私はすっかり深夜の酔っ払いになっていた。千鳥足の勢いが余って道路に飛び出したところに走ってきたのは、私がこのあと乗ることになるタクシーだった。急停車したタクシーを捕まえた私は、そのまま「乗せてくれ」の一点張りだ。タクシーは回送表示だったが、こうなってしまうと諦めて私を乗せるしかなかった。
「まったく、この前もうるさい奴がいて後ろに移動してもらったっていうのに、また同じような迷惑客かい。」
「いいじゃないか、助手席にいたって。お詫びに何か買ってあげるさ。今欲しいもの、何でも言ってみな。」
「それじゃあ、今着ているこのスーツをどうにかしたいものだ。」
「そのスーツ、もうダボダボじゃねえか。新しいのを忘れず調達しておくさ!ハハハ!」
「俺とどこかで再会するつもりか?残念だがこっちにそんな余裕はないよ。」
のべつ幕なしまくし立てられるのに痺れを切らしたのだろう、彼は私をいい加減なところに降ろし、再びタクシーを走らせて夜の闇に消えてしまった。私がその夜の行動を自省したのは、日も昇りきった後だった。次の日、昨晩の無礼を詫びようとタクシー会社に問い合わせたのだった。
後日私は、ピカピカで新品のスーツを購入した。私の乗っていたタクシー、その運転手にすぐにでも渡してあげたかった。運転手は本当にスーツが欲しいのかと言われると私の思い過ごしのようにも感じるが、それでも構わなかった。
あの夜私の隣でハンドルを握った彼は、それっきり私の前に姿を見せていない。出来るならそのまま、金輪際私の前には現れないで欲しいものだ。折角スーツも用意したのに、私がそう思うのはなぜだろうか?
「まったく、この前もうるさい奴がいて後ろに移動してもらったっていうのに、また同じような迷惑客かい。」
「いいじゃないか、助手席にいたって。お詫びに何か買ってあげるさ。今欲しいもの、何でも言ってみな。」
「それじゃあ、今着ているこのスーツをどうにかしたいものだ。」
「そのスーツ、もうダボダボじゃねえか。新しいのを忘れず調達しておくさ!ハハハ!」
「俺とどこかで再会するつもりか?残念だがこっちにそんな余裕はないよ。」
のべつ幕なしまくし立てられるのに痺れを切らしたのだろう、彼は私をいい加減なところに降ろし、再びタクシーを走らせて夜の闇に消えてしまった。私がその夜の行動を自省したのは、日も昇りきった後だった。次の日、昨晩の無礼を詫びようとタクシー会社に問い合わせたのだった。
後日私は、ピカピカで新品のスーツを購入した。私の乗っていたタクシー、その運転手にすぐにでも渡してあげたかった。運転手は本当にスーツが欲しいのかと言われると私の思い過ごしのようにも感じるが、それでも構わなかった。
あの夜私の隣でハンドルを握った彼は、それっきり私の前に姿を見せていない。出来るならそのまま、金輪際私の前には現れないで欲しいものだ。折角スーツも用意したのに、私がそう思うのはなぜだろうか?
着想から1ヶ月以上煮込みました。SPをして下さった方々に大いなる感謝を。
SP部屋問題
らてらておぶざまんす?2020-5
15イイネ
No.8[休み鶴]05月30日 18:3305月30日 18:39
4 問いかけに対する答えとしては、「運転手に再会するということは、私も死亡するということを意味しており、私はまだ死にたくないから」ですか? [編集済]
No! しかしそれは別解としてありですね~
No.9[休み鶴]05月30日 18:4005月30日 18:50
「うるさい奴がいて後ろに移動してもらった」というのは、トランクに死体を入れたことを意味していますか?
Yes! しれっとこわいこと言ってるのです [良い質問]
No.12[休み鶴]05月30日 18:5605月30日 19:01
「ハンドルを握った彼」のスーツがダボダボなのは、殺害した運転手から奪ったからですか?
