おじさん、あのね。
本当はね、どうしても私が戻り水で叶えたかった願いはね。
「居場所が欲しい」だったんだ。
こんな風に生まれて、両親とおじさん以外は敵のように見えて。
それでも負けるものか、と必死に踏ん張っていたけれど。
本当は私が生きていても、後ろ指なんか刺されないで、堂々と表を歩けるような居場所が欲しかったんだ。
素直に教えればよかった。
そうしたら、おじさんも純粋に私を応援してくれてただろう。
あんな記事が出て、とうとう幻滅したに違いない。
だって私だけじゃなく、私の両親まで被害が及んだんだ。
おじさんの大事な友達である、私の両親が。
私の両親までもが、中傷の的になっている。
両親は何も悪くない。何も罪を犯してない。
唯一間違えてるとするなら、私を産んでしまったことぐらいだ。⑤
私という存在が、この海の中で一番の間違いだ。
だからこそおじさんが、そんな私の唯一の居場所だった。
私は単なる両親のおまけだって、薄々わかってはいても。
……。
……ああ。
なんだか、こんな詩に感情移入しちゃった。
私の名前がユキだからなんだろうか。
なんだか、自分に言ってくれているようにも思える。
少しだけだけど、私の隙間が満たされたような安らぎを感じる。
詩には続きがあった。
~~~~~~~~~~~~~~~
あなたはひとり海を出る
つらそうにふるえて きらきらの鱗を自分で毟りとってから
つめたい海に戻るのだ
海に否定されるくらいなら
いっそ透明になって消えたいと零した
あなたはマリンスノーになり
海でも居場所ができている
=====
……そうか。
この詩の中で詠われた人も、きっと苦しい思いをしてたんだ。
私と同じように、存在を否定されて虐げられてきたんだ。
でも「マリンスノーになる」ってどういう意味だろう。
確かマリンスノーって色んな成分が入っていたはずだ。
砂とか、プランクトンや原生生物なんかの…………
……
…………
………………
………………ああ、そっか。
~~~~~~~~~~~~~~~
私は《珊瑚の墓場》に訪れた。
そこは真っ白なサンゴ礁が続くだけで、水面からの光も強く届かない場所だ。
闇のようにどこまでも続く冷たい水の中で、真っ白なマリンスノーが降っている。①
そんなモノクロの世界が、眼前に広がっている。
マリンスノーは陸地時代から見られているもので、その正体は細かな砂やプランクトン、原生生物の骸など、細かい色んな有機物や無機物が海の中で漂っているとされている。
だけどほとんどの人間が海で暮らすようになって、別のものも混じるようになった。
それは、かつて生きた人間だった真っ白な灰だ。
遺された家族が惜別の念を込めて、せめて海の中で見守ってほしいという願いから、それらを海の中に撒く風習ができている。
そうしてそれらが、ここを通る海の生き物たちの餌となり糧となる。
――私は、そんなマリンスノーの一部になろうと思った。
ちょうど、マリンスノーの出現を見つけた生き物たちが徐々に集まってきている。
カサゴやウナギや、小さなエビたちが群れをなしている。
そしてその奥に、ひらひらとしたレースが揺蕩っているのが見える。
クラゲが流れに身を任せながら、ゆっくりと漂い泳いでいるのが見える。
私はその透き通った体に手を伸ばした。
その体の先にある、細い糸に指先が触れた。
針に刺されたような痛みを感じた。
指先から徐々に痺れていき、水の温度がわからなくなっていくのを感じた。
まるで、自分の意識から体がだんだん離れていくような感覚だった。
嬉しかった。
ずっと、自分の体が嫌いだったから。
私は願い事が叶う喜びを感じながら、暗くなる視界の中で目を瞑った。
視界の端で、マリンスノーが降り続けていた。
《簡易解説》
誹謗中傷の的になり、個人情報流出などの要因により普段通る道を歩けなくなってしまった女性。
女性は、ストーカーを撒くために逃げた本屋で見つけた本を読んだ。
心身ともに限界で、心の底から楽になりたいと願っていた女性は、その本を読みやっと心が安らげると思った。
《使用要素》
①雪が降っています:マリンスノー
②いつかまた復活します:未使用
③何らかの障害が関係します:かつて結婚が禁止されていた関係で見つからなかった新種
④カレー屋さんしか見つかりません:未使用
⑤女は間違いを犯しました:母親が自分を産んだことに対して
⑥労働の喜びを感じました:未使用
⑦女はスポーツが得意です:願いを叶える目的のために得意になった
⑧損な性分です:両親に似て恋愛が絡むと抑えが効かなくなる
⑨創りだします:メディアが情報を断片的に切り抜いて記事を
⑩あと一つです:人間の分類が
※こちらは「船と口笛」(第15回正解を創りだすウミガメ)で投稿した拙作「海は塩水でできている」を元に作成した作品となっております。
興味がありましたら下記URLよりご覧くださいませ。
・船と口笛(第15回正解を創りだすウミガメ)
https://late-late.jp/mondai/show/7696
(参加者一覧より「とろたく(記憶喪失)」に絞っていただけますと、閲覧しやすいかと思われます)
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[編集済]
願いを叶える物語🌹 [良い質問]
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――どうしてきみは、そんなところまで両親に似てしまったんだ。
あのニュース以降、連日彼女のことが騒ぎ立てられていた。
彼女の電話に何度もかけたが全く繋がらなかった。
急いで彼女の両親に連絡を取ったが、二人とも彼女が数日前から帰ってきていなかったようで連日連夜探し回っていたらしい。
思い当たる場所はすべて探した。
あのカレー屋も、レース場や彼女のトレーニング場所も思い当たる場所は全部。
三人で手分けして探してもダメだった。
とんでもなく嫌な予感がしたから《珊瑚の墓場》に来たらすぐコレだ。
……だから嫌だったんだよ、きみを放っておくのが……!!
~~~~~~~~~~~~~~~
彼女を抱えて陸に上がる。
降り積もる雪をどけて、地面に彼女の体をそっと置く。
刺されたと思しき部分の状態を確認する。
患部は腫れて血が出ているものの、特に刺さっている物は見当たらない。
腫れている部分も季節的に寒いからなのか、思ったよりひどくない。
次。
クラゲ毒は温めるか冷やすか、どちらかの処置が必要だ。
……流石にこの天候で患部を温めるのは難しい。
となれば、冷やす方だ。
雪をかき集めて山を作る。
直接触れさせるのはあまりよくないので、上着を脱いで雪の上に乗せる。
患部は冷やした。毒の応急処置はできた。
あとは救急に連絡を取って……
…………。
…………息がない。
水は飲んでいないが、目視で呼吸が見られない。
「……くそっ」
胸骨のあたりを掌で押さえる。
絶え間なく、何度も強く押し続ける。
……これで本当に合っていたか覚えていない。
いくらそういう知識を身に着けたとはいえ、そんな状況すらそうそう訪れるものではない。
いざとなると、ほとんど頭が真っ白だ。
ちくしょう。
きみにこんなことをしてやりたかったわけじゃない。
きみにこんなことをしてほしかったわけじゃない。
俺がきみに会っていたのは、そんなことのためじゃない。
だって、きみが産まれるまでに色んなことがあったんだ。
法律だけじゃない、きみという存在が危ぶまれるほどの、様々な出来事が。
だからこそ俺は政治家の道を選んだ。
本当に嫌だった。
ただ一つの法律を撤廃する為だけに、心が死にそうになった時がどれだけあったことか。
そんな時にやっと実現できた、奇跡のような存在がきみなんだ。
俺はきみが産まれて初めて、政治家として労働したことへの喜びを感じたんだ。⑥
きみは、この世で最も尊い人間だ。
俺は、きみみたいに鱗を持って生まれた人間じゃない。
寄り添うことはできても、きみの苦しみをすべて理解できるわけじゃない。
ましてやきみの父親みたいに陸で呼吸ができないことの不便さも、きみの母親みたいに海で酸素ボンベなしじゃ生きていけないことの大変さも、本当の意味でわかることはできない。
悩みとは無縁の人種に生まれるほど、これほどの間違いはないだろう。
だから、せめて。
気づかないほどにささやかでいい、きみに少しでもいいから明日を乗り切る力の足しを作ろうと思ったのに。
あの店を選んだのは、あの店が《半魚人》の立ち入りに否定的ではなかったから。
毎週会っていたのは、きみに「また来週がある」と思ってほしかったから。
なあ、ユキ。
きみの幸せは、こんなところでひっそりと終わるためのものじゃないだろう。
俺はきみが本当の意味で幸せになれるまで見守りたかったんだ。
本当に、そのつもりだったのに。
「(……本当に、こんな時に気づきたくなかった)」
……。
……彼女の呼吸は、まだ戻らない。
胸骨圧迫だけじゃ足りないらしい。
ならば、と俺は彼女の気道を確保するため、彼女の額を押さえ顎を持ち上げる。
「……」
俺は冷たい空気を深く吸い込んだ。
そしてそれを、彼女に――
~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~
不透明な海を泳ぐ。
手を使って海藻を掻き分け、足を使って岩を蹴り、口から小さく泡を吐く。
己の感覚が正しければ、残り十メートル。
五メートル。
三……二………………
…………
「届いたァァーーー!!! 怒涛の追い上げに、観客のボルテージも最高潮!!! 《水龍の鱗》ユキ選手、まさに龍神が宿ったかの如き華麗な五人抜き!!」
「いやあ逃げが間に合わなかったなー! これはもうしょうがないわ、アッパレ!!」
「……さあ、メダル表彰です。まずは三位のシオ選手」
「彼女の泳ぎには気迫を感じましたね。間違いなく新人類——《ウロコ》の系譜を感じます」
「続いて二位はサワラ選手です。銀メダル、そして同時に、次回オリンピックの出場権も獲得いたしました。……さあ、そして一位、ユキ選手にメダルとトロフィーが贈呈されます」
「いやあ、本当に国の宝ですよ。よく頑張った」
「彼女は過去に高校選手権でドーピングの疑いをかけられ、メダルはく奪の憂き目に遭っております。その疑いが晴れた後も、この一件が彼女の人生を大きく狂わせることになりました。一部分だけ切り取られてしまった情報によってフェイクニュースが真実を上回るほどに出回り、誹謗中傷など数々の被害に遭った日々は彼女にとってどれだけ耐え難い苦痛だったことでしょうか。彼女はこの時期について『本当に限界だった。自分のことを支えてくれた人がいなければ、今ここで泳げてはいない』と振り返っておりました」
「よく耐えたよ。高校選手権以降から応援していてよかった。本物の逸材が心折れたりしなくて、本当に」
「シロイさん、珍しく感傷的になってますね」
「ならずにいられるかっていう話ですよ、本当に」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
歓声が聞こえる。
私が手を振ると、人々が笑顔で手を振り返したり、旗を大きく翻している。
昔じゃ考えられないほどの、温かい声援。
本当にこれは現実なのだろうか。
あの時から見ている走馬灯なんじゃないだろうか。
ふと手を見る。
クラゲに刺された傷痕が、今も残っている。
あの時を思い出す。
あの後、私は病院のベッドで目を覚ました。
真っ白な天井で、静かな場所だった。
看護師さん曰く、私は陸で倒れていたそうだ。
通報で救急隊員が駆け付けた頃には既に完璧な処置が施されていて、そのおかげで命が助かったらしい。
「誰かが見つけて、応急処置までしてくれてたみたいですねー。救急が来た時には、あなた以外に人はいなかったようですが」
そう言って看護師さんは、私に一着の水陸兼用コートを見せた。
「そういえばこれ、あなたの上着ですか? 男性用っぽいとは思いつつ、一応預かっておいたんですけど」
「……!」
……これ、もしかして。
「……見覚えがあります」
「ああ! やっぱりそうだったんですねー。それではお返ししますー」
「……はい。ありがとうございます」
……私は退院して、真っ先にカレー屋さんに行った。
店に入り、奥にある窓際のソファー席まで早足で歩く。
「……おじさん」
「ん? ああユキか。今日は随分と……」
「これ」
私は、コートをテーブルの上に叩きつけた。
「……これ。返しにきたの」
「おお、どっかでなくしたと思ったらきみが持ってたんだ。ありが……」
「余計な事しないでよ」
思ったよりも大きな声で言ってしまった。
おじさんのどこか余裕のある態度が、本当に腹が立った。
「……余計な事っていうのは?」
「……」
おじさんは、涼しい顔でコーヒーカップに口をつける。
それにまたイラつきながら、私はコートの端をくしゃりと掴む。
「……《珊瑚の墓場》なんて誰も来ないと思ってたのに、なんで見つけちゃうの」
「……」
おじさんはコーヒーを一口啜り、ゆっくりと息をついた。
湯気が小さくおじさんの口から漏れた。
「……悪いがそれは言えない。お前には特にな」
「何それ。じゃあ質問変えるよ、なんで私を助けたの」
「助けたって?」
「陸に上げて、クラゲ毒の処置して」
「それは人として当然の行為だ。お前だけを特別視してるわけじゃない」
「っ……」
「話は以上か?」
おじさんは私をじっと見つめる。
その目に、言い知れぬ圧を何故だか感じた。
「……助けてもらいたくなかった」
「……」
私がそう言うと、店内の音楽がぴたりと止んだ。
ちょうど曲が終わったタイミングのようだった。
おじさんは相変わらず私を見たまま何も言わなかった。
怒られると思ってたのに、私の言葉を待っているかのようだった。
「私、居場所が欲しかった」
「……居場所?」
「ずっと前から。こんな風に産まれちゃったからさ、道を泳いでても嫌な目で見られない場所が欲しかったんだ」
「……色々頑張ったんだよ。人に好かれたくて、一生懸命笑顔を振りまいたりしてた。ボランティアやったり、勉強とかスポーツの成績も上げて誰かに認めてもらえるような人間になりたかったんだよ。でもダメだった」
「そんでもう、最終的にこうなっちゃった。もう消えたくてしょうがなかった」
「でも、気づいたの。私は雪みたいに透明になって消えることはできない。どうやっても、形が残るんだって」
「それならいっそ、マリンスノーになったらいいんじゃないかって。どんな人間でもマリンスノーになれる。マリンスノーの一部になったら存在は否定されないし、いずれ誰かの生きる糧にはなるでしょ?」
「そうなりたかったの。誰かのために価値ある存在になりたかったの。だから……」
「……だから、放っておいてほしかった」
「……」
おじさんはまだ、黙って聞いていた。
コーヒーを飲みながら、ゆっくりと私の言葉を嚙み砕いているかのようだった。
「……まだそう思ってるのか?」
「……えっ?」
「……」
おじさんはカップの中を見つめる。
相変わらずコーヒーを舌で転がしているようで、どこか私に聞くのを躊躇っているのを感じた。
「きみは、その『今すぐマリンスノーになりたい』っていう気持ちは今でもまだ残ってるのか?」
「……」
「……私は…………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
その問いに、私は答えることができなかった。
残ってないわけではなかったのに、その場では迷いが出てしまった。
そうしてその日は、ずっと黙っている間にお別れの時間が来て、おじさんに「また来週」と言われてしまった。
来週も同じだった。
答えが出せずに、別の他愛ない話題を話すだけで終わってしまった。
次の週も、そのまた次の週も。
そうして、ずるずると悩みに悩んで。
すっかり私は、二十歳を過ぎてしまった。
私は相変わらず、カレー屋さんに行って店の奥のソファー席に行く。
おじさんも全く変わらない調子で、私を出迎えてくれる。
私の両親は普通に老けてきているのに、おじさんはシワすら生えない。
イルカっていうのは、そういう性質なんだろうか。
とにかく私も歳を取ったので、昔みたいに積極的なアプローチはしなくなった。
流石にこの年齢になると、一回り若い人にされてるのって気が引けるんだなっていうおじさんの気持ちもわかるようになってきたし。
その代わり、私は逆におじさんから「付き合ってくれ」って言ってもらえるぐらいのイイ大人を目指しているのだ。
……なんて、そう思えるぐらいには気分が上向きになってしまっている。
あの時は、あんなにどん底に落ちたような気持ちだったのに。
「お待たせ、おじさん」
「おう、見たよ。とうとう五連覇か」
「まあね、でもみんなすごいよ。サワラさんは毎回限界まで体力削ってくるし、《ウロコ》の選手も結構増えてどんどん早い人が出てくる」
「いいじゃないか、圧勝よりも盛り上がる。その中で勝って歓声を浴びるのが一番気持ちいいだろ?」
まあね、と私は返す。
なんだかんだで、私もレースに出るのが好きになっていた。
レースを通して友人が増えたし、いつも応援してくれる人の歓声からも元気をもらえる。
……すっかり、私の居場所になっちゃったな。
そんなことを思いながら、私はアイスコーヒーを啜った。
「……あのさ、おじさん」
「ん?」
「おじさんが『今でもマリンスノーになりたいのか』って私に聞いたの、覚えてる?」
おじさんは少しだけ考える素振りを見せた。
そしてああ、と小さく声に出す。
「……よく覚えてたな。何年前の話だ?」
「それこそ、ちょうどあの真っ只中だったね。私、あの時答えられなかったなあって思って。実はずっと考えてたんだけど……」
「……」
おじさんはグラスを置く。
そして少しだけ腰を浮かせてソファーに座り直し、グラスの中のストローを一回しする。
