「静かで不器用なアイス」のGoodトリック・物語・納得で良かったら1票分。全体評価で特に良かったら3票分Goodができます。
「一本当たり」
購入したアイスが当たりだった。
そのアイスの当たり棒を中年男性の死体の手に握らせた女。
一体なぜ?
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父が亡くなった。
急性心不全だった。
無口な父親だった。
一緒に居ても会話が弾むことはない。
だから父と二人きりで過ごす時間は少し居心地が悪かった。
怒られた記憶も褒められた記憶もない。
写真嫌いだったから父と写る写真もほとんどない。
だから父の訃報を聞いた時、悲しいという感情はあまり湧いてこなかった。
ただ淡々と。母と葬式の準備を進めている。
「これなんやろか?」
母が父の書斎の箪笥の中から何かを見つけてきた。
父のイメージとはそぐわないファンシーなデザインの缶。
どうやらクッキーが入っていた缶のようだ。
中にはアイスの棒が一本と何かが書かれた紙切れ。
「おたんじょうび、おめでとう」
幼く拙い字。私が書いたものだ。
ふと当時の記憶が蘇る。
私が小学生の時に初めて父にあげた誕生日プレゼント。
父が当時好きだったアイス。
よく見るとそのアイスの棒には「当たり」と書いてあった。
父はその当たり棒を交換することもなく、ゴミとして捨てることもなく、私からプレゼントとして大事に保管していたのだった。
この事実を知っても私に悲しみは湧いてこなかった。
ただ、私は父に確かに愛されていたのだなと感じて、なんだかホッとしたような気持ちになった。
その翌々日の葬式の日。
父のなきがらが火葬場へと運ばれる。
私は棺の中の父の手にアイスの棒を握らせた。
父の想いを唯一感じられるもの。
だがそれは父にとっても同じだろう。
これは父に持っていてほしい。
棺は焼却炉に飲まれていく。
そこでようやく私の頬に一筋の涙が落ちた。