【正解を創りだすウミガメ】滲みて、とくるは【第24回】

◆◆ 問題文 ◆◆


紙にインクが零れたことで、とけなかったものがとけるようになりました。
さて、どういうことでしょう?


--------------------------------------

すをです。よろしくお願いします。
さてさて唐突な自己紹介もそこそこに、やって参りました第24回正解を創り出すウミガメ!出題及び進行を担当させていただきます、すをと申します。二度も自己紹介したのは新参だからです。不慣れゆえ至らぬところは多々あるかと存じますが、そこは広いお心でご容赦いただきまして、なにとぞ奮ってご参加くださいませ!

と、前置きが長くなりました。さっそくルール説明へ移りましょう。

★★ 1・要素募集フェーズ ★★
[6/13(土)21:00頃~質問が50個集まるまで]
まずはいつもの要素募集から。

“要素”──それは模糊として遥かなコタエへの標、カタチなき論理を鍛え上げる火槌。
すなわち。あなたが踏み出す、正解への第一歩。
今この瞬間から、正解を創り出すウミガメは始まっています。

……すいません、カッコつけました。ちゃんと説明しますね。
☆要素選出の手順

①出題直後から、YESNOで答えられる質問を受け付けます。質問は1人4回まででお願いします。

②皆様から寄せられた質問の数が50個に達すると締め切りです。

③前回同様、要素候補が5個投稿された時点でその中から1つ要素が選ばれます。

わかりやすく言いますと、質問No.1〜5が集まった時点でその中から1つ採用、No.6〜10が集まったら1つ採用、・・・というように、採用された要素がリアルタイムで増えていき、参加者もそれを見られるということです。すをが雰囲気で選びます。ご了承ください。

一度に4つ質問してしまえば高い確率で要素採用となりますし、今までに採用された要素を見ながら自分の要素投稿内容を調整することもできます(それまで高難度な要素ばかりだったら簡単めな要素候補を投稿するなど)。

このようにして選び出された10個の要素を織り込みながら、問題文の解説となるストーリーを“創り出し”てください。皆さまの力作と出逢えるのを心から楽しみにしております!


なお、良質(=採用)以外の質問は「YesNo どちらでも構いません」と回答いたします。
こちらは解説に使う必要はありません。(べ、別に使ったっていいんだからねっ!?)

※矛盾が発生する場合や、あまりに条件が狭まる物は採用いたしません。
▼矛盾例
 田中は登場しますか?&今回は田中は登場しませんよね?(先に決まった方優先)
▼狭い例①
 ノンフィクションですか?(不採用)
▼狭い例②
 登場キャラは1人ですか?(不採用)
▼狭い例③
 ストーリーはミステリー・現実要素ものですよね?(不採用)

要素が揃った後、まとメモに要素を書き出しますのでご活用ください。

★★ 2・投稿フェーズ ★★
[要素選定後~6/25(木)23:59]

要素募集フェーズが終わったら、選ばれた要素を取り入れた解説を投稿する『投稿フェーズ』に移行します。
各要素を含んだ解説案をご投稿ください。

らてらて鯖の規約に違反しない範囲で、思うがままに自由な発想で創りだしましょう!

※過去の「正解を創りだす(らてらて鯖版・ラテシン版)」も参考になさってください。
 ** ラテシン版 **
http://sui-hei.net/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1
 ** らてらて鯖 **
https://late-late.jp/tag/tag/%E6%AD%A3%E8%A7%A3%E3%82%92%E5%89%B5%E3%82%8A%E3%81%A0%E3%81%99%E3%82%A6%E3%83%9F%E3%82%AC%E3%83%A1


☆作品投稿の手順

①投稿作品を、別の場所(文書作成アプリなど)で作成します。
質問欄で文章を作成していると、その間他の方が投稿できなくなってしまいます。
コピペで一挙に投稿を心がけましょう。

②すでに投稿済みの作品の末尾に終了を知らせる言葉の記述があることを確認してから投稿してください。
記述がない場合、まだ前の方が投稿の最中である可能性があります。
しばらく時間をおいてから再び確認してください。

③まずタイトルのみを質問欄に入力してください。
後でタイトル部分のみを[良質]にします。

④次の質問欄に本文を入力します。
本文の末尾に、おわり、完、息がポーンとさけた、など終了を知らせる言葉を必ずつけてください。

⑤今回も原則として簡易解説をつけていただきたいと思います。
作品の冒頭もしくは末尾などに、問題文の問いかけに対する簡易解説(要約)をつけてください。文字数や行数の指定はありません。
※作品自体が簡易解説のような形である場合は、新たに要約をつける必要はありません。


★★ 3・投票フェーズ ★★
[投票会場設置後~7/2(木)23:59]

投稿期間が終了したら、『投票フェーズ』に移行します。
お気に入りの作品、苦戦した要素を選出しましょう。


☆投票の手順

① 投稿期間終了後、アンケート(画面最上部バナー右から二番目!)にて、「第24回正解を創りだすウミガメ・投票会場」を設置いたします。
※闇スープ形式で投票会場を設置するのが恒例でしたが、今回は出題者の都合上、アンケート形式での投票となっております。お間違えのないようお願いするとともに、お手数お掛けする旨お詫びいたします。

② 作品を投稿した「シェフ」は3票、投稿していない「観戦者」は1票を、「メイン投票」枠として気に入った作品に投票できます。メイン投票はアンケート投票ページの「自由欄」から行ってください。
自由欄には各投票作品の、
1.タイトル
2.作者
3.票数
4.感想 をお願いします。

また、今回もサブ投票枠として「エモンガ賞」「匠賞」を設置します。サブ投票は持ち票無制限、ただしエモンガと匠それぞれで各作品につき1票までの投票となっています。
サブ投票はアンケート投票ページから、投票したい作品の項目にチェックしてください。
その他、詳細は投票会場にて。

さらに、これまた恒例となりますが、「シェフ」「観戦者」の皆様それぞれに1票ずつ、「最難関要素賞」への投票をお願いします。これもサブ投票と同様、投票したい要素の項目へチェックしてください。

※メイン投票は、1人に複数投票でも、バラバラに投票しても構いません。
※自分の作品に投票は出来ません。その分の票は無効となりますのでご注意を。

③皆様の投票により、以下の受賞者が決定します。

 ◆最難関要素賞(最も票を集めた要素)
 →その質問に[正解]を進呈

 ◆最優秀作品賞(最も票数を集めた作品)
 →その作品に[良い質問]を進呈

 ◆シェチュ王(最も票数を集めたシェフ=作品への票数の合計)
 →全ての作品に[正解]を進呈
 
→見事『シェチュ王』になられた方には、次回の「正解を創りだすウミガメ」を出題していただきます!

※票が同数になった場合のルール
[最難関要素賞][最優秀作品賞]
同率で受賞です。
[シェチュ王]
同率の場合、最も多くの人から票をもらった人(=一人の方からの複数票を1票と数えたときに最も票数の多い人)が受賞です。
それでも同率の場合、出題者も(事前に決めた)票を投じて再集計します。
それでもどうしても同率の場合は、最終投稿が早い順に決定させていただきます。


■■ タイムテーブル ■■

☆要素募集フェーズ
 6/13(土)21:00~質問数が50個に達するまで

☆投稿フェーズ
 要素選定後~6/25(木)23:59まで

☆投票フェーズ
 投票会場設置後~7/2(木)23:59まで ※予定

☆結果発表
 7/3(金)21:00 ※予定


◇◇ お願い ◇◇

要素募集フェーズに参加した方は、なるべく投稿・投票にもご参加くださいますようお願いいたします。(もちろん、投稿・投票できなかったからといってペナルティなどはありません!ご安心くださいね!!)
質問だけならお手軽気軽、でもメインはあくまで投稿・投票。
投稿は意外と何とかなるし、投票もフィーリングで全然OKです。心向くままに楽しみましょう!
もちろん投稿フェーズと投票フェーズには、参加制限など一切ありません。
どなた様もお気軽にご参加ください。

皆様の思考や試行、思う存分形にしてみて下さい。

もうちょっとだけ続きます!
◇◇ コインバッジについて ◇◇

シェチュ王……400c
最優秀作品賞…100c
最難関要素賞…10c
シェフ参加賞…5c
投票参加賞……5c

上記の通り賞に応じてコインを発行する予定ですので、皆様ぜひお気軽にご参加ください。


──さァてさてさて、お待たせ致した皆の衆、準備はよろしいか!
いざや参りましょう、これより要素募集フェーズを始めます!お忘れなきよう、質問は1人4回までですよ!


それでは。

ヨーイ、始めッ!
[すを]

【新・形式】20年06月13日 21:54
新・形式
正解を創りだすウミガメ
初出題
初出題が「創りだす」
10ブクマ
No.1[アルカディオ]06月13日 21:5506月13日 22:08

主人公はその後病気が治りましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.2[たけの子]06月13日 21:5706月13日 22:18

衝撃的でしたか?

YES!衝撃的でした。① [編集済] [良い質問]

No.3[たけの子]06月13日 21:5806月13日 22:08

にじみましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.4[OUTIS]06月13日 22:0006月13日 22:08

死んでもいいかナ?

YESNO.どちらでも構いません。

No.5[アルカディオ]06月13日 22:0006月13日 22:08

ゲーム中ですか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.6[ぎんがけい]06月13日 22:0006月13日 22:18

何かの面積は重要ですか?

YES!面積は重要です。② [編集済] [良い質問]

No.7[ぎんがけい]06月13日 22:0006月13日 22:08

銃の類のものは使用しますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.8[OUTIS]06月13日 22:0106月26日 00:46

大切ななにかを失うかナ?

YESNO.どちらでも構いません。

1

No.9[たけの子]06月13日 22:0306月13日 22:08

すれ違いが無くなりますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.10[アルカディオ]06月13日 22:0506月13日 22:08

主人公には家がありますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.11[ぎんがけい]06月13日 22:0506月13日 22:10

100になったら終わりですか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.12[ぎんがけい]06月13日 22:0506月13日 22:10

定期的に祭りが開催されますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.13[シチテンバットー]06月13日 22:0506月13日 22:18

金属片が刺さりますか?

YES!金属片が刺さります。③ [編集済] [良い質問]

No.14[輝夜]06月13日 22:0506月13日 22:10

細かく震えますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.15[アルカディオ]06月13日 22:0606月13日 22:10

多目的トイレで不倫ますか?

YESNO.えっちなのはいけないとおもいます。

No.16[靴下]06月13日 22:0706月13日 22:11

背中に違和感がありますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.17[靴下]06月13日 22:0806月13日 22:11

のど飴が高かったですか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.18[靴下]06月13日 22:0806月13日 22:11

揺れてる気がしますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.19[靴下]06月13日 22:0806月13日 22:18

かたまりますか?

YES!かたまります。④ [編集済] [良い質問]

No.20[シチテンバットー]06月13日 22:0806月13日 22:11

コントラバスを持ち運びますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.21[ごがつあめ涼花]06月13日 22:0806月13日 22:18

何気ない日常が重要ですか?

YES!何気ない日常が重要です。⑤ [編集済] [良い質問]

No.22[OUTIS]06月13日 22:0906月13日 22:12

大切な人を失うかナ?

YESNO.どちらでも構いません。

No.23[シチテンバットー]06月13日 22:0906月13日 22:12

足を滑らせたことが致命的でしたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.24[輝夜]06月13日 22:0907月20日 17:37

途轍もないお金がかかりますか?

YESNO.どちらでも構いません。

1

No.25[たけの子]06月13日 22:1006月13日 22:12

ようやく夜が明けますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.26[シチテンバットー]06月13日 22:1106月13日 22:14

やたらと音程が高いですか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.27[「マクガフィン」]06月13日 22:1106月13日 22:14

強く目を瞑りますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.28[OUTIS]06月13日 22:1306月13日 22:14

それは複素数平面上にしか存在しないかナ?

YESNO.どちらでも構いません。

No.29[フェルンヴェー]06月13日 22:1306月13日 22:19

雨が降りますか?

YES!雨が降ります。⑥ [編集済] [良い質問]

No.30[フェルンヴェー]06月13日 22:1406月13日 22:15

帰ることができませんか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.31[「マクガフィン」]06月13日 22:1606月13日 22:25

崩れそうなバランスを保っていますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.32[「マクガフィン」]06月13日 22:1706月13日 22:27

どこまでも歩いて行けそうですか?

NO!どこまでも歩いて行けなさそうです。⑦ [編集済] [良い質問]

No.33[輝夜]06月13日 22:1806月13日 22:25

必死で堪えますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.34[輝夜]06月13日 22:2106月13日 22:25

理解できませんか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.35[ハシバミ]06月13日 22:2206月13日 22:25

新刊を手に入れることができましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.36[「マクガフィン」]06月13日 22:2406月13日 22:30

思わず目をそらしましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.37[ハシバミ]06月13日 22:2606月13日 22:30

消すことは容易でしたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.38[ハシバミ]06月13日 22:2706月13日 22:30

二つで一つでしたか?

YES!二つで一つでした。⑧ [良い質問]

No.39[リンギ]06月13日 22:2806月13日 22:30

許せませんでしたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.40[ごがつあめ涼花]06月13日 22:2906月13日 22:30

光っていますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.41[ごがつあめ涼花]06月13日 22:3006月13日 22:41

金銭的に困りますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.42[リンギ]06月13日 22:3106月13日 22:41

精神的に参ってますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.43[ごがつあめ涼花]06月13日 22:3306月13日 23:04

かえることが出来ませんか?

YES!かえることが出来ません!⑨ [編集済] [良い質問]

No.44[ハシバミ]06月13日 22:3606月13日 22:41

一人ではできませんか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.45[フェルンヴェー]06月13日 22:3706月13日 22:41

ヒ素は関係ありますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.46[フェルンヴェー]06月13日 22:4506月13日 23:10

探偵は関係ありますか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.47[猫又]06月13日 22:5806月13日 23:10

愛していましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.48[猫又]06月13日 22:5906月13日 23:10

ラジオを聴きましたか?

YESNO.どちらでも構いません。

No.49[猫又]06月13日 23:0106月13日 23:07

何かが足りなくなりましたか?

YES!何かが足りなくなりました。⑩ [良い質問]

No.50[猫又]06月13日 23:0506月13日 23:10

滑りますか?

YESNO.どちらでも構いません。

そこまでェッ!!要素募集フェーズ、終了です!只今より投稿フェーズに移ります!
No.51[OUTIS]06月13日 23:08未回答

【内戦問題における叙述トリックをとく方法】 [編集済]

回答はまだです。 [良い質問]

No.52[OUTIS]06月13日 23:0806月13日 23:29

 その日、わが国は二つに分かれた。元々一つの国であったが、東側の連中が独立を掲げ宣戦布告、それに応対する形で西側の我々も戦わざるを得なくなり戦争に発展した。そのニュースはあまりに衝撃的で、ラジオ等でそのことを知った国民はその事実を受け入れるのに時間がかかった。①⑧
その結果後手に回ることとなり、多くの被害が出た。ミサイルの金属片が民家を貫き、枯葉剤の雨が降り食料が枯渇した。③⑥
どうしてこうなったのか。それは誰にも分らなかったが、誰もが立っているのがやっとで未来へ歩く事もできずに何気ない日常を懐かしんでいた。⑤⑦
そんなある日、東側から使者がやってきた。
民はみな苦しんでいる、独立を受け入れ領土を一部明け渡せ。さもなくばこの戦争は続き誰もが不幸になるだけだ。
そういった旨のメッセージを我々は受け入れるしかなかった。民はやつれ、食料も足りない。
ただでさえ小さな国だというのに、更に独立なんてされてしまっては国の面積があまりにも小さくなりすぎる。そうなってしまっては、他国から舐められ侵略される事も考えられる。消耗の見えない相手にがむしゃらに戦っていてもこの現実を変える事は出来ない。仕方なく受け入れ講和会談の席に足を運んだ。②⑨⑩
 目の前に講和の署名用紙が渡される。これに名前を書けば、わが国は分裂し東は独立することになる。東側からは多くの物資が並べられ、インク瓶も必要以上に積まれていた。私たちは、それを見て如何に向こうが資源的に有利かを悟らされた。きっとどこか他所の国から援助でも受けているのだろうか。そんな事を考えながら署名をしようとしたせいで、誤ってインク瓶を倒してしまった。
・・・
あまりのことに頭が一瞬真白になりかたまった。④
けれど、何かその光景に違和感を覚える。インクだ。明らかに瓶の容積よりも零れたインクの量が少ない。
「失礼、新しいインクと紙を・・・」
そう言って並べられたインク瓶の中から1つを無造作に取り出す。奴らはそれを見て顔を青くさせていた。
開けると中は空だった。そう、はったりだったんだ。
そう思って奴らをよく見ると向こうも目の下に隈を隠しており疲弊していたことがうかがえる。
まだ、やり直せる。
「どうやら、私たちにもまだ勝機があったようですね。」
そう言って私は署名せずにその場を後にした。向こうも私たちと同じくらい、いや、それ以上に疲弊している。ならば、このまま持久戦に持ち込めばなんとかなるかもしれない。
とけなかった国同士の問題が、とけるようになった瞬間だった。

【簡易解説】
戦争が起こっていた2国、“私たち”は相手の消耗が見えずに勝利による解決が出来ないと思っており、講和の場でも圧倒的物資の量で諦めかけていた。けれど、インクをこぼしたことでインクは上げ底でハッタリだとわかり相手が自分達よりも疲弊していて、勝ち目のなかったこの問題にも勝機があったと気づいた。
-了-
[編集済]

2

No.53[たけの子]06月14日 01:04未回答

【とくいじゅん】

回答はまだです。 [良い質問]

No.54[たけの子]06月14日 01:0506月26日 00:15

[社会]
・(東海道とかも昔は歩きで移動してたんだよなぁ、
近所のスーパーまでで疲れる私はどこまでも歩いて行けなさそう⑦です)

[国語]
・(①「衝撃的」でした…(しょうげきてき、っと)
・似たような意味の言葉に書きかえなさい。
「二つで一つ⑨であること」
(一心同体⇒○○一〇、表裏一体だ!)

[英語]
・(「…デニスの乗った気球には金属片が刺さって③しまいました。
彼はもう故郷に帰ることが出来ません⑨…」…ここまで読ませてバッドエンドかーい)

[小論文]
・(「日常で大切にしていることをあなたの経験を踏まえて(以下略)」
…私にとっては何気ない日常がかけがえのないものです⑤。これの引き延ばしで行こう)

[理科]
・((低気圧)では(上昇気流)が発生し、雲ができやすくなり、雨が降る⑥)
・(水が氷に固まる④のは…凝固だっけ?)

[数学]
・(駄目です。数式作ろうにも何かが足りなくなりました⑩/(^o^)\オワタ)
・(気を取り直して図形に行こう。解くのにこっちの三角形AEDの面積は重要そう②だぞ…)
(あー、ボールペンがにじんで紙に…ん?こっちになんか補助線っぽくなってない?解ける!解けるぞこれ!!)

※要約:問題集を解いている最中、数学の図形問題でにじんだインクの線が補助線の役割を果たし解けなかった問題が解けるようになった。

【おしまい】
[編集済]

No.55[シチテンバットー]06月16日 05:52未回答

タイトル
「目指せトレジャーハント」

回答はまだです。 [良い質問]

No.56[シチテンバットー]06月16日 05:5306月26日 00:15

【簡易解説】
秘宝を求め探検をする男たち。途中で行き詰まるも地図にインクが零れたことで、今まで解けなかった秘宝の謎が解け地図に隠された情報を知ることが出来た。

【以下簡易でない解説】
トレジャーハンター (英: Treasure hunter)は、財宝を探し出すことを職業とする人のこと。
海(沈没船)や山、廃墟、遺跡など、主に人の手の入ることのない場所に赴き、遺された「財宝」を探す、探し出す(トレジャーハント、もしくはトレジャーハンティング)ことをおもな目的とする。探索対象となる「財宝」は黄金や宝石の遺物などといった物であるが、著名な人物の遺体などといったものも含まれる。アメリカやイギリスなどでは、トレジャーハントのみで生計を立てるプロのトレジャーハンターも存在する。
また、これらのイメージから派生して、町や家にあるがらくたなどの中から価値のある品(骨董品・希少価値の高いものなど)を探し出す人をトレジャーハンターと呼ぶこともある。また近年ではグーグル・アースなどを使用し財宝を発見するトレジャーハンターも存在する。
(以上Wikipediaから抜粋)
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「隊長隊長!」
「どうした堂上君」
「今まで見つけてきた暗号を解読したところ、やはり秘宝はこの一帯のどこかにあるそうです」
「ふむ、やはりそうか。『みぎかたりょくちゃます、ひだりかたまります④。あたまのてんにたからあります』という暗号を見たときはビビってしまったが、やはり右肩部分をチャド、左肩部分をマリと例えて、頭の点はアルジェリアとリビアとチュニジアの国境が交わる一点を指していたのだな。とはいえこれだけだと歩き回って探すには広すぎる。もう少しポイントを絞れる嬉しいのだが。堂上君、例の宝の地図はあるか?」
「はいこちらです!」
「いや小さいな!なにこの地図こんな小さいの初めて見たよ。ファミチキだけ買った時のレシートくらいの大きさしかないじゃん。小さすぎて何が書かれてるか分からないし。何でこんなのを遺したの?罠とか危険とかは覚悟の上だったけど、地図そのものが罠って前代未聞だよ?」
「あの、拡大コピーしたものありますけど」
「だったらそっち出してよ。還暦迎えるような歳でもないのに老眼鏡取り出そうかと思ってたよ。最初から大きいの出して?地図って面積が結構重要だから②。いや何だよ今の指摘、地図の大きさの重要性を語ることなんて生まれて初めてだよ。まあいいや、ペンとインクを貸してくれ・・・うーん、たしかにこの辺だと思うんだけどな。しかし何か遺跡とか洞窟とかも無いし・・・もしかしたら地中に埋まってるとか?」
「掘ってみますか隊長」
「いや、当てずっぽうで掘っても無駄に体力と時間を浪費するだけだ。それにいくら人気が無いからといってそこら一帯を穴だらけにしたら流石に顰蹙を買うぞ」
「どうしましょうか」
「うーん、しばらく考える必要がありそうだな。とりあえずテントを建てよう。ちゃんと道具は揃ってるな?」
「隊長、ペグが一つ足りません!」
「ペグ?」
「地面に打ち込んでテントを固定するアレです」
「ああアレか。一つ無いだけなら、とはいえ何が起こるか分からないし可能な限り万全な状態は整えておきたいな。お、ここに金属片が落ちてるではないか。これをこう加工すれば・・・まあ一応だがペグの代わりにはなるだろう。これを刺しておきなさい③」
「分かりました・・・おや?」
「雨だな⑥。この地域の天気は変わりやすいと聞いていたが、予想以上だな」
「隊長、早くテントに!」
「おおすまない。急いで地図とかを入れなくては・・・まあテーブルごと持っていけばいいか・・・あ、やべぇ!!」
「どうしました!?」
「インクを地図に零してしまった!!急いで拭かないと・・・」
「隊長、このノートを切り離してお使いください!」
「すまないな堂上君・・・ふう、かなり濃く大きなシミになってしまったが、読めないことはないだろう・・・おや?」
「隊長!これは一体!?」
「コピーしてない方の地図が・・・インクのシミによって暗号が浮かんできた!!煮詰まっている現状を打破する衝撃的展開①!!!」
「凄いです!」
「あぶり出しとか聞いたことあったけど、なるほどこういうパターンもあったのか・・・よし、今まで知っていた情報と今出た暗号から得た情報によって・・・今まで解き明かされていなかった秘宝のありかが解けた!!【問題文】」
「凄いです隊長!さっそく探しに行きましょう!」
「いや待て、秘密を知られた宝が脚を生やして逃げていくわけではないんだ。雨が止んで万全に整えてからでも遅くはあるまい。荷支度が済んだら、明日のためにたっぷり寝よう」
「分かりました隊長!」

「なるほど・・・この切り立った崖の側面が洞窟の入り口だったのか・・・道理で見つからないわけだ」
「隊長、大丈夫ですか?」
「まあ入口まで何事もなく降りることが出来たからな。帰る時に入口からさっきまでいた所へ登ることも訳ないだろう。ただ万が一足を滑らせたら命は無いぞ。秘宝を見つけて喜び勇んで浮かれていると・・・という可能性も頭の片隅に入れておいてくれ」
「心得ています」
「まあ実際に危険なのは行き帰りよりもこの洞窟の中だろうがな。さあ、ありとあらゆる覚悟をしてくれ」
「分かりました!」

「しかしまあ元から期待はしてなかったが・・・本当に真っ暗だな」
「ロウソクはたくさん用意してきました」
「ああ。それがどれくらいの時間で燃え尽きるかも十分把握している。しかし道を覚えながら慎重に進んで行かないと本当に危ないぞ」
「隊長、あれは何でしょうか?」
「コウモリだな。どんな秘境にも何かしら生物は存在するもんだ」
「いえそうじゃなくて、その下です。何か置物みたいなのがありませんか?」
「ん?本当だな。何かオブジェ・・・にしては何か不格好だな。これは一体・・・おや、似たようなのがいくつかあるぞ・・・ふむ・・・」
「これは何でしょうか?」
「うーむ分からん。何かの儀式に使っていた道具か、土偶のような物か・・・」
「しかしここで行き止まりになってます。ただの行き止まりかもしれませんが、もしかしたら何か暗号のようなものを解き明かしてここを開くのでは?」
「その可能性もあるが・・・いや待てよ。堂上君、君の言った通りかもしれない!」
「というと?」
「この2つのオブジェを見てくれ!たくさんあるオブジェは一見何の意味があるか分からないが、やはりこれは先へ切り開くための鍵だったんだ。たくさんあるオブジェのうちこの2つだけ・・・ほら、この通りガッチリと合わさる。無数のバラバラのオブジェのうちの二つであると思われたこれは、元々は二つで一つの塊だったんだ④⑧。そして・・・この壁に丁度それをはめ込むような穴がある!」
「おおう!」
「さてこれをはめ込むと・・・あれ?何も起こらない。ピッタリなのに」
「というか・・・何か揺れてません!?」
「ほ、本当だ。それほど大きくはないがたしかに揺れている・・・お、収まったか?」
「はい。隊長ご無事ですか?」
「私は大丈夫だが、堂上君は?」
「僕も何とか・・・うわあ!!?」
「ど、どうした!!」
「突然何か飛んできました!!・・・金属片!鋭い金属の破片です!!僕のリュックが貫通されて、危うく僕の背中まで・・・!③」
「なにぃ!?そのリュックはサバイバルナイフで突き刺しても傷一つつかないほど頑丈な代物。それを中に入っていた荷物ごと貫通するとは・・・これはマズイ。堂上君、退避するぞ!こういう時は命が最優先じゃ!!」
「はい・・・うわあ!!」
「今度は何だ!?」
「コウモリの大群です!!四方八方から押し寄せてきます・・・いやあああ!!!」
「一体どうしたというんだ!!」
「何かガスが!!どこからともなく・・・うわあ!!ガスを吹きかけられたコウモリが石のように固まっています④!!」
「なにい!?・・・いや堂上君、『石のように固まった』のではなく、どうも『石になった』ようだぞ!!」
「そんなことあり得るんですか!?」
「分からない、だが今はとにかく逃げるんだ!!」
「はい隊長!!」

「・・・どうも私はミスをしたのかもしれない」
「ミスを?」
「ゲームや映画とかだとよくあるだろ。閉ざされた道を開く際に間違ったやり方を行った人にエゲツないペナルティが課されるアレ。それがこの金属片と石化ガスだ」
「そんなこと・・・あ、た、隊長・・・」
「どうした?」
「ロウソクが・・・残りわずかです!!」
「何!?もっと余裕があったはずだろ!?」
「しかし、どうもこの洞窟内は外の大気より酸素濃度が高いみたいです。そのため燃焼速度が通常よりも非常に速くなっています。さらに先ほどの金属片によってスペアのロウソクがことごとく使えなくなってしまい・・・」
「うむう・・・念のため私のリュックに入れていた懐中電灯も金属片で貫かれて再起不能だ」
「やはりヘッドライト付きヘルメットを装着するべきだったのでは・・・」
「あれだと頭が重くなってかえって危ないと思ってたのだ。しかし非常に困ったことになった。入口から先ほどの場所まで我々の照明を除けば光源や光が差し込む場所は皆無だった。道のりは覚えているが、もしこのロウソクが尽きれば真っ暗闇。そうなればたたでさえ不安定な足場の中、どこまでも歩いて行くことは出来なくなるだろうな⑦。そうなったら秘宝はおろか、生きて日本へ帰ることも出来なくなるぞ⑨」
「た、隊長・・・」
「堂上君、可能な限り慎重に急ぐのだ。最早我々にはロウソクと時間が足りないのだぞ⑩」
「はい!!」

「・・・しかしあの時はどうなるかと思った・・・本当に死を覚悟したぞ・・・」
「隊長隊長!!」
「どうした堂上君、ノックしてから入れといつも言ってるだろ」
「それは申し訳ありません・・・あ、隊長何やっているのですか?」
「ん?これはな、この前の洞窟でガスを噴射されたコウモリが石になったと言っていただろ?そのうちのいくつかを拾っていてな。まあほとんどは例の金属片で粉々になったけど、一つだけ奇跡的に原形をとどめていたから、それの分析をしているのだよ」
「なるほど。何か分かりましたか?」
「うむ。まず石になっているのは間違いないのだが、どうも今まで地球上で発見された様々な意思のどれとも違う種類のようだな」
「ということは新種ですか!?」
「まあそれを論文に書いて提出して認可されればの話だがな。しかし私といえども石の新種を見つけるのは初めてでな・・・というか石の新種って何?化石?」
「まあ探せばそういうのもあるかもしれませんね」
「たしかにそうだけど、何か石の新種ってワードが想像の斜め上というか・・・おっとすまんすまん。何か話があって来たのではなかったのかね?」
「はい。また新しく宝の地図を見つけてきました!」
「え・・・」
「バミューダートライアングルに沈んだ客船の秘宝だそうです!」
「ああ・・・」
「探しに行きましょう!!」
「うん待って、まずさ、この前もそうだったけどさ、いつも君どこから地図見つけてくるの?」
「ブックオフです!!」
「ブックオフに地図売ってるの!?信憑性とか大丈夫なのかそれ」
「内容を吟味した上で、確実性のあるものを選択しています!」
「それでいつも実際に秘宝があるから驚きだよね。君探偵とかになった方が活躍できるんじゃない?」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「何で分かんねえんだよ」
「とにかく、行きましょう!」
「わ、私はパスで・・・」
「え?」
「石の論文に忙しいんだよ」
「何ですか石の論文って!」
「私が知りたいよ!私専門生物学だから!秘宝探索とか言っても体面上の主目的は新種の調査だからね!?石の論文とか完全に領域範囲外だよ!!」
「だったらなおさら行きましょうよ!!」
「いやいいよ私は!!この前のがどれくらい前だったか忘れてないよね?一週間!!生死の境目を走り抜けたあの日からたった一週間しか経ってないの!!もう少しこの何気ない日常の重要性⑤を噛みしめさせて!!!」
「でも一週間フレンズってあるじゃないですか」
「ああ、一週間ごとに記憶が無くなってしまう人の話か」
「だから良いじゃないですか!!」
「何も良くないよ!?記憶にバッチリ残ってるよ!?記憶から抹消されたとしてもありとあらゆる精神と臓器がこの恐怖を覚えているよ!?そもそも私と堂上君って別にフレンドってわけでもないよね!?」
「ど~こで~こ~われ~た~のOh~Friends~♪」
「壊れてるのはお前の恐怖を感じ取る神経だろうが!!!」

【終】

No.57[リンギ]06月20日 21:50未回答

死神系探偵の事件簿

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No.58[リンギ]06月20日 21:5106月26日 00:15

簡易解説:偶然雨宿りしたペンションで事件に巻き込まれた探偵たちだったが、紙にインクがこぼれていたことが最大のヒントとなり、見事事件の全貌を読み解くことができた。



「この事件を解くカギは、この紙です!」

そういって掲げられた紙切れにはインクの大きな染みができていた。
しかしその染みの形はどう見ても不自然である。

その紙がいったい事件にどう絡んでくるのか。
その場に集められた人々は固唾をのんで話を聞いていた―――。






「あぁー!やはり自然というのはいいものだ!そうは思わないかねワトソンくん!」
「ワトソンじゃないです和田尊(わだたける)です!いい加減ワトソンって呼ぶのやめてください!」

とある小高い丘の上。迷探偵と名高い神谷リキヤとその助手―――当の本人は全力で否定しているが―――和田尊はハイキングにきていた。
なぜ野郎2人で一緒にハイキングにきているのか。
その理由は聞くも涙語るも涙、それはもう紆余曲折あったのだが、まったく実にならない無駄話なので割愛する。

「はぁー…でも、確かに自然の空気っていいですよねー…」

軽やかな風を全身に受けて和田は深く息を吸って、吐いた。
心身ともに浄化されるような気持ちのいい空気だ。
この自称名探偵、他称ポンコツ迷探偵の神谷との付き合いが始まってから、大小さまざまな事件に巻き込まれてきたが、はやりこういう穏やかな時間がないと身が持たない。
この【⑤何気ない日常が、和田にとってはなにより重要なもの】だった。

「ずっとこういう時間が続けばいいなぁ…」

和田の呟きにそうだな!と神谷も力強くうなずいた。
が、名探偵だろうが迷探偵だろうが、『探偵』のいるところが穏やかなまま、なんてことがあるはずがなかったのだ。



「なぁああああああんでこのタイミングでいきなり台風並みのゲリラ豪雨に見舞われなきゃいけないんですかねぇぇええええ!!!!だから嫌なんですよアンタと一緒に出歩くのー!!」
「おい!それじゃまるでこの雨が私のせいみたいじゃないか!!」
「そう言ってんだよ!!!」
「なぜだ!!!」

野郎2人がぎゃいぎゃいと年甲斐もなく大声で言い争っている。それもそのはず、それくらいの大声を出さなければ会話が困難なレベルの【⑥激しい大雨が降ってきた】のだ。
突然の大雨に慌てた彼らはうっかりハイキングコースから外れた道を進んでしまい、完全に道に迷ってしまった。
雨により道はぬかるみ、【⑦これ以上の移動は危険と判断し、】適当なところで身を寄せ合い【④かたまっていた】。ゲリラ豪雨ならきっと短時間で雨は降り止むだろうが、雨が上がったところで道に迷ってしまった以上【⑨帰ることもできない】。
八方塞がり、万事休すか。

「…むっ?おぉ!見たまえワトソンくん!」
「次ワトソンって呼んだら…………」
「…なに!?無言怖い!せめてなんか言って!?いやそうじゃない!見たまえ!あそこに見えるは建物ではないかね!?」
「アンタが呼ばなきゃ済む話なんだよ…。…え?建物?」

大粒の雨のせいで見えづらいが、神谷の指さす先には、確かにうっすら建物の輪郭が見えた。
あれは…ペンションだろうか?

