「ねえねえ、一昨日の晩ごはん覚えてる?」
娘にそう問いかけられた男は、一昨日の晩ごはんを思い出せなかったので、娘がもうじき死ぬことを悟った。
かろうじて昨日の晩ごはんがハンバーグであったことを思い出した男が「一昨日の夜はハンバーグだったよ」と返事をしたのは、娘のためを思っての行動なのだが、
一体どういうことだろう?
らてクエ3問題文決定戦、「マクガフィン」様の問題です
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8/32 +逾槭???繧、繧ソ繧コ繝ゥ日目
今日は、8月31日。
だけど本当は今日が何日か、いや、何年かすら私にはもうわからない。
私と娘は、何の因果なのかずっとこの8月31日をループしているのだ。
最初はなんとかこのループを終わらせる手立てをと考えていたが、それもずっと昔に万策が尽きている。
いつのまにか、ずっとこうして机に突っ伏しているだけであった。
それは目の前の娘もそうだった。
見た目は小学生の娘で、世界から見れば実際まだ小学生の娘なのだろう。
しかしこのループの間、娘の精神は成熟し、そして果てには私と同様に枯れつつある。
「おとうさん、ごめんね……」
不意に娘が謝った。
「私ね、『昨日』。もっと夏休みが続けばいいのに、って願っちゃったんだあ……いつまでも終わらなければいいのにって。ははは……」
娘は乾いた笑いでつぶやくように言った。
小学生らしい、可愛らしい願いだ。ただそれを、悪意ある『なにか』が叶えたのだろうと私は漠然と思った。
「ねえねえ、」
娘が、続けて尋ねる。
「一昨日の晩ごはん覚えてる?」
私はふと『一昨日』のことを思い出そうとした。それは8月31日のことは指していないだろう。
8月29日の、晩ごはんーー。
しかし、私はもうそれを思い出すことはできなかった。
それだけ、永い時を過ごしてきたのだ。多分娘ももう覚えていないのだろう。
おそらく、娘も、私ももうじき死ぬ。
それは肉体的な死ではないかもしれない。周りから見れば死んでいないように見えるかもしれない。
しかしなににも反応することなく、全てを諦めて、思考と人間性を捨ててロボットのように如何なる感動も覚えずにタスクのように日々をこなす。
これは「死」と同義だ。
精神的な「死」だ。魂の「死」だ。
もうじき、私たちは死ぬだろう。
私は、かろうじて『昨日』、8月30日の晩ごはんを思い出した。
その日は、娘の誕生日だ。
誕生日の日は、娘の大好物のハンバーグでお祝いすることになっていたはずだ。
ああ、これは気休めにもならないかもしれないが。
それでも私は言った。
「一昨日の夜はハンバーグだったよ」
娘は一瞬驚いたように目を少し見開いて、こちらを見た。娘も覚えていたのだ。この我が家のルールを。
しかし私のどこかイタズラっぽいような、申し訳ないような表情を見たのだろう。
どこかがっかりしたような、そんな表情を浮かべて、再度机に伏した。
「おとうさん、変な冗談はやめて。本当に一瞬、8月30日が一昨日になったかと思ったじゃん」
「ごめんごめん」
「ううん、でも久々に、ちょっと胸が高鳴った、かも……」
娘が再度顔を上げ、笑みを浮かべた。
その笑みは在りし日の、まだこの地獄を知らない少女のもののようだった。
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suya>>
アタマを使った1日の終わりにアタマを使ったスープを存分に満喫しました〜。。!コメントもまだ追いついておらず(笑)、拙くてスミマセン。が、とにかく楽しかった一問です!