ある日、親戚の集まりに出席した女は、
ヘビースモーカーの夫を気遣って、夫の傍らにある煙草を手に取り箱から取り出すと、近くのスタッフに火をつけるよう指示をした。
しかし、結局その煙草は夫の代わりに女が吸い、その日から女は普段も煙草を吸うようになったいう。
どういうことだろう?
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「お心残りはございませんでしょうか。」
手紙、衣服、人形、好きだったお菓子…
故人の思い出の品々がひとしきり棺桶に加えられたことを見届けると、葬儀場のスタッフはそう声をかけた。
すると、親戚の一人が思い出したように夫の眠る棺桶に歩み寄る。
「これ忘れてたよ、お前これ好きだったもんな。向こうでは健康も気にせずに、心置きなく吸ってくれよ。」
そう言うと親戚は手に持った煙草を棺桶に入れた。
正直、それをみた私はいい気分ではなかった。
確かに、煙草は夫の病には直接関係ないかもしれない。出会ってから60年、私たちはもう十分すぎるほど生きることはできた。
でも、もしあなたが煙草を吸っていなかったら、もっと長く生きて、今日もこれからもあなたと過ごせたのかしら。
向こうでも健康を気にせず?ふざけないで!今度は『向こう』で健康に過ごして欲しい!
そう思うと、突然に沸々と怒りが湧いてきて、私は夫の棺桶から煙草を取り上げてこう言った。
「煙草はいらないわ、このまま火葬してちょうだい。」
煙草を入れた親戚も、生涯を共にした妻の言うことに食い下がることもできなかったろうに。
かくして夫の棺桶は煙草抜きで火葬されたのだった。
慌ただしい葬儀が終わり、独り帰路に着いた私は、ポケットにさっき取り上げた煙草があったことに気づいた。
思えば、夫が急に倒れて感情を整理する間もないままの出来事だった。
これまで夫の煙草は認めていたのに。今更取り上げて、向こうでひとりの夫に意地悪して何になるっていうのかしら。
冷静なってあの時の振る舞いを後悔した私は、次にこの煙草をどうやって天国の夫に届けるか考えていた。
お供えでも良かったのだろうけど、墓前に雨晒しの煙草なんて嫌だよね。
そうだ。私が死ぬ時、棺桶に入れて届けてあげよう。
私ももういい歳なんだから、きっとそんなに時間はかからないよ。
だからそれまでは我慢して、向こうでは健康にして待っててね。
遺言にしてもいいけど、今からでも私が煙草を吸ってた方がいいかな。
そしたらまた誰かが入れてくれるよね。
そうして手元の煙草に火をつけると、いつもの香りがした。
短い解説
夫の葬儀に出席した老年の女は、親戚が煙草を棺桶に入れたのを見て、夫に天国では煙草をやめてほしいという思いから、それを棺桶から取り出し、葬儀場のスタッフにはそのまま火葬を進めるよう指示をした。
葬儀が終わって冷静になった女は、煙草を棺桶に入れてあげられなかったことを後悔し、
いずれ自分が死んだ時、誰かが煙草を棺桶にいれて天国で待つ夫に届けられるよう、その日から煙草を吸い始めることに決め、
手始めに先程棺桶から取り上げた煙草に火をつけた。
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物語部門
マトリ>>
ただただ好きです!煙草を使ってここまで素敵な物語を作れる才能に脱帽します。問題文に無駄がなく、上手くミスリードを誘う手法も素晴らしいです。