『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
私が冷蔵庫にそんな伝言を残したのは、一体なぜだろう??
ーーーーーーーーーー
Ladies & gentlemen!!!
みなさま、正解を創りだすのお時間となりました。
今宵、司会を務めさせていただきます、弥七です!^ ^
前回の創りだすはコチラ→https://late-late.jp/mondai/show/12969
師走を迎え、慌しい毎日かと思いますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか??
創りだすは今回で30回の節目を迎え、そして年内最後の開催となりました。
記念すべき2020年最後の創りだすが盛り上がるように、一生懸命頑張ります!!
(そういえば去年のこの時期も私は創りだすの司会をしていたような…? 12月と私に、一体何の縁があるのでしょうね( ̄▽ ̄;)不思議です。)
ととと、前置きはこれくらいに。
要素設定に参りましょうか^ ^
☆気になる今回の要素は…コチラ!
①投稿フェーズで選ばれた[要素10個中5個以上]を使用すること。
②[要素×500文字]の文字数制限あり。
③特別に10個全ての要素を使った場合、[文字数無制限]とする。
以上となります。投稿フェーズが終わったらまた告知するのでご心配なく!
それでは、いつものルール説明へ、GO!!
★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[12/13(日)20:00頃~質問が50個集まるまで]
まず、正解を創り出すカギとなる質問(要素選出)をして頂きます。
☆要素選出の手順
1.出題直後から、YESかNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。
2.皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切りです。
選出は全てランダムです。今回も、ある程度の矛盾要素をOKとします。
選ばれた質問には「YES!」の返答とともに『[良い質問]』(=良質)がつきます。
※良質としたものを以下『要素』と呼びます。
※条件が狭まりすぎる物は採用いたしません。
[矛盾例]田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね? →今回もOKとします。例は今回も田中さんで譲りません。
[狭い例]ノンフィクションですか?(不採用)
[狭い例]登場キャラは1人ですか?(不採用)
[狭い例]ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)
要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。
※要素数…[5~10個]で[要素×500文字]の文字数制限を設ける。10個の要素全てを使い切った場合は特別に[文字数無制限]とする。
★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~12/26(土)23:59まで]
要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。
らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!
※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」もご参考ください。
ラテシン版:sui-hei.net/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
らてらて鯖:https://late-late.jp/mondai/tag/正解を創りだすウミガメ
☆作品投稿の手順
1.投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。
2.すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。
3.まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。タイトルは作品フェーズが終わり次第返信させていただきます。
4.次の質問欄に本文を入力します。
「長文にするならチェック」がなくなりましたので、主催が長文許可を忘れてなければそのまま質問欄にて改行込みでのコピペが可能です。
つけ忘れていた場合は、お手数ですが適当な文字を入力した後に質問の編集画面に飛び、作品をコピペしてください。
5.本文の末尾に、おわり、完など、終了を知らせる言葉を必ずつけてください。
6.投稿作品に対する簡易解答の作成を推奨します。
創りだすに投稿される物語は「ウミガメのスープの解説文」です。もしこの作品が実際に出題されたときを想像して、簡単な「答え」を作ってみましょう。
※作品のエントリーを辞退される際は、タイトルに<投票対象外>を付記して下さい。
★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~12/31(木)23:59まで]
※作品数多数の場合や司会者の判断により、期間を延長する場合もございますのでご了承ください。
投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。
☆投票の手順
1.投稿期間終了後、別ページにて、「正解を創りだすウミガメ・投票会場」(闇スープ)を設置いたします。
2.作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、気に入った作品に投票できます。
それぞれの「タイトル・票数・作者・感想」を質問欄で述べてください。
また、「最も組み込むのが難しかった(難しそうな)要素」も1つお答えください。
※投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票を棄権したとみなします。
※投票自体に良質正解マーカーはつけません。ご了承ください。
※投票対象外作品のみを投稿されたシェフに関しても、3票の投票権があります。
3.皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。
◆最難関要素賞(最も票を集めた要素):その質問に[正解]を進呈
◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品):その作品に[良い質問]を進呈
◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計):全ての作品に[正解]を進呈
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!
その他『エモンガ賞』『匠賞』『スッキリ賞』など副賞もあります、お楽しみに!
※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞][その他副賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。
■■ タイムテーブル ■■
☆要素募集フェーズ
12/13(日)20:00~質問数が50個に達するまで
☆投稿フェーズ
要素選定後~12/26(土)23:59まで
☆投票フェーズ
投票会場設置後~12/31(木)23:59まで ※予定
☆結果発表
1/1(金)22:00 ※予定
◇◇ お願い ◇◇
要素募集フェーズに参加した方は、できる限り投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。
質問だけならお手軽気軽、でもメインはあくまで投稿・投票です。
投稿は意外と何とかなるし、投票もフィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。
皆様の思考や試行、思う存分形にしてみて下さい。
☆そして『正解を創りだすウミガメ』では参加賞・入賞にコインバッジの贈呈を行なっております。企画終了後、参加者さまに私がミニメにてコード配布を行います。
コインバッジの内訳は、以下の通りです。
・シェチュ王:400c(1名様)
・最優秀作品賞:100c(1名様)
・最難関要素賞:10c(1名様)
・シェフ参加賞:5c(星の数ほど)
・投票参加賞:5c(星の数ほど)
※ご存知、前回は2つの最優秀作品が生まれたわけですが(約17回ぶりだって、スゴイネ)...
最優秀作品賞と最難関要素賞の賞品は一人分しかありません!
そこでコインバッジ配布については『先に投稿された要素および作品の作者』に贈呈する形となります。ご了承ください。
…以上となります、長すぎてみんな寝ちゃったかな??
それでは、これより要素募集フェーズを始めます。再度確認ですが、質問は一人、4回まで!
新古参問わず、誰でもお気軽にご参加くださいませ(OvO)♪♪
よーい、スタート!!
結果発表をいたしました!!!みごとシェチュ王の王冠を手にしたのは…!!?
もう福袋は買わないですか?
YESNO でもどうしても買っちゃうんですよねぇ...毎年の恒例行事、開けて絶望、何に使うのって。靴下が片方だけ出てきた時はどうしようかと思いましたねぇ。これでサンタさんにプレゼントでも入れてもらえってことでしょうか...。
要素はこの中から10個、ランダムに選んでいきます。
少々お時間がかかると思いますが、気長にお待ちください(OvO)♪
★投稿の際にご注意いただきたいこと★(上記ルールの再確認)
①投稿作品は、別の場所(文書作成アプリ、テキストエディタなど)で作成してください。
②投稿作品の末尾には、「完/おわり/End」などの、終了を知らせることばを記載してください。
③すでに投稿済みの作品の末尾に、終了を知らせることばの記述があることを確認してから投稿してください。
④最初にタイトルのみを質問欄に投稿し、次いで作品本文を投稿してください。
まとめもの方に、要素まとめを掲載する予定です。ご自由にお使いください(OvO)♪
※要約
食べるとそこから脱出できなくなるが、食べなくても脱出のヒントが見つからなくなるトラップを次の来訪者に仕掛けるため。
~~~~~~~~
あなたがふと目を覚ます⑨(41)と見たことのない館の部屋に友人たちと転がっていました。
とりあえず全員を起こし、部屋を観察します。
移動する→P○へ
今いる部屋を探索する→P○へ
『探索する』
古い鍵を手に入れました!
どこへ向かいますか?
玄関→P○へ
『玄関』
外から鍵がかけられている。よく見ると窓にも目張りがしてある。
完全に閉じ込められている⑤(25)ようだ。
どこへ向かいますか?
キッチン→P○へ
『キッチン』
あなた「『この中に一つヒントの入ったクッキーがあります…?』」
友人A「一人一個分ずつあるね」
友人C「…普通の美味いクッキーだった」
友人B「なにこれ!かっら!!あ、紙が入ってた」
あなた「……①(4)にがい…これ食べなくても普通に割ればよかったんじゃ」
暗号Aを手に入れた!
どこへ向かいますか?
居間→P○へ
『居間』
友人C「揚げパンがいっぱいあるな」
あなた「ピロシキだよ」
友人A「あれはサモサだね」
友人B「そしてこれは油条」
友人C「良く分からん。みんな揚げパンじゃん」
友人B「まぁ嫌いな人はみんな揚げパンに見える⑦(33)だろうね」
揚げパン類を手に入れた!
どこへ向かいますか?
応接間→P○へ
『応接間』
友人A「トランクがテーブルの上にあるね」
友人C「開けてみよう」
大量の札束が出てきた!!
友人C「1…10…20…」
友人B「なに札勘してんの?」
友人C「はっ、銀行員だった頃の癖が②(7)!」
友人A「私たち小学生じゃん…」
友人B「あれ、何か書いてあるお札があるよ」
暗号Bを手に入れました!
どこへ向かいますか?
トイレ→P○へ
『トイレ』
友人A「キャー!!」
友人Aが閉じ込められました。ドアはびくともしません。
手に入れた鍵を使おうとします。鍵穴はありません。
思わずしゃがみ込むあなた。涙が足をつたいます⑥(31)。
どこへ向かいますか?
子供部屋→P○へ
『子供部屋』
???「お゛な゛か゛す゛い゛た゛よ゛ぉ゛」
あなたは思わず食料の揚げパンを投げつけドアを閉めます。
どこへ向かいますか?
浴室→P○へ
『浴室』
友人B「出して、出して!!」
友人Bが閉じ込められました。ドアはびくともしません。
手に入れた鍵を使おうとします。やはり鍵穴はありません。
どこへ向かいますか?
書斎→P○へ
『書斎』
本棚とテーブルの上に暗号A,Bに対応していそうな本があります。
カチッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
地下室への階段が開かれました!
降りる→P○へ
『地下室』
脱出口に鍵を差し込んでみます。
カチャ
開きました!
脱出しますか?
本当によろしいですか?
→P○へ
外です!
友人C「…いけると思ったんだけどなぁ④(20)」
友人C「ゲームクリアしても追手が来るなんて反則③(14)だよ」
あなたの目の前が真っ暗になります⑧(39)…
あなたたちの冒険はこれで終わりです⑩(50)
―GAME OVER―
まぁ館内の食べ物を食べた時点で逃げ出すことは不可能だったのですが。
…あなたに一回だけチャンスをあげましょうか。
「私」に代わって次にこの館に迷い込んで来る者を逃がさなかったらお友達と一緒に家へ帰してあげましょう。
もし取り逃がしたら…みぃんな「私」のお友達、ずうっと一緒にいてもらいますよ。
~~~~~~
これはゲームじゃない、
だからクリアできる必要はない、
私は絶対に皆と一緒に帰るんだ――――
【完?】(約1350文字)
小学校の時に遊んだことのあるような、ページをパラパラとめくりながら冒険をするタイプの絵本を感じさせる構成にどこか懐かしさを覚えつつ、楽しく読むことができました。ゲームのシステムとして登場した『冷蔵庫』にメッセージを残す主人公。そこには仲間と一緒にゴールするんだ!という強い意志のようなものを感じました^ ^
◆簡易解説◆
日本語の勘違いから、ホームステイ中のボブとちょっとしたトラブルを起こした家主。
これはいかんと、日本語の捉え方を一緒に勉強する。
ボブの日本語力が十分になったことを感じた彼は、彼の誕生日に日本語免許皆伝を祝おうと、冷蔵庫に書置きを残したのだった。
◆長い解説◆
夕食が昨日のゴーヤチャンプルーなのは、言語の違いが原因である。①(4)
・・・
わが家にホームステイしているアメリカ人のボブ。
気のいい好青年だ。
どれくらい好青年かと言えば、例えば人生ゲームをしていた時の話。
私は開始時の職業が銀行員だった。
このゲームの銀行員役は実際にゲーム中のお金を管理していて、その気になればズルもし放題な職業。
こっそり取分を水増しする悪い手癖がついてしまっていた私は、転職後もズルを続けてボロが出て失格。②(7)③(14)
いけると思ったんだけどなぁ。④(20)
キレてもおかしくないのに、ボブは笑って許してくれた。
まあ、ズル込みでもボロ負けだったんだけどね。
・・・
そんな良いヤツのボブだが、すれ違いが起きる時もある。
それが今朝のこと。
ボブが友達とパーティするというので、「冷蔵庫のは全部食べていいやつだよ。」と言ったのがまずかったらしい。
帰ってみれば、肉、野菜、果物、私特製のマムシ酒まで全てなくなっていた。⑤(25)
残っていたのは苦くてにがてだというゴーヤチャンプルーだけ。今日の夕食もそれだけ。
「really!?」とやけに大げさだなぁとは思ってたんだけどね。まさかね。
・・・
これはまずいということで、私とボブは言葉の裏を読む練習をした。
以下が、一か月に渡る特訓の成果である。
私「行けたら行く、は?」
ボブ「行く気なし!」
私「機会があれば、は?」
ボブ「会う気なし!」
私「検討します、は?」
ボブ「やる気なし!」
私「ヨシ!ん~一応、若者言葉なんかも知っとく?」
ボブ「わかものことば?」
私「いわゆるスラングだよ。例えば『ぴえん』は『泣きました』とかね。」
ボブ「膝を抱えてぴえん?」⑥(31)
私「合ってるような違うような…」
ボブ「スラングは難しいネ。例えば、英語のスラングで『bread』は『money』の意味があるんだヨ。」
私「へ~。上司を『お金くれる人』だと思って頑張ってるから、これからは『揚げパンくれる人』だな。」⑦(33)
ボブ「別に揚げパンだけじゃないけどネ。」
私「食パンだとあんま嬉しくないし…。コッペパンでもいいけど。」
楽しい会話が尽きることは無いが、明日の為にもそろそろ寝なければ。
私「もう消そうか。」
ボブ「ああ電気だね、OK!」⑧(39)
会話もかなりスムーズになった。
・・・
翌日目を覚ますと、ボブはもう出かけていた。⑨(41)
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
冷蔵庫にそう伝言を残して家を出た。
中にはクリスマスケーキ。
おめでとうボブ!日本語の免許皆伝だよ!⑩(50)
-終-
(使用要素10、本文約1054文字)
[編集済]
「行けたら行く、は?」「行く気なし!」...これ、個人的に今回の創りだすで最強のパワーワードだと思います(*^▽^*)笑 メッセージが「日本語である」という特徴を上手く活かして、納得度の高い作品に仕上がっていると感じました。免許皆伝=終わりという要素の回収の仕方も工夫されていて痺れますね〜〜^ ^
【簡易解説】
奴隷の少女を引き受けた町医者の男。
男は、自分が仕事で不在にしている間は、冷蔵庫の中の物を好きに食べて良いことを少女に告げた。
しかし、実際には少女が親切心に不信感を抱いて何も食べていなかったことを知り、
少女を納得させるために、2人の間の「目に見える約束」として、伝言を残したのである。
----------
※物語の一部に残酷な描写を含みます。ご注意ください。※
[⑨(41)目を覚ますと、]天井から吊るされた見慣れぬオイルランプが揺れているのが目に入った。
上体を起こそうとするが、身体にまったく力が入らない。どうしたものかと思案していると、男の声がかかった。
「おお、気が付きましたか。喉が渇いているでしょう?いま、水を持って来ます」
声の主は見知らぬ人だったが、喉がからからに乾涸びていたことは確かだったので、ご相伴に与ることにした。
[(18)水瓶]の水を半分くらい消費したところで、僕の記憶も喚び起こされていった。
僕は旅の途中、峠道に差し掛かったところで足を挫いて往生したのだ。
[④(20)なんとか次の町まではたどり着けるだろうと高を括っていたが、]
足を引きずりながら行く[(43)道のりは思ったよりも長く、]体力も尽きて[⑧(39)気を失った。]
次に目を覚ましたのが今、というわけだ。
「それにしても[(40)驚きましたよ。]道端で人が倒れているのですから。春先で本当に良かった。
ああ、申し遅れました。私はアルス・アーヴィングと言って、この町で医者をやっています」
どうやら僕は、気絶していたところをこのアーヴィング医師に助けられたようだ。
「・・・そうでしたか。ありがとうございました。」
「なに、困ったときはお互い様です。今は病床に空きがあるから、[(23)1週間くらいなら]ここに留まっていただいても構いません。
そうだ、温かいホットミルクを持って来ましょう」
アーヴィング医師はそう言ってキッチンへと向かった。親切心が身に沁みる。
この病室とキッチンは続き部屋になっていて、アーヴィング医師の後ろ姿がちらちらと見えた。
それをぼんやり眺めていると、キッチンに置かれた冷蔵庫に文字が書かれているのに気付いた。
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
同居人に対する伝言だろうか。
しかし、その文字は紙に書いて貼り付けられているでもなく、[(17)冷蔵庫の壁に直接書かれている]のである。
いったいあれは何だろう、と思っているうちにアーヴィング医師がホットミルクを携えて戻ってきた。
「はい、どうぞ。カップが熱いから気を付けて」
「ありがとうございます。あの、不躾かもしれませんが、あそこの冷蔵庫の言葉って何なのでしょう?」
「これは驚いた。あの鉄箱を『冷蔵庫』と見抜いた方に会うのは貴方が2人目です」
「[(26)各地を旅しているものですから、たまたま見かけたことがある]のです。それで、あの言葉は・・・?」
「話すと長くなるのですが、構いませんか?」
「どうせ身体を満足に動かせませんので、是非聞かせてください」
「分かりました。では私の分のホットミルクも入れてくるとしましょうか」
そうして、アーヴィング医師は一部始終を語ってくれた。
~~~~~~~~~~
実は、私が行き倒れの方を助けたのは、今回が初めてのことではないのです。
[(38)6年ほど前]でしょうか。傷だらけで道端に倒れている男性を同じようにこの病院に連れ帰りました。
その男性にも大変感謝されたのですが、どうやら[(12)「裏」の世界で暗躍する人間]だったようです。
[③(14)彼らの「ルール」に逆らった結果、]報復を受けたのだと言っていました。
ほどなくして退院したのですが、それから1週間くらいが経った夜に、再び彼が訪ねて来たのです。
どうしたのかと問うと、「この前のお礼がしたい」と言ってきました。
そうして懐から革袋を取り出すと、中からじゃらじゃらと金貨を出してきたのです。
彼は[②(7)金貨の1枚1枚を指先で撫でながら、裏に表に返してしばらく検めていました。
おそらく、前職は両替商だったのでしょう。金貨に大きな疵が無いか、確認している]風に見受けられました。
数年は遊んで暮らせそうな量でしたが、流石にそんな大金は危なっかしくて受け取れません。
綺麗なお金かどうかも分かりませんしね。丁重にお断りしましたが、彼はこう続けたのです。
「そりゃあ残念です。じゃあ、コイツはどうでしょう・・・?おい、入れ」
彼の呼び掛けに応じて、1人の少女が姿を現しました。ボロを着ていて、髪の毛もぼさぼさでした。
私が驚いていると、彼は言いました。
「申し遅れましたが、アタシは奴隷商人なんてものをやっておりましてね。
コイツはアタシの『商品』なのですが、なかなか買い手が付かず・・・。
先生はお独り身のようですし、余計なお世話でしょうが寂しい生活を送られているのではないですか?
