プレゼント

徐倫ジョマリエバ莉子(以下徐倫)は生まれてから、一度も病院を出たことがなかった。生まれつきの難病で、いつ容体が急変してもおかしくないのだ。徐倫はこれからもう病院を出ることができないことも、死期がそう遠くないことも悟っていた。
徐倫の体に新たな腫瘍が見つかったのは今年の秋だ。今年は越せないかもしれないと医師に言われた。徐倫はそれを知らされなかったが、薄々感づいていた。

師走の初旬のある日。「徐倫、今年のクリスマスプレゼントは何がいい？」父の蒲矢アセフ承太郎(以下承太郎)が尋ねた。まるで、病院にいることなんて知らないかのように。徐倫は答えた。「一度でいいからホワイトクリスマスを過ごしたい」と。それはロマンチックな物語が好きな徐倫にとって憧れだった。しかし毎年、狙ったかのように雪は降らない。雪自体はそこそこ頻繁に降るのに。だから今年こそは…

承太郎は、どうしても願いを叶えてやりたかった。なにせ最後のクリスマスになるかもしれないのだ。しかし自然は残酷そのもの、週間天気予報では、12月25日の天気は晴れだった。しかし、承太郎はその2日後、27日に雪のマークがあることに気づいた。そして、明日は徐倫の手術の日だった。
承太郎は時間を早めることができるのではないだろうかと考えた。

承太郎は手術の日、日めくりカレンダーを3枚めくった。
周りにも頼んで、徐倫のために時間を偽ってもらった。
徐倫は手術の後で疲れていて、それに気づかなかった。

27日、予報通り雪が降った。朝起きた徐倫はうっすらと積もった雪を見て、窓に釘付けになった。いつまでも徐倫はその景色を眺めていた。よほど嬉しかったのだろう。承太郎に会った時、徐倫は真っ先に、「お父さん、ありがとう‼︎」と笑顔で言った。

それが、承太郎が聞いた徐倫の最後の言葉になった。

今でも承太郎は、雪が降ると彼女のことを思い出す。
あの日の雪は、本当に美しかった。

要約
徐倫は病院を出たことがなく、結果的に最後となったクリスマスに雪が降ることを願った。
徐倫の父の承太郎はどうしてもその願いを叶えようと、徐倫の日めくりカレンダーの日付をずらし、徐倫の中での12月25日に雪が降るようにした。