【正解を創りだすウミガメ】封じられし女王【第31回】

手品にハマったのは大学生の時。⑨(42)プロの技は難しくてなかなかうまくはできなかったが、なんとか手の内にコインやカードを隠す⑩(47)パームを習得した。それに味をしめて三つ下の妹のバイト代の一万円をハートのクイーンに変えて、そのまま返さなかったのが十年前。妹からもらった結婚祝いののし袋の中身がそれなのは、全く自業自得である。

要素：⑨⑩
字数：164文字

餅を大食いし①ながら毛並みが美しい②猫のライムを撫でている祖父。
祖父「ゴフォッッ！」
どうやら餅を喉に詰まらせたようだ。助けるか、と思ったら
祖父「な〜んちゃって③☆わしは元気じゃ」
やれやれ。この前ドッキリ番組で祖父はプロ判定出たらしいけど。プロのやることは難しくてよく分からないな⑨。…というか何のプロなんだ。ドッキリのプロかな。知らんけど。

そんなことをしてると、祖母が作った餅が運ばれてきた。
祖母「ごめんね☆ケチャップかけすぎちゃったわ」
…物は試しだ、口に運んでみる。うん、こんなに赤いのに美味しい⑤。
美味しい、美味しい…のだが祖父は私を煽ってきてばかりだ。隣でパラリラパラリラしてる⑧し。

私はこの日、決心した。
祖父には、煽られたぶん煽り返す。
…のし袋にトランプを 入れよう そして 「祖母を愛して幸せに」という意味で ハートのクイーンにしよう…

終わり
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簡易解説
夢の中でしたジジ抜きで、男の手に残ったカードがハートのクイーンだったから。


毛並みが美しい②馬。それが僕、アレアレアーレアレアレアレアーレアレアレレース。長い名前だよね。控えめに言ってアレ⑦だ。
今、お餅を大食いする①夢を見てた。僕、お餅だーい好き。も一回その夢見たいから、二度寝しまーす⑥。おやすみー。

夢の中で僕は、人間になっていた。
女「ハロー、お目覚め？元気ー？」
何だこいつは。直感的に、裏でパラリラパラリラしてそうだな。
女「あー、今裏でパラリラパラリラしてそうって思ったでしょ！してまーーす！パラリラパラリラしてまーーーす⑧！！なーんちゃって③、してませーーーーん！ww」
本当に何なんだこいつ。もしかして、心が読めるのか？…なら、パームして⑩みてよ。
女「はいっ！コインが消えましたー」
やっぱり。心が読めるんだな。なら…、僕をお腹いっぱいにさせてよ。そうだな、リンゴがいい。
女「えぇーっ、めんどくさっ。あそこにリンゴの木があるんでご自分でどうぞ〜。セルフサービスになりまっすー。」
めんどくさがりな女か。こっちまで面倒臭い。つーか場所知ってるならお前が行けよな。
ー数分後
僕「ふぅ〜。」
やっとリンゴが取れた。いや、リンゴとは言えないほど赤いのだが。
ぱくっ。おおー、こんなに赤いのに、美味しい⑤！思わず拍手してしまった。
女「どう？私が育てたんだー！美味しいでしょ。」
すごいな、育てるの大変そうだな。んー、それにしてもひまだ。何かしたいなあ。
女「トランプしよ？」
お、いいね。楽しそう。
女「じゃあ、ジジ抜きで！ルールわかるー？ババ抜きなんだけど、ジョーカーが何か分からないやつだよ。オケィ？じゃあ、スタートぉ！」
こうして、僕と女でジジ抜きをした。今、終盤のターンだ。
女「私が勝ってやる！」
僕「負けるもんか」
ふん！女が僕の手元から一枚のカードを抜いた。
女「ああっ！やったー、そろったあ！あーがり！」
僕が負けた。惜しかったのに。そっか、彼女、心が読めるんだったわ。そりゃあ勝つよな。
そんな僕の手元には、ハートのクイーンが残っていた。


ハッ！
目が覚めた。
マサコ「おはよー、アレ！…返事ぐらいしてよねー！」
厩務員のマサコは、僕を人間のように扱ってくるんだよな。僕は喋れないぞ。
マサコ「あ、そうだ、はい、これどーぞ。」
そういってマサコが渡してきたのし袋の中には、トランプのハートのクイーンが入っていた。
そういえば、あの女、マサコに似ていたような気がする。…気のせいだよな。