「ははは!神は我々を見捨てなかったようだ!さぁ、あの建物で雨宿りさせてもらおうじゃないか!」

そう言って神谷は立ち上がりずんずん先へ進んでいく。
それを見て和田は。

「………」

(神は見捨てなかった…?その神って死神じゃねーだろうな!?)

遭難しかけたところで運よく建ってるペンション。
すごく嫌な既視感を覚えるが、背に腹は替えられない。しぶしぶ和田も神谷の後をついていった。


結論から言えば、和田の嫌な既視感は当たっていた。
雨宿りさせてもらったペンションで、キッチンでも何でもない一部屋が突然爆発するという【①衝撃的な】事件が起こったのだ。爆発した部屋が無人だったため死傷者はいなかったが、廊下や壁に【③金属片が刺さる】ほどの衝撃。もし人がいたらと思うと恐ろしい。

探偵を自称する神谷はさっそく捜査に取り掛かった。
まずはこのペンションの管理人の女性、佐田。

「持ち物と言われましても…私はここに住み込みなので…」
「ふむ。まぁそうか。では、あの部屋は無人ではありましたが、今日誰かあの部屋に泊まる予定などは?」
「いえ…今日あの部屋は空室です」
「なるほど。では正直に答えてほしいのですが、あなた自身誰かに恨まれるような覚えは?」
「そ、そんなのありません!」
「おっと、失礼。気を悪くしないでいただきたい。あの部屋が今日ずっと空室となると、犯人はあの部屋に泊まるであろう誰かを狙ったのではなく、あの部屋もしくはこのペンション自体を狙ったと考えるべき。この爆発によって被害がいくのは管理人であるあなたか、ペンションのオーナーだ。だから怨恨の線をはっきりさせたく…」
「あ、あぁ、そういう…。本当に心当たりはないんです。オーナーの方もいい人で、恨みを買うような人ではないと思うのですが…」
「なるほど。では爆発後、なにか変わったことはありませんか?例えばあそこにあったはずの何かが無くなってたとか、逆に何もなかったのにいつの間にやらあった、とか」
「うーん…あ!そういえば置物が無くなったんです!価値があるってわけではないんですけど、面白い形をしてて気に入ってたんですけど…気づいたらなくなってました…」
「ふむ…。では佐田さん、あなたは爆発時、どこでなにを?」
「外にいました。コンロの火が付かなくて、ガスメーターを確認しに行ったんです。まぁ、ただガスの元栓が締めっぱなしだったってだけでしたけど…」
「おやおや」


続いて宿泊客の男性、山本。

「私は絵描きでね。ここに絵を描きにきたんだ。まぁ雨のせいで中断させられてしまったが」
「ふむ、持ち物もだいたい画材ですね。すごい数のインクだ。…おや、これ、空っぽじゃないですか?あとこれは、金網?」
「ん?あぁ、赤色メインで絵を描いてたんだがね、【⑩インクが足りなくなった】からまだ途中なんだ。それはぼかし金網っていって、スパッタリング…絵具を飛沫状に飛ばす道具だよ」
「ほうほう。では山本さん。あなた爆発時、どこでなにしてましたか?」
「なんだい探偵さん!私を疑っているのか!?」
「いえ?全員に同じことを聞いてますよ?」
「…リビングでお茶を飲んでたよ。もっとも、私だけだったからアリバイなんてものはないがね」
「ふむ。ところで山本さん、佐田さんが大事にしていたという置物について知りませんか?」
「え?…さぁ、知らないな」
「…そうですか。それにしても…」
「? なにか?」
「…いや、なんでも」


続いて雨宿り客の男性、田中。

「俺はもともと登山客でね、道に迷うわ大雨に見舞われるわで大変だったんだが、運よくここを見つけて厄介になってたんだ」
「我々と同じですな。…おや、これは?」
「ん?それは火おこしの道具でな、フリントっていうんだ。本当はスチールもセットで【⑧二つで一つの道具だった】んだが…スチールどっかいったんだよなぁ…ここにきたときには確かにあったんだけど」
「ほう…。他になくなったものは?」
「いや、ないよ」
「爆発時、あなたはどこに?」
「実は外にいたんだ。雨の様子を見にね。だいぶ止んできたからそろそろかなーとか考えてたらアレだよ。心臓飛び出るかと思ったぜ!」
「佐田さん…ここの管理人さんが大事にしていたっていう置物について、なにか知ってるかね?」
「え?知らないよ。俺ここくるの初めてだし」
「……」


一通り話を聞き終え熟考する神谷の元に、件の部屋の周辺を調べていた和田が戻ってきた。

「爆発した部屋を調べたんですが、時限爆弾のようなものはありませんでした。というか火元がよく分かりませんでしたけど、俺素人なんで文句言わないでくださいね」
「言わないさ。他に気になったものはあるかね?」
「そう!なんか重要そうなものが出てきたんですよ!」
「おぉ!さすがワトソンくん!見せてくれたまえ!」
「ワトソンって呼ぶのやめたら見せてあげます」
「見せてくれたまえ和田くん!」
「どうぞ」

和田から差し出されたものを見た神谷。
その瞬間、神谷の灰色の脳細胞が輝きだした―――!!

「…ワトソンくん」
「だからその呼び方は!」
「指示を出す。全責任は私が負おう。至急―――…」









神谷は佐田、山本、田中をリビングに集め、彼らの顔を見渡し、話し始めた。

「皆さん、ご安心ください。件の爆発を仕掛けた犯人がついに判明しました!」

演説もかくやという大仰な仕草で高らかに宣言する。
集められた3人は驚きが顔に出ていた。

「マジで?つーかアレ事故じゃなかったのかよ」
「ま、まさかこの中にいるんですか!?」
「おいおいよしてくださいよ佐田さん!私じゃないからお前だろう!」
「はぁ!?俺じゃないって!なんで偶然来たところで爆発なんてさせなきゃいけないんだよ!」

言い争う3人を見つめ、神谷は続けた。

「正直たいしたものではありません。消去法ですぐ犯人が分かりました」
「消去法だって?」
「私とワトソンくん、そして田中さんは雨宿りのため偶然ここにきた客。そして佐田さんはここに住み込みで働いてる人だ。そして爆発時外にいたのは佐田さんと田中さんで、爆発した部屋に時限爆弾のようなものはなかった…。もう、お分かりですね?」

視線が1人に集中する。

「犯人は山本さん、あなただ!!」

神谷はビシッと指を伸ばし山本を指した。
名を呼ばれた山本はひどく狼狽する。

「な、ふ、ふざけないでくれ!なぜ私がこんなことを!」
「時限爆弾のようなものがないとなると、犯人は直接その場かそこに近い場所で爆発させたということになる。あなたに話を聞いてるときずっと思ってたんですよねぇ。『それにしてもなんだか焦げ臭いなぁ』って」
「な…!じゃあどうやってあの部屋を爆発させたというんだ!爆発物なんてそんな悪趣味なもの、私は知らないぞ!」
「山本さん。あなた見せてくれましたよね。いろんなインク。その中には揮発性のインクがありましたね?ほら、あの空っぽになってたインク!あれは揮発性の、引火する可能性のあるものでしたねぇ!!」
「!!」
「揮発性のインクに、あの金網、そして田中さんが紛失したスチール…調べましたがあれっていわゆる火打石なんですね。これらがそろえば火は起こせる」
「…話に水を差すみたいで悪いけどさ」

つらつらと話し続ける神谷に待ったをかけたのは田中だ。

「わざわざそんなことしなくてもライターとかマッチとか探せばよくね?なんならキッチンのコンロでもいいわけじゃん?」
「ふむ、これは想像になるが、これは突発的犯行で、余裕がなかったのではないだろうか?探し回ってると怪しい、だからと言って佐田さんに聞くと印象に残るし不審。そしてコンロは一時使えなかった。でしたね?佐田さん」
「えぇ…私のうっかりで…」
「…なるほどな。まぁ、分かったわ」

納得したらしい田中は引き下がる。
神谷は続けた。

「田中さんから勝手に拝借したスチールと金網で火をおこし、紙かなにかに引火させ、揮発性インクの充満した部屋に放り込む。そうすればあの部屋は爆発する、という寸法さ」
「そ、そんなの…状況証拠じゃないか…!はっきりした証拠もなしに人を爆弾魔呼ばわりするとは許さんぞ!!」
「神谷さん!ありましたよ!」

ナイスタイミングだ、という呟きも知らず、和田がリビングに駆け込んできた。
その手に持っているものを見て反応した者が2人。

「「それは!!」」

まさかハモるとは思わなかった佐田が「え?」と山本を見る。山本は慌てて口を手で押さえるが、もう遅い。
和田が持っているの、不思議な造形をした置物だった。

「待っていた!さぁ、この置物、見覚えのある方はいるかな?」
「それです!なくした置物はそれです!」

手をあげ主張する佐田と、顔を真っ赤にしてうつむく山本と、きょとんとしている田中。
三者三様の反応だが、それがすべてだった。

「そして、この事件を解くカギは、この紙です!」

そういってポケットから取り出し掲げられた紙切れは、片側が焼失しており、さらにインクの大きな染みができていた。
しかしその染みの形はどう見ても不自然である。

この紙切れこそ、あのとき和田が見せた『重要そうなもの』だった。

「なんだ?その不自然な空白…」

田中が怪訝そうに呟くと、神谷がそれに答えた。

「これは動かぬ証拠、というものだよ。山本さん、あなた、あの部屋にインクを揮発させてるとき、誤ってこの置物に零してしまったのではないかね?この置物からもほんのりインクの香りがする。さて、この不自然な空白に、置物を置いてみようか」

和田が空白に沿うように、置物を置いた。
…【②その空白は、置物の台座にぴったりとはまった】。

「さて、和田くん。この置物はどこにあったのかね?」
「山本さんの部屋です」
「えぇ!?」
「さぁ、お答えいただこうか、山本さん。なぜ佐田さんの置物がインクの香りを纏ってあなたの部屋にあったのか。この空白を形作るインクと、あなたの空っぽのインクが一致したら、それが動かぬ証拠ですよ?」

山本は、観念したように、膝を折った。





どうやら神谷の想像通り、あの爆発は突発的な行動らしい。
佐田の置物が気に入ってしまった山本は、それを盗み、そのことから目をそらすためにあの爆発事件を起こしたというのだ。怒りを通り越して呆れてしまったのは仕方ない話だろう。


「いやー!晴れたなぁ!」

すっかり雨が上がった空を見て田中が爽やかな笑顔を零す。

「アンタすげーかっこよかったよ!探偵の推理ショーなんて初めて見たぜ!いいもん見せてくれてありがとよ!」
「いやいやこれくらい、たいしたことはないさ」
「ホント、神谷さんの死神体質はどうにかしてほしいもんですよ…行く先々で面倒ごとに巻き込まれて…はぁ」
「また縁があったら会おうぜ!じゃあな!」

そういって田中はペンションを後にした。
神谷と和田はというと…。

「死神体質とは何かね。今回は誰も死んでないじゃないか!」
「誰か死ぬ前提なのが死神なんだよ!!!!」
「なぜだ!!!」

年甲斐もなくぎゃいぎゃい言い争っていた。

【終】
[編集済]

No.59[OUTIS]06月21日 14:31未回答

「【機械仕掛けの実験レポート1】過去改変を用いた時間遡行の証明」

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No.60[OUTIS]06月21日 14:3106月26日 00:15

『あなたは、もしも過去に手紙を送る事が出来るとしたら誰に何を伝えますか?』

あらすじ
タイムマシンを開発した天才少女真紀菜(まきな)はひょんなことから未来の自分であるXに憑依され人間タイムマシンとなったが、同時に天涯孤独になってしまった。

 私たちはどこまでも歩いていけると信じて行く当てもなく歩き続けていたが、幼子の体力では限界があった⑦。
「もう、駄目…」
『真紀菜、寝ちゃダメよ!しっかり!』
そう言うXの声が遠く聞こえたが、お金が無いせいで食事もできず体力が尽きた私は道端に倒れこんでしまった。指先まで重く、体が固まってしまったかのように動かない。もうダメかと思っていると声をかけられた④。
「君、大丈夫?」
若いスーツ姿の青年が心配そうにのぞき込んでいる。
「一人?お母さんとかは?家は?」
そう焦ったように聞く彼に、私は精一杯の力を振り絞って答えた。
「…ごはん。」
その直後に私の意識は暗闇の中に落ちて行った。

次に目が覚めた時、私はボロボロのアパートに居た。部屋の中を漂う炊けたお米の香りが空腹を思い出させる。
「あっ、目が覚めた? とりあえず、ごはん炊けてるけど食べられる?」
あの時の青年が声をかけてくる。ここは彼の家だろうか、とにかく私はうなずきひたすらご飯を食べた。空腹が満たされ人心地ついた時、黙ってこちらを伺っていた青年が再び声をかけてきた。
「君、名前は?家は?どうしてあんなところで倒れていたの?
 あ、僕は山口健(やまぐちけん)、みんなからは健って呼ばれてる。で、ここは僕の家。」
「私は、真紀菜。家も家族ももう居ない…多分。なんで倒れたかは…よく覚えてない。」
そう言って私は今後どうしようか考える。このまま闇雲に歩いていてもまた同じようになるのは目に見えている。なら、どうすればいいか。
「健さん、どうか私をここに住ませてもらえませんか? 家事なら私できますので。」
『お、大胆にいったねぇ。』
誰かの家に居候するのが一番だと判断した私の返答に、彼は少し困ったように笑いながらも
「何か理由があるんだね。こんなボロい部屋でいいなら。幸いお米だけは実家から腐るほど送られてくるから困らないしね。」
と言って受け入れてくれた。こうして彼は私に食事と寝床を提供してくれる、私はその対価として家事を担当するという奇妙な共同生活が始まった。

 目の前で家が燃えながら崩れ落ちる。誰かの泣き声や怒号が響き渡るあの衝撃的な光景を、俺は絶対に忘れる事は無いだろう①。炎の中から彼女が目の前に出て来て…
「健!」
その声で目が覚めた。またあの夢だ、何度も見たあの日の悪夢がまざまざと蘇る。今思うと、彼女を拾ったのはあの日の償いのつもりでもあったんだろう。彼女はそれほどによく似ていた。
「朝ごはん、できてますよ。」
そう言って真紀菜と名乗った少女が声をかけてくる。彼女の作った食事は美味しい。というか、誰かが作ってくれる食事なんて何年ぶりだろうか。
「ああ、ありがとう。今いくよ。」
そう言って俺の充実した毎日が始まる。けれど、そんな生活もすぐに崩壊し始めていた。俺が年端も行かない少女と同居しているという噂がいつの間にか近所に流れていた。確かに、この生活について客観的に見てみると完全に事案である。彼女には極力外へは出ないようお願いしているが、それでも限界はある。何よりボロアパートの薄い壁じゃあ隣の部屋へ声が駄々洩れだ。
「真紀菜、本当に申し訳ないんだけど君を匿うのはそろそろ厳しくなってきたんだ。僕にも社会人としての立場っていうものがある。」
そう言うと、彼女はすぐにすべてを理解したようで
「わかりました。では、来週にはここから出て行きます。本当にお世話になりました。」
とった。
「ごめんね。本当に。」
「いいんです、いつまでも居候させていただくわけにはいかないと最初からわかっていましたから。
 そうだ、最後にこれまでの恩返しをさせてください。」
「恩返し?」
「はい。私は手紙を過去へ届けることができるんです。だから、お礼に健さんの手紙を過去に届けさせてください。」
その言葉はあまりにも突飛で信じられないものであったが、あの事件を防ぐことができるのならば信じたいと思ってしまった。
「ちょっと待っていてくれ。」
そう言って便箋に手紙を書きはじめたが、途中で便箋が無くなってしまい肝心な部分が書けなかった⑩。そのため、押し入れを漁って見つけた大学時代に使わず残っていたレポート用紙に最後の一文をしたためた。
『(前略)
大学4年の11月8日の昼頃、藍(あい)は火災に巻き込まれて命を落とす。頼む、どうか藍を助けてくれ。』
そして藁にも縋る思いで彼女に渡した時、なぜかふと彼女にあの事件の事を聞いてほしくなった。
「少し、俺の話を聞いてもらえないかな?」
「ええ、いいですよ。」
「2年前、俺達は喧嘩をしていたんだ。あの日は仲直りしようと思って家に向かっていた。でも、そこで見たのは彼女の住んでいるアパートが燃えて崩れ落ちるところだった。彼女はすぐに消防士の人によって助けられたんだけど、火傷の面積が広すぎたらしくて助からなかった②。あの日から、俺はずっと後悔し続けているんだ。あの何気ない日常が大切で、取り戻すことができたら…ってね⑤。」
全く、俺はこんな女の子に何を言っているんだろうな。
「そんな事が… わかりました。私が責任を持ってこの手紙を届けます。」
「うん、よろしくね。」
そしてすぐに彼女はアパートから出て行った。

 アパートを出ると、ちょうどよく雨が降っていた⑥。
『過去に行くにはちょうどいいね、ずぶ濡れになれるし。』
「うん、でも手紙はぬらさないよう気を付けないと。じゃあ、お願い。」
そして私たちは話で聞いた2年前の11月7日、火災の前日に向かった。
幸い健さんの家は変わっていなかったからすぐに届けることはできたけれど、
「藍の家が燃えて藍が死ぬ?そんな話を信じると思っているのか?」
そう言って真面目にとりあってくれなかった。
「だから、明日火災で亡くなるんです!助けないと、あなたは一生後悔することになるんです!」
「ははーん、読めたぞ。さしずめ藍のやつが向こうから会いに来るのが嫌で俺を呼んでくるように頼んだんだな?」
いつの間にか、妙な誤解に発展している。
「待ってください、本当に私は未来から来たんです!」
「だったら何か証拠を見せてくれよ、未来から来たっていう。」
「だからさっき渡した手紙が証拠です!」
「あんな紙切れを見せられてもねぇ… 確かに最後のレポート用紙は俺がよく使う奴と同じだったけど。」
「とにかく信じてください!信じて彼女と仲直りして、火事を警戒していればその人は死なずにすみます。もし嘘だったとして、何のデメリットもありません!信じないでその人が死んでもいいんですか!」
そう言って勢いに任せて彼を叩いてしまった。すると彼は少しよろめき机にぶつかった。ぶつかった衝撃で机の上のインク瓶が倒れ、床に積まれていたレポート用紙の束にインクが零れた。
「あーあー、折角買っておいたレポート用紙が台無しだ。また買い直さなきゃ…」
ジワジワとレポート用紙にインクが染みていく中、私は奇妙な光景を目にした。それは、別の机の上に置かれてインクに触れていないはずの手紙にもまた、無いインクが染みていくかのように黒い模様ができ始めているというものだった。
「健さん!これを見てください!」
「それは…えっ?どうなってるの?」
便箋は変わらず、レポート用紙だけがインクに染まっているということはつまり、そういうことだろう。
「この手紙は未来で書かれたため未来のレポート用紙が使われています。今この時間軸にある同じレポート用紙にインクが零れた結果、未来の紙にも同様の変化が表れたのでしょう。これが、私が未来から来たという証拠です。」
彼はしばらくぽかんとしていたが、ふと我に返ると
「こんなものを見せられちゃ信じないわけにはいかないな。確かにこっちのレポート用紙の束と染みの形が一致してる。」
といって信じてくれた。あんなに何回言っても解けなかった誤解が、インクが零れただけで解けるようになるというのもおかしな話だけど。

次の日俺は彼女の家に行き謝り仲直りした。部屋の中に火災になりそうなものが無いか探してみると、タコ足配線がショート寸前だった事に気が付き火災を未然に防ぐことができた。その後、俺達はベタではあるが遊園地でデートする約束をした。
遊園地デート当日、俺達は今までで一番なんじゃないかと思えるほど楽しい一日を送った。メリーゴーランドやジェットコースターなんかの定番アトラクション等を楽しんだ後、最後に観覧車に乗って夕日を眺めていた。
「最高の一日だったな。」
「ええ、そうね。健君がタコ足配線に気づいて教えてくれなかったら今頃死んでたかもしれないわ。ありがとう。感謝してる。」
「いいんだよ、そんなこと。改めて、俺と付き合ってくれてありがとう。藍。」
「こちらこそ。今日は本当にありがとう。楽しかった。」
そして俺達は幸せなキスをして…
その瞬間、轟音がとどろいた。なぜか、世界が急に上昇している。違う、俺達の乗ったゴンドラが落下しているんだ。
「藍!」
そう叫んだ瞬間、とてつもない衝撃と共にゴンドラ内のソファにたたきつけられた。目を開けるとすぐ目の前に藍がいた。けれど、その顔は青白く嫌な予感がした。周りを見回すと、半壊したゴンドラ。藍にはその残骸と思われる割れたガラス片やねじ曲がった金属片が無数に刺さっていた③。
「嘘だろ…」
その後救急車が到着し俺と彼女は病院へ搬送されたが、彼女が助かることは無かった。
 その様子を遠くで見ていた私は、ある程度こうなるんじゃないかと予想していた。
「やはり、変える事は出来ませんでしたね⑨。」
『因果律ってのは想像以上に厄介なんだねぇ。』
「また、一人になってしまいました。」
『そうだねぇ。まあ、私たちは最初から一人なんだし。こんな体質で誰かと一緒になれるなんて傲慢な考えなんじゃない?』
それもそうだ。私たちは二人で独り⑧。
さて、これからどうやって生きて行こうか。案外時間を越えていろんなものを届けて対価を貰うというのは悪くないかもしれない。
カチリ、カチリと懐中時計の音が二人の時を刻んでいた。
【簡易解説】
未来から手紙を持ってきた少女。けれど、その事を信じてもらう事が出来ずにいた。そんな中、白紙のレポート用紙にインクが零れると未来においてその紙で書かれた手紙にも全く同じ形の染みが現れた。それが未来から来たという証拠となって、ただの変な女の子という誤解が解けた。
ー了―
[編集済]

No.61[ほずみ]06月22日 14:11未回答

もみじとスズメの交換日記

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No.62[ほずみ]06月22日 14:1106月26日 00:15

【簡易解説】
交換日記のページにインクが零れたことで、相手の正体が分かり、憧れだった相手の髪の毛を梳(と)く約束ができた。

【詳細解説】
あれは、高校2年生になって最初のホームルームのことだった。
「痛っ!」
机の中に配られた教科書をしまおうとしたときに、左の人差し指に痛みが走った。よく見ると、金属でできた何かの破片が刺さっている③。前にこの机を使っていた人が入れっぱなしにしていたのだろうか。
かなり尖っていたようで、指からはだらだらと血が流れてくる。持っていたティッシュで押さえるも止まる気配はない。仕方がないので保健室に行くことにする。
「先生、怪我をしたので保健室に行ってきます」
先生は私の手元を見て事情を察したのか「ああ、分かった。手当してもらったら戻って来いよ」とすぐに了承してくれた。
でも、教室のドアを開けたとき、「初日からサボりかよ、やっぱりアイツやべーな」という男子の呟きが耳に入った。
本当だったら文句の一つも言い返したいけど、手の痛みがひどくなってきたので無視して教室を出た。

(はあ、今年の先生は良さそうなんだけどな……)ため息をつきながら保健室に向かう。
「失礼します。2年C組の吉田です。怪我したので絆創膏貰いに来ました」
「あら吉田さん、初日からどうしたの?」養護教諭の高橋先生だ。
私はこうなった経緯を説明する。その間にも消毒液やガーゼを準備している辺り、ベテランの先生だな、と思う。
「それは災難ね、傷が結構大きいから絆創膏じゃなくてガーゼにしといたわ。……ところで、今年のクラスには馴染めそう?」
「どうかな、先生は話聞いてくれそうだけど……男子にサボリかよって言われたから難しそう」
「またいつでもいらっしゃい、保健室は誰でも歓迎するわ」
「ありがとう、高橋先生。去年もたくさん話聞いてもらったし」
「……あなたの場合は1人の大人として、教員としての償いの意味も無いとは言えないから」
「そういう先生が1人でもいるだけで心強いよ。この髪のせいで今までどんなに苦労したか。多様性とか言ったって、どうせ私の髪だけでギャルだ、不良だって言われるのは変えられないんだよ⑨」
「私は綺麗な髪だと思うけどねぇ。そのウェーブの掛かった明るい髪」
そう、私の髪は少し茶色く、うねった髪だ。色素の薄い母とくせ毛の父の影響だと思う。ちなみに純日本人だ。この髪のせいで、いじめられたり、先生に怒られたりとあまりいい思い出がない。そのせいで学校に馴染めず、塞ぎこんでいた時期に高橋先生には相談に乗ってもらったのだ。……やっぱり自分の髪を好きにはなれなさそうだけど。
高橋先生に手当のお礼を言って、保健室を出る。ただ、教室に戻ったところで、すでに委員会や係は決め終わり、あとは今年の目標を紙に書いたり、明日以降の予定を確認したりするだけだ。

(戻る気になれないなぁ……ん? こんなところに空き教室なんてあったんだ)
今までこっちの廊下はあまり通らなかったから気が付かなかった。よく見るとドアが開いている。
私は導かれるように中を覗いた。教室の中はいくつかの机が端に寄せられていて、色んな物が並べられている。要は物置代わりなのだろう。
それらから少し離れた机に、真新しい水色のノートが一冊、ポツンと置いてある。
(誰かの忘れもの? それとも物置の中身リスト?)
気になった私はページをめくった。

『4月6日 晴れ
明日から新学年。緊張する。あの子も同じクラスだといいな。今年こそはたくさん話せたらいいなぁ。そしてあの目標を達成するんだ!』

誰かの日記のようだ。シャーペンで書かれた女子っぽい可愛い字が並んでいる。人の日記を読んでしまったことに罪悪感を覚えたが、まだ2行しか書いていないから許してほしい。
そして同時に、この日記の持ち主を応援したくなった。
(毎年がっかりして一年が始まる私とは大違いだなぁ。どうか彼女か彼の一年が楽しいものになりますように)
そう思ったら居ても立っても居られず、胸ポケットに入れていたボールペンを取り出していた。

『4月7日 くもり
がんばって! きっとうまくいくよ。応援してる! 通りすがりより』

真新しいノートの1ページ目に私の書いたブルーブラックの文字が並ぶ。入学祝いに親戚のおじさんから貰ったお気に入りのボールペンだ。
嫌な気分はどこかに消え、明日からの学校生活が少し楽しみになった。今ならどこまでも歩いていけるかも。……さすがにそれは無理か⑦。
その後は真っ直ぐ教室に戻ってホームルームの続きに参加した。席に戻ると、さっきの男子と目が合った。さすがにガーゼが貼られた指を見て事情を察したのか手を顔の前で合わせて気まずそうな顔をしている。
(なんだ、分かってくれるじゃん)
さっきの出来事もあり上機嫌な私は、机の上に置かれた「今年の目標」のプリントを見て固まった④。
(さっきのノート、つい応援の言葉を書いちゃったけど、普通に考えて日記に知らない人からコメントされてたら引くよね!? こうやって張り出すならまだしも。あぁ……なんで気付かなかったんだろう)
気分は一気に急降下。彼女の明るい一年を応援するどころか、気味悪がらせてしまうなんて。
もう今年の目標どころではない。適当に書いてしまえ。
そうやって1人ジェットコースター状態の私に後ろから声がかかる。
「吉田さん、書き終わった? 集めてもいいかな」
「今終わったから大丈夫、ありがとう渡辺さん」
そうして渡辺さんはみんなのプリントを回収していく。真面目そうな彼女とは、2年目の付き合いだ。家が美容室だそうで、いつも手入れされた黒髪が綺麗で、私とは真反対。
そういえば1年生の時も渡辺さんが後ろの席だったなぁ。吉田と渡辺だからいつも出席番号が最後の方で、プリント集めが面倒だとか、たまに後ろから当てる先生がいるから油断できないだとか、そんな話で盛り上がった。顔見知りが近くにいてよかったなぁ。
こうして、私の高校2年生初日は終わったのだった。

◇ ◇ ◇

翌日。
今日から少しずつ通常運転だ。ガイダンスという名の長話を聞き流し、昼休み。近くの席の女子数人でお弁当を食べたけど、みんな委員会や部活の集まりがあるといってどこかに行ってしまった。
あと20分ほどの昼休みを持て余した私は、昨日のノートのことを思い出す。
もし、もし。あの教室にノートが置いてあったなら。そして、私のコメントに反応があったら。そう考えると自然とあの教室に足が向いていた。

「……あった。」
ノートは昨日と同じ机に置いてある。だがまだ分からない。昨日からそのまま置いてあったのかもしれない。私は祈るような気持ちで表紙を開けた。そして。
私の書いたブルーブラックの文字の下に、シャーペンの文字があった。

『少し驚いたけど、ありがとう。あなたのおかげで、いい一年になりそうです。もし、迷惑じゃなかったら、また何か書いてくれると嬉しいです。 スズメより』

嬉しい、嬉しい、嬉しい。私の言葉が誰かの心に響いて、返事まで貰えるなんて!
私は急いでその下に書き足す。

『もちろん、喜んで! これからもよろしくね、スズメさん。もしかしてスズメくんかも?
私は昼休みにここに来てノートに書くことにします。 もみじより』

スズメは本名ではないだろうから、私も楓という自分の名前からの連想で「もみじ」と名乗ることにした。

こうして、少し変わった交換日記が始まった。
私はだいたい昼休みに、彼女(で合っていたようだ)はだいたい放課後にコメントを残している。内容は他愛もないことで、クラスのこと、勉強のこと、最近見たテレビのこと、楽しかったこと、悩んでいること…… 何気ない日常のことでも、あのノートに書いたら大事な思い出の一コマだ⑤。
クラスに友達もできたが、まだ馴染めてはいない気がする。やっぱり、髪のせいだろうか。それもあって、彼女との交換日記は確実に私の楽しみの一つになっていた。
ただ、なんとなくお互いの素性については踏み込まなかった。話の内容から同学年で、もしかしたら同じクラスかもしれないことまで分かっていたが、相手が分かると彼女は交換日記をやめてしまう気がして。
ただ、一度だけ「あの目標」について聞いたことがある。詳しくは教えてくれなかったが、「あの子」はすごく綺麗な髪で、彼女はその髪に憧れていて、目標にもその髪が関係するらしい。目標が達成できたら教えてね、とお願いしたけど反応はイマイチだった。そんなに難しいことなんだろうか……?

