◆◆問題文◆◆
長い間頭を悩ませていた問題が解決したのは、水が無かったためだという。
いったいどういうこと?
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さて、始まりました第36回正解を創りだすウミガメ!
今回の司会を務めさせていただきます、ハシバミと申します。
皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
そもそも「正解を創りだすウミガメ」ってなに? という方。
前回主催でもある輝夜さんが作成してくださった秘密部屋に要点や魅力がぎゅぎゅっとまとまっておりますので、ぜひご覧ください。
https://late-late.jp/secret/show/d8MCaJqldjB6JV9SOlry2do4DhGUmmpYsCcIDbNu04c.
実際の様子はこちら→https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
それでは、詳しいルール説明へどうぞ!
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[出題 〜 要素が40個集まるまで]
まず、正解を創りだすカギとなる質問(要素選出)をしていただきます。
☆要素選出の手順
今回は8個の要素を選出します。
1.要素の投稿
出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
皆様から寄せられた質問の数が40個に達すると締め切りです。
2.要素の選出
寄せられた40個の質問のうち、"5個"をランダムで、"3個"を出題者の独断で選びます。
選ばれた質問には「YES!」もしくは「NO!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※ただし、乱数により選ばれた質問が、問題文や前出の要素と矛盾するものであったり、条件が狭まりすぎるものであった場合は、出題者判断でその前後の質問を代替採用することがあります。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(不採用)
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後 ~ 6/27(日) 23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう。
また、今回も文字数・投稿数に制限はございません。
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖・ラテシン版)」も参考になさってください。
** ラテシン版 **
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
** らてらて鯖 **
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。複数投稿も可とします。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完、など終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、本文、タイトル共に自由に編集していただいて構いません。終了アナウンス後の編集はお控えください。
⑤ 簡易解説(解説文の要約)をつけるかどうかは投稿者の皆さまにお任せしますが、簡易解説は「スッキリまとまった解説」に与えられる「スッキリ賞」の考慮事項になる可能性があることをご承知おきください。文字数やつける位置に指定はありません。
※作品のエントリーを辞退される際は、タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。メイン投票は対象外となりますが、サブ投票は投票対象となります。
※ロスタイム投稿の場合、タイトルに<ロスタイム>を付記してください。投票対象外作品同様、サブ投票は投票対象となります。
また、少しでも気軽にご参加いただくために、今回の創りだすでも次回主催辞退制度を採用しております。
仮にシェチュ王を獲得しても次回の主催を務める時間・自信がない……という方は、投稿フェーズ終了後に設置される投票所にて、その旨をお伝えください。投票所の相談チャットにて「出題者のみに表示」にチェックを入れて書き込むか、主催までミニメールを送る形でも結構です。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後 ~ 7/3(土) 23:59]
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。フィーリングでOKです。心向くままに楽しみましょう!
☆投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「第36回正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿したシェフも、持ち票は3票とします。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。感想については、簡略なもので構いません。一文でも大丈夫です。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。こちらの投票数は「シェフ」と「観戦者」で共通です。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
またこれらとは別にサブ投票として「匠賞」「エモンガ賞」「スッキリ賞」を設けさせていただきます。
これらの詳細は投票会場にてご説明いたします。
③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
→その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
→その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
→全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=一人の方からの複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。(投票者の頭数です。)
それでも同率の場合、出題者も事前に決めた3票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
◇◇ コインバッジについて ◇◇
シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…5c
投票参加賞……5c
上記の通り賞に応じてコインを発行する予定ですので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。
※「最優秀作品賞」および「最難関要素賞」については、1名分のコインコードしか用意がございません。
このため同率受賞の場合は、先に投稿された要素/作品の投稿者の方にコインコードを贈呈させていただきます。あらかじめご了承ください。
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が 40個 に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 6/27(日) 23:59 まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後 〜 7/3(土) 23:59 まで ※予定
☆結果発表
7/4(日) 21:00 ※予定
毎度恒例、長い説明にお付き合いいただき、ありがとうございました!
細かいルールについては、そのフェーズが始まった時にでもご確認ください。
これより、第36回正解を創りだすウミガメを開始いたします!
まずは要素投稿フェーズ、要素投稿は1人4つまでです。
それでは、よーい…………
スタート!!!
結果発表! 皆様、ありがとうございました!!!
要素選定が完了いたしましたので、これより投稿フェーズに移ります!
投稿フェーズの締切は 6/27(日) 23:59 です。
要素一覧をまとメモに載せましたのでご活用ください。[編集済]
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
投稿フェーズ終了までは、自由に編集していただいて構いません。終了アナウンス後の編集はお控えください。
※ロスタイム、投票対象外作品を投稿する場合、タイトルに<ロスタイム>や<投票対象外>の付記をお願いいたします。
それでは、投稿フェーズ、スタートです!
皆様のご作品を、心よりお待ちしております。
【簡易解説】
高校の英語のテストにて、教科書に記載されてる小論文が範囲内になった。
それの水が登場する箇所が何度読み直しても上手く意味や内容を把握することが出来ず、不安を抱えたままテスト本番を迎えた。
しかし小論文からは不安のある箇所とは別の箇所が出題されたので、不安要素が無くなった。
【以下簡易でない解説】
あーいよいよ英語のテストかー。
正直今回は自信あるけど、妙に心配な気分だなー。
まあこういうのはやってもやっても足りない気がするってやつなんだろうが。
しかしそれにしたって不安だ。
特にあの小論文のあの部分。あれはスポーツについて主に書かれてるのだが、その中で水分補給に関する記述がある。あれが何度読み返しても文法とか表現とか内容とか、ちゃんと把握できている気がしない。他の教科は何とかなりそうな気がしたので勉強時間を削ってこれに充てたが大丈夫な気がしない。
万全を期してきたつもりだが、あの箇所については正直覚悟をしておくべきだろう。
なんて考えてたら答案が配られてきた。
まずはリスニング問題か。
ふむふむ・・・
「どの色を選んだか」って問題か。選択肢はレッド、イエロー、ブラウン、シルバーか。『あまり人が持ってないのが欲しい』と言ってたから、人気ナンバーワンのイエローは除外。『赤いのは持ってる』から赤も除外。ブラウンを見せたときは『うーん、それじゃなくてもう片方のにする』と言ってたし、消去法でシルバーだな⑥(30)。
次は・・・「メアリーは何故夏が嫌いか」か。ってこれは選択問題じゃなくて自分で書かなきゃイカンのか。えっと・・・『毎日暑くて嫌になるよ』『夜中になると多少はマシになるけどね』『ええ、いっそのことずっと真夜中でいいのに③(15)と思うわ』みたいなこと言ってるから・・・『夏は暑いから』みたいなこと書けばいいのかな?
次は・・・『ボブが見てる写真はどれ?』か。ああ4つのイラストが載っててその中から選ぶパターンか。えっと・・・『珍しい鳥がいたから写真に撮った』『その時晴れてたら良かったのに』だから・・・何か鳥じゃなくて亀写ってるCとDは除外⑦(31)。で実際には曇ってたということだから・・・Bが正解か。
でリスニングテストが終わった次は・・・
小説か。ここは教科書を何度も読み込んで内容とか文法とか単語とかも頭に叩き込んでるから大丈夫だと思う。
あ、でもこのシーンってヒロインが照れ隠しで②(12)本心とは真逆のセリフを言うんだったっけ。そこら辺ってどのように答えればいいのか?って思ってたらそのセリフは文章並び替え問題に使われてた。セーフ。
えっとあとここは単語穴埋めか・・・あれ?これって単語は分かるけど時制はどうなるんだっけ?髪の毛が絡まった話をするんだけど①(9)、絡まったのは過去形か過去完了形か現在完了・・・?まあこれは普通に過去形でいいのかな?
よし・・・それで次は・・・うわっ例の小論文じゃん。水分補給の所出てたらだいぶ苦しくなるな。果たして・・・
えっとまずは・・・文中の『彼は30年前から頭痛に悩まされてきた』を英文にするってやつか。えっと・・・現在完了形でいいのかな?まあこんな感じで・・・
えっと次は・・・ああ、ここは土の中にもぐってるキノコ⑤(28)と木に生えているキノコの成分の違いについての話か・・・
次は・・・あれ?自由作文?小論文はこれで終わり?例の水分補給のところは?範囲内だったけど今回のテストでは使われなかったのか。良かった~、これで英語の点数の悩みはしないで済みそうだ【問題文】。
まあとりあえず作文を・・・あ、マズイ!さっきの小論文たしかどこかでミスった気がする。
えっと・・・ああここだ。頭痛の箇所、「head」と「headache」を同じ文で使っちゃってる。これじゃあまさに「頭痛が痛い」みたいになっちゃってる④(17)。修正しなきゃ・・・
あとは・・・これでいいかな?よし、良い点が取れそうだ。
そして答案が返却され、不安要素であった苦手な箇所が出題されなかったこともあり、英語はクラスで一番の得点だった。そしてそちらに気を取られたあまり他の教科は悲惨だった・・・
勉強時間削ってもわりとイケると思ったんだけどなあ~(フラグ回収)⑧(33)。
【終】
英語のテスト中のみですべての要素を回収したお見事な解説です。
実際には出題されなかった部分に絞って勉強していたのは果たして問題ないのか、と思っていたら最後にしっかり(こっそり)フラグの回収。
読者の心理まで見透かした、まさに匠な要素&フラグ回収でした。
[編集済]
■■簡易解答文■■
祭りの日。
毎年恒例の宝探しが間もなく始まろうとしていた。
兄は、自分で一から作った、土を掘るロボット、
モグラボを使って参加するつもりだ。
父と妹は応援する。
始まって、しばらくしてモグラボに異変が。
モグラボを取り出すと、
赤茶色の髪の毛が絡まっていたのだ。
それが少し前から行方不明となっている
母のものだと考えた兄は、
髪の毛が絡まった所を慎重に掘り進めていく。
そして、母の死体を見つけ、
持っていた布で包んだ。
その後、家の庭に埋め、
3人で手を合わせた。
半年後ぐらいに犯人は捕まった。
犯人が捕まった日の夜、
母が夢の中で3人に感謝の気持ちを述べた。
母の行方がわからなくなってから
3人を苦しめる謎の現象が
起こっていたのだが、
これは母が3人に気づいてもらいたかったから
起こしたことである。
干潮の時、言い換えると、水が無かった時に、
宝探しは行われたわけだが、
その時に母を見つけ出した後は、
この現象は起こらなくなった。
■■解答文■■
今日は待ちに待った祭りの日だ!
美味しそうな食べ物の匂いが漂っていて、
思わず見とれてしまう踊りが披露されている。
これぞ祭り!
