◆◆ 問題文 ◆◆
夜でもないのに月を眺める女。
彼女がかごをあけたことで、メダルが一つ、消えたという。
一体どういうこと?
────────────────
ウミガメのスープ、そして「創りだす」を愛する皆々様。
大変お待たせしました。
正解を創りだすウミガメのお時間です。今回司会を務めます、ほずみと申します。以後お見知りおきを。
前回はこちら→https://late-late.jp/mondai/show/12346
暑かった夏はどこへやら、もうすっかり秋らしく、もしくは冬の気配まで感じられるようになりました。
秋といえば、皆さまは何を思い浮かべますか?
中秋の名月に食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、読書の秋、最近ではハロウィンも秋の風物詩の一つです。 その中に、ぜひとも「水平思考の秋」も入れてほしいものです。
そんな訳で、秋の夜長に「第28回創りだす」はいかがでしょう?
↓いつものルール説明↓
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[10/18(日)21:00頃~質問が50個集まるまで]
まず、正解を創り出すカギとなる質問(要素選出)をして頂きます。
☆要素選出の手順
1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
2.皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切りです。
選出は全てランダムです。今回も、ある程度の矛盾要素をOKとします。
選ばれた質問には「YES!」もしくは「NO!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。例は今回も田中さんで譲りません。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~10/28(火)23:59]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版
http://suihei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
らてらて鯖:
https://latelate.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
☆作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。タイトルは作品フェーズが終わり次第返信させていただきます。
4.次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。
つけ忘れていた場合は、お手数ですが適当な文字を入力した後に質問の編集画面に飛び、作品をコピペしてください。
5.本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
※作品のエントリーを辞退される際は、タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~11/4(水)23:59]
※作品数多数の場合や司会者の判断により、期間を延長する場合もございますのでご了承ください。
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
☆投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
3.今回もスッキリ賞を設けさせていただきます!
※ 「スッキリ賞」の投票基準はいかに短く分かりやすくまとまっているかです。短めの解説や長い解説の要約のみが対象となります。エモンガ賞、匠賞と同様に、コチラも任意です。
4.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
10/18(日)21:00~質問数が50個に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後~10/28(水)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後~11/4(水)23:59まで ※予定
☆結果発表
11/5(木)22:00 ※予定
◇◇ お願い ◇◇
要素募集フェーズに参加した方は、できる限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
質問だけならお手軽気軽、でもメインはあくまで投稿・投票です。
投稿は意外と何とかなるし、投票もフィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
皆様の思考や試行、思う存分形にしてみて下さい。
◇◇ コインバッジについて ◇◇
シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…5c
投票参加賞……5c
上記の通り賞に応じてコインを発行する予定ですので、皆様ぜひお気軽にご参加くださいませ。
…以上となります。
それでは、これより要素募集フェーズを始めます。再度確認ですが、質問は一人、4回まで!
新古参問わず、だれでもご参加可能です。珠玉のスープを創りだしましょう!
位置について、よーいスタート!!
結果発表です!
かの夏目漱石氏の逸話で有名な「月が綺麗ですね」が関係あるかナ? [編集済]
YESNO あれ、どこから出てきた逸話なんでしょうね?
★投稿の際の注意★
①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。
④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
⑤今回も原則として簡易解説をつけていただきたいと思います。
作品の冒頭もしくは末尾に、問題文の問いかけに対する簡易解説(要約)をつけてください。文字数や行数の指定はありません。
※作品自体が簡易解説のような形である場合は、新たに要約をつける必要はありません。
【簡易解説】
ある日の朝、窓の外に傷ついたキツツキを見つけた女。「月」と名付けて、傷が癒えるまで保護することにする。一か月後、すっかり情が移ったものの野生に返す決心をし、籠を開け外へ放つ。お気に入りだったおもちゃのメダルと共に、キツツキは空へ消えていった。…かと思いきや実は隣で飼われていたことが判明。
朝起きると、外の木に可愛い鳥が留まっているのが目に入った。
よく見ると傷ついているようだ。他の鳥と喧嘩でもしたのだろうか。
おいで~と窓から手を伸ばすとヒョイッと乗ってきた。①(1)
ネットで調べるとドングリキツツキという鳥らしい。キツツキだからツキちゃんだな。漢字を当てるとしたら月。突よりかわええやん。
ひとまず餌を買ってきて与える。餌はドングリ。名は体を表すね。
ドングリを啄み、そわそわと落ち着かない様子のツキちゃん。②(8)
そらそうか、知らん人の家だからな。
一旦私は外に出て、家に慣れさせる。ついでに今後の買い物もしてこよう。
鳥かごやおもちゃを見繕って帰ってくると、部屋に見覚えのない穴が。
部屋の壁へ一心不乱にクチバシを打ち付けるツキちゃん。そういやこの子キツツキだった。
しかも穴の中にドングリを埋め込んでいる。これがこの種の生態らしい。③(12)
見た感じもキモイが何より取り出しにくい。せんべいの袋を留めてあった針金を使って何とかかきだす。
その間にも穴あけ作業を進めるツキちゃん。
今度の穴はひと際デカイぞ。啄みたるは500円玉。へそくり貯金か。
慌てて500円玉を取り上げ、代わりに妖○ウォッチのメダルをあてがう。④(20)
隣の子供からもらったものだ。絵柄もドングリだしちょうどよかろう。
……だからといって食べちゃダメだよ!もう!⑤(25)
案外おバカなのかもしれない。
そんなツキと暮らして一か月。
翼の傷もだいぶ癒えてきた。もう飛べるだろう。
ホントはずっと一緒に居たいけど、元々は野生で暮らしていたんだものね。⑥(31)
「ツキ。」
じっと見つめあう。
何となくで名付けたけど、お前は本当に可愛いなあ。名は体を表すね。⑦(35)
「ケガは治った。お前はもう自由なんだ。」
自分に言い聞かせるように。私の我儘で、ツキの限りある命を縛ってはいけない。⑧(39)
部屋の窓を開けた。冷ややかな朝の風が顔を撫でる。
次いで鳥かごを開けると、ツキが妖○ウォッチのメダルを咥えて出てきた。
随分お気に入りのようで、鳥かごに持ち込んでいたようだ。
何度も食まれたボロボロのメダルが、ツキとの思い出を物語る。
よし、それはお土産にあげるよ。
両手でツキを包み、窓の外に掲げる。⑨(44)
一瞬の間のあと、力強く羽ばたくツキ。
私の胸に沢山の宝物を残して、美しい月はメダルと共に朝の光に消えていった。⑩(48)
…と思いきやすぐにUターン。隣家へと入っていく。
ど、どういうことだよ。お隣りへ行って様子を見る。
「あー帰ってきた!どこ行ってたん!」
子供と仲良さそうに戯れるツキ。
ネットで調べると、ドングリキツツキは日本には野生がいないらしい。
もともと飼い鳥だったということか。
ちょっぴり複雑だけど、これでまた会えるねツキ。
-終-
[編集済]
* [良い質問]
※要約:ハマっているゲームの世界に転生した「私」は自らの死亡エンド回避の為に勇者(のちの魔王)の悪堕ちを防ぐべく、仲間に裏切られ塔に入れられた勇者を救出(鳥籠を開ける)、脱走に成功するがゲームの通常進行上とのギャップにより謎のバグが発生、プレイヤーがゲーム上で集める必要のあったメダルが一つ消えてしまうが彼女にはもう関係の無いことだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「何てこったーー…」
豪奢ではないが上質なベッドの上で俗に言う前世の記憶を取り戻した「私」は思わず頭を抱えた。
(「私」は高嶋雪乃、独身オタク会社員、昨日からの連休でゲームとアニメにどっぷり浸かろうと家に篭っていた)
(私はルチア、この国の第8王女にして巫女)
(ここは月が二つ上る剣と魔法のファンタジー世界、と言うか)
(どう考えてもあの乙女ゲー『紅雪白雪』の前日譚でバッドエンド確定です本当にありがとうございましたー!)
(やだよぉ〜〜巫女ルチアって確か魔王になる前の勇者だったカイルが闇堕ちしたら真っ先に殺されるやつじゃん!!)
(本編の隠しルートでカイルはヒロインに救われるけどさ、それまでにルチアは死んでるの確定じゃん?私は今生きてるんだよ!)
(物語のキーポイントは一の月と二の月が互いに最も接近して魔力が高まるとされる日、窓の景色からしてもまだ猶予がある)
(私の死亡エンド回避の為に頑張るぞー!)
「――なんて思っていた時期が私にもありました」
ナニコレ。権限低すぎて泣けてくるんですが。
我、巫女様ぞ?曲がりなりにも王族ぞ?
未だにカイルに接触どころか顔を見ることも叶っていません!
情報も入って来ません!ひたすら無為に時間が過ぎる!!
(幽閉以前の出来事の正確な日付まではゲームで紹介されて無かったから結構この時間ロスはまずいのでは…)
(それにしてもままならんね、私も王族の血を引いてるしレア能力の魔法が使える!ってワクワクしたら一番出来が良くて毒が分かる魔法と認識障害魔法だったしなぁー、かくれんぼ最強だったけどね!)
(もういっそうちの国の宝物庫お宝ざっくざく⑩(48)なのは知ってるからどさくさに紛れてちょっと拝借してさっさと楽隠居したい、お気楽ニートでずっとこのままでいたかった⑥!(31)あー白金貨が500円玉とほぼ同じくらいの大きさ厚さで郷愁感じちゃうー特別感あって良いよね、流石にこっちのは価値が高すぎるけど)
とか思っていたら!ついに!来ましたよ勇者様が!
拘束されてボロボロだけどね!!
一気にXデーが近づいちゃったよ!
確か幽閉から1、2日で処刑が決まって、
その間に悪魔と契約して生贄でルチアが死んで、それから処刑を見物に来ていた人々と城もろとも吹き飛ばされるんだったはず。
塔に閉じ込められたというゲーム上の設定は覚えてたけど、その世話役を私ひとりにさせるとかやっぱり現実になっても無謀ですよ父上、いや国王陛下。
(巫女って実際はテイのいい落ちこぼれ王族の厄介払い先なんじゃ…)
一応前世の影響で身の回りのことは大体一人でできちゃうけどね。
給仕なんてのもほほいのほいですよ。
塔の中の戸に設けられた窓からそっと手を出して①(1)トレーを渡す。
「それ、あんまり食べちゃダメなやつですよ⑤(25)。少しずつ魔力と体力を奪うタイプの毒が入ってますから。命が大事なら⑧(39)お手洗いにでも捨ててくださいね。…王族の人間の言うことなんか信じられないかも知れませんが」
「…今更大事にするような命など無い。勇者だなどと煽てらた結果がこの様だ」
やっぱり病んでるよなぁ。私は前世含め人生経験がショボいからなんて言ったらいいのか分からない。
「とりあえずそれ食べて衰弱死とかはやめてくださいね。明日からは私がご飯作りますから」
ってなに言ってんの私、バッカじゃね!?
ほらーあっちも固まってるよ!
明日の朝日もロクに拝めるかわからないのに!
でも今チャンスじゃないかな!?
人の弱みにつけ込むなんて?上等だコラ。
何もしないで死ぬよかマシだわ。
一気に畳みかける!
「それと」
「先程明日からと言いましたがカイル様の処刑までの時間がありません」
「この塔を出ることができてもすぐに殺されるでしょう」
「そこで私が認識障害の魔法をかけます」
「そうすれば人に認識されずに抜け出せます」
「なので、――ここを出るのなら私もご一緒させててください」
悪魔が誘惑するより先にこっちが誘ってやんよぉおお!
「…何故俺にそこまでしようとする?」
「だって普通に生きたいじゃないですか、死にたくないじゃないですか!」
「それに、私は人を救おうとした貴方がこんな末路を迎えるのは嫌です」
二つの月が窓から重なって見える。
それを少しの間眺めてから私は自分と彼とを隔てる戸を、
ーーーこっそり一つ拝借していた袋詰めの白金貨に魔力を通し勢い良くぶち抜いた。私のしょぼい攻撃魔法でも威力が増大されている。500円玉の代わりに④(20)白金貨バージョンブラックジャック!
手を突っ込んで戸を開ける。あ、ポカーンとしてる。
そんな顔でも美形は美形なの得だよなぁ。
こちとら転生してもモブ顔だというのに。
「で、どうしますか?」
自分がまるで悪魔になった気分だけれど、
内心はガクガクブルブルかつやけっぱちだ。
でもどうかお願いだからこの手を取って欲しい。
「――頼む」
え、カイルさん傷心中とはいえチョロすぎない?大丈夫?
「あいつらに見限られた時に開いた穴があんたといれば何かが詰まっていく③(12)感じがする」
ま、まぁ良いや。
「交渉成立ですね」
それからは拍子抜けレベルで事が進んで、
あっさり塔からも城内からも抜け出した。
私のハズレ魔法が隠れチートだった件。
そして運命の日を通過し、今私達は国境まで来ていた。
この先は前世でもほとんど知らない世界だ。
流石に落ちつかない②(8)気持ちになる。
私はとりあえず今後人前では偽名で呼んでもらうよう頼んだ。
シャーロットといういかにも可愛い感じの名前⑦(35)を所望した私にカイルは呆れた眼を向けた。解せぬ。
そして国境を越えたとき、私は思わず両手を空に向かって掲げた⑨(44)。
「よっしゃー!!」本当に自由だ!
…
……
『統一暦××年×の月 元〇〇王国第8王女兼巫女 ルチアの生存確認』
『同年同月 魔王カイルの誕生を観測せず 以降要経過観察』
『同年同月 〇〇王国の王都△△壊滅を観測せず』
『ゲーム……に進行上の深刻なバグが発生した可能性有り』
『魔王カイルのモチーフメダル「憤怒」が消失』
『ゲーム……の続行不可能』…
ーend?ー
[編集済]
*
簡易解説:月を模したブローチを眺めて初恋を思い出す年老いた女。
将来を誓い合いながらも立場の違いから引き裂かれた2人は、『離れていても心は傍に』という想いを込めて、互いの品を交換する。彼女が竹籠に入れていた記念メダルは初恋の相手に渡り、その場から消えたのだった。
長い解説↓
『俺が…俺がいつか、一人前になったら』
『あんたのためだけに、作ろうと思う』
『待っていてほしい』
『約束は、絶対に守る―――…』
※※※※※※
きぃ、きぃ、と小さく軋む音がする。
音に合わせて、ロッキングチェアは規則正しく、小さく揺れる。
開かれた窓から見えるのは、秋晴れの澄んだ空。冷たい風がカーテンと室内を冷やしていく。
ブランケットを肩と膝にかけた老婦人はそこで月を見ていた。
月、と言っても、自然のソレではない。手のひらサイズの月を模したブローチだ。
真昼の月のように淡く儚げなそれは、彼女にとって青春の一品である。
彼女の青春は、実に半年も満たない短いものであった。
けれど、それには熱く燃え上がるような、確かな愛があった―――…。
※※※※※※
彼女はいわゆるお嬢様だった。
世間知らずな箱入りお嬢様。
秋空の澄んだ空に浮かぶ真昼の月を見て、まぁきれいだわと【①(1)窓からそっと手を出して】伸ばしてみるような、
追いかけたらもっと大きく見えるのかしらと月に向かって走ってしまうような、危なっかしい少女だった。
月を追いかけて並木道を走っていると、一瞬靴の裏に違和感が走る。
何かを踏んづけたようだ。
地面を探してみると、落ち葉に紛れて謎の黒い玉が転がっていた。
なにかしらと拾って眺めてみる。
「…チョコレートみたいね」
「【⑤(25)食いモンじゃねーぞ】」
突然降ってきた男の声に、びくりと肩を跳ねさせ、振り返る。
セットされてない野性的な短髪に、男らしい体格。
彼女が今まで見たことない風貌の、同世代くらいの男が立っていた。
「これ、あなたの?」
「おう。うっかり落としちまってな。拾ってくれてありがとな」
周りにいたことのないタイプの男に、まるで冒険に出たみたいにどきどきする。
拾った黒い玉を返しながら興味津々で問いかけた。
「それ、なぁに?」
「星」
「星?」
「火薬だ。花火の輪になる『星』」
「花火の星!?すてき!月を追いかけて星を拾うだなんて!運命的だわ!」
「は…?」
不思議なことを言う女に怪訝な顔を向ける。
彼女はにこにこと楽しげに続けた。
「もう秋だけれど、あなたは花火を作っているの?」
「…おう。まぁまだ修行中の身だけどな」
「すごい!見学ってできるかしら?ぜひ見てみたいわ!」
ころころと表情を変えて期待に満ちた顔をされれば、職人気質の男も無碍にはできない。
「…まぁ、少しだけなら…」
「まぁ嬉しい!ありがとう!…えーと…」
「…あぁ、咲太郎。」
「咲太郎さん!私はさくらです。よろしくお願いしますね!」
女、改め、さくらと、男、改め、咲太郎は、こうして出会った。
資産家の箱入り令嬢と、しがない花火屋のせがれ。
本来なら知り合うどころかすれ違うことすらあり得ないほど、立場に差があった。
それゆえ、なのかもしれない。
この2人が案外うまくかみ合うのに、時間はかからなかった。
「咲太郎さん!【③(12)ここに何かが詰まっています】!」
「さくらさん!?それは花火だ!覗くな!危ないから!」
「はい!…あ!これはなんて書いてあるんですか!?」
「分かりやすいように星の変化を…」
「なるほど!あぁ、すごいわ!【⑩(48)お宝を見つけた冒険者ってこんな気持ちなのかしら】!!」
「…ってさっきから【②(8)落ちつかないな】!!完成品しかないとはいえ火薬扱ってんだ!おとなしくしてろ!」
「ご、ごめんなさい…」
「え、あ、う…俺も言い過ぎた…すまん…」
「『さくら』って名前、あんたにピッタリだな」
「え、そうですか?ど…どんなところが…?」
「【⑦(35)いかにも可愛いって感じの名前】で、似合ってる。さくらさん可愛いし」
「…咲太郎さんそういうところですよぉ…!!」
「どうした!?」
「なんでもないですぅ…!!もぉ、好き…!!」
「えっ」
「あっ」
「初デート記念に、メダル作りませんか?」
「メダル?」
「ほらこれ、日付と名前が彫れるそうです!記念に、お、お揃いで…なんて」
「俺はいらない。さくらさんだけでどーぞ」
「なんでですかー!こういうのはお揃いがいいんじゃないですかー!」
「俺こういうのすぐ失くすからな…」
「むぅ…私はやりますからね!………できた!ほらこの大きさ!この厚さ!【④(20)500円玉の代わりになりますよ】!」
「ならない。…さくらさん、そろそろ花火があがる時間だ」
「あら、いけない!急いで行きましょう」
室内から外へ出ると、パッと空が華やいだ。
赤・緑・金・青の鮮やかな大輪の花が、秋の夜空を美しく彩る。
さくらは大はしゃぎで【⑨(44)両手を空に向かって掲げた】。
「わぁ…!すごい!今の見ました!?すっごく大きかった!やっぱり花火はきれいですね!」
「秋の方が空気が澄んでるから、むしろ夏よりきれいに見えるな」
「この花火は咲太郎さんが作ったもの?」
「さぁ…半人前の花火を使うような酔狂な連中なら、あり得るかもな」
しばらく2人で寄り添って花火を眺めていた。
隣の温かな体温に安心する。さくらが咲太郎の肩に頭を軽く乗せれば、咲太郎は少し悩んで、さくらの手を握る。お互いの体温はさらに上がるようだった。
「…さくらさん」
時が止まればいいと思った。
「俺が…俺がいつか、花火師として一人前になったら…あんたのためだけに、花火を、作ろうと思う」
永遠に、延々と、この時間が続けば、私はずっと幸せでいられると、本気で。
「『さくら』の花火を」
ちょっと暴走しがちな私を、呆れたり、困ったように笑いながら、優しく手を差し伸べてくれる人と。
「待っていてほしい。必ず、作るから」
ずっと。
【⑥(31)ずっとこのままでいたかった】…。
※※※※※※
「さくらと別れてもらえないか」
無慈悲な宣告だ。
頼んでいるようで、答えはひとつしか用意されていない。
咲太郎は前に座る恰幅のいい紳士を見据えた。
座っているのは紳士と、促された自分だけ。
周りには使用人と思しき大人たちがぐるりと取り囲むように立っていた。
まったく、どこのヤクザだか。
「さくらの縁談がまとまったんだ」
「…そうですか」
予想、していなかったわけではない。
むしろ、こうなることは分かっていた。…想像以上に早かったが。
…それでも、放したくはなかった。
「すみませんが、」
「君の意見は聞いてないんだ」
ぞく、と。
背後。後頭部。なにかが。突き出されている。
「…【⑧(39)命は大事だろう】?君も、しがないながらお家を守らなければならない立場なのだから」
「………。」
…放したく、なかった。
「…花火師に、火薬を向けるとは…ずいぶん、粋な演出をなさる…」
「気に入ってもらえたかね?」
「嫌味だ」
あぁ、本当に、どこのヤクザだか。
「…分かりました」
「分かってもらえてなによりだ」
後頭部の危機感は消えたが、その威圧感は未だその場にこびりついている。
「話は以上だ。玄関は―――」
「その前に」
咲太郎はソファから立ち上がり、毅然と言い放った。
「さくらさんに会わせてほしい」
「必要ない」
「必要だ」
「別れは私から話しておく。お前が今さら」
「俺たちの関係は!!」
言葉を遮り、目の前の男を睨みつけた。
使用人に緊張が走る。
「始まった関係は、ちゃんと終わらせなければならない。あんたは、さくらさんが言って聞くようなひとに見えるのか」
「………」
「…失礼した。10分でいい。ちゃんと、終わらせてきますから」
未練も、禍根も、残らないように。
「…さくらさん」
「イヤです」
ハッキリと告げた。別れたくないと。
乱れた髪に泣きはらした目元。そんなみっともない姿を見せたくなくて、彼に背を向けたまま、短く告げる。
「…さくらさん」
「イヤです…!」
縁談なんて勝手に決めて、お父様なんて大嫌い。
私にはもう、心に決めた人がいるのに!
「縁談なんて知りません。私には関係ありません。私には咲太郎さんがいます!あなた以外の人となんてイヤです!!」
そう言って彼に抱き着いた。
恋人のそれというより、駄々をこねる子供のような、幼稚な行動。
それでも彼は、何も言わずに優しく背中を撫でてくれる。
この人がいい。この人しかいない。この人以外なんて。
「攫ってください!私を連れて行って!咲太郎さんと一緒なら、一緒にいられるなら、もうわがまま言いませんから!」
「…さくらさん」
「お願い…わがままはこれで最後にしますから…おねがい…」
しがみついたまま、座り込んでしまう。
私と咲太郎さんは密着したままくっつきあっていた。
「…俺は、別れを言いにきたんだ」
咲太郎さんは私のことが嫌いになってしまったの?
だからそんなこと言うの?