◇ ◇ ◇

スズメとの交換日記が2か月ほど続き、ノートのページが残り少なくなってきた頃。
『6月10日 くもり』
そこまで書いて、ペンを止める。
(インクが少なくなったのかなぁ、色が薄くなってる。あいにくこのボールペンしか持っていないし、教室に戻るのも面倒だし……。振ったらインクが出るようにならないかな)
そう思ってボールペンを振ったとき。

ぼた。
ボールペンからインクが零れた。私が驚いている間にもインクはどんどんノートに染みを作っていく【問題文】。慌ててペンを押さえるも、手にインクが付いて青く染まっていく。
(どうしよう……!?)
とりあえずペンをティッシュで包み、教室に戻る。机の上にペンを置くと同時に財布を持って手洗い場へ。
石鹸を付けて洗うもインクはなかなか落ちず、指は青く染まったまま。『きつねの窓』みたい。
ただ、昼休みは残り少ない。購買部へ急ぐ。
もうあの水色のノートは使えないだろう。放課後までに新しいノートを用意しなければ、スズメを困らせてしまうだろう。校章の入った可愛いとは言えないノートだが、ないよりはましだ。
ノートを買って、教室に滑り込むと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
5時間目はスズメへの説明と謝罪をノートに綴ることに費やし、休み時間になるとすぐにノートを置きに行った。水色のノートはやっぱりインクが染みていて、残っていた数ページには青黒い斑点模様ができていた。
(もう少し染みが小さければまだ使えたのに②。ごめんね)
2ヶ月ちょっととはいえ、思い出が詰まったノートだ。私は寂しさと共に、教室を後にした。

◇ ◇ ◇

(人手が足りない⑩からって保護者会の資料作り手伝わされるなんてツイてないなぁ。うわ、雨まで降ってきてるし⑥。傘持ってないんだよなぁ、どうしよう)

放課後、担任につかまり手伝っているうちに雨が降り出してきたようだ。置き傘が置いてあることを願って昇降口に向かう。
だが、過去の私は置き傘なんて気が利くことをしてくれなかったようだ。私が途方に暮れていると、ぱたぱたと足音がする。

「吉田さん!」
「渡辺さん? どうしたの?」
「あ、あの、よかったら一緒に帰りませんか!」

顔を真っ赤にして告げる彼女の手には2冊のノート。校章入りのものと、水色の、ノート。
「え、そのノート、もしかして……スズメなの?」
「そうです。もみじさんですよね?」
2人だけの昇降口に、雨の音が響く。

「なんで分かったの?」先に口を開いたのは私だった。
「今日の昼休み、手が青くなってたし、校章入りのノートも持ってました。このノートに書いてあるもみじさんの話に一致します。さらに、あなたの使っているブルーブラックのボールペン、黒や青のインクよりも使っている人が少ないですから」
そうだよな、と思いながらまだ青い自分の手を見つめる。
「あと、もう一つ。字を見たときから吉田さんって予想はしていました。去年から今まで、何回もあなたの字が書かれたプリントを集めましたから」
そうか、彼女が私の字を見る機会はあっても、その逆はなかったのか。
「でも、さっきノートを読んでやっと確信が持てました。……少し、私の話を聞いてくれませんか?」
「いいよ。聞かせて?」
「最初にノートの書きこみを見つけたときは驚きました。でも、何となく悪い人じゃないんだろうなって思ったので、交換日記を提案しました。今思えば、心のどこかで吉田さんだと分かっていたのかもしれません。毎日のやり取りが楽しくて。でも」
「でも?」
「いつまでこの交換日記が続くのか不安になりました。面白くもなんともない私に無理して付き合っているんじゃないか、本当はバカにしてるんじゃないかって」
寂しそうな顔で続ける彼女。
「あのノートが終わったら、交換日記も終わりにしようと思っていたんです。でも、今日もみじさんは、あなたは、ノートをダメにしたことを謝って、新しいノートを買ってくれた。そして、インクのおかげで相手があなただと確信が持てた。だから、ここであの目標を達成する勇気も出ました」
そこまで言うと、覚悟を決めるように息を吸う。
「あなたの髪を梳かせてください!」
勢いよく頭を下げる渡辺さん。
「あぁぁ! 日記の髪を梳きたいあの子って私のことだったんだ……!」
今までのやり取りの点と点が繋がっていく。
「入学して初めて吉田さんの後ろに座ったとき、衝撃的でした①。こんなに綺麗な髪の人がいるんだって。それから、ずっと憧れてたんですけど、吉田さんが前に一度、『自分の髪が嫌いだ』って言ってたのが気になって」
「あー、そんな話もしたっけ」
「一度、きちんと手入れしてあげればもっと綺麗になって、好きになれるんじゃないかと思っていたんです。だから、髪を梳いてあげたいな、って。でもできなくて」
「そういうことかぁ……。全然気が付かなかったよ」
今ここで話している渡辺さんと、ノートでやり取りしていたスズメ。よく考えたら重なるところもあった。生真面目で引っ込み思案な性格、でも好きなことには一生懸命。そして。
「おうちが美容室……!」
あぁ、これですべて繋がった。と、同時にそんな彼女に綺麗な髪だと褒められたのがむずがゆい。今まで、コンプレックスにしか思っていなかったのに。
「も、もしよかったら今度うちの美容室で手入れさせてください! ブローだけなら私も自信があります! 母にお願いしてトリートメントとかしてもらってもいいですし」
彼女はキラキラした目でお願いしてくる。そんなにいうなら。
「一回くらい、やってみようかな」
「本当に? ありがとうございます!」
彼女の熱気に押されるように、私はお願いすることにした。
「じゃあ、一度うちに来ませんか? なんなら今からでも」
私がOKしたのが相当嬉しかったのだろう。いつもの彼女からは想像できないくらいテンションが高い。あ、でも傘が無いんだった。
「嬉しいんだけど、傘忘れちゃって」
「じゃあ相合傘しましょう」
即答だ。本当にいつもの渡辺さんとスズメはどこに行ったのだろう。そんなに喜ばれるとこっちが恥ずかしくなってくる。
「あ、ありがとう」
そうして私たちは2人で1つの傘に入りながら、美容室に向かうのだった⑧。

ふと、彼女の傘の柄を見て気付く。
「ねぇ、もしかして、名前が鈴だからスズメなの?」
「そうです。思いつかなくて……。でも楓からもみじも同レベルだと思います」
「なんだと~!」
美容室に向かう道すがら、2人分の笑い声が傘の中に響いていた。

【終わり】

No.63[休み鶴]06月23日 19:06未回答

雨降って地固まる

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No.64[休み鶴]06月23日 19:0706月26日 00:15

漫画家の男は、誤ってペン入れ中の原稿に【インクを零してしまった。】
ホワイトで修正し、気を取り直して背景のトーンを切り始めたが、今度はカッターナイフの刃が折れてしまった。
[③折れた刃を紛失防止のために消しゴムに刺した]男は、[⑩寝不足]による集中力の途切れを感じたため、少し休憩を取ることにした。

男は、某社の新人賞で史上初の満票を獲得するという[①衝撃的な]デビューを果たして以来、10年間にわたって週刊誌で連載を続けている。
連載当初こそ漫画家としての道を[⑦どこまでも歩いて行けると思っていた男だったが、最近では週刊連載による心身の衰えを感じている。]

ベッドに横になる男。彼が寝るには[②いささか広すぎる]ベッドだ。
実は先日、仕事を優先するあまり、妻が愛想を尽かせて出て行ってしまったのだ。

夫婦は、[⑧二人で一組]だ。互いに支え合わなければならない。しかし男は、常に妻に寄りかかりっぱなしだった。
改めて、妻の大切さを身に沁みて思う。今までの妻の献身を慮ると、[⑨とても余人に代えがたい。]
妻が隣にいる[⑤何気ない日常こそが、男にとって大切なものだったのだ。]

男は、妻の携帯電話に連絡を取った。数コールの後、妻が応答した。
今までのことを詫びる男。しだいに彼の目からは涙が溢れ、嗚咽で言葉もまともに出なくなっていた。
電話の向こうからは、妻の罵声が聞こえてくる。こちらも涙声で何を言っているのか分からない。
かろうじて聞き取れた最後の言葉は、「今から帰るから」

[④⑥雨降って地固まる。]夫婦の【わだかまりが解けた】ようだ。

【おわり】
[編集済]

No.65[OUTIS]06月24日 00:22未回答

【未来を創り出すウミガメ2】

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No.66[OUTIS]06月24日 00:2306月26日 00:15

 あの7月、よく一緒に遊んでいたユキナさんは1年中ウミガメのスープにハマっていた俺に持病の事を告白してくれた。病気の象徴として嫌っていた見舞いの花を全て手折り捨てて。あの時、真珠や俺が買ったアメジストを通じて亀やコウヘイさんが彼女を助けてくれたのだと信じている❶。そんなわけで一時期入院していたユキナさんは、同じ病室だったという2人の人を紹介してくれた。ユキナさんと同じく重い持病を持っているというナナミさんと、交通事故で入院しているイツキくん。初めて会った時も
「私の病気、治った事例もあるらしいけど、かなりのレアケースらしいです。」
「僕は交通事故でしてね。いやはや、轢かれた時はすごい衝撃的でしたよ①。」
そんな風に気さくに話しかけてくれたいい人達だ二人は高校時代の同級生らしい。病室は退屈だということで、ユキナさんと一緒にお見舞いに来ては4人でウミガメのスープをよくしている。

 夏真っ盛りの8月、いつものようにお見舞いに来た帰りに俺はイツキくんからお願いをされた。
「僕はよく絵を描くんですけど、以前とある町のお祭りで海のイラストを描かせてもらったことがありまして。その絵の写真を撮ってきてもらいたいんです。大きいからすごい分かりやすいと思うんです②。ちょっと変わった仕掛けがありまして…」
丁度夏季休暇だし、イツキくんの絵というのにも興味があったため二つ返事で了承。その町へ行ってみた。けれども昔は祭りでそこにいるだけでも汗が出てくるほどの熱気があったというその場所は、今はもう寂れてしまいだだっ広い広場があるだけだった。
ポツリ。
その時、急に雨が降ってきたため急いで近くのバス停に駆け込み雨宿りする。通り雨だったようでほとんど降らずに止んだが、よく見ると真白だった広場に薄く青い模様が透けていた⑥。
「ああ、雨が降った日はあそこに大きな絵が浮かび上がるんだよ。」
そう近所のおばさんが教えてくれた。そういえば、イツキくんもその絵は水がかかると浮かび上がると言っていた。
(雨で浮かび上がるなんて、まるで女子の下着が透けて見えるラッキースケベみたいだな…❷)
なんて失礼な事を考えながら近くのホームセンターでバケツを買って水を汲み広場に撒いてみると、大きなクジラが潮を吹いている壮大な絵が浮かび上がった。その絵を写真で撮って帰ると、イツキくんは懐かしそうに目を細めていた。

 暑さ和らぐ秋口に、僕ことイツキは病院のベッドでうとうとと船を漕いでいた。彼に頼んで昔描いた絵を撮ってきてもらった日からずっと頭の中をある曲が流れているのだけど、何の曲なのかが思い出せない。集中できずにボーっとして温泉卵をご飯にかけるときに黄身が溢れてしまうなんてこともあった❸。
~♪
気がつくと、そのメロディをいつの間にか口笛で吹いていた。
「うぅん…イツキくん?」
ナナミを起こしてしまったようだ。すぐに謝ろうとすると
「それ、高校の時の校歌だよね?」
そう言って曲の初めを歌い出した。確かに、言われてみれば納得できる。あの絵を描いたのも高校の時のボランティア活動だったから、それが原因で懐かしくなったのかな。
「そうそう、高校の時の校歌だ。ありがとな。あと、起こしちゃってごめんね。」
「そうだよ!病室で口笛を吹くなんてもうしちゃだめだからね!」
そう言って再び眠りについた。今日はいい夢が見られそうだ。

 寒さが目立つようになってきた10月に僕はやっと自覚した。僕はナナミが好きなんだ。でも、僕にはまだそれを彼女に伝える勇気がない。悶々としながらヘッドホンを耳にあてて高校時代の校歌を聴く。あの時からナナミは身体が弱かったなぁ、なんて思いながら彼女の方を見ると、お見舞いで貰ったマインスイーパーに苦戦している。音こそ消音で聞えないけど、きっと何度も爆発しているんだろうな❹。彼女がマインスイーパーに苦戦している間、僕は校歌を聴きながら持ってきてもらった国語の教科書をパラパラと眺めあの頃を懐かしんでいると、妙案が浮かんだ。思いつくままにこのページを破って封筒に入れて、表には「ナナミへ 最初のセリフ」と謎解きチックに書いておこう。渡すタイミングは…クリスマスがロマンチックでいいかな。来月には退院できるらしいし楽しみだ。

 秋が終わり、冬の訪れを告げる11月。最近イツキ君が退院してお見舞いに来る側になった。そんな彼が憑き物が取れたようにすっきりしている理由は多分退院したっていうだけじゃないんだろうけど、理由を聞いても教えてくれない。そんな彼に、わたしは好意を寄せている。けど、この恋は叶うことは無いだろう。わたしの病気が治ることは滅多にない。そんなわたしが好きな人と付き合うなんておこがましい。そんな風に思っていたある日、お母さんが帰った後ゴミ箱に一枚の紙きれが捨てられているのを見つけた。
「着替え…デイジーの花畑の柄の寝巻がお気に入り…、…入院1月分セット。絶対に忘れないこと❺。」
前に寝巻が足りなくなった時からお母さんが大事にしてた入院メモ⑩。これが捨てられているって事はもう要らなくなったって事?もしかしてわたし、退院できるの?そう思ったわたしは思い切って先生に訊いてみた。
「先生、わたしって退院できるんですか?」
すると先生は驚きつつも笑みを浮かべて
「ああ、そうだ。きちんと検査の結果が出てから言おうと思っていてね。丁度検査の結果が出たところだ。ナナミちゃん君の病気は回復に進んでいる。来年には退院できるよ。」
嬉しかった。だって、これでわたしもイツキ君に胸を張って告白する事が出来るんだから。告白はいつがいいかな。やっぱり、クリスマスがロマンチックでいいかな。なんとなくイツキ君とは通じ合えている気がするし、大丈夫。きっと上手くいく。

 ナナミちゃんとイツキくんがいい雰囲気だと気づいたのは先月からだったかな。年の瀬の12月にお見舞いに来ていたわたしたちは彼らを見てある計画を思いついた。
「ねね、ナナミちゃんの退院が決まったみたいだし退院決定記念も兼ねてクリスマスパーティー、やらない?」
そう言うと彼も同じことを考えていたらしく快く承知してくれた。パーティーと言っても敷地からは出られないから病院内でしないとだけど、折角だから病室以外がいい。そう思って屋上を使わせてもらえないか相談してみたら、仲のいい看護婦さんがこっそり鍵を開けてくれることになった。
クリスマス会当日に私たちは各々パーティグッズやちょっとした食べ物を持ち寄って簡単なパーティー会場を屋上に作った。もうすぐ夜になる。聖夜の帳が降りる頃。わたしはナナミの手を引いて、彼女を屋上へと連れ出した。パーティーの始まりだ。
パーティーは楽しかった。みんなジュースしか飲んでないはずなのに酔っぱらったみたいにチキンを振り回したりして❻。一番盛り上がったのはやっぱりイツキくんが最後に私たちの絵を見せてくれた時かな。会場に絵具とかを持ってきて描いてくれたイラストはすごかったなぁ。ただ、私が片付けのときうっかり絵具の容器を倒しちゃってインクが零れて机の上を汚しちゃったのは悪い事をしちゃったな。あの時置いてあった封筒にもインクが零れちゃって…それ見てすぐにイツキくんは帰っちゃったし。

 年は明け1月、俺はナナミさんと話をしていた。
「もうすぐ2月ですね。実は、2月はイツキ君の誕生日なんです。」
「2月が誕生日か~、実は俺の知り合いにも2月が誕生日の人がいるんだ。絵本作家の。」
「そうなんですか。今度会ってみたいですね。」
「実はもう、亡くなっているんだ。」
「それは…すみません。」
「いいんです。あの人はこの石を通じて助けてくれた。いい人だったよ、うっかりお茶零しても許してくれて。もう死んじゃったからもう一度許してもらうことなんてできないけど❼。」
そう言ってアメジストを取り出すと、綺麗に2つの涙型に割れていた⑧.
「そういえば数年前の2月にあの人の家に伺ったとき、窓のない部屋に何故か風鈴が吊るしてあったんだ。」
「風の通らない部屋に風鈴?」
「うん。その人風鈴が欲しいって前に言っいてお孫さんが誕生日祝いにくれたらしいんだけど、紙のところにメッセージが書いてあるんだよ。
で、お孫さんいつもそのメッセージを見て欲しいからって風鈴が回らないように風の通らない部屋に吊るしたんだって。」
「なんか、そういうのいいですね。」
確かに、コウヘイさんは幸せな人生だっただろうな。そうだ、2つに割れてしまったし片方イツキくんに誕生日プレゼントとしてあげようかな。

 2月、今日で僕は20歳になる。誕生日プレゼントとして涙型のアメジストを貰った。なんでも元々は一つの大きなものだったらしいんだけど、この前偶然割れてしまったんだって。2つのうちどっちか好きな方を選んでくれって言われたけど、片方は何かがいて彼らを見守っているような気がしたからもう片方しか選べなかった。それにしても、折角のクリスマスだったけど封筒を渡す前に絵具が零れて渡せずに終わってしまった。
また絵を描こうと思って満開の冬桜の綺麗な渓谷でキャンバスを広げた瞬間、ものすごい痛みが胸を貫いた。すぐに病院へ向かったけどもう長くないと薄々気づいていた。もう、ナナミやユキナさんたちと遊べないと感じていた。あの満開ももう見ることは無いと。
2月の終わり、イツキ君のお通夜や葬儀はすぐに済んだ。交通事故の時に体内に刺さったまま隠れて残っていた金属片が偶々太い血管に流れ込んでしまい、心臓を突き破ったらしい③。やっとわたしも退院できたっていうのに。あっさりいなくなっちゃって。残されたのはアメジストと「最初の台詞」という言葉と共にわたしへと書かれていたインクが染み込んだ封筒に入った一枚の紙、あと彼の画材である色鉛筆。封筒の方はインクが染みすぎてて何かの本の一ページだってくらいしかわからないし、色鉛筆は青い色ばっかり。青、水色、空色、藍色、天色なんて色初めて知ったよ❽。イツキ君、青い色好きだったからね。
…どうして。もう、わたし一人じゃこの先歩いていけないよ⑦。

 イツキ君が死んでしばらく経った3月。わたしの世界は荒んでいた。マスクをつけて自分の感情を押し殺して。わたしの周りには自殺も考える程物騒な空気が漂っていた。そんな時、ユキナさんに声をかけられた。
「今、ちょっといい?」
「なんですか。」
「ちょっと、見てられなくって。はいこれ。」
そう言ってペットボトルのお茶を渡された。
「確かに、イツキくんが亡くなって辛いかもしれないけどそれはイツキくんも同じじゃないかな。」
「イツキ君も同じ…?」
「うん、向こうのイツキ君もずっと悲しんでばかりいるナナミちゃんを見たら悲しむと思うよ。」
「そんなこと、無いです。死んだらもうそこで終わりなんですから。」
「違うよ、少なくとも三途の川はあるよ。私、一回近くまで行ってきたから。」
「…」
「向こうでもね、薄っすら枕元で祈ってくれてる彼が見えたんだ。」
「そんな…」
「本当だよ。だから、きっとイツキくんもナナミちゃんが悲しんでいるのが見えているんじゃないかな。」
「確かに、イツキ君ならわたしが悲しんでいたら彼まで悲しみ始めそうですね。わたしたち、やけに波長が合うっていうんですかね、そういう所ありましたから。わかりました、ありがとうございます。」
「いいんだよ、これは私なりのささやかなプレゼントだから❾。私も彼に助けてもらったから、今度は私が助けないと。」
そう、確かに悲しんでも過去は変えられない、イツキ君も生き返らない⑨。何気ない、けれど大切な日常を幸せに過ごすことがイツキ君の為⑤。わたしは平穏な日常に戻るためにマスクを捨てて大きく笑った。

 そんなこともありイツキの49日目となる4月。彼は真っ暗な闇の中で裁きを待っていた。死の衝撃で記憶の無くなっていた彼に裁きの雷が落ちた。その衝撃でいろいろな事を思い出す。その中でも一番に思い出したのはナナミの御蔭で思い出した校歌だろう。他にも、次々思い出す記憶は多くがナナミに関する記憶だった。みんなでやったクリスマスパーティー、高校時代ナナミのために体にいいと噂の薬草を求めて森に行った事、等々❿。彼はあまりにも善良な魂であった。そのため彼は大切な人を傍で見守る事を許された。彼の魂は現世へと向かっていく。今ならあの時アメジストに感じた老人の気配がわかる。ならば自分も、ナナミを傍で見守りたい。
「…!」
そこでわたしは目が覚めた。今のはただの夢だったのか。わたしにはそうとは思えなかった。なんだかすぐ傍に彼がいるような気がして、枕元に置いてあったアメジストを握りしめた。彼が遺した封筒の中の紙を開く。インクが固まっていて破れないか心配だったが、なんとか問題なく開く事が出来た④。活字で書かれていたりページ数と思われる数字が隅に書かれていたりするため何かの本の1ページだとは思うのだけど、その大部分がインクで黒く染みになってしまい、肝心の最初の台詞も読めなかったため彼の伝えたかったメッセージを解くことが出来なかった。

 暖かくなってきた5月、わたしは絵を描くようになった。イツキ君の好きだった青い色を多く使った海や空、水の絵。彼はよく丸や丸みの帯びた線で自然物を描いていたけど、わたしは☆みたいな直線的な形が好きで船なんかの人工物を多く描いている⓫。今日は、曲線と直線をより自然に融合させられないか海辺で船を被写体に描いていた。そんな中、何か事故があったのかその船が沈み始めた。それを見て、わたしはその光景こそが最も曲線と直線、彼の好んだ絵とわたしの好きな絵を融合させられる光景だと思い無我夢中になって絵を描いた。どうしてもその絵を誰かに見てもらいたくて、私は地元のコンクールへその絵を応募した。結果、その絵は注目を浴びて最終的に高校の国語の教科書の表紙に使われることになった。わたしはなんだか彼が認められたように思えて誇らしかった。

 シトシトと雨は降り蒸し暑い6月、出版社の方から教科書の見本が送られてきた⓬。それをパラパラと眺めていると見覚えのある単語が並んでいるページを見つけた。印象に残っているそのページをどこで見たのか、記憶を紐解いていく。あれはそう、死んだイツキ君がわたしに残した何かの本の1ページ。慌ててあの封筒をとってきてその中身を広げ見比べる。インクの面積が多くわかりづらいが、その内容は間違いなく同じものだった⓬。まさかこんな形で彼の遺したメッセージが解けるようになるなんて。あまりの偶然にしばらくかたまっていたが間違いない⓬。見比べてみると、その内容は一人の少年が幼馴染の少女に告白するといった内容だった。封筒に書かれていた「最初の台詞」というのはきっと少年の
「君のことが好きです。付き合ってください。」
というものだろう。ありふれた日常に守られた穏やかなそのストーリーはとても眩しく見えた⓬。彼の身体にもし金属片が刺さらなかったら、手術で取り除かれていたら、そんな事を想いながら物語を読んでいく⓬。でも、どんなにもしもの可能性を考えたところで今は変えられない⓬。やっぱりイツキ君の事を忘れるにはどれだけ時間があっても足りないと思う⓬。でも、それでいい。好きな人の死なんていう衝撃的な事は忘れるなんてできないししたくない⓬。そもそも人間なんてどこまでも歩いていくことなんてできないんだから⓬。疲れたら休めばいいし嫌になったら止まればいい。なんだかイツキ君が見守ってくれているような気がして元々は二つで1つだったアメジストの片割れを私は握りしめた⓬。

【簡易解説】
紙にインクが零れたことでとけなかったものが、とけるようになりました。
なぜなら、インクが零れて読めなくなったページと全く同じ内容のページが手に入ったからです。

―了―

No.67[ハシバミ]06月24日 21:18未回答

「片翼の一枝」

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No.68[ハシバミ]06月24日 21:1806月26日 00:15

【簡易解説】
魔法によって冬に閉ざされた国・セゾーノ王国。
魔法陣を同じインク――血で塗りつぶすことで魔法は解け、王国に春が戻ってきた。



「――……ぅ、ん」
 体を起こして見渡すと、どこかの部屋のようだった。瓦礫まみれで、元がどういう部屋だったのかは分からない。天井には大穴が空いている。どうやら、あそこから落ちたらしい。全身が痛むけど、怪我らしい怪我がないことは救いかな。……でも。
「ヴァルマ……」
 ここはどこなんだろう。彼女は、一体どこにいるんだろう。


 この国に春が来なくなってから、十年。何者かの魔法によって、冬に閉じ込められたのだ。
 初めは、皆抗った。この国には魔法を使えるものは多くない。それでも解こうとし、相殺しようとし――破れた。
 北の果て、大河に隔てられて人の立ち入ることがなかったその地に魔女――ネージョがいると突き止めたときには一年が経過していた。氷と雪で覆われ、既に陸続きとなっていたその場所に多くの者が向かい、戻らなかった。
 そうして冬の世界で三年も経つころには、もう皆諦めていた。冬を脱するより、冬を生きるほうが容易いと知ったのだ。或いは、国を脱するほうが。
 それでもそれぞれの理由でこの国に留まった者、そしてそれぞれの理由で人の少ない地を求めてこの国にやってきた者。
 セゾーノ王国――王政は既に機能していないが――に新たな秩序が築かれたころ、ヴァルマが現れた。
 様々な国を廻ってきたヴァルマには、ネージョを倒さねばならない理由があるらしい。
 そうして私は、そんなヴァルマに惚れたのだ。正確には憧れた。けれどそんな違いも些事。無理を言って同行させてもらった。
 私が国に留まったのはただ母親の矜持で。季節があったころの記憶も殆どない。私にネージョを倒す理由はなくて、だけど家に留まる理由もなかった。そして何よりただ、ヴァルマと共にいたかった。そうしたら私も少しは強くなれるのかな、なんて。
 思って、弱いまま果てに辿りついて、役に立てないままヴァルマがネージョを倒して――城が崩れて。


 結局私は、何も役に立てなかった。何も強くはなれなかった。一人になって、ますます弱気になる。
 早く合流しないと。でも、どうやって。ヴァルマがどこにいるかも分からない。瓦礫で通れない場所ばかりだし、また崩れるかもしれないし、まだ罠が残っているかもしれない。
 ここで待っていれば、見つけてくれるだろうか。それとも、置いていかれるのだろうか。……ヴァルマは私のこと、どう思っているのだろうか。

『ねぇヴァルマ。折角一緒にいるんだから、少しは私のことも頼ってよ』

 ――そうだ。私が言ったんだ。一人じゃない。弱いけど、役に立たないけど、……ううん。
 ここまで一緒に旅してきたんだ。魔法のことだって、ヴァルマにたくさん聞いてきた。たくさん経験してきた。私にだって、できることはあるはず。(⑤)
「へっ……くちっ」
 壁も崩れているようで、冷たい空気と雪が容赦なく入ってくる。……雪?
「魔法はまだ、解けてない」
 どうして――ああ、確か。

『一度発動した魔法を止めるのは容易じゃない』

 魔法は基本的に魔法陣によって発動する。そうするともう術者の手から離れることになるから、術者を倒しても魔法は解けないのだ。
 だけどネージョを倒してこの城は崩れた。そう、魔法を解く方法。

『魔力の供給を断つこと』

 魔法はそれ自体の術と魔力、二つが一つになって初めて発動されるのだ。(⑧)
 簡単な魔法ならばともかく、発動させ続ける魔法の場合は魔力も常に供給されていなくてはいけない。
 この城はネージョ自身の魔力で維持――完全には崩れていないから、おそらく補強されていた。だから彼女を倒したことでその魔法が解けた。
 つまり、この冬の魔法を維持している魔力は、ネージョのものではない。
 でも、そうしたら一体――……落ち着け。深呼吸。大丈夫、私にも分かる。私にもできる。
 天候を操る魔法は容易ではない。それをまして、国中を覆うだけの魔力。

『一つじゃ足らないなら、集めりゃいい』

 魔力を集める。そうだ、どこかから集めている――どこから?

『お前……魔力の流れを感じることができるのか』

 私なら、見える。深呼吸。集中。
 城全体に魔力が流れている。だけどこれじゃない。探せ、探せ。魔法を発動させるための陣まで伸びているはずだ。魔法陣。天候を操るのであれば空、に近い場所。……違う。城全体に流れる魔力。これだ。
 城の維持だけではない、おそらく各所に魔法陣が仕掛けられている。

『盗まれたら困るものってのは、後生大事にしまい込むより分散させちまったほうが安全なんだよ』

 瓦礫に覆われたこの城で各所の魔法陣を壊すことは現実的じゃない。目的地が点在しているせいで、魔力を辿ることも容易ではない。
 ……そもそも、何から魔力をとっている?

『質や量の違いはあれど、魔力ってのは命あるもの全てに宿っている』

 そう、だからどこかに生きた動物か人間が……いるなら。当然まとめておくほうが管理がしやすい。
 目的地がばらばらでも、その始点は。魔力が一番固まっている場所――あった。(④)

 場所が分かれば、後は走るだけ。
 元々城の間取りなんて分からないんだ。廊下が崩れていようが瓦礫で塞がれていようが関係ない。最短距離を行くだけ。
 その間にも城が揺れて崩れて、転ぶ。落ちる。でも、それも好都合。目的地は、地下。
 走って、走って――ここだ。大きな扉。今更ながら、鍵がかかっていたらどうしようなんて気づいたけど。
 少し押してみたら、呆気なく開いた。
「――っ」(①)
 広い広い部屋。一部壊れているところもあるけれど、ここまでの道中に比べれば綺麗なものだ。綺麗な部屋、ではないけれど。
 ずらりと。円筒状の装置が並んでいる。液体で満たされたそれに浮かんでいるのが何か。すぐに分かった。けど、分からない。分かりたくない。
「命、あるもの」
 そう、魔力が宿っているのは命あるもの。だから、生きている。
 とにかく。とにかく、魔力の供給を断つ、には。装置の一つに近付く。下の方、目立たないところに、紙が貼られていた。
 魔法陣。これだ、これで魔力を流しているはず。これを壊せばいい。
 
『発動済みの陣ってのはただ壊すだけじゃ止まらない。半分は損ねる必要がある』(②)
『壊すか燃やすか、或いは――同じもので上書きするか』

 同じもの。ペンで描いたならペンで、刻まれているなら削って。黒ずんだこの陣を描いたのは。

『血を媒介にするのが、一番強力だからな』

 これも血で描かれている――なら。装置の一部が壊れたのか、金属片を拾う。
「っ」(③)
 このくらい、大した痛みじゃない。
 指先から流れる血で、そのまま魔法陣の半分を塗りつぶす。見る。――うん、魔力の流れは消えている。
 これを――ひたすら、続けるだけ。



「フローロ! ……くそっ、埋まってないだろうな」
 やっと願いが果たされた。やっと、仇を討ったのだ。気が抜けたその瞬間、文字通り足元が崩れた。気がついたときには瓦礫まみれで、フローロの姿はどこにもなかった。
 こんな事態になっているのは、不用意にネージョを倒した私の責任だ。あいつの魔力がなくなることで根城に影響が出ることくらい、すぐに分かることだったはずなのに。
 私はいい。自業自得だ。だがこれでフローロに何かあれば――寝覚めが悪い。
 同じように落ちたのならば下にいるはずだ。なのに、どこまで行っても見つからない。
 こうしている間にも床が、壁が崩れていく。外壁などもう殆ど意味がなく――ふと、外を見る。
「あ、め」
 雨。雨だ、雨が降っている。この国で、雨が。(⑥)
 どういうことだ。魔法が解けた? 陣が崩れたのか、魔力が足りなくなったのか。(⑩)
 どうして急に。
「フローロ……?」
 何の確証も、ないけれど。とにかく、早く探さなければ。



 城の外では。降り続けていた雪は雨に変わり。俄に上がる気温によって、雪が、氷が溶ける。
 何年も流れることがなかった川は流れを取り戻し、雪解け水が加わる。
 雪の重さに潰れた橋は、そのまま流されてゆく。
 大河で隔てられていた、北の果て。かつての姿を取り戻し――再び、閉ざされた。(⑦⑨)

《続く》
[編集済]

No.69[ハシバミ]06月24日 21:1806月26日 00:15

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「やっ…………てしまった…………」
 文字通り頭を抱えることもできず、両腕も思考も固まる。頭の中が真っ白だ。……目の前の紙も真っ白のままであればよかったのに。
 …………つまらない冗談を言えるくらいには回復したようだ。
 手遅れながら倒れたインク瓶を起こす。……本当に、どうしたものか。
 連載中の漫画、『比翼連理』。前回でついにラスボス・ネージョを倒し、久しぶりにセンターカラーを貰えることになった。
 終盤でカラーページを貰えたらやりたかったことがある。
 雪原を歩いているフローロとヴァルマ、二人の何気ない日常のイラスト。だけどそれが重要なんだ。(⑤)
 最初のころに描いたイラスト。同じような光景を描いた。ヴァルマの数歩後を付いていくフローロ。そして今回は、ヴァルマの顔を覗き込んで喋りながら歩くフローロだ。
 この二つが対になって、旅を続ける中で距離が縮んだことを示すという、我ながら最高にエモいイラストだ。(⑧)
 それを、描いていたのだが。
 後は最後の仕上げ。細かい描き足しをしようとペン立てを探ったところで、指先に痛みが走った。
 デザインナイフの刃が落ちていたらしい。(③)ちゃんと管理しなかったのは誰だ。私だ。
 痛みで反射的に腕を引き――見事にカラーインクの瓶を倒した。フローロの服を塗るのに使った、淡いピンク色のインク。それが盛大に零れた。たった今仕上げようとしていたイラストに。
 冬の世界。一面の白。だったはずのその世界は、今や淡いピンク色に覆われて――まさに春の世界だ。まあ綺麗。とか言っている場合ではない。まだ魔法が解けてもいないのに雪が溶けてどうする。
 風景がメインで、人物はほんの小さく。そんなイラストの大半が覆われたのだ。(②)
 今から修正しようにも、まずホワイトが残り少ない。最近はカラーもデジタルで描くことが多くなり、残量を完全に失念していた。買いに行こうにも外は土砂降りだ。(⑥)画材屋――それより近くの文具屋に行くことすらも叶わない。(⑦)
 では紙を変えて一から書き直すかといえば、それには時間が足りない。(⑨⑩)こんな締切ギリギリまで作業していたのは誰だ。私だ。
 それに、何より。
 変えるには惜しいくらい、美しい。(①)
 …………ああ、もう。分かった。腹は固まった。(④)
 本編を、変えよう。
 前回でネージョを倒して、フローロとヴァルマが分断されて、まだ魔法は解けていなくて。今回は二人が合流するところまでを描いて、次回魔法を解くつもりだった。だけどいい。分かった。ここで解く。伏線はもう十分だ。センターカラーで魔法が解けるなんて、もう最高にエモいではないか。駄目だ語彙力がない。
 それに。それに、ここでフローロを活躍させれば。
 これまであれだけ丁寧に描写しながらも「足手まとい」「役立たずヒロイン」と言われてきたフローロの汚名返上になるのではないか。
 何が足手まといだ、頭の回転は早いし度胸もある、それでも命を投げ出すことはしないフローロに、ヴァルマがどれだけ救われてきたことか。
 だいたいヒロインはヴァルマだ。フローロはヒーローだ。血の繋がった息子を跡継ぎにしたい継母の計略で女として振る舞うことを余儀なくされただけで、その内にドレス姿を気に入っただけで、ヴァルマと出会って強い女性に憧れただけで、ヴァルマと共にいることで性別が些事だと気付いただけで、フローロは名実ともにヒーローだ。男だの女だの関係ない、ヒーローなんだ。
 ……だがそれが伝わってこなかったのは私の力不足、怠慢だ。だから、ここで。
 これまでの会話からヒントを貰ってフローロが魔法を解く。春になる。そして、そうして――雨。雪が雨になって、雪と氷が溶けて。そうだ、元々大河に隔てられた土地だった。魔法を解いたところで帰れなくなる。魔力の媒体にさせられていた人もいる。ここから一悶着。――行ける。行けるぞこれは。
 タイトルは――「片翼の一枝」。比翼の鳥、連理の枝。いい、いいぞ、終盤に題名と対になるタイトル。エモい。エモすぎる。エモンガだ。
 さあ、魔法を解こう。雪が溶けたら――春になる。



【簡易解説】
連載漫画のカラーイラストの仕上げ段階でカラーインクを零した漫画家。雪原だったはずの風景はすっかり春の景色になってしまった。
カラーより締切に余裕のある本編をカラーイラストに合わせて変更することに決めた結果、作品中で魔法が解け、雪が溶けることになった。

《おしまい》
[編集済]

No.70[輝夜]06月24日 21:38未回答

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No.71[輝夜]06月24日 21:3907月03日 23:40

【詳細解説】

原作:花見さき
漫画:咲本ゆい

そう銘打たれて、私たちの本が世の中へ飛び出したのは、忘れもしない、去年の冬のことだった。

幼馴染で仲が良く、昔から小説や漫画が大好きだった私たちは、学生時代から創作に打ち込んでいた。
ずっと2人の夢だった本の出版が決まった時は、文字通り飛び上がって喜び、天にも登る心地だったものだ。
今思えば、私たちの本はかなり良い評価をいただいていたと思う。

あの頃は、ゆいと共に世界を創りだしていくことが楽しくて仕方がなかった。
言葉を綴り、私の手で世界を動かす。そしてゆいが、繊細で美しい絵で私の世界を彩り、命を吹き込む。
私たちは一心同体、二つで一つだった⑧。そう、「だった」のだ。


ゆいに異変が訪れたのは、最初の本が発売されてから少し経った、新シリーズの連載開始前のことだった。

ゆいが見せに来た新シリーズの原稿を見て、私は微かな違和感を覚えた。
何かが足りなくなった気がする⑩。どこか、ゆいらしくない。なぜか、そう感じた。
だが、新シリーズなのだから、少しくらい絵柄が変わるのは当然だと思って、私はその原稿をそのまま出版社に持って行った。

そうして発売された新シリーズの評判は、散々だった。
手のひらを返したように酷評され、評価というものはこれほど簡単に覆るものなのだと、身を以て知った。
特に、ゆいに向けての批判が殺到し、ゆいは全くペンを取らなくなってしまった。
前は、新しい絵を描くと、仕事用でも、そうでなくても、すぐに私に見せに来たゆい。
失敗したと恥ずかしそうに笑いながらも、結局は見せてくれたこともあった。だが、ここ最近は、ずっとゆいの絵を見ていない。
私がゆいの絵を見なくなることなど、無いと思っていたのに。

