ずっと夫(カメオ)と息子(ウミオ)のことを一番に考えてきたカメコが病気にかかり、余命あと半年となってしまった。
そんなある日、ウミオが病床にいるカメコに、
「何かしたいこととか叶えたい願いとか、ある?」
と尋ねると、
「カメオとウミオが元気で幸せにいきてほしい」
などと答えるので、
「そんなんじゃなくって、もっと自分のためのことだよ、お母さんの、お母さん自身のための願いを教えて欲しい」
「んー、そうね、ちょっと考えておくね」
と答えた。
そして数日後。
カメコは
「この前の話だけどね、私、家族で温泉旅行に行ってみたいかなぁ」
と言った。
実はカメコどころかカメオやウミオも温泉は特に好きじゃないし温泉に浸かったところで病気がよくなるわけもないのだが、一体何故カメコは温泉旅行に行きたいと願ったのだろうか?
そんなある日、ウミオが病床にいるカメコに、
「何かしたいこととか叶えたい願いとか、ある?」
と尋ねると、
「カメオとウミオが元気で幸せにいきてほしい」
などと答えるので、
「そんなんじゃなくって、もっと自分のためのことだよ、お母さんの、お母さん自身のための願いを教えて欲しい」
「んー、そうね、ちょっと考えておくね」
と答えた。
そして数日後。
カメコは
「この前の話だけどね、私、家族で温泉旅行に行ってみたいかなぁ」
と言った。
実はカメコどころかカメオやウミオも温泉は特に好きじゃないし温泉に浸かったところで病気がよくなるわけもないのだが、一体何故カメコは温泉旅行に行きたいと願ったのだろうか?
参加者一覧 5人(クリックすると質問が絞れます)
全員
アカガミ(3良:1)
ノラクラ(3良:1)
「マクガフィン」(1良:1)
シュガー⭐︎(4良:2正:1)
ほずみ(2良:1正:1)
簡易解説
息子の反抗期以来ほとんど話すことの亡くなった父と息子が、自分の死んだ後では仲良くしてほしいと願い、父と息子の二人で行動して話さざるを得ない、温泉旅行に行きたいと伝えたから。
―――――
父とほとんど話さなくなったのは思えばいつからだっただろうか。
中学生になり、反抗期に入った頃だろうか。
それとも父が仕事で忙しくなった頃だろうか。
それすらあまり覚えていない。
お母さんとなら色々話すのに、どうして父とちょっと気まずくなってしまったのだろう。
お母さんはいつも父のことを大切に思っているのに。
かといって、別に不便もなかったのでこちらから直そうという気にはなれなかった。
もちろん父も、お母さんほどではないかもしれないが、僕のことを大切に思ってくれていたはずなのに。
そんなある日、お母さんが倒れた。
不治の病で、余命半年だと医者から伝えられたときは現実を受け入れられなかった。
それは恐らく父も同じだろう。
だって日に日に痩せていったから。
でも僕は大丈夫?すら言えなかった。
それ以上に入院してやせ細っていくお母さんの方が心配だったから。
それからというもの、会社から休みをもらって、毎日のようにお母さんのいる病院に通った。
小さい頃の思い出から今朝見た夢や最近のニュースについてなど。
父もお母さんに色々話しかけていた。
二人ならこんなに話すんだって驚いたのを今でも覚えている。
入院して一ヶ月近くが経ったある日のこと。
僕の精神もだいぶ落ち着いてきたので、ついにお母さんに尋ねてみることにした。
「何かしたいこととか叶えたい願いとか、ある?」
するとお母さんはすぐに答えた
「んー、そうね。カメオとウミオが元気で幸せにいきてほしい」
僕は、なにかしてあげられることがないかって思ってやっと聞けたのに、相変わらずお母さんっぽすぎて、ちょっと鳴きそうになった。
「そんなんじゃなくって、もっと自分のためのことだよ、お母さんの、お母さん自身のための願いを教えて欲しい」
そこでお母さんはしばらく沈黙した。
「んー、そうね、ちょっと考えておくね」
そして数日後、もう一度お母さんに聞いてみると
「温泉旅行に家族三人で行きたい」
と答えた。
あれ、お母さん温泉好きだったっけ?とちょっと思ったけど、ついに教えてくれた、お母さんの願い。
「そうなの!じゃあお医者さんに一泊だけでも温泉旅行に連れて行っていいか聞いてみるね」
こんなのは遅れれば遅れるほど行けなくなりそうなので、すぐに医者に許可を取りに行った。
初めは難色を示した医者だが、僕と、お母さんも一緒に懇願してくれたので近隣の温泉でお母さんの状態が良ければという条件付きで許可して貰えた。
そして迎えた旅行の日。お母さんの病状も良く、無事に温泉に行くことが出来た。
久しぶりの家族三人での旅行だったので、皆心なしかうきうきしていた。
ついに旅館に到着し、お母さんの念願の温泉に入ることに。
「じゃあお母さん、またあとで、ゆっくりつかってきてね!」
「あんまりのぼせすぎんようにな、カメコ」
「うん!二人ともありがとう!二人もゆっくり楽しんでおいで!」
男湯。
父とふたりっきり。