「攫うことも、連れていくことも、できない。あんたのわがままを聞いてやることも、もう、ない」
そんな言葉、聞きたくなかった…。
「…まぁ、さすがに、縁談相手のことは知らないけど、たぶん俺なんかよりずっと金持ちで、優しくて、ハンサムなひとなんだろう。身の丈に合った、品のある男と一緒にいた方が、あんたも幸せになれる」
「イヤ…イヤ…私は、あなたがいいです…咲太郎さんが好きです…」
「俺もいずれ、身の丈に合った女房をもらうんだろう」
「!! イヤです!あなたが私以外の女の人と一緒になるなんて!」
「さくらさん!」
私の未練を一刀両断するような声で、私の名を呼ぶ。
あぁ、あなたの目はいつだって、まっすぐだ。
「俺も、あんたも、お互いじゃない誰かと一緒になって、家庭を持つことになる。それもまた、ひとつの幸せなんだと、俺は思う」
「そんなの…」
「きっと俺は、その誰かのことを好きになる」
「!!」
「好きになる。大事にする。だけど」
ふいに、距離がなくなった。
力強く抱きしめられていた。
未練、惜別、悲痛、愛情。複雑な感情を伴って。
「『愛している』のは、お前だけだ。さくら」
息が止まる。
私が固まっているうちに、彼はポケットから何かを取り出した。
月のブローチ。
その淡い存在感は、咲太郎さんと出会うキッカケになった、あの真昼の月のようだった。
「これ…」
「抜き身で悪いが…プレゼントしようと思って、買ってきた。そんな大層なもんじゃないけど」
「…ちょっと待っててください」
私は立ち上がり、ふらつきながらも、宝箱にしている小さな竹籠を開け、中に入っていたものを取って戻った。
「これと、交換しましょう」
そう言って差し出したのは、メダル。
初デートのとき、私だけ記念で作ったあのメダルだ。
「さくらさん…」
「別れを、受け入れます。でも…私の心は、あなただけのものです。わたしの『心』を、持って行ってください」
「…分かった。俺の『気持ち』も、持って行ってくれ」
メダルとブローチが、互いに渡る。
それはさしずめ、永遠の誓い。
たとえ別れて、離れて、他の誰かと一緒になったとしても、
私の心は、あなたの元に。
「約束、守ってもらえるの、待ってますから」
「あぁ、約束は絶対に守る。何年かかっても」
「愛しています。咲太郎さん」
「愛しているよ。さくら」
「「愛しているから、さようなら」」
※※※※※※
ひゅう、と凍えた風で、頭が覚醒した。
すでに外は暗いのに窓は開けっぱなし。ロッキングチェアはほぼ制止していた。
「あら…私ったら…。もう、歳をとると時間感覚がなくなってイヤねぇ…」
冷えた身体をブランケットで包みながら、窓を閉めようとする。
(確かに…幸せになったわ…)
縁談相手は、とても良い殿方だった。
優しく、知性に富み、品のある男だった。子供もできた。孫だって。
1番望んでいた形とは違うが、確かに幸せになった。
あれから、もう…60年は経っただろうか。
私は今も、同じ部屋で、秋の空を見ている。
あなたも幸せであればいい。
そう想いを馳せながら、窓に手をかける。
すると、
どん、ぱぁん
花が咲いた。
鮮やかな、ピンクの、花が。
今のは…
どん、どん、と打ちあがる音と、ぱぁん、ぱぁんと、咲いては消えるを繰り返し。
それはまるで、短期間で熱く燃え上がり、最後は儚く、跡形もなく消えた、あの時の恋のように。
秋の夜空に、『さくら』が咲いていた。
「もう…!歳を取ると、目がぼやけていけないわ…」
目頭を拭い、あの時の約束を、しっかり目に焼き付ける。
あの花の根元に、あなたはいるの?
「私は今でも、あなたのことを愛しているわ。咲太郎さん…」
「なーじいちゃーん。この真っピンク花火、どうせなら夏の大会とかデカいとこで打ち上げればよかったじゃんかー。なんでこんな中途半端な時期にこんなとこで…」
「バカ野郎!この花火は1人用なんだよ!」
「え?」
孫の疑問に一喝入れた老齢の男は花火を真下から見上げながら、
「…俺は今でも、あんたのこと、愛してるよ。さくらさん」
ぴん、と何かを指で真上にはじき飛ばした。
くるくると回るソレは、500円玉のような大きさをしていたという。
【終】
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*
【簡易解説】
幼稚園の運動会の玉入れの最中に、昼間に見える月が珍しくて余所見をしながら走り回っていた女の子は、
玉入れのカゴにぶつかって倒してしまい、中身を全て空けてしまった。そのせいで、優勝チームにもらえるメダルを逃してしまった。
【簡易じゃない解説】※問題文部分について知識は不要ですが、
それ以外の部分は全面的にニンテンドー64専用ソフト「バンジョーとカズーイの大冒険」を知っていることが前提となります。
はいどうもー!「バンジョーとカズーイの大冒険」実況プレイ、続きをやって行きましょう。
えーと、前回はマンボまうんてんが終わって次のステージの入り口を開けたところで終わったんだよね?
今回から新しいステージ、[⑩(48)おたからザクザクビーチ]を攻略していきましょう。よろしくお願いします!
(カット)
はい、というわけでやって来ましたおたからザクザクビーチ!おー、夏っぽいステージですね!
あ、海の中にジンジョーいますね!さっそく取りに行きま・・・え、ちょっ!なになになに!?サメ!?
うわ、サメだ!痛った!ヤバいヤバい逃げなきゃ!痛い![⑤(25)やめてよ!クマなんて食べてもおいしくないよ!]
こいつスナッカーって言うの?[⑦(35)無駄にかわいい名前だな!?]ヤバい死ぬ死ぬ!!
・・・はぁ、はぁ。なんとか陸に上がれましたね。なんだよあのサメー。
あいつのせいでジンジョー取れなかったですね。もう1回取りに行く?[⑧(39)でも死にたくないしなぁ。]
えー、[⑥(31)海に入りたくなーい。]とりあえず他の所を回ってみましょう。ね?ね?
(カット)
おー、すごーい!海賊船があるよ!?なんか船長さんみたいのがいますね。話しかけてみましょう。
キャプテン・ブラバー!カバの船長さんなのかな?おー、海底に沈む金塊ってロマンがありますね。
えっ、船長さんなのに泳げないの?やだー、かわいいねこのカバさん。
金塊取ってきてあげますかー。船の下にあるんだよね?ここから入るのかな?
お、あったあった。水中の操作ちょっと難しいんですけど、これを取っ・・・て・・・!
よし!あ、金塊もしゃべるのか(笑)これを持って行ってあげましょう。
ブラバーさん、金塊拾ってきたよー。おお、めっちゃダイナミックに投げるね(笑)
あ、喜んでくれた!「わへーい」だって![⑨(44)諸手を挙げて喜んでるなぁ。]
[④(20)この金塊で浮き輪でも買ってね。たぶん500円くらいだけど。]
あ、ジグソーもらえましたね!幸先が良いですなぁ~。
(カット)
あ、こんなところにバケツがありますね。
バケツのリーキーって言うのか。かわいいね。穴が開いてるんだー。何で塞げばいいんだろう?
うーん、とりあえずおケツタマゴ入れといてあげますか。
あれっ?今ピロンって鳴った!?これ正解なの!?
やだわー。[③(12)おケツタマゴが詰まってるバケツ。]絶対使いたくないですね。
1個だけじゃダメなのかな?もう少し入れてあげましょうか。
なんかこうやってると玉入れみたいですね。あ、成功したっぽいよ?
玉入れといえばねー。
幼稚園の運動会で玉入れがあったんですけど、玉入れってずっと空の方見てるじゃないですか。
・・・なんか今、変なのが爆発しましたね。あー、水が引いてるのか。
[①(1)窓みたいなところからカニの手が出てる]のが一瞬見えましたね。なんだろアレ?
でね?玉入れなんだけど、たまに[問:昼間なのに月が見えてる]ことってあるでしょ?
ちょうど玉入れのときに月が見えてて、ずっと月を見ながら走り回ってたら
[問:玉入れのカゴを倒して中身全部ぶちまけちゃった]ことがあるんですよねー。
そのせいで私のチームは[問:優勝メダルを逃しちゃった]んです。
まぁメダルって言っても厚紙で作ったやつなんですけどね。
[②(8)落ち着きのない]子供でしたよ、ハイ。・・・という苦い記憶。
はぁ。えーと、じゃあ次はいま爆発した・・・爆発したじゃないや、水が引いただ(笑)
水が引いた砂のお城に入ってみましょうか!
(part6に続く…… ご視聴ありがとうございました。)
【おわり】
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* [正解]
【簡易解説】男は死んだ。
【解説】
◆◆ 問題文 ◆◆
夜でもないのに月を眺める女。
彼女がかごをあけたことで、メダルが一つ、消えたという。
一体どういうこと?
◆◆ 解説 ◆◆
永遠の白夜が続く月の神殿で『月の巫女』月島萌(35)⑦を眺める月の女神ルナ(35)が口を開く。
「よくぞ月のメダルを手に入れましたね。では早速それを触媒に、貴女に加護をあげましょう」
女神ルナ(35)から発せられた、柔らかな光が月島萌(35)の身体を優しく包み込む!
「行きなさい、月島萌(35)。貴方なら必ず魔王を倒せると信じています…」
◆◆ 一言コメント ◆◆
初出題です。よろしくお願いします(=゚ω゚)ノ(1)①(ウィンドウにそっと手を出す)
ーーーーーーーーーー
「らてらてらて」という水平思考ゲームを行えるサイトで、コトミズは長年質問者として活動していた。
それはそれで楽しかったのだが、いつしかコトミズは「自らも出題して称賛を浴びたい」という思いに取り憑かれていった。
それはまるで麻薬(8)⑤の様に、コトミズの精神を蝕んでいく。
そして今夜、渾身の問題を出題したのだが…
「よし、出題…と。うひひひ。これで俺にもイイネががっぽがっぽ入るぜ!(48)⑩…ん!問題文の『加護をあげた』が間違えて『かごをあけた』になってる!?」
「らてらてらて」では、出題した後に問題文を訂正することは不可能である。
コトミズができる事といえば一つ。
「やばい!なんとか解答を修正して、整合性を取らないと!うわ、もう質問が来てる!やばいやばい(8)②」
焦ったコトミズが修正した解答がこちら。
◆◆ 解説 ◆◆
永遠の白夜が続く月の神殿で『月の巫女』月島萌(35)を眺める月の女神ルナ(35)が口を開く。
「よくぞ月のメダルを手に入れましたね。では早速『メダル』の『゛』を触媒に、『あける』の『けをげ』に変えて、貴女に加護をあげましょう。」
女神ルナ(35)から発せられた、柔らかな光が月島萌(35)の身体を優しく包み込む!
そして『゛』の無くなったメタルが残された。
「行きなさい、月島萌(35)。貴方なら必ず魔王を倒せると信じています…ちなみにそのメタルは、500円玉として使えます(20)④」
ーーーーーーーーーー
頭蓋に脳みその代わりにスポンジが詰まったような(12)③、頭の悪い解答である。
「あ゛あ゛ああ!お手上げだ!(44)⑨出題なんてせず質問者のままでいればよかった!(31)⑥俺のらてらてらて生命は終わりだ!(39)⑧」
【終了】
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*
予備解説【移動鳩】
鳩の帰巣本能を利用した通信手段である伝書鳩は、通常では放たれた場所から決まった一ヶ所の地点にしか移動する事はできない。
その伝書鳩の特殊な例の一つとして、戦時中の日本軍の「移動鳩」の存在がある。
「移動鳩」は戦場において鳩が自ら移動式の鳩舎を探して帰ってくるというもので、放鳩後に原隊が移動しても訓練された軍用移動鳩は移動先へ帰巣することができた。
その実態や訓練法は古い書籍で見ることができるが、現在ではその技術やノウハウは失われている。
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*
【簡易解説】
戦時中、疎開先へ向かう途中で特殊な技能を身に付けた伝書鳩を逃がす事にした祖父と孫娘。
孫娘が籠を開けて鳩達を逃がした事で、祖父が授与される予定だった勲章(英語でmedal)は幻と消えた。
鳩を見送る孫娘は朝空に浮かぶ月を見付け、戦場で命を落とした父を想うのだった。
194X年某日。
ガタンゴトンと、規則正しく響く車輪の振動。
私の隣では今年で十になる孫娘が、初めて乗る汽車に未だ落ち着かぬ様子で②(8)座席に腰掛けておりました。
「ねえ、本当に良いの? お爺様。この仔達を逃がしてしまって。この仔達がお国のために立派に働けば、お爺様は勲章を貰えたのでしょう?」
大きな竹編みの籠を大事そうに抱え、孫の朝子が尋ねました。
「良いのだよ、朝子や。考えてもごらん、あんな物はちょいとばかり豪勢な銀貨に過ぎないじゃあないか。
まあ、それが千円なり五百円なりの価値がある硬貨として使える④(20)のなら、有り難く頂くところだけれどね。後は、報奨として金銀財宝がざくざく⑩(48)貰えるならそれこそ文句は無いねえ」
「まあ、お爺様ったら。それは流石に欲深と言う物ではなくって?」
冗談が過ぎた様で、唇を尖らせて言う朝子に御免御免と笑いながら私は応えました。
汽車は徐々に速度を落とします。排気の煤が張り付いた窓からは、暁の空に連なる山並みと、その手前に広がる田園の風景がほの暗く見えていました。
「さあ、着いたよ。この駅に伯母さん──お前の母さんの姉が迎えに来てくれるからね。その前に、この仔達を放しに行こうじゃないか」
朝子は黙ってこくりと頷きました。この子はこの子なりに、胸に抱える物があるのでしょう。
私とてたった二人の家族である孫娘を手離したくないのは山々ですが⑥(31)、彼女の事を思えばこそこうするより他無いのです。
私達は荷物を抱えて汽車を降りました。夜通し汽車に揺られて凝り固まった体には冷え冷えとした空気が少々堪えます。ぶるりと身を震わせた朝子に、私は膝掛けにしていた毛布を羽織らせてやりました。
此処は東京と比べて、人も建物も大分に少ないものです。駅を出て少し歩けば、空と草原の間に立つのは私達二人だけとなっておりました。
私は抱えていた籠を地面に下ろしました。朝子がそおっと蓋を開けると、ひょこりと頭をもたげた鳩達がつぶらな目を覗かせました。
「御免なさいね、窮屈だったでしょうに。さ、もうお外に出て良いわよ」
サクラ、モモ、コウメ、カリン。
一羽一羽の名前を呼びながら、朝子が鳩達を外に出していきます。四羽の鳩達に女児らしくいかにも可愛らしい名前⑦(35)を与えたのは、他ならぬ朝子でありました。
一見平凡な伝書鳩でしかないこの四羽は、私共が長年かけて選りすぐった血統と、帝国陸軍による得体の知れない研究の結果に産まれた特別に賢い鳩達なのです。それこそ、人の発声が不可能であるだけで、言葉の全てを理解しているのではないかと思えるほどに。
私が確立した移動鳩の技術は、この仔等の様な鳩が訓練を受け、群れを導く事で初めて成立します。
だからこそ、私はこの仔達を逃がしてしまう事にしたのです。──これは私の、息子を死なせた祖国への細やかな復讐なのかもしれません。
「良いわね、お前達。たとい帰り道が分かったって、もうお家に帰ってきちゃいけないのよ。それがお前達のためなんだからね」
真剣な眼差しで鳩達に語りかける朝子に彼女の父親の面影が重なり、私は胸が詰まる思いでおりました。
半年前、遠くビルマから戦死の知らせが届いた私の息子、睦月。
早くに母親を亡くした朝子にとってそれは余りに酷な出来事であったろうに、健気な孫は私に気を使ってか、何時からか常に気丈に振る舞ってみせるようになっていました。
「知っているかい、朝子。鳩という鳥は元々とても賢くてね。周りの地形を覚えて頭の中に地図を作り、もう一つ頭の中に生まれつき持っているコンパスと、二つを合わせる事で帰り道が分かると言われているんだよ。
それと、もっとよく方角を知るために太陽を道標にするとも言うね」
「まあ、そうなの? ねえお爺様、それなら鳩はお月様も道標にはしないのかしら?」
「さあ、どうだろうか。夜の間も飛び続ける渡り鳥は星を頼りにするとも聞くが、鳩は夜には眠るからねえ」
「そうなのね……それは少し残念だわ。まるで、お父様がこの仔達を導いてくれる様に思えたのに」
そうか細い声で言う朝子に、私はなんとも後ろめたい心持ちになりました。
出兵前に睦月から譲り受けた形見とも言える鳩達を逃がすのも、この子を一人疎開先に送り出すのも、独りよがりな自分のわがままの様に思えたからです。
「さあ、もうさよならをしなくちゃいけないわ、お前達。早くしないと鷹がやって来て食べられてしまうかも知れないわよ? ほら、お行きなさいな」
朝子が促すと、鳩達は名残を惜しむ様に彼女の髪を繕って一羽、また一羽と飛び立って行きます。そうして、私に対しても別れを告げるように頭上を回り、喉を鳴らして何事か語りかけて来るのです。
「お前達」と言いかけて、私は言葉に詰まります。咄嗟に口をついて出た言葉の、その先に何を続けようとしたのかが自分でも分かりませんでした。
その時、空を見上げていた朝子が「あっ」と声を上げました。
「お爺様、見て、あそこにお月様が出ている! もうすっかり朝なのに、あんなに白くて明るく見えるわ」
朝子が指を指す方向を私は見ました。しかし私の衰えた目には朝空の月は儚すぎて、どんなに目を凝らしても霞んだ空に溶けるその姿を捉えることは出来なかったのです。
彼女の指し示す方向に居る鳩達は、果たして月に向かって飛んでいるのでしょうか。
「サクラーっ、モモーっ、コウメーっ、カリンーっ、お外で暮らすのは大変だろうけど、きっと、きっと生きて幸せになってねー! 戦争なんかで死んじゃあ駄目よー!」
目一杯高く掲げた両手⑨(44)を振りながら、朝子が叫びました。鳩達はそれに応える様に二度、三度と旋回するとやがて遠くへ飛び去り、終いには跡形もなく見えなくなってしまいました。
途端に、朝子は顔をくしゃくしゃに歪ませ、堰を切った様にわんわんと泣き出しました。
「おと……さま、お父……さま!」
「大丈夫、大丈夫だよ、朝子。どうか泣かないでおくれ」
その姿が余りに憐れで、私は思わず朝子を抱き締めていました。
私の胸に込み上げるこれは、朝子から伝わる彼女の悲しみなのでしょうか。まるで呼び水を注された様に、心の底にぽっかり開いた穴に押し込めて③(12)蓋をした筈の思い出が、止めどなく溢れ出しては痛みを伴い私の中に満ちていきます。
──ああ、違った。違ったのです。私は今ようやく、はっきりと自覚しました。
私はただ、あの仔達を空に帰してやりたかったのです。
かつて幼い時分に私をこの道に駆り立てたのは、青空高く雄壮に舞う伝書鳩達の姿でした。
あの仔達には、どうかあの空で生きて欲しいのです。私が人生を捧げ、天塩にかけて彼等を育ててきたのは、間違っても死地に送り出すためでは無いのですから。
朝子の言う通りです。生きるより価値の有る事など、存在する筈がありません⑧(39)。あの子にそれを教えた私の息子は、私など及びもつかないほど、誰よりも良くその事を知っていたのです──。
後から後から溢れ出す涙を、私は止める事ができませんでした。
私は朝子を強く抱き締め、朝子は私にすがり付きました。
私達は二人、声を上げて泣き続けました。
──────────
駅に戻り、迎えに来た伯母に朝子を託した私は汽車に乗り込み出発の時を待っておりました。
泣き腫らしていながら何処かすっきりとした顔で笑う朝子を思い出して、私はぼんやりと向かいの車窓を見やりました。
駅のプラットホオムには、先ほどまで無かった人の群れができています。どうやら、これから出兵する兵士を見送る親族達のようです。
ひたすらに繰り返される万歳三唱に息苦しさを覚え、私は彼等から目を逸らすと後ろにある窓を開けました。
そこには空と、雲と、悠久の大地とだけが在りました。
追い縋る様に私は、遠い空に見えた鳥の影にそっと手を伸ばしていました①(1)。当然、その手は何を掴む事も無く空を切ります。
──今を生きる人間は、誰しもが時代という檻に囚われた憐れな籠の鳥なのかもしれません。
私はかつて長崎で目にした聖書の一説を思い出していました。
『わたしはあなたがたを遣わす。それは、狼の群れに羊を送り込むようなものだ。だから、蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい。』
このような事を考える私は、端から見れば禁断の果実⑤(25)を口にした罪人に他なりません。
しかし、それがどうしたと言うのか。
これからの未来を生きるあの子達はきっと、我々の様な者には見えぬ道標を頼りに、己の足で歩いて行くのです。
汽車が鋭く汽笛を鳴らし、黒煙が吹き上がりました。いよいよ、東京へ帰る時が来たのです。
私は重い硝子戸を下ろし、閉じた窓から体を離すと座席に深く身を沈めました。
何時の日か、朝子の子供や孫達が、四羽の鳩の子孫達と何の憂いも無い世界で戯れる、そんな時代がやって来るのでしょうか。
細やかな夢を胸に抱いて、私は静かに目蓋を閉じました。
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*
【追記】
移動鳩についての解説はほぼWikipediaからの引用になります。
逆に言えば、ネット上ではWikipedia以外でのまともな情報が全くと言っていいほど見つかりませんでした。ただ、一部の信頼度の高いソースにおいても名前だけは確認できたため、実在した技術ではある模様です。
余談ですが、鳩の帰巣能力には現在でも解明されていない部分が存在し、日々新たな学説が提唱されています。
籠の仔鳥よ夜明けに飛び立て【終】
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*
※一部不快な描写があります。お食事中の方はご注意ください。
【簡易解説】
「戦神の加護を受けている」と評された女子ボクサー。しかしその戦闘スタイルは腕を痛める諸刃の剣だった。
限界を悟った彼女は「もう加護期間は明けた」とメダルを諦め、オリンピックのある月を示すカレンダーをぼんやりと眺めているのだった。
【まったく簡易でない解説】
かつて圧倒的な強さを誇ったボクサーがいた。
月野 姫嘩(つきの ひめか)。
鞭のようにしなるパンチでどんな相手も打ち倒す。
その戦いぶりから、人々は彼女のことをこう評した。
「まるで、戦神の加護を受けているかのようだ。」
使「姉ちゃん雨降ってきたよ。風邪ひいちゃうよ。」①(1)
姫嘩「だいじょーぶ!ロードワークは毎日やんなきゃ意味ないし!」
弟の心配を背に受けて、家を出た。
じっとしてはいられない。
ふう、と小さく息を吐いてゆっくりと走り出す。(2)
姫嘩は現在、年の離れた弟である月野 使(つきの つかい)と二人暮らし。
日々の生活費は全て彼女が稼いでいる。
住宅街を抜け、河川敷にでた。
濁った色合いの川。ここを通ると、いつもあの日を思い出す。
~
*「待て!落ち着け!」
*「あなたが悪いのよ!」
父の不倫が発覚し、些細な口論がどんどん過熱して…
母が包丁を取り出したところまでは覚えている。(3)
気付くと父は血の海の中に倒れ、母は真っ青な顔で電話をかけていた。
自ら通報した警察に連れていかれる母を見送って、この川へ来たのだ。
雨の中、弟と手をつないでただじっと濁った川の流れを見つめていた。
前日に家族で花火大会に来たばかりなのに。(4)
余りに突然の出来事で、実感して涙が出たのは3日後のことだった。(5)
~
気付くと河川敷は終わり、大通りへ出ていた。
電気屋の店頭テレビによれば首相が変わったらしい。(6)
だがそんな近くて遠いニュースよりも、もっとひっ迫した問題がある。
そろそろ大会の日なのだ。全国から強豪たちが集まる。
しかし不安が押し寄せても、彼女は笑顔を絶やさない。
「ボクサーはピンチの時ほどふてぶてしく笑うもんだ」とは師、諸刃剣の談である。(7)
とはいえ、心の方はそう簡単に落ち着かない。②(8)
不安と秋の寒さで闘志が凍り付かないように、自販機で暖かい飲み物を買う。(9)
選んだのはコーヒーだ。
運動中の水分補給には向かないが、彼女はコーヒーが大好きなのだ。
さすがに試合前は控えるが、普段は暇があれば飲んでいる。
弟に飲みすぎを注意されてからは、一日17杯までに控えているけど。(10)
「効率や栄養素なんか考えず好きなものをとったらいい」とは師、諸刃剣の談である。
近所を一回りして家に帰ってきた。
姫嘩「ただいま~。」
使「姉ちゃん、宇宙から見たら地球はめっちゃ小さいんだって!こえー」(11)
姫嘩「ん、テレビの話?」
使「うん。今やってた。今度の試合も宇宙規模で見れば小っちゃいもんだよ!」
どうやら彼なりに励ましてくれていたらしい。
少し、気持ちが落ち着いた気がした。
使「それとさ、これ作ってみたんだけど…」
使が取り出したのは手のひらサイズの箱だった。
中身は空のようだ。真ん中にぽっかりと穴が空いていた。
どうやらこの穴に何かを入れるらしい。
クッション材としてティッュペーパーが詰まっている。③(12)
使「それさ、金メダルケース。段ボール製だけど。」
姫嘩「……うれしい。でも、今は受け取れないな。」(13)
私がメダルを取ったら、そのときに会場で手渡してくれる?