おわり
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僕はめしつかいでかめこさまにつかえています。
かめこさまは控えめに言ってアレです(7)。

かめこさまには１００人近くのめしつかいがいます。
sからdまでのランク分けがされためしつかいは給料から屋敷での扱いまでかなり変わってきます。

毎日かめこさまは二度寝します(6)。
それをおこすのはsランクの人の仕事です。
ある時sランクのカメオが風邪をひき、仲の良い僕がおこすことになったんです。
ベットのそばに行くとかめこさまにのし袋を渡されました。
「いつもありがとう」と。

僕は嬉しくて、同僚に自慢しようと思いました。
スキップで帰っていると、カメオがいたんです。
「お前なんでいるんだ」
「な〜んちゃって、です(3)よ」
そそくさと逃げて行きました。

のし袋の中はハートのクイーン。
そこで僕は感づいて、かめこさまに会いに行きました。

やはり僕にはプロのやることは難しすぎてよくわかりません(9)。

この後僕とかめこさまがどうなったかはご想像にお任せします。


終わり

【簡易解説】
透視能力があると豪語する男。
一回目は実際に的中させてきたのだが、もしかしたらマグレ当たりかもしれないと考えた女は、あえてのし袋にトランプを入れてそれを見せた。
仮に当てずっぽうで言ってるのなら何かしらのお札の種類を、本当に透視してるのならトランプのスートと数字を正しく言うと考えたのだった。

