【らてクエ13‐1】愛しの彼が倒せない

要約：男の恋人が彼女自身の誕生日を何度も繰り返していたが男はそれに気付いていないため。


「誕生日おめでとう」
という恋人からのメッセージを6日間連続で受け取るなんて
自分の誕生日も送った内容もろくに覚えられていない可哀想な奴だと思われるだろう。
いや、ある意味今の私は可哀想な奴ではあるかもしれないが。

いったい何が悲しくて恋人が死ぬことを何度も何度も経験しなければならないというのだ。

一番最初の今年の誕生日、私は少し浮かれてお互いの仕事終わりに恋人と会う約束をしていた。
私の家に向かう途中で彼は暴走車が起こした事故に遭って死んだ。警察だか救急だかの人に言われて卒倒した。
次に意識が浮上すると私は自室のベッドで横になっていた。
癖でスマホを開くと――誕生日を迎える直前の時刻だった。
やり直せる！　日付が変わった瞬間に来た彼からのメッセージの後で彼の職場近くで待ち合わせするように約束を変更した。
結果、彼は待ち合わせ場所で通り魔に刺されて死んだ。

それからというもの。
3日目、仕事をサボって一緒に過ごそうとしても（私ともどもクソガキ共に絡まれて死んだ）、
4日目、会うことをやめてみても（彼の職場が爆弾テロに巻き込まれた）、
5日目、寄り道をするように言ってみても（建築現場の鉄骨が落ちてきて直撃した）、
6日目、思い切って別れてみても（家で泥酔していたところを隣の部屋が火を出した）、
何度も何度も彼は死んで、私の誕生日を迎える直前に時間が戻るのだ。

そしてもうすぐ、
7回目の202X年1月XX日を迎えようとしている。
私だって何もしていなかったわけではない。
3回目の時なんかは警察に通り魔をタレこんだりもした。
しかしそのときは何も起こらなかったのだ。
どうやら何が起きるかは不確定であるらしい。

彼が死ぬこと以外は。

何回この奇跡（拷問ともいえるが）が続くのかは分からない以上、
自傷やらは怖いしそれきりで繰り返しがおしまいになるのは嫌だ。
ポコン。
うだうだ考えているとスマホの画面にメッセージが浮かんだ。
彼からだ。
「誕生日おめでとう」
私はほぼ反射的にメッセージをタップした。大分限界だったのだろう。
私的には1日と間を置かずに会っているというのに、声が聴きたくてたまらなかった。
今度こそ、今度こそは今日を乗り越えたい。

「もしもし？うん、ありがとう。…あのさ、―――」

愛しの彼（が死ぬ運命）が倒せない