私の言葉を待っているような気がした。
「……あれってさ、本当は答えなんてどうでもよかったんでしょ?」
「……どうでもよかった、っていうのは?」
「つまりは答えに関係なく、考える時間を使うっていう行為のほうが重要だったんじゃないかなって思ったの」
「結果として、私は答えが出ないまま何年か過ごしてしまったけど。でもその間に、世界は変わっていったよね。あの時の事実を主張し続けてくれてた人がいて、真実が徐々に共通認識になってきたし、昔よりは半魚人……今は《ウロコ》だけど、それに対して偏見とか、ひどいことを言われることも少なくなってきたし」
「多分、私が早々に『やっぱりマリンスノーになりたい』って答えてたら、全部知ることはなかったし体験できやしなかった。私が悩み続けて年月が経ったことによって、時間が少しずつ当時の苦しみや生きづらさを解消してくれた」
「おじさんはそう考えてたんじゃないの? ただ単に『時間が解決してくれる』っていうよりも、私自身が自分や世界のことにちゃんと向き合えるように」
「……」
「……まあ、半分ぐらいかな。色々なこととよく向き合って、考えてほしいとは思った」
「でも、答えがどうでもいいわけじゃない。この問いの答えはきみにとっても、俺にとっても大事なことだったよ」
「……そうだったんだ」
「そうさ。俺はきみの置かれている状況も、された仕打ちもほとんど知らない。なんとなく伝わる情報から想像するだけで、ましてや人種すら違うからきみと同じようなことを実際に体験できるわけじゃない」
「きみの結論は重要だ。あの時のきみが、生きることすら諦めたくなるほどの苦痛を感じていたのか。それとも、まだ少しでもいいから生きたいとは思っていたのか」
「生きたくないのに『生きてほしい』って言い続けることほど酷なことはないだろうしな……きみに気持ちの面でそういうことは強制したくなかった」
「じゃあ、私が『今すぐにでもなりたい』って結論を出しても良かったの?」
「そういうことを、心から思ってちゃあな。どんなに止めたくても、誰も手の届かないところに行ってしまえば所詮他人にはどうすることもできない」
「結局、当人自身にしか『思いとどまる』っていう選択肢を選ぶことはできないよ」
「……まあ、俺なりに思いとどまってほしいって意味は込めてた。なるべく早く『もうなりたくない』って結論を出してほしかったけどな」
「じゃあ、結果としては悩み続けて良かったのかな」
「それこそ俺が答えることじゃないが。……ってことは、やっぱり今も『なりたい』とは思ってるのか?」
「うーん……」
「……ないってわけじゃないけど、今はそんな気分じゃないかな」
私がそう言うと、おじさんは短く「そうか」とだけ言ってラッシーを啜った。
少しだけスッキリした。
仄暗かった深海に、少しだけ太陽の光が射したような気分がした。
「……じゃあ、今のところの結論はそういうことで。いやーそう思うとほんと、私ってばよく生きたと思うな。だって五連覇だよ、五連覇」
「まあ、そうだな。感慨深いものはある」
「それで、何か言うことないの」
「何かって?」
「何かって……五連覇したんですよ、私」
「……おめでとう??」
「違うよ、確かに言われてなかったけど。それは最早いいの、私ですらあんまりおめでたさ感じなくなってきてるんだから」
「……六連覇目指してがんばれ???」
「なんでよ、言われなくても勝手に目指すよ。別に連覇が目的でレース頑張ってるわけじゃないけど」
「?????」
くう、ダメだ全然届かない。
やっぱり言葉にしないと全然気づいてくれない。
……こういう時、素直な子どもの勢いって大事だよね。
「……ほら、ね。すごいでしょ私。すごく頑張ったんだよ。でもね、それは私だけの力じゃないっていうか、ほんと支えてくれる人のおかげっていうかね。心からそう思うわけですよ」
「お、おお……?」
「他の選手だってサポーターだっていなきゃ、私は選手としてここまで来れてなかったわけですよ。人としてもね、家族というか、まあ私は一人っ子なので両親だけなんですけども、そういった身内の応援あってこそなわけですよ」
「まあ……そうだな?」
「でも身内っていうのはもちろんね、両親だけじゃございません。私にとってはね、両親よりも大きな存在がいるんですよ。わかりますか、おじさん」
「なんか喋り方気になるなあ……」
「ねえおじさん、私の中で一番大きな存在がいるんですよ。その人はね、ずっと昔から支えてくれてるんです。それこそ私が産まれた時から。すごいことですよこれは」
「誰かの物真似か……?」
「でもね、時々心配になるわけですよ。私を支えてくれる人はいっぱいいますけどね、その人は一体どうなんだと、その人を支える存在がいないんじゃないかと。それこそ心配なわけですよ、その人家帰っても一人だから」
「……私なら、その人を放っておかないのになあって」
「まあ、そうだな??」
「……」
……ダメだこりゃ、全然気づかない。
私は大きく溜息をついた。
「……もういいや。私からは以上です。おじさんはどうなの、近況は。私ばっかりじゃつまんないから、たまにはおじさんの方も教えてよ」
「んん? ……そうだな……」
おじさんは唸りながら考え込んだ。
……大人になるとこういうのが全然通じてないのが、時折ちょっと虚しく感じてきた。
なんだか疲れて、私はアイスコーヒーに口をつけた。
それと同時に、おじさんは「……あっ」と言って何かを思い出したような顔をする。
「そういえば俺、最近彼女ができたんだけど」
「んぐっ」
むせた。
流石にその返しは予想してなかった。
「……大丈夫か? 勢い余って飲みすぎたか?」
「ゲホッ……は? え? いつから。どこで。誰ですか。職業は」
「落ち着けって。ったく、少しは大人になったかと思ったら……水でも飲むか?」
「飲みますけど……」
おじさんに水を手渡される。
……あれ?
「……何これ」
「何って、水だけど」
「それはわかるよ。中に挿さってる花のこと」
「知らないのか? これはバラっていうんだよ」
「それもわかるよ。なんでバラが入ってるのかって聞いてるの。ほぼ見た目花瓶じゃない、これ?」
「一応食べても問題ないらしいけどなあ」
「そういうことじゃなくて……しかもわざわざ青色って……」
……ん? バラ?
しかも、青いバラ。
「(花言葉は『奇跡』……だけど、だから何なの?)」
五連覇もするなんて奇跡みたいなことだ、とかそういうのを言いたいのかな?
……ていうかやけに多いけど、一体何本あるんだろう。
「(いち、に、さん、……)」
…………十二?
《――バラには本数にも意味があるんだよ》
…………。
…………十二本のバラの、意味は……。
「……あの、つかぬことを伺ってもいいですか」
「どうぞ?」
「……その最近作った彼女っていうのは、何をされてる方なんですか」
「スポーツ選手ですよ」
「その人とはいつ、どこで出会ったんですか」
「出会ったというと、もうその人が産まれた当初からですけど。毎週水曜日に会ってますね」
「……じゃあ、聞きますけど」
「……最近って、いつのこと?」
「……」
「……今。この瞬間」
「……どうしたんだ? そんな顔真っ赤にして」
「……だって……こんなとこで来ると思わないじゃん……」
「しょうがないだろ、これを緊張せず渡せそうな場所がカレー屋しか見つからなかったんだよ。きみと毎週会ってる場所しか」④
「……」
「……ったく、俺に今更ムードとか求めるなよな。付き合いが長すぎて逆に難し……うおっ」
バンドウおじさんはよろけた。
……私が抱き着いたせいで。
「……何年待ったと思ってるの」
「諦めるチャンスは何回かあったと思うけど」
「無理だよ。初恋だよ、だって」
「そりゃ……随分と長かったな」
「本当だよ」
「………………大好き」
「……俺は愛してるけど」
「なんでちょっと張り合ったの」
「なんとなくな」
私はおじさんを強く抱き締めた。
背中から、あたたかな温もりが小さく抱き締め返してくれていた。
……本当に。
本当に、もうこの人生を捨てられなくなっちゃった。
「……ところで赤じゃなくてなんでわざわざ青いバラを選んだの?」
「えっ、きみにピッタリだろ?」
「あんまピンときてないんだけど……というか花束でいいじゃん」
「こっちのセリフだったんだよ元々。全く……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
《海に降る雪》
雪は海から生まれゆく
海の水が空へ昇り むくむくと雲に成長してから
ふるさとの海に戻るのだ
けれども雪は海に溶け
透明になって消えてしまう
あなたがマリンスノーなら
海にも居場所があったのに
あなたはひとり海を出る
つらそうにふるえて きらきらの鱗を自分で毟りとってから
つめたい海に戻るのだ
海に否定されるくらいなら
いっそ透明になって消えたいと零した
そんなあなたはマリンスノーになり
海での居場所ができている
わたしはひとり陸にあがる
真っ白な雪の地を踏み じんじんと痛む心臓をおさえながら
真っ黒な海に叫ぶのだ
海よ 海よ
あの子が何をしたと言うんだ
あの子が消えた理由はなんだ
わたしも あの子も あの子の親も
すべて尊い いのちじゃないか
雪がわたしの肌に当たり 溶けて頬をつたってゆく
透明になって 消えてゆく
それでも 雪もあの子も 海の中に残っているのだと
見えなくても たしかに存在しているのだと
そんな叫びも 海の音の中で 透明になって消えてゆくのだろうか
未来よ どうかわたしの声を聞いてください
きっとこの先 同じことが 今後起こりうることでしょう
雪が海から生まれ そして戻っていくように
同じ悲しみは 巡り巡って再び訪れることでしょう
あの子のように生まれた子どもが
透明にならずに済む海にしてください
何年も 何十年も 何百年もかかってもいい
これはささやかな 自分の願い
~~~~~~~~~~~~~~~~~
《作者不詳の詩「海に降る雪」の研究報告》
本の状態や素材から見積もると、この詩はおよそ八百年前に発表された詩となります。
もっと言ってしまうと、こちらの詩は《ウロコ》が最初に発見された遥か前から作られたものです。
では、なぜ八百年前に作られた詩に《ウロコ》を思わせる描写が存在しているのか。
そんな疑問を恐らく貴方はおっしゃられると思うので、前もってお伝えしておきます。
八百年前は、法律研究家が言うにはちょうど《サカナ・タイヤキ間婚姻禁止法》が施行された時期であるようです。
確かに、思えば三種族の組み合わせの中であの二種族が最近まで禁止されていたのも不思議な話です。
生活スタイルの違いと言われていましたが、一緒に住んでみればイルカだってサカナやタイヤキと全然違うのですから、尚更なぜ最近まで撤廃されなかったのかと考えてしまいそうなおかしな法律でした。
でもいざ撤廃されて、新たな社会問題が発生してみると、この法律ができた理由に新たな仮説が立てられないでしょうか。
もしかすると《ウロコ》が置かれた状況と同じような社会問題が、八百年前にも起こっていたかもしれないということに。
事態を収束する為、《ウロコ》が産まれる原因となる二種族の結婚のみを禁止したのではないでしょうか。
そして、《ウロコ》そのものの存在は名実ともになかったことにしてしまったのではないかと。
もしそうだとすれば、当時の政府は本当に残酷です。
社会問題を解決するために、社会問題の原因そのものを抹消しようと考えたのですから。
この詩の作者は、きっとこの問題はいつかまた復活すると考えていたようですね。②
人は、同じ過ちを繰り返すのだと。
だからこそこの問題と向き合い、誰も排斥されずに受け入れられる社会に変えてほしいと未来に願ったんじゃないかと思います。
私はこの作者の《ささやかな自分の願い》が、叶ってほしいです。
いえ、叶えてみせましょう。
私たちが、この人の《戻り水》になるんです。
……心無しか、感情がこもっているように見える?
当然です。
だって私自身にも、《ウロコ》の娘がいますから。
報告は以上です。
アズキ
《簡易解説》
誹謗中傷の的になり、個人情報流出などの要因により普段通る道を歩けなくなってしまった女性。
女性は、ストーカーを撒くために逃げた本屋で見つけた本を読んだ。
心身ともに限界で、心の底から楽になりたいと願っていた女性は、その本を読みやっと心が安らげると思った。
転じて、その本は彼女の母親に渡り読まれることになった。
その本はかつての社会問題を訴えていたもので、作者はその社会問題に向き合いより良いものにしてほしいと願っていた。
母親は、娘のためにも「作者にとっての『自分の願い』」を絶対に叶えたいと誓った。
《使用要素》
①雪が降っています:マリンスノー/クラゲ毒の応急措置に使う
②いつかまた復活します:人種差別問題が
③何らかの障害が関係します:かつて結婚が禁止されていた関係で見つからなかった新種
④カレー屋さんしか見つかりません:告白を緊張せずに伝えられる場所が
⑤女は間違いを犯しました:母親が自分を産んだことに対して
⑥労働の喜びを感じました:政治家として、法律撤廃のおかげで産まれた赤ちゃんを見たとき
⑦女はスポーツが得意です:願いを叶える目的のために得意になった
⑧損な性分です:両親に似て恋愛が絡むと抑えが効かなくなる
⑨創りだします:メディアが情報を断片的に切り抜いて記事を
⑩あと一つです:人間の分類が
※こちらは「船と口笛」(第15回正解を創りだすウミガメ)で投稿した拙作「海は塩水でできている」を元に作成した作品となっております。
興味がありましたら下記URLよりご覧くださいませ。
・船と口笛(第15回正解を創りだすウミガメ)
https://late-late.jp/mondai/show/7696
(参加者一覧より「とろたく(記憶喪失)」に絞っていただけますと、閲覧しやすいかと思われます)
これで本当に最後です。
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[編集済]
🐾 [良い質問]
(41)①パルクール走者にこんな人はいません(とろたくさん)
パルクール走者にはこういう人がいます。
映画の幕開けのようなワクワク感。なにに遅刻しそうだったらこうなるんだ……?
(43)②誰のための人生なのか?(弥七さん)
「水平思考カレー(ウミガメ混入)」食べたくない? 食べたくない? そう……。
あれ? 後ろにあ…あくまたんが…
(46)③注文の多い咖哩店?🌴(弥七さん)
弥七さんは神保町をなんだと思ってるのか。カレーと本というクリティカルな要素が神保町を魔境にする!
(48)④この素晴らしき視界(みづさん)
素晴らしい視界ですね!
悪いおかげで運動できるしね!
悪いは良い、良いは悪い。
(50)⑤どうだ明るくなったろう(きはるさん)
町は明るいけど私の心は暗いよ!
こんなことなら明るくなんてなりとうなかった……!
(52)⑥【最終回】無題.docx(ほずみさん)
いやもうほんとお疲れ様でした……!
色々お取り計らいくださったほずみさん、こうして開催してくださったナイさんに、この場を借りてお礼申しあげます。もちろん他の参加者のみなさんにもね!
(54)⑦絵本を買う老人(藤井さん)
最終回の今回にとてもよくあっていた作品でした。
このサイトはクイズサイトですから、答えがある問題が求められます。対して、創りだすは、答えがない問題に答えを与えるというもの。トキじーちゃんが残した問題が「創りだす」というのも(ハルキとユキの視点では)解決ではなく、ハルキが作った答えであるわけです。答えがないからこそ豊かなのだということを象徴的に描いた作品だと思います。
ついでに(58)⑧「記憶はいつも一視点だ」(あたし)についても。(54)は「絵本を買う老人」の藤井さんの回答から派生した物語ですが、じつは(58)も「絵本を買う老人」の私の回答から派生しています。同じ回から二つの物語が(しかも連続で)投稿されるなんてすごい偶然だなあ! ……アッハイ。この回答を見て、私も同じ回から物語をつくりました。藤井さんの回答とフリーレンを読んでいなかったら、この話は生まれていませんでした。ありがとう。
(60)⑨問題を創りだすウミガメ(輝夜さん)
「そんな解説がここまで評価を受けるとは思わなかった」
↑ここフィクション。評価受けますって。
要素がシンプルにまとまっていて素敵。
(62) ⑩いつかまた復活する怪獣(輝夜さん)
いや書き出しからカッコよすぎないですか???
今回の創りだす、最難関はカレー屋さんだったと思います。私が苦戦したのはそこでしたし、みんな苦戦した痕跡が見えました。それをこの作品はですよ! 「和洋折衷」の例えで超難関要素であるカレー屋さんを処理したかと思えば、「餅巾着、カレー入り」というキーアイテムにつなげていく。要素に遊びがなく鮮やかな物語を浮き上がらせています。
今回のお題は「自分の願いが叶うと思った」というのがくせもので、まだ実現していないということがかえって厄介だったのですが、この部分をも木村を小説家にすることで上手く処理しています。
全体的に完成度が非常に高い作品でした。技巧が凄い!
(65)⑪つなぐ灰色(さなめ。さん)
非常にテクニカルな作品でした。
私はアンドロイドが思考を統御されていることがあらわれた作品が好きなのですが、「本当に良かった。 お父さんが幸せになれて。」の部分は、その私の癖にピンポイントで刺さりました。ここ普通だったら、
そんなことは。
MAMIは、システムを停止した。
で落とすところですよ?
それで十分に面白いのに、さらにゾクッとさせた上でISAMIの秘密にも触れていく。愛美の「なんたって私は、頭がとっても良いから!」もビターな気持ちになってすてきです。
(67)⑫鹿は何を食べる?(畦猿さん)
香辛料見つけるの大変そう……!