さらに、毎年恒例の宝探しが、
今年も実施されるようだ。
内容は、主催者の隠した宝箱を見つける、
というものである。
浜辺の何処かに埋められていて、
参加者は掘って見つけ出す。
その為、
⑦その浜辺にいる海星や亀などの動物達は
安全な別の場所へと移される(31)。
制限時間は③ほぼ干潮となる午前0時から
ほぼ満潮となる午前6時まで(15)。
会場となるその浜辺から少し離れた所に、
ある一軒家がある。
そこには、48歳の父、17歳の兄、12歳の妹、
の3人が暮らしている。
兄は宝探しに参加する予定だ。
毎年訪れるこの日の為に、
⑥土を掘るモグラ型のロボット(30)を、
なんと8歳の頃に完成させたのだ!
その名も…、モグラボ!!!
去年までは、優勝できたらいいな、
程度の感覚で挑んでいたが、
今年は、違う。
実は、少し前から、
母の行方がわからなくなっている。
姿が見当たらなくなってから、
3人は必死に探したが、
見つかることはなかった…。
それ以来、
家ではおかしな事が起こるようになった。
3人が同じ恐ろしい夢を見たり、
妹が頭痛を起こしたりと…、
色々な出来事があったので、
困り果てた。
この事があって、
兄はモグラボの錆取りをして
ピカピカの銀色の姿に戻した後、
手や足などを改良した。
そうしてパワーアップしたモグラボを
兄は今夜操る。
いろんな屋台に立ち寄っては
食べたり遊んだりして、
あっという間に時間は過ぎ去り、
遂に宝探し開始まで残り僅かとなった。
「宝探しに参加する方は
こちらに集まってください!」
のアナウンスが聞こえたので向かった。
着いて、他の参加者を見やる。
僕と同じように1人で参加する人や、
家族連れで参加する人など…、
いろんな人がいた。
しかし、持っていたのは、
やはりシャベルが大多数だった。
次に多かったのはドリルで、
ロボットを持っている人は
僕を除いてもたったの2人程度。
参加者はこんなに大勢いるのに!
「お兄ちゃん!こっちだよ!こっちこっち!
頑張って!全力で応援してるね!
ファイト!ファイト!ファ〜イット〜!」
「お、おう!」
何もでっかい旗持って応援しなくても…。
②恥ずかしさのあまり僕は下を向いた(12)。
でも、こんなに全力で応援してくれてる、
って思うと、
頑張らなきゃって思うと同時に、
今までにないくらい
やる気が湧いてきたのを感じた。
「それでは、位置に着いてください!
あ、どこでも構いませんよ!」
ドキドキしてきた。
鼓動が徐々に早まっていく。
ドクン、ドクン、ドクン、
ドクッ、ドクッ、ドクッ、
ドッ、ドッ、ドッ、
ドッドッドッドッドッ…。
開始まで残り1分切った。
辺りは静まり、大きな時計の秒針の音が鳴り響く。
カチッ、カチッ、カチッ、
カチッ、カチッ、カチッ、
カチッ、カチッ、カチッ、
カチッ、カチッ…。
10秒前だ!
主催者も参加者も観戦者も皆声を出して!
「10!9!8!7!6!5!4!3!2!1!」
「スタート!!!」
「モグラボ!いくぞ!」
地面に置いたモグラボを、
リモコンで操作した。
⑤モグラボは潜っていく(28)。
とにかくありそうなところを探していった。
しばらくして、異常検知ランプが点滅した。
ピコ-ン、ピコ-ン、ピコ-ン、
「あれ?何があった。」
父や妹はもちろん、
周りの人にも気づかれて心配されないよう、
⑧モグラボをこっそりと回収した(33)。
「え?これって…。」
冷や汗をかいた。
何故なら、①赤茶色の髪の毛が
モグラボの胴体に絡まっていたから(9)。
「ファイ…。う…、お兄、ちゃん…。」
妹の様子が変だ。
さっきまで元気よく応援していたのに。
一旦モグラボを地面に置いて
急いで妹がいる所へ向かう。
「どうした!大丈夫か!?」
「もの凄く④頭痛が痛い(17)の…。」
頭痛が痛い、じゃなくて、
頭痛がする、だろ!
だが、今はそんなことどうでもいい。
「お父さん。妹の面倒は頼んだ…。」
やはり、この頭痛の原因はきっと…、
いや、絶対そうだ!
モグラボに絡まっていた髪の毛は母のだ。
あの特徴的な赤茶色の髪の毛…。
間違いない。
モグラボから絡まった髪の毛を取り、
モグラボを入れていた容器にしまっておいた。
その後、髪の毛が絡まった辺りの所を
モグラボで慎重に掘り進めた。
そして、母の死体を、
モグラボを綺麗に拭くために
持っていた布で包んで取り出す。
家の庭まで運んでそっと置き、
モグラボを容器にしまって持った後、
父と妹のいる所に行った。
娘の体調はさっきよりは良くなったようだ。
僕は言った。
「家に帰ろう。」
と。
父も娘も困惑したが、そうすることにした。
「宝探ししていた時、
モグラボが発見したんだ。」
布に包まれた何かを指して言う兄を見て、
父はそれが母の死体であることを悟った。
いつの間にか妹の体調は
ほとんど良くなっていた。
妹にもきちんと事実を伝える。
それを聞いた妹は泣きじゃくった。
物置き場にあった木の板で箱を作り、
母の死体を中に入れた。
庭に穴を掘り、その箱を入れた。
土を優しく被せ、
近くにあった少し大きな石を載せた。
3人は手を合わせ、
そして顔を上げた、その時だった。
カランカランカランカラン、
「おめでとうございます!
宝箱を手にしたのは…、
この2人です!!!」
「やったね!イエーイ!」
「ぉぉぉおおお!!!」
「凄いぞ!ヒューヒュー!」
「いいなぁ〜。来年頑張るかぁ。」
宝探しが遂に終了したようだ。
賑やかな宝探しの様子を見て妹は、
「そういえば、お兄ちゃん、
宝箱は見つけなくて良かったの?」
と聞いた。
兄は言った。
「これで良かったんだ。
モグラボのおかげで、
お母さんにまた会えたし。」
兄は続けて言う。
「きっとおかしな出来事は、
お母さんが起こしていたんだ。
見つけてもらいたかったんだよ、
僕達に。」
母の行方がわからなくなってから、
3人が時々見た同じ内容の恐ろしい夢。
出ていたのは、
母を殺した張本人だった。
半年ぐらいかかったが、
犯人は逮捕された。
どうやらその犯人はナンパしたらしく、
断り続けた母に怒り狂って
殺してしまったのだという。
犯人が逮捕された日の夜、
3人が見たのは、母が笑顔で、
「ありがとう…。ありがとうね…。」
と感謝の気持ちを述べた夢だった。
Fin
[編集済]
簡易解説にも物語が詰まっている、先の気になる解説です。
祭りの宝探しイベントと、行方不明だった母の死体が見つかるという、あまりに陽と陰の差が大きな出来事。
しかしそれらの要素が不思議と馴染んで、なんとも言えない読後感があります。
[編集済]
【簡易解説】
今までずっと髪のトラブルに悩まされてきたカメコ。ある日、これまでの髪のトラブルを美容師に相談したところ、髪の毛をドライヤーでよく乾燥していないからではないかと言われた。
それを聞いたカメコはドライヤーを買い、ドライヤーを使って髪の濡れた部分がなくなる、つまり水がなくなったことでそれまでのトラブルが嘘のように消えた。
【本文】
「なんで私の髪ってこんなにおかしいんだろう・・。」今日もカメコは悩んでいた。
まず、朝から寝ぐせのせいで髪の絡まりがすごい。①(9)そのため髪型はなかなか決まらない。そのせいで大学にも遅刻してしまうことがある。ああ、ずっと真夜中なら朝こんなことをしなくてもいいのになあ、カメコはそう思っていた。③(15)
カメコが髪に関して悩んでいることはそれだけではない。抜け毛、そして匂いがすごいのだ。
この間はある小学校の夏休みのプール開放のためのプール清掃のボランティアでなぜかそこにいた亀を除く仕事をしていたときに髪が抜けてしまい、それがプールに落ちてしまった。幸いまだ水が取り換えられる前だからよかったもののもしこれが新しい水に張り替えた後ならリーダーのスタッフになんて言われるだろうかとカメコはぞっとした。
そしてさらにある時カメコはモグラを見つけてモグラを抱いてみたら、モグラはカメコの髪のにおいを感じ取ったのかすぐに飛び出して土の中に潜り込んでしまった。⑤(28)
「そんなことまで気にするのか?」と読者の皆さんは思うかもしれないがカメコにとって髪のトラブルは「頭痛が痛い」と多少間違った言葉遣いをしていてもその悩みは深刻だと思うぐらいになっていた。④(17)
そんな日常を過ごしていたある日、彼女は髪を切ろうとある町の美容室に行った。
たまたま応対する美容師がイケメンだったので照れ隠しながらもカメコはこのような質問をした。②(12)
「最近、抜け毛やにおい、髪のまとまらなさがひどいのですがどうすればいいでしょうか?」
すると美容師がこのようなことを口にした。
「君は髪の毛をどうやって乾燥しているのかな?」
えっ?カメコは動揺した。なぜそのようなことを聞くのかわからなかったからだ。
「えっとそうですね、髪の毛をタオルで拭いたらあとは自然乾燥です。」
すると美容師がはっきりとこういった。
「それがいけないんだと思う。髪は乾くときに形状記憶されるんだ。だからその時に自然乾燥で放置したままだと髪の状態は絡まったまま記憶されるんだ。後自然乾燥で濡れたままだと雑菌が繁殖するからそれが抜け毛やにおいにつながっているんだと思う。」
「じゃあどうすればいいですか?」
「簡単だよ。まずはドライヤーを買って御覧。うちが勧めているものもあるけど君の場合はまずは普通の家電量販店で売っているので試すだけでも十分だと思う。」
それまでずっと髪のトラブルに悩まされていたカメコは美容師の「簡単だよ。」という言葉を聞いてなぜもっと早く質問しなかったのだろうと後悔した。
次の日、カメコはさっそく近くの家電量販店に行き、安かったが色が銀色で気に入ったドライヤーを買った。⑥(30)早速その夜、カメコは風呂から出ていつもの通りにタオルで髪を拭いた後、ドライヤーを使用し髪の濡れている部分、つまり水が残っている部分を徹底的に乾かした。すると鈍感なカメコでもすぐにこれまでの髪との違いがはっきり分かった。まず風呂に入ってそんなに時間がたっていないのに嘘のようにまとまる、髪を自然乾燥していた時は考えられないぐらいのまとまっていた。さらに次の朝、起きて寝癖を直すときもこれまでと違ってあまり髪の毛は絡まずにすぐ直せる。そのためワックスの量も大幅に減った。さらに3か月続けると抜け毛やにおいも圧倒的に減り、カメコがずっと悩んでいた髪の悩みは嘘のように消えた。
ああ、なんでこんなに簡単な解決方法をずっと試さなかったのだろう。カメコにとってまさに「灯台下暗し」な出来事だった。
⑧(33)(タイトル回収)(終)
(参考:https://ost.oshimatsubaki.co.jp/questions/009/)
水=髪に残る水分という発想がまさに匠な解説です。
頭痛が痛むほどに長年悩んでいた問題があっさり解決してしまうという、嬉しいような虚しいようなあるあるが見事に描かれていました。