【以下簡易でない解説】
『新年明けましておめでとうございます今年もよろしくお願いします』
「おめでとうございます。こちらこそ今年もよろしく」
『年末年始はガッツリお休みをいただきましたので、会ったのはおよそ10日ぶりですね』
「連絡自体は取ってたからそこまで久しぶりって感じもないけどね」
『連絡？そんなの取ってましたっけ』
「まあこれとか」
『年賀状じゃないですか。連絡と言えるか微妙ですが』
「まあ確かにそうかもね。あ、年賀状ありがとう。まさかシオン君がこんなに達筆とは知らなかったよ」
『筆ペン使って書くと何かそれっぽくなるんですよね。鉛筆やペンだと何か微妙な感じになるのですけど』
「そういうパターンがあるんだ。それと年賀状出せなくてごめんね」
『忙しかったのでしょうから仕方ないですよ』
「いや年末年始は忙しいどころかガッツリ休んだよ？そもそも人に休暇を与えてないと自分も休めないからね」
『休んでたのですか？』
「俺だって休む時はガッツリ休むよ」
『失礼しました。伊部さんって研究大好きだから年末年始の休みを利用して何か発明してるのかと思いましたが』
「ああ、発明はしてたよ。仕事での研究や発明と趣味でのそれは違うからね」
『そういうものですか？』
「まあそんな感じだと思うよ。あ、それとこれ。はい年賀状」
『手渡しですか？』
「まあね。そもそも俺が年賀状出せなかったのシオン君の住所知らなかったからだけど」
『就職する時に提出した履歴書に書いてあるのを見ればいいじゃないですか』
「いや勝手に他人の個人情報を盗み見るというかそういうのは良くないというか」
『まあでしたら後で教えますよ』
「そう？あ、でもシオン君のと比べると俺の年賀状手抜きっぽく見えちゃうな。ごめんね？」
『いえいえ。それに私動物好きなので嬉しいです』
「そう？『牛 フリー素材』で見つけた牛を貼り付けてプラスアルファでメッセージ多少書いたくらいだけど」
『いえいえ、この牛の毛並みとかとても美しいじゃないですか②(7)』
「流石に牛の毛並みに注目したことは無いからなあ」
『そうですか。ところで伊部さんは年末年始には発明や研究以外で何をしてたのですか？』
「発明とかを除くとなると、年末の整理とか掃除とかを除いたら・・・基本ゆっくりしてたかなあ。普段忙しいからね。やりたいこととかやるべきこととかが終わったら、それこそダラダラしてたよ。正月から二度寝したり⑥(28)、暴走族がパラリラパラリラしてる⑧(35)のを聞きながら俺ならこんな寒い中バイクで走る気なんて全く起きないけどなって思ったり」
『今時パラリラパラリラ鳴らしてる暴走族もそれなりにレアだと思いますがね。というか想像以上にダラダラしてたのですね。何か心なしか太ったように見えるのですが』
「あ、そう？確かにお餅たくさん食べすぎっちゃった①(1)からなあ。それにご近所から何か赤い餅貰っちゃってさ。文字通りめちゃくちゃ赤いんだけどけっこう旨くてさ⑤(23)。たくさん貰ったんだけどあっという間に無くなっちまった。まあ俺ってこの時期くらいしかお餅食べたりしないし、まあいいんじゃないかな」
『まあ私は伊部さんの体調管理に貢献するつもりは無いので、そこのところは伊部さん本人でやっていただけると』
「・・・体調面については正直思う所はあるけどね」
『正直な話、伊部さんの健康面で心配な点はたくさんあるんですよ。特に睡眠時間に関しては控えめに言ってもアレとしか言いようがないです⑦(34)』
「今年の目標は『最低でも6時間は寝る』にしようかな？」
『まあ別に何でもいいですが・・・そういえば何か開発したと言ってましたが』
「ああそうなんだよ・・・これなんだけどさ」
『眼鏡・・・？にしてはだいぶデザインがとんでもないですね？』
「そう？」
『正直、控えめに言ってもアレです⑦(34)』
「『アレ』って言ってる時点で正直に言ってるとは言い難いんだよなあ。まあいいや。とりあえず・・・この封筒に何か入れてくれないか？」
『茶封筒？』
「そう。これに何か入れてくれないか？俺は後ろ向いてるけど、一応俺に見えないように」
『はい・・・入れました』
「オッケー。ええと・・・これは栞かな？」
『おや、正解です。さっき本屋に寄ったのですが、その時に付いてきました』
「なるほど。じゃあさっき言ったのをもう一回やってみてくれないか？」
『・・・分かりました』
「ありがとう。じゃあまた後ろ向いてるから」
『はい・・・入れました。どうぞ』
「はい、ありがとう・・・これは・・・のし袋？」
『はい』
「なるほど・・・これは・・・トランプの、ハートのクイーン？」
『おっ？』
「ちょっと拝借・・・おお、当たってた良かった。でも何でのし袋に入れたの？」
『まあちょっとした邪推ですよ』
「邪推？」
『もしかしたら当てずっぽうで言ったのかもしれないと、ですのであえてのし袋にトランプを入れたのです。普通のし袋にはお札を入れるので、当てずっぽうなら何かしらのお札の種類を言うと思ったので【問題文】』
「なるほどねえ。まあそういう発想は中々良いと思うよ」
『どうも実際に透視が出来るらしいですね』
「ああ、この『スケールスコープ』は・・・」
『はい？』
「え？」
『何て言いました？』
「え？『スケールスコープ』って」
『いや何ですかそのネーミング』
「まあ名は体を表す④(19)って言うし、ストレートな名前の方が良いかなって。それに『透ける』と『スコープ』をかけた上手い名前かと」
『いや控えめに言ってもアレですね⑦(34)。今時こんなドストレートな名前なんて薬でも見ませんよ』
「そのフレーズ気に入ったの？」
『まあ名前はともかくとして』
「ともかく？」
『その眼鏡？ってどんな機能があるのですか？』
「まあ先ほども言った通り、透視が出来るんだよ。レンズに埋め込まれてる部品が視線の動きを感知して、視線の先にある物質を対象として透視するんだ。さらに鼻の部分の・・・この部分何て名前だっけ？」
『ブリッジですね』
「そうなんだ初めて知った・・・まあこのブリッジにあるつまみを調整すると・・・レベルを変えることが出来るんだ」
『レベル？』
「まあ透視の程度だね。レベルが0から10あって今はレベル5なんだけど、この状態だと対象とした物体の中身を透視できるんだよ。まあ要するにさっきのように封筒に入った何かを見透かしたり、箱の中に何が入ってるか見たり出来る」
『レベルを上げるとどうなるのですか？』
「レベルが最大になると、その物質を完全に透視出来るんだよ。例えば建物を対象とするとそれが完全に消えてその向こうの景色が見えるようになる」
『なるほど。0にするとどうなるのですか？』
「0？それは何も透視しないようになるよ」
『それは普通の眼鏡では？』
「ま、まあそうなるね」
『ええ・・・あ、これ使ってみてもいいですか？』
「いいよ。あ、でもレベル7と8にはしないようにしてね」
『おや、何か欠陥でもあるのですか？』
「うん、対象とした物体の構造が透けて見えてしまうんだ」
『構造？どういうことですか？』ｶﾁｯ
「うん、例えば人を対象とすると内臓とかが」






