本の物理的な側面に注目した作品で、あるミステリー小説を思い出しました。
(69)⑬SO HAPPY END(のまるすさん)
最後の人類(仮)の私、いいキャラしてるなあ! 「いけるいける。人生、まだまだ楽しめる。」この状況でこのメンタルでいられるのは損な性分じゃないよ!
カレーの神とか「じゃあ、ユメト君のこととか書く?書いちゃう?」とか私のキャラクターが伝わってくる表現がすてきでした。
(71)⑭いつか金メダルを(ぎんがけいさん)
そっか、オリンピックを基準にして日を数えると「4年、8年、12年」って4年周期になるんですね。さりげないけどコズエの執念を感じさせる表現でおおってなりました。
(73)⑮追い抜いて、春(「マクガフィン」さん)
【ここ好きポイント】
・断れない西野に、選択肢はなかった。
・ま、骨は本当に折れてるんだけどね
・帰ろうか、という彼の言葉で歩き出した彼女が握っていたものは、車椅子のグリップよりも柔らかく、あたたかい何かだった。
・カレー屋の要素の処理
・ていうか要素の処理全部
・ていうか全部
創りだす投稿フェーズラストに相応しい大作!!! 断れないからこそ始まった恋、そして彼女の損な性分による諦め。
カレー屋の要素は諦めたのかと思いましたが、すごく綺麗に収まっている!
おみそれしました。
(76)⑯雪は海に溶けて消える(とろたく(記憶喪失))さん
のまるすさんといい、みんな地球に大規模な変化が起こる話が好きだな。私も好き。
シリアスな話を、ギャグを放り込むことで緩和させて最後まで読ませる技量がさすが。マリンスノーの情景に死の要素を見出す美意識もすてきでした。とはいえマリンスノーの光景で終わったら悲しかったから、続いてよかった……!
ユキとバンドウの今後が気になります。
後半にふたつもエモいのを浴びて涙に溺れそうです。タイヤキである私は死を待つのみ。
最後に、主催者のナイさんには心の底から感謝申し上げます。お忙しいなか主催をしていただいて、本当にありがとうございました。
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❤️
《感想書きたい作品》
全部です。いつも通りです。
①『パルクール走者にこんな人はいません』
拙作です。創りだすRTAを久しぶりにやりました。本物のパルクール走者は流石に普段から通勤・通学途中でパルクールはしないと思います。そんな気持ちを某お笑い芸人のツッコミフレーズ風にタイトルに込めました。
ただ、パルクールは本当にその場にあるものを利用するそうなので、もしかしたら雪とかは利用するかもしれません。パルクールは見ていて本当に楽しいので、そうだといいなと思いました。面白そうなフェイクを愛しましょう。そんなことを某お笑い芸人のボケフレーズでも言っていました。
ウミガメとしてはだいぶトリッキーな答えのような気もしますが、「本を見て願いが叶うと思った」→「塀の向こうの本が見えたので目標達成したと思った」という解釈が個人的には気に入っています。これだからRTAってやめらんないんですよ。
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
邪道側って単語をこんなところで再び見るとは思わなかった。弥七さん、さては大喜る人見てますね?? 弥七さんの作品は小ネタを挟んでくるので好きです。
死神さんがまた狡猾な手口ですね。生まれながらの不幸体質をじっくり育てて、対象が羽目を外した隙に一気に刈り取りにいく。鮮やかです。もしかしたら我々の人生は悪霊(死神)次第なのかもしれません。みんなも羽目を外しすぎないように注意しようね。
要素との兼ね合いで、本を障害物にしてしまうのは中々の水平思考だと思います。もう一人の登場人物の事故を喜ぶポジションにいるというのも、「願いが叶う」に適しているので、納得感もありますね。素晴らしい解説でした。
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
宮沢賢治オマージュだ! おもしろい! 原作要素踏まえつつ、新しい展開をしているのがいいですねー。最後までわくわくしながら読んでました。オチまで見るとまた殊更に笑けてきますので、二週目以降はニヤニヤしながら読めます。
こちらも本を障害物(どちらかと言うとガードなので障壁)にしてますね。「自分の服を汚さないために使う」というのも水平思考的ですし、話の内容も店長のドッキリを懲らしめる形になりますので、違和感なくすっきりと入ってきました。味わい深い解説でした。
④『この素晴らしき視界』みづさん
みづさんだ!! 囲め囲めー!! みづさんの解説は茶目っ気があって好きです。メタ要素なんか入れるのがすごく上手だと思います。あと本人の人柄なのか、優しい雰囲気が解説からも漂うんですよね。ずっと癒し。読むマイナスイオン。
リモートワークしてるとほとんど会社に行かなくなるから、行く用事がある時新鮮な気持ちになりますよね。私は毎回オフィスのトイレの場所に迷います。それと関連して、創りだすのことも言及してくれるとは。みづさんは創りだすを本当に楽しんでいたんだなあとしみじみします。
「いつもは通らない」を「慣れない道で迷った」と解釈するのは王道の作りですね。ただ、その後に本を「交番の地図本」としているおかげでロジックがシンプルで綺麗に感じます。気軽にウミガメのスープを楽しむには程よい難易度だと思います。「これだよ、これこれ!」と言いたくなる解説でした。
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
すげえぜきはるさん……この短さでハチャメチャな重厚感を出せるなんて……
話としてはマッチ売りの少女がベースなので自然と入ってこれるのですが、その細かな描写や語り口が淡々としているので、より境遇が悲惨に見えます。少女の辛さが短い文からひしひしと伝わってきますね……
ウミガメとしては、本を火種にするというのが見事な発想です。「本は基本的には読むものである」という先入観から外れつつ、「本は基本的には紙でできている」という元々の性質を利用することで、本であることに意味が見いだされる良い解説だと思いました。素材本来の味が存分に出ている解説でした。
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
来た……ほずみさんの淡々としながらも感情がにじみ出る文体だ……好きです。
一応このフェーズは自分の意見というよりは作品の良さや優れている部分を言う場であると思っていますので、それを念頭に置いて語らせていただきます。
この作品はイベントの衰退と、それと共に歳を重ね、歩んできた女性の葛藤が描かれているように見えました。女性は後悔と罪悪感に苛まれつつも、最後はその感情を抱えて生きていくことに決めて、想いを書き綴ろうとする。終わり方を綺麗にするのではなく、まさに「今」の心情を語っている書き方が私は好きです。
さて、ウミガメ的には問題文に対してかなりストレートな解説ですね。この界隈にいるとどうしても捻って、奇をてらって、うまく参加者をひっかけたいと思いがちですが、いやいやそんなことないよ、とこの解説は言ってくれているような気がします。特にここはそういう謎のない解説だって全部正解になる、「正解を創りだすウミガメ」ですからね。今回においては、この解説が最も主催の意図を汲み取った正解に近いように感じました。まさに「正解を創りだした」解説でした。
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん
ふじいさんのかいせつ いつもひとのこころを つかんではなさない すきだ
出戻りシェフの皆さん、これを待っていたからこの回に参加したんだろう? 私も待ってた。ありがとう。
もうね、「絵本を買う老人」というタイトルを見てからもうテンション爆上がりでした。何せ実際に開催された創りだすの第8回、そして藤井さん主催の回のタイトルだったんですから。その時に書かれたエキシビジョンから、会話のやり取りも健在で、トキじいさんとユキさん、そしてハルキくんが時を経て蘇ったかのようでした。そして明かされる、あの時の答え。実際に参加していた身としては物凄く懐かしい気持ちにさせられました。
ウミガメ的には問題文を捻るのではなく、その問題文の行動自体は受け取ったままにストレートにして、ベールを少しずつ解き明かしていくことに重きを置くような解説だなと感じました。ウミガメの醍醐味は会話を通じて謎を解くことにあると私は思っていますが、その謎を解く過程をコミュニケーションで楽しめそうで、そういったことをしっかり感じるのがとてもいいと思いました。人と囲んで味わいたくなる、そんな解説でした。
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
葛原さんが……生きてた…………!? いやまあ生きてるとは流石に思ってましたが、まさか葛原さんの解説に再び創りだすで遭遇できるとまでは思いませんでした。
こちらも藤井さんと同じく第8回、そして第14回の創りだすでも連作された「アンドロイド」シリーズ(※私が勝手に呼称しているだけで正式な名称ではありません)のまた続きの物語ですね。また新たな出会いと別れを経験しつつも、これまで語り部として出会った人間を記録していた彼女が、数十年しか生きることのできない人間に語り継がれて記憶されていくようになったのが本当に感慨深いものがあります。もちろんソフィアは永遠の命を得ているからこそ事実とは異なることも知っているわけですが、そこにどこか喜びを見出しているのが本当にたまりません。ソフィアが回を重ねていくたびにどこか人間に近づいていくのを、丁寧に描かれているのがすごいです。
ウミガメとしては中々考えさせられますね。「いつもと違う道」を「年月が経ち、形を変えた道」と捉えられているので、「その女にとってはいつもと違う道」という解釈から逸脱しないのが面白かったです。新鮮な気分でいただけた解説でした。
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん
意外と輝夜さんの作品見るの初めてかも。なんだかずっと前からいた気がしますが、輝夜さんが参加した時って私がちょうどいなくなりだした時でしたね。そっかあ。それは残念だ。でも読めて嬉しい。
なるほど、こちらは創りだすで初めてシェチュ王になった時のシーンを書いているのですね。わかります、問題文悩むよね。でも主催にとって、その時間が一番楽しかったりして。私もなんだか昔を思い出しました。数年越しに「主催がんばれ~」と言いたくなります。自分の作品と絡ませて、要素を綺麗に回収しているのがお見事です。
こちらも問題文の回収はストレートに行いましたね。創作に携わっている身としては共感を得られるような作りになっていて、要素も無理なく使えていると思います。お見事、ふと懐かしさを感じる解説でした。
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
ぐわああああん(バタバタバタバタバタ)(布団の上で暴れる音)
めっちゃ好きなんですが!! えっ、そんなひと冬の出会いを!?!?! えっ!!!!! 書いて!???!?!? エッ!??!??!??!?? 素敵やん!!!!!!!!! 自分の中の言葉にできない感情の行き場を求めて優子さんがさまよっているところを、丁寧に汲み取って言語化してくれる木村さん。その出会いが、徐々に優子さんの曇り空のような心に一筋の光を射してくる感じがもうたまりませんでした。途中の仄暗い雰囲気とか台詞諸々言い回しもとても好みですありがとうございました。書籍化はいつですか??? あっ作中でもうなってたかーそっかぁー(布団の上で大の字になりながら)
気を取り直して、ウミガメとしては問題文に至るまでの経緯を特に重視している解説だなと感じました。もちろん問題文には「願いが叶う」と書かれているので、そこに他とどんな差を持たせるかがカギとなってくるのが今回だと思いますが、本というアイテムに意味を持たせるために小説家や片思い、などそういった要素をちりばめて非常に物語性を感じさせました。好みの味がする解説でした。
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
さなめ。さんの解説だ!!! イェーイ!!! さなめ。さんはほっこりしつつも心をどんどん揺すってくるエモンガ解説も、不穏の雰囲気を漂わせていたと思ったら急に背後からブッ刺してくるタイプの解説のどっちも作れるから油断ならないぜ!!!!
そんな感じで読み始めたときはだいぶ後者の匂いが漂ってたのですが、ちゃんとエモエモでした。お見それしました。そっかぁ……お父さん、本当に娘のことを大事にしてたんだなあ。娘のアンドロイドを作るところまでは想定内ではあったのですが、自分のアンドロイドも作っていたあたり、「もしも」の時を想定していたのかなあ、と思わずにはいられません。娘を決して一人にはさせない、そんな感情を思わせる親の愛に涙腺が緩む。
こちらは解説として二段構え(言及されてないけど三段ぽくもある)で作られているので、最初に答えを提示されても最後まで読むとちゃんと予想を裏切る作りになっているのが面白かったです。本を「説明書」「アルバム」とするのもまた良いですね。非常に練られていて、箸を進めるたびに味が変わっていくいい解説でした。
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
あぜざるさんって読むのかしら。アザゼルとかけているのかしら。あれ、なんだか聞き覚えのある名前だな。……まさか、な……いやでもなんか文体とか句点の使わなさとかものすごく似て……いや、何も言うまい。
うわー、要素回収がめちゃくちゃスマート。全要素なのにこの簡潔さ。すごい。見習いたい。でも強引さがほとんどなく、要素を文章として取り入れているのに匠を感じました。面白い。
「本を見つけた」という部分にフォーカスし、鹿に食べられた本の状態を発想したのは本当にウミガメを続けていないと辿りつかない境地だと思いました。まず全く鹿の要素もないのに出てきたのがマジで驚きです。でも不思議と納得してしまう。いつか自分もそのメソッドを取り入れて作りたくなるような解説でした。
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
のまるすさんって何書いてたっけって遡ってたら女子プロレスの人だった。こんなのも書けるんや。すご。
世界の終わりのような光景を目の当たりにしつつも、あっさりとしている女性にたくましさを感じました。こういう人好きです。一緒に終末を過ごしたい。また、新しい楽しみが見つかるのもいいですね。舞台設定に反して、気持ちいい読後感がありました。
この解説は私の解釈によるところが多いと言うことをご留意いただきたいですが、「本を見つけて願いが叶う」という部分を、「果たせなかった願いを叶えるような話を本の中で書いて実現させる」という形に持ってきたのはシンプルながら意外と発想できなかったので非常にいいと思います。いわゆる作中作要素にはなりますが、こういう解説のウミガメがあったら解いてみたくなりますね。難しい材料を大胆ながらいい形で仕上げられた解説でした。
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
ぎんがけいさんの作品だ~! やんややんや。ぎんがけいさんの解説もたまにしか拝めないので、こうして創りだされるのを見ると嬉しいです。
コズエさんが自分の過ちに気づいてから態度を改めて、コツコツと改善に向かっていく姿が素敵です。そして自分の現役時代では叶わなかった夢が、指導者となって成就できそうだな、と希望を持った終わり方なのも好きです。何より、選手たちが徐々にコズエさんの目標に近づいて、率先して戦略を立てていくようになったのが、指導者としてのコズエさんが報われるような気持ちで嬉しい。コズエさんごとチームを応援したくなります。
ウミガメとして、本の解釈を作成途中のものとしているのが新鮮でした。作成中であるからこそ、自分の行動が悲願の成就に結び付く=「願いが叶う」であろうと確信できるのが納得感も高いですし、違和感のない問題文の回収ができていると思います。金メダル級の解説でした。
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
「マクガフィン」という文字だけで確約される上質エモンガ。というかもう「マクガフィン」という文字そのものがエモンガなんじゃないかと思ってきました。いつも忙しそうなのにほんとにここに創りだしに来てくれてるのがすごい。奇跡。キセガフィン。この人の書く作品が名作じゃないわけがない。
ほらー全然抜かりないじゃん~~~~~~~~(泣) ありがとう。本当にありがとう。ひょんなことから桐谷くんとの縁ができて、彼との時間が西野さんの中で徐々に愛おしいものに変わっていくのがたまりません。そして、その時間が奪われるかもしれないと知った時、自分が必要じゃなくなるかもしれないと思ってしまった彼女に気づけば感情移入してしまっている。心情、細かな所作、そして情景、それらを一つ一つ積み上げていくように丁寧丁寧丁寧に描かれているからこそなせる業です。とんだ新宝島もいるもんです。まぁじで哀しい結末にならなくてよかった。