要素回収のためにもファンタジーを絡めることの多い創りだすの中で、極めて現実的に問題を解決してくださいました。
[編集済]
林道をしばらく進んだ奥に、名前もない大きな湖がひとつ、音も無く佇んでいた。
鬱蒼とした木々に囲まれるその土地は、近くの住人でも足を運ぶことはほとんどない、そんな閉ざされた場所だった。
そんな湖にその日、制服に身を包んだ一人の少女が訪れた。
肌は青白く、目は虚ろ。手には丈夫そうなロープが一本。
それを木にくくりつけた彼女は空を仰ぎ、声もなく一筋の涙を頬に伝わせた。
[編集済]
★ [良い質問]
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ゆらゆらと月が静かに揺れていた。
湖岸に腰掛けた少年は、その音の無い夜に浸りながら、波とともに水面を舞う白い月を眺めていた。
ときおり思い出したように足を動かせば、ちゃぷん、と水の跳ねる音が響く。くるぶしにまとわりつくその心地よい冷たさに、悠斗は深く息を吸い込んだ。
彼がここに来るのは初めてではなかった。
ひと月ほど前に母親に連れられてこの湖を訪れ、家の近くにこんな場所があったのかと驚いた。
森の奥にひっそりと佇む、その雄大さと孤独に魅せられた悠斗は、以来どうにも寝つけない夜があると、決まって隣室の母親に気づかれないように家を抜け出し、ひとり重なり合う波紋を見つめていた。
昼間は甕覗色に染まる湖面も、今は吸い込まれそうな黒に包まれている。⑦
夜の空気を照らす月の光が、さっと雲に遮られたそのときだった。
「こんばんは」
突然聞こえた声にびくりと肩を震わせた悠斗は、勢いよくそちらに振り向いた。
自分の左前方に佇む人影を見た彼は…
「う、うわぁっ!」
ばしゃん、と水が派手な音を立てた。
驚きのあまりバランスを崩して湖に落ちかけた悠斗は、慌てて岸に手をかける。
腰から下を濡らしながらよじ登った彼の視界の隅で、声の主は静かにこちらに歩み寄ってきた。
「あ、あ、え、え、」
言葉にならない声を発する悠斗に、彼女は長い黒髪を揺らしながらかすかに笑いかけた。
「君も死にたくて来たの?」
一瞬何を言われたか分からず、悠斗はただ呆然と彼女の顔を見上げていた。ようやく意味を理解した彼は、ぶんぶんと首を横に振る。
あら、違うんだ、と手を口に当てる彼女に、彼は混乱を隠せないままなんとか口を開く。
「え、い、いま、水の上、あ、歩いて…」
湖岸に座る彼の前方はもちろん水面だ。最初に声をかけてきたときも、今立っている岸まで歩いて来る間も、彼女はまるで宙に浮かんでいるように湖の上にいた…ようにしか見えなかった。
「・・・・・」
彼の指さした湖の方をじっと見つめて何かを考えている様子の彼女を見て、悠斗はもうひとつ思い出す。
「そ、そういえば、『君も』って…」
その言葉を聞いた彼女は悠斗にゆっくりと向き直る。風が月を隠していた雲を運び、そのどこか妖しげな微笑みを光に照らし出された。
「私、幽霊なの。」
------------------
数分後、二人は岸から少し離れた木の下に並んで腰掛けていた。
いつも持ってきているタオルでおざなりに足を拭く悠斗に、幽霊を名乗る女性は透き通った声を投げかけた。
「私は春沢瞳。君は?」
村井悠斗、小学6年生、と固い声で答えた彼をしげしげと眺めると、まだ小学生なんだね、それは確かに死にに来るって感じでもないか、と瞳は独り言のように呟いた。
「私は高校1年だから、君の4つ年上になるのかな。」
高1だった、というべきかもしれないけど。
そう付け加えて目を伏せる彼女は、暗くてよく見えなかったけれど、確かに紺色の制服に身を包んでいた。瞳の手がブレザーの襟をすっとつまめば、肩にかかる黒髪がさらさらと横に流れた。
「あ、あの…」
と、悠斗が口を開きかけたのと重なるように、瞳は再び彼に微笑を向けた。
「悠斗くんは、どうしてここに来たの?」
ん、と少し考えて答える。
「ここが好きなんです。なんだか寂しさを我慢して強がってるみたいで。学校とか家で嫌なことがあって眠れないときに来ると、すごく落ち着きます。」
ふうん、となぜかうれしげに相槌を打つ彼女に、それより、と思い切って声をかけた。
「それより、えっと、瞳さん。瞳さんが幽霊って、どういうことなんですか…」
尻すぼみになっていく悠斗の声に、瞳はくすっと笑い声をもらした。
「驚かせちゃってごめんね。私、3年前にこの湖で死んじゃったんだ。」
思わず息を止める彼をちらりと一瞥し、同じトーンで続ける。
「気づいたら幽霊になっていたの。夜の間だけ姿を現せる。ここからは離れられないみたいだけど。」
水の上を歩くの、見たでしょ?と、こちらを覗き込んでくる瞳に、悠斗はこくりと頷く。
そしてもう一度彼女をまじまじと見つめた。
脚がないわけではない。体が透けているわけでもない。けれど月明かりのみが照らし出す彼女は儚げで、その白い肌と黒い髪はどこか現実味がないように感じられた。
本当に幽霊なんだ、という動揺を鎮めるべく大きく息を吐いた悠斗は、おそるおそる問いかける。
「えっと、死んじゃったって言うのはその、事故とか…」
「自殺だよ、自殺。」
彼の言葉を遮った瞳は、物悲しげに微笑んで空を見上げた。人は死ぬとお星様になる、なんて戯言を信じる歳ではないけれど、悠斗も思わず夜空を仰ぎ見る。
「自殺って…どうして…」
口の中で呟いた彼の一言を聞き漏らさなかった彼女はぐるりと向き直ると、先ほどよりも幾分冷たい声色で言う。
「知りたいならいいよ。教えてあげる。」
瞳の雰囲気の変化を感じ取り、えっ、と息を飲み込む悠斗を見た彼女は、でも、と一転して悪戯っぽい声を上げた。
「今日は遅いからもう帰ったほうがいいよ。
話がしたければ、またここにおいで。」
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またね、と手を振る彼女に促されるまま帰ったあの日の翌夜、悠斗は母親が床についたのを確認して再び家を抜け出していた。
目的地は昨日と同じ湖。
二日続けて抜け出すのも、嫌なことは何もないのに抜け出すのも、彼にとって初めての経験だった。
「こんばんは」
昨日と同じ木のそばで、昨日と同じ制服を風にはためかせながら、瞳はぽつんと座り込んでいた。
「今日の学校はどうだった?」
唐突に投げかけられた質問に少し面食らった彼は、わざとゆっくりと時間をかけて、彼女の隣に腰を下ろした。
なんだか母さんみたいなことを訊くんだな、と思いながら口を開く。
「別に普通です。授業受けて、休み時間に友達と遊んで、帰ってくる。算数が難しかったなって、それくらいの。」
「嫌なことがあったわけじゃないんだ?」
はい、と頷く悠斗から湖の方へと視線を移した彼女は、両手の指を絡ませると、ぐっと腕を伸ばして肩を回した。
「そっかぁ、普通かぁ…」
何かを噛み締めるように呟くと、いいねっ、とでも言うように親指を立て、こちらに向かって微笑んだ。
「話す約束だったよね、私のこと。」
はい、あ、でも、嫌なら…
しどろもどろになる悠斗に優しげなまなざしを向けた瞳は、すぅ、とどこか心を決めたように胸を膨らませると、ひとつの問いかけから始めた。
「悠斗くんは普段、寂しいな、孤独だなって思うことはあるかな?」
ひゅっ、と音を立てて悠斗は息を呑んだ。
寂しい。寂しい。寂しい。
彼がこの湖に吐き出してきた感情に、無理に名前をつければそれは寂しさになるのかもしれない。
なんと答えればいいかわからずに曖昧に首を傾げていると、彼女は下を向いてぽつりともらした。
「3年前の高校一年生のとき、私、クラスで一人ぼっちだったんだ。よく言われるような直接的ないじめじゃなかったけど、なんだか避けられてるような気はした。春沢が来たから別のところ行こ、って感じかな。」
友達と遊ぶのは、私にとっては普通じゃなかったんだよね。
痛みを押し殺すような弱々しい微笑に、悠斗は慌ててごめんなさい、そんなつもりじゃ、と頭を下げる。
いや、いいんだよ、小学生に気を遣われるなんて恥ずかしいな、と顔の前で手を振る瞳は、やっぱり、と言葉を続けた。
「やっぱり、ちゃんと言うべきだったなって思ってるよ。どうして避けるのって。一緒に話そうよって。沈黙は金だから、ってわけでもないけど、はっきり拒否されるのが怖くて、ずっと一人で静かにしてたんだ。」
それで結局生きる意味見失って死んじゃったら意味ないよね、と自嘲するように目を細めて笑う。
こうして悠斗くんと話す分には雄弁なのになぁ、と風に髪を揺らす彼女の声に、彼の胸はちくりと痛んだ。⑥
何も言葉を発せなくて、彼女の方を見るのが辛くて、悠斗は夜の湖に目をやった。
二人のそばの枝から落ちた木の葉が、ひらひらと舞って水面に不規則な波紋をつくる。
その葉と瞳とが何故だか重なって思えて、この人になら自分のことも話したいな、と彼は不意に思った。
ごめんね、昨日から引っ張っておいて暗くてつまらない話にしちゃったね、と重い雰囲気を振り払おうとする瞳に、僕には、と口を開いた。
「僕には、父親がいないんです。」
驚いたように目を見開く彼女を見つめながら、悠斗は少しずつ、でもしっかりとした口調で話した。
物心つく前に、父親が事故で命を落としたこと。女手ひとつで自分と姉とを育ててくれている母親のこと。
「友達としゃべってたり、家で母さんの帰りを待ってたりすると、ふと寂しくなることがあるんです。」
クラスメートの口から父親の話を聞くとき。
悠斗の家では買えないゲームを自慢されるとき。
夕方、窓から親子の笑い声が響いてくるとき。
胸にぽっかりと開いた穴を埋めるべく、夜にこの湖を訪れようと決める。
今まで上手く言葉にできなかった気持ちが、誰にも言えなかった思いが、不思議と次から次へと口をついて出ていた。
「僕には母さんも姉ちゃんも友達もいます。だからあの、ちょっと違うかもしれないですけど、その、瞳さんの寂しさも、わかる気がします。」
そう言っておそるおそる目をやると、彼女は自分の体を抱きしめるように三角座りをしていた。膝の上に乗せた顔は暗くてよく見えなかったけれど、ぐすっ、何かを飲み込む音だけはかすかに聞こえた。
「……ありがとう」
震えた声でそう言った瞳は、やおら立ち上がると月を背にして悠斗の方へと向き直った。
「話してくれてありがとう、悠斗くん。私の話を聞いてくれたのも、ありがとう。君は優しくて強いね。」
照れくさそうに頭をかく彼に笑いかける彼女は、君と話せて本当によかった、と自分にも言い聞かせるようにつぶやいた。
ふと彼女の背後に目をやれば、ここに来た時よりもずいぶん高く上った月が煌々と光を放っていた。瞳もまたそれに気づいてか、長いこと話しちゃったね、とスカートの裾を一、ニ度はらう。
「じゃあ、悠斗くん、今日は本当にありがとね。」