『な、な、な・・・・・』





『何じゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！』






「ああ説明の途中なのに・・・」
『おぼっ、おぼおっ、おぼろっ、そぼろどんっ・・・そういうことですか・・・』
「ご、ごめんね。もっと早く説明すれば・・・まあ最終的には7と8は取っ払っていいかもね」
『まあそうですね・・・実用化するとなると色々と大変そうですし』
「実用化？」
『え？透視とか出来る代物なんて色んな企業や人々が欲しがるんじゃないんですか？』
「まあそうだけど・・・でも実用化するつもりは無いかな？」
『そうなんですか？さっきのグロ映像が見えて・・・おぼおっ』
「本当に悪いことしたね・・・まあそれを抜きにしたとしても、例えば野球のバッターがこれを着けて打席に入ると、投手がこれからどんな球種を投げようとしてるか分かってしまうんだ。ボールの握り方が分かってしまえば、ストレートするかカーブするかスライダーするかフォークするかシュートするかナックルするかナックルカーブするか縦スラするかパームするか⑩(47)チェンジアップするかスラーブするかシンカーするか丸分かりになっちゃうんだよね」
『途中の球種と思わしき何かはサッパリ分からないんですが、とにかくそういった不正が横行してしまうってことなのですか？』
「まあそうだね。スポーツとかゲームとかの不正ならともかく、犯罪にも使われかねないからね。そこのところの対策が思い付けばいいんだけど」
『まるほど。それに透視マジックも容易に出来てしまいますしね』
「そこなの？まあでもそういう問題もあるのか」
『マジシャンは様々な試行錯誤を重ねてトリックを編み出してるのに、こんなのが出てきたら商売あがったりですよね』
「まあ確かにそうだな。それに技術力を極めまくってああいったことをやってるからね。プロ中のプロになるともう何やってるか難しすぎて分からない時あるしね⑨(42)。そういうのに対する配慮も要るかもね」
『まあそういうのは難しいですよね』
「うん。だからまあ一種のジョークグッズのような物だと思ってほしいというか」
『ジョークグッズなんて代物じゃないですよね？あ、そうだ伊部さん』
「何だ？ああこれを外に持ち出すのはちょっと控えてほしいかな」
『いやそれのことではなくて・・・』
「ん？どうした？」
『お年玉ください』
「はい！？」
『いいじゃないですか、お年玉。伊部さんの方が年上ですし』
「いやそうだけど、シオン君もお年玉貰うというよりむしろあげる立場というか・・・」
『いや私はあげる相手がいないですし、伊部さんもそうですよね？』
「失礼だな！？まあ否定は出来ないけど。まあいいや、ちょっと待ってて・・・」
『な～んちゃって③(12)、いくらなんでももうお年玉をせがんだりは・・・え？』
「うん。こういう時のために用意してたんだよね。はいこれ」
『いやいやそんなありがとうございます・・・ってこれってテニスボールじゃないですか。これを落として『落とし玉』ってやるんですか？』
「まあそうなんだけどさ。よくよく考えるとそれって玉が床か何かに落ちるともう落ちることは出来ないじゃん」
『はい』
「つまり落ちていない状態のそれを『落とし玉』と呼ぶのは不適切じゃないかと思って」
『はい？』
「だったら常に落ち続ける玉なら『落とし玉』って呼べるんじゃないかと思って」
『はい？』
「常に落ち続ける玉を開発したんだ」
『はい？？？』
「落ちるって言い換えれば重力が向いている方向に移動しているとも言えるよね？」
『はい？』
「だからこの玉は重力を操作して・・・この通り、ずっと落ち続けられるんだ」
『はい？？？』
「床に落ちそうになったら重力の方向を上向きにして、ある程度上がったらまた重力を下向きにして、といった感じだね」
『はい？？？』
「まあ単なる趣味の延長で作ったんだけど、よかったらあげるよ」
『はい？？？』
「それじゃあ今年も色々と世話かけるだろうけど、よろしく頼むよ」
『はい？』
「そうだ、さっき言った赤いお餅がまだ残ってるからシオン君も食べる？」
『はい？』
「あ、思い出した。この前美味しいお茶をいただいたんだ。いれてくるよ」
『はい？』
「ちょっと待ってて。そんなに時間はかからないから・・・」
『はい？』



