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簒奪「1ブックマーク」
国王を殺し、その王冠を奪った男がいた。
現在の王族は根こそぎ首をはねられ、その男がただ一人、血塗られた玉座に座ることになる。

その場にいた誰もが「これでこの国は俺のものだ!」と叫ぶ男が、これからこの国の血統を塗り替えていくかのように見えた。

しかし、一人の老宰相はこの凄惨な光景をみて、静かにその頭を垂れた。

一体、なぜ?
26年09月10日 00:01
【ウミガメのスープ】 [わらしべ]

このスープは飲み干されました。ありがとうございました!




解説を見る
答え
前国王こそが簒奪者(加害者も可とする)で、男が本来の正統な王族だったから。

簒奪者による国盗りのように見えているが、王位奪還の瞬間である。

(殺された国王は悪い人ですか?YES)
↑これだけでは正解としない。
どう悪いか理由を繋げてもらえたら正解とする。


簒奪(さんだつ)とは、本来その資格や権利がない者が、君主の地位や政治の権力などを不当に奪い取ることを意味する。


バックストーリー
(とんでもなく長いので読まなくてもいいです)


国王レイノルドは己の失態を悔やんだ。
もうすぐ自分も、あの強欲な男の手に掛けられるだろう。
己には猶予が無い。この身を蝕む毒が刻一刻と命の灯火を奪っていくからだ。

忠臣だと信じていたのに。
思えば、王子や姫、妻が一人、また一人と倒れていったあの頃にもう少し気を配るべきだったのだ。
過ぎてしまった過去にすがっても、もう未来は無い。

――策を講じねば。
残った手札は限られている。

病的なまでに痩せ細った身体は、もう手を動かすのも簡単ではない。

「――……ヴィンセント……」
「お呼びですか、陛下」

若輩ではあったが、才を見込まれてこの王宮へ入ったこの内官。
きっとこの内官なら、あの男も殺すに殺せないだろう。現内官の中で一目置かれている、その才は確かだ。

「――……よく聞け。ただ一人、生き残っている幼い王子アーノルドとよく似た人物を探し出し、急ぎ、王子をこの王宮から逃がすのだ」

王に呼ばれ、その病床に近付いた内官ヴィンセントはハッと目を見張った。
王の目に宿る、炎のような煮え滾る無念を垣間見た気がしたからだ。
内官に任命されてから日が浅いが、少し前から王宮内に流れていた不穏な空気。
王の言葉ですべてを悟ったヴィンセントは密やかに王に耳打ちする。

「陛下……。嗚呼……。なんてことでしょう……。心中、お察しいたします。一体なぜこんな恐ろしいことが起こっているのか…。内官内の派閥の勢力図は、もう……」
「……誰にも、知られてはならん。そして、お主もまた、私の死後、訪れるであろう惨劇から逃れるためにあの男に媚をうっておけ。……良いな。お主は何としても生き残るのだ。そして、王子を陰ながら見守ってやってくれ……」

重く、張り詰めた空気の中で行われた王の賭け。
すべてを一人の王子と新米の内官に任せるのはいささかの迷いがあったが、レイノルドの持つ中で最善の一手だった。

「……もうすぐ、あの男が戻ってくる。もう戻れ。頼んだぞ……ヴィンセント……」
「陛下……。しかと、しかと拝命いたします……!」

内官の離れる衣擦れとともに、やがて己を死に至らしめる臣下の男が「陛下、薬の時間です」とやって来た。


――それから、数日もしないうちに国王レイノルドの崩御が民へ伝えられた。

王族の度重なる不幸な死に衰弱してしまった王。
そしてその王を献身的に支えた忠臣に王座を託すとの偽りの言葉とともに――。


……時は流れ。

ヴィンセントは皺の増えた己の手の甲を見て、一人、あの恐ろしい日を思い出していた。

現国王は王座に就くなり、王宮に生き残っていた王族を不都合の無いように処理していった。
間一髪で王子とその身代わりを入れ替えることに成功したが、国王の魔の手が忍び寄らないとも限らない。
そして、己もまた、処理の対象とならないよう自分を売り込まなければならなかった。

『――仕えるべき主はお前ではない!』

心の中にある叛心を誰にも見せることなく、うまく立ち回れたように思うが、一つ、心残りがあった。

あの混乱の最中に、王子の行方が分からなくなったことだ。

大分と丸くなり始めた国王の隙を見て、王子の行方を探し続けているが、依然として見つからない。
前王に託された大事であったのに。
己が寿命を迎える前に、わずかにでも痕跡が見つかると良いのだが。

ふぅと大きなため息をこぼした時、ピリリとした緊張が王宮を駆け巡った。
悲鳴。
剣戟。
逃げ惑う足音。
――何かが王宮で起こっている!

走り出したヴィンセントは何か予感めいたものを感じた。
通り慣れた廊下の先。
息を切らしながら辿り着いた喧騒の元。

この国の玉座のある一室は、見るも無残に血で彩られていた。

その下で倒れているのは、かつての簒奪者。

返り血を浴びて立つ目の前の男。
王座に手を掛け、するりと椅子をなぞる仕草。
倒れた男の側にあった王冠を手にした男は、己の頭にそれを被せた。
振り返る。
その目に宿る炎を、ヴィンセントは見逃さなかった。

「これでこの国は俺のものだ!」

振り上げられた剣の切っ先。
天に向かって突き上げられた男の蛮行の真実を、誰も知りはしない。

……今は、国王殺害の現場に集まってくる臣下たちを抑えるのが、己の役目だろう。

「皆のもの!控えよ!――陛下の御前である!」

こういう時のために宰相という位を手にしたのだろうとヴィンセントは苦笑した。
その声で誰も動こうとしなくなり、辺りが静けさを取り戻す。
一歩、前へ進んだ。男と視線が重なる。

己がまだ新米だった頃、見ていた国王レイノルドの顔とよく似た面立ちがそこにはあった。


「……お見事でございます。アーノルド陛下」


こうして呼べることのなんと嬉しいことか。
冷たい床に膝を落とし、深く、深く頭を垂れた。
この国があるべき姿に戻ったのだ。


二人だけが知る、王位奪還の瞬間だった。