死に際の絶望

2XXX年、地球規模の戦争が起きた。
世界各国はそれぞれが持つ武力という武力を余すことなく用いた。各国は敵対する国の都市部はもちろん全土を容赦なく攻撃しあった。戦争が終わる頃、地球上に生存者はいないと思われた。まさに「終末」であった。
しかし、ある男は自宅シェルターに逃げ込み、生きながらえていた。
事態が落ち着いた頃、男はシェルターから出て町を彷徨った。一通り歩き回ったあと、男はどこにも人がいないことに気づく。
ただひたすらに歩き続け、生存者を探した。さらに男は唯一の連絡手段である携帯電話を使い、登録されている知り合いの電話番号に片っ端から電話をかけた。また、ラジオや無線、あらゆる方法を用いて生存者との交信を試みた。
歩いて探し、携帯電話を使って探し、それを何日も何日もひたすらに繰り返した。
男は心身ともに疲弊していった。
どれだけ探しても生存者が見つからない。食糧だっていつ底をつくか分からない。携帯電話の充電もかなり節約しながら使っているが、それだって永遠に使えるわけじゃない。
様々な不安や孤独が男の心を蝕んでいった。そしてある日、男は自殺することを決めた。
男は飛び降りて死ぬことのできる高さの建物を探した。
男はすぐにちょうど良い建物を見つけることができた。その建物はボロボロに廃れており、戦争による爆撃の熾烈さを物語っていた。
男は、死ぬために使うだけだと思い、その建物がボロボロであることは気にせず、屋上まで登っていった。
屋上に着くと男は一服し、期待はしていないが一応最後に携帯電話を一瞥した。やはり何もない。男はそのまま前進し、そして空中に身体を投げ出した。
男の身体は重力に逆らうことなく落下していく。その最中、男の手の中にある携帯電話がひとりでに光った。その直後、着信音がけたたましく鳴り響いた。男はそれが何かの間違いであることを願った。
誰からの着信かは分からない。しかし、自分以外の生存者によるものということは確かだ。
死の直前、男が目にした着信。それは男が生前ずっと待ち望んでいたものであった。
「あと10秒踏みとどまっていれば、、、」
と、呟く間もなく、絶望のうちに男は息絶えた。