Yes! なのでトランクにいる運転手は恥ずかしいことに下着s...解説を出します。 [編集済] [良い質問]
No.13[白石コーソー]05月30日 18:5605月30日 19:01
語り手はタクシー会社に問い合わせた時に本来の運転手の死亡を知り、その運転手にお供えのために新品のスーツを買った。一方、隣でハンドルを握った彼が殺人者ということにも気付いたため、もう見たくない。ですか?
その通りです!正解! [正解]
参加者一覧 4人(クリックすると質問が絞れます)
全員
もこたろ(1)
休み鶴(6良:5)
コンコンシー(1良:1)
白石コーソー(5良:4正:1)
俺は会社をクビになってすっかり落ちぶれていた。溜まりに溜まった苛立ちが爆発して首を絞めてしまったのは、ひょんな理由から口喧嘩を始めたタクシー運転手だった。彼に少し黙って欲しかっただけで、殺すつもりはなかったのだ。
俺は彼の服装を奪って運転手になりきり、死体はトランクに乗せて、タクシーごと人目のつかない場所に遺棄しようと企んだ。その真っ最中に、運悪くあの酔っ払いに遭遇してしまったのだ。元々客をお断りするための回送表示だったが、こうなってしまうと諦めてこいつを乗せるしかなかった。
「まったく、この前もうるさい奴がいて後ろに移動してもらったっていうのに、また同じような迷惑客かい。」
その"うるさい奴"が今も後ろにいるとは、酔っ払いは知る由もなかろう。
「いいじゃないか、助手席にいたって。お詫びに何か買ってあげるさ。今欲しいもの、何でも言ってみな。」
「それじゃあ、今着ているこのスーツをどうにかしたいものだ。」
実際、このスーツは俺のサイズに合っていなかったので着づらい。
「そのスーツ、もうダボダボじゃねえか。新しいのを忘れず調達しておくさ!ハハハ!」
「...俺とどこかで再会するつもりか?残念だがこっちにそんな余裕はないよ。」
もし会うとしても、それは俺が手錠をかけられた後だ。
今日が初仕事のタクシー運転手に土地勘なんてものはなかったので、こいつはいい加減な場所に降ろしてしまった。ようやく邪魔が消えたので、死体処理を済ませてさっさとずらかろうと、森の中へタクシーを走らせた。明日か明後日位にあの酔っ払いが真実を知って、恐怖に震えた姿を想像すると、とてもおかしかった。
- - - - - - - - - - - - - -
「回送中に酔っ払いを乗せた?そんな話ここの従業員からは聞いておりませんよ。」
「え、どういうことですか...?」
電話での会話で私は、昨晩の運転手は偽物であり、本物の運転手は現在消息を絶っていることを知った。そしてその運転手は、間もなく亡くなっている状態で発見された。
あの夜、タクシーに乗っていた私のすぐ後ろで、本当の運転手が殺されてトランクに閉じ込められていたなんて。そんなことをこれっぽっちも知らないまま、酒の回った頭で人殺しを相手に騒ぎ立てていたことに、自責の念が込み上げてきた。
あの夜、私の隣にいた偽の運転手に対して言い放った、新しいスーツを用意するという約束。私は、彼が着ていたものと同じサイズの立派なスーツを購入した。もちろん、スーツの本当の持ち主である運転手のためにだ。
出来ることなら、私は生きているあなたと会いたかった。タクシーを走らせるあなたの隣に座って、世間話でもして盛り上がりたかった。しかし、過ぎた時間はもう巻き戻せない。失った人は二度と戻っては来ない。だからせめて、奪われたスーツを運転手に返してあげ、それを冥土の土産として天国まで送り届けてあげることにした。今の私にできる償いは、これが精一杯だった。
事件の犯人は無事に逮捕された。タクシーに乗った晩の出来事は私にとってトラウマとなり、時々それが夢にまで現れる。人の命を奪った上、私の隣で"運転手ごっこ"をしていた彼とは、当然二度と会いたくないものだ。
《簡易解説》
ハンドルを握っていたのは偽物の運転手であり、彼に殺された本物の運転手はトランクの中にいた。自分が事件の渦中にいたことを後になって知った「私」は、タクシーに乗った晩のことがトラウマとなったため、偽物の運転手=事件の犯人と再び会うことを拒んだ。
俺は彼の服装を奪って運転手になりきり、死体はトランクに乗せて、タクシーごと人目のつかない場所に遺棄しようと企んだ。その真っ最中に、運悪くあの酔っ払いに遭遇してしまったのだ。元々客をお断りするための回送表示だったが、こうなってしまうと諦めてこいつを乗せるしかなかった。
