連続ウミガメ小説:保管庫

作成者:八つ橋
部屋名:連続ウミガメ小説:保管庫
ルームキー:蓮ガメ保管庫
チャットルーム「連続ウミガメ小説」で完成した小説を、読みやすいように再編集した部屋です。

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八つ橋

一作目:「ウミガメ・ドグラ・マグラ」
執筆者:黒井由紀、名無し◆DT8cGu3T/U、八つ橋、こはいち、名無し◆/.wSwQlNVw、名無し◆XuNNMCGNoQ、イナさん、風木守人、蟻 (敬称略。9名の方々に執筆していただきました。)
——————以下、本文——————



「ウミガメのスープ」
全18画で全8文字という、ダイイングメッセージとしてはやや長めのそれを傍らに、男は死んでいた。
崖下の砂浜で、男の死体を初めて発見した刑事は戸惑った。
崖から転落して即死した男が、なぜ砂にダイイングメッセージを書ける?
というか、たとえ書けたとしても、自分の大好物(男の妻に心当たりを聞いたら「大好物でした……」と答えがあったのだ)なんかわざわざ書くか?
いくら考えても分からない。
だったら私たち刑事は、足で稼ぐしかないのだ。
早速私は、生前男がよく好物を食べていたというレストランに行くことにした。

「ごめんください」

レストランの中は妙に生臭い匂いが漂っていた。
ここは本当に食事を提供する場所なのか? まるでゴミ置き場みたいな匂いじゃないか。
私は思わず鼻を覆った。

「いらっしゃいませ」

背の高いやせ細った男が現れた。
ニヤニヤと私の顔を見つめている。
厨房まで見渡せる狭い店内に他の従業員はいない。

「すみません、客じゃないのです。警察なのですが、ちょっとお聞きしたいことがありまして」

警察?
男が強張った表情を浮かべた後、小さくそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。

 「実はですね、三時間ほど前でしょうか。近くの浜辺で遺体が発見されまして。
生前よくこちらのレストランに通っていたということで、何かご存じではないでしょうか」
 私は懐から手帳と写真を取り出し、男に尋ねた。
 「はぁ、よく食事されていた方ですから。昨夜もこちらにいらしました」
 ですが、まさか亡くなってしまうとは。男は口元に手をやり、驚いた様子をみせる。
 「びっくりです。お帰りになるときも、特に変なところはありませんでしたよ」
 ため息をつきつつ、男はちらりと厨房をみた。早く帰って欲しいらしく、そわそわしている。
 本当に何も知らないのか。私は鎌をかけてみることにした。
 「……ウミガメのスープ」
 びくりとする男。ただ客が注文するだけなら、こうまで妙な反応はしない。私は慎重に言葉を紡いだ。

「とスパゲッティーナポリタンとハンバーグがセットになって1000Gなんですね、ここのランチ。これは毎日そうなんですか?」
入り口の看板を思い出しながら、なにげない風をよそおって話題を変える。かといってまんざら無意味な質問、というわけでもない。
「はい、うちのランチは毎日ウミガメのスープとスパゲッティーナポリタンとハンバーグですけど」
男は不満げにこちらを睨んで言った。さっきまでの落ち着かない反応をごまかそうとしているのか、視線も体も動かさない。
「では、ディナーメニューは……これですかね」
妙に油っぽく光るテーブルから、ラミネート加工された紙を拾い上げて眺める。ハンバーグ3500G、スパゲッティーナポリタン2500G、ウミガメのスープ1500G、か。100%そうだとは断言できないが、概ね予想通りと言えるだろう。

死んだ男の妻は「大好物でした……」のあと、こう続けていた。「ウミガメのスープを食べるために、あるレストランに通い詰めていたほどです。まあ、あの店に通い詰めていたのは、お小遣いが月々30000Gであんまり高いものを食べられないからだったのかも知れませんけど」
そして、死んだ男の胃からは、ウミガメの肉・スパゲッティー・ベーコン・ピーマン・タマネギ・挽肉が検出された。きっとこの店でウミガメのスープとスパゲッティナポリタンとハンバーグを食べたのだろう。
……が、ディナータイムのこの店でウミガメのスープとスパゲッティナポリタンとハンバーグを食べるのは、死んだ男の小遣いではかなり厳しい。ランチタイムならまだしも。

――死んだ男がこの店を訪れたのは、本当は昨夜ではなく昨日の昼なのではないか?

