思い出の本

カメオとウミコは昔恋人同士だった。
若かったその頃、二人は自分たちで書いた本を自費出版した。
まったく売れなかったが、元々売ることが目的ではなく、二人で本を書くことが目的だったので不満はなく、「きっと、この本を持っているのは世界で僕たち二人だけだね」と二人は言い合っていた。
時は流れ、二人は別れることになり、長い年月が過ぎたが、カメオはその本をずっと大事にしていた。
そして今日、カメオがその思い出の本を読んでいると、目の前を少女が通り過ぎた。
カメオは彼女が持っていた本が、まさにその思い出の本であることに気付く。
あの本を持っているのは、世界で自分とウミコだけのはず！
すると、あの少女はウミコの娘？　そういえばウミコの面影があるな。
とカメオは考えたが、そのとき彼女が喪服であることに気付く。
そして、彼女が出てきたのが葬儀場であることに。
ただ母親から本を譲られたのなら、わざわざ葬儀場に本を持ってこないだろう。
ということは、彼女はきっとウミコの葬式に参列していたのだろう。
そして、ウミコはきっと、あの本を命果てるときまで大事にしてくれていたのだ……。
カメオの目から、何十年ぶりの涙が溢れ出したのだった。