どうでしょう、コイツを引き取ってみる、というのは」
思わず頭を抱えました。こんなことを言っていますが、彼は体よく厄介払いをしたかったのでしょう。
とはいえ、少女の光彩を失った瞳に、[(6)笑顔とは真逆]の無表情。
それを見ていると、どうしても放っておけませんでした。
何とかしてあげたいという[(10)想いから、]私は少女を引き取ることにしました。
「そうですか、それは助かります。
コイツには身寄りもいません。雑用をさせようが、ぞんざいに扱おうが、どうぞ先生のご随意に。
では、失礼いたします。先日は本当にありがとうございました」
そう言って、男性は立ち去り、残された少女がおずおずと口を開きました。
「ミラと申します。引き取ってくださり、ありがとうございます。
力仕事は苦手ですが、身の回りのことでしたら何でもさせていただきます」
[(24)こうして、私とミラの生活が始まったのです。]
-----
私はひとまずミラを家に上げると、夕食の準備に取り掛かりました。今日からはミラと私で2人分の食事です。
ミラはその間、[(27)借りてきた猫のように]部屋の隅でじっとしていました。
ありあわせの食材で作ったので質素になってしまいましたが、パスタに[①(4)サラダ、]スープを食卓に並べました。
ミラに食べるよう促すと、困惑したような顔で言いました。
「この食事、わたしのものなのですか?前のご主人様のときにはパンと水がわたしの食事だったのですが」
今度は私が困惑してしまいましたが、私の家では遠慮は要らないことを伝えました。
それでも不信感は拭えなかったようですが、ぎこちなくフォークを持って食事を取ってくれました。
今までまともな食事を取ってこなかったミラにとっては、[(48)パスタ]もスープも少し[(1)塩辛かった]ようですが。
その後で、お湯に浸けて絞ったタオルで体を拭きました。
[(45)ミラの手が届くところは自分で拭かせ、]背中だけは私が拭いたのですが・・・。
ミラの背中には、火傷の痕がいくつもありました。
[(35)私が逡巡している気配を背中越しに]感じ取ったのでしょう。ミラが話し掛けてきました。
「前のご主人様は、わたしを痛めつけることを愉しんでいらっしゃいました。
この背中の火傷は、熱した油を垂らされたときに付いたものです。
前のご主人様は、この行為を『揚げパン』と呼んでいらっしゃいました。ジュウ、と音が鳴るからだそうです」
涼しい顔で滔々と語るミラとは対称的に、
私は、[(9)心臓を掴まれた]ように胸が締め付けられるのを感じました。
「ですから、揚げパンはわたしにとって憎しみの象徴のようなものなのです。
[⑦(33)憎むべき人はみな揚げパンに見える、とでも申しましょうか]」
私は思わず、ミラのことを後ろから抱き締めていました。
ほんの少しだけ肩がびくりと跳ねましたが、ミラは何も言いませんでした。
その日はそのまま床に就きました。
-----
次の日の朝、目を覚ますとミラはもう起きていました。
「おはようございます、ご主人様」
「ミラ、おはよう。今から朝ご飯を作るからね」
「ご主人様、そういったことはわたしが・・・」
「君はまだこの家に慣れていないだろうから、そういったことは少しずつ覚えてくれればいいよ」
「・・・かしこまりました」
「ミラ。朝食を終えたら私は仕事に入るけど、お腹が空いたらこの鉄箱の中に入っている物を自由に食べていいからね」
「ご主人様、この箱は何なのでしょうか?」
「ああ、これはね、食べ物を保存するための箱なんだ。
下の部屋に大きな氷を入れておくと、食べ物が冷やされて日持ちするんだよ
[(30)今年の夏は案外涼しかった]けど、それでもこれが有ると無いとじゃ大違いだ」
「『冷蔵庫』みたいなものでしょうか?」
「これは驚いた。この鉄箱を『冷蔵庫』と見抜いた人に出会うのは、ミラが初めてだよ。
まだ世間にはそんなに流通していない道具なのに」
「前のご主人様のお屋敷では、夜になると[(21)滑車リフト]でしか上がれないような
屋根裏の[⑤(25)物置部屋に閉じ込められておりました。]
最初のうちは[(49)星を見上げる]ことが多かったのですが、物置部屋には本も沢山あったんです。
簡単な読み書きはできますから、[(29)学校の怖いお話]だったり、
[(19)ゾンビ]や[(11)怪獣が襲ってくる]お話だったり、易しい本から読み始めて。
何かの本で、紀元前5世紀のペルシアには[(5)ヤフチャール]と呼ばれる冷蔵庫があったと読んだ記憶があります。
ギリシアの民が呷った[(15)勝利の美酒]は、もともとヤフチャールに保存されていたお酒、なんてこともあったかもしれませんね」
「怪談やパニック物が易しいかどうかはともかく、ミラはとても物知りだね。
仕事が終わったら、また話を聞かせてくれるかい?」
「ご主人様の仰せの通りにいたします」
「ありがとう。もう一度言うけど、お腹が空いたら冷蔵庫の中の物は自由に食べていいからね」
「・・・かしこまりました」
少しミラに躊躇いがあるように思われましたが、大丈夫だろうと思って朝食を済ませ、仕事を始めました。
-----
その日は患者が多く、昼食を取るのもままなりませんでした。
けっきょく、一段落したのが午後4時くらい。
夕食までにはまだ少し時間があるので、チーズでもつまもうと思って冷蔵庫を開けました。
朝と変わらない冷蔵庫の中身を見て、違和感を覚えました。より正確には「違和感がない」こと自体が違和感だったのです。
ミラが何かを食べたのであれば、冷蔵庫の中身が減っているはずなのです。
「ミラ、私が仕事に行っている間に何か食べたかい?」
と私が訊ねると、
「はい、いただきました」
と答えます。私の勘違いだったかな、と思ったその時に、ミラのお腹が「ぐぅ」と鳴りました。
「ミラ。嘘は良くないよ」
「・・・申し訳ありません。冷蔵庫の中の食べ物は、何もいただいておりません」
「どうしてだい?自由に食べていいと言ったのに」
「もしもご主人様のお好きな物をわたしが食べてしまったらと思うと、
何にも手を付けないのが良いだろうと考えました」
私は自らの過ちを恥じました。「自由に」なんて曖昧な言葉ではなく、
もっと具体的にミラに伝えておいてあげれば良かったのです。
ミラと一緒に遅めの昼食を取った後で、私は言いました。
「ミラ、私の言い方が悪かったばかりに、君に遠慮させてしまったんだね。ごめんよ。
でも、ミラはもう私の家族なんだから、遠慮なんてしなくていいんだ。
冷蔵庫の中の物は、私の好物だろうがなんだろうが、全部食べてしまった構わないんだよ」
そう言ったものの、ミラの目からは疑念の色が消えませんでした。
だから、冷蔵庫の扉にインキで次のような言葉を[(36)書きだす]ことにしました。
[問:『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』]
困惑を深めた様子のミラに対して、私はこう言いました。
「いいかいミラ。私の言葉はまだ君に信用してもらえていないかもしれない。
だけど、こうやって文字にしておけば、2人の間の『約束』として形に残る。『契約』って言うんだ。
冷蔵庫に直接書いたから、そう簡単に消えることもないだろう。
[問:私のことが信用できるようになるまでは、この『契約』を信用してくれるかい?]」
ミラは、しばらく目をぱちくりとさせていましたが、
やがて唇をきゅっと噛み締めると、急に私の足元で土下座をして、こう言ったのです。
「ご主人様。わたしのような奴隷ごときに、こんなにもお気遣いをいただき、誠にありがとうございます」
すぐにでも頭を上げさせようと屈んだところで、[⑥(31)温かいものが私の足を伝いました。]
「ミラ・・・?」
「わ、わたし。こんなに・・・ひっ、優しくされたの初めてで・・・うぅっ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
ミラが感情を[(32)爆発]させたのは、それが初めてでした。
私は、またミラを抱き締めました。昨夜と違い、今度はミラも強く強く抱き返してきました。
~~~~~~~~~~
「[⑩(50)これで、あの冷蔵庫にまつわる私たちの物語はおしまい]です。随分と話し込んでしまいましたね。
おっと、そんな話をしているうちにミラが買い出しから戻って来たようです。」
「アルス様、ただいま戻りました!あっ、旅人さま!お目覚めになられたのですね。よかった!」
玄関の扉をカラコロと鳴らして帰宅したミラさんは、キッチンに食材を置くやいなや病室に入ってきた。
[(8)水玉のシュシュで結わいたポニーテールがよく似合う美少女だ。]
「ミラ、お帰りなさい。おや、[(47)今日は『ミステリー・バッグ』は買って来なかった]んだね?」
「お客様がいらっしゃっているのに、ランダムな食材で半端な物はお出しできませんから!」
「それはその通りだね。何はともあれお疲れさま。いまホットミルクを入れるからね」
「ありがとうございます!アルス様、見てください!帰りがけに[(22)四つ葉のクローバーを見つけましたよ!]
わたし、思わず摘んできちゃいました!なんだか[(28)昨日までと比べて元気がみなぎるようです!]」
「本当に綺麗な四つ葉になっているね。あとで押し花にしようか。
ああ、クローバーで思い出した。[(46)薬草便覧を探していたんだけど、昨日どこに置いたか忘れてしまった]んだ。
ミラは心当たりがないかい?」
「薬草便覧でしたら、今日もお使いになるからと診療所の3番キャビネットにしまわれていませんでしたか?」
「ああ、そうだった!歳を取るとどうも記憶力が・・・。私の[(37)右脳もだいぶ年季が入ってきている]なぁ」
「大丈夫ですよ、わたしがずっとお傍にいますから!」
そう言ってアーヴィング医師に思いっきり抱き着くミラさん。そんな2人を見ていて、
「まるで夫婦だな・・・」
と思わず独り言がこぼれた。アーヴィング医師にも聞こえていたようで、ミラさんを[(42)ひっぺがしながら]言った。
「いやぁ勘弁してください。ミラとは[(44)歳が離れすぎていますし、]妻というよりは娘のように思っていますから」
「わたしはアルス様に一生添い遂げるつもりですけどねー!」
そうおどけながらミラさんがキッチンに戻り、紙袋から食材を取り出していく。
ベーコン、見たことのない魚―おそらく[(34)深海魚]の類だろうか―、チーズ、トマト、[(3)レモン]・・・。
そして最後に取り出したのは、[(13)コッペパン]だった。
「旅人さま、今から美味しい揚げパンを作りますよ![(2)とっても甘くて、わたしの大好物]なんです!
いくつ召し上がりますか?[(16)3個?2個?まさか1個だけ]なんてことはありませんよね!?」
そう言って屈託なく笑うミラさんを直視するのがなんだか気恥ずかしくて、僕は少し目を逸らした。
【おわり】
要素数:10+40
簡易解説:141字
本解説:6,236字
■参考■
・「奴隷との生活 -Teaching Feeling-」(制作:FreakilyCharming ※18禁ゲームにつき検索注意)
・Wikipedia「冷凍技術の年表」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B7%E5%87%8D%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%AE%E5%B9%B4%E8%A1%A8)
(以上)
[編集済]
元ネタ作品ね、私ちょっとだけ知ってますね( ̄▽ ̄)休み鶴さんと50個の要素たちによって紡がれた物語の姿は原作の香りをほのかに感じさせつつもオリジナルストーリーとして完全に作者さんの意図する方に運んでいけたのかなと思います。そこに「冷凍技術の年表」しっかりとした知識の裏付けがあることで、よりリアリティを体感できました。
[良い質問]
○簡易解説
冷蔵庫に入れたフォーチュンクッキーの中のお札を盗むかどうかで、囚人が改心したかどうかを調べるため。
○長い解説
私は刑務所のトップだ。
今は、私の刑務所にいる元銀行員の詐欺師、Aに注目している。Aは、もうここに入ってから15年経つので、流石に改心しただろうと思ったのだ。
私は、看守に、「Aに例のアレを施してこい。」と言った。
私はモニターで監視するのだ。
看守がAに袋を被せ、Aの目の前が真っ暗になっていく(⑧)。
しばらくして、Aの目が覚めたようだ(⑨)。
ここはどこだ?と言うかのように辺りを見回す。…どうやら、閉じ込められている(⑤)と自覚したようだ。
Aは冷蔵庫を見つけた。そろりと近づいている。
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
くふふ、私の書いた伝言に戸惑っているようだ。
お、冷蔵庫の扉を開けたぞ。
フォーチュンクッキーを入れておいたんだ。それも特注の。お札を入れたのさ。しかも、暇だったからにがく(①)しといた。
食べた食べた。おぉ〜、いいリアクションするねえ。
あ、Aがお札を見つけたっぽい。辺りをキョロキョロして…
がさっ!
あぁっ、ポッケにお札を入れた!もう改心したから、盗まずにいけると思ったんだけどなあ(④)。銀行員だった頃にパクってた癖は抜けていない(②)んだなぁ。
残念だな。
これで終わり(⑩)です。
かなり独創的なアイデアに、思わずクスッときてしまいました。フォーチュンクッキーの中にお金を忍ばせて改心したかどうかを観察する、でもそれだけじゃつまらないからちょっとだけ苦くしておいた、なんて、看守さんはほんとイジワルだな〜〜σ^_^; コンパクトな内容ですが、しっかりと情景が浮かぶように上手に執筆されていますね!^ ^
【簡易解説】
ドッキリ料理番組の演出のため。
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『正解を創りだすグルメ』
今春に開始予定の、私が企画した番組である。
[⑧(39)アイマスクをしたまま]何も知らされずにアパートの一室に[⑤(25)閉じ込められた]芸能人たちが、
部屋の冷蔵庫の中にある食材を使って即興で料理を作る、ドッキリ料理番組だ。
作った料理は有名レストランのシェフたちに試食のうえで審査を下してもらう。
[②(7)銀行員だった頃のようにまずは上司に根回しをしようとする私]に対して、
ディレクターは「自分で詳細を詰めて来い」と冷たかったが、やっと自分の企画を通すことができた。
今日はその1回目の収録日というわけだ。冷蔵庫に食材を入れ、調味料を備え付ける。
[問:『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』という挑発的なメッセージを残せば、]準備[⑩(50)完了]だ。
記念すべき1人目のターゲットは、美食家として知られる俳優の久留米逸郎。
自らもSNSに創作料理の写真をアップロードしているため、そのクオリティにも期待がかかる。
アイマスクを外し、スタッフから企画の説明を受ける久留米。
最初の方は要領を掴めないような表情だったが、次第に[⑨(41)目が覚めたように]驚愕の表情に変わっていった。
あまりドッキリを仕掛けられたことは無いのだろう。良い画が撮れた。
観念したように冷蔵庫の中を確認する久留米。今日の食材はイカと玉葱だ。
玉葱を切っていく久留米。包丁捌きはぎこちなく、その目には涙が溢れており、とても料理慣れしているようには思えない。
続けて処理をしようとした[⑥(31)イカの足に、こぼれた涙が伝った。]きわめて不衛生である。
そのままイカと玉葱を炒めるのだが、フライパンの扱いも危なっかしい。
味付けはマヨネーズが主軸で、「[③(14)それ使ったら何だって美味くなるでしょ]」という思いが拭えなかった。
妙な違和感がある中、久留米はやっとのことで料理を完成させた。「イカと玉葱のマヨネーズ炒め」である。
これを一流シェフたちに試食してもらう。3人中、2人が「ウマすぎてウマンガ」を出せば合格だ。
3人がほぼ同時に料理を口に運ぶ。まっさきに口を開いたのは、
日本一予約の取れないイタリアンとして有名な「ラ・テラッテ」のオーナーシェフ・名堀郎真だった。
「[①(4)苦い!]コゲだらけで食えたもんじゃないよ!」
他のシェフも口々に久留米の料理をこき下ろし、評価に値せずと判断した。
彼らの口直しのために、スタッフの軽食用に用意していた揚げパンを差し出すハメになった。
[⑦(33)久留米の料理に難色を示したシェフたちが一様に揚げパンに見(まみ)えている]のは、ある意味で壮観だった。
その傍らには、唇をぶるぶると震わせる久留米の姿があった。
久留米が言うには、SNSに上げていた料理はすべて夫人が作っていたもので、
久留米自身は料理はてんでダメらしい。ゴーストライターならぬゴーストシェフである。
残念だが、思わぬ地雷を踏んでしまったこの企画はお蔵入りになりそうだ。[④(20)いい企画だと思ったんだけどなぁ。]
【おわり】
要素数:10
簡易解説:15字
本解説:1,255字
[編集済]
休み鶴さんの2作品目です。こちらの簡易解答は「ドッキリのため。」とバッサリしたものですが、解説文自体はしっかりと要素をつなげつつも構成のまとまった、内容の濃い作品となっています。個人的には「揚げパン」の回収が特徴的でしたね。以前の文書から感じていたことですが、鶴さんは本当に語彙力が豊富で、細部のちょっとした言葉の味付けに思わず唸ってしまいますね。
【簡易解説】
人気ゲームのオンライン協力プレイにおいて、自分より慣れていないプレイヤーの手助けを行うために、「私」は自身のゲーム内の部屋の冷蔵庫にある伝言板に、中の回復アイテムは自由に使ってよい旨を記したのである。
(簡易解説なので、一部に物語の省略があります。ご注意下さい…?)
若い人を中心に大きなブームが席巻しているゲームがある。
『らてらるクエスト』、通称らるクエ。クエストといっても広大で危険な冒険が待ち受けるものではなく、村人と交流しながら優雅に村、そして自分だけの秘密の部屋を発展させていくような感じで、ゲームが下手くそな子でも気ままにプレイできるのが売り。
やり込み要素や秘密の部屋でのオンライン交流も充実しており、最近あの有名雑誌『月刊らるらる』で紹介されてからはますます人気となった一大ゲームだ。
もちろん、その目覚ましい⑨人気の裏には、色々な人のプレイがある。本当に、色々な人。
そしてボクはその時、というか今も、下手くそで、やり込み要素への挑戦は限界があった。何もわからずに、当ゲーム唯一の協力対戦プレイに真っ先にチャレンジしたのは無謀だったのだ。
発想力で海賊を倒すゲーム内対戦『発想おけ?』の治安は、人気を増す毎に悪くなって、初心者を攻撃する発言が比例した。その矛先は、ボクみたいな「戦犯」に向けられる。
にわかの癖に。
海賊団員の女の子『ミーハーちゃん3号』がキャラとして好きだっただけのボクの協力募集に沢山書かれていたのは、そういう言葉。
だからこそ。なぜか協力してくれた君は最強だったし、君の優しさはありがたかった。
きっとやり込み勢な君。対戦クエストの前に立ち寄った君の秘密の部屋。冷蔵庫には、最近追加された伝言があったのだ。
冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べてもいいんだよ。
漢方薬にきのみ、期間イベント限定配布の『にゃんこチョコ』や『振り回すチキン』、それに何より、伝説の『テン揚げパン』も。中にはなんでも入っていた。初心者のボクは、クエスト前後に何度も漢方のにがいのたべて①たけど、君は文句一つ言わなかった。回復したのはきっと、赤いゲージがまっさらに生まれ変わったHPだけじゃなかった。
ダメージを受けてたのは、きっとアバターだけじゃなかった。
もっと言うなら、ボクだけじゃなかったんだね。
君は手助けしてくれた。今度はボクが、もう片方を繋げる番だ。
++++++++++
私をざっと見て、私を分かる人はいない。分かろうとする人が、いない。それが、嫌だった。
小・中学までは、私も普通の女の子と変わらない子だったと思う。友達と一緒に、お話、交換日記、寄り道。笑いあって遊ぶ仲の子もいた。それも全然、苦しくなかった。交換日記に添える絵を描くために青鉛筆ばかり買ったのは今でも残ってるし、探せば捨てそびれのマックのレシートも、その辺にいくらか転がっている。
高校生になって、そういうのに付いていけなくなったのは不思議なことだ。だって、こっちの方が断然大人なのにね。「色分け」は直ぐにしっかり決まり出した。
つまり、入学してから気を抜くと直ぐに、仲良しの輪は出来上がった。男子より女子の方が意識が強いのか、少しの子を除けば、みんな属性が決まったのである。
始めは何も気にしなかったし、一人で本を読んでいた。別に不自由なかったし、気にならなかったから。
一番辛くなったのは、やはりかの体育の時間から。今でもあの水曜の朝は、一番しんどいと思う。
適当に、2人組ペアでキャッチボール。
分かってはいたが、その宣告は厳しかった。辺りを見ると、あの子はこの子と。この子はあの子と。私よりも、仲が良い。私は、あの子のにわかだから。自分でも勝手に、ペアだと仮定されると、組む子がいない。奇数人の中、見かねた教員は私を、仲良し2人組の中に強引に突っ込んだ。やっと安心できた私の目には、きっと二人の嫌そうな顔は見えていなかったのだろう。
ペアの時間が終わると、今度はバスケの試合。この日から、バスケは大嫌いになった。
ペアがチームの根幹となると、初心者の私は足を引っ張った。トラベリングにトラップミス。一人多いのにチームは散々。これがクラスの笑わせ役なら、からかい合いで済んだのだろう。私がパスを貰いすぎたのも無謀だったのか。
2試合目の途中、私はさっきペアだった山口さんに、足を引っかけられた。盛大にすっ転んだ私に、わざとらしく謝る山口さんは、そういえばバスケ部だったっけ。私は見学位置に下がった。
いつもなら、何も苦しくない。気にならない。なのにとても、情けなくなった。こんな風になったのって、いつから。いつから、変えられただろう。自虐的に苦笑いしてみると、その様子に逆行するみたいに、目に熱さを感じた。体育座りの姿勢で俯いて、目の前が真っ暗になる⑧。足を伝った涙⑥は、一体どんな味だったのか。少なくとも、転んだ傷が痛いからではなかった。
こ、小坂さん!?その傷、大丈夫!?