『うーん・・・』



『プロの発明家のやることは難しすぎて私には分からん・・・⑨(42)』

【終】(全要素使用)

【要約】
パッと見で特殊な店に行っているとバレないよう、という気遣いも込めて、S嬢は客に名刺兼ポイントカードとしてトランプを渡している。
個人の自由ではあるが、常連はカードをS嬢から購入した専用スリーブに保管することが多い。


＊＊＊

鞭がしなる。
右手を高く高く掲げて、それを思い切り振り下ろす。
「この豚ぁああああ！！」
「ブヒィ、ありがとうございまぁあああ！！！」

私は夜の女王。パンピーと呼ばれる人々は頭に19番目のアルファベットをつけて揶揄うように呼ぶけれど、実態としてはサービス業の頭文字と言われるアレ④。
別に人を虐めるのが好きだからこの仕事についたわけじゃない。なんとなく成り行きで決まって、なんとなく辞める理由もなく続いているだけだ。第一、鬼畜だの冷徹だのといった形容詞で讃えられようとも、実際のところ客を本気で虐めることなんて出来やしないのだから。
その証拠に、目の前の男は痛々しくミミズ腫れの浮き上がった背中をひと撫ですると、恍惚とした顔でケロリと起き上がった。
「いやあ、今日も最高でした女王様！」
「おみ足が美しくって」
「ムチのキレも素晴らしい」

男はすっかりプレイ気分が抜けたのか、ペラペラと取り留めもなく話し始めた。
ああ、ついでに話しておこう。ここで勘違いしてはいけないのが、業務が終わったからといって気を抜かないこと。客はプレイが終わって気を抜いているけど、コッチはそうはいかない。一度女王の仮面を脱いだら、もう二度と女王として見られなくなる。ただの人間で女で、客と同じ立場にまで落ちてしまうのだ。
つまりそれはナメられるということでもあったし、仕事がなくなるということでもある。
だから。

「ねえ、誰が人間の言葉を話していいって？」
どんな時でも、彼らが望む絶対君主の顔をしてみせる。それがこの職についた私のポリシーでありプライドであり、ついでに保身だった。
「ぶ、ブヒィイ！」

支払われた時間いっぱいまで『楽しく』過ごした後、私はいつもどおり胸の谷間からカードを引き抜いた。
「ま、利口な豚なら次も遊んでやってもいいわ」
カードに描かれているのは刑杖を持ったハートのクイーン。つまりHurtの女王……この職の暗喩。裏面にはいつも通りサインが書いてある。私が名刺代わりに使っているトランプだった。
ちなみにポイント代わりでもあり、一定枚数集めると『ご褒美』が……、いや、これはどうでもいいか。

「ブヒィイイイ！！！」
男はカードを丁重な手つきで専用スリーブに素早く仕舞うと、慣れた仕草で敬礼し部屋を出て行った。
……………、五秒。
……………………………………、十秒。
よし。
男が戻ってこないことを確認した私は、扉をピッチリ閉めて、それから深く深く息を吐いた。

つかれた。
今の脳裏を占める思考はただそれだけである。
「まったく……、金をもらってる立場で言うのもなんだけど、ドMを極めた奴らの考えてることってよく分からないわ⑨」
今日来た常連の男は顔を合わせるなりよく分からないことを矢継ぎ早に喋り出し、膝着いて懺悔したかと思うと、罰として鞭で百叩きを求めてきた。控えめに言ってアレである⑦。
……いや、別にそれはいいのだ。多分会社で何かやらかしたんだろうなとは感じ取れたし、詳細も性癖も正直私の知ったこっちゃない。望みを叶えて金をもらう。この職の基本はソレだ。
ただ、その望みを叶えるのに、それらしいポーズをして、敢えて要求を一度断ってみせてから、わざわざ「女王たる自分に不敬にも要求をしてきたから」などとそれらしい理由をこじつけなければならないこと。毎回似たようなシチュエーションしか作り出さない客相手に、毎回違う理由を考えて尤もらしく演出するのが非常に面倒なのだ。
しかも、この仕事は嬢の容姿も重要であるからして、メイク、マニキュア 、ヘアセット②、香料、衣装、立ち振舞いその他諸々に気が抜けないのである。

