１杯五千円のコーヒー

女が注文していたのはカフェラテ１杯のみで他に注文はしていなかった。
だが、女はトイレへ行った際に飾られていた花瓶を盗んでいたのである。

女性店員は女の直前にトイレを使用しており、女が出て行った直後に先の利用で気が付いた備品を補充する為再度トイレに入っていた。
そのため、花瓶が無くなる前後で利用したのが女のみであると、犯人の特定は容易だったという。

「店長が陶器に拘りある人で、本当は一万円以上で購入したものらしいですが暫く使用している中古品なので半額の五千円で売って差し上げるよう許可を頂きました。コーヒー代はオマケしますとのことです」

女の窃盗を特定したその女性店員は笑顔で伝える。

「もし貴方が花瓶を持っていないのであれば疑ったこちらが悪いのでコーヒー代も結構です。その代わり、たかが花瓶１つですけど他のお客様にまで盗難を繰り返されると困るので警察へ被害届を出すことになるそうですよ」

被害届を出されれば花瓶を盗んだ女が犯罪者になることは間違いない。
つまり店長と女性店員は女が花瓶を盗んだのではなく購入したことにするという条件を出したのである。

暫く女はごねていたが、店員の被害届や警察という言葉に最後は窃盗を認め五千円を支払い帰っていくのだった。