ウミガメのスープと裏切りの男

簡易解説:別の老舗店のウミガメのスープをこよなく愛する男は、興味本位で別のレストランのウミガメのスープを食べる。しかしそのあまりのマズさに驚愕し、別の店のスープに浮気した裏切りを詫びながら、二度とそのレストランに足を運ばなかった。


私はこの老舗店『海亀軒』の常連である。
通い続けて幾星霜、看板メニューの『ウミガメのスープ』は俺が育てたといっても過言ではない。(過言)

透明感がありながらどこまでも深い味わいのスープ。
ぷりぷりの具材は魚介でありながらまったく臭みを感じない。
まさに職人技のスープだ。これを凌駕するスープはどこを探してもないだろう。

ある日、私は散歩中新しくできたレストランに目が留まった。
正確には、レストランの看板メニューに目が留まった。

『当店イチ押し！ウミガメのスープ！』

…ウミガメのスープ。
他の店のスープ…？ちょっと興味ある…。

いや、いやいや、海亀軒のスープこそ至高、他の店のスープなんて、そんなそんな…

「ご注文はウミガメのスープでよろしいですか？」
「はい…」

何をやっているんだ私は。
スープの誘惑に負けた。

そして運ばれてきたウミガメのスープをひとくち食べて、ひとこと。

まっっず！！！

言葉にするのは何とか避けたが、これはマズい。おいしくない。

雑味の多いスープに臭く固い具材からいったいどうやってうまみを感じればいいのか！
これはひどい。

あまりのひどさに私は思わずシェフを呼んだ。

「すみません。これは本当にウミガメのスープですか？」
「はい･･･　ウミガメのスープに間違いございません。」

そうなのか…。
マズいとはいえ食材たちに罪はない。どうにか完食し、支払いを済ませた。

あぁ、ごめんよ海亀軒。もう二度と浮気しない、裏切らないよ…。

私はその足で海亀軒へと向かった。