道具を詰めたバックを持って扉を開ける。暖かな部屋の空気と入れ違いで、寒風が髪を梳いていった。ちらちらと混じる白は雪だろうか。
手を差し出して雪を掴もうとする。浮かれている自覚はあった。
明日は大晦日。いつも暇無しな私の、偶の休みだった。


部屋を掃き、窓を拭く。曇り止めにパーム油も塗りつける⑩。視界の隅でハートのクイーンの抜けたトランプタワーが音を立てて崩壊した。それを横目に炬燵を出し、机中央に籠と蜜柑をセットする。あとついでに特売で買った乾燥椎茸を水を張ったボウルに突っ込む。
回収したカードを揃えつつ除夜の鐘に耳を澄ませて、慌ただしかった1年の終わりに目を伏せた。


朝日が射している。小鳥の囀りが聞こえてくる。いつもなら、もう起きている時間だ。
そう、いつもなら。
私は目蓋の裏で優しい白さを感じながら、もう一度目を閉じた⑥。

昼光が射している。随分と日は昇り、どこからか子供達の笑い声が聞こえてくる。いつもなら、そろそろ準備を始めている時間だ。
そう、いつもなら。
のそりと布団から這い出た私は台所に立つと、すっかり水を吸って戻った椎茸を火にかけ始めた。BGM代わりにつけたテレビでは、どこかの芸人がパラリラパラリラと歌っていた⑧。

湯気たつ黄金色の液体に白い塊が浸かっている。柔らかなそれを箸で掴み口に放り込む。何度か咀嚼し唾液で剥がして、漸く噛み切れたそれを飲み込む。
「………………、うむ。」
やはり正月は餅である。甘辛く煮た椎茸と、その戻し汁との相性が抜群だ。飽きてきたなら、たっぷりの七味を加えても美味しい⑤。
やれもう一つ、と箸が動く。ゆっくりとしたスピードで、しかし止まらない。これで何個目の餅だろうか。
餅ひとつにはご飯茶碗一杯分のカロリーがあると言う。普段の私なら、いくら美味しそうな見た目でも芳しい香りがしていても、明日のため客のため、スタイル維持のため唾を飲み込んで我慢したことだろう。

しかし、しかしだ。
今日はお正月である。

夜の私は女王蜂。爪の先から髪の一本まで、気を抜くことは赦されない。
けれど、昼の私には。二度寝も暴食も、お正月ぐらい赦されてたっていいではないか。



「……、なんちゃって③。」
とりあえず、明日はウォーキングをしよう。

《了》
要素:全て
想定回答キーワード:hurt、職、名刺カード [編集済]

【簡易解説】
トランプゲームが好きな勉君。しかしハートのクイーンのカードを無くしてしまったことや受験生ということもありしばらくトランプゲームを休んでいた。その後受験に成功した勉は、母親から、母親が見つけたハートのクイーンのカードをもらったのである。

【本編】
あるところに勉という、高校3年生の受験生がいた。今は1月なので「勉」というように部屋で勉強しながら母親が作った雑煮の餅を大食いしている。(1)(19)まさに「名は体を表す」といった状況となっていた。勉の母親は少し料理が雑なところがあって、今日の雑煮も辛味を餅が赤くなるほどかけてしまったらしいが、辛い物好きの勉にとってはおいしいものだ。(23)でも受験じゃなければ勉だってやりたいことがある。ズバリポーカーの世界大会で優勝することだ・・・・な～んちゃって、勉はポーカーにはそんなに詳しいわけではないし、ましてポーカーのプロのやっていることは勉には難しすぎてよくわからない。(12)(42)だが勉はトランプで遊ぶことは好きだ。パーム（手のひら）でパラリラパラリラしてカードを混ぜ合わせる音は勉にとって心地がいいし、トランプで大富豪やババ抜き、神経衰弱といったゲームを遊べるだけでなくマジックにも使えるといった多種多様さも勉にとっては面白味を感じていた。(35)(47)最も、勉はそのトランプも1年前にハートのクイーンのカードをどこかに紛失してしまってからは受験だということもあってやらなくなっていた。