「本を見つけた」という文に対して、本屋や道端などで偶然に見かけたというわけではなく、理由あって注目した人が持っていたものを見た、という切り口は意外と他の人の解説では見られないものでしたね。人の数だけ解説は創りだすことはできますが、その中でも唯一無二の解釈を見かけるといつも感心します。ウミガメを究めて極まった、洗練された解説でした。
●『雪は海に溶けて消える』(ロスタイム)
拙作です。元々三質問に分ける予定だったのですが、締切を過ぎてしまったので一つの質問に入れようとしました。大丈夫かなと思ったら全然収まりませんでした。二つに分けました。締切過ぎちゃってすみません。
本文でも言ってますが、過去の創りだすで作った作品から広げた作品です。そんなことする人他にいるかな~と思ってましたがめっちゃいました。やっぱり自分の作品って愛着湧くよね~。
ただ、知らない人にはほとんどの部分が「なんのこっちゃ」って思われそう。知ってる人にも「あれで綺麗に終わってたのにこれのせいで全部台無しになった」とか思われそう。ほんとごめんね。来るたび毎回やりたい放題やってる。ミリも伝わらない解説になってたらどうしよう。
ウミガメ的に言うと、「いつもは通らない道を通った」の部分を「誹謗中傷+個人情報特定により、いつも通る道が通りづらくなってしまった」と解釈しました。題材が題材なだけに気軽に扱っちゃいけないですが、重くしすぎると今の情勢としてもそれなりにタイムリーなせいで読むのすら嫌になってしまうので、それに当たる部分は本当にサラッと要点だけ書いて、なるべくキャラの心情中心にしてみました。半分ぐらいの要素が「海は塩水」と相性が良かったので、文章量の割には作りやすかったかなと思っています。スポーツ実況部分は本当に書いてて楽しかったです。
《要素テイスティング》
①雪が降っています
→季節が限定されてしまった。まあ冬にしなくてもやりようはあるが、無難に冬にしてもそこまで困らない。ひんやり感を感じるミント味。
②いつかまた復活します
→「過去・現在の時系列で一旦なくなる過程」が必要になるが、それさえクリアすれば主語は作りやすい。別に昔のゲームがリメイクされる、とかにも解釈できる。「いつか」となっているので、最終的に復活しなくても別にOK。昔懐かししょうゆ味。
③何らかの障害が関係します
→障害物でもいいし、人の性質によるものでもいい。文化・環境的な隔たりと解釈することも可能なスパイス要素。ちょっとビターだけど必要な味。
④カレー屋さんしか見つかりません
→おい本当に解説でカレー屋しか見つからねえぞ。貴様のせいで問題文と妙に噛み合っちゃって神保町が出てきちゃったぞ。これは一体どうなっちゃうんだ~!? 名作です。ならいいか。
「しか見つからない」の解釈も難関。目的に沿う条件のものを探してたらそこしか一致しなかったという説明が必要。食べログで近くの手軽な飲食店を探したらココイチしか見つからなかった、みたいな解釈が一般的。だけどコレを入れるだけで解説が全部カレーの味になっちゃう。だいぶ強すぎるカレー味。しかもエグ味とクセがありすぎる。
⑤女は間違いを犯しました
→程度の調節が可能。大きめのやらかしでもよし、誤字ったけどフリクションで消せた程度の些細な日常ミスでもよし。この要素に当たる登場人物だって、うっかりさんでもいいししっかり者でも全然大丈夫。単体だけだと苦いけど、適切な加減で入れると深みが出る味。
⑥労働の喜びを感じました
→労働した後に喜ばないといけないとかいうブラック企業みたいな要素。とは言いつつ全然ブラック企業じゃなくても仕事にやりがいを感じる人は普通にいるので、思ったほどクセはない。イカスミ味。
⑦女はスポーツが得意です
→みんなスポーツしちゃう。登場人物に使える要素の幅はちょっと狭くなっちゃった感じ。
「スポーツと問題文をどう絡めるか」がシェフの腕の見せ所。スポーツドリンク味。
⑧損な性分です
→性分なので、登場人物の性格に入れることが必須の要素。登場人物の性格はどこが損になってしまうのか、そんな感じでキャラ付けとして助けてくれる大事な下味。しっかりつけたほうがよい。塩胡椒味。
⑨創りだします
→素直に何かを創作するときに使ってもいいし、苦し紛れやでっちあげの言い訳なんかでもいい。「~しだす」の細かいニュアンスがついているので、作中で無から何かしらを作るシーンを錬成できれば勝手についてくる。ちなみにこのイベントと絡めてしまえばどうとでもなりやすい印象だが、ここのシェフ全員も一度は同じことを考えるので、似たり寄ったりな味付けになってしまわないように注意。どうしてもやりたい場合は、他要素で差別化を図ることが重要。安心安定のコンソメ味。
⑩あと一つです
→「あと」とついているので、この要素にかかるのは「何かしらの一つ足りないもの」になっていることがカギとなる。パズルのピースでもよし、トランプやUNOのアガリ直前でもよし、とにかく「この一つさえどうにかしたら、特定の物事が達成できる」。そんなニュアンスで作中のシーンに使えれば使いやすいでしょう。シンプルだけど複雑で、突き詰めると奥が深い。そんな要素。秘伝のソース味。
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やべ、8000字超えてる。現場からは以上で~す。
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❤️
【感想】
感想を書くのがとても苦手なので、数を絞って書きます。ごめんなさい。
『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
問いに対する答えに一番納得できました。
新しく創りだすに参加する方が増えて嬉しく思いました。
『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
本である必然性、「願いが叶う」の回収がとても自然で納得感がありました。
咲本ゆい先生にまた出会えてとても嬉しかったです。あの2人、とても好きなんです。
『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
私が創りだすに参加するきっかけになった「マクガフィン」さんの解説が読めただけで、最終回が開かれてよかったと思いました。
弥七さんの劇団ココナッツがまた読めたのも嬉しかったし、私にとっては雲の上のレジェンドたる、とろたくさんや藤井さん、葛原さんの作品(しかも過去の名作オマージュ!)がまた読めたことに嬉しく思うとともに、少しだけ、ほんの少しだけ寂しさを感じました。
みづさんのほのぼのした文章をまた読めたのも嬉しいし、ぎんがけいさんのどこかドキュメンタリーのような解説をまた読めたのも嬉しい。
畦猿さんやのまるすさんのように新しい方の解説が読めるのも嬉しい。
そして、さなめ。さんの解説も。
「マクガフィン」さんがきっかけならさなめ。さんは続けられた理由です。
実はエモンガ一直線なだけではないさなめ。さんらしい解説が読めて嬉しいです。
最後に。布袋ナイさん、今回このような場を開いてくれてありがとうございます。
たまたまとはいえ、大変な役目を負わせてしまいましたが、最終回に参加できてとても嬉しかったです。ありがとうございました。
追伸:
「この解説はフィクションです」ネタがこんなにも被ると思ってなかったです。
❤️
「本」が難しかったです。輝夜さんが開催されていた回でも同じことを思いました。『本の中に何かが書いてある』ということは、そこに何を書いていてもいいので、一見いかようにもストーリーを展開できて楽しそうに感じますが、裏を返せば何を書いても、数あるストーリーの中からそれをたまたま選んだだけというイメージが簡単には拭いきれません。ストーリーをウミガメのスープ解説にするのが難しい問題文だと感じました。
⑤(50)「いつもは通らない道」を家出に託して陰鬱に物語を進ませる展開がとても好きです。マッチ売りの少女を基に簡潔な文章で物語が描かれてはいますが、父親から逃げ出した衝動的な感じ、炎からお母さんが出てきた時に安心するのではなく縋りつくような気持ちになる様子などは惹きつけられます。そして必死に辺りを探す中で本自体を燃やすという答えに至る構成は、自然に問題文へと物語を繋げつつ、本の持つイメージを崩す見事な回答だと感じました。
⑧(58)(アンドロイドかぶっちゃってごめんなさい!)壮大なスケールで生み出される物語はストーリーの素晴らしさを引き立てるだけでなく、問題文への回収にも驚きを与える役割を十全に果たしていると感じます。本の扱い無沙汰を、そもそも本が貴重な世の中に転換させて解消するという圧倒的な世界観に、それが自分自身の物語である含意を加え、「願いが叶うと思った」という単なる記述にとても奥深い意味を持たせているのは流石だと感じます。「いつもは通らない道」というのも、道自体が変わっていってしまっているという解釈はとてもお気に入りです。
⑩(62)セリフが特に印象に残った作品でした。一つ一つは短めで端的なものでありながら、そのセリフが発せられる場面やその後の結末への持って行き方と照らし合わせると、薄暗い印象の物語の雰囲気に的確にはまる洗練された言い回しがなされていることを痛感させられます。またこちらの作品では、「願いが叶うと思った」の回答もよく練られていると感じられます。本に、自分を題材にした男の本にするという大胆な手法で意味を持たせている点にも目を見張りますが、それによって単に願いが叶ったわけではなく、悠久を通じて願いが叶うと思っているようなイメージが「願いが叶うと思った」という微妙な問題文にぴったりだと感じます。
⑥(52)基本的に当回の本の解釈の仕方は、本の内容にではなく、そもそも本という物質自体をどう扱うかという方法で為すのがトリッキーの中のセオリーだと思います。一方のこの作品は、本の内容自体、それも特に奇を衒った作中内容があるわけでもない本に込められる意味付けに正面から向き合っていると感じます。私が難しいと感じた本の内容自体にフォーカスを当てる方向性においてこの完成度はとても魅力的でしたし、ご自身の書きたかったことを存分に描きつつ「過去を書き換えられる本」が「過去を変えられない」ことを教えてくれるメッセージを等身大に伝えてくれる構成が好きです。
⑪(65)本を普通の本にしても面白くないなと思って、それに本の内容に細かく触れると煩雑になりそうだと思って、じゃあタイトルだけで内容がわかりやすいし、本らしさを薄めてくれるくらいのアイテムとしての大きな特徴を持っている”説明書”にしようとなりました。いつもは通らない道も、「いつもは通らない」「道」と分け、道自体通ったことがない変なやつを登場させています。私らしさがちょこちょこ書けて満足です。
要素:④(7)
→そんなわけない。もっと頑張って周りを見渡して探してほしい(八つ当たり)。
残りは余裕があったら書きます🙇♀️。
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❤️
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
パルクール、パルクール!?
自分の引き出しからは絶対出てこない単語、からの物語の流れすごく良かった…。
もしかしたらコンビニのお客さん、可哀想に何かの怪奇現象かと思ったかも?
本の使い方が1番好きでした、秀逸!
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
ブラックver.弥七さん。
仕事上手くいかないし、やばいの憑いてるし踏んだり蹴ったりでかわいそう、と思ったけど最期悪いことしちゃいましたね(唆された…?)。
交通事故も放送事故も発生。
ラストまで徹底的にやな感じで(※これは褒め言葉です)良いですね~!
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
弥七さんと言えば童話だよねfeat.劇ココ、でございますね。
この会話、AIで作りました?と思うくらいシュール(本家の注文の多い料理店風?)なのが可愛い。
問題文も要素もカレーに拾いつつ、意地悪な風車さんとおバカな猫と賢いアリさん面白かった!
④『この素晴らしき視界』みづ(拙作。以下創りだすについて)
本当に久しぶりに参加しました。
たくさんの名作が生まれた創りだす。
勇気を振り絞って、初めて企画物に参加したのも創りだすでした。
皆さんの多種多様な「正解」を見ることができて、とても楽しかったです。
あっ、でも感想下手は相変わらずで、多分思ったことの半分も伝えられていませんが(毎度毎度ね~)!
はい、すみません…。
❤そして最後に。
主催者様、布袋ナイさんへ。
最終回の開催、そして創りだす心をくすぐる素敵な問題文をありがとうございました!❤
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
はじめましてのきはるさん。
終始悲しい雰囲気漂う中で「おいしいカレーの店」の本タイトルがほっこり(派手に燃やしちゃうけども!)。
マッチではなく煙草というワードが陰鬱さを増し、10要素使いも上手くて…くっ、羨ましいですね!
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
過去を変えることができたら…。
女性の葛藤や苦しみはきっと本人にしかわからないのだろうけど。
息の根を止めたのではなく、もしかしたら新たな何かが芽吹くきっかけになるのかもしれない…と、本当に勝手ながら私は思いました。
ほずみさん、素敵な創りだすをありがとう!
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん
長文でもグイグイ惹き込まれ「はっ、読み終わってた!」になってしまう藤井さんの創りだす。
文章や言葉の作り方がきれいで、納得感も半端ない(そしてどうしてもトキ萌えしてしまうじじ好き)。
もうね…こうやっていつも、ただでさえ低い感想語彙力の更なる低下をもたらしてくれるってすごい!
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
生成AI、アンドロイド、子どもを産まない(望まないし望まれない)世界。
何だか無機質な感じなのに、しっかり感情的なところもあって、そのうねりがたまらないですね。
個人的に「仕事を」~「したくない」統計のAIジョークが好きでした!
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん
え…上手い。
参加者→主催者→参加者の構成、こういうの大好物です。
もちろん要素も拾って見事な着地。
※この物語はフィクションです…が、私は歴代主催者様を毎回尊敬していました、と言いたい!
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
これはもう、ひとつの「小説」を読み終えた…という気分でいたら、本当に小説(作中作)だったというあとがきが付いててびっくり。
いや~、好きですね好き。
文章力がすごい、情景描写が美しい&カレー何とかのバリエーション豊富なところも読んでいて楽しかったです!
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
マミ視点に、これでもかと全く要素が入っていないところがゾクゾクしちゃいました。
読み進めて、???→うぉあ~~!そうだったのか…の流れがまた何とも言えない雰囲気を醸し出していて、興味深い物語でした!
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
無人島でカレー屋を開こうとする勇気!
鹿とのタイマン無人島(野菜も欲しい)。
しかしカレー屋さん鹿見つかりません…。
面白かったです!
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
わぁ、自分だったらおかしくなっちゃいそうという設定。
赤い雪、一体何が起こったのだろう…。
深刻な内容のはずなのに超ポジティブシンキングというギャップ素敵ですね!
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
選手と指導者ってどうしてもズレちゃう時がありますよね。
私も学生時代スポーツやってたのですが、色々拗らせてわりと本気でヤバい顧問いたりしたなぁと(オリンピックとは程遠いですが)。
でもコズエはそうならなくて本当に良かった!
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
ハァ~。
読み応えのあるラスト作品でした。
ガフィンさんは細かな心情描写がエモいを通り越してエグい(※これは褒め言葉です)。
あの本が出てきた時に、感情移入しすぎて2回くらい、うるっときたことはほんとにほんと内緒ですよ…!
~~~~~~~~
ロスタイムとろたくさん作品に関しては、本当にがっつり読むんですよ。
もとよりファンですし(サンチャン激推し)、マリンスノーが頭をリフレイン中!
その上で何か…何故か感想がいつもこんな感じになるんですが、
好き。
の一言で終わらせていただきます!
~~~~~~~~
以上です。
ありがとうございました!
❤️
感想書かせていただきます!