暫くしてやって来た雨宮さんの呼び掛けに、顔を上げようとはしなかった。傷が痛いふりをして、もう少し蹲っていたかった。いるしかなかった。冷え性が辛いはずの手足に熱い涙が架かっても、心に雪国が広がるばかりなのは、ばかりなのは。
その日から、山口さん達は私の陰口を言うようになった。
陰口なんて、女子のアクセみたいなもの。それでも私は、聞いてしまうとたちまち、怒り怯えた。
こちらの話に聞き耳立てて、ニヤニヤしているのが気に入らない。
そしたら私は、学校でマスクをつけた。
日陰者なのに、スカートがやけに短い。
そしたら私は、ズボンの制服を買った。
人気アニメのキーホルダーが気に入らない。きっとにわかの癖に偉そうに。
そしたら私は、全て外した。
またバスケの授業があるらしい。またペアだけは嫌。
そしたら私は、水曜日は、学校に行かなくなっていった。
母親からは、怒られた。銀行員だった頃からの癖が抜けない②のか、遅刻や欠課をとても怖がる。
山口さん達から、笑われた。トイレから聞こえてくる話し声が増える。
雨宮さんから、心配された。クラス委員長の役目からか、毎週に家を訪ねてくる。
うるさい。うるさい。うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
みんななんかに、分からない。
私の怯えは、分からない。
きっちり真面目な人間に。
日向者で派手な人間に。
義務で心配する人間に。
上っ面だけ、表面撫でた見方して。
みんな全員、にわかの癖に。
++++++++++
今日のイベントは特になし。集会場のオンライン人数の表示も、私だけだと告げる。村を巡り終えたら、海で釣りでもしようかな。そう思って掲示板を見ると、ひるねこさんの募集に気づいた。飽きもせず、また『発想おけ?』のマーク。相変わらずの熱狂にくすりとして、挙手ボタンを押した。受諾パスワードは、『3号ちゃんが見たい!』
ひるねこさんと最初に協力プレイをしたのは、あの日よりも前。大好きなゲームを着々と攻略していった時に見つけた募集がきっかけだ。
プロフィールは明らかに初心者なのに、海賊クエストの募集。始め立てなら『デイジーの花畑で』とか『創りだそう!』とか、もっと易しいイベントがあるのに。◯よりも☆が難関なの、知らないのかな?
募集欄を見て、思わずうげっと声を出す。掲示板にはたちの悪い寄稿が揃っていて、山火事状態だった。思うだけなら仕方もないが、わざわざ発言に起こす人達は擁護できない。
私は、この連鎖をこれで終わり⑩にしようとした。これ以上、私の好きな場所の治安を悪化させたくないし、何よりひるねこさんが可哀想。
初心者さんだから、回復アイテムも潤沢に。手助けも手厚く。ある程度のものでも邪魔に思われないだろう。自分の冷蔵庫を開放し、持ち物も専用に変える。やり込み勢として行った本物の協力プレイで、ひるねこさんからは沢山の感謝の発言があった。3号ちゃんが大好きなその人とは、やがて相互お気に入りの関係になって、一緒に遊ぶ時間があるようになった。まあ、大体は3号ちゃん目当てなんだけど。
村の海辺に向かっていたとき、呼び鈴が鳴った。はっとして時間を見ると、午後の四時。いつの間に経っていた時間が怖くて、肘を撫でる。もちろん、あの日の傷痕なんてとっくに消えているのに。
こんにちはー、雨宮です!
開ける前から簡単な答え合わせをしたのは、腕章を付けた委員長さんだった。連絡物を持って、ぱたっと立ち待っている。今日も私を思って来てくれたはずなのに、笑顔なんて向けられなかった。スマホを持ったまま、玄関で色々を受け取る。
…ありがとう。
雨宮さんは満足そうに笑うと、今日も報告を始めた。いつも、一限のお話からするから、乗り遅れた気持ちがして怖くなる。だから全部を登校しない勇気も出ないが、水曜日に行くこともできない。
でも、今日の体育はバレーだったよ。
…そう、なんだ。
曖昧に返事する。別にバレーは得意じゃない。
席替えもあって、私は一番前、小坂さんは真ん中のはしっこだったよ!
一番後ろが好きだったのに。誰にも見えず、目立たない席。でも、それよりも次は響いた。
もちろん、えっと、山口ちゃん達とは…。
がしゃん。どこかで、何かが割れた。
「言わないでっ!」
叫んでしまってから、ばっと彼女を見る。
もう、言わないで…。
席替えはHRに委員長の仕事。基本は全てクジだけど、雨宮さんの裁量も入る。気遣いを受けたんだろうと察してしまって、悔しくなっていた。怒りに任せて続けていたら、どんなに酷いことを言っていたただろう。
…わかった。それじゃあ、またあしたね。
雨を受けた葉っぱみたいにしゅんとした委員長を見ると、私の怒りは申し訳なさに変わった。扉が閉まってからも、足がそこから動かなかった。
やっぱり、今日もダメだった。
スマホのオンライン人数表示は、私だけと告げる。そこに疑問符が付き始めて赤くなったのに、私は気づきもしない。視界に映るものではなかったのだった。
++++++++++
もう、いけると思ったんだけどなあ④。自分の焦りすぎに反省した。まだ、彼女の心は溶けきらない。悪いことをしてしまった。今日は、もう帰ろう。
そして、扉を開けたとき。
彼女のスマホの、ある通知が目に入った。
ひるねこさんの依頼を受け取りました。
びっくりしてもう一度見ようとしたが、画面は既に薄明かりだった。そのまま扉を閉めて、立ち尽くす。
スマホを立ち上げると、こちらにも通知があった。
ういさんが協力を受けました。
三分前。まさか。そんなことがあるなんて。そう驚いたのは、ほんの一瞬だった。
やっぱり、これじゃダメだ。
もっと、小坂さんを知らなきゃ。
もっと、雨宮 咲を知ってもらわなきゃダメだ!
あのお部屋を見せるのはちょっと恥ずかしいけど、ここから始めないと。
そう思って、家路とは逆のスーパーを目指した。小坂さんと本当に心から話すために、変なことでもとにかくやってみよう。その気持ちだけで、歩いていた。
++++++++++
あったはずの置き傘は誰かに盗られた様子で、途方に暮れる。このにわか雨の中、特攻で帰れと言うのだろうか。それではむしろ、風邪の特効薬が入り用だ。なんてうんざりしていると、後ろから傘を取り出す雨宮さんが私を呼んだ。
あ、あ、あのっ。小坂さん、良かったら今日、私と一緒に…。
帰らない?続く言葉は、小学生の頃は何度も聞いた言葉だった。
…うん。
私の返事を聞いた雨宮さんは、びっくりの挿絵みたいな顔をした。私が受けたのが、昨日のことを謝りたいからだと言ったら、今度はどんな挿絵になるだろう。
でも、雨宮さんの『依頼』は、これだけではなかった。
…帰るだけ、じゃないよ。
…今日は、招待を受け取って欲しいから。
…だって、『3号ちゃんが見たい』から!
++++++++++
…そうだよね。私だってびっくりしたもん。こんなに人気なゲームで、一番知ってるユーザーがこんなに近くにいたなんて。
…あれ、やっぱり始めから3号ちゃんの話はヒントの出しすぎだったかなぁ。ごめん、私って昔から、そういう空気が読めないー!って言われてる。
でもさ、これだけに頼るのは反則③な気がしちゃって、早く言わないとって思ったんだ。こうして帰るのは、これだけが理由じゃないから。
…もちろん、小坂さんの家に行ってるのも、だよ?
…うーうん。『うい』さんへの感謝だって本物。私は初心者だったから、募集に来てた発言も憂鬱だった。ただ3号ちゃんが見たいだけなのに、どうしてこんなに情けなくなるんだろう。どうすれば良いんだろう。
だから、小坂さんが募集に来てくれて本当に嬉しかった。最強の助っ人だよ。今でもボクが頼りっぱなし。
…えへへ。もう小坂さんの前だったら『私』じゃなくても、『委員長』じゃなくたって良いようにさ。本当は兄さんの影響でずっとボクって言っちゃうんだけど、高校だとちょっと恥ずかしい。
ボクの一番嫌だった言葉、えっと、『ひるねこ』に向けられた言葉で、『にわかの癖に』なんだ。
…小坂さんも、なんだ。でもね、別ににわか雨とかは嫌いじゃないし、言葉の意味が嫌いな訳じゃないの。ボクは、みんなの使い方が嫌い。
にわかの癖に。こっちの世界に入ろうとして、まるで遅刻してるみたいに。それは生意気で、世界を外から見て知ってから聞け、話せ。ボクにはこう聞こえちゃう。それってとっても、冷たい。
…え?どうして急に?ボク謝られるようなこと、されたっけ?
…え~。教えてくれないの。さみしいなあ。いつか絶対、聞き出してあげる。
えっと、昨日らるクエのことに気づいてからスーパーに買い物に行ったんだ。揚げる用のパンを買いに。
…そう!伝説の『テン揚げパン 』を作るため!
あれって、かなり長く深くプレイした人にしか手に入れられないアイテムだよね?小坂さんはやっぱりやり込み勢なんだね。
…何でかっていうと、少し難しい。多分あとで見た方が、早いと思うよ…?
それで、実際に作ろうとすると案の定厳しかった。揚げパンがそもそも難しいし、冷蔵庫での保存なんてとんでもないことになっちゃう。やっぱりゲームの世界の理想は現実とは違うのを痛感した。もう揚げパンは懲り懲りー。
思い通りにならなくて、気に入らないこともあって、こっちを嫌にもさせてくる。おんなじことを考えてると、何か嫌いな人がみんな揚げパンに見えて⑦くる。
…確かにカロリーオーバーだね…。
…じゃあ、ボクは?
今のボクは、小坂さんの揚げパンかな?
それとも、普通のパンなのか。
…ありがとう。でも、ずっと一緒にいたら、ボクの嫌なところだって見えてくると思う。さっき言ったみたいに空気が読めないって言われるときもあるし、優等生の振りしてて苦痛になることもあるかもしれない。人間なんだし、そういうことにはなる。
でも、『テン揚げパン』はやり込み勢の証だよ?
ボクだって、小坂さんがどんな子かはあんまり知らない。1号ちゃんみたいなしっかり者かも知れないし、意外と3号ちゃんみたいなお茶目さんかも。
ボクは今、小坂さんにわかだからね。
…違くって!これで小坂さんを突き放すのが、ボクは嫌いなの!
せっかくにわかになったんだから、『にわかの癖に』離れるのが嫌なの!
…そう、ボクはもっともっと、小坂さんが知りたい。あと、ボクを知っても欲しい。
嫌いなところがあったって良い。嫌いなところを見つけられても良い。それでも、秘密の部屋なんてないくらいの旧知の仲になりたい!
…それじゃダメ、かな。
あのっ、それで、ボクの部屋って、昔買ってもらった小型の冷蔵庫があるんだ。小さな頃は体が弱かったから。
この部屋の中に、『私』なりのささやかなプレゼントを置いておいたの。冷蔵庫の中に入ってる。
…あはは。中身は漢方薬かもよ?ありったけの苦味が、小坂さんを待ってる。
…それで、これは冷蔵庫にも貼っておいたんだけど…。
らるクエみたいに、これが『にわかからの第一歩』だから。
甘いところ、辛いところ、苦いところ、渋いところに、酸っぱいところ。
もちろん、ボクの心の全て、閉じ込めた⑤。
だからね。
冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べてもいいんだよ。
(要素数10+α 本文総字数6312字)
【簡易解説 ver.1.1】
人気ゲームのオンライン協力プレイにおいて、自分より慣れていないプレイヤーの手助けを行うために、「私」(小坂)は自身のゲーム内の部屋の冷蔵庫にある伝言板に、中の回復アイテムは自由に使ってよい旨を記したのである。
一方で手助けを受けた「私」(小坂と話す前の雨宮)は、現実の世界でその感謝を伝え、また小坂のことをもっと知りたい、友達になりたいことをゲームに準えて示すために、自室の冷蔵庫にその文言を貼った。鼓舞と共に小坂を招待して、自分の心の込めたプレゼントを全て食べて欲しい一心で。
THE END
[編集済]
ダブル解説、味があるね、ほんとに( ̄▽ ̄)笑 こんな作品に出会えるなんて、簡易解答制度を推奨した甲斐があるってもんです。ゲームの中の自分と、現実の中の自分。二つの世界に挟まれながら、お互いを知ろうとする2人の青春が、爽やかに描かれています。タイトルからも伝わる「にわかでなんて、いたくない。」という固い意志は、これからも2人を導いてくれることでしょう。素晴らしい!
「食べ物なら食べ物だって分かるようにしてよ!」
以前怒られたことを思い出す。冷蔵庫にあるものは大概食べ物だと思うんだけどなあ。
まあ、また怒られるのは嫌なので。
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
メモを残しておけば分かるでしょう。ああ、反応が楽しみだ。
ーーーーー
遡ること五時間前。久しぶりの休日、お菓子作りに興じることにした。前日のうちに材料は用意している。
今回のテーマはこのご時世に相応しいものと決めている。きっと喜ぶ。喜ぶ? うーん、まあ、驚いてはくれる。
いやいや、ちゃんと美味しいから大丈夫。食べたら喜んでくれる。
作りはじめたころは見た目ばかり気にして味はいまいちだったから、二重に怒られた。①(4)うんと苦いのを自分で食べる羽目になったりして。まあ自業自得なんだけど。
だからちゃんと反省して、練習して、研究して。ちゃんと美味しいものを作れるようになったわけですよ。
材料を混ぜて、色を調整して。②(7)お札を数えるのが得意な、元銀行員の彼女の指。白くて、でも血色はいい。だから地を赤にして、黄色を混ぜた色を重ねて。その前に緑がかった青。
これも十分美味しいはずだけど、もう一歩。彼女の好きなイチゴを中に入れる。同じ味では飽きるだろうから、リンゴとミカンと。うん、これでバッチリ。
大好きな彼女の腕。色も形も大きさも。うん、間違いない。
本物そっくりの再現スイーツ作り。それが僕の趣味。
写真と記憶から作るのはちょっとしたこだわりだ。③(14)本物から型を取るのは個人的には反則。まあ僕が作るのは虫とか内蔵とかが主だからだけれども。
内蔵、良くない? ⑤(25)体に閉じ込められている内臓を合法的に取り出せるなんて、楽しいじゃないか。初めて心臓を作ったときはなかなかの出来に我ながら興奮して、すぐに彼女に見せたものだ。泣かれた。
とまあ驚かせるのはともかく泣かせるのは不本意なので、ちゃんと予告をしてから見せるようにしている。
以前、アルファベット一字で表すあの虫のスイーツを冷蔵庫に入れておいたときにはそれはもう……反省した。
だから今回は彼女の好きなロマンチック方面で。彼女の腕と、僕の腕。飴細工で爪も付けて。
最後に位置を調整して、よし、⑩(50)終わり。これで完成だ。
距離を取ることを求められるこのご時世。なかなか触れられなくなってしまった君の指に。僕の不格好な指で嵌めるのは、もちろん飴細工の。
見た目で驚かせて、味で喜ばせて。その後で本物を出したら、きっと。喜んでくれると、いいな。
【終】
要素数:5
文字数:1066
いや癖が強い!!Σ( ̄。 ̄ノ)ノ カニバリ……ではない、という判断でよろしいのでしょうかね???本物そっくりの再現スイーツで恋人を錬成する発想はとてもクセですが、それ以上にそれを当の本人に食べさせようとする発想のかなりのクセですね!作っている主人公の側から見れば、純粋に愛情表現としてその行為を行なっているだけなのである意味セーフかな??それも愛かも。
簡易解説:遅く帰ってくる夫への『ご飯は冷蔵庫にあるよ』のメッセージ。
「終業間際で悪いが、書き直しだ」
俺は 【⑧(39)目の前が 真っ暗に なった】!!
…いや、ホントに、そんな気持ちだった。
上司から返されてしまった書類を受け取り、うなだれる。
「誤字脱字、とにかくミスが多すぎる。これじゃ書き直した方が早いぞ」
「は、はい…」
「なんでデジタルでやらないんだ。パソコンで打って印刷した方が早いだろうに」
「癖なんです…」
「あぁ、お前元銀行員だったな」
情報管理はデジタルが当たり前だと思ってるな?ところがどっこい、銀行じゃまだアナログ手書きが主流だ!少しずつシフトしていってはいるが、完全デジタルに移行するのはまだ当分先だろう。
転職した俺が書類を手で書いてしまうのは【②(7)銀行員だった頃の癖が抜けない】せいだ。
…その癖が原因で残業が決まってしまったのだが…。
「…【④(20)いけると思ったんだけどなぁ】…」
この書類さえ通れば帰れるはずだったのに。
改めて確認してみると、本当に誤字脱字もろもろヤバイ。
今日がクリスマスということもあってか、俺含めちょっと浮かれてる奴が多く、もうすぐ終業時間だというのにその時間に帰れる奴はあまりいなさそうだった。加えて年末が近い。人によっては【⑤(25)缶詰め状態だった】。俺も缶詰め組の仲間入りか…はは…。
書類の直しをする前に、こっそりメッセージを飛ばした。
俺の帰りを心待ちにして、クリスマスパーティの準備をしている妻と娘に、謝罪と、お願いを。
※※※※※※
あれから数時間後。
ようやく家に帰ってこられた。
すでに灯りの消えた家の鍵を開けて、暖房の消えた冷えた玄関をくぐる。
…なんだか、ものすごく、さみしい。
静かにリビングに入ると、なぜか冷蔵庫に紙が張り付けてある。
…妻からの手紙だった。
『お疲れ様です。まずは一言文句を言わせてください。嘘つき。
今日は絶対早く帰ってみんなでパーティしよう!と言っていたのはどこの誰でしたか?