さて1月16日、共通テストの初日がやってきた。勉は最初、朝4時に起きたのだが「まだ早いかな」と思って二度寝してしまった。(28)そして勉が次に起きたときにはもう朝8時。大変だ、控えめに言ってもアレだ、やばい、勉はそう思った。(34)勉は国立大学を目指しているので地歴公民を2科目受ける必要があり、その場合試験の開始時間は朝9時半だ。試験の説明の時間も考えると少なくとも15分前には席に着席していないといけないだろう。ここから勉の脅威のスパートが始まった。まず勉は母親が作った朝食のサンドイッチをわずか5分で食べ終えた後、急いで支度し、ダッシュで会場に向かう電車に乗る駅に向かった。途中でものすごく恰幅の良いおじさんと一緒に歩いていた毛並みの美しい犬に一瞬目を惹かれたが、すぐに我に返って犬から目をそらして走り続けた。電車に乗っている時でも会場の最寄り駅の出口に少しでも近づくため車両移動も怠らない。電車を降りてからも駅の階段や構内を人の迷惑にならないように駆け上がっていく。「疲れた」と言って休んではならない。今日は人生を左右する日と言っても過言ではないのだ。勉は無我夢中で会場に向かった。

とまあこういったトラブルもあったが、何とか勉は目標の国立大学に無事合格することが出来た。勉の合格を知った母は合格を祝うのし袋にトランプの「ハートのクイーン」のカードを入れた。それは勉が1年前に無くしたカードだった。12月に母が自宅を大掃除したときにたまたま見つけたのだが、勉が合格するまで勉強を頑張ってほしいと思い、あえて言わなかったのだ。

さて、母親が勉にのし袋を渡した。勉はのし袋を開けるとそこにあるのはお金ではなく、ハートのクイーン。
「あれ、これって僕が前に無くしたカードじゃん。それになんでお金が入ってないの？」
「うふふ、あなたってトランプゲームが大好きでしょ？実は12月にこのカード見つけていたんだけど、勉には大学受験頑張ってほしいから言わなかったの。勉、合格おめでとう。これからたくさん友達誘ってトランプゲームを楽しんでね。」
「母さんったら本当に面白いなあ。」
勉は苦笑いしながらも、これからの大学生活への期待、そしてトランプゲームを思い切り楽しめる喜びに満ち溢れていたのであった。(終、全要素使用）

【参考】
・朝日新聞デジタル「2021年度 大学入学共通テスト　日程・時間割」https://www.asahi.com/edu/center-exam/schedule/
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◆簡易解説
付き合っている彼氏が中々結婚に踏み切ってくれないので、かつて彼が告白に使ったハートのクイーンを利用してアピールアピール。

◆長い解説
夜も更けてきた午後十時。談笑している男女が一組。
何やら準備をしているようす。

ナイフとフォーク、コップに帽子、色とりどりの布飾り。
季節外れのパーティでしょうか。

ステッキ、コインに、素敵なトランプ。
お分かりですね、男はマジシャン。

明日は友人のウェディング。
余興で得意のマジックを披露するために準備中。

彼らの会話をのぞいてみましょう。

・・・

「うわ、練習してたらもうこんな時間か。」
「はやく準備して寝ないとね。もうホントに起きれないんだから。」
「そうだなぁ。もしダメだったら頼むよ。」

男は全く朝がダメ。二度寝するのは当たり前。⑥(28)
朝起こすのは彼女の役目。子どものころから続く世話。
隣に住みたる幼馴染。世話焼き彼女も十年目。

・・・

「ずーっとだもんね。不良気味だった時も。」
「その話は勘弁してくれよ…」

高校時代のお話です。
坊主頭の少年と、サラサラ髪のお嬢様。②(7)
仲を認めてもらうため、彼女の家に挨拶行った。

お肉はよく火を通すもの。レアステーキなど知らぬ彼、生焼けだろうと指摘する。⑤(23)
当然大恥、赤っ恥。

釣り合うわけがないからと、許してくれない両の親。
反発した彼、見事にグレた。中古のバイクで走り出す。⑧(35)
それでも変わらず朝はダメ。隣の彼女が起こしてた。
控えめに言ってアレですね。⑦(34)