うん、約束!
日は流れ、いよいよ一回戦目の朝が来た。
出かける準備をしていると、チャイムが鳴る。
扉の外には見覚えのない男。
男「姫嘩さんだよね?ちょっと一緒に来てくれる?」
使「なんで姉ちゃんの名前知ってんだ!ストーカーか!あっちいけ!」(14)
姫嘩「こら!失礼でしょ!」
男「えっいやあの」
男の目が泳ぐ。(15)
なんだ本当にストーカーか。
いつもなら目に染みるスプレーで撃退するところだが、生憎手元にない。
通報しようかと思っていると、突如男に腕を掴まれた。
物凄い力。
厚手の服でわからないが、相当筋肉があるようだ。
なすすべもなく羽交い絞めにされる。
男「あんたの通うジムからのお達しでね。悪いが今後格闘技ができない体になってもらうぜ。」
姫嘩「…どうしてそんなことを。」
弟の前だ。
叫びたいのを必死でこらえ、平静を装う。(16)
男{「え~ほら、出る杭は打たれるってやつだ。ジムにとってあんたは邪魔なのさ。」}
◆◆◆◆◆
姫嘩「異議アリ!」
男「!?」
姫嘩「その発言はムジュンしているわ!」(17)
男「ど、どういうことだ!?」
姫嘩「出る杭といったわね…つまり、ジムからすれば私は優秀な広告塔のハズ!」
姫嘩「そんな私を排除することは、ジムにとって利にならない!」
男「うぐっ」
姫嘩「そもそもどこの差し金かを自称するのもアヤシイ!」
姫嘩「よってあなたは、他の格闘家に雇われて私を潰しに来た、壊し屋よ!」
男「うおおおおお!」
◆◆◆◆◆
朝食にする。
使「待って!姉ちゃん何いまの!」
使にコーヒーをなみなみ注いでやり、大人も子供もみんな大好きなリンゴを頬張った。(18)(19)
あのメダル入れは、とりあえず500円玉を入れてあるらしい。
大会が終わったら、代わりにメダルを入れられるといいな。④(20)
結局他の妨害は入らず、無事試合会場までたどり着けた。
いよいよ試合本番だ。
競技場に上がり対戦相手と向き合う。
いかにもな強面で、女傑といった趣だ。
*「随分とカワイイお相手だね。」
姫嘩「…褒め言葉として受け取っておきますよ。」(21)
開始の合図と共にジャブが飛んでくる。
避けられない速さじゃない。上体をそらし、落ち着いてかわす。
しかし思いのほか鋭く、わずかに頬をかすめた。
冷汗が伝う。
この程度の相手に苦戦している場合じゃない。
上位の人たちはもっと別次元の強さなんだ。(22)
このご時世、観客の数は少ない。(23)
体捌きに伴う音がはっきりと聞こえる。
素早いステップ音。思わず相手の足元を確認する。(24)
瞬間、腹部に強い衝撃を感じた。
太い腕が突き刺さっている。
ああ、やっぱり試合前にカップ麺なんてやめておけばよかった。⑤(25)
「わかりますかー?」(26)
レフェリーの呼びかけに答え、なんとか立ち上がった。
床に飛び散ったノンフライ麺はルンバが掃除してくれている。
プラプラと揺れる麺……そのとき、彼女の脳裏に電流が走る。
これは正に目から鱗。(27)
どんな場所で練習しても、(28)
カマキリを相手にイメージトレーニングを繰り返しても、(29)
一向につかめなかったイメージが今、
自分で自分のゲロをかぶるほどの激戦の中でやっとつかめたのだ。(30)
この試合…勝った!
*「ようやくお目覚めかい?」
姫嘩「貴方の夢もここで終わり。この試合、勝たせてもらいます!」⑥(31)
*「な、なにぃ!?」
先手必勝。鋭く間合いを詰める。
ジャブを連発。案の定全くひるまない。
まだ、まだだ…
相手がしびれを切らして、大振りになったとき…今!
ノンフライ麺の様なしなやかさを持つストレートが、カウンターで顔面に炸裂する。
麺、いや糸が切れたように崩れる相手。
このパンチがあれば勝てる。
既に優勝したかのような幸せが、姫嘩の胸に広がった。(32)
戦神の加護を受けたラーメンボクサー、誕生の瞬間である。(33)(34)
*「でも姫嘩さんって凄く可愛いお名前ですよね~。何か由来はあるんですか?」⑦(35)
姫嘩「由来はちょっと、わからないですね…」
*「そうですか~。今後もガンバって下さいね~。」
ちょっぴり気の抜けるインタビューを終えると、使が走り寄ってきた。
使「何か途中からすげー強かったじゃん!魔法でも使ったん!?」(36)
姫嘩「ふふん。すべて実力よ。」
家に帰った二人は祝勝会で大盛り上がり。
すっかりお祭り気分だったが、試合の疲れもあって気付くと寝てしまっていた。(37)
二回戦目の朝。
リビングで目覚めた二人。
姫嘩「き、昨日床で寝たから体痛い…。」
使「大丈夫かよ…今日は吐かないでよ?」
姫嘩「今日吐いたら出てくるのはショートケーキだね…」(38)
ふいに玄関のチャイムが鳴る。
出てみると見覚えのない男。
男「黙っていうこと聞いてくれ。あんたも命は惜しいだろう?」⑧(39)
姫嘩「私を誘拐したってお金にはなりませんよ。」(40)
男「勘違いすんな。この手紙を読んでくれりゃいいのさ。」
姫嘩「手紙ですか?」
男「直接言うのは恥ずかしいから手紙を渡してくれと頼まれてね。まったくウブなこった。」(41)
手紙には不思議な模様が刻まれており、何となく上品な印象を受けた。
しかしこんな怪しいもの受け取るわけにはいかない。
男「それにしたってイマドキ手紙って…LINEとかあるのによお…。」(42)
姫嘩「あの、やっぱり受け取れません。お返しします。」
男「そりゃ困る。俺が殺されちまう。」
姫嘩「困るって言われても…大まかにはどんな内容なんですか?」
男「えっ、そりゃもう一緒に飯食いたいとかじゃねえの?」(43)
姫嘩「う~ん。とりあえず今は急いでいるので。また後で拝見します。」
適当にあしらって家を出た。
陽の光を浴び、固まった体をグッと伸ばす。⑨(44)
さあ、2回戦だ。
結果を言うと、意外なほどあっさり勝ててしまった。
確かに自信はあったが…もしかしたら私は人間じゃ無いのかもしれないなんて、バカなことを考えたりもしたほどだ。(45)
その後も快進撃は止まらず、大会はそのまま優勝。
オリンピックの最有力候補となるのも時間の問題だろうと思われた。
優勝後、家に帰ると扉前に人影がある。
手紙を渡してきたあの男だ。
男「よう、優勝おめでとう。さっそく手紙読んでくれるか?」
姫嘩「今疲れてるので後で…」
男「まあそういわず。重要な手紙なんだ。」
疲労と昂揚で判断力が鈍っていたのか、手紙を開けて読んでしまった。
姫嘩へ
{私はいま遥か彼方の星にいるため、手紙での告白になることを許してほしい。}
お前は地球人ではないのだ。
{あれはお前が5歳の頃だったか。}(46)
地球人の生態を調べるため、一組の夫婦のもとへ送り込んだ。(47)
あんなことになって申し訳なく思う。
お前さえ良ければ、また一緒に暮らさないか?
本当の父親より
◆◆◆◆◆
姫嘩「意義あり!」
男「!?」
姫嘩「色々とムジュンしているわ!」
男「ど、どーいうこったよ!」
姫嘩「まず、私はまだ20代!本当に遥か彼方の星にいるなら、十数年で手紙が届くハズがない!」
男{「い、いや一瞬で届くワープ装置が…」}
姫嘩「そんなモノがあるなら、なぜ事件のあとすぐに手紙をくれなかったの!」
男「うぐっ」
姫嘩「次に、送り込んだのが5歳の頃って!そんなに大きくなってからじゃ周りもさすがに違和感あるわ!」
男{「そ、それは強力な洗脳装置が…」}
姫嘩「そんなモノがあるなら、どうして今わたしに使わないの!」
男{「む、娘は洗脳したくないんだろ!」}
姫嘩「でも私には5歳まで地球で過ごした記憶がある!洗脳されていないなら不自然よ!」
男「うぐぐっ」
姫嘩「最後に…こんな手紙で騙されるヤツおらんわ!ノンフライパンチ!」
男「ひいいいすいませんでしたあああ」
姫嘩「ッ……。」
◆◆◆◆◆
使「えっボクシング止める!?どういうことだよ!」
姫嘩「私のノンフライパンチね…腕に凄く負担がかかるみたいなんだ。」
試合中から違和感はあった。
優勝後、詐欺師を脅すためにシャドーして見せたら痛みが出て、病院へ。
姫嘩「なんでも筋繊維を傷つける腕の使い方らしくて…このまま続けたら腕が上がらなくなるかもって。」
使「そんな、そんな…。これからもっとメダルもトロフィーもたくさん獲るって…。」⑩(48)
姫嘩「ごめんね…。でも、お姉ちゃん後悔してないよ。このパンチがなかったら絶対優勝できなかったし。」
ギュッと使のメダル入れを握る。
耳を澄ませば今でも聞こえてくる、あの日々の喧噪。(49)
大会で戦った5人の猛者たち…良い思い出になった。(50)
どうやら戦神の加護期間は明けたらしい。自分はここまでのようだ。
ふとカレンダーを見る。
8月。もうそんな時期か。
もし止めていなければ今頃は、とつい考えてしまう。
いけないなぁ。
もう随分経つのに、まだ揺れているみたいだ。(51)
-終-
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【簡易解説】
DEATH NOTE パロです.(いろいろ申し訳ありません)
登場人物は ・月 = 夜神月(数学オリンピックの金メダル常連) ・彼女のミサ(朝,月を眺める) ・月にしか見えない死神(リンゴ好き).
リンゴの入ったかごを開けたミサは,彼女には見えない死神が食べたリンゴが消滅するのを見て卒倒.月をまきぞえに窓から落ち,月は死んだ.すなわち今年,確実だった金メダルがひとつ消えた.
【簡易じゃない解説】
※一部ド下ネタ解釈があります
あるところに夜神月という高校生がいた.
こいつが生まれながらの天才であって,数学オリンピックでは金メダルの常連で,日本中にその名声が轟いていた.その轟きようといったら,近所の定食屋が夜神月には常に500円引きするほどだった④(20).次の大会でもメダルは確実である.
月には弥ミサという彼女がいた.月の両親は海外出張で家を留守にすることが多く,彼とミサは同棲のような暮らしをしていた.
弥ミサなんて,いかにも可愛いって感じの名前だが⑦(35),実際,可愛かった.また,毎夜毎夜,ミサの穴に月の何かが詰まっていたかと聞かれれば,Yes と答えざるをえない③(12).読者もそう聞いて,落ちついてはいられないであろうが②(8),事実だから仕方がないのである.朝になると,ずっとこのままでいたいと月を眺めるミサであった⑥(31).
ある日,月はデスノートを拾った.というか,上のほうから落ちてきたから両手を空に向かって掲げてキャッチした⑨(44).落としたのは人間ではない.死神が天界からうっかり落としたのである.
月はデスノートを使う気などなかったが,問題なのは同時に現れた死神だ.こいつはノートを拾ったものが死ぬまで,そいつのまわりにいなければならないのである.
ノートを拾って帰宅すると,部屋にはミサがいた.「もらったの!」彼女がかごをあけると,中にはリンゴがいくつも入っていた.リンゴは死神の大好物である.その味を評して曰く,「ざっくざくジューシーなお宝」⑩(48).「うまそー」彼はかごの中のリンゴを無心で食べ始めた.
……しかし,彼はそうするべきではなかった⑤(25).彼は忘れていたのだ,死神はデスノートを触ったものにしか見えないことを.
消滅していくリンゴを見たミサは卒倒して窓から落下しそうになった.月は落ちそうなミサの腕を窓からそっと手をだしてつかみ助けた①(1),かに思われたがそうはならなかった.なぜか.ミサの体重が100kgだったからである.腕をつかみ返された月はあえなくともに落下し,死んだ.
満足にリンゴも食べられず天界に帰ることとなった死神はひとりごちた.命は大切にしてほしいものだと⑧(39).
完
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ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【簡易解説】
秋まで生きられぬことを悟った女は、見舞いの品である『萩の月』で月見をする。
病室から出られぬまま日々を過ごす中で、子供のころに飼っていたインコを哀れに思うようになり、過去を変えて鳥かごからインコを逃した。
その結果、インコを最後まで世話した記念に両親から贈られていた折り紙のメダルが消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
貴方がこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。
なんて、言ってみたかっただけよ。まあ、本当のことだけれど。
いきなりこんな手紙をもらって、貴方も困っているでしょうけれど、まあ困らせることも目的のひとつなのだけれど、こんな話をできる相手も他にいなくて。それに、貴方にも知る権利があるかと思って。まあ、読みたくなければ捨ててくれて構わないけれど。
読んだあとの苦情は受け付けないわよ。読む前もだけれどね、もう受付窓口はないのだから。
さて、雑談はここまで。どこから話そうかしら。結論からでいいか。私ね、過去を変えたの。くだらない、小さなことだけれど。あまりにも小さくて、多分なんの意味もなくて、唯一メダルでだけ証明される、変化。証明、証明なんて言えないか。だってその変化を認識できるのも私だけなんだもの。
ふふ、また困らせてしまっているわね。覚えている? 貴方と初めてまともに会話をした日のこと。変えたい過去はあるか、なんていきなり問いかける見ず知らずの女に、貴方はちゃんと考えて答えてくれたわね。ないわけじゃない、なんて煮えきらない返事だったけれど。ないならいいわ、なんて何の説明もせず会話を終わらせちゃったから、貴方がそわそわと落ち着かない様子でいたの、気づいたいたわよ。②(8)
あのときからかしらね、貴方のことを気に入ったの。だって面白いんだもの。良い人だろうことはわかっていて、だからこそ声をかけたのだけれどね。良い人だなって。あと、からかいがいのある人だなって。
貴方は変わらず友人の見舞いと言って病室に通うから、私も声をかけるようになって。そう、ふふ、そのうち私にも見舞いの品を持ってきてくれるようになったわね。食事制限が多くて申し訳なかったわ。⑤(25) 貴方のほうが申し訳なさそうな顔をしていたのは面白かったけれど。
そうそう、萩の月ね。あれ、結局分かった? 自分で説明するのも野暮なんだけれど。別に萩の月で月見と言ったのは、貴方を慰めるためだけではないのよ。上手いこと言えたって、自信満々だったのだから。この手のジョークは相手にも教養がないといけないから辛いわよね。
そもそも覚えているかしらね。その前が重要なのよ。「越乃雪が雪見の代わりなんだもの、私は萩の月で月見をするわ」。貴方はまだ桜の季節なのになんて首を傾げていたけれど、桜の季節だからよ。雪の季節まで生きられぬことを悟った高杉晋作が越乃雪、これは自分で調べなさいね、まあお菓子よ、砂糖菓子。それを盆栽に振りかけて雪見の代わりとしたという、いい、これが前提よ。だから秋まで生きられぬ私は萩の月で月見をするの。それに、萩の月は宮城の銘菓だけれど、高杉の出生地もまた萩であるわけで。
つまりあの台詞はそういう高等なジョークであって、貴方を慰めるための方便でも、月見をできぬ己を悲観したのでもないの。それ以降も見舞いの品とか、月の話とか、貴方が気にしているようだったから。もっと早く説明してあげれば良かったわね。それはちょっと申し訳ないわ。
だけど、そうね、それで思い出したのかもしれない。貴方に取りに行かせた小箱。入院したばかりのころ、木の洞に隠していたの。③(12) 貴方がタイムカプセルかと聞いたときは否定したけれど、似たようなものだったのかもしれないわね。もう一度開けることなんてできないと、思っていたけれど。
病室の窓から見える木、そういえば貴方、あれがなんの木かは調べた? 私もすっかり忘れていたわ。手紙を書き終えても覚えていたら看護師さんに聞こう。貴方は自分で調べなさいね。
私が窓から誘導して、貴方は随分嬉しそうに掲げて見せてくれたわね。①(1)⑨(44) そんなことをしているから、看護師さんに見つかるのよ。立入禁止が明言されていないからって、普通は入らない場所だものね。
そうして取りに行かせておいて、正直ね、中身はあまり覚えていなかったのよ。子供のころの宝物、今となってはなんの価値もないような、そんなものが入っているっていうだけで。⑩(48) だから中身を見て。思い出したら、急に恥ずかしくなってね。貴方にはろくに見せずに、まあ、そうね、悪かったとは思っているわ。怒られ損よね、貴方にしたら。
メダルがね、入っていたの。折り紙のメダル。お手伝いをしただとか、テストでいい点を取っただとか、そういうちょっとしたことで、親がくれてね。ただの名誉じゃなくて、メダル一つで五百円玉の代わりになるのよ。④(20) 小さいころよ、五百円が大金だったころの話。多分スタンプが押してあるのが使用済みだから、半分以上は未使用なのよね。そう思うともったいないわね。
その中にね。インコのメダルがあったの。小学生のころ飼っていたインコ。可愛くってね、お世話もたくさんしたわ。名前も自分で付けてね、まあなんていうか、今となっては恥ずかしいくらいに可愛いというか、女の子女の子しているというか。⑦(35) ふふ、可愛かったのよ、あのころは、私だって。でもその子も死んじゃってね、まあ寿命だったのだけれど。だから、最後までちゃんとお世話しました、って、そういうメダル。
さて、本題を覚えている? 私、過去を変えたのよ。そもそもなんでそんなことができるかって言ったら、まあ理論はわからないのだけれど。私が貴方に聞いたように、私も聞かれたのよ。変えたい過去はあるか、って。一つだけ、過去を変えることができる、って。
そんな話、にわかには信じられないでしょう。私だって信じたわけではなかったけれど、ただ、ずっと頭の片隅にあって。だから貴方に聞いてみたりもしたのよね。
普通なら、病気を治すんでしょうけれど。そりゃあね、私だって健康になれるのならなりたいわよ。生きられるのなら生きたいわよ。命はそりゃあ大事だもの。⑧(39) 暇で暇で仕方がなかったけれど、貴方と過ごす時間は楽しくて、貴方が来るのを待つ時間は愛おしくて、ずっとこのまま、なんて、思わなかったわけではないけれど。⑥(31)
ああ、ああ、駄目ね。私、なんでボールペンで書いちゃったのかしら。書き直すのも面倒だから、まあいいわ。
萩の月見、ね。己を悲観したわけではないけれど、ただ、あれがあって、メダルを見て。私はね。私はいいのよ。でもあの子は。あの子を閉じ込めていたのは、私なんだって、思って。
なんの意味もないことだわ。むしろ酷いことだったかもしれない。野生で生きられるとも思えないし。そんなことはわかっているから、寿命間際にしたのだけれど。ただの自己満足よ。
だから、小箱からは一つ、メダルが消えたわ。インコのメダル。当然よね、逃したんだから。でも、それだけよ。私が過去を変えた結果、成果。それだけ。
こんな話を貴方にしているのはね、まあ誰かに聞いてほしかったということはあるのだけれど。ねえ、貴方。貴方の友人。私の隣のベッドに入院していたという友人。どこで知り合ったの? 高校? 中学? それとも塾かしら。いつから入院しているのかしら。どうして入院しているのかしら。ねえ、貴方、知ってる?