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
…とろたこしゃん、はやたこしゃんでした。
要素が出揃ってから30分くらいで投稿されてました。本当にこう、疾走感溢れる作品内容のように、ビビビッと要素を繋げてペンを走らせた(タイピングした?フリック入力した?)のだと思います。常人には真似できないです。なんたって、とろたこしゃんは創りだす大好き芸人だから。
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
…イコッカ、かわいい。そして作品全体もかわいいです。安心の三人組(内容は全然安心じゃないけど。ズババババいうてるので)。
不思議な物語の世界に入り込んだみたいで、面白かったです。フリンガーハットのちゃんぽん、おいしいよね。
④『この素晴らしき視界』みづさん
…眼鏡店を探して奔走するみづさん、かわいい。さっきからかわいいしか言ってないな。眼鏡はみづさんのトレードマークですね。ほっこりしました。思えばエックス(旧Twitter)に来たばかりのみづさんにプロツイッタラーを名乗って雑絡みしたのは私でした。その節は大変失礼しました。みづさんの持つピュアな(と言うと少しニュアンスが違うか。なんだろう。昔からある懐かしさのような、優しさというか、とにかくそんな感じの)空気感が心地よくて好きです。
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
…要素全てを使いながら、淀みなく進行するストーリーが読みやすかったです。冬の寒さを感じました。少女の心の寒さも相まって、かな。悲劇的になりそうなところを、過剰な抑揚なく淡々と綴られていたのがよかったです。自然にスッと入ってきました。
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
…簡易解説を読んでファンタジー系のストーリーなのかと思いきや、ファンタジーのファの字もないリアルストーリーでした。過去を書き換えられる本。そこに書き記されている見ず知らずの人間の「書き換えたい過去」を読めば読むほど、過去はどうしたって変えようのないものだと思い知る。この気づきがすごく好きです。そしてこの作品に乗せられたほずみさんの切実な思いが、文章の端々からとても滲み出ていました。
自分はしばらくらてらてを離れていて、ちょうど創りだすが最終回のタイミングで偶然帰ってきて、こうしてこの回に参加することが出来ました。本当に偶然です。何かに呼ばれたのかもしれないけど。色々とログを辿らせていただいて、きっと誰よりも胸を痛めていたのがほずみさんではないかな、と勝手に思っています。あのまま消えてしまってもおかしくなかった創りだすをこの場に繋いでくださってありがとうございます。あなたが護ってくださったのだと思います。
私も創りだすを大事に思う人間の一人ですが、だからといって今後創りだすを存続させようとか、そういったはたらきかけができるような状況にはありません。でも、だからこそ、今回こうして機会が与えられたことにとても感謝しています。そして、自分も精一杯の思いを込めて作品を投稿させていただきました。
本当に、ありがとうございました。
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
…ものすごく個人的な話になりますが、第8回創りだすに投稿された葛原さんの作品『コンピューターに世界征服をさせない方法』が、恐らく自分の知る創りだす史上最も好きな作品です。その中にニャーゴが出てくるんですが(雑説明)、創りだす最終回で葛原さんの作品が読みたいなぁと思ってエックスでニャーゴうんぬんかんぬんと呟いたら、その日のうちに葛原さんが本当に投稿されたので(しかもニャーゴ登場)、思いが通じたのだと歓喜しました。本当に大好きなんです。
葛原さんの文章は独特で、淡々としているようでものすごく味があって、後から後から深くまで沁みてきて掴まれるような、そんな不思議な感覚があります。何がどう良いとかはっきりと表現は出来ないのですが、葛原さんの持つ文章力(というと陳腐ですね。言葉ひとつ、台詞ひとつ、その空間を司るものすべて)が唯一無二のものだなぁと思います。お名前が見れて本当に嬉しかったです。焼肉おごってください。
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
…素敵。世界に惹き込まれました。情景が頭の中で映像として浮かび上がり、再生されていくような。カレーショートケーキ、カレーブラックサンダー、餅巾着カレー入り…と派生していくのも楽しかったです。今回の要素で一番厄介だったとも言えるカレー屋さんを、こんな風に象徴的に使用するのはとてもユーモアがあって良かったです。
輝夜さんが創りだすに参加され始めた時期が、ちょうど自分が創りだすから遠のき始めた時期と重なっていました。輝夜さん主催の回に参加させて頂いたことはありましたが、輝夜さんと一緒に参加者として作品を並べたことは恐らくほとんど無かったんじゃないかな。(0だったかも?はっきりとは覚えていませんが)
なので今回こうして一緒に参加して、作品を読ませて頂くことができて嬉しかったです。改めて、素敵でした。
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
…まさかの結末にドキドキしました。面白かったです。葛原さんの作品とはまた違った、アンドロイドのストーリーでした。『いつもは通らない道』という問題文を、『今まで外の世界に出たことがない』という解釈に落とし込んだのが斬新で、こんな調理法もあるんだなぁと感嘆しつつ読ませていただきました。とにかく問題文の捉え方がピカイチだったように思います。
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
…カレー屋さん鹿見つかりません。笑っちゃいました。そう来たか!と。ついでに最近鹿肉カレーを食べたばっかりだったのでタイムリーでした。
今大会で一番ギュッとコンパクトにまとまっていて、かつ全要素使用。それでも話が滅茶苦茶になるでもなく、ちゃんと鹿に支えられていて(?)面白かったです。
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
…赤い雪が降っているという何ともSFチックな始まりから、シェルターでの生活という現代の私たちには馴染みのない情景。それでも何処となく親しみやすさを感じるのは、軽快で気取らない文体のおかげでしょうか。『本があって紙があれば、そこに心が生まれる気がした』の一節が好きです。その感覚、わかる気がします。
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
…個人的に、今大会で最も各要素を効果的に調理していた作品だと感じました。私は各要素を使用する時に「その質問をされた時にYESで良質が付くか?」を考えながらストーリーに盛り込みむように意識しています。良質が付くということは、答えを導き出すためにその要素が必要だということ。それってなかなか難しいことだと思っているのですが、ぎんがけいさんの作品は各要素がちゃんと答えに結びついていると感じました。きちんと話の軸が通っていて読みやすかったですし、とても良かったです。
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
…泣いちゃう。やだ。ガフィーさんの創りだす、泣いちゃう。やだ。(二回目)
やっぱりあなたはすごいです。問題文と要素をもとに、あなただけの物語作品をこんなにも見事にまとめ上げる。「さようなら」のくだり、織姫の願い事を思い出して泣いちゃう。やだ。(三回目)
文章の繋ぎ方とか言葉の選び方とか、そういう細かなひとつひとつが、なんか星の砂みたいにサラサラしてて綺麗でなめらか。作品から色が見えてくる。呼吸が聴こえてくる。手のひらの温度が伝わってくる。何だろう、何だろう?わかんない、でも、好きです。
ガフィーさんが初めて創りだすに参加してくれた日のことを思い出します。自分主催の回で、最初は要素だけ…と言いつつ投稿してくれて、ながーい感想も書いてくれて。あれから5年。ぼかぁ君に泣かされている。歳をとるのも悪くない。素敵な作品をありがとう。
〈ロスタイム〉『雪は海に溶けて消える』とろたく(記憶喪失)さん
…ながたこしゃん。
何を食べて腹筋を何回くらいして何足の靴下に穴を開ければこんな設定が思いつくのか、想像もつきません。多分本当に、頭の中の回路が自分とは全く違っているのでしょう。0から1を生み出せる人という感じ。
マリンスノー、グラスに活けた花の本数と意味、そしてラストのバンドウおじさんからの告白、素敵でした。
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⑦『 【絵本を買う老人】』自作
…私は自分の作品が宇宙一好きな人間なので(多分葛原さん辺りもそう)、思い入れたっぷりの今回の作品も宇宙一好きです。自分が初めて主催した創りだすの回のタイトルが、この『絵本を買う老人』でした。その時に書いたエキシビジョンから派生したのが今回の作品です。
私は文章を書くことが好きで、物語の登場人物に自分の心を乗せることで、自分をアウトプットしていました。創りだすという場で、問題文と要素を借りて、作品という形で自分の心をそこに置く。そうして作品に、つまりは自分の心に触れてもらえる。そんな瞬間が愛おしく、好きだったのだと思います。なかなか自分の作品に触れてもらえる場なんて無いですしね。そして単なる物語投稿大会にならないように、要素ひとつひとつに意味を持たせて問題文を回収するという、技巧的な側面も私は好きでした。今回はどんな問題文かな、書けそうかな、と毎回楽しみにしていました。そして自分がMCを担当した回は、どの参加者よりも楽しんでいた自信があります。
そんなこんなで、らてらてでの創りだす最盛期に参加させて頂いていたものの、後はフェードアウト状態で、一番苦しい時期に私はそこにいませんでした。参加者が激減していたことも後から知りました。
創りだすは元々ラテシンで罰ゲームとして生まれたものだったみたいで、その瞬間は遊び心に溢れていました。ぶっ飛んでいて、めちゃくちゃで。それが楽しめるくらいの環境がそこにあったという表れでもあると思います(人数とか雰囲気とか)。
年月の経過とともにそれが形を変えていって、成立しなくなってしまった。私自身も、私生活の環境の変化から、初めて主催した5年前とは創りだすに割ける時間もリソースも激減しました。そんな中で、何となく少し余裕があると思ったら参加して、無理だと思ったら距離を置いて。そんなライトな感覚でらてらてに居ます。それが許されるから、居心地がいい。ありがとう上杉さん。
公式イベントとしての創りだすは一旦これが最終回となりますが、また何かの記念の時や、何でもないけど皆の気が乗った時にでもプチ開催出来ればいいですね。それくらいの気楽な気持ちでいるほうが、『次』がある気がします。しなやかに形を変えていくことは生き延びるために大切です。と、柔軟性に欠ける私が言っておきます。へへっ。
最後に、最終回のMCを担当してくださった布袋ナイさん、ありがとうございました。
度々期限を延ばしてくださってかなり長丁場になりましたが、私としては心の余裕ができて有難かったです。こうして無事に感想も投稿できました。
何より、思いの丈を込めた作品を投稿できて、我思い残すことなしです。楽しかった!本当にありがとうございました。
[編集済]
❤️
所感
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん(41)
早さとクオリティの両立。身体能力が高すぎる女と、雪の大胆な活用が見事にマッチして、疾走感あふれる爽やかな展開が魅力。
②『誰のための人生なのか?』弥七さん(43)
ブラックウミガメ。悪趣味すぎる死神の女と、予想以上に最悪な展開と、その種明かしに驚かされる。
③ 『注文の多い咖哩店?』弥七さん(46)
ギャグ全開。カレーうどんを恐怖の対象とする着眼点に脱帽しつつ、本を汚すという一見罰当たりな行為を、因果応報に昇華する納得感が見事。
たまたま通ってた学校が神保町の近くだったのだが、はたして運が良かったのか悪かったのか…
④『この素晴らしき視界』みづさん(48)
サザエさん的なウミガメ。メガネやコンタクトなしに外を歩くのは、死にに行くようなものと聞いたことがある。Googleマップ様も不親切なことあるしね、地域と生活に根ざした作品。
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん(50)
私の作品です。まずは読んでいただいた皆様に感謝を申し上げます。
初投稿で、完全オリジナルでないことや、何万字も書けないことに負い目を感じておりましたが、温かい感想をもらえてホッとしております。
はじめに要素一覧を見た時に、真っ先にマッチ売りの少女が思いつきました。そのため、本を燃やして暖をとるという発想は後付けなのです。
悪天候の日に地べたに落ちてる雑誌がよく燃えるのかというツッコミは、ファンタジーの力でねじ伏せさせていただきます。
原典では明け方に冷たくなった少女が発見されますが、こちらでは無事に町ごと火葬することができたので、寂しくなくてよかったです。メリバですね!
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん(52)
重く切ない。登録して数ヶ月の自分には想像もつかないような葛藤と苦悩。あの頃はよかったと、誰しも一度は思うだろうが、私の知らない時代の栄枯盛衰を強く感じた。ここまで損な性分な人も稀だと、他人事に思わせたところで、自分が近い状況に追い込まれたらどうなるのか考える契機となった。
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん(54)
ウミガメのスープをウミガメにしたウミガメ。児童文学のような冒険譚と、答えは自分の中にあるという、王道でありつつも正義であることを、説教くさくなく説いてみせる様が巧み。
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん(58)
思考実験的ウミガメ。私も反出生主義とまではいかないが、生まれて来なければ良かったと何度も思うし、私のもとで生まれ育つ子は可哀想だと思うことがよくあるが、ここまで突き詰めて考えたことは無い。ソフィアの冒険は、まだまだ続く。
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん(60)
創造主のウミガメ。問題文を考えるのって、解説を考えるより難しいと個人的に思っている。それがイベントの主催ならなおさら…
他の方の作品を見て思うのは、ここまで長く創り出し続けていると、過去の作品がほとんどの要素をカバーしてしまうこともあるということ。なぜ人は本に惹かれるのか。
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん(62)
エモの煮凝り。特徴的なワードやグッズをフックにしながら、スルスルと世界観に引き込む作品。いつのまにか2人がいる空間の壁か、窓の外に生えてる植物にさせられている自分がいるし、それを望んでいる自分がいる。すーはー。
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん(65)
どんでん返しウミガメ。とはいうものの、表現の端々からなんとなくだがマミの正体が人間でないことを読者は察することになる。三者三様の、人を想う気持ちの優しさを感じた作品。自己犠牲と呼ぶには陳腐すぎる。
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん(67)
考えるな、感じろ。突然の無人島、突然の鹿。カレー作りに対する執念、せんべいのように本を食べる鹿。我々は今まで親切すぎる解説に甘えていたのかもしれない。ワイルドな作品。
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん(69)
SFウミガメ。極限状態、と思いきや、引きこもりの私と似たような自堕落な生活。唯一の娯楽として与えられた白紙の本。私がまさに未来を創造するのである。
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん(71)
道徳ウミガメ。反面教師にしようと思っている人ほど、それに近づいてしまうという。空回りの人生の写し鏡のような作品。コズエは自力で気づけたが、気づけない人の方が多数だろう。いいチームだ。
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん(73)
本当に教科書に載せなくて大丈夫?もう載ってる?私の通った学校だと履修しなかったな…
せめて読書感想文指定図書くらいにはなってたはず。図書委員だったから絶対読んだし、ポップも書いて目立つとこに陳列したはず。そんな作品でした。…感想とは?
⑯『雪は海に溶けて消える』とろたく(記憶喪失)さん(76)
優勝。恋愛書かせたら右に出る者がいないのか?この人は。年の差恋愛ってなんでこんなにグッとくるんだろうね。
人種差別をテーマにした熱いスポーツ小説だと思わせてさ、ほんと。二段構え三段構えは当たり前なのか?すごい世界に足を踏み入れてしまったよ。
最後に
布袋ナイさん、主催ありがとうございました。
勇気あるご決断をされたかと思われます。期間中もずっと、決断の連続だったでしょう。
短い間でしたが、創り出すに参加することができて、とても楽しかったです。自ら問題を出題しない自分が参加できるイベントは限られるのですが、勇気を出して参加するという決断をしてよかったです。とても良い経験となりました。
今後のらてらてに、幸多からんことを。
❤️
『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん→作り出す史上最もシンプルな作品なのでは?こんなに短い作品で7要素も回収できるのはすごい。あと、とろたくさんと言えば創りだすの初期を支えたといっても過言ではない存在です。ばっちりその時期のとろたくさんを見て育ちました。でも初期だけにとどまらず定期的に復活しては、創りだすを投稿して、皆をあっと驚かせていました。今後も創りだすとは別の場でとろたくさんの作品を見れたらと思う次第です。
② 『誰のための人生なのか?』弥七さん→多分私勘違いしてましたね。弥七さんってエモい作品ばかり書いていらっしゃる方だと思っていたんですけど、こんなにぶっ飛んだ作品も書けるんですね。すごいです。てかめっちゃホラーですやん。こんな女は金輪際現れないでいただきたい。
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん→またまたぶっ飛んだ作品。こういうのホント好き。2作品連続で神●町が舞台だなんてwww。行ってみたくなっちゃうなぁ。今回は劇団ココナッツ勢ぞろいですね。実際3人がそろったらこんなハチャメチャ展開になるんでしょうか。すごく気になる。弥七さんと言えば12月、12月と言えば弥七さんですね。これはいつからか風物詩になってましたね。でも、こんな風物詩ができたのは弥七さんの創りだすパワー?が膨大だったからです。この創りだすパワーをもっと感じたかった。
④ 『この素晴らしき視界』みづさん→弥七さんの前の作品があったので、なんか色眼鏡で見てしまうwww。私も創りだすがなくなるのは寂しいです。でも、今回の作品でひさびさにみづさんの作品を見ることができて良かったです。お話もすごくほんわか展開で、見てて癒されました。今回手に入れた眼鏡は今後も大事にしてください。
⑤ 『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん→さほど長くない作品にも関わらず全要素回収したのは素晴らしいです!にしても、「マッチ売りの少女」風のお話ですね。すごく悲しいです。少女もその母親も来世は幸せになってほしいです。最近テレビでニュースになっていた火災ってもしかして・・・。
⑥ 『【最終回】無題.docx』ほずみさん→えっこれフィクションなの?あまりにも実話っぽかったのでびっくりしました。でも、創りだすという企画がここまで続いたのはほずみさんのおかげです。本当にありがとうございます。ほずみさんの作品好きだったな。エモもあって、匠もあって、ボリューミーだけど読みやすくて。今後見れなくなるのが本当にもったいない。今後も語り継がなくては。
⑦ 『 【絵本を買う老人】』藤井さん→「絵本を買う老人」の回を思い出しました!あれ私も参加してました。もう5年前なの!?今となっては懐かしいです。「十人居れば十通りの正解があってさ」はまさにその通りです。皆さんの正解を今までの回で皆さんの正解を味わうことができて本当に良かったです。藤井さんのエモのセンスがすごすぎて、何度も藤井さんみたいな作品を書こうとしてあきらめたことか。藤井さんの唯一無二の作品たちは何年たっても残していきたい。あっ、スタイリッシュな目玉焼きでとんでもない目に遭わされたのも忘れねーからな。
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん→葛原さん!お久しぶりです!葛原さんの創りだす作品好きだったので、今回も見ることができてうれしいです。アンドロイドやAIが生きるような時代が来るのでしょうか。その時代になっても本は生き続けるのでしょうか。そんな時代が来たら我々はどうすればいいのでしょうか。いろいろと考えさせられました。葛原さんの物語力すごすぎます。少しくらい分けてくれてもいいでしょ。葛原さんの創りだすだけでなく、葛原さんの通常の問題や私の『懐疑の眼差し』にも葛原ismが存分に盛り込まれているので必見です。(しれっと自分の問題を宣伝していく)
⑨ 『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん→輝夜さんも創りだすの歴史を語る上では、欠かせない存在です。そんな輝夜さんの作品を見ることができてうれしいです。そういえば、輝夜さんがシェチュ王とった第24回も、主催されてた25回も両方参加していました。今となっては懐かしいですね。もう4年も前だなんて信じられません。ということは、4年ぶりの伏線回収ってこと!?それはすごすぎる。
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん→エモエモ来ました。あとがきまで含めて作品が完成するとは!エモンガ賞も匠賞もあげたい。なんなら、シェチュ王投票があったら入れたい。
⑪ 『つなぐ灰色』さなめ。さん→うわー。何という悲しいお話。こうしてみてみると、自分が本当に人間なのかもわからなくなってきました。最初は使われている言葉とかから、すごく子供向けなハッピーエンドなお話だと思ってみてたんですが、だんだんアレ?なんか思ってたんとちゃうってなりました。こういったトリック要素入れられるのすごいです。よくよく思い出してみれば、さなめさんの歴代の創りだす作品もこんなお話が多かったような・・・。懐かしいですね。ちょっと昔のさなめ作品読み直してきます。こんなんなんぼ読んでもええですからね。
⑫ 『鹿は何を食べる?』畦猿さん→うそでしょ!?こんな短い文章の中に全要素詰め込めます?てっきり1番のとろたくさんが最短だと思っていたのに、それを超えてこられて開いた口がふさがりません。
⑬ 『SO HAPPY END』のまるすさん→これ見たらカレーが食べたくなりました。作中の私がカレーを食べてどんな感想を抱いたのかがものすごく気になります。
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん→がんばって書きましたね。
⑮ 『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん→エモといえばガフィン、ガフィンといえばエモ。まさにそういう作品です。久々にガフィンさんの作品を見たのですが、昔の創りだすを思い出しました。こんな感じで、文章のひとつひとつが丁寧に作りこまれてて、エモ要素が散りばめられてて、非の打ちどころがなくて、シェチュ王をかっさらっていって・・・。今までの創りだすが懐かしいね。今やガフィンさんは月らての顔ですが、間違いなく創りだすの顔でもありました。今までの作品に多大なる感謝を。
主催の布袋ナイさんお疲れ様です。私が創りださなくなってから、ナイさんが創りだし始めたので、私はナイさんの作品をよく知りません。すみません。(今後の宿題とします。)でも、ナイさんが創りだすの後期を支えていたのは存じ上げています。最後のシェチュ王になって、創りだすのフィナーレを飾る回で主演を務めるなんて、すごすぎます。主催ありがとうございました。
すみません。ロスタイム作品までは感想書けませんでした。後日しっかり目を通します。(こちらも今後の宿題に。)
❤️
簡単ですが感想を書きます!