描くことをやめたゆいは、あまりにもゆいらしくなかった。
基本的に穏やかで、慎重なはずのゆいが、落ちている物をよく蹴飛ばすようになった。
今まで漫画家とは思えないほどに整頓され、片付いていた部屋も今は見る影もない。散乱する原稿用紙や、蓋を開けたまま放置されているインク壺。
壁に突き刺さる、ひどく歪んだ万年筆のペン先③を見た時は、さすがに絶句した。

正直、かなり傷ついた。ゆいに何かがあったことは明らかなのに、私に相談する様子もない。
私たちは二つで一つ。そう思っていたのは、私だけだったのだろうか。
とはいえ、面と向かって聞くこともできなかった。絵は、ゆいにとって一番繊細な部分のはずだから、不用意に問い詰めて、ゆいを傷つけるのが怖かった。

最近になって、出版社から、漫画家を変えないか、と打診された。
描けない漫画家は必要ないと、あなたの才能をここで潰してはいけないと、そんなようなことをひどく回りくどい言い方で長々と。
編集者が、インクの出なくなったペンを買いかえるように、自然に漫画家の変更を口にしたことは、腹が立つというより、衝撃的だった①。
完全に、住む世界が違うのだと思い知った。ゆいは、私にとって唯一無二の存在だから。変えることなどできるわけがない⑨。
私が言葉を紡ぐのは、お金のためではない。私にとって何よりも大切なものは、ゆいと共に世界を創りだすことだ。
この感情は世間的には幼いと言われるものらしい。仕事なのだから、生活のためにも割り切るのが当然だと。
だが、ゆいと共に居たいと願うことが幼いならば、私は幼さを捨てるつもりはない。
どんな形になっても、ゆいと共にいることだけは絶対に譲らない。

だが、ゆいはあの時からずっと、頑なに私と目を合わそうとしない。
かつては陽だまりのようだった家の雰囲気は、今や完全に凍りついてしまった。何をする時も互いにぎこちなく、凍りついた雰囲気がとける未来は想像できない。

原稿を見たときに感じた違和感の理由は、まだ解けないままだ。ゆいの行動の理由を解き、この雰囲気をとかす鍵は、そこにある気がするのに。
毎回、あと少しでたどり着けそうなところで、思考は私の手をすり抜けていく。どうしようもないもどかしさが、私の胸を苛み続けていた。

本が出た時は、2人ならどこまでも歩いて行けそうな気がしていたのに。今はもう、出来る気がしなかった⑦。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ゆいが描かなくなってから、そろそろ三ヶ月が経つ。
凍りついた雰囲気は、何も変わっていなかった。

雨が窓を叩く音がする。雨が降り始めたようだ⑥。
そういえば、昼に掃除した時、ゆいの部屋の窓を開けたままだった。
ゆいはもう寝ているだろう。閉めに行った方が良いだろうか。

寝ているゆいを起こさないように、そっとゆいの部屋の戸を開ける。予想通り、窓は開いていた。机の上のものに当たらないように気をつけながら、急いで机の奥の窓を閉める。
だが、手を引っ込めた拍子に、うっかり蓋が開いたままのインク壺に手が当たってしまった。インク壺が倒れ、インクが零れる。
急いで拭き取るべきと思いながらも、私は動けなかった。何も描かれていない原稿用紙がゆっくりと漆黒に染まっていく様を、窓から差し込む月明かりが浮かび上がらせる。
強烈な違和感が、私につきまとっていた。黒色に美しく染まった原稿用紙を眺め、独特なインクの匂いが鼻腔をくすぐった時、私は違和感の正体に気がついた。

このインクは、三ヶ月間蓋を開けたまま放置されていたインクとは思えない。

インクは実は繊細なもので、扱いが悪いとすぐに固まってしまう④。固まるまでいかないにしても、簡単に痛んで色や匂いが変わる。
だがこのインクは、滑らかで、光を吸い込むかのような深い黒色をしている。匂いも、独特だが慣れ親しんだもの。
間違いなく、開けたばかりの新しいインクだった。

つまり、ゆいは描いていたのだ。ずっと、私に隠れて。

ずっと解けなかった、ゆいが描かなくなった謎。私は根本的に勘違いしていた。ゆいは、描かなくなったのではなく、描いていたのに、誰にも見せなかったのだ。

「なんで……」
無意識のうちに、言葉が溢れ出た。返ってくるのは、当然、規則正しいゆいの寝息だけだ。

なぜか机の上に置いてあった、昔のゆいの描いた漫画を見るともなしに眺めながら、今までの大前提を全て捨て、記憶を掘り起こす。
新シリーズの原稿を見た時の記憶がはっきりと像を結び、それが机の上の漫画の絵と重なった時、電流が流れたような衝撃を受けた。
ずっと追い求めて来た、違和感の正体。

それは、コマの面積。

漫画は、当然画力も重要だが、コマ割りも作者の技量とセンスが滲み出るものだ。
ゆいの漫画の特徴は、繊細な絵柄と細かい描写。
それを際立たせているのは、一歩間違えれば読みにくいと一蹴されかねないほどの、コマ割りの細かさだ。
それは並大抵の技量ではできないことで、それがゆいの強みだったはずだ。
だが、あの時の原稿のコマの大きさは、普通よりほんの少し小さい程度だった。
なぜ、なぜゆいは、自分の強みを潰すようなことをしたのだろう。

記憶の蓋を一気に解放し、奔流のように流れだす記憶のなかから、パズルの残りのピースを探す。
何かが引っかかり、慌てて記憶を巻き戻す。
目の前に落ちていたペンを、躊躇わずに蹴飛ばしていたゆい。
改めて思い返すと、あまりにもゆいらしくなかった。あれは、気持ちが乱れていたからではなく、避けられなかったからなのだとしたら……。

大きくなったコマ。物を蹴飛ばす仕草。そのことから導き出される結論は、1つしか思いつかなかった。


ゆいは、うまく視えていないのかもしれない。


まだ、憶測に過ぎない。決定的な証拠はない。

ゆいが描いたものを入れている引き出しを開ける。
罪悪感が胸を焦がすが、真実を知りたい、いや、今の憶測を否定したいという思いに勝つことはできなかった。
真っ先に目に飛び込んで来たのは、一枚の紙にとても大きく描かれた絵。その絵を退け、さらに紙を捲っていく。
そこには、決定的な証拠が隠されていた。
前と同じくらいの大きさで描かれた絵。だが、前のような、繊細なものをそっと写し取ったかのような美しさがない。
素人目にもわかるほど、バランスが崩れた絵だった。
あの原稿を描いた時、ゆいには、自分の描く絵がよく視えていなかった。
それで、やむなくコマを大きくしたのではないだろうか。

なぜ、もっと早く気がつかなかったのか。コマの面積や何気ない日常の中に、重要なヒントは転がっていたのに②⑤。

一番ゆいに近いところにいながら、その苦しみに気づけなかった。
ずっと解けなかった、この謎。解くことはできた。
だが、気づくのがあまりにも遅すぎた。
堪えきれず、ゆいの描いた絵が滲む。

「さき……?」

雨の音だけが響く部屋の中に、微かな無声音が混ざった。
「さき?……何してるの?!」
紙を捲ることに夢中になって、音を殺すことを完全に忘れていた。
眠っていたはずのゆいが、上半身を起こし、こちらを見つめていた。
後悔する余裕も、前置きを考える余裕もなく、ゆいに問いかける。
「ゆい。視えてないの?」
何が、とはあえて言わない。もし私の考えが間違っていたら、という最後の希望が捨てられなかった。
だが、ゆいは大きく目を見開いたまま、凍りついたように動きを止めた。

永遠にも等しく思える時間の後、ゆいが小さく頷いた。
「ゆい……」
言葉が出てこなかった。大好きだった絵が描けなくなり、私にも勘違いされて……。
その苦しみは、想像を絶するものだっただろう。私などが理解した気になるのもおこがましい。ましてや、薄っぺらい慰めの言葉など口にできるわけがない。

雨が窓を叩く音が、妙に大きく聞こえる。その音ばかりが気になるのは、現実逃避からか。
「悪化することはもうないらしいけど、元に戻ることもないみたい。軽度だったから、日常生活にはほとんど支障はないけど……」
その先は無声音だった。

もう、今までのようには描けない。

感情が荒れ狂って渦を巻き、堰を切って溢れ出しそうだった。
泣いてはいけない、と思った。今一番辛いのは、ゆいだから。安っぽい同情など、ゆいは求めていない。
ゆいに近づき、そっと抱きしめた。
今まで、言葉を紡ぎ、紙の上に世界を創りだして来た。普段は息をするように自然に溢れ出てきた言葉が、今は何かに引っかかったように何一つ出てこない。そんな自分が、歯がゆくて堪らない。
抱きしめたゆいの身体は、細かく震えていた。
「ごめんなさい」
「なんで、ゆいが謝るの。ゆいは何も悪くない」
ゆいの声が揺れ、微かな嗚咽が聞こえた。
「黙ってて、ごめんなさい。もしかしたら描いてるうちに、前みたいに描けるようになったりしないか、とか考えちゃって、昔の絵を見ながら練習したりして。でも、そんな都合の良いこと、起こるわけない。それは、分かってたのに。
……私は、さきに見捨てられるのが怖かった。描けなくなった私は、さきにとって重荷にしかならないのは、分かってたから」
「私が、ゆいを見捨てるわけない」
「うん。それも、なんとなくわかってた。でも、もしかしたらって、考えずにはいられなかった。私は結局、さきを信じられなかったの。本当に、ごめんなさい」
私は、ゆいを抱く腕にいっそう力を込めた。
「謝らないで。私こそ、気づかなくて、ごめんなさい」
単純で使い古された言葉は、張りぼてのようで、自分でも空虚に聞こえる。だが、言うべき言葉が他に思いつかなかった。

しばらく、触れ合う体から伝わってくる互いの熱だけを感じていた。

なんで、ゆいなの。
とても繊細な絵を描くゆいにとって、視えなくなるのは致命的なのに。
考えても意味のないことなのは分かっていても、そう考えずにはいられない。

私は軽く頭を振って、重苦しい気持ちを振り払う。

「ねえ、ゆい」
暗がりの中で、ゆいの影が揺れた。
「なに?」
「大きくなら、描けるんだよね?」
私が次の言葉を発する前に、ゆいは私が何を言おうとしているか察したようだった。
「私のために、さきの世界を変えたりはしないで。私は、さきの紡ぐ世界が大好きだから。ずっと、応援してる。……私のこと、見捨てていいよ」
そういうゆいの顔は、部屋を埋め尽くす暗がりとは対照的に、吹っ切ったように明るいように見えた。

「嘘つき」

「え……?」
私は、ゆいの方を見て、軽く笑う。
「ほんとは、嫌なんでしょ。ゆいがそんなできた人間じゃないの、私知ってるからね」
「さき、ひどいって!」
軽い言葉とは裏腹に、ゆいの頬を光るものが伝った。
「私は、ゆいと一緒に本を作るためにこの業界に入ったの。私と一緒にいるのが嫌になっても、絶対離してあげないから」
窓の外に、視線を向ける。いつの間にか雨は上がっていて、銀砂を撒いたかのような星空が広がっていた。
「大きい絵か……。絵本とかも面白そうだよね!あとは開き直って、デジタルに挑戦してみるのはどう?この時代に絶対アナログ主義とか、時代遅れなんだよ。多少絵柄変わっても気にしない!ね!」
部屋の闇を振り払うように、大げさなほどに明るく振る舞う。
「さき、その馬鹿みたいに明るい話し方、似合わない」
「は?せっかく人が頑張って励まそうとしてるのに」
軽く頬を膨らませる。
「うん、その方がさきらしい」
そう言って微笑むゆいは、心のそこから笑っているように見えた。

2つの笑い声が入り混じり、溶けあって1つになって、輝く夜空へと広がっていく。

あの日以来、ずっと凍りついていた雰囲気が、とけた瞬間だった。



ーーーーーーーーーーーーーー



ぶん:はなみ さき
え:さきもと ゆい

そう銘打たれ、私たちの童話が世の中へと飛び出したのは、忘れもしない、今から1年前のことだった。
やはりそう簡単には行かず、漫画と違って最初はほとんど売れなかった。正直なところ、出版できたのが奇跡のようだった。

だが年月が経つにつれ、冊数も増えていき、徐々にだが売り上げも伸びてきた。
そしてついに、小さな書店だが、念願のサイン会を開くことができた。


サイン会が始まってすぐ、真っ赤な顔で声をかけてくれた小さな女の子がいた。

「……さきさんと、ゆいさんのごほん、だいすきです」

俯きがちで早口に言い、あっという間に母親の元へぱたぱたと走っていってしまったから、言葉を返すこともできなかったけれど。
母親に頭を撫でてもらい、恥ずかしそうに笑うその子を見ていると、暖かいものが胸に込み上げて来た。そっと、隣にいるゆいを見る。思いがけず目が合い、軽く微笑む。

ゆいの視力は、もう元に戻ることはない。でも、2人とも、視えなくなったことも全てまとめて、こうなって良かったのだと思えるようになった。

隣にゆいが居る。私は、それだけで幸せだ。ゆいは私にとって、唯一無二の存在だから。

ゆい……唯と私は二つで一つ。今なら、胸を張ってそう言える。


終わり


【簡易解説】
漫画を共同制作していた親友が突然絵を描かなくなった理由が解けなかったが、零れたインクが新品だったので、描かなくなったのではなく、描いてはいたが描いた絵を見せられなかったことを知った。
そのことで、綺麗な絵が描けないほど親友の視力が低下していたということに気がつき、謎がとけた。

[正解]

No.72[ぎんがけい]06月25日 22:38未回答

『インク陣取りゲーム』

1

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No.73[ぎんがけい]06月25日 22:3906月26日 00:15

簡易解説
紙に万年筆のインクをこぼしたことから、インクを用いた陣取りゲームの開発に至り、子供でも楽しめるFPSゲームをつくるという長年解けなかった問題が解けた。


ゲーム会社で開発部門に務めているマキタは非常に困っていた。小さな子供でも楽しめるFPSを開発してほしいという意見が出たのだが、企画案が何も思いつかないのである。ここでいうFPSとは一人称視点のシューティングゲームであり、銃などの武器を用いて敵を倒すことを目的としたものが主である。こういったゲームは暴力的な演出が入っていることが多いため、小さな子供にプレイさせるのはよろしくないとされている。だからこそ、子供でも遊べるものを作ってほしいという意見が出たのだが、そう簡単に案が思いつくものではなかった。この問題をどう解決するかがここ最近のマキタの悩みであった。この悩みを解決するために職場にこもりっぱなしになり、家に【⑨帰ることが出来ない】にも多かったという。

ある日、マキタは同僚のキクチに相談した。
「なあ、キクチ。子供向けFPSのいい案が出ないんだ。何かアドバイスくれよ。」
「うーん、そんな難しく考えなくてもいいんじゃない?そういうのは日常のどこかでふと思いつくようなものだから、もっと【⑤何気ない日常を大事にしなよ。】」
「そうかー。もう少しゆっくり考えてみるよ。」

数日後、マキタは普段通り会社に出勤し仕事にいそしんでいた。あるとき、大事な書類に自前の万年筆で書き込んでいたところ、うっかりインクをこぼしてしまった。そのインクを拭こうとするも紙にどんどん染みていき、ついには紙の白い部分よりも黒インクの占める部分の方が大きくなってしまった。そのことで上司にこのように怒られてしまった。
「大事な書類にこんなにインクをこぼすな。紙の白い部分がインクの黒い部分に負けてるじゃないか。」
この言葉を聞いたマキタは自分の失敗を反省するとともに、子供向けFPSの新案を思いついたのだった。
「今回の失敗はすみませんでした。でも、私思いつきましたよ!!新しい子供向けFPSゲームのアイデアを!!」
「い、いきなり大声で。いったいどうしたんだね。」
「インクを使うんですよ。インクで相手を攻撃するんです。でも、インクで敵を倒すだけが目的ではなくて、インクを地面に塗った面積を競うんです。【②面積が重要な】FPSって今までになかったですよね。今までになかったゲームで、なおかつ子供にも親しみやすそうではありませんか。」
「そ、それだ!!!早速開発にとりかかろう。」
上司にとってはマキタの意見は【①衝撃的だった】が、ピンときたものがあったのだろう。開発へのゴーサインは意外とすんなり出た。

マキタの何気ない日常のワンシーンから開発がすすめられた『インク陣取りゲーム(仮題)』は子供でも楽しめるようにとマキタやその他のメンバーの努力により、様々な要素が取り入れられた。今回はその一部を箇条書きで紹介しよう。

・主人公のキャラクターは人型のイカとタコである。それらのキャラクターは人の姿で歩いて移動することはもちろん、イカやタコの姿でインクの中を泳ぐこともできる。陣取りの舞台となるステージは【⑦歩くだけではどこまでもいくことはできず、】地面を自分たちのチームのインクに塗り、イカやタコの姿になり泳いで移動する必要がある。
・主人公が持つインクを出す武器は現実のものにちなんで数種類用意された。水鉄砲を模したシュータータイプ、ペンキを塗るローラーを模したローラータイプ、絵の具を塗るときに使う筆を模したフデタイプ、銃を両手に持った【⑧二丁拳銃型でひとつの武器になる】マニューバ―タイプなどがある。
・実際の試合をつまらない、爽快感がないと感じさせないためには【⑩インクの出る武器だけでの試合では足りない】ということで、規定面積だけインクを塗ったら必殺技を発動できるようにした。主な必殺技の種類としては一定時間味方にインクの鎧をまとわせるものや、インクの【⑥雨を降らせる】ものがある。

こういった要素が取り入れられ、インク陣取りゲームは『プラストーン』という名前で全国発売されることとなった。発売直後から大ヒットし、空前絶後の大ブームを起こした。

マキタには小学6年生の息子がいたので、その息子にプレゼントし遊んでもらったところ、毎日何時間も画面の前に居座るくらいに熱中してしまっていた。息子のプレイ中にマキタが誤ってゲーム機本体に日曜大工で使っていた【③金属片を刺してしまい】、ゲーム画面が【④かたまって】息子に大目玉を食らったのはそれから1年後のお話。(後日ちゃんと買い換えました。)


(完)
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No.74[「マクガフィン」]06月25日 22:42未回答

『芸術とは、最も美しい嘘のことである。』

回答はまだです。 [良い質問]

No.75[「マクガフィン」]06月25日 22:4206月26日 00:15

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『彼女と二人でお化け屋敷を訪れた男。
怖がりの男は薄暗い通路を彼女の後ろに隠れて進む。
そんな彼が、恨めしげな声とともに飛び出してきた幽霊役のスタッフを見て安堵したのは何故だろうか?

出題者:中吉』
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〈参加します!どうして安心したんだろう?〉
〈参加させていただきます。中吉さん、いつもありがとうございます。〉
〈いっただっきま〜す☆〉
〈あ、その挨拶は向日葵さん!ということは・・・〉
〈「☆男の浮気相手はそのお化け屋敷で働いていましたか?☆」・・・「YES!![良い質問]」〉
〈あ〜なるほど!さすが向日葵さん、一足飛びに核心に迫る!〉
〈フィアールさん、どうも〜 それじゃ後はお願いします☆〉
〈え?そこ当てといて正解出していかないんですか?ちょっと向日葵さん〜!〉


パタン
愛用のノートパソコンを音を立てて閉じた彼女は、いつもより少しだけ上機嫌な様子で鼻歌を歌う。今日の一曲目は先月公開された映画の主題歌。そして歌っているのはあの…
「……ぐっ」
回転椅子に体重を預けて右向きに180度。目に飛び込んできたのはくたびれたスーツに身を包んだ中年の男性だった。眉間に寄せられた、時代劇の将軍を思わせる皺は、彼女への非難を露わにしている。
「先生、随分ご機嫌なようだね。この間の館長から依頼された絵画、そろそろ仕上がりが見えてきた頃だろうか。」
彼女は黙って俯くと、わずかに首を横に振る。それを見て大袈裟なため息をつく男、坂上は、彼女の支援者、すなわちパトロンなのであった。数年前に彼女の描く伸び伸びとした絵に惚れ込んだ彼は、今や彼女の仕事のほとんどを取り付けてくれる、なくてはならない存在だった。
しかし………

「す、すみません……」
消え入りそうな声でそう呟く彼女は、ここのところ新しい絵を全く描けていない。最近になってようやくこのアトリエ近くに引っ越し、朝から晩まで製作に励めるようになったというのに、彼女の鉛筆も、絵筆も、容易にその先端を走らせようとはしない。
「ともかく、納入の期日までには頼んだよ。先生の繊細なタッチを待ち望んでいる人がいることを忘れないでくれ。」
呆れたように背を向け、仕事場を後にする坂上も、そろそろ私に愛想を尽かしてしまうかもしれない。そう考えるたびに彼女を襲う言いようのない不安は、どうしようもなく胸に留まっていた。


〈いや〜向日葵さんすごい!最近あまりお見かけしないけど、頭の回転は相変わらず速すぎ!〉
〈あの独特なキャラクターも印象的ですよね。想像の中では星がトレードマークのアイドルといったところです。〉
〈確かに!リアルのご本人がどんな方なのかも気になっちゃいます。〉
〈オフ会とか開いたら来てくれるんでしょうか?〉
チャットで交わされる向日葵談義を他人事であるかのように流し読んでいた彼女は、ふと新着ミニメールの通知に気づいた。

『突然失礼いたします。中吉でございます。先日は問題へのご参加ありがとうございました。
ご連絡させていただきましたのは他でもなく、近頃向日葵さんが以前よりウミガメから離れていらっしゃるようで、お仕事等お忙しいのかなとの心配からなのでございます。赤の他人がこのようなことを申し上げるのもおかしな話ではありますが、もしご無理をなさっているようでしたら、ぜひご自身の心身の健康を第一になさってください。
失礼いたしました。』

一瞬、ほのかな温もりが彼女の身体を通り抜けたような感覚が訪れた。けれどもそれはきっと社交辞令の生んだ錯覚に過ぎないのだろうと、むしろ自身に言い聞かせながらキーボードに指を走らせる。

『ミニメールありがとうございます☆
中吉さん鋭い!ここのところ仕事が忙しくって〜
心配かけちゃってごめんなさーい☆ すぐに戻ってくるから安心してね☆』

きちんと返信できたか確認していると、コンコンというノック音がして、坂上が大股で近づいてくるのが見えた。しかめっ面の彼の後ろでは、彼女と同じくらいに歳を重ねたであろう一人の男性が、優しげな微笑を携えて佇んでいた。
「こいつは今日から先生のアシスタントとしてここで働く石川だ。先生は行き詰まっているようだし、少しでも刺激になればと思ってな。期日もそれほど余裕があるわけでもないし、他の人でもできるような仕事ならどんどん任せてやってくれ。」
それじゃ、片手を上げてドアの向こうに消えた坂上と、困惑の表情を浮かべて目を瞬かせる彼女とを交互に見つめた石川は、やがて女流画家に向き直って小さく頭を下げた。
「石川です。先生の風景画大好きです。これからよろしくお願いします。」
彼の涼しげな顔を一瞥もせずに、はい、とだけ言って背を向ける彼女は、不機嫌なわけでも照れているわけでもない。元来人付き合いが苦手な彼女が気負わずに話せるのは、家族と坂上くらいのものだろう。不思議そうに顔を覗き込んでくる石川を横目に、これだからリアルで人と会いたくないんだと密やかにため息をついた。

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構図のイメージが湧かない。色の選択ができない。描きたいものが見つからない。いわゆるスランプと呼ばれる鎖が、少しずつ、だが着実に彼女を締め付け蝕んでいる。スケッチブックを手に取ろうが、そもそもどんな風景を描写したいかが定まらないことには外に出かけようもない。試しに筆をとっても納得のいかない駄作ばかりが生まれ、その日も進捗がないままアトリエの机に突っ伏した。
パソコンからよく見慣れたサイトを開けば、中吉から再びメールが届いていた。

『返信ありがとうございます。
勝手ながら、向日葵さんは色んなことをお一人で抱え込んでしまう節があるように思いますので、吐き出したい愚痴や聞いて欲しい悩みなどありましたらぜひお気軽におっしゃっていただければと思います。』

この胸の中の泥濘をさらけ出したとしたら、果たして名前も知らぬその人は耳を傾けてくれるのだろうか。そんなことをぼんやりと思案しているうちに、彼女の瞼は重みを増していった。

ふと気づけば彼女は、見慣れたアトリエを目の前にして、その建物を見上げるかのように立ち尽くしていた。心なしか皺が少なく見える坂上に招かれるようにして中に入ると、真新しく整頓された内装に既視感を覚える。だが何故だか右手に握られている絵筆と、既に準備の整った白の広がりを前にして、彼女は些細な疑問など忘れて絵を描き始めた。
楽しい。どんどんアイデアが溢れてくる。このまま心の赴くままに、野を越え山を越えどこまでも、絵と共に歩いて行けるに違いない・・・

ガラガラガラ
突如耳をつんざく轟音が響き渡る。見れば描いたはずの空も、川も、何もかもが音を立てて崩れていた。絵筆は折れ、パレットナイフは砕け、その破片がもはや何を描いたかもわからないどす黒いキャンバスに突き刺さる。絵の中から溢れ出した黒が、ただどこまでも続く闇だけが全てを飲み込んでいく。③
お願い、やめて、私の絵を奪わないで・・・



………ぃ、
……せい、
せんせい、
「先生!」
はっと我に返ってあたりを見渡せば、慣れ親しんだアトリエの机上だった。荒い呼吸を抑えようとして胸に手を当てれば、いつかいたとも知れない汗でぐっしょりと濡れていた。
大丈夫ですかと心配そうな顔を向けてくる石川に、ぼそぼそと感謝を伝えながらも、彼女の頭は夢で見たかつての彼女自身でいっぱいだった。私の描く絵が崩れ始めたきっかけは、今の私が無くしてしまったものは一体何なのだろう。それが思い出せないことには、ただひたすらに遠くを目指し、どこまでも歩いて行けると信じていたあの頃に帰ることはできないのだろうと、彼女はうつむくしかなかった。⑩⑦⑨

ふと昨晩受け取ったメールの返事がまだだったことを思い出し、ノートパソコンを開く。夢の残滓がまだ少し心にくすぶっていて、そのわずかな動作すらいつもより億劫だった。
だがもう一度メールを読み返そうとサイトを開いた彼女は、新たに中吉からのメッセージが届いていることに気づいた。返信が遅いことで苛立たせてしまっただろうかと訝りながらメールを開けば、
『以前からお聞きしたいと思っていたのですが、向日葵さんってどんなお仕事なさっているんでしょう?全く想像できなくて・・・
不躾ですみません、お気を悪くされましたら無視してください。』
と、確かに見ず知らずの相手に答えるにはやや抵抗のある疑問が添えられていた。
彼女自身も今まで何度か質問され、その度に「秘密☆」などとはぐらかしている。しかしその日の彼女はどこか精神薄弱に陥っているようで、この人ならば私に巣食う霧を、少しは晴らしてくれるのではと、そう期待してもいた。

目覚めの頭の重さもそのままに、キーボードに指を走らせる。
『ご心配ありがとうございます☆
私、向日葵は、絵を描くお仕事をやってるんです〜☆ でも最近なかなかいい絵が描けなくって…… なんて中吉さんに愚痴ってもしょうがないですよね!頑張って描きあげたいな☆』

返信への返信はすぐに届いた。
『そうだったんですか!驚きです。
実は僕も絵画は好きでして、美術館に足を運ぶこともあるんです。自分でも描いてみようかと思ったことはあるんですが、写実的なのはどうにも苦手で……
かといって適当に色を並べたところで抽象画っぽくもなりませんし。一見勢いに任せたように見える絵も、やっぱり計算されたものなのでしょうか?』

『中吉さんもお好きでしたか☆
そうそう、乱雑に見えて色の配置とか一つ一つの色の濃さなんかも勉強するんですよ☆ その絵の第一印象を決めるって意味では、まっさらな紙の上でどの色がどのくらいの面積を占めるのかもとっても大事なんです☆
私は風景画がメインなんだけどねっ☆』②

『そうでしたか、いやこれは勉強になりますね。
しかし、正直意外でした。向日葵さんが絵描きさんでいらっしゃることよりも、お仕事のことで悩んでらっしゃるということが、です。こういっては何ですが、そういうご様子は全然感じられなかったもので。いつも元気いっぱい明るく振る舞ってらっしゃって、立ち止まったりしない方なのかなと勝手に思っておりました。』


彼女はふっと小さく息を吐いた。痛いところを突かれた気がした。どう答えようかと迷っていると、ノックと共に仕事場の扉が開き、石川が顔を覗かせる。知られて困ることでもないのだが、咄嗟にパソコンを閉じて脇へどかし、ポーズだけ鉛筆を握ってみせた。

「先生、お疲れ様です。」
そう声をかけてくる石川と目が合わないように、何を見るでもなしに窓の外へと視線を向ける。彼のことは嫌いではないが、やはり一対一の会話は緊張してしまいそうで、なるべく避けたいところだった。
「先生、あまり無理をしすぎないでくださいね。別に仕事が全てじゃないんですから。お手伝いできることがあればいつでも言ってください。」
何だか中吉さんのようなことを言う人だなと思いながらも、彼女は二度三度と首を縦に振って応じる。何か言うべきなのかも知れないと感じてはいるが、できればこのまま彼が出ていくのを待ちたかった。

しかしその内なる願いも叶わず、彼は再び問いかけた。
「そろそろお昼時ですし、一緒にご飯でもどうですか?」
ビクッと彼女の肩が跳ね上がる。石川の方へと勢いよく体を向けたはいいものの、開いた口から意味のある言葉は漏れ出てこない。
「あの、えっと、その、わ、私は、」
頭が真っ白になって一瞬思考が停止する。今度こそ何か答えなくてはいけない。だが、何と言えばいい? 彼と外食しに行くなんて、自分から恥を晒しに行くようなものだ。話題もなく続く気まずい沈黙は遠慮したい。しかしどう断ればいいのだろうか。ただ一言だけでは私が彼を嫌っていると思われてしまうかも知れない。せっかく声をかけてくれたのだし、無理してでも行った方が……… うん、そうだ。そうしよう。アシスタントさんとくらいは仲良くなっておいた方が………

「えっと、そそ、それじゃ、」
彼女が意を決して小さく声を上げたとき、石川は困ったように笑ってそれをさえぎった。
「ああ、すみません。いきなりよく知らないやつとご飯って、やりづらいですよね。気配りもなくお誘いしてしまって申し訳ないです。」
それでは、と一礼して遠ざかる背中に、違うんだと声をかけたかった。気を遣ってくれたのだと思えば思うほど、自分の不甲斐なさに嫌気が差した。


そのもどかしく、やるせない思いを、気づけばメールに込めていた。喉元の自己嫌悪が、じわりじわりと呼吸を辛くする。
『中吉さん、すみません。
リアルの方の私は、こんなに明るくもなければ、快活なわけでもないんです。むしろ人より何倍も口下手で、誰かと話そうとしても緊張して言葉に詰まってしまうんです。
でも、顔の見えないネット上なら、いくらでも取り繕えるから。本当はこんな風に元気に振る舞いたいんだという密かな願望を叶えるために、意図してキャラを演じていました。
失望されてしまうかも知れませんが、向日葵は偽者です。すみませんでした。』

指を動かしながら、不覚にも目の奥で何か湿ったものが、その存在感を増すのを感じた。うまくいかない自分に失望しているのは、むしろ彼女自身なのかも知れない。

滲む視界を受け入れまいとする彼女に、中吉からの返信はすぐさま届いた。
『そうでしたか。包み隠さず打ち明けてくださってありがとうございます。
しかし謝るなんてとんでもない。対面したときと違うからどうしたというのですか。常に誰に対しても同じ言葉、同じ態度で接する人なんていません。リアルの向日葵さんも、このサイトでの向日葵さんも、どちらも偽りなくあなた自身です。その二つが合わさって、ようやく本当のあなたになるのだと思います。かく言う僕だって、向日葵さんが抱かれているイメージとはまるで違うかも知れませんし。
余計なことだとお思いになるかも知れませんが、やはり向日葵さん、疲れていらっしゃるように感じます。お仕事に没頭されるのも良いですが、上手くいかないからとご自身を責めすぎては悪循環ではないでしょうか。今は無理だなと思ったら、一度お仕事から離れてみてはと思います。差し出がましいようですが、くれぐれもお大事になさってください。』⑧

そのとき、「先生、入るぞ。」と声がして、坂上がアトリエに姿を見せた。相変わらず何を考えているかわからない仏頂面をポリポリと掻きながら、彼女に問いかける。
「どうだい、進捗の方は。下書きくらい決まってきたかい。」
「少しだけ……です。」
彼女はそう言って向かいの机に置かれた紙の束を指差す。そこには何枚かのスケッチが重ねられており、色が灯されるのを待っているようだった。

「そうか、それは良かった。」
坂上はぶっきらぼうに言い捨て、あっさり彼女に背を向ける。ドアノブに手を掛けたまま、彼は低い声でつぶやいた。
「あまり根を詰めすぎるんじゃないぞ。一つの依頼が全てじゃない。」
そうは言っても、と心の中で囁きながら、彼女は中吉への返事を書いた。

『ありがとうございます。そう言っていただけると気持ちが楽になった気がします。
悪循環とのご指摘も、確かにその通りだと思います。ですが実は、この中吉さんとのやりとりに力をもらっている自分がいて、もしこれからもお話ししていただけるのでしたら、何とかやっていけるような気がしています。
もう少し頑張ってみようと思います。本当にありがとうございます。』
メールを送信した後の彼女の眼には、微かながらも光が宿っているように見えた。


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それからの数週間、彼女は依頼作品を何とか仕上げようと没頭した。相変わらずインスピレーションが湧くことはなく、かろうじて一点ばかり形にしたのみで、迫りくる期日に彼女は焦りを露わにしていた。そんな中でも中吉とのメールだけは欠かすことなく続け、そのねぎらいの言葉が彼女のモチベーションになっていた。
『楽しく描けていた頃を思い出せばきっと上手く行きますよ。』
『行き詰まったら一度深呼吸してみてください。無理に続けようとするよりも、断然集中できるはずです。』
そんな心のこもった励ましに、何度救われたことだろうか。

今日こそはと息巻く彼女のもとに、ある日中吉から予想だにしないメールが届いた。
『お仕事も精力的になさっていらっしゃるようで何よりです。
ところで、と言いますか、一つご提案という形になるのですが、ぜひ一度直接お会いできないでしょうか? 突然何だと思われるかも知れませんが、こうしてお話ししているうちに、私まで力をもらえている気がします。
もしよろしければ、向日葵さんのお仕事が一段落した後で、オフ会、してみませんか?』