私に聞いてきたの、その子なのよ。変えたい過去はあるか、って。変えようと思って、話したの。変えたい過去ができたわ、って。それで、翌日にはメダルが消えていて。私の隣のベッドは、空になっていた。確かにそこにいたと、記憶はあるのだけれど。
ふふ、最後にまた困らせているわね。ごめんなさい。駄目ね、私はどうしても貴方を困らせてしまう。だって楽しいんだもの。
貴方が知らないのなら、いいの。ただね、もし貴方も覚えていて、気にしているのであれば、少しは助けになるかなって。私は貴方にたくさん楽しませてもらったから、何か返さないととはずっと、思っているのだけれど。私が貴方にあげられるものなんて何もなくて、考えた結果が、これっていうね。本当、酷い話だわ。
これ以上何を書いても仕方がないから、もう終わりにしましょう。貴方と過ごす時間は本当に楽しかったわ。貴方のこれからの人生が、幸せなものでありますように。私のことなんて忘れてしまって構わないから。なんて、殊勝なことを言うのは柄じゃあないわね。萩の月を見たら、私のこと、思い出して頂戴。それじゃあ、さようなら。
【おわり】
[編集済]
*
【簡易解説】
ブラジルで開催される夏季五輪。サッカー女子日本代表のゴールキーパーだった女は、
3位決定戦を前にして急病を発症し、帰国を余儀なくされた。
彼女はTV中継で日本のメダルが懸かった試合を観ていたが、あえなく敗戦。
彼女がゴールを空けた(=不在にした)ことで、日本のメダルの可能性が1つ消えた。
----------
夜空に浮かぶ[問:満月]。カメラはそのまま地上へと視点を転換し、熱気あふれるサッカースタジアムを映し出した。
ブラジル・サンパウロで開催中の夏季オリンピック。日本とアメリカによるサッカー女子の3位決定戦がこれから始まろうとしている。
木津みなみは、その[問:生中継を対蹠地たる日本の病室で視聴]している。
テレビが日本代表・・・通称「なでしこジャパン」のスタメンを紹介していく。
注目選手は9番の若菜姫乃。[⑦(35)可愛らしい名前]とは裏腹に超攻撃的なフォワードだ。
しかしみなみが注視しているのは、ゴールキーパーである先崎若葉の[②(8)落ち着きのない]姿だった。
木津みなみは、本来であればこの3位決定戦に出場しているはずの、なでしこジャパンの第1ゴールキーパーである。
なでしこジャパンの絶対的守護神として名高い彼女であったが、3位決定戦を前にして急に発熱した。
[⑤(25)現地での食事に中ったらしく、]みなみ自身は[⑥(31)点滴を打ってでも出場したかった]のだが、ウイルス性胃腸炎の疑いがあった。
無理を通せば自分だけでなくチームメンバーの[⑧(39)選手生命をも脅かしかねない]ため、帰国を決断したのだった。
みなみはしばらくテレビを眺めていたが、[①(1)おもむろに病室の窓を開けて手を伸ばし]、葉っぱを1枚もぎ取った。
その葉っぱをぎゅっと握りしめて、念じる。
「がんばれ、若葉・・・!!」
ほどなくして、キックオフのホイッスルが鳴り響いた。
結果として、日本はアメリカに1対1と善戦するも、最後のPKで敗戦した。
「[問:木津がゴールを空けたことで、日本のメダルが1つ消えた]」と、
[③(12)奥歯に物が詰まったような]物言いで若葉を非難する論調のメディアも少なくなかった。
みなみ自身も「あなたが出場していたらメダルは獲れていたと思うか?」
という趣旨の失礼なインタビューを受けている最中だ。しかしみなみは惚けた振りをして言う。
「姫乃や若葉のような若い世代の子たちがオリンピックという大舞台で
強豪アメリカ相手に善戦したことは、なでしこにとって[⑩(48)メダルよりもずっと価値のある得難い宝物]になったと思います」
思ったような回答が引き出せずに聞き手は不満そうだが、知ったこっちゃない。
軌道修正を図ろうとする聞き手なんてお構いなしに、若い世代の選手たちの魅力をアピールしてやる。
こうやって思う存分に「自慢」ができて[④(20)コーヒー代も浮く]んだったら、インタビューを受けるのも悪くないじゃない?
カフェから出たみなみは[⑨(44)うんと1つ伸びをして、]秋空の街へと歩き出した。
【おわり】
[編集済]
* [正解]
(簡易解説)
水族館で飼育員をやっているユリはふと水槽のクラゲに見とれていた。その後、恋人のヒトシも参加するクラゲの餌やりコンテストで司会を務め、無事終えることができた。しかし、優勝したヒトシはその後の表彰セレモニーで受け取ったメダルを消して指輪を出現させるマジックを披露し、ユリにプロポーズする。驚きや緊張といったさまざまな感情がうごめく中、最終的にユリはプロポーズを受け入れた。
(本文)
朝、目が覚めてユリは職場へと向かう。今日は日曜日なのに。というのも、ユリの仕事は水族館の飼育員である。日曜日は特に客が多く押し掛けるためにある意味決戦の日なのだ。
そんなことは置いといて、飼育員の一日は水槽の安全点検から始まる。飼育員の一番の使命は水族館の生き物たちの【⑧命を大事にすること】である。だからこそ、安全確認は欠かせない。安全点検で水槽を回っていると、一つの水槽に目が留まる。クラゲの水槽だ。いつも見ている水槽のはずなのに今日だけはなぜか輝いて見えた。クラゲは漢字で書くと、「海月」となるのだが、まさにその字の通りで、月のような美しさを放っていた。【⑩ざっくざっくのお宝のように】と言おうとしたが、その月の美しさはお宝でさえも凌駕していた。【問:まだ夜ではないのに、ユリはその月に釘付けになってしまった。】月をずっと眺めていたところに、先輩飼育員から声がかかった。
「おーい、ユリ。ぼーっとしてるみたいだけど大丈夫か?」
「失礼しました。なんというか、このクラゲたちがいつもよりきれいに見えたもので。」
「そうか?いつもと同じだろ。そうだ。クラゲで思い出したが、今日はクラゲの餌やりコンテストだからな。司会しっかり頼んだぞ。」
ユリは思い出した。この水族館では毎週日曜に子供や親御さん向けのイベントを行っているが、今週はクラゲの餌やりコンテストを行い、自身が司会を務めないといけないことを。
そうこうしているうちに時間が過ぎ、コンテストの時間になった。ユリは驚いた。参加者の中に恋人のヒトシがいるではないか。あまりの衝撃に空いた口がふさがらず、ユリはヒトシを問い詰めた。
「あんた、なんで来たのよ。来るなら一言言ってよ。」
「サプライズ大成功!ちょっとユリを驚かせたくって。まあ、見てて!俺がコンテストで優勝するから!」
「何がサプライズ大成功よ!ほんと大人げないんだから。子供たちの邪魔をしないでよね。」
こんな会話を交わしてから間もなく、コンテストが始まった。コンテストの内容は至って単純である。ユリがかごの中に入れている餌を参加者に配り、誰が一番クラゲになつかれたかを競うものだ。ヒトシを含め、参加者はユリから次々と餌を受け取っていく。【問:あっという間にかごの中身は空になった。】ユリは参加者(主に子供たち)にわかりやすいように餌のあげ方を説明した。
「餌をあげるときにいきなり窓を開けちゃうとくらげさんたちがびっくりするから、ゆっくり窓を開けて、【①窓からそっと手を出してね。】くらげさんは足をこういう風にして食べるから、よーく、観察しててね。」
そう言いながら、 ユリは【⑨両手を空に向かって掲げ、】くらげの足を自分なりに再現した。また、
「よいこのみんなはわかっていると思うけど、その餌はくらげさん専用だからね。人間は【⑤食べちゃダメなやつだよ。】」
と冗談交じりに付け加えた。
それからしばらく、ユリは子供好きというのも相まって、恋人のヒトシよりも子供たちを注目して見ていた。子供たちはかわいいものだ。ある子供はクラゲに名前を付けて可愛がっている。耳に入ってきただけでも、「クララ」「コロ」など【⑦いかにも可愛いって感じの名前】をつけている。子供の想像力は計り知れない。一方のヒトシはというと、子供のような無邪気な可愛さは全くない。はずなのだが、ユリはふとヒトシに目をやると、その光景に驚いた。ヒトシのもとにクラゲがたくさん寄ってきているではないか!もしかしたら、子供たちを差し置いてヒトシが優勝してしまうのではないかと思った。
そして、その想像は現実のものとなる。ヒトシが優勝したのだ。これから行われる表彰セレモニーで実の恋人を祝うことになると考えると、ものすごく複雑な感情が頭の中をうごめき、【②落ちついてはいられなかった。】それでも、必死に取り繕って平常心を装い、式に臨んだ。
「今回、優勝したのはこちらのお兄さんです。おめでとうございます。優勝の証として、こちらのメダルをプレゼントします。これは受付で景品と交換できるので、忘れないでね。」
なおここでの景品というのは、今は売店で販売していないくらげのぬいぐるみである。かつては500円で販売されていたが、あまり売れなかったためか、販売中止になってしまった。というわけでメダルは結局のところ、【④500円玉の代わりにしかならない】のだが、たいていの子供はこれで満足してくれる。ただいたずら好きのヒトシだけあって、メダルだけでは満足していない様子だ。ヒトシはいきなり私の持っていたマイクを奪うと、
「皆さん、こんにちは!優勝したお兄さんです!名前はヒトシって言います。実は僕、この飼育員さんの恋人なんです。」
ユリはいきなりなんてことを言いだすのかと、ヒトシを止めようとしたが、どうやらスイッチが完全に入っているようで止めようがなかった。
「今回私が優勝できたのも、この飼育員のユリさんのおかげです。餌をあげているときのユリさんのやり方を参考にしたおかげで、なんとかくらげがなついてくれました。」
ユリの顔がだんだんと赤くなっていく。
「私が優勝できたお礼に、ユリさんと今日お越しの皆さんに簡単なマジックを披露させてください。」
こうなってしまっては、ヒトシのようすをただただ見守るしかできなかった。ヒトシはさっき受け取ったメダルを手にとっては、
「このメダルをよーく見ててください。このメダルが!なんと!じゃーん!【問:あっという間に消えてしまって、】代わりに小さな箱が出てきました。この中身は何と!指輪です!!」
ユリはヒトシがマジックが得意であることは知っていたが、初めて見たトリックに驚きを隠せなかった。ただ指輪を見ると、ぐっとつばを飲み込み、何かの覚悟を決めたように凛とした表情を見せていた。
「ユリさん、私と結婚してください。」
この言葉が来る準備はちゃんとしていたつもりなのに、緊張は最高潮で胸が張り裂けそうだった。涙もこぼれた。
「これからも一緒によろしくお願いします。」
ユリは泣きたい気持ちを抑えながらも、はっきりとした声でこう答えた。どうやら反射的にこの言葉が出てしまったらしい。本当は、【⑥ずっと恋人同士でいたかった気もしたが、】大好きなヒトシが勇気の一歩を踏み出してくれたのだ。これに応えない選択肢はなかった。一連のやり取りを見聞きしていた親御さんから拍手が飛び交う。子供たちもそれに続く。その中でも小さな子供たちは何が起こっているのかよくわからなさそうにしていたが、親に言われるままに拍手していた。
「せっかくなので、今ここで指輪をはめてみてください。」
ヒトシの提案でユリはこの場で指輪をつけることにした。左手の薬指に【③ぴったりはまった。】いつ、ぴったりの指輪のサイズを調べたのかはユリに心当たりはないようだが、さずが、ヒトシだ。ユリのことをよくわかっている。なんだかんだいってとてもお似合いの2人だ。これから2人は幸せな家庭を気づいていくことになるだろう。一連の流れを見守っている観客からの拍手で表彰セレモニーという名のプロポーズは幕を閉じた。
帰り道、ヒトシはボソッとユリにこう言った。
「海月がきれいですね。」
(完)
[編集済]
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【簡易解説】
月に興味を持って昼でも眺めてばかりいた大学生。
彼女が火5を空けた(火曜5限に授業を入れなかった)ことで月の不思議な現象を目撃し、そのことがきっかけで、のちにノーベル賞のメダルに肖像が描かれるほどの研究者となった。
それによって、もともと作られる予定だったデザインのメダルが消えることになった。
[編集済]
*
誰もが寝静まった午前2時。
ベッドの上で何度も寝返りを打っていた少女は、眠ることを諦めて窓のそばの椅子に腰掛けた。
財布から一枚の硬貨を取り出すと、夜の闇の中でも彼女の手に確かな重みを残すそれを、大事そうに眺めている。
少女はふと立ち上がり、部屋のカーテンをゆっくりと開けた。暗がりに慣れたその目は月明かりでさえも眩しく感じさせ、彼女はぎゅっと目を閉じる。
再び夜空を見上げたその目に映る満月があまりに詩的で、彼女は思わず息を呑む。
窓を開けると涼しい風が頬を撫で、世界には彼女と月しかいないようだった。
届かないとわかっていても、彼女は月へと両手を伸ばした。この手で包み込みたかった。①⑨
何かが始まる予感がした。
チャリン
硬貨が地面に落ちた音は、虫の声がかき消した。
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グッドアフタヌーンエブリワン、アメリカ科学放送局です。
本日お越しいただいたのは、誰もが知る宇宙開発の第一人者、ミズキ・オオハシさんです。今日は彼女が宇宙に興味を持ったきっかけを中心にお話を聞いていきたいと思います。
—————それではMs.オオハシ、よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
—————早速ですが、宇宙に興味を持ち始めた理由を教えてください。
はい。
私は小さい頃からすぐ何かに熱中する子どもで、一度ハマるとひたすらそれのことばかり考えていました。毎日のように鬼ごっこをしたり、駄菓子屋さんに通っておまけのシールを集めたり。落ち着きがない子だと思われていたでしょうが、夢中になること自体が好きだったんでしょうね。②
でもそうした趣味はあまり長続きしなくって。どんなに興味が持続した時でも、一年も経てば熱意は失われてしまうんですね。逆に大して時間をかけずに済むような趣味の方が、気楽な分三日坊主にならないと言いますか。
そういう意味では、500円玉集めが一番長かったのかもしれません。アメリカに来てから久しくお目にかかっていないのですが、私の母国の貨幣の一種です。日本人の方なら共感してくれるかもしれませんが、なんだか特別感があって。高校生の頃まで500円玉貯金をしてたんです。いっぱいになった貯金箱を開けると、中には私の宝物がたくさん…⑩
すみません、話が逸れましたね。
そんな熱しやすく冷めやすいタイプの私でしたが、ある夜どうにも寝つけなかったので、ふと窓から夜空を見ていたんです。その時に見上げた満月がやけに大きく輝いて見えて…
一目惚れ、というのもおかしいですが、頭の中でカチ、とスイッチが入ったような気がしました。次の日には500円玉のことなんて眼中になくなって、代わりに暇さえあれば月を眺める日々が始まったんです。④
——————なるほど。毎晩毎晩窓際に腰掛けて…といったところでしょうか。
いえ、夜だけでもありませんでした。私が子どもの頃はもう少し地球の大気は綺麗でしたから、昼でも白い月が見えることも多くて。
夜はどうしても眠くなってしまいましたが、昼間は隙あらば見上げていられましたからね。幸せな時間でした。⑥
——————そうでしたか。それ以来月を観察し続けて、月面探査を始めとする偉業を成し遂げられた、と。
実は、そうでもないんです。
きっとそれだけだったら、その他の趣味と同じように一時的なもので終わったんじゃないかな、と思っています。
明確なきっかけは、今から32年前になるでしょうか。突然月が青い光を放って大騒ぎになった事件をご存知ですか?
——————はい、もちろん。
当時はUFOの光だの月が落ちてくる前触れだのと世界中が大混乱になったのだとか。もっとも一瞬だったので、多くの人はニュース映像でそれを知ったようですね。
ええ。流石にお詳しいですね。
実は私、その青く光った瞬間を目撃していたんです。先程お話ししたように、月ばかり見ていましたから。
当時私は大学2年生で、その事件は日本では夕方の17時頃でした。その時間帯に当たる火曜5限のコマには偶然何の授業も入れていなくて、ちょうど家の近くの公園で空を見上げていた時だったんです。
まだ陽も沈み切っていないくらいの薄暗い空に浮かぶ、ひたすらに白い月。それを包み込むような青い光に、自分が吸い込まれるような感覚になりました。
その時です。あぁ私、月に行きたいな。ふと心の底からそう思ったんです。
その後、何度も何度もテレビでその時に撮影された映像を見ましたけど、どうしても偽物っぽいというか、うさんくさく感じるじゃないですか、そういうのって。やはりこの目で直に見たことで、その美しさが忘れられなくなったんだと思います。もしもあれが授業中に起きていたら、私はここにいないでしょうね。
——————なるほど、あの事件が本当の意味での原点になっていたのですね。
「月に行きたい」とおっしゃっていましたが…
ははは、すぐに諦めましたよ。行ってみたい気持ちはありましたが、そもそも私に宇宙飛行士は向いていない。それに今の月面着陸に比べれば、どうしても身の危険がありましたし。⑧
早々にデータの分析や理論の構築の方に重点を置きまして、大学でもそういった勉強ばかりしていました。
——————その研究が実を結んだのが、今から8年前に発表された論文だったわけですね。その中ではあの青い光の正体も明かされていたようですが…
ええ、その通りです。
私が今の世界に足を踏み入れるきっかけでしたから、その謎を自分自身で解明できたことはとても嬉しかったです。
『Lucciola Blu』、イタリア語で青い蛍だなんて可愛らしい名前をつけてしまいましたが、その実態はクレーターの奥に詰まった青白い鉱石の小爆発でしたから。誰かが月にいたら大惨事でしたね。次はいつ起こるのか予測がつかないもので、さらなる月面探査は慎重を期さなくてはなりません。⑦③
——————その後も月を中心に宇宙開発の分野に従事され、次々と歴史的な発見を繰り返されてきたミズキ・オオハシですが、3年後に新設される予定のノーベル宇宙学賞のメダルに、その横顔が描かれることになっています。ご自身ではいかがでしょうか。
はい。とても光栄なことで、最初は何かのドッキリかと思いました。
だって表がノーベルの顔で、裏が私の顔だなんて、知らない人が見たら何これ?って感じですよね(笑)。
しかも聞いたところでは、元々はガガーリンの肖像がデザインされるはずだったらしいじゃないですか。そんな方の代わりだなんて恐れ多いですよ。
ある意味では私のせいでガガーリンのメダルが失われてしまったわけですから、むしろ申し訳ないくらいです。
——————いえいえ、それだけ誰もが認める功績だったということですよ。
さて、残念なことにそろそろお時間となります。最後に宇宙学を志す視聴者さんに向けて一言、お願いします。
きっかけはどこに転がっているかわかりませんから、常に興味の目を開き続けていてください。
それから、火曜5限は授業を入れてはいけませんよ、私のようなことが起きるかもしれませんから。
——————最後はお得意のアストロジョークで締めていただきました。
本日のゲストは、宇宙開発のスペシャリスト、ミズキ・オオハシさんでした。ありがとうございました。
また来週お会いしましょう。
それでは皆さん、ハブ ア ナイスデー!
-------------------------
「・・・・・・ってなことが起きるかもしれないじゃん!」
「どうしたの急に?