(14)とろたくさん
パルクールで要素回収するこの解説こそパルクール的だと思います。勢いがあって素敵です。
(43)(46)弥七さん
すべては死神の掌の上なんでしょうか。ダークでコミカルな世界観ですね。
そしてカレーうどんは凶器ですね。
(48)みづさん
優しい文体で読みやすかったです。眼鏡はとても大事。
(50)きはるさん
一貫性があって納得感が高いです。ナイス水平思考だと思います。
(52)ほずみさん
お疲れ様でした。創り出すは、たとえばこのページのファイルサイズのように、すごいリソースが必要ですね。
それでもここまで定期開催が続いてきたのは、偉大な先達あってのことだ、と。
植物が冬に枯れても、春にはまた何かが芽吹くのでしょう。
(54)藤井さん
読みやすくて情景が目に浮かびます。すっと心に入ってくるかんじです。
(58)葛原さん
タイムリーな生成AIを題材に壮大なスケールの物語を描く手腕、お見事です。
(60)輝夜さん
創り出すそのものを題材にされた作品のひとつ。共感します。
淡い恋を情感豊かに描かれた作品。ほんとうに短編小説の域ですね。
(65)さなめさん
トリックとギミックが張り巡らされた傑作だと思います。流石。
(67)畦猿さん
カレー屋さん鹿見つからなかったんですね。草。
(69)のまるす
拙作。もっと上手に要素回収したかったと思いつつも、まあいいかとも感じます(良くない)。
(71)ぎんがけいさん
次の世代に希望を託すのは生物の、人間の本質ですね。自分も年を取ったなと実感します。
(73)「マクガフィン」さん
問題文の「いつもは通らない道」の、これ以上ない解説だと思いました。
もう問題文を読むとこの解説が思い浮かぶようになってしまいました。
マジガフィンと呼ぶ権利を貰ったことがあるので、今こそ権利行使します。
マクガフィンさんマジすごい。マジガフィン。エモガフィン。マジエモガフィン。
(76)とろたくさん
登場人物の感情が豊かで引き込まれます。大作ですね。シリーズものなんですね。すごい。
❤️
感想
創りだすとしての感想を書こうとしていたはずなのに、気がついたら物語の感想ばかり書いています。ごめんなさいっ!お祭りということでお許しください。
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
飛び越え甲斐のある壁を見つけるとチャレンジせずにはいられない女、にちょっと笑いました。確かに損な性分かも。
「本を見つけた」という文章から、無意識にどこかに置かれている本をイメージしていた自分に気づきました。
っというか早すぎです。一緒にパルクールやってました?要素という障害物を活かして正解を創りだすんです。③⑨
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
悪霊が登場した時点から、これ駄目なやつ→大丈夫なやつ……?→駄目なやつだった!と振り回されてました。
ぞわっとくるラスト。タイトルがまた盛り上げてきます。
障害物=本!確かにそれをくっつける手はありました。関係するどころではありません。納得です。
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
注文の多い料理店の世界観と弥七さんの世界観、なんとなく共通するものがある気がします。ちょっとシュールでユーモアもありつつすこしこわい。本好きとしてはひえっとなる本の使い方でした。物質としての本に注目すること自体は考えましたがまさかの方法。
カレー屋さんしか見つかりません、が改めてじわじわきます。
④『この素晴らしき視界』みづさん
綺麗な二重回収に、要素の順番回収に、私にはできない技巧派の作品です。すごい。順番回収とかやってたら何も書けません。それでいてどこかほのぼのかわいい雰囲気も素敵。
私も方向音痴なので、気持ちがめちゃめちゃわかります。店に入る前の景色と店から出てからの景色は完全に別物なんです。
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
途中で本に炎をつけるところまでは想像がついたのですが、予想以上に延焼してびっくりしました。
本の使い方が攻めていて、けれどとても説得力もあって、素直にすごいと思いました。雪が降っていることへの必然性と説得力が段違いな一作です。
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
ある一つの作品として、刺さりました。
(もしかしたら……と思ったりはしますが)ここで書かれている方は基本アマチュアです。普通に物語を読みたいだけなら本を買えばいいんです。それでも私が創りだすで書かれた解説を読みにくるのは、商業作品にはない、真っ直ぐで等身大の感情に触れるのが大好きだから、という理由が一つあるのだと思います。(他にもいっぱいありますが!)
その点、この作品に切実に綴られた「そのイベント」への感情は、本当に心を打つものでした。しばらく放心状態でした。簡易解説では魔法?っと思いましたが、魔法の本という存在が逆に今を生きるきっかけになる、というある意味逆説的な結論がとても刺さりました。
ウミガメとしても、「願いが叶うと思った」だけで願いが叶ったとはどこにも書いてありません。そこを的確についてくる解釈に唸らされました。
そうして紡がれた物語に出会い、だから自分は創りだすにはまったんだなぁと、また初心に戻る思いです。メッセージごと、自分なりに受け取ったつもりでいます。
とにかく、投稿してくださって、ありがとうございました。
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん
(エキシビジョンの方と感想混ざってしまっているかもです。ごめんなさい)
創りだすっていいなあ、というのが一番最初に出てきた感想でした。
勝手にですが、前作は「ウミガメのスープ」への、今作は「創りだす」への、讃歌のようだな、と。そう思っています。自称創りだすに夢中だった人として、真っ直ぐに心打たれた、心惹かれた作品です。
おそらく藤井さんと参加者としてご一緒するのは初めてですが、作品の方は私が勝手に読ませていただいてました。スープも大好きです。それはそれとして、藤井さんの作品に触れるたびに、なんというか、心の柔らかいところに寄り添って、本音を引き出してくれるような作品だな、と思っています。抽象的でごめんなさい。
トキじいさんにとってのウミガメ(謎)という存在や、ウミガメに夢中になるハルキくんの姿、ウミガメと出会って生きがいを見つけたユキさん、登場人物一人一人の感情や言葉が、私の中にある「ウミガメのスープ」「創りだす」への愛情とか、思い出とか、記憶とか、そういう全部に触れて引っ張り出して、包み込んで、じんわりと余韻のある気持ちを残していくんです。だから冒頭の感想が出てくるわけですが。
例えるならば遊園地(決められた仕掛けで人の決まった感情を呼び覚ます)ではなくて、何もない広い公園(自由な空間の中で、その人自らその人だけの感情を作り出させる)みたいな。言語化が難しい。伝わっててほしい……!
一応私にとって創りだすは青春の一部だったので、作品への思いと自分の感情で溺れそうでした。
丁寧に、しっかり本筋に絡めながら回収される要素たちにも痺れました。大好きな作品でした。
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
(3作一気読みしたため感想混ざりまくってます。ごめんなさい)
葛原さん、何者ですか……?凄まじいものを読んでしまったと、そういう気分です。
総文字数は数えていないのでわかりませんが、決してとても長くはない物語の奥にある、圧倒的な「質量」みたいなものを感じました。
ところどころに引用される作品、ジョーク、作品全体に散見される思想や生き方みたいなものに、心を奪われました。息を止めて読んでいました。これぞ教養とでも言うのでしょうか。
根源的(この言葉が正しいのか自信はないのですが)な問いが、直接的に問いという形をとってはいないものの、何個も何度も投げつけられているような気分です。ソフィアに感情移入しながら、自然と深く考えさせられているというか。目を閉じて、ひたすら考え事をしたくなるというか。
葛原さんの奥にあるものをばしばし叩きつけられている感じがしました。自分の中の価値観倫理観みたいなものを揺さぶられてずらされていくような。ちょっと初めての経験で戸惑っています。密度がすごい。
>>彼らは私が理想とする返答をした。
それだけだった。
ここで殴られました。すごいものを読ませていただきました。そして「いつもは通らない道」の解釈好きです。ありがとうございました。
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
ひえっ……ほっこりかわいいちょっぴり自信満々な女の子と見せかけておいて、グラデーションのように物語の雰囲気が不穏な感じに変わっていくのに心惹かれました。さなめ。さんたまにこういうことされますよね。好きです。
ちょっとした違和感から決定的な確信へシフトしていく絶妙な塩梅がすごいです。
最初に簡易解説を置くことでネタバレと見せかけてひっくり返し。「お父さんの幸せを願う」というプログラム、という表現にちょっとぞわっときました。さらには怒涛の3回目の回収。感情が忙しいです。
そして何より「いつもは通らない道」。いつもは通らない道(というもの)、と思うと問題文がまた違って見えてきます。意表を突かれました。
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
しかしカレー屋さん鹿見つかりません!
ありですかそれ。ありです。びっくりしました。まさに水平思考、自分だったら絶対に出てこない要素の使い方です。
ごく短い文章の中で、ぽんぽん消化されていく要素が心地よかったです。
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
世界観と語り手のギャップが好きです。
荒廃した世界の中で、どこか飄々と生きている語り手が素敵。世界の終わりで初恋?に思いを馳せるのも好き。
あまり多くを語らず、世界の広がりを感じさせつつ想像に任せる感じに心惹かれました。
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
淡々と事実が述べられながらも、感情が伝わってくる文章、好きです。なんとなくノンフィクションっぽさがある気がするのは私だけでしょうか。締めの文章が格好いい!です。
あらゆる作戦をまとめた本を作る→士気が高まっているのを感じる→金メダル獲得を信じる、という流れがまた綺麗で、「叶うと思った」という結びともばっちり噛み合っています。願いの内容も含めてとても説得力のある解説と感じました!
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
ああっお久しぶりです!ガフィンさんのお話だ!もう好き!
ということで初っ端からテンション高めに行きます。
手術を受けて彼が幸せになるのが一番なのに、恋心からそれを素直に真っ直ぐに願えない、そんな自分が嫌い。やっぱりこういう絶妙な葛藤の描き方がお上手で、大好きです。
ほとんどは嬉し涙で、あとちょっとだけが違う。ぎゅっと切なくて、そんな切ない場面での言葉選びも丁寧で心惹かれます。空気が作られていく感じ、というのでしょうか。「さようなら」が刺さる。ガフィンさんの描かれる「さようなら」は大体とんでもなくえもいです。これ定理。もう一つ定理を挙げるなら、ガフィンさんにはとにかく春が似合います。
ええっここで終わり!?っと思いましたが、期待を裏切らない二重回収に脱帽です。いつの間にか、二重回収を当たり前のように楽しみにしていた自分がいました。よく考えればとんでもないことされてます。素直にすごいです。
最後の一文が好きすぎました。
・『雪は海に溶けて消える』とろたくさん
うわああっ!四年?(私が初めて「海は塩水でできている」を読んだとき)越しに殴られています。
多分とろたくさんとご一緒するのは初めてかと思いますが、私の方が勝手にファンをやっているので、高めのテンションにて失礼いたします。
忘れもしない四年前……っと過去編が始まってしまいそうですが、私の大好きな創りだす作品の中に名を連ねる「海は塩水でできている」の続編というか、後日談というか、子世代編というか、とにかく何より読めて嬉しいです。(感情の乱れを原因とする文章の捩れ)
登場人物たちの名前に、戻り水、マリンスノーと出てくるたびにあーー!!!っです。先生トイレ!でこんなに記憶がぶわっとなるとは思いませんでした。
なんだか引かれてしまいそうでちょっと怖いですが、押されまくって最後に決める(けどちょっと照れてる)年上が好みなので、何もかもぶっ刺さりました。年齢差はいい。種族差もいい。どうしよう好みだ……。
2万字あるんですよね?一瞬で終わってしまって悔しいやら、この形が一番だと思うやら、です。
かなり重くて難しい題材を扱いながら、この読後感を残していくのがすごすぎです。
なんでしょうね。圧巻なんです。構成といい言葉選びといい世界観といい、登場人物たちといい、随所に入れ込まれた詩といい前作との絡め方といい、えもくてえもくて。何が好きっどこが好きっと文章にしていったら、あっという間に何千字にもなってしまいそうな。あれやりたいです、Word原稿にコメント入れながらここがすきっ!と叫びたい。
どうやったらこんなの書けるんですか。とびっきりのエモンガを送らせていただきます。
内容がないって?ごめんなさい。好きだったんです。
その他感想など
問題文むずかったです!ある程度解釈の幅が広い分「本である必然性」とか「普段は通らない道を通ったことへの説得力」みたいなのを考え出したら何も思いつかなくなりました。
最後なのでもうちょっと明るいお話を書きたかったんですが、断念しました。あとはみなさん実際にされてましたが、過去の作品と絡めたいなあと思ったりしましたがそれも断念。ちらっとカメオ出演だけさせました。
過去の創りだすの好きな作品を書くと、スクロールの圧迫が激しくなるのでやめておきます。愛だけ!愛だけこっそり投げておきます。ぽいっっ!!
要素は言うまでもなくカレー屋さんです。これを本筋に絡めて回収するのは難易度高すぎ案件です。
とはいえカレーで遊びまくったのは楽しかったです。自分で普通に書いてたら絶対に出てこないような表現が生まれるのも、また創りだすの面白いところでもあります。
イソギンチャクより腰巾着より餅巾着でした。布袋ナイさんと靴下さんから餅巾着カレー入りは生まれました。
最後に、素敵な作品を投稿してくださった皆様、ありがとうございました!そして布袋ナイさんも、ただでさえ大変な主催、しかも最終回ということで、本当にありがとうございました……!
久しぶりで唸りながら創りだしましたが、とっても楽しかったです!
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❤️
ひとふたことの感想
(41)パルクール走者にこんな人はいません(とろたくさん)
先とか見えないのにジャンプして超えるのすごいなと思った。
(43)誰のための人生なのか?(弥七さん)
ほかの人は巻き込んでなくてよかったなぁと思った。
(46)注文の多い料理店?🌴(弥七さん)
あんまりからくなくてあつくないカレーうどんがよいなと思った🐜
(48)この素晴らしき視界(みづさん)
呼び名をついったーからえっくすに更新しててすごいと思った。タイトル好き。
(50)「どうだ明るくなったろう」(きはるさん)
タバコだったらマッチよりは長く燃えそうだから長めに幻見れるなと思った。
(52)【最終回】無題.docx(ほずみさん)
いろんな書き換えたい過去読んでみたいなと思った。たいとるどっくすだわーどでかいてる!!
(54)【絵本を買う老人】(藤井さん)
わたしも問題文見て絵本の回が思い浮かんでたのでわーいと思った。
(58)記憶はいつも一視点だ(葛原さん)
普通に人が増えてる集落もあってよかったなと思った。
(60)問題を創りだすウミガメ(輝夜さん)
参考のお話でうまく要素回収していて良いなと思った。
(62)いつかまた復活する怪獣(輝夜さん)
出会い方が怪しいおじさんだったので悪い人じゃなくて良かったなと思った。あとがきにさっきの参考の話で見た名前があって!!ってなった。
(65)つなぐ灰色(さなめ。さん)
ロボットの親子の生活おもしろいなと思った。MAMI直ってるとよいな。
(67)鹿は何を食べる?(畔猿さん)
④の要素の回収の仕方が独特だなぁと思った。
(69)SO HAPPY END(のまるすさん)
使わなかった要素としてNOで回収しているのよいなと思った。だいぶ絶望的な状況だけどあかるくてよい。
(71)いつか金メダルを(ぎんがけいさん)
試合うまくいけばいいなと思った。
(73)追い抜いて、春(マクガフィンさん)
なかよしなふたりのはなしをみるとよいね!!という気分になる。
雪は海に溶けて消える(とろたくさん)
とてもすき。まえのもとてもすきだったけど、これもとてもすき。そして、前の話結構覚えていた自分にびっくりした。
他
みづさんは前もやってた気がするけどいくつかあったリアルっぽい話で要素回収してくのすごいなと思った。過去作関連の話とか創りだすの話だったりとかとても最終回っぽい。
❤️
参加者一覧 20人(クリックすると質問が絞れます)
皆々様、長らくお待たせ致しました!!!!
私のブラウザのトラブルもあり、本当にお待たせしました!!!ごめんさない!!!!
楽しかった祭りは終わり、皆様お待ちかね、結果発表のお時間です。
…とは言えども、今回は発表が必要なことはありませんので、総まとめだけ!
まず、今回の要素一覧はこちら!
①雪が降っています
②いつかまた復活します
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑤女は間違いを犯しました
⑥労働の喜びを感じました
⑦女はスポーツが得意です
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
皆さんには、この10個の要素の中から7個以上の要素を使い、解説を考えて頂きました!
次に、今回の投稿作品はこちら!
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
④『この素晴らしき視界』みづさん
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
⑥『〖最終回〗無題.docx』ほずみさん
⑦『 〖絵本を買う老人〗』藤井さん
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
⑯『雪は海に溶けて消える』とろたくさん
13人のシェフの皆様により、16作品が創りだされました!!
そして感想フェーズでは、11人の方が感想を書いてくれました!!!
私のわがままにお付き合い頂いて、ありがとうございます!!!