地面に手をついて立ち上がった悠斗は、先ほどまでより幾分声を張って、あの、と呼びかける。
どうしたの?と首を傾げる彼女はもうこの世の人ではないんだと知りつつも、今日のこの感情を忘れたくなくて、言葉を紡ぐ。
「あの、これからも僕、ここに来てもいいですか?」
彼女は一瞬、ひどく驚いたように目を見開いたまま固まった。けれどもすぐにふぅ、と息を吐き、悠斗が見た中で最も人間らしい笑顔で答えた。
「もちろん。またね。」
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それからというもの、二人は毎晩のように湖のほとりで顔を合わせては、しばらく話をするようになった。
悠斗が今の小学校の話をすれば、瞳は自分のときとの違いに驚いてみせた。瞳が中学高校の話をすれば、悠斗は自分の数年後の姿を想像した。
流行りのテレビ番組の代わりに、家族の話で笑いあった。人気ゲームの代わりに、好きな本の話で盛り上がった。
「へぇ、悠斗くんのお姉さんは大学一年生なんだ。」
「そうです。7つも離れてるんですよ。」
「てことは、えっと、もし私が生きてたらお姉さんと同い年になるわけね。」
「瞳さんの方がずっと大人っぽいです。姉ちゃん、パワフルすぎてうるさくて。大学の寮に入ってくれたおかげで、家の中が静かになりました。」
「ふふ、元気があるのはいいことじゃない。」
互いの秘めた心の内をさらけ出せたからだろうか、二人が何でも話せる仲にまで打ち解けるのに、そう長くはかからなかった。
月が綺麗なある夜、瞳がこんな話を始めた。
「ねぇ、悠斗くん。死ぬってどういうことだと思う?」
いつになく真剣な表情の彼女を見て、悠斗は右手でもてあそんでいた小石を地面に置く。
「あまりに慣れすぎてたまに忘れそうになりますけど、瞳さんはおば…じゃなくて、えっと…」
「……おばさんって言いかけた?」
「ちがいますよ!」
いつもの瞳が戻ってきたかな、と胸をなで下ろしながら続ける。
「おばけって言いそうになったんです。でもなんかおばけって感じじゃないなって。幽霊って言えばしっくり来ますけど。」
ふうん、とわざとらしく口を尖らせてみせた瞳は、ま、それはいいんだけど、と話を戻した。
「死ぬってさ、人との繋がりが絶たれることだと思うの。」
音もなく立ち上がった彼女の艶やかな黒髪が、ふわりと風にたなびく。
「体は生きていても、誰とも関わらずに過ごす人は、ゆっくり死に近づいていってるのかなって、そんな気がしたんだ。」
私、後悔してるのかもね、と吐き出すように呟く瞳がどうしてそんなことを言い出したのかわからなかったけれど、何か言わなきゃという気持ちが先走って、でも、と思わず逆接を口にしていた。
「でも、それって逆に言えば、繋がりがあるうちは死なないってことですよね。」
語り継がれる偉人とか、妻に愛され続ける夫とか。
悠斗の言葉に少し驚いたような表情を浮かべた瞳だったが、その一言一言を噛み締めるようにゆっくりと頷く。
いつもの彼女の優しげな微笑みを真似ながら、だったら、と努めて明るい声を出した。
「だったら、瞳さんは死にません。
僕がずっと覚えてますから。」
繋がってますから、と重ねる悠斗に、しばらく呆気にとられたような顔を向けていた瞳は、不意にくすり、と笑い声をこぼした。
くすくす、と声を上げる彼女を前にして悠斗がうろたえていると、なおも上がり続ける口角を押さえながら、瞳はごめんごめん、と手を合わせた。
「ふふふ、ごめんね、幽霊なのに死なないっていうのがなんだかおかしくなってきちゃって。」
なんか『頭痛が痛い』みたいな話だね、いや逆に『痛くない頭痛』かも。④
一人で笑い続ける彼女を見ていた悠斗も、なぜか笑いがこみ上げてくる。
ひとしきり笑った後、ふぅ、と一つ大きくため息をついた瞳は、ありがとう、と感謝の言葉を口にした。
「そんなふうに言ってもらえるだけで、生き返った気分だよ。私の方こそ君のことは忘れられそうにないな。」
悠斗くんってたまにかっこいいこと言うよね、と、にやりと微笑んでみせる彼女と目を合わせるのが急に恥ずかしくなって、彼は慌てて湖面に視線を向けた。②
心の真ん中に開いた穴を埋めているのは、すでに湖ではないようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんな日々と共に季節が巡っても、二人の夜は変わらず訪れた。
いつしか悠斗にとって、瞳と交わすたわいないやり取りが、真夜中の湖で過ごすこの数十分が、最も大切な時間になっていた。
「こんばんは」で始まり「またね」で終わる夜ふかしは、唯一心を許せる相手との確かな繋がりだった。
幸せだった。
その日は突然やってきた。
彼が自分の中の新たな感情に気づいたその日は、何の変哲もない水曜日だった。
あまりにいつも通りすぎて、そのとき何の話をしていたのかももう覚えていないけれど、真剣な表情で考え込む瞳の、長い黒髪を指先に絡めてはほどくその仕草だけが、やけに鮮明な記憶として残った。①
月明かりに照らされる彼女の横顔を、綺麗だな、と思った。
それだけだった。
彼はその感情に、ひどくありきたりな名前をつけることにした。
------------------------------------
ぱたん、と悠斗は読み終わった小説を閉じた。
明日忘れずに図書室に返せるよう、ランドセルにしまっておく。
それは恋愛小説だった。
事故で亡くなった女性の幽霊と、唯一彼女のことが見えるぶっきらぼうな男。女性の未練を晴らそうとする中で、二人は惹かれあっていく。
しかし男が想いを伝えると、愛されたがっていた女性は全ての未練が晴れ、消え去ってしまう。残された男は、これでよかったんだと自分に言い聞かせながら独り涙を流した。
彼はこれを悲恋だと思った。
離ればなれになることが愛だなんて思いたくなかった。
ずっと彼女のそばにいたかった。
自分の恋心を自覚してからというもの、悠斗はずっと悩み続けていた。
生きている僕と、幽霊の瞳さん。
好きならばそんな違いは関係ないと、強気に言い切ってしまえれば楽だったかもしれない。
でも、僕が中学生になったら、大人になったら、引っ越したら?瞳さんだってずっとあの湖の幽霊であり続けるとは限らない。
そんな彼女のことを、本当に好きでいていいのだろうか。
このもやもやばかりは彼女自身に吐き出すわけにもいかない。今日も結論が出ないまま、彼は真っ暗な玄関に靴音を響かせる。
------------------
「もう少しだけここにいてもいいですか?」
え、また?と、呆れたように笑う瞳の頭上の枝が、冷たい風にさわさわと揺れた。
「最近の悠斗くん、なかなか家に帰りたがらないよね。お母さんと喧嘩でもした?」
顔を近づけてくる彼女にどぎまぎしながら、そんなんじゃないですと否定して、空を見上げる。
今夜はやけに満月が大きく見えて、その光の下で微笑む瞳は、いつかあの月に帰るんじゃないか、なんてストーリーをふと思い描いてしまう。
「ま、あんまり遅くならなければいいよ。」
私も悠斗くんと話すの好きだし、と上機嫌に言う彼女に、また彼の胸の奥はざわめきだす。
「君と話してると、この世界も悪くないじゃんって思えるんだ。」
いくつもの想いが頭の中にとめどなく溢れてきて、悠斗は口をつぐんだままだった。
「またね」
手を振って見送る彼女の姿を、彼女からもらった言葉を、少しでも鮮明に覚えていたくて、彼は布団の中で目を開けていた。
いつまでも繋がっていたい。
そう思った。
彼女と共に過ごす時間が減るくらいなら、朝なんて来なくていいのに。
ずっと真夜中でいいのに。③
結局その夜、悠斗は一睡もしないまま朝を迎えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日は珍しく姉が家にいた。
サークルの友人たちと昔の写真を見せ合うことになったらしく、アルバムを持っていくために大学の寮から今日だけ戻ってきたのだとか。
「おっ、悠斗!久しぶり!元気してた?」
小学生も顔負けのテンションに辟易としながらも、うん、姉ちゃんも元気そうだね、と返す。
母さんと違って姉ちゃんは寝るの遅いだろうし、今夜は湖に行けないかもな、などと考えていると、ふと姉が机に置いたままのスマホの画面が目に入った。
「この制服って……」
思わず口に出した悠斗の言葉に、アルバムをめくっていた姉の手が止まる。
「あーそれ?それは水樹が送ってくれた写真じゃん。あ、水樹っていうのはウチと同じサークルの同級生ね。」
確かこの近くの私立だったっけ、と首をひねる姉の声を聞きながら、悠斗の目はその写真に吸い寄せられる。
とある高校の正門のようだった。『入学式』の看板の横を通り過ぎていく生徒たちが身にまとっているのは、まぎれもなく瞳がいつも着ているあの制服だった。
瞳さんもこの高校に通っていたのか、と不思議な気分になりながら何気なく次の写真を表示した悠斗は、ガタ、と思わず立ち上がりかけた。
体育祭か何かだろうか、同じ色のハチマキを巻いた何人かの女子が、カメラに向けてポーズをとっている。
その中央でピースサインを構える少女の体操服、その胸元には、『春沢』の二文字が踊っていた。
一瞬思考の止まりかけた悠斗だったが、いや、違う、と思い直す。
その女の子は、髪型も身長も顔も、何もかもが瞳とは異なっていた。明らかに別人だ。
同じ高校に同じ名字の生徒がいることくらい珍しくもないか、と胸の高鳴りを静めようとした彼の視線は、見知らぬ『春沢さん』のすぐ隣の生徒に向けられる。
おや、と思った。
こちらも瞳とは似ても似つかない風貌で、名字も高橋と何も共通点がない。
しかし彼女の名札を拡大して眺めた悠斗は、姉の肩をちょん、とつついた。
「あ、その子!その真ん中の子が水樹だよ。春沢水樹。
その写真はねー、一年のときにクラス対抗リレーで優勝した記念に撮ったって言ってた。」
ひとつ大きく深呼吸をした悠斗は、今夜は何が何でも湖に行かなくてはならない、そう思った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こんばんは」
その夜、いつもの笑顔でひらひらと手を振る彼女に、悠斗は緊張に強張った声で瞳さん、と呼びかけた。
どうしたの?とこちらを見つめる彼女の横に、できるだけ普段と同じようにゆっくり腰を下ろす。彼の体を乗せる今日の地面は、やけに硬く感じられた。
本当はまだ迷っていた。
今彼が伝えようとしていることは、間違いなく二人の繋がりの形を変える。それは壊してしまうということなのかもしれない。だから彼は何も知らないふりをして、このままの関係を続けてもよかった。
けれど、と悠斗は考える。
瞳を想う気持ちが募れば募るほど、彼の葛藤も比例して大きくなっていった。