私もユミもおおいに拗ねました。ユミはカンカンです。反省してください。』
ごめんなさい。
『…メッセージ、読みました。隠し事が苦手なあなたにしては、頑張って隠してあって、少し感心しました。私とユミ宛てのプレゼントと手紙、受け取りました。ありがとう。ユミも欲しがってたキュアラテリィのステッキで機嫌が直ったみたいです。嬉しそうに振り回していました。私も、ネックレスをありがとう。私好みでとても気に入りました。』
どういたしまして。
気に入ってもらえて安心したよ。
『だけど…手紙は【③(14)反則】じゃないですか?あれじゃ怒れないわ。
すごく嬉しかった。今日ほどあなたと一緒になれてよかったと思う日はありません。
手書きっていうのが個人的にポイント高し。まぁ癖なんでしょうけど。』
…癖だって、分かってるじゃないか。
あぁ、今さら恥ずかしくなってきた…。
『きっとお腹を空かせてるでしょ?』
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』(問題文)
『私とユミの、あなたへの愛情の、ほんの一部です。』
…冷蔵庫を開けた。思わずうお、と声が出てしまう。
パーティの予定だったのでご飯が豪勢なのは予想していたが…。
山盛りのからあげ、ビーフシチュー、肉じゃが、オムライス、ハンバーグ、アジフライ、レンコンのはさみ揚げ、ナスの揚げびたし、ほうれんそうのおひたし、そしてサラダ…
クリスマスっぽくない和食たちも全部、俺の大好物だ。喉が鳴るのもやむなし。
そして冷蔵庫の中でひときわ目立つ、大きなホールケーキ。
イチゴの配列やクリームの大きさはちょっとバラバラ、カラフルに散らばっているのは…アラザン?という奴か。
まだ幼い娘が一生懸命ケーキを飾り付けている姿を想像して、自然と顔が綻んだ。
俺はそれぞれをほんの少しずつ取り分け、チンして食べた。
どんな好物だって、独りぼっちじゃ味気ない。
明日、明日こそ、
みんなでパーティをしよう。
※※※※※※
ユカとユミへ。
この手紙を君が読んでいるということは、俺は残業ですね。情けなくてごめんなさい。
言ってしまうとこの手紙は、パーティで自分で読み上げる用です。
もしできなかった場合は君に見つけてもらって読んでもらうことになります。阻止したい…。
さて、この度は2人に日ごろの感謝を述べようと思います。
ユカ、毎日おいしいごはん、ありがとう。
ユミ、元気に健やかに育ってくれて、ありがとう。
愛しています。
最近一緒に遊んだり話をしたりする機会が減ってきているけれど、
2人のことはほんとうに大事に思っています。
だから、笑っていてください。
2人が家で笑顔でいてくれること、幸せを感じてくれていることが、パパの幸せです。
家族サービスもままならない不甲斐ないパパだけど、見捨てないでください。
最後にもう一度。
愛してるよ。
【終】
使用要素:②、③、④、⑤、⑧
文字数:1,914字
うん、なんか現実のどこかで、ほんとにありそう。そんな風に感じさせるというか、そうであって欲しいと思えるハートフル作品ですね!素敵です…社畜リーマンのお父さんはちょっとかわいそうですが^ ^ 解説文の最後を手紙で締めるというアイデアは、読み手の想像力を掻き立たせるので、とても良いと思いました!
創りだすの投稿フェーズは12/26の23:59までです。
そのあとの投票対象外作品の投稿も、もちろん歓迎してますょ
本投票に関しては対象外となりますが、サブ賞はもちろん投票していただいて構いません!!
(株)ラテラルエレクトロニクス様製2021年モデル大容量冷蔵庫「ラテエレ Amaino」15秒コマーシャル台本案
「ラテエレ アー♪マー♪イー♪ノー♪」 [良い質問]
■出演■
大森 康 様(俳優・ラテエレコンシェルジュ役)
満タン井口 様(フードファイター・大食いモンスター役)
<シーン1>
テキスト#1『ラテエレからの挑戦状!』
大森「ラテエレからの挑戦状!」(1秒)
(ページをめくる演出)
<シーン2>
(冷蔵庫の扉)
テキスト#2『ラテエレからの挑戦状 [問:冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。]』(1秒)
井口「全部食べ尽くしてくれるわぁー!」(1秒)
([⑧(39)暗転])
<シーン3>
井口「なんだこれは!?[④(20)食べても食べても全然減らない]ぞ!」(2秒)
テキスト#3『驚きの大容量600L!』
大森「Amainoは驚きの600リットル!」(2秒)
井口「なにぃ!?」(1秒)
テキスト#4『冷気はしっかり閉じ込め!』
大森「大容量でも冷気はしっかり[⑤(25)閉じ込める!]」(2秒)
井口「そんなの[③(14)反則]だー!」(1秒)
<シーン4>
(Amainoが置かれたキッチンの静止画)
テキスト#5『ラテエレ Amaino』
サウンドロゴ#1「ラテエレ アーマーイーノー」(2秒)
テキスト#6『Beyond now. Lateral Electronics』
サウンドロゴ#2「Beyond now. Lateral Electronics」(2秒)
([⑩(50)以上])
要素数:5
本解説:555字
[編集済]
アー♪マー♪イー♪ノー♪…とりあえずタイトルの文章力の長さにびっくりしたのを書かせてください^ ^どうして私が主催をすると、大長文タイトルが1作品は現れるんだろうなぁ…( ̄▽ ̄;)笑解説文も読み物というよりは台本やシーンカットをそのままのぞき見しているような構成で、特徴があって良いです。文字数555文字にまとめたのも、休み鶴さんならではの遊び心でしょうかね
???
■簡易解説
昔、喫茶店の店主に『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』と言われたことがきっかけで救われた。閉店の間際、誰もいない店でお別れの挨拶として、その言葉に感謝していると伝言を残した。
【空になったコーヒーカップ】
「ストレスを感じると、すぐ唾を吐いてしまう癖があるんですよね。ほら、僕むかし銀行員だったので②(7)」
「それアルパカじゃない?」
「ストレスを感じると、すぐ唾を吐く癖があってしまうんですよね」
「言い方の問題じゃない」
「ともかく、癖って一度ついたら直せませんよね。スイリさんも、高校生活で癖がついてしまってないですか?」
「そうだなあ。机に向かってるとついついスマホを見ちゃう、とか」
「あるあるですね」
「ないよ。つっこんでよ。真面目に言うと、ペンを持ってると無意識に回しちゃうな」
「あー、なるほど。それでいつもコーヒーのお皿をくるくる回してるんですね、大道芸みたいに!」
「してないよ。そんな器用じゃないし」
ハナブサさんは冗談が好きなようで、暇なときにはひっきりなしに話しかけてきた。だがときおり、呼吸をするときに苦しそうにするのが分かった。
課題をやるときにしばしば訪れていた喫茶店は、ハナブサさんが個人で経営している店だった。それが九月ごろ突然休業してしまった。店には「バイト募集中」の張り紙があり、ちょうど金欠だった私は喫茶店の扉を叩いた。
その肝心の休業の理由というのがハナブサさんの手術だと、面接のときに知らされていた。
「お客さん、来ないね」
「今日は雨が降っていますから。遅い時間になれば来るかもしれませんよ」
「そろそろ退勤したいんだけど」
「......コーヒーもう一杯奢るので」
「これ以上はさすがに無理。テスト近いんだ」
「その、テストとか課題とか言うのをやめてもらっていいですか。嫌なことを想起させます」
「大学生に退行しているの?」
「テストくらいサボってもバレませんよ」
「サボったことないでしょ。元銀行員っていうくらいだから学生の時は真面目だったんじゃないの」
「実は数学が不得意で」
「テストの日は休んでいたと」
「いえ、猛勉強していましたね」
「やっぱりな!」
「赤点は何が何でも回避しなければと、必死になっていましたよ。さて、」
ハナブサさんはちらりと、壁にかかった金属製の時計に目をやった。喫茶店の窓には水滴がびっしりとついており、街路樹の枝が強風に揺られている。たまに通り過ぎる自動車のライトが乱反射して見えた。
「ずっと居てくれるのも申し訳ないですし、今日はここまででいいですよ。残業分はちゃんと数えておきますから、安心してください」
「あ、はい。ありがとう、ございます......」
「暗くならないうちに帰ってくださいね」
コーヒー一杯で残業させた本人が言うのもどうかと思う。
私はエプロンを外して鞄にしまった。後ろで束ねていた髪は、今日はこのままでいいか。
「では明日も同じ時間に」
「あ、はい。失礼します」
むず痒い敬語だった。
店のドアは風のせいでいつもより重く、あいた隙間からは雨が吹き込んできた。出ていくきわに軽くお辞儀をして、濡れないうちに折り畳みの傘を開こうとする。
しかし、
「うわ」
傘が開かない。無理にやろうとすると、骨組みが軋んでしまう。びしょ濡れになるのを覚悟で走りだそうと決心をしかけたが、すぐ後ろに雨宿りができそうな喫茶店があることを思い出した。
水滴を払いつつ、扉を開く。
「いまやってる?」
「ええもちろん。雨脚がおさまるまで、休憩していかれますか?」
にこにこしたハナブサさんがメニューを持って席へと案内してくれる。半ば閉じ込められたような形だが、ここでテスト勉強するのも悪くない⑤(25)。思えば、バイトを始めてからこの喫茶店でノートを広げるのは初めてかも知れなかった。
注文したホットコーヒーを入れているハナブサさんが、ふと顔をあげた。
「そういえば、スイリさんは今日はじめてのお客さんですね。久しぶりのご来店ありがとうございます」
「こんな天気じゃなければ寄ってなかったよ」
「思ったより早く、お客さんが来ました」
この調子で話しかけられ続けては、勉強がはかどらない。私はそそくさと問題集を広げて、ペンを握った。範囲の微積分は大の苦手だ。とりあえず式を書き出してみるが、すぐに手が止まった。
くるくるとペンを弄んでいると、ハナブサさんがテーブルに近づいてきた。コトリとカップが置かれる。
白く滑らかなカップにコーヒーが満たされていた。
【公園の広場で遊ぶ子供たち】
「レシートこちらになります。またのご来店をお待ちしておりますね」
「ご苦労様です。お昼のお客さんはこれでお終いでしょうか⑩(50)」
「今日は多かったね。チーズケーキとか、デザートを注文する人もたくさんいた気がする」
「近くでイベントがあるようですよ」
「はぁ」
「どうしましたか?」
「いけると思ったんだけどなぁ......④(20)」
「恋多き乙女に悩みはつきものですね」
「テストだよ」
「その、テストとか課題とか」
「嫌いすぎるでしょ」
「何がダメだったんですか?」
「数学。もう、微積分が全く分からないの。前から思ってたけど、数字がほとんど出てこないんだから数学じゃなくない? 係数と次数をいじくり回したら面積が求められますってただの妄言だよ。......それでも、頑張って勉強したんだけどさ」
「フラれちゃったんですね」
「テストだよ。演習問題とか頑張って解いてたわけ。それでテスト本番になって、見たことがないような問題が出てきたの。公式とかいろいろ試してみたけど全然解けなくて結局時間切れになっちゃった。いきなりあんな出題するなんて反則だよ③(14)」
「それなら、みんな間違っていると思いますよ」
「うん、まあ。そうなんだけどさ」
徹夜で勉強を続けていたせいで、テスト明けになってもすっかり遅寝が染みついてしまった。カウンターの向かいにある小さな窓から漏れる淡い光も少しまぶしく感じる。
窓際の席は本棚で区切られていて、それぞれに漫画がぎっしりと並べられていた。暇なとき、それらの中から適当に一冊取り出して読むこともある。
「こんなに漫画があるともはや漫画喫茶だよね」
「学生の頃の夢は漫画喫茶の店員でしたから」
「へぇ、意外」
「利用料金をちょろまかして小金を稼げると聞いて」
「最低の倫理観をぶっちゃけないでよ」
「深海魚は目が悪いそうですね」
「......海底の近視眼?」
「ふふっ」
「言うほど上手くないよ。というか、置いてある漫画の趣味変わってるよね。普通、男の人ってアクション系が好きそうなのに」
「僕の趣味じゃありませんよ。娘の小さいころに買ってあげたものが大半です」
「既婚者!?」
「見えませんか?」
「いや、今までそういう話されなかったし」
「目が悪いんですか?」
「千里眼レベルの視力を求めているのね」
「ずっと前に離婚していましたから。それ以来娘とも会っていません」
「なんかごめん」
「謝らないでください。銀行員だったころは、いろいろ余裕がなかったんですよ。こうして喫茶店を開いてはじめて、普通の幸せが何なのか分かった気がします」
ハナブサさんはもう若くなかった。綺麗に染め上げている黒髪も、生え際を見ると真っ白になっていた。普段は笑顔で隠れているけれど、顔には深いしわが刻まれている。初めて会った時のハナブサさんはどんなだったろうか。
いっぱいの本棚を撫でるハナブサさんが、どこか儚げに見えた。
「ねえ、ハナブサさん。魔法って信じる?」
「新手のセールスですか、引っ掛かりませんよ」
「ちがうよ。信じられないだろうけど、私の知り合いに不死身の人がいるんだ。その人は色んな魔法の道具を売ってるの。花火の種が生る風鈴とか」
「メルヘンですね」
「ハナブサさん。もし自分の願いが何でも叶えられるとしたら、そうしたい? そんな魔法があったら使いたい?」
「そうですね......」
少しだけ考える仕草をして。
「使いませんね。妻と娘がいたころに戻れたら素敵ですが、この暮らしを捨てるほどではありませんよ」
「そうなの?」
「ええ。それに喫茶店を始めたときは一人でしたが、今はあなたという話し相手がいますしね」
「ふぅん」
「本棚だって、娘のものだけじゃありませんよ。最近のものや私が読んでみたかった漫画もちゃんとあります。ほら」
「なにそれ。見たことないな」
「『巫術焙煎』です。究極のコーヒーを求めた焙煎士が旅先の部族で振舞われた謎のコーヒーを飲んでしまい、焙煎の神をその身に宿してしまうというストーリーなんです。スイリさんもどうですか?」
「ひどくマニアックね」
「作者の好きな銘柄がキリマンジャロというのも共感ポイントでした」
「なんか性格が歪んでそう」
「そんな!キリマンジャロはうちでも扱っているのに!」
カランとベルが響いた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー!こちらの席へどうぞ」
私はもっていた漫画を慌てて背に隠した。
最初は若い女性一人かと思ったが、後ろから男の子が顔をのぞかせていた。親子での来店ということだろう。女性の方は右手にエコバッグを下げていた。
「ほら、好きなの頼んでいいから、そんなにふくれないの」
「もうちょっとで勝てるとこだったの! なんでいっしょに行かなきゃいけないの!」
「私がいなきゃ帰れないでしょう......すみません、騒がしくしちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ。メニューはこちらになります。ごゆっくりどうぞ」
ほらあんたも謝るの。と頭を下げる女性。男の子はまだ腹の虫がおさまらないようだった。どれが食べたい?と聞かれても答えようとしない。
しばらくするとハナブサさんがカウンターから出てきた。
「これからお買い物ですか?」
「ええ。すみません、うちの子がご迷惑かけて」
「そんなことないですよ、むしろかわいらしいくらいです。ほら君、何が食べたいですか? デザートを一皿サービスしてあげます」
「......」
「こら、返事しなさい」
「うちは喫茶店、やっぱりコーヒーが飲みたいですか。君くらいの年の子は飲んだことないでしょう。美味しいですよ。例えばこのマンデリンというのは香りが奥深くて、口に含んだ時の重厚感が......なんてわからないでしょうか。でも、一回飲んでみれば良さがきっと伝わるはずです」
男の子は無言のままだったが、キリマンジャロを指さした。そのあとページをめくって「これ」とチーズケーキを注文した。
「こら、失礼でしょ。もう......あ、私はブレンドとパンケーキをお願いします」
「はい。ご注文承りました。デザートはコーヒーの後にお持ちしますね。それではごゆっくり」
小さな子にマンデリンはないだろ、と内心呟いたが、どうやら男の子は少しだけ機嫌をよくしたようだった。私はさらさらと伝票に注文を書き、カウンターまで持って行った。
コンロに火を付け、豆をミルにかけていたハナブサさんが顔を上げる。その表情は、いつもと変わらない穏やかなものだった。
結局、小一時間ほどで親子は席を立った。男の子は予想以上の苦みに翻弄され、結局レモネードを頼んだ。母親は苦笑していた。
カランとベルが鳴ると店内は静かになり、食器を洗う音とスピーカーから流れるジャズの音色だけが残った。
沈黙に耐えかねて、ハナブサさんが口を開く。
公園で遊んでいた子供たちが、店の前を通り過ぎていった。
【喫茶店の裏手、通気口のそばでゴウンゴウンと鈍い音がする】
制服を着替えないまま飛び出してきたから、汗がべたついて気持ちが悪かった。家から走り続けて、駅近くの公園にたどり着いたころにはすっかり息が上がってしまった。
両手で体を支えてベンチに座り込む。もったりとした湿気に包まれながら、木製の背もたれが冷たかった。私はそのまま膝を抱えてじっとしていた。何時間もそうしているつもりだった。
五時の鐘が鳴った。日が沈むころだろうか。
公園に来てからずっと目を閉じたままでいた。瞼から透ける光がどんどん薄れていって怖くなった。でも、やはり目を開けようとはしなかった。
それからもずっと同じ体勢でいて、これからどこに行こうとか考えだした。財布は学校の鞄に入れたまま置いてきてしまっていた。取りに帰るような真似はできないし、道端の雑草や商店街のゴミを漁って何日か凌げるだろうか。
それからは、どうしよう。
街灯に明かりが点りはじめた。吹き抜ける風が冷気を帯びている。
やっと顔を上げると、自分の周りだけが明るいことに気が付いた。ベンチのすぐ近くにある街灯が真上から照らしていた。さらし者にされているみたいでみじめな気持ちになり、余計にその場から動けなくなった。
そして再び目を閉じてうつむこうとしたとき、後ろのほうから声がかかった。
「おーい、君! 大丈夫ですか!」
思い返せば、なんだか滑稽な口調だった。
「もう夜ですよ、こんなところに一人でいては危ないです」
声の主が足音を立てて近づいてくる。
親切を装って近づいてくる悪い人というのはいる。私はすっかりおびえて縮こまってしまっていた。
「あの、僕そこの喫茶店の店主やってる者です。ここにいたら風邪引いちゃいますし、とりあえず中に入ったほうがいいと思いますよ」
「えっ?」
振り返ると、いかにも心配そうな顔をした六十代中ごろの男性が立っていた。夏だというのに長袖の制服をぴっちりと着ている。
そして彼の肩越しに、小さな喫茶店が見えた。「OPEN」の看板が掛けられたドアの窓から温かな光が漏れている。
「当店で少し、休憩していかれますか?」
私は無言で頷き、彼について行った。
店内は思っていたより広かった。
座席はカウンターとテーブル席がいくつかあり、テーブル席は本棚で区切られていた。本棚の上にはコーヒー豆の入った瓶が並んでいて、隙間を埋めるように観葉植物の小さな鉢植えが置かれている。
上を見るとたくさんの照明が天井に埋め込まれていて、一つひとつの光量が絞られていた。そして視線を滑らせるとカウンター席の一番奥まったところの壁に古い時計がかかっており、時刻は午後七時手前を指していた。
いつも通学路で見かけていたはずなのに、初めてくる喫茶店だった。
「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」
店主の男はカウンター席ではなくテーブル席と私を案内した。よく磨かれたテーブルの上に年季の入ったメニューが置かれた。
「ご注文がお決まりになりましたら」
「あの!私いま財布持ってなくて......ごめんなさい、すぐに出ていきますから」
「なんと。それでしたら今回はタダでいいですよ、コーヒー一杯サービスします」
「いや、あ、その」
「遠慮しないでください。ほら」
「ありがとう、ございます。でも私苦いの苦手で」
「ああ、ではマンデリンなんてどうでしょう。苦みは抑えめでフルーティな味わいですよ。待っててください、すぐにお持ちしますから」
強引にコーヒーを飲む流れになった。
しばらくソファに寄りかかれず気を付けの姿勢になっていたが、疲れで自然に力が抜けた。空調も適度に涼しい。
ソファの後ろにある本棚には漫画がたくさん詰め込まれていた。ちょうど読んでいる雑誌のものはないかと探したが、どれも妙に古かった。それに、あの店主のイメージとは違うタイトルばかりが並んでいた。
たとえば、店内にかかっているジャズは硬派なイメージだし、調度品の色味も暗い暖色に統一されている。店主の男のひげは襟足から顎まできれいにそろえられていた。なんというか、全体的に真面目さが感じられたのだ。
「お待たせいたしました。ホットコーヒー、マンデリンです」
「っ! ありがとうございます」
湯気の立ったコーヒーカップが運ばれた。私は座ったままぎこちなくお礼をした。
本当にタダで飲んでいいものかと悩んだが、店主の男がにこにこしているので大丈夫だろう。そう思い、一思いにカップに口を付けて傾けてみると、
「うええ...! ドブ!!」
想像を絶する苦みと酸味が口腔を蹂躙した。なんだこれは。これがコーヒーだと。あまりのことについ率直な感想が口をついて出てしまったが、本当のところこれは飲めるドブなのではないか。とんでもなくにがすっぱい。
「お口に合いませんでしたか?」
「いえ......その......」
「もしかしてコーヒーを飲むのは初めてですか?」
「......すみません」
「それでしたら、一緒にスイーツはいかがでしょう。甘味と一緒に楽しめば印象が変わりますよ」
「私財布持ってなくて」
「サービスです」
「えっ!? いえ! 悪いですってさすがにそこまで」
「コーヒー豆と違って、スイーツは日持ちがしないんですよ。その日売れなかったものはウチでは処分することになってますから」
「いやそういう問題じゃ」
「それに、バレなきゃ犯罪じゃありませんから!」
初対面の店主が最低の倫理観を暴露してきた。本人にはバレるし。
というかこれは、どうしてもコーヒーを飲ませてやろうという魂胆だろ。親切な人だと思ったけどもしかしたら違うかもしれない。こんなものを無理やり飲ませようだなんて、どうかしてる......