キャンパスの学食で悪いものでも食べた?」⑤
「食べてない!私は本気で言ってるの!」
「はいはい、わかったから。要するにミズキは火5の数理学の講義、受けたくないんでしょ?」
「うん!全然興味ない!」
「なら壮大すぎる作り話してないで、最初からそう言いなさいよ…」
【完】
[編集済]
*
≪解説≫
夜でもないのに月を眺める女。
彼女には名前がなかった。
いや、本当は生まれたときに名付けられたのだが、その名で呼ばれたことがただの一度もなく、したがって名前がないのも同じだった。
彼女は塔に住んでいた。
その塔には名前があり、ツクヒの塔と呼ばれていた。
王国で二番目に高いその塔は、彼女、ひいては彼女たちのために建てられた、祈りを捧げる場であった。
彼女は月を見つめていた。
朝も夜も夏も冬もなく、月が空へと登り、そして地へと沈むまで。
夜でもないのに月を見つけた女。
彼女は名をシューという、端正な顔立ちをした娘であった。
シューは各地を巡る旅人だった。
領土は小さくとも大きく栄えたアメヒ王国の噂を聞き、海を渡り山を越えやって来たのだった。
シューは宿屋に泊まっていた。
この国には独自の通貨が流通しており、その貨幣は当然として何か売れる物も持っていなかった彼女は、宿の主人の好意で部屋に滞在させてもらっていた。
シューは月を見つけていた。
彼女の部屋に飾られていた絵画、それもまたこの国独自の宗教を表現したもので、太陽と山と海を描いていた。
彼女は、その絵の裏側に描かれていた、小さな月のマークを見つけていた。
何をするにもまず金がない、ということでシューは働き口を探すことにした。一応宿屋の薪割りなどを手伝うことで食住の保証はされているが、それとは別に彼女にはとある目的があった。
彼女は市場へ向かい、まず情報を仕入れることにした。
市場は多くの人で賑わいを見せており、海と山である程度隔絶されているとは思えないほど盛況だった。彼女は焼き立てのパンを眺めながら、そこの主人に話しかけた。
「随分美味しそうなパンですね。これはいくらくらいでしょうか?」
「そいつは100円だよ。買うかい?」
「それが、今持ち合わせが無くて…少しだけ分けて頂いても…?」
シューが苦笑いをして腹をさすると、パン屋はニヤリと笑って言った。
「あんた旅の人だろ?いつかあんたみたいな人を見かけたよ。しかし悪いがこっちも商売でね、タダでやるわけにはいかないな」【⑤】
「あはは、まあそうですよね…。でも、知っているなら話が早いです。ここで働かせてもらえませんか?」
今度はパン屋が苦笑いで答えた。
「そのセリフも前に聞いたがね。うちは人手は足りてるんだ。やることがないなら城へ行ってみないかい?」
「城?」
「ああ、あの一番大きい建物だ」
外を見ると確かに高い建造物が、2つ、見えていた。
「あれですか?」
「そうだ。ああ、そうか。近くに高い塔も見えてるが、あそこにはあまり近付かないでくれ。あそこはツクヒの塔といって、何というか、宗教的な場所なんだ」
シューはツクヒの塔をしばらくの間見つめていた。最上部にはかなり大きな穴が、ほとんど屋根なしの窓が開いていた。一瞬、その窓から人の手のような何かが出ているように見え、彼女は目をこすった。もう一度見たときにはすでに無くなっていたが、彼女にはそれが幻覚だとは思えなかった。
「…あそこには、誰かがいるんだろうか」
人の声が騒がしい中、シューのつぶやきは誰にも聞こえていなかった。
城へとやって来たシューを迎えたのは――
「よく来てくれた、旅の方よ。私はこのアメヒ国の第28代国王、ハクニ=アメノだ」
――なんと国王だった。目をしばたたかせるシューに対し、彼はこう続けた。
「驚かれるのも無理はない。他の国では考えられんことだろう。だが、この歓迎はしきたりでな。初代から続く伝統なのだ」
「な、なるほど、そうなのですか…」
「そうだとも!さて、用意もできたようだ。食事でもどうかね?ぜひ其方には神話を聞いてほしいのだが」
「食事に招いていただくのはありがたいのですが、神話とは…?」
「この国の誕生した経緯だよ。ある種の昔話のようなものだ。ここまで旅をしてくるほどだから、其方も興味をもってくれると思うがな」
「そ、そうですね。では、そうさせていただきます」
「初め、ここはあまり豊かな土地ではなかったのだ」
アメノは厳かな調子で語り始めた。
「人の住めるのはせいぜい1000人が限界で、山と海に囲まれていることもあって、人口は緩やかに減少していたらしい。ある時そこへ、旅人がやって来た。島の人々は旅人によくしてやり、旅人は島の衰退を憂いた。そこでその旅人は、神に祈ったのだという」
「神…」
とシューはつぶやいた。彼女はパン屋の言葉や、宿の絵画を思い出していた。
「すると、神は答えてくださったのだ。すなわち、太陽の神、山の神、海の神の三神だ。太陽の神は光と暖かさを一層もたらされ、さらには大陸から沢山の人を連れて来てこの島に住まわせられた。山の神は土地を豊かにし田畑を作られ、増えた人以上の恵みをもたらされた。海の神は周囲の波を収め船を作られ、大陸との行き来ができるようにされた。旅人は三神を呼ぶという、奇跡を起こしたのだ」
そこまで聞いて、彼女はふと気になった疑問を口にしてみた。
「ふむ…。旅人は、どうやってこの島に渡ったのでしょうか」
「うん?」
「私は船で来ましたが、その旅人はどうやって――」
「ふふふ。先ほど言ったとおり、その旅人は奇跡を起こしたのだ。太陽の神に頼み込んで、渡らさせてもらったのだろう」
「…なるほど」
あまり納得のいく答えではなかったが、神話とはそういう矛盾点も含んだものだ、と彼女は頷いた。
「そう、その旅人こそ私達王家の祖先で、初代アメヒ国国王その人なのだ」
「なるほど、太陽と山と海の神が、この国に繁栄をもたらしたのですね」
「うむ。…しかし、その後にある出来事が起こったのだ。国を揺るがす大きな出来事が」
「…もしかして、『月』に関わることでしょうか?」
彼女は、やはりあの絵画の裏に描かれていた月のマークを思い出していた。
「……うむ、そうだ。島を衰退させていた月の悪魔が太陽の神に抗い、打ち祓われる前にこの国と民に呪いをかけたのだ。死と夜の悪魔によって、この国はまたもや危機に瀕した」
「あ、悪魔ですか?」
彼女が素っ頓狂な声を上げたのも無理はなかった。彼女の故郷では、月は神の目の顕現として崇められているのだ。それがこの地では悪魔とみなされているとは。
「奴の手によって、国や民は度々厄災に見舞われた。氾濫と崩落と飢餓によって、多くが死んだという」
「…」
「そこでアメヒ、すなわち初代は月の悪魔とある契約をしたのだ」
契約の内容は、聞かずとも分かっていた。おそらくは――
「自らの娘を差し出したのだ」
「それがあの、ツクヒの塔ですか…」
シューの目に、塔から手を出す少女の姿が浮かんだ。
「うむ…。それ以来、代々王家の第1王女はツクヒの塔にて月の相手をする役を任されたのだ。私達が山と海に囲まれ太陽に感謝の祈りを捧げる間、私の娘だけは石と闇に囲まれて眠っておる。私達が夜と死から逃れるため夢へと逃げ込んでいる間、私の娘だけは皆を守るためただ一人月を見つめておる」
「…それで王は、何故私にその話をされたのでしょうか」
シューは内心怒っていた。罪悪感はないのか、許されると思っているのか、と問い詰めたかった。まさか、興味深い謎の王国が、このような場所だったとは。
「そう、本題はここからなのだ。私達太陽の民は、月を見てはならぬ。本来ならば、ツクヒの塔を指す以外に、その言葉を言ってもならぬのだ」
「彼女は完全に一人、ということですか」
「…うむ。だが、王家は旅人の末裔にしてすでに太陽の民となっているが、其方は違う。太陽の民ではない旅人だ」
「旅人であれば彼女の話し相手になれると」
「そういうことだ。では、案内してよろしいかね?」
「ええ、よろしくお願いします」
「…娘を頼む」
「…そういえば、彼女の名前は?」
「…あるにはある。だが…それはあの悪魔の名なのだ。これだけは絶対に、口にできぬ」
「そうですか」
シューは失望していた。呼べず、呼ばずして、何が名だ、と。
「では、よろしく頼む」
アメノは頭を下げ、塔の扉の鍵を渡して立ち去った。
「…さて」
シューは鍵穴に月の意匠が小さく施された鍵を差し込み、中に入った。中は完全な闇に包まれていたようで、戸口からの光で辛うじて、奥に螺旋階段があることが分かった。
城に近い高さをもつ塔ということはしばらく暗闇と階段が続くだろう、と彼女は覚悟を決めて進み始めた。
予想通りしばらく登り続けて目も慣れてきた頃、シューは少女の部屋らしき場所にたどり着いた。
アメノ王の言った通りなら彼女は今寝ているはずだ、と考え扉をゆっくりと開けた。当然のことながら、扉に鍵はかかっていなかった。
部屋には確かに女の子がいた。石壁の隙間からの明かり以外に照明も何もない暗さでは、本当にぼんやりとした影にしか見えなかったが、寝台に近付くにつれて微かな寝息が聞こえ始めた。正午はすでに過ぎているが、彼女がいつ頃に起きるかは分からない。シューは部屋を通り過ぎ、月の塔の最上階へと向かうことにした。
塔上の窓からの景色は痛いほど眩しく、そして美しいものだった。黄色い街、緑の山、青い海。そのどれもが『生』に溢れていた。
シューは下から見たときのように、窓の格子からそっと両手を出し、空へと掲げた。【①, ⑨】
「彼らにとって、ここは嫌なものを押し込める籠というわけか」
シューはつぶやき、それをさらう風の音をただ聞いていた。
それから少し経って、空が赤く染まり始めた頃、ぼーっと街を眺めていたシューに後ろから声がかかった。
「あなたが、アクマさん?」
振り向くと、そこには不思議そうな顔をした少女が立っていた。首には月を象ったようなメダルをかけている。
「君が、えっと、月を見つめる人?」
「そう。初めまして、アクマさん」
しどろもどろになって答えようとするが、突然悪魔呼ばわりされては回る頭も回らなかった。
「えっ、いや、私は悪魔ではないですよ」
「そうなの?」
「そ、そうです。何故悪魔だと?」
「だって、ヘンなかっこしてるから」
「ああ、なるほど。確かに、私はこの街の人間ではありませんから」
シューが自分の服を少し引っ張ってみせると、少女は少しだけ俯いて言った。
「それに、こんな所へ来るのはアタシかアクマさんだけだと思って」
「それも確かに…あ」
うっかり正直に答えてしまった、と口に手を当てたが、少女は首を横に振った。
「いいの。来てくれてありがと」
少女は空を見上げ、一つの方向を指差した。
「ほら、月が見えるよ」
その方を見ると、そこには月が淡く浮かんでいた。
シューと彼女はしばらく語り合った。シューの旅の話を彼女は面白がり、彼女の月の話をシューは静かに聞いた。
二人の時間が十と何日か過ぎ、いつしかシューは彼女を、ここから連れ出して自由にしてやりたい、と思うようになっていた。
「初めはシューの話を聞いて…旅がしたいとか、冒険家になりたいとか、雪を見てみたいとか、色んな人といっぱい話したいとかって思った。でもきっとホントは、アタシは、ずっとこのままでいたかったんだって気づいた。【⑥】ずっと一人で、ずっと夜で、ずっと月だけを見てたかったんだ。扉にカギはかかってなかったのに、多分いつだって外には出れたのに、でも、ここにいる方が楽で、それだけで皆の役に立てるんだもん。シューに会わないで、窓の外のホントなんて、見ない方がよかった」
神話はただの神話で、神も悪魔もいないのは明白だ。この街の活気は決して、決して…君の守ったものじゃない。
「君はとても偉いです。すごく立派です。そんな君が報われないなんて、私には納得できません」
「アタシはいいの。ここから出ないで死んでも、それでもいい」
そんなまさか、こんな所で一生を終えるなんて、それでいいはずがない。
「君の大切で、大事な、命の話です。【⑧】もちろん私も協力します。なんとかアメノ王に掛け合ってみます」
「そんなことしないで。皆カミサマを信じてる」
でも、君は信じていないじゃないか。
「…君を救いたいんです!」
「おちついて」
「落ち着けません!」【②】
「でも、アタシはこのまま――」
「そんなの!私が嫌なんですよ…!」
初めて出会ってから4週間が経ち、いつもの彼女なら旅立つはずの時は、とうに過ぎていた。
「言ってたよね。だいたい2,3週間でまた旅に出るって」
「ええ…そうですね。もうそろそろ、私も旅に戻ります」
「言ってたよね。記念に、お金を一枚持っていくって」
「ええ…いつもはそうしています。まだ持っていませんが」
「今回は何にするの?」
「私は…。いえ、そうですね。500円硬貨にしようかと思っています。市場で見かけたときは、それが一番明るい色でキレイでした」
「そっか…」
「…」
「…もし、もしよかったらだけど、太陽みたいにキレイでも明るくもないけど、『これ』じゃ代わりにならない、かな」
少女はシューに、首にかけていた『月』を差し出した。
「そ、それは…!」
「ホントは肌身はなさず持ってなきゃダメなんだけど、でも、アタシはシューに持っててほしい」
「…分かった」【④】
シューは少女から受け取ったメダルを握りしめ、そして、最後に尋ねた。
「これも、もしよければの話ですけど、君の名前を教えてもらえませんか?」
「…ごめんね、アタシ名前を――」
「あの『月』の神と同じ、君の名前を」
少女がパッと顔を上げて、シューの目を見つめる。そして、空にかかった月を見て微笑んだ。
「アタシの名前は――」
――は口をシューの耳元によせ、囁くように自身の名を告げた。
「へぇ…!いかにも可愛いらしい感じの、素敵な名前ですよ」【⑦】
【完】――――……?
夜でもないのに月を見つめる女。
彼女は名をシューという、端正な顔立ちをした女であった。
シューは各地を巡る旅人であり、そして冒険家でもあった。
彼女はかつてとある王国を訪れた際に一人の少女と出会い、それからは各地を巡る冒険者になった。
お金を沢山稼げれば、きっと今まで気付かない内に見過ごしていた子たちを助けられる、そう思っての行動だった。
シューは宿屋に泊まっていた。
今度探索する遺跡は少し危険で、たまたま出会った何人かと共に入る予定を組んだ。そろそろ出発の時間である。
シューは月を見つめていた。
彼女は備え付けの籠からメダルを取り出し、首に下げた。
彼女は今、2つの月を信じている。
1つは、遥か遠くの故郷で彼女を送り出した月。
もう1つは、これもまた遥か遠く、かつて彼女が掴めなかった月。
冒険家というのは旅人よりも幾分か困難な課題にぶつかりやすく、今まさに、シューはどうするべきか悩んでいた。
そんな彼女に後ろから声がかかった。
「どうしたの?」
シューが振り向くと、そこにはどこか楽しげな顔をした娘が立っていた。手には鍵開けに使う金属棒を持っている。
「それが、この籠にはどうやら鍵がかけられているようなのですが、その鍵穴に何かが詰まってるようで、開けられないんです」【③】
「それじゃ、どうしたって開けられないんじゃない?」
「いえ、おそらくは何か仕掛けが…」
もう真昼は過ぎたとはいえ、まだ日が照る中で謎と格闘しているシューの額には、汗が浮かんでいる。
「他のに挑戦したら?ほら、あっち見て。お宝ざっくざくだよ」【⑩】
「あはは、まあそうですよね…。でも、もう少し頑張ってみます」
彼女はちらりと仲間の方へ目を向けたが、しかし目の前の籠に集中を戻した。
「…そっか、じゃ頑張ってね」
結局、夕方になってもシューにその籠を開けることはできず、諦めて帰ることになった。
「相変わらずだなぁ」
去り際に娘はそう言って、シューが諦めた籠に手をかけた。
「えっと…これをこうして、こうかな」
仕掛けを解かれた籠はカチッと音を出し、あっさりと開いた。
「な〜んだ。これだけか」
彼女は、中に1枚だけ仕舞われていた淡い銀色の勲章を取り出し、空にかざしてみせた。
【完】
≪要素解説≫
①(シューがツクヒの塔の)窓から手を出す。
②(シューは興奮していて)落ち着きがない。
③(鍵)穴に何かが詰まっている。
④500円玉の代わりに(少女のメダルが記念品に)なる。
⑤(お金を払わずにパンを)食べてはいけない。
⑥(少女は)ずっと今の状態でいることを望んでいた。
⑦(少女の本名は)いかにも可愛らしい感じの名前である。
⑧(少女の)命は大事である。
⑨(シューがツクヒの塔にて)空に向かって手を掲げる。
⑩お宝がざくざく手に入る(ような遺跡探査に二人が参加する)。
≪簡易解説≫
昼夜を問わず月を眺める役目を背負った女を、旅人が訪れる。
旅人は女の視野に変化を与え、それをきっかけに女は自分の人生を生きるようになった。
女は冒険家になり、遺跡の籠からメダルを取り出して持ち去った。
[編集済]
*
【簡易解説】
RPGゲーム「ラテラルーン」を長くプレイし、上位者のギルドに所属している男。
ある日、ゲーム上で初心者の少女と出会う。男が方法を教えると少女はお礼としてかごを開けて男にアイテムを渡そうとしたところ、ギルドのメンバーがそれを見て少女を罵倒する。それを見て男はギルドをやめることを決意し、ギルドをやめたことでギルドに長くい続けることでもらえるメダルが消えたのだ。
【詳細解説】
ある日の日曜日。その男は朝8時に起きるとすぐにパソコンに向かい、電源をつける。彼にとっては電源をつけてパソコンが立ち上がるまでのわずかな時間ですら落ち着かない(8)。なぜならその時間は彼にとっては単なるロスタイムでしかないからだ。そんなもんだから朝食も昨日適当にコンビニで買ってきたドーナツの穴にウィンナーを入れたものという全く栄養や味の事なんて考えない代物だ(12)。食育にやたら厳しかった彼の母親が見たら絶対「食べちゃダメ!」というだろう(25)。しかし現在一人暮らしの男にはそんな親を心配する必要なんてない。仕事のない休日はただひたすらにパソコンに向かう時間なのだ。
起動中「今日は少し暑いな」と男は思った。男はそう思うと、部屋の窓を開けそっと手を出して風の様子を確かめた(1)。うん、これなら長く開けていても大丈夫だろう。窓からは太陽の光が照っていた。
さてパソコンが立ち上がると男は「ラテラルーン」のアイコンをクリックしてログインする。男はこのゲームがサービス開始した初期からずっとプレイし続けて今では仕事を持っているにもかかわらずイベントでは常に上位にいる。
ログインが終わると男のアバターはさっそくゲーム内のショップに向かう。ここで男はゲームで大切な回復薬を500円出して買う。ゲームにおいてライフがあることはとても大事だ(39)。男がゲームの振り込みに使う銀行の口座内にある500円玉と引き換えにお金より重要なライフをその代わりとして手に入れるのだ(20)。
ライフを買うと、男のアバターはさっそくギルドメンバーがいる洞窟の前に向かう。その洞窟はお宝がザックザク取れるとネット上で評判なのだ(48)。
現実世界では先述したように太陽が照っているが、このラテラルーンの世界では時間帯が常に夜という設定のため画面は常に暗く、朝日の代わりに月がずっと差し込んでいる。そのため、エリアを移動するのは少し難しい。
さて、男のアバターがギルドメンバーのいる洞窟の前にそろそろ迫ろうとしている時だった。ある少女のアバターがぽつんとゲーム上の空にある月に向かって両手を掲げたかと思うと、急にそれをやめてただぼんやりしていた(44)。
「あれ、どうしたんだろう?この子。ちょっと聞いてみよう。」男のアバターはゲーム上の少女のアバターのもとに向かった。
「君の名前はなんて言うの?」
「私は『りる』と言います。」
「いかにもかわいいって感じのハンドルネームだな。」と男は思いつつなおも少女に質問を続けた。
「どうしたの?」
「実は別のエリアに行きたいと思っていて、月に向かって両手を掲げるとできると聞いたのですが、なぜかできなくて・・・。」
「ちょっと君のレベルや装備がどうなっているか教えて。」
少女のアバターがレベルと装備を教えると男はこういった。
「ああ、確か月に向かって両手を掲げてワープするのは○○という装備がないとできないんだ。後でその装備が買える場所教えるよ。」
「ありがとうございます!初心者なのでまだまだ分からないこともありますが、丁寧に教えてくださって感謝します!」
少女のアバターはそういうと、お礼のアイテムを男のアバターに渡すためかかごを開けた。そして男のアバターにアイテムを渡そうとしたその時だった。
「おーい。お前ここにいたのか。」
それは男が所属しているギルドのメンバーのアバターだった。
ギルドのメンバーのアバターは男のアバターに近寄ると
「さ、さっさと洞窟に行こうぜ。」と言った。
しかし男は
「でも彼女はグッズを俺に渡そうとしているんだ。」と言った。
「彼女って誰だ?」
「この子だよ。」そうして男のアバターは少女のアバターを向いた。
ギルドのメンバーは少女のアバターの方を向いたかと思うといきなりこう言った。
「おめー非常識だな。初心者なんだろ?何上位者に絡んでんだよ。とっとと目の前から消えろ。」
ギルドのメンバーがそういいたくなるのも無理はなかった。アバターをクリックすればプレイヤーのレベルはすぐわかるし、少女のアバターの装備や服装は自分やそのギルドのメンバーと比べるとまだまだ弱い。しかし、だからと言って「消えろ」というのはあまりにもひどすぎる。
「おい、初心者にそれ言うのはひどすぎるだろ。」
男はそう説得するがそれでもそのメンバーはなおも少女を罵倒し続ける。
「うざい。」
「初心者は初心者とつるんでろよ。上位者に絡むなんていい度胸しているな。」
「○ね。」
男はそれを見てショックを受けた。これじゃただのいじめじゃないか。こんなこと許すわけにはいかない。そうすると男はこんなことを言い始めた。
「俺、こんなギルドなんかやめてやる。」
本当ならずっとこのままこのギルドにいたかった(31)。しかし、初心者に対して平気で暴言を吐くメンバーを見て男は一気に「このギルドで頑張る」という熱が冷めていった。
「何だよ?このチームにいないとお前は強い武器や装備を持てないんだぞ?」
「それでも初心者にこんな暴言を吐くなんてひどいじゃないか。もうやめるぞ。」
そういうと男はオプション画面を開き、「ギルドをやめる」というボタンを押した。これにより、ギルドにサービス開始当初から長く居続けることで付与される「ロンガ―ギルド」というメダルが消えた。
「ありがとうございます。迷惑でしたか?」少女のアバターは男に向かってこう言った。
「いいや。君は悪くない。悪いのはああやって初心者の君を罵倒する方だ。そうだ。僕がギルドを新しく作るから君も入ってみないか?ルールは俺が教えてあげるから。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そして男は再度オプション画面を開き、「ギルドを作成する」というボタンを押してギルドを作り、少女を加入させた。
あれから2年。当初は戦いのスピードになかなかついていけなかった少女のアバターもすっかり強くなり、あとからプレイし始めたプレイヤーに対してルールを教えている。
少女がルールをプレイヤーに教えていると、男のアバターが近づいてこういった。
「さあ、そろそろ狩りをしようぜ!俺が戦い方を教えてやるよ!」
すると男と少女のアバターは他のプレイヤーを引き連れて狩りに向かうのだった。
確かに男は初心者の少女と交流したことでいったんはギルドを実質的に追い出された。しかしそれと引き換えに少女との友情と新しいギルドでの仲間たちをゲーム内で手に入れた。これからもこのゲームのサービスが終了するまで男と少女、そして新しいギルドの仲間たちのゲーム内での交流が途切れることはないだろう。そう感じさせるほどの力強い発言だった。(終)
*
ねえルナ、絵本読んで!」
せっかく掛けてあげたというのに、アヤは毛布を蹴り飛ばすように足で跳ねのけた。
一日のうちで、アヤは寝る直前が一番暴れん坊だ。
「分かった分かった。読んであげるから大人しくしなさい!」
私はアヤが風邪をひかないように毛布を掛けなおす。
あと数分の辛抱だ。
乾燥機から出したばかりの布団のフカフカさに彼女の眠気が勝てるはずがなかった。
しかし、その日のアヤは勝手が違った。
「早く続き!」