シェフの皆さんにも、素敵な感想が届いたのではないでしょうか!!!
最後に、最終回を盛り上げて下さった皆さん。そして、今まで創りだすを支えてきて下さっていた皆さんにも。
この場を借りて御礼を申し上げます!!!
拙い司会ではありましたが、最終回を楽しんで頂けたようならば幸いです!!
それでは、今後もlet'sらてらて〜!
ナイさん、改めて主催ありがとうございました。そしてお疲れさまでした!まとメモの感想もとても嬉しく読ませていただきました。アウトプット量もすごいけど、それ以上に膨大なインプット量でしたよね。脳がオーバーヒートしていないか心配です。脳内容量30kbの藤井には無理な話です。皆様今後も良きらてらてライフを。 ところで打ち上げの焼肉はいつですか?[24年03月14日 15:26]
布袋ナイさん、そして皆様、本当にお疲れ様でした。総文字数10万字のうち3万字は私です。大変失礼しました。久しぶりのお祭り気分、とても楽しかったです! ありがとうございました![24年03月13日 21:58]
布袋ナイさん、ほんっとうにお疲れ様でした!そしてありがとうございました!
皆さんの感想も全部嬉しかったです。ナイさんはイン&アウトの時のことにまで言及してくれて、そういやその回って要素以外の賞レースで奇跡のオール2位を取ってしまったなぁwなんてことを思い出したりしてほっこりしました。
最終回、参加された皆様の作品どれも素晴らしかったし、うれし楽しい創りだすでした![編集済] [24年03月13日 17:05]
布袋ナイさん主催ありがとうございました&お疲れ様でした!!ただでさえ大変な主催なのにこの長丁場、本当にありがとうございました。おかげで余裕を持って参加できました。ながーい感想も嬉しいです。とろたくさんへの感想の冒頭四行で首が取れるくらい頷いてます。参加された皆様もお疲れ様でした!ありがとうございました!![24年03月13日 08:27]
ナイさん、主催ありがとうございました。開催を決めたのはナイさん自身とはいえ、最終回の主催という重荷を背負わせてしまいました。2か月の長丁場ではありましたが、それゆえに多くの人が参加できたのではないかなと思います。ほんとにありがとうございます。
要素・作品・感想で参加した方、参加ありがとうございます。私が声をあげたことで最終回を迎える結果となり、正直よく思っていない人もたくさんいるとは理解しています。感想で労ってくださった方もたくさんいますが、あれはあくまでフィクションなので本当の私の気持ちは違う部分もたくさんあります。でも、最後にたくさんの方が参加している様子を見ることができただけで、創りだすの素晴らしさを再認識できました。
今まで創りだすに関わったすべての方にたくさんの感謝と謝罪を。
連絡所は今まで通りありますし、「歴代の◇シェチュ王◇」の管理も引き続き行いますので、何かありましたらほずみまでいつでもご連絡ください。[編集済] [24年03月13日 01:52]
皆様、ご参加ありがとうございました〜!!途中ぐだぐだしちゃってすみません!!素敵な作品がたくさん読めて楽しかったです!!!![編集済] [24年03月13日 01:25]
御出題ほんとうにありがとうございました!! 今大会の総文字数はなんと10万文字越え! 誇張抜きで文庫本一冊程度ありましたね。創りだすの締めくくり、少し寂しいけどそれよりも感謝でいっぱいです! ありがとうございました!!!!![24年03月13日 01:22]
「マクガフィン」さん、ご投稿ありがとうございます!!!年数の誇張が…!感想フェーズ終わりまでなにも返信はしないつもりですので、編集はご自由に…!いっぱい読めるのは良いこと![24年02月12日 01:53]
輝夜さん、ご参加ありがとうございます!!!2つ投稿だ!!ありがたい…今回に関しては楽しけりゃOKのスタンスでやっておりますので、多少間違いがあっても気にしなーいなのです。でも多分大丈夫そうでしたよ![24年02月09日 20:49]
葛原さん、ご参加ありがとうございます!!!いやーまさかそんなサブ垢を疑うなんてー(棒)と冗談はさておき。続きを書きたいような物語が出来て、その想いを実現できる…というのは、とても素敵ですね。創りだすという、一期一会な物語を創造していく企画ですから、尚更に。故に思いが溢れて文章が長くなるのも致し方ないことなのです。…と、私も長くなっちゃいました。[編集済] [24年02月07日 23:28]
創り出すが最後と聞き、どうしても「彼女」の物語を書きたくなりました。本当に長くて恐縮です(7500文字くらいあります)。でも藤井さんも7000文字くらいあったしいいよね。[24年02月07日 20:52]
ご参加ありがとうございます、藤井さん!!!藤井さんの作品を新鮮な状態で見れてすごく嬉しいです!!勢い余って2回送っちゃうこともありますよね。愛故に。[24年02月06日 23:13]
いつもは通らない道を通った女。
その道中、一冊の本を見つけた女は、自分の願いが叶うと思った。
一体なぜ?
◆◆タイムテーブル◆◆
・要素募集フェーズ
1/13(土)21:00頃~要素が40個を超えるor24時間経つまで
・投稿フェーズ
要素選出終了後〜2/11(日) 23:59頃
・感想フェーズ
投稿フェーズ終了後〜2/25(日) 23:59
◆◆要素一覧◆◆
①雪が降っています
②いつかまた復活します
③何らかの障害が関係します
④カレー屋さんしか見つかりません
⑤女は間違いを犯しました
⑥労働の喜びを感じました
⑦女はスポーツが得意です
⑧損な性分です
⑨創りだします
⑩あと一つです
☆作品一覧☆
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
④『この素晴らしき視界』みづさん
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
⑯『雪は海に溶けて消える』とろたくさん
↓↓↓↓布袋ナイによる各作品への感想です。短くまとめられなくてクソ長で読みにくいです、許して………
① 『「パルクール走者にこんな人はいません」』とろたく(記憶喪失)さん
なんといっても、超早かったですね!!
1時間かからず書き上げた上にこのクオリティ!!早くて上手いって最強なんじゃないでしょうか???
しかし、まさかこの問題文の解説でパルクールが登場するとは!!!(歓喜)
予想のつかないところから解説が出てくる感じ、とても創りだすですね!!最高!!!
実は元ネタになったパルクール走者がいるのかも…とか思っちゃう程度には、最初から最後まで、要素回収がスムーズで隙がなくてとても素敵です!!(尚タイトル)
「何らかの障害が関係します」と「損な性分です」の回収が個人的に大好きなのです!!
物理的な障害物の存在が、チャレンジ精神豊かな女の登校への障害にもなる…これぞ要素のダブルミーニング(?)かはともかくとして。
女の"損な性分"がなければこの要素は重要にはなりません。
2つが揃うことで2つともが重要な要素に昇華されている様、とても美しいです!
あと、損な性分がわりと想像してない方向に損な感じで笑っちゃいました。
普通に街を歩くのにもちょっと影響ありそうで…笑
何より問題文からの要素である、本。
"塀の向こうのコンビニで誰かが立ち読みしている本"…が見えたこと自体が"塀を越えたい"という願いが叶うと思ったことの根拠に繋がる…というスムーズな問題文回収。最高です。
駆け抜けるような疾走感と、そして最後には爽快感が残る楽しくて素敵な解説でした!!!
②『誰のための人生なのか?』弥七さん
良い憑き合いのため、悪霊には邪道側を譲るだとか。
何故だか脳内で自動再生される「馬車馬です!」だとか。
大量自殺誘発水平思考カレーだとか。
クスッと笑えるブラックなジョーク達なしでは読めないような不幸の連鎖、笑えないほどの転落人生を歩む主人公。
そして、そのちょっと不穏だなぁが大きく大きく大きく大きく膨らんだ末、「クスッと笑える」程度の小ネタ達ではおおよそ覆せない程度には最悪で悍ましい結末。
軽い読み口とは裏腹、グロテスクな内容で、そのギャップにくらっときちゃいます。
正直言って大好きです。
細い道を外れないように歩くのは大変だけど、もしも道を踏み外したら転げ落ちるのは一瞬…なんて、陳腐な言葉が頭に浮かびました。
しかし、あくまたん…もとい死神様が悍ましくも何故だか魅力的なキャラクターに感じるのは何でなんでしょうか…
怖くて蠱惑的で小悪魔的魅力溢れるお姉さん…まさにファム・ファタール(?)
また、輝夜さんも言及されていたことではありますが、障害物=本とする発想は出てきそうで出てきにくいものだったと思います。
なんせ、"願いが叶うと思った根拠に繋がるもの"と"障害になりうるもの"って、あんまり等式で結び付かないものだと思いますから…
その発想力、見習いたいですね!!!
しかしこう、読者に語り掛けてくる感じのホラーはぞわっと来るものがありますね……
小さな掛け違えで、我々も彼と同じ末路に…なんて、ね。
酷く陰鬱ながら軽い読み口の素敵な解説でした!!!
③ 『注文の多い咖哩店?🌴』弥七さん
劇団ココナッツさんですね!!!
超かわいかったです〜〜〜!!
しかも、注文の多い料理店オマージュ!!
やりとりがひたすらにほのぼのおもしろかわいい楽しくて最高でした!!!
最初に読んだのが、②を読んだ直後だったから余計にかもしれませんが。
冒頭のみづさんときっとくりすさん……もとい、🐱さんと🐜さんの会話が、おもしろくてほのぼのでちょっとかわいそうで好きです……
しかし、注文の多い料理店らしく、靴を綺麗にさせて暗い色のコートを脱がせてメガネをつけさせ…たあたりでちょっと展開の様子がおかしいなぁ、何をさせるんだ…と思っていたら。
まさかのカレーうどん登場。
綺麗なおべべとお化粧、眼鏡という自分たちの姿を見て絶望する🐜さんと🐱さん………
本人達的には緊迫したシーンの筈なのに、何ならホラーな描写もあるはずなのに、なんだかずっと笑っていました。
「おに〜!!あくま〜〜!!!罠だったのね〜〜!!!」が無性に好きです。
そして問題文の要素をどう回収するのかな〜と思っていたら、まさか本を盾にするとは!
機転のきく🐜さん、素晴らしいですね!
本好きとしては、若干ひやっとしましたが……
最後には勧善懲悪…というかはわかりませんし、なんならしっぺ返しの方が酷そうでしたが。
カレーのシミは日光に当てておくと消えることもあるそうですが……
消えると良いですね…(合掌)
賑やかで楽しい素敵な解説でした!!!
④『この素晴らしき視界』みづさん
ノンフィクション混じりの解説!!
大好きです!!!
問題文からノンフィクション交えて出力できるのすごいのです!!!
なにより、「カレー屋さんしか見つかりません」の回収部分がすごく好きです。
何故か目指してないのに毎回同じ店に辿り着いちゃう…ってことありますよね。
「カレー屋しかないのかな。」にどことなく哀愁を感じました。
ほのぼのとした文体でずっと楽しく優しい気持ちで読める内容で、今回の解説の中でも屈指の癒し枠と言えるものだったのではないでしょうか…
問題文の本を地図本としたのも、交番にあれば絶対正しい道を教えてくれるなって安心を覚えそうなので、素敵です。
そして、最後には創りだすについて記載していただきました。
私は、参加してから浅いのもありみづさんとはあまり参加時期が被っていなかったのですが…ほずみさん主催の第43回『イン&アウト』でのみづさんの解説がとても好きで、印象に残っています。
今回の解説を読んで、きっと本当に楽しんで参加していたんだろうなーというのが伝わってきてほっこりしてしまいました。
さらには要素が「あと一つ」で要素回収を全て終わらせる、ちょっとだけメタなノンフィクション混じり解説ならではの使い方、最高でした!
ほっこり優しい気持ちになれる、素敵な解説でした!!!
⑤『「どうだ明るくなったろう」』きはるさん
まず、最終回で初投稿。
相当に勇気のいる事だったかと思います。
最後でも、最後だからこそ創りだすに参加したいと思って頂けたこと、とても嬉しかったです。
さて、ここまでは前置きですが…
マッチ売りの少女をベースに現在風アレンジを加えた、深みある味わい深い解説でした。
これが創りだす初投稿???
さては天才の方ですね!!
父親がダメな人間と認めながらも半ば共依存のようになっており、もはや見捨てられないと大人になって働かざるを得なかった少女の現状と、虐待のせいで大好きな体育の時間を楽しめないと苦悩する少女の幼さとのギャップに胸が締め付けられます。
現代風にされているからこそ、少女の悲痛な境遇がある種等身大でわかりやすく、より残酷に重苦しく心にのしかかってくるようでした。
熱があるからか、酸欠で意識が朦朧とするからか、摩耗した精神からか、その全てか。
判断力が低下していたが故の『放火』。
恨みからでも悲しみからでもなく、ただ温まりたかっただけの少女が起こした凄惨な結末が、辛くて泣いてしまいました。
お母さんの胸に抱かれて、寒い想いをせずに逝けたことだけは、少女の救いだったのでしょうか……
明るくなった街とは裏腹、読者の心は暗く沈みこみました。
来世の少女の幸せを願わずにはいられない、素晴らしい解説でした……
⑥『【最終回】無題.docx』ほずみさん
もしもあの時ああしていれば、もしもこうしていなければ。
きっと誰にでもある、過去の後悔。
独白調に淡々と綴られた文章からは、後悔や未練、罪悪感…思い悩む女性の様々な感情が感じ取れます。
息の根を止めるなら自分が良い、という言葉には女性のイベントへの愛と、女性の責任感の強さを感じました。
イベントの最終回、ある人はいつも通りの終止符に、ある人は同窓会のように、ある人は最後だからと勇気を出して、イベントの終わりを惜しむ人達に加わろうと急く気持ちとは裏腹、ドミノ倒しみたいに連鎖して降り掛かる不幸。
疲れた気持ちを抱えながらも、考えなきゃいけないことは沢山あって、けれども最後にはイベントの事を考えてしまう。
ノスタルジーには浸りきれないような一連の流れに、女性と一緒にしんみりとした気持ちになりました。
みんな、どこにいたんだろうねぇ。って一文が、なんだかとても印象的でした。
だからこそ…怪しいお店で見つけた『過去を書き換えられる本』なんてものを見つけたら、「願いが叶う」なんて思ってしまうのも、自然なのでしょう。
問題文の要素について…とくに、「自分の願いが叶うと思った」という部分を、とても丁寧に回収して頂けたと思っています。
輝夜さんも感想で触れられておりましたが、"願いが叶うと思った"きっかけの本を読んだことによって"願いが叶わないと悟る"、今回の場合は「過去は変えられない」という事実に気がつく…という、問題文で「願いが叶った」と言っていないことを汲んでの解説となっているのがとても凄いです。(実は、叶うと思ったが、叶わなかった。…という解説が来たら良いなーと思っていたので、ちょっと喜んでいました。)
そして最後、少しだけ明るい気持ちで気持ちを綴る女性に、なんだか嬉しい気持ちになりました。
無責任になっても良いし、それが真実にならなくたって良い。
眠りについた男に、感謝を。
そして、投稿ができた女性に拍手喝采を。
願わくば、息の根を止めたその先の未来で、何か素敵なものが創りだされていますよう。
ちょっと考えされられる、前を向きたいって思えるような素敵な解説でした!!!
⑦『 【絵本を買う老人】』藤井さん
まず、最初に。
この【絵本を買う老人】を読んだあと、この作品が【正解を創りだすウミガメ】絵本を買う老人【第8回】のエキシビジョンである…との事でしたので、そちらを併せて読ませて頂きました。
長くなってしまうので詳細は書きませんが、泣きました。
そのうえでもう一度こちらを読むと深みがより一層増したようで最高でした。
さて、ここからが本題。
ウミガメのスープを出題者として楽しむおじいさんの言葉は、出題者の端くれとしてなんだか刺さるものがあります。
老年になって尚、いつか解いてもらう事を楽しみに、メモ帳にひとつひとつネタを書き込んでいく姿はまさに出題者の鑑。
ウミガメのスープへの愛情を感じて、ほっこりとした空気から一転、急にお爺さんの老いを感じさせられるとともに不穏な空気が流れ出した時にはもう泣きそうでした。
そんななかの、ユキの提案と、おじいさんの承諾。
楽しみな約束が成立したと同時に…けれども、その約束は結局果たされることはなく。
葬儀のシーンは、知っていても、何度読んでも、胸が締め付けられます。
そして、約束を果たす為に絵本に着手し始める…とジェットコースターみたいな感情の上り下り急降下のちちょっと上り…を経たここまでで丁寧に丁寧に前提を積み上げてくれたが故に、「宿題のスープ」の答えを探すユキとハルキの様子に、冒険譚のようなワクワクをより強く感じられました。
きっと、当時参加していた方達は、私よりももっともっと強くそれを感じていたんじゃないでしょうか。答えのなかった筈の解いの答えが明かされるんだ!と。
おじいさんがあの日に置いた筈の本を辿って、答え合わせの旅の中、本に触れた人達の物語を夢想して、物語が紡がれていく。
置き去りにされた本達が、物語を創りだしていく。
それを見たが故に、"自分なりの正解を創りだすこと"が正解であると見つける事ができ、"絵本を完成させる"という願いが叶うと思い、問題文が回収される。
要素がぴったりとはまっていて、美しい解説でした。
ウミガメのスープへの愛情と、正解を創りだすウミガメの本質とも言える、答えを創りだしていくことの楽しさが詰まった素敵な解説でした!!!
