1990年代。
福建省の孤児院を飛び出し、李強志(リチャンジ)は豊かな隣国、憧れの日本へと渡った。
しかし待っていたのは、言葉の壁と冷たい偏見という現実だった。
行くあてのない強志は、土木の現場で泥にまみれ、誰より真面目に働いた。
終わりの見えない日々の中、その働きぶりを見ていた男がいた。
何度か責任者として現場を共にした山田である。二人は次第に打ち解けていった。
親子ほども歳の離れた二人だったが、互いに身寄りの無い者同士。
「陰徳あれば陽報あり」――いつしか本当の親子のような絆で結ばれていた。
数年が過ぎ、既に現場を退いていた山田が、ある日ぽつりと言った。
「お前、帰化する気はないのか?なんなら俺と養子縁組するか?」
強志が黙っていると、山田は続けた。
「日本人の俺がこんな事を言う資格は無いんだがな……
お前が中国人というだけで肩身の狭い思いをしてきたのを、ずっと見てきた。
でも日本人になっちまえば、それもきっと終わる」
強志はうつむいたまま、涙を拭いもせずに首を横に振った。
気持ちは嬉しくても、中国人としての誇りだけは捨てられなかった。
まるでその日を境に糸が切れたように、山田はほどなく病に倒れ、あっけなく逝った。
強志に遺されたのは包み一つ。開けると、少なくはない現金と一通の手紙。
「強志。お前は立派な男だ。日本にいてもいい、福建省に帰ってもいい。
ただ、どこであれ、根を生やせ。この金を元手に、何か始めろ」
強志は手紙を何度も読み返した。自分はこれまで、根を張って生きてきただろうか。
偏見には、慣れることでしか応えてこなかった。
慣れてやり過ごす事と、根を張って生きる事は違う。
その年の冬、強志は日本で小さな店を開いた。
福建省の原風景を胸に、いつか日本と故郷の架け橋になろう、そんな思いからだった。
強志は、この地に根を生やす覚悟を決めたのだ。
――だが、店を訪れる客の中には、馬鹿にしたり悪態をついて帰る者が後を絶たなかった。
もしも強志が、山田の申し出を断りさえしなければ、きっとこんな事にはならなかったのだ。
Q.
強志に報われる人生は、訪れないのだろうか。
強志はどこで、何をまちがえたのだろうか?
福建省の孤児院を飛び出し、李強志(リチャンジ)は豊かな隣国、憧れの日本へと渡った。
しかし待っていたのは、言葉の壁と冷たい偏見という現実だった。
行くあてのない強志は、土木の現場で泥にまみれ、誰より真面目に働いた。
終わりの見えない日々の中、その働きぶりを見ていた男がいた。
何度か責任者として現場を共にした山田である。二人は次第に打ち解けていった。
親子ほども歳の離れた二人だったが、互いに身寄りの無い者同士。
「陰徳あれば陽報あり」――いつしか本当の親子のような絆で結ばれていた。
数年が過ぎ、既に現場を退いていた山田が、ある日ぽつりと言った。
「お前、帰化する気はないのか?なんなら俺と養子縁組するか?」
強志が黙っていると、山田は続けた。
「日本人の俺がこんな事を言う資格は無いんだがな……
お前が中国人というだけで肩身の狭い思いをしてきたのを、ずっと見てきた。
でも日本人になっちまえば、それもきっと終わる」
強志はうつむいたまま、涙を拭いもせずに首を横に振った。
気持ちは嬉しくても、中国人としての誇りだけは捨てられなかった。
まるでその日を境に糸が切れたように、山田はほどなく病に倒れ、あっけなく逝った。
強志に遺されたのは包み一つ。開けると、少なくはない現金と一通の手紙。
「強志。お前は立派な男だ。日本にいてもいい、福建省に帰ってもいい。
ただ、どこであれ、根を生やせ。この金を元手に、何か始めろ」
強志は手紙を何度も読み返した。自分はこれまで、根を張って生きてきただろうか。
偏見には、慣れることでしか応えてこなかった。
慣れてやり過ごす事と、根を張って生きる事は違う。
その年の冬、強志は日本で小さな店を開いた。
福建省の原風景を胸に、いつか日本と故郷の架け橋になろう、そんな思いからだった。
強志は、この地に根を生やす覚悟を決めたのだ。
――だが、店を訪れる客の中には、馬鹿にしたり悪態をついて帰る者が後を絶たなかった。
もしも強志が、山田の申し出を断りさえしなければ、きっとこんな事にはならなかったのだ。
Q.
強志に報われる人生は、訪れないのだろうか。
強志はどこで、何をまちがえたのだろうか?

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