一冊の絵本を読み終えたというのに、まるで一日の始まりを迎えたかのように溌剌としている。
くそ、こんなことなら昼間にもっと仕事を手伝ってもらって体を動かせておくんだった。
私が別の部屋に絵本を探しに行こうとすると、アヤは私の服の裾を掴んで予想外なことを言い始めた。
「ルナのお話、聞かせて!」
「私の話?」
これは困った。
私の過去に面白おかしいエピソードなどないし、そもそもアヤを退屈させずに話をする話術が私にはない。
「ちょっと待ってて。別の絵本持ってくるから」
「嫌! ルナの話聞かせて! ルナは私のメイドでしょ? 後学のために教えて!」
後学? アヤはいつの間にそんな難しい言葉を覚えたのだ? 私は教えた覚えがないぞ。
「もう、しょうがないなあ。面白くなくても知らないよ」
「うん!」
布団の中で元気よく返事するアヤに寄り添い、私はアヤがこの館に来る前の日々を思い出した。
私は可動式の窓に触れると、ゆっくりと手のひらで押した。
気密性の高い窓は大きくて頑丈だが、開閉の要となるヒンジ部分の滑りが良いので、ほとんど抵抗を感じることなく全開にすることができた。
私は窓から手を差し出し……①外気に肌をさらす。
外は恐ろしく冷たかったが、しばらくすると徐々に気温が高くなっているのを感じた。
太陽から放たれるエネルギーが、宇宙を超えて地上に降り注ぎ始めたのだ。
「異常なし」
温度計の数値が昨日とあまり変化がないのを確認し日誌に記録する。
この建物の管理を任されている私にとって、毎日の記録を付けるのはとても大事な仕事だった。
例えば、前日より気温が高くなるようであれば館内の空調を調整しなくてはならない。
そうしなければ、大切な私の主が体調を崩してしまうかもしれないからだ。
窓がしっかり閉めたあと、朝食の準備に取り掛かることにした。
キッチンへ向かい、まずフライパンを熱し始める。
フライパンの表面から白い煙が立ち上り始めると熱すぎるので、その直前で小さな直方体のバターを滑らせた。
バターはすぐに溶けてしまい、フライパンが香ばしい香りでコーティングされた。
バターの香りがするものはすべて美味しく食べてしまえるのではないか、と考えていた時期が私にはあった。
しかし、それは大間違いだった。
いくら調理しても、フライパンを食べることはできないし、バターで香りづけしたところで味に変化はない。
そもそも、フライパンに対して人間は歯が立たなかった。
長年の業務を経て、私は人間にとってフライパンが食べてはいけないモノなのだということを学習していた……⑤。
フライパンの上に卵を落とし目玉焼きを作っている間、オートミールをお湯で柔らかくしておく。
次に、菜園からもいだばかりのトマトときゅうりを水洗いしてから一口大に切り揃え、お皿の上に並べた。
そこにちょうど出来たばかりの目玉焼きを乗せる。
オートミールをカップに移した後、ヨーグルトを加えかき混ぜた。
私の主は柔らかい食べ物が好きだ。
オートミールの硬さには気を使っているし、目玉焼きも半熟にしてある。
主の満足するサービスを提供する、それが私の目的だった。
それらをすべてサービスワゴンに乗せるとキッチンを出て移動を始める。
主の部屋の前に辿り着くと、私は控えめにドアをノックした。
「カグヤ、おはようございます。朝食を持ってきました」
はーい、という控えめな声が部屋の中から聞こえた。
私はゆっくりとドアを開け部屋の中に入る。
「おはよう」
カグヤは私の顔を見るとベッドから体を起こそうとした。
私は慌ててそれを支える。
「いつもありがとうね」
「いえ、これも務めですから」
私はカグヤの肩と背中に手を回し彼女の体を起こす。
最初は要領を得なかったが、数回行うことでスムーズに行うことが出来るようになった。
カグヤが体を起こし終わると、私は彼女の前に食膳を置く。
準備が終わるとカグヤは祈るように手を合わせ、「いただきます」と言い食事を始めた。
「どうしてベーコンがないの?」
トマトを齧り目玉焼きの黄身を潰しながらカグヤが文句を言う。
「ベーコンはダメです」
「でも、目玉焼きにはやっぱりベーコンがないと……」
食事に対して不満を言わないカグヤだったが、目玉焼きを作ったときだけはいつもベーコンが欲しいと口にした。
しかし、私はそれに従うことはできない。
ベーコンは塩分が多すぎる、いくら主からの要望だろうと、カグヤの健康を損なう食事を用意するわけにはいかなかった。
食後、ベッドに腰かけているカグヤの髪を梳いた。
彼女の髪は澄んだ白髪で、初め少し引っかかりを感じたが櫛を数回とおすと引っかかりはなくなり、するすると櫛は動いた。
「うふふ」
「なにが可笑しいのですか?」
カグヤが声を出して笑ったので理由を訊ねてみた。
「ルナのような可愛らしいお嬢さんにおめかししてもらえることが、なんとなく嬉しいのよ」
「私は可愛らしいお嬢さんなんかではありませんよ」
私はカグヤの発言を否定した。
何回も否定していることなのだが、彼女は一向に理解してくれようとしない。
「ねえルナ、ちょっと手を見せてちょうだい」
私は櫛をテーブルの上に置くと、手の甲を上に向け両手をカグヤに差し出した。
「本当にきれいな手、うらやましいわ」
「はあ」
私は返答に困る。
それまで手の造形のことを誰かに褒められたことなどなかった。
それに、きれいな手をしていると仕事量が足りていないのではないかと不安になってしまう。
手が汚れるくらい働かなければ、と考えてしまうのだ。
「私の手なんてこれだもの」
カグヤは私の真似をするように両手を差し出してきた。
彼女の手はつるりとした私の手とは違い、深い凹凸のある手をしていた。
「ほら、まるでお風呂あがりみたいにしわくちゃだもの」
「モノを掴むのに適した素晴らしい手ですね」
本心からそう言った。
私の手は表面が平坦すぎて、モノを掴むとき滑ってしまうことがよくあった。
カグヤの手ならば、シワが抵抗になりしっかりとグリップ出来そうだった。
「……、そんな褒められ方するとは思わなかった!」
私の発言が予想外だったのか、カグヤは弾かれたように笑い始めた。
なぜ私の発言が彼女を笑わせたのか分からなかったが、カグヤが楽しそうにしていたので、私は理由を追求することをやめた。
カグヤがこの館に来たとき、彼女は暗い表情をしていることが多かった。
どこか体の一部が痛むのか、なにかに耐えるような顔で一日中窓の外の景色を眺めていた。
館の周辺には何もなく、見渡す限り荒れ果てた土地しか見えないのでカグヤが何を見ているのか分からなかったが、やがて彼女がなにを眺めているのか分かった。
彼女は空に浮かぶ球体を毎晩のように眺めていたのだ。
「あなたはタケトリ家って知ってる?」
カグヤは元々明るい性格だったらしく、毎日顔を合わせていると自然と彼女の口数は増えていき、ある日、唐突にこんな質問をされた。
カグヤの質問に対して私は肯首した。
タケトリ家は国家に大きな影響力を持つ名家で、一族が世界中に散らばっており運輸業、不動産業、製造業、IT業などジャンルを越え華々しく活躍していた。
タケトリ家の開祖は地方のしがない老夫婦と言われており、彼らの一人娘が時の権力者に見初められ嫁いだことにより力を持ち始めたという。
その伝承が正しいのかどうか確かめる術は残されていないが、現代社会においてタケトリ家に背を向けて生きていくのは難しいと言われていた。
「あなたはどこで生まれたの? まさかここで?」
「いえ、違います。おそらくあなたと同じです」
元々私はタケトリ家で働くメイドのようなものだったが、色々わけがあってこの建物とカグヤの世話をすることになった。
「こんな寂しい場所にいて悲しくならないの?」
「いえ、特には。私には与えられた仕事があるので、それを滞りなく全うするだけです」
「そう、自分の役割に誇りを持っているのね。とても偉いわ。それに比べて、私は全然だめね」
カグヤは生きるためのエネルギーを漏らすようにため息をつき、首からぶら下げているメダルを触った。
そのメダルはタケトリ家の人間しか身につけることが許されないメダルで、カグヤがタケトリ家の関係者であることを示す証拠だった。
「領海って言葉、知ってる?」
「いえ、知りません」
カグヤの話すことは質問ばかりだな、と思いつつ私は返事した。
「領海というのはね、簡単に言うと土地ではなく海の主権を明確にした海域のことよ」
カグヤによると、陸と違い海は区画の形成が難しく、どこからどこまでがどの国のものなのか判断するのが難しいらしい。
そこで国家間では、陸地の基線から12海里までをその土地の主権が認められるというルールを作ったのだそうだ。
要は、土地が多ければ多いほどその分領海も増えていくというわけだ。
海底には豊富な資源が眠っていることがあるので、土地の所有権を持つものは領海の広さにも敏感なのだという。
「私はタケトリ家にとって、領海を増やす土地のようなものなの」
私とカグヤの住んでいるこの果ての大地は、どの国からも等しく遠かった。
今のところ利用する価値がなく荒れ果てているだけだが、近年の研究で地下に希少価値の高い鉱石が眠っていることが分かった……⑩。
そこでタケトリ家は土地の所有権を主張すべく、一族の代表を住まわせることにした。
それがカグヤだった。
「私がここにいる限り、この土地はタケトリ家のものになるそうよ」
「なるほど。では、私と同じようカグヤにも重要な役割があるわけですね」
私はカグヤの世話をする、カグヤはタケトリ家の土地を守る。
それはどちらも大事な仕事の様に思えた。
「嫌よ、そんなの。私はタケトリ家に恩なんてないもの」
カグヤは本来タケトリ家とは縁もゆかりもない家柄の生まれだったそうだ。
それが幼いころ、生家の貧しさが理由でタケトリ家の戸籍を取得することになり、一族の人間がやりたがらない様々な雑務をこなすことになった。
「私、両親のパンと水のためにタケトリ家に売られたの。両親にとって私なんて一食分、500円玉くらいの代わり……④でしかなかったんだから」
「そうなんですね」
返事をしながら私は500円玉の造形を思い出していた。
500円玉の裏側には竹の葉の造形が施されている。
こんなところにも、タケトリ家の影響力の強さが表れていた。
「ところであなた、お名前は?」
「名前……ですか?」
私は改めてカグヤに自己紹介した。
すると、カグヤは苦々しい表情を浮かべた。
私の名前を聞くと大半の人がこのような反応をした。
おそらく、私の正式名称が発音しづらいものだからだろう。
「ちょっとそれは言いづらいわね」
カグヤは予想通りの反応を示した。
しかし、その後の彼女の反応は今までにないものだった。
「あなた、その名前に愛着はあるの?」
「愛着? ……よく分かりませんが、ないと言って差し支えありません」
「そう、それじゃあ今日からあなたはルナね」
「ルナ……ですか」
もしその場でカグヤの申し出を断ると彼女が悲しむような気がしたので、私はルナという名前を受け入れた。
当時は愛着というものがよく分からないが、カグヤがその名を呼ぶとき嬉しそうにしているような気がするので、そのときのわたしの判断は正しかったはずだ。
「…………ナ、ルナ」
「あ、はい」
「どうかしたの?」
「いえ、別に何でもありません」
私はカグヤのモノの掴み易そうな手を眺めたまま、ボウっとしてしまっていた。
「ちょっと昔のことを思い出していました。カグヤに、名前を付けてもらったときのことを」
「ああ、あのときね。あのときは勢いで名前つけちゃったけど、ルナって名前、どう? 嫌じゃない?」
「嫌ではありません」
名前など個体を区別するための記号だ。
覚えやすく呼びやすいに越したことはない。
「そう、だったらよかったわ。いかにも可愛らしい感じの名前……⑦だったから嫌がられると思ったのだけれど。やっぱり可愛らしいお嬢さんには可愛らしい名前がないと」
「だから、私は可愛らしいお嬢さんなんかでは」
何回も繰り返したやりとりを不毛だと思いつつ否定しようとしたら、カグヤの様子がおかしいことに気がついた。
体を小さく折り曲げて肩をゆっくり上下に動かしている。
私は慌てて部屋の中のメーターに目を通した。
様々なメーターの中で、いくつかのメーターの数値に異常が発生していた。
私は一直線に部屋の隅にある通気管へと向かう。
通気管には何か小さいモノが詰まっていた……③。
乱暴にそれを引き抜くとカグヤの元へと急ぐ。
彼女の背中に手を当てて、ゆっくりと手を上下に動かした。
しばらく弱弱しい呼吸をしていたカグヤだったが、数分もするといつもの脈拍に戻った。
部屋の計器類の異常も消えている。
原因が取り除かれたことで、部屋の環境が元通りになったのだ。
「カグヤ、大丈夫ですか?」
「……ええ、ありがとう。もう大丈夫よ」
「これのせいです」
私は通気管に詰まっていた黒い物体、鼠をカグヤに見せた。
「こいつが通気管の穴を塞いでいました」
私はカグヤが不快感を示し、鼠の処分を希望するだろうと思っていた。
しかし、彼女の反応は私が考えていたものと違った。
「あら、可愛い」
カグヤは、私に尻尾を摘ままれて泳ぐように宙で逆さまにもがいている鼠を見てそう言った。
「可愛い……ですか」
それは私にとって本当に想定外だった。
カグヤはよく私に対して可愛いと口にしていたが、私の外見と鼠に共通点など一切なく、どうしてカグヤがそのようなことを言ったのか全く理解できなかった。
そして、そのあとにカグヤが希望したことは、私にとって耳を疑う提案だった。
「ねえ。この子、私たちで飼いましょう」
「駄目です」
カグヤの言葉を聞いた途端、私は即座にカグヤの要望を却下した。
「現在ここには限られた資源しかなく、食物にも余裕はありません。館内に菜園があるといってもタケトリ家からの補給が無ければ生活していけないのです」
私たちの生活は月に一度のタケトリ家からの物資支給で成り立っていた。
いくら広大な土地があるといってもそこから生産物を収穫することは難しく、いつも私は倉庫の在庫管理に気を使っていた。
「余計な生物に食べ物を与えることは無理です。こいつは、処分します」
私は鼠を持って部屋から出ようとした。
鼠を処分したあと、管内にある菜園に埋めれば肥料になるだろうと考えていた。
「やめて!」
金切り声と共に、カグヤがベッドから立ち上がっていた。
加齢のせいで体が弱り切っていたカグヤは普段私の助けなく立ち上がることができず、彼女が一人で立ち上がるところを見たのはその時が初めてだった。
「ごめんなさい。ルナの都合も考えずに飼いたいなんて言ったことは謝るわ。だからお願い。その子を処分することはやめて。せめて、逃がしてあげて」
「駄目です。危険すぎます」
先ほどのことをカグヤは覚えていないのだろうか、と思った。
鼠が通気管を塞ぐだけで館内の状況は一変する。
たとえばもし、鼠が天井裏で配線を齧ってしまえばどうなるだろう。
私が独力で復旧させられない不測の事態が起こる可能性だってあるのだ。
鼠という生物は、建物を管理する側から見て存在を確認したらすぐに排除しなければならない害獣だった。
それなのにカグヤは私の危惧を無視し、一時の感情で鼠を助けようとしていた。
論外だ。
どう考えても、正しさは私にあった。
「ねえルナ、鼠だって生きてるのよ。私と同じように。命は……とても大事……⑧なの」
「そうですね、カグヤの言う通りです。命は、とても大事です」
だから鼠を処分します、と私は告げた。
鼠がいる限りカグヤの安全は万全と言い難く、カグヤの命を大事に考えるからこその決断だった。
「そう」
カグヤはそれまでの感情的な態度を一変させ、力なくベッドに腰かけた。
勢いよく燃えていた炎が燃料切れを起こして、急に消えてしまったかのようだった。
「ああ、カグヤ。ひとつお願いがあります」
私は鼠を摘まみ、処分するために部屋を出ようとした。
「胸にぶら下げているメダル、磨いておいてください。近々、タケトリ家の人間がこの土地の視察に来るようです。メダルを綺麗にしておきましょう。もし、面倒だと言うのなら私が磨いておきますが、カグヤ自ら磨いておくと心証が良くなるはずです」
私は主であるカグヤのためを思いそう助言して部屋を出た。
その日の夕食、私はベーコンと目玉焼きを焼いた。
カグヤは明らかに意気消沈しており、元気をつけてもらうためのものだった。
一食で摂取する栄養を計算しなおし、その週のメニューを全て変更した。
私はカグヤの健康のために様々な労力を費やしていたが、それらをやり直してでもカグヤに好きなモノを食べてもらいと思った。
それもこれも、全てカグヤのためだった。
夕食をサービスワゴンに乗せ、いつも通り部屋のドアを控えめにノックした。
「カグヤ、夕食を持ってきました。目玉焼きにベーコンをつけましたよ」
しかしカグヤからの返事はなかった。
私はドアを開けた。
部屋の中に、カグヤはいなかった。
「カグヤ?」
私は部屋の中のメーターに目を向ける。
メーターの針は全て振り切れており、正常な数値などどこにもなかった。
いつも閉じられていた窓が開いており、限りある館内の空気が外に流れ出ていた。
その窓は構造上開くことが出来たが、普段私が開け閉めしている窓と違い、決して開けてはいけないはずの窓だった。
「カグヤ」
私は、もう一度主の名前を呼んだ。
館内から外に向かって、強い風が吹いていた。
その風の正体は、大気が高い方から低い方へと移動するためのエネルギーの移動だ。
私は管内の状態を保つため窓を閉めようとしたが、その前に窓の外に顔を出し辺りを見回した。
見慣れた荒涼とした景色、果てのない宇宙の闇、そして、生身のカグヤが宙に浮かんでいた。
「カグヤ」
私は彼女を受け止めるため空に向かって両手を掲げた……⑨。
どうして彼女は館の外にいたのだろう。
人間は私と違いとてもか弱い生物だから、生身のままでは外で生きていけないはずだった。
私は精一杯体を伸ばす。
館の外は大気の調整が出来ていないので、月面本来の重力のままだ。
体の動きをコントロールできず、近くで漂っているカグヤを捕まえるのに時間がかかってしまった。
カグヤは必死になっている私のことなどお構いなしに、まるで遥か上空で淡く輝いている地球を目指しているかのように、ゆっくり上昇していた。
彼女は生まれ故郷である地球に対してよく未練を口にしていたが、まさにその時の彼女は、地球に向かって少しずつ浮かぼうとしているようだった。
窓のふちに足をかけ、ようやくカグヤを捕まえることができた。
そのとき、すぐそばで何か煌めくものがあった。
地球からの照り返しを受けて輝く物体は、普段カグヤが首からぶら下げているタケトリ家のメダルだった。
私はとっさにそれを掴もうとした。
それはカグヤや私にとって、非常に大事なもののはずだった。
しかし、カグヤの体を支えることで両手を使っていた私は、メダルに対して手を伸ばすことが出来なかった。
暖かなコーヒーの液面から立ち昇る煙のように、メダルはゆっくりと上昇し続けた。
私はそれを見送ることなく、カグヤの体を館の中に回収すると窓を力強く締めた。
「カグヤ」
無駄だと分かっていても、私はカグヤに声をかけた。
予想通り彼女からの返事はなく、代わりに彼女の体から勢いよくエネルギーは消えていくのが分かった。
生きるために消費されるはずだった熱量が、私の腕の中でただただ無為に消失していた。
カグヤは生身で宇宙空間に出たことにより、酸素不足を起こして絶命していた。
私がタケトリ家から与えられていた役目はカグヤの世話をすること、そして、館の管理をすることだった。
その内の一つ、カグヤの世話をするという役目を私は失敗してしまった。
そのことを、私は地球にいるタケトリ家に報告しなければならなかった。
通信設備を起動させ、地球にいるタケトリ家の人間とモニター越しの会話を始めたとき、私の名称を聞かれた。
「……管理番号02、System-∀99です」
危うく、ルナと名乗りそうになった。
その名前はカグヤが名付けてくれたものなので、館の外では通用しない呼称だった。
私は通信先の人間に事実を包み隠さず報告した。
館はきちんと管理できていること、しかし、カグヤを死なせてしまったこと。
カグヤを死なせてしまった私は、役割を全うできない不良機器と判断され、廃棄されてしまうだろうと思っていた。
「そうかそれは災難だったなSystem-∀99」
しかし意外にも、通信先の男からは労いの言葉が返ってきた。
「あの女は地球にいたころから厄介だった。タケトリ家の人間なのにやたら外に人間にいい顔していたからな。人間どころか動物愛護とかにも力を入れて、タケトリ家の足を引っ張るような真似までしていた。だから月まで飛ばされたんだが、まさか最後に自殺するなんてさすがに想像できなかった。すぐに代わりの人間をよこす。それまではこれまで通り、建物の管理を行っていてくれ。期待しているぞSystem-∀99」
そこで通信は途絶えた。
どうやら、カグヤの代わりに新しい人間がタケトリ家から送られてくるようだった。
私はこれまで通り、館の管理をすればいいらしい、
ならば、私のやることに変わりはない、今まで通り新しく来る人間が生活しやすいよう館の環境を良好に整えるだけだった。
まず初めに、私はカグヤの死体をどうするか考えた。
人間という生き物はとにかく死体を怖がる。
それが同族のモノだったら尚更だ。
新しい人間とやらが来る前に処分しておく必要があると考えた。
合理的に考えるならば、鼠と同じように館内にある菜園の肥料にするのがもっとも効率が良いように思えた。
しかし、私はそうはしなかった。
もし仮にカグヤが生きていたとして、死んでしまったとき彼女が自分の死体をどうしてもらいたいか尋ねたとしたら、「月に埋められるのは嫌。せめて地球に近づけるように葬ってもらいたい」というような気がしたので、私はそうすることにした。
まずカグヤの遺体を地下にある温度調節用の炉に入れて、余計な部分をなくすよう燃焼させた。
長時間かけて熱を加えた後、炉からカグヤを取り出すと彼女は肉が燃え尽きて細かい骨だけになっていた。
私はその骨を一纏めにして陶器の入れ物に入れると館の外に出た。
「さよならカグヤ」
別れの言葉を告げると、私は入れ物の中身を宇宙空間に振りまいた。
熱により強度の落ちていた骨は散り散りの細かい物体となり、空に舞っていった。
いくら月面が地球上よりも重力が小さいと言っても、人間の体のままでは浮き続けることができない、いずれ地面に落ちてしまう。
しかしこの状態ならば、彼女の体の一部がいつか地球までたどり着くかもしれない。
地球と月の間にある距離を考えるとその可能性はとても低いだろう。
でも、私はそうなればいいなと考えた。
カグヤがいなくなって私の生活に大きな変化が一つ起きた。
それは、何も作業せず考えごとをする時間が増えたことだ。
今までの私は、館内の環境チェック、菜園や貯蓄されている食物の管理、日々の記録や地球への報告など終わらせると、残りの時間は全てカグヤの話し相手に費やしていた。
しかし、カグヤがいなくなってしまってからは、無駄に動いてエネルギーを消費しないためじっとしていることが多くなった。
状況から見てカグヤが自分で生身のまま外に出たのは間違いない。
なぜ、彼女は自ら命を絶ったのか。
何もしない時間、私はそのことばかり考えていた。
ここでの生活によりカグヤが少しずつ精神を摩耗していたのは分かっていた。
なぜなら、彼女は生まれ故郷である地球に執着していたからだ。
カグヤは一人でここにいることを嫌がっていた。
だから、私はそんな彼女の精神的な負担を少しでも和らげられるよう人間らしく振舞っていた。
無論、本物の人間と比べれば機械である私の振る舞いなどたかが知れている。
でも、やらないよりはマシだと思っていた。
僅かでも彼女の支えになれていると己惚れていた。
カグヤはきっと本物の生き物との接点が欲しかったのだ。
私のような作り物ではなく、例えば、害獣だろうと自ら熱を発する鼠のような存在を。
私は自分が間違っていたことを自覚した。
あのとき、鼠を処分したことが精神的に弱り切っていたカグヤの自死のキッカケになったことは疑いようがなかった。
彼女の要望通り、鼠を飼ってさえいれば、こんなことにはならなかっただろう。
私は自分のブレーカーをオフにしたい衝動に駆られた。
しかし、行動理念がロボット三原則に基づいてプログラムされている私は、そのような行動をとることを許されていなかった。