思いも寄らない誘いだった。そしてその提案は、中吉とのやりとりを心の支えにしている彼女にとって、心底悩ましいものだった。こうして本音を話し、楽しい時間を過ごせているのも、インターネットという媒体のおかげかも知れない。面と向かって話そうとすれば、きっと私は満足に挨拶もできないだろう。呆れられ、静かに距離を置かれてしまうかもしれない。
だが、と彼女は考える。そうやって私は何もかもから逃げてきたのかも知れない。失う恐怖に怯え、なら初めから関わらなければいいと自分で殻に閉じこもった。変わらなくては、と胸の奥深くに言い聞かせる。そしてそれに気づかせてくれたあの人に、小さな声でも、途切れながらでも、真っ直ぐ目をみて感謝を伝えたい。そんな思いから、彼女は力強くキーボードを叩く。

『ありがとうございます。私もぜひ中吉さんにお会いしたいです。
オフ会ができる日を目標に、何としてでも今回頼まれた絵を完成させたいと思います。いいご報告ができるように全力で頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。』


『こちらこそよろしくお願いします!
よかった…… お仕事頑張ってください。決してご無理だけはなさらぬよう。
お会いできる日がより楽しみになるように、私から一つ出題させてください。

「紙にインクが零れたことで、とけなかったものがとけるようになりました。
さて、どういうことでしょう?」

質問や解答はオフ会までお預けです。向日葵さんと直接ウミガメができる日を心待ちにしております。』

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明確な目標ができた彼女は、その日から一段と製作にいそしんだ。寸暇も惜しんで鉛筆を握り、頭に思い浮かんだ光景をさらさらと描き出していく。木々も、海も、夕焼けも、彼女の手の中で生まれては消え、描かれては破り捨てられた。
気分転換には中吉が提示した問題がちょうどよかった。質問せずに正解したら、驚かれ、称賛されるだろうか?そんなことを妄想しながら文章をなぞってみても、やはりそれだけでは解けるはずもなかった。
中吉の言葉を胸にアトリエで一人戦い続けた甲斐もあり、下書きは続々と決まり始めた。すでに締め切りは来月に迫っていたが、このペースならば何とか…… 疲れで重たくなった頭で、彼女はそう考えていた。

しかし、スランプというものはフィクションほど簡単に抜け出せるものではなくて、彼女自身も薄々それに気づいてはいたのだ。だが絶対に依頼を達成して中吉に会わねばという思いが、その感覚に蓋をしていた。

それは、彩色を始めた彼女に石川が飲み物を差し入れたときだった。そっけない彼女にも柔らかい物腰で接する彼の姿が、ふと支えてくれている中吉の面影と重なり、まさかねと思いながら口を開いてみた。
「い、石川くん?」
話しかけられるなんて、珍しいこともあるものだとでも言いたげな眼差しをこちらに寄越しながら、どうしました、と彼は応える。
「う、ウミガメのスープって知ってる?」
「さあ、わかりません。どこかの人気メニューですか?」

いや、そうじゃなくて………でもあながち間違ってもいないか、とまごつきながらも彼女は一部始終を石川に話した。謎解きサイトのこと、中吉のこと、オフ会を楽しみに今頑張っているのだということ。
もしも彼女が相手の目を見て話すことができていたら、彼の表情がしだいに険しくなっていくことに気づけたかもしれない。

「先生、」
思わず声が出てしまった、というように石川は彼女の言葉をさえぎった。普段の優しげな微笑は影をひそめ、力を抜いた無表情はやけに不気味だった。
「先生は、そんなことのために絵を描くんですか。」
すっと身体の芯が冷えたような気がした。
「先生は絵を描くのが楽しくないんですか。無理に自分を追い込んで、どうにかこうにか搾り出した絵を、自分の作品だと言って依頼主に渡すんですか。」
彼はそこで一度目をつむり、どこか痛みを我慢しているような自嘲的な笑みを彼女に向けた。
「今の先生の絵、僕はあまり好きじゃないです。以前の跳ねるような伸びやかさと比べてしまう僕が悪いんですかね。」

声が出なかった。頭を殴られて目が覚めたような、むしろさらに深く沈んでいくような、言いようのない苦しさが足元から湧き起こっていた。本当はやりたくないことに立ち向かう感覚に酔っていただけなのだと、結局自分を曲げて仕事をこなしているだけなのだと、そう指摘された気がした。

失礼します、と仕事場を後にしようとした石川はふと足を止め、背を向けたまま低く言い放った。
「『あいつもそろそろやめ時かもな。』坂上さん、この間そう言ってましたよ。
先生も今のままではやっていけないことくらい、わかってますよね。」
遠ざかっていく足音をかすかに聞きながら、彼女は何もかもが真っ暗になってしまうような、抜け出せない感覚に襲われていた。




何分、いや何十分だろうか。失意のままに放心し、壁の絵を眺めていた彼女の耳に、荒っぽいノックの音が響いた。坂上の無愛想な顔が覗き、どうした、と声をかけられる。
「どうした、先生、ぼうっとして。最近筆が進んでいただろ。」
潤んだ瞳を見られたくなくて、彼女は力なくうつむく。
「・・・ちょっと、休んでるだけです。気にしないでください。」
「ん、そうか?先生、最近張り切りすぎていたからな。もし無理そうだと思ったら、今回の仕事はキャンセルしてもいいからな。」

その言葉を耳にして、先刻の石川の声が蘇る。
『あいつもそろそろやめ時かもな』
はっとして坂上の顔を見上げると、心なしかその無表情には諦めの色が浮かんでいるように感じられた。私はもう何も期待されていないのではないか、彼女の中でそんな悲観的な疑念が頭をもたげた。

「だ、大丈夫ですっ、」
思わず口走っていた。この仕事を断れば、坂上は私を完全に見限ってしまう。強い焦りが彼女に強がった笑顔を浮かべさせた。
「キャンセルなんてしません。ちゃんと期日までに仕上げます。やらせてください、お願いします。」





アトリエの中央で、彼女は一人うずくまっていた。心は今にも千切れそうで、ただどうしようもなく苦しかった。
そうか、といぶかしげな様子で部屋を後にする坂上が視界から外れると、抑えられなくなった涙がじんわりと彼女の頬を濡らした。全てをなげうってどこかへ逃げてしまえたらどんなに楽だろうかと、できもしないことを思い描いては空しくため息を漏らした。

日没前にも関わらず暗幕を下ろしたこの部屋では、人工灯のかすかな光だけが彼女の青ざめた頬を無機質に照らしていた。描かなくてはいけないのに、描けない。描きたくない。ぐしゃぐしゃになったこの心の内は、一人で抱え込むには重すぎて、無意識にメールを送っていた。

『中吉さん、助けてください。もう駄目です。』

止められなかった。読んだ相手がどう思うか、なんて構っていられなかった。

『もう描けないんです。今のまま描き続けても、誰一人納得のいかない作品しかできない。
本当は全部投げ出して、何も考えずに描きたいものだけ描いていたい。心の赴くままに描きたいんです。でも、私は描かなくちゃいけない。支援してくれている方に愛想を尽かされたら、私はもう絵を描くことすらままならないから。
これでは中吉さん、あなたに会いにいくこともできません。私はどうすればいいんでしょう……』

涙で曇る視界を晴らそうと無理に目を擦り、再び画面を見上げれば、早くも中吉からの返信が届いていた。張り裂けそうな胸を少しでも鎮めるべく、そこに記されたメッセージを読んで………


バタン

突然扉が開き、坂上が仕事場に入ってきた。
「何度もすまんな、この部屋に置いておかにゃならんものがあってな。」
そういう彼の両腕には、確かに大きめの段ボールが乗せられている。どこに置こうかと首を巡らしたのち歩き出した坂上を、彼女は自然と目で追っていた。
「よし、ここでいいかな。」
そう言って胸の高さほどの台に勢いよく箱を下ろした。ドシンと大きな音がして、台がぐらぐら揺れる。

と、製作に使うかもと用意された様々な道具が所狭しと並べられたその台の上で、一際大きく揺れている瓶が彼女の目に留まった。しかもあそこは台の端、あと少しで落下する・・・
そのとき、坂上がこれでよし、と段ボール箱を奥にぐいと押した。その箱の角がわずかに当たり、ガラス瓶が宙を舞い……

「あっ」
思わず声を上げていた。しかし坂上は瓶の落下にも彼女の悲鳴にも気づかなかったようで、素知らぬ顔でアトリエを後にする。咄嗟のことに体が動かなかった彼女は、パソコンを前に立ち尽くしていた。

彼がいなくなってからようやく身体の硬直が解け、恐る恐る瓶の方へと向かう。落下した一瞬視界の隅に映った黒い物。思い違いでなければ確かあの瓶は………
「あっ」
またしても彼女は息を呑んだ。信じたくないと一度は捨てた仮説が、目の前で現実のものとなり、そのことに言葉を失っていた。

結論から言えば、ガラスの瓶は割れていなかった。その落下地点には、大量の紙が積み上げられていたから。彼女がこの数週間書き溜めた下書きの山がクッションとなって、アトリエの床にガラス片が飛び散ることはなかった。
しかし、その下書きは、依頼を遂行するための頼みの綱は、倒れた瓶から溢れるインクで、真っ黒に染まっていた。

下書きが修復不能なのは誰が見ても明らかだった。ただでさえ良い絵が書けないと悩んでいる彼女が、これから期日に間に合わせるのは不可能で、その事実は誰に指摘されるでもなく、すとんと静かに胸に落ちた。
ふふふ、と何故だか笑いがこみ上げてきて、彼女は久方ぶりに声を上げて笑った。
「はは、はははっ………」
悩んでいたことの選択肢を奪われたことがそんなにおかしいのか、その乾いた笑いはしばらく続いて、止まらなかった。

行動とは裏腹にやけに明瞭な意識で、彼女は中吉から送られてきたメールをひとり反芻していた。

『あなたが自分に正直であることを、きっと誰もが望んでいます。
あなたは今よりももっと、周りを信じてみてください。』

ふと気づけば、涙が頬を伝っていた。それは今まで流したどれよりも温かく、どれよりも甘い涙だった。彼女は決して声をあげず、ただ胸につかえていた何かを押し流すように静かに涙した。いつかの黒に染まった悪夢を思い出し、あれは同時に救いであったのかもしれないと独りごちる。
インク瓶からとめどなくこぼれ落ちる黒が、傷口から滴り落ちる血に見えて、この深い傷を癒すためならばと、彼女はその横に仰臥した。


その眼はもう揺れていなかった。

[編集済]

No.76[「マクガフィン」]06月25日 22:4306月26日 00:15


横から潮風がさっと吹き抜けて、整えられた長い髪を揺らす。つんと鼻腔を刺激する磯の香りに誘われたような気がして、彼女はふと眼下の水平線を仰ぎ見た。

中吉に指定されたのは、とある海岸沿いのレストランだった。さすがにウミガメのスープが人気とはいかないが、見るからにお洒落な雰囲気が外観からも感じられて、彼女は少し気後れしていた。
早く着きすぎたかなと腕時計を眺める彼女に、「よう、」と後ろから声がかけられる。親しげな響きに驚いて振り向くと、至極見慣れた仏頂面がそこにはあった。

「先生、顔色もすっかり良くなったみたいで安心したよ。」
坂上だった。よそ行きらしい硬い衣装に身を包んだ彼は、どこか照れ臭そうに鼻の頭をかいている。
「さ、坂上さん!?」
ようやくあげた第一声を誤魔化すように、彼女は深々と頭を下げた。
「坂上さん、この前の仕事はすみませんでした。
期日ギリギリになってお断りしてしまって……」

すると坂上は、きまり悪そうに目を逸らすと、口調だけはどうにかパトロンの威厳を保って応えた。
「いや、いいんだいいんだ。むしろキッパリ決断してくれてよかった。あのまま続けたところでどうしようもなかったしな。」

あの後、坂上に仕事のキャンセルを伝えに行くと、彼はどこかほっとしたような顔をしていた。その口から発せられた「お疲れ様」の意味を彼女はどうにも計りかねていて、だから今日こうして出くわしてしまったことに、わずかばかりの恐れを感じてもいた。
ところで、と彼女は顔を上げて問いかける。
「坂上さんは、今日はどうしてこんなところに?どなたかと待ち合わせですか?」

「まあ、そうだな。でももう来ているみたいだ。」
彼の口角がかすかに上がったように見えた。訝しげな顔を向ける彼女に、今度は坂上が問いかける。
「それより先生、俺に何か訊きたいことがあるんじゃないのか?」
意味がわからずなおも首を傾げる彼女に、おいおい、と楽しげに声をかけた。
「おいおい、まさか先生、出題者への質問もなしに、いきなり正解を出すつもりじゃないだろうな?」

ふっ、と小さく息を呑む。思考が停止していた。そんな、まさか。ありえない、だって……

「紙にインクが零れたことで、何が起きたんだ?『とけなかったもの』ってのは、一体なんなんだ?」
ああ、と言葉にならないため息が海辺の空気に溶けていく。本当に、そうだったんだ。あんなにも力をくれた人は、ずっとすぐ近くにいたんだ。
ちぐはぐな意識で彼からの問いかけを繰り返す。
『紙』、『インク』、そして『とける』……!?

頭の中で何かが弾けた。それはあのときのインクのように勢いよく広がって、彼女に他の考えを起こさせなかった。あまりにも衝撃的なその答えを、彼女は恐る恐る口にする。①

「………下書きにインクが零れて仕事に諦めがついたことで、中吉さんと会えるようになり、彼から出されていた問題が解けるようになった、ですか?」

黙って聞いていた坂上は、その瞬間、にかっと大きく口を開けて相好を崩した。
「その通りだよ。さすが、向日葵の名は伊達じゃないな。」

信じられない思いをどうにかこうにか言葉にまとめて、彼女は問いかける。
「でも、どうして…… 中吉さんの励ましも、零れたインクも、まさか全部坂上さんが仕組んで……」
「仕組んだってほどじゃない。」
かぶりを振って目を逸らす坂上は、どこか恥ずかしそうにうつむいて、笑いまじりに言った。
「最初は少しでも先生が落ち着いて取り組めればと思ってたんだよ。もともと問題の答えも違ったしな。」
遮るものもなく降り注ぐ日差しが、彼の額の皺を照らしている。
「でもあの日、先生は限界だった。発破かけて焚きつけて、そんな無理を強いるだけじゃ、どのみちうまくはいかなかったんだろうな。
先生からのメールを見て、どうしようかと思ったよ。そのときあの問題を思い出して、一旦何もかも塗り潰してしまおうと思ったんだ。」

広がっていく黒を見て、不思議と心が軽くなったのを思い出す。不意にまたあのときの感情が押し寄せてきて、情けない姿は見せまいと歯を食いしばる。

「荒療治で悪かったな。やめ時ってのは、ここらで一旦休み時って意味だぜ?
先生も何か誤解しているようだったし、ああでもしないと先生、壊れるんじゃないかと思っちまった。」
今度こそ抗いようもなくて、彼女はたまらず目元をぬぐった。何も言えずにいる彼女の眼を、坂上は真っ直ぐ見つめて言葉を紡ぐ。

「俺が先生に愛想を尽かすはずがないだろう。これからも、よろしくな。」

普段の無愛想な彼からはとても考えられないほどに、どこまでも包み込む自然な笑顔だった。

二人の間を潮風がさっと吹き抜けて、頭上の木々がさらさらと揺れた。

[編集済]

No.77[「マクガフィン」]06月25日 22:4306月26日 00:15



薄暗い部屋の中で、一人の男がテレビを点けた。テンポの良いBGMに被さるように笑い声が響き、対峙する二人の女性が映し出される。男はなおも立ち尽くしたままだった。

『………というように、画家としてのスランプを乗り越えてこられたわけですが、一体どのようにして立ち直られたのでしょう?』

上品な仕草で問いかけるアナウンサーに見つめられた女性は、はい、と口を開く。

『私はもともと話すのがすごく苦手で、だからできるだけ人を避けていたんです。でも、そうして自分という存在を狭い世界に閉じ込めていたら、いつのまにか何も見えなくなっていました。』
そこで一度目を閉じたその女性は、再び瞼に力を入れる。
『ある人が気づかせてくれました。どこまでも自分を追い詰めたところで、得られるものなんてたかが知れているんだと。ごく普通に外に出て、人と触れ合い、笑い合い、助け合う。そんなあたりまえみたいな何気ない日々が、あの頃の私には何よりも必要なものだったんです。』⑤

その話を聞いていたインタビュアーは大きく頷き、なるほど、と口にする。
『それから広く世界に目を向けるようになって、次々と傑作を生み出すようになられたわけですね。まさに雨降って地固まるといったところでしょうか。』④⑥
ありがとうございました、と頭を下げてから、一転カメラに向き直る。
『ということで本日のゲストは、今話題の女性画家、—————さんでした!
それでは続いてのコーナーは………』

プツン

リモコンを置いた男は、部屋の隅のパソコンを立ち上げる。どこか見覚えのあるページを開くと、【問題を投稿】と書かれたボタンを押す。

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『ある女性画家が描く絵は多くの人々を惹きつけ、男もその美しさに魅せられた一人だった。
彼女は男に頼まれた通りに何枚もの素晴らしい絵を描いたが、男は一度としてそれらの絵を買うことはなかった。

一体何故?』
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〈参加させてください。なんと女流画家の問題できましたか。〉
〈参加します!まさに今話題!時事ネタですね〜〉
〈参加です!よし、解くぞ〜!〉

次々と増える発言の中にそれを見つけた男は、にやりと微かに微笑んだ。


〈いっただっきま〜す☆〉

[編集済]

No.78[「マクガフィン」]06月25日 22:4306月26日 00:15

【簡易解説】
ネット上でウミガメのスープを嗜む彼女は、ある男から直接会って問題を解こうとスープを見せられる。スランプ真っ只中の画家である彼女はなんとか仕事をこなして彼に会おうと躍起になるが、上手くいかない。
しかし彼女の絵の下書きにインクが零れ、依頼達成が不可能になったことで諦めがつき、彼に会って問題を解くことができた。

※注 解説中では質問することなく正解を導き出しているが、ウミガメのスープの性質上本来は質疑応答が必須のため、彼と会えるようになったことが解けなかった問題を解くファクターであったと言える。

【Fin】
[編集済]

No.79[シチテンバットー]06月25日 23:14未回答

タイトル「6月21日のLTW興行」

回答はまだです。 [良い質問]

No.80[シチテンバットー]06月25日 23:1506月26日 00:15

【簡易解説】
プロレスの試合中、相手から関節技をガッチリと決められてしまう。
自力で解いて脱出することは極めて困難であったが、毒霧として使うつもりで口に含んでいたインクを持っていた紙に零し、それを相手の顔に押し付けることで解かせることに成功した。

【以下簡易でない解説】
「さあLTW特別興行『June Brawl~ブーケより勝利が欲しい~』も残すところ一戦のみとなりました。崇風運動ホールに集まった570人の観客の皆さんも、メインイベントに向けて盛り上がっています!引き続き実況は海見戸蘭、解説は元丸々井レスリング世界王者である78バテオさんにお越しいただいております。バテオさん引き続きよろしくお願いします」
『こんばんは、よろしくお願いします』
「さてバテオさん、本日の興行非常に白熱してますね」
『ええ。LTW女子王座戦に始まり、LTWタッグ王座戦やLTWサイタマ王座戦、玖丈ケン選手のデビュー戦など、どれも非常に熱く盛り上がりました。何と言っても第2試合のマーク・ゴールドアイ選手のLTW復帰戦。いやあ彼の雄姿を再びこのリングで見れたことが本当に嬉しいですね』
「そうですね。マーク・ゴールドアイ選手、17年前にLTWでデビューしてから間もなくパワフルなファイトスタイルと自身の金髪から”ゴールドマッチョガイ”と呼ばれるようになり、そこから世界各国に名を知られるようになるまであっという間でした。12年前にLTWから丸々井レスリングへ移籍してからもそのスタイルと愛称は変わらず、丸々井世界王座を5度、丸々井EastAmerica王座と丸々井WestAmerica王座をそれぞれ3度、丸々井世界タッグ王座を2度獲得と、それはもう素晴らしい活躍を残しました。しかし41歳にして『キャリアを築き上げるだけでなくまとめる時が来た』と契約を更新せずに退団。丸々井レスリングが彼の退団を公式で発表した直後に、彼本人がLTW参戦をツイートで表明しました」
『はい。しかし競争が非常に激しい丸々井において長らく素晴らしい活躍をし続けてきた、もうそのこと自体が素晴らしいことなんですけどね』
「まさにその通りです。そして先月行われた記者会見で改めてLTW復帰を発表。そこに現れたのは、かつてゴールドアイ選手とタッグを組みLTWタッグ王座の長期政権を築き上げた島井智也選手。『お前がLTWに所属してた時のライバルは大体移籍したか引退しているか、そうでなくても当時と比べてもだいぶ衰えてしまっている。お前の復帰戦を最高の試合に出来るのは、2人で”Wings of Liberty”という1つのタッグを組んでいた⑧俺しかいない』と対戦を要求。それを受けて今日の特別興行で復帰することを発表、その上で了承しました」
『前々から熱戦が予想されてましたが、それを遥かに上回る素晴らしい試合でした』
「ええ、最後は必殺のジャーマンスープレックスホールドで勝利。試合後二人は検討を称えてがっしりと握手。観客席からは拍手が沸き起こりました。すると鋼拳骨選手がリングに現れゴールドアイ選手との対戦を要求しました」
『第1試合で丸山大樹選手に勝利を挙げていましたが、個人的には納得の行く試合展開に出来なかったと話してましたね』
「はい。自身のステップアップのためとも語っていました」
『朝原義人選手に負けてLTW世界王者から陥落して以降不調が続いた鋼選手にとって、テクニックよりもフィジカルやパワー重視と鋼選手と似て勢いのある展開をするゴールドアイ選手の試合はは刺激的だったのでしょう』
「これに対してゴールドアイ選手は『悪いが今後何を目標にして誰と戦うかは何も決まってない』と前置きしながらも『機会があるならぜひ戦いたい』と回答。バテオさん、これは鋼選手とゴールドアイ選手のビックカード、期待してもよろしいのでしょうか?」
『まあ今はお互いがやりたいと言っただけですが、実現する日はそう遠くはないと思いますよ』
「実現すれば激戦必須の好カードに期待しましょう。そしてタッグ王座戦はデーモンコア・ブラザーズの初めての王座挑戦となりましたが、バテオさんいかがでしたでしょうか」
『ええ、まあ相手は半年に渡って王座を防衛し続けたボーイ・ミーツ・ファイトですからね。LTWに参戦して以来初めての大苦戦でしたでしょう。リング内でフラフラとよろめいてるカーラー選手なんか今まで見たことありませんでしたし』
「ええ。しかし最後はデーモンコア・ブラザーズが合体パワーボムで谷岡選手からフォールを奪って勝利、王座戴冠となりました」
『そういえば合体技でフォール奪ったのって今回が初めてでしたよね。中々衝撃的な技でしたね①』
「カーラー選手が相手を担いだメル選手を肩車してメル選手がパワーボム、ですからね。あれを自力で返せる人はまずいないでしょう」
『2人の身長を考えると、落差は3m以上あると思いますね』
「スタッフが聞いた話によりますと、あの技は”ビリオンカウント”と名付けられたそうです。3どころか10億カウントされても返せないという意味だとか」
『流石に10億カウントの内には返せるんじゃないんでしょうか』
「返せないとしたら、たぶん死んでるってことですね。さて当興行最後の試合ですが、こちらはとてつもない試合になりそうです」
『相手が相手ですからねえ』
「このカードが組まれるまでを振り返ってみましょう。一か月前の特別興行『Mayday in May Day~救難信号のメーデーってフランス語由来らしいね~』での世界王座戦にて王者朝原義人選手が安藤・ザ・ジャイアント選手を下した後に事件が起きました。試合後のマイクアピールを行っていたところ、突如音楽が流れました。そしてエントランスに現れたのは、なんとJAM選手!歴史に名を残す偉大なレスラーである祖父と父を持ち、自らもその肉体で数々の強敵を屠り続けている、”アルマゲドン”ことJAM!フルネームでジャーヴィス・アブドーラ・マイケルズ!フリーレスラーとして世界を嬲り尽くそうとするこの男が遂にLTWに目をつけてしまったのです!」
『いやー、これは本当に驚きましたよ。弱冠25歳にして生ける伝説、現役ヒールレスラーの頂点と見なす人もいますからね』
「客席から驚きの声が上がります。リング上の朝原選手も驚きを隠せません。クールで知られる彼のここまで動揺した姿を見るのは初めてです」
『私も初めてですよ。たぶん皆さん初めてなのではないのでしょうか』
「するとJAM選手が突如走り出しリングイン、その勢いのまま朝原選手に殴りかかりました!慌ててスタッフやレフェリーが引き離そうとしますが全く敵わず、逆にリングから放り出される始末。そのうち裏方のスタッフだけでなく控室にいたレスラーも朝原選手の救助に加わり、ようやく二人を引き離すことに成功。しかしJAM選手の暴走は全く収まりません。必死になだめようとするレスラーやスタッフを無差別に襲い掛かり、ある者は殴られ、ある者は叩きつけられ、ある者は蹴られ、ある者は宙を舞い・・・と、もう人間ではなく象やワニが暴れているかのような、そんな有様でした。こうなった時にはすでに朝原選手は脱出して避難していたんですよね?」
『ええ、しかしJAM選手の暴れっぷりがあまりにも激しくもう朝原選手のことを忘れて抑えにかかってましたよね』
「ええ、そして控室に戻った朝原選手の画像がありますが・・・ああこれは酷いですね。LTWでは度々ハードコアな試合を行うため出血などは珍しくありませんが、私たちでも見たことが無いほどの出血をしています」
『見てくださいよこの顔。そんなに長い時間じゃなかったのにズタボロで血まみれ・・・あ、逆に見ないほうがいいかもしれません』
「とうとう会場の警備員も登場し、結束バンドで後ろ手に縛られますが、なんとそれでも暴れ続けます。最終的には総動員で全身を縛り担架で運ぶことで何とかその場は治まりました」
『両手両足を封じられても噛みつこうとしたと言ってた人もいましたね』
「全てが終わった跡には、数多の呻いているレスラーやスタッフ、破壊された器具の数々、おびただしい血や傷跡・・・まさに地獄か何かというような光景が広がっていました」
『怪我人も多数出ましたからね。レスラーやスタッフ、警備員にも。レスラーや警備員は言わずもがな、スタッフもこういう事態のためにトレーニングを受けているのですがね』
「まして警備員は最低限ながら武器を所持していますからね」
『ええ、それを用いても止められないというJAM選手のタフネスさが光ります』
「はい。この事件によって複数名のレスラーが負傷欠場を余儀なくされました。普段は正直過疎状態であるツイッターのハッシュタグ”LTW”も荒れに荒れまくり、MASARU選手のアカウントが凍結される事態も発生しました。さらには普段ならスポーツ紙の一面に載ることなどあり得ない当団体ですが、翌日の各社スポーツ紙ではこの事件を一面で大きく取り扱いました。中には襲撃後の朝原選手の画像を大きく掲載した紙もあり、販売していたコンビニに苦情が発生したというお話もあります」
『完全にとばっちりですね』
「はい、朝原選手も負傷し安否が心配されていましたが・・・三日後、朝原選手が報告のためにツイートをしました。主な内容は当特別興行に出場する旨が綴られていましたが、その中でなんと驚くべきことをしでかしました。何とJAM選手との王座を賭けて戦うことと、その試合をNoDQ戦、つまり反則無しで行うように要求したのです。その上武器持ち込みを可としたのです」
『いくら朝原選手と言えども、JAM選手相手にNoDQ戦を行うのは自殺行為に等しいと思いますよ。武器を使った戦い方は手馴れてますしラフファイトはそれこそ得意中の得意分野ですから。三年前に行ったNoDQ戦では対戦相手が』
「バテオさん、これ以上はアウトです。ゲームで例えるならCERO:Zの範囲に突入します」
『そうでした。失礼いたしました』
「えーともかく、これ以来JAM選手に対してNoDQの試合を行うことはタブー、自殺行為とされてきました。朝原選手も当然そのことを知らないはずはないのですが、あえてこの形式で受けると」
『はい。リプライでは止めたほうがいい止めろ止めてくれの嵐でしたが・・・』
「JAM選手はツイッターにて了承しました。『引退スピーチの原稿を書いておけ』とも付け加えていました」
『正直少し彼自身も戸惑っていましたよね』
「はい。後々になって『相手をボコボコにするのは本望だけど、流石に死体の処理なんかしたくないぞ?』ともリプライしてましたね。団体内外からも戸惑いと驚きの声が広がっておりまして、著名なレスラーからもちらほらと言及が・・・遂にはJAM選手の父親であるマーシャス・オルテガさんからも止めることを促すツイートがされる事態となりましたが、朝原選手の考えは覆ることなく大会当日を迎えることとなりました」
『余計なお世話と思われるでしょうがあえて言いますと、とても心配ですね』
「ええ、当団体では興行時に会場に救急車1台、特別興行では3台待機させているのですが、今回は5台待機しております」
『少しあのー・・・スタッフの話を聞きますと、メインイベントが近付くにつれて救護班や救急隊員の方がそわそわし始めたとのことです』
「やはり負傷者発生は必至ということでしょうか。間違いなく激戦となるでしょうが、今までの試合とは少し意味が違ってくるかもしれません」
『いやー楽しみというか心配というか・・・何とも言えないですよね』
「ええ。崇風運動ホールを埋め尽くした570人の観客の皆さんも、興奮冷めやらぬ中この異様な空気を体感したのかどことなくピリピリしています。さあまもなく両選手の入場です!」

「さあまずはジャーヴィス・アブドーラ・マイケルズ選手の入場になります」
『うわあ、すごいブーイングだ』
「とてつもないブーイングの中入場してきます。最早入場曲が聞こえてきません!」
『こんなこと今まで無かったですよ』
「私もこの団体でそれなりの期間実況していますが、こんなことは初めてです。ちょっと衝撃的ですね①。さあ団体史上最大級のブーイングが雨あられと降り注ぐ⑥中、JAM選手が入場していきます。祖父に伝説の覆面レスラーのエル・エストレヤ、父に丸々井レスリング殿堂入りレスラーの”アイアンソルジャー”マーシャス・オルテガを持ち、自らも25歳にして世界にその悪名を轟かせている絶大的なレスラー。ええ、ですので本名はジャーヴィス・オルテガです。17歳でプロレスラーになった当初は本名名義で活動してたのですが、練習中に仲間を相次いで負傷させて退団。まあこれは本人も故意にそうしたわけではないのですが、しばらくフリーで様々な団体に参加して勝ったり負けたりしてましたが、19歳のある日突如姿を消しました。しかし20歳の誕生日にこれまた突如現れた時には、すでにこのようなファイトスタイルとなり、名前もジャーヴィス・アブドーラ・マイケルズになっていたそうです。本人曰く、リングネームは偉大な悪役レスラーであったアブドーラ・ザ・ブッチャーとショーン・マイケルズから取ったのだとか。JAMという名称は本名の略称だけではなく、対峙した相手をジャムのようにグチャグチャにしてしまうから、と真しやかに語られるほどの残虐ファイトを展開する恐るべきレスラーです。203cm160kgの体格を生かした強靭なパワーと無尽蔵なスタミナ、そしてその203cm160kgの体格からは予想もつかないほどの柔軟な思考と豊富なテクニックの持ち主。時には飛び、時には投げ、時には叩きつけて、有名無名老若男女に関わらず立ちはだかる敵を次々と倒してきました。特に必殺のEOLを喰らって自力で返せた人は一人もいません。EOLとは正式名称をEndOfLifeという所謂ダブルアームパイルドライバーなのですが、JAM選手は相手を肩まで持ち上げから一気にリングに相手の頭をリングに打ち付けるという、非常に危険な技となっております」
『EndOfLifeという名前ですが、本当にLifeがEndしてしまった人も?』
「そういった人の存在は現時点では確認されていませんし、今のところ選手生命を彼に絶たれた人もいないようです。しかし病院送りにされたり血だるまにされたり長期欠場に追い込まれた選手はたくさんいます」
『なるほど』
「LTW初参戦でいきなりフラッグシップタイトル挑戦という破格の待遇。しかし彼の狙いはタイトルというよりも世界中で暴れ続けて狩り尽くして足りなくなってしまった獲物⑩を探しに来たのではないか、そう言われているJAM選手。さあ初めてLTWに姿を現した時とは対称的にゆっくりと静かにリングイン!一方で観客からは容赦ないブーイングが飛んでいます!その片手には武器が入っているであろう大きな袋!」
『特にブーイングを気にしてる様子もないですね』
「以前イギリスの団体に参戦したときは入場から会場を去るまでずっと激烈なブーイングが止まなかったがそれをあざ笑うかのように対戦相手をボロ雑巾のような状態になるまで痛めつけたということです。神経が図太くないとアルマゲトンにはなれません。さあ続いて現LTW世界王者の朝原義人選手の入場です!会場からは先ほどとは一転して大歓声!」
『流石は半年近く世界王座を防衛し続けてきただけはありますね』
「確かにJAM選手は強い。しかし彼に欠けている決定的なものを、朝原選手はいくつも与えられいくつも持っています。試合前に朝原選手はこう語っていました。『練習をして、試合をして、お客さんを沸かして楽しませて、そして栄光やタイトルを得るために邁進する。そういった俺たちプロレスラーにとってはいつも通りの何気ない、しかしとても重要でかけがえのない日常⑤をアイツは何もかもぶち壊した。許せないし許さない』と。未だかつて見たことが無いほどの怒りを秘めている朝原選手であります!」
『普通は『〇〇選手』と呼ぶのですが、『アイツ』呼ばわりですか』
「そしてわざわざ武器持ち込みNoDQ戦を持ちかけたのも『アイツを徹底して打ちのめしたかったのと、あえてアイツの得意分野で戦って勝つことで、自分がアイツより優れてることを示したかった』と観客重視団体重視の彼から珍しく我を前面に出した発言。怪我や出血は覚悟の上だそうです」
『朝原選手が相手をボコボコにしたいですか。珍しいですね』
「いつもはどんな相手にもレスラーとして敬意を払う朝原選手も今回ばかりは怒り心頭!大歓声に反応することもなく大きな袋とチャンピオンベルトを肩にかけながらJAM選手を睨みつけています!袋を置いてリングイン!あっとベルトを掲げながら相手に詰め寄りました朝原選手!これもまた珍しい光景!」
『いつもはこんな挑発はしないんですがね』
「慌ててレフェリーが二人を引き離します。見てください二人の目を!これはとんでもない試合展開になりそうですね」
『そうですねえ、いつも朝原選手の試合は一定の信頼や安心感を持って観てるのですが、今回はちょっと覚悟がいるかもしれませんね』
「朝原選手の大ファンを公言するバテオさんからもこのようなコメント。本当に今回ばかりは何が起こるか見当もつきません!さあ世紀の一戦のゴングが!今鳴り響きました!」
『さあどうなる』
「バテオさん、先ほど話に出しましたEOLですが、これだけは喰らってはならないと?」
『その通りですね。正直試合開始直後にこれ決めても3カウント取れるレベルなんですが、それを執拗な攻撃を喰らい続けてフラフラな状態で決められたら確実に返せませんね。しかし他にもフロッグスプラッシュやギロチンチョークなど、アクロバティックな技やテクニックが求められる技でも勝ちを狙えるものがたくさんありますから。EOLは切り札と考えてそれ以外の大技にも注意するといった感じですね』
「なるほど。さあ注目していきましょう!」