彼女もまたこれを望んでいることを、これからより良い繋がり方ができることを信じて、悠斗は口を開く。
「瞳さん、幽霊じゃないですよね?」
数時間前の姉とのやりとりをなぞるように、彼は幽霊を名乗る彼女に順を追って説明する。
姉が見せてくれた写真のこと。そこに写る女子生徒、春沢水樹のこと。
「最初は特に不思議には思わなかったんです。春沢って多い名字ではないけれど、被ってもおかしくはないなって、それだけでした。」
しかし、そのときもう一人目に留まったのが、隣に写る高橋という生徒だった。
彼女の体操服の胸元、それぞれの名字が書いてある位置。
そこには『高橋(千)』と印字されていた。
「少し考えてわかりました。きっとその学年には高橋姓が何人かいて、それぞれを区別するために名前の一文字目も一緒に書いてあるんだって。」
千紗子とか千尋とか、そんな名前なんでしょうね、とそこまで言って、木々の間を流れる冷たい空気を吸う。
ちらりと瞳の表情を窺えば、彼女は微笑むこともなくただじっと悠斗を見つめていた。
「そう考えると、おかしいんです。」
そう言って彼は、以前の彼女との会話を思い出す。
「瞳さんは3年前に高校一年生で、生きていれば大学一年生。姉ちゃんと同い年。そう言っていました。」
つまり、と悠斗は少し間を置く。
「つまり、その学年には、瞳さんと水樹さん、二人の『春沢さん』がいるはずなんです。」
そうなのだ。
あの写真は水樹が一年生のときに撮影したものであるから、彼女の体操服は少なくとも瞳が生きている間に作られたはずである。
学年も同じ、性別も同じなら、ジャージのデザインの違いで見分ける、なんてこともできない。
だから、瞳が本当に水樹と同じ学年なら、彼女の体操服に記された名字はこうなるはずだ。
『春沢(水)』、と。
「水が無いのは変だと思って、姉ちゃん経由で水樹さんに訊いてみたんです。春沢瞳さんを知っていますかって。」
勝手なことしてごめんなさい、と瞳に向かって下げた頭を撫でるように、一陣の風が吹き抜けていく。それでも崩れない彼女の表情を、月明かりだけがぼんやりと照らしていた。
「知らないって言われました。自分の学年に春沢は一人だったよって。」
そのあと、水樹さんに無理を言って母校の先生に電話をかけてもらったんです、と、申し訳なさそうな顔のまま、悠斗は続ける。
「そうしたら、わかりました。春沢瞳さんはその高校にちゃんといました。」
一度言葉を切って、真剣な眼差しを彼女に向け直した。
「瞳さん、あなたは今まさに高校一年生として、学校に通っているんですね?」
痛いほどの沈黙が流れた。
時折湖岸から落ちた木の葉がぽちゃん、と間の抜けた音を立てるほかは、何も聞こえなかった。
おそるおそる瞳の顔を見つめる悠斗は、やはり勝手に個人情報を嗅ぎ回ったことを怒っているのかと、目を逸らしたくなる気持ちを懸命に抑えた。
20秒、30秒、気の遠くなるようなその時間は、パチン!という大きな音で突然終わりを迎えた。
「ごめん!」
瞳はぎゅっと目をつむり、顔の前で手を合わせていた。
「もう本当にごめん。ずっと嘘ついてた。
そうなの。私、昼間は学校行ってるの。」
怒られなかったことよりも、あぁ、本当に生きてるんだ、幽霊じゃないんだ、という安堵感から、彼は大きく息を吐き出す。
しかし、続く「でも本当なんだよ」という彼女の言葉に、悠斗はいぶかしげな表情を見せた。
「あ、幽霊なのは嘘なんだけどね。
ずっと一人で寂しくて、どうしようもなかったのは本当。『君も死にたくて来たの?』って言葉も本当。」
君と初めて会ったあの日、あそこで死のうとしてたんだ。
そう話す瞳を、悠斗は驚きの目で見つめる。
「私もびっくりした。誰もいない場所でひっそりと、なんて思ってたら先客がいたんだもの。悠斗くんみたいな子に私を発見させるのも忍びなくて、思わず声かけちゃった。」
自嘲と罪悪感とが入り混じったような複雑な微笑を浮かべる彼女の黒髪が、月の光を反射して輝いている。
「なんだか悠斗くんもすごく慌ててたから、勢いで幽霊だなんて言っちゃった。本当にごめんね。」
聞けばあの後、持って来ていたロープやら踏み台やらを、彼がいなくなってから家に持ち帰ったのだという。⑧
意外な事実に目を丸くする悠斗は、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの、瞳さん、あの日、どうやって湖の上を歩いたんですか?」
それを聞いた彼女はくすっと笑い、歩いてないよ、と首を振った。
「たぶん暗くてよく見えなかったんだと思うけど、この湖って水面近くまで出っ張ってる岩がいくつかあるんだよ。私はそれの上に立ってただけなのに、悠斗くんが幽霊とか言うから…」
恥ずかしさのあまり、彼は思わず腕で顔を覆い隠す。そんな単純なことに気づかなかったなんて。穴があったら入りたい気持ちだった。⑤
「ずっと言わなきゃと思ってたんだけど、もしかしたら私がもう死んだ人だからこそ、こんなに何でも話してくれるのかなって、そう思ったら言い出せなくて。」
嫌いになった?と、上目遣いで尋ねる彼女はずるいくらいに画になっていて、そんなわけないですよ、とかぶりを振る。
よかったぁ、と胸をなで下ろす彼女は、本当にありがとう、感謝の言葉を続けた。
「私ね、いつも君とのこの夜の時間に救われてたんだよ。君が繋がっていてくれたから、他の繋がりも投げ出さないでいられた。クラスの人とも、少しずつ話せるようになってきたんだ。悠斗くんのおかげだよ。」
だから君さえ良ければ、これからも同じように繋がっていてくれると嬉しいな。
瞳のその笑顔に彼は、嫌です、と思わず口にした。
えっ、と言葉を詰まらせる彼女から一度夜空、それから湖へと目を移し、深く深く息を吸う。幽霊は嘘だと告げる時よりも、ずっと心臓が高鳴っていた。
もう一度彼女の方を向くと、ゆっくりと口を開く。
「僕も瞳さんと出会って、話すようになって、寂しいって思うことはなくなりました。どこか空っぽだった毎日も、夜が楽しみでたまらなくなりました。僕の方こそ、たくさん救われてきたと思います。
本当は生きてると知って、すごくすごく嬉しかったです。」
それなら、と訴えかけるような眼差しを見せる彼女に、でも、と投げかける。
「でも、これまでと同じは嫌です。場所と時間に縛られた今までの繋がりを、変えたいんです。」
首を傾げる彼女をきっ、と見据えて、悠斗は胸の奥にある言葉を絞り出す。
「だって僕は、ずっとあなたのことを・・・」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
[編集済]
★ [良い質問]
林道をしばらく進んだ奥に、名前もない大きな湖がひとつ、音も無く佇んでいた。
鬱蒼とした木々に囲まれるその土地は、近くの住人でも足を運ぶことはほとんどない、そんな閉ざされた場所だった。
そんな湖にその日、制服に身を包んだ一人の少女が訪れた。
肌は白いが健康的。目には生気が宿り、手には重そうなスクールバッグ。
それを木のそばにそっと置いた彼女は、声もなく湖に歩み寄る。
朝陽をきらきらと反射する水面を、一人の少年が眺めていた。まだ着慣れない制服に二度三度と体をよじる彼の肩を、少女はぽんと叩く。
振り向いた悠斗に、瞳は笑顔で言った。
「おはよう」
(終)
【簡易解説】
幽霊の少女に恋をしてもいいのだろうかと長い間悩み続けていた少年は、彼女と同じ名字の子の名札に、名前の頭文字である「水」が無いことに気づく。
そのことから彼女が本当は幽霊ではないことを知り、彼の抱えていた問題は解決した。
[編集済]
幽霊の少女と言葉にできぬ感情を抱える少年の会話に引き込まれる解説です。
今回投稿された中では随一の長さながら、それを感じさせぬ会話運びがお見事。
「水」が回収された瞬間には、えも言われぬ気持ちよさがあります。
不穏な冒頭から温かな結末まで丁寧に導かれた、まさにエモンガな作品です。
[編集済]
[良い質問]
※一部ショッキングな内容が含まれております。
一人の男が海沿いの道を歩いていた。
猛烈な雨と風。荒立つ波。
道路沿いのヤシの木には立派な実が生っていて、今にも落ちそうに激しく揺れている。(27)
どこか安全に休める場所を探さなくては。
しばらく歩くと一つの建物が見えた。
木造のようだが比較的新しい。この雨の中にあって、白い外壁は遠くからでも良く目立つ。
「LateLate…」(38)
看板が出ているところを見るに、何かの店のようだった。
少し屋根を貸してもらおう。男は少し身を強張らせ、木製のドアに手をかけた。
・・・・・・
カラン
ドアを押し開けると、静かに鐘の音が響いた。
薄暗くてあまりよく見えなかったが、ある程度人が居るようだ。
食器の触れ合うカチャカチャという音と、小声での会話が聞こえる。どうやら飲食店らしい。
しかし、それにしては妙に薄暗く沈んだ空気感である。
不明瞭な人影が囁き合う様は、子どものころに本で読んだ「悪い子の前に現れる幽霊たち」そのものだった。(26)(39)
「いらっしゃいませ。」
とつぜん真横から声がした。いつの間にか一人の老爺が立っている。
「……急に降られてしまいまして。雨宿りさせて頂けないでしょうか。」
「それは災難でございましたね。」
どうぞこちらへ、という老爺の案内にしたがって椅子を借りた。
来ていた上着を脱ぎ、どっかりと腰かける。一息つき改めて店内を観察してみることにする。
床に座っている者、椅子をつなげて横になっている者、壁にもたれて本を読むもの……客ではないと思しき者も結構いる。
恐らくは同じように雨宿りをしに来た者たちだろう。なにせこの辺りには建物がこの店しかない。
雨が降っていなければ出会うことがなかった一期一会の集いというわけだ。
そう考えると幽霊たちにも親しみがわいてくる。
不思議な居心地の良さを感じた私は、ずっとこの薄暗い空間に居たいとさえ思い始めていた③(15)
どうやら、非日常的な空気感に当てられたらしい。少し落ち着こう。
「お水を一杯頂けますか。」
「申し訳ありません。水は他のお客様にすべてお配りしてしまいました。」
「水道水でも構いませんよ。」
「いえ、この雨で店内は停電し水道も止まってしまいました。しかし…」
お客様にピッタリのものがございます。
そう言うと、老爺はにっこり微笑んだ。
・・・
カタン
席についてしばらく待っていると、皿の置かれる音がした。(11)
暗くて良く見えないが、どうやら湯気が立っているらしい。
添えられたスプーンから汁物である事が伺える。
カレーかもしれないって?水が無いのにカレーを出すような奴がいたら、私はそいつの頭を撃ちぬいてやりたいね(8)
「ウミガメのスープでございます。」
心臓がどきりと跳ねた。
どこかで聞いたような気がする。どこだっただろうか。
しかし、考えていると頭が痛む。聞かなかったことにして頂いてしまおう。(13)