なんやかんやお母さんが倒れてからもご飯どうするとかお母さんに何持って行くとか事務的な用事でしか話せてなかったので、こういうときに父と何を話せばいいか分からなかった。
「…なぁ、ウミオ。」
父がついに沈黙を破った。
「なに?」
「お母さん、温泉好きだったっけ?」
「いや、別にそんなことなかったと思うけど」
「だよなぁ、最後に家族みんなで旅行したかったのかなぁ」
「…最後とか言わないでよ」
「あぁ、すまん」
…気まずい。
「なぁウミオ、あっちに露天風呂もあるみたいだぞ、折角だしいってみようか」
「あ、うん。」
「…ふぅ。あったかいな」
「うん。」
…
「なぁ、昔、家族三人で東北の温泉に旅行に行ったの覚えてるか」
「なんとなく」
「そうだよなぁ、ウミオあのとき6歳くらいだったもんなぁ」
「そんな昔だっけ!?」
「うん、だって小学校入ってすぐで嬉々として学校の話を温泉に浸かってしてたもん」
「そうだっけ!?全然覚えてないや」
「そうそう、それでな、」
…久しぶりに父といっぱい話して、気付けば一時間近くも温泉に浸かっていて、二人ともすっかりのぼせてしまっていた。
赤い顔で急いで男湯を出ると、お母さんは先に部屋で待っていて。二人でごめん遅くなった!って帰ったらとっても嬉しそうに、いいのよって微笑んでいた。
それから夜ご飯のときも、十年ぶりくらいに川の字で寝るときも、家族三人でいっぱい話した。こんなにも話すことがあるのかと驚くくらい話した。本当に楽しかった。
気付けば朝になっており、みな寝不足のまま温泉宿をあとにした。
お母さんの病院に戻ってきたとき、本当にありがとうねって目を潤わせていたので、こっちも涙が出てきた。 また行こうねって、何とか言えた。
でもその約束の実現は叶わなかった。
それからお母さんの病状が悪化し、寝ていることが増え、そうしているうちに数ヶ月が経ち、ついに帰らぬ人となってしまったのだ。
覚悟はできていたはずなのに僕は泣いた。
お父さんも泣いていた。
お葬式の準備や病院の手続きなどに追われ、息つく暇も与えてくれなかったのはある意味良かったのかも知れない。
温泉旅行以来気まずくなく話せるようになったお父さんと色々協力して、なんとかやり遂げた。
そうこうしているうちに何とか落ち着き、やっと僕たちは気付くことができた。
「きっと、あの温泉旅行があったから、僕、お父さんとまた仲良くなれたんだよ。
ありがとう、お母さん。」
「そうだね、ウミオ。最後までお母さん、ウミオとお父さんのことしか考えてなかったんだね。」
「ほんとだね、まったくもう、お母さんなんだから。」
そうして二人、少し広くなった家で、久しぶりにちょっと笑いながら、気の済むまで涙を流した。
お母さん、僕たちはまた昔のように親子に戻れたよ。
これからお母さんがいなくなっても二人で頑張っていくよ。
ありがとう。
ずっと、天国から見守っていてね。
息子の反抗期以来ほとんど話すことの亡くなった父と息子が、自分の死んだ後では仲良くしてほしいと願い、父と息子の二人で行動して話さざるを得ない、温泉旅行に行きたいと伝えたから。
―――――
父とほとんど話さなくなったのは思えばいつからだっただろうか。
中学生になり、反抗期に入った頃だろうか。
それとも父が仕事で忙しくなった頃だろうか。
それすらあまり覚えていない。
お母さんとなら色々話すのに、どうして父とちょっと気まずくなってしまったのだろう。
お母さんはいつも父のことを大切に思っているのに。
かといって、別に不便もなかったのでこちらから直そうという気にはなれなかった。
もちろん父も、お母さんほどではないかもしれないが、僕のことを大切に思ってくれていたはずなのに。
そんなある日、お母さんが倒れた。
不治の病で、余命半年だと医者から伝えられたときは現実を受け入れられなかった。
それは恐らく父も同じだろう。
だって日に日に痩せていったから。
でも僕は大丈夫?すら言えなかった。
それ以上に入院してやせ細っていくお母さんの方が心配だったから。
それからというもの、会社から休みをもらって、毎日のようにお母さんのいる病院に通った。
小さい頃の思い出から今朝見た夢や最近のニュースについてなど。
父もお母さんに色々話しかけていた。
二人ならこんなに話すんだって驚いたのを今でも覚えている。
入院して一ヶ月近くが経ったある日のこと。
僕の精神もだいぶ落ち着いてきたので、ついにお母さんに尋ねてみることにした。
「何かしたいこととか叶えたい願いとか、ある?」
するとお母さんはすぐに答えた
「んー、そうね。カメオとウミオが元気で幸せにいきてほしい」
僕は、なにかしてあげられることがないかって思ってやっと聞けたのに、相変わらずお母さんっぽすぎて、ちょっと鳴きそうになった。
「そんなんじゃなくって、もっと自分のためのことだよ、お母さんの、お母さん自身のための願いを教えて欲しい」
そこでお母さんはしばらく沈黙した。
「んー、そうね、ちょっと考えておくね」