「試合開始から10分経過しました。今のところはJAM選手優勢といったところでしょうか」
『そうですね、しかし朝原選手はカウンターの名手ですし劣勢をひっくり返して逆転する展開は得意ですから。JAM選手もそのことを知っているのか様子を見ている感じですね。いつもは試合開始直後から飛ばしてくるのですが、今回は慎重な攻めになっています』
「なるほど、ここでJAM選手が放り投げて・・・」
『ほら追撃しない。普段は投げ飛ばした相手がリングに落ちるや否やマウントをしてきたのですが、今回は朝原選手が立ち上がるのを見ています』
「なるほど。今度は朝原選手が・・・おっと脚を上げようかというところでJAM選手が距離を取りました」
『蹴りは相当に警戒しているようですね』
「なるほど。181cm87kgとレスラーとしてはそれほど大柄とは言えませんが、モデルと見まごうほどの長く美しい脚の持ち主。この美脚からは予想も出来ないほどのエグい蹴りを繰り出します。投げ技や関節技、飛び技も使うのですが、彼をここまでの存在にしたのはやはり蹴りが大きいですよね」
『彼の必殺技の”アオイイナズマ”もランニングビックブートですし、脚は朝原選手が常に持ち込んでいる武器と言っても過言ではないでしょうね』
「相手の体格に関わらず的確に顔面を猛スピードで打ち抜きます」
『ええ。それ以外にも延髄斬りやスーパーキック、ハイキックにミドルキックにローキックなど、脚を使った強力な得意技をいくつも持っていますね』
「まあ朝原選手の蹴り技を警戒するのは妥当なのですが、所構わず暴れ散らすJAM選手が相手を警戒するというのは少し意外なように思えるのですが?」
『粗暴に見えて結構頭もいいんですよね。考えなしに猪突猛進しているのではなく、相手のスタイルを完全に理解し最大限に痛めつける方法を常に考えている。だからこそ厄介なんですけどね。これが考えなしに暴れるタイプだったらもう少し楽な相手でしたよ』
「確かにそうですね。言われてみれば彼の武器の使い方は時に非常にユニークで我々を驚かせることもありますが」
『それも彼の持ち味ですね。発想力に富んでいるので、普通は思いつかないような方法で相手を攻撃できるのですよ』
「なるほど。しかし今のところ武器を手にする様子は見られませんでした」
『そうですね。お互いに様子見してるのかと思いますが、そろそろ動くと思いますよ』
「そうですか!さあ強烈なラリアットを喰らった朝原選手がリングの外へ避難。それを追ってJAM選手もリング外へ。今試合ではリングアウト裁定はありません。場外でいくらでも戦えますがピンフォールやギブアップはリング内のみ認められます。さあJAM選手がフェンスに叩きつけた。そして・・・リング下を探っています!」
『リング下にも持ち込んだのとは別に武器がありますからね。本来は会場設立に使うための備品なのですが』
「さあ取り出したのは・・・テーブルです!プロレスファンお馴染みのテーブル!これを・・・何とこれで殴りつけた!朝原選手悶絶!」
『いやあビックリですねー。テーブルをパイプ椅子のように振り回すとは』
「さあテーブルをリングに入れ、朝原選手もリングに入れる!そしてうずくまっている朝原選手に追撃!そしてテーブルを組み立てて・・・朝原選手をそこに寝かせた!そしてコーナーポスト最上段へ登っていく登っていく!!」
『おおっとこれはマズイ!!』
「これはJAM選手得意技のフロッグスプラッシュか!!さあ203cm160kgの巨体が崇風運動ホールの空へ・・・あああっと危ない!!朝原選手危機一髪!!朝原選手、巨体に潰される直前に避けて難を逃れました!!一方JAM選手は誰もいないテーブルへ自爆!!テーブルが真っ二つです!!」
『危なかったですね。流れが完全に相手に渡るところでした』
「フロッグスプラッシュでテーブル葬を狙ったJAM選手でしたが失敗に終わりました⑨。朝原選手は立ち上がりましたがJAM選手はまだ跪いたまま立ち上がれません。その隙に朝原選手も武器を取り出すようです、袋の中から・・・これは?」
『一斗缶でしょうか?』
「一斗缶!大きな一斗缶です!これで一体何をしようと言うのでしょうか。ようやく立ち上がったJAM選手に一発蹴りを入れます強烈な蹴り・・・おっとJAM選手の頭に一斗缶で殴りつける!!角の部分で殴りつけてます!!これはタフなJAM選手にも効いている!!そして・・・一斗缶を頭に被せた!!そしてハイキック一閃!!!一斗缶越しに頭を蹴り上げる!!!二発目!!!三発目!!!一斗缶が大きく歪む!!!」
『丸屋煎餅さん申し訳ありません』
「行きつけの煎餅屋さんの一斗缶を使ったようですね。さあJAM選手が力なく横たわりました。歪んだ一斗缶が頭から抜けます。そして背中にダブルフットストンプ!試合開始から12分、ようやく朝原選手が優勢に立ちました!!たまらずリングの外に出るJAM選手。しかし朝原選手追撃を試みます!ロープを掴んで飛び込・・・」
『いやこれはマズイ!!』
「朝原選手がスプリングボードからダイブしましたが、何とJAM選手これをキャッチ!!そして持ち替えて・・・エプロンにパワーボム!!!」
『うわあこれはかなり痛いですね・・・』
「時間をかけてようやく掴みかけた流れを一瞬で手放されるような強烈な一撃!!朝原選手がうめき声をあげながら悶絶しております!!そしてJAM選手も袋から・・・これは?」
『紙でしょうか?』
「紙・・・の束ですね!!コピー用紙のような紙、それをまとめて持ってきました!」
『流石JAM選手と言いますか、武器も変わってますね』
「そしてそれで殴りつける!しかしダメージとしてはどうなのでしょうか?」
『はい、紙といえどあれほどの枚数となればダメージはあるでしょうが、おそらく椅子で叩きつけた方が・・・』
「おっと束から紙を一枚取り出して・・・あーっと!!紙で朝原選手の頬を切り裂いたあああ!!!」
『これは痛いですよ!!』
「さらにもう一回いいい!!!さらに首にも!!!」
『ダメージというより、強烈な痛みによる精神的苦痛が大きいですね!紙で切られると肌のもっとも外側である表皮にある侵害受容器がダイレクトに傷つけられ神経の束が痛みを脳に伝えるます!そして紙で切った傷は大抵血管までには届かず出血や血液凝固もほとんど無いため、あらわになった傷口を守るかさぶたができないため、何をするにしても傷口に直接刺激が与えられてしまいます!だから紙で切られた傷はダメージ以上に痛いのです!』
「何が何だか分かりませんが解説ありがとうございます」
『とんでもない、今検索したのですよ』
「痛みに苦しむ朝原選手!!今度は紙を10枚くらい持って・・・あっと紙越しにアイアンクロー!!!口と鼻を紙で押さえつけ指で頭蓋を締め上げる!!!」
『いや何重苦だコレ!?』
「大きすぎず小さすぎず、JAM選手の手のひらにジャストフィット!!!朝原選手も抵抗しますが逃れることが出来ない!!!」
『そう考えると紙の面積って重要ですよね②!』
「大きすぎると上手く締め上げられず、小さいと口や鼻を覆うことが出来ません。どちらも問題なく行うにはこの大きさしかありえない!!これもやはり計算していたのでしょうか!!」
『間違いないでしょうね!しかし今までこういった試合で紙を使用したことは無いのですが、朝原戦に向けて彼も武器を追加したということでしょうか』
「朝原選手だけでなく、JAM選手にとっても史上最大の強敵と言えるでしょうこのカード!これほどの悪名ですがまた25歳、伸びしろは十分にあります!!さあ朝原選手と紙の束をリングに入れる。そしてまた袋から・・・ああっとこれはいけません!!!」
『うわあこれは!!』
「有刺鉄線バット!!木製バットに有刺鉄線を巻き付けた狂気の凶器です!!!」
『今狙って言いましたか?』
「さあ試合中ほとんど仏頂面だったJAM選手が邪悪にほほ笑んだ!!!」
『狙いましたよね?』
「今日皆さんに知っていただきたいのは、笑顔には人々を幸せにするものだけでなく、恐怖のどん底に叩き落すようなものもあるということです!!」
『何で無視するんですか?』
「さあバットを持ってゆっくりとリングイン!!そして・・・朝原選手の腹にフルスイング!!!そして腹を押さえてうずくまった朝原選手の背中に振り下ろしたあああああ!!!」
『いやあこれはマズイ!!!』
「さらにもう一発ううう!!!そして三発目!!!四発!!!五発ううううう!!!」
『背中がヤバいですよもう!!!』
「朝原選手の背中が真っ赤に染まる!!!そして朝原選手を・・・コーナーにもたれかかせた!!コーナーを背にして頭は力なくロープに垂れている!!・・・あっとダメです!!!バットを掲げた!!!ブルンブルンと振り回す!!!」
『え!?ダメでしょこれは!!!』
「会場から絶叫が上がる!!!こんな凶行は許されてはいけない!!!NoDQ!!反則無し!!しかしだからといってやっていいことと悪いことがある!!!これは絶対にやってはいけなあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
『うわあああああああああああああ!!!!!』
「JAM選手!!!!!何ということだ!!!!!コーナーにもたれてる朝原選手の頭に向かって!!!!!フルスイング!!!!!有刺鉄線バットをフルスイング!!!!!会場からは悲鳴が上がりますが、その反応を楽しんでるかのような満面の笑み!!!!!さらにもう一発うううううううううう!!!!!!!!血しぶきが実況席にも雨のように降り注いでおります!!!!!!!!⑥」
『これヤバすぎるでしょ!!!』
「満面の笑みを浮かべながらフルスイング!!!!!!もう一回!!!!!!何という凄惨な光景でしょうか!!!!!!もはや攻撃ではなく拷問と称した方が適切なように思えるこの仕打ち!!!!!!LTW始まって以来の衝撃的シーンです①!!!!!!」
『もう観てらんねえよ・・・』
「青年期はもっぱら野球をしており、プロ入りすれば殿堂入りは確実と期待されていました。しかし今は白球ではなく頭部にフルスイングしており、ボールをスタンドに運ぶことではなく頭部を鮮血に染めることに喜びを感じている!!!満面の笑みを浮かべるJAM選手。出来ればこの笑顔はリングではなく野球場で観たかった、心からそう思います!!!」
『うわあ・・・』
「グロッキー状態となった朝原選手がリングに倒れ伏します。20回くらい喰らったでしょうか。クールで知られる顔は真っ赤に染まり、額には有刺鉄線の欠片が刺さっております③。あまりの惨状にブーイングすら飛んできません。頭から流れた血がリングに流れ血だまりを作っていきます。そしてJAM選手がフォール。1、2・・・いや返した!!!!!朝原選手返しました!!!!!まだ気力は尽きていない!!!!!」
『おおう!!!』
「少し驚いた様子のJAM選手!!!髪の毛を引っ張り上げ無理やり起こして・・・首を掴んだ!!!これはチョークスラムの構え!!!」
『これ以上喰らってはいけない!!!』
「首を掴んで・・・あっとカウンターだ!!!持ち上げたところをDDTでカウンター!!!朝原選手得意のカウンターがここで炸裂した!!!」
『よしよし!!!』
「仰向けになりながら拳をリングに叩きつける朝原選手!!!自分を鼓舞しています!!!そんな朝原選手に大歓声が雨あられと降り注いでいます⑥!!!」
『いけ!!!がんばれ!!!』
「以前こう語っていました!!!『この王座はLTWの象徴。だからそう簡単に渡すわけにはいかない』と!!!栄光のLTW世界王座をこんな外道に渡すわけにはいかない!!!世界王座を失うわけにはいかない!!!ベルトを明け渡し手ぶらでは会場から帰ることが出来ない⑨!!!」
『立て!!!立て!!!』
「フラフラと立ち上がった!!!そして同じくよろよろと立ち上がったJAM選手に蹴り!!!胸に蹴りの連続!!!JAM選手がよろめいている!!!執拗なミドルキックの連撃!!!尻もちをついてコーナーにもたれかかったJAM選手!!!」
『よしよしいいぞいいぞ!!!』
「そして対角線のコーナーに走って・・・十分に助走をつけてニーストライク!!!膝を顔面に打ち抜いていく!!!もう一回走ってニーストライク!!!そしてさらにもう一発!!!・・・おっとここで何かに気付いた!!」
『一斗缶ですね!!』
「朝原選手、先ほど使用した一斗缶を拾い上げて高々と掲げる!!そして・・・強烈な一撃いいいいい!!!!!ぶつかる直前に一斗缶を膝と顔の間に差し込み、一斗缶ごと顔に膝を打ち込んだ!!!!!」
『いやあこれは強烈ですね!!!』
「一斗缶が完全にひしゃげてしまっている!!!丸屋煎餅さん申し訳ございません!!!さあその一斗缶を持って・・・もう一発は避けられてしまった!!!膝をポストに打ち付け苦悶の表情!!!」
『いやーでもいい攻めだったと思いますよ』
「はい。近くに落ちていた紙で顔を拭いた朝原選手ですが、まだ顔の色は若干赤いまま。そして拭いた先から血が吹き出ています。やはりダメージは深刻か!対するJAM選手も中々立ち上がることが・・・おっとちょっと待ってください?JAM選手が何かゴソゴソしてますが・・・」
『本当ですね。あ、何か取り出しました・・・これは・・・インク?』
「『INK』とかかれたビンを取り出して・・・あっと口に入れました!!インクを口に!!」
『おっ、マジで!?』
「もしや毒霧をするつもりではないのでしょうか!!相手の目つぶしや攪乱を目的とした毒霧!!暴れん坊のイメージがあるJAM選手が使うには何とも似つかわしくないトリッキーな技!!」
『でもこういうところが強みでもありますよね。どんなイメージを持たれてるかを把握した上で意表を突くような攻め方をするという』
「昨年メキシコでの試合でワームを披露したときは誰もが驚きましたよね!!さあ毒霧の準備は整ったか・・・あっと隙をついた!!!朝原選手、ドラゴンスリーパーをここで繰り出しました!!!」
『おおっすごい!!!』
「アオイイナズマと並ぶ朝原選手の必殺技、ドラゴンスリーパー!!!数々の強敵をこれでタップアウトさせてきました!!!ダメージのせいか仕込みに気を取られたのか、JAM選手が隙を晒した所を見逃しませんでした!!!」
『これは少しらしくないミスですねえ!』
「さあ胴に脚を回しながら首を締め上げていく!!!胴締めの状態で倒れたら脱出は不可能と言われています!!!」
『そうなった状態を鉄の塊と例えた人もいましたね④!!』
「苦悶の表情で腕をばたつかせるJAM選手!!!しかし解かない朝原選手般若の表情!!!朝原選手を背負う形になっています!!!ロープを掴みましたがNoDQ戦なのでロープブレイクは認められません!!!そのロープを掴む手も朝原選手が蹴り飛ばした!!!そしてすぐ胴締めの体制へ!!!」
『いけ!!!いけ!!!』
「さあリングに倒れた!!!JAM選手倒れた!!!仰向けの状態で腕をばたつかせる!!!しかし解ける気配はない!!!これはタップも時間の問題!!!」
『よしいけいけ!!!』
「散乱していた紙を掴むJAM選手!!溺れる者は藁をも掴むとも言いますが・・・おっと紙を顔に近付けて、口に含んでいたインクを紙に吹き零しましたが・・・ああっと!!!」
『うわあ!!!』
「インクにまみれた紙を朝原選手の顔に押し当てていく!!!朝原選手の顔がインクにまみれる!!!黒く染まる!!!そして力づくで解いた!!!混乱してしまったのでしょうか朝原選手、ドラゴンスリーパーの締めが甘くなっていました!!!JAM選手、機転を利かせて決まったら解くことは不可能と思われていた胴締めドラゴンスリーパーを解きました!!!【問題文】」
『いやあこれはJAM選手を褒めるしかないですよね』
「再び近くに落ちていた紙で顔を拭く朝原選手。JAM選手は膝をついたまま立ち上がれません。試合を決めることは出来ませんでしたが、確かなダメージを与えたことは間違いありません!!」
『また何かやってますよ?』
「おっとJAM選手、性懲りもなくインクを口に含んでいる!!今度こそ毒霧を決めようというのか!!」
『割と頑固なところがあって、避けられたり失敗したりした技をちゃんと決まるまで使おうとする癖があるんですよね・・・おっと?』
「何と朝原選手も『食用液体着色料』と書かれたボトルを取り出しました!!そして口に含んでいく!!!」
『どういうこと!?』
「何と、両者ともに毒霧を使うことを考えていた!!何から何まで対称的と思われていた二人でしたが、意外な共通点が!!!お互いに準備完了!!!まさか相手も毒霧を使おうとしてるとは夢にも思っていないでしょう!!!」
『どうなるんだこれ!?』
「さあお互いに向き合い・・・噴射ああああああああ!!!!!互いの毒霧が互いの顔に炸裂うううううううう!!!!!」
『いやどうなったのこれ!?』
「お互い顔を覆って悶絶しているようですが・・・おっと、朝原選手が立ち上がった!!!よく見ると、朝原選手の顔にはあまりインクがかかっていません!!!目にも少しかかったようですが、大半は額にかかったようです!!!」
『JAM選手は・・・うわあ、モロに喰らってしまったみたいですねえ。回復するには時間がかかりそうです』
「JAM選手の顔全体に朝原選手のイメージカラーである青い液体着色料が付着しています!!」
『朝原選手とJAM選手は身長差もあるので狙って吹きかけるのは少し難しいと思います。その上で朝原選手は比較的小顔なので、多少は狙わないと顔にかかりにくいでしょう。対してJAM選手はその体に見合う大きな顔なので、多少テキトーな狙いでも顔に吹きかけるのはそこまで難しくないのでしょう。その二点によって朝原選手は毒霧をモロに喰らわずに済んだと』
「なるほど。そうなると毒霧という技は顔の表面積がかなり重要な要素になるということですね②。相手を蹂躙し続けてきた巨体が裏目に出たという一面でした」
『さて朝原選手はチャンスですが、どう出るか』
「まだ起き上がれないJAM選手にストンプ!!さらにパイプ椅子を取り出して、何度も叩きつける!!!何度も!!!何度も!!!怒りを椅子に込めて叩きつけている!!!さあ相手から距離を取った!!!これはアオイイナズマを狙っている!!!」
『よーし決めろ!!!』
「さあロープを掴みながら立ち上がったJAM選手に対し・・・あっと走りこんだ朝原選手に対し紙をばらまいた!!!朝原選手これはひるんでしまった!!!その隙に強烈なラリアット・・・を避けてローキックを連発!!!跪いたJAM選手にスーパーキック!!!・・・あーっと勢いを利用されてリング外へ避難されてしまった。朝原選手これを追いかけることが出来ない。流石にダメージと疲労が限界に近いか。一方転がりながらリングを降りたJAM選手も立ち上がることが出来ない!!JAM選手はどれだけ激しい戦いをしても試合後にホノルルマラソンを走破出来るとかエベレスト登頂出来るなどと揶揄されてきました。彼のタフネスっぷりを端的に表したものですが、この様子ではマラソンどころかどこまでも歩いていくことすらままならなそうです⑦!!」
『こんな彼を見るのは初めてですね』
「さあようやく追いついてリングに戻しましたが・・・おっとJAM選手インクのビンを持っている!!これで中身をぶっかけるのか殴りかかるのか!?いずれにせよ危険です!!」
『え?マズくない!?』
「確実に何か狙っているでしょう!!さあヨロヨロと立ち上がったJAM選手、突っ込んでくる朝原選手に・・・ラリアットを避けた!!そして回し蹴りいいいいいい!!!インクのビンごとJAM選手の顔面を粉砕した!!!」
『すげえすげえ!!!』
「よろめいてロープにもたれかかるJAM選手!!!インクにまみれて意識が朦朧としている!!!そして・・・出たあああああああああ!!!!!必殺のアオイイナズマああああああああ!!!!!」
『きたあああああああああああああああ!!!!!』
「もたれかかって低くなっていた顔面に的確に突き刺した!!!!!重い重い一撃!!!!!倒れこんだ!!!!!そして覆いかぶさってカバー!!!!!ワン!!!!!ツー!!!!!スリイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
『うおおおおおおお!!!!!やった!!!!!』
「やりました朝原選手!!!!!王座防衛!!!!!史上最強の難敵を!!!!!自らの脚で粉砕しました!!!!!王座防衛!!!!!」
『いや本当にすげえよ!!!!!』
「両者動けません!!!!!完全に気力も体力も尽きてしまった!!!!!互いに死力を尽くして、血も汗も流して、遂に決着!!!!!王者がベルトを死守しました!!!!!」
『いやー、本当にすごい!!!』
「あっと救護班が出てきました!!!両者ともに担架に載せられています!!!朝原選手が担架に運ばれています!!!しかしその左手は世界王者のベルトをがっしりと掴んでいます!!!」
『本当に立派ですよ!!!』
「防衛に成功したチャンピオン朝原選手が担架で運ばれて行きます。一方JAM選手は完全に失神しており、担架に載せることが難航しているようです」
『まああの巨体を動かせるのはJAM選手本人だけでしょうね』
「これから両名は病院へ搬送されるようですが・・・あっと右手でガッツポーズ!!!朝原選手、担架で運ばれながらもガッツポーズで観客にアピール!!!観客も惜しみない拍手を浴びせております!!!」
『怪我とか心配ですね』

「はい、本日の興行はこれにて全て終了となりました。バテオさんお疲れさまでした」
『お疲れさまでした。いやー本当にすごかったですね』
「そうですね。普段なら今日の試合を順番に振り返っていきたいのですが、私も興奮してしまいまして、何というかちゃんと振り返られる気がしないんですよね」
『そうですよね。ほんと今日の興行に参加していたレスラーは全員ファイティングスピリッツというか闘志というか、そんなものを感じられました。第一線で活動していた頃を思い出しましたよ』
「本当にそうですよね。そして朝原選手の情報ですが、本人のツイートによると来週の興行には参加できるとのことです。」
『いやあれだけの試合をしたんだからゆっくりと休んでほしいですよ』
「その辺りが王者としての意地なのかもしれませんね。さてそろそろお別れの時間になってまいりました。今後の予定ですが、数回通常興行をした後に『July is ツライ~夏祭りより血祭り~』をお送りします。7月下旬の予定です」
『7月の特別興行はね、ほんと毎年ドラマが起きていますから、是非注目していただきたいです』
「ありがとうございます。本日の実況は海見戸蘭、解説は元丸々井レスリング世界王者の78バテオさんでお送りしました。バテオさんありがとうございました」
『ありがとうございました』
「それでは熱気が冷め止まずリングの清掃も終わらない崇風運動ホールから失礼いたします。次回興行でお会いしましょう。さようなら」

【了】
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No.81[アルカディオ]06月25日 23:5207月02日 11:46

生きるからね

手違いにより締切バナーが上に見えますが、それは幻です。この作品は投票対象です。 [良い質問]

3

No.82[アルカディオ]06月25日 23:5206月26日 00:15

「いっっっっっだい!!!!!」
「我慢してくださいよまったく…。」

俺、キヨシ。バイク乗りだ。
あれは忘れもしない、暗い夜のことだった。調子に乗ってブンブンブンブン乗り回してたら…事故っちまった。
速度落としきれなくてガードレールにぶつけちまったのよ。
その時にバイクは大破。せっかく金貯めて買ったお気に入りだったのに…
てかそこじゃなくて!!!
バイクの破片が俺の体に刺さっちまって、しばらくは入院生活だと。…③
俺はなれない車いすを使って医者の話を聞く。

「命には別条なさそうだねー。後遺症も当たり所的にほぼないよ、ただ…」
「ただ?」
「けがの程度が程度だからね、3か月か4か月は入院してもらわないと。」
「へ?」
「あー、それとね、肝心の病室なんだけどほぼ空いてないのよ。だからさ、小さい女の子と相部屋って形になっちゃうんだけど…」
「はあ!?」

小さい女の子と相部屋!?いやいやいやいやどうしてそうなった。
いくら病室が空いていないとはいえ知らないおっさん急に部屋に来たら女の子だって困るだろ!てかそもそも俺が嫌だ。

「あのー、先生何とかなりませんかね、ほら個室とか。」
「ないから言ってんじゃん!な、子供ってかわいいよ?な?な?」
「先生、ロリコンすか?」
「ち、違う!とにかくその部屋で頼みますよキヨシさん!よし!お大事に!!」

少々冷たい医師はそう言うとばつが悪そうに俺を追い出した。看護師が俺を病室につれていく。

「あの、俺子供嫌ですからね。早いとこ移してくださいよ。」
「そうは言われましてもね…。なるべく早く移すようには言っておきますからしばらくはここにいてもらえませんかね。」

看護師は鬱陶しそうにそう言って俺を部屋の中に閉じ込めるように入れた。どいつもこいつも…。

部屋の中には言われた通り小さい女の子がいた。小学校1年生くらいであろうか。

「おじさん、しんいり?」

急にその子が声をかけてきた。やめろ、ビビる。

「そうだよ?新入りだよ。な、何か?」
「それ、『くるまいす』だよね!てことはおじさん歩けないの?」

デリカシーってもんを覚えてくれ…。て言っても子供だから仕方ないか。まあそれが俺の子供嫌いの原因の一つでもあるんだが。

「あー、ケガしたんだよ。それで、ここにね。」…⑦
「なあーんだ、けがかあ。」
「そうだよ、けがだよ。」

入院理由がケガであることを伝えると女の子は少し悲しそうな顔をした。

「いいなあ。けがってことは治ったらいっぱい遊べるんでしょ?私は…だめなんだ。」
「ダメって?」
「私はケガじゃなくて病気で入院してるから、だからおじさんみたいにすぐには自由になれないんだ。」

病気で入院か…。同情はしたし一瞬だけ俺の方がましだという気持ちになったがほんの一瞬だけだった。てかすぐじゃねーし。
3か月か4か月、バイクなしで子供と一緒はやっぱりつらい。

「おじさん、私も自由になりたいな。自由になったら『がっこう』でいっぱい遊びたい!」
「そう…だね。早く良くなるといいね。」
「私『りな』って言うんだ!!!おじさんは?」
「おじさんは…じゃなくてお兄さんはキヨシだ。よろしく。」
「よろしくね!!!キヨシおじさん!!!!!」
「…よろしく。」

だから『お兄さん』ね?俺まだ23だからね。

そうして俺の少し窮屈な入院生活が始まった。
ぶっちゃけ部屋は狭かった。いやベッド2つとそこそこのスペースだけという驚きの狭さ。本当にもっとましな部屋なかったんだな…。
俺は自分のベッドでバイク雑誌を読む。バイクの方は完全にダメになっちまったし、退院したら真っ先に買うやつを今のうちに決めないと…

「おじさん何読んでるの?」

りなちゃんが突然話しかけてきた。だから少しビビるって。

「バイクの本だよ。」
「かっこいい!!!おじさんバイク好きなの?」
「え、ああ、好きだよ。」
「かっこいい!私もバイクのりたいな!」
「乗ってみ?気持ちいいよ?あ、でも大きくなったらね!」
「そうだよね…。」

そう言うとりなちゃんは自分のベッドに戻って一人おもちゃで遊び始めた。

そうして俺の狭い部屋での入院生活は一日、また一日と過ぎていった。
時には俺の友達がきたり、りなちゃんの親や友達が来たりしていた。
彼らは俺を子守かなんかだと思い込んでるのか俺に不自然に冷やかしを入れたり礼を入れたりする。
そんなんじゃないってのに。


「おじさん。」

入院2か月半目、急にりなちゃんが俺に話しかけてきた。

「どうしたの?」
「私家に帰ることになったんだ。」

りなちゃんは退院することになったらしい。よかったよかった。まあこれで少しは俺もこの部屋を広く扱えるし、一石二鳥ってもんだ。

「そうか、よかったね。」
「おじさん、私もっとおじさんとお話ししたかった。おじさんのバイクの話聞きたかったよ。」
「あーうん、俺が退院したらいっぱい話そう。」

俺がそういったところでりなちゃんの母親が入ってきた。お別れの時間、ってわけか。

「キヨシさん…でしたよね。娘がお世話になりました!」
「じゃあおじさん、ばいばい。」
「うん、またね。」

りなちゃんは母親に連れられて病室を後にした。りなちゃんはずっと俺に手を振っていた。肝心の俺は…あんまり振り返せなかったけど。
でもいいじゃないか。りなちゃんは何気ない日常に帰る。俺も…もうすぐ…。…⑤

そしてまた俺の、今度は一人の入院生活が始まった。
部屋の面積は以前よりも広くなった。1人で扱うにはさすがに広すぎる。以前からの願いであったにもかかわらず俺の心にはぽっかり穴が開いたようになってしまっていた。
二か月半一緒だったから、慣れの一つや二つはあったってことか…。…②⑩

「だいぶ良くなったね。明日には退院でいいでしょう。」

例の冷たい医師が俺の経過を見てそう言う。

「ああ、どうも。」
「しかし残念だったね。彼女あなたによくなついてて、2人で1つみたいなもんって有名でしたからね…。」
「いやいや俺はいいですよ。あの子も病気治ったし一石二鳥ってやつ?」

俺がそういった瞬間あの冷たい医者の顔が少し険しくなった。さすがに『一石二鳥』はまずかったか。

「あー、先生?」
「で、ですよね。キヨシさんは一人がいいって言ってましたもんね!そっか!よかったよかった!!!」

先生は取ってつけたようにそう言うと病室を出ていった。いったいなんだっていうんだ。そうだ。


翌日…

「では、お世話になりました!!!」

俺もようやく退院の日を迎えた。荷物を持って病院を後にし、早速バイクショップに…

「娘が…お世話になりました…。」

突然聞き覚えのある声が遠くで聞こえた。ああそうだ、思い出した。りなちゃんのお母さんだ。

そうか、お礼に来てるとすればりなちゃんも…!

…え?

次の瞬間、自分の目に飛び込んできた光景を俺は疑った。

りなちゃんの母親と父親が黒い服に身を包んで涙ながらにお礼を言っている。そこにりなちゃん本人はいない。

これが意味すること、それは…

「あ、キヨシさん!ほらあなた、りなと病室で一緒だったキヨシさんよ!」
「ああ、ご無沙汰です!りなの父でございます。娘が最期までお世話になりました。」
「娘もきっとあなたのような人に会えて喜んでます。娘は亡くなる直前まであなたの話をしてましたから…」

両親いわく、りなちゃんは帰宅した3日後に亡くなったらしい。元々病状は重く少し危ないところを無理を言って家で最期を看取ったのだとか。
俺に別れを告げる時は元気そうだったのに…。どうして…。

俺にとって衝撃的な事実だった。…①
もうとてもバイクショップになんか行けなかった。
俺はりなちゃんのご両親にろくに挨拶もせずに病院を飛び出し家に向かった。
俺はそのまま、しばらく引きこもった。

もっと話してやれれば…

もっと遊んでやれれば…

本当に、『2人で1つ』だったならば…

俺は…俺は…!

俺は死ぬほど後悔した。なんであんな子供が…こんな心の冷たい俺なんかが助かるんじゃなくて…。
せめて逆だったら…

俺ははっとしたように大学ノートとボールペンを手にとった。
そして手紙を書いた。子供にも読めるように、全部ひらがなで。
[編集済]

No.83[アルカディオ]06月25日 23:5706月26日 00:15


『りなちゃんへ
おじさんはたいいんしたよ。
やくそくどおりあそぼう。
おじさんのところにあそびにおいで。
おかしをいっぱいたべよう。
べんきょうもおしえてあげる。
ばいくのはなしもしよう。
りなちゃんがすきなもののはなしもおじさんいっぱいききたいよ。
だからおいで。
だから…だから…』

『だから』の続きが浮かばない。否、最初からないのかもしれない。でも『だから』を書いたのは…

「うわあああああああああああっ!!!」

俺は大雨の中、家を飛び出した。…⑥

雨が俺の体に突き刺さる。この雨より変なたとえになるがバイクのかけらの方がましなくらい突き刺さる。

周りの俺を笑う声が聞こえる。笑いたくば笑え。

「はぁ…はぁ…」

しばらくして俺は倒れこんだ。理由は単純、体力を持っていかれたのだ。でもいいんだ、いっそのこと全部持ってってくれ。もう俺には…

「大丈夫ですか!?」

聞き覚えのある野太い声が響く。
今度の声の主は…

「りなちゃんの…お父さん…!」
「もしかして、キヨシさん!?どうしちゃったんですか!さあとりあえず上がってください。」
「俺にはそんな資格は…」
「何をおっしゃいます!!さあ、早く早く。」

気が付いたら俺はりなちゃんの家の前にいた。不思議と、無意識にだ。
まさかこんな形でこの家に入ろうとは…。
居間にはこれまたよく見慣れた顔の写真が置いてあった。りなちゃんのものだ。彼女の母親が俺にお茶を入れたのち話し始める。

「生前りなからあなたの話はよく聞いてます。りなは、りなはあなたのことがとても好きだったらしく…」

『俺が好き』…?

こんな俺が?

「あなたが病室に来てからりなは元気になったんです。りなは、あなたと遊びたいっていつも言ってました。」

結局かなえてあげられなかった。
ふと、さっき狂乱していた自分を思い出した。俺は無意識にさっき手紙を書いていたノートを出していた。

「それは…なんですか?」

りなちゃんの母親は俺に問いかける。俺は黙って手紙の書いてあったページを開いた。…が

「あっ。」

さっきの大雨でノートごとダメになっていた。雨でインクがにじんでいる。

さっき書いた文章は半分以上読めなくなっている。

藁にもすがる思いで2人から新しく紙を強奪するように借り、再び手紙を…

あれ、変だな。

文章が何も出ないぞ?

