ラテクエリサイクル9-11「静寂」

警察の取調室。担当刑事のラテオとシンヤの会話。
「ラテオ警部、調査報告書がまとまりました。被害者は水平高校吹奏楽部顧問、亀山拓斗。昔はオーケストラ指揮者もやっていたことがあるようです。犯人は同高校の吹奏楽部三年、音無カメオです」
「なるほど。犯行動機については？」
「カメオ自身は答えませんでしたが、他の部員に質問して分かりました。被害者の亀山は今度の音楽コンクールに向けて、部員に『4分33秒』という曲を繰り返し練習させていたそうです」
「ふむ？　その曲が何かあるのか？」
「これは音楽ファンには有名ならしいんですが、『4分33秒』という曲は現代音楽の変てこな曲でしてね、最初から最後まで楽器を一つも鳴らさない曲なんだそうです」
「鳴らさない？」
「そうです。だから演奏者は最初から最後までじっとして何もしない、指揮者だけが指揮棒を振っているんです。聴衆はいわば沈黙を聞くって曲ですね」
「現代音楽ってのは良く分からんものだな……」
「ええ、それで亀山は部員にこの曲の練習を繰り返しずっとやらせたんだそうです。精神修養だとか言ってね。それでまともな練習をさせてくれないことに腹を立てた音無が、ついに練習の後で亀山に突っかかって、殺してしまったということのようです」
「なるほど。しかしなんだ、あの音無が言っていた『レミファソラシド』ってのは？」
「ああ、無音の曲なんて練習させられて頭に来たので意趣返しに音階しか答えなかったそうですが、最初は『レ』イセイに我慢してきたけど、最後には『ド』タマにきたそうです」