「もう閉店間際なので、品切れもいくつかありますね。そうだ、冷蔵庫の中を直接見せますのでそこから選んでください」
「あ、いや本当に結構ですから」
「遠慮は身体に毒ですよ。ほら、冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいですから」
「自暴自棄ですよね!? 分かりました、スイーツ食べるんでそれで勘弁してください!」
冷蔵庫の前まで来てしまった。
さすがにそんなにたくさん売れ残っているわけではなかったが、コーヒーゼリーとチーズケーキ、それからチョコレートケーキがいくつかずつ余っているようだった。それ以外に何かドリンクなども冷やしてあるかと思ったが、あるのは水だけだった。
全部食べていいという言葉に嘘はないだろうが、コーヒーを飲むうえで苦みを打ち消してくれそうなやつがいい。
「じゃあ、これで」
「承りました」
選んだのはチョコレートケーキだった。
テーブルに戻ってほどなく運ばれてくる。私はまず、コーヒーを少しだけ口に含んだ。そしてフォークで大口にケーキを切り分け、口の中に押し込んだ。
「!?!?」
「喉につまりましたか?」
「苦いですけど!!」
「だってそれティラミスですから」
「騙された!」
ティラミスってなんだ。甘くないのにスイーツだと。苦い飲み物に引き続いて苦いものを食べさせられるとは①(4)。
「私苦いもの嫌いだって言いましたよね......」
「ずいぶん背伸びをする子だなと思いまして」
「教えてくれたってよかったじゃないですか」
「メニューにチョコレートケーキが無かったので思い至りませんでした」
「そんな」
「チーズケーキも食べますか?」
チーズケーキも食べた。
ティラミスとコーヒーも何とか平らげ、小腹が満たされたあたりで事情を聞かれた。私はもっと長い間家出するつもりだったが、店主の男は財布もないのに現実的に無理だと諭した。親に連絡を入れた後、私はこの喫茶店を去ることになった。
そのころには、家を飛び出したときに何に憤慨していたのかを忘れていた。
帰り際、店主が言った。
「次は財布を持ってきてくださいね! またのご来店をお待ちしております!」
私は覚えてないが、その時には閉店時間を過ぎていたらしい。ハナブサさんは私の背中が見えなくなった後にそっと、明かりを落としたという。
喫茶店は静寂に包まれた。
【無人の駅、早朝】
夢を見ていた⑨(41)。私が中学生だったときの記憶だ。
何かの行き違いで親と大喧嘩して家出をしたとき、ハナブサさんに助けてもらった。初めてのコーヒーは不味く、二度と喫茶店に入るものかと思っていた。けれど、何か嫌なことがあると自然に足を運んでしまう。ハナブサさんは笑顔で愚痴を聞いてくれた。
それから楽しそうに、嫌なことの対処法を教えてくれた。
「この世のすべての不利益は他人のせいです」
「嫌いな人間はみんな揚げパンだと思いましょう⑦(33)」
「眠れないときにはコーヒーでも飲んで落ち着くのがいいですよ」
何一つ役に立たなかった。
ハナブサさんは事あるごとに、コーヒーをすすめてきた。私が二回目に来店した日にはココアやサイダーがメニューに加わっていたが、それを頼もうとするとセットでコーヒーがつけられていた。
おかげで耐性がついてしまい、今では立派な中毒者だ。
今日は早く起きれたな。目覚ましは止めておこう、と身をおこしかけたところで気が付く。もう、日曜日の朝は忙しくしなくていいのだ。
私は膝を抱えた。顔を腿にうずめて涙を流した⑥(31)。
ハナブサさんが死んでから五度目の朝だった。
必要はないと分かっていても、ルーティーンを変えると体調に響くかもしれないから朝の支度をすることにした。
顔を洗い、簡単なご飯を用意した。長くなってきた髪はごわつかないように丁寧に漉いた。高気圧が南下すると天気予報が伝えた。一年前の厚手のコートを引っ張り出してくる。
「ナポレオンがモスクワから逃げだしたのも納得だな」
そとはびっくりするほど寒かった。マフラーやコートの隙間から入ってくる冷気に凍える。ただその代わり、朝日の照るところでは顔面の皮膚がほんのりと温かくなった。
背の低い家々が路面につくる長い影を避けるように私は歩く。
何も考えずとも、足は自然と喫茶店のほうに向かっていった。駅前の商店街は昨日からクリスマス用の装飾を始めていた。
所有者のいなくなった喫茶店は売り物件扱いになって、まさに調度品が運び出されている最中だった。ベージュの作業着に身を包んだ人たちが段ボール箱を抱えている。私はその一人に話しかけた。
「おはようございます、寒いのに大変ですね」
「ああ、おはようございます。この喫茶店のお客さんですか? 残念ですよね、ここのコーヒーは美味しかったのに」
「......本当に。実は、少し用があるのですが、中に入れてもらえたりしますか?」
「うーん、佐藤さんの親戚とかだったら止められはしませんけど」
「先日までここでバイトしてたんです」
「ああ、あの子か! そうか、大変でしたね。作業の邪魔にはならないと思いますし、いいですよ」
「ありがとうございます。すぐにいなくなりますから」
店内はだいぶさっぱりとしていた。いろいろな物が除かれて調和を欠いていた。働いていたあの空間と同じとはとても思えなかった。
一番衝撃的だったのは本棚だった。取り出すのに苦戦するほど詰め込まれていた中身がごっそりとなくなっている。ハナブサさんの思い出が、趣味が。ハナブサさんの痕跡がそこから消え失せていた。作業着の人が、そこにあった漫画はどこかの図書館に寄贈されたと教えてくれた。
何か残っていないかと見渡すと、カウンターの奥に冷蔵庫が残っていた。上に置かれた伝票ごと薄くホコリをかぶっている。
中には、当たり前だが、何もなかった。ただ私は、この冷蔵庫の中にあるスイーツを幻視した。あの日、ハナブサさんが開いて見せてくれた、今の4メニューよりずっと少ない種類のスイーツを。
伝票を一枚裏返しにして、ペンを取った。
「『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいですから。』と言ってくれて、ありがとうございました」
私は喫茶店を後にした。
私の悲嘆の中には、無視できないくらいの迷いが含まれていた。これから、どうしよう。目の前が真っ暗になっていた⑧(39)。
私が家出をしたあの日から、この店が私の居場所だったのだ。どんな日の記憶もハナブサさんの軽口と共にある。そしてハナブサさんにとっても、家庭を失い、銀行員をやめて作った居場所が喫茶店だった。考えてみれば、観葉植物もコーヒー豆の便も『巫術焙煎』も、ハナブサさんが居場所を作ろうとした過程だった。
私の長い家出が終わったのだ。私の心に残り続けたあの冷蔵庫に別れを告げた瞬間から。死んでしまったハナブサさんも、決して死なないあの人も、私の居場所を作ってはくれない。カップがコーヒーで満たされるように、私はこの心の穴を自分で満たさなければならない。
暗闇を一人で歩くときがきたのだ。辛いときはコーヒーを飲みながら。
私はインスタントコーヒーをひと瓶買って帰った。
駅の改札が入構音を鳴らした。
終わり
要素:10個
文字数:9867文字
今回の創りだす30では、むしろ珍しい、長文解説となりました。お喋り好きなハナブサさんが経営する喫茶店で紡がれる、ゆったりあたたかな時間。きっとたくさんのお客さんがこの場所で楽しいひと時を過ごしていかれたのでしょう。それは作中に登場する全ての人物にいえることです。ハナブサさんを含め、彼らの心の拠り所だった喫茶店。ずっとそこにあったらよかったのに。そんな一抹の寂しさを感じるラストに、思わず「さよなら」の一言が溢れてしまいます。
簡易解説:家事代行業の私は、シャイな息子さんのために作ったおやつを冷蔵庫に入れておくけれど、遠慮しているのか食べてくれないので書き置きだけ残して仕事に専念します。
◆
私の職業は家事代行サービス。
依頼されたお宅に行き、規約範囲内のことなら頼まれれば何でも引き受けさせていただいています。
その家専属の家政婦というものでは無いのだけれど、リピーターさんのお宅に関して言えばそれなりに信頼されていて、日中留守の間を任されることもよくあります。
留守を任されるとなると、ものを盗んだりなんてことは絶対にしないという強い意思が必要です。
こっそりお金とか盗めちゃうじゃんなんて言う人もいますが、そんな根性の人には決して務まらない仕事です。良いですか、お金を盗もうなんて奴は人間のクズです。万死に値します。市中引きずり回しの刑の後に川に投げ捨てて上がってきたところをもう一度突き落としてブタ箱にブチ込むから覚悟しておきなさい。 ……失礼。銀行員だった頃に施された教育が抜けないものでして。②(7)
さて、本日私が行くのはそんなリピーターさんである海野さんのお宅。
業務内容は、共働きで忙しい海野さんに代わって掃除、洗濯、夕飯の買い出しと調理、そして小学生の息子さんケンタくんのために3時のおやつ作りです。
このケンタくんがなかなかどうして、私とコミュニケーションを取ってくれません。
まあ、自分の家なのに他人の綺麗なお姉さんがお出迎えしてくれるなんて、年頃の男の子からしたら恥ずかしくて仕方ないかもしれませんね。何ですかその目は。潰しますよ。
コホン。まあそんなケンタくんなので、私が作ったおやつを3時のタイミングで食べてくれません。
ご両親が帰ってきてからは一緒に食べてくれているようなので、私がいると緊張しているのかもしれませんね。
良い子なんですよ。お母様によると私が作った夕飯を美味しいと言いながら残さずちゃんと食べてくれていて、普段なら苦くて食べないピーマンも食べてくれているそうです。①(4)
最終的には食べてくれるのだから良いかとは思うのですが、せっかくなら出来立てを食べてほしいなと思って、私は毎回色んなアプローチをするわけです。
ケンタくんの挙動としましては、帰ってくるや否や自室に籠城してしまって、トイレの時と冷蔵庫から飲み物を取りに来る時しか部屋から出てきません。
出てきたタイミングで話しかけようとするとピューっと部屋に戻ってしまいます。
外からノックして「おやつできましたよ」と声をかけても「大丈夫です……」と答えるだけ。
冷蔵庫に入れておいたら飲み物と一緒に持って行ってくれるかな、と考えてみたものの、やっぱり遠慮しちゃうのか上手く行かず。④(20)
もしかしたら、食べたら私に感想を言わないといけないと思っていて、それが恥ずかしいのかもしれません。
あまり無理強いしても良くないので、ケンタくんが食べたいと思った時に気兼ねなく食べられるように、冷蔵庫にメモを貼ってそれ以上の画策はしないことにしました。(問題文)
依頼された家事は多く、忙しなく働き続けていたらもう夕方。
無事に全て終えて片付けを済ませて、さあ帰ろうとした時にふと気になり私が貼ったメモを見ると、メモの端っこに小さな文字が書き足されていました。
『ごちそうさまでした。おいしかったです。 ケンタ』
かっ…………、可愛すぎます!③(14)
可愛い小さな男の子って……、良いですね。⑨(41)
【完】
使用要素:①②③④⑨・・・5個。
文字数:1301文字。
かっかわいい…!緊張しているせいで、家事代行の私に直接お礼を言えないからって、冷蔵庫に書き置きを残していく少年のシャイさにこっちは顔がにやけてしまいますな( ´∀`)可愛い小さな男の子って……、良いですね…。要素も最小限ながら、極々自然に文章中に盛り込まれているのはかなりポイント高いですね!^ ^
【簡易解説】
生前に美味しいものを沢山食べる前に亡くなってしまい、冷蔵庫に取り憑いた幽霊がいた。
彼へのありったけのご馳走を冷蔵庫に用意して幽霊を成仏させようとする「私」は、彼と面と向かって話すのが恥ずかしかったため、優しい言葉で伝言を書いたのである。
事故物件というのは、噂に良く聞く話である。割安と引き換えに、もしかしたら怖ーいおまけが付いてくる。
だがしかし、今までに「事故冷蔵庫」というテーマはあったのだろうか。中古でケチをした私には、おまけが付いてきた。
いや違うね。「憑いてきた」んだね!
辺りに寒い風が吹いても、目の前のもやもやは消えない。もちろんこのもやもやというのは、最近上司が嫌味ったらしくて、同期の佐木ちゃんは一足先に彼氏を作ってて、うーん私へのご褒美はー??という悲愴ではない。そして冷蔵庫の冷気でもない。閉じ込められている⑤のは、溢れ出す、霊気!である。
ごくり。固唾を呑んで、目の前の扉を開ける。昔から、霊感なんて微塵もなかった。むしろ影が薄くてお前が幽霊かー、なんて言われたことはある。因みにこれも佐木ちゃん。あれ、今度あの子に怒るべき??
ひゅ~。どろろん。
…違う!なんか文面だと、新進アイドルのどろろんちゃんが可愛いみたいな感じだけど!いや、どろろんちゃんて誰だ。これは…人魂…。
人型の後ろ姿が中から見える。青白くて、足下が透けてて、微かに光る、影。こ、これは…。叫ぶ準備はできた。日々の現実に浸かりきっている私は、もう非現実への怖さを体感する。ええい、今度、Twitterに投稿してやるんだから。
ねぇ、幽霊…なの!?
掠れて上手く出ない声に、ぴくっと反応して振り向いたのは…見るも恐ろし…。
…ろし…?え、え、あれ?
か、か、か。
可愛いっ…!?
振り向いた正体は枯れ尾花ではなくて、彼の鼻。じゃなくて、え、え。どうみても少年だ。普通の可愛い少年。頭に白い三角巾付いてない!てか、服可愛い!なんだその襟!ふにゃって!ふにゃってしてる!それは反則③だって!
きょとっとしていた幽霊くんがこちらに迫ってきたのは、私がそうやって色々に戸惑う時だった。素早く、こちらに迫ってきて、まずい、ぶつかる、祟られる!そう思ったとき、意識が飛ぶ音がした。
暗転から一瞬で見えた景色は、誰かの家。お母さんの足に泣きすがる⑥少年を、私は上から見ている。
お母さん。美味しいものが食べたい。
そんな少年の泣き声を苦しそうに振り払い、セール品のピーマンを切り刻むお母さん。なるほど、貧乏で夕食はピーマン炒めばっかりなんだ。子供だから、にがいのたべる①ばっかじゃ辛いはずだ。
そして、等倍速だった場面は急に目まぐるしく移る。映る。ピーマンの次は、もやし。きゅうりが来て、またピーマン。卵やお肉は殆ど無く、そもそも量自体も多くない。そういう日々の映像が続くと思ったら、ある日を境に景色が消えた。
残されたのは、キッチンの冷蔵庫だけ。それが今、薄青く光る。眩しい光に思わず目を押さえると…。
…気がつくと、その夢がこれで終わる⑩。目が覚めると⑨、もう冷蔵庫に微かな光はなく、眼前は夜の闇で冴えかえった⑧。
…夢…?これは、突撃してきたあのふにゃ襟の幽霊が見せた幻だったのだろうか。幽霊と共にフラッシュバックする悲痛な記憶。まるで映画のようだった。序でに言うなら、少し聞こえた少年の声、イメージに合う可愛い声やったな…。ああ、もう一回出てこんかな…。
そこまで妄想して、はっとした。違う。これは、この記憶は、幽霊くんからの助けだ。幽霊には、きっと何かの未練があるはず。それがあの子では、「美味しいもの」なんだ!あの子はこの冷蔵庫で、美味しいものがありったけ食べられる日を待っているに違いない。
私はこの冷蔵庫を買ったばかりで、コンビニ弁当ばかりの生活だから、中にはまだ調味料しかない。明日は休日。ここはスーパーに買い出しに行って、彼を大満足させてあげなくちゃ!
そして、私はありったけの女子力と共に一日を潰した。夜までに冷えてしまっても美味しいままが良いので、メニューは冷やし肉うどんとショートケーキ。一応お腹が冷えてきた時のために、後で隣に熱いお茶を用意しておこう。まあ幽霊だし、冷えるとか大丈夫やろ!多分!