さっきまであんなに書けたのに…

それでも俺は必死に文をひねり出す。いやひねり出そうとしてみる。

震える手でペンを持って…

…またダメだった。

ペンの方が壊れた。

黒いインクが紙ににじむ。

神様か仏様か知らねえけど、最後の言葉も伝えさせてくれないのか…。

違う。

最後の言葉はとっくの昔に伝えられなくなっている。

俺はそんな簡単な事実に気づくことすらできずにまたバカなことを…。

さっきの疑問が解けた。

『だから』の続き

それは存在していなかった。

だって肝心のりなちゃんが帰ってこないのだから。

返事を…返してくれるわけがないんだから。…⑨

じゃあもう俺は最低だ。俺は…俺は…。

「気持ちは…十分わかりました!」
「え?」

りなちゃんの母親が俺の無様な姿を見てそう言う。同情だろうか。

「あなたはりなにとって冷たい人間なんかじゃなかった!!!それは私と主人が保証します!!!だからあなたはご自分の人生を…戻ってきた日常を大事にしてください。それがりなの…望んだことでもあるんですから。いつまでもりなにとってのいいおじさんでいてください!!!」
「嘘だ!!!」
「嘘じゃない!!!嘘じゃないですから!!!ありがとうございました!!!本当に本当に…!」

りなちゃんの母親は泣いていた。父親の方もこらえきれずに泣いていた。
インクはまだこぼれている。

自分の人生を大事に、か。

りなちゃん、それが本当に君の望んだことなのかい?

返事は返ってこなかった。だがその瞬間、こぼれてにじんでいたインクの流れがぴたりと止まった。

そうか、そうだよな。

俺は涙を拭きインクをできる限り片付けると一旦家を後にした。
そうだ。

『りなちゃんの分まで日常に戻る』

今の俺はそうするべきだ。そう決意を固めた。…④

そして一旦自分の家に戻ってあるものを取り再びりなちゃんの家に。そして彼女の遺影の前にそれを…りなちゃんが興味ありげに覗いていたバイク雑誌を供えた。

「この本りなちゃんにあげる。おじさんはりなちゃんの分まで生きるからね…。一つだけお願いがあるんだ。りなちゃんの大好きなおじさんでいられるように、また事故起こさないように見守ってくれるかな。ああ、わがままだよね。俺自身が気を付けるよ。」

俺はそう言ってからゆっくり手を合わせたのち、決意を新たにりなちゃんの家を出た。

そこまでェ!!投稿フェーズ、18分前をもって終了となります!以降の投稿作品はメイン投票対象外のロスタイム扱いとなります!ともあれお疲れ様でした!!ご迷惑おかけしてます!

なお、投票会場のアンケートはのちほどURLを貼らせていただきます。
No.84[くろだ]06月26日 00:18未回答

【対象外:締切日を間違えていたってばよ】
タイトル カメオ先生の次回作にご期待ください!

回答はまだです。 [良い質問]

No.85[くろだ]06月26日 00:19未回答

東京都とあるマンションでは現在いつ終わるともしれぬ戦いが幕を開けようとしていた。
彼はラテラカメオ。そこそこ売れっ子の漫画家だ。
毎度の修羅場にアシさんたちは帰ることが出来ない(⑨)。そんな中衝撃的な出来事が(①)。
焦る新人アシの一人が紙にインクを零してしまい、原稿の一部が使えなくなったうえにインクが突如足りなくなったのだ(⑩)。思わぬ妨害に新人を怒ることすらできず、固まってしまうカメオ(④)。締切間近、さっきからの土砂降りの雨のせいで自転車飛ばして買いに行く余裕もない(⑥)。探し出した昔のインクでなんとかあと10ページはペン入れできそうだ。。
なんてこった、試されているのか・・・?
しかたねえ思いつきで描き上げるぞ。解けない呪いなんてまだるっこしい話は描き切れん、解けるようにしよう。2つで1つのアイテムも集めるシーンをカットしてもともと1つにして、金属片が刺されば解けるっていうので辻褄を合わせるか(③⑧)。きっかけはそうだな、日常シーンで画鋲が偶然刺さって違和感に気づけばいいか(⑤)。そうすればあのコマもそのシーンもカットできるな。うーん、あとこの、どこまでも歩いて行けそうな道なんてだめだ、何もない雪原にしよう(⑦)。ベタ塗の面積も極力減らして・・・よし、これなら間に合う、いや間に合わせるんだ(②)!!

―俺たちの戦いは始まったばかりだ―

終わり。

簡易解説
締め切りに追われる漫画家は、インクが零れて描き直しを余儀なくされ、呪いの設定を変更した。

回答はまだです。

https://late-late.jp/enquete/show/219
相談欄からはURLが開けないようですので、こちらにも。(こっちは開けますよね……?)
開けないのどうして……。ともかくアンケート画面へどうぞ!![編集済]
No.86[フェルンヴェー]06月28日 10:48未回答

【投票対象外】無題

回答はまだです。 [良い質問]

No.87[フェルンヴェー]06月28日 10:48未回答

 その日は小雨降りしきる暑い日だった。⑥
 いってらっしゃいと投げかける俺に、いってきますと振り返る兄の声色はいつもと同じで、けれどその表情を、もう思い出すこともできない。兄の低く落ち着いた声も、自分と違って硬い髪質も、柔らかな笑みも、薄ぼんやりと浮かんでは沈み、結局もやもやとした霧の中を漂っている。
 兄がバイトの出勤時に気に入って使っていた濃紺のリュックが、ゆっくりと玄関の扉の向こうに消えていくのを、俺はなんの気なしに見送って、今日の夕飯はなんだろう、なんて呑気なことを考えていた。
 それが最後だった。
 十年前に家出した兄を、今も探している。
 三つ年上の兄は幼い俺の憧れであり、同時になにもかも敵わない目の上のタンコブでもあった。昔はよく兄弟らしく喧嘩をして、それでも兄弟らしく遊んで、仲が良いといえば良かったのだと思う。もちろん、兄に対する思春期特有の複雑な心境があったことも確かだ。それでも、いなくなって清々した、なんて強がりを言っていられたのは最初のうちだけで、慕っていた想いが綺麗サッパリ消え去ってしまったかというと、決してそうではない。
 諦めることだってできたはずなのに、それでも失踪届を提出せずに探し続けているのは、何気ない日常を取り戻したいと、そう思う気持ちがあったからかもしれない。⑤
 あれから十年だ。兄には兄の新しい人生があることだろう。それでも、今どうやって過ごしているのか知りたい。きちんとした、幸せな生活を送れているのだろうか。合わせる顔がないというのであれば、そんなことはない、いつでも会いに来いと伝えてやりたい。

 それが俺の『今回の来訪の理由』だった。

 狭い町だ。自然が多くて、閑静で、人口も数百人規模。隣同士で助け合うような、古き良き日本の影を色濃く残した町。限界集落、という言葉が適切なのかもしれないが、近くには有名な観光地もあって、人の出入りは意外にも少なくない。
 少しばかりくたびれた長袖のシャツを肘まで捲り、俺はぱさぱさと頭を振った。台風から温帯低気圧へと変わった雨雲があたり一面を覆い隠し、小さな無人の駅舎はポタポタと雨漏りの音に包まれている。
 拭いきれなかった水滴が床に落ちていく。濃紺のスラックスは色が変わるほどに濡れてしまっている。大きめのタオルでも用意しておけばよかっただろうか。
 半分ほど床下浸水しているような駅舎では、あまり意味がないかもしれないけれど。②
 先ほどスマートフォンで確認した情報によれば、このあたりの電車は軒並み全面運休が決まったらしい。なんとも無情なニュースである。泊まっていた民宿へ戻ろうにも、いかんせん距離が遠い。車で送るという女将さんの申し出を断り徒歩で二時間かけて山から下りてきた俺も大概馬鹿らしいが、警報が発令されている大雨の中、同じ道を、それも今度は上り坂を引き返す気には到底なれなかった。⑦⑨
 安全面だのなんだので考えれば危険極まりない野宿だけれど、そもそも他に選択肢がない。仕方なく濡れた衣服を絞って、木製の薄汚れたベンチに腰掛けた。
 ふう、と息をつき、壁にべたべたと貼ってあるポスターに目をやる。来月行われる町内会の祭りの宣伝から、もう五年も前に終了した交付金の案内、最近流行りの特殊詐欺の注意喚起まで内容は様々だ。吹きこんでくる風雨に晒されてか、すっかり文字が掠れて読めないものもある。
 管理者が常駐していないのだろうことは、一目で分かった。おかげでいくつもの時代が入り交じり、妙に非現実的な空間を創りだしている。天井から垂れ下がる剥き出しの白熱灯が、まさしく昭和の遺物に見えた。入口の引き戸の蝶番だけ妙に真新しく綺麗なのは、先日の大きな地震で壊れたものを修理したからか。想像の域を出ない。
 ろくでもない現状にも関わらず笑みが零れるのは、過去の経験の賜物だ。どうせ明日の朝まで足止めを食らうだけ。
 雨音だけが包みこむ空間。風が古めかしい木枠のガラス窓を叩く。俺以外の生き物の気配すらない。目を閉じれば、まるでこの世にひとりきりにでもなってしまったような、馬鹿げた錯覚に陥る。
 そんな場所に、パシャパシャと不規則な水跳ねの音が聞こえてきたのは、駅舎の形状を目測で計測しはじめた頃だった。徐々に大きくなるそれは、明らかにこちらへ向かって近づいてきている。
 こんな大雨の中こんな場所に来る人間なんて、おそらくまともな奴ではない。その筆頭は自分である。少なくとも地元の住民でないことはたしかだ。
 ガタッと鈍い音を立てて開かれた扉とともに、勢いよく雨粒と冷たい風が舞い込む。思わず目を細めて身構えると同時に、真っ黒い影が雪崩れるように飛びこんできた。
「……こ、こんばんは」
 驚いた表情で呑気な挨拶を寄越したのは、およそこの場には似つかわしくない、一人の若い女だった。



「へえ……お兄さんを探して、こんなところまで」
「ああ、まあね」
「家族想いなんですね」
「そう言われると素直に頷けない部分もあるけど……最後に見た兄の後ろ姿が忘れられなくて。死ぬまでに一度、きちんと話したいと思ってるだけなんだ」
 男はそう言って、気恥ずかしそうに笑った。
 散々歩き疲れてようやく山を下ったと思ったら、突然の大雨に見舞われた。
 三時間ほど前のことである。
 のんびり歩いても今日中には市内の駅に到着できる目算だった。途中の山道が思ったより険しかったことは大きな誤算だ。
 電車が動いていようがいまいが、ひとまず雨宿りは必要だと記憶を頼りに足を向ければ、真っ暗な豪雨の間に仄かな明かりが見えた。無人駅と言えど電気は通っているのだ。このあたりが停電していなかったことは不幸中の幸いか。
 叩きつけるように強くなる雨から身を護りつつ駅舎に飛びこむと、驚愕のあまり身を固める先客がいた。④
 咄嗟に「こんばんは」なんて間抜けな挨拶をしてしまったのは、こんな天候でこんなところに人がいるなんて思わなかったからである。外は大雨、駅は古びた木製のつくりで、どうしたって身を守るのに最適な環境ではない。おそらく相手もそう思っていたことだろう。
 挨拶もそこそこに先客が告げた、残念ながら今日の電車は全て運転見合わせになったこと、大雨洪水警報が出ていて危険だという忠告を素直に聞くことにして、私は仕方なしに彼の座るベンチに一緒に腰掛けることになった。
 おまけにいつもの癖で、ついつい「ここへはご旅行ですか?」なんて尋ねてしまった。警戒されるかと思いきや意外にもあっさりと語ってくれたのは、「十年前に生き別れた兄を探してこんなところまで来た」ということ。三週間ほど前からこの町に滞在していて、少しだけ手掛かりを得ることができたから、このまま帰るのだという。
「そういう君は?そっちも地元の人間じゃないだろう」
「どうしてそう思うんです?」
「大雨洪水警報が出てる上、電車は全線運休だってのに、呑気に駅まで歩いてくる地元の人間がいるならお目にかかってみたいね」
「ああ、まあ……それもそうですね」
 確かに、完全な愚問である。
「こんな辺鄙なところまで、どんな用事で?里帰りって様子でもないし」
「ええと……まあ、その」
「ん?」
「あの、実は……」
「……まさか家出なんて言わないだろうな」
「違いますよ!いえ、私、ちょっと……探偵みたいなことをしてまして」
「は……探偵?……君みたいな子どもがか」
「……はい。先日ここの町の方に、ちょっとした依頼を受けて。私も五日ほど前からお世話になってたんです。」
 思わずと言ったように溢れた男の言葉に、内心気分を害しながらも、私は努めて穏やかに言葉を返した。
 石塚充雄と名乗る初老の男性から連絡を貰ったのは、今から二週間ほど前のことだった。石塚家はこのあたりの山林一帯を管理している所謂地主であった。
 つい最近家長の茂久が亡くなったのだが、ミステリ好きで偏屈な家長は、あろうことか遺産相続に関する遺言書をすべて暗号で作成していた。死因は事件性などまったくない、長年の無理が祟った心筋梗塞だったという。還暦を迎えたばかりというから、近年にしては早すぎる死だ。
 簡単なアナグラムと転置式暗号によって並べられた文字列は、なんのことはない、弟である充雄に家督を譲ることと、これからも一族全員で助け合っていくことなど、そういった内容だった。ただ一つ気になったことと言えば、遺書に血のような染みがぽつぽつと滲んでいたことくらいか。ただの汚れと言ってしまえば、ただの汚れなのだが。
 結果的に一日で終わった依頼のあと、四日間も余計に滞在する羽目になったのは、五年前に事故で亡くなった娘に私がよく似ていたとかでとても手厚くもてなされたことと、今は亡き家長に影響を受けたこれまたミステリー好きの充雄にこれまでに関わった事件などについて思い出話代わりに語って欲しいと催促されたからである。今どき珍しいほど他所から来た人間にとても優しい人達だったが、おかげで大雨に直撃するだなんて思いもよらなかった。今日中に帰らなければならない用事が、だなんて適当な嘘を吐いて出てきたことを、今さらながらに後悔している。あれだけもう一泊していけと引き止められたのだから、その言葉に甘えればよかったのだ。
 話せば、男はなるほどと頷いた。
「あの高台に見える大きな日本家屋の石塚さんか」
「さすが、よくご存じで」
「そこだけは直接話を聞けなかったんだよ。近所の人にいろいろ情報を頂いて困ることはなかったけれど。君がいたからだったんだな」
「遺産相続でピリピリしているところに、あまり部外者を入れたくなかったんだと思います」
「門前払いされてしまったよ」
「貴方、とても目立ちますから。きっと横槍を入れられたくなかったんでしょう」
「目立つかな?」
「謙遜しますね。その容姿といい雰囲気といい、とても普通の人には見えません」
実際、男の容姿はかなり整っていた。細身に見えるけれどシャツから覗く腕は随分と鍛えられている。
「あなた、本当に一般の人?」
「……一般って?どういう意味?」
「あまりにもこの場所で浮いてるというか……警戒の仕方がなんとも」
「初対面で無警戒ってことはないだろ」
「それはそうですけど」
 お兄さんて、もしかして。雨の音に被せるように、戸惑いがちに言葉は紡がれた。



「白川さん、君に見てもらいたいものがあるんだ」
 石塚家の次男、今回家督を継ぐことになった充雄は、絵に描いたような困り顔で言った。幸いにも「待ってました」の声は寸でのところで抑えこむことに成功している。
 通されたのは、屋敷の奥にある書斎だった。一角に質のいい本棚がずらりと並び、ちょっとした資料室のようになっていて、中央には高価そうなデスクが置かれている。
「ここは、お兄さん……茂久さんの書斎なんですか?」
「ああ。兄貴は亡くなる直前まで、毎日のようにここに籠って本を読んでた。小説を書くのが趣味だったしね」
緩められた目尻の皺は柔らかく、兄弟仲がよかったことが伺える。
ガタッと鈍い音が響く。デスクの引き出しを開けた音だった。
 そしてバサリと取り出されたのは、なんのことはない、数十枚の紙の束だ。
「見てもらいたいものは、これだ」
「……何かの資料、ですか?」
「君なら、見ればわかるだろう」
「拝見しても?」
「好きにしてくれていい。それを君に預けたいと思っている」
 預ける、とはまた大仰な話である。仮にも亡くなった兄の遺品だろうに。
 訝しい想いを抱いたことは確かだ。
 けれど、パラパラと数枚を捲るだけで、充雄さんの言葉を理解するには充分だった。その表情が沈鬱に歪んでいる原因も、わざわざ私に預けたいと言った意味も、これを伝えるのに数日間を要した理由も。
「これって、もしかして……」①
「十年前の連続殺人事件と、それに伴って起こった侵入事件の一連の作戦資料だろう。兄の遺言書と一緒に見つけたんだ。はじめは推理小説のネタにでもするのかと笑い飛ばしたが……あまりにも、なんというか……リアルだろう、それは」
「そう、ですね」
 犯人とされたのは、当時まだ十四歳の少年だった。中学生の子どもが、同級生や家族、知人の大人たちを次々と殺していく。その手口は残忍で、衝撃的な事件は国中に震撼をもたらした。また、『少年の冤罪を証明する』という大義名分で、極左暴力集団による様々な非合法活動が勃発したこともあり、長期間ニュースや新聞のトップを飾った事件である。関係者の一部は国外に逃亡し、いまだ完全な解決には至っていないと聞く。
「今は便利な世の中だな。インターネットで調べれば、なんのことかすぐに分かった」
「なんで、こんなものが……」
私は、手元の資料を食い入るように見つめた。
 不明な点が多い当該事件は、今をもって捜査中である。少なくとも、こんな年若の探偵には入ってこない情報で、果たしてどう扱っていいものか。
「……十年ほど前、うちが管理している家を売ってほしいという話があってね」
「家……って、ここの屋敷をですか?」
目を見張ると、彼は苦笑して手を振った。
「ああ、いやいや、違うんだ。この山の麓に長いこと放置している平屋があるんだ。まあ……別荘代わりみたいなものか。古い家だが、昔はきちんと手入れをしていたんだよ。でも正直なところ、うちもこの家と山で充分だったからね。持て余していたとも言える」
「そこを、売ってほしいと?いったい誰が……」
「……今思えば、それも偽名だったんだろうが」
 白髪の目立つ初老の男は苦々しい表情で、深く息を吐き出した。
「吉井と名乗っていた。奴はある日この村へ現れ、あの家がほしいと言ってきた。なくても困る家じゃないし、手入れも管理も楽ではないからね。売却額もそこそこ悪くなかったから、売ることにしたんだ」
 充雄さんの視線は、昔を思い返すように細められた。
「少なくとも吉井の言い分はまともだった……らしい。対応したのは死んだ兄貴だったから、今となっては真実は分からないが」
「……それが、十年前?」
「ああ。どんな事情があったか知らないが、彼も年がら年中ここにいたわけじゃない。何ヶ月か家を空けることもあれば、毎週顔を合わせることもあった」
「それが、ぱったりと姿を見せなくなったわけですね」
「さすが、すべてお見通しということかな」
「とんでもない。なんとなくそう思っただけですよ」
 しかし、そう推測する材料は充分だ。
「彼が姿を現さなくなったのは、家を売却して数年経った頃だった。年単位で不在にし続けるなんて不自然だろう?さすがに不審に思って、五年前、兄貴と一緒に吉井の家に行ってみたことがある。もちろん、一度他人に売却した家だ。好きに見て回るなんて許されるはずもないんだが……」
「……家の中には、合鍵で?」
「吉井が鍵を変えていなければ、入れると思ってね。もともと隣近所の家にはみんな勝手に上がるような田舎町だけど、鍵を変えたり増やしている可能性はいくらでもあったから、期待はしてなかったが……」
 結論から言えば、その心配は杞憂だったというわけだ。
「部屋はガランとしていたよ。家具だって最低限、埃も溜まってた。だけど、ついこの前まで人が住んでいたかのような妙な生活感が残っていた。……どうにも、気味が悪く思えて。兄貴が部屋を見て回るのを、ただ眺めているだけだった」
 長男の茂久は、その間にどこかででこの資料を見つけたのだろう。どうして持ち帰ろうと思ったのか、今さら解明することは不可能だ。どちらにせよ、とんでもない証拠を手に入れていたことに変わりはない。
「そのうち帰ってくるだろうと踏んでいたんだが……あれから五年以上、結局奴をこの町で見かけた町民はいない。俺もそんな男がいたことすら忘れかけていたくらいだ」
「忘れかけていた……ってことは、なにか動きがあったんですね」
「察しがいいね。つい数日前、奴のことを訪ねて人が来た」
「訪ねて……? 吉井の仲間、ですか」
「さあ、どうかな……。うちはここのところ、知ってのとおり兄貴の葬式やら遺産相続やらバタバタしていたから。親類以外の来客対応はすべて家政婦に任せっきりだった。彼女曰く、見たことのない若い男が訪ねて来たらしい。十年前に行方が分からなくなった兄を探していると言ってね。見せられた写真にピンときたと言って、教えてくれたんだ。彼が探しているのは吉井じゃないかと」
 それはなんとも、怪しさ満点ではないか。無暗に話をしなかったのは賢明な判断だ。ここを訪れた若い男が仲間にしろそうじゃないにしろ、あまり関わるべきではないだろう。
「その人は、もう町を出たんですか」
「もう三週間くらい民宿に世話になっていると聞いたよ。昨日、吉井の家の様子を見てくると言っていたそうだから、目的を果たせば出て行くんじゃないかと思うんだが……」
 正直なところ、私が手を出すような事件かどうかと、そう問われれば首を傾げるしかない。
 これはあくまで依頼外のお願いに過ぎないのである。易々と引き受けてしまうには、内容も規模も大きすぎる。一介の探偵に託すようなものでもないはずだ。最寄りの大きな警察署にでも行って、事情を説明するほうが得策に思えてならなかった。
 私は随分と頼りない表情をしていたのだろう。
 背もたれに深く腰掛けた充雄さんは、試すような表情で、真っ直ぐに私を見上げた。
「これが、兄貴の……遺言書と一緒に出てきたのは、なにか意味がある気がしてね」
「意味、ですか」
「必然だと思ってしまった。駄目もとで連絡を取った君が、本当にわざわざこんな片田舎まで来てくれたことも含めて。それに遺書に残されていた、兄貴のあの言葉も………」

『あらゆる著述はインクの染みである』

 それは、茂久の遺書で唯一暗号を用いずに書かれていた言葉だった。いかにも好事家らしいその言葉には一体どんな意味が込められていたのか。
 年代物の時計が刻む音が静かに響く。視線を落としたのは資料の最後のページだった。紙面の端に走り書きされたワインレッドのインク。後から付け足されたかのように鮮やかなその色は、なんとも言えぬ存在感があった。沈むような深紅で記された不可解なその数字は、一見法則性など無さそうに見える。口座番号か、電話番号か、それとも仲間内の合言葉か。十年前に思いを馳せるように、荒く書かれた数列をそっと指でなぞった。
 


「もしかして……私の同業者か……警察関係者、だったりして」
 最後の迷いを払拭して問いかければ、鋭利な刃物を象った瞳が、容赦なく私のこめかみを貫く。③
「……俺はただのフリーターだよ。探偵だの警察だの、そんな職に就いたことはないな」
「本当に?」
「残念ながら勉強は苦手でね」
「……そうは見えませんけど」
「なんだ、随分と食い下がるな。どうしてそう思うんだい?」
「……いえ、すみません、変なこと言って。違うならいいんです」
落ち込んだ風情でしおらしく引き下がれば、男は「そうか」と一つ頷いて、深く腰掛ける。
「そういう素振りは、もっと素直な人間にやるべきだね。俺みたいな捻くれ者には通用しないから、今後のために覚えておくといい」
「……冷たいですね」
 美しく微笑んだ男の顔がなんとも皮肉めいていて恨めしいものだ。不貞腐れたように言葉を返せば、男はなんとも楽しそうに肩を揺らした。
「……もし俺が同業者だったらどうする」
「さあ?」
「さあって、君ね……」
「でも、こんな辺鄙な田舎町で同じ探偵に出逢えるなんて、なにかのご縁かと」
「……じゃあ、警察だったら?」
「なおさら所属と名前をお伺いしたいです」
「ああ……なるほど。伝手を作ってこれからの探偵業に活かそうって魂胆か。……君はなんというか、見た目のわりに強かだな」
「ふはっ、まあ、そうですね」
 明るい声色が湿った空気の中を通り抜ける。雨音の波間を縫って、ぴちゃん、と水の滴りがおちた。
 その時だった。緩やかな空気を切り裂くように、バチンッ、という音が唐突に響いた。
 突然視界を奪われて、二、三度瞬きを繰り返す。どうやら、とうとう電線がやられてしまったらしい。この大雨と強風だ。むしろ今まで保っていたことを褒めてやりたいくらいである。
「停電、ですかね」
「この雨だからな……復旧は明日以降だろう」
「なにか、明かりの代わりになるものは?」
「ライトの類は持ってないね。スマホはあるけど……困ったな電池がもう余りない」⑩
「……私もです。完全にサバイバル状態ですね」
「大人しく一晩明かすくらいなら問題ないさ。探偵さんは、暗闇が怖いか?」
「幸いなことに、暗所恐怖症ではないです。でも、暗闇を恐れるのは、動物の本能だと思いますけど」
「……それもそうだ。恐怖を忘れることのほうが、よっぽど恐ろしい」
 男は細く息を吐くと、肩の力を抜いた。
 この空間は、どうもいけない。
 さながら檻の中だ。地続きのように見えて、日常から巧妙に切り離された場所。他の誰も訪れることはないし、出ることだって叶わない。
 ともすれば雨音に掻き消されてしまいそうな吐息だけが、明確に他者の存在を知らせる傍証だ。すぐ傍にいるはずの彼女の影は、闇に溶けこんで酷く希薄に感じられた。暗がりに輪郭がぼやけて、まるで突然一人きりにでもなってしまったような。
「……袖振り合うも多生の縁…あなたのような変わり者と大雨の中こんな無人駅で逢えたことも、ある意味必然なのかもしれませんね」
「君は運命論者か?俺とは気が合わなそうだ。それに、変わり者って言うなら君だってそうだろう」
「あなたには及びません。お兄さんの行方を追うにしたって、三週間もこんな狭い町に留まっているなんて」
 彼女の唇が綺麗に弧を描く。見透かしたような鮮やかな微笑みは、ただただ憎たらしく映った。
「……行方不明のお兄さんを追ってあちこち転々としているはずなのに、スニーカーもリュックもやけに真新しい。フリーターにしてはお高い腕時計をつけているみたいですしね。三週間ものんびり滞在してたわりには、情報が手に入ったら悪天候でもアッサリ帰ろうとしてる。なにか別の目的があって、最初から当たりをつけてここへ来たのかと勘繰ってしまう要素がたっぷりです」
それに、と彼女は続ける。
「石塚家の家政婦さんや町の人から聞きました。駐在所のお巡りさんよりも聞きこみが上手なんでしょう?皆さん口を揃えて言ってましたよ、気づいたら余計なことまで喋っちゃったのって」
「なんだ知ってたのか。意地が悪いな」
 聡明な彼女は、はじめから俺が『兄を探して来訪した旅人』だということを知っていたわけだ。つい苦虫を噛み潰したような表情を抑えきれなかった俺に、「怒らないでください」とのたまう声は妙に楽しげだ。
「あなたが噂の旅人かどうかなんて、話してみるまで分かりませんでしたし。石塚家はなにかあるとご近所からすぐに話が回ってきやすいんです」
 的確な観察眼に感嘆の声を上げる代わりに、俺は小さく肩を竦めた。まったくもって大正解だ。目のつけどころはなかなかに素晴らしい。どうやら個人的な我が侭で担当することになった案件で、面白い少女と遭遇してしまったようだ。
 極左暴力集団の男が国内に入ったという情報が舞いこんできたのは、約一年前のことだった。男が仲間や関係者と接触するのを待ち、潜伏しているらしい場所を特定したのが半年ほど前。手を尽くしてみたもののいまだ男と直接接触するには至っておらず、ひとまず過去の足取りと関係者を洗い直すために以前住んでいたという片田舎へ足を運ぶことが決まったのは、ほんの約一ヵ月前である。
 男が借りていたという木造の平屋に案内してもらい、いくつかの置き去りにされた資料を持ち帰ることができたのは僥倖だった。見たところ顧客リストのようだから、持ち帰って他の資料と照合すればなかなかにいい結果が得られるだろう。
 善は急げとばかり、かすかに名残惜しい民宿をあとにして、事前の天気予報に反した大雨に降られたのは、逸る気持ちを抑えるにはちょうどよかったのかもしれない。
「詮索好きもほどほどにしたほうがいいね。俺が悪事を企む者だったらどうするつもりだ」
「……明日の朝になったら通報しちゃうかも」
「するのか?」
「してほしい?」
「質問に質問で返すのはナンセンスだな」
「手厳しいですね」
 建てつけの悪い木枠の窓から吹きこむ風に、背筋が震える。けれど、なぜだか寒さは感じなかった。むしろ身体の芯がポカポカと暖まるような心地さえしている。
「手厳しい貴方にひとつ、良い話があるんです」
「……聞いても?」
 雨音に閉ざされた町で二人が出逢ったことに、意味がないはずがないのだ。
「貴方が追っている男を知ってる……って言ったら、どうします?」
 暗闇の中、息を飲む音が反響する。
 二人の間に空いていた距離を少しだけ詰めて、彼女はにこりと微笑んだ。
「……その冗談は笑えないな」
「このまま冗談にしたい、ってこと?」
 こちらを試さんとする物言いに、不快にならないと言ったら嘘になる。つい顰めてしまいそうな表情筋を叱咤して、俺は大袈裟に肩をすくめてみせた。
「……質問で返すなって」
「まあまあ、いいじゃないですか」
 彼女の言う情報とやらが本当なら、魅力的であることは確かだ。俺があの荒れ果てた平屋で手に入れた以上のものが隠されている可能性は高い。
 誘いに乗るのは簡単だが、果たして鬼が出るか蛇が出るか。
 彼女はにやりと口角を上げると身を屈めた。がさがさという音が響いたあと、取り出されたのは分厚い茶封筒らしきもの。大雨の影響だろう、四隅が少しだけ濡れている。
どんな計略があったとして、もはやどうでもいいことだ。なぜなら、きっと俺の唇も同じ笑みを形づくっている。
 乱雑に手渡されたそれは、思いのほかずしりと重い。
「正直、どうしていいか途方に暮れてたとこです」
「……そうは見えなかったが」
「だって国家機密にも匹敵する重要書類を抱えてるって……こんな馬鹿げた状況、笑うしかないですよ。……そしたら、いいところにいい感じのお兄さんが現れたので」
「よく言う、俺のことを見定めてたくせに」
「味方かどうか判断する時間は必要でしょう?」
「君と俺とでは『見定める』の解釈に齟齬があるみたいだ」
「そう突っかからないでくださいよ。これから盛大に手の内を曝け出そうっていうんですから」
「……それで、探偵様はどんな厄介ごとを引っ張ってきたんだ」
 至極当然な疑問に、彼女は笑顔で茶封筒を指し示した。
「どうぞ」
 言ったきり、無言でこちらを見据える。補足説明は一切ないらしい。
「……読めって?」
「そうすれば一発ですよ。もともと私のものでもないですし」
「私のものでもないって……まあ、経緯はあとで聞くけど……こんな真っ暗なとこじゃ読むもなにも……せめて朝になってから」
「はい」
「うわっ、……は?」
 パッと瞬いた衝撃に、咄嗟に目を瞑った。瞼の裏が赤く焼ける。もう電気が復旧したのか?いや、この大雨と強風だ、さすがにそれは難しいだろう。それらを一瞬のうちに判じて、俺は目をしばたたかせる。
 夜目は利くほうだが、暗闇と光のコントラストに慣れるのに数秒を要した。実に一時間ぶりの光だ。ふと、彼女の手が煌々と輝いているのが分かる。いや、正確には……彼女の手にある小型のライトが光っていた。久方ぶりに照らされた駅舎の窓は相も変わらず風雨でガタガタと揺れ、天井からはところどころぽたぽたと水滴が落ちている。先ほどからちっとも変化のない光景だ。
 真横に顔を向けると、光源たる彼女は、なんでもないような表情で言った。
「明かりです」
 まごうことなく明かりなのは見れば分かる。俺が言いたいのはそんなことではない。
「……いや、待って」
「はい?」
「さっき、ライト持ってないって、言ってたよね?」
「味方かどうか判断する時間は必要でしょう?」
「俺の神経を逆撫でする天才なのか君は……」
「ってことで、ハイ。経緯も説明しながら照らすから、さっさと読んでください」



「……ちょっと聞いてもいいかな」
 正した姿勢を変えないまま、男は呟いた。案の定というか予想通りというか、男はおそらく警察関係者だ。その資料について答えられることがあるとは思えないが、ここで尋ねられる相手は私しかいない。
「いいけど、なんです?」
「君、石塚の家で、この資料についてなにか聞いたか」
「さっき説明した以上のことはなにもありませんよ」
「……彼の死因は」
「心筋梗塞です。もともと高血圧な上、愛煙家でもあったらしいので……親族の方々に聞いた限りじゃ、事件性はないと思いましたけど」
「ああ、いや……そうじゃない」
 顎に指を当て、とんとんと叩く。考えるときの仕草らしい。
「……彼の、周りはどうだ」
「えっ」
「茂久氏の周りで、亡くなった人は? 親族でも友人でもいい。ここ十年以内に」
 低く唸るような声色に、先ほどまでの冗談めかした軽さはなかった。虚を突かれた私は、一拍遅れて口を開く。
「え、ああ……五年前に、長女が事故死してます」
「長女?……茂久氏の娘か」
「そう。台風で増水した川に落ちたらしいですよ。麓にある友人の家に行った帰りで……」
 言いながらはっとする。何故気付かなかったんだ。
「……ああ、そっか。……だから今日、あんなに…」
 今さらながら気づいた事実に、全身の力が抜ける心地だった。帰り際に何故あんなにも引き止められたのか。
「なに?」
 彼が困惑した表情でこちらを見ているのを、視界の端で捉える。
「今日……って、もう昨日か。帰り際に、なんかすごい引き止められて。雨の予報だし、あと一泊していきなさい、帰るならせめてタクシーを呼ぶからって」
 滞在中さんざんもてなされていたから気づかなかったが、あれは心配でも親切でもなく恐怖だ。私が茂久さんの娘の二の舞になってしまうのではないかという。
「彼らが私を知ったきっかけ、言いましたっけ。……似ていたんだそうです。亡くなった娘さんに。……道理でしつこすぎると思った。たぶん、年齢も同じだったんだ…」
 申し訳なさとも罪悪感とも違う何かが込み上げて、ぐっと唾を飲む。好意を無下にしたつもりはなかった。それに当人たちが口にしない以上、私が彼らのトラウマに寄り添ってやる義理はない。それでも、彼らにとってはどれほど恐ろしかっただろう。家を辞したあと、私の姿がすっかり見えなくなるまで手を振り続けていた理由が、今になって分かった。
「……それから、この数字……。ひとつ訊いていいですか」
 喉の奥から絞り出した声は、弱弱しく掠れていた。遺書に付いていた血のような染み……あれは血などではなかった。あれは、インクが零れた跡だったのだ。それから資料に書かれていた数字だってそうだ。どちらも、同じワインレッドのインクだった。
 あの紙束と遺書は、二つで一つの事実を指し示していたのだ。⑧
「貴方の追ってる吉井は……なんの、容疑なんですか」
 彼はなにも答えなかった。私は構わず続ける。
「茂久さんの娘が亡くなったのと、茂久さんがこの資料を手にした時期が合致するんです。……充雄さんは、吉井を十以上年前から見かけてないって言ってましたけど……でも、高台に住む彼らと麓に住む吉井が顔を合わせるなんて、滅多にないことでしょう。そもそもこの町、一軒一軒の距離がかなり離れてる」
淀みなく唇を動かしながら、頬が引き攣るのを感じた。
「それに、こんな嵐の夜になんて、誰も出歩かない。よそ者が来ていても町の人は誰も気づかないし、気づかれない。十年前だって五年前だってそうだ。……麓にある友人の家から帰宅しようとしていた……彼女以外は」
 あのワインレッドの染みは石塚茂久の罪の証だ。
「……吉井は、資料を盗んだ犯人を殺害しようとした。その結果、大雨の中一人出歩いていた茂久さんの娘が、殺されたんだ。彼女が盗んだ犯人だと、そう、勘違いされて」
 不可解な数列は茂久の残した暗号だったのだ。
『彼女は殺された』と、その隠された事実を伝えるための。
 自らの娘を死に追いやった、忌々しい紙の束。あの、優しくて過保護で私のことを心の底から案じてくれた石塚家の誰も知らない、本当の真相。
 彼は資料を閉じると、小さく息を吐き出して、私の手の中でだらりと垂れていたライトを手に取る。直後、パチン、という軽い音を最後に、駅舎は再び暗闇に包まれた。ライトのスイッチを切ったのだ。
 そのまま彼は私の手にハンカチを押し付ける。きつく閉じた目の奥がじんわりと熱を持っていた。

