そのまま

環境汚染の影響は大きく、これを止める為に、国連は世界の強制緑化を可決した。
これは、一度全ての人類が宇宙船に搭乗して軌道上で待機した後、強力な繁殖力を持つ植物群で地上を覆う。そして20年後に人類が再び地上に降り立ち、活動を開始する——という、非常に大掛かりなものだった。

男が地球を去った日も、今日のような寒い日だった。幾つもの暖衣を選んでは着てと繰りかえし、最終的に宇宙船に載せるもの以外は畳んで部屋の隅に置いておいた。
他にも幾つかの置物を引っ張り出してきては、ここは任せたよ、と彼等に囁いた。
さて準備は完了だ。
長い別れになるが、また会おう。

20年が経ち、遂に故郷に帰る時が来た。
故郷の土は、以前とも、船内のものとも違う、より豊かな土壌へと変化していた。
さて、我が家はどうなっているだろう。
案の定家の周りは枝やら蔓やらでびっしりだった。
これは元の生活に戻るのは大変だなぁと思いながら、何とか発見した扉を開け、中を覗いた。
するとどういうことか、部屋の内装は、彼が20年前に家を出たときと変わらぬ……全くもってそのままだったのである。
畳んだ着物も、この家を護るように佇む置物も、全部、あのときのままだ。
男は心底から驚き、同時に感じた。
もしかしたらこれこそが、人間と植物の共生の形なのではないかと。