…完成した。ネットのレシピのコピーだけど、我ながら美味しそうに出来た。これならきっと、幽霊くんも喜んで食べてくれ…。
…っはっ!というか、昨日は怖さで思わず話しかけちゃったけど、人見知りな私が、幽霊にこんな事情を説明できるのか!?成仏のためとはいえ、君のためにケーキ作ったんだよーって。それ高校生のときクラスにいたぞ!バレンタインの時にいっぱい。なんか、これじゃまるで私がふにゃ襟の少年を…。
どかーん。
頭の容量がオーバーしました。再起動をお試し下さい。
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
結局、なんとなく直接対峙するのが恥ずかしくなったので、伝言を冷蔵庫に貼ることにした。少年に向ける言葉は、上司への報告みたいな事務口調でも、佐木ちゃんへのフランクなタメ口でもなく、優しいお姉さんを演じておいた。きっと、幽霊くんの成仏には、これまで十分に与えられなかったであろう優しさだって必要だ。冷やしメニューばかりだけど、心は暖かくさせてあげるんだ。
…その伝言の方が、バレンタインぽくないか?という自身への問いかけは完全に無視して、セロテープを探しにいった日曜夕方の話は、これにて閉幕です。
(要素数7コ 本文総字数2100字)
おわり。
「事故物件」ならぬ「事故冷蔵庫」、買ったら怖ーいおまけが憑いてくる…。文章の要所要所に遊び心をふんだんに使った小ネタを入れてくるところが、さなめ。さんの文章を読んでいて楽しいところですねー!未練を残したまま幽霊となって彷徨っている少年を救うべく、冷蔵庫にたくさんの美味しいものを詰め込むのはなんだか心がじーんとなります。食材は冷たくとも、その優しさで少年の心を温めてくれ…。
タイトル「CHRISTMAS SONG FOR YOU」
ほら、君は、ずっとこれが食べたかったんだろう?? [良い質問]
【簡易解説】
仲間が探し求めていた裏切り者を捕らえて近くの倉庫の冷蔵庫に幽閉したことを暗示するため。
【以下簡易でない解説】
12月25日。
今日はクリスマスです。
各地でホワイトクリスマスとなるでしょう。
急激な冷え込みにご注意ください。
車から降りて自宅へ向かう際、何気なく車内で流していたラジオのコメントを何となく反芻した。遠くから何か歌が聞こえる。確か「恋人たちのクリスマス」だったか。英語だから歌詞の意味はサッパリ分からないが。
そういえば今日はクリスマスだったか。身を切るような寒さを肌で感じながらこう思った。今住んでるアパートに駐車場が無いので、近くの月極駐車場を借りて使っている。近くと言っても300mほど歩く必要があるのだが。
人の通りがまばらな商店街を歩きながら色々と考えごとをしていた。ここを通るのが最短距離な上に買い物を済ませることもできるので重宝している。どうやら先ほどの歌はここのスピーカーから流れていたようだ。
クリスマスのことを特別意識しなくなってどれくらいだろうか。成人前は言うまでもなく、成人してからもしばらくはどことなくウキウキする位には楽しいイベントと認識していたはずだ。やはりあの一件からだろうか。
男はとある秘密組織に所属している。
秘密組織と言っても、特撮などに出てくるような犯罪組織ではない。むしろその逆で国家直属の治安維持を目的とした組織である。
犯罪組織の調査やその壊滅並びにそれに伴う殺傷行為、その他人に聞かせられないようなことも数多くやってきた。そのことに対する負い目はもちろん持っているが、そのこと自体はこの憂鬱の原因ではなかった。
流れている曲がいつの間にか「クリスマス・イブ」に変わっていた。一時期「サイレントナイト」というタイトルと勘違いしていた時期があった。今ではちゃんと正しいタイトルを覚えた・・・というより刻み込まれたと言った方が正確か。
3年前のクリスマス、任務を終えて本部へ戻ろうと高速道路を走らせていた途中で、疲れたから少し休憩しようとサービスエリアに入った直後に組織から連絡が入った。自分の所属していた部隊から裏切り者が出たと、そして彼らからの情報で犯罪組織が部隊を襲撃し多数の死傷者が出たと。中には損壊が激しく身元がすぐに判別できないものもあると。一部連絡が取れず、その中には自分の友人や慕っていた上司などがいると。仕事と長時間の移動から来る疲労とそれに伴う眠気も彼方へと吹っ飛び⑨(41)、速度制限も気にせず本部へと向かった。連絡を受けた直後にラジオから流れた「山下達郎さんの『クリスマス・イブ』でした」というフレーズが妙に耳に残った。
本部に戻って見た光景は・・・正直ハッキリと覚えてはいない。仮説の霊安室に足を踏み入れて遺体にかけられた布をめくるとほぼ同時に目の前が真っ暗になってしまった⑧(39)。
裏切り者は二名。金に目がくらみ組織の規則に悉く背き③(14)、敵対組織に情報漏洩や武器提供を行っていたらしい。組織の一員としても一個人としても、絶対に許してはおけない。願わくばこの手で・・・
一人はやたらと揚げパンを好んでおり、ヤツと言えば揚げパンと誰もがそう認識するほどだった。おかげで揚げパンを見るとヤツが連想されてしまい今でも揚げパンを食うことが出来ない。3年経った今では憎き裏切り者どもが揚げパンに見える逆転現象すら発生している⑦(33)。
もう一人は元銀行員というやや異色の経歴の持ち主。金に目が無く札束を数えることに快感を覚えるという変わったヤツだった。銀行員になったのも札束に触れられる機会に恵まれているから、という考えが基らしく、部隊に所属してた時も仕事中に財布から札束を取り出してペラリペラリと数え、そのことを指摘すると「銀行員だった頃の癖が抜けてなくてな②(7)」ととぼけるのも珍しくなかったが、まさかここまで金の亡者だったとは。
あの日以来、俺は普段の任務と並行しながら裏切り者の捜査をしているが状況は芳しくない。例の組織に匿ってもらっているのは間違いないのだが、両者共に以前から得意としていた隠蔽や情報操作能力を最悪な形で利用しているらしい。しかもさらに悪いことに、この停滞ぶりを見て新たな裏切りが発生するという噂を聞いた。ハッキリとした証拠はないが組織内に不穏な空気が漂っているのはもはや否定しようがない。
おもわず大きなため息をついてしまった。3年かけてこのザマじゃあまりにも情けなさ過ぎる。彼らの墓に訪れたことも一度も無い。良い報告しかしたくなかったし、そうでなくたってどの面下げてとしか思えなかった。
華やかに飾り付けられた店舗やそれに並べられたケーキに一瞥もくれず、アパートにたどり着く。昔はけっこう甘党だったんだけどな。あの日以来甘みをほとんど感じられなくなってしまった。甘いチョコを食べても泥か粘土を口に入れてるような感触しかなく、最近は専らビターチョコばかり食べている①(4)。
やや散らかった部屋を眺めながら、先ほど流れていた曲を思い出す。「恋人たちのクリスマス」だったか。曲自体は好きだが、どうにもタイトルが恋人のいない人たちを阻害しているようで気に食わない。
この世に生を受けておよそ30年、恋人がいた経歴無し。言い訳がましく聞こえるだろうし実際に言い訳なのだが、生誕して以来どうにも愛とか恋とかには興味が無かった。昔から興味のあることには全力を注ぎこめるが、そうでないことにはやる気も実力も発揮しないタイプらしい。小中高校全ての通信簿にそう書かれてたからよっぽどだろう。おかげで割とハイレベルな大学を出てその成果を遺憾なく発揮している今でも地理はどうにも苦手だ。
普通ならこういった独り身を嘆くのだろうが、今の俺にとってはむしろ独り身で良かったとすら思っていた。犠牲者の中には人生のパートナーがいた人も少なくなく、聞いた話では妻と共に組織に入っていたある者が妻の亡骸に縋り付き号泣していたらしい。また夫が左脚を残して木っ端微塵になり遺された脚を抱きしめて嗚咽していた者もいたそうだ⑥(31)。
どうにも気分が晴れない。どうしようもなく疲れた。椅子に座るのも億劫になり床に寝転んだ。フローリングは身体には痛いが控えめの冷たさが今の精神には心地よかった。
しばらくボーッとしてまどろんでいると、何か違和感に気付いた。
ただの気のせいとは思えない。もしかして空き巣か?いやもしそうだとしたらどれだけ隠しても家に入った時点で気付いたはずだ。
しばらく探して気付いた。台所の隅にある小型冷蔵庫にメモが貼られてあったのだ。俺はこういったことはまずしないし、明らかに第三者によるものだろう。
メモにはこう書かれていた。
*******
メリークリスマス
久しぶりだね
クリスマスプレゼントというわけではないけど、3年間も君が食べたくて仕方なかった大好物を冷蔵庫に入れておいた
冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ
お礼はモンブランが良いな
*******
商店街でやったそれより数段大きいため息をついた。メモめくって裏の部分をちらりと見る。特徴的なマークが小さく書かれていた。こんなことをするのは『アイツ』しかいない。
『アイツ』はやはり組織に属する人間なのだが、少し・・・いや明らかに他のそれとは変わっていた。組織に入ると何かしらの部隊や課などのグループに所属するのが原則なのだが、彼女はどこにも属していなかった。それどころか本部や支部で顔を見かけることすら稀だった。確かに任務によってはしばらく出ずっぱりになるのも珍しくはないのだが、5年前に組織に入ってからずっとその調子なのは流石に異常としか呼びようがない。名前も不明で素顔を知る人すら数える程度。前者に関しては組織では主にコードネームを用いるので「本名」としては珍しくはないが、その「コードネーム」すら不明なのはかなり特異だ。俺がいちいち『アイツ』と呼んでいるのも、そう呼ぶしか他にないためである。
ハッキリと分かっていることは二つ。
一つは恐ろしく優秀であること。
どんな難しいセキュリティも二つ返事で解除し、極めて複雑な爆弾も画像を数枚添付して送信すれば解除方法を的確に教えてくれる。『アイツ』のサポートがあればズブの素人すら難解な任務を問題なく達成できるとすら言われているので相当なものだ。
もう一つは女性であること。
緊急の知らせがあったり今すぐに助言が欲しい場合は電話で直接サポートすることもあるのだが、その際に聞こえてくる声は明らかに若い女性のものである。『アイツ』の噂を聞いていた新人が、その声を聞いて面食らうのは一種の通過儀礼となっている。
もっとも前者に関しては誰も疑いようがないが、後者は割と疑っている人も少なくない。声に関しては誤魔化しや偽造が可能だからまあ当然ではある。
しかし俺は『アイツ』が女性であることを知っている。先ほど言った素顔を知っている数人に何故か俺も含まれているからだ。
初めて会ったのは4年と2か月前。何度か任務を手助けしてもらっていたら、ある日突然目の前に現れた。始めは当然信じられなかった。何せ声どころか見た目も20代前半としか思えなかったからだ。しかし・・・細かいことに関しては黙秘するが・・・とにかく最終的には彼女こそが『アイツ』であると認めざるを得なかった。
それ以降どういうわけかちょくちょく接触している。というか向こうが勝手に接触を謀ってくる。実際会うだけでなく、手紙が送られたり、今回のようにいつの間にか自宅にメモを貼ったり、何故か意味もなく電話が来たり、教えてもいないのにLINEのアカウントを特定してメッセージを送ってきたり。曰く「思い切ってすぐに死にそうなところが気に入った」らしい。笑えねえ。
普通ならストーカーか何かで訴えるべきなのだが、『アイツ』も自分も国家の秘密組織の一員である以上迂闊に身元をさらけ出すような行為は避けたかったし、それに何故か俺も不思議と嫌な気分ではなかったのだった。何故かは正直分からないし、そこに関して深く考えたことも無い。
3年前の事件以来は流石に自重したのかプライベートではご無沙汰だったが・・・
とりあえず冷蔵庫を開けた。特に代わり映えの無い、いかにも未婚男性の冷蔵庫と言った感じのソレである。好物どころか卵の一個すら増えてない。気を利かせてチキンでも買ったのかと思ったが。
しかし妙だ。いくら『アイツ』が天才だからとはいえ、いやだからこそ、人の家に不法侵入することがリスクであることは分かり切っているはずだ。家に侵入されてこういったメモを貼られたことは何度かあったが、大抵俺宛の贈り物が様々な形で一緒に付いてきたのだった。大抵はメモに暗号が書かれており、それを解くと家に隠されたプレゼントの在処が分かるという形になっている。・・・俺はこの状況にもっと危機感を覚えるべきなのかもしれないが、湧かないものは仕方ない。普通に送ればいいのでは?と毎度思ってるが、万が一にも運送中の破損が発生してほしくないから直接届けてるらしい。ともかくこういったことをするのは必ず何かしらの意味があってのことだった。
しかし今回は明らかにおかしい。今まで暗号は俺が少し考えれば分かるようなものだったが、これは明らかに違う。冷蔵庫はこの一個だけだし、家電屋もここからはやや距離がある。ではこのアパートの別室?いやそれはあり得ないだろう。見知らぬ他人をこのような形で巻き込むのは、道徳的観点でもリスク管理としても論外だ。もしかして別なものを暗示してる?いや、それ以上に何か引っかかる。
あるいは単に難易度調整をミスしたのか?一度あまりにも暗号が難しすぎて俺が諦めたことがある。後日それに関する文句のLINEが来たので、逆に文句を言い返したら「いけると思ったんだけどなぁ」④(20)と。冗談じゃない。俺はフェルマーでもアルキメデスでもないのだ。
そこまで考えて、あることに気付いた。再びメモの裏側を見ると、先ほど確認した『アイツ』のマークが書かれている。やっぱりそうだ。すっかり忘れてた。
これは『アイツ』のサイン代わりの物で、任務において何かメモで伝える場合には必ずこのマークがどこかにある。しかしプライベートでの不法侵入で残されたメモにはこのマークは書かれていないのだ。つまりマークが書かれたこのメモは「任務」での伝達となっている。
しかしそうなるともう一つの疑問が浮かぶ。一体何の任務なのか?今年中に済ませられるものは皆終わらせてしまったし、緊急任務なら本部から直接連絡があるはずだが・・・
しばらく考えると、突然全身を電流が走った。そして震える手でスマホのアプリで周辺を調べる。
茜坂冷蔵倉庫、ここから車で10分。
やはりそういうことだった。思わず笑みを浮かべた。
どうやらこの世にサンタクロースは実在するらしい。
今までのメモと大まかな内容は変わっていない。俺に対してのプレゼント付きの暗号メモだ。
違うことは、隠されている場所が自宅ではないこと、そしてこれが任務に関するものであることだ。
今俺が行っている任務は、裏切り者の捜査しかない。つまりこのメモはそれに関するもの以外の何物でもないのだ。
そして俺が3年間探し求めてきた「大好物」。それはあの憎き裏切り者に他ならない。それと「冷蔵庫」。調べたら近くに小さな冷蔵倉庫があった。そして「君が全部食べていいんだよ」。
つまりあのメモは
「俺が長らく探し求めてきた裏切り者共を自宅に近い冷蔵倉庫に監禁した。あとの処遇は任せる」
という意味だったのだ⑤(25)【問題文】。
鼓動が高まる。落ち着け、落ち着かねば。しかしどうしても興奮を抑えられない。
ついに。ついに3年前の悲劇の清算がなされる。ついに3年間の苦労が報われるのだ。
先ほどまでの疲労感も眠気も完全に吹き飛んでしまい⑨(41)、そして最低限の「身支度」を済ませると静かに、しかし意気揚々と家を出た。
商店街から流れるクリスマスソングが俺を祝福してくれている。
ラジオから流れるクリスマスソングが俺を応援してくれている。
ついに復讐を果たせる。ついに粛清を行える。
これで全てが終わる⑩(50)。全てにケリがつく。3年間も続いた長く忌まわしい因縁からついに解放されるのだ。
裏切りを企んでいた者もこの一件を聞けば目が覚めるかもしれない⑨(41)。欲に目がくらみ溺れた者の末路は大抵このようだと知るのだ。
ハンドルを持つ手が震える。この状コンディションだといつものようにアッサリと終わらせることは出来ないな。いやむしろその方が好都合だ。
ようやく茜坂冷蔵倉庫に着いた。車で10分のはずなのだが1時間近く運転していたような気がした。
重厚な扉に目をやる。メモが貼られていることに気付いた。そして『アイツ』のマーク。間違いない。
たしかモンブランがほしいとか書いてたな。ああ、いくらでも買ってやるよ。ついでに俺の分のケーキも買おう。今なら美味しく食べれる気がするんだ。
重い重い扉をゆっくりと開ける。いた。照明が点いてないのでハッキリと見えないが間違いない。裸にされて全身傷だらけで猿轡、両手両足を縛られて宙づりにされている。汚らしい涙と血が脚を伝っているのが見える⑥(31)。
俺は車のエンジンを止める直前に流れたラジオのフレーズを反芻した。
「続いてお送りします曲は、WHAM!の『ラスト・クリスマス』です」
成程、ラスト・クリスマスか。英語だから歌詞の意味はサッパリ分からないが、今のアイツらにはピッタリの曲だ。
俺は裏切り者共の顔をもう一度凝視した後、重い重い扉をゆっくりと閉じた⑧(39)。
【終】(全要素使用)
良いですね…私も考えました、大きな冷蔵庫(冷蔵室)の中に人間を閉じ込める、ちょっぴりシリアスホラーな展開を。心温まる作品の多い中で、誰かが作ってくれないかなーと。メッセージに出てくる復讐の相手を「大好物」というシャレを聞かせた言葉で伝えるのは、とても雰囲気があるというか。シチテンさんが創りだしかたった世界観と絶妙にマッチしていて素晴らしかったです。陽気なクリスマスソングの曲が、今夜だけは違って聞こえてきますね。
[良い質問]
ラストスパートだ!!!