『あらゆる著述はインクの染みである』

 紙があり、そこにインクが零れる。どんな大層な文言も、所詮はインクの染みにすぎない。その染みを解釈する誰かがいて、初めてそれは言葉となり、意味を持つ。
 遺書にインクが零れたのは、果たして故意か偶然か。どちらにせよ、気付かなかったわけがない。しかし、彼は敢えて残したのだ。血のような深紅の斑点は、ただのインクの染みであって、けれどそれだけではない。私が託されたものは、一人の父親の拭いきれぬ後悔と、憎しみと、懺悔と……。
 今は亡き愛すべき好事家に想いを馳せる。飲み込まれそうな暗闇の中、それだけが確かな道標のような気がした。

 若き探偵の瞳から、熱い涙が零れ落ちた。



簡易解説
とある男の遺書と共に事件の重要書類が発見される。書類の端に記された数字の暗号を書くのに使われたインクが、男の遺書に零れていた。その結果、その暗号を書いたのは男だと分かり、事件の謎が解けるようになった。
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参加者一覧 16人(クリックすると質問が絞れます)

全員
アルカディオ(7良:1)
たけの子(6良:2)
OUTIS(10良:3)
ぎんがけい(6良:2)
シチテンバットー(8良:3)
輝夜(6良:1正:1)
靴下(4良:1)
ごがつあめ涼花(4良:2)
「マクガフィン」(9良:2)
フェルンヴェー(6良:2)
ハシバミ(7良:2)
リンギ(4良:1)
猫又(4良:1)
ほずみ(2良:1)
休み鶴(2良:1)
くろだ(2良:1)

お集りの皆様方、ご機嫌麗しゅう。
第24回正解を創りだすウミガメもいよいよ閉幕の刻が近づいて参りました。投稿、投票、批評に感想、何れも出尽くした頃かと思われますが、シェフ並びに観戦者諸兄におかれまして、お忘れは御座いませんか?……ええ、無ければ重畳。

では前置きは手短に。今宵はロスタイム含め十三名のシェフにより、十六杯ものスープが饗されましたね。当方の問題・要素ともに難易度の高いものと自負しておりましたが、何れも極上の逸品でございました。主催として、ご参加いただいた皆様には深く深く御礼申し上げます。また、皆様にもお楽しみ頂けたのであれば僥倖です。


さて、刻限となりました。大幅に過ぎてますねごめんなさい。数多の名手名作が鎬を削った第24回、その頂点に立つは何者か?
今に明らかになろうとしております。各々方、心の準備は宜しいか。宜しければお進み下さい。


まずは最難関要素賞の発表となります。

第3位(2票)
🥉②面積は重要です。(ぎんがけい様)
🥉⑤何気ない日常が重要です。(ごがつあめ涼花)
🥉⑧二つで一つでした。(ハシバミ様)
一気に三要素がランクイン!今回は総じて一捻り必要な要素が多かった感がありますね。

第2位(3票)
🥈⑦どこまでも歩いては行けなさそうです。(「マクガフィン」様)
これまた幅のある言葉ですからね。遥かな道行とも聳え立つ閉塞とも取れます。難しい。
なお、今回は選者の好奇心により、「どこまでも歩いて行けそうですか?」―「NO!どこまでも歩いて行けなさそうです。」と天邪鬼な要素設定をさせていただきました。ごめんなさい。


第1位(4票)
🥇③金属片が刺さります。(シチテンバットー様)
ええもう、納得の一言ですとも。物騒すぎやしませんでしょうか。
選んだ私が言うのも何ですが、相当に厄介な要素だと思います。しかし、それだけにシェフの皆様の腕の魅せ所にもなった訳ですね。


さて、続きましてエモンガ賞の発表です。一気に参りましょう、どどん!

🥉第3位 ⑩『唯一の人』(作・輝夜)8票

🥈第2位 ⑥『もみじとスズメの交換日記』(作・ほずみ)10票

🥇第1位 ⑫『芸術とは、最も美しい嘘のことである。』(作・「マクガフィン」)12票

あ、敬称略で失礼しております。正直、どれが獲ってもおかしくなかったと感じます。獲得票数が物語りますね。


さぁどんどんいきましょう、次は匠賞!

3位(5票)
🥉⑤『機械仕掛けの実験レポート1・過去改変を用いた時間遡行の証明』(作・OUTIS)
🥉⑧『未来を創り出すウミガメ2』(作・OUTIS)
🥉⑩『唯一の人』(作・輝夜)

2位(7票)
🥈①『内戦問題における叙述トリックをとく方法』(作・OUTIS)
🥈⑦『雨降って地固まる』(作・休み鶴)
🥈⑪『インク陣取りゲーム』(作・ぎんがけい)

1位(8票)
🥇⑨『片翼の一枝』(作・ハシバミ)
これまたものすごい接戦でした。3位と2位が三つ巴ですからね。どの作品が獲ってもおかしくない。なんども言いますがすばらしい作品揃いです。あとOUTISさんの占有率がすごい。



さて!いよいよ、最優秀作品賞の発表です!!


第3位は────







🥉⑨『片翼の一枝』(作・ハシバミ) 4票


どん!!!!ハシバミさんです!!!!!!!
おめでとうございます!!!!!!!!!!!


続きまして第2位の発表に移ります!!

第2位は────────









🥈⑥『もみじとスズメの交換日記』(作・ほずみ)5票
🥈⑫『芸術とは、最も美しい嘘のことである。』(作・「マクガフィン」)5票

ででん!!!!!!!!!
同数票で、ほずみさんと「マクガフィン」さんです!!!!!!!!!!!
お二方、おめでとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!




さて、それでは第1位の発表です。栄光をその手に掴むのは誰か!?!?




第1位は────────────────────────












👑⑩『唯一の人』(作・輝夜)👑8票

輝夜さんです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

おめでとうございます!皆様、盛大な拍手をお願いします!!


また、見事シェチュ王に輝いた輝夜さんには、次回である第25回正解を創りだすウミガメの出題権が賞与されます!!もう一度、おめでとうございます!!!


それでは、今回の結果発表は以上となります。最後になりましたが、ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました!そしてお疲れ様でした!不甲斐ない運営でしたが、皆様の温かいご助言とすばらしい作品たちのおかげで、なんとか最後までこぎつけることが出来ました。本当にありがとうございました!!
(※コインは順次ミニメにて送付いたしますので、今しばらくお待ちくださいませ。)
20年06月13日 21:54 [すを]
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
リンギ
今さらですが、すをさん主催お疲れさまでした。輝夜さんシェチュ王おめでとうございます![20年07月06日 23:59]
シチテンバットー[1問正解]
すをさん、主催お疲れさまでした。輝夜さん、シェチュオメです。全体の感想は俺の秘密の部屋に載せたので、よろしければどうぞ。 https://late-late.jp/secret/show/9CAXRtesvb44g3rUV2D7VgvU1S27ihSZW_8MmY9Lveo.[編集済] [20年07月06日 01:25]
くろだ
すをさん、初出題ながら、主催の完遂お疲れ様です!かぐやとよむのは初耳でした・・・完全にてるやよみしてました・・・!輝夜さんおめでとうございます!私の投票先は間違ってはいなかった!!!素晴らしい創りだすでした![20年07月04日 00:55]
1
フェルンヴェー
すをさん主催お疲れ様でした。開催の言葉も結果発表もとても凝っていて楽しかったです。輝夜さんシェチュ王おめでとうございます。輝夜さんの作品とても好きだったので、本当に納得のシェチュ王ですね。次回開催楽しみです。[20年07月04日 00:20]
1
ハシバミ
すをさん、主催お疲れさまでした。輝夜さん、シェチュ王おめでとうございます! 拙作に投票・感想くださった皆様、ありがとうございました。そして匠賞ありがとうございます![20年07月04日 00:15]
1
輝夜
こっそりと呟いておきますと…私の名前の読み方は、「かぐや」なのです。手の震えで誤爆しました…すみません。[編集済] [20年07月04日 00:12]
3
さなめ。[ラテアート]
すをさん主催お疲れ様でした、輝夜さんシェチュ王おめでとうございます![20年07月04日 00:08]
1
輝夜
すをさん、主催ありがとうございました!!お疲れ様でした。拙作に投票してくださった皆様、本当にありがとうございます。感想はアンケ会場が空き次第、すぐに読ませていただきます!次回の主催、精一杯頑張りますので、次回もどうぞよろしくお願いいたします![20年07月03日 23:59]
5
ほずみ[ますか?]
すをさん主催ありがとうございます&お疲れ様でした! 輝夜さんおめでとうございます!また,拙作にご投票いただいた皆さま,ありがとうございました。あと,アンケ見たら自分で自分に投票してました。もちろんミスです,賞には関わらないところだけど申し訳ありませんでした…[編集済] [20年07月03日 23:57]
1
アルカディオ[☆2021良いお年を]
運営ありがとうございました!!!輝夜さんおめでとうございます!!!そしてご迷惑おかけして改めてすみませんでした![20年07月03日 23:52]
1
輝夜
ェ、シェ、っシェ、シェチ、シェチュ王!?ちょ、ちょっと、あ、あの、どうか落ち着く時間をください……後でちゃんと発言しますので……お、お待ちください……シェ…[20年07月03日 23:50]
6
ぎんがけい
すをさん主催お疲れさまでした。初めてのことづくしで大変だったとは思いますが、無事に終わって良かったですね。それと輝夜さんシェチュ王おめでとうございます。非常に良作品揃いで輝夜さんには投票できなかったですが、それでも圧倒的でしたね。次回の創り出すも楽しみにしております。[編集済] [20年07月03日 23:49]
1
休み鶴
輝夜さん、シェチュ王おめでとうございます!二人が仲直りできて良かった・・・!すをさん、進行ありがとうございました!(匠賞で2位に入れて嬉しい~!!)[20年07月03日 23:47]
1
「マクガフィン」[☆☆編集長]
すをさん主催お疲れ様でした!そして輝夜さん、シェチュ王おめでとうございます🎉🎊 アンケートでも書かせていただきましたが、日常を切り取るエモさはぜひともお手本にしたいものでした!次回参加できるかはわかりませんが、楽しみにしております^ ^[20年07月03日 23:46]
1
すを
ほんっとうに遅くなりました!!ごめんなさい!!!!!画面一番下のまとメモにて、ささやかながら出題者からの各話感想を掲載しています。余韻が残らず消滅したころにでも、宜しければご覧くださいませ。[20年07月03日 23:46]
すを
投票・感想ですが、明日の朝まではしれっと集計させていただきますよ![20年07月02日 23:38]
さなめ。[ラテアート]
投票致しました。ご確認よろしくお願いします。[20年06月30日 18:19]
フェルンヴェー
こっそりロスタイム……薄目で3メートル以上画面から離れて読んで頂ければ嬉しいです。[20年06月28日 10:51]
1
くろだ
アンケ式なんですね!集計の手間をかけずに済みそうです。なるほどー[20年06月27日 00:32]
シチテンバットー[1問正解]
感想は投票アンケートに記入する形で大丈夫ですかね?[20年06月26日 23:14]
すを
ここにきてやらかしを連発している愚かな出題者です……。ヒントのほうのURLは直してきました。お騒がせしてごめんなさい![20年06月26日 22:28]
休み鶴
アンケ作成お疲れさまです!すをさんの貼られたものは編集URLなので、こちらですねー→ https://late-late.jp/enquete/show/219[20年06月26日 22:23]
3
すを
https://late-late.jp/enquete/edit/219 投票会場を開設しました!遅くなって申し訳ありません!![20年06月26日 22:07]
3
アルカディオ[☆2021良いお年を]
ありがとうございます…。本当にすみませんでした![20年06月26日 20:54]
4
すを
アルカディオさん、どうかお気を落とさず……。初参加ですし、お忘れになるのも無理からぬことです。かく言う私も今回の運営は至らぬところばかりで反省しきりですから。ともかく、出題者としてはお咎めなしの方針でいきたいと考えています。また、今回の件が原因で既に完成していた作品の投稿が間に合わなかったという方はご相談ください。メイン投票対象とすることも検討させていただきます。[編集済] [20年06月26日 10:59]
7
アルカディオ[☆2021良いお年を]
言ってしまえば『私の作品を投票対象から外す』『今後創り出す参加不可』なども飲むつもりです。本当に申し訳ありませんでした。[20年06月26日 01:32]
6
アルカディオ[☆2021良いお年を]
【お詫び】今回私が投稿しました回答で終了印をつけずにそれをそのまま放置するという行為に及んでしまいました。わざとではないとはいえもしこれで迷惑をこうむった方がいらっしゃればその方からすれば立派な迷惑行為。なおこの後の処遇につきましても皆様の民意に極力従う方針です。[20年06月26日 01:28]
6
くろだ
前回に引き続きロスタイム投稿をキメテシマッタ・・・今回も投票を一つに絞るのかと思うと心苦しいですね。[20年06月26日 00:21]
すを
すみません、手違いで締め切りメッセージがフライングしておりますが、アルカディオさんの作品は有効です!投票対象です!ご迷惑おかけしています!![20年06月26日 00:08]
すを
さて、投稿フェーズも佳境となってまいりましたね!あと30分ほど、まだまだアグレッシヴな滑り込みをお待ちしております![20年06月25日 23:27]
すを
ええと、上から順にOUTISさんきの子さんシチテンバットーさんリンギさんほずみさん休み鶴さんハシバミさん輝夜さんぎんがけいさん「マクガフィン」さん!投稿ありがとうございます並びにお疲れ様です!まだ全てに目を通せてはいませんが、明らかに名作揃いの予感がします。どんな脳みそしてるんですか……?[編集済] [20年06月25日 23:26]
シチテンバットー[1問正解]
疲れました()[20年06月25日 23:16]
「マクガフィン」[☆☆編集長]
なんとか投稿いたしました!初めてパソコンで書いたのです。タイトルはドビュッシーの言葉。[20年06月25日 22:50]
ぎんがけい
投稿させていただきました。いやあ難しかった。[20年06月25日 22:41]
くろだ
私も漫画家で1本書いてたんですが驚くほどかぶっていた・・・!なんてこったい。間に合わなくて良かったかもしれない。[20年06月24日 22:41]
輝夜
投稿させていただきました!よろしくお願いします。[20年06月24日 21:40]
ハシバミ
投稿しました。⑧な解説です。[20年06月24日 21:25]
休み鶴
投稿しました。簡易解説の要らないくらいコンパクトなストーリーをめざしました。[20年06月23日 19:09]
ほずみ[ますか?]
投稿しました。よろしくお願いします。[20年06月22日 15:20]
リンギ
投稿させていただきました。素人にミステリーは無謀だった。[20年06月20日 21:51]
八つ橋
参加させていただきますーよろしくお願いしますー[20年06月14日 18:12]
1
すを
編集済み[編集済] [20年06月13日 23:47]
シチテンバットー[1問正解]
白枠白アイコンが三名いらっしゃるので、一瞬誰が誰だか分からなくなります()[20年06月13日 23:26]
2
猫又
OH...三度見しました。もはや恐ろしい…[20年06月13日 23:26]
4
休み鶴
要素参加しそびれたー、と思って駆けつけてみれば……あれ??[20年06月13日 23:22]
6
靴下[バッジメイカー]
No.51 「OUTISさんはあらかじめ問題文とどの要素が選ばれるのか知っていましたか?」「Yes![良い質問]」[20年06月13日 23:22]
8
すを
何が……起こっているんですか……?[20年06月13日 23:15]
7
靴下[バッジメイカー]
画面の前で「はぁ??」って言ってしまった笑 OUTISさんはバケモノや...
涼花さんに完全に同意。笑
[編集済] [20年06月13日 23:11]
8
ごがつあめ涼花[★歴史の1ページ]
50個揃って新しい質問2件、間に合わなかったのかなーと思って見に行ったら解説で震えた[20年06月13日 23:11]
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「マクガフィン」[☆☆編集長]
OUTISさん正気ですか?????(失礼)[20年06月13日 23:10]
8
たけの子
OUTISさんはえぇΣ(´∀`;)[20年06月13日 23:10]
6
すを
間に合ってます!間に合ってますよ猫又さん!張り切って参りましょう![20年06月13日 22:59]
猫又
間に合えば参加します。よろしくお願いします。ラストバトン駆け抜け失礼しました![編集済] [20年06月13日 22:58]
1
すを
そして毎月開催で第24回ということは記念すべき二周年なんですね……!「創りだす」の歴史に恥じないような回にできるよう頑張ります。[20年06月13日 22:36]
3
すを
おっと、コメントの隙間に見落としていたようです。フェルンヴェーさんいらっしゃい![20年06月13日 22:34]
すを
リンギさんようこそ!間に合ってよかった![20年06月13日 22:29]
リンギ
参加させていただきます。[20年06月13日 22:28]
1
すを
ハシバミさんいらっしゃいませ!要素投稿大詰めです![20年06月13日 22:26]
ハシバミ
参加し(て)ます![20年06月13日 22:23]
1
すを
ちょっと珍しいタグ戴いてますね!この通り不慣れですゆえ、不備などございましたらどしどしお寄せくださいませ……![20年06月13日 22:21]
1
「マクガフィン」[☆☆編集長]
そういえば24回ということは第二シーズンの最終回なのですね[20年06月13日 22:18]
1
アルカディオ[☆2021良いお年を]
4つ終わったので観戦ですね どうやら最高にレアな現象に遭遇してしまったようだ…[20年06月13日 22:17]
1
「マクガフィン」[☆☆編集長]
たまにんじんさん以来なので13回ぶりくらいなのです^ ^[20年06月13日 22:14]
2
すを
靴下さん、ごがつあめ涼花さん、「マクガフィン」さん、お待ちしてました![20年06月13日 22:14]
2
フェルンヴェー
参加します![20年06月13日 22:13]
2
靴下[バッジメイカー]
久しぶりにあのタグが![20年06月13日 22:12]
2
たけの子
4つ要素出し終わったのでしばし観戦ってすをさん初出題なのですかΣ(・ω・ノ)ノ!頑張ってください[編集済] [20年06月13日 22:12]
2
「マクガフィン」[☆☆編集長]
参加しますを。初出題頑張ってくださいな(^^)[20年06月13日 22:10]
2
ごがつあめ涼花[★歴史の1ページ]
さぁて、参加しますね[20年06月13日 22:08]
2
靴下[バッジメイカー]
参加します![20年06月13日 22:07]
2
すを
輝夜さん、OUTISさん、シチテンバットー、いらっしゃいませどうぞ![20年06月13日 22:06]
2
シチテンバットー[1問正解]
参加しまする。[20年06月13日 22:05]
2
OUTIS
おっと、参加させてもらっているヨ[20年06月13日 22:02]
2
輝夜
参加します!よろしくお願いします。[20年06月13日 22:02]
2
すを
アルカディオさん、きの子さん、ぎんがけいさん、ご参加ありがとうございます![20年06月13日 21:59]
2
ぎんがけい
参加します。よろしくお願いします。[20年06月13日 21:56]
2
たけの子
参加させていただきます![20年06月13日 21:55]
2
アルカディオ[☆2021良いお年を]
作り出す初参加です。お手柔らかにお願いします。[20年06月13日 21:54]
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【出題者からの感想】ロスタイム分はのちほど追加します!


語るべきところは数ありますが、なんといってもその速さ!開幕から二分そこらで解説が飛んでくるとは思いませんよ……。思わず五度見しました。脱帽です。
しかし速さだけに留まらないのがOUTISさんのすごいところですね。どの要素もまったく自然に織り込まれていて、「もうこれが優勝でいいんじゃないかな」と思ったほどです。
特にインクの嵩増しによるハッタリのくだりなど、思わず「その手があったか!」と手を打ってしまいました。


10個の要素をひとつの物語にまとめあげる、というこの営み、当然ながら解説が短ければ短いほど難しくなるんですよね。それを「問題集」という形でオムニバス的に回収する、というのは出題者にも思いつかない冴えた一撃でした。


いやぁほんと、毎度おなじみのテンポの良さが炸裂してますね。これぞシチテン節というか。
会話劇の情報量じゃない。ナイツの漫才の台本ってたぶんこんな感じじゃないでしょうか。
しっかりがっつり面白くて、しかも要素と問題文の回収によどみがない。
>>地図って面積が結構重要だから。②
こういうところにしても、文単体で見ると結構無茶をしてるんですが、その後のツッコミが読者目線で丁寧だから違和感が面白さに昇華されてるように思います。お見事!


「創りだす」でミステリーが読める日が来るとは!!……いえまぁ、すをは新参ですから単に知らないだけかもですが、それにしたってなんというチャレンジですか。この短期間ですからね……。リンギさんが本気を出したらこのミスとか取っちゃいそうです。
>>その瞬間、神谷の灰色の脳細胞が輝きだした―――!!
「…ワトソンくん」
「だからその呼び方は!」
「指示を出す。全責任は私が負おう。至急―――…」
この描写に痺れました。それまでのおちゃらけた雰囲気から一転、スイッチが入った感がビシバシ伝わってきます。有無を言わせぬ迫力。


救いは……救いはないんですか……。そんな、ひどい……。
すをが心に傷を負ってるのはともかくとして、「タイムパラドクスとその修正」という筋が一貫した綺麗な解説だと感じました。「大学時代に使っていたレポート用紙の残り」である紙を過去に持ち込んだところ、その時代の同じ紙にインクが零れたことで因果が逆流し、持ち込んだ未来の紙にも同じ結果が反映される、なるほどと思わされました。とけなかった「誤解」がとけた、という切り口と合わせて脱帽です。そして覆せない死の結末……。ううん、こみあげるものが多すぎた。


ァ………………好き………………………。
すいません取り乱しました。こういう優しい空気感大好きなんです。
やはりこの作品の、「解説として」一番すごいところは「梳く」だと感じます。出題時点でいくつかの解釈の余地を残したくて「とける」をひらがなにしていたんですが、ほずみさんにはいい意味で裏切られました。「そうきたか!!!」って。めちゃめちゃ嬉しいですね。
また、「梳けなかったものが梳けるようになった」って何気に難しい表現だと思うんですよね。髪を梳く行為はものすごく日常的なものですし、それが梳けないってどういう状況だよと。しかも零れたインクとの関連性がほぼゼロ。そこで「他人の」髪へと視点を移し、また交換日記という要素を入れ込むことで、ものすごく自然に繋げている。さらっとやってますが達人技ですよね。物語として綺麗に綴り上げる裏で解説としての技巧が光る、すばらしい作品でした!


休み鶴さん『雨降って地固まる』
すを「あttっttっっっっっっ」
失礼しました。タイトルで変な声出ました。この時点でしてやられた感がすごい。
この短い慣用句的なワンフレーズに、今回の要素がふたつ入るんですよ。それだけならまだ思いつくこともありましょうけど、その活かし方が尋常じゃない。タイトルとして、結末として、本筋を一言で纏め上げている。いやぁ帽子脱げっぱなしです今回。
本当に要素の使い方が秀逸です。ほとんどの要素が本筋、ここでは漫画家の男の背景や妻との関係などに関連していて、それらが綺麗に繋がっている。
>>[⑦どこまでも歩いて行けると思っていた男だったが、最近では週刊連載による心身の衰えを感じている。]しかり、[②いささか広すぎる]ベッドしかり、抽象→具体や具体→抽象への誘導というのかな、字面通りではない意味合いを読者に違和感なく伝える技巧がずば抜けていると感じました。


紙にインクが零れたことで、とけなかったものがとけるようになりました。
→紙にインクが零れたことでとけなかったものが、とけるようになりました。
読点の位置を変えることで全く別の解釈を生み出しているんですね。これは盲点というか、知見というか、とにかくびっくりしました。やはりOUTISさん、何をしてくるかわからない……。
そして出ました、「未来を創りだすウミガメ」。すをの出題の中で別のゲームが始まっているという驚愕の事態。過去の問題文や要素までも盛り込んで解説が創るという超絶変態技巧ですね。すいません褒めてます。まだ4回しか参加していない出題者ですら思い出しエモンガで悶絶しているので、古参の皆様なら命が危ないかもしれません。そして物語としてもきっちりエモに落としてくるという鬼畜仕様です。これは根深い殺意でした。


……なんだろう、理解が追い付かない。ええと、これはハイファンタジーです。冬に閉ざされた王国を救うため魔女ネージョを倒したヴァルマとフローロが、国にかけられていた魔法を解いて、春を取り戻す物語。うんエモンガ。全ての要素と問題文が綺麗に回収されている。設定の緻密さ、魔法を解くに至るまでの疾走感、躍動感、回想だけでも伝わってくるフローロからヴァルマへの思慕、信頼といった感情の深み。はいエモモモモンガ。また最後の一節があまりにも美しい。
>>大河で隔てられていた、北の果て。かつての姿を取り戻し――再び、閉ざされた。(⑦⑨)
は?エモい。エモすぎる。エモーショナルエンジンフルドライブ。失礼しました語彙力が死滅しました。それにしても納得のクオリティです。なんて美しく余韻のあるラスト……って思ったんですけど下のやつ何ですか?え?続くんですか??
……把握しました。こんな綺麗で意外な二段構えあります?今までにも簡易解説を挟んでトゥルーエンドを用意している名解説には何作か出会いましたが、これは流石に吃驚です。むしろ唖然です。だって、物語の裏側・描き手視点の下段でも全ての要素と問題文を回収してるんですよ。何喰ったらこんな発想ができるんでしょうか。ウミガメのスープと偽って売れっ子作家の脳髄でも喰わされたんでしょうか。ご愁傷さまです死なないで。
いえもうほんと、思わず文体が乱れに乱れてしまっております。お許しください。しゅごい……。



すみません、出題者の側から恐縮なのですが、100エモンガ投げていいですか?
……正気に戻りました。感想を書いてたらちょくちょく理性が飛んでしまって困りますね。
努めて冷静に感想を書かせていただきますと、
②面積は重要です。
⑧二つで一つでした。 この二つの要素の活かし方が群を抜いて美しかったです。

まず②について、「面積」って単語じたい数学や建築関連の専門分野以外で使うことの少ない言葉ですし、物語の枝葉に散りばめるならまだしも、「重要」とするには厳しいところのある難題でしたので。しかし、ここでは「コマの面積」の違いは語り手であるさきがゆいに感じた違和感の正体であり、ゆいの変貌の原因である視力低下へとさきを至らしめるファクターとして見事に織り込まれています。とても重要。
そして⑧について。二つで一つ「でした」なんですよね。「です」ではなく。ここに関しては物語の進行上スルーされることの多い部分かと思っていましたが、ここでは意図して「だった」の部分に意味を持たせている。二つで一つだった原作者と漫画家の、一度は断絶する過程に焦点を当てて丁寧に丁寧に描いている。私事ですがこういうのにとても弱いです。
もちろん他の要素や問題文の活かし方も羨望ものの巧さですが、ちょっとスクロール画面への圧迫が激しそうなのでこの辺で。
何より、視力低下という漫画家にとっての致命傷ともいえる状況を知っても、ゆいを見捨てることなど微塵も考えず自分の立場すら捨てて寄り添うことを選ぶさきの頑是ないまでの姿勢に狂おしく惹かれました。二人で物語を紡ぐことが彼女らにとっての原点であり価値そのものだったんですね。本当に素敵な関係性、本当に素敵な物語でした。10000エモンガっっっっっ!!!!!!!!


すを「その手があったか!!!!!!」
すいません、取り乱しました。むしろ正気の時間の方が短いことに定評があります。
それにしてもス〇ラトゥーンとは。もう純粋に発想の切り口に感嘆です。出題者はスプラ〇ゥーン未履修でしてあまり詳しくはないのですが、それでもよどみなく理解できるくらい分かりやすいプレゼンテーション。マキタは本当に有能な社員ですね。
それにしても要素②⑦⑧⑩⑥あたりのスプラトゥー〇との馴染み方がちょっと異常ですね。ぼくと要素投稿主様たちはもしかして、みんなでスプラト。ーンやりながらこの問題を創りだしたんじゃないかと思うほどです。……嘘です、もちろん、そのような書き方をしたぎんがけいさんの技量がすばらしいってお話です。ほんとです。



えっと、あの、「マクガフィン」さんってばもしかして、脳が逆さに付いていらっしゃるのでしょうか?
……はいすみません、理性が帰ってきました。しかし毎度のことながら、本当に素敵な意外性です。今回は「ウミガメのスープ」のユーザーであるバーチャルな「向日葵」と、絵描きを生業とするリアルな彼女を見事に描かれてますね。表裏一体、二つで一つの人間性。「マクガフィン」さんの物語には、いち解説の枠を超えて哲学や思想のようなテーマ性を感じることがあります。
>>『ある人が気づかせてくれました。どこまでも自分を追い詰めたところで、得られるものなんてたかが知れているんだと。ごく普通に外に出て、人と触れ合い、笑い合い、助け合う。そんなあたりまえみたいな何気ない日々が、あの頃の私には何よりも必要なものだったんです。』⑤
らてらてでの時間、他のユーザー様との関りがリアルを生き抜く糧になればいい。根を詰めすぎるばかりでなく、滅入った時には仕事など放りだして休んでもいい。そうした優しく温かなメッセージを受け取った気がします。違ったらすみません。気持ち悪いですよね……。
それにしても随所に織り込まれた「ウミガメのスープ」の問題文!そのひとつひとつが物語を通して象徴的な意味合いを帯びてますよね。
>>「紙にインクが零れたことで、とけなかったものがとけるようになりました。
さて、どういうことでしょう?」
えっ……と……………。ぼくが出題したのはこんなに格好いい問題でしたっけ……?
ともあれ、こうした挿入歌的なウミガメの使い方はまさしくガフィンさんならではの知見だと思わされました!アレかな、歌物語のような。風流にもほどがある……。



朝原ァァぁァッァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっァァァァァァァッァアアアア!!!!!!!!!!!!!!
すいません取り乱しました。いえもう、これに関しては仕方ないんじゃないかと思っております。完全に問題文と要素の存在を忘れてました。なんてものを創りだしてるんですか。文字列からの熱量が尋常じゃありませんよ。プロレスは完全に専門外、というか肉と肉がぶつかり合う感じの映像はむしろ苦手な部類なんですが、思わずプロレス見たくなっちゃいますよこんなん。どんな問題文、どんな要素が出されても会場をシチテンバットー色に染め上げてしまう破壊力、これを見にきてる自分が少なからず存在します。100人くらいいます。ほんとうにありがとうございます。LTWよ永遠なれ!!!


「生きるからね」……タイトルからね、重さを感じるんですよ。涙腺をスタンバイして読み進めました。無事に決壊しました。現場からは以上です。
>>「おじさん、私も自由になりたいな。自由になったら『がっこう』でいっぱい遊びたい!」
ほらもう。「がっこう」を知らない子の口ぶりですよね。学校に通うこともできないまま、ずっと病院と家で暮らしてきたんでしょうか。あんまりに寂しい。見舞いに来てくれる友達はいたようで幸いですが、それでも心細いに違いない。そんな中、同じ病室でいつも構ってくれるキヨシの存在がどれだけ支えになったことか。外を知らず、知る未来すら見込めない少女にとって、キヨシの読んでいた雑誌のバイクがどれほど輝いて見えたことか。彼自身に自覚はなくとも、りなちゃんに多くを与える存在になっていたんですね。
>>「おじさん、私もっとおじさんとお話ししたかった。おじさんのバイクの話聞きたかったよ。」
この台詞。この一言に込められた未練と諦観。年端もいかない女の子がこんな言葉を口にさせて、アルカディオさんあなたほんと何考えてんですか!?……すみません取り乱しました。つらい。
そして彼女の死を悟ってからのキヨシの後悔、慟哭。心が抉られました。
>>『だから』の続きが浮かばない。否、最初からないのかもしれない。でも『だから』を書いたのは…
>>『だから』の続き
それは存在していなかった。
だって肝心のりなちゃんが帰ってこないのだから。
返事を…返してくれるわけがないんだから。…⑨
『だから』の続きはなかったのかもしれない。けれど、それを書いた訳は。少なくとも、心の冷たい人間なんかではないですよね、キヨシ。



◆◆ 問題文 ◆◆

紙にインクが零れたことで、とけなかったものがとけるようになりました。
さて、どういうことでしょう?


◆◆ 要素一覧 ◆◆

①衝撃的でした。
②面積は重要です。
③金属片が刺さります。
④かたまります。
⑤何気ない日常が重要です。
⑥雨が降ります。
⑦どこまでも歩いては行けなさそうです。
⑧二つで一つでした。
⑨かえることが出来ません。
⑩何かが足りなくなりました。


◆◆ タイムテーブル ◆◆

☆投稿フェーズ
 要素選定後~6/25(木)23:59まで

☆投票フェーズ
 投票会場設置後~7/2(木)23:59まで ※予定

☆結果発表
 7/3(金)21:00 ※予定

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ただし進行力は評価に含まれないものとします。

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