・・・

「ハートのクイーン嬉しかったなぁ。」
「その話だけは…。え、何、俺なんかしたっけ？」

当時はやった告白法。
ラブレターなんか古い古い。
プレゼントして気をひこう。バラの花束が満点だ。

不良少年、当然文無し。知恵を絞って考えた。
トランプ一枚、絵柄はクイーン。スートは当然ハートでね。

ただ渡すだけじゃ味気ない。知恵を絞って考えた。
マジック過程でさりげなく。気付けば良しよし、気づかにゃ脈無し。

練習重ねていざ本番。
大事なところで大失敗。足元落として大失態。
イチかバチかで拾って渡す。ヤケクソ気味に決め台詞。
『おれのクイーンになってくれ。』
賭けに勝ったか負けたのか。関係変わらず続いてる。

・・・

「は～ちょっと休憩しよっか。おやつ用意するね。」
「……そうだな。」

香ばし醤油にお海苔を巻いて、今日の夜食はいそべ巻き。
セットはもちろん、熱いお茶。
もひとつセットに、素敵なトランプ。

「私もマジック練習してみたんだ。ね、休憩がてらちょっと見てよ。」
「お、いいぞ。ふふ、プロがアドバイスしてしんぜよう。」

あなたの選んだカードはこちら。
自信満々にクラブのジャック。いやいや違うぞそれじゃない。

ありゃ失敗かととぼけては、しきりに笑みがこぼれる彼女。
本職の彼は当然気付く。右手のわずかなふくらみに。

失敗風景を演出し、意識がそっちに行ってるうちに、手に忍ばせた本命かくす。⑩(47)
『な～んちゃって』の鉄板パターン。③(12)
大概の人はついてけず、コロッと騙せるこのパターン。⑨(42)
中々どうしてお上手で。明日は二人でやればどう？

「ああそうだ、ご祝儀忘れないうちに包んどこっか。」
「……そうだな。」

のし袋からこんにちは。
私が本命ハートのクイーン。二人の恋のキューピット。
プリンセスにはもう飽きて、クイーンになるのを望んでた、彼女の奥の手、切り札よ。④(19)

急いでいそべを詰め込んで。お茶は熱いからあとで良し。①(1)

夜も更けてきた午後十時。ここから先はシークレット。

-終-　（要素数10、約1440文字） [編集済]

私には、剣（ぶれいど）という名前の甥がいる。最初は姉さんと義兄さんのネーミングセンスに呆れ同情したものだった。それが今では小憎たらしく育ち、名は体を表すというが非常に無礼な輩になってしまったのだ。④
というのも、事の発端は去年の正月。お年玉に１５００円を上げたら、袋を開けた途端顔をしかめ
「なんだ、１５００円しかねーのかよ…」
などとのたまいよる。噂では夜な夜なパラリラパラリラしているとか言われているが、まあとにかくとにかく性格というかなんというか、控えめに言ってアレなのである。⑧⑦
できることならこんなヤツに私もお年玉なんてあげたかないが、あげなければあげないでまた何を言われるかわからない。できればお年玉も気持ちよく渡したいものである。
そこで、私は一計を案じた。SNSで見かけたライフハックというのを試してみようと思ったのである。
親戚一同が集まる作戦実行日の１月１日、ターゲットの彼はそんなことも知らずのんきにもちを大食いしている。①
作戦開始だ。
「剣くん～あけましておめでとう～」
「その名前で呼ぶなっつってんだろ！」
名前を呼ばれることを嫌がるお年頃か、まあ仕方がない。
「はいこれ、お年玉。好きなのを選んでね。」
そう言って３つののし袋を見せて選ばせる。
「じゃあ、これ！」
選んだのし袋を渡したら、すぐに退散する。すると、異変に気づいたターゲットが話しかけてきた。
「おばさん！お年玉にアタリって書いてあるトランプが入ってたんだけど！」
そう言って渡してきたのはアタリと書かれたハートのクイーン。
「あーこれね！おめでとー！アタリが出たからもう一個、クイーンだからこれだね！」
そう言って予め用意しておいたのし袋を渡す。今度はきちんと１２００円お金が入っている。
去年より３００円ほど減っているが、そんなことには気づかずにヤツはアタリという言葉で無邪気に喜んでいる。いつもこんなくらい喜んでくれれば渡す側も楽なのにね。
要素数
４つ：④⑧⑦①
本文文字数：８００字
【簡易解説】
値段に文句を言う甥に対し、アタリという言葉を使い金銭ではなくトランプを一度渡すことでお得感を感じさせ文句を言わせないようにするため。
ー了ー