今日は、ある家族のだいぶ不思議な話をしましょう。
この家族は夫婦に1人息子というよくある家族構成で、息子の名前はハルトと言いました。
ハルトはとても元気に育っていきましたが、両親には悩みが一つ。
ハルトは好き嫌いのひどい子だったのです。
最初はハルトが1歳のころ、ある離乳食を露骨に嫌がりだしたのが始まりでした。最初は育児にはよくあることだと気にも留めていなかったのですが、2歳、3歳と歳を重ねるごとにそれは顕著になり、3日に1回はご飯を残してしまうほどでした。
とはいえ、両親だって放置していたわけではありません。ちゃんととるべき対策は取っていました。
ハルトが3歳だったある時のお話です。
「よっと。」
ハルトのお母さんはひき肉をこねてハンバーグを作っている最中でした。
そして作業がひと段落付くと、思い出したかのように冷蔵庫からピーマンを取り出しました。
早い話、ハルトはピーマンが大嫌いです。もっともそれだけならまだいい方でいろいろとハルトが嫌がるものがこの世には存在しているわけですが。
そして母親はピーマンをみじん切りにし、ひき肉に混ぜたのです。
その上でハンバーグのタネを作りました。
「さあ、召し上がれ!」
そうして出来上がったピーマン入りハンバーグがハルトに出されます。
「わー!ハンバーグだ!!!」
ハンバーグだけなら大好きなハルトは大喜びします。しかし一口食べると…
「おかあさん、これやだ…」
とげんなりしてしまい二口目を口にしようとはしませんでした。
「どうして?なんでダメなの?」
という母親の問いに
「ぴーまんある!たべない!!」
と答えたハルト。細かく刻んであるので見た目、味共にばれにくいはずなのですが、こうなると舌が肥えているということなんでしょう。それこそ好き嫌いさえなければ美食家になれるレベルで。
「なんではんばーぐにぴーまんなんかいれるの!ずるい!はんそく!」…③(14)
ハルトにここまで言われてしまったので、お母さんも悲しくなってしまいました。
「うまくいくと思ったんだけどなぁ…残念。」…④(20)
ただハルトの方も少し悪く思っていたらしく、少しずつ好き嫌いをなくす努力はしていました。保育園の給食でチャレンジしてみたり、自分から母親に頼んでみたり。
残念ながらそれでもあまりうまくいきませんでしたが。
でもハルトは母親の喜ぶ顔を励みに必死に頑張りました。どれだけ吐きそうになったって、体が受け付けなくたって。
しかし、現実は残酷なものです。
ハルトはこの日、保育園で給食の揚げパンを1本丸ごと食べられたことを母親に報告していました。「喧嘩したやつが揚げパンに見える」とまで語っていたハルトには、大きな進歩です。…⑦(33)
「さいしょは気持ち悪かったけど、半分くらい食べるとおいしいんだ!」
「そうなの!よかったわね!」
「それでな、今度は嫌いなやつがドレッシングに見えるようになってね…」
「ドレッシングもちゃんと食べなきゃだめよ?」
「それでね、明日はおとうふがでるから…」
「…」
「おかあさん…?」
「…」
母親からの反応がありません。
「おかあさん…うごかない…ぐすっ、うっ、うわああああああああああん!」
ぐったりとした母を見てハルトは泣き叫びました。
「ハルくん!どうしたの!…まあ!」
家の外まで筒抜けのその泣き声を聞いたお隣のおばさんが大泣きしているハルトと倒れている母親を見てすぐに救急車を呼び、2人は病院に運ばれました。
その日の夜…
「ハルト!!!」
スーツ姿のハルトの父親がやってきました。
彼はエリートの銀行員であり長年遅くまで働いていました。その分家族ととれる時間が少ないのでハルトは少し寂しい思いをしていましたが。
「母さんは!!!」
慌てている父と、子供であるがゆえにショックも大きく何も言えないハルト。そんな2人に足早で医者が近づいてきました。
「ご主人ですか?こちらへ。」
ハルトを看護師に預け、父親はその医師と共に診察室に入りました。
そして診察室で開口一番…
「なんでここまで放っておいたんですか!!!」
と医者は彼に叱ります。
医者曰く、彼の妻…つまりハルトの母親は非常に重い病気を持っており本人もそれを知っていたはずなのに病院に顔を出さなかったそうなのです。
あとから聞いた話では治る見込みがなかったので子供との時間を優先させていた、とのことでしたが。
「そういうことですので奥様ご本人は自分の病状を知っています。しかし…あなた方には小さなお子様が…」
「分かっています。俺が何とかします。」
さあ、ここからは彼が頑張る番。
「先生、臨時で小児病棟に入れたバイク事故の患者がまた文句を…」…第24回創り出すアルカディオ作品
先ほどとは別の看護師がそう医師に伝えました。おそらくは別の患者でしょう。
「では私はこれで。ご主人、あなたの頑張りも大事です。共に頑張っていきましょう。」
「はい、ありがとうございました。」
医師にお礼を告げてハルトの父親は診察室を後にします。
ハルトは部屋の前で待っていました。
「おとーさん!!!」
涙目になってハルトは父親に抱き着きます。
「ごめんな…今日も遅くなって。」
父親も泣きそうになりますが、ここで涙をぐっとこらえました。
そのあと、とりあえず峠は越えた母親のもとへ、二人で向かいました。
二人が来て3分ほどで、母親は目覚めました。…⑨(41)
「おかーさん!!」
「ここは…私…目の前が真っ暗になって…。ああ、そっか。ハルト、あなた、迷惑かけてごめんなさい。」…⑧(39)
「君が謝らなくていいんだ。」
しばらく3人で語ったのち、ハルトが眠りに落ちると母親は父親に語り掛けました。
「来てくれてありがとう…。」
「いや、逆にいつもあんまり相手してやれなくて…申し訳ないというか…。」
「ねえ、一つお願いがあるの。」
「なんだ?」
「あなたがこれから、ハルトの母親にもなってほしいの。」
「そんなの…俺にできるわけが…。」
「大丈夫。私が好きになった男だもの。それに私ももう長くないんだもの…。」
「軽く言うなよな…。でもわかった。やってみるよ。」
父親はこの日、ハルトの『母親』になる決意を固めたのでした。
翌日、たまたま休みだったので3人とも病室に泊まり込んでいたわけではありますが…。
「じゃあ、また来るよ。」
「待ってるよ。」
「おとうさん、おかあさんは帰らないの?」
「えっ…。」
それはなんとも子供らしい疑問と言えるでしょう。しかし悲しい疑問でした。ハルトにまだ、重い病気という概念や今母親がいる場所がどこかなんて、理解できるはずがありません。無理やり理解させても、それはそれで哀しみの連鎖を生むだけでしょう。
困り果ててしまった父親。しかし…
「おかあさんは、今悪者たちにこの部屋に閉じ込められてるの。だからあなたたちと違ってそう簡単には出られない。」…⑤(25)
「えっ!?そんなのやだよ!」
「大丈夫!ハルトが何でも食べる強い子になってくれたら悪者はハルトを怖がってきっとお母さんを出してくれる。だからハルト、スキキライしないで強い子になってね。」
「そんなの…むりだよ!」
「大丈夫、ハルトならできるから!」
「うん!!!」
ハルトは『悪者からお母さんを救い出す』約束をしました。
父親はただただ感服していました。
「ああ、それと、あなたはこっち来て。」
「な、なんだよ…。」
母親はその後、父親を呼び寄せました。そしてハルトに聞こえないように小声で
「サンタさんは、よろしくね。」
とそう言いました。この日は11月の末。たしかにそろそろ、サンタさんについて親が考えなければならない時期だったのです。
それから、父親とハルトの男2人での暮らしが始まりました。
父親は出世しか頭になかったことを反省し銀行員をやめ、ハルトの『お母さん』に少しでも近づくよう努力をしました。
ただ思っていたよりもその過程は少しだけ楽でした。
なぜならハルトがいろんなものを食べるからです。父親はそれを不思議に思いつつ、母親に嬉しそうに報告したり、本人がハルトの前で大喜びしたりしました。ただ最後、どうしても苦いものだけが克服できないのです。
といいつつも父親は楽観的に考え、『他のものが食べられたんだから別に自然に食べられるようになるだろう』と思っていたのです。
これが大きな間違いだとも知らずに…。
そして12月に入ったある日、父親はハルトに定番のあの質問をします。
「なあハルト、お前サンタさんに何お願いした?」
そう聞くとハルトは険しい表情で
「おかあさん。」
と言いました。
「え、お母さんってのはどういう意味だ?」
「おかあさん、まだ悪者のところから戻らない。だからサンタさんに出してもらう。だってサンタさんはなんでもできるんだもん!そしたら苦いのだって食べなくていいかもしれないし!」
「そうか!出してくれるといいな!おとうさんもお願いしとく!あ、でも苦いのは食べられるようになっとけよ!サンタはいい子のところにしか来ないからな!」
「え~。」
「そんな顔するな!お父さんもお願いしてみるから!」
「やった!」
内心父親は焦っていました。ハルトが本当に欲しいおもちゃを我慢したことを知っているからです。でもそれ以上に、ハルトの望むものをサンタが上げられないこと自体がもっとつらかったのです。
「どうすればいいんだよ…!」
一応ハルトが欲しがっているおもちゃを調達した父親でしたが、本当のプレゼントを上げられないというもどかしさでいっぱいでした。
「ごめんな…俺には…『母親』は無理だよ…。」
ラッピングされたおもちゃを抱え、父親は路上で涙ぐみました。
そしてクリスマスまで時間は刻々と迫っている中、24日の朝、悲劇は起こったのです。
ある日父子のもとに『母親が危篤である』旨の連絡が入りました。
二人はすぐに病院に向かいました。
「おい…お前…!」
「お母さん!お母さん!」
「二人とも…ごめんね…。ハルト…自分を…責めないで…。」
そう言ってハルトの母親は息を引き取りました。
でも不思議なことに、ケロッとしているハルト。後処理がひと段落したところで父親は彼に尋ねます。
「なんでそんなに、元気なんだ?」
「だって今日はクリスマスイブ!明日にはお母さんは戻ってくるんだよ!」
「お前…。」
父親にはそれを否定するだけの知識はあります。
サンタはいないし母親は二度と帰ってこないし、なんなら通夜や葬儀の準備で偽りのサンタですらハルトによこしてやれない。
「そうだな、待ってみるか…。」
でも、否定できませんでした。銀行員時代、上司にさえかみついていた男の姿はそこにはありませんでした。
そして25日。
「おかあさん!おかあさんどこ!」
ハルトははしゃぎながらサンタの贈り物を探します。
でも実際にはそんなものはどこにもなく、いたのは黒装束の人々と、眠ったまま動かない母親でした。
ハルトは自分の家にサンタが来なかった事実をようやく認識しました。
「いや…うそだ!」
いや、まだ諦めていませんでした。むしろ彼は最後の望みに、希望を託したのです。
彼は父親や参列客の助けも借りず冷蔵庫からピーマンやビターチョコ、ありとあらゆる苦いものを取り出すと母親の眠る部屋に行きそれらを豪快にかじり始めました。
「サンタさん、お母さん、ごめんなさい。これで帰ってきてください。」
そう言いながら苦いものを食べ続けるハルト。…①(4)
後ろから父親がその様子を眺めています。
「お、お前…。苦いもの…なんで…。」
ハルトは涙をいっぱいこぼしながら苦いものを食べ続けます。
父親は何も言うことができず、ただただハルトを抱きしめました。
ハルトの涙が父親の足を伝います。…⑥(31)
葬儀は滞りなく終了しました。…⑩(50)
放心状態だったのと銀行員時代のようにとても他人行儀に接していたのであまりハルトをかまってやることはできませんでした。…②(7)
葬儀もひと段落し、父親はハルトに何をしてやれるかを考えました。
父親が思いついたこと、それはハルトに後悔を残さないことです。
ハルトが寝てからしばらくして、父親は自宅のプリンターでクリスマスカードを印刷し、さらに家のなかからありとあらゆる母親の文字が書いてある書類を持ってきました。
そう、母親からの最期の手紙を、父親が代筆する形で…
翌朝、男は目覚めました。
「カード…書かなきゃ…」
結局男はカードを書く前に寝落ちしてしまったのです。
しかし不思議なことが一つ。カードも、書類も、なくなっているのです。
当然父親が書いたわけではないですし、だとしたら誰が…。
「おとうさん…おはよ…」
しばらくしてハルトが起きてきました。
「ああ、おはよう。ああ、目玉焼き作ってあるから食べなさい。」
そう言って父親が冷蔵庫を開けると…
「え?ハルト!来なさい!」
彼は目を疑いました。
「なに…?あ!!!」
そこにはハルトの大好物の料理やケーキがありったけ詰まっており、そしてケーキの箱には父親が昨夜書こうとしていたクリスマスカードが一つ。
そこに書かれていた言葉、それは…。
『ハルトへ
おかあさんはわるものにはかてませんでした
ごめんね
でもあなたじしんや サンタさんを うらまないであげてね
いちにちおくれちゃったけど
おかあさんからのさいごのぷれぜんとです
れいぞうこのなかにあるもの
きみがぜんぶたべていいんだよ
メリークリスマス おかあさんより』
「これ…おかあさんの…。」
「ああ、あいつのだ。あいつの文字だ。あいつが…書いた…。」
そこには涙を流す父子の姿が、あったのでした。
さてと、あれからだいぶたちました。
ハルトは今何をしているか、見守ってあげましょうか。
おやおや、ハルト女の子なんかつれちゃって。たくましくなったわね。
「店員さんのおすすめはこれだってさ。」
「いやだ!からいのはたべない!><」
「好き嫌いしちゃダメって…親に言われなかった?」
「それでも治らなかったもん…><」
「まあまあ、だまされたと思ってさ…」
「もぐもぐ…おいしい!!!」
女の子の好き嫌いも直すなんて、強くなったわね。ハルト。
終わり(全要素使用)
簡易解説
息子の好き嫌いを治す夢半ばで亡くなった母親。
幽霊としてか幻覚としてか、好き嫌いを克服した息子に最後のクリスマスプレゼントとしてありったけの好物を与えた。
[編集済]
母親の愛をとても強く感じる作品でした、泣ける…(T . T)非現実的要素のある作品ながら、それでよかったなと。素敵なハッピーエンドに運んでくれてありがとう、私は感激です。死してなお、親は子を思うもの。そして受け継がれる母の意志は残された家族が懸命に生きるという形で実を結んでいるのだなと感じました。お父さんも自分は母親にはなれないと苦悩しながらも、前向きにひたむきに子供に接しようとする姿に心を打たれました。素晴らしい!^ ^
毎日、この悪夢が覚めることを祈って布団に入る。
そうして目が覚めると、夢でないことを思い知らされる。そんな少しの落胆と共に私達の一日は始まる。⑨
あの日、世界が凍り付いた日からもうすぐ1年。私達の世界はマンションの一室にまで狭められた。突然の豪雪で世界は覆いつくされ、外へは出られなくなった。⑤
他の住民はヘリコプターで避難したけど、あの嵐じゃあきっと助からない。この世界の生物は私達姉妹で最後。ゆっくり、静かに世界は永久の眠りにつく。私達はそれを眺めているだけ。だけどそれじゃあ嫌気が差すから私達は失った日常を演じながら過ごしている。
「七海~、朝ごはんまだ~?」
「今できるから、ちょっと待ってて~」
ごはんを作るのは妹の七海の担当。以前私が料理をした際は全部黒焦げにしてしまったからだ。貴重な食料だからと苦いのを残さず食べたが、もうあんなのは食べたくも作りたくもない。①
「じゃーん。」
「おー、揚げパンかぁ。懐かしいね。」
「でしょでしょ、ちょっと奮発して作ってみちゃった。」
七海は保存食や冷凍食品からいろんな料理を魔法のように作り出す。
「このやろ、このやろ!どうだ!参ったか!」
「また食べ物を嫌いな子に見立てて遊んでるの?七海ったら、食べ物で遊んじゃいけませんって教えなかった?」
「だって、こんな生活じゃストレス溜まっちゃうじゃん?だからこうやってガス抜きしてるんだよ。揚げパンを嫌いだった奴全員に見立てて食べるとすっきりするんだ~⑦」
「だからってわざわざ食べ物でやらなくても…」
「わかってないなぁ、嫌いな奴を頭から食べてやるのが痛快なんだから!やられたらやり返す、倍返しだ!ってね。」
「それいつのネタよ…」
七海は世間のブームが銀行員だった頃の癖が抜けずにいる。②
「お姉ちゃんはさ、ストレスとか溜まらないの?」
「そりゃあ溜まるけど、七海を見てるとなんだかどうでもよくなってくるのよね。」
「ちょっと、それってどういう意味?」
「ナイショ~」
こんなささやかな生活が有限だと知っていても…いや、有限だと知っているからこそとても幸せだった。それだけで私は十分だった。
けれど、その日は間違いなく訪れる。
「お姉ちゃん、ちょっと。」
そう呼ばれて台所へ行くと、七海は冷蔵庫の中を私に見せた。
冷蔵庫の中には缶詰等が沢山入っていて特に奇妙な点は見つからなかった。
「これがどうかしたの?」
そう訊くと
「これで、終わりなの。⑩」
その意味はすぐ理解できたが、受け入れるのには少し時間がかかった。
「そっか、そうだよね。逆によく今までこんなにもったよね。」
「だから、今日からは少し節約しないと。」
「うん。そうだね。」
精一杯明るく振舞おうとしても、どこか暗い雰囲気は拭えなかった。
少しでも長く生き延びる、そのためには食料は必須だった。けれど、その食料が底をつくと知った今猶予は残されていなかった。私はお姉ちゃんなんだから、愛する妹を守るためならなんだってできるんだ。それに、私がいなくなればその分あの子が長生きできる。
私は地図を眺めマンションの近くに飲食店や食量量販店等が無いかを探した。そしてマンションの向かいに一軒、スーパーがあるのを見つけた。私はコンポタを作りポットに入れ、冷蔵庫に『冷蔵庫の中にあるもの、あんたが全部食べていいんだよ。③※』と書置きをしてコートとスコップ、そしてライトを持って部屋を出た。ここは10階、エレベーターが期待できない今怪談を歩いて降りるしかない。一歩一歩降りていく。下に行けば行くほど寒さは厳しくなっていく。一口ずつコンポタを飲みながら。なんとか一階まで降りる事が出来たが、既に意識は朦朧としはじめていた。ドアを破り雪を掘り始める。かまくらのように人が一人通れるくらいの空洞を作り少しずつ広げていく。そうしてマンションから外に出た瞬間、轟音と共に視界が真っ暗になった。⑧
「いけると、思ったんだけど、なぁ…」④
その言葉を最期に、私は意識を失った。
目が覚めると、お姉ちゃんが見当たらなかった。何だか嫌な予感がして冷蔵庫を開けると、書置きが目に入った。その瞬間、あたしはコートを羽織るとライトを持って部屋を飛び出した。霜に浮かぶ足跡。はやる気持ちを抑え1階まで降りる。玄関まで着くと、乱暴に割られたガラスの向こうに、雪を掘った跡があった。急いで手で掘り始めるけれど、すぐに冷たくて痛くなってくる。けれど、そんなことに構わず掘り続けた。手が真っ赤になり爪がボロボロになっても。そして、やっとお姉ちゃんを見つけた。お姉ちゃんはもう、冷たくなっていた。涙が、流れた。足を、伝った。⑥
涙が床に着く頃には、凍り付いていた。大丈夫、お姉ちゃん。あたしも一緒に行くからね。
(※:問題文を部分的に少し改変したため、メタ的な意味での“反則”)
【簡易解説】
世界が雪に埋もれマンションに閉じ込められた姉妹。食料が残りわずかとなってしまった為、姉は食料を探しに、あるいは自らの食い扶持を減らすことで妹を少しでも長生きさせようとマンションを出る。そして、妹に自らを待たないように書置きを残した。
-了-
なんでしょう…私は以前主催した創りだす18でのOUTISさんの作品を知っているので、それが頭の中に投影することでさらにこの解説に深みが増していくような気がいたします。みんなもぜひ読んでみて!シリーズものが多いOUTISさんワールドの素晴らしさを味わうことができますよ
!!世紀末紀行のような物語の世界観は今回投稿された作品の中でも随一で、決して幸せな結果にならないこの先の展開に、思わず思いを馳せてしまいました。
はーい、そこまで!!投稿フェーズを締め切らせていただきます!!
投票会場を設置いたしますので、もう少々お待ちくださいませ(OvO)♪
タイトルの横に『投票対象外作品』とつけておいてください。
また本投票についての対象外となりますが「匠賞」「エモンガ賞」「スッキリ賞」に関しては投票していただいて構いませんのでそこはご安心ください^ ^
創りだす30 エキシビジョン作品
『屋根裏のタイピスト』
(投票対象外作品)(サブ賞対象外作品)
[編集済]
☆ [良い質問]
“The world is mine oyster, which I with sword will open.”
「ウィンザーの陽気な女房たち」(ウィリアム・シェイクスピア)
ーーーーーーーーーー
掃き溜めにも春、と言ったところだろうか。
とある街区、都会の引き出しのようなこの場所にも、小さな変化が起きようとしていた。
管理人はまず最初に、私を二階の裏側12ドルの部屋へ連れていき(ご婦人は決まってその部屋から説明を始めるのである)、勝手知ったる我が家と言わんばかりに玄関のベルを何回もしつこく鳴らした。家賃の支払いと勘違いした住人がまごまごと適当な理由をつけながら出てくるのを見ることが、大層お気に入りであるからだ。
そこには戯曲作家のクリスティー・キット氏が住んでいて、支払いの延滞を交渉するついでに二間程の客間へ通された。管理人がかつてこの部屋に住んでいた英国紳士の人当たりの良さであったり、部屋の説明を早口に弁じ立てるのをあなたなら遮ることはできないだろう。しかし勇気を持って医者でも弁護士でもない私がおずおずと「こんなに高いお家賃は払えません」と告白すると
「ルーシー!!」
と小間使いを呼びつけてさっさと案内人をやめてしまった。
(クリスティー・キット氏が、彼女が立ち去る前に、大急ぎで最新作の(そして草案の)戯曲に登場する背の高い西洋系のヒロインを解雇して、小柄で美しい黒髪の東洋人少女を採用した事をここに記述しておく。)
次に私が紹介された部屋は天窓付き...といえば聞こえは良いが、要するに長屋の屋根裏である。
ルーシーは埃のかぶった階段を最後まで登ることもなく、自分の鼻を摘みながら「週2ドルですだよ」とわざとらしい訛り口調でそんなことをいうのだった。
さて、戯曲といえば、こんな言葉を思い出す。
“The world is mine oyster, which I with sword will open.”