「まったく、この前もうるさい奴がいて後ろに移動してもらったっていうのに、また同じような迷惑客かい。」
その"うるさい奴"が今も後ろにいるとは、酔っ払いは知る由もなかろう。
「いいじゃないか、助手席にいたって。お詫びに何か買ってあげるさ。今欲しいもの、何でも言ってみな。」
「それじゃあ、今着ているこのスーツをどうにかしたいものだ。」
実際、このスーツは俺のサイズに合っていなかったので着づらい。
「そのスーツ、もうダボダボじゃねえか。新しいのを忘れず調達しておくさ!ハハハ!」
「...俺とどこかで再会するつもりか?残念だがこっちにそんな余裕はないよ。」
もし会うとしても、それは俺が手錠をかけられた後だ。
今日が初仕事のタクシー運転手に土地勘なんてものはなかったので、こいつはいい加減な場所に降ろしてしまった。ようやく邪魔が消えたので、死体処理を済ませてさっさとずらかろうと、森の中へタクシーを走らせた。明日か明後日位にあの酔っ払いが真実を知って、恐怖に震えた姿を想像すると、とてもおかしかった。
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「回送中に酔っ払いを乗せた?そんな話ここの従業員からは聞いておりませんよ。」
「え、どういうことですか...?」
電話での会話で私は、昨晩の運転手は偽物であり、本物の運転手は現在消息を絶っていることを知った。そしてその運転手は、間もなく亡くなっている状態で発見された。
あの夜、タクシーに乗っていた私のすぐ後ろで、本当の運転手が殺されてトランクに閉じ込められていたなんて。そんなことをこれっぽっちも知らないまま、酒の回った頭で人殺しを相手に騒ぎ立てていたことに、自責の念が込み上げてきた。
あの夜、私の隣にいた偽の運転手に対して言い放った、新しいスーツを用意するという約束。私は、彼が着ていたものと同じサイズの立派なスーツを購入した。もちろん、スーツの本当の持ち主である運転手のためにだ。
出来ることなら、私は生きているあなたと会いたかった。タクシーを走らせるあなたの隣に座って、世間話でもして盛り上がりたかった。しかし、過ぎた時間はもう巻き戻せない。失った人は二度と戻っては来ない。だからせめて、奪われたスーツを運転手に返してあげ、それを冥土の土産として天国まで送り届けてあげることにした。今の私にできる償いは、これが精一杯だった。
事件の犯人は無事に逮捕された。タクシーに乗った晩の出来事は私にとってトラウマとなり、時々それが夢にまで現れる。人の命を奪った上、私の隣で"運転手ごっこ"をしていた彼とは、当然二度と会いたくないものだ。
《簡易解説》
ハンドルを握っていたのは偽物の運転手であり、彼に殺された本物の運転手はトランクの中にいた。自分が事件の渦中にいたことを後になって知った「私」は、タクシーに乗った晩のことがトラウマとなったため、偽物の運転手=事件の犯人と再び会うことを拒んだ。
20年05月30日 18:13
[NSGN]
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
ぎんがけい
NSGNさんお疲れさまでした。もう少し質問数がかかると想定していたのですが、思いのほか早く解決してしまい驚いています。2の休み鶴さんの質問がえぐかったですね。あと、NSGNさんの誘導もばっちりでしたよ。[20年05月30日 19:05]
NSGNさんお疲れさまでした。もう少し質問数がかかると想定していたのですが、思いのほか早く解決してしまい驚いています。2の休み鶴さんの質問がえぐかったですね。あと、NSGNさんの誘導もばっちりでしたよ。[20年05月30日 19:05]
ブックマーク(ブクマ)って?
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!
トリック:1票物語:5票良質:9票ブクマ:4
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Goodって?
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これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
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