しかし、食べものが胃に滞在する時間は、平均2~3時間。脂肪分の多い食べものは4~5時間かかる。昨日の昼に食べて5時間後までに転落死したとして、今日——それも今から3時間前——まで見つからないというのは不自然だ。

 店員の証言通り、昨夜この店を訪れて死亡。
 昨日の昼に訪れて死亡。
 昨日の昼だった場合、事故ではなく事件の可能性が高くなってくる。彼の財布の中にはレシート1つ入っていなかった。現状何も分からない、手詰まりだ。

 嗚呼、ダイイングメッセージの謎も解けていない。即死という結果も出ている。一体誰が、何時、なんのために書いたものだろうか。

 ……そもそも、海風が吹く砂浜で、あそこまではっきりと「ウミガメのスープ」という文字が読み取れたのは、砂が湿って固まっていたからだ。しかし男の遺体は濡れていなかった。
 つまりこれは——

やはり事故ではなく事件なのだ。
しかも、男を崖下へ突き落した人物とは別に、もう一人、別の人物が事件に関わっている。

一つずつ確認していこう。
この事件で間違いのない情報、それは検死の結果だ。

検死の結果、男は崖から転落して即死したことが判明している。
しかし、男の傍らには『ウミガメのスープ』という謎のダイイングメッセージが残されていた。
即死した男にダイイングメッセージを残せるはずがない。
つまり、このダイイングメッセージを残した人物は、男ではないということだ。

そして、男を殺崖から突き落とした犯人も違うだろう。
この不可解なダイイングメッセージさえなければ、この事件は事故として処理されていた可能性が高いのだ。
犯人がわざわざ自分の不利となる行動をするとは考えにくい。
とういうことは、犯人がこのメッセージを残したのも違うというわけだ。

そうなると、男でもない、犯人でもない、まったく別の立場にいる人物がこのメッセージを残したということになる。

では、このメッセージを残した人物は誰だろう。
まだ捜査の途中なので、事件の関係者はこれから増えるかもしれない。
その危険性を踏まえた上で、私は可能性のある人物について考えてみた。

「男の妻?」

妄想染みた自分の思いつきに、思わず私は笑ってしまった。

ここはどこだ?私はさっきまで何をしていたのだ?そうか私は死んでしまったのか!(笑い死になんて恥ずかしくて言えない!!)しかしこうなったらチャンスだ死んだ男に直接聞こう。よし探しに行こう。おそらく奴はまだ成仏していないことだろう。ここに来てかえって良かったわ。「わっっはっはわっっはっは」おっとっといかんまた死んでしまうところだった。いやもう死んでるから死なないのか。「わっはっはわっはっはわっはっはわっははは」待てよ何かがおかしいこの私が笑い死になんてあり得るのか?もしかして誰かの陰謀?クスリを盛られたのか?そうなるとますます怪しいのが「アイツ」だな

とりあえず「アイツ」を探しに歩き始めた。(死んだのに『歩き始めた』はチョット変だな。)えー、
とりあえず私は「アイツ」を探しに漂い始めた。(これで良し。)
しかし、しばらく漂ったところでふと頭に違和感を覚えた。漂えば漂うほど記憶が飛んでいくのだ!しかし止まり方を知らない。ただただ呆然とするだけだった。ああ、今まで集めてきたピースが全て吹っ飛んでいく。そのうち意識も朦朧としてきた。
ワタシハダレ? ココハドコ? ナニヲシテイタノ??? それを最後に私の目の前は真っ暗になった・・・
しかし、意識が途切れる寸前、男性の声が聞こえたような気がした。

『崖から落ちるのって、ジェットコースターとは比べものにならないくらい、ふわっとするんですね・・・』

もう記憶も曖昧だ。
私には何も残されていない。そう、何のためにここにいるのか、私は誰なのかも、もう。
しかし、死に絡め取られ、削ぎ落とされて手のひらに残った言葉を私は覚えている。
「ウミガメのスープ……?」
これだけは忘れてはいけないという不思議な確信があった。
これを忘れては私が完全に私ではなくなるような……。
倒れ込んだ場所は見知らぬ浜辺のようだ。私は必死で砂浜に指を立てた。
ウミガメのスープ。
そう書き記した時、私の喪失感は反転した。
私は私の名前を思い出し、死んだ男の声を思い出し、私の職業を思い出し、私の意識を取り戻した。
私は気づけば、あのレストランに立っていた。
あの砂浜に文字を書いたのは、私だったのだ!

「ウミガメのスープを一つください」
何故私はあそこに行き、何故あんなダイイングメッセージを書いたんだろう。今となっては思い出せない
私が一番好きなのはこのウミガメのスープだ。これを最期に飲みたいな
「すみません。これは本当にウミガメのスープですか?」
「ええ、そうですよ。」
良かった、本物だ。そういえば妻を残してしまったな。本当に悪い...
俺は店を出ると、崖に向かった。
「もう何も怖くない。」
俺は飛び降りた。その時考えたのは自分の人生だった。
ドンッ...





カリッカリッ...


「遺体を発見!応援を要請する!」
「おいっなんだよこの文字!」
「砂にかいてあるぞっ!えーっと?」



「ウミガメのスープ、だって?」



To be continued...?

[19年02月20日 15:15]