或る夏の思い出

ウミコには、カメコという姉がいた。
2人はとても仲の良い姉妹だったが、ある日些細なことで喧嘩をしてしまった。
しばらくして冷静になったウミコは、カメコに謝ることを決意するが…………。


なぜその日でなければならなかったのか。カメコは交通事故に遭い、亡くなってしまった。
仲直りが出来ぬままになってしまったことが、ウミコはずっと気がかりなのであった……。


それから時は経ち、何度目かのカメコの墓参りにやって来たウミコ。
いつものように花を替え手を合わせ、帰ろうと立ち上がった時であった。
後ろを振り返るとそこには………


大好きだった姉が、幽霊としてそこに居たのだ。
ウミコは笑顔を浮かべながら泣き崩れた。形は違えど、また姉に会うことが出来たのだ。
ずっと心の内に燻っていた言葉を、遂に伝えることが出来るのだ。

「あの時、は、ごめん、ねぇっ、……」

泣きながら口にしたウミコに対する返答は無かった。
返事の代わりに、その幽霊はウミコを抱きしめた。
触れることは出来なくても、ウミコには姉の温かさを、しかと感じることが出来た。やっと、仲直りが叶ったのだ。

それから程なくして、その幽霊は消えてしまった。
まだ微かに残る姉の面影を感じながら、もうひとつ、あの日から言えなかった言葉を声に出した。

「………行ってらっしゃい、お姉ちゃん……。」

行ってきます……。ふと、そんな声が耳に届いたような気がした。


──これは、ウミコの身に起きた、どこか不思議で温かい、或る夏の思い出の話。