「……頂きます。」
スープを一口啜る。
とたんに舌に絡まる何か。
たまらずプッと吐き出すと、ぬめりとした手触り。海藻のようだった。
「具材はウミガメのほか、わかめ等の海藻類も使用しております。」
老爺は淡々とそう告げた。
しまった。見えないとはいえ目の前で料理を吐き出すなんて。
申し訳なさで思わずはにかむ。恥じる気持ちを誤魔化そうと、もう一口スープを啜った。②(12)(36)
するとまたすぐに違和感を覚える。
「ウミガメと海藻の他には何を?」
「他には何も。」
老爺はCD音源のごとくまったく同じ調子で告げた。(21)
それでは、これがウミガメの肉だというのか。
・・・・・・
鈍い頭痛を感じながら私は必死に何かを思い出そうとしていた。
海。海藻。海亀。
そうだ。かつて私は海にいたのだ。私は旅客船の船員だった。定員400人ほどの中型船。(34)
掃除をしたり、荷運びをしたり、大げさな拍手で場を盛り上げたり。(10)
金持ち達の客室を回って芸をさせられたり、誰かのペットが問題を起こして、その責任を押し付けられたり。(18)(37)(40)
そして、ある日突然、雲が船を取り囲んで……
頭の痛みが強くなる。目を閉じて、必死に続きを思い出そうとする。④(17)
そう、あの夜も嵐になった。
猛烈な風と雨。大きく揺れる船体。
船内でパニックが起きる中、私は布団をかぶって震えていたのだ。
しばらくすると嵐は収まったが、船には甚大な被害が出た。
沈没の心配こそないものの、動力と通信系統がやられてしまい、大海原の真ん中で孤立状態となってしまったのだ。
この状況は、若く経験不足だった私には重すぎた。
もはや追放されてもおかしくない役立たずと化していたが、仲間たちはそんな私を心配してくれた。(4)
食事も喉を通らず疲弊しきっていた私を見かねて仲間達がふるまってくれたもの。それがウミガメのスープだった。
「元気を出せ」と笑顔で渡されたそれを、長い海藻が絡まるのにも構わず、私は泣きながら飲み干した……(2)(6)(9)(16)
・・・・・・
ハッとして目を開けると黄金色の光が店内を満たしていた。もう、夕刻らしい。
寝ていたのだろうか。汗でびっしょりと濡れた体を、潮風が優しく撫でていた。(3)
窓から海を見やると、いつの間にか雨は収まり、雲間から薄く光が伸びている。
何本もの光の柱がキラキラと水平線を照らしている様は、心が洗われるようなしみじみとした美しさがあり、同時に降臨の瞬間のような神々しさもあった。(22)
そうか。やっと罪と向き合うことができたのか。
悲しみと嬉しさが交互に襲い来る。その感情の源泉を理解するごとに鉄仮面が剥がれ落ち、表情が崩れていく。(1)(25)(29)(32)
カメの手の借りたいほどだっただろうに。気弱な私には耐えられぬだろうと裏でこっそり回収して。(19)(33)
処理もままならぬほど忙しかったのに。それらしい名前まで考えて。(14)
私を思うがゆえのあまりにも単純な嘘によって。(5)(20)(24)
あの日いくつもの命の火が消えた。私はその火を奪って燃え続けてきたのだ。(23)
「もし死んだら、土の下で安らかに眠りたいものですね。」⑤(28)
「まったくその通りでございます。」(35)
老爺の返答に呼応するように、差しこんだ後光がテーブルの上を照らす。
冷め切ったスープ、添えられた銀のスプーン、細長い海藻、スープから除く肉。何もかもそのままだ。⑥(30)⑦(31)
カレンダーの日付があの日に戻った気がした。(7)
あの日、やり損ねたことを。あの日、やらねばならなかったことを。
「これは本当にウミガメのスープですか?」
「はい。ウミガメのスープに間違いございません。」
-終-
■簡易解説■
かつて船乗りだった男。
船が嵐に遭って遭難してしまい、食料が尽きた中でウミガメの肉だと偽って人肉をたべて生き延びたが、本人はそれに気づかなかった。
ある日同じような嵐に見舞われて避難したレストランで、偶然にもウミガメのスープを飲むことになる。
スープの味が過去に飲んだものと違うことに気づいた男は、かつて犯した過ちに気づき、すべての悩みと決別するべく行動に出るのだった。
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また一つ、新しく創りだされた「ウミガメのスープ」。
夢か現かも分からなくなるような、不思議な雰囲気の解説です。
40個すべての要素に加えて本歌取りまでを綺麗に回収されているのは、匠というほかありません。
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[正解]
【簡易解説】
ヤンキー集団のオカシラであるタカヒロは、彼女を守るために暴力的な元彼氏を撲殺した。収監された彼ら一行は穴を掘っての脱獄を試みるが、目的の方向には川があり、運よく掘り進めた先に水があれば溺死してしまう。脱獄当日、掘ったトンネルを抜けた先に水はなく、彼らは脱獄に成功した。タカヒロは彼女と再会し、逃亡に成功したのだった。
【解説】
「オカシラ。いよいよこの時ッスね。会いに行きましょうよ、アオイチャンに。」
「静かにしろ。…んじゃ、行くとするか。のろい奴はおいていくからな。急いでついてこい(⑦)。」
「ラジャー。」
「ラジャー。ッス。」
三人は一人ずつ土の中に潜っていった。(⑤)
船頭をとるのは自称ヤンキー集団「爆☆走☆組」のお頭、タカヒロである。彼らがこんなモグラみたいなことをしているのには、深い理由があるのである。
その日は最悪だった。タカヒロの機嫌も、アオイとの出会いもである。
彼の痛いバッグについたお気に入りのカメちゃんのストラップ。そこにアオイの長い金髪が絡まった(①)ことが理由である「おいお前!絡まってん・・・」大声を出したが、すぐにその声は萎んだ。振り向いた彼女の瞳は、好きならてらってカメのつぶらな瞳のそれであった。
「あーっ!!ごめんねお兄さん。それにしてもこのカメちゃん、かわいいね~!どこで買ったのこれ?」
「……教えてやるからさ。LINE交換しろよ」
「えっそんな雑なアプローチで連絡先交換しちゃったんスか。てかよく彼女さんもOKしましたね」
「オカシラ、ぶっきらぼうですね」
「あ…ああ、そうだよ。文句あんのか?ん?」
タカヒロは彼女と買った新しいらてらってカメの瞳を覗きながら(⑦(Ⅱ))逆切れした。照れ隠しである。(②)
これを機に、タカヒロとアオイの仲はみるみる深まっていった。もうそこに、ヤンキーの面影もギャルの面影もない。水族館に行き、二ケツで湘南をドライブした。一緒にお買い物もして、遊園地にも行った。ミス〇ルが一曲作れそうな勢いである。お泊りデートもした。隣で安心する様子で眠るアオイを見ながら、タカヒロも眠りについた。ずっとこんな夜が続いてほしかった。(③)
ある日、アオイがタカヒロと、偶然部下二人を家に招いていた夜。インターホンが鳴った。彼女はインターホン越しの男を見た途端、青ざめた顔で固まる。「おい、アオイ。どうしたんだよ一体。」その時、「アオイちゃーん、あけてくんないかなあ、ね、いいでしょ??俺たちラブラブだったじゃねえかよ、やっと見つけたんだぜ?」ドアの揺れる音、ドアが蹴られる音がした。「ちょっと俺行ってくるよ。お前らはアオイを見といてやってくれ。」
ドアを開けると大柄な男が一人立っていた。
「おっと。こんにちはお兄さん。君さあ、ここにアオイチャンって女の子がいると思うんだけど、知らない?」
「いや、そんな子は知ら」ない、と言いたかった。
「んなわけねえだろうがよ」
男はタカヒロを突き飛ばし、部屋の中に乗り込んだ。奥でドタバタと音がし、アオイは首根っこをつかまれて男につれられた。目は涙であふれている。
「やめて!アンタなんかもう一生付き合いたくなんかない!だから引っ越しもして、身なりも変えて、髪も染めて…なのにどうして!」
「おうおう、ずいぶんイメチェンしちまったなあ。俺の言いなりになってくれるかわいい子猫ちゃんはどこに行っちまったんだあ?」
タカヒロは言い放った。「アオイは俺の彼女だ。ここを探してもどこにもいねえよお前の奴隷なんて。」
「うるせぇんだよおチビちゃんがよぉ!」彼の頭に強烈な右ストレートが飛ぶ。
血が滲み、痛む頭。(④)しかし彼のアドレナリンは痛覚をも超越していた。
葵を。お前なんかに取られるわけにはいけない。痛い目に合わせるわけなんかいかない。その感情は勝手に彼の手を動かしていた。
彼はぶっきらぼうに放置してあった銀色の(⑥)梯子を手に取り、そのまま・・・。
最後に聞いた音は、金属が立てた鈍い音と、アオイの悲鳴、そしてパトカーのサイレンだった。ネット掲示板の妄想みたいな状況が、現実を横たわっていた。
「おい!そこで待ってろ!!!」
気がつくと彼らは檻の中にいた。部下と共に、人を一人殺したらしい。情状酌量の上ではあるが過剰防衛とみなされ、殺人罪で懲役10年との判決だった。
「私達これから10年ここですよ。一体どうするんですかこれから」
「あーむかつく。後味悪いッスよこんなん。脱獄しましょうよオカシラ。ね?」
脱獄なんて、そんな生易しいことではない。しかし、1人置いていかれた彼女のことを思うと、考えざるを得ないのだ。弱い頭ながら、三人も寄れば文殊の知恵というもの。彼らは数か月かけて脱獄計画を練った。
結局のところ、ヤンキーを取り締まる地元の監獄など、他の厳重な刑務所よりセキュリティが緩いのは間違いなかった。職員にもおっちょこちょいなものがおり、彼を利用することも決めた。
「んで、檻から出たらどうするんスか。ザルとはいっても、出入り口にはたくさん警備員が・・・」
「簡単だよ。穴掘って潜り抜けりゃいいんだ。出れんのは森林がある北西方向じゃねえか?」
「また大層古典的なことをやるもんスね。あと」部下は窓を指さす。
「あっちには川があるんスよ。一歩出るところを間違えたら、どうなるかわかってるんスか?」
「・・・仕方ねえよ。俺らの頭じゃこんくらいしか案は出ねえ。」
こうして未完成ながら彼らの計画は始まったのだった。毎度お散歩などと言い刑務所の庭に出れば、30分間庭の死角にこっそり穴を掘る日々。警備員の巡回は、落とし穴の上蓋のように上に土をかぶせうまくかわした。
何週間たっただろうか。庭の端には立派なトンネルが出来上がっていたのだった。
「オカシラ、そろそろけりをつけるころじゃないッスかあ?」
「そうだな。ずっとこのまま掘っていたら見つかる日も近い。明日作戦実行だ。お前ら頼んだぞ。」
「はい。私たちが必要なのは銀色の(⑥)鍵です。間違えないように。」