そして数日後、もう一度お母さんに聞いてみると
「温泉旅行に家族三人で行きたい」
と答えた。
あれ、お母さん温泉好きだったっけ?とちょっと思ったけど、ついに教えてくれた、お母さんの願い。
「そうなの!じゃあお医者さんに一泊だけでも温泉旅行に連れて行っていいか聞いてみるね」
こんなのは遅れれば遅れるほど行けなくなりそうなので、すぐに医者に許可を取りに行った。
初めは難色を示した医者だが、僕と、お母さんも一緒に懇願してくれたので近隣の温泉でお母さんの状態が良ければという条件付きで許可して貰えた。
そして迎えた旅行の日。お母さんの病状も良く、無事に温泉に行くことが出来た。
久しぶりの家族三人での旅行だったので、皆心なしかうきうきしていた。
ついに旅館に到着し、お母さんの念願の温泉に入ることに。
「じゃあお母さん、またあとで、ゆっくりつかってきてね!」
「あんまりのぼせすぎんようにな、カメコ」
「うん!二人ともありがとう!二人もゆっくり楽しんでおいで!」
男湯。
父とふたりっきり。
なんやかんやお母さんが倒れてからもご飯どうするとかお母さんに何持って行くとか事務的な用事でしか話せてなかったので、こういうときに父と何を話せばいいか分からなかった。
「…なぁ、ウミオ。」
父がついに沈黙を破った。
「なに?」
「お母さん、温泉好きだったっけ?」
「いや、別にそんなことなかったと思うけど」
「だよなぁ、最後に家族みんなで旅行したかったのかなぁ」
「…最後とか言わないでよ」
「あぁ、すまん」
…気まずい。
「なぁウミオ、あっちに露天風呂もあるみたいだぞ、折角だしいってみようか」
「あ、うん。」
「…ふぅ。あったかいな」
「うん。」
…
「なぁ、昔、家族三人で東北の温泉に旅行に行ったの覚えてるか」
「なんとなく」
「そうだよなぁ、ウミオあのとき6歳くらいだったもんなぁ」
「そんな昔だっけ!?」
「うん、だって小学校入ってすぐで嬉々として学校の話を温泉に浸かってしてたもん」
「そうだっけ!?全然覚えてないや」
「そうそう、それでな、」
…久しぶりに父といっぱい話して、気付けば一時間近くも温泉に浸かっていて、二人ともすっかりのぼせてしまっていた。
赤い顔で急いで男湯を出ると、お母さんは先に部屋で待っていて。二人でごめん遅くなった!って帰ったらとっても嬉しそうに、いいのよって微笑んでいた。
それから夜ご飯のときも、十年ぶりくらいに川の字で寝るときも、家族三人でいっぱい話した。こんなにも話すことがあるのかと驚くくらい話した。本当に楽しかった。
気付けば朝になっており、みな寝不足のまま温泉宿をあとにした。
お母さんの病院に戻ってきたとき、本当にありがとうねって目を潤わせていたので、こっちも涙が出てきた。 また行こうねって、何とか言えた。
でもその約束の実現は叶わなかった。
それからお母さんの病状が悪化し、寝ていることが増え、そうしているうちに数ヶ月が経ち、ついに帰らぬ人となってしまったのだ。
覚悟はできていたはずなのに僕は泣いた。
お父さんも泣いていた。
お葬式の準備や病院の手続きなどに追われ、息つく暇も与えてくれなかったのはある意味良かったのかも知れない。
温泉旅行以来気まずくなく話せるようになったお父さんと色々協力して、なんとかやり遂げた。
そうこうしているうちに何とか落ち着き、やっと僕たちは気付くことができた。
「きっと、あの温泉旅行があったから、僕、お父さんとまた仲良くなれたんだよ。
ありがとう、お母さん。」
「そうだね、ウミオ。最後までお母さん、ウミオとお父さんのことしか考えてなかったんだね。」
「ほんとだね、まったくもう、お母さんなんだから。」
そうして二人、少し広くなった家で、久しぶりにちょっと笑いながら、気の済むまで涙を流した。
お母さん、僕たちはまた昔のように親子に戻れたよ。
これからお母さんがいなくなっても二人で頑張っていくよ。
ありがとう。
ずっと、天国から見守っていてね。
23年07月24日 21:18
[ベルン]
相談チャットです。この問題に関する事を書き込みましょう。
ブックマーク(ブクマ)って?
自分が正解した問題・出題者への賛辞・シリーズ一覧・良い進行力など、基準は人それぞれです。
自分専用のブックマークとしてお使い下さい。
Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!
物語:3票納得:1票ブクマ:6
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Goodって?
「トリック」「物語」「納得感」そして「良質」の4要素において「好き」を伝えることができます。
これらの要素において、各々が「良い」と判断した場合にGoodしていきましょう。
ただし進行力は評価に含まれないものとします。
ブクマ・Goodは出題者にとってのモチベーションアップに繋がります!「良い」と思った自分の気持ちは積極的に伝えていこう!