(全ては自分の思うがまま、剣を持って世界を切り開くのだ。)
私の手中には、2つの剣があった。
ひとつはポケットの中にある1ドル87セントである。
もしも私が賢者ならば、当然持っていたであろう美しい金の髪をそっくり売り払い、この小銭に加えて愛する主人の時計にぴったりの鎖を買いに走るところであるが、残念ながら私には長髪はおろか恋人さえいなかったので、それはあっさりとルーシーの懐の中へと吸い込まれていった。彼女は悪態さえついていた。
残りの剣は......死別した母から受け継いだ、この古めかしいタイプライターである。
手荷物の中で、家具と呼ばれるようなものはこれしかなかった。
それからは職業婦人として翻訳の仕事をはじめた。
私は屋根裏部屋に閉じこもってタイプライターの前、空虚な冷たい床の上に座り...作者も知らぬ短編小説の草案を、鋼鉄の文字盤を通して母国の言葉へと書き起こしていく。決して満足のいく給料にはならなかったが、毎週の家賃とついでに小間使いへチップを渡し、3食バターを塗ったパンを食べるのには十分であった。
『Heimweh喰らいの虎』『ウミガメおじさんの育てかた』『101回目で成功するArcadioの告白』等々......最初は瞬きをすれば飛んでいきそうな物語の数々も、いつの間にか100を越え、私の手掛けた本は10冊に達しようとしていた。
④(20)私はこの先ずっと、そうやって暮らしていけると信じていたのに。
しかし人生という名の牡蠣(oyster)は私の、この錆びた剣(typewriter)ひとつでは、硬い殻の隙間から甘い汁を吸い出すことはできても、その身を食すことは敵わないのだろう。⑤(25)
「契約はとうに切れてしまったのですよ、ミスィズ・ナナミ?」⑩(50)
自称ではあるが、翻訳家を名乗っておきながらそんな短文を理解するのに随分と時間がかかった事を恥じた。
狼狽しきった顔はそんなに老けて見えただろうか?敬称を訂正することもなく雇用先の編集室を後にすると、自分のポケットをごそごそと漁った。
......1ドル87セント。
私は次の家賃を払わなくて済むように、そのお金で鎖を一本買った。
そうして今、屋根裏の、冷たい床の上に立つ私の頭の中には、帰り道に寄った雑貨屋で「こんなに切ったら、時計には長すぎるのではないかしら?」と話していた店員の顔が浮かんでいる。
ひょうきんな事を言うものだ。少なくとも私には、使い方なんてひとつしか浮かばないと言うのに。
埃をたたえた天井には、小柄な体では目一杯手を伸ばしたところで届きそうもない。
そこで私は初めて、この部屋には家具やおろか、腰掛ける椅子さえないことを思い出した。
あたりにはあの古めかしいタイプライターがひとつ、それまた冷ややかにこちらを見つめている(タイプライターに目がないことくらいわかっているが、そう思えて仕方がないのだ)。そして私が翻訳した本が10冊ほどその周囲に散在していた。
死ぬ前に、自分がこの世に生み出してきたものをひとつひとつ積み上げていくときの感情を、正しく形容する言葉など持ち合わせているだろうか?強いて言うならば、その出立ちは、毎日部屋に登るときに見るようなひとつの風景として私の目に映った。
そう、きっとこれは......天国へ登る「階段」だ。
私はその踊り場に立って、再度手を伸ばした。
結論を言えば、それでも私の手が天井の埃をかすめることはなかったのである。
ぐらぐらと揺れる足場が崩れ、無情にも床に叩きつけられた。
⑧(39)私はしばし目の前が真っ暗になったかと思うと、少しの間意識を失っていた。
⑨(41)再び目が覚めた時には、すっかり日も落ち、天窓から差し込むのは暖かな春の日射しではなく、まだ冬の名残を感じる寒々しい夜空に色めく星たちの光であった。
私の頬を伝う鮮血は、トクトクと脈を打つこめかみの鼓動は、決して私が死んではいない事を示していた。
しかし心は行き場のない悲しみの捌け口を探して彷徨うように不安定で。まるで自分の姿が霊体にでもなったように感じた。⑥(31)自分の足に、涙が伝っているのが不思議でしょうがなかった。
そして私はしばらく、ひとしきりその場で泣いた。
空虚な部屋で自分の声が何度も何度もこだまして私の耳に届いた。その度にそれ以上の声を出して叫んだ。自身が積み上げた階段はまだ天国には遠く届いてはいなかったのだ。
「私のお仕事は、まだ天国へ行くお駄賃にもならないのでしょう。」
そう呟くと、私は外の空気でも吸おうと暗い部屋を後にした。
ーーーーーーーーーー
さて、結末に入る前に、この物語のもう1人の主人公について、言及しておかなければなるまい。
二階の裏側12ドルの部屋に住むクリスティー・キット氏は、新作の戯曲を今しがた完成させたばかりだ。
彼は筆才に恵まれた戯曲家である以上に、ナナミの前では愚かしいほど素直な恋心を抱いた青年である。屋根裏へ続く暗い階段から、1人の少女が降りてくるのを見つけると、クリスティーは喜んでその場に駆け寄った。
「聞いてくれたまえ、ミス、ナナミ!」
すっかり衰弱している彼女の顔色を伺うこともなく、氏は自分の、つい先ほど完成した自分の戯曲についての話を捲し立てるのであった。
「ぜひこの作品をだね、東方の、君の国にも広めたいと思っているのだよ。そこでだ...君をなぜ呼び止めたかと言うことだが...そう、翻訳を、依頼したいんだ。それとできれば感想も。もし君が望むのなら...ゆで卵付きのタンポポと春菜のソテーをご馳走しようかと思っているよ。①(4)まだこの時期の新芽は、少々苦いかもしれないけどね。」
「ええ、ええ、もちろん、お引き受けいたしますわ。」
手に握られたそれを見た時、再び涙をたたえた瞳さえ彼には見えていなかったかもしれない。それだけ言うと彼女は抱え切れないほどの原稿を受け取り、再び地獄の入口のような階段を登って屋根裏へと戻っていった。
「君、外出するつもりじゃなかったのかい?」
「いいえ、お気になさらず......それではさようなら、キットさん。」
それでは自分も戻るとしよう、と玄関の扉を開けようとしたとき、彼はそこから見える管理人ご自慢の客間に、置いてあった一枚の書き置きがなくなっていることに気づいた。そして彼は気恥ずかしさとともに、まったく戯曲作家とは自分の行動を文字でしか覚えることのできない愚かしい生き物であると自分自身を責め立てた。
そう、その殴り書きの原稿は、確かこの一文から始まっていたはずだ。
“This play to Nanami.”
(この戯曲をナナミへ。)
ーーーーーーーーーー
そこには、天窓のついた空虚な屋根裏部屋が広がっていた。
冷たい床の上には、形見のタイプライターと、行儀よく積み上げられた訳書が10冊。
その上に、先ほど受け取った原稿用紙を上乗せした。
ほら、いとも簡単に、天井に触れるではないか。
私は最後に、自分が登ってきた足跡を見下ろした。決して人様に誇れるものではないが、それでもまあ、私なりに精一杯生きてきた証だ。
私は紙束の中に、明かに様相の異なる…一枚の書き置きを見つけた。クリスティー・キット氏のものだろうか?考えてみれば、名前も知らぬ小説家にしろ12ドルの戯曲作家にしろ、自分の作品を絞首の道具に使われるのは少なくともいい気分ではなかろう。
でもそれもどうでもいい。
人知れず、屋根裏の天井に首を吊って死んでいく名も無い翻訳家のことなど、あちらもどうでもいいと思っているだろうからだ。仮に私の事をいくら憎もうとも、その人は私には全く縁のない、贅沢なほど砂糖のついた揚げパンと同じように感じる。⑦(33)
しかし、しかし。
とても幸福とは言い難い人生の中で、一度くらいは、人並みの幸せを感じてみたかった。
誰かに、自分の身を、案じて欲しかった。
父を失い、母を失い、誰にも打ち明けられないでいた、最後の望み。
ふと、書き置きの、最初の文字が目に入った。
私はまるで聖壇を降りる修道女のように天国の階段をかけ降りると、タイプライターの前に傅いてその一文を訳した。
彼の殴り書きの用紙は、この一文から始まっていた。
“This pray to Nanami.
Dear typist living in the attic.”
(この”祈り”はナナミに捧げる。屋根裏に住む、愛しいタイピストへ。)
「こんなの......反則よ。」③(14)
ーーーーーーーーーー
それからどのくらいの月日が流れただろうか。
ナナミは二階の裏側12ドルの部屋で静かな朝を楽しんでいた。
クリスティー・キット氏はこの春から始まる新作の戯曲のお披露目会に呼ばれ、早くから家を空けている。
私も随分料理が上手くなった。パンとバターだけで生活をしていたのが夢のようだ。
新芽は随分と苦く感じたが、ゆで卵付きのタンポポと春菜のソテーは彼のために冷蔵庫に入れておこう。
私は、ご自慢のタイプライターの前に腰かけると、滑らかな手つきでメモを打つ。
そしていつものように「おっと、うっかり!」とわざとらしい声を上げて、リターンレバーを大袈裟に叩きながら笑うのである。
彼は気付くだろうか?
冷蔵庫の扉に、私が残した伝言。
"You can eat them all in the lefrigerator."
(冷蔵庫の中のもの、君が全部食べていいんだよ。)
気付くわけないか。だって彼は、
流浪(rove)の私に真実の愛(love)をくれた、LとRの違いもわからぬ戯曲家だから。
(おしまい)(この物語は全てフィクションです。)(要素9個、4110文字)
参考文献:
「ウィンザーの陽気な女房たち」(ウィリアム・シェイクスピア)
「天窓のある部屋」(O・ヘンリ)
[編集済]
☆
簡易解答:私は彼に、一度命を助けられたことがある。それは私の生涯でたった1人でも、自分の身を案じてくれる人間の存在がいることを彼が教えてくれたからだった。(実際には彼がアルファベットを1文字間違えただけなのであるが)そのことに感謝しつつも揶揄う私は、わざと冷蔵庫(Refrigerator)の頭文字をミスしたメモをこっそり残しておくのだった。いわゆる惚気である。
☆
参加者一覧 18人(クリックすると質問が絞れます)
投票会場(https://late-late.jp/mondai/show/13227)にて、シンプルな結果発表を行っております。
結果発表!!!
たいへん長らくお待たせ致しました!第30回「正解を創りだすウミガメ」も遂に結果発表の時間がやって参りました!
今回の創りだすでは、12名のシェフによって、15作品の投稿をいただきました!
意図的に解釈の余地が狭い問題文としていたのですが、皆さまの水平思考力によって非常にバラエティ豊かな創りだされました。
投票につきましても、11名の方から29票を承っております!
ご参加いただいた皆さまに心から感謝いたします。ありがとうございました!
さてさて、さっそく結果発表に参りましょう!
☆最難関要素賞
今回は、問題文の難易度はそれほど高いわけではなかったように感じましたが、そのせいもあってかなかなかパンチの効いた要素がチラホラと散見されました!(みんなイジワル( ̄▽ ̄)笑)
その中で最も難しかった、作者さまが頭を抱えた最難関要素はこちらとなります!!
第3位(1票)
🥉⑥涙が足を伝います(「マクガフィン」さん)
「マクガフィン」さんの要素が3位にランクインしました!
その他合わせて4つの要素ともに、なかなかエモさと難易度を感じるものでしたが、今回はこちらが要素として選ばれていました。その涙は悲しみか、それとも切なさか、それとも嬉しさか…。
次に第2位はこちらです…!
第2位(3票)
🥈⑦嫌いな人がみんな揚げパンに見えます(Hugoさん)
これは一体….どういう状況なんですか??
もうこれだけでウミガメが1作品ほど作れてしまうような要素に、大きな魅力を感じてしまいます。食パンでもコッペパンでもない、その揚げパンがどうして嫌いな人に見えてしまうの??
そしてこの2つの要素を破って見事最難関要素を勝ち取ったのがコチラ!!
第1位・最難関要素賞(5票)
🥇②銀行員だった頃の癖が抜けません(休み鶴さん)
休み鶴さんの要素が最難関要素賞を獲得です!
銀行員だった頃の…クセ??いや、すでにこの要素自体がとんでもないクセ者です。
今回の創りだすは要素を全て使用する必要がないという特殊ルールだったので、泣く泣くこれを切って文字数を調整した…なんて作者さんもいるかもしれません。
全要素を使い、無限の文字数を手に入れた作者さんは、一体どのようにしてこの要素を料理したのか??ぜひ皆様の目で、確かめてみてください^ ^
続いてサブ賞に移ります!匠賞→エモンガ賞→スッキリ賞の順に、第1位の作品を発表いたします!
☆匠賞
匠の腕が最も輝いていたのは、こちらの作品!!
🥇③『揚げパンは甘くて美味しい』(休み鶴さん)
6票獲得
何がすごいって、要素が50個ですよ、50個。信じられな〜〜〜い!!!
今回はどれも挑戦的な要素がはびこる中で、これを全て回収し切った休み鶴さんの手腕に脱帽です。これも創りだす愛のなせる匠の技、なのでしょうか……。
こちらは原作ありの物語となっていますが、休み鶴さん独特の語句の言い回しによって素敵なオリジナルストーリーに昇華しております。みんなも読んでみて〜〜〜〜!!!
☆エモンガ賞
勝利のエモンガを微笑ませたのは、こちらの作品!!
🥇⑪『こころひらいて。』(異邦人さん)
6票獲得
何より素敵なのはですね、やはり登場人物、私とケンタくんの可愛さですかね。
やはりキャラクターの立っている作品はその人に感情移入できるというか、家事代行の私が一生懸命ケンタくんに喜んでもらおうとアプローチをかけている様を見ると、ほんとうに応援したくなってしまって…。
読み手の感情をくすぐる、エモンガにふさわしい作品でした!!!
☆スッキリ賞
無駄のない問題文と要素の回収が最も評価されたのは、こちらの作品!!
🥇④『要冷蔵クッキー』(YOTSUBAさん)
🥇⑨『(株)ラテラルエレクトロニクス様製2021年モデル大容量冷蔵庫「ラテエレ Amaino」15秒コマーシャル台本案』(休み鶴さん)
6票獲得
YOTSUBAさんと、休み鶴さんの作品が入賞しました!
すっきりとした解説文の中に情景がはっきりと浮かぶような厳選された言い回しで読み手の心を掴んだYOTSUBAさんの『要冷蔵クッキー』、そしてスッキリ賞なのになんでこんなにタイトル長いんだろう…と思うような『(株)ラテラルエレクトロニクス様製2021年モデル大容量冷蔵庫「ラテエレ Amaino」15秒コマーシャル台本案』…でも解説はめちゃくちゃわかりやすくて面白かったです!!!
お二人とも、おめでとうございます!!!
以上がサブ賞の結果となります!最後に、メイン投票の結果発表です!
最優秀作品はどの作品になるのか!?そしてシェチュ王の栄冠は誰に輝くのか!?
最優秀作品の第3位から第1位まで、次いでシェチュ王を順に発表していきます!
☆最優秀作品賞
第3位
2票を獲得した、こちらの作品!!
🥉②『ぜんぶ、いいやつだよ』(クラブさん)
🥉④『要冷蔵クッキー』(YOTSUBAさん)
🥉⑥『にわかの癖に』(さなめ。さん)
🥉⑨『(株)ラテラルエレクトロニクス様製2021年モデル大容量冷蔵庫「ラテエレ Amaino」15秒コマーシャル台本案』(休み鶴さん)
なんとですねー、4作品がランクインしていますよΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
おそらく今企画の最強パワーワード「行けたら行く、は?」「行く気なし!」で投票者の
注目を集めたクラブさん、外国人を登場させる発想力も素晴らしかった!!
そして、先ほど感想を述べさせていただいたYOTSUBAさんの作品、看守と囚人のやりとりが傑作です、ぜひみんなに読んでみて欲しい!というか出題して、参加するから…!
さなめ。さんの『にわかの癖に』は登場人物たちが徐々に心の距離をつめていく様が切なくかつ温かくて。みんなにお勧めしたい青春作品です、甘酢っぱい!!
休み鶴さんの、えーっと名前長い作品は物語ではなく台本調という特殊なスタイルで、注目を集めていましたねーーー!!!
第2位
3票を獲得した、こちらの作品!!
🥈⑩『長い家出』(Hugoさん)
🥈⑪『こころひらいて。』(異邦人さん)
こちらの2作品がランクインしております!!!
おそらく今回の企画で一番の大長編。Hugoさんの『長い家出』は喫茶店のマスターハナブサさんと登場人物とのやりとりがジーンと刺さる作品で、ラストはちょっぴり切ない、哀愁の作品といえるでしょう。
『こころひらいて』はやはりキャラクター愛が抜群!!かわいいケンタくんが恥ずかしながらも
冷蔵庫に書き置きを残す姿を想像すると…本当に素晴らしい!!!
お二人ともおめでとうございます!!!
さぁ、いよいよ最優秀作品賞の発表です!いったいどの作品なのでしょうか。
ここで皆さまに重大なお知らせがございます。
今回もですね、2つの作品がメイン投票で5票を獲得しております。
珍しいこともあるものですね、こんなことに立ち会えて、私も嬉しいです。
それでは投稿順で発表してまいりますよ・・・?
最優秀作品賞 1つ目の作品は・・・
こちら!!
「わたしはアルス様に一生添い遂げるつもりですけどねー!」
🥇③『揚げパンは甘くて美味しい』(休み鶴さん)
50個全ての要素をふんだんに使いながらも、休み鶴さん独特の文調で物語を完全に自分のものとして掌握しています。この技術力に、まずは敬意を。
そして登場人物の少女がミラがアルス医師との暮らしの中で徐々に心の結び目を解いていく姿をみて、涙が止まりませんでした…!
ハッピーエンドで終わる結末も、私的には最高で最高で。
本当に素晴らしい作品であったと、心の底から思いました(*’▽'*)
休み鶴さん おめでとうございます!!
さあ、結果発表を続けましょう。
最優秀作品賞 2つ目の作品は・・・
こちら!!
久しぶりだね
クリスマスプレゼントというわけではないけど、3年間も君が食べたくて仕方なかった大好物を冷蔵庫に入れておいた
冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ
🥇⑬『CHRISTMAS SONG FOR YOU』(シチテンバットーさん)
まさかまさかのダークホース、匠・エモンガ・スッキリと全てにおいて無冠のこの作品が、最優秀作品賞だけをもぎとりに登場いたしました!!!
今回の作品の雰囲気とは別次元のダーク&シリアスファンタジー。
復讐に燃える男が冷蔵庫の扉を開けるその姿はなんと怒りに満ち溢れていることだろう。
クリスマスソングの陽気な音楽も、彼の耳には違って聞こえていたでしょうね…!寒々しいほど、のめり込んでしまう魅力がある作品でした!!!素晴らしい!!!
シチテンバットーさん おめでとうございます!!
結果発表もあとはシェチュ王を残すのみとなりました。
第30回「正解を創りだすウミガメ」。第29代シェチュ王の栄冠を手にしたのは・・・!!
③『揚げパンは甘くて美味しい』(休み鶴さん):5票
⑤『正解を創りだすグルメ』(休み鶴さん):1票
⑨『(株)ラテラルエレクトロニクス様製2021年モデル大容量冷蔵庫「ラテエレ Amaino」15秒コマーシャル台本案』(休み鶴さん):2票
3作品で合計8票を獲得した……
シェチュ王
👑休み鶴さん👑
です!おめでとうございます!!
休み鶴さんにはシェチュ王の王冠と、次回の「創りだす」出題権をお渡しいたします!
( ˶´⚰︎` )つ👑 オメデトゴザイマスゥ~!!
休み鶴さん、二冠達成!!!
本当に本当におめでと〜〜〜〜〜〜〜う!!!
全ては創りだす愛の成せる技!!!
みなさま、休み鶴さんに大きな拍手を👏👏👏👏👏👏👏👏
最後に事務連絡です。
最難関要素・最優秀作品・シェチュ王作品には、正解を進呈いたします!
また、参加賞のコインコードにつきましては、後日ミニメにてご連絡をさせていただきます。
そして最優秀作品賞のコードについては、ルール通り先に投稿された休み鶴さんに進呈する予定です。ご了承ください。
・・・と、必要なアナウンスも済んだところで、お別れの時間がやって参りました。
改めて、第30回「正解を創りだすウミガメ」へのご参加、誠にありがとうございました!!
じゃ〜〜〜〜〜ね〜〜〜〜〜〜!!!ヽ(´▽`)/
弥七さん主催お疲れ様でした!休み鶴さんシェチュ王おめでとうございます!高クオリティに加え三作品投稿…その創造力に驚かされました。そして、拙作に投票していただいた皆さん、ありがとうございました! [21年01月03日 09:57]
弥七さん、進行ありがとうございました!次回開催を承りました!そしてシチテンバットーさん、最優秀作品賞おめでとうございます!問題文の解釈における水平思考が光る秀作でした![21年01月03日 08:27]
あけましておめでとうございます。年をまたぐ開催となった第30回、お忙しい中、弥七さん進行お疲れさまでした。そして見事シェチュ王となられた休み鶴さんおめでとうございます! クオリティの高さはさることながら、三作品投稿という離れ業をやってのけた体力と想像力に舌を巻いております。次回の開催も楽しみにしております。[21年01月03日 00:03]
『冷蔵庫の中にあるもの、君が全部食べていいんだよ。』
私が冷蔵庫にそんな伝言を残したのは、一体なぜだろう??
◆要素一覧◆※()内は質問番号 半角数字に半角カッコを付けることでアンカー機能が使えます。(義務ではありません)
①(4)にがいのたべます
②(7)銀行員だった頃の癖が抜けません
③(14)反則です
④(20)いけると思ったんだけどなぁ、です
⑤(25)閉じ込められています
⑥(31)涙が足を伝います
⑦(33)嫌いな人がみんな揚げパンに見えます
⑧(39)目の前が真っ暗になります
⑨(41)目が覚めます
⑩(50)これで終わりです
◆投稿フェーズ締切り◆
12/26(土)23:59まで
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!