作戦本番。まずは檻からこっそり抜け出すための鍵の回収である。今日はあのどこか抜けている職員が巡回の日だ。狙ったのは夜、檻に入った後。「…あの、いまちょっかい掛けました?」「は?あんたの勝手な妄想じゃないんスか?」ボスが古典的なら部下も古典的である。巡回中の職員の前でしょうもない喧嘩を始めた。鍵を開け職員が入ってくる。「お、おい!やめなさい!やめろ!おい!」「おい、お前ら!そんなことやめろ!職員さん、あなたじゃどうにもならないと思います。あなたは他の人の巡回をなんとかしてください。その間に何とかします。」
パニックになった職員は言われるがまま檻の外に出る。彼が様子を見に戻った時、すでに喧嘩は収まっていた。「あー、迷惑かけて申し訳なかったッス。鍵は他の職員さんがかけていったッスよ。お勤めご苦労様ッス。」「…すみませんでした。」ルンルンで帰っていく職員を横目に、タカヒロはごたごたのうちにこっそり回収した(⑧)銀色の(⑥(Ⅱ))鍵をこっそり部下に見せた。
真夜中。寝静まったころ、足跡立てず彼らは歩き出した。檻を脱出し、刑務所から出て、真っ暗な庭。土地勘だけで穴の場所を探す。
ついに見つけた。何週間もかけて掘ったトンネルは、北西の方向に長く続いていた。これから数時間、さらに掘り進め、一気に決着をつけよう。
「オカシラ。いよいよこの時ッスね。会いに行きましょうよ、アオイチャンに。」
「静かにしろ。…んじゃ、行くとするか。のろい奴はおいていくからな。急いでついてこい。」
「ラジャー。」
「ラジャー。ッス。」
穴を進み、トンネルを掘るタカヒロには、まだ長きにわたって悩み続けた最後の懸念事項が残っていた。そう、川にぶち当たったらおしまいである。彼らには溺死する運命が待っているのだった。
掘り進めて何時間たっただろうか。気合が入った三人は疲れ知らずに掘り進め、気の遠くなるほどの道を拓いた。
「そろそろいいんじゃないッスか。」「いや、もっと奥に行くんだ。できるだけ奥に・・・」「さっきからそればっかりですね。オカシラ。」「そうっすよ!俺たちの目標はなんスか?穴掘って日本海までいくことスか?違うでしょう!会いに行くんじゃないんスか?早く上がらないと、夜が明けちまいます。おれらこれまで必死こいて掘ってきたじゃないスか。きっと、大丈夫ッスよ。」
我を取り戻したタカヒロは大きく深呼吸をし、斜め上へ掘り進めていった。少しずつ地上に上がっていく。数十分後、スコップが軽くなり、土をどかした。周りには、
森林が広がっていた。
後ろから川のせせらぎが聞こえる。彼らの掘った穴は川を通り越し、彼らはついに脱獄に成功したのだった。
「堀った先が水じゃなくてよかった・・・」安心した直後。穴の奥からドドドドというすさまじい音が聞こえる。
「穴の奥から濁流がやってきます!!早くいきましょう!」「ちょうどいい。証拠隠滅にはぴったしじゃないか。」彼らは町の光を求め走り出した。
寝静まった夜、とあるマンション。アオイの部屋のインターホンが鳴る。
「ん‥いったいどうしたのよこんな時間に。なんの荷物なワケ?って、ヒロくん?どうしたのそんな汚れた服着て。ムショにいたんじゃ・・・まさか」
「心配かけて…すまなかった。実は」
彼の口が塞がれる。「言わなくてもわかるよ。あたしのために頑張ってくれたんだ。」
「…うん。…ねえ、一晩だけ泊めてくれないか?3人。飯も掃除もなんでもする。だから」
「…しょうがないなあ。いいよ。」
疲れは最高潮、リビングで爆睡する部下二人。そして残りの二人は、同じベッドの中にいた。
隣にアオイがいるだけで、疲れなど感じなくなった。
ずっと真夜中でいいのに。(③(Ⅱ))
翌日、脱走犯の居場所を追って、警察がアオイの家をたずねに来た。家は既にもぬけの殻だった。
未だ彼ら一行の逃避行は続いているようだ。もしあなたが街中で、お揃いのカメのストラップをつけている二人と、後ろをつけるチャラい二人、この四人を見かけたら、私にそっと教えてほしい。少し話をしたいのだ。
純粋な愛情は、愛すがために犯した罪を洗い流してくれるだろうか? ということを。
(fin)
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会話のテンポが心地よい解説です。
物騒な言葉の並ぶ簡易解説から一転、笑いの溢れる店舗の良い会話。
先に待つのが希望とは限らないけれど、不思議とすっきりした後味がありました。
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【長い解説】
「おかしらぁ! 今日もお殿様からの問題に悩んでんのか?」
「あぁ…半助か。私のことを『おかしら』と呼ぶのはやめなさいと言っただろう? 大工の頭領でもあるまいし。なかなか思いつかないのは本当だけどね。③あぁ、ずっと食事を作らないで済む真夜中だったらいいのになぁ(15)」
「だってお城で料理する人の中で一番偉いんだろう? 一番偉い人は『おかしら』って呼ぶもんだ、って父ちゃん言ってたもん。しかし、おかしらでもそんなに悩んで思いつかないなんてお殿様は難しい問題を出すんだなぁ。こういうのを④『頭痛が痛くなる問題』(17)って言うんだろ?」
「それを言うなら『頭が痛くなる問題』だね。寺子屋でも教わっただろう?」
「勉強は好きじゃねぇもん…第一、寺子屋はおいらん家から遠いし、周りの奴らも行ってないから行きづらいんだよなぁ。 ところで、殿様の問題って何なんだ?ずっと聞いてるけど教えてくれないじゃないか」
「一応、秘密にしないといけないからね。でもここまで毎日聞かれちゃ教えない訳にはいかないな」
「やったぁ! 寒い中ひと月ずっと川べりに通っておかしらと話したかいがあるな!」
「ただ、他の人には秘密にするんだよ。その約束は守れるかい?」
「守る!」
「じゃあ教えてあげよう。お殿様はね、『水の無い場所に住み、光輝く魚を食べたい』とご所望なんだ」
「『水の無い場所に住み、光輝く魚を食べたい』? なんでまたそんなもんを食いたいって言うんだ?」
「私も詳しくは知らないんだけどね、夢の中でお告げがあったそうだよ」
「へぇ。おかしらも大変だな」
「そうだねぇ。魚は水の中に住んでいるものだからね。最初に、蟹だとか蛙だとか陸にも上がる生き物を挙げたんだが、『魚じゃない』と突っぱねられてしまったよ」
「それじゃあ無理じゃないか? おいらは海の魚には詳しくないからよぉ。川や山に住む生き物なら田んぼ仕事の合間にしょっちゅう捕ってるけど」
「それでも魚は川で泳いでいるだろう?」
「そりゃ魚だから川で泳ぐにきまって… あ!」
「どうしたんだい?」
「どじょう! どじょうはどうだい?」
「どじょうは知ってるが、川や田んぼに住んでいるんだろう?」
「そうなんだけどよ、冬になって田んぼに水がなくなると⑤土の中にもぐって冬を越すんだ(28)」
「そりゃぴったりじゃないか! 料理すればうまいしな!」
「しかも、腹のあたりは⑥銀色っぽいし(30)、なによりぬめりがあるから光って見えるぞ!」
「半助、でかした! これでお殿様にお出しできるぞ」
「おかしらぁ!だからって撫ですぎだ!①髪の毛が絡まっちまう!(9)」
「どうせ②照れ隠しだろう?(12) 本当はうれしい癖に何言ってんだ」
「そんなんじゃないやい! 早くどじょうを取りにいかないでいいのか?」
「さすがに今日じゃ間に合わないからな、この後城に戻って捕ってもらうよう頼むつもりだ」
「ちゃんと田んぼから捕るんだぞ! 泥ごとお殿様に見せたら驚くだろうなぁ」
「なるほど、そうだな。ぜひそうしてもらおう! うまくいけばお前にも何か褒美をやろう」
「じゃあ、おいらうちの田んぼから捕ってくる! 明日持ってくるから!」
「分かった、ありがとうな。 …ちょっとここで待っててくれるか?」
そういって男は城から甕を持ってきました。
「どうしたんだ?この甕?」
「これは城で味噌なんかを入れるのに使っている甕だ。この甕の中に泥とどじょうを入れてほしい。そうすれば怪しまれずに城に持っていけるだろう」
「合点承知の助!」
その翌日。半助が持ってきた甕の中には確かに泥にもぐったどじょうが何匹も。その甕を⑧こっそり受け取って持ち帰りました(33)。
そしてお殿様に「水の無い場所に住み、光輝く魚」を見つけたと報告して、甕を差し出しました。お殿様は興味津々の様子で⑦甕を覗きました(31)。
「これは泥と…どじょうか?」
「はい。左様にございます。田んぼに水がなくなる冬の間、どじょうはこうして泥の中にもぐって冬を越すそうです」
「なるほど! しかもぬめりがきらきらと光って見えるな。いかにもどじょうは『水の無い場所に住み、光輝く魚』である! 今から料理して参れ!」
「かしこまりました」
その後、天ぷらや鍋ものにして出されたどじょうにお殿様は大満足。
「今回のことでそなたに褒美をやろう、何がよいかの?」
「はっ。では僭越ながら。今回このどじょうを見つけることができたのは半助という田んぼ仕事をする少年のおかげです。半助は家の仕事であまり寺子屋に通えていないようなのです。ですから半助の家の近くにも寺子屋を作ってはいただけないでしょうか」
「ふーむ…確かに農家の家の子供であっても読み書きそろばんができるに越したことはないな。あのあたりにも寺子屋を作るよう家臣にも命じよう」
「ありがたき幸せ」
そうして半助の家の近くには寺子屋ができ、農家の家の子供たちも読み書きそろばんを勉強することができるようになりました。
半助はどうなったか、ですか? 彼はこの一件以来、真面目に勉強をして田んぼの生き物を調べては色んな人に教えているそうです。
彼の調べた功績が後の世で「かつての農村の生態系を知る貴重な資料だ」として博物館に飾られるようになるのはまた別のお話。
めでたしめでたし
【終わり】
参考文献 https://www.honda.co.jp/hondawoods/forest/library/006/
【簡易解説】
城の料理長は殿様から出された「水の無い場所に住み、光輝く魚を食べたい」との難題に悩んでいた。しかし、料理長を頭(かしら)と呼んで慕っている農家の少年から「田んぼに水がない時期はどじょうは泥の中に住む」と教えられ、水の無い田んぼで捕ったどじょうを献上することで難題を解決した。
[編集済]
知識の身につく匠な解説です。
二人の会話のテンポが良く、それでいて時代背景にきちんと即しているのがお見事。
冒頭に時代や立場の分かるワードが提示されているのが分かりやすく、解決の流れも鮮やかでした。
[編集済]
投票会場はこちら→https://late-late.jp/mondai/show/14536[編集済]
ご投稿の際は題名に<ロスタイム>を付記してください。
ロスタイム投稿作品も、サブ投票は投票対象となります。
参加者一覧 12人(クリックすると質問が絞れます)
ついにやって参りました、「第36回正解を創りだすウミガメ」結果発表のお時間です!!