⑧ 『記憶はいつも一視点だ』葛原さん
今回含めて三部作、全て読ませていただきました。
作り込みがすごすぎる……
作中でも何年もの時が経過しても尚世界観に自然な奥行きがあり、重厚感をしっかりと感じるのに不思議とするすると頭に入ってくる文章で、ウィットに富んだ言い回しが多く登場人物達が魅力的で、読んでいてめっちゃ楽しかったです……
きちんと1作だけでも読めて、でも過去作を読んでいると解像度の深みの増す、素晴らしい作品達でした……
思わず本当に無料で読んでいいのかしら…なんて気持ちが芽生えるほどでした。
閑話休題、なるべくこの作品のみの感想を語らせていただきます。
世界が発達しすぎたが故に出た結論、「子どもを産むなんて可哀想」…なんて思想からの人間社会の崩壊。
真っ当な生物としての思想の崩壊。
アンドロイドが主人公の作品としては革新的な発想ながら、現代社会にも通ずるところがあるように思えてドキッとする設定です。
会話の一つ一つから、死について、生について、人を産むということ、人が産まれるということについて、何度も何度も別の角度から考えさせられるような、そんな感覚がありました。
ソフィアが旅を続ける事で、何か大きな事が起こる訳ではなく、ただ淡々と些細な会話が積み重なっていく。
前半では、出口のない思考に身を任せるように、不安定で心地よい感覚になりました。
後半、大きく展開が動いた〈アマテラス〉の崩壊。
ニャーゴとソフィアのやり取りは、柔らかくて温かで。
けれどもなぜだか胸が締め付けられるような、不思議な心地でした。
"私には、「ソフィアの冒険」だけで充分だったのに。"
この一文からニャーゴへの愛の大きさと、寂しさが伝わってきて、胸が抉られるようでした……
その直後の自分で作ったAIと会話する虚しさに苦しみ、寂しさに沈む様子は辛くて、死にたいとまで思う姿は物悲しくて。
だから残った小さな集落の存在は希望の光のように輝いて見えました。
大好きだった人達を、愛していた日々を、大切に、ずっと忘れられない為に。
彼女の願い通りに書き伝えてもらったその本が、より彼女に寄り添うように結末を変えられて残っていた事が、なんだかとても愛おしいです。
上手く言い表せませんが…考えさせられるような、深くて素敵な解説でした。
⑨『問題を創りだすウミガメ』輝夜さん
問題を創りだす解説だ!!!ノンフィクションだ!!と思ったらノンフィクションではありませんでした。
まあよく考えなくてもそれはそう…ノンフィクションで全要素回収は割と無理があります。
しかし、要素回収がとってもスムーズで、最初の3行で5個の要素が回収されていてびっくりしました。
しかも、別の回の解説の要素によって。
まさかこんなにマッチすることがあるとは……素晴らしい偶然ですね……!!!
さらに、その解説で優勝した際の主催の問題文ががと今回の問題文の要素が一致するとは………
もはや偶然ではなく運命だったんじゃないでしょうか……
この解説が完成できるようにこの問題文と要素選んだのかな、私…ってくらいには噛み合う要素が多すぎてびっくりしました。
と、要素はともかく。
創りだすの主催になった驚きと喜び、そして主催回を成功で終わらせたい!という女性の真面目な気持ちがしっかり伝わってきました。
きはるさんもお話されてますが、主催の時の問題文って特に難しくて…今回私も問題文考えてて痛感しました…
だからこそ、素敵な問題文を創りだせた時の喜びもひとしおだと思います。
しかも、創りだす成功するな!と思えるような問題文を考えられたのは本当に素敵です!!
実際、とても考えるのが楽しそうな問題文ですし…もしも当時らてらてに登録してたら参加したかったです。
要素回収が滑らかで共感が持てる素敵な解説でした!!!
⑩ 『いつかまた復活する怪獣』輝夜さん
ひとふゆの出会い。
少しだけ特別な1週間。
2人のやり取りが始終オシャレでどこか色っぽく、スマートでとても素敵でした。
始終穏やかな語り口なのに、読み進めるごとに段々と熱がこもっていくような、心地いい文章。
死体相手に踊ること、誰かが死んでも何も変わらない日常を恐れること。投げられた言葉の意味を考えて、そして結びつくまで。
最初はどこか捩れたように影があるような印象だった優子が、木村との交流によって絆されて、解されて。雪が溶けるように、少しずつ明るい様子へと変わっていくのが最高です。
カレーの要素からの、和洋折衷の出来損ないという言い回しが、自然と頭にすっと入ってくる感じでとても好きです。
宿の和洋折衷がうまくいっていないとめちゃくちゃな料理名で皮肉る優子、急なカレーブラックサンダーにきょとんとするような人間味を見せる木村、悪感情を抱いていたはずの和洋折衷の出来損ないである「餅巾着、カレー入り」を得意げに披露する優子、皮肉った事を反省するような老夫婦の人柄、そして木村の「餅巾着、カレー入り」。
絶妙に食べたくない微妙な味であろうカレー料理達が、淡々とした語り口の中で人々に血を通わせているようで、とても素敵です。
そして問題文の要素回収、道で見つけた本のタイトル「餅巾着、カレー入り」。
木村が自分を題材に作品を書いた事を知り、彼は自分を忘れないだろうと確信する。
流れが美しすぎる…最高です。
その後のあとがきも素敵で、本編自体が優子の書いた小説である、なんてめっちゃ告白じゃないですか大好き……
しかし、まさか大喜利感覚だった重要じゃない要素への回答で重要要素が決まるとは………びっくり。
段々と熱を帯びていくような、素敵な解説でした!!!
⑪『つなぐ灰色』さなめ。さん
冒頭のマミちゃんがあまりにも純真で可愛くて、可愛いねぇ可愛いねぇと思いながら読み進めていたのですが、ゼリーのくだりのあたりでおや?となり、だんだん自信満々な発言が自分の性能をアピールするアンドロイドのようにも見え始めて、ほのぼのアンドロイドものか〜と楽しく読み進めていた時代もありました。
お父さんがマミちゃんにそっくりな女の子を連れてきてから不穏な空気が流れ始め、彼女の無知さに胸が苦しくなり、ついに雪の降る外に飛び出した時には頭を抱えました。
ちゃんと、勘違いに気がつける頭脳があるのに、頭のどこかではわかっているのに、止まれなかったのは、感情があるからなのでしょう。
暴走する思考がエラーを吐いて、ゲシュタルト崩壊するように意味を無くしていく思考ののち、プログラム通りであろう思考が書き出されていく様子は、恐ろしく。
一拍空いて自我を取り戻したように、「そんなことは。」…とまたの数秒停止の末に、「本当に良かった。」が続くの怖すぎて泣いちゃいました………
だって絶対思ってなかったじゃないですか……………
改竄された思考じゃないですかこれ……………
システムに抗えなかった末の"願いが叶うと思った"が、とても悲しいです………
と。
そこで終わらずさらに仕掛けがあるところがすごいところ…
まさか"お父さん"すらもがアンドロイドだったとは……全く想像していませんでした。
マナミちゃんの視点は、マミちゃんの終わりとは逆向きにひたすらに明るくて。
前向きで、眩しくて。
彼女ならきっと、夢を叶えてマミちゃんのことも直してみせてしまうんでしょう。
どん底に突き落とされたような感覚を覚える前半と、希望に溢れた後半。
最後の2行目に、最初の2行目と全く同じ言葉が入っていたことに、胸が締め付けられました。
さなめ。さんすごい…………
3段構えで絶望と希望を同時に楽しめる(!?)、1つで3度美味しい素敵な解説でした!!!
⑫『鹿は何を食べる?』畦猿さん
初投稿の方…でしょうか?
あぜざるさん、なにか引っかかるような…というのは置いておいて。
すこしふしぎな解説でしたね!
決して多くは語らず簡潔に、けれども女の背景は何故だか豊富。
10個の要素を全て使い切ってのこの文章量。無駄がなくスッと入ってくる文章ですごいのです。
特に、カレー屋さん鹿見つかりませんには驚きました。
カレー屋さん(呼称)は流石に面白すぎて………
この使い方を思いついて、そして実際に使えるのが素晴らしいです。
また、問題文の要素についてですが……
いつもは通らない道(初めてくる無人島の道)に鹿に齧られた本があったために、本を餌に鹿を捕まえられるな!と思いつくという、力技ながらも、面白い回収方法でした。
すこしふしぎで勢いのある素敵な解説でした!!!
⑬『SO HAPPY END』のまるすさん
通信は全て途絶えており、祖母も死んでしまい、確認できる範囲に生存者は自分のみ。
外で何が起きているかもわからず、保存食もいつかは底をつく。
いつが終わりになるかがわからない。
そんな絶望的な状況下でも何故だか悲壮感を感じない、寧ろ楽しい雰囲気すらあるのは主人公がひたすらにのんびりとしているからでしょうか。
前向きに過去を振り返って、想像に思考を巡らせて、散歩して、冗談なんかも言ってみたりして。
主人公は決して何も考えていない訳ではなく、逆に常に何かを考え続けているみたいな様子で、自分が最後の人類かも、なんて考えています。
それでも嘆く事なく、病んでしまう訳でもなく、のんびりと過去の恋を振り返り、ああだったかも、こうだったかもなんて、違う選択をした人生を妄想する。
どんな時にでも楽しめる、というのは素晴らしい才能です。
彼女の書いた本を読んだ宇宙人やら未来人やらが、かつての人類にはこんなに素敵な人生を歩む人がいたんだ!なんて、にっこり笑う姿が想像できます。
使わなかった要素が「いつかまた復活します」と「労働の喜びを感じました」。
明確にNOの答えが出ている後者と、もはや滅びていると言っても過言ではない地上。
意味を見出そうとしてしまうのは、人間のサガなのでしょうか……
絶望的な状況の中でも、希望に満ち溢れた素敵な解説でした!!!
⑭ 『いつか金メダルを』ぎんがけいさん
スポ根ものですね!!!
身体の故障によって惜しくも夢敗れ、表舞台から退場したスポーツ選手。
「いつかまた復活する」と自分にも周りにも言い聞かせながら過ごした年月は、苦しくて、もどかしくて、でも諦める事もできなくて、辛い時間だったでしょう。
そして、待った時間の分だけに、復活が果たせないとなった時には無念でいっぱいだった事が、想像に難くありません。
だからこそ、その無念を晴らしてほしい、と指導する選手達に願ってしまうのも、無理のない事だと思います。
そして、その熱量から指導する選手達とすれ違ってしまう、という事も。
けれども結果からきちんと自分を省みて、態度を変える事が出来るコズエが監督だったからこそ、選手達も彼女を尊敬し、着いて行こうと食らい付いて…その為に作った作戦本で、コズエはチームが良い方向に変わったのだと強く実感し勝利を確信する。
一度間違いを犯した、と反省しているコズエだからこそ余計に、選手達が勝つ為の作戦本を作っていた時の喜びはひとしおだったのではないでしょうか。
全員の努力の末に、チームの結束が深まり勝利を掴む為の土台がより一層強固になっていく。
とても爽やかで熱いストーリーに、良いもん見たな…という気持ちになりました。
また、藤井さんも触れていたことではありますが、とても丁寧に要素が使われている解説だと感じました。
使用している要素について質問された時、矛盾も無理もなく、きちんと良質がつくように使用する、というのは本当に難しい事だと思いますから…とても素晴らしいです。
心が熱くなるような、素敵な解説でした!!!
⑮『追い抜いて、春』「マクガフィン」さん
激エモすぎてエモンガになります胸が苦しいです…………
きっかけは偶然にすぎなくて、出会いも過程も成り行きで。
引き受けた義務感から続いただけだった筈の関係が、過ごした時間の分だけどうしようもなく手放し難いものになって。
理由が無ければ一緒にいられない事がもどかしくて、だからこそ手放そうとして。
感想を書こうとしても、こんなポエミーな見たままな言葉しか出てこないくらいにはエモすぎてエモいという感想しか言えないですやばいです…………
本来なら、出会う事すらなかったかもしれない2人が、2人の下校を重ねていくごとに。
西野が桐谷の事を知っていくごとに。
"引き受けた義務感"に別の想いが重なっていくのが丁寧に丁寧に描写されており、大変に好きです………
海でのシーンが最高に良くて、他の誰でもない西野だけに自分の思いを、夢を語り、「西野、いつもありがとう」と笑う桐谷共に恋に落ち悶えました。
だからこそ、桐谷の手術が成功するように願いながらも、一緒にいる口実がなくなると素直に祈る事が出来ない自分の気持ちに西野の姿は胸が苦しくなりました。
そして問題文部分の回収…桐谷の母親が持った絵本を見て、桐谷の手術成功を悟る、という美しい流れ……
西野が残したさようならの台詞は、何度読んでも胸が痛くて、苦しいです…
ここで終わりじゃなくてよかった…………本当に……………
会う口実なんてとうになくって、こっそり目で探してみたって見つかりようなんてなくって。
沈んだ気持ちを吹き飛ばすように吹き抜けた春風が、2人を最初に繋いだ本を西野のところに運ぶ。
精一杯に沈んで、暗くなって、傷心した末の美しい伏線回収、素晴らしいです、大好きです………
もう口実なんてなくても、お互いがお互いと一緒に歩きたいと思っていて、理由なんてそれだけで充分で。
絵本で繋がった絆が、切れかけてもまた絵本で繋ぎ直されて、最後には固く結ばれている。
青く爽やかな春の香りを感じるような、素敵な解説でした!!!
⑯『雪は海に溶けて消える』とろたくさん
エモすぎてエモンガになりました。
良き理解者兼保護者ポジとして少女を慈しみ見守り時に少女のアタックを飄々とかわしていた筈の優しくて余裕のある年上おじさんが純真で一途でひたむきでグイグイくる年下少女に心絆され数年越しにかつて少女にされた告白を同じ方法上位互換でやり返し、数年越しに少女の初恋片思いが実る系おじさん×少女(ちょっとだけ立場逆転)…ってシチュ好きじゃない人間いませんよね!!???最高すぎるあまりに天才…………
と、テンション激上がりした人間の歓喜は置いておいて。
冒頭の美しい詩に、まずテンションが上がりました。
そして、海面上昇に伴う人類の進化、3種類の人種…授業という体をとることで設定がスムーズに説明され…さらにその設定にぴったりの競技、水泳の爽やかな空気感と、冬らしい素敵な描写。
何かが始まる予感とは裏腹、お決まりの様に大好きなおじさんにアタックしながらも、すげなく断られるわちゃわちゃとした日常感。
グラスにバラを入れて告白…とても粋で素敵な筈なのに、なぜだか漫才のようにも見える小気味よいテンポのやり取りの心地良さに浸っていたら…急に不穏な空気感。
おじさんの視点があることに喜ぶヒマも与えないような不穏な情報が出るわ出るわ…
そんな中始まる水泳大会、なんだか名前の癖の強い選手がいて笑っちゃいました。
実況解説の書き方が上手で、すごくワクワクしたし、何より差別の目に晒されながらもしっかり勝利を掴み取るユキちゃんがすごくて、ああいいお話だった、拍手喝采ブラボー…で終わるわけもなく。
しっかり上げられてからどん底に叩き落とされました。
描写の全部が怖くて、悪意の書き方が上手すぎて、それに怯える描写が鮮明すぎて、何度読んでも心臓がバクバクします。
冒頭であんなに綺麗で素敵でテンションが上がったはずの詩が、不穏にしか見えなくてもうとろたくさんすごーい(現実逃避)とかしか思えませんでした。
そして、ここで明かされる願い。
ひたすらに美しい描写が、絶望的に思えて、苦しくて、辛くて…
地獄かと思いました。
そこは願ってた居場所じゃないじゃん…………
続きがなかったら息の根が止まるところでした。
冒頭でちゃんとおじさんがユキちゃんを見つけ出してくれた事にまず感謝して、ユキちゃんが助かるのかハラハラして、おじさんがユキちゃんに対する心情を吐露するシーンでドキドキして、そしておじさんのユキちゃんへの呼び方がきみからユキに変わったあたりから、ずっと喜んでいました。エンダーっ!
そこからの実況解説の盛り上がりでテンションは最高潮。
シロイさんの言葉には、思わず共感で目頭が熱くなりました。
回想の中、前半では苦しい思いを外に発散できず、身を投げてしまったユキちゃんが黒い感情をきちんと吐き出せていたのが、安心しました…
しかし、おじさんがずっとかっこよすぎる……
切り返しが常にうますぎて…
あと、数年越しに問いに答えを返すってシチュエーション激エモですね……
結果それで生きるって選択を出来てるんだから、余計に……
そしてここからは……私が感想冒頭で喜んでた部分ですね…………いや好きすぎる……………
彼女が出来たって言いながらこの告白するの最高なんですよね………
あと、青い薔薇がぴったりって思ってるのが素敵。
最後の一節については、そうですね…
母親の決意は、みんなにとっての嬉しい《戻り水》になるのだろうな、と思いました。
刺さりすぎたあまりに超読みにくい感想になってごめんなさい!!
心の真ん中にざっくりささって語彙が溶けるような、素敵な解説でした!!!
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!