「募る想いは雪に似て」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
幼馴染のタカフミに、密かに想いを寄せているハルカ。
いつか告白しようと心に決めながらも、恋愛には奥手な彼女はなかなか気持ちを伝えられずにいた。
そんなある日のこと。
部活中に不慮の事故で足を捻挫してしまったハルカを、たまたま居合わせたタカフミが家まで送ってくれることになった。
幼馴染ゆえ家が近い二人だが、一緒に登下校することはほとんどなかった。
この機会を逃したら、二人きりの時間はそうそう訪れない。
ハルカは、この機会に勇気を振り絞って告白することを決意した。
さて、ハルカが告白の際にAに少し力を込めたのは、今日が肌寒い冬の日であったからだという。
Aとは何か?
状況を踏まえて答えて欲しい。
解説を見る
A、人差し指
部活中に足を捻挫したハルカは、タカフミに自転車で家まで送って貰うことになった。
帰り道、タカフミに告白をしようと決め、タカフミの背中に指文字で「スキ」と書くことで想いを伝えようとしたが、その日は肌寒くタカフミは厚着をしていたため、伝わり損なうことが無いように指に力を込めた。
読まなくていいやつ
「やっちゃったなぁ…」
肌を撫ぜる風が冷たい冬のある日のこと。
放課後のウミガメ高校のグラウンドでは、運動部の生徒たちの掛け声が響き渡っている。
その様子を横目に、学校から少し離れた広場のベンチで、座り込んで足首を擦る女子生徒がいた。
ハルカである。
陸上部に所属する彼女は、先ほど練習中に足首を捻ってしまい、左足をひどく痛めてしまった。
「…本当に、大丈夫なのね?」
さっき、心配そうにハルカを送り出した保健室の先生の表情を思い出した。
基本的に気が強くプライドの高い彼女は、一人で帰れるか、としつこく尋ねる先生を半ば強引に説得して帰路についてしまったのだ。
そのときは『大して痛んでいないから』と強がったが、アドレナリンが切れてきたのか、今になって鋭い痛みが強くなってきた。
「今からでも戻るか…?」
陸上部の彼女は、基本的に毎日の登下校をランニング代わりにしている。実際学校からハルカの家までの距離は朝練のウォームアップにもちょうど良く、着替えの手間も省けるのでお得だった。
だがそのストイックさが、ここにて彼女の首を締める。
ランニング代わりにはちょうど良い距離でも、普通に歩くにはやや遠く、足を痛めたハルカには厳しい道のりであった。
───普通なら自転車で通ってちょうど良い距離だ。実際アイツも…
「何してんの?」
唐突な声掛けに顔を上げたハルカの前に立っていたのは、幼馴染のタカフミであった。
「…怪我か?」
傍らに止めたグレーの自転車から跳ねるように、タカフミが側に寄ってきた。
「お前これ歩いていいやつじゃないだろ。何一人で帰ろうとしてんの。」
「だってさっきまでそんな痛くなかったし…ゴニョゴニョ」
「アホか」
そう言ってため息をついたタカフミは、何やら少し思案した後、不意に意を決したように呟いた。
「送ってくよ。後ろに乗れ。」
「………はぁっ!?」
「家近いしちょうど良いだろ。早よ乗れ。」
「いや、2ケツはさすがに見つかったらマズい…」
「緊急事態だろ。つべこべ言うな。」
半ば強引に促されるまま、ハルカはタカフミの自転車の後ろに乗せられた。
「よし、しっかり掴まってろよ。」
ハルカのスクールバッグを籠に入れつつタカフミがそう言うと、二人をのせた自転車が勢いよく走り出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
煙のようにゆっくり後方へ流れる家々。
走り出しこそ勢いがあったが、タカフミの漕ぐ自転車の速度はそれなりに緩やかであった。
二人分の体重を乗せているからというのもあるだろうが、一番はハルカを気遣ってのことだろう。
心地の良い風を感じながら、ハルカは久方ぶりの時間に想いを馳せていた。
二人きりで帰るなんて、一体いつぶりだろうか。
高校生になってハルカが陸上部に入ってからすぐ、登下校はランニングの時間になり、タカフミはずっと自転車通学をしているから、こうして二人で帰るなんて久しぶりのことだった。
クラスは違うし、たまに学校で話もするが、お互いに別の友達だっている。
避けているわけではないが、示し合わせたかのように二人きりの時間は全く無かった。
…いつしかその空白が淡い恋心に化けてからも、その想いを伝えられる機会はなかった。
「重くない?」
「毎朝の通学で鍛えられた健脚をナメんな」
「ってことは私の方が鍛えられてるよね」
──いや、それは言い訳かもしれない。
別に何かとつけて二人きりの時間を作ることだって出来たはず。私がそれをしなかったのは、私にそれだけの勇気が無かっただけのことだ。
高校生になってから陸上一筋。
恋愛なんて大して考える余裕はなくて。
いつしか慣れないものになってしまったその感情は、生来の気の強さと相容れなくなったのだ。
「あのさ」
「何?」
ぶっきらぼうに返すタカフミ。
自転車が切り裂いた風が唸って、声が少し聞こえづらい。
「今から背中に文字書くからさ、なんて書いたか当ててよ」
「暇かよ…こっちは親切で送ってやってんだぞ」
そう言いつつタカフミは拒絶しない。
昔からなんやかんや付き合ってくれる、優しいところが好きだった。
「今日は寒いね」
「あーもう12月だしなー、来週雪降るらしいぜ」
「うへ~練習失くなるかなぁ…いやこの足じゃ関係無いか~」
重く聞こえないよう少し笑いながら、タカフミの背中に指を置いた。
ふわっとしたコートの感触がして、指が少し生地に沈む。
───こんなに大きかったっけな。
ああ、でもこの気温でこの厚着だ。
しっかり書かないと伝わらないかもしれない。
そう思ったハルカはほんの少しだけ、人差し指に力を込めた。
「じゃあ集中してよね、外したから罰ゲームだから」
「聞いてないんだが」
───二度も伝えられる勇気は無いから。
少し深呼吸をして。
耳の先まで熱くなるのを感じながら、ハルカはしっかりとタカフミの背中に「スキ」の2文字をなぞった。
静寂。
時が止まったような感覚の中、景色が揺れ、視界がキラキラと光った。
頭が真っ白になっていたハルカは、慌てて口を開いた。
「さて」
「…なんて、書いたでしょうか?」
トリック:3票物語:9票納得:6票良質:9票
トリック部門
異邦人>>
これは間違いなく、奥手な女子が幼馴染にする勇気を振り絞った告白ですね