サブ賞も多くあるため、サブ賞は各ジャンル1位のみ、最難関要素と最優秀作品賞はベスト3を発表していきます!
(投票所の方では全ての開票結果をまとめておりますので、そちらもどうぞ!)
早速発表いたしましょう!!まずは、最難関要素です!!
◇最難関要素賞◇
第二位(1票)
🥈②「照れ隠しです」(ほずみさん)
🥈③「ずっと真夜中でいいです」(「マクガフィン」さん)
🥈⑤「土の中にもぐります」(きっとくりすさん)
ベスト3と言いながら早速2位からの発表。
使いやすそうな要素こそいざ使うとなると難しい「照れ隠しです」。
なんだか聞き覚えのあるフレーズ、そしてピンポイントな指定は納得のいく使い方が難しい「ずっと真夜中でいいです」。
何が? 人? 物? 動物? と頭の中に「?」が飛び交う「土の中にもぐります」。
以上3要素が1票獲得で第二位となりました。
最難関要素賞に選ばれたのは……
第1位(3票)
🥇④「頭痛が痛いです」(クラブさん)
🥇⑦「かめのぞきます」(アカガミさん)
こんな面倒くさい要素を2つも選んだのはどこのどいつだ!
そんな叫びが聞こえてきそうなこちらの要素が見事第1位を獲得いたしました。
(すでに記憶が曖昧ですが、どちらもランダムではなく任意で選んだ記憶があります。自分が創りださないのをいいことに。陳謝)
「頭痛がする」でも「頭が痛い」でもなく、「頭痛が痛い」とする意味を回収するのは非常に困難。
一方、登場人物のキャラクター性や感情に上手く使った作品も見受けられました。
そしてマトモに要素を消化させる気がないとまで言わしめた「かめのぞきます」。
亀、甕、……除き、覗き、……幅があるようでない、おまけに助詞もない非常に難解な要素。
甕覗色については浅学ながら私も今回はじめて知りました。
とにもかくにも、納得しかない最難関要素賞の受賞となりました!
それではサブ賞の発表に移ります!
まずは匠賞から行きますよ!
最も皆様を唸らせたのは、この作品だっ……!
◇匠賞◇
第1位(6票)
🥇⑤『みずからのスープ』(作・クラブさん)
驚異の40要素全回収。そして誰もが一度はやってみたいと憧れる本歌取り。そして何より問題文の解説。
この3つを同時に達成することなど、まず不可能に違いありません。
ただ一人、この方を除いては!
あまりにお見事な手腕に、圧倒的な票差をつけての第1位です。
クラブさん、おめでとうございます!
◇エモンガ賞◇
続いてはエモンガ賞です!
勝利のエモンガが微笑んだのは……?
第1位(7票)
🥇④『月の綺麗な夜に』(作・「マクガフィン」さん)
明らかな「終わり」を思わせる冒頭。そこから続く「幽霊」と少年の暖かくも切ない交流。そして……。
これをエモンガと言わずになんと呼ぶ!
多くの人の心を揺さぶって、こちらも大差をつけての受賞です。
「マクガフィン」さん、おめでとうございます!
◇スッキリ賞◇
サブ賞の最後を締めくくるのは、スッキリ賞です!
皆様を最もスッキリさせた作品は……?
第1位(5票)
🥇⑦『冬の泥鰌』(作・ほずみさん)
落語のような会話劇に、起承転結のしっかりした話運び。
お殿様に課された難題が子供の視点で見事に解決するのも、まさに「スッキリ」!
ほずみさん、おめでとうございます!
さて、続いては皆様お待ちかねの本投票です!
心の準備はよろしいでしょうか?
では、発表いたします!!
◇最優秀作品賞◇
第3位(3票)
🥉⑥『純愛仕立ての逃避行』(作・Duffyφさん)
脱獄という壮大かつ物騒なキーワードに、どこかお茶目で愛らしい登場人物たち。
脳裏に映像が浮かび、気がつけば四人の行く末を固唾を呑んで見守ってしまいます。
「水が無かった」ことがそのまま「問題が解決」することに繋がることで、納得感も高くなったのではないでしょうか。
読む人によって解釈の異なりそうな締め方も非常に印象的です。
Duffyφさん、おめでとうございます!
第2位(5票)
🥈⑦『冬の泥鰌』(作・ほずみさん)
おかしらと半助、二人の関係性が伝わる会話劇はお見事です。
初めに「お殿様」「寺子屋」と時代や立場の分かる言葉が提示され、時代に即しながらも難しくない会話、そこから描かれる鮮やかな問題解決はまさに落語のよう!
それにしても一体どこから「泥鰌」というキーワードを見つけてこられたのか、本当にお見事です。
ほずみさん、おめでとうございます!
さて、いよいよ最優秀作品賞の発表となります。大接戦を制し、栄えある最優秀作品賞を受賞したのは……!
とその前に。
初めにお伝えしておきます。今回の最優秀作品賞は2作品の同時受賞となります!
それでは改めまして最優秀作品賞、最初の作品は……!
彼はその感情に、ひどくありきたりな名前をつけることにした。
🥇④『月の綺麗な夜に』(作・「マクガフィン」さん)
最優秀作品賞、もう1作品は……!
「これは本当にウミガメのスープですか?」
🥇⑤『みずからのスープ』(作・クラブさん)
改めまして、最優秀作品賞はこちらの2作品です。
第1位(6票)
🥇④『月の綺麗な夜に』(作・「マクガフィン」さん)
🥇⑤『みずからのスープ』(作・クラブさん)
エモい。エモすぎる。それしか言葉の出なくなるような『月の綺麗な夜に』。
「幽霊」の少女と、言葉にできぬ感情を抱える少年の出会い。
少女との会話の中で己の感情に名前をつけられ、新たに芽生えた感情に名前をつけ。
そして、つけられていなかった名前が、二人の関係を前に進める。
読後に抱えるこの気持ちに名前をつけるならば、それは「エモンガ」であり「最優秀作品」なのでしょう。
湖を舞台としながら「水」を物理的な水ではなく名前として回収するのもお見事でした。
「マクガフィン」さん、おめでとうございます!
これぞ匠! とんでもない情報量の『みずからのスープ』。
夢か現かも分からなくなる不思議な雰囲気に浸っていると、いつの間にか40の要素と本家「ウミガメのスープ」、そしてもちろん今回の問題まで回収されている。
決して量は多くなく、不穏ながらもするりと飲み干せるスープに、気がついたときには舌も胃も大満足です。
数多の要素に独特な雰囲気、非常に味わい深い「匠」のスープは文句なしの「最優秀作品」です。
クラブさん、おめでとうございます!
そして、最後を飾る、シェチュ王の発表に移りましょう!
今回は複数投稿はなく、しかし最優秀作品賞は同率一位。
ですので投票者の頭数が多い方がシェチュ王となります。
発表します。今回のシェチュ王はこの方……!
シェチュ王
👑クラブさん👑
おめでとうございます!
皆様、盛大な拍手をお願いいたします!!!
また、見事シェチュ王に輝いたクラブさんには、次回である「第37回正解を創りだすウミガメ」の出題権が賞与されます!!
本当に、おめでとうございます!!
なお、コインチケットコードについては一週間を目処に参加者様へミニメにて送付予定です。
同率受賞がございますため、贈呈につきましては事前告知通り先に投稿された方が優先となることをご了承ください。
それでは、これにて「第36回正解を創りだすウミガメ」閉幕となります!
改めまして、皆様、本当にありがとうございました!!
ハシバミさん、主催ありがとうございました!お疲れ様でした。そして、クラブさんシェチュ王おめでとうございます!シェチュ王を取られるのも時間の問題だと思っていたので、ついに……!という感じなのです。[21年07月04日 22:35]
ハシバミさん、主催運営ありがとうございました!!!!非常に楽しくやらせてもらいました。クラブさんシェチュ王おめでとうございます!!次回開催も楽しみにしております![21年07月04日 22:28]
ゲマトリアさん、もちろんです! 参加宣言は必須ではありませんので、6/27(日)23:59までに解説をご投稿いただければご参加となります。ぜひぜひ、ご投稿をお待ちしております![21年06月21日 21:08]
長い間頭を悩ませていた問題が解決したのは、水が無かったためだという。
いったいどういうこと?
■■要素一覧 ■■
①髪の毛が絡まります(9)
②照れ隠しです(12)
③ずっと真夜中でいいです(15)
④頭痛が痛いです(17)
⑤土の中にもぐります(28)
⑥銀色です(30)
⑦かめのぞきます(31)
⑧こっそり回収します(33)
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
出題 ~ 質問数が 40個 に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後 ~ 6/27(日) 23:59 まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後 〜 7/3(土) 23:59 まで ※予定
☆結果発表
7/4(日) 21:00 ※予定
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!