私がもっと人間の様に振舞うことができれば、カグヤは死ぬことがなかった。
カグヤのことを思い出すたびに、頭部の中にある基盤で電流の不電送が起こり、正常な思考をするのが難しくなった……②。
もっと人間らしく、もっと人間らしく。
何か考えたり行動したりするとき、カグヤならばどうすれば喜んでくれるだろうと考えてから動くようになった。
館の中にある人間用の書物を読み漁り、効率が悪かろうとより人間らしく行動することについて学習し続けた。
タケトリ家への定例報告で言葉遣いを注意されるようになったとき、カグヤの代わりの人間が送られてくる知らせを受けた。
初め、その報告を受けたとき私は不安を覚えた。
新しく来る人をちゃんともてなすことができるだろうか。
不愛想な機械だと嫌われてしまわないだろうか。
ここでの生活を楽しんでもらえるだろうか。
また、同じ過ちを犯してしまわないだろうか。
しかし、それらの心配は全て杞憂に終わった。
私の新しい主は予想していたよりも図太くて、私の手に余るくらい腕白だった。
「あなたが私のメイド?」
館に足を踏み入れるなり、新しい主は私を指さして臆することなくそう言った。
その態度は今思い出してみても非常に堂々としていて、別の表現をすればただただ生意気だった。
「私の名前はアヤ。あなたは?」
新しい主、アヤから名前を聞かれた私は、今はもう少なくなってしまった数少ないカグヤの生きた証である、この名前を教えた。
「私はルナよ。これからよろしくねご主人様」
それ以来私とアヤは、この館で一人と一体のそれなりに楽しい生活を続けている。
「さて、と」
長い瞬きを終え、私は目を開いた。
目をつぶっている間に、頭の中で私の過去を簡潔な物語風に仕立て上げてみた。
全て話すと長くなってしまうため、多少話を盛りつつ、手短に要約して話すつもりだ。
「お待たせアヤ、ってあれ!?」
時間にして十秒ほどの長い瞬きだったが、その間にアヤは眠り落ちていた。
枕に顔をうずめて、すでに毛布を跳ねのけている。
この短い間にどうしてそんなに暴れるのか。
私というよりはもはや布団に恨みがあるとしか思えない。
「やれやれ」
再び毛布を掛けなおし、アヤの手に触れる。
暖かくて小さく、そして私以上につるつるした手だ。
この手もいつか、カグヤの手のようにしわくちゃになるのだろうか。
私は、しわくちゃになったアヤの手もいつか見てみたいと思った。
当時は自分の感情を理解していなかったが、私はカグヤとの生活を楽しんでいたのだろう。
しかし、残念ながらカグヤは私と同じように思っていなかった。
月面にあるこの館は彼女にとって鳥かごのようなもので、いつも首からかけていたあのメダルは一生外せない枷のようなものだった。
彼女は死ぬことで、その二つの鎖から解き放たれたのだ。
カグヤとの思い出はとても大切で失い難く、時々、ずっとあのままでいたかった……⑥と思うことがある。
けれど、今の私にはアヤがいる。
カグヤとの思い出、アヤとの生活、どちらも私にとってかけがえのないもので、どちらか一方を選択することなどできない。
どちらも私という存在を構成する大切な要素だ。
いくら後悔しても過去を変えることはできない。
ならばせめてアヤにだけは、私と生活してよかったと思ってもらうよう努力するだけだ。
「長生きしてよアヤ」
風邪をひかないよう肩まで布団がかかっていることを確認してから、御婆ちゃんになったアヤの姿を見られる日が来るといいな、と考えた。
<了>
簡易解説
不本意ながら地球から月に幽閉されていた女。
毎日窓から月面を眺め過ごしていたが、ある日、そんな日常に嫌気がさし衝動的に生身のまま月面に飛び出してしまう。
閉じ込められていた建物は女にとって『かご』のようなものであり、女はいつも首からメダルをぶら下げていた。
女は自殺することでかごを解き放ち、メダルも宇宙空間に放り捨てた。
[編集済]
*
今日起こるなんて、皮肉なものね。
そう思いながら私は両手を空に、月に掲げる⑨(44)。眩い太陽を覆い世界に影を落す月に。
「まるであの絵のようね。」
本当に。私は自らの描いた絵「憧憬」の再現のように屋上で日食によって生まれた金色の輪に手を伸ばした。
「少し、話をしましょうか。嫉妬に堕ちた醜い女の話を。」
私立イークリプス美術女学院。それは多くの女性アーティストを排出している有名女学院の名前であり、私の通っている学校でもある。
私の名前は霜原秋月(しもはら・あつき)。家が貧しく本が買うお金が無いからと、賞品で500円の図書カードを手に入れるために昔から必死で描いていた絵のおかげで特待生として入学することができた④(20)。
そして前の方の席で多くの生徒に囲まれて笑っているのが白雪晴香(しらゆき・はるか)。私みたいな地味な名前と違って、いかにも可愛いって感じの名前⑦(35)。そして、白雪財閥の一人娘であり家には高価な品がたくさんある⑩(48)。成績も優秀で人当たりも良く友達が多い。窓からそっと手を出せば小鳥が飛んできて止まり日差しが照らし一枚の絵のようになる①(1)。ミス・パーフェクトといった女。私の持っていない物をすべて持っていて、更に望めば何でも手に入る。そんな彼女の余裕ぶった笑みが、私は大嫌いだった。
事の始まりはそう、秋のコンクール。テーマが発表されてから一月かけて制作を行い、教員による審査の末上位3名の生徒にはメダルが贈られる。写実画や抽象画といった制限は無く、各自思い思いの作品を作りあげる。今年のテーマは「環」。皆して毎週の授業時間や授業外の時間を使い心血を注いで描いていた。
私も一生懸命描いた。屋上で金環日食に向かって手を掲げる少女の絵。昔から培ってきた技術すべてを使い最善を尽くした。
そんな中、私は彼女の描いていた絵を見てしまった。水に浮かぶ天使の環。描きかけでありながらどこか神聖さを感じるその絵は、ひと目見て彼女の絵であると理解できた。
「負けたくない。」
その一心で、どうすれば彼女に勝つことができるか考えた。悔しいけれど、このままでは彼女に勝つことはできない。なら、方法は一つ。この絵を完成させなければいいのよ。未完成の絵であれば提出することはできない。そうすれば、私が彼女に負けることは無い。
彼女にはしばらく病院にでも居てもらおう。そう思って私は夜な夜な山に入り野草を摘んだ。幼い頃から食べるものが無く、時には野草を食べていたので草花の目利きはできた。だから敢えて“食べてはいけない”野草を集めた⑤(25)。普通の野草はお腹を壊す程度で死にはしない。流石に私も大切な命まで奪うつもりは無かった⑧(39)。家に帰ると野草を刻み、すり潰し、煮詰めて緑色の薬液を作った。後は、これを彼女に飲ませるだけ。
決行の日は校外写生学習の日に決めた。その日は皆が各自弁当を持ち寄り食べる、お腹を壊しても持ってきた物が傷んでいたというだけで済むからだ。午前中、皆が荷物を置いて写生をしている隙に私は彼女の持ってきた籠を開けた。中にはパンや果物が所狭と詰まっていた。懐から小瓶を取り出すと私は入っていたリンゴに薬液をかけた。籠を閉め、元の場所に戻して私も写生に向かう。できることはやった。後は彼女が倒れて病院へ運ばれれば完璧だ。
数時間後、昼食の時間に彼女は急に倒れて病院に運ばれた。成功したのだ。私の勝ちだ。
あの日から彼女はずっと入院している。少しやりすぎたかなとも思ったけれど、後悔はしていない。けれども、私はあれから震えが止まらずにいる。意識すれば止められるけれど、気を抜くとすぐにまた指先が震えはじめる。罪を犯した日から、私に心休まる日は一日たりとも来なかった②(8)。そんなある日、目撃者が現れた。七海翔子(ななみ・しょうこ)、写真みたいに写実的な絵を描く少女だった。
なぜ今更。
そう思ったが、その疑問は彼女の持っていた絵ですぐに理解した。そこには、私が白雪の籠を開けて小瓶をふりかけている様子が描かれていた。
「これを描き上げるのに少し時間がかかってしまいましたが、これがすべてです。先生は私が実際に見た物しか描けないのをご存知でしょう?」
彼女の証言ですぐに私の罪は暴かれた。そしてその日はコンクールの結果発表の前日でもあった。
翌日、私は退学を言い渡された。今日でこの学校に来るのも最後。折角だからとコンクールの上位作品を最後に見ていくことにした。
作品が展示されているホールに入り上位の3作品が展示されているスペースに足を踏み入れた途端、私は自分の目を疑った。なぜなら、一位の絵は彼女の天使の絵だったから。
「これ、未完成だったのでは…」
そう口にすると、後ろから急に
「ああ、彼女は入院した時点ですでにこれを描き上げていただけの話だよ。」
そう声をかけられた。
「先生…」
けれど、驚きはそれだけでは終わらなかった。1位の隣、2位の額縁には私の絵が飾られていた。
「残念だったな、お前の2位もこれで終わりだ。」
そう言って先生は私の絵を外して題のところに紙を貼り付けた。
『制作生徒の都合により欠番』
「何分、急な事だったからな。繰り上げは3位の奴が辞退しちまったし。ほら、持っていけ。」
そう言って渡された絵を私は受け取ることしかできなかった。
「ずっとこのままだったら良かったのに⑥(31)。」
「そいつぁ無理な相談だな。さ、出てった出てった。ここはもうお前の学校じゃねぇんだから。」
そして、私はすべてを失った。3位?ああ、写実的な絵だったわ。穴になにかが詰まって隙間が環になっている絵③(12)。
「わー!見てみて!太陽が暗くなってるー!」
ちょうど、無邪気な子供の声がその場に響いた。
どんなに月が太陽を妬んで邪魔しても、それは結局太陽に注目を注ぎ引き立てるだけの悪あがき。太陽と比べなくたって月はそのままでも十分美しかったのに、愚かよね。
「あなたもそう思うでしょ?白雪さん。」
視線の先には、車椅子に座りあの憎たらしい微笑みを浮かべる少女。私は彼女に会いに来ていた。
「それで?私をこんな身体にして退学になって。満足しました?」
「私は、あなたのその薄っぺらい笑顔が大っ嫌いだったのよ!」
「貴女、自分を月と重ねているみたいだけれど…
月なら月らしく、太陽の光が無いと輝けない事を自覚してください。」
歪んだ、見下すような視線を最後に私は意識を失った。
【簡易解説】
日食の月を自らに重ねる少女A。
美術高校に通う彼女(A)にはコンプレックスとなる太陽のような少女Bがいた。
ある日、彼女はその少女(B)の籠に入っていた昼食に毒を盛った。
幸い死ぬ事は無かったが、少女(B)は入院することとなった。
その後ある生徒Cが彼女(A)がバスケットを開けているところを目撃していたと証言した為決定的証拠となり、彼女(A)は退学となった。
コンクールでは、彼女(A)の作品も銀賞としてメダルを受賞するはずだったが、作者が退学となったため受賞はなくなり、再考査の時間も無かった為その年のコンクールは銀賞のメダルが消えた。
-了-
*
簡易解説
借り物競争用に置いていたかごの中身を全部出したので、先頭に追いつき同率一位になって、銀メダルの人がいなくなった。
目が覚めるといつもより薄暗かったので、わたしはあわてて起き上がり窓を開けてそっと手を出してみました①(1)。
………どうやら雨は降っていないようです。
今日は運動会です。老人の一人暮らしのわたしに小学校の生徒から、ぜひ運動会に来てくださいとハガキが来たので、行くことにしていました。
運動会が楽しみで昨日からそわそわしていたのですが②(8)、少し早起きしすぎたようです。よくよく窓の外を眺めると、太陽が顔を出す直前で月もまだ出ていました。有明の月というやつですね。そのままうーんと伸びをします⑨(44)。雲もなく良い運動会日和のようです。
運動会と言えばお弁当!とお弁当を作ることにします。運動会と言えばおいなりさんです。そしてやっぱり玉子焼きですね。わたしは甘いのが好みなので砂糖入りです。あとはタコさんウインナーにきゅうり入りのちくわ③(12)!
お弁当が完成したのでそろそろ家を出ることにします。ゆっくりゆっくり歩いて行きます。
途中でちょうどいい感じの丸い石を見つけたのでいくつか拾いました。猫の手が出る500円玉貯金箱がかわいいので、いろんなものを回収させたいのです④(20)。
ゆっくりゆっくり歩いてようやく学校に到着しました。もう、運動会は始まっている様子です。
お父さんお母さんたちの応援の声が熱いです。いろんな名前があります。きらりちゃんだとかまりんちゃんだとかかわいい名前もたくさんです⑦(35)。
まりんちゃん……、そういえばわたしにハガキをくれたのがまりんちゃんでした。徒競走で一等のメダルをもらっているようです。お返事のおハガキにおめでとうと書くことにしましょう。
座れる場所を探してみると、テントの端の方に空いている場所がありました。持ってきていた座布団をひいて座ります。
お隣は道具置きのテントのようです。いろいろな道具が置いてあります。
優勝した人がもらえるのでしょうか、小さなつづらがありました。大判小判がざっくざくです⑩(48)。すぐ横には大きなかごがあります。背中に背負いやすいひもがついています。中身はなにやら色鮮やかな………きのこ?
はっ!このかごに入っているのは全部毒きのこです⑤(25)。この毒々しい色は間違いありません。誰かが食べてしまわないように処分しなければ⑧(39)!!
わたしは中身を全部、持ってきていたゴミ袋に入れて、かごを空にしました。
これで大丈夫と安心していたら、
「かごは確かこの辺りにあったはず!」
と先生でしょうか、大人のかたがあわててやって来ました。よくよく様子を見ると借り物競争のようです。
かごを背負った先生は先頭を行く先生にどんどん追いついていきます。とてもいい勝負になりそうです。
結果は同率の一位!熱い展開ですね。この場合、二人が一等で、二等の人はいなくなるようです。
綱引きや騎馬戦、踊りや応援合戦などなど、いつまでも観ていたかったのですが⑥(31)、もう終わりの時間のようです。
楽しい時間を過ごせて満足したわたしは、またゆっくり歩いて家に帰りました。
そういえば、わたしが回収した毒キノコは本物ではなかったようです。かごの中には重しにきのこのおもちゃを入れていたはずだと、先生がかごの近くにいたわたしに行方を知らないか尋ねてきました。だから、本物の毒キノコだと思ったのです、ごめんなさいとゴミ袋から出して謝りました。
すると、軽かったおかげで速く走れましたよと笑って許してくださいました。優しい先生でよかったです。勝手にいろいろ扱わないようにという教訓ですね。
おわり。
*
ロスタイム投稿もお待ちしてます![編集済]
思えば、オリンピックに出るのは、小学生からの夢だった。
②小さい頃から落ち着きがなく、休み時間には男子に混ざって毎日走り回ったり、鬼ごっこに興じたりしていた。好きな教科はもちろん体育。とにかく体を動かすことが好きだった。(8)
幸いにも両親は、女の子らしい行動をしろ、と嗜めることをしなかった。
ひとりだけ出来た子供が女の子でも、父は子供とキャッチボールをするという夢をあきらめることはしなかったし、週末には車を出して、私を公園に連れて行ってくれた。そして今出会ったばかりの男の子たちに混ざって走り回る私を見守ってくれた。
もっとも、父が私を熱心に外遊びさせていたのは、私に付き合うというだけが理由ではなかったように思う。
私の母は、私のことが好きではなかった。
嫌いというわけではない。関心がなかったのだ。
私と父が家に帰ってきても、一切の反応をしない。話しかけても、返事が返ってくることはない。
食事の用意は全て父がやっていたし、父が仕事で遅くなるときは、コンビニやスーパーの出来合いの総菜だけ。記憶に残っている限りでは、私は母の手料理というものを口にしたことはなかった。
父が公園に私を連れ出してくれていたのも、私と母が家に2人でいる時間を少しでも短くしてやろうという気遣いだったのだろう。
でも私は、単純に父とのドライブが好きだったし、公園で同年代の子らと遊んでいる時間は心から楽しかった。⑥楽しく遊んだあとの帰宅は一倍億劫だが、身体を動かすことへの悦びの方が勝っていた。(31)
そんなわけで、私は母からの愛情を全く受けないまま成長していった。
いや、1つだけ、ある。
私の名前。
私の名前は「瑞月」という。
9月15日――十五夜に私が生まれたとき、空には美しい満月が出ていた。そのまん丸い月から字をもらって、私に瑞月という名前を母がつけてくれたのは、紛れもない母から子への愛情だった。
私は自分の名前が好きだった。
⑦活発な性格には似つかわしくないほど奇麗な名前だったが、たった一人の母からもらった、たった一つの宝物を、私は大切にした。(35)
中学にあがり、私は陸上競技部に入部した。種目は走り高跳び。
もちろん走ること、運動することが大好きなのは変わりない。
しかし、放課後に毎日練習のある部活を選んだのにはもう一つ理由があった。
中学に上がり、私の帰りが遅くなると、母との関係が悪化したのだ。
父の会社が忙しくなり、帰りが遅くなった。
父は食事の用意をするのが困難になっていた。それでも、母が食事を作ることはない。疲れて帰宅した私を待っているのは、3人分の食事作り。
帰宅の遅い父を待つわけにもいかないので、私と母は2人で食事をする。もちろんそこに会話はない。
その重い空気に、私は耐えられなくなっていった。
だから、それがきつい練習だとしても、毎日少しでも遅くまで学校に残っていたかったのだ。
味の感じない食事をお腹に入れ、自室でやっと一人になる。その時間が私にとって束の間の休息だった。
①窓からそっと手を出すと、空にはうっすらと三日月が浮かんでいた。(1)
あの月に、手が届いたらいいのに。
最近はよくそんなことを考えている。
⑨でも、伸ばした両手を空に掲げても、月はこの生活から私を引き抜いてはくれない。(44)
今にも消えそうに細い月は、地球にいるちっぽけな「瑞月」を持ち上げるだけの力はない。
私がどんなに走っても、ここから逃げ出すことはできない。
あの月のようになりたい。
お月様、知っていますか。私は、部活で高跳びをしています。少しでも、あなたに近づけるように。でもどんなに助走をつけて飛び上がっても、地球の引力は私の身体をここから逃がすのを許してくれません。
でも私は、あきらめません。努力を続ければ、いずれここから逃げ出せるんじゃないかと思うからです。
私は、もっと強くなりたい。
毎日遅くまでまじめに練習をこなす私を、チームメイトはいつも支えてくれた。そしていつだって応援してくれた。けれど、母のことを話すことはしなかった。同情してほしいわけでもないし、ましてや怒ってもらうのも望んでいない。
躍起になって練習を重ねるうちに、私の実力は県大会出場に手が届くまでになっていた。
そして中学最後の大会、私は大会記録を出し、生まれて初めての金メダルを手にした。
そのまま、私は県外の高校に進学を決めた。
スポーツ推薦枠による特待生の制度を使い、陸上が強い高校を選んだ。
自宅から通える高校からも声がかかっていたが、両親には黙っていた。
推薦もらえたのここだけだから、と嘘をついた。
卒業したら家を出る、と告げたとき、父は反対しなかった。そうか、とだけ言い、お前は料理ができるから、ひとり暮らしでも安心だな、と言った。
両親が2人で暮らすことになっても大丈夫か、少し気がかりではあったが、私は家を出た。
高校では、あまり友達はできなかった。
ひとり暮らしをしているのはクラスで私だけのようで、そのおかげかアルバイトをしているのも私だけだった。
放課後、皆がワイワイ騒いだり、友人グループで遊びに出かけたりするのを横目に見ながら、私はアルバイトに向かう。学期が始まって最初のころは、私を遊びに誘ってくれた子も、毎日のように断り続けていたらいつしか声をかけてくれなくなった。
もちろん陸上は続けていた。
アルバイトのない日は、放課後ジャージに着替え、本校舎から離れたグラウンドに向かう。
スポーツ推薦で私をとってくれる学校なだけあって、チームメイトもみな実力者ばかりだった。
そのとき不意に、私は、なぜ部活でも友達ができないかの理由に気がついた。
中学では、私以外にインターハイに出場できるようなチームメイトはいなかった。
だから、みんなに慕われた。
高校には、私と同じかそれ以上の実力を持っているチームメイトがいっぱいいる。
だから、私を慕う人はいない。
個人競技とはそういうものだ。
と言われたような気がした。
でも、私は強かった。友達が出来ないことで打ちひしがれるような私じゃない。
悔しかったら、実力を伸ばせばいい。
チームメイトの誰よりも速くなる。高く跳ぶ。
かえって都合がいいじゃないか。
余計なことを考えず、自分の練習に集中できる。
だから私は陸上競技に魅せられたんじゃないか。
その日から、私は人とのかかわりを最低限にするようになった。
母との生活で、無口には慣れていたし、話しかけてこなくなったクラスメイトも、気にならなくなった。
ひとり暮らしというのは都合がいい。
⑤自分の食べたいものを食べることができるし、好き嫌いをしても誰も怒らない。(25)
私の食生活は、鶏ささみが中心になった。
⑩栄養が豊富なうえに、脂肪分も少ないので、アスリートにはうってつけという情報を耳にしたからだ。(48)
幸い、昔父が作ってくれたささみカツが好物だったおかげで、この生活は苦ではなかった。
そんなストイックな生活が幸いし、私は徐々に実力を上げていった。
部の高跳びの選手の中では、一番の記録を持つようになった。
そして、高校2年生の夏、地方大会で優勝した私は、初めてインターハイへの切符を手にした。
今やチームメイトはみな、私を慕ってくれるようになっていた。
そして顧問の先生が、私の全国出場を祝して、祝賀会をしてくれた。
今までそのような集まりに一切顔を出していなかった私は、申し訳ない気持ちの方が大きかったが、それでも参加してくれたチームメイトはみな、私の結果を心から祝福してくれた。
その夜、久しぶりに父に電話をかけ、インターハイの出場が決まったことを連絡すると、とても喜んでくれた。
近況を尋ねると、父は前より忙しくなくなり、母の世話ができているという。
当日は見に行くよ、と言ってくれた。
そして行われたインターハイ全国大会。
私の順位は、2位だった。
もちろん、初出場したインターハイで2位という好成績を残せたのは嬉しかった。
でも、その1位の人物を知ったとき、私はとても悔しくなった。
そのとき1位を獲ったのも、初出場の選手だった。それも、高校一年生だった。
名前は、あさひ。
なんだか、月が太陽に負けたような気がして、それが余計に悔しかった。
全国にはまだまだライバルがたくさんいる。私のこれからの目標が決まった。
部活での練習も今まで以上にハードな練習をしたし、高跳び選手には非常に大切な体重制限も意識し始めた。家から高校の間にあるジムにもときどき足を運んでいたが、思い切って定期会員になったのだ。④会員カードを持っていればいつでも使い放題なので、今までのように500円玉を握りしめて入り口で節約を逡巡することもない。(20)
以前より確実に懸命な努力を重ねる私を、顧問の先生は親身になって労ってくれた。
全国大会で出会ったあさひの情報を調べてくれた。
彼女も私と同じようにスポーツ推薦で、県有数の強豪高校に進学したらしい。
地方が違うので、次に彼女と戦うのは、1年後。
それまでにできることを精一杯やって、大会に備えた。
しかし、その年も結果は変わらずだった。
あさひが1位、私は2位。
嬉しいことに、2つの企業から、スポンサーの話が来て、高校卒業後にプロの選手として高跳びを続けていけることになった。
それでも、私の心は穏やかではなかった。
私が血のにじむような努力をして、やっと手に入れたインターハイの切符。
高校2年生が選ばれるのもすごい、と言われていたのに、あさひはその条件をいとも簡単にクリアし、私より先に1年生でその切符を手にした。
しかも、私よりも高い表彰台から2度も私を見下ろして。
どうしてなんだ。
私の努力が足りなかった?
私がもっと体重を落としていれば?
私が本番で緊張していたのか?
――私が勝手にライバル視していただけで、彼女は私のことをライバルとも思っていないのだろうか?
