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久々の、仕事の休日。
疲れきった体をベッドに預けてまどろんでいた男は
親友の高橋から来たメールの書き出しに涙した。
その書き出しとはどんな言葉だろうか?
男が涙した理由とともに答えよ。
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解答
「お疲れさま」
(理由)
長い間無職だった男。
その間、『お疲れさま』という社会人の定型文とも言える言葉に対し「働いていないのだから疲れていない」と後ろめたい気持ちを抱いていた。
しかし苦しみながらもまた働き出すことができ、『お疲れさま』という言葉を受けるに値する人間になれたのだという喜びから男は涙した。
解説
何がきっかけだったのだろう。
どこで間違ってしまったのだろう。
夜遅くまで仕事をしても捌けないノルマ。目に見えないプレッシャーが胸を押し潰す。
朝、駅のホームで吐き気が襲う。仕事のミスが増え、周りの視線が冷たくなる。
気がつけば人が怖くて仕方なくなっていた。
その恐怖はとうとう日常生活にまで支障をきたし、私は外に出ることすらままならなくなった。
仕事を続けることができず、30を過ぎて無職となった。
毎日が休み。
少しの安堵と、静寂。
そんな日々は一週間もすれば無能感や焦燥感に塗り替えられた。
何も知らない知人は、社会人の定番挨拶「お疲れ!」の書き出しで飲みの誘いのメールを送って来たりしたが、その言葉を見るたびに私の心には冷たい風が吹き荒んだ。
疲れてなどいない。労働していないのだから。
その言葉をかけてもらう資格は今の私には無いのだ。
そんな中、古くからの友人であり親友である高橋は、私の事情を知って定期的に連絡をくれた。
彼は決して「お疲れさま」という言葉を使用しなかった。
私が誰とも話したくないと言って閉ざしたときも、見放さずにそっと時間をくれた。
私は心療内科に通いながら、長い月日をかけて自分自身と向き合っていった。
数年振りに書く履歴書は、手が震えた。
職歴欄で誤魔化しようのない空白の期間は、私が欠陥品であることを相手に伝えているように思えた。
しかし、踏み出さなければ。
この空白は消えることはないのだ。
「また、働き始めたんだ」
その報告を誰より喜んでくれたのは高橋だった。
「よく頑張ったな」
電話越しに声が震えているのがわかった。
長い無職期間を経て再び仕事に励みだした私は、次第に外を歩くことへの抵抗がなくなっていることに気がついた。
仕事をすることで社会に居場所を与えられたような気がした。
ブランクもあり、また慣れない仕事で体力メンタルともにすり減っていく。
そうして迎えた最初の休日は、私にとって久々の"仕事の"休日だ。
くたくたの体をベッドに預け、カーテンの隙間から漏れる光に目を細めてまどろむ。
そのとき、メールの着信音が鳴った。
高橋からだ。
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お疲れさま。
調子はどうだ?
お前のことだから、早く仕事を覚えないとって躍起になってるんじゃないか。
ぼちぼち行けよ。
また、仕事終わりにでも飲みにいこうぜ。
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私が無職になって以来、高橋が「お疲れさま」という書き出しでメールを寄越したのはこれが初めてだった。
とても些細なことなのだが、何気ないその言葉の意味が今初めて深く胸に沁みてくるようで、気がつけば頬を涙が伝っていた。
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物語部門
靴下[バッジメイカー]>>
ドラマの終わりを見せられているかのように、主人公に感情移入して涙しそうになりました。それでいて、しっかりと水平思考が使われていて問題としても完成度が高い!
ちーちゃん☆彡>>
ありふれた言葉が当たり前ではない状況を考えていくのが、ザ・水平思考という感じで良かったです。