どうしても自分の首にかかっている、銀色に輝くメダルを私は喜ぶことができなかった。
応援に来てくれたチームメイト達のもとに戻ったとき、私はこらえきれず涙を流した。
顧問の先生の胸に顔をうずめて、ただ泣いた。
そんな私を、みんなはただただ何も言わずに見つめてくれていた。
高校を卒業した後、プロの世界に足を踏み入れた私は、専属のコーチに開口一番こう告げた。
あさひを倒したい。
あさひに勝ちたい。
そのためだったら、どんなに厳しい練習も、必ず乗り越えてみせます。
私の覚悟を、コーチは受け止めてくれた。
いままで何人もの選手をオリンピックに送り出してきたそのコーチのもと、私は毎日必死のトレーニングを重ねた。
自分の記録も、少しづつだが着実に伸びていった。
1年経ち、3年連続でインターハイの1位を獲ったあさひがプロ入りを果たしたというニュースを聞いたとき、私は心から喜んだ。
これでまた、同じ舞台で彼女と戦うことができる。
練習にも熱が入り、私はさらに記録を伸ばしていった。
一度、彼女の所属する陸上競技団体と合同練習をする機会があった。
私たち走り高跳びのメンバーの顔合わせの挨拶で、私は初めてあさひと会話を交わした。
話してみるとあさひはとても気さくで、高校時代友達の少なかった私にしては珍しく、すぐに打ち解けた。
高2のインターハイで初めて戦い、屈辱を味わったこと。
翌年の大会で雪辱を果たせず、私が高校を卒業してしまい悔しかったこと。
あさひはあさひで、私と戦えてうれしかったと言ってくれた。
お互いプロになって、またこうして一緒に陸上ができて嬉しいです、と。
それでも、合同練習会の最終日の記録会で、私はあさひに敵うことはなかった。
あさひが1位、私が2位。
まるで歴史の不文律のように、その順位がひっくり返ることはない。
ありがとうございました、と握手をして、マイクロバスに乗って帰っていくあさひに手を振りながら、私は心に負の感情がもやもや湧いていくのを感じていた。
どうして私は勝てないのだろう。
マネージャーが録画してくれた2人の試技の映像を見ても、明確な課題を見つけることはできなかった。
どうしてだろう。
あさひにあって、私にないものは何なのだろう。
来年に迫ったオリンピック。
私もあさひも出場が決まっている。
わたしはこのまま、いつまで経ってもあさひの背中を追い続けて、選手生命を終えるのか。
思い悩みながら、街を歩いていたある雨の日。
私に声をかけてきた人がいた。
最初は私のファンかと思った。
しかし、相手は全身にまとったコートから顔を出さずに、私に話し続けている。
私が万年2位である現状に悩んでいることを知っている、と主張してきた。
そして、私の手に、黄色いカプセルが入った小さなビニール袋を握らせてきた。
――どこにでも売っているような、風邪薬を飲むためのカプセル。
③しかし、その中に詰まっているものが風邪薬ではないことを本能が告げている。(12)
力になれれば、と言うと、その人物はすっと路地に消えていった。
気がつけば、傘が手元から離れ、風に吹かれ転がっていた。
はっと気を取り直すと、私は急ぎ足で自宅に向かって歩き出した。
途中から急ぎ足は早足になり、いつしか私は走っていた。
息をするのを忘れていたかのように、全身が重い。
濡れたまま玄関で荒い息をつく。
ゆっくりとポケットに入れた指先が、ビニール袋に触れる。
やっぱり夢なんかじゃない。
あさひと私の隙間を埋めるもの。
きっと、このカプセルの中に入っているのだろう。
しかし、私はそのカプセルが私の身体に入ったとき、あと戻りはできないということも知っていた。
⑧命は大事だ。(39)
でも、これさえあれば、どんなに手を伸ばしても手が届かなかったあさひに手が届くのだろう。
私は、そのビニール袋を、救急セットのかごの中、一番深い底にしまった。
使うかどうかは、まだわからない。
でも、誰かに相談したり、捨ててしまう気にならないのも事実だった。
あれから1年間、何度も地方大会や全国大会であさひと戦う機会があったが、あさひの首にかかるメダルは、必ず私の首元のものよりいい色をしていた。
そのたび、心の中のもやもやが大きくなっていった。
あさひの背中に手が届かない。
そして私はその背中に手を掛けるための道具を手にしている。
私のもやもやは、私の背中を暗い方へ押した。
そして、私はそのカプセルと共に、オリンピックの地を踏んだ。
選手村に入り、競技の前に皆が一様に受ける尿検査を済ませ、着替えるときに、ユニフォームの布の隙間に隠したカプセルを1つ、そっと口に運んだ。
唾液は出なかったが、苦みは感じなかった。
そして迎えた本番、運命のとき。
アナウンスが私の名前を呼び、私はゆっくりとスタート位置に着く。
競技場の音が耳に届かなくなったとき、私は大きく息を吸い、1歩を踏み出した。
1歩、また1歩。
少しづつスピードを上げる。
身体がバーの横にきたとき、私の身体は宙に舞った。
今までで一番、宙に舞えた。
空に向かって伸ばした両手は、今までのどんなジャンプよりも高いところの空気に触れた。
そのまま月まで届くんじゃないか、と思えたその瞬間、私の身体を柔らかいマットが受け止めた。
すかさず、バーを見る。
グンッとたわんだバーはふわふわと少し揺れた後、私の頭の上にとどまった。
ゆっくりと、審判が白い旗を揚げる。
――成功。
ほっ、と息をつく。
会場から割れるような拍手が起きる。
当然だろう。
いままでずっと辛酸を舐めていた私が、あさひの一歩手前に立ったのだから。
私の試技の前に、あさひは3度の失敗をし、すでに競技を終わらせていた。
そして私はその直後に、あさひのベスト記録と同じ高さを跳んで、あさひの上に立つことができた。
夢にまで見た、追いつけなかった背中。
その背中に、やっと手が届いた。
その後、他の選手が全員終わり、私の最終結果は3位だった。
念願のオリンピックで、初出場で表彰台に乗れるなんて。
しかも、永遠のライバルであるあさひを追い抜いて。
私は意気揚々と表彰式で国家を歌い、報道陣の取材に応えた。
しかし、私の高揚は、選手控え室に戻った途端、まるで風船のようにしぼんでしまった。
あさひと目が合ったからだ。
彼女は、いつも通りの人懐っこい笑顔で、私の表彰台入りを称えてくれた。
その笑顔を目にした瞬間、私の身体に罪悪感が、まるで鉄の塊のようにのしかかってきた。
――私はもう「堕ちた」んだ。
邪気のない彼女の声を聴きながら、私はどこかで彼女は気づいているのではないか、という疑念が消えなかった。
その邪念が、私を襲ってきた。
私は不正をしたんだ。
そして表彰台に乗った。
彼女は表彰台に乗れなかった。
私が不正をしたからだ。
私は、ふらふらと荷物をまとめると、逃げるように控室を後にした。
もしかしたら、あのカプセルはただの風邪薬だったのかもしれないじゃないか。
私の実力が、存分に発揮できたからこその勝利なのではないか。
そうだ、きっとそうだ。
あまり満足に回らない頭で、必死にストーリーを考える。
私のもやもやが晴れるような、都合のいい、ストーリーを。
と、そのとき。
――「瑞月か?」
ハッと後ろを振り返ると、そこには父が立っていた。
見に来てくれていたのか。
しかし、私の視界が捉えたのは、別の人物だった。
――「お母...さん...どうして?!」
「お前がオリンピックに出るなんて、快挙だからな。
お前の雄姿を見せるために、母さんを連れてきたんだ。
家族の間に何があったって、結局、お前は俺たちのたった一人の娘だからな」
久しぶりに聞いた父の声。そして。
「瑞月。銅メダル、おめでとう。」
もっと久しぶりの、母の声。
私は堰を切ったように、2人に抱きついて、そして、泣いた。
2人は困ったように、しかし甘えている娘を優しく笑って見ていた。
でも、ちがう。
私の涙は、安心や安堵ではない。
後悔と、罪悪感だ。
私に、外で遊ぶ機会をたくさん作ってくれた、父。
私が上を目指したい、と思うきっかけである名前を付けてくれた、母。
裏切った。
裏切ってしまった。
私が強くあることを、私の次に望んでいただろう両親。
その2人の想いを、私は裏切ってしまった。
どうしていいのか、わからなかった。
ただただ、2人に身体を預けて、私は泣いていた。
「どうした、そんなに泣くな? 3位は悔しいかもしれないけれど、日本一になれたんだから」
と父が笑いながら私の頭をなでる。
私は、思わずその手を払いのける。
やめて、あさひの話は聞きたくない。
びっくりしたような表情の父にかまわず、私はだまってその場でスポーツバックを開ける。
そして中から、小さなかご型のポーチを取り出す。
⓪そして、怪訝そうな顔で私を見つめる母に手渡し、開けて、と言った。
かすれた声しか出なかった。
ゆっくりと母が取り出した袋には、残りのカプセルが2つ。
私は糸が切れたように、座り込んだ。
「私、...。」
滲んでぼやける視界の隅では、両親が私を静かに見守っていた。
【完】
【簡易解説】
オリンピックでドーピングによってメダルを手にした私。
しかし罪悪感から、かごの中の薬物を白状し、メダルは幻となった。
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参加者一覧 19人(クリックすると質問が絞れます)
結果発表!!!
ご来場のそして「創りだす」を愛する皆々様。長らくお待たせ致しました!結果発表のお時間です!
今回の創りだすでは、14人の素晴らしいシェフの方々によって、16作品が誕生しました。また投票対象外作品も2作品投稿されております。投稿があるか不安でいっぱいでしたが、たくさんの作品が投稿されてとても嬉しく思っています。
それでは結果発表に参りましょう。
☆最難関要素賞
上位3要素の発表をいたします。
今回は乱数さんにお願いして10個の要素を決めました。今思うとかなり難要素ばかりになってしまいましたが、結果はいかほどに…?
第3位
🥉①「窓からそっと手を出します」(アルカディオさん)
🥉⑤「食べちゃダメなやつです」(クラブさん)
🥉⑥「ずっとこのままでいたかったです」(きの子さん)
🥉⑩「お宝がざっくざくです」(きっとくりすさん)
1票獲得
第3位にはこちらの要素がランクイン!
どれも状況が絞られるような要素で難しかったようですね~
他の要素と絡めて回収される方もいましたね。
第2位
🥈③「穴に何かが詰まっています」(靴下さん)
3票獲得
詰まっている、という表現に苦戦した方が多かった様子です。
そんな第2位を破った、最難関要素は…。
第1位
🥇④「500円玉の代わりになります」(靴下さん)
7票獲得
500円って何? 玉ってことは物理的な話なの? 代わりってどうゆうこと?
そんな声が各所から聞こえてきたこの要素。ですが、皆さまの発想によって色んなものが500円玉の代わりを果たしてくれました。
靴下さん、おめでとうございます!(しかもワンツーフィニッシュ!)
次なる表彰は、匠、エモンガ賞!
1位発表とさせて頂きます!
☆匠賞
匠の腕が輝いたのは…!!
🥇『ノンフライだからあがらない』(作:クラブさん)
🥇『『科学を学ぶ日曜日』アーカイブより:2053年6月8日放送回』(作:「マクガフィン」さん)
6票獲得
こちらの2作品です!
ま、まさかの全要素「番号順」回収…ですと!? クラブさんの作品を読んだ後に思わずつぶやいてしまいました。問題文に加えて51個の要素を全て入れたら必然的に長く、強引になりそうなのに、それをまったく感じさせない。まさに匠!な作品でした。
また、「かご」の解釈は色々あるだろうな、と思っていましたが「マクガフィン」さんの「火5」は想定外でした…!それだけでなく、インタビュー番組という構成や最後のオチもさすが!です。
クラブさん&「マクガフィン」さん、匠賞受賞おめでとうございます!
☆エモンガ賞
勝利のエモンガが微笑んだのは…!!
🥇『初恋は2回咲く』(作:リンギさん)
8票獲得
リンギさんの作品です! 思い出の「月」とメダルに込められた2人の思いに、涙ぐんでしまいました。許されざる初恋の行方は悲しく切ないですが、最後の場面が2人にとっての救いになればいいと思います。
リンギさん、エモンガ賞受賞おめでとうございます!
☆スッキリ賞
最もすっきりまとまっていたのは…!?
🥇『撫子の護り』(作:休み鶴さん)
6票獲得
休み鶴さんの作品です! スマートでスムーズな要素回収でしたね!特に⑤⑥⑧①を回収した部分はは1文に1つ以上のペースで回収されていて、圧巻です。
休み鶴さん、スッキリ賞受賞おめでとうございます!
これにてサブ受賞式は終了です。メイン表彰に移ります。
この文章を書いているのが結果発表当日の夜なのですが、みなさまがたくさんの素敵な作品を投稿してくださったおかげで、まだまだ書き終わりません…!嬉しい悲鳴です。特に、集計に関しては何度も確認しましたが不安です… その理由は結果を見ていただけると分かります。
では、発表に移りましょう!
☆最優秀作品賞
第3位は……
こちら!
🥉『萩の月見て何想う』(作:ハシバミさん)
🥉『月に鳴く』(作:ししゃもさん)
4票獲得
2作品がランクインしました!
ハシバミさんの作品は病室で萩の月での月見、そして過去を変えたという告白。切なさが漂う手紙で女が語ることとは。結局手紙の相手はどんな人だったのでしょうか。読んだ後もいろいろと考えさせられる作品でした。
ししゃもさんの作品は月が舞台。確かにそれなら昼夜関係なく月を眺められます。メイドロボットと幽閉された女性。その2人?の関係の変化に、心が温まったところでの衝撃の展開。少女とロボットとの今後が気になります。
どちらも魅力的でした!第3位に輝かれましたハシバミさん、ししゃもさんおめでとうございます!
続いて…
第2位は……
こちら!
🥈『撫子の護り』(作:休み鶴さん)
5票獲得
スッキリ賞に続き、こちらでも2位にランクイン!
スッキリさはもちろんのこと、ブラジルと日本という時差を活かした「月」の回収、オリンピックというメダルとの相性抜群な設定。そして、かご=サッカーゴールという解釈。そのどれもが評価されました。
休み鶴さん、2位ランクインおめでとうございます!
第1位発表…
第1位に輝かれましたのは…
…こちら!
――「ケガは治った。お前はもう自由なんだ。」
🥇『朝月』(作:クラブさん)
6票獲得
大混戦の中、今回の創りだすの最優秀作品賞に輝いたのはクラブさんの「朝月」でした!
「月」を固有名詞にすることは想定内でしたが、キツツキの名前にすることで納得感が高かったとの声が多かったです。また、それにより「かごをあける」の納得感も抜群です。さらには思わず笑ってしまうオチまであって、とても高い完成度です。……そして、この作品が要素確定から3時間足らずで投稿されたこと、10個の要素が順番に使われていること。そのような技巧派な面も存分に発揮されていました。
最優秀作品賞に輝きましたクラブさん、おめでとうございます!
そして、シェチュ王の座を射止めたのは……
『撫子の護り』で5票、『バンジョーとカズーイの大冒険実況プレイ part5』で2票、計7票獲得されました……
シェチュ王
👑休み鶴さん👑
です!おめでとうございます!本当にお見事でした!
それでは、シェチュ王の王冠と、次回の「創りだす」出題権をバトンタッチ!
(*’▽’)つ👑 オメデトウゴザイマース!
以上を持ちまして、第28回正解を創りだすウミガメは閉会でございます。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ご投票いただいた方々には心よりの感謝を送ります。
ありがとうございました!
リアルが忙しくて投稿したあと全然見れてませんでした! ほずみさん開催及び進行お疲れ様でした!休み鶴さんシェチュ王おめでとうございます!そして、拙作に投票してくださった皆様ありがとうございました!![20年11月07日 20:50]
休み鶴さんシェチュ王おめでとうございます!クラブさん最優秀賞おめでとうございます!最難関要素は靴下さんワンツーフィニッシュなんですね~あの短期間で凄いです!ほずみさん司会進行お疲れ様&ありがとうございました![20年11月06日 00:42]
ほずみさん主催お疲れ様でした!休み鶴さんシチュ王おめでとうございます!最優秀賞を頂けるとは感激の極みです。投票して下さった皆さんありがとうございます。精進してまいります。……と思わず真面目モードになるくらい嬉しいです!本当にありがとうございます![20年11月05日 23:44]
ほずみさん進行お疲れさまでした。休み鶴さんシェチュ王、クラブさん最優秀作品賞おめでとうございます!今回はけっこう票が割れて最後まで結果が予想できませんでした。それほど良作揃いでしたね[20年11月05日 23:43]
休み鶴さんシェチュ王、クラブさん最優秀作品賞おめでとうございます🎉投稿こそできませんでしたが、非常に楽しませていただきました!ほずみさんから休み鶴さんにバトンが渡されるとは、エモンガで素敵ですね。そしてほずみさん、運営お疲れ様でした![20年11月05日 23:41]
休み鶴さんはシェチュ王、クラブさんは最優秀賞おめでとうございます!!! ほずみさんは主催お疲れ様でした。 要素回収やらが難しかったですが、素晴らしい回になりました。[編集済] [20年11月05日 23:21]
ほずみさん、進行ありがとうございました!そして最優秀作品賞のクラブさんおめでとうございます!いつも巧みな要素回収とコンパクトな解説を短時間でやってのける手腕に脱帽していましたが、遂にですね!まさかのシェチュ王拝命となりびっくりしておりますが、確かにバトンを受け取りました![20年11月05日 23:18]
夜でもないのに月を眺める女。
彼女がかごをあけたことで、メダルが一つ、消えたという。
一体どういうこと?
◆要素一覧◆ ()内は質問番号 半角数字に半角カッコを付けることでアンカー機能が使えます(アンカーは義務ではないです)
①(1)窓からそっと手を出します
②(8)落ちつかないです
③(12)穴に何かが詰まっています
④(20)500円玉の代わりになります
⑤(25)食べちゃダメなやつです
⑥(31)ずっとこのままでいたかったです
⑦(35)いかにも可愛いって感じの名前です
⑧(39)命は大事です
⑨(44)両手を空に向かって掲げます
⑩(48)お宝がざっくざくです
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
10/18(日)21:00~質問数が50個に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後~10/28(水)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後~11/4(水)23:59まで ※予定
☆結果発表
11/5(木)22:00 ※予定
遅くなりましたが、みなさまの作品への感想です。ご投稿ありがとうございました!
①「朝月」(作:クラブさん)
なんでそんなに速いんですか。 月という名前をキツツキの名前にすることをはじめ、妖○ウォッチのメダルと④の要素を絡める手法など安定の巧みさの他に、最後のオチでのコミカルさの両方が光る作品でした。
②「天に向かって弓を引け!」(作:きの子さん)
なんでそんなに速いんですか(2回目)。まさか創りだすで転生モノが読めるとは。夜ではない月やメダルはゲーム内設定とすることでスムーズに回収されていました。全編通してのドタバタ劇から一変、最後の機械的な表示が不穏です。彼女はゲーム世界で今後も過ごしていけるんでしょうか…
③「初恋は2回咲く」(作:リンギさん)
思い出の「月」とメダルに込められた2人の思いに、おもわず涙ぐんでしまいました。許されざる初恋の行方は悲しく切ないですが、最後の場面が2人にとっての救いになればいいと思います。また、各所に散りばめられた言葉の使い方も素敵です。秋に咲くピンクのさくら、エモンガです。
④「バンジョーとカズーイの大冒険実況プレイ part5」(作:休み鶴さん)
ゲーム実況!元のゲームは知らなかったのですが、楽しそうな様子が伝わってきます。「おたからザクザクビーチ」って本当にあるステージなんですね。まさに要素回収のためにあるかのようなステージ名です!また、問題文の回収も微笑ましい場面です。ぜひともpart6以降も視聴したいです。
⑤「男は死んだ」(作:琴水さん)
簡易解説が潔い!まさにらてらてますか?な解説でした。月島萌(35)と女神ルナ(35)に思わず笑ってしまいました。ゲラゲラ笑いながら読んでいたら、最後の台詞で真顔になってしまいました。落差…
⑥「籠の仔鳥よ夜明けに飛び立て」(作:あひるださん)
メダル=勲章は想定していたんですが、ここまで重厚なお話が出てくるとは思っていませんでした。戦中ということもあって、国語の教科書に載っていてもおかしくないようなお話でした。「命は大事です」が染みるお話でした。
⑦「ノンフライだからあがらない」(作:クラブさん)
全要素回収はもちろんですが、月=8月という回収に感服です。赤字にして読んで、笑ってしまいました。要素だけでなく、「ムジュン」や「ルンバ」まで組み込んでもらって嬉しいです。そしてギャグテイストなお話なのに問題文自体はほろ苦い回収なのも素敵です。
⑧「デ○ノート」(作:ryoさん)
パロディだっていいじゃないですか。パロディ元は詳しくは知らないのですが、パロディだからこそ、月という名前に対する納得感と最後のオチのインパクトが強烈です。死神の独り言が皮肉っぽくて好きです。
⑨「萩の月見て何想う」(作:ハシバミさん)
病室で萩の月での月見、そして過去を変えたという告白。切なさが漂う手紙で女が語ることとは。結局手紙の相手はどんな人だったのでしょうか。読んだ後もいろいろと考えさせられる作品でした。エモさ以外にも謎の漂う素敵な作品でした。
⑩「撫子の護り」(作:休み鶴さん)
かご=ゴール、あける=空ける(不在にする)という回収に納得です!最難関要素の回収もおしゃれで、メダルを逃すというネガティブな結果になったにも関わらず、最後のみなみの受け取り方によって爽やかな雰囲気になっています。
⑪「海月がきれいですね。」(作:ぎんがけいさん)
これはもう、最後の一文の破壊力が抜群です…!水族館のクラゲというテーマによって全体に幻想的な雰囲気がありつつ、公開プロポーズという甘酸っぱさによってきれいにまとまっています。メダルがマジックで消える、という点も面白かったです。
⑫「『科学を学ぶ日曜日』アーカイブより:2053年6月8日放送回」(作:「マクガフィン」さん)
マクガフィンさんといえば、エモンガな解説を作るイメージですが、今回の「火5」にはやられました。インタビュー番組という構成によって各要素がスムーズに回収されています。とくに④の回収はさすがです。ロマンチック!……と思っていたのに妄想オチなんてひどい!
⑬「ギルドより大切な友情」(作:まりむうさん)
ゲームに限らず、初心者や新人さんには優しく接したいな、と思わせるお話でした。月に手を掲げるとワープできる、という設定が美しいです。男と少女のギルドでは、仲間たちがみんな仲良くプレイしているのでしょうね。
⑭「月に鳴く」(作:ししゃもさん)
月にいるとは…!自分でも似たような問題を出題しておいて、まったく想定していませんでした。ルナの心境の変化が、無機質になりがちなSFのストーリーの中でじんわりとした温かさを演出しています。ルナとアヤのこれからが穏やかなものになってほしいです。
⑮「憧憬」(作:OUTISさん)
日食!確かにそれでも昼間に月を見ることができます。大会のメダルを取れなかった、という解釈は他にもありましたが、順位が欠番となってメダルが消えた、というのはこの作品だけでした。各登場人物のほの暗い感情が日食の時の暗さとオーバーラップするようでした。
⑯「楽しい運動会」(作:きっとくりすさん)
児童書のような、終始穏やかな空気が流れるお話でした。かわいいおばあちゃんの楽しい1日ながら、しっかりと要素は回収されています。おもちゃのキノコを本物だと思ってしまい、「処分しなければ!」と思う天然なところも思わずふふっ、と笑ってしまいました。
⑰「旅人と月」(作:知らない人さん)
ファンタジーな作品ながら、丁寧な描写で納得感が高くあります。「夜でもないのに」という問題文の活かし方が素敵です。シューと少女の冒険譚が楽しみです。また、メダルが2段構えになっている点にも驚きました。
⑱「朝日の影に消えたメダル」(作:靴下さん)
まずはタイトル!大会自体のタイトルを活かしてもらえるとは! そして瑞月という主人公の苦悩が読んでいるこちらまで苦しくなってきます。しかし、そんな瑞月が問題文の「女」ではないという驚き。悲しいですが、正直になった彼女にはこれからの人生をまっとうしてほしいです。
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
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Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!